あやめ「アイドルカラテ決死拳」 (50)
忍殺×デレマスのクロスオーバーです
第3部のネタバレを含むかもしれません
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1480118858
あやめ「おはようございます!」
あやめ((……と、言っても誰かが返事するはずがありませんな。独り暮らしなのですから))
あやめ((ともあれ、今日のオーディションに集中しましょう。デビューできれば寮に入れる。同世代の友人もできましょう))
あやめ((朝食は粗末な具なしそば。おじい様の作ってくれる朝餉が懐かしいです))
あやめ((大丈夫。今のわたくしは以前のあやめとは違います))
あやめ「いけません。呼吸を…呼吸を整えましょう」
あやめ「スゥーッ……ハァーッ……スゥーッ……ハァーッ……」
身支度を済ませ、鼻から下を覆うようにマフラーを巻く。
祖父と共に染めた梅紫の絹。思い出の品。
瞬間、布が赤黒く変色する。
そこには恐怖を煽る字体で「忍」「殺」とショドーされていた……!
◆忍殺◆
◆忍◆ ◆殺◆
◆忍◆ドル◆殺◆
大手芸能プロダクションの本社ビル。
『天海春香 4thライブ』
『ニューシングル POKER POKER』
先を行くアイドルたちの看板が迎える。
審査員「次の方」
?「ハイ」
?「ハイ」
審査員「名前と、エントリー番号をどうぞ」
?「15番、前川ミクチャンです」
?「16番、前川カワイイコです」
あやめ「……!」
あやめ((まったく同じ顔!同じ声!立ち振る舞いまで瓜二つです!))
あやめ((双子なのでしょうか?))
審査員「ではパフォーマンスを」
前川「五万円ー」
前川「五万円ー」
あやめ((……すごい!ルックス、歌、ダンスのどれもが凄まじいレベル……!))
審査員「ほお…」
前川「ミュージックですかー」
前川「ダンス!ダンス!ジャンプ!」
審査員「!!」
ザワッ
あやめ((両足をW字に曲げたジャンプ!敵ながら天晴れです!一体どれほどの訓練を積めばこのような動きが……))
前川「以上です」
前川「以上です」
審査員「ありがとうございました。2人はデビュー前なんですか?」
前川「はい。ですがユニット結成が決まっています」
前川「私とカワイイコのコンビです」
審査員「それは楽しみだ。名前を教えてもらえますか?」
「「ネコネコカワイイ」」
あやめ((ネコネコ……カワイイ……?))
前川「では失礼します。アキハの技術です」
前川「アキハの技術です。失礼します」
審査員「?……では次の方」
あやめ((落ち着くのです))
審査員「次の方?」
あやめ((オーディションに勝つ。忍ドルとしてデビューし、祖父に報告する。シンプルです))
審査員「次の方…えっと名前は…」
あやめ((呼吸を整えましょう。大丈夫。絶対に))
審査員「浜口あやめさん!」
あやめ「は、はい!」
審査員「集中してください。では名前とエントリー番号をどうぞ」
あやめ「はい!17番、浜口あやめです!」
____________________________________
?「あの、おめでとうございます!」
あやめ「……はい?」
?「はい?じゃなくて、さっきのオーディションですよ!すごいパフォーマンスで一発合格!あたしも見惚れてしまいました!」
若P「落ち着け有香。まずは挨拶だ」
?「ああ、失礼しました!」
有香「押忍!中野有香、アイドル候補生です!特技は空手。よろしくお願いしますっ!」
あやめ「どうも。わたくしは浜口あやめです」
若P「疲れてるときに悪いね。どうしても一声かけたいって聞かなくて」
あやめ「いえ、わたくしは大丈夫です」
あやめ((そう。自分でも恐ろしくなるほどのパフォーマンスの冴えでした))
あやめ((数週間前から、調子がすこぶる良いのです。ちょうど、このマフラーを着けるようになってから))
あやめ((難しかったステップが踏める。イメージ通りに歌える。知らなかったことがするすると頭に入る))
あやめ((努力の成果?……本当にそうでしょうか))
有香「あの、大丈夫ですか?」
若P「なんかボーっとしてるな。そうだ、これを飲むといい」
星型のキャップがついた、10センチほどの小瓶。ラベルには「ビョーキ、トシヨリ、チヒロサン」と刻まれている。
あやめ「これは?エナジードリンクですか?」
若P「スタドリ、正しくはスタードリンクと言ってな。飲むとたちまち元気になるぞ。どうだ?」
あやめ「確かに……遥かに良いです」
有香「あの、そのマフラーは何でしょうか?」
若P「えっと、忍殺?女の子が着けるにしちゃ物騒なデザインだな」
あやめ「正直なところ、わたくしにもよく分かりません」
若P「?」
あやめ「つい数週間前から、勝手にこうなってしまうのです。これも元は紫色だったのですが、気づいたらこうなっていました」
若P「へえ…?」
有香「よくわかりませんが、かっこいいですね!」
あやめ「ありがとうございます。実はわたくしも気に入っているのです」
あやめ「わたくしが目指すのは忍ドル。忍者で、アイドルです。殺の字はわたくし自身、『殺(あやめ)』という意味ではないかと」
若P「なるほど。啓示的でいいじゃないか」
有香「あっ!すいません、つい長話を」
若P「引き止めてしまったな。申し訳ない」
あやめ「とんでもない!こちらこそスタドリ、ありがとうございます!」
有香「では失礼します!また、よかったら別のオーディションで!」
若P「そうだな。次は勝とう」
有香「押忍!精進あるのみですね!帰ったらまたレッスンですっ」
あやめ「では、お達者で!」
有香「はい!さようなら!」
あやめ((中野有香殿ですか。隣にいた男性の名前を聞きそびれてしまいましたな))
あやめ((あの社章は、確かここの会社のものです。彼女のプロデューサーでしょうか))
あやめ((候補生の段階で専属プロデューサーがつくということは、彼女も相当な実力者なのでしょう))
あやめ((わたくしも勝ち上がるのです。そして寮に入り、プロデューサーをつけてもらいましょう))
あやめ((そのためにもこのチャンスをモノにします!わたくしの、この不思議な力で!))
ゴウン。
後頭部に強い衝撃。鈍い音が響き、視界が大きくブレる。
振り返る。パイプ椅子。クッションが剥がされ、金属が剥き出しになっている。
べったりと付着しているのは、あやめの血!
あやめ「あなたは……」
あやめ「前川殿!」
前川「ドーモ」
前川「ドーモ」
あやめ「アイエエエ!?」
あやめ((これは一体!?前川殿がナンデ!?))
あやめ((ともあれ逃げるしかありません!))
前川「アキハの技術です」
あやめ「アイエッ!?3人目?」
あやめ((三つ子?いや、奥にさらにひい、ふう、みい……たくさんです!))
ゴスン!再びの打撃。間一髪で回避する。
パイプが僅かにひしゃげ、床に跡が残る。
あやめ「どなたかいらっしゃいませんか!?」
本社ビルの廊下を叫び、駆け巡る!
『第三資料室』と書かれた表札。電灯が点いている。人はいるか?
祈るようにドアを開ける!ターン!
あやめ「なんと…!無人とは…!」
否。あやめが足を踏み入れた部屋は無人ではない。
前川「ドーモ」
前川「ドーモ」
前川「ドーモ」
前川「ドーモ」
本棚の陰から姿を表すアイドル候補生群体。その数は優に20を越える!
あやめ「アイエエエエエエー!」
追っ手前川のひとりが大きく振りかぶり、後頭部めがけスイングする。
あやめの視界は赤黒く染まり、やがて塗りつぶされた。
あやめ「ここは…?」
あやめは木綿の布団に横たわる自己を認識した。ここはオーディション会場ではない。
8畳の和室。部屋の隅に置かれた花瓶と福助が幼い頃を想起させる。
あやめ「おじいさまの家?」
違う。頭上に浮かび、ゆっくりと自転する黄金の立方体はなんだ。祖父の家ではない。
では、夢か。
(((グググ……愚かなり小娘よ……)))
あやめ「人の声!どなたかいるのですか!?」
ジゴクめいた老人の声が部屋中に木霊する。
その声の主こそ、あやめの身に起こったあらゆる異変の原因である!
(((ドーモ。ナラク・ニンジャです)))
【アイ・マスト・ゴー・オン】#1終わり #2に続く
(親愛なる読者の皆さん:長いので一旦終わります。更新する日にはサキブレが飛ぶので注意深く観察してください)
オツカレサマドスエ!
◆○◆
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
【アイ・マスト・ゴー・オン】#2
前川「ナンバー8です。対象は沈黙しました」
前川「捕縛し、ラボへ運搬します。ドーゾ」
?「ご苦労。必要以上には傷つけるなよ」
前川「ヨロコンデー」
前川「ヨロコンデー」
未完成3Dモデルめいた義体が並ぶ薄暗いラボに、年若い少女がひとり。彼女の名は池袋晶葉。大手プロダクション所属のアイドルにして、ニンジャである!インカムを装着し、己が知性の産物たるドロイドに指示を飛ばす。
晶葉「前川ロイドのデビューには失敗したが、まさか新たなニンジャが見つかるとは!まさしくヒョウタンからオハギ。この天才の研究の糧にしてやろう!」
あやめ「に…忍者?」
ナラク((然り。ニンジャである。ニンジャがかの人形を作り、オヌシを襲わせたのだ))
あやめ「人形?前川殿は人間ではないのですか?」
ナラク((バカ!不甲斐なき小娘よ!なぜカラテを振るわん!ニンジャであるのはオヌシとて同じ))
あやめ「あの!何を言っているかさっぱり」
ナラク((殺せ![ピーーー]のだ!あの児戯めいたジョルリを壊し、裏に隠れるニンジャを殺せ!))
ナラク((ニンジャ、[ピーーー]べし!))
あやめ((ほとんどわかりません))
あやめ((しかしいくらかは分かります。この声の主は……おそらく酷く消耗している))
あやめ((まるで長い、とても長い闘いを終えた直後のような。豪雨に遭い、やっと屋根の下に逃げ込んだような))
あやめ「わたくしが……忍者?」
ナラク((否、ニンジャ!ニンジャを殺めるニンジャである!))
あやめ「……ニンジャ」
呟くと同時に、フートンに眠るあやめの自我が溶ける。危険を察知した肉体が、無意識下のローカルコトダマ空間に働きかけたのだ。
ナラク((行け!カラテ、そしてカラテだ![ピーーー]べし。全ニンジャ、[ピーーー]べし!))
眼を開き、状況を確認する。縛られ、ドロイドに米俵めいて担がれている。
窓から覗く風景は変わっていない。陽は落ち、フロアは変わったが、依然会場ビルの中だ。
あやめ((わたくしがニンジャ))
あやめ((力が湧いてきます。これはきっと、ずっと前から備わっていたでしょう))
あやめ((ナラク殿がもたらした力。私を押し上げてくれた力))
あやめ「イヤーッ!」
自然と出たカラテシャウト。前から知っていたような、これが普通であるような。
……何故?
ウドンめいた荒縄が内側から千切れ、運搬前川がもがく。頚椎への鋭いチョップで機能停止たらしめたあやめは、ネコ科動物めいてしなやかに着地する。
前川「モシモシ。ナンバー8です。対象が覚醒しま」
あやめ「させません!イヤーッ!」
前川「ピガガー!」
ナラク((ケリ))
あやめ「ケリ!」
前川「ピガガーッ!」
ナラク((チョップ))
あやめ「チョップ!」
前川「ピガガーッ!」
前川ロイド第二波機能停止!しかし第三ウェーブが第三資料室になだれ込む!
あやめ((ナラク殿、次のプロデュースを!))
ナラク((何を言うか小娘))
あやめ((あなたが照らした道をわたくしが走る!それがプロデュースというものです。あなたはわたくしのプロデューサーなのです!))
ナラク((グググ……ではよい。回転飛翔しスリケンを投擲せよ))
あやめ「イヤーッ!」
カトリーナめいたスリケン暴風雨を浴び、前川ロイドが次々と倒れる。暗黒カラテ技、ヘルタツマキである!
前川「ピガガーッ!」
前川「ピガガーッ!」
前川「ピガ、ガ、ハンバーグ、ハンバーグ!サカナは、ダメ!」
鮮やかに着地し周囲を見渡す。ドロイド残骸が広がる風景は、さながら大型ハリケーン通過後のコメ畑だ。
あやめ「これは?」
前川ロイドの懐から溢れた、モスグリーンの楕円形物体。握り拳ほどの大きさで、ひき肉めいた断面が見える。
あやめ「ハンバーグ?やけに緑色ですが」
その正体はバイオハンバーグ。前川ロイドの活動維持に必要な諸成分を高密度に圧縮した携帯燃料である。
あやめ「わずかに光を発しています。これは一体?」
ナラク((それはケモ・ニンジャクランが用いる混合薬物の発光!残滓を追え小娘。繋がるはニンジャの根城ぞ!))
____________________________________
晶葉「モシモシ!モシモシ!ナンバー8!応答しろナンバー8!」
?「ニンッ!」
CRACK!
窓ガラスを蹴破り正体不明人物が進入!
侵入者のマフラーは赤黒く燃え、「忍」「殺」のカンジが輝く。
あやめ「あなたが黒幕ですか?」
晶葉「アイエエエエ!」
あやめ「む、これは作りかけのドロイドですね。やはりあなたが」
晶葉「…………」
池袋晶葉は眼を閉じ、沈思黙考する。考えろ。いかにしてこの状況を切り抜けるか。侵入者、ドロイド研究データ、知能、カラテ、ムーンサイド。
晶葉「………マイッタ!」
あやめ「なんと!?」
ナラク((流されるでないぞ小娘!油断を誘い背後をとるのはダマシ・ニンジャクランの常套手段なり!))
ナラク((殺せ!あ奴の矮小な頭蓋を踏み砕き、爆発四散させるのだ!全ニンジャ殺すべし!))
ニューロンの間借り人の叫び声が響き渡る。
あやめの身体を乗っ取るだけの力を現在のナラク・ニンジャは持たない。これは彼女にとって最大の幸運であったが、今はそれを知る由もない。
ナラク((バカ!カラテを解くな小娘よ!))
あやめ「……理由を、教えてもらえますか」
晶葉「カラテ」
あやめ「カラテ?」
晶葉「前川ロイドの性能は私のニンジャ腕力を基準に調整してある。それを上回った貴様は、あきらかに私より強い」
晶葉「それに、荒事は嫌いでね。私はこっちだ」
ラボ備え付けの据え置きUNIXを操作すると、フロッピーディスクが飛び出した。その中身は、前川ロイドの研究データだ。
晶葉「ギブアンドテイクといこうじゃないか。私を見逃してくれ。ただ研究がしたいだけだ」
あやめ「では、テイクは」
晶葉「知識をやろう。ニンジャについて、貴様は何も知らない。ニンジャが観測されるのは、この事務所の周辺だけだ。それはなぜか?なぜ私たちはニンジャになった?」
あやめ「関係があるというのですか?」
晶葉「関係、そうだ。必然だよ」
一瞬の沈黙。マフラーの輝きが消えた。
あやめ「………わかりました。教えてください。わたくしの事。ニンジャの事」
晶葉「ああ。では………」
晶葉「グワーッ!」
瞬間、池袋晶葉の胸部から青白色の刺突物が生え、うつぶせに倒れる。その刺突物はゲッコと呼ばれる特殊電磁波から生成された、邪悪なクナイである!
あやめ「イヤーッ!」
異変を察知したあやめは連続側転で距離を取る。池袋晶葉による攻撃か?否!
彼女はむしろ攻撃を受けている!
?「ドーモ。池袋晶葉=サン」
ゲッコ・クナイは新たな侵入者によるアンブッシュである。その侵入者は濃ブルー髪を中央で分け、仮面舞踏会めいたメンポで表情は窺い知れない。
?「………ムーンサイドです」
あやめ「ムーンサイド?」
ムーンサイド「そのマフラー、貴方もニンジャ?ドーモ、ムーンサイドです」
あやめ「?ど、どうも」
ナラク((バカ!アイサツを返さぬか!))
あやめ「アイサツ?えっと、わたくしは浜口あやめです」
ムーンサイド「あら。ニンジャネームを持たないのね」
アンブッシュ者が拳を開くと、曲芸めいて新たなクナイが生じる。ゲッコ・ジツである。
あやめ「あなたは何ですか」
ムーンサイド「仲間よ。彼女と同じアイドル。そして、ニンジャ」
ムーンサイド「彼女は喋りすぎる。記憶の一切を洗浄するわ。そういう使い手がいるの。アワ・ニンジャの憑依者が」
ムーンサイド「悪いけど寝てもらうわ。晶葉も、貴方も!イヤーッ!」
横たわる晶葉とあやめ目掛け、二方向同時クナイ投擲!頬を掠めてあやめは回避するが、池袋晶葉に逃げる力は残っていない!
晶葉「グワーッ!」
ムーンサイド「イヤーッ!」
晶葉「グワーッ!」
三たびのクナイ投擲を受けた池袋晶葉に出血はないが、白眼を剥き昏倒する。ゲッコの効果だ。
同様にあやめの視界がボヤけるが、かろうじて自我を保つ。
あやめ「これは…?」
ナラク((愚かなり小娘!あれはゲッコ・ジツ!催眠作用のある武器を生成する猪口才なジツよ))
あやめ((なぜ喰らってから言うのですか!ちゃんとプロデュースしてください!))
ナラク((ならば儂に身体を貸せ!ゲッコは所詮月の出た晩しか使えず、物理破壊力を持たぬ貧弱なジツ。儂のカラテの敵ではないわ))
ムーンサイド「イクサの最中に考え事する余裕があるの?イヤーッ!」
ゲッコ・クナイ3本同時投擲!咄嗟のブリッジで対応するが1本被弾!ゲッコ毒が全身を蝕み、意識が鈍る。
あやめ「ま、まだです!」
あやめは高速回転飛翔!狙うは先ほどのヘルタツマキだが、不完全なカラテでそれは叶わぬ!
ムーンサイド「イヤーッ!」
再びのクナイ投擲!
回転の勢いを乗せたケリ・キックで破壊するが、奥からさらなるクナイが飛来する。ナムサン!二本のクナイを同一直線上に投擲したのだ!
あやめ「ンアーッ!」
あやめの意識は再びフートンの中にあった。
やはり夢ではない。頭上には黄金立方体が浮遊し、憎悪にまみれた老人の声が聞こえるからだ。
ナラク((愚かなり!愚かなり小娘よ!))
あやめ「指示を下されナラク殿!わたくしはそれで戦えます!」
ナラク((ならん!オヌシの未熟なカラテは儂のインストラクションに値せぬ!))
あやめ「ではおとなしく負けろと言うのですか!?彼女の言うジツを受け、記憶を消されろと!」
ナラク((儂はそれを避ける道を示しておる。あとはオヌシがそれを受け入れるのみよ))
あやめ「………………」
青白のクナイはマフラーを貫通し、確かにあやめの顔面に直撃した。
青髪のニンジャはパンプスをカツカツと鳴らしながら近づくが、その手にはクナイが握られている。即ちカイシャクである。
ムーンサイド「!?」
マフラーが突如赤熱し、「忍」「殺」のカンジが輝き浮かび上がる。カンジは空気中の重金属元素を凝縮させ、禍々しいメンポを作り出した!
正体不明ニンジャが眼を見開く。その瞳孔は凝縮し、センコめいた輝きを放っていた。
「ドーモ、ムーンサイド=サン。ニンジャスレイヤーです」
装着したメンポに刻まれた「忍」「殺」の文字。
ムーンサイド「ニンジャを殺めるもの(ニンジャスレイヤー)……!」
ムーンサイド「先手必勝!ゲッコ・ジツ!イヤーッ!」
無数の刺突兵器が飛来!しかし
忍殺「イヤーッ!」
不浄の炎を纏った四肢がそれを弾き返す。カラテだ!そして大きく踏み込み、腰だめの姿勢から鮮烈な突きが繰り出される!伝説のカラテ技、ポン・パンチである!
ムーンサイド「グワーッ!」
忍殺「オヌシが振るうそれはニンジャのカラテではない。死に怯える羽虫のカラテよ!イヤーッ!」
マウント体勢をとられ、致命の攻撃が流星群めいて飛来する!ゲッコ・クナイを突き刺すが状況は変わらない。体内の毒素を不浄の炎が焼き尽くしてしまうためだ。
忍殺「死ねい!サツバツ!」
ニンジャスレイヤーの虹彩が紅く燃える!
あやめ「これは……」
精神の安らぎフートンの中で、浜口あやめはイクサを非現実VRのごとく感じていた。
ニンジャスレイヤー、ムーンサイド。仮面舞踏会メンポは砕け、淡イエローの瞳が見える。今握っている拳を振り下ろしたとき彼女がどうなるか、あやめは即座に認識した。
いけない。ではどうすれば止められるか。
あやめは考え、記憶を辿る。
あやめ「今のはなんですか!忍者すごいですぞ!」
祖父の膝の上に座り、テレビを見る原始風景が去来する。画面にはモノクロの時代劇。毒を盛られたはずの忍者が、いかにしてか動き回っている。
祖父「ずるくない。忍法だ」
あやめ「忍法?」
祖父「そう。丹田に新鮮な空気を送り込み、精神を落ち着けるんだ。身体は楽になる上、活路も見つかるものよ」
あやめ「へぇ……?」
祖父「儂らもやってみようか。へその下に空気を注ぐように……」
あやめ「スゥーッ……ハァーッ……」
祖父「スゥーッ……ハァーッ……」
見つけた。呼吸を操り道を拓くのだ。
確証はないが、間違いない確信があった。
あやめ「スゥーッ……ハァーッ……」
あやめ「スゥーッ……ハァーッ……」
皆さんの中にニンジャ古代武術の知識をお持ちの方がいればご存知だろう。
彼女がたどり着いたのはチャドー呼吸。ニンジャ回復力を促進させると同時に、ナラク・ニンジャを抑える有用な手段のひとつである……!
もはや痛みは感じない。ムーンサイドの精神はゼン・トランスにも似た局地にあった。
ムーンサイド「あの子の考えはね、私たちの悲願なの。世界に障壁がある限り、愛とは苦しいもの。互いに苦しい、相苦しいもの」
うめき声の混じった陶酔ポエム。彼女にとってのハイクである。
忍殺「寝言は死んで言え!イヤーッ!」
ゆっくりと眼を閉じ全てを受け入れる。
………しかしニンジャスレイヤーの拳は、止まった!
紅い瞳から血涙がこぼれ、床に落ち蒸発する。
忍殺「長くはもちません。逃げてください………!」
____________________________________________
有香「ここまでで大丈夫です、プロデューサー」
若P「レッスンが終わってからずっと顔色が悪かったじゃないか。車を出すよ」
有香「いえ、いいんです。事務所はなぜか空気が悪いというか、達人同士の試合のような雰囲気があって落ち着かなかったんです」
若P「そうか?」
有香「プロデューサーこそつい先日まで寝たきりではないですか。無理はしないでください」
若P「うーむ…」
然り。彼は交通事故に遭い、数週間前まで意識不明の状態が続いていたが、突如として快復。中野有香のプロデューサーを務めるに至ったのだ。
若P「すまないな。そうだ、有香も一本飲むといい」
スタドリ。この事務所に務める社員の必需品であり、彼もまた例外ではなかった。
有香「ありがとうございますっ!では失礼しますね!お身体に気をつけて!」
若P「ああ、カラダニキヲツケテネ!」
若P「……?」
同時刻、事務所ビル前にひとりの少女が立っていた。
ピンクを基調としたロリータ調の服は一見不自然に見えるが、彼女は有無を言わさぬオーラを放っていた。
それは彼女がはじめて手にしたアイドルとしての衣装であり、彼女のニンジャ装束でもある。
ビルの前には「あマミ」「らぶですか?」と書かれた巨大なネオン・カンバン。しとしとと降り始めた雨には、重金属元素と有害酸性物質が混じっている。
「待っててくださいね……きっとあなたと結ばれますから」
事務所の周辺を中心とした世界の変質を認識しているのはごく僅かである。雲間から覗く月の模様はドクロめいて見えた。
「イヤーッ!」
事務所の窓から青髪のニンジャが飛翔し、街に消えた。それを見つめるロリータ少女の左手首には、真っ赤なリボンが巻かれていた。
【アイ・マスト・ゴーオン】 #2終わり #3に続く
(親愛なる読者の皆さん:投稿インコチャンのヒューマンエラーにより一部セリフがなんかカワイイになりました。再発防止のためメール欄とインコチャンはパブリックにケジメされ、しましたのでごあんしんください)
カラテ地獄変?(老眼)
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