ロザリンド (19)

人は最期の瞬間、何をおもうのだろう



家族、友人、恋人、趣味、仕事……

過去への後悔と未来への切望

何の憂いなく逝ける人は、少ないでしょう



きっとわたしはこうなることが分かっていた

だから、後悔はしていない



だって、彼女は誰よりも美しいのだから―――

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お父様から呼び出された
「きょうからこの子も一緒にくらしていくんだよ。なかよくしてやっておくれ」

そう言ってわたされたのは、黒いドール



所々溶けてしまっているのか、動作がにぶい

火事で壊れてしまったのだろう――お父様はそう言いました

前の持ち主だったご友人はその火事で亡くなってしまい、

形見分けとしてこのドールをもらったのだといいます



元々の姿は大変美しいドールだったらしく、

生前訪れていた時には何度もその姿を目にし、大変大事にされていたと聞かされました



わたしはこのドールにロザリンドと名前をつけました

ロザリンドはまっくろです

かろうじて人型であるという事がわかる程度に形を保っていますが、

肌は煤け、目は閉じ、髪はちぢれ、手足の形もはっきりしません

わたしはまずロザリンドをお風呂にいれてあげました

執事のウィルに頼んで可愛いお洋服もつくってもらいました

白いフリルのかわいいドレス



でも、ロザリンドはまっくろです

弟のルークに挨拶をしてみます

こんにちはルーク。わたしはロザリンド

流石に見た目が怖いのか、ルークは泣き出してしまいます

ごめんね、びくりしちゃったね

わたしはルークをあやします

まっくろのロザリンドと違い、ルークの肌はまっしろです

かわいいわたしのおとうと

もうすぐ1歳になるわたしのおとうと



でも、ロザリンドの肌はまっくろです

ああ、なんということでしょう

ルークは死んでしまいました

慌ただしく晩餐の準備をしていたメイドのナターシャは大鍋を倒しました

倒れた先にいるはずのないルークがいました

後でわかったことなのですが、ルークをいれていた柵が

いつの間にか開いていたそうです

まっしろだったルークの肌は、赤くただれていました

悲鳴と怒号がとびかいます

かわいそうなルーク

わたしはなきました

一人でいる事に耐えられず、ロザリンドと一緒にお風呂に入ります

ルーク……わたしのかわいいおとうと

その日、わたしは煤がとれてまっしろになったロザリンドと眠りました

お婆様に会いに行きました

最後に会ったのは、ルークのお葬式の時でしょうか

お歳をめしていますが、まだまだ精力的なお婆様

ガーデニングが趣味で、毎日綺麗なお庭のお世話をしています

今日はロザリンドと一緒に、そのお庭でお茶をよばれしました

他愛のないお話を、お婆様はニコニコしながらきいてくれます

エメラルドグリーンの瞳がやさしくきれいなわたしのお婆様



でも、ロザリンドの瞳は閉じたままです

お婆様が死んだと聞かされました

お庭のお世話をしている最中に転んでしまったとの事です

お別れの時、お婆様は顔に包帯をしていました

大人たちの話では、転んだ先の鉄柵が刺さりケガをしているとか

たくさんの人にお別れを言われるお婆様

わたしもロザリンドのエメラルドグリーンの瞳と一緒に見送りました

お母様に髪をといでもらいます

流石にもう自分でもできるのですが、

こうやってお母様にしてもらうのがわたしは大好きです

お母様にといでもらいつつ、わたしはロザリンドの髪をとぎます

ロザリンドの様にちぢれて、真っ直ぐにならない私の髪と違い

お母様の髪はとっても綺麗です

いつも気を使って手入れをしている、自慢の髪だといっていました

綺麗なブロンドの髪が良く似合っているお母様



でも、ロザリンドの髪はちぢれています

お母様が事故にあいました

乗っていた車がトラックに追突され、逃げる間もなく車は炎上しました

火は頭部に集中していたらしく、綺麗だった髪は見る影もなく焼け落ちていました

いつもわたしの髪といでくれたお母様

わたしは思い出を振り返るように、ロザリンドの綺麗なブロンドの髪をとぎました

親戚のフランシスカの発表会に呼ばれました

フランシスカは綺麗な手足の女の子です

彼女が踊る白鳥の湖はとても素晴らしいものでした

わたしはロザリンドと一緒に彼女に拍手をおくります

手足が綺麗なフランシスカ



ロザリンドの手足は潰れているのに

フランシスカは死にました

バレエの練習の帰り道

暴漢に襲われ、そのまま殺されました

逃げられないよう、潰された手足は必要以上に損壊していたそうです

さようならフランシスカ

わたしはロザリンドの綺麗な指先に手を重ね、お別れを言います

彼氏ができました

背が高くハンサムなアイザック

いつもわたしを見てくれるアイザック

わたしを受け止めてくれるアイザック

彼の素敵なところをロザリンドにたくさん話しました

わたしの彼氏のアイザック



だけど、ロザリンドには相手がいない

アイザックがいなくなりました

突然の失踪、悲しみにくれた日

街で素敵なドールに会いました

背が高くハンサムな顔立ち

一途で包容力のありそうな出で立ちは、

アイザックそのもののようでした

店の店主に尋ねると、知らない間に置いてあったとの事です

処分にも困るというので、わたしはそのドールを譲り受けました

素敵なドールのアイザック

ロザリンドの横には彼氏が座っています

オードレオーロカモーノドモー

鈴を転がすような声

それがわたしに対する世間の声

誰よりも澄んだ美しい声色

他の人たちよりも優れている、わたしの長所

自慢のわたしの声



まだ、ロザリンドはしゃべらない

割れたガラスが喉に突き刺さる

他の部分にも刺さっているようだけど、よく分からない

このまま何が起こったのか理解することもなく、わたしは死ぬのだろう

声がだせない

聞きなれた声がわたしに話しかける



「おやすみなさい、オリヴィア」



きっとわたしはこうなることが分かっていた

だから、後悔はしていない



だって、彼女は誰よりも美しいのだから―――

Rosalind is my sweet doll.

これにてロザリンドは終了です
そこそこ書いたつもりですが、投下すると意外と量がなかったです

レンタルショップの片隅にある洋画ホラーをイメージしてみましたが、いかがだったでしょうか?
駄文にお付き合いいただきありがとうございました

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