【ミリマス】琴葉「プロデューサーレベルが」紗代子「上がりました!!」 (105)


琴葉「プロデューサーのレベルがアップした。その不可解で不思議な現象は」

琴葉「劇場の定期公演も終わり、後片付けもあらかた済ませた頃に起こったのです」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1535127084

===

紗代子「お疲れ様です琴葉さん。今日の公演も大成功でしたね」

琴葉「ふふっ、そっちもお疲れ様」

琴葉「確かに紗代子が言う通り、今日はお客さんの反応だって良かったし」

琴葉「成功したって、胸を張って言いきってみても構わないかも」


P「おいおい、琴葉はまたなーにをイイ子してるんだか」

琴葉「っ!? プロデューサー!」

紗代子「お疲れ様です!」


P「うん、二人ともお疲れ様。着替えも終わってるみたいだな」

P「今日の公演、端で見てた俺も手応えを感じるデキだったぞ」

琴葉「ほ、本当ですか?」

P「嘘ついてどうする」

紗代子「ふふっ、それもそうですよね」

紗代子「琴葉さん、もっと自信を持ってください!」

琴葉「そういう紗代子も褒めて貰ってるんだからね」


P(うんうん、仲良きことは美しきかな)

P(本番が終わればこうしてきゃっきゃしてる二人でも)

P(練習時やステージの上じゃあ切磋琢磨するライバル同士)

P(むぅ、実に青春である!)


琴葉「……ところでプロデューサー。一つ、気になってることがあるんですけど」

P「気になること?」

琴葉「はい。……その頭の上にあるのは一体」

紗代子「漫画の吹き出しみたいなのがプロデューサーから出てますけど」


吹き出し『プロデューサーレベルアップ!』


P「むっ! やっぱり二人には気づかれたか」

琴葉「気づきますよ!」

紗代子「目立ちますし!」


琴葉「レベルアップって文字が読めますけど……」

P「そうなのだ。どうも、今回の定期公演で得た経験でレベルが上昇したらしい」

紗代子「はぁ……レ、レベルがですか」

琴葉「にわかにはとても信じられない話ですね。この目で直接見てるのに……」

P「まっ、普段から不可思議な怪現象には困ってないのが765プロだ」

P「そこでプロデューサーをしてるんだぞ? この程度で一々驚いてちゃあ身ももたんさ」

琴葉(だからって、慣れたらいいって話でもないような)

紗代子(プロデューサーでそれだったら、いつかアイドルの私たちにも似たようなことが?)


P「だけど、レベルが上がったからってどうなる話でもないんだよな」

P「妙ちきりんなポップアップが出てるだけで、何かが変わったような気もしないし」

紗代子「……確かに、見た目の変化はないですよね」

琴葉「うん。いつも通りにカッコ良くて」

紗代子「そう、頼れる雰囲気が端々に――」

紗代子(って!? い、今、私とんでもないことを口走ったような!?)

琴葉(あ、あわわわっ! 私ったら何を言って……プロデューサーの目の前なのに!)


P「はっはっはっ! だろう? いつも通りにカッコ良くて頼れるプロデューサーだ」

琴葉「!」

紗代子「!!」

P「二人に褒めて貰えて嬉しいよ。ありがとうな」

琴葉「い、いいえ、そんな! 喜んでもらえたのなら……ねっ、紗代子?」

紗代子「そっ、そうですよ! 琴葉さんも言った通り、私たちがプロデューサーを頼りにしてるのは事実ですから!」

P「なっはっはっ、褒め殺しもそのぐらいで勘弁してくれよ」

琴葉「あはは、褒め殺しだなんて。……すみません、ちょっと困らせちゃいましたね」

紗代子「ふふっ。悪気はなかったんですけど」

P「そうだろうそうだろう、あっはっはっはっはっ――」


P「…………ふぅ」


P(っぶねーっ! なんだ急に、二人ともカッコいいだとか頼れるとか!)

P(そういうこと、マジな顔で言われるとオニーサン勘違いしちゃうから!)

P(そりゃあ最近はだいぶ打ち解けて来たとは思ってたけど、思ってたけども!)

P(不意打ちはダメだよ不意打ちはさぁ。特に、普段からそういうことを言いそうにない二人だから余計にびっくりしちゃったよぉ~!!)

P(あー、もー、いかんいかん! ……気を引き締めろよ、俺。あんまりにやついてると気味悪がられるぞ)


琴葉「…………」


琴葉(――どうしよう。プロデューサーが黙っちゃった)

琴葉(やっぱり私が、カッコいいとか急に言っちゃったからかな?)

琴葉(でもでもでも! ちょっとお調子者だけど、仕事中のプロデューサーは実際カッコいいし)

琴葉(特に、今みたいに考え事してる横顔が素敵。……それに今日はいつもの二割、三割、ううん五割増しぐらいでそう感じる)

琴葉(……変、かも。さっきから私、妙に浮ついた気分になってるな……どうしてだろう?)


紗代子「…………」


紗代子(こ、困っちゃうな。二人とも静かになっちゃうと、私、何話せばいいかわかんないよ)

紗代子(プロデューサーの吹き出しだって気になるけど、琴葉さんの熱い眼差しも気になるし)

紗代子(……薄々感じはしてたけど、この人もプロデューサーのこと好きなのかな?)

紗代子(地味な私なんかが贅沢言わない。プロデューサーには、悩み事を聞いてもらえるだけでもいいと思ってたけど)

紗代子(も、もう少しぐらい、積極的にアピールしていくべきなのかも……でないと)

紗代子(でないと、プロデューサーが私の前からいなくなりそう。……それは嫌だな)


紗代子「――プロデューサー、ちょっといいですか?」

P「ん、ど、どうした紗代子?」

紗代子「その頭の上に出てるやつって、直接触ってみたりできるんでしょうか?」

紗代子「いつまでもそのままっていうのは気になりますし」

紗代子「閉じるというか消せるのなら、そうした方がいいんじゃないかなって」


琴葉「そ、そうですね。プロデューサー、そのままだと外に出た時目立ちますよ」

P「むぅ、二人の言うことも一理あるな」

P「触らぬ神にもってことで、勝手に消えるまで無視しようとも思ってたけど」

紗代子「ダメですよそんな! 寝てれば風邪は治るみたいな考え」

琴葉「私も紗代子の意見に賛成です。とりあえずそこの椅子に座ってもらえますか?」

琴葉「このままだと、私たちにはちょっと目線が高すぎるので」

P「分かった、座ろう――よっと」

琴葉「それじゃあプロデューサー、前を失礼します」

紗代子「あっ! 私も一緒に」

P「う、うん。ケンカはしないようにな」

P「……あっ!?」


P(……って、迂闊だった。言われるままに座ったけど)

P(この姿勢じゃ、目線の高さに丁度彼女ら二人の胸が、胸がっ!)

P(しかも何だかいい匂いもするぞ……)

P(公演が終わって衣装から着替えているからだ。シャワーを使った後だからだ!)


琴葉「……びっくり。この吹き出し平べったいけど触れるのね」

紗代子「SFとか、出てきますよねこういうの」

紗代子「機械から何もないトコにパって感じで」

琴葉「うん。そういうイメージは確かにあるね」


P(触れるホログラムってやつか……)

P(しかし、君ら二人が吹き出しをどうにかしようとすればするほどに)

P(俺の目の前では二つの膨らみが無邪気に押し合いへし合い)

P(畜生、耐えろ俺! 耐えるんだ俺っ! 真面目にやってくれてる二人に失礼だろう!)


琴葉「――あっ」

吹き出し『ようこそプロデューサーレベル2へ!』

紗代子「表示が変わった!」

琴葉「文面にタッチしたからかな?」

P(俺は目の前のお山にタッチしたい)

琴葉「また触れば新しい文が出てくるかも……えいっ」

紗代子「っ!! 変わりましたよ!」

紗代子「"特典を選択してください"?」

P「と、特典?」


紗代子「はい。レベルが上がったご褒美でしょうか」

紗代子「吹き出しの中に一覧がズラッと……」

琴葉「でも、殆どはハイライト表示されてないね」

紗代子「選べないんじゃないですか、それ」

P「確かにそういうのってあるよな。ステータスが足りてないとかで」

P「ちなみにどんなのがあるんだ? 鏡でもないと俺には見えないから」

琴葉「あっ、待ってください。えぇっとぉ……」


手懐け屋『警戒心を解いてあげましょう! ツンツンしてるあの子が懐きやすくなります』

子供好み『身長150センチ以下の人物から好かれやすくなります』

胃・大拡張『もっともっと沢山食べられます! 引き続き体重を気にしなければ、ですが』

パワー充填!『移動型元気貯蔵庫になりました! 元気を他人に分けられます』

励まし上手『アナタほど大勢の落ち込んだ人間を一斉に笑顔にできる人はいません!!』

いい匂い『普通の人でも分かる程の、リラックス効果のある匂いが出ているみたいですよ』


P「…………それだけ?」

琴葉「いえ、ホントはもっとありますけど……」

紗代子「今ハイライトされてるのは以上ですね」

琴葉(……嫌われ者『兎にも角にも不思議なことに、皆アナタが嫌いになりました』とか)

紗代子(女たらし『"いい人"よりも一歩先へ! 異性からの好感度がより底上げされます』とか)

二人(怪しくて危ないのもあるなんてことは絶対言えないっ!!)


P「そうか、今はそれだけなのか」

琴葉「は、はい。そう、そうなんです!」

紗代子「多分、どれか一つでも選べば吹き出しも消えるんじゃないでしょうか」

P「うん。理由は無いけど何となく俺もそう思うよ」

P(二人とも妙にぎこちないのが気になるけど)

>>14訂正
〇紗代子「えっと……"特典を選択してください"?」
×紗代子「"特典を選択してください"?」

とりあえずここまで。そんなに長い話にはならないです。

紗代πが目元とかヤバい、たんおつ
http://i.imgur.com/Ps1ZQ2X.png

某アイドル専用の特典があるんですが…

一旦乙

紗代子をいやらしい目で見るのはやめなさい


琴葉「それで、プロデューサーはどれを選ぶんですか?」

紗代子「正直、役に立つかどうか分からないのも混じってますけど」

P「そうだなぁ……。手懐け屋とか子供好みとか」

P「人に好かれやすくなるのは便利そうに思えるけどな」


琴葉「でも、それってちょっと怖いです」

琴葉「もしかしたら、この不思議な特典のせいで人の心を操ることになるんですから」

P「うん。俺だってそう思うよ」

P「誰かと仲良くなりたいなら、真摯に時間をかければいい話さ」

紗代子「わ、私もそう思います! 変な副作用があっても困りますし」

琴葉「プロデューサー、紗代子……! ふふっ、ですよね」


P「それじゃあ次に、胃拡張とパワー充填だけど」

琴葉「はい」

紗代子「胃拡張は文字通りの効果と意味ですね」

P「これも便利は便利そうだよな。付き合いで何かと食事に行くことも多いから」

P「外で食ったりお菓子を食ったり差し入れの料理を平らげたり」

P「今はもうだいぶ慣れたけれど、あったらあったで使えそうだ」

琴葉「そう考えると、プロデューサーって意外に大食漢なのかも」

紗代子「痩せの大食いの方が合ってるんじゃ?」


P「いや、実は意外とそうでもないらしい」

琴葉「……と、言うと?」

P「風花が前に言ってたけど、俺の場合摂取と消費のエネルギーがうまい具合に釣り合ってるんだそうだ」

紗代子「そうなんですか?」

琴葉「それで太らない、と」

P「らしいぞ。……まぁ、心当たりなら確かにある」

P「普段の業務に加えて皆の練習に付き合ったりだとかしてるから」

琴葉「そう言われれば、プロデューサーは皆の外遊びに参加したり」

紗代子「趣味に付き合ってあげたりとかも」

紗代子「確か、今度も登山に参加する予定なんですよね?」

P「うむ、麗花の企画・主催でな」


P「しかし、そう考えると今のバランスを崩すのは得じゃないな」

P「胃拡張を選ぶのは止めておくか」

琴葉「正しくは胃・大拡張です、プロデューサー」

紗代子「そこ訂正するんですね」

琴葉「だって、こういうのはキッチリしておかないと」

P「ははっ、琴葉は真面目だなぁ」

琴葉「もうプロデューサー、それは言わないお約束です!」

紗代子「うふふっ。……あれ?」

紗代子(でもこの特典の説明だけなんだかちょっと引っかかるような……)


P「さて、お次はパワー充填か」

琴葉「他と比べて説明が抽象的ですけど……」

紗代子「元気を分けられるってなんでしょうね?」

P「それはほら、ゲームで言うトコの回復魔法的なアレなんじゃないか?」

P「こう、ハンドパワーで誰かの疲れを取れるみたいな」

P「肩こりとか、腰痛とか、筋肉痛や二日酔いも」

琴葉「何でしょう? だいぶ用途が偏ってる気もするような……」


紗代子「だけどプロデューサーの言った通りのことが可能なら、これって凄く実用的な特典だと思います」

紗代子「少なくとも皆疲れ知らずになれそうだし、二十四時間ライブだって出来そうだなって思いませんか!?」

P「さ、紗代子、ちょっと落ち着こうな?」

P「確かにやろうと思えば出来るようになるかもしれないけど……」

琴葉「それはお客さんの負担も大きいんじゃ」

紗代子「なら、お客さんにも元気を分けてあげて!」

P(うーむ、つくづく考え方が体育会系なんだよなぁ)


P「まあ、こいつは一考の余地ありってことで一旦保留にしておいて」

琴葉「あと残ってるのは励まし上手といい匂い」

紗代子「私、励まし上手はプロデューサー向きな気がします!」

P「そーお?」

紗代子「そうですよ! ……だっていつも、プロデューサーには励ましてもらっていますから」

琴葉「…………?」

琴葉(なんだろ? 紗代子ってば……照れてる?)


P「そっか。今までもちゃんと励ましてこれてるか」

紗代子「はいっ!」

P「……だったら要らないんじゃないかなぁ」

紗代子「あっ」

琴葉(ううん、がっかりしてるみたいだから、多分私の気のせいね)


琴葉「ならプロデューサー。いい匂いの方はどうします?」

P「それな、実を言うと一番気になってるヤツなんだよ」

琴葉「えっ!? そ、そうなんですか?」

紗代子「説明を読んだ限りじゃ、いい匂いがするようになるだけらしいですけど……」


P「おいおい二人とも、案外"匂い"の効果は馬鹿にできないぞ?」

P「そもそもだ。匂いには"美味しそう"だとか"危なそう"みたいに」

P「俺たちが見た目で物を判断するのと同じぐらい、いや! それ以上の多様な情報が込められてる」

P「誰だって不快な臭いがする物より、いい香りのする物の方が好きになるだろう?」

P「それだけじゃない! 匂いってやつは人の気分にも影響する」

P「元気が出たり、落ち着いたり、頭が冴えたり懐かしくなったり色々とな」


P「まっ、説明を読んだ限りじゃリラックス効果がメインみたいだけど」

P「それでも十分な効果じゃないか。本番前、俺が一緒にいるだけで皆の気が楽になるのなら」

P「プロデューサーとしては十分検討してみる価値がある!」


琴葉「……なるほど、確かにプロデューサーの言ってることは理解できます」

紗代子「でも私たちだってバカじゃないんですよ?」

琴葉「プロデューサー? 本音はどうなんです」

P「ほ、本音?」


琴葉「アナタが演説じみた話をした時には、決まって何か裏があることを知っていますから」

紗代子「いつまでも新人だと思わないでください。それが分かるぐらには一緒にお仕事してるんです」

P「ぐ、む……成長したな、二人とも」

琴葉「誤魔化さないで」

紗代子「さ、どうぞ」

P「む、うぅ……その、何だ。何と言うか……」


P「……君たちに汗臭いとかいう理由で嫌われたくないです」

琴葉「はぁ……だとは思いました」

紗代子「原因の一端は可憐ですね。彼女がしきりにプロデューサーの匂いを気にするから」

P「いや、でも、しょうがないだろ!? 最近じゃ星梨花や環まで可憐の真似をして――」

P「俺の傍で鼻をスンスンスンスン。それで嫌な顔でもされてみろ、傷つくってば!」


琴葉「……されたんですか? 嫌な顔」

P「さ、幸いされなかったけれど」

紗代子「だったらいい匂いは必要ありませんね」

琴葉「この特典も選択肢からは外す、と」

P「お、おいおい、妙に強引だな……」

琴葉「そんなことないです!」

紗代子「気のせいですよ!」

琴葉(だってプロデューサーからいい匂いだなんて、花が虫を集めるみたくなりそうだし)

紗代子(事務所の子はしょうがないとしても、他所の子までプロデューサーに惹かれかねない要素なんて……)

二人(絶対に嫌っ!)

P(……なんだろう? 二人から強い共通意識を感じるぞ)


P「――で、だ」

P「一通り吟味してみたけど、候補に残ったのは"パワー充填!"一つだけか」

P「他のはどうにもメリットと使いどころがなぁ……」

琴葉「じゃあ、プロデューサーが選ぶのは"パワー充填!"ということで」

紗代子「決定しちゃってもいいんですか?」

P「……ん! まぁ、構わないだろ」


P「そもそもだ。RPGなんかで言えばプロデューサーってのはサポート職」

P「ならトップアイドルって高みを目指すパーティに回復役は必須だろう? なっ?」

琴葉「は、はぁ……RPGですか……」

琴葉「すみませんプロデューサー、そういうのあまり詳しくなくて」

紗代子「それじゃあ、選びますからジッとしててください」

P(ああ、寂寞感が胸に満ちる……)

P「う、む。紗代子、よろしくやってくれ」

紗代子「はい! ……さっきみたいに、選びたい特典をタッチしたらいいはずですよね?」


吹き出し『――――』

紗代子「あっ!?」

琴葉「吹き出しが消えた……!」

P「そうか! ……なら、晴れてレベルアップ完了ってトコだろうな」

琴葉「でもプロデューサー。そうするとさっき選んだ特典も授与されたってことになりますよね?」

紗代子「体の方とか、なんともなってないですか?」

P「うーん、特に変わったようには感じない――うぉっ!?」


琴葉「きゃっ!?」

紗代子「眩しっ!?」


P「ひ、光が……俺の、体から……!!」

===

琴葉「――その時、まるで私たちの質問に答えるように」

琴葉「プロデューサーの体からはまばゆい光が溢れ出したんです」

琴葉「そうして、ようやく視界の戻った私たちの前には」

琴葉「冷たい床の上に横たわる、変わり果てた彼の姿があったのでした」

とりあえずここまで。

期待

おいおい気になるじゃねーか

また冷たい床に

エアコン効いた部屋は寒いんだ続きはよ

===

琴葉「そ、そんな……嘘……!」

紗代子「プロデューサー! どうしちゃったって言うんですかっ!?」

琴葉「待って紗代子! 意識の無い人を揺すったり動かしたりしちゃダメ!」

紗代子「でもプロデューサーが、プロデューサーが……!」


琴葉(落ち着け、落ち着くのよ琴葉……!)

琴葉(プロデューサーだって言ってたじゃない。765プロじゃ怪現象は日常茶飯事)

琴葉(私もそこのアイドルだもの。現実離れしたことが起きたとして、一々取り乱してちゃ務まらない!!)


紗代子「琴葉さん、プロデューサーが……!」

琴葉「……ええ、眼鏡が曇ったワケじゃない。私も紗代子とおんなじ物を見てる」

紗代子「ならプロデューサーの顔は確かに――」

紗代子「アルファベットの『P』になってる!?」

琴葉「アルファベットの『P』になってるわねっ!?」


P(改めP表記)「………………すやぁ」


紗代子「しかも寝てる! 寝息立ててますよ!?」

紗代子「どこに口があるかも分からないのに……!」

琴葉「仰向け、辛くないのかな? 丁度カーブの部分が床に当たってるみたいだけど」


琴葉「それにさっきの光が引いてない。まだプロデューサーの全身は淡い輝きを放ってるわ」

琴葉「もしこの光が"変身"の原因だとしたら」

紗代子「っ!? 触れば、私たちもプロデューサーみたいなPヘッドに?」

琴葉「うん、可能性は十分考えられる」

琴葉「……もしかすると形はPじゃなくて、TやKになるかもしれないけど」

紗代子(なら私の場合TかSだ!)

琴葉「でも、そうなると同じイニシャルを持つ人が困っちゃうか」

琴葉「私たちがどっちもTになったら、見分けてもらうのが難しくなるし」

紗代子「そ、そこは深く悩まなくても、名札とかなんなりあるんじゃないです?」


紗代子「――と、言うか琴葉さん! 今はプロデューサーをどうするかの方が!」

琴葉「はっ!? そ、そうね! 紗代子の言う通りね!」


琴葉「――とはいえ、寝息を立ててるってことは安心してもいいのかな?」

P「うぅ~ん……ぐぅ」

紗代子「……普通に寝返りもうってますね」

琴葉(ふふっ、お腹まで掻いて、プロデューサーったら子供みたい)

紗代子(琴葉さん、またプロデューサーにそんな顔して)


紗代子「むぅ」

琴葉「どうかした、紗代子?」

琴葉(急に難しい顔になっちゃって)

紗代子「……別になんでもありません。それよりプロデューサーを起こさないと」

紗代子「直接触るのが危ないなら何か棒みたいな物でつっついたり」

琴葉「だけど、この部屋にはバットしか置いてないわ」

紗代子「十分です! これで寝ているプロデューサーの肩を――」

P「ん、ぐぅ……すぅ……?」

紗代子「肩を、こう、揺らすように」

P「んん、むにゃ……」

紗代子「あっ! プロデューサーってば!」

琴葉(コロンって寝返りうっちゃった。可愛い♪)


紗代子「そうじゃなくて! 起きて、起きて欲しいのに……」

琴葉「――ねぇ紗代子、握りが少し甘いんじゃない?」

紗代子「握りですか?」

琴葉「ちょっと代わって。……はっ!」

P「ふがっ!?」

琴葉「ふっ! はっ! はぁっ!!」

P「んがっ、へっ、ぐにゃっ!!?」

紗代子(す、凄い! なんて鋭い突き!)

紗代子(そういえば、琴葉さんってフェンシングやってるんだっけ)


P「う、うぅ……あ痛たたたた」

琴葉「おはようございますプロデューサー」

紗代子(そして何事もなかったようにバットをしまう)


P「琴葉、紗代子、俺は一体……。おかしいな、なんで床に寝てるんだ?」

P「……おまけに肩の周りが妙に痛い」

琴葉「大丈夫ですか? プロデューサーは吹き出しが消えたすぐ後に突然気を失ったんです」

琴葉「椅子から落ちて床の上へ。多分、肩もその時に打ったんだと……ねっ、紗代子?」

紗代子「へっ!?」

琴葉「私たち二人で見てたものね?」

紗代子(…………笑顔が怖い)

紗代子「は、はい! もの凄い勢いで肩から落ちて!」

P「そうか、なるほど、そういうワケか……」


琴葉「しかもプロデューサー、変化はそれだけじゃありません!」

P「なにっ!?」

琴葉「ご自身の体を見てください! 今もポワポワした光がプロデューサーから溢れてます」

P「おぉっ!?」

琴葉「おまけにプロデューサーの頭は今、アルファベットの『P』になってるんですよ!?」

P「アルファベットのP……かどうかは分からないが」

P「た、確かに! 触った限りじゃマトモな形の頭じゃない!」

P「なぜか五感は残ってるみたいだけど……これじゃあ俺はのっぺらぼうだ!」


紗代子「……っ!!?」

紗代子(き、聞き間違いかな? 今一瞬、琴葉さんから物凄い怒りの波動を感じたような……)

琴葉「? どうしたの紗代子、人の顔なんてじっと見て」

紗代子「い、いえ! なんでもないですけど」

琴葉「そう? ……ふふっ、変な紗代子」

紗代子「あは、は、あははは……」

紗代子(崩れの無い優等生スマイルが怖い)


P「しかし参ったな。こんな頭じゃ吹き出しの方が数倍マシ――」

琴葉「あっ!」

紗代子「ああっ!?」

P「うぉっ!? ど、どうした二人とも。急に大きな声なんか出したりして」

琴葉「それがプロデューサーののっぺらぼうに――」

紗代子「さっきの吹き出しが張り付いたテレビみたいな画面が開いてます!」

P「……はぁ?」


画面『仕事をもっと効率化したい? 人間関係を円滑にしたい? 人一倍の働きを見せて昇格のチャンスを掴みたい?』

画面『喜んでください! そんな画面の前のアナタに嬉しいお知らせがあるんですっ!!』


P「うるさっ――何が起きてるんだ!?」

紗代子「だから画面ですよ! プロデューサーの!」

琴葉「……教習ビデオみたいなのが始まった?」


画面『近年、生き馬の目を抜くような苛烈な競争社会において求められるのは
激務に耐えうるタフネス・ハピネス・エコノミーな素質を備えた使い減りしないライトスタッフ!』

画面『ですが、そんな人材を他所の会社からスカウトする。または山のような履歴書と面接から見つけ出すのは至難の業』

画面『育て上げるのにも相応の時間とコストがかかります。経営者にとっては頭の痛い悩みですね!』

画面『そこで我が社は開発致しました! 飲用者の遺伝子を最先端科学技術で素敵に組み替えパワーアップさせる新感覚増強ドリンク剤』

画面『"ルカエミークシデインP"が、人材難に悩む世間にアナタがデキる奴だと思わせるチャンスを与えてくれるハズです!』

画面『さあ! 早速試してください。今日からアナタは会社にとってなくてはならないパートナー!』

画面『時代遅れの体を作り変え、来たるべき新人類の一人として世間をあっと言わせましょう!!』

画面『※説明はあくまでイメージであり、効果・効能には職業別の個人差が存在します』



琴葉「…………」

紗代子「…………」

P「……………………えぇ?」


琴葉「…………ふふっ」

琴葉「ふふふふ、ふふ」

琴葉「あははは、あは、あはははは……」

P「お、おい琴葉?」

紗代子「こ、琴葉さん?」


琴葉「あっはっはっはっはっはっ――」


琴葉「……なんですかそれ? どういうことです?」

紗代子(まぁ詰め寄るよね)

P「琴葉近い! 顔が近いってばさ!」

琴葉「だから何だって言うんですか!? 今のは一体なんですか!」

琴葉「時代はまだまだドラえもんにも遠いんですよっ!?」


P「分かる、分かるぞ! 琴葉の言いたいことは分かる!」

P「……けどな、現に俺の頭は人間離れしちゃったワケで」

P「そこは一旦受け入れなきゃあ」

琴葉「プロデューサーは動じなさ過ぎにもほどがありますっ!!」

P「参るねどうも」

琴葉「褒めてません!」

紗代子「あ、あの! プロデューサーの言う通りです。琴葉さんも少し落ち着きましょう」

琴葉「紗代子?」


紗代子「それは確かに、プロデューサーの見た目が変わったことだとか」

紗代子「よく分からない映像を見せられたショックは私もありますけど」

紗代子「それでも今回の不可思議騒動の原因は何となく知れたじゃないですか」

紗代子「プロデューサーもさっきの映像で言っていたドリンク剤に心当たりはありませんか?」

P「そういや今日の公演前、気合を入れようと飲んだドリンクがあったなぁ」

紗代子「それです! それを飲んだせいで」

琴葉「……プロデューサーがこんな姿になったって言うの?」

紗代子「はい、きっとそうですよ!」

とりあえずここまで。もうちょっとで終われます。多分。

お隣のギフテッドか

マグロ漁船や雪山登山の仕事があったり、タイムマシンがあったり、小さくなったり、アイドルの大半が人間じゃないグリマス時空よりはまとも

>>52と53の間、台詞が一部抜けてました。正しくは以下の流れです。

P「なぜか五感は残ってるみたいだけど……これじゃあ俺はのっぺらぼうだ!」

琴葉「そうです! のっぺらぼうなんです!!」

琴葉「………………素敵な横顔だったのにっ!」

紗代子「……っ!!?」

紗代子(き、聞き間違いかな? 今一瞬、琴葉さんから物凄い怒りの波動を感じたような……)


琴葉「だったら――プロデューサー!」

P「うむ!」

琴葉「そのドリンクはドコで買ったんです?」

P「街で偶然貰ったんだ。サンプルだとか何とかって」

琴葉「飲み終わった容器は今ドコです?」

P「勿論ゴミに出した後さ。琴葉がいつも言ってるだろ?」

P「"ゴミはその都度捨てましょう!"」


紗代子「公演後の片付けはやっちゃいましたからね」

紗代子「多分、もう掃除の人が回収した後だと思いますよ」

琴葉「ああ、もうっ!」

P「バットを振るな! どこから出した!?」


琴葉「それじゃあ紗代子、ドリンクの名前は憶えてる?」

紗代子「それが映像と内容の印象が強すぎて……」

P「すまん、俺も覚えてない」

琴葉「んん、もうっ!」

P「だから! 危ないからバットを振るんじゃない!!」


琴葉「ならプロデューサーはこの先一生、アルファベットを被って生きてくワケ!?」

琴葉「そんな……そんなのってないわ! 光は落ち着いたみたいだけど、顔だってどうにかして元に戻さないと」

琴葉「遺伝子がどうとか言ってたもの。将来生まれる子供にだって影響するかもしれないじゃない……!」

P「なに? 将来生まれる俺の子供?」

紗代子「プロデューサーと……誰の子です?」

琴葉「……紗代子、今相手のことはどうでもいいの」

紗代子「は、はい! ですよね、そうでしたね」

P(あの紗代子がすっかり萎縮して……きょ、今日の琴葉はなんか怖いな)


琴葉「重要なのは、このままだとプロデューサーがモンスターになっちゃうってことよ」

琴葉「最悪海の向こうの研究機関なんかに捕まって、宇宙人みたいに解剖されたりしちゃったり……!」

P「そうか? 案外『被り物です』で通せそうな気もするけどな」

紗代子「ロケ先でお化けに取り憑かれるよりかは現実味のある理由ですね」

琴葉「二人はどうしてそんなに動じないの!」


P「だって……なぁ?」

紗代子「琴葉さん思い出して下さい。プロデューサーはサンプルを貰ったって言ったんですよ?」

紗代子「それってつまり、プロデューサー以外にも同じドリンクを飲んだ人がいるかもしれないワケですし」

紗代子「思い出せない商品名にしても、似たような事例が無いかネットで調べてみたりすれば――」


画面『検索モードを起動します』

P「うわっ!? まただ!」

紗代子「見てください! プロデューサーの顔にブラウザが立ち上がってる」

琴葉「……もしかして紗代子の声に反応した?」

P「驚かされたが便利ではある。まるでアレクサだな」


紗代子「映像の中でも作業の効率化について言ってましたからね」

紗代子「……操作するにはどうすればいいのかな。プロデューサー、椅子に座ってもらえますか?」

P「オーケー、グーグル!」

琴葉「それ違うやつです。間違ってますし」

紗代子「――あっ、良かった。操作はスマホなんかと同じなんだ」

琴葉「さ、紗代子? そこは吹き出しと違ってプロデューサーの顔なんだから」

琴葉「なるべくパッとやってガッと調べて」

紗代子「分かってます。プロデューサーも動かないでくださいね?」

P「あ、ああ。それはもちろん」

P(しかし、女の子に顔を弄くられるってのはどうにもこう……!)

P(おまけに紗代子も近い近いっ!!)


紗代子「……うぅん、でも、だけどこれは……」

琴葉「どう紗代子? 手掛かりは何かあった?」

紗代子「それがですね、ニュースサイトにはめぼしい情報がありませんでしたけれど」

紗代子「大手オカルトサイトの投稿に、頭が『T』の形になった人を見たって目撃報告が」

P「T字だって? また随分と目立つ頭になっちゃってまぁ」

琴葉「そう言うプロデューサーも人のこと笑ってられませんよ」

とりあえずここまで。予定通りなら次で最後です。きっと。

提督かな?

のっぺらぼうでキレたの自分のおぱいがのっぺらぼうだからかと思ってた

===

琴葉「――でもその後、一時間あまりをかけてネットの海をさ迷っても」

琴葉「私たちは事態を解決に導くような、有益な情報は何一つ見つけられないままでいたんです」

琴葉「それに、そろそろ活動の限界も」

琴葉「検索を続ける紗代子の目がとっくに潤いを失って、しょぼしょぼと瞬きを頻発するようにもなっていて――」

===

紗代子「……ん、う」

P「…………よし」

P「紗代子、この辺で一度切り上げよう。疲れてきてるのが目に見えて分かる」

紗代子「そんな、情報はまだ何も……」

P「いいやダメだ。これ以上の検索は許可できない」

琴葉「プロデューサー。紗代子がダメなら私が代わりに」

P「琴葉も困らせないでくれ――そもそも公演が終わってから、君たちはずっと俺につきっきりじゃないか」

P「明日が休みってワケでもないんだぞ? いい加減家にも帰らないと」

P「心配してくれる気持ちは受け取るから、後は俺に任せてくれ」

P「なーに、一人でも解決手段は探ってみるさ」


紗代子「プロデューサー」

紗代子「私、くたびれてないって言うと確かに嘘になっちゃいます」

紗代子「だけどせめてあと三十分。いいえ、十五分でもいいですから!」

P「紗代子……!」

琴葉「っ!」


琴葉「プロデューサー、色々ありすぎてすっかり忘れかけてましたけど」

琴葉「レベルアップした時に選んだ特典が」

琴葉「"パワー充填!"……今が使いどころなんじゃありませんか?」

P「!! 言われれてみれば、そんな特典選んだっけな」

P「しかし、それが一体全体どんな物かは――」

紗代子「それなら多分大丈夫です! 私に良い考えがあります!」


紗代子「きっとプロデューサーの頭(ここ)に向かって――」

紗代子「お願い、特典の使い方を教えてほしいの!」

P(はっふ!? 目の前で紗代子が『お願い』って!)

琴葉(!? 今プロデューサーの頭が伸びあがったような……)


画面『もちろんお教えいたしましょう!』

紗代子「やった!」

P「ノリ良いな画面!」

琴葉「またあの変なビデオが始まった……?」


画面『協力して物事に当たりたいのに、頼るべき同僚が元気をなくしている?』

画面『そんな時にはアナタの元気をわけてあげましょう。"パワー充填!"がそれを可能にします!』

画面『能力の使い方はとっても簡単。ただ肌と肌とを重ねるだけで、
放っておいても電気的なアレが上手いことエネルギーを受け渡してくれます』

画面『握手でも、ハグでも、ハイターッチでも! 衣類の上からでも大丈夫!』

画面『ただし接する面積が増えれば増えるほど充填はより効率よく行われますよ!』

画面『さあ今すぐ仕事場で同僚と握手! アナタの元気のおすそ分けを!』


琴葉「…………」

紗代子「…………」

P「……………………ふえぇ?」


紗代子「すぅ、はぁ」

紗代子「プロデューサー」

P「っ!」

紗代子「よ、よろしくお願いします!」

P(――さて、特典についての説明が終わるや否や)

P(紗代子は意を決したように目をつむると両腕を大きく横へ広げ、ハグ待ちの姿勢に入ったのだ)

P(その頬はほんのりと上気して、心なしか口元も嬉しそうに緩んで見える)

P(俺は視線をつっと動かすこともできず、ただ椅子に座った状態で恐る恐ると両手を伸ばし)

P(その柔らかなわき腹に指を触れさせようとしたところで恐ろしい事実に気がついた!)



P(……このまま彼女を抱き寄せると、顔に紗代子っぱいが当たらないか?)


紗代子「プロデューサー、どうしたんです?」

紗代子「私なら準備できてますから。そのまま、好きなタイミングで」

紗代子「アナタの元気、注いでください!」

P「……しかし紗代子、実際は何が起きるか分からないぞ?」

琴葉「そ、そうよ。どんな危険なことがあるか……」

紗代子「リスクだったら覚悟の上です。……それでも相手がプロデューサーなら、信じて任せられますから」

P(ぐ、ぬ……紗代子め、何て色っぽさだ!)

P(これじゃあ元気以外にも諸々彼女に注ぎたくなりかねん)

P(だがしかし、俺は腐っても一介のプロデューサー。その場の欲に負けるようじゃこの先一体何するものぞ!)

P(きちんと椅子から立ち上がって、椅子から立って、せめて立って――)


P(……いかん。今立ったらバレる、色々と)

紗代子「あ、あの、プロデューサー?」

P「はっ!? す、すまない、少し考え事を」

P「焦らしちゃったな。……すぐに終わらせるから――」

紗代子「……はい。で、できれば優しくしてくださいね」

P「ああ、なるべく努力してみる――失礼!」


P「……いくぞ!」

紗代子「はい……っ!」

琴葉「ストップストップそこまでですっ!」

琴葉「プロデューサーも紗代子もそーこーまーでーーっ!!」

P「うぉっ!?」

紗代子「わっ!? こ、琴葉さん、どうして止めるんです!?」


琴葉「当然止めるに決まってます! テストもせずいきなりなんて」

P「だけど琴葉、元はと言えば君が言いだした案じゃないか」

紗代子「そうですよ! 元気を私に分ければって」


琴葉「ええ、はい、分かってます。しっかり覚えていますとも」

琴葉「だから私が、言い出しっぺの私が最初に試します!」

P「……んん?」

紗代子「そんな、今更になってズルいですよ!」

琴葉「ズルだなんて!」


紗代子「プロデューサーはまず私に元気をくれるって、そういう流れなんですから」

紗代子「試してみたいと思うなら、琴葉さんは私の後じゃないと」

琴葉「それが危険かもしれないから、私がまず初めに試すわって言ってるのに」

琴葉「分からない子ね、アナタも!」

P「お、おい、二人とも? ケンカはよくない、よくないぞ」

二人「っ! プロデューサーは――」

P「だーまらないっ!」


P「そもそも元気を分ける分けないの話はこっちの譲歩あってこそだ」

P「君らの健康を案じる俺としてはもういい加減家に帰らせたい」

P「なのに揉め事を起こすつもりなら、今すぐ追い出したって構わないぞ?」

琴葉「プロデューサー……揉め事だなんて」

紗代子「そんなつもりは無いですけど……」

P「なら二人はこれからどうするんだ? つまらない言い争いはもう止めるな?」

琴葉「…………」

紗代子「…………」


P(……二人とも向かい合ったまま黙っちゃったな)

P(ちょっと強めに言い過ぎた気がしはするけれども)

P(そう甘い顔ばかりしてはいられないものな、うん)

琴葉「……紗代子、少し耳を貸して」

紗代子「なんです?」

琴葉「一つだけ、お互いに納得のいく提案があるのだけれど」

===

琴葉「そうして、私は紗代子に"提案"の内容を語りました」

琴葉「幸い、彼女はすぐにそれでいいと賛成してくれたのですが」

琴葉「プロデューサーの方はと言うと――」

===

P「……琴葉、紗代子、俺はおかしいんじゃないかって思うんだよ」

琴葉「おかしいって……んっ、どこかですか?」

紗代子「そう……です。落ち着いて考えてみれば……あっ」

紗代子「これ以上に……合理的で、効率的で」

琴葉「一度に複数の問題を解決できる手段なんて……はぁ、無いと、私は思うんですけれど」


P(そう反論する二人は熱っぽく淫靡に笑いながら、それでいて拭いきれない羞恥を顔に浮かべていた)

P(今、椅子に座る俺を左右から挟み込むようにして二人の少女が抱き合ってる……これはなんだっ!?)


琴葉「あっ……プロデューサー、腰に回した腕が緩んでます」

紗代子「接する面積は多ければ多い方が良いんですから……ね?」

P「す、すまない! ……でも琴葉、紗代子、この体勢は非常によろしくないと言うか、あまりに風紀を乱していると言うか」

琴葉「そんなこと! ……確かに今の私たちは、こうして体を寄せ合ってますけれども」

琴葉「これも全部、疲労回復の為には仕方がない処置と結果なんです」

紗代子「それにプロデューサーは以前から、私たちにマッサージしてくれてたじゃないですか」

P「だけどそれは、精々肩揉みぐらいのもので……」

P「こんなに、何て言うかガッツリと……近づくものじゃあなかったろう!?」

P(おまけに左右から挟まれてるということは)

P(否応なしにやわやわと、アレで頭を押さえつけられているということでもあって)

P(君たちみたいな真面目な子が、羞恥心をドコへ置いてきてしまったんだ!?)


琴葉「……んん、プロデューサー腕の力が」

P「すまないっ!」

紗代子「指先までしっかり抱いてください……」

P「すまんっ!」

琴葉「触れられてる部分がポカポカする……。熱いお風呂に浸かってる時みたいな」

紗代子「元気が出るってホントですね……。もっともっとプロデューサーを感じたくなる……!」

琴葉「だからって独り占めはダメよ、紗代子」

紗代子「分かってます! 琴葉さんも、もう少し私の方に体を寄せて」

琴葉「うん。……強めにくっ付き合った方が、ポカポカも強くなるみたいだものね」


P「…………っ!!?」

P(あ、あ……もうダメ、もう無理、もう限界!)

P(熱が、匂いが、感触が! 全てが俺を馬鹿にするぞ……君らが俺を馬鹿にするぞ……!)

P(馬鹿になったら人は猿だ! ジャングル☆パーティーが始まっちまう!)


P(現にもう、耳元で交わされる二人の会話だって……)

琴葉「んーばば、んばんば♪」

紗代子「んーばっばー♪」

P(パプワ~――って頭のPはそのPかっ!?)

P(……んなワケない! いかん、あまりに現実離れした現実で脳みそがマトモに働いてない……)

P(……畜生、今なら誰でもいい! どうか意識を保つ救いの手をっ!!)


救いの手『ふふっ、アナタはすぐそうやって人に甘えて。全くだらしないダメプロデューサー♪』

P(……あ、ダメだ。扇子持った女神が踊ってら)


P「う、うぅ……朋花ぁ……」

琴葉「…………えっ?」

紗代子「朋花ちゃん……?」

P「腰蓑一丁は流石にマズい……」

紗代子「何言ってるんですプロデューサー。朋花ちゃんなんてどこにもいませんけど?」

琴葉「………………!」

琴葉「…………むう、うぅぅぅ……プロデューサー……!!」


琴葉(どうして、どうして、どうしてどうして!)

琴葉(私と紗代子に挟まれてる、こんな状況で朋花ちゃんの名前が出るんですかっ!)

琴葉(は、恥ずかしいのだって我慢して、こんなにくっついてみせてるのに!)


琴葉「……腰蓑一丁? 上等じゃない!」

紗代子「こ、琴葉さん?」

琴葉(私だって水着の撮影ぐらいしてるんだもの。今更肌を晒すのを怖がるほど臆病な少女じゃないんだもの!)

琴葉「ふっ!!」

紗代子(なっ、なんでこの人シャツを捲って!?)

琴葉「ていっ!」

紗代子「脱いじゃった!? ど、どうしたんですか琴葉さん!」


琴葉「どうしたもこうしたもっ!」

琴葉「この方がもっと効率的に肌と肌とを合わせられて、元気になれるからに決まってるじゃない!」

P「そうだなぁ、余生は南の島で……」

琴葉「プロデューサー! アナタの琴葉が傍にいます、どうか正気に戻ってくれませんか!?」

紗代子「何を言って――琴葉さんこそ正気に戻ってください!!」


P「うっ、ぬぅ……ぐあ、ああ……!?」

琴葉「プロデューサー? プロデューサー!」

琴葉「大変紗代子、プロデューサーが苦しそうに!」

紗代子「それは多分琴葉さんのせいです!」

紗代子「どの辺が首か分かりませんけど、抱き着いたから絞まってるんですよ!」


紗代子「だから一旦腕を離してください! それからシャツも拾って着てください!」

P「…………うぐっ!!」

琴葉「きゃあっ!? ……さ、紗代子。プロデューサーが倒れちゃった……!」

紗代子「見ればわかります! プロデューサー、大丈夫ですか!?」


紗代子「酷い、顔色が凄く黄色い……!」

画面『余剰元気が少なくなっています』

紗代子「元気が? そっか、二人でずっと分けて貰ってたから」

琴葉「紗代子、紗代子、プロデューサーが……!」

紗代子「琴葉さんも少しは落ち着いてください!」

紗代子「大丈夫です。急に支えが無くなって、倒れちゃっただけだと思いますから」


琴葉「……うぅ、ホントに? 紗代子、大丈夫なの?」

琴葉「プロデューサー、大丈夫なの?」

紗代子「ええきっと! 息だってちゃんとしてますから」

紗代子(……とはいえ、涙まで流してる琴葉さんには悪いけど)

紗代子(原因の半分ぐらいは彼女の振る舞いにあるような……)

琴葉「……ぐすん、くすん……プロデューサー……」

P「……う、うぅん……」

紗代子「…………」

紗代子(……触らぬ神に祟りなし!)

===

琴葉「……こうして、謎のレベルアップから始まった一連の慌ただしい騒動は」

琴葉「プロデューサーが元気を渡し過ぎたことによって一旦の幕引きとなったのです」

琴葉「それに伴い、私と紗代子の二人も気絶した彼を医務室へと運ぶため」

琴葉「残っていたスタッフさんを部屋へ呼び、プロデューサーの"変身"は劇場全体に知られることとなったのでした」

===

琴葉「――それでプロデューサーは、こんな姿になっちゃったの」

琴葉「……呆れて物も言えないって感じね、二人とも」


恵美「…………いやー、事情は呑み込めたんだけど」

恵美「琴葉も紗代子も限界までプロデューサーの元気を吸い取っちゃうとかさ」

エレナ「そんなになるまでずーっと"握手"してたなんて」

エレナ「三人とも仲良しなのにおバカさんだネっ♪」


琴葉「ふふっ、そうね。おバカさんだったわ」

琴葉「……紗代子もそう思うわよね?」

紗代子「えっ!? あ、はい!」

紗代子「そ、そうですね! "握手"も程々にしておかないとって思いました」

紗代子「あは、あはは……はぁ」

紗代子(だけど、根本的な解決は一切なにもされてなくて)


恵美「――ところで、そこのベッドで寝っぱなしのプロデューサー」

恵美「琴葉たちとの騒動も、いい経験になったみたいだね~……にゃはは」

エレナ「幸せそうな寝息たてて、どんな夢を見てるのカナ~?」

エレナ「エヘヘ、今から起きてくるのが楽しみだヨ~♪」


画面『ようこそプロデューサーレベル3へ!』

紗代子(またレベルアップ表示が出てきてる……)


恵美「だよね~。特典選びとかメチャクチャ楽しそうじゃん」

エレナ「今度はワタシたちも一緒に選ぶねコトハ!」

琴葉「ええ! それにもっともっとレベルを上げて、立派なプロデューサーになってもらわないと」


琴葉(そして経験を積むためのお手伝いなら)

琴葉(私、恥ずかしいですけど一肌も二肌も脱いじゃいます!)

琴葉(だって見た目はどうあれプロデューサーは、確かに私たちのプロデューサーなんだもの……うふふっ)




……ハッピーエンド?

===
以上おしまい。台本形式ってやっぱり難しいですね。
お読みいただきありがとうございました。

琴葉所々怖いよ...
乙です

>>1
田中琴葉(18) Vo/Pr
http://i.imgur.com/6IgGD11.jpg
http://i.imgur.com/nWx3NuB.jpg

>>2
高山紗代子(17) Vo/Pr
http://i.imgur.com/0imR1fe.jpg
http://i.imgur.com/MBSdvST.jpg

>>99
所恵美(16) Vi/Fa
http://i.imgur.com/Jf6k63e.jpg
http://i.imgur.com/qABztJ7.jpg

島原エレナ(17) Da/An
http://i.imgur.com/M7yjl0h.jpg
http://i.imgur.com/AgS4nqE.jpg

>>91訂正
〇P(……あ、ダメだ。扇子持った聖母が踊ってら)
×P(……あ、ダメだ。扇子持った女神が踊ってら)


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