「目が覚めたら右目のあたりが化物だった」【能力バトル】 (8)


「君、大丈夫か?」


夜。
確かに家の布団に入って寝ていたはずだった。
目覚めた光景はいつもと違って、黒い背景と炎に覆われていた。

火事だったらもう少しうるさいものじゃなかろうか、と思ったが辺りは静かだ。
右目がずきずきする。

「大丈夫、『レム』は消えてる」

「でもこの右目……」

「それについては私が責任を取ろう。 他のエクソシストに診せてからになるがね」

「あなたがそう言うならいいですよ」

女性と男性の声だ。
右目がぼやけているせいでよく分からないが、男性が女性をなだめているように見える。

「では一度拠点に戻りましょう。 飛びますよっ」

女性のその声で、景色はまたぷつりと途絶えた。
最後にホイッスルの音が聞こえた気がした。

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「あ、目が覚めましたか」

どうやらまた気絶していたらしく、先ほどとは打って変わって白い景色が目の前に広がっていた。
ゆっくりと身体を起こすが、大した痛みはない。

病室のような場所だろうか、部屋は白く簡素で、傍に置いてあるラックには体温計や氷枕が載っている。

「あの」

「なんでしょう?」

その反対、俺の左側に座っていた女性は首を傾げた。
さっきまで、黒く騒がしい中で聞いていたとは違う落ち着いた声だ。

女性はナース服……確かにナース服を着ているが、昔見たものとはデザインが違う。
スカートが短くて胸の部分がパツパツで、簡単に言うと目のやり場に困る。

栗色の大きな瞳は無表情に俺を見つめていて、思わず目を逸らした。
同じくらいの歳だろうが、表情のせいで随分大人びて見える。

肩までくらいの黒髪が緩やかにカーブを描いていた。

「ここはどこですか?」

「エクソシストの本拠地です」

何気ない質問を放ったはずなのに、病気なのはどちらかと問いたくなるような返答がきた。

「東京にあります」

そういう事を聞いてるんじゃない。

「あ、右目には触らないでくださいね」

「え?」

反射的に右目の方に手を持って行ってしまう。
肌に軽く触れたはずが、ごつごつした岩のような感触が伝わってきた。

「まだどんな夢か分かってないので触らない事をお勧めします。 それで逆に自分が傷ついた人を何人か見ました」

説明はちんぷんかんぷんだが、事情が分かるまでは触らない方がよさそうだ。
手を投げ出した時、病室のドアが開いた。


「お、目ェ覚めたんだね! よかった!」

入ってきたその人は体操服だった。
俺は本当にAVの撮影会にでも紛れ込んでしまったのかもしれない。

元気そうな彼女は茶色の髪のショートカットに、頭には赤いハチマキ。
腰にはなぜか鈴をつけていて、歩くたびにちりんと可愛らしく鳴った。

「おーおーお前私たちの仲間になるんだってな! 歓迎するぜーここは飯も温かい寝床もあるし、勉強もしなくていいからな!」

「は?」

「ニコ、まだ何も説明してないから」

「あーそっか! そりゃごめん! じゃあ最初から説明するぜ!」

ニコ、と言うらしい体操服の女性はナースもどきの頭を小突いた。

「あーやっときた! 遅いぜーアベル、お前が説明する前にニコちゃんが説明から何から何まで手とり足とり教えてあげる予約をとってしまったからな!」

「だから、その辺の説明を私がするんだってば、さっき言ったでしょ…… 君は何でもない時に『レム』を使うのを控えなさい」

続いて入ってきた初老の男性は、タキシードに片眼鏡というイギリス紳士な格好をしていた。


「あの」

「突然の事でびっくりしたかもしれないけどね。 君の右目についての大事な話だ」

よっこらしょ、と言って、アベルと呼ばれた初老紳士は俺の足元に腰掛けた。

「君は昨日どんな夢を見ていたか覚えているかい?」

「ゆ、夢?」

「そう、夢。 楽しい夢とか悲しい夢とか、『怖い夢』とか」

怖い夢、と言う時だけ寒気が走った。
突然で面喰いながらも質問に答える。

「いや、覚えてないです……」

「たいがい思い出せないものだよね。 夢の中ではあんなにはっきり喋ったり飛んだり、魔法を使ったりしていたのに、朝にはどういう訳か、きれいさっぱり忘れているのだ」

紳士は笑った。

「ただ夢というものは不思議なものだ。 いつもは蜃気楼のように消えてしまうのに、時たま現実世界にまで顔を出すやっかいな夢を見ることがある」

どきりとした。
片眼鏡の奥で、鋭い瞳が光った。

「それが『レム』と呼ばれる現象。 君の右目だ」


「もう右目を鏡で見たかい?」

「いえ」

「見てみるといい」

どこから用意してきたのか、ナースから手鏡を渡される。
ぼやけて違和感はあるが痛みがなかったから、そんなに大したことになってはいないと思っていた。

「っ!」

「どうだね?」

一言で言うと化物だ。
硬質な黒い皮膚が張り付いていて、眼球は黒く、白色の瞳とは色が完全に逆転している。

「これ……治るんですか?」

「治療、というのは正しい言い方ではない。 我々はそのように『レム』で苦しむ人々を覚醒させるために活動している」

「覚醒……」

「夢から覚まさないといけないからね」


「でも、これ……」

癒着どころの話じゃない。
身体の中身が完全に入れ替わってしまった感覚だ。

手術でどうにかなるものじゃない事は、素人目にもはっきりしていた。

「そう、それは医療的なアプローチで取り除ける代物ではない」

心を読んだかのような紳士の言葉。

「『レム』は寝ているうちに現実世界に浸食して宿主の身体を奪う。 たいてい『レム』に乗っ取られている間は意識がないんだけど、まれに君や私たちみたいに、夢の中に居てなお意識を保つ者が存在するのだ」

「俺が?」

「そう、君がだ」

夢を見ているような話だ。
いや、紳士の話では実際に見ているのか。

「その異能を用いて『レム』を倒すのが我々エクソシスト。 本来の意味と違って『悪夢祓い』なんだがね」

期待

なかなか面白そうだ

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