速水奏「紫の雨の下」 (8)
奏「あなたが私の…? ふぅん、私をアイドルに…うーん、どうしようかなぁ。」
奏「そうねぇ…じゃあ…今、キスしてくれたらなってもいいよ。」
奏「どう? …なんてね。ふふっ! プロデューサーさん、顔が赤いよ?」
~あれから5年後 初秋~
速水奏は、日本ではトップの若手映画女優となっていた。
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【At Seventeen】
カーラジオ「~It isn't all it seems at seventeen~♪」
奏「・・・いい曲ね。歌詞も素敵。」
P「奏でも、そう思うのか?」
奏「何よ。良いもの位、わかるわよ。」
P「いや、奏の場合、むしろ『ちやほやされる側』だったんじゃないか、と。」
奏「そう、ね・・・表面的には、そうだったわ。」
奏「けれどそれは、そうなるように演じている、『速水奏』に対しての話よ。」
奏「映画で見た仕草やセリフを真似てみて、綺麗に見えるようにメイクをして・・・」
奏「でも、ホントの私は、凄く臆病で、人見知りで。そのくせ淋しがりやで。」
奏「とても『クールでかっこいい』なんて似合わないの。」
奏「だから、『電話で恋の独り芝居をしている』気持ちは、なんとなく、わかるわ。」
奏「誰かさんは、そんな私に気付いてくれてたみたいだけど。」
P「そうだと、いいがな。」
奏「何よ、違うの?」
P「真実なんて、誰にもわからないさ。まして、男に女の心なんて、な。」
奏「ふふふ・・何それ。カッコつけちゃって(笑)」
奏「ねぇ。Pさんは、あの時なんで、私をスカウトしたの?」
P「それが、自分でもよくわからないんだ。もう、『この娘!!』って感じだったから。」
奏「・・・そう・・・」
P「ま、何はともあれ、5周年、お疲れ様。」
奏「ありがとう。Pさんも、5年間、ありがとう。」
P「では、君の瞳に、乾杯」
奏「(笑)乾杯」
しかし、それからしばらくして、彼女は銀幕から姿を消した。
本当の理由は、誰も知らない。
【Purple Rain】
速水奏が引退して3年後、私の元に1通のエアメールが届いた。
差出人は・・・「Kanade Hayami」。そう、奏だった。
住所は、アメリカのロサンゼルス。私は現在決まっている予定の後に、今ある有休をすべてねじ込んだ。
ロサンゼルス空港は、この上ない快晴だった。
カラリと乾いた風が、私のじめついた感傷を吹き飛ばしてくれた。
空港の外に待機していたタクシーに乗ると、待ち合わせ場所のホテルの名を告げた。
運転手はビア樽のような黒人の男性だった。
車が走り出すと、私は奏からの手紙を開いた。そこには、引退してからのことが書かれていた。
運転手「あんた、日本人かい?」
P「残念。ジャッキー・チェンだよ。」
運転手「ワハハハハ!そんな若いジャッキーがいるかい(笑)」
P「ばれちゃあ仕方ない。日本人さ。」
運転手「そうかい。ロスへは、何をしに?」
P「ちょっと、心の換気をしにね。」
運転手「そりゃあいい!ここは乾いていて気持ちが良いからな。」
P「そのようだな。」
運転手「・・・3年前だったか。お前さんによく似た日本人のガールを乗せたよ。」
運転手「もの凄い綺麗な娘だったし、ミステリアスな雰囲気にドキリとしたからよく覚えてる。」
運転手「その子も、同じことを言ってたな。」
運転手「先日、映画の端役で出演していて、びっくりしたよ。」
運転手「確か名前は・・・カナデだったかな。」
奏・・・君はこの街で、新しいスタートを切ったんだな。
P「・・・彼女に、会いにきたのさ。」
運転手「ワオ!そいつは、凄い!」
ホテルに付き、タクシーの支払いをすると、運転手に握手を求められた。まるで腕相撲のような握手だった。
運転手「Good luck! 」
ホテルのロビーに入ると、奏はすでに来ていた。
奏「女を待たせるなんて、失格よ。」
P「ついたばかりなんだ。勘弁してくれ。」
奏「ふふふ。そうね。」
P「・・・久しぶりだな、奏。」
奏「3年ぶり、かしら。」
奏「とにかく、チェック・インをして荷物を置きましょう。」
私は急いでチェック・インを済ませ、部屋に荷物を置いてきた。
奏「散歩でも、しましょうか。」
P「そうだな。」
それから、私たちは取り止めのない会話をした。日本にいる仲間たちのこと、思い出話・・・。
楽しい時間はすぐに過ぎ去り、日が沈みかけていた。
P「奏、今日はありがとう。会えて、本当に嬉しかったよ。」
奏「・・・ねぇ。まだ何も、話していないわ。もう少し、一緒にいましょう。」
そして私たちは一緒に夕食をすませ、ホテルの部屋へと向かった。
P「珈琲、ブラックで良かったな。」
奏「ありがとう。」
奏「・・・・私が突然、アイドルを辞めた理由、訊かないのね。」
P「話したくなければ、話さなくていい。話したければ、話せばいいさ。」
奏「・・・私ね、耐えられなくなっちゃったの。」
そして奏は、ぽつり、ぽつりと話し出した。
奏「求められる私はミステリアスでクールで、アダルティな『速水奏』。」
奏「もちろん、そういうイメージを作ったのは私だし、最初は楽しかったわ。」
奏「けれど、それを維持するには、どんどん、度合いを高めなければならない。」
奏「気が付けば、私は自分の部屋で、机の下で小さくなっていたわ。それこそ、ノノちゃんみたいに。」
奏「そしてある時、記憶が曖昧な時間があることに気付いたの。」
奏「・・・もう・・・限界だったのね・・・」
あぁ、君を、苦しめるつもりはなかったんだ・・・
君を悲しませるつもりはなかったんだ・・・
私は君の人生を、狂わせてしまったのだろうか・・・
P「・・・」
開こうとした私の口を、彼女の唇が塞いだ。
奏「何も、言わないで。」
奏「もう、いいでしょ。私達はもう、一人の男と女なんだから。」
夜明け前、私は奏が運転する車に乗っていた。
奏「二人で見たい景色があるの。」
パロスバーデスの丘を海へと向かって走り、しばらく坂を下りると駐車スペースがあった。
奏はそこに車を停め、保温ポットに入れてきた珈琲を一口飲むと、私に渡してくれた。
奏「良かった。間に合ったわ。」
時計を見ると、6時半。日の出まで数分といったところか。周りには私達の他、誰もいなかった。
二人で珈琲を飲み終え、車を出るとちょうど、空が明るくなりはじめた。
奏「わぁ!綺麗!」
あぁ・・・
奏「私、この色、好きよ。」
そうか・・・
奏「なんだか踊りたくなっちゃった。」
あの時の答え・・・
奏「~♪~~♪・・・ふふふ(笑)」
私が君をスカウトしたのは・・・
ただ、この紫の雨の中で笑う君が見たかったんだ・・・
以上です。ありがとうございました。
参考
At Seventeen ( Janis Ian ) https://www.youtube.com/watch?v=ypn9oKaO-3E
Purple Rain ( Prince ) https://www.youtube.com/watch?v=4oo0Kyuyd00
このSSまとめへのコメント
なんか所々に臭さが滲み出てる