海未「歌が盗まれた!?」シャロ「た、多分……」 (197)
海未にこ。
ミルキィホームズのシャロが出てきたりする。
それでもいいよという方は見てやってください。
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◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
──プロローグ──
いつか気付いてくれると思ってた。
あの子が一人になって。
夢は叶わないモノだと理解して。
そうしたらまた、やり直せると思ってた。
────けれど。
あの子は辞めなかった。
一人ぼっちでも。
ずっと一人ぼっちでも。
ずっとずっと一人ぼっちでも。
……辞めなかった。
そうやって頑固で不器用で一途なところが好き。
私も待った。
頑固で。
不器用で。
一途に。
私も一人だった。
けれどいつしか、私だけが一人になっていた。
恥ずかしそうにそっぽを向くあなた。
嫌そうな顔をするあなた。
とびきりの笑顔を浮かべるあなた。
……。
知ってるよ。
私は知っている。
今のあなたはとっても嬉しいんだって。
だって、私と居る時は、そんな顔しなかったもの。
…………どうして。
どうしてあなたの隣にいるのが私じゃないの?
どうしてそんなに楽しそうなの?
どうして?
どうして、私じゃないの?
あなたは私のモノになるはずだったのに。
私と一緒に笑い合うはずだったのに。
もう、私のところに戻ってきてはくれないのかな?
────だったら、仕方ないね。
もう、盗んでしまおう。
あなたが持っているモノ全部。
あなたの好きなモノ全部。
今の私ならそれが出来る。
そうしたらきっと気付く。
あなたが大切にしなきゃいけないモノ。
九人の歌の女神、か。
────素敵な名前だね。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
──海未の部屋──
海未「明日も、練習を……と」カキカキ
海未「…………ふうっ」パタンッ
海未(──今日も一日お疲れ様でした)
海未(しかし、この日記……誰かに見られたら生きてはいけませんね)
海未(……私が女性を好きで)
海未(しかも想い人がμ'sのメンバーの中にいるなんて)
海未(……希だったら相談に乗ってくれますかね?)
海未「なーんて。…………はぁ」ハァッ
海未(今日はもう遅いです)
海未(そろそろ寝ましょう……)ガタッ
海未「……おや?」
海未(ベッドの中央が膨らんでいます)
海未(テニスボールくらいの大きさでしょうか?)
海未「はて?」
海未(ぬいぐるみ? ことりにもらったお人形?)
海未(こんなところに置きましたっけ?)
海未(いや……)クルッ
海未(お人形は机の上ですね)ジーッ
海未「……では?」
海未(いったいなんでしょうか?)
ばさっ。
シャロ「……ぐーっ、すぅー……」zzz
海未「……は?」
海未(ななななな、なんですかコレは!?)
海未「ね、寝てる?」
シャロ「んー、もー食べられません……」zzz
海未「人間? いや、人間がこんなに小さいはずありません」
海未「それにこの可愛らしい容姿……妖精さん、でしょうか?」
シャロ「……んっ。んーっ」ゴシゴシッ
海未「────っ!」
海未(起きた!?)
シャロ「ここ、どこですかぁ?」ムクッ
海未(喋った!? やはり妖精さん!?)
シャロ「……お腹空きました」
海未(ど、どどどど! どうしたらっ!?)
シャロ「かまぼこ……」
海未「え?」
シャロ「かまぼこたべたいですぅ……」
海未(た、たしか冷蔵庫に今日の残りがあったはずです)
海未「ちょ、ちょっと待っていて下さい!」ダッ
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
シャロ「いただきまーす!」
海未「ど、どうぞ」ドキドキッ
シャロ「おっきぃかまぼこですー」パァァ
海未「ゆ、ゆっくり食べて下さいねっ」ニコッ
シャロ「はいですーっ!」モグモグッ
シャロ「おいしーですーっ」キラキラッ
海未(…………可愛い)
シャロ「ふぅー、ご馳走さまですーっ」
海未「お、お腹空いてたんですね」
シャロ「いやー、もう少しで行倒れるところでした」
シャロ「優しいお姉さん、ありがとうございますっ」ニコッ
海未「い、いえ」
シャロ「ご挨拶が遅れましたっ! 私はシャーロック・シェリンフォードと申します」ペコッ
海未「シャーロック……?」
シャロ「はい!」ニコニコ
海未「あ、申し遅れました。私、園田 海未と申します」ペコッ
シャロ「海未さん! よろしくお願いします」ニコッ
海未「あ、あの」オズオズ
海未「シャーロックは、どこから来たのですか?」
シャロ「ホームズ探偵学院からです!」ビシッ
海未(それ、どこです?)
海未「あの、シャーロックは妖精さんなのですか?」
シャロ「そうです! 私は妖精で……ってなんでですかーっ」ビシッ
海未「では、どうしてそんなに小さいのです?」
シャロ「えー? やだなぁ、海未さん。私が小さいんじゃなくて海未さんが……」
シャロ「……あ、あれ?」キョロキョロ
シャロ「私……小さい?」
海未「……」コクン
シャロ「がーん」
シャロ「……はっ! もしかしてなんらかのトイズの力で!?」
海未「トイズ?」キョトン
シャロ「え? 知らないんですか?」キョトン
海未「残念ながら」
シャロ「そうですか……」
シャロ「……じゃ、じゃあ見せてあげます!」
シャロ「あのお皿ですっ!」
海未「お皿? ああ、かまぼこの」
シャロ「ふふんっ♪ よーく見てて下さいねっ!」ドヤァ
海未(……可愛い)
シャロ「はぁぁぁーっ!」スッ
お皿「……」
海未「……」
シャロ「はぁぁぁーっ!」ワナワナ
お皿「……」
海未「……」
シャロ「はぁぁぁぁぁぁーっ!」
お皿「……」
海未「……なにも起きませんね」
シャロ「うぅっ、おかしいですーっ!」
シャロ「私のトイズ……消えてしまったんですかー?」シュン
海未「げ、元気を出してください」ナデナデ
シャロ「……えへへっ♪ 気持ちいいですぅー♪」ニコニコ
海未「ふふっ♪」ニコニコ
海未(それにしてもこの子……)
海未(なんだか他人の気がしませんね)
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◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
──乙女の日記帳──
今日、私は部活に入りました。
アイドル研究部。
三年生のにこ先輩が一人で守り続けていた部活です。
μ'sのメンバーも七人となり、とっても賑やかです。
これからみんなと一緒に部活としてアイ活が出来るなんて……。
想像したら楽しくなってきました。
いつになく私の心は弾んでいて。
自然と笑みが溢れちゃってるかも。
だって、思い出しただけでもおかしいんですもん。
にこ先輩のあの特訓。
まさか、『にっこにっこにー』なんて大きな声を屋上で出すなんて……。
くすくすっ♪
にこ先輩のアイドルへの想いはとっても強いんです。
…………やっぱり、私変です。
今日のことを思い出すとにこにこしちゃう。
なんだろう?
これからみんなと素晴らしい毎日がはじまりそうな、
そんな予感がするような。
なんというか……。
そうです!
『にっこにっこにー』なんですっ!
私もにこ先輩みたいに決め台詞があったほうがアイドルらしいでしょうか?
うっみうっみうー☆
なんて。
……あんまり可愛くないですね。
可愛くてアイドルらしいにこ先輩と、
武道が得意な私。
まるで似つかわしくないのですから、当然ですよね。
でも、穂乃果とことりに言われて、考えてしまいました。
私とにこ先輩は少し似ているのかもしれません。
幼い頃の私の行動と。
にこ先輩の行動。
同じような行動を取ってしまうなんて。
子供の行動と高校生の行動を比較するのはちょっと違うかもしれませんが。
けど、なんとなく。
にこ先輩は自分の感情を表に出すのが苦手な人だと思うのです。
きっと誰かのために頑張り過ぎちゃうような人だと思うのです。
そんな、ちょっとだけ自分と似ている気がする、可愛らしい先輩と。
明日も楽しく過ごせればいいな。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
──お昼休み、屋上──
海未「はい、かまぼこですよっ」ニコッ
シャロ「ありがとうございますーっ♪」ニコッ
シャロ「……」モグモグッ
シャロ「はぁ、最高ですぅー」ニコニコ
海未「ふふっ♪」ニコニコ
海未(あれから、シャーロックのことを色々と教えて頂きました)
海未(他にお友達が三人いて探偵をしていること)
海未(トイズという特殊能力のこと)
海未(追いかけている怪盗がいて)
海未(その途中で気が付いたら私の部屋にいたこと)
シャロ「海未さん、もう一個食べたいです」
海未「どうぞっ」
海未(……彼女は『私たちがいるこの世界とは別の世界から来た』のでしょう)
海未(そんな非現実なこと、と否定したい気持ちはあるのですが)
海未(……こんなにも小さい人間って見たことないですし)
シャロ「……」モグモグッ
シャロ「うーん、おいしいですーっ♪」
海未(こんな身体でも本人は至って健康)
海未(…………ただ一つ)
海未(記憶に欠落があることを除いて、ですが)
海未「…………」モグモグッ
海未(本人にも聞いてみましたが)
海未(元の世界に戻る方法もわからないようで)
海未(…………しばらくは私が面倒を見るしかないですよね)
海未(ふふっ♪ 手の掛かる妹が出来たみたいでちょっと嬉しいです)ニコニコ
シャロ「どうしたんです? にこにこして」モグモグッ
海未「い、いえ、なんでも///」
海未(…………みんなには説明したほうが良いのでしょうか?)
海未(いつもブレザーのポケット、というのも可哀想な気が……)
海未「うーん……」
ガチャッ。
にこ「────海未? 一人なんて珍しいわね」
海未「にこ?」
海未(れ、練習着? い、いやそれよりも──)
がしっ!
シャロ「むぎゅっ!」
ズボッ!
海未(……こ、これでよし)
シャロ「うぅ、痛いですぅ」ボソボソッ
海未「す、すみません、ちょっとじっとしていてください」ヒソヒソッ
海未「あなたの姿を見せたら驚いてしまうかもしれないので……」ヒソヒソッ
シャロ「た、たしかに。わかりましたぁ」ニコッ
にこ「なに? なにをぼそぼそいってるのよ」ヒョコッ
海未「い、いえなんでも……それよりどうしたんです? そんな格好で」
にこ「ちょっと、ね」フィッ
海未「もしかして、朝練でうまくいかなかったソロパートを……」
にこ「なっ! ちゃんとうまく行ったわよ! ただ……」
海未「ただ?」キョトン
にこ「……納得が、いかなかっただけよ」ブスー
海未「ふふっ♪ そういうことにしておきましょうか」クスクスッ
にこ「え、絵里とあんたが指導してくれなかったからでしょっ!」ジトーッ
海未「いえ、ちゃんと見てましたよ。問題無しです!」ドヤァ
にこ「どこがよ! 自分でもステップがズレたってわかったわよ!」ウガー!
海未「…………最近のにこは少し頑張りすぎですから」ウツムキ
にこ「……なによ、それ」
海未「疲れている時は思い通りの動きが出来ないモノですよ」
海未「家事、大変なんですよね?」ニコッ
にこ「ぐっ!」
海未「それにオーバーワークは体を壊してしまいますから」
海未「少し、休んで欲しかったのです」ニコッ
にこ「ぐぬぬっ」
海未「だからお昼休みくらい、ゆっくりして下さい」ニコッ
海未「しっかり休んで、放課後に備えて欲しいですっ」
にこ「ふっふっふっ! その点は抜かりないわ!」ニコッ
海未「……と言うと?」
にこ「このにこにーにこちゃんには秘策があるにこっ!」ブイッ!
海未「…………まさか授業中、寝てるなんてこと、ないですよね?」ニコニコ
にこ「えっ!?」ビクッ
海未「もし、そうだとしたら……」ニコニコ
にこ「なっ、なななっ! ないわよっ! なに言ってるの? あるわけないじゃない!」アセアセ
海未「……なら、いいですけど」キリッ
にこ「う、海未ちゃん! 可愛い顔が台無しにこよっ?」ニコッ
にこ「ほら、笑って? にっこにっこにー☆」ニコニーポーズ
海未「はぁ……にこ、学生の本分は勉強です、それを疎かにしては──」
にこ「わ、わかった! わかったから! 」
にこ「っていうか、にこよりあんたの方が休んだ方が良いわよ?」
海未「へ?」キョトン
にこ「寝不足なんでしょ? 目にクマが出来てるわよ」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
──放課後、二年生教室──
海未「うーん、確かに言われて見ると……」ジーッ
ことり「鏡と睨めっこなんて珍しいね。どうかしたの?」
海未「い、いえ! 別に……」アセアセ
穂乃果「自分の顔、綺麗だなって見てたの?」
海未「違います」プイッ
穂乃果「うーみーちゃーん! じょうだんじゃーんっ!」ダキッ!
海未「抱きつかないで下さいっ///」
穂乃果「許してよぉ〜!」ギュッ!
海未「わかりました! わかりましたから一回離れて下さいっ!」グイッ
穂乃果「じゃあ、ことりちゃんぎゅーっ!」ギュッ
ことり「あははっ♪ くすぐったいよぉっ♪」ニコニコ
穂乃果「それで、どうしたの?」
海未「いえ、にこに言われてしまいまして」
ことり「にこちゃんに?」キョトン
海未「寝不足で、クマが出来てると……」
ことほの『……クマ』
海未「確かにちょっとは出来てるような気がしますが、目立ってないですよね?」
ことほの『……』
海未「うぅ、疲れた顔を見せてしまったのでしょうか?」
海未「ことりはどう思いますか? やっぱり私、疲れた顔をしてますか?」クワッ!
ことり「そ、そんなことないと思うよ!」
穂乃果「う、うんうん!」
ことほの((どちらかといえば恐い顔をしてるよ))
海未「そ、そうですよね! まったくにこは負けず嫌いなんですからっ!」
海未「私よりにこの方が疲れてるに決まっています!」フンッ
穂乃果「な、なんの勝負をしてるんだろう」ヒソヒソッ
ことり「にこちゃんには見せたくない顔だったんだねっ♪」クスクスッ
海未「なにかいいましたか?」
ことり「────きっとね、にこちゃんは心配なんだよ」
海未「心配?」
ことり「お稽古もアイ活も勉強も……」
ことり「なーんでも頑張っちゃう海未ちゃんだもんっ♪」
海未「い、いえ! 私なんてまだまだで……」
ことり「今朝、練習が終わった後、聞かれたの」
ことり「海未ちゃんの体のキレが良くない、なにかあったのかなって」ニコニコ
海未「に、にこにですか?」アワアワ
穂乃果「そうそう! それでちょっと寝不足みたいって教えてあげたんだよっ!」
ことり「だからきっと、にこちゃんにはクマが強調されて見えたんじゃないかな?」ニコニコ
海未「そ、そうだったのですか」
海未「にこが私の心配を……」パァァ
ことり「乙女だなぁ」クスクスッ
穂乃果「乙女?」
海未「はっ! な、なにを喜んでいるのですか園田 海未!///」バンッ!
海未「部長が部員の心配をするのは当然のことです!///」
海未「当たり前のことなのですから!」バンッ!
ことり「ふふっ♪ そういうことにしておきますっ♪」ニコッ
穂乃果「海未ちゃんのお悩み、解決した?」
海未「……ええ。ありがとうございます」コクリ
海未「練習、行きましょうか?」ガタッ
ことほの『うんっ♪』
シャロ「海未さーん」ヒョコッ
シャロ「次はどこに行くんですか?」ヒソヒソッ
海未「音楽室です。ポケットの中で大丈夫ですか?」
シャロ「大丈夫ですっ! 潜入捜査みたいでワクワクしますっ♪」
海未「よかったっ♪ なにかあったら言ってくださいね」ニコッ
穂乃果「うーみーちゃーん? 早く行くよー?」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
──音楽室、放課後の練習──
真姫「────さん、はいっ!」ポロンッ♪
μ's『あー♪ あー♪ あー♪ あー♪ あーっ♪』
真姫「もう一度っ!」ポロンッ♪
μ's『あー♪ あー♪ あー♪ あー♪ あーっ♪』
真姫「ふふっ♪ いいじゃないっ♪」ニコッ
にこ「当然でしょ?」フンッ
シャロ(綺麗な声ですーっ)ニコニコ
海未(にこ、調子良さそう。素敵な歌声ですっ♪)
ことり「にこちゃん、調子良さそうだねっ♪」ヒソヒソッ
海未「そ、そうですね///」ヒソヒソッ
真姫「じゃあみんなで出だしから行くわよー」
μ's『はいっ!』
真姫「いちにのさん、はいっ!」ポロンッ♪
μ's『さぁ、げんきなかーおでー♪』
μ's『どーこへいこー♪』
μ's『いきたいと♪ おもうとーころへ♪』
シャロ(────あ、あれ?)
「……」ジーッ
シャロ(外に人?)
「…………」キラッ!
シャロ(────っ!)
キィンッ!
びゅおぉぉぉぉおおっ!
バサバサバサッ!
真姫「きゃっ! 楽譜がっ!」
絵里「か、風!?」
「……」スッ
海未「────っ!」
海未(窓の近くに人影!?)
海未「……」ゴシゴシッ
海未「……」ジッ
凛「海未ちゃん? どうしたの?」キョトン
海未「い、いえなんでもありません」
海未(……気のせい、ですよね)
にこ「凄い風だったわ……」
希「真姫ちゃん、楽譜集めたよっ!」ニコッ
花陽「これで全部かな?」
真姫「あ、ありがとう」ニコッ
穂乃果「ことりちゃん、髪に葉っぱが……」ヒョイッ
ことり「あっ♪ 穂乃果ちゃんもっ♪」ヒョイッ
にこ「さっ! 気を取り直して行くわよっ!」
真姫「いちにのさん、はいっ!」ポロンッ♪
海未「さぁ、げんきなかーおでー♪」
μ's『…………』
海未「どーこへいこー♪」
μ's『…………』
海未「って、みんな歌って下さいよっ!///」カァーッ
穂乃果「わ、わかってるんだけど……」オロオロ
ことり「あ、あれ……?」キョトン
海未「真姫もっ! どうして伴奏を────」
真姫「……う、うそ?」フルフル
海未「真姫?」キョトン
凛「うーん、おかしいにゃ」ウーン
花陽「ここまで出掛かってるんだけど」シュン
海未「み、みんな? まさか本当に!?」
絵里「歌え、ない?」
希「これは……スピリチュアルやね」
にこ「…………『歌』を、忘れちゃった?」キョトン
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
──夕方、海未ちゃんの部屋──
海未「歌が盗まれた!?」
シャロ「た、多分……」
海未「ど、どういうことですか!?」クワッ!
シャロ「あーうーっ! 恐い顔はやめてくださいーっ!」ビクビクッ
海未「歌が盗まれるなんてそんなこと……っ!」
シャロ「おそらくなんらかのトイズによるモノだと思います」
海未「トイズ、ですか」
シャロ「……」コクン
海未「いまいちピンときませんね」
海未(トイズ。シャーロックの世界に存在する超能力)
海未(にわかには信じられませんが……)
海未(『歌を盗む』)
海未(もし、それが本当なら……)
海未(でも)
海未(────一体、誰が?)
シャロ「行きましょう海未さん!」グッ!
海未「ど、どこへですか!?」
シャロ「犯人は必ず犯行現場に戻る……」
シャロ「ミステリーのお約束ですっ!」クワッ!
海未「え、え!?」オロオロ
海未「まさか、音楽室ですか!?」
シャロ「はい! 謎を追いかけてこその探偵ですからっ!」
シャロ「ミルキィホームズ出動ですっ!」グッ!
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
──音楽室──
シャロ「──あの窓の近くに人がいたんです」ビシッ
シャロ「窓の近くを調べてみましょう」
海未「あなたも見えたのですか……」
シャロ「ってことは海未さんも?」
海未「ええ、ですがそんなことはありえないんです」
シャロ「ありえない?」
海未「だって、ここ……何階だと思ってるんですか?」
シャロ「窓に近づいてくれませんか?」
海未「いいですが……」トコトコ
シャロ「うーん、なるほど」ヒョコッ
シャロ「確かにこの高さに人がいるなんて……」
海未「気のせいだったのでは……」
シャロ「と、とりあえず調査です」
シャロ「……んー」ジーッ
海未「……」キョロキョロ
シャロ「…………なにも、ありませんね」
海未「私たち、二人揃って幻でもみたのでは?」
シャロ「逆ですっ!」キリッ
海未「え!?」ビクッ
シャロ「現場の状況から確信しました」フフンッ
シャロ「ズバリ、これは怪盗の仕業ですっ!」
海未「か、怪盗!?」
シャロ「間違いありません」ニヤリ
海未「で、では私たちが見た、あの人影が怪盗ですか?」
シャロ「はいっ!」グッ!
シャロ「怪盗は探偵や警察から逃げるために体のあちこちに色々仕込んでるんです!」
シャロ「空だって飛べちゃうんです!」
海未「そんな非現実的なこと……」
海未「あっ」
シャロ「……どうしました?」キョトン
海未「い、いえ」
海未(よく考えたら一番の非現実的存在が、目の前にいるんでした)
海未「なんでもありません」ニコッ
ガラガラッ!
にこ「──っ! 海未!?」
海未「にこ!? ど、どうしてここに?」
にこ「あ、あんたこそ何やってんのよ!」アセアセ
シャロ(矢澤……にこ、さん?)コソッ
海未「いえ! わ、私は自主練と言いますか……」
にこ「き、奇遇ね! にこも屋上で少し、ね」アハハッ
海未「そ、そうだったのですか」
にこ「そろそろ帰ろうかと思ったんだけど、さっきの練習で音楽室を借りたでしょ?」
にこ「戸締り出来てるか確認にね」ニコッ
海未「あ、ああ、そうだったんですね」アハハッ
海未「さすがにこですね」ニコニコ
にこ「でも、一足遅かったにこっ」
にこ「優等生の海未ちゃんが確認してるんだったら安心にこねっ♪」ニコッ
海未「え、ええ。ばっちりですよっ」グッ!
にこ「じゃあ、にこは帰ろうかな」
にこ「────そうだ! たまには一緒に帰りましょう? 送ってくわ」
海未「え!? そんな、悪いです!」アワアワ
海未「それなら私がにこを送りますよ!」
海未「帰り道、にこが一人になってしまいますからっ///」
にこ「にこは走って帰るからいーのっ!」
にこ「ほら、行きましょう?」グイッ
海未「ひ、引っ張らないで下さいっ!」
にこ「ほら、暴れないのっ♪」ギュッ
海未「く、くっつかないで下さいっ!///」カァーッ
にこ「あ、ごめん。汗くさかったかしら?」パッ
海未「いいいい、いえ! そんなことはまったくありません!///」
海未(むしろいい匂いがして……)
にこ「そう? じゃあ早く行きましょう」ダッ
海未「ま、まだ送って頂くとは────」
にこ「もー! 往生際が悪いわね!」
にこ「──だったら、部長命令よ!それなら文句ないでしょ?」ニコッ
海未「…………はい」ハァッ
シャロ(……矢澤 にこさん!)パァァ
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
──園田家前──
にこ「それじゃあ、また明日ね」ヒラ
海未「ま、待ってくださいっ!」
にこ「なに?」
海未「どうして、一人で練習を?」
にこ「あんたが放課後頑張れって言ったんじゃない」キョトン
海未「そ、そうですけど……」
にこ「それとも、なに? 練習するなって言うの?」ジトーッ
海未「にこ、私たちは歌が……っ!」ギュッ
にこ「────歌うだけが、アイドルじゃないわ」
海未「えっ?」キョトン
にこ「忘れたの? アイドルはみんなを笑顔にさせるのが仕事なのっ♪」ニコッ
海未「で、でも──」
にこ「歌を歌うことももちろん大切よ」
にこ「だけど、それだけじゃない」
にこ「他にもやれることはあるわっ!」
にこ「ダンスだって出来る」
にこ「ファンと握手会をするアイドルだっているし」
にこ「ブログを書いてる人もいる」
にこ「ファンのみんなを笑顔にするために出来ること、たくさんあるわよ」ニコッ
海未「にこ……」
にこ「だから、悲観的になっちゃダメよっ!」
にこ「──それに、忘れたモノはまた思い出せばいいのよっ♪」ウインクパチッ
海未「…………ふふっ♪ あなたらしいですね」ニコッ
にこ「なによそれ」クスクスッ
海未「でも、握手会とブログってなんです?」クスクスッ
海未「そんなことしたことありませんよ♪」クスクスッ
にこ「おやおやー?」ニヤニヤ
海未「な、なんですか?」タジ
にこ「あんたこの間、ファンの子に握手せがまれてたわよね?」ププッ
海未「なっ!?」
海未「──なんで知ってるんですか!?///」
にこ「えー、凛ちゃんがぁ〜、言ってたんだもーん」ニタニタ
海未(り、凛!? なんて余計なっ!)アセアセ
にこ「おっかしぃなぁ〜? 握手会なんてしたことないって〜海未ちゃんが言ったんだよぉ〜?」ニタニタ
海未「あ、あれは握手会ではなく、ただの握手ですからっ!」
にこ「ふーん。そうなんだぁ」ニコニコ
海未「それに、あの子はアイドルではなく弓道のファンで、その……///」
にこ「……」
海未「と、とにかく違うんですっ!///」ウツムキ
にこ「…………じゃあ、にこと握手しよ?」ニコッ
海未「へっ?」
────ぎゅっ。
にこ「……これで、アイドル海未ちゃんの握手第一号はにこのモノにこっ♪」ニシシッ
海未「あ、え…………//////」カァーッ
にこ「……」ニコッ
海未「に、にこ///」ウツムキ
にこ「ふふっ♪」ニコニコ
海未「わ、わわわ、わた……っ//////」カァーッ
にこ「────やっぱり、あんたってからかうと面白いわね」ニヤリ
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
──海未ちゃんの部屋──
シャロ「はぁー、かまぼこ美味しいですーっ♪」モグモグッ
海未「ふふっ♪ お待たせしてすみませんでしたねっ」ニコッ
シャロ「海未さん、なんだかご機嫌ですねっ」ニコニコ
海未「そ、そんなことはありませんよ///」
シャロ「にこさん、素敵な方ですよね」
海未「し、知りませんっ!///」
海未「あんな人のことを弄ぶような人!///」プイッ
シャロ「ホントは嬉しかったんですよねー」ニコニコ
海未「なにか?」ギロッ
シャロ「なにも」
シャロ「……にこさん、私の友達に少し似ているんですっ♪」
海未「探偵のお友達、ですか?」
シャロ「はいですっ! みんな元気にしてるかなぁー」ニコニコ
シャロ「どんな顔してたっけなーっ♪」
海未「えぇっ!? それも覚えてないのですか!?」ガーン
シャロ「も、もうちょっとで思い出しますよっ! 失礼なっ!」プンプン
海未(失礼なのはどっちですかね)
シャロ「はぁーっ♪ いますぐにでも、このかまぼこの美味しさを伝えたい気分ですーっ♪」ニコニコ
海未「そ、そうですか……」
シャロ「……」モグモグッ
海未「……怪盗、現れませんでしたね」
シャロ「うー、推理が外れました……」シュン
海未「それにしても、怪盗はなぜ私たちの歌を……」ウーン
ピピピピッ。
ピピピピッ。
海未「チャット? にこから……」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
──チャット にこと海未──
にこ: にっこにっこにー☆
海未: にっこにっこにー☆
にこ: 腕の角度がちょっと甘いわ
海未: すみません
にこ: 別に大したことじゃないの
海未: はい
にこ: ちゃんと家に帰れたから
にこ: それだけ
海未: わかりました
にこ: うん
海未: 明日もまた頑張りましょうね
にこ: うん
海未: (*^^*)
にこ: (*^^*)
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
海未「……ふふっ♪」ニコニコ
シャロ「海未さん、やっぱりご機嫌ですね」ニコニコ
海未「……っ///」カァーッ
海未「そ、そんなことより! 怪盗ですっ!」
海未「目的はなんなのでしょう……」ウーン
海未「やはりシャーロックと同じ世界から来たのでしょうか?」
シャロ「うぅーっ、わかりません」
シャロ「ですが、次に現れた時が最後です! 必ず捕まえます!」
シャロ「おじいちゃんの名にかけてっ!」グッ!
海未「お祖父様も探偵だったのですか?」
シャロ「悪い怪盗のトイズを封印したりしちゃうすごい探偵だったんです!」ニコッ
海未「と、トイズを封印?」キョトン
シャロ「はいっ! ツボにたくさん封印してました! まるでお漬物です!」
シャロ「ってなんでですかー」ビシッ
海未「ま、待ってください。トイズって個人が持つ特殊な力ですよね?」
海未「封印とかツボに入れるとかそういう風に出来るモノなのですか?」
シャロ「もちろんです!」ドヤァ
海未「ではシャーロックも出来るのですか?」ワクワク
シャロ「それは……」キリッ
海未「そ、それは?」ゴクリッ
シャロ「…………できません!」ドヤァ
海未「えぇーっ」ガクッ
シャロ「……」シュン
海未「……」ナデナデ
シャロ「……っ♪」ニコニコ
海未「さっ、今日はもう遅いです。そろそろ寝ましょう」ガタッ
シャロ「────ねえ、海未さん」
海未「はい?」
シャロ「あの、私……」ギュッ
海未「……シャーロック?」キョトン
シャロ「…………ううん、なんでもない、ですっ」ニコッ
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
──乙女の日記帳──
今日はなんと、一人でアイドルショップへ行きました!
恥ずかしくっていつもみんなにくっ付いて行くだけでしたが。
今日は違うのです!
好きな『アイドル』がいて。
その人のグッズがどうしても欲しい……。
ですが、それをメンバーのみんなに知られたらとっても恥ずかしい!
悩みに悩んだ私は決断したのです。
一人でアイドルショップへ行くと!
ちょっとコンビニに行くようなモノ。
そう自分に言い聞かせ店内へ。
うぅっ、ドキドキがとまりません。
不安定な足どりでたどり着いたのはμ'sのコーナー!
そして見つけました。
ふふっ♪
これです!
にこ先輩の缶バッチですっ!
嬉しくなって、心の中で「きゃーっ!」って叫んでしまいました。
……『あの一件』があって以来、すっかりとにこ先輩のファンになってしまった私。
でもそんなの穂乃果とことりにだって言えません。
恥ずかしくって死んでしまいます!
あの時のにこ先輩はかっこ良くて……。
王子様みたいだったんですから。
なんとか買うことができたにこ先輩のグッズ。
とっても嬉しくて、スキップしながら帰っちゃいました。
でも、ちょっとだけ残念なことも。
…………私のグッズ、置いていませんでした。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
本日はここまで。
ご覧になってくださった方、ありがとうございます。
つまんねーぞ
読んでるやで
乙女海未ちゃん
驚異のみも率
みもみも
クズさんはでますか?
コメントありがとうございます。
更新します。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
次の日。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
──登校、朝の学校──
海未「──つまり私は二つの部活に所属しているんです」トコトコ
シャロ「へーっ!」
海未「だからこうやってμ'sの練習がない時は弓道部の朝練に顔を出して……」
シャロ「あっ、 あれ?」キョトン
海未「どうしたのです?」
シャロ「あれ、にこさんじゃないですか?」
海未「えっ?」
にこ「…………っ」
女生徒「────。……」
海未「にこ? 練習がないのに、どうして?」
にこ「────っ!」
女生徒「……」クスクスッ
海未(あの女性……いや、それよりも)
にこ「…………」ウツムキ
海未(どうしてそんな顔をしてるのですか……)ギュッ
シャロ「あの人が腕に付けてるアクセサリー、なんか不気味じゃないですか?」
海未「隠れていて下さい」ツカツカ
シャロ「ふぇっ!? 海未さん!?」
海未「────にこっ!」
にこ「……あ、海未」
女生徒「……っ!」
にこ「ど、どうしたのよ、そんなに大きい声を出して?」
海未「い、いえ。作詞のことで相談したくってつい……」
女生徒「……あの」
海未「あ、ごめんなさい。お話中でしたよねっ」
海未「失礼しました」ペコッ
女生徒「あ、いーのいーの。園田 海未さん、だよね?」
海未「は、はい」
女生徒「……あなた綺麗ね」ニコッ
海未「は?」キョトン
女生徒「おまけに素直で友達思いでがんばり屋さんで……」
女生徒「それに不器用なところが誰かさんにちょっぴり似てて、私のタイプかも」ニコッ
海未「あ、えと…………」オロオロ
にこ「やめなさいよっ!」キッ!
女生徒「おー、怖い怖い。そんなんじゃまた────」スッ
海未「むっ」
海未(近いっ!)
女生徒「一人になっちゃうよ」ボソッ
にこ「────っ!」ギリッ
海未「は、離れて下さいっ!」バッ!
女生徒「あらあらっ」クスクスッ
にこ「う、海未?」
海未「そ、その! にこ先輩、体調が悪いみたいなので!」
にこ「え?」キョトン
女生徒「……へぇ」
海未「だって、こんなに辛そうなにこ先輩、見たことないです」
海未「だから、その……」ギュッ
女生徒「そうなの?」ニコニコ
にこ「…………行くわよ、海未」プイッ
海未「え? どこに?」
にこ「保健室でしょ? ちゃんと連れて行きなさいよね」ツカツカ
海未「あっ…………し、失礼します」ペコッ
海未「にこ、待ってくださいよぉ」ダッ
女生徒「…………ふふっ。あの子ったら」
女生徒「嘘、ばっかり。なんだから」ニタァ
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
──部室──
海未「にこ、先程は出過ぎたことを……」
にこ「ううん、助かったわ」ニコッ
海未「大丈夫ですか?」
にこ「平気、平気よ。あんたこそ、作詩は大丈夫なの?」
海未「それより今はにこのことです」
海未「顔色が優れません。やはり少し横になって休んだ方が──」
にこ「いつもこんな顔よ、気にしないで」
海未「……やっぱり、あの方がなにかしたのですか?」
にこ「……っ! ちがうっ、ちがうのよ」
海未「でもっ!」
にこ「にこが悪いのっ!」フィッ
海未「え?」キョトン
にこ「あの子は悪くない、悪いのは、にこなの」
海未「どういうこと、ですか?」
にこ「……」ウツムキ
海未「あの方は────」
キーンコーンカーンコーン。
海未「あっ」
にこ「時間ね。教室に行きなさい」
海未「で、でも……」
にこ「穂乃果とことりが心配するから」
海未「……」
にこ「……お願い」ギュッ
海未「わかり、ました」シュン
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
──お昼休み、生徒会室──
希「────うちらが知ってるのはにこっちとアイドルしてたこと、くらいかな」
海未「……アイドル研究部の部員の方、だったのですね」
絵里「元、ね」
希「そう、一年生の頃はにこっちと一緒にいるのよく見かけたよ」
海未「そうなんですか?」
絵里「ただ、海未の言うような感じじゃなかったわね」ウーン
海未「え?」
希「どちらかというとちょっと控えめで……」
絵里「いつもおどおどしていたような印象を受けたわ」
希「その上、アガリ症だったよね」
海未「でも、それじゃアイドルなんて────」
絵里「だから、かもね」
希「にこっちについて行けなくなったって話だけど……」
絵里「もっとも、人前に出るような性格じゃなかったわよ」
海未「……そもそも、なぜアイドル研究部に?」
海未「アイドルが好きなんでしょうか?」
絵里「ごめんね、そこまではわからないわ」
海未「そう、ですか」シュン
希「そんな暗い顔しないでっ♪」
絵里「希?」
希「うち、もう一人のアイドル研究部だった子とは仲良くして貰ってるけど」
希「その子はとってもいい子やん」
海未「そ、そうなんですか?」
希「うんっ♪」ニコッ
希「うちとえりちがμ'sに入ったこと知ったら、すっ飛んできてな」
希「にこっちのことを支えて欲しいって涙ながらにお願いされちゃったんよ」
絵里「そ、そんなことあったの?」キョトン
希「にこっちのことを一人にしてしまったこと、ずっと後悔してたんやろなぁ」アハハッ
絵里「……ハラショー!」
海未「希、その方は……」
希「ああ、そやね。その子なら何か知ってるかもしれないね」
絵里「ちょうど放課後の練習はお休みだしね」ウインクパチッ
希「うちが話を通しておくよ」グッ!
海未「ありがとうございます」ペコッ
絵里「けど海未、そんなに気になるのね」
海未「はい、なにか嫌な感じが────」
絵里「にこのことが」
海未「なっ!///」
海未「ち、違いますよっ!///」
絵里「うふふっ♪ 耳まで真っ赤ねっ!」ニコリ
希「まー、そこんとこはいつでも相談に乗るやん?」ニヒヒッ
海未「な、なな、なんでっ//////」アワアワ
絵里「あら、気付かないと思った?」クスクスッ
希「お姉さんたちはなんでもお見通しなんよ?」カードピッ!
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
──放課後、三年生教室──
海未「……」ドキドキッ
シャロ「……大丈夫、ですか?」ヒソヒソッ
海未「大丈夫です! き、緊張なんてしてませんっ!」
シャロ「めちゃくちゃ緊張してますよぉ」アハハッ
「────園田、さん?」
海未「あ、はいっ!」
三年生「ごめん、待った?」
海未「先輩が元アイドル研究部の……」
三年生「そうだよ!」
海未「あの、私────」
三年生「あ、ここじゃなんだから……」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
──公園、ベンチに座って──
三年生「ほい、飲み物っ♪」スッ
海未「あ、ありがとうございます」ペコッ
三年生「それで、話って?」
海未「不躾ですが……先輩がアイドル研究部に──」
海未「──にこ先輩と活動していた時のことを聞きたいのです」
三年生「なんだ、そんなことか。全然いいよ♪」ニコッ
海未「あ、ありがとうございますっ!」パァァ
三年生「といっても、私ついて行けなくてすぐ辞めちゃったからなぁ」アハハッ
海未「そうなんですか?」
三年生「うん」
三年生「ほら? 矢澤さんって真剣にアイドルを目指してるでしょ?」
海未「はい」
三年生「だから私も、矢澤さんみたいに頑張ればって思ったんだけど……」
三年生「気付いちゃったんだ」ハァッ
三年生「────私は絶対、アイドルになれないって」
海未「……なぜ、ですか?」
三年生「ふふっ」クスクスッ
三年生「憧れちゃったから、かな」ニコニコ
海未「憧れ、た?」キョトン
三年生「うん」
三年生「光を追いかける小さな背中に……」
海未「先輩……?」
三年生「あ、ごめん! わかりにくいよね」アハハッ
三年生「簡単に言うとさ────」
三年生「私ね、音ノ木坂のスクールアイドル『矢澤 にこ』のファンになっちゃったんだ」ニコッ
海未「……っ!」
三年生「矢澤さんみたいに一生懸命で、キラキラしたかった」
三年生「でも、その背中は日に日に遠くなっていって」
三年生「いつしか見送ることしか出来なくなっていた」
三年生「そこで私のアイドル活動は終わってしまったの」
三年生「彼女の足を引っ張るまいと退部したけど……」
三年生「……残ったのは矢澤さんを一人にしてしまった罪悪感だけだった」ウツムキ
海未「…………」ギュッ
三年生「だから、ずっと祈ってた」
三年生「いつか矢澤さんの目の前に」
三年生「本気でアイドル活動をする人が現れますようにって」
三年生「彼女と一緒に光を追いかけてくれますようにって」グスッ
三年生「……勝手、だよね」アハハッ
海未「そんなことはありません」
海未「先輩の気持ち、少しわかる気がします」
三年生「え?」
海未「私も憧れてるんです、にこ先輩に」
海未「昔から武道や日舞などをしてきた私は女の子らしいことには無頓着で……」
海未「そんな私がアイドルなんてはじめた頃は本当に嫌で嫌で……」アハハッ
三年生「どうして?」
海未「だって、似合わないんですもん」シュン
海未「短いスカートも履けなければ」
海未「にっこり笑顔で可愛いポーズも出来ない」
海未「…………不器用な私」
三年生「……いま、は?」
海未「…………」
三年生「いまは、どう思ってるの?」
海未「…………そう、ですね」
海未「いまは、楽しいです」
海未「μ'sのみんなと一緒に歌って、踊って」
海未「私なんかがって思うこともありますが……」
海未「毎日が、すごく楽しいですっ」ニコッ
三年生「……ありがとね」ボソッ
海未「へ?」
三年生「ううん、なんでもないっ」ニコッ
三年生「さて、私の話はこんなもんだよ。参考になったかな?」
海未「もし、ご存知でしたら教えて欲しいことがあるのですが」
三年生「うん? なにかな?」
海未「……もう一人の方は、どうして退部されたのですか?」
三年生「もう一人……?」
海未「当時はにこ先輩を含めて三人で活動をされていたと聞いています」
海未「先輩と、もう一人の方が退部されてしまいそれで……」
三年生「……」
海未「……先輩?」
三年生「そ、そうだね」
三年生「あれは……えと」ウーン
海未「あれは?」
三年生「…………いや、よく考えたけど知らなかったわ」アハハッ
海未「え?」
三年生「そだそだ。もともと知らなかったんだ」
海未(しらな、かった?)
三年生「もう、いいでしょ? 私、帰るね」
海未「あ、はい……」
三年生「じゃあ、またね」ヒラッ
海未「また、学校で」
三年生「……」ダッ
海未(なんでしょう。なにか……)
シャロ「────変、でしたね」ヒョコッ
海未「え、ええ」
シャロ「本当に知らなかったんですかね?」
海未「どちらかというと……」
海未「『忘れた』というほうがしっくりくる気がしますが」
シャロ「忘れちゃったんですか……? けど」
海未「…………そんなに簡単なモノじゃない、ですよね」
「────園田さん」スッ
シャロ「──っ!」ビクッ
海未「はい?」クルッ
キィンッ!
女生徒「……あら?」キョトン
シャロ(い、いまの……っ!?)
海未「先輩……」
女生徒「こんにちわっ」ニコッ
海未「ごきげんよう」ニコッ
女生徒「奇遇ね、こんなところで会うなんて」
海未「……そう、ですね」
海未(偶然、ですか? いや────)
海未「ちょうど良かったです」
海未「先輩に伺いたいことがあるのですが」
女生徒「いいわよ。なんでも聞いてね」クスクスッ
海未「……どうして、アイドル研究部を退部されたのですか?」キッ!
女生徒「直球ね、嫌いじゃないわ」クスクスッ
海未「…………」
シャロ(この人……やっぱり嫌な感じです)
女生徒「そうね、強いて言うなら『にこのため』、かしら」
海未「にこの?」
女生徒「そう。それ以上は教えられないわ」クスクスッ
海未(『にこのため』?)ギリッ
女生徒「ねぇ、あなたって特別な人?」
海未「は?」キョトン
女生徒「だから、特別な人?」
海未「質問の意味がわかりません」
女生徒「私は、特別なの」
女生徒「選ばれた人間なの」
海未「……なにがいいたいのですか」
女生徒「……ふふっ♪」
女生徒「また、明日ね。園田 海未さん」ニコッ
海未「あ、ちょっ!」
シャロ「…………いってしまいましたね」
海未「い、意味がわかりません」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
──海未の部屋──
海未「まったく、なんなんですかあの女はっ!」バンッ!
シャロ(うぅっ、怖いですぅ……)
海未「なーにが、『にこのため、かしら?』ですか!」バンッ!
シャロ「ひゃっ!」ビクッ
海未「あのスカした顔を思い出すとイライラしますっ!」バンッ!
シャロ「ひゃっ!」ビクッ
シャロ(家に帰ってからずっとこんな感じです……)
こんこんっ。
海未「は、はいっ」
シャロ「……」コソッ
スッ。
海未ママ「海未さん、お茶を持ってきました」
海未「お母様、ありがとうございます」ペコッ
海未ママ「ふふっ♪ いつになく荒れていますね」クスクスッ
海未「うっ……」タジタジ
海未ママ「また穂乃果ちゃんとケンカしたのですか?」
海未「あ、えと────」
海未ママ「いや、この荒れ方から察するにもっと大きく感情を乱されていますね」
海未「お、お母様?」
海未ママ「だって海未さんが机をバンバンするなんて普通じゃないわ」
海未「あ、あの……///」カァーッ
海未ママ「……そっか! ママわかっちゃいました」パァァ
海未「え」
海未ママ「きっと海未さんがお気に入りのにこさんのことでなにか気に食わないことがあったのですねっ♪」
海未「なっ///」カァーッ
海未ママ「図星ですね」ニコッ
海未「そ、そんなことでは……///」フィッ
海未ママ「海未さんは本当に顔に出やすいですね」クスクスッ
海未「す、すみません……」
海未ママ「いえ、とても良いことです。あなたが真っ直ぐに育っているという証拠ですもの」ニコニコ
海未「お母様、恥ずかしいです///」
海未ママ「それより気になるのはにこさんになにがあったのか……」
海未「いえ、大したことでは────」
海未ママ「はっ! まさかμ's内で海未さんの他ににこさんのことを好きな方が!?」バンッ!
海未「ひっ!」ビクッ
シャロ(ひゃっ!)ビクッ
海未ママ「穂乃果ちゃんもにこさんのことを好きになってしまって、ことりちゃんを巻き込む四角関係に!?」
海未「お、お母様!? やめてください///」
海未ママ「海未ちゃん、穂乃果負けないよっ!」(声真似)
海未ママ「こ、ことりの穂乃果ちゃんがぁ……うるうる」(声真似)
海未「うぅ、御近所に聞こえてしまいますよぉ……///」
海未ママ「そうこうしてるうちに海未さんを慕っている下級生たちも動き出すんです……」
海未ママ「凛も海未ちゃんに気持ちを伝えるにゃっ!」(声真似)
海未ママ「こ、これ! 海未のために曲を作ってきたわ!」(声真似)
海未「も、もう! やめてください! 破廉恥です!//////」バンッ!
海未ママ「そう? ここからがいいところなのですよ?」
海未ママ「ごはん好きな一年生が金髪の生徒会長への憧れを……」
海未「うぅっ、ありそうなのでやめてください……」ガクッ
海未「だ、だいたい! にこのことなんて私は別に────」
海未ママ「────ねぇ、海未さん?」
海未「は、はい」
海未ママ「どうしてあなたに武道を教えてきたか……わかりますか?」
海未「園田流を継ぐため、では?」
海未ママ「……他には?」
海未「……他?」キョトン
海未(跡継ぎ以外の理由?)
海未ママ「では、『あなた』は何のために武道を?」
海未「え、えと……」オロオロ
海未(そんなの、考えたこと────)
海未ママ「ふふっ♪ やっぱりあなたって、あの人ににて頭が硬いのね」クスクスッ
海未「なっ!」
海未ママ「良いですか海未さん」キリッ
海未ママ「園田流の跡継ぎ、確かにそれは私たちにとっては大切なことです」
海未「……はい」
海未ママ「ですが、それ以上に武道を通して心を磨いて欲しいのです」
海未「心を、ですか」
海未ママ「はいっ」ニコッ
海未ママ「いつかあなたが、『なにか』に負けそうになる時が必ず来ます」
海未ママ「それは人かもしれないし環境かもしれない……」
海未ママ「あなたの未来には数多くの『理不尽』が待っています」
海未「…………」コクリ
海未ママ「困難を乗り越えるためには強い心が必要なのです」
海未(────強い心)
海未ママ「どんなことでも折れない心になって下さい」ニコッ
海未「…………」フルフル
海未「お母様、感動しました! 明日からの鍛錬もより──」
海未ママ「────あなたはそんな強い心を持ったにこさんが大好きなんでしょう?」ニコニコ
海未「へっ」
海未ママ「大好きなんでしょう?」ニコニコ
海未「…………////////////」カァーッ
海未ママ「あらあら、耳まで真っ赤っか。とっても可愛いですね」クスクスッ
海未「もーっ! 出てって下さい!///」
海未ママ「急にどうしたんですか? 変な海未さんっ♪」クスクスッ
海未「どうもこうもないです! 多感な時期なんです私はっ!///」グイグイッ
海未ママ「そんなに押さなくてもぉ」
海未「思春期の娘をからかわないで下さいよぉ!」グイグイッ
海未ママ「わかりました。出ますから! でも、これだけは最後に言わせて下さいっ!」
海未「な、なんですか?」
海未ママ「……いつだって、本当の敵は自分自身の弱い心ですよ」キリッ
海未「…………出てって下さいっ!」ウガー!
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
海未「────まったく、お母様にも困ったモノです」
シャロ「素敵なお母さんですね」
シャロ「本当の敵は自分自身の弱い心……」
シャロ「胸にぐっときました!」グッ!
海未「……その話は置いておいておきましょう」ハァッ
海未「ではお母様が入れて下さったお茶とほむまんをいただきましょう!」
シャロ「ほむまん?」キョトン
海未「穂乃果の家は穂むらという和菓子屋でして、そこのお饅頭が絶品なんです」
シャロ「穂むらのお饅頭だからほむまん……なんか可愛いですねっ♪」
海未「半分こしましょう? 私の分をわけて……あれ?」
シャロ「どうしたんですか?」
海未「いつもより一個多い……」
海未(まさか、ね)
シャロ「海未さん?」
海未「いえなんでもありません」
海未「どうぞ」スッ
シャロ「わぁーいっ♪」モグモグッ
シャロ「うーん、美味しいですっ!」パァァ
海未「やっぱりほむまんは最高です」モグモグッ
シャロ「海未さん、お茶がほしいですぅー♪」
海未「どうぞっ♪」
スッ。
シャロ「わーいっ♪」
シャロ「…………」ズズッ
シャロ「ふう、落ち着きますねぇ」ニコニコ
海未「ええ……」
海未「…………あの、トイズで人の記憶を操ることなどは出来るのでしょうか?」
シャロ「へ?」
海未「いえ、例えばの話ですが」
シャロ「うーん……」
海未「……」
シャロ「…………どうなんでしょう?」
海未「どうなんでしょうって……」クスクスッ
シャロ「あははっ。トイズに関してはわかっていないことの方が多いんですよね」アハハッ
海未「そうなんですか」
シャロ「でも、幻覚を見せるトイズ、姿形を変えるトイズなど」
シャロ「数え切れないくらい種類があるんですー」
シャロ「記憶を操れるトイズがあっても不思議じゃないですよぉ」
海未「なるほど……」
シャロ「さっきの人のことですか?」
『…………いや、よく考えたけど知らなかったわ』
海未「……もしかしたら歌を盗んだ怪盗に記憶を操作されてしまったのかと」
シャロ「だとしたら、犯人は複数いることになりますね」キリッ
海未「なぜです?」
シャロ「トイズは一人につき一つの能力なんです」
海未「なるほど、歌を盗んだ人間と記憶を操作した人間の二人となるわけですね」
シャロ「はい」コクリ
海未(…………でも)
海未(この世界にそう何人も怪盗がいるのでしょうか?)
海未「────そもそも、『歌を盗むトイズ』という考えが間違っているのでは?」
シャロ「どういうことですか?」
海未「シャーロックのトイズは、サイコキネシス……『物体を動かすトイズですよね』」
シャロ「今は使えないですが……」アハハッ
海未「『物体』には、無限とも言える選択肢があります」
海未「犯人のトイズが『歌』を盗むトイズだとすると……少し限定的すぎると感じます」
シャロ「謎掛けですか? 難しくてわかんないですよぉ。答えを教えて下さいっ!」
海未「はやっ! 探偵を自称するなら少しは考えて下さいっ!」
シャロ「だってぇ〜っ」ブスー
海未「……もう、いいです」ハァッ
海未「盗まれた歌。先輩の不自然な言動」
シャロ「ふむふむ」ズズッ
海未「犯人は『記憶を盗むトイズ』を『持っている』のではないでしょうか?」
シャロ「…………ま、まっさかぁー!」アハハッ
海未「ですが、筋は通ります。『歌』も歌詞やメロディーは人間が記憶しているモノです」
シャロ「け、けど! そんなトイズが本当にあるとしたら敵いっこないですよぉ!」
シャロ「────私一人じゃ、絶対に……」ボソッ
海未「……シャーロック?」
シャロ「あ、あははっ……」
海未(…………私の考えすぎなのでしょうか?)
海未(ですが、嫌な予感がします)
海未(先程から────)
『強いて言うならにこのため、かしら』
海未(胸騒ぎが止まりません)ギュッ
海未(……大事にならなければ良いのですが)
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
──乙女の日記帳──
なんだか私、変になってしまいました。
あの人のことを考えると胸がきゅーっとなって。
頬が熱い。
最初は風邪かと思っていたのですが、どうも違うようで……。
これはもしかして、
『恋』というモノなのでしょうか?
穂乃果に見せてもらった漫画の主人公と同じ症状です。
今日。
花陽と凛と三人でアイドルショップに行った帰りのことです。
──多分、二人が可愛かったからなのでしょう。
俗に言うナンパという物にあいました。
怯える花陽と凛。
私はいつものように深呼吸をして。
二人を護るために武道を……。
己の力を使う決心をしました。
あなたたち、いい加減に──。
そう、言いかけた時でした。
「ちょっとあんた達っ! 何やってんのよっ!」
私の目の前に表れたのは小さな背中。
トレードマークのツインテールをぴょんぴょこぴょんと揺らして。
私と不逞の輩達の間に割って入ってきたのです。
両手を大きく広げて彼女は言い放ちました。
「この子たちに指一本でも触れてみなさいっ!
宇宙ナンバーワンアイドル、にこにーにこちゃんが許さないんだからっ!」
しーんと静まり返る不逞の輩達。
当たり前です!
こんなにかっこいいにこ先輩に凄まれたら声なんてあげられません!
私たちのピンチに颯爽と表れたにこ先輩。
今日のことを思い出すたびに胸が苦しくなります。
女性のにこ先輩を、なんて変。
『一時の気の迷いだよ』
だれかに相談したらそんなふうに言われてしまうかもしれません。
だけど、この気持ちは?
この胸の鼓動は?
敢えて名前を付けるとしたら。
それはやっぱり『恋』なのではないでしょうか?
だって、はじめてだったから。
『護る』のではなく。
────『護られる』のは。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
本日はここまで。
みてくださった方、コメント下さった方、ありがとうございます。
次回は再来週予定です。
最後までお付き合い頂ければと思います。
再来週か
遠いな
コメントありがとうございます!
おまたせしました。
再開します。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
次の日。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
──屋上、朝練習──
海未「…………」
シャロ「ふわぁ……誰も来ませんね」
海未「…………おかしいですね」
海未「穂乃果や凛はともかく、希と絵里くらいはそろそろ来てもいい頃合いですが……」
ガチャッ。
にこ「おはよー」
海未「にこ、おはようございます」
にこ「あれ? あんただけ?」
海未「それが、まだ……」
にこ「…………ふぅん」
にこ「まあ、いいわ、先に出来ることからはじめましょうか」
海未「では、柔軟からですね」
海未「…………///」
にこ「なんか顔赤くない? 熱?」キョトン
海未「い、いえ! にこと一緒に柔軟するのははじめてなのでっ!」
にこ「なっ!///」
海未「き、緊張をっ///」カァーッ
にこ「な、何言ってんのよ、馬鹿///」カァーッ
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
キーンコーンカーンコーン。
にこ「練習時間終わっちゃったじゃない!」
にこ「ぬぁんでみんな来ないのよっ!」ウガー!
海未「どういうことなのでしょう?」
海未「今日はお休みだったのでしょうか?」オロオロ
にこ「はっ! きっと歌が歌えないからよ」
にこ「ダンスレッスンしても意味ないって思ったんじゃない?」フィッ
海未「にこ、そんな言い方は……」
海未「──っ!」
にこ「…………」ギュッ
海未(…………震えてる?)
にこ「────先に、戻るわね」ダッ
海未「あっ」
ガチャッ。
バタンッ。
シャロ「にこさん、大丈夫でしょうか?」ヒョコッ
海未「…………にこ」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
──二年生教室──
穂乃果「それで、雪穂がね────」
ことり「くすくすっ♪ 雪穂ちゃんかわいいーっ♪」
穂乃果「えぇっ!? どこがかわいいのぉー!」ブスー
海未「…………」テクテク
海未(なんだ、学校にはちゃんと来ているじゃないですか)
海未「おはようございます。穂乃果? ことり?」
穂乃果「んー? おっはよぉー!」
ことり「え、あ、お、おはようございます……?」キョトン
海未「どうして朝練に来なかったのですか?」
穂乃果「朝練?」キョトン
ことり「どういうこと?」
海未「よもや二人揃って朝寝坊というわけではないでしょう?」
穂乃果「うーん」ウーン
ことり「あ、あの失礼ですが────」
穂乃果「っていうか、あなた誰?」アハハッ
シャロ「──っ!」
海未「────はい?」キョトン
シャロ(これ、は……?)
ことり「あぁ、穂乃果ちゃんダメだよぉ〜っ!」
穂乃果「えぇ? なんでー?」
海未「ことりの言う通りですっ! ふざけてないで質問に────」
ことり「いくら初対面の人でもそんな言い方失礼だよぉ」アワアワ
海未「こと、り?」キョトン
海未「……いま、なんて?」
シャロ(まさか────)
どくんっ。
穂乃果「だって、この人だって呼び捨てじゃんっ!」
どくんっ。
ことり「そうだけど! 昔の友達で」
どくんっ。
ことり「私たちが忘れちゃってるだけかもしれないでしょ?」
どくんっ。
海未「まさ、か」
海未(────盗まれ、た)
穂乃果「そっか!」
穂乃果「私、高坂 穂乃果! あっ、あなたは私のこと知ってるんだよね」アハハッ
ことり「うふふっ♪ 穂乃果ちゃんったらっ♪」
海未「嘘ですよね?」
穂乃果「ねぇ、あなたのお名前は?」ニコッ
海未「…………園田、海未です」
シャロ(……海未さん)ギュッ
穂乃果「そっかぁ! 海未ちゃんは転入生?」
海未「いや、あの…………」ギュッ
ことり「こんなに可愛い転入生が来るなんて……」
ことり「お母さん、一言言ってくれればよかったのにぃ」ニコニコ
海未「…………」グスッ
穂乃果「そうだよねっ! さっき来た子も可愛かったよね!」
ことり「一年生なのかな? ツインテールがとってもキュートでしたっ♪」
海未「────っ!」
海未(にこ……っ!)
穂乃果「でも、スクールアイドルとか石鹸のこととか、よくわかんなかったよね」アハハッ
ことり「最近流行ってるからねっ♪」
海未「……」ゴシゴシッ
海未「…………失礼します」ダッ!
ことり「え、園田さんっ?」キョトン
穂乃果「あっ!」
ことり「…………いっちゃった」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
──三年生教室──
海未「にこっ!」バンッ!
希「二年生?」キョトン
絵里「…………ちょっとあなた」ガタッ!
絵里「ここは三年生の教室よ? 失礼します、くらい言えないのかしら?」キッ
海未「…………生徒会長、矢澤 にこさんを知りませんか?」
絵里「矢澤 にこ? ああ、さっき来たツインテールの子かしら?」
海未「そ、そうですっ! にこはどこに────」
絵里「初対面なのに随分気安く話す、失礼な子だったわ」プイッ
海未「──っ」
希「えりち、ちょっと言い過ぎや」ガタッ!
絵里「希? だってそうじゃない。はじめて会ったのに親友だのアイドルだの」
絵里「────意味がわからないわ」
希「そ、そうかもしれないけど」
絵里「この子にしたってそうよ。いきなり上級生の教室にやって来てこの態度」
絵里「……認められないわ」
海未「…………あなたは」
絵里「なに?」
海未「あなたはなんと答えたのですか?」
絵里「なにが?」
海未「親友だと言われ、なんと答えたのですか?」
絵里「ああ、そのこと?」ハァッ
絵里「『あなたのこと、私は知らないわ。ごめんなさい』って」
海未「────っ」ギュッ
希「えりちはストレートすぎやよ。本当は力になりたいんやろ?」
絵里「力になりたくてもどこかへ行ってしまってはねぇ」ハァッ
海未「…………」グスッ
海未(────許さないっ!)
絵里「ほら、今回は大目に見てあげるから」
絵里「あなたも早く自分のクラスに戻りなさい」
海未「…………わかりました」
海未(…………オトノキに現れた『怪盗』)
希「ごめんなぁ、二年生の子」
海未「いえ。ごきげんよう生徒会長、副会長」
海未(────あなたを絶対に許さないっ!)
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
──廊下──
海未「ここにもいないっ!」バンッ!
シャロ「お、落ち着いてくださいぃー!」アワアワ
海未「これが落ち着いていられますか!?」
海未「教室にもいないっ! 部室にもいないっ!」
海未「一体どこにいるんですか!」ギリッ
シャロ「………にこさんを見つけてどうするつもりですか?」
海未「…………どう、と言われても」
シャロ「敵のトイズはとても強力です」
シャロ「私のトイズは、小さい物を動かすくらいしか出来ません」
シャロ「そんなんじゃ怪盗を捕まえるなんて……」ウツムキ
海未「シャーロック……」
シャロ「────いつもは突っ走って、無茶して、それでもなんとかなったんです」アハハッ
シャロ「だけど、気付いてしまいました」
シャロ「一人になって」
シャロ「海未さんたちのことを知って」
シャロ「今までなんとかなったのも、みんながいてくれたからなんだって」グスッ
海未「…………」
シャロ「────海未さんたちの大切なモノを盗んだ人は許せないです」
シャロ「出来ることなら捕まえたいっ!」
シャロ「だけど……」ポロポロ
シャロ「だけど私、一人じゃダメなんです」ボロボロ
シャロ「…………私一人じゃ、何も出来ないんです」
シャロ「仲間がいないと…………」グスッ
海未「────なるほど、ようやく話してくれましたね」
シャロ「へっ?」キョトン
海未「あなたはそんなことで悩んでいたのですか?」ハァッ
シャロ「そんなこと!?」
海未「シャーロック、私はあなたにとってなんですか?」
シャロ「えっ? えっ? えっと、友達です」
海未「そうです! ですから、あなたも私も一人ではありません!」グッ!
シャロ「海未、さん?」
海未「少し、頼りないかもしれませんが」クスッ
海未「私は、あなたと二人ならなんでも出来る……そんな気がするんですよ?」ニコッ
シャロ「……っ」
海未「だから、力を貸してくれませんか?」
シャロ「私……なんかじゃ」ウツムキ
海未「ではせめて、にこの近くにいてくれませんか?」
シャロ「にこさんの?」キョトン
海未「不思議なのですが……私はあなたが近くにいると護られている気がするんです」
シャロ「そ、そんなこと」
海未「だからお願いです」
海未「にこに会えたら誰にも見つからないように彼女の所へ行って下さい」
シャロ「え……?」
海未「その『不思議な力』でにこを護って欲しいのです」
シャロ「でも、それは海未さんが」
海未「私はなんらかの理由でにこのそばにいられないかもしれません」
海未「……だから」
シャロ「海未さん……」
海未「お願いします────」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
──音ノ木坂学院屋上──
海未(……あと、校内ではここしかっ)
ガチャッ!
海未(────いたっ!)
にこ「…………」ポロポロ
海未「にこっ!」ダッ!
にこ「う、海未!?」
────ぎゅっ。
にこ「ちょっ、ちょっと///」
海未「にこ、大丈夫です」
にこ「なによ急に────」
海未「我慢しなくていいんです」
にこ「────っ!」
海未「私はここにいます」
にこ「……うっ、うぅっ」グスッ
海未「あなたのそばにいますから」ギュッ
にこ「…………うみぃっ! ぐすっ、うぅっ!」グズッ
にこ「うわぁぁぁっん!」ポロポロ
海未「よしよし」ポンポン
にこ「みんな、にこのことぉっ! μ'sのことっ!」ボロボロ
にこ「忘れちゃって……っ!」グスッ
海未「大丈夫、私は覚えていますよ」ニコッ
にこ「どうしよう、もうっ。ぐすっ、わかんないよぉ……っ」ポロポロ
海未「大丈夫です。私がなんとかします」ニコッ
にこ「う、み?」ポロポロ
海未「歌も、記憶も、友達も……」
海未「────そして、あなたの夢も」
海未「全て私が取り返しますから」ニコッ
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
にこ「…………」ゴシゴシッ
海未「落ち着きましたか?」
にこ「……」コクン
にこ「さ、さっきのこと、誰にも言わないでよねっ///」カァーッ
海未「ええ」ニコッ
海未「にこの可愛い泣き顔は、私の心に大切にしまって置きます」ニコニコ
にこ「な、なんでそうなるのよ、馬鹿っ///」プイッ
海未「ふふっ♪」クスクスッ
にこ「でも、よかった。あんたは覚えててくれて」ホッ
海未「…………私も。にこが覚えていてくれて安心しました」
にこ「え!? それってもしかして────」
海未「…………」コクリ
海未「みんな、私たちのことを忘れてしまったのです」シュン
にこ「なっ! ──そっか、だからみんな朝練に来なかったのね」ハァッ
海未「来れなかった、といった方が正しいかもしれません」
にこ「うぅ、いきなりすぎて頭がついていかないわ」
海未「────とりあえずここを離れましょう」
にこ「どこへいくのよ」キョトン
海未「私の家です。一先ずはそこに身を隠しましょう」
にこ「大丈夫なの?」
海未「大丈夫です。母も今朝は変わりありませんでしたし」
海未「この短時間で私のことを忘れるとも思えません」
にこ「……わかった」コクリ
海未「荷物は大丈夫ですか? 準備が出来たらすぐに────」
ガチャッ。
女生徒「みぃーつけたっ♪」
海未「────っ!」
にこ「あ、あんたっ!?」
女生徒「にこ、迎えに来たわよっ♪」ニコッ
にこ「にこのことを覚えてる……」
女生徒「当たり前じゃない。あなたのこと忘れたことなんて一時もないもの」クスクスッ
にこ「じゃあ、やっぱりあんたがっ!」
海未「────にこは渡しません」キッ!
女生徒「あら、威勢がいいのね」
海未「まさかこのような事態になるとは思いませんでしたよ」ニコッ
海未「実力行使で行かせて頂きますっ!」ダッ!
にこ「海未っ!?」
にこ(懐に飛び込んだ!? けどそれじゃ────)
女生徒「あらっ?」キョトン
海未「──フェイントですっ!」スッ
にこ(一瞬で背後に回り込んだ!? そしてあれはっ!)
海未「お命ちょうだいっ!」グッ!
にこ(手刀だわっ! ここで決めるつもりね、海未!)
女生徒「くすくすっ♪」ニコニコ
ぱちんっ!
ぼんっ。
海未「────煙幕っ!? 小癪な真似を……っ!」ゲホッ!
にこ「なによこれ! 全然見えないじゃないっ!」
女生徒「それだけじゃないわよ」スッ
海未「むぐっ!」
海未(布で口を……っ!)
海未(……なんだか、眠く…………)パタンッ
女生徒「うふふっ♪ 少し眠りなさい」
海未(くっ、不覚です……)
海未(シャーロック……にこを…………)
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
にこ「煙が収まってきた……」
にこ(海未、は?)
女生徒「けほっ! ちょっとやりすぎたかしら?」
海未「…………」
にこ「────っ! 海未っ!」
女生徒「大丈夫、大丈夫。寝てるだけだからっ♪」ニコッ
にこ(海未が……負けるなんて)
女生徒「それよりにこ、取引よ」
女生徒「この子の記憶を消されたくなければ、一緒に来なさいっ♪」ニコニコ
女生徒「誰も知らない土地で一緒に暮らしましょう?」
にこ「はぁっ? そんなの無理に────」
女生徒「出来るわ」
にこ「────っ!」
女生徒「私のこの力が……『怪盗』の力があれば」クスクスッ
にこ「『怪盗』の、力?」
女生徒「ええ、そう。記憶を盗む力」
女生徒「これさえあれば思いのままよっ!」
にこ「…………あんた、おかしいわよ?」
女生徒「そうさせたのは誰なのかしらね?」ニコッ
にこ「────っ」
にこ(…………にこのせいだ)ウツムキ
にこ(にこがいなければこんなことには)ギュッ!
女生徒「それじゃあ早速……」
女生徒「あっ、そうだ」
女生徒「心配しないで。この子のとはちゃんとお別れさせてあげるから」
にこ「えっ?」
女生徒「この子、にこのこと好きだったみたいだし?」
女生徒「にこもまんざらでもなさそうだったからっ♪」
にこ「なっ!///」カァーッ
女生徒「だから、もう一度だけ会わせてあげるわ」ニコッ
にこ「…………」ギリッ
女生徒「もっとも、それが今生のお別れになるのだけれど」クスクスッ
にこ「…………けんじゃないわよ」
女生徒「じゃあ、とりあえず私の家に行きましょう?」
女生徒「答えは当然、イエスよね? この子にまで忘れられたらにこはもう────」
にこ「ふざけんじゃないわよっ!」
女生徒「あらぁっ♪」ウフフッ
にこ「あんた、何様のつもり!?」
にこ「歌を盗んで、記憶盗んで!」
にこ「挙げ句の果てに、ついて来いですって!?」
にこ「冗談じゃないわっ!」
にこ「あんたがにこのせいだって言うならこうしてやる!」ダッ!
がしゃがしゃっ!
女生徒「…………柵に登ってどうするつもり?」ハァッ
にこ「決まってるわっ! ここから飛び降りてやるわ!」
にこ「あんたなんかの思い通りになんてさせないっ!」
女生徒「にこ、冗談はそのくらいに────」
にこ「私は本気よっ!」キッ!
女生徒「…………強くなったね」
にこ「えっ」キョトン
女生徒「じゃあこうするよ。にこが飛び降りるって言うなら──」
女生徒「私は今、ここでこの子を殺す」
にこ「────っ!」
女生徒「……こう言ったらにこはなにも出来ないでしょ?」
女生徒「────私に従うしか、ないでしょ?」ニタァ
にこ「…………」グスッ
にこ(────悔しいっ!)
女生徒「相変わらずだね」
女生徒「そうやって、熱くなると周りが見えなくなる所」
にこ「…………」ポロポロ
にこ(悔しいよぉっ!)
女生徒「……さ、はやく決めなさい」
にこ(もう、ダメなのかな)
女生徒「今の私は気が短いんだからっ♪」
にこ(このままこいつのいいなりに……)
にこ(…………海未)チラッ
海未「…………」
『歌も、記憶も、友達も……』
にこ(…………)ギュッ
『────そして、あなたの夢も』
にこ「…………」ゴシゴシッ
『全て私が取り返しますから』
にこ「…………決めたわ」
にこ(私は、あんたを────)
にこ「一緒に行く」
女生徒「そうするしか、ないもんね」クスクスッ
にこ「一緒に行くから、海未には何もしないで」
女生徒「そんなにその子が大切なんだっ♪」
にこ「茶化さないでよ」キッ!
女生徒「大丈夫、私は何もしないわ」
女生徒「私は、ね」クスクスッ
にこ「それと、約束はちゃんと守ってよね」
にこ「最後のお別れくらいしっかりしたいから」
にこ(────あんたを信じるっ!)
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ここまで。
見てくださった方、ありがとうございます。
また、来週もお願いします。
乙
コメントありがとうございます。
更新遅れます。
今週は無し、来週更新となります。
少しだけ更新します。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
──回想、海未とにこ──
にこ「あ、あれ……?」
「ねー、ちょっとくらいいいじゃん」
海未「…………」
凛「え、えっと……」
花陽「私たち、そういうのは……」
にこ(あの子たち……絡まれてる!?)
にこ(ま、まあ大丈夫だよね)
にこ(大事にはならない、よね)
海未「申し訳ございませんが、そういうことは控えて頂けないでしょうか?」ニコッ
「いいじゃん、いいじゃん! カラオケくらい付き合ってよ!」
ぐいっ!
海未「きゃっ!」
りんぱな『海未先輩っ!』
にこ「────っ!」ダッ!
「君たちもほら、行こう行こうっ!」
海未「…………」ハァッ
海未「あなたたち、いい加減に──っ!」スッ
にこ「────ちょっとあんた達っ! 何やってんのよっ!」
ばっ!
海未「に、にこ先輩?」キョトン
「な、なに?」
にこ「この子たちに指一本でも触れてみなさいっ!」
にこ「宇宙ナンバーワンアイドル、にこにーにこちゃんが許さないんだからっ!」キッ!
凛「宇宙ナンバーワンアイドル?」キョトン
花陽「にこにーにこちゃんっ!」パァァ
にこ「……」ブルブルッ
海未「────っ!」
海未(先輩、震えてる……?)
にこ「海未! 早く二人を連れていきなさい!」
海未(あぁ、なんて……)
海未(────なんて勇気のある人なのでしょうか)
「な、なんか中学生みたいの出てきたな」
にこ「誰が中学生よっ!」ウガー!
「大丈夫だろ? この子も一緒に……」
海未「……」ピクッ
海未「それは、にこ先輩に手を出すということですかね?」ニコニコ
「えっ?」
────スッ。
凛「う、海未先輩が竹刀を……っ!?」オロオロ
花陽「もしかして本気出しちゃうのぉ!?」アワアワ
にこ「は、え? なに?」キョトン
「ちょ、武器はダメだって!」
海未「覚悟は……」ニコッ
海未「────良いですか?」キッ!
「あ、その…………すみませんでしたぁっ!」ダッ!
凛「…………行っちゃったにゃ」
海未「ふんっ。なんと軟弱なのでしょうか」プイッ
花陽「海未先輩っ! かっこいいですっ!」キラキラッ
にこ「あ、あんた剣道出来るの?」
海未「あ、はい」
凛「海未先輩の家は道場なんですよっ」
にこ「なーんだ、助けに入って損したわ」ヘナヘナー
花陽「ふふっ♪ にこ先輩もカッコよかったですよっ」ニコッ
海未「そ、そうですよっ! なかなか出来ることではありませんっ!」
にこ「そ、そうかな……」
海未「にこ先輩が捨て身で私たちを守ろうとしてくれて……」
海未「私、その……///」
にこ「あんたの方がすごいわよ」
にこ「さっきの、カッコよかったもん」ボソッ
海未「へ?」キョトン
にこ「あっ」
にこ「な、ぬぁんでもないわよっ!///」
花陽「……なんかちょっと」
凛「熱くないかにゃ?」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
──夕方、音ノ木坂学院保健室──
海未「……んっ」
真姫「あっ」
海未「ここ、は…………」
真姫「気が付きましたか?」
海未「真姫? ……あっ」
海未(……そうだ。私、負けてしまって…………)シュン
海未(だからみんなの記憶は────)
海未「し、失礼しました。西木野さん」
真姫「……海未先輩、ですよね?」
海未「まさか覚えて────」
真姫「……」フルフル
海未「そう、ですよね」シュン
海未(あ、あれ? ではなぜ)
海未「なぜ私の名前を?」キョトン
真姫「今朝、ツインテールの子が来てそれで……」
海未「そう、でしたか……」ウツムキ
真姫「ごめんなさい」ウツムキ
海未「……いえ、大丈夫です」ギュッ
真姫「これ、先輩のですか?」スッ
海未(携帯……私のモノですね)
海未「はい、ありがとうございます」
海未(……にこからメッセージが来てる?)
海未「────っ! これ、は」ギリッ
『にこは預かったわ。
決着を付けましょう。
今夜、UTXで待っているわ』
真姫(────これって!?)
海未「…………西木野さん、介抱して頂きありがとうございました」サッ
真姫「どこに行くんですか?」
海未「そんなの決まって…………」フラッ
真姫「先輩っ!」ガシッ
海未「くっ! すみません……」
真姫「少し休んで下さいっ! 何か栄養もとらないと……」
海未「そんな暇は────」
真姫「ま、まだ夕方です! 夜までは時間がありますっ!」
海未「真姫、あなた────」
ガラガラッ!
ピシャッ!
花陽「西木野さんっ! ご飯炊けたよぉ〜っ!」キラキラッ!
凛「凛はカップラーメン持ってきたよーっ!」ネコポーズ
海未(凛、花陽!?)
真姫「ふ、二人ともっ!? ここは保健室なのよ!? もう少し静かにっ!」
花陽「ご、ごめんね」アワアワ
凛「あっ! 先輩、起きたんですね!」
海未「は、はい」
花陽「ちゃんとご飯食べて、元気になって下さいねっ♪」
凛「かよちんがオカズも用意してくれてるんですっ! 早く行くにゃっ♪」グイッ
海未「わっ! 待って下さいっ! 私は────」
真姫「もーっ! 凛っ! 海未は起きたばっかりなの! 一回落ち着きなさいっ!」ウガー!
花陽「西木野、さん?」キョトン
真姫「花陽もっ! ご飯が好きなのはいいけどテンションを……あれ?」キョトン
凛「凛たちのこと名前で……」
真姫「────っ! じ、自分でも驚いているわ」
海未「……真姫?」
真姫「…………ねえ、二人とも。先に行っててくれない? 先輩と、少し話がしたいの」
凛「……うん、わかったっ。いこっ、かよちんっ♪」ギュッ
花陽「先輩、美味しいご飯を用意して待っていますからっ♪」ニコッ
海未「…………ええ、楽しみにしています」ニコッ
ガラガラッ。
ピシャッ!
真姫「やっぱり、夢じゃなかったのね」
海未「なにがですか?」キョトン
真姫「スクールアイドルよ!」
真姫「まさかあの小さい子が言ってたことが本当だったなんて」ハァッ
海未「……にこ、なんて言ってました?」
真姫「私が曲を作って、あなたが作詞するんだって」クスクスッ
海未「そう、でしたか」クスクスッ
真姫「なんだか不思議ね」
真姫「カバンの中にコレを見つけた時は目を疑ったわ」スッ
海未「これは……作曲ノート、ですか」
真姫「中にはたくさんの曲があった」
真姫「その全てにあなたが書いた詞があったわ」
真姫「その時思ったの」
真姫「私の音楽はまだ終わってなかったんだって」
真姫「────私自身、まだ終わらせたくないんだってっ!」グスッ
海未「真姫、あなたは……っ」
真姫「どうして忘れちゃったのよっ!」ポロポロ
真姫「どうして私は…………っ!」グスヒッグ
海未「…………」
海未(私があの時、遅れをとらなければ)シュン
真姫「……」ゴシゴシッ
真姫「いまの状況がどうしようもないのはなんとなくわかった」
真姫「わかったけど」ゴソゴソ
真姫「それでもこの曲だけは完成させたい」スッ
海未「これは……っ」
真姫「この歌詞、途中までだけどとっても素敵なんだもの」
海未「…………」
真姫「だから約束して」
真姫「あなたの想いが詰まったこの曲を……」
真姫「必ず完成させるって」
海未「真姫…………」ギュッ
短いですが本日はここまで。
また次回。
乙
更新期待してるで
コメントありがとうございます!
更新します。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
──アイドル研究部部室──
凛「さぁ、先輩っ♪ 」ニコッ
花陽「たーんと召し上がれっ♪」ニコッ
ごとっ。
真姫「す、すごい量のご飯ね」
海未「……頂きます」
海未「はぐっ…………」モグモグッ
海未「とても美味しいですっ」ニコッ
花陽「よかったっ♪」
凛「ねえ、先輩! 私たち、先輩とスクールアイドルしてたんですよね?」
海未「……っ」モグモグッ
花陽「西木野さんから聞きました。私たち三人、先輩たちと同じグループだったって」
海未「……はい、私たちはμ'sというグループでした」
花陽「本当、なんですね」
凛「にゃーっ。凛がアイドルなんて信じられないにゃ」
海未「ふふっ♪ 凛はμ'sの中でもずば抜けてダンスが上手なのですよ?」クスクスッ
凛「そ、そうなんですか!? 凛、可愛く踊れるのかな?///」
海未「ええ、それはもう」ニコッ
花陽「うわぁーっ! さっすが凛ちゃん!」
花陽「花陽、凛ちゃんのアイドル姿みてみたいなぁーっ!」キラキラッ
花陽「かわいいんだろうなぁーっ♪」ニコニコ
凛「や、やめてよぉ。凛はかよちんのほうがずっと可愛いと思うよっ///」
花陽「そ、そんなことないよっ! 花陽なんか……」
真姫「…………どうだったの?」
海未「花陽もとても可愛かったですっ♪」
花陽「そ、そそっ! そうなんですか!?///」
海未「それに、凛や真姫……メンバーを思いやる優しい心」
海未「とても素敵なアイドルですっ♪」ニコッ
凛「すっごいにゃぁ! さすがかよちんっ!」
花陽「…………っ」フルフル
凛「……かよ、ちん?」キョトン
海未「どう、したのです?」
花陽「多分……うん、きっとそう」
花陽「それは私だけの力じゃ出来なかったこと、ですよね?」ニコッ
凛「か、かよちん? そんなことないよ!」
海未「…………っ」
凛「かよちんは可愛くて、誰よりもアイドルに詳しくて! それで────」
真姫「お、落ち着きなさいっ!」
花陽「グズで運動音痴で、弱虫な花陽が……」
まきりん『────っ』
花陽「自分一人の力で可愛いアイドルになんてなれるはずがないんです」アハハッ
花陽「そうですよね、先輩?」
海未「花陽、それは────」
まきりん『そんなことないっ!』
花陽「ぴゃぁっ!?」ビクッ
凛「凛、知ってるよ! かよちんは誰よりがんばりやさんだって!」
真姫「そうよ! 先輩だってこう言ってるんだし、卑屈になっちゃだめよ!」
花陽「う、で、でも……」シュン
海未「仮に、花陽がそこの人たちに背中を押されてアイドルになったとしましょう」
花陽「せ、先輩?」
海未「あなたの背中を押した『人たち』があなたになにか見返りを求める思いますか?」
花陽「────っ」
花陽「……」チラッ
凛「……」ニコッ
花陽「……」チラッ
真姫「……」クルクルッ
花陽「……思いませんっ!」
海未「だったら、それで良いではないですか?」
海未「友人が力を貸してくれるのも、あなたの人望があればこそです」
海未「──良い友人を持ちましたね」ニコッ
花陽「…………っ!」
花陽「────はいっ♪」ニコッ
凛「えへへっ♪」ニコニコ
真姫「…………わ、私は別にそんなんじゃ///」カァーッ
凛「あーっ! 真姫ちゃん照れてるにゃっ!」
真姫「ちょっ、名前……///」
花陽「真姫ちゃんっ♪」
凛「まきちゃんっ! まきちゃんまきちゃん、まーきちゃーんっ!」ギュッ
海未「ふふっ♪ 仲良しですねっ♪」クスクスッ
りんぱな『はいっ♪』ギュッ
真姫「…………//////」カァーッ
真姫「そ、そうよっ! 悪いっ!?///」ウガー!
海未「いいえ、素晴らしいことですっ♪」ニコニコ
海未(例え記憶をなくしても────)
海未(『まきりんぱな』は『まきりんぱな』なんですね)ニコッ
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
──校門へと向かう途中──
海未「今日はありがとうございました」テクテク
花陽「いえ! 行き倒れているときはお互い様です!」
凛「真姫ちゃんが見つけなかったら大変なことになってたにゃっ♪」ニコニコ
海未「そうですね」クスクスッ
真姫「……海未先輩」
海未「……?」
真姫「ほかになにか……出来ることはないですか?」
りんぱな『真姫ちゃん……』
海未「…………大丈夫ですよ」
真姫「で、でもっ!」
海未「心配せずとも、明日になったら全て元通りです」ヒソヒソッ
真姫「……はいっ」ギュッ
凛「先輩?」キョトン
花陽「真姫ちゃん?」キョトン
海未「──そうだ、教室に忘れ物をしてしまいました」
海未「先に帰っていて下さい」クルッ
「────待ってっ!」
海未「えっ」
花陽「校門にだれか……」
真姫「もしかしてμ'sの……?」
海未「────穂乃果、ことり?」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
──音ノ木坂学院、校門──
まきりんぱな『…………』コソッ
穂乃果「これ、あなたのだよね?」スッ
海未「……ええ、これは私の竹刀です」
ことり「…………」チラッ
穂乃果「…………」コクン
ことほの『ごめんなさいっ!』
海未「ど、どうしたのです?」オロオロ
ことり「あれから二人で話したの」シュン
穂乃果「小さい頃のことを……」シュン
海未「…………っ」
海未(幼い頃?)
海未(でもそこに私は……私は────)ギュッ
ことり「ことりと穂乃果ちゃんはずっと一緒だった」
ことり「小さい頃からずーっと……」
穂乃果「いつも一緒に遊んでた」
ことり「一緒に木に登って夕日を見たり」
海未(……覚えています)
穂乃果「かくれんぼもしたっ!」
ことり「水溜りをジャンプで飛び越えようとしたこともあったね」
穂乃果「あったあった!」
海未(覚えていますよ)ギュッ
ことり「苦しいことも楽しいことも分かち合ってきたよね」
穂乃果「うんっ!」
ことほの『────三人で』
海未「えっ」キョトン
穂乃果「でも、思い出せたのはそこまでなんだ……」グスッ
ことり「一緒に遊んでたもう一人の子……その子があなたなんだよね?」グスッ
海未「…………あ、あぁっ」グスッ
穂乃果「穂乃果の家のお饅頭をいつも美味しい美味しいって食べてくれて」ポロポロ
ことり「ことりのお願いを仕方ないって聞いてくれて」ポロポロ
穂乃果「大切な友達なのにっ!」ギュッ
ことり「なのに、顔も名前も思い出せないのっ!」ボロボロ
ことほの『だから、ごめんなさ────』
海未「穂乃果……ことりぃっ!」ポロポロ
────ぎゅぅっ!
ことほの『────っ!』
海未「…………いいんです」ポロポロ
海未「いいんですよ、穂乃果、ことりっ」グスッ
穂乃果「でも……でもっ!」グスッ
海未「いまここで、私に会いに来てくれた」
ことり「海未ちゃんっ! ことりは……っ」ポロポロ
海未「いまここで、私のために涙を流してくれる」
海未「その優しさこそが、私の大切な二人に他なりませんっ!」ボロボロ
穂乃果「うぅっ……うわぁーんっ! うえーんっ!」ポロポロ
海未「たとえ記憶が失われたままでも────」ボロボロ
ことり「ぐずっ! うぅっ……ひぐっ!」グスグスッ
海未「二人は私の親友ですっ!穂乃果、ことりっ!」グスッ
────ぎゅっ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
穂乃果「はい、どうぞ」スッ
海未「ありがとうございます」
海未(これがあればにこを────)ギュッ
ことり「…………」
穂乃果「ことりちゃん? どうかした?」キョトン
ことり「……覚えてる? 二人であの子を応援しに行った日のこと」
穂乃果「……うん、覚えてるよ」
海未「応援? 剣道の、ですか?」
穂乃果「あの時は凄かったよね!」
ことり「うんっ♪ 負けなかったもんねっ!」
海未「負けなかった?」
海未(あの時は確か決勝戦で、学年が一つ上の方に判定で……)
海未(────多分、穂乃果たちの記憶違いでしょう)
穂乃果「かっこよかったよね!」キラキラッ
ことり「うんっ♪ 」ニコッ
海未「ふふっ♪ ありがとうございます」ニコッ
海未「──さて、私はそろそろ行かなくては」
穂乃果「え、もう!?」
ことり「せっかくだからどこかに寄って行かない?」
海未「お誘いありがとうございます」ペコッ
海未「ですが今日は……」
海未「そうだ!」
海未「真姫、凛、花陽っ!」チョイチョイ
まきりんぱな『────っ!』ビクッ
穂乃果「だれ?」キョトン
ことり「一年生かな?」
海未「ほら、こっちに来て下さいよぉ」ニコニコ
まきりんぱな『…………』トコトコ
りんぱな『は、はじめましてっ!』
真姫「……はじめまして」
ことほの『はじめましてっ♪』ニコッ
海未「真姫、さっき私に『何か出来ることはないか』と言いましたね」
真姫「ええ、言いましたけど……」
海未「では、五人でクレープでも食べに行ってくださいっ!」ビシッ
ことほの『おぉーっ!』パァァ
りんぱな『クレープ!』パァァ
真姫「えぇっ!?」
凛「凛は賛成!」
花陽「私も! お腹すいたし、先輩たちのこと、知りたいし……」チラッ
ことり「わぁーっ♪ 花陽、ちゃん? かーわいいーっ♪」ニコニコ
穂乃果「私もなんだかみんなと一緒にいたいなっ!」
真姫「ちょ、ちょっと待って下さいっ!」アセアセ
海未「なんですか?」キョトン
真姫「私はその、大人数は…………」ウツムキ
海未「まあまあ、いいじゃないですか」クスクスッ
穂乃果「あーっ! それ楽譜!? 見せて見せて!」ワクワク
ことり「ピアノが得意なの? ことり聴いてみたいなぁっ♪」ニコッ
真姫「うぇぇっ///」カァーッ
海未「……ふふっ♪」クスクスッ
海未(いつも通り、ですねっ)
海未「じゃあ、あとはお願いしますねっ♪」
ことり「了解ですっ♪」ニコッ
海未「では、ごきげんよう」ペコッ
穂乃果「次は海未ちゃんも来てね!」
海未「はい、必ず」ニコッ
花陽「ぜ、絶対ですよっ!」
海未「そうですね」クスクスッ
海未「────『みんな』で行きましょう、ね」ニコッ
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
──神田明神──
海未「…………」パンッパンッ
海未「…………」ペコッ
海未「…………」
「────熱心、やね」
海未「……ええ、ちょっと神様にお願い事を」
「……なんて?」
海未「みんなでクレープを食べに行けますように、ですかね」
「みんな、って?」
海未「もちろん────」スッ
海未「九人で、です。あなたたちを入れて」
絵里「…………」
希「来ると思ったよ」ニコッ
海未「ふふっ♪ 得意の占いですか?」クスクスッ
希「おや、よくわかったね」カードピッ!
海未「それで、なにか御用ですか?」
絵里「…………あの子に謝りたいの」シュン
海未「にこに、ですか?」キョトン
絵里「ええ」
絵里「今朝あの子に会ってからずっと考えてた」
絵里「私のことを『親友』と呼んだあの子」
絵里「何度も何度も考えたけど────」
絵里「やっぱり私の『親友』は希だけだったわ」シュン
海未「先輩……」
海未「では、なぜ?」キッ
絵里「…………」
希「…………」ギュッ
絵里「思い出したのよ」ボソッ
海未「思い出し、た?」
絵里「…………一人で毎日チラシを配る女の子のこと」
海未「それは────」
絵里「私は……いや、私たちはその子のことがずっと気になってた」
絵里「その子の力になれることはないかってっ!」ギュッ
希「えりちは困ってる子の力になりたくて、生徒会にはいったんよ」
絵里「きっかけはその子のだった」
海未「そうだったのですか……」
絵里「……あの子は私にとって『心友』だったんだと思う」
海未「希先輩のこと、ですか?」
希「漢字が違うんよ」クスクスッ
絵里「心の友と書いて『心友』」
絵里「私が勝手に思ってるだけなんだけどね」
絵里「あの子が頑張ってるなら私も……なんて勝手に思ってたの」
希「その子が……矢澤 にこさんなんやろ?」
海未「…………はい」
希「やっぱり、か」
絵里「…………」ギュッ
希「あの子が言ってたことが本当なら」
絵里「私たちがスクールアイドルかぁ」クスクスッ
絵里「想像できないけど、あの子と一緒に一つのことを出来るって」
絵里「それってきっと、とってもハラショーだわ」クスクスッ
希「……なんで覚えてないんやろな」シュン
絵里「ほんとにね」ウツムキ
海未「────大丈夫です」
のぞえり『大丈夫?』
海未「明日になったらきっと、その子の顔を思い出します」
海未「その子と過ごした時間も……そして、未来も」
海未「これは悪い夢なのですから」ニコッ
希「────っ」
絵里「そっか、悪い夢、か…………」ニコッ
海未「はいっ」ニコッ
希「…………なぁ、ちょっと」チョイチョイ
海未「え? なんです?」
希「さっきから気になってたん」
海未「な、なにがです?」
希「ちょっとボディチェックさせてね」ニコッ
ぽんぽん。
海未「わっ! ちょっと希!?」アワアワ
絵里「希!? なにを!?」
希「あぁんっ! 暴れないのっ♪」ニコッ
海未「な、なんなのです!?」
希「なにって、スピリチュアル?」ワシワシ
海未「きゃっ! どこ触ってるんですかっ!///」カァーッ
希「おぉ、この控え目な大きさに柔らかさ、くせになりそうだねっ♪」ニヒヒッ
絵里「ハラショー///」カァーッ
海未「ふざけてるんですか!?///」ウガー!
希「真面目やよー? おっ!」
うみえり『!?』
希「これ、やね」キリッ
海未「わ、私の携帯ですか?」キョトン
希「何か伝えたいことがあるみたいやね」
絵里「わかるの?」キョトン
希「ふふんっ♪ うちに任せときっ!」
海未「おぉっ!」キラキラッ
海未(なんだか頼もしいですっ!)
希「いくやん」キリッ
うみえり『……』ゴクリッ
希「────希パワーたーっぷり注入!はーい、プシュッ☆」ウインクパチッ
携帯「頂きましたーっ!」
うみえり『!?』
希「はい、どうぞ?」スッ
海未「え、あ、はい」タジタジ
海未(なにか、変わったのでしょうか?)
海未「…………?」
ポチポチ。
希「…………」ニコニコ
ポチポチ。
絵里「…………」
ポチポチ。
海未「…………あの、動かないのですが?」
のぞえり『!?』
希「ちょ、ちょっとかして!」アセアセ
海未「は、はいっ」アセアセ
希「あー、うーん……」ポチポチ
絵里「ど、どう?」
希「…………御臨終?」 クビカシゲ
海未「のぞみぃぃぃぃいいい!」
希「あ、あははっ。ごめんねっ」アハハッ
海未「なにやってるんですかあなたは!」
希「いやー、ほんま、かんにんかんにん」アハハッ
海未「堪忍ではありません!」
海未「いつもいつも! 凛と二人で私をからかって!」ウガー!
海未「そして今は携帯を破壊する!?」
海未「一体どれだけ私に迷惑を掛ければ……」ワナワナ
希「う、うち、凛ちゃんって子知らんし〜」アハハッ
海未「絵里からもなにか言ってやってください!」キッ!
絵里「わ、私!?」ビクッ
絵里「あー、えーっと、うーん……あっ」
絵里「待って待って!」
海未「なんですか!? 早く希を叱って────」
絵里「スマホの画面付いてるわ!」
海未「いまはそれどころじゃ────」
海未「ん? 付いてる?」
海未「…………………直った?」
希「ほっ」ホッ
海未「ちゃんとしているか中を見てみます」ギロッ
希「ひいっ!」ビクッ
海未「メールが来てますね……」
海未(差出人不明? イタズラですかね?)
海未「これは────」
『カイトウノウデワヲコワシテ』
海未「────っ」
希「なーなー、どうしたん?」
海未「…………ありがとうございます、希」
海未「もう、大丈夫ですっ」ニコッ
希「よかったーっ。うち、内心はめっちゃ焦ってたよ」アハハッ
絵里「それにしても、さっきのあなた凄かったわね」アハハッ
海未「あっ! ごめんなさいっ! ついいつものように……」アセアセ
絵里「ふふっ♪ 私たちそれだけ仲が良かったってことよね」クスクスッ
海未「そう、ですね」
海未「…………先輩」
海未「にこは訳あって今は会うことは出来ません」
絵里「そう、なの」シュン
海未「だから、明日」
海未「次に出会った時に、先輩たちの想いを伝えて下さい」ニコッ
絵里「わかったわ」ニコッ
希「悪い夢が醒めるんやね」ニコッ
海未「それと、これだけは言わせてください」
のぞえり『?』
海未「今の二人にとって、『あの子』は心の友かもしれません」
海未「ですが、私から見えたあなたたち三人は……」
海未「『親友』と呼ぶにふさわしい関係でしたよっ」ニコッ
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
──UTX──
海未「────暗い、ですね」
海未(だれもいないのでしょうか?)
海未(人の気配がしません)
海未「入り口は…………」トコトコ
海未(閉められていますね)
海未(はて、どうしたものでしょうか?)
「────園田 海未」
海未「あなたは……A-RISEの!?」
ツバサ「あなたを待ってる人がいる」
ツバサ「付いて来て」クルッ
海未(この感じ……記憶を?)
ツバサ「…………どうしたの? 早く来て」
海未「ちょ、待ってください!」ダッ
海未(例え罠でも…………行くしかない、ですよね)
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
──UTX内──
海未(とても暗い……)
海未(中には私たち以外、誰もいないようですね)
ツバサ「…………」テクテク
海未「…………」テクテク
海未(一体どこへ連れて行くつもりなのでしょう)
ツバサ「…………」テクテク
海未「…………」テクテク
ツバサ「…………」ピタッ
海未(ここは……エレベーター、ですか)
ツバサ「屋上へ」
海未「屋上、ですか?」
ツバサ「ここから先はあなた一人で」
海未「ツバサさんは?」
ツバサ「私はあなたを中へ導くだけの存在」
海未「そう、ですか」
ツバサ「検討を祈るわ」
海未「……はい」
海未(大丈夫。ツバサさんも元に戻せるはず)
海未(腕輪を壊しさえすれば…………)ギュッ
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
──UTX屋上──
────ガチャ。
怪盗「────くすっ。来たわねっ♪」クスクスッ
海未「…………ごきげんよう」キッ
────バタン。
海未「一体どういうつもりですか? わざわざこんな所に呼び出して」
怪盗「うふふっ♪ どうしてだろうね?」ニコニコ
海未「まあ、なんでもいいです」
海未「むしろ私にとっては好都合というモノです」
怪盗「どうして?」
海未「あのままにこを連れて失踪でもされたらどうにも出来ませんから」
怪盗「ふぅんっ」
海未「にこはどこですか?」キッ!
怪盗「答える必要、ある?」クスクスッ
海未「……そう、ですよね」ギュッ
怪盗「ねえ、なんでわざわざあなたを呼び出したと思う?」
海未「…………私が、気に入らないからでしょうか?」
怪盗「うーん、半分正解かな」
海未「半分?」
怪盗「あなたが気に入らない、それはもう気に入らないわ」
怪盗「だからね」
怪盗「あなたの色んな表情が見たいなって思ったの」ニコッ
海未「────っ!」ゾクッ
怪盗「怯える顔、苦痛に歪む顔」ニコニコ
怪盗「────絶望した顔」ニタァ
海未「……趣味が悪いですよ?」キッ!
怪盗「そうかな? まあ、なんでもいいわ」
怪盗「とにかく私は見てみたいの」
怪盗「あなたが一番大切なモノを失った顔を」クスクスッ
海未「…………戯言を聞く程」スッ
海未(先手必勝っ! 正面から切り開きますっ!)
海未「──暇ではありませんっ!」ダッ!
怪盗「あなたもそう思うでしょ? ねぇ────」ニコニコ
海未(同じ轍は踏みませんっ! フェイントは無し、ですっ!)
海未「はぁぁっ!」
怪盗「────にこ?」クスクスッ
ひゅっ!
海未(竹刀っ!? 横から──っ)
海未「────っ!」
バシンッ!
海未「くっ!」
怪盗「おー、よく防いだわねっ!」
海未(──一度、距離を取って)
────スッ。
にこ「…………」スッ
海未「…………どういうことですか」ギリッ
怪盗「どうもこうも……あなたの大切な人よ?」キョトン
海未「そうではありませんっ!」
にこ「…………」
海未「にこに……にこになにをしたんですっ!」
怪盗「なにって…………」
怪盗「書き換えたのよっ♪」クスクスッ
海未「────あなたという人はぁぁぁぁっ!」
にこ「…………」
ひゅっ!
ばしっ!
海未「こんなことをして、あなたはなにを……っ!」ググッ
にこ「……っ」ググッ
(なによ、これ)
怪盗「いいのよ、あなたを消した後……ゆっくりと元に戻していくから」
ばぁんっ!
がきっ!
ずざっ!
海未「……っ!」
海未(速くて重いっ)
海未(そして、にこの身体能力を遥かに上回る動き…………)
怪盗「私だけを見てくれるにこに、ね」ニコニコ
海未「にこはあなたの道具じゃ────」
にこ「…………」ビュンッ!
(やめてっ!)
がっ!
海未「きゃっ!」
海未(────このままではっ!)
ばしっ!
ぐぐっ!
にこ「……」グッ!
(お願い……やめてよぉ)
怪盗「あらら、防戦一方ね」クスクスッ
ばぁんっ!
どすんっ!
怪盗「そりゃそうよね。傷付けられないもんねっ♪」アハハッ
海未「ぐっ!」ハァハァッ
にこ「…………」
(これ以上、海未にひどいことしないでっ!)
怪盗「ほら、まだまだ、でしょう?」クスクスッ
にこ「…………」コクン
(────やめてよ、ニコっ!)
本日はここまで。
見てくださった方、ありがとうございます。
次で終わる予定です。
最後までお付き合い頂けると嬉しいです。
しえんぬ
保守
コメントありがとうございます!
更新します。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
──にこの心の世界──
にこ「…………んっ……」
にこ(……ここ、は?)
にこ「……」キョロキョロ
にこ(暗い。どこなのかしら?)
にこ(たしか、あいつについて来いって言われて……)
にこ(そうだ)
にこ(それで頭を触られたら急に意識がなくなって)
「ようこそ、にこ」
にこ「────えっ?」
にこ「あなた、だれ?」
「…………私はニコ、もう一人のあなた」
にこ「もう一人の?」
ニコ「そう」
にこ「はっ? なんの冗談よ」
ニコ「ここは、にこの心の世界」
にこ「────っ!」
ニコ「私は、あなたの弱い心」
にこ「にこの弱い心……?」
ニコ「そう」
ニコ「不安、恐怖、悲しみ、嫉妬」
ニコ「そういう感情をもつにこが私」
にこ「どういうこと?」
ニコ「人の心には表と裏がある」
ニコ「私はその裏の部分ってこと」
にこ「────意味、わかんないんだけどっ」キッ!
ニコ「それならそれで別にいいわよ」
ぱちんっ。
にこ「……なによ、このでっかい窓みたいなのは」
ニコ「外の……にこの目から映る世界」
『はぁぁっ!』
にこ「海未っ!」パァァ
ニコ「さ、仕事だわ」
にこ「えっ?」
ひゅっ!
バシンッ!
にこ「なに、いまの?」
にこ「にこはやってない」
にこ「にこは────」
ニコ「────私がやった」
にこ「……なにをしたの?」
ニコ「…………」
にこ「なにをしたって聞いてるのよっ!」
ニコ「……あの子を攻撃したわ」
にこ「なんでっ!」
ニコ「…………」
にこ「答えなさいよっ!」
ひゅっ!
ばしっ!
ぐぐっ!
にこ「なによ、これ」
ニコ「…………」
『こんなことをして、あなたはなにを……っ!』
ばぁんっ!
がきっ!
ずざっ!
『にこはあなたの道具じゃ────』
びゅんっ!
にこ「やめて!」
がっ!
『きゃっ!』
ばしっ!
ぐぐっ!
ニコ「……」
にこ「お願い……やめてよぉ」グスッ
ばぁんっ!
どすんっ!
『そりゃそうよね。傷付けられないわよねっ♪』
『ぐっ!』
ニコ「…………」
にこ「これ以上、海未にひどいことしないでっ!」ポロポロ
『ほら、まだまだ、でしょう?』
ニコ「…………」コクン
にこ「やめてよ、ニコっ!」
にこ「どうして海未を……あんたが私だっていうならわかるでしょ!?」
にこ「『にこ』が海未のことをどう思ってるのかっ!」ギュッ
ニコ「…………命令だから」
にこ「めいれい?」キョトン
ニコ「そう、命令」
にこ「…………」ポロポロ
ニコ「…………」
にこ「なん、でよ」
ニコ「…………」
にこ「なんであんなやつの言いなりなのよ」
ニコ「…………」
にこ「あんた矢澤 にこなんでしょ!?」
ニコ「…………」
にこ「なんとか言いなさいよっ!」
ニコ「…………」
にこ「や、約束はどうなったのよ!」
ニコ「…………」
にこ「そうよ! あいつは私と約束したわ!」
ニコ「…………」
にこ「海未にはなにもしないって! だから────」
ニコ「なにもしてないわ」
にこ「────えっ?」キョトン
ニコ「あの人はなにもしてない」
にこ「…………」
にこ(────そうだ)
にこ(いま、海未を傷付けてるのはにこだ)
にこ(にこはどうしたら────)
ニコ「もう、いいじゃない。あの子のことは」
にこ「えっ」
ニコ「あの子、にこを傷付けないように立ち回ってる」
ニコ「だけど、そんなの長くはもたないわ」
にこ「────海未っ! にこのことはいいから!」
ニコ「無駄よ。聞こえないわ」
にこ「…………そんな」グスッ
ニコ「────考えて考えて考えても、答えはひとつしかないのに」
ニコ「それを実行しないなんて」ハァッ
ニコ「なんてバカな子」
にこ「海未はバカじゃないっ!」
ニコ「ま、どっちにしろあの子じゃ勝てないわ」
にこ「そんなこと────」
ニコ「一度、負けたことのある相手だもんね」
にこ「さ、さっきは油断しただけよ!」
ニコ「違うわ」
にこ「えっ」
ニコ「もっと、ずーっと前の話よ」
にこ「なによ、それ? どういうこと」
ニコ「まあいいじゃない。知ったところで結果は変わらないわ」
にこ「わかんないじゃないっ!」
ニコ「そうかしら?」
ひゅっ!
ばんっ!
『きゃっ!』
ずざぁっ!
にこ「海未っ!?」
『────無様ね』
ニコ「……本当にバカな子。最初から、誘いに乗らなきゃ良かったのに」
にこ「あんなにぼろぼろになって……」
ニコ「ここまで、ね」
にこ「…………っ」
ニコ「あの子がいなくなればにこは一人だよ」
ニコ「『あの時』みたいにね」
にこ「……っ」
ニコ「でも、今回はちがう」
にこ「…………」
ニコ「『一人じゃない』」
にこ「…………」
ニコ「隣にいてくれる人がいる」
にこ「…………」
ニコ「だからもう、『諦めなさい』」
にこ「…………めて」
ニコ「全て忘れて一緒に、ね?」
『もう立てない、か』
『………』
『寝ちゃったのかしら?』
にこ「…………お願い」
『終わりにしなさい』
にこ「…………お願いだからっ!」
ニコ「…………」コクリ
にこ「もう、やめてっ……っ!」ボロボロ
『さようなら、園田 海未さん』
ぶぉんっ!
にこ「いやぁぁぁぁぁぁっ!」ギュッ
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
──UTX屋上──
怪盗「────無様ね」
海未「…………っ」
海未(どうしたら、にこを……)
怪盗「もう立てない、か」
海未「…………」
怪盗「寝ちゃったのかしら?」クスクスッ
海未(穂乃果、ことり……)
海未(私、また負けちゃうよ)
海未(『あの時』みたいに)
海未(同じ相手に…………っ)
「「負けてないっ!」」
海未(…………声?)
海未(なんだか懐かしい)
海未(懐かしい声……)
海未(私、何だか眠く…………)
怪盗「────終わりにしなさい」
にこ「…………」コクリ
海未「…………」
怪盗「さようなら、園田 海未さん」ニタァ
にこ「…………っ」
ぶぉんっ!
「ダメですぅぅぅーーーっ!」ダッ!
────キィンッ!
怪盗「なにっ!?」
怪盗(ピンク色の光!?)
にこ「…………っ!」
シャロ「…………ダメですよ、にこさんっ!」
怪盗「……なによ、このちっこいのは」ハァッ
怪盗「ほら、やっちゃいなさい」
にこ「…………」コクリ
ひゅっ!
シャロ「はぁっ!」バッ!
キィンッ!
怪盗「バリアー!?」
にこ「…………っ!?」
シャロ「────私は、あなたを護るよう海未さんに頼まれました」
シャロ「でも、怖くて何もできなくて……」ウツムキ
シャロ「海未さんがこんなになるまで見ているだけだったっ!」ギュッ
怪盗「────そっか、園田さんに私の力が効かなかったのはこの子の……」クイッ
にこ「…………」コクリ
ひゅっ!
シャロ「だけどっ!」
ガキィンッ!
シャロ「────もう逃げないっ!」キッ
にこ「…………っ」
シャロ「海未さん……私、思い出しました」
海未「…………」
シャロ「怪盗と戦うのが探偵じゃない」
ひゅっ!
パキィィンッ!
怪盗「あっ、ちょっとヒビが入ったわねっ♪」クスクスッ
シャロ「怪盗からみんなの笑顔を護るのが探偵なんだって!」
怪盗「でも現実は非情よね?」
パキィィンッ!
怪盗「護ってるだけじゃ勝てないんだものっ」
シャロ「……安心して下さい」ハァハァッ
シャロ「あなたを懲らしめるのは海未さんの仕事ですから」ニコッ
怪盗「その海未さんは気絶してるようだけど?」アハハッ
海未「…………」
シャロ「────戻ります」
怪盗「は?」キョトン
シャロ「海未さんの意識は必ず戻ります」ハァハァッ
シャロ「にこさんとの『約束』を果たすためにっ!」
怪盗「…………面白いこと言うのね」サッ
にこ「…………」コクリ
ぶぉんっ!
ガキィンッ!
シャロ「くっ!」
シャロ「これ以上、にこさんに海未さんを傷つけさせない……っ!」
怪盗「だったら、根比べと行きましょうか? 小さな探偵さんっ♪」ニコリ
シャロ「二人の心は私が護りますっ!」ギュッ
────パキィンッ!
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
──海未の心の世界──
海未(……ここ、は)
海未(どこでしょうか?)キョロキョロ
海未(私はなにを?)
海未「あっ」
「…………」トボトボ
海未(あれは…………)ギュッ
海未(幼)「……」ハァッ
『おーい、海未ちゃーんっ!』
海未(幼)「あ、二人とも……」
穂乃果(幼)「どうして先に行っちゃうの?」プクー
ことり(幼)「一緒に帰ろうよぉ」
海未(幼)「す、すみません」トボトボ
穂乃果(幼)「……」テクテク
ことり(幼)「……」テクテク
海未(二人が、剣道の試合を応援に来てくれた時の────)
海未(幼)「……」トボトボ
穂乃果(幼)「…………ねえ、海未ちゃん! うちでお菓子でも食べて行かない?」ニコッ
ことり(幼)「賛成っ! 行こうよ海未ちゃん♪」ニコッ
海未(幼)「……すみません、せっかくですが」トボトボ
穂乃果(幼)「海未ちゃん……」シュン
ことり(幼)「どうしよういっちゃうよ……」シュン
穂乃果(幼)「…………よぉーしっ!」ダッ
ことり(幼)「穂乃果ちゃんっ!?」
穂乃果(幼)「────海未ちゃんは負けてないっ!」ギュッ
海未(幼)「…………」ピタッ
ことり(幼)「穂乃果ちゃん!?」
穂乃果(幼)「穂乃果は知ってる! 海未ちゃんがたくさん練習してたこと!」
穂乃果(幼)「穂乃果たちと遊ばないで一生懸命に練習したんだもん!」グスッ
海未(幼)「穂乃果…………」
ことり(幼)「……ことりも見てたよ」
ことり(幼)「毎日お稽古する海未ちゃんを」
海未(幼)「ことり……」
穂乃果(幼)「そうだよ! 毎日二人で見に行ったもん!」
海未(幼)「ま、毎日!?」
ことり(幼)「海未ちゃんにわかんないようにこっそり見てたの……」
海未(幼)「そう、だったのですか」
穂乃果(幼)「だから負けてないっ!」
海未(幼)「いいえ、穂乃果……私は負けたのですよ」
穂乃果(幼)「たしかに試合は負けちゃったけどっ!」グスッ
穂乃果(幼)「だけど……」
穂乃果(幼)「海未ちゃんの心は負けてないっ!」グスッ
海未「────っ」
穂乃果(幼)「あんなに、あんなに一生懸命やったんだもんっ!」
穂乃果(幼)「同じ学年だったら絶対負けなかったもんっ!」ヒッグ
穂乃果(幼)「絶対、絶対負けなかったもんっ!」
ことり(幼)「ほのかちゃん……」グスッ
海未(幼)「穂乃果、それでは試合の意味が──」
穂乃果(幼)「じゃあ、穂乃果が負けでいいからぁっ!」グスッヒッグ
穂乃果(幼)「穂乃果が海未ちゃんの代わりに負けるからぁっ! うわーんっ!」ボロボロ
海未(幼)「な、なんであなたが泣くんですかっ!」オロオロ
穂乃果(幼)「うみぢゃんが泣かないがらぁっ! うわーんっ!」ポロポロ
ことり(幼)「ほのかちゃん、うみちゃぁん……うわぁぁーんっ!」ポロポロ
海未(幼)「ことりまで!? ちょっ、落ち着いて下さいっ!」アワアワ
ことほの『うえーんっ! うわぁぁーんっ!』ボロボロ
海未(幼)「そ、そうだ! 気分転換に甘い物でも食べに行きませんか!」
海未(幼)「穂むらのお饅頭がたべたいなーなんて……」チラッ
ことほの『うわーんっ!』ボロボロ
海未(幼)「あぁ、もうっ! うぅっ……」ジワァ
海未(幼)「──ほのかぁ、ことりぃっ」グスッ
海未(幼)「うわぁーんっ! わたし負けちゃった! 負けちゃったよぉっ!」ポロポロ
ことほの『うみぢゃんは負けてないもんっ!』ボロボロ
ことほのうみ『うわぁぁぁーんっ! うえぇーーんっ!』ボロボロ
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
──にこの心の世界──
────パキィィンッ!
ニコ「…………変なのが出てきたわね」
にこ(探偵…………?)
ニコ「ま、無駄なあがきね」
にこ「…………」ギュッ
ニコ「にこの知り合いってこんなのばっかりなのかしら?」
ニコ「なんの根拠もないのに……」
ニコ「無鉄砲でバカな子ばっかり」
にこ「────っ!」
ニコ「でも、よかった。それも今日で────」
にこ「────違う」ボソッ
ニコ「……違う?」
にこ「ええ、違うわ」
ニコ「…………なにが違うのよ」 クビカシゲ
にこ「どんなにめちゃくちゃなことを言われても」
にこ「どんなに嫌な顔をしててもっ」
にこ「どんなに怒りが込み上げてきても」
にこ「『にこ』は頑張ってる人をバカにしない」
にこ「私は友達を馬鹿にしたりしないっ!」
ニコ「…………」
にこ「────あんた、だれ?」
ニコ「……私はにこよ」
にこ「あー、はいはい、そっちのパターンね」ハァッ
ニコ「…………認めなさい」
ニコ「私はにこの弱い心なの」
にこ「いい? よく聞きなさい」
ニコ「なにを────」
にこ「私は一人じゃない」
ニコ「…………っ」
にこ「確かにね、あんたが言うように『あの時』みたいになるのは怖い」
ニコ「だったら────」
にこ「『あの時』は自分だけを信じていたから」
ニコ「なに?」
にこ「ねぇ、知ってる?」
にこ「穂乃果はいっつもにこと一緒にバカやって」
にこ「にこちゃんにこちゃーん! って全然先輩扱いしないんだから」クスクスッ
にこ「パンが大好きな子なの」
にこ「今度、作ってあげようかな」
にこ「にこにー特製パンに穂乃果ちゃんのほっぺが落ちちゃうにこっ!」フフンッ
ニコ「なんの話?」
バキィィンッ!
にこ「凛はすっごい元気よねっ!」
にこ「なんでかあの子には追いかけられてばっかりだわ」クスクスッ
にこ「でもね、にこは知ってるわっ!」
にこ「元気な凛も女の子らしく着飾りたいんだって」クスクスッ
にこ「今度、ヘアアレンジさせてくれないかしら?」
にこ「とっっっっっても女の子らしくなるわ」
にこ「……メンバーのだれよりも、ね」ニコッ
ニコ「なにを、言っているの?」
にこ「衣装を作るのが大好きなことり」
にこ「すっごいセンスが良くて、にこにーの可愛さを存分に引き出してくれるわ」ニコッ
にこ「でも、たまーに考えすぎちゃって迷走しちゃう時もあるのよね」クスクスッ
にこ「そんな時は決まってこうくるの」
にこ「『にこちゃ〜ん、衣装のアイディアを相談させて欲しいんだけど』ってね」ウインクパチッ
にこ「ふふっ♪ あの子が自信を付けたら、どうなっちゃうのかしらっ」
にこ「……これからも一緒に悩んであげるわっ」
ニコ「ふざけてるの?」
にこ「真姫はホントにめんどくさい子ね」
にこ「なーんで素直に、『μ'sが大好きっ!』って言えないのかしら?」クスクスッ
にこ「手の掛かる妹分だわっ」ニコッ
にこ「だけど曲を作らせたら真姫の右に出る存在なんていないわ!」
にこ「あんたの描く曲で、μ'sの輝きがどこまでも増していくのよ」
にこ「……いつもにこのパート、可愛くしてくれてありがとうっ♪」
ニコ「何を言っても無駄なのかしら?」
パキィィンッ!
にこ「希は、そうね。とにかくうっとうしいわね!」フンッ
にこ「────けど、あの子がいなかったら、私の心は折れていたかもしれない」
にこ「μ'sが誕生することも、なかったかな」
にこ「これからも頼りにしてるわ」ニコッ
にこ「……にこの大切な友達だもん」
ニコ「…………」
にこ「絵里……ふふっ♪」
にこ「よっくもμ'sの活動を邪魔してくれたわねっ! 絶対許さないんだからっ!」ウガー!
にこ「────なーんて、ね」クスクスッ
にこ「にこは知ってる」
にこ「絵里が学校のみんなを守っていること」
にこ「守りたいその気持ちが誰よりも強いってこと」
にこ「その分、不器用になっちゃうってこと」
にこ「絵里はどう思ってるかわかんないけど」
にこ「にこは絵里を親友だと思ってるにこっ♪」ニコッ
ニコ「…………それで?」
────パキィィンッ!
にこ「『あんた』は知らないでしょ? にこの大切なみんなのこと」
にこ「にこの大好きなみんなのことっ!」ギュッ
にこ「だから『あんた』は────」
ニコ「次で最後よ」
────ガキィンッ!
にこ「────っ!」
ニコ「小さい子のバリアーも次で壊れる」
ニコ「それに、あの子の意識が戻ったところでなにも変わらないっ」
ニコ「もう一度言うわ」
ニコ「諦めなさい」
にこ「やっぱりあんた、にこじゃないわ」ハァッ
にこ「この宇宙ナンバーワンアイドルにこにーにこちゃんはね」ギュッ
にこ「────『諦める』なんて言葉は知らないのよっ!」
ニコ「────っ」ビクッ
にこ「────そうよね? 海未っ!」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
──海未の心の世界──
海未(────ああ、そうでした)
海未(私は────)
『負けないよっ』
海未「……穂乃果」
穂乃果「うんっ!」グッ!
海未「ことり……」
ことり「えへへっ♪」ニコニコ
海未「────まだ、あの日のように言ってくれるのですか?」
穂乃果「……負けないよ」ニコッ
ことり「海未ちゃんは負けないっ」ニコッ
ことほの『あの時とは違うからっ』
海未「あの時と、違う?」キョトン
穂乃果「穂乃果は知ってる」
穂乃果「海未ちゃんが、本当はアイドルなんてやりたくなかったこと」クスクスッ
海未「ほ、穂乃果それは────」アワアワ
ことり「ことりは知ってるよ」
ことり「海未ちゃんが人前に出るのが苦手な、恥ずかしがり屋さんだってこと」クスクスッ
海未「こ、ことりまでっ」アセアセ
ことほの『私たちは知ってる』
穂乃果「そんな自分にとっての壁を」
ことり「誰かのためだったら乗り越えられる」
ことほの『──海未ちゃんが強い人だってことっ!』ニコッ
海未「穂乃果、ことり……」
海未「た、例えそうだとしても、もう、打つ手が…………」シュン
穂乃果「ぶつけてみようよっ!」
海未「ぶつけるっ!?」
ことり「海未ちゃんのありったけの気持ちをっ♪」
穂乃果「にこちゃんを好きだっていう気持ちをっ!」
ことり「にこちゃんの心に呼び掛けようよ!」
海未「そ、そんなことをしても────」
穂乃果「無駄じゃないっ」グッ!
海未「穂乃果…………っ」ギュッ
ことり「やってみなきゃわかんないよっ!」グッ!
海未「でもことり、それでは────」
穂乃果「本当の敵は、誰?」
海未「────っ!」
ことり「出来ないって……無理だって、誰が決めたの?」
海未「…………」ウツムキ
海未(ああ、そうですね)
海未(二人の言うとおりです)
海未(私は、なんと愚かなのでしょう)
海未(いつもそうです)
海未(臆病で二人がいないと一歩も踏み出せない)
海未(今だってどうしたらよいか考えるばかりで)
海未(でも、なにも思いつかなくて)
海未(────だけど)
海未(この胸にある想いは)
海未(……『約束』だけは)
海未(絶対に護りたいっ!)ギュッ
海未「────誰でもありません」スッ
海未「決めるのは、自分です」
海未「本当の敵は────」
海未「自分自身の弱い心です」
ことほの『…………うんっ!』ニコッ
『────海未っ!』
海未「にこ…………?」クルッ
海未「あれ、は……」
海未(────光?)
海未(あの光の向こうに…………)
穂乃果「────ことりちゃんっ♪」
ことり「うんっ♪」
────スッ。
海未(────二人の手が、背中に……)
穂乃果「私たちには、もうこれくらいしかできないけど」
ことり「精一杯の気持ちを込めて……」
海未(…………知らなかったです)
────とんっ。
海未(誰かに背中を押されることが、こんなにも勇気が出ることなんて────)
ことほの『行ってらっしゃいっ♪』
海未「────行ってきますっ!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
──UTX屋上──
────ガシャーンッ!
シャロ「きゃっ!」
怪盗「おー、次で壊れそうねっ♪」
にこ「…………」コクリ
シャロ「ま、まだですぅ……」ヨロッ
怪盗「しつこい子は嫌いじゃないぞぉ♪」クスクスッ
海未「…………」ピクッ
シャロ「負けませんっ! 海未さんに託されたんですっ!」ハァハァッ
怪盗「これで、終わりになさい」ニコッ
にこ「…………」コクリ
ひゆっ!
────ガッ!
シャロ「くっ!」ググッ
にこ「…………っ」グッ!
────バキィィンッ!
シャロ「────っ!」
シャロ(そ、んな…………)
怪盗「さようなら、小さな探偵さんっ♪」
にこ「…………っ」スッ
びゅんっ!
シャロ(────海未さんっ!)ギュッ
「はぁぁぁぁああっ!」
がきぃぃんっ!
にこ「…………っ!」
怪盗「…………っ」
シャロ「あ、あ…………っ」ジワァ
海未「────あなたが護ってくれていたのですかっ」ニコッ
シャロ「────海未さんっ!」バッ!
ぎゅっ!
海未「ふふっ♪ くすぐったいですよぉ」ニコニコ
シャロ「海未さん……私、海未さんとの約束…………っ!」グスッ
海未「護ってくれてありがとうございます」ナデナデ
シャロ「でも、にこさんが……」ヒッグ
海未「大丈夫ですよっ」
シャロ「えっ」
海未「これから助けるのです。あなたと一緒にっ!」ニコッ
シャロ「────っ!」
海未「言ったでしょう? 『あなたと一緒ならなんでも出来る』と」ニコッ
シャロ「あ……っ。はいっ!」パァァ
怪盗「…………何ができるって?」クスクスッ
にこ「…………っ」スッ
海未「…………っ」キッ!
怪盗「あんまり笑わせないでよね」アハハッ
怪盗「ボロボロのあなたと小人に何ができるって言うの?」
怪盗「何も出来ないわよね? だって、私が有利なのは変わらないもの」クスクスッ
海未「────やってみなくてはわかりませんよ?」
怪盗「────っ」イラッ
にこ「…………」
怪盗「今度こそ、終わりにしなさい」
にこ「…………」コクリ
海未「距離を取りながら戦います」ヒョイッ
シャロ「きゃっ!」
海未「肩から落ちないで下さいねっ!」ダッ!
怪盗「追いなさいっ!」
にこ「…………っ」ダッ!
海未「力が戻ったのですね」ヒソヒソッ
シャロ「はいっ♪ 海未さんたちのおかげですっ」ヒソヒソッ
海未「その力を見込んで、お願いしたいことがあるのですが……」ヒソヒソッ
シャロ「…………?」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
──にこの心の世界──
にこ「……はぁーっ」ハァッ
ニコ「…………っ」
にこ「ねえ、今の見た? カッコよすぎじゃない?」
ニコ「…………」
にこ「『これから助けるのです。あなたと一緒にっ!』だって///」
にこ「なんなの? 王子様なの?」
ニコ「…………園田 海未が目覚めたところでなにも変わらないわ」
にこ「それは違うわ」
ニコ「…………っ」イラッ
にこ「あの子は『変われる』わ」
ニコ「…………なんですって」
にこ「変わらないのは『あんた』だけよ」
ニコ「…………っ」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
──UTX屋上──
怪盗「お喋りなんて余裕じゃない?」
怪盗(…………なにか企んでるのかしら)
怪盗(それでも関係ないわね)
怪盗(『にこ』と戦う限り、あの子に勝ち目はないもの)
海未「…………では、合図をしたらお願いします」ヒソヒソッ
シャロ「合点承知ですっ!」ニコッ
にこ「────っ」ザッ!
海未(追いつかれたっ!)ズザッ!
ひゅんっ!
ひらっ。
にこ「────っ!?」
怪盗「避けた!? さっきまでは受けてばかりだったのに……?」
びゅんっ!
ひらっ。
ざんっ!
パキッ、ひょいっ。
怪盗「────にこの動きがおかしい」
しゅんっ!
パキッ、するっ。
怪盗「────そうか、小さい子の力ね!」
怪盗「さっきのより濃度の薄いバリアーを張ってタイミングを一瞬遅らせてるんだわ」
海未(────その通りですっ!)
びゅんっ!
海未(元々、速い斬撃に眼は追いついていました)ヒラッ
海未(ですが、平静さを欠いた先ほどの状態では、『避ける』という行為を選択することは出来ませんでした)
海未(怒りや力に任せるばかりで)
海未(…………穂乃果とことりには感謝しきれません)
しゃっ!
海未(おかげで冷静さを取り戻せました)ヒョイッ
にこ「…………っ」ハァハァッ
海未「────どうしました? 息が切れてますよ?」
怪盗(────なるほど)
怪盗(仲間がいて、気分が変わったのもあるのかしら?)
怪盗(今なら一瞬だけ時間が作れれば避けられるってわけね)
怪盗(だったら、避けられない攻撃をするまで────)
怪盗「────全力で行きなさいっ!」
にこ「…………っ」
────ぎゅっ!
海未「────っ!」
海未(深い『溜め』っ、上段からの斬り付けっ!)
海未(深い『溜め』っ、上段からの斬り付けっ!)
海未「シャーロックッ!」
びゅんっ!
シャロ「はいですぅっ!」バッ!
がっ!
怪盗「無駄よっ!」
ばっ、きぃぃぃんっ!
怪盗「この重さ、受け切れるかしらっ!?」
海未「────その気はありません」スッ
がちっ!
────するっ。
にこ「────っ!」
怪盗「なっ! ……受け流した!?」
怪盗(剣の動きを見切ったって言うの!?)
怪盗(これも小さい子の力を使って……っ!)
海未「はっ!」
ばちんっ!
にこ「────っ!」
怪盗(竹刀を弾いた……それで無力化したつもり!?)
怪盗「────だけど、あなたには反撃の手がないじゃないっ!」
海未「────っ」 ダンッ!
怪盗「────っ!?」
怪盗(間合いを詰めた!? ほぼゼロ距離! あんなに肉薄してなに、を────)
────ぎゅっ。
にこ「────っ」
怪盗「な、に?」キョトン
海未「────にこ」
にこ「…………っ」ジタバタッ
海未「にこ、そこにいるのですよね?」
にこ「…………っ」
怪盗「…………抵抗なさいっ!」
海未「…………声が、聴こえたんです」
海未「あなたの声が」
海未「私を呼ぶあなたの声がっ」ギュッ
にこ「…………っ」
海未「だからあなたに、自分の気持ちを伝えたくて……」
海未「でも私、不器用で────」
にこ「……っ」
怪盗「────このっ! にこから離れなさいっ!」ダッ!
────キィンッ!
怪盗(近づけないっ! これは────)
シャロ「…………」ザッ
怪盗「…………そこを退きなさい」
シャロ「いやですっ」キッ
怪盗「…………っ」
シャロ「…………っ」
怪盗「────いいわ、あの子の無駄な行為、最後まで見てあげるっ」クスクスッ
海未「────不器用だから、こんな風にしか伝えられません」ニコッ
にこ「…………っ!」
海未「…………ことばもでない、ほどにー」
海未(夢のために頑張るあなた)
海未「はしりーつづけてーきたとー」
海未(私たちの未来を護ってくれたあなた)
怪盗「歌? はっ、いまさらそんなので…………」
にこ「…………っ」ツー
にこ「……」ポロポロ
怪盗「に、こ?」キョトン
海未「わかってるから」
海未(笑顔が、誰よりも素敵なあなた)
海未「そのまま聴いて?」
海未(────そんなあなたが大好きです)
海未「『本当にえらかったね』」
海未(にこ、あなたは私にとって一番の────)
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
──にこの心の世界──
ことばもでない、ほどにー。
はしりーつづけてーきたとー。
ニコ「……う、歌!? そんなのになにがっ!?」
にこ「…………っ」
ニコ「動かない、どうして動かないの!?」
わかってるから。
にこ「…………うん」
そのまま聴いて?
にこ「…………うんっ」グスッ
『本当にえらかったね』
にこ「…………うんっ」ポロポロ
ニコ「に、こ?」キョトン
平気なふりはしなくてもいい。
もうだれも、見てないから。
にこ「海未…………っ」グスッ
ニコ「泣いている、の?」
疲れた顔でいてもいいよ。
抱きしめてあげるよ。
にこ「…………伝わる。伝わるよ、海未」ポロポロ
だっていまは、見つめあうふたりが────。
そっとそっと、寄りそうだけ。
にこ「聴こえるよっ。海未の歌っ!」ボロボロ
『意味』なんて知らないけどいつも。
心から消えない…………。
────この愛おしさ。
にこ「…………伝えなきゃ」
ニコ「…………なによこれ、なんなのよ!」
にこ「私も海未に」
ニコ「こんなの意味ないっ!」
にこ「想いは伝わる────」
ニコ「意味なんかないのにっ!」
にこ「────『歌』で伝えられるっ!」
ニコ「────っ! 無駄よ、あなたの歌は盗まれてるものっ!」
にこ「……さぁ、げ………ん………」
にこ(────だめ、やっぱり歌えないっ!)シュン
にこ(歌詞がっ! メロディーがっ! 記憶に……)ギュッ
ニコ「ほらねっ。無駄なことはやめなさい」
にこ(無駄じゃないっ! 忘れちゃったのなら思い出せばいいのよっ!)
にこ(あの時、海未に言った言葉は強がりでもなんでもないっ!)
『────にこ、あなたは私にとって…………一番のアイドルです』
にこ「────っ!」ドキッ
にこ(声……海未の声だ)
にこ(一番の、アイドル?)
にこ(私の一番のアイドルは────)
にこ「────へ……いき」
ニコ「な、に?」キョトン
にこ「…………大丈夫、よ」
ニコ「それで歌ってるつもり? 音程も、なにも…………」
────ふわっ。
ニコ「────っ!? なによこれ!?」
にこ「かなし……く、て…………も」
にこ(思い出すの。思い出すのよにこ)
にこ「そ……う、こたえ、なきゃ」
ニコ「────消えていくっ」キラキラッ
ニコ「私の体がっ!」
ニコ「光って…………っ!」キラキラッ
にこ「みん、な」
にこ(いつか見た、一人で歌うあなた)
にこ「きがつい…………て」
ニコ「いやっ! いやよっ!」
ニコ「私はにこと、にこと一緒に…………っ!」
ニコ「……そん、な……………………」
…………すっ。
にこ(綺麗だなって思った)
にこ「本当、じゃない…………」
にこ(頑張ることが大好きなあなた)
にこ「強がりだと」
にこ(誰よりも友達想いなあなた)
にこ「泣いて、みようか……すこし」
にこ(可愛くて、カッコよくて)
にこ「ちがう、自分をだーせばー」
にこ(にこの大好きな────)
にこ「かーわーれーるっ」
にこ(────一番のアイドル!)
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
──UTX屋上──
「────引いたり〜、満ちたーりっ」
怪盗「なん、てこと…………っ!」ギリッ
「心のー波がー」
怪盗「────にこの中の『私』がっ!」
「わーたーしーをーさらうの〜」
シャロ「綺麗な歌声ですぅ〜♪」ニコニコ
「こーんなーに、なーにかをっ」
海未「────聴こえます」グスッ
「もとめーるーちからーが」
────ぎゅっ。
「わーた〜しーの、なーかーっ♪」
海未「聴こえますよ、にこ」ポロポロ
「はげしく、なーるー、Reason ♪」
海未「…………忘れたモノは」
にこ「…………ふぅっ」
海未「また、思い出せばいいんですよね?」グスッ
にこ「そうよ? にこにーにこちゃんに不可能はないんだからっ」フフンッ
海未「…………さすがにこですっ」ポロポロ
にこ「あったりまえでしょっ!」フンッ
にこ「それよりあんた! ぬぁに泣いてんのよっ!」ウガー!
海未「はい……すみません」ゴシゴシッ
にこ「嬉しい時は思いっきり笑うの!」ニコッ
海未「…………はいっ」ボロボロ
にこ「……ホント、仕方ない子ね」ナデナデ
────ぎゅっ。
海未「────お帰りなさい、にこっ」グスッ
にこ「ただいま、海未っ」ニコッ
────────ずざっ。
怪盗「…………認めないっ」ボソッ
うみにこ『────っ!』
怪盗「認めないわ」スッ
海未「にこが使っていた竹刀を…………」ギュッ
にこ「いつっ!」フラッ
海未「にこっ!?」
にこ「ごめんっ、身体のあちこちが痛くて……っ」ヨロッ
海未(────無理もありません。あれだけ身の丈に合わない動きをしていたのですから)
海未「…………シャーロック、にこをお願い出来ますか?」
シャロ「────任せてくださいっ!」キリッ
シャロ「それより海未さん」
海未「はい?」
シャロ「私、わかったんです! あのブレスレットを────」
海未「────破壊すれば良いのですね?」
シャロ「どうして知ってるんです?」キョトン
海未「まったく、あなたのお友達にも困ったモノです」ハァッ
シャロ「へっ?」
海未「どうやって何にハッキングしたのかわかりませんが……」クスクスッ
シャロ「ハッキング……?」キョトン
海未「私の携帯にメールを送りつけてきたのです」
シャロ「携帯? …………あっ!」パァァ
海未「さぞかしやんちゃな方なのでしょうね?」ニコッ
シャロ「────はいっ♪」ニコッ
にこ「海未、あんた……っ」ハァハァッ
海未「…………そこで待っていてください」ニコリ
海未「今こそ果たします。…………約束を」キリッ
にこ「────っ。破ったら、許さないんだからねっ!」ニコッ
海未「はいっ」ニコッ
────すっ。
海未「お待たせしました」キッ
怪盗「負ける覚悟はできたかしら?」ニタァ
海未「────『覚悟』は出来ました」
怪盗「…………へぇ」
海未「ですが、負ける覚悟ではありません」
海未(………そうです)
怪盗「…………だったら、なによ」
海未「『光』を追いかける覚悟です」スッ
海未(園田家の跡取り、ではなく)
怪盗「調子に…………っ」ギリッ
海未(私は────)
海未「…………スクールアイドル園田 海未」ギュッ
怪盗「────乗るなっ!」ダッ!
海未「────参りますっ!」ダッ!
ばきぃんっ!
海未「…………っ」グッ!
怪盗「────ずっと好きだったっ!」ググッ!
海未「────っ!」
ばしんっ!
怪盗「一年生の頃からずっと!」
怪盗「だからっ!」ヒュッ
がっ!
海未(────はやいっ!)グッ
怪盗「にこの隣は私こそが相応しいのっ」ギュッ
怪盗「────そこを退きなさいっ!」
ひゅんっ!
海未「なぜですか?」
────ひらっ。
怪盗「────っ!」
海未「でしたらなぜ、にこの側に居なかったのですかっ!」
怪盗「…………っ」
海未「どうしてにこが辛い時に助けてあげられなかったのですかっ!?」
怪盗「現実を知って欲しかったから」
海未「…………現実?」
怪盗「そうよ」
怪盗「普通にやっててもアイドルになんてなれるはずがないって」
怪盗「一人になれば思い知るって」
怪盗「だから敢えて手を貸さなかったの」
海未「…………っ」ギリッ
怪盗「あなたたちのせいでそれも無駄になっちゃったけどね」ハァッ
海未「あなたという人は……っ」ギュッ
怪盗「────でもね、いまは違う」クスッ
怪盗「屋上で『夢』を取り返すとか言ってたわね」クスクスッ
海未「……聞いていたのですか」
怪盗「私のこの『チカラ』があればにこの『夢』は叶うわ」アハハッ
海未「なっ────」
怪盗「μ'sを盗んで、あなたを盗んで…………」
怪盗「あの子をまた一人にして」
怪盗「そうしたらはじめるの」
怪盗「この『チカラ』であの子を本当のアイドルにするっ!」パァァ
怪盗「それが私の────」
海未「────っ」ヒュッ
ひゅんっ!
がきっ!
海未「…………っ」グググッ!
怪盗「────なっ!?」ググッ!
怪盗(────なんて斬撃なの!?)
海未「ふざけないでくださいっ」
怪盗「────っ」ゾクッ
────ばっ!
ずざっ。
怪盗(…………なに、いまの)
海未「にこの『夢』を叶える?」
怪盗(私、怯えてる?)
海未「にこを本当のアイドルにする?」
海未「『そんなチカラ』で叶えた夢なんかに意味はありませんよ」ギュッ
海未「それにあなたは────」ダッ!
海未「────あなたはにこを解っていないっ!」ビュンッ
怪盗「──っ!」ビクッ
────がきっ!
ぐぐぐっ。
海未「以前、にこが教えてくれました」ググッ!
海未「アイドルは笑顔を見せる仕事じゃない。笑顔にさせる仕事だと」
怪盗「────離れ、なさいっ!」
ばっ!
────ずざっ!
海未「あなたにこの意味がわかりますか?」
怪盗「…………っ」ハァハァッ
海未「例えただの学生でも」
海未「例え将来、『アイドル』という職に就けなかったとしても」ギュッ
海未「目の前にいる『誰か』を笑顔にさせる限りっ!」ダッ!
海未「────『矢澤 にこ』は『誰か』にとってのアイドルなんですっ!」
びゅんっ!
────がっ!
ばきぃんっ!
怪盗「────ちっ!」
怪盗(竹刀が折れたっ! だったら────)
ぱちんっ!
────ぼんっ!
海未「────っ!」
海未(煙幕っ!)
海未(しかし、同じ手は喰いませんっ! 一度下がって……っ)
怪盗「────っ!」ダッ!
海未「────っ!?」
海未(距離を詰められたっ!? 逃げるためじゃない、狙いは……頭!?)
怪盗「終わりよ、園田 海未っ!」ギュンッ!
海未(『能力』を使って私を────っ)
────がちりっ。
海未「…………っ」
怪盗「────ふふっ♪」クスクスッ
怪盗「勝った! 勝ったわっ!」アハハッ
にこ「…………っ!」
シャロ「海未さん……っ」
怪盗「ほら? 私の言うことを聞きなさい」ニタァ
海未「…………っ」
怪盗「まずはあの小さいのを始末しなさいっ」クスクスッ
シャロ「────っ!」
海未「…………」
怪盗「…………」
海未「…………」
怪盗「…………?」
海未「…………」
怪盗「どういうこと? なぜ、動かないの?」
海未「…………」
怪盗「ほら、はやくっ!」
海未「…………」
怪盗「はやくなさいっ!」
にこ「海未…………っ」
海未「…………っ」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
──海未の心の世界──
海未「────ようこそいらっしゃいました」ニコッ
「…………っ」
海未「おや、難しそうな顔をしていますね?」
「…………っ」
海未「あらっ、そうですね。お茶も出さずに失礼しました」
「…………っ」
海未「けれどすみません、この世界ではそう言ったものは出せないみたいで……」アハハッ
「…………っ」
海未「そうだ! お話でもしませんか?」ニコニコ
「……………っ」
海未「悩みは、人に話せば解決するといいます」
「……………っ」
海未「こんな私で良ければ────」
「────やめてよ」
海未「…………っ」
「あなた、なんなの?」
海未「なに、と言われましても」
「なんでそんなに明るいの?」
海未「暗いほうが良かったですか?」キョトン
「そうじゃなくてっ!」
海未「…………っ?」
「あんたは今から身体を乗っ取られるの」
海未「…………っ」
「私が乗っ取って、あんたのお友達を傷付けるの!」
海未「────にこも、ですか?」
「────っ。にこは、その、……違う」
海未「ですが、あなたはにこの身体を乗っ取った」
「…………っ!」
海未「激しく動いた代償に彼女の身体は傷付いた、そうですね?」キッ
「…………私は悪くない」
海未「どうしてですか?」
「あんたに言っても仕方ないのよ」
海未「いいじゃないですか? ちょっと話すくらい」
「…………あんた、なんなの?」
海未「二回目ですね」
「なにを考えてるの?」
海未「…………あなたを助けたいのです」
「私…………を?」
海未「はい」ニコッ
「なに、言ってるのよ? 私は────」
海未「あなたのやりたいことはなんですか?」
「────っ」
海未「私を傷付けることですか?」
「…………」
海未「μ'sのみんなを傷付けることですか?」
「…………」
海未「にこを傷付けることですか?」
「…………ち、がう」
海未「…………では、どうしたいのです?」
「あんたに言っても意味なんて────」
海未「ありますよ」
「────っ!」
海未「あなたも見たはずです」
海未「誰かを想う気持ちが……心の強さが」
「…………」
海未「どんなに優れた能力にも勝ると」
「…………っ!」
海未「制御出来なくなった心が大切な人を傷付ける」
海未「それでよいのですか?」
「…………」
海未「あなたの本当の気持ちは?」
「…………私、もう、自分でもどうにもできなくて」
海未「…………」
「あのブレスレットを着けたら、自分が自分じゃなくなってきちゃってっ!」
海未「…………」
「ホントはあなたに酷いこともしたくないっ!」ポロポロ
海未「…………」
「にこちゃんを悲しませたくないっ!」
海未「…………」
「昔みたいに、仲良くしたかっただけなのっ!」
海未「そう、でしたかっ」ニコッ
「…………園田さん」グスッ
海未「はい」
「自分勝手なことはわかってる」
海未「はい」
「こんなお願い図々しいのもわかってる」
海未「はい」
「────助けてっ」
海未「…………」ギュッ
「助けてよぉっ!」ボロボロ
海未「────心得ました」ニコッ
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
──UTX屋上──
怪盗「ほら、早くちびっ子を…………」
キィンッ!
怪盗「…………音?」
海未「────心得ましたっ」
怪盗「────っ!」
にこ「…………っ!」ギュッ
シャロ「────あっ!」パァァ
怪盗「どうして……? 小さい子がいないのに?」
海未「さて、何故でしょうね?」
海未「借り物の力に執着するあなたには……」
海未「理解することは難しいでしょうね」スッ
シャロ「海未さん……っ!」ギュッ
怪盗「こんな…………こんなの……っ」
海未「終わりです」スッ
海未「名も無き『夢』怪盗」
怪盗「嘘だ…………っ」
海未「その『夢』、あなたが盗むにしては少々大き過ぎたようです」
怪盗「ワタ、ワタシは!」
怪盗「このカラダを…………っ!」
にこ「────海未っ」
『大丈夫です。私がなんとかします。
歌も、記憶も、友達も……。
────そして、あなたの夢も。
全て私が取り返しますから』
にこ「────いっけぇぇぇぇっ!」
海未「────はぁぁぁあああああっ!」 ダンッ!
びゅんっ!
────パキィンッ!
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
────エピローグ
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
──いつもの待ち合わせ場所──
穂乃果「────う、みちゃーーーーーんっ!」ダッ!
海未「な────」
もぎゅっ!
穂乃果「海未ちゃん海未ちゃんっ! うーみちゃーんっ!」スリスリ
海未「な、なんですかあなたはっ!? 急にくっ付かないで下さいっ!///」カァーッ
穂乃果「いいじゃんいいじゃんーっ!」スリスリ
ことり「はーいっ! 南 ことり、くっ付きまーすっ♪」
海未「ちょっ、こと────」
もぎゅっ!
海未「なんですかあなたまでっ!? 離れて下さいっ!///」
ことり「えーっ、急じゃなかったらいいっていったじゃん」スリスリ
穂乃果「ねーっ♪」スリスリ
海未「ほら、屁理屈言ってないで離れるっ!」
ことほの『はーいっ♪』
海未「まったくあなたたちは……///」プイッ
穂乃果「あのね海未ちゃん! 穂乃果、夢を見たんだっ!」
海未「夢?」キョトン
ことり「穂乃果ちゃん?」キョトン
穂乃果「うんっ! 絶体絶命の海未ちゃんをことりちゃんと助けに行く夢っ!」
海未「────っ!」
ことり「穂乃果ちゃん……っ!」
穂乃果「海未ちゃんはもうどうしようもなくてっ。迷っていて……」
ことり「……ことりも同じ夢を見たような」
海未「…………それでどうしたのですか?」
穂乃果「うんとね、穂乃果とことりちゃんで海未ちゃんの背中を押してあげたんだっ! そしたらねっ────」
海未「…………そうしたら?」
穂乃果「…………わ、忘れちゃったっ」アハハッ
ことり「うーん、ことりが覚えてたらなぁ」
ことり「もしかしたら同じ夢だったかもっ♪」クスクスッ
穂乃果「おぉっ! きっとそうだよ!」
穂乃果「だって穂乃果たち、スーパー幼馴染だもんっ!」グッ!
ことり「スーパー幼馴染?」キョトン
穂乃果「うんっ!」
穂乃果「絶対に切れない絆を持ってて、お互いをずーっと助け合うの!」グッ!
ことり「すごいっ! じゃあ、μ'sもそうなの?」キラキラッ
穂乃果「うんっ! μ'sもそう!」ニコッ
海未「μ'sのメンバーは幼馴染じゃないですよ?」クスクスッ
穂乃果「うーん、じゃあねぇ、うーん…………」ウーン
穂乃果「考えとくねっ!」グッ!
ことり「うんっ♪」
海未「ふふっ♪ 元気ですね穂乃果はっ♪」クスクスッ
穂乃果「だって、なんだか嬉しいんだもんっ!」
ことり「穂乃果ちゃんらしいねっ♪」クスクスッ
海未「…………ありがとうぎざいましたっ」ニコッ
ことほの『えっ?』
海未「夢の中の私を、助けてくれたのでしょう?」
海未「二人のおかげで助かりましたよっ」ニコッ
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
──校庭──
「にこぉぉぉぉぉっ!」
「にこっちぃぃぃぃっ!」
「ちょっ、なに!?」
────もぎゅっ!
にこ「きゅ、急に抱きつかないでよっ!///」カァーッ
絵里「なんだかにこを見たらうれしくなっちゃって……」スリスリ
希「少しだけ、少しだけ! ね? すぐ済むからっ」スリスリ
にこ「やめなさいよその言い方! 誤解を生むでしょーが!」ウガー!
希「あぁんっ、にこっちのいけずーっ♪」スリスリ
絵里「ふふっ♪ 怒られちゃったわね、希っ」ウインクパチッ
にこ「あんたは頬を擦り付けながらウインクすんなっ!」
にこ「ほら、離れなさいっ!」
────ばっ!
絵里「あぁ、にこぉぉぉぉっ」シュン
希「にこっち、殺生やん……」シュン
にこ「…………っ」ハァッ
にこ「ほら、教室行くわよっ」プイッ
絵里「にこ、待って!」
にこ「なによ?」
絵里「これ、受け取って?」
────キィンッ。
希「これ…………アクセサリー? えりちが作ったん?」キョトン
にこ「…………にこにくれるの?」キョトン
絵里「希と、私の分もあるの」
希「そうなん? でも、なんで?」
絵里「…………証にしたいの」
のぞにこ『あかし?』
絵里「どれだけ離れてしまっても」
絵里「どれだけ時間が経ってしまっても」
絵里「お互いのことを絶対に忘れない…………」
絵里「私たち三人は『親友』なんだっていう証」
にこ「────っ!」
希「えりち…………」ウルッ
にこ「…………っ」ウルウル
絵里「受け取ってくれない?」ニコッ
希「もちろんっ♪」ニコッ
にこ「…………っ」ウルウルッ
絵里「にこ、は?」
にこ「────はっ!」
にこ「…………っ!」ゴシゴシッ
にこ「ば、バカねっ! こんなのなくったって私は……っ」グスッ
にこ「あんたたちのこと、忘れないわよ……っ」ボロボロ
絵里「…………そうねっ」グスッ
希「にこっちぃ〜っ」ポロポロ
にこ「────まったく、もう」グスッ
にこ「朝から、なんなのよ」ポロポロ
────もぎゅっ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
──三年生を見守る一年生──
真姫「朝からお盛んね」ハァッ
花陽「みんな仲良しだねっ♪」
凛「……………………にゃーっ♪」バッ!
────もぎゅっ!
真姫「ちょ、ちょっとなによ凛///」カァーッ
花陽「ふふっ♪ くすぐったいよぉっ♪」
凛「凛たちも仲良しにゃっ♪」スリスリ
真姫「もうっ///」
花陽「なんか、安心したね」ニコッ
真姫「…………うん」ニコッ
凛「はやく放課後にならないかなっ♪」
花陽「…………みんなに会える、から?」ニコニコ
凛「うんっ! 練習が終わったら、みんなで甘い物を食べに行くにゃっ♪」
真姫「…………そうね」
真姫「『みんな』で行きましょうっ♪」ニコッ
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
──放課後、音ノ木坂学院屋上──
ガチャッ。
────バタンッ。
にこ「────遅かったじゃない?」
海未「すみません、終礼が長引きまして」
にこ「そう」フィッ
にこ「ま、部活も遅れるって伝えてあるし、大した問題じゃないわ」
海未「それで、どうしたのです?」
にこ「あ、その…………」
にこ「助けてくれて、ありがとうっ」ペコッ
海未「にこ?」
にこ「ちゃんと御礼、言ってなかったから」ニコッ
海未「そ、そんな御礼なんて!」アワアワ
海未「私の方こそ…………」
にこ「今日、『あの子』と話したわ」
にこ「今度、μ'sのライブに来てくれるってっ」
海未「────っ」パァァ
海未「それは、良かったですっ♪」ニコッ
にこ「うんっ。よかった」ニコッ
にこ「…………けど、なんか海未のうちわ持っていくって張り切ってたわよ」ジトーッ
海未「そ、そうなんですか」アハハッ
にこ「探偵の子は? あの子にも御礼を言いたかったんだけど」
海未「…………っ」ウツムキ
にこ「…………どうしたのよ?」
海未「あの子は────」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
──回想、海未の部屋──
シャロ「も、もう、ダメですぅ〜……」パタンッ
海未「だ、大丈夫ですか!?」オロオロ
シャロ「力を使い過ぎました……ばたんきゅーです」クテー
海未「ふふっ♪ お疲れ様です」ナデナデ
シャロ「気持ちいいですぅ〜♪」ニヘラッ
海未「…………電気、消しますよ?」
シャロ「はいっ」
────カチッ。
シャロ「…………ねえ、海未さん」
海未「なんですか?」
シャロ「今日は、大変でしたね」
海未「ええ、長い一日でした」
シャロ「私、海未さんのお役に立てましたか?」
海未「ふふっ♪ 感謝してもしきれませんよっ♪」
シャロ「えへへっ♪」
シャロ「私も、海未さんに感謝しています」
海未「私、に?」
シャロ「海未さんは教えてくれました」
シャロ「大切なのは持って生まれた能力の強さじゃなくて」
シャロ「絶対に諦めない心の強さなんだって」
海未「…………私なんか、まだまだですよ」
シャロ「────にこさんに比べたら?」
海未「に、にこは関係ありませんっ」
シャロ「ふふっ♪ 海未さんはホントにかわいいですぅ〜」
海未「あなたには負けますよっ」クスクスッ
シャロ「あははっ♪ ありがとうございます」
シャロ「────あ、そうだ」
シャロ「アレ。にこさんに返すの忘れないで下さいね」
海未「ああ、ポケットに入ってるという…………」
シャロ「見ないように見えないように。頑張って渡して下さい」
海未「結局なんなのですか? にこから借りたモノって」
シャロ「うふふっ♪ にこさんには勇気を借りましたっ♪」
海未「ゆ、勇気?」
シャロ「そうです。どうしても見たいのならにこさんに許可を取ってからにしてくださいね」
海未「わ、わかりましたよぉ…………」
シャロ「お願いしますねっ♪」
海未「…………あの、聞いても良いですか?」
シャロ「なんですか?」
海未「あなたのこと、お友達はなんと呼ぶのですか?」
シャロ「それってどういうことです?」
海未「愛称などはないのですか?」
シャロ「あー、みんなは私のこと、『シャロ』と呼びます」
海未「『シャロ』、ですか」
シャロ「どうしてですか?」
海未「い、いえっ! その……」
海未「シャーロックという呼び方は少し他人行儀かと思いまして」
海未「私も『シャロ』と呼んでも宜しいですか?」
シャロ「もちろんですよぉっ! もっと早く呼んでくれても良かったくらいです」
海未「そう、でしたか」
シャロ「私もっ!」
シャロ「私も、海未さんのことニックネームで呼びたいですっ!」
海未「あら? ふふっ♪ 残念ですがそういうのが無くてですね…………」
シャロ「えー、残念ですぅ〜」
海未「────では、『海未』と呼び捨てて下さい」
シャロ「呼び捨てですか?」
海未「はいっ。私自身そうなのですが」
海未「親しい友人は呼び捨てにさせて頂いています」
海未「ですので、『海未』と呼んでください」
シャロ「海未…………?」
海未「なんですか、シャロ」
シャロ「海未がくれたかまぼこ、すごく美味しかったです」
海未「ありがとうございます」
シャロ「また、食べさせてくれますか?」
海未「ええ、もちろんです」
シャロ「やった。楽しみにしてますね」
海未「はいっ♪」
シャロ「────ふわぁ〜っ」
海未「ふふっ、大きなあくびですねっ♪」
シャロ「まだ、お話したいですぅ〜」
海未「…………無理は良くないです」
シャロ「で、でも…………」
海未「…………そろそろ寝た方がよいですよ?」
シャロ「い、いやです…………だって、私……」
海未「またいつか、一緒にかまぼこを食べましょう?」
シャロ「あ…………っ」
海未「…………ねっ?」
シャロ「海未…………」
海未「おやすみなさい、シャロ」
シャロ「おやすみ、です…………」
海未「よい、『夢』を────」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
──回想終り──
海未「────戻りました。元の世界へ」
にこ「…………そう、だったの。残念ね」シュン
海未「大丈夫ですっ」ニコッ
海未「あの子とはどこかで繋がっている」
海未「…………私はそんな気がするのですっ」ニコッ
にこ「────そっか」ニコッ
海未「あ、シャロと言えば」
ごそごそっ。
海未「これ、にこに返しておいて欲しいと」
────ぎゅーっ。
にこ「……なんで握りこぶしを差し出してくるの?」キョトン
海未「どんなモノかは見ずに渡すように言われていまして……」ギュッ
海未「にこの制服に潜り込んでる時に拝借したと言っていましたが……」ギュッ
海未「一体なんなのでしょうか?」ギュッ
にこ「────あっ」
海未「えっ?」
にこ「あ、あんた、何かは見てないのよね?」アセアセ
海未「はい。シャロとの約束ですので」ギュッ
にこ「そ、そう良かった」アハハッ
にこ「じゃあはい」
すっ。
にこ「この手の上に置いてちょうだい」
海未「え?」キョトン
にこ「うん?」キョトン
海未「いや、でも…………置いたら私から見えないように、さっと隠すつもりですよね?」
にこ「……いいからおきなさいよっ」ブスー
海未「にこ! これは一体なんなのです? 教えてくれてもいいじゃないですか?」
にこ「いいじゃないなんだって!」ウガー!
海未「そんな! シャロには見られてもよくて、私に見られたら都合が悪いと!?」ギュッ
にこ「いいから、離しなさいよっ!」ガシッ!
海未「嫌ですっ!」ギュッ
にこ「ほらーっ! 渡しなさいよぉ〜っ!」グググッ!
海未「渡しません〜っ!」ギュギュギュッ!
にこ「────もうっ!」
ぐいっ!
海未「きゃっ!」
ふらっ!
にこ「ちょ、ちょっと!? へっ、きゃぁっ!」
バターンッ!
にこ「────いててっ」
海未「…………っ//////」カァーッ
にこ「あれ? 海未が……下、に?」キョトン
にこ(もしかして、押し倒しちゃった!?)
にこ(なにやってんのよ私っ!)
海未「にこ……ど、どいて…………/////////」
にこ「ご、ごめんっ///」ドキドキッ
にこ(────にしても)
にこ「…………あんたって、ホント綺麗な顔してるわね」ボソッ
海未「へっ////////////」カァーッ!
海未「ま、また、冗談ですか? からかわないで下さいっ/////////」メソラシ
にこ「冗談じゃないわっ//////」
にこ「せ、せっかくだから、もっと、よく見せて…………」
くいっ。
海未「ひっ、ぁ…………////////////」
にこ「本当に綺麗ね。吸い込まれそう//////」ボソッ
海未「やっ、にこ………それ以上は…………////////////」ボンッ!
にこ「あ、ななっ! なにこんくらいで赤くなってんのよ!/////////」
海未「うぅっ! にこだって真っ赤じゃないですかぁ〜!/////////」
にこ「…………ふんっ!//////」フィッ
にこ(────もうダメ、顔に出ちゃう)
にこ(海未、私もあんたのこと────)
スゴイ!
チューシロチュー!
にこ「………ん?」
海未「に、にこ…………?」
にこ「静かに。なんか聞こえない?」ジトーッ
海未「なにかとは…………?」
ハラショー! サスガニコネッ!
イヤースゴイオシタオシカタヤン
ウミチャンファイトダヨ!
うみにこ『…………』
ピャァ! スゴイコウケイデス! ゴハンサンバイハイケチャイマス!
リンハコンナカヨチンモスキダヨ
コトリハミテナイ! ナニモミテナイッ!
イミワカンナイ
にこ「────あ、い、つ、ら〜〜〜〜〜っ//////」スクッ
海未「────は、恥ずかしいっ! はずかしすぎますぅっ!/////////」カァーッ
バレチャッタ!?
ヤバイニゲナキャ!
ドコヘ!?
オンガクシツガイインジャナイカナ?
にこ「こらーーーっ! まちなさーーーーいっ!」ダッ!
ガチャッ!
────バタンッ!
海未「あぁ、にこっ! 待って!」スクッ
────キィンッ!
海未「────これ、って?」
ひょい。
海未「…………私の缶バッヂ?」キョトン
海未(もしかしてこれが?)
海未(これがあなたの…………)
海未「私の…………」
海未「……………私の勇気の理由は」
『──憧れちゃったから、かな』
海未「────っ」
『光を追いかける小さな背中に────』
海未(────私は)
海未(私はあなたと並んで歩くことができるのでしょうか?)
海未(あなたの背中を追いかけるだけじゃなくて)
海未(ただただ、憧れるだけじゃなくて…………)
海未(私は、あなたと一緒にいたいです)
海未(これからも、ずっと一緒に…………)
海未(例えそれが、どんなに困難な道でも)
海未(────あなたと一緒に、光 -夢- を追いかけたいっ)ギュッ
海未(それが私の────)
ガチャッ!
────バタンッ!
にこ「ぬぁにやってんのよ! あんたもくるのっ!」ウガー!
海未「に、にこ!?」ビクッ
────がしっ!
海未「ひゃっ!//////」
にこ「ほら、行くわよっ!」グイッ
海未「わわっ! な、なんですかっ!?///」アワアワ
にこ「『みんな』を追いかけるのっ!」グイッ!
海未「きゃっ! 乱暴にしないでくださいっ!//////」
にこ「『一緒』に行くわよっ!」ギュッ
海未「わかりましたっ! わかりましたから手を離して下さい!/////////」
にこ「はぁ? 手ぐらいで何、動揺してんのよ?」 クビカシゲ
海未「さっきのこと意識しちゃって、あの、その…………//////」
にこ「ふーんっ」
海未「それだけっ!?」
にこ「あいつら音楽室とか言ってたわね! 海未? ちゃんとついてきなさいよっ!」ダッ!
海未「あぁっ!恥ずかしいですっ! お願いだから手を、手を────」
にこ「いいじゃないっ! 一緒が良いんだからっ!」ニコッ
海未「────離して下さいぃぃぃ〜〜〜〜〜っ!/////////」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
────そして、少し時間が経って
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
──乙女の日記帳──
突然のことでした。
「あの曲の詩、まだ完成してないんだって!?
じゃあ、にこが考えてあげるわっ!」
そう言って、私の作詞ノートをコピーしていった、にこにーにこちゃん。
おそらく真姫に聞いたのでしょう。
私が作詞で煮詰まっていることを……。
あの曲の詩はにこを想って作詞しました。
勢いだけで一番は書けたのですがね。
自分の気持ち。
伝えたい言葉。
それを紡ぐのが難しくなってしまって……。
だから、丁度良かったのかもしれません。
それにあの曲はにこに歌って欲しかったから。
どんなカタチになるかはわかりませんが、にこが納得のいく歌詞であれば、
それで良いでしょう。
楽しみにしていますよ、にこ。
なんだか、この日記を書いていたら思い出してしまいましたね。
小さな、探偵さんのことを。
元気に過ごしているでしょうか?
お腹を空かせていないでしょうか?
あの日。
あの子がいなければ、私たちはどうなっていたのでしょう。
想像するだけで怖くなります。
心には表と裏が存在する。
先輩は裏の心に乗っ取られてしまった。
…………もしも。
もしも、私が。
あのブレスレットを持ってしまったら、どうなっていたのでしょう。
行き過ぎた力で、にこを我が物にしようとしたのでしょうか?
そうなったら私は…………。
いえ、大丈夫です。
きっと、大丈夫。
だって、私には仲間がいてくれるのだから。
道を正してくれる友達が。
そして、誰よりも勇気を持ったあなたが。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
──海未ちゃんの部屋──
海未「…………ふうっ」パタンッ
海未(──今日も一日お疲れ様でした)
海未(相変わらず、誰かに見られたら大変な内容ですね……)
海未「新曲の作詞は…………また明日にしますか」
海未(今日はちょっと疲れました)
海未(明日に備えて、そろそろ…………)ガタッ
海未「……おや?」
海未(ベッドの中央が膨らんでいます)
海未(テニスボールくらいの大きさでしょうか?)
海未「…………ふふっ♪」クスクスッ
海未「ぬいぐるみ? ことりにもらったお人形?」
海未「いえ、違います」
海未「だって、それは机の上に置いてありますから」
海未「────では、一体なんなのでしょう?」
海未「おかしいですね。顔がにやけてしまいます」ニコニコ
海未「まだ、あなたがそこにいると決まったわけではないのに……」クスクスッ
「 …………ふふっ♪」クスクスッ
海未「おや? ふふっ♪」
海未「それでは、ご対面といきましょうか?」グッ
海未「鬼が出るか蛇が出るか…………」
海未「それとも、小さな探偵さん?」ニコッ
海未「いきますよ! せーの────っ」グイッ
────ばさっ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
海未「歌が盗まれた!?」シャロ「た、多分……」
おしまい
ご覧になってくださった方、コメントくださった方、ありがとうございました!
また、次回もお願いします。
乙
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