先輩「手を繋げば分かるだろ」後輩「ダメです」 (118)

百合です

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~文学部棟・ゼミ生用研究室~



ガチャリ


先輩「うーっす……」

後輩「どうも」

先輩「あれ、お前だけ?」

後輩「ええ、まぁ……」

先輩「ふーん」

後輩「……」ペラ

先輩「……」

後輩「……」

先輩「……珍しいね、みんな遅ぇの」

後輩「え?」

先輩「え、って」

後輩「先輩聞いてないです?」

先輩「何?」

後輩「今日ゼミお休みですよ?」

先輩「え」

後輩「えぇ」

先輩「えぇぇ~……」

後輩「えぇ、えぇ」

先輩「『え』だけで会話する部族みたいになってんじゃねえよ。……いやぁ~、なんだよもう、来ちゃったよ今日、ゼミだけだったのにさぁ」

後輩「あらら」

先輩「連絡しろよな誰かさぁ~」

後輩「LINE来てましたよ、グループで」

先輩「……」

後輩「……」

先輩「……私んとこ、来てない」

後輩「えぇ……」

先輩「なに、やだ、ちょっと、私もしかして嫌われてる? ウザくてハブかれてるヤツ? マジ? やだぁ、ちょっとぉ……」

後輩「いや、行ってますって先輩のとこにも、連絡」

先輩「来ーぃてねえ、っつってんだろぉー! ほら! LINEみてもメッセージ――……」

後輩「……」

先輩「……あ、来てた」

後輩「……」

先輩「……」

後輩「……」

先輩「や、あるじゃん? なんかiPhoneでさぁ、LINE通知こない現象? みたいなやつ。たまーにさぁ」

後輩「さぁ……、ないと思いますけど」

先輩「いいんだよそこは、ありますぅ~! って言っとけば。あるあるぅ~って言っときゃいいんだよ」

後輩「あるあるぅ~」

先輩「……お前、よくそんな無表情でそれ言えるな。すげえ」

後輩「……」

先輩「あ! っていうか、後輩からもLINE来てる!」

後輩「……一昨日のやつ?」

先輩「一昨日のやつ! なに『先輩夜暇?』って。四字熟語かよ」

後輩「気付いてなかったんですか……」

先輩「えぇ……何よぉ、もう、言ってよ後輩ちゃぁん」

後輩「既読つかないし、嫌われてウザくてハブかれてるヤツかと思いました」

先輩「そんなわけねーだろー、たかがLINEで。気にしすぎかよ」

後輩「……」

先輩「はぁー……、ま、いいや。ごめんね」

後輩「いえ……」ペラ

先輩「……」

後輩「……」ゴクゴク

先輩「……」

後輩「……帰らないんです?」

先輩「んー、なんか疲れちゃったから」

後輩「そうですか……」

先輩「……」

後輩「……」ペラ

先輩「……」

後輩「……」ゴクゴク

先輩「……そういや、お前何しに来たん」

後輩「何って、普通に勉強ですけど」

先輩「うわ普通」

後輩「普通ですよ」

先輩「……」

後輩「……」ペラ

先輩「後輩ちゃーん」

後輩「はい」

先輩「何読んでんのー?」

後輩「論文」ペラ

先輩「あー……、秋成だっけお前、来年」

後輩「えぇ」

先輩「キツいの選んだね」

後輩「まあ、好きですし、キツいの嫌いではないですし」

先輩「ふーん……」

後輩「……」ペラ

先輩「……」

先輩「……」

後輩「……」ゴクゴク

先輩「後輩ちゃーん」

後輩「はい」

先輩「何飲んでんのー?」

後輩「水割り」

先輩「えっ? えっ?」

後輩「……」

先輩「えっ!?」

後輩「うひひひ」

先輩「は? 何お前、ペットボトルに午後ティー無糖っ! みたいな感じで水割り入れてんの!?」

後輩「好きですし」

先輩「はぁ!? え、ちょっと、一口!」

後輩「どうぞ」

先輩「……」ゴク

後輩「……」

先輩「……濃く作ったなー、お前なー」

後輩「普通らと思いまひゅけろ」

先輩「呂律」

後輩「冗談です」

先輩「はぁ……」

後輩「……」ペラ

先輩「……ってか、ゼミ室で飲むなよ、お前」

後輩「どうせ誰も来ないと思って、今日」

先輩「来たじゃん」

後輩「来ましたけど」

先輩「体壊すぞ」

後輩「お外出られないんですよ、素面だと」

先輩「大変ね」

後輩「大変です」ゴクゴク

先輩「……」

後輩「……」ペラ

先輩「……はぁ」ペラ

後輩「……」

先輩「……」ペラ

後輩「……先輩」

先輩「おー」

後輩「何読んでるんですー?」

先輩「ワンピ」

後輩「何巻?」

先輩「1巻」

後輩「1巻!?」

先輩「全巻読み返そうと思って」

後輩「全巻? 正気ですか?」

先輩「おう」

後輩「わぁー……」

先輩「……」ペラ

後輩「……またダブりますよ」

先輩「ほっとけ」

後輩「……」

先輩「……」

後輩「……」ゴクリ

先輩「……」

後輩「……」スタ

先輩「……」

後輩「……」テクテク

先輩「……」

後輩「……」パサッ

先輩「……」

後輩「……」ポフッ

先輩「うおっ」

後輩「……」

先輩「何だよお前、隣くんなよ」

後輩「いいじゃん」

先輩「そっちのソファで良かっただろ別に――……あっ、酒臭っ!」

後輩「別に先輩の隣に来たわけじゃないですぅ―、こっちのソファが良かったから移っただけですぅ―」

先輩「うざい。そして臭い」

後輩「むしろ先輩が邪魔なのでどいてください。あっち行って」

先輩「……」メリメリメリ

後輩「痛い痛い耳取れる痛いごめんなさいごめんごめん」

先輩「……ったく」

後輩「いてて……」

先輩「……」ペラ

後輩「……」ペラ

先輩「……」

後輩「……」

先輩「……」ペラ

後輩「……」ペラ

先輩「……」

後輩「……」



テロテロテロン♪

テロテロテロン♪



後輩「……」

先輩「……」ピッ

後輩「……」

先輩「もしもーし、マコちゃんうぃーっす」

後輩「……」

先輩「えぇ? 今ゼミ室。あはは、そうそう。来ちゃってさぁ」

後輩「……」

先輩「うるせー、ほっとけっつーの!」アハハ

後輩「……」

先輩「あ、リャオちゃんいるの? 今一緒? 飲むの? 今から? ああ夕方」

後輩「……」チラッ

先輩「『小まつ』か『ナイフラ』? うーん――……」

後輩「……」チラチラ

先輩「いや、今日後輩と飲みいくんだわー」

後輩「……!」

先輩「え? そうそう、あいつもいたよ。バカだから」

後輩「……」

先輩「そゆことー。うん、また今度なー、そんじゃー」

後輩「……」

先輩「……」ピッ

後輩「……電話で人のことバカとか言わないでくださいよ」

先輩「事実だろ」

後輩「事実ですけど……」

先輩「事実じゃん」

後輩「……っていうか、何で飲みに行くことになってるんですか」

先輩「行こーぜー」

後輩「そういうことじゃなくて、本人に断る前に勝手に――」

先輩「行かないの?」

後輩「いっ――……」

先輩「……」

後輩「行きっ、ます、けどぉ……っ」

先輩「へっへっへ」

後輩「もう……」

先輩「じゃ、もうちょいしたらな」

後輩「はい」

先輩「……」

後輩「……」

先輩「……」

後輩「……先輩」

先輩「おう」

後輩「アレ、やってください」

先輩「今ぁ?」

後輩「うん」

先輩「はぁ……。じゃ、手」

後輩「はい」スッ

先輩「……」ニギッ

後輩「……」

先輩「……ふぅー……」

後輩「……」

先輩「……」

後輩「……」

先輩「寺町通り、『泉酒場』な。はいはい」

後輩「はい」

先輩「あと――……」

後輩「はい?」

先輩「……ばーか」

後輩「うひひ」











~少し前~


『それでは、我々の文学コースの、新たな仲間たちにー』


『カンパーイ!』


カンパーイ


ワイワイ


ガヤガヤ







後輩『て?』

先輩『うん、手』

後輩『え、すみません。それで、何ですって?』

先輩『だからな、手、握んの。ギュッて』

後輩『……や、その先』

先輩『そしたら、お前が何考えてるか、当てるから』

後輩『……えぇー』

先輩『いいから、ほら、出してみ』

後輩『はぁ……』スッ

先輩『ん』ニギ

後輩『……』

先輩『……はぁー……』

後輩(指細いな、この人)

先輩『……』

後輩『……』

先輩『……』

後輩『……』

先輩『……すみませーん』


ハーイ


先輩『日本酒……えー、八海山。4合』

後輩『!!!』

先輩『以上で』

後輩『……っ』ニギッ

先輩『あっ、お猪口、えー……』

後輩『……』ニギニギ

先輩『……1つで』


ハーイ


後輩『……』

先輩『……』

後輩『……』

先輩『……』

後輩『おっ』

先輩『”お猪口は2つって言ったじゃん”』

後輩『……っ』

先輩『日本酒飲めねぇからな、私』

後輩『……』

先輩『ってかすげぇ飲むのな、お前。変なヤツ』

後輩『せ、先輩に言われたくないです……』

先輩『あはは』

後輩『あははじゃなくて……。いや、あの……』

先輩『おう』

後輩『な、何ですか、今の』

先輩『特技』

後輩『特技で済むかなぁぁ!?』

先輩『他のみんなには、秘密だからな』

後輩『は、はぁ……』

先輩『……』ジッ

後輩『分かりました、けど……』

先輩『よしよし』





今日はここまでです

>>18
>先輩「あと――……」

>後輩「はい?」

>先輩「……ばーか」

>後輩「うひひ」

何を伝えたんでしょうかねえ…






~居酒屋~


後輩「……あのとき」

先輩「うん?」

後輩「先輩なんで、アレしてくれたんですか?」

先輩「んー……」

後輩「……」

先輩「お前、なんか、つまんなそうにしてたから」

後輩「えぇー……」

先輩「ビックリさせてやろ、って思って」

後輩「そんな、しょうもない」

先輩「……あと」

後輩「はい?」

先輩「……」

後輩「……」

先輩「……」

後輩「?」

先輩「ま、色々」

後輩「何ですか、それぇ」

先輩「ねえ、どれ飲む?」

後輩「ん~……」

先輩「これは?」

後輩「これは、福井のお酒で……、こっちの方が、多分ちょっと甘口だと思います」

先輩「へぇ」

後輩「甘口でいいです?」

先輩「いいよー」

後輩「じゃ、これ2合で」

先輩「おう」


スイマセーン


ハイヨー










後輩「……」グビグビ

先輩「あんときまだ私、酒飲めなかったんだけどな」グビ

後輩「でしたね」

先輩「お前に、色々飲まされてな」

後輩「人聞きが悪い」

先輩「嫌がるアタシに、無理矢理酒の飲み方シツケて――……」

後輩「うへへへ、本当はスキなんだろぉ」トプトプ

先輩「いやぁんバカ――……あ、飲みやす」グビ

後輩「ですよね」

先輩「おー……、美味しいかも」グビ

後輩「あんまり飲みすぎないでくださいよ、先輩超弱いんですから」

先輩「分かってるっつーの! 舐めんな!」グビグビ










~2時間後~


後輩「……」グビ

先輩「……」

後輩「……」

先輩「……」

後輩「……」グビ

先輩「……ぅ」

後輩「……先輩?」

先輩「……ぅー」カク

後輩「あー……」

先輩「……」クテン

後輩「あーあー」

先輩「……ぅーん」グテー

後輩「だから言ったじゃないですかぁ」

先輩「……うるひゃいにゃあ」

後輩「呂律」

先輩「……よってねえもんー……」

後輩「嘘つきー」

先輩「ほんとだもん……」

後輩「そんなわけないでしょ」ニギッ

先輩「……」

後輩「ほらほら、分かります?」ニギニギ

先輩「……ふぅー、ぅ……」ギュ

後輩「……」

先輩「ぅ……」

後輩「ベロベロになっちゃうと、使えないんですよねー、先輩はー」

先輩「うー……」

後輩「うひひ」

先輩「あぁ~……、やだぁ、わかんないよぉ……、なんでぇ……」ニギ

後輩「……」

先輩「分かんないよう、怖いよう」

後輩「大丈夫ですよー……」ナデナデ

先輩「……ふぁ」

後輩(……生あくび)

先輩「……うぅ」

後輩(耳真っ赤だし)

先輩「……」

後輩(触ったら……)

先輩「……」

後輩(怒られるかな……?)

先輩「……う」

後輩「……っ」ビクッ

先輩「やば、ごめ、ちょっ――……」

後輩「あー、はいはい、トイレこっち、先輩、こっち」

先輩「……うぅぅぅっ」ヨロッ

後輩「我慢我慢、先輩、ほら」





ゴボ

ジャバー


先輩「……んぅぅ」ヨタヨタ

後輩「私のうちまで、がんばりましょうね。ほら、ゆっくりですよ」

先輩「うん……」

後輩「すみませーん、お会計ー」










~帰り道~



先輩「……」ヨタヨタ

後輩「……」ヨタヨタ

先輩「……」

後輩「……」

先輩「……」ヨタヨタ

後輩「……」ニギ

先輩「……」

後輩「……」ニギニギ

先輩「……うぅ~ん……」

後輩「……先輩」

先輩「……」

後輩「……本当はね」

先輩「……」

後輩「……私もう、本当は、もう駄目なんですよ」

先輩「……」

後輩「本当に駄目で、終わっちゃってて……」

先輩「……」

後輩「頭おかしくて……」

先輩「……」

後輩「……普通にできなくて、普通にしてるの、辛くて……」

先輩「……」

後輩「耐えられなくて……」

先輩「……」ヨタヨタ

後輩「……先輩、人来てますよ、危ない」

先輩「ん~……」ヨタヨタ

後輩「……」

先輩「……」ヨロヨロ

後輩「どうしようもなくなって、飲んじゃって、私……」

先輩「……」

後輩「飲むとね……」

先輩「……」

後輩「よく分からなくなって、フワフワって」

先輩「……」

後輩「船で、どこか遠くの海を……」

先輩「……」

後輩「漂ってるみたいに……」

先輩「……」

後輩「……そのときだけは、気持ちよくて、安らかで」

先輩「……」

後輩「……本当の、本当に、終わっちゃうまで、こうして……」

先輩「……」

後輩「どんどん、駄目な方に流されて行ってるんです……」

先輩「……」

後輩「でも……」

先輩「……」

後輩「先輩といるのは、こうやって、一緒にいるのは……」

先輩「……」

後輩「ちょっとだけ……」

先輩「……」

後輩「好きです……」

先輩「……」

後輩「でもね――」

先輩「……こうはいぃ……」

後輩「……はいはい」

先輩「なんかぁ……」

後輩「はい」

先輩「寒い……」

後輩「……そうですね」

先輩「……」

後輩「……あっためてあげましょうか?」

先輩「……」

後輩「……冗談ですよ」

先輩「……」ヨタヨタ

後輩「……ふふ」ヨタヨタ

今日はここまでです

期待

ほんとこの先輩後輩好き






~数日後~


~講堂~



「――えー、では、本日はここまでー」



ガヤガヤ

ガヤガヤ


後輩「……ぅぅ」



コーハイチャーン!!


後輩「っ!」ビクッ


マタネー

バイバイー


後輩「あ……ぅ、ぇ、えっと……」オドオド

後輩「……」ペコリ


キャッキャ


後輩「……」









後輩「……うぅぅっ」


後輩(無理……)

後輩(無理無理……っ)


後輩「……」ガタ

後輩「……」トボトボ


後輩(ビール……ビールでいいか……)

後輩(2本も入れれば、午後のコマの間は、何とか……)


後輩「……」トボトボ


後輩(お昼食べる前に、コンビニ行って……)


後輩「……」


後輩(学食……、生ビール置いてくれ……)


後輩「……」トボトボ

先輩「おぉーっすぅ!!」ガシィ

後輩「ひあぁぁ!?」ビクーッ

先輩「後輩じゃーん! 元気ぃー?」ウリウリ

後輩「せ、先輩……。びっくりしたぁ……」

先輩「へっへっへ」

後輩「はぁ……」

先輩「お、今日は飲んでねぇんだな。偉い偉い」

後輩「な、何で分かるんですか……」

先輩「いや、なんか、素面だとお前、挙動不審」

後輩「……、もっとオブラートに包んでくださいよ……」

先輩「今からメシ?」

後輩「コンビニ行くとこです」

先輩「学食でいいじゃん」

後輩「いや、あの……ガソリン……、買いに……」

先輩「……」

後輩「……」

先輩「お前ー……」

後輩「な、なんですか」

先輩「ほんとダメ子だなぁ……」

後輩「ほっといてくださいよ……」

先輩「ダメダメの実の全身ダメ人間」

後輩「ムカつく……っ」

先輩「飴ちゃんやるから、ほれ、これで我慢しろって」ガサゴソ

後輩「無理ですよ……、午後から2コマもあるし……」

先輩「あ、私も2コマ」

後輩「文学棟です?」

先輩「いや、ハルちゃん先生の――……」

後輩「え……、もしかして、基礎教養……?」

先輩「おう」

後輩「……先輩、5年生にもなって、そんな……」

先輩「うーるせぇ。はい、飴ちゃん」

後輩「……、……もらいます、けど」

先輩「おう」

後輩「……ありがとうございます」パク

先輩「……」

後輩「……」コロコロ

先輩「……」

後輩「……」コロコロ

先輩「……」

後輩「……」ゴリリッ

先輩「……!?」

後輩「……」ゴリッ バリッ

先輩「…………」

後輩「……」バリ ボリ

先輩「………………」

後輩「……」ボリボリ

先輩「……早くない?」

後輩「えぇー?」ゴクン










~ゼミ生室~


先輩「お前パンの人だっけ?」

後輩「パンの人です」

先輩「ふーん」

後輩「先輩は?」

先輩「今日は弁当の人」

後輩「わ、ちゃんとしたやつだ……」

先輩「別に、ちゃんとはしてねぇけど」

後輩「自炊できるの、意外ですよね、先輩」

先輩「意外とか言うなバカ」

後輩「授業、終わったらどこか行きます?」

先輩「あー……、今日バイト」

後輩「あ、そうでしたか」

先輩「バイト終わりなら、行けるけど」

後輩「えー……」

先輩「『ナイトフライト』とか、開いてるだろ、普通に」

後輩「遅いのキツいです」

先輩「それは、まあ」

後輩「あと、元町通りとか、あっち知り合いいそうだし……」

先輩「いいじゃん、別に」

後輩「よくないです……」

先輩「あっそ。んじゃ、今日はパスだな」

後輩「はい……」

先輩「……あ、そうそう」

後輩「はい?」

先輩「ちょっと手、貸して」

後輩「なんです?」

先輩「いいから」グイ

後輩「やっ、ちょ……そんな急に……」

先輩「どうでもいいこと、考えてろ」ニギ

後輩「どっ――……」

先輩「……スゥ――……」

後輩(札幌カニ食べ放題フリープラン、札幌カニ食べ放題フリープラン……)

先輩「はぁー……」ギュッ

後輩(札幌カニ――……)

先輩「……あ、やっぱダメだ」

後輩「――え?」

先輩「いや、いつものアレ、できなくなってるわ。はい、ありがと――……」

後輩「えっ、え、えぇぇぇっ!?」ガバッ

先輩「うぉっ、びっくりしたぁ」

後輩「ど、どど、どういうことですかぁ!?」

先輩「あ? どうって……、別に普通に、見えなくなって、的な?」

後輩「い、い……いつから」

先輩「さぁ……? 今朝からかなぁ? なーんか、いつもと調子違う感じで」

後輩「な……っ」

先輩「今日は調子悪いみてーだなー」

後輩「今日は……って……、よ、よくあるんですか、そ、そういうの……」

先輩「いや? 生まれて初めて」

後輩「っ!?」

先輩「変な感じだったから、一応、確認したかったんだけど」

後輩「……」

先輩「でも試せる他人なんて、お前くらいだしなー」

後輩「……」

先輩「いやー、午前中モヤモヤしっぱなしでさぁ」

後輩「な、なんで……」

先輩「ん?」

後輩「なんで、そんな……、へ、平気そう……なんですか……」

先輩「あぁ? 別に大した話じゃねーよ。普段の生活困らないし」

後輩「……」

先輩「できないなら、できないで、影響ねーしさぁ」

後輩「う…………」







『あぁ~……、やだぁ、わかんないよぉ……、なんでぇ……』


『分かんないよう、怖いよう』








後輩(……嘘だ)

先輩「後輩、お茶一口もらうぞー」

後輩「……」

先輩「……また水割りじゃねぇだろうな……」

後輩「……」

先輩「なぁ後輩……後輩ー……?」

後輩「……わ、私が」

先輩「あぁ?」

後輩「私が先輩に、いっぱいやらせすぎたから……」

先輩「はぁ? どうした急に?」

後輩「ど、どうでもいいことで、チカラ? みたいなの? 使わせすぎちゃってっ、それで……っ」

先輩「あっはは、何だそりゃ」

後輩「だって……っ、急にそんなの、おかしいじゃないですかっ」

先輩「いやぁ、関係ねぇと思うけどなぁ」

後輩「でも……」

先輩「つーか、チカラってお前」

後輩「……じゃ、じゃあ私が、先輩にお酒、飲ませすぎて……それで……」

先輩「はぁ……、後輩ちゃーん……」

後輩「先輩の身体に、悪い影響あって、それでおかしくなっちゃって……、飲んだ時みたいに、先輩……」

先輩「お前なー……」ワシャワシャ

後輩「わぷ……っ」

先輩「なーんで、後輩ちゃんの方が切羽詰まってんのよ。えぇ?」

後輩「だって……、先輩がアレ、するの……私だけ……なんですよね?」

先輩「まあ、うん」

後輩「だったら、私が……、わたっ、わ、私の何か……」

先輩「だーからさぁ……、大した話じゃねーんだって」

今日はここまでです


いいねえ

ダメダメの実の全身ダメ人間…

後輩「でも……っ、もし私が……」

先輩「あーもう、ウザったい」

後輩「もし先輩、治らなかったら……」

先輩「しつこいっての! いい加減怒るぞ」

後輩「ぅ……」

先輩「……」

後輩「……」シュン

先輩「……はぁ」

後輩「……」

先輩「……ま、そのうち治るんじゃねーかな」

後輩「……」

先輩「それまではお前、言うことあったらな、ちゃんと口に出して言えよな」

後輩「……」

先輩「すーぐ面倒臭がって、手ぇ握らそうとするからなぁお前は」

後輩「分かりましたよぅ……」

先輩「あはは」ナデ

後輩「……」

先輩「……」ナデナデ










~数日後~


後輩(あれから……)

後輩(やっぱり先輩の、不思議な特技は、使えないままで……)

後輩(けれど先輩は……)



先輩「……えっ、嘘、今日私あたる番!?」

ゼミ生A「そうだよぉ、やってないの?」

先輩「うっわ、やってないやってない」

ゼミ生B「アハハ、先輩チャン、アカンやつ、アカンやつ」

先輩「やだぁ、マジかぁ……。誰かやってない? 見せてくれない?」

ゼミ生A「……はぁ、天気いーねー」

ゼミ生B「……そうネー」

先輩「露骨に目ぇそらすねアンタたち!」



後輩「……」

後輩「……」

後輩(……いつもと変わらなくて)

後輩(……気にしていないっていうのも、虚勢でもなんでもない、様子で)

後輩(……でも、私は――……)

後輩「……」

後輩(私は……)

先輩「後輩ぃ!」ガッ

後輩「わっ」

先輩「ここ! ここの現代訳、やってある!?」

後輩「え……えぇ、やりました……、けど……」

先輩「あぁぁっ、神! 神いた!」

後輩「えぇ…………」

先輩「頼む! 写させて! お願いしますっ! 後輩サマっ!」

ゼミ生A「見て、年下に縋り付いてるよ」

ゼミ生B「悲しいセンパイだナー」

先輩「そこ! うるさい!」

後輩「……」



後輩(……先輩は、いつも通りなのに)

後輩(……いや、いつも通りだからこそ……)



後輩「……」

先輩「……後輩?」

後輩「……え」

先輩「……」

ゼミ生A「後輩ちゃーん、もうちょっと焦らしな」

ゼミ生B「そのうち靴舐めてくれるヨ、そのコ」

先輩「しゃらーっぷ!」

後輩「…………今度、一杯おごりですよ」

先輩「うぉぉ、奢る奢る! あーりがとーぉぉ!」

後輩(私が、いつも通りでいることに、戸惑ってしまっている……)

後輩(ぎこちなく、なっているのが、分かる……)


後輩「……」チラッ

先輩「……どうした?」

後輩「い、いえ……、何でもないです……」

先輩「……」

後輩「何でも……」

先輩「……」









~後輩のアパート~


後輩「……ふぅ」

後輩「……」カシュッ

後輩「……」グビ


後輩(……ふと思うのは)

後輩(……先輩にとって、私は……)

後輩(毒なのではないか、ということ……)


後輩「……」

後輩「……」


後輩(……先輩は優しいから)

後輩(きっとそんな風には、思わないのだろうけれど)

後輩(彼女の何かを……、侵し、擦り減らし……)

後輩(苦しめているのではないかということ……)


後輩「……」

後輩「……」


後輩(私自身が、転がり落ちている堕落に……)

後輩(先輩も……、巻き込んでしまっているのでは、ないか……)

後輩(とか)



後輩「……」

後輩「……ふぅ」


後輩(これ以上は、先輩に迷惑かけたくない……)

後輩(これ以上は、先輩の何も欠けさせたくない……)

後輩(私は――……)

後輩「私……」

後輩「しっかりしなくちゃ、なぁ……」

後輩「……」

後輩「……」スク

後輩「……お酒」

後輩「……」

後輩「……やめようか……」ジャー

後輩「……」ドポドポ



ザバッ

ジャバー



後輩「……先輩」










~数日後~


~大学構内~


先輩「おう、後輩じゃん」

後輩「……」

先輩「後輩? こーうはいちゃーん?」

後輩「……へ? あ、あぁ、先輩」

先輩「うわ、疲れた顔してんねぇ」

後輩「いえ、疲れてるわけじゃないですけど……」

先輩「そうなん?」

後輩「……お酒、我慢してて、最近」

先輩「あっはは、面白いこと言うね、お前も」

後輩「……、……本当ですよ」

先輩「えっ」

後輩「……」

先輩「……」

後輩「……」

先輩「えっえっ」

後輩「ガチのビックリの顔やめてください……」

先輩「えぇ、いや、偉いけどさ……、どうしたの急に」

後輩「……いや、別に……、何となく」

先輩「飲まないとシンドい、って言ってたじゃん」

後輩「……シンドいんですよ、だから……」グデー

先輩「あー」

後輩「周りの音、大きくないです……? 耳痛くて……」

先輩「大丈夫?」

後輩「だい……」ハッ

先輩「ん?」

後輩「……だいっ、だ、大丈夫ですっ」ガバ

先輩「わっ、そ、そう?」

後輩「ええ! 心配、ないですから!」

先輩「な、ならいいけど……。あ、そだ」

後輩「何です?」

先輩「手ぇ出して―」

後輩「!」サッ

先輩「はい、飴ちゃ――……」

後輩「……」ニギ

先輩「……」

後輩「……あ」ギュウ

先輩「……ん?」

後輩「あ……ご、ご――……」

先輩「……」

後輩「ごめんな、さい……」スッ

先輩「え、いや、別にいいけど……」

後輩「……」

先輩「……後輩?」

後輩「……」

先輩「……」











~ゼミ生室~



先輩「……」

先輩「……」

ゼミ生A「最近さー」

ゼミ生B「ン?」

ゼミ生A「後輩ちゃん、元気ないよねー」

ゼミ生B「そうナー」

先輩「……」

ゼミ生A「余裕さそうっていうか」

ゼミ生B「ハキなかったケドナ、前は」

ゼミ生A「ハキ?」

ゼミ生B「覇、の気」

ゼミ生A「あぁ」

先輩「……」

ゼミ生B「でも、今の方が、アカンな」

ゼミ生A「ね」

ゼミ生B「先輩ヨー」

先輩「んー?」

ゼミ生B「何か聞いテルカ?」

先輩「んー」

ゼミ生A「先輩ちゃーん?」

先輩「おっ――……」

ゼミ生B「ドナイした?」

先輩「へっへっへ。ブラックバス釣れたー」

ゼミ生A「アンタねぇ……」

先輩「禁酒中って言ってたよ、アイツ」

ゼミ生A「えっえっ」

ゼミ生B「えっえっ」

先輩「うん、まあ、そうなるよな」

ゼミ生A「そっかー」

ゼミ生B「ソラ余裕ないナ」

先輩「あっ、カブトムシ捕れた」

ゼミ生A「それ楽しい?」

ゼミ生B「何ソレ何ソレ」

先輩「んー? えーっと……」











『えーっと――……』



『いつのことだったか……、時期は、よく覚えていません』

『ただ、とても幼いころ……』

『日暮れ時の公園で、父の手を握ったときに、ソレが起こったことは、覚えています』



『私が何か問いかけ、父がそれに答えるより早く』

『伝わってきました、手のひらから』

『突然のことです』



『そのことで、父が私のことを、とても深く愛していると知れましたが』

『その喜びよりも、不可思議なことが起きた、奇異の念よりも……、私は……』

『ただ、恥ずかしかった』

『直感的な羞恥心に、私は襲われました』

『まるで、父の頭に噛みつき、舐め回し、その味で品定めをするような……』

『してはいけないこと、恥ずべきことをしたという感覚に、苛まれました』

『父に叱られると思い、ひどく泣きじゃくったと思います』

『ソレが何であるかも、理解していないのに……』




『本能にも、羞恥心というものは、備わっているのでしょうか』

『羞恥心、忌避感、罪悪感、生理的な嫌悪感――……』

『そういうものは、今でも……、強く、感じます』

『卑しい……、……淫らだとさえ……、思います……』



『幸い、目を閉じるように、耳をふさぐように……』

『ソレを感じないようにすることは、簡単にできました』

『気にしなければ、気にならない。そうやって、ソレと付き合うことができました』

『誰にも話さず、誰にも気づかれず、誰かの心を盗み見ることもせず……』

『そうしてきました』



『けれど――……』


『けれど、あのとき――……』


『あのとき、私は――……』










~別の日~


先輩(あのとき、私は――……)

先輩(私は――……)

教授「……――さん、先輩さん」

先輩「……へ? あ……え?」

教授「授業、始めますよ」

先輩「え、あ……あぁ」

教授「聞いてます?」

先輩「すみません……」

教授「ふぅ……、それで、後輩さんは?」

先輩「……」

教授「……?」

先輩「……え?」

教授「誰か聞いてませんか? 今日は、お休みでしょうか?」

ゼミ生A「……先輩ちゃん?」

先輩「…………」










~夕方~


先輩「……ハッ ハッ」

先輩(大学にもいねぇ)

先輩(……アパートも、気配なかったし)

先輩「ただのサボりだって……」

先輩「落ち着け私……」

先輩「……」プルルルル

先輩「……っ」

先輩「出ろやバカタレぇ……」タッ


タタッ










~居酒屋~


先輩「はぁ……、はぁ……」

先輩「……」

先輩「大将、あの、すんません」

大将「……」

先輩「あの、いっつもよく来る、ちっこいヤツ。あの、女で……」

大将「……」

先輩「今日って来てなかった――……」

大将「……」クイッ

先輩「……あ」

大将「……」

先輩「え、これアイツ一人で飲んだの?」

大将「……」コクン

先輩「うわぁ……、バカだぁ……」

バイト「あの子、今、あっちッスけど」

先輩「あっち――……、……トイレ?」

大将「……」

バイト「もうちょいしたら、救急車呼ぶかって、話してたんスけど」

先輩「大バカじゃぁん……もぉ……」

今日はここまでです

思いがけず、長くなってしまいました
本当は30レスくらいでサクッと終わるはずだったんですけど…

お読みいただいている方、ありがとうございます
そろそろ終わりますので、今しばらく、お付き合いを


もっと続けて


終わっちゃうのか






先輩「……」


コンコン


先輩「後輩ー」


コンコンコン


先輩「おーい、後輩、こ、う、は、い!」コンコン


ガチャ


先輩「お」

後輩「ぅー……」

先輩「後輩……」

後輩「しゅみましぇん……、いま、どきましゅから……」フラフラ ドサッ

先輩「おい、しっかりしろって! 私だよ、分かるか!?」

後輩「え……あれぇ……? あっ」ヘタリ

先輩「後輩! ってかパンツ履けお前!」

後輩「あ……先輩……?」

先輩「そうだよ! 先輩だよ! 分かったらパンツ履け!」

後輩「あぁ……、先輩……私……」

先輩「なんだよ!」

後輩「……私、飲んじゃった」

先輩「パンツを! 履け!」










先輩「お前は……本当にもう……」

後輩「……ごめん、なしゃい……」

先輩「しっかりしろよなー」

後輩「……」

先輩「ほれ、立てるか?」

後輩「もう……」

先輩「……ん?」

後輩「私なんかにぃ……、構ってたら、ダメです、先輩はぁ……」

先輩「何だよ」

後輩「わたひ……もう、駄目で……、最低で……」

先輩「……」

後輩「いつだって、何だって、台無しにしちゃって……」

先輩「……」

後輩「先輩のことも……」

先輩「……」

後輩「一緒にいたら……、先輩まで、ダメにしちゃうからぁ……」

先輩「後輩……」

後輩「私みたいなのぉ……触っちゃ、いけないんです……」

先輩「……」

後輩「ほっとかなきゃ、ダメなんですよぉ……」

先輩「……ほっといてほしいのか?」

後輩「……」

先輩「はぁ……」

後輩「ごめんなさ……うぅ、ぅ……」

先輩「とりあえず、行くぞ。ほら、立てるか?」グイ

後輩「優しくしないでよぉ……」フラフラ

先輩「うるせぇ、腰抜けるまで酔ってるやつが、何言ってんだ」

後輩「ぅぅぅ……」ヨタヨタ











バイト「あの……」

先輩「あ、すみませんね、どうも」ペコリ

後輩「……」

バイト「いえ。……大丈夫ッスか?」

先輩「大丈夫ッス」

後輩「ダメダメッス……」

先輩「……」ベシッ

バイト「」ビクッ

後輩「あぅっ」

先輩「一応、意識とかもあるっぽいんで。まぁ、私連れて帰りますから……」

バイト「あ、あはは……」

先輩「えぇっと、お会計お願いします」

バイト「あ、じゃあこちら、お願いします」サッ

先輩「うぉっ」

後輩「……」

先輩「お、おぉぉ……マジか」

バイト「な、なんか、すみません」

先輩「ああ、いえ。……カードって使えます?」

バイト「はい、使えますよー」

後輩「……」

先輩「トロとか食ってんじゃねーよバカ!」バシッ

バイト「」ビクッ

後輩「……」フラフラ










~帰り道~


先輩「後輩ー……」ヨタヨタ

後輩「……」

先輩「……返事なくなったら、救急車呼ぶからな」

後輩「大丈夫、です……」

先輩「大丈夫だなー」

後輩「……いえ、大丈夫では、ないですけど」

先輩「あはは、どっちだよ」

後輩「……」ヨタヨタ

先輩「……」ヨタヨタ

後輩「……」

先輩「……」

後輩「……」

先輩「……なあ、後輩」

後輩「……ひゃい」

先輩「お前にさ、話したことあったっけ?」

後輩「……」

先輩「何でお前に、アレしたか、って……」

後輩「……ビックリさせたいとか、なんか……」

先輩「……」

後輩「違いましたっけ?」

先輩「……いや」

後輩「……」

先輩「本当はさ……」

後輩「……え?」

先輩「本当は、私……アレすんの、すげー苦手でさ」

後輩「……」

先輩「すごい悪いことしてる気がして……」

後輩「……」

先輩「だから、誰にもしたことなかったし」

後輩「……」

先輩「……こんなの、できない方が良いって、ずっと思ってた」

後輩「……」ヨタヨタ

先輩「……人来てるぞ、危ない」

後輩「ぅ……」ヨタヨタ

先輩「人の考えが分かるなんて、気持ち悪いし」

後輩「……」

先輩「他人が、何を考えているかなんて……」

後輩「……」

先輩「考えたくもなかった」

後輩「……」

先輩「でも……でもな」

後輩「……」

先輩「あのとき……、お前に初めて会ったとき」

後輩「……」

先輩「思っちゃったんだよ」

後輩「……」

先輩「『この子は今、何を考えているんだろう』って」

後輩「……」

先輩「『この子が思っていることを、知りたい』って」

後輩「……」

先輩「……生まれて初めてだったよ、そんなこと」

後輩「先輩……」

先輩「我慢しようと思ったんだけどさぁ、でも、我慢なんて……」

後輩「……」

先輩「後輩にさ、死ぬほど申し訳なくて、死ぬほど恥ずかしくて……」

後輩「……」

先輩「それでも、やっちゃったんだ」

後輩「……」

先輩「なぁ、後輩……」

後輩「……はい」

先輩「私はさ……」

後輩「……」

先輩「どうしても知りたかったんだ、お前のこと」

後輩「……そんなの」

先輩「後輩は、お前は……、私をダメにするって言うけど」

後輩「……」

先輩「だから、構うなって言うけど……」

後輩「……」

先輩「違うんだよ」

後輩「……」

先輩「私が、お前といたいんだ」

後輩「……」

先輩「一緒に」

後輩「……でも、でも……」

先輩「……」

後輩「私……ダメで、終わってて、もう……」

先輩「……」

後輩「生きていることも、不安なくらいダメで……」

先輩「ま、そこはさ、しっかりしろよ、とは思うけど」

後輩「……」

先輩「……いいさ。お前がしっかりできるまで」

後輩「……」

先輩「隣にいてやるよ」

後輩「……」

先輩「ダメになるのも、少しくらいなら、付き合ってやる」

後輩「……先輩」

先輩「……なんてな、あはは」

後輩「……先輩、あの……」

先輩「うん?」

後輩「大事な、こと……」

先輩「……何だよ」

後輩「あの……」

先輩「言ーえーよー。言わなきゃ分からねぇんだぞ、今の私はー」

後輩「家の鍵、どっか行った」

先輩「……」

後輩「……」










~ありました~









~後輩のアパート~


先輩「いい加減にしろよお前……」

後輩「すびばぜん……」グスグス

先輩「泣くなよ……」

後輩「うぅ……」

先輩「はぁ」

後輩「……グスッ、……せんぱぁい」

先輩「おう」

後輩「……私、いっつも先輩に、アレで、手握らせてたの……」

先輩「……」

後輩「あれ、嫌だった?」

先輩「別に」

後輩「……」

先輩「お前以外のやつだったら、絶対嫌だったけどな」

後輩「……うへへ」

先輩「ほれ、水飲んどけ」ヒョイ

後輩「あ、ありがとう……ございます……」

先輩「おー」

後輩「……私も」

先輩「お?」

後輩「しっかりしなきゃ……ですね……」

先輩「あはは、無理すんな」

後輩「えぇー」

先輩「リバウンド? ぶり返し? っていうの? 耐えられなかった時、お前すごいじゃん。こんななってるじゃん」

後輩「こんなって、どんな」

先輩「鏡ごらんなさいよ」

後輩「むぅ……」

先輩「あはは」

後輩「……でも、ちょっとは……」

先輩「うん?」

後輩「がんばり、ます……」

先輩「……」

後輩「がんばって、それで……ダメでも」

先輩「おう」

後輩「ダメでも、先輩は、隣にいてくれるんですよね?」

先輩「あー……」

後輩「……」

先輩「まあ……、うん」

後輩「……ふふ」

先輩「何だよぉ」

後輩「ねぇ、先輩」

先輩「ん?」

後輩「ちょっと、こっち来てください」

先輩「何よ」

後輩「いいから。ちょっと……座って、隣」

先輩「……うわ、酒臭」

後輩「うふふ」ニギ

先輩「ん」

後輩「……」ギュッ

先輩「何してんのさ」

後輩「……」

先輩「……別に、何も伝わらないよ」

後輩「違いますよ」

先輩「……」

後輩「先輩の手、握りたかっただけです」ギュウ

先輩「そっか」

後輩「……それに、本当に大事なことは……、自分で直接、伝えたいから」

先輩「どうしたー? 今度は何なくしたんだよ?」

後輩「そうじゃなくて! もう! いいから聞いてください!」

先輩「何だよ、もぉ……。分かったよ」

後輩「はぁ……」

先輩「手ぇ熱いぞ、お前」

後輩「いいから! ……――先輩、私……先輩のこt」

先輩「あっ――!!」

後輩「えっ?」

先輩「あっ、わ、待って! あ、あ、来てる」

後輩「ちょ、あの、先輩……、今大事な――……」

先輩「待てって! あああ、来た来た来た!」

後輩「な、何がですかぁ!」

先輩「今できる! 絶対できる! アレ戻ってきたのたった今!」

後輩「はぁっ!?」

先輩「マジだって! いいかー見てろよ――……」

後輩「……」パッ

先輩「やっ、ちょ、何で離すの後輩ちゃん!」

後輩「ダメです!」

先輩「なーんでだよぉ! さっきなんか、言いかけてただろー!」

後輩「だからそれは、ちゃんと私が言いますから!」

先輩「何だよ、言えよ」

後輩「……あのっ……、あ、待って……」

先輩「がぁぁっ! イラつく!」

後輩「こ、心の準備が……」

先輩「……」スッ

後輩「……」パッ

先輩「逃げんな!」

後輩「やーだぁーっ! ちゃんと伝えさせてくださいぃーっ!」



先輩「手を繋げば分かるだろ!」

後輩「ダメです!」




~おわり~







~アフター~


~先輩のアパート~




後輩「ねぇ、先輩ー」

先輩「おー?」

後輩「先輩、アレするの、嫌いって言ってたじゃないですかー」

先輩「あー、うん。まぁ」

後輩「アレしてるときって、どんな気持ちなんですか?」

先輩「どんな? えー、うぅーん……」

後輩「……」

先輩「なんか……なんだろ、ヘンタイになった気持ち」

後輩「えぇ……」

先輩「ちょっと嫌だろ」

後輩「ちょっと嫌ですね」

先輩「な」

後輩「……でも、じゃあ」

先輩「うん?」

後輩「私にしてる時も、気持ち悪い感じだった?」

先輩「……」

後輩「正直に言ってくださいよ! 私、先輩が本当に嫌だったら、やりませんから!」

先輩「ぅーん……正直に……」

後輩「はい! 真剣に、正直に」

先輩「うん、あの……正直に言うよ?」

後輩「……はい」

先輩「正直言って――……」

後輩「……」

先輩「背徳感あって……」

後輩「……」

先輩「割と興奮する……」

後輩「……」

先輩「……」

後輩「……」

先輩「……」

後輩「……」スゥゥゥ

先輩「やめて! 無言でドン引きするのやめて!」

後輩「ちょっとぉ……」

先輩「ごめんって! 悪かったって!」

後輩「はぁ……、でも、良かったです」

先輩「え?」

後輩「先輩も、私と手を繋いでる時、ドキドキしてくれてたんですね」

先輩「あの、えっと……私『も』?」

後輩「ふふ……」グイッ

先輩「ちょ、後は――……わっ」ドサッ

後輩「せんぱぁい……今私が、何考えてるか、分かります?」

先輩「やっ……ちょっと、後輩ちゃん、顔近っ……あっ、酒臭ぇ! また飲んでやがったコイツ!」

後輩「当ててみてください……」ギュッ

先輩「あっ……」

後輩「先輩……っ」ニギッ

先輩「ちょっ、ストップ! ウェイト! こうは――わ、わわわわっ、待っ――……



~(ほんとに)おわり~


おわりです

お読みいただいた方、ありがとうございました
コメントくださった方、すごく嬉しかったです。ありがとうございました

お酒は飲んでも飲まれるな
それでは


最高だった

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