【 家 】
父「ヘンゼル、グレーテル」
ヘンゼル「なに、父さん」
グレーテル「なぁに、パパ?」
父「お前たちは……今日で捨てることにした!」
ヘンゼルとグレーテル「!!!???」
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父「というわけで、私についてくるんだ」
ヘンゼル「ちょ、ちょっと待ってよ。いくらなんでも突然すぎるよ!」
母「これ……パンね。二人で少しずつ食べるのよ。なんとか別の土地で生きていくのよ」
グレーテル「捨てないでぇぇぇ!」
父「いいから来るんだ! 帰ってきたら承知しないぞ!」
【 森 】
グレーテル「うえぇん……捨てられちゃった……」
グレーテル「あたしたち、もうオシマイだよぉ……」
ヘンゼル「大丈夫さ」
グレーテル「ふぇ? どうして?」
ヘンゼル「実は母さんからもらったパンをちぎりながら落として、家までの目印にしておいたのさ!」
グレーテル「おおっ、やるぅ! さすがお兄ちゃん! 天才!」
ヘンゼル「あまり褒めるなよ、ヤケドするぜ」
ヘンゼル「――ないっ!」
ヘンゼル「落としたパンがなくなってる!」
小鳥「……」ゲフッ
ヘンゼル「そ、そうか! 鳥がパンを食いやがったのか! あのクソ鳥が!」
グレーテル「どうすんのぉ……!」
グレーテル「結局、無駄にパンを消費しただけじゃん! 天才なんていって損した!」
ヘンゼル「歩こう……!」
ヘンゼル「幸せは歩いてこない。だから歩いていくんだよ」
グレーテル「お兄ちゃんの馬鹿!」
ヘンゼル「疲れた……一休みしない?」
グレーテル「お兄ちゃん、だらしないよぉ……ありゃ?」
ヘンゼル「どうした?」
グレーテル「お兄ちゃん、あそこに変な家があるよ」
ヘンゼル「ホントだ、なんだあの家」
ヘンゼル「壁に目がいっぱい書いてあるし、屋根は亀の甲羅みたいになってる」
グレーテル「これはまさしく――」
ヘンゼルとグレーテル「おかしい家だ!」
宇水「何が可笑しい!!!」
宇水「なんだお前たちは……?」
宇水「ふむ、二人組の子供か。どうやら兄妹のようだな」
グレーテル「すごい! 目隠ししてるのに当てたよ!」
宇水「我が心眼に見えぬものはないのでな」ニィ…
ヘンゼル「おじさん、こんなところで何してるの?」
宇水「私はさまざまな異国を旅しながら修行しているのだ……」
宇水「この目を切り裂いた者に復讐するためにな」
ヘンゼル「おじさん、お願い! ボクらをここで休ませてよ!」
グレーテル「あたしたち、もうヘトヘトなの!」
宇水「ふざけるな。なぜ私がお前らのようなガキを助けねばならん。さっさと家に帰れ」
ヘンゼル「帰れる家があるなら……ボクらだってそうするよ」
宇水「ほう……?」
グレーテル「実は……あたしたち、パパとママに捨てられたの」
宇水「……」
宇水(かつて、志々雄に両目を切り裂かれ、幕府から捨てられた我が身を思い出す……)
宇水「よかろう、寄っていけ」
【 宇水の家 】
宇水「メシだ」
ヘンゼル「肉料理だ!」
グレーテル「おいしそー!」
宇水「私の故郷では、豚肉をよく食する習慣があるのでな」
ヘンゼル「うん、おいしい!」モグモグ
グレーテル「おいしー!」モグモグ
宇水「くくく、そうかそうか」
宇水「……」グビグビ
ヘンゼル「なに飲んでるの? おじさん」
宇水「これはハブ酒といってな。故郷に伝わる酒だ」
ヘンゼル「へぇ~、ボクにも飲ませてよ!」
グレーテル「あたしにも!」
宇水「子供にはまだ早い」
ヘンゼルとグレーテル「ちぇっ!」
ヘンゼル「あ、おじさんがトレーニングするみたいだ」
グレーテル「槍と盾を持ってるね」
宇水「ふんっ!」シュバッ
宇水「ぬおおおおっ!」バババッ
宇水「宝剣宝玉百花繚乱!」ズババババッ
ヘンゼル「す、すごい……!」
グレーテル「おじさん、こんなに強かったんだぁ……」
ヘンゼル「ボクらにもこの強さがあれば……」ゴクッ
ヘンゼル「あ、あの……」
宇水「ん?」
ヘンゼル「お願いがあります、おじさん」
宇水「お願いだと?」
ヘンゼル「ボクを強くして下さい!」
グレーテル「あたしも強くなりたい!」
宇水「ほう? なぜだ?」
ヘンゼル「強くなって……ボクたちを捨てた父さんと母さんを見返したいんだ!」
ヘンゼル「ダメ……ですか?」
グレーテル「うう……」
宇水(親に捨てられた境遇といい、この復讐心といい、他人事とは思えなくなってしまっている)
宇水(こんなガキどもに手をわずらわされてる場合ではないかもしれんが――)
宇水(私が強さを授けたこいつらが、何をするか見てみたいという好奇心も芽生えている)
宇水(まったく……心眼を持つ私が、心を揺れ動かされるとは滑稽な話だ)
宇水「よかろう、ティンベーとローチンの戦闘術を伝授してやろう」
ヘンゼルとグレーテル「やったーっ!!!」
宇水「私の武器はこのティンベー(亀甲の盾)とローチン(手槍)だが……お前たちには重かろう」
ヘンゼル「たしかに……」
グレーテル「どっちかを持つのが精一杯かも!」
宇水「よし、兄の方はティンベー、妹はローチンを持つといい」
宇水「二人でティンベーとローチンの戦闘術を極めてみせろ」
ヘンゼルとグレーテル「はいっ!」
宇水「それと私にも名前がある。私の名は魚沼宇水という」
ヘンゼル「じゃあ、ウスイさんって呼ぶね!」
グレーテル「よろしく、ウスイさん!」
宇水「フン……」
宇水「さぁ、私のローチンを捌いてみせろ!」シュバッ
ヘンゼル「くっ!」
宇水「盾に攻撃が当たった瞬間を感じ取り、その瞬間、盾で攻撃を捌くのだ!」シュバッ
ヘンゼル「はいっ!」
宇水「さあ、もう一度だ!」シュバッ
ヘンゼル「たあっ!」ギュルッ
宇水「ほう、まあまあだな」
宇水「妹の方はローチンを自在に操れるようになれ」
宇水「突き百回!」
グレーテル「たあっ! たあっ! たあっ!」シュッシュッシュッ
宇水「気合が足りん!」
グレーテル「えいっ! えいっ! えいっ!」シュッシュッシュッ
宇水「そうだ。鋭い突きで、的確に相手の急所をえぐるのだ!」
月日は流れ――
宇水「さぁ、私の突きをさばいてみせろ!」シュバッ
ヘンゼル(突きがティンベーに触れた!)
ヘンゼル「だぁぁっ!」ギュルッ
宇水「かなり強めに放った突きだが……やるな」
~
宇水「遠慮はいらん、全力で突きを打ってこい!」
グレーテル「でやぁ!」ビュボボボッ
チッ
宇水「ほう、私の体にかすらせるとは……」ニヤ…
宇水「これで一通りのことは教えた」
宇水「少なくとも、そこらの大人に不覚を取るようなことはないはずだ」
ヘンゼル「ありがとうございます!」
グレーテル「ウスイさん、ありがとう!」
宇水「さぁ……お前たちを捨てた両親に復讐してこい!」
ヘンゼル「はいっ! 必ずブチ殺してやります!」
グレーテル「このローチンでズタズタにしてやるわ!」
宇水(くくく……今のこいつらならばやれるだろう。なかなか出来のいい修羅が育ったようだ)
ザッザッザッ……
ヘンゼル「もうすぐボクたちが住んでた村だ……」
グレーテル「お兄ちゃん、どうやってパパとママを殺すの?」
ヘンゼル「決まってるだろ?」
ヘンゼル「まず、向こうから殴らせて、その攻撃を全部ボクのティンベーで捌く」
ヘンゼル「で、ボクらの強さに絶望した二人を、お前のローチンで急所をチクチク攻撃する」
ヘンゼル「あとはじわじわと失血するところを、生温かい目でじっくり眺めるって寸法よ!」
グレーテル「きゃーっ、お兄ちゃんったら鬼畜ぅ!」
ヘンゼル「なにいってんだ。子供を捨てる親の方がよっぽど鬼畜じゃないか」
グレーテル「そりゃそうね」
ヘンゼル「さぁ、村だ! ローチンの準備をしろ、グレーテル!」
【 村 】
化け物「働けっ!」ビシッバシッ
村人「ひいいっ!」ヨロ…ヨロ…
化け物「オラ、よろついてんじゃねえぞォ!」バシィッ
ヘンゼル「これは!?」
グレーテル「お兄ちゃん、変なバケモノが村中を占拠してるよ!」
ヘンゼル「とりあえず、お前のローチンであのバケモノを倒すんだ!」
グレーテル「分かった!」
グレーテル「死ねぇっ!」ザクッ
化け物「グギャアアアアアア……!」ボシュゥゥゥ…
ヘンゼル「おじさん!」
村人「君たちは……ヘンゼル君とグレーテル君!?」
グレーテル「ねえ、この村どうなっちゃったの?」
村人「実は半年前、この村は恐ろしい魔女に占拠されてしまったんだ」
ヘンゼル(半年前っていったら、ちょうどボクらが捨てられた時期だ……)
村人「魔女は子供が大好物らしく、村中の子供をさらって食用にするため太らせ……」
村人「大人達は奴隷として働かせているんだ」
ヘンゼル「じゃあ、あのバケモノは……」
村人「魔女が使役してる使い魔だよ。あれ一匹だけでも、村の大人全員より強いんだ……!」
ヘンゼル「そうか……そうだったのか」
グレーテル「パパとママは、あたしたちが嫌いになって捨てたわけじゃなかったんだ……」
村人「しかし、君たちの両親は、君たちを逃がしたことがバレてしまい」
村人「魔女の館でさらに過酷な労働を強いられている」
村人「我々は館には入れないから、今もまだ無事かどうか……」
ヘンゼルとグレーテル「……」
グレーテル「どうする、お兄ちゃん?」
ヘンゼル「行こう……魔女の館に! 子供達を助けて、父さんと母さんを取り戻すんだ!」
村人「無茶だ! 館には使い魔がウヨウヨしてるんだぞ!?」
ヘンゼル「大丈夫だよ、おじさん。ボクたちすごく強くなったんだ」
グレーテル「この村の平和を必ず取り戻してみせるよ!」
ヘンゼル「あれが魔女の館か……」
グレーテル「村長さんを殺して、そのおうちを改築したらしいね」
ヘンゼル「村長さんもとても優しい人だったのに……許せない!」
ヘンゼル「攻め込むぞ、グレーテル!」ダッ
グレーテル「うん!」ダッ
【 魔女の館 】
使い魔A「……ん? なんだお前ら?」
使い魔B「ガキがこんなとこ迷い込みやがって……ケケケ、食っちまおうかぁ~?」
グレーテル「ローチンで突く!」グサッ
使い魔A「ギャアアッ!?」
ヘンゼル「ティンベーで殴る!」ボゴォッ
使い魔B「グゴァッ!」
使い魔C「侵入者だ!」グワッ
使い魔D「殺っちまええええええっ!」グワワッ
ヘンゼル「お前たちの攻撃なんか、このティンベーの前では通用しない!」
ギュルッ! ギュルッ!
使い魔C「攻撃が!?」
使い魔D「捌かれた!?」
ヘンゼル「ティンベーの亀甲の丸みで敵の攻撃をさばき!」
グレーテル「さらに対となる手槍、ローチンで突く!」ドシュシュッ
ヘンゼルとグレーテル「これぞ師匠の故郷、琉球に伝わる王家秘伝武術のひとつ」
ヘンゼルとグレーテル「ティンベーとローチンの基本的戦法!!!」
子供A「ううう……」デップリ…
子供B「もう食べれない……」デップリ…
子供C「たしゅけて……」デップリ…
魔女「ひ~っひっひ、捕えたガキどもが大分肥えてきたね」
魔女「大好物は極限まで太らせてから食う、これがアタシのなによりの楽しみでねえ~」ジュルリ…
魔女「ところで、さっきから騒がしいね。何事だい?」
使い魔E「はっ、魔女サマ」
使い魔E「二人組のガキが攻め込んでき――」
ザクッ!
使い魔E「ギャアアアアアアアッ!!!」ボシュゥゥゥゥゥ…
ヘンゼル「お前が魔女だな!」
グレーテル「パパとママを返してもらうわ!」
魔女「ほう……? これはこれはおいしそうな子供だねえ」
魔女「これほどの精気があるのなら、わざわざ太らせる必要もないねえ」
魔女「どれ……今この場で殺して喰らうとしよう!」
ヘンゼル「そうはいくか! いくぞ、グレーテル!」サッ
グレーテル「うん、お兄ちゃん!」ジャキッ
魔女「はあぁぁぁっ!」ズオォォォ…
ゴワァッ!
ヘンゼル「なんだこの炎!? ティンベーじゃさばききれない!」メラメラ…
魔女「アタシの魔法が、そんな盾で捌けるわけないだろう!」
グレーテル(守りに回ったら不利……攻撃しなきゃ!)
グレーテル「突きィ!」シュバッ
ザクッ!
グレーテル「やった!」
魔女「バカだねえ、それは幻さ」
魔女「ほれええええ!!!」バチバチバチバチバチッ
ズガガガガァァァァァンッ!!!
ヘンゼルとグレーテル「うわあああああっ……!!!」
魔女「ひっひっひ、たわいない。多少強いとはいえ、ガキなんてこんなものさ」
ヘンゼル「うぅぅ……」
グレーテル「お、お兄ちゃん……パパ……ママ……」
魔女「さぁて、トドメを刺すとしようかねえ」
魔女「心配いらないよ。最大火力であっという間にあの世に送ってあげるさぁ!」
ゴォワァァァァァッ!!!
??「ティンベーで捌く!」バシュッ
魔女「――む!? アタシの最大火力の炎がかき消された!?」
ヘンゼル「この声は……!?」
グレーテル「まさか……!?」
??「よく聴け……二人とも」
??「ティンベーもローチンも決して、魔法などに劣るものではない」
??「心眼でもって、きっちり攻撃を見定めれば、お前たち二人でもあの魔女を倒せる」
ヘンゼルとグレーテル「はいっ!」
魔女「なんだったんだい、今のは……? まぁいい! 次こそ!」ゴォワァァァッ
ヘンゼル(眼で見るんじゃなく、耳と心で攻撃を見切るんだ!)
ヘンゼル「ティンベーでさばく!」
ギュルッ!!!
魔女「アタシの魔法をさばいた!?」
ヘンゼル「いっけえ! グレーテル!」
グレーテル「うん!」
魔女(バカめ! 真正面から来ても、アタシの幻を貫くだけさ!)
グレーテル(今、目の前にいるのは本物じゃない! 本物の魔女は――)
グレーテル「左っ!」ギロッ
魔女「え!?」
グレーテル「ローチンで突く!」ビュオッ
ザクッ!!!
魔女「ぐぎゃああああああああっ!!!」
魔女「バ、バカな……上級魔族である、アタシが……こんなガキ……ども、に……」
魔女「ぐはぁぁぁ……」
ボシュゥゥゥゥゥ…
ヘンゼル「やったな、グレーテル!」
グレーテル「お兄ちゃんが魔女の炎をさえぎってくれたおかげだよ!」
ワイワイ… キャッキャッ…
グレーテル「子供たちも無事みたい! ずいぶん太っちゃってるけど……」
ヘンゼル「なぁに、ティンベーとローチンの戦闘術を教えれば、すぐにダイエットできるよ!」
父「ヘンゼル……!?」ボロッ…
母「グレーテルなの……?」ボロッ…
ヘンゼル「父さん、母さん!」
グレーテル「パパ、ママ!」
父「お前たち……生きてたのか……よかった……」
母「強く……なったのね……」
父「お前たちを捨てた我々を、さぞ恨んでいることだろう……さぁ、お前たちの手で……」
ヘンゼル「いや、もういいんだよ、父さん」
グレーテル「うん、あたしたちを嫌いで捨てたんじゃないってのが分かったから!」
ヘンゼル「さぁ、家へ帰ろう!」
父「ありがとう、ヘンゼル、グレーテル……」
宇水「どうやら全て終わったようだな」
ヘンゼルとグレーテル「ウスイさん!」
ヘンゼル「あの、ボクたち復讐のためにティンベーとローチンを習ったのに……」
グレーテル「結局、復讐はやめちゃったの……ごめんなさい……」
宇水「別にどうということはない」
宇水「なにしろ私は目が見えんのでな。お前たちが何をしようと見ることはかなわん」
宇水「ティンベーとローチンの戦闘術をどう使おうが、勝手にするがいい」
ヘンゼル「ウスイさん……!」
グレーテル「ありがとう……!」
宇水「ではさらばだ……」
ヘンゼル「さようならー!」
グレーテル「また、あのおかしい家に遊びに行くからねー!」
宇水「何が可笑しい!!!」
~おわり~
乙
どう見てもネタSSなのに意外といい話でワロタ
乙
そういえば図書館で読んだわ
https://i.imgur.com/f2Zhwd5.jpg
スレタイだけで爆笑するわ
いきなりの宇水さんは卑怯すぎる
ウスイさん!
第二部で宇水を倒した斉藤に復讐する話を
乙乙
誰だよ
人撃ちガトリング斎といい、るろ剣の敵役モノは謎の面白さがあるな
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