美希「デスノート」 3冊目 (484)

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美希「デスノート」
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美希「デスノート」 2冊目
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以下、前スレ(2冊目)>>946からの続きとなります。

【同日夜・星井家のリビング】


(アリーナライブに向けたレッスンを終え、帰宅した美希)

 ガチャッ

美希「ただいまなのー。あー。クーラーすずし……」

 パーン! パンパンパーン!

美希「!? な、何!? ……く、クラッカー?」

菜緒「美希」

星井母「お誕生日」

星井父「おめでとう!」

 パチパチパチパチ……

美希「…………え?」

菜緒「何呆けた顔してるの? 美希」

美希「えっ。あ、いや」

星井母「ほら、早く着替えてきなさい。今日はママ、張り切って美希の好きな物ばかり作ったんだから」

星井父「まあ要するにおにぎりばっかってことなんだけどな」

星井母「あら。冷蔵庫にはいちごババロアも入ってるわよ?」

美希「ちょ……ちょっと待つの!」

菜緒「? どうしたの美希。ママが作ってくれたおにぎりといちごババロアに何か不満でもあるの?」

美希「それについては1ミリたりともないけど! でもどうしたのはこっちのセリフなの! ドッキリにしてもちょっと雑過ぎるって思うな!」

星井母「ドッキリ?」

星井父「別にドッキリじゃないぞ」

美希「えっ。いや、でも……」

菜緒「でも?」

美希「……ミキの誕生日、まだ全然先なんだけど……」

星井母「そんなこと分かってるわよ」

美希「へっ?」

星井父「おいおい、俺達が美希の誕生日を間違えるわけないだろ」

美希「……パパ?」

星井父「美希の誕生日は11月23日。美希が生まれてきてくれたことに感謝するために定められた国民の祝日だ」

美希「国民の祝日なのはその通りだけど定められた理由と感謝する対象が間違ってるの……って! 分かってるなら何でこんな……」

菜緒「美希。今日は何月何日?」

美希「? 7月23日……だけど」

星井母「つまり」

星井父「そういうことだ」

美希「いや全然分からないの!」

美希「分割バースデー?」

菜緒「そ。パパの提案でね」

美希「……パパの?」

星井母「ほら、美希。今年の誕生日の頃って……もうハリウッドに行っちゃってるでしょ?」

美希「あー……うん」

菜緒「だったら、去年までみたいに家族皆でお祝いとかはできないだろうから、美希がまだこっちにいるうちに、毎月23日ごとに分割して先にお祝いしちゃおう、って……今日、パパが突然言い出してさ」

美希「…………」

星井母「本当、何事かと思ったわよ。仕事中に急に電話してくるんだもの」

星井父「はは……すまんすまん」

美希「パパ……」

星井父「ま、そういうことだ。驚かせてごめんな。美希」

美希「……ううん。ありがとう。パパ。……ミキ、とっても嬉しいの」

星井父「……そうか。美希に喜んでもらえたなら……良かった」

美希「でも」

星井父「ん?」

美希「毎月23日って……なんか月命日みたいだね」

星井父・星井母・菜緒「…………」

美希「……空気読めなくてごめんなさいなの」

星井父「いや……それより早く食べよう。ママお手製のおにぎり」

星井母「そうそう。冷めないうちに召し上がれ」

菜緒「えへへ、じゃあ早速いただきまーす。さーて、どれにしようかな~っと」

美希「…………」

星井父「美希?」

美希「あ、いや……分割でお祝いをしてくれるのは嬉しいんだけど、ミキ、9月の半ばにはもう向こうに行っちゃうから……実質今日と来月しかないんだな、って思って……」

菜緒「あー……じゃあもうちょっと細分化する? 本当の誕生日は11月23日だから……これから1か2か3のつく日は全部やるとか」

美希「その気持ちは嬉しいけど、それだと今度はほぼ毎日になっちゃうって思うな」

星井父「…………」

菜緒「あっ。またキラ事件の特番やってる」

星井母「流石に今日みたいな日にまでキラ事件はちょっとね……菜緒、チャンネル変えてくれる?」

菜緒「ん」ピッ

美希「…………」

菜緒「あ、でもキラ事件といえば……パパって、この事件はもう担当してないんだよね?」

美希「!」

星井母「ちょっと菜緒。言ったそばから……」

星井父「……ああ。俺はもうずっと担当してない」

菜緒「そっか。良かったー」

星井父「? 良かった?」

菜緒「だって危ないじゃん。こんなわけわかんない事件の捜査なんてさ。もしパパに万が一の事があったら、私……」

星井父「……菜緒」

美希「ミキも、お姉ちゃんと同じ気持ちなの」

星井父「! 美希」

美希「パパが死んじゃったら、ミキ……もう生きていけないの」

星井父「…………」

星井母「長生きしなきゃね。あなた」

星井父「……ああ」

リューク「ククッ。流石の名演技だな。ミキ」

美希「…………」

美希(……別に演技なんかじゃないの。黙ってろなの死神)

美希(ミキはパパを殺さない。殺さなくてもLには十分勝てる)

美希(だってもうミキはLを……竜崎を殺せるんだから)

美希(後はただ時間が過ぎるのを待つだけ。今から一か月後、竜崎の名前をデスノートに書くまで)

美希「…………」

星井母「? どうしたの? 美希」

美希「え?」

菜緒「なんか、おにぎり手に持ったまま神妙な顔してるけど……」

星井母「もしかして、もうお腹いっぱいになったの?」

美希「……ううん。ママの作ってくれたおにぎり、すっごく美味しいから味わって食べてたの」

星井母「美希」

美希「だから……もっとたくさん食べてもいーい?」

星井母「もちろんよ。今日は美希のお祝いなんだから」

美希「えへへ。うれしいの」

菜緒「食べ過ぎてライブの衣装が着られなくなったー、とかは困るけどね」

星井母「ああ、そういえばもうすぐね。美希のアリーナライブ」

菜緒「私はもちろん行くけど……パパとママは大丈夫なの?」

星井母「私は行くわよ。もう有休取ってるし」

菜緒「おー。流石ママ」

美希「ママ、ありがとうなの。それにお姉ちゃんも」

星井母「美希の晴れ舞台だもの。当然よ」

菜緒「ねー。パパはどう?」

星井父「俺は……仕事の状況次第だが、ちょっと難しいかな」

美希「えー。ミキ、パパにも来てほしかったのにー」

星井父「……ごめんな。美希」

星井母「こればかりは仕方無いわよ。パパの仕事は不規則だから」

美希「ぶー……じゃあせめて、パパにはミキがステージの上でキラキラできるように祈っててほしいの」

星井父「……ああ。祈っておくよ。約束する」

美希「えへへ。ありがとうなの。パパ」

美希「…………」

美希(いつかミキが覚えた『不安』)

美希(ミキの中で、それまでの『日常』が少しずつ『非日常』に変わっていって……それまで当たり前のようにあった『日常』が、影も形も無くなってしまうんじゃないかっていう……『不安』)

美希(でも)

美希(もう、そんな『不安』は今のミキの中には無い)

美希(パパがいて。ママがいて。お姉ちゃんがいて)

美希(そしてもちろん……765プロの皆がいて)

美希(そしてその中に、ミキもいる)

美希(今ミキが生きているこの『日常』は、この先何があっても変わりはしない)

美希(今は……胸を張ってそう言える)

美希「…………」

星井父「…………」

星井父(なあ、美希)

星井父(俺は一体、どこまでお前のことを分かってやれていたのかな)

星井父(俺は全く知らなかった。お前が前のプロデューサーにセクハラされていたことも。クラスの男子から性的な言動でからかわれたりしていたことも)
    
星井父(今までずっと、誰よりも……お前の事を理解していたつもりだったのに)

星井父(父親失格、だな)

星井父(…………)

星井父(なあ、美希)

星井父(もし本当にお前がキラなら)

星井父(前のプロデューサーの件、クラスメイトの男子の件……俺がちゃんと気付いてやれていたら)

星井父(お前の話を、ちゃんと聞いてやることができていたなら)

星井父(あるいは……)

星井父「…………」

【同時刻・キラ対策捜査本部(都内のホテルの一室)】


(他の捜査員の帰宅後、Lとワタリの二人だけが捜査本部に残っている)

(二人は、星井父の身に着けたマイクが拾う星井家の会話の音声を聴いている)

L「…………」

ワタリ「…………」

美希『えー。ミキ、パパにも来てほしかったのにー』

星井父『……ごめんな。美希』

星井母『こればかりは仕方無いわよ。パパの仕事は不規則だから』

美希『ぶー……じゃあせめて、パパにはミキがステージの上でキラキラできるように祈っててほしいの』

星井父『……ああ。祈っておくよ。約束する』

美希『えへへ。ありがとうなの。パパ』

ワタリ「最後の家族団欒……ですかね」

L「…………」

L(合宿以降、星井係長には、『今まで以上に愛情を持って星井美希に接するように』と指示していた)

L(それは、星井美希に対する星井係長の態度を訝しまれないようにするためであり……)

L(また同時に、星井美希に父親である星井係長を殺すことを躊躇させ、それによって他の捜査員をも殺させないようにするためでもあったが……)

L(今日の星井係長の行動原理は……おそらくもっとシンプルなものだ)

L(それはつまり……『娘の誕生日を祝う機会を、もう持てないかもしれないから』)

L(おそらくは、ただそれだけの……)

L「……ワタリ」

ワタリ「? どうしました? 竜崎」

L「……いや……」

ワタリ「…………」

L「…………」

ワタリ「……正義でも、悪でも」

L「! …………」

ワタリ「私はお前の味方だよ」

L「……ありがとう。……ワタリ」

一旦ここまでなの


ワタリかっけぇ

おつおつ

わざわざ言うのはそう思ってるからこそともとれるな


敬語じゃないワタリは初めて見たかも

【翌日・アリーナ/ライブステージ】


【アリーナライブまで、あと8日】


(ライブ本番と同じ会場での全体練習を終えたアイドル・ダンサー一同)

P「――というわけで、次にこの会場に来るのは今日から一週間後、本番前日のリハーサルの時になる。それまで各自、今日実際にこのステージで歌い、踊って味わった感覚を忘れないようにしていてほしい」

アイドル・ダンサー一同「はい!」

P「俺の方からはそれくらいかな。じゃあ律子、最後の締めを頼む」

律子「分かりました。皆、泣いても笑ってもあと8日よ。これまで何度も言ってきた事だけど、後は本当に体調だけ注意して、万全の状態で本番を迎えられるようにする事」

律子「それから、技術的な不安要素はもうほとんど解消されてると思うけど……本番で少しでも高いパフォーマンスを発揮できるよう、各自、向上心は最後まで持ち続けるようにね」

アイドル・ダンサー一同「はい!」

律子「よし。じゃあ今日はここまで。皆、クールダウンはしっかりね」

アイドル・ダンサー一同「ありがとうございました!」

(クールダウンをしながら、リラックスした時間を過ごしているアイドル・ダンサー一同)

奈緒「は~。もうあと8日で本番なんかー……。うー、意識したらアカンのやろけどやっぱ緊張するわ~。私、ちゃんと踊れるやろか……」

美奈子「大丈夫だよ。これまでずっと頑張ってきたじゃない」

奈緒「美奈子」

星梨花「そうですよ、奈緒さん! わたし達なら絶対大丈夫です!」

百合子「確かに私も怖いですけど……もうここまできたら、今まで自分達がやってきたこと、信じるしかないのかな、って……」

奈緒「星梨花。百合子」

杏奈「杏奈も……今まで皆で積み重ねてきた努力、信じたい……です」

奈緒「杏奈。……せやな」

美奈子「奈緒ちゃん」

奈緒「――私としたことが、ガラにもなく、ちょっと弱気になってもうてたわ。皆、堪忍な」

志保「…………」

奈緒「志保?」

志保「えっ。あ、はい。何ですか? 奈緒さん」

奈緒「いや、なんかさっきから妙に大人しいなあ思て。もしかして、どっか具合でも悪いんか?」

志保「……いえ。そういうんじゃないんですが……ただ……」

奈緒「ただ?」

志保「今日、初めてこのステージに立って……分かったんです」

志保「このステージは、今立っているこの場所は……私が思っていたよりも、ずっと重たかったんだって……」

奈緒「志保」

星梨花「志保さん」

志保「…………」

可奈「わっ!」ドンッ

志保「きゃっ!」

(志保の背中を後ろから押して驚かせた可奈)

志保「……か、可奈!?」

可奈「えへへ~、びっくりした? 志保ちゃん」

志保「そ……そりゃびっくりするに決まってるじゃない! 何考えてるの? 大体あなたはいつもいつもそうやって――」

可奈「…………」ニヤニヤ

志保「? な、何よ……その笑い」

可奈「いや、いつも通りの志保ちゃんに戻ったな~って思って」

志保「!? な……」

可奈「いいじゃん、それで。アリーナだろうがぶどーかんだろうが、いつも通りの志保ちゃんでさ」

志保「! ……可奈……」

可奈「確かに、ステージの持つ意味は人それぞれかもしれないけど……でも、私達がやることは別に変わらないって思うよ」

可奈「いつも通り、今まで通りに……全力で歌って、踊って、笑う」

可奈「それが“アイドル”でしょ?」

志保「! …………」

奈緒「ははっ。こりゃ一本取られたな。志保」

可奈「って、まあ私達は今回は歌わないんだけど――」

志保「…………」ムニィ

可奈「ひゃうっ!?」

(無言で可奈の両頬を引っ張る志保)

志保「…………」グイグイ

可奈「ひょ、はれてはれてひほひゃん! ほっへほひひゃう!」

志保「……うるさい」グイグイ

可奈「ひ、ひほひゃ~ん」

 アハハハハ……

(ダンサー組の様子を少し離れた位置から眺めている美希と春香)

春香「……ダンサー組の皆も、良い感じにリラックスできてるみたいだね」

美希「一部、ちょっとリラックスし過ぎてるような気もするけどね。可奈と志保とか。……って、噂をすれば」

可奈「星井先輩!」タタッ

美希「さっきの間奏のトコ、手を上げるタイミングちょっと遅れてたね」

春香「開口一番でダメ出し!?」

可奈「ありがとうございます! 星井先輩!」

春香「可奈ちゃんも可奈ちゃんで当たり前のように受け入れてるし……まあいいけど……」

美希「で、何なの? 可奈」

可奈「はい。実はその……これ」スッ

(小さなパンダのぬいぐるみを差し出す可奈)

美希「ん?」

春香「あ、それ……」

可奈「こ……これにサインしてください!」

美希「サイン?」

可奈「はい! 天海先輩には、合宿の時にこれと色違いのにサインして頂いたんですけど……星井先輩にはまだして頂いていなかったので」

美希「…………」

可奈「ダメ……でしょうか?」

美希「……別にいいけど。サインくらい」

可奈「! ありがとうございます! 星井先輩!」

春香「良かったね。可奈ちゃん」

可奈「はい! 私、お二人から頂いたサイン、一生の宝物にします!」

春香「一生って……そんな大げさな」

可奈「大げさなんかじゃないですよ! お二人には本当にお世話になりましたし……それに……」

美希「? それに?」

可奈「お二人とも、もうトップアイドルですから!」

美希・春香「!」

可奈「そんなお二人から頂いたサイン……一生大事にしないと罰が当たっちゃいます!」

美希「……ミキ達は、まだトップアイドルにはなってないの」

可奈「え? でも……」

春香「うん、そうだね。まあでも、アリーナライブの結果次第……ってとこではあるかな?」

可奈「天海先輩」

美希「……そーゆーコト。だから、可奈」

可奈「! は、はい」

美希「ちゃ~んと、その目で見ててね。ミキと春香が―――トップアイドルになるトコロ」

可奈「――はい! 任せて下さい! 矢吹可奈、必ずこの目で見届けてみせます!」

可奈「お二人がトップアイドルになる、その瞬間を!」

美希「あはっ。期待してるの」

春香「責任重大、だね。可奈ちゃん」

可奈「はいっ! 頑張ります!」

(アイドル・ダンサー一同の様子を遠巻きに見守りつつ、談笑している社長、小鳥、プロデューサー、律子の四人)

社長「――ああ、そうだ。音無君。今ちょっといいかね?」

小鳥「あ、はい。何ですか? 社長」

社長「いや何、ちょっとね。……おーい。天海君」

春香「! はい」

(美希と可奈の所から、小走りで社長の方に駆け寄ってくる春香)

春香「……何ですか? 社長さん」

社長「少し話がある。ついてきてくれ。音無君もだ」

春香「は、はい」

小鳥「?」

(三人はそのままステージの裏手へと消えていった)

P「……何だ? 社長と音無さんと春香って……あまり見ない組み合わせだけど」

律子「そうですね。まあでも春香はライブのリーダーですし、小鳥さんもライブ当日、裏方の事務仕事がありますから……その打ち合わせとかじゃないですか?」

P「……ああ。なるほど。そうかもな」

P(それならむしろ、俺や律子もいる場で話した方がいいように思えるが……まあ一応、Lには後で報告しておくか)

P(それにどのみち、今日はLと連絡を取らないといけないしな)

P(『明日』の件について)

P「…………」

お、来てる

(ステージの裏手)

社長「……よし。ここなら他の皆には聞かれまい」

小鳥「あの、社長。一体何のお話で……?」

春香「……あっ」

社長「気付いたかね。天海君」

春香「もしかして、黒井社長の件……ですか?」

小鳥「! ああ」

社長「そういうことだ。今からちょうど一年くらい前……ファーストライブの直前の頃だったな。私と音無君の会話を偶然天海君に聞かれてしまい、天海君にだけは全てを打ち明けることとしたのは……」

春香(……偶然じゃなかったんだけどね)

小鳥「そっか。そういえば、今でも春香ちゃん以外の子達は知らないのよね」

社長「うむ。時が来れば他の皆にも改めて話すつもりだったが……そうする前に、黒井の方から一連の件についての謝罪の申し出があったからな」

春香「…………」

小鳥「確か……“765プロ潰し”計画に関与していたアイドル事務所の関係者達と、うちの前のプロデューサーさんが相次いで亡くなったのを見て……『765プロを潰そうとしていたから天罰が下った』と思った……っていうのが理由でしたよね」

社長「そうだ。まああれは実際、不可思議な出来事だったからな……黒井がそのように思っても無理は無い。……いや、というよりも……私もそうだったのではないかと思っているくらいだ」

小鳥「! ……じゃあ本当に『天罰』が下ったと……?」

社長「うむ。そうでも考えなければ説明がつかないと思わんかね? 狙いすましたかのように、我々を陥れようとしていた者達ばかりが相次いで死んでいった、というのは……」

春香「…………」

小鳥「それはまあ……そうかもしれませんね。あ、でも実は私、そういう意味では……前のプロデューサーさんはキラに殺されたんじゃないか、って思ってるんですよ」

春香「!」

社長「キラに……だと?」

小鳥「はい。だって他のアイドル事務所の人達は皆、事故死や自殺で亡くなったのに、うちの前のプロデューサーさんだけは心臓麻痺だったじゃないですか。しかも、元々心臓に病気があったとかでもないのに」

小鳥「そして彼が亡くなってすぐ後に、犯罪者を悉く『心臓麻痺』で殺すキラが出現した……これって、偶然の一致にしては出来過ぎじゃないですか?」

社長「いや、だが前のプロデューサーは犯罪者というわけではなかっただろう。もっとも、我々にとっては犯罪者以上に厄介な存在だったが……」

社長「むしろそういう意味では、彼を殺す動機は我々765プロの人間にしか無かったともいえ……君の推理を前提にすると、我々の中にキラがいる、という事になってしまわんかね?」

小鳥「そ、そこはほら……あれですよ。キラがなんかすごい能力で、私達が彼に困らされているのに気付いてくれてですね……」

社長「肝心な所の説明が雑だな……」

小鳥「でも実際に、二人組の刑事さんがキラ事件の捜査でうちの事務所に来て、前のプロデューサーさんの事を色々聞いてきたことがあったじゃないですか」

社長「ああ。それは確かにあったが……では君は、その時に今のような推理を刑事達に伝えたのかね?」

小鳥「もちろん伝えましたよ。でも結局、キラは今でも捕まっていないので……そう考えると、やっぱりハズレだったってことなんですかね……」

社長「まあ……やはり犯罪者だけを狙って裁いているキラが、わざわざ我々の手助けだけをしてくれた、というのも変な話だからな」

小鳥「う~ん。個人的には良い線いってると思うんですけどねえ」

春香「…………」

春香(……ここまで材料が揃ってるのに、社長さんも小鳥さんも『765プロの中にキラがいるかもしれない』とは微塵も思わないんだよね)

春香(それは言うまでもなく……私達、765プロの仲間に対する絶対的な『信頼』があるから)

春香(だからこそ……私はこんな765プロが大好きなんだ)

春香(765プロの皆を守るためなら……私は神にでも悪魔にでもなる。何百万人殺したって構うもんか)

春香(何人たりとも、765プロに害をなすような者達は……絶対に許さない)

春香「…………」

春香「……でも、社長さん。何で今頃になって黒井社長の話を?」

社長「ああ、すまんすまん。少し話が逸れてしまったな。……先ほど音無君が述べてくれたが、“765プロ潰し”計画に関与していたアイドル事務所の関係者達と、うちの前のプロデューサーが相次いで亡くなったのを見て、黒井は私に一連の件の謝罪を申し出てきた」

春香「…………」

社長「それに留まらず、当時961プロにいた今のプロデューサー……○○君をうちに移籍させると申し出た上、さらに例の投資会社を通じて行っていた出資も継続し、それまでの妨害工作によってうちに発生した損害も全部補填するとまで言ってきた。……全て、君達も知っての通りだ」

社長「そして現在、961プロはおろか、それに追従していた他の事務所からも……我々765プロに対する妨害行為等は一切行われていない」

社長「また天海君をはじめ、うちのアイドル諸君も一気に実力を伸ばし……今では、もはやトップアイドルといっても過言ではない地位にまできている」

春香「…………」

社長「だからこそ、今ここで……私は君にお礼を言っておきたかったのだよ。天海君」

春香「え? お……お礼……ですか?」

社長「そうだ。君は一年前、図らずも黒井が画策していた“765プロ潰し”計画の存在を知った」

社長「しかしそれでも君は、『今は下手に動かず、ファーストライブに全力を注いでほしい』という私の考えを尊重してくれ……その辛い気持ちを胸に秘めたまま、ファーストライブを成功させ……さらには他のアイドル諸君をここまで導いてくれた」

社長「……本当に感謝している。どうもありがとう」

春香「そ、そんな。私は別に、何も……」

社長「……なぜ、プロデューサー……○○君は、君を今回のライブのリーダーに選んだんだと思う?」

春香「え? ……それ、善澤さんからも合宿の時の取材で同じこと聞かれましたけど……」 

春香「……私が、765プロの皆のことが大好きだから……でしょうか」

春香「善澤さんにも、同じ答えを言いましたけど……」

社長「ふむ。確かにそれもあるだろうな。だが……もっと大きな理由があると私は考える」

春香「え?」

社長「それは……765プロの皆が天海君のことを大好きだから、だよ」

春香「! …………」

社長「何よりも、誰よりも……765プロを、765プロの仲間の皆のことを大好きでいてくれる天海君だからこそ……他の皆もまた、君のことが大好きなのだよ」

社長「そしてそれこそが、○○君が君をライブのリーダーに選んだ最大の理由であると私は考える。……まあ、彼に直接確かめたわけではないがね」

社長「だが、765プロの皆が君のことを大好きだというのは紛れもない事実だ。もちろん、私や音無君も含めてね」

小鳥「ええ。私も、毎日頑張っている春香ちゃんのことが大好きよ」

春香「社長さん。小鳥さん」

社長「だから……天海君」

春香「は、はい!」

社長「ここからは、『お礼』ではなく『お願い』になるのだが――……」

社長「君が大好きな皆のために。そしてまた、君のことを大好きな皆のために。アリーナライブのリーダーとして、最後まで……皆を引っ張っていってほしい」

社長「どうかよろしく頼むよ」

春香「……はい! 天海春香、最後まで全力で皆を引っ張ります!」

小鳥「頑張ってね。春香ちゃん。私も、最後まで皆を裏から支えるから」

春香「ありがとうございます。小鳥さん」

社長「よし。では戻ろうか。皆の待つステージへ」

春香「はいっ!」

(ステージ上で話している美希と可奈)

可奈「……あっ。天海先輩達、裏手の方から戻って来ました。何の話してたのかな……」

美希「…………」

可奈「? どうしたんですか? 星井先輩」

美希「ああ……うん。社長達、やっぱり可奈をダンサーから外そうって話をしてたのかなって思って」

可奈「えぇっ!?」

美希「勿論冗談なの」

可奈「や、やめて下さいよ! 星井先輩! しかも『やっぱり』って!」

美希「あはっ。ごめんね可奈。でも大丈夫なの」

可奈「え?」

美希「ミキ的には、今の可奈がメンバーから外されるようなことは絶対無いって思うから」

可奈「星井先輩……」

美希「可奈」

可奈「は、はい」

美希「……ミキも、自分がやれることをやるの。ライブ、頑張ろうね」

可奈「はい!」

春香「お待たせ~って、別に待ってなかったかもだけど……何の話してたの?」

美希「春香。まあ、ちょっとね」

春香「? まあいいや。……それより美希。可奈ちゃん」

美希・可奈「?」

春香「……私も、自分がやれることをやるからさ。ライブ、頑張ろうね」

美希・可奈「!」

春香「?」

美希「……あはっ」

可奈「……ふふっ」

春香「? な、何? 何で笑うの? 私なんか変な事言った?」

美希「ううん。何でもないの。ねー、可奈」

可奈「……はい! 星井先輩!」

春香「?」

可奈「…………」

可奈(早く私もなりたいな)

可奈(星井先輩や天海先輩みたいな……誰もが憧れる、素敵なアイドルに!)

美希「…………」

【三十分後・アリーナ近くの川沿いの土手】


(夕焼けの中を並んで歩くアイドル一同、プロデューサー、律子)

(社長と小鳥は一足先に事務所に戻っており、ダンサー組もスクールに戻っている)

律子「あっ」

(夕焼けに見惚れ、思わず足を止める律子)

(他のメンバーもそれに合わせて足を止め、土手の上から皆で並んで夕焼けを眺める)

P「陽が、沈むな……」

春香「キラキラですね」

律子「そうねえ」

雪歩「ずーっと見てると、光に包まれているみたいで素敵だね」

春香「あっ。これ……なんだかライブのときのサイリウムみたいだね」

真「あっ、確かに!」

美希「あれもすっごくキラキラなの」

春香「ぶふっ」

美希「ちょっと」

春香「き、キラキラ……くくっ」

美希「……その身内ネタみたいなノリやめるの。っていうかさっき自分でも言ってたくせに……」ボソボソ

千早「? どうしたの? 春香。美希」

春香「なんでもないよ。長い髪が夕焼けに映えて美しいね。千早ちゃん」

千早「唐突に何を言っているのよ……」

響「自分、時々あれ海みたいだなーって思うぞ」

亜美「やよいっち! ウェーブ!」

やよい「う、ウェーブ!」

真美「ウェーブ! あははっ!」

貴音「ならば……すぽっとらいとは、星空、といったところでしょうか」

あずさ「じゃあ私達、光の海を渡っていくのね」

伊織「にひひっ。あずさに舵は任せられないわね」

あずさ「あ、あら~」

 アハハハハ……

春香「光の海、か……」

千早「光の先には、何が見えるのかしら」

春香「光の先……素敵な所だといいなあ」

P「大丈夫さ。皆なら、きっと……」

美希「…………」

(夕焼けを見た後、再び歩き出した一同)

(その最後方でプロデューサー、美希、春香の三人が並んで歩いている)

P「……しかし、もう8日後とはな。なんか実感湧かないな」

春香「えー? そうですか? 私は今日、本番と同じステージに立ったことで一気にテンション高まりましたよ!」

P「……何か、特に感じ入ることでもあったか?」

春香「そうですねぇ。月並みですけど……『全員で走り抜きたい。今の全部で、このライブを成功させたい』って思いました!」

美希「げふっ!」

(飲んでいたドリンクを盛大に噴き出す美希)

春香「きゃあ! ど、どうしたの美希!?」

美希「……ちょ、ちょっと気管に入って、ムセちゃって……だ、大丈夫なの。けほっ」

P「おいおい、気を付けろよ。ほら」スッ

(美希にポケットティッシュを差し出すプロデューサー)

美希「……ありがとうなの。プロデューサー」

(ティッシュを一枚だけ取り、口元を軽く拭う美希)

P「そういえば、美希は一昨日にも一人で下見に行ってたよな。その時と比べてどうだった?」

春香「えっ。そうだったの? 美希」

美希「あ、ああ……うん。アリーナってどんな感じなのか、ちょっと全体練習の前に見ておきたくて」

春香「えー、だったら私も誘ってくれたら良かったのにー」

美希「それも考えたんだけど、春香、一昨日はライトくんの家庭教師の日だったから」

春香「あー、そっか。ちぇっ。受験生は辛いなあ」

美希「あはは。……で、一昨日の時と比べて、だけど……ミキ的には、やっぱり皆で曲を合わせた今日の方がライブ感あったかな」

美希「一人で観た時のステージは、しぃんとしてて……なんだか物寂しかったの」

P「まあそういうもんかもな。アイドルがいて、お客さんがいてこそのステージだからな」

春香「じゃあ本番は、また今日とは全然違う景色に見えるんでしょうね。あの観客席がお客さんでいっぱいになるわけだから……」

P「ああ。まさにさっき皆で話していたように、さながら光の海に見えるだろうな」

春香「えへへっ。あー、楽しみだなぁ。ねっ。美希!」

美希「うん! もう本番が待ちきれないってカンジなの」

春香「だよねー! あははっ」

P「…………」

春香「? プロデューサーさん? どうかしました?」

P「ん? ああ、いや……まあそうは言ってもまだあと8日あるんだ。律子も言ってたけど、本当、体調管理だけはしっかりな」

春香「はい! それはもちろん!」

美希「任せてなの。プロデューサー」

P「……そういえば、美希は明日は例のファッション誌の撮影だったな。弥さんと一緒の」

美希「うん」

P「スケジュールには余裕を持たせてあるが、レッスンに打ち込み過ぎて遅刻したりしないようにな」

美希「もー、そんなの言われなくても分かってるの。プロデューサーは心配し過ぎって思うな」

P「……はは、すまんすまん。じゃあ俺は前の現場から直接向かうから、撮影スタジオの正面玄関前で待ち合わせな」

美希「りょーかいなの」

春香「美希、頑張ってね。私を蹴落としてまで掴んだ海砂さんとの共演のお仕事なんだから、しっかりね」

美希「なんかすごく恨みがましい励ましの仕方なの! しかもミキ別に蹴落としてないし!」

春香「ああ、そうだよね。このお仕事は最初から美希って決まってて、私なんか完全に選外だったもんね……」

美希「……プロデューサー。春香がとってもめんどくさい女になっちゃってるの」

P「そう拗ねるな、春香。……また今度、お前に相応しい仕事を取って来てやるから」

春香「! 本当ですか!? プロデューサーさん!」

P「……ああ。約束するよ」

春香「えへへっ。約束ですよ! 約束!」

P「…………」

美希「春香は、明日は午前中にレッスンした後はオフなんだっけ?」

春香「うん。清美さんとクッキングスクールの体験入門に行く予定なんだ」

美希「へぇ、そうなんだ。そういえば、前にも二人でお菓子作りしたって言ってたね」

春香「そうなの。清美さん、色んなことに興味を持って取り組みたいって言ってて。すごく向上心がある人なんだ」

美希「じゃあ、また機会があったらミキも誘ってね。……あ、みそっかすにして拗ねちゃうとアレだから、海砂ちゃんも」

春香「あはは。そうだね」

P「…………」

【同日夜・765プロ事務所からの帰路】


(アリーナから戻った後、765プロのメンバーは事務所内でミーティングを行ってから解散となった)

(美希と春香は、他のアイドル達と別れた後、二人で一緒に帰っている)

美希「……そういえばさ、春香」

春香「ん?」

美希「今日、アリーナでの全体練習の後……社長と小鳥と、三人で何話してたの? なんかステージの裏手の方に行ってたよね」

春香「ああ……あれだよ。黒井社長の件」

美希「黒井社長の……? ああ、そっか」

春香「そういうこと。一応、アイドルの中では私しか知らないってことになってるからね。一連の“765プロ潰し”計画の件は」

美希「でも……何で今頃になって? 最近は765プロに対しては別に何もしてないよね? 黒井社長って……」

春香「うん。私が脅迫してるからね」ニコッ

美希「そんな笑顔で言われても」

春香「で、何の話だったかというと……社長さんからお礼を言われたんだ」

美希「お礼?」

春香「うん。“765プロ潰し”計画の存在を知っても、下手な行動には移さずにファーストライブを成功させたから、って……まあこれは、別に私一人の功績でもなんでもないんだけど……」

春香「それと後、『アリーナライブのリーダーとして、最後まで皆を引っ張っていってほしい』っていうお願いもされたよ」

美希「ふぅん。そういう話だったんだ。ミキ、てっきり春香がライブのリーダークビにされたのかなって思っちゃった」

春香「だったら流石にもっと落ち込むよ! そこまで強メンタルじゃないからね私!?」

美希「あはっ。冗談なの」

春香「もー……あ、あと、小鳥さんが面白いこと言ってたよ」

美希「? 何?」

春香「『前のプロデューサーさんはキラに殺されたんじゃないか』って」

美希「……マジで?」

春香「マジで。ほら、私が事故死や自殺で殺した他のアイドル事務所の関係者と違って、前のプロデューサーさんだけは美希が心臓麻痺で殺してるからさ。しかもキラ事件が始まる直前に」

美希「あー……しかもその事で、夜神総一郎と……模木完造? だっけ。その二人の刑事もうちの事務所に来てたもんね。だとすれば……確かに、それくらいは考えついてもおかしくないの」

春香「まあでも、結局は小鳥さんの推理もそこ止まりで……『765プロの中にキラがいるかもしれない』とは全く考えなかったみたいだけどね」

美希「…………」

順調にフラグを立てる春香

春香「それに今思えば……自分でやっといて言うのもなんだけど、“765プロ潰し”計画の主要人物ばかりが事故や自殺で次々と死んでいった、っていうのも相当に怪しいよね。当時の765プロ関係者の中で、“765プロ潰し”計画の事を知っていたのは社長さんと小鳥さんを除けば私しかいなかったんだから」

美希「それは……そうだね」

春香「まあそれでも、社長さんや小鳥さんから私に対する疑いが全く掛けられなかったのは……やっぱり、私達765プロを支えている“絆”ゆえだよね。何があっても絶対に揺るがない『信頼』っていうか」

美希「……うん」

春香「だからこそ、私は……765プロに害をなそうとする者、なそうとした者は絶対に許さない。まずは“償い”の完了……アリーナライブの成功後、黒井社長を必ず殺す」

美希「…………」

春香「その後は……トップアイドルとなった私達を実力以外の手段を使って陥れようとする者が現れたら、その都度、確実に殺していく」

春香「害虫の駆除は、早ければ早い方が良いに決まってるんだから」

美希「…………」

春香「? 美希? どうしたの?」

美希「ううん。なんでもないの。じゃあそっちの方は春香に任せるね。ミキはミキで、これまで通り、犯罪者裁きを続けていくから」

春香「うん。そうだね。これからも二人で一緒に頑張っていこう」

春香「お互いの“使命”と“理想”の実現に向かって!」

美希「はいなの! じゃあね、春香。また明日、レッスンで」

春香「うん。またね、美希」

(春香と別れた美希)

美希「…………」

美希(黒井社長を殺す時期は……春香を上手く誘導して、もうちょっと先延ばしにさせないといけないな……)

美希(ノートに竜崎の名前を書くまでは、下手な行動を起こすのは危険なの)

美希(……まあでも、それは別に大した問題じゃないか)

美希(『やっぱりアリーナライブ直後のタイミングだとLに怪しまれるかもしれないから、もう少し後にした方が良い』とでも言えば済む話)

美希(春香は基本的に、ミキの意見は聞いてくれるからそれで多分大丈夫なの)

美希(……まずは8日後のアリーナライブ。その成功によって、ミキ達は名実ともにトップアイドルとなる)

美希(そしてその数週間後、ミキが竜崎の名前をデスノートに書く)

美希(それから23日後に竜崎は死ぬ。……ミキが、遠い空の下にいる頃に)

美希(竜崎が死ねば、きっと春香は悲しみに暮れる。そしてリュークも言っていたことだけど……おそらく一度は、春香はミキを疑う。『ミキが竜崎を殺したんじゃないか』って)

美希(でもミキが自分の口ではっきりと否定すれば、春香がそれ以上ミキを疑う事は基本的には無いはず)

美希(ただそうは言っても、黒井社長を殺すタイミング次第では……もし竜崎が死んだ直後に『そろそろ黒井社長を殺したら?』なんて春香に言おうものなら、それはミキが竜崎を殺したと言うようなもの……)

美希(だからミキは、竜崎の名前をデスノートに書いた直後のタイミングで、春香に黒井社長を殺させるように誘導する)

美希(ノートに名前を書かれても、そこから23日間は死なずに生きている……それなら、竜崎がまだ生きている間に春香に黒井社長を殺させておけば……竜崎の死後、この事でミキが春香に怪しまれることは絶対に無い)

美希(それはつまり、春香のミキに対する疑念を完全にゼロにできるというコト……)

美希「…………」

美希(……大丈夫なの。アリーナライブ……竜崎……春香……黒井社長……必ずそうなる自信があるの)

美希(そして、始まる――キラの世界)

一旦ここまでなの

おつー

思わぬところに落とし穴だゾ


ところで気になるのはダンサー組がここにきて出番増えてきたけど何かあるのか?

おつ
出番云々はあまり関係ないと思う
書き手側の確認もあるんじゃない?

乙。やっぱりデスノート使うと邪悪に染まっていくんだな


今のとこL側優勢っぽいけど、さて…

【一時間前・都内某駅近くのホテルの一室】


(集合しているL、月、海砂、清美の四人)

月「――以上が作戦当日、つまり明日の段取りだ。ここまでは前に話していた内容とほぼ同じなので特に問題は無いと思う」

月「そしてここからが新しい伝達事項になる。よく聞いておいてくれ」

海砂・清美「……………」

月「まず、明日の撮影全体を通じてだが……ミサと星井美希には二人で同じ更衣室を使ってもらうようにした」

海砂「! そうなの?」

月「ああ。同じ事務所の者同士ならともかく、別の事務所のアイドル同士の場合、普通は別々の部屋を使うらしいが……竜崎が上手く調整してくれた」

海砂「へーっ。流石、『芸能界にも顔が利く』って言ってただけのことはあるわね。やるじゃん」

L「……どうも」

月(もっとも実際は、765プロのプロデューサーが、出版会社の担当者に『今回の二人のアイドルは元々友人同士だから、同じ部屋にした方が適度にリラックスできて撮影も上手くいくと思う』などと伝えて、調整してくれたわけだが……それもL……竜崎がその旨の指示を出す前に)

月(こちらの指示を先読みしての判断と行動……やはりあの男は使える。あれなら明日、随時変動する現場の状況に応じて臨機応変な対応を取ることも十分可能だろう)

海砂「でもさ、ライト」

月「ん?」

海砂「何で、あえて同じ部屋にしたの? ミサが美希ちゃんのノートを押さえる間は、765プロのプロデューサーさんが美希ちゃんを見張ってくれるって話だったけど……もし何か手違いがあって、ミサがノートを探してる間とかに美希ちゃんが部屋に戻って来ちゃったらまずくない?」

月「いや、いずれにしても、ミサにノートを押さえてもらう場所は星井美希が使う更衣室になるから、その危険は別室でも同室でも変わらないよ。それなら万が一鉢合わせたとしても、まだ同室の方がとっさに誤魔化せる可能性が高いだろ?」

海砂「あー、そっか。お互い違う部屋だったら、うっかり鉢合わせちゃった時に『何でこの部屋に居るの?』ってなっちゃうもんね」

月「そういうことだ。それに別室の場合だと、『ミサが星井美希の使う更衣室に出入りする』という工程が必然的に発生する。星井美希本人はもちろん、その他のスタッフであっても……その瞬間を見られたらアウトだ」

月「撮影現場にいる人間で、今回の作戦の事を知っているのはミサと765プロのプロデューサーだけだからね」

海砂「確かに……」

清美「その点、自分も使っている更衣室なら何ら人目を気にすることなく、当たり前のように部屋を出入りすることができる……」

月「そう。そして部屋に入った後は普通に中から施錠しておけばいい。そうすれば仮にノートを探している間に星井美希が戻って来ても、彼女の所持品を元の状態に戻すくらいの間は作れるだろう」

月「また監視カメラは更衣室のみならず建物全体にわたって取り付けている。だからもし星井美希が突然部屋に戻って来るような事態になっても、ミサにはこちらからすぐに連絡できる」

海砂「なるほどね。……って、『監視カメラ』で思い出したんだけど……ミサと美希ちゃんの着替えを監視カメラで観るのはライトだけで、竜崎さんは観ないのよね?」

L「はい。私がミサさんの着替えを観たりしたら、月くんにキラの力で殺されてしまいますから」

月「……いくらなんでもそんなことに能力は使わないよ」

海砂「そんなことって……ひどっ」

L「ただ更衣室には監視カメラとあわせて盗聴器も設置する関係上、更衣室内の音声は私も聴かせていただきますので……その点だけはご了承下さい」

海砂「それはいいけど……でも、ライトは美希ちゃんの着替えも観るってことよね……うーん、いくらライトにその気は無いって分かってても、正直ちょっとフクザツかも……美希ちゃん、まだ高1なのに私より全然スタイル良いし……」

月「ミサ。今回の監視対象は星井美希だ。ノートを押さえるのが最優先事項なのは言うまでもないが、それ以外でも何か不審な動きが無いかは常にチェックしておく必要がある。全てはキラ復活のため……僕達の理想の世界の実現のためだ」

月「君にとっては辛い事かもしれないが……どうか分かってほしい」

海砂「……うん。分かってる。ライトがキラとして復活するためだもんね。それに美希ちゃんも裸になるわけじゃないし……」

月「ミサ」

海砂「分かった。ミサ、もうワガママ言わないよ。変な事言って困らせてごめんね。ライト」

月「いや、いいよ。こちらこそ分かってくれてありがとう。ミサ」

海砂「ライト……」

L「…………」

清美(健気ね、海砂さん……)

月「そして次に、ミサに星井美希のノートを押さえてもらうタイミングだが……これは星井美希の最後の撮影中とする」

海砂「最後……でいいの?」

月「ああ。ノートの内容が確認できたら、ミサには出来るだけすぐにスタジオから出てもらいたいからね。いくらノートを元の位置に戻したとしても、些細な事から怪しまれないとも限らない……ましてや向こうは勘の鋭い天才アイドルだ」

海砂「ライト……ミサの事、そんなに心配してくれているのね」

月「当然の事だよ。ミサ」

海砂「ライト……」

月「だがそうは言っても、まだ星井美希の撮影が続いている中で突然ミサが帰ってしまうと、それはそれで不審に思われる可能性がある。いくら適当な理由をでっち上げたとしてもね。だから星井美希の分も含め、予定されていた全ての撮影が済んだ後に、自然なタイミングでミサにはスタジオから出てもらう。……それでいいね? ミサ」

海砂「うん。大丈夫だよ。ライト」

月(星井美希の洞察力、観察眼は侮れない……ノートの確認後、ミサの態度、挙動に僅かでも変化が生じた場合……それに勘付かれないとも限らない)

月(ゆえに、ノートの確認後にミサを長く星井美希の傍に留まらせておくのは危険……その時間は可能な限り短くなるようにしておきたい)

月(もちろん、ノートの内容次第ではあるが……)

清美「……海砂さんはそれでいいとしても、星井さんはどうするの? 撮影が終わった後、そのまますぐに帰られてしまうと困るのでしょう?」

月「それも大丈夫だ。僕達がノートの内容の検証を終えるまでの間、彼女にはプロデューサーから打ち合わせ等、適当な理由を伝えてもらい……その場に留まらせるようにする」

清美「なるほど」

月(……本当は『星井美希を逮捕するまでの間』だが……)

月「そして万が一、明日、星井美希がノートを所持していなかった場合は……プロデューサーに連絡し、撮影を予備日として確保してある明後日にも行ってもらうようにする」

月「『アイドルにとって雑誌への写真の掲載は強力な宣伝になるので、どうせなら二日分撮影して良い方を採用してもらいたい』とか、適当にそれらしい理由を付けてもらってね」

海砂「ふむふむ。なるほどね」

清美「そして海砂さんと星井さんの撮影が行われている間……私は手筈通りに天海さんを見張っておけばいいのね」

月「ああ。一応確認しておくけど……天海春香との待ち合わせ時刻はミサ達の撮影の開始時刻と同じにしてあるね? 高田さん」

清美「ええ。ただクッキングスクールの開始時刻までは少し時間があるので、先に街をぶらついてから向かいましょう、と伝えてあるわ」

月「よし。それでいい。後は……そうだな。おそらく高田さん達の行くクッキングスクールの方が、ミサ達の撮影より早く終わるだろうから……終わり次第、どこか近くのカフェでお茶でもしておいてくれ。ミサ達の撮影……いや、ノートの検証まで終わった段階で連絡するよ」

清美「分かったわ」

月(……もっとも実際には、高田には連絡しないまま、天海春香を逮捕することになるだろうが……)

L「それでは、いよいよ……ですね」

月「ああ。ようやくここまで来ることができた。皆、最後まで力を合わせて頑張ろう」

海砂・清美「はい!」

L「まずはキラの復活。……そして」

月「理想の世界を創生し、僕は―――新世界の神となる」

【現在(同日夜)・キラ対策捜査本部(都内のホテルの一室)】


(海砂・清美との打ち合わせを終え、捜査本部に戻ってきたLと月)

総一郎「竜崎。ライト。弥・高田との打ち合わせはもう終わったのか?」

L「はい。段取りの確認も含め、月くんがつつがなく説明してくれました」

総一郎「ではそちらは問題無し、ということだな」

L「はい。あの二人はキラを心の底から崇拝していますし、また完全に月くんの虜でもあります。全く問題はありません」

月「倫理的には大いに問題あるけどな……もしこれが恋愛ゲームだったら確実にバッドエンドだろ」

L「おや、意外ですね。月くんの口から『恋愛ゲーム』なんて言葉が出るなんて。もしかして結構よくやるんですか?」

月「いや、やったことはないが……というか話を逸らすなよ。竜崎」

L「海外留学の件でしたら心配は無用です。後は月くんが行きたい国と大学を選ぶだけですから。その気になれば今から12時間以内に出国できますよ」

月「……分かった。ありがとう。まあそれも含めて、全ては明日次第だけどな」

L「はい」

総一郎「ところで、竜崎。765プロのプロデューサーとの打ち合わせは? まだ連絡しなくていいのか?」

L「今日は本番と同じアリーナ会場での全体練習の後、事務所に戻ってミーティングをしてから解散……その後、こちらに連絡するとのことでしたので、一旦はそれを待ちたいと思います」

総一郎「そうか。……ん? ……相沢からだ」ピッ

総一郎「もしもし。朝日だ。ああ……ああ……そうか。分かった。ちょっとそのまま待っててくれ」

L「どうしました?」

総一郎「星井美希と天海春香だが……先ほど、他の数人のアイドル達と一緒に事務所から出て来て、しばらくは皆で一緒に歩いていたようだが、やがて別れて、今は星井美希と天海春香の二人だけで歩いているらしい」

総一郎「なのでおそらく、今竜崎が言っていた、事務所でのミーティングが終わって解散し、帰路についている段階なのだと思われるが……」

L「なるほど。星井美希と天海春香が一緒ということは……相沢さんと松田さんも一緒にいるということですね?」

総一郎「ああ。そうらしい」

L「分かりました。では相沢さん達には、二人が別れるところまでは見届けて頂き……二人が別れた段階で、尾行を打ち切って本部に戻って来るように伝えて下さい。今日は明日の作戦実行に備えて捜査本部全員で確認する時間を長めに取りたいですので」

総一郎「分かった。……もしもし」

(相沢に用件を伝え、通話を終了した総一郎)

総一郎「星井美希と天海春香が一緒に帰ることはよくあるが、いつも互いの帰路の分かれ道で自然に別れている……おそらく今日もそうなるだろうな」

L「そうですね。とすると、おそらく三十分程度で相沢さん達は戻って来ると思いますので……それまでは各自、休憩としましょう」

総一郎「じゃあ少し外に出てくるかな……今日はずっと座りっぱなしで腰が疲れた。模木は大丈夫か?」

模木「ええ。私はもう少しデータの整理をしておきます」

総一郎「そうか。竜崎とライトも休まなくていいのか?」

L「はい。事務所のミーティングが終わったということは、そろそろプロデューサーから連絡が来ると思いますので……私はここでそれを待ちます」

月「僕も竜崎と一緒に待っておくよ」

総一郎「そうか。では……」チラッ

星井父「…………」

総一郎「星井君」

星井父「? はい」

総一郎「よかったら、少し外に出ないか?」

星井父「……そうですね。行きましょうか」

総一郎「うむ」

星井父「あ、ちょっと待って下さい。本部の外に出る時は小型マイク着けないと……」カチャカチャ

総一郎「…………」

【ホテルの正面エントランス前】


(缶コーヒーを手に、夜の街並みを眺めながら佇んでいる総一郎と星井父)

総一郎「……そういえば、君は煙草はやめたのか? 確か昔はよく吸っていたような気がするが……」

星井父「あ、はい。……美希が生まれた時に」

総一郎「! ……そうか」

星井父「実は一度、上の子……菜緒が生まれた時にもやめたんですけどね。でも結局その後、また吸うようになっちゃって……それで美希が生まれて、『今度こそは』って禁煙したら……これが意外と長く続いて」

星井父「かれこれ……もう十五年と八か月です」

総一郎「…………そうか」

星井父「…………」

総一郎「……君とこうして二人で話していると、色々と思い出すな」

星井父「なんだかんだで、随分長く一緒にやらせてもらっていますもんね。局長とは」

総一郎「ああ。……このキラ事件の捜査でも、君には最初から私の直下に入ってもらっていたしな」

星井父「……ええ。そうでしたね。キラ事件の発生当初、ICPOの会議に局長と一緒に出席させてもらったりとか……もうちょっと懐かしいですね」

総一郎「ああ。そういえば、君はまだあの時は『L』の事を知らなかったんだったな」

星井父「はい。それで局長が『L』の事を『世界の迷宮入りの事件を解いてきたこの世界の影のトップ、最後の切り札』……なんて仰るもんだから、一介の警察官に過ぎない自分が『L』と顔を合わせることなんて一生無いだろうと思っていました」

総一郎「それは私も同感だったな」

星井父「だからその後、『L』と顔を突き合わせて一緒に捜査をすることになるなんて……あの時は思いもしませんでした」

星井父「……それも、自分の娘の捜査を」

総一郎「! ……星井君」

星井父「…………」

総一郎「君は……本当によく耐えていると思う」

星井父「…………」

総一郎「もしも、ライトや粧裕にキラとしての嫌疑が掛かっていたとしたら……正直言って、私は耐えられる自信が無い」

総一郎「君は……よく耐えていられるな」

星井父「……覚悟は、もう出来ていますから」

総一郎「それは……刑事としての、か?」

星井父「いえ。……父親としての、です」

総一郎「! ……星井君。君は……」

星井父「…………」

相沢「――あれ。二人とも、こんな所で何してるんですか?」

総一郎・星井父「!」

松田「休憩ですか?」

総一郎「相沢。松田。……まあ、そんなところだ」

相沢・松田「?」

総一郎「では、全員揃ったことだし本部に戻ろう」

星井父「…………」

【キラ対策捜査本部(都内のホテルの一室)】


相沢「――というわけで、星井美希・天海春香ともに、今日の尾行捜査でも特に不審な点はみられませんでした」

松田「もっとも、ご指示があった通り、今日は二人が別れるところまでしか尾行していませんが……これまでの傾向からして、特に何事も無くそれぞれの家に帰宅したものと思われます」

L「はい。ご報告ありがとうございました。相沢さん。松田さん」

L「では、続いて明日の作戦の最終確認ですが――……」

ワタリ『竜崎』

L「どうした、ワタリ」

ワタリ『765プロのプロデューサーから着信です』

L「分かった。つないでくれ」

ワタリ『では転送しますのでそのまま応答して下さい』ピッ

L「Lです」

P『……ああ。俺だ。さっきミーティングが終わって、美希と春香を含めたアイドル全員が事務所を出た』

L「はい。こちらも尾行をつけていましたので把握しています」

P『ああ、そうだったな。で、明日の件だが……その前に、一つだけ報告事項があるんだが……先に伝えてもいいか?』

L「ええ。どうぞ」

P『若干細かい内容だが……今日、アリーナ会場で全体練習をした後、高木社長が、事務員の音無さんと春香を連れて、ステージの裏手の方に消えて行き……十分ほどの間、三人だけで何かを話していたようだった』

L「高木社長と事務員さんと天海春香……ですか?」

P『ああ。あまり見ない組み合わせだったから少し不思議に思ってな。律子は、ライブ当日の事務仕事の打ち合わせか何かじゃないか、って言ってあまり気にしていなかったが……』

L「そうですね。天海春香はライブのリーダーで、事務員さんもライブ当日、裏方の事務仕事をされるということでしたから……そんなところかもしれませんね」

P『そうだな。まあこれはあまり気にしなくてもいいのかもしれない。美希も絡んでいないようだったし』

L「……そういえば、高木社長もライブ当日は会場に来られるんですか?」

P『ああ、必ず行くと言っていたよ。あえて一般の観客席からアイドル達を応援するそうだ』

L「……そうですか」

L(つまりライブ当日、765プロの関係者は全員アリーナに集まる……か)

L「…………」

P『俺の方からの報告はそれくらいだ。他には特に美希・春香関係で気になる点は無い』

L「分かりました。では明日の段取りですが……予定通りで問題無いでしょうか?」

P『ああ。大丈夫だ。今日も吉井氏・出版社の担当者と最後の確認をした。全て予定通りに進行可能だ』

L「ありがとうございます。では後は当日、状況に応じて連絡を入れます」

P『分かった。何かあれば俺の方からも連絡する』

L「よろしくお願いします。それではまた明日に」

P『ああ、よろしく』

(プロデューサーとの通話を終えたL)

L「…………」

総一郎「竜崎。その……星井君の前で言いにくいことではあるのだが……明日の作戦を実行した結果、本当に『星井美希がキラだった』となった場合……」

星井父「! …………」

総一郎「彼……765プロのプロデューサーをそのまま信用し続けて大丈夫なのだろうか?」

総一郎「彼が今、我々……もとい“L”に協力しているのは、あくまでも『星井美希と天海春香がキラではないこと』を証明するのが目的のはず……つまりその逆の事実が証明された場合においても、なお『キラである星井美希を逮捕すること』についての協力まで求めていいものかどうか……」

松田「あー……そこは確かに微妙かもしれないっすね」

相沢「でも最初に竜崎がプロデューサーとコンタクトを取った時、『もし本当に二人がキラなら、罪は罪として、それに見合う罰を受けさせなければならない』……みたいなことを言ってたぞ。確か」

松田「いやー、でももうずっと、自分の娘のように愛情を注いで育ててきたアイドルですからね……彼が765プロに移籍してすぐの頃ならまだしも、もうかれこれ七か月以上も苦楽を共にしてきたわけですから、そう簡単に割り切れるかは……」

相沢「何でそんなに我が事のように感情こもってるんだ、お前は」

L「まあ……そのあたりはどうとでもなると思います」

総一郎「竜崎」

L「『黒いノート』が殺人の証拠であると断定でき、星井美希がキラであると確定できれば、後は彼女を逮捕するまでの間、スタジオ内に留めさせておけばいいだけですから……プロデューサーには『ノートの検証にもう少し時間が掛かりそうなので、星井美希をスタジオ内に留めておいてほしい』とでも言っておけば済むでしょう」

月「そうだな。プロデューサーの状況判断能力・対応力は十分信用できる。星井美希に怪しまれることなく、自然な理由を作って対応してくれるだろう」

総一郎「確かに……現に今も、星井美希・天海春香は彼の事を全く疑っていないようだしな」

L「そうですね。彼の洞察力なら、たとえ僅かでも二人のうちのいずれか、または両方が彼に対して何らかの疑念を抱いていればすぐにそれに気付くでしょうし、また私に報告しているはずです。それが無いということは、星井美希・天海春香はこれまでのプロデューサーの一連の動きにはまず気付いていないとみていいでしょう」

総一郎「うむ」

星井父「…………」

L「では、明日の作戦の最終確認ですが……基本的にはこれまでに打ち合わせてきたことと変わりません」

L「まず、相沢さんと松田さんにはこれまでと同じように二人の尾行をしてもらいます。相沢さんは星井美希を、松田さんは天海春香を」

相沢「はい」

松田「分かりました」

L「合宿以降も尾行を続けてもらっていたのは、もし合宿以前に尾行に気付かれていた場合、『合宿が終わった途端に尾行が無くなった』と思われてしまうとまずい、という理由もありましたが……最も大きな理由は、明日の尾行だけが特別不審に思われたりすることがないようにするため……いわばカモフラージュのためです」

L「『明日の尾行には特別な意味がある』ということだけは絶対に悟られないように……そこだけは細心の注意を払って下さい」

L「先ほどからも述べているように、明日は、状況次第ではキラ容疑者の逮捕に踏み切る可能性があります。勿論、実際の逮捕の際には複数人で現場に向かいますし……また星井美希をプロデューサーに、天海春香を高田清美に、それぞれ直接監視させておくことで、二人が我々の監視下から突然いなくなってしまうような事態は可及的に防止するつもりです」

L「しかしながら、星井美希、または天海春香がそれらの監視の目をかいくぐって予測不能な行動に出てしまう……という可能性もゼロではありません。ですので、もし万が一そんな事態が生じたとしても、お二人には、最後まで集中を切らすことなく、それぞれの尾行対象者の動向を注視して頂きたい。……それが明日、相沢さんと松田さんにお願いする最も重要な任務です」

相沢「ええ。分かっています。絶対に最後まで目を離しませんよ」

松田「任せて下さい。竜崎」

L「ありがとうございます。そして……月くん」

月「ああ」

L「月くんは弥への指示出しをお願いします。これは月くん以外にはできないことであり、かつこの作戦の成否に直結する……絶対に失敗の許されない最重要任務です」

月「分かった。……ただ、別に僕以外にはできないというほどのものではなく、竜崎がやってもいいだろうとは思うが……」

L「いえ。万が一、弥が作戦の実行を躊躇するような事態になった場合、彼女の背中を押せるのは月くんしかいませんから」

月「……まあ、分かったよ。任されたからには責任をもってやり遂げよう」

L「ありがとうございます。またあわせて、高田清美への連絡も必要に応じてお願いします」

月「ああ。高田を通じての天海春香の状況の確認……だな」

L「はい。よろしくお願いします。そして夜神さん、星井さん、模木さんは全体にわたってのフォローをお願いします」

総一郎「ああ」

星井父「……分かった」

模木「分かりました」

L「特に夜神さんは、場合によっては容疑者逮捕の際に警察側からそれなりの数の人員を出して頂く必要があるかもしれませんので……もしそうなった場合にもスムーズに対応できるよう、事前の準備と調整をお願いいたします」

総一郎「それは大丈夫だ。もう既に警察庁内の部下に頼んで、数十名規模の警察官を速やかに動かせる態勢を整えてもらっている」

L「! そうでしたか。どうもありがとうございます。大変助かります」

L「では、いよいよ明日――全てを決するときです」

L「最後まで一丸となって頑張りましょう」

一同「はい!」

星井父「…………」

模木(……係長……)

(他の捜査員の帰宅後、二人だけで捜査本部に残っているLと月)

L「……月くん」

月「? 何だ? 竜崎」

L「一昨日、皆さんの前で『もし私が死んだら……』という話をしたのを覚えていますか?」

月「ああ。それは勿論覚えているが」

L「あの場では、『私が死んだらその後の事は夜神さんに』と言いましたが、私の本心では……」

月「……分かってるよ。僕にLの名を継いでほしい、って言うんだろ?」

L「よく分かりましたね」

月「もうこれまでに何度となく言われていたからな……ただ、まだ他の皆の前でこの話はしていなかったから、一昨日の時点では言うに言えなかった……だろ?」

L「はい。その通りです」

月「……分かったよ。もしそうなったら、僕がLの名を継ぐ。そして必ずキラを捕まえる」

L「! ……本当ですか?」

月「ああ。約束するよ。竜崎。……いや、L」

L「……ありがとうございます。月くん」

月「ただそうは言っても、それは僕が極めて危険な地位に就くということを意味する……とすれば、少なくとも父さんにはほぼ確実に反対されるだろう。だからもし本当に僕に譲る気があるのなら、竜崎の直筆で遺言でも書いておいてくれないか?」

L「それは大丈夫です。もう既に書いてワタリに託しています」

月「……流石だな。もちろん言うまでもなく、そんなもの開けなくて済むのが一番ではあるが」

L「そうですね。その為にもあと少し……最後までよろしくお願いします。月くん」

月「ああ。こちらこそよろしく頼む。竜崎」

【翌日・レッスンスタジオ前】


【アリーナライブまで、あと7日】


(アリーナライブに向けたレッスンを終え、二人で一緒にスタジオから出て来た美希と春香)

美希「じゃあね、春香。また明日なの」

春香「うん。海砂さんによろしくね。美希」

美希「わかったの。春香も高田さんによろしくね」

春香「はーい、言っとくよ。じゃあまたね」

美希「うん。バイバイなの」








【三十分後・渋谷区内撮影スタジオ/正面玄関前】


美希「あ、プロデューサー! お待たせなの」

P「おう。美希」








P「―――じゃあ、行こうか」

一旦ここまでなの

続きがきになる



ついに決着の日が…?

Lは死にそうだな

また気になる所で区切るなぁwwww

密かにジャンプ+のデスノとどっちが先に終わるかと比べていたけど
結構いい勝負かも

(スタジオ内に入った美希とプロデューサー)

(スタジオでは既に海砂、吉井、出版社の担当者、その他スタッフ数名が二人を待っていた)

P「おはようございます」

美希「おはようございますなのー」

吉井「おはようございます。○○さん。星井さん」

海砂「おはようございまーす」

P「すみません。お待たせしていたようで」

吉井「いえ。私達もついさっき来たばかりですし、まだ開始時刻前ですから」

出版社社員「おはようございます。えー、では少し早いですが、皆様お揃いのようですので始めさせて頂こうと思います」

出版社社員「念の為、改めて確認させて頂きますが、今回の撮影のコンセプトは――……」

海砂「…………」

P「…………」








【同時刻・キラ対策捜査本部(都内のホテルの一室)】


(美希達がいるスタジオ内に取り付けた監視カメラの映像を観ている捜査本部一同)

総一郎「……始まったな」

L「はい」

月「いよいよ、か」

L「模木さん。各監視カメラの映像は全て問題無く映っていますね?」

模木「はい。建物内に取り付けたカメラはいずれも正常に動作しています」

L「ワタリ。映像はそっちでも問題なく観れているか?」

ワタリ『はい。問題ありません。竜崎』

総一郎「今日もワタリは別の場所にいるんだな」

L「はい。もしこの本部の再生機器に接続不良等が発生した場合を考えての措置です」

総一郎「なるほど」

L「月くん。予定通りならそろそろ高田も天海春香と会う頃だと思いますが、何か連絡はありましたか?」

月「一応、会ったら気付かれないようにメールを送ってもらう手筈になっているが……お、きたか」ピッ

月「……無事に会えたそうだ。これから軽く街を歩いてからクッキングスクールに向かうと」

L「分かりました。ありがとうございます」

L「後は尾行中の相沢さんと松田さんですが……今のところ、二人とも特に問題無さそうですね」

総一郎「うむ。携帯電話のGPSの位置情報を見る限り……相沢はスタジオの近くを張ったまま。松田は天海春香……と高田清美の後をつけているのだろう。ちょうど今、少しずつ動き始めたところだ」

L「ありがとうございます。では我々は引き続き星井美希の監視を続けましょう」

総一郎「うむ」

月「一体どうなるか……だな」

星井父「…………」

【十分後・撮影スタジオ内/更衣室】


吉井「ここが更衣室よ。衣装に着替えたらそのままスタジオに来てね」

P「さっき出版社の方も言っていたが、今日はほとんどの衣装を自分達で着てもらうことになる。二人ともアイドルらしい、センスのある着こなし方で頼むぞ」

海砂「はーい」

美希「任せてなの」

吉井「じゃあまた後でね」

P「ばっちり可愛く決めてきてくれよ。それじゃ」

 バタン

海砂「……それにしても珍しいよね。ほとんどの衣装を自分達で着るなんて」

美希「ホントだね。予算けちったのかな?」

海砂「うーん。でもあの出版社って結構大手だし、あんまりそういうことする必要無さそうだけど……」

美希「でも二人で一つの更衣室、っていうのもなんかケチなカンジがするの。ミキ的には海砂ちゃんと一緒の方が楽しいから良いけど」

海砂「あはは。それは私も同感。なんか学校の体育の着替えの時みたいで楽しいよね」

美希「なの」

海砂(この更衣室のロッカーは……暗証番号方式か。美希ちゃんの様子は……)チラッ

美希「…………」ドサッ

(持っていた鞄をロッカーに入れる美希)

海砂(……普通に入れてる。というか、もうほとんど無意識に近い感じね……)

海砂(まあそりゃそうか。いくらなんでも鍵付きのロッカーまでいちいち疑ってはいられないよね。そもそも事務所や学校でも鍵付きのロッカーには普通に入れてるって話だし……)

海砂(とにかく、これで作戦を実行する上での前提条件はクリアね。もし美希ちゃんが『鞄は撮影中もずっと目の届く所に置いておきたい』なんて言い出したら厄介だったけど……)

海砂(後はライトからの指示を待つのみ……それまでは絶対に気取られないように、集中して自然な振る舞いを……)

海砂「……そういえば、美希ちゃんがハリウッドに行っちゃうのってもうすぐだよね」

美希「うん。9月の半ば過ぎには日本を発つから……もう二か月も無いくらいなの」

海砂「そっかぁ。寂しくなるなあ」

美希「ミキも海砂ちゃんと暫く会えなくなるのは寂しいの。向こうに着いたらすぐに手紙送るね」

海砂「ありがとう。でもメールじゃないんだ? このIT全盛の時代に」

美希「んー。なんとなく、外国から最初に送るとしたら手紙かなって」

海砂「あはは。なんか分かるかも。あー、でも美希ちゃんが向こうに行っちゃったら『竜ユカ』も暫くお休みだね」

美希「別にミキ一人いないだけなら続けられそうな気もするけど」

海砂「いやー、やっぱり六人全員揃っての『竜ユカ』だからね。……あっ、じゃあ美希ちゃんがハリウッドにいる間に私達もそっちに行って、『竜ユカ』アメリカ編とかどう?」

美希「あはっ。それは名案なの。ミキも皆が遊びに来てくれたら嬉しいな」

海砂「じゃあまた皆に提案してみるね」

美希「はいなの」

海砂「……でも、いつかは遊びじゃなくて、ミサもお仕事で行ってみたいなあ……ハリウッド」

美希「あはっ。大丈夫なの。海砂ちゃんすっごくカワイイし、きっとすぐ行けるようになるって思うな」

海砂「……なんか美希ちゃんのその激励が段々テンプレ化してきてるような気がするんだけど……気のせい?」

美希「あ、ばれた?」

海砂「やっぱり! 美希ちゃん最近ミサの扱いぞんざいじゃない!?」

美希「ミキなりの愛情なの」

海砂「否定はしないんだ……」

美希「でも冗談はさておき、海砂ちゃんって外国の人にも受けが良さそうなルックスだし、ふつーにゼンゼンいけるって思うな」

海砂「! 美希ちゃん……ありがとう。美希ちゃんからそう言ってもらえると何よりの励みになるよ」

海砂「ミサも頑張るよ。美希ちゃんを目指して!」

美希「うん! 一緒に頑張ろうなの! 海砂ちゃん!」

海砂「よし。じゃあちゃっちゃと着替えちゃおうか。あんまりモタモタしてるとヨッシーに怒られちゃう」

美希「あはっ。そうだね」

海砂「…………」

海砂(ていうか、今……ライトはこの更衣室の映像を観てるのよね)

海砂(ミサ、昨日ライトに『ライトが美希ちゃんの着替えを観るのはフクザツ』って言ったけど……)

海砂(いざ冷静になって考えてみると……ミサ、ライトに自分の着替えを見られる方が恥ずかしいかも)

海砂(いや、そりゃまあミサはライトと付き合ってるわけだから、ライトに着替えを見られても何ら問題は無いんだろうけど……)

海砂(でもよく考えたらライトに下着姿見られるのって初めてだし……)

海砂(そもそも付き合ってはいるけど、ちゃんと二人でデートしたのも、別れ際にミサが告白したあの時の一回だけだから、厳密には付き合う前だし……)

海砂(それによく考えたらまだ手も繋いだことない……キスはその時に一回だけしたけど……)

海砂「…………」

海砂(い……いやいや! それもこれも、全ては今日のこの作戦のため……ライトにとってはキラの能力を取り戻すことが何よりも最優先なんだから)

海砂(だから今ミサにできることは、ライトの指示通りに自分のすべきことをきっちりするだけ……)

海砂(それができれば、ライトはキラの能力を取り戻すことができる。犯罪者裁きも再びライト自身の手で行えるようになる)

海砂(そして美希ちゃんと春香ちゃんもキラの仲間に加われば……竜崎や清美ちゃんも含めて、ミサ達五人でキラの……ライトの理想の世界の創生の手助けができる)

海砂(そうなれば……ミサも、ライトと公然と恋人同士として振る舞えるようになるはず)

海砂(だからあと少し……あと少しなんだ)

海砂(ミサ、頑張るからちゃんと見ててね。ライト……)

美希「…………」

美希(午前中、みっちりレッスンしたからちょっと眠いの……あふぅ)

【同時刻・キラ対策捜査本部(都内のホテルの一室)】


(美希と海砂がいる更衣室内に取り付けた監視カメラの映像を観ている捜査本部一同)

(一同は、更衣室内に取り付けた盗聴器が拾う会話の音声も同時に聴いている)

海砂『! 美希ちゃん……ありがとう。美希ちゃんからそう言ってもらえると何よりの励みになるよ』

海砂『ミサも頑張るよ。美希ちゃんを目指して!』

美希『うん! 一緒に頑張ろうなの! 海砂ちゃん!』

海砂『よし。じゃあちゃっちゃと着替えちゃおうか。あんまりモタモタしてるとヨッシーに怒られちゃう』

美希『あはっ。そうだね』

L「……更衣室内の監視カメラと盗聴器も特に問題無いようですね」

模木「はい。いずれも正常に作動しています」

星井父「…………」

総一郎「星井君。その……何だ。いくら裸にまではならないと言っても、今日は君の娘さんの更衣場面を皆で観察する形になる……辛いようなら、君まで無理に観なくとも……」

星井父「……いえ。そういうわけにはいきません。私には美希の父親として……この事件の結末を見届ける義務がありますから」

総一郎「……そうか」

模木(……係長……)

L「そして、肝心のノートですが……先ほど、星井美希は持っていた私物の鞄をごく普通にロッカーの中に入れていました。その大きさからして、中にノートが入っている可能性は十分にあると考えます」

総一郎「うむ……しかし、全く躊躇することなく普通に入れていたな」

月「鍵付きのロッカーなら学校でも事務所でも使っているし……そもそもこれまでも同じような仕事は山ほどあったはずだ。それならば、あえて今日だけ特別に注意を払うということも無いだろう」

L「そうですね。唯一、これまでの仕事と異なる点があるとすれば、765プロダクション以外の共演者と同じ更衣室を使っているという点ですが……これも、元々親しい友人だった弥海砂です。この一事のみをもって殊更に警戒心を強めるということも無いでしょう」

総一郎「うむ。ならば後は、予定通りに弥にノートを押さえさせるだけ……だな」

L「はい。あと一応注意しておくべきは、今日の弥およびプロデューサーの態度・言動から星井美希が何か勘付いたりはしないか、という点ですが……今のところ、この二人の態度・言動は至極自然なもの……その心配も無いでしょう」

L「これなら……いけます」

星井父「…………」

【一時間後・都内某クッキングスクール】


(クッキングスクールの体験入門を受講している春香と清美)

春香「こういうのも楽しいですね。清美さん」

清美「そうね。でも大丈夫なの? 春香ちゃん。今日も午前中はレッスンだったんでしょう? 疲れが残ってたりとか……」

春香「全然平気ですよ! まあそのまま続きでお仕事だったらちょっとしんどかったかもしれないですけど……お料理は楽しいですし、それに清美さんと一緒ですから! 疲れなんて吹き飛んじゃいます!」

清美「あら、そう言ってもらえると嬉しいわ」

春香「ただまあそういう意味では、レッスンの後、そのままお仕事に行った美希にはちょっと申し訳無い気もしますけどね……」

清美「ああ、確か……海砂さんと一緒にファッション誌の撮影、だったかしら?」

春香「そうなんですよ。まあそれはそれで楽しそうですけどね。なんといっても海砂さんと一緒なので」

清美「ふふっ。そうね。親しい人と一緒に何かをするというのは、とても楽しいことだと思うわ。……現に今、こうしているようにね」

春香「! 清美さん……私も今、とっても楽しいです!」

清美「それは何よりだわ。……あ、ところで春香ちゃん。この工程はどうすればいいのかしら?」

春香「ああ、それはですね。この道具を使って……」

清美「…………」

清美(今のところ、夜神くんから特に連絡は無い)

清美(ただ、何か不測の事態が生じたら、その都度……そして特に何も起こらず、予定通りに作戦が実行できた場合は、ノートの検証が終わった段階で……いずれにせよ、必ず連絡をもらえることになっている)

清美(だから今はこのまま、連絡があった場合にすぐ対応できるよう、心積もりだけはしておきつつ……普通に体験入門を受けておけばいい)

清美(そしてこれが終わったら、近くのカフェでお茶でもしながら、夜神くんから連絡があるまで引き続き待機……)

清美(大丈夫。何の問題も無いわ)

清美(もう少し……もう少しで)

清美(夜神くんが、新世界の神に。そして私が――女神になれる)

春香「…………」

春香(清美さんの手前、『全然平気』とは言ったものの……やっぱりちょっと疲れてるかな。昨日もみっちり全体練習やったとこだし……)

春香(美希、お仕事大丈夫かな。寝ちゃってないかな)

春香(まあでも、ああ見えてお仕事の時はばっちり決めるのが美希だから、大丈夫だろうとは思うけど)

春香(それに海砂さんもいる分、むしろテンション上がってるかもだしね)

春香(……よし。そう考えたら、美希に負けてはいられないね。私は私で、今はお料理頑張ろうっと! これはお仕事じゃないけど……何事も全力でいくのが私のポリシーだからね! ……なーんて。ふふっ)

【一時間後・撮影スタジオ】


(現在、スタジオでは美希の最後の撮影の準備が行われている(海砂は更衣室で待機している状態))

P「…………」

P(もう後は最後の衣装の撮影をするだけ……今から撮影前に美希が更衣室に戻ることも無さそうだな)

P(では……指定されたアドレスに……)ピッピッ

P「…………」

P(いよいよ、か)

P(……大丈夫だ。美希も春香もキラではない)

P(キラであるはずがない)

P(美希の鞄から『黒いノート』が出てこようが出てこまいが……そんな物がキラの証拠になるわけがない)

P(美希がキラであるはずがないんだから)

P(だが、今はLの気の済むまで美希と春香の捜査をさせること……そうしなければ、永遠に二人の潔白は証明できない)

P(実際問題、『キラでないこと』の証明なんてできるはずがない。そんなものは悪魔の証明に他ならない)

P(だからLに認めさせるしかないんだ。『星井美希と天海春香はキラではない』と)

P(もうそうすることでしか、美希と春香に対するLの疑いを払拭することはできない)

P(だが逆に、それさえできれば……)

P「…………」

P(大丈夫だ。俺はあいつらを信じる)

P(俺はあいつらのプロデューサーなんだから)

P(……そうだろ? 美希)

カメラマン「よーし、美希ちゃんはこれが最後の撮影だね。頑張っていこう!」

美希「はいなの!」

カメラマン「じゃあとりあえず、正面向きのポーズから撮ってみようか。右手を軽く腰に当てて、リラックスした感じでよろしく!」

美希「こんな感じ?」スッ

カメラマン「そうそう! そんな感じそんな感じ! いいねいいね~」パシャパシャ

P「…………」

【同時刻・キラ対策捜査本部(都内のホテルの一室)】


L「! ……プロデューサーからメールです。今から星井美希の最後の撮影だそうです」

総一郎「そうか。では……」

月「いよいよだな。竜崎」

L「はい」

星井父「…………」

L「ではまず、夜神さん。相沢さんと松田さんの状況の確認をお願いします」

総一郎「分かった。では相沢から」ピッ

総一郎「……もしもし。相原か? 私だ。朝日だ。そちらの状況はどうだ?」

相沢『お疲れ様です。相原です。こちらは変わりありません。スタジオから少し離れた位置に張っています』

総一郎「了解。こちらは今から作戦を実行する。状況に動きがあればまた伝える」

相沢『! いよいよですね……分かりました。引き続きよろしくお願いします』

総一郎「では、次は松田に」ピッ

総一郎「……もしもし。松井か? 朝日だ。そちらの状況はどうだ?」

松田『お疲れ様です。松井です。少し前にクッキングスクールは終わったようで、高田清美とはるる……天海春香は、そのまま二人で近くのカフェでお茶をしています』

総一郎「そうか」

松田『なお、私も怪しまれない程度の距離を取ってから入店し、今は店内から二人の様子を監視しています』

総一郎「分かった。ご苦労。くれぐれも気付かれないようにな」

松田『はい。任せて下さい』

総一郎「では、こちらは今から作戦を実行する。状況に動きがあればまた伝える」

松田『! そうですか。遂に……ですね。分かりました。引き続きよろしくお願いします』

総一郎「――竜崎。相沢、松田ともに問題無く尾行できている。なお高田と天海春香のクッキングスクールは既に終わっていて、今は二人で近くのカフェにいるそうだ」

L「分かりました。ありがとうございます」

L「それでは――月くん」

月「ああ」

L「残すは弥への指示……そして作戦の実行のみです。よろしくお願いします」

月「……分かった」ピッ

【同時刻・撮影スタジオ内/更衣室】


海砂(もう今頃、美希ちゃんの最後の衣装の撮影が始まってるはず……)

海砂(ってことは、こっちももうそろそろってことよね……うぅ……なんか緊張してきたぁ……)

 ピピピッ

海砂「! ……非通知発信……ってことは……」ピッ

海砂「も、もしもし?」

月『ミサか? 僕だ』

海砂「! ライト。じゃあ……」

月『ああ。今から実行する。僕の指示をよく聞いて行動してくれ』

海砂「! わ、分かった……ミサ、頑張る」

月『よし。ではまず、昨日渡したワイヤレスのイヤホンを耳に付けて、ハンズフリーで通話ができるようにしてくれ』

海砂「う、うん。ちょっと待ってね。えーっと……あ、これだ。よいしょっと」カチャッ

海砂「これで、スマホのBluetoothの接続をオンにして……と」

海砂「ライト? 聞こえる?」

月『ああ。聞こえるよ。僕の声も聞こえているか?』

海砂「うん。ばっちり!」

月『よし。じゃあいよいよ星井美希のロッカーを開けてもらう。まず暗証番号の解錠の仕方を教えるから、よく聞いて』

海砂「うん」

月『昨日渡した複数の鍵の束の中に、細長いピンのような物があるはずだ。それを出してくれ』

海砂「えーっと……これかな?」

月『そう。それだ』

海砂「あ、そうか。こっちの部屋の様子はライトからも見えてるのね」

月『ああ』

海砂「あれ? じゃあもしかして、美希ちゃんが設定した暗証番号もライトの方からは見えてたりするの?」

月『いや、それは見えなかった。確かに直接見えていたら早かったんだが……ちょうど星井美希自身の身体で隠れていたからね』

海砂「そうなんだ。でも分かる方法があるって事なのよね?」

月『ああ。今出してもらったピンを、星井美希が使っているロッカー……その鍵となる、四桁のダイヤル部分……その真下に小さな穴があるはずだから、そこに挿し込んでくれ』

海砂「? そんな穴が……? あ、あった。こう?」カチッ

月『そうだ。そして、そのピンを挿したままの状態でダイヤルを一桁ずつ回してくれ』

月『そうすれば、四桁のダイヤルはいずれも特定の番号の所で引っ掛かるはずだ。それがそのまま星井美希の設定した暗証番号となる』

海砂「へーっ。どれどれ……あ、引っ掛かった。まず『2』ね。……で、次は『3』で……『1』……『1』。……つまり『2311』ってこと?」

月『おそらくね。その状態のまま、ダイヤルの隣にあるツマミを開ける方に倒してみてくれるか?』

海砂「うん」

 ガチャッ

海砂「あ……開いた!」

月『よし』

【同時刻・キラ対策捜査本部(都内のホテルの一室)】


海砂『あ……開いた!』

月「よし」

星井父「! …………」

L「やりましたね」

総一郎「うむ」

模木「…………」

総一郎「しかし『2311』って……どこかで見たような数字の並びだな」

L「単純に、自分の誕生日を並び替えただけでしょう」

総一郎「ああ、そういうことか。結構安易だな」

L「特に警戒していない状況であればそんなものでしょう。つまりここからも今の星井美希がほぼ無警戒であるということが分かります」

総一郎「確かに」

星井父「…………」

月「ミサ。じゃあそのまま星井美希の鞄を探ってくれ」

海砂『わ……分かった』

月「鞄の中にノート、またはそれに類する形状の物があれば……」

海砂『あっ』

月「ん?」

海砂『ライト。多分、これ……じゃないかな?』

(美希の鞄の中からビニール袋を取り出し、高く掲げる海砂)

月「! その袋の中に……ノートが?」

海砂『うん。多分……形と大きさからして、間違い無いと思う』

月「……よし。じゃあ早速、袋から出してくれ」

海砂『分かった。……! やっぱりノートみたい。カバー掛かってるけど』

月「じゃあ……そのカバーも外してくれ」

海砂『う、うん』

総一郎「ビニール袋……カバー……」

L「空港の時と同じ……ですね」

総一郎「うむ……」

星井父「…………」

(ノート様の物に掛かっていたカバーを外した海砂)

海砂『! ら、ライト……これ……』

月「ミサ。さっきみたいに、カメラに映るように掲げてくれ」

海砂『う……うん』

(カバーを取ったノートを掲げる海砂)

一同「!」

月「……『DEATH NOTE』……『デスノート』?』

L「……直訳で、死のノート……」

星井父「…………」

総一郎「こ、これは……」

月「……ミサ。とりあえず、すぐにその表紙をスマートフォンで写真に撮ってくれ。裏表紙もだ」

海砂『え? あ、ああ……そうね』

月「昨日設定したとおり、ミサが撮った写真は自動的に特定のクラウドサーバーにアップされるようになっている。だから撮影した写真の内容はこちらからもリアルタイムで確認できる……」

海砂『わ、わかった……じゃあ、まず表紙からね』カシャッ

海砂『次に裏表紙……っと。こっちは何も書いてないみたい』カシャッ

月「…………」

L「ノートの色は『黒』……つまりこれは、南空ナオミが目撃した『黒いノート』と同じ……いえ、あれは天海春香が所持している方のノートだったとすれば……それと同種のもの……と見て、まず間違いなさそうですね」

総一郎「うむ……」

総一郎(そういえば、相沢の疑問を誤魔化すためにそんな説明をしていたな……)

星井父「…………」

月「じゃあ、ミサ。表紙をめくってくれ」

海砂『はい。……わ、表紙の裏になんかいっぱい書いてある。英語で』

月・L「!」

海砂『で、右のページの方には……人の名前……が書いてあるわね。それも、かなりたくさん……』

月「……ミサ。では表紙の裏から撮影を頼む」

海砂『うん』カシャッ

月「よし。そのまま、1ページずつ順番に……途中で何も書いていないページがあっても飛ばさずに、全てのページを撮影してくれ」

海砂『分かった』カシャッ

月「…………」カチッ

(海砂との通話に使用していたマイクをミュートにした月)

(同時に、海砂が撮影した、ノートの表紙の裏部分の写真が捜査本部内のモニターに表示される)

月「……『HOW TO USE IT』……」

総一郎「英語で……ノートの使い方の説明……?」

L「…………」

月「『このノートに名前を書かれた人間は死ぬ。』」

月「『書く人物の顔が頭に入っていないと効果はない。ゆえに同姓同名の人物に一遍に効果は得られない。』」

月「『名前の後に人間界単位で40秒以内に死因を書くと、その通りになる。』」

月「『死因を書かなければ全てが心臓麻痺となる。』」

月「『死因を書くと更に6分40秒、詳しい死の状況を記載する時間が与えられる。』」

月「…………」

総一郎「な、なんと……これがもし本当なら、竜崎とライトの推理通り……」

L「……色々と考えるべきことはありますが、とりあえず今は次の写真も見ましょう。さっき弥が『人の名前が書いてある』と言っていたページです」

総一郎「そ、そうだな」

月「……見たところ、ページの仕様は普通の大学ノートのように罫線が引かれた白色のページで……そこに等間隔に名前が書かれているようだな」

L「日本人名が多いようですが……外国人名も少なからず混じっていますね」

月「それより、ここに書かれている名前……気付いたか? 竜崎」

L「はい。これはおそらく……いずれも、ここ一、二週間程度の間にキラに裁かれた犯罪者の名前ですね。厳密には照合してみなければ分かりませんが……つい最近、報道で目にしたばかりの名前が多く書かれています。まず間違い無いでしょう」

総一郎「! と、いうことは……これはまさに、キラの……」

L「……そうですね。物的証拠……と言っていいでしょうね」

模木「! 係長……」

星井父「…………」

星井父(……美希……)

月「しかし今のところ、名前が書かれていたのは最初の1ページ目だけか……ん?」

L「どうしました? 月くん」

月「竜崎。この名前が書かれているページだが……よく見たら、それ以前のページを切り取ったような形跡が無いか?」

L「……! 確かに。よく気付きましたね。月くん」

月「だとすると、今ある『最初の1ページ目』は実は『最初の1ページ目』ではなかった……ということになるな」

総一郎「! そうか。だから……」

L「はい。書かれている犯罪者の名前がここ最近のものだけ、というのもこれで説明がつきます。つまり……」

月「……それ以前の犯罪者の名前が書かれたページは、既に切り取られている……」

L「はい」

総一郎「なるほどな」

星井父「…………」

L「――どうやら、弥が最後のページまで撮り終えたようですね」

総一郎「結局、最初のページ以外は白紙だったな」

月「…………」カチッ

(海砂との通話に使用していたマイクのスイッチをオンにした月)

月「ミサ。お疲れ様。写真はそれで全部だね?」

海砂『ライト。うん。全部撮れたよ。結局、最初のページに人の名前がたくさん書いてあっただけで、後のページは白紙だったけど……』

月「そうみたいだね。ちなみにノート自体の質感はどんな感じだったかな? 手に取った時の感触とか」

海砂『うーん……感触は普通のノートと変わらないかな。本当に普通のノートって感じ』

月「分かった。ありがとう。じゃあ早速、ノートを元の状態に戻してくれ。星井美希が戻って来る前に」

海砂『あ、ライト。でもその前に……これ、結局何のノートなの? 英語で何て書いてあったの?』

月「ああ……それはまた後で話すよ。今はとりあえずノートを元の状態に」

海砂『はーい』

(ノートにカバーを掛け、ビニール袋に入れ、取り出す前と同じ状態にして美希の鞄の中に入れた海砂)

月「よし。じゃあ星井美希が設定した暗証番号……『2311』でロックして」

海砂『うん』

 ガチャッ

海砂『はい。これで完璧に元通りだよ。ライト』

月「ありがとう。ミサ。後は自然な流れでスタジオから出てくれ。もっとも、星井美希はノートの検証が終わるまでは撮影現場に居てもらうが……その点は僕からプロデューサーに指示を出すので問題無い」

海砂『うん。分かった』

月「今はとにかく、スタジオから自然に、かつ安全に出ることだけを考えて行動してくれ。ノートについての話はその後だ」

月「ミサの身の安全が第一だからね」

海砂『! ライト……。ミサの事、心配してくれてありがとう。ミサ、言われたとおりにするね』

月「ああ。じゃあこの電話は一旦切るよ。イヤホンも忘れずに外しておくようにね」

海砂『うん。それじゃあライト、また後でね』

月「ああ。愛してるよ。ミサ」

(海砂との通話を終えた月)

月「では……竜崎。プロデューサーへの連絡を頼む」

L「はい」

【同時刻・撮影スタジオ】


(美希の最後の衣装の撮影中)

P「……ん? メール……?」ピッ

P「! …………」

P(差出人不明……Lだな)

P(! ……『ノートの撮影、終了』……)

P(……『今から検証を行うので、それが終わるまで星井美希はスタジオから出さないように』……『検証が終わったらまた連絡する』……)

P(……『弥については帰宅させて問題無し』……『むしろ星井美希に勘付かれないためにも、不自然にならない程度に早めに帰してほしい』……)

P「…………」

P(ノートは、あったのか……)

P(いや、だがまだ……)

P「…………」

カメラマン「――よし。こんなところかな。お疲れ様。美希ちゃん」

美希「ありがとうございましたなの」ペコリ

カメラマン「プロデューサーさん。美希ちゃんの撮影、これで終了です」

P「ああ、ありがとうございます。じゃあ撮って頂いた写真はこの後じっくり見せて頂くとして……まずは美希、お疲れ様。着替えておいで」

美希「はーいなの」

P「…………」

P(そうだ。まだ決まったわけでは……ない)

【同時刻・キラ対策捜査本部(都内のホテルの一室)】


L「……まだ100%確定ではありませんが……ここまでの物的証拠がある以上、これまでの状況証拠もあわせて考えると……現時点での星井美希の逮捕は十分可能でしょう」

総一郎「うむ」

月「ノートに書かれていた名前も、全てここ一、二週間でキラに裁かれた犯罪者の名前だったことも確認できたしね」

L「はい。逮捕後はこれらの証拠を突き付けて尋問……そこで自白が得られればノートの検証までは必要無いでしょう」

L「とにかく今は、一刻も早く星井美希を逮捕することです。また同時に、星井美希との共謀容疑で天海春香も逮捕します」

L(本当はノートの検証は不可欠だが……今はこう言っておかないと先へ進まないだろう)

総一郎「分かった。では早速、警察庁の部下に連絡しよう。逮捕に向かう人数は……まあ六、七人もいれば足りるか」

L「そうですね……要はノートに名前を書かれない限りは殺されないわけですから……顔をフルフェイスのヘルメットで隠して行くならその程度で十分でしょう。極端な話、拳銃を突き付けるなりすれば一人でもいいとも言えますし」

総一郎「警察としての建前上、流石にそれはちょっとな……。あと相沢はどうする? 一緒に逮捕に向かわせるか?」

L「……いえ、相沢さんにはこのまま建物の外を張っておいてもらいましょう。万が一の事が無いとも限らない……建物の外を誰も見張っていない状態にするのは避けたい」

総一郎「分かった。では天海春香も同様の対応で良いな。数名の警察官を彼女の逮捕に向かわせる一方、松田にも現在の状況は伝えておき、今のままの位置で監視を継続させる……」

L「はい。それでお願いします」

星井父「…………」

L「それから、月くん」

月「分かってるよ。高田には『今はノートの検証を進めている。検証が終わり次第また連絡を入れるので、それまで引き続き天海春香を見張っておいてくれ』……とでも伝えておけばいいんだろう?」

L「はい。その通りです。よろしくお願いします」

総一郎「よし。ではまず、私は警察庁の部下に連絡を……」

月「僕は高田にメールを……あ、星井美希が更衣室に戻って来たな」

総一郎「そういえば、このままだと星井美希と弥が対面するが……大丈夫だろうか?」

L「弥が『黒いノート』の内容を把握していれば少し事情が変わってきますが……あの短時間であの英文を読めていたとも思えませんし、まず大丈夫でしょう」

月「ああ。現にさっき、僕に『英語で何て書いてあったのか』と聞いていたくらいだしな。また人名の方も、それがキラに裁かれた犯罪者の名前だとは気付いていないだろう」

L「ええ。いくらキラの崇拝者とはいえ、キラが裁いた者の名前までいちいち覚えているとも思えませんしね」

月「そういう意味では、この役を高田にしていなくて正解だったな。高田ならあの程度の英文は瞬時に読めてしまうし、日頃からキラ事件関連のニュースの研究をしているから、キラが裁いた犯罪者の名前もおそらく覚えて―――」








海砂『きゃああああああああああああ!!』








一同「!?」


月「――――ミサ?」

L「…………?」

一旦ここまでなの



一瞬ミサが襲われたかと思ったが、ノートに触ったから見えちゃったのか

キラとしてはもう詰んじゃったかな

でもこれ月のついた嘘がバレるよな?

美希と春香のモノローグ的に原作でもやったひとつの可能性が浮かんだけどノート出てきたしな…

まあこの展開はあるよな

リューク「見えちゃった♪」

予想してた展開だけどドキドキする

原作をなぞるだけではないはず
期待する

あーあ・・・ミキが・・・って思ったら最後の悲鳴で一気にワクテカに

海砂「……でも、いつかは遊びじゃなくて、ミサもお仕事で行ってみたいなあ……ハリウッド」

美希「あはっ。大丈夫なの。海砂ちゃんすっごくカワイイし、きっとすぐ行けるようになるって思うな」

海砂「……なんか美希ちゃんのその激励が段々テンプレ化してきてるような気がするんだけど……気のせい?」

美希「あ、ばれた?」

海砂「やっぱり! 美希ちゃん最近ミサの扱いぞんざいじゃない!?」

美希「ミキなりの愛情なの」

海砂「否定はしないんだ……」

美希「でも冗談はさておき、海砂ちゃんって外国の人にも受けが良さそうなルックスだし、ふつーにゼンゼンいけるって思うな」

海砂「! 美希ちゃん……ありがとう。美希ちゃんからそう言ってもらえると何よりの励みになるよ」

海砂「ミサも頑張るよ。美希ちゃんを目指して!」

美希「うん! 一緒に頑張ろうなの! 海砂ちゃん!」

海砂「よし。じゃあちゃっちゃと着替えちゃおうか。あんまりモタモタしてるとヨッシーに怒られちゃう」

美希「あはっ。そうだね」

海砂「…………」

海砂(ていうか、今……ライトはこの更衣室の映像を観てるのよね)

海砂(ミサ、昨日ライトに『ライトが美希ちゃんの着替えを観るのはフクザツ』って言ったけど……)

海砂(いざ冷静になって考えてみると……ミサ、ライトに自分の着替えを見られる方が恥ずかしいかも)

海砂(いや、そりゃまあミサはライトと付き合ってるわけだから、ライトに着替えを見られても何ら問題は無いんだろうけど……)

海砂(でもよく考えたらライトに下着姿見られるのって初めてだし……)

海砂(そもそも付き合ってはいるけど、ちゃんと二人でデートしたのも、別れ際にミサが告白したあの時の一回だけだから、厳密には付き合う前だし……)

海砂(それによく考えたらまだ手も繋いだことない……キスはその時に一回だけしたけど……)

海砂「…………」

海砂(い……いやいや! それもこれも、全ては今日のこの作戦のため……ライトにとってはキラの能力を取り戻すことが何よりも最優先なんだから)

海砂(だから今ミサにできることは、ライトの指示通りに自分のすべきことをきっちりするだけ……)

海砂(それができれば、ライトはキラの能力を取り戻すことができる。犯罪者裁きも再びライト自身の手で行えるようになる)

海砂(そして美希ちゃんと春香ちゃんもキラの仲間に加われば……竜崎や清美ちゃんも含めて、ミサ達五人でキラの……ライトの理想の世界の創世の手助けができる)

海砂(そうなれば……ミサも、ライトと公然と恋人同士として振る舞えるようになるはず)

海砂(だからあと少し……あと少しなんだ)

海砂(ミサ、頑張るからちゃんと見ててね。ライト……)

美希「…………」

美希(午前中、みっちりレッスンしたからちょっと眠いの……あふぅ)

以下、>>62からの続きとなります

【同時刻・撮影スタジオ内/更衣室】


海砂「きゃああああああああああああ!!」

美希「!?」

海砂「あ……ああ……あ……」ペタン

(目を見開いて美希のいる方向を見たまま、言葉にならない声を発しながら床にへたり込む海砂)

(海砂はその姿勢のまま、美希のいる方向を凝視している)

美希「…………み、海砂ちゃん? どうし」

海砂「ッ!?」ガタッ ドッ

(美希が近付こうとすると、海砂は床に座り込んだ姿勢のまま後ずさり、壁に背中をぶつけた)

海砂「…………!」

美希「…………?」

美希(何かを、見ている……?)

美希(ミキじゃない。海砂ちゃんの、目線の先……)チラッ

(自分の背後にいるリュークの方を振り返る美希)

リューク「……ん?」

海砂「!?」ビクッ

美希「!」

美希(今、反応……)

リューク「あれ? もしかして……」

海砂「ひっ!」ビクッ

美希「! …………」

美希(ま……間違い無い)

リューク「……ククッ。どうすんだ? ミキ。これ……」

海砂「! あ……ああ……」ガタガタ

美希「…………」

リューク「どう見ても、こいつ……俺が見えてるぞ」

海砂「しゃ、しゃべっ……」

美希「…………!」

美希(とりあえず、今誰かに見つかったらまずいの)

 バタン ガチャッ

(後ろ手に更衣室のドアを閉め、鍵を掛ける美希)

海砂「!」

海砂(鍵を……)

美希強運EX

美希「…………」

美希(さて……この展開は流石に予想してなかったの)

美希(海砂ちゃんには明らかにリュークが見えている……最初の悲鳴、その後の目線、そしてリュークの挙動に対する反応からまず間違い無い)

美希(現に今も、リュークの発言に反応するように『しゃ、しゃべっ……』と言っていた)

美希(このことから導き出される結論はただ一つ)

美希(海砂ちゃんは、すぐそこのロッカーの中にある……)チラッ

美希(―――ミキのデスノートに触った、ということ)

美希(しかし……どうやって? 見たところ、ロッカーが壊されたような形跡は無い……)

美希(暗証番号を設定するときに見られていた? ……いや、それもない。ミキは普段から、こういう暗証番号方式のロッカーを使う時は、必ず周囲の人間に番号を見られないように細心の注意を払いながら設定している。事実、今日もそうした)

美希(そもそも、ミキが番号を設定している時に海砂ちゃんがミキの方を見ていた素振りなんか全く無かった)

美希(だとすれば……単純に当てられたってことになるけど……)

美希(まあでも暗証番号はミキの誕生日を入れ替えただけだし、的中させるだけならそこまで難しくは……)

美希(……いや、違う。そうじゃない)

美希(海砂ちゃんがミキの番号を当てたこと自体が問題なんじゃない。何故海砂ちゃんがそんなことをしたかが問題なんだ)

美希(海砂ちゃんがミキのロッカーを開けた理由……)

美希(海砂ちゃんはロッカーを開け、ミキの鞄を探り、そして……その中にあるミキのデスノートを見つけた)

美希「…………」

美希(ノートにはカバーを掛けてビニール袋に入れてある。でもそれは他の人に偶然鞄の中を見られても怪しまれないための措置でしかない)

美希(だから本気で鞄をひっくり返されたらノートはすぐに見つけられる)

美希(じゃあ、何故海砂ちゃんはそんなことをしたのか……)

美希(そんなの、もう一つしかないの)

美希(これはどう考えても、ミキをキラと疑い……かつその証拠を押さえようとしての行動)

美希(それ以外に、海砂ちゃんがこの状況でこんな行動を取る理由が無い)

美希(でもそうだとして……これは海砂ちゃんの独断? いや……海砂ちゃんはキラに恩義を感じている。もし何らかのきっかけでミキをキラだと思ったのなら、むしろ直接そうではないかと尋ねてくるはず……あえてこんな回りくどいことをするとは思えない)

美希(それにそもそも、現時点で海砂ちゃんがミキをキラだと思えるような理由も無いはず)

美希(……とすれば)

美希(他に協力者……いや、海砂ちゃんに指示を出し、彼女を動かしている者がいるとみるべき)

美希(それが誰かなんて……もう考えるまでもない)

美希(L――竜崎しかいない)

美希(竜崎なら海砂ちゃんとの接点もある。彼がどうやって海砂ちゃんを焚き付けたのかまでは分からないけど……)

美希(おそらくは……“L”という自分の正体を伏せた上で、自分はキラの崇拝者だとか嘯いて……『ミキがキラではないかと思っている』『もしそうなら協力したいが、現時点では確証が無い』『だからその確証を得るために協力してほしい』とか……そんな事を言って丸め込んだに違いないの)

美希(海砂ちゃんにとって、キラは自分の両親の仇を討った恩人……キラの力になることだと言われたら信じてしまうに違いない)

美希(―――とまあ、現状の把握と原因の推測はこのへんにしておいて……)

美希「…………」チラッ

海砂「!」ビクッ

美希(これから、どうするか……)

海砂「…………!」ガタガタガタガタ

美希「…………」

美希(ノートは今、どうなってるんだろう……海砂ちゃんに取られちゃったのかな?)

美希(だったら取り返さないといけないの)

美希(でも、ノートの内容を確かめただけでまたそのままミキの鞄に戻したという可能性もある……ならまずはそっちから確認した方が良いか)

美希(海砂ちゃんはリュークの姿を見て怯え切っている。見た感じ腰も抜けているようだし……これなら今、ミキに対する物理的な対抗はまずできないとみていい)

美希(なら今、ミキがノートの有無を確認しようとしても――……)

美希(……いや、違う)

美希(相手はLなの)

美希(あのLが……ただ海砂ちゃんにノートを調べさせるだけなんて……ありえない)

美希(Lなら。そう、Lなら……)

美希「! …………」

美希(……こういう時に活きるんだね。過去の経験って)

美希(仕掛けられている。この部屋に―――監視カメラと盗聴器!)

美希(つまり今のこの状況も全て観られている。そしてこれからのミキの行動も全て……)

美希(じゃあ……どうする?)

美希(もう諦める?)

美希(……そんなの、ありえないの)

美希(ミキの“理想”も、春香の“使命”も……まだ何も実現していないのに!)

美希(! ……春香)

美希(そうか。あの時、春香が……!)

美希(……ありがとうなの。春香)

美希(ミキ、また春香に助けられちゃったの)

美希(もっとも、“これ”が上手くいくかどうかは―――)チラッ

(自分の背後にいるリュークの方を振り返る美希)

リューク「……ん?」

美希「…………」パチッ パチッ パチッ パチッ

(リュークを見つめたまま、四回続けて右目をウィンクする美希)

リューク「…………?」

美希(この……気まぐれな死神次第だけどね)

リューク「…………」

リューク(何だ? 今の……)

リューク(ウィンクを……四回……?)

リューク「あっ」

美希「…………」

リューク(そうか。そういえば、前に――……)

(以前の美希と春香の会話を思い返すリューク)




【80日前(東応大学の学祭があった日)・東応大学近くの喫茶店からの帰路】


(L、月、海砂、清美と喫茶店で歓談した後、四人と別れ、並んで家路を歩いている美希と春香)

春香「―――だから尚の事……Lが私だけを特定して疑っているとは考えられない。現に、美希の部屋には付けられていた監視カメラも、私の部屋には付けられてないしね」

美希「? 確かめたの? どうやって?」

春香「簡単だよ。定期的に、自分の部屋に入った時に、何も言わずにレムに目配せして合図を送るの」

美希「合図?」

春香「そう。何でもいいんだけど、私の場合は、右目を二回ウィンクした時は『カメラを探して』、四回ウィンクした時は『カメラを探して、もしあった場合はそのまま壊して』、っていう風に決めてるよ」

美希「へー。そんなことしてたんだ」

春香「うん。美希の部屋にカメラが付けられたって聞いてから……大体、週に一回くらいはやってもらってるかな。このやり方なら、もし本当にカメラがあったとしても問題無く対処できるからね」

美希「死神はカメラに映らないもんね」

春香「そう。それに死神は自分の意思で自由に人間界の物体に干渉できるから、壊そうと思えばすぐに壊せる」

美希「あー。確かにリュークも普通にリンゴ食べてるもんね」




【現在・撮影スタジオ内/更衣室】


リューク「…………」

リューク(弥海砂には明らかに俺の姿が見えている……それはつまり、弥海砂がミキのデスノートに触ったという事)

リューク(詳しい経緯は分からんが、まあ普通に考えて、L――ミキの確信を信じるなら、竜崎――の差し金だろう。奴なら弥海砂との面識もあるしな)

リューク(デスノートはキラの証拠に他ならない。これをLに押さえられた時点でもう詰んだかと思ったが……)

リューク(この状況でなお、ミキの目は死んでいない)

リューク(こいつはまだ……勝ちの目を捨てていない)

リューク(それだけじゃない。こいつは……ミキは、ほんの一、二分ほどの思考で今の状況をほぼ正確に把握した)

リューク(確かに、Lならこの部屋にカメラや盗聴器を仕掛けていても不自然じゃない……いや、仕掛けていないワケがない)

リューク(それでもミキは諦めること無く、冷静にその対処法を考え……前にハルカから聞いていた『監視カメラの探し方』の話を思い出し、即実行に移した)

リューク(もっとも、それで俺が思い出すかどうかは賭けだっただろうが……ククッ。運が良かったな。ミキ)

リューク「…………」

リューク(もし仮に、この場で俺に『弥海砂を殺してくれ』とか『竜崎を殺してくれ』とか頼むようなことがあれば……もうその時点でキラとしてのミキは終わり)

リューク(そのときは弥海砂でも竜崎でもなく、ミキ自身の名前を俺のノートに書き、全て終わらせてやるつもりでいたが……)

リューク(ククッ。こいつは……ミキは、俺に縋る気なんて微塵も無いらしい)

リューク(ただそうは言っても、確かにこの状況でのカメラの探索と破壊は俺にしかできない。だから俺がここで突き放せば、それでもやはりミキは終わりだろうが……)

リューク(ミキは……俺の思考を、行動原理を……完全に理解している!)

リューク(なぜなら今この瞬間……俺は確かに興奮した。この窮地において、瞬時にここまでの行動を取ったミキを見て)

リューク(それがいつ果てるのかは分からんが……少なくとも今、俺はこいつの、この先を……もっと見てみたいと思っている)

リューク(いや……そう思わされてしまった)

リューク(なあ、ミキ)

美希「…………」

リューク(お前は……俺がこう考えることまで一瞬で読み切ったんだな)

リューク(いいだろう。これでもっと面白い物が観れる様になると言うのならやってやる)

リューク(さあ、ミキ。俺をもっと楽しませてくれ!)

リューク「…………」ユラッ

(おもむろに動き出し、壁の方へと向かうリューク)

海砂「!?」ビクッ

海砂(う……動いた……)

海砂(そ、それにさっき、はっきり喋ってたし……美希ちゃんの名前も呼んでいた……)

海砂(一体どういうこと? この黒いお化けみたいなのは……何? 何で美希ちゃんと一緒にいるの? これがキラの能力の正体?)

海砂(だとしたら……このお化けが人を殺すってこと? じゃああのノートは何?)

海砂(ああ……駄目。頭がこんがらがって、もう何が何だか……)

リューク「よっ、と」

海砂「…………え?」

(壁に頭を突っ込むリューク)

海砂「!?」

海砂(あ、頭が壁にめり込んで……あれ、やっぱり人間じゃ……)

海砂(でも一体、何を……?)

リューク「――お、早速一個見っけ」

海砂「!」

海砂(『一個見っけ』って……な、何を?)

美希「…………」

リューク「やっぱり前に一回やってるだけあって、コツが掴めてるみたいだな。……よ、っと」

(カメラに向かって手を伸ばすリューク)

【三分前・キラ対策捜査本部(都内のホテルの一室)】


(海砂の悲鳴が聞こえた直後)

総一郎「い、今の悲鳴は……弥か?」

L「……だと思います、が……」

月「何があったんだ……? 映像を観ていた限り、ただ星井美希が更衣室に戻って来ただけにしか見えなかったが……」

総一郎「星井美希を見て悲鳴を上げたのは間違い無いと思うが……現に今も、弥は星井美希の方を見たまま固まって……」

美希『…………み、海砂ちゃん? どうし』

海砂『ッ!?』ガタッ ドッ

(美希が近付こうとすると、海砂は床に座り込んだ姿勢のまま後ずさり、壁に背中をぶつけた)

L「!」

総一郎「やはり星井美希に怯えている……のか?」

月「…………」

月(星井美希が更衣室に戻って来たタイミングでミサが悲鳴を上げたのは間違い無い)

月(そして父さんの言うように、今もミサは星井美希に怯えているように見える……だが肝心の星井美希の様子は、今日これまでのものと比べても何ら変化は見られない)

月(つい先ほどの最後の衣装の撮影も普通にこなしていたし……おかしな要素など何も……)

海砂『――――』

L「? 今、弥が何か言いましたね」

月「ああ……だが何と言ったかまでは聞き取れなかったな。今にも消え入りそうな声だったが……」

『バタン ガチャッ』

(後ろ手に更衣室のドアを閉め、鍵を掛ける美希)

L「! 部屋の鍵を」

総一郎「……さっき一瞬だけ、星井美希は弥に話し掛けようとしていたようだが……すぐに無言になって、鍵を……」

月「つまりミサが何に対して驚き、怯えているかに気付いた……?」

総一郎「!」

L「そう……ですね。でなければ問い詰めるのをやめないはず……」

月「すぐにドアの鍵を掛けたのも……危機を察知し、誰かに部屋に入られるのを防ぐためか……」

L「しかし肝心の……弥が何に驚き、怯えているのか……そして星井美希が何に思い当たったのかがさっぱり分かりませんね」

総一郎「うむ……」

星井父「…………」

月「…………」

月(まさか……)

L「? どうしました? 月くん」

月「ああ、いや……」

L「?」

月「…………」

月(ミサの様子……確かに何かを見て怯えているように見えるが……よく見ると……)

月(その視線の先は、星井美希というよりも、むしろ……その後ろ)

月(星井美希の……背後の空間)

月(だが、映像には何も映っていない……誰がどう見たって、更衣室の中にはミサと星井美希の二人しかいない)

月(……とすれば、やはり……)

月「…………」

(映像の中の美希が自分の背後を振り返る)

月「!」

L「……今、何かしましたね」

月「ああ」

総一郎「え? 星井美希がか?」

L「はい。少しだけ今の映像を巻き戻します。……ここです。自分の背後を振り返った後……」

総一郎「ん? ちょっとよく分からんが……」

L「拡大してスロー再生してみましょう」

(スロー再生された映像には、自分の背後を振り返った状態で、右目を四回連続でウィンクしている美希の姿が映っていた)

総一郎「……瞬き? いや、これは……ウィンクか?」

L「はい。一、二回ならともかく、四回続けてですから……瞬きではないでしょう。明らかに意図的にウィンクをしています。……自分の背後に向かって」

総一郎「だ、だが星井美希の背後には何も……」

 ブツッ

(その瞬間、更衣室内の映像を映していたモニターの一つが真っ暗になった)

総一郎「…………え?」

月「映像が……切れた?」

L「…………」ピッ

ワタリ『はい』

L「ワタリ。更衣室の3番のカメラの映像が観れなくなった。そっちでは観れているか?」

ワタリ『いえ。たった今、こちらでも3番の映像が観れなくなりました。私も今ちょうどその連絡を竜崎にしようと……』

L「……そうか。分かった。では残りのモニターで引き続き監視を頼む」

ワタリ『はい』

L「…………」ピッ

総一郎「ワタリの方でも映像が切れたということは……」

L「再生機器の不具合ではなく、部屋に取り付けたカメラ自体の故障……ですね」

総一郎「更衣室内に動きは無い……星井美希はドアのすぐ近くに立ったまま、弥は壁に背をつけて床に座り込んでだまま……」

月「…………」

 ブツッ

(さらに、更衣室内の映像を映していた別のモニターも真っ暗になった)

総一郎「! ま、また……」

L「…………」

 ブツッ

 ブツッ

 ブツッ

(次々と、更衣室内の映像を映していたモニターが真っ暗になっていく)

総一郎「い、一体どうなってるんだ? これは……」

L「偶然の連続……ではないでしょうね。この更衣室内のカメラだけが、一個ずつ順番に壊れていくなんて現象は……」

総一郎「だが故意に壊されているとも思えない……部屋の中にいる二人は相変わらず微動だにしていない」

月「……死神……」

L「え?」

総一郎「ライト?」

月「…………」

一旦ここまでなの

ん?月は直感でリュークの存在に気付いたかな?

以前何かいるんじゃないかって推理してたからね
馬鹿馬鹿しいって切り捨てちゃったけど

しかし警察の盗撮がニュースになる時期によくやるな
とはいえクロス作品好きだし続き気になるしで大変だ

ちょっとだけリュークが原作より味方してくれるな
ほぼ詰んでると思ってたからなんかすげえワクワクしてきた

カメラ破壊を最初に行っていれば最悪の事態は避けられたのか・・・?
いやどっちにしても同じか

ふむふむ

ミキが半歩押し返した感じだな
さてさてどうなるかな?

L「…………」ピッ

ワタリ『はい』

L「ワタリ。更衣室の3番のカメラの映像が観れなくなった。そっちでは観れているか?」

ワタリ『いえ。たった今、こちらでも3番の映像が観れなくなりました。私も今ちょうどその連絡を竜崎にしようと……』

L「……そうか。分かった。では残りのモニターで引き続き監視を頼む」

ワタリ『はい』

L「…………」ピッ

総一郎「ワタリの方でも映像が切れたということは……」

L「再生機器の不具合ではなく、部屋に取り付けたカメラ自体の故障……ですね」

総一郎「更衣室内に動きは無い……星井美希はドアのすぐ近くに立ったまま、弥は壁に背をつけて床に座り込んだまま……」

月「…………」

 ブツッ

(さらに、更衣室内の映像を映していた別のモニターも真っ暗になった)

総一郎「! ま、また……」

L「…………」

 ブツッ

 ブツッ

 ブツッ

(次々と、更衣室内の映像を映していたモニターが真っ暗になっていく)

総一郎「い、一体どうなってるんだ? これは……」

L「偶然の連続……ではないでしょうね。この更衣室内のカメラだけが、一個ずつ順番に壊れていくなんて現象は……」

総一郎「だが故意に壊されているとも思えない……部屋の中にいる二人は相変わらず微動だにしていない」

月「……死神……」

L「え?」

総一郎「ライト?」

月「…………」

以下、続きとなります。

L「死神……とは、どういうことですか? 月くん」

月「――竜崎。前に例のメンバーで遊園地に行ったとき、観覧車の近くのベンチで、僕が『下らない空想をしていた』と話したのを覚えているか?」

L「? 確か……『あえて話すほどのものでもない』と言っていた件ですか。それは覚えていますが……」

月「あのとき、僕がしていた空想とは――『名前を書くと書かれた人間が死ぬノート』および『顔を見れば名前が分かる能力』……これらをキラ――即ち、星井美希と天海春香――にもたらしたのは異界の者……たとえば死神や悪魔などではないか、という内容だ」

L「! …………」

総一郎「死神や悪魔……だと……」

月「ああ。『名前を書くと書かれた人間が死ぬノート』だの『顔を見れば名前が分かる能力』だの……あまりにも僕達の常識を超越した概念だからね。むしろそれくらいぶっ飛んだ考えの方が馴染むのではないかと思ったんだ」

月「そして『人を殺せるノート』であれば死神の方がしっくりくると考え……その異界の存在を仮に『死神』と定義した」

L「…………」

総一郎「ふむ……」

月「その死神が『人を殺せるノート』を人間に渡した理由は……そうだな。前の時はそこまで深く考察していなかったが……あえて考えるならば、『人を殺せるノート』を人間に使わせ、人間同士で殺し合うさまを観察して楽しもうとした……とかじゃないかな」

月「そのように考えれば、『星井美希と天海春香はそれぞれ無関係にノートを入手した』とする僕達の推理とも矛盾しない」

L「……なるほど。人間同士で殺し合わせようとしたからこそ、あえて距離の近い二人の人間に、かつ別々にノートを渡した……」

総一郎「では結果的に二人が協力して犯罪者裁きをするようになったのは……ノートを渡した死神からすれば予想外の行動だったというわけか」

月「あるいはそうなのかもしれないし……またはそういった予想外の展開になることをも期待してノートを渡したのかもしれない」

総一郎「うむ……」

月「あと、『顔を見れば名前が分かる能力』だが……これは『人を殺せるノート』のオプションのようなもので、事後的に死神と契約か何かを結ぶことで入手できるものと考えられる。つまり天海春香はその契約をしたが星井美希はしなかった……こう考えればこれまでの推理とも整合する」

L「……そうですね。一見突拍子も無い推理ですが、しかし現に今、更衣室内の監視カメラだけが次々と壊れていっているという状況を考えると……」

月「ああ。さっき竜崎も言っていたが、この現象は偶然の連続などとは到底思えない。誰がどう見たって、カメラは何者かの意思によって物理的に破壊されている」

総一郎「確かに……いや、だが待てよ」

総一郎「あの『黒いノート』が元々は死神の物だったとすれば、英語で……人間の言語でルールが書かれていたのはおかしいのでは?」

L「……そこは別にどうとでも解釈できると思います。今、月くんが仰ったように、元々死神が『人を殺せるノート』を人間に使わせる目的でいたのなら、死神が人間に理解できる言語でルールを書いていても別に不自然ではないですし……実際には死神の用いる言語で書かれているが、我々の目にはそれが英語で書かれているように見えているだけなのかもしれません」

総一郎「な……なるほど」

L「いずれにせよ、それは本質的な問題ではない……むしろ今ここで考えなければならないのは……」

月「ああ。あの場には死神がいるのかもしれない。そしてもしそうなら―――それは僕達には視認できない存在だという事だ。……少なくとも監視カメラ越しには、ね」

総一郎「! …………」

(その瞬間、更衣室内の映像を映していたモニターのうち、最後の一つも真っ暗になり、捜査本部内から更衣室内の映像は一切観ることができなくなった)

総一郎「! さ、最後のカメラが……」

L「…………」ピッ

ワタリ『はい』

L「ワタリ。今、更衣室内の映像が全て観れなくなった。そっちも同じか?」

ワタリ『はい。たった今、最後のモニターの映像も観れなくなりました』

L「分かった。だがまだ盗聴器は生きている。少しでも情報が得られないか、注意して更衣室内の音声を聴いておいてくれ」

ワタリ『分かりました』

L「…………」ピッ

総一郎「確かに盗聴器の方は壊された様子も無く、まだ生きているようだな。音声は何も聞こえないが……」

L「! 盗聴器といえば……」

総一郎「? 竜崎?」

L「……さっき、弥が何か言っていましたよね。星井美希が部屋のドアの鍵を掛ける直前です」

月「ああ。声が小さくてよく聞き取れなかったやつだな」

L「念の為、音量を上げて聴き直してみましょう。死神の正体を探るヒントになるかもしれません」ピッ

(更衣室内の盗聴器の録音を巻き戻すL)

L「多分このあたりです」ピッ

月「…………」

海砂『……しゃ、しゃべっ……』

総一郎「!」

月「……『喋った』……か」

L「はい。死神が喋った……でしょうね。このとき星井美希は何も発言していないですし、そもそも星井美希が喋っただけで驚く理由が無い」

総一郎「うむ……」

月「竜崎。念の為、ミサの今の発言の直前の部分も再生してみてくれないか? 無いとは思うが、死神の声が録音されているかもしれない」

L「そうですね。ではどうせなら星井美希が更衣室に戻って来たあたり……弥が悲鳴を上げたあたりから再生してみましょうか」ピッ

(再び録音を巻き戻すL)

L「……このあたりからですね」ピッ

『…………』

海砂『きゃああああああああああああ!!』

『…………』

海砂『あ……ああ……あ……』

美希『…………み、海砂ちゃん? どうし』

海砂『ッ!?』ガタッ ドッ

『…………』

『…………』

『…………』

『…………』

『…………』

『…………』

海砂『ひっ!』

『…………』

『…………』

海砂『あ……ああ……』

『…………』

『…………』

海砂『しゃ、しゃべっ……』

『…………』

L「…………」ピッ

総一郎「こ、これは……」

月「…………」

L「まあ、これだけで完全に断定はできませんが……それでも、『更衣室内には星井美希と弥以外の何者かが存在している』『その者の姿は監視カメラには映らず、また声も盗聴器では拾えないが、少なくとも弥はその者の姿を見、声を聞くことができている』……ここまでは推測できますね」

月「ああ。ミサが悲鳴を上げた理由、その後ずっと何かに怯えていた理由も……これで説明がつく」

月「本当に死神かどうかは分からないが……さぞ恐ろしい姿をしているのだろう。その『何者か』は」

L「そうですね。そしてその『何者か』が更衣室内の監視カメラを全て破壊したのだとすれば……あの場でそれを命じることができたのは星井美希しかいません」

総一郎「うむ。とすれば……当然の事ながら、星井美希にもその者の姿は見えているし、声も聞こえている……ということになるな」

L「はい。いくらなんでも、自分が知覚・認識できない者に対して命令できるとは思えませんので」

総一郎「しかし肝心の星井美希自身は、弥に話し掛けようとした時以外は一言も発していなかったし、映像で観る限りジェスチャーなどもしていなかった……一体いつ、死神に命令を……あっ。そうか。それがさっきの……!」

L「はい。『自分の背後に向けての四回続けてのウィンク』……これで間違い無いでしょう。星井美希がウィンクをした方向……つまり彼女の背後に死神がいたのだとすれば、それは弥が見ていた方向とも一致します」

月「星井美希が声を出さずに命令したのは……監視カメラのみならず、盗聴器の存在も疑っていたからだろうな」

L「はい。ですがその盗聴器は今もまだ生きています。このことから、死神ができる行動にも限界がある……つまり、監視カメラは壊せても盗聴器は壊せない。……いや、というよりも、より正確に言うと……」

月「『監視カメラは見つけられても盗聴器は見つけられない』……だろうな。カメラの場合は、どんなに小さいものでも必ずレンズが映されている側からも見える位置にある。だからまだ探しやすいが……盗聴器の場合はそうはいかない」

L「はい。ただカメラさえ全て破壊してしまえば、後は声さえ出さなければ事実上自由に行動できる……ゆえに、まずはカメラの発見・破壊を優先して命じたということでしょう」

総一郎「なるほどな。……しかし……」

L「? どうしました? 夜神さん」

総一郎「いや……『黒いノート』の持ち主である星井美希は最初から死神を認識できていたのだとしても……弥は何故、今になって急に死神を認識できるようになったんだ? もし星井美希以外の人間にも認識できるようになったのなら、弥のみならず、今の私達にも見えていておかしくないはず。……勿論、肉眼か監視カメラ越しか、という差異はあるが……」

月「簡単な事だよ。父さん」

総一郎「ライト?」

月「おそらくはミサは『死神を視認することができるようになる条件』を充たしたんだ。ついさっき、初めて死神を視認して悲鳴を上げたと思われる……その直前にね」

総一郎「条件……? 弥が悲鳴を上げる直前……あっ」

総一郎「……『黒いノート』に……触った事か」

L「はい。逆にノートに触る前の弥にはそんな様子は全く無かったので……それで全ての辻褄が合います」

総一郎「なるほど……」

月「ただ勿論、死神がずっとどこかに身を潜めていて、今になって急にその姿を現したという可能性もある。そして、今父さんも少し触れていた事だが……その姿は肉眼では視認できるがカメラ越しには映らない……とすれば、今僕達にその姿が見えていないことの理屈も一応は成り立つ」

L「そうですね。ただその場合は建物内の他の人間も死神の姿を目にしており、現場はパニックに近い状態になっているはず……そうなればプロデューサーから私の元に連絡があってもおかしくないですが、今のところそれもありません」

L「ですので、一旦は『基本的に死神は視認できないしカメラにも映らない。また声も聞こえない』『しかし『黒いノート』に触れた者にだけはその姿が見えるようになり、また声も聞こえるようになる』……このように考えていいと思います」

総一郎「うむ……」

L「…………」

L(しかしなるほど、『死神』か……)

L(以前、星井美希の自室に監視カメラを仕掛けた際も、今日同様に『カメラに映らない死神』がカメラを探していたのだとすれば……)

L(星井美希がカメラの設置および撤去に気付いていたと思われることも……容易に説明ができる)

L(だが、一つよく分からないのは……)

L(『黒いノート』に書かれていたルールが本当だとすると……死神が人間を殺すわけではなく、あくまでも人を殺すのはノート固有の能力ということになる)

L(だとすると、死神は何のためにノートを渡した人間の傍にいる……?)

L(先ほども話題に上がったが……ノートのルールが英語で書かれていた……または私達の目にはそう見えている事から、死神が元々人間に使わせることを目的としてノートを渡したことは明らか)

L(その目的をより具体的に推察するなら……やはり夜神月の言うように『人間同士で殺し合うさまを観察して楽しむため』……あたりが妥当か)

L(だから死神自身も、そのための……自分が楽しむための協力をする。ゆえにカメラを探したり、壊したりもする……)

L(確かに、『ノートを持った人間同士が殺し合う』という、死神が当初想定していたであろう構図ではないとしても……『キラを捕まえようとするL』と『そのLを殺そうとするキラ』という関係は……死神目線で見ても、楽しみに値するものなのかもしれない)

L(しかし……そうだとすれば、その『楽しみ』に自ら直接介入するような手伝い……つまり、『ノートの持ち主の障害となる人間を殺すような手伝い』はしない可能性が高い)

L(ならば今、強硬に星井美希を取り押さえても……)チラッ

総一郎「? どうした? 竜崎」

L「……いえ」

総一郎「?」

L(駄目だ。今のこの状況で強硬に逮捕に踏み切ろうとしても……夜神月はともかく、夜神局長は絶対に首を縦には振らない)

L(彼なら間違い無く、『死神などという得体の知れない者がすぐ傍にいるかもしれないのに、安易に部下を接近させることはできない』と考えるだろう)

L(しかしそれも自然な感情……また私も、この推理に100%の確証まで持っているわけではない)

L(それにこの推理が正しかったとしても……そもそも死神が『楽しみ』のためだけに星井美希にノートを使わせていたのだとすると、むしろ我々が星井美希を捕まえようとした時点で……いや、捕まえてしまった時点で……)

L(『もうこれ以上は楽しめない』と判断し、星井美希も、我々も……目につく全ての人間を皆殺しにしてしまうという可能性も……)

L(いや……流石にこんな可能性まで想定していては何もできない。キラ……星井美希を捕まえることなど永久にできなくなってしまう)

L(考えろ……考えるんだ。現在の状況とここまでの推理を前提に、夜神局長はじめ捜査本部の人間を説得したうえでとりうる、星井美希を逮捕する方法を……)

L「…………」

(次の瞬間、更衣室内以外の映像を映していたモニターの一つが真っ暗になった)

総一郎「! またモニターが……今度はどこのだ?」

L「……12番……更衣室の前の廊下に取り付けていたカメラですね」

総一郎「ということは、もう部屋の外に……?」

月「いや、少なくとも『星井美希は』まだ中だろう。彼女が外に出たなら、たとえ一瞬でもカメラに映るはずだ」

L「そうですね。廊下のカメラは残り3台ありますが……まだそのいずれにも星井美希の姿は映っていません」

総一郎「……ということは、先に『カメラに映らない』死神を部屋から出し、部屋の外のカメラを破壊させた上で……」

L「逃げる気……でしょうね」

総一郎「! そ、それはまずい……止めねば……いや、だが相手は死神……そもそもノートを触らない限り視認できないし、できたとしても……」

L「……そうですね。それに止めるとしても、今、建物の中にいる者で我々が動かせるのは弥を除けばプロデューサーだけ……」

総一郎「……駄目だな。今、彼を動かしたところで無用な危険に晒すだけ……。星井美希の意に応じてカメラを壊すような死神が、星井美希の障害となりそうな人間を殺さないという保証は無い」

L「……そうですね」

月「…………」

月(おそらくは竜崎も、今の僕と同じ考え……『死神は人間にノートを使わせて楽しむことを目的としている。ゆえにカメラを探し、壊す程度の手伝いはしても、自ら直接、ノートの持ち主の障害となるような人間を殺すなどの手伝いはしない可能性が高い』……という考えに行き着いているだろう)

月(しかし100%の確証までは無い。だから今の父さんの指摘に対しても反論する事ができない)

月(もっとも、それは僕も同じ……また星井美希が捕まりそうになった際、『もうこれ以上は楽しめない』と判断した死神が、星井美希を含め、その場に居る人間を皆殺しにしないとも限らない)

月(……という考えにも、竜崎なら行き着いているだろうが……)

月(しかしそんな可能性まで考慮していたら、いつまで経っても星井美希を捕まえることができない。何か方法を考えなければ……)

月「…………」

(数分後、更衣室前の廊下、その突き当たりにある階段、さらにその先にある非常口までの映像を映していたモニターは全て真っ暗になった)

総一郎「……カメラを壊してくれたおかげで、逃走経路は明確になったが……」

L「映像が何も観れない以上、星井美希がいつ、どう動くのか全く読めなくなりましたね」

月「盗聴器からは相変わらず何も聞こえてこないから、音声から動向を探るということもできないしな」

L「そうですね。あるいはもう、非常口から建物の外に出ているという可能性も……」

総一郎「! まずい。建物の外には相沢が張っている。星井美希が出て来ても下手に近付かないよう、状況だけは伝えておかねば……」

L「……そうですね」ピッ

L「…………?」

総一郎「どうした? 竜崎」

L「相沢さんの携帯は電源が入っていないようです」ピッ

総一郎「な、何?」

L「……となると……」ピッ

総一郎「竜崎?」

L「……駄目です。松田さんの携帯も電源が入っていません」ピッ

総一郎「! 何だと」

月「…………?」

L「! そういえば」

総一郎「? どうした? 竜崎」

L「星井さんは……どこに?」

総一郎「え?」

月「言われてみれば……姿が」

模木「…………」

L「模木さん」

模木「! …………」

L「星井さんは?」

模木「……トイレに行く、と……」

総一郎「!」

月「! …………」

L「…………いつ?」

模木「…………」

 ガチャッ

L・月・総一郎「!」バッ

星井父「…………」

L「……星井さん……?」

星井父「…………」

一旦ここまでなの


直接話し合い?

ここまでのパパの覚悟完了っぷりを見てたら嫌な予感しかしない…乙

ついにクライマックスか…乙

最近更新が多くて嬉しい


ついにこの時が来たか

【七分前・撮影スタジオ内/更衣室】


(更衣室内に取り付けられた監視カメラを全て破壊し終えたリューク)

リューク「……ふぅ。ミキ、これで多分全部壊したぞ」

美希「…………」

海砂「…………」

海砂(間違い無い……最初、このお化けが何をしているのかさっぱり分からなかったけど……)

海砂(このお化けが調べていた場所……天井の照明の中、壁とロッカーの隙間、ロッカーの内側……)

海砂(全部、ライトから聞いていた……監視カメラの場所と一致する!)

海砂(それを『全部壊した』と言った……つまり今……いや、これから先、この部屋の状況は外部からは……ライトからは分からなくなった)

海砂(でも……お化けが調べていた場所からして、盗聴器はまだ壊されていないはず)

海砂(だからミサが声を出せば、ライトにも聞こえるとは思うけど……)

海砂(でも、今の状況で下手な動きを見せたら……)チラッ

リューク「…………」

海砂(……殺されるかもしれない。たった今、この部屋のカメラを全て壊したという……このお化けに)

海砂(だから今は、このまま様子を見るしか……。今のところ、このお化けがミサに何かしようとする気配は無いし……)

美希「…………」

海砂(それにしても、美希ちゃん……さっきからずっと黙ったままだけど……)

海砂(お化けの言動から考えても……美希ちゃんがこのお化けに命じてカメラを壊させたことは間違いない……よね?)

海砂(でも美希ちゃん、何でこの部屋にカメラが仕掛けられてるって分かったんだろう……? それにいつ、このお化けにそんな命令を……?)

美希「…………」スタスタ

(無言のまま、自分の使っていたロッカーの方へ歩いて行く美希)

リューク「おい。無視かよ……って、ああ。そうか。盗聴器か」

海砂「!」

海砂(盗聴器にも気付いて……)

海砂(そうか。だから美希ちゃん、ずっと黙って……)

美希「…………」

美希「…………」ガチャッ

(ロッカーを解錠した美希)

美希(……暗証番号はミキが設定した『2311』のまま……とするとやはり単純に当てられたのか、または設定した番号を知る何らかの方法があったのか……)

美希(まあ今更そんな事はどうでもいいの。ミキが今、真っ先に確認しないといけないのは――……)スッ

(ロッカーから鞄を取り出す美希)

海砂「!」

海砂(『黒いノート』を……)

美希「…………」スッ

(鞄の中からビニール袋を取り出す美希)

美希(袋の中……うん。ちゃんと入ってる)

美希(いや、でもまだ……中身がどうなっているかも確認しないと)スッ

(美希はビニール袋の中からカバーが掛けられたノートを取り出すと、続けてそのカバーも外した)

美希「…………」

(裸の状態のデスノートを手に取り、まじまじと観察する美希)

美希(見た感じ……ノートの外見に異常は無い)

美希(では、中身の方は……?)ペラッ

美希(……うん。こっちの方も、何か細工されたりとかはしていない。1ページ目にはミキが書いた犯罪者の名前がそのまま残っている)

美希(そして2ページ目以降は白紙のまま……何かが書き込まれたりもしていない。またページ全体やその一部が切り取られたりした形跡も無い……)

美希(つまり、まずはノートを監視カメラを通じて観察するだけに留め……いや、流石に写真くらいは海砂ちゃんに撮らせているか)

美希(とにかく一旦は、ノートを映した映像や写真を確認・検証……)

美希(その結果、『ノートがキラの証拠となり得る』と判断できた段階で、改めてノートの現物を証拠として押さえ……その後すぐに、いや、あるいはそれと同時に――……)

美希(――ミキを逮捕する。それがL……竜崎が取ろうとしている策)

美希「…………」スッ

(ノートを鞄の中に戻す美希)

美希(……で、その策が成功するかどうか……いや、したかどうか、だけど……)

美希(ミキはデスノートに犯罪者の名前を書いた後、裏まで書き切ったページは必ずすぐに切り取って捨てるようにしている。だから当然、前のプロデューサーや去年のクラスメイトのAの名前を書いたページはもう無い)

美希(もしこの二人の名前が残っていたら、もう言い訳のしようも無かったから……そういう意味ではまだ助かったの)

美希(ただ、最初の1ページ目にはここ一、二週間くらいで裁いた犯罪者の名前が残っている……これはどう説明する?)

美希(キラが裁いた犯罪者の名前は一般に報道されている……それにミキのパパは刑事だし、初期の頃のキラ事件の捜査を担当していたとも言っていた)

美希(なら、その娘のミキがキラ事件に興味を持ち、キラが裁いた犯罪者の名前を記録として書き留めていた、としても……)

美希(かなり苦しいけど、これならまだ誤魔化せるギリギリのライン……だと思う)

美希(……でも、それは……)

美希(やっぱり、それが普通のノートやメモ帳とかに書かれていた場合……だよね)

美希(いくらなんでも、この表紙の『DEATH NOTE』の文字……それに表紙の裏の『HOW TO USE IT』……これらについては……)

美希(でも……たとえどんなに疑わしくとも、ノートの効力を直接検証しない限りはLも確証までは得られないはず)

美希(だからミキが捕まって、ノートの事について追及されたとしても……)

美希(『キラ事件への関心から、キラの心理・行動原理を理解しようと考え、『直接手を下さずに心臓麻痺で人を殺す』というキラの殺人の方法を自分なりに推理し、キラになりきってみた』と釈明する……)

美希(……ありえない発想じゃない。もしミキに他の何の嫌疑も無く、かつノートの検証もされなければ……あるいはそれで通るかもしれない)

美希(でも、前のプロデューサーに去年のクラスメイトのA……ミキと接点のあったこの二人が、キラ事件の開始と同時期に『心臓麻痺で』死んでいるという事実……)

美希(Lがこれら全てを『時期的な偶然の一致』で済ますとは到底思えない)

美希(しかもそれに加えて……春香)

美希(去年のファーストライブの日に春香のファンの人が『心臓麻痺で』死に……さらにそのほとんどすぐ後に、アイドル事務所の関係者の人達……もとい、“765プロ潰し”計画に関与していた主要人物達が事故や自殺で……計八人も死んでいる)

美希(“765プロ潰し”計画との絡みでいえば、黒井社長からうちにスパイとして送り込まれていた前のプロデューサーもこれに関与していたことになるし……)

美希(そして言うまでもなく、ミキと春香の間には『765プロのアイドル仲間同士』という強固なつながりがある……)
 
美希(……駄目だ)

美希(ここまでの材料が揃っている状況で、『このノートに名前を書かれた人間は死ぬ』などと書かれたノートをミキが所持していて……)

美希(しかもそのノートには『ミキの筆跡』で『キラが裁いた犯罪者の名前』が書かれている)

美希(この状況で……Lがノートの検証をしないなんてありえない)

美希(Lなら必ず、このノートに誰か――たとえば死刑囚など――の名前を書く)

美希(自分の身代わりをテレビの生中継に晒し、キラに殺させようとしたLが……それをしない理由は無いの)

美希「…………」

美希(ならどうする? 今からでもノートをどこかに隠す?)

美希(……いや、それでもノートを映像に――そしておそらくは写真にも――撮られている以上、ミキが捕まる事は避けられない。黙秘を続けることはできても、それでミキが自由になることは無い)

美希(下手をすればそのまま、一生……)

美希(だからと言って……やすやすとノートを差し出せば検証されて終わり。ミキは死刑か、よくても終身刑……どのみち同じ事)

美希(じゃあ仮に今からLを殺したら? ……それでも、他の捜査員がLの遺志を継いでノートの検証をする?)

美希(……しないとは言い切れない。それに検証をせずとも、ここまでの嫌疑があるミキを自由にするはずが無い)

美希(だとしたら……やっぱりこの場合でも、ミキは一生檻の中)

美希(では今現在、ミキの知り得る捜査本部内の全ての者を、キラの証拠となる映像や写真を全て消してから死ぬように操って殺したら?)

美希(そしてもし仮に、ミキが顔も名前も知らない人が捜査本部内にいたとしても、その人の情報を公開するように他の捜査員を先に操ってしまえば……)

美希(いや、それでも捜査本部内で顔も名前も知られていない人が一人でもいたら駄目か)

美希(それに……もしそういう人がいなくて、捜査本部内の人間を全て消す事ができたとしても……)

美希(Lなら)

美希(Lなら必ず……万に一つも、絶対に顔や名前といった情報が外部に漏れる、あるいは漏らされることが無いような者を……自分の直下に配置しているはず)

美希(“全世界の警察を動かせる”ほどのLがその程度の準備を怠るとは思えない)

美希(そしてLなら、必ずそういった者に今日撮った映像や写真を既にリアルタイムで共有している)

美希(だとしたら、もうノートの情報そのものを完全に抹消することは不可能……そう考えるべき)

美希(それなら今、ミキが取るべき行動……いや、選択肢は――……)

美希「…………」

美希(……もう、カメラを気にする必要は無い)ピピピッ

(スマホのメール画面に素早く文字を打ち込んでいく美希)

美希「…………」スッ

(メール画面をリュークに見せる美希)

リューク「ん?」

『この部屋の前の廊下、突き当たりの階段、その先の非常口までにあるカメラを全部壊して』

『その後、建物の外に出て、尾行の人の位置を確認して』

『それが全部終わったら、またこの部屋に戻って来て』

リューク「……って、お前な……」

美希「…………」

(無言でリュークを見つめる美希)

リューク「……分かったよ。ったく、死神使いの荒い奴……」スッ

(リュークは溜息をつきながら、壁を抜けて更衣室の外へと出て行った)

海砂「!」

海砂(壁をすり抜けて、外に……いや、それより今……)

海砂(はっきり聞こえた。……『死神』って)

海砂(つまり、あのお化けは死神……?)

海砂(! ……そういえば、あの『黒いノート』の表紙には『DEATH NOTE』って文字が書いてあった)

海砂(『DEATH』……『死』……『死神』……?)

美希「…………」チラッ

海砂「!」ビクッ

美希「…………」ピピピッ

(再び、スマホのメール画面に素早く文字を打ち込んでいく美希)

美希「…………」スッ

(メール画面を海砂に見せる美希)

海砂「!」

『これから海砂ちゃんに色々質問するけど』

『絶対に声を出さないでね』

『ミキの質問に対する答えは、全部こうやってメールの画面に打って見せて』

海砂「…………」コクリ

美希「…………」ピピピッ

『それから』

『今日の事は絶対に誰にも言わないでね』

『ミキとの約束なの』

海砂「…………」コクリ

美希「…………」ピピピッ

『もし海砂ちゃんがこの約束を破るようなことがあれば』

『ミキは海砂ちゃんを殺すことになる』

海砂「! …………」

美希「…………」ピピピッ

『それから』

『場合によっては、海砂ちゃんの大切な人も』

海砂「!」

美希「…………」

美希(こういう手段は使いたくなかったけど……こうなった以上は仕方が無い)

美希(それに両親を強盗に殺されている海砂ちゃんなら……この手の脅しは必ず効く)

美希(もちろん、本心ではミキだって殺したくはない。海砂ちゃん自身は勿論……海砂ちゃんの大切な人も)

海砂「…………」ピピピッ

(スマホのメール画面に素早く文字を打ち込んでいく海砂)

海砂「…………」スッ

(メール画面を美希に見せる海砂)

『お願い』

『ライトだけは殺さないで』

美希「! …………」

ミサのばか…………

美希(『ライト』って……夜神月の事……だよね?)

美希(なんで、ここで夜神月の名前が……?)

美希(しかも呼び方も変わっている……海砂ちゃんは、少なくとも遊園地の時点までは『ライトくん』呼びだったはず……)

美希(……まあ、どうでもいいか)

美希(片想いなのか両想いなのか、あるいはいつの間にか恋人同士になっていたのか……今この場において、そんなことは大した問題じゃない)

美希(ただ重要なのは……『夜神月』が『海砂ちゃんにとって大切な存在』だという事)

美希(今はその事実だけでいい。そこに至る理由や事情はどうでもいい)

美希(とにかく、今は海砂ちゃんに対する口止めが不可欠。そのための材料として……この事実は十分使える)

美希「…………」ピピピッ

『ミキの質問に正直に答えてくれたら殺さないの。海砂ちゃんもライトくんもね』

『だから全部正直に答えてね』

海砂「…………」コクリ

美希「…………」ピピピッ

『じゃあまず最初の質問』

『誰に言われてノートを触ったの?』

海砂「! …………」

海砂(ここで本当の事を言えば、ライトが……)

海砂(いや、でも嘘をついてもそれがばれたら同じ事……)

海砂(なら……)

海砂「…………」ピピピッ

『ライト』

美希「!」

美希(これも『ライト』……? てっきり『竜崎』だと思ったのに……)

美希(……まあいいか。竜崎がLである以上、その竜崎と話を合わせていた夜神月も捜査本部に居る人間なのはほぼ間違い無いわけだし……)

美希(だとしたら、結局はどっちが主体的に海砂ちゃんの協力を取り付けたかというだけの話……ただの役割分担の問題に過ぎない。ここで拘泥すべき箇所じゃない)

美希(ただ、夜神月が具体的に何と言って海砂ちゃんの協力を取り付けたのか……それだけは、海砂ちゃんの口止めをする上で先に知っておく必要がある)

美希「…………」ピピピッ

『ライトくんに何て言われたの?』

海砂「!」

美希「…………」

海砂(もう、全部正直に言うしか……)

海砂「…………」ピピピッ

『ライトから言われたのは、自分がキラとして犯罪者を裁いていたって事』

『ミサの両親を殺した強盗を裁いてくれたのも、ライトだったみたい』

美希「!」

『でもその能力が美希ちゃんと春香ちゃんに奪われて、今は二人がキラとしての裁きをしているって』

『だからその能力を取り返すために協力をしてほしいって』

『ミサが美希ちゃんのノートに触ったのはそれが理由。そのノートは連絡用の道具で、キラとしての証拠になるからって』

『それでキラの能力を二人から取り返せたら、その後は美希ちゃんも春香ちゃんもキラの仲間として迎えるつもりだって』

『ライトはそう言ってた』

美希「! …………」

美希(気付かれていたんだ……デスノートの存在)

美希(どこかで観られていたのかな……。迂闊だった)

美希(でも海砂ちゃんに対して『連絡用の道具』としてノートの説明をしていたということは……Lもノートの存在には気が付きつつも、その能力までは推理できていなかった……?)

美希(いや、でもLなら……これまでのキラの裁きの傾向から考えて、『名前を書くと書かれた人間が死ぬノート』くらいは推理していてもおかしくない)

美希(だとすれば海砂ちゃんには、『殺人の道具そのもの』という説明ではいざノートに触れる際に躊躇する可能性が高いと考え、あえて嘘の説明をした……とか?)

美希(……まあいずれにせよ、もうノートのルールは知られてしまっている。今更そんなことを考えても意味は無い)

美希(それよりも今考えるべきは……これからの対策)

美希(まず竜崎・夜神月は、『キラ』になりすます事で、キラに恩義を感じている海砂ちゃんを味方に引き入れた)

美希(その上で『今はミキと春香がキラ』という方向に話を展開させた)

美希(そして『キラの能力を奪ったミキと春香を捕まえるため』という目的ではなく、あくまでも『夜神月にキラの力を取り戻させるため』という目的の下、海砂ちゃんに協力を求めた)

美希(『夜神月がキラ』なら……彼は、海砂ちゃんにとっては自分の両親の仇を討ってくれた恩人、という事になる)

美希(そしてそれが理由なのか、あるいはそれを抜きにしてもそうなのかは分からないけど……とにかく、海砂ちゃんにとって夜神月は『大切な存在』でもあるらしい)

美希(だとすれば、海砂ちゃんが夜神月に積極的に協力し、彼にキラの力を取り戻させたいと思うのは必然)

美希(そして元々友達だったミキと春香も『キラの仲間として迎える』という事なら……海砂ちゃんが協力を拒否する理由は何も無い)

美希「…………」

美希(でも、まさか海砂ちゃんに裏でそんな働き掛けをしていたなんて……全然気が付かなかったの)

美希(それにミキだけじゃなく、やっぱり春香も……疑われてたんだ)

美希「…………」ピピピッ

『ライトくんに協力してるのは海砂ちゃんだけ? もし他にも協力してる人がいたら、誰なのか教えて』

海砂「! …………」

海砂(ごめん……皆)

海砂(でも、今はこうするしか……)ピピピッ

『竜崎と清美ちゃん』

美希「!」

美希(竜崎は予想通りだけど……高田さんまで?)

美希(! そういえば、春香は今日、高田さんと……)

美希「…………」ピピピッ

『今日の事、高田さんも知っていたの?』

海砂「…………」コクリ

美希「!」

美希(……仕組まれていたんだ。今日の事、全て……)

美希(海砂ちゃんがノートを押さえている間、または押さえた後……ミキが春香に連絡を取ってもすぐに気付けるよう、予め高田さんを春香の傍に……)

美希(でも、何で高田さんまで協力を……?)

美希(いや……今のご時世、キラの支持者なんてごまんといる。もし彼女もそうなのだとしたら……純粋なキラへの崇拝心から協力したとしても別におかしくはないか)

美希(なら今、ミキがすべきことは……)ピピピッ

『海砂ちゃんのスマホを貸して』

海砂「! …………」スッ

(自分のスマホを美希に渡す海砂)

美希「…………」ピピピッ

(海砂のスマホを素早く操作する美希)

海砂(美希ちゃん……一体何を……?)

美希「…………」

【同時刻・都内某カフェ】


(店内で歓談している春香と清美)

春香「――ですよね。それで……」

清美「ええ。本当に……ん?」

清美(……メール? 夜神くんかしら)

清美「ちょっとごめんね」

春香「あ、はい」

清美「…………!」

清美(……これは……)


--------------------------------------------------
From:弥海砂
To:高田清美

件名:(無題)

緊急事態

美希ちゃんに気付かれた
春香ちゃんに連絡される前にそこから逃げて

確認のため、このメールを読んだらすぐに空メールで返信して
その後すぐに携帯の電源を切って
無いとは思うけど、携帯のGPSから位置情報を特定されたらヤバい
美希ちゃんのお父さん警察だし

とにかく今日は誰にも連絡せずにそのまますぐに家に帰って

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清美(どういうこと……?)

清美(夜神くんではなく、海砂さんから……?)

清美(状況が全然掴めないけど……少なくとも今、海砂さんの身に危険が迫っているのは確かなようね)

清美(ならば今は、とりあえず言われたとおりに……)ピッ

清美「…………」

こっからはミサも引き入れるしかないのかな

春香「清美さん? どうかしました?」

清美「ああ……ごめんなさい。春香ちゃん。ちょっと急用が入ってしまって。悪いけど、今日はここで失礼するわ」ガタッ

春香「えっ。あ、はい。分かりました」

清美「本当にごめんなさいね。じゃあ、また明日の体験入門で」スッ

(テーブルに千円札を置き、足早にその場を去る清美)

春香「…………」

春香(何だろ? 急用って)

春香(まあ、いいか。『また明日』って言ってたくらいだから、そこまで深刻な内容でもなさそうだし)

春香(じゃあ私も帰ろうかな。明日もまた午前中からレッスンだし……)

春香(……と、その前に……)

春香「レム」

(正面を向いたまま、小声で話す春香)

レム「ん?」

春香「……このお店に入ってすぐ、『尾行の人も私達の後を追うように店の中に入って来た』って教えてくれたよね」

レム「ああ」

春香「今もまだその人っている? 尾行はもうずっと前からだけど、店の中にまでついて来られたのって初めてだから、ちょっと気になっててさ」

レム「……ああ。それがな……」

レム「私も気になっていたから注意して見ていたんだが……五分ほど前だったか……」

春香「?」

レム「携帯で少し電話した後に、足早に店から出て行ったんだ」

春香「えっ。じゃあもう今はいないの? 今の私の位置からは見えないけど……」

レム「ああ。いない」

春香「ふーん……じゃあもう別に気にしなくてもいいか。私も帰ろうっと」ガタッ

春香「あ、そういえば……美希のお仕事もそろそろ終わった頃かな?」

【同時刻・撮影スタジオ内/更衣室】


(海砂のスマホの画面を見つめている美希)

美希「!」

美希(高田さんから空メールの返信……よし。これで後は……)ピッ

(海砂のスマホから清美の携帯に電話を掛ける美希)

美希「…………」ピッ

美希(うん。ちゃんと電源も切れてる。つまりこれでもう、竜崎・夜神月から高田さんに連絡を取る事はできない)

美希(で、後は今のメールの送受信記録と発信履歴を削除して……と)

美希(まあ、こんなことをしても電話会社の方の通信記録を調べられたらすぐにばれるだろうけど……それはもう仕方がない)

美希(とにかく今は少しでも時間を稼ぎ、そして……)

美希(少しでも、早く)

美希「…………」スッ

(海砂にスマホを返す美希)

海砂(美希ちゃん……ミサの携帯で何を……?)

海砂(なんて、聞けるわけもないけど……)

リューク「あー。疲れた……」ズッ

(壁を抜けて更衣室内に戻って来たリューク)

海砂「!」

海砂(また、戻って……)

美希「…………」ピピピッ

(スマホのメール画面に素早く文字を打ち込み、その画面をリュークに見せる美希)

『どうだった?』

リューク「ああ。全部壊してきたぜ。それから『外の方』も確認したが……いなかった。いや、『いなくなっていた』が正しいか。少なくとも、今日ここに来るまではいたはずだからな」

美希「!」

海砂「?」

美希(……尾行が……いなくなった?)

美希(何故? 今日はL……竜崎にとってはキラの証拠を押さえる、最も重要な日だったはず……こんな日に限って尾行を途中で止めさせるはずは……)

美希(まさかリュークが嘘を? ……いや、それはないか)

美希(わざわざこの状況で嘘をついてまでミキを嵌めるつもりなら……そもそもカメラ破壊の時点で協力していないはず)

美希(なら本当に今は尾行がいない……いや、竜崎が判断して引き上げさせた……?)

美希「…………」

美希(この部屋と外の廊下……そして階段、非常口を映していたカメラが全て破壊されたのは当然竜崎も認識しているはず)

美希(その状況から『ミキの傍には目に見えない何かがいる』ということに気付き……尾行していた捜査員の身の安全を第一に考え、現場から離れさせた……?)

美希(もしそれが『警察』の判断なら何の違和感も無い……けど……)

美希(自分の身代わりを生中継で殺させようとまでした“L”が……そんな人道的な判断を……?)

美希(……まあいい。今は余計な考察をしている時間が惜しいの)

美希(尾行がいないならいないで、やりやすくなっただけ。後は……)

美希「…………」

美希「…………」ピピピッ

(スマホのメール画面に素早く文字を打ち込み、その画面を海砂に見せる美希)

『さっき海砂ちゃんが触った、今ミキの鞄に入ってるノートの事だけど』

海砂「!」

『英語でも説明書いてあったと思うけど、一応言っておくね』

『このノートに名前を書かれた人間は死ぬ』

『それがキラの能力』

『ミキはそれをライトくんから奪い、キラの裁きをしてきた』

海砂「! …………」

美希(今はとりあえず話を合わせておかないと……ここでミキが夜神月の嘘を看破したところで、海砂ちゃんの夜神月に対する疑心を招くだけ……)

美希(『海砂ちゃんが“約束”さえ守ってくれれば、夜神月は殺さない』……これが海砂ちゃんの口を封じる最大の理由になる……いや、そうなるようにしなければならない)

美希(そのためにも、今……海砂ちゃんの『夜神月に対する信頼』を失わせるわけにはいかない)

海砂「…………」

海砂(そうか。『キラの能力を奪う』なんて一体どうやって、って思ってたけど……)

海砂(『ノート』を奪っていたんだ。それなら確かに……いや、でも……)

海砂(ライトはあの時、確かに四人の犯罪者を殺して、ミサと清美ちゃんに自分がキラである事の証明を……)

海砂(でもあの時、ノートはもう既に奪われていたはず……)

海砂(あ、でもそういえば……あのノートには、最初の方の何ページかを切り取ったような形跡があった)

海砂(つまり、もし切り取ったページにもノート本体と同じ効果があるとしたら……)

海砂(そしてライトが、ノートを奪われる前に予め何ページかを切り取っていたとしたら……)

海砂(ライトはあの日、切り取っていたページを使って、四人の犯罪者を……!)

海砂(それにその考えなら、ライトの『力の“大部分”を奪われた』という説明とも合致する)

海砂(ただノートの能力の事はミサにも話せなかったから、ライトは『ノートは連絡用の道具』なんて嘘の説明を……)

海砂(……なるほど、そういうことだったのね)

美希(で、次は……)

美希「…………」ピピピッ

『でも、キラの能力はそれだけじゃない』

海砂「?」

美希「…………」ピピピッ

(スマホの位置を動かし、メール画面が海砂とリュークに同時に見えるようにする美希)

リューク「ん?」

『今ここにいるのは死神のリューク』

『この死神はミキの言う事なら何でも聞く』

『さっき、この部屋に仕掛けられていた監視カメラを全て破壊したようにね』

海砂「!」

リューク「! …………」

海砂(やっぱり……このお化けは『死神』……!)

リューク(ククッ。こいつ……) 

美希「…………」ピピピッ

『つまりミキが『殺せ』と言えば今すぐにでも人を殺すという事』

『海砂ちゃんは勿論、ライトくんでもね』

海砂「!」

リューク「…………」

リューク(『ライト』って……夜神月の事……だよな?)

リューク(俺がこの部屋から出ていた間に、こいつらがどんなやり取りをしていたのかは分からんが……どうやら、夜神月と弥海砂の間には何か特別な関係があるみたいだな)

リューク(そして今の状況から推察するに、ミキは弥海砂を殺さずに脅迫して口止めすることにしたらしい)

リューク(まあここで殺せばキラ確定だしな。賢明な判断だ)

リューク(そしてその脅迫材料として、いざとなれば俺に『弥海砂と特別な関係にある』夜神月を殺させると……なるほど、俺の姿を見られたことを逆に利用することにしたというわけだ)

リューク(しかも弥海砂は俺がこの部屋のカメラを壊すところも直に見ていた。それなら確かに、今ミキが言った脅迫の内容にも説得力が出る)

リューク(勿論実際には、俺がミキの意を受けて他の人間を殺すなんて事は絶対にしないが……)

リューク(しかし俺がここで話を合わせてやれば……まだまだ面白くなりそうだ)

リューク(……いいぜ。ミキ。このいつ捕まってもおかしくないような極限の状況……事ここに至って、それでもなお思考を最大限に回転させ、冷静に状況に対処しようとしているお前に敬意を表し……まんまと演技をしてやろう)

リューク「……ああ。その通りだ」

海砂「!」

リューク「俺は死神のリューク。詳しい経緯は省くが……今はこいつ……星井美希の傍にいて、色々と手助けをしてやっている」

リューク「だから今こいつが言った事は全て本当だ。俺はミキの命令一つで誰でも殺す」

海砂「! …………」ピピピッ

『お願い』

『ライトだけは殺さないで』

リューク「……ククッ。だってよ。どうする? ミキ」

美希「…………」ピピピッ

『なら、今日ここで観た事、聞いた事は絶対に誰にも言わないで』

『さっきも言ったけど、これがミキとの約束』

『この約束さえ守ってくれたら、ライトくんの命は保証するの』

海砂「…………」ピピピッ

『分かった』

『絶対に誰にも言わない』

『だからお願い。ライトだけは……』

『もう、愛する人を失うのは嫌。絶対に嫌なの』

『お願い。美希ちゃん』

美希「…………」ピピピッ

『分かったの』

『約束さえ守ってくれたら、ミキはそれでいいの』

『それに海砂ちゃんは、今でも大切な友達だから』

海砂「! …………」ピピピッ

『ミサもだよ』

『美希ちゃんは私が最初に憧れたアイドルで、本当に大切な友達』

『今でもそう思ってるよ』

美希「…………」ピピピッ

『ありがとう。海砂ちゃん』

『でも、ミキ……もう行くね』

海砂「!」

美希「…………」ピピピッ

『海砂ちゃん』

『今までミキに憧れてくれてありがとう』

『今までミキと友達でいてくれてありがとう』

『さようなら』

海砂「! ……み……」

美希「…………」スッ

(右手の人差し指を立て、海砂の口元に軽く当てる美希)

海砂「! …………」

美希「…………」ピピピッ

『それと』

『プロデューサーには『ミキはトイレに行ってる』って言っておいて』

『しばらくしたらミキは体調不良で帰ったことにするから、それまで適当に話を合わせておいてほしいの』

海砂「…………」コクリ

美希「…………」クルッ

(海砂に背を向け、ドアノブに手を掛ける美希)

美希「…………」

海砂「…………」

美希「…………」クルッ

(再び、海砂の方を振り返る美希)

海砂「?」

美希「…………」

(美希は声を出さず、唇だけを動かす)

『ありがとう』

海砂「! …………」

美希「…………」スッ

(美希は再び海砂に背を向けると、極力音を立てないようにしながら、ドアの鍵を開ける)

 ……カチャッ……キィ……

海砂「!」

リューク「……ククッ。じゃあな」

美希「…………」

(美希はリュークと共に、そのまま振り返ることなく更衣室を出て行った)
 
 ……パタン……

海砂「…………」ペタン

(気が抜けたように、その場に腰を下ろす海砂)

海砂(まだ、何か……夢の中にいるみたい)

海砂(でも、でももうきっとこれで、美希ちゃんとは――……)

海砂「…………!」ゴシゴシ

海砂(駄目。ここで泣いちゃ……ライトに声、聞かれちゃう)

海砂(それに今は考えていても仕方ない)

海砂(今、ミサができること……いや、しなければならないことは……)

海砂「…………」

【同時刻・撮影スタジオ】


(美希と海砂が更衣室から戻って来るのを待っているプロデューサーと吉井)

P「…………」

P(……遅い……)

P(美希が最後の撮影を終えて更衣室に向かってから、もう十五分……いくらなんでもこれは……)

P(やはり何かあったのか? しかしLが常に監視を続けている以上、不測の事態が生じた場合は必ず俺にも連絡があるはず……)

吉井「あの」

P「えっ。あ、はい」

吉井「二人、流石にちょっと遅いので……更衣室の様子を見てきますね」

P「あ……ええ。そうですね。お願いします」

吉井「……あっ、ミサ!」

P「!」

海砂「ごめんごめん、ヨッシー」

吉井「もう。星井さんはともかく、あなたは先に撮影終わってたんだからもっと早く……って、あれ? 星井さんは?」

海砂「ああ、美希ちゃんならトイレだよ」

吉井「あら、そう」

P「…………」

吉井「ならもう少し待ちますか」

P「……そうですね」

P(弥の様子にも不自然な点は何も……ならやはり何も無いのか……?)

海砂「…………」

P「? どうしました? 弥さん」

海砂「えっ、あ、何でもないです。はは……」

P「?」

海砂(しまった……この人……765プロのプロデューサーさんもライトの協力者だって事……美希ちゃんに言ってなかった)

海砂(ミサも結構ギリギリの精神状態だったから……完全に頭から抜けてた)

海砂(まあでも、そもそもミサとこの人は今回の件では一言も会話してないわけだし……『そうとは知らなかった』でも一応は通る……よね?)

海砂(それに今からメールや電話で伝えたとしても……そういう通信記録って、後で警察とかが調べたらすぐに分かっちゃいそうだし……)

海砂(それが元で美希ちゃんに足がついたりしたら、むしろ藪蛇に……)

海砂(……うん。ミサはこの人の事は知らなかった……そういうことにしておこう)

海砂「…………」

P(いや……よく見ると少し変だな……弥の様子)

P(一見、普通に見えるが……“何か知っているが隠している”……そんな風にも見える)

P(だが今、俺が独断で動くわけにも……とにかく一度、Lと会話してからだな)

P「…………」

P「…………ん?」

P「メール……? 美希から?」

海砂「!」

吉井「えっ」

P「…………」

吉井「星井さん、何て?」

P「……『体調が悪いから帰る』って……」

海砂「! …………」

吉井「体調が? そうは見えませんでしたけど……」

P「…………」

吉井「でも、○○さんに顔も見せずに帰るなんてよっぽど……ねえ、ミサ。そんなにしんどそうだったの? 星井さん」

海砂「……うん。そういえばちょっとしんどそうだった……かも」

吉井「! そうならそうと、もっと早く……」

海砂「ごめんなさい。でも美希ちゃん、さっきトイレ行くときも『先にスタジオ戻ってて』としか言ってなかったから……」

P「……まあ、とりあえず連絡してみます」ピッ

P(プロデューサーの立場でなら連絡するのは自然……むしろしないとこの場では不自然だろう)

P「…………?」

P(電源が入っていない……?)

P「…………」ピッ

吉井「どうでした?」

P「つながりませんでした。少し電波が悪いのかも……ちょっとあっちの方で掛け直してみます」

吉井「分かりました」

(スタジオから廊下に出たプロデューサー)

P「…………」

P(ここなら誰にも聞かれないだろう)ピッ

P「…………」

L『Lです』

P「ああ。俺だ」

L『どうされましたか?』

P「実はさっきまで、美希がトイレに行っていたんだが……体調不良ということでそのまま帰ってしまったらしい。俺宛てにメールで連絡があった」

L『! ……そうですか』

P「? そうですかって……あんたはその経緯を知ってるだろ? ずっと監視カメラで観ていたはずだ」

L『……いえ。それが……』

P「?」

L『実は、こちらの再生機器に不具合が生じまして……途中から、そちらの映像が一切観れなくなってしまったんです』

P「! 何だって?」

L『すみません。その復旧作業をしていたため、あなたに連絡するのが遅れてしまいました』

P「それは別にいいが……それで、映像は直ったのか?」

L『いえ。今も復旧中ですがまだ回復していません。なので星井美希の動向も途中から分かっていません』

L『彼女が最後の撮影を終え、更衣室に戻って来たあたりまでは観れていたのですが……』

P「…………」

L『ですので、彼女が帰ったという事も今あなたから聞いて初めて知りました』

P「……そうか」

L『はい。すみません』

P「だが『黒いノート』は確認できたんだろう? さっきのあんたのメールによると」

L『ええ。それを映した映像および写真は押さえてあります。今はその検証をしているところです』

P「どういうノートだったんだ?」

L『すみません。それはまだよく分かりません』

P「…………?」

L『ただ、今は肝心の星井美希の動向が分からなくなっていますので……まずはそちらの方から追いたいと思います』

P「尾行は? 建物の外に張らせていたんじゃ?」

L『はい。ですが少し連絡の行き違いがあったようでして……どうも、途中で現場を離れてしまったようなんです』

P「……そうか」

L『色々とすみません。いずれにせよ、今はまだ色々と状況が不透明ですので、ある程度状況が見えてきたらまたご連絡いたします』

P「……ああ。分かった。じゃあまた後でな」ピッ

P「…………」

P(……妙だな……)

P(『再生機器に不具合』……? Lほどの者がそんなミスを……?)

P(少なくともLなら、そのような万一の場合に備え、別の場所・別の機器でも映像を再生できるようにしておくはず……ましてやこんな重要な局面……)

P(それに『尾行していた者との連絡の行き違い』というのも……)

P(『行き違い』という言い方も曖昧だし……何かを隠しているというよりは、むしろその場で咄嗟に作った言い訳のような……)

P(いずれにせよ……Lらしくない)

P(いや、というより……)

P(Lが『Lとしての対応』を取り繕う事もできないほどに、想定外の事態が起きている……?)

P(そしてその事態の発生を俺には伏せている……?)

P(そもそも『ノートの内容が分からない』というのも変な話だ。少なくとも映像には収めてあるのだから、そこに何か書かれていたのか、いないのか……書かれていたなら、それはどのような内容だったのか……その程度の客観的な情報なら現時点でも十分伝えられるはず)

P(Lはやはり何かを隠している。……俺に対して)

P(だが少なくとも、これまでの状況とLの言動から推測すると……)

P(『黒いノート』は存在した。これは事実と考えていいだろう)

P(そもそも『ノートが無かった』のであれば証拠が無く逮捕自体できないし……また最初からノートが無くとも状況証拠だけで捕まえる気でいたのなら、こんな回りくどいことをせずにもっと前に美希を逮捕していたはず)

P(だがLはそれをしなかった。それは何よりもLが『キラとしての証拠』を美希から挙げることに拘っていたからに他ならない)

P(つまりノートが無かったのなら『無かった』と言うはず……だからLが『ノートはあった』と言った以上、それは事実と考えるしかない)

P(しかしLは、肝心のノートの内容を俺には伝えず隠している……)

P「…………」

P(一つありえるのは、そのノートがまさにキラとしての決定的な証拠……Lが推理していたように『名前を書くと書かれた人間が死ぬノート』だったような場合)

P(だがそれを直截に俺に伝えると、俺が『やはり美希を捕まえることなんてできない』などと言い出し、Lに対する協力を放棄する……という可能性が考えられる)

P(俺はずっと『美希と春香がキラではないことを証明したい』とLに言い続けていた。ならばこの程度の可能性は想定されて当然だろう)

P(なのでLとしては、俺には『今から星井美希を逮捕するから、それまで彼女をその場に留めておいてほしい』という言い方ではなく、『ノートの検証に時間が掛かっているから、もう少し星井美希をその場に留めておいてほしい』とでも言っておき……)

P(……俺の不意を衝いて、美希を逮捕する。これが最も失敗確率の低い方法だろう)

P(しかしそれなら、ノートの内容を把握した時点で俺にその旨の連絡をしてくるはず。それが無かったということは……)

P(本当にノートの検証に時間を要していたという可能性……確かにそれも考えられる。が、しかし……)

P(先ほどのLの不自然な態度から考えると、むしろ……)

P(やはりノートの内容以前に、Lですら想定できていなかった『何か』が起こったという可能性……)

P(今の状況からすれば、この可能性の方が……)

P(…………)

P(そして……美希)

P「…………」

P(俺はまだ、お前を信じていて……いいんだよな?)

P(俺はまだ、お前のプロデューサーでいて……いいんだよな?)

P(……美希……)

一旦ここまでなの

美希がここからどうするのか楽しみなの乙なの

これ続きいつになるのか

互いに綱渡りしながらフェンシングするようなギリギリさだな。ミサもこれでダダ漏れ状態に出来るわけだし。
ミキ側の限定要因は春香
L側の限定要因はミサになったわけだ

月「そして次に、ミサに星井美希のノートを押さえてもらうタイミングだが……これは星井美希の最後の撮影中とする」

海砂「最後……でいいの?」

月「ああ。ノートの内容が確認できたら、ミサには出来るだけすぐにスタジオから出てもらいたいからね。いくらノートを元の位置に戻したとしても、些細な事から怪しまれないとも限らない……ましてや向こうは勘の鋭い天才アイドルだ」

海砂「ライト……ミサの事、そんなに心配してくれているのね」

月「当然の事だよ。ミサ」

海砂「ライト……」

月「だがそうは言っても、まだ星井美希の撮影が続いている中で突然ミサが帰ってしまうと、それはそれで不審に思われる可能性がある。いくら適当な理由をでっち上げたとしてもね。だから星井美希の分も含め、予定されていた全ての撮影が済んだ後に、自然なタイミングでミサにはスタジオから出てもらう。……それでいいね? ミサ」

海砂「うん。大丈夫だよ。ライト」

月(星井美希の洞察力、観察眼は侮れない……ノートの確認後、ミサの態度、挙動に僅かでも変化が生じた場合……それに勘付かれないとも限らない)

月(ゆえに、ノートの確認後にミサを長く星井美希の傍に留まらせておくのは危険……その時間は可能な限り短くなるようにしておきたい)

月(もちろん、ノートの内容次第ではあるが……)

清美「……海砂さんはそれでいいとしても、星井さんはどうするの? 撮影が終わった後、そのまますぐに帰られてしまうと困るのでしょう?」

月「それも大丈夫だ。僕達がノートの内容の検証を終えるまでの間、彼女にはプロデューサーから打ち合わせ等、適当な理由を伝えてもらい……その場に留まらせるようにする」

清美「なるほど」

月(……本当は『星井美希を逮捕するまでの間』だが……)

月「そして万が一、明日、星井美希がノートを所持していなかった場合は……プロデューサーに連絡し、撮影を予備日として確保してある明後日にも行ってもらうようにする」

月「『アイドルにとって雑誌への写真の掲載は強力な宣伝になるので、どうせなら二日分撮影して良い方を採用してもらいたい』とか、適当にそれらしい理由を付けてもらってね」

海砂「ふむふむ。なるほどね」

清美「そして海砂さんと星井さんの撮影が行われている間……私は手筈通りに天海さんを見張っておけばいいのね」

月「ああ。一応確認しておくけど……天海春香との待ち合わせ時刻はミサ達の撮影の開始時刻と同じにしてあるね? 高田さん」

清美「ええ。ただクッキングスクールの開始時刻までは少し時間があるので、先に街をぶらついてから向かいましょう、と伝えてあるわ」

月「よし。それでいい。後は……そうだな。おそらく高田さん達の行くクッキングスクールの方が、ミサ達の撮影より早く終わるだろうから……終わり次第、どこか近くのカフェでお茶でもしておいてくれ。ミサ達の撮影……いや、ノートの検証まで終わった段階で連絡するよ」

清美「分かったわ」

月(……もっとも実際には、高田には連絡しないまま、天海春香を逮捕することになるだろうが……)

L「それでは、いよいよ……ですね」

月「ああ。ようやくここまで来ることができた。皆、最後まで力を合わせて頑張ろう」

海砂・清美「はい!」

L「まずはキラの復活。……そして」

月「理想の世界を創世し、僕は―――新世界の神となる」

(他の捜査員の帰宅後、二人だけで捜査本部に残っているLと月)

L「……月くん」

月「? 何だ? 竜崎」

L「一昨日、皆さんの前で『もし私が死んだら……』という話をしたのを覚えていますか?」

月「ああ。それは勿論覚えているが」

L「あの場では、『私が死んだらその後の事は夜神さんに』と言いましたが、私の本心では……」

月「……分かってるよ。僕にLの名を継いでほしい、って言うんだろ?」

L「よく分かりましたね」

月「もうこれまでに何度となく言われていたからな……ただ、まだ他の皆の前でこの話はしていなかったから、一昨日の時点では言うに言えなかった……だろ?」

L「はい。その通りです」

月「……分かったよ。もしそうなったら、僕がLの名を継ぐ。そして必ずキラを捕まえる」

L「! ……本当ですか?」

月「ああ。約束するよ。竜崎。……いや、L」

L「……ありがとうございます。月くん」

月「ただそうは言っても、それは僕が極めて危険な地位に就くということを意味する……とすれば、少なくとも父にはほぼ確実に反対されるだろう。だからもし本当に僕に譲る気があるのなら、竜崎の直筆で遺言でも書いておいてくれないか?」

L「それは大丈夫です。もう既に書いてワタリに託しています」

月「……流石だな。もちろん言うまでもなく、そんなもの開けなくて済むのが一番ではあるが」

L「そうですね。その為にもあと少し……最後までよろしくお願いします。月くん」

月「ああ。こちらこそよろしく頼む。竜崎」

【一時間後・撮影スタジオ】


(現在、スタジオでは美希の最後の撮影の準備が行われている(海砂は既に自身の撮影を全て終え、更衣室で待機している状態))

P「…………」

P(もう後は美希の最後の衣装の撮影をするだけ……今から撮影前に美希が更衣室に戻るということも無さそうだな)

P(では……指定されたアドレスに……)ピッピッ

P「…………」

P(いよいよ、か)

P(……大丈夫だ。美希も春香もキラではない)

P(キラであるはずがない)

P(美希の鞄から『黒いノート』が出てこようが出てこまいが……そんな物がキラの証拠になるわけがない)

P(美希がキラであるはずがないんだから)

P(だが、今はLの気の済むまで美希と春香の捜査をさせること……そうしなければ、永遠に二人の潔白は証明できない)

P(実際問題、『キラでないこと』の証明なんてできるはずがない。そんなものは悪魔の証明に他ならない)

P(だからLに認めさせるしかないんだ。『星井美希と天海春香はキラではない』と)

P(もうそうすることでしか、美希と春香に対するLの疑いを払拭することはできない)

P(だが逆に、それさえできれば……)

P「…………」

P(大丈夫だ。俺はあいつらを信じる)

P(俺はあいつらのプロデューサーなんだから)

P(……そうだろ? 美希)

カメラマン「よーし、美希ちゃんもこれが最後の撮影だね。頑張っていこう!」

美希「はいなの!」

カメラマン「じゃあとりあえず、正面向きのポーズから撮ってみようか。右手を軽く腰に当てて、リラックスした感じでよろしく!」

美希「こんな感じ?」スッ

カメラマン「そうそう! そんな感じそんな感じ! いいねいいね~」パシャパシャ

P「…………」

L「…………」ピッ

ワタリ『はい』

L「ワタリ。更衣室の3番のカメラの映像が観れなくなった。そっちでは観れているか?」

ワタリ『いえ。たった今、こちらでも3番の映像が観れなくなりました。私も今ちょうどその連絡を竜崎にしようと……』

L「……そうか。分かった。では残りのモニターで引き続き監視を頼む」

ワタリ『はい』

L「…………」ピッ

総一郎「ワタリの方でも映像が切れたということは……」

L「再生機器の不具合ではなく、部屋に取り付けたカメラ自体の故障……ですね」

総一郎「更衣室内に動きは無い……星井美希はドアのすぐ近くに立ったまま、弥は壁に背をつけて床に座り込んだまま……」

月「…………」

 ブツッ

(さらに、更衣室内の映像を映していた別のモニターも真っ暗になった)

総一郎「! ま、また……」

L「…………」

 ブツッ

 ブツッ

 ブツッ

(次々と、更衣室内の映像を映していたモニターが真っ暗になっていく)

総一郎「い、一体どうなってるんだ? これは……」

L「偶然の連続……ではないでしょうね。このタイミングで、この更衣室内のカメラだけが、一個ずつ順番に壊れていくなんて現象は……」

総一郎「だが故意に壊されているとも思えない……部屋の中にいる二人は相変わらず微動だにしていない」

月「……死神……」

L「え?」

総一郎「ライト?」

月「…………」

L「まあ、これだけで完全に断定はできませんが……それでも、『更衣室内には星井美希と弥以外の何者かが存在している』『その者の姿は監視カメラには映らず、また声も盗聴器では拾えないが、少なくとも弥はその者の姿を見、声を聞くことができている』……ここまでは推測できますね」

月「ああ。ミサが悲鳴を上げた理由、その後ずっと何かに怯えていた理由も……これで説明がつく」

月「本当に死神かどうかは分からないが……さぞ恐ろしい姿をしているのだろう。その『何者か』は」

L「そうですね。そしてその『何者か』が更衣室内の監視カメラを全て破壊したのだとすれば……あの場でそれを命じることができたのは星井美希しかいません」

総一郎「うむ。とすれば……当然の事ながら、星井美希にもその者の姿は見えているし、声も聞こえている……ということになるな」

L「はい。いくらなんでも、自分が知覚・認識できない者に対して命令できるとは思えませんので」

総一郎「しかし肝心の星井美希自身は、弥に話し掛けようとした時以外は一言も発していなかったし、映像で観る限りジェスチャーなどもしていなかった……一体いつ、死神に命令を……あっ。そうか。それがさっきの……!」

L「はい。『自分の背後に向けての四回続けてのウィンク』……これで間違い無いでしょう。星井美希がウィンクをした方向……つまり彼女の背後に死神がいたのだとすれば、それは弥が見ていた方向とも一致します」

月「星井美希が声を出さずに命令したのは……監視カメラのみならず、盗聴器の存在も疑っていたからだろうな」

L「はい。ですがその盗聴器は今もまだ生きています。このことから、死神ができる行動にも限界がある……つまり、監視カメラは壊せても盗聴器は壊せない。……いや、というよりも、より正確に言うと……」

月「『監視カメラは見つけられても盗聴器は見つけられない』……だろうな。カメラの場合は、どんなに小さいものでも必ずレンズが映されている側からも見える位置にある。だからまだ探しやすいが……盗聴器の場合はそうはいかない」

L「はい。ただカメラさえ全て破壊してしまえば、後は声さえ出さなければ事実上自由に行動できる……ゆえに、まずはカメラの発見・破壊を優先して命じたということでしょう」

総一郎「なるほどな。……しかし……」

L「? どうしました? 夜神さん」

総一郎「いや……『黒いノート』の持ち主である星井美希は最初から死神を認識できていたのだとしても……弥は何故、今になって急に死神を認識できるようになったんだ? もし星井美希以外の人間にも認識できるようになったのなら、弥のみならず、今の私達にも見えていておかしくないはず。……勿論、肉眼か監視カメラ越しか、という差異はあるが……」

月「簡単な事だよ。父さん」

総一郎「ライト?」

月「おそらくはミサは『死神を視認することができるようになる条件』を充たしたんだ。ついさっき、初めて死神を視認して悲鳴を上げたと思われる……その直前にね」

総一郎「条件……? 弥が悲鳴を上げる直前……あっ」

総一郎「……『黒いノート』に……触った事か」

L「はい。逆にノートに触る前の弥にはそんな様子は全く無かったので……それで全ての辻褄が合います」

総一郎「なるほど……」

月「ただ勿論、死神がずっとどこかに身を潜めていて、今になって急にその姿を現したという可能性もある。そして、今父さんも少し触れていた事だが……その姿は肉眼では視認できるがカメラ越しには映らない……とすれば、今僕達にその姿が見えていないことの理屈も一応は成り立つ」

L「そうですね。ただその場合は建物内の他の人間も死神の姿を目にしており、現場はパニックに近い状態になっているはず……であればその様子が建物内の他のカメラにも映っているはずですが、今のところそれもありません」

L「ですので、一旦は『基本的に死神は視認できないしカメラにも映らない。また声も聞こえない』『しかし『黒いノート』に触れた者にだけはその姿が見えるようになり、また声も聞こえるようになる』……このように考えていいと思います」

総一郎「うむ……」

美希(『ライト』って……夜神月の事……だよね?)

美希(なんで、ここで夜神月の名前が……?)

美希(しかも呼び方も変わっている……海砂ちゃんは、少なくとも遊園地の時点までは『ライトくん』呼びだったはず……)

美希(……まあ、どうでもいいか)

美希(片想いなのか両想いなのか、あるいはいつの間にか恋人同士になっていたのか……今この場において、そんなことは大した問題じゃない)

美希(ただ重要なのは……『夜神月』が『海砂ちゃんにとって大切な存在』だという事)

美希(今はその事実だけでいい。そこに至る理由や事情はどうでもいい)

美希(とにかく、今は海砂ちゃんに対する口止めが不可欠。そのための材料として……この事実は十分使える)

美希「…………」ピピピッ

『ミキの質問に正直に答えてくれたら殺さないの。海砂ちゃんもライトくんもね』

『だから全部正直に答えてね』

海砂「…………」コクリ

美希「…………」ピピピッ

『じゃあまず最初の質問』

『誰に言われてノートを触ったの?』

海砂「! …………」

海砂(ここで本当の事を言えば、ライトが……)

海砂(いや、でも嘘をついてもそれがばれたら同じ事……)

海砂(なら……)

海砂「…………」ピピピッ

『ライト』

美希「!」

美希(これも『ライト』……? てっきり『竜崎』だと思ったのに……)

美希(……まあいいか。竜崎がLである以上、その竜崎と話を合わせていた夜神月も捜査本部に居る人間なのはほぼ間違い無いわけだし……)

美希(だとしたら、結局はどっちが主体的に海砂ちゃんの協力を取り付けたかというだけの話……ただの役割分担の問題に過ぎない。ここで拘泥すべき箇所じゃない)

美希(ただ、夜神月が具体的に何と言って海砂ちゃんの協力を取り付けたのか……それだけは、海砂ちゃんの口止めをする上で先に知っておく必要がある)

美希「…………」ピピピッ

『ライトくんに何て言われたの?』

海砂「!」

美希「…………」

海砂(もう、全部正直に言うしか……)

海砂「…………」ピピピッ

『ライトから言われたのは、自分がキラとして犯罪者を裁いていたって事』

『ミサの両親を殺した強盗を裁いてくれたのも、ライトだったみたい』

美希「!」

『でもその能力が美希ちゃんと春香ちゃんに奪われて、今は二人がキラとしての裁きをしているって』

『だからその能力を取り返すために協力をしてほしいって』

『ミサが美希ちゃんのノートに触ったのはそれが理由。そのノートは連絡用の道具で、キラとしての証拠になるからって』

『それでキラの能力を二人から取り返せたら、その後は美希ちゃんと春香ちゃんもキラの仲間として迎えるつもりだって』

『ライトはそう言ってた』

美希「! …………」

以下、>>125からの続きとなります

【三分前・キラ対策捜査本部(都内のホテルの一室)】


(どこからか部屋に戻って来た星井父を見つめるL、月、総一郎)

(模木は星井父を見ようとはせず、俯いたまま視線を床に落としている)

星井父「…………」

L「……星井さん……?」

星井父「…………」

L「あなた、今までどこへ……?」

星井父「…………」

L「! …………」ピッ

L「ワタリ」

ワタリ『はい』

L「今すぐ電話会社に問い合わせて、星井係長、相沢さん、松田さんの携帯電話の通信記録を調べてくれ。ここ一時間程度でいい」

ワタリ『! ……分かりました』

総一郎「竜崎!?」

月「…………」

星井父「……いや、その必要は無い」

L「! …………」

星井父「相沢と松田に連絡を入れたのは俺だ。『今すぐ携帯の電源を切り、尾行を中止して現場を離れろ』と伝えた」

総一郎「! 星井君」

L「…………」

星井父「竜崎。あなたが俺に『この捜査本部に居るとき以外は』ずっと着けておくように、と指示していた例の超小型マイク……」

星井父「『捜査本部に居る間も』着けさせておくべきだったな」

L「……まさか、捜査本部内でこんな行動を取るとは思いもしませんでしたからね」

総一郎「なぜ、そんなことを……いや……」

星井父「…………」

総一郎「聞くまでもない、か……」

星井父「…………」

総一郎「だが、いつの間に……? 星井美希が更衣室に戻って来たあたりまでは、君はまだこの部屋にいたはず……」

星井父「……私がこの部屋を出たのは、更衣室のカメラが壊れ始めたあたりです」

月「確かにその頃は、僕も竜崎も父さんも、更衣室のカメラが次々と壊れていく様子ばかりに気を取られていた……星井さんがいなくなっていたなんて全く気が付かなかった」

L「はい。ですが……模木さん」

模木「! …………」

L「先ほどの私の問い掛けに対する応答……あなたは知っていましたね? 星井さんがこの部屋を出て行ったことを」

模木「…………」

L「それを知った上で、あなたは」

星井父「やめろ。竜崎。模木は関係無い」

星井父「確かに……模木は俺が部屋を出ようとした事に気付いた。だから俺は咄嗟に『トイレに行ってくる』と模木に嘘をついて部屋を出たんだ。……それだけだ。模木は俺の取った行動には何の関係も無い」

模木「…………」

L「…………」

L「まあとりあえず模木さんの事は後で考えるとして……星井さん」

星井父「…………」

L「正確には何と言ったんですか? 相沢さんと松田さんに対して」

星井父「……『美希が監視と尾行に気付いた可能性が高い。天海春香との連携も含め、どんな行動に出るか読めないから一旦尾行は中止して現場を離れろ』」

星井父「『無いとは思うが、何らかの方法によって、GPSから位置情報を調べられる可能性もある。だから携帯の電源はこの通話の後にすぐに切れ』」

星井父「『また逆につけられて、捜査本部の位置を特定されたらまずい。二、三時間ほど適当に時間を潰してから戻って来てくれ』」

星井父「……俺が伝えたのはこれくらいだ」

L「…………」

月「携帯の電源を切らせれば、僕達から連絡を取ることはできなくなる。しかもその状態がこの後二、三時間は続く……」

総一郎「つまり、尾行を完全に無効化したということか……。だが、相沢にせよ松田にせよ、星井君の言ったことを何も疑わずに信じたというのか……?」

月「さっき竜崎も言っていたことだよ。父さん」

総一郎「ライト」

月「まさかこの捜査本部内で、星井さんがそんな行動に出るなんて誰も予想していなかった」

月「そして、これはさっき星井さん自身も言っていたことだが……竜崎は、ずっと以前から……正確には今年の4月、僕がこの捜査本部に合流した日からだが……星井さんの動きを監視するために、この捜査本部に居るとき以外は常に超小型マイクを身に着けさせていた」

月「そこまで用心深く星井さんの事を監視していた竜崎の虚を衝いて、こんな行動に出るなんて……普通は思わない」

月「だから、相沢さんも松田さんも疑えなかったんだ」

総一郎「…………」

月「だがそれも全ては『突然、更衣室内のカメラが次々と壊れ始める』という予想しえない事態が発生したせい……これで僕達は皆、星井さんの存在が完全に頭から消えてしまった」

L「……そうですね。これは私の失敗です」

星井父「…………」

総一郎「星井君」

星井父「…………」

総一郎「君の行動が、娘である星井美希を想ってのものだということは理解できる。……私にも、同じくらいの歳の娘がいるからな」

総一郎「自分の娘がいつ逮捕されるか分からない、という極限の状況に陥った時……その可能性を少しでも遠ざけたい、先延ばしにしたい……その気持ちは父親として当然のものだろう」

星井父「…………」

総一郎「だがそれでも、君のした事は……」

星井父「分かっています」

星井父「私はどんな処分も甘んじて受けます」

総一郎「星井君」

星井父「……覚悟は、もう出来ていますので」

総一郎「! ……星井君……」

総一郎「君が昨日、『父親としての』覚悟はもう出来ている、と言っていたのは……」

星井父「はい」

星井父「たとえこの身を賭しても、美希を守る」

星井父「……その覚悟です」

総一郎「!」

L「! …………」

星井父「『やっぱり、美希がキラなのかもしれない』……ずっと心の奥底で、そんな疑惑が浮かんでは消え、浮かんでは消えを繰り返していました」

星井父「そして、あの『黒いノート』が美希の鞄の中から出てきた時……その疑惑が確信に変わりました」

総一郎「…………」

星井父「勿論、まだ100%そうだと決まったわけじゃない。あのノートに書かれていたことが本当であるという確証は無いし、仮にそうだとしても、別の誰かが美希に罪を着せるために美希の鞄にノートを仕込んだ可能性だってある」

L「…………」

星井父「しかしたとえそうだとしても、もう美希が逮捕されること自体は既定路線……いつか美希の潔白が証明される日が来るのだとしても、それは果たしていつになるのか。何年後……何十年後……それまで美希はどうなるのか……」

星井父「そしてもし本当に美希がキラなら」

星井父「美希は、もう二度と」

総一郎「星井君……」

星井父「そう思った時……私は一人、この部屋のドアの方へと向かい」

星井父「途中で気付かれた模木には、さっき言ったことを告げて」

星井父「部屋を出ました」

L「…………」

総一郎「星井君。こうなった以上、今更ながら聞くが……これまでにも、我々の与り知らぬところで今回のような行動は……」

星井父「誓って、していません。……と言っても、それを証明する術などは無いですが」

総一郎「うむ……」

L「……それは本当でしょう。今日も星井美希が普通にノートを撮影現場に持参し、鞄ごとロッカーに入れていたのがその証左です」

L「もし事前に星井さんから情報が伝わっていたのなら、このような状況には絶対になりえなかったはずです」

総一郎「確かに……」

L「そして、模木さん」

模木「…………」

L「正直にお答え下さい。あなたは気付いていましたね?」

L「星井さんが部屋を出て行った、その本当の目的に」

模木「! …………」

星井父「おい。竜崎」

模木「……はい」

星井父「! 模木」

L「…………」

模木「私は、警察に入ってから……ずっと係長の下で働いてきました」

模木「だから係長の考えている事は、目を見れば大体分かります」

星井父「模木……」

模木「先ほども、部屋を出て行こうとする係長の目を見た瞬間、すぐに係長の思惑に気付きました。しかし……」

模木「私は、それに気付かないふりをしました」

L「…………」

模木「ですから、係長が処分を受けるというのなら……私も同罪です」

星井父「! 模木」

総一郎「…………」

L「……お二人の最終的な処分は警察に任せますが……とりあえず、当面の間……いえ、キラ事件が解決するまでの間は……外部からの連絡を完全に遮断する形で監禁させて頂きます」

総一郎「! 竜崎」

L「お二人がした行為はキラ容疑者逃走の幇助行為……立派な犯罪行為です。これくらいは当然の措置です」

総一郎「しかし……」

L「もっとも、どのみちもう直にキラとの決着はつくでしょうから……あくまでもその時までの暫定措置です。その後の事は警察内で処理して下さい」

総一郎「……分かった」

星井父「すみません。……局長」

模木「……すみません」

総一郎「いや……」

月「だが竜崎、監禁すると言っても、どこに……? もしかして、新しい捜査本部のビルを使うのか? 後一週間で完成する予定だが……」

L「いえ。そこを使うまでもありません。このホテルの中にも、緊急事態の発生……たとえば、急遽キラ容疑者の身柄を確保した場合などに備えて、いくつか予備の部屋を借りています。その中の二部屋を使って、星井さんと模木さんを別々に監禁します」

月「なるほど。しかもキラ容疑者の身柄を確保した場合などに備えて……ということは、監視カメラや盗聴器も?」

L「はい。当然完備しています。なので監禁中のお二人の様子はここから常に監視し続けられます」

月「そういうことか」

星井父「…………」

模木「…………」

L「では、お二人を夜神さ……いえ、月くん。それぞれの部屋に連れて行ってください。キーは今から渡しますので」

総一郎「!」

月「……ああ。分かった」

総一郎「竜崎。……私も信用できないということか?」

L「…………」

総一郎「……いや、すまない。意地の悪い質問だったな。今の状況で、星井君や模木の直属の上司にあたる私に二人の連行を任すことなどできまい……」

L「……すみません。夜神さん」

総一郎「いや、いいんだ。……当然の事だ」

L「……では、月くん。これが部屋のキーです」スッ

月「ああ」

L「星井さん。模木さん。所持品は全てここに置いて行ってください。私の方で全て内容を確認し、問題が無さそうなものだけ後で届けます」

L「そして先ほども申し上げましたが、今後、キラ事件が終結するまでの間、お二人は外部からの連絡を完全に遮断させて頂きます」

L「ただしご家族に限ってのみ、私の監視の下、連絡を取ることを許可します」

L「しかし、星井さんと星井み……美希さんとの連絡だけはいかなる理由があっても絶対に許可できません。それだけはご了承下さい」

星井父「……ああ。分かった」

模木「…………」

(携帯電話や拳銃等、所持品を全て出し終えた星井父と模木)

月「――では、行きましょうか。星井さん。模木さん」

星井父「……ああ。悪いな。月くん」

月「いえ」

模木「…………」

月「…………」

 ガチャッ

(Lから受け取ったカードキーを手に、星井父と模木を連れて部屋を出る月)

L「…………」

L(……失敗だった)

L(星井係長が娘である星井美希を想う気持ち)

L(他の捜査員に比して、一際強く星井係長を案じていた模木)

L(いずれも分かっていたはずなのに……)

L「…………」

L(捜査の初期、星井係長は765プロダクションの前のプロデューサーと星井美希の当時のクラスメイトの男子が心臓麻痺で死亡していたことを自発的に申告していなかった)

L(それを理由にすれば、もっと早い段階で星井係長を捜査本部から外すこともできたかもしれない。……だが、それは彼に信用していないと宣言するのに等しい)

L(そのような形で星井係長を本部から放出した場合、彼が次にどんな行動に出るのか読めなかった。娘である星井美希に全てを打ち明けてしまう可能性も)

L(しかしだからと言って、星井美希の逮捕直前という状況でもないのに、星井係長を監禁……いや、軟禁レベルであっても……するわけにもいかなかった)

L(だとすれば、むしろそのまま捜査本部に居てもらった方が、こちらも常にその動きを監視できて都合が良いと考え、そうしていた)

L(だが……)

L(今回の作戦の実行結果如何によっては、すぐにでも星井美希をキラ容疑者として逮捕する可能性があった)

L(その状況でリスクを最大限に排除するなら、少なくとも今日の作戦の実行前に、星井係長を捜査メンバーから外し……監禁とは言わずとも、簡易な監視状態に置く事くらいはできたはず。その程度の理由付けならどうとでも……)

L(だが私はそれをしなかった。いや、しようという発想に至らなかったのは……)

L(やはり、三日前のアリーナでの星井美希との接触。その際に彼女が見せた、演技とは思えない涙)

L(思えばあの時から、私は名状しがたい不安を感じていた。それが故に正常な判断能力を欠き、星井係長の背反の可能性を見過ごしてしまったのかもしれない)

L(もっとも本来なら、彼が作戦途中で翻意したところで、この本部内においては何もできないはずだった。私はもとより、夜神局長や夜神月もいる状況……)

L(いくら娘が逮捕されうる状況が逼迫したとしても、星井係長が我々全員の目を盗んで事を起こすなんてまず不可能……誰だってそう考える)

L(しかし実際にはそれができた。……できてしまった)

L(それは言うまでもなく、監視カメラの連続損壊という不可解な事象の発生。そこから全ての歯車が狂ってしまった)

L「…………」

L(……それにしても)

L(娘を想う、親の気持ち……か)

L(親というものを知らない私に、それがそこまで強いものだったとは……いや、今更そんなことは理由にならないが……)

L(そういえば、先ほども少し話に出ていたが……昨日、マイクを通じて私にも聞こえていた、休憩中の夜神局長と星井係長の会話の中にも……)


――……覚悟は、もう出来ていますから。

――それは……刑事としての、か?

――いえ。……父親としての、です。


L(……ヒントはあった。しかし気付くことができなかった)

L(やはりあの星井美希の涙を見てから、自分で自分を冷静に分析できなくなっていた……ということなのだろう)

L「…………」

(捜査本部内のモニターが映している部屋の一つに星井父が入り、また別の部屋に模木が入った)

(Lと総一郎は、モニター越しにその様子を観ている)

L「……監禁自体にはすんなり応じましたね」

総一郎「相沢を星井美希から、松田を天海春香から、それぞれ引き離し……さらに我々から二人に連絡できなくさせた時点で、既に目的は遂げていたということなのだろう。一連の行動についても隠すことなく話していたしな」

L「……そうですね」

L(その気になれば、相沢と松田の顔と名前を娘に送ることもできただろうが……)

L(そこはおそらく、刑事としての最後の良心が咎めた……ということなのだろう)

総一郎「…………」

総一郎(昨日、星井君は『父親としての覚悟は出来ている』と言っていた)

総一郎(もしあのとき、私がもっと彼に向き合うことができていれば、あるいは……)

総一郎(……いや、もう今更そんな事を言っても仕方がない)

総一郎(今は私に、私達にできることを考えなければ……)

 ガチャッ

月「……モニターで観ていたとは思うが、星井さんと模木さんにはそれぞれ指定された部屋に入ってもらった」

L「はい。観ていました。お疲れ様でした」

総一郎「……しかしこれで、本部の捜査員は実質二人の減員か……痛いな」

L「まあ仕方がありません。どのみちもう事件終結……キラの逮捕までそう長い時間は掛からないでしょうから、今はこのメンバーで進めましょう」

総一郎「うむ」

月「しかし……どうやって星井美希を逮捕するかは問題だな。ノートの対策だけなら、さっき竜崎が話していたように、顔をフルフェイスのヘルメットで隠して行く程度で十分だろうが……」

L「そうですね。星井美希の傍に死神……か、あるいはそれに類する何らかの超常的な存在がいるのだとすれば……少し考える必要がありますね」

総一郎「だがまずは星井美希の現状の把握が先決だな。もうかれこれ十分ほど、彼女の姿を映像で確認できていない状態が続いている。さっき竜崎も言っていたように、既に建物の外に出ている可能性も……」

L「はい。もっともプロデューサーに一言言えば、その点はすぐにでも確認できるでしょうが……」

総一郎「いや、さっきも言ったがそれは危険だ。もし星井美希がまだ現場に留まっている場合、プロデューサーの行動を不審に思われかねない。あくまでもプロデューサーが自然に気付くのを待つべきだ。それに彼なら、星井美希がいなくなったと分かった時点ですぐに竜崎に連絡してくるだろう」

L「……そうですね」

月「! ミサが撮影スタジオの方に戻って来た」

L「!」

総一郎「無事だったのか。弥」

L「そうですね。ただ……」

月「……星井美希の姿は見えないな」

総一郎「!」

L「とすれば……やはりもう外でしょうね」

総一郎「弥の様子は……見たところ、至極普通に見えるな」

L「はい。まあ仮に更衣室で星井美希から何かされていたとしたら、流石に何らかの声は出しているでしょう」

総一郎「ああ、そうか。更衣室の盗聴器は生きていたんだったな」

L「はい。ただ、何の声も聞こえてこなかったということは……脅迫されたのか、またはキラへの崇拝心から寝返ったのかは分かりませんが……いずれにせよ、筆談か何かによって、星井美希と弥の間で何らかの意思疎通がされたのだと考えられます」

L「そうとでも考えなければ、あの悲鳴から十五分ほども無言だった状態を経て、弥が今こうして普通に姿を現したことの説明がつきません」

総一郎「うむ……」

(モニターに映し出されている撮影スタジオの中では、海砂、プロデューサー、吉井の三人が会話をしている)

月「……一体何を話しているんだろうな」

L「更衣室以外にも盗聴器を付けておけば良かったですね」

(そんな中、プロデューサーがどこかに電話を掛け始めた)

総一郎「プロデューサーが電話……星井美希か?」

L「そうですね……弥から『星井美希がいなくなった』と伝えられたのか……いや、それはないか。二人が既に意思疎通した後だとすれば、少しでも星井美希が逃げるための時間を稼ごうとするはず……」

(間も無く電話を切り、足早に撮影スタジオを離れたプロデューサー)

総一郎「! スタジオから出たぞ」

月「彼がこのタイミングで他の者達から離れるとすれば……」

L「人目を忍んで、私に連絡を取ろうとする……ですかね?」

(スタジオから廊下に出た後、周囲を見回してから携帯電話を耳に当てるプロデューサー)

ワタリ『竜崎』

L「ワタリ。プロデューサーか?」

ワタリ『はい』

L「ではそのままつないでくれ」

ワタリ『分かりました』

L「Lです」

P『ああ。俺だ』

L「どうされましたか?」

P『実はさっきまで、美希がトイレに行っていたんだが……体調不良ということでそのまま帰ってしまったらしい。俺宛てにメールで連絡があった』

L「! ……そうですか」

P『? そうですかって……あんたはその経緯を知ってるだろ? ずっと監視カメラで観ていたはずだ』

L「……いえ。それが……」

P『?』

L「実は、こちらの再生機器に不具合が生じまして……途中から、そちらの映像が一切観れなくなってしまったんです」

P『! 何だって?』

L「すみません。その復旧作業をしていたため、あなたに連絡するのが遅れてしまいました」

P『それは別にいいが……それで、映像は直ったのか?』

L「いえ。今も復旧中ですがまだ回復していません。なので星井美希の動向も途中から分かっていません」

L「彼女が最後の撮影を終え、更衣室に戻って来たあたりまでは観れていたのですが……」

P『…………』

L「ですので、彼女が帰ったという事も今あなたから聞いて初めて知りました」

P『……そうか』

L「はい。すみません」

P『だが『黒いノート』は確認できたんだろう? さっきのあんたのメールによると』

L「ええ。それを映した映像および写真は押さえてあります。今はその検証をしているところです」

P『どういうノートだったんだ?』

L「すみません。それはまだよく分かりません」

P『…………?』

L「ただ、今は肝心の星井美希の動向が分からなくなっていますので……まずはそちらの方から追いたいと思います」

P『尾行は? 建物の外に張らせていたんじゃ?』

L「はい。ですが少し連絡の行き違いがあったようでして……どうも、途中で現場を離れてしまったようなんです」

P『……そうか』

L「色々とすみません。いずれにせよ、今はまだ色々と状況が不透明ですので、ある程度状況が見えてきたらまたご連絡いたします」

P『……ああ。分かった。じゃあまた後でな』ブツッ

L「…………」

総一郎「……やはり、星井美希はもう外に……」

L「まあ……予想通りでしたね。更衣室から直接非常口に抜けるルートなら、撮影スタジオの前も通らない……プロデューサーが気付けなくとも無理はない。ただそれでも本来なら、こういう場合でも相沢さんが彼女の行方を追うことができたはずでしたが……」

月「既に星井さんの連絡によって相沢さんが現場を離れてしまった今となっては、それも叶わない……か」

L「そういうことです。……ワタリ」ピッ

ワタリ『はい』

L「星井美希の携帯電話の位置情報から、彼女の現在地は特定できるか?」

ワタリ『……いえ。今から三分ほど前……16時35分頃までは確かにスタジオにいたようですが、その後は分からなくなっています。おそらく携帯の電源を切ったのかと』

L「……そうか」

総一郎「当然、その程度の対策は思いつくか……。しかし三分前ならまだスタジオ付近にいるのでは?」

L「そうですね。ただ相沢さんはもう現場に居ませんし、居たとしてもこちらからは連絡を取れません」

総一郎「うむ……」

月「……かといって、プロデューサーに全てを話して星井美希を追わせるというのも二重のリスクがあるしな」

L「はい」

総一郎「二重? 単に彼が死神に殺される危険がある、というだけではなくか?」

月「昨日、父さんが自分で言ってたじゃないか。プロデューサーに『キラである星井美希を逮捕すること』についての協力まで求めていいものかどうか……という点だよ」

総一郎「あ、ああ……そういうことか。すまん、死神の方にばかり気を取られていた。確かにそうだな。彼に全てを話したとしても、それで我々の思惑通りに行動してくれるという保証は……」

L「はい。だからこそ私も、今の通話では彼には必要最低限の事実しか伝えませんでした」

L「星井さんの事があった矢先ですので……今は完全に信用できる者以外には極力情報を伝達すべきではないと考えます」

総一郎「そうだな……石橋を叩いて渡るくらいの方が良いだろう」

L「しかし、そうなると我々としては、星井美希の行方は自力で突き止めるしかないわけですが……」

総一郎「だがもう既にスタジオを出てしまった以上はカメラも…… ! そうか、カメラは街中にも……」

L「はい。防犯カメラです。もちろんこれは今回のために付けたものではなく、元々常設されていたものですが……しかし場所が渋谷ですので、比較的多数設置されています。後はひたすらこれで潰し込みをかけるしかありません。……ワタリ」

ワタリ『はい』

L「スタジオの周囲5キロメートル圏内・および近隣の駅構内に設置されている防犯カメラの映像をこちらで観れるようにしてくれ」

ワタリ『分かりました。ただそちらのモニターの数が足りませんので、一つのモニターで複数のカメラの映像を数秒ごとに切り替えて映していく形になりますが……』

L「それで構わない。ただ星井係長と模木さんの監視は継続する必要があるから、二人がいる部屋の監視カメラの映像以外を切り替える形で頼む」

ワタリ『分かりました。であれば、すぐに』

総一郎「しかし、星井美希は一体どこへ向かうつもりなんだ……?」

L「……普通に考えて、最も可能性が高いのは……」

月「共犯者である天海春香との合流……だろうな」

L「……でしょうね。ただ天海春香であれば、まだこちらの監視が効いているはずです」

総一郎「? しかし松田も相沢同様、星井君の連絡により…… ! そうか。松田がもう尾行をやめてしまっているとしても、天海春香には……」

L「はい。彼女のすぐ傍で高田が張っているはずです。……月くん」

月「ああ。早速、連絡してみるよ」ピッ

月「…………!」

総一郎「? ライト?」

月「……高田の携帯にも電源が入っていない」

L「!」

総一郎「どうなっているんだ……? まさか、星井君が高田にも連絡を……?」

月「いや、それは無いよ。父さん。星井さんに高田の連絡先なんて情報は渡していないし……そもそも全く面識の無い星井さんが突然連絡したところで、高田が応じるはずがない」

総一郎「それはそうか……しかし、では何故……?」

L「……考えられる中で最も可能性が高いのは……星井美希が死神にカメラを全て破壊させた後、弥を脅迫して、またはキラへの崇拝心から寝返らせてから、こちら側の事情を話させ……天海春香の監視を解くために弥をして高田に連絡させた……あたりでしょうか」

総一郎「なるほど……」

ワタリ『竜崎。防犯カメラの接続設定が終わりました。今からそちらのモニターを切り替えますが、よろしいですか?』

L「ああ。頼む」

(次の瞬間、捜査本部内のモニターのうち、星井父と模木がいる部屋を映しているもの以外は全て防犯カメラの映像に切り替わった)

(どの防犯カメラの映像も、街中の押し返すような人波を映し出している)

総一郎「こ、これは……この中から星井美希一人を探し出すというのは……」

L「まあ渋谷ですから……平日とはいえ、これくらいの人出はあるでしょうね。学生も夏休みに入っていることですし。……ワタリ」

ワタリ『はい』

L「天海春香の携帯電話の位置情報は特定できるか?」

ワタリ『それについても既に調べていましたが……星井美希とほぼ同じ時刻、16時35分頃を最後に分からなくなっています』

総一郎「! ということは……」

月「……星井美希は自分の携帯の電源を切る直前に天海春香に連絡。天海春香も星井美希からの連絡を受けて携帯の電源を切った……ってところだろうな」

L「そうでしょうね。……では、ワタリ。次は星井美希および天海春香の携帯電話の通信記録を調べてくれ。直近三十分ほどの範囲でいい」

ワタリ『分かりました』

L「そして天海春香の最後の位置情報から周囲5キロメートル圏内・および近隣の駅構内に設置されている防犯カメラの映像についても、渋谷の防犯カメラ同様、こちらで観れるようにしてくれ」

ワタリ『分かりました。少々お待ちください』

L「ああ。頼む」

総一郎「……しかし、出てくるだろうか? 二人がどこに向かったか、いや、どこで落ち合うかを示したような記録など……」

L「まあ駄目元でやってみるしかありません。電話で会話されていたらどうしようもないですが……メールのやり取りが残っていればまだ辿れる可能性はあります」

月「ただそれはどちらかというとサブだろう。今、僕達がメインで追うべきは……」

L「はい。星井美希及び天海春香の直接的な足取り……ですね。多少不確かでも、二人の向かう方向が凡そ特定できれば……その交点で落ち合う可能性は高いですから」

総一郎「そうだな。後はしらみつぶしにやるしかあるまい」

月「ああ。やろう。父さん。竜崎」

L「はい。キラの逮捕、キラ事件の解決……もうすぐそこまで来ています」

L「頑張りましょう。正義が勝つ、その瞬間まで」

一旦ここまでなの

おつ

乙乙
いつLが、うっグラリ見開きなるかこわいな

続きが気になってしょうがないな

【五分前・渋谷区内撮影スタジオ/非常口】


 ガチャッ

(周囲を見回しながら、非常口から建物の外に出る美希)

美希「……ホントに尾行の人はいないんだね? リューク」

リューク「ああ。いない。俺はこの建物の半径100メートル以内を何度も飛び回って確認したんだ。間違い無い」

美希「そこまでしてくれてたんだ。どうもありがとうなの。リューク」

リューク「何……まだまだ楽しめそうだからな。ククッ」

美希「…………」ピピピッ

リューク「ん? メールか?」

美希「うん」

リューク「…………?」

(美希のスマホの画面を覗き込むリューク)

リューク「! ああ……なるほど。『それ』か。そういえば大分前に決めてたな」

美希「そうなの」

リューク「ククッ。まさか本当に『それ』を使う日が来るとはな」

美希「……よし。これで送信、っと」ピッ

美希「で、次は……」

リューク「ん? まだ送るのか?」

美希「うん。今度はプロデューサーね」ピピピッ

リューク「プロデューサー? わざわざ連絡してから行くのか?」

美希「うん。黙っていなくなって、行方を捜されでもしたらかえって面倒だからね」

リューク「なるほど」

美希「……これでよし、っと。で、後は携帯の電源を切って……」ピッ

リューク「これで準備万端ってわけか」

美希「まあ、とりあえず携帯からは位置がばれなくなるってだけだけどね。後は――……」








【同時刻・都内某カフェ近くの路上】


(カフェを出た後、一人で路上を歩いている春香)

春香「……ん? メール?」ピッ

春香「! …………」

レム「ハルカ。それは……あの時の」

春香「…………」

春香(とりあえず、携帯の電源を切って……)ピッ

春香「…………」

【同時刻・渋谷区内撮影スタジオ/非常口前】


リューク「で、ミキ。ここから先はどうするんだ?」

美希「…………」

リューク「建物から出たのはいいが、街中には至る所に防犯カメラが付いている。そしていくら俺でもその全てを発見して破壊するのは不可能……いや、できたとしても時間が掛かり過ぎる。建物内の監視カメラとは付けられている数も範囲も比べ物にならないからな」

リューク「かといって何の対策もしないままに突き進めば、行く先々でカメラに映っちまう。そして今ミキが着ている服は最後の撮影時の衣装のまま……つまり、Lに観察されていたであろう衣装のままだ。一瞬でもカメラに映ったが最後、『あの場所』に辿り着く前に追い付かれるか、先回りされるかでアウトだ」

美希「…………」

リューク「さあ、どうする気だ? ミキ」

美希「……ここが渋谷で良かったの」

リューク「え?」

美希「ねぇ、リューク。渋谷ってどういう街だと思う?」

リューク「? どういうって……若者が多く集まる街、か?」

美希「そう。つまり……こういうことができちゃうってことなの!」ダッ

(途端、スタジオ前の路上に飛び出す美希)

美希「やっほー! 皆ー! 星井美希なのー!」

リューク「!?」

「えっ!」

「ミキミキ!?」

「うわっ、マジだ! ミキミキだ!」

「えええ!? 何で何で何で!?」

 ザワザワ…… ザワザワ……

(一斉に、近くに居た若者達が美希の周りを取り囲み始める)

リューク「…………!?」

リューク(若者が多く集まる街、渋谷……。確かに、こんな場所で今を時めくアイドルの『星井美希』が声を上げれば、たちまちこうなる……が……)

「すげー! ミキミキだ! 本物だよ本物!」

「わー、ホントに美希ちゃんだ~! かわい~」

「服、めっちゃおしゃれ~」

 ワイワイ…… ガヤガヤ……

(瞬く間に、美希の周りには若者達による人垣が出来た)

美希「えへへ……わーい! 皆、ミキのために集まってくれてありがとーなの!」

リューク「…………」

リューク(どうする気だ? こんなに人を集めて……これじゃまともに身動きすら……)

リューク(! そうか……この状態なら……)

「ミキミキ、これテレビの撮影かなんか?」

「いや、オフじゃないの? スタッフとかいないし」

「ねぇ美希ちゃん、その服どこで買ったの?」

「ライブ近いけど練習とかどんな感じ?」

「俺、ライブ行くから! アリーナ席の最前!」

美希「きゃー。ミキ、そんなに一気に話し掛けられても困っちゃうのー」

 アハハ…… カワイー ミキミキー

リューク「…………」

リューク(これだけ一か所に人が集まれば……しかも皆、少しでもミキに近づこうと、押し合いへし合いの状態になっている)

リューク(これならもしミキが一瞬カメラに映ったとしても、すぐにそれと特定するのは困難……少なくとも『一目見て判断できる』ようなレベルじゃない)

リューク(勿論、精緻に検証されればいずれは分かるだろう。しかしそれには時間が掛かる)

リューク(ミキの目的はあくまでも『あの場所』に辿り着くまでの時間を稼ぐこと……つまりそのためにあえて人を集め、自らの盾としたってわけだ)

リューク(……ククッ。なかなかやるじゃないか。ミキ)

リューク(だがカメラは一応これで凌げるとしても、いつまでもこの群衆に囲まれた状態を続けるわけにはいかない……当然、どこかでこいつらを振り切る必要がある)

リューク(そのあたりはどうする気だ? ミキ……)

美希「…………」

美希「よーし! じゃあ皆~」

「お?」

「何だ何だ?」

「どしたの、ミキミキ?」

美希「――かけっこしよっ! よーいドン!」ダッ

(突然、群衆の隙間を縫うように走り出した美希)

リューク「ウホッ!?」

「ミキミキ!?」

「ミキミキが走り出したぞーっ!」

「追いかけろーっ!」

「キャー! 美希ちゃんこっち来てー!」

「み、美希ちゃーん! み、みーっ!!」

美希「あはっ。こっちなのー♪」

リューク「! …………」 

リューク(完全に周囲の人間の不意を衝いた動き……! 戸惑う皆の間を、持ち前の運動神経で掻い潜って……!)

リューク(そして人波の中心にいるミキが動けば、必然、それに伴って人波も大きく動き、うねりが生まれる)

リューク(そのうねりは別のうねりをもたらし、またそれを見た周囲の人間をもさらに呼び込む)

リューク(こうして可能な限りの多くの群衆を自身の周囲に引き付け、自らを隠す“壁”をより広範囲にわたって形成……)

リューク(普通なら少しでも目立たないように慎重に動くであろうこの状況下で、あえてこんな大胆な行動を取るとは……)

リューク(だが人が増えれば増えるほど、それに比例して振り切るのも困難になるはず……一体どうするつもりだ? ミキ……)

 ワアアア…… ミキミキー! マッテー!

(混乱の渦の中、ひたすら走り続ける美希)

美希「やーん♪ ミキ待たないのー♪」

「ちょ……み、ミキミキ速過ぎ……!」

「も、もう無理ぃ……!」

「どうして諦めるんだそこで!」

「後は俺に任せとけ! うおおおっ! ミキミキー!」

美希「あはっ。皆、まだまだ元気いっぱいみたいだねー♪」

美希(さて、と……もうちょっとかな?)

美希「…………」

【同時刻・キラ対策捜査本部(都内のホテルの一室)】


月「どの映像も人、人、人……やはり、この中から星井美希一人を探し出すのは容易ではないな。もっとも彼女が着替えていなければ、最後の撮影時の衣装のままのはずだが……しかしもはやこの状況では、着ている服がどうとかというレベルではない」

L「そうですね。ただ星井美希からプロデューサーに連絡があったのはつい先ほどの事のようですので、まだスタジオからそう遠くには行っていないと思われますが」

総一郎「しかし、今更ながらだが……何故、星井美希はわざわざプロデューサーに連絡したんだ? 黙って建物を出て行った方がより逃げる時間を稼げたのでは?」

L「確かにその考えも一理ありますが……現場からいなくなればどのみちすぐに気付かれてしまうでしょうし、またその時点で本人からの連絡が無ければ、当然、どこへ行ったのか行方を捜されてしまうでしょう」

L「一方、メールだけとはいえ、まがりなりにも本人から連絡があったのなら、念の為に確認の電話くらいは掛けるかもしれませんが、それがつながらなかったからといって、普通はあえて周囲を捜索するまでの事はしないでしょう」

L「つまり結果的に、星井美希としてはその方が逃げやすくなる……そう考えての行動だったと思われます」

総一郎「なるほど……」

L「またこの事から分かることとして……弥がどこまで私達の事情を星井美希に伝えてしまったのかは分かりませんが……少なくとも、私達がプロデューサーとつながっていることについては伝えていないものと思われます」

L「それがわざとそのようにしたのか、結果的にたまたまそうなったのかまでは分かりませんが……流石にその事が伝わっていれば、星井美希も安易にプロデューサーに連絡したりはしないでしょうから」

総一郎「確かにな」

L(つまり、彼はまだ使える……か)

月「…………?」

L「? どうしました? 月くん」

月「いや……気のせいか? どうも渋谷の映像を観ている限り、ますます人の数が増えていっているような……?」

L「……そうですね。というよりもむしろ、これは……」

総一郎「人のうねり? とでも言うべきか。何かこう……全体的に混沌としているような状態に見えるな」

月「ああ。まるでちょっとしたパニック状態にも見える。人が多過ぎてどこがその中心部なのかもよく分からないが……もしかしたら何かイベントでもやっているのかもしれないな」

L「……いずれにせよ、やはりこの状況で星井美希を見つけ出すのは極めて難しそうですね」

総一郎「うむ……」

ワタリ『竜崎。天海春香の方の防犯カメラの接続設定も終わりました。今からそちらのモニターのうち、三分の一程度をそちらの方に切り替えますが、よろしいですか?』

L「ああ。頼む」

ワタリ『では映します』

(次の瞬間、捜査本部内のモニターのうち、渋谷の映像を映しているものの一部が別の地点の映像に切り替わった)

総一郎「こちらはまあ……普通の人通りだな。これなら運良く天海春香が映っていたら分かるかもしれない」

L「そうですね。ただ向こうも、少なくとも普通の変装はしているはず……それでも今日の天海春香の服装が具体的に分かっていればまだ良かったのですが……」

月「現時点でそれを知っているのは……今日彼女を尾行していた松田さんか、行動を共にしていた高田しかいない」

L「はい」

総一郎「そういえば……そうだな。そして今は二人とも連絡がつかない状態……もっとも、松田はそのうちここに戻って来るだろうが……」

L「はい。ただそれも二、三時間後でしょうね。星井さんがそのように指示したのですから」

総一郎「では現状では天海春香の方の割り出しも難しい……か」

L「まあ……とはいえ、渋谷の人の渦の中から星井美希を見つけるよりはまだ目がありそうな気がします。それに天海春香の変装パターンについては相沢さんと松田さんにこれまでの尾行の都度、記録してもらっていたデータもありますし。ですので……月くん」

月「! ああ」

L「天海春香の判別・特定は月くんに任せたいと思います。三か月以上にわたり天海春香の家庭教師をしていた月くんなら……たとえ彼女が変装していても、あるいは見つけられるかもしれませんので」

月「分かった。やってみよう」

総一郎「竜崎。天海春香の方をライトに任せるということは……渋谷の星井美希の方もまだ諦めてはいないということだな?」

L「勿論です。ただ先ほども申し上げたように、この街中の映像からの特定は極めて困難ですので……この際、観察対象を星井美希が使うであろう交通機関に絞りましょう。いくらなんでも、この先ずっと徒歩で移動し続けるということは無いでしょうし、プロデューサーにメールを送ってからすぐに移動を開始したとしても、その時点からはまだ十分そこそこしか経っていないはずですから……駅やバス停にはまだ辿り着けていないとみていいでしょう」

総一郎「なるほど」

L「というわけで、私は渋谷駅構内の映像を重点的に確認しますので……夜神さんはバス停およびタクシー乗り場付近をお願いします」

総一郎「分かった」

L「ただ、そうは言っても街中を完全に捨てるのも怖いので……ワタリ」

ワタリ『はい』

L「暫くの間は交通機関を使わずに徒歩で移動する可能性や、ほとぼりが冷めるまでどこか人目につきにくい場所で身を潜めているという可能性……また既に路上でタクシーを捕まえて移動している、またはこれからそれをするという可能性も一応はある。なので念の為、現在の街中の映像と並行して、16時35分以降の映像を可能な限り繰り返し再生し、それらしき動きが無いかを確認してほしい」

ワタリ『分かりました』  

L「…………」

L(星井美希……天海春香……)

【同時刻・渋谷区内歩道上】


(大勢のファンや集まって来た群衆を引き連れながら走り続けている美希)

美希「…………」

美希(よし。そろそろこのへんでいいかな)

美希「皆、ちょっとごめんねなのー!」ダッ

(突然、人の波を掻い潜るように擦り抜け、近くの店の中に入る美希)

「えっ! ミキミキ?」

「店の中入っちゃった?」

「追いかける? どうする?」

 ザワ…… ザワ……

(店の外で混乱しているファン達を尻目に、店内のトイレに入る美希)

美希「ふーっ……結構走ったから汗だくなの」

美希「さて、ちょっと一息入れつつ……」ゴソゴソ

(鞄の中から私服を取り出す美希)

リューク「! ……なるほどな。あれだけの数のファンを引き連れたままじゃ、どこまで行ってもついて来られちまうんじゃないかと思ったが……ここで私服に着替え、素知らぬ顔で外に出て行き……そのまま撒いちまうってわけだ」

美希「そ。今、外の皆は完全に『アイドル・星井美希』を認識している……撮影で使った、派手目の衣装を着たミキをね。だからここでミキが私服に着替えて出て行けば、絶対にそれがミキだとは分からないの。いつも使ってる変装用の帽子や伊達眼鏡もあるしね」

リューク「そしてLの方も……奴なら、今日ミキが最初に着ていた服くらいは当然覚えているだろうが……それも外の“壁”が機能している限りは関係無いってわけか」

美希「そういうことなの。それを抜きにしても、駅の方に近付けば近付くほど、自然と人の数は増えていくしね」

リューク「ククッ。なるほどな」

(数分後、私服に着替え、変装した状態で店の外に出る美希)

(店の前では、まだ美希が出て来るのを待っているらしき多数のファン達がたむろしている)

美希「…………」スタスタ

「ミキミキ、遅くない?」

「いや、でもまださっき入ったとこだし……」

「ていうか、ここで待っててもいいの?」

「さあ……」

リューク「……ククッ。ばれないもんだな」

美希「でしょ? さあ、ここまで来ればもう一息なの」

きてたか

【五分後・渋谷駅ビル内】


美希「…………」

リューク「ようやく駅か。なかなかの逃走劇だったな。ミキ」

美希「まだなの」

リューク「えっ」

美希「……このへんでいいかな」

(駅ビル内のアパレルショップに入る美希)

リューク「? また店に入るのか? でももう着替える服無いだろ」

美希「無ければ買うだけなの。えーっと。これとこれとこれと……」

リューク「! …………」

美希「……ま、これくらいかな。すみません。これ全部下さいなの」

店員「かしこまりました。ではレジの方へどうぞ」

(レジで会計する美希)

美希「あ、できたらタグ全部取ってほしいの。あとこれ全部今すぐ着たいの」

店員「かしこまりました。それではそちらのフィッティングルームをご使用下さい」

美希「ありがとうございますなの」

リューク「…………」

(数分後、買ったばかりの服に着替えた状態で店を出る美希)

美希「どう? リューク。これでまたさっきまでとは全然イメージ違って見えるでしょ?」

リューク「……ああ。確かにこれなら分からないだろう。しかし、随分慎重だな」

美希「まあね。リュークも言ってたけど、今日元々着てたさっきの服はLには観られてるからね。今までみたいに人混みの中に紛れてたらともかく……改札や駅のホームにあるカメラにはほぼ間違い無く映っちゃうし、そうなったらほぼ確実に気付かれちゃうと思うから」

リューク「なるほどな」

美希「それに……『決めて』たしね。こうするって」

リューク「ああ。そういえばそうだったな」

美希「それと」

リューク「? それと?」

美希「何よりも、ミキは信じてるからね」

美希「春香のコト」








【同時刻・某電車内】


春香「…………」

春香(……美希……)

一旦ここまでなの

乙なの

何が起こるのかさっぱり予想がつかなくなってきたな

【十分前・キラ対策捜査本部(都内のホテルの一室)】


L「どうですか? 月くん。天海春香の方は」

月「いや……まだそれらしき人物は見当たらないな。やはり設置されているカメラの台数自体が少ないのと、複数台のカメラの映像を数秒毎に切り替えて観ているため、どうしても確認できる範囲に限界がある」

L「そうですか」

月「星井美希の方はどうだ? 駅構内には現れたか?」

L「いえ。こちらもまだ見つかっていません。やはり流石は渋谷駅……これだけの人の数となると、観察対象を改札や駅のホームに絞ってもなかなか難しいですね」

総一郎「バス停およびタクシー乗り場付近も同様だ。ただ最後の撮影時の衣装のままなら割と派手目の衣服だったし、カメラに映っていれば分かりそうなものだが……」

L「私は一応、途中で元々着ていた私服に着替えた、という可能性も考え……それに似た服装の女性も意識的に探すようにしていますが……こちらもまだ見当たっていませんね」

月「そうか……」

L「まあ、ここで焦っていても仕方ありません。できることを確実にやっていきましょう」

総一郎「ああ。そうだな」

月「ところで、竜崎。星井美希が建物を出たと思われる時点からもう十五分ほどになるが……『あっちの方』は……」

L「……そうですね。そろそろ連絡しておくべきですね」ピッ








【同時刻・撮影スタジオ】


出版社社員「大丈夫そうですか? 星井さん」

P「……ええ。電話はちょっとつながらないですが……こうしてメールも送ってきているので大丈夫だと思います」

出版社社員「そうですか。では今日はもうこの辺で解散とさせて頂いてよろしいでしょうか? 撮影自体は全て終了していますので」

P「ああ……そうですね。私の方は大丈夫です」

吉井「こちらも大丈夫です」

海砂「…………」

出版社社員「分かりました。では明日の予備日はどうしますか? 特に撮り直したい写真などがなければ、そのままキャンセルとさせて頂きますが……」

P「あー、そうですね……」

P(……『ノートは映像と写真に収めた』ってことだから、もうキャンセルでいいんだろうが……一応、Lに聞いてからの方が良いか?)

出版社社員「? どうされました?」

P「ああ、いえ……ん? 」ピッ

P(……メール? …… !)

P「あ、ちょっとすみません」

出版社社員「はい」

P(……『今日はもう解散で良い』『明日の予備日もキャンセルで良い』『今後の事はおってまた連絡する』……)

出版社社員「大丈夫ですか?」

P「……ええ。すみません。では明日もキャンセルで大丈夫です。ヨシダプロさんもそれでいいですか?」

吉井「はい。問題ありません」

出版社社員「分かりました。では撮影は本日分のみで終了とさせて頂きます。誌面は校正段階でお送りしますので、また別途ご確認をお願いいたします」

P「承知しました」

吉井「よろしくお願いします」

海砂「…………」

出版社社員「それでは、今日はこの辺で失礼させて頂きます。どうもありがとうございました」

P・吉井「ありがとうございました」

海砂「…………」

吉井「ちょっと、ミサ」

海砂「あっ、すみません。……ありがとうございました」ペコリ

吉井「もう。何ボーっとしてるの」

海砂「あ、あはは……ごめんごめん。ヨッシー」

海砂(いけない、いけない。普段通り、普段通り……)

海砂(正直言って、まだ事態を完全に受け容れることはできていない)

海砂(美希ちゃんが本当にキラだったこと……そして、その能力はライトから奪ったものだったこと)

海砂(彼女の傍には死神がいて、その気になればいつでも誰でも殺せるということ……)

海砂(そう、つまり……ライトでも)

海砂「…………」

海砂(なら今、ミサがすべきことは……たった一つだけ)

海砂(他の何に代えても、美希ちゃんとの“約束”を守る。そしてライトを絶対に死なせない)

海砂(キラのことは崇拝していた。キラが悪人を裁き、理想の世の中になることを心の底から願っていた)

海砂(でも)

海砂(今のミサは……世の中より……ライトが好き)

海砂(だからミサはライトを守る)

海砂(いや……守ってみせる)

海砂(絶対に!)

P「…………」

P(やはり気になるな……弥の様子)

P(先ほど更衣室から戻って来てからというもの……どうも心ここにあらず、という風に見える)

P(それにLの方も気に掛かる。あれだけ注意深く監視していたはずの美希が建物から出て行ってしまったというのに、特に対策を取ろうともせず……)

P(いや、むしろ……もう既に取っているのか? 俺に告げていないだけで……)

P(……その可能性はあるな。そもそも、これはLが俺をどこまで信用しているかという問題でもある)

P(『今後の事はおってまた連絡する』とのことだが……もしかするともうLは、俺に何も言わないまま、美希を捕まえる気でいるのかもしれない)

P(そんなの冗談じゃない)

P(俺は美希のプロデューサーだ)

P(今、美希がどんな状況にあるかも分からないのに……こんな形で梯子を外されてたまるか)

P(だからもし今、Lが俺に何の説明も無く美希の逮捕を強行しようとするなら、その時は――……)

P「…………」

【同時刻・キラ対策捜査本部(都内のホテルの一室)】


L「……とりあえずプロデューサーには連絡しましたので、撮影現場の方はもう大丈夫でしょう」

総一郎「弥は? 何かフォローしておかなくていいのか?」

L「弥は……もうこちらからは接触しない方が良いと思います。というよりは……」

月「ああ。今、ミサに下手に接触すると……ミサか高田か、あるいは僕か、竜崎か……とにかく誰かが死ぬ可能性が極めて高い」

総一郎「! …………」

L「はい。先ほども同じ事を言いましたが……弥はほぼ間違い無く、星井美希との間で何らかの意思疎通を行っています。それが脅迫されたためなのか、キラへの崇拝心から寝返ったためなのかまでは分かりませんが……いずれにせよ、もうある程度こちら側の事情は星井美希に伝わってしまっていると考えた方が良い」

L「特に高田については確実に伝わっています。そうでなければあのタイミングで高田に連絡できるわけがないし、高田が携帯の電源を切る理由が無い」

総一郎「うむ……」

月「そして高田の事が知られたのであれば、その背後にいる者の存在と正体……つまり僕と竜崎が捜査本部にいる、ということも既に知られている可能性が高い。勿論、ミサの認識では僕がキラで竜崎はその崇拝者、ということになっているが……それが全くのデタラメだということは他ならぬ星井美希が一番よく分かるはずだ」

L「他の何者でもない、キラその者ですからね」

月「ああ。ゆえに今、ミサに接触してその事が星井美希に勘付かれたら一巻の終わりだ」

L「それに寝返っている方のパターンなら、それこそ弥本人から星井美希に即刻伝えられてしまうでしょうしね」

総一郎「……いや、待てよ。それならむしろ、ライトも竜崎ももうとっくに殺されていてもおかしくないのでは……? つまりまだ二人が生きているということは、弥もまだそこまでは話していないという可能性も……」

L「いえ。流石に、今私達が生きているからそうだと判断するのは早計だと思います。『今日の今日』で殺してしまえば、自分に対する嫌疑をより強めるだけですから」

L「『分かっているが、まだ殺せない』……今はそのように判断していると考えた方が自然です」

総一郎「なるほど……」

ワタリ『竜崎。星井美希および天海春香の携帯電話の通信記録が判明しました』

L「! どうだった?」

ワタリ『まず、星井美希ですが……16時35分頃に、天海春香とプロデューサー宛てに一通ずつメールを送っています。それ以外には電話の発着信も含めて何の記録もありません』

L・月・総一郎「!」

総一郎「メール……送っていたのか」

月「…………」

L「ワタリ。プロデューサー宛てのメールは『体調不良なので帰る』という内容のものだな?」

ワタリ『はい。そうです』

L「では、天海春香の方の通信記録は?」

ワタリ『はい。天海春香の方は、件の星井美希のメールを受信した以外は何の記録もありません。なお、その星井美希のメールにも返信はしていないようです』

L「……分かった。では星井美希が天海春香に送ったメールのみ、こちらのメインのモニターに出してくれ」

ワタリ『分かりました』

(次の瞬間、捜査本部内の一番大きなモニター画面に、メールの文章らしき文字列が映し出された)

L・月・総一郎「!」

L「……これは……」


--------------------------------------------------
From:星井美希
To:天海春香

件名:ミキなの。


春香、おつかれさまなの!

ミキね、今お仕事終わったところなんだけど、
ちょっと小腹が空いたから神田にあるおむすび屋さんに行ってみるの!
前に春香とも話してた、十穀米が美味しそうなとこね。

そういうわけで、もしよかったら春香も一緒にどう?
来れそうなら連絡ちょーだい、なの!

あはっ☆


みき

--------------------------------------------------


L「…………」

総一郎「神田の、おむすび屋……」

月「一応、調べてみたが……確かに一軒、該当するな。『十穀米を使用』という部分も合っている」

L「……では、少なくともこの文章で意図されているのはその店で間違い無いでしょうね」

総一郎「とすると、この一見普通に見えるメールが……」

L「まあ……可能性はありますね。メールの場合、今まさに私達がしているように、警察がその気になればいくらでも内容を調べられる……だからメールの文中にはあえて核心となる内容は書かず、単に天海春香を誘い出すだけの文面とした……」

月「だが文面をカムフラージュしたところで、こうやって会う場所を直接的に書いてしまったら意味が無いような気もするが……」

L「……そうですね。ただ、まだ二人の直接的な足取りが掴めていない以上……たとえ無駄であっても、この店の近辺も監視対象に加えざるを得ませんね」

総一郎「うむ……そうだな」

L「ワタリ。この店の近くに防犯カメラはあるか?」

ワタリ『店から少し離れた場所には……しかし、これだけでは十分な監視は難しいかと……』

L「……そうか」

総一郎「竜崎」

L「? はい」

総一郎「私が現場に行こう」

L「!」

月「駄目だ父さん。危険過ぎる」

総一郎「ライト」

月「星井美希達だけならまだしも、姿の見えない死神までいるかもしれないという状況……何が起こるか分からない」

総一郎「確かに、死神に動かれたらどうしようもないかもしれんが……しかしそれを恐れていては、二人を逮捕することなど永久にできんだろう」

月「! それは……」

L「…………」

総一郎「何、無茶はせん。もし二人を発見しても、その場での直接的な接触はしない。あくまでも監視を行うだけだ」

総一郎「それに張り込みは刑事の基本でもある。これまでの長い刑事人生……このような局面は何度もあった」

月「それなら……僕も一緒に行かせてくれ。父さん」

総一郎「! ライト」

月「僕はずっと父さんに憧れていた。父さんのような刑事になりたいとずっと思っていた。……勿論、今も」

総一郎「…………」

月「だから頼む。父さん。僕も一緒に……」

総一郎「……ライト。お前が初めてこの捜査本部に来た日に、私が言ったことを覚えているか?」

月「! それは……」

総一郎「私はお前にこう言った。……『お前が少しでも危険な目に遭いそうになったら私は止める。そしてその際には必ず私の指示に従え』……と」

月「…………」

総一郎「もっとも、事実としては、お前にはもう既に多くの危険な捜査を担当させてしまっている。元々家庭教師として接点を持っていた天海春香のみならず、キラ信者である弥に対する接触……」

月「…………」

総一郎「さらにお前に『キラ』の役を演じさせての、弥と高田に対する協力の依頼も……」

月「いや、でもそれらは僕や竜崎が……」

総一郎「ああ。確かにいずれの場合も、私はお前や竜崎の熱意と説得に負け……お前がこういった危険な捜査にあたることを追認してきた。そういう意味では今更なのかもしれない。だが今、この瞬間においては……最初の約束通り、私の指示に従ってもらう」

総一郎「ライト。お前はここに残れ。いいな」

月「…………」

月「父さんの理屈は分かる。でも……」

総一郎「忘れるな。ライト。どんなに推理力や考察力が長けていても、お前はまだ一介の学生に過ぎん」

月「…………」

総一郎「心配せずとも、お前はこれから勉強して警察庁に入るんだ。そうすれば、私と共に現場に張り込む機会などいくらでもあるだろう」

総一郎「だから……今日のこの場は私に任せろ」

月「……分かったよ。父さん。僕が現場に行くのは諦める」

総一郎「! ライト」

月「だが……」

総一郎「? 何だ?」

月「さっき、父さん自身も言っていた事だが……星井美希達はともかく、死神は父さんにとっても未知の相手……銃が効くとも思えない。結局、父さんが危険な事に変わりは無いだろう?」

総一郎「……それは否定せん。私とて、姿を見ることができない相手をどうこうできるなどとは思っていない」

月「だったら……」

総一郎「それでも、だ。ライト」

月「…………」

総一郎「それでも私は行かなければならない。一人の警察官として。そして……星井君の上司としてだ」

月「!」

L「……夜神さん。責任を感じておられるのですか。星井さんの件……」

総一郎「……竜崎。彼は私の部下であり、今回の件は私の管理下で起こった出来事だ」

総一郎「もし私が彼の行動に気付き、止めることが出来ていれば……相沢と松田が現場を離れてしまうことも無く、あるいは星井美希と天海春香の行方を見失うという事態にはならなかったかもしれない」

L「…………」

総一郎「だとすれば、上司である私がその責任を取るのは当然の事だ」

L「夜神さん」

月「父さん……」

総一郎「それにいずれにせよ、既存の防犯カメラだけでは十分な監視は難しいという事だ。ならばどのみち、誰かが現場に赴いて直接監視を行う必要がある」

L「……そうですね。そしてそれなら確かに……刑事として長年の経験を積んでこられた夜神さんがこの中では最も適任でしょうね」

月「! 竜崎」

総一郎「そういうことだ。ライト」

月「…………」

総一郎「お前はここに残って、竜崎と共にカメラと星井君達の監視を続けてくれ」

月「……分かったよ。でも、父さん」

総一郎「? 何だ?」

月「たとえ何が起ころうとも、絶対に生きてまたここに帰って来ると……それだけは約束してくれ」

総一郎「! ……ああ。勿論だ。ライト」

L「…………」

L(これもまた親子愛……か)

総一郎「……ところで、竜崎。私も、相沢達のようにマスクとサングラスを着けていった方が良いだろうか?」

L「そうですね……微妙な所ですが……私も月くんも、そして夜神さんも……もう既に『捜査本部にいる人間』として顔も名前も知られている可能性が高いわけですから……万が一、監視に気付かれた場合にはどのみち皆殺しにされるものと思われます」

L「それならばまだ、変に小細工せずに周囲の人通りの中に紛れてしまった方がばれにくくなるとも思います」

総一郎「確かに……どのみちばれたら終わりなら、まだそちらの方がましか」

L「それにノートではなく、死神が何か特別な力を使って人を殺すのだとすると……そもそもマスクやサングラスなど何の意味も無いかもしれませんしね」

総一郎「確かにそうだな。分かった。ではこのままの状態で行こう」

L「では夜神さん。よろしくお願いします。もし二人を発見した場合は、十分な距離を確保してから連絡して下さい」

総一郎「ああ。分かった」

L「またこちらからも、状況に変化があった場合はすぐに連絡します」

総一郎「ああ。頼む。……では、行って来る」

月「……父さん」

総一郎「? どうした? ライト」

月「くれぐれも忘れないでくれ。……さっきの約束」

総一郎「ああ。分かっている」

L「…………」








【三十分後・都内某所】


(一歩一歩、踏みしめるように歩いている春香)

春香「…………」

(その視界の前方に、一つの影が映る)

春香「!」

(春香はその影に向かって、さらに歩を進めていく)

(やがて影の正面に立つと、静かに声を掛けた)


春香「美希」

美希「……春香」

一旦ここまでなの

乙。Pの裏切りフラグが立ってるな

乙。まとめを見つけて追いついたぞ。

【二時間後・キラ対策捜査本部(都内のホテルの一室)】


(相沢と松田は、一時間ほど前に捜査本部に戻って来ている)

(Lと月からこの日の一連の経緯を聞いた二人は、神妙な表情を浮かべたまま押し黙っている)

相沢「…………」

松田「…………」

L「お二人とも、そんなに落ち込まないで下さい」

相沢「あ、ああ……すまん」

松田「…………」

月「松田さんも」

松田「……ごめん。月くん。まだ、ちょっと頭が整理できてなくて……」

L「まあ……無理も無いですね。今暫くはゆっくり休んでいてください。いずれにせよ、今日はお二人とも尾行捜査でお疲れでしょうし」

相沢「その尾行捜査の結果が、このざまだけどな」

月「相沢さん」

相沢「……『星井美希達が監視の目をかいくぐって予測不能な行動に出てしまうという可能性もゼロではない』『だから、もし万が一そんな事態が生じたとしても、最後まで集中を切らすことなく尾行対象者の動向を注視してほしい』……昨日、竜崎にここまではっきりと釘を刺されていたってのに、俺は……」

松田「それは僕も同じですよ。相沢さん。係長から電話があった時、正直……少し頭をよぎったんです。『何で係長が?』って。『念の為、竜崎か局長に確認した方がいいんじゃないか?』って」

松田「でも、僕はそれをしませんでした。……勿論、竜崎も局長も月くんもいるこの捜査本部で、係長がそんな行動を取るなんて思いもしなかった、っていうのもありますけど……何よりも」

松田「……疑いたくなかったから。係長の事」

月「松田さん」

L「…………」

松田「なんて……刑事失格ですよね。こんな大事な局面で、碌に確認もしないままに自分の感情優先で判断してしまって……」

相沢「松田。それを言うなら俺だって同じだ。いやむしろ、お前より場数を踏んでいる分、責任度合いは俺の方が……」

L「あの」

相沢・松田「!」

L「もうそういうのはキラ事件が解決してからにしませんか」

相沢「竜崎……」

松田「…………」

L「繰り返しになりますが、今日の星井さんの行動は誰にも読めなかった」

L「そして同じ部屋に居ながら、私も月くんも夜神さんも、星井さんが部屋を出て行った事には全く気が付かなかった。それは更衣室のカメラが次々と破壊されていくという、想定外の事態が生じたが故ですが……それでも、我々が彼の行動を見過ごしてしまったということに変わりはありません」

L「その結果として、今のこの状況に至っているわけですから……責任や過失という意味では我々全員にそれがあるでしょうし、今ここでその大小を言い合っても無意味です」

L「今、我々がすべきことは、ただ一つ―――星井美希と天海春香を捕まえること。ただそれだけです」

相沢「……ああ。そうだな」

松田「まだ、キラ事件は終わってないですもんね」

月「そうですよ。相沢さん。松田さん。今はとにかく、キラを捕まえましょう」

相沢「月くん」

松田「……ありがとう。月くん」

L「! ……夜神さんから連絡です」ピッ

L「竜崎です」

総一郎『朝日だ。もう神田に来て二時間ほどになるが……相変わらず二人の姿は見当たらない』

L「はい。こちらでも件の店の周辺に設置されている防犯カメラの映像をリアルタイムで確認していますが、二人の姿は映っていません」

総一郎『そうか……他の場所も同様か?』

L「はい。星井美希がいた渋谷も、天海春香の位置情報が最後に確認できた場所の周辺も、監視を継続していますが……依然としてそれらしき人物は発見できていません」

総一郎『そうか……しかし、星井美希が天海春香にメールを送ったのが16時35分頃だったから……そこからもう三時間近くも経っているということは……』

L「……はい。二人がどこかで落ち合えたのかどうかまでは分かりませんが……おそらくもう、我々が監視している範囲には現れないとみた方がいいでしょうね」

総一郎『うむ……』

ワタリ『竜崎』

L「どうした? ワタリ」

ワタリ『たった今、星井美希の携帯の位置情報が復活しました』

L「!」

月「電源を入れたのか」

L「ワタリ。星井美希の現在地は?」

ワタリ『どうやら自宅のようです』

L「! ……天海春香の方はどうなってる?」

ワタリ『天海春香の位置情報はまだ復活していません』

L「…………」

相沢「つまり……星井美希はもう自宅に戻っているが、天海春香はまだ戻っていない……ということか?」

月「そうですね。ただ、天海春香の家の遠さを考えても……『三時間』は掛かり過ぎだな。竜崎」

L「はい。『都内で星井美希のメールを受信した後、真っ直ぐ家に帰ったとすれば』……の話ですが」

松田「? どういうことっすか?」

L「つまり――『天海春香が家に帰る前に、どこかで星井美希と落ち合っていた』……とすれば」

松田「あっ」

月「二人が落ち合い、別れた後……都内在住の星井美希が帰宅している一方で、天海春香がまだ自宅に帰り着いていないとしても……何ら不自然ではない」

相沢「……なるほど。そういうことか」

総一郎『竜崎? どうした? 何か動きがあったのか?』

L「朝日さん。もう件の店の監視は止めて、捜査本部に戻って来て頂けますか」

総一郎『何?』

L「詳しくは後でお話しします。なお、相原さんと松井さんも一時間ほど前にこちらに戻られています」

総一郎『! ……分かった。ではすぐに戻る。また後で』

L「はい。よろしくお願いします」ピッ

L「…………」

帰ってきたのか、待ってたぞ

(三十分後・総一郎が戻り、捜査本部には星井父と模木を除く捜査員全員が揃った)

総一郎「そうか……どこか別の場所で、二人が……」

L「はい。勿論、直接確認できたわけではないので、あくまで推測でしかありませんが……現実問題として、星井美希は『神田の店に行く』というメールを天海春香に送っていたにもかかわらず、その場所には姿を現さなかった」

L「また一方、天海春香も星井美希のメールには返信をしておらず、互いにすぐに携帯の電源を切っていることから電話での連絡もしていない」

L「よって、あのメールの文章には二人の間でしか通じない暗号のようなものが仕込まれており―――天海春香はそれを見るや、すぐに予め二人で決めていた特定の場所へと向かい、そこで星井美希と落ち合った……」

L「私はこの可能性が最も高いと考えています」

相沢「……だが、あの文章のどこにそんな暗号めいた要素があったんだ? 二人の関係からして、普段からメールでの連絡くらいは頻繁に行っていたはず……あんな当たり障りのない文章を他の無関係なメールとどう区別したんだ?」

L「それは分かりませんが……まあ要は二人の間でそれと分かればいいわけですから、予め、あの文章全体を一つの暗号文として決めていたのかもしれません。あの文章と一言一句違わぬメールを送信する……それを条件としておけば、他のメールとの区別も容易です」

相沢「ああ、なるほどな」

総一郎「確かに……前もってそこまで決めておけば確実だな」

L「はい。そして一方が他方にそのメールを送った時は、互いにすぐに携帯の電源を切り、予め決めていた特定の場所へと移動する……今日のような不測の事態が生じた場合に備え、前もってそういう取り決めをしていたものと考えられます」

月「だとすると、僕達はまんまと一杯食わされたってわけか」

L「……そうですね。誠に残念ながら、ですが」

松田「いや、でも待って下さいよ。じゃあもう……竜崎も月くんも、ほぼ間違い無く殺されるって事なんじゃ……?」

L・月「…………」

相沢「おい。松田」

松田「いや、だってさっき聞いた話からすると……ミサミサからミキミキに伝わっちゃってる可能性高いんですよね? 二人の事……」

松田「その状態でミキミキとはるるんがどこかで落ち合ったってなると、もう……」

L「……そうですね。なので今現在、まだ私達が生きているのは……二人が落ち合い、相談した結果……①すぐに殺すと足がつくと判断したため、まだ殺していない②殺しの行為自体はすでに終えているが、死の時間を操っているためにまだ死んでいない……のいずれかではないかと思われます」

相沢「? ①は分かるが……②はどういう意味だ? 『死の時間』とは?」

L「……実は、私はキラ事件の初期の頃から、『キラは殺す相手の死の時間を操れるのではないか』と考えていたんです」

相沢「殺す相手の死の時間を……だと?」

L「はい。キラは、顔と名前が分かる者ならいつでも自由に殺すことができる……つまり、人の死そのものを自由に操ることができる。ならば、その死の時間をも操ることができるとしても、そこまで不思議ではないのではないか……と」

相沢「なるほど……まあありえない発想ではないな」

総一郎「…………。(確かに、私と竜崎で星井美希の自宅での様子を監視カメラで観察していたときにそんな事を言っていたな……)」

L「そして今日、星井美希が所持していた『黒いノート』の現物……もっとも、映像越しではありますが……それを観たことで、その考えはより強固なものとなりました」

相沢「? どういうことだ?」

月「……あの『HOW TO USE IT』の記載か」

L「はい」

松田「? どういうこと? 月くん」

月「あの『HOW TO USE IT』の中にはこんな記載がありました。……『死因を書くと更に6分40秒、詳しい死の状況を記載する時間が与えられる。』……つまりこの『詳しい死の状況』の中に『死の時間』も含まれるとするなら……竜崎の推理が裏付けられる」

総一郎「なるほど。つまりノートに『何時何分何秒に死ぬ』などと書けばその通りになる……ということか」

L「はい。ただ仮にそうだとしても、操れる時間の幅がどれくらいなのかは分かりません。せいぜい数時間の範囲なのか、または一年後でも二年後でもいいのか。あるいはそもそもそういった時間的範囲の制約すら無いのか……」

L「しかしいずれにせよ、『死の時間の操作』が可能であるのなら、先にノートに名前を書いておき、死ぬ時間は可能な限り後に設定しておく……そうすることで、可及的に自分達に疑いが掛からないようにする。……これくらいの事は思いついてもおかしくはないでしょうね」

松田「じゃ、じゃあ……もう竜崎や月くんの名前がノートに書かれているという可能性も……」

月「それは十分あるでしょうね」

総一郎「とすればおそらく、顔を知られている私と……模木もか。星井君はどうか分からんが……」

相沢「で、俺と松田は尾行の時のマスクとサングラスが有効なら……セーフかもしれないってことか」

L「そうですね。おそらくですが……お二人は大丈夫だと思います」

松田「…………」

松田「でもそう言われると……やっぱり複雑な気持ちですね。だって今のこの状況になった最大の原因は、やっぱり……」

相沢「…………」

総一郎「松田」

松田「あっ。すみません。相沢さんの事を言うつもりじゃ……ただ僕は、自分が……」

相沢「いや、いいさ。……分かってる」

松田「……すみません」

L「あえて、身も蓋もない言い方をしますが」

松田「え?」

相沢「竜崎?」

L「今の状況で、私達が負けることは無いです」

一同「!」

月「…………」

L「何をもって『勝ち』とするかによって、多少は意味合いが変わってくるかもしれませんが……たとえば、『私達のうちの誰かが生き残り、キラを捕まえて事件を終結させる』ことを『勝ち』と定義するなら」

L「私達は100%勝てます」

総一郎「……な、なぜそこまで言い切れるんだ? 竜崎。いくら相沢と松田が尾行時に顔を隠していたといっても、それが絶対の保証とまでは……」

L「ワタリの存在を忘れていませんか? 夜神さん」

総一郎「! ワタリ……そうか」

L「はい。確かに夜神さんの仰るように、相沢さんと松田さんの防御も絶対とまでは言い切れません」

L「つまりそれは、監禁中の星井さんと模木さんも含め、今ここに居る我々全員が殺される可能性があるという事ですが……」

L「ワタリだけは別です」

L「ワタリだけはこれまで一度も、キラ容疑者……もっとも、もう『容疑者』は取ってもいいように思いますが……である星井美希と天海春香のいずれとも、直接的な接触はおろか、同一地点に存在したことすらありません」

L「このような状況で、星井美希または天海春香が、その存在すら認識していないワタリの顔や名前を把握できているとはとても思えません」

L「よって最悪、今ここに居る我々が全滅したしても、ワタリだけは必ず生き残りますから……私達が勝つのはもう確定というわけです」

総一郎「確かに……」

松田「そう言われれば……そうっすね」

相沢「まあワタリ一人に全部背負わせるのは酷な気もするが……現実にそういう状況になったら仕方ないだろうな」

L「その点も大丈夫です。相沢さん」

相沢「え?」

L「詳しくは話せませんが……実は、私の後継者となりうる者達も育ってきていますので」

総一郎「! 竜崎の後継者……そんな者達がいたのか」

L「はい。まだ幼さの残る者達ですが、その才能は紛れもなく本物……必ずやワタリの力になってくれるでしょう」

月「…………」

月「……なるほど。言い方は悪いが、要は竜崎のバックアップ要員ってことか」

L「はい。簡単に言えばそういうことです」

松田「確かにそこまで整っているなら……勝つ分には勝てそうですね」

相沢「まあ俺達が全滅した場合も『勝ち』と言えるかは若干微妙だけどな……」

松田「そこは……でも今、竜崎も言ってたじゃないっすか。僕達の中の誰かが生き残り、キラを捕まえれば勝ちだって」

相沢「まあな。それにこれまで、俺達も命を懸ける覚悟でキラを追ってきたわけだしな」

L「そうです。前にも同じ事を言いましたが、これはキラが私達を殺すのが先か、私達がキラを死刑台に送るのが先かの戦い……」

L「ゆえに、たとえ一人でも生き残り、キラを死刑台に送ることができれば……それで我々の勝ちです」

総一郎「…………」

L「ですが勿論、それは『最悪そうなったとしても勝てる』というだけの話であって、やすやすと命を捨てるような行動を取るべきではありません」

L「だから考える必要があります。あくまでも犠牲ありきではなく……誰も命を落とすことなく、キラを捕まえられる方法を」

相沢「ああ」

松田「そうっすね」

総一郎「……だが、竜崎。死神はどう考える? もし仮に、死神が二人の障害となるような者を特殊な能力を使って殺すのだとすれば……ワタリにせよその竜崎の後継者にせよ、絶対に殺されないとは言い切れないのでは?」

総一郎「誰がそれをするにしても、二人を逮捕するためには物理的な接触が必要不可欠……だがもし、その瞬間に死神が動くのだとすれば……」

L「確かに、その『仮に』が成り立てばそうですが……私はその『仮に』は成り立たないと考えています」

総一郎「何故そう言えるんだ?」

L「……考えてみて下さい。もし死神が星井美希・天海春香の意のままに、二人にとって都合の悪い人間を殺してくれるのであれば、今日の件にしても、監視カメラだけを破壊するなんて中途半端な事はせずに、弥も高田も我々も軒並み殺してしまえばよかったはずです」

L「姿が見えない死神が人を殺したところで何の証拠も残らず足もつかない……であれば、そうするのが最も直截かつ簡便な手段だからです」

総一郎「確かに……」

L「しかし、実際には二人はそれをしなかった。……いや、できなかった。それは単純に、死神はそういう手伝いはしないからだと考えられます。その理由は――……」

月「……『死神は自分の楽しみのためにノートを人間に使わせていると考えられるから』……だろうな」

L「はい」

松田「? ど、どういうことですか?」
  
月「簡単な事だよ。松田さん。ノートのルールが英語で書かれていたことから、死神が人間にノートを使わせる目的……より具体的に言えば、『人間が人間を殺すさまを観て楽しむため』という、いかにも死神的……いや、この場合においては『悪魔的』と言ったほうが適切かもしれないが……そんな下卑た目的を持っていたであろうことが推察される」

月「それに加えて、『死神の姿を目撃したはずのミサは手にかけずに、監視カメラだけをピンポイントで破壊する』という行動からも……『死神はカメラを壊すなどの間接的な手伝いはするが、直接的にノートの持ち主の障害となるような人間を殺すなどの手伝いはしない』『それは他でもない、『人間が人間を殺すさまを観て楽しむため』という目的に自ら直接介入する事を避けるためである』……ということが容易に推測できる」

松田「いや容易にできないって……少なくとも僕には……」

相沢「じゃあ今の推理を前提にするなら……二人を逮捕する際、我々が死神に殺されるという可能性までは考慮しなくていい、ということか?」

L「はい。もっとも、完全に無視できるレベルとまでは断言できませんが……一応はそのように考えていいのではないかと思います」

松田「あ、でも……死神としては、あくまでも自分が楽しむためにノートを人間に使わせているわけですから……僕達がミキミキとはるるんを捕まえちゃったら、『もうこれ以上は楽しめない』って判断して、ミキミキもはるるんも僕達も、皆まとめて殺されちゃったりしませんかね?」

相沢「……あー……」

総一郎「それは……確かにそうかもしれんな」

月(……その可能性の話をしてしまうと、父さんがキラ逮捕の際に犠牲者が出ることを懸念し、二人を逮捕する行為そのものに消極姿勢になってしまうと考え……あえて僕も竜崎も言わなかったのに……なんで、松田さんはこういう時に限って妙に勘が働くんだ)

L(松田の馬鹿……)

総一郎「……しかし」

L・月「!」

総一郎「そこで思考を停止してしまっては、永久にキラを逮捕することなどできまい。……現に今日、私が神田に向かい、張り込みを行ったのもまさにその思いからだった」

総一郎「もっとも、結果的にそれは空振りに終わってしまったが……」

L「夜神さん」

月「…………」

総一郎「確かに危険はゼロではない。しかし誰かがやらねばならない……皆、そう思って今日まで戦ってきたはずだ」

総一郎「だから皆で考えよう。たとえ危険を完全にゼロにはできなくとも、可能な限りゼロに近付けることのできる方法を」

総一郎「そしてそれこそが……今竜崎が言っていた、『犠牲ありきではなく、誰も命を落とすことなくキラを捕まえられる方法』に他ならないはずだ」

総一郎「そうだろう? 竜崎」

L「……はい。その通りです。夜神さん」

相沢「そうですね。局長」

松田「僕達ならやれますよ。なんだかんだで、ここまで誰一人死なずにやってこれたんですから」

L「…………」

L(どうやら夜神局長は私が思っていたよりも、ずっと……)

L(本当の意味で、正義の人だったようだ)

月(立派だよ。父さん。それでこそ――……)

月(僕の目指すべき警察官であり、誇れる父……夜神総一郎だ)

相沢「しかし実際、どうすればいいんでしょうね? ……正直、姿の見えない相手なんか対処のしようが無い気が……」

総一郎「まあな。だが何か手はあるはずだ」

L「…………」

松田「竜崎も、まだそのあたりの対策は思いついていない感じですか?」

L「そうですね。正直、死神の方はまだ何も対策を思いついていません」

松田「死神の方は……ってことは、ミキミキとはるるんの方はもう考えついてるんですか?」

L「それはまあ、はい。まだ大まかな構想程度ですが」

松田「おお! 流石は竜崎」

相沢「そうなのか。では一旦はその竜崎の構想を聞かせてもらってから、死神の対策はそれをベースに皆で考えていけばいいんじゃないか?」

総一郎「そうだな。現状の構想で良いので、聞かせてもらえるか? 竜崎」

L「分かりました」

月「…………」

月(もし僕が竜崎なら……攻めの手は一つしかない)

L「結論から申し上げますと、私の構想は……『アリーナライブの終了直後に星井美希と天海春香を逮捕する』です」

一同「!」

月(やはり……竜崎は僕と同じ発想、同じ思考をしている)

L「……その顔」

月「!」

L「やはり月くんも私と同じ考えでしたか」

月「……まあね」

L「では、この先の説明はお譲りしましょうか?」

月「いや、いいよ。この本部の指揮を執っているのは竜崎なんだ。そのまま続けてくれ」

L「分かりました。では……」

一同「…………」

L「まず大前提として、我々、キラ対策捜査本部は一週間後のアリーナライブの日まで――正確には『アリーナライブが終わるまで』ですが――大きな動きはしない。……勿論、気付かれないように水面下での準備は進めますが」

相沢「いや、しかし……今の状況で星井美希・天海春香を一週間も野放しにするのは危険ではないか? せめてもう少し早い段階で彼女らの逮捕に動いた方が……」

L「……危険という意味ならもう既に危険ですし、安全という意味ならこのまま何もしない方が安全です」

相沢「? どういうことだ?」

L「先程も言いましたが、私と月くん、夜神さん、模木さん……そして星井さんは、もう既にノートに名前を書かれている可能性があります」
  
L「また今はまだ書かれていなくとも……今日、星井美希と天海春香がどこかで出会い、連携を取ったと考えられる以上……これから先、我々が少しでも不審な動きをしていると勘付かれたら最後、即座に名前を書かれてしまう……もうそれくらいに考えた方が良いでしょう」

L「よって、もう既に名前を書かれてしまっている場合なら、今焦って逮捕を急いだところで意味はありませんし……まだ書かれていない場合でも、こちらが無理に動くことでかえって書かれる危険が増すだけと考えられます」

相沢「しかし、このまま二人でどこかへ逃げてしまうという可能性もある……いくら大きなライブが直近に控えているといっても、キラとして捕まれば死刑……普通に考えて命の方が大事だろう」

L「……確かに、普通はそうでしょうね。しかしそういう意味で、彼女達は普通ではありません。たとえ捕まるリスクがあってもライブは必ず行う」

相沢「? 何故、そこまで言い切れるんだ?」

L「簡単な事です。あの二人……とりわけ天海春香にとっては、アリーナライブがそれだけ大事な事だからです」

一同「! …………」

L「これまでの天海春香の行動原理から考えるに、おそらく彼女にとって、765プロダクションは自分の命よりも大切な存在……」

L「そんな彼女にしてみれば、逮捕されるリスクを恐れて、アリーナライブの出場を放棄して逃走する選択肢など……最初から無いと言っていいでしょう」

総一郎「だが、天海春香はそうだとしても……星井美希の方はどうだ? 彼女には天海春香ほどの765プロに対する執着心は無いのでは?」

L「はい。それは私もそう思います。ですが、765プロダクション所属のアイドル同士の間には極めて強固な絆が存在している……それも事実」

L「その765プロダクション所属のアイドル同士である星井美希と天海春香が今、この状況でコンタクトを取り、今日起こった出来事を共有したとすれば……」

L「私は今、二人がこう考えている可能性が最も高いと考えます」

L「『それでも今は、一週間後のアリーナライブを優先しよう』……と」

一同「…………」

L「言うまでもなく、天海春香はそう考えるでしょうし……星井美希もまた、765プロダクションの仲間である天海春香との絆を重んじ、それに同調する可能性が高い……そう思います」

松田「で、でも……竜崎の言う通りに、ミキミキとはるるんがアリーナライブを優先させるのだとしても……別に僕達がそれに合わせる必要は無くないですか? 何故わざわざ、ライブが終わるまで待つ必要が……?」

L「今日の出来事が共有されているとすれば……二人はまず間違い無く、自分達がいつ逮捕されるか分からない状況にある、ということを認識しています」

L「とすれば当然、『アリーナライブの前に捕まることだけは絶対に避けたい』と考え、警戒しているはず……」

総一郎「……なるほど。つまり今は、二人の警戒心が最も強まっている時……ゆえにこのタイミングで仕掛けるのは危険、ということか」

L「はい。ですが逆に言えば、『ライブの前に捕まることなく、ライブを無事に終えられれば』……二人は必ず安堵する。すなわち、隙ができる」

L「そこを叩きます」

一同「! …………」

月「…………」

総一郎「つまり我々はライブが終わるまでは待ち……ライブが終わると同時に一気に踏み込み、二人の気が緩んでいるところを逮捕する……ということか?」

L「はい。それが最も成功確率が高い方法だと思います」

松田「じゃあ当日は僕ら皆、ライブ会場……つまりアリーナに潜入しておくってことですか?」

L「そうですね。皆さんにはそうしてもらうことになると思います」

相沢「? 皆さんには、とは? 竜崎は行かないのか?」

L「いえ、勿論私も行きます。ただ元々、私と月くんはライブに観客として招待されている立場ですので……他の皆さんとは異なり、正面から堂々と足を運ぶ形になるということです」

一同「!」

月「…………」

総一郎「ば……馬鹿な。この状況でそんな真似……殺してくれと言っているようなものじゃないか」

L「…………」

月「それは逆だよ。父さん」

総一郎「ライト?」

月「そもそも、星井美希が僕と竜崎をライブに呼んだのはライブの妨害をさせないためだ。彼女は天海春香とは違って、かなり早い段階から僕と竜崎の事を疑っていたはずだからね」

松田「ええと、確か……最前に近い席に来させて、竜崎と月くんがライブ中に変な行動に出ないかを監視しようとしたのだろう……ってことでしたよね?」

月「そうです。なのに当日、僕と竜崎がその席に居なかったら……まさに僕達が『変な行動』に出ていないか――即ち、『見えないところで何か企てているのではないか』――と疑われ、直ちに殺される可能性がある。……つまり結果的に、かえって危険度が高くなってしまうということです」

相沢「なるほど。だがそうせず、ちゃんと指定されたとおりの席に竜崎と月くんが姿を見せていれば……」

L「はい。勿論、今日の件でもう私達の正体にはほぼ気付かれているでしょうから、それをもって警戒を完全に解く、ということは無いでしょうが……少なくとも、『こうして普通に会場に来ている以上、今日のうちにどうこうするつもりはないのだろう』という程度には考えても……いえ、油断してもおかしくはありません」

総一郎「そのように油断を誘っておいて、その裏をかく、か……」

L「はい。攻撃こそ最大の防御です」

月「……ということだ。父さん。了承してくれないか?」

総一郎「……確かに、言われてみればその通りかもしれんな」

月「! 父さん」

総一郎「分かった。もうここまで来た以上は何も言うまい。実際、こうしてキラを逮捕直前まで追い詰めることができているのも、竜崎とライトの力があったからこそ……」

総一郎「ならば信じて賭けてみよう。二人の考えに」

月「ありがとう。父さん」

L「夜神さん。ありがとうございます」

月「それにステージの近くから星井美希・天海春香の姿を観れるということは、こちらから彼女らを間近で監視できるということでもあるしね」

相沢「向こうが監視するつもりで呼んだのを逆手に取り、逆にこっちが監視するってことか」

月「はい。まあそうは言っても流石にライブ中に何かするとは思えないですけどね」

相沢「まあな」

L「あとそれと……他の765プロダクション関係者に騒がれると色々と面倒ですので……二人を逮捕するにしても、一旦は全員まとめて監視下に置いてからとすべきでしょうね」

L「プロデューサーからの情報によると、幸いにもライブ当日には765プロダクションの関係者全員が会場に集合するとの事ですので……おそらくライブの終了後には全員で集まる場があるものと思われますし、無ければプロデューサーに指示してそういう場を作らせればいい」

L「後は我々が765プロダクションの関係者全員が集まっている場に急行し、星井美希と天海春香の身柄を確保……同時に、残りの関係者一同についても一定の時間――少なくとも、星井美希と天海春香の二人を外部からの連絡を完全に遮断できる状況下に置くまでは――引き続き監視下に置く」

L「以上が、二人を逮捕するための大まかな構想ですが……最初に断ったように、死神の対策についてはまだ何も思いついていません」

L「アリーナライブ当日まではまだ後一週間ありますので、それまでになんとか良い方法を考えましょう」

総一郎「うむ……そうだな」

L「それから、明日以降は星井美希・天海春香に対する尾行も止めにします。『黒いノート』の存在と内容を確認できた今、もはやカモフラージュとしての意味も無いですし……もうここまできたら怪しまれるかどうかではなく殺されるかどうかの問題ですので……あえてリスクを冒す必要も無いでしょう」

相沢「ということは……これでようやく、マスクとサングラスのセットからもお別れってことか」

L「はい。実に二か月半にも及ぶ尾行捜査……本当にお疲れ様でした。相沢さん。松田さん」

松田「長かったっすね……って、まだライブ当日の潜入が残ってますよね?」

相沢「ああ、そうか。じゃあその時はまたマスクとサングラスを……」

L「いえ。確かにお二人にも会場に潜入して頂きますが……流石にライブ会場でマスクとサングラスでは周囲から浮き過ぎてしまいますし、もし星井美希達に気付かれたら最後、それだけで『“L”が何かしようとしている』とばれてしまい、作戦が台無しになってしまいます」

松田「あー……それもそうっすね」

相沢「じゃあ俺達は素顔のままで潜入か」

L「はい。お二人の顔は知られていないはずですので、一旦はそれで大丈夫だと思います」

総一郎「では、竜崎。私はどうすればいいだろうか? 私の顔は既に二人に知られているが……」

L「そうですね。夜神さんの存在に気付かれると、イコール警察が張っていると即気付かれてしまいますので……申し訳無いですが、当日、夜神さんはここに残って留守番をお願いします」

総一郎「うむ……仕方ないな。分かった」

L「それにどのみち、この本部には誰か一人は残っておいてもらわないといけませんしね」

総一郎「……監禁している星井君と模木の監視……か」

L「はい」

総一郎「……分かった。ライブ当日は私が責任をもって二人を監視しよう」

L「よろしくお願いします。夜神さん。ただ、ワタリにも別の場所から同時に監視させるようにしますので、その点はご了承下さい」

総一郎「ああ。二人の上司である私が一人で見張るわけにはいかんからな」

L「はい。すみません」

一同「…………」

相沢「……ところで、竜崎。俺と松田は普通に観客として会場に潜入するってことでいいのか?」

L「はい。それでお願いします」

松田「でも僕達、ライブのチケット持ってないっすけど……」

L「チケットはプロデューサーに頼めばなんとかなるでしょう」

月「では、とりあえずはプロデューサーに連絡だな」

L「はい。彼には他の連絡事項もありますので、今から連絡してみます」

ワタリ『竜崎』

L「どうした? ワタリ」

ワタリ『プロデューサーから連絡です』

L「! ちょうどよかった。つないでくれ」

ワタリ『はい』

L「Lです」

P『ああ。俺だ』

L「どうされました?」

P『実は、ついさっき……19時45分頃か。美希から電話で連絡があった』

L「! それは……何と?」

P『『今日は急に現場から帰ってしまってごめんなさい』という謝罪と、『でももうほとんど回復したので明日のレッスンは普通に行けると思う』という連絡だった』

L「……明日のレッスンも午前中からあるんですか?」

P『ああ。といっても、午前中だけだけどな。今の時期に根を詰め過ぎても良くないから』

L「そうですか」

P『ところで……L』

L「? はい。何でしょう」

P『まだはっきり聞けていなかったんだが……結局何だったんだ? 例の『黒いノート』とやらは』

L「…………」

P『夕方に電話した時には『まだよく分からない』と言っていたが……今でもそうなのか?』

P『少なくとも、何か書いてあるのか、いないのか……書いてあるとしたらそれはどういう内容なのか、くらいの事はすぐに分かると思うんだが……』

L「……ええ。それは勿論、最初にノートを映像で確認した時に分かっています。結論から言うと、『何か』は書かれていました」

P『? どういう意味だ?』

L「書かれてはいたんですが、それが何の言語なのかが分からず、検証に時間を要していました」

P『マイナーな言語だったってことか?』
  
L「マイナーどころか、どうやら現在、地球上に存在している言語ではないようです」

P『地球上の言語ではない……? じゃあ何か、宇宙人か何かの言語だとでも?』

L「あるいはそうであるのかもしれません。とにかく現在、私にはその言語が解読できていない。ゆえに書かれてある内容が分からないのです」

P『……ちなみに、書いてあるのはノートの中のページか? または表紙や裏表紙?』

L「書かれているのは表紙とその裏ですね。表紙には何かのタイトルのような文字……そしてその裏には何行かの文章が書かれています。その他、裏表紙および中のページには何も書かれていません」

P『……そうか』

L「ですので現状、このノートが何なのかは正直言って分かっていません。私が推理した通り、『名前を書くと書かれた人間が死ぬノート』なのか……それとも何の効力も宿っていない、ただのノートなのか」

P『…………』

L「とにかく、現状ではノートの実物を検証しない限り判断しようがない……もしノートのどこかにキラが裁いた犯罪者の名前でも書いてあればまた違ったのでしょうが、それもありませんでしたので」

P『……ではまだ、美希がキラであるという確証には至っていないんだな?』

L「そうですね。ただこれまでの状況証拠はありますし、実際にこんな怪しげなノートを所持していたという事実もあったわけですから、まだキラ容疑者の最有力候補であることに変わりはありません」

L「そして言うまでもなく、これは天海春香についても同様です。彼女の方のノートはまだ確認できていませんが、状況証拠があるのは星井美希と同じですので」

P『……分かった。では、この後はどうするつもりなんだ?』

L「はい。とりあえずは『黒いノート』の映像と写真を証拠として収めましたので……次はこのノートの所持者である星井美希、およびその共犯の嫌疑が掛かっている天海春香への尋問が必要だと考えています」

P『!』

L「そして、それを実施するタイミングは――……今日から一週間後、アリーナライブの終了直後とさせて頂きたい」

P『アリーナライブの終了直後……だと?』

L「はい。ライブ前は彼女達も気が張っているでしょうから、もし本当に彼女達がキラだった場合、そのタイミングで尋問をしたりすると必要以上にプレッシャーを与えてしまうことになりかねない……その結果、彼女達がどのような行動に出てしまうのか予測がつかない、という理由からです」

P『それでライブが終わった後、ということか』

L「はい」

P『しかしそれなら、何もライブ直後じゃなくてもいいんじゃないか? 流石に当日だと本人達の疲れもあるだろうし、翌日とかでも』

L「いえ。二人を尋問している間、事務所の他の方に騒がれても困りますので……」

P『……なるほど。その点、ライブの当日であれば、他のメンバーも全員会場に集まっており、まとめて監視下に置けるから都合が良い……か』

L「流石ですね。その通りです。……よろしいですか?」

P『……良いだろう。見方を変えれば、それだけ二人の潔白が早く証明されることにつながるとも言えるしな』

L「ありがとうございます。ではそういう方向で進めたいと思いますので、ライブの準備は予定通りに進めて下さい」

P『ああ。分かった』

L「それとライブの終了後ですが、765プロのメンバー全員で集まるような場はありますか?」

P『ああ。ライブ後には必ず全員でミーティングをするようにしているよ』

L「分かりました。ではそのミーティングの時間と場所が確定した時点で私に連絡して下さい。申し訳ありませんが、その場において星井美希と天海春香の二人を任意同行という形で連行させて頂きます」

L「また二人の尋問が終わるまではあなたも含め、765プロの方は全員その場で待機して頂くようにします」

P『……分かった』

L「それから、重ねてのお願いで恐縮なのですが……ライブ中も星井美希と天海春香の様子を監視・観察させて頂きたいので、可能であれば、ライブのチケットを六、七枚程頂けませんか? 座席の位置は問いませんので」

P『! それはいいが……あんたもライブ会場に来るってことか?』

L「いえ。流石に私は行きませんが……信頼できる者を何人か選び、観客として会場に潜入してもらうつもりです」

P『そうか。折角“世界の三大探偵”のうちの一人の顔を拝めるチャンスかと思ったんだが……流石に、世界の誰にも顔を知られていない“L”がアイドルのライブ会場なんかに素顔を晒すはずもないか』

L「……はい。申し訳ありませんが、そこはご容赦頂きたく思います」

P『分かった。で、肝心のチケットの方だが……機材開放席ならまだ融通が利くはずだ。それで手配しよう』

L「ありがとうございます。では差出人名は書かなくて結構ですので、今から指定する宛先に封書で送って下さい。郵便番号は――……」

【同時刻・プロデューサーの自室】


L『――……まで送って下さい。それと振込口座を教えて頂けますか。代金を振り込ませて頂きますので』

P「いいよ、金なんて……って言いたいとこだが、タダでチケット流したって音無さんにばれると面倒だな……分かった。じゃあチケットと一緒に事務所の口座を書いたメモを入れておくよ。適当な名前で振り込んでおいてくれ」

L『分かりました。では今日はこの辺で。何か事態が動いた場合はその都度……また何も無くともライブの前日には必ず連絡するようにしますので』

P「分かった。俺の方も何かあれば必ず連絡する」

L『はい。それではよろしくお願いします』

P「ああ。ではまたな」ピッ

P「…………」

P(……Lから、『美希と春香の二人をキラとして特定している』という話を最初に聞いた時……俺は『もし本当に二人がキラなら、罪は罪として、それに見合う罰を受けさせなければならない』と……そう思った)

P(いや……それは今でもそう思っている)

P(いくら犯罪者相手とはいえ、殺人は殺人……決して許されるものではないからだ)

P(だが、それはあくまでも『もし本当に二人がキラなら』の話……)

P「…………」

P(勿論、これまでの状況から……美希と春香が疑われること自体はやむを得ない事だと思う。また実際に美希の鞄から怪しげなノートも見つかっている)

P(……だが、それでも)

P(まだ美希が、春香が……あいつらがキラだとする、決定的な証拠は出ていない。もし既にそんな物があるのであれば、Lはライブなんて関係無く、とっくに二人を逮捕しているはずだからだ)

P(つまり『証拠があるのに逮捕しない』はありえない。しかし……)

P(『証拠は無いが逮捕する』は無いとは言い切れない)

P(だから今、俺が最も警戒しないといけないのは……)

P(Lの先ほどの説明は全て俺を油断させるための嘘であり……実際は、今すぐにでも美希と春香を逮捕しようとしている、という可能性……)

P(ならば今のうちに、二人を海外にでも逃がしておくべきか……?)

P(美希はハリウッド行きを早めればいいだけだし、春香もアイドルアワード受賞の実績がある。海外に売り込みに行かせるくらい別に不自然では……)

P(って、馬鹿か俺は。相手は“世界の三大探偵”だぞ。そんな小細工を弄したところで、逮捕されるのが数日延びるだけだろう)

P(だとすれば結局、今の俺にできることは……プロデューサーとして、美希と春香を最後まで支えてやることくらい……か)

P(……無力、だな……)

P「…………」

【同時刻・キラ対策捜査本部(都内のホテルの一室)】


L「……はい。それではよろしくお願いします」

P『ああ。ではまたな』

(プロデューサーとの通話を終えたL)

L「……とりあえず、プロデューサーへの説明はこのあたりが限界でしょう。ノートの事を全てありのままに話してしまうと、これが二人を逮捕するための証拠になり得ること……すなわち、我々がもう二人を逮捕しようとしていることに気付かれてしまいますので」

総一郎「うむ。そうだな」

月「ところで、竜崎。さっきの電話で、プロデューサーには融通してもらうチケットの枚数を『六、七枚程』と伝えていたが……僕と竜崎の分のチケットは既にあるから、相沢さんと松田さんの分を割り当ててもまだ四、五枚余る。これは今ここに居るメンバー以外からも当日の監視役を配備するということか?」

L「はい。そうです」

L「アリーナはそれなりに広い会場ですので……ある程度の人出は必要と考えています」

総一郎「今ここに居るメンバー以外となると……我々とは別に、警察庁内で独自にキラを追っている者達なら何名かいるが……その中から有志を募るか?」

L「そうですね。それができれば非常に助かります。可能であれば、夜神さんから打診して頂いてもよろしいでしょうか?」

総一郎「ああ。分かった。では後で連絡しておこう」

L「ありがとうございます。あと私個人からも頼めそうなツテはありますので、並行してそちらにも当たっておきます」

総一郎「……ところで、竜崎」

L「? はい。何でしょう」

総一郎「まさにそのライブ当日の事だが……弥と高田はどうするんだ? 元々、竜崎やライトと一緒に行くはずだったと思うが」

L「とりあえず、弥は無しです。今の状況ではこちらからは連絡を取るべきではないと思いますし……また弥からも連絡は来ていないはず……ですね? 月くん」

月「ああ。電話もメールも一切来ていない」

L「では折角なので、ここで弥の現在の状況を確認しておきましょうか。ワタリ」ピッ

ワタリ『はい』

L「現在の弥の携帯電話の位置情報を教えてくれ」

ワタリ『今はもう自宅に戻っているようですね』

L「いつ頃から戻っているか分かるか?」

ワタリ『今から一時間ほど前……19時頃ですね。位置情報の履歴を辿ると、スタジオでの撮影が終わり、解散となった後……一度事務所に戻り、その後一時間ほど経ってから帰路に就いたようです』

L「分かった」

総一郎「だがこちらからはコンタクトを取らなくとも……ライブ当日、弥が自らの判断で会場に来るということはあり得るのでは?」

L「確かに、会場に来る可能性自体はあると思いますが……『弥が自らの判断で』は無いでしょう。今の弥の状況は星井美希から脅迫を受けているか、または自らの意思で寝返っているかのいずれかです。ならばそのいずれであっても、星井美希からの指示の範囲内でしか動かない……いえ、動けないものと考えられます」

総一郎「なるほど……」

L「もっとも、今の状況で私達に弥を接触させたところで何か意味があるとも思えませんし……星井美希としても、そんな無意味な指示はしないものと思われますが」

月「それにもしミサが会場に来たとしても、こちらの動きを悟られないように自然に対応すれば特に問題は無いしな」

L「はい」








【同時刻・海砂の自室】


海砂「…………」

海砂(ライトからは、未だに何の連絡も無いまま……少なくとも、あの死神が部屋のカメラを壊すまでの間……ミサが悲鳴を上げたあたりまでは、更衣室の様子を観れていたと思うけど……)

海砂(まあミサには美希ちゃんとの“約束”があるから、今はその方が都合が良いけどね)

海砂(それにきっと……ライトにはライトの考えがあって、今はミサに連絡を取らないようにしているはず)

海砂(そうじゃなきゃ、ライトがこの状況でミサに連絡をしてこない理由が無いからね)

海砂(だから今は……ライトの事を信じよう)

海砂(大丈夫。このままミサが何もしなければ、ライトが殺される事は無い)

海砂(それに美希ちゃんは、ミサの事を『今でも大切な友達だから』 って言ってくれた)

海砂(あの言葉は嘘じゃないと思う。……いや、嘘であるはずがない)

海砂(だから、ミサは美希ちゃんの事も信じる)

海砂(ライトと連絡が取れない今の状況は辛いけど……でもこれも、全てはライトを守るため)

海砂(―――ライト。ミサ、頑張るからね!)

【同時刻・キラ対策捜査本部(都内のホテルの一室)】


L「次に、高田ですが――……」

ワタリ『竜崎』

L「どうした? ワタリ」

ワタリ『たった今、高田清美の携帯電話の位置情報が復活しました。場所は自宅のようです』

L「! ……そうか。では電源が切れる少し前くらいから、現在までの高田の通信記録を調べてくれ。おそらく弥の携帯からの連絡が記録されているはずだ」

ワタリ『それなら既に星井美希と天海春香の通信記録とあわせて照会を掛けていましたので、すぐに出ます』

L「そうか。では頼む」

ワタリ『……出ました。電源が切れる直前、確かに弥海砂のアドレスから送信されたメールを受信しています。そしてその直後、本文空欄のメールを同じアドレスに返信しています。その他の記録はありません』

L「分かった。では弥のアドレスから高田の携帯に送信されたメールをこちらのメインモニターに映してくれ」

ワタリ『はい』

(次の瞬間、捜査本部内の一番大きなモニター画面に、メールの文章らしき文字列が映し出された)

一同「! …………」

L「この内容……明らかに、弥が自分で考えたものではないですね」

月「そうだな。『GPSでの位置情報の特定』なんて……普通に考えて、ミサが思いつくはずがない」

L「とすると……星井美希の指示に従って弥が書いたか、または星井美希自身が弥の携帯を操作して書いたかのいずれかでしょうね」

月「ああ」

総一郎「しかしこのメールの受信後、その指示に従って空メールを返信……その後今までずっと携帯の電源を切っていたという事は……高田はまだ現状の把握はほとんどできていないということになるな」

L「そうですね。またこの時点においてもこの程度の情報しか伝達していないということは……星井美希としても、高田まで脅迫してどうこうしようとはおそらく考えていない」

月「極端な話、ミサの口さえ封じてしまえば高田からは確認の取りようがないからな。メールを送ったのはミサのアドレスからだし、それを星井美希が指示したとする証拠も無い」

相沢「結構考えているな……」

松田「でもそうなると……ライブ当日、高田も来る予定になってましたけど……そっちはどうするんですか?」

L「そうですね。今夜神さんも仰っていた事ですが……現状、高田はまだほとんど何も知らないし、また知らされてもいない。であれば……下手に彼女を動かす事で、かえって『“L”は高田を使って何かしようとしている』などと疑われかねない……ライブは予定通りに来させましょう」

月「ああ。その方が良いだろうな。どうせもう僕達とのつながりはばれているんだ。だったらむしろ向こうにもステージ上から堂々と監視してもらった方が都合が良い」

L「はい。ただ、明日のクッキングスクールは行くのを止めさせましょう。この状況であえて高田を単独で天海春香と接触させるのはリスクでしかありません」

月「そうだな」

相沢「いや、でもそれは……大丈夫なのか? 見ようによっては、それも『“L”が何かしようとしている』などと疑われたりは……」

L「勿論、嘘の理由で欠席していることはバレバレでしょう。ですが、その一事をもって事に及ぶほど向こうも馬鹿ではありません。星井美希・天海春香はあくまでもアリーナライブを最優先に考えて行動するはず……確証も無いままに下手を打つような真似はしないでしょう」

相沢「そうか。確かにここで事を起こせば、自らライブを台無しにしてしまうリスクがある……」

L「はい。だからこそ、『このままではライブが妨害されてしまう』という危険性を感じたときには……それこそ誰であれ、自分達の妨げになる者は殺すでしょうが……逆にそういった危険性を感じない限りは、ライブを無事に終えるまでは大きく動くことは無いはずです」

月「そうだな。それに向こうとしても、現状、ミサを封じている限り高田はほぼ無視できる存在のはず。仮病でクッキングスクールを休んだくらいでは動かないだろう」

総一郎「うむ。であればそのようにした方が良いな。今の状況で無用にリスクを負う事は避けるべきだろう」

L「はい。ではその方向でいきましょう。……月くん」

月「ああ。高田への連絡だな?」

L「はい。よろしくお願いします」

月「分かった。ちなみに話の持って行き方だが……向こうの認識を確認しつつ、それと矛盾が出ないよう適当に話を作り、自然な流れで今後の事も伝えるようにしようと思うが……そんな感じで良いか?」

L「はい。それでお願いします。先ほど確認したメール以外に連絡を受けていないという事は、特段口止めもされていないはずですので……おそらく高田はありのままの認識に従って話すでしょう」

月「ああ。そうだな」ピッ

【同時刻・清美の自室】


清美「…………」

清美(もう家に着いてから暫く経つし、とりあえず携帯の電源だけは入れたけど……大丈夫よね?)

清美(おそらくそのうち、今日の事について夜神くんから連絡があると思うし……その連絡を受けるためにも電源を切ったままでは……)

清美(でも私が電源を切っていた間も、特にメールなどの連絡は無かったみたい……一体今、どういう状況になっているの? そして海砂さんはどうなったの?)

清美(それに、夜神くんも……)

清美(今、無事……なのよね? 夜神くん……)

清美「…………」

清美(このまま待っていても連絡が無いようなら、もういっそ私から夜神くんに……)

 ピリリリッ

清美「! 夜神くん!」ピッ

清美「はい」

月『清美か? 僕だ』

清美「夜神くん……良かった。無事だったのね」

月『ああ。僕は無事だよ。心配させてしまったようだね』

清美「いいの。夜神くんが無事ならそれで……」

月『ありがとう。清美』

清美「夜神くん……」

月『……だが、清美の方こそ大丈夫だったのか? 今日、途中から携帯の電源が切れていたようだったが……』

清美「ええ。その事なんだけど……海砂さんからは何も聞いていないの?」

月『ああ。弥からはずっと連絡が無いままなんだ。清美の方にはあったのか?』

清美「ええ。それが……16時半頃に、海砂さんから私宛てにメールが来たの」

月『弥から? ……そのメール、僕にも転送してくれないか?』

清美「ええ。ちょっと待ってね」

(月にメールを転送する清美)

月『……なるほど。そういうことだったのか』

清美「それで、私は言われるがままに空メールだけ海砂さんに返信して……すぐに春香ちゃ……天海さんから離れて、携帯の電源を切ったわ」

月『…………』

清美「でも、海砂さんから夜神くんに連絡がされていないというのは……どういうことなのかしら? ……あ、でもそもそも、夜神くんは監視カメラで海砂さんの様子を観ていたはずじゃ……?」

月『ああ。実は再生機器に不具合が生じてしまい……映像が途中から観れなくなってしまったんだ』

清美「えっ。そうだったの?」

月『ああ。だから弥が君にメールを送っていたことも今まで知らなかった。だが、そうか。そういうことだったのか……』

清美「夜神くん?」

月『……実は、今日の作戦は失敗に終わったんだ』

清美「! それは……映像が途中から観れなくなってしまったから?」

月『いや、確かに映像は途中で観れなくなったが……星井美希の最後の撮影のタイミングは、予め765プロのプロデューサーから教えてもらっていた。だから僕はその時を狙って弥に電話を掛けたんが……彼女が応答しなかったんだ。作戦失敗の直接的な理由はそれだ』

清美「応答しなかった……? 海砂さんが?」

月『ああ。その結果、映像は観れず、弥とは連絡が取れずという状況になってしまい、僕も現場で何が起きていたのか全く分からなかったが……今の清美の話で大体分かった』

清美「? どういうこと?」

月『清美。今転送してもらったメールだが……これはほぼ間違い無く、星井美希が弥の携帯を使って書いたか、または弥をして書かせたものだ』

清美「!」

月『おそらく星井美希は、今日、どこかの段階で弥が自分を訝しんでいることに気付き……何らかの形で脅迫したんだろう』

清美「脅迫……?」

月『ああ。具体的な方法は分からないが……少なくともこちらが映像を観れなくなってからだろう。映像に残っている範囲ではそんな事をしている様子は映っていなかったからね』

清美「じゃあ星井さんは海砂さんを脅迫し……私も協力者であり、天海さんの傍にいるということを吐かせたうえで、あのメールを……?」

月『おそらくね。そして清美さえ天海春香から離れさせてしまえば、後は自由に彼女と会うことができる。今後の方針を話し合うため、少しでも早く落ち合う事にしたのだろう』

清美「そうか……だから海砂さんは夜神くんに連絡をしていなかったのね。星井さんに脅迫されている状況下にあるから……」

月『そういうことになる。ただそれを裏付ける証拠は無いから、あくまでも推測の域を出ないが……』

清美「……あっ」

月『? どうした? 清美』

清美「えっと、今更だけど……結局、海砂さん自身は無事……でいいのよね? 映像は途中から観れていないという事だし、今も連絡は取れない状況……もしかして、もう……などということは……」

月『ああ、それは大丈夫だ。プロデューサーから撮影自体は普通に終わって解散したと聞いている。弥もちゃんとマネージャーと一緒に帰ったそうだ』

清美「そう。それなら良かった。とりあえずは一安心ね」

月『ああ』

清美「それで夜神くん。私はこれからどうしたらいいの? 取り急ぎ、明日もクッキングスクールの体験入門があるのと、765プロのアリーナライブも一週間後に……」

月『そうだな。とりあえず明日のクッキングスクールは適当な理由を作って休んでくれ』

清美「ということは……明日の海砂さんと星井さんの予備の撮影は無しになったのね?」

月『ああ。プロデューサーに頼んでキャンセルにしてもらった。弥が今の状況になってしまった以上、明日の作戦遂行はもはや不可能だからね』

清美「それなら私が天海さんを見張る必要も無いものね」

月『そういうことだ』

清美「分かったわ。夜神くん」

月『そしてライブの方だが……こちらは予定通りに来てくれ。僕も竜崎も行くし、清美だけいないとかえって不審に思われかねない』

清美「分かったわ。でも海砂さんはどうするの?」

月『弥については本人の判断に任せるつもりだ。既に脅迫されている可能性が高い以上、こちらからは迂闊に接触できないからね。だから清美も彼女に対する接触は控えてくれ。そして弥がライブ会場に来た場合は極力平静を装って応対してほしい』

清美「分かったわ。でも……夜神くん」

月『ん?』

清美「星井さんが海砂さんを脅迫し、私にあんなメールを送ってきた可能性が高いということは……やっぱり星井さんが『今のキラ』だったと考えていいのね? そしておそらくは、天海さんも……」

月『ああ。勿論、まだ証拠が押さえられていない以上、確証は無いけどね。だがその可能性は極めて高いと僕は考える』

清美「……そう」

月『とにかく、作戦は一旦練り直しだ。星井美希が弥を脅迫したのだとすれば、星井美希……いや、星井美希と天海春香はキラの力を手放す気は無く、やはりあくまでも自分達が『キラ』として裁きを続けていくつもりなのかもしれない』

清美「でも、海砂さんが『最初のキラ』である夜神くんの協力者であることまでは、まだ……いえ、それも分からないわね」

月『ああ。弥がどこまで話したのか分からない以上、現時点では判断ができない。最悪の状況を想定するなら、僕の正体も全てばらされている事になるだろう』

清美「夜神くん……」

月『だから、清美。明日の体験入門を欠席する件も、天海春香には特に連絡しなくていい。星井美希にばれたとすれば、必然的に天海春香にも伝わっているはず……ならば今は下手に接触しないことだ』

清美「分かったわ」

月『さらにいえば、偽名を名乗っている竜崎はともかく、本名を知られている僕や清美はもういつ殺されてもおかしくない。今はそういう状況にある』

清美「! …………」

月『それでも、僕を信じて……ついてきてくれるか? 清美』

清美「……勿論よ。夜神くん。死ぬときは一緒だわ」

月『清美』

清美「それに、まだ諦めるような段階じゃないはずよ。もう一度考え直しましょう。キラの力を夜神くんに戻し……私達の理想の世界を創世する、その方法を」

月『……そうだね。ありがとう。清美。どんな方法が良いか、よく考えてみるよ』

清美「ええ。一緒に頑張りましょう。夜神くん」

月『ああ。そして共に創ろう。心の優しい人間だけの世界を』

(月との通話を終えた清美)

清美「…………」

清美(やっぱり、夜神くんからキラの力を奪ったのはあの二人だったのね)

清美(正直、まだ完全には受け容れられていないけど……でも、夜神くんが私に嘘をつくはずがないし……)

清美(……大丈夫。不安が全く無いと言えば嘘になるけど……私には夜神くんがついているんだもの。きっと大丈夫だわ)

清美(そう。きっと……)

【同時刻・キラ対策捜査本部(都内のホテルの一室)】


(清美との通話を終えた月)

月「……まあ、こんなところかな」

L「どうもありがとうございました。月くん。これで高田の方も大丈夫でしょう」

松田「さ……流石は月くんっすね。よくアドリブであそこまで淀み無く話を……」

月「まあ高田はある意味一番御しやすい相手ですから。それにああやってミサとの連絡も絶たせておけば裏も取りようが無いですしね」

L「高田が月くんの言う事を疑う事も絶対に無いでしょうしね」

松田「はは……ま、やっぱりイケメン大正義ってことかな……」

総一郎「…………」

相沢「? 局長? どうかしましたか?」

松田「なんか、妙に思い詰めた顔されてますけど……」

総一郎「ああ、いや……その、ライブの事で、ちょっとな……」

相沢・松田「?」

月「……粧裕の事か? 父さん」

総一郎「! ……やはりお前にはお見通しか。ライト」

月「…………」

松田「? 粧裕ちゃんって……? あ、そうか。今度のアリーナライブには粧裕ちゃんも……」

月「はい。僕や竜崎と一緒に行くことになっています。高槻やよいからチケットを貰っていますので」

総一郎「……高田の場合と同様に考えるなら、こちらの意図に気付かれないようにするためには、やはり粧裕も予定通りにライブ会場に行かせるべきなのだろうが……正直、私としては……」

相沢「局長」

L「…………」

総一郎「いや、すまん。勝手な事を言っているな……これでは星井君の事をとやかく言えん」

松田「いやいや、そんなことないっすよ!」

総一郎「松田」

松田「これくらい、普通の親なら自然な感情……そもそも係長の場合とは違って、粧裕ちゃんはキラ事件には全く関係無いんですから、無理に同行させる必要は……」

月「いや、今父さんも言っていたが……ライブ当日はこちらの意図に気付かれないように細心の注意を払う必要がある……であれば、たとえ僅かでも不審に思われるような余地を残すべきではない」

松田「! 月くん。でも……」

総一郎「…………」

月「大丈夫だよ。父さん」

総一郎「……ライト」

月「そもそも僕が一緒に行くんだし……竜崎だっている。僕達が動くときは高田に粧裕を見ておいてもらえばいい」

総一郎「…………」

月「大体、粧裕に『ライブに行くな』という理由付けもできないだろう? 『期末で学年50番以内』の約束も果たしたんだし」

総一郎「……そうか。そうだな」

総一郎「分かった。粧裕を頼むぞ。ライト」

月「ああ。任せてくれ」

L「……ところで、夜神さん」

総一郎「何だ? 竜崎」

L「星井さん達の監禁ですが……少なくとも、後一週間以上は継続することになりますので……星井さんの奥さんに『緊急の事件捜査が入ったから暫く帰れなくなる』とでも伝えておいて頂けますか?」

総一郎「ああ……そうだな。分かった。模木の方はどうする?」

L「模木さんは一人暮らしですので……とりあえずは大丈夫です。ただし預かっている携帯にご家族からの連絡が入った場合は同様の対応をお願いします」

総一郎「分かった」

松田「……実際のところ、キラ事件が解決したとしても……係長と模木さんはどうなるんでしょうね……」

相沢「まあ、流石に何らかの処分は免れないだろうな……いくらなんでも免職にまではならないと思うが」

総一郎「…………」

総一郎(星井君……模木……)








【同時刻・キラ対策捜査本部のあるホテルの一室】


(一人、部屋のベッドに腰掛けている星井父)

星井父「…………」

星井父(携帯は取り上げられ、部屋のテレビも映らない。ドアは内側からは開けられないようにロックされている。まさに外界からは完全に隔絶された状態……)

星井父(そして言うまでもなく、部屋の至る所に監視カメラと盗聴器が付けられている)

星井父(だが、部屋の中ではこうして自由に動き回ることができるし……食事も運んできてもらえる。監禁というよりは軟禁に近い)

星井父(俺がした事を思えば……随分と良い待遇を受けているといえるな)

星井父「…………」

星井父(なあ。美希)

星井父(俺は今日、刑事として絶対にしてはいけないことをしてしまった)

星井父(市民を、国民を第一に守る警察官として、絶対にしてはならないことだ)

星井父(俺は全国民の命より、たった一人の……自分の娘の命を優先して行動してしまった)

星井父(この先、俺がどうなるのかは分からない。キラ事件の解決を待たずして、懲戒免職になるのかもしれないし……)

星井父(また、そうならなくとも……俺はもう警察に残るべきではないと思う)

星井父(家族の皆には多大なる迷惑を掛けてしまうことになるが……それが俺の付けるべきけじめだ)

星井父(今は、率直にそう思う)

星井父「…………」

星井父(なあ。美希)

星井父(やっぱりあのノートは……お前が悪ふざけで作っただけなんじゃないのか?)

星井父(あるいは、同じ事務所の……双海亜美ちゃんと、真美ちゃんだったか。よくいたずらされるって言ってたよな)

星井父(今回のも、彼女達の得意のいたずらだったんじゃないのか?)

星井父(お前は、それを知らないうちに鞄の中に仕込まれていただけだったんじゃないのか?)

星井父(なあ。美希)

星井父(もしもう一度会えたなら……俺にあのノートを真っ先に渡してくれないか)

星井父(そしたらいの一番に、最初のページに俺の名前を書いて、皆の前で言ってやるからさ)

星井父(“ほら、これはただのノートですよ”って)

星井父(“これで美希の無実は証明されましたね”って)

星井父(なあ。だから、美希……)

星井父(もう一度。もう一度だけでいいから……)

星井父「……会いたい、な……」

星井父「…………」








【同時刻・キラ対策捜査本部のあるホテルの一室】


(一人、部屋の椅子に腰掛け、窓の外を眺めている模木)

模木「…………」

模木(これでもう、自分がこの事件に関わることは無いだろう)

模木(あるいはこれが、自分が警察官として関わった最後の事件となるのかもしれないが……)

模木(それはもういい。ただ、今は……係長の事だけが気がかりだ)

模木(係長……)

模木「…………」

【同時刻・キラ対策捜査本部(都内のホテルの一室)】


L「では、アリーナライブ当日の作戦の詳細は今後詰めていくとして……今日のところはこの辺で解散としましょう。皆さんも色々あってお疲れでしょうし」

総一郎「……いや、竜崎。私も残ろう」

L「夜神さん?」

総一郎「この後も引き続き、星井君と模木の監視を行うつもりなのだろう?」

L「それは……まあ。はい」

総一郎「ならば、二人の上司である私も一緒に残るのが筋というものだ」

L「……いえ、別にそこまで責任を感じて頂かなくても大丈夫ですよ? ワタリもいますし……」

総一郎「そうは言っておれん。そもそも、これは私の意地のようなものでもあるからな」

L「しかし……」

相沢「そういうことなら私にも残らせて下さい。局長」

総一郎「相沢。まさか、お前も責任を感じて……?」

相沢「まあ……それが全く無いと言えば嘘になりますけど。でもそれだけじゃなくて……残りたいんです。私自身の意思で」

総一郎「相沢……」

松田「僕も相沢さんと同じ気持ちです。残らせて下さい。局長」

総一郎「松田」

松田「それにこれって……局長が一人で背負い込むような話でもないと思いますし」

総一郎「…………」

月「僕も残るよ。父さん。どのみち後一週間程度の事だしね」

総一郎「ライト。お前は流石に……いや……」

月「…………」

総一郎「……分かった。ありがとう。皆」

総一郎「竜崎。そういうことだ。今後、星井君達の監禁が終わるまでの間……つまりキラ事件が解決するまでの間、我々もここに残らせてもらう」

L「……分かりました。そこまで仰るのなら……ただ、流石に全員連日居残りでは各自の負担が大き過ぎると思いますので……一日二、三人程度を目途とした交代制、ということでよろしいでしょうか?」

総一郎「ああ。それで構わない」

L「分かりました。ではよろしくお願いします」

月「……あっ」

総一郎「? どうした? ライト」

月「いや、ちょうどニュースの時間だと思ってね」ピッ

(部屋にあるTVをつける月)

総一郎「? ニュース…… ! そうか」

L「キラの裁きの報道ですね」

月「ああ」

TV『……20時45分になりました。ニュースをお伝えいたします』

一同「…………」

TV『まず、キラの裁きのニュースです』

一同「!」

TV『……本日20時頃、四名の犯罪者が心臓麻痺により死亡したことが確認されました。警察はキラによる殺人とみて捜査を進めており……』

一同「…………」

L「まあ……ここで裁きを止めたらそれこそ自分がキラだというようなもの……当然でしょうね」

月「ああ。それにこんな所で引いてしまう程度の度量なら、最初からこんな裁きなどには手を染めていないだろうしな」

L「ですね」

総一郎「…………」

総一郎「竜崎」

L「『キラが誰なのかがほぼ特定できている状況下で、犯罪者とはいえ、キラの裁きによる犠牲者が新たに生まれていくさまをみすみす見過ごすべきではない』」

総一郎「!」

L「『だから『アリーナライブの終了後』というタイミングにこだわらず、少しでも早く二人を逮捕できる方法を考えた方が良いのではないか』……ですか? 夜神さん」

総一郎「……流石だな。そこまでお見通しとは……」

L「まあ、もう結構長い付き合いになりますしね」

総一郎「……分かっている。分かっているんだ。これは、私のエゴでしかないという事は……」

L「夜神さん」

総一郎「そして今、逮捕を急いて、逆にこちら側に犠牲を出すような事態だけは絶対に避けなければならないという事も」

総一郎「……分かっているんだ」

L「そうですね。犯罪者だから犠牲にして良いとは勿論言いません。ですがやはり、アリーナライブの終了後までは動くべきではない、という私の考えは変わりません」

総一郎「……ああ。それでいい。今日までこの本部の指揮を執ってきたのはあなただ。竜崎。ならば私はその判断に従うまでだ」

L「ありがとうございます。夜神さん。……でも」

総一郎「?」

L「夜神さんのそれは『エゴ』ではないと思いますよ」

総一郎「竜崎」

L「それは『エゴ』ではなく……『正義』なのだと思います」

総一郎「! ……竜崎……」

L「私は前にも言いました。『正義は必ず勝つ』と」

一同「…………」

L「我々が二人を捕まえるのが先か。二人が我々を殺すのが先か。……正直、現段階でそれは分かりません」

L「ですが、最後には必ず……正義の意思を持った者が勝ちます」

L「それだけは確かな事です」

総一郎「……ああ。そうだな」

総一郎「勝とう。皆。勝って……この事件を終わらせよう」

相沢「ええ。勝ちましょう。皆で」

松田「…………」

相沢「どうした? 松田。浮かない顔して」

松田「あ、いえ……ふと、やっぱりミキミキとはるるんがキラだったんだなって思うと、やっぱりちょっとショックで……」

相沢「お前な……俺達皆、死ぬかもしれないって時に……」

松田「そ、それは分かってますよ! っていうか、僕だって死にたくないのは同じっすから! ね、だから勝ちましょう! 皆さん!」

月「……竜崎」

L「はい」

月「勝とう。今、ここにいる僕達で」

L「……ええ。勿論です。月くん」

【一時間後・春香の自室】


レム「……ハルカ」

春香「? どうしたの? レム」

レム「いや……」

春香「? 変なレム」

レム「…………」

春香「さて、じゃあもうそろそろ寝ようかな。明日も朝からレッスンだしね」

春香「いよいよライブ本番まで後一週間だし、体調管理だけは万全にしとかないと」

春香「それから明日の午後は……」

春香「…………」

レム「ハルカ」

春香「…………」

レム「お前はこれで……本当に」

春香「いいんだ」

レム「ハルカ」

春香「いいんだよ。レム」

レム「…………」

春香「これで……いいんだよ」

春香「…………」








【同時刻・美希の自室】


(デスノートの一番後ろのページを開いたまま、じっと見つめている美希)

美希「…………」

リューク「本当にこれで良かったのか? ミキ」

美希「……もちろんなの」

美希「…………」

一旦ここまでなの

後継者の話が出てきたけど2部までいくの…?乙

さて、春香と美希の間でどんなやりとりがあったのか

さてこの感じはどっちに転ぶんだ…乙

やべぇ

二人とも死にそう・・・

ライブの終了と同時に自分たちが死ぬようにして、765プロや世間にLと月、警察がキラだったと思わせたりして

そんなことしたら765プロに大ダメージ与えて去ることになるが
世間的にキラに裁かれる=犯罪者ってことだし

>>208
そうだな…偶然、心臓麻痺を起こしたという考慮も無視したうえで「心臓麻痺で死んだなら」キラに裁かれた扱いだな

そもそもそんな諦めを美希や春香がするわけないし何よりリュークが許さんな
少し思い当たることがあるけどネタ潰しになったら嫌だしやめとこ

>>207と同じことを思ったけど、よくよく考えたらそうか。それはないか。

【翌朝・星井家のリビング】


【アリーナライブまで、あと6日】


美希「あふぅ。おはよーございますなの」

星井母「おはよう。美希」

菜緒「おはよー」

星井母「……これでよし、と。じゃあ菜緒、パパに着替え持って行って」

菜緒「えー。今日サークルの友達と遊びに行く約束してるって言ったじゃん」

星井母「だからその約束より少し早く出ればいいじゃないの」

美希「……パパ、泊まり込みでお仕事なの?」

星井母「そうなのよ。昨日の夜、上司の方から連絡があってね。緊急の事件捜査で暫く帰れそうにないんだって」

美希「……ふぅん」

星井母「ほら、菜緒」

菜緒「っていうか、ママが出勤途中に持って行けばいいじゃん」

星井母「そりゃ通り道ならそうするわよ。でも完全に逆方向なんだもの」

菜緒「ちぇっ。もう、しょーがないなー」

美希「……いいよ。ママ。ミキが行って来るの」

星井母「えっ。美希が?」

菜緒「わお。サンキュー。美希。でもあんたが自分からお手伝いの申し出なんて……何かあったの?」

美希「……別に。何も無いの」

星井母「でもいいの? 美希。今日も朝からレッスンなんでしょ?」

美希「時間にはまだ余裕あるし、大丈夫なの」

星井母「そう? じゃあ悪いけどお願いしようかしら」

美希「はいなの」

美希「…………」

(三十分後・支度を終えた美希)

美希「……じゃあミキ、そろそろ行くね」

星井母「あ、美希。あとこれ」スッ

(美希にメモを渡す星井母)

美希「? 何? これ」

星井母「昨日連絡して下さった、警察庁のアサヒさんって方の電話番号」

美希「!」

星井母「着替えとか持って行く時は事前に連絡下さいって」

美希「……パパの携帯じゃダメなの?」

星井母「ええ。パパは当分、携帯も碌に見れなくなるくらい忙しくなるからって」

美希「……分かったの。じゃあ霞ヶ関に着いたあたりでこの人に連絡するの」

星井母「じゃあ悪いけどよろしくね。それからレッスンも頑張って」

美希「うん。ありがとうなの。ママ」

菜緒「私も応援してるよー。マイプリティシスター」

星井母「もう、調子良いんだから」

美希「…………」

星井母「美希?」

菜緒「?」

美希「……うん。お姉ちゃんもありがとうなの」

美希「じゃあ、行ってきますなの」

 ガチャッ バタン

星井母「…………」

菜緒「…………」

星井母「美希、なんかちょっと変じゃなかった?」

菜緒「確かに、妙に大人しい感じはしたけど……単にまだ眠かったとかじゃない?」

星井母「でもあの子が自分から手伝いを申し出たのだって何年か振りくらいだし……」

菜緒「それは私もちょっと驚いたけど……ま、夜になればまたいつもの美希に戻ってるって」

星井母「……そうね」

菜緒「それにしてもパパ、何日も泊まり込みの上に携帯も碌に見れなくなるくらい忙しくなるって……一体何の事件の捜査なんだろうね」

星井母「さあ……アサヒさんは『緊急の事件捜査』としか言ってなかったから」

菜緒「またキラ事件の捜査に復帰することになった、とかだったらやだなあ……。あんな事件に関わってたら命がいくつあっても足りないよ」

星井母「…………」

菜緒「あ、ごめん。ママ。そういうつもりじゃ」

星井母「ううん。いいの」

星井母「…………」

ウホッ

【三十分後・キラ対策捜査本部(都内のホテルの一室)】


(星井父と模木の監視のため、今はLと総一郎の二人だけが捜査本部にいる)

総一郎「…………」

L「…………」

 ピリリリッ

総一郎「! ……『朝日四十郎』用の携帯か。こっちが鳴るなんて珍しいな」

L「星井さんの奥さんじゃないですか?」

総一郎「ああ。そういえば着替えを持って来ると言っていたな」ピッ

総一郎「……はい。警察庁の朝日です」

総一郎「! …………」

L「?」

総一郎「……あ、いえ。失礼しました。わざわざすみません。では……そうですね。十五分後に警察庁一階の総合受付付近で。場所は……ああ、そうですか。ええ。ではよろしくお願いします。はい。……それでは」ピッ

L「……夜神さん?」

総一郎「……星井美希だった」

L「! …………」

総一郎「母親から頼まれて、星井君の着替えを代わりに持って来ると……」

L「それは……予想外でしたね」

総一郎「ああ。だが急に対応を変えるのもかえって怪しまれると思い、当初の予定通り私が警察庁に出向いて受け取る事にしたが……危険だろうか?」

L「いえ。それでいいと思います。今、星井美希と直接接触する者の数を無闇に増やすのは得策ではないですから」

総一郎「うむ……」

L「また言うまでも無い事ですが、くれぐれも、今日この場では……」

総一郎「ああ。それは勿論心得ている。荷物を受け取った後はすぐに別れるつもりだ」

L「それでお願いします。夜神さんは聞き取り調査の際に彼女と顔を合わせていますので、そこさえ上手く辻褄を合わせて頂ければ大きな問題は無いと思います」

総一郎「分かった。……ところで、これまで星井君が身に着けていた例の超小型マイクだが……一応、着けて行った方がいいか?」

L「そうですね。念の為、お願いします。私も受付付近の監視カメラの映像は観るようにします」

総一郎「分かった。……では、行って来る」

L「あ、夜神さん。最後にもう一つだけいいですか?」

総一郎「? 何だ?」

L「万が一、死神の姿が見えても決して反応しないようにお願いします」

総一郎「……善処しよう」

 ガチャッ バタン

L「…………」

【十五分後・警察庁一階/総合受付付近】


総一郎「…………」

総一郎(もうそろそろ来るはずだが……)

総一郎「……ん?」

(入口から、帽子を目深に被り、眼鏡とマスクを着けた女性が入って来た)

総一郎(……あれだ。間違い無い。相沢と松田の尾行データの中にあった、星井美希の変装パターンのうちの一つ……)

総一郎(確かに、あれならまず星井美希とは分からないな。現に周囲の者も全く気付いていない)

総一郎(とすれば、ここで私がいきなり気付くのも不自然か。少し様子を見てから……)

「あの」

総一郎「えっ」

「アサヒさん……ですよね? なの」

総一郎「……ああ、はい。そうですが……ええと、星井美希さん……ですか?」

「はいなの」

総一郎「ああ、すみません。変装されていたので全く気付きませんでした。逆によく私だと分かりましたね」

美希「だって前に一度、うちの事務所に来たよね? あの体格のいい刑事さんと一緒に」

総一郎「……ああ。そういえばそうでしたね」

美希「ミキもね、刑事さんの名前、すっかり忘れてたんだけど……今朝、ママから『アサヒさん』って名前聞いて、どっかで聞いたことある名前だなーって思ってたの。それで今、受付の横に立ってる刑事さんの顔見て、『あっ! あの時の刑事さんだ!』って」

総一郎「なるほど」

総一郎(そうか……確かに、私の方は顔を隠していないのだから、向こうからはそういう反応にならなければ逆におかしいか)

総一郎(いきなり声を掛けられて少し驚いたが……大丈夫だ。今の所、特にボロは出していない。それに……)チラッ

美希「? どうしたの?」

総一郎「……ああ、いえ。改めて見ても……本当に分からないものだなと思いまして」

美希「ミキの変装?」

総一郎「はい」

美希「でしょ? まあ本当はこういうのしたくないんだけどね。でも律子がしろしろってウルサくて」

総一郎「はは……」

総一郎(死神の姿も……今のところは見えないな。もっとも、見えないだけですぐ傍にいるのかもしれんが……)

美希「…………」

総一郎「……では、それがお父さんのお着替えですね。お預かりします」

美希「あ、はい。よろしくお願いしますなの」スッ

総一郎「それでは、私はこれで」

美希「あの」

総一郎「? はい」

美希「やっぱり……パパには会えないの?」

総一郎「! ……ええ。すみません。今はとてもそのような余裕は……」

美希「そっか……まあ、そうだよね。会えるくらいなら最初から自分で取りに来てるよね」

総一郎「ええ。すみません」

美希「わかったの。じゃあパパによろしくお伝え下さいなの」ペコリ

総一郎「はい。それは伝えておきます。では」

美希「はいなの」

(美希は総一郎に背を向けると、そのまま振り返ることなく警察庁を後にした)

総一郎「…………」

総一郎(星井君が本当に動けない状況かどうか、確かめに来たのか……?)

総一郎(しかしそうなら、『父親が暫く帰れないのは、やはりキラ事件の関係なのか』程度の事は聞いてきてもおかしくなかったと思うが……)

総一郎(やはり竜崎の読み通り……今は向こうもアリーナライブを最優先に考えているため、極力目立った動きはしないようにしている……ということか?)

総一郎(確かにさっきの発言程度なら、父親の荷物を持って来た娘としては自然な発言……それだけで直ちにどうこうとはならないが……)

総一郎「…………」








【同時刻・キラ対策捜査本部(都内のホテルの一室)】


(警察庁内の受付付近の監視カメラの映像を観ているL)

(Lは同時に、総一郎の身に着けたマイクが拾う会話の音声も聴いている)

L「…………」

美希『――わかったの。じゃあパパによろしくお伝え下さいなの』

総一郎『はい。それは伝えておきます。では』

美希『はいなの』

L「…………」

【三十分後・都内レッスンスタジオ】


美希「おはようございますなのー」

P「! 美希」

美希「プロデューサー」

P「お前……大丈夫なのか?」

美希「うん。もうばっちりなの。それより昨日は勝手に帰っちゃって、本当にごめんなさいなの」ペコリ

P「いや、それはもういいが……でも、くれぐれも無理だけはするなよ? 今日のレッスンでも不調を感じたらすぐに休むようにな」

美希「はいなの!」

P「…………」

春香「おはよう。美希」

美希「あ、春香。おはようなの」

P「! …………」

春香「昨日、撮影スタジオで体調崩したって聞いたけど……大丈夫なの?」

美希「うん。もう大丈夫なの。軽い貧血みたいな感じだったけど、一晩ぐっすり寝たらすっかり元気になったの」

春香「そう? ならいいけど……でももうライブまで後6日しかないんだから、くれぐれも無理だけはしちゃだめだよ」

美希「はーいなの。っていうかそれ、今プロデューサーにも全く同じ事言われたんだけど……」

春香「うん。でも美希は一回言われたくらいじゃすぐ頭から抜けちゃうから、二回言われるくらいでちょうどいいでしょ?」

美希「あー! それはいくらなんでもヒドイ言い草だって思うな! ボートクなの! 名誉キソンなの!」

春香「あはは。ごめんごめん」

美希「もー! 春香のバカ!」プイッ

春香「あはは……」

P「…………」

(二時間後)

律子「……よし。じゃあ今日はここまでにしておきましょう。皆、良い感じに仕上がってるわ。最後までこの調子でね」

アイドル・ダンサー一同「はい!」

律子「明日も同じ時間に集合ね。自主練は任せるけど、くれぐれも疲れだけは残さないように。では、解散!」

アイドル・ダンサー一同「ありがとうございました!」

(クールダウンしながら雑談している美希、春香、可奈)

可奈「天海先輩は今日もクッキングスクールですか?」

春香「うん。お料理は好きだし、良い気分転換になるからね」

可奈「星井先輩は何かご予定あるんですか?」

美希「今日はフリーなの。元々昨日の撮影の予備で空けてたんだけど、キャンセルになったから」

可奈「そうですか! じゃあちょっとだけ……可奈のダンスを見てほしいカナ~、なんて……」

美希「いいよ」

可奈「そんなこと言わないで下さ……えっ! いつもとりあえず一言目は『めんどいからヤなの』って言う星井先輩が!?」

美希「もう本番まで日も無いしね。もちろん嫌なら見ないけど」

可奈「わーわー! そんなわけないです! よろしくお願いしますー!」

美希「はいはい。じゃあ最初から通すの」

可奈「えっ! いきなりフルですか……」

美希「嫌なら別に」

可奈「わーわー! やります! やりますって!」

春香「……ふふっ。じゃあ私はこの辺で。頑張ってね。可奈ちゃん」

可奈「はい! ありがとうございます! 天海先輩!」

春香「…………」

美希「…………」

春香「じゃあ、また明日ね。美希」

美希「うん。またね。春香」

可奈「…………」

可奈(? 何だろう? この感じ……)

可奈(何も無いはずなのに、なんか……)

美希「可奈」

可奈「はっ、はい! やります! やりますからっ!」

美希「…………」

【一時間後・都内某クッキングスクール】


(クッキングスクールの体験入門を受講している春香)

(春香は他の受講生と会話することも無く、一人で黙々と調理をしている)

春香「…………」

講師「あら? あなた……昨日一緒に来られていた方は? お休み?」

春香「あっ、はい。お休み……みたいですね」

講師「……そう。ところで、あなた……」

春香「? はい」

講師「昨日から、もしかしてそうじゃないかって思ってたんだけど……」ズイッ

春香「え?」

(小声で春香に耳打ちする講師)

講師「……もしかして、765プロの天海春香さん?」

春香「! ……ええ。まあ」

講師「やっぱり! 私前からファンだったのよ!」

春香「えっ。そうなんですか?」

講師「ええ。あれは去年の……春頃だったかしら? ほらあなた、商店街で『太陽のジェラシー』のCDを手売りしてたでしょ?」

春香「!」

講師「実は私、あの時、あなたからそのCDを買わせてもらったのよ」

春香「そう……だったんですか」

講師「元々、アイドルとかにはあんまり興味無かったんだけどね。ただ、弾けるような笑顔でCDを売っているあなたを見て……すごく元気がもらえたような気がして。思わず突発的に買っちゃった」

講師「その結果、今ではすっかりあなたのファンよ。だからまたお会いできて嬉しいわ」

春香「…………」

講師「あ、ごめんなさい。勝手にお話しし過ぎちゃって」

春香「いえ……ありがとうございます。嬉しいです」

講師「お礼を言いたいのはこっちの方よ。今度のアリーナライブも頑張ってね」

春香「はい。ありがとうございます」

講師「それにしても……」

春香「? 何でしょうか?」

講師「……リボン外して眼鏡掛けてたら、案外分からないものなのね」

春香「あ、あはは……」

【同時刻・都内レッスンスタジオ】


可奈「星井先輩、ここなんですけど……」

美希「…………」

可奈「星井先輩?」

美希「えっ。ああ……ごめん」

可奈「大丈夫ですか? 星井先輩。やっぱりまだ体調が……」

美希「そんなことないの。可奈の今のステップは右足を寄せる位置が半歩分浅かったの。今ミキに聞こうとしたのはその時の違和感の原因についてでしょ?」

可奈「めっちゃ見てくれてる上にもう答えてくれてる!」

美希「じゃあそこだけ意識して、もう一回なの」

可奈「はいっ!」

美希「…………」

可奈「えっと……この位置から……」

美希「……ねえ、可奈」

可奈「? はい」

美希「あー……」

可奈「?」

美希「やっぱり、なんでもないの。……じゃあ、改めてもう一回」

可奈「? は、はい」

美希「…………」

なんだろう、この、なんだろう

分かる、なんかまるでもうすぐお別れが近いみたいなこの雰囲気は一体…

【同日夜・美希の自室】


美希「さて、今日の裁きの対象は……っと」ペラッ

(スマホでニュースサイトを確認しながら、デスノートを開く美希)

リューク「…………」

美希「……家城谷克弥……」カリカリ

美希「……似志田九……」カリカリ

美希「……真野宮陵介……」カリカリ

リューク「…………」

美希「……よし。今日はこんなとこなの」

リューク「なあ、ミキ」

美希「何? リューク」

リューク「……いや……」

美希「…………」








【一時間後・キラ対策捜査本部(都内のホテルの一室)】


(星井父と模木の監視のため、今はLと月の二人だけが捜査本部に残っている)

L「……そろそろですね」

月「……ああ」ピッ

(部屋にあるTVをつける月)

TV『……20時45分になりました。ニュースをお伝えいたします』

TV『まず、キラの裁きのニュースです』

TV『本日20時頃、三名の犯罪者が心臓麻痺により死亡したことが確認されました。警察はキラによる殺人とみて捜査を進めており……』

L「…………」

月「…………」

一旦ここまでなの

おつ

本当に心臓麻痺の相手も報道されるのかな
それとも話の都合上キラ事件の影響でそうなる人間はいないのかな?

裁きの時刻と同時に犯罪者が心臓麻痺で死ぬこと自体稀だし、そもそもそうなったところでキラ崇拝の社会だからキラの手柄になるだろ

犯罪者でもなんでもない普通の人が、偶然に心臓麻痺で死んだ場合も「キラに裁かれた」と思われそうだな

クライマックスかな・・・?
楽しみだが、まだ読んでいたいぜ・・・、乙。

ようやく追い付いた

1スレ目から見てた人は、まさか1年以上続くとは思わなかっただろうな(良い意味で)

ほんとだ
一年超えてる

(二時間後)

律子「……よし。じゃあ今日はここまでにしておきましょう。皆、良い感じに仕上がってるわ。最後までこの調子でね」

アイドル・ダンサー一同「はい!」

律子「春香」

春香「! はい」

律子「後で今のレッスンの動画を送っておくから、今日来れなかった人にも共有しておいてくれる?」

春香「分かりました」

律子「皆、前日のリハーサルまで全員揃っての練習は出来ないけど、チームとしての意識は常に持ち続けるようにね」

律子「それじゃ、明日も同じ時間に集合ね。自主練は任せるけど、くれぐれも疲れだけは残さないように。では、解散!」

アイドル・ダンサー一同「ありがとうございました!」

(クールダウンしながら雑談している美希、春香、可奈)

可奈「天海先輩は今日もクッキングスクールですか?」

春香「うん。お料理は好きだし、良い気分転換になるからね」

可奈「星井先輩は何かご予定あるんですか?」

美希「今日はフリーなの。元々昨日の撮影の予備で空けてたんだけど、キャンセルになったから」

可奈「そうですか! じゃあちょっとだけ……可奈のダンスを見てほしいカナ~、なんて……」

美希「いいよ」

可奈「そんなこと言わないで下さ……えっ! いつもとりあえず一言目は『めんどいからヤなの』って言う星井先輩が!?」

美希「もう本番まで日も無いしね。もちろん嫌なら見ないけど」

可奈「わーわー! そんなわけないです! よろしくお願いしますー!」

美希「はいはい。じゃあ最初から通すの」

可奈「えっ! いきなりフルですか……」

美希「嫌なら別に」

可奈「わーわー! やります! やりますって!」

春香「……ふふっ。じゃあ私はこの辺で。頑張ってね。可奈ちゃん」

可奈「はい! ありがとうございます! 天海先輩!」

春香「…………」

美希「…………」

春香「じゃあ、また明日ね。美希」

美希「うん。またね。春香」

可奈「…………」

可奈(? 何だろう? この感じ……)

可奈(何も無いはずなのに、なんか……)

美希「可奈」

可奈「はっ、はい! やります! やりますからっ!」

美希「…………」

以下、>>224からの続きとなります

【五日後・アリーナ/ライブステージ】


【アリーナライブまで、あと1日】


(ライブ本番と同じ会場でのリハーサルを終えたアイドル・ダンサー一同)

P「――よし。これで後は明日の本番を残すのみだ。皆、もう全て出し切ったか?」

アイドル・ダンサー一同「はい!」

P「良い返事だ。これなら明日はきっと素晴らしいライブになる。最高のステージを俺に見せてくれ!」

伊織「だから、なんであんたのためなのよ?」

亜美「そうだそうだー!」

P「あ、あはは……そこやっぱツッコまれたか」

律子「でも、私も同じ気持ちですよ」

P「律子」

律子「これまでずっと皆を見てきて、私……この事務所でプロデューサーやってて、本当に良かったなぁって」

律子「今、心からそう思ってます」

P「律子……」

亜美「あれあれ~? りっちゃん、もしかしてお涙ちょちょ切れ系なカンジ?」

律子「! べ、別にそんなこと……」

真「へへっ。鬼の目にも涙、ってやつだね」

真美「いやいやまこちん、そこは『鬼軍曹の目にも』でしょ~」

律子「も、もうっ! 真面目に話してるのにからかわないでよ!」

千早「でも、私達がここまで自分達のダンスを完成させることができたのは……ずっと付きっきりでレッスンをしてくれた律子のおかげよ」

律子「千早」

千早「本当にありがとう。律子」

律子「! ……っ」

亜美「おおっ! きたきたきたぁー! これは涙目モードからガチ泣きモードに移行の予感ですぞ!」

真美「よっしゃあ! 皆の衆、一気に畳み掛けるのじゃあー!」

律子「こ、こらっ! もう、やめなさいってば! 大体まだライブ当日にもなってないっていうのに……」

伊織「そうそう。涙はライブ後まで取っておきなさい」

律子「伊織」

伊織「ライブ後は思う存分、私の胸で泣いていいから。……ね? 律子」

律子「……馬鹿」

亜美「でもでも~、いおりんの可愛いお胸じゃちょ~っと心許ないんじゃない~?」

伊織「は、はぁ? どういう意味よ! それ!」

亜美「いやいや、そこはやっぱり、あずさお姉ちゃんの実りに実ったどたぷ~んなお胸の出番かな~って。ね? あずさお姉ちゃん?」

あずさ「ふふっ。そうね。私の胸なんかで良ければ……いくらでもお貸ししますよ。律子さん」ニコッ

律子「あ、あずささんまで……もう、何を言ってるんですかっ」

 アハハ……

P「…………」

亜美「? 兄ちゃんどったの?」

P「えっ」

亜美「なんかボーっとしてるけど……あ、もしかして~、兄ちゃんもあずさお姉ちゃんのお胸に顔を埋めたいとか~?」

P「アホか」スパンッ

亜美「あてっ!」

響「今のは亜美が悪い」

亜美「むっ。ひびきんのくせにナマイキだぞ!」

響「何で自分に飛び火!?」

亜美「んでんで~、一体何考えてたの? 兄ちゃん」

P「ん。別に……ただ」

亜美「ただ?」

P「ようやく……ここまで来れたんだ、って思ってな」

亜美「兄ちゃん」

響「プロデューサー」

P「……まあでも、感傷に浸るのはまだ早い。今伊織も言ってたが、それこそ明日のライブが終わってからだな」

真「そうですね! 今は明日のライブに集中、集中! ……ね? 雪歩」

雪歩「う、うん。……でも、いざ『もう明日なんだ』って意識すると、急に緊張してきたかも……」

真「あ……ごめん。雪歩」

雪歩「ううん。真ちゃんのせいじゃ……」

貴音「大丈夫ですよ。雪歩」

雪歩「四条さん」

貴音「これまでの貴女の頑張り、しかと見届けて参りました。何も不安に感ずることなどありません」

雪歩「……はい! ありがとうございます!」

真「そうだよ、雪歩。もっと自分に自信を持って」

雪歩「うん。真ちゃんもありがとう」

やよい「うっうー! 私もやる気出てきましたーっ!」

真美「おおぅ。やよいっちがいつになく燃えている……」

やよい「えへへ……だって、ずっとずっと明日のために皆で頑張ってきたんだもん。やる気が出ないわけないかなーって! ……真美は違うの?」

真美「えっ? そ、そりゃまあ、真美も真美なりに……燃えてるんだぜ?」

響「あはは。真美ってば、照れて口調がおかしくなってるぞ」

真「やよいの純粋で真っ直ぐな眼差しに見つめられたら無理も無いよね」

真美「も、もー! うるさいよ! この脳筋コンビ!」

響・真「誰が脳筋コンビだ!」

千早「――そういえば、明日は高槻さんの家庭教師の方も観に来られるのよね?」

やよい「千早さん。そうなんです! ライト先生と、妹で私の友達の粧裕ちゃんも来てくれる予定です!」

千早「そう。じゃあなおさら、一生懸命頑張らないといけないわね」

やよい「はいっ! 高槻やよい、一生懸命頑張りまーっす! えへへっ」

ずっとこのプロデューサーの名前を○○さん、○○くんとかPとか明らかにしなかったわけが
やっとわかるのかな

響「そういえばさ、春香。確かそのライト先生って、春香も家庭教師やってもらってるんだよね?」

春香「…………」

響「? 春香?」

春香「えっ。あ、ああ……うん。そうだよ」

響「もう。何春香までボーっとしてるんだ?」

春香「いや……別に。普通だよ」

千早「……春香」

春香「? 何? 千早ちゃん」

千早「いえ……なんでもないわ」

春香「そう」

千早「…………」

あずさ「春香ちゃんはライブのリーダーですものね。きっと目に見えない重圧とか不安とか……感じてるんじゃないかしら」

春香「あずささん。……そうですね。それはあるかもしれません」

伊織「……バカね。あんた一人で気負ったってしょうがないじゃない」

春香「伊織」

伊織「もし間違えたって、転びそうになったって……なんとかしてみせるわ。それが私達でしょ?」

春香「……ん。そうだね。ありがとう。伊織」

伊織「べ、別にいいわよ。お礼とかは……」

亜美「いよっ! 出ました! いおりんのツンデレ!」

真美「いや~、やっぱ一日一回はこれを聞かないとね~」

伊織「そ、そんなに言ってないでしょ! っていうか別に私ツンデレじゃないし!」 

 アハハ……

美希「…………」

千早「どうしたの? 美希。今日はやけに大人しいじゃない」

美希「千早さん」

千早「緊張してるの?」

美希「んー……そうだね。そうかも」

千早「……そう」

美希「…………」

千早(何かしら? この感じ……)

千早(さっき、春香にも同じような雰囲気を感じた)

千早(一見、普段通りの美希と春香のはず。なのに……)

千早(上手く言葉にできない。違和感、と言うべきなのかしら)

千早(……もちろん、ライブ前で私の気持ちが昂っているから、普段通りの二人がそう見えているだけなのかもしれないけれど……)

千早「…………」

P「はーい。注目注目」

亜美「そういえば兄ちゃんが喋ってる途中なのであった」

真美「もうすっかりだべりモード入っちゃってたね」

P「まあぶっちゃけもうこれ以上特に言うことも無いんだが、一応締めるだけ締めとくぞ」

P「兎にも角にも、泣いても笑っても明日で最後だ。皆、今日はなるべくリラックスして過ごし、明日の本番に備えるようにな」

アイドル・ダンサー一同「はい!」

P「じゃあ最後、律子からも一言頼む」

律子「あ、はい。えっと……まあ正直言って、私からももうあんまり言うことは無いんだけど……今日はとにかく、栄養のある物を食べて早く寝ること。もし興奮して寝付けなくても、明かりを消してベッドに横になるだけでも疲れは取れるから、絶対に夜更かしはしないこと」

律子「そして、一番大切な事は……これまで積み重ねてきた時間と努力。そして自分の仲間を信じること」

律子「私からは以上よ。頑張ってね! 皆!」

アイドル・ダンサー一同「はい!」
   
P「よし。では、今日はこれにて解散。自主練は……するなとは言わんが、本当に程々にな」

P「明日を俺達765プロにとって、そして応援してくれるファンの皆にとって……最高の一日にしよう!」

アイドル・ダンサー一同「はい! ありがとうございました!」

(クールダウンしながら雑談しているダンサー一同)

奈緒「は~。遂に明日が本番かー……」

美奈子「奈緒ちゃん……もしかしてまた緊張してるの?」

奈緒「いや……もう大丈夫や。これまでずっと、ここに居る皆で一緒に頑張ってきたんやし……さっき律子さんも言うとったけど、後は今までの努力を信じるだけや!」

美奈子「おおっ! その意気だよ! 奈緒ちゃん!」

星梨花「そ、そうですよね……できる……できる……できる……」

百合子「せ、星梨花ちゃん。顔、強張ってるよ」

星梨花「えっ。あ、あわわ……」

奈緒「星梨花。別に緊張するんは悪いこととちゃうで? 私も、今大丈夫や言うたとこやけど……せやかて、全く緊張してないなんてことあらへんし」

星梨花「奈緒さん……」

美奈子「そうだよ。こんな大きなステージ、765プロの先輩達でさえ初めてなんだから。私達が緊張するのは当たり前だって」

星梨花「美奈子さん。……そうですよね」

星梨花「お二人とも、ありがとうございます。わたし、少し気持ちが楽になりました」

奈緒「ま、どうせ明日はもっとガチガチに緊張してまうんやろうから、それならいっその事、その緊張を楽しんだろうや」

杏奈「杏奈も緊張してる、けど……うん。それも含めて……楽しみたい、と思ってる……よ。ここに居る皆と……一緒に」

百合子「そうだね。杏奈ちゃん。緊張も不安も全部ひっくるめて……皆で一緒に楽しんじゃおう!」

杏奈「百合子さん。……うん。……ありがとう」

可奈「…………」

志保「……可奈?」

可奈「えっ」

志保「どうしたのよ。今日はえらく大人しいじゃない」

可奈「あー……いや、別に。普通だよ?」

志保「本当? まさか今になって『やっぱり辞めたい』なんて……思ってるんじゃないでしょうね」

可奈「へ? なんで?」

志保「だ、だってほら、その……合宿の時、私、あなたに……」

可奈「合宿? ……あー。『ついてこれないようなら、早めに言った方がいいんじゃない』ってやつ?」

志保「そ、そうよ。……やっぱり、気にしてる……の?」

可奈「あはは。そんな、まさか」

志保「可奈」

可奈「そんな昔の事、もうすっかり忘れてたよ」

志保「可奈……」

可奈「今私が思ってるのは、ただ一つ……『明日のライブを全力で頑張って、成功させたい』って事だけだよ。765プロの先輩達と、ダンサーの仲間の皆と」

可奈「そしてもちろん……志保ちゃんと」

志保「! ……可奈……」

奈緒「なんかもうツッコむ気すら失せるほどの夫婦感やな」

志保「な、奈緒さん!」

杏奈「完全に、二人だけの世界……」

百合子「めくるめく禁断の果実!」

星梨花「お二人とも、仲良しさんでうらやましいです!」

美奈子「わっほ~い! 皆、私のご飯を待たずしてもうお腹いっぱいだねっ!」

志保「も、もう! 皆してからかわないでよ!」

 アハハ……

可奈「…………」チラッ

(他のアイドル達と話している美希と春香を見やる可奈)

美希「――――」

春香「――――」

可奈「…………」

可奈(いつも通り……そう。いつも通りのはず……なんだ)

可奈(でも、どうしてだろう?)

可奈(ここ数日、星井先輩の顔を見るたび……なぜだか胸がきゅぅってする)

可奈(いや、星井先輩だけじゃない。天海先輩の顔を見ても……そうなる)

可奈(私……どうしちゃったんだろう。ライブ前だから変に気が張ってるのかな……?)

可奈(……うん。そうだよね。きっと……)

可奈(ライブさえ無事に終われば、きっと……)

可奈(また全部、元通りになる)

可奈(星井先輩も、天海先輩も)

可奈(そして……私も)

可奈(うん。だから何も心配する事なんてないんだ)

可奈(そう。何も……)

可奈「…………」

(アイドル・ダンサー一同の様子を遠巻きに見守っている社長、小鳥、プロデューサー、律子の四人)

社長「いやあ……それにしても、今日のリハーサルは本当に素晴らしかった。もう感無量だ。今思い出しても涙が止まらないよ」グスッ

小鳥「しゃ、社長。本番は明日ですから……まあ確かに、今日のリハだけでも十分過ぎるくらい感動しましたけど……」

律子「この分だと、明日は多めにハンカチを持ってこないといけませんね」

社長「ああ。そうだな……ん?」

P「…………」

社長「君、どうかしたのかね?」

P「えっ。あ、はい。何でしょう?」

社長「いや、何か考え込んでいたようだからね。明日のライブ本番を迎えるにあたって、心配事でもあるのかね?」

P「……ああ、すみません。心配とかじゃないんですけど……ただ、あいつらの……皆のこれまでの頑張りを思い返していたというか……そんな感じです」

社長「そうか。それならばいいが……」

P「…………」

小鳥「でも本当、報われてほしいですよね。あの子達の努力」

律子「大丈夫ですよ。皆、今までずっと頑張ってきたんですから」

社長「ああ。彼女達が積み重ねてきた努力については、今ここに居る我々が証人だ」

小鳥「ですね」

律子「楽しみに待ちましょう。明日が来るのを」

社長「うむ。そうだな」

P「…………」チラッ

(他のアイドル達と話している美希と春香を見やるプロデューサー)

美希「――――」

春香「――――」

P「…………」

P(明日、か……)

【同日夜・プロデューサーの自室】


P「…………」

P(結局、例の撮影の日の翌日から今日までの六日間は特に何も起こらなかった)

P(しかし明日もそうであるとの保証は無い)

P(Lは俺に言った。『アリーナライブの終了直後に美希と春香の尋問を行う』と)

P(一つ考えられるのは……そう言って俺を油断させておき、当日のライブ前、またはライブ中に二人の逮捕を強行するという可能性)

P(そしてもう一つは、ライブの終了後、あくまでも任意同行という体で二人を連行し――ここまでは俺に予告していた通りだが――その後、そのまま二人を逮捕してしまうという可能性だ)

P(この二つの可能性を比較すると……やり易さでは圧倒的に後者だろう。前者だと俺の不意は衝けるだろうが、肝心の美希と春香の正確な動きをL側では捕捉しきれない)

P(勿論後者の場合でも、土壇場で俺がLを裏切って……という可能性は当然想定しているだろうが……所詮、一個人に過ぎない俺にできることなんて限られている。まして相手は“世界の三大探偵”の一人……まともに太刀打ちできるはずもない)

P(全て分かっている……読んでいる……)

P(だからこそ、Lは……)

P「…………」

 ピリリリッ

P「……通知不可能……」ピッ

L『Lです』

P「……ああ。明日の件の連絡だな?」

L『はい。といっても、前にお伝えした内容の確認ですが……』

P「ああ。分かってる。ライブ終了後、ミーティングの時間と場所を連絡すればいいんだな?」

L『はい。お手数ですがよろしくお願いします。それから……』

P「?」

L『会場内の電波状況によっては、電話やメールがつながらない可能性もゼロではありませんので……“念の為に”会場内の防犯カメラの映像は、警察の協力を得て私の方でも観るようにいたします』

P「!」

L『ただ勿論、監視対象は通路や入場・退場口等に限り……たとえばアイドルの皆さんの更衣室などは一切観ませんのでその点はご安心下さい』

P「……分かった。だがまあこの場合、それを観る、と言われたところで俺が拒否できるような話でもないんだろうがな」

L『そうですね。ですが私としても、必要以上に無関係な第三者のプライバシーを侵害するのは本意ではありませんので』

P「……そうか」

P(このタイミングでこの発言……牽制か)

P(もし俺がLを裏切り、自発的に連絡手段を絶ったしても……そんな行為には何の意味も無いと)

P(『二人の行動を監視する術など他にいくらでもある』と……先に釘を刺しておいたってわけだ)

L『……では明日、よろしくお願いします』

P「ああ。こちらこそ。じゃあまた明日な」

L『はい。それでは』ブツッ

P「…………」

P(美希……春香……)

【同時刻・キラ対策捜査本部(都内のホテルの一室)】


L「――では明日、よろしくお願いします」

P『ああ。こちらこそ。じゃあまた明日な』

L「はい。それでは」ピッ

L「……これで、プロデューサーの方は良いでしょう」

月「ああ。防犯カメラの事を話したことで、直前で裏切っても意味が無いことも分かっただろうしな」

L「はい。無論彼なら、こちらがそう考えて話した事まで悟っているでしょうが……それで特に問題はありません」

月「そうだな。むしろその方がこちらとしても安心できる」

L「はい。それと月くん。高田の方ですが……」

月「ああ。高田にはさっき連絡しておいたよ。と言っても、前に伝えていた事の繰り返しだが……明日は予定通りにアリーナに来ること。もしミサが来たとしても慌てる事無く普通に応対すれば良いこと。そして僕と竜崎が場を離れるようなことがあればその時は粧裕を頼む、と」

L「ありがとうございます。助かります」

松田「ええと……確か、高田には明日の作戦の事は何も話してないんでしたよね?」

月「そうです。彼女には『明日は二人から怪しまれないようにすることだけを考えて、普通にライブに参加してくれればいい』としか伝えていません」

相沢「そうか。高田にはノートの事も伝えていないもんな」

月「はい」

総一郎「……竜崎」

L「夜神さん。娘さんが心配なお気持ちは分かりますが……高田が月くんの妹である粧裕さんにどうこうするはずもありませんし、そこは信用して頂いても問題無いかと――」

総一郎「違う。その事ではない」

L「では、何でしょう?」

総一郎「あれから六日間、皆で様々な知恵を出し合ったが……結局、『星井美希と天海春香を逮捕する際』における『死神の対策』については良いアイディアが浮かばなかった」

L「……そうですね」

総一郎「勿論、だからといって……それを理由にして二人の逮捕を見送るべきではない。現に、あの撮影の日以降もキラの裁きは毎日滞りなく行われている……」

総一郎「本当なら今すぐにでも二人を逮捕しなければならない状況……それをこれ以上先延ばしにしてはならない。その事は百も承知だ」

総一郎「だがその事と……実際に『誰が』二人の逮捕に向かうかは別の問題だ。そうだろう? 竜崎」

L「……まあ普通に考えて、殺される可能性が最も高いのは実際に逮捕に向かう人間ですからね」

総一郎「そうだ。だから竜崎。ライブ前およびライブ中の潜入・監視は皆に任せるが――……」

L「……ライブ後の二人の逮捕は自分にやらせてくれ……と?」

総一郎「……ああ」

相沢「! 局長」

松田「それは、局長一人で……って意味ですか?」

総一郎「……そうだ」

相沢・松田「!」

L・月「…………」

相沢「な、何を……」

松田「局長。何で、そんな……」

総一郎「……それは、勿論――」

月「それが自分の責任だから、とでも言うつもりか?」

総一郎「ライト」

L「…………」

月「背負い込み過ぎだ。父さん」

総一郎「しかし、私には刑事局長としての責任が……」

月「馬鹿な事を言うな。父さんはそれで死んでも満足かもしれないが、残された母さんや粧裕はどうなる」

総一郎「……それは……」

月「…………」

総一郎「……だが、誰かが命を懸けてキラを逮捕しなければならない。それも事実だ」

月「! 父さん」

L「あの」

総一郎「!」

月「竜崎」

L「白熱しているところ申し訳ありません。でも、実はもうその件は私の中では決めているんです」

総一郎「えっ」

月「決めている……だって?」

L「はい」

L「アリーナライブの全公演終了後―――私が一人で星井美希と天海春香の両名を逮捕します」

一同「!」

総一郎「竜崎が一人で……だと?」

L「はい」

月「ちょ……ちょっと待て、竜崎。ライブ終了後、僕も一緒に二人の逮捕に向かうんじゃないのか? だからこそ、その時は高田に粧裕を任せると……」

L「すみません。月くんにも今の今まで言っていませんでした」

月「な……」

総一郎「竜崎。あなたがそう考えたのは……私と同じ理由か?」

L「厳密には少し違いますが……責任という意味ではそうですね。この状況で真っ先に命を懸けなければならない人間がいるとしたら、それはやはり私しかありえないと思います」

L「最初にキラを捕まえると挑発したのはこの私なのですから」

総一郎「竜崎……」

L「皆さん。そういう次第ですので……どうかご了承頂けないでしょうか」

一同「…………」

月「……分かったよ。竜崎」

総一郎「! ライト」

月「前に父さんも言っていたが……今日までこの本部の指揮を執ってきたのは竜崎だ。なら最後の作戦の遂行においても竜崎の意思を尊重すべきだ」

月「僕はそう考える」

総一郎「…………」

L「ありがとうございます。月くん」

松田「分かりました」

相沢「松田」

松田「僕達がここまで死なずにやってこれたのも、竜崎がずっと指揮を執ってくれていたおかげですから。僕も竜崎の意思を尊重します」

相沢「……そうだな。なら俺も信じて、任せよう。……よろしく頼む。竜崎」

L「お二人とも、ありがとうございます」

総一郎「…………」

L「夜神さん」

総一郎「……分かった」

総一郎「だが、少しでも危険を感じたらすぐに作戦を中止してくれ。たとえ命を懸けるのだとしても、『やすやすと命を捨てるような行動を取るべきではない』……これは他ならぬ、あなたが言った事だ。竜崎」

L「ありがとうございます。それは勿論そのつもりです。夜神さん」

月「…………」

L「それから、当日の監視要員の件ですが……夜神さん。警察庁内から有志を募って頂く件はどうなりましたか」

総一郎「ああ。二名志願してくれた」

L「そうですか。ありがとうございます。では、明日は朝9時にこのホテルに来るように伝えておいて下さい」

総一郎「分かった」

L「よろしくお願いします。それと私も二人ほど、別口で応援要員を呼ぶことができましたので……明日は会場に向かう前に全員で最後の打ち合わせをしようと思います」

L「では、いよいよ泣いても笑っても明日です。頑張りましょう」

一同「はい!」

月「…………」

【同時刻・海砂の自室】


海砂「…………」

海砂(あの撮影の日以来、ライトからも美希ちゃんからも何の連絡も無いまま……明日は、765プロのアリーナライブの日)

海砂(ミサは……うん。行かない方が良いよね)

海砂(美希ちゃんから特に指示が無い以上……それが賢明のはず)

海砂(第一、美希ちゃんの傍にはあの死神が居るんだろうし……あんなの見ながら、ライブ中ずっと平静を装うなんて絶対無理)

海砂(それにライトなら、ミサの様子がおかしいことにすぐ気付いちゃうだろうし……)

海砂「…………」

海砂(……ライト……)

海砂(っと、いっけない。また弱気に……)

海砂(しっかりしなきゃ。ライトならきっと大丈夫)

海砂(だってライトは、ミサにとっての白馬の騎士……ナイトなんだから)

海砂(そうだよ。だから今のミサにできることは、ライトの事を信じ続ける事だけ)

海砂(……大丈夫。たとえこの先何があっても、ライトとミサの未来はきっと明るい)

海砂(そう。きっと……)

海砂「…………」








【同時刻・キラ対策捜査本部のあるホテルの一室】


(部屋のベッドの上で仰向けになっている星井父)

星井父「…………」

星井父(明日はアリーナライブの日か……)

星井父(そういえば少し前に……美希に『パパにも来てほしかった』って言われたっけ)

星井父(……ごめんな。美希。パパ、観に行ってやれなくて)

星井父(本当……ごめんな)

星井父「…………」

【二時間後・キラ対策捜査本部(都内のホテルの一室)】


(他の捜査員の帰宅後、二人だけで捜査本部に残っているLと月)

月「……思いの外、上手くいったな」

L「そうですね。むしろ夜神さんが先に『自分一人で逮捕する』と言い出してくれたおかげで自然な流れが作れたともいえます」

月「確かに。運が良かったな」

L「……でも、本当に良いんですか?」

月「? 何がだ?」

L「お父さんや他の皆に嘘をついてまで、ライブ後に私と共に二人の逮捕に向かうことが……です」

月「…………」

L「確かに、私が死神に殺されるとした場合、おそらく月くんもほとんど同時に殺されるでしょうが……それでも、その場に居る場合と居ない場合とでは可能性の程度が異なります」

L「それをわざわざ高めるような真似は……今更ながら、やはりお勧めできることではありません」

月「本当に今更だな。その話ならもうしただろう」

L「……どうせ死ぬなら、その死の瞬間まで勝つ可能性を探求し続けたい……ですか」

月「そうだ。だから僕は、たとえ殺されるとしても最期の最後まで現場を見届けて死にたい。死の間際でも、父達に何かしらのメッセージを残すくらいの事はできるかもしれないしね」

L「……月くんがそこまで強い意志を持っておられるのであれば、私の方からはもう何も言うことはありません。それに……」

月「? それに?」

L「今のこの状況ですと、『私が死んだら月くんにLの名を継いでもらう』という計画もあまり意味が無いものになってしまいましたしね」

月「ああ。竜崎の死と僕の死がほぼ同義になってしまったからな」

L「はい」

月「だが、そもそもこの前の話だと……竜崎の後継者は既に別にいるってことだろう? ならあえて僕に継がせる必要も無かったんじゃないか?」

L「いえ。あの時も言いましたが、彼らはまだ幼い。だからもし今、私一人だけが死んだとしたら……Lの名を継ぐことができるのはやはり月くんしかいません」

月「じゃあ数年後なら?」

L「それなら……分かりませんね。ただ……」

月「ただ?」

L「私の生死は別にしても……近い将来、月くんと私の後継者となりうる者達とが、次代の“L”の座を巡って争うとしたら……ちょっと面白いかもしれませんね」

L「……少しだけ、そんな未来を見てみたくなりました」

月「一応言っておくが……僕が『Lの名を継ぐ』と言ったのは、あくまでも『今、竜崎が死んだら』の話だ」

月「竜崎が死ぬことなく、キラ事件を解決に導くことができれば……僕は当初の予定通り、父の後を追って警察に入るよ」

月「それが僕の夢であり、目標だからね」

L「……そうでしたね。少し残念ですが……でも」

月「?」

L「警察に入った月くんが、私と、または私の後を継いだ者達と組んで、より難解な事件に立ち向かう……」

L「私は、そんな未来も見てみたいですね」

月「……ああ。それは僕もだよ。竜崎」

【同時刻・美希の自室】


美希「…………」

 ピリリリッ

美希「……春香」ピッ

美希「ミキなの」

春香『美希。まだ起きてた?』

美希「うん。どうかした?」

春香『……美希に一言だけ、言っておきたくって』

美希「? 何?」

春香『明日のライブ、絶対成功させようね』

美希「!」

春香『そして必ず、765プロの皆と一緒に―――トップアイドルになろう!』

美希「春香」

春香『他の誰でもない、私達自身の力で』

美希「…………」

春香『ね? 美希』

美希「……うん」

美希「もちろんなの。春香」

美希「絶対にトップアイドルになろう」

美希「ミキ達自身の力で」

春香『……うん!』

美希「…………」

春香『…………』

春香『じゃあ、また明日ね』

美希「うん。また明日」

春香『……おやすみ。美希』

美希「……おやすみ。春香」

(春香との通話を終えた美希)

美希「…………」

リューク「いよいよだな。ミキ」

美希「うん」

美希「ミキ達の邪魔は、誰にもさせない」

一旦ここまでなの

おうふ・・・緊張する・・・乙。

乙。
いったい何がどうなるのか……。

今日の金ローはデスノートっすね

(二時間後)

律子「……よし。じゃあ今日はここまでにしておきましょう。皆、良い感じに仕上がってるわ。最後までこの調子でね」

アイドル・ダンサー一同「はい!」

律子「春香」

春香「! はい」

律子「後で今のレッスンの動画を送っておくから、今日来れなかった人にも共有しておいてくれる?」

春香「分かりました」

律子「皆、前日のリハーサルまで全員揃っての練習は出来ないけど、チームとしての意識は常に持ち続けるようにね」

律子「それじゃ、明日も来れる人は同じ時間に集合ね。自主練は任せるけど、くれぐれも疲れだけは残さないように。では、解散!」

アイドル・ダンサー一同「ありがとうございました!」

(クールダウンしながら雑談している美希、春香、可奈)

可奈「天海先輩は今日もクッキングスクールですか?」

春香「うん。お料理は好きだし、良い気分転換になるからね」

可奈「星井先輩は何かご予定あるんですか?」

美希「今日はフリーなの。元々昨日の撮影の予備で空けてたんだけど、キャンセルになったから」

可奈「そうですか! じゃあちょっとだけ……可奈のダンスを見てほしいカナ~、なんて……」

美希「いいよ」

可奈「そんなこと言わないで下さ……えっ! いつもとりあえず一言目は『めんどいからヤなの』って言う星井先輩が!?」

美希「もう本番まで日も無いしね。もちろん嫌なら見ないけど」

可奈「わーわー! そんなわけないです! よろしくお願いしますー!」

美希「はいはい。じゃあ最初から通すの」

可奈「えっ! いきなりフルですか……」

美希「嫌なら別に」

可奈「わーわー! やります! やりますって!」

春香「……ふふっ。じゃあ私はこの辺で。頑張ってね。可奈ちゃん」

可奈「はい! ありがとうございます! 天海先輩!」

春香「…………」

美希「…………」

春香「じゃあ、また明日ね。美希」

美希「うん。またね。春香」

可奈「…………」

可奈(? 何だろう? この感じ……)

可奈(何も無いはずなのに、なんか……)

美希「可奈」

可奈「はっ、はい! やります! やりますからっ!」

美希「…………」

以下、>>248からの続きとなります

【翌日・星井家】


【アリーナライブ当日】


美希「じゃあ、行って来るね」

星井母「ええ。頑張ってね。美希。会場に着いたら連絡するから」

菜緒「めっちゃ応援するからね!」

美希「……うん」

美希「ありがとうなの。ママ。お姉ちゃん」

美希「ミキ、一生懸命歌って踊って頑張るから……絶対、最後まで観ていてほしいの」

星井母「もちろん。最初から最後までしっかり見届けるわよ」

菜緒「そうそう。今日もお仕事でカンヅメのパパの分までね~」

美希「! ……うん。ありがとう」

美希「パパの分まで応援よろしくなの」

美希「それじゃ、行って来ます」

 ガチャッ バタン

菜緒「……それにしても、まさか美希がアリーナで歌ったり踊ったりするなんてねぇ~。正直、まだ実感湧かないわ」

星井母「…………」

菜緒「? ママ?」

星井母「……そうね。でもきっと、美希なら大丈夫よ」

星井母「私はそう信じてるわ」

菜緒「まあね。昔から何事にも物怖じしないしね。あの子」

星井母「……ええ」

菜緒「さて、出発まではまだ時間あるし、もうちょっと部屋でゴロゴロしてよーっと」

星井母「もう、菜緒。暇なら洗濯の一つでも手伝ってよ」

菜緒「あはっ。それはまた今度なのー♪ なーんてねっ」タタッ

(からかうような口調で言いながら、二階に上がっていく菜緒)

星井母「……もうっ」

星井母「…………」

星井母(今日はいつも通りの美希……だったわよね。うん)

星井母(大丈夫。きっとこの前の違和感は私の気のせいだったんだわ)

星井母(そうよ。きっと……)

星井母「…………」








(自宅を出た後、道路を歩いている美希)

美希「……ねぇ。リューク」

リューク「ん? 何だ? ミキ」

美希「ミキ……“上手く出来てた”?」

リューク「……ああ」

リューク「上出来だ」

美希「そう」

美希「それなら……良かったの」

美希「…………」

【同時刻・天海家】


春香「じゃあ、お母さん。そろそろ行くね」

天海母「あら。もうそんな時間?」

春香「うん。本番前にも色々確認したりしないといけないから」

天海母「そうなの。お母さんももう少ししたら出るから、向こうに着いたら連絡するわね」

春香「うん。ありがとう」

天海母「本当はお父さんも一緒に行けたら良かったんだけどねぇ」

春香「……しょうがないよ。お仕事だもん」

天海母「まあねぇ。でもせっかくの春香の晴れ舞台なのに……」

春香「いいよ。さっき、家出るときに『頑張れ。春香』って励ましてくれたから。私はそれで十分だよ」

天海母「そう」

春香「……うん」

天海母「そういえば、今日は夜神先生も来られるのよね?」

春香「! ……うん」

天海母「頑張ってね。春香。今日の頑張りが今後のあなたと夜神先生の関係を左右するわよ」

春香「しないよ! 何言ってんの、もう」

天海母「あら。緊張してる娘をリラックスさせてあげようっていう親心じゃないの」

春香「別に、そもそもそんなに緊張してないし」

天海母「そう? それならそれでいいわ。……ねぇ、春香」

春香「? 何?」

天海母「全力で楽しんできなさい」

天海母「青春は、あっという間なんだから」

春香「……うん。そうだね」

春香「ありがとう。お母さん」

春香「それじゃ、行って来ます」

天海母「ええ。行ってらっしゃい」

 ガチャッ バタン

春香「…………」

レム「……ハルカ」

春香「? 何? レム」

レム「いや……」

春香「もう、いつまでそんな顔してるの?」

レム「…………」

春香「何度も話したじゃない」

春香「これが、私達にとってベストな選択なんだって」

レム「……ああ。そうだな」

春香「でしょ? だったら、いつまでもそんな浮かない顔してないで――……」

レム「…………」

春香「最後まで、しっかり観ててよね」

春香「今日の“私”のステージを」

レム「! ……ああ。もちろん」

レム「見届けるさ。私は、お前の……“アイドル・天海春香”のファンだからね」

春香「……うん。ありがとう。レム」

春香「…………」

【同時刻・キラ対策捜査本部(都内のホテルの一室)】


総一郎「……竜崎。そろそろ、今日の監視要員に志願してくれた二名の警察官がこのホテルに着く頃だが……」

L「分かりました。では夜神さん。お手数ですがその二人を迎えに行って頂き、この部屋まで連れて来てもらえますか?」

総一郎「分かった。……念の為に聞いておくが、この二人には、あなたも“L”として顔を晒すということでいいんだな?」

L「いえ」

総一郎「えっ」

L「流石にもう、私が皆さんと最初にお会いした時にしたような、『キラではないことを確かめるための質問』などはしませんが……それでもあえて私が“L”として顔を晒す必要までは無いと思っています」

L「またこの少し後にも、私が呼んだ二人の応援要員がここに来ますが……彼らも“L”としての私の顔は知りませんので」

総一郎「では、どうするつもりなんだ? 面でも着けるのか?」

月「そういえば、僕と大学で最初に会った時にはあのひょっとこみたいな面を着けていたな」

L「この本部内だけならそれでもいいですが、流石にライブ会場でその出で立ちでは周囲から浮き過ぎますし……何より、星井美希・天海春香の両名から確実に不審に思われてしまいます」

相沢「確かに……」

松田「普通に素顔のままで一緒に遊園地とか行ってましたもんね」

L「はい。なので今更顔は隠しませんが……今日これ以降は、私はあくまでも“L”の部下の一人である“竜崎”として行動するようにします」

L「そして“L”役はワタリに演じてもらうようにします。……といっても、原則として私が“L”から聞いた指示を皆さんにお伝えする、という形を取るので、実際にワタリが“L”として皆さんに直接指示を出すような場面はほとんど無いだろうとは思いますが」

L「それから念の為、皆さんもこの後は常に偽の警察手帳の名前を使うようにして下さい」

総一郎「分かった。……では、二人を迎えに行って来る」

L「はい。すみませんがよろしくお願いします」

松田「……でも、竜崎が呼んだ方はともかくとしても、警察庁から来る二人って……僕らは絶対面識ありますよね? わざわざ偽名使う意味無いような気が……」

相沢「まあな。でも相手によっていちいち呼び分けるのもややこしいだろ。それに今日はずっとアリーナでの潜入捜査なんだし、いつ誰に名前を聞かれても困らないようにしておいた方が良い」

松田「あー、なるほど。それは確かにそうっすね。……でも、一体誰なんでしょうね? 警察庁から来る二人って……」

相沢「正直言うと、俺はかなり思い当たるが……」

松田「え? 本当ですか? 誰です?」

相沢「まあ、どうせもう直に来るだろう」

松田「もしかして、外れたらかっこ悪いとかって思ってます?」

相沢「……お前な」

松田「す、すみません」

 ガチャッ

相沢・松田「!」

月「来たようだな」

L「はい」

総一郎「……竜崎。二人を連れて来た」

松田「あっ!」

伊出「…………」

宇生田「…………」

相沢「やっぱり、お前らだったか」

伊出「……相沢」

宇生田「お久しぶりです。相沢さん」

相沢「志願してくれたんだな。二人とも」

伊出「ああ。『何だ今更』って思われるのは百も承知だが……」

相沢「そんなこと思うはずがないだろう。お前達だって、ずっと警察庁内で独自にキラを追ってくれていたんだ。ならば俺達は最初からずっと同志のはずだ。そうだろ?」

伊出「相沢」

宇生田「相沢さん……」

相沢「だから改めてよろしく頼む。共にキラを捕まえよう」

伊出「……ああ! こちらこそよろしく頼む」

宇生田「よろしくお願いします。相沢さん」

松田「伊出さん。宇生田さん」

伊出「おう。松田も久しぶりだな」

宇生田「相変わらず松田って顔してるな」

松田「ど、どういう意味っすか! でも……そっか。そういうことだったんですね」

伊出「ああ。そういうことだ。よろしくな」

宇生田「よろしく頼むぜ。松田先輩」

松田「せ、先輩って……」

宇生田「だって先輩だろ? この捜査本部では」

松田「そ、それはまあ、はは……とにかく、こちらこそよろしくお願いします! 伊出さん。宇生田さん」

L「……すみません。久々の再会に水を差すようですが……今後、お二人の事はここに書かれてある名前で呼ぶようにして下さい」スッ

(伊出と宇生田に偽の警察手帳を渡すL)

伊出「? 『伊田基秀』……?」

宇生田「俺のは『宇多川博康』……」

伊出「……なるほど。キラ対策の偽名の警察手帳、ってわけか」

L「はい。もっとも、今のキラは『顔だけでも殺せる』可能性が高いので、もうあまり意味は無いかもしれませんが……念の為、これから先のやりとりは、各々、偽の名前で呼び合うようにして下さい」

伊出「分かった。ところで……あなたは誰だ? 警察庁の人間ではないよな?」

L「申し遅れました。私は竜崎といいます。“L”の部下の一人です」

伊出・宇生田「!」

伊出「Lの……」

L「はい。この捜査本部では、私が“L”の指示を聞いた上で“L”に代わって指揮を執っています」

伊出「……なるほど。では、竜崎。今から言うことを、後でLに伝えておいてもらえるか?」

L「? はい」

伊出「『あの時はすまなかった。ありがとう』と」

L「! …………」

伊出「俺はあの時、『顔は見せられるが名前は明かせない』と言ったLを信用することができず、この捜査本部には加わらなかった。そしてその後は警察庁内で宇生田……いや、宇多川らと一緒にキラを追っていたが……結局、キラの正体の核心には何も迫れなかった」

伊出「やがて俺は、次第にあの時の事を後悔し始めた。何故あの時、『Lを信用し、局長達と一緒に捜査をする』という決断をする事ができなかったのか……と」

L「…………」

伊出「そうして自分の無力感と後悔の念に苛まれていた中……今から一週間前、警察庁の全職員宛てに、『キラ事件の捜査に協力できる有志を募りたい』という連絡が局長からあった」

伊出「正直言って、胸が躍った」

伊出「『まだ自分にも役に立てることがあるのかもしれない』と思うと……居ても立ってもいられなかった」

伊出「だから俺は……こんな機会を与えてくれたLに、心の底から感謝の気持ちを伝えたい」

伊出「あの時、彼を信用できなかった事に対する詫びと共に」

L「…………」

宇生田「私も伊田さんと同じ気持ちです。竜崎」

伊出「宇多川」

宇生田「Lに、謝罪と感謝の気持ちを伝えてもらえますか」

L「……分かりました。伝えておきます」

松田「ところで相沢さん……いえ、相原さん。分かってたんすか? この二人が来るって」

相沢「まあ、他に思い当たらなかったしな」

松田「流石……伊達に刑事やってないっすね」

相沢「……馬鹿にしてるのか? 松井」

松田「し、してないっすよ!」

宇生田「ところで、そちらの若そうな方は……?」

月「ああ、すみません。僕は朝日月といいます」

宇生田「朝日……ん? 『ライト』って名前、以前どこかで聞いたような……」

L「月くんはそちらにいる朝日局長の息子さんです」

宇生田「えっ」

伊出「局長の息子さん……って、確か……去年あった保険金殺人事件とかを助言して解決に導いたっていう、あの……?」

月「ええ……まあ」

総一郎「息子はまだ大学に入ったばかりなのだが……そういった過去の実績などもあったことから、今は特例で捜査協力してもらっているんだ」

伊出「そ、そうだったんですか……」

宇生田「大学生でキラ事件捜査って……それはまたすごいな」

月「いえ。まだまだ勉強中の身ですが、どうぞよろしくお願いします」ペコリ

伊出「ああ。こちらこそ」

宇生田「よろしく」

L「……さて。そろそろ私が呼んだ二名の応援要員も来る頃です。部屋は事前に教えておいたのでここに直接来ます。なお先ほども言いましたが、皆さんは偽の名前を名乗るようにして下さい。勿論、彼らにも偽名を使うように予め伝えています」

L「そして全員が揃った段階で……今日初めてこの本部に来られた方もいますので、まずはこれまでの捜査経緯をざっとお話しします」

L「その後、今日の作戦の詳細をお伝えする予定です」

伊出「分かった。……って、あれ? そういえば係長と、模……ああ、本名はまずいのか。とにかく後二人ほど、この本部にいるはずでは?」

宇生田「そういえば……。もう先に現場に行ってるんですかね?」

L「……そのお二人の事なら、別に本名で呼んで頂いても差し支えありませんよ」

宇生田「えっ?」

伊出「? 何故だ?」

L「彼らがこの本部に来ることは、もうありませんので」

宇生田「? そ、それはどういう……?」

伊出「…………?」

L「……これについても、後でまとめてお話しします」

総一郎「…………」

(五分後)

 コンコン

L「……どうぞ」

 ガチャッ

(ドアが開き、一組の男女が入室した)

「初めまして。本日のキラ事件捜査に協力させて頂くことになりました。Mark Dwelltonといいます」

「同じく協力させて頂きます。間木照子です。今日はよろしくお願いします」

月(今の話し方……男性の方は日本人ではないな)

松田(またえらい美人を……竜崎のコネクションって一体……)

L「お二人とも、わざわざご足労頂きありがとうございました」

L「このお二人……マークさんと間木さんは、いずれも“L”の個人的なつながりからお呼びした方達です。その素性は明かせない……というか、私も“L”からは何も聞かされていませんので、その点はご了承下さい」

L「では、こちらの皆さんもそれぞれ自己紹介をお願いします」

総一郎「朝日四十郎です」

相沢「相原修三です」

松田「松井太郎です」

伊出「伊田基秀です」

宇生田「宇多川博康です」

月「……朝日月です」

L「そして私が“L”の部下の竜崎という者です。今日は“L”に代わって皆さんの指揮を執らせて頂きますが……都度、状況に応じて“L”の指示・判断を仰ぎますので、その点はどうかご心配なく」

L「というわけで、今日はこの八名で捜査を行いたいと思います。よろしくお願いします」

一同「よろしくお願いします」

L「では、伊田さん、宇多川さん、マークさん、間木さんの四人には捜査状況をまだほとんど何もお伝えしていませんので……まずはそこからご説明したいと思います」

L「我々が“L”の指揮の下、キラ事件の捜査を開始したのは昨年の11月末……『リンド・L・テイラー』という者を“L”の身代わりとしてテレビ中継に出演させたところから始まり――……」

L(……間木照子こと、元FBI捜査官・南空ナオミ)

L(Mark Dwelltonこと、南空の夫で現職のFBI捜査官・レイ=ペンバー)

L(言うまでもなく、今の状況で捜査情報を知る者を増やすのはリスクがあるが……この二人なら問題は無い)

ナオミ「…………」

ナオミ(まさか、またこうしてLに協力することになるとはね)

【一週間前(美希と海砂の撮影があった日)・アメリカ/ナオミの自宅】


 ピリリリッ

ナオミ「…………? 誰かしら?」

ナオミ「はい」

L『Lです』

ナオミ「! L……」

L『ご無沙汰しています。南空ナオミさん』

ナオミ「……またキラ事件の協力要請でしょうか?」

L『流石、お察しが良いですね。その通りです』

ナオミ「……L。前にも言いましたが、その……」

L『南空さん。半年ほど前に捜査協力をして頂いた後……『どうしても南空さんの協力が必要になった時に限り、再度ご連絡させて頂く』と言ったことを覚えていますか?』

ナオミ「それは……覚えていますが」

L『今がその時です』

ナオミ「! ということは……」

L『はい。本日私は、キラのほぼ決定的ともいえる証拠を入手しました』

ナオミ「! キラの……証拠?」

L『はい。この証拠に基づき、今から一週間後……日本時間で8月1日に二名のキラ容疑者を逮捕します』

ナオミ「……つまり、私にその協力を……」

L『はい』

ナオミ「…………」

L『お願いできませんか? 南空さん』

ナオミ「……分かりました」

L『! 南空さん』

ナオミ「私個人としては、あなたの事は本当に信頼していますし、尊敬しています。本心からいえば、できることならその捜査の全てに協力したいと思うくらいに」

ナオミ「ただ、今の私には愛する家族……夫がいます」

L『…………』

ナオミ「ですので……L。捜査協力する代わりに、一つ条件を付けさせてもらえませんか」

L『条件……ですか?』

ナオミ「はい」

L『何ですか? それは』

ナオミ「―――私の夫も、今回のキラ事件の捜査に協力させて下さい」

L『! …………』

レイペンバーじゃない人!レイペンバーじゃない人じゃないか!

ナオミ「あなたなら、私の夫が誰で、どんな属性を持った人物かはもう既にご存知でしょう」

ナオミ「あなたがどんな捜査を考えているのかはまだ分かりませんが、少なくともあなたの期待に背くようなことは無いはずです」

L『…………』

ナオミ「……と、いうのはある種建前で……本当は、単に私がこれ以上、彼に隠し事をしたくないからなんですけどね。現に、半年前の尾行捜査の際は相当怪しまれましたし……」

L『その節は……大変ご迷惑をお掛けしました』

ナオミ「いえ。あと、これでも一応新婚ですし……彼に何の理由も告げずに単身で日本に渡る、というのもやはり抵抗感がありますから」

L『……なるほど。それならいっその事、旦那さんにも全てを打ち明け、一緒に捜査協力を……ということですか』

ナオミ「はい。これが私の捜査協力の条件です。いかがでしょう?」

L『……分かりました』

ナオミ「! L」

L『元々、私もあと一人か二人、協力を頼めたら……とは考えていましたから。この点、確かにあなたの旦那さんなら文句の付けようのない人材です。むしろこちらからお願いしたいくらいです』

ナオミ「そうですか。それならよかったです」

L『ただ、彼の所属は公にしてしまうと少し面倒な事になるので……あくまでもプライベートで日本に入国する、という体でお願いします。もちろん、必要な手続は全て私の方で行います』

ナオミ「ありがとうございます。こちらとしてもその方が助かります」

L『では、旦那さんにはあなたの方からお話し頂いてもいいですか?』

ナオミ「はい。それは構いません。……ただ、できればその際、私が半年前にあなたの捜査協力要請を受けて動いていた事も含めて話したいのですが……よろしいでしょうか?」

L『はい。もはやこの状況でそのくだりだけ隠す意味も無いのでそれは構いません。どうかよろしくお願いします』

ナオミ「ありがとうございます。彼は今でもたまに、あの時の事を気にしているような素振りを見せることがあるので……正直私としても、全部話してすっきりしておきたかったんです」

L『それはご心労をお掛けしてしまい、申し訳ありませんでした。……後は、肝心の旦那さんがこの捜査協力を快諾して頂けるかどうか、ですね』

ナオミ「その心配には及びません。夫は私と違って非常に正義感が強いので。それに今や、キラ事件は世界最大の関心事……その捜査、ましてや“L”の指揮下におけるそれに協力をしない理由は無いでしょう」

L『それならいいですが……ただ、南空さん』

ナオミ「? はい」

L『正義感なら、あなたも相当お強い方でしょう?』

ナオミ「……いえ。実のところ、私は決して正義感の強い人間ではないんです。FBIの捜査官になったのも、単に自分にその適性があったからで……何かしらの思想や哲学に由来しての事ではないんです」

L『そうでしたか。それは少し意外ですね』

ナオミ「なので、私はどちらかというと……正義感よりも、あなたに対する信頼と尊敬からこの捜査に協力したいと思っているんです。L」

L『……ありがとうございます。それはとても光栄な事です』

L『では、旦那さんの協力が取り付けられたら……あるいは取り付けられなかった場合でも、近日中にご連絡下さい。なお、こちらの連絡先ですが――……』

【現在・キラ対策捜査本部(都内のホテルの一室)】


ナオミ(―――そんな経緯で、なし崩し的にレイも巻き込んでしまったけど……)チラッ

レイ「…………」

レイ(一週間前、ナオミから突然、『Lの捜査に協力してほしい』と言われたときは、かなり面食らったが……)

レイ(半年ほど前、お義父さん達に結婚前の挨拶をするために日本に行ったとき、ナオミが不審な動きをしていたことがずっと気になっていたが……それも今回と同じ件だったと分かり、それはそれですっきりした)

レイ(それに、キラは必ず滅ぼさなければならない社会悪……もう世界ではキラを認める声の方が多数派になりつつあるし、既にインターネット上などではそうなっているが……)

レイ(キラは悪だ。神を気取って犯罪者を片っ端から裁く行為など……絶対に許してはならない)

レイ(もっともこれまでは、捜査本部が日本警察内に置かれていたこともあり、私もFBI捜査官という立場からはアメリカ国内で独自に捜査を進める程度のことしかできていなかったが……)

レイ(今回、ナオミの導きで“L”が指揮を執るこの捜査本部に参加することができた)

レイ(捜査官としてではなく、あくまでも一私人としての捜査協力にはなるが……そんな事は大した問題ではない)

レイ(ここに来た以上は、全力でキラを追うだけだ)

レイ(ただ正直、ナオミがこの捜査メンバーに加わっているのは本意ではないが……だが彼女の手ほどきが無ければ、そもそも私はここに来ること自体できなかったわけで……それを考えればやむを得まい)

レイ(それにナオミもナオミで、元は優秀なFBI捜査官であったことに変わりは無い。辞めてからまだ一年も経っていないし……万が一にも不覚は取らないだろう)

レイ(何より、キラをこのまま野放しにはできない。“キラを捕まえること”。その正義の信念の下……私達は戦わなければならない)

レイ(私達自身の平和を守るために)

レイ「…………」

ナオミ(今のレイの目を見る限り……やっぱり正解だったみたいね。レイったら、いつになく燃えているみたいだわ)

月「…………」

月(『Mark Dwellton』……『間木照子』……か)

月(普通に考えて、『Mark Dwellton』の方はどこか外国の警察官か何かだろうが……)

月(『間木照子』の方は何者なのか気になるな。どう見ても日本人だし、しかもこんなに若い女性というのは……)

月(! 日本人……女性……そうか)

月(まだ僕がこの捜査本部に加わる前……天海春香が星井美希に『黒いノート』を手渡していた場面を、竜崎の指示で二人の尾行をしていた日本人女性……元FBI捜査官の『南空ナオミ』という人物が目撃したと聞いた)

月(おそらくは……この『間木照子』と名乗っている女性が、その『南空ナオミ』だろう)

月(それなら今回、竜崎が再び捜査協力を依頼したのも頷ける)

L「――……そして次に、私達は日本全国の心臓麻痺死者を可能な限り洗い出しました。その結果、キラ事件の最初の犠牲者である新宿の通り魔……この者が殺された日の前日に、心臓に関する病気も既往歴も一切無いのに、『心臓麻痺で』死亡した者に行き着きました」

L「その者は当時、株式会社765プロダクションのプロデューサーだった者。この者の死を足掛かりに、私達はさらに捜査を進めていき――……」

L「最終的に、キラ容疑者を二名に特定しました」

L「それが、765プロダクション所属アイドルである星井美希と天海春香」

L「今日、私達が逮捕する予定の二人です」

伊出・宇生田「!」

レイ「アイドルが……キラ……?」

伊出「星井美希って……確か……」

宇生田「星井係長の……?」

ナオミ「…………」

ナオミ(『星井美希』と『天海春香』……)

ナオミ(半年前、私がLに依頼されて尾行していたのは、この二人以外に『萩原雪歩』というアイドルもだった)

ナオミ(『萩原雪歩』は『一人で焼肉を食べに行く』という少し風変わりな行動を取っていたから、Lにも一応報告はしたけど……)

ナオミ(この『萩原雪歩』が容疑者から外れ、『星井美希』と『天海春香』の二名に絞られたということは……)

ナオミ(Lが言っていた『キラのほぼ決定的ともいえる証拠』というのは……おそらく……)

L「そして逮捕に踏み切る以上、当然、我々は既にこの二人がキラであるとする証拠を入手しています」

L「ただこれは現物ではなく、それを収めた写真や映像ですが……しかしその内容から考えて、二人がキラである事のほぼ決定的な証拠となるものと判断しています」

レイ「一体何なんだ? そのキラの証拠というのは」

L「はい。それは――……『名前を書くと、書かれた人間が死ぬノート』。通称『黒いノート』です」

L「私達は、これこそがキラの証拠……もとい、キラの殺人の道具そのものであると考えています」

レイ「! …………」

伊出「な、名前を書くと、書かれた人間が死ぬ……だと?」

宇生田「馬鹿な。そんなもの、この世に存在するわけが……」

ナオミ「…………」

ナオミ(やはり……私が三名のアイドルの尾行を開始してから六日目……公園で天海春香が星井美希に手渡していた『黒いノート』……)

ナオミ(あの時も少し不自然には思ったけど、所詮は年頃の女子同士……Lにも一応の報告はしたものの、実際には単なる交換日記か何かの類だろうと思い、そこまでの重要性は認識していなかった)

ナオミ(それがまさか、『名前を書くと、書かれた人間が死ぬノート』だなんて……あまりに非科学的な話)

ナオミ(でもそれは、この先の説明を聞いてからでないと判断のしようが無いことね)

L「……そのように思われるのも当然です。なので今から、この『黒いノート』の写真、映像を皆さんに実際にお見せします」

L「そして、この二人をキラとして特定するに至った種々の状況証拠についてもあわせてご説明します」

L「そうすればきっと、私達が今日、二人を逮捕すると決断したことにご同意頂けるものと思います」

レイ・伊出・宇生田「…………」

L「では、まず『黒いノート』を写した写真ですが――……」

L「――以上が、これまでの我々の捜査結果、および今日実行しようとしている作戦の概要になります」

伊出・宇生田「…………」

レイ「……『名前を書くと、書かれた人間が死ぬノート』に『死神』……か。なかなか、俄かには信じ難い話だが……」

ナオミ「でもこれまでのキラの裁きの傾向や、キラ容疑者が実際にそれとおぼしきノートを所持していたという事実を踏まえると……」

レイ「うむ……」

ナオミ「勿論、最終的な能力の確定とキラの特定にはノートの検証が不可欠でしょうけど……私は、現段階でキラ容疑者の二人……星井美希と天海春香を逮捕することに異論は無いわ」

レイ「……そうだな。いや、だが容疑者から自白を得られればノートの検証まではしなくとも良いのでは? ノートの性質上、検証をすると死人が出る可能性があるわけだし……」

ナオミ「それはまあ……そうね。でもそれは実際にキラ容疑者を逮捕してからの話だし、今ここで議論しなくても良いんじゃないかしら?」

レイ「確かに。まずはキラ容疑者の逮捕……それを最優先に行動することについては私も異議は無い」

L「ご同意頂きありがとうございます。マークさん。間木さん」

伊出・宇生田「…………」

L「伊田さんと宇多川さんはいかがですか?」

伊出「確かに、突拍子も無い話だが……既に物的証拠がある以上、キラ容疑者を逮捕すること自体に異論は無い」

宇生田「私もです」

伊出「……ただ、俺はその事よりも……」

L「星井係長と模木さんの件ですか」

伊出「……ああ。流石に予想だにしていない事態だったからな。……正直言って、まだかなり混乱している」

宇生田「私もです。正直、容疑者の名前として星井美希の名前が挙がった時点で、少し嫌な予感はしていたのですが……」

L「星井係長と模木捜査員の件については完全に私達の失敗でした。その事自体は重く受け止めるべき事実です」

一同「…………」

L「ですが、もう起こってしまったことはどうしようもありませんし……今はその現状を前提に、考えうる限りの最善の行動を取っていくしかないと考えています」

L「それに星井係長と模木さんは今も完全監視下に置いています。つまりこれ以上の妨害行為はおろか、そもそも捜査に関わることすらできません」

L「なので、気持ちの整理には少し時間が掛かるかもしれませんが……一旦、今はこの事は脇に置き、キラを逮捕する事にのみ全力を傾注して頂けませんか」

伊出「……ああ。そうだな。分かっている。俺だって自ら志願してここに来たんだ。“キラを逮捕する”……その目的だけは何があっても完遂したい」

宇生田「私もです。むしろ係長の為にも、何としてでもこの事件の真相を解明しなければならない……そう思っています」

総一郎「……伊田。宇多川」

相沢「そうだな。もうここまで来たら自分達の正義を信じて進むだけ……」

松田「正義……か。そうですね。もう世の中ではキラを肯定する人の方が多くなりつつありますけど……それでも、僕達のやろうとしていることは正義に違いないですもんね」

L「その通りです。世の中のどれだけの人がキラを認めようと……キラのしている行いは間違い無く悪ですし、それを止めることは間違い無く正義です」

L「だから私は、その正義の意思の下に、皆さんと一緒にキラを捕まえたい」

L「そう思っています」

月「……そうだな。キラを捕まえ、正義を実現しよう。竜崎」

L「はい。月くん」

伊出「……で、今日の作戦だが……俺達は、とりあえずライブが終わるまでは普通に観客として会場に潜入しておけばいいんだな?」

L「はい。ただ一応、ライブ中も星井美希と天海春香の動向には常に注意を払うようにしておいて下さい」

伊出「分かった」

宇生田「座席はもう決まっているんですか?」

L「はい。伊田さんと宇多川さんは1階席、相原さんと松井さんは2階席、マークさんと間木さんは3階席になります。それぞれ二人一組で監視するようにして下さい」

相沢「そして竜崎と月くんは1階、アリーナ席のほぼ最前だったな」

L「はい。位置的にもほぼ真正面……ステージ上からも確実に視認できる距離ですね」

月「流石に僕達二人だけなら警戒されるだろうが……粧裕と高田も一緒だからな。まさかライブ直後に逮捕に動くなどとは夢にも思わないだろう」

L「そうですね。ただ、逮捕自体は私が一人で行いますが……万が一にも事前に気取られ、二人に逃げられてしまっては元も子もありません」

L「ですので皆さんには、ライブ終了後、会場の出入口等を分担して見張って頂きたい」

L「まず、最も注意すべきは一般人が出入りできない関係者用扉です。ここはマークさんと間木さんでお願いします」

L「そして相原さんと松井さんは、アリーナの外、その関係者用扉を出てすぐの位置で張っていて下さい」

L「他方、観客に紛れて一般の出入口から出るという可能性も十分考えられますので……この出入口付近には伊田さんと宇多川さん。そして……」

L「……かなりの混雑が予想されますので、月くんもこちらを見張って下さい」

月「……ああ。分かったよ。竜崎」

L「また、アリーナ内に設置されている防犯カメラの映像は全てこの捜査本部からも観れるようにしていますので、この映像の監視は朝日さん。お願いします」

総一郎「分かった。それとあわせて、星井君と模木の監視も……だな」

L「はい。よろしくお願いします」

L「以上が本日の作戦となります。もっとも、現場の状況次第では作戦を途中で変更する可能性も当然ありますが……その場合は私が“L”の指示を仰ぎながら都度皆さんに連絡するようにします」

L「では皆さん。頑張っていきましょう」

L「最後には、必ず正義が勝つと信じて」

一同「はい!」

【三時間後・アリーナ/控室】


(ライブ衣装に着替えた状態で待機しているアイドル・ダンサー一同)

奈緒「可奈。衣装ちゃんと入ったか?」

可奈「は、入りましたよ! 失礼な!」

奈緒「いや結局、合宿の後も可奈のおやつの量はあんま変わってなかったからなー」

可奈「そ、それは……でも、その分ちゃんとレッスンしてましたもん!」

奈緒「せやな。はは。よう似合うとるで」

可奈「奈緒さん。ありがとうございます!」

美奈子「二人とも、緊張の方は大丈夫みたいだね」

可奈「美奈子さん」

奈緒「せやなあ。もちろん、全然してないってことはないけど……ま、ここまで来たら後はもうなるようにしかならんしな」

星梨花「わたしも、緊張はしてるんですけど……でも、いい感じの緊張っていうか……今は早くステージの上で踊りたいっていう気持ちでいっぱいです」

美奈子「成長したね。星梨花ちゃん」

星梨花「はいっ! えへへ……」

杏奈「杏奈も……うん。早く皆と一緒にステージに立ちたい、な……」

百合子「ふふっ。やる気満々だね。杏奈ちゃん」

杏奈「……百合子さん。百合子さんは、どんな感じ……?」

百合子「もちろん、私もやる気に満ち溢れてるよ! もう逸る気持ちを抑えきれない……ぐっ! 静まれ……私のパトス……!」

杏奈「…………?」

百合子「ごめん、杏奈ちゃん。そんな可愛く小首を傾げられると私羞恥心に耐えられない」

志保「いよいよね。可奈」

可奈「志保ちゃん」

志保「今までの努力を信じて、最後まで頑張りましょう」

可奈「……うん! もちろん!」

可奈「…………」

可奈(大丈夫。大丈夫……)

可奈(この胸騒ぎは、きっと気のせい)

可奈(ライブ前で皆の気持ちが昂っている、この空気のせい)

可奈(だからきっと大丈夫)

可奈(そんな事よりも、今はライブに集中しよう)

可奈(それが何よりも……星井先輩や天海先輩のためになるんだから)

可奈「…………」

真美「……あり? そういえば兄ちゃんは?」

小鳥「さっきスタッフさん達と音響の最終確認をしていたから、もうすぐ来ると思うわよ」

真「ホント、最後の最後までプロデューサーには頼りっきりだったなぁ」

響「自分達一人一人のレッスン時間を均等にするために仕事のスケジュールを調整したりとか……そういうの全部一人でやってくれてたもんね」

貴音「真、あの方には感謝してもしきれません」

やよい「私もプロデューサーにはすっごくお世話になりました! もちろん、今もですけど!」

雪歩「今度、皆でお礼しなくちゃだね。もちろん律子さんにも」

律子「いいわよそんな。私は別に……」

社長「いやいや、律子君も陰の功労者だからねぇ。プロデューサーと二人三脚でよくここまで皆を引っ張ってくれたものだよ」

律子「社長……」

亜美「お、この流れは!?」

真美「鬼軍曹涙目コースきた!?」

律子「ば、バカっ。それはもう昨日やったでしょ!」

 アハハハ……

伊織「……ま、ちゃんとしたお礼はまた改めてするとして……にひひっ」

亜美「だね」ニコッ

律子「え? な、何よ。二人して、その意味深な笑い……」

あずさ「律子さん」

律子「え、あ、はい。何ですか? あずささん」

あずさ「ちょっと、じっとしてて下さいね」スッ

律子「……え?」

(律子の胸に、アイドル達が着けているのと同じ花を着けるあずさ)

律子「これ……」

あずさ「私達はいつも、律子さんと一緒ですからね」

律子「あずささん……」

伊織「にひひっ。ま、そういうことだから。今日も一日よろしくね。律子」

亜美「最後まで亜美達と一緒に楽しもうね! りっちゃん!」

律子「伊織……亜美……うぅ、もう! 開演前から泣かせるんじゃないわよ」

亜美「りっちゃん、ホントに泣いちゃダメだよ~」

律子「な、泣いてないでしょっ。もう……」

 アハハハ……

千早「…………」

春香「……ちーはやちゃんっ!」ドンッ

千早「ひゃっ! は、春香。もう、驚かせないでよ」

春香「あはは。ごめんごめん。……もしかして、結構緊張してる?」

千早「多少はね。でも大丈夫よ。ちょうど心地良いくらいの緊張感だわ」

春香「そっか。なら良かった。今日は最後まで頑張ろうね!」

千早「……ええ。頑張りましょう」

美希「…………」

 ガチャッ

P「お、もう皆揃ってるな」

春香「プロデューサーさん。お疲れ様です」

アイドル・ダンサー一同「お疲れ様です!」

P「おう、お疲れ。皆、良く似合ってるじゃないか」

アイドル・ダンサー一同「…………」ニコニコ

P「……春香」

春香「? はい」

P「今日がリーダーとしての最後の仕事だ。よろしく頼むぞ」

春香「……はい!」

美希「…………」

千早「いよいよね。美希」

美希「千早さん。……うん。そうだね」

千早「…………」

千早(美希の様子、やっぱりどこか……いえ。流石に気にし過ぎね)

千早(春香も今日は至って普通に見えるし……)

千早(それに本番までもう30分も無い。今は余計な事を考えないで、ライブに集中しなきゃ……)

律子「プロデューサー。そろそろステージ裏に移動する時間です」

P「分かった。では社長。最後に一言、皆に激励をお願いします」

社長「ああ。……皆、これまで本当によく頑張ってくれた。今の君達の晴れ晴れとした表情が、これまで君達が積み重ねてきた全ての努力を物語っているように思う」

アイドル・ダンサー一同「…………」

社長「なので、今の君達に私が言えることはこれだけだ」

社長「君達自身がライブを楽しみ、そしてファンの皆を楽しませてくれたまえ」

社長「それがアイドルであり、それが765プロダクションだからね」

社長「以上だ。後は、私も君達のファンの一人として、観客席から君達の活躍を見届けさせてもらうことにするよ」

社長「またライブ後に会おう。健闘を祈る!」

アイドル・ダンサー一同「はい! ありがとうございました!」

P「……よーし! ファンの皆が待ってるぞ! 765プロの、そしてアリーナ史上に残る、最高のライブを見せてくれ!」

アイドル・ダンサー一同「はい!」

P「…………」

P(いよいよ、か……)

【二十分後・アリーナ会場内/3階・関係者席】


菜緒「いよいよだね。ママ。あー、楽しみ!」

星井母「そうね。本当はパパも来れたら良かったんだけど……」

菜緒「まあ仕方ないよ。お仕事なんだし。それにまたすぐ次のライブもあるって」

星井母「……ええ。そうね」

天海母「あら? もしかして星井さん?」

星井母「えっ。ああ、天海さん。どうもお久しぶりです」

菜緒「えっ。天海って……天海春香ちゃんのお母さん?」

天海母「はい。いつも娘がお世話になっております」ペコリ

菜緒「い、いえ、そんな。こちらこそ、うちの美希がいつもお世話に……あ、私、美希の姉の菜緒です」

天海母「流石、妹さんに負けず劣らずの美人さんね。もしかしてあなたもアイドルを?」

菜緒「い、いえいえ! 私はただの学生でして……」

天海母「あら、そうなの? すぐにでもデビューできそうなのに」

菜緒「い、いや~……流石にそれは……あはは……」

星井母「あんまりおだてなくていいですよ。天海さん。この子はすぐ調子に乗るから」

天海母「別におだててるわけじゃ……あ、折角なのでお隣いいですか?」

星井母「ええ。もちろん」

天海母「では、お言葉に甘えて……」スッ

菜緒「ママは元々、春香ちゃんのお母さんとお知り合いだったの?」

星井母「ええ。765プロでは、未成年のアイドルの保護者を対象に、定期的に保護者説明会を開いてくれているのよ。そこで何回かお会いしていたから」

菜緒「あー。なるほどね。ママ、そういえば時々行ってるもんね」

天海母「アイドルの娘を持つ母親同士、色々と共通の悩みも多いですしね」

星井母「ええ。たとえば学校生活との両立とか……あっ、そういえば春香ちゃんは今年受験でしたよね?」

天海母「はい。でも幸いなことに、今はすごく優秀な家庭教師の先生に勉強を教えて頂いていて……当初の志望より高いランクの大学にも手が届きそうなんですよ」

菜緒「へー」

星井母「それはすごいですね。美希にも教えてもらいたいくらいだわ。あの子、本当にヤバくなるまで全然勉強しないから……」

天海母「それなら今度、美希ちゃんにも紹介して差し上げましょうか? 春香も元々は同じ事務所の高槻やよいちゃんから紹介してもらったって言ってましたし」

星井母「あら、本当ですか? それなら是非お願いしたいです」

天海母「じゃあ今度頼んでおきますね。あ、ちなみにその先生、頭が良いだけじゃなくてすっごくイケメンなんですよ」

菜緒「! は、春香ちゃんのお母さん! そういうことなら美希じゃなくて私に紹介して下さい!」

星井母「あんたね……」

天海母「あら。でもね~、私としては、あの先生には是非春香と良い仲になってほしいと思ってるのよねぇ」

菜緒「えー、そんなあ!」

天海母「ふふっ。でもライバルがいた方が春香にとっても良い刺激になるかもしれないし、いいわ。今度、あなたの事も紹介しておくわね」

菜緒「やた! ありがとうございます!」

星井母「まったく、もう」

菜緒「いいじゃん、これくらい。最近全然出会い無いんだもん」

天海母「なんだかいいわねぇ。青春って感じで。おばさん羨ましいわ。……あ、そろそろ始まるみたいね」

菜緒「よーし! 頑張れ美希ー! そして春香ちゃーん! 私、負けないからねー!」

星井母「何を言ってるのよ、あんたは……」

星井母「…………」

星井母(頑張ってね。美希)

【同時刻・アリーナ会場内/3階・観客席】


善澤「やぁ。暫くぶりだね。二人とも」

社長「おお、来たかね」

小鳥「ご無沙汰しています。善澤さん」

善澤「それにしても、まさかアリーナでライブとはな。一年前のごたごたが嘘のようだ」

社長「その節は、君にも色々と迷惑を掛けたな」

小鳥「本当、例の“765プロ潰し”計画の件……善澤さんに調べて頂かなかったら、私達だけじゃ何も分からないままでしたもんね」

善澤「いや、何。私は大したことはしていないさ。だがこうして、無事にこの日を迎えられて本当に良かった」

社長「うむ。後はここからアイドル諸君の頑張りを見届けるだけだ」

善澤「……ちなみに、黒井の奴はどうしているんだ? “765プロ潰し”計画の件については君に全面的に謝罪したと聞いたが……」

社長「いや、私もあれ以来連絡を取っていなくてね。ジュピターの躍進などを見る限り、961プロ自体は順風満帆のようだが」

小鳥「ジュピター、絶好調ですもんね。今や流河旱樹を完全に抑えて、男性アイドルの中では頂点に立ったと言っても過言では無いですし」

社長「うむ。だが黒井も黒井で、色々と大変だったのだろうとは思うよ。側近だった轡儀が亡くなった上、当時ジュピターの担当プロデューサーだった○○君までうちに移籍させたわけだからね。普通に考えて、相当な苦境に立っていたであろうことは想像に難くない」

小鳥「それでも会社の業績を落とさず、それどころか伸ばしてさえいるのは……黒井社長なりの努力の結果、ってことなんですかね。……でも正直言って、私は今でも全然許す気にはなれないですけどね。いくら謝罪したとはいっても、うちの事務所をあれだけ引っ掻き回したのは事実ですから」

善澤「それも当然の感情だろう。私も黒井のした事が許されるべきだとは思っていない」

善澤「だが、奴が今後は真摯にプロダクション経営に勤しみ、アイドル業界そのものの発展に寄与するのであれば……それが奴にとっての“贖罪”になるのだろうとは思う」

社長「ふむ。“贖罪”……か。確かにそうかもしれんな」

社長「奴も私も、元は同じ事務所で共にアイドルを育成していた者同士……互いに互いの信じた道を進むうち、いつかまた交わることもあるかもしれん」

社長「その時に、また昔のような関係に戻れたらいいと……そう思うよ」

小鳥「……もう。社長は本当に人が良いんですから」

社長「む? だ、ダメかな? 音無君」

小鳥「……いえ。それでこそ社長です。だから、私もそれでいいと思います」

社長「そうか。ありがとう。音無君」

善澤「ああ。それでこそ高木だ。……お、そろそろ始まるようだね」

社長「おお、いかんいかん。サイリウムの準備をせねば」

小鳥「…………」

小鳥(頑張ってね。皆!)

【同時刻・アリーナ会場内/2階・観客席】


北斗「さて、そろそろ時間かな」

翔太「他のアイドルのライブなんて滅多に観に来ないから、楽しみだなぁ」

冬馬「……フン。お手並み拝見といこうじゃねぇか」

冬馬「あいつが育てたアイドルがどれほどのもんか……しっかりとこの目で見定めてやるぜ」

北斗「冬馬。なんか随分楽しそうだな」

冬馬「あ? 別にそんな事……いや……そうだな」

翔太「冬馬君」

冬馬「確かに楽しみだ。あいつの育てた、俺達以外のアイドルのパフォーマンスを観るのは」

冬馬「そしてそれ以上に……そいつらを倒して、俺達が真のトップアイドルになることがな!」

北斗「ああ。そうだな」

翔太「目指すはてっぺん、だね」

冬馬「ああ!」

冬馬(負けねぇぞ! 765プロ!)








【同時刻・961プロダクション本社ビル内/社長室】


黒井「…………」

黒井(今日は765プロのアリーナライブの日か。……まあ、今更私にとってはどうでもいいことだが)

黒井(今、Lがどこまで捜査を進めているのかは分からん。こうして765プロが普通にライブをしようとしている以上、まだ星井美希も天海春香も捕まっていないのは間違い無いだろうが……)

黒井(もはや誰がキラであってもいい。私は少しでも早くこの死の恐怖から解放されることを願うばかりだ)

黒井(しかし、キラの件を別にすれば……今日のライブは、あいつが765プロに移籍してからの最初の大きなライブ……まさにあいつが765プロのプロデューサーとして行ってきたプロデュース活動の集大成ともいえる)

黒井(だがあいつは言っていた。もしキラ事件が解決したとしても、もううちに戻ってくる気は無いと)

黒井(経緯はどうあれ、今の自分はもう『765プロダクションのプロデューサー』なのだと)

黒井(キラに脅迫されたが故のやむを得ない措置だったとはいえ……実に惜しい男を手放してしまったな)

黒井(そして言うまでもないことだが、轡儀も……)

黒井(だが、済んだことをいつまでもとやかく言っていても仕方がない)

黒井(焦ることは無い。時間はいくらでもある)

黒井(……命さえあれば、な)

【同時刻・アリーナ会場内/1階・アリーナ席】


粧裕「えーっと、この次の列だから……ぎゃっ! 本当にほとんど最前じゃん! すごっ」

清美「こんなにステージが近いのね」

月「良かったな。竜崎」

L「はい。こんなに至近距離で春香さんの生のパフォーマンスが拝めるなんて……もう死んでもいいです」

清美「…………。(そういえばそういう設定だったわね)」

粧裕「でもなんか意外だなー。竜崎さんがそんなに春香さんのファンだったなんて」

L「そうですか?」

粧裕「うん。だってなんか、アイドルとかには全然興味無さそうな感じだったもん。学祭の時もそんなこと言ってなかったし」

L「まあ私は隠れですからね。月くんとは違って」

粧裕「えっ。お兄ちゃん、まさか……」

月「……竜崎。妹に勝手に変な事を吹き込むな。僕はやよいちゃ……高槻さんからチケットを貰ったから来ただけで、別にアイドルに興味があるわけじゃない」

L「分かりました。妹さんの手前、今はそういうことにしておいてあげます」

月「お前な……」

粧裕「清美さんは誰のファンなの?」

清美「え? 私? そうねぇ……正直、私もアイドルの事はあんまりよく分からないのだけど……強いて言うなら、やっぱり個人的に親交のある天海さんと星井さんかしら」

粧裕「そっかー。あれからも何回かあの時のメンバーで遊んでるって言ってたもんね」

L「ついこの間も遊園地に行きましたしね」

月「ああ」

粧裕「え、遊園地まで行ってたの? むー、お兄ちゃんってば、そういう時くらい私も呼んでよー!」

月「粧裕は一応受験生だろ」

粧裕「そんなの言ったら春香さんだってそうじゃん」

月「天海さんはいいんだよ。僕が教えてるんだから」

粧裕「何それー! 不公平ー!」

月「……そんなこと言うなら、もう残りの夏休みは勉強見なくていいね?」

粧裕「うえっ! そ、それはだめ。今回の期末だって、お兄ちゃんに付きっきりで教えてもらえたから50番以内に入れたようなもんだし……」

月「だったらワガママ言うな。粧裕」

粧裕「ちぇっ。はーい」

L「仲睦まじい兄妹愛ですね。羨ましいです」

月「今の会話のどこに羨ましがられる要素があったんだ」

粧裕「あーあ。ミサさんも来れたらよかったのにね。せっかくこんなに良い席なんだから」

月「……仕方ないよ。海砂さんもアイドルだからね。急な仕事が入ることくらいあるさ」

L「元々、私達が知り合ったのも学祭でのミサさんのライブがきっかけでしたしね」

清美「そういえばそうでしたね。まだあれからそんなに経っていないはずなのに、もう随分昔の事のように感じるわ」

月「そうだね。……お、そろそろ始まりそうだ」

粧裕「ぎゃっ。もうそんな時間? あー、なんか緊張してきた。やよいちゃん、手振ったら気付いてくれるかな?」

月「…………」

月(やはりミサは来なかったな……それでいい)

清美(やっぱり夜神くんの言った通り、海砂さんは星井さんに……いえ。今は余計な事は考えない方が良いわね。あくまでも今日は普通にライブに参加することだけを考えて……)

L「…………」

【同時刻・海砂の自室】


海砂「…………」

海砂(そろそろライブが始まる時間ね)

 ピリリリッ

海砂「……ヨッシー」ピッ

海砂「もしもし」

吉井『ミサ。具合はどう?』

海砂「……うん。ありがとう。大丈夫だよ」

吉井『そう。ならよかったわ。でも残念だったわね。せっかくの星井さんのライブだったのに』

海砂「まあ仕方ないよ。また次の機会を楽しみに待つよ」

吉井『そうね。今の765プロさんの勢いなら、またすぐに大きなライブやるでしょうしね』

吉井『今日はゆっくり休養をとって、また明日からの仕事に備えてちょうだい』

海砂「……うん。ありがとう。ヨッシー」

吉井『じゃあまた明日ね』

海砂「うん。心配掛けてごめんね。それじゃ」ピッ

海砂「…………」

海砂(次の……か)

海砂(……そういえばライトや竜崎、清美ちゃんは会場に行ってるのかな?)

海砂(今のミサには、もうそれすらも分からない)

海砂(ましてや、美希ちゃんが何を考えてキラの裁きをしているのかなんて……ミサに分かるはずもない)

海砂(でも……)

海砂(美希ちゃんがこれまでずっと、全力で“アイドル”頑張ってきたってこと……それだけはミサにも分かる)

海砂(だってそうじゃなかったら、ミサはきっと、あんなにも美希ちゃんに惹きつけられなかったはずだから)

海砂(だから……今はまだ分からないことだらけだけど、とりあえず今、これだけは言っておきたい)

海砂「―――ライブ、頑張ってね。美希ちゃん」

【同時刻・夜神家のリビング】


幸子「……ふぅ。家事も一段落したし、少し休憩にしましょう」

幸子「今頃、ライトと粧裕はライブを楽しんでる頃かしら」

幸子「それにしても、ライトまでアイドルのライブとはねぇ」

幸子(……まさかあの子、アイドルの隠れオタクとかだったんじゃ……)

幸子「なんて、考え過ぎね。単に家庭教師してる子がアイドルだったからチケット貰っただけって話だし……そもそも今日は、粧裕の保護者役として行ってるだけだもの」

幸子「さて、テレビでも観ましょうか」ピッ

幸子「……あ、またキラ事件の特番……」

幸子「…………」

幸子(大丈夫かしら。お父さん……)








【同時刻・キラ対策捜査本部(都内のホテルの一室)】


総一郎「…………」

総一郎(今の所、ライブ会場内の防犯カメラの映像に不審な点は無い)

総一郎(しかし油断はできん。我々の裏をかき、ライブ中に何か仕掛けてくるという可能性もゼロではない)

総一郎(キラ逮捕の瞬間まで、集中を切らさないようにしなければ……)

ワタリ『夜神さん』

総一郎「あ、はい」

ワタリ『現在、ライブ会場内は異常無し。同時に、星井係長・模木捜査員の様子も変化無し。相違無いでしょうか』

総一郎「はい。相違ありません」

ワタリ『承知しました。ではまた15分後に』

総一郎「はい。よろしくお願いします」

総一郎(15分ごとのワタリからの定期交信……これも当然、竜崎の指示なのだろうが……)

総一郎(この交信の間隔からして……やはり私を信用しきってはいないということか)

総一郎(まあ無理も無いか。今、この捜査本部は私一人……その気になれば、星井君と模木の監禁を解くことなど容易いからな)

総一郎(無論、死んでもそんな事はせんが……)

総一郎「…………」

【同時刻・キラ対策捜査本部のあるホテルの一室】


星井父「…………」

星井父(もう、始まる頃か)

星井父(頑張れ……美希)








【同時刻・キラ対策捜査本部のあるホテルの一室】


模木「…………」

模木(今日は8月1日……予定が変わっていなければ、765プロのアリーナライブの日だ)

模木(元々、竜崎と月くんが観客として招待されていたはずだが、二人は予定通り向かっているのだろうか)

模木(あるいは、もう既に星井美希と天海春香が逮捕されているとしたら、ライブは中止ということも当然ありえるだろうが……)

模木(しかし、今もまだ私が解放されていないということからすれば、おそらくまだキラ事件は解決していない……)

模木(勿論、容疑者の逮捕は事件の解決と同義ではないが……)

模木(……まあ、ここであれこれ考えていても仕方がない)

模木(今の自分にできることは、キラ事件の終結と係長の心の平穏を祈ることくらいだ)

模木「…………」

【同時刻・アリーナ会場内/1階席】


伊出「なんか、すごい熱気だな……まだ始まってもいないのに」

宇生田「ええ。この席だとステージは遠いですが、大きなモニターがあるのでライブ中の二人の様子はあれで確認できますね」

伊出「うむ。後は公演終了後、速やかに出入口まで行けるよう、今のうちに動線を確認しておこう」

宇生田「はい」








【同時刻・アリーナ会場内/2階席】


相沢「しかし、2階席どころか3階席まであるとはなあ」

松田「そりゃあ、天下の765プロのライブっすからね。……はぁ~、これが仕事じゃなかったらなぁ……」

相沢「……お前、今日何しに来たか分かってるよな?」

松田「わ、分かってますって! 冗談ですよ! 冗談!」








【同時刻・アリーナ会場内/3階席】


レイ「……ここからだと、肉眼ではほとんどステージ上の細かな動きは確認できないな。モニターで観るしかない」

ナオミ「そうね。でも会場全体の様子は把握しやすいし、階段にも近いから、公演終了後はすぐに動けるわ」

レイ「そうだな。公演が終わり次第、他の観客にのまれないよう、速やかに例の扉の場所に向かおう」

ナオミ「ええ」

レイ「…………」

レイ(キラが例の二人のアイドルなのか、別の誰かなのかはまだ分からない)

レイ(だがいずれにしても……キラは悪)

レイ(だから私は、キラの逮捕に全力を尽くす)

レイ(それが正義)

レイ(FBI捜査官としては勿論……私個人としても)

【同時刻・アリーナ会場内/ライブステージ裏】


(円陣を組んでいるアイドル・ダンサー一同)

春香「……やっと、ここまで来たね」

亜美「色々あったよね」

美希「……でも、楽しかったの」

貴音「今日は大きな舞台ですが」

真美「みんなでいれば、広くないよね」

やよい「あんなに頑張ったんだもん!」

あずさ「皆で夢、叶えましょう」

伊織「にひひっ。あんたたち、しっかりついてきなさいよね」

真「ボクだって負けないよ!」

雪歩「全力でファンの皆に届けようね」

千早「ええ。私達の歌」

響「ダンサーも全力でついてきてよ!」

ダンサー一同「はい!」

春香「よーし! じゃ、いくよ!」

春香「765プロ! ファイトー!」

アイドル・ダンサー一同「目指せ! トップアイドル!」

響「プロデューサー! 自分達のステージ、ちゃんと見ててよね!」

貴音「行って参ります」

P「ああ! 行って来い!」

P「…………」

(ステージ上へと続く階段を上がっていくアイドル一同)

春香「美希」

美希「春香」

春香「……頑張ろうね」

美希「……うん」








【同時刻・アリーナ会場内/1階・アリーナ席】


(ステージがスポットライトで照らされ、降りている幕にアイドル達のシルエットが映し出される)

L「……いよいよですね」

月「……ああ」









(―――『M@STERPIECE』の前奏が流れ始め、舞台の幕がゆっくりと上がっていく―――)








一旦ここまでなの

おつ

いよいよって感じだな


ついにここまできたか

文字どおりクライマックスの幕開けか

2人死にそうなフラグびんびん

今日で一スレ目から読み切った
期待してる

いよいよか

追いついたと思ったらクライマックスか
どうなるか想像つかんわ

まだかなー

まだかな

【同時刻・アリーナ会場内/2階・観客席】


北斗「さて、そろそろ時間かな」

翔太「他のアイドルのライブなんて滅多に観に来ないから、楽しみだなぁ」

冬馬「……フン。お手並み拝見といこうじゃねぇか」

冬馬「あいつが育てたアイドルがどれほどのもんか……しっかりとこの目で見定めてやるぜ」

北斗「冬馬。なんか随分楽しそうだな」

冬馬「あ? 別にそんな事……いや……そうだな」

翔太「冬馬君」

冬馬「確かに楽しみだ。あいつの育てた、俺達以外のアイドルのパフォーマンスを観るのは」

冬馬「そしてそれ以上に……そいつらを倒して、俺達が真のトップアイドルになることがな!」

北斗「ああ。そうだな」

翔太「目指すはてっぺん、だね」

冬馬「ああ!」

冬馬(負けねぇぞ! 765プロ!)








【同時刻・961プロダクション本社ビル内/社長室】


黒井「…………」

黒井(今日は765プロのアリーナライブの日か。……まあ、今更私にとってはどうでもいいことだが)

黒井(しかし結局、弥海砂を使って『黒いノート』を押さえさせるという作戦はどうなったのか……こうして765プロが普通にライブをしようとしている以上、まだ星井美希も天海春香も捕まっていないのは間違い無いだろうが……)

黒井(まあいい。もはや誰がキラであっても構わない。私は少しでも早くこの死の恐怖から解放されることを願うばかりだ)

黒井(しかし、キラの件を別にすれば……今日のライブは、あいつが765プロに移籍してからの最初の大きなライブ……まさにあいつが765プロのプロデューサーとして行ってきたプロデュース活動の集大成ともいえる)

黒井(だがあいつは言っていた。もしキラ事件が解決したとしても、もううちに戻ってくる気は無いと)

黒井(経緯はどうあれ、今の自分はもう『765プロダクションのプロデューサー』なのだと)

黒井(キラに脅迫されたが故のやむを得ない措置だったとはいえ……実に惜しい男を手放してしまったな)

黒井(そして言うまでもないことだが、轡儀も……)

黒井(だが、済んだことをいつまでもとやかく言っていても仕方がない)

黒井(焦ることは無い。時間はいくらでもある)

黒井(……命さえあれば、な)

以下、>>283からの続きとなります

(幕が完全に上がり、総勢十二名のアイドルがその姿を現すと、場内から一斉に歓声が上がる)

(同時に、場内のモニターには曲名を示す『M@STERPIECE』の文字が映し出される)

(メロディーに乗ったアイドル達の歌声が会場内を満たしていく)

アイドル一同『――――――♪』

粧裕「す、すごい迫力……! やっぱりテレビで観るのとは全然違う……!」

清美「…………」

清美(これが、アイドル……)

月「……新曲、か……」

L「…………」

月「? 竜崎?」

L「え、ええ……そうですね。『M@STERPIECE』……ですか。初めて聴く曲ですね……」

月「…………?」

月(何だ? 竜崎の様子が……)

L「…………」

月(“竜崎ルエ”としての演技か? “アイドル・天海春香”のファンとしての……)

月(だが今、この場においてそれをする必要があるのは粧裕に対してだけ……しかし当の粧裕はステージ上のアイドル達に完全に目を奪われている。そこまでの必要性は……)

L「…………」

L(気のせい……ではない)

L(舞台の幕が上がってから、ずっと)

L(ステージ上から一つの視線が―――私という一点を捉え続けている)

L(その視線の主こそ)

L(私がずっと、追い続けてきた―――)




美希『――――――♪』




L「…………」

L(―――星井美希)




美希(……“竜崎ルエ”……)

(視線をLに向けたまま、『M@STERPIECE』を歌う美希)




美希『――――――♪』

L「…………」




美希(ねぇ。竜崎)

美希(覚えてる?)

美希(今から十日前。ミキと二人でこのアリーナに来た日)

美希(“約束”してくれたよね?)




―――ライブ、一生懸命頑張るから……ミキのコト、ちゃんと最後まで観ててね。約束なの。

―――はい。約束します。必ず最後まで全力で応援させて頂きます。




美希『――――――♪』

美希(“約束”……ちゃんと、守ってもらうからね)

美希「…………」

(曲が間奏に入ったタイミングで、美希はLから視線を外した)

L「…………」

L(妙だ。心がざわついている)

L(この感覚、前にもどこかで……)

L(! ……そうだ)

L(今から十日前。星井美希と二人でこのアリーナに来た日)

L(あの日、星井美希が涙を流している様子を目の当たりにした私は……言いようもない不安を覚えた)

L(今のこの感覚は、あの時の感覚と極めて酷似している)

L(そう。まるで―――)

L(魂の奥の奥。精神の根幹を、強く揺さぶられているかのような――……)

L「…………」

(間奏が終わると、美希は再びマイクを手に『M@STERPIECE』を歌い始める)

(その瞬間、再び)

(美希の目とLの目が逢う)




美希『――――――♪』

L「…………」




美希(ねぇ。竜崎)

美希(いや……“L”)

美希(今日まで、本当に色んなことがあったね)

美希(ミキがキミと初めて出会ったのは、ミキがデスノートを拾ってから二週間くらいが経った頃だった)

美希(“出会った”って言っても……あのトキはテレビの画面越しだったけどね)

美希(あの頃はまだ、お互いの顔も名前も知らなかった)

美希(それから暫く経ったある日)

美希(765プロの事務所に二人組の刑事さんが来た)

美希(あの時はもう駄目かと思ったの)

美希(でも)

美希(絶体絶命の状況で―――春香がミキを助けてくれた)

美希(それからまた少し時間が経って)

美希(ミキは、やっとキミに……“L”に出会えた)

美希(身代わりでも替え玉でもない、本物のキミに)




美希『――――――♪』

L「…………」

美希(生身のキミと初めて出会ったのは、東大の学祭の日だった)

美希(あの日キミは、春香のファンと嘘をついた)

美希(ミキも、春香からキミの本名を聞くまではすっかり信じてたっけな)

美希(今となっては懐かしいの)

美希(その後すぐ、二人で一緒にスイーツ屋さんに行ったね)

美希(あの時食べたいちごババロア、すごく美味しかったな)

美希(……ちなみにだけど)

美希(ミキね。パパ以外の男の人と二人で会ったのは、あのトキが初めてだったんだよ)

美希(つまりミキの初デートの相手はキミだったってワケ)

美希(そこんとこ、少しはコーエイに思ってほしいな。……なーんて、ね)

美希(そうそう。スイーツ屋さんの後、ミキの家に来てパパと会ったよね)

美希(あの時、竜崎もパパも必死に演技してたんだなって思うと……正直ちょっと面白いの)

美希(……ま、演技はお互い様だけどね)

美希(その後は、学祭の時に知り合ったメンバー……『竜崎と愉快な仲間達』で集まったりしたね)

美希(皆で『眠り姫』を観に行ったり、遊園地にも行った)

美希(そうそう。キミと二人で回ったお化け屋敷は結構スリリングだったよ)

美希(色んな意味で、ね)

美希(そして―――今から十日前。ミキはキミと二人きりでここに来た)

美希(今、ミキが立っているこの場所。アリーナのステージに)

美希(全く、こんなに短い間にミキと二回もデートできるなんて。キミはホントーに幸せ者だね。竜崎)

美希(……なんてね。あはっ)

美希(でも)

美希(どれもこれも、印象的な出来事だったけど)

美希(ミキは)

美希(今日を、“今”を―――キミにとって、最高の思い出にしてあげるの)

美希(竜崎)




美希『――――――♪』

L「…………」

美希(ねぇ。竜崎)

美希(キミはLで、ミキはキラだけど)

美希(今はそれも関係無いの)

美希(だって今、キミの目の前にいるのは―――)

美希(他の誰でもない)

美希(アイドル・星井美希だから)

美希(ねぇ。竜崎)

美希(今日は……いや)

美希(今日で)

美希(キミを、ミキのファンにしてあげる)

美希(春香の時みたいな“ニセモノ”じゃない)

美希(“ホンモノ”のファンに)

美希(ねぇ。竜崎)

美希(だから)

美希(キミにもっと見てほしいの)

美希(ミキのコト)

美希(そして)

美希(分かってほしいの)

美希(ミキの―――“全部”を!)




美希『――――――♪』

L「…………」




L(何だ? これは……)

L(私はこれまで、捜査の過程で星井美希のライブ映像を何十回……いや、何百回と観てきた)

L(しかし、今日のこのステージは……)

L(私が今まで観てきたどのステージの映像とも違う)

L(何が、と言われても明確には説明できないが――……)




美希『――――――♪』

L「…………」




L(奪われる)

L(あの瞳から―――視線を逸らせない)

L(まさか)

L(魅了……されているというのか? この私が)

L(キラである、星井美希に……)

L(馬鹿な)

L(そんなことあるはずがない。いや……あってはならない)

L(だが)

L(今……私は)




美希『――――――♪』

L「…………」




L(星井美希の―――今日のこのステージが終わることなく、ずっと続けばいいのにと)

L(そう思っている)

L(そして同時に)

L(彼女を―――“アイドル・星井美希”を)

L(この先もずっと観ていきたいと)

L(そう願っているのだ)

L「…………」

(『M@STERPIECE』の後奏が終わるのと同時、ステージの中央部に一列に並んだアイドル達がゆっくりと両手を上げる)

(その瞬間、場内は一斉に歓声と拍手に包まれる)

(ステージ上の美希は、真っ直ぐにLを見つめている)




美希「…………」

L「…………」




(やがてステージの照明が消え、アイドル達の姿は見えなくなった)

粧裕「あーっ、最初っからすごかった~。あ、そうだお兄ちゃん! 私、何回かやよいちゃんと目が合ったよ! 多分気付いてくれてたと思う!」

月「……そうか。良かったな。粧裕」

粧裕「? お兄ちゃん? どうかしたの?」

月「……いや、何でもないよ。少し暑くてね」

粧裕「ああ、確かに暑いよね~。もう熱気ムンムンって感じ!」

月「…………」

月(何だ? これは……)

月(曲の途中から、妙な感覚に襲われた)

月(まるで、意識が丸ごとステージの方へ持っていかれそうな……)

L「…………」

月「……竜崎?」

L「えっ。あ、はい。何ですか? 月くん」

月「いや、何かボーっとしていたからさ。……さては案の定、春香ちゃんのステージ姿に見蕩れてたな? はは……」

L「え? あ、ああ……まあ、そうですね……」

月「…………?」

月(何だ? その要領を得ない返答は……)

月(今のは“竜崎ルエ”として自然な演技をすべき場面だろう)

月(もっとも今は粧裕にさえ怪しまれなければいいという状況……そしてその粧裕はライブに夢中で竜崎の様子など微塵も気に留めていない……ならばあえて気にする必要も無い……か)

月(……そうだな。それに今は僕も、ライブの方に集中すべき……)

月(勿論、それは星井美希と天海春香の動向を監視するためだが……)

月(それだけでなく……いや、それ以上に……)

月(『そうしなければならない』……そんな気がする)

清美「…………」

清美(す、すごかった……。これが“アイドル”……)

清美(平静を装うとか、普通にするとか……そんなことを意識する必要が全く無いくらいに)

清美(ただただ、ステージに没頭させられていたわ)

L「…………」

L(……星井美希……)

(五時間後・アンコール曲『虹色ミラクル』終了)

(歓声と拍手が鳴り止まぬ中、ステージの中央部に並んだアイドル達の中から春香が一歩前に出る)

春香『――皆さん! 本日は、765プロオールスターズライブ『輝きの向こう側へ!』にご来場いただき、本当に―――』

アイドル一同『ありがとうございました!!』

 ワァアアアアア…… パチパチパチパチ……

美希「…………」

(他のアイドル達が思い思いにファンに向かって挨拶をしている中、美希は無言のまま、客席の中の一点のみを見つめている)




美希「…………」

L「…………」




(美希はLを見つめたまま、ゆっくりと口を開いた)

美希『―――“キミは”ミキのファンになってくれたかな?』

L「!」

美希『……なーんてね。あはっ』

L「…………」

(美希の発言で、会場は一層の盛り上がりを見せる)

 ウォオオオオオオ!!!! ミキミキー!!!! ワァアアアアア……




美希「…………」

L「…………」




(互いに見つめ合う美希とL)

(やがてステージの照明が消えると、互いに互いの姿が見えなくなった)




美希(……竜崎……)

L(……星井美希……)

(ほどなくして、アリーナライブの全公演終了を告げる場内アナウンスが流れ始める)

月「……終わったか。では、竜崎。早く……」

L「…………」

月「? 竜崎?」

L「え? あ、ああ……そうですね。すみません。月くん」

月「…………」

粧裕「あー、来て良かった~っ。もう私、今日の事は一生忘れない!」

清美「……本当、すごかったわね。五時間も経っていたなんて思えないくらい」

粧裕「そうそう、ホントあっという間って感じ! ……あー、これしばらく余韻抜けなさそう」

月「高田さん。粧裕。……悪いんだけど、竜崎が物販で買い忘れたグッズがあるらしいから、ちょっと今から一緒に行って来るよ」

清美「! ……ええ。分かったわ。じゃあ私と粧裕ちゃんは先に会場を出ておけばいいのかしら?」

月「ああ。アリーナを出てすぐのところに喫茶店があったはずだから、後でそこで合流しよう」

清美「分かったわ。それじゃあ先に行っておきましょうか。粧裕ちゃん」

粧裕「うん。じゃあまた後でね。お兄ちゃん。竜崎さん」

月「粧裕。くれぐれも迷子にならないように、ちゃんと高田さんについて行くようにね」

粧裕「こ、子ども扱いしないでよ! お兄ちゃん! 私もう中三だよ!?」

月「はは。ごめんごめん。……じゃあ、悪いけど粧裕をよろしくね。高田さん」

清美「……ええ。分かったわ」

月「さて……じゃあ僕達も行こうか。竜崎」

L「はい。付き合わせてしまってすみません。月くん」

(清美・粧裕と別れ、連れ立って歩き出すLと月)

粧裕「もしかして、お兄ちゃんもグッズ買うつもりなのかな……。だとしたら、やっぱりお兄ちゃんは隠れアイドルオタク……?」

清美「……竜崎さんの付き添いらしいから、それはないんじゃないかしら」

粧裕「そっかぁ。それによく考えたら、もう既にアイドルを二人も家庭教師で教えてるわけだし……わざわざ隠す意味もないか」

清美「…………」

清美(このタイミングで、夜神くんと竜崎さんが二人だけで別行動……)

清美(私は何も聞いていないけど……今から何かするつもりなのかしら?)

清美(……いえ。夜神くんが私に何も言っていないということは……余計な心配はしなくていいということ)

清美(なら今、私にできることは……夜神くんを信じて、夜神くんの言う通りにすることだけ)

清美(そう。それでいい。それが夜神くんと私の未来にとって最善の選択となるはずだから)

清美(今は、それで……)

(アリーナ内の通路を移動しているLと月)

月「……ところで、竜崎。具体的なミーティングの場所はプロデューサーから聞くとしても、普通に考えて、おそらく関係者以外は入れないスペースだろうと思うが……一体どうやってそこまで潜入するつもりなんだ?」

L「…………」

月「竜崎?」

L「ああ……すみません。そういえばまだ潜入の方法を説明していませんでしたね」

L「ではとりあえず、これを首から下げておいて下さい」スッ

月「? これは?」

L「ワタリが偽造した会場内スタッフ専用の入館証です。これさえ身に着けておけば、誰にも怪しまれることなく関係者専用のスペースにも立ち入れます。なお関係者用扉の近くに張り込む予定になっているマーク・間木の二人にも既に同じものを渡しています」

L「また会場内のロックが掛かっている扉の暗証番号も全てワタリが事前に解読しています。これで本来スタッフしか開けられない扉も全て解錠できます」

月「なるほど。流石だな竜崎……いや、この場合はワタリか」

L「それから、月くん。本来の作戦では、月くんは伊田さん達と一緒に一般の出入口を見張ることになっていますので……携帯からでいいので、今から私がアドレスを送るページにパス入力の上ログインして下さい」

L「そのページからは、この会場の一般の出入口付近の防犯カメラの映像を観れるように設定しています。なので月くんは都度そちらの映像を確認しつつ、あたかも実際に現場に張り込んでいるかのような体で、伊田さん達と定期的に状況確認を行うようにして下さい」

月「分かった。色々とありがとう。竜崎」

L「いえ。あとついでにこれもお願いします」スッ

月「これは……」

L「はい。もうすっかりお馴染みとなったタイピン型の超小型マイクと……こちらは今日初めて使うものですが、超小型のウェアラブルカメラです」

L「これらの音声と映像は、いずれもワタリのPCに“のみ”リアルタイムで転送されるように設定しています」

月「! と、いうことは……」

L「……はい。すみません。ワタリにだけは、月くんが私に同行して二人の逮捕に向かうということを伝えています」

月「…………」

L「そうしておかなければ、私達が二人とも死神に殺されてしまうような事態になった場合……その証拠をどこにも残せなくなってしまいますので」

L「もっとも、死神そのものの姿はカメラには映らないでしょうが」

月「……そうだな。分かった。僕は自分が現場に行ければそれでいい」

L「ありがとうございます。月くん」ピッ

(携帯電話を操作するL)

L「……ワタリ」

ワタリ『はい』

L「こちらのマイクの音声、カメラの映像はいずれも問題無く受信できているか?」

ワタリ『はい。いずれもクリアーに受信できています』

L「分かった。では引き続きよろしく頼む」

ワタリ『分かりました』

(ワタリとの通話を終えたL)

L「ではこれらは両方、月くんが身に着けておいて下さい」

L「もし死神が私達を殺しにかかるとした場合、普通に考えて“L”である可能性が高い私の方を先に殺そうとするでしょうから」

L「証拠は少しでも長く、多く押さえておきたい」

月「……ああ。分かったよ」スッ

(月はLからマイクとカメラを受け取ると、マイクをズボンのポケットに、カメラをシャツの胸ポケットにそれぞれ仕込んだ)

おかえり
ああ
おわってしまう

月「でも、ミーティングが行われる部屋の手前までは『スタッフ』で通れるとしても……いざその部屋に踏み込む際はどうするんだ? このまま顔を出して行くのか、無駄を承知で顔を隠すか……」
  
L「……死神の存在を考えれば、顔を隠して行くのは逆効果でしょうね。即座に星井美希・天海春香の敵とみなされて殺されてしまう危険がある」

月「だが顔を出して行くとしても、警察、あるいは“L”の手の者だと名乗ればどのみち同じ事……ならばこちらの素性は何も明かさずに……いや、待てよ。そもそも僕と竜崎が顔を出して踏み込めば、その時点で星井美希と天海春香……あと高槻やよいには確実に反応されてしまうな」

L「はい。なので、逆にそれを利用します」

月「逆に? ……ああ、そういうことか」

L「はい。“竜崎ルエ”は、天海春香がデビューして間も無い頃からずっと一途に彼女を追い続けてきた熱狂的なファン……そんな人物が『初めて天海春香のライブを生で観て、心の底から感動した。この感動と感謝の気持ちを彼女に直接伝えずにはいられなかった』などと発言したとしても……そこまで無理のある話ではありません」

月「強引に踏み込んできた理由としてはそれで通っても……現実的な対応としては別問題だろうな。普通に考えれば即退出、となるだろうが……」

L「しかし立場上、星井美希と天海春香は私達の存在を無視できません。その場に高槻やよいがいるのに『知らない人です』とは口が裂けても言えない」

月「確かに。天海春香と高槻やよいの家庭教師をしている僕は勿論、竜崎も学祭の時に高槻やよいと面識を持っているからな」

L「はい。とすれば、『元々の知り合い』というよしみで、ほんの少しの間だけ……星井美希と天海春香の二人を部屋の外に連れ出す、ということもあながち不可能ではないと考えています」

L「またプロデューサーも当然その場に居るでしょうが、彼は『天海春香の家庭教師である夜神月』および『その友人または知人とおぼしき“竜崎”なる人物』という存在は認識していても、それらが『“L”』あるいは『“L”の関係者』であるとは認識していない」

L「つまり、星井美希と天海春香の『元々の知り合い』である『夜神月』と『“竜崎”』がミーティングの場所に現れたところで、まさかそれが『“L”』あるいは『“L”の関係者』だとは夢にも思わない」

月「ああ。既に竜崎から『ライブ直後に二人の尋問を行う』と明確に伝えている以上、プロデューサーは“L”の手の者が正面から踏み込んでくるものと思っているだろうからな」

L「はい。なので、その場ではプロデューサーの存在は無視しても差し支えないでしょう」

L「そして私達は星井美希と天海春香の二人を残りの765プロダクション関係者から隔離し、人目につかない場所で逮捕する」

L「二人の身柄さえ押さえてしまえば後はどうとでもなりますから……速やかに他の捜査員全員を招集し、うち数名で星井美希と天海春香を捜査本部に連行……残りのメンバーで引き続きその他の765プロダクション関係者の監視を行う」

月「星井美希と天海春香の二人を外部からの連絡を完全に遮断できる状況下に置くまでの間、だな」

L「はい。765プロダクションの強固な団結力を考えれば当然の対応です」

月「そうだな。ではその流れでいこう。竜崎」

L「はい。よろしくお願いします。月くん」

L「……もっとも、これはあくまでも死神が最後まで私達に干渉しないとすれば、と仮定しての話ですけどね」

月「まあな。だがもうそこは開き直っていくしかないだろう。最終的にはどこかで僕達が二人の身柄を押さえなければならない以上、その際に死神がどんな行動に出るのかは予測しようがないわけだし」

L「そうですね」

月「……では、後はプロデューサーからの連絡を待つだけだな。といっても、ミーティングの時間と場所を伝えるだけ……そう時間が掛かるとも思えないが」

L「そうですね。ただ事前に牽制しておいたとはいえ、彼が私に連絡をしてこないという可能性も十分にありますから……あと数分待っても連絡が無いようなら、私の方から電話を掛けます」

月「ああ。そうだな」

【同時刻・アリーナ会場内/1階席】


伊出「……すごい迫力だったな。これがアイドルのライブか……」

宇生田「……ええ。場内もまだ興奮冷めやらぬ、といった様子ですね」

伊出「アイドルのライブとしては、非の打ち所が無い完璧なものだった。そして例の二人も――……素人目に見ても、他のアイドル達に勝るとも劣らない、極めて高いレベルのパフォーマンスを発揮していたように思う」

宇生田「はい。それだけ今日のこのライブに懸けていたんでしょうね。……勿論、だからといって監視を緩める理由にはなりませんが」

伊出「その通りだ。俺達は俺達の仕事をしよう。出入口に急ぐぞ」

宇生田「はい!」








【同時刻・アリーナ会場内/2階席】


相沢「すごい……これが765プロのライブか。これだけの数のファンが集まるのも分かる気がするな」

松田「…………」

相沢「おい、松田? ……じゃない。松井?」

松田「え、あ、はい。何すか? 相沢さ……いえ、相原さん」

相沢「何すか、ってお前……まさか、普通にファンとしてライブを楽しんでたんじゃないだろうな……?」

松田「ええっ!? や、やだなあ。そんなわけないじゃないっすか。ちゃんと例の二人に不審な動きが無いかどうか観てましたって。はは……」

相沢「……まあいい。行くぞ」ダッ

松田「あ、はい。……って、ちょ、ちょっと待って下さいよ。何もそんなに急がなくても……」

相沢「俺達は一旦外に出てから例の扉の所まで回り込まないといけないんだ。ちんたらしている暇は無いだろ」

松田「そ、それは分かってますけど。はぁ……もうちょっと、ライブの余韻に浸っていたかったのになぁ……」

相沢「……お前な」

松田「じょ、冗談ですって! 冗談! さあ、急ぎましょう! 相原さん!」ダッ

 ドンッ

「わっ」

松田「あ、す、すみません!」

「い、いえ……」

相沢「? どうした?」クルッ

松田「あ、大丈夫っす。どうもすみません、急いでいたもので……」ペコリ

「……いえ」

松田「本当、すみませんでした。それじゃ」ダッ

相沢「……ったく、気を付けろよ」

松田「はは……」

(早足でホールの出口に向かって歩いていく相沢と松田)

冬馬「何だ? 今の奴ら。妙に急いでたみたいだったけど……」

翔太「…………」

北斗「大丈夫か? 翔太。今、結構真正面からぶつかってたけど」

翔太「うん。それは全然大丈夫。だけど……」

北斗「?」

冬馬「何だよ?」

翔太「……いや、今の二人組、どこかで……あ!」

冬馬・北斗「?」

翔太「分かった! 相原刑事と松井刑事だ!」

冬馬「え?」

翔太「ほら、前に僕達に話を聞きに来た二人組の刑事さん!」

北斗「あー……そう言われてみれば、あんな顔だった……かな?」

冬馬「俺は一瞬過ぎて分からなかったな。大体、あの時と違って私服だったし……つかお前、そんなのよく分かるな」

翔太「まあね。でも何であの時の刑事さんがこんな所にいたんだろう?」

北斗「そりゃあ……単に765プロのファンだったんじゃないのか?」

冬馬「まあこれだけの数の人間があいつらを観に来てんだ。刑事が一人二人混じってても別におかしくはねぇだろ」

翔太「ま、それもそうか」

冬馬「…………」

北斗「冬馬?」

翔太「どうかしたの?」

冬馬「いや……改めて、さっきのライブを思い返してた」

北斗「冬馬」

翔太「冬馬君」

冬馬「―――流石、だ」

北斗・翔太「…………」

冬馬「あいつが……○○がプロデュースしただけのことはある。いや、こうでなきゃ面白くねぇ」

北斗「……ああ」

翔太「だね」

冬馬「あいつらの実力は本物だ。だからこそ俺達はあいつらに……○○が育てた765プロに勝つ」

冬馬「そして俺達が、真のトップアイドルになるんだ!」

北斗「ああ。そうだな。冬馬」

翔太「へへっ、燃えてきたね」

冬馬「おっし! ……北斗。翔太。そうと決まれば、早速帰ってレッスンすんぞ!」

北斗「ああ!」

翔太「そうこなくっちゃ!」

冬馬(見てやがれ! 765プロ。そして……○○)

冬馬(俺達は絶対に……お前らを超えてみせるからな!)

【同時刻・アリーナ会場内/3階席】


レイ「……すごい迫力だったな。まさか日本のアイドルのレベルがこんなに高いとは」

ナオミ「確かにね。……って、何が目的でここに来たのか忘れてないでしょうね? マーク」

レイ「勿論だ。早く移動しよう。照子。ここからが本当の勝負だ」

ナオミ「ええ。そうね」

レイ「…………」

レイ(しかし本当にあの二人のアイドルが……キラなのか?)

レイ(少なくとも今日のステージを観る限り、彼女らが日々犯罪者を裁いているなんて、とても……)

レイ(いや……今は余計な事を考えている時ではないな)

レイ(キラが誰であれ、キラを捕まえることは正義)

レイ(ならば私は、その正義の実現に全力を尽くすだけだ)

ナオミ(……『星井美希』と『天海春香』……)

ナオミ(今日のステージを観る限り、この二人のアイドルとしての実力は紛れも無く本物だった)

ナオミ(アイドルとして完全なる成功を収めているこの二人が……本当にキラなのだとしたら)

ナオミ(そして今日、この二人が“キラ”として逮捕されるのだとしたら――……)

ナオミ(この事件は日本史上……いえ、世界史上……最も哀しい事件になるのかもしれないわね)

ナオミ「…………」








【同時刻・アリーナ会場内/3階・観客席】


小鳥「うぅ……本当に皆、よくここまで……。これはもう、間違い無く765プロ史上最高のライブでしたね! ね? 社長」

社長「…………」

小鳥「しゃ、社長?」

社長「え? あ、ああ……何だい? 音無君」

小鳥「何だいって……社長、今完全に魂抜けてましたよ」

社長「はは……すまんすまん。アイドル諸君の素晴らしい成長ぶりにすっかり感極まってしまってね。もう……何も言葉が出ないよ」

小鳥「社長……」

善澤「確かにそれは同感だな」

小鳥「善澤さん」

善澤「本当に、素晴らしいライブだった。ここに至るまでの苦労を知っているだけになおさらそう感じたよ」

小鳥「……そうですね。本当、そうですね……」

(目元をそっと指で拭う小鳥)

社長「音無君……」

小鳥「あはは……やだわ、もう。年取ると涙脆くなっちゃって。……さあ、じゃあそろそろ皆の所へ行きましょうか」

社長「うむ。そうだな。早く皆に労いの言葉を掛けてやらねば」

善澤「私も一緒に行っていいかい? 是非、アイドルの皆のライブ直後の感想を記事にさせてもらいたいんだが」

社長「ああ、勿論だとも。存分に取材してくれたまえ。では行こう。我が事務所の誇る、素晴らしいアイドル諸君のもとへ!」

【同時刻・アリーナ会場内/3階・関係者席】


天海母「いやぁ、すごかったわねぇ。今まで観たどのライブよりも迫力があったわ」

菜緒「本当……すごかったですね。私、ちょっと泣いちゃった」

星井母「…………」

菜緒「ママ?」

星井母「え? ああ、うん。そうね……本当、すごかったわ」

天海母「星井さん。菜緒さん。良かったらこの後、一緒に控室に行ってみませんか? 多分会えると思いますよ」

菜緒「あ、いいですねそれ! 他のアイドルの子達とも話してみたいし」

星井母「……いえ、折角ですけど私はやめときます」

天海母「あら、そうですか?」

菜緒「えー? 何で? ママ」

星井母「今は美希も疲れてるでしょうし……やめておいた方が良い気がするの」

天海母「そう? ならやめておきましょうか。また家で会えますしね」

菜緒「ちぇっ。ざーんねん」

星井母「別に菜緒一人で行って来てもいいわよ」

菜緒「んー。まあいいや。今頃、皆で反省会とかしてるのかもだしね」

天海母「じゃあこの後、三人で軽くお茶でもしていきません? 確か、ここを出てすぐのところに喫茶店がありましたし」

星井母「ええ。それはいいですね」

菜緒「わーい! 私、ライブの感想会やりたいです!」

天海母「そうね。心ゆくまで語り合いましょう」

菜緒「えへへ、楽しみ~」

星井母「……それじゃあ、行きましょうか」

星井母「…………」

星井母(お疲れ様。美希)

【同時刻・キラ対策捜査本部のあるホテルの一室】


星井父「…………」

星井父(時計が無いから正確な時刻は分からないが……外の太陽の傾き具合からして、ちょうどライブが終わった頃くらいか)

星井父(こちらから何か伝える時は、この机の真上にあるカメラに向かって……だったな)

星井父「……局長」

 カチッ

(何かのスイッチが入る音がした後、室内のスピーカーから総一郎の声が聞こえる)

総一郎『……何だ?』

星井父「美希は元気にしていますか?」

総一郎『……答えられない』

星井父「ライブはもう終わりましたか?」

総一郎『……答えられない』

星井父「私はまだ……美希の父親でいられますか?」

総一郎『……答えられない』

星井父「分かりました。どうもありがとうございました」

総一郎『…………』

 カチッ

(スイッチが切れる音がした後、部屋にはまた静寂が戻った)

星井父「…………」

星井父(美希)

星井父(今の俺は、もうお前の父親とは名乗れないのかもしれない)

星井父(それだけの事をしてしまった人間だからな)

星井父(でも)

星井父(でもな。美希)

星井父(それでも、何があっても……お前は、俺の……パパの娘だ)

星井父(たとえお前が、本当に――……)

星井父「…………」

【十五分後・アリーナ/控室】


(プロデューサーと律子が、ステージから戻ってきたばかりのアイドル・ダンサー一同と向かい合っている)

P「皆。ついさっき、舞台裏でも言ったばかりだが……もう一度、改めて言わせてくれ」

P「今日は本当に、本当に――――最高のステージだったぞ!」

P「本当に……お疲れ様」

アイドル・ダンサー一同「はい! ありがとうございました!」

P「春香」

春香「! はい」

P「……お疲れ様。リーダーとして、最後までよく頑張ってくれたな」

春香「……はい! ありがとうございます! プロデューサーさん!」

律子「本当によく頑張ったわね。皆。もう何も言うことは無いわ」

亜美「亜美達こそ、ありがとうね。りっちゃん」

あずさ「全部、律子さんとプロデューサーさんのお陰です。本当にありがとうございました」ペコリ

律子「亜美。あずささん……」

伊織「ほら、律子。約束通り、私の胸で泣いてもいいわよ?」

律子「ば、バカっ。……でも」

伊織「ん?」

律子「……ありがとね。伊織」

伊織「……ん」

美希「…………」

 ガチャッ

(ドアが開き、社長、小鳥、善澤が姿を見せる)

社長「やあ、皆。お疲れ様」

P「社長。お疲れ様です」

アイドル・ダンサー一同「お疲れ様です!」

小鳥「最高のライブだったわ! 皆、グッジョブよ!」グッ

善澤「本当にお疲れ様だったね。皆。後でまたゆっくり話を聞かせておくれ」

P「音無さん。善澤さん。どうもありがとうございます」

社長「いやはや、それにしても……偶然とはいえ、昨年のファーストライブの日と同じ、この8月1日に……またもこのような素晴らしいライブが観られるとは。本当に感無量だよ」

小鳥「去年のファーストライブも、それはそれですごかったですけどね。善澤さんに記事にして頂いたお陰もあって、皆が一気に売れるきっかけになりましたし」

善澤「いや何、私は大したことはしていないさ。皆の実力あっての事だよ」

春香「…………」

社長「それでは、皆。もうプロデューサーや律子君からも言われた事だろうとは思うが……改めて、私の方からも言わせてくれ」

社長「今日のアリーナライブの成功、本当におめでとう!」

アイドル・ダンサー一同「はい! ありがとうございます!」

社長「天海君」

春香「えっ。あ、はい」

社長「ライブのリーダーとして、今日までよく頑張ってくれたね。本当にご苦労様だった」

春香「い、いえ、そんな。私なんか、何も……ただ、皆が一生懸命やってくれたお陰で……」

社長「確かに、今日のライブの成功は皆の頑張りあってのものだ。その事自体は間違いない。でも、やはり私は……君がリーダーを務めてくれたからこそ、今日の結果につながったのだと思うよ」

春香「社長さん……」

社長「だから改めて言わせてくれ。リーダー、お疲れ様。天海君」

春香「……はい! ありがとうございます!」

美希「…………」

P「よし、じゃあこの後は全員でミーティングだ。律子、皆の着替えが終わったら連絡してくれ」

律子「分かりました」

P「では社長、善澤さん。俺達は一旦外に」

社長「うむ」

善澤「どれ、じゃあ私は今のうちに一服させてもらうとするかな」

P「…………」

P「……“ミーティング”……?」

社長「? どうかしたのかね?」

P「……いえ。何でもないです。では出ましょう」

社長「? うむ」

 ガチャッ バタン

P「…………」

P(何だ?)

P(何かしなければいけなかったような気がするのに……思い出せない)

P「…………」

【アリーナ/控室】


(プロデューサー、社長、善澤が退出し、部屋に居るのはアイドル・ダンサー一同、律子、小鳥だけとなっている)

(アイドル・ダンサー一同は着替えながら、思い思いに談笑している)

真「間違いないよ! あれは絶対、センター試験の会場でボクの隣の席だった超イケメンの王子様! ほとんど最前の席だったから見間違えっこないもん!」

亜美「えー、そんなヒトいたのー? なら言ってよまこちんー! 亜美もイケメン王子様見たかったのにー!」

真美「そうだそうだー! 独り占めなんてずるいぞー!」

真「あはは……ごめんごめん。ライブ中に皆の集中を乱したら悪いと思ってさ。でも、まさかボク達のライブに来てくれてたなんて……あ! もしかしてセンター試験の時にボクの事に気付いてて、それでボクを追っかけてここまで来てくれたのかな!?」

亜美「あ、ああ……うん。そうかもね。なんていうか、乙女モード入ってるまこちんはいじりにくいな……」

真美「でもいいな~。真美もイケメンの王子様にエスコートとかされたいな~」

伊織「もう。何ませたこと言ってんのよ」

亜美「そんなこと言ってー、いおりんだってイケメン王子様見たかったーって思ってるんでしょ?」

伊織「んなぅっ!? そ、そんなこと思ってないわよ!? ねぇやよい?」

やよい「へっ?」

真美「なんでそこでやよいっちに……」

亜美「困ったらとりあえずやよいっちに振って誤魔化すいおりんなのであった」

伊織「べ、別に誤魔化してないわよ!」

やよい「……んー。私もそんな人がいたなんて全然気付かなかったけど……でもいたなら見てみたかったかも」

伊織「え? そ、そうなの? やよい」

やよい「うん。だってすごくかっこいい人なんでしょ? それならふつーに見てみたいかなーって」 

伊織「あ、あらそう……まあ、それは……そうかもね。うん」

亜美「あはは。案外やよいっちの方がいおりんよりオトナだったりしてね♪」

真美「だね♪」

伊織「も、もう! 何なのよっ!」

 アハハ……

律子「……男性陣がいなくなった途端、ガールズトーク全開ですね……」

小鳥「まあたまにはいいんじゃないですか? アイドルとはいえ、皆、お年頃の女の子なんですし」

律子「そうですね。皆、同年代の子が当たり前のようにしていることもなかなかできませんからね」

小鳥「ええ。それに今日のライブの成功で、これからまた一層忙しくなるでしょうから……せめて今日くらいは、ね」

律子「はい」

真「ねぇねぇ、美希は気付いてた? 観客席の王子様!」

美希「……んー。ミキも気付かなかったな」

亜美「流石ミキミキ、そんじょそこいらのありふれたイケメン君なんて眼中にナシ、ってカンジですかな?」

美希「別にそういうわけじゃないけど」

真「亜美。あの王子様は確かにイケメンだけど、そんじょそこいらにありふれてなんかいないよ」

亜美「わ、分かったよまこちん。分かったから瞳孔開くのやめて」

伊織「ていうか美希の場合、単にマイペースってだけでしょ」

美希「でこちゃんはもうちょっと自分に正直になった方がいいって思うけど」

伊織「わ、私は十分正直よっ! っていうかでこちゃん言うなあ!」

真美「でも実際、ミキミキのルックスに釣り合う男の人なんてそうそういないよね~」

亜美「うんうん。どうしてもミキミキの方が目を引いちゃうもんね」

やよい「今日のライブも、美希さんすっごくキラキラで……私、舞台の袖で観てて感動しちゃいました!」

真「確かに、美希はいつもすごいけど……今日は一層際立っていた感じがしたね。去年のファーストライブの時もすごかったけど、正直あの時以上だったかも」

真美「うんうん。元々のルックスの良さもさることながら、なんかこう、人を惹きつける力がすごいんだよね。ミキミキって」

亜美「あー、それチョーわかる! 亜美も、一緒にステージに立ってる時はついついミキミキの方に目がいっちゃうもん!」

美希「……ありがとうなの。皆」

美希「皆からそんな風に言ってもらえると……ミキも嬉しいな」

伊織「あら。あんたにしてはやけに殊勝な事言うじゃない。……まあ確かに、今日の美希のパフォーマンスはまあまあだったけど……」

亜美「おっ! 出ました! いおりんのツンデ……」

伊織「あーもう! それはもういいってば!」

美希「……あはっ。でこちゃんも、ありがとうなの」

伊織「う……うん」

真美「おやおや~? いおりんってば、お顔が赤いですぞ~?」

亜美「さ~て~は~、ミキミキから素直にお礼を言われて照れちゃったのかな? かな?」

伊織「べ、別に照れてないわよっ! ……美希も美希で、今日に限って変に素直になるんじゃないの。調子狂うでしょ」

美希「え~。じゃあミキもでこちゃんみたいにひねくれた方がいいの?」

伊織「そういう意味じゃなくて……っていうか、別に私はひねくれてないでしょ! あとでこちゃん言うなって言ってるでしょ! もう!」

 アハハ……

美希「でも……良かったね。真くん。憧れの王子様にまた会えて」

真「あはは……まあね。でも会えたっていっても、ボクが一方的に気付いたってだけで……その人が本当にボクを追いかけて来てくれたのかどうかなんてわかんないんだけどね」

美希「そうだね。でも、そうだとしても……ミキ的には、今日、真くんがその人とまた巡り合えたコトには意味があるって思うな」

真「巡り合えたコトの……意味?」

美希「うん。だってこの先も……真くんの人生はずっと続いていくんだから」

真「……え?」

美希「だから今日、真くんがその人に出会えたことは偶然かもしれないけど……それはきっと、意味のある偶然だったの」

美希「ミキは、そう思うな」

真「美希? それ、どういう……?」

美希「……なーんて、ね。ちょっとソレっぽいこと言ってみたかっただけなの。あはっ」

真「な、なんだよ、もう。びっくりしたじゃんか。はは……」

美希「……あはは。ごめんねなの」

春香「…………」

千早「春香」

春香「千早ちゃん」

千早「もう皆から何回も言われていることだと思うけれど……それでも改めて言わせてちょうだい」

千早「ライブのリーダー、本当にお疲れ様」

春香「……ありがとう。千早ちゃん。といっても、本当に何も大したことはしてないんだけどね」

千早「そんなことないわ。さっき社長も言っていたけど、春香がリーダーを務めてくれたからこそ……今日の結果があるんだって思うもの」

春香「千早ちゃん……ありがとう」

春香「千早ちゃんにそう言ってもらえると……私、本当に嬉しい」

千早「春香……」

春香「…………」

響「春香」

春香「ごめん誰?」

響「初手から辛辣過ぎるだろ!」

春香「あはは。ごめんごめん。響ちゃん。最近ちょっとこのノリやってなかったから、つい」

響「ついって! ……もう。いいか? 春香。今から自分が良いこと言うからちゃんと聞けよ! 分かった?」

春香「うん。分かったよ。響ちゃん」

千早「我那覇さん……自分で『良いこと』って言ってしまうのね……」

響「えーっと……おほん。自分も、春香がリーダーで良かったって思うぞ! なんだかんだで、やっぱり春香が一番よく自分達の事を分かってくれてるって思うからな!」

春香「ありがとう響ちゃん。たとえ嘘でも嬉しいよ」

響「いやホントだからね!? 確かに多少胡散臭い流れになってしまってはいたけど!」

春香「あはは。ごめんごめん。大丈夫。ちゃんと分かってるって」

春香「……ありがとうね。響ちゃん」

響「う、うん……まあ、ちゃんと分かってくれてるんならいいんだけどさ……」

春香「ふふっ。響ちゃんは本当にかわいいなあ」

響「も、もー! 春香はまたすぐそうやって自分をバカにするー!」

貴音「同意します。春香」ズイッ

春香「わっ。貴音さん」

響「貴音。いい加減、その自分の背後からずぃっと出て来る登場の仕方やめないか?」

貴音「そういうわけにはまいりません。私は一日一回は必ず響の背後を取ることを日課としていますので」

響「なんて嫌な日課なんだ」

貴音「つまりそれだけ響は可愛いということです」

響「何がつまりなんだ……」

貴音「そして春香。此度のリーダーの大役、誠にお疲れ様でございました」

春香「貴音さん」

貴音「今日に至るまでに様々な不安や重圧があったことでしょう。しかし貴女は見事にそれらに打ち克ち、今日のライブを成功へと導いた」

貴音「真、大義でありました」

春香「貴音さん……。そんな、私は何もしてないですよ」

春香「ただ、皆を信じて今日まで進んできただけです」

貴音「その謙虚さもまた、貴女の掛け替えのない魅力です。皆が何も迷わず、惑わず、貴女と共に歩くことができた所以でありましょう」

春香「……ありがとうございます。貴音さんにそこまで言って頂けると、私……本当に嬉しいです」

雪歩「春香ちゃん」

春香「雪歩」

雪歩「もう何番煎じか分からないけど……私からもいいかな?」

春香「もちろん! 雪歩の淹れてくれるお茶は何番煎じでも美味しく飲めるからね!」

雪歩「ふふっ。ありがとう。春香ちゃん。今日はお茶じゃないけどね」

雪歩「えっと……私もね。春香ちゃんがリーダーで良かったって思う」

雪歩「春香ちゃんが一度もぶれたりすることなく、真っ直ぐ前を向いて進んでくれたからこそ……私達は辿り着けたんだよ」

雪歩「光の海の、その先へと」

春香「雪歩……」

雪歩「うん」

春香「雪歩はやっぱりポエマーだね」

雪歩「はうっ!? ……わ、私、そんな……あ、穴掘って埋まってますぅ~!」

響「うわぁ! 雪歩駄目だぞ! アリーナに穴なんか掘っちゃ!」

春香「あっはっは」

響「春香も呑気に笑ってないの!」

春香「……ありがとうね。雪歩」

雪歩「! ……う、うん。えへへ……」

あずさ「春香ちゃん」

春香「あずささん」

あずさ「乗り遅れちゃったかもだけど、私からも言わせてもらうわね」

春香「はい。お願いします!」

あずさ「私も……皆の舵を取ってくれたのが春香ちゃんで良かったと思うわ」

あずさ「伊織ちゃんにも言われたことだけど……もしこれが私だったら、皆を漂流させちゃってたかもしれないし」

春香「あ、あはは……」

あずさ「ともあれリーダー、お疲れ様。しばらくはゆっくり休んでね」

春香「ありがとうございます。あずささん。……でも」

あずさ「え?」

春香「ゆっくり休んでなんか……いられません」

あずさ「春香ちゃん」

春香「だって私達はこれからも――……さらなる高みを目指して、進んでいかないといけませんから」

あずさ「……そうね。こんなところで満足していたら駄目よね。さらなる高みへ、か……ふふっ。じゃあ私もまだまだ頑張らないといけないわね」

春香「はい! これからも皆で一緒に頑張っていきましょう!」

あずさ「ええ。そうね。春香ちゃん」

春香「……皆で、一緒に……」

春香「…………」

千早「……春香」

春香「ん? 何? 千早ちゃん」

千早「…………」

春香「…………」

千早「……いえ、ごめんなさい。……なんでもないわ」

春香「そう? ならいいけど」

千早「…………」

千早(春香の様子……やっぱりどこか、いつもと違うような……)

千早(そういえばさっき、真と話している時の美希の様子にも、少しいつもと違う雰囲気を感じたけど……)

千早(でも……何故かしら)

千早(本当なら、気にしないといけない事のはずなのに……『今はこれでいい』……そんな気がする)

千早「…………」

美希「……春香。そろそろ……」

春香「美希。……うん。そうだね」

響「? 何だ? どこか行くのか? 二人して」

春香「うん。私と美希の共通の知り合いの人が観に来てくれてたから、ちょっとご挨拶にね」

美希「ちゃんとミーティングまでには戻って来るから、心配ムヨーなの。あふぅ」

響「そっか。ならいいけど」

千早「……春香。美希」

春香「? 何? 千早ちゃん」

美希「どうしたの? 千早さん」

千早「……いえ」

千早「―――なんでもないわ。また、後でね」

春香「うん。……また、後で」

美希「じゃあね、なの。……千早さん」

 ガチャッ バタン

(春香と美希が出て行ったドアを見つめている千早)

千早「…………」

千早(今、私は何かを言おうとした……?)

千早(あるいは、出て行こうとする春香と美希を引き留めようとした……?)

千早(……分からない。分からないけど……ただ)

千早(今は、何も言わずに二人を見送るべきだと……そう思った)

千早(それが、最も良いことのように思えたから……)

千早(……そうよ。これで良かったのよ)

千早(だって二人は、すぐにまたここに戻って来るんだもの)

千早(だから、これで……)

千早「…………」

ノートに何か書いたのかな?
でもあまりキラサイドに都合の良いことはリュークに却下されそうだし

(アイドル達同様に歓談しているダンサー一同)

奈緒「いや~、ホンマすごかったな~。あのお客さんの数! もう端から端までびっしり埋まってたやん」

美奈子「うん。ホントすごかったね。あとライブ中に天海さんも言ってたけど、本当に一番後ろの席までちゃんと見えたね。お客さんの顔」

星梨花「見えました見えました! わたし、もうすっごく感動しちゃって……今日のステージの事は、一生忘れません!」

杏奈「杏奈も……まだ、夢の中にいるみたい……ねむい……」

百合子「ありゃりゃ。杏奈ちゃんはもう完全にスイッチ切れかな。でもまだミーティングがあるんだから寝たらだめだよ?」

可奈「…………」

志保「お疲れ様。可奈」

可奈「志保ちゃん。うん。お疲れ様」

志保「次は私達がステージの主役を張れるよう、これからも頑張っていきましょう」

可奈「……うん! そうだね。一緒に頑張ろう!」

奈緒「おーいそこの熟年夫婦~。打ち上げの日程決めるで~」

志保「だっ、誰が熟年夫婦ですか! ……って、打ち上げの日程って……今日じゃないんですか?」

奈緒「ああ、全体のはな。ただほら、せっかく私らも長いことこのメンバーでやってきたんやから、ダンサーチームだけでもまた別に打ち上げしてもええんちゃうかって話してたんや」

美奈子「ちなみに場所はもう私の実家の店で決まってるから、後は皆のスケジュール次第ってこと!」

志保「ああ、なるほど……そういうことでしたか」

星梨花「確か、美奈子さんのおうちって中華料理屋さんなんですよね? わたし、すごく楽しみです!」

美奈子「あ、あはは……。確かにうちは中華料理屋だけど、星梨花ちゃんのおうちがよく行くようなお店とは大分雰囲気違うと思うよ……」

星梨花「? そうなんですか?」

奈緒「まあ店構えはいわゆる町の定食屋さんいう感じやけど……味はそんじょそこらの三ツ星店にも引けを取らへんで。ホンマごっつ美味いからな」

星梨花「そうなんですね! 楽しみです!」

美奈子「な、奈緒ちゃん。そんなにハードル上げないで……」

奈緒「にしし。でもホンマのことやん?」

杏奈「杏奈も……楽し……み……ぐぅ」

百合子「あーっ! 杏奈ちゃん! だから寝ちゃダメだって! 起ーきーてー!」

志保「……ふふっ。本当にもう、ライブが終わったばかりとは思えないくらい、皆元気ね。……ね? 可奈」

可奈「…………」

志保「? 可奈? 何を見て……?」チラッ

(志保が可奈の視線の先を追うと、ちょうど控室を出て行くところの美希と春香の後ろ姿が目に入った)

志保「天海さんと星井さん……どこへ行くのかしら? もうすぐミーティングなのに……」

可奈「……志保ちゃん」

志保「え?」

可奈「私、ちょっと行って来る」ダッ

志保「!? か、可奈? 行くってどこに?」

可奈「ごめん、すぐ戻るからー!」

(言いながら、可奈は美希と春香の後を追うように控室を出て行った)

志保「…………?」

【アリーナ/控室前の通路】


(二人、肩を並べて無言で歩を進める美希と春香)

美希「…………」

春香「…………」

可奈「星井先輩! 天海先輩!」

美希・春香「!」クルッ

(背後から聞こえた可奈の声に、思わず振り向く美希と春香)

美希「……可奈」

春香「どうしたの? 可奈ちゃん」

可奈「あ、その、えっと……」

可奈「…………」

可奈(な、何か……何か言わなきゃ……)

可奈(でも……何でだろう?)

可奈(何も言葉が、出てこない)

可奈「…………」

美希「―――ああ、そうだ。ちょうどよかったの」

可奈「え?」

美希「『確認』するの、忘れてたの」

可奈「……『確認』?」

美希「ねえ、可奈」

美希「ミキと春香……トップアイドルになれたかな?」

可奈「――――!」

春香「…………」




―――ちゃ~んと、その目で見ててね。ミキと春香が―――トップアイドルになるトコロ。




可奈「――――はい!」

可奈「星井先輩も、天海先輩も……間違い無く、トップアイドルです!」

美希「……そっか。ありがとう。それを聞いて安心したの。……ね? 春香」

春香「うん。……ありがとね。可奈ちゃん」

可奈「……いえ……」

可奈(…………?)

可奈(何だろう?)

可奈(この……気持ちは……)

可奈「…………」

美希「……じゃあ、可奈。ミキ達、今からちょっと行くとこあるけど……またすぐに戻って来るから」

可奈「え、あ……はい」

春香「また後でね。……可奈ちゃん」

美希「じゃあね。可奈。……また、後で」

(美希と春香は可奈に背を向けると、再び前を向いて歩き始めた)

可奈「…………」

可奈(あれ? なんだろう)

可奈(今すぐ、星井先輩と天海先輩を呼び止めないといけないような、そんな気がするのに……)

可奈(なぜだか、上手く声が出せない)

可奈(なんで……?)

可奈(……いや、ダメだ。今、今二人に声を掛けないと――……)

可奈(もう、この二人には二度と会うことができないような……そんな気がする)

可奈「あ、あのっ!」

美希・春香「!」クルッ

可奈「あ、わ、私……」

美希・春香「…………」

可奈「私、ずっと待ってますから! お二人が戻って来るのを、ずっと、ずっと……!」

可奈「……だから」

可奈「必ず、また戻って来て下さいね……?」

美希「もちろんなの。可奈」

春香「大丈夫だよ。可奈ちゃん。そんなに心配しなくても、すぐに戻るから」

可奈「……はい! わかりました!」

(美希と春香は、可奈に軽く手を振ると、再び前を向いて歩き始めた)

(やがて二人が通路の角を曲がると、その姿は完全に見えなくなった)

(可奈はそれを見届けた後、パンダのぬいぐるみを二つ、ズボンのポケットから取り出すと、それらを胸の前で握りしめた)

可奈「…………っ!」ポロポロ

(可奈の両の目から涙が零れ落ちる)

志保「……可奈? どうしたの?」

可奈「! ……志保ちゃん? なんで……」

志保「いや、部屋を出て行くときの可奈の様子が気になったから……って、可奈? あなた……泣いて……?」

可奈「は、はれっ? お、おかしいな。何で私、泣いてるんだろう……?」

可奈「星井先輩も、天海先輩も……すぐにまた戻って来てくれるのに」

可奈「だから何も、悲しいことなんか……無いはずなのに」

可奈「……ね? そうだよね? 志保ちゃん」

志保「……可奈……」

可奈「お、おかしいね? あ、あは……あはははは……」

志保「…………」ギュッ

(可奈の身体を抱きしめる志保)

可奈「ひっ、くっ……う、うぁあああああああん」

志保「……よしよし」

志保「何があったのかは分からないけど……今は好きなだけ泣いたらいいわ」

可奈「し、しほちゃ……あ、ありが、と……う、ひぐっ……うわああああああん」

(その後十分ほど、可奈は志保に抱きしめられながら泣き続けた)

【アリーナ/通路】


 ガチャッ

(男子トイレから出てきたプロデューサー)

P「……ん? 美希と春香じゃないか」

美希「あ、プロデューサー」

春香「お疲れ様です。プロデューサーさん」

P「ああ、お疲れ……って、どこ行くんだ? もうすぐミーティングだぞ」

美希「ちょっと知り合いの人のところに挨拶しに行くの」

春香「ちゃんとミーティングまでには戻りますから」

P「……そうか。それならいいけど。くれぐれも遅れないようにな」

美希「はいなの」

春香「任せて下さい」

P「…………」

美希「? プロデューサー?」

春香「プロデューサーさん? どうかしましたか?」

P「……美希。春香」

美希「? はいなの」

春香「何ですか?」

P「……俺は、忘れないからな」

P「今日の、このステージを」

美希「! プロデューサー……」

春香「プロデューサーさん……」

P「……じゃあ、早く用事を済ませてこい。待ってるからな」

美希「うん!」

春香「待っててくださいね! 約束ですよ! 約束!」

P「……ああ。約束だ」

(プロデューサーと別れ、再び通路を歩き始める美希と春香)

P「…………」

P(何故今、俺はあんなことを……?)

P(いや、だが今……そう言わないといけないような……そんな気がしたんだ)

 ピリリリッ

P「……着信?」

P「……『通知不可能』……?」

P「……まあ、いいか」

P「今は気に留めるようなことじゃない」

P「そんな……気がする」

P「…………」ピッ

(プロデューサーは着信には応答せず、そのまま携帯電話の電源スイッチを押した)

これ、まさかひょっとして・・・

【同時刻・アリーナ/関係者用通路】


L「……切られました」ピッ

月「何?」

L「まあ予想しえた事態ではあります。プロデューサーとしての彼がそうさせたのか、個人としての彼がそうさせたのかまでは分かりませんが……」

月「両方……だろうな」

L「ですね」ピッ

L「……ワタリ。プロデューサーと連絡が取れない。防犯カメラの映像に彼の現在の動向は映っていないか?」

ワタリ『はい。プロデューサーはライブ終了後、アイドル達と共に控室に入ったところまでは確認できていますが、その後は特に何も……。朝日さんにも監視してもらっていますが、私と同じ認識です』

L「そうか。……星井美希と天海春香の携帯電話の位置情報は?」

ワタリ『いずれも会場内のままです』

L「……分かった」

月「携帯電話だけならあえて置いて行くということもありえるな」

L「そうですね。この前の時とは違い、最初から二人で行動できるわけですから……カモフラージュのためにあえて置いて行くというのは十分ありえます」

L「一応、会場内の捜査員にも確認を取っておきましょう。私は関係者用扉付近を張っている相原さん達とマーク達に聞きますので……月くんは一般の出入口付近を張っている伊田さん達の方をお願いします」

月「分かった」ピッ

月「……もしもし。伊田さんですか? 月です。現在、一般の出入口を少し離れた場所から見張っています。そちらはいかがですか?」

月「ええ。……はい。……はい。……そうですか」

月「……分かりました。では、引き続きよろしくお願いします」ピッ

月「竜崎。今のところ、一般の出入口付近では星井美希、または天海春香とおぼしき人物の姿は見られていないとのことだ。事実、僕も先ほどから携帯で同所付近の防犯カメラの映像を観ているが……それらしき人物は見ていない」

L「分かりました。関係者用扉付近も今のところ無いそうです」

月「そうか。ただカメラの映像は定点固定だし、会場内は帰ろうとする観客の群れで非常に混み合っている……正直、見落としが無いとは言い切れないな」

L「……そうですね。ただ、それぞれの出入口付近で張っている六名に加え、防犯カメラの映像自体はワタリも朝日さんも観ています。その全員が見過ごすということは……」

月「……そうだな……」

 ピリリリッ

L「はい」ピッ

ワタリ『竜崎』

L「? どうした? ワタリ」

ワタリ『今、現在の映像と並行して少し前の時間の映像も観ていたのですが……今からほんの数分前、控室からほど近い通路で星井美希・天海春香の二人がプロデューサーと接触……一分ほど会話した後、別れた様子を確認しました』

L「!」

ワタリ『どうやら三人とも、いつの間にか控室を出ていたようです。すみません。私も朝日さんも見落としていました』

L「……プロデューサーと別れた後の星井美希・天海春香の動向は?」

ワタリ『ちょうどカメラの無い死角に消えていますが……方向的には関係者用扉とは逆方向でしたので、もし外に出るとしたら一般の出入口の方と思われます』

L「分かった。二人の格好は?」

ワタリ『今日の会場内でも売られているライブ用Tシャツを着ています。それに加えて、普段の変装時と同様に帽子と眼鏡を着用……正直言って、この姿で観客の中に紛れられたら発見はかなり困難かと……』

L「分かった。ではワタリは引き続きカメラの映像を隈なく追ってくれ。そして二人の足取りが分かったらすぐに私の方まで連絡を頼む」

ワタリ『分かりました』

L「……月くん。今ワタリが話していた通りです。現在、二人は一般の出入口に向かっている可能性があります。伊田さんと宇多川さんに……」

月「ああ。分かってる。二人に似た容姿の者を見かけなかったかを再度確認、およびこれからそういった者を見かける可能性があるため、より一層注意して見張るように連絡……だな」

L「はい。お願いします。私は朝日さんに連絡しておきます」ピッ

総一郎『もしもし』

L「朝日さん。竜崎です。たった今、ワタリから連絡があった件ですが――……」

総一郎『ああ。ワタリにはあなたとの会話をこちらでも聞こえるようにしてもらっていたので経緯は分かっている。……すまない。私も、星井美希と天海春香……そしてプロデューサーの動きには気が付かなかったようだ』

L「過ぎた事を言っても仕方ありません。ただ、少なくともこれで星井美希と天海春香の二人は一般の出入口から外に出ようとする可能性が高くなりました。今後はそちら方面のカメラの映像の監視を重点的にお願いします」

総一郎『分かった。二人を見つけ次第すぐに連絡する』

L「はい。よろしくお願いします」ピッ

月「竜崎。伊田さんにも再度確認したが……今現在、二人の姿は見ていないと」

L「そうですか」

月「どうする? 二人が控室から一般の出入口に向かっているのだとすると、僕達が今いるこの通路も通らない。ならば僕達も一般の出入口に向かった方が……」

L「……そうですね」

L(会場内の防犯カメラの数は全部で56個……その映像はワタリと夜神局長に監視してもらっているが、当然、その全てを同時並行で観ることはできない)

L(一週間前、ファッション誌の撮影現場から逃走した星井美希を追った時と同じ……モニター一台につき、数台のカメラの映像を数秒ごとに切り替えて監視する方法。ワタリと夜神局長がそれぞれ違う映像を観るように切り替えていったとしても、二人で同時に観れる映像はせいぜい20個が限界)

L(つまり、残りの36個のカメラの映像はリアルタイムでは確認できない……もしその中のどれかに映っていたとしてもリアルタイムでは検知されない)

L(だとすれば、その時々で監視されている最大20個のカメラにさえ映らないように動けば、事実上監視の目をかいくぐることは……)

L(いや、しかしそのような動き方は、予めこちらがどのカメラの映像をどういう順番で観ているかが分かっていなければ不可能だ。それに一般の出入口付近の映像は夜神月も都度携帯から確認しているし、現場には伊出と宇生田も張っている)

L(この状況で誰の目にも留まらないまま、会場を出ることができるとは、とても……)

L「…………」

 ピリリリッ

L「はい」ピッ

ワタリ『竜崎』

L「どうした? ワタリ」

ワタリ『今、また少し前の映像を現在の映像と並行して観ていたのですが……今から三分ほど前、星井美希と天海春香らしき人物が一般の出入口を通過し、会場の外に出て行ったことを確認しました』

L「! …………」

月「馬鹿な。僕も意識して観ていたのに……一体、いつの間に?」

ワタリ『18時5分20秒頃です。12番のカメラの映像の画面右下に……それらしき二人の人物の姿が』

月「! ……本当だ。確かにこれは……間違い無いな」

月「星井美希と天海春香だ」

L「…………」

 ピリリリッ

L「はい」ピッ

総一郎『……竜崎。すまない。今、ワタリからも聞いたと思うが……また見過ごしてしまったようだ。申し訳無い』

L「……いえ……」

L「…………」

L(また『見落とし』……?)

L(まだこれが夜神局長だけなら、星井係長への同情心からわざと……という可能性も無くは無いが……しかしワタリや夜神月まで、というのは……)

L「…………」

月「竜崎。どうする? とりあえず再度、伊田さん達に確認を取るか……」

L「……いえ。二人が出入口を通過してからもう五分は経っています。二人の姿を現認していたならとうに私に報告してきているはず……それが無いということは……」

月「気付いているはずがない……か」

L「……はい」ピッ

L「ワタリ」

ワタリ『はい』

L「至急、“L”として次の指示を捜査員全員に伝えてくれ。『星井美希と天海春香がアリーナから逃走した。今後は本部に居る朝日局長を司令塔とし、各自、都度連携を取りながら追跡捜査を行うように』と。そして朝日さんには『アリーナ近辺の防犯カメラの映像を監視しながら、適宜捜査員に指示を出すように』と」

ワタリ『分かりました。私はどうすれば?』

L「ワタリはこれまで同様、朝日さんと同時にアリーナ近辺の防犯カメラの映像を監視してくれ」

ワタリ『分かりました。……竜崎はどうされるのですか?』

L「……私は別に動く。念の為、『あっちの方』も使えるようにしておいてくれ」

ワタリ『それは大丈夫です。本日付で認証パスも通るように設定していますので』

L「分かった。あと二人の携帯電話の位置情報だが、アリーナから少しでも動いているか? またはもう携帯の電源自体切られているか?」

ワタリ『二人とも電源は入っていますが……位置情報はいずれもアリーナのままです。もっとも、単にまだそこまで遠くに行っていないため、という可能性も高いですが』

L「……分かった。もしそちらも動きがあれば連絡してくれ」

ワタリ『承知しました』

L「では、引き続きよろしく頼む」

(ワタリとの通話を終えたL)

L「…………」

L(そもそも……今回の二人の逮捕自体、何故私は『アリーナライブ後』にこだわった?)

L(確かに、二人がアリーナライブを最優先に考え、行動するとした場合……『ライブ直後』が最も二人の警戒心が薄れるタイミングだった。それ自体は間違い無い)

L(しかし一方で、ライブ前に下手な行動は取らないとしても……全てが終わった『ライブ直後』に我々捜査本部の人間を皆殺しにする可能性だってあったはず……いや、それは今でもある)

L(何故私は、その可能性をもっと考えなかった?)

L(いや……)

L(という、よりも……)

L「…………」

L(それに、例のファッション誌の撮影の翌日……星井美希は、星井係長の着替えを届けるために単独で警察庁内に来ており、そこで夜神局長と対面しているが……)

L(むしろあの場で彼女の逮捕を強行する、という選択肢も採りえたのでは?)

L(確かに死神の問題はあった。加えてあの時点では、まだこれから何かしらの対応策が見つかるかもしれない、とも考えていたが……)

L(しかしどのみち目にも見えない、それどころか実在するのかどうかさえも分からないような存在……)

L(そんな不確定要素を理由にしてまで……本当に『ライブ直後』まで二人の逮捕を引き延ばさなければならなかったのか?)

L「…………」

L(他にもある。たとえば今日、ワタリと夜神局長に監視してもらっていた映像は、元々アリーナ内に設置されていた防犯カメラのものだけ……だがやろうと思えば、一週間前の撮影の日のように、アリーナ内の至る所……それこそアイドル達が使用する控室や更衣室にだって、監視カメラや盗聴器を設置することはできたはずだ)

L(そして、そうしておけば……少なくとも今よりは、二人がアリーナから出て行くのを見過ごすような可能性は格段に低くなっていたはず)

L(勿論そうは言っても、前の時のように死神にカメラを破壊されてしまうという可能性はあっただろう。しかしそれならば尚の事、カメラの数を少しでも増やしておくべきだったはず……なのに)

L(何故私は、こんな簡単な事すら思いつかなかった……?)

L(いや、私だけではなく、夜神月も……そして捜査本部に居る誰もが)

L(何故今まで、全くこういったことを思いつかなかった……?)

L「…………」

L(私が今日のライブ中に味わった、星井美希に魅了されているかのような感覚……そして『今日のステージがずっと続けばいいのに』といった思考……)

L(またプロデューサーも、二人の逃走行為を援助するかのように私との連絡を遮断……)

L(そして極めつけは、捜査本部総出でこれだけの監視体制を張っていたのにもかかわらず、いざ二人がアリーナを出て行く際には誰もそれに気付かなかったという不自然な事態……)

L(まるで全てが、“星井美希と天海春香の二人にとって都合の良いように”動いて……いや、“動かされて”いるかのような……)

L(とすると、これは……)

L「…………」

月「……竜崎。何故か今まで考えつかなかったんだが……」

L「……月くん。おそらく私も同じ事を考えています」

月「! じゃあ……」

L「はい。……何故今日まで、我々は『アリーナライブ後に二人を逮捕する』ということを当然の前提として行動していたのか……ですよね?」

月「……ああ。やはり竜崎も僕と同じ結論に行き着いたか」

L「はい。あのノート……『黒いノート』に書かれていた『HOW TO USE IT』……その中にあった、『死因を書くと更に6分40秒、詳しい死の状況を記載する時間が与えられる。』という記載」

L「以前、私達はこの記載を根拠に、ノートに名前を書かれた者の『死の時間』をも操れるのではないか、という推理をしましたが……この『詳しい死の状況』というものが、単なる死の時間指定などにとどまらず、ノートに名前を書かれた者の『死の直前の行動』をもっと広汎に操作できるものだとしたら……」

月「ああ。つまり……僕達捜査本部の人間を、『アリーナライブ“前に”星井美希と天海春香の二人を逮捕しないように』操り、殺すことも可能なのだとしたら……」

L「はい。今日まで私達の誰も、『アリーナライブ“後に”二人を逮捕する』ということに何の疑問も抱かなかったということも頷けます」

L「さらに、プロデューサーが私に連絡をしてこず、それどころか、私の電話に応答せずに切ったことも……彼も私達と同様、『星井美希と天海春香の邪魔をしないように』操られていたのだとすれば……辻褄が合います」

月「僕と全く同じ考えだ。だがそうだとすると……二つほど、おかしな点があるな」

L「そうですね。……まず一つ目は、今日、二人の逃走に気付く可能性があったのは……アリーナ内の防犯カメラの映像を監視していた朝日さんとワタリに、実際に二人が通過した一般の出入口を直接見張っていた伊田さんと宇多川さん。……そして、携帯で随時一般の出入口の映像を観ていた月くんの計五名……ですが」

月「…………」

L「今更言うまでもないことですが……このうち、月くんは既に二人に顔と名前を知られています。また朝日さんも、天海春香が『顔を見れば名前が分かる能力』を持っているという我々の考えを前提にすれば同様となります」

L「伊田さんと宇多川さんは微妙ですが……二人とも警察庁の人間です。最悪、星井さんがどこかで星井美希に情報を漏らしていたという可能性も否定はしきれません」

L「ですが……ワタリだけは別です」

L「二人が顔や名前はおろか、その存在すらも認識できていないワタリだけは……どうやっても操ることはできないはず」

L「そうであるとすれば、ワタリは行動を操られていないにもかかわらず……『偶然』、一度ならず二度までも、肝心な時に二人の動向を見落としていたということになる……ですが正直言って、そんな『偶然』は考え難い」

月「そうだな。ワタリの能力の高さから考えても……今日の相次ぐ『見落とし』は不自然というほかないだろう」

月「……そして二つ目は、僕達は今まで『ノートで死の直前の行動を操れる』という可能性に気付けていなかったのに……“今になってそれに気付くことができている”ということ」

L「はい」

月「そもそも理屈から言えば、『ノートで死の直前の行動を操れる』という可能性自体、対象者……つまり僕達が気が付くことがないように操ることができるはずだし、また星井美希と天海春香がそれをしない理由は無い」

L「はい。そして月くんの言うように、もし今、私達がそのように操られているのだとしたら、それこそ死の直前まで……いえ、死の瞬間においても『自分はノートによって行動を操られている』という可能性には気付かないはずですし、そうでなければおかしい」

月「だとすれば、操られているのは……」

L「私達じゃ、ない……?」

月「…………」

L「…………」

月「……行こう。竜崎。二人を探すんだ」

L「月くん。でも、もし……『そうなら』……もう」

月「『そうでも』だ。竜崎。……そうだろ?」

L「……はい。そうですね」

【三十分後・海の見える浜辺】


(美希と春香は、波打ち際から少し離れた浜辺で二人、砂の上に大の字になり仰向けに寝そべっている)

春香「…………」

美希「…………」

春香「ねぇ。美希」

美希「何? 春香」

春香「竜崎さん……“美希の”ファンになってくれたかな?」

美希「さあ……どうだろうね」

美希「まあでもやるだけのことはやったし、悔いは無いの」

春香「……そっか。悔いは無い、か」

美希「うん。春香は? 何か悔いがあるの?」

春香「……ううん。無いよ」

美希「そっか。それは良かったの」

春香「念願のトップアイドルにもなれたしね」

美希「そうだね。……ま、証人が可奈っていうのはちょっと頼り無いかもだけどね」

春香「あはは。まあ、いいじゃん。あんなに可愛い後輩が証人なら、願っても無いよ」

美希「……だね」

春香「……うん」

美希「……あ、でも」

春香「ん?」

美希「ミキね、やっぱり一つだけ……悔いがあるの」

春香「……何?」

美希「今日のライブ……やっぱりパパにも観に来てほしかったな、って」

春香「……来てた可能性はあるんじゃない? ……捜査で、さ」

美希「……ううん。だってミキのパパだもん。もし来てたら、ミキにはきっとすぐにわかるの」

美希「たとえあの広いアリーナの……どこにいたって」

春香「……そっか」

美希「……うん」

春香「…………」

美希「…………」

春香「ねぇ。美希」

美希「何? 春香」
















春香「大好きだよ。美希」
















美希「あはっ。ミキも大好きなの。春香」

【同時刻・上空/ヘリコプター内】


月「……まさかヘリの操縦までできるとは思わなかったよ。竜崎」

L「免許などなくても、勘でどこをどうすればどうなるかは分かります。月くんでもできますよ」

月「しかし、もう使うことは無いだろうと思っていた新しい捜査本部のビル……まさか、完成日当日にいきなりヘリポートを使うことになるなんてな」

L「はい。正直、私ももう使うことは無いと思っていたビルでしたが……念の為、今日から設備をフルで使えるようにワタリに準備させておいて正解でした」

月「……だが、本当にこれが最初で最後になりそうだな」

L「……そうですね」

月「さて、僕達の読みが正しければ……」

L「はい。私達が“気付いた”以上……そう時間は掛からずに“分かる”はずです」

月「……ああ。そうだな」

ワタリ『竜崎』

L「! ワタリ」

ワタリ『星井美希・天海春香の二人らしき人物の足取りを掴みました。今から十分ほど前に、アリーナを出た時と同じ服装で公道の防犯カメラに映っています。今から位置情報を伝送します』

L「……海水浴場近くの歩道……か」

ワタリ『はい。ちなみに、携帯電話はやはり置いてきているようで、そちらの位置情報は未だにアリーナのままになっています』

L「分かった。……ありがとう。ワタリ」

ワタリ『いえ。……お気を付けて。竜崎』

(ワタリとの通話を終えたL)

L「…………」

月「この位置だと……今僕達が飛んでいるあたりのほぼ真下になるな」

L「そうですね。もう少し高度を下げます」

月「! ……竜崎。あの浜辺……人が二人、寝ているように見えるが……」

L「……そうですね。望遠カメラの映像を拡大します」

月「! これは……」

L「……はい。間違いありませんね」

L「星井美希と天海春香です」

月「…………」

L「幸いにも、近くに少し開けた場所があるので……ヘリはそちらに降ろします」

月「……ああ」

L「行きましょう。……いえ、私達は行かなければなりません。月くん」

月「……そうだな。竜崎」

【十五分後・海の見える浜辺】


(近くにヘリを降ろした後、浜辺に向かって歩を進めるLと月)

L「…………」

月「…………」

(やがて二人の視界に、砂の上に寝そべっている二つの影が映る)

L「星井美希と……」

月「天海春香……だな」

(Lと月は、寝そべっている二人の傍らに立った)

月「…………」

(月はおもむろに春香の手首に触れる)

(その後、深く息を吸ってから告げた)

月「竜崎」

L「…………」
























月「天海春香は――――死んでいる」

L「…………」

月「……竜崎」

L「…………」

(Lはおもむろに美希の手首に触れる)

月「……星井美希は……」

L「…………」

(一拍ほどの間を置いて、Lは静かな口調で告げた)

うわあぁあああぁああ

まじか

















L「――――死んでいます」















一旦ここまでです


すげぇ続き気になる
二人とも本当に死んだのか

ああ、終わってしまったか

死んだふり作戦?
次回に期待

ああ・・・やはり・・・



新世界の神になろうとした原作月と違って
最後にアリーナライブの成功だけを考えて死を選んだってことなのかな
だとしたらこれは黒井社長も既に名前書かれてるんだろうなあ

どこで決めてノートに書いてたんだろうか

ああ……ついに来てしまったか……。


でもこういう結末だとリュークはどうするんだろう

俺もちょっと気になってる
自殺エンドなんてリュークとしては面白くないんじゃないかな?
よく了承したもんだ

うわああああああ


そういえばノートで行動させられてる時は(その後は直接ノート見れば別かもだが)
自身でそれに気付かないじゃないの?
疑問にすら思わないのがノートの力だと思ってたけどここではどうなのかな

また二週間後とかだったら泣いちゃう

sage忘れた

ぬか喜びして損した

>>351
Lと月が気づいたのは美希と春香が死んだ後なんじゃないかな
ノートに書かれた人間が死んだから、死ぬまでの効力が切れて気付くことができた、とか

ここから誰かにノートが渡るのか

美希と春香の名前の書かれたノートがリュークによってPに渡りPがLに復讐を誓う気がする

>>355
春香美希の最後の会話の時点で、Lたちはヘリに乗って生きてる2人を確認してるんだが
普通に考えれば、抜け出す時間分だけ気付かれずに、と書いたんだろうが、あるいは・・・

>>358
気づいた三十分後はまだ生きてるからノートにどうかいたのかはわかんないけど
Lも月も寝ているようにみえる美希と春香を発見しただけで生きてる二人は確認してないぞ

書き込む時はsageよう(戒め)
>>332>>334の描写を見る限り月とLがヘリから2人を確認した時点じゃもう死んでるっぽいぞ
時間的に見ても2人がコンサート云々について気づいた時点ですでに死んでたと考えていいと思う

ちょい訂正
2人が気づいた直後はまだ生きてたっぽいんで単純にノートに書き込まれた指定条件がクリアされたから気づけたのか

ネタ潰しやめれ

副題は竜崎ルエの失恋だったのか

自分たちも死ぬなら月とLも道連れにしようとかは思いつかなかったんだろうか

伸びてるから来たのかと思ったら(呆)

まだか

このss凄いな

ageてすまんこ

ちくわ大明神

待機

まってる

次の更新ですが、早くても来月中旬以降になると思います
気長にお待ちいただければと思います

少し早いですが、よいお年を

気長に待っとるよ

待っとるで

以下、前々スレ分・前スレ分も含め、これまでの投稿で訂正箇所があるものをまとめて訂正させて頂きます

「前々スレ」表記のものは1冊目のレス番、「前スレ」表記のものは2冊目のレス番です
いずれの表記も無いものはこのスレのレス番です

春香「それよりさ、美希はいつからデスノートを持ってたの?」

美希「え?」

春香「いやほら、前のプロデューサーさんが心臓麻痺で亡くなったって聞いた時にさ、私はすぐに『これはきっとデスノートだ』って思ったんだよね」

美希「! …………」

春香「で、もしそうだとしたら、絶対765プロの皆の中に他のデスノートの所有者がいるって思ったの。前に他の皆との話でも出てたけど、あの人の悪い一面を知ってるのは私達だけだったからね」

春香「それで、レムに他のノートの所有者を見分ける方法は無いかって聞いたら、さっきの方法を教えてもらえて」

美希「じゃあ、それで目の取引を……?」

春香「ううん。目自体はもっと前から持ってたの。ただその見分け方は知らなかったってだけで」

美希「……そうなんだ……」

春香「それでその翌日、前のプロデューサーさんのお通夜で美希に会ってすぐに分かったよ。寿命が見えなかったからね」

美希「じゃあ、あの時から気付いてたんだ……」

春香「うん。でも実際のところ、美希がいつからノートを持っていたのかまでは分からなくて。ほら、毎日何十人何百人って人の名前と寿命が見えてたし、寿命が見えない人もいるなんて知らなかったから、そこまでちゃんと意識して見てなかったんだよね」

春香「だから私が気付いてなかっただけで、本当はもっと前から美希はノートを持ってたのかなって思って。それでさっき、最初にその質問をしたってわけ」

美希「ミキがノートを拾ったのは……ミキが前のプロデューサーの名前を書いたその日だよ」

春香「そうなんだ。ちなみにそのときって、死の日時指定とかってした?」

美希「ううん。ただ名前を書いただけ」

春香「そっか。じゃあ結局、私は美希がノートを持ってからほとんどすぐ後に気付いてたってことだね」

美希「うん。でもその時から気付いてたなら、何で今までずっと黙ってたの? そして何で今になって言う気になったの? 春香」

春香「それは……」

美希「…………」

春香「うん。じゃあ……そのことも含めて、改めて今から全部話すよ」

美希「! …………」

春香「私がデスノートを拾った経緯、目を持った理由、これまでデスノートを使ってしてきたこと……そして、今になって美希に全てを打ち明けようと思った理由。その、全部を」

美希「…………」

【同時刻・961プロ事務所/社長室】


黒井「…………」

黒井(エラルド=コイルめ……。金で動く探偵だとは聞いていたが、まさかこちらの提示の10倍の額を吹っ掛けてくるとは……)

黒井(決して払えない金額ではないが……だがこれで“L”の正体が分かったとしても、どのみち私がキラの脅迫から逃れられるという保証は無い……)

黒井(かといってキラの指示に背いた行動を取った場合、それがキラに知られたら私の命は……)

黒井(くそっ……どうすれば……どうすればいいんだ……)

 ピピピピッ

黒井「? ……通知不可能?」

黒井「! ま、まさかキラ……?」ピッ

黒井「……はい」

『株式会社961プロダクション代表取締役社長・黒井崇男さんですね』

黒井「ああ……そうだが。お宅は?」

『エラルド=コイルと申します』

黒井「!?」

黒井(な、何故コイルが……私のところへ直接!?)

『もしもし? 私に仕事の依頼を頂いていると思うのですが』

黒井「…………」

黒井(どういうことだ? 昨日までのやりとりは全てエージェントを介して行われていたのに……こいつ本当にコイルなのか?)

黒井(いやだがコイル本人とエージェント以外に、私が“L”捜しの依頼をしたことを知りうる者はいない……)

『ああ……すみません。昨日までやりとりしていたエージェントではなく、いきなり私本人からの電話では困りますよね。心中お察しします』

黒井「…………」

『ですがこれから私がお話しする事は、エージェントを通してお伝えするわけにはいきませんので……御了承下さい』

黒井「…………?」

黒井(何だ? 報酬の話ではないということか?)

L「それでも、全く外に出ないというわけにはいきません。人間である以上、生活必需品を購入するための外出は避けられないからです。しかし、祖父が死んでから一週間ほどが経ったある日……いざ外に出ようと思い、家のドアを開けようとすると……身体が、全く動かなくなったんです」

L「思えば、学校に通うのをやめてから、私は一歩も家から外に出ていませんでした。必要な買い物は全て祖父がしてくれていたからです」

L「そのため、いつの間にか私は、一人では外に出ることのできない身体になってしまっていたのです。また外に出たとき、かつて私をいじめていた者達がいたら……そんなことまで脳裏をよぎり、尚の事、動こうにも動けなくなってしまったんです」

美希「…………」

L「しかしそのとき、私はふと、祖父の遺品を整理していた時に、昔縁日で祖父に買ってもらったとある物を見つけたことを思い出しました」

清美「? とある物?」

L「はい。それが……これです」スッ

(ひょっとこのような面を皆に示すL)

海砂「! それって……」

春香「?」

美希「ひょっとこの……お面?」

L「ああ……天海さんと星井さんは知らなかったですね。私は今日、途中までこの面を着けていたんです」

春香「えっ」

美希「そうだったの?」

L「はい。……学祭のステージに上がった直後に、弥さんによって外されてしまいましたが」

海砂「う」

月「…………」

清美「そのお面が……昔、おじいさまから買ってもらった物……ということですか?」

L「はい。おぼろげな記憶ですが……まだ小さかった私は、縁日の出店で見かけたこの面を何故だか無性に気に入り、祖父にねだって買ってもらいました」

L「今思えば、何故こんな物を……とも思いますが、とにかく私は、祖父から買ってもらったこの面をしばらく大切にしていました」

L「しかし、子どもというものは得てして飽きっぽいもの……いつの間にか私はこの面の存在を忘れ、その後ずっと思い出すことも無く、日々を過ごしていました」

L「そんな中、祖父が死に……その遺品の中からこれを見つけたんです。幼い私がとっくに飽きて見向きもしなくなった物でも、祖父はちゃんと大事に取っておいてくれていたんですね」

L「私は昔から感情の起伏が乏しく、自分の欲しい物を口に出すこともほとんど無かった……。おそらく、祖父に何かをねだって買ってもらったのもこの面くらいだったと思います」

L「だからきっと、祖父も嬉しかったんでしょうね。私からこの面を買ってほしいとねだられたことが……。そんな想いがあったからこそ、祖父はずっとこの面を取っておいてくれたのだと思います」

L「恥ずかしい話、私は祖父が死んで初めてその想いに気付きました。そしてそのとき、ふと思ったんです。『この面を着ければ、また祖父が自分を守ってくれるのではないか』と……」

L「そうして私は、祖父に買ってもらったこの面を着けて外出することにしたのです」

海砂「そうだったんだ……」

気長に待機ちゅう

読んでたら入れ違いで本人来ててビックリ
失礼しますた

L「このように、星井さんに対する星井美希からの接触には十分に注意を払っておく必要がありますが……それ以外の場面においても、今後はいつどこでどんな状況に陥っても適切な対処ができるように準備をしておかなければなりません」

L「もし私の正体が二人に疑われるようなことになれば、それは月くんへの不信にもつながりかねませんし……そこから『キラ事件の捜査に関係していると思われる者達が自分達の身近に迫っている』などと勘付かれた場合……最悪、既に『“L”と共にキラ事件の捜査をしている刑事』として顔を知られている夜神さんと模木さんも含め、少しでも不審な点がある者は全員殺されてしまう可能性があります」
 
L「そのような事態を避けるためにも、まずは私の嘘を完全な真実として擬制しておく必要があります。……なのでこれから、私は徹底的に“竜崎ルエ”のキャラクターを作り込みます。あらゆる状況を想定し、どんな方向から突かれても矛盾が出ないようにする」

総一郎「そうだな。今後も定期的に二人と顔を合わせることになるのであれば、対策は早めに打っておくに越したことはない」

L「はい。それでは、今日のところはこのへんで解散としましょう。少し早いですが、明日からまた忙しくなると思いますので、今日は皆さん家に帰って英気を養って下さい」

総一郎「分かった。だがあまり無理はするなよ、竜崎」

L「はい。お気遣いいただきありがとうございます。夜神さん」

松田「あー、僕もアイドルと親密になりたかったなー」

模木「明日からも全員で力を合わせて頑張りましょう」

松田「……模木さんの優しいスルーが心にしみるなあ……」

L「月くん」

月「? なんだ? 竜崎」

L「すみませんが、月くんも少し残って“竜崎ルエ”のキャラクター設定の構想を手伝っていただけませんか? 今後、二人と直接接触していくことになるであろう我々の間で認識の齟齬が出るとまずいですので」

月「ああ、分かった。じゃあ一緒に考えよう」

L「ありがとうございます。ではまず、“竜崎ルエ”の生い立ちからですが――……」

美希「学祭のイベントでミキの友達の海砂ちゃんって子のライブステージがあって、たまたまそこに竜崎が来てたの。それで知り合ったんだ」

星井父「何? じゃあ竜崎……さんも、アイドルなんですか?」

美希「違うの」

L「違います」

星井父「…………」

美希「えっとね、竜崎は友達の東大生の人と一緒に学祭に来てて。で、その友達の人が東大生の中ではちょっとした有名人だったから、そのライブイベントの司会の人からステージに上がるように呼ばれたらしいの」

星井父「ほう」

美希「で、そのとき一緒にいた竜崎もついでにステージに呼ばれて、そのすぐ後にライブ会場に着いたミキや春香達もまとめてステージに呼ばれちゃって……そこで知り合ったってワケ」

星井父「……なるほど。ということは、君も東大生なのか?」

美希「違うよ?」

L「はい。違います」

星井父「…………」

美希「それでライブが終わった後、ステージに上がった皆と、海砂ちゃんと、あとその司会の高田さんって人も一緒にお茶したの」

星井父「じゃあそこで本格的に友達になったってことか?」

美希「そうなの」

L「はい。決して怪しい関係ではありません」

星井父「まあ経緯は分かったが……しかし今日は二人で会っていたのか?」

美希「そうだよ」

星井父「それは……デートってことじゃ……?」

美希「そうだね」

星井父「いや、そうだねってお前……」

L「…………」

美希「それはもっとカンタンなの」

リューク「?」

美希「あのね、リューク。日本の警察官になれるのは、日本の国籍を持っている人だけなの。“ L Lawliet”なんて名前……どう考えても日本の国籍の人じゃないよね」

リューク「! ……なるほど」

美希「ただもちろんそれでも、たとえばアメリカのFBIとか、どこか外国の警察官って可能性はあるけどね。でもその場合でも、カンカツ? か何かの問題があって、簡単に日本では事件の捜査ができないの」

リューク「へぇ。随分詳しいんだな。ミキ」

美希「だってミキのパパは現役の刑事さんなんだよ? これくらい知ってて当然って思うな」

リューク「そういうもんなのか」

美希「そういうもんなの。……って言いたいところだけど、まあ本当の事を言うと、パパは昔からこういう話をするのが大好きで、ミキもお姉ちゃんも子どもの頃からよく聞かされてたの」

リューク「そういや、キラ事件の捜査の事とかLの事とかも、結構ペラペラお前ら家族に喋ってたもんな。お前の父親」

美希「そうなの。おかげでミキは特に興味も無い警察関係のお話を小さい頃からたくさん聞かされて……まあでもそれがこんな形で役に立つんだから分からないものだけどね」

リューク「確かにな。でもだからといって、それだけで『竜崎はL本人か、またはLとつながりがある人間』ってことになるのか?」

美希「もちろん、ちゃんとした手続きさえ踏めば、外国の警察官でも日本で事件の捜査はできると思うよ。でもね、リューク。ちょっとこれ観て」

リューク「ん?」

(PCを操作し、動画を再生する美希)

リューク「これは……ああ、懐かしいな。まだミキが犯罪者裁きを始めてすぐの頃にTVで流れてたやつか」

美希「そう。リンド・L・テイラー……通称“L”の全世界同時生中継。……まあ実際は、地域ごとに時間をずらして放送してたみたいだけどね」

リューク「? そうだったのか?」

美希「うん。後でネットの書き込みとかを見て分かったんだけどね。多分、最初の放送の時にミキがこの人を殺さなかったから、色んな地域で順番に流していったんじゃないかな」

リューク「……ああ、なるほど。それで生放送中にこいつが死ねば、そのとき放送を流していた地域にキラがいる……ってことになってたわけか」

美希「多分そういうことなの。まあその時はそんなこと全然分からなかったけどね。今思えばその場でこの人の挑発に乗らなくてよかったの」

リューク「ククッ。本当にな」

リューク「で、どうするんだ? ミキ」

美希「……どうする、って?」

リューク「殺さないのか? 竜崎を」

美希「…………」

リューク「奴がL本人にせよLの影武者にせよ、もうここまで確信があるのなら、早めに殺しておいた方がいいような気がするが」

美希「……うん。まだ殺さないの」

リューク「……『まだ』?」

美希「うん。だって今、ミキと個人的に会ったばかり……それも、ミキが竜崎とパパを対面させたばかりっていう、このタイミングで竜崎が死んだら……彼がLの影武者だった場合は当然、本物のLに……また彼が本物のLだった場合でも、今、キラ事件の捜査をしている他の人達……たとえば夜神月のお父さんとかに……間違い無く疑われるの。ミキが竜崎を殺したって」

リューク「まあそれはそうか。……いや、なら事故死か何かで殺したらどうだ? L側はまだ心臓麻痺以外でも人を殺せるってことは知らないだろ」

美希「確かにそれはあるけど……でも、去年のファーストライブの日に春香のファンの人が死んだ件が調べられてるとしたら……そのほとんどすぐ後に発生した、アイドル事務所の関係者の人達が事故死や自殺で死んだ件も、Lに怪しまれてる可能性があるの」

美希「あの時死んだ人達の中に765プロの関係者はいないし、また同じ時期にミキ達765プロのアイドルの人気が急上昇していたことからすると……Lがファンの人が死んだ件で春香を疑っているとした場合……このアイドル事務所関係者の件についても、春香が何か関係しているんじゃないか、って疑っていてもおかしくないの」

美希「もしそうなら……L側が『キラは心臓麻痺以外でも人を殺せる可能性がある』ということに気付いていてもおかしくない……」

美希「そうだとすれば、今、竜崎を事故死や自殺で殺したとしても同じこと……結局、ミキが疑われることには変わりないの」

美希「だから竜崎を殺すとしたら、そうやって疑われるのを覚悟の上でも、そうしないといけないとき……つまり」

美希「春香が捕まりそうになったとき」

リューク「! …………」

美希「もしそういう状況になったら、もう四の五の言ってられないの」

美希「春香を守るためなら、竜崎がL本人であれ、Lの影武者であれ……殺すしかない」

美希「それが春香を守ることのできる、唯一の方法なら」

【同時刻・美希の自室】


美希「…………」

リューク「なあ、ミキ」

美希「何? リューク」

リューク「やっぱり教えてやった方がいいんじゃないか? ハルカに」

美希「……春香もミキと同じくらいのレベルで、Lにキラとして疑われてる可能性が高い……って?」

リューク「ああ。だってあいつ、今日も、黒井って奴を殺すかどうかをお前と話してたとき、『Lのミキに対する疑いを強めるわけにはいかない』っていう言い方をしていたからな。多分、未だに自分に掛かってる容疑は『その他大勢』レベルとしか思ってないだろ」

美希「……いいの。リュークだって分かってるでしょ。今はアリーナライブ前の大事な時期……それが春香にとってどういう意味を持っているか」

リューク「…………」

美希「春香は春香らしく、トップアイドルを目指して走り続けてくれたらそれでいいの」

美希「春香は……誰よりもアイドルなんだから」

美希「だから今、春香がすべきことは全力でライブに取り組むこと……Lの相手なんかをしている暇は無いの」

リューク「……でも今、Lが色々と仕掛けてきているのは間違い無いんだろ? 合宿中のお前の父親のメールの件に、例の四人の犯罪者の不自然な報道の件……」

美希「まあね」

リューク「もっともハルカは、お前の父親のメールの件は知らないし……犯罪者の報道の方も特に気付いてはいなかったみたいだけどな」

美希「……春香は元々、犯罪者裁き自体にはそこまでの関心は無いからね。単にミキがやってるから色々協力してくれてるってだけで」

リューク「確かにそうだな。あいつはあくまでも765プロの全員でトップアイドルになれればそれでいいっていう考えだからな」

美希「うん。だから……」

リューク「だから?」

美希「Lの相手は……ミキ一人でするの」

リューク「ほう」

美希「元々、犯罪者裁きはミキが一人で始めたことだし……Lがキラを追い始めたのもそれが理由なの」

美希「つまり、これは最初から……Lとミキとの一対一の戦いだったの。だからミキ一人で決着をつけるのが筋なの」

リューク「ククッ。なるほどな」

以下はこのスレ分の訂正となります

【七分前・撮影スタジオ内/更衣室】


(更衣室内に取り付けられた監視カメラを全て破壊し終えたリューク)

リューク「……ふぅ。ミキ、これで多分全部壊したぞ」

美希「…………」

海砂「…………」

海砂(間違い無い……最初、このお化けが何をしているのかさっぱり分からなかったけど……)

海砂(このお化けが調べていた場所……天井の照明の中、壁とロッカーの隙間、ロッカーの内側……)

海砂(全部、ライトから聞いていた……監視カメラの場所と一致する!)

海砂(それを『全部壊した』と言った……つまり今……いや、これから先、この部屋の状況は外部からは……ライトからは分からなくなった)

海砂(でも……お化けが調べていた場所からして、盗聴器はまだ壊されていないはず)

海砂(だからミサが声を出せば、ライトにも聞こえるとは思うけど……)

海砂(でも、今の状況で下手な動きを見せたら……)チラッ

リューク「…………」

海砂(……殺されるかもしれない。たった今、この部屋のカメラを全て壊したという……このお化けに)

海砂(だとしたら、今はこのまま様子を見るしか……。今のところ、このお化けがミサに何かしようとする気配は無いし……)

美希「…………」

海砂(それにしても、美希ちゃん……さっきからずっと黙ったままだけど……)

海砂(お化けの言動から考えても……美希ちゃんがこのお化けに命じてカメラを壊させたことは間違いない……よね?)

海砂(でも美希ちゃん、何でこの部屋にカメラが仕掛けられてるって分かったんだろう……? それにいつ、このお化けにそんな命令を……?)

美希「…………」スタスタ

(無言のまま、自分の使っていたロッカーの方へ歩いて行く美希)

リューク「おい。無視かよ……って、ああ。そうか。盗聴器か」

海砂「!」

海砂(盗聴器にも気付いて……)

海砂(そうか。だから美希ちゃん、ずっと黙って……)

美希「…………」

(次の瞬間、捜査本部内のモニターのうち、渋谷の映像を映しているものの一部が別の地点の映像に切り替わった)

総一郎「こちらはまあ……普通の人通りだな。これなら運良く天海春香が映っていたら分かるかもしれない」

L「そうですね。ただ向こうも、少なくとも普通の変装はしているはず……それでも今日の天海春香の服装が具体的に分かっていればまだ良かったのですが……」

月「現時点でそれを知っているのは……今日彼女を尾行していた松田さんか、行動を共にしていた高田しかいない」

L「はい」

総一郎「そういえば……そうだな。そして今は二人とも連絡がつかない状態……もっとも、松田はそのうちここに戻って来るだろうが……」

L「はい。ただそれも二、三時間後でしょうね。星井さんがそのように指示したのですから」

総一郎「では現状では天海春香の方の割り出しも難しい……か」

L「まあ……とはいえ、渋谷の人の渦の中から星井美希を見つけるよりはまだ目がありそうな気がします。それに天海春香の変装パターンについては相沢さんと松田さんにこれまでの尾行の都度、記録してもらっていたデータもありますし。ですので……月くん」

月「! ああ」

L「天海春香の判別・特定は月くんに任せたいと思います。三か月以上にわたり天海春香の家庭教師をしていた月くんなら……たとえ彼女が変装していても、あるいは見つけられるかもしれませんので」

月「分かった。やってみよう」

総一郎「竜崎。天海春香の方をライトに任せるということは……渋谷の星井美希の方もまだ諦めてはいないということだな?」

L「勿論です。ただ先ほども申し上げたように、この街中の映像からの特定は極めて困難ですので……この際、観察対象を星井美希が使うであろう交通機関に絞りましょう。いくらなんでも、この先ずっと徒歩で移動し続けるということは無いでしょうし、プロデューサーにメールを送ってからすぐに移動を開始したとしても、その時点からはまだ十分そこそこしか経っていないはずですから……駅やバス停にはまだ辿り着けていないとみていいでしょう」

総一郎「なるほど」

L「というわけで、私は渋谷駅構内の映像を重点的に確認しますので……夜神さんはバス停およびタクシー乗り場付近をお願いします」

総一郎「分かった」

L「ただ、そうは言っても街中を完全に捨てるのも怖いので……ワタリ」

ワタリ『はい』

L「暫くの間は交通機関を使わずに徒歩で移動する可能性や、ほとぼりが冷めるまでどこか人目につきにくい場所で身を潜めているという可能性……また既に路上でタクシーを捕まえて移動している、またはこれからそれをするという可能性もある。なので念の為、現在の街中の映像と並行して、16時35分以降の映像を可能な限り繰り返し再生し、それらしき動きが無いかを確認してほしい」

ワタリ『分かりました』  

L「…………」

L(星井美希……天海春香……)

月『……実は、今日の作戦は失敗に終わったんだ』

清美「! それは……映像が途中から観れなくなってしまったから?」

月『いや、確かに映像は途中で観れなくなったが……星井美希の最後の撮影のタイミングは、予め765プロのプロデューサーから教えてもらっていた。だから僕はその時を狙って弥に電話を掛けたんが……彼女が応答しなかったんだ。作戦失敗の直接的な理由はそれだ』

清美「応答しなかった……? 海砂さんが?」

月『ああ。その結果、映像は観れず、弥とは連絡が取れずという状況になってしまい、僕も現場で何が起きていたのか全く分からなかったが……今の清美の話で大体分かった』

清美「? どういうこと?」

月『清美。今転送してもらったメールだが……これはほぼ間違い無く、星井美希が弥の携帯を使って書いたか、または弥をして書かせたものだ』

清美「!」

月『おそらく星井美希は、今日、どこかの段階で弥が自分を訝しんでいることに気付き……何らかの形で脅迫したんだろう』

清美「脅迫……?」

月『ああ。具体的な方法は分からないが……少なくともこちらが映像を観れなくなってからだろう。映像に残っている範囲ではそんな事をしている様子は映っていなかったからね』

清美「じゃあ星井さんは海砂さんを脅迫し……私も協力者であり、天海さんの傍にいるということを吐かせたうえで、あのメールを……?」

月『おそらくね。そして清美さえ天海春香から離れさせてしまえば、後は自由に彼女と会うことができる。今後の方針を話し合うため、少しでも早く落ち合う事にしたのだろう』

清美「なるほど……だから海砂さんは夜神くんに連絡をしていなかったのね。星井さんに脅迫されている状況下にあるから……」

月『そういうことになる。ただそれを裏付ける証拠は無いから、あくまでも推測の域を出ないが……』

清美「……あっ」

月『? どうした? 清美』

清美「えっと、今更だけど……結局、海砂さん自身は無事……でいいのよね? 映像は途中から観れていないという事だし、今も連絡は取れない状況……もしかして、もう……などということは……」

月『ああ、それは大丈夫だ。プロデューサーから撮影自体は普通に終わって解散したと聞いている。弥もちゃんとマネージャーと一緒に帰ったそうだ』

清美「そう。それなら良かった。とりあえずは一安心ね」

月『ああ』

清美「それで夜神くん。私はこれからどうしたらいいの? 取り急ぎ、明日もクッキングスクールの体験入門があるのと、765プロのアリーナライブも一週間後に……」

月『そうだな。とりあえず明日のクッキングスクールは適当な理由を作って休んでくれ』

清美「ということは……明日の海砂さんと星井さんの予備の撮影は無しになったのね?」

月『ああ。プロデューサーに頼んでキャンセルにしてもらった。弥が今の状況になってしまった以上、明日の作戦遂行はもはや不可能だからね』

清美「それなら私が天海さんを見張る必要も無いものね」

月『そういうことだ』

清美「分かったわ。夜神くん」

L(まさか)

L(魅了……されているというのか? この私が)

L(キラである、星井美希に……)

L(馬鹿な)

L(そんなことあるはずがない。いや……あってはならない)

L(だが)

L(今……私は)




美希『――――――♪』

L「…………」




L(星井美希の―――今日のこのステージが終わることなく、ずっと続けばいいのにと)

L(そう思っている)

L(そして同時に)

L(彼女を―――“アイドル・星井美希”を)

L(この先もずっと観ていきたいと)

L(そう願っているのだ)

L「…………」

(ほどなくして、アリーナライブの全公演終了を告げる場内アナウンスが流れ始める)

月「……終わったか。では、竜崎。早く……」

L「…………」

月「? 竜崎?」

L「え? あ、ああ……そうですね。すみません。月くん」

月「…………」

粧裕「あー、来て良かった~っ。もう私、今日の事は一生忘れない!」

清美「……本当、すごかったわね。五時間も経っていたなんて思えないくらい」

粧裕「そうそう、ホントあっという間って感じ! ……あー、これしばらく余韻抜けなさそう」

月「高田さん。粧裕。……悪いんだけど、竜崎が物販で買い忘れたグッズがあるらしいから、ちょっと今から一緒に行って来るよ」

清美「! ……ええ。分かったわ。じゃあ私と粧裕ちゃんは先に会場を出ておけばいいのかしら?」

月「ああ。アリーナを出てすぐのところに喫茶店があったはずだから、後でそこで合流しよう」

清美「分かったわ。それじゃあ先に行っておきましょうか。粧裕ちゃん」

粧裕「うん。じゃあまた後でね。お兄ちゃん。竜崎さん」

月「粧裕。くれぐれも迷子にならないように、ちゃんと高田さんについて行くようにね」

粧裕「こ、子ども扱いしないでよ! お兄ちゃん! 私もう中三だよ!?」

月「はは。ごめんごめん。……じゃあ、悪いけど粧裕をよろしくね。高田さん」

清美「……ええ。分かったわ」

月「さて……じゃあ僕達も行こうか。竜崎」

L「はい。付き合わせてしまってすみません。月くん」

(清美・粧裕と別れ、連れ立って歩き出すLと月)

粧裕「もしかして、お兄ちゃんもグッズ買うつもりなのかな……。だとしたら、やっぱりお兄ちゃんも隠れアイドルオタク……?」

清美「……竜崎さんの付き添いらしいから、それはないんじゃないかしら」

粧裕「そっかぁ。それによく考えたら、もう既にアイドルを二人も家庭教師で教えてるわけだし……わざわざ隠す意味もないか」

清美「…………」

清美(このタイミングで、夜神くんと竜崎さんが二人だけで別行動……)

清美(私は何も聞いていないけど……今から何かするつもりなのかしら?)

清美(……いえ。夜神くんが私に何も言っていないということは……余計な心配はしなくていいということ)

清美(なら今、私にできることは……夜神くんを信じて、夜神くんの言う通りにすることだけ)

清美(そう。それでいい。それが夜神くんと私の未来にとって最善の選択となるはずだから)

清美(今は、それで……)

(アリーナ内の通路を移動しているLと月)

月「……ところで、竜崎。具体的なミーティングの場所はプロデューサーから聞くとしても、普通に考えて、おそらく関係者以外は入れないスペースだろうと思うが……一体どうやってそこまで潜入するつもりなんだ?」

L「…………」

月「竜崎?」

L「ああ……すみません。そういえばまだ潜入の方法を説明していませんでしたね」

L「ではとりあえず、これを首から下げておいて下さい」スッ

月「? これは?」

L「ワタリが偽造した会場内スタッフ専用の入館証です。これさえ身に着けておけば、誰にも怪しまれることなく関係者専用のスペースにも立ち入れます。なお関係者用扉の近くに張り込む予定になっているマーク・間木の二人にも既に同じものを渡しています」

L「また会場内のロックが掛かっている扉の暗証番号も全てワタリが事前に解読しています。これで本来スタッフしか開けられない扉も全て解錠できます」

月「なるほど。流石だな竜崎……いや、この場合はワタリか」

L「それから、月くん。本来の作戦では、月くんは伊田さん達と一緒に一般の出入口を見張ることになっていますので……携帯からでいいので、今から私がアドレスを送るページにパス入力の上ログインして下さい」

L「そのページからは、この会場の一般の出入口付近の防犯カメラの映像を観れるように設定しています。なので月くんは都度そちらの映像を確認しつつ、あたかも実際に現場に張り込んでいるかのような体で、伊田さん達と定期的に状況確認を行うようにして下さい」

月「分かった。色々とありがとう。竜崎」

L「いえ。あとついでにこれもお願いします」スッ

月「これは……」

L「はい。もうすっかりお馴染みとなったタイピン型の超小型マイクと……こちらは今日初めて使うものですが、超小型のウェアラブルカメラです」

L「これらの音声と映像は、いずれもワタリのPCに“のみ”リアルタイムで転送されるように設定しています」

月「! と、いうことは……」

L「……はい。すみません。ワタリにだけは、月くんが私に同行して二人の逮捕に向かうということを伝えています」

月「…………」

L「そうしておかなければ、私達が二人とも死神に殺されてしまうような事態になった場合……その証拠をどこにも残せなくなってしまいますので」

L「もっとも、その場合でも死神そのものの姿はカメラには映らないでしょうが」

月「……そうだな。分かった。僕は自分が現場に行ければそれでいい」

L「ありがとうございます。月くん」ピッ

(携帯電話を操作するL)

L「……ワタリ」

ワタリ『はい』

L「こちらのマイクの音声、カメラの映像はいずれも問題無く受信できているか?」

ワタリ『はい。いずれもクリアーに受信できています』

L「分かった。では引き続きよろしく頼む」

ワタリ『分かりました』

(ワタリとの通話を終えたL)

L「ではこれらは両方、月くんが身に着けておいて下さい」

L「もし死神が私達を殺しにかかるとした場合、普通に考えて“L”である可能性が高い私の方を先に殺そうとするでしょうから」

L「証拠は少しでも長く、多く押さえておきたい」

月「……ああ。分かったよ」スッ

(月はLからマイクとカメラを受け取ると、マイクをズボンのポケットに、カメラをシャツの胸ポケットにそれぞれ仕込んだ)

美希「……じゃあ、可奈。ミキ達、今からちょっと行くとこあるけど……またすぐに戻って来るから」

可奈「え、あ……はい」

春香「また後でね。……可奈ちゃん」

美希「じゃあね。可奈。……また、後で」

(美希と春香は可奈に背を向けると、再び前を向いて歩き始めた)

可奈「…………」

可奈(あれ? なんだろう)

可奈(今すぐ、星井先輩と天海先輩を呼び止めないといけないような、そんな気がするのに……)

可奈(なぜだか、上手く声が出せない)

可奈(なんで……?)

可奈(……いや、ダメだ。今、今二人に声を掛けないと――……)

可奈(もう、この二人には二度と会うことができないような……そんな気がする)

可奈「あ、あのっ!」

美希・春香「!」クルッ

可奈「あ、わ、私……」

美希・春香「…………」

可奈「私、ずっと待ってますから! お二人が戻って来るのを、ずっと、ずっと……!」

可奈「……だから」

可奈「必ず、また戻って来て下さいね……?」

美希「もちろんなの。可奈」

春香「大丈夫だよ。可奈ちゃん。そんなに心配しなくても、すぐに戻って来るから」

可奈「……はい! わかりました!」

(美希と春香は、可奈に軽く手を振ると、再び前を向いて歩き始めた)

(やがて二人が通路の角を曲がると、その姿は完全に見えなくなった)

(可奈はそれを見届けた後、パンダのぬいぐるみを二つ、ズボンのポケットから取り出すと、それらを胸の前で握りしめた)

可奈「…………っ!」ポロポロ

(可奈の両の目から涙が零れ落ちる)

志保「……可奈? どうしたの?」

可奈「! ……志保ちゃん? なんで……」

志保「いや、部屋を出て行くときの可奈の様子が気になったから……って、可奈? あなた……泣いて……?」

可奈「は、はれっ? お、おかしいな。何で私、泣いてるんだろう……?」

可奈「星井先輩も、天海先輩も……すぐにまた戻って来てくれるのに」

可奈「だから何も、悲しいことなんか……無いはずなのに」

可奈「……ね? そうだよね? 志保ちゃん」

志保「……可奈……」

可奈「お、おかしいね? あ、あは……あはははは……」

志保「…………」ギュッ

(可奈の身体を抱きしめる志保)

可奈「ひっ、くっ……う、うぁあああああああん」

志保「……よしよし」

志保「何があったのかは分からないけど……今は好きなだけ泣いたらいいわ」

可奈「し、しほちゃ……あ、ありが、と……う、ひぐっ……うわああああああん」

(その後十分ほど、可奈は志保に抱きしめられながら泣き続けた)

【三十分後・海の見える浜辺】


(美希と春香は、波打ち際から少し離れた浜辺で二人、砂の上に大の字になり仰向けに寝そべっている)

春香「…………」

美希「…………」

春香「ねぇ。美希」

美希「何? 春香」

春香「竜崎さん……“美希の”ファンになってくれたかな?」

美希「さあ……どうだろうね」

美希「まあでもやるだけのことはやったし、悔いは無いの」

春香「……そっか。悔いは無い、か」

美希「うん。春香は? 何か悔いがあるの?」

春香「……ううん。無いよ」

美希「そっか。それは良かったの」

春香「念願のトップアイドルにもなれたしね」

美希「そうだね。……ま、証人が可奈っていうのはちょっと頼り無いかもだけどね」

春香「あはは。まあ、いいじゃん。あんなに可愛い後輩が証人なら、願っても無いよ」

美希「……だね」

春香「……うん」

美希「……あ、でも」

春香「ん?」

美希「ミキね、やっぱり一つだけ……心残りがあるの」

春香「……何?」

美希「今日のライブ……やっぱりパパにも観に来てほしかったな、って」

春香「……来てた可能性はあるんじゃない? ……捜査で、さ」

美希「……ううん。だってミキのパパだもん。もし来てたら、ミキにはきっとすぐにわかるの」

美希「たとえあの広いアリーナの……どこにいたって」

春香「……そっか」

美希「……うん」

春香「…………」

美希「…………」

訂正は以上です

以下、>>339からの続きとなります

月「…………」

L「…………」

月「…………ん?」

 パサッ

(無言で美希と春香を見つめていたLと月のすぐ傍に、どこからともなく、一冊の黒色のノートが落ちてきた)

(そのノートの表紙には『DEATH NOTE』という文字が書かれている)

月「! これは……」

L「『黒いノート』……ですね。おそらくは、星井美希が持っていた……」

月「…………」スッ

(ノートに手を伸ばす月)

L「! 月くん」

月「……もし今、この場に死神が居るのなら――……あえて僕達に触れさせるために、このノートを落としたとみるべきだ」

L「!」

月「勿論、僕達人間には死神が何を考えてそうしたのかなんて分からないが……あえてそうしたということは、少なくともそこには何らかの意図があるはず……まさか僕達を殺すためにはノートに触れさせることが必要、などということもないだろうしね」

L「それはそうかもしれませんが……しかし……」

月「竜崎。今、この場に死神が存在すると仮定するのなら……想定しうる死神の意図に沿った行動を取っておくべきだ。それこそ、僕達がここでノートに触らなければ即殺すつもりなのかもしれないだろう」

L「……そうですね。ただ、ノートに触れれば、おそらく……」

月「ああ。死神が直接視認できるようになるんだろう。あの時のミサと同じように」

L「…………」

月「だが、僕はそれでも構わない」

L「!」

月「それは勿論、そうしない方が殺される可能性が高いと考えられるからだが……しかし、それを抜きにしても……もう覚悟はできている」

L「月くん」

月「大体、ミサには本当の推理の内容を告げずにノートを触らせておいて……いざ自分の番になると触らないなんて、いくらなんでも虫がよすぎるだろう?」

L「……そうですね」

月「よし。じゃあ……触るぞ」

L「はい」

月「…………」スッ

(ノートを手に取る月)

月「………… !」

(次の瞬間、月の視線はある一点に釘付けになった)

L「? 月くん?」

月「……竜崎。『事実は小説より奇なり』とは……よく言ったものだな」

L「! ということは……」

月「ああ。……居るよ」

L「!」

月「いや……より正確には『居た』というべきかな。おそらく、僕達がここに来た時から―――ずっとね」

(月の視線の先には、月とLから2メートルほど離れた距離で、不敵な笑みを浮かべながら宙に浮いているリュークの姿があった)

リューク「……ククッ。今のお前達の会話、ずっと聞かせてもらっていたが……」

月「!」

月(言葉を……そうか。そういえばあの時、ミサも……)

リューク「まさか……分かっていたのか?」

リューク「この俺が―――『死神』が存在するということを」

月「! …………」

L「月くん。私にもノートを」

月「……ああ」スッ

(Lに向けてノートを差し出す月)

(Lはノートに触れると、すぐにリュークの存在に気付いた)

L「! …………」

月「竜崎」

L「……ええ……死神? でいいのかどうか、分かりませんが……」

L「本当に……いたんですね」

L「このような……存在が」

月「ああ。しかもどうやら……本当に『死神』らしい」

L「! ……そうなんですか?」

月「今、自分でそう言っていたからな。そうなんだろう? ……『死神』」

リューク「……ククッ」

L「!」

リューク「いかにも……俺は『死神』」

リューク「死神のリュークだ。よろしくな。ククッ」

月・L「…………」

L「言葉を……そういえばあの時、弥がそれらしきことを言ってましたね」

月「ああ。そしてやはり、この『黒いノート』を触った者にしか死神の姿は見えず声も聞こえない……僕達の推理通りだな」

L「はい」

リューク「ククッ。まさか俺の存在に気付いていただけじゃなく……そんなことまで読んでいたとはな」

リューク「大した奴らだ。逆にこっちが驚かされた」

L「あなたの……『死神』の存在の可能性を最初に考えついたのは月くんでしたけどね」

リューク「ほう」

月「…………」

リューク「何で分かった? 確かにお前達の言う通り……ノートに触れた人間にしか俺の姿は見えないし、声も聞こえない。推理なんてしようがないように思うが……」

月「……確証を得たのは一週間前だ。渋谷の撮影スタジオの監視カメラの破壊……あれをやったのはお前だろう?」

リューク「確かにあれは俺がやったが……それだけでか? いや、『確証を得た』という言い方からすると……もっと前から勘付いていたということか?」

月「僕が最初に『死神』の存在の可能性を考えたのは……星井美希の部屋に付けられたという監視カメラの件からだ」

リューク「! …………」

リューク(確かに、あれも俺が探したが……)

月「星井美希と天海春香が取っていた行動からして、星井美希は部屋に付けられていた全てのカメラの位置を把握しているとしか思えなかった。だがそのカメラの数は64個にも及んだという……いくらなんでも、それだけの数のカメラの位置を、そのどれにも映ることなく全て把握することなんて不可能だ」

月「普通の人間には……ね」

リューク「……なるほど。それでお前は、『人間以外の何かが存在している可能性』に勘付いた……ってことか」

月「ああ」

リューク「それは分かった。だが、そこからさらに……その『人間以外の何か』を『死神』とまで特定できたのは何故だ? お前達人間がよくする空想なら、『悪魔』とか『幽霊』とか……他にも色々思いつきそうなもんだが」

月「そこに大した理由は無い。ただ、この『黒いノート』……これがもし、僕達が推理した通りに『名前を書くと書かれた人間が死ぬノート』であるとすれば……そんな物が、この僕達人間の世界に当たり前のように存在しているなんて俄かには考え難い」

月「それならむしろ、それは僕達人間の世界に元々存在していた物ではなく、この世界とは『別の世界』に居る者……つまり『異界の者』によってもたらされた物である、とでも考えた方がまだ理解できる……そしてそうであるとすれば、『人を殺せるノート』である以上……その『異界の者』を表す言葉としては、『死神』という表現が最も適当だと思っただけだ」

月「だから今、本当に……そのような『異界の者』が存在し、それどころか……それがまさに『死神』そのものだったと知って……本当に驚いたよ。……『死神』。いや……」

月「『リューク』」

リューク「……ククッ。なるほどな」

リューク(こいつ……『夜神月』……)

リューク(まさか、ここまでとはな)

月「そして、リューク……お前は撮影スタジオの監視カメラを破壊した張本人であり……今、この『黒いノート』を僕達の前に落とした」

リューク「ああ」

月「一応、確認しておくが……この『黒いノート』は星井美希が所持していたものに間違い無いな?」

リューク「そうだ」

月「ということは……」

(浜辺に横たわっている美希と春香を一瞥する月)

月「やはり、この二人がキラ……だったんだな」

L「…………」

リューク「ああ」

月・L「!」

リューク「まあ厳密には、キラとしての裁きをしていたのはミキの方だけだったがな」

リューク「ハルカがしていたのはあくまでもミキの補佐のようなものだけだ」

L「しかし、天海春香も……星井美希がノートを使い始めるよりも前に、自らの意思でノートを使っていた」

リューク「!」

L「昨年のちょうど今くらいの時期から……彼女は約三か月かけて、765プロダクションを守るため……“765プロ潰し”計画の主要人物達を八人殺害した」

L「それが『アイドル事務所関係者連続死亡事案』の真相」

L「……ですよね? リュークさん」

リューク「ああ。その通りだ。よく調べてるじゃないか」

月「だが、今から一週間前のファッション誌の撮影の日……スタジオの更衣室内に仕掛けられていた監視カメラによって、星井美希はこの『黒いノート』の存在を“L”に認知されたことを知った」

月「そして彼女は直ちに天海春香に連絡を取り……“L”の監視の目を掻い潜って逃走した」

L「…………」

月「その後、星井美希と天海春香は、どこかで落ち合った末に……ノートに自分達の名前を書き――……」

月「自ら、命を絶った」

月「……そうだな? リューク」

リューク「……ああ」

(浜辺に横たわっている美希と春香に視線を向けるリューク)

リューク「全て、お前の言う通りだ」

リューク「この通り……ミキもハルカも死んだ」

リューク「つい、さっきな」

月・L「…………」

月「……ところで、僕達の推理が正しければ、この二人は別々にノートを所持していたはずだが……」

リューク「ああ。そうだ」

月「では、お前がこの二人にそれぞれ別々にノートを渡したということか? リューク」

リューク「いや、俺がノートを渡したのはミキだけだ」

月「? 何?」

リューク「ハルカにノートを渡したのはまた別の死神だ」

L「ノートごとに渡す死神が異なる……ということですか」

リューク「まあ必ずそうってわけでもないが、基本的にはな」

月「じゃあ天海春香にノートを渡した死神はどうしたんだ? そいつも僕達には見えていないだけでこの場に居るのか?」

リューク「いや、そいつはもうここにはいない。ミキとハルカの死を見届けた後に帰った」

L「帰った……?」

月「どこに?」

リューク「もちろん、俺達死神が住んでいる世界……死神界にだ」

月「死神界……」

L「…………」

リューク「そうだ。死神は皆そこに住んでいる。ノートを人間に使わせ、その人間に憑いている死神以外はな」

月「ということは……人間にノートを渡した死神はその人間に憑いていなければならない、ということか?」

リューク「ああ。その人間が死ぬまでな。そしてそれは死神界の掟でもある」

月「だから天海春香の死後、彼女に憑いていた死神は死神界に帰ったのか」

リューク「そういうことだ。あとついでに言っておくと、ハルカが持っていたノートももう人間界には無い。その死神が持って帰っちまったからな」

月「なるほど。だが、それなら何故……お前はまだ人間界に残っているんだ?」

リューク「…………」

月「いや、より正確に言うと……何故、お前は僕達の前に姿を現したんだ?」

リューク「! …………」

月「今の話からすると、本来であれば星井美希の死後、お前も死神界に帰ることになるはず……天海春香に憑いていた死神がそうしたように」

月「なのにお前はあえて人間界に残り、星井美希が使っていたノートを僕達の前に落とし、触らせ、自分の姿を視認させた……」

リューク「…………」

月「勿論、このノートに触れる前に言っていた通り……僕もお前が何らかの意図をもってそうしたのであろうとは考えたうえで、それでもあえてこのノートに触れることを選んだわけだが……」

月「だがその『何らかの意図』が何であるかまでは僕には分からない。まさか二人が死んだから、これまでの経緯を全部ご丁寧に解説することにした……などというわけではないのだろうが……」

L「…………」

リューク「ククッ。解説か……まあそれをすることも吝かではないが……お前の言う通り、当然俺の目的は別にある」

リューク「こうして、お前達の前に姿を現した目的はな」

月「何なんだ? それは……」

リューク「……それは後で話そう。その前に確かめておきたいことがある」

月「? 何だ?」

L「…………」

リューク「『夜神月』」

月「! …………」

リューク「そして」

L「…………」

リューク(こいつは……一応、本名では呼ばない方がいいか。こんなことで掟違反になっちまうのも馬鹿らしいしな)

リューク「『竜崎』だったな」

L「…………」

リューク「で、ミキの確信を信じるなら―――お前が“L”ってことらしいが」

L「!」

リューク「そうなのか?」

L「…………」

L(星井美希が私を『“L”である可能性が最も高い者』として疑っている可能性があるとは推測していたが……まさか確信まで得ていたとは……)

L(一体どのタイミングで? やはり二人だけでアリーナに行ったあの時……?)

L(しかしいずれにせよ、それなら何故……私を殺していない?)

L(あるいは、名前自体は既に書かれているがまだ死の時期が到来していないだけ……ということか?)

L(だが今……この場でそんな思考を巡らせても無意味か)

L(今、私が考え、判断しなければならないことは……)

L(この死神に……真実を話すべきかどうか)

L「…………」

リューク「ああ。一応言っておくが、俺に嘘をついても意味無いぜ」

L「!」

リューク「この通り、俺は俺で……自分のデスノートを持っている」スッ

(自分の腰に着いているデスノートを指差すリューク)

月「! 本当だ。というか……そのまま『デスノート』なのか。このノートの名前は」

リューク「そうだ。人を殺すノートだから、デスノート。分かりやすいだろう?」

L「…………」

リューク「そして、もう一つ」

リューク「俺達、死神の目には……人間の顔を見ると、その人間の名前が見えるんだ」

リューク「『その人間を殺すのに必要な名前』がな」

L・月「!」

月「殺すのに必要な名前……」

L「では、あなたの目には私の本名も見えているということですか」

リューク「ああ。ばっちり見えているぜ。お前の顔の上にな」

L「…………」

リューク「分かったか? つまり俺はいつでもお前達を殺せるということだ」

リューク「俺の気まぐれで死にたくなければ、俺の質問には正直に答えた方が良い」

L「…………」

月「だがその割には、さっき『竜崎』と呼んでいたが……」

リューク「ああ。死神の目で見える人間の名前を他の人間に教えてはならない、という死神界の掟があるからな」

リューク「お前が竜崎の本名を知らない可能性もあると考え……念の為『竜崎』と呼ぶことにしただけのことだ」

月「なるほど。確かに僕は竜崎の本名は知らない……まあ別に知りたくもないが」

L「…………」

月「しかし、『死神の目で人間の顔を見ればその人間の名前が分かる』……か。だとすると、天海春香はそれと同等の能力を保有していたということか?」

L「おそらくそういうことでしょうね」

リューク「いや、能力というか……ハルカが持っていたのは『目』そのものだ」

月「『目』そのもの?」

リューク「ああ。デスノートの所有者となった人間は、ある取引をノートの元持ち主の死神とすることで、自分の目を死神の目にすることができるんだ」

L「! 死神と『取引』……ですか。これも月くんが推理していた通りですね」

リューク「ほう」

月「……まあ、流石に『死神の目』を手に入れられるような取引だとは思わなかったが……しかし、『取引』というからには……人間から死神に対しても何らかの対価……代償を差し出すということか?」

リューク「ああ。死神の眼球の値段はその人間の残りの寿命の半分だ」

月「! 残りの寿命の半分……」

L「じゃあ、天海春香は……」

リューク「そうだ。あいつは自分の意思で死神と取引をし、死神の目を手に入れ……残りの寿命を半分にした」

リューク「勿論、その死神はあいつにノートを渡した死神であって、俺じゃないがな」

L「…………」

月「死神の目……か。僕はそれなりに長い間、天海春香の家庭教師をしており……その間、彼女をかなりの至近距離から観察したりもしていたが……全く分からなかったな」

リューク「ククッ。そりゃそうだ。死神の目といっても、見た目には普通の人間の目と何も違っては見えないからな」

月「なるほど……」

リューク「で、話を戻すが……とにかくそういうわけで、俺はいつでもお前達を殺すことができる」

L「だから、殺されたくなければ質問には正直に答えた方が良い……でしたね」

リューク「ああ」

L「…………」

月「竜崎」

L「……ええ」

L(勿論、現時点でもまだこの死神が嘘をついているという可能性は一応残る……が……)

L(星井美希と天海春香が死亡した現在において、あえてこの死神が私達に嘘をつく意味があるとは思えない)

L(そしてこの死神の言うことが本当だとしたら……私も夜神月もいつ殺されてもおかしくないということになる。ならば今は、その危険を少しでも回避するための行動を取るべき……)

L「……分かりました。では先ほどのリュークさんの質問に回答します」

L「私がLです」

リューク「……ククッ。やっぱりそうだったのか。ミキの直感も大したもんだな」

L「直感?」

月「…………」

リューク「ああ。覚えているか? 今から十日前、お前がミキと二人でアリーナに行った時のこと」

L「それは勿論、覚えていますが」

リューク「あの時、ミキは泣いただろう?」

L「はい」

リューク「どうやらそれこそが、お前がLだと確信した直接的な理由だったらしい」

L「! …………」

リューク「あの日、お前がハルカの心情について語った時……ミキは嘘でも演技でもなく、心の底から感動し……泣いていた」

リューク「だが一方で、ミキは既にお前がキラ事件の捜査本部に居ること、そして自分とハルカに嘘をついていることを知っていた」

L「! …………」

リューク「だからこう考えたそうだ」

リューク「『“嘘”で自分を“感動”させることなんて、普通の人間にはできるはずがない』『だからそれができた人間で、かつキラ事件の捜査本部に居る竜崎こそがLである』……と」

月「……なるほど。それで『直感』か」

L「ではやはりあの時、私が覚えた言いようもない不安は……」

リューク「ほう。じゃあお前もお前で、ミキに何かしら勘付かれているという自覚はあったのか?」

L「まあ……流石に星井美希のその思考過程までは読み切れていませんでしたが」

リューク「ククッ。それでも大したもんだ」

月「……リューク」

リューク「ん?」

月「お前は僕達をいつでも殺すことができると言ったが……じゃあ逆に、僕達がお前を……死神を殺すことはできるのか?」

リューク「! ……それは基本的には無理だ。死神は、頭を拳銃でぶち抜かれようと心臓をナイフで刺されようと死なないからな」

リューク「そして勿論、死神にはデスノートも効かない。ノートに死神の名前を書いたところで何の効果も得られない」

月「『基本的には』ということは……手段として全く存在しないわけではない、ということか? 死神を殺すための方法は」

リューク「まあな。だがどのみちお前達には無理だ」

月・L「…………」

リューク「……さて。じゃあ次は、俺がさっきの質問に答える番だな」

リューク「俺がお前達の前に姿を現した目的……それは――……」

月・L「…………」

リューク「これから、お前達にそのデスノートを使わせるためだ」

L「!」

月「何……?」

L「私達に……」

月「このノートを使わせる……だと?」

リューク「ああ」

リューク「俺は面白いものが観られればそれでいいからな。それが叶うのなら、ノートを使う人間は別にミキやハルカじゃなくてもいい」

月「では僕達にノートを使わせ……いや、二人に代わってキラの裁きを行わせ、そのさまを観て楽しもうということか?」

リューク「……俺は別に、お前達にキラの真似事をさせようとは思っていない」

月「? 何?」

リューク「そもそも、俺がミキにノートを渡した時も……俺としては、とにかく『面白いもの』が観られればそれで良かったんだ。だからノートの使い方についても、俺はミキに口出ししたりはしなかった」

リューク「犯罪者裁きも俺の意思とは無関係に、ミキが自分の意思で始めたものに過ぎない」

月「だがそれなら……誰にノートを渡しても良かったんじゃないか? 何故、星井美希に?」

リューク「俺はノートを渡す人間を探し始めた時点で、既にハルカがノートを使って他の人間を殺していたことは知っていたからな。それならば、ハルカから近い位置に居る人間にノートを渡した方が、より面白いものが観られるようになるんじゃないかと思ったんだ」

リューク「となると、後は誰に渡すかだが……ちょうどその頃、ハルカの仲間の765プロのアイドル達は皆、当時のプロデューサーに恨みを抱いているようだった。俺はこの中の誰にノートを渡しても、そいつの名前を書く可能性は高いだろうと思っていたが――……」

リューク「最終的には、最もデスノートとの親和性が高そうなミキを選び……ノートを渡した」

月「ノートとの親和性、というと……」

L「星井美希の持つ、天才的な嗅覚……でしょうか」

リューク「まあそんなとこだ。ミキは一度スイッチが入ると、人並み外れた集中力やパフォーマンスを発揮する……俺はミキのその特性に着目した」

リューク「その結果、仲間同士のはずのミキとハルカがそれぞれノートを持つ形となり、互いに殺し合うようにでもなってくれれば最高だったんだが……」

リューク「生憎、こいつらはそうはならなかった」

リューク「殺し合うどころか、最後の最後まで……互いに互いを守ろうとし……結果、最後には『こうする』道を選んだ」

リューク「もっとも、それはそれで……俺もそれなりに楽しむことはできたがな。ククッ」

月・L「…………」

リューク「だが、まだ足りない」

リューク「俺はもっと楽しみたいんだ」
     
月「……だからお前は、二人が死んだ後もなお、また別の人間に……僕達にノートを使わせ、楽しもうとしている……」

L「それが、あなたが私達の前に姿を現した理由……ということですか」

リューク「ああ。その通りだ」

月・L「…………」

月「……お前の行動理念は分かった。だが何故『僕達』なんだ? 『名前を書くと書かれた人間が死ぬノート』なんて……喜んで使いそうな人間は他にいくらでもいるだろう」

リューク「まあな。だが言っただろう? 俺はもっと楽しみたいんだと。そのためには、ミキやハルカよりも俺を楽しませてくれるような人間でなければならない」

リューク「となると、ミキとハルカをここまで追い詰めた人間……『“L”とその仲間』しかいない。俺はそう考えた」

月・L「…………」

リューク「それに『“L”とその仲間』なら必ず……ミキとハルカが死んだ後、最初にこの場所に来るはず」

リューク「だから俺は二人が死んでから、ここで待っていたんだ」

リューク「『“L”とその仲間』が来るのをな」

月「じゃあ、お前はその『“L”とその仲間』が『僕達』……つまり『竜崎』と『夜神月』であることまで分かっていたのか?」

リューク「そうだな。少なくとも“L”は来るだろうと思っていたし……ミキの得ていた確証を前提にすれば、それは『竜崎』なのだろうと思っていた」

L「…………」

リューク「さらにミキは、『竜崎』が“L”であるとの確証を得る以前から……『夜神月』についても、『『竜崎』と同じくキラ事件の捜査本部に居て、ミキとハルカをキラとして疑っている者』である可能性が高いと考えていた」

リューク「『竜崎』はミキと最初に会った時から『自分は天海春香のファンだ』と嘘をついていたが、『夜神月』はその『竜崎』とずっと話を合わせていたからな」

月「…………」

リューク「だから俺は『竜崎』と共に『夜神月』がここに来てもおかしくないだろうとは思っていたが……仮に別の奴らが来たとしても、俺は同じ話を持ち掛けるつもりでいた」

リューク「さっきも言ったが、最初にこの場所に来るであろう奴らは、ミキとハルカをここまで追い詰めた張本人……すなわち『“L”とその仲間』以外には考えられなかったからな」

月「なるほどな。しかし、星井美希は……“L”が自分のみならず、天海春香をも疑っていたことにも気付いていたのか」

L「まあ……おかしくはないですね。星井美希が天海春香から、今からちょうど一年前……昨年の765プロダクションのファーストライブの日に、彼女が自分の後をつけていたファンを『心臓麻痺で』殺したという話を聞いていたとすれば……“L”がそれを端緒に彼女をも疑うようになることは容易に推測できるでしょうし」

リューク「ああ……そうか。ミキも同じことを言っていたが……やっぱりそういう風に考えるよな」

L「?」

月「どういうことだ? リューク」

リューク「ついでだ。教えてやるよ。そのハルカのファンだった奴を殺したのはハルカじゃない」

月・L「!」

リューク「昨年の8月1日……765プロのファーストライブがあった日の深夜だ。事務所での打ち上げを終え、帰宅しようとしていたハルカは――……」

(レムが春香にノートを渡した経緯を説明し終えたリューク)

リューク「……という経緯で、ハルカはデスノートを所持するようになったってわけだ」

月「ではファーストライブの日に天海春香のファンだった男を殺したのは、ジェラスという死神で……天海春香にとっては濡れ衣だったということか」

リューク「そういうことだ。もっとも、その後に起きた『アイドル事務所関係者連続死亡事案』についてはお前達の推理通り、全部ハルカの意思による殺人だがな」

L「そして……『特定の人間に好意を持ち、その人間の寿命を延ばす為にノートを使った死神は死ぬ』」

L「これがさっき、あなたがその存在をほのめかしていた『死神の殺し方』ということですか」

リューク「ああ」

月「……確かにこれなら、僕達がリュークを殺すことはどうやっても不可能だな。そもそもリュークが特定の人間に好意を持つような死神には見えない」

リューク「ククッ。まあ死神界では俺みたいな奴の方が普通だ。むしろジェラスみたいな奴の方がおかしい」

L「ですが……レム? でしたか。ジェラスと共に天海春香を見守っており、ジェラスの遺したノートを彼女に渡した死神……」

リューク「ああ」

L「彼……いえ、彼女もまた、天海春香に対して特別な好意を持っていたのでは? それが『アイドルのファン』としてのものであれ……」

L「だからこそレムは、ジェラスの遺したノートを天海春香に渡したように思えますが」

リューク「そうだな。レムもレムで、ハルカに対して特別な好意を抱いていたのは間違い無い」

リューク「そしてそれは、ノートをハルカに渡した後も同じ……ハルカが死ぬまでずっとそうだったはずだ」

月「だがそれなら何故、今……レムは僕達を殺していないんだ?」

月「天海春香に対し、特別な好意を抱いていたのなら……その復讐として僕や竜崎を殺してもおかしくない。あるいは好意を持った人間が死んだ後であっても、その人間に対する好意に起因して他の人間を殺すと死神は死ぬのか?」

リューク「いや、そのような掟は無い。死神が死ぬのは、あくまでも好意を持った人間が生きている前提の下、その人間の寿命を延ばす目的でノートを使った時だけだ」

月「だったら、何故……?」

リューク「まあ、そういう疑問を抱くのが普通だろうが……正直、レムの思考は同じ死神の俺にもよく理解できないところがあってな」

月「?」

L「どういうことですか?」

リューク「ほんのついさっき……ミキとハルカが死んだ直後の事だが――……」

月・L「…………」

【三十分前・海の見える浜辺】


(浜辺に横たわっている美希と春香を見下ろしているリュークとレム)

レム「この後もまだ人間界に残るだと?」

リューク「ああ。俺の勘が間違ってなければ、もうすぐここに別の人間達が来るはずだ。そして俺はそいつらにこのノートを渡す」

レム「! ……“L”……いや、ミキの話を前提にするなら竜崎……と、その仲間か」

リューク「ああ。おそらくな」

レム「そして次はそいつらにノートを渡し……使わせて楽しもうという腹か」

リューク「そういうことだ。こんな面白い遊び……ここでやめちまうのは勿体無いからな。ククッ」

レム「全く、お前という奴は……」

リューク「なんだ。お前は乗らないのか? レム」

レム「ああ。悪いが、私はもう死神界に帰らせてもらうよ」

リューク「ちぇっ。つれない奴だな」

レム「私はあくまでもハルカの命の結末を見届けたかっただけだ。それはジェラスの願いでもあったからね」

リューク「ふーん……じゃあ恨みとかも全く無いのか? そのハルカを死に至らしめるまで追い詰めた、“L”やその仲間に対して」

レム「…………」

リューク「『ハルカのファン』を自認していたお前の事だ。てっきりハルカが死んだ後、“L”やその仲間を皆殺しにでもするんじゃないかと思っていたがな」

レム「……勿論、そういった感情が全く無いと言えば嘘になるが……私はハルカが選んだ道を尊重したい」

リューク「! …………」

レム「だから今、私が“L”やその仲間に手を下すことは、ハルカの選択を蔑ろにすることになる……私はそう考えている」

レム「私は“アイドル・天海春香”のファンであり……ファンとは、アイドルの選んだ道を信じるもの」

レム「それがファンとしての矜持だからね」

リューク「ああ、そう……」

レム「後は……そうだな。ハルカとミキの亡き後、765プロが、そして765プロのアイドル達がどうなるのか……その行く末を、死神界からじっくり見届けさせてもらうとするよ」

リューク「ククッ。それはそれは、相変わらずご執心な事で。……ああ、そうだ。じゃあハルカの使ってたノート、俺にくれよ。一冊より二冊あった方がより楽しめそうだからな」

レム「……断る」

リューク「えっ」

レム「このノートは元ジェラスのノート……ジェラスの遺志とハルカの意思が宿ったノートだ。悪いが、それらを受け継ぐに足ると判断した者にしかこのノートは渡せない」

リューク「ああ、そう……」

レム「じゃあな。リューク。まあせいぜい頑張ってくれ」バサッ

リューク「……おう。またな。レム」

(翼を広げ、レムは空を飛んで死神界に帰っていった)

【現在・海の見える浜辺】


リューク「……まったく、変な奴だったぜ。まあ死神のくせに人間のアイドルのファンになっている時点で十分変だがな」

月「なるほど……いや、待てよ。レムは僕達を殺さなかったということだが……そもそも、星井美希が既に竜崎を“L”だと確信しており、また僕の事も『『竜崎』と同じくキラ事件の捜査本部に居て、星井美希と天海春香をキラとして疑っている者』である可能性が高いと考えていたのなら……僕達がノートを使う使わない以前に……僕達の名前は既にこのノートに書かれているんじゃないのか?」

月「星井美希、または天海春香の手によって」

L「…………」

リューク「そうか。それもまだ話していなかったな」

月「え?」

リューク「竜崎……いや、“L”」

L「…………」

リューク「そして……夜神月」

月「…………」

リューク「結局、ミキとハルカは……お前ら二人を殺さなかったんだ」

月・L「!」

リューク「何なら自分達の目で確かめてみればいい。そのノートはミキとハルカが死んだ、ついさっきのままの状態だ」

月「…………」パラッ

(デスノートのページを捲る月)

リューク「どうだ? 書かれていないだろう?」

月「確かに、最初の2ページには犯罪者のものとおぼしき名前が書かれているが……」

L「1ページ目の前半に書かれている名前は、一週間前にカメラ越しに観た時のものと同じですね」

月「ああ。そしてその後に書かれているのも、この一週間で新たに裁かれた犯罪者の名前に間違い無い……」

L「ちなみにですが……リュークさん」

リューク「ん?」

L「このノートには、最初の方の何ページかを切り取ったような形跡がありますが……切り取った方のページに名前を書いても死ぬんですか?」

リューク「ああ。死ぬな」

L「なるほど。ではこれも月くんの推理通りですね」

月「そうだな」

リューク「推理?」

L「このノートをカメラ越しに確認するよりも前に、月くんは『ノート本体から切り取ったページや切れ端に名前を書いても殺せる』という可能性を考えていたんです」

リューク「……へぇ」

リューク(これも夜神月……か。そういえばさっき、目の取引のくだりでも……)

リューク(……なるほどな。こいつなら……)

月「しかし、切り取ったページに名前を書いても死ぬのなら……結局、そっちの方に書かれているという可能性は残るんじゃないのか? あるいは逆に、書いてから切り取ったという可能性も……」

リューク「前の方のページが切り取られているのは、単にミキが自分の判断で古いページを処分したからだ。勿論、今更その証明まではできないが……だがそんなことを言い出したら、ハルカが持っていた、レムが死神界に持って帰った方のノートについても同じ事が言えるだろ」

月「それはまあ、そうだが……」

リューク「証明できない以上、信じるか信じないかはお前達に任せるが……結論としてはミキもハルカも、お前達のいずれの名前も書いていない。さらに言えば、他の捜査員の奴らの名前もだ。ミキの父親も含めてな」

L「では二人は結局、自分達を追う者は一人も殺さなかった……ということですか」

リューク「そうだ。それにそもそもノートに名前を書かれていたら、その人間は最長でもその後23日間しか生きられない。それなら俺だって、流石に別の人間にノートを渡す」

月「! 23日間……」

L「それがノートで死の前の行動を操ることができる期間の上限……ということですか」

リューク「そうだ。もっとも、死因を『病死』にした場合はそれより長くなることもあるが……名前を書いた者が任意に設定できる範囲としてはその期間が上限だ」

L「……なるほど。確かに二人が私達を殺すとしても、いつ死ぬか分からないような不確定的な方法を取るとは考え難い……」

月「そうだな。だとすると……一応は信用しても良さそうだな」

L「ですね」

リューク「ククッ。それは何よりだ」

月「……じゃあ、二人が自分達の名前を書いたページは? それも切り取られているのか?」

リューク「いや、それもそのままだ。そのノートの一番後ろのページを開いてみろ」

月・L「!」

(デスノートの一番後ろのページを開く月)

月「! これは……」

L「……なんとなく予想はできていましたが……こういう使い方もできるんですね。このノートは……」

リューク「ああ。まあ俺も初めて見たがな。こういうケースは」

月「そうなのか?」

リューク「デスノートについてわからない事は死神にもたくさんあるからな」

月「なるほど。……だが、しかし……」

リューク「ん? 何だ?」

月「結局の所……何故なんだ? 最終的に『こうする』ことを選んだのだとしても……それとは別に、僕や竜崎の名前を書かなかった、というのは……」

リューク「…………」

月「自分達が死ぬことを選んだ後に書かなかった、ならまだ分かる。自分達が死ぬことが決まっている以上、もう僕達を殺しても意味が無いと考えてもおかしくはないからな」

月「だが、『その前』については話が別だ。リュークの話によると、星井美希が竜崎を“L”だと確信したのは今から十日前……二人がノートに自分達の名前を書いたと思われる、例の撮影の日の三日前だ」

月「そしてさらにそれよりも前から、星井美希は僕の事も『『竜崎』と同じくキラ事件の捜査本部に居て、星井美希と天海春香をキラとして疑っている者』である可能性が高いと考えていたとの事だ」

月「そんな状況で、僕や竜崎を殺さなかった理由なんて……。しかも最大で23日間先まで行動を操れたのなら、極力自分達に疑いが掛からないようにして殺すことだってできたはず……」

L「…………」

リューク「……そうだな。じゃあ……」

リューク「少し長い話になるが……全て話してやろう」

月・L「!」

リューク「この世界の誰も知らない……二人のアイドルが演じた、最後の一幕を」

月・L「…………」

いきなり止まったな
デスノートに名前でも書かれた?

【一週間前(美希と海砂のファッション誌の撮影があった日)・都内某所】


(渋谷の撮影スタジオから移動してきた美希)

(美希は何かを待っているような様子で、一人路上に立っている)

美希「………… !」

(美希は、一つの人影が少し離れた先から自分の方に近づいてきていることに気付いた)

美希「…………」

(人影は一歩一歩、踏みしめるように歩き、美希のいる方へ近づいてくる)

(やがて人影は美希の正面に立つと、静かに声を掛けた)

春香「美希」

美希「……春香」

春香「…………」

美希「……ぷっ」

春香「えっ?」

美希「あはははっ。春香ったら、すごく変なカッコなの」

春香「なっ!? しょ、しょうがないじゃん! 美希からメールもらった後、とりあえずすぐ近くの服屋さんで目に付いた服買い漁って、コーディネートに気を遣ってる余裕なんて無かったし……」

美希「でも、だからってその取り合わせは無いの……ぷくくっ」

春香「も、もー! それを言ったら美希だっ、て……」

美希「ん?」

春香「……ホント、何着ても似合うよね、美希って……。パッと見あべこべなファッションなのに、なんか妙に様になってるし……」

美希「いやー、それほどでもないのー」

春香「むぅ……なんかめっちゃ悔しい……って、そんな事言ってる場合じゃないじゃん! もう!」

美希「あはっ。それもそうだね」

春香「……で、何があったの? 美希」

美希「……うん。じゃあとりあえず……入ろっか」

春香「…………」

美希「ミキと春香の全てが始まった……『この場所』に」

春香「……うん」

【765プロ事務所近くの公園】


(隣り合う二つのブランコに並んで腰を下ろしている美希と春香)

美希「久しぶりだね。ここでこうして春香と話すの」

春香「……うん」

美希「でもまさか、本当に使う日が来るとは思わなかったな。ずっと前に春香と二人で決めた……『暗号』」

春香「……うん。そうだね」

美希「…………」








【(回想)現在から118日前(美希の高校の入学式のあった日)】


(765プロ事務所近くのファミレスで催された、真と雪歩、伊織と美希の大学・高校合同入学祝賀会の後)

(美希と春香は、一緒に帰っていた他のアイドル達と別れ、二人きりで帰路を歩いていた)

美希「――もし何か、少しでも危険な目に遭いそうになったら……その時は必ずミキに教えてね。約束なの」

春香「うん。もちろん。約束するよ」

美希「それじゃあ、明日の授業頑張ってね。春香」

春香「ありがとう。それじゃあまたね。美希」

(互いに背を向けて別れる美希と春香)

春香「…………」

美希「……あ、春香」

春香「ん? 何? 美希」クルッ

美希「えっと……これから先、ミキ達のうち、どっちかが危険な目に遭いそうになった時とかに備えて……緊急の連絡方法、決めとかない?」

春香「あー……そうだね。それは確かに決めといた方がいいね。これからまだ何が起こるか分からないし」

春香「今まで、デスノートやキラ事件に関する話は『電話やメールではなく、会ったときに口頭で』っていう風にしてたけど……本当にすぐに連絡を取る必要が生じた時に、それじゃ遅過ぎる場合もあるかもしれないもんね」
   
美希「なの」

春香「でも、やっぱり何らかの通信回線を使うのはリスクもあるんだよねぇ……もし私達のどっちかに危険が迫っている状況だとしたら、電話やメールの通信記録なんてLに真っ先にマークされてそうだし」

美希「あー、そっか……」

春香「あ。でもそうか。それなら……」

美希「?」

春香「要は、通信記録が調べられたとしても足がつかないような方法であればいいわけだから……勿論、電話の場合はリアルタイムで盗聴されてしまう危険も考慮しないといけないけど……」

春香「それでも……うん。この方法なら大丈夫なはず」

美希「? 春香?」

春香「美希。私達って、デスノートやキラ事件に関する話題以外だと、結構頻繁に電話やメールでやりとりしてるよね。私達がデスノートを持つようになる前と同じように」

美希「うん」

春香「つまり、私と美希が電話やメールでのやりとりを『していること』自体は怪しまれる要素は何も無い。だからそれを利用する」

美希「? どうやって?」

春香「ふっふっふ……そこで『暗号』ですよ! 『暗号』!」

美希「暗……号?」

春香「うん。私達二人にしか分からない、秘密の『暗号』を使うんだ。つまり他の人からは絶対に分からない、でも私達だけにはそれと分かる……そんな『暗号』を」

美希「あー、なんとなくわかったの。要は合言葉みたいなやつだね」

春香「そう。そして電話でもメールでも……『その言葉』をどちらかが使ったら、文脈にかかわらず、私達は予め約束していた行動を取るようにする」

美希「ふむふむ」

春香「もっとも、基本的には『暗号』を使った方の状況がどのようなものであれ、まずは状況と情報の共有が最優先となるはず……でもそれ自体はこれまで通り、直接会って行うしかない」

美希「電話やメールだと危ないもんね」

春香「そう。だから『暗号』が使用された際に私達が取るべき行動は……『二人で予め約束していた場所に行くこと』」

美希「そこで直接会って話すってことだね」

春香「うん。でも勿論、そこに行くまでに捕まってしまったり、後をつけられたりしていては意味が無い……」

春香「だから……そうだね。どちらかがその『暗号』を使用した時点で、少なくとも……『電話の場合は通話終了後、各々すぐに携帯電話の電源を切る』『メールの場合は、送信側は送信直後に、受信した側も返信はせず、メールを確認した時点ですぐに電源を切る』ことは必須だね。携帯電話の電源が入ったままだと、GPSで位置情報がばれちゃうから」

美希「あー、なるほどなの」

春香「そしてこれは言うまでもないことだけど……『目的地に向かう前に、尾行がついていないかを入念に確認する。もしついていた場合は尾行がなくなるまで絶対に動かない』もだね」

美希「はいなの」

春香「これは、私の場合は……レム。尾行の確認、頼んでもいい?」

レム「ああ。いいだろう」

春香「じゃ、美希の方はリューク、お願いね」

リューク「あ? 何で俺がそんなこと……」

春香「お願い。もしやってくれたら好きなだけリンゴ食べさせてあげるから」

リューク「……まあ、いいだろう。あくまで緊急時だけの話みたいだしな」

春香「ありがとう。リューク」

レム「……本当に現金な奴だな。お前は」

リューク「いいだろ、別に。というか、自分で言うのもなんだが……無償で人間に協力するお前よりはよっぽど死神らしいと思うがな」

レム「何とでも言え。私は私の意思でそうしているだけだ」

春香「えーっと……あと、『暗号』の使用時に私達がしないといけないことは……『移動開始後、できるだけ早い段階において、適当な店で服を買って全身を着替える』もだね。『暗号』を使う前の段階で、尾行なり防犯カメラなりで全身を観られている可能性もあるかもしれないから」

美希「流石春香。実に用心深いの」

春香「まあこれくらいはね。後は、『『暗号』が使われたら、互いにどんな状況であっても、またどれだけ時間が掛かろうとも、各々、必ず約束していた場所へ向かう』『先に目的地に着いた方は、どれだけ遅くなろうとも、もう一方が来るまで待ち続ける』……こんなところかな」

美希「すごいの春香。よくそんなに次から次へと思いつくね」

春香「いやいや、別に大したことないよ。これくらい」

美希「じゃあ後、決めとかないといけないのは、ミキ達がその時に向かう『場所』をどこにするのかと……肝心の『暗号』を何にするのか、だね」

春香「そうだね。まあでもとりあえず『場所』は……あの公園で良いんじゃない?」

美希「あの公園って……事務所の近くの?」

春香「そう。私が美希に全てを打ち明けた場所でもある……あの公園だね」

美希「……でも、危なくない? あんなに事務所の近くだと……」

春香「いや、逆だよ。美希」

美希「逆?」

春香「うん。元々、私達は同じ事務所のアイドル仲間同士……そんな私達が、自分達のどちらかが危険を感じるような状況下において……『あえて』事務所の近くで会おうとするなんて普通は思わない。……それならむしろ、私達のいずれにとっても縁もゆかりも無いような場所で会おうとする可能性の方を考えるはず」

美希「あー……だからその裏をかこうってことなの」

春香「そう。それに私は以前、あの公園の防犯カメラの位置を全部調べてたんだ。だからカメラに映らない死角も全て把握してる。直接会って話をするのにはうってつけってわけ」

美希「春香、そんなことしてたの? それって、ミキに全てを打ち明けてくれた……あの時よりも前に?」

春香「うん。その時にも話したけど、美希がノートを持ってること自体は、前のプロデューサーさんが亡くなったほとんどすぐ後に分かってたからね。とすると、美希がキラであっても、そうじゃなくても……いずれは、私もノートを持ってることを美希に話すことになるだろうって思ってたから」

美希「そうだったんだ」

春香「勿論、事務所の屋上とかでも話せなくはなかっただろうけど……話が長くなった場合、事務所の誰かに聞かれてしまわないとも限らなかったからね。それで美希に話す前に、事務所以外の場所をいくつか調べておいて……最終的に、防犯カメラの数自体が少なく、死角が多いあの公園がベストってことになったんだ」

美希「じゃあ春香があの時、ミキをあの公園に連れて行ったのも……」

春香「うん。最初から、話が長くなりそうだったらあそこに連れて行こうって思ってたんだ。もし美希も目を持っていて、私もノートの所有者だってことに気付いていたら、そこまで長い話にもならないかなと思ってたけど……実際、美希は全く気付いてないみたいだったからね」

美希「なるほどなの。じゃあ『場所』はそこで良いとして……肝心の『暗号』は何にする? 春香」

春香「うーん……まあ何でもいいといえば何でもいいんだけどね。私と美希の間でさえ『それ』と分かればいいんだから」

美希「でも、うっかり間違えて使っちゃったりしないような言葉にしないとダメだよね」

春香「そうだね。電話の場合はその場ですぐに訂正できるけど、メールだとそうはいかないからね。……となると、私も美希も、普段の会話でまず使うことがないような言葉……」

美希「あ」

春香「? 何? 美希」

美希「春香。あのね。ミキ、ちょっと良いの思いついちゃったの」

春香「え、本当? 何?」

美希「えっとね――……」

【(回想終了)現在から一週間前・765プロ事務所近くの公園】


(隣り合う二つのブランコに並んで腰を下ろしている美希と春香)

春香「……で、結局そのまま決めちゃったんだよね。『おむすび』に」

美希「うん。でも良い案だったでしょ? ミキは普段『おにぎり』としか言わないから、まず間違えて使うこともないし」

春香「でもそれ、ぶっちゃけ美希の都合だけで、私の都合はほとんど何も考慮されてないよね……」

美希「うん。まあでも春香だし良いかなって」

春香「何で最後雑にするかな!?」

美希「あはっ。まあでも良いじゃん。……ちゃんとこうして、この公園で――……二人で会えたんだから」

春香「……まあね。でも……なんか懐かしいね。二人であの『暗号』を決めたのは、765プロの皆で美希や伊織達の入学のお祝いをした日だったから……もう四か月くらい前になるよね」

美希「……うん。そうだね」

美希「本当に……懐かしいの」

春香「…………」

美希「…………」

美希「あ。そういえば……春香」

春香「? 何? 美希」

美希「念の為に聞くけど……尾行の方は大丈夫だったの? 今日もついてたでしょ?」

春香「! ……うん。レムに確認してもらったんだけど、何故か、私がカフェで清美さんとお茶してる間にいなくなったみたい」

美希「そっか。なら良かったの」

春香「っていうか……美希。『今日も』ってことは……気付いてたんだね」

春香「尾行の事」

美希「……うん。5月の初め頃……ちょうど、東大の学祭が終わってすぐくらいの頃に……リュークが『見られているような気がして気持ち悪い』って言い出して……」

春香「! 東大の学祭の直後……レムが尾行に気付いて、私に教えてくれたのも同じ頃だった」

美希「…………」

春香「じゃあ美希は、今までずっと気付いて……?」

美希「……うん」

春香「じゃあ何で、美希……私に何も……」

美希「…………」

春香「私はてっきり、美希が尾行に気付いたら、不安を覚えて必ず私にそのことを伝えに来ると思ってた。だから美希がそれをしてきていない以上、美希は当然、尾行には気付いていないものだとばかり……」

美希「それは……」

春香「…………」

美希「……分かったの。春香」

美希「それも含めて……全部話すの」

美希「ミキが今まで、春香に言えなかったコト」

春香「!」

美希「そして今日、ミキが『暗号』を使った理由……つまり」

美希「今日、何が起こったのかを」

春香「……美希」

美希「あれはもう……今から半年以上も前になるね」

美希「この公園で、春香がそれまでのこと、ミキに全部話してくれて……デスノートのことや死神のこと、二人で初めて話したのは……」

春香「…………」

美希「あの時は、ほとんど春香が話してくれたけど……」
 
美希「今日は、ミキの番なの」

春香「美希」

美希「少し長くなるけど……聞いてほしいな」

春香「……分かったよ。美希」

春香「話して。美希が話したいこと、全部」

美希「ありがとうなの。春香」

美希「じゃあ、話すね――……」

春香「…………」

(美希は、これまで春香に話していなかったこととして、次の内容を春香に伝えた)

(尾行には気付いていたものの、春香に自分の事を心配させないために、あえて伝えていなかったこと)

(昨年のファーストライブの日に春香のファンが『心臓麻痺で』死んだ件から、Lが春香を美希と同じくらいのレベルで疑っている可能性があること)

(これまでの経緯と、三日前に自分と二人でアリーナを訪れた際の竜崎の言動から、自分は竜崎がLであると確信したこと)

(竜崎と話を合わせている夜神月も、竜崎と同じくキラ事件の捜査本部に居て、自分達をキラとして疑っている者である可能性が高いと考えていること)

(また自分の父親も、キラ事件の捜査本部にいるか、いないとしても、捜査本部に対して捜査協力をしている立場にあると考えられること)

(しかしまだ、自分はL=竜崎の名前をデスノートに書いてはおらず、その他、自分の父親も含め、自分達を追っていると思われる者の名前は一人も書いていないこと)

(以上の内容に続けて、美希はこの日に起こったこと、およびこの先起こりうることとして、次の内容を春香に伝えた)

(本日の撮影現場となったスタジオの更衣室内で、海砂にデスノートを触られてしまったこと)

(更衣室内にはLが付けたと思われる複数の監視カメラがあり、デスノートの存在と内容をほぼ確実に映像に撮られてしまったであろうこと)

(海砂は夜神月の指示で行動しており、海砂は夜神月から『かつて自分がキラの能力を持ち裁きをしていたが、美希と春香にその能力を奪われた』という旨の説明を受けていたこと)

(さらに海砂は、竜崎と清美も『夜神月の協力者』として認識しており、清美がこの日、春香と行動を共にしていたのは春香の動向を監視するためであったと考えられること)

(そしてL=竜崎は、この日得られた証拠――デスノートの存在と内容――をもって美希をキラとして断定し、その共犯者と考えられる春香と共に―――今すぐにでも、二人を逮捕する可能性が高いと考えられること)

美希「……っていう、感じなんだけど……」

春香「…………」

美希「は、春香……?」

春香「あ、ああ……うん。……ごめん」

春香「ちょっと、色々……混乱してて」

美希「……ごめんね。いきなり、こんな……」

春香「ううん。美希は何も悪くないよ」

春香「むしろ、全部話してくれてありがとう」

美希「春香」

春香「でも……そっか。そうなんだ……」

美希「…………」

春香「えっと……じゃあ美希は、その……ずっと前から疑ってたの?」

春香「竜崎さんが、Lだって」

美希「…………うん」

春香「…………」

美希「今も言ったけど、確信したのは……三日前に二人でアリーナに行った時だけどね」

春香「……そっか」

美希「…………」

春香「…………」

春香「でも、それなら何で私に……いや、私には言えないか……」

美希「……うん。春香は竜崎のこと……微塵も疑ってないみたいだったから」

春香「そっか……」

美希「…………」

春香「でも、まだ彼の名前は書いてないんだよね?」

美希「うん。書いてないよ」

春香「それは……元々、Lを殺すことは考えてなかったから?」

美希「…………」

春香「美希、前に言ってたもんね。『Lは犯罪者じゃないから、Lを殺したりするのは抵抗がある』って」

美希「……うん。でも……」

春香「でも?」

美希「最初は確かにそう思ってたんだけど……その、途中で……『Lが春香をミキと同じくらいのレベルで疑っている可能性がある』ってことに気付いてからは、ミキの中でも、考え方が変わってきて……」

春香「…………」

美希「『春香を守るためには、Lを殺すしかない』……そう考えるようになったの」

春香「! ……美希……」

美希「だから……竜崎がLであるとの確証さえ得られたら、ミキは彼を殺すつもりでいたの」

春香「? でも……美希はもうその確証は得ているんだよね? 三日前に……」

美希「……うん」

春香「じゃあ、どうして……? 私にその事は言えないとしても、死因を事故死か何かにして、竜崎さんの名前を書くことはできたはずじゃ……?」

美希「それは……」

春香「それこそ美希の言う通り、私は今の今まで、彼の事を全く疑っていなかったわけだから……心臓麻痺ならともかく、他の死因なら……」

美希「…………」

春香「確かにそれでも、私も一度は『美希が殺した』っていう可能性を疑ったかもしれないけど、美希自身がそれを否定しさえすれば……私はきっと、それ以上は美希を疑えなかったと思うんだけど……」

美希「……うん。そうだね」

美希「春香はきっとミキのコト、信じてくれるだろうから……ミキも、そうなっただろうなって思うよ」

春香「じゃあ、何で……」

美希「……ミキね。見たくなかったの」

春香「? 何を?」

美希「春香の……悲しむ顔を」

春香「!」

春香「美希。それって……」

美希「春香は竜崎のコト、本当に信頼してたでしょ? 自分の事を最も深く理解してくれているファンの一人として」

春香「……うん」

美希「そんな春香が、『竜崎が死んだ』なんて知ったら、きっとすごく悲しむだろうなって思ったの」

美希「たとえそれが、ミキの手によるものではなくても」

春香「…………」

美希「だったら、せめてミキがハリウッドに行ってから竜崎が死ぬようにすれば……春香のそんな顔は見なくて済むって思ったの」

春香「……そっか。でもノートで死の前の行動を操れるのは、名前を書いた日から23日間以内だから……」

美希「うん。だからまだ書けなかった。ミキがハリウッドに行くのは9月の半ば過ぎ……そこから逆算すると、名前を書けるのは早くても8月の終わり頃になるから」

春香「……そうだったんだ」

美希「…………」

春香「本当に……優しいね。美希は」

美希「……春香」

春香「尾行の事もそうだけど……私の事を考えて、ずっと……自分の中に抱え込んでくれてたんだね。……色んな事を」

美希「……うん」

春香「美希」ギュッ

(美希を正面から抱きしめる春香)

美希「……春香」

春香「……ごめんね。ずっと、ずっと……美希一人に、辛い思いさせて」

美希「……ううん。ミキこそ、ごめんね。こんなに大事な事……春香にずっと言えないままで」

春香「美希が謝ることじゃないよ。美希はただ……私の事を思って、そうしてくれてたんだから」

美希「春香……ありがとうなの」

春香「私の方こそ……ありがとう。美希」

春香「今までずっと抱えていたこと――……全部、話してくれて」

美希「……春香」

春香「だから、これから一緒に考えよ?」

春香「今から私達は、何を……どうすべきなのか」

春香「……ね? 美希」

美希「……うん。そうだね。春香」

春香「でも現実問題として、デスノートの存在と内容を映像に撮られてしまっていることがほぼ確実な以上……このままだと、私達がL……いや、竜崎さんに捕まるのもほぼ確実……か」

美希「…………」

春香「? 美希?」

美希「あ、ごめん。えっと……春香」

春香「何?」

美希「なんていうか、その……『竜崎がL』ってところ……なんか、普通に受け入れて、前提にしちゃってるけど……大丈夫なの?」

春香「…………」

美希「正直、まだ100%そうって決まったわけじゃないし……ぶっちゃけ、ミキが確信した根拠もほぼ直感みたいなもんだし……」

春香「…………」

美希「あと、『夜神月も捜査本部に居て、ミキと春香を疑っている可能性が高い』っていうのも、文字通り、可能性レベルの話だし……」

春香「……そりゃまあ、もっと時間があったら……色々考えたり、思うところもあったりしたかもしれないけど……」

美希「…………」

春香「でも今のこの状況じゃ、もうああだこうだと考えている余裕は無いし……それに、何よりも……」

美希「…………?」

春香「私は、美希を信じてるから」

美希「! 春香……」

春香「確かに、私は竜崎さんの事をファンとして信頼していたし、ライトさんのことも特に疑ってはいなかったけど……」

春香「でもだからといって、彼らに対する信頼が……美希に対するそれを上回るということは絶対に無い」

美希「春香」

春香「だから……竜崎さん達と美希、そのどちらかを信じるとしたら……私は当然、美希を信じる」

春香「ただそれだけのことだよ」

美希「! ……春香。ありがとうなの」

春香「いいよ、お礼なんか。仲間を信じるのは当たり前の事でしょ?」

美希「春香……」

春香「それに美希だって、私の事を信じてくれていたからこそ、今日……『暗号』を使ってくれたんでしょ?」

美希「それは……うん。その通りなの」

春香「なら、最後までお互いを信じて頑張ろうよ。私達は今までも、ずっとそうしてきたんだから」

美希「……そうだね。春香」

美希「一緒に頑張ろうなの。最後まで、一緒に」

春香「うん! 美希」

美希「とは言うものの……現状としては、今春香が言った通り……正直、厳しいよね」

春香「……うん。今日の件に加えて、これまでのこともあるから……このまま何もしなければ、私達は今日明日中にも捕まるだろうね」

美希「…………」

春香「捕まれば、当然ノートは押収される……ノートの検証をされればそれで終わりだし、されなかったとしても、ここまでの証拠がある私達を自由にするはずがない……」

美希「……そうだね。それにはミキも同意見なの」

春香「でも、一週間後にはアリーナライブが控えている……だから今、捕まるのだけは……」

美希「…………」

レム「ハルカ。ミキ」

春香「! レム」

美希「どうしたの?」

レム「私もずっと、今の状況でお前達が取り得る策を考えていたんだが……ノートの所有権を放棄する、というのはどうだ?」

春香「! ノートの所有権を……」

美希「放棄……」

レム「そうだ。そうすればノート自体を私とリュークに返すことになるから、今以上の物的証拠は出なくなるし……また同時にノートに関する記憶もなくなるから、もしお前達が捕まって、自白剤を投与されたり、ポリグラフ検査に掛けられたりしても絶対に証拠は出ない」

美希・春香「…………」

レム「そしてキラとしての決定的な証拠が無い以上は……いつか必ず、お前達が解放される日は来るだろう。そうすればまたノートを渡してやる」

レム「所有権をなくしたノートの所有権を再び得れば、関わった全てのノートに関する記憶が戻る……そうすればミキはまたキラとしての裁きを再開できるし、ハルカも765プロの邪魔者を消すためにノートを使えるようになる。……どうだ?」

リューク「いや、でもそれだと……『ミキとハルカが捕まった途端』にキラの裁きが止まることになるだろ。決定的な証拠が無いとはいっても、そんな状況でLがこいつらを自由にするとは思えないけどな」

レム「……だったら、二人が使っていたノートを一時的に他の人間に渡し、ミキに代わってキラの裁きをさせるようにすればいい。そしてLが二人を白だと判断し、解放した時点で……私かリュークがその時点のノートの所有者を殺してノートを回収し、二人に渡す。……これならどうだ?」

リューク「まあそこまですれば確かに大丈夫かもしれんが……でも俺がそれに協力する保証は無いぜ」

レム「お前は面白いものが観られればそれでいいんだろう? リューク。一度は頓挫したかにみえた状況からの、ミキの“理想”の世界の創世の再開……十分面白い展開だと思うが?」

リューク「それは、まあ……そうだな」

レム「そういうことだ。どうだ? ハルカ。ミキ」

春香「……ありがとう。レム。それは確かに良い案だけど……でもやっぱり、『今』私達が捕まる可能性は残っちゃうよね」

レム「! それはそうだが……しかしキラとしての決定的な証拠が出なければ、いつかは……」

美希「『いつか』じゃ、遅いの」

レム「ミキ」

美希「『いつか』自由になったとしても……『今』捕まってしまうんじゃ、意味が無い」

美希「だって、ミキと春香が―――765プロの皆と一緒に、アリーナライブを成功させて、トップアイドルになれるのは―――『今』しかないんだから」

レム「! …………」

美希「……だよね? 春香」

春香「……うん」

春香「ありがとう。美希。私の気持ち……代わりに言ってくれて」

レム「……ハルカ……」

春香「ごめんね。レム。そういうわけだから……その案は採れないよ」

レム「…………」

リューク「……ククッ。ここまで追い詰められた状況下においても、仲間と一緒にトップアイドルになることだけは諦めない……ってわけか」

美希「当たり前なの。そのためにミキも春香も、今までずっと頑張ってきたんだから」

春香「美希」

レム「……じゃあ、一体どうするんだ? さっきハルカも言っていたが……もうお前達が捕まることは既定路線なんだろう?」

レム「それこそ、L……いや、竜崎をはじめ、『お前達を捕まえる可能性がある者』を全員殺すことができれば、話は別かもしれないが……しかし今の状況で、そんなことは……」

春香「うん。ちょっと無理だろうね。現時点で顔と名前の分かる人は何人かいるけど、その人達を片っ端から殺したところで、私達が完全に安全となる保証は無い。……だよね? 美希」

美希「……そうだね。今となっては、もうノートの情報自体を完全に抹消することは不可能……捜査本部外にもバックアップが渡っていると考えた方が良いの」

美希「となると、たとえL……竜崎をはじめ、現時点でミキ達が殺せる人間を全員殺したところで、ノートの情報を知る人間を全て消すことは不可能」

美希「だからミキと春香は『アリーナライブ前に必ず誰かに捕まる』……これはもう、動かしようがない未来なの」

美希「このまま何もしなければ……ね」

春香「…………」

リューク「何もしなければ、って……じゃあまだ何か手があるっていうのか? ミキ。殺す対象が絞り込めない以上……そいつら全員をデスノートで『ミキとハルカを捕まえないように』操って殺すこともできないわけだろ?」

美希「そうだね。『その書き方』じゃ、必ず漏れが出る。ミキ達が捕まることは避けられないの」

リューク「……ん? なんだ、ミキ。その引っ掛かる言い方……」

美希「でも……『逆』なら」

リューク「? 『逆』?」

春香「………… !」

レム「? ハルカ?」

春香「……美希……」

美希「…………」

リューク「! ああ……なるほど」

リューク「それで『逆』……ね」

レム「! ……そういうことか」

美希「……うん」

美希「今日、ここに来るまで……春香に会うまで、ずっと考えてたの」

美希「ミキ達はこれから、何をすべきなのか……どうするべきなのか」

春香「…………」

美希「でも、やっぱり……『これ』以外の選択肢は無いと思う」

美希「ミキ達が、アリーナライブを成功させ――……」

美希「765プロの皆と一緒に、トップアイドルになるには」

春香「…………」

美希「春香」

春香「……美希」

美希「春香は……どうしたい?」

春香「! 私、は……」

美希「……ミキね。色々言ったけど……最後はやっぱり春香に決めてほしいの」

春香「私に?」

美希「うん。だって……アリーナライブのリーダーは春香だから」

春香「!」

美希「だからミキは、リーダーの決めたことに従うの」

春香「……美希……」

美希「…………」

春香「私は……やっぱりアリーナライブに出たい」

春香「アリーナライブに出て、ライブを成功させて……」

春香「765プロの皆と一緒に、トップアイドルになりたい」

春香「だって、私は……天海春香だから」

春香「私はアリーナライブのリーダーだけど、その前にやっぱり……私だから」

春香「だから私は、全員で走り抜きたい。今の全部で――……このライブを成功させたい!」

春香「それが私の果たすべき“使命”であり、私に命を与えて死んでいったジェラスの夢だと思うから」

美希「……春香」

春香「って、そういえば……昨日も同じこと言ったね。アリーナからの帰り道、美希とプロデューサーさんと三人で話してた時に……」

美希「……うん。あと、竜崎も同じこと言ってたの」

春香「えっ。竜崎さんが?」

美希「うん。三日前、ミキと二人でアリーナに行った時ね。『春香がこのステージに立った時に何を思うのか、竜崎の考えを聞かせてほしい』って言ったら……今、春香が言ったのと同じことを言ったの」

春香「そっか……そうだったんだ」

春香「それで美希は、その竜崎さんの言葉に感動して……」

美希「うん。ミキ思わず泣いちゃった。『竜崎はこんなにも春香のコト、わかってくれてたんだ』って思ったら……嬉しくなっちゃって」

春香「……美希……」

美希「だからその時、確信したの。やっぱり竜崎が―――Lだったんだって」

春香「……そっか。そういうことだったんだね」

美希「うん」

春香「でも、それなら……私も嬉しいな」

美希「春香?」

春香「たとえファンだったことが嘘でも……竜崎さんが、そこまで私の事を分かってくれていたのなら……アイドル冥利に尽きるってもんだよ」

美希「……うん。そうだね」

春香「……で、美希。とりあえず私の意思、というか気持ち的には、そういう感じなんだけど……」

美希「うん。分かったの。ミキは春香の思う通りにするの」

春香「……本当にそれでいいの?」

美希「え?」

春香「だって、私はそれで自分の“使命”を果たせるけど……美希には美希の……“理想”があるじゃない」

美希「…………」

春香「今ここでその選択をしたら、美希の“理想”はもう……」

美希「いいの」

春香「美希」

美希「勿論、本当にミキの“理想”を追求するなら……さっきレムが言っていたように、ここで一度ノートを捨てるべきなんだと思う。そしていつになるかは分からないけど、Lから解放された時点で、リュークかレムにノートの所有者を殺してもらって、もう一度ノートを渡してもらう……」

レム「…………」

美希「でもその手段を取って、ノートの記憶を取り戻し、キラの裁きを再開することができるようになったとしても……」

美希「それはもう、ミキにとっての“理想”じゃない」

美希「だってそれは……春香が自分の“使命”を果たせなかった世界だもん」

春香「!」

美希「キラの裁きが再び始まり、犯罪が減少し……たとえそれが世界中の人々にとって幸せな世界であったとしても、春香にとってそうじゃないなら……それはもう、ミキの“理想”の世界じゃない」

春香「…………」

美希「それならミキは、春香が自分の“使命”を果たせた方の世界を選ぶ」

美希「それこそが、春香にとって幸せな世界」

美希「ミキにとっての“理想”の世界なの」

春香「……ありがとう。美希」

春香「私は、幸せ者だよ」

美希「いいの。春香が幸せなら、ミキも幸せだから」

春香「……美希……」

一瞬キマシ?と思ってしまった

リューク「……じゃあ、これでもうキラの裁きはおしまいか。残念だな」

美希「そうだね。もちろん、できるところまではするつもりだけど」

リューク「でもよ、ミキ。L……竜崎や夜神月、それから他の捜査本部の奴らとかはどうするんだ? 結局誰も殺さないのか?」

美希「うん。元々、ミキは犯罪者以外は殺したくなかったし……もうその必要も無くなったからね」

リューク「ちぇっ。つまんねぇの」

美希「あはっ。でもね、リューク」

リューク「? 何だ?」

美希「ミキとL……ううん、ミキと『竜崎』との勝負はまだ終わってないの」

リューク「? どういう意味だ?」

春香「美希?」

美希「ミキは一週間後のアリーナライブで……竜崎を魅了して、ミキのファンにしてみせるの」

リューク「!」

春香「竜崎さんを……美希のファンに?」

美希「うん。アイドルは観てくれる人を魅了してこそだからね」

美希「だからミキは、竜崎を魅了して……ミキのファンにしちゃうの」

美希「で、それができたらミキの勝ちなの」

リューク「? ……なんかよく分からんが……そういうもんなのか?」

美希「そういうものなの。……ね? 春香」

春香「あはは。そうだね」

春香「私もそれでいいと思うよ。美希らしくて」

美希「あはっ」

レム「…………」

美希「あ、でも……春香」

春香「ん?」

美希「竜崎や捜査本部の方はそれでいいとしても……黒井社長は……」

春香「ああ……もういいよ」

美希「いいの? ……殺しておかなくて」

春香「うん。前に美希も言ってたけど……黒井社長が死んで961プロの勢いが衰えたら、逆に他の事務所が勢いづいて……また“765プロ潰し”みたいな事が起きるかもしれない」

春香「もちろん今までは、『もしそういう状況になったとしても、そんな奴らは私が片っ端から殺してやればいい』って思ってたけど……もうそれも叶わないからさ」

美希「……そっか。それよりは、まだ黒井社長が生きている今の状況の方がマシってことだね。実際今は、961プロからもそれ以外の事務所からも、何の妨害も受けてないもんね」

春香「そういうこと。勿論、“償い”として、黒井社長は最大限に苦しめた上で殺してやりたかったけど……でも今の私にとっては、それよりも……これから先もずっとアイドルを続けていく、765プロの皆の将来の方が大切だから」

美希「春香」

春香「それに黒井社長にしても、今まで相当脅迫して苦しめてやったし、今もまだその脅迫自体は効いているはずだから……流石にもう同じような事はしないだろうしね」

美希「そうだね」

春香「あと、私が彼を脅迫した文章の中には『自分の息のかかった事務所にも、これまでのように弱者をいたぶるような真似はさせず、自由で公平な競争をさせるように』という文言も含んでおいたから……むしろこの先、黒井社長には生きていてもらった方が、他の事務所に対する抑止力になるかもしれないしね」

美希「なるほどね。……じゃあ結局、今、このノートに書く名前は……」

春香「……うん」

美希「…………」

春香「…………」

リューク「だが……ミキ」

美希「? 何? リューク」

リューク「いや、水を差すようで悪いが……」

リューク「お前も知っての通り、デスノートだって万能じゃない。実現不可能な内容までは操れない」

美希「…………」

リューク「つまり、お前達が『そうした』からといって、100%『そうなる』という保証は……」

美希「なるよ」

リューク「!」

美希「だって……『実現不可能』なわけないもん」

春香「美希」

リューク「…………」

美希「『実現不可能』な内容じゃなければ……言い換えれば、たとえ1%でも実現する可能性があるのなら……それはデスノートの力で100%『そうなる』」

美希「……そういうことでしょ? リューク」

リューク「それはまあ……そうだが……」

美希「だったら、100%『そうなる』の。……ね? 春香」

春香「……うん。そうだね。美希」

リューク「……まあそこまで自信があるのなら、もう何も言わないが……」

レム「…………」

美希「じゃあ……書こっか。春香」

春香「……そうだね。美希。決めた以上、早いうちに書いちゃわないとね」

美希「うん。ミキが書いちゃっていい?」

春香「もちろん。美希のノートなんだし」

美希「わかったの」

レム「……ハルカ」

春香「レム」

レム「本当に……これでいいんだな?」

春香「……うん」

春香「これでいい。これでいいんだよ」

春香「これが私達にとって……ベストな選択なんだから」

レム「……そうか」

春香「…………」

美希「あ、そうだ。春香」

春香「? 何? 美希」

美希「『場所』はどうする?」

春香「あー……そっか。決めといた方が良いよね」

美希「うん。まあ決めなくても大丈夫だとは思うけど……せっかくだし、決めておきたいなって」

春香「そうだね。……じゃあ……」

美希「…………」

春香「……海、が良いな。海の見える、浜辺」

美希「? 海?」

春香「うん。ほら、去年皆で行ったでしょ? 夏の海」

美希「ああ……懐かしいの」

春香「あれ、すごく楽しかったからさ。一応、今年の合宿でも海の近くには行ったけど……まだ6月で入れなかったし」

美希「あはっ。そんな理由で、なんて……」

春香「……だ、駄目かな?」

美希「ううん。そんなことないの」

美希「実に春香らしいの」

春香「あはは。そっか、良かった」

美希「じゃあ『場所』は……『海の見える浜辺』で決まりだね」

春香「うん。それでお願い」

美希「わかったの。……じゃあ、書くね」

春香「……ねぇ。美希」

美希「? 何? 春香」

春香「ずっと……一緒だね」

美希「うん」

美希「ずっと一緒なの」


美希・春香「最後まで」


美希「…………」

春香「…………」

美希「あはっ」

春香「ふふっ」

【現在・海の見える浜辺】


リューク「―――とまあ、そういうわけだ」

月「そういうこと……だったのか」

L「ノートを使って、自分達の運命を……」

リューク「ああ。だが今も言ったが、いくらデスノートといっても万能じゃない……どんな運命でも操れるというわけじゃない」

リューク「実現不可能な行動を書いた場合は、『死の状況』は書かなかったものとみなされてしまう」

L「つまりノートに『死の状況』を記載しても、本当に『そうなる』かどうかは実際に書いてみない限りは分からない……ある意味賭けだったわけですね」

リューク「そういうことだ。あと、これもついでに教えておいてやるが……一度デスノートに名前を書き込まれた者の死は、どんな事をしても取り消せない」

月・L「!」

リューク「だから、たとえ『死の状況』として書かれた内容が実現不可能なものだったとしても……『名前を書かれた者の死』自体は必ず実現されてしまうんだ」

月・L「…………」

リューク「だが、ミキとハルカは……その危険を踏まえてもなお、賭けに出た」

リューク「そして結果、賭けに勝った。まあこの場合、『勝った』と言っていいのかは分からんが……とにかくノートに書かれた内容はその通りに実現されたってわけだ」

L「なるほど……」

月「……しかし、一週間前のあの日……僕達の監視を掻い潜った後、二人が会っていた場所が……まさか『あの』公園だったとはな。……盲点だった」

L「そうですね。私達にとっては、『あの』公園でなされたノートの授受こそが……ノートの存在に気付いた端緒でしたからね。まさかその場所で落ち合おうとするなんて……私達からは絶対に出ない発想でした」

リューク「ノートの授受? ……ああ、ミキの部屋にカメラが付けられて……ハルカがミキの代わりに裁きをしていた時か。……お前ら、そんな早い段階からノートの存在に気付いていたのか」

L「最初は交換日記か何かだろうと思い、そこまでの特別視はしていませんでしたけどね」

リューク「ククッ。なるほどな」

L「…………」

L(そして、あの撮影の日の翌日……星井美希は、星井係長の着替えを持って警察庁に現れ、夜神局長と接触した……)

L(今思えば、キラとしては無防備過ぎる行動……だが星井美希には分かっていたんだ)

L(たとえ警察庁内で捜査本部の人間に直接接触したとしても……『あの場で自分が捕まることは絶対に無い』ということが)

L(だからこそ、堂々と姿を現し……そして、その行動の真の目的は……おそらく)

L(最後に一目、父親に……)

L「…………」

リューク「……さて、じゃあこれまでの経緯についての説明はこのへんにして……話を戻そう」

リューク「どうだ? お前達……これからミキとハルカに代わって、そのデスノートを使ってみないか?」

月・L「…………」

リューク「今の話だけでも、デスノートには無限の可能性があることが分かっただろう。ましてやお前達なら、ミキとハルカよりも、きっと……」

月「……お前を楽しませることができる、か?」

リューク「ああ。そういうことだ。ククッ」

月「…………」

リューク「さあ……どうする? 二人で協力して使ってもいいし、どっちか一人だけで使ってもいいが……」

リューク「とりあえず今、そのノートの所有権があるのは……先にノートに触れた方……つまり夜神月。お前だ」

月「! ……もしこのまま、僕がお前にノートを返したらどうなるんだ? 今聞いた話からすると、ノートに関する記憶が無くなるのか?」

リューク「いや、それはあくまでもノートを使って人を殺した場合だけだ。ノートを使っていない場合は記憶は消えない」

リューク「ただし俺の姿は見えなくなるし、声も聞こえなくなるがな」

月「……そうか」

L「…………」

月「リューク」

リューク「ん?」

月「そもそも、お前が星井美希にノートを渡した理由は『面白いもの』が観たかったから……だったな」

リューク「ああ。そうだ」

リューク「だが、もっと端的に言えば……」

月「?」

リューク「退屈だったからだ」

月「! ……退屈……」

リューク「そういう意味では、ミキにノートを渡したのは正解だった」

リューク「時間としては、八か月半ほどの付き合いでしかなかったが……それでも、それなりの退屈しのぎにはなったからな」

リューク「ただ、ミキはそれなりに優秀ではあったが……デスノートを使い続けるには――……」

リューク「優し過ぎた」

L「! …………」

リューク「ミキは、ノートを拾ってすぐに殺した事務所の前のプロデューサーと、半ば自棄になって名前を書いたクラスメイトの奴を除けば……本当に悪人しか殺さなかったからな」

リューク「もっとも、ハルカの方は少し事情が違うが……まあ、あれはミキがノートを拾う前の話だしな」

リューク「それに十日前の件にしたって、竜崎……お前がLだと確信した時点で、すぐに名前を書いていれば……また違った結果になっていたかもしれないしな」

L「それは……そうですね」

リューク「だから今回、こういう結末になったのは……ある意味必然だったのかもしれない」

リューク「ミキの、あの優しい性格じゃあ……仮に今回の危機を切り抜けられていたとしても、遅かれ早かれ、同じ結末になっていただろうと思う」

リューク「だがその点……お前達ならそんな事はないだろう」

月・L「…………」

リューク「さあ、夜神月。そして竜崎」

リューク「俺を……もっと楽しませてくれ!」

月「…………」

L「…………」

月「……ああ。そうだな。リューク」

リューク「!」

L「! …………」

月「……とでも言うと思ったか? 死神」

リューク「! …………」

月「以前、竜崎にも同じような話をしたが……確かに僕も、凶悪な犯罪者の報道を目にした時など……『こんな奴は死んだ方が世の中のためだ』などと思うことはある」

L「…………」

月「しかし、人が人を殺すことのできる唯一の手段は法律だ」

月「人類が長年にわたり知恵を出し合い、英知を結集させたもの……それが法律なんだ」

月「それを、ごく少数の人間の独断によって覆すことは許されない」

月「たとえその結果、犯罪が減少したとしても……それは平和でもなんでもない」

月「それは独善と言うんだ」

L「月くん」

リューク「…………」

月「だから……リューク」スッ

(手に持っていたデスノートをリュークに向けて差し出す月)

リューク「! お前……」

月「返すよ。死神。こんな物……僕達人間には必要無い」

リューク「……それがお前の答えなのか? 夜神月」

月「ああ」

リューク「……お前も同じか? 竜崎」

L「はい。私の言いたかったことは全て月くんが言ってくれました」

L「そのノートは私達には必要の無い物です。どうかそれを持って死神界にお帰り下さい」

リューク「……ああ、そう……」

月・L「…………」

リューク「だが……いいのか? そんな強気な態度に出て……。さっきも言ったが、俺はいつでもお前達を殺せるんだぞ?」

月「……だったら、殺せばいい」

リューク「何?」

L「…………」

月「死神に脅迫され、人を殺め続けることを強いられる人生を送るくらいなら……ここで死んだ方がましだ」

リューク「! …………」

月「その程度の覚悟なら、もうできている。このノートに触ることを決めた時……いや……」

月「竜崎と共に、星井美希と天海春香を捕まえると……決めた時に」

L「……私も、月くんと同じ気持ちです」

リューク「…………」

リューク「……ククッ。そこまで開き直られては仕方ないな」

月・L「!」

リューク「しかし実に残念だ。お前達なら、確実にミキ達よりも俺を楽しませてくれると思ったんだがな」

リューク「特に……夜神月」

月「!」

リューク「俺の……『死神』の存在にいち早く勘付き、さらに『切り取ったページや切れ端でも殺せる』という可能性などをも考えていた、お前なら……」

月「…………」

リューク「ククッ。間違えたかな。ノートを渡す順番を」

リューク「もし俺が、ミキよりも先にお前にノートを渡していれば、あるいは……」

月「…………」

リューク「まあ……過ぎた事を言っても仕方ない。お前達にノートを使わせることは諦めよう」

月「……僕達を殺さないのか? リューク」

リューク「ん? ああ……さっきのは、それでお前達の気が変わるならと思い……駄目元で言ってみただけだ」

リューク「それに今、お前達を殺してしまうと……『これから先』……一層、楽しめなくなりそうだからな」

月「! ……それは、どういう……?」

リューク「ククッ。さぁてね」

L「…………」

リューク「さて、じゃあ残念だが……このノートは返してもらうとしよう」スッ

月「……リューク」

リューク「? 何だ?」

月「最後に……答えられるなら答えてくれ」

(浜辺に横たわっている美希と春香を見やる月)

月「……魂、とでもいうべきものがあるとして……デスノートを使い、死んだこの二人の……星井美希と天海春香の魂は、どこにいくんだ?」

リューク「…………」

月「やはり……地獄にでも連れて行かれるのか?」

リューク「ククッ。生憎だが……俺達死神は『魂』などという概念を持ち合わせてはいない」

リューク「だが、一つだけ言えることがある」

リューク「天国も地獄もない。生前何をしようが死んだ奴のいくところは同じ……死は平等だ」

月「……そうか」

L「…………」

リューク「では……返してもらうぞ。デスノート」

月「ああ」

リューク「じゃあな。人間」

(月から差し出されていたデスノートを受け取るリューク)

(リュークがデスノートを手に取るのと同時に、月はノートから手を放す)

(その瞬間、月からはリュークの姿が見えなくなった)

月「! リュークの姿が見えなくなった」

L「……私にはまだ見えていますが」

リューク「ああ」

月「えっ」

リューク「竜崎……お前はノートの所有者ではなかったからな。単にノートに触っただけの人間に俺の姿を見えなくするには、一度その人間にノートの所有権を持たせ、その上で所有権を放棄させなければならない」

L「…………」

リューク「だから……竜崎。便宜上、次はお前にこのノートの所有権を渡す。そうしたらすぐに俺に返せ」

リューク「そうしておかないと、お前には俺の姿が見えるままになっちまう……それは『都合が悪い』からな」

L「! ……分かりました」

月「竜崎? 今どういう状況なんだ?」

L「……後で説明します。月くん」

リューク「そうそう。後はあの女……弥海砂も、俺の姿が見える状態になっちまってるからな。後であいつの所にも行って、お前と同じようにノートの所有権持って捨ててをさせないと……」

L「……随分徹底していますね。『もう死神界に帰るのなら』あなたの姿が見える人間が人間界に残っていたところで、そんなに大きな不都合があるとは思えませんが」

リューク「ククッ。まあ……『もう人間界に来ないのなら』……な」

L「! …………」

リューク「よし。じゃあ渡すぞ」スッ

L「……はい」

(リュークからデスノートを受け取るL)

リューク「そして、そのままノートを俺に返せ。それで俺達の関係は終わりだ」

L「…………」スッ

(受け取ったばかりのデスノートをリュークに向けて差し出すL)

リューク「ククッ。これで今度こそさよならだ」

リューク「じゃあな。人間」

(リュークがデスノートを受け取った瞬間、ノートもリュークもLからは見えなくなった)

L「! ……見えなくなった……」

月「竜崎? 一体、何が……?」

L「月くん。実は――……」

(リュークとの最後のやりとりの内容を月に伝えるL)

月「……なるほど。それでノートが見えたり見えなくなったりしていたのか」

L「月くんからはそういう風に見えていたんですね」

月「ああ。竜崎の手の中にいきなりノートが出現したかと思えば、竜崎がそれを前方に差し出した直後にまた見えなくなった」

L「なるほど。とすると、デスノートは『人間に譲渡する』という死神の意思があって初めて、我々人間にも認知できるようになる……ということですね」

月「そういうことだろうな。……しかし、それよりも気になるのは……あの死神、リュークの言動……さっきも、僕達を殺してしまうとこの先楽しめなくなる、みたいなことを言っていたが……」

L「はい。そして私からも自分の姿を見えなくするようにし……さらにこの後、弥の所に行って同じことをするとまで言っていました」

月「ならば……もう間違い無いな」

L「はい。あの死神……リュークは――――またそのうち、あのデスノートを人間に渡すつもりです」

月「そして人間にノートを渡した死神は、その人間が死ぬまで、その人間に憑いていなければならない……それは死神界の掟でもあるらしい」

月「つまりこの先、リュークからあのノートを渡される人間がいるとすれば……リュークはその人間に憑いていなければならなくなる」

月「その状況下において、ノートに触った事のある人間が、ノートの所有権を得て、それを放棄していなければ……その人間に近づいた場合、リュークの姿が見えることで、ノートの所有者が誰であるか分かってしまう。それを防ぐための措置だろう」

L「はい。弥はともかく、私がまたノートの所有者の捜査に乗り出せば……いずれはその容疑者として、ノートの所有者を目にする機会もあるでしょうからね」

月「……おかしいとは思ったんだ。わざわざ、僕達にノートを使わせるために人間界に留まっておきながら……あんなにあっさり引き下がるなんて」

L「ええ。おそらくリュークは、最初から二つのパターンを想定していたのでしょう。一つ目は言うまでもなく、私と月くんの双方、またはそのいずれか一方にノートを使わせ……そのさまを観て楽しむというパターン」

月「そして二つ目は……僕達がノートの使用を拒んだ場合に、他の者にノートを渡し……僕達にその者を追わせることで、それを観て楽しむというパターン……か」

L「はい。そして今まさに、その二つ目のパターンが現実のものになろうとしている……いえ、もう……『なった』と考えるべきしょうね」

月「そうだな。『自分の思い通りに人を殺せるノート』なんて……欲しがる人間は無数にいる。今日明日にも、自分の私利私欲のためにノートを使い始める人間が現れてもおかしくない」

L「あるいは、ノートがキラの理念に賛同する人間の手に渡れば……またキラの裁きを再開されてしまう可能性もありますね」
 
月「それならやはり……僕達がノートを持ったまま、誰も使うことがないよう、どこかに封印しておいた方が良かったかもしれないな。あるいはいっそのこと、焼却するなりして処分してしまうという手も……」

L「そうですね。一応はそのような手段もありえましたが……しかしリュークが私達を殺さなかったのは、まさに今月くんが言った通り、他の人間にノートを渡し、私達にその者を追わせ、そのさまを観て楽しむため……。そうであるとすれば、私達がノートを封印なり、処分なりしようとした時点で……今度こそ本当に私達を殺し、ノートを回収していたものと思われます」

月「そうなると結局、その後はまた別の人間にノートを渡されてしまうだけ……か」

L「はい。……おそらくは」

月「それならば結局……僕達にできることは一つしかないな」

L「はい。またあのノートを手に入れ、人を殺すような者が出てきたら……その段階でその人間を捕まえるだけです。その人間がキラの思想を持っていようがいまいが関係ありません」

月「そうだな。しかしその人間を追い詰めたところで、またリュークによって別の人間にノートが渡されてしまうかもしれない。もはやそうなるといたちごっこだが……」

月「しかし……それでも」

L「はい。それでも私達は、ノートを使う者を追い続けるだけ……いえ」

L「追い続けなければなりません」

L「リュークが『もうこれ以上は何度やっても無駄だ』と音を上げるまで」

月「根比べ、というわけだな」

L「はい」

L「私達とリューク……どちらが先に音を上げるか」

L「死神との命懸けの根比べです」

月「……本当に命懸けだな。リュークのあの性格じゃ、いつ気まぐれで僕達を殺すか分からないし……」

L「そうですね。結局は、彼が飽きたらそこでおしまい、という話に尽きるのかもしれません」

L「しかし、私達は……」

月「ああ。そうだな。竜崎」

月「僕達は逃げるわけにはいかない」

L「…………」

(どちらからともなく、浜辺に横たわっている美希と春香を見やる月とL)

月「もう既に、色々と……背負ってしまっているからな」

L「……そうですね」

月「……なあ、竜崎。この戦い……僕達は勝ったのかな?」

L「……そうですね。少なくとも、私個人としては――……負けです」

月「竜崎」

L「星井美希が私を殺さなかったのは、『天海春香の悲しむ顔を見たくなかったから』」

L「死神レムが私を殺さなかったのは、『天海春香の選んだ道を尊重したかったから』」

L「……皮肉だと思いませんか? 『熱狂的な天海春香のファン』という偽りの姿を演じ続けた私が……最後には『天海春香』という存在によって生かされたわけです」

L「誰がどう見ても、私の負けです」

月「…………」

L「また、容疑者と殺人の方法をほぼ完全に特定しておきながら……二人を逮捕する前にみすみす死なせてしまった」

L「これは明らかに私の探偵としての落ち度……この点でも私の負けです」

月「……それを言うなら僕も同じだ。竜崎」

L「月くん」

月「僕だって、『捜査本部に居て、星井美希と天海春香を疑っている可能性が高い者』とまで考えられていたんだ。いつ殺されてもおかしくなかった」

月「レムに殺されずに済んだことも、二人をみすみす死なせてしまったことも同じだ」

月「だから竜崎が負けというなら、僕も負けだよ」

L「……月くん」

月「だが結果として彼女達は死に……そして僕達は生き残った」

L「…………」

月「だからせめて僕は、この先の人生も精一杯……生きていこうと思う」

月「彼女達の分まで、などとおこがましいことを言うつもりはないが……せめて自分の人生を、悔いの無いように」

L「……それは私も同感です。月くん」

月「……ところで、今後の事だが……竜崎。星井美希と天海春香がキラだった事は世間には公表しない……そうだな?」

L「はい。そのつもりです。このような結果になった以上、今更そんなことをしても意味が無いですし……むしろ、事件に何の関係も無い765プロダクションの関係者を無用な風評被害に晒すだけです」

L「また『キラがいなくなった』と公表すれば、当然、悪事を働こうとする者も増えるでしょうから……勿論、これは犯罪の抑止力としてのキラの存在を肯定する意味ではありませんが……そうなると分かった上であえて公表する実益もありません」

月「そうだな」

L「ただ、この二人の死そのものは隠しようがないですので……世間的には、『ライブ終了後に二人で海に遊びに行き、浅瀬で遊んでいるうちに不運にも波に飲まれ、溺死した』……とでもしておくしかないでしょうね」

月「事務所の関係者は勿論、家族もいることだからな。このまま遺体を隠蔽して『行方不明』で押し通すのは流石に無理があるし……何より人道に反する」

L「はい。私も同じ考えです」

月「ただ……流石にプロデューサーにだけは真実を伝えざるを得ないだろうな。誤魔化せなくはないかもしれないが……彼の常人離れした洞察力に鑑みると、下手に隠すのは危険だろう。それを抜きにしても、彼は既に多くの情報を知り過ぎている」

L「そうですね。ライブ後はノートに書かれた内容の間接的な効果が働いており、ゆえに私からの連絡にも応答しなかったものと思われますが……その状態がいつまでも続くわけではないはずです。むしろ、書かれた内容が実現された今はもう解けていると考えた方が自然でしょう。ならば、全てをありのままに話した方が良いと思います」

月「彼なら、その秘密は誰にも漏らすことなく墓の中まで持って行くだろうしな」

L「はい。そうすることが星井美希と天海春香……そして残された765プロダクションの他のアイドル達にとっても最善の選択であると、彼ならすぐに理解するでしょう。『死んだ二人のアイドルがキラ事件に関わっていた』なんて……所属事務所のプロデューサーという立場からは絶対に表に出したくない情報ですからね」

月「そうだな。……あと、ノート自体はリュークに返してしまったが……僕が胸ポケットに仕込んでいた隠しカメラで、今日、この場所に着いてからの一部始終は撮影できている。勿論、リュークの姿は映っていないだろうが……少なくとも、僕が手に触れていた間のノートの内容は映像として残せているはずだ。捜査本部内で保管する記録としてはこれで十分だろう」

L「はい。それがあれば夜神さん達への説明もしやすいですしね」

月「ああ」

月「しかし……『デスノート』……か」

L「? 月くん?」

月「……竜崎。さっき、リュークも言っていたが……」

L「…………」

月「もし、『ノートを渡す順番が違っていたら』……キラになっていたのは僕だったかもしれない」

L「! ……何故、そう思うんですか?」

月「リュークが言っていただろう? 『退屈だったから』星井美希にノートを渡した……と」

L「はい。それが……何か?」

月「僕も……退屈だったから」

L「! …………」

月「リュークと僕は、ある意味同じだ」

月「僕もずっと……自分が今生きているこの世界、腐った世の中に……退屈を感じていた」

L「…………」

月「それにあのノートには……人間なら誰でも一度は試してみたくなる魔力がある」

月「だからもし僕が、星井美希よりも先にデスノートを手にしていたとすれば……」

L「…………」

月「そんな退屈な日常から抜け出すために……あるいは、この腐った世の中を革めるために――……」

月「僕が『キラ』になっていたかもしれない」

L「月くん」

月「もしそうなっていたら……竜崎とは敵同士になっていたかもしれないな」

L「……そうですね。ですが……」

月「…………」

L「キラになったのは星井美希であり、キラになっていないのが月くんです」

月「! …………」

L「それが……全てだと思います」

月「……竜崎……」

L「…………」

月「一つだけ……補足しておくよ」

月「確かに僕は、ずっと退屈を感じていた」

月「―――竜崎に出会うまでは」

L「!」

月「竜崎に出会ってからは……僕は今日まで、一日たりとも退屈を感じた日は無かったよ」

L「……私も同じです。月くん」

月「竜崎」

L「月くんと過ごしたこの捜査の日々は、とても刺激的で……退屈など微塵も感じませんでした」

月「……そうか。それなら良かった」

L「はい」

月「じゃあ改めて……これからもよろしくな。竜崎。……いや……」

L「?」

月「……よろしく。“L”」

L「……はい。こちらこそよろしくお願いします。月くん。……いえ……未来の警察庁長官殿、でしょうか」

月「それはまた……随分気の早い話だな」

L「月くんの能力なら、決して遠い話ではないと思いますよ」

月「はは。ありがとう」

月「それにしても……星井美希が、今日のライブで竜崎を本気でファンにしようとしていたとはな」

L「……はい。そのことですが……月くん」

月「? 何だ? 竜崎」

L「これもノートの効力だった、と言えばそれまでなのかもしれませんが――……私は今日のライブ中、確かに……ステージ上で輝く、“アイドル・星井美希”の姿に魅了されていました」

月「! 竜崎」

L「そういう意味では―――私はあの時、あの瞬間―――確かに『“アイドル・星井美希”のファン』になっていたのかもしれません。天海春香の時のような『偽りのファン』ではなく……『本当のファン』に」

月「…………」

L「そうであるとすれば、この点でも……私は星井美希に『負けた』ということになるのかもしれません」

月「……竜崎」

月(確かに、僕も――……今日のライブ中、自分の意識が丸ごとステージの方へ持っていかれそうな……そんな感覚に襲われた)

月(勿論それは竜崎が言うように、ノートの効力でもあったのだろう)

月(だがきっと、それだけではなく……)

月「…………」

L「月くん? どうかしましたか?」

月「……竜崎」

L「? はい」

月「星井美希も、そして天海春香も――……デスノートなんかより、もっと……“強い力”を持っていたのかもしれないな」

L「!」

月「…………」

L「それなら私達も……負けてはいられませんね」

月「……そうだな。竜崎」

月「共に頑張ろう。この先もずっと」

L「はい。月くん」


L「私達にも――……彼女達のような“強い力”があると、信じて」

【同日・死神界】


(死神界の穴から人間界を覗いているリューク)

リューク「……ククッ。まあどうせあいつらのことだ。俺がまたすぐに別の人間にノートを渡そうとしていることくらい……当然考えついているだろう」

リューク「しかしそんなことは大した問題じゃない。見つかったら見つかったで、また別の人間にノートを渡せばいいだけだ」

リューク「なんせ人間なんて、この世に何十億人もいるんだからな」

リューク「……さて、じゃあ次は誰にこのノートを渡すか……」 

リューク「やはりまず思いつくのは……そうだな。たとえば熱狂的なキラ信者とか……お。あいつなんか良さそうだな。名前は、魅―――あ、人混みの中に紛れちまった。ちぇっ」

リューク「まあいいか。またそのうち目にする機会もあるだろう。死神を……デスノートを引き寄せるような人間なら」

リューク「あとは……そうだな。ミキとハルカの遺志を継ぎそうなアイドル、なんてのも面白いかもしれないな。たとえばあいつ……矢吹可奈とか」

リューク「ククッ。こうやって、色々と考えを巡らすのもまた面白! ……だが」

リューク「…………」

リューク「まあ、今日くらいは……なあ。ミキ」

リューク「これまでの間、俺を楽しませてくれたお前に敬意を表し――……」

リューク「俺も、お前と過ごしたこの八か月半という時間に思いを馳せるとしよう」

リューク「……なんてな。ククッ」

リューク「俺も少し、レムの奴の感傷がうつっちまったかな?」

リューク「…………」

リューク「なあ、ミキ……」

【一週間前(美希と海砂の撮影があった日)・765プロ事務所近くの公園からの帰路】


(春香と別れた後、帰路を歩いている美希)

リューク「……なあ、ミキ」

美希「? 何? リューク」

リューク「いや……本当にあんな書き方で良かったのか?」

美希「あんな書き方って?」

リューク「たとえばほら、『アリーナライブを成功させ、トップアイドルになって……』とか、そういう書き方だってやろうと思えばできたんじゃないか? まあ、それが有効かどうかは実際に書いてみないと分からんが……」

美希「もう、何言ってるの? リューク」

リューク「え?」

美希「もし仮に有効だとしても、そんなの何の意味も無いの」

美希「『自分達の実力だけで』トップアイドルにならなきゃ」

リューク「! …………」

美希「それに春香だって、あくまでも『実力以外の手段を使って』ミキ達を陥れようとした人だけ、デスノートを使って排除しようとしていたわけだし……実際、そうしていたの」

リューク「それはまあ……そうだが」

美希「だから、ミキ達がデスノートを使って実現するのは『アリーナライブを最後までやり切る』というところまで」

美希「ライブそのものが『成功』するかどうか……そして、ミキ達がトップアイドルになれるかどうか……」

美希「それは全部、ミキ達の実力次第……それでいいの」

リューク「……ククッ。なるほどな」

美希「あと……リューク」

リューク「ん? 何だ? ミキ」

美希「ミキと最初に会った日に、『デスノートを使った人間が天国や地獄に行けると思うな』って……言ったよね」

リューク「ああ……言ったな」

美希「ミキ、別にいいよ。それでも」

リューク「え?」

美希「たとえどこに行っても……春香さえ一緒なら」

美希「ミキはそれでいいの」

リューク「……そういえば、さっきもそう言ってたな。ミキ」

リューク「ハルカと『ずっと一緒』だと」

美希「うん。そうだよ」


美希「ミキと春香は、ずっと一緒なの」

【現在・死神界】


リューク「……ククッ」

リューク(ここまで使い勝手の良い道具が手元にあったのに、最後の最後……一番大事な場面ではそれには頼らず)

リューク(『自分達の実力だけで』トップアイドルに……か)

リューク(これはこれで“人間”らしくて面白……かもな)

リューク(なあ……ミキ)

リューク「……さて」

リューク「今度は……もっと面白いものを俺に見せてくれよ」

リューク「なあ」

リューク「―――“人間”」


リューク「……ククッ」パラッ




(笑いながら、手に持ったデスノートの一番後ろのページを開くリューク)

(そのページには、次の文章が書かれていた)











-----------------------------------------------------------

星井美希 天海春香  心不全

20××年8月1日
誰にも妨害されることなくアリーナライブを最後までやり遂げ、
誰にも捕まることのないまま海の見える浜辺へ行き、
第三者に発見される前に安らかな眠りの中で死亡。

-----------------------------------------------------------


















以上で本作品は終了となります。
最後まで読んで頂き、本当にありがとうございました。

大作だった
今までお疲れさまでした

お疲れ様でした
本当に面白かった。

この後みんな困ったんだろうな
どう整理をつけるんだろう

完結乙

すごい引き込まれたよ
面白かった


最初に見たの2015年だったんだよな
完結お疲れ様
月並みだがすごい面白かったよ

途中から追ってたけど面白かった
乙です

乙乙

お疲れ様でした。
待ったかいがある良い終わり。面白かった。

こんな引き込まれるssは後にも先にもこれしかない気がするな
お疲れ様でした

長い間お疲れ様でした

おつでした。

スレ立て時からずっと追ってたよ!

1年以上続いたこいつもついに終了か
お疲れ様でした。
各キャラの性格とかが良く出ていて非常に良かったです


長い間楽しませて頂きました

終わりか
長いこと楽しませてもらったよ

お疲れ様でした

長らくおつでした

お疲れ様でした
この後も続けられそうな展開だけど、これ以上は蛇足になるかもしれないしここで終わりかな

目立った破綻もなく驚きと納得が連続する展開でとても引き込まれました
二次創作だけどオリジナルにないキャラの魅力も引き立っていて面白かったです
作者が何者なのか気になるところだけど、ともあれお疲れ様でした、読みごたえのあるssをありがとうございました


できれば後日談も見てみたいかな

足かけ二年の間楽しませていただきました
また始めから読んできます

二人がいなくなった後の事務所の様子とか世間の様子とか
捜査本部のその後とか
でもそれやりだしたらもう1年くらいかかりそうだなww
毎回楽しみに読んでました2年お疲れさまです


面白かった。これほど引き込まれる作品には中々出会えないから少しさみしい気もするけど、贅沢言ってはいけないか。

長い間お疲れ様でしたっ!いつも楽しみにしてたのが終わってしまった。いい文章をありがとう!

おー終わってたー

長い間お疲れさまでした。とても楽しかったし更新あるたびに引き込まれてましたよ

お疲れ様です
完結ありがとういつも楽しみにしてた
他に書いたssとか教えて欲しい

最初からずっとドキドキさせてくれた最高のSSだった
乙乙

大作でクソ長かったけど一気に読みました
ゴリゴリの理詰めバトルには、多少くどく感じるところもあったけど、お互いが最善を尽くしてガチで闘ってる感じで面白かった

原作デスノでは、納得出来ないキャラの言動にイライラしたタチだろうなこの人w
他人を下に見る心理描写というか、そういう不快指数高めるキャラも文も無かったおかげか一気に読めたわ
登場キャラみんな各自の正義を通してブレないしね
乙でした

おつかれさまです!
最初よくあるイロモノかと思ってたけど、
美希が天然でLの推理をかわし始めたところでオッて思って、
第2の所持者が春香さんだったところから
一気に引き込まれたわ。
デスノ原作要素もif的に盛り込まれてるのが好きやった。

デスノートシンデレラガールズはまだですかね…

アイマス側もデスノート側もどっちのファンも楽しめるSSだったな

沢山のご感想ありがとうございます
一年半にも渡って書き続けられたのは皆様の温かいレスのお陰でした
本当にありがとうございました



>>471
結構書いてるのでいくつか(と言いつつかなりありますが…)ピックアップしてみました
お暇な時にお目通し頂けると幸いです


1.長編系(といっても、本作の比じゃないですが)

やよい「はいたーっち!」 P「えいっ」ふにっ


2.自分の中でのお気に入り系

冬馬「765プロのライブが当たった」


3.本作の前身(?)系

千早「おにぎりノート?」


4.美希系

P「美希、とろろごはん食べるか?」
P「美希、卵焼き食べるか?」
P「美希、湯葉食べるか?」
P「美希、土瓶蒸し食べるか?」
P「美希、セブンのコーヒー飲むか?」
P「美希、秋刀魚の塩焼き食べるか?」
P「美希、みかん食べるか?」
P「美希、かけそば食べるか?」


5.アイマス×デスノ系

やよい「デスノート?」
やよい「デスノートを拾ってから一ヶ月」
やよい「デスノートを拾ってから二ヶ月」


6.エヴァ×アイマス系

アスカ「ねぇ、あんた765プロの中では誰が好きなの?」
シンジ「ねぇ、綾波は765プロの中では誰が好きなの?」
レイ「765プロの中では誰が好き?」 カヲル「えっ?」
カヲル「765プロのアイドルは、お好きですか?」


7.本作の投稿期間中に書いたデレマス系

渋谷凛「い……いやだ!」 武内P「…………。(だ、だから何が……)」
本田未央「忠犬しぶりん」 武内P「?」
李衣菜「突き指で全治二週間なんて……ロックじゃないなあ」
本田未央「しぶりんGO!」
島村卯月「そろそろタメ口でいくか」
本田未央「そろそろしぶりんのあだ名を変えようと思うんだけど」 渋谷凛「えっ?」


 ※余談ですが、李衣菜の話では文の書き方から美希デスノ書いてる人?って当てられてびっくりしました

>>477
おまえだたのか

おっつおっつ
ここ数年で一番楽しませてもらったSSだった

まさかやよノートの作者だったのか
このSSを見たときやよノートみたいな感じになるのかなぁと思ってまったく雰囲気が違って別作者だろうなと思ったらまさかの

まあこれから月は高田とミサに刺し殺されるんですけどね

月「心配無用さ何しろ顔がよくてエリートでモテるからね」

エヴァのやつもそうだったんだ
他のも見てくるかな

ほんとに長い間お疲れ様でした。
ここまで長編なのにグダることなく楽しめたssは久しぶりです。
星井父などの後日談が気になるところではありますが、
ここで終わるのが一番綺麗だというのよく分かるジレンマww
リュークが最後らへん感傷的だったりレムが死なずに済んだりしてるのも
個人的にうれしいところです。
素晴らしい作品をありがとうございました。

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2016年09月08日 (木) 19:58:24   ID: WguZFKmz

他の方の作品の弓と矢、デスノート、この2つのssが楽しみです!
大変だろうけとがんばってください。面白い物をいつもありがとう!

2 :  SS好きの774さん   2016年12月05日 (月) 23:30:25   ID: CJ5Oh3oO

おも・・・しろい・・・・

3 :  SS好きの774さん   2019年05月17日 (金) 06:19:59   ID: RZKvsnTc

カネ払っていいくらいおもしろかった
スケール感がうまくたってて、最後のアリーナライブは大した描写があるわけでもないのに実際の映像が想像できた
それまでの積み立てた流れから想像力を刺激されたからだとおもう
ありがとう

4 :  SS好きの774さん   2019年05月21日 (火) 08:20:31   ID: 8DVi1Dce

自分も今読み切って、余韻に浸ってます。
めちゃくちゃ面白かった。アイマスssというか765ってコンテンツ自体が段々目立たなくなってきてて、次第にアイマスにも手つけなくなったし、ssも昔のが良い作品ばっかだから全然読まなくなってたけど、こんな近年に、素晴らしいssが作られてたとは。

またいつか、読みに来たいと思います。

5 :  SS好きの774さん   2021年07月29日 (木) 18:45:15   ID: S:coc-51

最後だと分かってるからお父さんに会いに行った事(内容が都合よく書かれていたり、矛盾出ちゃうだろうけど、局長判断でお父さんの姿だけでも美希に見せてあげたかった…) ここで終わらせるのが作者さんの意向なのだろうけど、「エピローグ」的な、この後どうなったのか?が凄く知りたい気持ちになりました!最高の作品をありがとうございました!

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