変態お漏らし処女ビッチ「私と付き合ってみませんか?」 (19)

その日、私はいつもよりも早く家を出た。
見慣れた道のりを、てくてく歩いて登校する。
私の通う高校は家から近く、自転車は不要だ。

朝の空気は清々しく、空も澄み渡った青一色。
それだけで早起きした甲斐があったと思えた。
他の学生の姿はなく、車も走っていない。
もっとも、それは朝に限った話ではない。
ここは、人通りも車通りも少ない、田舎道。
それが、田舎に暮らす私の通学路だった。

しばらく歩くと、第一村人を発見。
近所に住む中学生が、道端でしゃがんでいる。
近くには、彼の自転車が置かれていた。
私にはこの子が何をしているか一目でわかる。

「あっ」

近づいて、声をかける前に、目が合う。
すると彼はかぽっと白いヘルメットを被り。
ぺこりとお辞儀をして、自転車に飛び乗った。
そのまま立ち乗りで走り去る後ろ姿を見送る。

「……なんで逃げるのよ」

嘆息をしつつ、その場にしゃがみ込み、拝む。
道端には土が盛られ、石が置かれている。
その石には『にゃんこの墓』と書かれていた。
何故か、黒のサインペンで。
本当は彫刻するべきだろう。
しかし、その時はサインペンしかなかった。
見ての通り猫の墓だ。断じて犬の墓ではない。
私と、あの子。2人で建てたお墓だった。

「よし」

拝み終えて、立ち上がる。
そしてまた、てくてく歩いていく。
スカートのポケットに手を入れて、確認。
そこには茶封筒が入っており、中身は恋文だ。

生まれて初めて書いた、ラブレター。
それを下駄箱に投函しようと、画策していた。
なるべく、人気の少ないうちに済ませたい。
その為に、こうして早起きしていた。完璧だ。

あとは、誰の下駄箱に入れるか決めるだけだ。

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「女子はやめておこう」

昇降口にたどり着き、熟考する。
とりあえず、女子は除外。私はノーマルだ。
なので、男子生徒に的を絞った。
それと、なるべくリアクションを間近で見たかったので、同じクラスの男子に限定する。
これで、20人まで候補を絞り込めた。

「よし、キミに決めた」

それからは早かった。
目に留まった下駄箱を開けて、投函。
我ながら、良い決断力だったと思う。

それでは、教室で本でも読むことにしよう。

「いや、待てよ?」

数歩進んで、はたと止まる。
本当にこれでいいのだろうか。
何か、色々と間違っている気がする。
拭い去れない違和感。恋文の内容を思い出す。

『私と付き合ってみませんか?』

短く、一文だけ書かれたシンプルなお手紙。
茶封筒には筆ペンでしっかり記名しておいた。
何もおかしなところはない筈。ぬかりはない。

しかし、どうにも不安がよぎる。
少しばかり、味気がないのではなかろうか。
もうちょっと、スパイスが必要かも知れない。

「仕方ないなぁ」

ぼやきつつ、もう一文だけ、付け加える。

『P.S. あなたの靴の匂いが好きです』

素晴らしい。これなら文句ないだろう。
自画自賛しつつ、教室に向かう。
後顧の憂いを断ち切り、読書に耽った。

「ねぇねぇ、聞いた?」
「えっ、なになに?」

ひとり、またひとりと、登校してくる。
すぐに教室は賑やかになった。うるさい。
しかも、今日はいつもより騒がしかった。
皆、大笑いしたり、小声でひそひそ囁く。

「でね、そのラブレターの内容がさぁ……」
「ええっ!? 靴の匂いって、なにそれ!?」
「しっ! ちょっと、声が大きいって!」

どうやら、話題はラブレターについてらしい。
どこの誰だか知らないが、今時古風なものだ。
珍しい奴もいるもんだと思っていると。

「あのさ……」

目の前に立つ、見知らぬ男子生徒。

「何?」

要件を尋ねると、彼は顔を真っ赤にしながら。

「ごめん! 俺、靴の匂いが好きな奴とは付き合えない! 本当に申し訳ない!!」
「は?」

何を言っているのだろう、この人は。
ぽかんとしていると、皆は爆笑していた。
どうやら彼は笑い者にされているらしい。
なんとも惨めで、可哀想だった。同情する。
それでも、彼は青筋を立てて怒鳴り散らす。

「わ、笑うなよっ!!」
「いや、だってお前!」
「ぶはっ! これが笑わずにいられるか!」
「うるさい! 彼女が困ってるだろ!!」
「えっ?」

何故か庇われた。しかし、身に覚えはない。
キョトンとしていると、男共の喧嘩が勃発。
朝から元気な奴らだと思いつつ、読書を再開。

全く、本くらい静かに読ませて欲しいものだ。

「なあ、お前さ」
「ん? 何か用?」
「靴の匂いが好きって、マジ?」

放課後、昇降口にて。
チャラついた男子がたむろしていた。
下駄箱から靴を取ろうとすると、尋ねられた。
質問の意味がわからずに、首を傾げる。

「なんのこと?」
「とぼけんなよ、ラブレターに書いただろ?」

そこでようやく、思い出した。あれか。
そういえば、そのようなことを付け足した。
なるほど。だから皆、騒いでいたのか。
合点がいって、反省する。全て私のせいか。
あの男子生徒に悪いことをしてしまった。
どうにも、上手くいかないものである。

「たしかに書いたけど、それが何か?」

あまり自信はないが、こいつは無関係だ。
私がランダムで選んだ男子生徒ではない。
声も違うし、顔も違うような、気がする。
関係ない奴はひっこんでいて欲しい。
だから、そう続けるつもりだったのだが。

「だったら俺たちの靴も嗅いでくれよ」
「げへへ、俺も俺も」
「入学以来一度も洗ってないでござる!」

取り囲まれ、靴を嗅げと言われた。
なんとも嘆かわしいことだ。こいつら最低だ。
私は呆れ果て、同時に憐れみを感じたので。

「靴の匂いを嗅ぐなんて変態のすることよ」

正論を口にして、正しい道に導くことにした。

「ああんっ!? 誰が変態だって!?」
「お前にだけは言われたくねーよ!」
「我々の業界ではご褒美でござる!」

凄んだり、怒鳴ったり、打ち震えたり。
本当に男子高校生は野蛮で不潔である。
そんな彼らに、正しい煩悩を教えてやろう。

「嗅ぐなら、パンツにしなさい。ほら」

その場で下着を脱いで、手渡す。
すると、彼らは唖然としていた。
パンツと私の顔を見比べて、二度見三度見。

「い、いや、俺は要らないから!」
「お、おい! こっちに押し付けんな!」
「では、拙者が……」
「バカ! 返すんだよっ! よこせっ!!」

一悶着あり、パンツを返却された。

「嗅がないの?」
「か、嗅ぐわけないだろ!?」
「靴よりも健全でしょう?」
「そういう問題じゃなくてだな……」

パンツを穿き直しつつ、質問を重ねる。

「もしかして、ホモ?」
「ち、ちげーって! ふざけんなっ!?」
「えっ? お前、ホモなの?」
「掘られるでござるっ!」

何やらまた騒ぎ始めた。
もう帰っていいだろうか。
下駄箱から靴を取り出して、履いていると。

「ちょっと、あんた何やってんのよっ!」
「げっ! やば!」

突如割って入ってきた、女子生徒。
どうやら、ホモ疑惑の男子と親しい様子。
なんだ。残念ながら、彼はノーマルらしい。

「女の子に絡むなんてやめなさいよ!」
「いや、ちょっと揶揄ってやろうと……」
「靴を嗅げって言われました」

すかさず告げ口をしておく。自業自得だ。

「あんた、どういうことよ?」
「だ、だから、冗談だって! 冗談!」
「パンツも嗅がれそうになりました」
「おおいっ! もう黙ってろよお前!?」

これにてゲームセット。さっさと帰宅する。

「パンツってなによ! パンツも嗅いだの!?」
「嗅いでないっての!」
「でも、あっさり受け取ったよな」
「拙者は止めたのに……」
「お前らふざけんなっ!!」

チャラ男の悲鳴を背中で聞く。いい気味だ。
どうやら、彼女持ちは彼だけらしい。
独り身の友達はフォローせずに煽っていた。
本当に男子高校生って奴らは、ロクでもない。

「それでも、恋をしてみたかったな……」

てくてく帰路を歩きながら、独りごちる。
せっかくの、うら若き女子高生なのに。
未だに、そうした経験に恵まれない。
だからこそ、私は恋文を書いてみた。
しかし、結果はご覧の通り。大失敗である。

どうやら私には、恋愛の適正がないらしい。

「はあ……あれ?」

ため息をひとつ吐いて、不審者発見。
道路脇の林の中で、なにやら蹲っていた。
その後ろ姿には見覚えがある。あの子だ。
近所の中学生の男の子が、そこにいた。
何をしているのかと、歩み寄って尋ねる。

「何をしてるの?」
「へっ? あっ! こ、これは、その……!」

私に気づき、慌て始める男子中学生。
よく見ると、彼はズボンを下ろしており。
周囲にはうっすらと、異臭が漂っていた。

「ふーん……そっか」
「ち、違うんです! 僕は別に何も……!」

言い逃れは出来ない。逃すつもりはなかった。

「うんちしてたの?」
「そ、そんなわけないじゃないですかっ!?」
「でも、うんち臭いよ?」

確固たる証拠を告げると、少年はうなだれて。

「……はい」

自らの罪を、認めた。
林の前には銀色の自転車が停まっていた。
見ると、後輪がパンクしている様子。
そのせいで家まで間に合わなかったらしい。
だから、ここで用を足していたと、ふむふむ。

「キミは、悪い子だね」
「……ごめん、なさい」

一応、年上として叱っておく。
野糞はいけないことだ。癖になったら大変だ。
だけど、泣きそうな顔を見てると、つい。

「でも、我慢するのはもっと悪いことだよ」
「えっ?」
「だから、キミは偉い。よくやった」

我ながら甘いと思う。甘々だ。
それでも、この子をこれ以上責めたくない。
よしよしと頭を撫でながら、ほくそ笑む。
責めるならば、もっと別な方法で攻めよう。

「だからほら、続けて」
「はい?」
「まだ出るでしょ? 全部出しちゃえ」

多分、今の私は、邪悪な顔をしてるだろう。

「いえっ! もう出ないので!」

そう言ったそばから、少年のお腹が鳴る。

「ぐぁっ……!」
「嘘つき。お腹痛いんでしょ?」

この私に嘘をつくとは、いい度胸だ。
しかも、こんなすぐにバレる嘘なんて。
その浅はかさが、可愛げかも知れないけれど。
すぐにこの子も、男子高校生になってしまう。
あんなロクでなしになる前に導く必要がある。

「嘘はダメ。お姉ちゃんに謝って」
「……ごめん、なさい」
「許して欲しい?」
「……許して、下さい」
「じゃあ、全部出して」

そしたら許してあげると、微笑んであげた。
少年の顔に絶望が広がる。困ってる困ってる。
そんな彼に、私は助け船を出してあげた。

「顔見られてると恥ずかしい? だったら……」

背後に回って、ぎゅっと抱きしめてあげた。

「な、何をするんですかっ!?」
「これなら恥ずかしくないでしょ?」

耳元でクスクス嗤うと、彼は悲鳴をあげた。

「これじゃあ出るものも出ませんよっ!?」
「大丈夫。力抜いて……あむっ」
「ふぁっ!?」

かぷりと、少年の耳を甘噛みして、促す。

「あむっ……はむっ……」
「お、ねぇ、さん……うぐっ……!」

歯を立てないように甘噛みする。
ビクビク痙攣しながら呻く少年。
そしてすぐに、限界を迎えた。

「あっ……はぅっ……あっ!」

ぶりゅっ!

「フハッ!」

もう耳なんかどうでもいい。口を離す。
彼が糞を漏らし、私の口からは愉悦が漏れた。
ギュウッと強く抱きしめる。全部出るように。
男子中学生を抱きながら、高らかに哄笑する。

「あ、あああ、ああああああああああ……!」

ぶりゅりゅりゅりゅりゅりゅりゅっ!!!!

「フハハハハハハハハハハハハハッ!!!!」

人気のない田舎道に響き渡る嗤い声。
それを聞きつける者はひとりもいない。
世界は私たちのもので、私たちしかいない。
今だけは、ここが世界の中心だと思えた。

少年は、世界の中心で、糞を漏らした。

「うぅっ……酷いですよ」
「でも、カッコ良かったよ?」
「……お姉さんの、バカ」

泣きじゃくる少年をあやしてあげた。
すると、何やら照れている様子。
やっぱり男の子は、純粋なのが1番である。

この純粋さを忘れずに、育って欲しいものだ。

Rでやれ

「ふぁ~あ。寝みー」

翌日、学校にて。
授業中に隣の男子が大欠伸をしていた。
どうやら寝不足らしい。夜更かしかな?
原因は間違いなく、エロ動画だ。すぐわかる。
だって彼は男子高校生だ。弁明の余地はない。

「あん? 何見てんだよ?」

大きく伸びをしたまま、尋ねられた。
別に用があるわけではないけれど。
とりあえず、目についたものを口にしてみる。

「乳首、透けてるよ?」

半袖のワイシャツに浮かぶ、乳首。
どうも、下に何も着ていないらしい。
まあ、今年は猛暑だから、気持ちはわかる。
しかしながら、見せつけるのはどうかと思う。

「うっせ。見んなよ」
「触っていい?」
「は、はあっ!?」
「えいっ」
「うわっ! や、やめろよ変態っ!!」

人差し指でつつくと怒られた。つまんない奴。
しかも変態呼ばわりされた。新しいあだ名だ。
どうやら私は昨日のラブレター騒動によって、匂いフェチの変態だと思われているらしい。
まったく、根も葉もない虚構だ。心外である。
とはいえ、人の噂も75日らしいので、放置。

「ふぁ……」

なんだか私も眠くなってきた。
欠伸が移って、伸びをする。
そこでふと、隣の男子の視線に気づいた。

「どうかした?」
「えっ? いや、その……胸が……!」
「胸がなに? 触りたいの? 普通に嫌だけど」
「べ、別になんでもねーし!」

これは後から気づいたのだけど。
そういえば、暑くてブラをしてなかった。
本当に男子高校生は、油断も隙もない。

この日から、匂いフェチのビッチと呼ばれた。

お昼休みが終わって、午後の授業中。

「あっ」

前の席の女生徒が、紙切れを落とした。
それが私の席の近くまで滑ってきた。
どうやらメッセージを回していたらしい。
そこには私の悪口がびっしりと書かれており。
その時にビッチと呼ばれていることを知った。

カチンときて、手を挙げる。

「先生」
「ん? どうした?」
「私は処女です」
「は?」
「新品ですから。キツキツですからっ!」
「お、おう……とにかく、座れ」

言うべきことを口にして、着席した。
先生は呆然とした表情を浮かべて。
数人の男子が何やら噴き出している。
女子はヒソヒソ。また紙切れを回し始めた。

そうして私は、変態処女ビッチになった。

「はあ……」

数日後の、登校時。
変態処女ビッチの足取りは重い。
何せ、そのあだ名が自分のものなのだ。
もう学校行きたくないなと思っていると。

「あっ」

いつぞやの野糞君が、しゃがんでいた。
今朝も猫の墓を拝んでいたらしい。
私に気づいて、また逃げようとする。
しかし、彼は今日、自転車に乗っていない。
どうやらパンクがまだ直っていないらしい。
だから私は容易く首根っこを掴み、捕まえた。

「なんでいつも逃げるの?」
「だって、この前、あんな……」
「照れる必要なんてない。むしろ誇れ」

どうやら漏らしたことを恥じている様子。
そんな女々しい少年に私は喝を入れてやる。
背中をバシンッ! と叩くと、背筋が伸びた。

「痛っ!?」
「それじゃ、私も拝むから、おいで」
「あ、はい……わかりました」

私たちは2人で並んで、猫の冥福を祈った。

拝みながら、思い返す。

ここは滅多に車が通らない田舎道だけど。
それでもたまには車が走る。ごく稀に。
すると、わりと頻繁に動物が轢かれる。
たぬきやイタチが多いが、その日は猫だった。

轢かれた猫を見下ろして、少年が泣いていた。

「どうしたの?」
「ひっく……ね、猫が、轢かれたみたいで……」
「キミの家の猫だったの?」
「いえ、飼っていたわけでは、なくて……」
「なら、どうしてそんなに泣いてるの?」
「たまに、餌をあげたり、撫でたりして……」

ついつい、根掘り葉掘り尋ねた。
話しながら、少年はポロポロ泣く。
飼い猫でもないのに、こんなに泣くなんて。
呆れる前に、私は感心してしまった。
その混じり気のない透き通った涙が美しくて。
人は本来、これほど純粋なのかと思い知った。

しかし、見惚れている場合ではないと気づき。

「お姉ちゃんに任せて」
「えっ?」
「ちゃんと弔ってあげるから」

腕まくりをして、猫を抱き上げる。
生命が失われたその身体は、冷たかった。
部外者の私ですら、こんなにも哀しくなる。
彼にそんな思いをさせずに済んで、良かった。

その後、私は穴を掘り、猫を埋めた。しかし。

「こら! 人の家の畑で何をやってんだっ!!」

どうやらそこはおじさんの畑だったらしく。
仕方ないので、掘り返して、道端に埋めた。
上に石を置いて、サインペンで名前を書く。
少年はまだ名付けていなかったらしく困った。
2人でうんうん悩んで、にゃんこと名付けた。

「ありがと、お姉さん」

思えば、名前を付けるのは、初めてだった。
その感慨が、少年の笑顔と共に残っている。
目を赤くして、無理して笑う、その笑顔が。

たまらなく、愛しく感じたのを、覚えている。

「野糞君、ちょっといい?」
「ええっ!? それって僕のこと!?」
「他に誰が居るの?」

思い出から、現実に帰還。
実は、少々急ぎの用があった。
それを果たすべく、少年に声をかけた。
すると、何やら驚かれた。びっくりされた。
キョトンとしていると、彼はため息を吐いて。

「はあ……もう、それでいいです」

不承不承に、あだ名を受け入れてくれた様子。
思えば、これが2度目の名付けだ。
しかし、感慨に浸っている場合ではなかった。

「あのね、野糞君」
「はい、なんですか?」
「私、おしっこがしたくなっちゃった」
「はい?」

そう、それこそが現実的な問題だった。
はっきり断言しよう。誰だって催す、と。
昔のアイドルだって、排泄はしていたのだ。
どんな存在も、この衝動からは逃れられない。
そこから目を背けるのは、弱さでしかない。
私はこれでも、高校生だ。もうほとんど大人。
故に、中坊の前で情けない真似は出来ない。

「ここで、していい?」
「ダ、ダメですよっ!!」

まさかの却下。ムッとして、理由を尋ねる。

「なんで?」
「にゃんこが眠っているからです!」

なるほど、それはたしかに正論だ。
これ以上ないほどの正しさと言える。
私は渋々、しゃがんだままズリズリ歩いて。

田舎道の真ん中で、高らかに宣言した。

「ならお姉ちゃん、ここでおしっこします!」

「何言ってんですか!?」
「いいから、見てて」
「うわっ!」

さっと、素早く下着を下ろす。
すると、同じく素早く顔を背ける野糞君。
まるで早撃ちガンマンの気分。西部劇だ。

「はい、パンツ穿いたよ」
「ああ、良かった……どうなることかと」
「はい! また脱げました!」
「ちょっと! やめてくださいよっ!?」

二度三度、パンツを早脱ぎ。
その度に、野糞君は目を逸らした。
もはや、目を開けることが出来ない様子。

そんな彼に、丸めたパンツを投げつける。

「わっわっ! な、投げないでくださいよ!?」
「ナイスキャッチ。大事にしてね?」
「要りませんよ!? 早く穿いてください!!」
「今からおしっこするから、それいらなーい」

返却を断って、いざ放尿。
しかし、またもや目を瞑る野糞君。
どうしても見て欲しくて、閃いた。

「野糞君」
「な、なんですか……?」
「この前は、ごめんね」
「へっ?」
「キミの野糞を邪魔したこと、反省してる」
「いや、その、別に、僕はなんとも……」
「やっぱり……怒ってる、よね?」
「お、怒ってないですよ!」
「でも、私、酷いことしちゃったし……ぐすん」
「な、泣かないでくださいっ!」

よし、かかった。

「なんちゃって」
「えっ?」
「目、離さないでね」

ようやくこちらを見た野糞君。
全て、計画通り。チョロすぎる。
まったく、悪い虫がつかないか心配だ。
もっとも、私以上の害虫はいないだろうけど。

そして私はたっぷりと、放尿を、見せつけた。

「んんっ」
「お、お姉さん……すごい」

初めてこんなことしたけど、想像通りだ。
やっぱりこれ、恥ずかしいな。恥ずいよぅ。
やらなきゃ良かったと思いながらも。
やってみないとわからないことも沢山あって。

「フハッ!」

突如、漏れ出す、愉悦。
しかし、それは私のものではない。
野糞君が、嗤っていた。私の放尿を見て。
それだけで、ガツンときた。すごい感覚だ。

何がすごいって、あの野糞君までも堕ちた。
あんなに純粋だったのに、染まってしまう。
そして彼を染めたのは、この私なのだ。
征服欲、独占欲、支配欲が、胸を満たす。

それと同時に見られている。支配されている。

「フハハハハハハハハハハハハハッ!!!!」
「んっ……あっ……!」

ああ、これはよくない。ちょっと、強すぎる。
嗜虐心と被虐心を同時に刺激されてしまう。
その感覚を、独特な嗤い声が増幅していく。
もう何がなんだかわからない。気持ちいい。
快楽でよだれが垂れそう。みっともない。
でも、口が閉じれない。仕方ないから俯く。
両手で顔を覆って、波が収まるのを待つ。

こみ上げる快感にひたすら耐えて、溺れた。

「お姉さん、大丈夫?」
「ん……もう、平気」

全てを終えて、冷静さを取り戻した。
気がつくと、もう昼近かった。
私たちは路肩に座って、ぼけっとしていた。
今日も快晴で、雲ひとつない。それなのに。
場違いな水たまりが、道路に残っていた。

「学校、サボっちゃったね」
「すみません……僕のせいで」
「ううん、誘ったのは私だし」
「でも……取り乱してしまって、すみません」
「お互いさまだよ。良い課外授業だったね」
「そうですね……愉しかったです」
「私も、愉しかった」

学校なんて、もともと行きたくなかった。
だから、課外授業と称して正当化する。
くだらない連中と関わるよりも、有意義だ。
おかげで、沢山のことを知ることが出来た。

私は知った。
恋愛には、プロセスが必要だ。
順を追って、人を好きになる。
そして私は、それを重ねて、恋をした。

「野糞君」
「なんですか?」
「パンツ、欲しかったらあげるよ」
「ええっ!?」
「その代わりにさ」

預けたままのパンツを交換条件にして。

「私と付き合ってみませんか?」

そんな告白の仕方は、ずるいだろうか?

野糞君は暫く呆気に取られてから、尋ねてきた。

「……お姉さんって、何者なんですか?」

そう言えば、自己紹介がまだだった。

「私は、変態お漏らし処女ビッチ」
「すごい名前ですね……」
「こんな私で良ければ、付き合ってください」

猫を埋めようとして怒られた畑を見据えて。
もう一度、告白してみた。顔は見れない。
私としたことが、照れていた。顔があっつい。
まるで、クラスのバカ共と同じレベルだ。
超越者を気取っていたのに、情けない。
でも、変態お漏らし処女ビッチは、負けない。
恥ずかしくて、俯きそうになるけど、堪える。
もうさっきみたいな失態は、見せられない。

だって私は、年上のお姉さんなんだもの。

「僕は野糞君ですけど、いいんですか?」
「私は野糞君がいいの。野糞君が好き」
「そうですか……僕も、」

一旦区切られて、思わず顔を見てしまう。
我慢出来なかった私を見て、彼は微笑んで。
赤い顔の癖に、優しい声で、返事をくれた。

「変態お漏らし処女ビッチさんが、好きです」

なんて生意気な中坊だろう。むかつく。
それなのに、嬉しすぎる。私ってばチョロい。
こいつは要注意だ。キチンと躾けないと。

「これからしっかり調教してあげる」
「それならちゃんと矯正しましょう」

本当に口の減らないガキだ。生意気すぎ。
それでも、悪い気はしない。むしろ高鳴る。
ま、やれるもんなら、やってみればいい。

変態お漏らし処女ビッチを、矯正してみろ。


【変態お漏らし処女ビッチと野糞君】


FIN

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