冬馬・響「「キ、キスシーン!?」」(8)

スレタイが許せぬ人はそっ閉じを







「仕事よ!」

勢い良く開け放たれた事務所のドアから、スーツのよく似合った妙齢の女性がそう言い放った。
事務所で思い思いに待機していた冬馬達は徐にその発信主、三条馬静へと頭を向ける。

「へえ。誰のですか?」
「残念ながら冬馬くんだけね。連ドラの、それも主役よ」
「うわーすごいね冬馬くん!大抜擢じゃん!」
「なんでも先のライブとトークショーで監督が見初めてくれたとかなんとか」
「マジかよ……!」

すなわち単純に考えれば実力を評価されたということだ。
冬馬は嬉しさに握った拳を震わせていた。

死ね

死ね

やっぱ死ななくていいよ

「それじゃ僕たちは目につかなかったみたいじゃない。ぶー」
「もちろん二人も推薦したんだけど、この御時世ごり押しごり押しうっさいからねー。
学園ものって都合もあって冬馬くんのみに落ち着いたの」
「学園ものなのか」
「ええ。ありがちというかベタというか、まあそういう類のボーイミーツガールよ」
「ふむ。ヒロインはどんなエンジェルちゃんなんです?」

北斗の問いに対して、静は首をやや傾けながらバッグの中にあるらしい資料を取り出した。

「えーっとね……えっ」
「何か?」
「……765プロの、我那覇響ちゃんね」
「……あん?」

それが耳に届くや否や、冬馬はなんとも形容しがたいような、微妙な表情になった。

「我那覇って、あのちびっこい黒髪のポニテだよな」
「そうね。随分詳しいわね」
「そりゃもう、僕らにあれだけ食らいつけるユニットって彼女らぐらいだしね」
「可憐にして溌剌、まさに向日葵のよう」
「相変わらずね北斗くんは……」

各々の評価を耳にしてなお冬馬の表情は神妙だった。

「……で、おっさんは知ってるのか?この件」
「当然話は通してあるけど、『そうか』としか言わなかったわね。確かに妙ね」
「いつもの黒ちゃんならサーチアンドデストロイとか言いそうなもんだけれど」
「どんだけ物騒なのようちの社長……あながち間違ってもいない気はするけども」

死ねよ上から目線の糞木星も>>1

「けどいやに固い顔してるね冬馬くん。どしたの?」
「照れてるんだよ翔太、察してやれ」
「ちっ、違えよ!」

北斗の茶々に思わずかぶりを振りながら手で顔を隠す冬馬。
その仕草に満足しながら北斗も表情を少し締めた。

「ま、言いたい事はわかるけどね。気まずいんだろ?要は」
「……まあな」

冬馬は黒井社長に唆されて度々765プロを軽視、あるいは侮蔑を向けていた時期があった。
過去形なのは当然そこらの妄執は解消されているからで、そしてその張本人が他ならぬ響だった。

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