独り登ってゆく、長い長い坂道……だが。

不意に、俺は立ち止まった。

「…この街は好きか」

…その言葉は、するりと俺の口から流れ出した。

「俺はこの街が嫌いだ」

これは、独り言だった。

「何もかも、変わらずには居られないから」

「楽しい事や、嬉しいことがあっても…全部、変わらずにはいられないから」

バスケットボール。共に見た夢を追いかけた仲間。
あの人の顔。肩の痛み。

心によぎる、あの日の情景。

「……それでも」

「それでもこの場所が、好きで居られるだろうか」

それは、自問自答とも呼べる独り言だった。

自分でも何故急にこんな事を口走ったのかはわからない。

不意に浮かんだ心の問答を、自然と俺は口に出していた。

この長い長い坂道のふもとで、ただ、独り――――


「見つければいいんじゃないかな?」


「――――え?」


背後から、声がした。

振り向くと、そこには少女が立っていた。

自分と同じ、光坂の制服。

まん丸い、活発そうな瞳。

そして鮮やかな、橙色の髪。

期待

「次の楽しい事や、嬉しいことを見つければいいんじゃないかな?」

女生徒が、続けてそう言う。

思いもよらない、帰ってくるとは思わなかった声に俺は言葉が詰まった。

狐につままれたかのようだった。

「ほらっ！行こ！朝礼始まってるよ！」

たたんっ！と跳ねた女生徒が俺を追い抜き、そう急かした。


……俺たちは、登り始める。


長い長い、坂道を。



○



学校に着く。

坂道では、陽気そうに坂を登る女生徒の数歩後ろを俺は歩いた。

その間、会話は無い。

当たり前だ。

どうして学校の鼻つまみ者の俺と話などするだろうか。

橙色の髪の女生徒。

制服からして、同じ学年。

だが、クラスでは見た事の無い知らない顔だ。

とすると、二組の生徒だろう。

もしかすると一組の、同じクラスメイトなのかもしれないが…

……なんて事を考えているうちに、校舎に入った。

下駄箱で靴を履き替え、廊下を進む。

「…ん?」

と、そこに廊下に立つ女教師の姿が見えた。

何やら掲示板に貼っている。

ポスターだろうか。

「せんせーっ、何貼ってるんですか?」

女生徒が女教師に尋ねる。

俺たち二人の姿を認めた女教師は、遅刻はいけませんよ、と呆れつつもやんわりと叱り、再び視線を掲示板に戻した。

彼女の手が、掲示物を貼ってゆく。

そこに書かれているのは……


「廃…校…?」


この学校の、廃校の報せだった。

「え…?」

隣から、声が漏れる。

女生徒のものだ。

見ると、彼女は目を見開いて、信じられないものを見るかのように、張り紙を凝視している。

「今の一年生が卒業したら、この学校は廃校するんですよ」

女教師が、そうつぶやく。

その瞳は悲しそうに、張り紙を見つめていた。

俺は彼女のその言葉をぼんやりと聞いている。

彼女の左手、その薬指に光る指輪。その光は、酷く小さく、物悲しく思えた。

――――そして


「…しの…かしい…こう…活が…！」

女生徒が、ぽつりと何かを呟いた。

「え?」

瞬間。

ふらり、と、彼女の身体が揺れ――――――そのまま後ろに倒れこんでゆく。

「……っ!!!」

とっさに彼女を抱きとめる。一瞬の出来事。

「っ、、おい！お前！」

「高坂さん!?」

俺と女教師、二人が呼びかける――――が。

「気を、失ってる…」

女生徒は、気を失っていた。


○



気絶した女生徒を女教師と一緒に保健室まで運んだ後、俺は二年一組の教室へと足を運んだ。

保健室に運び込んでいる途中に朝礼の集会が終わったのか、教室には既に生徒達が帰っていた。

教室の扉を開け、自分の席に座る。

堂々と遅刻してきた不良を眺める幾つかの視線を感じるが……わざわざ気にする事でもない。

席に座り、一分もしないうちにチャイムが鳴り、次の授業を担当する教師がやってくる。

先程の朝礼は一限目を費やし行われたので、今から始まるのは二限目の授業だ。

とは言えたいして興味のない授業。

とうに授業を理解する事を諦めた落ちこぼれの不良の自分にとっては、サボるか、寝るぐらいしか選択肢がない。

だが、今この時だけは、一つの思案が俺の頭を支配していた。

そう、つい今朝知った…この学校の廃校についてだ。

…廃校。

いまいち現実味のない単語だった。

あの掲示を貼っていた女教師が言うには、この学校は今の一年生が卒業すると同時になくなってしまうそうだ。

何故、廃校が決まったのだろうか。

きっとその理由は今日の朝礼で言われたのだろう。

大方、少子化で生徒が入ってこないから、みたいな理由だとは思うが……そう言えば、一年生のクラスは1クラスしかなかった気がする。

やはり少子化の煽りを受けての廃校、と言う線なのか。

だがちょっと待て。

いくらなんでも廃校はおかしい。

俺はスポーツ推薦でこの高校に入学したのだ。

スポ薦を導入している学校が廃校など、あっていいことなのだろうか。

あり得ない。

そんな、どうにもならない違和感を感じている……のだが。

……こんな事を考えたところで、決まったものはしかたがない。

こんな思案など意味のないことだ。

それに、別にこの学校が廃校になろうがどうなろうが、俺にとっては知ったことではない。

ただただ機械のように来ているだけのこの場所。

熱中している部活なんてない。勉学に励む気概もない。談笑を交わす友人もほぼいない。

今朝、自分でも言ってたじゃないか。

『俺はこの場所が嫌いだ』

そう、もとよりこの学校に、愛着なんて感情は抱いちゃいな――――――


――――――本当に、抱いていないのか?


俺が本当に、この学校に愛着を抱いていないと言うのなら…

廃校と言う現実に、何の感情も持っていないと言うのなら…


……何故俺の心は、こんなにも苛立っているのだろう。


いつの間にか、俺の心は言葉では言い表せない憤りを感じていた。

苛立ち、怒り、物悲しさ、切なさ、やるせなさ…

色んな感情が煮えたぎって、渦巻いている

……どうして。

どうして、こんな感情を俺は抱いているのだろう。

失いたくない大切な思い出など、何もない。

愛着などないはずのこの場所が無くなることに…

どうして俺はこれほどまでに、憤りを抱いているのだろう。

……。

……様々な感情が渦巻く中で、ただ一つ確かなことがある。

それは…

『この学校を終わらせたくない』

そんな確固とした答えが、俺の中には確かにあった。

ラ板で見た

○


チャイムが鳴り、二時限目の終わりを告げる。

その音を目覚まし代わりに、俺は閉じていた瞼を上げた。

組んだ腕を枕に、顔を傾け眠りについていた。

うっすらと開けた目からは、教室の窓越しに廊下が見える。

そこを横切る、教師。

確か今のは、今朝張り紙を貼っていた教師だ。

二組の担任……だったような気がする。

……。

寝起きだ。

意識があやふやで、朦朧としている。

……まぁいい

今はただ、この睡魔に従おう…

「んむ…」

瞳を閉じ、安穏に身を委ねる…………そのとき。

薄ぼやけた視界の中を、かすかなオレンジ色が横切った。


……。



「こらっ」

すぱぁんっ！

「いだっ!?」

闇の中に沈んでいた意識は、一分もしないうちに急浮上した。

「っ…なにすんだっ！」

後頭部に痛みを感じつつ、がばりと顔を上げる。

「あれだけ堂々と遅刻しておきながらお昼寝だなんて、いい度胸してるじゃない」

そこには女生徒が立っていた。

藤色の長髪をなびかせ、むすっとした顔でこちらを睨んでいる。

二年一組の鬼委員長こと、藤林杏である。

「いいだろ別に」

せっかくの安眠を阻害された苛立ちか、荒立った声で俺は杏に向き直った。

「別に俺が遅刻しようが授業で寝てようが、お前には関係のない事だ」

「はぁ?」

投げやり気味の俺の返答に、彼女は呆れたと言わんばかりの声を上げる。

「確かにアンタが遅刻しようとグースカ寝てようと、それは知ったこっちゃないどーでもいいコトよ。……私がクラス委員長でなければね」

「アンタは学校の問題児、私はしぶしぶ問題児を更生する優等生の委員長」

ぴっ、ぴっ、と俺と自分を指差しながら彼女は言う

「つまりはそう言うコトよ」

いや、そう言うことってどう言うことなんだ。

……そう聞きたかったが、それは出来ないことだった。

彼女の手元に長方形の物体が握られているのだから。

「とにかく、わかったわね?」

辞書をちらつかせつつ、杏はそう吐き捨てた。

そして彼女は立ち去り、クラスのグループの輪へと戻って行く。

と、同時に。

「ふぃーーーーーっ」

先程まで空席だった俺の隣の席に、どっかりと腰を下ろす人間がいた。

頭のおかしい金髪、おちゃらけた雰囲気…

この学校の不良2人組の内のもう一人、春原陽平だ。

ラブライブ板のやつも放置して落としたくせに
完結させる気がないならたてるなよ

いつもならば軽く挨拶を交わし、くだらない雑談を始めるのだが……今日は違った。

奴は何やらそそくさと鞄から雑誌を取り出し、膝元で読みはじめた。

げへ、げへへへ、と、下卑た笑いを浮かべている。

……。

どうやら触れない方が良さそうだ。

いつも以上にアレなアレに呆れていると、そうこうしている内に三限目の授業が始まった。


……そして、つつがなく授業は終了する。


今回ばかりは、寝なかったぞ。

さっきの今で眠りこけるほど、俺は馬鹿じゃない。

……そう考える自分がとても情けなく思えるが、気にしないコトにする。

「よう、聞いたか？」

「あ?」

二限目の俺のように惰眠を貪っていた春原はいつの間にか起きていて、俺に話しかけてきた。

「聞いたかって……何をだ？」

「おいおい、わざわざ言わなくてもわかるだろ？」

「廃校だよ、廃校。どうやら決まったみたいだね」

「ん、ああ……そうだな」

確かに、わざわざ言わなくてもわかることだ。

「なんやかんや言ってもさー……やっぱこの学校がなくなるってコトになると、それはそれで悲しいんだよねぇ」

はぁ、とため息をつきながら春原

「…！」

「いやなんですかその信じられないものを見るような目は」

「お前にも一端の愛校心があるって事にビックリした」

「アンタ物凄い失礼っすねぇ！」

迫真のツッコミをした後春原は一つ咳払いをし、続けた。

「まぁ、なんつーか、アレだよね、物悲しいっつーか、切ないっつーか…アレな感じでさ、ほんと、うん……いや、もう…なんかよくわかんねーや」

とんでもない語彙力のおかげでよくわからんことを言っているが……言おうとしていることはわかった。

つまりこいつもこいつなりに、感傷に浸っているのだ。

「ああそういや、お前」

「ん？何？」

「なんかさっき雑誌読んでただろ、なんか面白いもんでもあったか?」

いつまでも辛気臭い話と言うのもアレだ。

こちらから話題を変える事にする。

「おっ！聞いちゃう？それ聞いちゃう？」

そしてその俺のフリに、待ってましたと言わんばかりに奴は食いついた。

「じゃぁん！」

即座に春原は机をあさり、中から雑誌を取り出した。

「……は?」

奴が手に持つ一冊の雑誌。

その表紙には……

いかにもフリフリした服を着ている少女達が載っていた。

「ふふん、どうよ、これ。かなりカワイイ娘達だろ？――――って、なんだよ、岡崎。僕の顔になんかついてる？」

「……」

……人の趣味にとやかく言う筋合いはないが。

それでもこいつがアイドルオタク――――所謂ドルオタとしての道を歩み出した事に、寒気を感じた。

「……ああ、まぁ、いいんじゃないか？いや、いいと思うぞ？うん、すごくいいと思う。いやマジでマジで」

「めちゃめちゃ投げやりな答えっすね!?」

「…………それで?その雑誌の奴らがどうしたんだ?」

「…おいおい岡崎、お前、知らないのかよ？」

「は?」

「岡崎、ひょっとしてお前モグリだな？」

と、嫌味ったらしく肩をすくめながら、春原。


そして。


奴は、口を開き――――


こう、言った。


「スクールアイドルだよ。スクールアイドル」


「スクール、アイドル…?」

それは、初めて聞いた単語だった。


○


「スクール、アイドル…」

春原が言ったその単語を、俺は復唱する。

「一体、なんなんだそりゃ」

率直な疑問だった。

「読んで字の如く、だよ」

ぱんっ！と手で雑誌を叩きつつ、春原

奴にしては知的な言い回しだ。

「彼女達は、スクールのアイドル……つまりアイドル活動をしてる女子高生って訳さ」

アイドル活動をしてる女子高生…

「…いや、テレビとかに出てるアイドルの中にも普通に女子高生いるだろ」

「そーいうのとは違うんですぅ！」

くわっ！

と、正直引く顔つき。

「彼女たちはプロじゃない、アマチュアさ。でもだからこそ、そんな彼女達が輝く姿が魅力的なんだよ」

「魅力、ねぇ…」

いっちょまえに何言ってるんだ、こいつは。

呆れつつ、視線を雑誌の表紙に向ける。

「……。」

華やかな衣装に身を包む、女子高生達。

俺には彼女達が……ひどく異質なモノに思えた。


○


キンコンカンコン。

四限目の授業が終わる。

隣の席は空席だ。

あの金髪のアホはチャイムが鳴る数秒前に教室を飛び出して行った。

おそらく購買の戦争に向かったのだろう。

ご苦労なことだ。

幸いなことに俺の今日の昼食は通学途中に買ったコンビニ飯。あの戦場に身を放る必要もない。

がさり、とコンビニ袋を手に取り、教室を出る――――その前に。

今しがた飛び出して行った春原の席には、雑誌が放り出されている。先程奴が喜々として読んでいた物だ。

ふ、と少し考え――――俺はそれを手に取り、コンビニ袋に突っ込んだ。

昼食を食べ終わったあとの時間つぶしにはなるだろう。

そして俺は、教室をあとにした。


○


ぎいいいっ。

さびれかけた音と共に、扉が開く。

そして、肌に感じる風。

学校の屋上。

昼休みのこの時間帯。少しはここで昼食を採るやつもいると思ったが、それは違ったらしい。

「よっ、と」

どかり、とその辺りに腰を下ろす

天を見上げれば、視界いっぱいに青空が広がっている。

清々しい、春の陽気だ。

どうやら今日の昼食は、いつもより旨く感じられそうだ。

コンビニ袋に手を伸ばし、中からおにぎりを取り出――――そうとした、その時。

がちゃり、と。

背後から音がした。

扉が開いた音だ。

誰かが屋上にやって来たのだろう。

くるりと、振り向く。


――――そこには、女生徒が立っていた。


「「あ」」

俺と、少女。

二つの声が重なる。

そして、ひゅう、と。

見覚えのある橙色の髪が、春風に揺れた――――

ここまで。

乙
期待してる

これは期待
どっちのキャラもいるのか
しかしCLANNADしか見ていないのはもったいないかな？

というかこれ一回落ちたよな？

乙
頼むからちゃんと完結させてくれ

「あ、あのっ」

橙の少女の口から、つまり気味なそんな声が発せられた。

「えっと、その…今朝は、ごめんね?わざわざ保健室まで運んでもらって」

えへへ、と軽くはにかみながら、彼女

「ん、ああ、いや、別に…当たり前のことをしただけだ」

ぶっ倒れた奴をそのまま放っておくなんて、それはそれで凄いと思うが。

「「……」」

そして会話が途切れる。

…非常に気まずい。

「ねえっ」

「……なんだ」

この気まずさに、さてどうするかと口をもごりと動かしていたが、先に声をあげたのは少女の方であった。

「君って……この場所が、嫌いなの?」

「……。」

彼女から発せられたのは、そんな問い。

この場所が、嫌い。

つまるところ、今朝の俺の"ひとりごと"の事を言っているのだ。

手前の独り言を聴かれてた事自体恥ずかしいのに、それを蒸し返してくるとは……

どうにも妙な気分だが、彼女の方から尋ねて来たのだ、ならばこちらは返答するしかない。

「さあな…そこんとこだがおれにもようわからん」

「今朝までは確かに嫌いだったんだがな」

「この学校が廃校するって聞いて…無性に嫌な気持ちになった」

「どうやら俺は、俺が思っている以上にこの場所に思い入れがあったらしい」

「出来ることなら、廃校になって欲しくない。今はそう思ってる」

「そうなんだ…」

馬鹿正直に自分の心境を伝えると、彼女は成る程と頷いた。

「うん、私も同じ気持ちだよ」

「私、この場所が好き。この学校が好き」

少女の瞳は、なんの曇りもなくこちらを見つめている。

「だから廃校になんて、絶対になって欲しくないよ…」

こちらに向けていた顔を伏せ、彼女は悲しげな顔でそうつぶやいた。

橙色の髪が、風に揺れている。

「「……。」」

再びの、沈黙。

「……あっ！」

……しかしやはり、先に沈黙を破ったのは彼女の方だった

「そう言えば、まだ名前聞いてなかったよね?」

「私、2年2組の高坂穂乃果」

彼女が、名乗る。

……。

高坂、穂乃果。

聞いたことのない、名前だった。

……。

……いや。

高坂。

その苗字には、妙な聞き覚えがあった。
が、さて、どこでだっただろうか。

いまいち覚えていない。

「……１組の岡崎朋也だ」

ふとした思考を振り払い、少々間を開けて、俺はそう言う。

「よろしくねっ、岡崎くんっ！」

……にこやかな笑みを浮かべて、彼女はそう言った。

その笑顔を見て、俺は何と無く彼女の人となりをを感じとった。

底抜けに、明るい人間なのだ。

俺のような、ろくでなしの人間とは違う、ただ、ただ、純粋な……そう言う人間なのだ。

……。

……眩しさすら感じる彼女の笑みに、俺はただぶっきらぼうに返す事しか出来なかった。

ここまで。

ラブライブ見たことないけど期待

朋也で検索したらこの板に２つスレが表示されるんだがどう見ても>>1は同一人物だよな…

おいまだか

生きてます。

生きてて何よりだ。さあ続きを書こう

エタったかと思ってたわ

生きてます

まつよー