注意事項。
・禁書とカオスヘッド・カオスチャイルド、及び科学ADVシリーズとのクロス
・クロスと言っても一人を除けば禁書キャラしか出ないから、禁書しか知らない人でも問題なし
・グロテスクな描写が多数
・間違ってもミステリーではない
ただ重苦しい静寂が広がっていた。
あまりに濃くてあまりに重い。それだけで窒息してしまいそうなほどに。
周囲には理解のできない奇妙なもの。
でも、目の前にあるものは酷く分かりやすかった。
「……ごめん。終わったんだよ。……もう、終わっちまったんだよ」
どこで間違えた? 何を間違えた? どうすれば、こんな終わり方を回避できた?
考えることに意味はない。もう今更どうにもならないんだから。
彼女の唇が僅かに動く。
その言葉に何が込められているのか、もう俺には分からない。
もしも時間を遡ることができたら、もう一度チャンスをくれたら、こんなことにはならなかったんだろうか。
口の中に鉄の味が広がっていく。
自分が情けなくて、あまりに無力で、ひたすらに拳を握る。
言葉が零れた。
「 」
それは許されない。そんなことをする権利は、ない。
膨れ上がるそれに抗いながら、俺は僅かに手を伸ばす。
もう掴めるものなどないと分かっているのに。
「 」
彼女の唇が、三度動いた。それだけで奇跡とさえ言えるのかもしれない。
彼女のその返事を聞いて。彼女のその顔を見て。
俺は、膨れ上がり続けたそれに、ついに抗えなくなった。
なんで、そんなことを言うんだ。
なんで、そんな顔をするんだ。
その時、その瞬間――――――上条当麻は頬を伝い落ちる一粒の透明な滴と共に、全てを諦めた。
If you are God, and the delusion becomes reality. About what kind of the noids you get?
Is it the sensual world? The despotic society? The destructive sanctions? Or...
9月7日。
学園都市で異常な猟奇殺人事件が発生した。
そして9月19日。
二件目の猟奇殺人事件が発生。
然程間を置かずして起きたこの二つの事件は、すぐに結び付けられて考えられた。
独立した事件と考えるには、余りにもその際立った異常な殺害方法が共通していたからだ。
この猟奇事件に対して、学園都市の住人の反応は早かった。
恐怖する者、憤る者、捜査の遅れを指摘する者、他人事として楽しむ者。
反応は様々だったが、たった一つ。ほぼ全員が口を揃えてこう言った。
『事件は、まだ続くぞ』
おそらく具体的な根拠なんて誰もが持ち合わせていなかった。
ただ多くの者が直感していた。
ネットは大いに騒ぎ立て、街を歩けば誰かが事件のことを話しているのを耳にした。
そして。それらを肯定するかのように、第三の事件の発生を許してしまうことになる。
この第三の事件の前後から徐々にネットの『祭り』の様相は激化し、面白おかしく茶化す者が増え始めていた。
程度の差はあれ現実でも似た現象がみられるようになり、どこかの誰かから、事件にキャッチーな名前がつけられ始めた。
第一の事件、『露出橋』。
第二の事件、『ヴァンパイ屋』。
凄惨な殺人現場や死体の様相からとられた通称はSNSなどを通して次第に浸透し、その名を口にする者は加速度的に増えていった。
第三の事件に対しても、同様に。
中には面白がって更なる事件の発生を望んでいるかのような呟きも、事件が起きる度に散見されるようになっていった。
ネットを介すことで現実味が失われ、連続猟奇殺人という形で人の死すらエンターテインメントになっていく状況。
それらを包摂し、やがてこの一連の猟奇殺人事件に一つの名称がどこからともなくつけられた。
人々はこの事件のことをこう呼ぶ。
『ニュージェネレーションの狂気』、と――――――。
第一章 狂気と邂逅するは幻想殺しの少年 Welcome_To_Chaos_World.
9/23
「俺を、見るな」
小さく呟いてみる。こんな時、稀に感じるのだ。
誰かの視線。誰かの目。誰もいるはずがないのに。
『その目誰の目?』
言葉に特に意味はない。ただ俺にとっては一種のおまじないのようなものだった。
こう唱えると何となく楽になるような気がする。
「はぁ……」
目の前の画面を見て思わずため息を零す。
一台のノートパソコン。貧乏苦学生上条当麻にそんなものを買う余裕は残念ながらない。
あらやだ自分で言ってて悲しくなってきた。
ただこれは、おそらく高校の入学祝いか何かで両親辺りから贈られたものなのだろう。
つい最近部屋から発掘された一品だが、諸事情で記憶が吹っ飛んだ俺には断言はできなかった。
「どいつもこいつも……」
やる気が削がれた俺は思わずブラウザをバックさせる。
元々俺はネットに噛り付いたりそこに溢れる情報を追っていったりする人間じゃない。
そんな暇があったら青春したいのだ。だって割と本気でことあるごとに死にかけてるから仕方ないじゃない。
俺にだって人並みにはそういう欲求はあるんです!!
学校帰りに二人乗りで汗を流しながらデートしたり何だり!!
分かってる、そんなリア充行為は神に選ばれた選民共にしかできない高貴な遊びだ。
今も窓の向こうから仲良さげな男女の声が聞こえてくる。
クソッ、お前ら爆ぜろ。出会いがほしいちくしょう。
「……ってそうじゃねぇ」
閉じたノートPCを押しやりテレビをつけると、予想した通りのニュースが流れていた。
『……この相次いだ二件の事件ですが、上坂さん、どう見ますか?』
『そうですねぇ……。二人の被害者には全く関連性がないということなので、まず怨恨の線は薄いでしょうね』
『となるとどういう狙いがあるんでしょうか』
『殺害方法が普通ではないことを考えると、自己顕示欲を満たす手段の一つ、ということは可能性として考えられると思います。また劇場型犯罪の……』
「……」
まただ。一件目の事件から日が経つと報道は下火になっていっていた。
しかし第二の事件が発生し両者が結び付けられて考えられるようになると、報道は一気に過熱したのだ。
キャスターたちが事件を整理し、犯罪心理学などの知識人たちが犯人像の分析などをしている。
当然、それが当たっているのかどうか確かめる手段はないんだが。
「これで終わってくれるといいんだけどな……」
冷蔵庫を開けて中を見る。
そこにはコーラ、ドクペ、スコール、マウンテンビューと珍妙な飲み物が並んでいた。
青ピたちと遊んだりした時になんやかんやでこんな並びになってしまった。
普段はドクペだのスコールだの、まず飲まないのにな。
まあ捨てるのも勿体なく、こうしていつか来るだろう飲まれる時を静かに待っているわけだ。
とりあえず無難なコーラを取り出して一口呷る。
『……とにかく、犯人もまだ捕まっていないわけですから、十分気をつけていただきたいですね』
コメンテーターがそう締めると番組は次のコーナーへと移っていった。
テレビを消すと同時に、俺はふと思い出した。
「そういやインデックスの奴、もう帰ってくるころだよな」
同居人であるインデックスは現在散歩へ出かけている。
あれでもシスターだからかあいつは割と早起きなんだ。
そういう時、まだ俺が寝ていると時間を潰すためかぶらりと外に出ることがあった。
→POSITIVE
NEGATIVE
―――――――――――――――
「……そうか」
そうだった。あいつは今、いないんだ。
だったら今のうちに着替えておこう。学校がある。
「えっと、確かこっちの引き出しに……」
あまりにも汚れてしまったため、お財布を痛めながら仕方なくクリーニングに出した制服。
返ってきたそれのあまりの綺麗さに感動し、ちゃんと引き出しの中にしまっていた。
そしてその引き出しを開けると、
「なん……だと……?」
そこには綺麗に畳まれた小さい布が並べられていた。
なんだこれ。見覚えがない。
突然目の前に姿を現した未知なる物質の正体を白日の下に晒すべく、俺はそれを一つ手に取る。
なんだこの可愛らしいデザインは。
なにやら折り畳まれていたので広げてみる。
そこで初めてこの白い布の正体が判明した。
「これは……男たちの夢(ホワイト・ドリーム)だ」
そうか。流石にこういうものはインデックスが自分で仕舞っていたからうっかりしていた。
「とうま?」
「っ!?」
反射的に身が縮み上がる。
心臓が止まるかと思った。鼓動がヤバい。
っていうかなんでインデックスがここにいるんだ!?
全く接近に気が付かなかった。
まさか音を殺して歩くのがクセになっているのか!?
「とうま、それ……」
「……!! い、いや違うんだインデックス。誤解するな。まずは話し合おう」
そうだった。そんなことを言ってる場合じゃないんだ。
何故なら俺は今、その右手にドリームを持っている。
こんなのまるで留守中に女の子の下着を漁ってるただのHENTAIじゃないか……!!
いや待て。待て待て。
考えるんだ。相手はインデックスだぞ。
これがたとえば美琴とか吹寄とかだったら、速く重い一撃を頂戴した後風紀委員なり警備員なりに通報されてお縄コース不可避だっただろう。
しかしインデックスであれば、ヘビーな噛みつきくらいで何とかなる可能性があるのではないか!?
「インデックス、これは……」
「それ、欲しいの……? とうま……」
「は!?」
なんだそれ。なんだそれ!!
あまりにも想定外すぎる言葉に上ずりまくった声を上げてしまう。
その発言にも問題だらけだが、どうしてお前はそんな満更でもなさそうな顔をしているんだ!?
「私は、いいよ……。とうまが望むなら……。今まで家賃とかも払ってなかったし……」
誰か。誰か、この状況を説明してくれ。
急展開すぎる。青ピ風に言うなら『これなんてエロゲ?』
「お、おいインデックスあなたさまはいったいなにをおっしゃっているのですか?」
「だから、ね……? 今までの分も、これで払うんだよ……」
インデックスは顔を赤らめながらその修道服を脱いでいく。
こ、これは……いいのか? そういうことでいいのか?
今まで散々苦労してきた。レベル5や聖人なんて化け物とぶつかったこともあった。
それらのご褒美が今、舞い降りようとしている!!
すまん青髪ピアス。すまん土御門。俺はこれ以上お前らと同じ道を歩むことはできないようだ。
インデックスの白い肌が見える。
俺はゆっくりと手を伸ばす。おかしい。何故俺は今になってインデックスを意識してしまうんだ。
だがもうそれはいい。上条当麻、いざ参る!!
「本当に、いいんだな。インデックス」
「うん。きて、とうま……」
―――――――――――――――
―――――――――――――――
「そこで何してるの?」
「うぉわっ!?」
び、びっくりした。驚かさないでくれ。
というか何してるってなんだ。普通に服もちゃんと着てるし。
「お、お前が何してるんだよ!!」
「何してるって、今帰ってきたところなんだよ」
そうだった。そういやそういう時間なんだった。
ここ最近、何故かやけにこんな風に妄想することが多くなった。
落ち着け。よく考えたらインデックスに欲情するなんて絶対にあり得ない。いくつかの意味で。
「……まあ、とにかくだ。朝飯にしようぜ」
俺はいつものように簡素な食事をちゃっちゃと作ると、それをテーブルの上に並べる。
そこに特別なものは何もない。年中無休で財政難なのだ。
「むぐむぐ……美味しいんだよとうま!」
「そりゃどうも。お前はいっつもそれだよなぁ」
美味しいと言ってもらえるのはありがたいが、こいつは何を出してもこう言うのだ。
コンビニで買ってきたおにぎりや菓子パン、弁当でも、安売りセールの冷凍食品でも、とにかく何でも。
インデックスの胃は全てを受け入れる。差別のない理想郷なんだ。
「テレビつけるんだよー」
「別に構わねえよ」
そう言ってインデックスがリモコンを操作する。
テレビ画面には二件の猟奇殺人事件についての特集がまだ続いていた。
(……しまったな。さっき見たままチャンネル変えてなかった)
「これ……」
「飯時に見るようなニュースじゃないだろ。変えた方がいいぞ」
「…………」
「……? どうかしたのか?」
「ううん、別にそういうわけじゃないんだけど……」
「何だよ煮え切らないな」
「……何だか、ちょっとだけ怖いな、って思ったりして」
……やはり失敗だったかもしれない。
「魔術が絡んだ魔術的事件なら慣れてるけど……こういう普通の殺人事件は経験したこと多分ないかも」
「普通はないって。それよりほら、さっさとその一口食っちまえ。俺もう学校いかなきゃいけないし」
慌ててご飯にかぶりつくインデックスを尻目に、俺はチャンネルを変えると自身の食器を流しへと運んだ。
とりあえずここまで。時系列は完全に原作とはパラレル
一応説明すると妄想トリガーはクロス先のカオスヘッド・カオスチャイルドにあるシステムで、ポジティブを選ぶと基本的にピンクな展開、ネガティブを選ぶとホラーな展開になるやつ
でも本編にはどっちを選ぼうと一切影響はない。妄想だもの。結構ぶっ飛んだ展開が多くて面白いよ
今のこの板にどれくらい人がいるのか知らないけど、次回からは安価でポジ・ネガを選んでもらおうかなと思ってる
ある程度経っても誰も選ばなかった時はこっちで勝手に決めるかな。人減ってるらしいし
科学ADV特有の設定とか用語がこれから出てくるけど、禁書しか知らない人でも分かるようちゃんと説明していくつもり
ただ科学ADVネタは多く入れてるから両方知ってると一番良いとは思う
次回はまた
見てる人いるのかな?
まあもう少し書いてく
適当に後片付けを済ませ、俺は家を出た。
天気は快晴。気温も今日は丁度よく、降り注ぐ太陽の光が肌に心地いい。
こんなに余裕を持った登校は珍しかった。
新調したばかりのポケコンで時間を見る。ポケットコンピューター、略してポケモ……じゃなくポケコン。
正式名称は『フォンドロイド』なのだが、すっかりポケコンで定着している。
多くの機能が搭載されたタッチパッドデバイスで、近年急速にその普及台数を伸ばしている。
そしてつい最近、俺もポケコンデビューを果たした。要は最新の携帯端末だ。
もっとも、俺の場合いつ何時不幸さんが仕事するか分からないので油断はできない。
毎日のように張り切って仕事している不幸さんはきっと時給が高いのだろう。
「お」
「おっす、カミやん」
そんな下らないことを考えていると、隣の部屋から金髪にグラサンという明らかなチンピラが出てきた。
しかし俺は知っている。この髪色やサングラスは、女子にモテるための無駄な、無駄な努力だということを。
「おはようさん。土御門、今日は早いな」
「おう、おはようだぜい。それを言ったらカミやんもだにゃー。
俺は舞夏がいる限りきっちり起きられるんですたい」
「結局舞夏頼りかよ」
「それに何が悪いってか人の妹呼び捨てにするんじゃねーぜよ!」
「でも舞夏俺のことお兄ちゃんってこの前呼んでくれたし。
ほらそれよりさっさと学校行くぞ、折角平和なスタートなんだからチンタラして遅刻なんて御免だ」
「待て待てそれマジか!? マジならイギリス清教総力を挙げて潰すが……って引っ張るな話はまだ終わってねーんだにゃー!?」
「いやー、それにしても二学期が始まってしまいましたなぁカミやん。鬱ですなぁカミやん」
「別に俺は夏休みがリア充ライフだったとかそんなことはなかったぜ!! というかお前もよーく知ってるだろ!!」
「にゃはは、夏休みも魔術も科学も合わせて色んな事件と仲良くしてきただけあるぜい」
「お前もその一因だからな!?」
「!?」
「え、なんでそこで驚くの!? なにその私全く関係ないのにみたいな顔は!?」
「ひ、ひでーにゃーカミやん……。オレはただのしがない高校生だっていうのに……」
「うるせぇ二重スパイ!!」
「ば、馬鹿、声が大きいにゃー!!」
土御門は顔をきょろきょろさせて周囲を確かめる。
どうせならちょっとくらいバレてしまえばよかったのに。
(寝ている間にベッドごと担ぎ出されたりとか、買い物途中に車で拉致られたりしたの忘れてねぇからな)
全く、散々な目に遭ってきたものだ。
それでも活動できているのだから、我ながらタフな体だと思う。
「ま、まあそれより。今日のテストはどうなるかにゃーカミやん?」
「は!?」
思考が停止した。こいつ、一体何を言っているんだ。
こいつは一体何を言っているんだ。
「ちょっと何言ってるか分かんないですね」
「いやいや、この前の授業で説明された通り今日数学の小テストがあるぜい?
ただでさえ出席日数がギリギリ限界sparking!! してるカミやんとしては僅かでもポイント稼ぎをしておきたいところですたい」
絶望が、俺の身体を蝕んでいくのが分かった。
当然そんな記憶は俺にはなかった。というか多分その日は俺が欠席か遅刻かした日だろう。
こんなことって許されるのか?
どこで間違えてこんなことになったんだ?
「俺の進級を何とかしてくれーっ!!」
「カミやん、それはできない。それは神の力を大きく超えている」
これはもう駄目かも分からんね。
というかそんな話があったなら教えてくれてもいいだろ土御門!!
そう思って問い詰めたら、
「だってその時カミやんの携帯ぶっ壊れてたし。魔術師との戦闘というカミやんにとっての日常で」
というとても正論で、とても悲しい答えが返ってきた。
何かがおかしい!! 俺はやり場のない悲しみと怒りを持て余していた。
俺のターン!! ドロー!!
テキストを確認、意味不明。
俺は白い部分が大きく残った答案用紙を机に一枚伏せ、テストエンドだ。
チャイムの音と共に、人が一斉に動き出した。
その多くはたった今二つの意味で終わったテストの話だったが、俺は話すだけの中身すらなかった。
くそっ、聖人だのレベル5だのとぶつかる時より怖かった。
「上条、何を浮かれない顔をしているわけ?
もしかしてテストが全くできなかった、なんて言うわけじゃないでしょうね」
「ああ、吹寄……おはようございます」
「それは朝に聞いたし今は昼よ!! 全く、折角朝は珍しくちゃんと来たと思ったら……」
「上条くん。このまま順調に行けば。留年待ったなし」
容赦なく心を抉ってくるな、こいつら。
吹寄と姫神。この二人は多分こんなテストなんて難なくこなしたんだろう。
「そもそもテストの存在すら知らなかった俺には最初から希望はなかったんだよ……」
「じゃあ聞くけど、テストだって分かってたらばっちりだったわけ?」
「……うん。まあ、うん」
「貴様には呆れたわ……」
「常に留年にチェックをかけ続けるのが。上条くんのジャスティスなの?」
「ぐふっ」
当然ながらそんなジャスティスはなかった。
「カーミやーん、テストは絶好調だったみたいで安心したぜい」
「良い性格してるよなぁお前……」
ろくに言い返す気力もなかった。
それに土御門はこう見えても頭は決して悪くない。
裏の顔を考えれば当然なのかもしれないけど、とにかくこいつはデルタフォースの裏切り者なのだ。
「というか青ピはどうした青ピは」
「あいつなら弁当忘れたとかで壮絶なラッシュになってる食堂に駆け込んでいったにゃー」
「上条くん。私のおかず。一つ分けてあげるから元気出して」
「ううっ、ありがとう姫神」
「こらこら、あまり上条を甘やかさないの」
「たまには甘くしてくれたっていいじゃねぇか……」
「吹寄がカミやんを甘やかすなんて、考えただけで天変地異の前触れだにゃー。
モノポールが空から突然降ってくるよりあり得ないぜい」
「なんだその謎のたとえ」
「じゃあ。タダで分けるとは言っていないということで。その卵焼きと私の煮つけをトレード」
「それくらい構わねぇけど。ほら」
「ん。美味しい」
「姫神のもな。やっぱ違うよなぁ」
「姫神さんの料理の腕は本当に折り紙つきだからね。そりゃ美味しいに決まってるわよ」
「んじゃあそう言う吹寄も俺と一品だけ交換してみないかにゃー?」
「ええー、正直ちょっと貴様のは味が心配というか……」
「まあまあ、ものは試しっていうし?」
「じゃあほら。一つだけよ」
「おお、グッドだぜい!! じゃ俺のはどうかにゃー?」
「……あれ、美味しい。それも物凄く……」
「吹寄、それ作ったのこいつじゃないぞー」
「え……あっ、舞夏ちゃんね!! 道理でおかしいと思ったのよ!!」
「にゃはは、舞夏の腕前にひれ伏すがいいぜい!!」
「にしても、こんなタイミングにテストなんて悪魔の所業じゃねぇか?
今はなんたってあの大覇星祭の真っただ中だっていうのに」
そう。今、学園都市は大覇星祭開催中なのだ。
俺の両親は今回はどうしても折り合いがつかず来られないとのことだったが、大覇星祭中は広く一般開放されるため多くの親族や観客が押しかける。
街のあちこちで皆が青春の汗を流している中、俺たちはテストと洒落こんでいたわけだ。
「仕方がないのよ。今日はこの学校が出る競技はないし、うちはそこまで授業に余裕のあるところじゃないし今日が特別ね」
「だからこそ。テストの周知はちゃんとされていたはず。それに。もう一限で下校だから早帰りではある」
「にゃー。カミやん、明日の障害物競走は頼りにしてるぜい」
「つっても、相手は確かレベル3もそこそこいる中堅校じゃなかったか?
まともにぶつかっても勝てる相手じゃないだろうし、作戦は考えないとな」
「安心しなさい、作戦なら既に考案済よ。あとは細かい調整だけね」
そう言って吹寄は一枚の紙を鞄から取り出した。
手書きの絵や図をふんだんに使ったものだ。
ん? よく見たら一番上のタイトルが……『作戦計画書?』
しかも隅の方には無駄に『TOP SECRET』とある。
超ノリノリじゃねぇかこいつ。
「……ちょっと待てこのスタートと同時にありったけの能力で足元を爆破するってのは?」
「ああ、こっちはうちの切り札であるレベル3の能力者が防いでくれるから自爆の心配はないぜい」
「それに。相手に向けて撃つんじゃなくて。地面に向けてだからセーフ」
「そうじゃねえ!! 不意を突かれたら相手が挽き肉になっちまうわ!!」
「でも、相手チームはこれくらい避けるからね」
「そうなの!?」
「そして私たちの作戦は、その噴煙に混じって相手チームを……」
「ロケットランチャーで。粉々に爆破するのね?」
「そ、そこまではちょっと……」
さらっととんでもない発言をかますなおい。
自分で触れた大会のルールはどうした、というか普通に捕まる。
(まあでも、姫神もクラスに馴染んできたよなぁ)
何だかんだ、姫神が転校してきてから二十日ほどが経つ。
このクラスの連中は揃いも揃ってキャラの強い奴らだし、良い奴らでもあるから馴染むまでそれほど時間はかからなかったようだ。
前にいた霧ヶ丘女学院と比べれば天と地ってくらいにレベル差はあるけど、楽しそうな顔を見ると心配はいらなそうだった。
そんなこんなで昼食を終え、最後の授業を終えた。
明日はまた競技があるため、それぞれ動きの確認など好き勝手な話し声が教室に漏れる。
「…………」
しかし、割と最近起きた『サンクラッシュ』の話がもうほとんど話題にあがらないのが驚きだ。
史上最大の太陽嵐が地球を襲い、世界中で電子機器が破損した世界的大事件。
各国がインフラに大打撃を受け、一部パニックになったのだ。
一部では毎度お馴染みの陰謀論も囁かれているらしいが、それほどの事態だった。
世界で最も科学の発達したこの学園都市は、同時に世界で最もサンクラッシュの被害を小さくとどめた街でもある。
そのせいなのかは知らないが、話題に出せば「ああ、そんなこともあったね」で流されてしまいそうなほどその存在感が薄くなっている。
情報の溢れたこの時代、人は何かに飽きるとすぐに次のネタに食いついていく。
これも時代の流れか、とらしくもないことをちょっと考えてみる。
俺が椅子に座ったままポケコンを触っていると、突然やかましい奴が騒ぎ始めた。
「カミやーん、一体何して……ハッ!?
ま、まさかまた可愛い女の子と約束してるんか?
それで『明日の競技……君のためにも必ず勝つよ。見ていてほしい』とか言っちゃうんやろ!?
そんでそのままデートなんてアカン!! ボクは許さへんでそんなの!!」
「一人でうるせぇ!! 何だその少女漫画に出てくるサワヤカイケメンみたいなヤローは!?」
「といってもカミやんがサワヤカイケメンかどうかはともかく、可愛い女の子との約束ならあり得る話だにゃー。
そもそもこの野郎は自分の境遇を理解せず出会いが欲しいとか言っちゃう奴だし……」
「いやいや、それに関しちゃ間違ってはいないだろ。出会いが欲しい……ぐぶぁっ!?」
「命に関わるパンチをするでカミやん!?」
「もう殴った後じゃねぇかこのエセ関西野郎!!
大体何なんだその青髪、神の領域に辿り着いた最強の戦士リスペクトか?
だったらまずは赤から入りやがれ!!」
「いやいやカミやんの周りが女子で溢れてるのは事実!!
ねーちんとか他にも色々そっち方面の知り合いが大勢いるはずだぜい!!」
「確かにいるけど、それはあくまでも知り合い、仲間だろ!!
そうじゃなくて、こう恋愛相手的な意味での話だ!!」
「うわあああああ!! カミやんが恋愛とか言ってるううううううう!?」
「にゃあああああ!? 世界大戦の始まりだにゃあああああああああ!?」
「な……何が可笑しいッ!!」
「き・さ・ま・ら……」
その時。グゴゴゴゴゴ、という凄まじいオーラの気配を感じた俺たちは、ゆっくりと振り向いた。
そこにいたのはまさに怒れる女帝。
眠れる獅子に祟りなしどころかその目玉を枝で突っつきまわしたみたいになっていた。
これはだ、駄目だ。
もう逃げられない。そう思った時には既に事は起きていた。
音もなく一瞬で伸ばされた両手に青ピと土御門を掴み、その頭を正面衝突させ二人を沈没させていた。
「少しは静かに……しな、さいっ!!」
そしてそのまま繰り出された渾身の頭突きが、俺の顔面に三センチないしは四センチほど無事めり込んだ。
「流石。第六位説が囁かれるだけある」
見てる人いるなら続ける
カオスヘッド・カオスチャイルドのネタバレもあると思うからそこは一応要注意で
カオス・ヘッドは妄想トリガー全部ネガティブでやったな
その後パソコン壊れたせいで出来なくなったけどタクを桃色妄想全開童貞にすればよかった
うろ覚えだけどカオヘ怖いんだよなぁ。禁書が痛快にブッ飛んでる
世界ならカオヘは日常の陰惨な恐怖というか。黒子や佐天さんが
マジで心配になる
ギガロマでなければセーフだろ
禁書キャラでギガロマ候補になりそうなのいるな……
>>24
ちょっともったいない気もする、妄想トリガーは妄想科学シリーズの売りだから
トリガー出たらそこでセーブ→片方見る→ロード→もう片方見るで必ず両方見てた
ハムサンド好き
少しして息を吹き返した俺は周囲を見渡して状況の把握に努めた。
ああ……吹寄にワンパンでノックアウトされたんだっけ。
正確に言えばワンパンというかワンデコだけど。おのれワンデコマン。
「あ゛ぁあっ!?」
「勝手に心を読まないで!?」
謎のポテンシャルを見せた吹寄はともかく、青ピがいなくなっていた。
バイトの時間らしい。好き勝手言った挙句いつの間にか帰ってるとは。
その分明日の競技で活躍してもらおう。というか盾にしよう。
「……やっぱり吹寄は怒らせちゃ駄目だったにゃー」
鼻が真っ赤に膨れ上がり、真っ赤なお鼻のみんなの笑いものみたくなった土御門がぼやく。
「二人とも。大丈夫?」
「何とかな……」
「それより、上条。貴様がさっきポケコンで見ていたのは何?」
吹寄の表情が多少真面目なものへと変わる。
しまった。見られていたのか。
POSITIVE
NEGATIVE
安価>>30
「えーっと、なになに……? なんだこれ、宝くじみたいなもんか?」
「えっ。あの上条くんが。上条くんが?」
「その外れるの分かってるだろ無理すんなみたいな目やめてください泣いちゃいそう」
「一等は現金一千万。まさかとは思うけど上条、貴様本気で当たるなんて思ってないわよね?」
「なんだいなんだい!! 上条さんには僅かな夢も希望も残されちゃいないっていうのかい!!」
好き勝手に言われて、何よりそれが事実なのが悲しいところである。
とはいえ、流石に俺も一等が当たるなんて思っちゃいない。
二等も三等も、四等だって当たるとは思わない。
だって元々の確率の低さに加えてこの不幸体質だ。
学園都市ならではの詰め合わせであるこれ。そこに含まれているのは現金だけじゃない。
狙うはもっと下、お食事券やクーポン、あわよくば高級ステーキ詰め合わせとかそこら辺を頂戴したい!
「当たるか当たらないか、賭けないかにゃー?」
「私は。外れるにベット」
「別に構わないけど、私は当選にはびた一文賭けないわよ」
「しょうがない、これじゃあ賭けにならないぜい」
「コラそこ!! 勝手に賭けの対象にしようとするんじゃねぇ!!
そして俺の落選に絶対的信頼を置くのはもっとやめなさい!!」
くそう、回す前から敗戦後の拠点みたいな空気になっているのは何故だ。
だが俺は信じている!! きっと世界は日々頑張って生きている俺にささやかなご褒美をくれるはず!!
「お前らに目にもの見せてやるからな、覚悟しとけ!!」
「頑張れカミやん。無駄だけど」
「上条くん。そんなに落ち込まないで」
「そうよ、いつかはきっと良いことがあるわ」
「まだ!! 回してないから!! まだ!! 落選してないから!!」
確定した事実みたいに語りやがって、いいやもう限界だ!! 押すね!!
ええいままよ!!
そして、俺の指先は画面をタップした。
画面の中で箱が回転し始め、やがて一つのボールが吐き出される。
そのボールの色と、出てきた番号と、表示された文字列を俺は眺めた。
何度も、何度も、何かの間違いじゃないかと確認する。
しかし何度確認したところで結果が変わることはなかった。
俺の幻想殺しに反応はない。
試しに頭を触ってみる。何も起きない。
つまり、これは紛れもない現実だ。
「ぃ……ぃよっしゃああぁぁぁぁああああああッ!!」
俺のポケコンの画面には、こう書いてあった。
『当選おめでとうございます!! 七等 三十万円』
「う、嘘だにゃーッ!?」
「こんなの。絶対おかしいよ」
「わ……罠よこれは罠よ!! 上条が当選するなんておかしいじゃないそれが罠だという証拠!!」
「だから七等なんじゃないか、ふっきよっせさーん? でも七等とはいえ、当たっちゃいましたねー?
おうおうお前ら、さっきはよくも好き勝手言ってくれたな!! ひれ伏せそして崇め奉れい!!」
「ち、違う……あり得ない……」
顔を真っ青にし、唇を震わせて吹寄が呟く。
というか吹寄の反応がヤバい。一体どれだけショッキングだったんだ。
「う、っぷ……っ!?」
と思ったら姫神はもっとヤバい。身体をくの字に曲げて口元を手で押さえている。
吐く寸前じゃないの!! そしてそれだけ驚かれる俺は一体何だ!!
通信簿がオール1だったかのような声を漏らす吹寄を尻目に、俺はひたすらポケコンを見つめながらニヤついていた。
気持ち悪いのは分かっているが、止められない。
三十万。三十万だ。これだけあれば、節約しながら使っていけばどれだけの間生きられることか。
「ああ……今日の晩飯は記念に少し豪華にしよう。インデックスも喜んでくれるだろ」
こうして、貧乏学生であった上条当麻の、少しだけブルジョアな生活が幕を開けたのであった――――。
―――――――――――――――
―――――――――――――――
……だったら良かったけどな。
そんな生活が幕を開けたなら、どんなに良かったことか。
しかし現実は厳しい。当たるわけがないのだ。
そもそもそんなことをするためにポケコンを触っていたんじゃないんだ。
「……健全な学生として、あまりそういうのを見るのは勧めないわね」
以前から吹寄はこう言っていた。
よほど度が過ぎない限りこうして忠告に止めているようだが、やはりこいつは快く思っていないんだ。
(……まあ、当たり前か)
むしろこれを良しと褒める奴の方がおかしいと自分でも思う。
「事件のこと。やっぱり気になるの?」
「別にそこまでって言うほどじゃ、ねぇけど」
「大覇星祭と重なってるのもあって、この街は今てんてこ舞いなんですたい」
「本当。大覇星祭が中止になったりしなくて良かったわよ」
大覇星祭の中止。確かにその可能性を思い浮かべる人もいるだろう。
実際には大覇星祭は莫大な予算と人員が割かれていて、外部の客も招き世界にも中継され、大規模な学園都市の広告イベントとなっている。
それを今更中止になんてできるはずもなかったんだろう。
(『露出橋』に『ヴァンパイ屋』、か)
誰が、何のために。
その全ては謎に包まれたままだ。
「……迷惑な話よね。本当、早く捕まらないものかしら、犯人」
「いつかは捕まるだろうけどな。問題はそれがいつかってとこだ」
もうすっかり他の生徒は教室を出て、今この教室にいるのは俺たちだけだ。
開いた窓から生徒たちの話し声が聞こえてくる。
あまり聞かれたい会話じゃない。
「それに、ただの殺人じゃなくて……その、なんていうか……異常な犯行方法、なんでしょ」
テレビなどではあまりに猟奇性が高くショッキングなためか、ぼかした表現が使われていた。
だがその実態はネットに広まってしまっている。
誰もがアクセスできる。それを通して俺も事件の実態を知っていた。
「本当に異常極まりないにゃー。わけが分からないほどに」
「吹寄さんは。知らない方がいいかも。刺激が。強すぎると思う」
「……土御門はともかく、姫神さんも知ってるの?」
「何だかんだで。気になってたから」
「まあ、別に知る必要はねぇだろ。お前には無関係な話だよ」
吹寄の口ぶりからすると、それこそ何だかんだ言って気になっているのだろう。
だけど調べる勇気もないのか。別にそれで良いと思う。
あんなもの、興味もないのに嫌々調べたところでただ気分が悪くなるだけだ。
「そう、ね。そんな異常なやり方をしてるなら犯人の目星くらいつかないものかしら。
まあ、とにかく。そうやってポケコンで調べるくらいならともかく、絶対に事件に首を突っ込んだりしちゃ駄目よ。良い?」
「なんで俺を見て言うんですか」
「貴様が一番首を突っ込みそうだからよ」
「百理あるぜい」
「上条くんは。面倒ごとに愛されてるから」
「そんな愛はいりません!! 断固受け取り拒否!!」
しかし俺が拒否設定にしていても強制的にやってくるのだから笑えない。
俺は何も言い返せず、ただ肯定するしかなかった。
帰宅途中の道で、俺は一人物思いに耽っていた。
吹寄や姫神と別れ、舞夏に頼まれた買い物をこなしに行った土御門と別れ。
先ほどまでの会話が頭の中で蘇る。
――――――『それに、ただの殺人じゃなくて……その、なんていうか……異常な犯行方法、なんでしょ』
俺はじっとポケコンの画面を見つめる。事件について詳細にまとめられたwiki。
誰でも編集できるサイトだが、他ソースと照合し裏は取ってある。
(こんなん見せられたら……そりゃ異常と言うしかないよな)
9月7日、『露出橋』。
被害者は高柳桃寧、20歳。女性。ニコニヤ動画の歌ってみたの歌い手で、アニメソングのコピーバンドのボーカルを務めていた。
現場は第三学区。左腕と右足を付け根から切断され、片手片足となっていた。
また衣類は一切着用しておらず、全裸の状態で隣接するビルとビルの屋上を繋ぐように死体が固定されていた。
つまり、全裸の状態で、隣接するビルとビルの間に架かる人間の橋となっていた。
実際に蟻がこの死体を通って隣のビルへ渡っていたらしい。
このことから『露出橋』の名がついた。
9月19日、『ヴァンパイ屋』。
被害者は枝垂桜学園に通っていた弓箭猟虎、17歳。女性。
現場は第二十一学区。駅の公衆トイレで発見された。
発見当時、遺体は血液を全て抜かれており、緑色に変色したミイラのような状態だったという。
また遺体のあった個室の床には、被害者の血液がなみなみと入った盃が足の置き場もないほど所狭しと並べられていた。
全身を血抜きされ、血液を全て失っていた様子から『ヴァンパイ屋』の名がついた。
「…………」
言葉もない。ただの殺人じゃないことは明らかだ。
それも、ただ『殺しただけ』でもない。
それは犯人にとっての美徳なのか。或いは芸術か。
(芸術、か)
何を美しいと思い、何に心惹かれるかは個人によって千差万別だ。
別に特別な意味なんて何もなくて。
もしかしたらこれも、犯人にとっちゃ芸術的に飾り付けをしただけなのかもしれない。
「……っ」
ふざけんじゃねぇ、と俺は心の中で吐き捨てて足を進めようとした。
「ちょろっと、アンタ。何ぼーっと突っ立ってんのよ?」
ちなみに妄想トリガーでネガティブだった場合
―――――――――――――――
「か、上条……これ……」
突然吹寄が俺のポケコンを覗き込んで固まった。
何だ急に。別にそんなおかしなものはないはずだぞ。
そう思ってポケコンに視線を戻し。
俺は愕然とした。
(なん……だと……?)
そこにあったのは……。
「巨乳。デリヘル」
無慈悲にも姫神が容赦なく音読してくださった。いつもよりずっと冷たい声で。
そうか、気付かないうちに指が画面に触れて、脇の広告をタップしてしまっていたんだ!!
全く開いた覚えのないページだが、俺は悟った。これはマズい、と。
「ふ、吹寄サン? これは俺が開いたわけじゃなくてだな」
弁明する俺から逃げるように吹寄は距離を取ると、その目が氷のように冷たくなった。
あ、これ駄目かも。しかも心なしか胸を両腕で庇っていらっしゃるように見える。気のせいであれと思うけど、多分気のせいじゃない。
「何ですか、上条さん」
敬語入りました。
「カミやん……学校でそれはキツいぞ……?」
「いや、だからこれは広告で……っ!!」
一番助けてくれそうな土御門までなんでそんな引いてるんだよ!?
しかも普通に素になってるし!!
「もうちょっと離れてもらえますか、上条さん」
「上条さん。とても。残念」
「ああぁ、も、もう駄目だぁぁぁ……」
俺は膝から崩れ落ちた。
そしてこの日以降、俺にはおっぱい星人というネームがつけられた。
床に落ちたポケコンの画面には、どう低く見積もっても30代後半~40代後半くらいのふくよかな女性。
それが『かつこ』という源氏名と25歳という年齢表記と共に、セーラー服を着てにっこり笑顔を浮かべていた。
―――――――――――――――
妄想トリガーを安価で選んでもらうのは無理そうだね
となるとこっちで毎回選ぶかな
近い内に第三の事件起きます
「ちょろっと、アンタ。何ぼーっと突っ立ってんのよ?」
突然聞きなれた声に呼び止められる。
振り返ってみると予想通りの相手がそこにいた。
「御坂。いや、別に何ってわけでもねぇけど……」
「何よ、煮え切らないわね」
「べ、別にいいだろ。お前こそ何してんだよ」
「ただの通りすがりですけど?」
御坂美琴。常盤台中学に通うレベル5。
もしかしたら、御坂は何か事件について知っているかもしれないな。
ルームメイトの白井が風紀委員だし。でも、事件が事件だし風紀委員に情報が回ってるかは微妙か?
「……ちょっとアンタ、聞いてるわけ?」
「あ、え、いや。何だ?」
「ったく。パッションフルーツまんでもその口に詰め込んでやろうかしら。次の被害者ばりに」
おいやめろ。パッションフルーツまんと言えばあのゲテモノじゃないか。
「俺で第三の事件を起こすのはやめなさい!!
「……やっぱり。アンタ、突っ立ってポケコンで調べてたの、例の事件のことでしょ」
バレていた。カマかけされていたのか。
とはいえそこまで隠したいことというわけでもないが、むしろ美琴の方こそ食いつきそうな気もする。
人一倍正義感の強いこいつなら、到底許せるはずのない事件だろう。
だからこそ不安でもある。
こいつは決して表には出そうとしないけど、裏でどんな無茶と苦労をするか分からない。
あの夏の『実験』の時がそのいい例だ。
「そりゃあんな事件が起きれば多少は興味くらい持つだろ」
「まあそうだけど」
「お前のルームメイトの白井って風紀委員だよな。何か進展とかは」
そう言うと美琴は小さく肩をすくめ、首を横に振る。
捜査の方も手詰まりってことか。
「そもそも、今回の事件から風紀委員は手を引くように指示が出てるのよ。
事件が事件だから、学生の風紀委員に担当させるのは非効率ってのもあるし、何より危険すぎる。
ショックの強い内容に精神を病む人も出るかもしれないしね。だから、今は何か手伝いの要請があった時だけ動くって感じかな」
黒子はちゃんと捜査させろって騒いでるけどね、と美琴は苦笑する。
その様子も簡単に想像がつくな。
「今は警備員から更に選抜されたチームが捜査班に加わってるって聞いたけど」
「みたいね。そもそも警備員ってボランティアじゃない。こういう事件に対してはちゃんと専門の捜査チームってのがこの街にはいる。
ほとんどは警備員でこと足りるから滅多に表には出てこないけどね。
まあ、そんなわけだから、風紀委員の出る幕はほとんどないってこと」
だから美琴にも情報は回ってきていないと。
結局これで進展はなしか。
(――――あれ)
進展。俺は確かに多少なりとも事件に関心くらいあるけど、それだけじゃないのか?
まさか事件を調査したいなんて思っているんだろうか。そんな願望はないはずなのに。
「……とにかく、そういうことなのよ。アンタも変に首突っ込むんじゃないわよ?
面白がったり妙な好奇心で手を出していい事件じゃないでしょ、こんなの」
「なんで俺に言うんだいガール」
「今までの自分の行動を思い出してみなさいコラ。別に面白がってるとは思わないけど……。
アンタのことだから困ってる女の子でもいれば簡単に首突っ込むんでしょ。女の子でもいれば!!」
「何故にそこを強調するのですか!?
というか首を突っ込むなって、その言葉リボンでもつけてそのままお返ししてやりますよ!!」
→POSITIVE
NEGATIVE
「――――リ、リボン? アンタが……私に? そ、それは……その……」
何故かもじもじし始めたぞ。
え、なにこのガチな反応。こっちが困るんだが。
そ、そんな反応したら相手は勘違いしてしまいますよ御坂さん!?
「くれ……るの?」
頬を赤らめた少女に、思わず俺もごくりと生唾を飲み込む。
何だこの空気。何だこれ。
お前がいけないんだぞ。お前がこんな、いつもと違う反応をするから……。
「欲しい、のか? リボン……」
「だって……くれる、んでしょ?」
上目遣いで、澄んだ目をじっと俺に向けてくる。
ぐっ……何だ、この想像以上の破壊力は!!
理解した。これが日々青ピの口にしていた『ギャップ萌え』なるものだというのかっ!!
「アンタがくれるなら……私も、お返ししないと」
そう言って美琴はスカートの下に手を入れる。
まさか!! ば、馬鹿!! そんなすごい……じゃなくて何てことを!!
……短パンを脱いでいる。もう一度言う、短パンを脱いでいるぞッ!!
「お、おい!! お前何を……!?」
「これで、お返し足りるか分からないけど……」
「……っ」
美琴の短パン。彼女を守る絶対の守護神。
そのゲートガーディアンが今、俺の手にある……。
ほ、ほほう……。
「じゃあ、お前……今、その下は……」
「うん……」
ふぅ。
なんてけしからん。
あ、いや違う、そうじゃなくて!!
「あ……っ!?」
突然吹いた強風に美琴のスカートがめくれ上がった。
スエルテ!! 何というタイミング、お前はできる奴だ!! 今度焼肉を奢ってやろう!!
あ、いや焼肉はやっぱり高いかな……。
「え?」
しかし。そこにあったのは……。
「お、お前、それ……!!」
「えっ? いつも通り、ただの短パンじゃない。何をそんなに驚いてるわけ?」
「だ、だって、だって!! 短パンならここに……!!」
「うん、だからさ。一体いつから、短パンを一つしかはいていないと錯覚していたわけ?」
―――――――――――――――
―――――――――――――――
待て待て。待て待て待て。
おかしいだろ。どこがおかしいっておかしくないところの方が少ないだろ。
まず俺は断じてそんな変態じゃない。上条さんは常に紳士です!!
それにこいつもおかしい。なんで短パンを通りで脱いでるんだ。
しかもダブル着用って。もはや意味が分からない。
俺が自分の妄想にセルフで突っ込みをしていると、俺のリボン返しに美琴が言い返してきた。
良いわね。じゃあ私は学舎の園限定のケーキでもつけてお返ししてあげる」
「ぐっ……じゃ、じゃあ俺は高級な豪華絢爛焼肉セットか鍋のセットでもつけてお返しだ!!」
「北風の吹いてる懐事情で無理するもんじゃないわよ?
まあ、なら私は学園都市最高峰の超高級バイキングでもつけてお返ししようかしら。おまけに同ランクのステーキでも何でもつけて」
やられた――――。
圧倒的な経済格差の前に、俺はついにその膝を折った。
駄目だ。遠すぎた。俺はこいつには……勝てない。
第三学区。学園都市の外交の要であり、それに関連した国際展示場などの施設が集中している、北方角にある学区だ。
来賓をもてなしたりすることも多いため、並ぶホテルも高ランクのものばかり。
要するに、一般学生にはとんと縁のない学区と言えるだろう。
「もしかしたらこの学区に来たのは初めてかもな……」
俺がそんな似合わなすぎる学区にいる理由。
それは能力開発の授業の、課題レポートのためだ。
全ての生徒はここの大ホールで行われる講演会に出席するよう指示があった。
そしてその内容・感想・疑問・反論・代替案・受ける前と後で自分の考え方にどういう変化があったか・などなどをレポートにして提出しなければならない。
こういうものは内容の質より提出したという事実を作ることの方が大事だ。
俺はそう思う。そうであれ。
クラスの連中、土御門や青ピ・吹寄に姫神たちはとうにセミナーに出席済みらしい。
俺はその時例によって病院にいたため、見事に取り残されてしまったのだ。
セミナーは数日間に渡って開催されている。更に言えば、今日がその最終日である。
これを逃したらただでさえ余裕などあろうはずもない俺の点数が、マイナスに突入しかねない。
行くしかないのだ。というわけで、美琴と別れたあとにここに直行してきた。
やや歩いてその大ホールに辿り着いた俺は、受付の大変美人でパイオツカイデーなおねいさんのご指導でいくつかの手続きを済ませると入館を許可された。
三階へ階段で上がり、目的の講堂へと入った。
(しまった。遅かったか)
中を見ると、既に講演は始まっているようだ。ポケコンで確認すると確かに時間を過ぎている。
俺と同じ学生と思わしき人もちらほらいるが、多くは科学者や教師であろう大人たちだった。
既に結構な人数が入っている中、俺は居心地悪く少し身を縮めて、空いている席に腰を下ろした。
(マイクを持ってるあの女の人が講師か。思ったより若く見えるな。隈が凄いけどちゃんと寝ているのか?)
セミナーは数日間開催されているが、毎回同じ人間が講演をするわけではない。
日によって人が変わり、また講師が同じ人でも日が違えば話すテーマが異なっていたりするらしい。
二日前は記憶の仕組みについて話していた講師が、今日は夢を見るメカニズムについて話したりといった具合に。
(さて、あの人の講演は今日が初めてなのかは知らないけど、今回のテーマは何なのかね)
普通に考えて冒頭に自己紹介や目次、イントロダクションなどがあったのだろうが聞き逃してしまった。
「――――さて。ここまでお話ししたところで、先ほど軽く触れた『フレーム問題』のことを思い出してください」
落ち着いた女性の声。だが声にはあまり張りがない。
というかいきなりおかしな専門用語が飛び出したぞ。日本語でOKだ。
「改めて『フレーム問題』について簡単に説明しておきましょう」
大変助かる。
「『フレーム問題』は、ある事項を達成しようとした時に、それを達成するには何がどうなっていればいいのか。
その成功の条件づけが無限に拡大され、事実上不可能となることを言います」
講師の女性が壇上のノートパソコンに触れると、巨大なスクリーンに映し出されたパワーポイントが送られる。
そこにある図解を示すと、
「ここにいらっしゃる皆様が、ファストフードでハンバーガーを買ってくるよう要求されたとしましょう。
するとおそらく全員がこの要求を簡単に達成することができると思います。ですが、これが人工知能だったらどうでしょう?」
スライドがまた一枚送られる。
「ダニエル・デネットによれば――――」
誰だそいつ。
「こちらの例を使いましょう。洞窟の中にロボットを動かすバッテリーがあり、その上に時限爆弾が仕掛けられています。
ロボットは洞窟から『バッテリーを取り出してくる』という命令を受けたため、洞窟に入りバッテリーを取り出してきました」
「しかしロボットはバッテリーの上に乗った時限爆弾も一緒に運び出したため、直後に爆発を起こしてしまいました。
……さて、お越しいただいた皆様の中に学生とみられる方がそれなりにいるようですが、学生諸君はここで考えてみてください。
何故ロボットは爆弾も一緒に運び出してしまったのか? 爆弾は固定されているとは言われていないのですから、バッテリーだけを持ち出すこともできたのではないでしょうか?」
そう指示され、少し考えてみる。
ロボットの完成度については多分考えなくていいだろう。
つまり爆弾ごとバッテリーを持ち出すことはできているわけだから、やろうと思えば爆弾もどかすことができたはずだ。
では何故ロボットはそうしなかったのか。
……思いつかなかったから?
(というより、ロボットなんだから爆弾をどかすよう命令されなかったからか?
命令はバッテリーを持ってこい、だ。別に爆弾をどかせなんて言われてない)
たっぷり20秒から30秒ほど思考する時間を与え、女性講師が再びマイクを取る。
答え合わせだ。
「どうでしょうか。たとえ間違っていても、自分で考えるということは大切なことなので気にする必要はありません。
……ロボットに下された命令はバッテリーを取ってこい、でしたね。ロボットはこの命令は理解していました。
しかし、副次的に爆弾も運び出すことになる、という点までは理解していなかったためです。それは命令にはありませんでしたね」
「……このことを踏まえて作られたロボット2号は、目的の達成に伴う副次的事項まで考慮するよう設計されました。
では、この2号は命令を達成できるのでしょうか」
……できる、んじゃないのか?
「答えはNOとなります。……ロボット2号は『爆弾を動かすことで天井が崩れないか』、『地面が崩れるんじゃないか』。
『壁の色が変わるか』、『動物に襲われないか』……あらゆる可能性を考慮し出したためです。
皆様は爆弾をどかしたって壁の色が変わったり地面が崩れたりなんてするわけない、とお思いでしょう。そんな可能性なんて考えなくてもいいはず、と」
そこまで言われて、俺はようやく講師の言いたいことが理解できた。
条件付けが無限に拡大され、事実上不可能になる……なるほど、それで『フレーム問題』か。
講師はしかし、と前置きして続けた。
「人工知能に、それはできません。『普通に考えれば』という行為は、人工知能にとって不可能なのです。
ですので命令は正確に下す必要があります。とはいえ、壁の色が変わったらこうしろ、ライオンが出たらこうしろ、蛇ならこうしろ……。
無限にある可能性全てに対応した命令を下すことはできません。どこまでを考慮すべきか、という枠……フレームを作ることができない。故に『フレーム問題』となります」
俺が頭の中で話を整理し直しながら納得していると、突然誰かが慌てて立ち上がる音が聞こえてきた。
「でもっ!! それだと僕たちは……!!」
本人もそうしようと思っていたわけではないのだろう。
声をあげた少年に対して、周りからの冷ややかな視線が集中する。
別に意見を言うのは悪いことじゃないとは思うけど……場所が場所だったか。
「いえ。……構いませんよ。ディスカッション形式の方が、話も弾むでしょうし」
講師はすんなりと受け入れてくれた。
咄嗟にあの学生に対して助け船を出したのかもしれないな。
先を促され、少年はしどろもどろになりながらも続けた。
「え、えっと……『フレーム問題』については、よく分かりました。
でも、それだと、ぼ、僕たちはどうなんですか?」
「……良い質問です。確かに、この問題は人工知能に付き纏うものではありますが、我々人間もそうです。
我々はバッテリーの上に爆弾が乗っていたら、爆弾ごと運び出したりはしません。
つまり人間は『フレーム問題』を解決しているように見える」
少年の少し言葉足らずの質問にも、女性講師は意図を汲み取り淡々と答えていく。
「ですが……実は人間がどのようにしてこの問題を解決しているか、全く分かっていません。
人間もこの問題は解決できておらず、解決しているようにみえるだけという説もあるのですが、それにしても何故そう見えるのかは不明です。
人間の脳がどう『フレーム問題』に対処しているか。それが分からない限り……脳科学が進歩しない限り、人工知能も対応できないでしょう。
コリンズは社会学的相互行為の観点から、社会学者も人工知能の発展に貢献すべきだとしていますが。
……質問の答えとしてはこんなところでいかがでしょうか」
少年は小さく頷いて礼を言うと、そそくさと席に着いた。
……しかし、それより座っている大人たちがいよいよ退屈そうな様子を隠さなくなってきている。
まあ、俺でも理解できるような話を聞きにきているわけじゃないんだろう。
講師もそれを察したのか、話題を転換した。
中途半端だけど今回はここまでで
次回で第三の事件『五体過満足』発生
あとは『上手に焼けました』、『味噌チキください』、『サ棒テンダー』などが発生予定
乙
セロリ氏も普通に不快感感じるレベルの殺され方だろうしなぁ
レスありがとう
もうちょい書いてく
「……一区切りついたところで、次の話に移りましょうか。
お集まりいただいた博識な皆様方には少々退屈な時間が続いたかと思いますが、あと少しお待ちください。
更にこの次から、最新の研究結果……本題に入りたいと思います。
すみません、このセミナーは学生も対象に含んでいるようでしたので」
プロジェクターにPCの画面が映し出される。
脳の図解のようだ。
(……ん?)
そこで俺はポケットの中のポケコンが僅かに光っていることに気付いた。
こっそりと画面を確認してみると、インデックスからの電話だ。
まずい。帰宅が遅れることを連絡していなかった。
そっと席を外し、通話に応じると途端にやかましい声が耳を打った。
こいつのことだから分かる。お前は次に『私の晩御飯はどうなるの』と言う!!
『遅いんだよとうま!! このままじゃ私の晩御飯がなくて飢え死にしちゃうかも!!』
合ってた。
なんて分かりやすい奴だ。
「あー悪いインデックス、帰るのはちょっと遅くなる。
何時ごろになるかはちょっと分からねぇけど、晩御飯なら冷蔵庫の中に作り置きしたのがあるから、温めて食べててくれ」
電子レンジをインデックスに使わせる。
それは非常に勇気のいる決断だ。
だ、大丈夫だよな? この前あれだけ散々温め方を教えてやったんだから。
『むー。とうまはどうするの?』
「俺は遅くなるようならどっかで簡単なもん買っていくから」
それから少しの間とりとめもない会話をして、通話を切ろうとした時。
インデックスが呟いた言葉が妙に耳に残った。多分あいつは特に意味を込めたわけではないんだろうけど。
『とうま。気を付けてね』
「気を付けて……か」
頭の中でネットに貼られていた第二の事件『ヴァンパイ屋』による被害者の、凄惨な死体を思い出して。
気持ちの悪さと一緒に、ただの杞憂だとそれをねじ伏せた。
「――――逆に言えば、世界は電気仕掛けであるからこそその逆も可能だろう、ということです。
これについてはまだ実用化には遠いものの、以前とは比較にならないほどの進展を見せています。
……とはいえ、人間の脳は未だ限りなく未知数です。学園都市といえば能力ですが、その能力が脳のどこに宿っているのかすら分かっていません」
俺が戻ってきた時には既に話についていけなくなっていた。
誰かの質問に対して、女性講師が答えている。
やっぱり少し長話しすぎたな。
まあ最悪これまでの部分だけでもレポートは書けるだろうけど、ちょっと面白いとも感じている。
「……能力の発生過程については皆様ご存じのことと思います。
世界の法則を捻じ曲げる力。ミクロの世界を自在に操る『自分だけの現実』を観測し、現実に適用する。
ですが、根本的に能力を生んでいるのは何なのでしょう? 何故全く同じ『時間割』を受けても発現する能力やレベルに差が生まれるのでしょう?」
「……それは、未だヴェールの向こうに包まれています。人間の脳に、人間の叡智が届いていない領域が残っていることの証明です。
科学者の多くが手を伸ばし、しかし誰もそのヴェールを剥ぎ取った者はいません」
話を聞いて、俺は静かに自身の右手に目をやる。
これも俺の脳から生まれているものなのか?
もしそうだとしたら、俺の脳は他の人と何がどう違うのか。
脳のどこがどうしてこんな力を生んでいるのか。疑問は絶えない。
「……『多重能力者』の誕生は、脳に莫大な負荷がかかるために実現不可能と言われています。
では、仮に『能力以外の不可思議な力』があるとしたら、脳という限られた器の中で能力との共存は果たして可能なのか。
それはどのようにして可能となっているのか。……馬鹿げた仮定ですが、個人的興味は尽きません」
思わずドキッとした。
『能力以外の不可思議な力』だって……?
まさか、魔術のことを言っているのか……?
能力と魔術の共存は不可能だ。
俺はそれを知っている。そんな無茶をしているヤツを一人知っているんだから。
能力者は魔術を使えないし、魔術師は能力を使えない。
「……さて、予定より少々長くなってしまいました。
これまでの話を学生向けとするならば、ここからは科学者向けと言ったところでしょうか」
「お集まりいただいた博識な方々には、ようやくお見せすることができます。
まだまだ不十分であるため、基礎的な部分のみの発表となってしまうことをお許しください。
……逆に学生諸君には少々難易度の高い話となるかとは思いますが、よければ聞き、少しでもその中身を噛みしめていただければ幸いです」
あの人が魔術を知っているわけはないだろうけど。
『能力以外の不可思議な力』。考えてみれば俺の右手だってそうだ。
……駄目だ。考えたって何も分からない。けどレポートのネタは大丈夫そうだ。
思い出してみれば一番大切なのはそれなんだった。とにかく何と引き換えてでも提出しなければ。
その後、セミナーは一応最後まで聞いていった。
理屈や説明の時に飛び出てくる専門用語の数々に振り回されて、いまいち飲み込めなかったけど。
あれが本当なら、とんでもないことじゃないのか……?
その名前はシンプルだったからかはっきりと覚えている。
『VR技術』。
ヴァーチャル・リアリティじゃなかった。
確か……そう、『ヴィジュアル・リビルディング』だ。
(もうこんな時間か)
ポケコンを見てみるともういい時間だった。
第七学区まで帰宅することを考えると、中々際どいな。
というより、完全下校時刻が近いから電車とかその手のものはもうすぐ止まっちまう。
受付の大層美人でおっぱいなおねいさんに挨拶をし、俺は外へ出た。
小走りで駅へと向かう。もし完全下校時刻までに間に合わなかったらどうやって帰ろうか。
インデックスは怒るだろうな。そうなったら鎮圧用に何か食い物でも買っていくか。
多分初めて来たであろう第三学区の、第七学区とはまるで違う街並みを眺めながら足を動かす。
その時――――ふと俺は何かに気付いた。
視覚じゃない。鼻だ。何か、おかしな臭いを感じる。
「なんだ……?」
辺りをぐるりと見まわしてみる。
そして、見つけた。近くにぽっかりと口を開けた小さな路地裏があった。
「…………」
……本当に、入ってもいいのか?
何故かそこから得体の知れないプレッシャーみたいなものを感じる。
絶対に踏み入るな、と警告されているような気がする。
悪魔か何かが大口を開けているような、一歩踏み込めばそのままずぶずぶと底なし沼に沈んでいきそうな。
……なんだ? 前に、どこかでこんな感覚を覚えたことがあったはずだ。
そう。思い出した。あの時だ。あの、地獄のような『実験』が行われていた時。
同じ顔をした大勢の御坂妹。その一人が死んでいた、あの路地裏と同じ種類の重圧を感じるんだ。
でも、だとしたら……行かなきゃいけない。
もしこれがあの時と同じ気配なら入るべきなんだ。
あの時だって、路地裏に入らなかったことで『実験』を知ることがなかったら。
御坂妹は殺され美琴も死んでいくなんてことになっていたら、それは絶対に後悔していたことなんだから。
「行けよ、上条当麻」
俺はどこかから湧き上がる感情に背中を押され、路地裏へと入っていった。
辺りには散乱した紙屑や埃。それらが吹き抜ける風に煽られて地面を擦りながら飛ばされていく。
一度入ったらもう二度と戻ってはこられない。そんな錯覚さえ覚えさせられる。
でも、もう俺は踏み入っている。
だったらもう関係ない。周囲を警戒しながらゆっくりと進んでいく。
先へ進むにつれて臭いはどんどん強くなっている。
もう間違いない。これは、血の臭いだ。
この先には何がある?
御坂妹……正確には別の妹達だが、その無残な有様が頭の中に蘇る。
「……っ、んなこと、分からねぇだろうが……」
頭を振って振り払う。
もしかしたら誰かが大怪我をしていて、すぐに救助が必要な状況になっている可能性だってある。
曲がり角を曲がり、先に進んだ先……そこで、俺は足を止めた。
いや、自然と足が止まってしまった。
「…………」
視線の先。曲がり角から一筋の赤い液体が流れているのが見える。
それに、近づけば近づくほど感じる。
血の臭いだけじゃない。むせ返るほどの死の臭いだ。
(……はは。なんだ、もしかしてビビってんのか、俺……)
僅かに手が震えていた。今まで味わってきたものとはまるで種類の違う恐怖と緊張感。
途轍もない力を持った怪物と対峙するのとは、あまりにも方向性が違いすぎる。
情けねぇぞ、と自分を鼓舞して震える腕を押さえつける。
今までとは比べものにもならないほどの重圧の中、俺は進んでいった。
心臓がうるさいくらいに鳴っているのが分かった。……やっぱり俺は、ビビってる。
俺は、ゆっくりと曲がり角を曲がり。
そして、そこにあったものを見た。
「――――ぅ」
人間が、壁に固定されていた。
至るところに血がついている。どう見たってもう死んでいる。
しかも、ただの死体じゃない。
右肩からもう一本の腕が伸びていて、腕が合計で三本。
更に股からは同様にもう一本の足が伸びていて、手足共に三本ずつつけられている。
「――――――ぅぅぅぅぅ……ッ!!」
なんだ、これ。あの手足はどう見たって死んでいる本人のものじゃない。数が合わない。
強引に縫い止められて固定されている。他人の手足を切断して、この人の死体に繋げたんだ……!!
狂ってる。
正気じゃない。
なんなんだこれ。
「何だよこれぇッ!?」
――――事件だ。普通ではないその凄惨さに、俺はすぐに直感した。
これは事件だ。あの二件の連続猟奇殺人。その、第三の事件が目の前にあるんだ。
この事件の死体は、あの時の妹達のように滅茶苦茶に破壊されてるわけじゃない。
『露出橋』も『ヴァンパイ屋』も、一つの形を成している。
ただ闇雲にバラバラにしたり傷つけているんじゃない。だからこそどうしようもなく猟奇的なんだ。
そして……目の前のこれは、明らかにそれだ……!!
第三の事件。やっぱり、事件はまだ続いていたんだ……!!
そして。そして。止められなかった俺の叫びに反応してか、それはゆっくりと動き出した。
異常なのは、死体だけじゃない。異常なのは、事件だけじゃない。
目の前にいる――――こいつも、異常でしかないんだ。
それは、ゆっくりと振り返った。
死体の前に立っているそいつは、女だった。
赤い髪……いや、違う。暗さでそう見えるだけで、ピンク……か?
多分年齢も俺とそう変わらない。学生、だろう。
ピンクの髪をした女は、俺を見るとゆっくりと笑みを浮かべた。
僅かに頬を緩ませ、安心したかのような表情を浮かべている。
(こ、いつ……!!)
この状況で。この凄惨さを前にして。
……こいつだ。こいつが、犯人だ。
こんな異常な殺人を犯した……悪魔女。
「……テ、メェが……」
「――――良か、った……」
女の呟きに俺はゾクッと背筋が冷たくなる感覚を覚えた。
……良かった、って何だよ。何が良かった、なんだよ。
(良いことなんて……一つもねぇだろうが……っ!!)
気が付くと、女は涙を流していた。
……一体何が、起きてるっていうんだ。
俺はどうすればいい?
こいつをぶん殴ればいいのか?
そうして、捕まえて、警備員にでも引き渡せばいいのか?
状況が不可解すぎる。
身体に怖気が走っている。
この女のことが何も読めない。何を考えていて、次にどう動くのかも。
どれくらいの時間だったか。
俺と女が向かい合ったまま時間だけが過ぎていった。
少しすると女は表情を変えて、そして一目散にどこかへと走りだした。
「お、おいッ!! 待て!!」
思わず追いかけようとして、視界に入った無残な光景に足を止めた。
……俺がやるべきことを、考えろ。
俺は刑事でも何でもない。まずすべきは間違いなく通報することだ。
それに……こんな有様でいつまでも野晒しにして放置するのは、あまりに不憫だ。
俺はぐっと拳を握りしめ、思わず自分の唇を噛んで。
「ちくしょう……っ」
誰に言うでもなく呟いて、思わず凄惨極まる死体から目をそらして警備員へと通報した。
繋がるまでの僅かなコール音をこれほど長く感じたのは初めてだった。
そんなわけで第三の事件発生
ちなみに上条さんが受けたセミナーの講師は普通に名有りの禁書キャラだったり
乙
フレ/ンダがマシに感じるのがおっかない
妄想科学シリーズは俺に『作家になるにはどこかしらに狂気を持たないとなれない』と教えてくれた
どっか狂ってないとあんなの思いつかない
>>64
右手とか非実在青少女とか。だがそれがいい
書いてく
9月24日、朝。
『とうまが帰ってこない』。
そうあのシスターから連絡を受け、それを受けた小萌から連絡を受けた。
上条当麻が行方不明。別段に驚くようなことではなかった。
これまでもそういうことはままあった。
大抵は何故か傷を負って帰ってくるのだが……。
「……また、ね」
吹寄制理がテレビを見ながらぽつりと呟いた。
そう、また――――だ。
テレビはどの番組もしきりに変死体の発見を報道していた。
ただの変死体、ただの事件ならここまでにはならない。
全ては、今回の事件がこれまでに起きた二件の猟奇殺人と結び付けられているからだ。
「……また。だね」
姫神が吹寄の家に泊まりに来て、はしゃいで。
しかしこのニュースを知ってからはもうそんな空気はどこかへと消えてしまっていた。
これは第三の事件だ。
皆が口を揃えてそう言う。実際、姫神だってそう思っている。
どこぞの誰かから拡散された情報。もうネットに広まってしまっているが、その死体の状況は異常だった。
『露出橋』、『ヴァンパイ屋』と呼ばれる先の二つの事件と切り離して考える方が不自然なくらいに。
「……上条は、どこで何してるのかしら。まさか、まさかね」
「…………」
そんなことないから安心して、とは言えなかった。
あり得るのだ、十分に。
もしそうだとするなら……。
決めつけるのは早計だ。
だが、そうでなくても問題はある。
ちらりと近くにいる友人の顔を見てみる。
「…………」
悲しげな、悩ましげな、不安げな、怒っているような、何とも言えない顔。
分かっている。姫神には分かっているのだ。
まだ転校してそう日が経っているとは言えない姫神。
クラスメイトは皆温かかったが、その中でも真っ先に声をかけてくれたのがこの吹寄制理という人だった。
霧ヶ丘女学院という名門校からの転校。転校先はレベル3すらほとんどいない、お世辞にもレベルの高いとは言えない学校。
誰が考えても何かあったのは分かっただろう。
しかし、吹寄はただの一言もそのことについて追及はしてこなかった。
おそらく彼女とて本心では気にはなっていたのだろう。
それでも言葉にも態度にもそれを出さなかった。転校したての姫神を刺激せず、一刻も早く溶け込めるように。
(……嬉しかった)
事情が事情だけに、人に話したいものではなかった。
それに話そうとしたところであまりに突拍子のないものになってしまう。
彼女は他の人間にもそれとなく姫神の事情については踏み込まないよう誘導していたように思う。
もしかしたら吹寄がしなくても他の誰かがしていたかもしれない。それでも、姫神にとってそれをしてくれたのは吹寄なのだ。
だからこそ、姫神には分かっている。
吹寄制理にこんな顔をさせているものの正体を。
彼女は、ただ……。
「……間違いない」
一人の人間がそれを前にして誰に言うでもなく呟いた。
その声は確信を得た物言いだった。
その人間は異様な……というより、独特の雰囲気を纏っていた。
どこか普通の人間と違う。顔立ちも服装も特別異常というわけではないのだが、確かに違っていた。
ただ、それは普通の人間なら気付かない程度のものかもしれなかった。
静かに部屋の中を歩き、外へ出る。
もう一度手にしたポケコンでそれを確認した。
「これで三人目――――二人目の時点で分かってはいたが」
もう用済みだと言わんばかりに、そのデータを消去する。
データの復元はおろか、データが存在した痕跡も受信した痕跡も確認できぬよう完璧に抹消する。
ポケコンをポケットにしまい込み、息を吐く。
何が楽しいのか、僅かに口の端を釣り上げて結論した。
「……確定、か」
「本当に第三の事件が起きるとはな……」
全くの予想外というわけではなかった。
世間ではまだ続くという風潮が一般的になっていたし、黄泉川もその懸念は抱いていた。
しかし……この事件は一体いつまで続く?
第三の事件が起きた今、第四の事件ではどんな殺し方なのか楽しみ、などと不謹慎極まりない発言をする者もいる。
ネットは匿名だ。だが、匿名は何を言っても良いという免罪符ではない。
犯罪予告の類ではないから書き込みした人間を見つけて拘束、というわけにはいかないが、いくらなんでも言って良いことと悪いことの区別をもう少しつけるべきだ。
被害者の苦しみや恐怖、その友人知人遺族の悲しみと怒りを思えば、到底容認できる発言ではない。
教師としていかがなものかとは思うが、匿名をいいことに好き勝手ぬかすとは見下げ果てたヤツだと思うのを止められなかった。
しかし、何よりも許せないのは当然ながら三つもの事件を起こした犯人だ。
依然として犯人の正体はおろか、その手がかりさえ掴めていない。
通報者である上条当麻からも、有力な情報は一つしか得られなかった。
(もし手がかりになり得るものがあるとしたら……)
「黄泉川さん!!」
考えに耽っていると、鉄装綴里から声をかけられた。
警備員。黄泉川と同じく、今回の捜査チームへと加わった。
「鉄装か。どうじゃん、あっちの調子は?」
「駄目です。被害者との関係性は分かったんですが、それだけで……」
「最大の謎はそのままで、犯人に繋がるような情報もなしってことか……」
「はい。とても嘘をついているようには見えないんですけどね」
「それについては同感じゃん。わざわざ検査にかけたり読心能力者を用意させる必要はなさそうじゃん。
そこまでしなくても問題点は既に分かっているわけだしな」
ゆっくりと廊下を歩いていき、目的の部屋の前で止まる。
本当に、どうしたものか。全くただでさえ大覇星祭の真っただ中で忙しいっていうのに、と心の中で悪態をつく。
(……あるとしたら、こいつだけなんだが……)
その部屋で顔を伏せているのはピンクの髪をした少女。
別に黙秘しているわけじゃない。名前も被害者との関係性も分かった。なのに。
その時、黄泉川のポケコンから呼び出し音が鳴った。
上司と言える人物からの連絡。近くの人のいない場所へ移動してから、黄泉川は通話に応じた。
「はい――――」
9月24日、深夜。
俺は未だに眠りにつけずにいた。
簡単に眠るには、嫌なものを見過ぎた。
第三学区に行って、セミナーを受けて、帰りに……。
「……っ!!」
あの光景を思い出すと、激しい嫌悪感に押し潰されそうになる。
取り調べを担当した黄泉川先生によれば……というより、話し声を偶然盗み聞いただけだが、想像以上だった。
肩から一本の腕、股から一本の足。それは間違いなかった。
でも俺は冷静じゃなかったようで、気付かなかった。
肩と股に固定されていた手足は、被害者本人のものだったらしい。
つまり俺が思ったように、被害者を殺してから別人の手足をつけたんじゃなかった。
被害者の手足を切断し、その切り落とした手足を肩と股に固定して、『別人の手足を被害者の切断面に合わせて』固定したんだ。
そういう風に、『飾り付け』をした。
(なん……なん、だよ……っ!!)
凄まじいほどの嫌悪感が収まらない。
あの妹達の時のようなグロテスクさはなかった。
内臓が散乱していたり、得体の知れない物体が壁や地面に張り付いていたわけでもない。
ただ、だからこそ。前に感じたように、だからこそ恐ろしかった。
バラバラにしたりぐちゃぐちゃにするんじゃない。まるで芸術作品のように一つの形に仕立て上げている。
狂ってる。改めてそう思う。まさか、俺がその第一発見者になるとは思いもしなかったが……。
(……いや。正確には俺は第一発見者じゃない、か)
あのピンクの髪をした女。
結局あいつは一体何者なんだ。
事件の犯人。少なくとも最重要参考人ではあるだろう。
ゆっくりと身を起こしてリビングへ行き、冷蔵庫から水を取り出して一口飲む。
流石にドクペだのスコールだのといった気分ではなかった。
インデックスは俺がベッドに寝かせたままの姿勢で静かに寝入っていた。
(……ったく、無理しやがって)
取り調べを終えた俺は、警備員の運転する車で寮まで返された。
ようやく帰宅した時にはインデックスは机に突っ伏して寝てしまっていた。
その様子を見るに、ずっと俺の帰宅を待っていたんだと思う。待っているつもりだった。
ところが、途中で気付かない内に寝てしまったんだろう。
その姿を見て、俺はようやく連絡をしていなかったことを思い出した。
無理もないと自分で思う。あんな現場を見て、警備員の取り調べを受けてととてもゆっくりしている時間なんてなかった。
(心配、かけちまったな)
起きたら謝ろう。
そう思い、俺は再び眠る努力を始めた。
事件まとめ
第一の事件。9月7日、『露出橋』。
被害者は高柳桃寧、20歳。女性。ニコニヤ動画の歌ってみたの歌い手で、アニメソングのコピーバンドのボーカルを務めていた。
現場は第三学区。左腕と右足を付け根から切断され、片手片足となっていた。
また衣類は一切着用しておらず、全裸の状態で隣接するビルとビルの屋上を繋ぐように死体が固定されていた。
つまり、全裸の状態で、隣接するビルとビルの間に架かる人間の橋となっていた。
実際に蟻がこの死体を通って隣のビルへ渡っていたらしい。
このことから『露出橋』の名がついた。
第二の事件。9月19日、『ヴァンパイ屋』。
被害者は枝垂桜学園に通っていた弓箭猟虎、17歳。女性。
現場は第二十一学区。駅の公衆トイレで発見された。
発見当時、遺体は血液を全て抜かれており、緑色に変色したミイラのような状態だったという。
また遺体のあった個室の床には、被害者の血液がなみなみと入った盃が足の置き場もないほど所狭しと並べられていた。
全身を血抜きされ、血液を全て失っていた様子から『ヴァンパイ屋』の名がついた。
第三の事件。9月23日、『五体過満足』。
被害者は大谷悠馬、21歳。男性。これまでは女性のみを狙っているのではという声もあったが、第三の事件を以って否定された。
現場は第三学区。第一の事件のように右手と左足を付け根から切断され、それぞれ肩と股に強引に固定され三本目の手足とされていた。
失った手足の切断面に合わせ、別人の手足がとりつけられていた。
手足が三本ずつ、合計六本。
このことから『五体過満足』の名がついた。
ここまで
カオスチャイルドのアニメ化早くしないかなぁ(遠い目)
某委員会「ダメです」
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