三船美優の独白 (27)

三船美優「一歩、踏み出して」
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モバP「三船美優に選択を」
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の続編です。

キャラクターの独自解釈要素が濃いので注意。

 01


「………………どんな形であろうとも、貴方の隣で歩み続ける事。それが今の私にとっては唯一……とは、言えません。けれど、一番の願いです」

「私はPさんに救い上げてもらいました。新しい道を示して貰えました。……今の私がトップアイドルを目指すのは言ってしまえばPさんのためです。貴方の凄さを周りに示して見せるため、私を拾ったのは間違いではないと、証明するため。……ふふ、不純ですね」

「最初は、見守っていて欲しかったんです。やっぱり、出会った当初でしたから……自信が、無くて。けれど、段々と貴方の手腕がわかってきて。私の、私が知らなかった魅力を幾つも、幾つでも、存分に引き出してくれて……あぁ、私でも輝けるんだな、だなんて……思ったんです」

「少しずつ、私は自分に自信が付いてきて、そうすると段々次の欲が出てくるんです。貴方にただ引っ張られるだけじゃなくて、与えられるだけではなくて。……貴方と隣に並んで、前へ進みたいと……そう思うようになったんです」

「そう思ってるうちに特別な感情も湧いてきて……。でも、貴方は仕事に真摯ですから……、貴方との関係があるところから進むことはなくなって……ふふ、だからこの前無理矢理話を進めてしまってしまったのですけれど」

「……質問に答えていませんでしたね。どちらを選ぶか……でしたか。Pさん、貴方が私にトップアイドルを求めていないのなら……貴方の隣で歩めるのなら、私はアイドルを引退出来ますよ?」

「たしかにアイドルにやりがいはあります。友人や仲間もできて。……、けれどもそこに、そしてその先に貴方がいないのなら、続ける意味はありませんから」

「熱愛が……、それも担当プロデューサーとアイドルとの恋愛なんて、バレてしまったら、どうなってしまうかは想像に難くはないですから。慎重なPさんがそこに思考を張り巡らすのは分かります」

「まだ以前の関係をしばらく続けて、円満に引退して……なんて方法でもいいのかもしれないのですけれど、Pさんもそういう提案をしてきたってことは、なんていいますか。我慢できないって、事ですよね? まあ、それは、私もなのですけれど……年齢も年齢ですし」

「……ふふ。なんて、私らしくもなく長々と話してしまいましたが……」

「私は貴方の隣に居続けたい」

「私の願いは、ただそれだけ、です」

 02


 Pさんに全てを打ち明けて私の心はすとんと軽くなっていることに驚きました。
 そして、なぜ軽くなっているのかもわからないことに。

 あの頃の何もなかった。空っぽだった私を見定めて、そして魔法でも使ったのかと勘違いしてしまうほどに私の魅力を見つけてくれたPさんにはこれ以上ないくらい……それこそ私の全てをあの人に捧げられるくらいには感謝をしています。
 突飛な衣装を着ることも、それはもう本当に口が裂けても少ないなんて言えませんが、しかし仕事を重ねる度、着実に先へ進んでいく感覚は得られていて。

 Pさんだけじゃない。事務所では私によくしてくれる人もいて、慕ってくれる人もいて。
 私が本当に子どもだった頃には、そして大人になっていたつもりだった頃には得られなかったもの。
 他人との関わり……あんなに怖いものだと思っていたのに。
 楽しい。
 そう何度、思ったことでしょう。

 しかし、それと同時に私がずっと抱えていた分不相応な欲望は肥大化しているように思えて。
 Pさんと出会ったあの日はなれもしない大人になりたかった。Pさんの隣で歩み続けたいと願いました。Pさんに思いを伝えたくて、そして、愛して愛されたくなって。……そして生活を共にしたくなって。
 一つ、願いが叶うと次の欲が簡単に出てきていて、私はなんて卑しいのだろうと頭を抱えたこともあります。しかし、だからといって欲を抑えられるわけではなく。

 あの夜、Pさんに話したことはそれはもちろん本心なのだけれど、しかし私のアイドル活動はPさんと一緒になるために必要だった単なる作業だ、と一笑に付して終わりに出来るものだったのかが今、少しわからなくなっています。
 一番大切なのはPさんと隣り合って先へ歩むこと。

 しかし、私はそのために他の全てを捨ててなにも思わない無欲な女ではないと自覚してしまいます。
 もっと、貪欲に。子供が語る夢のようなお伽噺を欲してしまっている気がしていたのです。

 03

 なんとなくアンニュイな気分になって、会社の屋上にきていた。二月の気候も相俟って肌寒い。新年一番の冷え込みかもしれない、屋上に来る前に買ったホットコーヒーもさっさと冷たくなってしまったし。
 ときたまヘレンさんが乾布摩擦をしているのを筆頭にアイドルの遊び場と化しているらしいが今日は誰もいないようだ。
 美優さんの独白を聞いて既に一か月が経っていた。
 美優さんが引退にああもあっさり同意してくれるとは思わなかった。とはいえ、言質を得てしまえばこれほど動きやすいこともない。美優さんの仕事を他の人に悟られないレベルで減らしたり――とはいっても、美優さんの人気ではそれが難しいが。
 引退をスムーズに進めるためのカード集めを水面下で進めたり。
 まあ、俺の担当アイドルは美優さん一人ではないし、それだけに集中することはなかなかできないのだが。

 美優さんをトップアイドルにする。それが今までの俺の目標だった。可能性、それは一目見たときから感じていたし仕事のたび確かな手応えはずっとあった。大きな成果も出てきて、ここからの仕事に転換を迎えて、さらに名は大きくなる。そんな時期に俺は、俺自身の手で美優さんの未来をぶち壊しにしてしまったのだ。
 そういう観点から見てしまうと本当に惜しい。これが他人事だったら今すぐにでも止めさせていた自信すらある。
 だが、俺はもう美優さんに溺れてしまったのだ。抑えていた、抑えつけていた物は取り去られてしまっていて、目の前に見えている幸せを手に入れる方法以外考える事が出来ない。

「…………」

 俺は、間違ったのだろうか。だが、美優さんをトップアイドルに仕立て上げてそこから……、だなんて口が裂けても言えない。欲も過ぎると身を滅ぼす。現状でさえ、すべてを失ってもおかしくないというのに。
 そもそも。
 恋をしながらトップアイドルになったアイドルはいるのだろう。だが、恋愛をしながらなった人はいるのだろうか。かつてのトップアイドルですら、熱愛や妊娠を理由に引退しているのだ。それは「もう満足したから」なのかもしれないけれど。
 それに、アイドルは夢を与える存在だ。だが、悪く言えば性を切り売りする仕事。それを一人が独占してしまってはどうしようもない。

 いや、というよりは。

「Pさん」

 突然声をかけられびくりと過剰に反応してしまった。振り返るとそこにいたのは……。
 

「……、千川さん」

「そんなに驚かなくても。こーんな屋上で黄昏てなにしてるんですか? らしくない」

「たまにはいいでしょう」

「くす。ここ最近の様子が少し気になりまして……美優さんとなにかあったんですか?」

 一発で原因を当てられる。本当に鋭い。
 顔に出ていないだろうか。

「……、千川さんの前で隠し事は出来ませんね」

「去年のバレンタインの後もここにいましたからねえ」

「その話はやめていただけますか」

 それだけは本当に思い出したくない。

「一つ、アドバイスをしておきましょうか」

「はあ」

「このプロダクション、アイドルとの恋愛が厳密に禁止されてるわけじゃないんですよ」

「…………!!」

 思わず千川さんを見つめてしまう。その笑顔はいつものにこにこした笑顔ではなくて三日月かと見間違えるくらい歪な気がして。間違いなく美優さんとの関係の事を言っているのだろう。
 過去の経験上、ここから誤魔化しても意味はない。観念の意味も含めて両手を千川さんに見せた。

「……どっから仕入れたんです?」

「貴方から直接、ですかね」

「…………、…………」

「正直偶然ですよ。とはいえ様子がおかしかったというのはありますけれど、かまかけたら大当たりといいますか」

「千川さんに秘密を握られるとどうなるか分かったもんじゃないんですから。勘弁してください」

「もう……、まあ私を鬼か悪魔にいって。まあ、私の話はどうでもいいんですよ」

「プロダクションでは恋愛は禁止されていない、でしたっけ?」

「ええ。さらに細かく言えば……プロデューサーと、アイドルの。です」

 強調するように千川さんが人差し指を立てた。

「……」

「あまり驚きませんね」

「まあ……、何人かいますからね。そういう奴」

「そうですね。具体的な言及は避けますが……、しかしですよ? きっちり上に報告してしまえば、仮にすっぱ抜かれても会社が守ってくれますよ。……お恥ずかしいなら私が代わりに報告してあげましょうか?」

「別にそんな事が恥ずかしいとかいいだす歳でもないですよ」

「くす、そうですか。でもあまり乗り気じゃないですね?」

「まあ、そうですね」

「何故?」

「単刀直入ですね」

「ここで言いよどむ意味はないですから」

 …………どうやら話を逸らせそうにはない。
 美優さんに対しての感情を握られているのはかなりの痛手だ。
 自分の生殺与奪権を人に握られているのは非常にまずい。このまま話を済ませてもこちらにいい事は一つもないだろう、下手したら明日には上に呼び出されて美優さんとの関係を突っ込まれる可能性もある。というかほぼ確実だ。
 千川さんの言葉を信じるなら、公式的に関係を認められる可能性もある。
 だが、それは美優さんのアイドル活動を続けるという前提に成り立つものだろう。
 正直いって、待っていられない。俺のエゴもあるが十代の女の子を侍らせて、合法になるまで待つといったようなロマンチックな事をしていられる年齢でもない。
 なら……。

「そうですね……これは客観的な一般論じゃなくて、僕個人が考えているものなんですけども」

「はい」

「特定の男を愛しているアイドルが……トップを取れると思いますか?」

「はぁ……?」

 千川さんのまゆが吊りあがった。疑問を挟まれる前に追撃を重ねる。
 俺のアイドル論、方便用だが半分は本気だ。

「恋人がいるアイドルという存在そのもののがもう矛盾していると思うんですよ、僕は。……許されている、許されていない、ではなくですよ」

「話が見えませんが」

 む。どうやら話し方が悪かったらしい。

「……視点を変えましょうか。男がいると公言しているアイドルを、実は裏で付き合っているアイドルを、応援したいと思いますか?」

「……、私は女なのであまり何とも言えないですけれど。まあ逆を考えれば積極的に応援したいとは思わないかもですね。……とはいえ、物好きがいるものですよ、この世の中。話が性急過ぎなのでは?」

「いえ……言い方は悪くなりますが……物好きだけではトップアイドルを取るには足りないですよね?」

「……なるほど。男が出来た美優さんがもうトップアイドルになれることはない。……だから引退させると。……そういう事ですか?」

「そうなりますね。今まで無意識的にでもファンのために出来ていたパフォーマンスは出来なくなります。そうなった時点で今より人気がなくなるのは止められない。そこにそんなスクープを入れたら……」

「……アイドル生命は終わりますね。けれど、アイドルだけではないでしょう。例えばバラエティや女優等の方向性に舵を取れば」

「だとしても、一度アイドルは引退という形をとって区切りを打つしかありません。そもそもスキャンダルになれば転身も難しくなるでしょう、女優等の方向性へ行けるかも怪しい。……それに三船さんがされなくていい中傷を受けることになる。それは、避けたい」

「成る程……まぁ可否はともかく、たしかに貴方の考えは分かりました。しかしですね? 美優さんが引退することによる会社への経済的損失。これはどう埋め合わせをするんです?
「貴方がつけた傷で責任を取る仮定で美優さんがアイドルを引退する。百歩譲ってそれはよしとしましょうか。よくないんですけども。
「……とにかく、貴方の行動が美優さんの引退に直結してるわけです。これでなんの責任も取らないなんてことはありません。有り得ません」

 俺はその言葉を待っていた、とばかりに笑った。つもりだがうまく笑えていないかもしれない。
 自嘲気味に笑みを浮かべた。

「美優さんが抜ける分の代案を用意しているといったら、どうします?」

 誇張した。用意は進めているが出来ていない。

「……ふむ。まあ美優さんがいなくなる損失を埋めるだけの代案があるのなら、話は進めやすいですね、内容を聞かないとどうにもなりませんけれど」

 効果はある。少なくとも話にならないところから、考える余地があるところには持っていけた。

「……というか担当アイドルを恋人にしたい、けれど自分のポリシーは突き通したくて。それに従うと引退をさせたい。そしてそのアイドルはトップアイドルの文字がようやく見えてきている。…………そんなわがままがいくつも通る話がありますか。首がいくつあっても足りませんよ」

「いや、まぁ、もう。それに関しては返す言葉もないですね」

「けれど、ですけど。貴方が言葉の裏に隠している考えも理解できないわけではないですから。私も悪くない年齢ですし。なんて、」

「ふふ、そんなに身構えなくても。貴方には期待をしていますから、美優さんだけじゃなく、いくつか実績がありますし」

「とりあえず、一か月程待ちましょうか。美優さんの引退に伴う代案をまず私に見せてほしいですね、そこから判断します。……まあ、安心してください、そんなに悪い方向には転がらないとは思いますよそれまでは、話をとどめておきますから」

「ありがとう、ございます」

「ふふ、どういたしまして。それじゃあ、休憩もそろそろ終わるので私は戻りますね? Pさんも風邪を引かないうちに戻ってきてくださいね?」

 そんなことを言いながら千川さんは屋上を去っていった。

「………………、」

「………………はぁ」

 アイドル論も半分本気だ。だが、半分は嘘。
 俺は、ただ単純に。ただ単純に美優さんがこれ以上知らない他人の目に触れてしまうのが嫌だっただけなのだ。言ってしまえばただそれだけの、子どもの癇癪にも近い幼稚な欲望の為にあれこれと論を話してみたが、どうやら意味はあまりなかったようだ。全てを悟られた上に、それを叶えるための道筋まで用意してもらって。
 本当に情けない。

 まあ、俺がただ恥ずかしい奴だと知れたところで今更どうということはない。過去にも色々やってしまっているし、酒の席で弄られるかもしれないようなネタを一つ増やしてしまっただけだ。
 一番の目的さえ見失うことさえしなければ何ら問題はない。
 美優さんと結婚。……は飛躍、し過ぎてはいないか。
 しかしこういう言葉が出るとなんとなく恥ずかしい。

 だが、美優さんと結ばれたあの日、俺は目の前の幸せを手にするための方法を考えたはずだ。
 そこを考えれば今日起きた出来事は、起こした行動は間違っていなかったはずだ。

「貴方の隣に居続けたい」

 美優さんの言葉を思い出す。
 俺も同じだ。美優さんが隣にいればいい。
 それさえあれば。
 それさえあれば、それ以外に必要なものなど、なにもないのだから。

 04 


 問いに答えてから、Pさんはさらに忙しさが増しているように思えます。……きっと、私が語った夢を、Pさんが望んだ希望を叶えるために働いているのでしょう。
 アイドルを引退する。
 Pさんのおかげもあって私は世間から人気を得ることが出来ています。本当にありがたいことです。
 しかし、だからこそ「はい、じゃあ引退します」と言って簡単にこの世界から抜け出すことが出来るような立ち位置にはいないでしょう。

 私が仕事をすれば、当たり前の事ですがお金が動きます。私はプロダクションからお金を頂いていますから、もらったお金に見合う働きはしなければなりません。現状、出来ているようですが、出来ているからこそ、それをもうやめるというのは会社にとっていい知らせではないでしょう。
 もちろん、理由を話して、無理を押し通せばやめることは出来るでしょうけども、きっと禍根が残ります。そしてそれは会社に残るPさんにとってはあってはならないものです。

 私は大切な人が目に見えた犠牲になって得た幸せを享受することが出来るのか。
 はっきりいって自信がありません。

 私はPさんからきっかけをもらって。居場所をもらって。
 私は棚から牡丹餅を得ただけなのです。きっと憐れな雛に餌を与えたように、Pさんは私を見定めてくれたのではないのでしょうか。
 しかし、私はアイドルとして輝くことが出来ました。Pさんが私を見定めてくれて……、笑顔を教えてくれて。

 もしもPさんが望むのなら私は輝ける場から退くことは出来ます。私だけの力で手に入れたものではないからです。けれど私はまだ、私を輝かせてくれたPさんに恩返しが出来ていないな、と最近思うようになりました。
 私を大きなステージへ導いてくれたPさんと、それを支えてくれたファンの皆さんになにかお返しをしたい。歌を歌い続けていたいと思うのは、私のエゴなのでしょうか?
 

 05

「ふふ、Pさんおススメの居酒屋。美味しかったです……」 

「今日はチェーン店で済ませちゃってスイマセン……、どうしても時間がなくて」

「いえ、お気になさらず。私たちのために頑張っているのは知っていますから……ね?」

「そういわれると救われます」


 美優さんと心地のいい酔いを共有する。時刻は既に二十三時を過ぎていた。
 とはいえ、仕事が終わった時点で、二十一時をだったのだが。
 年末の忙しさが引くことなく、ここ最近は残業続きだ。美優さんが年末年始に仕事に出てからその勢いに引っ張られている部分が大きい。まあ、残業代は出るし充実感もある、うれしい悲鳴というものだ。
 それにそのご褒美……というわけではないが、美優さんとプライベートも過ごせる安いものだろう。一緒にお酒を飲みにいくことは何度かあったが、ここ最近は二人が次の日オフのだったらどちらがいうでもなく、一緒に過ごすようになっていた。今日は軽い飲みで済ませてしまったが。

 さすがに美優さんには軽く変装してもらっている。とはいえ、美優さんがテレビに映る際は普段の姿とは大きく乖離しているので、あまり気を張る必要はない。意外と皆他人に興味などないものなのだ。
 とはいえ、そのように油断しているときにスキャンダルされてしまうもの。まあ念には念を入れてという事。美優さんにはマフラーをして口元を隠し、髪をひとまとめにしてもらい、防寒コートにジーンズと地味目な格好、そこに伊達眼鏡をかけてもらっている。これだけでかなり注目しないと誰だかわからなくなるものだ。

 ちなみに伊達眼鏡は少し大きい黒縁眼鏡を上条さんにプロデュースしてもらった。美優さんの清楚なイメージが強調されてて素晴らしい。彼女には各アイドルに似合うメガネを見繕ってもらうコーナーを作って担当してもらうのも悪くないかもしれない。
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「Pさん?」

「……あ、ごめんなさい。悪い癖ですね」

「いえ、咎めたつもりでは……。少し上の空だったので」

「それも含めて、ですね」

 誤魔化すように少し大げさに溜息をつく、と息gs白くなっていることに気づく。
 防寒しているから逆にわからなかったがここまで寒いのか、と少し驚いた。

「ふう、まだまだ寒いですね」

「そうですね……けど……」

 隣を歩いてた美優さんが一歩踏み出して、こちらに振り返った。おもむろに手袋を外す。少し不安になるほど白い指先。それとは間逆に赤い頬。
 数秒迷う動きをしたのち手をこちらに差し出してきた。

「私の手、暖かいですよ……なんて」

「……効果を試しても?」

「……存分に、どうぞ?」

「じゃあ、失礼して」 

 お言葉に甘えて美優さんの手を握る。人肌特有の暖かさが心地いい。そのまままた歩きはじめて、どちらともなく指を絡ませあう。
 美優さんの頬が林檎のように真っ赤になっているのを指摘しようと思って自分の手が少し汗をかいていることに気づいてやめた。
 時折ある、学生同士の恋愛のようなプラトニックなやりとりがたまらなく好きだ。夜になるとあんなに乱れているというのに。そのギャップがいいのかもしれない。
 いや、しかしこうして歩いているとそういった雰囲気は持ち合わせているようには見えないから不思議だ。これが女性のなせる技なのか、美優さんのなせる技なのか。

 美優さんが赤い顔のままこちらを向いた。握ったままの手を顔の近くへ。

「ふふ。やっぱり酔っぱらっているのかも……でも、こうしているだけで幸せな気持ちになるだなんて……不思議ですね?」

「そう、ですね」

 ……、やはり、美優さんの持つ魅力なのかもしれない。

07

「ただいま」

「お、おじゃまします……」

 美優さんを家に連れ込むのもこれで三回目か。
 少し駅から歩く場所にしたことは後悔したこともあったが美優さんと一緒に歩けばすぐにたどり着くような気がするから不思議だ。さっさと靴を脱いでリビングへ、荷物を置いてコートとスーツを脱いで暖房をいれる。冬一連のルーチン。
 少し遅れて美優さんがやってきた。暖房を入れてあると案内しておく。

「ふー……、とりあえずまだ酒が残ってるんでシャワーを浴びてきます。少し待っててもらっても?」

「ん……はい。大丈夫ですよ」

 了承を得てリビングから浴室へ移動する。脱いだ服を洗濯機に投げ入れた。洗面台の歯ブラシが二本に増えているのを見てなんとなくうれしくなる。化粧品も増えていくのだろうか?
 なんてことを思いながらシャワーのノズルを回す。

「あー……」

 お湯を頭から浴びると無意識に声が出てしまう。汗と一緒に今日一日の疲れも流されていく感覚。酒がまだ入っていることも相俟って、その場から動けない。三分ほど湯を浴び続ける。
 いっそ油断しそうになると寝そうになりそうだ。湯船に入っていたら溺れていたのではと苦笑する。

 と。

「……、失礼、します……」

「…………!?」

 美優さんが乱入してきた。裸で。
 タオルすら持っていない、一糸纏わぬ真っ裸で。驚きすぎて声が数秒でなかった。
 予想外すぎて外に注意を向けてすらいなかった。影が動いていたか? と考えようとして、目を閉じて湯を堪能していたことを思い出す。
 この光景が酔いのせい、夢であってほしい気すらした。

「み、美優さん……?」

「は、はい……」

 美優さんはしどろもどろに口を開いた。
 恥ずかしそうにしながらも返答してくれる。

「……」

「……、ほ、ほら……こういう時、洗いあいとか……定番、じゃないですか……?」

「……な、なんの定番ですか……」

 俺の素の反応がマイナス面に予想外だったのか若干涙目になりながら弁明する。
 美優さんが突飛な言動をすることはよくあるが行動にまで移すとは思わなかった、酔いのせい、だろうか?
 数十秒沈黙が流れる。それに耐えかねてとりあえず、浴室に招き入れた。

「…………、」

 ここまで明るい場所で美優さんの裸体を見るのは初めてだ。美優さんの頭の先からつま先まで見回す。

 乳頭も陰毛も、細腕も太腿も、素顔さえくっきりと見えていてこれが夢じゃないと悟る。酔いが一気に覚めていく。ついつい凝視してしまう。
 さすがに視線に気付いて胸元と股間を隠すがその反応がまたいい、というのは美優さんには知る由もないだろう。

「……Pさん、そんなに見られると」

「いや、見ますよ……さすがに不可抗力というか……これ俺悪くないでしょう?」

 ふう、と一息つく。
 まあ、考えてみれば夢のような状況だ。割り切ってこの状況を楽しんでしまおう。
 多分、ソレがお望みなのだろうし。

「……じゃあ、先洗いますんで、座ってもらえますか?」

「は、はい……では、お願いします」

 美優さんを風呂椅子に座らせる。
 綺麗に手入れされた髪を手に取るとさらさらと滑り落ちる。そのまま目線を下にすると白い背中がピンと伸びている。腹部はたゆまぬ努力の結果なのか、綺麗な曲線を描いていて美しさすら感じるほどだった。
 背中に見惚れている間にシャンプーを泡立てて髪になじませていく。髪を梳く感覚が心地いい。癖になりそうだった。

「気持ちいいですか?」

「はい……ちょうどいい触り心地で……、これも慣れていて?」

「他人の髪を洗うのはさすがに初めてですよ」

 美優さんの茶髪を指で通すたびに分かりやすく泡が立つ。快感すら感じる程にすらすらと指が通っていく。頭を緩く揉むと美優さんから声が漏れる。なんともいえない背徳感にぞくぞくとする。無心で数分髪を洗い続けた。

「ふう……、満足しました」

「なんだか、随分楽しそうでしたね」

 美優さんからの小言は聞こえなかったふりをして美優さんの泡を流していく。シャンプーが目に入ったのか「きゃ」なんて声を上げながらじっとしてくれている。そのまま綺麗に洗い流すと次はボディソープを手に取った。

「それじゃあ、次は体もいきますか」

「は、はい……お願いします」

「素手とスポンジ、どっちがいいですか?」

「……素手、で、お願い、します」

「……そうですか」

「……なんですか、その含んだ笑いは……」

「いえ、別に?」

 わかりやすく頬を膨らませられてしまった。

「今日は積極的、とでも?」

「いえ……」

 ボディソープをほどよく手に馴染ませた。触りますよ、と前置きして肩に触れる。

「今日も、ですかね」

 一言いい落として手を背中に滑らせた
 見てるだけで惚れ惚れする背中、しなやかで強靭な線だ。出会った当初の服の上からでも確認できたような猫背の癖は消え失せていて、それがなくなったのはここ数年で手に入れた自信に起因するものだろう。

 しかし、見た目とは裏腹に軽く揉みほぐすと程よい弾力が返ってくる。女性特有の体の柔らかさとアイドルのレッスンにより手に入れた体。個人的にはもう少しふくよかでもいいのだが、まあ老若男女に晒す必要がある以上妥協するわけにはいくまい。
 腹部のくびれからでき曲線美は芸術かなにかのようで、写真かなにかでこの光景を切り取って一生保存していたいくらいだった。
 背中を洗い終えて腕の方へ、核心から焦らすように。美優さんが恨めし気に目線を向けてくるが敢えて意地悪く場所を外していく。
 自分でも嫌な笑顔が隠せていないな、とは思いつつ美優さんに問いかける。

「どうしました、美優さん。どこか洗ってほしいところでも?」

「い、いえ。……別に、そんなことは」

「じゃあ、このままで」

 手先から移行して二の腕を洗っていく。

「美優さん、手を上げてもらっても?」

「は……はい」

 少し恥ずかしそうにしているが問題なく手をあげてもらえた。
 手を二の腕から滑らせて腋の方へ。当たり前だが綺麗に処理されていて触ってもつるつるとした感触しか得られない。
 腋を触られるのは苦手なのか少し触っただけで声が漏れ、身を捩らせている。思わぬ弱点を発見して収穫を得たな、と心中で笑っていると顔を真っ赤にした美優さんに抗議された。
 さすがに遊び過ぎたか。

「それじゃあ……前もしますか?」

「はいっ……あ、いえ、えと……あの、おねがい、します」

 期待していたのをごまかしているのだろう、正直慌てる美優さんの反応を見てるだけでも楽しい。背中から抱き着くように体をくっつけると、体が硬直するのがわかった。なだめるように泡だらけの手でお腹を撫でる。
 真っ赤になっている耳元に近づいて囁いた。傍から見たら気持ち悪いだろうなあとは思いつつやめる気はない。

「どこを洗ってほしいですか?」

「あ、え……?」

「ほら、言ってくれないとわからないじゃないですか?」

 へそをくにくにとこねる。足がもじもじと揺れ動いている。反応がどんどんとわかりやすくなってきた。
 後ろから見てもすぐわかるくらい頬も真っ赤になっていて、時折びくりと震えている。まだ、性器どころか性感帯にも触れてはいないのだが。それとも今まで触った場所にあったのだろうか?

「えっとその、まずは、上、を」

「上」

 みぞおちの辺りを優しくなでる。乳房には触れないように気を使って。
 既に抱き着くような体勢になっていて、なのに俺の指はいつまでも触れてほしいところには触れてくれない。もどかしい気持ちでいっぱいだろう。

「あの、ここ、胸を……!」

 とうとう業を煮やしたのか美優さんは俺の手を取って直接自分の胸に当てた。柔らかな感触が手のひらいっぱいに広がる。耐えきれず思わずそれを揉んでしまう、と美優さんがはあぁ……だなんて恍惚そうな声を上げて、待ちわびていた感覚を堪能しているようだった。
 俺に取っても至福の時間ではあるのだが。
 白く、触れれば弾かれてしまうような肉付きのいい身体。しかし、年齢特有の熟れた柔らかさ。二つの至福が同居していて、指を動かすのを止められなくなる。

「美優さん、おっぱいを触ってほしかったんですね?」

 こうなれば遠慮する必要はない。ぐにぐにと好き勝手胸部を弄る。
 わかりやすく言葉を咀嚼して言い放つ。乳輪を軽くさするだけで吐息が漏れる。

「は、いい……、ずっと触ってほしかった、のに……Pさんが焦らして……んっ」

「ごめんなさい、美優さんの反応が可愛くて」

「ん……そんな、こと……」

「恥ずかしくて言えないですか? 人にシャワーには乱入できるのに」

「や、やめて……そんな……」

 言葉で責めるだけで快感が走っているようだった。やめてだなんて思いながらそんなことは一ミリも思っていないだろうに。今だって俺に体を任せて身を捩らせているというのに。
 指で弄る対象を段々と先端へ。既に勃起している乳首を軽く摘まむ。

「は、あぁ……ん、もっと……」

「こうです?」

 きゅっと指を絞める。それに反応して喘ぎが漏れた。タブーに触れているような背徳感。
 美優さんはもう興奮しきっているようで喘ぐことしかできていない。どうしてほしいという欲もなく俺になすがままにされたいのだろうか。体は完全にこちらに任せていて、俺が好き勝手していいと言わんばかり。

「も、もっと……」

「そうですか……なら」

 片手は乳輪を弄ったまま、右手は胸から手を離した。へそをくぐって、股間の方へ。

「こっちも洗わないと、ですよね?」

「は、い……そうです、ね……」

 あっさりと許可を得て陰毛に触れる。ざらざらとした感触を楽しむ。ゆっくり、ゆっくりと擦るたび、逐一反応がしてくれる。触りながら手のひら全体で陰毛を撫でていた。
 しかしそこで指の動きが止まってしまった。足はぴっちりと閉じられていてこれ以上は進めそうにない。

「美優さん、足を開いてももらっても?」

「……」

 返答はないが、反応はあった。足をゆっくりと開いてくれる。俺以外にはしないであろう行動に、汚れた独占欲が満たされてぞくぞくする。
 不躾に広げられた太腿を見て、自分自身もこれ以上ないくらい興奮していることに気が付いた。
 怪我をさせないようにおそるおそる筋に触れる。秘部をこじ開けていていく。指を少し潜らせるとくちり、と粘ついた水音。

「!」

 美優さんが思わず足を閉じた、がもう遅い。挟まれた太腿は意に介さず指を動かす。最初は優しく、撫でるように。少しずつ指を膣内に入れていく。
 指を第二関節くらいまで入ったとことで今度は段々と激しく、掻きまわすように動かしていく。 指を軽く折り曲げながら出し入れするとくちゅりくちゅりと音が鳴る。それに連動して美優さんから声が声が漏れる。わざと大きくなるようにもしているが想定以上の大きさ。

「ふ、う……はぁ……」

「美優さん、これは?」

「あ……! は……!」

 もう俺の声も届いているのかいないのか。目も閉じていて快感を享受することしか考えていない卑しい姿がそこにはあった。好都合とばかりに好き勝手と弄っていく。
 ボディソープと愛液がドロドロと混じっていき太腿に大量に垂れていく。体を綺麗にしてるのか、それとも汚しているのか。分からなくなりそうだった。

「気持ち、い……」

 さらに気分が乗ってきたようで足はだらしなく開いている。
 指をもう一本差し入れた。さらに激しく動かしていく、今度は容赦なく。

「あ……、あ……あん……や、ぁ……だめ」

 さっきまで誤魔化していた喘ぎも止められなくなって、普段からはあまり考えられない高音を発している。もういっそ快感に耐えるように歯を食いしばっているようにさえ見える。愛撫を続けるうちに段々と体の震えが露骨になっていく、それに伴って間隔も短く、早く。
 若干涙目になりながら美優さんは己の状況を訴えてきた。

「ぁ……そ、の……これ以上、される……と」

「大丈夫ですよ、一回イっちゃいましょうか」

 が、それを俺は無下に返す。
 告げると美優さんは諦めたように歪な笑いを浮かべた。それを見て俺の加虐心が余計に刺激される。スパートをかけるように指を出し入れする速度を速めた。

「あ、は……、だめ……あ、イく、イ……!!」

 とどめと言わんばかりに陰核を擦りつける。今までで一番大きな反応をして、美優さんの動きが一瞬硬直した。そのまま弓なりに体がそれる。膣内がきゅうと狭まり、絶頂を迎えたのが分かった。多量の愛液が掌にどろりと垂れてくる。

「はあ……はあ……はあ……」

 そのまま力が抜けて美優さんが崩れ落ちる。息を整えている間に、シャワーを浴びせて泡を洗い流していく。
 落ち着いた頃合を見計らって声をかけた。

「美優さん……立てますか?」

「は、はい」

「手を壁についてもらえれますか?」

「え……と、こうですか?」

 既に雰囲気に呑まれている美優さんは特に疑問を抱かず体勢を取ってくれる。
 惜しげもなく尻を上げて、なにもかもが丸見えになっているのに気付いているのか気づいていないのか。股間は俺が弄んだせいだろう、愛液でてらてらと濡れていて煽情的というのも上品すぎるほどに下品。
 堕ちに堕ちた美優さんを見ているだけで股間に劣情が帯びていて、限界まで勃起してしまっている。

「Pさんの……すごいことになってますね? ……私もなので、その、もっと」

「今日はそのままでも?」

「は、はい……大丈夫な日、なので」

 美優さんはそう呟いて足を広げた。
 既に限界まで赤くなっていて、待ちきれないとばかりにひくひくと肉が震えていた。先ほどからだらしなく垂れている愛液は太腿まで垂れている。散々さっきまで弄り続けていたのだ、これ以上焦らすこともないだろう。
 美優さんの腰を掴んで股間をすり合わせる。美優さんが待ちわびていたといわんばかりに「あ……」だなんて声を漏らした。これからの情事に期待しているような欲にまみれた声。
 その声を聞いて歪に笑った。俺は美優さんに溺れて、美優さんは俺に溺れていて。
 美優さんの秘裂に陰茎を差し込んでいく。ゴムなし特有の吸い付いてくる感触が既に気持ちいい。

「ん、んぅ、……は……」

 気持ちよさを耐えるような美優さんの嬌声。表情は見えていないが陰唇と肛門がぴくぴくと震えていて、反応が手に取るようにわかる。ここ最近はゴムでばかりしていたので生で挿入するのは久しぶり。ゴムでも十分以上に気持ちいいと思ってたが、やはり生で挿入した感触は格別だった。
 きゅうきゅうと肉棒に膣が吸い付いてきて既に受けている快感が段違い。纏わりつく粘膜が気持ちいい。亀頭と肉ヒダが絡み合って、腰が震え、声が漏れる。
 それは美優さんも同じなようで既に背中にじっとりと汗をかいている。

「美優さん……動きますね?」

「は、あ……、はい。……気持ちよくしてください」

 お望みどおりに。
 心中でそう呟いて腰を振り始めた。

「はっ、あ、ぁん! ん!」

 美優さんの突き出た臀部を鷲掴みにして体を支える。膣内がうねる感触がダイレクトに伝わってきて、体に快感が迸る。パンパンと肉のぶつかり合う音が響く、音すら心地よくてを振る速度を上げていく。
 奥に挿入するたび美優さんの背中がびくりと跳ねる。その度に各所が連動して震えていて。俺には見えないその顔にはどのような表情を浮かべているのだろうか? 羞恥、快感?
 既にはあはあと荒い息だけが美優さんから聞こえてくる。体を動かすと「あっ」と、抑えきれていない高音が漏れる。その声に反応して性欲は際限なく高まっていく。獣のように、気づけば美優さんを組み伏せて腰を振ってしまう。

 性に彩られた湿っぽい声が漏れている。それに反応して俺は抽挿を繰り返す。すると美優さんの膣はぎちぎちと締まる。それを押し広げるように腰を振るう。
 美優さんと体を密着させると、べっとりと美優さんの汗の感触。だがこんな状況ではそれすら、いや、今この状況全てがもう興奮させる材料にしかならなくて。真っ赤に染まった美優さんの耳元に近づく。

「美優さん……どうですか?」

「は……、ぁ、生だと……はぁ、こんなに、違うだなんて、思わなくて……」

「そ、ですね……ここ最近は、ゴム付けてましたから……」

「私から、提案しといて、も、戻れないかも……直接、すご……」

「これですか?」

 意地悪く笑って、腰を押し付ける。ゴリゴリと奥まで入れて掻きまわすように。

「あっ、あっ、あっ……それ……!?」

 美優さんが不規則に声を上げた後、今日一番膣が締まった。びくんびくんと分かりやすく跳ねてくれる。股間からぐちゅりと粘ついた音。
 快感に耐えるように肩で呼吸する美優さんを見てぞくりと震える。今腰を動かしていたらそのまま射精していたかもしれなかった。

「イっちゃいました?」

「言わないでください……」

 顔を真っ赤にして背けてしまう。せっかくの表情が見れないのは惜しいな、なんて悠長なことを考えてしまう。男と違って真偽を厳密に確認する術がないのだ、これくらい聞いても罰は当たるまい。

「Pさんは、まだ、満足できてなさそうですね……?」

「そうですね……、付き合ってくれますか……?」

「ええ……、いくらでも……」

「美優さん、直接顔を見せてもらっても?」

「は、はい……」

 美優さんに体勢を変えてもらいこちらを向いてもらう。そういえば今日まともに顔を合わせるのは初めてではなかろうか。美優さんを見つめているうちにどんどんと体が密着していく。
 唇を重ね合わせる。唇同士が重なり合う感触がしたがそれも一瞬、情緒を味わう間もなく舌を差し込まれた。蛇のように絡みついてきて、舐ってくる。じゅるじゅると下品な音を立てながらお互いの唾液を交換し合っていて、背中にも手を回しあう。何かを埋めるように、出来うる限り身体を重ねていく。
 熱を持った身体と美優さんらしからぬ、激しい鼻息。甘酸っぱい女性特有の臭いが俺の鼻孔をツンと刺激して俺の興奮を強烈に高めていく。

「はぁ……、あ……やっぱり、これ好きです」

「俺もですよ……でも今はすいません。もう我慢できなくて」

 もう理性が利かず自分のいきり立った股間を美優さんのお腹に擦りつける。挿入もしたというのに未だ射精していないソレはドロドロと情けないほどの先走りを漏らしていて、美優さんについてとやかく言えそうではなかった。
 俺がよほど情けない顔をしていたのか、目尻をトロンと下げた慈愛の表情まで浮かべられてしまった。美優さんは一旦の満足が得ているだろうに申し訳ないくらいだった。
 が、溢れる性欲に思考が遮られてまともに物など考えられない。美優さんとセックスしたいという以外の考えが消えてしまっているといっても過言ではないくらいだった。

「……Pさんの、その、おちんちんも我慢できない時があるんですね……、大丈夫ですよ。続き、しますか」

「は、はい……すみませんお願いします」

「寝転がったほうが……?」

「いえ、硬いですし、このままで……」

 喋りながら美優さんの片足を持ち上げて、性器をくっつけあう。

「この体勢、全部丸見えで恥ずかし……」

「大丈夫です。可愛いですよ」

 何も大丈夫ではないが気持ちの方が逸る。キスで誤魔化しながら挿入を進めていく。
 欲望そのものを美優さんが受け入れてくれている。
 つぷぷぷ、と粘ついた体液が擦れる音がした、もう、どちらの音かも分からない。

「あ……、これ、今までとちが……」

「気持ち良くない、ですか?」

「い、え……、むしろ、今までと、違うとこ当たってて……それに、直接……ですし」

「ゴムを付けたいといったのは美優さんですよ」

「そ、それはそうなんですけど……」

「冗談です。……動いても?」

「はい。Pさん……、気持ちよくなってくださいね?」

 暗に遠慮する必要はないといわれ、俺に残っていた一欠けらの理性も消えてしまった。
 美優さんを壁に追いやって、腰を振り始めた。さっきまでは考えていた相手にも快感を与えようなどという意識はもう微塵にも消えていて、俺が求める快楽のためだけに欲を振りかざしている。

「あっ! ぁ、ああ! ……は、ぁあっ!」

 肉がぶつかり合う音が激しさを増している。それに比例して俺に走る快楽も、美優さんの喘ぎ声も、膣の締め付けすらもなにもかも大きくなっていく。
 普段からは絶対に考えられないくらいの声を上げる美優さんに、むしろ俺の性欲は刺激されて、行為をエスカレートする以外に意味は持っていなかった。
 本能がままの性衝動を美優さんにぶつける。視界が明滅を繰り返す。
 避妊具もなにもなく、孕ませる危険すらあるのに。……いや、もしかしたら俺はそれを求めているのかもしれなかった。
 動物全てに刻まれた本能、自らの遺伝子を世に残したいという欲望そのものに従うだけの存在と化していた。

「Pさ、Pさん……、すご……、気持ち、気持ちいです……!」

「は、あ……美優さ、美優さん……!!」

 そしてそれを受け入れてくれている美優さんは、今の俺にとって本当に聖母の様だった。傍から見ればどちらも違いはない、獣なのだとしても。

 腰を動かす度に快感が迸り止まれなくなる。美優さんの狭い膣の感触を思い切り味わう。性器全体できゅうきゅうと締め付けられて、俺の精液を絞り出そうとしているのだろう。狭くてまともに動かせないはずなのに、そんなものは一切感じさせないほどスムーズに腰が動くのは、愛液のぬめりなのだろうか。
 体中を駆け巡る快感をどうにかしたくて、美優さんを抱きしめる。はあはあと息を荒げる口を塞いで、一瞬びっくりとしていたがすぐに受け入れてくれた。そのままどちらともなく、舌を絡め、唾液を交換し合う。
 ぱんぱんと鳴り続ける肉を叩く音と、ぐちゅぐちゅと唾液が混ざり合う音が混ざっていて耳がおかしくなりそうだった。
 美優さん以外の事はもうなにもかもどうでもよくなりそうですらあった。永久にこの快楽に溺れていたくなる。

 と、思ったのも一瞬。今度は射精欲がこみ上げてきて、快感がすべて股間に集約される。
 刺激を与える度に気が狂うほどの快感が走る。もう終わらせてしまいたいが、出来うる限りこの時間を続けたいというわけのわからない矛盾した感情。激しくピストンを繰り返す股間の感覚が曖昧になる。尿道が押し広げられる感覚。限界が近かった。

「美優さ、も……!」

「あ、はっ、この、まま……!」

 そういわれて美優さんに抱きしめられる。こちらももう一度背中に回していた腕の力を強めた。そのまま美優さんを壁に押し付ける。
 腰を思い切り突き出して、美優さんの最奥へ。

「美優さん、美優さ、美優……!!」

 そのままの体勢で思い切り精を解き放った。どくどくっという、美優さんに精液がぶち込まれていく音が聞こえた。それに反応するように、美優さんが何度か痙攣して、搾り取るように締め付けてきた。
 彼女もまた、先ほどのように弓なりに体を反って快感を堪能している、そのまま力が抜けてこちらに寄りかかってきた。なんとかそれを受け止める。

「はぁ……はぁー……はっ、は……」

「はぁ……はぁ、はぁ……」

 顔を見合わせる。股間はまだ衰えていなかった。美優さんの期待の籠った目で見つめられると普通なら急速に冷めていくの頭はまた沸々と沸騰を始めていた。
 疲労はあるがまだ続けられるという喜びの方が大きい。どちらともなく抱きしめあって、唇を重ね合わせる。垂れている胸をわし掴みにして美優さんの体に溺れていった。

はよ

>>22
ごめんなさい、ここでフェードアウトなんですよ。


09

 あれから数度の情事も終えて、美優さんと二人ソファで隣り合う。
 高校生じみた性欲もようやく落ち着いた。とはいえ美優さんからは離れられないのだから笑ってしまう。
 しばらく雑談を楽しんでいたが、少し美優さんの顔つきが変わった。話を聞き入る体勢を取る。

「Pさん……今までで一番のわがままを言ってしまうかもしれません……大丈夫ですか?」

「なんですか、改まって。……どうぞ?」

「Pさんと結婚するか、トップアイドルを目指すか。どちらかを選ばなければいけない。そういいましたね」

「ええ」

「あの時、私はアイドルを引退してもいいといいました」

「はい」

「けれど」

「……、はい」

「私は、貴方に救い上げてもらって……その恩返しは出来ていません。貴方にもらったもの、歌で返したいんです。
「トップアイドルになって、貴方と隣に立ち並んで、夢で見た光景を現実にして、
「……それから、貴方と幸せになりたい」

「……、美優さん」

「もちろん、何年かかってもいいだなんて言いません。……親からも、最近突っつかれてますし、なんて」

「……、」

「今まで私はPさんに頼りきりで。ただ手を引かれて、言われるがまま着いていくだけでした」

「…………」

「けれど、私は……、貴方の隣で歩んでいきたいんです。後ろではなく、隣に、並んで進みたい」

「美優さん……でも」

「私にも頼ってください。一人で抱え込まないでください。私は、いつでも貴方の味方ですから」

「……………」

「私は、貴方のおかげで強くなれました。けれど、欲深くもなっちゃたんです。
「私達、二人でこれからのお話をしたことあまりなかったですから。Pさんのしたいこと、ちゃんと聞かせてください。きっと二人して変な方向に突っ走っちゃってそうですから
「これから、私達二人、共同で生活していくわけですし……、そのリハーサルといったら、おかしいですけど……」

「……、でも話し合うなら本気ですよ」

「ええ、大丈夫です。全部、ぶつけてきてもらえますか……? Pさん言っていたじゃないですか、担当アイドルをトップアイドルにするのが夢だって。私は、貴方の夢を叶えて、貴方は私の夢を叶えて。
「……昔はこんな考え出来なかったですけど。最近は未来を求める事が増えました……今も、です」

 きっとその日は俺にとって忘れられない日になる。
 俺は美優さんと本当の意味で話し合ったことはなかったのかもしれない。美優さんの意志を知らず……知らない振りすらしていた。
 俺のしたいことを全部曝け出すのは怖いことではあるけれど、それが出来たのは美優さんが俺を信頼してくれて、俺に全てを晒して、捧げてくれたからなのだろうか。

 まるで何かの話のようにすれ違うのが怖かったのかもしれない。
 意見が対立して言い合う事が、喧嘩をすることが、すべて悪いことだと思っていたのかもしれない。

 それが間違いだったと本当の意味で気づくのはまだもう少し先に話なのだけれども。

 その日の話し合いというには壮絶な意見の応酬は今までの俺と美優さんを知るものが見たのならきっと信じられない光景だろう。
 だが、俺は今日この日、三船美優と本当の意味で知り合ったのだった。

 
 

終わりです。

章の数字が飛んでいる合間はなにかの機会に埋めれてたらなと思います。

三船美優さん、誕生日おめでとうございます。今年の更なる活躍を期待しています。


次で一旦一区切り着く予定です。
前半をかくのに無意味に時間がかかってしまったのでエロだけのSSをもっと書きたい……前半部分需要なさそうだし。

需要ならここにあるぞ

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