寿也「僕に君の子供を妊娠することはできない」 (31)

ガチャ


吾郎「……トシ」


寿也「……吾郎君、清水さんとの婚約、おめでとう」


吾郎「……う、うは、はっはは」


吾郎「悪ィなトシ。別に隠してたわけじゃなかったんだけどよォ」バンバンバン


吾郎「こーゆーのってよ、昔からの知り合い程言い出しづらいっつーか……分かンだろ、お前なら」


吾郎「だから……」




        バァン!!!






吾郎「っ……!?」


寿也「……誤魔化されやしないよ、吾郎君」


吾郎「……何だよ、誤魔化しって。ただ俺ぁ……」


寿也「怖かったんでしょう? 僕と向き合うのが」


吾郎「……」


吾郎「……はァ?」


寿也「君は、昔からそうだったよね」


寿也「リトルの時も、海堂の時も、プロに入るその時も、そして今だって」


寿也「環境の変化を、自分から他人に告げるのを、極端に恐れる」


寿也「自分の決断に自信が持てないからって、否定されたくなくてビビってるんだろ」


寿也「……つまんない男だよね、ホントに」




吾郎「……トシ」


吾郎「黙って聞いてりゃ、てめえ……!!」グイッ


寿也「……違うって言うなら」


チュッ


吾郎「……!?!?!?」


寿也「ここで証明してごらんよ」


寿也「僕を捨てて清水さんに」


寿也「女の子に走る自分が正しいっていう、その証明をさ……!!」


吾郎「……トシ、お前、おかしいぞ」


吾郎「今ならいきなりその……キスしたことについては許してやるよ。だから」




寿也「……逃げるっていうなら、それでもいいさ」


寿也「と言っても、今の吾郎君なんかじゃ、清水さんのことを満足させられるとは、到底思えないけどね……」


寿也「どうせ、尊敬するギブソンにも妻や息子がいると知って、慌てて手近な女で枠を埋めようとしたってトコだろ」


寿也「断言するよ。君に清水さんを幸せにすることなんて、できやしない」


吾郎「……てめぇ、トシ!!」グイ バンッ


寿也「つっ……」


寿也(……相変わらずだね、吾郎君)


寿也(ちょっとプライドを刺激しただけで、こんなちゃちな挑発に乗ってくるなんて)


寿也(……まぁ)


寿也「そんな吾郎君だからこそ、僕はずっと目が離せずにいるのかも知れないね……」


吾郎「……あン?」





寿也「……あぁ、気にしないでよ」


寿也「僕のことを殴って気が済むならそれでいい」


寿也「それ以上のことをしたいって言うなら、そうすればいいさ」


寿也「……安心してよ、メジャーリーグの懲罰委員会に告げ口したりなんてしないさ」


寿也「……もっとも、僕が訴え出るほどの事をする度胸が、今の吾郎君にあるとは思えないけどね……」


吾郎「……上等じゃねェか」グイッ


寿也「っ」ドキッ


吾郎「そこまで言われちゃ、俺も黙っちゃいられねえ」


吾郎「やってやるぜ、今、ここでな……!!」




寿也(かかっ……たッ!?)


ジュポッ  ジュジュジュ!!!


寿也「ご、ご、吾郎君、いきなりそんな」


寿也(吾郎君はクローザー登板だからいいとしたって)


寿也(僕は1回からフル出場……)


寿也(キャッチャープロテクターを付けて……まだシャワーも浴びてないって言うのに……!)


吾郎「っぷ……いきなりビビっちまったのかよ、トシちゃんよ」


吾郎「お前も俺と長げぇ付き合いなんだ、いい加減覚えただろ」


吾郎「勝負時の茂野五郎さんの決め球は」


吾郎「小細工なし、最初からど真ん中の一球勝負ってことがよ……!!」ジュポッ


寿也「ぐううッ……!!」


吾郎「悪りぃがお前相手に、遊び球はナシだ」


吾郎「一気に決めるぜ……!!」ジュボッジュボッジュボッ





寿也「……!!」


ドンッ!!


吾郎「何……ッ!!!」ドサッ


寿也「……く、ふ、ふふふ……」モゾモゾ


吾郎「ってぇ……な、トシてめえ何をッ」


寿也「驚かされたよ吾郎君……まさかこの状況に適応するどころか、逆に責め立ててくるなんてさ……」ヌギヌギ


寿也(そう)


寿也(茂野五郎の本当に恐ろしいところは、野球の才能なんかじゃない)


寿也(その類稀なる反骨精神と……適応力)


寿也(左腕転向の時も、夢島でも、その恐ろしさは見せつけられてきたはずだ)


寿也(だけど、僕がずっと夢見てきたこの男色というフィールドでだけは)


寿也「僕の方が先輩だ……負けられやしないッ!!」ペロ



吾郎「ひイっ!?」


寿也「情けない悲鳴だね吾郎君」ペロペロ


寿也(僕はずっとトレーニングを重ねてきたんだ)


寿也(自分の体を利用したフィジカルトレーニング、そして)


寿也「次は左」ペロッ


吾郎「はァ……ッ!!」


寿也(一流のメジャーリーガーの投球をつぶさに観察して作り上げた愛撫プログラム)


寿也(乳首、首筋、脇腹、太腿へバランスよく遊び球を散らしながら、最後には鋭く打ち取るメソッド)


寿也(”TOSHIYA・SYSTEM”の前に、君は情けなく屈するのさ)


寿也(……僕の愛しい、吾郎君!!)




吾郎「……」


寿也「気持ち良すぎて声も出せないようだね」ペロペロ


寿也「さあ、次は……」


ガシッ


寿也「!?」


吾郎「ここらで俺のバットをしごきに来る……」


吾郎「……随分甘く見られたもんだな」


寿也「……どうして、分かったんだ」


吾郎「言ったはずだよな、長い付き合いだって」


吾郎「お前の好みそうな攻略のパターンなんて……」


吾郎「こっちにゃぁとっくに、お見通しなんだよッ!!」ドサッ



寿也「ご、吾郎君、君は……」


吾郎「……勘違いすんなよ。俺に元々ソッチの気はねぇよ」


吾郎「だけどな」


吾郎「俺達は長年切磋琢磨してきた恋女房(バッテリー)だろ」


吾郎「お前の性癖が歪んでる事くらい、とっくに気づいてたっつーの」


寿也「……じゃあ、どうして、僕の事……」


吾郎「……さァな」







吾郎「俺がどんな無茶振りしようが、必ず傍に居る……」





吾郎「……頼りになるヤツだと思ったからじゃねーの」ポリポリ







寿也「……」


寿也「……また、それかよ」


吾郎「……何だよ」


寿也「……君はずっと昔から」


寿也「本当に欲しい時だけは、本当に欲しい言葉をくれる」


吾郎「……」



寿也「……だから」








寿也「だから好きなんだよ、吾郎君」








吾郎「……おぅ」


寿也「……僕の望むことも、もう分かってるんだろ?」


吾郎「……ああ」


寿也「煩いことは、もう言わないよ」


寿也「清水さんや皆にも、絶対に話したりしない」


寿也「だから」


吾郎「……もう何も言うな、トシ」


寿也「……」


吾郎「二度と忘れられないくらいに、刻みつけてやるよ」


吾郎「サイ・ヤング賞投手の」


吾郎「MAJOR(メジャー)級のピッチングをな……!!」





スパァン!! スパァン!! スパァン!! 


寿也「吾郎、くっ、あああああっ!!!」


スパァン!! スパァン!! スパァン!! 


寿也「吾郎君っ!! 吾郎君ッ!!!!!!!!」


スパァン!! スパァン!! スパァン!! 


吾郎「15回オモテも三者連続三球三振、ってな。次はお前の攻撃だぜ、トシ」


寿也「……ズル、いよ、吾郎君」


寿也「僕に攻撃の余力なんて、残してくれてないくせに……」ガクガク


吾郎「しょーがねーヤツだな……」グイッ


寿也「はアッ!!?」


吾郎「エースで4番が茂野吾郎さんの指定席、ってな」コスコスコス




寿也「ぐ、う、ひいいいいっ」


吾郎「……トシ、もしかしてお前演技入ってないか? 流石に……」


寿也「……そうじゃないんだ、吾郎君」


寿也「ずっと」


寿也「ずっと追い続けてきた君が」


寿也「ずっと振り向いてくれなかった君が」


寿也「僕を捕まえて、抱きしめてくれていることが、あんまりにも嬉しくて……」グスッ


吾郎「……へへっ」


吾郎「そうかい……じゃあもっと、気持ちよくしてやらなきゃ、なあッ!!」ヨロッ スパァン


寿也「……吾郎君? 今」


吾郎「な、何でもねぇよ。アーユーオーケーアイムオーケー」


寿也「まさかっ」ペタッ



ドロッ


寿也「これは……血……」


吾郎「……大したこたぁねぇよ」


寿也(そうか……僕の締め付けがあまりにも強すぎて)


寿也(急に僕のマスコットバットをもてあそび始めたのも、傷が……)


寿也「……もう止めよう、吾郎君」


寿也「僕に君の子供を妊娠することはできない」


寿也「この先清水さんを孕ませる必要だってある」


寿也「これ以上君のバットに負担をかけるわけには……」


吾郎「……」ズブッ パンッ


寿也「ひゃ、ご、吾郎君ッ!!!」



吾郎「今更なこと、言わせるんじゃねーよ、トシ」


吾郎「俺はマウンドに上がったとき、終わった後の損得なんて一切考えちゃいねー……」


吾郎「その一瞬一瞬に、最高の勝負ができればそれで十分なんだ」


吾郎「そうして、最後に前のめりに倒れたとしても、おとさんだってきっと祝福してくれるさ」


寿也「それは野球の話だろう!?」


吾郎「同じだよ」


吾郎「俺にとっては、お前とこうして向き合うことも」


吾郎「何にも変わらない、俺の真剣勝負なんだ……!!」


寿也「……吾郎君……!!!」


吾郎「さあ、受けてくれ寿也」


吾郎「これが俺の」


吾郎「全身全霊の……一撃だッ!!!!!!」







寿也「あああああああああああッ!!!!」






























寿也「……」


妻「眠れないの?」


寿也「……ああ」


妻「そう」


妻「……何を、考えていたの?」


寿也「……別に、何も」ゴロン


妻「……」


妻「ねえ」


妻「野球って、キャッチャーがマスクをつけるルールで、よかったわね」


寿也「……?」


妻「自分では、どう思っているか知らないけれど」


妻「よくよく顔に出てるわよ、考えてること」



寿也「……きっと、君だから分かるんだよ」


妻「……そんなことない」


妻「もし貴方の世界を覗いている人がいたら、きっと十人中十人が、あなたの想いを理解している」


寿也「……だとしたら、別れたい?」


妻「もう、そういうトコが、見え見えだって言うのよ」


妻「もう少し、隠してくれてもいいんじゃないかなぁ」


寿也「……」


妻「……別に、いいよ」



妻「叶わなかった恋の話なんて。誰にでも一つや二つあるものだわ」


妻「もちろん、私にだって、ね。だから、いいの」


寿也「……」


妻「そう、ありふれた話なのよ。叶わなかった恋の話なんて」


妻「例えば、その相手が」


妻「日本人でも誰もが知っている、偉大なメジャーリーガーだったりしても、ね」


寿也「……」


寿也「……こっちに、来ないか」


妻「……遠慮しとくわ」


妻「おやすみなさい」





寿也「……おやすみ」



     





             ~おしまい~



思い出が汚された、乙

とんでもないスレにきてしまった…


これは良いものだ

なんかうん、この…うん?

シリアスかギャグかどっちかにしてくれ

妻って誰

お前だよ

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