恭介「よし、練習開始だ!」
理樹(今日は皆が退院してから初めての野球だ。久しぶりに握るバットが前より重く感じる)
鈴「うりゃっ」
ビシュ
理樹「やあ!」
カキーン
理樹「あっ」
理樹(打った球は遥か遠くの方へ飛ばされてしまった)
真人「おいおい、久しぶりだから意気込むのは分かるが力(リキ)み過ぎだぜ…理樹だけに」
謙吾「くだらんことを言うな。お前は心配するな、俺が探してこよう」
理樹「いや悪いよ…僕が行ってくる!すぐ戻るから待っててくれないかな」
鈴「おー、まーいーが」
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ガサガサ
理樹「確かこの辺りに……あっ、あの人は…」
理樹(飛んでいった先には1組の男女が見えた、一方は僕がよく知る人物だった)
用務員「やあ君。さっきの球を探してるんだね?」
理樹(用務員のお爺さんだ。薄っすらとしか憶えていないけど以前僕らが夢の世界で芋虫を山に返す手伝いをした時があった。そのお爺さんはグランドがよく見えるベンチに座っていた、今は休憩中なんだろうか。…しかし隣の女の人は誰だろう?見た所お爺さんと同じぐらいの年代の方の様だけど)
理樹「そうですが…」
用務員「隣の人を気になってるんだね?これは僕の妻だよ」
女性「……」
理樹(隣の人は軽く会釈をしてくれた。無愛想だけど優しそうな人だった)
用務員「ああ、ごめん。肝心のボールはこれだろう」
理樹(思い出したかの様に隠していた方の手からボールを差し出してくれた)
理樹「ありがとうございます!」
用務員「うん…それじゃあね」
理樹(用務員のお爺さんは手渡す瞬間、非常に温かな微笑みで僕を見つめた。目元が若干腫れているが泣いていたのだろうか)
理樹「ただいまー」
葉留佳「おっと、結構早かったですネ」
理樹「そうなんだ。用務員さんが見つけてくれていてね」
恭介「そうか。じゃあ再開するぞ」
理樹「うんっ!」
夕方
恭介「よし!練習はここまでにしておこうっ!」
西園「皆さん、お茶が入ってますよ」
真人「いやっほーう!」
謙吾「汗をかいた後の一杯に勝る物無し」
来ヶ谷「ああ、全くだ」
理樹(久しぶりの練習だというのにあっという間に時間が過ぎていってしまった)
恭介「そういえば」
理樹「えっ?」
恭介「今日は理樹の部屋で鍋をやる。全員集合な」
クド「わふー!お鍋パーティーですかっ!」
葉留佳「えーマジマジ!?やっふぇーい!」
小毬「ほぇ?パーティー?」
西園「また急ですね…」
理樹「ええーーっっ!?聞いてないよそんなのっ」
恭介「心配するな、コンロや材料はちゃんと用意してある」
真人「俺も喜びたい所だが一つの部屋に全員入るのかよ…」
恭介「なんとかなるさ、時間は今日の7時な」
理樹(恭介はいつも僕らに突飛な提案をする。しかしそれらはいつも面白くて…また断れるはずが無いのだ)
夜
グツグツ…
鈴「ふむ…しゃぶしゃぶか」
恭介「ああ、しゃぶしゃぶだ。ポン酢とゴマだれがあるから各自好きな物を取ってくれ」
小毬「じゃ~私はポン酢かな~?」
来ヶ谷「ではゴマだれを貰おう」
葉留佳「ふっふっふっ…本当のツウというのは二つ合わせて混ぜるスペシャルな裏技を使うんですヨ!」
クド「それって美味しいんですか!?」
西園「……美しくないです」
理樹「あはは…」
真人「漬ける物なんか要らねえから早く食おーぜ!」
謙吾「全員の分を考えて食べろよ」
真人「んな事分かってるんだよ!お前は俺の母ちゃんかよ!?」
恭介「こらこら喧嘩すんな、肉はまだまだあるから遠慮せず食べてくれ。それじゃあ…」
「「「いただきます!!」」」
真人「あー…食った食った……」
理樹「本当に見ててこっちが苦しくなる程だったね…」
真人「もう無理だ。今はたとえカツでも食べれん」
小毬「はーい、皆さん食後のワッフルはいかがですかー?」
真人「うっひょーっ!」
鈴「こいつ馬鹿だ!」
理樹(鈴が新種の生物を発見したかの様な目で叫ぶ)
真人「こ、今度こそ何も食えねぇ…」
謙吾「まったく信憑性が無いな」
葉留佳「やー。今日は楽しかったなぁ!」
恭介「途中で寮長が来た時は焦ったが来ヶ谷の機転でなんとかなったしな!」
理樹「本当に心臓が止まるかと思ったよ…」
来ヶ谷「うむ。もっとお姉さんに感謝するといい」
クド「それではこんな時間なのでもう帰りますね」
理樹(気付けばもう一時間は経っていた)
理樹「うん。それじゃあね」
西園「お邪魔しました」
葉留佳「また明日ー!」
クド「シーユーアゲインなのですーっ!」
恭介「……さて。残ったのはやはりこのメンバーか」
理樹(部屋が一気に広くなった気がする。今いるのは僕と真人と謙吾に恭介、それと…)
理樹「あれっ?鈴は一緒にいかなくてよかったの?」
鈴「んー?」
理樹(どうやら途中から猫と戯れていて気付かなかったらしい。マイペースが過ぎる)
恭介「久しぶりだな。この面子で集まるのも」
理樹「まあ入院とか色々あったしね…」
真人「まだ時間はあるが何をする?」
恭介「何かかっこよさげな歴史の出来事を挙げる選手権をするか」
理樹「なんだそれ!」
謙吾「まずは俺から行こう。例えばこういうのはどうだ?『大正デモクラシー』」
真人「おおぉ…確かにかっけぇ…」
恭介「今のはかっこいいポイント231点だな」
謙吾「それは基準に比べて低い点数なのかどっちだ!?」
理樹(そんな具合に今日も変わらず夜を楽しんだ…)
深夜
真人「ふぅ…じゃあ電気消すぜ」
理樹「うん」
理樹(今日も楽しい時間を過ごした。こんな時がずっと続けばいいのに…叶うはずもない願いを思いながら僕は眠りの世界に入った…)
…………
……
…
チュンチュン
理樹「んん……」
理樹「ふぁぁ…おはよう真人……」
シーン
理樹「………真人?」
お休み(∵)
乙じゃぼけー(∵)
短けーよあほか
今更だけど今日は書けそうにない…
理樹(どうしたんだろう、いつもなら窓辺で青春の汗をかいているはずなのに今日はえらく静かだ)
理樹「寝てるのかな…?」
理樹(だとすると真人は上のベッドにいるはずだ。まだ寝足りないけど風邪でも引いてたらと思い、腰を上げた)
理樹「おーい真……いない」
理樹(という事は外でダッシュでもしてるのだろうか、しかし何気無く辺りを見回すと昨日までと明らかに違う所を見つけた)
理樹「なんだろ、この机の飾り」
理樹(真人の机には僕が見たことない置き時計が置いてあった。よく見るとすぐ横の壁にもポスターが貼ってあり置いてある本も違う)
理樹「真人が新しく置いたというかこれじゃまるで…別の人間の机みたいじゃないか」
理樹(昨日はハンドグリップやマッスルエクササイザーなどが置かれた筋肉尽くしの机が今では音楽関係中心の物ばかりだ)
理樹(もしかして真人は音楽の趣味に目覚めたのだろうか。だとしても僕が寝ている隙にこれ全部変えたなんてちょっと不自然だ、しかしここまで筋肉の面影が見えないのも珍しいので真人には悪いけど机の引き出しも見せてもらった)
ガラッ
理樹「なん……だよこれ…」
理樹(いつもそうだ。自分の想定外の事柄が起きると、後で振り返るとささいな事だったとしてもその時は驚愕で鳥肌が立つ)
理樹「これは僕の写真だ…でも隣で写ってるのは誰だ…っ!?」
理樹(引き出しにあったのは恐らくこの部屋で撮ったのであろう僕が写ったツーショットだ。しかし隣にいる人物は多分知り合いでは無い…いや、顔に何か見覚えはあるけど名前を思い出せないほどの程度だ)
理樹「……っ!」
理樹(他の写真も探してみたが全てその生徒と一緒に写っていた、もちろん全部身に覚えが無い)
理樹「どういう事だ…これは真人の机じゃない…別の誰かのだ……でも横にあるのは僕の机」
理樹(僕が寝てる間に別の部屋に移動させられた訳では無さそうだ。そう考えているとふと窓の方が騒がしいことに気付いた)
理樹(カーテンを開けると信じられない景色が広がった)
理樹「雪だ…」
理樹(窓の近くで呼吸をすると息がしろくなる。ガラスも冷たい、本当に降っているんだ…外では雪ではしゃぐ生徒もちらほらいた)
理樹(しかし今度こそ説明がつかなくなった。昨日までは夏の終わりと言っても過言ではない程暑い日差しが続いていたというのに。これはもう……)
理樹「僕はまだ寝ているのか……。これは夢だ、僕は夢を見ているに決まってる!」
「な訳ないだろう、直枝君」
今日は、ってそういうことか
期待
理樹(振り返ると写真にいた生徒が立っていた。格好を見ると風呂に入っていたらしい)
理樹「……誰だ君は」
理樹(冷静に答え様としているけど動揺を抑えられている自信がない)
男「『誰か』だって?アッハッハ!直枝君ってそういうジョーク言う人だったかな?」
理樹「……」
男「うっ…そう怖い顔ないでよ…。なんで今更そんな事言うのか分からないしバカバカしいけど満足するなら名乗るよ、僕は君のルームメイトの相川だ」
理樹「相川……ああ!」
理樹(そうだ、以前会った事がある…いや、実際会った訳では無いけど僕はこの生徒を知っている。2-Aの相川君、あの世界で僕と鈴が与えられた試練の内の一つに彼の恋煩いを解消する物があったけど…)
理樹「まさか実在していただなんて…」
相川「ええぇ!?君にとって僕はどんな存在なんだっ!?」
理樹「所でその相川君がここへ何の様?そういえば撮った覚えの無い写真も机に…」
相川「あーあー、勝手に引き出しを開けたりしたらいけないじゃないか。でも何の様ってどういうこと?」
理樹「えっ?君は真人か僕に用事があって来たんじゃないの?」
理樹(いまいち話が噛み合わない。なにか面倒な事に巻き込まれた予感がした)
相川「……君は本当に何を言ってる?さっきも言ったろう、僕は直枝君のルームメイトだ。ここに戻るのは当然じゃないか」
理樹「ルーム…メイト?」
相川「そうだよ。……えっと大丈夫?顔色が悪い感じだけど」
理樹「いやいやいや…なんで僕が君のルームメイトなのさ…僕のルームメイトは真人だよ」
相川「へっ?真人……?」
理樹「知らないかな…ほら、いつも筋トレしてる様な男子でさ」
相川「うーん…ちょっと分からないかなぁ。それより何故今日は僕を頑なに認めようとしないの?…ちょっと怖いな」
理樹(確かに目の前の彼は不気味そうにこちらを見ている。正直怖いのはこちらだ)
理樹「僕をからかってる?」
相川「そう聞きたいのはこっちだよっ!」
理樹(どうなってるんだ…相川君は僕を以前からルームメイトだと主張しているけどそんなのありえない…)
相川「ああもう焦れったいな!よし、君が寝ぼけてるだけならそれでいいんだけどさ、こうなったら寮長さんに聞いて確かめるのが確実だ、それでお互いこの馬鹿げた話はこれっきりにしよう!」
理樹「僕も望む所だ」
理樹(真人が帰ってこないのが不安ではあるけどまずは相川君の言うとおり僕が正気だということを証明しに行こう)
コンコン
相川「朝早くすいませーん」
理樹(数秒してからドアが空いた、相手も運良く起きていたようだ)
寮長「ううん…どうしたんだい?」
相川「少しお手数ですがここの部屋の割り振り表みたいな物ってありませんか?」
寮長「あー……どこ行ったかな…」
バタン
理樹(再びドアが閉まる)
理樹(少しの間部屋中を漁っている音が聞こえた。相川君は僕に困った様な微笑みを向けた)
ガチャ
寮長「ごめんごめん、あったよ。はい」
相川「ありがとうございます!」
理樹(ともあれ、これでやっとスッキリ出来るはずだ。…というか何故相川君はこうも自信満々なんだろう…)
相川「えーっと僕らは2階だから……あった!ほら、見なよ」
理樹「ええっ!?」
理樹(本日何度目の衝撃だろう。本当に夢を見ているとしか思えない…ボードに挟まれた紙には【相川・直枝】とはっきり書かれていた)
相川「まったく…これだけの為に出向くのも疲れたな。僕はそろそろ部屋へ戻ってるよ」
理樹(僕はもはや彼の声は聞こえていなかった。すかさず真人の名前を探してみたがどこにも無かった、それどころか謙吾の名前まで……)
理樹「いったいどうなってる…今日は冬で真人や謙吾がいない……そっ、そうだ!恭介はっ!」
理樹(こんな時恭介ならきっと助けてくれるはずだ、しかしその考えもあえなく崩れた)
パラパラ
理樹「おかしいぞ…恭介の名前が無い…!」
寮長「誰の名前って?」
理樹「恭介…棗恭介の事です。この紙には載ってないようなんですが…」
寮長「棗…?はて、誰のことだ」
理樹「えっ…」
理樹(そんな…この学校で恭介を知らない人間がいる訳がない。仮にいたとしてもこの人は恭介と知り合いだったはずだ、以前恭介が寮長さんと話していた所を何度か見かけた事がある)
理樹「うう……気分が悪い…最悪だ。吐き気がする」
寮長「それは大変だ、すぐ保健室へ!」
理樹「いや大丈夫です。一人で行けますから心配なく…」
寮長「そ、そうか?」
理樹(これは明晰夢という奴なのか…?夢を夢だと自覚出来る夢。ただ少し他と違うのは自分でコントロール出来ないということだ)
保健室
理樹「~だからベッドを…はい、ありがとうございます」
ギシッ
理樹「……はぁ」
理樹(頭がパンクする…一度にこんな異常な事がいくつも起きておかしくなりそうだ。ここは一度寝てから改めて考えな…お……)
続く(∵)
ふむ
理樹「う……」
理樹(重い…体の上に数匹の猫が乗っかかってるみたいだ…)
笹瀬川「……むぅ」
理樹(目を開くと一面が笹瀬川さんの顔でいっぱいになった。前にもこんな事があった様な気がするけど何故こんな所で僕に馬乗りを…)
理樹「これは夢だな…」
笹瀬川「な訳ないでしょう、直枝理樹!」
理樹「いててて!」
理樹(笹瀬川さんは僕が起きたとなると顔を思い切りつねってきた、お陰で目がばっちり覚めた)
理樹「な…なんで笹瀬川さんが…?」
笹瀬川「まったく!『なんで』ですって!?むしろ何故この様な状況でまだそんな事を言っていられるのかしらっ」
理樹「この様なって事は…」
笹瀬川「まさか貴方もこの世界に違和感を抱いておりませんの!?きぃー!なら私はどうすれば…」
理樹「ま、まずは落ち着こうよ…そうだ!ここじゃまずいから僕の部屋で話そう」
笹瀬川「ええ…」
理樹部屋
理樹「単刀直入に聞くけど君も昨日とは違うおかしな点があると?」
笹瀬川「当たり前ですわっ。何故起きたら冬になってるのかしら!それに……神北さんが…」
理樹「まさか!」
笹瀬川「どこにも居ないんですの、それどころかあの棗鈴や宮沢様も!」
理樹「あ……く…」
理樹(恭介達がいなかった事でもしやと思ったけど鈴や小毬さんもいないだなんて…)
笹瀬川「まずは順を追って話しますわ。この世界の異変を…」
朝
ジリリリ
笹瀬川(今日も変わらない音の目覚まし時計で起きた。昨日は試合前という事もあっていつもより練習が忙しいかったので寝付くのは早かった)
笹瀬川「はわぁ…神北さんを…いえ、今日は休日ですし起こす必要は無さそうですわね……」
笹瀬川(目を擦って立ち上がってから私は異変に気付いた。部屋の構造がおかしいくなっていたのだ)
笹瀬川「なんですの…これは」
笹瀬川(端的に話すと部屋がまるで私の一人部屋の様な作りに…いや、一人暮らしそのままだった。隣にあるべきベッドが亡くなっていた、当然部屋には彼女の姿も無かった)
笹瀬川「…神北さん?」
笹瀬川(呼んでも当然返事は帰ってこない。私は怖くなって部屋を飛び出した)
ガチャ
あーちゃん先輩「はーい、どなたー?」
笹瀬川「すみません寮長さん!私の部屋が一人部屋になっているのですがっ!?」
あーちゃん先輩「一人部屋に?あー…もしかして貴方もルームメイトを探しているのかしら?それならちょうど…」
笹瀬川「違いますの!私は神北小毬とルームシェアをしていたというのに朝起きたら!それが!居なくなってますの!」
あーちゃん「おぉ…何があったか分からないけど取り敢えず深呼吸~」
部屋内
あーちゃん「話はよく分かったけどそんな子居たかなぁ…部屋が一晩の内に改装されたとも思い難いし……」
笹瀬川「なら名簿を見せて下さらないかしら」
あーちゃん「うん、そういうと思ってたよ。ほい」
笹瀬川(私はその紙には書いてある名前を全て見回したが神北の名は一つも見つからなかった。それどころか棗という苗字まで)
笹瀬川「そんな…私は夢でも見ているのかしら…」
笹瀬川(その後は私の知り合いで神北さんか棗鈴の事を知っている方をしらみつぶしに聞きに行ったがどれもハズレ、皆知らないと言った。世界から急に神北さんと棗鈴が居なくなったのだろうか)
笹瀬川(そして私は男子寮へ行くために外へ出てやっと気付いた)
笹瀬川「雪が…降ってますの…?」
笹瀬川(外が騒がしいと思っていたらこういう事だったのか。雪ではしゃいでいる生徒達を見て実感した、神北さん達が居ないのがおかしいんじゃない。私が…もしくはこの世界自身がおかしいのだと)
男子寮
寮長「なんだ今日は客が多いな……え?君もか?」
笹瀬川「他にも名簿を確認した方がいらっしゃって?」
寮長「うん、確か名前は直枝君だったね」
笹瀬川(私は名簿を見て棗恭介、井ノ原真人、宮沢様。とにかく知っている人の中でいない人物を確認してから直枝理樹の捜索を思い立った、最初はどこへいるのかと思ったがようやく見つけた)
…………
……
…
笹瀬川「~とまあこんな感じですわ」
理樹「なんか呑気に寝てた僕が馬鹿みたいだ…」
笹瀬川「実際そうでなくて!?」
理樹(でもこんな状況でも僕と同じく変化に気付いている人間がいるのは本当に心強い。このままだと気が狂っていてもおかしくなかった)
理樹「じゃあ次は僕の体験を話すよ…」
笹瀬川「知らない人間と同じ部屋…なんだか不気味ですわね……」
理樹「まあ、ちょっと話した事もあるからまだ良かった方だけどね」
笹瀬川「しかしこれはいったいどういう事なんですの…」
理樹「僕にだって分からないよ…それより鈴も居ないっていったよね?まずはその居なくなった人達を確認していこうよ、まずは行動さ!」
笹瀬川「そ、そうですわね…」
理樹(僕らは今度は職員室へ行き男女の全ての名前を見せてもらった。すると恐るべき事実が分かった)
理樹「消えているのは…リトルバスターズの皆だけだ……っ!!」
理樹(僕らの知り合いじゃない人も消えている可能性もあるけどこんな偶然がある訳がない)
笹瀬川「……正直狐に化かされている気分ですわ…」
理樹「僕もさ…」
理樹(来ヶ谷さん、葉留佳さん、クド、西園さん、小毬さん、鈴、謙吾、真人…それに恭介が忽然(こつぜん)と消えていた)
笹瀬川「と、とにかく私達の他にまだ変化に気付いている人達もいるかもしれませんわ!」
理樹「生徒全員に聞いていこうって?」
笹瀬川「いいえ、もとより貴方達を知らない人はこの変化に気付いていても…今はそのリトルバスターズの皆さんを知っている人達を優先して探しましょう」
理樹「僕らの存在を知っている人物で近しい人間といえば……」
理樹(あの時の世界でしか会った事がないマッド鈴木やバイオ田中は除くとしたら後は……)
理樹「……」
10分前
笹瀬川『ああ彼女ですの…私少し苦手な方でして…貴方が1人で行って下さらない?』
女子寮
理樹「だからって男子1人で女子寮に行かせるってどうなのさ…というか道行く皆が僕の事をまったく気にしてないけどいいの!?」
理樹(なんて独り言をつぶやいていると先輩と会った)
あーちゃん先輩「あっ、直枝君だね」
理樹「こ、こんにちは…」
あーちゃん「直接会うのは久しぶりかなぁー?」
理樹「もっとここへ男子が来ている事に危機感を持って下さい…」
あーちゃん「いやぁ~だって直枝君は誰が見ても男装した女子…じゃなくて無害そうな子だからさぁー!それはそうとどんな用なの?」
理樹「実は~」
あーちゃん「ああ成る程ね!いたずらしに行こうと…」
理樹「そ、そういう訳じゃ…」
あーちゃん「まーとにかくあの子休日は寝てるから鍵が無いと入れないと思うけどね…あっ、ちょっち待ってて!マスターキー取ってくるからっ!」
理樹(これから1人の女性の部屋に無断で入る事を注意する所かそれを助長してどうするんだ…)
あーちゃん「はいどうぞ!後で寝顔の写メ送ってねん」
理樹「なんで盗撮すること前提なんですかっ!」
理樹(ともあれやっと確認する事が出来る…)
ガチャ
理樹(なんだかとても悪いことをしている様な…いや正真正銘悪いことだった)
理樹「……」
理樹(やはり2つあるはずのベッドが無くなっている…僕はもう一つの方のベッドに近付き、出来るだけ優しく起こした)
理樹「おーい…二木さーん……」
理樹(ゆさゆさ)
二木「ううん…」
理樹「起きてよ…凄く大変なんだってば……」
理樹(とんとん)
二木「…何よ…ん…」
理樹「寝ぼけてないで起きてってば…」
理樹(がくがく)
佳奈多「か、肩を揺らさないでっ」
理樹「やっと起きた…」
佳奈多「もう何よクドリャ……」
理樹(しばしの膠着状態)
佳奈多「ふか……」
理樹「……」
佳奈多「はっ、ちょっ、はぁぁ!?」
理樹(二木さんの目には少し涙が浮かんでいた。何故かちょっと可愛いと思ってしまった)
とぅーびーうんたらかんたら
くどりゃ
沙耶はいるのか
沙耶は居ないよ…タイムマシン乗って行っちゃったんだよ……
理樹「お、おはよう」
佳奈多「殴るわよ…」
理樹「待って待って!これには訳があるんだっ!」
佳奈多「はあ?」
理樹「周りを見渡してよ、何かおかしな点は無い?」
佳奈多「……」
理樹(僕の方を警戒しつつも二木さんは辺りを見回した)
佳奈多「く、クドリャフカのベッドが…」
理樹「そうなんだ。何故こんな事になってるかという…」
パンッ
理樹「ぐぇっ…」
理樹(言葉が終わる前に全力のビンタが炸裂した。頭の上に星は回らないが視界が一瞬黒くなった)
佳奈多「ごめんなさい、まずはこうしないと気が収まらないの」
理樹「あ、あはは…」
佳奈多「それでこれはいったいどういう事?もしかして寝ている間に他の部屋に移動させられたのかしら?」
理樹「実は僕にも信じられないんだけど…」
理樹(とにかく今分かっている事を二木さんに話した)
佳奈多「…信じられる訳がないでしょ」
理樹「じゃあ外を見てみてよ」
佳奈多「……」
理樹(二木さんはカーテンを開けた。あの時の顔は今でも忘れられない)
佳奈多「……っ!!」
理樹「二木さん、実は全校生徒までは確認出来てないけどこの異常な状況に気が付いているのは僕と笹瀬川さんと君だけなんだ」
佳奈多「貴方の言う事は本当だったの……なら葉留佳が…」
理樹「とにかく一度僕の部屋に来てほしい、そこに笹瀬川さんも居るから」
佳奈多「え、ええ…」
理樹(明らかに余裕が無くなっている、今は何を言っても反抗の態度を見せないだろう)
理樹部屋
理樹「さて…とりあえず2人とも紹介を」
理樹(まずは笹瀬川さんから口を開いた)
笹瀬川「二木さんね」
佳奈多「そういうあなたは笹瀬川・さささー」
笹瀬川「あなたまで名前を間違えないで下さる!?私の名前はさ・さ・せ・が・わ・さ・み!ですわっ」
理樹(笹瀬川さんの気合いは充分だ)
笹瀬川「ふぅ…とにかく今は漫才をやっている場合ではございません、この現状に対する打開策を考える事が先決ですわ」
理樹「そうだね、ちなみに2人ともどうしてみんながいなくなったと思う?」
佳奈多「……見当も付かないわ」
笹瀬川「私は以前似た…」
理樹(今笹瀬川さんはクロの話の例を出そうとしているのだろう、そこは止めておきたかった)
理樹「さ、笹瀬川さん!その話は二木さんが混乱するからパス!」
笹瀬川「いいえ、情報は多いに越した事はありませんことよ?ここは一人でも理解者が必要ですし話しておくべきですわ…」
理樹「えぇ…」
佳奈多「なによ私が知らないことがあってそれを黙っておく気?そこまで話したならぜひ聞かせてほしいわね」
理樹(こうなったらもう話すしかないだろう。物腰はあくまで冷静だけど目は秘密を暴くスパイの様に燃えていた。折れた僕らは笹瀬川さんと猫の間に起きた出来事を出来るだけ信じてもらえる様に説明した)
佳奈多「…またまた、にわかに信じられない話ね」
理樹(と口では言いつつも既に信じる態勢を取っていた)
理樹「でも突拍子がないという点では一緒でしょ?」
佳奈多「まあ確かにそうね…それに今は冗談を言ってる場合では無いもの」
笹瀬川「今回のそれもあの体験と何か関係があるのかしら…」
理樹「どうだろう、僕らがバスの事故の時に起きた体験も笹瀬川さんとの体験も共通点は『自分ではない何かのための願いを叶え様とした』ために作られたという事だ」
佳奈多「ちょっと待って、バスの事故の時って何よっ」
理樹「あー…」
理樹(先に話してなかった僕が悪いんだけど話がなかなか進まない)
15分後
佳奈多「……もう何でも来いだわ」
理樹「だろうね……話は理解出来てる?」
佳奈多「まあ、一応はね」
理樹「それで僕がさっきも言った様に推測ではまた誰かが願いを叶えたいが為に起きた世界だと思うんだ」
笹瀬川「ですが誰の…」
佳奈多「少なくともあのヘンテコ野球集団では無いでしょうね、だって居ないもの」
理樹「ヘンテコで悪かったね…」
理樹(しかしまったく手がかりが無いのも事実だ)
更に30分後
理樹(みんなであーでもないこーでもないと唸っていると笹瀬川さんが急に立ち上がってこう言った)
笹瀬川「こういう時は犯人側の視点に立ってみてはいかがかしら?」
理樹「犯人って…」
笹瀬川「逆に考えますの『何故犯人は神北さん達を世界からいないことにしたのか』そう考えますのよ!」
理樹「なるほど!」
佳奈多「彼らがいなくなって良いこと……」
………
…
真人『突然だが廊下で光速反復横飛びしたらどうなるんだろうな……ふっふっ!』
佳奈多『きゃあ!?何やってるの貴方達!』
理樹『めちゃめちゃ迷惑になってるよ!というかもうくちゃくちゃだっ』
真人『よっし!今日は校内を使って筋肉番付ごっこしようぜ理樹っ!……はっ!』
理樹『す、凄いぞ…階段の手すりだけを掴んで足を地面に着けず階段を降りてる!』
佳奈多『なーにまた気持ち悪い事やってるの貴方達は!』
理樹『ぼ、僕も!?』
…
……
佳奈多「あり過ぎて困るわ…」
理樹「ふ、風紀的にはそうかもね…っていうかそれ真人オンリーじゃないかっ」
理樹(その後も討論し合ったが遂にこれといった説は考えられず解散となった)
夜
相川「ただいまー」
理樹「わっ」
相川「なっ、なに?」
理樹「い…いやぁ、何でも…あはは……」
理樹(相川君がルームメイトだということをすっかり忘れていた)
相川「やはり今日の君は様子がおかしいな…聞いたよ、さっきまで女の子達がこの部屋にいたんだって?」
理樹「うんまあ…」
相川「さてはそれが関係してあったりするのかな…所でその招いた人達って誰のこと?」
理樹「二木さんと笹瀬川さん」
相川「さっ、笹瀬川さん!?本当にこの部屋に来たの!?なんで!」
理樹(相川君の笹瀬川さんに対する気持ちは元の世界でも同じだったのか…いや、今は誰かの世界かもしれないんだけど。とりあえず相川君には適当な返事をしておいた)
理樹「じゃあ電気消すね?」
理樹(今日はもう寝よう、明日本格的に学校を散策するつもりだ。もしクロの時みたいに世界におかしな所があればそれがヒントになるからだ、僕は明日になれば全てが元通りになってる様に祈ってから深い眠りに入る。こうして夜は更けていく…)
もう手遅れだけど寝る
おつー
起きたら2日後!
次の日
理樹「やあ二木さん」
佳奈多「遅かったわね、笹瀬川さんは?」
理樹「やっぱり練習だって…」
佳奈多「こんな事態でも変わらぬ日々を過ごすのね。それって『たとえ明日世界が滅亡しようとも、私は今日リンゴの木を植える』という言葉に通ずる深さがあるのかしら?」
理樹「誰の言葉?」
佳奈多「さぁ?忘れちゃったわ」
理樹「でも昨日寝てた二木さんも同じ事を言え…」
佳奈多「私は起きるまで知らなかったのよ!それに知ってて寝てた人はどこの誰よっ」
理樹「痛たたた」
「おい見ろよ委員長の奴…」
「ああ、ありゃ彼氏なんじゃねーか?こいつはスクープになりそうだな」
佳奈多「……っ!とにかく次、さっさと行くわよ」
理樹「あはは…そうだね」
理樹(僕らは学校を散策していた。以前笹瀬川さんの時にクロが寝ていたあの場所へはどうやってもたどり着けなかった様に何かおかしい所を探っている所だ。そうすればこの世界が夢の中だという事も確信出来る)
昼
理樹「……無いね」
佳奈多「らしいわね」
理樹(学校のどこを探してもそういった場所はどこにもなかった、こうなるともう…)
佳奈多「もしかして諦めようと思ってる?」
理樹「いやいやいや!そんな事はないに決まってるじゃないかっ。ただこれだけ探しても見つからないなんて…」
佳奈多「学校だけ探すのはおかしくないかしら?もしかしたら学校の外にその理不尽な場所があるかもしれない」
理樹「ええーっ!そんなに範囲を広げたら…」
佳奈多「出来る限りのことはやるつもりよ。でもそうね…流石に隣町にまでクドリャフカ達が関係する様な所はなさそうだからこの町周辺をあらかた散策するだけで手を打ってあげる」
理樹(それでもなかなか骨が折れそうだ、しかし断る理由も無いので昼ご飯を食べてから校門に集合となった)
30分後
理樹「おーい!待ったー?」
佳奈多「ち、ちょっと…!」
ザワザワ
理樹「えっ?」
佳奈多「そんな大声出さないでくれるかしら?貴方とは付き合っても無いんだから他の誰かに見られるのは抵抗があるの」
理樹「そんなに嫌かな…ごめん……」
佳奈多「ええ嫌よ。だからさっさと行きましょう」
理樹「うん……」
理樹(なんだか久々に二木さんのキツイ態度を見れた気がする。つい最近だけど葉留佳さんが怒られていた時のことを思い出して懐かしい気持ちがした)
夕方
理樹「はぁ…まだ回る所ってあったっけ…」
佳奈多「なに?もう疲れたの?」
理樹「二木さんはよく疲れないね…」
佳奈多「そりゃルームメイトが消えたとなったら一日でも早く取り戻したいと思うわよっ」
理樹「僕も一応真人と一緒だったけど少し根を詰め過ぎだよ。少し休まないと」
佳奈多「うぅ…でも…」
理樹「僕だって真人達とは10年来の関係なんだ。家族と言っても差し支えがない、でも…だからこそ恭介がこう言ってる気がするんだ『あせらずゆっくり進め、理樹』ってね」
佳奈多「それって貴方がサボりたい理由でしょ?」
理樹「そ、そんなことないよ…」
佳奈多「はあ……分かったわ、少しそこのバーガー店で一休みしましょう」
理樹「うんっ」
理樹(その後も町を地図を作る勢いで回ったがとうとう見つからなかった)
佳奈多「結局手がかり無し…か」
理樹「それにもう夜だから今日の所は帰ろうよ」
佳奈多「そうね、問題はもう少し別の所にあるのかもしれないわ」
朝
理樹「ふぁぁ……おはよう…」
相川「うん、おはよう!」
理樹「えっと…あぁ、そうだ…」
相川「なんだよその『うわ誰だよこいつ…もしかして不法侵入者!?…いや違った、僕のルームメイトだったわ、あまりにも影がなさ過ぎて今思い出した』って感じのセリフは!」
理樹「考え過ぎだよっ!」
理樹(今日から学校だ…正直行く気がしないけどこれが学生の性という奴かもしれない)
理樹「………」
理樹(薄々気付いていたが持っているノートには全く覚えの無い授業のメモが書かれていた、つまり僕が起きる前にもちゃんと僕がいてノートを記していたのだ。当たり前のことだけど)
キンコンカンコーン
理樹「昼ご飯か…」
バンッ
笹瀬川「直枝理樹!」
理樹「わっ!?」
笹瀬川「ちょっと弁当を持っていらっしゃい」
理樹(笹瀬川さんが僕の耳を掴んできた)
理樹「どこへ行くのさ!」
屋上
理樹「耳は本当に痛いんだからやめてよ…」
笹瀬川「昨日、練習へ行ってみて分かったことがありますわ」
理樹(お弁当をつつきながら僕を無視して話し始めた)
笹瀬川「私は最初は少し行くのが怖かったけど実際に彼女らと会うとそんな気持ちは吹き飛びましたわ。だけど、その後輩達に先週の私は何をやっていたかと聞くとやはり私がやりそうな言動をしていた様ですの」
笹瀬川「そこで私は考えましたわ、この世界がもし誰かの作ったものでないならいわゆる並行世界ではないかと!」
理樹「並行世界か…というか笹瀬川さん、ただ練習したかった訳じゃなかったんだね」
笹瀬川「あったりまえでしょうが!」
理樹「でも並行世界ならなんで僕らがいる今は冬なんだろうね」
笹瀬川「それは…!世界を飛び越えたなら時間ぐらいズレたり……言ってて自信が無くなりましたの…」
理樹(もちろんタイムトラベルしたという訳でもないだろう。一通りのSF小説を思い浮かべてみたがこんな事態は初めてだ)
笹瀬川「でしたらやはり誰かの世界なのでしょうか…これは」
理樹「でもそれなら僕らに何かアプローチしてくるはずだよ。ここまで何もないとお手上げ状態だ」
理樹(そうだ、時間はたっぷりある。皆とは早く会いたいが僕らはこの謎をゆっくり解ける猶予がある)
夕方
自動販売機前
理樹(皆がいないと野球が出来ない。僕は彼らがいないとここまで暇人だったのか…)
理樹「恭介がいてくれれば何か遊びを提案してくれたんだけどなぁ…」
佳奈多「こんな時でも貴方は暇つぶしの事しか考えてないのかしら?」
理樹「やあ二木さん、今は見回り?」
佳奈多「ええそうよ。でもヴェルカやストレルカがいないのは少し寂しいわね…」
理樹「早く解決するといいんだけどねぇ」
佳奈多「それにしてはやけにおっとりしてるわ」
理樹「いや…はは、まったくヒントが無かったらなんかもうお手上げだ…」
佳奈多「もっと危機感を持ちなさいよ!例えば本当に貴方達の存在を知ってる人全員に聞いたのかとかっ」
理樹「ちゃんとくまなく先生や生徒に……ああ!」
佳奈多「ど、どうしたの?」
理樹「1人いた…僕らを知っている先生でも生徒でもない人物……っ!」
理樹(今からだとまだ学校に残っているだろうか。僕は二木さんを置いて職員室へ向かった)
職員室
理樹「あのっすいません!」
先生「なんだ直枝か…それと二木も」
佳奈多「はぁ…はぁ…少しは待ちなさいよまったく……!」
理樹「ごめん…」
先生「で、なんの用だ」
理樹「この学校に用務員さんがいましたよね!あの人の名前って何ですか?出来れば今いるなら会いたいんですけど…「
先生「おいおい、用務員って言ってもこの学校には何人も働いているぞ。特徴を言ってもらわないと」
理樹「そ、そうだった…」
佳奈多「ちょっと待ってよ、その用務員さんも知っていたの?」
理樹「うん、たまに様子を見にくるからね。それにリトルバスターズの皆以外で一番最後に会ったのはあの人なんだ!」
理樹「すいません先生。あの人は60代くらいの年配の方で…」
先生「ああ、あのお爺さんね」
理樹「はい!今は…」
先生「いやぁ!タイミングが悪いな、あの爺さんは一週間前に退職したばかりなんだ」
理樹「ええっ!?」
理樹「退職って……」
先生「でも君らにも一応知らせた様な気がするんだけどなぁ…」
理樹「で、でもその人の住所とかは!」
先生「それが奇妙なことに一切表記されていないんだ、本人も隠しておきたかったんだろうね」
理樹「……そ…んな……」
バタン
先生「おっ、おい!」
佳奈多「直枝!?」
理樹(一瞬見えたかと思った希望を黒く塗りつぶされた気分だった。それと関係があるのか…はたまた例のアレが復活したのか分からないが僕は急激な眠気に襲われ、その場で倒れてしまった)
理樹「ここは……僕の部屋…かな?」
理樹(でも今どこで寝ているんだろう、ベッドにしては柔らかいしそれにいい匂いも……)
佳奈多「起きた?」
理樹(目を開けると二木さんに膝枕されている事に気付いた)
理樹「………夢かな?」
佳奈多「な訳ないでしょう、直枝」
続く
明日で終わらせる予定
理樹「どうして二木さんが…」
佳奈多「貴方は急に倒れたのよ。そこで私がここまで先生方と連れてきたって訳」
理樹(そうだ、僕はあの時…)
佳奈多「一度運んだあと貴方のいう用務員さんの行方を探してみたけどダメだったわ。綺麗に何もかもがなくなってる」
理樹「そっか…」
佳奈多「ごめんなさい」
理樹(珍しく二木さんが僕に謝った)
理樹「いやいや、二木さんが謝ることないよ…」
佳奈多「でもこれからどうする気?」
理樹「そうだね。待ってみようかな、皆が戻るための何かを」
佳奈多「何か?」
理樹「こうなってはもう待つヒントが来るまでひたすらしかないと思うんだ」
佳奈多「そう、直枝がそういうなら私もここでずっと待つわ」
理樹「うんっ」
屋上
理樹(笹瀬川さんにも晩の事を伝えた)
笹瀬川「そうですの…まあ私の時と違って神北さん達がいなくなったこと以外変化はありませんものね」
理樹(僕らはただひたすら待った、いつも欠かさず学校や町も隅々まで調べていた。しかし時は残酷に過ぎていきとうとう…)
ガヤガヤ
理樹「……」
笹瀬川「直枝理樹!」
理樹「わっ」
笹瀬川「こんな日までショボくれた顔してどうしますのっ」
理樹「でも…」
理樹(今日は学校の卒業式、もうここの生徒ではいられない)
笹瀬川「貴方の思っていることは分かっていますわ。私も同じ気持ちですもの…」
理樹「…皆で一緒にここに立ちたかった…」
笹瀬川「でも彼らともう二度と会えない訳ではございませんわ。私達が生きている限りいつまでも帰りを待つので」
理樹「そう…だね」
佳奈多「それに貴方の進路はそのためなんでしょう?」
理樹「二木さん」
理樹(そうだ。僕はリトルバスターズの皆がいつ帰ってきてもいいように…)
理樹「その通り、僕はここの教師になる」
笹瀬川「貴方達らしい考え方ですわね」
理樹「達?」
佳奈多「あら直枝には言ってなかったわね、私もここの職員になるつもりだから」
理樹「ええっっーーー!?」
佳奈多「私がなったらおかしいかしら?」
理樹「ずっと隠していたのはそのためだったのかっ」
二木「聞かれなかっただけよ」
笹瀬川「まぁ、私はスカウトが来ているので2人には悪いですが…」
理樹「大丈夫、誰も責めたりしないよ」
佳奈多「ええ」
理樹(笹瀬川さんの進路については言わずもがなだ)
笹瀬川「ではここでお別れですわ。私も隙間をぬってここへ来るつもりですが」
理樹「うん。それじゃあね」
佳奈多「また会いましょう」
理樹(僕はそれから数年したら、再びこの地へ帰ってくるのだ。彼らに一番近い場所からいつまでも待つんだ)
数年後
理樹「……はい。それじゃあ次は先生に何か質問はないかな?」
生徒「はーい!先生の好みはどんなのですか?」
理樹「しょっぱなから!?そ、そうだなぁ…優しい人とか?髪型は…ポニーテールがいいかな」
ドッ
理樹「なんで笑うのさっ!」
ガラッ
理樹「はぁ…先生って疲れるんだなぁ…」
佳奈多「遅いわよ。お陰で廊下で立ちんぼだったじゃないの」
理樹「あはは…ごめん内容も丸聞こえだったかな。……ってどうしたのその髪型」
佳奈多「わ、私もたまにはイメチェンしようと思っただけよ…悪い?」
理樹「そんなこと言ってないよ…」
佳奈多「じゃあね先生」
理樹「また昼休みに、先生」
理樹(僕は待っている間いつも思う。僕は何かまだやっていないこと、見過ごしたサインがあったんじゃないかと。しかし二木さんや笹瀬川さんに相談してもなだめられるだけだ)
10年後
「おはようございます直枝先生!今日は早いですね!」
理樹「おはようっ」
佳奈多「ねえ直枝、次の体育祭なんだけど…」
理樹「どれどれ…」
「あの2人あれで付き合ってないのかよ…!?」
「シッ!聞こえるだろっ」
「なんでかと理由を聞いても具体的には言ってくれないんだよ、なんでも『あの子がいない間は幸せになりたくない』だと」
「ほーん…俺はお似合いだと思うんだけどなぁ…そろそろお互い結婚する年だろうしさ」
佳奈多「~~~!!」
理樹「どうしたの二木さん?」
佳奈多「……貴方…今の聞こえてなかったの!?」
理樹「あ、ごめん…こっちに集中してたから聞こえなかったよ。それでどんな話題だったの?」
佳奈多「絶対に死んでも言わないから」
理樹「ええっ!?」
更に40年後
理樹(普通、ただの友人のためにここまでする人はいないだろう。しかし僕らにはそれほどまで大切な人達だということだ。笹瀬川さんも二木さんもその想いは同じな様だ、この学校へはもう教師として留まる事が出来ない…校長にすらなった時もあった。だけどある日良い手を思いついたのだ)
佳奈多「で、用務員になった訳ね」
理樹「うん。まさか自分でも僕がなる側に移るとは思わなかったよ」
佳奈多「しかし私達もこれまでよくわがままを通し続けて来れた物よねぇ。このまま学校と心中する勢いだわ」
理樹「まったくだよ。二木さんに関しては同棲までしてるのに僕のアプローチをまったく受けてくれないんだから」
佳奈多「30回ぐらい断られてから無駄だと気づきなさいよ。そりゃ貴方の働いたお金で生活してるし子供の事もややこしい事態になったけど私はこれでいいと思っているわ」
理樹「幸せにはなれない…ね」
佳奈多「もし貴方と結婚したらそれは葉留佳達が戻ってくることを諦めたという事よ」
理樹「……立ち話も疲れたしそこのベンチで休もう」
二木「強引に話を終わらせないのっ」
理樹「…どっこらせ」
佳奈多「まるでお爺さんね」
理樹「もうまるで、じゃないよ。そしてそういう君は…痛い痛い痛い」
佳奈多「ここからはベンチがよく見えるわね」
理樹「うん…僕らもあそこでやってたんだ」
「練習開始だ!」
理樹「見てよ二木さん。ほら、ちょうど生徒達が……」
「いやっほーう!今日からまたノリノリで行くぜ!」
「ハメを外しすぎんようにな」
理樹「……っ!!」
理樹(肌が凍った。こんな事があるのだろうか、しかし僕の考えは間違っていないだろう)
佳奈多「……?」
理樹「そうだ……そうだよ。あの日もこの日と同じくらいの暑さだった…」
佳奈多「何を言ってるの……?」
理樹「はは…やっと来た。50年待ち続けた甲斐があったんだ!二木さん、彼らだよ、彼らがリトルバスターズだ!」
理樹(僕はグラウンドで体操服に着替えて野球をやっている少年少女達を指差す)
佳奈多「はぁ?どういう事よ、なんであの子達がリトルバスターズなの?」
理樹「僕もあの日、退院して初めて野球を初めて…そうだ。これは並行世界でもタイムトラベルでもなかったんだ…僕の思惑が正しければ球がこちらへ飛んでくるよ」
佳奈多「球?」
カキーン
理樹(男の子が飛ばしたファール球は僕らの方へゆっくり、ゆっくりとこちらへ向かってきた。そして飼い犬が主人の元へ戻る様に僕の足元へそれが転がってきた)
佳奈多「ほ、本当に戻って……!」
理樹「ふふっ…」
理樹(僕は久々に握った野球玉をじっくり眺めていた…そして気付いたら泣いていたのだ)
理樹「……これはおそらくずっと繰り返されてきた事なんだ…あのお爺さんもきっと昔、僕だった人間だ。多分この学校が建てられる前にこの辺りで友人たちを失ったんだろう」
佳奈多「どういう事?」
理樹「おっと!そろそろ球を拾いにあの子が来るはずだっ」
理樹(僕は急いで涙を拭いてボールを背中に隠した。もしかしたら目が少し腫れてるかもしれない)
ザッザッ
理樹「来た…」
「確かこの辺りに…」
理樹「やあ君。さっきの球を探しているんだね?」
理樹(僕の方を向くとそれは少し見覚えがある少年だった。なるほど、彼がここの集団に属していたのか)
「そうですが…」
理樹「隣の人を~~~」
ザッザッ
理樹「行ったか…」
佳奈多「もうっ、何よ妻って!ああ言われたら黙って挨拶するしか無いじゃない!」
理樹「まあまあ…」
佳奈多「所でさっきは何故泣いていたの?」
理樹「ああそれはね…」
理樹(僕は二木さんにありえないFSファンタジーの様だけど僕の身に起こった事と、そこからつながる話も簡単に説明した)
またミスった…
「確かこの辺りに…」
理樹「やあ君。さっきの球を探しているんだね?」
理樹(僕の方を向くとそれは少し見覚えがある少年だった。なるほど、彼がここの集団に属していたのか)
「そうですが…」
理樹「隣の人を~~~」
ザッザッ
理樹「行ったか…」
佳奈多「もうっ、何よ妻って!ああ言われたら黙って挨拶するしか無いじゃない!」
理樹「まあまあ…」
佳奈多「所でさっきは何故泣いていたの?」
理樹「ああそれはね…」
理樹(僕は二木さんに昔、僕が同じ様に野球をしたことと、そこから今の事まで簡単に説明した)
佳奈多「……つまりこれは繰り返し何度も行われてきたことだって言うの?貴方が探していたお爺さんも実は貴方と同じく昔のお友達をずっと待つためにいたと?」
理樹「まあね。まったく予想外だったよ、これは並行世界でもタイムトラベルでもない。壮大なループだったんだ、何年もかけてまた最初に戻る輪廻が続いているんだよ」
佳奈多「つまり…彼もまた友達が居なくなるって?」
理樹「そうさ」
佳奈多「こ、これがループっていうなら貴方はこれからどうするのよ!」
理樹「分からない…ただ僕は冬になったら僕が関連している跡を全て綺麗に消してどこか遠くへ行くということだろうね。そういうものなんだろう」
理樹(ここまで待ったことは決して無駄じゃない。そうに決まってる、少なくとも僕はここにいる事で答えを見つけたじゃないか)
佳奈多「そんな…」
理樹「僕の探していた答えは見つかった。ただそれが残酷な物じゃないという訳ではなかっただけだよ二木さん」
理樹(これで良かったんだよね?もう充分頑張ったよね恭介)
終わり
乙
つまり最後にやって来た少年は理樹と同じことを繰り返してしまうのか…
おまけ
数ヶ月後
用務員室
「これも消してっと…」
「ねえ直枝」
「何かな」
「少し休まないかしら。貴方はこれまでよく頑張ってきたわ」
「休む…」
「私達は今までずっと信じて待っていたけどもうその必要もないと思うの…久々にどこかへ出かけましょうよ」
「……ああ、そうだね…」
(僕らは気分転換に遊びに行ったこともあった、しかし恭介達が帰ってくることを待ち望んでいるためかどうしても純粋に楽しめなかった。でも今なら存分に遊べるだろう、皮肉な事に彼らが戻ってこないと分かってしまったお陰で)
「じゃあ笹瀬川さんも呼ぼうか、今ちょうどこちらに来てる様だし」
「ええ、そうね」
「じゃあ僕は着替えてくるよ、一時間後に」
「彼女には私から伝えておくわ」
「助かるよ」
キュッキュッ
「……さて、そろそろ行こうか」
「待ちなさい、髪が跳ねてるわ」
「えっ、嘘っ」
「私がとかしてあげるからじっとしてなさい」
「……ありがとう」
(何年経っても僕は相変わらず鈍感だ。いや自覚してるだけまだマシかな?)
「…よし」
「それじゃ鍵は持って……」
(急激な眠気が襲った。この症状は間違いなく大昔のそれと同じ、回避出来ないものだった。僕をこの世界からしばらく切り離す眠り病『ナルコレプシー』)
「……直枝?ど、どうしたの直…」
(二木さんの声が遠ざかる。それは僕の意識が遠ざかってしまったせいか、彼女の方が急に倒れたからかは分からない…)
…………
……
…
「う……」
「ふっ…ふっ…筋肉、筋肉!」
(意識を取り戻したあと非常に懐かしい声が聞こえた)
「ここは…寮の部屋?……って…」
(見渡すといつかの机代わりに置かれた段ボールが目についた。次にトレーニング用具。次に僕の、僕の仲間が)
「夢でも見ているのかな……」
「な訳ないだろ理樹?寝ぼけてんのかよ」
(そうか…こういうことだったのか……あのお爺さんも探しても見つからない訳だ。僕と彼は再び待っていた場所へ帰ってきたんだ)
ガチャ
「まあ昨日はどんちゃん騒ぎだったんだ、しばらくそのまま大人しくさせておけ」
「理樹はお前と違って繊細だからな」
「なんだよそれっ!俺が図太いとでも言いたげだなぁ!」
「恭介、謙吾!」
「様子を見にきてやったぞ」
「理樹君大丈夫~?朝からずっと寝込んでたって聞いたけど…」
「やはー!突撃お見舞いだぁー!」
「わふー元気そうで良かったです」
「どれ、キムチをやろう、元気が出るぞ」
「…確かに辛めの物を食べると食欲も沸きますが寝起きにそれはどうかと」
「皆…っ!」
「おっと…なんか走ってくるな?」
「あっ、お姉ちゃんとあれは…」
「さささささささみだな」
(という事は彼女らも僕と同じ状況という事だろう。どうやらこれからまた賑やかな生活が出来るらしい)
終わり
乙
壮大なループとはな…
面白かったよ!
乙!
教師になった理樹と佳奈多が絶妙な距離感でイチャイチャしてるのがよかった!
おまけもよかった、乙
乙
次回があるなら理樹以外の男子メインの話がみたいな
>>82
オーケー
ふっ、俺がこれを書かないのはそうせざるを得ない状況か他のssを書いてるぐらいなもんだぜ!
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