酩酊ロマンスランデブー(3)

嫌なことがあった時、僕は酒に溺れる。
ウヰスキー、日本酒、焼酎、ワイン、缶チューハイ……
一口二口、一杯二杯と酒を飲み進めるうちに僕の周りの世界は一歩ずつ、色を香りを表情を、変えていく
酒が鼻腔をくすぐり、視覚を狂わし、嗅覚すらも惑わして、挙句の果てには触覚も奪われる。酔った時に聞く音楽は身体を揺さぶり、世界を変える
幸せに満ち足りた気分で頭をゆらゆらと揺らすといつしか可憐な貴方が現れて、
それはそれはいい匂いで、可愛くて、声は澄み渡っていて、髪の毛は触ると絹よりも良い手触りで、接吻を交わす時、唾液の味は、昨日先輩に奢ってもらった三千円の炒飯よりも美味しく感じる。
僕が少し愚痴ると彼女は、風呂に入った後の僕の頭を優しく撫でる、線をなぞるように優しく丁寧に。
言葉は少ない。けれどその全てに重みがあり脳内に乱反射する。
「おつかれさま」のその一言ですら、どの言葉よりも耳に馴染み、全身を駆け巡る。
あぁ、貴方は素敵だ。影はなかれど僕の瞳には貴方の全てが映っている。

貴方がもしも、僕の創りだした幻覚であったとしても、それでもいい。
もとより現実には到底存在し得ないような素敵な人だ。酩酊した時の、僕の妄想。
それでもいいのだ。貴方に会えればそれで、いい。
この世がどれ程汚れていようとも貴方は決して穢れることがない。
酒に溺れた夜はいつも貴方に溺れている。
貴方の心の髄まで近寄って、繋がって、融解している。この身体を貴方が包み込む。
あぁ、この世にもしも救いがあるのならば。それは貴方の事なのだろう。
嘘と欺瞞と、下賎な自尊心と、自分勝手な正義感で出来たこの世界で、唯一無二の貴方こそが、救いなのだ。
やはり、酒は世界を豊かにしてくれる。
これだから酒は辞められないのだ。明日、貴方は私の前から姿を消す。酔いが覚めると同時にだ。
それならば、貴方を連れ去ってしまおう。二度と僕から離れる事のないように。
酩酊状態で家賃三万七千円の部屋から出て、階段を降り、自動二輪車のハンドルをひねる。
このまま、貴方を失うことなく、眠りにつこう。
貴方と、一緒に。

酔っぱらいが書いたパッパラパーなお話。
穢れ無き美人は存在しないよ。
綺麗な薔薇には棘があるとは、まったくうまく言ったもんだよ。
それでも、存在しなくとも、自分が、自分だけの美人を創ることはできるでしょう
妄想の世界のまま、死ぬことができたらそれはそれで幸せなんだろうなぁっていう
おやすみ

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