男「やれやれ…世界を救ってやるか」 (114)
僕にも小さい頃、近所の公園で熱く語っていた時期があった。
いや、その頃は語っているというよりは、将来の夢を披露しているような感じだったけど。
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おとこ「ぼくはおおきくなったらセカイをすくうたびにでる!わるものをたおして、おひめさまとけっこんするんだ!」
小さい頃、世界は誰かが救わなくちゃいけないような状況ではなかったはず。
アニメか特撮の影響だろう。
「わーすごい!セカイをすくっちゃうんだ!ならさ、いまからなかまをさがしとこうよ」
おとこ「なかま?」
「だってセカイをすくうのはゆーしゃかせんたいヒーロー…あとはかめんライダー!みんななかまがいるよ?」
おとこ「なかまか…。とりあえずサルとキジとイヌがいればセカイはすくえたはず!!」
「イヌなら…しげおじちゃんのいえにいるね。キジは……キジってなに?」
おとこ「なくとうたれるトリらしいよ?おじさんがいってた」
「なら、なきむしーちゃんがキジだね。サルはとなりのくみのまさるくんできまり!」
おとこ「よしっ。なかまもそろったし、あとはおおきくなるのをまつだけだ!」
「ならボクもじゅんびしなくちゃ。ドレスってつくれるのかな?」
おとこ「じゅんび?」
「だってキミがセカイをすくったあと、けっこんするおひめさまがいるだろ?
しかたないからボクがなってあげるよ」
『一日目 朝』
「おお ゆうしゃ!しんでしまうとは なにごとだ!」
壊れた機械のようにその言葉が繰り返される。
いや、機械は壊れるどころか言われた通り仕事をきちんとこなしているだけだが。
男「うるさいな…。誰だよこんな目覚ましをセットした奴…」
僕だ。
いつも学校にチャイムと同時に辿り着く僕は爽やかな朝を迎えるためにいつもより30分も早く目覚まし時計(スマホ)をセットした。
だが、その目覚ましが問題だった。
インパクトが強く、1発で起きられそうな仕様のものを探したが結果、これになったのだ。
おっさんの嘆く声で起きるなんて爽やかな朝にはほど遠かった。
しかも音が小さかった。
セットしたときはもっと大きな声のおっさんだと思ったが…。
ヨボヨボな年寄りじゃねーか。
聞いてて眠くなる声だった。
男「やれやれ…」
手慣れた動きで身支度をする。
30秒で仕度しな?
余裕だな。
初音ミクのストラップのついた鍵で家の鍵を閉める。
あ、ガス切ったか?
男「……ったく」
今日も始業のチャイムと競争だ。
なんで僕にはおにーちゃんと呼んでくれる妹も、毎朝起こしに来てくれる幼馴染みもいないのか。
剣も魔法もない。
夢も希望もない…。
痛くて辛い…そんなリアルだった。
ヤバイよヤバイよ。
僕は全力で走りだした。
人はいつだって運命的な出会いを求めている。
だが、それは僕に言わせれば吊り橋効果とか言われる類いのものとたいして変わらないちんけなものだ。
曲がり角で美少女とぶつかったり、飛び出した猫を助けたら飼い主が可愛い子だったりとか、空から女の子が落ちてくるとか。
1歩間違えたら大惨事だ。
もし、ぶつかりどころが悪かったら?
もし、猫を助けられず、自分も助からなかったら?
もしも、3分間待ってくれなかったら?
一種の危機的状況だ。
こ、これが運命の出会い?!
ではなく、
やべーあぶねー事故るとこだったわー。
という恐怖が勘違いをさせているだけだ。
これに間違いない。
別に僕にその 運命的な出会い がないからではない。
そのようなことは決してない。
僕はそんなグラついた人生ではなく、地に足をつけ、土台ががっしりとした人生をあゆむ。
できれば公務員になって定時には帰れるのが理想だ。
誰かに養ってもらうことはもう諦めた。
考え事をしながら走っていたら本当に人とぶつかりそうになった。
くそっ男………か。
その男が結構な美男子だったので僕は不覚にもときめいた。
いや、一応誤解を解いておくが、僕はれっきとしたノーマルで、2次元の美少女が好きだ。
多分一瞬とき☆めいたのは…あれだ。
吊り橋効果だなきっと。
始業のチャイムが鳴った1分後。
教室にやって来たのは担任ではなく、僕と同じ遅刻仲間だった。
ちなみに僕はいつもギリギリで遅刻にはなっていない。
こいつはいつもギリギリで遅刻している運の悪い奴だ。
「やべっ、ちこくちこく~っと。あれ、先生まだ来てない?」
男「そうだよ。僕が来てからまだ姿を見てないし」
僕が学校についたのは2分前だけどな。
心臓が痛いほど動機しているが平然とした態度で話をする。
「なんだ、朝食しっかりと食べてこればよかった。…何でお前汗かいてるんだ?もう秋だぞ?」
男「ちょっとヤツに追われてな…」
僕は時間に追われていた。
生き急げ!僕ら。
「ちょっとサツに追われた!?お前何をしたんだ?」
バターが塗られたパンを食べながら前の席に座った彼は、今年初めて同じクラスになり、ひょんなことから関わるようになった。
「ガムと飴、どっちが好き?」
始業式の日、初対面の奴がそんなことを聞いてきた。
僕は人見知りな方だ。
いや、人見知りでなくてもいきなりこんな風に話しかけられたらキョドるだろう。
男「え、あぁ…?…うーん、ガムかな。棒が邪魔だし」
「だよな。飴ってキャラメルと被るし、キャラメルのパクりだよな」
お互いに会話が成立しているようで成立していなかった。
「ガムやるよ」
そう言ってグリーンガムをくれた。
彼は塩キャラメルを噛んでいた。
「飴はキャラメルのパクりだ」と君が言ったからあの日から君はキャラメル。
ということで彼を僕はキャラメルと呼んでいる。
キャラメルは僕をグリーンガムと呼ぶ。
たまにキセキのガムとも呼ぶ。
嘘です。
基本的に名前を呼ばれません。
もしかして僕の名前知らないのかな?
…悲しい。
僕はどちらかというとフィッツが好きだし、遥かの方が好きだ。
彼と僕はこんな感じの関係だ。
『一日目 昼』
季節は10月の半ば。
今年の夏は暑かった。
この言葉は毎年言っている。
年々暑くなるのが悪い。
年々平均気温も上がっているし、十年後には30度でも「やれやれ…。今日の暑さはまだましだな…」なんて言われる日が来るのかもしれない。
10年近く前に流行ったライトノベルを読んでいて思った。
僕の世界も大いに盛り上げてもらいたいものだ。
まあ、そんな暑さも秋になるとだいぶおさまった。
まだ昼は暑いときもあるが、陽が沈むと一気に冷え込む。
温度差が激しいため、風邪を引かないように気を付けなければならない。
学校でもそろそろインフルエンザが流行り始めるかもしれない。
小市民らしく小さな事を気にしている、高校二年の秋だった。
最近、恋愛ゲームだかギャルゲーだとか言われるジャンルのゲームにはまった。
感想。
普通に面白かった。
今までは買うときに店員の目を気にして買えなかったが、昨日ついに買うことが出来た。
会計をしたのはアルバイトの学生で、しかも女だったが、僕は成し遂げたのだ!
もう怖いものはないな。
自分が成長しているのを肌で感じた。
そして思ったこと。
現実の学校の授業はスキップ出来ないのか?
何もイベントが起こらない。
かといってこの世界でサボったら洒落にならない。
かくいう僕の成績はマイマザーを倒すほどの実力だ。(精神的ダメージ)
一学期の通知表を見せると、マイマザーは気が動転したのか3食全てが納豆とご飯のみの日が4日も続いた。
僕はそれを何も言わずに食べていた。
夏休みだったしマイマザーがめんどくさがっただけだと思っていた。
家族用のパソコンの検索履歴に「頭 良くなる 食べ物 」「頭 良くなる 納豆 」と残っていてようやく僕は意図的に納豆を食べさせられていると知った。
しばらくして従妹が遊びに来た後、ようやく納豆漬け生活は終わった。
多分叔父さんが何か言ってくれたのだろう。
ありがとう叔父さん。
だけど以来、僕を見るマイマザーの目が冷たいです。
マイマザーは朝、僕に声をかけずに先に家を出るようになりました。
おかげで僕は遅刻しかける日々が続いています。
叔父さんはマイマザーに何を言ったんですか?
今度会う機会があれば教えてください。
窓の外をぼんやりと見つめる。
見飽きた景色だ。
だけど今はそれ以外にすることがない。
こうして待っていれば何かが起こるなんて思ってない。
だけどもしかしたら……という期待は捨てきれない。
気がついたら授業は終わっていた。
あれ?何の教科だっけ?
起きていたんだけど…。
僕の納豆漬け生活はそう遠くない未来かもしれない。
『一日目 夕』
キャラメル「お前、今日も部活行かねーの?」
一応、僕は部活動に入っている。
しかし僕の所属する部は主に夏しか活動をしない。
なので今の時期はサボってもあまり言われないのだ。
男「今日は行かないよ」
キャラメル「そうか。最近部活どうなの?部活動なの?お、上手くね?今の」
一人でウケている彼はほっといて帰ることにした。
僕はよく帰るのが早いと言われる。
だけど僕に言わせれば他の人が遅いだけだ。
終業のチャイムがなったらすぐ荷物を整理して速やかに教室を後にする。
べっ別に一緒に帰る友達がいない訳じゃないからね?!
友人は大切に。
覚えていたら明日キャラメル君に飴でもあげよう。
「ちょっと待ってよ」
校門をちょうど出たところだった。
僕を呼び止める声がした。
ちょっと待て?
その言葉はキムタク以外認めないぞ。
今SMAPも大変な時期なんだよ。
男「人違いです」
目を合わせずに下を向いて再び歩き出す。
校門で待ち伏せしている奴なんてヤバイ奴しかいない(偏見)。
いつの間に因縁をつけられたんだ?
目を合わせるな…。
目と目があったらバトルになってしまう。
「聞こえなかったの?待ってよ」
くそ。
こいつは野良トレーナーか?
僕はまだポケモンを貰ってないんだぞ!
男「あの…僕に何か用ですか?」
仕方なく振り返る。
「そそ。朝に会ったね」
そこにいたのは朝、登校中にぶつかりかけた美男子だった。
「ボクはアラヤっていうんだ。これキミのだよね?」
アラヤと名乗った美男子が僕にチラリと見せたのは青い髪のキャラのついた鍵だった。
…まさか。
慌てて制服のポケットを確認する。
いつもここに鍵を入れているが……。
男「…それ…多分僕のです」
アラヤ「そうか。それはよかった」
アラヤは手に持っていたものを自分のポケットにしまった。
アラヤ「別に脅しじゃないけど…キミはこれが大切だよね?返して欲しかったらついてきてくれるかな?」
男「え?……マジっすか」
まさかこいつ……。
僕は路地裏に連れ込まれそこに仲間がいて僕は「おい、跳べよ」なんて言われて金を取られるのか?
挙げ句の果てに僕は「くっ…殺せ!」的な展開までいっちゃうのか?!
……さっさと逃げだしてしまおうか?
いや家の鍵を奪われてちゃマズイ。
下手したら家まで押し掛けられる…。
クソっ!なんで僕がこんな目に!
これだからイケメソは!!
アラヤ「おーい、何してるの?置いてくよ?」
男「は、はいっ。すいません今行きます!」
アラヤ「おう。張り切って行こー!」
僕がアラヤの3歩後ろを歩いてついていくとアラヤは路地裏ではなくこの辺りで一番大きなデパートに入った。
このデパートは洋服からおもちゃ屋にペットショップ、小さな遊園地まであり、いつも人がたくさん集まる。
当然、飲食店やフードコートもあるので平日は学生の溜まり場になっている。
アラヤは混雑しているフードコートの中、空いている席を見つけ僕を座らせた。
アラヤ「ちょっと用があるから。これでも食べて待ってて」
アラヤはMの文字が刻まれた容器に入ったポテトを置いてどこかへいった。
てっきり僕が奢らされるものだと思っていたが…。
逆に奢ってもらった。
もしかしたらアイツはいい奴なのか?
いや、これは僕を懐柔する作戦なんだ。
そしてこのポテトは一つでも手をつけたらアウト。
危ない危ない。
食べ物に釣られるところだった。
朝寝坊したせいで朝を食べていない僕のお腹は昼の購買だけでは満足していなかった。
だから早く家に返って何か腹に入れたかったのだ。
僕は前に置かれたポテトを睨み付ける。
男「武士は食わねど爪楊枝…」
自分との戦いだった。
アラヤ「ごめんごめん。思ったよりも遅くなっちゃって」
男「いえいえ。そんなことないっすよ」
アラヤが帰ってきたのは時計の短い針が一周した頃だった。
僕の前には空になった容器が転がっていた。
しかたないよな据え膳食わぬは男の恥だしな。
アラヤ「じゃあ次へ行こうか」
まだ僕は解放されないのか?
早く鍵を返して僕を帰してくれ!
男「まだどっか行くところが?そろそろ門限が…」
アラヤ「大丈夫だよ。今度はすぐ終わる」
一向に路地裏に連れ込まれる気配はないし、仲間が出てくるわけでもない。
ならなんで僕は鍵を人(鍵)質にとられ連れ回されてるんだ?
……わからない。
とりあえず早く満足してもらい、早く鍵を返してもらおう。
アラヤ「じゃ、今日はこの辺で」
僕はその後も町をあちこち連れ回され、最後は家の近くでようやく解放された。
男「あの、鍵を…」
アラヤ「ん?」
男「だから鍵を…」
アラヤ「え?」
耳の前を手で塞ぎ、聞こえないアピールをしてきた。
お前はどこの元兵庫県議員だよ?
ハゲか?スキンヘッドなのか?
アラヤ「ボクがキミから預かっているのはこれだよ」
アラヤがポケットから出して渡してきたのは僕の家の鍵ではなく、鍵についていた青い髪のボーカロイドのストラップだけだった。
アラヤ「このストラップだよね?まさかこのストラップだけでここまでついてきてくれるなんて思わなかったよ」
男「えぇ…。なら鍵は」
思い返すとアラヤはストラップの紐の部分を握るように見せてきた。
だから手の中に鍵があると思ったのだ。
だけどそうではなかった。
待てよ、なら鍵はどこに?
落としたのか?
それともー…
慌てて家に向かう。
家の扉の前。
頼むよ神様……祈りながら扉を引いた。
「ガチャ」
扉はすんなりと開いた。
扉を開けた先に何もついていない鍵が落ちていた。
アラヤ「開けっぱなしで大丈夫だった?」
あ、そうだ。
もしかしたら泥棒が入っているかもしれない。
すぐにリビングを確認したが荒らされた形跡はなかった。
落ち着いて考えると盗まれるものなんてなかった。
ローンがまだ何十年も残っているマイホーム。
盗まれるものは無くともやっぱり戸締りには気を付けよう。
アラヤ「大丈夫そうでよかった。それじゃあまた明日!」
これでもう連れ回される理由はない。
中性的な美男子の顔を見なくていい。
男「あぁ。…あぁ?」
えっ?えっ?なんて?
男「ちょっ、待てよ!」
『一日目 夜』
拝啓。
お元気ですか叔父さん。
僕はなにか変なことに巻き込まれた模様。
いったいどうなっているのでしょうか?
常日頃変な妄想をしていたのが悪かったのでしょうか?
しかし僕は思うのです。
二次元は二次元だから良いのだと。
妄想は妄想の域を越えないから良いのだと。
アニメの実写化が叩かれるように。
ある日突然、今までの人生が大きく変わることなどあってはいけません。
妄想を現実にしてしまったら大変なのです。
男「さてと…。寝るか」
僕はまだ見ぬ明日を複雑な思いを馳せ、床についた。
この手紙は6日後、叔父さんの家に届いた。
『二日目 朝』
爽やかな朝。
どこからか雀のさえずりが聞こえてくる。
この優雅な一時を誰にも邪魔させまいと携帯電話の電源を切った。
昨日の…誰だっけ?
アララ?アララギ?には感謝しよう。
おかげで今日は早く目が覚めた。
うちの家は両親共働きだ。
長期ローンのこの家のため、父は単身赴任、母は朝早くから仕事場に向かっている。
その中で僕はある程度自由にさせてもらっている。
少し冷めている味噌汁に白米。
僕は猫舌だからこれくらいの温度がちょうどいい。
日本人らしく和な朝食だった。
ちゃちゃっと着替えを済まし、鏡を見て髪を整える。
最後にネクタイを絞めれば気も引き締まり、一日の活力が湧いてくる。
男「今日も元気に行ってきます!!」
靴を履き、玄関の扉を勢いよく開け放つ。
アラヤ「おはよ。清々しい朝だね」
男「なんでお前がここにいるんだよ?!」
ああ、何となく予感はしていた。
予想はしていなかったけど。
そんなこと想いたくもなかったからな。
アラヤ「へぇー。この辺りって住宅街なんだ」
なぜか二人並んで仲良く登校していた。
いや、知らない人から見たら仲良く見えるかもしれないが…僕からしたらナニコレ?だからな?
てかこいつ何の香水つけてるんだよ。
かすかに甘い匂いがする。
男「昨日もこの辺りに来ましたよね?」
アラヤ「朝に見るとまた違って見えるものだよ。それにキミが隣にいるからね」
男「そすか。でも時間大丈夫ですか?その制服…」
アラヤ「ん?あ、そうか。ヤバいかも……」
アラヤが着ている制服は隣町の有名な進学校のものだ。
ちなみに僕が着ている制服は家から近いという理由で選んだ普通レベルの公立高校のものだ。
なのでこうして並んで歩いていると人の目を引く。
さっきから同じ高校の奴らが僕の隣をチラチラ見ている。
特に女子。
男「そろそろ僕は学校に着くけど……ってあれ?」
気がついたらアラヤがいなくなっていた。
こっちを見ていた女子たちもいなくなっていた。
キャラメル「よ。今日はお互い間に合ったな。おい、聞いてる?」
アラヤ……アイツは何者なんだ?
もしかして妖怪とか霊なんじゃ?!
僕が変なものにとり憑かれていたから視線がこっちに集まっていたとか?
うん、ないな。
というか正直アラヤの正体なんざどーでもいい。
僕と関わっていてもすぐに飽きるだろう。
僕は僕を演じるだけだ。
この小さな世界の片隅でな。
よし、今日も適当にがんばろーおー(裏声)。
『二日目 昼』
昼休み。
僕はキャラメルと二人で机をくっつけて購買のパンを食べていた。
キャラメル「来週、このクラスの人数が一人増えるらしい」
男「それは転校生ってこと?」
一瞬、アラヤの顔が思い浮かんだ。
ないない。変に意識しすぎだ。
キャラメル「いや。一年間アメリカに留学していた3年生がこのクラスに入るって話だ。」
男「年上の人か…。うまく付き合っていけるかな」
キャラメル「安心しろ。お前と関わることはない。友達が俺しかいないお前がましてや帰国子女と上手くいくはずがないだろ」
男「失礼だな。君だって友達がほとんどいないだろ?」
キャラメル「俺は作らないだけだ。友達を作るといろいろとめんどいからな」
僕らはお互い似た者同士だから仲良くなったのだろう。
キャラメル「帰国子女…、金髪か?それとも黒髪ストレート。たてロールも捨てがたい……」
彼は帰国子女をみんな女子だと思っているのだろう。
それに帰国子女の意味が間違っている。
Googleに聞くことをおすすめする。
彼も僕と同様に勉強がアレなタイプだった。
この時期に編入してくるのは日本の学校と外国の学校のスタイルの違いだろうけど…いい印象はない。
二学期の半ばに訪れる編入生。
どうせなら三学期からでよかったものを。
僕は凄い嫌な予感がしていた。
だけどその予感は当たらなかった。
今、は。
『二日目 夕』
終業のチャイムと同時に教室を飛び出す。
授業を終えた教師よりも早く教室を出た。
目的は一つ。
愛しのマイホームに帰るだけだ。
寄り道はしちゃいけないと小学校で言われただろ?
僕は真面目だから寄り道せずに、知らない人についていかないために早く帰るのさ。
「あ。おーい」
誰か僕に話しかけたようだが、止まる気はない。
心臓が息の根を止めるまで、真実に向かってひた走れ。
今の僕を止められる奴なんていない。
僕はその勢いのまま無事に家に辿り着いた。
そして息を整える間も無く汗だくの体をシャワーで流し、濡れ鼠の状態でベッドの上に転がり、ゲームをするのだった。
『二日目 夜』
小さな頃。
近くの公園の滑り台の上で未来を語っていた。
おとこ「大きくなったらぼくとけっこんしてよ」
この少年も幼い頃、そんなことがあった。
「……ボクはおとこのこだよ?」
思い出したくないトラウマ。
初めて思いを寄せた相手が男だったなんて。
「おとこどうしじゃけっこんできないからボクのいもーととけっこんすればいいよ」
おとこ「いもうと?」
「いつもキミといっしょにいるでしょ?」
おとこ「え?」
「おにーちゃん!ボクもいーれーて」
おとこ「えぇ!?ぶ、ぶんれつしてる!」
「いままできづかなかったの?」
「ん?どしたの?」
おとこ「うわあぁー!」
おとこ は 目の前 が 真っ暗 になった。
『三日目 朝』
男「うわあぁぁ゛ー!!」
なんか恐ろしい夢を見たような…。
起きたときに全部忘れたけど。
とりあえず寝汗がヤバイ。
シャワーを浴びてから家を出よう。
早起きは三文の徳という。
時間に余裕があるのはいいことだ。
油断大敵。
家を出ようと思ったとき、胸の当たりにぽっかりと穴が空いたような気がしたのだ。
何か忘れているような…。
そこでようやく僕は昨日電源を切ってそのまま放置していた携帯電話を思い出した。
普段は使わないがいざというときに無いと困る。
お守りみたいなものだ。
どこに置いたっけ。
携帯電話を探すのに手間取った僕は依然のようにチャイムと競争をするはめになった。
しかし昨日寝る前に物置小屋に突っ込まれていた自転車を引っ張りだし、空気を入れておいたのだ。
今度は鍵をしっかり閉める。
鍵にはストラップの代わりに防犯ブザーをつけた。
これでもう鍵は大丈夫。
用意周到。
最近起きたイレギュラーが僕を強くした。
そのおかげでチャイムよりも少し早く教室に入ることができた。
『三日目 昼』
今日はキャラメルがいなかった。
彼はたまに寝坊で昼から来ることがあるので、もしかしたら後で来るかもしれない。
しかし、友達の少ない僕は彼がいないと昼は一人で食べることになる。
いわゆるぼっち飯だ。
だけど僕はもう慣れている。
さっさと食べて寝るだけだ。
人の目を気にする動作が挙動不審に見えるのでぼっち飯は目立つのである。
堂々と食べていれば怖くなんてないね!
購買のパンを胃に詰め込み、机に突っ伏した。
いい感じにうとうと眠気が襲ってきたところで僕は肩を揺すられた。
「ねぇ。寝たフリしないで」
僕がまだ寝ていなかったのを一瞬で見破っただと?
寝たフリをしている僕はキャラメルですら欺くのに。
男「んん……何か用?」
「あんた昨日私を無視したよね?あれはないでしょ」
男「昨日は……、あぁ。忙しかったんだよいろいろ」
「私だって用が無ければ声をかけたりしない」
男「そうだっけ?…なら謝っとく」
「その態度が気にくわない。人をバカにしてる」
男「それなりに長い付き合いだろ?それぐらい許してくれよ。幼馴染み」
幼馴染み「あんたに幼馴染みと言われるだけでムカつく。昔、家が近くで同じ幼稚園に通っていただけなのに」
男「小学校、中学校、高校と同じだけの縁だな。僕が隣町に引っ越しただけで泣いていた奴がよく言うよ」
幼馴染み「はあ?…昔のことを言うなんて男としてどうなの?」
男「公園で将来を誓いあった仲なのに…」
幼馴染み「いや、そんな記憶ないけど」
男「そうだっけ?」
幼馴染み「あんた…ついにあっちの世界に行っちゃった?」
男「まだ行っていない!まだな」
教室にいる人たちが不思議そうな顔でこっちを見ていた。
いつの間にか見世物になっていたようだ。
男「それより、昨日の用は?その事を言いにきたんだろ?」
声をひそめて幼馴染みの耳元で聞いた。
幼馴染み「今言ってももう遅いんだけど…」
妙にもったいぶる幼馴染み。
男「なら言わなくていい。良いことか悪いことかだけ教えてくれ」
幼馴染み「今のあんたには悪いこと…かな?でも悲観することはないと思う」
男「これから先に悪いことが待ち受けているなんて知りたくなかったな…」
幼馴染み「まあ、頑張ってね」
幼馴染みは僕に激励の言葉をかけて僕のクラスを出た。
幼馴染み「今度家に行くから。饅頭とお団子は必ず用意しといて」
そういい残して扉を閉めた。
今度家に行く?
あいつは思い立ったらすぐに行動するタイプなので、1週間以内に僕の家に来るだろう。
一応饅頭と団子と煎餅は常に家にいくつか置いてある。
母が働いているのが和菓子屋なのだ。
幼馴染みは食べ物目当てでしばしば僕の家を訪問してくる。
残念ながら、決して毎朝起こしに来てくれる幼馴染ではない。
『三日目 夕』
「あら?珍しい顔がいますな」
男「今日は久しぶりに部に顔を出しとこうと思って。サボっていると言われたくないからな」
僕は部活をするために第2理科室にいた。
久しぶりに参加したので、あっち系ではないかと疑われている部長に挨拶をしたところだ。
部長「と言ってもやることないわ」
男「宿題でもして時間を潰すよ。サボってばかりだと悪いしね」
僕の所属する科学部は夏の研究に力をいれている。
だからそれ以外の季節はやることがなく暇なのだ。
そのかわり、夏は学校に泊まり掛けになるくらい忙しいが。
今年の夏もいろいろ大変だった…。
ま、そんな夏の研究も終わり、3年生が引退したこの時期、部員全員が暇なのだ。
なので今は一応部活として集まってはいるが、本を読んだり、宿題をしたり、ゲームを持ち込んで2人でひと狩りしていたりと自由だった。
僕も今日出された来週の頭に提出の数学の問題集を進めることにした。
「おい俺に当てるなよ!」
「ご、ごめん散弾で…」
「食らえ鬼神大回転切り!!」
「あ。ボディープレス」
「くそが!耐震つけてねーよ!」
「あ。ソニックブラスト…」
「けっ、やってらんねーよ」
「通信が切られた……」
周りがざわざわとした中で宿題をしてると、流されていない僕カッケー!みたいな感覚に一瞬陥るが、真っ白な解答欄を見ると溜め息が出てくる。
男「やれやれ…。こんなものかな」
「いや全然できてない」
男「白紙じゃなければいいんだよ。一生懸命やったという事実が大切なんだ」
「そんなことだから成績が悲惨なんじゃない?」
男「…なんもいえねぇ」
チラリと隣を見る。
数学の計算問題を解いたノートが文字で真っ黒に埋め尽くされている。
男「もしかしてそっちのクラス、僕のクラスよりも授業の進み速い?」
「多分。理系クラスだし」
男「お願いします!見せてください……」
同じ科学部の2年生、僕が燕と呼ぶポニーテールをしている彼女に頼んだ。
燕「嫌。自分でやらないと意味ないでしょ」
彼女の返事は冷たく、僕を傷つけるものだった。
まさに燕返し。
燕「やり方なら教えてあげるから」
前言撤回。
彼女はやさしい人だった。
いや人じゃない、神だ。女神だ。
僕は勝利を確信した。
数学の問題集なんかに負けるものか
燕「ごめん…ワタシの手に負えない」
やっぱり駄目だったよ…。
彼女は一生懸命教えてくれた。
しかし僕の脳が膨大な情報量に耐えられなかった。
どうしてXに置きかえるんだ?
絶対値どこへ消えた?
漸化式……ざんかしき?Oh、ぜんかしき?
僕が天井を見上げていたとき、部活の時間は終わっていた。
秋は日が沈むのがはやい。
空がオレンジ色からすぐ群青色に変わる。
僕は家の前で足を止めた。
そして踵を返し、来た道を戻るように方向を変えた。
「あっ、やっと来た。遅かったなあ」
またもや逃げるのに失敗した。
目と目が合わなくても相手がこっちを見れば一方的に戦闘は開始される。
だから気づかれないようにBダッシュせずゆっくりと逃げようとしたのに…。
今ではスライドパッドで忍び歩きまでできるようになった。
おまけにメガ進化……親子愛が世界を変えるだと?
顔だけ後ろに向ける。
男「あれ?アラ…ヤさんじゃないですか。こんばんは。お散歩ですか?健康的でいいっすね。じゃ僕あれがあれなんで、それでは」
こうなったら自然な素振りでサヨナラバイバイまたいつかはないをするしかない。
アラヤ「あれ?家ここだよね?それにアラヤちゃんで構わないよ」
くそっ。やっぱり野良トレーナー戦は逃げられないか。
「ダメだ! しょうぶの さいちゅうに あいてに せなかは みせられない!」ってか?
俺は今もバンバン背中を見せつけてるぞ?
つかなんだアラヤちゃんって。
いきなりフレンドリーすぎるだろ。
顔良しコミュ力良しってか?
アラヤ「実はキミに用があって。ここでずっと待ってたんだ」
知っていたよ。
昨日といい、そんな予感はしていた。
こいつとはもう少しイベントが続きそうだと。
アラヤ「ところで何でさっきから何で敬語なの?ボクたちの仲じゃないか」
どんな仲だ。
男「僕の癖なので」
アラヤ「そうだっけ?…まあいいか。じゃ本題に入るよ」
アラヤ「あと2日しかないんだ」
嫌な予感がする。
まず僕はこいつのことをほとんど知らない。
なのにこいつは妙に僕に馴れ馴れしいし…。
昼休みの一幕を思い出す。
幼馴染み「今のあんたには悪いこと…かな?でも悲観することはないと思う」
幼馴染み「まあ、頑張ってね」
もしかしてあいつは何か知っているのか?
今の僕はお前は海賊王の息子だ!と言われても驚かないぞ。
アラヤ「せかいを救ってほしい」
そうか。海ではなく世界か。
・・・。
男「は?」
あんぐり。
この表現が適切だろう。
おそらく今の僕は物凄く面白い顔をしている。
世界?僕の頭の中でPollyannaが流れ始めた。
アラヤはそんな僕の手を掴み勝手に握手をしてきた。
その手は案外小さかった。
アラヤ「まだいろいろ言うことがあるから取り合えず家に入ろうよ」
ボディーチェックをされてる?
おい、そこは男の大切なところだ。
そして顔を赤くするな。
ポッ…てお前はウブか。
なんで防犯ブザーを奪うんだ?
てかなんで防犯ブザーを持ってたんだ?
・・・・はっ!
男「おい勝手に家に入ろうとするな!」
アラヤ「あれ?反応がないから了承したのかと思ったよ」
男「都合のいい解釈だな…。世界だかなんだか知らないが勝手にしてくれればいい。僕の知らないところでな」
アラヤ「それは困るよ…時間がない。キミが必要なんだよ」
アラヤは本当に困ったような顔をした。
演技だとしたら相当なものだ。
今にも泣きそうだ。
…マジで泣くの?なんで?!
アラヤ「ぐすっ…お願いだよ。入れてくれよ」
アラヤが目を擦りながら上目遣いで頼んできた。
あれこいつ男だよな?
そう言えば僕と同じくらいの背丈(僕は残念ながら四捨五入してギリギリ170)だよな?
顔はいいけど身長は小さ…控えめだな。
男「今日はもう遅いし……話をしたいなら他の場所でもいいだろ?日を変えよう。な?」
なんで僕は小さい子供をあやすみたいにアラヤに言い聞かせているんだ…。
さっきまで舎弟みたいにへこへこしてたんだけどな…。
僕の言葉を聞いたアラヤは急に笑顔になった。
いやそんな面白いことを言ったつもりはないぞ?
アラヤ「そうだね。じゃあ明日会おう。ちょうど土曜日だし朝から会えるね。場所はえ~と……はい、ここに来てね。今ケータイ持ってないからボクの家の固定電話の番号を書いといたよ。じゃおやすみっ!」
アラヤはニパーッと笑い、僕の手に無理矢理メモを握らせ瞬く間に去っていった。
男「なんじゃこりゃぁ~!?」
閑静な住宅街に一人の少年の叫び声が響いた。
『三日目 夜』
おとこ「ヒーローになるためにはどうすればいいのかな?」
一時期こんなことをくそ真面目に一日中考えていたな…。
年を取って大きくなった今でもわからない。
その答えは多分、ヒーローになった人しかを知らないだろう。
ヒーローのみぞ知るセカイ。
そんなセカイに憧れた。
多分今でも僕はヒーローに憧れ続けている。
ベルトをつけて「変身!」と叫んでも
何も起きない。
僕の力じゃセカイどころか電車の中で重い荷物を持って立っているお婆さんすら救えない。
サンタクロースがいないことだって小学校に入った年に知ってしまった。
厨二病みたいに痛々しく憧れているわけではない。
あんなこといいな♪できたらいいな♪程度だ。
「いつかきっとわかりますよ」
そのいつかはいつ来るのだろうか?
『四日目 朝』
朝が来た。
新しい朝だ。
希望の…朝?
携帯電話で確認するとまだ8時だった。
なんで休日に早起きしなきゃならないのか……。
今日も仕事がある両親にはエールを送りたいね。
頭もとには昨日強引に渡されたメモが置いてある。
「ヒトマルマルマル、コジマ電気から右に200歩下に363歩右に722歩左に18歩進んだところから見える公園の滑り台の上から見える水色の建物にて待つ」
男「わかりづれーよ!てか絶対に昨日あの瞬間に書いたものじゃないよな?!」
行きたくなんてない。
しかしいつまでも逃げているわけにもいかない。
僕の穏やかな日常を取り戻すために。
倦怠ライフ・リターン(ズ)なんてな。
今は二度寝しよう。
それにコダマ電気は駅前にあるので自転車を使えば15分でつく。
行くにせよ行かないにせよ、あと一時間45分は寝れるな。
「ピンポンピンポンピンポンピンポーン♪」
再び布団にうずくまってから5分もたっていないだろう。
誰かが我が家を訪ねてきた。
宅配便は両親がいつも時間を指定して受け取っているのでない。
大方宗教の勧誘かNHKの集金だろう。
さすがにアラヤが時間前に押し掛けてくることはないはずだ。
インターホンが鳴りはじめてから3分ぐらいたっただろうか?
やっと諦めて帰ったようだ。
音が鳴りやんだ。
ようやく落ち着いて眠れるな。
もうインターホンが鳴ろうとも気にしない。
頭まですっぽりと布団を被る。
これで音も聞こえない。
快適に快眠に入れる。
だって……ガチャガチャと金属音なんて聞こえないし、今カチャリと聞こえたのだって空耳だ。
床が軋む音がだんだん大きくなるなんて……普段聞こえないだろ?
足音が2階にある僕の部屋に続く階段を上ってくる。
あぁ~、これ夢だな。
最近ホラー映画なんて見たっけな?
夢は夢だと気づいたときに覚めるものだ。ほら覚めろよ。はやく。
「キィィ-―……」
扉が開けられたようだ。
僕の部屋に鍵はついていないから当然だ。
「パタン」
え、閉めるのか?
それは予想外だったな。
まあ夢だし予想外のことが起こって当然だな。
さて、次はどうk
「おーきろー!!」
男「ぎゃtぐあっ……イタっ」
僕が身を隠していた掛け布団が剥がされた。
今のリプレイを擬音のみで表すと
「バッ!!!」
「ビクッ!ガン!!ズル……ドサッ」
上記のような感じだ。
現在、ベッドと壁の隙間なう。
ん…ん…。あれ?起き上がれないな…。
「あんた何してるの?」
足音の正体は幼馴染みだった。
男「見ての通りハマっている。手を貸してくださいお願いします」
やれやれ…と言った表情で幼馴染みが右手を差し出してくれた。
いや、待て。
なんで幼馴染みがここにいるんだ?
普通じゃありえない予想外のことだ。
これはまだ夢の続きでこの痛みは思い込みなのだろうか?
男「ごめん、もうちょい近く」
確かめるのは簡単だ。
痛み以外の感覚で知ればいい多分。
幼馴染み「どんだけ手がかかるの…」
男「もーちょい」
幼馴染み「これくらい?」
幼馴染みはベッドの上に乗って手を伸ばしてきた。
男「えい」
僕の右手は幼馴染みの右手の横を通って2つの山の頂に向かった。
そして僕の右手は見事に登頂に成功した。
右手がふにゃっとした柔らかいものを包み込んだ。
ほのかに温もりを感じる。
………え?
幼馴染み「……な、なにしてん?」
僕のベッドの上にペタンと座りこむ幼馴染み。
男「……夢じゃない……のね」
僕は床の上で正座していた。
男「本日はどのようなご用件でいらっしゃったんでしょうか?」
幼馴染み「昨日言った通りよ」
幼馴染みは僕を鋭い目で睨み付けながら簡潔に言った。
男「なるほどですね。しかし、家の鍵は閉まっていたはずです。どのようにして家に浸にゅ…入ってきたんですか?」
幼馴染み「鍵を使って開けたに決まってるでしょ」
男「なるほどですね。そりゃそうですよね」
幼馴染み「あんたのお母さんに合鍵貰ったの」
男「なるほどですね。……ってなんで!?」
幼馴染み「家にお団子を食べに来る時に楽でしょ?ってさ」
我が家のセキュリティはどうなってる?
そんな簡単に人に家の鍵を渡していいものか!
万が一があったらどうするつもりだ!
幼馴染み「取り合えず……わかってるよね?5秒よ」
重たいプレッシャー。
幼馴染み背後に何か見えますよ?
あれは化身?それともスタンドか?
男「Yes,sir」
階段をかけ下りてリビングの冷蔵庫に向かい、皿に乗ったみたらし団子や三色団子、きな粉餅、おはぎを取りだし、お盆に乗せて部屋に戻った。
男「Here you are.」
幼馴染み「11秒12。遅すぎ。追加ね」
再びリビングに向かい、今度は仏壇の前に供えられた大量の煎餅と饅頭、最中を新しく用意したお盆に乗せて部屋に戻る。
幼馴染み「あんたの誠意はこれだけ?」
三たび階段を下りてリビングに向かう。
あとは…赤福に甘納豆にういろうに羊羮、カステラにかりんとう、名前の知らないのも詰め込んでまた新しくお盆に乗せて部屋に向かう。
幼馴染み「けっこうけっこう。全部は食べられないから持ち帰る用にしまっといて」
男「…Yes,sir!」
幼馴染み「よし。腹も満たしたし、そろそろ行こう」
幼馴染みは2つのお盆を空にした後、そう言った。
男「そうですか。これはほんの気持ちです」
僕は3つ目のお盆に乗せてあった中身を一つ一つ小分けにし、それらをまとめた大きな袋を渡した。
幼馴染み「これ重い。あんたが私の家まで持ってって」
この後なにか用事があったような気がしないでもないが…優先すべきは間違いなくこっちだ。
それにしても幼馴染みの家か……。 あれ?家の中に入った記憶がないな。
男「仰せのままに」
幼馴染み「あ、ちゃんと着替えてね。ジャージ姿で隣を歩かれたくないから」
男「仰せのままに」
幼馴染み「あとそれ、さっきから気持ち悪いからやめて」
男「Yes,sir」
幼馴染み「聞こえなかったの?」
男「ス、スミマセン」
男「…ここまでおしゃれする必要ある?」
僕は幼馴染みにファッションショーを行わさせられ、髪をワックスで整えられている最中だった。
幼馴染み「これはおしゃれじゃなくて高校生として当たり前の身だしなみよ」
男「高校生って大変だな…」
幼馴染み「動かないで」
男「あっ、はい」
9時ちょうど。
僕は高校生らしくちょっとシャレた格好で幼馴染みと共に家を出た。
今着ている服はなぜか幼馴染みが持ってきたものだ。
僕の母から渡されたとか言ってたが…何を考えているんだマイマザーは。
さっきから幼馴染みは腕の時計ばかり気にしているし。
今になって気がついたが幼馴染みも今どきのJKが着るようなゆるふわ系?ポワポワ系?……とにかくおしゃれをしていた。
幼馴染みがこんな服を着るとは知らなかった。
もっと尖った、バンドマンが着るようなクール系だと思っていた。
チェーンつけて革ジャンとか(偏見)。
今日の予定はそれほど大切なものらしい。
てか荷物多いな。
僕はおみやげの入った袋だけでなく大きなキャリーバックをひいている。
彼氏とのお泊まりデートか?
なわけないな。
『四日目 昼』
会話はほとんどなく、黙々と歩いていた。
僕はさきほどからチラチラと幼馴染みの方を見ている。
しかし幼馴染みは僕の視線を気にせずに歩き続ける。
僕は歩きながら空を見上げる。
空はどこで見てもいつ見ても変わらずにそこにある。
小さい頃みた空はもう少し広く大きく感じたものだけどな。
男「懐かしいな…」
僕は幼稚園に通っていた頃住んでいた辺りを歩いていた。
隣町なので自転車で行こうと思えばそう遠くない。
僕の住んでいたアパートと思われる建物は今でも残っていた。
そのアパートのすぐ近くに幼馴染みの家があるはずだ。
しかし幼馴染みが足を止めることはなく、すぐに通りすぎた。
この辺りに来るのは久しぶりだ。
もしかしたら幼稚園を卒園したとき以来…10年ぶりくらいになるかもしれない。
幼馴染みの家にもあまり行かなかったからな。
僕は何となくこの辺りに来ることを避けていた。
幼馴染み「昔を思い出した?あの公園とか懐かしいよね」
前を向いたまま、幼馴染みが呟いた。
幼馴染みがみている先には滑り台しかない公園があった。
その奥に太陽みたいなマークが目立つ電化製品屋が見えた。
幼馴染み「先を急ぎましょ」
足を止めることなく、公園を突っ切った。
もう家を出てから一時間がたったらしい。
公園の時計を見るともう10時2分だった。
ここまで来るとさすがにわかっていた。
幼馴染みの用事は僕の用事と…アラヤと関係があるのだと。
幼馴染みが止まったのは水色の一軒家の前。
表札にはローマ字でARAYAと彫られている。
幼馴染み「はやくインターホン押したら?もう約束の時間は過ぎてるんだから」
促されるままインターホンを押す。
「ピーンポーン♪」
音が鳴るとほぼ同時だった。
アラヤ「はーい。少し遅かったね」
扉が開いてアラヤが出てきた。
男「お、お前……」
僕は絶句した。
なぜかって?
アラヤの着ていた服が
セーラーふくだったからです←結論
「女だったの?」という言葉は口に出せず喉の辺りでつっかえた。
……マジかよ…?
僕と幼馴染みはアラヤの部屋へと招かれた。
アラヤの部屋は全体的に青っぽいデザインでクールな感じだった。
カーテンのレールに学ランと女子のブレザーがかかっているのが目に留まった。
半分開いているタンスからはスポーツブラが見えていた。
アラヤ「なんかボクだけ私服でごめんね。でも今日は勝負下着はさ!」
幼馴染み「どうせピンクのフリルでしょ?」
アラヤ「そうさ!」
幼馴染み「まったく…。あ、これお土産。家族みんなでわけて食べて」
アラヤ「ありがとう。すごいたくさんの和菓子だね」
幼馴染み「味見したから味は保証するわよ」
その後、僕はおいてけぼりにされ会話が進んでいった。
幼馴染み「ところでちゃんと話したの?こいつ何もわかってないよ?」
アラヤ「説明したはずだけど…。わかりづらかったかな?」
幼馴染み「相手はこいつだよ?しっかりマイナス10から100まで教えないと無理無理」
アラヤ「でも同じ説明でしーちゃんには伝わったよ?」
幼馴染み「私をこいつと同じ水準で考えないで」
アラヤ「ならもう一度説明しよう。男、聞いててよ」
アラヤが女……?なら僕はちこくちこく~的な出会いから始まって校門でナンパされてデートしたのか?
いやいやいや。
男物の服来てたよ?てかブレザーにズボンだったし。
校門で待たれていたときも同じ格好だったはず。
…あれ?俺、アラヤの制服姿しか見てないのか。
なら、アラヤは女装癖がある?
それともコスプレか?
セーラー服のキャラなんて大量にいるしな。
アラヤ「おーい生きてるかい?」
男「…………ハッ!うおぉ…」
アラヤの顔がすぐ前にあった。
鼻と鼻がぶつかりそうな距離だ。
僕は後ろに2、3歩後ずさりをしてタンスにぶつかった。
その衝撃で半開きだったタンスの中からシンプルなデザインの柔らかい布が僕の頭の上に降ってきた。
アラヤ「あぁー!何してるんだよ。しまうの大変なんだぞ!」
幼馴染み「押し込んだだけでしょ…」
僕は頭に薄い布を被ったまま一度飲み込んだ言葉を口に出した。
男「アラヤ……。お前女だったのか?」
アラヤ「そうに決まってるじゃないか。ボクは女だよ。忘れたのか?」
アラヤ「ボクたちは昔、婚約をした仲だろ?」
僕は気づかないうちに運命的な出会いをしていたらしい。
…これなんてエロゲ?
やはり僕の青春(ラブ要素皆無な)コメディーは間違っている件について。
幼馴染み「私はずっと隣にいるって約束された」
アラヤ「ボクはお姫さまだったかな?」
男「ゴホン!」
僕の忘れさった過去をほじくりかえすな。
おかげで僕も少しずつ思い出してきたじゃないか。
小さい頃、よく、男か女かわからない変な奴と遊んでいた。
父のベルトをこっそり借りて「変身!シュゥィーンジャキィーン!!」なんて遊んでいたあの頃を。
アラヤ「それに下着も見られちゃったし…」
僕は頭の布を掴んだ。
取ったものを見るとピンク色でフリル
がついたパンツだった。
慌てて遠くへ放り投げた。
幼馴染み「大丈夫。私なんてさっき、その…」
男「ゴホンゴホン!」
アラヤ「さっき?ボクの家に来る前に何が」
「コンコン」
ナイスタイミングで部屋のドアがノックされた。
アラヤ「やっと来た。これでパーティーが揃ったね」
「はいるよー」
ドアを開けて入ってきたのは
「おー男!久しぶり。元気してた?」
男「おう。……ってええ"?誰だ!?」
入ってきたのは…おそらく男。
アラヤとそっくりな奴が現れた。
アラヤ「兄さん。男がボクのこと忘れてるんだよぉ……」
兄さんって…アラヤの兄か?
―回想中-
ポク・ボク・ポク・……チーン!!
あー……あれか。
あれだ…!
そうだ。
僕はアラヤの兄を知っている。
そしてアラヤの言う婚約(仮)も幼馴染みとの約束(審議中)も忘れていない。
全部思い出した。
アラヤ兄「そうなの?」
男「いや。全部覚えているよ。久しぶりだな消えてくれ」
アラヤ兄「なんでボクの好感度低いの?」
男「僕はあくまで女が好きだ。勘違いするなよ。いいな?」
アラヤ兄「まさか小さい頃のことをまだ気にしてるのか?」
アラヤ「なんかあったの?」
アラヤ兄「男が間違えて…」
男「あれはお前が悪いだろ!?ややこしいんだよ。この……カワウソが!」
カワウソ「なんでカワウソ?」
男「カワウソは女に化けたという言い伝えがあるからだ」
中学生の頃、カワウソにはまっていた時期があった。
オコジョとカワウソを勘違いしていた。
可愛い動物だと思ってたのに妖怪だと知ってショックを受けたな…。
幼馴染み「それ本当?」
男「ああ。信用できないならwikipediaで調べてみ」
幼馴染み「あ、ほんとだ」
僕って信用ないんですね。
カワウソ「ま、カワウソでもいっか。じゃあ本題に入ろうか」
話の切り出し方がアラヤとそっくりだった。
顔も口調も似ているし、流石は双子。
少しだけ納得いかないのはカワウソと話をするときに斜め上を見上げなくてはいけない点だ。
まるで僕の背が低いみたいじゃないか。
カワウソ「昨日、この辺り一帯には配り終わった。電話番号は家電を書いといたけどまだ連絡はないね」
幼馴染み「私は知り合いに聞いたけど手応えがなかったからTwitterやLineとかSNSで呼びかけたわ」
アラヤ「ボクはお店に聞いてきたり、本屋に行って調べてきたよ。だけど……こうして現実を目の当たりにするとやっぱ厳しいね」
カワウソ「…だね。だけどやるしかないだろ?」
幼馴染み「嘆いたって期限が延びる訳じゃないし。やれることをやるだけよ」
これが本題?
また僕だけおいてけぼりになっている。
て言うかなんで僕はここにいるんだ?
今の雰囲気は、久しぶりの再会を懐かしむような雰囲気とは違い、シリアスモードに入っている。
男「はい!質問だけど……お前たちは何を企んで秘密会議をしてるんだ?」
まさか本当に世界をー、なんてことはないだろう。
三者三様に笑った。
カワウソは爽やかに。
幼馴染みは呆れたように。
アラヤはニパーっと。
アラヤ「昨日も言った通りだよ」
アラヤ・カワウソ・幼馴染み「「「せかいを救うため」」」
そう言った3人はとても得意そうな顔をしていた。
『四日目 夕』
その後、何かあったかと言うと別段変わったことはなかった。
カワウソ「今はやることないな」
アラヤ「祈るだけだね」
幼馴染み「果報は寝て待て」
「グゥゥ-ッ」
幼馴染みのお腹が鳴ったので昼食になった。
僕の家で大量の和菓子を食べたはずだけど……太らないのか?
アラヤが「実は料理できるんだよ」というので少しだけ期待したものの、アラヤは熱湯を注いで3分間待つ超上級魔法を使った。
それを4つ用意し、
アラヤ「てをあわちてください、」
その他「「「あわせまちた」」」
アラヤ「いただきましゅ!」
で昼食は終わった。
お腹を満たした僕らは暇だったのでwiiのマリカーやスマブラをしてのんびりと過ごした。
普通に友人の家に遊びにきた感じだった。
基本的に幼馴染みと僕が一位を争い、アラヤとカワウソが三位を争う展開だった。
最終的には幼馴染みに軍配が上がった。
僕は幼馴染みにリベンジを誓った。
今度はポケモンで勝負しよう。
赤い彗星こと僕のハッサムのテクニックを見せてやんよ。
モンハンで討伐タイムで競うのでもいい。
僕はソロ狩りで最強といわれることが多い太刀の使い手だ。
敵によって立ち回りは変えるが、基本的に太刀は敵の足下を切りつけるだけの簡単なお仕事だから使いやすい。
ゲームをした後は四人で懐かしい話した。
幼馴染みは昔は泣き虫だったとか。
アラヤとカワウソは昔から瓜二つで服も髪も会わせていたとか。
同じ幼稚園の奴で今は交換留学生として外国に行っている奴がいるとか。
僕が知らないアラヤとカワウソの小学校、中学校時代の話も聞いた。
カワウソの方は急に背が伸びたらしい。
うらやましいなくそ。
アラヤの方は「絶賛成長期ナウだから!」だそうだ。
僕が自分の小、中学校時代を語ることは少なかった。
なぜなら幼馴染みが全部言ったからだ。
あの頃の僕は若かったな…。
『四日目 夜』
時間はあっという間に過ぎ、気がついたときには外はもう真っ暗だった。
アラヤ「気が早いけど寝る準備を始めようか」
と言ったので僕は帰る支度をすることにした。
荷物をまとめて…。
僕は手ぶらで来たことを思い出した。
もともと長居するつもりはなかったし、来るつもりすらなかった。
幼馴染み「はいこれ」
幼馴染みの声に反応して振り向くと、僕に大きなバックが投げつけられた。
男「うわっと。これは?」
幼馴染みは持ってこさせたキャリーバックの中身を出していた。
幼馴染み「あんたの着替え」
男「着替え?」
幼馴染み「泊まりの用意よ」
男「はいぃ?」
アラヤ「下着発見。うわっ過激だ!」
幼馴染み「こら!って持っていくな!」
泊まり?お泊まり会でもするつもりか?
へぇーそうなんだ!
カワウソ「男、今夜はよろしく」
カワウソが僕の肩に手をのせて言った。
男「おっ、おう?」
僕泊まるのか!?
って今日は驚いてばかりな気がする。
ずるずる流されてるし……。
でもそんな状況を少しだけ楽しんでいる僕がいた。
口では
「やれやれ……」
とか言いながらも。
結局、僕は流されるままに泊まることになった。
今日はアラヤの両親は二人とも出張で帰ってこないらしい。
なんて都合がいいんだ。
夕食はカワウソが作った。
ムカツクけど、料理が上手かったし旨かった。
カレーってルーから作るものだっけ?
幼馴染みの食いっぷりは圧巻だった。
夕食の後、アラヤと幼馴染みは女子?トークをしていたが、僕は人の家のソファーを占領してクイズ番組を見ていた。
カワウソは僕の後ろで一緒に見ていた。
なぜそんなに当たる?
先に答えを言うなよ。
アラヤと幼馴染みは一緒にお風呂に行ったので僕とカワウソの二人っきりになった。
カワウソ「こうしていると昔に戻ったみたいだ」
なぜかしみじみと言うので思わず笑いそうになった。
男「精神的に成長していないからじゃ?」
カワウソ「そうかもな。まだあの頃ことを気にしているくらいだし」
男「おい、それは忘れろって言ったよな?」
カワウソ「んー?ははは」
アラヤ「あがったよー」
幼馴染み「お先にいただきました」
カワウソ「じゃあ男、一緒にお風呂に入ろうか」
男「なんでお前と一緒に入らなくちゃならないんだ!?」
カワウソ「そんな流れかと思って」
男「そんな流れ、ぶち壊す!!」
僕はカワウソが入った後にシャワーを借りた。
僕はパジャマである赤いジャージで布団の上を転がっていた。
すーすーとカワウソの寝息が聞こえる。
こいつ寝つきいいな。
僕はここ最近の出来事を振り返ってみた。
今日は大変な一日だったね。
でも明日はもっと大変な日になるよねハム太郎。
へけっ!
現実から逃げるように僕は目を閉じた。
『五日目』
男「知らない、天井だ」
そう言えば何だかんだで昨日アラヤの家に泊まったことを思い出した。
今は何時だろうか?
とりあえず体を起こそうとするが体が重い。
何かに押さえつけられているようだ。
男「ふぁー……あ"?」
僕は呼吸を止めた。
バクバクと心臓が鳴っている。
僕は物理的に押さえつけられていた。
両腕をアラヤと幼馴染みに掴まれていたのだ。
あ...ありのまま 起こった事をry
いやいやヤバイっしょ。
どうやら二人とも寝ているようだが…。
幼馴染みとは昨日のこともあるのに。
起こさないようにこの状況から抜け出さなければならない。
ゆっくり片腕ずつ解放したいが上手くいかない。
両腕が使えないのは厳しい。
おまけにアラヤが強くしがみついてきたのでさらに難しくなった。
痛い固い。
それでもなんとか事なきを得た。
全く…朝から変な汗をかいた。
カワウソの部屋から出て、香ばしいソースの匂いをたどってリビングに向かった。
カワウソ「やっと起きたね。おはよう。いや、もうこんにちはの時間だよ」
リビングの時計の短い針は12を指していた。
男「お前…あれはどういうことだ?」
誤解を生みそうな表現だが、僕はカワウソと二人で寝ていたはずだ。
アラヤ「あはは!いやー面白かったね」
幼馴染み「なんで私まで…」
アラヤ「けっこう乗り気だったじゃないか」
幼馴染み「ぜんっぜん!」
僕の後ろからアラヤと幼馴染みが現れた。
アラヤ「男。キミが全然起きないから起こすついでに二人でドッキリを仕掛けたんだよ」
心臓に悪いドッキリだな。
僕はバクバクしてたぞ。
幼馴染み「あんたは寝起き悪いからね」
幼馴染みは昨日のことを覚えてないのか?
いやどうせマイマザーに全部話すんだろうな……。
カワウソ「昼食が出来たよ。あ、男にとっては朝食か」
青いエプロンを着たカワウソが4枚の皿に焼きそばをよそった。
一皿だけ多く盛られた皿は幼馴染みの前に置かれた。
カワウソ「これを食べたら出かけよう」
アラヤ「いよいよ救うときだね!」
幼馴染み「腹が減っては戦はできぬよ」
男「いただきます」
なんで僕は泊まることになったんだっけ?
まだイマイチ僕がここにいる理由がさっぱり全然全くわからない。
まいっか!とりあえず腹を満たそう。
今だけは幼馴染みに完全同意だ。
『五日目 昼』
カワウソ「集合は1時に駅前だったよね」
幼馴染み「うん。1時に駅前の時計台の前。紺色のパーカーを着ていくって連絡があったわ」
アラヤ「ならそろそろ家を出よう。ボクたちは歩きだからね」
僕は幼馴染みの指示(命令)に従ってジャージからマネキンが着ているような服装に着替えた。
カワウソとアラヤと幼馴染みはすでに着替えを終えていた。
それぞれの服の感想を一言で言うと
カワウソ はは。ははは。イケメンッテナニキテモニアイマスネ。
幼馴染み 昨日といい、お前もJKだったな…。その服も持ってきたのか?
アラヤ それ私服!?カワウソの制服だろそれ。僕が間違えるのも仕方ないぞ。
アラヤ「それじゃ、行こうか」
アラヤがカゲプロのエネのストラップをつけた鍵で玄関の扉を閉めた。
幼馴染み「忘れ物ない?」
カワウソ「まるで遠足当日の朝だね」
アラヤ「なら、1発元気の出るやつをやろう!」
幼馴染み「試合前にやる、今日は勝つぞ~おー!みたいなやつ?」
アラヤ「そそ。男、お願い」
男「僕?」
僕は遠足に行くために必要な「楽しむ心」を忘れてきたし、試合に勝つための「闘志」すらなくしてるんだが…。
男「いのちだいじに!」
アラヤ「おぉー!」
カワウソ「おー!」
幼馴染み「そこはガンガンいこうぜじゃないの?」
こうして僕らの冒険は始まった。
僕らの戦いはまだ始まったばかりだ!
~END~
幼馴染み「なにしてんの?置いていくわよ?」
To be continued
まだ僕の戦いは終わらせてもらえなかった。
まるでカップルのように見える女子二人の後ろで僕は不本意にもカワウソと一緒に歩いていた。
男「にしてもほんとに急な再会だったな。久しぶりすぎて顔を忘れてたよ」
暇だったのでカワウソに話しかける。
僕が引っ越したのを境にカワウソとアラヤとの関係がプツリと途切れた。
それでもカワウソとアラヤは僕のことを覚えていたので、逆に覚えていなかった僕がおかしいように思えたのだ。
カワウソ「男なら仕方ない。でもこっちは忘れられるはずがないから」
男「…なんか僕が忘れっぽいみたいだな」
カワウソ「忘れっぽいか。それはいいことだ」
男「バカにしてるのか?」
カワウソ「いやいや。でも本当に忘れてたのか?」
男「言われれば気づく、言われなければ気にしない程度には」
カワウソ「わざわざ今のタイミングで再会しなくても良かったのかな」
男「まるで今まで会えるのに会わなかったような口調だな」
幼馴染みはよく泊まりにきたが、アラヤとカワウソが新しい僕の家に来た記憶がない。
男「僕たちって実は仲悪かった?」
カワウソ「そんなことはないよ。よく五人で遊んだものだ」
男「ならなんで会わなかったのかな」
カワウソ「男も会おうとは思わなかっただろ?そういうものだよ」
言われてみればそうだ。
僕がアラヤとカワウソに会いに行った記憶はない。
隣町を通らないようにしていたのでむしろ避けていた形になる。
カワウソ「偶然再会したんだ。きっとこれは運命の再会だね」
男「運命…ねぇ。数日前の僕に聞かせたい言葉だ」
僕は旧友との再会を運命だか偶然だとかいうことで受け入れた。
人生なんて大半はその言葉で片付けられる。
あの曲がり角がちょっとした分岐点だったのだろう。
カワウソ「あ、着いたよ」
僕が回想に入ろうとしたときには駅前に着いていた。
前を歩いていた二人が時計台の前で誰かに話しかけている。
その人は紺色のパーカーを着ていた。
待ち合わせしていた相手だろう。
僕も時計台に近づいた。
「えっ……なんで?」
男「あれ…燕?」
時計台の前で紺色のパーカーを着ていた人は僕と同じ科学部に所属する燕だった。
幼馴染み「二人とも知り合いだったの?」
燕「同じ部」
幼馴染み「あんた部活入ってたの?てっきり帰宅部だと思った」
男「なんで燕がここに?」
燕「ワタシがここにいるのはせかいを救うため」
男「せ、世界……」
うっ頭痛が!
僕がおかしいのか?やっぱり僕がおかしいのか?
燕「前に言ったでしょ?犬が好きだって」
犬……?
燕「だから引き取ることにしたの。軽い気持ちじゃ飼えないから決心するのに時間がかかって」
飼う……?
燕「せかいって変な名前だよね」
幼馴染み「名前つけたのこいつだから」
アラヤ「小さい頃に男が近所で飼われていた犬に向かってセカイセカイって言ってたのを聞いた飼い主の人が犬のことを言っていると勘違いしたのがきっかけなんだよ」
カワウソ「あの頃は世界を救う!だなんてよくヒーローごっこをしたものだ。いや、勇者ごっこだっけな」
犬?世界?
……せかい?
男「あああー!!」
近所のしげおじちゃん家の犬!
「お前はせかいを救うんだぞ」ってずっと言い続けていたらしげおじちゃんが「こいつせかいって言うんか?ずっとポチって呼んどったわい」って勘違いして以来、名前がせかいになったんだっけ。
カワウソ「でも…しげさんが死んじゃったからせかいだけ残されて…」
男「え……あの人死んだのか?」
アラヤ「最近ね。もう年だったから仕方ないよ」
幼馴染み「独り身だったから近所で小さなお葬式を開いたの。しげさん、ご近所付き合いは良かったから……」
カワウソ「しげさんの家にせかいだけ残されたんだ。飼うことは出来なかったけど毎日学校帰りに餌をあげてたんだ」
アラヤ「でもしばらくして保健所の人が来て引き取ってったんだ」
幼馴染み「保健所の人がこの犬はもう野良犬だからって言ってね」
アラヤ「でも保健所って!!」
カワウソ「せかいも年だからね。保健所に行ったら多分……」
アラヤ「……だから調べたんだ。まず保健所のことを。殺処分まで三日の所もあるって知ったから焦ったよ」
カワウソ「電話で聞いたらだいたい五日は預かってるらしくてね。だから五日以内にせかいを救おうって話になったんだ」
幼馴染み「私は知り合いで飼えそうな人を探したり掲示板で募集したわ」
カワウソ「僕はせかいを知っている近所の人にせかいのことを訴えたんだ。でもなかなか上手くいかなくて…」
アラヤ「僕は引き取ってくれる人のために犬の飼う方をペットショップで聞いたり本で調べたんだ。再会した男を連れてね」
僕がかつあげされるかもとかビビっていたあれのことか。
なら一言二言三言ぐらいいってくれれば良かったのに。
幼馴染み「で、昨日遅く私のケータイに連絡が来たわけ」
燕「やっと親の承諾を得れたから」
アラヤ「はい。このノートいろいろ書いといたので参考にしてください」
燕「ありがとう」
アラヤ「それと、育てる環境は…」
カワウソ「それはまずせかいを救ってからに。バスの時間だよ」
僕たちは一度話を切り上げ、保健所に停まるのバスに乗り込んだ。
男「じゃ、せかいを救いにいくか!」
僕は少しだけ気分が高揚していた。
今は、喉に引っ掛かった秋刀魚の骨がとれたみたいな感じだ。
幼馴染み「何を今さら…」
アラヤ「おぉー!」
カワウソ「おー!」
燕「お、おぉー…」
『五日目 夕』
アラヤ「せかい、いい子にしてるんだぞ?ごはんは残さず綺麗に食べておしっことうんちは決められた場所にして鳴くのは…」
幼馴染み「何も別れるわけでもないのに。会いに行けばいいじゃない」
アラヤ「…え?せかいに会いに行ってもいいの?」
燕「構わない。せかいにもその方がいいと思う」
アラヤ「ありがとう~!」
燕「だ、抱きつかないで…」
カワウソ「一件落着、だね」
男「僕はすごく疲れたよ……」
幼馴染み「あんたまさか魔王を倒して世界を救う!だなんて考えてたんじゃない?」
男「まさか。魔王を倒すことまで考えてない。仲間を集めるくらいだ」
幼馴染み「あんた小さい頃も仲間集めとか言って私を雉にしたよね?いまだに雉の鳴き声知らないわよ」
男「あぁ~大丈夫。当時のお前の泣き声はまさに雉だった」
ちなみに僕も雉の鳴き声を知らない。
幼馴染み「へーぇ。昨日のこと、忘れたの?」
男「sorry. I'm sorry.」
カワウソ「やれやれ……」
『五日目 逢魔時』
あのあと何だかんだで燕の家に行ってケーキをご馳走になった上に手作りクッキーをおみやげにもらった。
アラヤと幼馴染みは燕の家に泊まることになったようだった。
いろいろ大丈夫なのだろうか。
なので燕の家を出たあと、カワウソと別れた。
そこからダラダラと歩いてようやく家の近所にいた。
財布を持っていなかったのでバスにも乗れなかったのだ。
そういえばアラヤの家に着替えた服を忘れてきた。
男「やれやれ……」
ラノベの主人公にでもなった気分だ。
かつて結婚の約束をした相手と再会とか、ラッキー?スケベとか。
そのうち難聴になったりほんとに世界を救う展開になったりするのか?
男「仕方ない…。いつか世界を救ってやるよ!」
五日でせかいを救えたんだ。なんとかなるだろ。
ま、そんな状況があったら、の話だ。
安心しろ。あるわけねぇ。
この世界には。
なんの不思議もない曲がり角。
アラヤと運命の再会をした場所だ。
あのときはこんな展開が待っているなんて思わなかった。
人の想像できることは…って言うけど僕は想像すらしていなかった。
僕は角を曲がる。
「あっ……お久しぶりですね」
僕が曲がった先にいたのは
男「は……?」
「私は貴方の…親友です」
男「…親友…?」
「忘れてしまいましたか?」
顔に向かって手を伸ばしてきたので僕は思わずその手を叩いた。
「……すいません」
男「いや、あの…すいません」
暫くの沈黙。
「では。またいつか」
そう言い残して去っていった。
ひとつ言えることがある。
僕の親友って言ってたが……
僕は彼女を知らない。
あれは誰だったんだ?
あんなザ・お嬢様みたいな人と関わった記憶はない。
また僕が忘れているのか?
僕は、言われれば気づく、言われなければ気にしない程度の記憶力だ。
親友……、僕の生きてきた中でそう呼べる人はいなかったはず。
アラヤとカワウソと幼馴染みはあくまでとても仲のいい友人だ。
…またいつか会うことがあるのか?
男「おいおい……」
僕の灰色の生活は誰かの手によって少しだけ色づけされたようだ。
でも1つだけはっきりと言えることがある。
この世界には勇者も魔王も宇宙人も超能力者も未来人も異世界人も妖怪も怪異も仮面ライダーもハンターも黄色いネズミもいない。
無理やり奉仕部に入れられることも、
わたし、きになります!なんていう女もいない。
サッカーで火の玉はでないし、
変な立ち方をする必要もない。
竜の巣もないし、
SMAPは解散した。
幻想はぶち壊される!あ、これはその通りだ。
これがリアリティーあふれる現実ってやつだ。
男「やれやれ……」
また明日から月曜日。
一週間の始まり始まり。
残念なことに僕の物語はまだ始まったばかりだった。
3週間後、そんな僕の物語は動き出す。
いや、僕が気がついたのが3週間後ってだけで、物語は今現在もゆっくり動いているのかも知れない。
憂鬱で退屈で溜め息が出るような日々は消失した。
そしてある人は暴走し、ある日と動揺し、ある人は憤慨する。
心は分裂しそうになり、その先には驚愕が待っている。
さらにはーーー……
To be continued
期待してる
これは名作
乙でした
なんだこれ
>>3で急に出川になって吹いたけど追い付いたときにはそんなこと忘れてた
続きをたのむ……
このお話は続くんだよな?
とても面白かったから書いてくれ
ラノベ意識した感じの文章だな
だいぶ滑ってるぞ
ラノベってこんな文体なのか
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