二宮飛鳥「みんなのきもちいい」 (123)



キャラ崩壊

長い

よくあるネタ




モバP「よぉーし! 仁奈、今日の仕事良かったぞ!」

市原仁奈「ホントでごぜーますか!」

P「ああ! バッチリだった」

P「よく頑張ったな!」ナデナデ

仁奈「えへへー! 仁奈に任せやがってくだせー!」

P「よーしよしよし!」ナデナデ

仁奈「えへへ~~♪」



三船美優「お疲れ様です、プロデューサーさん」

P「あっ、美優さん! お疲れ様でした」

P「美優さんも良かったですよ。とっても堂々としていて」

美優「そ、そうですか? そう言って頂けるなら幸いです」

美優「今日みたいなお仕事は初めてでしたから、最初は不安だったんですけど……。うまくいって良かったです」

仁奈「美優おねーさん、すげーきれーだったでごぜーます!」

美優「ふふっ。ありがとう、仁奈ちゃん」

美優「きっと仁奈ちゃんが居てくれたから、私も頑張れたんでしょうね」

仁奈「仁奈のおかげでごぜーますか?」

美優「うん。もちろん」ナデナデ

仁奈「えへへ~♪ 気持ちいいでごぜーますっ!」



P「さて。じゃあ車で送りますよ。美優さんは事務所までで?」

美優「はい。お願いします」

仁奈「………………」

美優「……? 仁奈ちゃん? ほら、行きましょう?」

仁奈「ん? うん、分かったでごぜーます」スタスタ



――車内――


P「いやー、あの時の美優さん、ホントに綺麗でしたね」

美優「そ、そんな……! そんなことないですよ!」

美優「それより、仁奈ちゃんのあの時の――」

仁奈「………………」



P「それからあの――」

仁奈「P、ちょっといいでごぜーますか?」

P「ん? どうした仁奈、忘れ物したか?」

仁奈「ちょっとPに聞きてーことあるですよ!」

P「ああ、なんだ?」

仁奈「今日のお仕事、仁奈、すげーがんばったでごぜーますけど――」

P「ああ、そうだな」

仁奈「でも、美優おねーさんもすげーがんばって、きれーで……とっても良かったでごぜーますよ!」

P「うん? そうだな。分かってるぞ?」

仁奈「ホントでごぜーますか?」



仁奈「じゃあなんで、美優おねーさんのことは、ほめねーんでごぜーますか?」

P「えっ? そうか……? 俺、結構べた褒めしてるつもりで――」

仁奈「でもP、美優おねーさんのこと、ナデナデしてねーですよ?」

P「へ?」

美優「仁奈ちゃん……?」

仁奈「仁奈はさっき、がんばったごほーびに、Pにも美優おねーさんにもナデナデしてもらったでごぜーます!」

仁奈「ナデナデされるとすっげー気持ちよくて、仁奈はうれしーでごぜーますよ!」

仁奈「でもP、おんなじがんばった美優おねーさんには、してねーですよね?」

仁奈「忘れてたんでごぜーますか……?」

P「あー、あはは……。そういうことか」



P「そうだなー……。確かに美優さんだって、今日はすごく頑張ってた。それはプロデューサーとしてよく分かってるけどな」

P「ただ、美優さんは大人だからな。褒めるのに、ナデナデするってわけにもいかないんだよ」

仁奈「……なんででごぜーますか?」

P「まあ、さすがに大人の美優さんにそういうことするのは、失礼だし……」

仁奈「しつれい……? 美優おねーさんにナデナデしちゃいけねーんですか?」

美優「え? そ、そんなことはないけど……うーんと……」

美優「――あのね、仁奈ちゃん。まだ仁奈ちゃんには難しいかもしれないけど……、大人になると、色々と気を使わなくちゃいけない
こととかが増えるから……」

仁奈「……?? 大人になったら、ナデナデは気持ちよくなくなるんでごぜーますか……?」

P「まあ、仁奈も大きくなれば分かるようになるさ」

仁奈「……???」

P「っと、仁奈、そろそろ着くぞー」


――――――
――――
――



――翌日――


仁奈(昨日のPと美優おねーさんの言ってたこと、結局よく分からなかったなぁ……)

仁奈(大人の気持ちは――大人にならねーと、分からねー……?)ウーン

仁奈「……ん?」



飛鳥「…………」パラッ……パラッ……




仁奈「飛鳥おねーさん! おはよーごぜーます!」

飛鳥「……ああ、仁奈か。おはよう」

仁奈「飛鳥おねーさん、ご本読んでたんでごぜーますか」

飛鳥「これかい? アーニャに借りたロシア語の本なんだ」

仁奈「飛鳥おねーさんはロシア語、分かるんでごぜーますか!」

飛鳥「いや――残念ながら、解るってわけじゃないけれど……」

飛鳥「しかしながら、この世界には、こうしたボクたちとは異なった言語、文化、思想が確かに存在し、今日も息づいている――」

飛鳥「そんな事実に、ちょっとこの手で触れてみたいと思ってね」

仁奈「……??」



仁奈「えーと……」

仁奈「じゃあ、仁奈、静かにしてた方がいいでごぜーますか……?」

飛鳥「いや、そんな遠慮は不要だよ」

飛鳥「ここ最近のボクの趣味なんだ――こうして、まだ人の少ない時の事務所で過ごすのは」

飛鳥「人もまばらな事務所――それは普段は見せない裏のフェーズ、影に沈んだ深閑の空間」

飛鳥「そして、それが変化する瞬間――それが次々と出社してくる他の人たちによって破られる刻《とき》」

飛鳥「静止した時計が動き出すような――零が一になるような――裏が表になるような――」

飛鳥「同じ場所でありながら、確かにそれが切り替わる刹那」

飛鳥「静寂は解除され、停滞は破壊され――日常が創造される」

飛鳥「そのボーダーを跨ぎ、ボクという存在も確かに動き出す。そんな気配を感じるのは、ね」

飛鳥「だから――今日、この事務所の内包するセカイに、変革の時を告げるのがキミというのも、悪くないことさ」

仁奈「…………???」



仁奈(飛鳥おねーさんの言うことは難しいでごぜーますね……)

仁奈(あっ、でも!)

仁奈(そんな飛鳥おねーさんなら――難しいを知ってる飛鳥おねーさんなら……)

仁奈(もしかしたら、仁奈が分かんねーことも、分かるかもしれねーですっ!)

仁奈「あ、飛鳥おねーさんっ!」

仁奈「仁奈、ちょっと飛鳥おねーさんに、聞きてーことあるんでごぜーます!」

飛鳥「ボクに、かい? 構わないけど……」

仁奈「ありがてーですっ!」

仁奈「実はですね、昨日――」


――――――
――――
――



飛鳥「――なるほど。何故、美優さんは頭を撫でてもらえなかったのか、ね」

仁奈「人間って、大人になるとほめてもらえなくなるんでごぜーますか?」

飛鳥「……まあ、キミのその考えも、あながち間違っていないのかもしれない。少なくともボクはその推察を、完全に否定できるだけの事象を知らない」

飛鳥「キミよりはある程度、俗世ってやつを知っているが故に、ね」

飛鳥「ただそれでも――キミが今抱いているようなイメージは、とりあえずここでは払拭しておくべきだろう」

飛鳥「別に、大人だからって、その成果に対する相応の報酬がもらえなくなるわけじゃないさ」

仁奈「じゃあ、なんで美優おねーさんはナデナデ、してもらえなかったんでごぜーますか……?」

飛鳥「『してもらえなかった』というのが間違いだね」

飛鳥「大人でも、成果に対する対価は与えられる」

飛鳥「ただし――大人にとっては『頭を撫でられる』という行為が、その努力や成果の報奨、評価とはならないということさ」



仁奈「ひょうかにならねー、ですか……?」

飛鳥「つまりは、子供のキミと、大人の美優さんとの――価値観の相違ってことだね」

仁奈「かちかんのそーい……?」

仁奈「うーん……。飛鳥おねーさんの言うことはやっぱ難しいでごぜーますね……」

仁奈「仁奈じゃよく分かんねーですよ……」シュン

飛鳥「あ、ああ……そ、そっか……」アセアセ

飛鳥「うーんと……ええと……」

飛鳥「……簡単に言えば――仁奈は頭を撫でられるのが好きでも、美優さんはそうとは限らないってことさ」

飛鳥「例えば、仕事を頑張ったご褒美に高級な寿司をご馳走されたとして――みくさんとナターリアとでは、その反応は違うだろう……?」

仁奈「なるほど! それなら分かりやすいです!」

仁奈「つまり……好き嫌いの違い、ってことでごぜーますか?」

飛鳥「まあ、そういうことかな」



仁奈「じゃあ、美優おねーさんは、ナデナデされるのが嫌いなんでごぜーますか?」

飛鳥「そこまでは分からないけど……」

飛鳥「……でも、髪を触られるという行為は、よほど親しい間柄でもないと抵抗があるのも事実だね」

飛鳥「ボクのエクステンションも――人工の作り物とは言え、おいそれと触らせたいものじゃないし」

仁奈「飛鳥おねーさんも、ナデナデ、嫌いでごぜーますか?」

飛鳥「……正直、あまり歓迎はしないかな」

仁奈「それは、飛鳥おねーさんが大人だから?」

飛鳥「さて……どうだろうね。ボクなんかはまあ、大人に成り切れず、子供を棄て切れない、といったところなのかな」

飛鳥「しかし、ボクみたいな年齢でもそう思うんだ。大人にとっては頭を撫でられるなんて、むしろ侮蔑の意で取られてもしかたないかもね」

仁奈「仁奈はナデナデ、気持ちよくて好きでごぜーますけど……嫌いな人もいるんでごぜーますね……」

飛鳥「子供は成長して大人になるけれど――成長とは、つまり緩慢な変容だからね。それは自分で選択できる部分もあれば、否応なく、余儀なくされる部分もある」

飛鳥「だから、もしかしたら仁奈もこれから大きくなっていくにつれて、頭を撫でられることが、自身の評され方として不満になる時が来る……のかもね」

仁奈「それって……仁奈もナデナデが嫌いになるってことですか……?」

飛鳥「――逆に言えば、他のことが気持ちよく感じる、ってことだよ」

仁奈「他のこと……」



仁奈「ナデナデ以外の気持ちいい、でごぜーますか。だったらモフモフでごぜーますけど……」

飛鳥「モフモフ……ねぇ。それだって、大人に対する態度としてマッチするとは思えないけれど」

仁奈「で、ごぜーますか……」

仁奈「うーん……それ以外の気持ちいい……。仁奈にはちっと、思い当たらねーです……」

飛鳥「……ふむ」

飛鳥「ならば、ちょっと見にいくのはどうだい?」

仁奈「見に……?」

飛鳥「ああ」

飛鳥「幸いというか――このアイドル事務所には、様々なキャラクターのアイドルたちが所属している」

飛鳥「そこはまさに個性の宝庫――存在の坩堝だ」

飛鳥「彼女たちを観察することで、彼女たちの持つ各々の価値観を観測することで――まだキミの知らない様々な事象への視点、キミの言うところの様々な『みんなの気持ちいい』を知ることができるんじゃないかな」

飛鳥「そしてそれらを知ることができたならば――美優さんの気持ちってやつも少しは分かるようになるんじゃないかい?」

仁奈「みんなの気持ち――みんなの気持ちいい、をお勉強するんでごぜーますか……!」



飛鳥「この世には、キミにもボクにもまだまだ知らない思考が、信条が――セカイが遍在している」

飛鳥「何よりもまず、そういったものが『ある』んだと知ることこそ、それらが存在するためには必要なプロセスだ」

飛鳥「丁度、ボクもこの事務所の個性的な彼女らについては興味を持っていてね」

飛鳥「その……キミさえ良ければ、だが……」

飛鳥「ボクのそんな、セカイを巡る道程に付き合ってみる気はないかい?」

仁奈「飛鳥おねーさんと一緒ですか! うおぉー!」

仁奈「みんなの気持ちいい探し、飛鳥おねーさんと一緒なら、すっげー楽しいでごぜーますね!」

飛鳥「そ、そうかい」

飛鳥「そう、言ってもらえるなら……うん……」

飛鳥「わ、悪くはない、ね……///」

仁奈「えへへ~♪」



仁奈「じゃあ早速、しゅっぱつしんこー!」

仁奈「まずは誰の気持ちいいでごぜーますかね?」スタスタ

飛鳥「ふむ。そうだね……」



「へんしんっ!!!」



仁奈「ん? どっかからか声がしやがりますね……?」

飛鳥「どうやら屋上からのものみたいだけど」

仁奈「行ってみるでごぜーますよ!」タッタッタ



――屋上――




南条光「うーん……。もっと動きにキレがほしい……」

光「よし、もう一回!」

光「はぁぁああ……」

光「変身っ!!」



仁奈「あっ、光おねーさんでごぜーます!」

仁奈「光おねーさん! おはよーごぜーますよ!」

光「ん? 仁奈ちゃんに飛鳥ちゃんじゃないか! おはよう!」

仁奈「光おねーさん、今やってたのはなんでごぜーますか?」

光「何って、変身ポーズの練習だよ」

光「今度、ヒーローショーに出られることになったんだ! だからその時、恥ずかしくないようにしっかり変身の練習しとかなきゃって思ってさ」



光「二人こそどうしたんだ? こんな屋上に」

飛鳥「いやなに――ちょっとした探究、かな」

仁奈「今、仁奈たちは、『みんなの気持ちいい』を聞いて回ってるでごぜーます!」

光「みんなの気持ちいい?」

飛鳥「この事務所の個性的なアイドルたち、それぞれの『気持ちいい』――それら様々なセカイの存在を観測し、自らの知識の深度を増やそうと、そういうことさ」

飛鳥「そこで丁度、キミの声が聞こえたんでね」

仁奈「光おねーさんの気持ちいい、はなんでごぜーますか?」

光「アタシの?」



光「そうだなー……」

光「それはやっぱり、さっきみたいに変身ポーズを決めることかな」

光「アタシなりの気合の入れ方っていうか……。これやると、力が湧き上がってきて、心が引き締まるんだ!」

仁奈「あっ、知ってるでごぜーます! そのベルトが光って変身するんでごぜーますね!」

光「あはは……。まあ、これはただのおもちゃだけどね……」

光「でも――例え変身グッズは本物じゃなくても、これをつけると、心にある正義の炎が湧き上がるのは本当さ!」



飛鳥「ふむ。なるほど……」

飛鳥「重要なのは客観的な現実ではなく、主観的なある種の信念……」

飛鳥「それがあるならば、例え玩具だとしてもそれは己を変える――変革のキーとなるわけか」

仁奈「きゃっかん……? しんねん……?」

仁奈「えーと、えーと……」

飛鳥「ああ、仁奈」

飛鳥「つまり――光は例えおもちゃであっても、あのベルトをつけることで、自らの『気持ちいい』状態になれるってことさ」

仁奈「なるほど!」



仁奈「つまり光おねーさんは、オモチャで気持ちよくなるんでごぜーますか!」

光「あはは! まあ間違ってはいないかなー!」




光「考えてみたら、仁奈ちゃんのそのキグルミも、『変身』だな」

仁奈「おおー、たしかにそうだ! 仁奈はキグルミを着て色んな動物の気持ちになるでごぜーますから!」

光「そっか。仁奈ちゃんにも、変身で湧き上がる想いってやつがあるんだね」

光「よし、仁奈ちゃん! 良かったらこの変身ベルト、つけてみる?」

光「同じ『変身』とその心を持つ者同士、何か新しいことが分かるかもよ」

仁奈「ホントでごぜーますか! じゃあおねげーしますよ!」

光「よーし、ちょっと待ってね……」カチャカチャ

光「って、あれ……。ちょっとサイズが合わないか……」カチャカチャ

仁奈「仁奈じゃベルト、つけられねーでごぜーますか……?」

光「ごめん仁奈ちゃん……。ちょっと仁奈ちゃんには大きいみたいだ」

仁奈「そ、そうでごぜーますか……」シュン

飛鳥「………………」



飛鳥「仁奈、そう落ち込むことはないよ」

飛鳥「物事にはなんでも順序ってものがあるんだ」

飛鳥「今日、キミは光の中の信念ってやつに触れた――とりあえずそれが最初の第一歩だ」

飛鳥「そのベルトがつけられないのは、単に次のステップにはまだ早いと言うだけさ」

飛鳥「次の一歩を歩むための一歩として――光にも、そして自分にも同じ信念があるということ」

飛鳥「まずはその結果を得たことを喜ぶべきだ」

光「お、飛鳥ちゃんいいこと言うな!」

光「そうだよ仁奈ちゃん! 確かにカッコイイフォームとかは大事だけど……」

光「でも、一番大事なのは、やっぱり心さ!」

光「どんな姿でも――自分の信じた正義を持ってるってことが大切なんだ!」

仁奈「せいぎ……でごぜーますか……」

光「このベルトは、仁奈ちゃんがもう少しおっきくなったらつけられるようになるよ」

光「だからそれまで、仁奈ちゃんは、自分の心の正義を大切にしておくんだ!」



仁奈「分かったでごぜーます!」

仁奈「仁奈も、自分のキグルミのせいぎを信じるでごぜーますよ!」

光「うんうん!」

仁奈「それで、大きくなったら――」



仁奈「大きくなったら仁奈も、オモチャで気持ちよくなりてーでごぜーます!!」

飛鳥「受け継がれし想い、だね」




――――――
――――
――


仁奈「そういえば、飛鳥おねーさんのえくすても、変身なんでごーぜますか?」

飛鳥「これは……どうだろう……。どちらかと言えば――仮面、かな」

仁奈「かめん……? じゃあやっぱり変身でごぜーますか……?」

仁奈「ん?」



姫川友紀「よーし……! 気合入れてー……」

日野茜「おおお……」


<カキーン!!

<打ったー! ホームラン! 逆転サヨナラホームランです!!


友紀「おっしゃぁぁああああー!!」

茜「おおっ!! 打ちました! 入りました! 回りましたっ!!!」

友紀「やったよー!! 逆転! キャッツ逆転ーー!!」

茜「ボンバー!!」



仁奈「友紀おねーさんと茜おねーさんでごぜーますね」

飛鳥「ふむ。どうやら、野球のテレビ中継を見ているようだね」



仁奈「友紀おねーさん、おはよーごぜーます!」

友紀「おっ! 仁奈ちゃんに飛鳥ちゃん!」

友紀「聞いて聞いて! キャッツ勝ったよ! 逆転勝利っ!!」

友紀「いやー! 今夜は宴だー!」

仁奈「おお、すげー! ねこっぴーが跳ねてるでごぜーます!」キラキラ



仁奈「って、あっ! そうだった」

仁奈「友紀おねーさん。仁奈、おねーさんに聞きて―ことがあるんでごぜーます」

友紀「うん? なになに? キャッツの選手の活躍?」

仁奈「えーと……」

飛鳥「今、ボクと仁奈とであることを見聞していてね」

飛鳥「――この事務所のアイドルたちの、それぞれの『気持ちいい』。多様なアイドルたちの持つ多様なセカイ」

飛鳥「その探究――そして蒐集を二人でやっているんだ」

飛鳥「良ければ友紀さんも、少し協力してくれないかな」

仁奈「友紀おねーさんの『気持ちいい』を教えてほしーでごぜーます!」

友紀「おー、なるほどー!」



友紀「あはは、そういうことなら勿論いいよー!」

友紀「っていうか、このタイミングなら言うまでもないよねー!」

友紀「あたしの気持ちいいって言ったら、やっぱ野球でしょ!」

友紀「特にキャッツが勝ったからねー! これ以上の『気持ちいい』なんてないよー!」

飛鳥「ふむ。なるほど……」

飛鳥「闘争の経た果ての終幕――勝ち取った達成感」

飛鳥「『勝利の美酒』と言うけれど、その杯はどうやらオーディエンスたちにも与えられるもの、と言うことか……」

友紀「まあ、あたしは野球は見るのも好きだけど、やるのだってもちろん好きだけどね!」



仁奈「しょうりのびしゅ……? おーでえんす……?」

仁奈「えっと、えーと……つまり……?」

飛鳥「つまり――友紀さんは、野球なら見るのもやるのも好きってことだね」

仁奈「なるほど! つまり――」


仁奈「友紀おねーさんは、見てるのもやるのも気持ちいいんでごぜーますか!」

飛鳥「まあ、そういうことだね」



友紀「おっと! そういえば、あたしの『気持ちいい』にもう一個欠かせないものがあった」

飛鳥「もう一個?」

仁奈「それは?」

友紀「もちろん、このキンキンに冷えたビール!!」グビグビ

友紀「ぷはっー!」

友紀「あはは、まさに勝利の美酒っていうか、祝い酒っていうか――」

友紀「やっぱ一勝負のあとの、特にキャッツ勝ったあとのビールは最高だよねー!」

仁奈「友紀おねーさんは、ビールも気持ちいい、でごぜーますか」

仁奈「ビールって、そんなにうめーんですか?」

飛鳥「さてね。当然ながら、ボクも賞味した経験はないけど」

友紀「うーん……まあぶっちゃけ、あたしも初めて飲んだ時は苦いって思ったけど……」



仁奈「に、にげーんですか? でも、それが気持ちいいんですか?」

仁奈「仁奈にはちっと分かんねーです……」

友紀「ものにもよるんだろうけど――ビールって、どっちかっていえば味より喉越しを楽しむもんだからねぇ……」

仁奈「のどごし。ゴクゴクーってことですか!」

友紀「そうそう」

友紀「あとはまあ、なにより、その場の雰囲気のため、かな?」

仁奈「ふいんき……?」

友紀「うん。なくてもいいけど、あった方が楽しいっていうか……」

友紀「白熱の野球観戦のお共に、キンキンのビールとおつまみがあると嬉しいし……」

友紀「って、あんま未成年にする話じゃなかったかな?」

飛鳥「……ふむ。なるほど」

飛鳥「ボクは経験がないから、その手の楽しみについて感ずるのに、言えることは多くはないけれど……」

飛鳥「しかしあえて述べるなら――こういう場合に重要視されるのは、各々のパーツの質云々よりも、それらが揃って組上がるそのシチュエーションである、ということか」

友紀「お祭りで、ヤキソバとか食べたくなるのとか、映画館で高くてもポップコーン買っちゃうのとかと同じだね」

仁奈「おのおののぱーつ……に、しちゅえーしょん、でごぜーますか……?」



仁奈「ううーん……なんかこんがらがってきやがったです……」

飛鳥「えっと、仁奈、大丈夫かい……?」

仁奈「いったんせーりさせてくだせー!」

仁奈「ビールはにげーけど、ゴクゴクだとうめぇ……」

飛鳥「そうだね。そして、ビールは友紀さんにとって、白熱の野球観戦する上ではあると嬉しいもの、ということだよ」

仁奈「なるほど! 分かったでごぜーます!」



仁奈「つまり友紀おねーさんは、白熱してるとにげーのをごっくんするのも気持ちよくなるんでごぜーますね!!」

飛鳥「まあ、そういうことだね」

友紀「!?」ブフッ


ワロタ



友紀「ゴホっ……ああ、いや……間違ってないけどね……?」

友紀「ただ、なんかその言い方だとちょっと……」

仁奈「なんかダメですか?」

友紀「うん、あの――」

茜「ううむ! お互いに全力を尽くした熱き試合……!!」

茜「なんだか私も燃えてきました!! この溢れる情熱! 湧き上がる熱気!!」

茜「我慢できませんっ! ちょっと走ってきますっ!!!!」

茜「ボンバァァアアアアーー!!!!!」バリーン

友紀「うわっ!? 茜ちゃん!?」

友紀「ちょっとマズいって! この前もガラス割って怒られたでしょー!」

ボンバァァアアア

マッテー!!



仁奈「茜おねーさんにも聞きたかったですけど、行っちゃったでごぜーますね」

飛鳥「どうやら彼女にとって、勝利の美酒とは甘く染み渡るものではなく、その身を焚き付け、燃え上がらせ、奔走に駆り立てる燃料、だったようだ」

仁奈「ねんりょう……ほんそう……」

仁奈「えーと、つまり――」



仁奈「茜おねーさんは、見てるだけじゃ我慢できなくなっちゃうんでごぜーますか!」

飛鳥「そうだね。そういうことだ」



――――――
――――
――



仁奈「野球――たしかに仁奈も、前に一緒に見たとき、楽しかったでごぜーますよ!」

飛鳥「チームの活躍、そして勝利――なによりそれを渇望する想い」

飛鳥「他者を応援することで、それを共有する――本来、千差万別であるはずの個々のセカイの共鳴」

飛鳥「実に興味深いね」

仁奈「この調子で、どんどん『みんなの気持ちいい』を見つけるでごぜーます!」


「あら?」




速水奏「あら。仁奈ちゃんに飛鳥ちゃん」



仁奈「あ、奏おねーさんでごぜーます!」

奏「おはよう。ふふっ、二人で仲良くお散歩かしら?」

仁奈「おさんぽじゃなくてたんきゅーでごぜーますよ!」

飛鳥「まあ……ちょっとした人間観察の一環さ」

仁奈「飛鳥おねーさんと一緒に、みんなの気持ちいいを探してるんでごぜーます!」

奏「みんな気持ちいい、ねぇ」

仁奈「奏おねーさんの気持ちいいはなんでごぜーますか?」



奏「気持ちいい……? 私の?」

奏「そうねぇ……。それはやっぱり――」

ちゅっ

仁奈「わっ!」

奏「ふふっ……」

奏「やっぱりコレ――キス、かしらね」

仁奈「きす! ちゅーでごぜーますか!」



奏「仁奈ちゃんのほっぺ、つるつるぷにぷにでとっても気持ち良かったわ」

仁奈「奏おねーさんは、つるつるぷにぷににちゅーすると気持ちいいでごぜーますか」

奏「ふふ、そうね。それも間違ってはいないけど……」

奏「でもキス――口づけを本当に気持ちいいと感じるのに大事なのは、やっぱり相手への想い、かしら」

仁奈「おもい……?」

奏「ええ。気持ちいいキスには、気持ちが大事ってこと」

奏「その相手にどんな想いを持ってるか。言葉でなく、その身を以って自分の情念を伝えたい相手かどうか」

奏「本当にそう思える相手に対して、瞼を閉じて、ただ唇を重ね、身も心も相手にゆだねる――」

奏「そこで初めて口づけは、情熱的で蠱惑的な魅力を孕むものになるのよ」



飛鳥「ふむ……」

飛鳥「結果として見れば、それはただ身体の一部が触れ合っただけの出来事――」

飛鳥「しかしながら、当人同士の感情によって、その結果は愛情の表現へ変換され、完成する」

飛鳥「目に見えるモノを、目に見えないモノで以ってして、意味の変容を成す――」

飛鳥「なるほど。中々に考えさせられる事象だね」



奏「ふふっ。仁奈ちゃんにはまだ早いでしょうけれど――」

奏「でも飛鳥ちゃんは、そろそろ分かる話なんじゃないかしら」

奏「もしかしたら近いうちに、『ただ身体の一部が触れただけ』なんて言えなくなるかもよ?」

飛鳥「……どうかな。ボクのセカイはボクで成り立っているからね」

飛鳥「それが世界に起こることと、ボクがそれをセカイに受け入れることとは、また別問題さ」



仁奈「えーと、うーんと……」

飛鳥「ああ、仁奈。つまり――」



仁奈「つまり、奏おねーさんはおくちで気持ちよくなるんでごぜーますね!」

飛鳥「そうだね」

奏「!?」




仁奈「なるほどー……。おくちで気持ちよくなるのは、仁奈、はつみみでごぜーますよ」

飛鳥「確かに、ボクも聞かされるまで、考えさせられるまでは想像できなかったな」

奏「ま、まあ……そういう認識でも構わないけれど……」

奏「でも、仁奈ちゃん……? その言い方は、いささか誤解を招くことがあるから――」


小松伊吹「おーすっ! 三人とも、何してんの?」


仁奈「あっ! 伊吹おねーさん!」



仁奈「今、仁奈たちはちしきのたんきゅーの最中でごぜーますよ!」

伊吹「ちしき……知識の、探究? なになに、奏に勉強でも教えてもらってたの?」

仁奈「べんきょーじゃねーですけど、教えてもらったでごぜーます!」

伊吹「へぇー。何を?」

仁奈「奏おねーさんは、おくちで気持ちよくなるって!」

伊吹「えっ……」

奏「ちょっ!!」



伊吹「お、おくちって……あの……///」

奏「ち、違うわよ!? あのね――」

仁奈「さっき、仁奈もおくちでしてもらったですよ!」

伊吹「!!?」

仁奈「ねっ! 飛鳥おねーさん」

飛鳥「うん? ああ、さっきの(キスの)ことか」

飛鳥「そうだね。仁奈もしてもらっていたね」

伊吹「奏……アンタ……」

奏「落ち着いて、話を聞いてちょうだい……!」

仁奈「えへへ~♪ 仁奈の(ほっぺ)はつるつるぷにぷにってほめてもらったですよ!」

伊吹「!??!??!?」

奏「だから違うわよ! あのね――」

仁奈「そういえば、飛鳥おねーさんはしてもらってねーですね」

伊吹「だだだだだめ! だめだよ! そんなの!!!」

仁奈「……? なんででごぜーますか?」

伊吹「ななななんでって! そんなの……!!」



奏「落ち着いて。よく考えて」

奏「あなただって分かるでしょ? ほら、口で、私がいつもしようとしてる――」

伊吹「いつもしようとしてたの!?」

伊吹「知らない! アタシ知らないよ!?」

奏「だから、キスよ! 仁奈ちゃんのほ――」

伊吹「キスって!! どっち方!?」

奏「どっちってなに!?」



伊吹「そそそそっかぁ……。そうだよね……奏、進んでるものね……」ガクガク

奏「待って、話し合いましょう。今のあなたは冷静じゃないわ……!!」

伊吹「いや、その……でも……さすがに仁奈ちゃんは……まずいと……」ソローリ

奏「待ってお願い。距離を取らないで……!」

伊吹「だ、ダイジョウブ! こういう時は、冷静に、冷静に……」

奏「そうよ。冷静になって、それで考えればすぐ分かるわ」

奏「私は――」


伊吹「早苗さぁぁーーーん!!」ダッ

奏「待ってっ!!!」ダッ



仁奈「二人はどうしたですか?」

飛鳥「さぁ……?」




――――――
――――
――


仁奈「キスでごぜーますか」

仁奈「でも仁奈はやっぱり、ナデナデされるのが好きでごぜーますよ!」

飛鳥「ふむ。まだまだ序盤ながら、中々バラエティーに富んだ『気持ちいい』たちに出会えたね」

飛鳥「やはりこの事務所は多様性の宝庫のようだ」

仁奈「次は誰でごぜーますかねー!」キョロキョロ

仁奈「あっ!」



財前時子「………………」フキフキ




仁奈「時子おねーさん! おはよーごぜーます!」

飛鳥「どうも、時子さん」

時子「……仁奈に飛鳥か」

時子「おはよう」

時子「…………あいさつが済んだのならとっとと行きなさい。私は今忙しいの」

仁奈「でも仁奈、時子おねーさんに聞きて―ことあるですよ!」

時子「アァン? 聞きたいこと?」

時子「それは、この私の手を止めさせて、時間を割かせるだけの価値があるものなのかしら?」



仁奈「手を止める……。そういえば時子おねーさん、さっきから何してるですか?」

時子「見て分からないかしら。手入れよ、鞭の」

仁奈「むち……。たしかにおねーさん、いつもそれ持っていやがりますね」

仁奈「それ、何に使うんでごぜーますか?」

時子「『何をしてるか』、『何に使うか』……」

時子「愚かね」

時子「自分で考えもせず、疑問ばかり並び立てる愚か者は嫌いよ」

時子「でも、そうねぇ……」

時子「まあ、アナタはまだ子供だし。それに無知な子供でありながら、この私に教えを乞おうとした――その判断は褒めてあげるわ」

時子「だからそれに免じて教えてあげる」

時子「この鞭はね――」

『鞭に無知……ふふっ』

時子「誰だいまの」



時子「この鞭は調教用よ」

時子「これで愚かしい――哀れな豚どもを躾けてあげるの」

仁奈「ぶた……? ぶたさんでごぜーますか?」

時子「アナタの思ってる豚じゃないわ」

時子「それよりもっと愚かで、なお醜く、殊更哀れな――」

時子「しかしながら、この時子様の調教にあずかる名誉を受けた豚、よ」

仁奈「………………???」

仁奈「……お、ろか……? め、いよ……?」

仁奈「そんなぶたさんがいるんでごぜーますか……?」

時子「……あのプロデューサーのことよ」

仁奈「おお、そうなんでごぜーますか!」

時子「ったく、これだからガキは嫌だわ……」チッ



仁奈「ちょーきょーよーのむち、をお手入れでごぜーますか!」

時子「この私が使うものだもの。ならば道具としては常に万全のものでなくてはいけないわ。例え、それを振るう相手があの愚か者だったとしてもね」

仁奈「分かるでごぜーますよ! 仁奈もキグルミは自分で洗うでごぜーますから!」

時子「へぇ、そう。まあ、無知な子供ながらに、アナタにはアナタなりのこだわりがあるってことね」

時子「――で?」

時子「何かこの私に聞きたいことがあるんでしょう? ……愚鈍は罪よ。とっとと言いなさい」

飛鳥「おや、意外だね。応じてくれるのかい?」

時子「私は寛大で、そして賢い女なの」

時子「アナタたちの些末な疑問なんて、すぐに片付けてやるわ」



仁奈「じゃあ時子おねーさん!」

仁奈「時子おねーさんの気持ちいい、教えてくだせー!」

時子「気持ちいい……?」

飛鳥「事務所の皆に聞いて回っているのさ。自分たち以外の価値観ってやつを知るってことでね」

時子「ふぅん……」

時子「私の高貴な行いが、アナタたちなんかに理解できるとは到底思えないけど――」

時子「まあ、いいわ」

時子「その少ない脳みそで、私の教えを享受できることを感謝しながら聞きなさい」

時子「『気持ちいい』……。最近の私のそれは、あの無礼な豚に仕置きを与えること、かしら」



仁奈「しおき……。おしおき、が気持ちいいでごぜーますか……?」

仁奈「うぅ……。おしおきってこえーもんですよ……?」

時子「別に分かってもらう必要はないわ。むしろ、軽々しく分かったように語られるのは不愉快だしね」

仁奈「おしおきって……時子おねーさんは楽しいですか?」

時子「楽しい……? ええ、愉しいわよ」

時子「あの愚か者に覚えた苛立ちを、愚か者自身の身体で償わせるのは……!」

時子「クククッ……。ああ、あの豚のどうしようない顔……、悲痛な鳴き声……!!」

時子「アーッハッハッハッッ!!!」



仁奈「な、なんだか時子おねーさん、こえーですね……」

飛鳥「時子さんの話――それは、一般的に言うところのサディズム、サディストというものだろうね」

飛鳥「そう呼ばれる彼ら彼女らは、他者を屈服させ、隷属させることに喜びを覚える」

飛鳥「支配こそが、彼らの『気持ちいい』、ということさ」

仁奈「し、しはい……」

時子「フンッ……。別にどう思われようと、そんなことは些事、だけれどね」

時子「でも少し、その認識のされ方は不服かしら」

飛鳥「……と、言うと?」



時子「やれサディズムだマゾヒズムだなんてのは、どっかの誰かが便宜上設けた括り」

時子「他者を見下ろし、愚者を見下し、下僕に崇拝され、仰ぎ見られるべき女王が――そんなもので分類され、十把一絡げにされるのは我慢ならない」

時子「私は女王。そして女王は上に立ち、前を征く存在」

時子「だったら、そういう括りは、私が設けるべきもの」

時子「私は縛られるのではなく――縛り、括り、定めるべき立場なのよ」

飛鳥「ほう……なるほどね……」

飛鳥「前を見る先駆者たる者にとっては、誰かの定義や定理は、あくまで踏み台――」

飛鳥「それらは時には手段であっても、常識や自己を縛る鎖ではない」

飛鳥「そして自らのセカイがセカイたるファクター、それは他者のセカイへの干渉をも含む」

飛鳥「ともすれば傲慢だが――しかし、抜きんでた強者たる者にとっては、それは必然であり必須――なのかもしれないね」

時子「あら。なかなかいいことを言うわね」

時子「おべっかは嫌いだけれど、今の言葉は私に送るのに中々相応しいものよ」



仁奈「せんくしゃ……ていり……」

仁奈「つまり……どういうことでごぜーますか……?」

飛鳥「簡単に言えば、時子さんは、誰かが設けた枠に嵌められるより、自らその枠を造り、他を嵌めるべき存在でいたい、ということさ」

仁奈「な、なるほど! つまり――」



仁奈「時子おねーさんは、ハメられるよりハメるほうが好きなんでごぜーますかっ!!」

飛鳥「理解が早いね」

時子「!?」ブフッ




時子「ハメ……ゴホンっ!」

時子「まあアナタたちにどう思われようと構わない、構わないわ……」

時子「ただ――無知なアナタたちに一つ、忠告してあげるわ」

時子「いい? 他所でその言い方は――」


♪~~~~!!


飛鳥「ああ、すまない。電話だ」

飛鳥「少し外すよ」スタスタ


モシモシ、ボクダ

アア、ランコカ。ドウシタンダイ?


仁奈「それで、時子おねーさん」

仁奈「Pにおしおきって――どういうことをするんでごぜーますか……?」

仁奈「すっげー怒って、けんかするんでごぜーますか?」

時子「アァン? 喧嘩? そんなことしないわよ」

時子「察しが悪いわね。……まあいいけど」

時子「あの豚への仕置きなんて言うまでもないわ」

時子「この鞭で、ビシバシ叩いてあげるのよ」ヒュン

仁奈「ええ!?」



テスト? ガッコウノカイ?

アア、タシカニボクモソンナモノヲセオワサレテイタネ……

ベンキョウカイ? タンキュウノウタゲカ……ワルクナイネ


仁奈「うぅ……。それって、すげーいてーんじゃ……」

時子「愚問ね。痛くなければ意味がないでしょう?」

時子「豚には人間の言葉なんて通じないわ。痛みと恐怖でもって、立場を分からせてあげる必要があるのよ」

仁奈「でも、いてーのはいやでごぜーますよ……!」

時子「むしろ喜ばれては困るわ。躾けなのだもの――褒美になってはいけないでしょう?」

仁奈「でも……Pがかわいそうでごぜーます……」シュン

時子「うっ……。……あんな豚に哀れみなんて、向けるだけ勿体ないわ」



ソウダナ……

ボクハ、セイブツガスコシオクレテイテネ。

アア。

ホケンタイイク? ソウイエバソンナノモアッタナ

ワカッタ。ジャアコンヤ――


仁奈「時子おねーさんは、そんなおしおき、が気持ちいいでごぜーますか……」

時子「……まあ、アナタみたいなのが聞くにはまだ早かったかもね」

時子「――精々、それで学習しなさい。向上心は立派だけれど、身の程知らずに物事を追い求めるのは、ただの莫迦よ」

仁奈「分かったでごぜーます……」

時子「そう。だったらとっとと――」



仁奈「時子おねーさん!」

仁奈「仁奈を叩いてくだせー!!」



時子「!!?」



時子「ハァ!? 何言って……」

仁奈「さあ、えんりょはいらねーですよ!」

時子「ちょ、ちょっと待ちなさい! なにバカなこと言ってんのよ!?」

時子「アナタ、痛い思いがしたいの……?」

仁奈「たしかに仁奈、いてーのはいやですよ……」

仁奈「でも――同じくらい、Pがいてー思いするのもいやでごぜーます!」

仁奈「だからおねーさん! 叩くなら、おしおきなら仁奈にしてくだせー!」

時子「なんでそうなるのよ!?」

仁奈「時子おねーさんはおしおきできてうれしくて、仁奈はPがいてー思いしねーなら、それでうれしいでごぜーます!」

仁奈「うぃんうぃんでごぜーますよ!」

仁奈「だから――」

時子「ちょ、ちょっと落ち着きなさい……!」



仁奈「さあ、おねーさん! やってくだせー! ひとおもいに!」

仁奈「仁奈で気持ちよくなってくだせー!」

仁奈「それで仁奈も満足でごぜーます!」

時子「待って! 待ちなさい! ちょっと――」



持田亜里沙「………………」ニコニコニコ



時子「!!!???」



時子「なっ、待ちなさい亜里沙! これはね、あの――」

亜里沙「………………」ニコニコニコ

時子「わ、私は何もしてないわ! この子が勝手に言い出したことで――」

亜里沙「………………」ニコニコニコ

時子「は、ハン! 大体、な、何かしらその態度!」

時子「女王たるこの私に指図でもしようっての!? み、身の程を弁えることもできないのかしら――」

亜里沙「………………」ニコニコニコ

時子「この私が、あ、アナタなんかに命令されるような――」




亜里沙「時子ちゃん」


時子「……はい」


亜里沙「来なさい」


時子「…………はい」

トボトボ



飛鳥「すまないね。それで、時子さんの話は聞けたかい?」スタスタ

仁奈「時子おねーさんなら、亜里沙おねーさんと一緒に行っちまったですよ」

飛鳥「そうなのかい。何か用でもあったのかな?」



仁奈「おしおきが気持ちいい……。今までで一番難しい、『気持ちいい』でごぜーました……」

飛鳥「理解が困難なら、それを無理に解ろうとする必要は必ずしもあるわけじゃないさ」

飛鳥「むしろ無理な理解をしようとして、そこから曲解を得てしまうほうが問題だと、ボクは思うけどね」

飛鳥「まずは、それが現実としてあったと――それだけ知り、己に記すことも成長さ」

仁奈「そーいえば、分かんねー時は分かんねーって素直に言うのも大事って、瑞樹おねーさんが言ってたでごぜーます!」

飛鳥「ふむ。それはいわゆる、無知の知――というやつかな」

仁奈「むちむち……? 瑞樹おねーさんは、まだまだぴちぴちだって言ってたでごぜーますよ?」

飛鳥「……そう」



仁奈「でも、飛鳥おねーさんとの『気持ちいい』探し、楽しいでごぜーますね!」

飛鳥「そ、そうかい……?」

仁奈「一緒は楽しいでごぜーますよ!」

飛鳥「う、うん。そうか……///」

仁奈「さぁー、お次はどんな気持ちいいだー?」


「ん?」




向井拓海「仁奈に飛鳥じゃんか」

拓海「なんだ、オマエらオフじゃなかったか?」



仁奈「あ、拓海おねーさん!」

拓海「んでもって、今日は休日だろ? わざわざ事務所にいるなんて物好きだな」

飛鳥「いやなに、休日だからこそ、普段は見られないものが見聞きできるというものさ」

飛鳥「丁度、今もその最中なんだ」

拓海「ふぅん?」



仁奈「拓海おねーさん、顔が黒いでごぜーますね!」

仁奈「それになんか、変な臭いするですよ……?」

拓海「ああ、コレか? ちっとさっきまでバイクいじってたからな」

拓海「オイルと煤がべったりだから、シャワー借りようと思ってさ」

仁奈「バイク……。あのブォオーンってやつですか!」

拓海「まあな。アクセル全開で突っ走るのは気持ちいいぜー?」

仁奈「気持ちいい!? それが拓海おねーさんの気持ちいいでごぜーますか!!」

拓海「うん? まあそうだけど?」

拓海「なんだ仁奈、バイクに興味あんのか?」



飛鳥「ボクたちが興味があるのは、バイクと言うより、拓海さんの方さ」

拓海「アタシ……?」

仁奈「仁奈たち、みんなの『気持ちいい』ってものをちょうさしてるですよ!」

拓海「はぁーん。そんで、さっき食いついたのか」

仁奈「拓海おねーさんの気持ちいいは、バイクでごぜーますか?」

拓海「ん、そうだな」

拓海「エンジン鳴らして、峠とかをトバすのはいい気分だぜ」

拓海「スピードに乗って、風を全身に感じてるとさ――なんていうかこう、テンション上がるっていうか……」

拓海「疾走感で、アドレナリン、バンバン出てるカンジがしてな!」

仁奈「拓海おねーさんは、バイクは早えーほうが好きなんでごぜーますか」

拓海「おう! 早ければ早いほどいいぜっ!」



拓海「あと気持ちいいつったら、そうだな――」

拓海「まあ? 大人数相手に、ケンカ吹っ掛けた時とかな……」

拓海「こう、迫ってくるチンピラどもをちぎっては投げ、ちぎっては投げって……」

仁奈「……きんぴら?」

拓海「ああ、いや……なんでもねえ。これはオメーらにする話じゃなかったな……」



仁奈「でもバイクに乗るって、いっつも、そんな真っ黒にならねーといけねーんですか?」

拓海「いや、コレはメンテしたからだけど……」

飛鳥「バイクのメンテナンスか。詳しくないんだが、そういうのは結構、手間なんじゃないのかい?」

拓海「うーん? まあ、そうだなぁ……」

拓海「確かに色々世話してやることはあるけどよ。でも、そうやって自分で面倒見てやって、それで気持ちよく走れんだと思えば、それを面倒だとは思わねぇな」

拓海「それに自分のメンテでしっかり走ってくれりゃ、いつもの気持ちよさに加えて、達成感も感じるってもんよ!」

飛鳥「ふむ、なるほど……」

飛鳥「得られる成果、訪れるべき結果」

飛鳥「それを満足のいくものにするためなら、それを成すための苦難の道のりさえ、喜びとなる、ということか……」



仁奈「えーと、つまり……?」

飛鳥「つまり拓海さんは、バイクに乗るだけじゃなく、それをいじっているのも好きってことさ」

仁奈「なるほど!」



仁奈「拓海おねーさんは、乗るのも自分でいじるのも気持ちいいんでごぜーますね!」

拓海「はっはっは! いじってから乗れば、さらに気持ちいいぜ!!」

仁奈「おぉー! なんかすげーですよ!」




拓海「まあでも、バイクはオマエらにはまだ早いけどな」

拓海「それに例え将来乗るようになったとしても――自分で言うのもアレだが、アタシみたいな乗り方はすんなよ?」

拓海「アレはそう――覚悟を持ってねぇとできねぇからな!」

仁奈「おお……。なんかカッケーです……!」


「あら?」



片桐早苗「拓海ちゃんに、仁奈ちゃんと飛鳥ちゃん?」

仁奈「あ、早苗おねーさん!」

早苗「今日、休みじゃなかった? どうしたの?」

早苗「さては拓海ちゃん――アンタ、年下相手に絡んでるんじゃないでしょうね?」

拓海「ちげーよ。ちょっと話してただけだ!」

早苗「怪しい……。カツアゲしてるやつは、みんなそう言うのよー」

拓海「絡んできてんのはアンタじゃねぇか……」

拓海「仁奈たちからもなんか言ってやってくれよ」



仁奈「仁奈たち、拓海おねーさんに、どんなことが気持ちいいか聞いてたんでごぜーますよ!」

早苗「拓海ちゃんの、気持ちいいこと?」

仁奈「そうですよ!」

仁奈「拓海おねーさんは、自分の(バイク)を自分でいじるのが気持ちいいんでごぜーます!」

早苗「!?」



早苗「い、イジるって……気持ちいいって……」

早苗「えっ……あの、拓海ちゃん……?」

早苗「本当なの……? 仁奈ちゃんの言ったこと……」

拓海「ハァ? 嘘ついてどうすんだよ」

仁奈「真っ黒になっても問題ねーですよ!」

早苗「真っ黒に!?」

早苗「そ、そう……。た、拓海ちゃん、結構そういうことする方なのね……」

拓海「そんなに意外か?」



仁奈「それと拓海おねーさんは、早えーのが好きなんでごぜーますよね!」

早苗「早い方がいいの!?」

拓海「……何驚いてんだ?」

早苗「いや……確かにあたしの友達は、遅くっても苦労するって言ってたケド……」

仁奈「あと、(スピードが)バンバン出やがる方がいいんですよね!」

拓海「おう、そうだな!」

早苗「バンバン!?」

早苗「拓海ちゃん、漫画とかの読み過ぎじゃない……?」

早苗「その……清良ちゃんが言うには、一回でそんなに出るもんじゃないそうよ……?」

早苗「ティースプーン、一杯くらいで……」

拓海「なんの話だ……?」



早苗「だから、あ、あんまり相手に無理させるのは……」

仁奈「あとは、えーと……もういっこくらいあった気するですけど……」

仁奈「飛鳥おねーさん、憶えていやがりますか?」

飛鳥「あとは、そうだな――」

飛鳥「言いかけてそれっきりだけど――大人数を相手にした、と……」

早苗「!?!!??!??」

拓海「バッ! それはいいんだよ……! 忘れとけ!」

仁奈「そうなんでごぜーますか?」

拓海「そうだ。お前らには早いって言うか……教育に悪い」

仁奈・飛鳥「「……?」」

早苗「そ、そうね……。それはあなたたちは一生知らなくていいことだから……」

拓海「……?」



拓海(なんだァ? 早苗……さんのやつ、なんかさっきから様子が変だな……)

拓海(って、そうか! 調子いいからペラペラしゃべっちまったが、この人の前で『バンバンスピード出す』なんて言ったらそうなるか……)

拓海(元ポリ公の前でそんなこと言ってたら、そりゃ渋い顔もされるわな)

拓海(やっべ……面倒ごとにならねぇように、ちゃんと言っとかねえと……)



拓海「あー、安心しろよ早苗さん!」

早苗「え? 安心って……」

拓海「心配すんのとか、アンタなら怒りたくなるのも分かるけどよ」

拓海「大丈夫だぜっ! 」



拓海「アタシ、(法は)破ってねぇから!!」



早苗「破れてないの!? どういうこと!?」




拓海「えっ……どうって言われても……」

早苗「な、なるほど……本番はまだなのね……」

拓海「本番……?」

飛鳥「仁奈、そう言えばもう一つ、拓海さんが話してくれたことがあったろう?」

仁奈「あっ、忘れてたでごぜーますよ!」

早苗「えっ……まだあるの……」

仁奈「そーですよ!」



仁奈「拓海おねーさんは、いじってから乗るのが一番気持ちいいんでごぜーます!」



早苗「乗る!? やっぱり本番じゃない!!」

拓海「だからなんの話だよ……?」



早苗「だ、だって乗るって、それって……」

仁奈「なんかおかしーですか……?」

早苗「の、乗るって仁奈ちゃん……ちなみにそれって、何に乗るのかしら……?」

仁奈「そんなの決まってるですよ!」



仁奈「拓海おねーさんは、バイ――クシュン!!」



早苗「両刀!!?」




仁奈「は、鼻がムズムズでごぜーます……」

拓海「あー大丈夫か? ほら、これで鼻かめ」

仁奈「かたじけねーですよ!」チーン

早苗「……拓海ちゃん」

拓海「アン?」

早苗「来なさい」

拓海「は?」



早苗「奏ちゃんといい、あなたといい……」

早苗「清美ちゃんじゃないけど……まさかここまで事務所の風紀が乱れてるとは思わなかったわ……」

早苗「あなたは、なんだかんだでいい子だと思っていたけど……」

早苗「さすがに、これだけ聞いちゃったら見過ごせない」

早苗「今回は、あたしも全力でアンタを更生させなきゃね……!」

拓海「だから何言ってんだよ? まさかアンタ、単車に乗ってるってだけで不良とか言わねぇよな?」

早苗「そんなことはどうでもいいわ!」

早苗「とにかく! いいからホラ! とっとと来る!!」グイッ

拓海「イッテテテ……! なにしやがる、コラ!」

早苗「ずべこべ言わない! これもあなたのためなのよ!」グイグイ

拓海「意味分かんねーぞ!! オイコラァ!!」ズルズル



飛鳥「おや、二人とも行ってしまったね」

仁奈「早苗おねーさん、なんで怒ってたんですか?」

飛鳥「さぁ……。さしずめ、元警察官として、バイクの安全運転を指導、というところだろうか」

仁奈「うーん、拓海おねーさん、ちっとかわいそーでごぜーますけど……」

仁奈「でも、早苗おねーさん優しいですからね! きっと大丈夫でごぜーますよ!」


――――――
――――
――




仁奈「そういえば、仁奈、思ったですけど――」

仁奈「飛鳥おねーさんの気持ちいいは、なんでごぜーますか?」

仁奈「さっき言ってた、せかいにふれる、ってのですか?」

飛鳥「そうだな……どうだろう……」

飛鳥「改めてそう問われると、咄嗟には答えられないかな……」

飛鳥「特に、今日は他者の、様々な『気持ちいい』を見てきたからね」

飛鳥「自分の感じていることが果たして、他の人々のそれと共に列挙できるものなのか……」

飛鳥「今のボクには分からない、かな……」

仁奈「そうでごぜーますか……」



仁奈「だったら飛鳥おねーさんの、見つかるといいですねっ!」

仁奈「みんなの色んな気持ちいい、仁奈には難しいのもあったけど――」

仁奈「でも、みんなそれを話す時、すげー幸せそうでいやがりました!」

仁奈「だからきっと、飛鳥おねーさんも気持ちいいが見つかれば、幸せでごぜーますよ!」

飛鳥「……幸福、か」

飛鳥「自分にとって何が幸福であるか――それを知っていることも、一つの幸福である……」

飛鳥「なるほど。随分と興味深いことを言うね」

飛鳥「仁奈――やはりキミもこの事務所に所属しているだけあって、中々の逸材らしい」

仁奈「ほめてくれるでごぜーますか? だったらモフモフかナデナデしやがってくだせー!」

飛鳥「う、うん」ナデナデ

仁奈「えへへ~♪」



仁奈「やっぱナデナデ気持ちいいですね」

仁奈「美優おねーさん、ホントにナデナデ嫌いなんでごぜーましょうか……」


「アレ?」




城ヶ崎美嘉「仁奈ちゃんに飛鳥ちゃんじゃん。オハヨ★」

美嘉「こんなとこで何してるの?」



仁奈「あ、美嘉おねーさん!」

仁奈「ちょーどいいですね! 美嘉おねーさんにも聞きたかったですよ!」

美嘉「んー? なになに? 何か質問?」

仁奈「えっとですね、実は――」

「おねーちゃーん! これ、どうやって結ぶのー?」

美嘉「ああ、ゴメンっ! ちょっと待ってね!」タッタッタ



美嘉「ホラ、ここをこうやって……」

美嘉「もう、衣装くらい一人で着れないと、本番どうすんのー?」

「えー! だってー!」

美嘉「だってじゃない。本番はアタシ、いないんだからね? しっかりしなよ?」

「むぅー! 分かってるもん!」

美嘉「まったく、世話のかかる妹なんだから……」

「美嘉ちゃん、見て見てー! こんな感じでいい?」

美嘉「おっ、みりあちゃんいいねー! うんうん!」

美嘉「あっ、でも――ここはこうして……」

「こんな感じ……ですかね……」

美嘉「おっ、ありすちゃんもいいよー」

美嘉「あっ、でも、背中ちょっとよれてるから……」

「え、ええ!? あの……すみません……」

「えへへ~! かおるはばっちりだよー!」

美嘉「薫ちゃん、下にコレ履いたー?」

「あっ、忘れてたっ!!」


ワイワイ
 
ガヤガヤ


仁奈「美嘉おねーさん、忙しそうでいやがりますね」

仁奈「なんかPみてーですよ」

飛鳥「ふむ……しかし、今衣装合わせをしている彼女たちのステージに、確か美嘉さんは出ないはずだけれど……」

仁奈「そうなんでごぜーますか? じゃあ、美嘉おねーさんはお手伝い?」

飛鳥「ということになるね」




美嘉「よーし、大体オッケー!」

美嘉「じゃあみんな、本番に向けてレッスン頑張ってねー!」

「「「はーい!!」」」


美嘉「――っと、ごめんね。待たせちゃって」

美嘉「で、えーとなんだっけ?」

仁奈「美嘉おねーさんの気持ちいいは、なんでごぜーますか?」

美嘉「アタシの気持ちいい?」

飛鳥「今、二人で皆に聞いて回っているのさ。ボクたちの後学のためにね」

美嘉「へぇ~。なんだか面白そうなことしてんね★」

美嘉「うーん、そうだなー……。アタシの気持ちいい……」

美嘉「やっぱ、あげてけばいくつかあるけど……」

美嘉「ライブとかで歌って踊るのとか、それで会場が盛り上がっていくのとか、すっごい気持ちいいって思うよ!」

美嘉「でも、そうだな……」



美嘉「――最近はね」

美嘉「最近は、みんなの、キラキラしてる姿を見るのが気持ちいい、かな?」

仁奈「みんなの、キラキラ……?」

美嘉「自慢じゃないけどさ――アタシ、ここのところは年少組の面倒見ること多くて」

美嘉「それで、さっきみたいに衣装合わせ手伝ったりとか、ダンスにアドバイスあげたりとかしてるんだけど……」

美嘉「それでね――そうやって、色々教えたり、手伝ったりした子たちが、ステージとか、ライブとか、テレビとか、お仕事とかで――」

美嘉「歌ったり、踊ったり、ポーズ決めてさ――」

美嘉「それで笑ったり、楽しんでたり、輝いてたりする姿」

美嘉「そんな姿を見るのが、すっごい好き」

飛鳥「他者の、輝く姿に魅力を感じる、ってことかい?」



美嘉「別に言うほど不思議なもんでもないよー?」

美嘉「誰かの頑張る姿、魅力的な姿が、他の誰かに勇気や希望を与える」

美嘉「それって、私たちアイドルの仕事でもあるんだもの」

美嘉「――でも、そうだね。アタシのこれは、それとはちょっと違ってて……」

美嘉「多分、プロデューサーとかがこんな気持ちなのかな」

仁奈「美嘉おねーさんは、Pの気持ちになるですか!」

美嘉「アハハ、そうだね★」

美嘉「ステージの上で輝いて、みんなに元気とか勇気とか、色んな、大切なものをあげてるあの子たち――」

美嘉「そんな子たちの、努力して、苦労して、それでも頑張ってる姿をアタシは知っている」

美嘉「だからこそ、その努力が報われた時は、アタシも自分のことみたいにすっごい嬉しいって思うんだ」

美嘉「『良かったね』、『頑張ったね』って……」



仁奈「みんなががんばって、キラキラしてるのが、美嘉おねーさんは気持ちいいでごぜーますか?」

仁奈「じゃあ、仁奈も――」

仁奈「仁奈もキラキラしたら、美嘉おねーさん、気持ちいいでごぜーますか?」

美嘉「もっちろん!! 当たり前じゃん★」

美嘉「仁奈ちゃんや、飛鳥ちゃんだって――」ギュッ

飛鳥「ぼ、ボクもかい……?」

美嘉「アンタたちが頑張って、輝いて、楽しんで、それで笑っていてくれるなら」

美嘉「アタシはそれがすっごく嬉しい」

仁奈「仁奈が楽しいと、美嘉おねーさんも楽しい?」

美嘉「うん。仁奈ちゃんがニコニコしてるの見るの、すっごい幸せだよ」

美嘉「それに、仁奈ちゃんのそんな姿――明るい姿は、色んな人にたっくさんの元気をあげてるって思う」

美嘉「だから、アンタたちが笑顔になれるなら、アタシはなんでも協力するからさ」

美嘉「美嘉おねーさんを、遠慮なく頼りなさいっ!」

美嘉「ね? 飛鳥ちゃんもね」

飛鳥「……頼もしい、言葉だね」

飛鳥「その……考えて、おくよ……///」



美嘉「なーんて、ちょっと先輩風吹かせてみたりして……」

美嘉「まあ、こういうのはプロデューサーの本分なんだけどさ」

美嘉「でもアタシも、最近はそういう気持ちってわけ」

仁奈「そっかー。仁奈が楽しいと美嘉おねーさんはうれしいんでごぜーますかっ!」

仁奈「なんかそれ、仁奈もうれしいでごぜーますよ!」

美嘉「うんうん! カワイイ仁奈ちゃんがニコニコしてる姿は、ホント癒されるからねー!」

仁奈「えへへ~!」



美嘉「――うん、そうなんだよ」


美嘉「仁奈ちゃんが、ニコニコして、キラキラして――」


美嘉「モフモフで、フワフワで、ポフポフで――」ハァハァ


美嘉「ちっちゃくて、つるつるで、ぷにぷにで、いい匂いして――」ハァハァハァ!



美嘉「ペロペロで、チューチューで、クチュク―――ブハッ!!」ブシャァァアア!!



仁奈・飛鳥「「!?」」




仁奈「美嘉おねーさんが鼻血ブーでぶっ倒れたーー!?」

城ヶ崎莉嘉「うわっ、お姉ちゃんまたー!?」

莉嘉「もう、最近少なくなってきたのに……。しょうがないなぁ……」

莉嘉「ごめんね二人とも。こうなるとお姉ちゃん、しばらく起きないから」

莉嘉「ありすちゃーん! 清良さんに電話してくれるー?」

橘ありす「いえ、それが……」

ありす「丁度かけてみたのですが、どうやら今、奏さん拓海さん、あと友紀さんとお話をしているとのことで……」

莉嘉「奏ちゃんと拓海ちゃんと友紀ちゃん? そっかー、じゃあアタシたちで運ぶしかないねー」

莉嘉「じゃあありすちゃん、そっち持って」

莉嘉「まったく……。気持ちよさそうな顔しちゃって……」

莉嘉「もー! ホントに世話のかかるお姉ちゃんなんだからー!」



仁奈「美嘉おねーさん、大丈夫でごぜーますか……?」

飛鳥「人間は、自己の受容できる許容限界を超える出来事があると、脳がそれをシャットダウンしようとして気絶するそうだ」

飛鳥「大抵、それらは恐怖や絶望など、自身にとってマイナス、ネガティブなことなのだけれど……」

飛鳥「美嘉さんのあの恍惚とした表情を見る限り……どうやらその人体機構は、それが快感であっても適応されるらしい」

仁奈「かいかん……?」

飛鳥「まあ、その……、美嘉さんは、いい気分だったからこそ気絶して倒れた、ってことだよ」

仁奈「美嘉おねーさんは、気持ちよくなると血が出ちゃうんでごぜーますか!?」ガクガク



――――――
――――
――


仁奈「今日は色んな『気持ちいい』をはっけんできたでごぜーます!」

仁奈「じゅーじつした一日だったですよ!」

飛鳥「フッ、そうだね。予想以上に濃い時間を過ごせた気がするよ」



仁奈「飛鳥おねーさん、誘ってくれてありがとーでごぜーます!」

飛鳥「――こちらこそ、と言うべきだね」

飛鳥「キミと共に巡ることで、随分とボクも色んなことに気づけたようだ」

仁奈「そりゃー良かったですよ!」

飛鳥「それで、仁奈――」

飛鳥「当初の目的である『美優さんの気持ち』、については、少しでも理解に近づけたのかい?」

仁奈「そーですねー……」



仁奈「しょーじき、やっぱり仁奈にはまだ分かんねーです」

仁奈「美優おねーさんの気持ちになるの、難しいでごぜーますよ」

仁奈「でも、きっと、美優おねーさんにはナデナデじゃなくても、気持ちいいことがあって……」

仁奈「それでPは、それをごほうびって、美優おねーさんにあげたんだとおめーます」

仁奈「みんなみんな、色んな気持ちいいを持ってる。それって色々ありやがったけど……」

仁奈「でも、みんなそれで幸せになれるってのは変わんねーですよ!」

飛鳥「そうか……」



仁奈「あ、そろそろママがお迎えの時間ですね」

仁奈「帰んなきゃ……ですね……」

飛鳥「………………」

飛鳥「……仁奈」

仁奈「……?」



仁奈「なんでごぜーますか?」

飛鳥「……仁奈、ボクは一つ、見つけたよ」

飛鳥「キミがさっき問うてきたこと――」

飛鳥「『ボクの気持ちいい』は何か」

仁奈「ホントでごぜーますか!」



飛鳥「ははっ……。と言っても、単にこれじゃ他者の模倣で、その気持ちと比べれば、ボクのそれはひどい贋作なのかもしれないけれど……」

飛鳥「でも――ボクもね、思ったんだ」

飛鳥「今日一日、キミがニコニコ、元気に、楽しそうに――気持ちよく笑っている姿を見るのは、とてもいい気分だった」

飛鳥「そんなキミの笑顔が曇ると、ボクの心もざわついた」

飛鳥「キミのセカイが輝くことで、ボクのセカイにも光が差したんだ」

飛鳥「……だから、キミには笑顔で、いつまでも幸せでいてほしいと」

飛鳥「そう、思ったよ」

仁奈「……えへへ。そうでごぜーますか!」



仁奈「だったら仁奈をもっと喜ばしてくだせー!」

仁奈「仁奈はナデナデモフモフされんのが、気持ちいいでごぜーます!」

飛鳥「フフッ……そうかい。じゃあ、遠慮なく……」


モフモフモフモフ

ナデナデナデナデ


仁奈「飛鳥おねーさん」

飛鳥「ん? なんだい?」

仁奈「えへへ……」



仁奈「あったけーですね」




――翌日――


仁奈「おはよーごぜーます!」

飛鳥「ああ、仁奈。おはよう」

飛鳥「今日は、着ぐるみじゃないんだね?」

仁奈「えへへ~! この服、昨日、ママがくれたんでごぜーます!」

仁奈「いつもがんばってるごほーびでごぜーますよ!」

飛鳥「そうか。フフッ、それは良かったね」



仁奈「早くPにも見せて―ですよ!」

飛鳥「そうだね」

飛鳥「――しかしプロデューサー、今日はまだ来ていないようだよ?」

仁奈「そうなんでごぜーますか?」


ガチャ


P「お、おはようございます……」


仁奈「あっ、P!」



仁奈「おはよーごぜーます! Pが仁奈よりおせーの、珍しいですね!」

P「ん? あ、ああ……。ちょっと道が混んでてな……」

美優「あら、仁奈ちゃん、おはよう」

仁奈「あっ、美優おねーさんも一緒でいやがりましたか!」

美優「ふふっ。仁奈ちゃん、今日も元気ね」

美優「あら、その服、どうしたの?」

仁奈「ママからのプレゼントでごぜーます!」

美優「そうなんだ。とっても似合ってて可愛いわよ。ふふっ……」

仁奈「ホントでごぜーますか!」



仁奈「なんか美優おねーさん、すっげーニコニコでごぜーますね」

仁奈「なんかいいこと、あったですか?」

美優「え、そ、そうかな?」

美優「……うん。イイコト、あったのよ……」

美優「ちょっとプロデューサーさんから、この前のお仕事のご褒美、もらったの」

仁奈「うわぁー! めでてーですね!」

仁奈「何もらったんでごぜーますか?」

美優「うふふっ……とってもいいものよ」

美優「それをね――ココに、もらったの……」サスリサスリ

仁奈「お腹……?」

P「み、美優さん! そろそろレッスンの時間――」



美優「ほら、Pさんも触ってください。撫でてみてください……」

美優「私のココ……」

P「え、あー、あの……?」

P「は、ははは……」ナデナデ

美優「もっと……もっと撫でてください……///」

美優「こんな私でも……あんなに輝けるんだって、なんだか自信がつきました……!」

美優「ふふっ、Pさんのためにも、私、これからもっともっと頑張らなくっちゃ!」

美優「ふふっ……。ふふふふ……」

美優「ふふふふふふふふふふふふふふふ……」

P「は、はははははは……」ナデナデ

仁奈「えへへ~!」



仁奈「飛鳥おねーさん!」

仁奈「美優おねーさん、とってもうれしそーでごぜーますよ!」

飛鳥「……そうだね」

仁奈「とっても幸せそうでごぜーます!」

飛鳥「そう、だね……」

仁奈「なんだー、そっかー!」





仁奈「やっぱナデナデって、気持ちいいんでごぜーますね!!」










おまけ


仁奈「美優おねーさん、とっても気持ちよさそーだったですよ!」

飛鳥「そうだね……うん。それはまあ、言祝ぐべきこと、なんだろうね……」

仁奈「飛鳥おねーさん? どうしたんでごぜーますか?」

飛鳥「いや……。これから美優さんは、もしかしたら大変かもしれないと思ってね」

仁奈「大変……? どういうことでごぜーますか?」

仁奈「美優おねーさん、これからどうなっちまうんですか……?」

飛鳥「いや、ボクも知ったばかりだから、詳しくは言えないが……」



飛鳥「美優さん、これから――」

飛鳥「例えば……酸っぱいものがほしくなったり……」

仁奈「酸っぱい……?」

飛鳥「立ちくらみしたり……」

仁奈「立ちくらみ……?」




飛鳥「気持ち悪く、なったり……」

仁奈「ええ!?」








仁奈ちゃんはカワイイですね。書くのがクッソ楽しかった。

そしてみんなキャラが濃いですね。書くのがクッソ大変だった。

誤字脱字、殺意を覚える長さ、キャラの違和感はごめんなさい。

読んでくれてありがとう。





おつおつ

何手を出してんだPww

おつ
なんか普通に面白かった

美優「明日から貴方はP(パパ)になるのです」
P(プロデューサー→パパ)「やめろぉ!(搾られつつ)」
的な事があったんだろうな…

面白かったw

勘違いされたアイドル達と、勘違い中の大人組の話も見たいな

天帝がトッキーより強いとはw

おつ

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