遊作「酷い雨だな」(22)
ザァーーーー……
Ai『ふぅー、すぐ近くに雨宿り出来る場所があって助かったぜ』
遊作「お前、今日は雨は降らないと言ってなかったか?」
Ai『AIだって間違える時はある。というか俺を信じて傘持って来なかったの? 信頼されてるなー俺♪』
遊作「…………」
Ai『ちょ、無言でディスクを雨に晒すなよ!? ショートするから、危険だから!?』
タッタッタッ……
遊作「ん?」
葵「あっ」
遊作「財前葵……」
葵「……隣、いい? 急に降られたから」
遊作「別に俺の許可は必要ない。好きにしろ」
葵「うん。それじゃあ……」スッ
Ai『よう、新人! 久しぶりだな、元気してた?』
葵のAI『おっしゃる意味が分かりません』
Ai『……相変わらず愛想のない奴』
◇◇◇◇
ザァーーーー……
遊作&葵「…………」
遊作&葵「…………」
遊作&葵「…………」
遊作&葵「…………」
遊作&葵「…………」
Ai『おい、遊作』
遊作「何だ、消すぞ?」
Ai『声掛けただけで酷過ぎない? そろそろ何か喋れよ。一緒に居る俺が微妙に気まずいんだけど?』
遊作「お前が気まずかろうと俺には関係ない」
葵「……藤木君の」
遊作「ん?」
葵「いえ……そのAI、ちょっと独特だなって」
遊作「ああ、不良品なんだ」
Ai『しまいには泣くぞ』
葵「……あの」
遊作「今度は何だ?」
葵「お兄……兄さんから聞いたんだけど」
遊作「ああ」
葵「倒れた私を見つけてくれて、病院まで付き添ってくれたのって貴方なの?」
遊作「……ああ」
葵「その事、まだきちんとお礼を言ってなかったと思って」
遊作「礼なんて要らない。偶然見つけてその後は流れみたいなもんだ」
Ai(何が『礼なんて要らない(キリッ』だよ。恰好付けちゃって)
葵「……本当にそれだけ?」
遊作「他に何かあるか?」
葵「いえ、その……裏がある、とか」
遊作「…………」
葵「……ごめんなさい。今のは流石に失礼だったわ、助けて貰ったのに」
遊作「いいよ。別に俺は気にしていない」
葵「今まで私に親切にしてくれたり、手を差し伸べてくれたりする人は殆ど兄さんが目的の人で……だから……」
遊作「気にしてないと言った」
葵「……ごめんなさい」
遊作&葵「…………」
Ai『おいおい、まただんまりかよ。お前ら本当にうら若き学生か? もっとキャッキャウフフな青春トークに華を咲かせろよ』
遊作「黙れ。目の前の道路にディスクごと放置するぞ」
Ai『遊作君は何でそんな血の涙も無いような事を瞬時に思い付くのかな?』
prrr……
遊作「……電話鳴ってるぞ? あんたのじゃないのか?」
葵「あ、うん……あっ」
遊作「…………」
葵「もしもし、私です……はい、はい……いえ、大丈夫です……はい」
遊作「…………」
葵「はい、分かりました……では」ピッ
遊作「…………」
葵「…………」
遊作「…………」
葵「…………」
遊作「……お兄さんに何かあったのか?」
葵「!」
葵「何で……?」
遊作「理由は3つ。1つ、電話の相手を見たあんたの顔が僅かに和らいだ。ここから相手は親しい人物であると予想される」
遊作「2つ、電話で話す度にあんたの表情に徐々に曇りが見られた」
遊作「3つ、電話の後のあんたは妙に落ち着きがない……ここからあんたのお兄さんに何かあったと推測したんだが違ったか?」
葵「……貴方ってシャーロック・ホームズみたいな人ね」
遊作「そんな事を言われたのは初めてだ」
葵「でも別に大した事じゃないわ……兄さん、今日はすぐに帰るっていうだけの話だから」
遊作「そうか」
葵「ただそれなら兄さんが帰る前に……家に戻って待っててあげたいなって思ったのよ」
遊作「……この雨は暫くは止みそうにないぞ?」
葵「そうみたいね」
遊作「傘は?」
葵「持って来てたらこんな所で雨宿りはしないわ」
遊作「ここからあんたの家は遠いのか?」
葵「そんなに遠くはないけど……何で?」
遊作「そうか……10分、いや、5分待てるか?」
葵「え?」
遊作「すぐに戻る。待っていろ」
葵「ちょっと……!?」
Ai『おい、この雨の中で何を……ちべたい! ちょ、せめてディスクは鞄の中に仕舞ってくれ! 俺はデリケート何だぞ!?』
◇◇◇◇
ザァーーーー……
葵「…………」
葵「…………」
遊作「……待たせたな」
葵「!」
遊作「8分か……少し遅れたが及第点をくれたら嬉しい」
葵「何処に行ってたの? そんなびしょ濡れになって……というかその傘は?」
遊作「ほら」
葵「え?」
遊作「少し離れた所に雑貨屋があるのを思い出して買って来た。この傘を貸すからこれで家まで帰れ」
葵「わざわざ買って来てくれたの? 私の為に?」
遊作「ああ」
葵「…………」
遊作「どうした、早く受け取れ」
葵「…………」
遊作「……無償でこんな事をされるのはやはり気味が悪いか?」
葵「! そんな事は……」
遊作「いいさ、理由はさっき聞いたから……だが安心しろ。これに関しては裏がある」
葵「え?」
遊作「俺があんたに傘を貸す理由は3つ。1つ、あんたは今とても家に帰りたがっている。家は近いらしいから、下手すれば雨の中を飛び出す可能性もある」
葵「…………」
遊作「2つ、もしそれであんたが風邪を引けばお兄さんはとても心配するだろう。お兄さんがあんたの事をとても大切にしているのは病院で会ったから分かっている」
葵「…………」
遊作「3つ、そしてあんたもお兄さんにそんな心配を掛けさせたくないはずだ。あんたにとってもお兄さんはきっと大切な存在だろうからな」
葵「藤木君……」
遊作「要点を纏めるともしあんたが風邪を引いたら一緒に居た俺は非情に目覚めが悪くなるという訳だ。だから俺があんたに傘を貸すのはそうならない為の俺の我がままだと思って貰っていい」
遊作「だが受け取って貰えるならこちらとしても嬉しい……そろそろ差し出した腕もだるくなって来たからな」
葵「…………」
葵「分かった、受け取るわ。でもその前に……」スッ
遊作「ん? おい、拭かなくていいぞ。ハンカチが汚れるだろ?」
葵「動かないで……これくらいさせてよ。そうじゃないと私、貴方にして貰ってばかりじゃない」
遊作「…………」
葵「藤木君って結構バカなのね。それに相当なお人よしだわ」
遊作「いきなり酷い言われ様だな」
葵「でも……悪く無いと思う、そういうの」
遊作「……そうか」
葵「そういえば貴方、この傘を貸してくれるっていうけど……自分のは?」
遊作「必要ない。俺はあんたと違って急いでないからな、止むまでここで待つ」
葵「濡れたままで? 風邪引くわよ? そうなったら私の方が目覚めが悪くなるんだけど?」
遊作「安心しろ、俺は丈夫だ」
葵「…………」
葵「あの、それならこの傘で一緒に……」
……ピカッ! バリバリバリバリィ!!
遊作&葵「!」
葵「…………」
遊作「…………」
葵「今の……」
遊作「ああ、大きいのが落ちたな」
葵「ちょっと、びっくりした……」
遊作「俺もだ。ところで……」
葵「?」
遊作「そろそろ離れてくれないか?」
葵「……あっ」
パチィーン!!
◇◇◇◇
翌日・学校……
直樹「藤木、お前その顔どうしたんだ? 何か腫れてねえ?」
遊作「……何でも無い」
直樹「そうか? 殴られたみたいで俺には何ともなくには見えないんだが?」
Ai『ケケケッ、ラッキースケベの代償みたいなもんだよな~それ♪』
遊作「学校では極力喋るなと言っているだろう……そういえばお前、あの時急に静かになってたな」
Ai『俺だって空気は読むさ。なんせ優秀だからな』フンス
直樹「おい、何ディスクとひそひそ喋ってんだよ?」
遊作「何でも無い。気にしないでくれ……ん?」
葵「…………」キョロキョロ
直樹「あれ、財前じゃん。珍しいな、他のクラスに来るなんて……あ、こっちに来た」
遊作「…………」
◇◇◇◇
屋上……
葵「ごめんなさい」
遊作「そんな深々と頭を下げなくていい」
葵「気が動転していたとはいえ貴方を叩いて、そのまま帰っちゃって……ごめんなさい」
遊作「だからいいってば。あんたの気持ちも分からなくはないから……顔を上げてくれ」
葵「でも……」
遊作「それよりお兄さんは無事お出迎え出来たのか?」
葵「あ、うん。昨日は久しぶりに一緒に夕飯も食べれて……」
遊作「そうか、良かったな……じゃあ」
葵「あ、待って!」
遊作「何だ? 謝罪ならもう聞いたぞ」
葵「これ……受け取って欲しいんだけど」
遊作「これは?」
葵「私がよく行くお店のお菓子。助けて貰った事のお礼になるかは分からないけど……」
遊作「礼は要らないと言ったはずだが?」
葵「ちゃんとしてないと私の気が済まないから。それに嬉しかったし」
遊作「嬉しかった?」
葵「私を助けてくれた事もそうだけど……私達兄妹の事を考えて何か言ってくれたのは貴方が初めてかもしれない」
葵「ありがとう、藤木君。私、貴方にとっても感謝しているわ」ニコッ
遊作「…………」
キーンコーンーカーンコーン♪
葵「あ、予鈴……じゃあ私、先に行くね。次、ウチのクラスは教室が移動だから」
遊作「ああ」
葵「それじゃあ……本当にありがとうね、藤木君」ペコリ
タタタッ……
Ai『おーい、俺らも教室戻った方がいいんじゃないか? それとも今日はこのままサボり?』
遊作「…………」
Ai『人の話もといAIの話聞いてる?』
遊作「ああ……聞いてるさ」
Ai(変な奴だな……って、あー成る程ね)
Ai(人からストレートな好意を向けられるのに慣れていないのはあのお嬢ちゃんだけじゃないって事か)
<おわり>
読んでくれた人、ありがとうございました。
ガッチャ! 楽しいSSだったぜ!!
このSSまとめへのコメント
このSSまとめにはまだコメントがありません