小町「お兄ちゃん」 (19)
小町「ぬくもり」
小町「ぬくもり」 続 の続き
朝。残り少ない貴重な冬休みを満喫していた。マッ缶を飲みながら何も考えずボーっとしているこの時間。
缶を軽く左右に振り残量を確認。あと半分ほどだろうか。
缶を口に寄せ、少量口に含む。甘さが口に広がりそれを堪能した後、飲み干す。
「ふー……」
冬休み短かったなぁ…、ほとんど家で過ごしたが。こんな日々がいつまでも続いてほしい。
心の中でそんな自分勝手なことを考えていると階段を勢いよく降りる音が聞こえてきた
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「はいちゅうもーーーく」
「……」
愛しの妹が腰に手を添え立っている。
すました顔しやがって…!昨日ベッドであれだけ乱れていたくせに…!!(寝相)
「お兄ちゃんはどうせ今日も暇なので小町の買い物に付き合ってください」
「おい勝手に俺が暇だって決めつけんなよ、しかも『も』ってなんだよ」
いや間違ってないんですけどね?でももうちょっと優しく言ってくれてもいいんじゃないですかね?
俺が言い返さない事を見ると小町はウンウンと頷きながら満足げな顔をする。可愛いから許す。可愛いは正義。
つまり小町=正義。やだうちの妹どっかの戦隊ヒーローの一員としてテレビに出るんじゃないだろうか。色は黄色だな。
「はい決定!お昼は小町がつくるから家で食べていこ」
「はいはい」
小町は準備をしにか2階へあがっていった。俺も先に済ませておくか。
どうやら今日は忙しい一日になりそうだ。
「「御馳走様でした」」
昼は小町特製ハートマーク付オムライス。お腹も胸もいっぱいになりました。
「よし!早速行くよお兄ちゃん!」
「いや着替えるからちょっと待て、お前早すぎ」
俺が台所から帰ってきたら既に着替え終わってるとかどんなスピードしてんの?頼れる兄貴なの?いや兄貴は俺じゃねえか。
脳内で一人漫才をしていると小町から催促の声がかかる。
「玄関で待ってるから早くしてね?あと手袋はつけてきちゃ駄目だよ!」
「おっそーい!」
某コレクションゲームの駆逐艦かお前は。
そういえば小町に似てるキャラがいたような。そのキャラは関西弁だった気が。どうでもいいけど方言女子っていいよね。
「何気持ち悪い顔してるの?早くいこ」
さらっと酷いことを言われた気がするが気にしないでおこう。
小町が扉を開けると同時に冷たい風が入ってくる。思わず顔をしかめてしまうほどだ。
「うぅ~寒いね~」
「こんな日に手袋つけないとか何の罰ゲームだよ…」
ポケットに突っ込んでいた手が冷え始める。
それを紛らわすためマフラーに顔を埋めると、ポケットに何かが入り込みそれが俺の左手を包み込んだ。
「……お兄ちゃんが寒そうだから暖めてあげる」
手袋禁止を聞かされた時は驚いたが狙いはこれか。
小町は寒さか照れか、頬を赤く染め前を向いたまま目線だけをこちらに向けている。
「……どーも」
マフラーから口を出し、白く染まる息を吐きながら俺は返事をした。
皆大好きララポに到着、まあ予想通りだな。
風で乱れた髪を直している小町に話しかける。
「それで今日は何を買うんだ?」
「パジャマかな?帽子がついてるやつ!」
「あれか、帽子の先に白い玉ついてるやつか」
「それ!可愛いから欲しかったんだよね。他は見て回って気にいったらって感じかな~」
「はいよ、じゃあ早速行きますか」
俺が歩き出そうとすると、小町が腕をつかんだ。
振り向くと手を握る仕草をしていた。どうでもいいがニギニギという言葉はエロさと可愛さを含んでいて大変いいと思います。
「……早く」
「……はいよ」
手を握ると小町は俺の横まで駆け寄ってきた。
俺は少し歩幅を小さくしてまた歩き始めた。
行く店に目星はつけていたらしく、すんなり店についた。
店に近づくにつれて小町は俺を引っ張る程の速さで歩いていた。俺の気遣いはなんだったのか。
店内に入ってすぐのところにお目当てのパジャマ売り場は設けられていた。
大雑把に見渡しただけでもパジャマだけでかなりの種類がある。
ボーダー、水玉、フリルなど柄も豊富で小町はそれに釘付けになっていた。
「なあ小まt……っていねえ」
気が付くと繋いでいた手はほどかれ、小町はすでにパジャマを手に取り選別を始めていた。
俺も傍に行こうかと思ったがやめた。俺が直接選ばなくても小町が勝手に決めるか俺に意見を求めるだろう。
後ろからはしゃぐ可愛い妹を眺めるのもいいな。これ他人から見たら俺怪しい人に見えてそう、大丈夫だよね?
「あれ?先輩こんなところで何してるんですか?」
聞き覚えのある声が後ろから聞こえてきた。
振り向くとそこには一色が驚いた顔でこちらを見ていた。
「ちょ、何でお前いんの?」
「こっちが聞いてるんですけど…、パジャマ買いに来たんですよ」
「1人でか、珍しいな」
素直な感想だった。こいつと言えば誰かしら隣に男がいるイメージがある。
「隣に葉山先輩がいたら最高なんですけど。ていうか先輩も1人じゃないですか」
腰に手を当てて前かがみになり、むーっと頬を膨らます一色。流石いろはすあざとい。
「すまんが1人じゃないんでな」
そう言って小町の方に目をやると手を大きく振って俺の事を呼んでいた。
ナイスタイミングだ小町。後でジュースを奢ってやろう。
「ツレが呼んでるから行くわ、じゃあな」
「え?先輩ちょっと!?」
パジャマ売り場に近づくと小町が笑顔で待っていた。
「ねえねえお兄ちゃん、これとこれ、どっちがいいかな?」
小町が両手に持ったパジャマを俺の前に突き出してくる。
「どっちも似合ってるぞ」
「もう、ちゃんと考えてよ!」
「せーんぱーい!」
後ろから一色の声とヒールが床をける音が聞こえる。いや何で追ってきてんの。
「何なのお前、さっきそれとなく別れたじゃねえか」
「いやー折角ですし、先輩にパジャマ選んでもらおうかなって」
何言ってんのこの子。そういうのは葉山に頼めよ。
というのが顔に出たが一色は笑顔を崩さない。
「え!?じゃ、じゃあ小町も!お兄ちゃんが小町に1番似合うと思うの選んで!」
嘘だろ…。逃げ場が完全に封鎖されてしまった。
だがこうなった以上男八幡腹をくくるしかない。
「………分かったよ、じゃあちょっと待ってろ」
そういってパジャマ売り場の方を向く。うわめっちゃ種類あるじゃねえか…。
だが言ってしまったものは仕方ない。俺は無いセンスを振り絞り選別を始めた。
探し始めて数分、大苦戦中である。
そもそも自分で服を買いに行ったことなんて無いし、ましてや人の服を選ぶなんてもってのほかだ。
小町はまだどんな物が欲しいか聞いていたので大分絞れたが、一色となると話は別だ。
あいつが納得するものを選ぶとなると難易度が跳ね上がる。
気が付くとほとんどのパジャマを見て回っていた。だが今だしっくりくるものが無い。
まだ見ていない残りのパジャマは少なく、見つからなければまずい。
半ば諦めかけていた頃、ふと視線が固定される。
言葉では表せないが何故だかこれだと思った。
俺は小さく頷き、2つのパジャマを手にレジへ向かった。
2人のもとへ帰るとめちゃくちゃ話が盛り上がっていた。君ら初対面だよね?
「あ、お兄ちゃんお帰り!いろはさんって生徒会長なんだね!そんな人と知り合いだなんて小町は鼻が高いよ!」
「あ、先輩お帰りなさい。いやー小町ちゃん先輩にもったいないくらいいい子ですね!」
この2人を放置して大丈夫かと心配していたが杞憂だったようだ。というか心配の対象が移った。主に俺の将来。
「で、先輩どんなパジャマ選んでくれたんですか?」
「ほらよ、中身は家で見てくれ。こっちが小町の」
「有難うお兄ちゃん!小町も家まで楽しみにしとくね」
ここで気に入らないからと返品されたら俺の心が折れるからな。まあ多分大丈夫だと思うが。
一色がお金を払うと言ってきたが、どうせ自分で使う予定もないので遠慮した。ちなみに小町のは喜んで払いました!
親父の気持ちが分かった気がする…。
「先輩、有難うございます!」
一色が笑顔でお礼を言う。これだけで奢ったことなんてどうでもよくなるのだから女の子はずるいものだ。
ちなみに俺が笑顔でお礼を言うと悲鳴を上げて逃げられるか通報される。流石にないか、ないよな?
「それじゃ、パジャマも買ったことですし3人でどこか遊びに行きません?」
「お、いいですねー!それじゃあカラオケでも行きません?最近全然行ってないんで!」
「いいね小町ちゃん!歌ってスッキリしよう!」
「お、そうだな。じゃあ俺は帰るわ」
ごく自然な流れで自分だけ帰宅しようと試みる。
「どこいくのお兄ちゃん?」
小町に腕を掴まれる。ですよねばれますよね。小町に頼まれたら断れるわけもなく俺もついていくことになった。
「今日は色々有難うございました!それじゃあまた」
「いろはさん、また遊びましょうね!」
「じゃあな」
一色に別れを告げ、俺と小町は帰路につく。
あの後カラオケだけじゃ飽きたらず色んな所を連れまわされた。八幡のライフはもう0よ!
疲れはしたがとても充実した一日だと言える。たまにはこういうのも悪くないな。今日はよく眠れそうだ。
余韻に浸っていると小町とつないでいた手が少し強く握られる。
視線を移すと少しふくれっ面な小町が映った。
「どうした小町」
「………別に」
これは怒っているというよりかは拗ねているな。そうだとしたら大体理解できた。
「小町、ちょっと寄り道するか」
公園のベンチに小町が座り、足をぶらつかせている。
「ほれ」
「……ありがと」
自動販売機で買ってきたカフェオレを小町に渡す。俺は安心と信頼のマッ缶。
カコッという音をたてて蓋をあけ、口に流し込む。冷えた手と体が温まる。
一方小町はチビチビと口に含んでいる。表情はまだ暗い。
「……一色は少し小町に似ているな」
小町が驚いた表情で俺を見る。
この反応からして俺の推察は当たっているだろう。少し恥ずかしいが。
「俺は小町の兄貴で、小町は俺の妹だ」
「……当たり前じゃん」
そう言って小町は抱き着いてきて胸に顔を埋める。ゆっくりと優しく背中を撫でる。
「……また今度一緒に出掛けようね」
「……可愛い妹のお願いなら仕方ないな」
「お兄ちゃんは小町の事大好きだもんね!」
そう言って小町は胸から顔をはなし、花が咲いたような笑顔を見せる。
このままだと妹離れはまだまだ先になりそうだ。というか一生したくないまである。
1月の夜。吐く息は白く、黒い背景に星が輝く空。寒い夜程空が綺麗とどこかで聞いたような気がする。
だがマッ缶のおかげかそれは気にならず、繋がれた右手は温かかった。
完
乙です
毎回短いけどちょうどいい長さよね
もっと書いていただいてもよろしいのに
おつ
小町もいろはすも可愛い
凄く良かった
>>15
またいくつも書いてくれるらしいからそれでええやろ
乙です
おつ
毎回いい雰囲気で書くよな
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