〇5月14日

―朝―

朝のラッシュ。電車の中は満員だ。

俺は人混みが嫌いだ。

いや、苦手と言った方がいいかもしれない。

俺の前のサラリーマンが必死で身を縮めている。

隣の女子大生の長い髪が、学ランの肩にかかる。

あぁ。ウザいな。

何より身近に“色”が溢れすぎている。

気分を紛らわせるために、お気に入りの曲を聞こう。

俺はポケットからイヤホンを取り出し耳に当てがう。

～♪～♪♪

やっぱこれだな…いい感じだ。

俺はそっと目を閉じる。学校の最寄り駅まではまだもう少しかかる。

少し仮眠をとるか。

もちろん立ったままだから熟睡はむりだけど…。

少なくとも、何も見なくて済むしな。

…学園前～…学園前でございます…

少年｢ふあ～ぁ。…着いたか。｣

電車のドアが開くと同時に様々な“色”の群れに押され、駅のホームへと降りた。

少年(白、赤、白、紫、水色…あ、あの人は灰色か。珍しいな。)

ホームから改札に向かう途中で肩に軽い衝撃が伝わってきた。

…誰かかに後ろからぶつかられたらしい。

大学生｢ふらふら歩いてんじゃねぇ！気ぃつけろや！！｣

少年｢あぁｯ？あんたこそ…｣

少年は自分に罵声を浴びせてくる人物に対して振り返る。

少年｢…！…あ、あぁ…｣

その人物のを見た少年の顔は青ざめていく。

大学生｢何？お前。ビビってんの？｣

少年｢…あんたの方こそ、気を付けろよ。｣

大学生｢はぁ！？何調子乗ってんだ！…あ…おい！…待てよ！逃げんのか！？｣

大学生は少年に向けて罵声を浴びせ続けるが少年は早足で改札口へ向かった。

朝っぱらから嫌な気分になった。

さっき難癖をつけられたことが原因じゃない。

久し振りに“あれ”を見てしまったからだ。

少年(さっきのヤツは確かに“黒”だった。)

少年は恐る恐る背後を確認した。

遥か後方には駅のロータリーと、その隅のベンチに座りながら携帯を操作している先程の男の姿があった。

同時にその男に一直先に向かって行く乗用車も見えてしまった。

少年｢…。｣

少年は目を瞑って顔を背けた。

そのまま後ろを見ることなく、彼は視界を正面に戻した。

背後から断片的に聞こえてくる悲鳴からして、あの男がどうなったか想像するのは簡単だ。

少年｢だから…“気を付けろ”って言ったのに。｣ﾎﾞｿｯ

少年(まったく…本当に嫌なものを見てしまった。)

忠告はしたんだけどな…。

…まぁ“黒”いやつは、もうどうしようもないからな…

…どうしようも…

俺の名前は少年。

17歳、高校二年生。

都内の公立高校に通っている。

趣味は寝ること。

夢は…あったかもしんないけど忘れた。

あと特技というか…
いつごろからか、変な“色”が見えるようになった。

頭おかしいんじゃないかって？

最初は俺も頭がイカレたのかと思ったけど、どうやらそうじゃないらしい。

病院で精密検査を受けたが俺は目も脳も何ら異常はないらしい。

まったく…わけわかんねぇよな。

で、さっきの“色”が見えるって話にもどるけど…

俺は“色”が見える代わりに人が見えない。

景色は普通に見えるんだけど、
人物は全て何らかの色の付いたシルエットにしか見えない。

まぁ、シルエットの輪郭はその塗り潰された色からほんの少しだけハミ出てる感じだ。

だから俺は、少しハミでた髪型とか肩幅、あと声でそいつが誰かを判断している。

どいつもこいつも顔なんて見えやしない…。

人間が“色つきのシルエット”としてしか見えなくなってからは人付き合いが億劫になったんだ。

今話した事に加えて顔が見えないから相手の目の位置も当然見えないわけで…。

会話中に相手と視線が合わせられない。

それを不審に思われなくするために、俺は前髪は常に目を隠すくらいまで伸ばしている。

鬱陶しいことこの上ないがこの方が気が楽なんだ…

そこはかとなく厨二病

また話が逸れたな。

この“色”についてなんだが…。

人それぞれにシルエットの色が違う。

あとその時の気分なんかでも変わったりするみたいだ。

その日のうちにコロコロ色が変わるヤツもいれば、喜怒哀楽によって変わらないヤツもいたりする。

ちなみにある人物のシルエットが赤色だからといって怒っている訳ではないし、

青色になったからと言って落ち込んでいるとも限らない。

とどのつまり、その人物のシルエットが何色であるかはあまり意味がないかもしれない。

…ある一色を除いていは。

見たこと有るような設定だけど良いよねこういうの

まんまテンクロスのcolorsじゃねぇか

…黒色。

シルエットが黒一色で塗り潰されたヤツは…。

遠かれ早かれ…確実に死ぬ。

さっきの人は事故死だったけど、死に至る道はひとそれぞれだ。

突然死や自殺のケースもあった。

今まで、黒くなってしまった人を見掛けたら忠告してきたけど全部ダメだった。

中三の時、クラスメイトの一人が黒くなった。

だから必死で毎日忠告したけど…三日後、部活中に突然胸を押さえて、倒れこんで…死んでしまった。