ウルガモス『赤い霧は不気味だわ化け物は出るわで俺は泣きたい』(84)

 


 とある森 宿前


男「どうした?ウルガモス」

ウルガモス「ぷひ……」

ウルガモス『……やっぱり、この森は好きじゃねぇな』

男「……もしかしてあの宿が嫌とか?お前が嫌なら野宿でいいけど」

男「地図通りなら明日には町につくし、おまけに野宿は初めてじゃない」

ウルガモス『こんな嫌な感じプンプンしやがる森で野宿するよりは、少なくとも他の人間がいる宿で休んだ方がいいだろ』

男「……その『ぷひぷひ』の言い方は野宿よりは宿派って事だよな」

ウルガモス『ああ』コクン

男(まぁ……俺もここは変な雰囲気の森だと思うし)

男(安全な宿で休んだ方がコイツもずっと気張ってないですむんだよなぁ)

ウルガモス『……もう日が暮れる。人間の世界は手続きだらけだ、早く行ってこいよ。ちぇっくいん、しに』

男「オーケー。今日は宿。部屋取ってくるわ。少しの間ボールの中にいてくれな」

 
ウルガモス『おう』





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 宿 広間


 そういえば、と思う。
 森に入ってから、初めて人を見た。


宿屋の女「どうしたんですか?お客さん、私の顔じーっと見たりして」クスッ

宿屋の女「もしかして年上が好みだったり?--なんて冗談言っちゃいますよ。そんなに見られると」

男「すみません。この森に入って初めて見た人間がお姉さんだったので。つい」

宿屋の女「ふふっ、一応地図には載ってますけど、ここはもう旧道ですからね」

宿屋の女「みんな安全で早く目的地に到着する新しい道を選ぶんですよ。おかげで商売あがったりです」

 
宿屋の女「ま、お客さんみたいな物好きさんが泊まってくれるので、なんとか続けられてたんですけど」

男「あー、じゃあ……今この宿にいるのは、」

宿屋の女「実は……今日のお客さんはあなた以外にも1組いたり。二人っきりじゃなくて残念?」クスクスッ

男「そ、そんなつもりで聞いたんじゃ!」

宿屋の女「冗談よ、冗談。あなたみたいな若い子を見ると、ついからかいたくなって。気を悪くしたらごめんね」

男「……怖いお姉さんだなぁ」

宿屋の女「ふふっ……もっと怖い事、してあげようか?」

男「わかってますよ、冗談ですよね」

宿屋の女「さぁ、どうでしょう。……なんて」

宿屋の女「ねぇ、訊いていい?」

男「はい」

宿屋の女「どうしてこの森に入ったの?さっきも言ったけど、近くの町に行くならもっと良い道があるでしょ?」

男「……旅気分を味わいたくて」

宿屋の女「旅をしてるの?」

男「旅、というか……ちょっとした遠出というか」


男「就職も決まったし、貯金も目標額越えたし、時間もあるしで」

男「一度ぐらいアイツと二人でぶらぶら遠出してみるか、ってなりまして」

宿屋の女「アイツって、ポケモン?」

男「はい。ウルガモスって言うんですけど……この宿、人間とポケモンどちらにも利用しやすいよう設計されてるみたいで、凄く助かります」

男「通路や出入り口が広くて、アイツも屋内にしては自由がきくみたいです」

宿屋の女「ここ、どっちも楽しんで休める宿を目指したみたいだから」

男「こういう所が増えると嬉しいんですけど……まぁ、色んな考え方、感じ方の人がいますから」

宿屋の「そうね。……本物に、そう思う」クスッ

男「あ、そうだ。部屋から出た当初の目的を忘れてました」

宿屋の女「目的?」

男「お恥ずかしいですが、俺……アレルギー持ちで。食べられる食品がかなり限られるんです。だから、」

宿屋の女「あら、教えてくれたらちゃんと考えて作るわよ?お姉さんの腕によりをかけて」

男「すみません、一つ一つ言うのも申し訳ないぐらい多くて……出来れば厨房をお借りしたいなと」


男「あと、食材も少し譲って頂きたくて……もちろん食材代や使用料込みの追加料金は支払います」

男「厨房も使用前の状態に戻すので、」

宿屋の女「いいわ。自由に使って。追加料金もいらない。ただ……私の手料理を食べ逃したこと、後悔しないでよね」

男「後悔してますよ。すでに今、ちょっと」

宿屋の女「ちょっと?」

男「訂正。かなりで」

宿屋の女「いいでしょう。--食材も好きに使っていいわ。見てわからなかったら呼んで。ポケモン用の餌もあるから」

男「……ありがとうございます」





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 宿 とある一室


ウルガモス『よっ、お帰り』


男「おー、満喫してるなーウルガモスー」

ウルガモス『満喫するっての。ここまで俺達ポケモンに配慮してる宿ってリゾート地だけかと思ってたわ』パタパタ

ウルガモス『まず天井が高い。止まり木用だよな、良い感じの出っ張りがある』

ウルガモス『床はちょっと固めなのは強度の問題か?重い奴は重いもんな、』

ウルガモス『だがあっちは柔らかい!!そう!!敷き詰めた草の感じ!!』

ウルガモス『そっちは岩肌でその固さがまた良し!』

ウルガモス『何が一番素晴らしいって清潔。超綺麗。掃除行き届いてる。最高!』

男「ぷひぷひ嬉しそうで良かったよ」

男「人間用はベッドしかないのに、ポケモン用は複数でさ。ここまで気を使ってるなら水タイプには相応の部屋に通されるんだろうなぁ……」

男「--で、お前どこで寝るの?」

ウルガモス『この草草しい柔らかい所だ』ヒラヒラ ポフッ

男「ベッド側の……そこに着地、ってことは、そこか」

ウルガモス『まさかソファーで寝るとかは言わないだろ?』

男「俺ベッドだしお隣さんだな」

ウルガモス『おう。そうだな』

 
男「あ、そうそう。厨房借りれることになった」

ウルガモス『あー、お前香辛料の類に駄目なの多いからなー。まったくデリケートな身体してるぜ』

男「……俺もそうだけどお前のためでもあんだからな。お前も合わない物食ったらすぐ体調を崩す」

ウルガモス『その通りですご飯よろしくお願いします』





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 宿 とある一室


男「ふぁ……」

ウルガモス『お、欠伸』

男「飯食った後は、もう寝るだけだろ。電気消すぞー、ウルガモスー」

ウルガモス『おー』

 


 電気を消して、ベッドに潜り込んで--どれぐらい経っただろうか。

男「----、」

 目が覚めたのは、酷い悪寒がしたからだ。

男(体調を崩した?……とは、思えない)

 子供という年ではない、経験が違うと断言する。

男(なんなんだ、この胸騒ぎ………)

 空気がまとわりつくように思えるのは気のせいか。
 光源はカーテンの隙間から差し込む月明かり。その光頼りに室内を見回すが、変わった様子は無い。

 だが、異変は確かに起きていた。

ウルガモス「………」

 起き上がった男に気付いたのか、または未だ彼らの認識外にある異変に気付いたのか。
 目覚めたウルガモスは音も無く羽ばたき、男の側へと降り立つ。

男「お前もおかしいと思うから、目、覚めたんだよな」

 小声の問いに、ウルガモスは頷く。
 その応えに頷き返した男は、ベッドからそろりと降りた。
 素早く上着を羽織り、部屋の入口へ向かう。

ウルガモス『…ん?お前は…?』

バサルモス『わたし?……バサルモス…』

ウルガモス『そうか…良い名前だな』

バサルモス『あ…ありがと…』

ウルガモス『…』

バサルモス『…』

ウルガモス『…///』ぽっ…

バサルモス『…///』ぽっ…

男「…なにやってんのお前ら…」

 
 その背を追い、ウルガモスは静かに舞い上がる。
 宿の一室は広く、寝室として使った部屋の他に小部屋は二つある。
 その二つの小部屋や洗面所、そして入口の扉は全て短い廊下が繋げていた。

 その廊下に、男は足を踏み入れ、

 瞬間、聞こえた、

 べちゃ、

 音。

 べちゃ、べた、

 身体は硬直し、聴覚だけが鋭く音を拾う。

 べた、べた、べた

 続け様に聞こえるそれ。
 近付いているように思える。

男(……足、音?)

 それがどこに向かっているか、考えたくはない--感情。
 深夜の環境下、廊下の痛みにも思える冷たさが、足元から理性を呼び起こした。

 夢ではない、この現実。
 胸騒ぎは警告する。間違いなく何かが起きていると。


 理性は思考を開始する、今、自分は何をすべきか、そう、考え

 鋭敏な聴覚とはいえ、男のそれは人間の域を出ない。
 分厚い扉の向こう、条件が重なり聞こえた足音は、元より、遠くはない。

 止まった足音、その主は、
 この廊下の先、入口の扉、その--向こう。

男「!!」

 認識と同時に、男は背後のウルガモスを抱き寄せ一番近い小部屋に飛び込んだ。
 小部屋の扉を閉める余裕は無い。
 入口の扉は、今まさに、

男(鍵……!確かにかけたはずなのに!!)

 開いた。気配が強まる。
 何かが扉の外で蠢く気配だ。
 何かが部屋に入り込んだ気配だ。

 確信があった。
 この気配は人ではない。ポケモンでもない。
 何かわからない。けれど、何か、何か、怖いとしか表現でない何かだ。
 そうでなければ、一人と一匹そろって息を殺すなんてことはしない。

 足音、べちゃ、べた、べちゃ。
 聞こえる距離が近すぎるのは、この壁の向こうに、侵入したその何かがいるからだ。

 
 抱き込む腕に力がこもる。
 長い付き合いだ、種族は違うがお互い平常心でないことは理解している。

 ちらりと小部屋の扉を見た。
 開いている。当然だ、閉めてはいない。
 逆に閉まっていた方が怖い。
 足音は寝室に向かっているように思えた。そう思いたいだけかもしれない。

 何かがこの小部屋を通りすぎさえしてくれれば、何とかなる。何とかする、何とかしないと、何か行動に移さないと、

男(まずい、混乱してきた、)

男(落ち着け、落ち着け、)

 この状況で出たのは、成長するにつれてやらなくなった幼い頃の癖だった。

男(……もふもふ、)

 顔をうずめる先は柔らかい毛並み。

男(もふもふもふもふ、)

ウルガモス「…………」

 お互い、思考の枷になっていた悪い緊張感が外れた気がした。

男(あ、完全に落ち着ちついたわ。もふもふって凄い。世界に誇れる)

男(さて、足音は--寝室に入ったか。気配は一つ。侵入した何かは一体で間違いない、はず)

支援
つステルスロック

 
男(真っ直ぐ寝室に向かったなら、狙いは俺達のどちらかか、または両方)

男(まずは相手を確認する、)

 腕を緩めれば、意図を察したらしいウルガモスはふわりと浮いた。
 視線を合わせ、頷く。気配は寝室。
 無音の世界を崩さぬよう、小部屋からまずは頭だけだした。
 暗がりの廊下、おかしな物は見えない--いや、はっきりとは見えるわけではないが、床が汚れていた。

男(勝手に侵入して全力でびびらせておまけに部屋まで汚すのか)

 小部屋から出る。床の汚れは寝室に伸びていた。辿り、寝室へ足を踏み入れる。

男「…………」

 --その何かはつい先程まで自分がいたベッド、そのすぐ側にいた。

男(……人、ではない、絶対に、)

 頭がある、手足がある。人の形をしている、それ。
 だが、人ではない。人で有り得ない。
 暗がりに、月明かりがはっきりとその姿を浮かび上がらせていた。

男(……黒い、ヒトガタの……何か)

 人間で言えば後頭部にあたるのか、黒一色の塊。その正面には人間でいう目は存在するのか。

男(出来れば、振り返らないでほしい)


 冷静でいるつもりだ。しかし相手は生き物とも思えないヒトガタの何か。
 その造形に文句をつける気はないが、せめて精神的に優しい外見であってほしいと願ってしまう。

男(--あ、動く)

ヒトガタ「…………」

 ゆらり、ゆらゆら、揺れる。ヒトガタのそれ。
 後頭部、そう思っていた塊に、一線、亀裂が走った。
 ゆらり、ゆらゆら、揺れる動きに合わせ、亀裂は広がる--開く、大きく開く、黒以外の色があった、白に見える、やけに見覚えのある、その並び、
 人間の口内と同じ、並ぶのは歯。これが口なら、これが人の形を模して作られた物なら、このヒトガタは最初から、

男(俺達を、見て、)

 その認識と同時だった。

ヒトガタ「」カチカチカチカチ

 打ち鳴らすのは歯。伸ばされる腕、大股に近付くヒトガタ、

男「ひっ、」
ウルガモス『ぎゃあああああああああ!!!』ゴオオオオオ

 が炎上した。

 一瞬前、男の短い悲鳴は至近距離を通り過ぎた炎と悲鳴のような鳴き声にかき消された。

ウルガモス『うわあああああ!うわあああああああああ!!』バタバタブルブル

 
男「え、あ、ちょ、ウルガモス!!」

 片や炎上し土塊のように崩れていくヒトガタ。片や悲鳴をあげて自分にしがみつく相棒。

ウルガモス『今のは卑怯だ!!いきなりは卑怯だってえ!!!うおおお怖ぇよ男おおお!!!』ガクブル

男「……………」

 火災の心配は無いようだ。炎はヒトガタが完全に崩れるのに合わせ消えてくれた。

男「ウルガモス、」

ウルガモス「!!!」ハッ

ウルガモス『……すまん男、屋内でその……火を吐くのはまずかったよな……悪い、滅茶苦茶怖かったんだ』

男「……火炎放射したのは悪くない。むしろ助かった、ありがとう」

 苦笑し、男は背中にしがみつくウルガモスを撫でた。

男「白状すると、俺びびって動けなかった」

ウルガモス『……いやでもな、結果オーライとはいえ、屋内での炎はまずい。気を付ける。火事になったりでもしたら、お前にまで危険が及ぶ』

ウルガモス『……しっかりしねぇとな、俺は。お前は人間で俺はポケモンなんだから、俺がお前を守らないと』

男「なんかぷひぷひ気にしてるようだけど、本当に助かったと思ってるんだからな。気にするなよ?」


ウルガモス『……他にいてほしくないけど、もし外にこの変なヒトガタがいたら、次は物理とさざめきメインでいく。任せろ男』

男「お前って可愛く鳴くくせに頼もしいんだよなー」 

ウルガモス『そりゃどうも』

男「じゃ、とりあえず、部屋から出ようか。状況把握後、逃げるってことで」

ウルガモス『賛成』


 べちゃ、べた、


男「……」
ウルガモス「……」

 聞き覚えのある音だ。
 そっと、寝室から伸びた廊下の先、開いた入口の扉を覗く。

ヒトガタ「」コンバンハァアアア

男「きたああああ!!!」
ウルガモス『ひぃいいいいいい!!』ゴオオオオオ

 赤く煌めく炎が打ち出されヒトガタを包む。

ウルガモス『うわああ!またやっちまったああ!!』

ポケモンのホラーSSかな?

期待つストーンエッジ

ポケモンは正体不明苦手だもんな…ウルガモス可愛い
期待


男「だから気にすんなって。こっちは助かってるっての。ありがとな」

 燃え、崩れたそれはもうヒトの体を成していない。

男(ベッド側の奴と同じだ、土より泥に近い)

ウルガモス『あ、待てって一人で近付くなよ!』バタバタ

男(さすがに触りたくはないな……燃えた直後にしては水分を含んでいるように見える)

男「ウルガモス、」

ウルガモス『なんだ?男』

男「俺達は警察でも無いし趣味で正義の味方をしてるわけでもない、ただの一般人だ」

男「だから、逃げても良いと思う。これは俺達の手に負えない気がする」

男「さっきのもこれも、お前が軽く倒してくれたからいいけど、」

ウルガモス「…………」

男「俺、襲ってくるあれに捕まったら……どうなっちゃってたんだろうな」

ウルガモス『……男……、逃げてもいいって。逃げよう』

ウルガモス『お前が気にしてるのってこの宿にいる人間達だろ?……なんとかしてるって、ほら……この変なのだって結構あっさり倒せちゃったし』

ウルガモス『だからさ、』



 「……うわあああああああああ!!!」



男「!!」
ウルガモス「!!」

 遠く聞こえた悲鳴。女の物ではない、声は男の物だ。

男(--この宿に泊まっていた、もう一組の客か!)

男(……でも、)

ウルガモス『……そんな顔するなよ。俺だってわかってるよ』

男「逃げた方がいいのはわかってるんだ、俺と、お前の安全のために」

ウルガモス『俺もお前もビビりのくせに、気付いてて誰かを見捨てる事なんて出来ないんだ』

男「……ウルガモス、俺、馬鹿な判断するよ」

ウルガモス『とっととビビりのちっぽけな正義心発揮しようぜ』ヒラヒラ

男(わざと羽で俺をかすめて……扉の前に。こいつ、本当に俺の事わかってるよな)

男「助けが必要かもしれない。行こう!」

ウルガモス『おう!人助け開始だ!』





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 宿 通路


 部屋から飛び出し、薄暗い通路を駆ける。
 向かうは悲鳴の方向。あのヒトガタと遭遇する事はなかった。
 これからも遭遇しないとは限らない。

男(電気……ついているのは非常灯だけか)

男(あれは気配が濃い、にしても暗がりだと体色と同化するから)

男(複数との遭遇は避けたいな、)

ウルガモス『前方!足音!!人間!!それと!』

男(寒気、この気配!足音!)

男「ウルガモス!頼む!」

ウルガモス『非常時だ、屋内だが火力増していくぜ!』ゴオオオオオ!


 一直線伸びた炎が通路を奥へ奥へと照らしていく。
 炎はこちらに向かい逃げる客の男を照らし、その背後のヒトガタを正確に捕らえた。

男性客「--はっ、はぁ、はぁ……た、助かった……!」

 背後で燃えるヒトガタの化け物を見、前方から自分に駆け寄る男とポケモンの姿を見た客の男。
 半ば転ぶようにその場にへたり込んだ。

男「大丈夫ですか!?」

男性客「あ……あ、ありがとう……」

男「逃げましょう、俺達の部屋にも来ました、あのヒトガタが二、三体だけとは思えない。--立てますか?」

男性客「ああ。立てる……」フラフラ

ウルガモス『気配足音は無し……出るんじゃねぇぞ』ジー

男性客「妻が……」

男「え?」

男性客「……妻が部屋に、」

男「!」
ウルガモス「!」

男性客「戻らねば、妻が部屋で待っている、」フラフラ


男「待って下さい。俺達も一緒に行きます。案内お願い出来ますか?」

ウルガモス『おっさん一人で危ないだろうが。俺達も行く』

男性客「ああ……ありがとう……ありがとう……!」





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 宿 広間付近の通路


男「広間を抜けた先ですね!?」

男性客「……そう、だ。広間を抜けた、先の通路、そこから私達の部屋に!」

ウルガモス『くっそ、二人残して俺が先行するわけにはいかないしな!』


 男性客の部屋は広間を抜けた先。
 彼ら二人の部屋とはちょうど反対側となる。

男(確かに、この人が逃げてきた方向には広間がある、)


男(そこから逃げてきたのなら、広間に複数いる可能性も、--っ!?)

 突然の眩しさに目を細める。

ウルガモス『眩しっ!なんだ!?電気がついたのか!?』

男性客「電気がついた……?いったい誰が?」

男(まさか、女さん……?)

ウルガモス『あのヒトガタの変なの明かりに弱いとかだったらいいんだけどな、って……なんだアレ!?』

 電気がついたおかげで、はっきりと視認出来た。
 広間の方向から漂う何か、霧のように見える。異常はその色。

男「赤い……霧?」

ウルガモス『薄いけどやっぱり赤いよな。不気味、すっげぇ不気味。広間からだよな』

男「一度止まりましょう。毒だったら、」


「    」


男「--?今、何か」

ウルガモス『聞こえた?広間からだよな』


男性客「!!そこにいるのか!?」ダダッ

男「ちょ……待って下さい!」

ウルガモス『一人で行くな!おっさん!!』

 走り出した男性客を止めようと伸ばした男の手は、新たな声に制止させられる。


宿屋の女「あなたも無事だったのね!?」


ウルガモス『!?』
男「女さん!?いったいどこから!?」

宿屋の女「あのヒトガタに追われて、ずっとあの物置に隠れてたの……怖かった……!!」

男「わかりました、一緒に逃げましょう。でもその前に広間に……!あの人を追わないと……!!」

宿屋の女「駄目よ!」

男「なっ……どうして!あのヒトガタがいるかもしれないのに!!」

宿屋の女「行ってもどうせ間に合わない!」

男「何でそんなこと!」

宿屋の女「広間にはそのヒトガタが沢山いるんだもの!」

元ネタポケウッドのアレなんだけど、ポケウッドってED3パターンあるんだね知らなかったよ
あと支援ありがとう。これ投下終わるまでBW2続きやらないって決めたから早く終わらせたい


男「……そう言われて見捨てられる性格なら、最初から一目散に逃げてますよ、俺は」

ウルガモス『……だよな』

男「隠れていて下さい。俺達はあの人を追います」タタタタッ



宿屋の女「…………」


宿屋女「馬鹿な人」ニコッ





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 宿 広間


男性客「…………」

男(いた!)


 そう距離は離されていないはず、その考えは当たっていた。
 広間の中心よりさらに奥。彼は自室だと言った部屋に繋がる通路を前に、立ち止まっていた。
 赤い霧も、視界を塞ぐ程濃くはない。だが、広間は薄い赤で色付いて見える。

男(女さんが言ってたわりにはヒトガタはいない。一体だって……でも、おかげであの人は無事だ)

ウルガモス『……なんだよあの人間の女。不必要にビビらせやがって、あの化け物どこにもいないじゃねぇか』

 男性客は動かない。先の通路は電気がついていないのか、色付く赤の向こうで真っ黒だ。

男(この赤い霧……今は異常を感じないけど、毒があったら洒落にならないよな)

男「ウルガモス、体調に変化は?」

ウルガモス『無し。毒性は無いと思いたいぜ。遅延性とか勘弁』

男「変化は無いみたいだな。良かった」

男(でも、この霧に包まれているのは良い気分じゃない)

男(不気味で、薄ら寒いというか……)

ウルガモス『なぁ、男』

 ヒトガタはいない。
 この赤い霧は確かに不気味だが、体調に変化はない。


 男性客も無事だ。無事に見える。

 --だから、直前までの事実が男の頭から抜けていた。


ウルガモス『聞こえた気がしたあの声っていったい何だったんだろうな………っ!?』


男「……そうだ、声……!!」


男性客「…………」ブルブル


 先に思い出したのは、男ではなく、彼の相棒だった。
 その早さが、気付く早さに繋がる。

ウルガモス「----」

男「--!?ウルガモス!?」

 突然目の前に現れたのは見慣れた三対の羽。ぶつかる寸前で男は止まる。

男「いきなり人の前に降りてどうしたんだよ!」

ウルガモス『--駄目だ』

 その行動は、明らかに制止を促していた。
 男はウルガモスの言葉を理解しているわけではない。深い相互理解は長い付き合いからくるもの。


ウルガモス『駄目だ、行くな』

 駄目だ、行くな。
 そう言っているのだろう、その行動の理由に、

男(--あ、)

 男も気付く。


男性客「……………」ブルブル


男(どうして気付かなかった、)

男(広間の電気はついている、……もし、通路側の電気だけが消えていたとしても)

男(暗影一切無く、あの人の前だけ真っ黒なんて有り得ないのに!)

 一番の異常は広間に入った瞬間から視認していたはずだった。

男性客「…………」ブルブル

   「  」ズルリ

 男性客の目の前、通路の--真っ黒な闇が、動いた。
 動いたことで初めて、彼らに寒気を感じさせる。気配を感じさせる。


男「……ウルガ、モス、」

ウルガモス『ごめん……ごめん……俺には、出来ない、』


 闇と同化した巨大な塊から、男性客に向かい細い腕のような物が伸ばされる。
 人間を模倣したには長すぎる腕、ただ、指先だけは模倣以上の出来だった。

男性客「…………あ、ああ……」

 手首から先は、生々しい肌色。女性を思わせる指、その薬指には指輪があった。
 その手が、指先が、男性客の頬に触れる。

  「ねぇ、」

男性客「!!」


 声は、その声は、確かに、
 真っ黒の塊の中から、聞こえた。


「どうして、」

男性客「あ、あ……すまない、」


 塊が波打つ。
 内側から何かが出てくる--人の顔の形に、盛り上がり、


「私を」

男性客「すまない……すまない……!そうするしかなかったんだ、そうするしか、」


 女性の顔だけが、男性客の目線の高さに、出て来た。


「食わせて、逃げたの?」

男性客「がっ……!!」


ウルガモス『……俺には……助けられない……!』


 撫でるように触れていた手が力強く男性客の顔を掴む。人間技ではない力がかかっているのか、指先が皮膚にずぶずぶと沈んでいった。
 視界を染める赤だけでは誤魔化しきれない、その赤い血は、だらだらと流れ、流れ--


男性客「」グシャ


男「……っ、」ビクッ


 無意識に流れる血を視線で追った。
 だから見ないですんだ。音だけで何が起きたか悟るだけで済んだ。


男(今、顔、あの人の顔、頭、)

男(砕かれ、た……)


 寸前まで動いていた人間が、今はそれこそ人形のように、持ち上げられ、ゆらゆらと揺れている。


男性客「」ユラユラ ユラユラ


 黒い塊に、ちょうど女性の顔のすぐ下、横一線に、亀裂が走った。


男(……、あ、あ……まさか、)


男性客「」ユラユラ ユラユラ


 亀裂は広がり、開き、大きく開き、
 白、
 そう、それは、人の、

男性客「」ユラユラ ユラユラ ユ


ウルガモス『っ!!』



 バクン


 その瞬間は、ウルガモスの背によって完全に隠された。

男(--喰われた、喰われた、)

男(今、あの人は、)


宿屋の女「実はね、私」

宿屋の女「見てたから、知ってる」


 背後から、声。女のもの。


宿屋の女「あの男性客は、一人で逃げたの。寝ている自分の妻を囮にして、逃げたの」

宿屋の女「あの女性はね、気付いた時には食われていて、」

宿屋の女「自分の夫が逃げていく背を見ていたの」

男「……見ていたん、ですか、」

宿屋の女「ええ、全部見てたわ」


宿屋の女「あの女性客が食われるのも、男性客が見捨てて逃げるのも」

宿屋の女「ついさっき、あの男性客が食われるのも。全部、見てた」

宿屋の女「だから、訊くんだけど」

宿屋の女「あなたも食われたいからここに突っ立っているの?」

男「!!っ、」

男(そんなわけあるか!)

 背後から抱き抱えれば、ウルガモスはびくりと震えた。


男「……ごめんな、ウルガモス」

男(お前もびびりのくせに、俺を庇って、)


 少なくとも二人の人間を食ったそれが、ずるずると身体を引きずるように動き出す。
 有り難いことに、あのヒトガタのような素早さは無いらしい。


男「逃げましょう!宿から出ます!」

宿屋の女「いいけど。ポケモンを戦わせないの?」

男(そんなこと、出来るかよ)


男(それに、アレを倒すことは……)

男「………女さん走れますか?走れるならもう行きましょう」

宿屋の女「走れるわ。きっと、あなたより早く」

男「…………」

 背を向け、走る。
 感じる視線は、見ているからだろう。
 あれが、逃げ去る俺達を。


「    」


 じっと、見ていたから。

宿屋の女「……」クスッ






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 宿の外 森


 月明かりの下。
 血のような、赤い濃霧が立ちこめていた。
 多分、いるんだろう。あの赤い霧の中に。
 赤越しに、黒く蠢くヒトガタを見た。


ウルガモス『離してくれ、男』

ウルガモス『俺、もう大丈夫だからさ』

男「……わかった、」

ウルガモス『…………』パタパタ

ウルガモス『……お前のせいじゃないぞ。あの時逃げとけば、って言うなよ』

男「…………うん」

ウルガモス『俺は……一応さ、ちょっと珍しいポケモンだぜ?おまけに弱いつもりはないぞ』

ウルガモス『こんなのちゃちゃっと突破してやるよ。そんで、帰るんだ』

ウルガモス『お前はその後初出勤が待ってる。俺も一緒だけど』

ウルガモス『ここで死んだらさ、お前を採用した人に迷惑がかかると思うんだ。だから、』


男「お前さ、やけに現実的な事言ってただろ。多分、俺の初出勤がどうのこうのって」

ウルガモス『おう。言った言った』コクン

男「はは、やっばりか。……非日常な目にあってるのに、初出勤とかそんな話されると一気に現実に戻されるよな」

男「まぁ、これも現実だけどさ。……あ、良い感じの武器発見」ヒョイ

ウルガモス『お、それはそれはお誂え向きな鉄パイプ。護身用か?なら持っとけ持っとけ』

男「物理、効くといいけど」ブン ブン

宿屋の女「他と違ってまだ霧の薄い……あの方向に小さな遊園地があるわ。--とっくの昔に閉園して今は廃墟になっているけど」

宿屋の女「そこなら、こんな所よりまだマシかもしれない。ねぇ、どうする?」

男「行きます。……この霧じゃ、町の方向もわからない。俺達は女さんを信じるしかないんです」

宿屋の女「そう。じゃあ信じてついて来てもらおうかしら」

宿屋の女「私の……思い出の場所に」






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 森の中


 まるで、この道を行けと言っているようだ。真っ直ぐ伸びるその道だけ、赤が薄い。
 左右は濃霧で赤い壁のように見える。
 後方はと振り返れば、もう道は無く、同じく赤い壁が迫っていた。


ヒトガタ「」ガァ


 そして、赤い壁を突き抜けヒトガタの化け物は出てくる。

ウルガモス『!?ちっ、俺の後ろとるとか良い度胸--』

男「そいやっ!」ブン

 振りかぶった鉄パイプはヒトガタに命中。
 吹き飛びはしないが、ヒトガタの体は大きく傾いだ。

ウルガモス『このっ!!』

 傾いだ体はすぐに炎上する。崩れるヒトガタを前に、安堵したよう息を吐いた。

男「……良かった、物理、効いた……これなら!」

ウルガモス『これなら!じゃねぇよ馬鹿!!何でわざわざ危ない真似するんだよ!!それは最終手段の護身用に使えよ!!』


男「はは、ぷひぷひ怒んなって。立ち止まるわけにもいかないし、お叱りは走りながらな」

ウルガモス『お前なぁ!!』

男「……確かに俺は人間で、弱いよ!」

ウルガモス『わかってるなら危ない事……』

男「だからって、お前が危ないのに見てるだけは出来ない!」

ウルガモス『……それは……その、ちょっと油断して、もうしないからさ!』

男「お前、動ける範囲狭いのに俺ばっか気にするから」

ウルガモス『…………』

男「なぁ、ウルガモス。俺、自分の力を過信してるわけじゃないんだ」

男「子供の頃から、お前抱えて野山駆け回って遊んでた」

男「少しは、身体能力高めに成長したと思う」

ウルガモス『そういえばお前……俺の事軽々抱えるよな……』

ヒトガタ「」ガァ
ヒトガタ「」ガァ

ウルガモス『はっ……同時に二体かよ、』


男(追い付けない早さじゃない、動きも直線的で読みやすい、)ブン

 バコン
ヒトガタ「」グラッ

男「俺でもお前の補助ぐらいは出来る!」

ウルガモス『ああ、もう!わかったよ!』

 傾ぐ--バランスを崩したヒトガタの間を、逃すわけもなく。

ウルガモス『無茶はすんなよ!』

 燃え、崩れる。ヒトガタだった泥の塊は背後で赤い壁に飲み込まれた。

男(この赤い霧……俺達の足に合わせて動いているような、)

宿屋の女「ほら、見て。あの柵の向こう」

 前方、その方向。

宿屋の女「あそこが、遊園地」

 見える、はっきりと見えた。
 廃墟だ。小さな広場、向こう側の柵まではっきりと見える。

男「……!!なんで……!?」

 
ウルガモス『……なんだあの場所、おかしいだろ、』

 廃墟、その反対側、その奥は、柵の向こう側の真っ赤な壁まで、はっきりと見えてしまう。


宿屋の女「ここから入れるけど」

宿屋の女「どうする?」


 近付くとわかる。
 広くはない、柵に囲まれた土地を。
 ちょうど柵を狭間に、赤い壁がさらに囲んでいる。


宿屋の女「わかってて、ここに入る?」

宿屋の女「それとも、」

 背後の赤い壁が迫る。
 いや、赤くはない、赤の向こうから黒が迫っていた。

男(多分、あの黒は、宿で見た、人を食った、)

宿屋の女「霧にのまれて、あれに食われてみる?」

宿屋の女「どちらが楽に死ねるかはわからないけど」

 

 -
 ---
 ----


 廃墟となった遊園地


宿屋の女「遊園地って、何を定義に言うのかしら」

宿屋の女「広くは無いし、遊園地らしいものは……中央のメリーゴランドだけ」

宿屋の女「あとは遊具とか、出店とか……ふふ、」

宿屋の女「私、本物の遊園地を見たことが無いの。だから、あなたが思う遊園地から外れてたら、ごめんね」

男「…………」
ウルガモス『…………』

宿屋の女「私、このメリーゴランドが好きだった」

宿屋の女「ポニータと……ギャロップってポケモン、知ってる?」

男「はい」

宿屋の女「モチーフはそのポケモンよ。今はどの馬も頭が無いけれど」

男「……女さん、一つ、質問していいですか」


宿屋の女「たった一つじゃなくても、訊きたい事があるなら答えるわ。お客様?」

男「……何で、宿、一人で管理してるんですか?」

宿屋の女「ちょっと前に、とうとう、私以外の人がみんな、食われてしまった。一人でも私が管理するしかないのよ」

男「………、」

宿屋の女「隠す気は無かったから、わかるでしょうに」クスクス

宿屋の女「……ふふっ、あははっ!私、怪しかったでしょ?」

男「はい」

宿屋の女「でも、ついて来た。良かったわね、一番長生き出来る道としては、その判断は大正解」

宿屋の女「私も、年下の男の子相手だから張り切っちゃって……こんな所にまで連れて来ちゃうし」

宿屋の女「…………、あなたは、あなたのポケモンと、まるで言葉が通じてるみたいに話すわよね」

男「……こいつ--ウルガモスとは、長い付き合いなんです」

男「俺が小さい頃、卵から孵化して……その日からずっと、兄弟みたいに育ちました。だから、言ってる事はお互いわかってるつもりです」

男「……いや、きっと、こいつだけは、俺の言葉を完全に理解してると思うんですけどね」


宿屋の女「ポケモンと兄弟みたいに育った、か。……反吐が出る話ね」

宿屋の女「私は、ポケモンが嫌いよ。私の大切なお友達と、大好きな父を殺し--」ボトッ

男「!?」
ウルガモス『なっ…!?』

 ぼとりと落ちたのは、女の右腕だった。
 次の瞬間、右腕は黒く変色しその形を崩す。その右腕の残骸には覚えがあった。

男(燃えた後の……ヒトガタと、同じ)

宿屋の女「私をこんな身体にした」

男「何で……そんな身体に、」

宿屋の女「それはきっと、私の右腕が無くなった事じゃなくて、私の右腕があった事に対する驚きなんでしょうね」

男「あ……すみません、」

宿屋の女「何で謝るのよ。……いいわ、少しだけ、昔の話をしてあげる」

宿屋の女「--昔昔、ポケモン好きの父と、研究者の母が結婚して、私が産まれました」

宿屋の女「家族三人、そして私のお友達、みんなで幸せに暮らしていました」

宿屋の女「ある日のこと、野生のポケモンが私に襲いかかりました。私を守ろうとして、私のお友達と、私の父は死んでしまいました。殺されました」

宿屋の女「私は右腕を失いました」


宿屋の女「みんな、悲しい、痛ましい事故だと言いました。そんな事故が起こった小さな遊園地は閉鎖されてしまいました」

宿屋「そして、父と私のお友達を失った母はおかしくなっていました」

宿屋の女「なんとか生き返らせようとしていました」

宿屋の女「ある日、母は、赤い霧の中、土塊に私を沈めました」

宿屋の女「母が何をしたかったのかはわかりません。ただ、目覚めた時、」

宿屋の女「母は、ヒトガタの土塊を父と呼び。私には、土塊の腕が生えていました」

宿屋の女「ある日、父は、人を--ふふっ、少しだけって言ったのに。こんなに長くなって」

宿屋の女「みんな、人を食いたいのよ。きっと、食えば人になれるとでも思ってるんでしょうね」

宿屋の女「ヒトガタはね、光に弱いの。光に当たるとどうしても動きがゆっくりになって……だから、赤い霧が光からヒトガタを守っている」

宿屋の女「母はもういないから、どういう原理か知らないわ。私をこうした理由も知らない。ただ、ね」

宿屋の女「みんな、私の言うことすら、聞いてくれなくなった」

今日で終わらせるつもりだったけど駄目だわ。寝る

面白い
支援


 --それは、唐突だが、ごく自然の動きだった。

宿屋の女「あなたは、きっと、」

 女が男に歩み寄る。

宿屋の女「平和に、真っ当に、育った人」

ウルガモス『--!!なぁ、待てよあんた、』

 女の左腕がふらりと上がり、手がそえられたのは男の首。

男「--え、……っ!!?」

ウルガモス『っ……!!やめろよ!!あんた何をして!!』

宿屋の女「動かないで」

 言葉の向かう先は、男ではない。

男「……ぐっ……やめ……女さ……!!」

 ギリギリと締め上げられる。ままならない呼吸、涙で滲み始めた視界に、女の両目が黒く染まったのが映った。

宿屋の女「私には、あなたの首をへし折ることなんて、簡単に出来る」

 嘘ではないだろう。
 もう少し、彼女が力を加えれば--自分は死んでしまう、そんな気はしていた。


 状況はわかっている。
 殺されようとしている。死にそうになっている。
 恐怖はあった。
 だが、その恐怖を上回る疑問があった。

男(……どうして、この人は)

 彼女の真っ黒の眼孔が見ているのは、苦悶に歪む男の顔。
 口角は上がっていた、笑っている。
 最早人間の形相とは言えない、目の前にいるのは化け物だ。
 誰が見ても、そう思うだろう。
 男だけは、そう思えなかった。

ウルガモス『やめろよ……離せよ……何でだよ!!何で今なんだよ!!』

ウルガモス『最初から殺す気なら、食わせる気なら!もっと簡単にやれただろ!?あんたが俺達をここまで逃がしたんじゃねぇのかよ!!』

ウルガモス『何かしてほしい事があるから生かして連れて来たんじゃないのかよ!』

宿屋の女「--ねぇ、わかってる?」

宿屋の女「あなたがこの森に入ったから、あなたが出来もしないのに助けに戻ったから……!」

宿屋の女「あなたが私を信じたから!だからこうなったのよ!!あなたの判断が、間違ってるのに、」

宿屋の女「従うしかないあなたの連れが、一番、辛い目に合うのよ……わかってるの?」


 ふわりと、視界に入り込む、赤いもの。
 柵を越えたのだろう。緩やかに侵入するのは、赤。

宿屋の女「……真っ当な人の元で、真っ当に育ったポケモンは……まるで、人間みたいに、誰かを傷付ける事をしなくなる」

 女の手から力が抜けた。離れた。

男「--っ、あ、はっ……ごほっ、っ、」

ウルガモス『男!!大丈夫か!?なぁ!』

男「だいじょう……ぶ、だから、」

 立っていられず膝を折る、解放された喉が今も熱い。咳き込みながらも、女を見上げた。言葉を待った。

宿屋の女「傷付ける以上……例えば、殺す事、なんて、絶対出来なくて」

宿屋の女「それは、真っ当な人間も同じ」


宿屋の女「あなたにも、あなたのポケモンにも、ヒトを殺すことなんか、出来ないのよ」


男(--ああ、そうか)

ウルガモス『あんた、まさか……!』


宿屋の女「…………もう、時間が無いわ。……みんなが、来る」


 遠く、柵をすり抜け、霧に引かれるよう侵入するのは、あのヒトガタ、
 宿で人を食った、あの化け物もいた。

宿屋の女「あの大きいのが、私の父よ。母でもあるわ」

宿屋の女「宿で働いていた人や常連のお客さん、初めてのお客さんも、あれの、どれか」

宿屋の女「--私も、あの一部になる」

 黒く変色した彼女の足が、どろりと崩れ、

宿屋の女「私、見てた。ずっと見てた。あなたの連れの炎じゃ、私の父や母は殺せないわ」

 崩れる、下半身、服が泥に飲み込まれる、腰が、

宿屋の女「あなたの連れは--その子は、きっと、あなたを守って、最後は死んでしまうんでしょうね」

 上半身が崩れていく。
 左腕が落ちた。

宿屋の女「あなたが先に死ねば、その子はきっと、ひとりで飛んで、にげられるのに」

 顔が黒く変色していく、崩れる、あのヒトガタと同じ、泥の塊に、


宿屋の女「そのこだけでも、いきられるのに」


 真っ黒の眼孔から零れた一筋が、まるで泣いているように思えた。



ウルガモス『……男、立てるか?』

男「……立てるよ」

 目の前にある黒い泥のような塊は、ついさっきまで人の形をしていた。
 女の形をしていた。動いて、喋って、

男(……人間だった。彼女は、人間だった、)

 男は、赤の増す周囲を見回し、
 女だったものを見て、
 遠く、近付いてくるヒトガタや化け物を見て、
 最後に、ウルガモスを見た。

男「……あのさ、ウルガモス、」

ウルガモス『嫌だからな、絶対嫌だからな!!』

ウルガモス『俺がお前を残して飛んで逃げるなんて、死んでも御免だからな!!』

ウルガモス『なんとかするから、俺が!!お前は隠れてくれるだけでいい!必ず俺が……お前を……!』

男「まだ、何も言ってないのに。怒るなよ」

ウルガモス『……怒ってなんか、ない』

男「--ほら、見えるだろ?あの、崩れた小さな建物。遊園地だから、多分、ジュースとかお菓子とか、売ってたんだろうな」


男「屋根はほとんど崩れてるみたいだけど、隠れる事ぐらいは出来ると思う」

男「そこでさ、少し、話をしようか」





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 廃墟となった遊園地
 露店 跡



男「俺達って、種族は違うけど、兄弟みたいに育ったからか怖がりな所は似てるよな」

男「一緒に家で映画見る時とかさ、ホラー物とかパニック物とか、とにかく怖かったり吃驚するシーンなんか、お前悲鳴あげて俺に飛び付くじゃん」

ウルガモス『お前はお前で俺の羽使って視界からテレビ隠してるだろ。俺知ってるんだからな』

男「なんか、バレてるだろうな。俺はお前でテレビ隠して画面見ないようにしてる事」

ウルガモス『……そもそもな、俺がびびりになったのはお前のせいなんだぞ』


ウルガモス『俺がか弱いメラルバだった頃に怖いのガンガンに見せやがって。こちとら主な攻撃手段が火の粉だぞ。勝てるかよ畜生』

ウルガモス『俺未だにサメハダーとかトラウマレベルに怖いんだからな。なんなのアイツ古代だなんだって巨大化したり身体は一つ頭が二つっていう意味不明な状態になったり、』

ウルガモス『なんかトルネードに混ざってくると思ったらゴースト化してたりとかなんなのアイツ等マジ怖い』

男「一人では見れないものも、お前が一緒だと見れたりして。……怖いもの見たさってあるじゃん。あれあれ」

男「今謝っとくわ。付き合わせてごめんな」

ウルガモス『……こんな時にそんな言い方するなよ。そもそも本気で嫌だったら親父さんやお袋さんの所に逃げ込むっての』

男「……時々、考えるんだ。お前が、他の人達の所で暮らしてたら、どうなってたのかなって」

男「今……今が一番、考えちゃってさ。お前は、俺と一緒にいない方が--」

ウルガモス『てめぇそれ以上言ったら髪燃やすぞ。おでこ後退させて周りに若禿を疑われるように燃やすぞ』

男「あー、俺今結構辛い脅され方した気がする」クスッ

今日も終われなかった。寝る


ウルガモス『本気なんだからな!』

男「そんな反応してくれるんなら、違うってことだよな。お前がそうだってわかってるから、女さんはああ言ったんだろうな」

ウルガモス『…………』

男「確かに飛んで逃げれる、お前だけなら。でも、お前は俺を置いていかない」

男「身長も、重さも、もう子供じゃないからな。高さだけならお前より高いし、体重も重い」

ウルガモス『けど、飛べる。お前が一緒でも、飛べる』

男「……お前力あるから、俺捕まえて軽々飛べるのは知ってる。現に飛んでもらったことあるし」

男「だから知ってる。お前は、お前の身体の構造上、人間と一緒に飛ぶのは向かないんだよ」

男「背中に乗るとか無理だし、俺、毎回お前に掴まって……お前も毎回、俺を掴んで……そうやって飛んでた」

男「まぁ、動きづらいよな。おまけにお前、一緒にいる俺を気にして動く。大技出すとか以ての外」

男「飛んでる間は密着してる、俺が、炎--高温に耐えられないから」

ウルガモス『………ああ、そうだな』

男「じゃあ技は出さずに、ってのも難しい。逃げられそうな相手なら、霧を突っ切って逃げてる」

男「きっと、女さんを連れて」

ウルガモス『…………うん』

 --足音、気配。
 近付いてくる。真っ直ぐ。
 わかっていた、時間はない。

男「……俺は、お前に死んでほしくない」

ウルガモス『俺だって、お前に死んでほしくない』

男「……俺自身も死にたくない。それはお前も同じだろ?」

ウルガモス『うん』

男「……死にたくないから、俺は、酷な事をお前に頼むんだ。俺は酷い奴だよ、嫌いになっても構わない」

男「女さんは、お前の炎では倒せない、そう言った。……確かに合ってる。俺を気にするお前の炎じゃ、あれは倒せない」

ウルガモス『…………』

男「本気、出していいよ。俺の事は気にしないでさ、お前の炎はあんなもんじゃないだろ?」

ウルガモス『………………無理だ』

男「熱風。やってくれ」


ウルガモス『出来ない。お前が死んじまう。それじゃ意味ないだろ……?』

男「お前が首を振るのは、俺を心配するから」

男「……俺を気にして限られた方向の炎に威力となると、すぐ数で押し切られる。いくらお前がカッコ良く『やってやる!』なんて言ってても、厳しすぎるよ」

男「だから、熱風。全方向、広範囲の……灼熱の風。お前が本気になりゃ一瞬だろ。相手を消し炭にすることなんて」

ウルガモス『俺にお前まで消し炭にしろってか?』

男「俺は消し炭になるの嫌だし、隠れるけど。ここで」

ウルガモス『隠れてどうにかなるのかよ、どんだけの高温下に身を置くことになるのかわかってるのかよ』

男「ほんの数分なら、お前の熱風……直撃せえ受けなければ、耐えられると思うんだ」

ウルガモス『…………』

男「……ウルガモス、俺が、お前に頼む酷な事ってのはさ、俺達が生きるために、誰かを殺すってことなんだ」

男「なんでだろうな、知らなかった時は軽くお前に頼んで……あれ、元人間だったかもしれないのに」

ウルガモス『人間じゃねぇよ。……アレは、ヒトどころか、生き物ですらない』

ウルガモス『俺は何も思っちゃいない。俺達が生きるためだ。あれは誰かじゃない、誰かを食った何かだ』


ウルガモス『出来る、やれるよ、俺は。お前が望まなくても』

男「……本当は、誰かではなく、誰かを食った何かであったとしても、」

男(一人だけ、いる。あの中でたった一人残ってしまった人が)

ウルガモス『あの、人間の女も……望んでだことだろ、』

男「……………、」

ウルガモス「…………、」

男「時間」

ウルガモス『うん』

男「もう、ないよな」

ウルガモス『そうだな』

ウルガモス『……なぁ、男』

男「なに?」

ウルガモス『信じていいか、お前を』

男「信じていいよ。俺は死なない」


ウルガモス『信じてくれるか、俺を』

男「それに、信じてる。お前の技は本物だ」

ウルガモス『わかった』


 ひらひらと舞い上がる、--深夜、目覚めたあの時、巻き込まれてから初めて、ウルガモスは男から離れた。


ウルガモス『一緒に、朝日見ような』


男「うん」



 --そして、風が吹く。
 暖かな風が冷たく重い赤を押し流す、



男「………、」


 流れていく赤を塗り替える赤は、きらきらと輝く。
 男は壁に背を預け、目を閉じた。


 恐怖はない。
 ただ、始まりを待った。
 そして、終わりを待つ。




ウルガモス『--自信、あるんだ。蝶の舞。俺は蛾だけど』

 くるくると上昇、
 三対の羽から零れる火の粉が散っていく。

ウルガモス『これやると、凄く集中出来て……全力、尽くすには、やっておかないと』

 羽ばたきは風を呼び、
 巻き起こすは暴風。

ウルガモス『俺は、あいつみたいに優しくないから』

ウルガモス『選べるんだ、きっぱり、捨てられる』

ウルガモス『例えお前等がただの人間でも、お前等があいつを殺すって言うなら』


ウルガモス『俺はお前等を--焼き殺せる』



 --熱風、




男「っ……」

 瞬間的に上がる気温。
 押し潰されるかのような高温に男は呻いた。
 下手に呼吸をすれば、喉が焼けてしまいそうだ。
 荒れ狂う風と炎の音だけが頭に響く。

男(……、これは、想像以上に、辛いな)

 目をあければ、真っ赤な世界が広がっていた。
 崩れ赤い空すら見えるここが最後の砦。
 壁にもたれた背が熱くて離れる、が、これ以上離れれば、一瞬で焼け死ぬことになる。
 それでも、わかっていた。今、まさに上空で灼熱の暴風を起こしている相棒は、最大限の気を使っている。
 気を使って--この建物までも焼き壊さないように風を操っている。

男(耐えろよ、俺、)

 この炎の中、あのヒトガタがその形を保てているはずはない。
 崩れた泥の塊でさえ残らない、外はそんな状態だ。

男(ここで耐えられないとか、最、悪……っ、)


 --赤の向こうに見えた。
 黒い影だ。
 近付いてくる。


 ずるずると、その身体を溶かしながら、
 ヒトの形ではない、黒い、何かが、


男「……まだ、くるのか、そんなに食いたいのか、」


 べちゃり、体の一部を投げ出し崩れるそれ。
 黒く蠢くその一部は、熱風の直撃を受けない建物内--男の目の前にあった。


男(……ふざ、けんな、耐える耐えない以前の問題だ、)

 動く、塊。大きくはないが、小柄なヒトガタは出来上がるぐらいはある。

男(ここまで来る執念なんてあったのかよ、)

 もしこれがあのヒトガタになり、自分に襲いかかったとしたら、

男(俺は、)


 ……おど、ろ、いた


 --声だ。

「あの、こ……こんな、こと、が……できた、のね、」


 蠢く、形成する、小柄なヒトガタ。
 他と同じく、目はない。人の形を簡単に模倣しただけの単純なもの。

 だが、ヒトガタであっても、ヒトガタではない。このヒトガタは--彼女だ。

男「……女さん……?」

ヒトガタ「……もう、会わないと、思ってたのに、」

ヒトガタ「ふふ……ふ……やって、くれたわ……」

ヒトガタ「私の、家族を、あなたは、」

ヒトガタ「あなた達は、」

ヒトガタ「殺すの、ね……?」

男「…………、」

 一歩、近付く、ヒトガタ。
 後退せず、男はじっと彼女を見返した。

ヒトガタ「どう、しよう……みんな、みんな、死んでしまったわ」

ヒトガタ「崩れて、溶けて、」

ヒトガタ「でもね、私さえいれば、」

 --まだ、彼女がヒトの姿をしていた時のように。


 伸ばされた、手とはいえない細い黒が、男の首に触れる。

ヒトガタ「みんな、また、戻ってくる、」

男「--!」

 焼けるような熱さ--いや、実際に焼けているのだろう。
 彼女の足元はもう溶け始めている。

ヒトガタ「ねぇ、私、体が、熱いの」

ヒトガタ「あなたが、死ねば、あの子は……この、熱さを、おこすこと、やめてくれるの、かしら」

ヒトガタ「私が、あなたを、殺せば、私の、家族は」

男「--そんな気、ないくせに」

ヒトガタ「----」

男「あなたに俺は、殺せない」

ヒトガタ「…………」

 触れていただけの黒が、離れた。

男「たった一つじゃなくても。あなたはそう言ったから……また一つ、訊いていいですか?」

ヒトガタ「…………、」


男「ずっと、見ていたんですか?」

ヒトガタ「…………ええ、そうよ。私、ずっと見てた」

ヒトガタ「みんなが人を食うのを、人がみんなに食われるのを」

ヒトガタ「ずっと、ずっと、全部、見てた」

男(この人は、ずっと、)

 一人だけ、狂いきれないまま、
 家族が人を食べる光景を見てきた。

ヒトガタ「怖かった、ずっと、でもね、」

ヒトガタ「一人になってしまうのも、怖かった」

 一人になることが怖くて、もう家族で無くなっているかもしれない事実を見逃して--いっそ、狂ってしまえれば、楽になれただろう。

ヒトガタ「ふ……ふふ、今は、一人」

ヒトガタ「怖くて、……寂しい」

ヒトガタ「……ああ、無理やりにでも、私の、手料理、食べさせておけば、」

ヒトガタ「毒を、仕込んで、いたのに」

男「嘘つき。他のお客さんは女さんの手料理、食べたんでしょう?」


ヒトガタ「…………」

ヒトガタ「……あなたに、人は、殺せないのに……」

男「はい。俺はあいつと違って弱虫ですから」

男「けど、」

ヒトガタ「--!!」


男「あなたはもう、人じゃないから」


 ほんの少し、力を入れて、

 突き飛ばした、人の形をしたそれは、

 ふらりと、外へ、


ヒトガタ「--あなたも、嘘つきね」


 出て、そして、


「ありがとう」


 炎に包まれ、崩れた。


男「……はは、バレてたか、」


 視界が歪むのは、泣いているからか。
 それとも、この熱さのせいか、


男(俺が弱虫なら、あいつは強虫か……?なん、て……)


 ふらりと、身体が傾ぎ、


男(ほんとに……熱いや、)


 男は、倒れた。






 -
 ---
 -----

もう終わりなのにまた今日も駄目だった。寝る






 --暗闇の中。

 誰かが必死に呼んでいるような気がして。


ウルガモス『男!男!!』モフモフ

男「----」

 目が覚めた。

男「…………」

ウルガモス『起きろよ!!起きてくれよ!男……!!』モフモフ

男「…………すっげぇモフモフ……」

ウルガモス『!!……おまっ!馬鹿、何がもふもふだよ!心配させんなよ馬鹿やろぉおお!!!』モフモフ

男「死なないって、言ったじゃんか」

ウルガモス『……だって、俺、失敗したんだ、気付いてて止められなかった』

ウルガモス『ポケモンがいたんだ、……あの人間の女を、助けようとしてた、』


ウルガモス『ただ動くの黒い塊のはずなのに、俺』

男「--女さんが、来たんだ」

男「あの人は、きっと、ポケモンが好きだったと思う」

男「女さんを生かそうとしていたあれは、女さんのお友達ってやつだったんじゃないかって、思っちゃってさ」

男「もちろん、俺の思い過ごしかもしれないけど」

男「……あれで、良かったんだよな」

ウルガモス『……あの人の、望み通りにはなっただろ……』

男「…………」

ウルガモス「……………」

男「あ、朝日だ。夜が明けたな」

ウルガモス『おう』

男「凄いな、一面焼け野原。流石だよお前、一定範囲をここまで綺麗に燃やすなんて」

ウルガモス『何を今更、俺の実力はわかってたんだろ?褒めても何も出ねぇぞ!』

男「はは、ははははは!……あー、なんか、一生分の怖い経験した気がする」

ウルガモス『同じく』


男「……俺、生きてる。お前のおかげだよ、ありがとな」

ウルガモス『お前も、生きててくれて、ありがとう』

男「……さて、旅は終わりにしよう、帰るか、ウルガモス!」

ウルガモス『直帰だ直帰!やっぱり寝るのは慣れた自宅が一番だ!』

男「あ、そうだ」

ウルガモス『ん?なんだよ』

男「一箇所だけ、寄り道したい。あれ食べに行こうぜ」

ウルガモス『!?まさか、ヒウンアイスか?食う食う!!』

男「そ、お前が好きなのを、な」











 end



 エンドロール後

 劇場 外



女性客A「ウルガモス可愛いかったね!」

女性客B「あの子絶対女の子よ!!始終ぷひぷひ凄く可愛いかったぁ!!」

女性客C「わかんないわよ?あんなに可愛いプリンやエネコにも男の子はいるんだから!!」



父(まさかグロシーンありなんて……!子供と見る映画じゃなかった……!!)

少年「ねぇねぇパパ、ウルガモスって何が好きなのかな?何食べて帰るんだろう……」

父(良かった、案外ケロッとしてる!ありがとうもふもふポケモン!)

父「そうだなぁ……ウルガモスは虫タイプだし虫タイプが好きな物が好きなんじゃないかな」

少年「えー!そんなんじゃわからないよ!」


緑髪の青年「ヒウンアイスだよ」

緑髪の青年「彼が好きなのはヒウンアイスだ」




 後日
 ポケウッド 某所



男「ウルガモスー、お前の好物届いたぞー。ファンからの差し入れだってさー」

ウルガモス「ぷひぷひ?」
ウルガモス『まさかヒウンアイスか!?』

男「お前、さては劇中でヒウンアイス好きだってアピールしたな?そうじゃないと、いくら昔流行ったからってこれは来ないだろ」

男「お前のヒウンアイス好きは、俺と、友達何人かしか知らないし」

ウルガモス『……ははっ!もしかしたら案外いるのかもな』


ウルガモス『俺達ポケモンの言葉がわかる人間はさ!』








男「でも、一個な」


ウルガモス『なんでだよ!!沢山あるんだろ!!』バッサバッサ

男「ばーか、これがお前のヒウンアイス好きを周りに言わない原因だろ?」

男「一個以上食ったらすぐ体調崩すくせに」

ウルガモス『な、それは……そんな……ヒウンアイス……こんなに山盛りなのに……!!』

男「お前、デリケートな奴だよなー」クスッ

ウルガモス『ちくしょおおお!!』









 終わり


ポケウッドは良い茶番。最初のと赤い霧の奴しかやってないから他やりつつシナリオ進めるわ。
付き合ってくれてありがとう


面白かった、ウルガモス可愛い

ポケモンやったことなかったが面白かったぜ、乙

乙!
ぜひほかのやつも

おつ

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