霧矢あおい「ガール・ミーツ・ガール」 (32)
※アイカツ! SSです
※地の文アリ
※書き溜めアリ
※時系列は第112話と113話の間、大スター宮いちごまつり終了後
※劇場版アイカツ! の重大なネタバレを含みますが、劇場版を見ていなくても楽しめる構成を目指しました
※次レスから本編スタートします! フフッヒ
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星宮いちごという、アイドルをご存知だろうか。
星宮いちご、15歳。アイドル学校スターライト学園の高校1年生。
3月15日生まれの魚座、血液型はO型、身長156cm。好きな食べ物はのり弁、嫌いな食べ物はなし。
実家がお弁当屋さんで、特技は「ごはんをきっちりよそう」こと。
いつも明るく前向きな女の子で、チャームポイントは腰まで伸びる長髪に映える、赤いリボンカチューシャ。
今や老若男女を問わず、世界中を魅了するトップアイドルだ。
そう、トップアイドル。
あの冬の夜――「大スター宮いちごまつり」を終えたいちごは、名実ともにトップアイドルとなった。
彼女のライブ終了直後、アイドルの格付けを決めるアイカツランキングが変動、不動のトップアイドルであった、あの神崎美月を下したのだ。
美月さんは、あの伝説の夜までずっとトップアイドルであり続けた人だ。アイカツ界をずっと牽引してきた、最高のアイドル。
アイドル星宮いちごを語る上で、彼女の存在を欠くことは出来ない。いちごは、初めて見たライブ――神崎美月単独ライブを切掛にアイドルを目指したからだ。
そして、そんないちごの才能にいち早く気付いたのも、神崎美月だった。
彼女は先輩として、同じアイカツ界を盛り上げる仲間として、アイカツランキングを競うライバルとして、いちごをずっと暖かく見守ってきた。単なる先輩後輩や、同業者などという言葉では片付けられない、深い関係が二人にはある。
大スター宮いちごまつりで披露された新曲「輝きのエチュード」は、そんな二人の関係を、星宮いちごのまるで恋のような気持ちを歌にしたものだ。
輝きのエチュードは、間違いなくアイカツ史に於いて永遠に語り継がれる曲となるだろう。それほどまでに、素晴らしい楽曲だった。
本当に、本当にいい曲だった。初めて聞いた時、星宮いちごと神崎美月の姿が、情景が、頭のなかにすーっと広がっていった。すとん、と歌詞が心に落ち着いた。
けれど。なのに。
あおい「どうして……」
どうして、こんなにも胸が締め付けられるのだろう。苦しくなってしまう。ライブで聞いた輝きのエチュードは、今だって耳に残っていて、頭から離れない。間違いなく最高のステージだった。なのに。
ユリカ「ちょっと、人と食事している時に溜息吐くのはやめなさい」
あおい「え、私溜息出てた?」
ユリカ「出てたわよ、おっきいのが。もう、アイドル失格よ」
ユリカ様の言う通りだ。人を笑顔にさせるアイドルが、人前で溜息だなんて。
ユリカ「貴方、最近元気ないわよ。らしくもない」
心配そうにこちらを見詰めてくる。あ、レアショットだ。
あおい「なんか、大スター宮いちごまつりが終わってからボーっとしちゃって……」
ユリカ「…………まあ、わからなくもなくもなくもなくってよ」
凄かったもの、とユリカ様は呟く。
ユリカ「あおいは総合プロデューサーとして駆け回っていたし、お祭りの後の虚脱感? みたいなものなのかしらね」
あおい「うーん」
違う、と思う。確かに総合プロデューサーとしての仕事は大変だったし、とても疲れた。けれど決して苦ではなかった。私が最初にアイドルの才能を見出したいちごが、私のプロデュースしたライブでトップアイドルとなる瞬間の目撃者になれた。それだけで十分過ぎるほどに報われたと思っている。
あおい「上手く説明出来ないんだけど、なんだかモヤモヤするの。輝きのエチュードが、ずっと頭から離れないのよ」
ユリカ「ユリカ様だって同じよ。本当に素晴らしい曲だったわ」
あおい「そうなんだけど、なんというか、あの歌を聞いていると苦しくなるのよ……切なく、なるの」
ピクリと眉を動かす。
ユリカ「ねえ、輝きのエチュードって、いちごの美月への気持ちを歌にしたのよね」
あおい「そうだけど?」
シンガーソングライターの花音さんが、いちごの恋のような気持ちを歌にしてくれた。それが、輝きのエチュードという作品。
ユリカ「じゃあ貴方、それは嫉妬よ」
あおい「えっ、嫉妬? 私が? 誰に?」
ユリカ「貴方が、美月によ」
ユリカ「貴方はずっと星宮いちごというアイドルの一番のファンであり一番のサポーターであり、一番近くにいた。だから、神崎美月というあの子の憧れに嫉妬しているのよ」
嫉妬。考えてもみなかった。
いちごは、ずっと私の隣にいた。スターライトに来てからは、ずっと同じ部屋で暮らしてきた。今でこそお互いに仕事が忙しく一緒に入られる時間は少なくなったが、それでも私たちは、同じ場所に帰ってくる。会えば自然に笑顔になれる。会えずともお互い繋がっている。そう思える。
ずっと離れていたのは、いちごがアメリカに行っていたあの一年間くらいだろうか。
そんな、常に身近であった星宮いちごというアイドル。私にとって、彼女はどんなアイドルなのだろう。アイドルのことで嫉妬なんて、したことがない。わからない。
ユリカ「貴方、バカなの?」
ユリカ様は髪をかき上げ、目を細める。
ユリカ「普通、アイドルの恋愛で嫉妬なんてしないわよ。羨ましいとは思うかもしれないけどね」
ユリカ「いちごのことをアイドルとして以外にも思うところがあるから、嫉妬するんでしょう」
アイドルではない星宮いちご。
あおい「そっか……私忘れてた。私っていちごの親友だったんだわ」
ユリカ「まったく、しっかりしなさいよね。血を吸うわよ」
あおい「でも、じゃあますますわからないわ。親友のいちごが美月さんに憧れて嫉妬するの? 私別に、自分だけがいちごの友達でいたいなんて思ってないし」
そう言うと、目の前の綺麗な顔が顰めっ面に変わってしまった。
ユリカ「訂正するわ、貴方バカね。そうじゃなくて、貴方がいちごに恋愛感情を抱いているから嫉妬してるんでしょう」
あおい「え、え、ええええええええええ!?」
ビクッと周囲の人たちが反応する。やば、皆こっちを見てる。ここがスターライトの食堂だって忘れてた。
いや、けれど、だって、仕方がないじゃない。そんな、私がいちごのことを……。
ユリカ「だってそうでしょう。いちごが美月への恋みたいな気持ちを歌った、それでモヤモヤする。苦しい。そんなものいちごが好きで嫉妬している以外にないじゃない」
あおい「い、いやいやいや、だって私たちアイドルだし、女の子同士だし!」
ユリカ「アイドルだって人間よ。恋ぐらいするし、じゃなきゃラブソングも歌えなければお芝居も出来ないわ」
ユリカ「それに、別にいいじゃない。女の子同士だって。好きなのが、たまたま女の子だってくらい……なんてことないわ」
そう言って、ユリカ……ちゃんはトマトジュースをストローで飲んだ。悩んでいるのは私のはずなのに、彼女の方がよっぽど辛そうな顔をしていた。
あおい「ユリカちゃん、もしかして」
ユリカ「…………」
ユリカ「あおいさんは、人を好きになったことはありますか」
ない。私はずっとアイドルが好きで、アイドルに憧れてきた。それはファンとしてでしかなく、決して恋愛ではない。周囲の男の子にいい人や格好いい人がいなかったわけではない。けれど、恋と呼べるほど惹かれたことはなかった。
ユリカ「だったら、今まで恋愛をしたことがないからわからなかっただけかも知れません。自分が女性を好きだって」
あおい「そんなこと――」
ない、と言えるだろうか。否。
ユリカちゃんの言うとおり、私は恋をしたことがない。男の子にも、女の子にも。私は、同性愛者だったのだろうか。
ユリカ「そうでなくとも、別にいいじゃないですか。好きになった人が、いちごさんがたまたま女の子だっただけですよ」
寂しそうな目で、彼女は微笑む。
私はいちごのことが、好き……なのだろうか。好きだ。好きに決まっている。けれど、それはどんな好きなのか。
ユリカ「まあ、すぐに結論が出るような話じゃないわね。ゆっくり考えなさい」
でもね、と彼女は付け加える。
ユリカ「あんまり先延ばしにしておくと、貴方が潰れちゃうわよ」
・
ユリカ様のグラスは、いつの間にか空になっていた。
一人になってからも、私は暫く食堂で動けずにいた。 今日がオフの日で良かった。仕事があっても身が入らなかっただろう。
目を瞑ればいちごの笑顔が浮かび、ユリカちゃんのあの目がちらつく。
まさか、アイドル博士の私が恋愛で悩むなんて。いや、まだ恋愛と決まったわけじゃないけれど。アイドルにとって恋愛はご法度、スキャンダルは問題外だ。歌っておいて自分がそうなってはお笑い種だ。
ああもう、どうしたらいいのだろう。
私は確かにいちごが好き。大好き。だけどそれは、友情だとずっと思っていた。けれど、ユリカちゃんはこれが恋愛感情なのだという。美月さんに嫉妬しているのだと。
嫉妬。そうだ、そもそも私の抱えるモヤモヤは本当に嫉妬なのだろうか。それすらもわからない。
「こんな時、いちごだったらどうするのかなあ」
~♪
「っ!!」
突然アイカツフォンルックがなりだして、吃驚してしまった。
「いちごからだ」
『午後のお仕事が延期になっちゃった>< あおいも今日お休みだったよね。ちょっとおでかけしない?』
穏やかじゃないタイミングだ。普段なら即決で「いいよ」と返信するところだけれど、何故か私は迷っていた。
今の状態でいちごに会って、ちゃんといつもの私でいられるだろうか。
でも、確かめるいい機会なのかもしれない。私がいちごのことを、アイドルではなく、星宮いちごという女の子をどう思っているのか。
いちごと二人で出かけて、自分の気持ちを確かめよう。
意を決し、いちごのメールに返信した。
寮でいちごが帰ってくるのを待つことになった。
あおい「うーん、これも違う気がするわね」
その間に、服を見繕う。スターライトの制服で外出しても構わないのだが、今日は私服で出ることにした。いちごにもそう伝えた。
スターライト学園の服に身を包んだ姿は、どうしても「アイドル」星宮いちごを意識させてしまう。私は、ただの星宮いちごへの感情を確かめたいのだ。
あおい「私普段、いちごと出かける時ってどんな格好なんだったっけ」
そもそも、意識したことがないのだ。いちごと二人で出かけるから、という理由で服を選んだことなんてない。何処に行くのか、何をするのかで服装は決める。あとは、これでも一応アイドルだから、目立ちすぎず、かといってオシャレは怠らない格好。
ああ、でも今日はデートだし、ちょっと気合入れた方が――
あおい「ん?」
デート? 私と、いちごが?
そうだ、どうして気付かなかったのだろう。二人でお出かけってデート……!?
あおい「お、おお、おおおお、穏やかじゃないいいいい!!」
いちごと、デート。いや、二人きりなんて今まで何度もあったじゃないか。スターライトに来てからは少なくなったし、お互いに忙しくて最近はそれほど一緒にいられない。あれ、もしかして学園以外で二人っきりはかなり久しぶり?
ど、どどどうしよう。急に緊張してきた。ああん、決まらない。何来ていけばいいのよう。
今の流行だと……や、でも、いちごの好みは、いや、そうじゃなくて――
~♪
あおい「い、いちごっ、もう学園に着いたの!?」
どうしよううう。
結局、思いっきりお洒落してしまった。たかが女友達と一緒にぶらぶらするだけなのに気合入り過ぎとか思われないだろうか。凄くガーリーな感じで、私らしくないかも。それにそれに、こういうコーデにするなら髪もいじりたかったような。ていうか、私の髪大丈夫かな、朝ちゃんと見たけど、乱れてないかな。
いちご「お待たせ、あおい」
き、来た!
あおい「う、ううん、全然」
すこしどもってしまったけれど、笑って誤魔化す。大丈夫、いつもの私だ。
いちご「あれ、あおい……」
いちごが怪訝そうな顔をする。やっぱりどこか変だったのだろうか。
いちご「今日のあおい、いつもとちょっと感じが違うけどすごく似合ってるね。かわいい」
そう言って、微笑む。いちごのあの特有の笑い方に、私の心が擽られている感じがした。
あおい「あ、え、あ、ありがと……」
顔が熱い。なんで。ただ褒められただけなのに、なんだかすごく恥ずかしい。
いちご「よーし、それじゃあ私も頑張って服選んじゃうぞ! もう少し待っててね、あおい」
まともに返事も出来ず、私は一旦部屋を出た。
まだ少し、頬が熱を帯びている。何故こんなにも、熱いのだろう。
駄目だ、ユリカ様と話してからいちごのことを意識し過ぎている。これじゃあデートどころじゃない。いや、だから別にデートじゃないのだけれど。
あかり「霧矢先輩、こんにちは」
あおい「あ、あかりちゃん。こんにちは」
考え事をしていた所為か、あかりちゃんが近付いて来るのに気付かなかった。
あかり「どうしたんですか、両手でほっぺたおさえて」
大空あかり。いちごに憧れて、いちごに見出された、新人アイドル。最近は現場を重ね自信もつき、順調にアイドルとして成長してきている。
あおい「ううん、何でもないの」
初対面の時は「星宮いちごです」なんて名乗りだすし、格好もそっくりだったし、吃驚したなあ。
あおい「それよりもあかりちゃん、髪伸びたわね」
少しだけ、懐かしい。
あかり「えへへ。あ、霧矢先輩、もしかしてこれからお出かけですか? とても似合ってます!」
あおい「有難う。あかりちゃんは?」
あかり「今度オーディションがあって、そのために特訓です!」
大きな声で、意気込む。こういう元気なところと、真直ぐな目は、いちごみたいだ。
あおい「そっか、頑張ってね」
あかり「有難うございます!」
あかりちゃんは一礼すると、歩いて行ってしまった。
ふふっ。自分ではちょっと不安だったけど、いちごだけじゃなくてあかりちゃんも褒めてくれたし、このコーデで正解だったみたい。
……あれ、そっか。あかりちゃんも褒めてくれたのに、さっきみたいに熱くならなかった。なんで――
いちご「準備できたよ、あおい」
あおい「わあ、いちご。いつも可愛いけど、今日はすっごく可愛い」
いちご、こんな服持ってたんだ。初めて見る。
いちご「フフッヒ、ちょっと前に買ったんだけど、着る機会がなくて」
くるりと、回ってみせる。見慣れているはずなのに、そんな動きが、私を見て微笑むちょっとした仕草が、とても魅力的に見えてしまう。まずい、また顔が熱くなってきそうだ。
いちご「あおいは、お昼もう済ませた?」
あおい「うん、ユリカ様と」
いちご「私も。じゃあ、まずは……」
久しぶりに、実家の近くの商店街にやって来た。
いちご「なんだかすっごく久しぶりな気がするねえ」
何処にいくかという話になって、結局近場で済ませることになった。休日とはいえもうこの時間からじゃあまり遠出も出来ないしね。明日はお仕事が入っているし。
あおい「そうね、お互い忙しいし」
私といちごの、色んな思い出がつまった街だ。一緒に来るのにはうってつけかも知れない。
それに地元だからか、通行人も私たちがアイドルだと気付いていても、話しかけたり写真を撮ったりしないでいてくれる人が多いのも助かる。
今日は私もいちごも、変装らしい変装をしていないのに、ほとんどサインや握手を求められたりしない。まだ両手の指で足りるくらいだ。
いちご「あ、あおい、見て見て、この服かわいいよ!」
お陰様でのんびり気張らずに過ごせるわ。
あおい「ふふ」
いちご「あおい?」
あおい「ううん、何でもないの。ただ、ちょっと嬉しくなっちゃって」
あおい「私たちはアイドルになって、いちごはトップアイドルになって、でも変わらないなって」
私たちは、あの頃から大きく成長したと思う。いろんなことが変わったけれど、
あおい「二人で過ごす時間は変わらないなって」
いちご「なにそれ? フフッヒ、変なあおい」
いちごの笑顔は、やっぱりいつもと変わらず眩しかった。
あおい「もうこの店もすっかりお馴染みね」
いちごの家の近所の喫茶店。
歩き疲れた私たちは、音城セイラちゃんのお家に来ていた。
いちご「素敵なお店だもんね」
いちごがウィンクする。可愛いなあもう。
セイラ「贔屓にしてもらってありがとな、二人とも」
いちご「セイラちゃん!」
あおい「セイラちゃんも今日オフなのね」
どうやらお家のお手伝いをしているらしい。
いちご「セイラちゃん、この前は有難うね」
セイラ「この前……ああ、大スター宮いちごまつりのことか。むしろこっちが有難うって言いたいくらいだよ」
セイラ「最高のステージだった。久しぶりに2wingSとしても歌えたし、楽しかったよ」
2wingS。スターライト学園の星宮いちごと、ドリームアカデミーの音城セイラの二人という夢のようなコラボレート。二人のステージは、いつ見ても凄かった。身内贔屓でなく、素晴らしい大好きなユニットだ。
いちご「私もセイラちゃんと一緒に歌うの好きだから、嬉しかったよ」
そう、大好きな二人、なんだけどな。
セイラ「また一緒に歌おうな」
なのに、なんだか今は、二人を見ているとモヤモヤする。
輝きのエチュードを聞いている時のような、如何ともし難い感情。
『じゃあ貴方、それは嫉妬よ』
ユリカ様の台詞が、蘇る。
また嫉妬、してしまっているのだろうか。友達なのに。大事な、アイドル仲間で、いちごのパートナーでもあるのに。
どくん、と心臓が跳ねる。苦しい。痛い。
どうして。どうしてこんなに苦しいの。
セイラ「霧矢あおい? どうしたんだ、顔が真っ青だぞ」
あおい「…………ない」
いちご「あおい、大丈夫!?」
あおい「……ないよ」
いちご「えっ?」
あおい「――わかんないよっ!!」
わからない。何もわからない。
私は、どうしてしまったんだろう。さっきまで、あんなに楽しかったのに。
いちごと一緒にいられて、嬉しかったのに。なのに今は、こんなにもどろどろした気持ちなんだろう。
私は思わず、セイラちゃんの家を飛び出してしまっていた。
頭のなかで、皆の顔がぐるぐると回っている。
ユリカちゃんのあの表情が、あかりちゃんのあの目が、セイラちゃんの姿が、いちごの笑顔が、いちごの心配そうな顔が、いちごのいちごのいちごのいちごのいちごのいちごのいちごのいちごのいちごの
頭がぐちゃぐちゃで、もう何も考えたくなくて、私は我武者羅に走った。
わけもわからず走った。何処に向かっているのかも、何処にいるのかもわからず。
なのに。
いちご「あおい!!」
それなのに。
いちご「やっと捕まえたよ、あおい」
すぐにいちごに追いつかれて、後ろから抱きしめられていた。
背中に感じる感触はとても柔らかくて、温かい。
いちご「ねえ、覚えてる?」
いちごが、私の頭を撫でる。
いちご「私たち、ここで出会ったんだよ」
あおい「え?」
いつの間に、ここまで来ていたのだろう。
そう、確かにここは、私といちごが初めて出会い、初めて言葉を交わした場所だった。
盆踊り大会の日、楽しそうに笑顔で踊る星宮いちごに出会ったんだ。
『一緒に踊ろう』
あの一言が、私を初めてのステージに登らせてくれた。
見る側だった私が、見られる側にまわった瞬間。
私が、アイドルを目指した日。
いちご「あの日、あおいと出会って、親友になって、スターライト学園に誘ってくれて」
いちご「あおいがいなければ、私はここまで来られなかった」
それは、私だって同じだ。
いちご「あおいと向かう場所――アイドル――はミライの、私たちの希望の中にあって」
いちご「つまずいた瞬間も、悔しさを噛みしめて」
いちご「みんなの心を笑顔にする――アイドルになるって決めたから」
いちご「私たちをつなぐ、胸の中のきらめくラインは、あおいから受け取ったバトンで」
いちごと一緒にアイドルになりたいと思った。
辛い時も悔しい時もあったけれど。
あの時皆を笑顔にしていたいちごみたいになりたくて。
私をアイドルにしてくれたのは、いちごなんだ。
『さっきの踊り、すっごく上手だった。なんかあれ、アイドルみたいだったよ』
あの言葉が、私に光のライン、あこがれのきらめくラインをくれた。それがチカラになって、私は頑張ってこられた。
初めていちごと一緒に踊ったあの時、私は少しだけ怖かった。
‹はじまりの予感は 少しだけ臆病›
けれど、いちごが隣で微笑んでいてくれたから。
‹手をつないでほしい›
いちごがとても輝いていたから、私も楽しめた。
‹あなたが好きだから世界は›
だから私は、見られる側にまわれた。アイドルに、なりたいと思った。
‹こんなに今日も優しい色をくれるよ›
あおい「ああ、そっか。そうだったんだ」
簡単なことだったんだ。
『一緒に踊ろう』
あの言葉で私はアイドル星宮いちごに恋をした。
皆を笑顔にするアイドルに。
『さっきの踊り、すっごく上手だった。なんかあれ、アイドルみたいだったよ』
そしてあの言葉で、私は星宮いちごに恋をした。
アイドルの私を見つけてくれた、いちごに。
あおい「ねえ、いちご」
もう、大丈夫。迷ったりしない。惑わされたりしない。
私は、自分の気持ちに気がつけたのだから。
あおい「一緒に踊ろう」
おわり?
ユリカ「それで、ゲリラライブになったわけ?」
あおい「あはは、面目ない」
ユリカ「今をときめくアイドル、それもSoleilの二人が踊っていたら大騒ぎになるって思わなかったの?」
あおい「いや……つい」
ユリカ「もう」
言葉こそ非難するようだが、ユリカ様の顔はにこやかだ。
ユリカ「で、どうなのよ。いちごとは」
あおい「どう、とは?」
ユリカ様が訝しげな顔を見せる。
ユリカ「いやいやいや、だって、ほら、あるでしょ? 告白とか、付き合うとか」
あおい「なくもなくもなくってよ」
ユリカ「ちょっと、人の台詞とらないでよね、血を吸うわよ!」
あおい「ごめんごめん」
私は、いちごのことが好き。恋愛感情として。
けれど、まだしばらくはこの気持ちを隠しているつもりだ。
ユリカ「それでいいの? 貴方は」
本当は、今すぐ打ち明けたいという欲求もある。いちごに私の思いを、知ってもらいたい。
あおい「私ね、まだまだアイドルしてやりたいことがいっぱいあるの」
デビューして3年、実現できた夢も多いけれど、まだまだだ。
あおい「私は、自分のアイカツをもっと進んでいきたい。行けるところまで、行ってみたい」
それが、私というアイドルを見出してくれたいちごへの最大限の愛情表現でもあると思うのだ。
あおい「それが終わったら、いちごに言うよ。好きだって」
ユリカ「…………そう」
ユリカ様が、目を細める。
あおい「ユリカちゃんも、そうなんでしょう?」
ユリカ「貴方……そうね。私もまだ、今はこのままで」
ユリカちゃんはきっと、あの子が好きで。
そして私と同じように、自分の夢を追っている。
あおい「ああもう、話してたらじっとしていられなくなっちゃった。夢のために今すぐ動き出さなきゃ!」
時間は有限だ。これからも頑張らないと。
あおい「本当に、アイドルって――」
ユリカ「穏やかじゃない! でしょ」
あおい「あらら、今度は私がとられちゃった」
ユリカ「ふふっ」
あおい「ふふっ」
二人して、笑い出す。なんだかとっても可笑しい。
これからのアイカツ界はどうなるのだろう。
私やいちご、美月さんや沢山の人たちを繋ぐきらめくラインは、確かなバトンとなって、今度は大空あかりというアイドルを生み出した。
私たちが知らないだけで、そのバトンはきっと、もっと沢山の人たちが受け取っている。
アイカツは続いていく。ずっと。こうやって繋がっていく。
明日からのアイカツは、何が待っているのかな。
あおい「私の熱いアイドル活動、アイカツ! はじまります!!」
霧矢あおい「ガール・ミーツ・ガール」 おわり
お付き合い有難う御座いました。
おつ
おつ
乙やかじゃない
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