『1分前』
魔王「まさか、ここ玉座の間まで人間ごときが辿り着くとはな。誉めてつかわそう」
魔王「だが、それもここで終わりだ。永遠の眠りが貴様らを待っているのだからな」
女勇者「生憎、睡眠なら昨日十分に取っているの。眠る時間には少しまだ早いわね」
女僧侶「覚悟をしてもらいます! 魔王!」サッ
剣士「我が剣の前にひれ伏してもらう!」チャキ
武闘家「いざ、決戦と洒落こもうじゃないか!」スッ
女遊び人「伊達や酔狂でアタシらここまで来た訳じゃないからねえ!」ビシッ
魔王「」フッ
魔王「そんなに死に急ぐか、物好きどもが」
魔王「ならば、その望み叶えてやろう。畏れおののけ、人間よ! 我が力の前に圧倒的な絶望を抱くが良い!!」
魔王「我が魔力、ここに開放せり!!」ゴゴゴゴゴ……!!
女僧侶「これは……!」
剣士「何て魔力だ……! 大気が震えている!」
武闘家「魔力が奴の体を覆っているのがわかる! 魔力そのものが目に見えるなんて……初めての経験だぞ!」
女遊び人「そっちも伊達に魔王を名乗っている訳じゃないって事かい……! 嫌な感じだねえ!」
魔王「ふふふふふふ……! ははははははっ!!」ゴゴゴゴゴ……!!
魔王「余をこれまで貴様らが倒してきた者共と一緒に思うなよ! あやつらが例え束になってかかってきたとしても余には叶わぬ!」
魔王「これが、いにしえの大魔王サタンの血を引く我が力! 我が血筋!」
魔王「余は生まれながらにして魔王であり、そして全世界の覇王だ! 貴様ら人間ごとき、足下どころか小指の先にも及ばぬ!!」
女勇者「……ふうん」ニマリ
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期待
でもこの勇者、魔王のところに遊び人連れてくるくらいの舐めプしてるくらいだから強いのかもしれんぞ
女勇者「気に入ったわ、魔王。あなた、私の部下になりなさい」
魔王「!?」
女僧侶「え!?」
剣士「勇者様!?」
武闘家「一体何を!? そいつは魔王ですよ!?」
女遊び人「そうよ! アタシたち人間の敵よ! それを部下にだなんて!」
女勇者「ふふふ……」
魔王「阿呆か、貴様!」
女勇者「いいえ。阿呆でもないし、冗談でもないし、寝惚けてもいないわ。本気よ」
魔王「ならば、救いようのない阿呆というやつだな。お前が余の部下になるというのであれば、まだ考えてやらんでもないものを」
女勇者「それこそ悪い冗談ね。私は人の風下に立つのが嫌いなのよ」
魔王「下らぬ。余興にもならぬな。それとも貴様は力の差がわからぬ程の愚か者なのか? あるいはこれだけの実力差を目の当たりにして、正気を保てなくなったのか?」
女勇者「さっきも言ったでしょ。私はあなたの事が気に入ったのよ」
女勇者「その誇りの高さ、不遜さ、そしてその力。とても良い部下になりそうだもの」
魔王「戯れ言でも、ここまで来ると笑えぬな……。余を不愉快にしたその罪、貴様の死をもって償ってもらおうか」ゴゴゴゴゴ……!!
女勇者「ふふ……。いいわ。その願い、半分だけ叶えてあげる。前半だけね」
女勇者「一対一で勝負してあげる。部下の願いをきくのも主の務めというものだからね」
魔王「さえずるな。魔鳥の方が余程良い声で鳴くぞ。墓標に刻む言葉なら、もう十分に喋ったであろうに」
女勇者「墓標には、『歴代最強の勇者、ここに眠る』と刻ませる予定なのよ。あなたにやられたら刻めなくなってしまうでしょ?」
魔王「傲岸な。身の程知らずの蛙が!」
女勇者「大海を知らないのはどちらか教えてあげるわ」
魔王「闇の深淵も知らぬ小娘がよくほざく!!」
女僧侶「勇者様……!」
女勇者「」クルッ
女勇者「あなたたちは手出し無用よ。魔王は私一人で片付けるから」
女僧侶「でも……! それじゃ女勇者様が……!」
剣士「そうです、危険です! 俺達も!」チャキ
武闘家「相手は魔王なんです! ここは俺達も手伝いを!」サッ
女遊び人「女勇者様をみすみす死なせる訳にはいかないからねえ!」スッ
女勇者「無用と言ったのよ。聞こえなかったの?」
女僧侶「……う」
剣士「……!」
女勇者「大丈夫よ。あなた達、私を信じなさい。私がこれまで一度でもあなた達に嘘をついた事があって?」
武闘家「それは……ないですが……」
女遊び人「確かにそうだけどねえ……」
女勇者「なら、そこで見ていなさい。私が格好良く勝つところをね」フフッ
女僧侶「……わかりました。でも……!」
剣士「もしも危険だと感じた時は……」
武闘家「俺達は命令に背いてでも、手を出すんで……!」
女遊び人「だね。それは絶対だよ」
女勇者「ありがとう。でも、それも必要のない心配ね」クスッ
女勇者「」クルッ
女勇者「1ダメージも食らわずに勝ってみせるから」キリッ
魔王「口だけならば、伝説の勇者以上だな。初代魔王を一人で倒したというあの異端の現人神のな」
魔王「まさか、貴様。その子孫か? だとしたら、多少は見直してやらんでもないがな」
女勇者「お生憎様。私はただの人間よ。神でもなければ天使でもないし、女神の祝福すら申し訳程度にしか受けてないわ」
女勇者「ただし、この世で最も強い『人間』だと自負してるけどね」
魔王「ふっ。人間か。ならば、仮に最強だったとて程度は知れている」
魔王「ここまで来た以上、多少、腕が立つのは確かだろう。だが」
魔王「その過信が死を招く」
魔王「あの世で後悔するが良い。神の末裔と、ただの人の差と言うものをなっ!!」ゴゴゴゴゴ!!
初代の魔王の名は『大魔王サタン』と言われている
またの名を『堕天使ルシファー』、堕ちた最強クラスの大天使
四大天使と言われる、ミカエル・ガブリエル・ラファエル・ウリエルとほぼ同等の力を持つとされる異端の天使
一説では彼等を越える最強の力を持っていたとされ、その力を持つが故に神をも凌ぐと考えて謀反を起こしたとも言われている
その真偽はともかくとして、現魔王がその血を引くのは確かであり……
そして、人と神の差は、その位置関係が示す通り、天上と大地の距離よりも遠く離れている
一言で言うなら、赤子と武装した騎士程の差が生まれつき存在している
それほどの差がありながら、これまで歴代の魔王が幾度か勇者パーティーによって倒されてきたのは、ひとえに女神の祝福と恩寵、そして勇者のみが扱える聖剣、何より仲間の協力があったからこそ
祝福を受けた者は大天使並の力を得る事ができ、聖剣は言うまでもなく魔を断つ聖なる剣、そして仲間達の絆と信頼によるフォローと連携攻撃
この三つの強力な力があったからこそ、勇者パーティーは魔王を倒す事が出来ていた
逆に言えば、この三大力が無ければ魔王を倒すなど……
無理・不可・無謀・自殺行為
そして、現状の女勇者は、聖剣を持たず、女神の祝福もそこそこ、仲間の協力も自らの手で断ちきった
これで勝てたとしたなら、いや、勝てたらではなく生き残る事がもし出来たとしたら……
それは『奇跡』と言うよりも……
『異常事態』
そう形容した方が遥かに正しいだろう
魔王「その大言壮語と言うよりも、愚者のうわ言を聞くのも我慢の限界に近い!」
魔王「一瞬で終わらせてくれよう!」バッ!!
『 瞬 獄 業 火 (ヘル フレア)!!』
女勇者「!!!」
火炎、火球
そんな生易しいものではない
人と神の差はそのまま力の差でもある
聖書によれば、神は世界を七日間で創造したとされる
もしも、太陽を作ったのが神だと言うのなら
神に近しい力を持つ魔王がそれに近い事を出来ないはずがない
その魔王が放つ最強の火炎魔法、それは……
摂氏六千度! 太陽の表面温度に匹敵する!
その中に飛び込んで溶けない物質は存在しない!!
それが今、女勇者めがけて放たれ、そして……!
剣士「なっ!!」
女僧侶「きゃあっ!!」
武闘家「女勇者様っ!!」
女遊び人「女勇者ぁ!!」
……直撃した
間違いなく。完璧に
続き早く!!!
魔王「余の火炎魔法は魔界最強のものだ。これをまともに受ければ鉄も鋼も骨をも残らぬ」
魔王「火葬の手間が省けて丁度良かろう」フッ
剣士「貴っ様ぁ!!!」チャキッ!!
武闘家「よくも女勇者様をっ!! 許さねえっ!!」ダダッ!!
女僧侶「あああっっ!! 私があの時、お止めしていれば!!」ポロポロ
女遊び人「嘘だろ……そんな……!!」ガクッ
魔王「心配せずとも貴様らもすぐに同じ場所へと送ってやる」
魔王「現世で身の程を知り、あの世で慎ましく暮らすと良い!」バッ
『 天 地 氷 結 (イッツ ア アイス ワールド)!!』
武闘家「!!!」
冷気
それも尋常ならざる冷気
絶対零度に限りなく近いその冷気が、まるで竜の顋のようになって一直線に武闘家を襲う!
剣士「武闘家っっ!! 避けろ!!」
剣士が叫んだが、それは遅きに逸した
逆上して飛び出していた武闘家は、その類い稀なる瞬発力をもってしても避けるに避けれないタイミングと速度で突っ走っていたので……
女僧侶「いやあぁぁ!!」
女僧侶が悲鳴を上げて、目を覆った……
女僧侶「そんな……っ! そんなっ……! 武闘家さんまで……」ポロポロ
がっくりと力なくうなだれ、床に崩れ落ちる女僧侶
その肩にそっと優しく手がのせられた
女遊び人「女僧侶……。あれを……」
あれ……?
何の事かと顔を上げると……
女勇者「何を泣いてるの、女僧侶?」ニコッ
女僧侶「女勇者様っ!!」
女勇者が……そこにいた!
無傷で! 髪すらも焦げておらず! 鎧には汚れ一つすらなく!!
魔王が放った氷魔法を片手でいなすように受け止めながら!!
魔王「貴様っ!! 何故だ……!? 何故生きている!?」
魔王の当然の問いに対して、女勇者は答える事なく、代わりに不敵とも言える微笑を見せた
女勇者「だから、言ったわよね? 私の墓碑銘は『歴代最強の女勇者、ここに眠る』に決めているって」
そして、掴んで捕らえていた氷魔法を片手で潰してみせた。まるで虎が獲物を噛み砕くかの様に、あっさりと
魔王「……っ!!」
ほう
魔王「そんな馬鹿なっ!! 有り得ぬ!! 人の身で余の魔法を捉え潰すなど!!」
魔王「『人間』には絶対に!!」
「不可能だっ!!」
そう言おうとして、魔王は最後までその言葉を言い切る事が出来なかった
気が付くと、女勇者の姿が再び消えていて……
腹部から、生暖かくぬるりとした感覚が……
馬鹿な……と思い、手を伸ばすのと同時に魔王はその場に倒れこんでいた
倒れ間際に見た、自分の手のひら
そこにはべっとりと赤い鮮血が……
後ろで剣を鞘におさめる軽快な音が鳴り響いた
「手を出すなと言ったのに……。みんな、心配し過ぎよ」
そんな声を耳にしながら、魔王の意識は急速に薄れていった
魔王(……か、回復魔法が……使えぬ……)
魔王(……しかも、これしきの傷で……余が意識を失いかけているなど……)
魔王(何……故だ……)
魔王(あの……女……一体……何を……)
初代魔王より数えて、代にして17代目、時にして432年
この瞬間に、魔王は勇者に七回目の敗北を喫する
通算成績は、互いに七勝七敗二引き分け一勝負なし
しかし、互いの決戦がこれだけ最短に、そしてこれほどの圧勝と惨敗で終わったのはこれが史上初の事だった
鼻につく
まあがんばって
『数時間後』
『魔王城 魔王の間 寝室』
魔王「う……!」
女勇者「ああ、気が付いた?」
魔王「なっ! 貴様っ!! 女勇者!!」ガバッ!!
魔王「うっ! ぐあっ!」ズキッ!!
女勇者「ああ、駄目よ。まだ寝てないと。傷がふさがってないんだから」ソッ
魔王「ぬぐぐっ……!! 触るなっ!! 余に触れるなっ!!」バシッ!!
魔王「うあっ!!」ズキッ!!
女勇者「わかったわ。もう不用意には触らないから。だから大人しく寝ていなさい」
女勇者「あなたの怪我、私の想像以上に深かったのよ。もう少し手加減するつもりだったのだけど……。ごめんなさいね」
魔王「ううううっ!!」ギリッ
魔王「手加減……!! 手加減だと……!! この余に向けて……!!」
魔王「ぐっ……!」ポロ……
女勇者「魔王?」
魔王「魔界の王たる、我に向けて……手加減を……!! しかもそれを謝るとは……!!」ポロポロ……
魔王「人間が……。たかが人間風情が……。人間風情に……。余の……余の誇りが……!! 魔族の頂点に立つという、余の矜持と自負が全て粉々に……!!」ポロポロ……
魔王「これほどの屈辱を受けたのは生まれて初めだ……!!」ポロポロ……
魔王「何故、余を生かした……!! 何故、余をこうしてベッドに寝かせているっ……!! どうして殺さなかった……!!」ポロポロ……
魔王「いっそ殺せ……!! これほどの恥辱と屈辱をどうして余に与えるっ……!! もう良かろう……! 殺せ……!!」ポロポロ……
女勇者「魔王……」
女勇者「前に言った通りよ。私はあなたを部下に欲しいの」
女勇者「私のパーティーはあなたもさっき見た通り、僧侶・剣士・武闘家・女遊び人の四人」
女勇者「魔法使いがいないのよ」
女勇者「あなたなら最強の魔法使いになれる。ううん、もうなっている」
女勇者「それに、魔王になりこれまで魔族の軍を統率してきたその経験と知略が欲しい」
女勇者「何より、私はあなたの事を気に入ったのよ。これは本当の事よ」
女勇者「改めてもう一度言うわ。魔王であるあなたは私が斬ったから……」
女勇者「あなたはこれから私の魔法使いとして生きなさい」
魔王「ふざけるなっ!!」ポロポロ
魔王「断固として断るっ!! 余にも誇りがある!! 誰かの下風になど立てぬわ!! 例え死んだとしてもなっ!!」ポロポロ
女勇者「……そう」
女勇者「……そうね。あなたにはあなたの生き方や誇りがあるものね」
女勇者「無理強いして部下にするのも私の本意ではないし……」
女勇者「残念だけど、それは諦めるわ……」
魔王「……当然だ。愚か者が……」ポロポロ……
女勇者「」フゥ……
女勇者「ただ、あなたが私に敗北したのは事実よ」
女勇者「統治者である自負があるのなら、当然、その敗北の責任は請け負ってもらうわ。責任を取るのは上に立つ者の務めなのだから」
魔王「……良かろう。余にも誇りがある。……死してその責務を全うしようぞ」
女勇者「それは私が許さない」
魔王「……何故だ! こうして負けた以上、今更、生き長らえようとは思わぬ! それに、余が死なねば、お前の主たる女神も、隣国の王も納得しまい!」
魔王「余の首を持って、お前は凱旋すれば良かろう! 救国の勇者としてなっ!!」
魔王「それが勝者の権利であり、義務だ!! 敗者には敗者の道が、勝者には勝者の道がある!! 貴様はその両方を踏みにじろうと言うのか!!」
女勇者「ええ。思いっきり、遠慮も躊躇もなくね」
魔王「何故だ! 余の首を取り、現戦争を終わらすのが貴様ら人間の望みであろう!! 何故、余を生かす必要がある!? 死にたいと望む者を、何故、冥界の門から追い出そうとするのだ!?」
女勇者「それが私の望みだから」
魔王「望みだと!? 余に屈辱を与え、恥辱と拷問にまみれた人生を送らすのがそんなに望みか!! 貴様のやろうとしている事は人の道に外れた所業であろう!!」
女勇者「いいえ。確かに人の道に外れた所業であるとは思うけど、私の望みはもっと高い場所にある」
魔王「高い場所だと……!?」
女勇者「そう。まず第一段階として、世界征服。私が全世界の王になる」
魔王「!?」
女勇者「そして、第二段階として、神々の征服よ。私は神も人も消えた世界において、その新世界の女神になる!」
魔王「!!!」
今日はここまで
おっと、訂正
女勇者「私は神も人も消えた世界において」
↓
女勇者「私は神々が消えた世界において」
訂正前が本音だとしたら、この勇者どんだけ世界に絶望してんだってことになるよな。
この世の生きとし生けるもの共すべてをくびり殺したうえで、その屍どもの王になるってんだから
人の道を説く魔王とは
女勇者「ふふふ……。でも、これはもう少し先の話」
女勇者「今はただの勇者。そして、あなたは『元魔王』よ」
女勇者「『魔王』は私が封印した事にする。期間は……そうね、五十年ぐらいにしときましょうか」
女勇者「早すぎても遅すぎても良くないから、そんなところでしょうね」
女勇者「筋書きとしては、『魔王は一時どうにか封印したけど、この封印には期間があり、五十年後には必ず甦る事になる』ね」
女勇者「だから、魔王。あなたには生きていてもらわないと困るのよ。私の望みの為に」
女勇者「そして、私、一個人としてもね。あなたは殺したくないのよ」ニコッ
魔王「…………」
女勇者「不服かしら?」
魔王「」フッ
魔王「不服も不愉快も当然。だが」
魔王「神々を滅ぼすか。どこまでも大言壮語する女だな、貴様」
魔王「貴様が何をするか、そしてどういう結末を迎えるか、それには興味がある」
魔王「良かろう。好きにするといい。余の名誉に傷がつく訳でもないからな」
女勇者「ありがとう、魔王。協力、感謝するわ」ニコッ
魔王「して、貴様の考えからいくと、余はしばしの間、身を隠しておれば良いのか?」
女勇者「別に隠す必要もないわ。あなたの顔を知っているのは魔族だけなのだから。国王や神官ですら、あなたの顔を知っている訳ではない」
魔王「確かに」
女勇者「魔王軍は解体。と言っても自然に解体するでしょうけどね。指揮官は四天王含め全員いなくなっているのだから」
魔王「……そうだろうな」
女勇者「重要なのは、あなたが魔族の前に顔を出さない事。なので、人間の町で過ごしてもらうのが一番ね」
魔王「下賤の輩どもとか……」
女勇者「本音を言えば、私たちと共に行動して欲しいのよ。もう一度誘うけど、あなた、私の部下にならない?」
魔王「断る」
女勇者「やっぱりか」フゥ……
女勇者「それなら、どこか家を用意するから」
魔王「が」
女勇者「?」
魔王「部下にはならぬが、行動を共にするぐらいは良かろう。余は貴様に干渉せぬし、貴様も余に干渉するな。そういう条件の下でならばだが」
女勇者「ふふっ。それでいいわ」ニコッ
女勇者「これからよろしくね、魔王」スッ
魔王「馴れ馴れしく手を差し出すな、人間」
女勇者「……わかった。それじゃあ、今日はもうゆっくり寝て。話が長くなって少し疲れたでしょ」
魔王「余に指図をするな、人間」
女勇者「そうね。悪かったわ」フフッ
魔王「」チッ
魔王「…………」
女勇者「♪」フフッ
魔王「……ところでだ」
女勇者「?」
魔王「貴様はいつまで余の寝室にいる」
女勇者「あなたが眠るまでは……と思っているけど?」
魔王「不愉快だ、出ていけ」
女勇者「嫌よ。私は誰の命令もききたくないもの」
魔王「余は命令を断られるのが嫌いだ」
女勇者「なら、力ずくで命令をきかせてみる?」フフッ
魔王「っ……」チッ
魔王「大体、貴様はこんなところにいて良いのか。他にすべき事があるのではないのか」
女勇者「例えば?」
魔王「余を倒して、それで終いという訳ではあるまい。余の他にも魔族はおるし、ここ魔王城にも金銀財宝などの軍自費が蓄えられておる。その処理などは良いのか」
女勇者「そこら辺は、全部、私の部下……つまり、女僧侶や剣士、女遊び人たちがやってくれているわ」
女勇者「私がやる事はその報告を聞くだけよ。あの子達なら、しっかりやってくれるのは確かだから」
女勇者「なにしろ、私の部下だもの。全員が最高の部下よ。私がする事なんて何もありはしないわ」
魔王「自堕落な上司だな、貴様」
女勇者「部下が優秀揃いだと、自然とそうなるのよ」
魔王「もう良い。余は眠る」ゴロリ
女勇者「ええ」ニコリ
『数時間後 玉座の間』
女勇者「」カツカツ
剣士「ああ、女勇者様。魔王の方はもう良いのですか?」
女勇者「ええ、話はついたわ。今は眠っている」
剣士「それで、結局、仲間にはなると?」
女勇者「残念ながらそれは無理だったわね。でも、行動を共にするという約束だけはしたわ。皆で面倒をみてあげてね」
剣士「……正直、あまり気は進みませんが。ですが、女勇者様がそう言うのであれば」
女勇者「よろしくね、剣士」
剣士「はい」
女勇者「それで、今の状況は?」
剣士「女僧侶には、魔王が勇者によって封印されたという噂を、魔族、人間含めて流させています。もう時間もかなり経った事ですし、十分に広まっているでしょうね」
剣士「その噂を聞き付けたのか、確認しに来たり、もしくは魔王の仇討ちや助けに来たりした魔族たちも結構な数に。これは俺と武闘家で処理しています」
女勇者「いい部下を魔王も持っていたようね。一応聞くけど、殺してはいないでしょうね?」
剣士「自爆した二匹を除けば、ですが。他は手当てをした上で、ここの牢に閉じ込めてあります」
女勇者「……そう。わかったわ。とりあえず、今はそのままで」
剣士「はい。あと、女遊び人には、この城の金銀財宝、並びに書類系統の管理と掌握を頼んであります。ついでに城の隅々まで調べ回るとはりきってましたね」
女勇者「お目当ては、隠し財宝や隠し通路とかね、きっと。あの子、そういうの好きだから」
剣士「後は、女勇者様に用件があると、待機している魔物も何匹か……。対話が目的だそうですが、どこまで本気か」
剣士「お会いになりますか?」
女勇者「ええ、会うわ。立ち会いは不要よ。待たせてある場所は?」
剣士「この下の階の大広間に」
女勇者「了解」クルッ、スタスタ
剣士「一応、気を付けて下さいね、女勇者様」
女勇者「わかってる。ありがとうね、剣士」
『大広間』
女勇者「……それで」
女勇者「私に話があるという事だったけど、何の用かしら?」
吸血鬼「話は簡単な事です」
魔鳥「我々をあなたの仲間に加えて頂けないかと」
人狼「仲間が駄目と言うならば、家来でも何でも」
女勇者「へえ……。どういう風の吹き回しかしら。私は人間だし、何よりあなた達の王を封印したというのに」
吸血鬼「そう。それこそが、一つの問題でして」
魔鳥「人間のあなたには理解しにくいかもしれないが、我々、魔族の原理というのは、至極単純なものなのだ」
人狼「即ち、『強さ』こそが魅力」
女勇者「…………」
吸血鬼「この世に絶対なものなど有りはしない。何故なら、強き者こそが常に正しいから」
魔鳥「魔王は確かに強かった。だから、我々も粛々とそれに従っていたのだ」
人狼「しかし、その魔王はあなたによって封印されたという。ならば、従う必要も義務も微塵も有りはしない」
吸血鬼「我々はそれで考えを改めたのですよ、女勇者」
魔鳥「古来より、魔族側から人間側へと寝返った魔物は大勢いる。特に勇者が魔王を倒した後は」
人狼「大八代目の勇者は、魔王を倒した際、五千匹近くの魔物を従えて国に凱旋したと伝え聞く。我々もその例にのっとったのです」
魔物三匹「どうか、我々をあなたの仲間に。あなたが強者である限り、我々は忠誠を誓うものです。どうか」ペコリ
女勇者「」フッ
女勇者「不要よ」
吸血鬼「は……?」
魔鳥「今、なんと……?」
女勇者「確かに家来には主君を自由に選ぶ権利があるわ。だけど」
女勇者「主君にも、部下を選ぶ権利というものがあるのよ」
女勇者「あなた達は私の部下には必要ない。不要、無用。そう言ったのよ」
人狼「……それは、我々が役立たず……とでも?」
吸血鬼「確かに、あなた方がこれまで倒してきた、四天王や魔王と比べれば、弱いというのは認めざるを得ないが、だが!」
女勇者「そういう問題じゃないのよ。強い弱い、有能無能に関わらず、あなた達は必要ないのよ、私には」
魔鳥「では、どういう問題だと!」
女勇者「私が気に入るか気に入らないかよ。そして、あなた達は私の気に入るところではなかった」
女勇者「気に入らない者を部下に加えるほど、私は部下に困っていないのよ。ここから立ち去りなさい。少なくともあなた達の居場所はここには……」
女勇者「欠片もないわ」
吸血鬼「っ!!」
魔鳥「ぐっ!!」
人狼「ぬっ!!」
???「正にその通りだな、はしたなき豚どもよ」カツカツ
吸血鬼「!?」
魔鳥「何者だ!!」
人狼「我々を豚だと!? 何たる侮辱!!」
???「侮辱と思うのならば、まずは自分の振舞いから正すといい」カツカツ
???「昨日まで仕えていた主君をかくも裏切り、それを恥とも思わぬその神経。餌があれば即座に飛びつく豚と、どこが違うと言う」カツカツ
???「豚には真珠の価値がわからない。わかるのは餌の価値だけだ」カツカツ、ピタッ
???「違うか、辺境の愚かな豚どもよ!」ビシッ
人浪「貴様は……!」
吸血鬼「魔王の女側近か!」
人狼「どうしてここに!」
女側近「魔王様の命により、妹君の様子を見に魔界へと向かっていたのだ」
女側近「が、魔王様が勇者によって封印されたと聞き及び急ぎ帰ってみれば、まさかこのような事態になっているとはな」
女側近「失望する前に呆れ果てたところだ。貴様らにも、自分の不甲斐なさにもな」ギリッ
女側近「側近のくせして、お側にいる事も出来なかったとは……! 腸が煮えくりかえり、血の涙が止まらぬ想いだ!」
女勇者「……魔王の女側近、ね」
女側近「女勇者とか言ったな、貴様」
女勇者「ええ、そうよ」
女側近「折り入って……話がある」ギリッ
女勇者「…………」
吸血鬼「待て! その前にだ!」
魔鳥「我らの事を豚だとなじったその罪、償ってもらおう!」
人狼「大した強さも持たない貴様が、我ら三人に対して向けたその侮辱! 万死に値する!!」
女勇者「黙れ! 下がりなさい!!」ジャキッ!!
吸血鬼「っ!!」ビクッ
魔鳥「うっ!!」ビクッ
人狼「ぬっ!!」ビクッ
女勇者「話を聞くわ、女側近。それと、あなた達はもうこの場から消えるように。特に、女側近に手を出す事は私が許さないわ。でないと……」
女勇者「永遠に消えてもらう事になるわよ」キラン
吸血鬼「……!!」
魔鳥「……!!」
人狼「……!!」
『三匹が仕方なくその場から去った後』
女勇者「それで、何の話かしら?」
女側近「当然、魔王様の話だ」
女勇者「そうよね。それしかないでしょうし」
女側近「魔王様は封印されたと聞いた。『封印』だとな。ならば」
女勇者「…………」
女側近「その封印……解いてもらいたい」
女勇者「断った場合は? と言うよりも、断られるというのは流石に想像がついているわよね?」
女側近「無論、そうであろうな。だから……」
女勇者「だから?」
女側近「どんな条件でも……飲むつもりだ」ギリッ
女勇者「…………」
女側近「生憎、私には貴様を……! 魔王様を封印するような力を持つお前を倒す力や術など何一つない……!」
女側近「私は単なる側近だ……! それもどうして選ばれたのかもわからない程の、大した強さも持たぬ側近だ……! だから!」
女側近「貴様を殺したい程に憎んでいるが、その手段がない! 他の方法も何一つ思い付かない!」
女側近「故に、私で出来る事があれば何でもしよう! 私に死ねと言うなら喜んで死ぬし、赤子を殺せと言うなら笑って百人でも千人でも殺そう!」
女側近「この世界が欲しいと言うなら、どんな手段を使ってでもこの世界を手に入れてみせる! この世界を壊したいと言うなら、どんな手を使ってでも完全に破壊してみせよう!」
女側近「魔王様を封印から解く為なら、何でもするし、どんな条件でも受け入れる!」
女側近「だから、魔王様を……! 魔王様を封印から解いてもらいたい!」
女側近「その為の条件を言ってくれ! 私は何としてでもその条件を遂行してみせる! 頼む!!」ペコリ!!
女勇者「……」フフッ
女勇者「それなら、条件を言うから私の後について来なさい、女側近」
女側近「本当か!!」
女勇者「ええ。二言はないわ。こっちよ」クルッ、スタスタ
『寝室』
女側近「ここは魔王様の寝室……」
女勇者「そう」ガチャッ
ギギィッ
魔王「」スヤスヤ
女側近「!!? 魔王様!?」
女勇者「私からの条件は二つよ。よく聞きなさい、女側近」
女側近「え、え、え、あの……!」オロオロ
女勇者「一つは、この事を誰にも言わない事」ニコリ
女勇者「もう一つは……」
女側近「も、もう一つは?」
女勇者「これからも、今までみたいに魔王の側近でいて欲しいという事よ。よろしくね、女側近」ニコリ
女側近「え、え?」
女勇者「じゃあね。怪我して寝てるんだから、起こしちゃ駄目よ。静かにね」クルッ
女側近「ちょっ、あの、理由を!」
女勇者「ふふっ。またね」バイバイ
バタンッ
女側近「え?? えええ???」
今日はここまで
乙
乙!
乙です
『夜』
魔王「……む」パチクリ
女側近「魔王様!」パアッ
魔王「女側近……?」
女側近「良かった! 気が付かれたのですね、魔王様!!」
女側近「もしや、このままずっとお目覚めにならぬのかと、私は心配で心配で!!」グスッ
女側近「とても、とても心配で……!」ポロポロ……
魔王「」フッ……
魔王「泣くほどの事でもあるまいに……」
魔王「だが、心配をかけたのは素直に詫びよう。余はそなたのその気持ちを嬉しく思うぞ」
女側近「もったいないお言葉……。私は……私は……生涯その言葉を忘れは致しませぬ……」ポロポロ
魔王「そうか……」ニコリ
魔王「ところで……」
女側近「はい……!」グシュッ、ゴシゴシ
魔王「妹への使い、御苦労であったな。あやつは元気にしておったか?」
女側近「はい。お変わりなく」
魔王「そうか……。ならば良い」
女側近「ですが……」
魔王「……何かあったのか?」
女側近「魔王様が封印された……と、私共は聞き及んでおりましたので、酷く御心配を……」
魔王「ああ、その事か……」
女側近「聞いても良いのであれば、事情をお聞かせ下さいませんか、魔王様……」
魔王「そうだな……。口にすれば他愛もない事なのだがな……」
魔王「一言で言えば、余はあの女勇者という人間に負けたのだ」
女側近「やはり……そうだったのですか」シュン
魔王「あれは……余から見ても、誰の目から見ても、言い逃れの出来ない程の惨敗であった。余はたった一太刀でやられたのだ」スッ
女側近「魔王様……! 何を!」
魔王「この傷を見よ。不可解な事に、回復魔法を一切受け付けぬ傷だ。呪いの類いでもない、ただの傷だと言うのにな」
女側近「……そんな。魔王様の体に傷をつける事自体……不可能に近いと言うのに……」
魔王「そう。聖剣対策として講じた、特殊な転移魔法。我が体に傷をつけた瞬間、それが如何なる物や魔法であろうと、それは別の場所へと移動する」
魔王「魔法自体は、単なる移動魔法であるから、聖剣であろうと関係ない。この特別な転移魔法によって、我が体にはこの様な傷をつける事自体が不可能なはずなのだがな……」
魔王「あやつ、一体何をもってその不可能を可能にしたのか。そして、何故、この傷は回復出来ぬのか……」
魔王「それすらも、余には理解出来ぬのだ」
女側近「…………」
魔王「そればかりではない。あの女、恐らく余の事を敵とすら思ってはいまい」
魔王「余に部下になれと、そう言ってきおった」
女側近「魔王様に!?」
魔王「最初に聞いた時は、ただの阿呆だと思った。二回目に聞いた時は、強者の傲慢な余興だとな。だが……」
魔王「三回目に聞いた時に、何となくではあるが理解した」
魔王「あの女は、余とは別のものを見ているのだとな」
魔王「余とあやつでは見ているものが違うのだ、とな」
魔王「地上から地面を眺めるのが普通だとしたら、余は恐らく高い塔の上から地上を眺めている。あやつはその更に上空から塔を見下ろしているのだ」
女側近「…………」
魔王「余には魔界と人間界、それだけで十分だ。しかし……」フッ
魔王「あの女はそれだけでなく、神界まで望むと言う。放っておけば、竜界も。死ねば、冥界まで望む様な奴であろう」
魔王「野望の大きさが、即ち、器の大きさとは余は思わぬ。自分の器以上のものを望む者は限りなく存在するからな」
魔王「だが、望まぬ者には永遠に手が届かないものでもある。だからこそ、確認したいと思ったのだ」
魔王「あの女の器が、どれ程のものなのかをな」フッ
女側近「魔王様……」
魔王「しばらくは、余はあの女について行き、それを見極めるつもりだ」
魔王「お前は好きにすると良い。魔王は封印された。この言葉は正確ではないが、現状はそれで合っている」
魔王「好きに生き、好きに行動せよ。あえて魔王として言おう。これが余の最後の命令だとな」
女側近「……魔王様」
『翌日 玉座の間』
女僧侶「ただ今、戻りました。女勇者様」
女勇者「お帰り、女僧侶。お仕事ご苦労様」ニコッ
剣士「首尾はどうだった?」
女僧侶「上々です。伝書鳩での連絡含め、各主要都市の教会や都市長へ伝えて来ました。もう『魔王が封印された』っていう事を知らない都市はないはずです」
女僧侶「ですので、魔族にも自然と噂は流れるでしょうし、それに、水の四天王を解放して、噂をばらまくようにお願いしておきました」
女勇者「これで、あの子もようやく自由の身か……。何か言っていた?」
女僧侶「もう会う事はないだろう、と……。無事な軍をまとめて、魔界へと戻ると言っていました。今更、恨みもないが、感謝もないと。ただ、義理だけは通す、だそうです」
女勇者「そっか……」
女僧侶「火の四天王は自爆。土の四天王と空の四天王は殺されてしまいましたからね……。仕方ありません……」
剣士「……戦争だからな。それに、彼らも王国軍に捕らえられるよりはその方が良かっただろう、きっと……」
女僧侶「公開処刑……ですね。人と魔族、どちらが残酷だと言えるのでしょうか……。私にはわかりません……」
女勇者「……どちらも変わらないわ。似たり寄ったりよ……」フイッ
女僧侶「……ところで、他の皆さんは?」キョロキョロ
剣士「ああ、武闘家はここら一帯の安全を確保したいって、色々と外を回っているみたいだよ。本音は修行をしたいんだろうけど」
女勇者「女遊び人は、部屋で財宝やら何やらの計算。相変わらず、元商人の癖は抜けてないみたいね」
女僧侶「そうですか……。それでは……魔王……さんは?」
女勇者「まだ怪我が治ってないから、部屋で」
バタンッ
女側近「」ツカツカ
女勇者「あら?」
女僧侶「あの……あちらの方は?」
女側近「失礼する。私は、魔王様の側近である女側近だ。いきなりで不躾だが、女勇者と話がしたい。許可をもらえないだろうか」
女勇者「私に? それは構わないけど……何の用かしら?」
女側近「単刀直入に言う。魔王様の命により、私は側近を解雇された」
女勇者「クビに? 魔王が?」
女側近「魔王様だ。訂正しろ、人間」
女勇者「やれやれ……。威勢のいい子ね」フゥ
女勇者「それで、魔王にクビにされて、どうしたの?」
女側近「っ……」
女側近「主君を侮辱されて黙っているとでも? 魔王様の敵である貴様に対して……!」チャキッ
女勇者「とは言われてもね……」ハァ
剣士「そんな事よりも……」スッ
剣士「同じ事が君にも言えるとは思わないのかい?」チャキッ
女側近「くっ……!」
眠い
ここまで
乙
乙!
乙。期待
ギャグやコメディや超短編以外の男魔王は久し振りな気がする
このSSまとめへのコメント
この女勇者から「ヘーイ」とか「世界レベル」って台詞が聞こえてきそうw