男「コインランドリーの人々」 (29)


ここはどこにでもあるコインランドリー……。



ゴゥンゴゥンゴゥンゴゥンゴゥン…

男(あーあ、今日はバイトないのに予定といえば、コインランドリーに来ることぐらい……)

男(いい年して、彼女もいない、友達もいない、金もない、スキルもない、未来もない)

男(終わってるよなぁ、俺って……)

男「ハァ~……」


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金髪「おっ、洗濯終わってる!」スタスタ

ヤンキー女「やったーっ!」スタスタ

男(カップルか……いいなぁ)チラッ

金髪「あ? なに見てんだよ?」

男「あ、いや……スミマセン」

金髪「ちっ!」


――

男(さぁて、洗濯物を持って帰るか)

男「ん?」

リーマン「ハァァ~……」

男(なんだ、このおっさん……)

男(俺以上のでかいため息ついてやがる……)


――

男「……ん?」

老人「……」コックリコックリ

男(寝てる……)

老人「……」コックリコックリ

男「あのー、おじいさん。あなたの洗濯機、もう終わってますよ」

老人「……」コックリコックリ

男(ま、いいや、ほっとこ)


――

幼女「せんたっきのとびら、あけてーっと!」ガチャッ

幼女「せんたくもの、とってーっと!」モゾモゾ

幼女「よいしょ、よいしょ!」ヨロヨロ…

男(あんな小さな女の子が、一人でコインランドリーに来てる……)

男(手伝ってあげたいけど、そういうことすると不審者にされかねない世の中だしな)






今宵、こんな五人が一堂に会することとなる……。





ゴゥンゴゥンゴゥンゴゥンゴゥン…



男「……」

金髪「……」

リーマン「……」

老人「……」コックリコックリ…

幼女「せんたっき~、せんたっき~! ぐーるぐる~!」


男(いつも見かけるメンツが勢ぞろいしてるけど……)

男(なんで今日に限って、みんなしてコインランドリーで洗濯が終わるのを待ってるんだ?)

男(気まずくてしゃあない……)

男(かといって、出て行くのも負けたようで嫌だしな……)

男(ところで、あの金髪のヤンキー兄ちゃん、今日は女の子連れてないのかな)チラッ

金髪「ん? なんだよ?」

男「あ、いや……」

金髪「んだよ、いいたいことあんならいえよ。モヤモヤすんだろ」


男「えぇと、いつも彼女を連れてたけど……彼女は?」

金髪「ああ、あいつ? 別れた」

男「え? な、なんでまた」

金髪「あの女、とんだアバズレでよ。五股ぐらいかけてやがったんだ」

男「ごまた……」

金髪「オレは心の広い男で通ってるけど、いくらなんでもさすがにキレらぁ」

金髪「当分女は懲り懲りだ。ったくやってらんねーよ!」


男「だけど、羨ましいよ」

金髪「へ? 何が?」

男「俺ってぶっちゃけ、彼女いない歴イコール年齢なんだけど」

男「そうやって彼女を作ったり別れたりしてる時点で尊敬しちゃう」

男「だって、俺にはできないことを、当たり前のようにやってるんだから」

金髪「ハハ、大げさな奴だなぁ」

金髪「そうだ! だったら女紹介してやろうか? 合コンならいつでもセッティングできるぜ!」

男「嬉しいなぁ!」

男「もし彼女ができたら、本気出してフリーター脱却して、結婚――」

リーマン「やめときなさい」

男「!?」ビクッ


男(ビックリしたぁ……いきなりなんだ?)

リーマン「結婚なんてろくなもんじゃないよ。悪いこといわない。やめときなさい」

金髪「なんでだよ?」

リーマン「私は今、単身赴任してるんだが」

男(ああ、だからよくコインランドリーに来てるのか)

リーマン「妻も子も私にまったく電話してくれないし」

リーマン「たまの連休に家に戻っても、さして歓迎もされず、邪魔者扱いだ」

リーマン「こっちは知らない土地で一人寂しく仕事を頑張ってるってのに、報われないったらないよ」

男「……」

金髪「……」


男「だけど、家庭を持つ、家庭を守るって、すごいです」

リーマン「え?」

男「今の俺は結婚して家庭を持つなんて余裕、とてもないですし……」

金髪「オレもちょっとキツイなぁ……。同棲はいいけど、ガキはキツイ」

男「俺、大人になって、家庭を持つってことがどんだけ大変かよく分かりましたもん」

男「それに、あなたがいなきゃ奥さんもお子さんも生活できないのは事実でしょう?」

男「内心では、お父さんがいなきゃダメだって感謝してると思いますよ」

リーマン「……ありがとう。ちょっと報われた気がしたよ」

金髪「待つだけじゃなく、たまにはアンタから電話したらどうだ?」

リーマン「うん、そうしようかな……」


男「二人に比べて、俺は……」ハァ…

金髪「ん?」

男「俺なんて、恋人もない、友達もない、金もない、スキルもない、未来もない」

男「ないない尽くしで……この世に俺未満の人間なんていないんじゃなかろうか」

リーマン「なにをいってる。まだ若いのに……」

金髪「そうだぜ! ちょっとネガティブすぎるっつうの!」

男「いや……本当にお先真っ暗で……」

老人「君がお先真っ暗? 笑わせてくれるのう」


リーマン「うわっ!?」

金髪「なんだよ爺さん、起きてたのかよ!」

老人「君ごときが、ないない尽くし……とは甘えてるのう。ぬるいのう」

男「!」カチン

男「なんですか、あなたに何が分かるっていうんですか!」

男「あなたなんかいかにも定年まで平穏無事に会社を勤め上げて」

男「悠々自適で穏やかな老後を送ってるって感じじゃないですか」

老人「わしの過去を簡単に教えてやろう」

男「面白い、教えて下さいよ」


老人「まず、わしは会社を潰したことがあり、借金がまだまだ残っておる」

男「え」

老人「ちなみになんで潰れたかというと、親友に裏切られたからだ」

老人「あいつ、会社の金を持ち逃げしおってな。ついでに妻も寝取られた」

金髪「おいおい……」

老人「やっとこさ、その二人を見つけたはいいが、口論になり、二人とも刺しちまった」

老人「まあ、死ななかったがな。わしはすぐに逮捕されたよ」

リーマン「ってことは、まさか……」

老人「ああ、わしはちょいと前まで刑務所におったんじゃ」

老人「ちなみに、一連のゴタゴタで体も悪くしちまって、内蔵だってだいぶ取っちまった」

老人「わしにはなーんも残ってない。寿命さえもな」


男「あの、冗談……ですよね?」

老人「冗談をいっとるように聞こえたかね?」

男(聞こえなかった……)

男「……」

金髪「……」

リーマン「……」

老人「でも、こうして生きている。生きるしかない。こんなもんじゃよ、人生なんて」

男(すげえ……こんな人もいるんだ……)


幼女「せんたっきー! とまった―っ! せんたく、おわりーっ!」

男「!?」ギョッ

幼女「せんたくもの、とりこもー!」

金髪「ったく、ビビらせやがって……いきなり叫ぶんじゃねえよ」

リーマン「まあまあ」

老人「おかげで、わしのせいで止まっちまった空気が動き出したわい」

男(そういえば……)


男「どうして、君はいつもコインランドリーに来てるの?」

幼女「うち、びんぼーだからせんたっきないの!」

男「なるほど。でも、お父さんとお母さんは?」

幼女「おとうさんはじょーはつしちゃったし、おかあさんはおしごと!」

幼女「だから、ここでせんたくするのはあたしのおしごと!」

金髪「偉いねえ」

リーマン「うちの子にも見習わせてやりたいよ」


男「だけど、大変だろう? 毎日のようにコインランドリーに来るのは」

幼女「ううん、とてもたのしい!」

男「どうして?」

幼女「せんたっきみるのたのしいし、おともだちもいるし」

男「……お友達って?」

幼女「もちろんあなたたちよ! あたしたち、みんなともだち!」

男「……!」

金髪「……へっ」

リーマン「友達、か」

老人「たしかに、同じコインランドリーを使ってる仲間じゃな」


男「あのー……」

金髪「なんだよ?」

男「よかったら、俺たちも……友達になりませんか?」

金髪「いいぜ! ラインやろうぜ!」

リーマン「かまわないよ。今の支社に親しい人もいなくて寂しかったんだ」

老人「人生の終盤に、あんたらのような若いのと友達になるのも悪くなかろう」

幼女「わーい! ともだち、ふえたーっ!」


男「お、ちょうどみんなの洗濯も終わったみたいなんで」

男「今日のところは洗濯物取り込んで、帰りましょうか!」

金髪「おう! また会おうな!」

リーマン「ここに来るのが少し楽しみになりましたよ」

老人「今度みんな揃ったら、わしの苦労話をたっぷり聞かせてやるわい」

幼女「たのしみー!」



ここはどこにでもあるコインランドリー……。

時には心を洗い流してくれることもある……。







― END ―

以上で終わりです


こういうの凄い好き

素晴らしかった



良かった

乙。

良ssだと思って開いたら良ssだった
おつ


この人達に良いことありますように

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