男「また……来年会おうぜ」そうして俺は彼女と死別した (6)

例年と同じく、今年の夏も彼女と共にする予定だ

梅雨が明けて幾日か経ったころに彼女はやって来る

親戚だとか幼馴染だとかではないのに、物心ついた時から夏の間だけ俺のとこに来て一夏を過ごすのだ

何をする訳でもなく彼女が一歩的に話しかけてきたり、部屋中をウロチョロしたり、時にはただ体を寄せ合ったりするだけだった

勘違いしないで欲しいが恋人関係とかじゃない

向こうがどう思っているかは知らないが、むしろ仲は悪い方だと俺は思ってる

なのに何で一緒にいるかって? 俺の方が聞きたいね

彼女と俺の関係はどうあれ驚くべきなのは、彼女はいつもお腹に子どもを身ごもっている状態で来るということだ

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その点に関して彼女に聞いたことはない

小さい頃は妊娠しているかどうかの知識なんてないし、大人になって彼女が妊娠していると知ってもなぜ毎年妊娠しているのかを尋ねるのは無粋で、マナー違反のような気が
したのだ

彼女はそんな体にもかかわらず今日も元気である

昼間はその元気さも特殊な風流を感じ、不快に思わないのだが、夜になりそろそろ寝ようかという時間になっても昼間と変わらない元気さなのにはうんざりだ

さすがに睡眠を邪魔されイラつきが芽生えてくる

「いい加減にしろ!! 静かにできないのか!」

怒りの叫びが聞こえないのか、続けて布団の上を元気に飛び回っている

この態度に火がついた。お香を焚いてやったのだ

彼女は女性では珍しくお香が苦手で……ほら気づけばいなくなってる

ざまぁ見ろってもんだ。これで静かに眠れるぜ

昨晩、無理やり部屋から追い出したみたいで引け目を感じていたが、趣味でやってるサッカーから帰ってきて一息ついたら後ろから彼女に声をかけられた

「やれやれ」

なんかあっけない。昨日の出来事で一悶着あるかと不安だったが、そんなことなかった

歌ってすらいやがる。おいおいやけに上機嫌だな。何かいいことでもあったのか

心のモヤがすっかりなくなり、キンキンに冷えたのビールをぐびぐびと体に浸み込ませていると突然、彼女が手の甲にキスをしてきた。

ふふふ、かわいいやつめ

こういう彼女も大好きだ。ただ普段とのギャップで恥ずかしい。彼女にキスされたところがむずがゆくなってきた

彼女はかくれんぼが得意だ

隠れる場所なんてほとんどないのに、まるでアサシンのようにいつも彼女はうまいこと隠れる

大抵は隠れ飽きた彼女が笑いながら出てくるのだが、ごくたまに彼女を見つけるのに成功する

その「たまに」が今回きた

やったぜ。っはは、後ろからハグして驚かせてやるか

自分の躰から発せられる音という音を可能な限り消して彼女に忍び寄った

3、2、1、行くぜ

パァン

小さな体の彼女を掌で強く抱きしめた

肌寒さが夏の終わりを感じさせる

この季節は、新しい季節が到来する喜びと彼女との別れによる悲しみが入り混じる

彼女はこの時期になると悲しみからか元気がなくなる

歌声はか細く、飛び回り具合もどこかぎこちない

確かに別れは悲しい。だけど彼女と過ごした一夏が消えてしまうわけじゃない

それを確認したくて、いつも俺は彼女を抱いて夏を終わらせる


パァン

掌に残された赤き魂にサヨナラを告げて、俺は約2か月ぶりの安らかな眠りについた

一種のホラーかと思ったら蚊だった

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