【R18G】青葉「玉砕の島の艦これ?」 (47)

よろしくお願いします。
以前に、投下したSSをもとに新しく物語を書きました。

提督「安価で艦娘を拷問しよう」
提督「安価で艦娘を拷問しよう」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1460744471/)

まだ、使い方など慣れていませんので、間違いなどあったら指摘して下さい。
あと、時々安価をするかもしれません。

なお今回は地の文が多めです。それでは、よろしくお願い申し上げます。

「いくら飲んでも酔えねえ……」

ハッと時計を見ると午前零時を回っている。執務室の机に置かれたコップ一杯の日本酒は、僅かに減っていた。

我ながら情けなくなる。みりんでも酔っ払うほどの体質。度数の強い
日本酒など口にすれば、あっとい間に気を失っていた。

楽しい酔いの感覚などなく、頭がガンガンと響いて吐き気に襲われて、そのまま床に寝転がって数時間。そのまま、朝まで寝かせておいてくれればよいのに、こんな中途半端な時間に目を覚まさせるとは。

また、いいしれぬ不安が襲ってくる……。

椅子に座って机の引き出しをガサゴソと探って、緑色の四角い小瓶を取り出す。赤い文字で「ヒロポン」と書かれた瓶。蓋を開ければ錠剤が入っている。瓶を逆さにして、二、三粒を手のひらにのせて、ふと逡巡して瓶に戻す。

これもまた、体質に合わないのがわかっているからだ。一度試したみたが、効果が切れた後に三日ほど身体に力が入らなかった。

酒が飲めたり、薬がキチンと効く体質のヤツらが羨ましい。
なにしろ、酒や薬に「逃げる」とはいうけれども、一瞬でも幸福感を得ることができるからだ。
そう、そんな体験もできず、俺はずっと正気のままで不安を相手にしなくてはいけないのだ。

ひとまず、布団でもひっかぶって朝になるのを待つか。そう思って立ち上がろうとすると、ノックをすることもなくドアが開く。

 入ってきたのは、妙な色の髪をした少女。

「司令官……今夜はお呼びがないんですけど……」

 セーラーの上衣に半ズボンという出で立ちの少女は不審な顔をして、部屋の中に入ってくる。
途端に俺は、なにか妙にイラッとしてしまう。

「一人がいい時もあるだろうが!」

 机の上にあった灰皿を投げつけようとすると、グッと胸のあたりに力が入った。
そうだ、また流血でもさせたら……ああ、そちらのほうが面倒だ。ぐっと自分を抑えて、椅子に座り直す。
少女は、それも予測していたかのように涼しい顔をして、鼻で笑うと部屋にあるもう一つの机に椅子を引いて座った。

「……まだ執務、ありましたっけ?」

「大した作戦じゃない。大淀に通信だけまかしてる。なんか事態が急変したら起こしにくることになってる」

「じゃあ、いつも通りでいいじゃないですか」

「たたき起こされた時に、寝ぼけ眼ならいいが下着も履かずに通信室に飛び込むのか?」

「別に……見られても減るものじゃないですよ」

「そういうわけにもいかないだろうって……」

 俺は三種軍装のズボンに上はランニング姿。
ランニングの前をまくり上げて、目の前の少女に見せつける。
あまりしまりのない腹のあたりに胸のあたりまでところ構わず歯形や吸い口痕、生傷が痛々しい。

「……変態扱いされるのは、お前だぞ青葉」

 青葉と呼ばれた少女は、俺に呆れたような顔を向ける。
そして、自分もセーラー服の上衣をまくりあげる。非番の時間でもあり、規定通りの下着をつけていないからか、乳房も露わになる。
彼女の身体もまた、あちこちが痛々しい傷だらけになっている。

「……司令官と違って、入渠や近代化改修の時には、ほかの艦娘に肌を見られるのわかってます?
こないだなんて、明石さんが我慢できずに噴き出してましたよ」

お互いの傷が、毎晩のセックスの成果なのはわかっている。
だから、お互い様だ。とはいえ、こちらが悪いといいたげな青葉の顔を見ていると、また別の罪悪感に包まれ不安が押し寄せてくる。
必死に考えることを止めようとして、ふと人肌を感じる。
いつの間にか俺の傍に立っていた青葉が、しなだれかかって首に両腕を回して抱きついてくる。

「だから、いいんですから。司令官、早くお布団。お布団いきましょう……それとも、ここでもいいですか」

艶やかさもなにもない。色気すらない。まるで、腹を空かせた子供が食べ物をねだるような勢いで青葉は迫ってくる。
俺は考えるのをやめて、椅子から立ち上がると、そのまま青葉をギシギシと音が響く床板の上に押し倒した。
あとは、いつも通りだ。愛の言葉を吐くこともなく、互いに相手を気持ちよくさせようという気持ちなどなく、
野犬同士の喧嘩のようにお互いの身体に吸い付き、噛みつく。
気まぐれに、普通の男女がやるような交接をすることもあるけれど、決してうまくはいかない。
散々迷って、青葉の穴に突っ込んだ途端に俺のほうが、ふっと冷めて萎えてしまうのだ。

「こんなん普通じゃないんだ」

ふと、そんな言葉を呟く。でも、ならばなにが普通なのかは、俺もわからない。
なにせ、俺も青葉も、なにかの巨大な部品であることを容赦なく自覚させられて、
日々の飯を口に運ぶ作業をしているからだ。

俺は司令官……と、青葉は呼ぶ。あるいは、ほかのヤツらは提督とも呼ぶ。
なにか高みの見物を決めている役職のように聞こえるだろう。昔はそんな時代もあったかも知れない。
けれども、今では提督も単なる量産品。本土から遠く離れた、この最前線の島嶼には、いくつもの泊地があって、
それぞれに「第○○戦隊司令官」などと肩書きを持つ。

いったい何人の司令官がいるのやら。本来、「提督」とは少将以上の階級章を身につけて閣下と呼ばれる、
お偉い方々のための言葉。兵学校から海軍大学を出て、出世競争に勝ち抜いた、この上なく優秀なやつらが
軍隊生活の後半あたりでようやく手にする言葉である。

なら、なぜ俺たちが「提督」なんて呼ばれるかといえば……使い捨ての部品への嘲笑以外なにものでもない。

「提督」と呼ばれるヤツらの中でも、ちょっとしたコネがあるとか、処世術に長けたお調子者だとかは、大違いだ。

横須賀とか佐世保といった内地の鎮守府に配属されて、ホッと一息つきながら休日は街に繰り出し楽しむ幸せな
軍隊生活を過ごすことができる。

比べれば天国と地獄。地獄のほうのこちらは、送られてくる命令の通りに出撃し、戦果の報告を繰り返すばかり。
この広い海の戦況が、どうなっているのかも漠然としたまま、一日一日を過ごすのだ。

目が覚めれば、今日こそは深海のヤツらが上陸してきて、我が身もゴミのように転がっているのじゃないかと恐怖する。
寝ても、夜の間に気がつけば死んでいるのじゃないか、あるいは明日こそと、寝ても覚めてもお迎えを待っている気分。

死期を悟った重病人の気分が、未来永劫続いているような気分なのだ。
だから、時折通信で内地の鎮守府が深海の奇襲を受けたと聞けば、むしろ心の内では「ざまあみろ」と叫ぶのだ。

でも、そんなことで俺の気分は晴れない。

同じような絶望の中で日々、行きようともがくヤツらが100人あまり、俺の命令で動くのが、ここのシステム。

今や海軍の主力となった艦娘。どういう原理か、何度説明されても、いまいち理解に苦しむが「妖精さん」なるものの力を利用した技術によって生み出された生きる兵器。その素体は、女。元の姿も捨てて軍艦の魂を宿した女たち……。

そんな女たちは、日々伝達される命令に従って。あるいは、現場指揮官である俺の命令で死の海へと出撃していく。

いわば、俺は彼女たちの死刑執行人。
いくら、死地を共にしているとはいっても命令を下す立場である俺を見る彼女たちの目から不信感など
消えるはずもない。組織の規律の中で、面と向かって逆らうことなどない。

なにより、ここは逃げ場のない海に囲まれた牢獄。
少しでも楽な生活や配給される物資のおこぼれでも求めているのか、やたらと媚びてくるヤツもいる。
淡々と軍人らしさを装って任務に励むヤツもいる。

でも、俺にはわかっているのだ。この男の命令に従って、生き残ることができるのか。
そう彼女たちは腹の底で思っている。幾度かに一度は、出撃したまま戻らない艦娘もいる。
あるいは、帰還してから息を引き取る艦娘もいる。そのたびに、俺にはわかるのだ。

「提督の作戦ミスだよね……」
「司令官があんな命令をするから」
「いくら、大本営からの指示だって」

「あんなの無駄死にだよ」

「なんで、死んだんだ」

「あいつが殺したんだよ」

「司令官が殺したんだ」

「提督のせいで死んだんだ」


 そんな突き刺さるような視線と、恨みの言葉。

とりわけ帰還してから死ぬ艦娘の視線は痛い。
「お前のせいで死ぬんだ」そんな恨みを込めた目で俺を見ながら死んでいくように思えてならない。

高速修復材でも間に合わず陸に上がって死ぬ艦娘。入渠したドックで気がついたら死んでる艦娘。

俺の見ていないとこならまだいい。

でも、そんな都合のいい死に方などしてくれない。

「死にたくない、死にたくない」

「お母さん、おかあさん」

「痛い、痛いよ」

「ねえ、どこ。ほら、私の足、どこなの……」

「早く楽にして下さい」 

どいつもこいつも……グダグダとうらみごとを述べて、無様を晒して死んでいきやがる。

そんなヤツらと簡単に信頼関係なんて築けるはずもない。
俺にとっての敵は深海と艦娘の両方なのではないか……。

だから、俺は艦娘たちに愛情を払うこともない。戦場での些細なミスも、泊地での規律違反も見逃すことはない。常に厳罰。

泊地の司令官には死刑も含めて、内地なら煩雑な手続きのある軍法会議を一人で行うことができる権限があるのが、幸いだ。

執務室と扉一枚を隔てた、俺の自室に入ると、後を着いてきた青葉は床に敷きっぱなしになっている布団に、もぞもぞと潜り込む。

恥じらいもなく誘ってくる、その売女のような振る舞いには、むしろホッとする。

亀のように鈍い輸送船で深海の潜水艦の襲撃に怯え、暑さに苦しんだ末に投げ出されるように降り立った、この泊地。

まだ艦娘も両手で数えるくらいしかおらず、今以上にギスギスした頃、配属されてきたのが、この娘だ。

思えば、最初から妙な艦娘だった。

「青葉のこと………気になるんですかぁ?いい情報ありますよぉ?」

 夜の女みたいな思わせぶりな言葉に、神経を逆なでされたような気分になった。夜になっても怒りが治まらなかったので、
執務室に呼び出しヒロポンを飲まして、犯してやった。

いや、中には入れたのだが最後までやったのか……俺もヒロポンのおかげで興奮しすぎてわからなかった。

ただ、覚えているのはヒロポンが切れた後に、どうしようもない不安に犯されたことと、青葉が、既に処女じゃなかったことである。

きっと生まれながらの売女の類いなのだろう。

そんなことを思って、こいつを秘書艦に任じた。

秘書艦というのは、くそくだらない書類を処理したり、そのほか諸々をこなす俺専用の雑用係だ。

正式な規則じゃ色々と長ったらしい文章が記してあるが、本来の目的は書かれていない部分。

提督専用の慰安婦ということだ。艦娘というのは、子供を孕むことがないように処置してあるので、
好き放題に使って構わないと、座学の時に漠然と教えられた。

座学の教室には100人ほどがいたと思うが、誰一人喜んで声を挙げるヤツなどいなかった。

当たり前だ。上のヤツらの本音はこうだ。

「女を抱かしてやるんだから、死ね」

毎月、帳簿の上ではそれなりの俸給が支払われている俺たちだが、こんな南の果てでは使うアテなどない。

せいぜい、気まぐれに輸送船が運んでくる酒保羊羹を買うことくらいである。

だから、秘書艦というのが俺に与えられた、唯一マシなボーナスというところだろう。

以来、既に3年あまり。

ほぼ毎日のように青葉を抱いてるけれども、いっこうに気持ちよさなど感じない。

ただ、精力を外に出して疲労感の中で、少しでも眠気を催させるんじゃないか、そんな思いで抱いているのだ。

だというのに、この艦娘は手を変え品を変えて、自分のほうから誘ってくる。

そんな関係だけれども、身体を重ねているからだろうか、小指の先ほどは信頼がある。

なにせ軍法会議も俺の大事な任務。敵前逃亡や命令違反など様々な理由で艦娘たちに罰を与えて、
時には解体という名の処刑命令を下すこともある。

だいたいは、定番の工廠担当の艦娘である明石か、夕張あたりに任せるらしいが、ここでは俺が率先して引き受けている。


小憎らしい艦娘どもが……悲鳴を挙げて、命乞いをして、最後は「早く殺して」と泣き叫ぶ。

ヒロポンなんか目じゃない興奮に、青葉は俺よりも一際激しく興奮しているのだ。ああ、きっとこいつも狂ってる……キチガイなんだ。それが、唯一ほかの艦娘と違う繋がりを感じる部分である。

おまけに、青葉には特技がある。

「司令官、青葉、見ちゃいました……!」

 そう囁く時、俺の胸は高鳴る。艦娘たちの命令違反かなにか。

なにかにつけて、艦娘を処罰できる些細なことをめざとく見つけてくるのだ。

果たして、艦娘たちがそんな密告屋に気づいているのかいないのかは、わからない。

もとより売女の素質があるからなのか、青葉は決して「提督の女」という顔を見せない。

ただ、勘のいい艦娘たちは気づいているだろう。

だとすると、コイツも俺と同じ恨みの目で見られているのか……

小さい布団の中で自分からモゾモゾと服を脱ぐ青葉を見ながら、そんな妄想をするのが楽しい。

時計を見ると午前2時を回っていた。総員起こしの声が聞こえる頃には、出撃した艦娘たちも戻ってくるだろう。

そう考えると、また現実に戻されて不安が襲ってくる。

「優勢な敵もいませんから、軽い遠足ですね」

作戦室を出る時に、大淀がいった言葉は本心なのか、はたまた希望的観測なのか。

結局のところ、ほぼ出撃することのない艦娘たちとだけは、奇妙な連帯感も感じないことはない。

共に、傷つき海の藻屑と消えていく艦娘たちの恨みを背中で感じている。それに対する不安ゆえの連帯感。

信頼関係などなにもない共依存。
 

……ふと目が覚める。時計は4時30分を指している。慣れた身体は、目覚ましがなくても5時前にきっちりと目を覚ましてしまう。

今日の当直は……北上。

朝から興奮気味に号令をかけて回る川内と違って、
気だるそうに「総員起こし」と、艦娘たちの寮の扉を開けて回るだろう。

ただ、気だるそうにしながらも、目は冷酷だ。

布団の畳み方、集合時間。ひとつひとつの小さなミスを北上は決して見逃さない。

そして、温情の気持ちなど持ち合わせてもいない。とりわけ、駆逐艦たちにとっては冷酷さが光る。

おそらく、今日も朝から駆逐艦たちがビンタされる音。

あるいは、尻を精神注入棒で死ぬほど叩かれてうずくまっている姿がみられることだろう……。

傍らで枕を抱いて寝る、青葉の顔を見た。

眠りながらもなにかの苦痛を感じているような表情。

そこに得もいわれぬ快感が生じる。きっと、俺も同じような顔で眠っているのだろうな。

そう思うと目覚めが悪い。

ああ、きっと今日もなにか悪いことが始まる。

気を紛らわそうと、煙草に火をつけた時、執務室のドアをノックする音が聞こえた。

「提督、緊急の報告です。起きていらっしゃいますか」

大淀の声は、今日もまた最悪の日常が始まることを告げていた。

ひとまず、ここまで。続きは改めて投下します。

期待

超期待

待ってるからはよ

待ってる

はよ

お待たせしました。続きを投下していきます。

「今日も相変わらず、なんて暑さだ……」 

南洋の島は、その日も朝から暑かった。
朝からたたき起こされて、大淀から告げられたのは出撃中の艦隊の通信途絶の報告。

「既に定時連絡の時間を過ぎて、3時間が経過しています」

表情を変えることもなく淡々と告げられるだけ。
俺も、半ば聞き流しているだけなのだから。

大淀の仕事は報告、俺の仕事は判断。

はるか上のほうから送られてくる、作戦の指示を聞く。

それから、駒の使い道を考えるのは俺の仕事。
沈んでいく艦娘の恨みも悲しみも、結局はすべて背負うのは俺の役目。

その代償とて、毎月、幾ばくかのカネが貰えることになっている。

とはいえ、この泊地があるだけの南洋の島には、カネを遣うところもありはしない。
いまいましい、帳面に記録されていくだけの使い道のないカネ。

間宮と明石のとこで、甘い物でも食べたり買ったりする以外にカネを遣うところはない。

それだって、帳面につけておくものだから、ここに来てから財布も持ち歩かないし現金なんて金庫に入っているのを見るだけだ。

それでも、女には不自由しないから、天国じゃあないか……?

時折、やってくる輸送船は律儀に艦娘たちの給料も現金で運んでくる。
だから、金庫にはカネが貯まっていくだけである。

戦争が終わって、内地に戻れば分限者として安泰に暮らせるではないか。

実のところ、額面だけはけっこうなものになっている。
幾ばくかの貸家でも買えば、あくせくと働かなくてもよい日々を過ごせるだろう。

……残念ながら、そんなお気楽には出来ていない。

「どうしますか。引き続き、連絡を待っていますか?」

出撃した部隊への命令は、近海に出没を繰り返している敵偵察部隊の捕捉と殲滅。
やつらの側の目的も威力偵察のはず。たいした戦力じゃあない。
だから、たとえ戦闘となっても僅かな損害程度。

……それも俺の判断ミスだったというわけか。

そんなことあるものか。判断は正確。いや、少なくとも間違ってはいない。

それに練度も……。

お国のために、大東亜のためにと、この戦争の目的に対する学習に手を抜いてなどいない。

もちろん、そんなお題目を、すべて徹頭徹尾信じているヤツなどいないだろう。

そんな、心の揺らぎを抑えて、命令の通りに命を投げ出す艦娘にするために、日々の訓練には手を抜いていない。

怒鳴り、殴り、ありとあらゆる制裁を加えて、命令一下に寸分の隙もない動きを見せるところまで……。

そこまで、やっておいて、なぜ全滅などするはずがあろうものか。

気がつくと、すでに時計は10時を回っていた。

いまだ、連絡が途絶えた艦娘たちが帰投する様子もなかった。

「もういいだろう。腹も減った……」

 曲がりなりにも同じ釜の飯を食っていた艦娘たちが、まとめて6隻も消えた。だからといって、悲しんでいる時間はない。

なにしろ、そんなことは日常茶飯事だ。
それに、沈んだからといって作戦が成功しようが失敗しようが、それで仕事がおわるわけではない。

それまでの時間ごとの通信記録を取りまとめ、こまごまと状況を書き、書類をまとめなくてはならないのだ。

艦娘以前の軍艦ならば、これは主計科の仕事であった。『作戦記録参考書』をもとに細々と記録をまとめていく。

艦娘も養成の段階で、それらの教育を経ているはずなのだが、養成期間が短縮された今では、まったく心許ない。

艦隊の旗艦を任せることができる艦娘ならば、まだ読めるものが書ける。
ところが、艦娘によっては、まったく文章が書けないヤツもいる。

そんな雑多な所帯だから、そうした事務仕事を任せることができそうな艦娘を見つけて、仕事を割り当てねばならないというわけだ。

「どうせ、内地に届ける必要もない書類だ。霧島に手伝わせて、今日明日で片付けておけばいいだろう」

青葉に、そういいつけて俺は執務室を出る。
貯まっていくばかりの日報やら戦闘詳報の類い。日々の作業として書類はたまっていくが、それが読み返されることもない。

本来は、記録として将来のために役立てる資料のはず。もしも、これが内地にちゃんと整理して保管された場合には……だ。

補給の船団も、敵の攻撃を必死にかいくぐってきている、今日この頃。帰りは内地に運ぶ物資を満載する予定の船団に、隙間などどこにもないというわけだ。

「暑い……」

ギシギシと音のする廊下を歩く。
泊地によっては、文字通りの掘っ立て小屋もあるというが、この泊地はまだましなほうだ。
元は、この島を開発していた会社が使っていたという建物は、歯車に過ぎない俺にとっては必要以上に立派な建物に思えている。

板張りの廊下を歩いて、食堂へと向かう。朝から、掃除や体操を終えた艦娘たちが、それぞれ訓練なり与えられた任務の準備にと、慌ただしく動いている。

鎮守府だとか泊地では、かしましい艦娘たちが楽しい日常を送っている……そんなのは、読み捨てにされるエロ本レベルの妄想だ。

戦争の主力が艦娘へと置き換わった今では、前線と後方との区別は曖昧になった。我が軍も深海の側も、互いに張り巡らされた電探や哨戒の網をくぐって、敵地へ攻撃を仕掛ける。

会戦の機会は減り、多くがゲリラ戦なのである。

俺も着任してこのかた、多数の提督と艦隊とが集結する大規模作戦というのは、数えるほどの経験しか無い。

だから、いついかなる時も寸部も緊張感を解くことなどできない。なにより、この泊地は離れ小島。週に一度、休養日になるシフトで運営をしてはいるけれども、遊びにいくところなどどこにもない。ただ、朝たたき起こされずにすむことだけが、休日らしさといえる。

それを除けば、酒保で間宮がこしらえている甘味か煙草、あとは酒くらいが楽しみだろうか。

食堂にいく道すがら、中庭に出るとタバコ盆の前で当直を終えた北上と龍驤の姿を見つけた。

「やあ、提督ぅ〜おはよう。朝の体操に来なかったところを見ると作戦は失敗かなあ」

俺が着任するよりも前からいる最古参の北上、そして龍驤は敬礼もせずに軽口を叩く。

「いわんこっちゃない。どうせ、上のほうが、また地図だけ見て立てた作戦なんやろ」

とりわけ龍驤は、辛辣な口の効き方をする。だからといって、腹は立たない。むしろ、形だけ敬礼して、上官の命令に従っているフリをしているだけのヤツらに比べると、何倍もウソがないからだ。

「ああ、失敗も失敗。出撃した軽巡に駆逐艦、まとめて6隻。もう、青葉に喪失の記録をつけらせているところだ」

 ポケットから煙草を取り出して口にくわえると、すかさず龍驤がマッチの火をつける。

「旗艦の名取以下、春風に卯月……三ヶ月と持たなかったな」

「見てみぃ。書類に書かれてる練度の高さなんかアテにならんと、いつもいうとるやろ」

「ま、その通りだ。つまんない作戦だからと編成がテキトーすぎたな。上のほうのヤツら、自分らが内地で散々やられているから、同じように警戒網は気軽に突破できると思い込んでるんだ」

「まー、うざい駆逐艦でも弾よけくらいにはなるからさあ。ちゃんと欠けたぶんの補充は来るんだよねえ?」

「頼んでもないのに、押しつけてくる。次の補給の時にでも運んでくるさ。また速成教育で、ようやっと水の上を歩けるような艦娘をな」

開戦から数年。とにかく艦娘の質というものは酷いものだ。
補充されるのは、僅かな教育を経て艦娘になった素人同然のが大半。優れた艦娘は取り合いになるから、回ってくるのは宝くじに当選するのと同等の確立。

せいぜい、弾とか魚雷を撃つことができるくらい。中には、震え上がって弾も撃てない艦娘もいる。

わずかな古参は、そんな役立たずの新艦娘の尻を叩いて、無理矢理戦わせるのが仕事。

幾度か、無事に帰投することができれば、一人前ということにしている。

そうでもしないと頭数は足りない。古参を重要な作戦以外に駆り出してすり減らすのは避けたい。

そんな日常。もはや同じ艦娘が死んでも悲しみなどない。
いや、むしろ感情移入をすることができないというのが正確なところだ。

俺が着任して3年を過ぎようとしているが、その頃からずっといる古株など限られたものだ。欠員の補充には事欠かないが、ほとんどが着任から半年も持たずに轟沈する。

「また、素人を押しつけられるんかいな?」

 俺の気持ちを代弁するように龍驤は、地面にツバを吐く。妖精さんを使った測定器とかで、艦娘の状態は数値化されている。中でも練度は、実力の指標となっており重要視される。

だが、それはあくまで平時でのもの。実際の戦闘となれば練度など数字に表れる以外の精神力だとか、そういったものが生死をわける。艦娘の素材となる女たちは、志願で十分にまかなわれているというが、問題は教育のほうだ。

龍驤や北上の頃は、伝統的な海軍教育そのままに学科から実技まで徹底的にシゴかれたという。対して、最近は艦娘への改造に耐える身体であれば、なんでも構わないとばかりに、必要最低限の訓練すら行われているかも疑わしい。

補給物資をくるんでいる古新聞を読むと、このあたりの戦況についてもずいぶんと派手派手しい勝利の言葉ばかりが並んでいる。そんな言葉を額面通りに受け取っているとか思えないヤツらが、当たり前のように補充されてくるのだ。

そんな間の抜けたヤツらは、当然、北上の餌食になる。

「今朝も、ポカポカと音がしてたが、あんまりやり過ぎるな。故障でもしたら資材が無駄だ」

「あ〜、ワタシはそんなに殴ってないんだよぉ」

頭をポリポリとかきながら、北上はチラリと龍驤のほうを見る。

「……制裁されるようなことをするのが、問題ってことや」

「朝潮とか、自分から制裁されるネタをつくってるしねえ。真面目にやるのはいいけど、あんなに<自分は、頑張ってます>って顔されると、ついイラっとしちゃうんだよね〜」

「……改二になっても相変わらずか?」

「だね〜。今朝も、まだ号令がかかってないのに布団を片付けてたんだ。これは完全な、命令違反だもんねえ。もちろん、同室のも連帯責任さあ」

「朝から、精神注入棒は……。手伝わされるほうも大変なのわかっとんか」

腹の中で笑いを堪えつつ話を聞いていると、当の朝潮がやってきた。全身を汗でドロドロにして、長い黒髪を振り乱して、肩で息しながら敬礼する。

「ほ、報告します……。練兵場40周……終わりました!」

 今にも倒れそうな朝潮の姿を見て、北上がため息をつく。そして、冷たい目で朝潮に語りかける。

「あのさあ〜。ワタシたち、今提督と話しているの、わかる? ワタシも龍驤も旗艦やってること多いよね。ということは、お前レベルじゃ知らない機密を話していることもあるってことでしょ? だから、まずは少し離れたところから<よろしいでしょうか>だよね?なに? 40周走って、もう疲れてるの? 違うな。早く朝メシ食べたいって、それしか考えずに、反省なんて微塵もなしに、漫然と走ってただけでしょ? なに? 反省する気ある? なさそうに見えるなあ?」

俺は雰囲気を察して、タバコをタバコ盆の中に捨てると、その場を立ち去ろうとする。

龍驤と北上は、サッと俺に敬礼をする。艦娘同士の制裁は、士官の知るところではないというのが、不文律である。

建物の中に入ってから、そっと様子を疑うと壁に手をつかされた大潮がスカートをまくり上げられて、尻を棒で打たれていた。龍驤に尻を打たれ、たまらなくなったのか、姿勢を崩してしまうと、北上のビンタが頬を打つ。顔にツバまで吐かれても、必死に耐えている大潮の姿に、快感の波を感じた。

「無駄飯ばかり食らってる役立たずの死に損ない。せいぜい、シゴキに耐えて長生きして、オレを長生きさせてくれよ……」
 
 クソみたいな役立たずが、シゴキという名の痛い目に遭わされている姿には高揚感が止まらない。


「提督、相変わらず悪趣味ですよ」

ふと、声のほう見ると、冷たく笑っている明石の姿があった。

大変長らくお待たせして、申し訳ありません。
これから先は、月に2度くらいは更新していくようにしたいと思っております。
頑張りますので、合間に感想など頂ければ嬉しいです。
引き続きよろしくお願い申し上げます。

朝潮が大潮に変わった

>>39
す、すみません!!誤記です。
朝潮ですよ!朝潮!

待ってた

待ってるぞ

 厨房では、鳳翔と間宮、伊良湖が四六時中、忙しそうに動いている。なにしろ、毎日100人分の食事を朝昼晩に夜食の4回。これに加えて、保存食の仕込みや甘味の作業もあるのだ。本来、3人でも回せるはずのない仕事をこなせるのも、彼女らが艦娘だからということだろう。そんな忙しい最中に、好きな時間に食事をとることができるのは、ほぼ俺の特権だ。学生食堂のような四角い銀色のお盆を、厨房のカウンターに置くと、鳳翔が俺の姿に気づいた。

「あら、提督。おはようございます。すみません、朝の分が終わってしまって……ごはんはあるのですが」

「かまわない。飯をどんぶりに一杯。それに、漬け物とお茶を」

 それが、だいたいの俺の食事だ。この泊地で唯一幸いなことがあるとしたら、食糧事情のよさだろう。補給は日に日に不安になっていき、米の質も落ちている。とはいえ、量だけは十分だし、備蓄も食糧だけは半年は補給がなくても持つくらいは備えている。加えて、
あちこちに芋やほおっておいても育つ野菜を植えている。普段から米に雑穀や芋を混ぜたりしていることもあり、餓死する心配だけは少ない。大淀によれば、時折通信には食糧事情の逼迫した泊地からの悲痛な叫びが混じっているという。
<運が悪かったな>
 そんな悲痛な叫びなど、俺にとっては他人ごとだ。他人の同情をしている暇など、俺にはないのだから。
 塩辛い瓜の漬け物を添えた、どんぶり飯に熱い茶を注いだ飯をかき込んでいると、艦娘たちの歌声が聞こえてきた。

すみません、トリップを忘れてしまいましたが、本人です。
また、大変ながらくお待たせしました。

ルーズベルトのベルトが切れて
チャーチル散る散る
花が散る 花が散る

 戦前から流行した歌の俗な替え歌を歌いながら、入ってきたのは吹雪と睦月、夕立の三人だった。甲高い笑い声だしていた、三人は食堂に俺の姿を見つけて、びくっと震えて、駆け寄ってくると、揃って敬礼する。
「おはようございます!」

 一番真面目そうな吹雪が、挨拶をする。睦月は「やばい」といった表情で、こちらを見ている。

「ま、お茶でも持ってきて座りなさい。今日は、非番だったか?」

 睦月がお茶を取りに行き、吹雪と夕立が俺の向かいに座る。

「はい、本日はお休みを頂いております」

 吹雪が一番に口を開く。前の吹雪が轟沈してからすぐに補充されてきた吹雪。既に2年ほどになるか、生き残っているだけあって、
そこそこの戦力になっている。

「なにか、楽しそうなことがあったか?」

 睦月が運んできたお茶を飲みながら、俺は3人に語りかける。

「いえ〜、提督にいってもよいのか……」

 睦月が少し下を向いて語る。

「構わないだろう」

 俺が、そういうと、我慢できなくなったのか夕立が、ププっと噴き出した。

「朝潮ちゃんが、面白すぎたっぽい……ププっ」

 その姿に、我慢できずに睦月も噴き出し、吹雪も続く。

「えっと、ですね。なにをしたのか知らないんですけど……朝潮ちゃんてば、スカートがめくれあがったまま、四つん這いで廊下を這ってたんです」
「にゃにゃにゃ!ってガン見してしまったんですが、その姿がおマヌケ過ぎてぇ〜」

いよいよ、耐えきれなくなったのか、三人は揃って大声で笑い転げる。ひとしきり笑った後で、吹雪は真面目そうな顔に戻る。

「というわけで、自分たちは、ああはならずに勝利のために、気を引き締めてやらねばならないと思ったわけです」

 微妙に壊れている三人は、いつも俺との上下関係におどおどしながらも、あれこれと話しにくる。その肩ぐるしさのなさゆえに、つき合いやすい。

「提督さん、タバコ欲しいっぽい」
 改二になってから、身長だけでなく身体のメリハリも目に見えて立派になった夕立。相変わらず語尾が「〜ぽい」ゆえに、ちょっと足りない女のように見えるが、ひとたび出撃すれば戦果は人並み以上。けれども、それを誇ることもない。戦闘よりも血を見ることを求めて止まない狂犬といったところだ。

「配給分があっただろう。足りなければ、酒保で明石から買えよ」
「あるけどぉ〜。無駄遣いはしたくないっぽい」

 戦果を挙げてるからとはいえ、調子に乗っているのもどうだろう。まあ、目に余ったら別に対応すればよい。俺はテーブルの上に投げるようにタバコの箱を置く。

「へへ、頂きっぽい」

 すっと、取り出したタバコは3本。2本を
服の中にそっと隠すと1本を口にくわえて、マッチを擦る。大きく吸い込み、煙を吐く。

「ぷはあ〜。この瞬間だけは、生きている感じがするっぽい。で、提督さん、次の出撃は何時っぽい?」
「しばらくは、哨戒任務が中心だな。なにしろ、深海の動きも読めない」
「へへ、また深海のヤツら……それに、女子供が血みどろで泣き叫ぶ様子を見たいっぽい」

 前線と後方が複雑に入り組んだ海域ゆえに、戦闘員と非戦闘員は曖昧だ。以前にも深海側の泊地を襲撃したことがあるが、
そこは深海側の住民の集落もある島だった。集落側から攻撃を仕掛けたのは、この3人とあとは川内型の3人。
どいつもこいつも、まったく躊躇することなく弾丸を撃ち込み、後から報告してくるものだから、俺のほうが少し驚いた。

そんな汚い戦争のやり方に、青ざめた艦娘たちは、一人残らず生き残ってはいない。それを見て、俺も龍驤のいっていた「練度よりも重要なものがある」ことの意味を、すっかり理解した。

「しっかし、北上さんも相変わらずシゴキが激しいですねえ。朝潮ちゃんもいつまで、もつんでしょうか?」
「まあ、根性が足りないしぃ。前線に出しまくって鍛えたほうがいいしぃ」
 そう話ながら、吹雪と睦月は、俺に断りもせずにタバコを取りだして、火をつける。内地の鎮守府なら、あり得ないような光景も、ここでは当たり前だ。
「さてと……」

 俺が、立ち上がりタバコの箱をポケットにしまうと、三人は揃って恨めしそうな顔をする。その顔に負けて、俺がタバコの箱をテーブルの上に戻すと、今度は嬉しそうな顔をする。

「休日だからといって、あんまりダラけるな。あくまで、今日は業務を与えてないだけで、ここは戦場だ。緊急の出撃があれば、すぐに呼び出すからな」

「へへ、大丈夫っぽい。徹夜で飲んでても、タバコがあれば、大丈夫っぽい」

「私も大丈夫ですよ、司令官!」

 食堂を出て、練兵場のほうを見ると、川内型が3人並んで駆逐艦にシゴキを加えている最中だった。

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2019年02月17日 (日) 15:15:05   ID: xxL-OGDw

相変わらずフルメタルジャケットバリにイカれてるねー

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