【わたモテ】モテないし素直になる (7)

「催眠術?」
「そーそー。ちょっと試してみない?」

 そう言いながら懐から糸に吊り下げた10円玉を取り出した陽菜に、智子は怪訝な顔をして応えた。

「……催眠ってあれか? エ〇同人誌でよくある、常識改変云々とかビ〇チになる……」
「エ……バカだなークロは。そんなわけないでしょ」

 周りにはまばらにしか人はいないとはいえ、平然とディープな話題をぶち込んでくる智子に、陽菜は言葉に詰まりながら少し耳の端を赤く染めた。
 陽光に照らされほのかに温かくなった机の中から、陽菜はおもむろに一冊の本を取り出した。
 智子は大きな瞳を細くして、その本の表紙を読み上げる。

「何々……『誰でもできる催眠術入門?』 ……なんだこの胡散臭すぎる本は」
「昨日暇だから本屋に行ったらたまたま見つけたんだよね。面白そうだからちょっとやってみたいなと思って」

 にこにこと楽しそうな陽菜をジト目で見て、智子はバカにするように一つため息を付いた。

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「あのな。素人さんは知らないかもしれないけど催眠術なんてアレただのやらせだから。テレビに良く出てる催眠術師とかただのペテン師だし。あんなもの信じてるなんてネモもまだまだ……」
「いや、それくらい知ってるよ。テレビ用のパフォーマンスと実際の催眠術は違うってことくらい。こっちはカウンセリングとかで使われる催眠術のやり方が書いてるんだよ」

 そう淀みなく陽菜に言い返されて、智子はうっ、と言葉に詰まった。

「まったく、クロったらすぐにネットの意見を真に受けるんだから」
「う、うるせぇな。そんなに言うなら見せてみろよ」

 恥ずかしさを誤魔化すように、智子は陽菜の手元から本をひったくって、少し乱雑な手つきでページを捲った。
 胡散臭すぎるタイトルとは裏腹に、本の内容は分かりやすく、簡単にできる催眠術のやり方について記されている。
 一通りパラパラとページを捲った智子は、満足して本を机の上に置いた。 

期待

だけど10円玉じゃなくて普通5円玉使わない?
穴のない硬貨に紐巻いてもすぐすっぽ抜けると思う

>>3
ごめん、五円玉と間違えてた

「クロ、どうだった?」
「お、おお。意外に面白かったわ」
「でしょ? それじゃ、さっそく試して……」
「だが断る」

 ドヤ顔でそう言い放つ智子に、陽菜は不満げにぶーぶーという声を漏らした。

「えー、なんでさ。いいじゃんちょっとくらい」
「なんで私が実験台みたいな真似しなきゃならないんだよ。それにネモにやらせたらなんかろくでもないことさせてきそうだし」
「……ふぅん、怖いんだ」
「あ?」

 からかうような表情で陽菜はさらに続ける。

「ま、クロは元ぼっちのビビリだもんね。クロに頼んだ私が悪かったよー。あーちゃんあたりに頼んでみようかなぁ」
(なんだこいつ……喧嘩売ってんのか!?)
 
 わざとらしく大きな身振り手振りを付けながら席を離れようとする陽菜。
 自分をノせるための演技だとわかってはいても、智子は思わず大声で叫んでしまっていた。

「ざけんな! 催眠術ぐらいなんぼのもんだ! やるならやってみろ!」
「そうこなくっちゃー♪」

 振り返った陽菜の顔は満面の笑顔だった。

「はぁ……なんで私はこんなことを……」
「はいはい、ぐちぐち言わなーい」

 陽菜と智子は向かい合って座った。憂鬱な表情で外を見るとそろそろ本格的に生徒たちが登校してくる時間である。

(まぁ……朝礼が始まるくらいにはなんやかんや有耶無耶になってるだろ……)
「さ、それじゃ始めるよー。身体の力抜いてリラックスしてね」

 陽菜は智子をリラックスさせようとして腕や背中を撫で摩った。

「ふおお……ぞわぞわする」
「ちょ、変な声出さないでよ」

 そうはいってもお前の触り方がくすぐったいんだよ。智子はそう口に出そうと思ったが、なんか萌え豚御用達の萌えアニメの台詞みたいだったのでやめた。

飽きた?

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