大慈大悲のルーナ (4)

とある日の探偵社

探偵「金を貸せ、助手」

助手「朝の第一声からそれはマジ萎え。普通、部下に金をたかりますか?言っておきますけど、今月のお給料は貰いますからね」

探偵「そんな金あるわけがないだろうが。大体、歩合制なんだよ、うちの探偵社は」

助手「んなっ!?働いて1か月、全くお仕事なかったのは…?」

探偵「働かざる者食うべからず、この言葉をおまえへ初任給代わりに贈ろう」

助手「そっくりそのままお返ししますよ、このニート」

探偵「これからなにか事件が起きれば、仕事はやってくるだろう。この褐色の筋肉をくねらせるような事件がくればな」

助手「え、きもすぎて鳥肌立っちゃいました。だいたい肉体労働なんですか、探偵って。私、これまで探偵が探偵してるところ見たことがなくて」

探偵「緻密な下調べ、犯人との接触、逮捕。全ては筋肉が解決してくれる」

助手「うわーすごいですねー。わたしはお茶煎れるのがこの一か月で上手くなりましたよ」

探偵「助手には、事件が起きた時に女にしかできないことをやってもらうつもりだった」

助手「ハニートラップってことです?まぁ…やれないことはないですけど。むしろ私向きですけど?」

探偵「だが、君のような若い子には危険だし、万が一のことがある」

助手「いやいや、給料もらえないほうが危険だわ。このまま仕事なしだと野垂れ死ですよ、私」

探偵「うむ、なににも億さない素晴らしい心がけだ。流石は俺が見込んだだけはある。あとは事件がやってくるのを待つだけだ」

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助手「それなんですけど、一つ提案があるんですが、聞いてもらえません?」

探偵「言ってみろ」

助手「こうやって待つのもいいですけど事件が身近で起きるなんて、それはコナン君だけだと思うんですよね。だから、これから私たちの方から出向くのはどうです?」

探偵「ほう、発想の逆転だな。なにか心当たりがあるのか?」

助手「これです、今朝の週刊誌で見たんすけど、行方不明者多数、霧雨が漂う町で一体何が起きているのか、この事件を探ってみましょうよ」

探偵「それなら、見たな。場所は大慈大悲のルーナが治める町、ヘブラ。そこで300人以上が行方不明になっている。だが、これにむざむざ乗り込むのは得策ではないな」

助手「えーそう言わないでくださいよ。なんだか、金の匂いがしません?行方不明者の家族にうまく取り込めばいくらでも活動費用はせしめることができると思いますがぁ」

探偵「性根の腐ったメスガキよ。俺が言っているのは大慈大悲のルーナが治めていることだ。そこでは独自の文化と規則が存在している、破れば牢屋送りにさせられるぞ」

助手「誰がメスガキか、もう花も恥じらう乙女ですよ。だいたい牢屋に入るくらいなんですか。働かなくても飯がでるんですよ」

探偵「花は知らんが、お前が鼻をほじるのは見たことあるし、人としてどこまで堕ちるつもりだお前は」

助手「っ、ぎょあああああああ!なんでみてるんですか!このゴリラ!…で、でもアイドルだってうんこするんです。メスがどうしても出ないあの黄色の物体が気になって鼻をほじるのがなんだっていうんですか!?なにも問題はないですよね!」

探偵「乙女を名乗るなら問題ありありだろう」

助手「わたしがお…おとめ…じゃないと……ちがう。わたしは乙女なんだ…間違っているのは…。」

助手は手に持っていた新聞紙を幾重にも丸めて棒状にし始めた。それからぶつぶつと呪詛を吐きながら、槍のように棒先を尖らせていく。探偵はそんな助手にいささか怖気づいて、脱線した話を戻すことにした。

探偵「おい助手、この事件に関わらないとは言っていないぞ。物事を探るには順序がある、まずはこの手で潜入する」

助手「えー…っとなんすかこの緑ぃチラシ。周囲が信じられない方、生きるのが辛い方、ルーナ教に入ってみませんか。今なら、新規でルーナ教に入信された方に、【大慈大悲のルーナ】による洗別を受けることができます?」

探偵「今回の件は、間違いなく彼女の耳に入っていることだろう。そして、なんらかの調査も行っているはずだ。まずは新規入信をして彼女から話を聞く」

助手「なんでほにゃららルーナさんはそんなことを調べてるんですかぁ?ヘブラって、私聞いたこともないし、きっとド田舎ですよ」

探偵「大慈大悲のルーナの故郷なんだ、霧雨が漂う街ヘブラは」

助手(もしかして、ほにゃほにゃのルーナさんについて探偵はなにか知っているの?)

探偵「そうチラシに書いてある。自分の年表まで作るとは大したもんだガハハ」

助手「ね、年表wwwwww歴史の偉人気取りです?ふはっ!私にも見せてくださいよお」

助手の手で固められていた新聞紙がほどけて、地面に落ちた。



次の日

探偵「俺はたしかに、新規入信をするといった」

助手「うん」

探偵「それは、あくまでふりだ」

助手「うん」

探偵「ではなぜ、手一杯にルーナ教のマスコットグッズを持っている????」

助手「相手を油断させるためですよ?こういうのは第一印象が大切なんです」

探偵「チラシで大慈大悲のルーナのエピソードを見て号泣したあげく、給料を前借りして出ていったと思ったらこれだ。お前、明日からどうやって生きていくんだ」

助手「や、私には、教祖様がついています。必ずや、幸せへ導かれるのです」

探偵「行く先に破滅しか見えないが」

助手「なんですとぉ」

探偵「もう逝ってこい。お前には教会で情報収集をたのむ」

助手「一人です?」

探偵「グッズに囲まれた怪しい女と肩を組んで情報収集ができるか」

助手「給料を上げてくださいね?」

探偵「既に今月分は払ったが、来月以降の給料は働き次第で変わるぞ」

助手「よっし!言質取りましたからね」

助手は、とてとてと慎重にグッズとのバランスを取りながら、町の郊外のルーナ教の教会へ歩き始める。

探偵「助手は悪い意味で純粋だからな、痛い目にあってでも貴重な情報を掘り当ててくれ」

一方探偵は踵を返して、この街で一番蔵書数の多い図書館へ向かった。探偵はこれから、霧雨漂う街、ヘブラについて調べるつもりだ。調査の目的は300人程度の行方不明者で主管しに載るほどのニュースになったことの原因である。都会では、周囲に住む人間のことは基本的にブラックボックスである。仮に人口300万の都市から300人いなくなったところで、大きな事件にならないのだ。ヘブラという田舎町で、300人消えた意味とはなにか。

また、ヘブラという街に好奇と不審の目が向くということに意味がある可能性も捨てきれない。

探偵「そしてそのヘブラを治める大慈大悲のルーナ、硬貨に裏表があるように、お前にも裏の顔があるのだろうか」

チラシに映っていた彼女は守護の象徴たる権杖を持ち、跪く羊たちを慈愛と希望で導こうとする牧師である。彼女はアルビノの血統であるため、その髪は白く透き通っており、瞳はは赤い。その奇体な姿故に過去に様々な目に遭ったが、その痛みすら乗り越えたという。

探偵はポケットに入れていた硬貨を爪の甲で弾き、裏表を賭けた。

探偵「裏だ」

結果は、見なくていいい。

探偵は、なにがなんでも裏にするつもりである。週刊誌にネタを提供すれば飯の種になるだろう。この事件を調べることが週刊誌にとって、「なんらかの利益」になると、錆びつきつつあった探偵の勘が告げていた。

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