私「拝啓、わたしのストーカー様」 (68)

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やめろ








やめろ怖い

さっきも見たのだが…






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 PM 7:25


元カレ「で、そのストーカーってどんなやつ?」

私「わからない。でも最近うしろをつけられている感じがするの」


ケンジをファミレスに呼び出したのは、彼の仕事が終わってすぐのことだった。

ケンジは高校時代、空手部に入っていた。

腕には自信があるらしく
ストーカーのことを話すと「俺がその男をとっ捕まえてやるよ」と息を巻いた。


ケンジとは半年前に別れて今は元カレだけど
こういう相談事をきっかけに仲が復縁することだってあるかもしれない、なんて
私はそんな甘い空想を抱いていた。

で、ケンジがストーカーでしたとさ






終わり


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20歳、フリーター、女、A型、高卒

茶色のショートで
百五十センチの細め。


名前は本田美香子。

友達からは
「ミカ」って呼ばれてる。

好きな小説はミステリー系。


これぐらいかな。

これぐらいしか
私は自分を語れないかも。

きたい


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警察に相談したこともあった。
けれどストーカー関連の相談はこの世の中にありふれているらしく
まともに相手をしてくれなかった。


唯一たよりになる男性は
高校のときからずっと一緒だったケンジただひとり。

今は建設作業員をやっているらしい。
別れてからもたまに連絡をとったりして、男友達ってカンジだった。



ケンジの出番はすぐにやって来た。


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元カレ「いま、うしろにいる」


その言葉を耳にした途端、私の顔から血の気が引いた。


元カレ「さっきから俺たちをつけている、電柱の影に隠れてる男」


私は恐る恐る後ろを振り向く。
たしかに電柱のうしろに隠れるように黒いコートが見えていた。


元カレ「ミカ、あんまり後ろをみるな」

私「たぶんあの男だ……どうしよう」


そういうとケンジは「俺に任せておけ」と胸を叩いた。




元カレ「あいつを人気のない場所まで引き寄せる」



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公園の街灯の下で
私はひとり、たたずんでいる。


ケンジは近くの茂みに隠れ
ストーカーが現れるのを待っている。


コツ、コツ。

暗がりの向こうから足音が近づいてきた。


私「──っ」

言葉にならない声が漏れてしまう。
ストーカーの気配が、どんどん近寄ってくる。


コツ、コツ。


うっすらと影が見え始める。

私は恐さのあまり、目をつむってしまう。


コツ、コツ。


体が震える。
足から肩にかけて寒気のようなものが伝う。

期待


コツ……。

靴音が止まった。



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すぐ、目の前にいる。

そう確信して、目を開けようとした瞬間だった。


「おらぁ!!」



茂みから飛び出してきたケンジが
ストーカーを地面に押し倒した。


薄闇の中でよくみえないけど、
ケンジとストーカーが揉み合っているのがわかった。


暴力の嵐だった。
静かな公園に、二人の男の喧騒が響き渡っている。

私は足を震わせながら、後ずさってしまう。


私「あっ」

思わず声が出た。


私が気が付いたときには、ストーカーはすでに
ナイフのようなものを逆手に握っていた。

私はケンジの名前を叫んでいた。


元カレ「くそ、やろうが……うらあっ──!!」

ケンジが回し蹴りでナイフを叩き落とすと
ストーカーは手を押さえながら後ろに下がった。

ケンジはまた蹴りを入れて、
ストーカーを地面に転がした。


元カレ「はあ、はあ」

ケンジはナイフを拾い、刃先を突き立てて威嚇する。


ストーカーは起き上がり、その場から走り出した。

元カレ「逃がすかよ!」



私は
ケンジが犯人の背中を

ナイフで切りつけるのを見た。



黒いコートが、斜めに裂かれた。




正直、やりすぎだと思った。
けれど犯人は一目散に、公園から逃げ去っていった。


その日の事件を境に
黒いコートの男が現れることはなくなった。


全部、ケンジが犯人を
退治してくれたおかげ。


私の日常は元に戻りつつあった。

その時、イデは発動した

 AM 6:34


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早朝6時半過ぎのことだった。


バイトにいく準備をしていると、家のインターホンが鳴った。



まだ髪乾かしてる途中なのに……?
こんな朝早くから誰だろう……?


ドアのぞき穴の向こうには、見知らぬ二人が立っていた。


「あ、本田さんのお宅ですか?」
「○○県警の者ですが」


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警官……?


そうだ。

あの夜、犯人を退治した後
ケンジが警察に通報してくれたんだっけ。


「もしよろしければ、事情を伺いたいのですが……」



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私は警察官を部屋に入れて、事情を説明した。


随分前から知らない誰かにストーカーされていること。

3日ぐらい前に襲われかけたこと。

友人が身をもって助けてくれたこと。



けれど、ケンジが犯人をナイフで
傷つけたことは黙っておいた。


部屋にいる警察官は2人。


ひとりは中年のベテランの風格で


もうひとりは
笑顔が素敵な、若い新人の警察官って感じ。


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ひとり暮らしの私の部屋に
警察官が並んで正座をしている光景が
なんだか新鮮だった。


「……そうでしたか。今回、本田さんを危険な目に遭わせてしまったのは、ストーカー対策を怠っていた我々の責任です」
「この度は本当二申し訳ございませんでした」


若い警察官の人は
本当に申し訳なさそうに、頭を下げてきた。

本当に申し訳なさそうに、
若い警官の人が頭を下げてきた。


私は慌てて「いえ」と言った。


よくみるとこの人、背も高くてイケメンだなあ、
なんて考えたりしてた。


さっきから愛想のない中年の警察官が
「それでですねぇ」
と、ようやく口を開いた。


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「事件を起こしてしまったのは私共の力足らずが原因ですのでねぇ」
「警察の方で、本田さんの身辺警護をさせて頂きたいと思いまして……」


え?


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「本田さんの日常生活に支障のない範囲でよろしければ」
「今後しばらくは、生活安全課の『一条』を就けさせて頂きたいと」


ベテランの人は
淡々としゃべり続ける。


「ま、期間付きのボディーガードみたいなものだと思ってもらえれば」


中年の警官はぺちゃくちゃと遠まわしに色々言ってたけど


つまりこれ以上、私に被害が出れば
警察の面子に関わってくるからってことらしかった。


よくわかんないけど
たかがフリーターの私のために
警察官をひとり就けて守ってくれるらしい。



ボディーガード付きの女って感じで
その言葉の響きが
ちょっと素敵で照れてしまう。


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私「えっと、その身辺警護っていつからなんですか?」



若い警官の人が口を開く。

「できれば、今日の午後からでも……」


私「はあ、えっと、一条さんって人が就いてくれるんですよね」


どんな人なんだろう。


「はい、私です」



はっ、とネームプレートを見てしまう。

「あ、そ、そうですか」




この若いイケメンの警官が
一条さんだったのか……。





「一条ヒロキです。これから、よろしくお願いします」



AM 10:30


一条ヒロキ……

ヒロキさん。


背が高くて、かっこよくて、おまけに公務員。


私「ふふ」

バイト中に、思わず笑みがこぼれる。



「はぁ、なに急に笑ってんの? あんた」

同僚に突っ込まれた。

>>23 修正

────────


「……そうでしたか。今回、本田さんを危険な目に遭わせてしまったのは、ストーカー対策を怠っていた我々の責任です」
「この度は本当に申し訳ございませんでした」


若い警察官の人は
本当に申し訳なさそうに、頭を下げてきた。

私は慌てて「いえ」と言った。


よくみるとこの人、背も高くてイケメンだなあ、
なんて考えたりしてた。
────────────



 PM 15:06


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仕事が終わって、店を出たとき。


ヒロキ「お疲れ様です」


バイト先まで、ヒロキさんが迎えに来てくれていた。


私「あ、どうも……」



私服なんだ……。

つい頭の先から足のつま先まで見渡してしまう。


私とヒロキさんは並んで歩く。

はたから見れば、ただの男女2人。
カップルとか思われるのかな……。


私「あの、一条さんっておいくつなんですか?」

ヒロキ「25ですよ。」

私「へえ~、結構お若いんですね」


大学出たばっかりなんだろうなあ。



……なんかイイなぁ。


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私とヒロキさんは雑談をしながら帰り道を歩いていた。


ヒロキ「うちの部署って残業多いんですよ、ホント嫌になっちゃいますね」

私「えー、公務員って、絶対定時上がりじゃないですか?」

ヒロキ「それがですね……」


ヒロキさんは仕事の悩みとか
打ち明けてくれて、すぐに仲良くなれた。


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ヒロキ「ミキさんは趣味とか無いんですか?」

ヒロキさんがそう私に訊いてきた。


私「趣味ですかー、特にないですねー」

我ながらそっけないな、と思ったから


私「あっ、日曜にホームセンターとか見て回るの好きですよ」


と、適当に付け足して答えた。



ヒロキ「はは、変わってますね」

私「変ですか?」

ヒロキ「サイコーです」


私たちは共に笑いあった。


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彼が笑うときの目元のシワとか

白い歯を見せて笑うところとか


彼が私服っていうのもあるけど
まるでプライベートを一緒に過ごしているようで

私はバイト終わりの疲れなんか忘れて
なんだか、すごいドキドキしてた。



 PM 15:40


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もう30分ぐらいしか歩いてないのに


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私は彼が警察官であることなんて
とうに忘れて、話に夢中になっていた。





ヒロキ「あの、どうかされました?」

私「え?」


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それは突然だった。


ヒロキ「さっきから、周りをキョロキョロされているようなんで」

私「あ……」



癖に、なっていた。


ヒロキさんは、私の表情を覗き込む。
気付いたような顔をした後に、小声で言う。


ヒロキ「もしかして、今、ストーカーされてます?」

私「いえ、そうじゃないです。ただ……」


わたし、キョロキョロなんてしてたっけ?


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私「さいきん、このあたりで連続通り魔とか多いじゃないですか」

ヒロキ「ああ、連続通り魔殺人事件のことですか」


私「テレビで犯人がまだ捕まってないっていう……」

私「それに、まだ、誰かに見られているような感じがして……」






ヒロキ「大丈夫ですよ」



彼はやさしい声で言う。



ヒロキ「俺が、守りますから」


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 PM 19:37
 

ケンジから電話がかかってきたのは、
自宅アパートの下でヒロキさんと別れてからのことだった。


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ケンジ「今日、街でお前のこと見かけたんだけどさ」

ケンジ「おまえ、彼氏できたのな」


私は電話越しにもかかわらず
「違う、違うよ」と顔を横に振ってしまった。


私「あのね、今日の朝、警察の人がきて……」


身辺警護のことをケンジに説明すると


ケンジ「ふぅーん」

とバツが悪そうな声で

ケンジ「そっか。じゃ、また電話するわ」

と通話を切った。




…………。


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ヒロキさんは、今頃なにしてるんだろう。


アパートの階段を下りると
私は近くに止まっていた黒塗りの車に近づいた。

助手席の窓から中を覗き込むと
シートを倒して横になっているヒロキさんの姿をみつけた。


腕を頭の後ろにくんで、何かを考えているように天井をみつめていた。


コンコン、と叩くと、ヒロキさんは気が付いたように窓を開けた。


ヒロキ「どうかしましたか?」

私「いえ……ただ、なんとなく、いや、眠れなくて」

ヒロキ「そうですか」

私「ごめんなさい、用もないのに起こしちゃって」


迷惑なことしちゃったかな、と落ち込むと
ヒロキさんは優しく微笑んで


ヒロキ「いえ、何かあったら呼んでください」

ヒロキ「何もなくても、呼んでください」


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私は部屋でぼんやりとテレビを見ていた。

なんとなく流していたニュース番組は、連続通り魔殺人事件の速報。


先日、夜道に背後から刺された女性が、さっき病院で亡くなったらしい。

そのほかにも、動脈を切られて殺害された老婆や
買い物途中にベビーカーから目を離した隙に赤ん坊の腹にナイフが突き刺さっていた事件とか、これまでにいろいろな事件があった。



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また誰かに見られているような気配がして、
ヒロキさんに電話をかけようとしたところで手が止まった。


私「もう寝てるかもしれないし、起こしちゃ悪いよね……」


私はテレビを消すと、部屋の電気を消してベッドにもぐりこんだ。


暗く静まった部屋。

どこか遠くから救急車の音が聞こえてくる。

誰かが事故にでも遭ったんだろうか。
それとももう死んだんだろうか。

そう考えているうちに、意識はだんだんと薄くなっていった。


 PM 13:30


「なんかあんた、さいきん嬉しそうじゃん」

私「えー、そうかな?」


バイトの休憩室で、同僚の子に言われた。


「それにさー、なんなのよ、いつも店の前で待ってくれてる人」

「そうそう、誰!? あのイケメンの人」

他の子が、食い入るように話題に入ってくる。


私「ヒロキさんのこと?」

「へえ、もう下の名前で呼んでるんだあ。いつの間に付き合ってたの?」

私「べつに彼氏じゃないけど……」

そう言うと「えー」「マジ?」「じゃあウチに紹介してよ」
と次々に囲まれた。


PM 16:42


ヒロキ「お疲れさまです」


いつものように、ヒロキさんと合流した。

こうしてふたりで話しながら帰るのは、私にとって幸せな時間だった。

幸せで、大切で、かけがえのない──。




茜色の夕焼けを背景に、ヒロキさんの横顔をみた。

真冬みたいに冷たい風が、羽織ったコートに浸透してしみこんでくる。


彼は、期間付きのボディーガードだ。

こんな時間も、もうすぐ終わっちゃうのかな。

そう思った瞬間に、気持ちはどこまでも切なくなった。


ヒロキ「どうかしました?」

顔を覗き込んでくる。


私「いや、もう秋も終わりなんだなあって。すっかり寒くなっちゃって……」


ヒロキ「手、繋ぎましょうか?」

これやん・・・

>>41
それ書いたの私です……
前に書くの途中であきらめたので、続きをやろうと思い立って

続き期待

>>42
あ、非公開になってる・・・
ご本人でしたか失礼いたしました


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私「手……ですか?」

わたしは目を瞬かせた。

私「……手、つなぐんですか」


彼はポケットに手を突っ込んだまま、縦に首を振った。

私「……はい」


そうして、そっと隣に近寄ってきた。

腕が触れそうになったとき
ほんのちょっとだけ彼の体温の熱が伝わってきたような感じがした。

彼はポケットから手を出した。

そっと腕を伸ばしてきたとき
秋の寒さにかじかんだ私の指先と、ポケットの中で温められてほんのり熱を帯びた彼の肌が触れて、静かに絡み合う。

お互い照れくさそうに一段目線を下げながら、帰路を歩いた。


私「あったかいですね、手……」


それとなくぎゅっと握り返してみたら、ヒロキさんはこっちの顔を覗き込んだ。

夕焼けの薄闇に、安堵したように微笑みを浮かべる私の顔を。


肩までかかった髪の毛が、秋風に揺れる。


照れくささのあまり
通り過ぎる樹木の模様を観察したり、空に伸びた飛行機雲を目で追ったりしながら歩いていた。


羽ばたくカラス。すれ違う見知らぬ人。道路標識。足音。
夕空と建物のシルエットのコントラストが郷愁を誘う。


彼との帰り道は、とても幸せだった。

この時間を二人で過ごしているというだけで、心は満たされていく。
何もかも委ねてしまっているような、そういう気持ちだった。


長い時間が経つにつれ、硬直していた背中は緩んで
まるで仲の良いカップルでいるかのような、そんな心境へと移り変わっていた。


少し腕を揺らしてみたり、つなぐ手をたびたび握り返し合ったりした。

ぬるま湯に浸かっているような時間の中で、私たちはどこへ向かっているんだろうか、なんて、そんなことを思った。

色葉散る歩道のコンクリートを踏みしめる。
冬の足音が、すぐそこまで来ていた。
 


私「ヒロキさんは、こういうの、いつまで続けるつもりなのかな」

ヒロキ「……」


果たして、いつまでなんだろう。

たとえば彼が、この仕事を離れることになって。
たとえば私が、この町を離れることになって。


それから…
それから、なんだろ?

私とヒロキさんが離れる可能性なんて
それこそどこにでも、数え切れないほどに転がっているのに。


ヒロキ「ミカさんが、さ」

私「はい」

ヒロキ「こういうのが面倒になったら…その時は言くださいね?」


まるで私達の周りだけ時間の流れが違うかのように、ゆっくりと流れていく。
その中で、私は彼の手をぎゅっと握り締める。


私「わたしはね」

ヒロキ「うん」

私「好きだよ」

ヒロキ「…うん」


沈黙が流れる中、私たちは歩いていく。
言葉にしなくても、きっと伝わり合えている。
だから、この沈黙は心地良いのかもしれない。


ヒロキ「俺もさ」

私「うん」

ヒロキ「好き、だよ」

私「……うん」



私は嬉しくなった。
何故だろう、と理由を探す気も起きないほど自然に、そう思った。




その夜、私たちは部屋で肌を重ね合った。


布団の中で、私は考えてた。

こういうことになった二人なわけだから、やっぱり付き合うことになったのかなって。
その辺をヒロキくんに訊いてみたかったけど、彼は私の背中を向けて黙り込んでいた。

「私たち付き合うの?」なんて訊けないし、そんなの品がないなと思ったから訊けなかった。


行為が終わったあと、ヒロキくんはすぐに横になって静かになったから
眠っているのかな、と思ったけど、ときどき布団をずらす仕草をしたからそうじゃないんだとわかった。


オレンジ色の照明が、ヒロキくんの後姿を照らした。



私「ねえ、ヒロキくん」

私はヒロキくんの背中をみつめながら、静かにつぶやいた。

ヒロキ「……うん?」

彼は眠たそうな声で答えた。


私「わたし、うそつきだよ」

ヒロキ「俺もだよ」


そっか、と思いながら、私は彼の背中の肌を撫でた。


私「もう、寝るね」

ヒロキ「うん」

私「おやすみ……」


付けっぱなしのテレビから
『連続通り魔殺人事件』の話題が垂れ流されている。


私は部屋の電気を消して、布団により深く潜った。





今日はもう寝よう。

そう思っても、私は目を閉じることができなかった。






テレビの光に度々反射する
ヒロキくんの裸の背中をじっと見つめたまま、目を見開いていた。




彼の背中に刻まれた、斜めの大きな切り傷を。






 AM 8:34


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わたしは目をさました。


わたしの隣に、ヒロキの姿はなかった。


シーツのしわなど、そこに誰かがいた痕跡だけを残して、彼は姿を消した。




 PM 12:42


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私は目を覚ました。

一度起きたような気がするけど、どうやら二度寝しちゃったらしい。


私の隣には、ヒロキさんの姿はなかった。

はっと気が付いて、私は急いでアパートの外に出た。

路上には車がなかった。


もしかして、と思ってタンスや押入れなど、何か盗まれた物がないか探し始めた。

私は疑心暗鬼になっていた。


私「やっぱり……ない」



私は携帯を手に取ると、ケンジに電話をかけた。



私「おねがい! いますぐ来て!」

ケンジ「なんだよ、急に」

私「私の部屋の物が無くなってるの! 服とかアルバムとか、お母さんからの手紙とか包丁とかノコギリとか色々なくなってるの!」

ケンジ「ひとまず落ち着け。誰に盗まれたか心当たりはあるか?」

私「それは……」



私は、ヒロキさんの背中にあった斜めの傷を思い出す。


ケンジ「あの男か?」

私「違う、そんなわけない!」


私は疑いを持ちつつも、彼に心を寄せていた。

もしかしたら勘違いかもしれない。ただの偶然かもしれないのに。


私「……ねえ、ケンジくん。あの夜、ストーカーを退治してくれたとき、犯人の背中、なにかで切らなかった?」

ケンジ「ああ、服ごと裂けて、肌から血を流してたよ。ちょっとやりすぎたけど、それぐらいしたほうが……」

私「そっか、わかった……っ!」


私はケンジが何かを言い切る前に通話を切った。


逃げなきゃ……殺されるかも……。
でもヒロキさんが犯人なわけ……。

期待あげ


完全にパニック状態になっていたとき、部屋のドアが開く音がした。


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私「……」

部屋に入ってきたのはヒロキだった。

その瞬間いっきに放心状態になり、怪物みたいに背の高い彼の姿をみて目を見開いた。


ヒロキ「どうした、何かあった?」


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私「……どこいってたの」


ヒロキ「朝食買いに、ちょっとコンビニまで」

そういって、コンビニ袋を掲げた。


ヒロキ「な、どうしたんだ。髪もぐしゃぐしゃで……」

慌てて近寄ってくる彼は、何かに気が付いたかのように、床に座り込む私の手前で歩みを止めた。


ヒロキ「……ごめん、勝手にいなくなったりして」

私「……」

ヒロキ「そうだよ、そうだよな。俺はミカを守るボディーガードだったな」


「とりあえずご飯を食べよう」と言って、ヒロキはテーブルにお茶やら弁当やらを置いた。


私「ヒロキくんじゃ……ないよね」


私はぼそりとつぶやいたが、その言葉は彼には聞こえてないようだった。




私「ごめん……ちょっと外にでてくる……」

聞こえていない彼を残して、わたしは寝巻き姿のまま外に飛び出した。


階段を駆け下りるとき、ヒロキの叫ぶ声が聞こえたような気がしたけど
私は一目散に走っていった。


バスに乗って、とりあえず駅のある方角へ向かうことにした。

バスの中で私は考えていた。



──逃げなきゃ……。



──いや違う、なんで逃げる必要があるの?
  彼は違うのに。

──でも、殺されるかも。

──殺されない。だって彼は優しいもの。

──でもあいつが犯人かもよ。

──けれど……。

──連続殺人事件みたいに、バラバラにされるかもよ


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街中の人々が私のことを見てくる。


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なんでみんな私を見るの。こっちを見ないで。


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どうして私のことが気になるの。あんた達には関係ないでしょ。




駅のある方へ走っているときだった。


ある気配を感じて、振り向こうとした。

けれど振り向けなかった。



私「ちがう、ヒロキさんじゃない……」


私は自然に歩く振りをして、尻目で後ろをみた。

背後に止まっている黒塗りの車。



なんで私についてくるの。


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その車はどこまでも私についてきた。

どこまで歩いても、どこに行っても、ずっとついてきた。



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私「ストーカーだ……」


ケンジに電話しなきゃ。

今すぐ助けを求めなきゃ。


そうしないと、

殺される……。



いきなり手をつかまれて、私は悲鳴をあげた。

街中が小刻みに揺れるような、空を切り裂くような声を上げた。


ケンジ「俺だ、落ち着け、ミカ!」


私の手をつかんでいたのは、ケンジだった。


私「なんで、ケンジくんが、ここに……?」

ケンジ「なあミカ。どっか遠くへいこう」

私「え?」

ケンジ「そうだ、旅行だ。旅行にでも行こうか。最近おまえおかしかったろ? 少しつかれてんだよ」


いつにもなくケンジは慌てた様子で、私の手を引っ張っていった。


私「ねえ、どこにいくの……?」

ケンジ「どっか人気のない場所で暮らすんだ」

私「どうして……」

ケンジは早歩きを止めない。

後ろにくっついてくる黒塗りの車をどうしても気になるようだった。
まるで私から撒こうとでもいうように。

ケンジ「近いうちにパスポートを取って、一緒に外国で住もう」

ケンジ「ずっと前から考えてた。カナダとかいいんじゃないか。トルコや台湾、どこでもいいからいこう、なっ」


私は曇り空を見上げた。

手を引かれるがままに、呆然と見つめた。


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空の向こうから、誰かの声が聞こえる。



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──おまえがやったんだよ。



私「……ちがう」



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──おまえなんだよ


私「……ちがうって」





────ストーカーは、おまえなんだよ。




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私「…………そっか」


わたしは、納得して顔を正面に向けた。


わたし「ケンジくん」

ケンジ「ん?」

わたし「今までありがとうね、色々かばってくれて」

ケンジ「…………おまえ」



わたしは、ケンジと一緒に、この街から消えた。








拝啓、わたしのストーカー様。


あなたは、ずっと私のことを見ていたんだね。

私はあなたに気付かないふりばかりしてた。

ごめんね。

これからはね、ずっと一緒だからね。


──11月26日 毎朝新聞社




プルルル……。

プルルル……。


ガチャ。


「はい、社会部です」

「えっ?……連続猟奇事件……犯人確保……はい」

「本田美香子……20才、はい……」

「……はい……板倉健治……はい」


「え? 主犯がマルセー(精神障害者)の可能性?……」

「……わかりました、表現には十分気を遣います」


──11月26日 警視庁中央警察署 記者会見


 『本日午後18時24分より小屋の管理人から110通報』

 『一週間ほどまえから不審な男女が毛布に包まって寝泊りしているとのことでした──』

 『以後、捜査第一課が押収した証拠品から連続猟奇事件の主犯と断定し……』





PM 18:23


「しかし、一条も気の毒だな」

「捜査中に板倉健治が隠し持ってたナイフで背中を切りつけられたんだとよ」

「それに主犯の本田美香子が精神障害だって?」

「ああ、刑事責任を問うか問わないかで上が揉めてて……」

>>65 修正


PM 18:23 ×

PM 21:23 ○




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ねえ、ストーカーさん。


今日もわたしを見てくれてる──?






修正 >>34 >>38 >>50

連続通り魔殺人事件 ×
連続猟奇殺人事件 ○

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