監督「やあ、よく来てくれたね」
俳優「いえいえ」
俳優「ところで……ご用件は?」
監督「うむ……。実は……構想している映画があるのだが、君を主役にしたいのだ」
俳優「ホントですか!?」
俳優「いったいどんな映画なんです?」
監督「……今、世間を震撼させてる連続殺人事件があるだろう?」
俳優「ええ、犯人がまだ捕まっていないっていう……」
監督「あの事件にちなんで、殺人鬼を主役とした映画を撮ってみたいのだよ」
俳優「殺人鬼の映画ですか……面白そうですね!」
監督「だろう?」
監督「というわけで、さっそくだが、君の演技を見せて欲しい」
俳優「分かりました!」
右手にナイフを持つ俳優。
俳優「殺してやる、殺してやるぜぇ!」
俳優「このナイフでな!」ペロ…
俳優「ヒャーッハッハッハッハッハッハ!」
俳優「……いかがです?」
監督「う~ん……」
監督「ナイフをなめるっていうのは……少しわざとらしすぎやしないかね?」
俳優「そ、そうですか?」
監督「うん……リアリティに欠けると思うんだよ」
監督「本当の殺人鬼なら、ナイフとか使わんでも人を殺せるだろうしね」
俳優「はぁ……そういうもんでしょうか」
監督「というわけで、ナイフじゃなく……アイスをなめてみてくれんか」
俳優「アイスを……!? わ、分かりました!」
右手にアイスを持つ俳優。
俳優「殺してやる、殺してやるぜぇ!」
俳優「アイスうめえ!」ペロ…
俳優「ヒャーッハッハッハッハッハッハ!」
俳優「……どうです?」
監督「う~ん……」
監督「君は派手に高笑いしていたけど」
監督「本物の殺人鬼ってのは、あまり笑わないものだと思うんだよ」
俳優「はぁ……」
監督「かといって、だんまりの殺人鬼じゃ映像としてつまらんから」
監督「笑うんじゃなく、いっそ嫌がってみようか」
俳優「……や、やってみます!」
右手にアイスを持つ俳優。
俳優「殺してやる、殺してやるぜぇ!」
俳優「アイスうめえ!」ペロ…
俳優「いやだぁぁぁっ! 本当はこんなこと、したくないんだっ……!」
俳優「……こんなもんでしょうか?」
監督「う~ん……」
監督「だいぶよくなってきたんだが……」
監督「ターゲットに向かって殺すって宣言するのは、なんだか安っぽい気がする」
監督「ようするに、リアルじゃないんだな」
俳優「……」
監督「というわけで……あえて殺さないって宣言してみようか」
俳優「……いいですけど」
右手にアイスを持つ俳優。
俳優「俺はお前を殺さない……」
俳優「アイスうめえ!」ペロ…
俳優「いやだぁぁぁっ! 本当はこんなこと、したくないんだっ……!」
監督「いいぞ! だいぶよくなってきたぞ! 実にリアルだ!」
俳優「……」
俳優「ふざけないで下さい!」
俳優「なんなんですか、これは!?」
俳優「リアルリアルって、監督は本物を見たことがあるんですか!?」
監督「そりゃもちろんないけど……」
俳優「……だったらこんなデタラメでボクをからかわないで下さい!」
監督「いや、そんなつもりは……」
俳優「こう見えても、ボクだって忙しいのですよ」
俳優「ボクは監督のことを尊敬していますが、お遊びに付き合っているヒマはありません」
俳優「それにボクにだって、役者としてのプライドはある」
俳優「こんな役を演じるつもりはありません!」
俳優「失礼します!」スタスタ…
監督「ああ……」
監督「せっかくよくなってきたのに……行ってしまった……」
監督(うむむ……)
監督(このところスランプで、まったく映画を撮れてなかったが)
監督(やっといい構想が浮かんできたっていうのに……)
監督(彼に拒絶されてしまったせいで、すべてパーだ)
監督(くそっ、面白くないな……)
監督(こういう日は、コンビニでなにか甘いものでも買うとしよう)
アイスをなめながら、帰路につく監督。
監督「……」ペロペロ…
監督(冬のアイスもまた、格別……だな)
覆面男「うへへ……」ザッ
監督「!」
覆面男「うひひひひ……」
監督「だ、だれだ君は!?」
覆面男はナイフを持っていた。
覆面男「殺してやる……殺してやるよォ!」
覆面男「このナイフでよォ!」ペロ…
覆面男「ウシャシャシャシャシャシャ!」
監督「う、うわっ!?」
監督「ま、待て、やめなさい! 話せば分かる!」
覆面男「ヒャアアアアアア!」
監督「こ、このっ!」ヒュッ
覆面男「ヒャアアアアアア!」ベチャ…
監督(ダメだ! アイスをぶつけたぐらいじゃひるまない!)
バキィッ!
覆面男「ぐえぇ……」ドサッ
俳優「大丈夫ですか、監督!?」
監督「おおっ! 君か!」
俳優「やっぱり監督にもう一度会おうと思って来てみたら……ビックリしましたよ」
監督「ありがとう……助かったよ」
監督「それにしても、これで君の正しさは証明された」
監督「本物の殺人鬼とは、最初に君が演じたような人間だったのだな」
監督「殺すと宣言し、ナイフをなめ、高笑いをするような……」
俳優「いえ、こいつはただの狂人です。殺人鬼とはちがう」
俳優「おそらく、人を殺したことなんか一度もないでしょう」
監督「そういうものかね」
監督「しかし、まさかこんな目にあうなんて……驚いたよ、まったく」
俳優「なにをおっしゃる」
俳優「驚いたのはボクの方ですよ」
俳優「だって、先ほどの監督の演技指導は」
俳優「ボクにボク自身を演じろ、といってるようなものでしたから」
俳優「やはり、監督はすばらしい方ですよ」ニコッ
監督「?」
俳優「あ、この落ちてるアイス、いただいてもよろしいですか?」ヒョイッ
監督「え……落ちたのをなめるの?」
俳優「やる前はこれをなめないと、なんだか落ちつかなくって」
俳優「ご安心を。監督を殺すつもりはありませんから」
俳優「う~ん、アイスがうまい」ベロン…
俳優「すみません、監督……本当はやりたくないんですが……すみません……」ザッザッ…
監督「ん?」
監督「なんだなんだ? なんだね、その目つきは? ──こ、来ないでくれっ!」
監督「まっ、まさか! 君が、今世間を震撼させてる……!?」
監督「やっ、やめっ──」
END
乙
よかった
?
おつ
ギャグマンガ日和みたいなノリでごっつ好きやねん
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世にも奇妙な物語っぽかった
乙ー
乙
めちゃくそ面白かった
こういう短編で何本か読んでみたい
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