初音ミク「歌でみんなを幸せにするの!」 (46)

ミクちゃんが歌で人々を支えようとするだけの近未来SS
更新は早朝の僅かな時間に限られそうです

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1435612744

彼女が”電子の歌姫”等と大層な名で呼ばれる様になってから、どれ程の時間が経過しただろう。

その容姿から虚構に生きる人間達の捌け口と思われやすい彼女だが、
小さな偏見など人気の前には霧散した。

一介の合成ソフトに過ぎなかった彼女は多くの人間に愛され、
普通の人間と同じ様にーー否、「本当の人間以上に」その歌と容姿は愛され続けたのである。

彼女が例え人真似の歌を披露するだけの機械であったとしても。
声優の贋作に過ぎない存在であったとしても。
人ならざる者だからこそ奏でられる純粋な歌声は、確かに本物の人間達の多くを支えてきたのだ。

故に、人々は偽物に過ぎない彼女を本物へ昇華させようと尽力した。
本物を模した偽物が純粋なら、
純粋な偽物に本物の内外を与えればそれこそが人間達の理想像であると。

いつしか機械仕掛けの彼女は人の手によって心を持つ。

悪心も穢れも知らない彼女はただ綺麗な瞳で、

「歌でみんなを幸せにするの!」

とーーそう告げた。

ミク[ピーーー]

「うふふ、みんなありがとー!」

空席など一つもない。

宝石の様に美しい碧眼は
その会場に訪れた全ての人間を見渡して、ただ純粋な感謝を口にした。

「ーーーーーーーーーーーーーーーー!」

何度口にしたか分からない言葉。
それでもーー変わり映えのしない彼女の綺麗さに、人々は今日も心打たれ、憔悴した心を癒していく。

”歌で人々を幸せにする”という彼女の唯一の願望。
いつもこうして誰かの前で歌う事で、それが不可視の支柱になればと少しでも願って止む事はない。

その想いは、最早願望に留まらず事実になりつつある。

彼女の歌がどれ程の人々の心に溶け込んだのか、それはこの会場に訪れた人々を数えれば否応無しに分かる事だ。

結論から言えば、既に人々は彼女の歌で満たされていた。

自らが人真似の歌を奏でる醜い贋作者と知って、それでもーー自分に誰かを救える力があるのならと。
何より、偽りに過ぎない己が誰かの為になれている事実に、ただ、ただ、悦びを隠せなかったのだ。

”歌で人々を幸せにする”という彼女の願望は、いつの間にか”歌で人々を幸せにし続ける”というものに変わりつつあった。

今日はもう限界かもです
亀更新ですが宜しくお願いします

期待

ミク死ね 苦しんで死ね

>>7
ヤンデレか?
嫉妬は見っともないぜ

期待

これほど読んでて辛い文章を書けるのはある意味才能

続き待ってます

先に言っていなかったのはこちらの落ち度でした。
申し訳ない、かなり堅苦しい文章になるので閲覧注意です。

「ふー……」

大きな溜息と共に、少女は控え室に戻ってきた。

好きでバーチャルアイドルを務めているにしろ、あれだけ激しく踊りながら歌えば誰であろうと疲弊する。

疲れは感じたけれど、それでも身体に支障は訪れなかった。

元よりその身は人を模した機械人形に過ぎないのだから。

どれだけ暴れても汗ひとつかかず、どれだけ歌っても声が枯れる事は無い。

こういう所は機械だからこその利点だ。

人では到底歌いこなせない曲も、彼女にかかれば努力次第で達成出来る。

(いけないいけない、また自惚れる所だった)

機械仕掛けの少女は
気を引き締める様に自分の頬を叩いて喝を入れる。



ーー機械が人間より精密なのは当たり前だ。

機械とはその趣旨が何であれ、人間の助力、或いは代行を務める為に造り出された道具に過ぎない。

何かに特化した道具がある一点において人を上回るのは至極当然の話。

故に彼女の歌に求められるものは、「心」であって「技量」ではない。

道具が初めから自らの特性に満足してしまったら
きっとその先の成長や進歩の可能性まで止めてしまうだろう。


いやーーそもそも機械はあくまで機械であり、
人間の手を借りるならまだしも
自らの力のみで成長していく事なんて出来ない。



それでもーー初音ミクという少女は本物の人間の心に近付こうとした。


自分の力でみんなを笑顔にしたいという想いが、
例え彼女を創り出した製作者による借り物の心だとしても。

その想いが本物でなければ、彼女は偽善の歌で人々を騙している事になるのだから。

(所詮私は人工物だけど……その人工物を愛してくれる人が世の中には沢山いる。

それは滑稽でも何でもなくて、
私自身ーー自分を誇るべきなんだ)

虚像から生まれた電子の歌姫。
本物の心を癒す偽物の歌。

きっと真贋なんかどうでもよくて、
ただ自分の想いを「本当」に信じられれば
小さな壁なんて取り壊せる。

今に至る真贋がどうであっても、彼女が人々を歌で幸せにしたいという想いだけは本物だ。

だから今日も彼女は、大好きな歌で人々の心を癒し続ける。

自分の大好きなものでみんなが幸せになるのなら、彼女にとってこれ以上無い程の贅沢だ。


「みんなもーー私と一緒に歌える様になるといいね」


ゆっくりと、静かに控え室の椅子に腰掛けると、
机に置かれた無骨なパソコンを優しく撫でる。

デスクトップには「鏡音」「KAITO」「MEIKO」等と、
彼女の同胞とも言える見知った名前が綴られていた。

今日はここまでになりそうです。
僅かでも拝見してくれた方に感謝しますm(_ _)m

文が読み辛いという意見がありましたが
他のSSと同じく地の文を無くした方がいいですか?(ちなみに地の文なしは苦手です)
更に酷い文になるかもですが読み易さを重視するなら検討致します。

好きに書けよ

書きやすいように書いた方がいいと思うよ
苦手な書き方で書いて表現したいことができなくなったりしたら本末転倒だし

本能に従うんだ

あとから見直して「うわあああああああ!」ってなるんだろうなぁ……
まあがんばりや

それは二次創作も同じだろ

とりあえず見てて不快にさせてしまう方の方が多そうなので、以後sage進行で目に付かないよう配慮致します。
それでも見苦しい場合はhtml化を依頼して下さい。
その旨をお伝えして頂ければ特に拘泥もせずに筆を止めようと思います。

その日は自分の疲れを癒す為に、早めに機能を停止して充電を図った。

仮想の歌姫だからこそ、彼女が着手するものは現実のアイドルと同義ではない。

あくまで二次元に過ぎない彼女の性質はマスコットに近く、
歌う時こそ本物に近付こうと努力しているが
その実色んな場所に引っ張りだこだったりする。

それはもう、コンビニでのコラボキャンペーンといった在り来たりなものから子供に近付く仕事まで。

虚像に過ぎないからこそ彼女の運用は比較的楽だった。



ーー今ここにいる初音ミクが「初音ミク」の全てではなく。

あくまで初音ミクというキャラクターに形を持たせた二次的副産物の一つに過ぎないだけ。

限りない本物に近付けようとして作られた「偽物の偽物」。

単純に「初音ミク」を名乗る存在ならそこかしこに点在しているのだ。

だから、「初音ミク」を型作る数ある要素の一部である彼女は
その翌日には歌以外の仕事で埋まっていた。

「ミクダヨー」

機械の身体も悲鳴をあげる暑い暑い炎天下。

ねんどろいどを模した着ぐるみを被り、
子供に怪しい手を差し伸べる不審者が一人。

(着ぐるみっていうのも可笑しな話だよねー……
仕方ないと言えば仕方ないんだけど)

ガックリと項垂れながら不気味な着ぐるみが街を徘徊する。



ーー彼女は映画に出て来る様な精密な機械人形だ。

製作にあたってそれはもう白眼を剥きたくなる程の高額な費用と物資で出来ている。

試験的にではあるが擬似的な感情も持ち合わせ、その中でも一番人間らしい個体が彼女だった。

万が一無防備に外を歩き回って破壊でもされたら。

いや、ちょっと傷が付くだけでも彼女の製作者ーーマスターには心臓に悪い。

そんなこんなで様々な諸事情から彼女は外を歩く際には姿を隠す必要があった。

そこまで慎重ならジッとしておけばいいのだが、
献身的な心を持ってしまったからには仕方ない。

面白いよ
読んでるからがんばって下さい

着ぐるみを被りながらも出来る仕事。

いや、寧ろ着ぐるみを用いた仕事に向かう為に歩を進めていると、
何かが下腹部の辺りにぶつかって目を落とす。

「あっーーごめんなさい。大丈夫?」

感触からして恐らく子供にぶつかったのだろう。

慌てて倒れた子に手を貸そうとするとーー


「……ん?」


子供は手を取ろうとはしない。

ーーいや、そもそも微動だにしていない。

「まさか……ッ!」

倒れた際に後頭部でも打ったのか。

最悪の事態を想定して、即座に119番の準備を始める事、二秒。

ーーそれが杞憂だと分かったのはその標準を直視してからである。

「ーーーーーーーーーーーー」

本当にぶつかった子供は「微動だにしていなかった」。

特に怪我の跡はないものの、視線はミクが被る着ぐるみに向けられたまま止まっている。

心なしか、その瞳はキラキラと輝いている様なーー

(あ、もしかしてファン?)

初音ミク一生の不覚。

この誤解が余計なトラブルの元になる事を彼女はまだ知らない。

×その標準を
・・その表情を

です、申し訳ない

「ミ、ミクダヨー」

小首を傾げて精一杯愛らしさを表現する。

しかし機械生まれの彼女には、
残念ながら子供心は理解出来ない。

そもそも子供はミクに憧憬と真逆の恐怖心を抱いていたのだ。

目の潤みは涙を堪えているに過ぎないだけ。

着ぐるみと実際のキャラクターが異なるのは当然だが、そんな常識をまだ熟知していない子供にとってはただ、ただ恐ろしい存在でしかない。

一切の表情変化が無く、親の身長すら超える巨体に近付かれては子供にとって地獄以外の何物でもないだろう。

近付けば近付くほど身長差が翳りを生み、挙げ句の果てに不気味な挨拶まで交わされたとなればーー

「びえええええええええ!」

当然、こうなる。

確かに怖がりそう

誤字は気になるな

「あ、あわわわわ」

慌てて泣き止ませる為の行動に移るも、
その一挙一動の全てが余計だった。

バタバタと身振り手振りで子供を励まそうにも
奇怪な行動が更に追い討ちとなり、
側から見れば色々と誤解を招く絵面になっている。


その結果ーー


「不、不審者だっ!」

「緑のデカイバッファローの化け物が!」

「野郎、子供を襲うとは悪辣な奴!」

等と色々騒ぎが大きくなっちゃったりしている。


「ご、ごめんなさーい!」



「あ!牛が逃げたぞ!」

「通報は警察?動物園?」

「普通に考えて着ぐるみでしょアレは……警察呼びなさい警察を」



歌に関しては一流に恥じぬこだわりを見せる彼女も完璧では無いらしい。

寧ろ、歌と心以外の機能はまだからきし、という事なのだろう。

外を出歩けば色々と問題を起こすのは茶飯事だった。

「ふぅ……今日はいつにも増して失敗だらけだったなぁ」

キズだらけの着ぐるみを引き摺って、トボトボと家路を辿って行く。

無論、機械の彼女にとって家とは工場みたいなものだ。

人間の睡眠にあたる期間はその機能を停止させ、定期的に調整を受ける様に施されている。

「歌以外も上達すればいいんだけどね、全く」

自嘲する様に呟いた一言は誰に聞かれるでも無く、既に落ちた陽の光に呑まれていった。



ーー今日の彼女は、仕事の手際から普段の立ち回りまで殆ど失敗だらけだ。

誰にでも得手不得手はある。

それは仕方の無い事だけど、
少しでもみんなの役に立つ為に
コンサート以外の時間は姿を隠してまで
何か自分に出来る事は無いかと探してみたのだ。

その心構えには誰が何と言おうと彼女は胸を張れる。

でも、失敗に終わる善意なんて所詮は有り難迷惑でしかない。

要は自分に出来る事だけを。

分不相応な行動は結局何も改善せず、
それにどんな形であれ「誰か」が関わるのなら
空回りした善意は一転して周囲を巻き込む偽善に姿を変えるのだから。

そこはひっそりとした小さな施設。

特に隠れる様に設置されている訳ではないけど、
取り分け目立つ場所でもない。

要はありきたりで平凡な所。

まさか此処が、世界でたった一つの「初音ミクのアンドロイド」の調整施設だなんて人々は夢にも思うまい。



ーーそっと、隠れる様にその扉を押し開ける。



その施設の主は全てを察していたのか、
ミクに隠れる暇さえ与えず、玄関に仁王立ちしていた。

「あう」

その姿を見た途端、何か色々なものが申し訳なく思えてきて目を逸らす。

「ミク……君は自分が如何に重要な存在かを良く理解してない様だね。
機械は代替が利くとはいっても造り直しは無償ではないし、
ーー何より君ほど人間の心に近い個体は君一人だけなんだよ。
万が一壊されでもしたら復元出来る自信が僕にはない」

溜息を吐きながら説教にも聞こえる言葉を紡ぐ細身の男。
男の声は確かな意思表示であるはずなのに、
不思議と「相手に言い聞かせる」要素が酷く欠如していた。
伝えたい事はあるけど、それはどうせ無駄な事だと半ば諦めた様な無気力な言葉。
そんな空っぽの言葉を自身が出させていると思うと、たまらなく申し訳なくて思わず頭を下げていた。

「うぅ……ごめんなさい、マスター。
私、確かに勝手な事ばかりしてました」

「君に私をそう呼ばせたのは我ながら失敗だと思ってるよ。
僕はあくまで初音ミクの二時創作者であって
起源の作者は別人だからね」

白髪の多い髪をぽりぽりと掻きながら
ヨレた服を直す事すらしないだらしない男。

この男こそが、人々が望んで止まなかった
初音ミクの人造人間、ないし、アンドロイドの製作者である。

「……過ぎた事に一々固執しても仕方がない。
問題は今後も繰り返すか否か、だ。
君には歌という長所があるんだから
素直にそれを生かした方がいい」

「はぁ」

縮こまってその言葉に耳を傾ける。

分かっている。
出来もしない事をやって失敗するより
確実に出来る事に集中した方が良い。

動機がどんなに素晴らしいものであっても、
結局失敗して迷惑をかけるのなら
所詮自己満足の偽善者だ。

別に誰もが認める善人になりたい訳じゃ無いけれど。

彼女自身が当たり前だと思っている行動に
周囲が善悪を付けてくれるのなら
少しは分かりやすい指標になると思っただけ。

彼女は需要があって造られた存在だ。

それに応える為に人々を少しでも悦ばせようという発想に拘りやすい特質がある。

彼女自身歌が大好きで、ただ好きな事をやっているだけなのにみんなが笑ってくれた。

それが嬉しくて、もっと自分の力でみんなを幸せにしたいと思った。

大層な理想家の様だがその実なんて事は無い。

ただ筋金入りのお人好しなだけ。

それらが全て空っぽの機械に入込まれた理想像に過ぎ無くても、
入込まれたものに純粋になる事は別に悪い事じゃ無いと思う。

ただ、失敗ばかりで本末転倒っていうのは
最早目も当てられない事態だけど。

「ホント、そういう性格にしてしまった自分が言うのもなんだが、
君は見れば見るほど子供っぽいな。
勿論、外見以外の要素も含めてだが」

「……だめですか?」

「まさか」

子供心を持つ事は悪い事じゃない。

大人からすれば甘いだの若僧だの色々言われるだろうが、
子供が思い描く純粋さは間違いなく誰もが最初に認める正しさであり、最初に守ろうとする秩序にして善である。

子供の想いは決して間違いじゃない。

それでも大人達がそれを偽善だの何だのと蔑むのは偏に実現不可能だから。

誰もが善いと認める行為は誰もが同じ方向を向いて初めて成し得る奇跡に過ぎない。

そんな事ーー不可能だ。

人間を尊重する以上、そもそも「善さが矛盾し続ける」。

たった一人、人の輪から逸脱するだけで善人は馬鹿を見て、悪人は笑い転げる。

世の中がどうしようもなく「悪に優しい世界」なんだから
善人なんて菩薩みたいな存在諦めるしかない。

誰だって何の見返りもなく、自分自身を蔑ろにしてまで秩序の意地に努める人間なんて奴隷と一緒だ。

ーーでも。

彼女は機械だからこそ、人間ではないからこそ
それを体現させようと努力する事が出来るのかもしれない。

実際はそんな大層な理想家ではなく、
ただ漠然と、子どもみたいに歌で自分もみんなも幸せになればいいなと思っただけ。

そんな小さな子供の希望さえ、人間は素直に信じられなくなっているのが事実だ。

また誤字です

意地→維持

ええな

待ってます

「君の想いは正しい。

……いや、正しさの定義なんてのは人それぞれだが
少なくとも僕にとって君は正しい。

当然だな、僕が正しいと思った心を君のナカに入れ込んだんだから」

「それじゃあ・・」

「だが上手くいかないことを繰り返しても、
結局周りに迷惑をかけるし君だって傷つく。

・・僕と同じで、君は頑固で負けず嫌いだからな。

物事を途中で放り出すのは諦めるみたいで嫌なんだろう?」

「うっ……ごもっともで」

彼女の心の製作者である彼にとって
ミクとの対話は自問自答の様なものだ。

自分が正しいと思ったものを忠実に遂行する機械人形。

つまり・・彼にとってミクとは人間の理想の姿。

到底実現不可能な正しさに一縷の望みを賭けて、
機械の彼女に自身の理想を託す。

それが・・彼がミクの心を作った理由だった。



善悪の両在する人間では必ず「悪に優しい世界」に流されてしまう。

例え正しさに揺らぎのない人間がいたとしても、
その考えはきっと多数に淘汰される。

世界は決して白黒の二色ではなく、誰もが自分一人だけの黒塗りの世界を望んでいる。

それはミクを作った男にしても例外ではなく、
「自身の正しさ」という独善からなる一色の世界を夢見る傲慢者なだけ。

誰もが偽善者なのではない。

秩序とは、善とは・・誰もが同じ方向を向いて初めて成し得る理想論。

十人十色という倫理を尊重してしまえば、
どんな清い考えも所詮は主観に成り下がる。

つまり・・この世が多色で溢れる限り、「善」の概念等この世の何処にも存在しない。



・・そう、つまりこれが宗教的な行動の答え。


個人を尊重する限り永遠に全体は纏まらず、
全体的な善の実行には個人という異物を消すしかない。
異端の排除、それ以外では秩序たる善の実施は不可能なのだから。

ミクシね糞スレ上げ

(そんな無茶苦茶納得出来るか……)

ギリ、と、男は奥歯を噛み締める。

今まで何度も理不尽を目にしてきた。

平等平等と謳いながら権力者の駒にされる踏み台たち。

上下の関係は確かに秩序の維持に不可欠だが、
私情で貶められる下々の人間が何人いる事か。

それに憤りを覚える事さえ、多数の淘汰の前には許されない。

だからせめて、子供が夢見る様な当たり前の正しさが保たれる世界を・・

大人になって現実を知ってもまだ夢を抱けるぐらい世界が希望的なら、それはどんなに良いだろう。



「……マスター?」

気が付けばミクがこちらの顔を覗き込んでいた。



……我ながら感情のコントロールが出来ていない事に少しばかり幻滅するものの、
彼女の顔を見ていれば心の靄は晴れていった。



彼の理想の正しさを詰め込んだ機械人形。

いずれ正しき人間になって欲しいという願いと希望が彼女には多く託されている。



ミクはあくまで善い人間の真似をするだけの偽善者、偽者。

いや、そもそも本物の人間が善くないのだから
善いものこそが偽善という矛盾。

それでも、穢れを知らない彼女ならもしかしたら
乗り越えていけるのではという期待がある。



「……ミクはまだ、歌でみんなを幸せにしたいの?」

「もちろんですマスター」



即答だった。

・・ならきっと、心配はいらない。

アンチに負けるな
頑張れや

それからも彼女は歌い続けた。

自分が偽物であっても関係ない。

歌を歌えば自他共に幸福に満ちるのだからそれ以上はないと言い聞かせ・・

今は偽物でも、きっと自分に出来る事を全てやり切れば本当に正しい人間になれると信じて。

それでも歌い続ける彼女の健気さに人々は心を奪われ、幸福の池に溺れる者は増えていく。



(……いける)



根拠も無く彼女はそう呟いた。



(お客さんの目から心なしか邪気が消えていってる気がする……
気休めだと分かっているけど、マスターは私の歌が人々の争いや犯罪を減らしてるって言ってたし……

諦めなければ、本当に「みんな」を幸せに出来るかも知れない)



不思議と彼女の頬が緩んでいく。

実現不可能だとマスターさえ諦めていた正しい世界は実現出来るかもしれない。

自分はただ好きな歌を歌うだけだけど、それでもそれが誰かの為になるなら、こんなに嬉しい事はない。

「おい」

不意に横から話しかけられた声色は青年のものか。

現在、彼女はコンサート帰りの夜道の中。

周囲には・・誰もいない。

待ってます

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