【能力バトル】天国の墓場 (11)
天国と地獄について正しい認識をしている人は少ない。
『生前良いことをすると天国へ行き、悪いことをすると地獄へ行く』。
ほとんどの人はこんな考えだろう。
だが実際は、『天国で死ぬと地獄へ行く』。
殺人鬼だろうが聖人だろうが、死んだらとりあえず全員天国行きだ。
善人は見事に期待を裏切られ、悪人はマル得だ。
生者が天国をどう思い描こうが神にすがろうが、世の中所詮こんなもんである。
また、天国は雲の上にある綺麗な楽園……はない。
地面はしっかり整備されたアスファルトで、路地裏もファミレスも自動販売機もある。
何度も言うが世の中所詮こんなもんである。
天国のきらびやかな景色は恐らく、色街のネオンだ。
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何だ、それなら生きてても死んでても変わらないじゃないか。
確かにそうだ、この世で死ぬと同時にあの世で人生リスタートと思ってもらって構わない。
姿だけ、『何歳の自分の姿』かを設定できるくらいだ。
歳は取らないから、老衰で死ぬ事はない。
そう考えると現世より少しばかり生きやすいか。
だが、悪人ものさばり放題という訳にはいかない。
2010年の統計資料では、天国での死因の第一位は殺害、二位は処刑である。
悪人は単純に裁かれる。
皆が知ってる『天使』たちが悪人を裁く。
いちいち神さまが裁いていたらきりがない。神さまも書類作ったり会議出たり、色々忙しいのだ。
天使は前任者が死亡すると、天国の住人の中から、前任者の遺言による推薦で選ばれる。
「あー斉藤、今日からお前天使な」
「マジっすか」
そして今日、めでたいことに新たな天使が一人誕生した。
上司「よかったな、喰いっぱぐれはないぞ」
斉藤「でも天使って犯罪者に殺されて死ぬじゃないですか」
上司「そりゃそうだが。前任者が死んだって事はそういう事だ」
斉藤「僕畳の上で死にたいんです、できれば」
上司「いや天国にそういうのないから。残念」
上司「それに天使になったら『裁き』つって殺人が容認されるだろ? お前が毛虫の如く嫌ってる犯罪者、全員殺せるぞ、やったな」
斉藤「人殺すのとか絶対だめですよ!犯罪者としても!」
上司「現世の考えから抜け出せてないなー、お前つかまえて東国でもしてみろ、殺人鬼なんか税金で飼う馬鹿もないぞ」
斉藤「でも……」
上司「とりあえず会社辞める手続きと、大天使様に会ってこい。きっと楽しいぞ天使は」
斉藤「指名されたら強制就任なんて誰が決めたんだろう……行ってきます……」
期待
大天使が暮らし、執務を行う大聖堂は、馬鹿でかい教会の形をしている。
斉藤くんの住んでいる場所からは駅で8つほど離れていた。
ミカエル「待っていたよ、善人」
斉藤「あの、大天使ミカエル様……ですか?」
ミカエル「はは、そう構えなくていい。新任の天使には毎回、こう言う事にしてるのさ。善人程強い天使になるからね」
斉藤「その僕、天使の事とか全然分かんないし、19で事故で死んだから人生経験とかも全然」
ミカエル「気にすることはない、最初はみんな何も知らないんだ」
ミカエルは小柄な女性だった。
性を感じさせない控えめな胸元に、大天使のみが付けることを許可されている三枚羽のブローチがあった。
綺麗なブロンドの髪は色あせることなく、射抜くような眼光に整った鼻筋は、エルフや妖精を彷彿とさせる。
一般人はほとんど彼女の姿を知らないだろう。
大天使たる彼女を見ることがあるとすれば、それは大惨事の起こりを意味する。
ミカエル「こっちへおいで。天使になるって事がどういう事か説明しよう」
ミカエルはそう言って歩き出した。
斉藤くんもトコトコその後をついていく。
斉藤「……しかし、何だかここは『天国っぽい』ですね。花があちこちに咲いてたり、鳥がさえずってたり」
ミカエル「君もそう思うかい?来た人は皆そう言う」
警備を厳重にしてある分、ここには本当の善人しか入れない。
だから、善人好みの景色を保っている。
天国の象徴たる場所なんだよ、ここは。
ミカエルは微笑んだ。
ミカエル「着いた。ここで洗礼を行う」
斉藤「うわッ……!」
ミカエル「ふふ、口が開いているぞ」
心地の良い雑木林を抜けると、そこは大きな大きな湖だった。
斉藤「水が宝石みたいだ……」
ミカエル「澄んでいるだろう。さ、この中に身体半分まで浸かって」
斉藤「えっ」
斉藤が驚いている間に、ミカエルはざぶざぶと湖の中に入ってしまった。
ローブの様な白い服が水を吸って、赤い下着が透けて見える。
さすがに性を意識せざるを得ず、斉藤は生唾を飲む。
斉藤「なっなっ何するんですかこれ?!」
ミカエル「洗礼だと言っただろう。君に今から、悪を打ち倒す能力を授ける」
斉藤「のぉっっ!」
驚いた拍子につんのめって、斉藤は頭から水の中に突っ込んだ。
周りにいた魚が逃げる姿がぼやけて見える。
さぶりと起き上がり、一言。
斉藤「能力ですかぁああっ?!」
ミカエル「そうとも」
ミカエルの胸にはやはり、赤いブラジャーがつけられていた。
せめて隠すとか恥ずかしがるとかしてほしいものだが。
斉藤くんは出来るだけ目を逸らすよう努力した。
ミカエル「はは、良い顔になったな。少しは緊張もほぐれたか?」
斉藤「は、はあ」
気恥ずかしさと動揺とで斉藤はどもった。
ミカエルは優しく右手を彼の頭上に乗せる。
ミカエル「目を瞑って」
斉藤「はい」
ミカエル「大きく息を吸って……吐いて……ゆっくり私の掌から、君の中に力が流れ込んでいく……。その力は君の愛する者を守れる……君を傷つける者を打ち倒せる……。何でもいい、何でもいいから、どんな小さなことでもいいから、『想い出』を呼び起こせ……。そうだな、嬉しかったことが増えるように、悲しかったことが減るように想像しろ……。よし、では一度頭を真っ白にして、……3、2、1……『創造せよ』」
再び目を開けると、ミカエルがにっこり微笑んでいた。
ミカエル「良い能力だ。大切にするといい」
斉藤「こ、これが能力……?」
斉藤の右肩には、灰色の猫が乗っかっていた。
ミカエル「能力名は?」
猫「『19号』ニャ、ブロンドの君」
ミカエル「! 驚いたね、喋る能力なんて初めてだ」
猫「我輩も他には知らないのニャ」
斉藤「……」
こう、手から炎が出るとか地面を凍らせるとか、色々。
斉藤は激しく困惑した。
猫「で、このひ弱そうな青年が我輩の相棒かニャ?」
ミカエル「そういう事になる」
猫「じゃ、君は今日から我輩の生徒ニャ。我輩の事は先生と呼ぶように!」
斉藤「へ?」
猫「ブロンドの君、お借りしてもいいかニャ?」
ミカエル「ああ、今日しなきゃいけないことは終わった。後で資料を送っておくから、目を通しておいてくれ。それに、能力との対話は重要だからね。私はこれで失礼するよ」
斉藤「えっ、あのっ!」
ミカエル「ではまた、『19号』」
猫「またニャー、ブロンドの君」
斉藤「本当に行ってしまった……」
まず、帰り道を探さなければ。
斉藤「ねえ」
猫「……」
斉藤「ねえってば」
猫「……」
斉藤「先生!」
猫「何かニャ」
斉藤「僕帰り道知らないんだけど!」
猫「天使の機能がいくつかあるニャろ。飛んで帰ればいいのニャ」
斉藤「飛ぶ?」
猫「翼」
斉藤「……僕、翼出せるようになったの?」
猫「天使になったからニャ」
続きはよ
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