【モバマス】「For Away」 (31)
これはモバマスSSです。
小日向美穂ちゃんが出てきます。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1509720097
「はい、カットー」
現場に響き渡る監督の声。
「ごご……ごめんなさい!!」
「小日向ちゃんさぁ……最近調子悪くない?」
「はい……すいません」
「頼むよぉ……CMだからって撮影に何日も時間かけられないんだからさ」
「……はい」
はぁ……またやっちゃった。
ここ数日なんとなくお仕事の調子が出ない。
せっかくお仕事のチャンスを勝ち取ったのに失敗ばっかり、
この調子じゃ波に乗るどころかお仕事減っちゃうかも……。
この日は朝の撮影が終わり、昼からは事務所で取材が入っていた
事務所についたらPさんが笑顔で手招きをしていた。
「小日向さん、いいお知らせがあります!」
「いいお知らせ?」
Pさんは鞄の中から小さな封筒を取り出す。
「この間受けたドラマのオーディションで監督に認めて貰ったらしいです、主演に抜擢されましたよ!!」
「え?」
正直なぜ私が選ばれたのかわからなかった。
そのドラマのオーディションの時はまだましだっただけで、
最近私の調子が悪いのはPさんも知っているはず。
ここでやっても迷惑をかけるかもしれない……。
せっかくだけど断ってしまおうか……。
「あのっ……私最近調子悪くて……迷惑をかけてしまうかも……」
「この監督は役者のスキルを伸ばすことで有名な人なんですよ」
Pさんはさっきまでとは違う雰囲気で、
まるで私が断ろうか悩んでいるのがわかっているみたいに。
「小日向さんは最近少し伸び悩んでいるように感じました。
この監督さんと一緒にお仕事して、小日向さんが何か一つでも成長できたらと思います。」
Pさんは私のことそこまで考えてくれていて……。
私ばっかり逃げるのはずるいかな。
「わかりました。せっかくの機会なので挑戦してみてもいいですか?」
「ぜひ、お願いします」
その後Pさんは今後の為に今までの予定を組み直してくれた。
「小日向さんの負担は最小限にはしたのですが少しスケジュールが厳しいので頑張りましょうね!」
「はい!」
こうして私の初めての主演ドラマが動き出した。
「はいカット」
監督さんの一言で撮影が止まる。
「小日向ちゃん、どうしたのさ。オーディションの時のほうが良かったよ?」
「す……すいません!!」
「小日向ちゃんにとってもせっかくのチャンスなんだからさ。もっと頑張って」
「は……はい……」
今日3回目のミス。
台詞を間違えたりカメラの場所を把握できてなかったり、
私のうっかりミスが目立った。
「カット、はぁ……小日向ちゃん今日はもういいよ。一回仕切り直そう」
「……はい」
結果はその日もダメダメだった。
その日撮る予定だったシーンは撮りきることはできなかった。
他の俳優さんも呆れているような雰囲気が出てきている。
迷惑……かけちゃってるかなぁ……
「私……だめだなぁ……」
そんな様子でその日のお仕事は終わった。
寮に帰ると同じ寮暮らしの響子ちゃんが駆け寄ってきた。
「美穂ちゃん!美穂ちゃんにお手紙が届いてましたよ!」
「え?私に?……ありがとう」
「はい!もうすぐご飯できますからリビングに集まってくださいね」
まるで寮母さんみたいに働いているが彼女も立派なアイドル。
最近はお嫁さんにしたいアイドルランキングで一位を取るなどして大活躍している。
年下なのに凄いなぁ……
私は渡された封筒の中身を確認する。
『〇〇中学校第〇期生 同窓会のお知らせ』
手紙にはそう書かれていた。
アイドルになるために東京に出てきてもうすぐ半年。
養成所で練習していた時にたまたま事務所の人の目にとまって
気がついたらCMとかに出始めていて
自分でも驚くくらいあっという間にアイドルになってしまっていた。
「熊本のみんな元気かなぁ……」
私は手紙を懐かしむように優しく撫でる。
こうするだけで熊本の友達と過ごした日々が鮮明に蘇ってくる。
「同窓会の日は……あっ……」
その日は今日のドラマの撮影日と雑誌の撮影、休むわけにはいかない。
「……どうしよう」
もう、いいんじゃないかな?
最近はお仕事でも失敗ばっかりだし
頑張ってはいるんだけれど、もしかしたら成長できていないのかもしれない。
お仕事なんて忘れて同窓会……行ってしまおうか。
それでそのまま熊本での生活に戻るのもいいかも?
そんなことを考えている間に私は眠りに落ちてしまったようだ。
次に気がついた時には朝になっていた。
「はいカットー、どうしたの小日向ちゃん、集中してる?」
今日も現場に監督さんの声が響き渡る。
監督さんが言っているように私は集中できていなかった。
昨日来た同窓会の案内状絡みのもやもやがあるせいで頭の中の整理ができていない。
「もう一回行くよー、昨日も言ったけどそのシーンはもっと表情を柔らかくしてね~」
「はい!」
撮影が始まる
言われた通りに表情を意識して演技をしていく。
……熊本のみんな元気かなぁ
気がついたら私の意識は言われていた表情を気をつけるということから離れていた
「はいカット」
その一言で意識が帰ってくる
「ねぇ、さっきも言ったよね?意識しているようには見えないんだけど?」
「すっ、すいません!!!」
「ほんとにちゃんとしてよ。同じミスをするのはプロとしてありえないんだよ?」
「……はい」
「代役はいくらでも居るから、無理なんだったら早く言ってね」
「すいませんでした……」
その後私の撮影は一旦打ち切りになり、後日に最後のチャンスをもらえることになった。
「ただいま…」
その日のお仕事は撮影だけだったから怒られた後すぐに寮に帰ることにした。
今日は自分の部屋で注意されたことを直す練習をしなくちゃ
ポストをちらっと見た時に手紙が入っているのに気がついた
「なんだろう……」
寮のポストに入っている手紙だから誰への手紙かはわからないはずなのに
手に持った瞬間、なぜかその手紙が自分へのものだとわかったような気がした。
ペラリ
『美穂へ』
手紙を開いてみると中学時代の友人からだった
『突然の手紙ごめんね! 携帯が壊れちゃったからメルアドを登録しておいて欲しいの!よろしく!!』
手紙には懐かしい文字でそう書かれていた
メールアドレスが書いてあった下に最近あったことがたくさん書いてあった
友人が感じた最近の熊本での生活で楽しかったこと悲しかったこと
進学して中学の頃の友人に会えてないこと……
そしてその手紙の最後に……
『最近テレビでも元気なさそうだったけど大丈夫?私達もこっちで頑張ってるから、美穂も元気出して!』
「……え?」
『きっと美穂のことだからちょっと調子悪いだけで帰ろうとか考えてたでしょ!』
「うっ……バレてる……」
『でもね美穂なら大丈夫、何でかわからないけどそんな気がする。熊本の女は強いから!』
「…………」
『愚痴とかならいくらでも聞くからまた連絡してね、みんな応援してるよ!』
手紙はそこで終わっていた。
調子が悪いのも全部バレてた。
恥ずかしいはずなのになぜか心が暖かくなる気がした。
涙が頬を濡らす。
でも目線は前を向いていた。
「……そっか、みんな見てくれてるんだ」
目を閉じれば熊本のみんなが見えている。
けれどそれが見えても私には帰りたいなんて感情はなく
応援してくれているみんなの顔が見えるから……頑張らなくっちゃと思えてくる。
「よし!」
そしてそれから三日後
「カット!いいね!良くなったよ!!」
「はい!ありがとうございます!!」
撮影は順調に進んでいた、
手紙を読んだ日を境に私の調子はどんどん良くなっていった。
「最近調子戻ってきたな。どうしたの小日向ちゃん、なんかあった?」
監督さんは不思議そうに尋ねてくる
「地元からお手紙が来たんです……それを読んだら頑張らなくっちゃって思って」
私は迷うことなく、あの日、あの手紙のおかげで頑張れていることを告白する。
「そうか……よかったな」
監督さんはニヤッと笑い背中を叩く
「はい!」
「なら次のシーンからはもっと厳しくしても大丈夫か?」
「大丈夫です!だって熊本の女は強いですから!!」
その後
このドラマは大ヒットし私小日向美穂が有名になっていくのはまた別のお話。
ここまで読んでいただきありがとうございました
小日向美穂ちゃんを書くのは初めてで凄く新鮮な気持ちで書けました
それではまたお会いしましょう
中学生かな?
え?それだけ?
遠く遠くすきやで
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