凛「クサッ」 (34)

モバマスSSです。
初SSなので読みづらい点はご容赦ください。
書き溜めで完結、凛の一人称視点で進んでいきます。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1375905120

事務所に帰った私を最初に迎え入れたもの――それは私を労う言葉や帰りを喜ぶ声ではなく、部屋一面に放たれた異臭だった。

凛「…ねぇプロデューサー。こんな所に靴下脱ぎっぱなしにしないでくれる?」

異臭の原因…それは営業から戻り、束の間の休息を取っているプロデューサーが脱ぎ散らかした靴下から漏れ出ていた。
件のプロデューサーはというと、ソファに寝転がり自らの手で自分を扇いでいたが、私の声を聞くと気だるそうに体を起こす。

P「おーう凛か、お帰り。いやー、こんな暑いと履き続けてるのも面倒なもんでな…」

ただいま、と小さく返事をして、ソファの近くの床に転がった靴下と、暑そうなプロデューサーとを交互に見やる。
冷房は点いているのだが、戻ったばかりなのだろう。顔には汗が滲み、シャツも汗で濡れている。
私も連日のこの暑さには参ってしまいそうだ。

しかし。それでも、だ。

凛「プロデューサー。こんな臭いがしてたら誰も入りたくないと思うし、いくらなんでもだらしないと思うよ」

他の皆が戻ってきたときの事と、その反応を考え、私は苦言を呈する。

P「あー…スマンスマン。しばらくしたらまた出なきゃイカンし、その時に片付けるから勘弁してくれなー」

やれやれ、という顔をして私は部屋を後にする。
お茶でもいれて、今は空いている応接室で寛ぐ事にしよう。

数分後。
応接室で雑誌に目を通していると、プロデューサーが顔を覗かせた。

P「じゃあ凛、ちひろさんも暫く戻ってこないそうだし、俺はまた出てくるから頼んだぞー」

そう言うとプロデューサーは足早に行ってしまった。
年頃の、しかもアイドルの女の子1人を残していってしまうとは、なんとも無用心なものだ、と呆れてしまう。

ふと先程の靴下の件を思い起こし、私は応接室を後にした。

あのプロデューサーのことだ。
片付けると言っても無造作にロッカーに放り込んで済ますか、或いはそのままということもあるだろう。

事務室の扉をゆっくりと開ける。
予感的中。先程の靴下は相も変わらず床に放り出されており、その臭いが漂っている。

恐らく替えの靴下をロッカーから出して履いていったのだろうが、こちらの存在は忘れてしまっていたのだろう。

私は再び呆れてしまう。

――まったく。こんなことだから。
プロデューサーが全部イケナイんだ。私が悪いわけではない。



カラダが、疼く。



ココロが、昂る。



そして、私の至福の瞬間がまた、訪れる。

凛「んっ、ふぅ…はぁぁ…」

鼻腔を突き抜け、匂いが体中に広まっていく。
背中に悪寒に似たような、しかし気持ちのいい感覚が走り、脳内まで痺れてしまいそうになる。

今。私はプロデューサーの靴下を握り締め、その先を鼻に擦り付けて、香りを堪能していた。

最初は、ほんの出来心だった。

靴下ではなく、汗が染み込んだワイシャツ。
この靴下と同じように脱ぎ捨てられていたそれを、プロデューサーのものだというだけで、私は“愛おしい”と感じてしまった。

そして、いけないと思いつつも嗅いだその匂いに…私は、魅入られてしまったのだ。

だが、それもそう長くは続かなかった。

ワイシャツの匂いだけでは、私はすぐに物足りなくなっていった。


そんな折、プロデューサーが靴下を脱ぎ捨てたまま事務所を空けたことがあった。
魔が差した、とでも言えばいいのだろうか。

ワイシャツならまだしも、靴下なんて…と思いつつも、私は、湧き上がる衝動を抑え切れなくなっていた。

最初に感じたのは、衝撃。

あまりにも凄まじい匂いに、一瞬眩暈を起こす。
それでも、プロデューサーを感じたい、という一心で、その靴下を嗅ぎ続けた。

するとどうだろう。
私の心の中で、何かが解放されていった。

こんなかぐわしい薫りを、どうして私は今まで臭い、なんて思っていたのだろう。
そんな想いで心が満たされ、私は思い知った。

これこそが、“幸福”ということなのだ。と。


凛「んはっ…すぅー…すぅー……はぁ、ぁ…」

そして、現在。
私は、事務所に誰もいない時を見計らって、時々プロデューサーの靴下の匂いを嗅いでいる。

もしこれが周知の事となれば、ただでは済まないだろう。
人前では一定の体裁を保たねばならないとは、アイドルとは難儀なものだ。

だから私は――事務室に近づく何者かの気配をいち早く察知し、手の内の“お宝”を床に置いて、今しがた部屋に入ったよう見せかける。

聖來「ただいまー…ってあれ、今凛ちゃん1人?」

部屋へ入ってきたのは水木聖來さん。
私と同じくこの事務所のアイドルで、彼女とはよく犬の話などをしている。

凛「おかえりなさい、聖來さん。はい、今はプロデューサーもちひろさんも出ていて…」

と、不意に聖來さんの表情が歪む。原因はわかりきっている。

聖來「って、何この臭い…鼻が曲がる…!」

聖來さんは慌てて鼻をつまみ、事務室内を見回すと、プロデューサーが脱ぎ捨てた…否、脱ぎ捨てたように見せかけた、
私の宝物に目を留めた。
やはり私以外の人には刺激が強すぎるらしい。

聖來「もー、pさんったら…こんなところに脱ぎっぱなしじゃ皆嫌がっちゃうぞーっと」

鼻をつまんだ聖來さんが渋々といった感じで靴下の端を摘み上げようとし、私は――咄嗟の事だったが――その靴下を握っていた。


聖來「な、何?どうしたの凛ちゃん?」

呆気に取られた表情で私を見つめる聖來さん。
当然だ。彼女は臭いの元凶であるこの靴下を片付けようとしていた。

それを、何故か私が突如阻んだのだ。
訝ってもなんら不思議ではなく、むしろ私の行動のほうが、彼女にとってはおかしなものでしかないだろう。

しかも悪いことに、この行動には私の意志が伴っていなかった。完全に条件反射で動いていたのだ。
咄嗟の言い訳など思い浮かぶはずもなく、言葉が何も出てこない。

凛「あ…こ、これは、その…」

ばつが悪くなって視線を逸らすが、その姿はよりいっそう怪しさを助長するものでしかない。

助け舟は、彼女のほうから出された。

聖來「え、っと…凛ちゃん、悪いけどソレ、片付けておいてくれるかな?私だと扱いに困っちゃいそうだし」

未だ鼻をつまんだまま、聖來さんは空いた手をひらひらと振ってみせた。
確かに、私はこの臭いの中でも鼻をつまむことなく呼吸をしているし、靴下も摘み上げずにしっかりと握り締めている。
彼女は、臭いを防ぐ為に両手を満足に使えない自分よりも、この空間で平気そうな私のほうが片付けるのに向いていると判断したのだろう。

…おそらくはそればかりでなく、私の慌てた様子を見て思い立ったのだと思う。
年下に損な役回りを渡す、というのは違った状況であれば些か納得行かないところではあるが…今回ばかりは聖來さんに感謝あるのみだった。

凛「…わかりました。とりあえずプロデューサーのロッカーにでも入れておきます」

聖來「ありがとー!これはpさんが帰ったらちゃんと言っておかないといけないね」

手を振る聖來さんを後に、私はロッカールームに向かった。
靴下を握るその手には、自然と力が込められていた。


私は、靴下を持ち帰る、などという野暮なことはしない。

厳密には既に何度か実行したのだが、どれもこれも違うのだ。

靴下を持って帰っても、日にちが経てばやがて匂いは薄れてしまう。
そんな微かな匂いを嗅いでも、私の心はまったく満たされない。

一度考え付いたのは、靴下を瓶に入れて保存する、という方法だ。

この方法は我ながらよく出来た案だと思った。

思った、のだが…。

確かに、瓶の蓋を開けた時には、想像を絶する香りが広がる。
その香りは強烈で、私も最初は虜になってしまうほどだった。

けれども、やはり違う。

瓶で保存した靴下は、脱ぎたてホカホカの、あのまろやかでいて、しっとりとした…それでいてコクのある匂いとはまったくの別物になってしまうのだ。

ベストなのは、やはり誰もいない事務所で脱ぎたての靴下の匂いを嗅ぐこと。
ただそれだけが、今の私を満たしてくれる、唯一の方法だった。

凛「ああぁっ…すん、すん…くはぁっ…!」

だから今、私はこうして、再びプロデューサーの靴下の匂いを嗅いでいる。

ああ、何度嗅いでもいい。

この匂いを、何故人々は“臭い”などと言って遠ざけるのだろう。


ふと、今の自分の姿を考えて思う。
今の私は、まるで犬だ、と。

…ハナコだったら、この匂いを嗅いだらどう思うだろうか。
やはり私の飼い犬なのだ。私と同じように、喜んでこの匂いを嗅ぎ続けるに違いない。

この匂いに喜ぶハナコの姿を想像したら、自然と笑みがこぼれ出ていた。

凛「ふふっ…ハナコもプロデューサーのことが大好きだもんね」

小さく呟いた後、私は、ある重大な事実に気付いた。

ハナコは、私の匂いに過敏に反応し、寄って来てくれる。
それはつまり、私の匂いが好きだということだ、と。

同じくプロデューサーも好きだということは、プロデューサーの匂いにも寄ってくる、ということ。


――ならば、2人の匂いが合わさったなら?


目から鱗…とはまさにこのこと。
そして思い立ったが吉日とはよく言ったものだ。

目の前――厳密には鼻の前だが――には、おあつらえ向きにプロデューサーの靴下。
しかも、まだ脱いでから15分と経っていない代物だ。

私は急ぎ自分のソックスを脱ぎ捨て、興奮冷めやらぬ内に、プロデューサーの靴下に自らの足を滑り込ませた。


瞬間。私の足は、別の生き物のように光り輝いて見えた。
勿論それは目の錯覚だったのだろうが、私の足は、まるでプロデューサーと1つになったかのようで。
それを、とても喜んでいるように見えた。

靴下は少しぶかぶかだが、それは少しばかり折り畳んで履けば何の問題も無いだろう。

そして私は…逸る気持ちを抑えられずに、プロデューサーの靴下に、否、プロデューサーに包まれた、自分の足の匂いを、嗅いだ。


「―――~~~~ッッッ!!!」

――星が見えた。
脳天をハンマーで殴られたような衝撃。
今まで感じたことの無いソレが、私を襲う。

自分の足なのに、自分の足じゃ、無い。
そんな矛盾を孕んだ状態となった、今の私の、足。
その現実に、この匂いが交わり、視界を溶かして行く。

あまりにもこの衝撃が強すぎて、上手く、呼吸が、出来ない。
息が、荒くなる。

けれども、それは苦しいわけじゃない。
むしろ幸せなことで――。
この悦楽に、もっと溺れたくて――。

見る人によれば、自分の足の匂いを嗅ぐこの格好を“はしたない”と罵ることも有り得るだろう。
けれどもそんなことは、今の私には些末なことだった。


そして、私は思った。

1日だけでは、洗濯したらこの匂いはリセットされてしまう。
ならばいっそのこと、一週間ほど履き続けてみるのはどうだろうか、と。

1日目にプロデューサーが履き倒した靴下を、2日目には私が履く。
そして3日目にはまたプロデューサーが履き、と、交互に一週間繰り返すのだ。

同じ靴下を連日履くのは嫌だろうけど、私が履いた後の靴下なら、プロデューサーは喜んで履いてくれる。
だからプロデューサーが嫌がるというのは有り得ない事だった。

問題は、如何にして怪しまれずに同じ靴下を履いてもらい続けるか…ということだ。

私がお願いすればプロデューサーは間違いなく、1ヶ月は同じ下着、同じ靴下、同じ服装で生活してくれるだろう。

問題は私にある。
私もアイドルなのだから、プロデューサーが履き倒した靴下を履くことすら、不潔なイメージがつくということで反対されかねない。
収録などの時にも、周囲に匂いを撒き散らしてしまっては問題になるだろう。

結局、これについてはいい打開策も思い浮かばないまま、最後にもう一度だけその匂いを堪能して、私の至福の瞬間は終了した。


凛「ねぇプロデューサー、今日のスタジオここから近いでしょ?」

あれから数日後。
今日は次の収録についての軽い打ち合わせ等があり、一応スタジオまで出向くことになっている。
私が新人の頃からお世話になっている所で、事務所からは歩いて15分ほどで着く距離だ。

P「ん?まぁ確かにいつものあそこだしなー。どうしたんだ?」

パソコンに向かい合っているプロデューサーの手は、休むことなくキーボードを打ち続けている。

凛「どうせだったら歩いて行きたいんだけど。車で行くのももったいないし」

私の言葉を聞いて、はたとプロデューサーの手が止まる。腕を組み、何事か考え事を始めたようだ。

P「う~ん…あまり賛同しかねるなぁ。短い距離でも人気アイドルの凛を見れば声をかける人もいるかもしれないし、第一こんな日差しの強い日だと、ちょっとした時間でも日焼けとかがなぁ…」

プロデューサーは、こういったちょっとしたことでも私の事を気にかけてくれる。
勿論、それは“アイドルとしての私”なのかもしれないけれど、それでも私には、そのちょっとしたことが嬉しかった。

しかし、それでは駄目なのだ。今日の私には、どうしても譲れないものがあった。

凛「大丈夫だよ。最低限顔はばれないようにするし、日傘だって差していくから」

プロデューサーは暫し腕を組んだままで頭を捻っていたが、やがて私が折れないと悟ったのか、困った様な微笑を浮かべて振り返った。

P「まぁ、凛がそこまで言うなら仕方ないか。但しちゃんと日焼け対策と最低限の変装はするんだぞー」

やった。
心の中で私は、らしくもないガッツポーズをしていた。


今日はいつにも増して気温が高く、この夏の最高気温を更新しているとTVで言っていた。
しかし、そんな中で私の足元は、分厚いブーツに包まれている。

こんな暑い日に何故わざわざこんなものを履いているのかというと、それは勿論、プロデューサーの靴下の匂いを包み隠す為だ。
この暑さの中でサンダル等ではなく、季節外れの厚いブーツを履くなど、傍から見れば正気の沙汰ではない。
プロデューサーにもそれは止めとけと言われたが、どうしてもこれは外せない。

私には、成し遂げなければならないことがあるのだ。

幸いにもプロデューサーは、1日前に無くなった靴下のことをさほど気にしている様子も無い。
これならば今日の目論見も上手く行くはず。




スタジオでの打ち合わせは20分程で終わり、スタッフさん達とはその場で解散となった。
これほど早く終わってしまうのであれば、収録の直前でも問題はなかっただろうに、と、普段の私なら思っていただろう。

けれども、今日ばかりは早く終わってくれた、ということに感謝するのみだった。

打ち合わせの最中、私はとてもじっとしてはいられなかった。

何せ、プロデューサーの靴下に私の足が包まれているのだ。
そのことを考えただけでも私は昏倒しそうになり、幾度と無く漏れ出そうになる嬌声を抑えるのに必死だった。

話を聞いている間も、周囲の人達からはどこかソワソワした様子に映っていたようで、プロデューサーにも心配されてしまった。


椅子に座ったままかぶりを振る。

駄目だ、私。
これしきのことでへこたれてはいられない。

ふっ、と、私の前に影が出来た。
見上げると、心配そうに覗き込むプロデューサーの顔が見えた。

P「凛、大丈夫か?今日のお前、何だかいつもと様子が違うように見えたが…」

プロデューサーは、いつでも優しい。
それは私だけにではなく、事務所のアイドル皆にも、だけれど。

それなのに。
そうだとわかっているのに。
私はその優しさが、たまらなく嬉しいのだ。

凛「…ううん、大丈夫だよプロデューサー。今日はちょっと暑いから、少し当てられただけだって」

いつもの調子でプロデューサーを見やり、立ち上がる。

凛「さ、プロデューサー。やることもやったし、早く帰ろうよ。仕事、まだ残ってるんでしょ?」

…そうだ。

P「…やれやれ、凛には敵わないな。おっし、戻るとするか!」

プロデューサーの為にも、私はこの“シゴト”を成し遂げる。


帰り道。
プロデューサーが先を歩き、私が後を着いてゆく。

まるで主人に着き従う犬みたい。
なんて、最近の私の行動を当て嵌めてみて、可笑しくなって笑ってしまう。

凛「…ふふっ」

私の小さな笑い声が聞こえたのか、プロデューサーが振り返る。

P「ん?どした凛、なんか面白いことでもあったか?」

凛「んー…面白いと言えば面白い、けど、面白くないと言えば面白くない、かな…」

なんて、悪戯っぽい言い方をしてみる。
なんだそりゃ、と言いながら笑顔になるプロデューサー。

凛「…ねぇ」

P「ん?」

凛「手、つなごっか。こんな暑い日だし、また気分悪くなったりするかもしれないし」

プロデューサーが、珍しいものでも見るような顔になる。
確かに、私からこんなことを言うなんて、今までにはなかったかもしれない。

凛「ダメ?」

P「あー…いや、いいぞ別に。ただ、凛の口からそんなことを言われる日が来るとは…」

困惑しながらも私に近づき、手を差し出してくれる。
私はその手を取り、事務所への短い道のりを再び歩き出す。

P「しっかし、あの凛がなー…。最初に出会った頃なんて…」

凛「っ、その話はもうしないでって言ってるでしょ?」

そんな、他愛の無い話をしながら帰り道を歩く。
街行く人々には、私達のそんな姿は、いったいどう映っていたのだろう。


凛「ふうぅぅ、ぅ…」

――事務所。誰もいない、会議室。

その中で私は、一心不乱に靴下の匂いを嗅ぎ続けていた。

プロデューサーには家に帰る旨を告げ、他の面子は出払っている。
ちひろさんも、仕事中にここを訪れる事など滅多に無い。

つまり、今この場所は、私だけの空間なのだ。

事務所への岐路、プロデューサーと繋いだ手は、途中から暑さの所為だけではない汗がじっとりと滲んで来ていた。
プロデューサーも暑さの所為で手に汗が浮かんでいたため、十中八九ばれてはいないだろう。

プロデューサーの靴下を履き、プロデューサーと手を繋ぐ。
その行為が私にもたらしたもの。

それは一言で言えば――快感。
プロデューサーと1つになっている、というその感覚が、私をどうしようもなく高翌揚させたのだ。

凛「はぁぁ、ぁぁ…」

今でも、この手に足に、焼き付いて離れない。
そして今、その感触を思い起こしながら、私は恍惚の表情を浮かべていた。

プロデューサーが1日まるっと履き倒した靴下。
そこには、プロデューサーの汗が、垢が、ありとあらゆるものが詰まっている。

そして今日、私が履き続けた事によって、私の汗が、垢が、ありとあらゆるものが、プロデューサーのそれと交じり合った。

靴下だった“ソレ”は、新たなる次元へと進化を遂げていた。

自分のものと言えど、足の臭いなどを好む人間はそうはいないだろう。
けれども今のこの靴下には、私だけでなく、あのプロデューサーの匂いが既に染み付いているのだ。

私の足の臭いと、プロデューサーの足の匂い。
その2つが交じり合って生まれたニオイは、まさにこの世の至宝といっても過言ではない。

いや、最早この靴下は、私とプロデューサーの子供も同然の存在になっているのだった。

凛「プロデューサー…!」

プロデューサー。
プロデューサー。
プロデューサー。

私の頭の中は、既にプロデューサーの匂いを嗅ぎ尽くしたい気持ちでいっぱいになっていた。


だが。

そんな幸福は、長くは続かない。

周囲の警戒を怠った私は、すぐに現実へと引き戻されることとなった。


最初に聞こえたのは、犬の鳴き声。
そしてすぐさま会議室の扉が開け放たれ、部屋の電気が点けられる。

そこに立っていたのは、飼っているわんこを慌てて抱きかかえる聖來さん。
そして隣には、プロデューサーの姿があった。

聖來「なんか、うちのわんこの様子がおかしいからついてきたら…凛ちゃん?」

キョトンとした表情を浮かべる聖來さんだが、その顔はすぐに豹変し、鼻を摘む。

聖來「凛ちゃん、ソレ…何、してるの?」

世間一般からすれば、当然の反応だろう。
高校生の女の子が、異臭を放つ靴下の片方を首に巻き、もう片方を咥えながら鼻に押し当てているのだ。
その臭いはとてもひどいものらしく、聖來さんだけでなく、隣にいるプロデューサーも顔を顰めている。

凛「…え?」

喉から出てきたのは、拙い声。
同時に、咥えていた靴下が、力の抜けた手からスルリと落ちる。

何が。何故。どうして。
そんな言葉ばかりが浮かんで消える。
頭の中が真っ白になるとは、正にこういうことを言うのだろう。


沈黙。


どれぐらいの時間が経ったのだろう。
誰も喋らなくなった空間で、プロデューサーがおもむろに口を開いた。

P「…凛。昨日、俺の靴下が無くなってたんだ」

――気付かれていた。
いや、そもそも気付かないほうがおかしい。
プロデューサーが気にしていないと思ったのは、ただの私の幻想だ。
プロデューサーが気にしていないと思い込み、私の都合のいい解釈をしようとしていただけだ。

P「たまたま聖來がわんこを連れて来て…臭いで探してもらうかーって冗談で言ったんだが…」

聖來「私は断ったんだけど、わんこがいきなりpさんの足の臭いを嗅ぎ始めて、すごい勢いでここに来たから…何事かと思ったんだけど…」

そして、プロデューサーの口が再び動く。


違う。

やめて。

私はそんなんじゃない。
私は、そんなつもりじゃない。


P「まさか、人の物を盗んだ挙句に…こんなことをしてたなんてな…」


はっきりとした、否定の言葉。

違う。
否定なんて生易しいものではない。

そう、拒絶だ。

受け入れ難い現実に、私はただ、呆然とするしかなかった。


P「凛。正直言って、俺にはお前についていく自信が無い。いや…無くなった、というべきか…」




聞きたくなかった、言葉。

プロデューサーなりに選んだ言葉だと、はっきりわかる。

でも、最後までその妙に優しいところが、逆に私を突き落とす。



私は、もう。


プロデューサーとは一緒にいられない。


P「…今すぐにじゃないけど、お前には新しいプロデューサーをつけてもらうことになると思う…。本当に、残念だけど…」



最低だ。私は。


今になって私は、自分自身の犯した過ちを、その重大さを、思い知った。


P「凛…それじゃあ…」

そう言って、プロデューサーは会議室を後にした。

聖來さんは暫し立ち尽くし、私に声をかけようとしていたが、かけるべき言葉が見つからなかったのだろう。
終始悲しそうな顔で口を開いては閉じ、最後に私を一瞥すると、静かに会議室から出て行った。


私は、誰もいなくなった会議室で。
聖來さんと、プロデューサーの来る前と、同じ。
1人きりの会議室で。

靴下を握り締めて、思い切り、泣いた。

以上です。
一応ハッピーエンド?バージョンも書いたので、
もし読みたい人がいればそちらも投下します。

是非とも、お願いします

分岐区切るとこミスってしまったよちくせう…

では、>>16の途中から


―――――――――――――――――――――――――――――――――

沈黙。


どれぐらいの時間が経ったのだろう。
誰も喋らなくなった空間で、プロデューサーがおもむろに口を開いた。

P「…凛。昨日、俺の靴下が無くなってたんだ」

――気付かれていた。
いや、そもそも気付かないほうがおかしい。
プロデューサーが気にしていないと思ったのは、ただの私の幻想だ。
プロデューサーが気にしていないと思い込み、私の都合のいい解釈をしようとしていただけだ。

P「たまたま聖來がわんこを連れて来て…臭いで探してもらうかーって冗談で言ったんだが…」

聖來「私は断ったんだけど、わんこがいきなりpさんの足の臭いを嗅ぎ始めて、すごい勢いでここに来たから…何事かと思ったんだけど…」

そして、プロデューサーの口が再び動く。


違う。

やめて。

私はそんなんじゃない。
私は、そんなつもりじゃない。





P「…まさか、凛がクンカーだったなんてなぁ…」


…へ?今、この人はなんと言ったのだろう。

クンカー?ナニソレ?


P「いやー、参った…まさかこんな身近にいたとは…」

プロデューサーは顔を手で抑えつつも、その口元は笑っているように見える。

P「いや、実はな凛…俺も人の事を言えないから言うが…俺、実は使わなくなった凛の衣装全部買ってるんだよ」




凛&聖來「……は?」




なにそれ、おかしくない?っていうかいいの?そういうの。
そもそもそんなこと出来るの?
出来たとして、犯罪になってもおかしくないよね、ソレ。

聖來「…pさん。まさかとは思うけど、凛ちゃんの私物とか…」

P「ああ!ないない、それはない!まさかアイドルの私物を勝手に持ち出すわけにはいかんだろ?だからいらなくなった物だけをだな…」

凛「…プロデューサー。それも十分おかしいと思うよ。」

非難するようにプロデューサーを見つめる。
が、今のこの人には何をしたところで無駄なようだ。

P「いやーそれがさ、凛の衣装って事はだ、凛の色んな匂いが染み付いてるって事で…
っととイカンイカン、これ以上はさすがにアウトだな!」

凛「え…?」

プロデューサーの言葉。
それはまさしく、私の思っていたことと同じものだった。

私は、プロデューサーの匂いが嗅ぎたくて、プロデューサーの私物の匂いを嗅いでいる。
対してプロデューサーも、私の匂いが嗅ぎたくて、私の着ていた衣装の匂いを嗅いでいるのだ。


P「あ、す、スマンスマン!べべ別に変な意味じゃなくてだな…」

慌てて首を横に振るプロデューサー。
その姿がおかしくて、自然と笑ってしまう。

凛「…プロデューサー。そんなんじゃ誤魔化しきれてないよ」

P「え?そうか?じゃあ俺の特殊な嗜好が2人にばれて…」

青白い顔になってブツブツ言い始めるプロデューサー。
その姿が更におかしくて、また笑ってしまう。


凛「…ふふっ、あははっ、おかしい」

そんな私を見て、プロデューサーも釣られて笑い出す。
その横で聖來さんだけが、事態を飲み込めずに私とプロデューサーを交互に見ている。
その顔は、まるで今日の帰り道、手を繋ごうと言った私に向けた、プロデューサーのあの顔のようだった。


ひとしきり笑い終わった後に、私はプロデューサーに向き直り、切り出す。

凛「プロデューサー。こんな私だけど、許してくれるかな?」

プロデューサーは笑みをいっそう大きくして、私に歩み寄った。

P「許すもなにも、俺だって同じようなことしてたんだ。お互い様だな!」

そう言ってくしゃくしゃと頭を撫でて来る。
なんだかくすぐったいけれど、今はそれが心地好かった。


そして私は、新たに1つの決意をした。
今までの後ろめたい私じゃない、堂々とした私でいようということ。

凛「…ねぇ。また匂いが嗅ぎたくなったら、靴下じゃなくて足の匂い、嗅がせてくれる?」

今までのように隠れてするのではなく、私自身を見せていこうということ。

P「おう、いつでもいいぞ。あ、その代わり凛のも直で嗅がせてくれな?」

凛「それは嫌。プロデューサーはいらなくなった衣装で我慢しなよ」

言い合って、再び笑いあう。

私は、犬のように、主人に付き従う存在じゃなくてもいい。
私と同じ、犬のような人と一緒にいて。


凛「じゃあ早速続きしてるね」

P「あー、邪魔して悪かったな。あとでちゃんと返してくれよー。俺も帰ったら思う存分凛の匂い嗅がせてもらうからな」


こんな風に。

いつまでも一緒に、同じ道を、歩んで行こうと思えた。





聖來「えー…っと?何?つまり、どゆこと?」

終わりです。

クンカー凛ってことでネタ被りまくりだろうけど思うまま書き綴りました。
暑い夏にはぴったりなSSになったかと思います。

ではhtml化依頼出してきます。

乙乙

朝っぱらからすごいものを読んでしまった。

書き終わってなんだけども、聖來さん視点も書きたくなってしまった。
また創作意欲が湧いたらそちらも書いていくかもしれません。

乙。
読みながら…その…下品なんですが…フフ…勃起…しちゃいましてね…

スレタイでクンカーネタなのは想像付いたけど
コメディチックな軽いノリのSSかと思ったら
シリアスな作風の上に文章力高くてクソワロタ
聖來さん視点のも期待してます

>>27
ただ期待

さっさと書け太郎

はやくしろよ

びっくりするほど変態だらけのSSだった

いちいち声出して笑ってしまった
いいssだった、かけ値なしに

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