水木聖來「聖色小径」 (17)
水木聖來さんと望月聖ちゃんのSSです。
水木聖來(23)
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望月聖(13)
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「あれ……? 聖ちゃん?」
まだまだ冬の寒さ真っ只中と思えるくらいの寒い日。アタシみたいな人にとっては一日中ゴロゴロするのも悪くないなぁ、なんて思っていたけどお外に連れていってー! とおねだりするわんこに負けて、もうってわんこに引っ張られるままぶらぶらとお散歩していたら見覚えのある金髪の娘の姿が。手からぶら下げている袋は膨らんでいるけど足取りはなんだか軽やかに見える。
聖ちゃんがるんるんと歩くたびに彼女の金髪が揺れて、まるで喜んでいるときのわんこの尻尾みたい。そんな風に思って見ていたらわんこがぐいぐいと聖ちゃんの方へと。
「わわっ…と、聖ちゃんっ!」
「聖來さん…? おはようございます…です」
「うん、おはよっ。聖ちゃんもお散歩?」
そう聞くとこくんと頷いてからチラチラとわんこを見ている。素直に触りたいって言うのは恥ずかしいのかな。なんて思ったから触ってみるか聞いてみたらぱぁっと顔を輝かせて嬉しそうに顔を綻ばせて。その様子にアタシも嬉しくなっちゃった。
「もふもふ……です」
屈みこんでわんこをよしよしと撫でている姿が小型犬が戯れてるみたいに見える。わんこも聖ちゃんに撫でられて嬉しそうにしててなんだかムッてしちゃう。ご主人様のアタシじゃなくてもいいの? なーんて。ふふっ、たまにはご主人様以外からのなでなでも欲しいもんね。
そんな楽しげな一人と一匹を見てイイことを思いついた!
「ねえねえ、聖ちゃん」
呼びかけるとわんこの胸元に顔を埋めていた聖ちゃんが顔をあげてなんですかと言いたげにきょとんと首を傾げた。かわいい。
「もしこの後も暇なら一緒にお散歩しない?
わんこも聖ちゃんのこと大好きみたいだし、ね?」
「え……?
わぁ……はい……!」
きょとんとしていた表情を一気に変化させて、もし聖ちゃんが犬だったら尻尾をぶんぶんと振っているんだろうなって丸わかり。最初に会った時は幻想的な雰囲気に綺麗な歌声で天使みたいだなって印象だったけどこう見るとやっぱりまだ子どもなんだなって。
「一緒にお散歩…わんこも喜んでます」
今にも鼻歌でも歌いそうなくらいご機嫌な聖ちゃんなんてちょっと意外。思えばこうしてオフの時の聖ちゃんを見るのは初めてかもしれない。事務所でよくプロデューサーさんの後をくっついてたり中庭で歌ったりしてるのはよく見るけど。
「聖來さんも…喜んで…ます?」
そう言ってこてんと首を小さく傾げて見上げてくる聖ちゃんの顔がちょっと不安げに見えて、アタシは思わず聖ちゃんの頭を撫でてしまっていた。
んっ、と声を漏らしてから目を細める聖ちゃんの姿を見て慌てて手を離してから謝ると、聖ちゃんは少し残念そうな声音で、
「私…喜んでた…のに」
ぷくーっと頬を膨らませていた。かわいい…ってそうじゃなくて!
「ほ、ほらっ!
お散歩行こっ?
わんこもそろそろ拗ねちゃうし!」
言い訳にわんこを使って、こっそりわんこに手を挙げてお願いって目配せしたら、わんこったらちゃんとアタシの要求通りに拗ねたように伏せてくれた。後でちょっといいおやつを買ってあげないと。
そんな飼い主とペットの麗しいやり取りは聖ちゃんにはバレていないようで、アタシの言葉でわんこを見た聖ちゃんは、
「そう、でした…わんこごめんね…?」
わんこに謝ってからアタシが聖ちゃんにそうしたみたいに撫でてあげている。優しい。
▫□
「~♪」
ついに鼻歌を奏ではじめた。お日様は高く、冬空を見上げると爽やかな青空。空を飛べたら気持ちいいんだろうけど、聖ちゃんの鼻歌にこんな綺麗な空のおかげでアタシも気分上々。つられてアタシまで鼻歌を歌いそうになるけど聞いてる方が贅沢な気もする。ふふっ、勿体無いかな。
「そういえば」
聖ちゃんを見掛けていたときから気になっていたことが我慢できなくなって漏れてしまった。どうかしたのって言いたげに聖ちゃんがアタシの方を見てくる。
「その手提げってもしかして風呂敷?」
「はい…えっと、楓さん…が教えてくれて」
「楓さんが?
へぇ、風呂敷でそんな手提げ鞄みたいなことできるんだ!」
聖ちゃんとはちょっとイメージが合わないから誰に教えてもらったんだろうと思ったらまさか楓さんだったなんて。でもさっきイメージが合わないとは思ったけど不思議と似合ってはいる。アタシが持っても似合うかな? むむーんと想像してみたけど似合わない気がする。楓さんは……うん、似合う。一升瓶とか入れてそう。
「えへ…どやぁ、です」
13歳にしてはちょっと大きすぎる気のする胸を張ってドヤ顔をする聖ちゃん。そういうのも可愛らしいからずるいなぁ。そんな風にしみじみと見ていたら、あっと声をあげて、てってってっと小走りでどこかへ。なんだろうってわんこと一緒にアタシたちも小走りで聖ちゃんの後を追ってそっちへ。
突然走り去った聖ちゃんを見つけた時には満足そうにクレープを頬張っていた。幸せそうにぽわぽわしている。
「もぐもぐ…んぁ、んっ?」
ベンチに座ってもぐもぐしている聖ちゃんがアタシたちを見つけると、口元がにっと笑みを浮かべてた。頬張っているクレープのせいで頬は膨らんでいて、なんだかアンバランスな可愛さだった。そんな聖ちゃんに思わず見とれていたら、
「聖來さんも…食べます、か?」
と差し出してきた。そんなに物欲しそうにしてたのかな、アタシ。ううん、大丈夫と断るとぱくつくのに戻った。美味しそうに食べる聖ちゃんにちょっとごめんねと横に座って、わんことお散歩する時用のポーチを開いて折り畳み式のお皿を出して、ぶら下げていたお水を注いでわんこの目の前に。気付いたらここまでずっとなにも飲まずにお散歩してたし、そろそろわんこも喉が乾くもんね。やっぱり喉が乾いていたようであげたら夢中で飲んでいる。隣では聖ちゃんが、足元ではわんこが。それぞれ夢中になっている。
ふー、って息を吐き出してから空を見上げたら相も変わらずにどこまでも広く、軽やかな青空。早朝じゃなくても、こんなに綺麗な青空が見えるのは冬の特権だなぁ、なんて思いながらぼーっと眺めていたら、いつの間にか聖ちゃんも同じように空を眺めていた。透き通るみたいな赤茶色の瞳が映る青空の色彩によって何色と形容したものか不思議な色になっていた。
▫□
風が吹くたびに金色の髪の毛がさらさらと優しく揺れている。木々の隙間から揺れる日光を反射して朧気に光るその姿はやっぱり天使みたい。
でもわんこのリードを持って引っ張られてるのはちゃんと年相応に女の子してる。ふふっ、どっちも楽しそうだし誘って良かった。なんて思っていたら、
「……わんこ嬉しそうですし、私も飼い主…みたいなもの?」
とんでもないことを言い出した。いやいやいや、わんこの飼い主はアタシだから、ねー? ってわんことアイコンタクト。流石にこの聖ちゃんのセリフにはわんこも乗っからなかった、いい子。まあ多分アタシがなにかにつけて沙理奈との時のことを出してからかうから、っていうのもあるのかな。もうそんなに気にしてないんだけどね、沙理奈からネタばらしもしてもらったし。
「聖來さんと仲良し…羨ましい、です」
「あはは、アタシとわんこが一緒にいる時間は長いからねっ」
しゃがみこんでわんこをわしゃわしゃー! と撫で回す。気持ちよさそうに目を細めるわんこに頬ずりしながら自慢するみたいに宣言するみたいに。
「そうじゃなくて……わんこが羨ましい……私も、聖來さんと仲良し、したい…です」
ちょっと想像してない返事にびっくりしてえっと声が出てしまった。てっきりわんこと仲良しなアタシが羨ましいのかと思っていたから、まさかそう来るなんて。少し恥ずかしくなっちゃうのも仕方ないよね。
熱さを感じる頬をかきながら聖ちゃんを見ると聖ちゃんも頬をほんのりと赤く染めながら、なにか変なことでも言いましたか、みたいなことを言いたげに可愛らしく小首を傾げている。
「な、仲良し…って?」
「……仲良しは、仲良し…です、ね?」
すらりとした人差し指を顎に当ててこてんと音の鳴りそうな動きをしている。どことなく小悪魔チックな可愛さ。
……それにしても聖ちゃんの言う仲良しってなんだろう。仲良し…仲良しかぁ。改めて考えると意外と難しいかも。自信持って仲良し! って言える友達…うーん……?
「むぅ……」
つい考えに耽っていたら不満げな声が。
「いじわる……」
思わず見とれるくらい綺麗な赤茶色の瞳が半眼に、これはもう明らかに不機嫌ですと主張する表情になっていた。こ、こんな表情できたんだ、とか10歳も下の娘にタジタジなアタシって……とか色んな考えが頭の中を駆け巡る。こんなに空気は冷たいのにたらりと冷や汗が一筋流れるのが分かった。
▫□
「ふふっ…♪」
さっきまでとは打って変わって非常にご機嫌な聖ちゃん。その右手にはわんこのリード、左手はアタシと繋がっていて、彼女いわく、「両手に花……ですね、プロデューサーさんに自慢……します、えへへ」とのこと。両手に花ってそういう意味だっけ。聖ちゃんが嬉しそうだからいいんだけど。ちなみに手提げ袋はアタシが持たされている。結構これ重いんだけどなに入れてるんだろう、気になる。
「……?」
「どうしたの?」
「えっち……」
「なんで!?」
いきなりえっち判定って、えっ、なんで?
「乙女の荷物をじろじろ見るなんて…聖來さん、えっち…です」
クスクスと笑いながらからかうように言ってくる。そんなにじろじろ見てたりしてたつもりはないんだけど……というか薄々思っていたけど、聖ちゃんって意外とお茶目?
「見られてえっちなんて、なに入れてるの?」
「えっと……お煎餅とか、お饅頭とか…」
えーっと、と顔をあげて一つ一つ挙げていくけど見事に食べ物ばっかり……
アタシに会う前にそんなに買ってたのね……
ちょっと呆れ気味に、でも聖ちゃんが実は食いしん坊な面もあるという知らなかったことが知れてちょっと嬉しかった。色んなものに目移りして、色んなものに目を輝かせる聖ちゃんはきっとみんなと同じくらい、世間から言われているように天使みたいなものじゃない、ただの少女の顔をしていたから。
そんなことを考えてたら、手を繋いでいる聖ちゃんの力がなんとなく弱まっているようなそんな感じがした。
「大丈夫?」
「ん……だいじょうぶ、です…」
大丈夫というけどどこかぼんやりとした表情。よく見ればちょっとふらふらもしてるしもしかしてお疲れかな。
「そろそろ帰ろっか、聖ちゃん」
そう言うとなにも言わずにこくんと頷くだけ。あちゃあ、そんなに疲れてたのに気付かずに連れ回しちゃった。だからお詫び……というわけじゃないけど、
「っ!?」
あはは、びっくりしてる。いきなりおんぶするのはやっぱり驚くよね。
「せ、聖來……さん?」
「んー?」
「び、びっくりしました、けど……嬉しいです」
さっきまで元気のなかった声が弾んでいる。それにしても軽いし背中に柔らかいものが……
「……♪」
耳元から優しげな歌声が聴こえる。決して大きい歌声じゃない。けれど澄んだ綺麗な歌声はすっと耳に馴染んで少し疲れた身体を癒してくれる。
今日何度も見た空色は聖ちゃんの目にはどんな風に映っているのかな、なんて気になって。聞こうと思って口を開こうとして、やっぱりやめることにした。
聖ちゃんの色は、聖ちゃんだけのものだもん。聖ちゃんが歩いて、聖ちゃんの色の今日を見つけるのが楽しいんじゃないかって。ふふ、お節介かな?
……まあ、それでも。
「たまにこういう一日があれば、明日もきっと楽しいこと見つかるのかな」
なんて呟いて。
いつの間にか聞こえなくなった歌声と、代わりに聴こえるようになった寝息をBGMにして、アタシはこの聖色の小径を歩いて帰ろう。そして出来るならまた、聖ちゃんと一緒に歩きたいな、なんて贅沢なお願いを風に乗せて。
おまけ
沙理奈「あ、聖來おはよ~」
聖來「おはよっ、沙理奈」
沙理奈「そうそう、昨日、聖來見掛けたけど」
聖來「見られてたんだ。ふふ、姉妹みたいだった?」
沙理奈「んー? お母さんみたいだったけど」
聖來「お、お母さん!?」
沙理奈「聖ちゃんをおんぶして優しげな顔してね~
聖來ったらあんな顔もできたのね」
聖來「お母さん…ま、まだお姉さんだもん……」
沙理奈「あれ? 聞いてない?」
聖「おはよう…ございます」
沙理奈「おっ、聖ちゃんおはよう」
聖「おはよう…ございます、沙理奈さん…と聖來さん……?」
沙理奈「あはは、なんていうか、その……あっ、そうだ聖ちゃん」
聖「……? うん、わかり、ました…」
聖來「お姉さん…アタシはお姉さん……よしっ。
あれ、聖ちゃん?」
聖「……おはよ、ママ?」
聖來「」
沙理奈「聖來……?」
聖「聖來さん…?」
沙理奈「気絶、してる……」
おしまい
読んでくださりありがとうございました。
聖聖、いいですよね。
最高
おつ
おつ
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