ハス「おぉっ、団長よく来てくれた!」
ハス「卿にはいつも世話になっているから料理を振舞おうと思ってな」
ハス「ぜひ私特製の天丼を食べて欲しい」
ハス「カキツバタが材料を用意してくれたが、私一人で調理した」
ハス「ちゃんと味わってくれ」
ヒツジグサ「お待ちしておりましたわ団長様」
ヒツジグサ「普段からお世話になっているお礼と思いまして招待させていただきました」
ヒツジグサ「材料はアヤメが用意しましたけど、調理は私がしました」
ヒツジグサ「私特製のうな重です♪」
ヒツジグサ「さあ団長様、冷めない内に召し上がってください!」
ハス「……ヒツジグサ、団長は天丼を食べるからそれは口に合わないぞ」
ヒツジグサ「……団長様はうな重をご所望ですから、天丼は食べません」
ハス「私の天丼の方が美味しいからうな重は自分で食してくれ」
ヒツジグサ「いいえ、うな重は団長様が食べますからハスこそ天丼を一人で食べなさい」
ハス「ぐぬぬ……!」
ヒツジグサ「ぐぬぬ……!」
ハス「団長!」
ヒツジグサ「団長様!」
ハス「さぁどっちを」 ヒツジグサ「選びますの!?」
ハス「どうだわが国ロータスレイクは?」
ハス「美しい町並み、活気溢れる市場、眩い人々の笑顔」
ハス「そして何より! 水中都市は他では見られぬ唯一にして絶景!」
ハス「かような美しき国を、人々を、害虫の脅威から――」
カキツバタ「ハス様! 団長様が唖然としていますよ」
ハス「はっ!? す、すまん団長。思わず演説してしまうところだった」
ハス「だがそれだけ素晴らしい地である事は卿も理解してくれるはずだ」
ハス「ぜひ我が水中都市で日頃の疲れを癒してほしい」
ヒツジグサ「団長様、ロータスレイクをご覧になって如何ですか?」
ヒツジグサ「他国と比べれば水に覆われた国で不便に感じる事もあります」
ヒツジグサ「けれどそれ以上に住み心地が良い国でもあるんです」
ヒツジグサ「それでもし良ければ、良ければ――えぇっと……」
アヤメ「ヒツジグサ様。焦らずまずは街を遊覧なされては?」
ヒツジグサ「そ、そうですね! 団長様、私が街を案内致しますわ!」
ヒツジグサ「水上都市は一日中、いえ一年を通して過ごしても飽きませんから!」
ヒツジグサ「よろしければ私とハスが通っていた騎士学校にも行きましょう」
ハス「ヒツジグサ。悪いが団長はこれから水中都市に行く予定だ」
ヒツジグサ「違います! 団長様は私と共に水上都市を散策するんです」
ハス「……騎士学校の時から何かと張り合ってきたが、これだけは負けられない!」
ヒツジグサ「それはこちらのセリフですわ!」
ハス「団長!」
ヒツジグサ「団長様!」
ハス「さぁどちらを」 ヒツジグサ「選びますの!?」
ハス「害虫退治に協力してくれて感謝するぞ団長」
ハス「卿がいると普段より花騎士の士気が高い」
カキツバタ「ハス様も普段より張り切っておられました!」
ハス「よ、余計な事は言わなくて良い!」
ハス「ごほん! お礼というわけではないが、今宵の舞踏会に参加してほしい」
ハス「そういった舞台は苦手だろうが、参加してしばらく一緒に居てくれるだけで良いんだ」
ハス「ふ、深い意味はないが、その、私の婚約者を見繕う場であるらしい」
ハス「父が勝手に決めたことだが、参加しなくてはいけないから、その、お願いしたい……」
ヒツジグサ「団長様、害虫退治に協力して頂いて感謝致しますわ」
ヒツジグサ「やはり団長様が指揮されると動きが違ってきます」
アヤメ「ヒツジグサ様、良い働きを見せようとして無理をなさりすぎです」
ヒツジグサ「そ、そんな事ありません! 普段通りでした!」
ヒツジグサ「と、ところで団長様。今晩はご予定はありますか?」
ヒツジグサ「もし宜しければ舞踏会に参加していただきたいのです」
ヒツジグサ「私の婚約者を求める場であるらしく、でもまだそういった事はまだ考えられないのです」
ヒツジグサ「しばらく一緒にいて頂くだけで良いのです。もちろん団長様が……いえ、何でも無いです!」
ヒツジグサ「さあ団長様! 一緒に踊りましょう」
ハス「団長! 私と踊らないか?」
ヒツジグサ「……ハス、この場は水上都市と水中都市の絆を深める場ですわ」
ハス「……無論判っているとも。無益な諍いを持ち出す場ではない」
ヒツジグサ「それでも引かないのですね?」
ハス「当然。こればかりは譲れない」
ヒツジグサ「そうですか……ならば、取るべき行動は唯一つ」
ハス「うむ、団長の判断に委ねるだけだ」
ハス「さぁどちらを」 ヒツジグサ「選びますの!?」
カキツバタ「団長様。ハス様がお待ちです」
カキツバタ「本日のお召し物は私が選びました! どうです、お美しいでしょう!」
ハス「カキツバタ、あまり変な事を言って団長を困らせないでくれ!」
ハス「ごほん! 最近は舞踏会や害虫退治、それに私個人も政治に携わる関係で忙しかった」
ハス「しかし近日に1日中ではないものの、僅かに余暇が出来たのだ」
ハス「だから、わ、私と、一緒に過ごさないか!?」
ハス「――本当か!? よ、良かったぁ」
カキツバタ「わわっ、ハス様お喜びのあまり感動して泣いてますよ! さぁこのハンカチをお使い下さい」
ハス「な、泣いてなどないわ! ぐすっ……では団長、必ず来てくれ!」
アヤメ「お待ちしておりました団長様。ご無理を言って申し訳ありません」
アヤメ「ヒツジグサ様がどうしてもお会いしたいと心痛めておりましたので」
ヒツジグサ「なっ!? そんな事言っておりません! いえ、お会いできたのは嬉しいですけど!」
ヒツジグサ「と、とにかく団長様! 最近公務でなかなかお会いできず申し訳ありませんでした」
ヒツジグサ「害虫退治の際にはお会いできていましたが、結局話は出来ず仕舞い」
ヒツジグサ「そこで! 半日にも満たないながらも休みを設ける事ができたので」
ヒツジグサ「私と一緒に、過ごして頂きませんか?」
アヤメ「私からもお願い申し上げます。その日のためにかなり無理をなさっていましたので」
ヒツジグサ「アヤメ! ――本当ですか!? では必ずお会いしましょう団長様!」
ハス「団長こっちだ。待たせてしまったな」
ヒツジグサ「団長様、お待たせしました」
ハス「……何をしに来たのだ、公務が忙しいのではないのかヒツジグサ?」
ヒツジグサ「……ハスこそ今日は多忙なのでは?」
ハス「団長と過ごすため、時間を僅かだが空けてきたのだ」
ヒツジグサ「私も団長様のため、切り詰めてきました」
ハス「引く気はないということか」
ヒツジグサ「もちろんです」
ハス「ならば」
ヒツジグサ「団長様」
ハス「さぁどちらを」 ヒツジグサ「選びますの!?」
カキツバタ「団長様お忙しい中お越し頂きありがとうございます! ハス様がお待ちです。こちらへどうぞ」
カキツバタ「ハス様のこと、どうかよろしくお願い致しますね!」
ハス「よく来てくれた団長。あぁ楽にしてくれ、ここには私と団長しかいない」
ハス「……無理を言って夜分遅くにすまない。どうしても伝えたい事があってな」
ハス「思えば団長と出会ってから、私も回りも大きく変化した」
ハス「我がロータスレイクが開国した。混乱がなかったといえば嘘になる」
ハス「だがそれ以上に歓迎する声が大きかった。私自身も良かったと思っている」
ハス「私個人としても団長と出会えて、その良かったと、思っている」
ハス「――どういう意味か? うぅっ、肝心な時に察してくれないのだな……」
ハス「つ、つまり私は団長のことが、す、好きなのだ!」
ハス「女王としてではなく、私個人として卿の事が、貴方の事が好きなのだ」
ハス「――身分だとか、責任だとか気にしないでくれ……少なくとも、今夜だけは」
ハス「お願いがあるんだ団長。後日カキツバタを迎えに行かせる。その時には今の問いに答えて欲しい」
ハス「それでは団長、また後日……あぁ待って欲しい。少し近くに来てくれないか?」
ハス「――ちゅっ」
ハス「――おやすみなさい、団長」
アヤメ「団長様、多忙な中お越し頂きありがとうございます。今晩しか都合がつかなかったためお声掛けさせて頂きました」
アヤメ「ヒツジグサ様がこちらでお待ちです。団長様、我が主の事何卒よろしくお願い致します」
ヒツジグサ「ようこそ団長様! お待ちしておりましたわ、さぁこちらへお座り下さい」
ヒツジグサ「こんな夜分に御呼びして申し訳ありません。今夜しか時間がなかったので……」
ヒツジグサ「団長様。お会いしてもう大分時間が経ちましたね。ハスが開国を宣言した時本当に驚きました」
ヒツジグサ「同時に、開国の功労者である団長とはどんな人物が気になっていました」
ヒツジグサ「出逢ってしばらく花騎士として団長様の傍にいましたが想像と違う方だと思いました」
ヒツジグサ「すごく怖い方を想像してましたけど、優しくて思いやりのある方でした」
ヒツジグサ「――ふふっ、謙遜しなくても良いんです。本当に、こうして逢えて良かった」
ヒツジグサ「……団長様、今宵は想い出話だけでなくお伝えしたい事があって御呼びしました」
ヒツジグサ「私、私は……団長様の事を愛してます! うぅっ、こんな時ハスなら上手く伝えられるのでしょうね……」
ヒツジグサ「でもこの気持ちだけはハスにも、誰にも負けられない。どうしてもお伝えしたかったんです!」
ヒツジグサ「――身分なんて今は考えないで下さい。そ、それで団長様はどうですか!?」
ヒツジグサ「あっ、いきなりごめんなさい。団長様にも考える時間が必要ですよね。後日アヤメを迎えに行かせますので、その時にお答え下さい団長様」
ヒツジグサ「それでは団長様! またいつか――あ、あの! ちょっとだけ屈んで頂けますか?」
ヒツジグサ「――ちゅっ。またいつか、お会いしましょう団長様」
カキツバタ「団長様~! お待たせしました!」
アヤメ「朝早くに失礼致します。早速で申し訳ありませんがすぐに出立致しましょう」
カキツバタ「アヤメ! まずは団長様に事情を話してからにするべきです!」
アヤメ「……それもそうですね。私とした事が失念していました」
カキツバタ「申し訳ありません団長様……ハス様からは多分何も知らされてないですよね?」
アヤメ「実は本日中にヒツジグサ様、ハス様は我が国の有力貴族と縁談を結ばれます」
カキツバタ「望んでいない縁談だとしても王族としての責務があります。けど!」
アヤメ「私達が口を挟む問題ではないと理解しています。ですがあえてお願い申し上げます」
カキツバタ「どうかハス様の事を想っているならお止め下さい!」
アヤメ「我が主の、ヒツジグサ様の幸せを願うならばどうか来て頂きたいのです」
ハス「――今まで楽しかった。人生で一番自由な時間を過ごせて幸せだった」
ハス「ヒツジグサ。今日は随分と静かだな?」
ヒツジグサ「――本日は有力者との縁を結ぶ日ですから、騒ぐことなんてしません」
ヒツジグサ「ハスだって、普段より口数が少ないではないですか?」
ハス「それは……そうだな。女王としての責務を果たさねばならないと判っている」
ハス「だが、それでも私はどこかで何か期待してしまっているのかもしれない」
ハス「誰かがこの場から連れ出してくれるのではないか、と心で祈ってしまう」
ヒツジグサ「その誰かとは――いいえ、そうですね。私もどこか期待しています」
ヒツジグサ「でも私もハスも女王としての責任があるのです」
ヒツジグサ「だから、だから後悔しないように自由で、夢のような時間を過ごしたはずです……」
ハス「ヒツジグサ……そう、だな。私とした事がヒツジグサに諭されるとは」
ヒツジグサ「どういう事ですの!? ゴホン! とにかく私達はこれから――」
ハス「――団長!? 何故ここに!」
ヒツジグサ「――アヤメ達に教えてもらった? そうですか……でも」
ハス「卿が私達を心配してくれるのは嬉しい。けれど、この場は――」
ヒツジグサ「そうです! 私達は女王としての責務が――」
ハス「なっ――!? い、いきなり抱きしめるなんて……」
ヒツジグサ「だ、団長様……いけません! 私達はこれから縁談を――」
ハス「――私の本当の気持ちを言って欲しい、だと?」
ハス「それは、それは……女王である私が気軽に言えることではない」
ヒツジグサ「そうです。私とハスは女王。軽々しく自分の気持ちを――」
ヒツジグサ「な、泣いてなどいません! 泣いて、なんか……」
ヒツジグサ「――自分の気持ちと向き合うべき、ですか?」
ハス「女王という責務を背負う私達には重い言葉だな」
ハス「けれど、確かに自分の気持ちに向き合えない者が民に向き合えるはずもない」
ヒツジグサ「ハス!? 確かに団長様のお言葉は嬉しいです。けど!」
ハス「ヒツジグサ、私達は『女王』という肩書きに拘りすぎているかもしれん」
ハス「女王である前に、一人の人間として自分の気持ちに応えるべきではないか?」
ヒツジグサ「な、なんですかさっきまで泣いていた癖に!」
ハス「な、泣いてなどいないぞ!?」
ヒツジグサ「でもそうですわね……自分の気持ちに正直になるべきかもしれません」
ヒツジグサ「団長様! 私達の気持ちを、聴いていただけますか?」
ハス「ここまで来たなら美辞麗句で飾りつけるつもりはない」
ハス「私と添い遂げてほしい……」
ヒツジグサ「団長様、私はまだ未熟者です。それでもこれだけはハスには、いいえ誰にも負けたくありません」
ヒツジグサ「私とずっと、ずっと一緒に居て欲しいのです!」
ハス「さぁどちらを」 ヒツジグサ「選びますの?」
――――
―――
――
―
ハス「団長そろそろ休まないか? 働き詰めで疲れただろう」
ハス「あの『お見合い』騒動から大分経つが、どうだこの国の生活には慣れたかな?」
ハス「しかしあの『お見合い』……実際はお見合いではなく単に顔合わせだけの貴族との会合だったとは」
ハス「い、いや、あれはヒツジグサがお見合いだと言っていたから! うぅ、いや私が早とちりしただけだ」
ハス「でも結局良い方向に縁が結べて良かった。貴族達と? いいや卿と結ばれたのだから」
ハス「――えっ、なら『団長』ではなく名前かあなたと呼んでくれ?」
ハス「そ、それは……うぅっ、言わなくては駄目か?」
ハス「その、あ、あ、あなた……やっぱり駄目だ! 恥ずかしすぎる!」
ハス「少しずつ慣れていくから、もう少し気長に待って欲しい」
ハス「私はまだ公務が残っているから先に休んでいてくれ団長。また今夜に会おう」
ヒツジグサ「団長様お疲れ様です。もうお休みになられては?」
ヒツジグサ「私ですか? 私はまだやらなければならない事が残っていますので」
ヒツジグサ「大丈夫です! これでも慣れてますから。団長様はこの国での生活に慣れる事を優先して下さい」
ヒツジグサ「でもあの『お見合い』が貴族との顔合わせだったなんて……」
ヒツジグサ「今でも話題にされて恥ずかしいです……でも、そのお陰で団長様と居られるようになって」
ヒツジグサ「ふふっ、そう思うとまさしくお見合いと言っても間違いではありませんでしたね」
ヒツジグサ「――えっ、『団長様』は堅苦しくないかですか? た、確かに!」
ヒツジグサ「で、では! だ、だ、旦那様……うぅっ、恥ずかしくって無理です!」
ヒツジグサ「ごめんなさいまだ団長様と呼ばせて下さい……頑張りますから、待ってて下さい!」
ヒツジグサ「ではお先にお休み下さい団長様。また今宵お会いしましょう」
ハス「団長待たせたな」
ヒツジグサ「お待たせしました団長様」
ハス「……ここは団長の寝室だぞヒツジグサ」
ヒツジグサ「……ハスこそどうしてここに?」
ハス「わ、私と団長で今後の国と私達の発展について語り合おうと思って」
ヒツジグサ「私は団長様と、か、家族になるための話し合いを」
ハス「なっ!? それはいくら何でも早過ぎるだろう!」
ヒツジグサ「そ、そんな事ありません! 花騎士になったのは私の方が早かったですし!」
ハス「それとこれは関係ないだろう! こづ……繁栄は私が」
ヒツジグサ「いいえ、こればかりは譲れません!」
ハス「ぐぬぬ……!」
ヒツジグサ「ぐぬぬ……!」
ハス「団長!」 ヒツジグサ「団長様!」
ハス「さぁどちらを」 ヒツジグサ「選びますの!?」
読んでくれて乙
王族出身、それどころか女王が参戦している花騎士
そんな彼女らと複数交際したら国際問題に発展しかねない
特にロータスレイク女王2人相手だと内紛が起きそうだ
まあ何だかんだで丸く収まりそうである
何が言いたいのかというと、花騎士のSSもっと増えて欲しいなというお話だったのさ
おつおつの
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