【艦これ】旗風「誰が風を見たでしょう」 (32)





朝風:朝に吹く風

春風:春に吹く風

雪風:地吹雪、雪混じりの強風

天津風:空高く、天を吹き抜ける風

太刀風:太刀を振る勢いで生じる風

沢風:沢に吹く風





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───── 2020年 呉港



はたかぜ「護衛……もとい! 練習艦はたかぜ、本日付で練習艦隊第1練習隊に配属となりました。よろしくお願い致します」

かしま「はいっ、よろしくお願いします」


はたかぜ「……申し訳ありません。どうにもまだ護衛艦気分が抜けなくて」

かしま「ふふっ、護衛艦から異動の方は大体皆さんそうですよ」







かしま「あ、そうだ。良かったらこれを」スッ

はたかぜ「これは?」

はたかぜ「第4護衛隊群の、広報誌……?」


かしま「妹さんの書かれた文が載っているんですよ」

はたかぜ「! しまかぜさんが……?」







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誰が風を見たでしょう
僕もあなたも見やしない
けれど木の葉をふるわせて
風は通りぬけてゆく

誰が風を見たでしょう
あなたも僕も見やしない
けれど樹立が頭をさげて
風は通りすぎてゆく



これは、クリスティーナ・ロセッティというイギリスの詩人が書き、西条八十という日本の詩人により訳された「風」という詩です。

何年か前に有名なアニメ映画でも取り上げられたので、知っている方も多いかもしれません。

私の姉「はたかぜ」は、この詩が大のお気に入りでした。



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………
……………



───── 1993年



こんごう「私から目を離しちゃNoなんだからネ!」ジャーン

<アレガ「コンゴウ」カー
<スゲー



しまかぜ「イージス艦かぁ」


はたかぜ「……」

はたかぜ「ごめんなさいね、しまかぜさん」


しまかぜ「え?」







はたかぜ「本当はもっと賑やかな姉妹になるはずだったのに……私の性能が足りないから」


しまかぜ「……」

しまかぜ「えーいっ!」ボスッ

はたかぜ「きゃっ! ど、どうしたのしまかぜさん!?」


しまかぜ「別にいいの。賑やかじゃなくても、2人姉妹でも」

しまかぜ「私にはお姉ちゃんがいるもん。それでいいの!」


はたかぜ「しまかぜさん……」


しまかぜ「へへへっ」

はたかぜ「……ありがとう」







しまかぜ「ところで!」

はたかぜ「! な、何でしょう?」ビクッ

しまかぜ「さっきから何を読んでるのかなーって思って」

はたかぜ「あぁ、これは『詩集』ですよ」

しまかぜ「ししゅー?」

はたかぜ「そう。色々な詩が載っているんです」

しまかぜ「ふーん……」







はたかぜ「しまかぜさんも読んでみたらどうですか? 貸してあげますから」

しまかぜ「でも、詩って何だか難しくって。それに字だけの本読んでると眠くなっちゃうから……」

はたかぜ「私も決して詩の意味を全部理解している訳じゃないけれど、自分なりに解釈をして読んでいくのも楽しいですよ?」

しまかぜ「なるほどねー」



しまかぜ「……ちなみに、お姉ちゃんはどの詩が一番好きなの?」







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その問いの答えとして返ってきたのが、先述の「風」という詩でした。

私たち姉妹はイージス以前の歴代DDG同様「~かぜ」という艦名を名乗るので、てっきりそこに親近感を抱いているのかなと思っていたのですが───



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しまかぜ「これってどういう意味なの?」


はたかぜ「えぇと……しまかぜさんは、そもそも『風』を見たことがありますか?」

しまかぜ「え? そりゃあるよー! 今もほら、信号旗が揺れてるじゃん」

はたかぜ「それは『風ではためいている旗』を見ているだけでしょう?」

しまかぜ「おうっ!?」


はたかぜ「ふふっ……。つまり、風というものは目には見えないから存在しないかのように思えるけれど、旗をはためかせるように、木の葉をふるわせるように、確かにそこにある───こんなところかしら」







はたかぜ「……この詩は、私たちのことを言っているように思うんです」


しまかぜ「私たちのこと……?」


はたかぜ「一見存在しないように思えても、確かにそこに存在している」

はたかぜ「『防衛力』というものは、まさにそうあるべきだと思うから」







しまかぜ「……」


はたかぜ「存在をアピールすることも……例えば観艦式のような形で時に必要となるけれど、力を必要以上に誇示したりはしない」

はたかぜ「その上で、こちらの力を『相手』に悟らせて、攻める意欲を削ぐ」


はたかぜ「……これが、私たちが達せられる唯一の『勝利』だから」







しまかぜ「……厳しい戦いだね」


はたかぜ「そうですね。何せ……もう40年近く続けている戦いなんですから」

しまかぜ「40年? ……あ、創隊からってこと?」

はたかぜ「ええ。もっとも、海上警備隊時代から言えば40年を過ぎている訳ですが」







しまかぜ「じゃあ、この40年勝ち続けなんだね私たち。曲がりなりにもさ」

はたかぜ「言われてみれば、そうかもしれませんね」


しまかぜ「よぉーし! これからも勝ち続けるぞー!」エイエイオー

はたかぜ「おー! ……ふふっ」

しまかぜ「にひひっ」



……………
………








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今回この文章を書くに当たり、この時のことを思い出していると、ふと先日見たテレビ番組の内容が頭を過りました。

それは奈良の正倉院についての特集だったのですが、国宝であり世界遺産でもあるこの建物は、遠く奈良時代から現代まで数多くの貴重な文化財を伝えているそうです。

これら文化財が盗難されず現代まで残っている理由、それは勅命により為された封印、すなわち「勅封」があったからにほかなりません。

しかし、現実の勅封は、やろうと思えば誰にでも破ることのできそうな麻縄と紙でしかありません。

それが破られていないのは、人々に「これを破ってはならない」という、言わば「心の鍵」をかけたからだったのではないでしょうか。



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あれから20年近い月日が流れ、ようやく姉の思考を真に理解できたような気がします。

もっとも、万が一実際に破ろうと試みられた際、私たちは簡単に破られる存在ではいけないのですが……。

就役から約34年。

姉はその使命を遂げ、今春練習艦となります。

次代の「鍵」を育成する今度の職務、体に気をつけつつ頑張って欲しいと思います。



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私は姉のように詩集といった高尚な文化は嗜みませんもので、自衛隊を題材にしたある漫画作品から台詞を借りて、この文章を締めたいと思います。

同時に、姉への贈る言葉とさせていただきます。



『抜かずの剣こそ平和の誇り』



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はたかぜ「……」



かしま「……良い妹さんですね」

はたかぜ「ええ、たった一人の……自慢の妹です」







かしま「羨ましいなぁ……」ボソッ


はたかぜ「はい?」

かしま「ああぁっ! 何でもありません!」///


かしま「こほん、激励に応えるためにも立派な練習艦になっていただきます」

かしま「教育の成果が現れるのは20年先と言われています。教育を笑う者は教育に泣く……そのぐらい重要な職務ですよ。練習艦も」







はたかぜ「勿論です。それに、来年度にはこちらで姉妹が揃う訳ですから、しまかぜさんに情けない姿を見せる訳には参りません」


はたかぜ(私一層努めます。しまかぜさんも、見ていてくださいね)



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──







なお本艦は、就役以来一度も砲火を交えることなく除籍の時を迎えることが出来ました。
これもひとえに国民の皆様の、国防に対するご理解、ご協力の賜物でございます。
有難うございました。

(護衛艦『しらね』除籍前に掲示されたメッセージボードより)







はたかぜ型練習艦 TV3520「はたかぜ」

基準排水量:4,600t
長さ:150m
幅:16.4m
馬力:72,000PS
速力:30kt
主要兵装:54口径5インチ単装速射砲×2、高性能20ミリ機関砲×2、誘導弾発射装置×1、SSM装置、アスロック装置、3連装短魚雷発射管×2







* * *







旗風:旗をはためかせる風

島風:島々を吹き抜ける風



彼女たちは、時代を通りすぎてゆく「風」の、その最後の生き残り。




────────── 終わり




以上になります。

はたかぜ型は優美なフォルムで中々好きな艦です。
DDGでは初となる練習艦の役目、頑張って欲しいです。

もう少しすると「30FFM」こと3,900トン型護衛艦の命名・進水式が行われると思いますが、
彼女たちの後を継いで「~かぜ」と名乗る可能性があったりなかったり……?
楽しみに待ちましょう。

おつおつ


>>16だけ訂正します




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あれから30年近い月日が流れ、ようやく姉の思考を真に理解できたような気がします。

もっとも、万が一実際に破ろうと試みられた際、私たちは簡単に破られる存在ではいけないのですが……。

就役から約34年。

姉はその使命を遂げ、今春練習艦となります。

次代の「鍵」を育成する今度の職務、体に気をつけつつ頑張って欲しいと思います。



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綺麗だね

素敵なSSに会えてうれしい
乙です

乙乙です

お疲れ様です

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