P「可能性世界体験装置? 大層な名前だな。ヘルメットにしか見えないが」
晶葉「うむ。これは被験者の頭に被せて使用することでその被験者がなり得た
かもしれない世界を擬似的に体験することが出来るんだ」
P「なり得たかもしれない世界?」
晶葉「簡単な例えで言えばPがプロデューサーにならなかった世界。
私がアイドルにならなかった世界。そういったもしもの世界のことだよ」
P「なるほど。よーし、じゃあ早速試してみるか」
晶葉「うむ。ちなみに体験中は被験者は睡眠状態になるからソファーやベッドでやるといいぞ」
P「じゃあソファーに横になるか。どのくらいの間体験していられるんだ?」
晶葉「それは体験する世界にもよるな」
P「どういうことだ?」
晶葉「そうだな……。可能性の世界とは木の枝みたいなものだと考えてほしい。
Pは今日朝食を食べたか?」
P「ゼリー状の栄養食なら食べたけど」
晶葉「つまりこの世界はPがゼリー状の栄養食を食べた世界となる。
これがもしもパンだったら? ご飯だったら? そもそも食べていなかったら?
こういった僅かな違いだけで世界はいくらでも枝分かれしていく」
P「それって……めちゃくちゃ膨大な数になるよな?」
晶葉「なる。そのぐらいの違いであればほんの僅か隣程度だろうがPがプロデューサーに
ならなかっただの私がアイドルにならなかっただのそのぐらいの違いが出るともっと
根本のほうから枝分かれして離れることになる。この装置はこの世界と体験する世界
との距離で移動時間が決定するんだ。だから遠い世界に行けば行くほど移動時間が増加
し、その分眠る事になる。体験する時間自体はどこの世界でもさほど変わらないはずだ」
P「つまり気軽に体験出来るのはこことはそんな変わらない世界ということか」
晶葉「実際どのくらいの違いが出るとどのくらいの時間眠ることになるのかはわからないからな。
ちなみに私も一応試したのだが私がアイドルにならなかった世界に行った時は一時間半ほど
眠っていたな。あっちの体験時間はおそらく三十分程度だったと思うから片道三十分の世界
というわけだ」
P「なんだ、既に体験済みだったのか。てっきり俺が第一号かと思ったのに」
晶葉「物が物だからな。何かあっても困る」
P「それはお前にも言えることだぞ。今度から実験するときは俺を呼びなさい」
晶葉「うむ……。そうするよう心がけよう。すまない」
P「よし、それじゃあいっちょ飛んでみるか。どうすれば遠くの世界に行けるんだ?」
晶葉「私がやったときは『遠くの世界へ……遠くの世界へ……』と念じていたな。
ああ、あと帰ろうとする意志は必ず持つんだぞ」
P「そりゃまぁ持つけど……持たないとどうなるんだ?」
晶葉「もしかしたらより遠くの世界へ飛ばされるかもしれない」
P「そりゃ怖いな。気をつけるよ」
晶葉「うむ。それじゃあ良い旅を」
P「ああ……」
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P「……ん。ここは……」
晶葉「おや、起きたようだな」
P「あれ、晶葉。どうして――」
P(頭に情報が流れ込んでくる。これはこの世界での情報だ)
P(この世界では俺は普通に居眠りをしていたんだ。あの装置は存在しない)
P(眠ると言っていたから夢かなにかだと思っていたがなかなかリアリティがあるな)
P(頬を抓っても痛いし)
晶葉「……何やっているんだ。寝ぼけているのか」
P「いや、なんでもない。ちょっと変な夢を見ていてな。晶葉がすごい発明をするんだ」
晶葉「ほー。どんな発明だ」
P「名づけて可能性世界体験装置だ」
晶葉「なんだ、その大それた名前は。察するにもしもの世界を体験するみたいなものか」
P「すごい理解力だな。大体そんな感じだ」
晶葉「とんでもない装置だな。私にはとても作れそうにない。だがしかし待てよ。これをこうすれば……」
P「思考モードになってしまった。ああなるとなかなか戻って来ないんだよな。
そろそろ戻るか。戻りたい戻りたい戻りたい――」
P「……ん」
晶葉「おや、起きたようだな」
P「あれ、ここ元の世界だよな。ヘルメット被ってるし」
晶葉「その通りだ。どうかしたのか?」
P「あっちの世界でも晶葉がいて、目が覚めたら全く同じ言葉を言われた」
晶葉「時間的にもずいぶんと近い世界のようだったしな。私もさほど変わらなかったというわけか」
P「この装置が発明されてないことしか違いがなかったしな」
晶葉「本当に近い世界だな……」
P「あっちの世界の晶葉に装置のこと話したらやる気になってたぞ」
晶葉「なるほど……。まぁ一応忠告しておくがあっちの世界で滅多な事をするんじゃないぞ」
P「ん? 問題あるのか? だって夢の世界だろ?」
晶葉「P。実際に体験してみてあっちの世界はどうだった?」
P「普通の世界だったな。夢の割りにはリアリティがあるというか」
晶葉「私も実際に体験してそう思ったんだ。私達が眠っている間に脳内で体験するには少しばかし
現実味がありすぎる。もしかしたらこの装置は私の予測をもっと大きく超えているのかもしれない」
P「つまり?」
晶葉「パラレルワールド、つまり平行世界上を実際に移動しているのかもしれない」
P「まっさかー。いくらなんでもSF過ぎないか?」
晶葉「まぁな。だがもしもその通りだとしたらPの行った世界も私の行った世界もそしてこの世界も
全て同じ意味を持つ世界の一つなんだ。そこで好き勝手やったらもしかしたらその世界の未来に
大きく影響を及ぼすかもしれん」
P「確かにそうかもしれないな」
晶葉「使用自体は今のところ問題はないし、使っても構わないがくれぐれもあちらでの言動には
気をつけてくれ。おそらくは飛んだ時にあちらの世界の情報が頭に流れ込んでくるから
自然な振舞いをするのにはそんなに困る事は無いだろう」
P「ああ。じゃあ次飛ぶときはもう少し気をつけるか。もしかしたらあの発言であの世界が変わっちゃった
かもしれないしな」
P「ただいま戻りました」
ちひろ「おかえりなさい。どうでしたか」
P「芳しくは無いですね」
ちひろ「そうですか……。お茶、淹れますね」
P「ありがとうございます。晶葉は……レッスンですね」
ちひろ「ええ。来るべき日に備えて頑張ってますよ」
P「来るべき日、か……」
ちひろ「どうぞ」
P「ああ、ありがとうございます。……ふぅ」
ちひろ「誰にだってうまくいかない時はあります。そんな落ち込まないで下さい」
P「はい……。ちょっと気分転換にあれても使おうかな」
ちひろ「可能性世界体験装置、でしたっけ」
P「はい。ちひろさんは使いましたか?」
ちひろ「いえ、私はあまりもしもの自分には興味ないので」
P「そうなんですか。こういうのはみんな興味持つものかと思ってました」
ちひろ「私は私、ですからね。プロデューサーさんもあまりのめり込まないように
気をつけてくださいよ」
P「ははは、わかってますよ。よし、それじゃあちょっと休憩させてもらいますね」
ちひろ「ええ、ごゆっくり」
P(……また芸能事務所のようだ)
P(というかまたプロデューサーか。でも担当アイドルが違うようだな)
「P……」
P「どうした、雪美」
雪美「P……疲れてる……。あまり……寝てない……?」
P「そんな疲れてる顔してるか?」
雪美「うん……休もう……? 一緒に……」
P「そうだなぁ。それもいいかもなぁ……」
ちひろ「ダメです」
P「ダメみたいですね」
雪美「ちひろ……厳しい……」
P「厳しいよねぇ」
ちひろ「は?」
P「じゃあ俺は仕事するから雪美はソファーにいてね……」
雪美「待ってる……」
P(雪美ちゃん可愛いなぁ。これが企画か。なるほど。こういうのもあるのか。
よし、収穫もあったしあっちに戻るか――)
P「……ふぅ。晶葉帰って来てたのか」
晶葉「ああ、ついさっきだ。どうやらまた飛んでいたみたいだな」
P「ああ、またプロデューサーだったけどな」
晶葉「また私を担当してたのか?」
P「いや、違うアイドルだったぞ。相変わらず事務所は小さかったけど」
晶葉「なるほど。私がアイドルにはならず、Pはプロデューサーの世界だったということか」
P「しかしこれまたずいぶんと枝分かれが多くなるな」
晶葉「うむ。担当するアイドルごとで分かれるし、人数が増えればさらに増えていくな」
P「それだけ俺に可能性があったってことか……」
P「戻りました」
P「……誰もいないのか」
P「そういえば今日は社外に用事があるってちひろさん言ってたな」
P「晶葉はオフか」
P「オフね……。最後に仕事が入ったのはいつだったかな」
P「ははは」
P「……装置使おう」
P「……ん」
P(電車の中か。そういえば最近電車乗らないな)
P(電車通勤をしている普通の会社員か。この窮屈具合は所謂ラッシュという奴か)
P(車通勤だから良かったけど俺には耐えられない通勤だな)
P(あれ、時間は元の世界と一緒か。そういえば前飛んだときも時間同じくらいだったな)
P(時間は世界を越えても変わらないのか。いや、それ以上に普通この時間には帰宅するのか)
P(一生懸命あっちこっち這いずりまわって仕事探して……こっちは安定した仕事が貰えそうだ)
P(……それ以外はあんまり変わらないみたいだな。満員電車に慣れているくらいか)
P(こうやって普通に会社勤めしてる世界もあったんだな……)
P(そういえば俺、なんでプロデューサーになったんだろう)
P(……違う世界に移るか。もっと遠く。別の可能性へ)
P(……ここどこだ?)
P(周りに日本人いねーぞ。この世界の情報早く来て!)
P(なるほど。海外に出張するエリートサラリーマンか)
P(やべぇ世界に来たな。この世界の俺は英語ペラペラらしいけど元の俺はさっぱりだぞ)
P(あ……。この世界の両親違う人だ)
P(どういうことだ。実子のようだし……。俺は別の両親から生まれる可能性があったということか?)
P(容姿も大分違うし、元の俺との共通点のほうが少ないぞ。一体これは……)
ブブブブブ
P(ゲッ、携帯が鳴ってる。英語わかるようになったけど怖いし元の世界に戻ろう)
晶葉「うーむ。全くの別人への転移か」
P「俺の可能性だからてっきり両親までは全部一緒かと思ってたんだが」
晶葉「……これは大分哲学的な分野の話だから私の担当分野ではないのだが……。
そもそもにしてPとは一体誰だ?」
P「え、そりゃ俺だよな」
晶葉「うむ。自分だと認識しているそれが自分なのだ。だけどもしもPと
記憶、姿かたち。観測しうる全てが同一の存在がいたらそれは君なのか?」
P「それは……」
晶葉「私はこれを違う存在だと考えている。例え観測しうる全ての要素において
同一だとしてもそれは別の存在だ。科学者としては間違った答えだろうけどな」
P「でもそれが今回の件に何か関わりがあるのか?」
晶葉「うむ。その同一の存在が別物だとしたら何を持って相違あるものと考えるか。
それは意識、あるいは魂と呼ばれる形無き存在だ」
P「魂……」
晶葉「君には君の。同一存在として生まれたPにはPの。そして私には私の。
それぞれ唯一無二で複写の出来ない魂が肉体に封入されているんだ。
即ち自分とはその魂のことを指している」
P「つまり可能性世界とはその魂が体験しえた世界ってことか?」
晶葉「その通りだ。魂というのが一体どこから生まれ、どのような基準で肉体に封入されるのか。
そういったことは一切わからない。だがこの装置を通して別人になったということは
君という魂が別の世界においては別の肉体に封入されて生まれたということなのだろう」
P「じゃあこの装置は魂という存在を証明しているってことになるんじゃないか?」
晶葉「いや、全部ただの夢かもしれんぞ」
P「そうか。別の世界に行ったという事は証明出来ないのか」
晶葉「他者から見ればあくまで寝ているだけだし、どうやら時間軸は変わらないみたいだからな」
P「そういえば海外飛んだ時は夜の町だったな」
晶葉「いずれにしろ全ては仮定だ。私の推測では大きく移動しても性別が変わるくらいかと
思っていたがこれはとんでもないところまで行けるかもしれないな」
P「性別? なんでだ?」
晶葉「簡単な話だ。最初の可能性の分岐は生まれる前、性別が決まるときだと推測してたんだ」
P「ああ、なるほど……。じゃあ女になった俺の世界も体験出来るかもしれないのか」
晶葉「可能性はあるな。ところでPよ。さっき一度飛んだ後、もう一度別の世界に飛んだって言ったな」
P「え、ああ。そうだよ。最初の世界は満員電車だったしね」
晶葉「どのくらいの時間眠ってたんだ」
P「大体二時間ぐらいかな」
晶葉「作ったのは私だがあまりのめり込むんじゃないぞ。どうやらこの装置使用中は外部から
何されても起きないようだからな」
P「そうなのか。気をつけるよ」
晶葉「それに」
P「それに?」
晶葉「Pの世界はあくまでここだ。それをゆめゆめ忘れるんじゃあないぞ」
ちひろ「晶葉ちゃん」
晶葉「ん? どうした?」
ちひろ「あの装置なんだけど……」
晶葉「どの発明品のことだ?」
ちひろ「ええと、可能性世界なんちゃらかんちゃらってやつです」
晶葉「ああ、あれか。ちひろもやってみたいのか?」
ちひろ「いえ。そのプロデューサーが熱中しすぎなように思えて」
晶葉「のめり込むなとは忠告したのだがな。今も使用中なのか?」
ちひろ「はい、かれこれ三時間ほど」
晶葉「三時間!? 本当か、それは」
ちひろ「間違いありません。まだ日常業務には影響を及ぼしてはいませんが
以前よりも労働意欲が衰えているように思えるんです」
晶葉「それは確かに困るな。良し、わかった。装置の使用を中止するように言おう」
ちひろ「お願いします」
P「使用中止!? なんでだ!」
晶葉「私がちゃんと忠告したにも関わらず、ずっと使用しているそうじゃないか」
P「ちゃんと仕事はやっている。何にも問題はないはずだ」
晶葉「三時間半も使用しておいて、それはないだろう」
P「あれはちょっと……。わかった、次から気をつけるから」
晶葉「だめだ」
P「……俺の使用は中止するけど晶葉は使うんだろ?」
晶葉「いや、私も使わない。あの装置は物置にでも入れて置こう」
P「仕舞って置くぐらいなら使って実験したほうがいいだろ?」
晶葉「P。正気に戻ってくれ。前の君は暇あれば外に出て、仕事を取ろうと頑張っていたぞ。
今の君はまるで中毒症状の出ている患者のようだ」
P「!!」
晶葉「無論、この装置を作った私にも責任はある。当面の間、何かの開発は禁止しよう。
わかったな」
P「……ああ、わかった」
P(毎日)
P(毎日毎日毎日毎日アリみたいに這いずりまわって、おべっか使って)
P(それでもあっけなく切り捨てられて。新しい企画考えてもボツにされて)
P(こんなクソみたいな生活――)
ちひろ「私はもう帰りますけどプロデューサーさんはどうしますか?」
P「この企画書だけ仕上げたいんで俺が戸締りしますよ」
ちひろ「そうですか。ではお願いします」
P「お疲れ様です」
P(企画書? どうせ書いてもボツになるだろ)
P(そもそも他の世界では成功している俺がいるんだ)
P(この世界でこんなにみじめなのは俺のせいじゃなくて周りのせいじゃあないか?)
P(そうだ。俺を取り巻く世界が悪いんだ)
P「……物置だったな」
P「晶葉が開発しまくるからそれ専用のスペースを設けたんだよな」
P「鍵は……閉めてないか。無用心だな。晶葉」
P「……あったぞ」
P「俺は、俺の理想の世界を目指すんだ」
P「ここじゃないどこかへ」
P(こうして俺は別世界へと旅に出た)
P(時代は変わらないけど性別、年齢、環境は変わるから新たな世界に着く度に新鮮な気持ちになれた)
P(ただ飛ぶ中でわかったことがある)
P(同じ世界にはどうやら一週間程度しか留まれないらしい)
P(理由はわからない。だがお気に入りの世界に留まり続けることが出来ないというのは少し残念だ)
P(世界を移動し、気に入れば一週間過し、気に入らなければすぐに別の世界へ)
P(そんな生活を繰り返し、やがて俺はどのくらいの時間を別世界で過したかわからなくなった頃)
P(大きな転機は訪れた)
P「ん……ここは……」
「ギャアアアアア」
P「え、何、あぶね!」
P(魔物? 剣を握っているのか? 俺は)
「グルルルルル」
P「どっこいせぇ!!」
「ゲフン」
P「ったく不意打ちなんて卑怯だぞ」
P(さて、この世界は……。なるほど、俺は冒険者ってわけか)
P(……つまり世界そのものが根本から分岐したわけだ)
P(普通の世界と所謂ファンタジーの世界)
P(ずいぶんと遠くまで来たな……)
P(あれ……俺もしかして魔法使えるっぽい? 簡単な魔法だけど)
P「……出でよ! 炎!」
P「おー! やっべー!! 炎出た! すげー!!」
「そこにいるのは誰にゃ!」
P「うお! お、俺は怪しいものじゃあない」
「魔法使ってはしゃぐ人間が怪しくないなんてありえないにゃ」
「ミク殿。タマミには殺気を感じられません。大丈夫でしょう」
「うー、仕方ないにゃ……」
P「君達は……」
ミク「ミクは冒険者のミク。こっちがタマミにゃ」
タマミ「あなたもその出で立ちから察するに冒険者ですか?」
P「ああ。今は南の村に向かっているんだ」
タマミ「おお! 我々と一緒ですね!」
P「じゃあご同行してもいいですか」
タマミ「もちろんです。よろしくお願いします」
P「俺の名前はPだ。よろしく」
ミク「ちょ、ちょっと待つにゃ! 勝手に話を進めるにゃ!」
タマミ「どうかしましたか? ミク殿」
ミク「ミクはまだ賛成なんて一言も言ってないにゃ!」
タマミ「別に問題ないでしょう。旅は道連れと言いますし」
ミク「こんな怪しい男と一緒なんて何が起きるかわからないにゃ!」
P「アヤシクナイヨー」
ミク「バカにしてんの?」
P「いえ、すみません」
タマミ「ミク殿は心配しすぎですよ。それに南の村までそう距離もありません。
暫しの間ではないですか」
ミク「あー! このパターンは
『道中でなんやかんやあって友好が深まったからそのまま一緒に旅するパターン』にゃ!」
P「まるで体験したかのような具体性だな」
タマミ「ミク殿と一緒に旅するようになったのがそういう理由だったので」
P「ああ……」
ミク「タマミチャンはいい人だってすぐにわかったからよかったにゃ!
でもこの人はよくわからないし、そもそも男にゃ!」
P「仕方ない。じゃあ俺は一人でいくよ。とはいえ目的地は同じだからまた会うかもしれないが
それは勘弁してくれよ」
タマミ「申し訳ない。では旅のご武運を」
P(こうして二人とは別れたがその後南の村で再開し、なんだかんだあって滞在中はずっと一緒に旅をした)
P(大規模な世界分岐が発生してから、より多彩な世界を体験するようになった)
P(異世界同士は近い世界なのか、それとも俺の一度に飛ぶ距離が伸びているのか)
P(前ならば一応は時間の単位は同じだったのでどれくらい移動したかわかったが
現在ではさっぱりわからない)
P(この前飛んだ世界では朝の三刻半だった。急いで仕事場に行って釣りに勤しんだ)
P(しかし元の世界とはまるっきり違うこの世界達はどれも楽しい世界だった)
P(出来ればこんな異世界の間をずっと行き来していたい。そんな風に思い始めた)
P「ふぁ~……」
P「ここは風が気持ち良いな……」
P(前の世界はなんだかよくわからない海底でクイズ大会だったしな)
P(この世界は島がどういうわけか空に浮いている。冒険者は島の間を空飛ぶ船に乗って移動する)
P(今、俺が乗っているのもその船の一つだ)
P「ちょっとばかし治安が悪いことを除けば最高だな」
「そんなところで何してらっしゃるの?」
P「ん? ああ、フィーエか。風に当たってたんだよ」
フィーエ「風なんていつも浴びているのに……」
P「まぁいいじゃあないか。そういえば例の島はもうすぐか」
フィーエ「ええ、あそこに見えているのがそうですわ」
P「……なんかそわそわしてるな」
フィーエ「そ、そんなことありませんわ!」
P「そんなに海水浴が楽しみなのかー」
フィーエ「そういうあなたは楽しみではなくて?」
P「そうだな……フィーエの可愛らしい水着が見れるのが楽しみ、かな」
フィーエ「安い口説き文句はおやめなさい。品性を疑いますわ」
P「そこまで言うか、庶民派お嬢様」
フィーエ「別に庶民派でもいいでしょ!!」
イオ「もうすぐ着くから着港準備してー!」
P「あいつもう着替えてるぞ」
フィーエ「楽しいバカンスの始まりですわ!」
P「やる気満々だな!」
P(その後、マグロの大軍を襲撃される一幕もあったが、俺達は束の間のバカンスを楽しんだ)
P(そして俺は次の世界へと移動した)
P(どうにも世界間を移動するときに引っ張られる感覚には慣れないな)
P(さて、この世界は……!?)
P(嘘だろ)
P(どういうことだ。なんでこんな世界が今頃)
「プロデューサーさん」
P「え、あ……」
美波「あの……一言お願いしてもいいですか」
アナスタシア「プロデューサー。ぼーっとしてました」
みりあ「もしかして具合悪いの?」
莉嘉「今度はPくんが風邪?」
P「いえ、そんなことはありません」
P(この世界は)
P(俺が巨大プロダクションに所属する一プロデューサーで)
P(十四人のアイドルをプロジェクトの一環として担当してて)
P(そして)
P「少し、考え事をしていただけです」
P(成功を収めた世界)
P「……みなさん、頑張りましょう」
P(なんで今更こんな世界に辿り着いたんだ)
凛「……それだけ?」
未央「まぁでも」
みく「Pチャンらしいにゃ」
P(世界分岐した最果ての世界がここだと言うのか?)
卯月「頑張ります!」
李衣菜「いつも通りだね」
蘭子「今宵の宴、最高の物となるだろう!」
P(俺の世界から成功した世界へはこれほど離れているということか?)
杏「あんまり頑張りたくないなぁ」
智絵里「そんなこと言わないで……」
かな子「成功したらケーキ食べましょう!」
きらり「だいじょーぶ! 杏ちゃんはちゃんとやるってきらり知ってるにぃ☆」
P(こんな世界すぐに飛んでしまえば……)
美波「それじゃあみんな。ライブ絶対に成功させよう」
美波「シンデレラプロジェクト! ファイト!」
「「「オー!!」」」
P(これから彼女たちは輝くステージに上がる)
P(全員が呼吸を合わせ、踊り歌い、ファンを魅了する)
P(俺は……)
P「俺は何をやっているんだ……?」
ちひろ「えっ?」
P「帰らなきゃいけないだ。俺は……あの世界へ!」
P(すっかり忘れていた。大事な事)
P(俺はアイドルのステージを見て、プロデューサーになったんだ)
P(いつか自分自身が誰かをあのステージに送り出したいと思って)
P(あの眩しいステージの上へと)
P(彼女をスカウトしたのはプロデューサーになってからすぐだ)
P(町を歩いているときに見つけたんだ。目を惹かれ、気付けば話しかけていた)
P(交渉は難航した。いきなりアイドルにならないかと言われたら誰でも疑うだろう)
P(その上、俺の入った事務所はまだ無名。断られても仕方ない)
P(だけど俺は熱心に説得して、彼女を勧誘したんだ)
P(そして俺は彼女と約束をして、アイドルになってもらったんだ)
P(『君を誰もが注目するアイドルにして、ステージの上に登らせる』と)
P(そう言ったはずなのに俺は)
P(うまくいかない理由を誰かのせいにして、全てを投げ出してしまった)
P(俺を信じてアイドルになってくれた彼女を裏切ってしまったんだ)
P(帰らなければいけない)
P(彼女はもう待ってないかもしれない。俺に対して罵詈雑言を投げてくるかもしれない)
P(それでも俺は帰るんだ。帰って彼女に謝らなければいけない)
P(そしてもしも俺を許してくれたら、俺は今度こそ彼女を)
P(あのステージへ送り出すんだ)
P「……」
P「……白い、天井」
P「ここは……」
「ようやく目を覚ましたか」
P「……」
晶葉「随分と長く寝ていたな」
P「晶葉……!」
晶葉「うわっ、いきなり抱き着くな!」
P「ごめん……本当にごめん……俺は……!」
晶葉「……あー、P」
P「……」
晶葉「おかえり」
P「……ただいま」
P(目を覚ました俺は病院のベッドの上だった)
P(俺があの日、装置を使ってから実に四ヶ月の月日が流れていた)
P(検査のため、数日の入院をした後、俺は仕事に復帰した)
P(無論タダでは復帰出来なかった。一度クビになったので再入社したのだ)
P(『あなた以外に入社希望者がいなかったんです』とちひろさんは言っていたが
真実かどうかは定かではない。でも感謝はしている)
P(あの装置は晶葉によってまだ保管されている。おそらくはあの物置の中だ)
P(相変わらず鍵はかかっていない。彼女は俺を信頼しているからだ)
P(あの時もそうだった。だから俺が装置を使ったときは失望したそうだ)
P(そう話してくれた晶葉になんで待っていたのかと尋ねたら
『まだPは約束を果たしていないだろう』と返された)
P(だから俺は会社へ恩を返すため、晶葉の約束を果たすため
あの世界へ近づくために努力をし続けた)
P(そして……)
桃華「円陣は組みましたけど」
クラリス「この後はどうすれば……」
つかさ「リーダーが発破かけんだよ。なぁ、リーダー?」
晶葉「リーダーって私か。うーん……」
時子「早くしてちょうだい」
ヘレン「落ち着きなさい、時子。世界は逃げたりしないのだから」
光「こうカッコイイ言葉をババーンって言うんだろ! なぁ、P!」
P「え、俺? えーっと……まぁなんだ。楽しいんでこい」
愛海「え、楽しんでいいの!?」
P「ステージをな。確かに今回のライブは今までで一番大きいし、コケたらやばいけど
客を楽しませるよりもまず自分が楽しむ事が大事だと俺は思う。
だからあんまり気張らずに適当に、だけどミスせずに楽しんでこい」
雪美「難しい……」
紗南「うん。難易度Aって感じだよね」
イヴ「でも楽しめばいいんですね~」
七海「ならいつも通り楽しくやるのれす~」
ライラ「そろそろ時間でございますね」
志希「晶葉ちゃん、シメて!」
晶葉「それじゃあ……楽しむぞー!」
「「「おー!!」」」
こうして彼女たちはステージへと上がっていった。
輝くステージの上へと。
以上
おっつおっつ
うむ、楽しめた、乙
コンパクトにまとまってていいな
乙
どれもアニメで見たい子ばかり
乙
いい話だった
ホント久しぶりにいい話読んだ
乙パラレル
元々の世界の所属アイドル達、キャラが濃いのばっかりだな…
このSSまとめへのコメント
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