少年「薄氷の僕ら、無人駅」 (32)

少年(僕の住む村は、人里から離れた、集落のように小さな村だ)

少年(気候は常に寒い。夏冬関係なく、ほぼ一年中雪が降っている)

少年(人口はそんなに多くない。むしろ村の面積に対して少ないくらいだ)

少年(そして)

少年(この村には掟がある)

少年(それは、村の外に出てはいけないと言う事)

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少年「ああ、寒い寒い」

少年(この村の人達は一人で行動する事が多い)

少年(僕も例に漏れず、此処で釣りをするのが好きだ)

少年(静かな世界で、聞こえてくるのは水の音だけ)

少年(ああ、落ち着くなぁ)

少年「……お!」ピクッ

少年(……よし、かかった!)クンッ

少年「うおっ、こ、これは……」ググッ

少年(すごい引きだっ……! これは大物だぞ……!)

少年「ぐ、ぎぎっ……ああっ!!」ザバッ

少年「お、おお……やった!!」

少年(「星屑イワナ」と呼ばれる魚だ。表面の皮にきらきらした結晶が付いている)

少年「……命を、いただきます」スッ

少年(僕は用意していたナイフで、出来るだけ苦しまないように魚を締める)

少年(その瞬間、抑えていた魚がびぐんと痙攣を起こす)

少年(何度釣っても、この瞬間だけは好きになれない)

少年(そうしてさっさと血抜きを済ませてしまい、それを雪を詰めた袋にしまう)

少年「……よし」

少年(そろそろ帰ろうかな)

少女「此処に居たのね。どう、釣れた?」

少年「! やあ。大物が釣れたばかりだよ」

少年(少女はいつも何処からともなくふわりと現れる。雪みたいな子だ)

少年(村の子供は僕と少女だけ。だから僕らはよく一緒に居る)

少年(彼女が頭を払ってくれたおかげで、ようやく頭に雪が積もっていた事に気が付いた)

少年「星屑イワナが釣れたんだ、ほら」

少女「……わあ、綺麗ね。まるでまだ生きているみたい」

少年「……」

少年(彼女の言葉が突き刺さる。それは僕が奪ったばかりの命だ)

少女「あ……ごめんね。悪気があった訳じゃないのよ」

少年「うん。大丈夫だよ」

少女「少年は優しいのね……ほら、戻ろう?」

少年「……うん」

少年(彼女はそう言うと、僕の手を引いて歩き出す)

少年(彼女の手は温かい)

少年(彼女に触れていると、少しも寒くないんだ)

少年(村には、入ってはいけない洞窟がある)

少年(十二歳になると、お祝いのお祭りと共に、洞窟に入る許可を貰える)

少年(僕と少女は誕生日が同じだ。ちょうど後一週間で十二歳になれる)

少年(今年は何をプレゼントしようかな)

少年(どうしようかな、何が喜んでくれるだろうか)

少年(その時、ふと昨日釣った星屑イワナを思い出した)

少年「そうだ、あの結晶を使って何か作ろう!」

少年(どんなものが良いかな、……そうだ)

少年(よし、決めたぞ! きっと綺麗なものになるはずだ)

少年(そうと決まれば、善は急げだ)

少年(喜んでくれるといいな)

少年「ふぅ~っ……今日は一段と寒いなぁ……!」

少年(手袋をしているのに、それでも寒さが突き刺さってくる)

少年(肌がびりびりと痛む)

少年(指先がとれてしまいそうだ)

少年(僕は素早く焚火の用意をする。乾燥するからそこまで好きじゃない)ササ

少年(雪が邪魔をして、普通のやり方では着火が難しい)

少年(そこで、この特殊な着火剤を使う)スッ

少年(「灯油魚」と言う魚の油袋だ)

少年(この油で火を起こすと、水の影響を受けなくなる)

少年(だから、例え雪が降っていようが関係なく火を起こせるんだ)ボッ

少年「ふう、少しはましになったかな」

少年(よし、今日も釣るぞ!)

少年(今日は三匹も星屑イワナを釣る事が出来た)ニコ

少年(しかし……気になるな)

少年(星屑イワナは珍しい魚だ。一週間に一度釣れるか釣れないかくらい)

少年(彼らがよく姿を見せるようになったら)

少年(流星群が近づいている証だ、と言う伝承がある)

職人「少年か。何の用だい」

少年「あのね、これを使って……を作って欲しいんだ」ゴニョゴニョ

職人「ほう、面白いな。しかし良いのか? 高く売れるぞ」

少年「うん、良いんだよ」

職人「……はぁん。なるほどねえ」

少年「……何」

職人「照れるなって! 任せておけよ。ばっちりと仕上げてやる」

少年「うん、お願いね」

少年(僕はお金を渡すと、軽い足取りで店を出る)

少年(早く出来ないかな)

少年「もうすぐだね。誕生日」

少女「そうね。もう少しであなたのプレゼントも完成するわ」

少年「期待しておくよ。僕のプレゼントも後少しかな」

少女「フフ、どんな素敵な物なのかしら」

少年「お互い誕生日が楽しみだね」

少女「そうね。洞窟には何があるのかな」

少年「宝物とかが眠ってたりしてね」

少女「……ん、もう家に戻るわ。プレゼントを完成させたいし」

少年「そうだね、僕もそうするよ」

少女「ばいばい、また明日」

少年「うん、また明日」

少年「お、おお……」

職人「いやあ、良い仕事をしたぜ。どうだ、気に入ったか?」

少年「うん! 思ってた通りだよ!」

少年(僕はそっとそれを鞄に仕舞い込む)

少年(作って貰ったのは砂時計。それもただの砂時計じゃない)

少年(星屑イワナの結晶を砂にしてある、「星屑の砂時計」だ)

少年(砂時計をひっくり返すと、星空のような色の砂が、きらきらと輝きながら落ちてゆく)

少年(僕の宝物にしたいくらいだ)

少年「綺麗だなぁ」

少年(早く少女に渡したいな。きっと喜ぶだろうな)

少年「うー寒い」

少年(そうして僕は、上機嫌で家へと歩き出す)

少年「あ、雪ウサギだ!」

少年(ふと目の前を横切ったのは、「雪ウサギ」の親子だ)

少年(雪から生まれ、寿命が尽きると雪へと還る、儚い動物)

少年(ああ、可愛らしいなあ。動物の親子は見ていて微笑ましい)

少年「……あれ?」

少年(ある事が頭に過り、歩んでいた足が止まる)


少年「僕は誰から生まれたんだ?」

ふむ、期待

少年「いよいよ明日だね」

少女「そうね。村の人達も忙しそうだわ」

少年「ねえ……少女」

少女「なあに?」

少年「僕、いや、僕らって……」

少女「……」

少年「……ごめん、何でもないよ」

少女「そう……」

少年(少女は聡い子だ。僕の気持ちを察して、何も聞かないでくれる)

少年(だって、言える訳ないじゃないか)

少年(「僕らって、一体何なんだろう」)

少年(その言葉を口にすると、今の幸せな時間が崩れてしまうような気がして)

少年(僕はただ、口を噤むしかなかった)

少女「……大丈夫よ」

少年「……少女」

少女「何があったのかは分からないけど、きっと大丈夫」

少年「……うん」

少年(少女の言葉は、僕の心に巣食った不安を優しく取り除いてくれる)

少年(彼女の言葉は不思議と心に入ってくるんだ)

少年「ねえ、少女」

少女「うん」

少年「……明日、楽しみにしてるね」

少女「ええ。私もよ」ニコ

少年(例え、僕らが何であっても)

少年(この気持ちは変わらないはずだ)

少年(次の日、僕はいつもより早く目が覚めた)

少年(今日は少し寒さが弱まったな。散歩にでも行こう)ガチャ

少年「……洞窟には何があるんだろう」

少年(子供が入ってはいけない場所)

少年(つまり、斧みたいに危険なものが置いてあったり)

少年(壊してはいけないような、大事なものが置いてあったり)

少年(それとも……)

バシャッ!

少年「!」

少年(水の上を、何かが)

バシャッ!

少年(また星屑イワナだ……水面を跳ねるなんて珍しいな)

バチャチャチャチャ……!

少年「い、いや……おかしい!」

少年(十匹以上の数が、一斉に跳ねだしたぞ!?)

少年(驚いているようにも、怒っているようにも、怯えているようにも見える)

少年「……」

少年(何かが起こる気がする)

少女「あら、おはよう。よく眠れた?」

少年「……まあね。それより……はい!」

少年(僕は彼女にそっと砂時計を渡す)

少女「わあ綺麗! これ……あの魚の?」

少年「そうだよ、特注で作って貰ったんだ」

少女「ありがとう! すごく素敵よ」ニコ

少年(こんなに元気に笑う少女は珍しい)

少年(頑張って釣って良かったなぁ)ニコ

少女「お返しに、私からもプレゼントよ。はい」

少年「あ、マフラーだ!」

少女「少年のそれ、もう古いみたいだったから」

少年「ありがとう、すごく暖かいよ」ニコ

少年(柔らかい赤色の毛糸で出来ている。少女の優しさに包まれてるみたいだ)

少年(こんなに大きい物を編むのは、きっと大変だっただろうに)

少年(嬉しいなあ。すごく嬉しい)

少女「誕生日ってやっぱり良いものよね……さ、広場に向かいましょ?」

少年「うん。行こうか」

少年(広場では住人が集まり、皆が祝福してくれた)

少年(僕らには十二歳になった証として、草の冠が渡された)

少年(皆の拍手が照れくさい。でも、嬉しくてつい笑ってしまう)

少年(ずらりと並んだ御馳走を食べ終わる頃には、各々が会話に花を咲かせていた)

少年「ぐえ、お腹いっぱいだ。苦しい……」

少女「食べ過ぎよ。でも、美味しかったね」

少年「一度きりのお祭りだからね。へへ」

村長「それでは……今から二人は洞窟に向かってもらおう」

少年「……! 分かりました」

少女「楽しみね、フフ」

少年(洞窟、と言う言葉でふと我に返る)

少年(嬉しくて忘れていたけど、そうだ)

少年(ついに、洞窟に行く事になるんだ)

少年「……」

少年(僕は不安を周りに悟られないように)

少年(マフラーに深く、顔をうずめた)

少年(例の洞窟は、村から少し離れた場所にある)

少年(……何だろう、寒さが和らいだ、と言うより)

少年(……空気が揺らいでる?)

少年(洞窟を進むにつれて、その揺らぎが強くなってきた)

少年(洞窟の中はやけに明るい。明かりが必要ないくらいだ)

少年(何だろう、壁の内部を発光する水が走っている?)

少年(まるで血が流れてるみたいだ)

少年(奥に開けた空間があるな。あそこに何かが……)

少女「?」

少年(少女は何も疑問に感じていない)

少年(いざとなったら)

少年(僕が少女を守るんだ)グッ

少年(ようやく、奥までたどり着いた)

少年(小さな池がある。エメラルド色の綺麗な水だ)

少年「……!」

少年(池には、星屑イワナ達が悠々と泳いでいる様が見える)

少年(どれも大きく、結晶が立派だ。此処は彼らの巣なのだろうか)

少年(そして、池の中央にあるのは……凍った岩?)

少年(色は薄い水色。それに様々な色が星のように混ざり合っている)

少年(何だ……? 何処かで会ったような気がする)

少年(……「会った」?)

村長「この池は……遥か昔、隕石が落ちて出来たとされている」

村長「信じ難い話だとは思うが……」

村長「我々は、この氷から生まれたのだよ」

少年(――!?)

少女「えっ……」

村長「村の命全てが、この氷から生み出されている」

村長「そして、我々が死ぬと……その命はこの氷へと還元されるのだ」

村長「そうして、また次の命が生まれる」

村長「この氷の力の範囲外に出てしまうと、我々はやがて消えてしまう」

村長「だから、村の外に出てはいかんのだよ」

少年(頭をぶん殴られたような衝撃が走った)

村長「二人にはショックだとは思うが……」

少年(あの雪ウサギと同じだったんだ)

少年(僕らも、いつか消えてなくなってしまう)

少年(この村から出る事も出来ない)

少年(そんなの、まるで呪いみたいじゃないか)

少年(じゃあ、僕らは何のために生きているんだ?)

少年「何で……何でそんな事っ!!」

村長「……辛いだろうが、これが我らの理なのだよ」

少年「皆……皆それでいいの!?」

村長「……我らに何が出来る? 受け入れるしかないだろう?」

少女「……」ポロッ

少年「……っでも、納得できないよ! そんなの!!」

村長「……ゆっくりと考えなさい。心を整理する時間が必要だ」

村長「早く大人になりなさい」

少年(そうして、村長は村へと帰っていった)

少年(僕は……)

少年「……」

少女「……ぐすっ」

少年「……泣かないでよ、少女」

少女「……ごめんなさい、少しっ……驚いて」

少年「僕も……不思議に思ってたんだ。どうして僕らには親が居ないのか」

少年「僕らは……っ、何なんだろうね……!」

少女「……ううっ……」

少年(どうせ僕らの命が偽物なのだとしたら)

少年(あんな氷……!)

少年「……」

少年(……駄目だ。僕には壊せない)

少年(もし壊す事が出来たとして……村の皆までが消えてしまうとしたら)

少年(それは……嫌だ)

少年「でも、納得出来ない」

少女「……少年」

少年「……戻ろうか」

少年(僕らはいつもの釣り場に戻った)

少年(もう日は暮れている。此処なら人は来ない)

少年(僕らは無言で、岩の上に座った)

少年「あ……! 珍しいね、ほら見て」

少女「オーロラだわ……綺麗ね」

少年(紫色の夜空を見上げると、薄緑色のオーロラが現れていた)

少年(ゆらゆらと揺らめく様は、何だか優しくて)

少年(それを見ていると、僕らは何だか心が落ち着いてきたんだ)

少女「私達も、あの星みたいに小さな存在なのね」

少年「……うん。そうだね」

少年「大人になるって、どういう事なんだろうな」

少女「……大人になるためには、大切な何かを捨てないといけないのかもね」

少年「僕は……そんなの嫌だな」

少年「無理に大人になるくらいなら――」

少女「あ……ねえ見て、あれって!!」

少年「あ、あれは!」

少年(夜空に、光を放ちながら流れていく物体)

少年(あれは、流星群……!)

少年「は、ははっ! すごい、初めて見たよ!」

少女「なんて数……!」

少年「!」

少年(な、何だ!? 星屑イワナ達が一斉に水面を泳ぎ始めたぞ)

少女「光ってる……?」

少年(星屑イワナの結晶が、流星群に呼応して光ってる……!)

少年(何だろう……喜んでいるように見える)

少年(あの洞窟の氷も、おそらく元は隕石)

少年(彼らは、隕石と何らかの関係があるのかな)

少年「お願い事をしてみようか」

少女「ええ、そうね」

少年(流れ星様、もし願いを叶えてくれるなら)

少年(どうか、僕らを守っていて下さい)

少女「これだけ多いんですもの。きっと願いは届くわ」

少年「うん。きっと大丈夫だよね」

少年(偽物の命の僕らでも)

少年(ほんの小さな願いを祈る事くらいは自由だろう?)

少年(そう思った瞬間)

少年(誰かが僕らを見て、優しく微笑んだ気がした)

トプ……

少年「……えっ!?」

少年(ど、どうなっているんだ!?)

少年(魚達が光に包まれて、宙に浮かび上がったぞ!)

少年(いや、宙を泳いでいるのか……!)

少女「奇跡だわ……綺麗……!」

少年(淡く揺らぐオーロラと、尾を引きながら白く輝く流星群)

少年(宝石のように光りながら、僕らの頭上を舞う魚)

少年(なんて綺麗なんだろう)

少年(まるで、僕らは)

少女「ねえ少年」

少年「ん?」

少女「まるで私達、この瞬間のために生きてきたみたいね」ニコ

少年「……僕も今、そう思ったんだ」ニコ

少女「きっと、命って消えてしまうからこそ美しいのね」

少年「うん。終わりがあるから、皆一生懸命生きてるんだろうね」

少女「でもね、少年」

少年「?」

少女「私はあなたと一緒なら、消えてしまっても良いと思うのよ」ニコ

少年「――!」

少年(あれ、何だろう)ポロ

少年(どうして僕は泣いているんだ?)

少年(悲しくなんて無いのに)

少年(ああそうか、僕は)

少年(感動しているのか……!)

少年「ごめんね、また泣いちゃった」

少女「ううん、嬉しい時には泣いてもいいのよ」

少年「僕もさ、君と一緒なら消えてしまっても良いんだ」

少年「村で生きる人達は正しいと思う」

少年「でも、やっぱり僕は納得出来ない」

少女「……うん」

少年「僕は……呪いに縛られて生きるのは嫌だ」

少年「ただ自分の運命に抗いたいだけ、なのかもしれないけれど」

少年「それでも僕は」

少年「外に出ようと思う」

少女「フフ……ええ、行きましょ?」

少年(村からかなり離れた所に、駅員が居ない無人駅が存在する)

少年(当然、村の人間が此処まで来る事は無い)

少年(僕も名前を知っているだけだ)

少年(今は誰もが寝静まった夜の闇の中)

少年(僕と少女の白い息が、薄暗い明かりに照らされている)

少年(何だか、不思議な感じだ)

少年「切符、って言うのを買えばいいのかな」

少女「そうね。……もう通っても良いのかしら」

少年「良いんじゃないかな」

少年(僕らは古びた木の椅子に座る)

少年「電車はいつ来るんだろう」

少女「さあ、焦る事無いわ。時間はまだあるもの」

少年「そうだね」ニコ

少女「……ねえ、空の色が明るくなってない?」

少年「本当だ。日が昇るみたいだね」

少年(そんな他愛も無い話をしていると、東の方角から何かの音がしてきた)

少年(橙色の四角い物体が、ゆっくりとこちらへ近づいてくる)

少年「これが「電車」か……!」

少女「大きいわね。どうやって動いているのかしら」

少年「もう入って良いのかな? 入ろうか」

少年(僕らは電車に乗り込む。乗客は一人も居ない)

少年(行先なんて決めてないさ)

少年(ただ、何処か遠くへ行きたいんだ)

ガタン……ガタンガタン…

少年「わあ、すごく速いね」

少女「そうね。……ねえ、気付いてる?」

少年「……うん」

少年(段々と、僕と言う存在が消えていくのが分かる)

少年(もう少しで、僕らは……)

少女「あとどれくらいの間、こうして居られるのかしら」

少年「……ねえ、村を飛び出して後悔している?」

少女「……少し。村の人達は心配しているでしょうね」

少年「そうだよね……」

少女「でも、あなたと一緒に居れて嬉しいわ」

少年「少女……」

少年「……僕らは、きっと幸せだよ」ニコ

少女「……うん」ニコ

少年「あのね、僕はずっと……」

少年(その言葉を口にしようとした瞬間、意識が遠のき始めた)

少年(……待ってくれ、後少しだけで良いんだ)

少年(これだけは……最期に伝えたいんだ!!)

少年(その瞬間、少女のバッグから、砂時計が浮かび上がった)

少年「え……?」

少女「浮いてる……どうして?」

少年(砂時計は蒼く光を放ち、僕らの目の前に浮遊している)

少年(そしてくるりと回転し、窓際に着地した)

少年(さらららら、と輝く砂粒が流れ始める)

少年「……あれ? 意識が」

少年(何で……まさか砂時計が止めてくれているのか?)

少女「不思議ね……これも奇跡なのかしら」

少年(流れ星が、願いを叶えてくれたのかな)

少年(……ありがとう。今度こそ言える)

少年「ねえ少女。僕はずっと君の事が好きだったんだ」

少女「!」

少年「最期まで僕と一緒に居てくれてありがとう」ニコ

少女「……私もよ。最期まであなたと居れて幸せだわ」ニコ

少年(ああ)

少年(やっと言えた)

少年(もう寒さなんて微塵も感じない)

少年(何だか、眠たくなってきたな)

少年(僕らはぎゅっと手を繋いだ)

少年(例え僕らが薄氷のような儚い存在だとしても)

少年(今この瞬間だけは、きっと生きていると言い切れる)

少年(そう思えたんだ)

少年(砂時計の、最後の砂粒が下に落ちる)

少年(日が昇ってきた)

少年(眩しい光が僕らを透過していく)

少年(僕らは透明になっていく)

少年「……さようなら、少女」

少女「ええ、さようなら……」

少年(右手の感覚がふわりと無くなる)

少年(少女の手が消えたのか、僕の手が消えたのか)

少年(どちらが先だったんだろう)

少年(僕らは静かに目を閉じ)

少年(そうして、電車には小さな砂時計だけが残った)

ガタン……ガタンガタン……

終わりです。ありがとうございました。

前作 青年「風鈴屋敷の盲目金魚」
青年「風鈴屋敷の盲目金魚」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1499259512/)

儚くて良かった。乙

こういうの、結構好きだわ

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