凛「本物の気持ち」 (41)

・モバマスssです

・結構シリアスなので苦手な人は注意。

 では、投下していきます。

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☆CG事務所

凛「おはよー」

モバP「おはよう。凛は今日も早いな」

凛「今日は昼からドラマの撮影あるからね。せっかくニュージェネレーションで共演できるんだから、みんなで練習することになってて」

モバP「そうか。まぁ、他の奴は誰もいないが」

凛「え……未央と卯月、来てないの?」

モバP「来てないぞ」

凛「……電話で確かめてみるね」


モバP「どうだった?」

凛「二人とも寝坊で遅刻。さっき起きたばっかりみたい」

モバP「そりゃあかなり慌ててただろうな」

凛「当たり前でしょ。というか、慌ててもらわなかったら怒るよ」

モバP「まぁ、そう怒るなって」

凛「……別にまだ怒ってないから」

モバP「眉間にしわがよってるぞ」

凛「もう! ……そういえば、ちひろさんは?」

モバP「久々の休暇だよ。映画を見てホテルのバイキングに行ってエステで癒されてくるぞーとか張り切ってたが、前日に実家から連絡が来て里帰りだとさ」

凛「ふーん。じゃあ、本当に誰もいないんだ」

モバP「今日は朝から予定が入ってるアイドルはいないし、事務所に入り浸って酒盛りしてた楓さんとか志乃さんのせいで、仕事がない日は事務所出入り禁止になったからなぁ」

凛「学生組は完全に巻き添えだよね……」

モバP「仕事もないのに事務所に来るのがおかしい」

凛「プロデューサーだって毎日事務所にいるよね」

モバP「俺の場合は毎日仕事があるだけだ」

凛「……プロデューサーこそ休みを取ったほうがいいんじゃない?」

モバP「おいおい、な」


凛「……来ない」

モバP「二人とも女の子なんだからいろいろと準備があるんだろ。心配しなくても現場でリハする時間くらいはあるさ」

凛「私は女の子らしくないって言いたいの?」

モバP「違うって」

凛「……コーヒーでも淹れてくるね。プロデューサーも飲む?」

モバP「あぁ。頼む」


凛「はい。冷蔵庫にアイスコーヒーがあったから、そっちにしてみた」

モバP「おう。ありがとう」

凛「……すごい量の書類だね。そんなに忙しいの?」

モバP「事務所も軌道に乗ってきたからな。これからはもっと忙しくなっていくと思うぞ」

凛「ふーん。ま、体調には気を付けてね」

モバP「はいはい」


凛「ねぇ、プロデューサー」

モバP「今度はなんだー?」

凛「……約束」

モバP「ん?」

凛「……約束、忘れてないよね?」

モバP「……」


モバP(約束)

モバP(去年の今頃、正確には去年の八月十日つまり凛の誕生日に、俺は凛から告白された)

モバP(もちろんアイドルとプロデューサーの恋愛なんてご法度だ。公になれば当人たちだけでなく事務所ごと干される。イメージが最も大切とされているアイドル業では噂が立つことすら避けなければならない)

モバP(凛だってそのことは重々承知だったのだろう)

モバP(誕生日の前からどこか浮かない顔をしていた凛。おそらく悩んでいたのだろう)

凛『私は、プロデューサーのことが好き』

モバP(告白してきたときの凛はいつもより小さく見えた。下手に刺激すると壊れてしまいそうだった。だから俺ははっきりとした言葉を避け、一年後の明日まで返事を待ってもらった)

モバP(そして、今日は八月九日)

モバP(明日は凛の誕生日だ)


モバP「忘れるわけないだろ。一年間考えに考えぬいたさ」

凛「……そっか。多忙すぎて忘れられてるのかと思った」

モバP「どっちにしても明日だ」

凛「もう一回言っておくけど、私は本気だから」

モバP「わかってる。だから、一旦離れろ。もうすぐ未央と卯月が来る」

凛「……」



未央「おっはよー。そしてごめんね。この時間だと電車が混んでて」

卯月「遅くなりましたーーー! 夜遅くまで台本読んでたらいつの間にか寝ちゃってました」

凛「……おはよう、二人とも。時間ないから一回だけしか通せないよ。すぐに準備して」

未央「オッケー!」

卯月「わっかりました!」

モバP「終わったら出発だからな。そっちの準備もしておけよ」

未央・卯月「はーい」

凛「……はい」



☆撮影現場

モバP(なんとなく予想はついてたけど、凛にミスが目立つ)

モバP(気合は入っているのに空回りしているような印象だ)

モバP(原因は言うまでもないがどうしたもんかな……)


モバP「三人ともお疲れ様。十九時までなら俺も自由がきくけど、どっか寄り道していくか?」

未央「今日は疲れたからパスー。早くうちに帰って寝たい」

卯月「私も眠いです……」

凛「……」

未央「しぶりんは?」

凛「へ?」

卯月「凛ちゃんはどっか寄っていきたいところある?」

凛「え、ないかな……うん。私も今日は休みたいかも」

モバP「了解。車出してくるから少し待ってろ」
 


未央・卯月「………Zzz」

凛「二人とも寝ちゃったね」

モバP「ただでさえ寝不足だったんだ。寝かせておいてやれよ。撮影中は集中してただろ」

凛「あれだけ練習練習って騒いでたのに、私のほうがNG出してた。ダメダメだったよ」

モバP「……仕方ないだろ。半分くらいは俺のせいだ」

凛「もう半分は?」

モバP「さぁな」

凛「………………バカ」

――――――――――

―――――――

―――



☆飲み屋

モバP「だぁーーーーーー!!」

あい「今日はいつになく荒れているね。プロデューサーくん」

モバP「当たり前です。このままだと一年前から告げられていた死刑執行日に心の整理をつけないまま臨むようなもんですよ」

あい「……ふむ。凛くんからの告白か」

モバP「俺だって男です。一年前はかわいい女子から告られたと喜んでました。もちろん未熟とはいえ一介のプロデューサーでしたから、事務所のことと凛の将来を考えて返事を保留しました」

あい「それで?」

モバP「親父! 生おかわり! でもですね、プロデューサーとしてやっていくうちにわかってくるんですよ。アイドルと付き合うのなんて到底無理ってことが」

あい「なるほど」

モバP「人気が出てくれば必然的に注目度は上がるし、ゴシップに晒される危険性も増します。恋愛なんてもってのほかです。だからといって売り出さないなんて愚行を犯し始めたら本末転倒でしょう?」

あい「……そうだね」

モバP「でも、プロデュースしていると新たな凛の魅力も見つかってしまうんです。例えば告白されたときはまだつっけんどんな態度が残っていたのに、最近では一年前のことを忘れたのかってくらい素直になって、けどそんな部分を自覚してるのかたまにツンケンしてくるんですよ。これは歌や演技の表現なんかにも出てきていて……あっ」

あい「……はぁ」

モバP「……俺だって、大人としてもプロデューサーとしても傷つけないように断らなけりゃいけないのはわかってるんです」

あい「君の言うこともわからないでもないが」

モバP「……はい」

あい「この相談は私が君に懸想しているのを知っている上での行動なのかな?」



モバP「……すいません」

あい「やはり気づいていたか。それならば、自覚のあるなしを差し置いても、事務所のアイドルの大半が君に好意を抱いていることも承知しているね?」

モバP「…………すいません」

あい「別段、謝ることでもないだろう。君に特別な想いを寄せるのは私たちの勝手だ。ただ異性としての好意に気づかれているのにも関わらず、この手の相談を持ち掛けられたことをどんなふうに捉えればいいかは迷ってしまうね」

モバP「それは、あの……あいさんなら自分の気持ちとか度外視して客観的かつ的確アドバイスをくれるかと、判断しまして……。自惚れ屋ですいません」

あい「ふふっ。それは信用されていると受け取ってもいいのかな」

モバP「あと、経験が豊富そうで茶化してこない相手はあいさんくらいでしたから」

あい「あぁ、それはなんとなく分からないでもない。我が事務所の諸先輩方は両極端だからなぁ」



あい「しかし、プロデューサーくん。残念なことに、私は君が想定しているほど男女交際の経験があるわけではないよ」

モバP「そうなんですか」

あい「意外かい?」

モバP「割と超然とした雰囲気がありましたから、意外と言えば意外です」

あい「異性との交際に関してはそこらの女子学生にも劣るだろう。手を繋いだことぐらいしかないよ」

モバP「……」

あい「無反応はやめてくれ。さすがの私も自分の恋愛遍歴を暴露するのは恥ずかしいんだ」

モバP「す、すいません」




あい「けれど、私だって人と付き合った経験はある。それや友人から受けた相談を基にアドバイスができないこともない」

モバP「お願いします」

あい「少し刺激的な話になるが、我慢して最後まで聞いてくれ」

あい「私が初めて人と付き合おうと思ったのは高校二年背の頃だ。それまでに何度か告白されたことはあったが、いまいち乗り気になれなかった。かと言って、そのときの告白相手が魅力的な人物であったかと聞かれたならば首を横に振らざるを得ない」

あい「タイミングだったのだろうね。誰とも付き合わない自分自身に疑問を抱き始めた時期にちょうどその子が現れた。誰でも良かったなんて表現は使いたくないが、我ながら理性を欠く行為だとは思った」

あい「あぁ、ちなみに告白してきたのは中等部の二年生で、私が当時通っていた学校は私立の中高一貫型の女子高だったよ」

モバP「え!?」

あい「不思議なことではないだろう。私を俗にいう王子様キャラで売り出している君にとっては」



モバP「いや、でも実際にそういう出来事が起きているとは……」

あい「私も初めて告白されたときは驚いたさ。しかし、二回三回と繰り返すうちにすっかり慣れてしまった。思いを打ち明けてくる子がいつだって年下なのも影響していたのかもね」

あい「私はその子たちの気持ちをいき過ぎた憧れとしてしか受け取れなかった。件の後輩の告白を受け入れたのだって、自分の中に微かな疑問があったからだ。これだけ女子にモテるのなら自らのあるべき姿はもっと違うものなのではないか。それを確かめたいという極めて不純な動機が私を動かした」

あい「私は年上として彼女を可愛がった。私たちは普通のカップルと比べてもうまくいっていたと思う。少なくとも当時の私にはそう感じていたし、学校内で共に食事をしたり図書館で勉強している分には仲が良い先輩と後輩だったよ」

あい「思えば、その時点で間違いに気づくべきだった」


あい「初めてのデートもこれと言って特徴のない平凡なものだった。傍からは仲睦まじい友達同士にしか見えなかっただろう。かく言う私もこれがデートだなんて意識は、半日も経たないうちに忘れてしまった。今思い出したけど、普段は絶対に行かないような可愛らしい内装をした雑貨屋にも行ったよ。あれは新鮮な体験だったな」

あい「……デートの最後に私たちはとある公園を訪れた。広い海浜公園で、肌寒い季節だったせいか人はいなかった。私の隣に座った後輩の笑みはいつもとは少しだけ違っていたよ。私は彼女を慮れなかったけれど、後輩はずっと前から決意していたんだろうね」

あい「『先輩が私のことを想ってくれているのなら、キスしてください』」

モバP「………………」

あい「愕然としたよ。心の中で彼女を子ども扱いしていたことに。自分が彼女の気持ちを誤解していたことを思い知らされたんだ」

あい「私の本当の音色は彼女が望むものではなかった。ただそれだけのことを気づくまでに、私は相当の時間を有して、結果的に彼女を実験動物のように扱ってしまった。恋愛は結婚の予行演習というけれど、それを地で行ったんだ」

あい「彼女は謝る私を笑って許してくれた。目の端に涙をためていた彼女は美しかった。けれど、私には彼女をそういう対象として見ることがついぞできなかった。」

あい「私と彼女の関係はそのデートを境に仲の良い先輩と後輩へと収束していった」

あい「思えば、それからだろうね。私が女性に対して徹底して紳士的に、かつ憧れたり得るように接し始めたのは」

あい「ちなみに、今や彼女は十九歳にして一児の母。去年の年賀状には親子三人笑顔で写った写真が載っていたよ。幸せそうだった。家族一丸となって私のファンをやってくれているそうだ」



モバP「……」

あい「で、私の唯一の交際経験を聞いた感想はあるかな?」

モバP「え? 唯一? でも、さっき手くらいは繋いだことがあるって……」

あい「ひどいな。お花見のときに手を取り合って夜桜を眺めたのは、私の中では大切な思い出なんだ。君に心臓の鼓動が聞こえてしまわないか、乙女のような心配をしていたというのに」

モバP「あーあの時の……」

あい「もちろん異性を意識して人の手を握ったのは初めてという意味だ。でなければ、小学生のときに踊ったオクラホマミキサーも対象に加えなければならなくなる」

モバP「なんですか、それ」

あい「ただのジョークだ。私も酔いが回ってきたかな」



あい「まぁ、つまり何が言いたいのかというと」

あい「子供の気持ちを子ども扱いしてはいけないよ。確かに幼い恋心はやがて煌びやかだったものへの憧れとして処理されるかもしれない。私の後輩がそうだったようにね」

あい「けれど、今その瞬間に抱いている気持ちは紛れもない本当の恋なんだ。大人から見たら笑ってしまいそうな“思い出”でも、彼女たちにとっては切実な“今”なんだ」

あい「……その意味では私だって彼女たちと同じだな。初めて経験する恋心に身を切られそうになっている」

あい「ふふっ。ちなみにこれは告白ではないよ。酔いの席の戯言として流してもらって構わない」

あい「君の相談に嫉妬心と対抗心を煽られなかったとはいえないけどね」

あい「……どうにも口が滑っていけないな。本格的に酔いが回ってきたみたいだ」


モバP「……俺は」

あい「ん?」

モバP「俺は今だって凛の告白がなかったことにならないかなんて考えてる最低野郎です。でも、俺はプロデューサーです。だから……凛は……みんなは……」

あい「……あぁ。そこなのか。君が思い悩んでいるのは」

モバP「あいさん?」

あい「はぁ。全く君という男は……。こっちを向きたまえ」

モバP「? はい」

あい「それじゃあ、んっ」

モバP「んんっ!?」

モバP(あいさんの顔が間近にあった。唇には柔らかい感触。爽やかな石鹸っぽい匂いが鼻孔をくすぐる)

あい「……ふう」

モバP「ぷはっ、はぁ、はぁ」

あい「ふむ。舌を入れなかったせいで自分が飲んでいた日本酒の味しかしないな。失敗だ」

モバP「なにが失敗だですか……」

あい「別にいいじゃないか。生娘でもあるまいし」

モバP「……手を繋いだことしかないって聞いてましたけど」

あい「もちろん。私は今の今までファーストキスはレモンの味なんて俗説を信じていた、正真正銘の乙女だよ」



モバP「で、今のは何ですか?」

あい「意味のあるキスだと言いたいところだけど、その様子では私の言いたいことは伝わらなかったかな」

モバP「……」

あい「安心するといい。きっと凛くんは君の悩みに対する答えを教えてくれるだろう」

モバP「……あいさんは教えてくれないんですか?」

あい「これは君と凛くんが導き出さなければならない解答だ」

あい「……そうだな。宿題ということにしておこうか。あい先生からの、宿題だ」


―――――――――――――――――

―――――――――――

――――――



モバP(その日、俺は夢を見た)

モバP(小学生の頃に見かけた二つ隣のクラスにいた同級生。いつも窓の外ばかり眺めている子で、体育の時間に何度か目が合うくらいの繋がりしかなかったけど、好きだったんだと思う)

モバP(中学生の頃に仲が良かった先輩。美人で背が高かった。黒くて長い髪が綺麗だった。優しげに細められた目が好きだった。憧れていたんだろう)

モバP(高校生の頃に可愛がっていたバドミントン部の後輩。たいして上手くもなかった俺を慕ってくれて、よく部活終わりに自販機の前で駄弁っていたっけ。俺はアクエリアスで、なぜかあいつは夏でも冬でも温かいお汁粉を飲んでいた。付き合ってはいなかったけど、長い時間を一緒に過ごした)

モバP(結局告白すらできなかったあの人たちは俺のことをどんなふうに思っていたんだろう)

モバP(あいさんの話を聞いたからこんな夢を見るのか。でも、不思議なことに告白もまともな男女交際もした期間がある大学生時代のことは思い出せない)

モバP(よく磨かれた水晶のような瞳が揺れ、黒く艶めく髪の毛が風になびき、鈴を転がすような声が鼓膜をくすぐった)

モバP(思い出として処理された記憶たちは、意識の水面に浮かんでは沈み、やがて泡沫の夢となり消えていく)

モバP(もう起きないと。凛が待ってる)




☆事務所

モバP「す、すいません!! 完全に寝坊しました!」

ちひろ「それはわかってます。アイドルのみんなの送り迎えは大人組に頼んであるから大丈夫です」

モバP「……はぁ、よかった」

ちひろ「よくありませんよ。応接室に凛ちゃんがいます。朝からずっとプロデューサーさんのことを待っているみたいです」

モバP「で、でも……」

ちひろ「私は昨日まで休んでいたんだから大丈夫。プロデューサーさんの分のデスクワークをやって置くことくらいなんてことありません。だから、早く凛ちゃんのところに行ってあげてください」

モバP「恩に着ます!!」



ちひろ「はぁ……。頑張ってね、凛ちゃん」


☆事務所・応接室

モバP「すまん。遅れた」

凛「……遅い」

モバP「すまんって」

凛「いつも時間に正確な人が遅刻とかするとすごく心配になるから」

モバP「……ごめん。次からは気を付ける」

凛「うん。そうして欲しいな」


モバP「………………」

凛「………………プロデューサー」

モバP「なんだ?」

凛「プロデューサーの返事を聞かせてもらう前に、もう一度だけ告白させてほしいんだ。……ダメかな?」

モバP「たぶん、俺の返事は変わらないぞ」

凛「それでも、お願い」

モバP「……わかった。聞くよ」


凛「私はプロデューサーのことが好き」

凛「最初に会ったときは冴えない人とか思ってたけど、生意気だった私に対して一生懸命になってくれた。一緒に過ごしていくうちに、家にいるときも学校にいるときもプロデューサーの顔が浮かんでくるようになったんだ」

凛「プロデューサーに褒めてもらいたかったから、辛いレッスンも頑張れた」

凛「初ライブが成功したとき、プロデューサーは泣いてくれた」

凛「プロデューサーの笑った顔が好き。プロデューサーが笑ってると私まで幸せな気分になるから」

凛「プロデューサーの悲しい顔は嫌い。プロデューサーが悲しそうだと私まで暗い気持ちになるから」

凛「私は、プロデューサーの特別になりたい。一年前よりもずっと強くそう思ってる。だから……だから……」

凛「――――――私と付き合ってください」


モバP「…………ごめん。凛とは付き合えない」

凛「……他に好きな人がいるの?」

モバP「いない。もちろん付き合っている奴もいない」

凛「じゃあ、私のことが嫌いなの?」

モバP「それはもっと違う」

凛「…………私たちがアイドルとプロデューサーだから?」

モバP「……そうだ。俺と凛がプロデューサーとアイドルだからだ」

凛「…………そうだよね。アイドルとプロデューサーが付き合ったりしちゃダメだよね。なんでそんな簡単なことを忘れてたんだろ」

モバP「凛……」

凛「しばらく一人にして」

モバP「でも、」

凛「プロデューサーは優しいから、私が泣いてると慰めちゃうでしょ? そんなことされたらプロデューサーのことがもっと好きになって、余計辛くなる」

モバP「……」

モバP(あいさん。すいません。せっかくもらったアドバイス、無視します)


モバP「凛は勘違いをしてるんだ」

凛「……勘違い?」

モバP「凛が好きなのはプロデューサーなんだ。俺じゃない」

モバP「年の離れた人にほとんど付きっ切りで優しくされたりしたら、誰だって少しは好意を持つもんだ。仕方ないさ、俺にだってそういう経験はある」

モバP「でもそれは恋じゃない。ただの憧れだ」

モバP「だから、いつか凛にも本当に好きな人が現れる。そのときまで大事な気持ちはとっておいた方がいいぞ」


モバP(そうだ。凛に好かれたのはプロデューサーなんだ)

モバP(アイドル・渋谷 凛を大切にしているプロデューサーなんだ)

モバP(手の届かない存在だったあいさんに憧れた名も知らぬ後輩のように、不思議な同級生に魅入って、優しく綺麗な先輩に想いを寄せて、慕ってくれた後輩を可愛がった俺のように)

モバP(凛はプロデューサーに恋をしている)

モバP(俺に、じゃない)


凛「……違うよ」

モバP「違わないさ。もしも俺以外のやつがプロデューサーだったならば、凛はその人を好きになっているはずだ」

凛「………………」

モバP「だから、その気持ちは俺が受け取っていいものじゃない」

凛「………………」

モバP「大丈夫だって。早く俺のことなんか忘れて……」

凛「……ずるいよ」

モバP「凛?」


凛「ずるいよ! そんなの!」

凛「確かに私が好きなのは一緒にレッスンとか仕事をしてるプロデューサーで、もしも私に他のプロデューサーがついてたらその人を好きになったのかもしれない」

凛「でもね、私はあなたを好きになったんだよ」

凛「私の気持ちは受け取ってもらわなくていいけど」

凛「でも、この気持ちが偽物だなんて否定は、絶対にしてほしくない」

凛「私のプロデューサーはあなただけで、この気持ちは誰が何と言おうと本物だから」


凛「……スン……グス……」

モバP「……ははっ。凛は強いなぁ」

凛「……グスッ」

モバP「ごめん。泣かせるつもりはなかったなんて言っても信じてもらえないよな」

凛「ほんとだよ……女の子の気持ちを嘘だとか言うなんて、私じゃなかったら許してもらえないからね」

モバP「ありがとう…………おっ、メールだ。…………ははぁ、今日のために準備してたからあいつら二人とも寝不足だったのか。」

凛「……どうかした?」

モバP「ちょっと行くところができた。すぐに仕度しろ」

凛「え? 私も行くの?」

モバP「当たり前だろ。凛が来ないと始まらない」

凛「今日何かあったかな?」

モバP「もしかして覚えてないのか………。だいたい凛は去年の今日を選んで告白したんだろう?」

凛「違うよ。気持ちが我慢できなくなったから告白しただけ」

モバP「……そっか。凛は本当に強いな」

凛「? そうかな?」



帰り道

モバP「さて、いくか」

凛「……プロデューサー」

モバP「なんだ、忘れ物でもしたか?」

凛「いつか絶対振り向かせてみせるから」

モバP「……それはどうかな。たぶん凛の方から愛想を尽かして、どこかに行っちゃうと思うぞ」

凛「なにそれ?」

モバP「それくらい素敵な人との出会いが凛に訪れるってことだ。まぁ、そのときは心から祝福してやるよ」

凛「………………むぅ」

モバP「ほらほら。二人とも待ってるんだから急ぐぞ」

凛「えいっ」

モバP「お、おい! いきなり腕に飛びつくな!」

凛「今はこれくらいで我慢してあげる」

モバP「あのなぁ……人目というものを、……まぁいいか」

凛「あれ? いいの?」

モバP「今だけは、な」


モバP(俺の腕にしがみつく凛は一年前と変わらずに愛しい)

モバP(さっきは心から祝福してやるなんて言ったけど、あれは嘘だ。絶対に泣くし、確実に寝込む)

モバP(だけど、例え喉を掻き毟りたくなるような後悔に襲われたとしても、俺は笑って凛を祝福するだろう)

モバP(それが、凛が好きになってくれたプロデューサーとしての俺に対する、せめてもの責任だろうから)


☆事務所

ちひろ「終わったみたいですねぇ」

あい「そうだね。彼の顔から判断する限り、どうやら宿題は無事達成されたみたいだ。これは先生として花丸をあげるべきかな」

ちひろ「そんなに甘やかしてはダメですよ。あんな簡単なことに気づくのに女の子を一人泣かせたんですから」

あい「ふふっ。ちひろくんは相変わらず手厳しいな。過去に同じ過ちを犯した身として、彼への批判は耳に痛い」

ちひろ「プロデューサーさんはアドバイスをもらっていたのにも関わらずあの体たらくですよ? 擁護の余地はないと思いますけど」

あい「……ふむ」


あい「擁護するわけではないけれど、彼にはいささか純粋すぎるきらいがある。人と接する際に仮面をかぶることを得意としている割に、そのことに対して良心の呵責を感じていたり、純然たる恋の存在を信じていたり、まるで乙女のようだ」

ちひろ「別に私もプロデューサーさんを否定するつもりはありません。まぁ、誰だって自分を取り繕うくらいのことはしてますし、私に言わせてみれば恋なんてのは一過性の熱病みたいなものですよ。下手な難病よりも治療費がかかりますし、いいことないです」

あい「熱病か、言いえて妙だね。誰かさんはその一過性の熱病にほだされて貴重な休暇を一日返上したらしい。感染源は他のことに気を取られて気づかなかったようだけど」

ちひろ「……私が早く帰ってきたのは実家にいても見合いの話ばかりされるからで、加えて事務所が機能しないとなると損害が出てくるからですよ」

あい「そういうことにしておこう」

ちひろ「………………ただ」

あい「ただ?」

ちひろ「お見合い相手の中に魅力的な人はいませんでしたから、そろそろ本気で相手を探してみようとは思いました」

あい「……ふむ。あの二人は傘を持っていたかな?」

ちひろ「似合わないことを言ってすいませんでした! えぇもう言いませんとも!」

あい「冗談だよ、冗談」



あい「それにしても、プロデューサーくんも罪な男だ。乙女二人を放っておいて他の綺麗どころとも遊ぶだなんて」

ちひろ「自画自賛するのか、他を褒めてるのかはっきりしてくださいよ」

あい「どちらも違わないさ。真のいい男、つまり王子様というのはね。自分だけでなく周りの人たちも輝かせるような人物のことを言うんだ」

あい「さて、私たちの共通の王子様はどんなふうに輝き、また輝かせてくれるのかな」



終わり

終わりです。

凛ちゃん誕生日おめでとう。


凛はかわいいなぁ

おっつおっつ
重い……

これは巧妙なTGAすれ

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