【ミリマス】杏奈の好奇心は犬を殺す (14)

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ご存知、765プロ劇場には「多目的和室」と呼ばれる部屋があるの。

十二畳ほどの広さのこの部屋はお茶会の会場になったりお昼寝のできる仮眠室になったり、
はたまたレクリエーションルームの代わりに使われたりと季節や用途に合わせて変幻自在の変身を見せる。

そして今、いつも畳のいい匂いがしてるこの部屋にはコタツがデーンと置かれてた。

アイドル事務所にコタツって? なんて事情を知らない人は首を捻るかもしれないけど、
これは「女の子が体を冷やすのはよくないだろう」なんて社長の粋な計らいから導入に踏み切られた経緯のある一品だよ。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1512036481


だからコタツが部屋に置かれてても、アイドルがその中に入ってても、あまつさえコタツから出した上半身をゴロンと畳に転がして、
携帯ゲームをピコピコ遊んでても誰も「変だな?」とか思ったりなんてしないワケ。

「望月さん」

しない、ワケ。

「望月さん」

……でもないみたい。二度も自分の名前を呼ばれたら、返事しないワケにもいかないよね。

ゲームにポーズをピッとかけて、声のした方へと目を向ける。
するとそこには杏奈と同じコタツに入り、宿題を進めている千早さんの顔があった。

「ゲームしてるところをごめんなさいね。でも少し、聞きたいコトがあったから」

「聞きたい、こと……杏奈に……?」

はて、一体なんだろう? 流石に勉強してる人のすぐ隣で遊んでたのはマズかったかな?

「ええ、望月さんもお蜜柑食べる? ちょうど今、皮を剥き終わったところなの」

でも違った。千早さんは優しい笑顔でそう言うと杏奈に剥いたばかりのミカンを見せてくれる。

ちなみに説明しておくと、このミカンは歩さんの実家から送られて来た物だよ。
普通にスーパーで売ってるミカンより、甘くてとっても美味しいの!


「ん、食べます」

「よかった! じゃあ畳から体は起こしてね。寝転がったまま食べるのは、流石にお行儀が悪いから」

そうして千早さんに言われるまま杏奈はコタツに座りなおした。
ゲームも一旦台の上に置いて、彼女から貰ったミカンに手をつける。

唇で挟んだ一房は、噛めば少しの酸味とあまーい果汁を口いっぱいに広げて行き、
それはコタツで汗を掻いていた杏奈の渇いた喉に芳醇な潤いをもたらした。

ああ、ミカンを口に運ぶ杏奈の指が止まらないよ~!

「ふふっ、夢中になって食べる望月さん……可愛いわ」

注がれる温かい視線もなんのその。渡されたミカンを食べ終えると、杏奈の腕を千早さんがそっと掴まえた。
(なんだろう?)と思って目をやると、彼女はティッシュペーパーを握ってて。

「指を拭くから動かないで……はい、できた」

「あ……ありがと、です」

「ううん、いいのよ。……それよりお蜜柑もう一ついかが?」

千早さんは度々こんな風に、まるでお母さんみたいに杏奈たちをお世話してくれる。
彼女のこういう自然と他人に気を配れるところ、杏奈はしっとり落ち着いてて素敵だなって思うんだよ。


……でもそのことをプロデューサーさんに話したら、あの人は笑いをこらえるようにして
「そ、そうか? まぁ千早も先輩としての自覚が出て来たか」なんて言ってたっけ。

これには杏奈もムッとした。いくらプロデューサーさんでも、
千早さんに対して少し失礼だなって思ったもん。

「お、コイツは珍しい組み合わせだな」

――なんてことを考えたからかな? 噂をすればなんとやら、多目的室の襖を開けて
(そう、この部屋は襖で廊下と繋がってるんだよ)プロデューサーさんが顔を出した。

だけど、杏奈たちは一瞬呆気にとられたの。

それは彼が突然現れたからじゃなくて、プロデューサーさんの服装が、あまりに奇抜過ぎたから。

「プ、プロデューサー? その服……いえ、その恰好は一体全体……?」

「ああこれか? 来年の干支が犬だからって、イベント用に社長が思い付きで用意してさ~。今はそれの試着中」

「試着ですか……」

「そう、サイズが合ってるかどうかとかな」

それでも戸惑う千早さんに続き、杏奈も彼に訊いてみる。

「それで、えと……着ぐるみ?」

「おう、杏奈がいつも着てる服みたいにフードだってついてるんだぞ。ほら!」


言って、犬の着ぐるみパジャマ(だって、そう見えるんだから仕方ない)を着たプロデューサーさんはフードを頭に被って見せた。

そのフードがまた普通の物とは違ってて、被ればちゃんとした着ぐるみを着ているように彼の頭部をすっぽり覆い隠しちゃうの。

「青羽さん謹製いぬ美スペシャル。どうだ? 中々似合ってるだろう? なんてったって雪歩が泣き出した出来栄えだ!」

「確かによく出来ているとは思いますよ。……まぁ、着ぐるみの似合わない人が世の中に居るかは知りませんが」

感想を求められた千早さんが、今度は呆れた様子でそう答える。

そうして大きな犬になったプロデューサーさんは杏奈たちのいるコタツの傍までやって来ると、
手にしていた書類なんかを台の上にポンと置いてその場に座ったの。

「んじゃ、ちょっとお邪魔するよ」

「えっ? プロデューサー、お仕事なら事務室で――」

「用事があるのはお前だ千早。今度の仕事の段取りをな」

プロデューサーさんと千早さんがお仕事の話を始めちゃうと、杏奈は途端に暇になっちゃった。
目の前で真面目な話をする二人の横で、ゲームの続きをするのも気が引けるし……。

仕方ないから新しい蜜柑を籠から取って、皮をめりめり剥いでいく。


それにしても、プロデューサーさんの着ている着ぐるみはあったかそう。

響さんの飼ってるいぬ美ちゃん(確か、セントバーナードって言うんだっけ?)をモデルにしたその服は、
もふもふした毛並みもキチンと再現している手の凝りよう。

きっと手触りも本物みたく、ふわふわでもしゃもしゃでふさふさの――。

(ちょっと、ちょっとだけ……あの毛並み触ってみたい、かも……)

頭に浮かんだ誘惑は、時間が経つほど強くなる。プロデューサーさんはちょうど杏奈の向かい側。
その毛並みを確かめてみる為には今いる場所から移動しなくちゃいけなくて……。

でも、でも、どうしよう! 変な子だって思われない? 
こそっと近くまで寄ってって、おもむろに背中を触ったりしたら――。

けどその時だ。カチっとスイッチが入ったのは。

(あ! そうだ、さすればいいんだ。
こう、気分が悪そうに見えたからとかなんとか適当な理由をくっつけて!

そうでなくてもプロデューサーさん、結構色んな子からハグやタッチはされてるし、
今頃杏奈一人が突然背中を触ったところでって話だよね! ね!?)

そうと決まればビビッと実行! ゲームもリアルも同じ同じ、
攻める時は強気で行かなくちゃ、ベストスコアは生まれない!


杏奈はコタツから立ち上がると、打ち合わせを続ける千早さんの後ろを回ってプロデューサーさんの背後まで歩いてく。
その間、二人は杏奈の行動に気づきはしたけど気にはしてないみたいだった。

勝負は一瞬、やるなら速攻。杏奈はすぅっと息を吸うと、目の前のもふもふに向かって右手を伸ばし――。

「ん!」

タッチ! &スライド! そして左手も添えてのラブ・LOVE・ラビット!

……あ、やだ、この手触り。指先に絡みつくふさふさ毛並みのこしょばゆさ、手の平に伝わるフィット感、
そして毛皮をさすればさするほど、もしょもしょわさわさと相手を弄んでいる感じがしてくる征服感!!

「ん!? んっ! んんっ!!」

凄い凄い! これ凄いっ!! まるで本物のワンちゃんを撫でてるような感触に、
杏奈は無我夢中で両手をわしゃわしゃ動かし続けてしまったの。

それはもう、百合子さんが待ちに待った新刊を貪るように読んでる時にもよく似てて。
つまり、その、周りが見えなくなっちゃってた。

「も、望月さん? プロデューサーが困ってるわ」

そんな杏奈の行動に、千早さんが慌てた様子で声を上げる。

プロデューサーさんはと言えば、千早さんの言葉通り
突然の出来事に混乱して動きも思考も止まってしまってるらしかった。

自分がやり過ぎてしまったことを悟り、杏奈のスイッチも自然と切れる。
上がってたテンションも急降下。パッと両手を離したら、杏奈、どうしたらいいか分からないまま千早さんへと顔を向けたの。


「望月さん、突然どうしてしまったの?」

「う……えっと、これは……」

「……もしかして、着ぐるみの手触りが気になった?」

「……はい」

こくんと小さく頷けば、千早さんはやれやれといった風に息を吐いて。

「なら、触る前に一言聞くべきね。いくら不意打ちに慣れてるプロデューサーでも、
アナタみたいな子に突然そんなことをされたら驚くわ」

「えっ?」

「だってそうでしょ? 望月さんは麗花さんやエレナと比べて大人しいし、
亜美や真美たちみたいにイタズラっ子と言うワケでもないし」

彼女が苦笑するその理由は杏奈にだって理解できる。
だから未だ固まったままのプロデューサーさんに、杏奈は「ごめんなさい」と一度謝ると。

「あの……プロデューサーさん。……杏奈、背中撫でててもいい?」

「あ、ああ……別にいいさ。減るもんじゃないし」

「良かったわね、望月さん。……ではプロデューサー、打ち合わせの方も進めましょう」


今度はゆっくり丁寧に、着ぐるみの毛並みを楽しんでく。
二人の方もすぐに杏奈のことを気にしなくなって、和室にはまったりとした空気と時間が流れ出した。

……それにしてもプロデューサーさんの背中って大きいな。
お父さん以外の男の人の背中をまじまじと見ることって普通は無いし。

そして、さらに、もう一つ言うと、この素晴らしい毛並みに触れれば触れる程
杏奈の胸の奥でむくむく膨らむ好奇心。

千早さんは事前に訊けば大丈夫って言ってたし、プロデューサーさんの方も
事務所の他の人からされたことが無いワケじゃないことだし……。

「……プロデューサーさん、あのね? 杏奈、試してみたいことがあるんだけど……してもいい?」

「ん~? 危なくないことなら構わないよ」

「ホントに? ……それじゃあ――」

だから杏奈は、心のままに動いたよ。

「もっ、望月さん!?」

千早さんの声がさっきより驚いてるように聞こえたし、
プロデューサーさんの動きが再び止まってしまったことも分かったけど、
でもでもやっぱりこの誘惑には勝てなかった。

だって、だって確かめてみたかったんだもん。
ほっぺに当たるふわふわ毛並み。ああ、杏奈幸せ――♪

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以上おしまい。トレーナーの上から杏奈ちゃんのお腹撫でまわしたい。
個人的には千早→杏奈は杏奈呼びの方が萌えるけど、公式ではまだ不明っぽいので今回は望月さん呼びです。

そんな望月杏奈ちゃんの新曲『ENTER→PLEASURE』が収録される『THE IDOLM@STER MILLION LIVE! M@STER SPARKLE 04』は発売間近、
ミリシタでは現在"限定"サンタ杏奈ちゃんと雪歩のSSRガシャが開催中ですよ!

では、お読みいただきありがとうございました。

分かる、絶対触り心地いいと思うわ
乙です

>>2
望月杏奈(14)Vo/An
http://i.imgur.com/ArqHl3f.jpg
http://i.imgur.com/bEyC9bz.jpg

如月千早(16)Vo/Fa
http://i.imgur.com/tezIDyF.jpg
http://i.imgur.com/RFRxkra.jpg

『ENTER→PLEASURE』
http://youtu.be/u3uoAuKOsDg?t=111

ビビッと乙!


もっちー可愛い

コタツから出られるとか杏奈ちゃん凄い

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