鈴谷「うわ不思議の国こわい、キモい」 (72)

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【艦これ】加古ちゃん空を飛ぶ、めっちゃ長く飛ぶ、すごい
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ド ラ ゴ ン マ ッ ハ 大 ヒ ッ ト 上 映 中
映画館でトニー・ジャーと握手!!!!!!!(ノルマ達成)


・提督の表記は『( T)』になっています。マスク超人です
・下ネタ大好き
・提督はドウェイン・ジョンソン並みのマッスルです
・ワイルド・スピード アイスブレイク超楽しみ


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1484788439

( T)「スヤスヤ!!!!!!スヤスヤ!!!!!」


「……きて、起きて……」


( T)「う、う~ん……えっ……オナニア・クラブのプレミア試写会?行きます……スヤスヤ!!!!!!!!!!」


「……とく……てーとく……」


( T)「んっ……んんー……何だよ鈴谷……正月早々……」




鈴谷「てーとく!!ねえってば!!」




( T)「あん……んっ……?」


( T)「……お前、縮んだ?」


鈴谷「見ての通りだよ……」


俺の目を覚ましたのは、手のひらサイズにまで縮んだ鈴谷でした





鈴谷「うわ不思議の国こわい、キモい」




( T)「えっ……はっ?」


枕元に立っていたのは、体長およそ十五センチ。なんか……なんていうのこういう服?まぁなんかティンカーベルっぽい服を着て
背中にトンボのような羽根を生やした鈴谷であった。このままモノクロ調にしてしまえば、エスケイプ・フロム・トゥモローに出演しても違和感が無いだろう
知ってる?エスケイプ・フロム・トゥモロー。ディズニーランドに許可取らず園内で無断撮影したことだけが有名なクソ映画なんだけど……いや、まぁどうでもいいかワッショイ


( T)「なんだ夢かフハハン……スヤスヤ!!!!!!!!!!」

鈴谷「ねーなーいーのー!!」

( T)「あいたたたたやめろマスクの上から的確に瞼を引っ張るな」

鈴谷「寝てる時くらいマスク外しなよー!!」

( T)「これが無いと俺が誰か伝わんねえだろうが」


起き上がって目を擦り、もう一度鈴谷をまじまじと見つめる
ちっちゃい。なんだこれ、なんだこれ……


( T)「なんだこれ……」

( T)「なんだろうな~♪なんだろう~♪……おやすみ~♪おやすみサンバ~♪」

( T)「スヤスヤ!!!!!!!」

鈴谷「あーもー!!信じられないのはわかるけど助けてよー!!」


頭の周りで鈴谷がブンブン飛び回る。羽音が耳障りだ
なんで冬になってもクソウザい羽虫の音なんて聞かなきゃならないんだよ……


( T)「わーったよ五月蠅いな……読んで字のごとく五月の蠅のように五月蠅いな……」

鈴谷「それ超ヘコむしー……」

( T)「あ、そうそうお年玉あるぞ……」

鈴谷「今そんなこと言ってる場合じゃないよ!!」

( T)「いらんのなら俺の映画代に使うわ……ドラゴンマッハ観に行くんだ……」

鈴谷「いらないとは言ってないじゃん!!」


( T)「スヤァ……スヤスヤ!!!!!!!!」


鈴谷「……」


鈴谷「オラ!!」シュボッ

(;T)「火はやめろォ!!」ガバッ!!


ライターの音に飛び起きる。お前よくそのサイズでいたずら防止用の重たいフリント回せたな


( T)「うん?」

鈴谷「えっ?」


布団を跳ね除けた俺は、自分自身の異変にも気づく


( T)「……」

鈴谷「うわっ……何その格好……」


股下がやったら短い、めっちゃ深いスリットが入ったスカート。鍛え抜かれた大腿四頭筋と大臀筋がスースーする
セーラー服を基調とした、ピッチピチのシャツ的な何か。大胸筋が薄い布地を引き裂かんばかりに張り詰めている
なぜかは知らないが肩から肘にかけての布が無く、改白露型みてーなデザインになっている。脇が寒い
膝をスッポリ覆うクソ長くて黒いソックス。履き口にはフリルがあしらわれていた
ベッドの横にご丁寧に揃えられていたのは、ヒールの低いパンプスだ。ピンク色のリボンが可愛らしい


( T)「えっ……?何この恰好……魔法少女プリティ・ベル?」

鈴谷「えと、うん……寝る時どんな格好してても提督の自由だし……鈴谷は何も見なかったから大丈夫……」

( T)「いや、俺寝る時全裸……なんで……?」

(;T)「なんだよこれ……正月だぞ……なんでこんなド変態みたいな恰好してるんだよ……」

鈴谷「まぁ提督の趣味趣向はどうでもいいよ」

(;T)「あらぬ誤解をしてるようだな。しかもお前これ……脱げない!!」

鈴谷「あー、あんま動き回らないで。スカートの隙間からチラチラ見える股間が見苦しい」

(;T)「クソ、じゃあ上から他の服を……」ガラッ

(;T)そ「ってオギャーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!クローゼットにも似たようなフッリフリの衣装しか入ってないーーーーーーーー!!!!!!!」

鈴谷「うわぁ……そこまで入り込んでたの?」

(;T)「こんなことに金掛けるわけねえだろ……」

鈴谷「じ、自作?」

(;T)「テメーの問題と一緒だろォ!!ちょっとしたダークメルヘンファンタジーみてーになってんじゃねーか!!何これ?パンズ・ラビリンス!?」

鈴谷「あの、めっちゃ言いにくいんだけど……」


鈴谷「鈴谷達、まだマシな方なんだよね……」

( T)「」


( T)「……他の連中も?」

鈴谷「うん」


( T)「……解決したら起こして」

鈴谷「寝ないのー!!」

( T)「いやもう俺の手に余るもん。ディズニーに任せよう?いい感じのお涙頂戴ストーリーに仕上げてくれるから」

鈴谷「その場合、提督の痴態が全世界の劇場で公開されるわけだけど」

( T)「他所の連中に任せてられないな」ガバッ


危うく第二のドルフ・ラングレンになる所だった。花嫁姿クソ笑いました
結局、自分でなんとかしなきゃならないのか。この鎮守府は正月ものんびりさせてくれないらしい


( T)「ハァーーーーーー……めんっどくっせ……」

鈴谷「提督は恰好だけが致命的だけど、鈴谷達は日常生活に支障きたすレベルだからね?」

( T)「説明、頼めるか?」

鈴谷「じゃあ、まず部屋を出てよ」


鈴谷は羽根を羽ばたかせ、俺の肩に腰かけた。セロファン質の羽が顔に当たってくすぐったい
遠目から見たら危ない格好して肩にフィギュア乗せてる筋肉モリモリマッチョマンの変態だ。やだー、職質不可避……


( T)「ガチャ」ガチャ

鈴谷「うわ、擬音言いながらドア開ける人初めて見た」

(;T)「な……?」


部屋の外の光景に、目を疑った。まず、石煉瓦を基調とした廊下と壁。鎮守府の材質がまるっと変わっている
窓は無く、蛍光灯の代わりに点々と蝋燭が灯されている。当然、外の光は入ってこないので、不気味な薄暗さがあった


(;T)「ヒエッ……」

鈴谷「あれっ?鈴谷が来た時と違う……?」

(;T)「いやこれ一回部屋に戻……」

<バタン!!


( T)「えっ?」


背後の扉が独りでに閉まる音に、慌てて振り返る
しかし、そこにある筈の扉は


(;T)「な……無くなってる……?」


最初から存在していなかったかのように、消えてなくなり
無機質な石煉瓦の壁となって、退路を塞いでいた


鈴谷「うーわ、強制イベントだね」

(;T)「ホラーゲームじゃあるまいし……」

鈴谷「もっとメルヘンチックな世界だったんだけどなぁ」

(;T)「それはそれで恐ぇよ……」

鈴谷「とまぁ、こんな感じで鎮守府と皆が不思議の国の住人になっちゃったってワケ」


『不思議の国』。なるほど、的を得た表現だ
まるで悪夢なワンダーランド。さながら俺はそこに放り込まれたアリスって所か


( T)「間取りも……変わってそうだな、こりゃ」

鈴谷「そーだね。提督の部屋は運よく見つけられたけど、この分だとさっきみたいに部屋という部屋が消えちゃってるかも」

( T)「泣けるぜ……」


立ち往生しても仕方がないので、右手の方向へと歩き出す
廊下の先は闇に包まれている。普段の間取りならすぐに突き当たる筈だが……

( T)「……長ぇな、この廊下」

鈴谷「うん……」


結構のんびり歩いているが、まだ突き当りに着きそうにない
聞こえるのはコツコツと鳴る靴音と、時折通り抜ける風の音


鈴谷「このままずっと続いてたら、どうする?」

( T)「嫌な事言うなよ……こんなキモい格好して餓死するなんて死んでも死にきれねえよ……」


徒歩で大体一キロ十五分として、五百メートルくらい歩いただろうか
長ぇんだよ……直線五百メートル以上の建造物なんて空港くらいしかねえだろ……しかもまだ先が見えねえんだぞ……


( T)「あれ?」

鈴谷「どしたの?」

( T)「いや、あそこの蝋燭さぁ」


延々と続くかに思えた廊下に、変化が訪れた
均等に並ぶ蝋燭の火が一つ、消えていたのだ


鈴谷「風で消えたんじゃないの?」

( T)「かも知れないが、こういう変化には目ざとく反応していかねえと。脱出ゲームの基本だぞ」

鈴谷「仕掛けとか?」

( T)「それか、暗号か……」


蝋燭を支えていた壁掛け式の燭台に近づいてみる。薄暗くてよくわからないが、特に変わった個所は無いようだ
火の消えた蝋燭を抜き取ってみる。やだ……温い……

( T)「消えてからそう時間は経ってないぞ。蝋が乾いてない」

鈴谷「味は?」

( T)「確かめたけりゃどうぞ」

鈴谷「冗談じゃん……」


他に何か無いか確かめようとした時、背後からビュウと強い風が吹いた


鈴谷「うわっと!!」


煽られた鈴谷は、肩の上から落ちそうになる


鈴谷「あっぶなー……なに今の?」

( T)「……」

鈴谷「提督?」

( T)「なるほどな」

鈴谷「何かっこつけて一人で納得してんの?キモいんだけど」

( T)「今の風、どこから吹いた?」

鈴谷「え?どこって……あっ」


結構呑気してた鈴谷も察したようだ。耳元でキモいとか言われると結構傷つく
この廊下、窓も無く天井もそれほど高くない。空気の流れは通路の前と後ろの二つに制限されている
にも関わらず、今の風は『壁』から『背中』へと真正面に吹いてきた。つまり……


( T)「何かあるのは……こっち側の壁だ」

燭台とは逆の壁へ、ゆっくりと手を伸ばす
すると、ホログラムにでも触れているかのようにスッと壁へと入り込んでいった


鈴谷「うわ、凄……キモいとか言ってゴメン」

( T)「素直に謝られると逆に引く」

鈴谷「じゃあどうしろってのさ……」


壁の先に閉塞感はない。飛び込んで『壁の中にいる』みたいな展開は無さそうだ
そのまま全身を入り込ませていく


(;T)そ「眩しッ!?」

鈴谷「うおう……日の光が沁みるねぇ……」


廊下を脱出し、太陽の光に目を眩ませる
足に伝わる感触は、硬い石から柔らかな土へと変わっていた


( T)「……」

鈴谷「……」


( T)「森だ……」

鈴谷「森だね……」


辺りをキモいくらい覆いつくす木々、キモい蔦
そしてなんかキモい色の花々が咲き乱れ、キモいくらい虫が飛んでるキモい森だった

( T)「超あったかいんだけど……絶対ここ日本じゃないよ……」


正月とは思えない暖かさ。むしろ暑い領域に入っている気温と湿度
もはや鎮守府どころか日本かどうかすら怪しい


鈴谷「提督、もう廊下には戻れないみたいだよ」

( T)「出口も消えたか……出口があったかどうかも定かじゃないがな」


出てきた場所で腕を振ってみるが、何の反応も無い。一方通行だったようだ
それでも、先に進めただけ良しとする他ない。あのまま歩き詰めよりマシだろう


\ガサガサァ!!/


鈴谷「ヒッ!?なんかいるなんかいる!!」

( T)「そりゃ森なんだからなんかいるだろ……」

鈴谷「やっつけて!!早く!!」

( T)「落ち着け。ゴリラまでならなんとかしてやる」


耳元で喚きながら顎付近にしがみ付く妖精鈴谷。うるさいこいつ
狩猟が趣味でアクティブな熊野と違って、鈴谷は割とインドア寄りなので、森を歩いた経験も無いのだろう
そもそも航空巡洋艦が森を歩いて狩りをするってなんか可笑しくない?一昔前ならヤク中の発言だろこれ


( T)「もしかしたらオークかもしれない。もし性欲の塊みたいなオークだったら妖精だろうと構わずファック……」

鈴谷「それ以上言ったら動脈噛み切るよ!!」

( T)「動脈はお前のいる位置とは逆方向だアホ」

鈴谷「じょ、静脈噛み切るし……」

( T)「お前の顎の力で俺の首の筋肉が噛み切れるかなぁ……?」

茂みの騒めきはどんどん近づいてくる。音から察するに、そうデカい動物ではないようだ
腰を落とし、迎撃の体制を取る。さて、鬼が出るか蛇が出るか……


\ガサッ!!/


(;T)そ「うおっとぉ!?」


出てきたのは、緋色の毛玉の塊。反射的に捕まえてしまった


鈴谷「う、兎?」

(;T)「そうみたいだな……色がやべえが……」


まるで『捕まえてください』と言わんばかりの鮮やかな毛並み。捕食される側の野生動物としては致命的な特徴の兎だ
じたばたと後ろ脚を動かし、俺の手から逃れようとしている。顔にビシビシ当たってとても痛い


( T)「痛い、いた……なんか見覚え痛い、あるなぁこいつ痛い」

鈴谷「プリキュアっぽい恰好したマッチョのオッサンに捕まえられたら鈴谷でも全力で抵抗するよ」

( T)「受け入れる奴がいたら教えて欲しいわ……おっ?」


右耳に、三日月のような特徴的な黄色い模様を見つけ、見覚えの正体が判明する


( T)「もしかして……卯月じゃねえ?」

鈴谷「なーに言ってんのさ。うーちゃんこんな毛深くないよ」

( T)「今の立場を鑑みて同じこと言えるか?」

鈴谷「ありえる」


卯月(兎)は、返事もせずただ暴れ回る。毛の色以外は、野生の兎と大差がない

十数分前の、鈴谷との会話を思い返す。『まだマシな方』だと言っていた
それは恐らく、『まともな意思疎通が出来る』という意味だろう。この卯月(兎)とは、会話も儘ならない

と、ここで新たな疑問が生じた
俺より先にこの異変に気付いた鈴谷が、初見で兎の正体を見破れなかった
だとすると、こいつは『他の異変』で自分が置かれてる『まだマシ』という立場を察したのだろう


( T)「鈴谷、卯月の他に何かに変身した奴を見たか?」

鈴谷「えっ、うん。熊野とは同室だしね」

( T)「あいつは何に?」

鈴谷「そりゃ、うーちゃんが兎なんだから……」


\バキバキバキ!!/


鈴谷「ヒッ!?」


今度は、騒めきなんて生易しいものではなく、木々をなぎ倒す乱暴な音が近づいてくる
気を取られた俺の隙を突いて、卯月(兎)が手から逃げ出した。ウサギガニゲテル!!


(;T)「卯月が兎だとしたら、熊野は……」


草木を掻き分け、黒い鼻先が現れる。そこから、栗色の毛並みをした獣の頭がぬっと伸びる
荒く息を吐く口からは大きな牙が覗き、下あごからポタポタと唾液が滴っていた
地を踏み鳴らす前足には、五本の鋭い鈎爪が見えた。そして改めて獣の顔と頭を見ると、見覚えのあるポニテと髪飾り

なるほど、卯月(兎)がどうしてあれほど慌てていたのか、合点がいった


(;T)「文字通りの、『熊』……」


熊野(熊)<グォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!


(;T)そ「熊かよーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」ダッ!!


腹ペコの森の王者から、逃げていたのだ

鈴谷「逃げるの!?ゴリラまでならなんとかするんじゃないのー!?」

(;T)「いや思いの外無理!!!!実際こう生の化け物に遭遇したらいかなる記憶媒体も獣の威圧感まで学ばせてはくれない!!」

(;T)「だから全知などくだらんと言うのだ!!なぁ!?みたいな感じになる!!秋谷稲近師匠も実際カジキマグロの騎士を目の当たりにした時も同じ反応してた!!」

鈴谷「長いし誰だしーーーーーーーーー!?」


熊野(熊)<グォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!


鈴谷「じゃあもっと速く走って!!追いつかれる!!」

(;T)そ「えっやっぱそんな速いの!?チクショウ俺に無敗の牛山並みの肝が……」

( T)「あれば……」


熊野(熊)<グォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!


(;T)「いや遅っっっっっせえええええええええええええええ!!!?????」


唸り声はご立派だが、なんでか知らないが二足走行で追ってくる熊野(熊)
当然、熊の移動は四足が基本だ。時速50だか60だか余裕で出るらしい

しかしご覧の通りあのアホは何故かヨタヨタした二足走……いやもう歩行だわマジでおっそい余裕で撒ける


( T)「なんだ余裕じゃん!!やーいお前の三番目のねーちゃん出張期間中に三キロ太ったー!!」

鈴谷「オイなんで今鈴谷ディスった?オイ」

( T)「はー、脅かしやがって。元に戻ったらあいつの三番目の姉に俺の嫌いなもの押し付けてやる」

鈴谷「鈴谷に全部しわ寄せが来てるんだよなぁーどうしてかなぁー?」


( T) ズボッ


( T)「ズボッ?」

鈴谷「ズボッ?」


足下の異音、その後すぐに浮遊感


(;T)そ「落とし穴ーーーーーーーーーーーー!!!!????」

鈴谷「ぎゃーーーーーーーーーーーー!!!!!もうやだーーーーーーーーー!!!!」


やけに滑らかで、それでいて傾斜のキツいパイプの中を滑り落ちていく


( T)「これの行き先が針山地g……触手の群れとかだったらどうする?」

鈴谷「なんでそんないきなり落ち着いてられんの!?つーかそれならいっそ串刺しになりたいよ!!」

( T)「服だけ都合良く溶かす粘液とか出してくるのかなぁ、やだなぁ」

鈴谷「あっ、そうだ鈴谷飛べるじゃん」ブーン

( T)「酷い裏切りを見た」


妖精の癖にやたら薄情な鈴谷が離脱し、触手の巣(仮)に一人落ちていくマッチョ
触手って関節技効かないよな……やべえな……このままだと穴という穴を犯されるマッチョとかいうエグい絵面をお届けする羽目になる

そうこう滑り落ちている内に、足下に光が見えた。出口らしい
っつーことは、恐らく外に通じているみたいだ。よかった多分触手の巣とかじゃないわ


( T)そ「出たぁ!!」ズボッ


出た瞬間、尻にやわらかなクッションの感覚
鼻孔をくすぐる紅茶と甘いお菓子の香り
そしてテーブルに着く三人の……


金剛「……」

霧島「……」

榛名「……」


カラフルなシルクハットを被った金剛型姉妹


金剛「……お客様デーーーーーーーーーーーーーーーーーース!!!!!!!!!!」


霧島 榛名<ワァァァ!!!!!!


( T)「バキ割ったドアの隙間から顔覗かせるジャック・トランスみたいな歓迎されるとは思わなかった」


なるほど、こいつらは『帽子屋』枠か。原作だとどういう役割だったっけ……頭可笑しい事しか覚えてねえわ……
あれ……?じゃあいつもと変わりなくない……?


鈴谷「てーとく、穴は大丈夫ー?」ブーン

( T)「まだわからん」


ゆっくりと降りてきた鈴谷とも無事……無事?まぁ無事でいいや。合流した

金剛「お客様デーーーーーーーーーーーーーーーーーース!!!!!!!!!!」


霧島 榛名<ワァァァ!!!!!!


鈴谷「おおーう、金剛型はマッドハッター?ジョニデが良かったなぁ」

( T)「こんな謎空間でジョニデと出会っても何話せばいいかわかんねえだろ。夫婦仲とかか?」

鈴谷「大型地雷過ぎでしょ……」


金剛「駆け付け三杯デース!!榛名ァ!!お茶をお出ししなサーイ!!」

榛名「はい!!お姉さま!!」ジョロンジョロンジョロン

( T)「誤解を招きかねない音が聞こえる」

鈴谷「飲む気失せるし」

榛名「んっ……ふぅ……」ブルルッ

( T)「おう身震いやめーや」

鈴谷「お茶自体は普通に淹れてるのに何故か漂う下ネタ感」

榛名「ど、どうぞ……」カァッ

( T)「恥じらうな頬を赤らめるな」

鈴谷「もうそれにしか思えないよ……」


言動を見るに、こいつらも『役柄』に染まり切っているようだ。つーか全員目がイってる
霧島に至ってはは眼鏡を外して紅茶に浸し、レンズをしゃぶってるし。やめろよ……まだまともだっただろ……

金剛「お祝いデーーーース!!!!本日二人目と三人目のお客様に乾杯しまショーーーーーーーー!!!!!」

金剛「美味し糧を」

榛名「美味し糧を」

霧島「眼鏡おいしい」ジュッポジュッポ

( T)「途中からハウルになってんぞ世界観安定しねえなオイ」

鈴谷「ねえ提督、これ飲んだ方がいいの?」

( T)「えー……毒入ってない保証も無いしなぁ」

鈴谷「ジャブジャブ飲んでるけど」


金剛 グビグビグビグビ!!!!!!


( T)「ティーカップ一杯にしては随分長い事飲んでんな。それより今、二人目と三人目と言ったか?」

鈴谷「そうそう、他に誰か来たの?」


金剛 グビグビグビグビ!!


( T)「そのティーカップ容量何リットルなんだよ」

榛名「あててみてください!!ハワイへご招待します!!」

( T)「タダでさえネタがわかり辛ぇって言われてんのに畳みかけるように伝わりにくいネタを差し込むんじゃねえよ」

鈴谷「ちなみに今のなんなの?」

( T)「コブラ」

金剛「パウンドケーキも食べるデース!!」ガシャアン!!

( T)「人に食いもん勧めるムーブじゃねえ」


ケーキ<ケンコウケーキデスゥ


鈴谷「ケーキが喋った!?」

(;T)「ちょっと待てこの紫色とセリフ……お萩じゃねえのかこれ……」

鈴谷「嘘ォ!?食べ物にも化けてんの!?」


ケーキ<オツウジニモイイデス


(;T)「腹壊すとかそういう意味じゃなくて?」

鈴谷「これはちょーっち食べられないわー……」

榛名「美味しいですよ!!」ムッシャムッシャ


ケーキ<ピギャアアアアアアッス!!


(;T)そ「食うなーーーーーーーーーーーー!!!!!」ッパーン!!

榛名「アヒッ」ビクンビクン!!

鈴谷「萩ちゃん齧られたーーーーーーー!!!!!」


ケーキ<……


鈴谷「萩ちゃーーーーーーーーーーーーん!!!!」


金剛「おかわりもありマース!!」ガッシャァン!!

ケーキ<ケンコウケーキデスゥ


(;T)そ「おい今リスポーンしたぞ!!」

鈴谷「無限湧きするんだ!?なんでもありだねここ!?」

(;T)「オイやべえぞ……いつまでもこの場所にいたら気が狂う……」

鈴谷「そ、そうだね……他に誰か来たか気になるけど、もう逃げよっか……」


霧島 ジュッポジュッポ


霧島「ふぅ、眼鏡チェック……堪能しました」スチャッネトォ……

霧島「ん?んんー?」


(;T)「折角のお茶会だがそろそろ俺ら行くわ……キングダムの最新巻買いに行かないと……」ガタッ

鈴谷「売ってるワケないじゃーん……」


そそくさと席を立ち、足早にクレイジー空間を去ろうとしたその時


霧島「待て」


ゾッとするような冷たい霧島の声が、俺の足を止めた


(;T)「な、何?ケーキもお茶もいらねえよ汚ぇ眼鏡掛けやがって」

鈴谷「何で煽るのー?なんでー?」ヒソヒソォ!!

霧島「その格好、その筋肉……貴様ァ……『魔女』……だな?」

(;T)「ま、魔女?どこからどう見てもマッスル全力全開の漢だろうがそのメガネ度入ってんのか?」

鈴谷「一々煽らないのー頼むー……」ヒッソォ……

霧島「王国の……予言にある……『災いを連れ込む魔女』……キュアマッスル!!」ガタッ!!

金剛「キュア……マッスルだと……?」ガタタン!!

榛名「ケーキ美味しいです!!」ムッシャムッシャ

雲行きが怪しくなってきやがった。パッパラパーな雰囲気が一転、一触即発の怒気が二人から立ち込める
金剛はアホ、霧島は脳筋気味とは言え、ウチの鎮守府では屈指の高練度艦だ。マッチョじゃなかったらワンパンで死ぬ


(;T)「あー、恐らく人違いだと思うぞ?お前らアホだから勘違いしてんだって。何か気に障ったんなら謝ってサッサと失せるよ」

鈴谷「謝る気ゼロでしょ……」


霧島「……せよ」

金剛「……こう……せよ……?」


( T)「は?」


霧島「連行せよ連行せよ連行せよ!!」グワァツ!!

金剛「連行せよ連行せよ連行せよ!!」ズアッ!!


(;T)そ「よし逃げる!!オラァ!!」


テーブルをひっくり返し、全力で茂みを走り抜ける


鈴谷「おわっ!?」


宙を舞った萩風(ケーキ)を、鈴谷が上手くキャッチした。それどうすんの?非常食?


<待てゴルァアアアアア!!!!!

<あのメスと同じ場所に送ってやらァァァ!!!!!


(;T)「うっわめっちゃドス利いた声で追っかけて……来てない!!何だよあいつら捕まえる気ゼロじゃね!?」

鈴谷「捕まらないならそれに越した事は無いよ!!離れよ離れよ!!」


ケーキ<ケンコウケーキデスゥ


(;T)「それ持って行くのか?」

鈴谷「お、置いとくワケにもいかないじゃん?」

(;T)「まぁ……そうだな……」


お菓子な道連れが出来てしまった(うまい)

―――――
―――



(;T)「ハァー……ったく、マジでロクな事がねえな不思議の国……」

鈴谷「もー疲れたよ……」

ケーキ<オツウジニモイイデス


帽子屋達のお茶会からとんずらし、一息入れる
奴らは原型留めてるタイプだったが、話が通じない分動物の方がまだマシだった。逆に厄介だわアレ


鈴谷「おいたわしや萩ちゃん……生き物ですらないっていうね……」

ケーキ<ケンコウケーキデスゥ

鈴谷「喋るけど……」


とは言え、成果が無かったわけではない。あの会話の中で、いくつかの手がかりが見えた


( T)「俺らより先に来ていた一人目は、あいつらによって『連行』された……『どこに』?」

鈴谷「んー?原作展開ならハートの女王様のお城じゃないのー?」

( T)「原作をなぞってんなら、アリスは兎を追いかけてトランプの国へ誘いこまれるんだ。なぁ鈴谷、俺達は『アリス』か?」

鈴谷「アリス……いや、無い。鈴谷は兎も角、提督は無い」

( T)「だよなぁ。マッチョを主人公にするならヘラクレス辺りにでも抜擢しろって話だよなぁ」

鈴谷「鈴谷が言いたいのは恰好なんだよなぁ」

( T)「つまり『アリス』の役は他の誰かが扮している筈。それが恐らく、お茶会に訪れた一人目だろう」

鈴谷「根拠は?」

( T)「ねぇ……けども!!でも実際考えてみろよ。原作でもアリスはロクな目に遭ってねえ。俺達と一緒でな」

鈴谷「あー、うん、薄らぼんやりとしか覚えてないけど……処刑されそうになったりしてたよね」

( T)「だろ?それで、だ。もし一人目が俺らと一緒で『まとも』なままあの場にいたら、どうすると思う?」

鈴谷「ダッシュで逃げるかなぁ」

ケーキ<オツウジニモイイデス

( T)「そう、だから帽子屋達の気に障った。奴らのお茶会に付き合わなかったから」

( T)「奴らと一緒で狂っていたなら、まだあそこでケーキ(萩風)食ってただろうよ」

鈴谷「でも、それも全部仮説に過ぎないわけじゃん?アリスかどうかも、そもそも『アリス』の役があるのかどうかもわかってないのに」

( T)「それを抜きに考えても、一人目は『連行された』んだぞ?それに、俺達もそうなりかけた」

( T)「つまり、奴らにとって『都合の悪い』何かだったっつー可能性があるんだよ。もしくは、『正気だったから』か」

( T)「また仮説になるんだが、正気の人間を連行して狂わせるっつー方面にも考えられるな」

鈴谷「ディストピアめいてきましたねぇ……そう言えば、災いを連れ込む魔女だとか言われてたよね」

( T)「その辺の謎も明らかにしてえよな……あれ……?俺ってもしかしてエミリアだった……?や、やだ!!スバルに口説かれる!!」

鈴谷「レムルート不可避」

( T)「ともあれ、目的は決まったな」

鈴谷「先ずは一人目の捜索だね。チェシャ猫あたりが出てきてヒントくれないかなぁ」

( T)「俺はタバコ吸いたいから芋虫に会いたい。あいつ水タバコかなんか吸ってただろ」

ケーキ<オツウジニモイイデス

鈴谷「ん?」

( T)「どうした?」

鈴谷「なんか……音楽が聴こえる」


<♪~♪~


耳を澄ましてみると、僅かにメロディが聞こえてくる
その方向へと歩いて行ってみると、草原へと抜け出た。吹き抜ける風が俺のスカートを巻き上げる。縞パンだぞ?抜けよ
少し先には、如何にもファンタジーな城がポツリと見える。多分夏休みとかクリスマスシーズンとかになると花火上がるぞあそこ

もう既に分かり切ってることだが、ここ絶対鎮守府内じゃねえよ


<♪~♪~


( T)「……」


聞き覚えのある、懐かしいメロディだ。子供の頃に何処かで……


鈴谷「提督、提督……?」


鈴谷が頭をてしてしと叩くが、今それどころじゃない。喉元まで来てるんだよ答えが。確か、歌だった……

( T)「……しあわせですか~♪」

鈴谷「はぁ?」

ケーキ<ケンコウケーキデスゥ

( T)「おげんきで~す~か~……くらしのなかのパートナー……」

鈴谷「ちょっとちょっとどうしちゃったのさ……妙にメロディに合ってるねその歌」

( T)「オークワからの……」


(#T)「ごあいいいいいいいいいいいいさああああつううううううううううう!!!!!!!!!!誰が分かるんだよオークワのテーマソングなんてよおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」


メロディの正体は、和歌山権を中心に八つの府県で展開しているチェーンスーパーの店内ソングだった
ふざけんなよクッソローカルなネタ放り込みやがって。どっから流れてきてるんだよ


鈴谷「な、納得した?」

(#T)「してねえよ!!無駄に郷愁刺激されて若干切ねえよ実家の和歌山に帰りてえよ畜生!!」

鈴谷「そ、そっか。それはそれとして、メロディはあそこから流れてるみたいだよ」


遠くに見える、拳ほどの大きさの行列。その中央部には箱のような物が見える
パレードのように楽器を鳴らしながら、城へと向かっているようだ。だからってなんでオークワの曲なんだよ

( T)「オークワのメロディ垂れ流しながらパレードかよ……行ってみるか」

鈴谷「危なくない?」

( T)「虎穴に入らずんばって奴だ。大丈夫、筋肉を信じろ」

鈴谷「うーん……まぁ、任せるよ。危なくなったら鈴谷は飛んで逃げるから」

( T)「薄情かよ」


草原を駆けるマッチョ。風にたなびく短いスカート。ケツが涼しい


鈴谷「速い速い!!もうちょっと忍んでよ!!」

( T)「マッチョ カクレル デキナイ オレ ニンゲン クウ」

鈴谷「知らないからねー!!」


行列に近づいていくと、全貌が見え始める
先ず箱だが、木材で組まれた檻だった。その中には、ミントグリーンの髪色に大きなリボンを付けた艦娘
去年の秋頃に入った新入り、白露型8番艦の『山風』が、青のエプロンドレスを纏った姿で捕らわれていた


山風「……」


さながら、『アリス』の恰好であった。あいつが『一人目』で間違いないだろう

さて、問題の行列を形成するメンバーだが


( T)「……」


長門、武蔵、ビスマルク、加賀、瑞鶴を始めとした高練度武闘派集団
加えて、我が鎮守府が誇る敵艦撃破数トップ4の


青葉「やさしいで~す~か~♪」

衣笠「あいしてま~す~か~♪」

夕立「そんなあなたのおてつだい~♪」

時雨「オークワからの~ごあい~さつ~♪」


あいつら。オークワのテーマソング歌うのやめろ脳にこびり付くんだよ
ちなみに同率五位は肩に乗ってる妖精とさっき追っかけられた熊だ。扱いの差よ


( T)「……」


足も止まるわそりゃ。ボスラッシュかよ


鈴谷「……た、助ける?山風ちゃん」

( T)「助けられる……かなぁ……?」


人類最強ランキング上位に位置し、マッスルの体現者である俺でも
決死の覚悟で一人相手にしてようやく差し違えるほどの化け物集団だ
いや、化け物になるまで鍛え上げたのは他の誰でもない俺なんだけど

集団は近づいた俺に見向きもせず、真っすぐに城を目指している
このまま着いて行って、こっそり侵入する手もある。が……


( T)「よくよく考えたらなんで俺が小娘相手にコソコソしなきゃならないんだ?腹立たない?」

鈴谷「えっ」

( T)「マッチョ ニゲルカクレル シナイ!! ジャングル オレ マモル!!」ザンッ!!

鈴谷「えっ?」

ケーキ<オツウジニモイイデス


艦娘だろうとなんだろうと、ここで引いたら男が廃る


(#T)「ナルニアの為にーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!」ダッ!!

鈴谷「ええええええええええええええ!?」


単騎突貫。スカートが派手にまくれ上がる。股間が涼しい。縞パンだぞ?シコってもいいのよ?
不意打ちならある程度の効果はある筈だ。先ずはめっちゃ強い四人のケツを蹴り上げてそれから




青葉「あ?」ギンッ




( T)「」


あっ、アカン。命を刈り取る瞳をしている
足がブレーキを踏んだ瞬間、数えるのも面倒になるほどの拳と蹴りが、制止する間も無く飛んできて――――


(;T)「エンッ!!」


視界にきらきら星が散った後、意識が真っ暗な闇に落とされた

―――――
―――



( T)「」


( T)「い……いて、いてて……」


目を覚ますと、薄暗い上にきったねえ知らない天井だった。クソがまだ不思議の国かよドラゴンマッハ観に行かせろ
顔とか体とかめっちゃ痛い上に、床がすげえ冷たい。ケツとか太ももとかすげえ冷える。顔を横へと向けると、鉄格子がお出迎え


「お、おはっ……」


( T)「ん?」


山風「おはよう……」


反対側へと向き直ると、部屋の隅で縮こまる山風の姿が


( T)「よう山風。あけましておめでとう」

山風「あっ、あの……提督、だよね……?」

( T)「おう、新年早々こんな恰好ですまねえな。よっこら……体痛い死にそう」


悲鳴を上げる体。マッチョじゃなかったら死んでた


山風「提督、五十メートルくらい吹っ飛んでた……生きてるのが不思議」

( T)「伊達にマッチョやってねえよ……そんで」

改めて、周りを見回し現状を把握する
俺と山風は現在、石造りの檻に閉じ込められている。小さな明かり窓からは月が見える。今は夜か
手足に拘束は無い。檻の中は自由に動き回れそうだ。体痛いけど

と、ここで何かが足りないことに気づく


( T)「鈴谷は?」

山風「鈴谷……さん?」

( T)「いただろ?なんか虫みたいなのが」

山風「あ……いた、けど……飛んで逃げた……」

( T)「薄情かよ」

山風「賢い判断だと思うけど……」

( T)「なんか身を挺して守ってくれたとかいう感動エピソードとかないのか?」

山風「ないのかって……だって遠目から見ても『あっ、あの人アホだ』って思ったし……アホに構ってたら命が幾つあっても足りないし……」

( T)「そうかいありがとうよ今後の参考にするわ」


地味に突き刺さる言葉を頂戴し、立ち上がって鉄格子に近づく
檻の中と同じく薄暗い廊下には、見張りも誰も立っていない。他にも檻が幾つか並んでいたが、収監者は俺達だけのようだ


山風「提督は、まとも……なの?」

( T)「どう思う?」

山風「半信半疑……」

( T)「だろうな。何せ、恰好が格好だ。お前らよくスカートなんか穿いてられんな。ケツが寒くてたまんねえよ」

山風「それは今、スカートが捲りあがってるから……見苦しい……汚いもの見せないで……」

( T)「天性の肉体に向かってなーんて言い草だよお前……」

しかし、鈴谷が逃げたのは僥倖かも知れない。助けに来る可能性はあるわけだし


( T)「ここはどこだ?」

山風「えと、多分、本の中の世界……」

( T)「いやこの場所の事……んっ?」


今、俺は『現在地』を聞いた。しかし山風は、『本の中の世界』と答えた
質問と答えのスケールが違う。山風はこの場所が何処か以前に、『この世界が何なのか』が解っている


山風「ん……あっ、ここは、えと、アリアケ城ってとこの檻の中」

( T)「察しが良くて助かるが、今は本の中云々の話を聞かせてくれ」

山風「えと、えっと……信じる?」

( T)「お前新入りだから知らないだろうが、ウチは怪奇現象が頻繁に起こってる上に艦娘も比較的頭可笑しい部類だ。その辺の大人よりオカルトに理解があるぜ俺は」

山風「わ、わかった……じゃあ、話すね……」


山風は拙い口調でこの世界のことを語ってくれた
簡単に言うと、『図書室で見つけたタイトルも著者も載ってない一冊の本を就寝時に読んでいて、寝落ちして目を覚ますとこうなっていた』と
最初は彼女自身もただの夢の出来事だと思っていたが、体の疲労感などから『ただの夢』ではないと認識
加え、場面の展開が本の内容とほぼ一致していたことから、山風はここを『本の中の世界』だと仮説を立てたらしい


( T)「じゃあこの後の展開も知ってんのか?」

山風「それは……わからない、覚えてないの……」

( T)「まぁ寝落ちしたってんならしゃあないわな……」


しかし鎮守府全域を巻き込む本って一体……

山風「でも、でもね、提督の役はわかる……」

( T)「おっ、マジか」

山風「うん、えと、提督はね、主人公のね……あの、あたし、なんだけど……」

( T)「うん、わかる」

山風「不思議の国に迷い込んだ主人公をね、助けてくれる魔女の役……」

( T)「やっぱ魔女……魔女かこの恰好?まぁ魔女でいいやワッショイ」

山風「不思議の国中の人g……生き物から忌み嫌われる存在でね、常に命を狙われてるの……」

( T)「そりゃ変態が近所うろうろしてたらしょっ引くわなぁ」


せめてもうちょっと恰好なんとかならんかったんか……?


( T)「そうだ、金剛型のアホ共の所で『災いを連れ込む魔女』と呼ばれたんだが、それについては?」

山風「そこの伏線が回収されるところまで読んでない……でも、お話の中の魔女も、災いが何なのかわかってなかった……」

( T)「ふむ……」


魔女自身すらわかっていないことを、周りの連中からガヤガヤ言われてたのか
確か霧島は『王国の予言にある魔女』と言っていたな。あの目の色の変わり様から察するに、相当重要な立ち位置にいるらしい


山風「ねぇ、提督……あたし達、元に戻れるのかな……?」

( T)「戻れねえといつまで経ってもお前の視界に俺のカッチカチなケツが入り込むぞ」

山風「最っ悪……」

( T)「心底嫌そうな声はやめろ膝から崩れ落ちちゃうだろうが」

( T)「お前が覚えてる範囲内で、ここまでは本のストーリー通りなんだろ?」

山風「う、うん……その筈……」

( T)「若干不安が残るなオイ。まぁいい、何事にもエンディングが付き物だ。終わりさえ迎えりゃ全部元通りだろうよ」

山風「本当に……?」

( T)「多分……」


山風「……」

( T)「……」


山風「ううっ……」グスッ

( T)「泣くなよ……不安になっちゃうだろうが……」

山風「恐い……この世界もそうだけど何より筋肉ダルマがフリフリの衣装を着てはしゃいでる事実が恐い……」

( T)「はしゃいではねえよお前ら本当に俺に対する言葉の容赦がねえな」


ともかく、ストーリーに沿って展開が動いてるのなら今は待つしかない
鉄格子も破ろうと思えば(マッチョなので)破れるが、下手に動かない方がいいだろう


( T)「ん?」


すると、廊下の奥からコツン、コツンと足音が聞こえてきた
タイミングよく展開が訪れやがったか。さぁて、誰がおいでになることやら







まるゆ「起きたか!!!!!!!!!!!!!このクソ豚野郎!!!!!!!!!!」





やだめっちゃかわいい子来ちゃった

まるゆ「これより女王陛下立会いの下、マッチョ裁判を行う!!!!!!!出ろ!!!!!!」


( T)「キャスティングミスってんじゃねえのかこれ」


大層な軍服に勲章。兵士長的な立場のキャラクターだろうか。一人で来たの?配下とか引き連れない普通?
それより、良い子界の帝王たるまるゆさんにクソ豚野郎とか言わせんのやめろよ……


山風「まるゆが相手なら逃げ出せるんじゃ……?」ヒソヒソ

( T)「ムリ マッチョ ヨウジョ ナグレナイ」ヒソヒソ

山風「時雨姉には容赦ないのに……」ヒッソヒソ

まるゆ「何を鳴いているか貴様らァ!!!!!!」ガァン!!


警棒らしきもので鉄格子を叩くまるゆ。見た目に反して中々にキツい性格をしていらっしゃるようで
まるゆじゃなかったら絶対殴ってた。ある意味最強の抑止力だよマジ


まるゆ「檻から出すが、下手な真似をするんじゃあないぞ!!!!私に何かあったら親衛隊が貴様らの右膝関節を執拗に痛めつけるからな!!」ガチャガチャ

( T)「右膝関節限定なの?何基準で決まってんの?」


鉄格子の扉が開き、まるゆに急かされるまま檻を出る
警棒でケツを突かれつつ、薄暗い廊下を進んだ。やめて、まだ体痛いの


山風「マッチョ裁判って何……?」

( T)「魔女裁判と掛けてんじゃねえの?知らんけど」

まるゆ「黙らんかァ!!」ッパーン!!

(;T)そ「ケツ痛って!?」


まるゆじゃなかったら絶対殴ってた。卑怯だぞ

―――――
―――



\デスレイプ!!!!!!!!!デスレイプ!!!!!!!!!/


那珂ちゃん「静粛に!!せーいーしゅーくーにー!!」ガンガン!!


\デスレイプ!!!!!!!!!デスレイプ!!!!!!!/


( T)「ジョージ・ブッシュ刑務所かよ」


那珂ちゃん「静粛にっつってんだろぶっ殺すぞ!!!!!!!!!!!!!!!!」


\シーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!!!!!!!!!!!!!!/


那珂ちゃん「よし。これより、マッチョ裁判を開始します!!」


( T)「沈黙すらうるせえ」


まるゆに連れてこられたのは、傍聴席がアリーナのように広がる裁判所
白く立派な口ひげを生やした那珂ちゃんは、裁判官か。いやそれにしてもさっきから口調が乱暴だな

法壇は三段に分かれていて、二段目に裁判官の那珂ちゃん。一段目には恐らく書記官であろう秋雲
最上段の席は空いているが、仰々しい椅子が置かれている。あそこが女王様の玉座ってワケか


山風「恐い……」ギュウウウウウウウウ!!!

( T)「まぁなるようになるだろ。それよりケツを抓るのをやめ痛たたたたたた」


証言台には俺と、何故か俺のケツを抓る山風。捻りまで加えやがってこの野郎
傍聴席を振り返ると、どいつもこいつも目が据わってやがった。酔ってんの?

<女王陛下のーーーーーーー!!!!!おなーーーーーーーーりーーーーーーーーーー!!!!!!


傍聴人から裁判官、書記が一斉に立ち上がる


( T)「なんだなんだ」


<♪~♪~


そして聞こえてくるオークワのメロディ


( T)「……」


\しあわせですか~♪/


( T)「歌うんかい」


国歌的な扱いをされているのだろうか。もっと別の曲あっただろ
しかし、女王様か……ウォースパイト辺りがキャスティングされてんのかな?


<オーーーーーーーーッホッホッホッホ!!!!!


( T)「うわ、オーッホッホなんて高笑い初めて聞いた」

山風「提督、上……!!」

( T)「上……?」





鹿島「オホホーーーーーーーーーーーー!!!!!」ズドーーーーーン!!!!!!




( T)「……」

山風「……降って、来たね」

( T)「ああ……見事にケツから玉座に着地したな……」


予想外の方向から現れた、不思議の国の女王様。つーかお前かよ
そういやこの城の名前ってアリアケ城だったな……アリアケの女王ってか……意味わかってんのかな……


鹿島「……」

( T)「……」

山風「……」


鹿島「死刑」

那珂ちゃん「はい死刑一丁!!」ガァン!!

( T)「はえーよ判決が」

鹿島「死刑ったら死刑なーんーでーすー!!永久回廊からの脱獄、一般市民への暴行、そして公然わいせつ罪!!」

( T)「三つめは言い訳出来ねえわ。あと永久回廊だいぶチョロかったぞセキュリティガバガバかよ」

山風「他に服無かったの?」

( T)「他のもこんなんしか無かったんだよ……」

鹿島「これだけ揃ってたら死刑は確定でーす!!執行猶予も付きません!!刑は明日の早朝執行されます!!」

( T)「早足だな物語畳みにいってるだろ」

山風「あの、あたし、は?」


鹿島「かわいいから死刑です!!」ドドッド!!


山風「かわいいから……?かわいいから……!?」

山風「かわいっ……どうして?」

( T)「理由は何でもいいんだろうよ……元の世界に戻ったら、あいつ絶対いじめような」

山風「右膝関節痛めつけてやるから……!!」

( T)「オーケー、右膝関節用のサブミッション教えてやる。泣いても解くんじゃねえぞ」

鹿島「では、マッチョ裁判はこれにて閉廷します!!オーッホッホッホ!!」

鹿島「じゃあクッキー食べる人!!」


\ワァァアアアアアアアアアアアア!!!!/


( T)「この場面マダカスカルで観たよな」

山風「キツネザルの群れとあんまり変わらない……」

( T)「言うねえ」ワハハ

まるゆ「何をぼさっとしているかァ!!!!」ッパーン!!

(;T)そ「ケツ痛って!?」

まるゆ「サッサと檻へと戻れェ!!」


こうして、俺達は再び、執拗にケツをしばかれながら


まるゆ「精々最後の夜を楽しむんだなァ!!ガーーーーーッハッハッハッハ!!!!」バァンガシャン!!


檻へと放り込まれたのであった。ガハハって笑う人初めて見た

(;T)「ケツ痛い……いくら年末にガキ使あったからって笑ってもないのにケツ叩き過ぎじゃない……?」

山風「赤くなってる……可哀想……」

(;T)「お前もケツのダメージの一端を担ってただろ……」

山風「そんな事より……これから、どうする……の?」


山風は不安そうに自身の服の裾を掴む。出来の悪いコメディみてーな裁判だったが、明日殺されることが確定したのだ。無理はない


( T)「おとぎ話なんてハッピーエンドが基本なんだよ。そうそう殺されやしねえって」

山風「でも、でも……あの本がバッドエンドだったら、あたし……」

( T)「だったら書き換えるだけだ。いいか山風、筋肉に」

ケーキ<ケンコウケーキデスゥ

( T)「不可能h良い事言おうとした瞬間にこれだよクソがどこから入り込みやがった」


<こっちこっち


山風「あっ……鈴yムググ」


窓から入り込んだ鈴谷の姿を見て、声を上げようとした山風の口を咄嗟に抑える
どこで誰が聞いてるかわからんからな。オイ今事案とか言った奴出てこい右膝ぶっ壊して選手生命終わらせてやる


鈴谷「よく生きてたね提督。五十メートルくらい吹っ飛んでたよ?」

( T)「それはさっき聞いた」

山風「むー!!んむむ!!」パンパン!!

( T)「あっ、ごめん」パッ

山風「鈴谷さん、助けに……!!」

鈴谷「んー、そう言いたいのは山々なんだけどねー……」

( T)「問題が?」

鈴谷「うん。鍵はまるゆちゃんが持ってたんだけど」

( T)「持って『た』?」

鈴谷「なんだろ……どう説明すればいいんだろ……先ず天龍の左目が聖オカン空間ホーショウとかいう場所に繋がってて」

( T)「よし結論だけ言え。多分聞いてもわからん」

鈴谷「鍵は手に入らなかった」

山風「そんな……」

( T)「いやまぁ鍵は無くても蹴破れるけど」

山風「じゃあ最初からそうしてよ……!!」

鈴谷「鈴谷骨折り損じゃん……どんだけ頑張ったと思ってんの?危うくホーショウでタイゲイワープ空間に捉えられてディメンション移動しかけたんだよ?」

( T)「聞いてもわかんねえけど、とにかく大変だってのは伝わった。ご苦労」

ケーキ<オツウジニモイイデス

山風「で……これ、何?」

鈴谷「萩ちゃん」

山風「……?」

山風「……????」

( T)「その反応は正しい」

鈴谷「つか、出れるんならサッサと出なよ。さっき小耳に挟んだんだけど、処刑されるんでしょ?服だけ溶かす粘液を出すスライムの群れに放り込まれてさ」

( T)「いや処刑内容まで聞いてないけど……えっ?そんな……何?リョナ系異種姦物みたいな殺され方されんの?」

山風「嫌だ……絶対、嫌だかrムググ!!」

( T)「おっきな声出すな。まだそうなると決まったワケじゃねえ」

鈴谷「そうだよ山ちゃん」

( T)「南海キャンディーズみたいな呼び方すんな」

鈴谷「ふふーん、この鈴谷が何の情報も持ち帰らずにノコノコと現れるワケないじゃーん!!」

( T)「有能。で、情報って?」

鈴谷「話せば長いんだけど、まずホーショウで会った美と創造を司る女神オーイッチがね」

( T)「結論だけ話せ」

鈴谷「窓から見えるあの高い建物あるでしょ。高層ビルの組み立て足場みたいなやつ」

( T)「どれ……あるな」


異彩を放つ、ライトアップされた高い組み立て足場
上からは一本の長いロープが垂れ下げられている。どこかで見たことがある。何がとは言わないが肉体と運動能力を競い合う某番組で


鈴谷「あの頂上にあるスイッチを山ちゃんが押すと、この国が『終わる』らしいよ」

( T)「FINAL STAGEみてーな建物にそんなもん乗っかってんのか」

山風「んむぅ!!」バンバン!!

( T)「あっ、ごめん」パッ

山風「ぷはっ、な、なんで、あたしなの……?」

鈴谷「んー?オーイッチの親友であり宿敵でもあるハイパー北k」

( T)「結論だけ話せ」

鈴谷「手からそういう成分が出てるんだって」

山風「成分……?」

( T)「成分……?」

鈴谷「怪訝な顔をされてもなぁ……鈴谷だって意味わかんないし……」


この本の作者は終盤になって展開を考えるのが面倒になってきたらしい。理由が適当すぎんだろ
ともあれ、不思議の国の出口は見えたってワケだ。後はそこにどうたどり着くか、だが……


( T)「あの周辺の警備は?」

鈴谷「そりゃわんさか。最重要危険人物が二人も現れたって言って、超厳重だよ」

ケーキ<ケンコウケーキデスゥ

( T)「まぁそうだよな……備えあればなんとやらっつーし……」


檻を蹴破って強行突破を狙っても、上手くはいかないだろう
そもそも俺は青葉率いる練度上位勢にボコボコにされた身だ。もしあの連中が警備を担当していたなら勝ち目は薄い
それに、もし俺が警備兵をうまく引き寄せたとしても、今度は山風がロープを登らなければいけない
彼女は新入りな上、SASUKEの……SASUKEっつっちゃったよもういいや。SASUKEの訓練なんてさせてない。綱登りなんて到底出来ないだろう

贅沢言うなら、事故や天災などの外的要因で気を引いて、山風を背負って俺が登るのが理想だが……そう簡単に起こりうるはずもない


( T)「……」


いや、この不思議の国の物語が一冊の本として完成しているのなら、どこかに突破口がある筈だ
常識で考えてはいけない。もう一度最初から、今ある手掛かりと材料で……


ケーキ<オツウジニモイイデス


( T)「……!!」

( T)「災いを、『連れ込む』……」

鈴谷「ん?」

( T)「鈴谷、霧島は確かに、『災いを連れ込む』っつったよな?」

鈴谷「えっ、そ、そうじゃない?」

( T)「俺が不思議の国の生活圏に連れ込んだのは一人だけだ」

鈴谷「えっ……ええー!?鈴谷が災いなの!?」


そうだ。俺はてっきり災いを『天災』や『呪い』なんかの現象だと思い込んでいた
だがそれなら、災いを『呼び込む』でもいい。だが霧島は『連れ込む』と言った。連れて、入れ込む
この檻に入れられるまで、俺は鈴谷を『連れて』歩いていた。あのベッチャベチャメガネの言葉との矛盾は無い

じゃあその肝心の災いってのは何なのか。これも、萩風(ケーキ)を見て察しがついた
不思議の国のアリスには、重要なアイテムがある。『食べ物』だ
小瓶の薬、ニンジン、そしてキノコ。アリスは食べ物を口にする度に、体のサイズを変化させていた

そして、目の前には鈴谷がずっと持ち歩いていたケーキ(萩風)がある


( T)「鈴谷、萩風(ケーキ)を食え!!」

鈴谷「は……はぁああああああ!?」

山風「提督……頭、大丈夫?」

( T)「俺は正気だ!!」

鈴谷「いやいやいやいや萩ちゃんだよ!?ダーメだって!!R-18Gになっちゃうって!!」

( T)「でぇじょうぶだ!!どうせ生き返る!!」

鈴谷「悟空みたいに言われても抵抗あるよ!!提督が食べればいいでしょ!?」

( T)「お前じゃなきゃダメなんだ!!」

ケーキ<ケンコウケーキデスゥ

山風「今の、告白みたい……!!」

( T)「いらんこと言うな!!」

鈴谷「玉木宏以外ノーセンキューだよ!!」

( T)「理想高いなお前!!」

( T)「騙されたと思って食ってくれ……!!お前だけが頼りなんだ!!」

鈴谷「う、うう~……」

( T)「今ならお年玉増額キャンペーン実施中!!!!!」

鈴谷「お~し見とけ女の度胸!!」


よっしゃ~~~~~~~~!!!!金の力って偉大~~~~~~!!!!!貰った図書カードでも入れときゃいいだろ~~~~~!!!!
勇んでケーキが落ちている位置まで飛ぶ鈴谷。ずっとスルーしてたけど会話の節々に割り込んでくるのすげえ鬱陶しかった


鈴谷「う……」グスッ

( T)「お前……泣いてるのか?」

鈴谷「苦楽を共にしてきた萩ちゃんとのお別れが……共食いだなんて……」ズビッ

山風「鈴谷さん……うう……」グスッ

( T)「ええからはよ食えや」グイッ

鈴谷「もうちょい余韻に浸らせモガガ!!!!!」


人差し指で頭をケーキ(萩風)に押し込む。ちょっと今茶番やってる余裕と尺が無いんだよ巻いて行けよ


鈴谷「う……」モグモグ

ケーキ<ピギャアアアアアアッス!!

山風「あ……味は?」

( T)「お前それ聞いちゃう?」

鈴谷「甘さ控えめで……美味しい……」モグモグ

( T)「美味いんかい」

鈴谷「うっ」ドクン!!

( T)「来たか……!!」


山風を連れて鈴谷から離れる。これで俺の予想が正しければ、鈴谷はデカくなるはずだ。頼むこれ以上小さくならないでくれ


鈴谷「うう……ううう……」

( T)「……」

山風「……」ギュウウウウウウ!!

( T)「恐いのはわかるがケツを抓るな」


鈴谷「う」




鈴谷「ウィイイイイイイイイイイイーーーーーーーーーーーーーーーーーッス!!!!!!!!!!」ゴワッ!!




山風「!?」

( T)「えっ、ちょ……」


俺は鈴谷がまともなまま巨大化するとばかり考えていたが、肝心なことを一つ忘れていた
そういやこいつも問題ありの艦娘だった。日中は普通だが、半月に一度くらいのペースで鈴谷は……


鈴谷「ィィィイイイイイイイーーーーーーーーーーーーーーーーッス!!!!!!!」


夜のエンジンが熱暴走するのだ ※【艦これ】居酒屋たくちゃん~提督のクソ長い夜~参照

山風「あれ……アレ何、アレ何!?」

(;T)「絶対に目を合わせるんじゃねえぞ!!襲い掛かってくるからな!!」

山風「なんで!?恐い!!逃げよう、早く!!」

(;T)「同意だね!!オラァ!!」ガッシャアン!!!!


どんどん大きくなる鈴谷。既に頭は石造りの天井へと到達し、皹を入れている。崩壊は間近だろう
山風を脇に抱えると鉄格子を蹴破り、廊下をひた走った。背後からは瓦礫が崩れ落ちる音が聞こえた


(;T)「フヘハハハハハ」

山風「何笑ってるの!?」

(;T)「何ってお前、散々俺らをおちょくってきた連中が、これから右往左往するんだぜ?笑えて来るだろ!!」

山風「提督、性格悪い……」

(;T)「これ以上の娯楽がどこにあるってんだよ。そうだな、もし名前を付けるなら……」


<ウィイイイイイイイイイイイーーーーーーーーーーーーーーーーーッス!!!!!!!


(;T)「『シン・スズヤ』とでも名付けようか!!」


お望みの災いタイムの始まりだ。精々足掻けクソ国の住人共

―――――
―――



シン・スズヤ「チィイイイイイイイーーーーーーーーーーーーーーーッス!!!!!!!!」ドゴガッシャアアアアアアアアアアアアアン!!!!!


\ギャーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!デカい妖精の怪獣大進撃ーーーーーーーーーーーー!!!!!/


アリアケ城の広間に出ると、目論見通りパニック状態だった
突如、城から巨大な妖精が現れたのだ。そりゃビビるわ


(;T)「あのSASUKE FINAL STAGEみてーな建物はどっちだ!?」

山風「提督、あそこ!!案内図!!」

(;T)そ「うわすげえ親切!!よし、よし!!向こうだな!!」


まるゆ「貴様ァ!!許可なく脱獄したなァ!!」


(;T)「あっヤバい捕まったら詰む!!何も抵抗できないまま終わる!!」

山風「逃げて、逃げて!!」

(;T)「言われなくてもスタコラサッサだ!!やーーーーーーーーーーーい!!お前の司令官霊長類ヒト科最強ーーーーーーーー!!!!!」ダッ!!

まるゆ「なんだとーーーーーーーーー!!!!!」ダッ!!


まるゆがここまで恐い事って今までなくて、柄にもなく超焦る。キャスティングミスってなかった


\あいつ光線吐いたぞーーーーーーーーーーーーー!!!!!/


(;T)「!?」

山風「!?」


鈴谷も鈴谷で超進化を遂げていた

まるゆ「待っ……ハァハァ、待て、ぜぇ、ひぃ、待って~……」


やだ……あの子体力無い……かわいい……守護らねば……


(;T)「ま、まるゆ!!」

山風「立ち止まらない、進んで……!!」

(;T)「く……クソォ!!」


後ろ髪引かれる思いを断ち切り、城の外を目指して走る


熊野(熊)<グォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!


山風「ヒッ、熊!?」

(#T)「邪魔だボケオラァ!!」ドゴォ!!


熊野(熊)<ザマスッ!!


山風「あ、あれ……あの熊も艦娘じゃ……?」

(#T)「熊野(熊)くらい蹴り飛ばしても死なねえよ!!練度上限開放勢だぞ!?」

山風「く、熊野、さん?まるゆと全然扱いが違う……」

(#T)「まるゆ蹴り飛ばしたら人としてダメだろォ!?」

山風「誰でもダメだよ!?」

(#T)「いや俺だって普通の艦娘を理由もなく蹴り飛ばさねえよ!?今のド変態な恰好のマッチョが少女に暴力振るったら物凄い炎上するぜ!?」

(#T)「でもほら今はあいつ猛獣じゃん!?猛獣に襲われそうになったら蹴り飛ばして逃げるって一般常識じゃん!!誰も俺を責めることは出来ねえよ!?」

(#T)「つーか猛獣じゃなくとも昨今流行りのヤンデレ物でも美少女だろうとなんだろうと蹴り飛ばせよって俺いっつも思ってるから!!刃物持ってる女に襲われそうになったら多少乱暴しても危険回避するべきだろォ!?」

(#T)「良い例だと上条さんだよ!!あいつはちゃんと殴るべき所はわかってるぜ!?口で言ってわからねえ奴にはもう暴力っつー最終手段に出るしかねえんだよ!!」




(#T)「そうは思いませんか視聴者の皆さん!!!!!!!」




山風「後でちゃんと熊野さんに謝って」

( T)「はい」

山風「この人でなし」

( T)「返す言葉もありません」


艦娘(例え猛獣であろうとも)は蹴ったら怒られる。俺はまた一つ賢くなった

( T)「よぉし外……」

磯風「この磯風以外のセイバー死ねェ!!」ブォワッ!!

(;T)そ「だぁっぶねぇ!?」サッ!!


城外に出た瞬間、クソ長いマフラーを巻き、青いキャップとジャージ姿の磯風が斬りかかってきた
何なんだよもうセイバーウォーズイベントまで待てないのかよ。どっから抜いてきたそのエクスカリバー


(;T)「俺がセイバークラスに見えんのかよお前!?どっちかっつーと今はキャスターだろ!?認めたくないけど!!」

磯風「股間に一本粗末な剣をぶら下げているではないか!!」

(;T)そ「下ネタで返すんじゃねえよ!!その理論だと男性サーヴァント全員セイバークラスだぞ!?」

山風「どこが下ネタなの……?何が、粗末なの?」

(;T)「わからなくてもいい、純粋なお前でいてくれ」

山風「?」


<ウィイイイイイーーーーーーーーーーーーーッス!!!! ドゴガッシャアアアアアアアアアアン!!!!


(;T)そ「うおっ……!?」


シン・スズヤの咆哮と共に、礫が飛来する


磯風「あいたーーーーーーーーーー!!!???」ゴッ!!


その内の一つが運悪く頭にぶつかった磯風は、泡を吹いて動かなくなった


山風「うわ……嫌な、音……」

( T)「どいつもこいつも見た目と比べて頑丈だから放っといても大丈夫だろ!!行くぞ!!」ダッ!!

山風「ほったらかしなのも問題……ハァ、もういい……」


どんどん失望が積み重なっている気がしてならないが、構っている暇が無いのも事実だ
SASUKE FINAL STAGEっぽい建物は、もうすぐそこだ。シン・スズヤが何もかもぶっ壊さない内にケリを着けなければ……!!

( T)「着いたぞ!!」


ポーラ(完璧・無量大数軍)「あんら~、アレが有名なゴジラっぺか~」パシャッパシャッ

グラーフ「さずが本場は違うべ~、絶対にぶっ殺すっつー強い意志を感じるっでいうがぁ~」パシャッパシャッ


件の建物付近に警備兵の姿は無く、田舎者がカメラ片手に観光をしていた


ポーラ「あら~、現地の方かぁ~?あだずらスカイツリー観に来たっぺがぁ~、ここであっでんのがなぁ?」

( T)「現物はもっとでけぇよ!!休み取って観に行け!!」

グラーフ「やんだ~……東京モンは冷てぇってほんどだっただなぁ~」

( T)「こちとらバリバリの和歌山育ちだっての!!言っとくが山手の方はマジなんもねえぞ!!ラーメン屋とキャンプ場と各種果物の畑くらいだ!!あと温泉とかあるかな!?」

山風「地元の人に怒られる……よ?」

( T)「地元の連中も同じこと思ってるよ!!海側はマリーナシティとか白浜とかアドベンチャーワールドとかあるけどな!!」


和歌山県のフォローも済ませた所で、いよいよこの不思議の国の物語も佳境だ
高さおよそ15メートル。垂れ下がる一本綱以外、上に登る手段はない


( T)「よし山風、背中に掴まれ。絶対に手を離すんじゃねえぞ」

山風「う、うん」


縄を引っ張り、手ごたえを確認する
体は本調子ではないが、やるしかない。いい加減、スカートの心もとなさから解放されたい

( T)「そういや、SASUKE FINAL STAGEの制限時間は30秒だったな……」


高さ15メートルの綱登りは、SASUKE第四回までのFINAL STAGEだ


山風「さ……30秒経つと、どうなる、の?」

( T)「上からプツンと縄が切れる」

山風「ひっ……!!」


当然、この場所は登る者の安全性など一切考慮していない。時間切れと同時に石畳という地獄へと真っ逆さまだ
この設備に制限時間が設けられているのかどうか定かでは無いが、わざわざこんなクリソツな物おっ建てるくらいだ。可能性は十分にある


山風「や、やめよう……?他に、別の方法が……」

( T)「ハハ、馬鹿だな山風……」スッ……

山風「どうして座るの!?」

( T)「座らなきゃ、ルール違反になるだろうが」


こいつの最速クリアタイムは24秒だった
なら俺は、全身割と痛めつけられ、更に山風を背負った状態で……


( T)「もう一度言うぞ、山風。筋肉に……」


(#T)「不可能は無いッ!!」ズアッ!!


20秒余裕だ

(#T)「ウッシャアアアアアアアアアアアア!!!!!!」ズドドドドド!!


\あんれ~、あの人きよ~に登っとぉ~/

\まるでゴリラだっぺ~/


山風「はや、早い……!!」

(#T)「下見るんじゃねえぞォ!!」


\あ、あの人縞パンだべ!!/

\やんだ~、ポーラちゃんったらドスケベなんだから~!!/


下からの声にやたら気が抜けるが、10秒ちょっとで半分まで登った
良いペースだ。このまま問題が無ければ20秒と少しでゴール出来る


<チィィイイイイイイイイイイイーーーーーーーーーーーーッス!!!!! ピーーガーーーーーーーー!!!


(;T)「なん……うおお!?」


背後から強烈な緑色の光線が横切り、それと共に熱風が吹き荒れる
光線はアリアケ城から遠く離れた山に着弾。そして爆発が起こった


(;T)「いっ、今のが、光線か……」

山風「恐いぃ~……!!」ギュウウウウウ!!

(;T)「んぐっ……絞まってる絞まってる……」


山風の両腕が首をキツく絞めつけるが、縄を手放すわけにもいかない。あと二メートルも無いんだ
このままゴリ押しで登って、ボタンを押して貰う他……




/プツンッ\


( T)「えっ」

山風「えっ……?」


心臓を止めてしまうかのような音が、ゴール地点から聞こえた
それからすぐさま、縄の『根本』が顔を見せる


( T)「えっ」

山風「いっ……」


掴んでいた縄から手ごたえが消え、支えを失った俺達は重力に従い落ちていく


山風「いやあああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」


目に見える風景が、嫌にスローに見える。相反して、思考は回転を速くする。これが俗に言う走馬燈って奴か

何故だ、制限時間か?それとも、さっきの光線で?
いや、全部関係ないのだろう。余りにも呆気なさすぎる。恐らく、『落ちるべくして落ちる』のだろう
例え俺がマッチョであろうが、翼が生えていようが関係なく、『物語に従い、落ちる』

山風はこう言っていたな。「もし、この物語がバッドエンドだったら」

その締めくくりは、『アリスも魔女も、真っ逆さまに落ちて死んでしまいました』だろう
ここまで散々ふざけ倒しておいてこんなエンディングとは、後味が悪すぎる


( T)「ッ……」


だが、『まだ』だ。まだ終わっちゃあいない
俺達が地面に衝突してジャムになるまでの僅かな時間。この一瞬の間にも、物語は終わりに向かって『続いている』
山風はこう言った。「もし、この物語がバッドエンドだったら」

俺はこう返した。「だったら書き換えるまでだ」と

そしてこう続けた。「筋肉に不可能は無い」と!!

(#T)「オッ……」ガッ


縄を手放し、山風の両腕を掴み


(#T)「ッッッッラァァァアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!」


力任せに放り投げる


山風「ッ……提督!!」


狙いはピッタシだ。山風は吸い込まれるようにゴール地点へと昇っていく
オイオイ、手を伸ばす先が違うだろうが。俺じゃあなくて……


(#T)「押せェェェエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!!!!!!」


ボタンだろうが


山風「……!!」


山風との距離はどんどん離れていく。俺が落下死するのが先か、山風が終わらせるのが先か
15メートルってそんなすげー長いわけじゃないよな……落ちるのなんて一瞬の内だよな……

痛いかな、そりゃ痛いよな……まぁ筋肉あるし大丈夫か……大丈夫、か?
いややっぱ恐い!!終われ!!早く!!出来るだけ円満な方向で!!!!!!!!!







(;T)「あああああああああああああああああ!!!!!!!!」





―――――
―――





(;T)「ああああああああああああああああああ!!!!????」ボフッ!!




(;T)「あ……あ?」



背中と頭に、柔らかい感触。瞼を開けると、いつも通りの部屋の天井


「お……おはよう?」


( T)「あ?」


視線を横に向けると


時雨「ど……どうしたの?漏らしたの?」モグモグ

何故か立ちながら餅食ってる時雨


( T)「……」

( T)「……」ガバッ


掛け布団を捲ると、いつも通り全裸だった


時雨「ほ、ほんとに……?ほんとに?」ワクワク


オイなんで若干期待してんだお前

( T)「も……戻った……?」


いつもの布団、いつもの枕、いつもの部屋、いつもの風景


時雨「新年早々粗相した気分は?ねぇ?」


いつもの時雨。漏らしてねえよ何歳だと思ってんだよ


( T)「な、なぁ、お前、今日見た夢覚えてるか?」

時雨「夢?うーん……愉快な内容だった気がするけど、覚えてないや」

( T)「つーかお前何時に起き……つーかなんで俺の部屋で餅食ってんだ?」

時雨「え?寝てる提督の鼻と口に餅詰め込んだらどんな反応するかなぁって思って」

( T)「死ぬわ」


クローゼットを開ける。いつも通りの服が並べられている
パンツもいつも通りだ。良かった、これで縞パンとか入ってたら発狂してたわ


鈴谷「てーとくうわぁ全裸!!!!!!」バァン!!


飛び込んで来た鈴谷も、いつも通りの人間サイズに戻っていた


鈴谷「服着て服!!」

( T)「ノーパンで過ごせってか?」

鈴谷「バカじゃないの!?常識で考えなよ!!」

鈴谷「つーか時雨もよく全裸のオッサンの前で餅食えるね!?」

時雨「慣れって恐いね」

( T)「慣れんな」

鈴谷に急かされるがままに服を着て、時雨にはお年玉やって追っ払い


( T)「お前は覚えてるのか?」

鈴谷「うーんと、ケーキ(萩風)食べた所までは覚えてるね。あの後、どうなったの?」

( T)「お前ゴジラになってた」

鈴谷「は?」


山風の部屋へと急ぐ。鈴谷の話では、同室の熊野も夢を見たことだけはハッキリとしているが、内容は覚えていないようだ
目覚めた時間は人によって様々らしい。その辺は考えてもわかんないので放置だ。多分なんか役割終わったら目覚めるとかそんなんだろ


( T)「山風はいるか!!」ドォン!!

海風「ひゃい!?」


部屋に入って真っ先に返事をしたのは、同時期に加入した海風。山風はと言うと……


山風「て、て、てっててて……」


ベッドの上で腰を抜かして震えていた


山風「こっここ、こわ、恐かった……」

( T)「よーしよしよし、よく頑張った」

海風「い、いきなり悲鳴を上げて飛び起きたのですが……何かご存知なんですか?」

鈴谷「んー、ちょっと不思議の国の大冒険をねー」

海風「はぁ……?」

―――――
―――




( T)「わかったぞ、この本の正体が」


山風が落ち着いてから暫くして、今は食堂。まともだった三人でお茶を啜っている
結局、俺達以外に覚えている奴はいなかった。まぁ忘れてた方が良いかもな……特に霧島とか鹿島とかはな……
その間、例の本についてネットで調べた所、割とすぐにそれらしき内容がヒットした


( T)「なんでも、その本の物語を人間に演じてもらう『生きた本』っつー一種のオカルトらしい」

鈴谷「生きた本?」

( T)「本自体に命と欲求があり、自身の内容を劇やドラマのように表現してもらいたくて、物語の中に人間を巻き込むんだと」

山風「そんなはた迷惑な本だったんだ……これ……」

( T)「こんなもんどこから紛れ込んで来たんだってんだよなぁ」


タイトルも著者名も記されていない、一冊の革表紙の本
一見なんの変哲もないこれに、鎮守府のほぼ全員を巻き込む力があるのだから恐れ入る


( T)「だけどまぁ、最後まで演じてしまえばそれで終わりだとさ。そういう本を引き受けてくれる図書館があるらしいから、そこに送っとくわ」

鈴谷「なーんか胡散臭そうな図書館だね……」

( T)「捨てるのもアレだしなぁ……」

日焼けして黄色くなっているページをパラパラと捲ってみる
テキーラ五杯空けた後に書いたんじゃねえのかってくらい頭可笑しい内容のエンディングは


『こうして、アリスは魔女の力を借りて不思議の国を脱出したのでした』


だった。魔女の力っつーか、筋力?まぁ力には変わりないが


山風「あの、あたしがボタンを押さなかったら、どうなってた……の?」

( T)「さぁな……今頃、俺はジャムになってたかもしれねえ」

山風「……?」

鈴谷「あ、うん、理解しない方がいいよ。少なくともパンに塗っても美味しくない」

山風「? わかった……」


ともあれ、これで『めでたしめでたし』ってワケだ
さぁて、折角の正月、久々の連休だ。前から楽しみにしてた八仙飯店之人肉饅頭でも観て……


( T)「……あ?」


物語の締めくくり、とある短い文章が目に入った。入ってしまった





【第七章へ続く】




( T)「……」

鈴谷「ん……あっ」

山風「なに……?」


鈴谷は察したらしい。山風は首を傾げている


( T)「……万が一だ」

鈴谷「嘘ォ……」

山風「どうした、の……?」

( T)「図書室の大掃除するぞ」

山風「えっ、ええ……?」


結局、正月はこの『生きた本』シリーズに振り回されて終わりそうだ
悪夢から覚めた後のような倦怠感を紅茶で流し込み、諦めと共に潔く椅子から立ち上がった

しばらく、ディズニーアニメーションは観たくない




おわり

プリキュアとかいう縛りプレイした結果がこれです
最初はサイレントヒルに巻き込まれた提督と鈴谷がプリキュアになって脱出するネタで書いてたんですが気に入らなくて書き直しました
つーかこれプリキュア関係ないですね。ただのマッチョの変態ですね。ニチアサキッズのみんな、ごめんね!!!!!!!!


次回、最終回です

相変わらずクソ笑ったwwww
乙乙

オークワなつかしい

頭おかしい以外の褒め言葉が見当たらない

笑いこらえたら頭がいたい。訴訟
乙乙

乙wwwwww
次回はいつくらいかな?


合間に挟まれるニッチな小ネタがいい


誰が書いたんだこのあな素晴らしい生きた本……ファンタジーならお爺ちゃんか……?

どっちにせよ一度あの人に怒られろwwwww

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