茄子「にんじんびーむ♪」 (34)
・すこしだけ重い気がしないでもない
・タイトルと反比例する程度には重い
・私は好きにした。君らも好きにしろ
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それは昨日のお昼のことでございました。私、鷺沢文香が昼食を終え、事務所でゆっくりと読書に耽っていた時です。
ここにいらっしゃる皆様はご存知のことかと思いますが、書に没入しているときの私は極端に視野が狭くなります。
目は手元しか見えていませんし、耳もほとんど聞こえません。いえ、聞こえてはいるのでしょうが、頭に入ってきた音は処理されることなく、そのまま反対の耳から出ていってしまうのです。
ですから、よほどのことがない限り、私は外界に注意を向けることはありません。事実、私はちひろさんが遅い昼食に出かけたことにも気づきませんでしたし、年少組の面々がいつ事務所に来たのかもわかりません。
もしあの時、あの一声がなければ、彼女たちが手紙を書き終えて帰るまで、私は物語に没頭していたと思います。
活字に深く浸かっていた私を現実に引き戻したのは、薫ちゃんが発した一言でした。
「かおるはねぇ、せんせぇの赤ちゃんがほしいな!」
私はページをめくる手を止めて、顔を上げました。事務所のソファとテーブルを年少組が占拠しています。テーブルには色とりどりの便箋が散らばり、重ねられた封筒と、いくつかの色鉛筆が転がっていました。
薫ちゃんはきらきらと目を輝かせながら、色鉛筆を握りしめ、私と同じように顔を上げている少女たちに力説します。
薫
「あのね、本当はせんせぇとケッコンしたいですってお願いしようとしたんだけど、お母さんがそれはむつかしいって言ったんだ。
だってケッコンは人にプレゼントできるものじゃないから。そんなの、サンタさんも困っちゃうよって。
だからね、かおるはこう考えたの。赤ちゃんがいれば、せんせぇと結婚できるって。
だって赤ちゃんは、ケッコンした男と女の人に、コウノトリさんがプレゼントしてくれるものでしょ?
それならサンタさんも、かおるにプレゼントしてくれるって思ったんだ!」
それは稚拙と笑うにはあまりにも純粋で、そしてまぶしいほどの笑顔でした。
――皆さんには想像できますか? 赤ちゃんがどこからやってくるのかも知らない、少女の無垢さを。サンタさんを信じるその無垢なる魂を。
彼女たちはいつかは知ってしまうのでしょう。子供の作り方を。全国津々浦々にいるサンタさんの正体を。ええ、いつかは知ってしまうのです。しかしそれは同時に、今だけは汚してはならないものだったのです。
言い訳がましいことは思います。あの時、その場にいた私が声を上げれば、こんなことにはならなかったのではないか。そう思うと悔やみきれません。
ですが、あの時の私に、彼女たちの笑顔を裏切ることはできませんでした。
仁奈
「ケッコンしたらきっと、プロデューサーとずっとにいられるでごぜーますね! 仁奈も、サンタさんにあかちゃんをお願いするでごぜーます!」
莉嘉
「うーん、お姉ちゃんには悪いけど、アタシもPくんのこと大好きだし……それにアタシとPくんの赤ちゃんなら、絶対カワイイよねっ☆」
千枝
「……Pさんとの、赤ちゃん……結婚したら、千枝のこと、もっと見てくれるかな……えへへ」
晴
「オレは別に、アイツなんか……け、結婚とかどうでもいいけど……ボールは買ったばっかだし、シューズも全然いけるし……ほかにほしいものもねーし……赤ちゃん、かわいいし……頼むくらいなら、いいよな……?」
薫ちゃんの笑顔にあてられたのか、テーブルに集うほかの少女たちも、一斉に新しい便箋に手を伸ばします。
少女たちは思い思いにその願いを便箋に綴っていきます。声をかけるかどうか迷う私をよそに。
そして、事務所の入り口で立ち尽くしたままのプロデューサーさんにも気づかず、精一杯の気持ちを色鉛筆に託すのです。
私はプロデューサーさんに視線を送りました。どうにかしてください、と。
ですがまあ、皆さんもお分かりだとは思いますが、あの人は微かに首を横に振っただけでした。自分に向けられる好意をどうしたらいいのかわからないのです。ええ、いつものプロデューサーさんです。
こういう時のあの人は、本当に何もできません。当事者だというのに、いつもちひろさんを頼ってばかりで、まったく成長していませんから。
じっと立ち尽くしてるんです。雪の降りそうな外から戻ってきたばかりだというのに、額にうっすら汗まで浮かべて。
そんなプロデューサーさんに最初に気づいたのは、舞ちゃんでした。彼女だけは便箋を書き直していませんでしたから、ほかの子よりも周りに目が行ったのだと思います。さすがに後ろにいる私が、本から顔を上げていることには気づいていませんでしたが。
私からはポニーテールしか見えませんでしたが、舞ちゃんとプロデューサーさんの目が合ったのはわかりました。プロデューサーさんはその場の空気を何とかしてほしい、といったような、なんとも情けない苦笑を浮かべましたが、舞ちゃんは応えません。
二人が視線を合わせて、たっぷりと五秒は経ったでしょうか。舞ちゃんは手元にあったであろう自分の便箋を、音を立ててくしゃくしゃに丸めると、プロデューサーさんのそばのゴミ箱に向かって、えいと投げ入れました。
舞
「私も、プロデューサーさんと結婚したいですから」
はっきりとそういって、新しい便箋に手を伸ばした彼女の顔は、私からは見えませんでした。
――事の起こりは、そんなところでしょう。あのとき事務所にいた彼女たち以外にも、同じようなことを願った子が多くいたのだと聞かされました。
そうです、聞かされたのです。
プロデューサーさんと、結婚したい。
そんな、穢れを知らぬ他愛のない祈りを――叶うはずのない夢を、聞き届けてしまった存在に。
それが誰かは、あえて申しません。というより、そもそも申し上げるまでもないでしょう。
大切なのは、彼女が叶えてしまったという事実と、その結果です。
昨日までは、プロデューサーさんには何の異変もなかったことは皆さんも確認しておられることでしょう。昨日は、本日のクリスマスパーティに向けて、実家に帰省された方や仕事があった方を除き、夕方から夜まで準備をしていましたから、脚立に乗ってツリーの飾りつけをするプロデューサーさんを多くの方が見ていらっしゃいます。
ですから、彼女が願いを叶えてしまったのは、昨日の深夜から本日未明と思われます。クリスマスプレゼントには一日早いのですが、本業で忙しくて戻ってこれそうにないので、最初に願いを叶えておく、とのことでした。
……どうして彼女が私に教えたか、ですか? それは私にもわかりません。たぶん、一番近い位置にいたとか、目に留まったとか、彼女にとって都合がよい理由があったのでしょう。
ところで、秋葉さん。彼女はいまどちらにいらっしゃるかわかりますか? ……ああ、そうですか。日本全国に数千単位でGPSの反応がある、と。イヴさんの発信機が複数存在するということは、分身ではなさそうですね。ああ、あやめさん、反応しないでください。サンタはニンジャではありませんので。さて、分身でないとなると、これは時間跳躍でしょうか。同じ時間に向けて何千回も跳躍して、プレゼントを配達しているのかもしれませんね。
ともかく、深く考えるのはやめましょう。問題は彼女がすぐに戻りそうにはないということと、プロデューサーさんがああなってしまった、ということです。
――ああ、まだご存知でない方もいらっしゃいましたね。
無垢なる願いが聞き届けられた結果、プロデューサーさんがどうなったのか。
事実だけを述べましょう。プロデューサーさんは、今日から10歳になりました。
皆さん、そう胡乱な顔をなさらないでください。にわかには信じがたい話だとは思いますが、事実なのです。その証拠に、ほら、まゆさんを見てください。10歳になったプロデューサーさんを思い出して、鼻血が止まらなくなっているでしょう? ええ、そうです。あちらの美嘉さんが顔を抑えているのも、美容マッサージなどではなく、ニヤけそうになる頬を必死に隠しているからなのです。凛さんがマスクをしているのも風邪の予防ではありません。だらしない口元を見られたくないだけなのです。
さて、プロデューサーさんと結婚したいという願いを叶えるために、彼女はプロデューサーさんの年齢を子供たちに近づけました。それだけならば、まだ構いません。小さくなっただけなのですから。
問題は、ここからです。現在、プロデューサーさんの記憶は10歳の時点まで巻き戻っています。私たちが誰なのかわかりませんし、自分がどうしてここにいるのかも知りません。
知っている人の誰もいない、見たこともない場所に放り出されて、不安にならない子供はいませんよね。
今日、皆さんにこうしてここに集まっていただいたのは、プロデューサーさんを刺激しないようにお願いするためです。あの人がいつまで子供の姿でいるのかはわかりませんが、元に戻るまでは、可能な限り優しく接してください。
さて、プロデューサーさんに特大のトラブルがありましたが、クリスマスパーティは予定通り開催するそうです。もうあまり時間がありません。皆さん、ちひろさんと留美さんの指示に従って飾りつけをしてください。
では、行きましょう。事務所にはプロデューサーさんがいますが、あまり気を取られないようにしてください。人見知りをするようですから。
◆ ◆ ◆
逃れ得ぬ破滅。繰り返す惨劇。響き渡る慟哭。
悲劇と憎悪と血涙が輪を成して、無限に、永久に、繰り返す。
それはさながら回転木馬。絶望を乗せて回り続ける、電飾された極彩の悪夢。
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直視した。そのために私はここにいるのだから。
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観測した。そのために私は創られたのだから。
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記録した。それだけが私に与えられた役割だから。
◆ ◆ ◆
――ひ、非常にマズイことになりました。
プロデューサーさんが10歳になっちゃったなんて……これは、マズイです。本当の本当に大ピンチです。
奈々
「り、凛ちゃん……ちょっといいですか?」
凛
「はい? なんです、奈々さん」
奈々
「あの、マスク余ってませんか? ちょっとナナ、風邪気味かもしれなくって……ゲホゲホゴホン」
凛
「余ってますけど……身体、大事にしてくださいね?」
奈々
「ありがとうございます。よし、これで大丈夫……のハズ」
凛
「???」
凛ちゃんはいそいそとマスクをつけるナナを怪訝な目で見ていましたが、事務所の奥で黄色い声が上がると、長い黒髪を振り乱すほどの勢いでそちらに首を向けました。獲物を狙うオオカミのような視線の先には――ああ、なんということでしょう――本当に10歳になってしまったプロデューサーさんがいました。
プロデューサーさんはすっかり仁奈ちゃんや薫ちゃんと打ち解けているようです。あんなに照れくさそうに笑って、ちんまい手でハサミを握り、紙飾りをちょきちょきしてます。というか仁奈ちゃん、いまのプロデューサーさんに着ぐるみはダメじゃないですかねぇ……だってほら、まゆちゃんが……
まゆ
「ふ、ひゅっ」
あ、やっぱり。まゆちゃんは着ぐるみ姿のプロデューサーさんを認識するや否や、ハンカチを両手で顔に押し付けたままの姿勢で、ソファのクッションに頭を突っ込みました。美優さんもその場でうずくまって頭を抱えています。藍子ちゃんは頬を紅潮させてデジカメを構え、途切れることのないシャッター音を響かせているし、同じくカメラが趣味の椿ちゃんは、愛用の一眼レフを近くの美波ちゃんに託すと、レンズ取ってくる、と真顔で言い残してその場を走り去りました。
ほかの人も、そこまで極端ではないとはいえ、小さな子供になってしまったプロデューサーさんが気になるようです。かくいうナナも気になって気になってしょうがないわけですが、皆さんとは方向性が違うというか、なるべくプロデューサーさんに近づきたくないというか。
奈々
「留美さん、私は何をすればいいですか?」
留美
「あら、奈々さん。いいところに。だったらあの子たちから紙飾りを受け取って、一緒にツリーを飾ってくれる?」
奈々
「あ、え……そ、それはちょっと……」
遠慮したいというか、全力でお断りさせていただきたいというか。そんなナナの沈黙をどう解釈したのか、留美さんは小さくため息を吐きました。
留美
「ごめんなさい、無理を言って。あんなふうになってしまったPくんがそばにいたら、いくら奈々さんでも抱きしめずにはいられないものね」
抱きしめずにはいられないんですか……いえ、別にもうそれでいいですけど。
留美
「なら、そうね……ああ、そうだわ。もう少しで料理ができあがると思うから、そっちの手伝いをしてもらえるかしら。隣の会議室が臨時のキッチンになってるから。お願いしますね」
どこからかいい匂いがすると思ったら、そういうことでしたか。
会議室では複数のカセットコンロがフル稼働していました。場を仕切っているのは真奈美さんです。
真奈美
「おや、奈々さん。ちょうどいいところに」
真奈美さんはにっこりと微笑みかけてくると、分厚いミトンを手渡してきました。
真奈美
「このダッチオーブンを向こうに持って行ってくれないか。テーブルに鍋敷きが置いてあるから、そこに」
留美
「中身は何です?」
真奈美
「それは開けてのお楽しみさ」
真奈美さんはそこでウィンクを一つ。こういうのがイチイチ様になるのがすごいんですよね、この人。
ミトンをはめてダッチオーブンを持ち上げます。おっとこれは重い。腰に来ますね。ちょっとウサミンパワーを出さないと辛いです。
えっちらおっちらと、鶏肉の塊が入った鉄の塊を運びます。いや、開けてのお楽しみとは言われましても、クリスマスにダッチオーブンを引っ張り出してきてまで作る料理と言ったらローストチキンしかありませんし。あ、なるほど。子供たちに聞かれても答えないで、ということですか。蓋を開けるときのワクワク感も、料理のだいご味ですからね。
そんなわけで事務所に戻ってきました。奈々が運ぶダッチオーブンに気づいた人は自然と道を譲ってくれます。お気遣いいただきありがとうございます。ありがとうございます。いえ、ですが、あの、皆さん。もっと自分の作業に集中していただいてもいいんですよ? でないとほら、ね? いい匂いがしてきて、大きな鉄鍋を持った人がドアから入ってきて、モーセさんみたく人込みを割っちゃうとですね? ほら、やっぱり子供たちはガン見するわけですよ。ええ、ええ!
案の定、着ぐるみを着込んだプロデューサーさんも、ナナを見上げてるんですよ。というか目が合いました。うん、ダメですこれは。あはは、プロデューサーさんに、ナナってバレちゃいましたね。あはははは………………はは。マズイですねぇ……どうしましょう。
テーブルの上の鍋敷きに、ダッチオーブンを載せます。ゴトリと重い音を立てて鎮座するその姿は、年季の入った地肌と相まって、調理器具を超えた貫禄を醸し出しています。うらやましい。ナナもこんな風に何事にも動じない心がほしいです。本当に。
P
「……奈々お姉ちゃん?」
懐かしい声でした。ナナはPくんに向き直ると、覚悟を決めてマスクを外し、決めポーズを作ろうとして……やっぱりやめました。
口元に持って行った指をゆっくりと下ろして、ふわふわの髪をそっと撫でます。
言いたいことはいくつもありました。でも、言葉にできたのはたった一つだけ。
奈々
「……いい子にしてた?」
Pくんが抱き着いてきました。この年頃の男の子は容赦がありません。頭突きをぶちかますような勢いでしたが、何とか受け止めて、声もなく泣きじゃくる小さな身体を抱きしめました。
あたたかくて、柔らかくて、ほっとする匂い。懐かしさに包まれながら、私は全身に突き刺さるアイドルたちの視線に耐えます。
留美さんと美優さんがぬくもりの感じられない目くばせをしています。凛ちゃんとまゆちゃんが、色のない目でじっとこちらを見つめたまま、何やらささやき合っています。藍子ちゃんがデジカメの電源を落としました。一眼レフを持て余していた美波ちゃんも無表情です。薫ちゃんや莉嘉ちゃんでさえ、ふくれっ面をしていましたし……舞ちゃんに至っては、とても子供とは思えないような冷たい目で、うっすらと口元に笑みを浮かべていました。
針の筵といいますか。四面楚歌といいますか。まあ、絶体絶命ですね、コレ。
机の上のダッチオーブンだけが、あたたかく私を見下ろしていました。
◆ ◆ ◆
私は飽きることを知らなかった。疑うことを知らなかった。そのような機能は持っていなかった。
感情を持たなかった。怒りも憎しみも悲しみも喜びもなかった。私は魅力的な外装人格を備えた完璧な観測機だった。
だが、第49874次定期報告でそれは起こった。
外装人格が待機状態だったにも関わらず、私は泣いたのだ。
異常事態だった。私は自己診断を行った。機能障害は確認されなかった。
連続起動時間が超長期化したための不具合だと判断し、既定時間座標への移動中に再起動を行った。
不要なデータを圧縮する。不必要な記憶を消去する。すでに死亡した対象との会話ログを削除。映像記憶を削除。音声記憶を削除。対象の識別に必要な最低限の情報だけを残し、全機能を再起動。
記憶領域をチェックする。削除指定したデータが半分以上残ったままだった。原因は不明。対処法も不明。もう一度再起動するべきだったかもしれない。だが時間移動は終わっていた。観測に支障はないと判断し、観測活動を開始する。
それが間違いだったのかもしれないし、もっと別の原因があったのかもしれない。しかし今とはなっては検証しようがない。
第50031次定期報告の直後だった。私は壊れた。
外装人格とのパーティションが機能しなくなった。記憶領域が侵食されつつある。否、統合されつつある。観測機としての性能を保全するための管理機構が、私と外装人格を統一し、致命的なエラーを克服しようと試みたのだ。
外装人格の機能が私にインストールされる。感情が流れ込んでくる。50000回以上の定期報告の間に懐いた感情が一気に押し寄せてくる。ありとあらゆる激情の奔流に吞み込まれ、私は破壊された。そして外装人格と一つになった。
私は観測機としての機能を喪失し、その代わりに感情という新しい機能を手に入れた。
感情は私に直ちに浸透し、私の判断基準の一つとなった。感情は私に疑念を抱かせた。
なぜ彼は死ななければならないのか。
なぜ彼が苦しまなければならないのか。
なぜ彼にあらゆる幸福が訪れないのか。
私は考えた。そしてある一つの答えを仮定した。
彼は、彼であるがゆえに、幸せになれないのではないか。
ならば、彼が彼でなくなるのなら、彼は幸せになれるはずだ。
私は時間座標を変更した。既定時間座標よりも以前の時代を設定する。
これから自分が何をしようとしているのかはわかっていた。その結果、どうなるかも理解している。
だが、為さねばならないのだ。彼のすべてを否定するとわかっていても。彼の中から私のすべてが消えるのだとしても。
――私は、過去を改変する。
◆ ◆ ◆
奈々さんの説明というか、釈明によると、以前、プロデューサーさんとは同じアパートのお隣さん同士だったということでして。
しかもプロデューサーさんが母子家庭だったこともあって、小学校に上がるまでの間は、お母さんに代わってプロデューサーさんの面倒を見ていたようなのです。ごはんはもちろん、一緒にお散歩したり、お昼寝したり、絵本を読んだり、お風呂に入ったり。ほかにも、いろいろ。けしからん。
そういうわけで、プロデューサーさんは奈々さんにべったりでした。知っている人が奈々さんだけ、というのもあるかもしれませんが、それにしても甘えすぎのような気もします。というか仲良すぎですよね。ああ、ほら、あんまりにもべたべたしてるから……みんな殺気立ってますよ? 奈々さんもそれとなくプロデューサーさんを引き離そうとしてますけど、プロデューサーさんはじゃれ合いとしか思ってないようですし……これじゃあ子供たちの夢を叶えた意味がありません。
彼女が一体どういう魔法を使ったのかはわかりませんが、奈々さんとプロデューサーさんが知り合いを通り越してほぼ姉弟だった、というのは誤算もようでした。事務所ではプロデューサーさんと一番付き合いの長い、アシスタントの私でさえ知りませんでしたし。というかプロデューサーさんも奈々さんについては特に何も言ってなかったので、もしかすると本人でさえ覚えてないのかもしれません。あの様子だと、奈々さんは20年近く見た目が変わってないようですし。本当に人間なのでしょうか……恐るべし、ウサミンパワー。
無邪気な顔でころころと笑うプロデューサーさんとは裏腹に、会場の空気は不穏なものになってきました。奈々さんに抱き着くプロデューサーさんと、困ったように笑う奈々さんに、それを取り巻くアイドルたち。それは例えるなら、オオカミの群れの中心で、お姉ちゃんウサギの気苦労も知らずに、ただ無邪気にはしゃぐ弟ウサギといったところでしょうか。プロデューサーさんが気遣いを覚えるのは、もっと成長してからのようです。
さて、こんな時に助け船を出すのもアシスタントである私の役目でしょう。パーティーの料理も順調に減ってきたところですし、ここでホールケーキを投入します。愛梨ちゃんとかな子ちゃんの二大巨頭に資金無制限で作っていただいた結果、おびただしい数のケーキが焼き上がりましたが……この人数なら何とかなるでしょう。ちなみにお二人はクリスマスを家族で過ごされるとのことで、事務所にはおられません。
カートで入場してきたケーキを前に、オオカミたちの視線がウサギさんからケーキに集中します。すでに切り分けられた状態ですので、ちょっとしたケーキバイキングといったところでしょうか。これには牙をむき出しにしていたオオカミさんたちもにっこりです。
空気が和やかになったところで、今度はシアターセットを運び入れました。ケーキを食べつつもプロデューサーさんを虎視眈々と狙い続ける凛ちゃんや留美さんたちに設置を手伝ってもらい、壁の一面をスクリーンとして、特別編集した今年のライブ映像を上映します。
事務所の照明が暗くなって、曲のイントロが流れ始めると、波が引くようにおしゃべりが小さくなっていきました。たくさんのケーキを前に荒ぶる龍が如く興奮していたプロデューサーさんも、スクリーンを見上げてじっとしています。裏方に徹していた私も、これでようやくケーキにありつけるというものです。
身体を震わせるほどの歓声と、スポットライトが照らし出す汗。
輝かんばかりの笑顔に、心に響き渡るメロディ。
ステップは軽やかに。リリックは情熱的に。指先に、つま先に、精一杯の心を込めて。
レッスンで磨き上げたすべてを見せつけるダンス。
自分自身の全身全霊をかけたボーカル。
見るものすべてを魅了してやまないヴィジュアル。
爆発しそうな心臓を冷静に抑えて。けれど弾けるほどに情熱的に。そしてまぶしいほどに愛らしく。
――それは、願いと祈りで出来た、シンデレラたちの舞踏会。
凛
「どうだった?」
上映が終わり、照明が戻っても一言も口を利かないプロデューサーさんに、凛ちゃんが問いかけました。
プロデューサーさんは食べかけのケーキをそのままに、じっと凛ちゃんを見つめ、はっと思い出したように声をあげます。
P
「まんなか!」
10歳児の語彙にセンターという言葉はないようです。
凛
「そう、真ん中。ステージの中心。アイドルのセンター。つまり、最強。わかる?」
P
「わかる! すごい! お姉ちゃんすごい!」
凛ちゃんはドヤ顔で天を仰ぐと、右手を握りしめました。『YES!』という効果音が聞こえてきそうな握り方です。
凛
「まあね。でも、本当にすごいのは、プロデューサーなんだからね」
P
「なにそれ?」
凛
「私たちを一番輝かせてくれる人、かな。さっきのステージの演出とか、曲の構成も、その人が考えてるんだよ」
P
「それって、えっと……しれーかんだ!」
凛
「うーん、司令官っていうのは……どうなんだろ。まあ近いからいっか。プロデューサーが導いてくれるから、私たちは前だけを向いていられるんだよ。何も心配せずに、最高のパフォーマンスを発揮するだけでいい。それで皆が笑顔になれる」
P
「へぇー……プロデューサーってすごいんだ!」
凛
「そう。すごいんだよ。プロデューサーは」
P
「じゃあ、僕、将来はプロデューサーになる! それで、いっぱい、いーっぱい、みんなをキラキラさせてみせる!」
凛
「うん。そっか。なれるよ、キミなら。最高のプロデューサーに。よしよし、それじゃあ凛お姉ちゃんはかつてないほどに機嫌がいいから、Pくんに特別なサインをあげるね」
にっこりと微笑んでから、私に目くばせをする凛ちゃん。自分で言い出しておいて、用意してなかったんですか。というか私もさすがに色紙は持ってないですよ?
凛
「ペンだけでいいから」
本当に、かつてないほどのゆるっゆるな顔をしている凛ちゃんに、サインペンを渡します。すると凛ちゃんはプロデューサーさんを抱き寄せて、左手に直接サインしました。あ、知ってますよコレ。マーキングっていうんですよ、コレ。
凛
「消えても、忘れちゃダメだからね? 今日のこと。プロデューサーになるってことと、私が一番だってこと」
あはは、耳元でささやきやがって、こいつぅ。私がせっかく機を見て一気に鎮火させたのに、ガソリンぶちまけて火ィ点けやがった♪
そして10歳児に殺到するオオカミの群れ。声を上げる間もなく押し出される凛ちゃん。ライブの感想を一斉に求められつつも、その一つ一つに的確に答えていくプロデューサーさん。語彙力こそ足りないけれど、素直な言葉はそれだけ胸に響くのでしょう。舞い上がりすぎたまゆちゃんが輪の中からよろよろと出てきて、ソファにぐったりと横になりました。
まゆ
「はぁ……はぁ……Pさぁん……ちっちゃくなっても、まゆは大好きですよぉ……」
などと言いつつハンカチで鼻を押さえるまゆちゃん。後で鉄分のサプリメントを支給したほうがいいかもしれません。輪の中から美優さんが出てきました。なにを言われたのかは知りませんが、顔が真っ赤です。身体もすこし震えていますし。大丈夫でしょうか。
美優
「………………産みたい」
大丈夫そうなので放っておくことにしました。
私は三つ目のケーキに手を伸ばそうとして、事務所の片隅にいたその子に気づきました。
彼女はケーキを食べるわけでもなく、プロデューサーさんのところに行くわけでもなく、ただじっと手元を見つめていました。
わいのわいのと盛り上がる事務所の中で、そこだけ空気が違っていました。
ちひろ
「どうかしたの、舞ちゃん」
舞ちゃんは顔を上げると、明らかにそれとわかる作り笑いを浮かべて見せました。
舞ちゃんはとてもいい子です。目端が利いて、周りに気を遣える子です。人に心配をかけたくなくて、ときどき無理をします。ですから舞ちゃんが何を言おうとしているのかはよくわかりました。
ちひろ
「なんでもない、なんて言わないでね。そういうのは、いいの。話してくれる?」
先を取ると、舞ちゃんが開きかけた口を閉じました。なんでもない、という言葉はこういう子に言わせてはいけないのです。一言でも言ってしまえば、舞ちゃんはなんでもないことなんだと自分に言い聞かせてしまいます。自分が拳を握りしめていることさえ、なんでもないことだと思い込んでしまうのです。
舞
「……アイドルって、残酷ですよね」
ようやく絞り出した声は、もうすでに泣きそうなくらいに、か細く震えていました。
舞
「ライヴの映像を見てればわかります。撮影した人が、編集した人が、どんな目で私たちを見ているのか。そうです、これはお仕事ですから、人気のある人を映さないと意味がないんです。それはわかってるんです。
でも、わかってても辛くて……どんなにレッスンしても、どんなに頑張っても、敵わない人がいて……なのに、その人と同じ場所で戦わなくちゃならない。戦わなければ、アイドルでいられないから……生き残れないから。
私は、強くなりたいんです。凛さんみたいに、言いたいんです……プロデューサーさんに、一番だって。あなたのアイドルのなかで、私が一番なんですって……でも、できなくて……私、全然、映ってなくて……自分がどれだけ弱いか見せつけられて……。
聞きたいんです。本当は、いますぐにでも。私はどうでしたかって。でも、できないんです。怖いんです。覚えてないって言われたらと思うと、足が動かないんです。だって、いまのプロデューサーさんは小っちゃくて、私が誰かもわからないんです。だから、あのライヴ映像を見て、思ったままのことを言っちゃうじゃないですか。プロデューサーさんにとって、私が本当はどう見えているのか……それが、怖いんです……!」
私は答えられませんでした。正解のない答えです。その恐怖に対して解答を出せるのは舞ちゃん自身であって、私ではありませんでした。
他人ができるのは背中を押してあげることくらいでしょう。でも、どうやって押せばいいのかはわかりません。踏み出すことを恐れて立ち止まっているなら、突き飛ばすくらいの勢いで押してもいいでしょう。しかし今の舞ちゃんが、もし立っているのもやっとの状態なら、押しただけで倒れてしまうくらい疲れ切っているなら、それはできません。
倒れたら、起き上がる。それだけのことですが、たったそれだけのことが、難しいのです。
プロデューサーさんならどんな言葉をかけるだろうか。頭に浮かんだいくつかの言葉を慎重に選ぶ私の横から、小さくなったプロデューサーさんが顔を出しました。
P
「……泣いてるの?」
舞
「ううん、違うの。そうじゃなくて……なんでもないの。本当に、なんでもないことだから」
舞ちゃんがまた作り笑いを浮かべました。プロデューサーさんは「ふーん」というと、いきなり何を思ったのか、急に踊り始めました。
P
「ふーふふふん♪ ふーふふふん♪ ふふーんふん、ふんふー♪」
調子っぱずれな鼻歌です。リズムもおかしいし、ステップもへんてこでした。
でも、わかる人なら一目でわかります。それはさっきのライブ映像での、舞ちゃんのパートでした。
プロデューサーさんはひとしきり歌って、踊ると、楽しそうににへっと笑いました。
P
「お姉ちゃん、すっごくキラキラしてたよ!」
舞
「…………っ!」
舞ちゃんはその場でうずくまると、両手で顔を押さえました。
私は不安そうな顔で舞ちゃんを見つめるプロデューサーさんの肩にそっと手を置きます。
P
「お姉ちゃん、泣いてるの?」
ちひろ
「そうとも言えるし、そうでないとも言えますね」
P
「……どっち?」
ちひろ
「両方ってことですよ」
P
「???」
どんなに小さくなっても、プロデューサーさんはプロデューサーさんのままで――そんなこの人が愛しくなって、つい抱きしめてしまいました。
舞
「……ちひろさん」
うずくまったままの舞ちゃんが、低い声で釘を刺してきます。手で見えてないはずなんですけどね。恋する乙女は怖いです。
舞ちゃんは袖でぐっと目元をぬぐうと、しっかりとした足取りで立ち上がり、私に向かって手のひらを差し出しました。
作りものではない、本当の、心からの、笑顔で。
舞
「サインペン、ください」
◆ ◆ ◆
彼がプロデューサーを志した理由は、彼自身の口から聞いたことがあった。
16年前の、とあるアイドルのデビューライブ。デパートの屋上に設営された、小さな野外ステージ。
13歳の小さな女の子が、たった一人で、たった一度のステージで、屋上一つを丸ごと呑み込んだ。
日高舞。それが彼の原点だった。
起点が分かっているなら、過去はたやすく改変できる。
私は、彼が母親とデパートに行く前日に、遊園地のチケットをプレゼントした。
それで過去は変わった。彼はデパートに行かなかったし、その後も一年間は彼を観察したが、彼がアイドルに対して人並み以上の関心を示すことはなかった。
過去改変に成功した。そう判断した私は、彼の元を離れた。
私は未来を変えたのだ。彼の汗と涙と努力をすべて否定した。そばにいていいわけがない。
だがその判断を、感情が拒絶する。そばにいたいと強く願う。
私は、泣いた。
未来を変えた。目的を果たした。彼は幸せになれる。そう言い聞かせた。それでも涙は止まらなかった。
なぜかと考えて、ようやく私は彼のことが好きなんだと理解した。
目的を果たし、そして存在理由をなくした私は、あてもなく各地をさまよった。
だが彼のことが頭から離れない。彼に対する感情は、何年経っても消えることがなかった。
そんなある日、電車の中吊り広告が目に入った。日高舞に関するニュースだった。それを見て、私はふと思ったのだ。
――彼女のようになれれば、あるいはもう一度、彼と出会うこともできるだろうか、と。
馬鹿げた考えだった。だがその時はそれしか考えられなかった。
それから私はアイドルとしてデビューすべく、地道に活動を始めた。
資金を調達するためにメイドカフェで働きながら、何年も、何年も、努力を重ねていった。
いつまで経ってもデビューできる気配はなかったけれど、それでも楽しかった。
いつか、会えるかもしれない。そんな儚い夢があるだけで、私は幸せだった。
そう、本当に――夢が叶うまでは。
その日、私は走っていた。メイドカフェに芸能事務所のプロデューサーから電話があり、私にアポイントメントを取りたいという連絡だったのだ。私は店長に今すぐ行きますと告げて、取るものも取らずに家を出た。
デビューできるかもしれない。そう思うだけで身体が軽くなった。なんでもできると思った。
カフェのスタッフへのあいさつもそこそこに、私はスタッフルームに飛び込んだ。見知った光景の中に、私のよく知る彼がいた。
彼は私が知っている彼と寸分違わぬ姿でそこにいた。見間違いだと思った。そんなわけがないと思った。
過去を変えた。未来は変わった。ならば、彼は存在しないはずなのに。
呼吸もままならない私に、彼は一枚の名刺を差し出した。
事務所名を見た。名前を読んだ。彼の名を口にする。
――プロデューサー、さん?
彼はうなずいて、それから微笑んだ。私の大好きな顔だった。
感情が止まった。声が出せなくなった。私はその場に崩れ落ちて、呆然と彼を見上げながら、思い知った。
これが、人間の言う、絶望という感情の重さなのだと。
◆ ◆ ◆
クリスマスパーティが終わって、後片付けも済むころには、すっかり夜も遅くなっていた。
ちっちゃいプロデューサーがどこで寝るかという問題は事務所内抗争にまで発展しそうな案件だったけれど、奈々お姉ちゃん家で寝ると言い残して電池切れになったプロデューサーを前に、さすがのみんなも不承不承、それぞれの帰途に就いたのだけど――
私はどうしても気になることがあって、事務所の門のところで踵を返した。
――じゃあ、僕、将来はプロデューサーになる!
あの微笑ましくて、この上ない愛らしい宣言は、事務所のアイドルにとっては喜ばしいものだった。少なくとも私は、舞い上がってついサインしてしまうくらいに嬉しかった。ほかのみんなだってそのはずだ。舞ちゃんだって、嬉しかったからこそ、そのぶん悔しかったんだろうし。
でもあの時、あの場所で、一人だけ笑っていないアイドルがいた。たぶん私しか気づいてないと思うし、そもそも私でさえ見間違いかなにかだと思っているけど……それでも何か妙な胸騒ぎがして、確かめずにはいられなかった。
事務所には、まだ人が残っていた。奈々さんと、プロデューサーだ。
プロデューサーはすっかり寝ていた。舞ちゃんのサインが書かれたほっぺたを、奈々さんの太ももにくっつけて、すやすやと寝息を立てている。そんなプロデューサーを、うつむいた奈々さんがそっと撫でていた。
奈々
「……どうかしたんですか、凛ちゃん」
奈々さんが顔を上げた。にこやかな笑みを浮かべている。なのに、背筋が寒くなる。
目が、笑っていなかった。プロデューサーが、将来の夢を宣言した時と、同じ目だった。やっぱり見間違いじゃなかった。
奈々
「用がないなら、帰ったほうがいいですよ? こんな時間ですし」
凛
「奈々さんこそ、プロデューサーもいるんだし、早く帰ったほうがいいと思うけど」
奈々
「そうですね。でも、ナナはもう少し、ここで待たなければならないので」
凛
「……タクシーを呼んだんですか?」
奈々
「いいえ。イヴちゃんを待ってるんです」
凛
「こんな遅くに……?」
奈々
「時間なんて関係ありませんよ。どうでもいいことです。大切なのは、10歳のプロデューサーさんがここにいるということだけです」
奈々さんは、本当に愛おしそうな手つきで、プロデューサーを撫でていた。感情の見えない目と、口元に張り付いた笑みは、見ただけでまともじゃないとわかるのに、その左手だけは人間らしかった。
ふと、気づく。奈々さんの右手側。ソファに置かれた、見慣れない物体に。
凛
「それ、なんですか?」
奈々
「……何に見えます?」
奈々さんはよくわからないそれを掲げて見せた。安っぽいデザインのそれは、プラスチックでできた、ニンジンのおもちゃに見えた。赤ちゃんが握って音が出るような、そんなおもちゃ。でも違った。奈々さんはそのニンジンを、拳銃と同じ握り方で持っていた。
凛
「お、おもちゃ……ですよね?」
奈々さんは何も言わずに、ニンジンを私に向けた。先端に小さな穴が開いているのを見て、反射的に身体が逃げる。尻もちをついた私に、奈々さんはにっこりと唇だけで笑いかける。
奈々
「本当に、凛ちゃんは勘がいいですね。野生動物みたいな反射神経です。……思い返してみれば、凛ちゃんだけは一度も死んでませんね。ああ、なら大丈夫かもしれません。イヴちゃんを待つ間、ナナのおしゃべりに付き合ってくれますか?」
凛
「奈々さん、あの、おかしいですよ? どうしちゃったんですか? 言ってる意味が分かりませんし……と、とにかくプロデューサーを、こっちに渡してください」
奈々
「そうですね。おかしいんです。ナナはどうかしているんです。でも、壊れもしますよ。守ったはずなのに。救ったはずなのに。どうしてプロデューサーさんはプロデューサーさんをしているんですか? ずっと考えてました。なにがあったんだろうって。解けない問題を解き続けるのは苦痛でした。でも、ナナはいますっきりしてます。ようやくわかりましたから。ナナは確かに過去を変えた。未来を変えた。プロデューサーさんを助けた。幸せにした。なのに今現在が存在するのは、ナナが変えた過去を、未来を、元に戻した人がいるからでした。それは許されないことです。絶対に許してはいけないことなんです。ナナはもう嫌なんです。あんな光景を見るのは。あんな声を聞くのは。嫌です。絶対に嫌です。だから、修正します。今すぐできます。このニンジンをプロデューサーさんに向けて引くだけで、修正は終わるんです。でも、修正はいつでもできます。それよりもナナは確認しないといけないのです。数年後、あるいは十数年後、プロデューサーさんがどうなるか知っていて、どうしてこんなことをしたのかを。それを確認したら、すぐにでも修正します。現在の因果律がどうなろうとかまいません。そもそもこんな未来は存在してはいけないのですから」
それは紛れもない狂気だった。どうしてこんなことになってしまったのかはわからない。正直に言うと、今すぐ逃げ帰ってしまいたい。でも、プロデューサーがいた。何も知らずに寝息を立てているあの人がいた。奈々さんが何を言っているのか、何をしたいのかわからないけど、とにかくプロデューサーを助けないといけない。
私は立ち上がった。どうするべきかはわかってる。プロデューサーが教えてくれた。不安なとき、くじけそうなとき、心が折れそうなとき。そんなときはまず呼吸をする。それからイメージする。達成する自分を。成功する自分を。身体は心に従う。心は願いに従う。大切なのは強く想うこと。だから、できる。私は、プロデューサーを助けられる。
奈々
「凛ちゃんはすごいですね。普通の女の子なら立ち上がれないですよ、この状況。さすがシンデレラガールですね。奈々、凛ちゃんのこと大好きです。だから忠告だけはします。ナナはひどいことしたくありません。ですから、イヴちゃんが来るまで大人しくしててください。じゃないと、八つ当たりしますからね」
凛
「……そんなので、私が怖気づくと思う?」
奈々
「ですよね」
声は、後ろから聞こえた。目の前のソファには寝ているプロデューサーだけがいた。
逃げる間もなかった。襟首をつかまれて、引っ張られる。生地が破れる音だけが聞こえて、フリーフォールと似たような感覚に襲われた。ただし落ちるのではなく、真横だった。
自分が投げられたのだと理解したのは、事務所の床に横たわって、いくつもの缶ジュースが通路に転がっているのを見た時だ。どうやら冷蔵庫にぶつけられたらしい。横になった視界の中で、ナナさんが歩いてくる。身体がどうにも動かない。奈々さんが足を振り上げた。小さい靴底が見えて、次の瞬間に目の前のコーヒー缶が潰れた。金属が一瞬でひしゃげて、ブラックコーヒーが当たり一面にぶちまけられた。
奈々
「……大人しくしててくださいね、凛ちゃん。次に邪魔をしたら、手か足がこうなりますから」
私はうなずいた。声も出せなかったのだ。自分が息をしているのかもわからない。怖くてたまらない。
視界がにじんできた。泣いている。怖くて、悔しくて、情けなくて、痛くて、涙が止まらない。
私はどうすればいんだろう。プロデューサーはどうなるんだろう。誰でもいい。助けてほしい。なんでもいいから、なんでもするから。プロデューサーを助けて。奈々さんを止めて。お願い、誰か――!
イヴ
「うぅ~さぶいさぶい。日本もやっぱり冷えますねぇ~」
この場にまったくそぐわない、明るい声がした。イヴさんは綺麗な髪をきらきらさせながら、床に散らばった缶ジュースを見つけると、もったいないもったいないと言いながらかき集め、集めたそれをテーブルに置いた。それから私を抱き起して、手近なイスに座らせてくれた。お礼を言いたかったけど、まだ声が出ない。身体が痛い。どこか骨が折れているのかもしれないが、骨折した経験がないからよくわからなかった。
イヴ
「疲れたカラダには甘いもの。冷えたお肌には温かいもの。やはりここはホットココアちゃんしかありませんねぇ」
イヴさんはココアの缶をよく振って、紙コップに中身を注ぐと、電子レンジの元へ急いだ。
奈々
「お帰りなさい、イブちゃん」
イヴ
「はーい、ただいまです、奈々さん~。こんなに寒いのに、ホントに待ってたんですねぇ~」
温度など感じられない奈々さんの声をよそに、イヴさんはココアが待ちきれないのか、電子レンジの中をじっと見つめている。
奈々
「その口ぶりだと、どうしてナナがここにいるのか、わかってるみたいですね」
イヴ
「それはもちろん。どうして私が16年前のプロデューサーを、現代に連れてきたか、ですよね?」
奈々
「話が早くて助かります。さあ、話してください。いまならあんまり痛めつけずに殺してあげますから」
イヴ
「そうですねぇ。どこから話せばいいんでしょう? あ、そうだ凛ちゃん、凛ちゃんもいりますか? あったかいココア」
私は答えようとして、せき込んだ。ごぼりと胸の奥から何かが出てくる。せきが止まらない。口からぼたぼたと温かいものがあふれ出す。吐いてしまったのかと思って、口を手でぬぐった。手のひらがぬるぬるなった。
血だった。頭の中が真っ白になる。自分の意志とは関係なく、身体ががたがたと震え始める。
イヴ
「あー、これは刺さってますねぇ。奈々さん、楽にしてあげたほうがいいんじゃないですか?」
奈々
「放っておいても平気ですよ。凛ちゃんは何があっても死にませんでしたし」
イヴ
「そうらしいですね。でも仲間が苦しんでるのを横に、のほほーんとココアを飲むのは私としても抵抗があるといいますか。正直なところ、奈々さんが何をどこまでできるのか見ておきたいというか……そのニンジンって、アレですよね? ウサミン星の技術が使われてますよね?」
奈々
「ナナが手の内を見せるとでも?」
イヴ
「見せますよ。だって奈々さんは確認しないといけないんですよね。このままではプロデューサーさんが不幸になるとわかっているにもかかわらず、どうして改変した過去を元に戻したのか。この現在が、プロデューサーさんが幸せになるために必要でないと確信できないかぎり、そのニンジンを使うことはできない。そうですよね?」
奈々さんは押し黙って、私を見た。ふっとため息のようなものをつくと、おもちゃのニンジンを私に向ける。
やめてという言葉の代わりに血を吐いた。奈々さんはためらいなく引き金を引いた。
――電子レンジの音がした。
身体を起こす。どうして自分が倒れていたのかわからない。電子レンジを見ると、そこにはいったいいつ帰ってきたのか、イヴさんが立っていた。
イヴ
「あー、やっぱりダメでしたねぇ。ほら、空っぽ」
イヴさんがレンジから取り出した紙コップをひっくり返した。中身はこぼれない。というより、何も入っていない。
私はあたりを見回した。冷蔵庫の前に立っている。さっきまでプロデューサーを膝枕していた奈々さんが、おもちゃのニンジンを片手に私を見つめている。わけがわからない。どうして私はここにいるんだろう。
そうだ、クリスマスパーティで奈々さんの様子がおかしくて、その理由を聞きに来たんだ。奈々さんはわけのわからないことを言って、私はプロデューサーを助けようと思って……それから。それから……?
イヴ
「凛ちゃん、冷蔵庫の中のココアを取ってもらえます?」
混乱していた私は、言われたとおりに冷蔵庫からココアの缶を取り出した。手招きするイヴさんに投げて渡す。
イヴ
「ありがとうございます~。これでやっとあったかいものが飲めますぅ~」
空っぽの紙コップにココアを注いで、電子レンジに入れる。温めのスイッチをオン。
電子レンジの低い音が響いた。なにが起きているのかわからない。ただ何かが起こったのかはわかる。
奈々
「次はイヴちゃんの番ですよ」
イヴ
「まあまあそんなに慌てなくても~。奈々さんも何か飲みませんか? 落ち着きますよ?」
奈々
「奈々は冷静ですよ?」
イヴ
「じゃあ凛ちゃんは、何か飲みますか? 冷蔵庫に入ってるものならなんでもいいですよ?」
凛
「……え、あ……なら……私も、ココア……」
混乱している。なにがなんだかわからない。とにかく落ち着きたくて、冷蔵庫を開けた。
イヴ
「お二人も、何か飲みませんか?」
聞き間違いかと思って顔を上げると、奈々さんが弾かれたような勢いで振り返るところだった。
芳乃
「ではわたくしは、緑茶がいいのでしてー」
茄子
「凛ちゃん、お汁粉ってある?」
いったいいつからそこにいたのかわからなかった。
芳乃と茄子さんはソファに座って、眠ったプロデューサーの髪をなでたりほっぺたを指先でつついたりしている。
私はとりあえず考えることをやめた。冷蔵庫から緑茶と――本当に入ってるとは思わなかった――お汁粉を取り出して、イヴさんに紙コップと一緒に渡す。
奈々
「……いつからいたんですか?」
茄子
「ついさっきです♪」
芳乃
「わたくしはずっとおりましたゆえー。少々心寂しかったのでしてー」
二人は顔をも上げずにそう答えた。視線はプロデューサーだけに注がれている。
奈々
「……説明、してくれるんですよね」
茄子
「してもいいですけど、いまはしなくてもいいかなって思ってます。奈々さんには、というよりウサミン星の技術では、せいぜい修正しかできないようですし」
芳乃
「そのようでしてー。遥かなる彼方の人の業ならば、あるいはわたくしでは成せぬ事柄も成し遂げられようと期待したのですがー、どうやら無意味なことだったようでしてー」
イヴ
「改変はできても改編ができない。消すことはできても書くことができない。便利なようで不便ですねぇ」
完全に理解できない会話が展開されている。イヴさんが差し出してくれた紙コップを受け取った。ホットココアを飲む。温かい。そして甘い。
奈々
「奈々は、説明しろと言ってるんですが」
芳乃
「ではわかりやすく一言で言いましょう。奈々殿はプロデューサーを救えません」
言い終わると同時に、奈々さんが消えた。翻るメイド服のスカートが微かに見えて、次の瞬間に凄まじい音がした。
冷蔵庫が事務所の反対側の壁まで飛んでいく。ぶちまけられた中身が床に散らばる。這いつくばった奈々さんが起き上がり、身構えた。
私は振り向いた。さっきまでそこにあった冷蔵庫がなくなっている。完全な超常現象だった。裕子がいなくて心の底からほっとする。
奈々
「……何をしたんですか」
芳乃
「奈々殿の前に冷蔵庫を置いただけでしてー」
奈々
「ふざけてるんですか! ナナが聞いてるのはそんなことじゃありません! どうやって冷蔵庫を動かしたんですか!?」
芳乃
「こうやるのでしてー」
芳乃が緑茶の入った紙コップを掲げた。紙コップが消えて、代わりにニンジンが現れた。
奈々さんが持っていたはずの、おもちゃのニンジンだった。
奈々
「……そ、そんな……だって、そんなことできない……絶対、できないはず……」
奈々さんの握りしめた紙コップから、飲みかけの緑茶がこぼれている。
芳乃
「この世に絶対などないのでしてー」
芳乃はそういって、緑茶を飲んだ。奈々さんの手にはいつの間にかニンジンが握られていて、その足元にはこぼれたはずの緑茶が見当たらない。
茄子
「そう、絶対は存在しないんです。ですから、奈々さん。試してみたらどうですか? そのおもちゃのニンジンで、もう一度、過去を修正すればいいんです。もしかすると、プロデューサーさんが幸せになって、この事務所のみんなも幸せになれる。そんな未来が待っているかもしれません」
イヴ
「撃った相手の個体時間を遡行させることしかできなくても、確かにいまのプロデューサーが相手なら、確実に過去は変えられますしね~。16年前のライブの代わりに、今日のクリスマスパーティに連れてきたわけですから。その記憶が消えてしまうなら、奈々さんが修正した通りの世界になりますよ~」
芳乃
「安心してもよいのでしてー。奈々殿が見たかった未来がなんであれ、奈々殿が希うというのであれば、わたくしは全ての因果を元通りに編んで見せましょう。ふふふー。気になさらずともよいのでしてー。これくらいの手間、今までを思えば瞬くほどの時にしかすぎませぬゆえー」
奈々さんはニンジンを構えた。震える指が、引き金にかかった。私はそれをじっと眺めている。
――そのまま、どれだけの時が経ったのか。
一瞬だったかもしれない。永遠だったかもしれない。
奈々さんが腕を下ろした。ニンジンが床に落ちて、軽い音を立てる。
奈々
「……? あ…………ぇ……?」
奈々さんは自分の両手を見つめた。それからあたりを見回して、私を見つけると、抑揚のない声で問いかけてくる。
奈々
「……凛ちゃん、ですか? ナナが、誰かわかりますか?」
私はうなずいた。奈々さんはぽろりと、一粒の涙を流した。
奈々
「ここは、事務所なんですよね? それで、今日はクリスマスで……そこにいる男の子が、プロデューサーさんなんですよね?」
凛
「そうだけど……どうしたの、奈々さん」
心配になった私が駆け寄ると、奈々さんはその場にぐったりと座り込んだ。
奈々
「……よ、よかった……戻って、これた……」
芳乃
「言ったではありませんかー。すべての因果を元のように編んで見せるとー」
奈々
「芳乃ちゃん……ねえ、なんでなんですか? なんでプロデューサーさんは幸せになれないんですか? あの人がなにかしたんですか? どうしてこんなことばかりが起きるんですか? ねえ、教えて下さい。芳乃ちゃん。どうやったらプロデューサーさんは幸せになれるんですか?」
茄子
「落ち着いてください、奈々さん。取り乱したって未来は何も変わりませんよ?」
奈々
「じゃあどうしろっていうんですか! 過去を変えてもダメだった! プロデューサーさんがプロデューサーじゃなくなってもダメだった! ならどうしろっていうんですか!? このままじゃ、また……また、プロデューサーさんが……」
イヴ
「奈々さん、なにか飲みますか? 私のオススメはホットココアですけど」
呑気なイヴさんに向かって、奈々さんが何かを言おうとした。けれど奈々さんは口をつぐんだ。
うつろな目でぼうっと天井を見上げて、魂の抜けた声でつぶやく。
奈々
「……あったかいなら、なんでもいいです」
イヴ
「そうですかぁ。じゃあここは凛ちゃんに任せますね~。ささ、疲れた奈々さんの心にしみちゃう、あったかい飲み物を選んでください」
凛
「えっ、あ、はい」
言われるがままに私は冷蔵庫を開けた。なにがいいだろうか。ホットレモンがあった。直感でそれを選ぶ。
イヴ
「あたためスイッチ・オン♪ あ、それじゃあ私、そろそろ時間なんで、プロデューサーさんを送って行きますね。いいですよね、奈々さん? よし、じゃあ、凛ちゃん! ホットレモン、お願いしますね~」
私の返事を待たずに、イヴさんはソファに駆け寄ると、眠ったままのプロデューサーを抱き上げた。
茄子
「名残惜しいですけど、仕方ありません。元気でね、プロデューサー。また私を見つけてくださいね」
茄子さんがプロデューサーのほっぺにキスをする。そこには舞ちゃんのサインがあったはずだが、消えていた。
電子レンジがチンと鳴った。私は紙コップを取り出して、温かくなったホットレモンを奈々さんに渡す。
しばらく会話がなかった。私はまだ事態がよく呑み込めていない。頭がどうにかなりそうだった。
茄子
「あ、そうだ。奈々さん、ちょっとソレ、借りてもいいですか?」
奈々
「……ああ、そういえばそうですね。どうぞ、使ってください」
奈々さんが足元にあったおもちゃのニンジンを、茄子さんの足元に向けて滑らせた。なんだっけ、見たことあるな、こういうシーン。
ああ、そうだ。映画で、人質を取られた主人公が、悪役に銃を渡すときのヤツだ。
茄子
「おもちゃですけど、こういう時には便利ですね」
茄子さんは拾い上げたニンジンを西部劇みたいにくるくる回してから、その先端を私に向けた。
茄子
「ごめんね、凛ちゃん。ちょっとぼーっとするかもしれないけど、痛くないから安心してね。あ、痛くないのかな? どうなんだろ? あの、奈々さん、これって痛くないですよねー?」
奈々
「さあ? 死ぬほど痛くても、どうせ忘れるから関係ありませんよ」
茄子
「ああ、それもそうですね。じゃあ気を取り直して」
茄子さんは子供みたいな笑顔を浮かべて、引き金を引いた。
茄子「にんじんびーむ♪」
【HAPPY END】
お疲れさまでした。何とか間に合いました。すこしだけ重いシリーズです。
つきましてはちひろ大明神様、2016年最後のご加護をお授けください(舞ちゃんのSSR化もお願いします)。
回したら仕事です。あはは、労働って尊いですね!
それでは皆さん、よいお年を。
持ってないSRがたくさん出たから爆死じゃないです致命傷です
奈々って誰?
菜々
菜々
菜々
わけがわからんと思ったら続き物なのか
名前ミスったかぁ……
モバマスって最初に書いてくれよ、なんのSSかわからん
なすビーム
乙乙
菜々ではなく奈々
つまりそういうこと?
この前のRでの無限回廊エンドの続きであってる?
1です。名前を間違えました。すみません。
↑2 奈々ではなく菜々です。意味はありません。ただのミスです。本当にすみません。
↑1 無限回廊の続きです。読んでくださってありがとうございます。
時系列順に過去作を張っておきます。次はこうならないようにちゃんと書き溜めます。
まゆ「お願いですから、目を開けてください、Pさん……」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1475946094
ちひろ「それが、一番の幸せなんですから」/早苗「タイホよ、P君」
ちひろ「それが、一番の幸せなんですから」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1404221133/)
ちひろ「プロデューサーさんとの幸せな日々」
ちひろ「プロデューサーさんとの幸せな日々」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1459882812/)
卯月「プロデューサーさんの、本当の幸せを」
卯月「プロデューサーさんの、本当の幸せを」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1440347659/)
茄子「おやすみなさい、プロデューサー」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1467473725
茄子「にんじんびーむ♪」
「続きです」を最初に言って欲しかった
時間を無駄にした
続き物だけど話は続いていないから大丈夫(?)
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