【艦これ】舞風「この輝く星空の下で」 (26)
注:編成・戦闘描写は筆者の趣味&御都合主義。気にしたら負け。
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涼やかに 波音響く 夜の海
降る星明かり 揺らす航跡
「なーんてね」
くるりとスカートを翻しておどけた調子で声を上げたのは、一番先頭を進んでいた旗艦の川内さんだった。
ローテーションを組んで行われる夜間哨戒。最近は強力な深海棲艦との遭遇率も低くなってきており、提督の意向もあってこの哨戒は普段絡みの無い艦同士の交流を兼ねたものになっている。
今日のメンバーは川内さん、神通さん、古鷹さん、はっちゃんこと伊8さん、初風、そしてあたし。いつも組んでいる第四駆逐隊も、今回は一時解隊。あたしだけが出撃となっている。
そんなローテーションなのに、川内さんは2日に1回は夜間哨戒メンバーに入っている。本人からの訴えもだけど、夜戦アラームに対する苦情も大きかったらしい。本人は満足そうだからこれで良いのかも知れないけど。
「川内さんもそういった短歌を詠んだりするんですね」
思わず放った言葉に、川内さんはやや不満そうな半目を向けた
「舞風ぇ、なんか含みのありそうな物言いだね」
「え?」
「意外!というよりは、あーこの人でもこんなことできるんだーみたいな意味合いに聞こえたけど、その辺りどうなの? ん?」
半目のままズイズイと迫ってくる。それに合わせ、あたしは仰け反るように後ろに下がる。
「……川内姉さん、そこまでにしてあげて。舞風に他意は無いんだから」
見かねて初風が助け船を出してくれる。ナイス判断、初風!
「そうですよ、姉さん。実際、珍しいことには変わりないんですから」
私の右後ろから静かに届いた声は神通さんのものだ。因みに那珂ちゃんは日中ライブイベントだったのでお休み。川内型三姉妹が揃ってたらどうなってたのか、恐ろしくなりそうでちょっと考えたくない。
「神通、さり気に酷くない?」
「毛筆ついでにと始めたのは最近でしょう? 今日も出撃前に『星明かり……星明かり……』とかブツブツ言いながら……」
「わーわー! 言うなー!」
淡々と指摘する神通さんの口を塞ごうとする川内さん。当の神通さんは最低限の動きで見事に回避している。流石だとは思うけど、このままだとガチバトルになりそうな気が……ああもう、古鷹さんも苦笑してないで止めてー!
「因みに、ですね」
そんな時、また後ろから新しい声が生まれた。
「『涼し』のような、『涼』という漢字を使う季語は、夏から秋にかけてのものなので、まだ春先の今に使うのは、少々不適じゃないかなーと、はっちゃん思いますね」
はっちゃんのおっとりとした、それでいて容赦のない指摘。持ってる本の表紙には「歳時記」の文字。なんでこのタイミングで持ってるんだろう。
「……慣れない事するからですよ、姉さん」
「あーもーっ!」
気まずそうに呟く神通さんと顔を真っ赤にして怒鳴る川内さん。これ以上やりすぎると魚雷が撒き散らされかねないから止めないと……
哨戒は何事もなく続いてゆく。先ほどのバタバタもなんとか落ち着いた。まだ川内さんは不機嫌そうだけど。
今夜は月もなく、星明かりだけが海を照らしている。私たちの機関のたてる音と波音だけが聞こえてくる。
そんな時、
「……いるね」
不機嫌オーラを纏っていた川内さんの声が静かに響いた。直前までのオーラは一瞬で霧散し、殺気とも歓喜ともとれるような空気に一変している。
「1、2、3、4、5、6……大漁だねぇ」
心底嬉しそうに呟く川内さん。驚くことに、彼女はレーダーの一切を使用していない。歴戦の勘なのか、鼻が利くのか。真相は不明だけど、この『索敵』を違えたことは一度もない。
「総員、単縦陣に移行し戦闘態勢! 方位0-6-0!」
声に従い、皆が陣形を組み直す。演習で何度も繰り返してきた、一糸乱れぬ挙動。敵が近づいているという実感はあるけれど、そこに不安はない。
「電探に感あり。戦艦1、重巡2、軽巡1、駆逐2」
初風が電探で敵艦隊を捕捉したのは、陣形を組み直してから5分以上経ってからだった。捕捉したのは向こうも同じ様で、水平線上にパパっと光が舞った。
「一時散開して回避! 砲撃で牽制しつつ全速接近!」
声と同時に皆が散り散りになる。10秒ほどしてから、音を置き去りにしてきた砲弾が降り注ぎ始める。
「照明弾上げます」
初風の声。目の前が赤くなったと思った瞬間、緩い光弾が空を舞う。放物線の頂点に至ったそれは青空の太陽のように眩く光り輝き、敵艦隊の姿をあらわにする。
「さあ、ぶっ叩くよ!」
川内さんの声と共に、空間を歪ませるような轟音が響く。それを号砲と言わんばかりに、皆が金色に照らされた敵艦隊へ突っ込んでいく。
「さぁて、私と夜戦してくれるのはだ・ぁ・れ・か・な・ぁ?」
硝煙の薫りを香水に、夜闇を堂々と駆け抜ける夜戦の女帝。絶っっ対に敵に回したくないなと思いながら、私はその後ろ姿を必死に追いかけるのだった。
────────
とうに照明弾の灯りは尽き、再び星空だけが海を照らしていた。頭の中で海図を描きながら、北極星を頼りに自分の位置を把握する。
私の現在地は戦闘海域の南西部。戦域自体が少し南下しつつあり、かつてはリゾート地であった小島や浅瀬がまばらながら現れ始め航行を阻害している。
残る敵艦隊は戦艦1と重巡1。重巡は中破しているけれど、戦艦は未だ小破のみ。
ここでまとめて追い込みたいところ。そう考えていると、川内さんからの通信が入る。
「総員、締めの一本行くよ!」
締めの一本。川内さん考案の連携総攻撃法が始められる。
「探照灯照射!」
「探照灯照射了解!」
川内さんと古鷹さんがそれぞれ離れた場所で探照灯を照射する。島々の間を通りながら敵艦を挟むように移動する。
そして丁度二者の真ん中に敵艦を捉えると、挟み撃ちにするような砲撃が行われる。
必死の反撃で古鷹さんが被弾する。それでも2艦では前後に対応しきれず。なんとか挟撃から逃れようと左右に逃げ惑う敵艦を、
「はっちゃん、狙っちゃいますね」
三方向目。砲撃の無い真横から、無音の雷跡が叩っ斬る。
一瞬、時が止まったような静寂を感じ。直後には轟音と巨大な水柱。それらが収まった頃、敵艦の反応は無くなっていた。
前後からの砲撃と真横からの雷撃。この三方向からの連携総攻撃こそが『締めの一本』。少数殲滅を目的とする、戦果の高い作戦である。
と言っても探照灯照射する分リスクも高く、川内型の人たちぐらいしか使わないのだけど。
────────
「損害ほうこーく!」
「神通、中破です。装備は魚雷発射管が脱落した他は無事です」
「こちら初風。私自身は無傷だけど、古鷹さんが大破したので曳航してるわ。装備の大半をやられたみたい」
「伊8、何事もなく、無傷です」
「舞風、小破未満の損害のみです!」
「りょーかいっ! 私は主砲と魚雷管をやられて中破! それと引き換えに存分にやり返してやったけどね!」
嬉々と声をあげる川内さん。存分にと言ってるけど、オーバーキルだったに違いないよね。南無。
「やっぱ夜戦はいいよね~、最高だよね~!」
まだ余韻に浸ってるのか、中破しているにも関わらずルンルンと踊るように海を走る川内さん。ついて行くこちらは、古鷹さんを曳航していることもあり、置いてかれそうになってしまう。
「やっせんー、やっせんー、やっせやっせんー!」
「川内さーん! これ以上は無理ですって! ちょっと待ってくださいよ~」
「むー、しょうがないなぁ。んじゃ、少し休憩しよっか。潜水艦に注意して待機ね」
大破した古鷹さんを中心に、皆が円になって外側を警戒するように配置する。
戦闘終了から慌ただしく帰還となったからか、一度落ち着くと自然に溜め息がもれた。
散発的とはいえ、今回のような戦闘は未だに尽きない。それは深海棲艦との戦いがまだ終わっていないことの証左であり、私たちの役割がまだ続くことを示している。
各地の鎮守府の働きもあり深海棲艦からの被害は激減したものの、シーレーンを完全確保するには至っていない。まだまだ、深海棲艦は私たちにとって脅威であり続ける。
私たちを取り巻く環境は、大きくは変わっていない。そこに焦燥感がないかと問われると……どうしても否定はできないのが現状だ。
そんなことを考えていると、隣の川内さんが声をかけてきた。
「なーんか難しい顔してるね。持ち前の明るさはどうしたのさ」
「あ……えっと……」
ちょっと躊躇いはあったけど、心の内にあったぼんやりとした不安を川内さんに打ち明けた。
「なーるほどねー」
ちょっと考え込んだかと思ったら、次の瞬間、川内さんは私の後ろに回り込んでいた。待って、今一瞬姿が消えなかった?
「はい上見上げてー」
なす術なく上を向かされる。そして私の視界一杯に広がったのは、宝石箱をひっくり返したような満面の星空。
「わ、ぁ……」
思わず声を失う。戦闘の時は全く意識してなかったけど、こんなに綺麗な星空が広がっていたんだ。
「舞風はね、考え過ぎなのよ」
静かに、優しく声が投げかけられる。
「変わりたい、変わりたくない、変わってほしい、変わってほしくない。私だってそういうのが無いと言ったら嘘になるよ」
私の視界を少し遮るように、川内さんが空に手を伸ばす。
「そういう時はね、こうやって夜空を見上げるの。いつもと変わらない、綺麗な星空を」
ギュッと、星々を掴むように拳が握られる。
「私たちは『いま』を生きている。色々考えすぎて『いま』が疎かになっちゃったら、明日も未来もないんだよ」
「色々考えすぎちゃう時は、目一杯夜戦して、こうやって夜空を見上げるの。ああ、今日もいつも通りの星空の下で、いつも通りに夜戦できたなーって」
私の肩を掴んでいた手が離され、後ろの気配が離れていく。
「たまには『いま』だけを考えて、いつも通りに好きなようにやって、ため込んだ物をパーッと放り出しちゃうのもあり! もちろんそればっかりじゃいけないけどね」
さっきと同じように、川内さんの声が私の隣へ戻っていく。
「私ができるアドバイスはそれぐらいかなぁ。きつすぎず、ゆるすぎずが丁度良いんだよ」
川内さんが離れてからも、私はそのまま空を見上げていた。
ずっと同じ空を眺めていたはずなのに、今のそれはさらに輝いているように見えて。なんとなく星々に誘われるような気がして、思わず踊り出したくなる。
「……うん、」
そう、これがいつも通りの、自然体のあたし。
「わん、つー、」
いつもとは少し違い、リズムを取ると言うよりは自分を軽く奮い立たせるように。
軽く踵を打ちつけて音を鳴らし、その場でくるりとターン!
「さあ、華麗に踊りましょう! この星明かりに照らされたダンスホールで!」
この戦いがいつまで続いていくのかはあたしには分からない。それでも、きっといつかは終わりが来るのだろう。
「なーんてね!」
その時まで、あたしたちはずっと踊り続ける。いつまでも変わらない、この輝く星空の下で。
HAPPY EMOTION / STARLIGHT DANCEHALL / P*Light
おしまい。
普段から明るく振る舞ってるけど心の内には不安をたくさん抱えている舞風を、その内を吐露させながら一晩中愛で倒したい人生だった。
乙
舞風は末っ子かわいい
乙ー
以下分かる人だけ分かれ。
曲コメを見て、衝動的に最後の一文を書きたくて書きました。BGAや声ネタを入れようとしてグダグダになったのは反省。
戦闘描写は初めてだったので、何かおかしい点あれば指摘いただけると幸いです。尚、この編成で南西海域や南方海域に突っ込んだ時の被害については補償しかねますので注意。
次回は浴衣組で何か書きたいなと。人数多いから誰にしようか。脱稿目標は8月。
明朝あたりにHTML化申請出します。
乙
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