○このスレは所謂、基本ギャグな京太郎スレです
○安価要素はありません
○設定の拡大解釈及び出番のない子のキャラ捏造アリ
○インターハイ後の永水女子が舞台です
○タイトル通り女装ネタメイン
○舞台の都合上、モブがちょこちょこ出ます(予定)
○雑談はスレが埋まらない限り、歓迎です
○エロはないです、ないですったら(震え声) 多分
○このスレは佐々木スレじゃありません
【咲ーSski】京太郎「今日から俺が須賀京子ちゃん?」【永水】
【咲―Sski―】京太郎「今日から俺が須賀京子ちゃん?」【永水】 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1392206943/)
【咲―Sakj】京太郎「今日から俺が須賀京子ちゃん?」春「そのに」ポリポリ【永水】
【咲―Saki―】京太郎「今日から俺が須賀京子ちゃん?」春「そのに」ポリポリ【永水】 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1396054628/)
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1402850032
京太郎「っ!?」
瞬間、視界の端に映った春の後ろ姿に思わずびっくりしてしまう。
ただでさえ布地の少なかったボトムは、どうやらTバック状になっていたらしい。
お陰でぷりんとした安産型のお尻が丸見え状態で思考もピタリと止まってしまう。
正面に負けず劣らず魅力的なその光景に俺の視線も吸い寄せられていった。
春「…京太郎のエッチ」
京太郎「……うあ」
そんな俺の視線に春が気づかないはずがない。
風呂場の扉を開ける瞬間、ポソリと漏れた春のセリフは恥ずかしそうなものだった。
耳まで真っ赤になりながらのそれは俺がその後姿をガン見してしまっていたからだろう。
そう思うと胸の中に羞恥心が溢れだし、そのまま床の上でのたうち回りたくなる。
京太郎「…はぁ」
だが、その衝動に身を任せる前にやらなければいけない事が沢山ある。
そもそも現時点で小蒔さんや湧ちゃんを待たせている以上、俺が優先するべきは自分の事よりも彼女達の事なのだ。
今だ恥ずかしさはなくならないし、若干、自己嫌悪めいたものも感じるが、今は準備に集中するべきだろう。
京太郎「(とは言え、その準備もそれほど時間が掛かるって訳じゃないんだけどさ)」
既にトランクス姿に着替えた俺は今すぐにでも風呂場へINしても大丈夫な格好ではある。
だが、トランクスからムスコが浮き出ているのを指摘された今、そのままの状態で入る事は出来ない。
とは言え、周囲を見渡してもそれを防いでくれるような便利なアイテムなどあろうはずもなかった。
俺に出来る事と言えば、出来るだけシルエットが浮き上がらないように厚手のバスタオルを一枚、腰に巻くくらいだろう。
それだって水に濡ればほとんど効果はないだろうが、それでもないよりはマシなはずだ。
京太郎「(さて…準備は完了。だけど…)」
既にお風呂場に入っている三人は水着姿であり、プールに行く時のそれとさほど変わりがない。
まぁ、約一名は決してプールにだって着ていけないような水着を着てはいるが、一般的に風呂に入る時のように裸と言う訳ではないのだ。
だが、俺の目の前にある曇りガラスの向こうがお風呂であり、そこに見目麗しい三人の女の子がいるとなるとやっぱりどうしても胸がドキドキしてしまう。
女の子との混浴と言うのは健全な男子高校生にとって、それだけ破壊力の大きなイベントなのだ。
京太郎「すーはー……よし」
そのイベントを乗り越える為に必要なのは正常心だ。
どんなハプニングであろうと穏やかな心で受け止めれば問題など起こらない。
そう、大事なのは俺自身がKoolである事だ。
Koolであれば、水着やおっぱいなんて怖くはない。
どんな事だって乗り越えていけるんだ…!!
小蒔「わぁ…春ちゃんの水着とっても大胆ですね」ジー
春「あ、あんまり見られると恥ずかしい…」
小蒔「そうなんですか…じゃあ、あまり見ないようにしますね」プイッ
湧「でも、春さあ、そん水着ずれたりせんの?」キョトン
春「多分、大丈夫だと思う…」
湧「でも、京太郎さあが来る前にテストした方が良くない?」モミ
春「…テスト?」
湧「ん。こんな感じに…!」モミ
ガララッ
春「ひゃあっ」ビクッ
湧「おー…」モミモミ
春「わ、湧ちゃ…んっ」ビクンッ
湧「春さあのおっぱい、やらしー」モミモミ
春「湧ちゃん…やめ…っ」フルフル
京太郎「……」
び、びーくーる。
Koolな男はこ、こここの程度で決して狼狽えない。
なぁに、扉を開けた瞬間、目の前でちょっと百合ん百合んな光景が広がってただけじゃないか。
今どき、漫画でも滅多にないような美少女同士の絡みがあったくらいで俺の冷静さはまったく揺るがない。
湧ちゃんが言っている「やらしい」も鹿児島弁で「柔らかい」の意味で、別にエッチって訳じゃないんだから。
クールな俺はその言葉を真に受けて、触ってみたいとかそんな事を思ったりしない。
絶対しないんだ!!
湧「あ、京太郎さあ」スッ
春「はぅ…」カァァ
京太郎「よ、よう。お待たせ」
湧「んー!大丈夫!」
にこやかに俺へと笑う湧ちゃんとその横で恥ずかしそうに顔を背ける春。
けれど、そんな春に対して何を言ってやれば良いのかまったく分からなかった。
勿論、それはさっき彼女を拗ねさせてしまったって言うのも無関係ではない。
だが、そんな事を半ば忘れてしまうくらいににさっきの痴態は衝撃的だったのだ。
恐らく俺にだけは絶対に見られたくなかったであろうそれを見てしまった時点で、俺が何を言っても春を傷つけるだけだろう。
春「き、京太郎…」
京太郎「お、おう」
春「そ、その…えっと…ち、違う…から」
京太郎「え…?違うって…何が?」
春「き、気持ち良くなんかなってない…から…」
京太郎「……はい?」
春「わ、私が一番、気持ち良いのは京太郎の手だから…その…ち、違うの。私、ちょっと敏感なだけで別に淫乱とかじゃ…」フルフル
京太郎「わ、分かってる!分かってるから!!大丈夫だ!!」
正直、訳が分からないけどな!!
と言うか、一体、誰がこの状況で春の言いたい事が分かると言うんだろうか。
さっき湧ちゃんに胸を揉まれていた流れからして、春にとってそれは決して触れてほしくないもののはずだ。
だが、春はまるで言い訳をするように自分から話をそっちに持っていこうとしている。
どうやら俺に淫乱と思われたくなかったみたいだけれど…でも、さっきの流れでそう思う奴なんてまずいない。
それでもこうして必死に言葉を並べ立てる辺り、よっぽど俺にそんな風に思われたくなかったのだろうか。
京太郎「(きっと恥ずかしさで錯乱しているんだな…)」
多分、春にとってさっきの痴態はそれだけ恥ずかしい事だったのだろう。
言っている事も普段の春らしくない支離滅裂なものばっかりだからな。
まるで俺が春の胸に触った事があるようなその言葉は彼女が錯乱している証だ。
まあ、夢でならば確かに一度触った事はあるけれども、あれが現実だなんてまずあり得ない訳だし。
春「ぅー…」
京太郎「あー…そ、その、とりあえずさ。風呂入って温まろうぜ?」
湧「賛成ー!」
小蒔「そうですね。折角、四人揃った訳ですし」
この話題を続けると春にとっても可哀想だし、何より、皆は俺の事を待ってまだ風呂にも浸かっていないみたいだからな。
温泉の湯気が立ち込めるこの浴室は温かいが、水着姿で冷えたであろう身体を芯から温めてくれるほどじゃない。
ただでさえ、俺がもたついていた所為で二人には寒い思いをさせていた訳だから、まずは暖まれるようにしてあげないとな。
京太郎「それじゃ俺は先に髪洗ってますんで…」
小蒔「えー」
湧「えー」
京太郎「えーって…仕方ないじゃないですか」
昔のお風呂さながらに床や壁が檜で出来ているこの浴室はかなりの広さがある。
その奥にズンと広がる浴槽もかなりのもので、四人くらいなら割りと普通に入れそうだ。
だが、そうやって四人一緒に入ってのびのびと腕や足を伸ばせるほど広い訳ではないのである。
流石に幾らか肌は触れ合ってしまうだろうし…そうなると俺の中のケダモノも否応なく刺激されてしまうのだ。
最後には暴走して小蒔さん達を押し倒す、なんて事はまずないと思うが、勃起くらいはしてしまうかもしれないし。
その時、俺がどれだけの辱めを受けるかを考えたら、四人一緒に浴槽へINなんて出来ない。
小蒔「皆で詰めれば京太郎君もいけますよ」
湧「じゃっとよ。京太郎さあもいっどきはいろーよー」
京太郎「いや、詰めなきゃいけないって言うのが実は問題でして…」
小蒔「でも…それじゃあ皆と一緒にお風呂に入ってる意味がないじゃないですか…」シュン
湧「うん…そいじゃ別々にお風呂入っちょるのと変わらんよ」ジィ
京太郎「う…それは…」
確かにそうやって入れ替わるように入るなんて混浴とは言えないのかもしれない。
少なくとも小蒔さん達が楽しみにしていたものと俺が言っているものはかけ離れているんだろう。
実際、今も二人は期待を裏切られた所為かとても寂しそうな顔をしていて…見ているだけでも胸が痛む。
ここで譲歩すると大変な事になりそうな予感しかしないけど…でも、ずっと待っててくれた二人をこのままにはしておけないしなぁ…。
京太郎「…分かりました。それじゃご一緒しますよ」
小蒔「本当ですか?」パァ
京太郎「えぇ。男に二言はありませんよ」
湧「えへへ、やった!京太郎さあ、大好き!」
京太郎「はいはい。俺も湧ちゃんの事大好きだよ」
お風呂に一緒に入る程度で貰える大好きだけど、嬉しい事には変わりがない。
湧ちゃんはおっぱいはないけれども、とても可愛くて良い子だって言うのは分かっているんだから。
おっぱいが悲しくなるくらい貧しいとは言え、そんな子に大好きと言われて悪い気はしない。
出来ればもうちょっとおっぱいがあると嬉しいものの、思わず顔が緩んでしまう。
小蒔「じゃあ、ここにどうぞ!」
京太郎「はい。お邪魔しますね」
小蒔さんの勧めに従って足を入れた浴槽は程よい暑さだった。
決して温くもなく、さりとて熱い訳でもない絶妙な温度。
それに思わず吐息が漏らしてしまいそうになるのを我慢しながら俺は腰に巻いたバスタオルを解き、縁へと掛けた。
そのまま一歩二歩を浴槽の中を歩き、そのままゆっくりと身体を沈めていく。
京太郎「あ゛ー…」
湧「えへへ、どう?」
京太郎「ん…やっぱ気持ち良いわ」
京太郎「温泉から引っ張って来てるのは伊達じゃないよなぁ…」
この辺りは火山活動が活発な所為か、温泉が比較的湧きやすい地形なんだそうだ。
このお湯もお屋敷の近くに湧いた源泉からそのまま引っ張ってきているらしい。
俺が稽古や練習なんかで大変なのに、翌日に疲労を残さずに済んでいるのは巴さんのマッサージとこの温泉のお陰だろう。
実際、今もこうして浸かっているだけで足の先からじんわりと疲労が溶けていくように感じるからなぁ。
いかにも効能がありそうなくらいに白濁したお湯は決して伊達ではないのだろう。
京太郎「足も十分伸ばせるくらいあるし…贅沢な風呂だよなぁ」
小蒔「そうなんですか?」キョトン
京太郎「まぁ、俺から見たらの話ですけどね。普通の家はこんなにでっかい浴槽はないですし」
湧「みんなで一緒に入れるからあちきはふてーお風呂嬉しよ!」
京太郎「はは。そうだな。風呂はでっかい方が気持ち良いもんな」
京太郎「でも、流石にこのサイズを一人ではちょっと寂しいぜ?」
小蒔「ふふ、それでは私達も入りましょうか」
湧「うん!」
京太郎「よし。それじゃ俺は端っこに…」
小蒔「ダメですよ!京太郎君は真ん中です!」
湧「今日は京太郎さあが主役だから!」
京太郎「そ、そういう主役にはあんまりなりたくなかったかなぁ…」
湧「じゃあ、姫様…?」
小蒔「えぇ。仕方ありませんね」
湧「あい!そいじゃ実力行使ー!」ドボン
小蒔「実力行使ーです!」チャプン
京太郎「おわっ!」
そんな事を考えている間に二人が俺の両脇に入ってくる。
湧ちゃんは飛び込むように右側に、小蒔さんはあくまでもお上品に左側に。
対照的な入り方をする二人ではあるが、その強引さは変わらない。
俺が何かを言う前に二人は檜の浴槽に腰を下ろし、俺の両脇を捕まえていた。
小蒔「えへへ、挟んじゃいました」ニコ
湧「捕まえたよー」ニコー
京太郎「あー…もう。…仕方ないなぁ」
こうして俺へと身を寄せる二人を説得できる材料は俺の中にはなかった。
勿論、こうやって美少女が両脇から密着するとただでさえ危険な俺の理性が余計にやばくなると言う理由はある。
だが、それを二人に納得して貰う道のりは遠く、また俺には納得させられる自信もない。
それにまぁ、やっぱり美少女にこうして密着出来るのもかなりの役得げふげふん。
京太郎「(それにもう片一方が湧ちゃんなだけ楽だ)」
これが両側に春と小蒔さんが並ぶとかなりやばかった。
このお屋敷の中でも二番手争いを続けるダブルおっぱいは間違いなく俺の理性にダイレクトアタックしてくるのだから。
自他共に認めるおっぱい好きの俺にとって、それは天国であると同時に地獄だ。
常に欲望や本能と戦い続けなければいけないその苦しさを思えば、これはまだマシな方だろう。
春「わ…私も入る」
京太郎「…その、大丈夫か?」
春「も、勿論…大丈夫に決まってる…」
…そうは見えないんだけどなぁ。
未ださっきのショックから立ち直れていないのか、顔が真っ赤なままだし。
声もまだまだどもり気味で、到底、平静に戻れているとは思えない。
だけど、本人が大丈夫だって言っている以上、俺に何かしてやれる事はないからなぁ…って。
春「……ふぅ」
京太郎「ちょっと待て」
春「ん…どうかした?」
京太郎「どうかした、じゃねぇよ」
そうやって一息吐きながら浴槽に入ってくるのは良い。
ゆっくり足の先から入ってくるのがマイクロビキニの魔翌力もあってすげードキドキしたけど、まぁ、それも良しとしよう。
だが、なんで他にもスペースが空いているのにも関わらず、俺の真正面から足を入れて、そしてそのまま座るのか。
俺の膝上辺りに春の腰があるから対面座位って程じゃないが、流石にこの距離は近すぎやしませんかねぇ!?
小蒔「あ、正面もあったんですね…盲点でした」
湧「ん…ちっと羨ましいかも…」
春「ふふん」ドヤァ
京太郎「いや、そこはドヤ顔する所じゃないからな?」
と言うか、幾ら膝の上とは言っても、そこは男の足なんだ。
そんな所にマイクロビキニ姿で腰を下ろしたら色々とやばい事になるのを春は分かってくれているんだろうか。
実際、今も膝の上に春の柔らかい太ももやむっちりしたお尻の感触を感じて、結構、理性が揺れているからな!!
小蒔さんの手前、全力で平静を装ってはいるけれども、春みたいな美少女のお尻や太ももが密着してると思うと下半身にもズキズキ来てですね!!
俺はおっぱい好きである前に健全な男子高校生なんだから、おっぱいは勿論の事、お尻や太ももにだって弱いんだよおおおお!!!
春「…京太郎」ソッ
京太郎「う…」
その上、春は俺の名前を甘く呼びながら、そっと首元に腕を絡めてくるんだから質が悪い。
勿論、俺の上に座っているだけだとバランスが悪いから他に拠り所が必要だって言うのは分かっている。
だが、春ほどのおっぱいさんが俺の膝の上に座りながら、腕を絡めてくるのに冷静になれるはずがない。
まるで恋人のようなそのシチュエーションに心臓はドキドキしっぱなしで全然、落ち着かなかった。
京太郎「は、春…?」
春「…ドキドキ…する?」
京太郎「し、しない訳ないだろ」
小蒔さんよりも少しだけぽっちゃりとはしているとは言え、春は誰もが認めるような美少女なのだ。
そんな女の子が俺の膝の上に座っているのだからドキドキするのが当然である。
寧ろ、このシチュエーションでまったく平気だなんて言う奴は間違いなくホモだ。
例えインポであってもこの状況ならば心のムスコが反応するだろう。
春「そう…嬉しい」ギュッ
京太郎「ふぉあ!」
湧「あは、京太郎さあ変な声出しちょるー」
仕方ないじゃん!
だって、春がいきなりこっちに抱きついてきたんだからさ!!
さっきまでの腕を絡めるようなそれではなく、完全に俺へともたれかかっている。
お陰でそのやらしい…いや、柔らかいおっぱいが俺に当たってふぉ…ふぉおお…!!
ぷにぷにって柔らかくてすべすべしてて…や、やばいくらい気持ち良くって…!
小蒔「良いなぁ…」
春「…今はここは私の特等席です…姫様でも譲れません…」
小蒔「仕方ないですね…羨ましいですけど我慢します」
京太郎「そ、そんな風に羨ましがる必要はないと思うんですがっ!」
小蒔「でも、今の二人はとっても仲良しさんなんですもん。やっぱり羨ましいです」
湧「うん。ラブラブー」ニコー
春「わ、湧ちゃん…」カァ
京太郎「いや…これはラブラブとはあんまり言えない気がするぞ…」
確かにこうして男の膝に乗って向かい合わせになるなんて恋人でもなきゃやらない事だろうけどな。
でも、俺と春は恋人同士でも何でもなく、ついでに艶っぽい感情もまったくないのだ。
格好はバカップルそのものだが、悲しいかな、ラブラブとは言えない。
春がさっき言っていた事が本心なのであれば、これは寧ろ、俺を辱める為のお仕置きの一種なのだ。
流石に仲が悪いとまではいかないが、ラブラブだったり、羨ましがったりするようなものじゃないと思う。
sagaって無いぜ
春「…」ツネッ
京太郎「痛ぇ…!な、何するんだよいきなり…」
春「…知らない」プイッ
小蒔「どうかしたんですか?」
春「いえ…なんでもないです」
小蒔「何でもないんですか」
春「はい。何でもありません」
小蒔「でしたら、あんまり京太郎君にそういう事しちゃいけませんよ?」
小蒔「ほら、ここちょっと赤くなっているじゃないですか」
そうお姉さんぶって春に注意する小蒔さんはとても可愛らしいものだった。
瞳を嬉しそうに輝かせながら、何処か自慢気に俺の胸板を指さしている。
このお屋敷の中では年齢的に上の方に位置するとは言え、関係上は皆の妹みたいなものだからなぁ。
きっとこうやって誰かに注意する、と言うのが彼女の中では凄い新鮮なのだろう。
小蒔「……」ツンツン
京太郎「え、ちょ…何をやってるんですか」
小蒔「あ、ごめんなさい。京太郎君の胸なんだか硬くて…」
京太郎「そりゃまぁ俺は男ですから」
悲しいかな、女の子のような柔らかいおっぱいは男にはないのである。
柔らかおっぱいがあれば、何時でもこの春のようなむっちりした魅力的な感覚を楽しめるのに…!
まぁ、だからと言って、流石に工事するつもりはまったくないけれどさ。
日頃から女装するようになったし、女言葉も違和感なく使えるようになってはいるが、そこまでするつもりは俺にはない。
春「…それに京太郎は鍛えてるから」
小蒔「なるほど…つまりこれは京太郎君だからこそ、なんですね」
小蒔「ふふ、なんだか逞しくて頼りがいのありますね」
京太郎「そこまで言われると流石にちょっと照れるんですが…」カァ
湧「あはは、京太郎さあ、顔真っ赤ー」
京太郎「し、仕方ないだろ…んな事言われたの初めてなんだから」
多分、俺との付き合いが一番長い咲にだってそんな事は言われていない。
あいつの場合、寧ろ自分が俺の面倒を見てるんだってそんな風に思ってた節があるからなぁ。
実際に俺があいつに対しておんぶ抱っこだった部分はあるし、俺の事を頼りがいがあるだなんて思ってはいなかったんじゃないだろうか。
それでも何だかんだ言って上手くやっていた辺り、俺達は相性が良かったのかもしれない。
…今更、それに気づいても無意味なものだけれど。
小蒔「そうなんですか?京太郎君って結構、頼られている風に思えるんですけれど」
春「…どっちかって言うとお人好し過ぎて利用されてる?」
京太郎「う…そんな悲しい事言うなよ」
ただ、流石に利用されている、って言うのは相手に悪いが、まぁ、俗にいう『良い人』みたいな扱いが多いんだよなぁ。
特に女の子に対してはどれだけ頑張っても、精々が『良いお友達』レベルである。
咲を始めとする麻雀部の皆からも、仲間や友人としか思われていなかったみたいだし…俺ってばそういう星の下に生まれてしまったんだろうか。
湧「でも、あちきはそげな京太郎さあが好きだよっ」
京太郎「湧ちゃん…」
湧「だいかの為にいごける京太郎さあはわっぜか素敵!」
京太郎「あぁ、ありがとうな」ナデナデ
湧「えへへ」
でも…そういう星の下に生まれなかったとしたら、きっと湧ちゃんにこういう事を言われたりしなかっただろう。
そう思うとその生まれも決して悪くはなかったんじゃないかな。
まぁ、勿論、男としては女の子にモテるか否かって言うのはとても大事な問題ではあるけれども。
しかし、こうして俺の事をそういう感情抜きで素敵だと言ってくれる子がいるって言うのは、きっととても得難い事だろうからな。
小蒔「私も今の京太郎君の事好きですよ。頼りがいがあって、とっても優しいですから」
小蒔「それに料理も上手で、お掃除も得意で、凛々しくて、キラキラしてて、それで…」
京太郎「す、すとっぷ。すとっぷです」
小蒔「え…だ、ダメでしたか?」
京太郎「いえ、ダメじゃないんですけど…」
そこまで好きな要素を並べられると流石に恥ずかしい。
勿論、小蒔さんがそれを善意で言ってくれている事くらい俺にだって分かっているけれどさ。
だけど、その言葉の一つ一つがあんまりにも純粋すぎて、照れくさいと言うか。
聞いているだけで胸の内がムズムズして、どうしても耐え切れなくなってしまった。
小蒔「まだまだ一杯あるのに…」
京太郎「き、興味はありますけど…今までので十分、小蒔さんの好きな気持ちは伝わってきましたから」
小蒔「本当ですか?」
京太郎「えぇ。とっても嬉しいですよ。ありがとうございます」
まぁ、好きと言っても、それが異性に対するそれでない事くらい分かりきっている訳だけれども。
こうして平然と混浴する辺り、俺は小蒔さんに異性として見られていない事は確定的だからなぁ。
それは分かっているんだが、どうにも自意識過剰な男の意識が「もしかしたら?」とついつい考えてしまう。
そんな馬鹿な考えが誤解になったりしないよう、彼女の好きはあくまでも家族や友人に対するものでであると心に刻んでおかないとな。
湧「京太郎さあ、モテモテじゃっとー」クスッ
京太郎「はは。確かに両手に花…いや、春もいるから両手両足に花って所だな」
春「…私もちゃんと花として見てくれてるの?」
京太郎「当たり前だろ。つか、改めて聞くなよ、恥ずかしくなるから」
どれだけ悪友っぽいやりとりをしても、俺にとって春はとても可愛らしい女の子なのだ。
流石に恋愛対象として見ている訳じゃないが、一緒にいて楽しいだけではなく花があると感じるのは事実である。
こうやって時たま突拍子もない行動に出られて困る事もあるが、そんな所も魅力的に思える春を花として意識しない理由なんて何処にも見当たらなかった。
春「…そう」ニコ
小蒔「わぁ…春ちゃん嬉しそう」
春「ん…私、今、とっても嬉しいです…」ギュッ
京太郎「ちょ…春。抱きつきすぎだって」
そうやってずっと抱きつかれるとムスコがやばくなってくるんだよ!!
今はまだ我慢出来てるけど、春のおっぱいはとっても魅力的だから…さっきからムラムラが高まり続けていると言うか!!
そもそも童貞でエロい事に興味津々な年頃の男子高校生の上に美少女が乗っかって、水着姿で抱きしめている時点で、理性は悲鳴をあげているんだ。
この上、まださらに力を込めて密着して来られると流石にムスコがムクムクとですね…。
春「京太郎が嬉しすぎる事言うのが悪い…」
京太郎「俺の責任かよ。でも、それならそれで離れてくれないと…」
春「嫌…」
京太郎「ここまでされると俺も色々とやばくなってくるぞ…?」
春「だって私、今、きっと凄くしまりのない顔をしてるから…京太郎にはこんな顔見せたくはないし…」
湧「えー、どげな顔しちょるの…?」
小蒔「ふふ、本当に嬉しそうな顔ですよ。黒糖食べてる時よりもずっと」
春「は、恥ずかしい…」
京太郎「うー…」
実際、春はそれを見られるのがあんまりいい気分ではないのだろう。
小蒔さんの言葉に返す彼女の声は本当に照れが混じっているものだった。
流石にさっき湧ちゃんに胸を揉まれていた時ほどではないが、自分のキャラではないと分かっているのだろう。
俺に抱きつく春の手はさらに力が篭もり、その柔乳をこれでもかとばかりに押し付けてくる。
京太郎「でもさー…それはそれで卑怯じゃねぇか?」
春「知らない…」
京太郎「はーるー…」
春「…嫌。こんな顔見られたらきっと幻滅されちゃうし…」
京太郎「しないっての。春が大体、どんな奴かなんてこの半年で分かってるし」
春「…それでも嫌」
どうやら春はそんなに俺に今の顔を見られるのが嫌らしい。
普段は押しが強いながらも、はっきりと言えばこっちの要求を受け入れてくれる子だから、あまり頑固ではないと思うんだけど。
…でも、ここまで頑なになられると、ちょっとゲスい考えかも知れないが、今の春の顔がどうしても見たくなってくる。
こうしている間に俺は魅力的な春っぱいの所為でムスコへの血流が激しくなっていってるし…ここはちょっと強硬手段に出てみるか。
京太郎「…仕方ないな」スッ
春「ぇ…?」
京太郎「よいしょぉ」ザパー
春「ひゃぅっ」ビクゥ
春がそう驚くのも無理はない事だろう。
何せ、俺の手はいきなり彼女の身体へと手を回し、そのまま抱き上げたのだから。
しかも、今のこれはお姫様抱っこと呼ばれる色々な意味で特別な抱き方なのだ。
幾ら春と言っても、男女共に特別な思いを抱くお姫様抱っこをされれば狼狽えるだろう。
ましてや、俺は既に浴槽の中から立ち上がっていて、彼女の身体は完全に俺へと依存しているのだ。
俺が少し足を滑らせてしまえばそのまま仲良く風呂の中へドボンしてしまうその態勢は彼女を不安にさせていてもおかしくはない。
春「き、京太郎…!」カァ
京太郎「あんまり暴れるなよ。結構、ここ滑りやすいからな」
春「そ、それは……で、でも…」
春の身体は思ったよりも遥かに軽かった。
見た目もあんなにむっちりしてて触れる手からはやわらかな感触が伝わってくるのにまったく重くない。
流石に初美さんくらい軽い、と言うのは大げさだが、小柄な彼女と大幅な違いは感じられなかった。
色々あって身体を鍛え直した俺ならば、今の態勢で一時間くらいは余裕でいられそうなくらいである。
京太郎「(まぁ、流石に一時間も抱き上げていると一部分が元気になりすぎて大変だからしないけど)」
こうして抱きあげても春の肌が触れるのは変わらない。
いや、拠り所を完全に俺へと預けきっている分、彼女の身体はさっきよりも俺と密着していると言っても良いだろう。
流石にそのむっちり柔らかなおっぱいから感じる圧力は減ったが、それを抜きにしても春の身体は魅惑的だ。
正直、このままずっと抱き上げているだけでもムスコが元気になってしまいそうである。
とりあえず見直し出来たのはここまでです
また来週に続き、というか混浴編の最後まで投下出来るようにします
待たせたのにあんまりエロくなくてごめんなさい…!
おつおつ
とりあえず一つだけ確実に言えることがある、この状況で耐えられてる時点で京ちゃんはホモ(確信)
乙です
愛に生きる女…春…報われる日は何時なのか
確かに京ちゃんはハギヨシさんの事を世界で一番尊敬しているけれどホモじゃないよ!
ここで耐えられてるのは、耐えられなかったら即死亡って思い込んでいるからだよ!!
こんな特殊な状況じゃなきゃ、間違いなくとっくの昔に襲ってます
後、わた原村和さんは咲さんに一筋だから百合ハーレムとかそんなオカルトはありえません
そういうのはぶちょ竹井さんの専売特許ですから
乙です
おつ ここが極楽か・・・!
しかし春はゴリ押しするね。ヒロイン力が高まる
乙
チン長は生乳スレと同じくらいなのかな?
大っきいちんちんに驚く女の子フェチだから凄く俺得
おつー
あんな可愛い娘に抱きつかれてなんでおっきしないの?不能なの?
我慢でどーにかなるんならその方法教えてよぉぉぉぉぉぉぉ!!
乙
京太郎が突然転校して傷心しているだろう優希ちゃんのことを放置して、咲さんにかかりっきりな原村さんに失望しました
ちゃちゃのんのファンやめて部長のファン(パシリ)になります
春の魔性の女っぷりがやばい事になってる今日この頃
これここでエンディングで良いんじゃないかな?とか思い始めました
それはさておき、春がマイクロビキニ買いに行くところの小ネタ了解です。
多分、22時くらいから久しぶりに即興で始めます
>>24
基本的に私が書いてるSSの京太郎のチン長は同じくらいです
おもちでもこっちでも京太郎の京ちゃんは暴れん坊です
>>25
ハギヨシさんに弟子入りすれば欲望をコントロールする術も教えてもらえるんだよきっと
期待
いつパンツ脱げばいい?
ふふ…どさくさに紛れて京太郎との混浴を約束しちゃった…。
正確に言えば相手は京太郎ではなく、京子だけど…彼が約束を無碍にするはずがない。
例え、京子の時にした約束でも、それを持ち出せばなんだかんだ言って京太郎は受け入れてくれるだろう。
彼は結構流されやすい人だし…まぁ、そんな所も可愛いのだけれど。
―― だからこそ…全力でいかないと。
京太郎があんなに簡単に頷いたのはきっと水着着用だと思い込んでいるからだろう。
或いは、正確な日にちは決まっていないから、いくらでも先延ばしに出来るとそんな風に考えているのかもしれない。
だけど、私にそんな手心を加えるつもりはまったくなかった。
やるのならば全力で…それこそ裸での混浴を勝ち取るくらいのつもりじゃないと。
それくらいじゃなきゃ、あの流されやすくて鈍感な京太郎が私のことを意識してくれないだろう。
―― …も、勿論、恥ずかしいけど…でも…。
彼は私にとってとても大事な人だ。
ただの恩人である以上に、一生を捧げなければいけない人。
勿論、それは未だ初恋を引きずっているっていう事も無関係じゃないのだろう。
滝見と言う家の柵だって決して無視出来るものじゃない。
だけど…ソレ以上に再会した彼は格好良くなって…逞しくなって…強くなっていたんだから。
…二度目の恋に堕ちちゃっても…仕方ないじゃない。
悪いことは言わないからパンツは履いとけ
―― 姫様には負けたくない…。
勿論、姫様はまだ京太郎の事をそういう意味で意識してはいない。
姫様にとって彼はただのお友達の一人であって、大事な家族でしかないのだろう。
だが、いずれそれが変わってくる…と思うのは、彼に恋する乙女の欲目だろうか。
どちらにせよ、私にとって一番、警戒しなければいけないのは主である姫様だった。
―― だから…出来るだけ今の間に差をつけておきたい…。
姫様が本気になった時、私にはどうする事も出来ない。
家柄にしても、契約にしても、私はそれを覆すだけの力はないのだから。
何時か私は結納をあげる二人を遠くから見ていなければいけないのだろう。
……そんな事は分かってる。
分かっているからこそ…私は今と言う時間を…まだ彼の【一番】でいられる時間を出来るだけ活かさなければいけないんだ。
―― …でも、色々と難しい。
京太郎は流されやすい以上に鈍感である。
この前、襲われる覚悟で迫っても、彼は最後まで私の気持ちに気づいてはくれなかった。
まぁ、アレは私も迫り方が性急過ぎたと反省しているけれど…ちょっと筋金入り過ぎではないだろうか。
そんな彼を意識させるのは本当に大変で…そしてちょっとだけ楽しい。
―― …うん。とりあえず…混浴は確定事項として。
後はそれをどうやって演出するかだ。
勿論、ベストは裸で入る事だが、それはきっと周りの皆が許してはくてない。
姫様や湧ちゃん辺りは味方につけられるだろうが、明星ちゃんは無理だろう。
他にも卒業した霞さん達も間違いなくストップを掛ける。
アレでいて引くべきラインに敏感な初美さんも私を止めるはずだ。
―― …だから、次善の策として…水着の新調はしておいた方が良い。
私が今、入るのは去年買った白いワンピースの水着だけだ。
元々、私はあまりスタイルの良い方ではないし…露出するのは好きじゃない。
でも、それでは京太郎を振り向かせられない事は今までの事から目に見えていた。
彼は目に見えて分かるくらい大きなおっぱいが好きなのだから…ワンピースよりもバストサイズを強調するビキニじゃないと。
―― そうと決まれば即行動…。
GW前の今、まだ水着の売り出しは本格的なものじゃない。
GWが明ければ話は別だが、専門店でもない限り、表には出てこないだろう。
だが、混浴の話は何時になるか分からず、下手をしたら明日にその話が出てくるかもしれない。
既に結論は出ているのだから、お屋敷の中にこもっている理由はないだろう。
せっかくの休日なのだから、ちょっと遠出をして水着を見に行くべきだ。
初美「あれ?はるる、何処に行くですかー?」
春「……ちょっと買い物に」
お屋敷から一番近い霧島神宮駅から数十分。
ガタンゴトンと電車に揺られてやってきたその場所は人で賑わっていた。
霧島神宮近くとはまた違った若い騒がしさが私はあまり好きじゃない。
出来ればお屋敷で皆とのんびりしている方が好みだ。
―― でも、我儘は言ってはいられない。
お屋敷にはインターネットはなく、家に居ながら水着を買う事は出来ない。
例え出来たとしても、京太郎を誘惑する為の水着には色々と拘っておきたいのが本音だ。
色々と試着して試しておきたいし、やっぱり大事なものを見て触って選ぶのが今の時代でも一番である。
―― …でも、カップル多いな…。
休日の大型モール内にはカップルが一杯いる。
県下随一の大きさを誇るこのモールをデートコースに設定するカップルはやっぱり多いんだろう。
そう言えば初美さんもこの前、ここでデートしたって言ってたっけ…。
―― 私も京太郎とあんな風に…。
腕を組んだり、あーんしたり…服を選んでもらったり。
逆に服を選んであげたり、ちょっぴり意地悪したり、意地悪されたり…。
それで…それで最後には人のいないところでちょっぴりキスなんかしちゃったりして…。
……そんなデートしたら京太郎、どんな顔をするかな?
県予選が終わって色々と一段落したら誘ってみるのも良いかもしれない。
―― …っと、ここだったっけ。
以前、初美さんに連れて来られたそのお店は周りの店とは一線を画した独特の雰囲気がある。
淡いピンク色の電灯で照らされた空間にはいろんな商品が並んでいるが、統一感がまるでなかった。
ランジェリーから服、アクセサリーなどが並ぶそのお店を何屋と呼ぶのか私は知らない。
強いて言うならばアダルト向け ―― ただし、エッチな意味じゃない ―― 商品が並ぶアダルティショップってところだろうか?
―― …やっぱり凄い。
初美さんが良く利用しているだけあって、店内に並ぶ商品は際どいものばっかりだ。
前面がスケスケレースで出来ている下着なんかはまだマシな方で、中には穴が開いたショーツなんかもある。
何に使うのか一目で分かってしまうそれらに顔を染めながら店を見て回れば…。
…あ、やっぱりあった。
秋に初美さんと一緒に来た時にもあったからもしかして…と思ったけど…安心した。
でも…流石に夏に比べると品揃えはあんまり多くないかな…。
他の店ではまだないだろう水着がこうして並べてあるのは嬉しい。
後はこの中から良いデザインを選ぶだけなんだけど……。
―― わ、わぁ…す、スリングショットまである…。
乳首からアソコまでを細長い一枚の布で覆うとびっきりエッチな水着。
そんなものまで並べてある店の水着が普通な訳がなかった。
背中が大きく開いているワンピースや普通のビキニなんかはまだマシな方で、マイクロビキニも多い。
中にはマイクロビキニよりも更に小さいナノビキニと呼ばれるものもあったりして…。
―― こ、これは流石に無理…絶対、無理…。
こんなの着たら流石に京太郎を誘惑するどころじゃなくなる。
下手をしたら痴女として軽蔑されてもおかしくはない。
と、とりあえずスリングショットとナノビキニは選択肢から除外しておこう。
でもワンピースは既に持っているし…後に残るのはマイクロビキニになるんだけど・・・。
―― どれも布面積がすっごく小さい…。
流石にナノビキニよりはマシとは言え、マイクロビキニの名前は伊達じゃないのだろう。
トップだけ見ても乳輪が隠れるギリギリのものが殆どでろくに身体を保護してくれたりはしない。
殆どワンピースタイプの水着しか着たことがない私には、それらはあまりにもハードルが高いものだった。
―― で、でも…これくらいじゃないと京太郎を悩殺出来ないだろうし…。
おっぱいを見せても尚、理性的であろうとした京太郎にはこれくらいじゃなきゃ意識して貰えない。
…ちょっと…いや、かなり恥ずかしいけれど、これらの中から選ばないと。
でも、どんなのが良いんだろう…?
―― …デザインもすっごくエッチなものばかりだし…。
極一部を覆うだけのマイクロビキニならばデザインに大きな差異は出せないと思っていた。
でも、それは私の勝手な思い込みだったのだろう。
その僅かな面積でも異性を誘惑しようと様々に趣向が凝らしてあるのが見て取れる。
―― …あ、これ良いかも…。
そんな水着をドキドキしながら見ていた私が気に入ったのはピンク色のマイクロビキニだった。
局部をハート型の布だけで微かに覆うそれは若干の可愛らしさと、それに負けないエロさを感じる。
異性を誘惑する為に作られたのだと一目で分かるそのデザインが私は結構、好きだ。
こんな水着を着て迫られたらきっと殆どの男性が前かがみになるだろう。
…もっとも、私が迫ろうとしている人は前かがみになっても尚、抵抗しようとするような頑固モノなんだけれど。
―― 後ろもTバックになって…やらしい…。
局部以外は紐しかないその水着は後ろ姿もとっても淫猥なものだった。
まるで隠すものなど何もないと言わんばかりにお尻も丸見えである。
京太郎は会ってすぐに分かるくらいおっぱい好きな人だけど、これだけ露出していたらお尻だって見てくれるはず。
問題は私のお尻が結構、大きいって事なんだけど…安産型って風に見てくれるよね…?
「試着なさいますか?」
春「あ…そ、その…」
い、いつの間にか店員の人が近くに…。
でも、気に入ったと言っても、実際に来てみるとまた別かもしれないし…。
こんな水着を着るのは恥ずかしいけど…でも、一回試着はしておかないと。
もし、サイズが合わない…なんて事になったら泣くに泣けない。
春「…じゃあ…お願いします…」
―― …で、どうしてこうなっちゃったんだろう。
確かに私は試着するとは言った。
言ったけど…なんで私の手の中にさっきのスリングショットやナノビキニがあるんだろう…。
選択肢から除外しておいたはずなのに…無理矢理、店員さんに持たされてしまって…。
確かに恋人を誘惑する為にはこれも良いかもしれないけど…流石にこれは小さすぎだ。
こんなの着たら絶対に引かれてしまう。
―― ……で、でも、まぁ…一回だけ…試してみようかな。
他の人に見られるならばともかく、この試着室にいるのは私だけだ。
折角、持たされた訳だし、一回だけなら着ても良いかもしれない。
買うつもりはないけど…うん、ちょっとだけ…どんなものか試してみるだけだから。
春「…うわぁ」
そう言い聞かせながら着たスリングショットはかなり窮屈なものだった。
デザイン的に致し方無いのだけれど、局部への締め付けを強く感じる。
流石に食い込まないようにクロッチ部分には色々と工夫がしてあるが、圧力ばっかりはどうしようもない。
見た目は開放的に見えるが着ている側としてはかなり窮屈な水着と言うのが正直なところだ。
―― でも…エッチなのは確か…。
こちらの動きに合わせてクルリと歪むひも状の水着。
ほんの少し動けば乳輪が見えてしまうそのやらしさは否定しようのないものだった。
乳輪に当たる部分には布が重ねてあるから乳首が浮き出る事はないが、それでも淫猥さは変わらない。
落ち着いた黒い色合いがまったく意味をなさないくらいだ。
―― こんなの着たら…京太郎にもみくちゃにされちゃう…。
ラインを引くように胸を隠している都合上、腋からの攻撃には無防備なのだ。
京太郎がその気になれば、肌色を晒すこの腋の部分からあっさりと手をいれる事が出来るだろう。
そのまま彼は私のおっぱいを乱暴に揉みしだいて…あの時、してはくれなかった事までしてくれるかも…。
―― ち、違う。今はそれよりも…。
京太郎の事は気になるけど、今、それを考えちゃうと大変な事になる。
ただでさえ保護が薄い水着の中で乳首が勃っちゃったら一目で丸わかりだ。
まだまだ試着するものはあるのだから、今はそんな事を考えるべきじゃない。
それよりも次は…ナノビキニの方に着替えてみよう。
―― こ、こっちはもっと凄いかも…。
私が店員さんに手渡されたそのナノビキニは殆ど布がないものだった。
マイクロビキニでさえあったハート型の布地はなく、局部は紐でしか隠されていない。
いや、これが隠れていると言うのは間違いなく不適切だ。
なにせ、私の乳首の天辺には本当に細い紐が掛かっているだけでその下の乳輪は丸見えなのだから。
―― こんなの少し興奮したら…すぐにバレちゃう…。
いや、恐らくそれが目的の水着なのだろう。
こんな刺激的な水着を不特定多数のいる場所で着たりはしない。
これは一般的な意味とは異なる【プレイ】用の水着なのだ。
仲睦まじい恋人以外の前では着てはいけない代物なのである。
―― でも…これなら京太郎も興奮してくれるはず…。
京太郎の大好きなおっぱいは言わずもがなだが、下の露出もかなりのものだ。
ギリギリまで布地を削ったその水着からは私のアソコの毛が顔を出しているくらいである。
お陰でいやらしさはさらに増して、痴女さながらな姿になっていた。
―― ちょっと前かがみになっただけで中身が見えちゃいそう…
布地と言うよりも前貼に近いそれはスリングショットに負けないくらい不安定なものだった。
恐らく軽く頭を下げただけで、あっさりとズリ落ちてくるだろう。
こんなエッチな水着を京太郎の前に着て行ったら襲われても文句は言えない。
普段は自制的な彼でもきっと我慢出来ず、私を押し倒してくれるはず。
―― 最初は乱暴に胸を揉まれるんだけど…。
日頃、姫様や私に抱きつかれたりしてる京太郎はきっとムラムラしてるはず。
本にも京太郎くらいの年頃の男性は毎日ムラムラしてるって書いてあったからきっとそう。
だから、最初はきっと獣みたいにおっぱいを揉まれて…乳首だって抓られちゃう。
ううん…おっぱい好きな京太郎がそれで許してくれるはずがない。
乳首を吸われたり…き、京太郎のアレを扱くのに使われたり…いろんな事をされるはず。
―― でも、途中で冷静になって…。
京太郎は私が裸で迫ってもギリギリまで襲っては来なかったような人だ。
ある程度、欲求が満足したら冷静になって私に謝ってくるだろう。
でも、私はそれを望んでいたのだから、京太郎が謝る必要なんてない。
そう言った私に京太郎はきっと優しくキスしてくれて…それから私の水着をずらして…。
「…お客様?」
春「…っ!!」
「どうかなさいましたか?」
春「い、いえ…な、なんでもありません…」
「そうですか。もし、着方が分からなかったら言って下さいね」
春「は、はい…ありがとうございます」
……びっくり。
いきなり声を掛けられたから何事かと思った…。
でも、妄そ…考え事をしている間に結構、時間が経っちゃったのかも。
そうでなきゃ店員さんが声を掛けてくる事なんてないし。
―― とりあえず…これはやめよう。
京太郎に襲われたら嬉しいけど、そもそも京太郎と混浴するのは私一人じゃない。
姫様のその気だったし、湧ちゃんもきっと一緒に入るはずだ。
そんな中、京太郎に襲われる為の水着なんて着て行ったらどうしても浮く。
そもそも一人の時はまだしも京太郎にこんな水着を見せるほど身体に自信はないし。
お小遣いだって余裕がある訳じゃないんだから、買う水着はひとつで良い。
そうと決まれば話は簡単。
軽く試着して確かめた後、お会計を済ませて帰れば良い。
このマイクロビキニだけでもかなりエッチなんだから、京太郎を誘惑するのには足りるはず。
初美「あ、はるる、おかえりなさいですよー」
春「…ただいま」
初美「あれ?そのお店のロゴ…はっはーん」ニヤニヤ
春「な、何ですか…?」
初美「いやぁ、京太郎君はこれだけはるるに想われて果報者だと思っただけですよー?」
春「ぅ…」カァァ
初美「で、一体、何を買ってきたですかー?」
春「……み、水着を」
初美「ほほう。…………隙あり!」バッ
春「あっ」
初美「ふふーん。水着を買いに行くのにこのファッションマスター薄墨初美を連れて行かないなんて生意気なのですよー」
初美「これはこの私、直々にファッションチェックの時間なのですー!」ガサガサ
初美「……え?」
春「あ、そ、その…」モジモジ
初美「…はるる、私の目が正しければ水着が三着あるみたいなんですが…」
春「…は、はい…」
初美「ついでにその三着ってスリングショットとナノビキニとマイクロビキニなんですけど…間違いじゃないですよねー?」
春「……間違いじゃない…です」
初美「そうですかー…なるほど、そうですかー…」ニヤニヤニヤニヤニヤニヤ
春「う…うぅぅぅ…」プシュゥ
私のスレでメインヒロイン起用されるとエロインになってしまう現象を答えなさい(配点5)
それはさておき、小ネタ終わりです
即興の感覚完全に忘れきっててワロタ
出来るだけ元の感覚取り戻せるようにこれからも頑張っていきます。
参考画像はよ
>>45
イッチの趣味だからに決まってんじゃん(正論)
乙です
乙ー
はるるんマジかわいい
>>45
それが世界が望んだ答えだからだよ
はるるかわいいな
乙
>>45
ヒロイン補正だろ、わかっているよ(乙)
参考画像を早く...っ
乙
さすが今代の生乳さん
夢オチじゃなかったのか…
我慢しなくてもいいんだぜ?
はるるは際どい系だけじゃなくて白スク(薄手)とかも用意すべき
阿知賀で過ごす9年を仕事の合間に夢中になりながら2週間かけて読んで、京子ちゃんを1周間かけて読んでやっと追いついた!
素晴らしい作品でした!
期待しつつ追っかけるぜ!
>>58
そのままおもち少女も読んでくるんだ(ニッコリ
参考画像は俺も欲しいです(半ギレ)
は、ともかく、とりあえず混浴シーン終わりました。
今日明日見直しして明日の夜(と言うか多分、深夜)に投下する予定です。
ただ、書いてて気に入らない部分もあったので、修正に手間取って延期する可能性もあります。
その場合、またこちらで告知させていただきます、申し訳ありません。
>>58
まさか追いついてくださる人がいるとは。
ありがてぇありがてぇ。
ちょっと今、部署が色々と忙しく、スランプ気味なのでかつての更新速度はありませんがエタったりはしません。
気長にお付き合いくださいませ
了解
申し訳ないです…やっぱり修正長引いて今日の投下は無理そうです
明日にはちゃんと投下出来るようにします、ごめんなさい
把握
期待して待ってます
了解
自分のペースで頑張っていいんやで
乙
了解!楽しみに待ってます!
そういえば、阿知賀で過ごす9年追いかけてて気になったんだけど他スレとかでも言われてる
阿知賀が地雷原やら阿知賀がヤンデレルートやら言われてるスレってどこのことだったんです?
探したりググったけどよくわからかったのです
>>66
救われぬ愛に救いの手を
でググると幸せになれるかもしれない
須賀プロスレじゃないのか?
おお、ありがとうございます!
さっそく京子ちゃん続きくるまでよんでます
>>68
あ、ごめん、阿知賀が地雷原は確かにプロスレの方が正しいね
適当な事言って申し訳ない
後、>>70はヤンデレスキなら修羅場スレもオススメです
それはさておき、続きの見直し終わったんで投下していきます
パンツは履いててください
京太郎「(ま、それに…だ)」
こうして抱き上げて姿勢が変わった今、春はその顔を隠しきれちゃいない。
お陰で、急に変わった態勢に驚きを見せながら、俺の首に腕を回す彼女の顔がバッチリ見れる。
それは期待していたようなものではなかったが、それでも可愛らしい事には変わりがない。
普段のマイペースな春からはあまり想像できないその表情は本当に… ――
京太郎「可愛いな」
春「…え?…あ…っ」カァァ
京太郎「おっと、思ってる事が口に出ちゃったぞー」ボウヨミ
春「き、京太郎…!!」
顔を真赤に染めた春が俺の名前を怒ったように呼ぶけれど、一体、なんの事か分からないなー。
俺はただ思ったことをそのまま言っただけだし、可愛いは褒め言葉だと思うんだけどなー。
まぁ、普段、こっちの事を思いっきりからかってくれてるんだ。
これくらいの反撃は許して欲しい。
京太郎「ま、あんまり入り続けてるとのぼせそうだしさ。この辺で勘弁してくれよ」
実際、コレ以上抱きつかれていると俺の中の一部分が熱くなり過ぎてちょっと大変な事になりそうだからな。
風呂の温度も源泉から引いてきてるだけあって温いって訳じゃないし、あんまり長風呂はしていられない。
これからまだ頭と身体を洗ったりしなきゃいけないんだから尚の事だ。
小蒔「わぁ…京太郎君凄いです!」
湧「お姫様抱っこ…初めっ見たぁ」
京太郎「はは。後で湧ちゃんもやったげようか?」
湧「良かの!?」
京太郎「あぁ。湧ちゃんだったら大歓迎だぜ」
湧ちゃんは春や小蒔さんみたいにおっぱいさんじゃない訳だしな。
流石に幾ら抱っこしても余裕、とは今の禁欲生活を思うと言い切れないが、それでも彼女達より随分マシだ。
それに巴さんの話が正しければ、湧ちゃんにとって俺は兄貴のようなもんらしいしな。
他に甘えられる異性がいなかった彼女には出来るだけ甘えさせてあげたい。
そう思うのは俺もまた湧ちゃんの事を妹だとそう思っているからなのだろう。
小蒔「あ、その後、私も良いですか?」
京太郎「こ、小蒔さんはその…」
小蒔「…」ワクワクドキドキ
京太郎「…だ、大丈夫です」
小蒔「やったぁ!」ワーイ
春「…京太郎のヘタレ」ポソ
京太郎「うぐ…いや、でもさー」
仕方ないじゃないか。
あんなに楽しみにしてる小蒔さんに出来ませんなんて言えないってば。
既に春に対しては実行し、湧ちゃんにも約束してしまっているんだから。
この場で小蒔さんだけ仲間はずれにしてしまったら、彼女はきっと傷ついてしまうだろう。
小蒔「え?どうかしたんですか?」キョトン
京太郎「あ、いや、なんでもないですよ、なんでも」
京太郎「それよりほら、春、そろそろ降ろすぞ」
春「もうちょっと…」
京太郎「もうちょっともありません。降ろさないと頭とか洗えないだろ?」
小蒔「あ、じゃあ私が洗ってあげましょうか?」
京太郎「え?」
小蒔「私、髪を洗うのは得意なんですよ」エヘヘ
そう言えば、以前、小蒔さんと添い寝していた時にもそんな事も言っていたっけ。
実際、今も風呂に入る前にタオルを準備したりしているし、髪に対して凄く気を遣っているのが分かる。
女の子に髪を洗ってもらうって言うのはなんとなくこそばゆい気もするけれど、折角の混浴だしな。
珍しく得意だと言っている小蒔さんの腕前を見せてもらうのも良いかもしれない。
京太郎「あぁ。それじゃお願いしても良いですか?」
小蒔「はい!とっても綺麗にしてあげますね!」
春「じゃあ、私は降りなくても…」
京太郎「いや、どっち道、降ろすぞ」
春「そんな…酷い」
京太郎「酷くなんかありません。つーか、今の状態の方が俺に酷だっての」
春「…重い?」
京太郎「いや、全然。寧ろ、思った以上に軽くてびっくりした」
春「…そう」
そう短く言いながら春はその顔をほんの少しだけ緩ませる。
抱き上げた瞬間の不安そうな色は既にそこにはなく、俺への信頼がはっきりと見て取れた。
まだ赤みは残っているものの、綻ぶと言う言葉が相応しいその表情に不覚ながらドキッとさせらてしまう。
一瞬、もうちょっとこのままでも良いかもしれないと思ってしまうくらいにその表情は魅力的だった。
京太郎「と、とにかく降ろすぞ」
だが、そうやって春に対して甘い顔をすればするだけ理性がやばくなっていくのだ。
浴槽に入ってからずっと美少女達に囲まれていた所為で、俺の中の理性はもうボロボロと言っても良い有り様になっている。
こうして春を抱き上げている間にもゴリゴリ削れているそれを少しは回復してやらなければ、ここから先、自分を抑えておける自信が俺にはない。
最後に浴槽に浸かった時も小蒔さん達に囲まれるだろうし、ここは心を鬼にして春を降ろさなければ。
春「…ん。分かった」
そんな俺の気持ちが分かっているのかいないのか、春は素直に頷き、俺の首に回していた手を解いた。
思いの外、物分かりの良い彼女に微かな疑問を抱きながら、俺はゆっくりと彼女を浴槽の外へと降ろす。
瞬間、肩からどっと何かが落ちていくのを感じるのは、とりあえず当面の危機が去ったからだろう。
ついさっきまで衝動とギリギリの戦いをし続けてきた理性にとって、髪や身体を洗う間は休息の一時になるはずだ。
湧「あ、じゃあ、あちきが背中洗ったげる!」
京太郎「お、良いのか?」
湧「うん!京太郎さあの背中、ゴシゴシする!」
京太郎「はは。あんまり痛くしないでくれよ?」
湧「男の人なんじゃって、だいじょっ」ニコー
京太郎「男でも肌が弱い人ってのはいるんだぞ」
湧「京太郎さあはそげな繊細なタイプには見えないし!」
京太郎「ゆーうちゃーんー?」
湧「きゃーっ」
京太郎「こら、待て!」
名前を呼ぶ俺から逃げるようにして、湧ちゃんは浴槽から出て行く。
その動きは風呂場の中とは思えないくらい早く、そして危なげのないものだった。
体幹がしっかり鍛えられている湧ちゃんにとって、滑りやすい風呂場の中は平地とそう変わらないものなのだろう。
待て、だなんて言って同じように浴槽から出て行ったものの、正直なところ、風呂場で彼女を捕まえられる気はしなかった。
小蒔「ダメですよ、お風呂場で走ったら転んじゃいます」
湧「はーい」
京太郎「はーい」
そんな俺達を窘めるように言いながら小蒔さんも浴槽から出てくる。
その瞬間、大きなおっぱいがぷるんぷるんと揺れて…眼福眼福。
小蒔さんのダイナマイツなボディが一目で分かるその光景に視線がついつい引き寄せられてしまって… ――
小蒔「どうしました?」
京太郎「い、いや…だ、大丈夫ですよ。何も見てないですから!」
小蒔「???…あ、もしかしておっぱいを見ていたんですか?」
京太郎「え、えっと、それは……」
小蒔「ふふ、別に減るものじゃないんですからもっと見ても大丈夫ですよ?」
京太郎「ぐっ…」
いや、勿論、俺にだって小蒔さんのその言葉が他意がないって分かってるよ?
小蒔さんにとって胸を見られるのは恥ずかしい事ではないんだから。
さっきの発言だっておっぱい好きな俺の事を思っていってくれているんだろう。
だけど、それを差し引いても、その言葉の破壊力は半端じゃない…!!
純正天然オーラ全開の小蒔さんがそんな痴女のようなセリフを言っているってだけで俺はもう…もう…!!
湧「…京太郎さあ」ジー
春「京太郎?」ジトー
京太郎「う…い、いや…小蒔さんのそのお心遣いは嬉しいんですが…」
……まぁ、それに身を委ねられるほど状況は俺には甘くはない。
ここで変な過ちを犯したりする訳にはいかないからある種、優しくはあるんだけれども。
こうやって俺を制止するように目で訴えかけてくれる二人がいなかったら、ちょっと危なかったかもしれないしなぁ。
他に誰もいなかったら、さっきの小蒔さんに一も二もなく頷き返して、ガン見させて貰っていたかもしれない。
小蒔「そう…ですか。ちょっぴり残念です」シュン
小蒔さんがおっぱいを見ても良い、なんて言ってくれているのは、俺の事を異性として好きだからなどではない。
心優しい彼女は大事な友人である俺が大変なのを知って、自分なりに労おうとしてくれているのだ。
その方向性は若干、普通の人よりズレてしまっているのは、小蒔さんの自己評価が低いからだろう。
霞さんを始め、周りの人達に護られてきた彼女にとって、きっとそれくらいしか俺の役に立てないと思い込んでいるのだ。
だが、そうやって身体を差し出すような事をしなくても、小蒔さんは俺の事を十二分に癒してくれているし…何より… ――
京太郎「…その代わり一つお願いがあるんですけれど」
小蒔「お願い?」
京太郎「はい。俺の髪、しっかり綺麗にお願いしますね」
小蒔「あ…」
既に俺は小蒔さんに自身の髪の事をお願いしているのである。
可愛くておっぱいも大きい小蒔さんに髪を洗って貰えるだけで俺にとっては十分過ぎるくらいのご褒美だ。
俺を労おうとしてくれている彼女にとっては物足りないかもしれないけど、コレ以上を求めるのは流石に欲しがり過ぎだろう。
人間、分相応と言うものがあって、そこからはみ出そうとすれば大抵、痛い目を見るものなのだ。
…決して春や湧ちゃんの目が思いの外、鋭くてヘタレた訳じゃない。
小蒔「はい!任せて下さい。ピカピカにしてしまいますから!」
湧「ピカピカだとハゲんなる?」
小蒔「わわ!それは大変です…!じゃ、じゃあ…ツルツル…?」
春「それは余計にハゲっぽい気がします…」
小蒔「あ、あわわわ…!どうしましょう…!?」
京太郎「はは。大丈夫ですよ。小蒔さんがそういう失敗をする人ではないと信じていますから」
何はともあれ…小蒔さんに元気が戻ったようで良かった。
流石に元々の原因である彼女の自信のなさが解消された訳じゃないだろうけれどな。
でも、春や湧ちゃんの言葉に狼狽を見せる小蒔さんは何時も通りのものに戻っているし。
今は心優しい彼女が下手に自分の事を傷つけなくて済んだ事を喜ぶべきだろう。
小蒔「ありがとうございます。その信頼に答えられるように全力以上でお相手させていただきます…っ!」ペカー
春「…姫様、気合入れすぎです」
湧「そいじゃ、かんさあがおじって来ちゃうよ」
…うん、なんか後光めいたものが見えたもんなぁ。
気合入れてくれるのは嬉しいけど、流石に神様を降ろすまで本気を出されるのはちょっと困ると言うか。
髪を洗ってもらう為だけに神様に降りてきてもらうとか牛刀をもって鶏を割くってレベルじゃねぇぞ。
洗ってもらうこっちが申し訳なさすぎて、どうして良いか分からなくなってしまう。
小蒔「わわ。じゃ、じゃあ…えっと、全力の半分くらい…で、でも、それじゃ京太郎君に失礼ですし…えーっとえーっと」
京太郎「そんなに考えなくても小蒔さんのしたいようにしてくれて大丈夫ですよ」
小蒔さんがこういう所で手を抜くような人ではないって分かってるからな。
それに女の子ならばともかく俺は男な訳だし、髪に対してのコダワリはそこまでないんだ。
流石にハゲるのは困るが、キューティクルに仕上げて貰わなくても気にしない。
ごく普通に洗ってもらえればそれで十分、満足出来る訳だし、とりあえず洗い場においてある木製の風呂椅子に座って…っと。
京太郎「それじゃお願いしますね」
小蒔「はい。お任せ下さい!」グッ
そんな俺の後ろで小蒔さんが気合を入れるのが鏡越しに見えた。
フンスと今にもそんな音が聞こえてきそうなその表情は決して頼もしいものではない。
寧ろ、どちらかと言えば可愛らしく、こちらが庇護欲を擽られてしまいそうなものだった。
そんな小蒔さんが微笑ましくて仕方が無いけれど、折角、俺の為にやる気になってくれている彼女の前で笑うのは失礼だろう。
ここは表情筋にぐっと力を入れて、彼女の好きなようにさせてあげるのが一番のはずだ。
小蒔「あ、とりあえず先にシャワーヘッドを取って貰って良いですか?」
京太郎「えぇ。どうぞ」
小蒔「ありがとうございます」
このお屋敷にある設備の殆どは今どきあり得ないくらいの旧式だが、お風呂場に関してはそれなりのものが揃っている。
今、こうして俺が小蒔さんに手渡したシャワーヘッドは最近、流行りの節水タイプで、それに繋がるチューブもまったく老朽化の気配がない。
給湯器も手元で温度を調節する使い慣れたタイプだし、結構、最近に改装でもあったんだろうか?
でも、風呂よりも先に未だ釜戸で火を起こしたりしてる厨房の方を改装するべきだと思うんだけどなぁ。
ここに来るまでの道のりが道のりだけに風呂に気軽に入れるって言うのは嬉しいんだが、厨房の方にせめてガスコンロの一つでも… ――
小蒔「よいしょっと」フニョン
京太郎「うぉあ!」ビックゥ
瞬間、背中に何か柔らかいものが押し当てられる感触に俺はマヌケな声をあげてしまう。
けれど、それは決してその感触が痛かったからでも、嫌だったからでもない。
柔らかくスベスベとしたそれは背中に吸い付くように広がり、魅力的過ぎるくらい魅力的だった。
それでもこうして俺が声をあげてしまったのは、それと似たような感触を俺が知っているからである。
小蒔「ふぇぅっ」ビクゥ
京太郎「す、すみません」
小蒔「いえ、良いんですけど…どうかしたんですか?」
京太郎「いや…その…」
そんな俺の声に小蒔さんもびっくりしたのだろう。
俺の背中にのしかかるようにして前へと手を伸ばしていた彼女の肩がびくりと跳ねた。
瞬間、硬直する思考はそのままに、俺の口は謝罪の言葉を口にする。
ほぼ反射的に放たれた小蒔さんはそれを受け入れてくれたものの、その姿勢は変わらないままだった。
お陰で俺を混乱させた柔らかい感触…いや、小蒔さんのおっぱいは未だ俺の背中に押し当てられているままである。
京太郎「む、胸が当たってるんですが…」
小蒔「???でも、さっき春ちゃんもおっぱい当ててましたよ?」キョトン
京太郎「そ、それは…」
正直、その時だって結構、一杯一杯だったんですよ!!
小蒔さんの手前そういうのは必死に抑えてただけで、最初に小蒔さんが隣に来た時点から結構やばかったんだって!!
でも、それをそのまま素直に言ってしまうと、またややこしい事になりそうだし…どうやって説明すれば良いんだろうか。
とりあえず下手に裸を見せてはいけないって事は既に小蒔さんに納得して貰っている訳だし、その路線から話を広げていけば彼女にも分かりやすいかな…?
小蒔「それに京太郎君はおっぱいが大好きなんじゃないんですか?」
京太郎「え、えっと、それはそうなんですけど‥」
小蒔「…やっぱり私のおっぱいじゃダメって事ですか…?」シュン
京太郎「そ、そんな事ないですよ!小蒔さんのおっぱいはマジで素敵ですから!!」
京太郎「実際、こうして押し付けられていると柔らかくって、すべすべでもう最高っすよ!」
小蒔「そ、そうですか」テレテレ
春「…京太郎」ジトー
湧「京太郎さあ?」ジトー
…うん、仕方ないじゃん。
反射的に答えてしまった所為でそれまで考えてた段取りとか滅茶苦茶になってしまったけど、小蒔さんの元気には代えられない。
何より、こんなに素晴らしいおっぱいを前にして嘘を吐く事なんて、この世で最も罪深い冒涜だ。
俺の両隣にある洗い場に座った春と湧ちゃんから凄いジト目が飛んできているが、小蒔さんの為にも、そして己が良心の為にも俺は正しい事をしたのだから。
多少、自信の名誉が傷ついた頃くらい我慢出来る。
小蒔「でも、それだったらどうして私はダメなんです?」
京太郎「う…そ、それは…」
春「…姫様、京太郎は意地っ張りだから…」
小蒔「え?」
春「そうやって嫌がっているように見せて内心喜んでる」
小蒔「あぁ、なるほど…そういう事なんですね!」
は、春ううううううう!?
何言ってくれてるの!?いや、確かに喜んではいるけど!いるけれどさ!!
でも、そんな風に小蒔さんに言うと余計にエスカレートしかねないんだけど!!
小蒔「ふふ、じゃあ、もっとぎゅーってしてあげないとダメですね」ギュゥ
京太郎「ふぉおぉお…!」
小蒔「京太郎君、変な声出てますよ」クス
小蒔「でも、それはきっと喜んでくれているからなんですよね?私、それならとっても嬉しいです」ニコー
コマキサンガ ウレシソウデ ボクモ トッテモ ウレシイデス。
でも、ちょっと離れてくれても良いんですよ?
と言うか、離れてくれないと俺のムスコがそろそろやばい事になりかねないと言うか…!
そもそも、春を降ろして今は休息の時だと思っていたのに、なんで俺はまたこんな風に追い詰められているんだろう…?
確かにご褒美ではあるんだが、その据え膳は食べたら絶対にイケナイタイプのもので…あぁ、くそ…神様って奴はよっぽど俺の事が嫌いなんじゃないだろうか。
小蒔「じゃあ、蛇口捻ってお湯出しますね」キュッ
小蒔「良い温度になったら髪の毛を一回濡らしますからおめめぎゅーしてくださいね」
京太郎「ハイ。ワカリマシタ」
小蒔「…うん。そろそろ良いかな。それじゃいきますねー」ジャバー
とは言え、流石に小蒔さんも俺に抱きつきながら、髪の毛を濡らすつもりはないらしい。
すっと俺の身体から離れた小蒔さんはそのまま髪の毛を濡らしていってくれる。
時折、くしゃくしゃと指で髪を撫でるようにして、お湯を絡められるのが何とも心地良い。
とりあえず濡れれば良いや、とお湯を被る事しかしてこなかった俺にとって、それは初めての感覚だった。
小蒔「どうですか?熱くないです?」
京太郎「大丈夫です」
ついでに言えば、こうやって髪にかかる水の温度も初めてのものだった。
普段の俺は熱いお湯を思いっきり浴びて汗をさっぱりと流している。
だが、小蒔さんが設定した温度は普段、俺が浴びているそれよりも数度は低いものだった。
いっそぬるま湯と言っても良いそれは多分、俺の体温とそう変わらないんじゃないだろうか。
小蒔「逆に温いかもしれませんけど我慢してくださいね。頭皮は熱に弱いのであんまり熱いのを浴びると逆効果ですし」
なるほどなー。
しかし、頭皮は熱に弱いのか。
今までは熱いのを浴びていた所為で頭皮と毛根にダメージを与えてたかもしれないんだな。
若いころにあんまり無茶をやり過ぎると年を取ってからハゲやすいとも聞くし…これからはちょっと控えるか。
親父の髪はまだふさふさだったし大丈夫だとは思うんだけれど、実際ハゲてから後悔しても遅い訳だしな。
小蒔「それでこのまま数分ほどじっくり濡らしますね。退屈かもしれませんが、もうちょっと待っていて下さい」
京太郎「ハイ」
結構、じっくりやるんだなぁ。
まるで理髪店や美容院みたい…って、ソレも当然か。
理髪店って言えば、髪を扱うエキスパートなんだから。
真剣に髪を洗おうと思ったら、理髪店や美容院のようなやり方になるのが当たり前の事だ。
小蒔「はい。出来ましたよ。目を開けて大丈夫です」
京太郎「うっす」
小蒔さんがそう言ってくれた時には俺の髪はもうびしょ濡れになっていた。
毛先からポタポタと大粒の雫が落ち、肌からもぬるま湯が流れ落ちていく。
それでもあまり鬱陶しく感じないのは、小蒔さんが俺の髪をオールバックにしてくれているからだろう。
前髪を全て後ろに撫で付けるようなその髪型のお陰で、顔の前面にはそれほど水気が落ちてこなかった。
小蒔「じゃあ、お水が勿体ないですし、一旦止めますね」
京太郎「い、いいいいや、俺がやりますから!」
小蒔「え?でも…」
京太郎「寧ろ、俺にやらせてください。お願いします」
今の態勢でまた小蒔さんがお湯を止めようとするとまたおっぱいが押し付けられてしまうのだ。
不意打ち気味の一回目はなんとか耐え切る事は出来たが、二回目を耐え切れる自信は正直、俺にはない。
ちょっと強引でも、ここは俺にやらせて貰わなければ。
小蒔「では、お願いしますね」
京太郎「はい…っと。よし、止めましたよ」
小蒔「ありがとうございます。…にしても」
京太郎「ん?どうかしましたか?」
小蒔「いえ…今の京太郎君は何時もと髪型が違って、格好良いなって思いまして」
京太郎「そ、そうですか?何だか照れますね」
湧「確かに今の京太郎さあはワイルドっぽい?」
春「ん…京太郎、格好良い…」
京太郎「も、もう…二人共止めてくれよ」
勿論、そうやって格好良いと言われるのは嬉しい。
何せ、二人ともタイプは違えども、間違いなく美少女と呼ばれるに足る可愛らしい子なのだから。
しかし、俺はそういう事を言われ慣れてはおらず…どっちかって言うと二枚目よりも三枚目な事が多い訳で。
皆のような可愛い女の子達に格好良いと言われると嬉しさよりも先に気恥ずかしさが出てしまうものだ。
小蒔「ふふ、照れる京太郎君とっても可愛いです」
京太郎「こ、小蒔さんまで…」
春「じゃあ、姫様の為にももっと格好良いって言わないと…」
湧「京太郎さあ、格好良い!」
京太郎「くぅ…二人共覚えとけよ…」
春「私達はただ京太郎を褒めただけなのに…心外…」
湧「うんうん。本当の事を言っちょるだけだよ」
京太郎「その本当の事が人の心を容易く傷つけるんです」
現実は決して素晴らしいもんじゃなく、嘘よりも本当の事の方が人の心を抉りやすいのだ。
まぁ、今回に限っては抉るなんて酷いもんじゃなく、からかっている程度の可愛らしいものだろうけどな。
だが、それでも、俺の心は今、羞恥に悶え、むず痒さを感じているのだ。
微かに火照りを感じる顔も赤く染まっているだろうし…しかも、目の前に鏡がある所為で隠す事も出来ない。
くぅ…一体、何の羞恥プレイなんだよコレ…。
小蒔「ふふ。皆、仲良しさんで良いですね」
京太郎「……色々と反論したい事はありますが、仲が良いのは確かですね」
春「京太郎は素直じゃない」
京太郎「ちーがーいーまーす。俺は超素直ですー」
確かに咲が好きだって事び気づいたのは別れるギリギリになってからで、その前は色々と悪戯とか仕掛けていたけれども。
しかし、似たような事は咲からもしてきていたから、俺たちの関係がそういう風に固まっていたってだけなのだろう。
そもそも明らかにからかい混じりで褒められているのに、心から喜べるのはよっぽど単純な人が自信過剰な奴じゃないだろうか。
悪いが、俺にはとりあえず脱ぎたがるような性癖なんかないのである。
…まぁ、今、こうして小蒔さん達の前で半裸を晒しているが、それはぶっちゃけ不可抗力みたいなもんだし。
小蒔「あ、京太郎君、上向いて貰って良いですか?」
京太郎「えっと…これくらいです?」
小蒔「うーん…もうちょっといけますか?」
京太郎「でも、コレ以上、上向くとバランス崩しそうなんですが…」
小蒔「大丈夫ですよ。私が受け止めてあげますから」
京太郎「えっと…それじゃあ」クイッ…フニョン
…あれ?俺、今、何処に頭が当たってるの?
なんだか後頭部の辺りにすげー柔らかい感覚があるんですけれど…。
まるで俺の頭にぴったりフィットしてそのまま沈み込むような優しい感触ががが。
おかしいな…俺、さっきもこの暖かくて優しい感じを腕で味わった気がするんだけど…気のせいだよな。
まさか俺の頭を小蒔さんがおっぱいで受け止めてくれたとか…そんな事はないよな…?
小蒔「ん…っ」ピク
京太郎「こ、こここここ小蒔さん!?」
小蒔「えへへ…おっぱいの枕です。気に入ってくれました?」
京太郎「はい!気に入りました!もうずっとやって欲しいです!」
って、そこは違うだろおおおおおおお!!!
そこは素直になるところじゃないって!反射的に答えちゃダメな場面だって!!
そういうのいけない事なんだって注意しなきゃいけないだろ俺ええええええ!!!
小蒔「ふふ、それじゃまた今度してあげますね」ニコー
京太郎「あ、ありがとうございます…」
湧「判定は?」
春「勿論、ギルティで」
ですよねー…。
これはちょっと言い訳も申開きも出来ないレベル。
…でも、おっぱいを枕にするだなんて、こんな贅沢な事にはどうしても抗えないと言うか…!
形が崩れるとか、そんなはしたない事しちゃダメだとか言わなきゃいけないのに…。
ふんわりむっちりの巨乳がしっかりと首元から受け止めてくれて…おぉ、もう…。
おっぱいだと意識するとドキドキしてどうしようもなくなるが、同じ感触の枕があるとすぐに眠れそうだ。
小蒔「髪の毛を洗う時は下を向いちゃうと逆毛になっちゃいますしね。こうして上を向きながらの方が良いんですよ」
小蒔「シャンプーの量は…そうですね。京太郎君くらいならば100円玉二個分くらいあると良いと思います」
小蒔「まずは両手を合わせるようにしてたっぷり泡立てて下さい。着ける場所は髪ではなく根本からが良いですよ」
小蒔「洗う時は爪を立てちゃいけません。頭皮を傷つけてしまいますから。イメージは指のお腹を使ってグイグイ押す感じですね」
京太郎「な、なるほどなー」
…ごめんなさい、小蒔さん。
頑張って色々と説明してくれているのは分かるんですが、殆ど頭に入ってきてません。
それよりも小蒔さんのおっぱいの感触があんまりにも大きくてですね。
その上、すぐ目の前に小蒔さんの顔があると思うとどうにも意識してしまうというか…!
唇なんてほんの十数センチ先にあるくらいで、今にもキス出来そうなんですががががが。
小蒔「んっしょ…うんしょ…」グイグイ
京太郎「おぉ…」
小蒔「どうですか?」
京太郎「き、気持ち良いです…」
勿論、おっぱい枕もそうだけど、小蒔さんの指がとても良い。
グイグイと頭皮を刺激する指が丁度良いところに当たって、まるでマッサージみたいだ。
小蒔さんの指がぐっぐと力を入れる度に頭の奥からジワァと快感が染みだしていくのを感じる。
流石にすぐさまぐっすりと眠れるほどじゃないが、ドキドキする胸の奥からジワリジワリと眠気が染み出していた。
小蒔「ふふ、それは良かったです」
小蒔「この辺りはツボがありますから、しっかし刺激すると良く眠れますよ」
小蒔「それに朝にお風呂に入るからって言ってお風呂を後回しにするのは実はとっても良くないんです」
小蒔「一日経っちゃうとどうしても汗や脂が毛根を塞いじゃって後のケアが大変になりますから」
小蒔「ですから、お風呂は必ず一日に終わりに入ってくださいね」
小蒔「あ、でも寝る時は必ず髪を乾かしてから寝なきゃいけませんよ。濡れた状態はキューティクルが一番弱くて、剥がれてしまいやすいです」
京太郎「ほうほう」
キューティクルって何ですか?
そんな風に聞くだけの余裕すら今の俺にはないままだった。
ただでさえ、小蒔さんのおっぱい枕でドキドキだったのに今は微かに眠気を感じ始めているのだから。
思考回路はショート寸前…とまでは言わないが、普段よりも処理速度がガタ落ちしているのをはっきりと分かった。
小蒔「それじゃ首元洗いますから、頭をちょっと浮かせますね」
京太郎「うぃっす」
にしても小蒔さんは凄いよなぁ。
髪の事をこんなに知っているだけじゃなくて、ちゃんと髪の生え際までしっかり洗ってくれるんだから。
さっきまで俺の頭を受け止めていて重かっただろうに、その指先に入る力は衰えず、手を抜く様子も見せない。
俺の髪をしっかり洗おうとしてくれているのがその指先から伝わってくるみたいだ。
京太郎「…凄いですね」
小蒔「え?」
京太郎「いや、俺が知らない髪の事、小蒔さんは良く知っているみたいですし」
その説明は殆ど俺の中には入ってきていないけどな。
でも、彼女の言っている事が俺のまったく知らなかった事くらい思考停止寸前だった俺にだって分かる。
少なくとも、俺は今まで小蒔さんのようにマッサージするような洗い方はした事がない。
適当に指を立て、両手で頭皮を引っ掻くような洗い方だ。
京太郎「何より…この洗い方だけでも分かりますよ」
京太郎「小蒔さんがどれだけ優しくて…そして人の事を真摯に思ってくれているのが」
京太郎「俺はそういう小蒔さんがとても凄いと思います」
小蒔さんは天然気味であり、とても純真な人だ。
誰にでも好意的で、優しくて、そして暖かい人である。
でも、彼女の一番、魅力的な部分はきっと誰かの為に真剣になれる部分ではないだろうか。
こうやって誰かの為に手を抜く事もなく頑張れると言うのは、教育や環境だけで生まれ出るものではない。
彼女自身が持って生まれた善性なのだ。
小蒔「京太郎君…」
京太郎「はは。なーんて…ちょっと自意識過剰でしたかね?」
小蒔「ううん。そんな事ないです。私、京太郎君の事、とっても大事に思っていますから」ニコッ
京太郎「う…」カァ
小蒔「だから、私、そんな大事な人に凄いって言ってもらえてとっても嬉しいです」テレテレ
そう言って照れたように笑う小蒔さんの顔はとても魅力的なものだった。
気恥ずかしそうで、自慢気にも見えるその表情は俺の言葉が届いた証なのだろう。
そう思うとこちらも誇らしいような、勢い任せでやたらと恥ずかしい事を言ってしまったような…何とも言えない微妙な心地だ。
きっと今の俺は小蒔さんと似たような顔をしているんだろうな。
春「…まさかシャンプー中に口説き始めるなんて…」ジトー
京太郎「ち、違うって。そういう意味じゃないから」
湧「でも、姫様わっぜ嬉しそう…」
小蒔「えへへ。はい。わっぜ嬉しいです」ニコー
春「…やっぱり口説いてる」ジィ
京太郎「く、口説いてないって」
そもそも小蒔さんは可哀想なくらい自分に自信のない人だったからなぁ。
あまり表には出てこないけれども、小蒔さんは周りに対して強い劣等感を抱いている。
そんな彼女の心を少しでも前向きにしてあげたいと思っただけで、他意はまったくない。
寧ろ、勢い100%で、それ以外のものはまったく存在していなかったと言うか…。
小蒔「それじゃシャンプー終わりましたし、今度は髪を流すのですが…」
京太郎「あ、じゃあ、また俺の出番ですね」
小蒔「お願いしますね」
京太郎「うぃっす」キュッ
小蒔「もうちょっと弱めにしてくれますか?」
京太郎「これくらいですか?」
小蒔「はい。ありがとうございます」
水の勢い一つとっても、きっとベストなものがあるんだろうなぁ。
その辺、まったく考えた事のない俺は分からないけれど、小蒔さんの指示にきっと間違いはないだろう。
とりあえずオッケーは貰えた訳だし、後は小蒔さんに任せてしまうか。
小蒔「あ、またもたれかかっても大丈夫ですよ。おっぱいで受け止めてあげますから」
京太郎「い、いや…それは流石に…」
小蒔「…私がしてあげたいんです。ダメですか?」
京太郎「…う」
春「…」ジィ
湧「じぃー」
勿論、小蒔さんのおっぱい枕に頭を預けるのには色々とリスクが高い。
正直なところ、このまま頭を預け続けていたらまたムスコの方に血液が集まっていきそうだ。
しかし、してあげたいとそう言っている小蒔さんの訴えを無碍に出来るだろうか…!?
物言いたげにこっちを見る二人の真意は分からないが!!あぁ、まったく分からないけれども!!
ここは小蒔さんの為にも、おっぱい枕リターンズの方が正解なはず!!
それに俺も小蒔さんのおっぱい枕をまた味わいたい訳だしげふげふん。
京太郎「そ、それじゃあ…お願いします」
小蒔「ふふ。じゃあ、またこっちに来てくださいね」
京太郎「はい。うひょぅ」
小蒔「えへへ。京太郎君ったら変な声出ちゃってますよ」
京太郎「め、面目ない…」
でも、仕方ないじゃん…!
小蒔さんのおっぱいは張りがってそりゃもう触り心地最高なのだから。
低反発枕なんて目じゃないそのふわふわっぷりは分かっていたとしてもどうにもならない。
触れた瞬間に心構えなんて簡単に覆され、口から喜悦混じりの変な声が出てしまうのだ。
春「……そんなに好きなら私がやってあげるのに」ポソッ
京太郎「え?」
春「……」プイッ
春の方から声が聞こえた気がするんだけど…幻聴かな?
だって、春がおっぱい枕やってくれるとか、そんなのあり得ない。
こんな事出来るのは類まれなおっぱいを持ちながら、純真な心を併せ持つ小蒔さんくらいしか出来ないだろう。
ぶっちゃけ恋人でも、こんな事頼んだら、その時点で縁を切られても文句は言えない気がする。
小蒔「それでは今回はさっきよりもずっと長くじっくりやりますから、退屈かもしれませんけど我慢して下さいね」
京太郎「いやー…退屈はしないと思いますよ」
何せ、俺の後頭部はまた小蒔さんのふんわりエロおっぱいに預けてある訳だからなぁ。
その感触だけでご飯三杯は余裕でいけるシチュエーションにあって、退屈などするはずがない。
髪にかかるぬるま湯も良い感じだし、泡を洗い流す小蒔さんの手もとても優しいから、寧ろ、ずっとこの時間が続けばいいな、と思うくらいだ。
小蒔「え?どうしてですか?」
京太郎「え?あ、いや…その、小蒔さんの可愛い顔を見れるじゃないですか」
小蒔「ふぇぇ…っ!?」カァァ
春「…また姫様口説いてる…」ジトー
湧「今度は言い訳出来んね」
おっしゃる通りです…。
こんな事言うつもりはなかったとは言え、流石におっぱい枕だけで楽しめますなんて言えないし…。
いや、小蒔さんだけならそれで良かったのかもしれないが、周りには春も湧ちゃんもいる訳で。
ここでそんな事言ってしまったら変態扱いされてもおかしくはない。
…まぁ、既にされているような気がしなくもないが、そこはあんまり考えない方向で。
小蒔「そ…その…私もこの状態だと退屈しませんよ」
京太郎「え?」
小蒔「だって…この状態なら京太郎君の顔を間近で見れますし…特等席です」ニコ
京太郎「ぐ…」
あ、やべ…今の完璧不意打ちだった…!
まさか小蒔さんからそんな事を言われるなんてまったく思ってなかったから胸がドキンって…ドキンって!!
いや、それを差し引いても、あんまりにも可愛い事言うから胸がときめいていただろうけどなさ!!
あーちくしょう…ホント、小蒔さん可愛いなぁ…。
小蒔「どうせですから、このまま見つめ合っちゃいますか?」
京太郎「は、恥ずかしく無いですか?」
小蒔「私は大丈夫ですよ。京太郎君なら何処を見られても恥ずかしくありません」
まぁ、小蒔さんは今回だって俺の前で裸になるつもりだった人だからなぁ…。
添い寝する時だって平気な顔して俺を見つめてた訳だし。
そういう羞恥心はゼロに近い小蒔さんにこんな事を言っても効果が無いのが当然だろう。
小蒔「寧ろ、私は京太郎君の事を見たいですし、私の事も見て欲しいです」
京太郎「う…」
小蒔「……ダメ…ですか?」ジィ
京太郎「…い、良いですよ」
小蒔「やった!京太郎君、大好きです!」
京太郎「あ、あはは…」
……俺もホント、小蒔さんに甘いよなぁ。
あんまり流されちゃいけないってのは分かってるんだが…あのつぶらな瞳に見つめられるとついつい甘い顔をしてしまう。
その上、ただでさえドキドキしているところにあんな可愛らしい事を言われてるんだから、余計に甘くなってしまって…。
小蒔「痒いところとかは大丈夫ですか?」
京太郎「は、はい…大丈夫っす」
小蒔「もし痒いところがあったら遠慮なく言って下さいね」
そう言ってくれている小蒔さんの手は俺の頭全体を撫でるように動いてくれてるからなぁ。
頭皮から泡立てたシャンプーを全部落とそうとしているようにじっくりと洗ってくれている。
何事も仕上げが重要だとは言うが、念入りと言っても良い洗いっぷりだ。
お陰で痒い部分なんてまったくなく、頭皮からは心地よさだけが伝わってくる。
小蒔「良い子良い子」
京太郎「さ、流石にそういう子ども扱いは恥ずかしいっすよ」
小蒔「ふふ、ごめんなさい。京太郎君があんまりにも可愛くて」
湧「母性本能を擽られた?」
小蒔「あ、そうかもしれませんね」
春「…なんか分かるかも」
京太郎「わ、分かるもんなのか…」
勿論、俺にだって自分が格好良くてイケメンだなんて思考はないけどさ。
だが、身長だって180cmは超えているし、体もそれなりに鍛えてて腹筋も割れているんだ。
少なくとも小蒔さんや春が母性本能を擽られるほど可愛らしい奴ではないと思うんだけれど…。
でも、小蒔さんが嘘を吐くとは思えないし…さっきの俺はそんなに無防備な顔をしてたんだろうか。
湧「京太郎さあはわっぜかむぜー時あるもんね」
小蒔「えぇ。さっきの京太郎君もとても可愛かったですよ」
春「それは見たかったかも……京太郎…」
京太郎「言っとくけど二度目はないからな」
春「えー…」
京太郎「えーじゃないっての」
男としてはやっぱり可愛いなんて言われるのは不本意なもんだからなぁ。
勿論、三人に俺を貶そうとする意図はなく、単純にそう思ってくれているのは分かるんだけどさ。
でも、やっぱりそれ目当てでこっちを見てくる春の前で小蒔さんの言う『可愛らしい俺の顔』を晒すと考えただけで胸の奥がムズムズしてくる。
春「姫様ばっかりズルい…」
小蒔「ふふ、今はダメですよ。ここは私の特等席ですから!」
春「…次は私もそうしよう…」
京太郎「え?いや…次って…」
春「…勿論、京太郎との混浴…」
京太郎「こ、これで終わりじゃないのか?」
春「そんな事を一言も言ったつもりはない」
た、確かにお詫びに一緒に風呂に入るとしか言ってないけどさ。
でも、流石に二度三度と混浴を繰り返すのは流石にやばくないか?
俺だって我慢するつもりではあるけれど、繰り返せば繰り返すだけリスクが増えていくんだ。
混浴と言うシチュエーションに慣れが生じるなんて事はないだろうし、ここはなんとしてでも断らないと…!
湧「え?また京太郎さあとお風呂入れるの?」
春「ん…京太郎ならやってくれるはず…」チラッ
京太郎「いや…あの…は、春?」
小蒔「やった!じゃあ、明日も一緒に入りましょうね!」
湧「うん!毎日入ろ!いっぱい入ろ!!」
oh…もう二人ともその気になってしまってる…。
ここでやっぱりなしで、と言うのは凄く気が引けるんだけど…。
だが、しっかり断っておかなきゃ今回の二の舞いになってしまうのは目に見えているんだ。
喜ぶ二人は可愛いがここは心を鬼にして… ーー
小蒔「明日もこうやって髪を洗ってあげますね」
春「ずるい…次は私の番…」
湧「そいじゃ明後日はあちきね!」
京太郎「いや、あの…」
春「湧ちゃんはおっぱいないから難しい…」
湧「う…た、確かにそいかもしれんけど…」
京太郎「あの、だから…」
春「京太郎もおっぱい枕またして欲しいよね…?」
京太郎「勿論だ!」キリリッ
春「じゃあ、明日は私のおっぱいを枕にしながらお風呂…ね」ニコー
あああああああああああああ!!!!!
そうじゃない!!そうじゃないだろ俺えええええええ!!!
ここでそんな事言ったら春に言質与えるようなもんじゃないか!!
なのに、俺って奴は…俺って奴はあああああああ!!
やっぱりおっぱいには勝てないのか…!俺は…おっぱいに負ける運命しかないのか…!!
京太郎「は、はーるー…」
春「…ダメ。私も京太郎の情けない顔間近で見たいから…」
京太郎「見て面白いもんじゃねぇと思うぞ。つか、情けない顔って春さん…」
春「…じゃあ締りのない顔?」
京太郎「余計、悪いじゃねぇか」
まぁ、正直、否定は出来ない訳だけれども。
今はこうして顔にも力を入れているからそういう事もないだろうが、実際、情けない所を小蒔さんに見られたのは事実だし。
何より、そうやって顔に力を入れなければいけないくらい、小蒔さんのおっぱいは魅力的な感触を俺に伝えてきているんだ。
少しでも興奮や衝動の手綱を握るのに失敗してしまったら、春の言う情けない顔や締りのない顔を見られてしまう事だろう。
春「…それに姫様ばっかり京太郎のそういうトコ見るのはズルい」
小蒔「そうですね。可愛い京太郎君の顔はみんなで共有しないと」
湧「そいじゃ明日は動画撮る?」
小蒔「あ、良いですね、それ」
京太郎「やめてください死んでしまいます」
見目麗しい美少女の入浴シーンならばともかく男の入浴をわざわざ動画に撮るとか誰得も良い所だ。
いや、もしかしたら山田さん辺りならば喜ぶかもしれないが、そういうので喜ばれるのは正直、身の危険を余計強く感じるし。
初美さん辺りは大爆笑するだろうが、残り三人の反応はきっと芳しくはないだろう。
呆れるのならば良い方で、下手をすればそんな悪乗りが過ぎる真似をした俺達を叱るかもしれない。
春「…流出とかは大丈夫…このお屋敷ネットにつながってないから…」
京太郎「そういう問題じゃありません」
小蒔「うーん…皆、見たいでしょうし、良い案だと思ったんですけど…」
京太郎「いや…俺の入浴シーンなんて見たくないと思うんですが」
小蒔「そんな事はないですよ。私、今、とっても楽しいですもん!」
湧「あちきも楽しよ!」
京太郎「それは多分、小蒔さんと湧ちゃんだけじゃないかなぁ…」
春「ちなみに私はもっと京太郎の恥ずかしいところが見たい…」
京太郎「見せるつもりはねぇぞ」
と言うか、これ以上、恥ずかしいところなんてパンツがずり落ちたか、ガチ勃起したかのどっちかだけじゃねぇか。
流石にそれを見られるのは恥ずかしいってレベルじゃない。
下手をすればトラウマになってもおかしくはないだろう。
男って言うのは案外、面倒くさくて繊細な生き物なんだ。
最近はインポに陥る男も増えてきているらしいし、もうちょっと優しく扱って下さい。
…いや、ある意味ではこれ以上ないくらい優しく扱ってくれているんだけどさ。
小蒔「…よし。そろそろ良いですかね」
京太郎「お、もう終わりですか。それじゃまたシャワー止めますね」キュッ
小蒔「じゃあ、次はトリートメントですね!」
京太郎「…え?」
小蒔「え?」キョトン
京太郎「トリートメントまでつけるんですか」
小蒔「勿論ですよ。そこまでやってようやくちゃんと髪が洗ったって言えるんですから」
京太郎「いや、でも、俺、男ですし、そういうの要らないかなって…」
小蒔「でも、京太郎君、髪の毛が結構、傷んでますよ?」
京太郎「う…」
…そうだよなぁ。
ただでさえ、髪の事を気にしていなかった洗い方しかしてなかった訳だし。
その上、今は汗が出やすい日中にずっとカツラをつけて生活しているんだ。
頭皮も髪も蒸れやすいその状態は決して髪に良いとは言えないだろう。
湧「髪の毛が痛んと山田さあみたいになるよ?」
京太郎「遠回しに山田さんをハゲと言うのはやめてさしあげろ」
春「…そもそも山田さんの場合、全ハゲだからスキンヘッドと言うべき…」
京太郎「だからやめてあげろってば…!男にとってはその辺、結構、切実な問題なんだよ…!」
ホルモンの効果の関係上、男の方がどうしてもハゲやすいらしいからなぁ。
女の子にとってはその辺、理解できないのかもしれないが、その恐怖は決して小さいものではない。
最近は環境の変化によって若ハゲなんかも増えていると聞くし、俺にだって決して他人事ではないだろう。
いや、こうして髪に良いとは決して言えない事を毎日している俺にとって、それは目前に迫った問題と言っても良い事なのかもしれない…!!
春「…じゃあどうする?」
京太郎「う…どうするって…」
湧「勿論、ここで意地張って、後でハゲるか」
春「姫様のおっぱい枕で役得味わいながら髪の毛をケアして貰うか…」
小蒔「私はしっかり洗うってお約束しましたし…出来ればさせて欲しいです」ジィ
京太郎「あー………それじゃあ……お願いします」
小蒔「はい!」ニコー
山田さんみたく全部剃り上げても尚、格好良さが伝わってくるダンディな人ならばともかく、俺はそういうキャラじゃないからなぁ…。
ハゲればハゲただけ格好悪くなる事を思うと…やっぱりここは小蒔さんに一回甘えるのがやっぱりベストだ。
確かに小蒔さんにはしっかり洗うのをお願いした訳だし、何より、洗い方さえ覚えれば後は自分でケア出来る訳しな。
決しておっぱい枕続行に惹かれた訳じゃなく…今回だけ、今回だけ仕方なく甘えるだけだ。
小蒔「それじゃまた頭をこっちに預けて下さいね」
京太郎「はい」
小蒔「……」
京太郎「あれ?どうかしました?」
小蒔「いや、今回は変な声を漏らさないのかなーと思いまして」
京太郎「さ、流石に何回もやりませんよ」
小蒔「むぅ…ちょっと楽しみにしてたのですが…」
京太郎「そんなもん楽しみにしないでください」
まぁ、さっきの醜態がなければ今回もまた同じように声をあげていたかもしれないけどな。
ふわんと跳ねるような小蒔さんのおっぱいは本当に気持ちの良いものだし。
さっきまで味わっていた事実なんて忘れてしまったかのように、声が出そうになってしまう。
それを堪えられたのは俺が理性的な人間だから…ではなく、これ以上、皆に情けないところを見せたくはないと身構えていたからだ。
小蒔「ちょっと残念ですけど、そろそろ髪の毛に塗り塗りしていきますねー」
京太郎「お願いします」
小蒔「ちなみにトリートメントとは違って、リンスやコンディショナーの場合、基本的に頭皮に塗っちゃいけませんよ」
京太郎「はい。先生」サッ
小蒔「なんですか、京太郎君」フフーン
京太郎「そもそもリンスとコンディショナー、トリートメントの違いがよくわかりません」
小蒔「そうですね。細かい違いはいろいろありますが、基本的にリンスとコンディショナーにそれほど大きな違いはありません」
小蒔「髪の毛に浸透しやすいかしにくいかの差が微妙にあるくらいで、共に髪の毛をコーティングして保護するものだと思って大丈夫です」
小蒔「だからこそ、頭皮まで落ちちゃうと毛穴を塞いじゃって逆に髪の毛に悪影響になっちゃうんですよね」
小蒔「それを防ぐ為にもそのままで放置しておいてくださいって書いてあるもの以外は塗り終わったらすぐに洗い流したほうが良いです」
小蒔「逆にトリートメントはその2つとは違って、髪の内側へと浸透し、内部を補修する為のものですから、塗ってから時間を置かなければいけません」
そう言いながら小蒔さんの手は優しく俺の髪を包み込み、トリートメントを塗ってくれる。
シャンプーとはまた違った滑らかな粘液が髪の毛をべとべとにさせていった。
でも、それが決して不快ではないのはそれを塗る彼女の手が優しいからか、或いは小蒔さんの言葉からそれが俺の髪を癒してくれるものだと分かるからか。
相変わらず、思考の大半を後頭部から感じる柔らかい感触に奪われている俺には判別がつかなかった。
小蒔「塗るコツは一房ずつ取って毛先から撫でるように塗りこんでいく事です」
小蒔「それが終わったら今度は目の細かいクシを軽く通して下さいね」
小蒔「根本から毛先までしっかりやるのがポイントです」
小蒔「これをする事でトリートメントが髪の毛に馴染みやすくなりますから絶対にやってくださいね」
小蒔「そして最後に蒸しタオルを頭に巻いて…十分ほどそのまま放置するんです」
京太郎「でも、蒸しタオルなんて一般家庭じゃ中々、大変じゃないですか?」
小蒔「大丈夫ですよ。今は電子レンジで簡単に本格的な蒸しタオルが作れる時代ですから」
小蒔「それにこの蒸しタオルはそこまでしっかりとしたものじゃなくても構いませんよ」
小蒔「シャワーから出るお湯で温めたタオルを垂れてこない程度に軽く絞って巻くだけでも十分、効果がありますから」
春「…ちなみにそうやって三分ほど蒸して絞った蒸しタオルがこちらです」スッ
京太郎「って準備良いな、おい」
春「姫様が何時もやっている事だから…」
小蒔「えへへ。たまにですけど皆の髪も私が洗ってあげるんですよ」
なるほど。
だから、小蒔さんはこうして俺を洗うのにあまり躊躇がないのか。
自分の髪を洗うのと他人の髪を洗うのとでは結構違うもんだと思うけど、小蒔さんはその辺、サクサクとやってくからなぁ。
これまでもそうやって人の髪を洗ってきたから、その辺、慣れているのか。
湧「でも、あちき達、おっぱい枕はしてもらった事ないよね?」
小蒔「ふふ、これは京太郎君だけの特別ですから」
湧「えー。京太郎さあズルイー」
京太郎「湧ちゃんも興味あるのか?」
湧「ん!だって姫様のわっぜかふてーもん!」
湧「それに姫様のだし…触れるとご利益とかありそう!」
京太郎「あー確かに」
小蒔「な、ないですよ。ご利益なんて」
小蒔さんはそうは言うけど、須賀ウターが正しければバストサイズはKカップ……!!
全世界中に数多く存在するであろう貧乳達からすれば、羨望どころか敵意を向けられてもおかしくはないサイズだ。
その上、小蒔さんは神降ろしなんて言うオカルトを使いこなす本職巫女さんなのである。
いっそご神体と言っても良いくらいのその見事なおっぱいにはご利益の一つや二つくらいあってもおかしくはないだろう。
小蒔「と、ともかく…最後の仕上げに髪を巻いていきますね」
京太郎「…となるとやっぱり姿勢を元に戻したほうが良いですよね」
小蒔「そうですね。流石に上を向いたままだと巻けませんし」
京太郎「…そうですか。そうですよね…」
春「…京太郎、寂しい?」
京太郎「さ、寂しくなんかねぇよ。な、何を言ってるんだ」
確かに俺は自他ともに認めるおっぱい好きでこのシチュエーションを間違いなく楽しんでいただろう。
ぶっちゃけた話、何回も小蒔さんのおっぱいに頭を預けていたのは役得だという意識があったからだ。
だが、その分、俺はゴリゴリと理性が削れ、無限に湧き上がる衝動や欲求と戦い続けなければいけなかったのである。
それから開放されるともなれば、寧ろ、清々すると言っても良いくらいだぜ!!
春「寂しいなら私の胸の中に…来る…?」カァ
京太郎「いや、それは流石に遠慮する」
春「むぅ…どうして…」
京太郎「だって、春の場合、絶対、洒落になんねぇだろ」
自身のおっぱいが持つ魅力をまだ理解していない小蒔さんならまだしも春はその辺、ちゃんと理解している子なのだ。
そんな女の子の胸に飛び込むなんてセクハラ以外の何者でもない。
春の言っている事には正直、心惹かれるが、彼女が言っているのは流石に冗談だろうしな。
ここで行くなんて言ってしまえば今までの傾向からして春も後には引けないだろうし、遠慮する以外の選択肢は俺にはない。
春「…京太郎に振られた…ぐすん」
小蒔「わわわ、春ちゃん、泣かないで下さい!」
湧「京太郎さあ…」ジィ
京太郎「いや、どう見てもあれ嘘泣きだろ!?」
春「…えーんえーん」ボウヨミ
京太郎「ほら、めちゃくちゃ棒読みだしさ!!」
小蒔「そんな事ありませんよ。きっと春ちゃんは本気で傷ついているんです」
京太郎「いや、ここで春の胸に飛び込む方が傷つけると思うんですが!!」
好きでもない男が胸に飛び込んでくるなんて女の子にとっちゃ悪夢も良い所だ。
ToLoveるな漫画では割りと日常茶飯事な気もするが、現実でそんな事すると訴訟も辞さないレベルである。
流石に自分から言い出しているので訴訟沙汰にはならないと思うが、ここで俺が頷くと春が余計に傷つくのは目に見えていた。
さっき抱き上げた時の事を見ても春は誘っている時は強いけど、実際に迫られると弱い子だし、ここで飛び込む訳にはいかない。
春「…顔を洗うのは私に任せてくれたら泣き止む」ケロッ
京太郎「おい、泣き止む云々以前にやっぱりケロッとしてんじゃねぇか」
春「そんな事はない。私のガラスのハートは心ない京太郎の言葉で傷ついた」
春「だから、顔は私に洗わせて…?」
京太郎「…まぁ、それくらいなら良いけどさ」
その程度で春の気持ちが済むのであれば安いもんだ。
それに髪を洗ってもらうのとは違って、それほど密着する必要もない訳だし。
時間だって比較的すぐに済むのだから、断る理由はない。
…まぁ、春が何を企んでいるのか不安なところではあるが、流石にやばい事まではしないだろう。
小蒔「はい。こっちは巻き終わりましたよ」
京太郎「おー…ありがとうございます」
小蒔「いえいえ。気にしないでくださいね」
春とそんな事を話している間にも小蒔さんはしっかりと作業を進めておいてくれたらしい。
鏡に写る俺の顔にはいつの間にか白いタオルが巻かれていた。
お湯でしっかりと濡れたそのタオルは思った以上に、地肌へむわりとした熱気を伝えてくれる。
流石にレンジで作るような本格的蒸しタオルほどじゃないが、髪の毛が蒸されているのをはっきりと感じた。
春「じゃあ、京太郎。股を開いて」
京太郎「女の子なんだからもうちょっと言い方って奴を考えろよ…小蒔さん達だっているんだしさ」
小蒔「???」キョトン
湧「え?」クビカシゲ
春「…ほーれ…ほーれ。良いではないか良いではないか」
京太郎「誰が時代劇風にしろと言った」
春「奥さんだってその気なんやろ…ほら、股開いとるで…」
京太郎「余計、教育に悪くなってるじゃないか!!」
いや、確かに春を受け入れるのに俺も股を開いてるけどさ!!
でも、流石にそういう言い方はなんというか恥ずかしいし、教育に悪い。
と言うか、この中で一番、マシなのが時代劇風って言うのはどういう事なんだ。
春「じゃあ…素直にお邪魔します…」
京太郎「ん…お、おう…どうぞ」
…つっても、なんかこう殊勝に言われると若干、調子も狂うって言うか。
元々、春は場の状況をいじくりまわすのが好きなタイプだからなぁ…。
普段の彼女からはあんまり殊勝にそういうのは想像出来ないし…何より、俺の正面に回った春の顔が微かに紅潮している。
やっぱり、さっきのやりとりは緊張や羞恥心を誤魔化す為のものだったんだろうか…。
今更、だけど、もうちょっと乗ってやっても良かったかもしれない。
春「…ん」タユンタユン
京太郎「(お…おぉ)」
そんな俺の思考をふっ飛ばしたのは俺の目の前で揺れる春のおっぱいだ。
俺が椅子に座った状態で春が立ちっぱなしだとその見るからに柔らかそうな胸は丁度、俺の目の前に来るのである。
そのおっぱいがじわじわとこちらに近づいてくる光景は筆舌に尽くしがたい光景だ。
正直、一人のおっぱいスキーとしてこちらからその谷間に飛び込んでみたくなるくらいである。
湧「あ、京太郎さあ、またおっぱい見ちょるー」
京太郎「え?い、いやいやいや!見てないから!見てないからな!!」
小蒔「ふふ、そう言いながら京太郎君、春ちゃんのおっぱいから目を離せていませんよ」
京太郎「うぐ…そ、それは…」
だ、だって、仕方ないじゃないか。
目の前で春がおっぱい揺らしながら近づいてきてるんだから。
小蒔さんにも負けないその豊満なおっぱいが視界一杯に広がっていくなんて夢の様な光景なのだ。
別におっぱいスキーじゃなくても健全な男子高校生だったらガン見するのが当然だろう。
春「…京太郎」
京太郎「な、なんだ?」
春「私のおっぱい…見たいなら見ても良い…から」カァ
京太郎「い、いや…でもさ。それはまずいだろ」
春「代わりに…私も見るし…」ジィ
京太郎「見るって…あ、まさか…」
春の視線がゆっくりと俺の身体を下がっていく。
顔から胸、そして腹筋を伝ってその下へ。
普段は決して人には見せられないけれども、オスが最もセックスアピールとして発達した部分。
今も尚、トランクスで隠されているその場所に春の気恥ずかしそうな視線が注がれているのをはっきりと感じる…!
京太郎「…ちょ、は、春!何処見てるんだよ…!」
春「…き、京太郎のエッチ…」カァァ
京太郎「人の股間、ガン見してる奴に言われたくねぇよ」
確かに浴槽からあがってバスタオルを巻き直す時間はなかったし、濡れた分、脱衣所で見ていた時よりもしっかりと形や大きさが分かるようにはなっているんだろう。
そもそも先に春のセックスアピールをガン見したのは俺の方だし、あまり人の事は言えない。
だけど、それを差し引いても、女の子が男のそれを見るもんじゃなくないか!?
少なくともさらに紅潮し、真っ赤になった顔で無理に見るようなもんじゃないだろう。
春「違う…私はエッチなんかじゃない」
春「私が興味あるのは京太郎のだけだから…」
京太郎「女の子がそういう事言うんじゃありません!!」
春「…そう言いながらも隠さないってことは京太郎も実は見られたいんじゃ…」
京太郎「この態勢で隠せる訳ないだろ…!」
既に春は俺の内股にまで入り込んでいるんだ。
その状態で隠そうとしたらどうしても春の体と密着してしまう。
既に小蒔さんのおっぱい枕でこれ以上ないくらいボドボドになった俺の理性でそれに耐え切れるとは思えない。
今までは自分でも驚くくらいの自制心でなんとか出来たが、今度こそ勃起してしまうだろう。
春「……でも、水で濡れてさっきよりも形と大きさが分かって…」
春「今の状態でも京太郎の…私の手くらいありそう…」ゴク
小蒔「え?何がですか?」
京太郎「な、なんでもないですよ!!」
そう言ってくれるのは男として嬉しいけどな!!
でも、時間とか場所とか関係とかを弁えてくれると俺としてはありがたいかな!!
今は小蒔さん達との混浴の時間で、周りには春だけじゃなくて他の人もいるんだ。
特にそういった知識のまったくない小蒔さんの前でそのセリフはあまりにも不適切だろう。
その上、親友である春にそんな事言われると色々と滾ってしまうと言うか!!
嬉しいのは確かなんだけど、その分、興奮しちゃうんだよおおおおおお!!!!
京太郎「そ、それより早く顔洗ってくれよ…」
春「…もうちょっと見ていたいんだけど」
京太郎「流石にまだ続けるつもりなら俺にも考えがあるぞ」
春「……仕方ない」
…ふぅ。
とりあえずこのまま視姦され続ける危機だけは回避出来たか。
流石にこのままずっと見られ続けると本格的に勃起し始めそうだからなぁ。
俺は別にMじゃないけれども、マイクロビキニ姿の美少女に股間をガン見されるってシチュエーションに耐え切れるほど経験豊富って訳でもないのである。
今の態勢で勃起するとすぐに春にバレてしまうし…本当に助かった…。
春「じゃあ、目を閉じて…」
京太郎「…変な事しないよな?」
春「それは京太郎次第…」
京太郎「…すっげー不安だ…」
とは言え、このままグダグダやり続けても事態が何かの進展を見せる訳じゃない。
明らかに何かをするつもりらしい春の前で目を閉じるのは不安だが…きっとやばい事まではやらないだろう。
うん、きっと…多分…幾ら春だって分かってくれていると思うし…た、例え、そうでも根がヘタレな春なら寸前で思いとどまるよな…?
春「…ふふ、目を閉じて無防備になってる京太郎可愛い…」
京太郎「う…」
春「…キスのおねだりしてるみたい…」
京太郎「は、春…」
春「…分かってる。それじゃ、洗っていくから…」
その言葉と同時に俺の顔に柔らかい何かが触れる。
一瞬、その柔らかさと滑らかさにすわおっぱいかとびっくりしたが、恐らく春の手だろう。
さっきも俺に押し付けられていた春のおっぱいはこれよりももっと柔らかくて、そして気持ちの良いもんだったし。
それに幾ら春のおっぱいが大きくて柔らかいとは言っても、俺の顔を撫でるように洗顔剤を広げていく事は出来ないだろう。
春「…ちょっと残念?」
京太郎「な、何がだよ…」
春「…さぁ?」クスッ
流石の春でもおっぱいで洗うなんて事はしないだろう。
勿論、俺はそう思っていたし、期待なんてしていなかった。
…だけど、思考はそうでも、本能はやっぱり違ったんだろうな。
俺の顔に触れる春の手に残念がっているのはどうしても否定出来ない。
そこまで行くと最早、混浴って言うよりは性的サービスを提供する店みたいだと分かっていても、悲しい男の性が期待しない事を許さなかったのだろう。
春「…そういうのは二人っきりの時でね…」
京太郎「え?」
春「ほら…口閉じて…下の方も洗っていくから…」
京太郎「お、おう…」
…今、春はなんて言った?
まるで二人っきりの時なら俺の期待に応えても良いっていってくれていたような気がするんだが…。
さ、流石にそれは気のせいだよな。
そもそも春がエスパーでない以上、俺の考えが分かるはずもないし。
俺がそこまでエロい事を考えているなんて流石の春でも分かっていないはず…!
つーか、分かっていたら割りと首を括って死にたくなるぞ。
春「……ん。出来た」
小蒔「わぁ、京太郎君の顔、真っ白ですね」
湧「まっでお化粧しちょっみたい」
春「…ここから髭剃りとか考えてたけど…」
小蒔「髭なんてまったくないですもんね」
湧「京太郎さあの肌スベスベ!」
春「ん…まるで女の子みたいなプリプリの肌…」
いや…あの、皆さん?
もう終わったんなら水で流して欲しいんだけど。
仲良く雑談するのは大事な事だと思うし、俺もそれを応援してあげたいんだけどさ。
でも、今のままで放置されると流石にちょっと寂しいし、何より色々と不安になってくるんですが…。
春「…さて」
湧「あれ?春さあ、何するの?」
春「…京太郎が抵抗出来ない間にスキンシップ取ろうと思って」
はあああるうううううう!!!
いや、予想してたけど、春ならこの期を逃すはずがないって分かってたけどさ!!
でも、一応、これでも顔を洗うのを任せたのは春の事を信じてたからなんだぞ!
その辺の俺の気持ちを汲んでくれても良いんじゃないだろうか!
小蒔「え、でも、抵抗できない間にっていけない事じゃないですか?」
春「大丈夫…京太郎もそれを望んでいるから」
京太郎「~~~っ!」ブンブン
小蒔「…京太郎君、首を横に振ってますけれど…」
春「京太郎なりの照れ隠しだから…」
小蒔「なるほど…!勉強になります…!」
そこは勉強しちゃいけないところですってば小蒔さん!!
くそぅ…そうツッコミを入れたいのに顔中洗顔剤だらけでそれどころじゃない…!
せめてシャワーを使えればこれも洗い流せるんだが、春が目の前で陣取っている以上、それを許してはくれないだろう。
おのれ…!ここまで計算づくだったか…!!春の奴…やってくれた喃…!
春「それにおっぱい押し付けていたら京太郎も喜んでくれる…」
小蒔「そうですね。京太郎さんはおっぱい大好きですし」
湧「うん。京太郎さあだもんね」
京太郎「!!!」ブンブン
いやいやいやいや!!
確かに俺は自他共認めるようなおっぱい好きだけどさ!
でも、だからっておっぱい押し付けられて無条件で喜ぶってわけじゃないんだぞ!!
いや、喜ぶ事は喜ぶだろうけど、それは決して喜んじゃいけない類のものだと言うか…!
ここでそんな喜ばせ方をさせられると本気で勃起するってばああああ!!
小蒔「でも、スキンシップって具体的に何をするんですか?」
春「……き、キスとか…?」
小蒔「キス?」
湧「ちゅーの事!」
小蒔「ちゅ、ちゅー…!?ダメですよ!そういうのは恋人がするものですから!!」
春「大丈夫…欧米では挨拶としてごくごく普通のものだから」
小蒔「え?そうなんですか!?」
小蒔さん、騙されないでくれ!
確かにあっちでは日本よりも敷居が低いのは確かだけどさ!
だけど、小蒔さんが考えているような唇同士のキスを挨拶として日常的に行うのはごく一部の地域だけだ!!
頬同士を合わせる事でキスの見立てにしてる場所も多いし、決して一般的な挨拶じゃないぞ!!
小蒔「それじゃ大丈夫ですね!」
春「うん…大丈夫大丈夫」
湧「でも、京太郎さあの顔泡まみれだよ?」
春「…あ」
小蒔「口元だけ泡を流しますか?」
春「……」
湧「春さあ?」
春「ううん。別にキスは唇同士じゃなくても出来ますから」
春「抵抗出来ない状態で唇にするのも可哀想ですし…別のところにしましょう」
流石に春も超えちゃいけないラインはわかっててくれたか、良かった…。
…なんて思える訳ないだろおおおおおお!!!
湧ちゃんへの反応から察するに唇にする気満々だったよな春!
しかも、洗い流させない為に少し考えてそれっぽい理由を並べ立ててるし!!
小蒔「じゃあ、何処にするんです?」
春「キスの意味は場所によって違います…」
春「例えばオーソドックスな唇だと愛情、頬は親愛、手のひらは忠誠となっています」
小蒔「ふんふむ」
春「それで私は…………にしようかと」
小蒔「え…そ、そんな所にですか?」
くっ…春が寸前で声を潜めた所為で何処にするかが聞き取れなかった…!
偶然でそんな事が起こるはずもないし…どうやら春は俺の事を焦らすつもりらしい。
くそ…腹が立つくらいに効果的な事をやってくれるじゃないか…!!
お陰で俺はビクビクしながらその時を待たなきゃいけなくなってしまった…!!
春「えぇ。私はそこが良いんです」
春「それで…姫様や湧ちゃんはどうします?」
小蒔「え?」
春「一緒に京太郎にキス…しますか?」
小蒔「……実はちょっとしてみたいかなって」
湧「あちきもやるー!」
え?…ちょ…え?
待って待って待って待って待って!!
春だけじゃなくって小蒔さんや湧ちゃんまで俺にキスするの?
何その今時、漫画でもないようなご都合主義的展開!!
つか、無理だから!絶対、無理だから!!
春だけでもやばいのに三人の美少女にキスされるとかどー考えても理性が保たないから!!
小蒔「でも、私はキスの意味なんて分かりませんし…」
春「好きなところにすれば良いです…私も良く知っている訳じゃないですから分かりませんし」
小蒔「なるほど!それもそうですね」
湧「うんうん。そいじゃ…あちきはこっちに…!」
小蒔「私は…えへへ。楽しみですね」
いや、何が!?
って突っ込んでる場合じゃない…!
例え目が見えなくても何とかここから逃げないと…!
春「…ダメ」ギュッ
ふぉあっ!?
春「…逃げちゃダメ…ちゃんと私達の接吻…受けて?」
いやいやいや、受けてじゃないだろ!!
確かに唇にするよりも遥かにマシだよ、マシだけどさ!!
でも、どれだけ言い訳してもそれはキスだし、何より男の身体にキスするとか普通じゃないって!!
何より、ただでさえ限界一杯な俺の理性がこのシチュエーションに耐え切れる訳もないんだよ!!
だから、俺を抱きしめてるその腕を何とかして下さい!
さっきから春の柔らかおっぱいが当たって、理性がががががが。
小蒔「ちゅ」
ふぇぅっ!?
湧「あ、姫様、フライングー」
小蒔「えへへ。待ちきれなくって」
ま、待ちきれないって…小蒔さん、そこは俺の腕なんですが。
しかも、腕を抱くようにして肩の部分にキスされて…おぉ…もう…。
春のよりも張りのある素敵なおっぱいに腕が挟まれるってだけでも幸せな心地なのに…その上、小蒔さんからキスされてるなんて。
なんだこれ…急展開過ぎて思考が追いついてこないんだけど。
夢か?夢だよな、そうだ、夢に違いない…。
湧「姫様、どうじゃった?」
小蒔「んー…良く分かりません」
湧「そなの?」
小蒔「はい。なんだか恥ずかしいのはあるんですけど…ソレ以外はまだぼやぼやってしてて」
春「…何回もやってみたらきっと分かりますよ」
小蒔「なるほど…!やっぱり一回だけじゃダメなんですね」
なーんて現実逃避するような暇も与えてくれませんよね!!
せめて一回だけで終わってくれたら、こっちもまだ希望を持てたのに…持てたのに!!
どうやら春も小蒔さんも一回だけで済ませるつもりはないようだ。
女の子なんだから、もうちょっと自分の身体を大事にしようよ、いや、マジで!!
湧「じゃあ、あちきも…ちゅー」
ぬふぉ!!
小蒔「あ、湧ちゃんは背中なんですね」
湧「うん!前々から逞しい京太郎さあの背中が好きじゃったから」
小蒔「ふふ、わかります。まるでお父さんみたいですよね」
はは。でも、多分、お父さんの背中にはキスしないんじゃないかなぁ。
と言うか、世界中で娘に背中へのキスをされるお父さんなんてまずいない。
まだ挨拶代わりに頬へのキスはあるかもしれないが、そもそも娘の前でむき出しになった背中を見せないだろうし。
そもそもそういう気もないのに相手にキスするのがおかしいって二人とも気づいて下さい!!
小蒔「湧ちゃんの方はどうでした?」
湧「んーあちきも良く分からん。でも…あんまい嫌じゃね…かな?」
小蒔「あ、湧ちゃんもですか。私もです」
湧「そいじゃいっぺぇちゅーしよっか!」
小蒔「賛成です!」
わぁい、俺ってばモテモテだぁうふふー。
…こんな風にモテてもまったく嬉しくはないけどな!!
美少女からキスされるのは嬉しいし、それだけ慕われるのも素敵な事ではあるけれども!!
でも、せめて…!!せめて、ソレを素直に喜べるような状況でしてくれよ!!
一歩間違ったら色々な意味で死亡確定な状況で背中やら腕やらにキスされても喜ぶどころか辛いだけだよ!!
春「京太郎…」
ってやばい…春の事忘れてた…!
この状況を創りだした元凶である春は知識の量だけで見ても二人を上回ってるんだ。
さっき声を潜めた所から考えるに、やばいところにするつもりなのかもしれない。
或いは俺を怯えさせるのが目的でごくごく一般的なところで済ませるつもりなのかも…。
あぁ、くそ…春の性格的にはどっちもあり得るから困る…!!
と、とりあえず目は見えないままだけど、警戒だけはしておかないと…!!
春「…不安なんだ。大丈夫…変な所にはキスしないから…」スッ
いや、まったく信じられない訳なんだが!!
春の事を一回信じた結果がコレだからな!
彼女には悪いが、腕を離したのが詰めの甘さよ!!
ここは逃げさせてもらう…!
春「ちなみに今、動いたら姫様達が怪我しちゃうかもしれない…」
う…ぐ…。
は、春…お前…小蒔さん達を人質にとるつもりか…!
小蒔さん達を誘導したのも全部…この時の…俺を逃さない為の策だったんだな…!!
おのれ…春…春うううううううう!!!
春「ふふ…京太郎は本当に良い子…ちゃんと我慢出来たら…後でご褒美あげる…ね」チュッ
ご褒美っておま…うあ…あああああ!
ちょ、何、これ!!
小蒔さんや湧ちゃんと違って、凄い情熱的…と言うかネットリしてるんだけど!!
すっごい吸い付いてきて俺の胸が吸い上げられて…や、やば…い。
これ…性的過ぎ…るって!
春「ちゅる…ん…ふぅ…♪」
吸い付くのが終わったら今度は春の舌が俺の肌を舐めた。
まるで俺の肌に唾液を塗り込もうとしているようなそれにゾクリとしたものを感じる。
いや、それは感じさせられてしまうとそう言った方が正しいのだろう。
俺の意思をまったく介さず、その奥にある性感を目覚めさせようとしているんだから。
小蒔「わ…あぁ…」
湧「す、すご…」
そんな春のキスに二人も飲まれているんだろう。
実際に感じる俺ほどではないだろうが、その情熱っぷりは二人にも伝わっているんだ。
一体、外から見てどれだけやらしいキスをしているのだろうか。
それが少し気になったが、さりとて今の俺に目を開ける事は出来ない。
京太郎「(耐えろ耐えろ耐えろ耐えろ耐えろ!!)」
これまで春や小蒔さんからの攻勢を耐え切れたのがほぼ奇跡のようなものなのだ。
健全な男子高校生としては今の時点で理性を失っていてもおかしくはない。
それでもまだ踏みとどまってくれる理性には申し訳ないが、ここで自分を見失う訳にはいかないのだ。
例え、無理難題であっても、ここを乗り切らなければ、今まで俺が築き上げてきた全てが灰になってもおかしくはないのだから。
春「…京太郎…ちゅ…京太…ろぉ…ちゅぅ…?」
だが、そうやって耐えろと自分に命じ続ける俺の胸の中で春が俺の名前を呼ぶ。
まるで愛しい人を呼ぶようなその甘い響きに俺の思考がクラリと揺れた。
ただでさえ春のキスに追い詰められていた俺の理性は、思いの外、甘い春の声に耐え切れない。
重量に耐え切れず、ゆっくりと千切れていくザイルのように俺の理性が削れていく。
小蒔「…ゆ、湧ちゃん…」
湧「ん…姫様…あちき達も負けてられんね」
小蒔「で、ですね。…春ちゃんみたいに京太郎君にキスしないと…」
春がやっているのは小蒔さんや湧ちゃんがやっているような唇を押し付けるようなものではなく、まるでそこが恋人の唇であるような情熱的なキスなのだ。
夢見がちな年頃で、何より純真で人に影響されたすい二人がそれにあてられるのも無理はないのかもしれない。
だが、それは俺にとって新たな地獄への入り口以外の何者でもなかった。
さりとて理性が完全に限界を迎えてしまった俺に二人を止める術はない。
俺に出来る事と言えば、少しでもその時を先延ばしにする為に歯を食いしばる事くらいだ。
久しぶりに♥使った所為でMOJIBAKE!!!
申し訳ない。訂正します
京太郎「(耐えろ耐えろ耐えろ耐えろ耐えろ!!)」
これまで春や小蒔さんからの攻勢を耐え切れたのがほぼ奇跡のようなものなのだ。
健全な男子高校生としては今の時点で理性を失っていてもおかしくはない。
それでもまだ踏みとどまってくれる理性には申し訳ないが、ここで自分を見失う訳にはいかないのだ。
例え、無理難題であっても、ここを乗り切らなければ、今まで俺が築き上げてきた全てが灰になってもおかしくはないのだから。
春「…京太郎…ちゅ…京太…ろぉ…ちゅぅ…♥」
だが、そうやって耐えろと自分に命じ続ける俺の胸の中で春が俺の名前を呼ぶ。
まるで愛しい人を呼ぶようなその甘い響きに俺の思考がクラリと揺れた。
ただでさえ春のキスに追い詰められていた俺の理性は、思いの外、甘い春の声に耐え切れない。
重量に耐え切れず、ゆっくりと千切れていくザイルのように俺の理性が削れていく。
小蒔「…ゆ、湧ちゃん…」
湧「ん…姫様…あちき達も負けてられんね」
小蒔「で、ですね。…春ちゃんみたいに京太郎君にキスしないと…」
春がやっているのは小蒔さんや湧ちゃんがやっているような唇を押し付けるようなものではなく、まるでそこが恋人の唇であるような情熱的なキスなのだ。
夢見がちな年頃で、何より純真で人に影響されたすい二人がそれにあてられるのも無理はないのかもしれない。
だが、それは俺にとって新たな地獄への入り口以外の何者でもなかった。
さりとて理性が完全に限界を迎えてしまった俺に二人を止める術はない。
俺に出来る事と言えば、少しでもその時を先延ばしにする為に歯を食いしばる事くらいだ。
春「きょぉたろぉ♥」
小蒔「京太郎君…ちゅぅ…」
湧「ちゅる…えへへ…京太郎さあ」
京太郎「~~っ!」ブルブル
だが、そうやって我慢しても既に決定した盤上を覆す事は出来ない。
例え全身を震わせるくらいに力を入れても、三人の美少女からの愛撫はその上から容易く俺の欲望を擽ってくる。
勿論、小蒔さんや湧ちゃんはまだ吹っ切れていないのか、そのキスは春に比べればまだまだぎこちないものだ。
だが、ぎこちないながらも、見様見真似で繰り返されるそのキスは気持ちよく、そして何より甘い。
胸から、腕から、背中から…幾度となく俺を愛撫するそのキスに…俺は…俺は… ――
小蒔「寒いんですね。大丈夫ですよ。皆で温めてあげますから…」ギュゥ
ブツン
―― あ、無理だわコレ。
俺がそう思った時にはもう遅かった。
俺の震えを寒さによるものだと勘違いした小蒔さんは俺の身体へと強く抱きついてきたのである。
腕だけではなく、俺の身体ごと抱きしめようとしているそれに俺の理性は完全に千切れてしまった。
ムスコへと流れていく血液の流れはもうコントロール出来ず…俺の一部が腫れ上がっていく。
春「……え?」
湧ちゃんは背中で俺にキスするのに夢中だし、小蒔さんは俺の事を温めようと抱きしめてくれている。
自然、トランクスを突き破らんばかりの勢いで大きくなっていくムスコに真っ先に驚きの声をあげたのは春だった。
まぁ、それも決して気づくのが早かったと言えるようなものではないのだけれども。
なにせ、春がそうやって声をあげたのは俺のムスコが彼女の肌に触れてからなのだから。
春「…え、嘘…な、何…これ…」
酷い言われようである。
まぁ、そう言いたくなる気持ちは正直、理解出来なくはない。
こうして妙にやらしいキスをしたりしているけれど、春はあくまでも巫女さんなのだ。
男性器なんて見た事はなく、触れた事なんてあろうはずもない。
そんな春が目の前で大きくなっていく男性器に怯えてもなんらおかしくはないだろう。
京太郎「(…終わった。何もかも…終わった)」
こうなると分かっていたからこそ、俺はなんとか自分の欲望を堪えようとしてきた。
だが、春が上手だった所為か、或いは俺が状況に流されすぎた所為か、ついに超えてはいけないラインを超えてしまったのである。
きっとこれから俺を見る春の目は変わるだろうし…下手をすれば避けられてもおかしくはない。
少なくとも親友とそう呼べるような関係をこれから維持していく事は不可能になっただろう。
正直、そんな未来を思うだけで目から汗が出てきそうになる…。
春「は…はちきれそうになって…ビクビク…して…」
小蒔「あれ?どうかしたんですか?」
春「い、いえ…な、なんでもないです…」
そこで小蒔さんに誤魔化してくれるくらいには春の中にも優しさがあったと言う事なのだろう。
出来ればその優しさをもうちょっと別の時に使って欲しかったけれど…。
まぁ、調子に乗った分、春は俺のムスコに怖がっている訳だし。
春に対する罰はあったと、そういう風に考えよう。
春「す、凄い…こんなになっちゃうんだ…」ゴクリ
……アレ?
春「…こ、これ…触らないとダメって聞いた」
春「ちゃ、ちゃんと処理しないと辛い…って」スッ
京太郎「待て待て待て待て!!」
うぉおおお洗顔剤が口の中に入ってにげえええええ!!
が、しかし!しかしだ!!そればっかりは流石に見過ごす事は出来ないぞ!!
ただでさえ今の時点でも情けなくって死にたいのに、春に性欲処理までして貰うとかやばすぎる…!!
幾ら親友である春相手でも、そこまでされると人間として終わりだ…!!
京太郎「そ、そこまでする必要はないから!!」
春「でも…私の所為だし…」
京太郎「それが分かっているなら、なんでここまでするんだよ…!」
春「だって…」
京太郎「…ぅ」
なんでそこでちょっと悲しそうな声をあげるかなぁ…。
まるで俺のほうが悪いことをしているみたいじゃないか。
…いや、春は基本、勢いだけで生きているように見えて結構周りを見ている子だし…。
こうやって俺にキスしてたのも、俺に何か理由があるのかもしれないんだけどさ。
でも、それならばそれで言ってくれれば何時でも改善するのに…って思うのは俺の甘えだろうか。
京太郎「…とにかくそこをどいてくれ。泡を落とさないままじゃろくに話も出来ないし」
春「……ん」スッ
京太郎「…ありがとうな」
春の真意は分からないけど、とりあえずこれ以上俺に対して悪戯をするつもりはないらしい。
いや、春のそれは最早、悪戯ってレベルで済むようなもんじゃないけれどさ。
実際、今も俺のムスコはトランクスの中でガチガチに勃起し続けている訳で。
何とか襲う襲わないのところにまではいかなかったけれど…小蒔さんたちが周りにいなかったら正直、危なかったかもしれない。
京太郎「小蒔さん達も一回離れてくださいね。俺、冷たいの浴びますから」
小蒔「ということは…もう終わりですか?」
京太郎「終わりです」
湧「ん…仕方なかね」スッ
小蒔「そうですね。ちょっと名残惜しいですけど…」スッ
…それはもっと俺にキスをしたかったってことなんだろうか?
い、いや、今は考えるんじゃない。
今の状態でそういうのを考えると、余計にムスコの方が疼いてきてしまう…!
とりあえず、今は下手なことを考えずに、シャワーで顔を洗い流すのが最優先だ…!!
京太郎「あー……」
しかし、冷たいシャワーを顔に浴びて泡が流れていくのを感じても、身体は中々、冷え切らない。
冷水が肌に当たって、そのまま身体を流れていくのは分かるんだけどなぁ。
だが、皆がキスをしてくれたところだけはジンジンと肌の奥で熱が蠢いているのを感じる。
まるでキスされた事を忘れたくないと言わんばかりのその反応に俺の口から意味のない声が漏れた。
京太郎「(死にたい。もうホント情けなくて死にたい…)」
それと同時に湧き上がるのは自分に対する猛烈な自己嫌悪だ。
小蒔さん達にキスされ、抱きつかれ、情けなくも、ムスコを勃起させてしまった自分。
勿論、健全な男子高校生としてはここまで保った事が奇跡と言っても良いものだろう。
だが、それは春に勃起した姿を見られてしまったという事実を覆してはくれない。
自分を慰めるだけの材料にもならないそれに俺は冷水の中で小さくため息を漏らした。
京太郎「(あそこで春を拒んでいたら…いや、せめてもっと早く声をあげていれば…)」
勃起している姿を春に見られたりはしなかったかもしれない。
いや、間違いなくこんな事にはならなかっただろう。
今更ながらに浮かび上がってきた春に対する答えを一つでも出せていれば。
ただ、困惑するだけじゃなく、ほんの少しだけでも、流されまいと抗おうとしていれば。
勿論、それはいくら並び立てても意味のないIFだと理解している。
だが、先の失態はそのIFを幾ら並べ立て、反省しても決して取り返す事の出来ないものなのだ。
小蒔「あの…京太郎君?あんまり水を被っていると風邪を引きますよ?」
そうやって自省を繰り返している間に、どうやら結構な時間が経ってしまっていたらしい。
冷水のヴェールの向こうから小蒔さんが心配してくれている声が届いた。
だが、未だ尚、俺の身体は興奮に火照り、キスの痕も疼き続けている。
ムスコはガッチガチになったまま、その滾りを抑える気配もなかった。
未だ頭の中も整理出来ちゃいないし、もう少し冷水を被っていたい。
京太郎「(…でも、そうやって冷水を浴びっぱなしじゃ小蒔さんを心配させるだけだしなぁ)」
それに事の元凶でもある春がそんな俺に何も思わないはずがない。
調子に乗って俺にキスしてきたけれども、俺の知る春はとても優しい子なのだから。
こうやって俺が落ち込んだ様子を見せ続けると、彼女も自分を責めるだろう。
確かに春はやり過ぎたとは言え、拒めなかった俺にも原因があるし、あまり当てつけのような真似はしたくない。
春の前で勃起してしまっただけでも格好悪すぎるのに、これ以上、八つ当たりまでしたら格好悪いと通り越してクズになってしまう。
京太郎「(ま…とりあえずトリートメントも流しきってしまうか)」
こうやって冷水を浴びている間にも俺の髪の毛からトリートメントが流れ落ちている。
だが、未だタオルが巻かれているままで、ちゃんと洗い流せるはずがない。
とりあえず気分転換ついでにタオルを剥がして、本格的に髪の毛を洗っていこう。
折角、小蒔さんに洗ってもらったのに中途半端な事になると申し訳ないしなぁ。
京太郎「ふぅ…」
湧「京太郎さあ、終わった?」
京太郎「お、おう」
やべ、いきなり横から声が掛かったし、ちょっとびっくりした。
何せ、こうしている今でもまだまだムスコはガチガチになっているままだからなぁ。
我慢させていた分、気持ちよくさせてもらわないと割に合わないってばかりにいまだ滾り続けている。
そんな俺の情けない部分を湧ちゃんに見られたんじゃないかと思ったが、彼女の視線は俺の顔に注がれているし。
…おそらくは気づかれていない…と信じたい。
京太郎「スッキリしたぜ。どうだ?イケメンになってるか?」
湧「ふふ、京太郎さあは最初から格好良かよ」
湧「でも、髪の毛サラサラしちょって今はもっとイケメンになっちょるね」ニコー
京太郎「そっか。ありがとうな」
まぁ、流石に幾分、お世辞も入っているんだろうが、髪の毛の感覚は確かに違う。
今までのものよりももっとスマートで軽い感じと言えば良いのだろうか。
トリートメントなんて今までした事なかったけど、一回だけでも結構違うもんなんだなぁ。
日常的にカツラを被る以上、ハゲの恐怖はどうしても付きまとうし…これからはちゃんとするようにするか。
っと、それよりも今は… ――
春「…えっと…京太郎…?」
京太郎「…あー…その、ごめんな、春」
春「…え?」
京太郎「俺がちゃんと断ってたら、あんな見苦しいものを見せる事はなかったんだが…」
湧ちゃんの向こうからおずおずと声を掛けてくる春にはちゃんと謝っておかないとな。
経緯はどうであれ、俺が春の身体にきかん棒を押し付けてしまったのは事実だし。
下手をすればそれだけで絶縁を食らってもおかしくはないレベルの行為だ。
さっきの声を聞く限り、あまり気にはしていないかもしれないが、やはり改めて謝っておかないといけない。
一緒の家で暮らす家族とか、俺の秘密がバレないように手を回してくれる協力者だとか…そんなのを差し引いても、俺は春とこれからも仲良くしていきたいしな。
春「どうして謝るの?」
京太郎「いや、どうしてって…ありゃ俺が悪いと言うか情けないと言うか…」
春「…でも、京太郎は我慢してたでしょう?」
京太郎「そりゃ…まぁ」
春「…なら、悪いのはそんな京太郎に甘えて、一線を超えさせた私の方。京太郎が謝る必要はない」
京太郎「春…」
そう答える春の言葉には淀みがなかった。
恐らく彼女は心からそう思っているんだろう。
…だけど、それならなんで春はここまでやったんだ?
今回のそれがただ抱きつくのとは訳が違う事くらい春にだって分かっていただろう。
今度こそ俺が自分を抑えられず、勃起してしまうかもしれないって事くらい考えていたはずだ。
それこそ下手したら襲われるかもしれないリスクを犯してまで、俺に甘えてきた春の真意って一体… ――
小蒔「え?京太郎君、我慢してたんですか?」
京太郎「あ、いや、その…」
小蒔「も、もしかして何処か痒かったですか?それともタオルの巻き方がきつかったとか…」アワワ
京太郎「い、いえ、その辺は大丈夫でしたよ。とっても気持ちよかったです」
小蒔「そ、そうでしたか…良かった」ホッ
小蒔「でも、それなら我慢って一体、なんだったんですか?」
京太郎「え、えっと…そ、その、ちょっと身体が冷えてきてしまって」
小蒔「あ、そういえばさっき震えていましたもんね」
京太郎「はい。でも、小蒔さんが抱きついてくれたお陰で温まりましたから大丈夫ですよ」
小蒔「えへへ、それなら良かったです」
…ふぅ、何とか誤魔化せたか。
小蒔さんに俺の下半身事情を赤裸々に伝える訳にはいかないしなぁ。
それならさっき冷水を被っていたのはどういう事なのかと突っ込まれたら終わりだったが、いつの間にか頭にタオルを巻いていた小蒔さんからその疑問が飛び出る事はなかった。
とりあえず一段落はついた…とそう思っても良いだろう。
まぁ、未だ俺のムスコはトランクスの中で反り返っているままだが…それはもう時間に任せるしかないし。
一度、火が着いてしまった若い衝動は理性ではどうする事も出来ないのである。
湧「あれ?そいじゃ、さっき冷たかシャワー浴びちょったんは…」
京太郎「ゆ、湧ちゃん!それよりもお願いがあるんだけど!!」
湧「お願い?」
京太郎「あぁ。俺の背中、流してくれないか?」
湧「良かの!?」パァ
ふ、ふぅ…何とか湧ちゃんのセリフを止める事には成功したらしい。
あそこで彼女が疑問を口にしたら、一度終わったはずの問題がまたぶり返されかねなかったからな。
あんまり行儀の良い真似ではなかったけれども、今度こそ一安心ってところか。
京太郎「あぁ。と言うか、元々、そういう話だっただろ?」
湧「…うんっ!」ニコー
小蒔「良かったですね、湧ちゃん」
湧「はい!あちきも姫様や春さあに負けんよう、きばっね!」
京太郎「はは。さっきも言ったけどお手柔らかにな」
湧「うん!ゴリゴリするね!」
京太郎「ご、ゴリゴリはやめてほしいかなぁ」
身体測定こそ俺の方が上だったけれど、湧ちゃんだってその小柄な身体に似合わないパワーを持っているんだ。
そんな彼女が本気でゴリゴリなんてすると下手したら皮膚から出血しかねない。
流石に湧ちゃんだってそこまで無茶はしないと思うけど…でも、今の彼女はやけに張り切っているし。
小蒔さんに負けないくらい気合を入れている彼女の姿を見ると本気でゴリゴリしかねないとそんな風に思ってしまう。
京太郎「一応、乙女の柔肌なんだから優しくして頂戴ね」ウラゴエ
湧「あはは、今の京太郎さあが乙女なんて言っても気色悪かだけよ?」
京太郎「はは。はっきり言うなぁ」
湧「だって、京太郎さあに遠慮してもしゃあないもん」
まぁ、確かに今更、そんな遠慮されても、こっちが戸惑うだけだよなぁ。
なんだかんだ言ってこの数カ月の間に湧ちゃんも俺に凄く懐いてくれている訳だし。
流石に親友である明星ちゃんほどじゃないが、遠慮のない言葉が日常でも飛び出すようになっている。
そんな湧ちゃんに変に気を遣われても、調子が狂ってしまうだけだろう。
湧「京子さあだとちょっと躊躇うところもあるけれど」
京太郎「そうなのか?」
湧「ん。だって、京子さあ綺麗だし、格好良いし」
京太郎「……まるで俺は汚くて、格好悪いみたいじゃないか」
湧「そ、そんな事言うちょらんよ」アセアセ
京太郎「はは。分かってるって。俺はイケメンなんだもんな」
多少、拗ねてみせたりはしたものの、それはあくまでもポーズだ。
そもそもさっき湧ちゃんは俺の事をイケメンだとそう称してくれた訳で。
アレが100%湧ちゃんのお世辞だったと思うほど俺も彼女との付き合いが浅いわけじゃない。
何より、仮にも人に良く見せる為に化粧をしている俺とすっぴんの俺とじゃ前者に軍配が上がるのは当然の事だ。
湧「…それ撤回しよっかな」
京太郎「え!?ど、どうして!?」
湧「だって、京太郎さあ、あちきに意地悪するしー…」ジトー
京太郎「意地悪するのも俺なりの愛情表現なんだよ」
湧「えー。あちき優しい方が良か」
京太郎「善処はするよ」
湧「それってする気ないって事?」
京太郎「する気はあるよ。やらないだけで」
湧「京太郎さあ?」ゴシゴシ
京太郎「いててっ」
そう言って湧ちゃんが俺に押し付けてきたのは未だ石鹸もつけていないボディタオルだった。
垢を落とす為か肌さわりの硬いそれでゴシゴシと洗われると肌からひりつくような痛みを感じる。
まぁ、痛みと言っても本当に微かなものだから、痛いだなんて声をあげるほどじゃない。
湧ちゃんとしてもそうやって俺をゴシゴシと洗っているのは冗談のつもりなのだろう。
京太郎「分かった分かった。これからはちゃんと湧ちゃんに優しくします」
湧「げんにゃあ?」
京太郎「おう。げんにゃあげんにゃあ」
湧「えへへ。そいじゃ、あちきも京太郎さあに優しくしてあげる!」
京太郎「具体的には?」
湧「ちゃんとさふんを泡立ててあげる!」
京太郎「優しくしなかったら石鹸なしのつもりだったのか…!」
湧「えへへ。アカスリとか乾布摩擦みたいできっと気持ち良かよ!」
アカスリ用のボディタオルならまだしも、普通の奴でそれは結構、無茶じゃないかなぁ。
アカスリには惹かれるけど、基本的に石鹸やボディソープで洗うのを想定しているものなんだし。
使用上の注意をよく読み、用法用量を守って正しく使ってほしい。
湧「そいじゃそろそろやってくね」
京太郎「おっけー。ばっちこーい」
湧「んしょ…っと」
可愛らしく掛け声をあげながら湧ちゃんが俺の背中側へと移動する。
彼女が手に持っているボディタオルはいつの間にか白い泡で包まれており、準備も万端だ。
やけに気合が入っているのは気になるが、湧ちゃんも優しくしてくれるって言ってたし、多分、大丈夫だろう。
湧「えーと…こいくらい」ワシャワシャ
京太郎「んー…もうちょっとかな?」
湧「これでどう?」ゴシゴシ
京太郎「おぉ。それくらいがいいかな」
湧「よし。そいじゃあ、こいの二倍くらいに!!」
京太郎「流石にそれは皮膚が痛むから止めて下さい」
湧「えへへ、冗談冗談」ニコニコ
まったく…湧ちゃんったら。
まぁ、最初のゴリゴリする宣言からは程遠いくらいの力加減から始まったし、優しくしようとはしてくれているんだろう。
正直、最初は強いどころか、撫でるようなもので、女の子のような繊細な肌はしていない俺にとっては若干、物足りなかったくらいだったからな。
湧「……でも、京太郎さあの背中、本当に広かね」
京太郎「ん…まぁ、これでも男の子だからな」
湧「うん。みんなのと違って硬くって大きくって…」
京太郎「…」
湧「あれ?どうかした?」キョトン
京太郎「い、いや、なんでもないぞ」
しっかりしろ俺…!
湧ちゃんが言ってるのはあくまでも俺の背中の事なんだ!!
今も反り返り続けているムスコのとは無関係である。
…それは分かってるんだが、一回、そっちへと傾いてしまった思考は中々、元には戻らなくて…。
そういうつもりじゃないって分かっているはずの言葉も簡単にエロスへと結びつけてしまう。
京太郎「まぁ、大きい分、大変かもしれないけど…」
湧「んーん。あちき背中洗うの好きだからだいじょっ」
京太郎「そうなのか?」
湧「うん。だって、人によって背中って全然、違ごもん」
湧「霞さあはお母さんみたいだし、巴さあはお姉さんみたい、初美さあはあちきよりも小さいし」
京太郎「あ、あはは」
…確かに初美さんは小柄な湧ちゃんよりもさらに一回り小さいからなぁ。
湧ちゃんが中学生くらいの女の子だとすれば、初美さんは小学生だと言っても過言ではない。
でも、食べているものや生活パターンがほぼ同じ霞さん達はちゃんとその辺、成長しているんだよなぁ。
やっぱり人の成長って遺伝ってものが無関係じゃないってのがこの家の皆を見ていると良く分かる。
湧「そいで京太郎さんはお兄さんみたいな背中!」
京太郎「お兄さん…か」
湧「うん。…嫌だった?」
京太郎「嫌なわけないだろ。寧ろ、俺は嬉しいよ」
湧ちゃんみたいな可愛い女の子にお兄ちゃんみたいだ、なんて言われて嫌がる男がいるはずがない。
それに俺は事前に巴さんから彼女がそう思っているかもしれない、と聞いていたから心の準備も出来ていたし。
何より、俺にとって湧ちゃんと小蒔さんは妹とそう呼んでもおかしくはないような立ち位置だからなぁ。
湧ちゃん本人からそう言って貰えて、寧ろ、光栄だと言っても良いくらいだ。
京太郎「何なら今から俺のことを京太郎お兄ちゃんって呼んでくれても良いくらいだぞ」
湧「えー。そいはちょっと恥ずかし…」
京太郎「oh…振られちゃったか…」
春「京太郎も私の気持ちが分かった…?」
京太郎「あぁ…わかったよ。振られるって結構、きついものがあるんだな…」
湧「わ、わわ、別にそういう意味じゃ…!」
京太郎「はは。分かってるって。そもそもいきなりお兄ちゃんはハードル高いだろうしな」
小蒔「じゃあ、アダ名とかどうですか?」
湧「アダ名?」
小蒔「はい。お兄ちゃんが恥ずかしいなら、まずはアダ名から慣れていけばいいと思うんです!」
湧「その手が…!」
あ、あれ…?
俺としてはただの冗談のつもりだったんだけど…なんか話が本格的なものになってる?
そもそもわざわざ慣らしまでして俺のことをお兄ちゃんって呼ぶ必要はないと思うんだけど…。
俺から言い出したとは言え、別に本気でお兄ちゃんって呼ばれたがっている訳でもないし。
湧「じゃあ、京太郎さあのアダ名を考えないと!」
小蒔「そうですね…どうせなら格好良いのが良いです」
湧「格好良いの…うーん…うーん」
だけど……どうやら、湧ちゃんも小蒔さんもやる気らしい。
まぁ、お兄ちゃんと呼ばれるかどうかはさておき、そんな二人に水を差すのも可哀想だ。
考えるので必死で俺の背中を洗う手も止まっているけれど、好きにさせておいてあげよう。
湧「げろじゃぶかフーミン…かな?」
京太郎「…え?」
小蒔「良いですね!それ!!」
湧「えへへ」
京太郎「え?あの…え?」
…あれ?俺の耳がおかしくなったのかな?
さっき俺に届いたそのアダ名は決して格好良いとは言えない代物だったと思うんだけど。
でも、小蒔さんは良いって言ってるし…や、やっぱり聞き間違えとは思えないかな!
まさか…本気でげろじゃぶとかフーミンとかそんなアダ名をつけられるはずないし。
湧「ねね!京太郎さあはどっちが良い?」
京太郎「ど、どっちって…?」
湧「もう。げろじゃぶかフーミンかだよ!」
やっぱり聞き間違えじゃなかったああああああああああ!!!!
つか、と言うか、どっから出てきたのそのアダ名!!
俺の一体、何処にげろだったりじゃぶだったりフーミンだったりの要素があるんだ!?
ちょっと湧ちゃんのネーミングセンスが明後日過ぎてついてけねぇぞ!!
京太郎「お、俺としてはもうちょっと独創性を抑えた分かりやすいアダ名が良いかなって…」
湧「えー」
京太郎「ほ、ほら、やっぱりあだ名って分かりやすいのが一番だしさ」
湧ちゃんは不満そうだが、流石にげろじゃぶとフーミンは止めて欲しい。
いや、前者はともかく後者はまだマシだけど、それって昭和のネーミングセンスだろうし。
流石に人前でフーミン呼ばわりはちょっと…と言うか、かなり恥ずかしい。
あくまでもげろじゃぶよりはマシってレベルだ。
湧「んー…そいじゃあ、キョンキョンとか!」
京太郎「きょ、キョンキョン…」
湧「うん!京太郎と京子だから、キョンキョン!!」
京太郎「あぁ、なるほど…」
それに比べれば、まだこっちのアダ名はマトモだと言っても良いだろう。
少なくとも原型や理由が良く分かるし、人に聞かれてもそんなに恥ずかしくはない。
最初のアダ名を聞いた時はちょっとびっくりしたが、湧ちゃんのネーミングセンスはぶっ飛んでいるだけじゃなかったようだ。
…まぁ、真っ先にげろじゃぶとかフーミンが出てくる辺り、明後日には突き進んでいるのは確かなんだろうけど。
京太郎「よし。じゃあ、今日から俺はキョンキョンだな」
湧「えへへ。キョンキョン?」
京太郎「なんだ?」
湧「呼んでみただけ!」
京太郎「そっかそっか。それじゃ…湧ちゃん」
湧「なぁに?」
京太郎「呼んでみただけだ」
湧「もーキョンキョンったら」ツンツン
京太郎「ちょ、突っつくなって」
湧「えへへ」
若干、俺は何をやっているんだと思わなくもない。
セリフだけ抜き出せば、俺と湧ちゃんがやっているのは恋人同士のようなやりとりだしな。
でも、気恥ずかしいものをほとんど感じないのは、それが俺と湧ちゃんの関係が大体、固まりつつあるからなのだろう。
湧ちゃんは俺の事を兄のような相手として接し、俺もまた彼女のことを妹のような存在だと思っている。
故に、こうやって湧ちゃんとじゃれあっても、俺の中ではカップルよりは、仲の良い兄妹なのだという意識が強い。
湧「でも、あちきだけアダ名で呼ぶのは不公平だと思っ」ムゥ
小蒔「そうですね。やっぱり京太郎君もアダ名で呼ぶのが一番です」
京太郎「まぁ、そうなりますよね」
春「…何かある?」
京太郎「…いやぁ…正直なところ、いきなりの話だし…」
湧「わくわく」キラキラ
…これがまだもうちょっと長い名前の人であれば頭文字だけとって「~ちゃん」と呼べるんだけどな。
湧ちゃんの場合、下の名前が一文字で音も2つしかないという徹底っぷりだ。
そんな彼女にアダ名をつけるのは、俺の凡庸なネーミングセンスでは中々に難しい。
でも、そうやって悩んでいる間にも湧ちゃんは後ろから凄い期待している目を向けてくるし…。
…今だけは明後日に向かって全力疾走していても、あっさりと人のアダ名を思いつく湧ちゃんのネーミングセンスが羨ましいかもしれない。
京太郎「わ、わっきゅんとか…」
湧「わっきゅん?」
京太郎「そう。湧ちゃんの名前ってゆうじゃなくてわきとも読めるから、それをアダ名っぽくして」
湧「わっきゅん…わっきゅん…わっきゅん…」
京太郎「…」ゴクリ
ど、どうだ…?
自分ではこの短時間で思いついたにしてはそこそこの出来だと思っているんだけれど…!
だけど、湧ちゃんと俺の名前に関する感覚がかけ離れているのはさっきので十分すぎるくらいに分かっているんだ。
こうして口の中で語感を確かめるように呟く湧ちゃんに駄目だしされる可能性は十二分にある。
湧「ええね!」パァ
湧「今日からあちきはわっきゅん!」
京太郎「ふぅ…よ、良かった」
だが、そう身構える俺の前で湧ちゃんはパァと花咲くような笑顔を見せてくれた。
どうやら俺の考えたアダ名は彼女に受け入れてもらう事が出来たらしい。
次のアダ名なんてまったく思いつかなかったから、本当に助かった。
…でも、考え方を変えれば湧ちゃん…いや、わっきゅんの琴線に触れるようなアダ名だったって事だよな。
……もしかしたら俺も結構、ネーミングセンスに関しては人の事を言えないのかもしれない。
春「……わっきゅんってどっちかって言うと男の子の呼び方じゃ…いや、よそう。私の勝手な予想で皆を混乱させたくはない…」
京太郎「は、春?」
春「…何?」
京太郎「い、いや、何か不機嫌じゃないか?」
春「…別にそんな事はない。普通」プイッ
…そう言いながらも俺から顔を背ける辺り、全然、普通には見えないんだけどさ。
心なしか自分の体を洗う手も、ちょっと乱暴なものになってきているし。
さっきまでは肌を傷つけないようにゆっくりとしたものだったのに、今はワシャワシャと洗い立てるようなものになっている。
言葉にも若干、刺を感じるし…一体、どうしたんだろうか?
小蒔「湧ちゃん、良かったですね」
湧「うん!」ニコー
京太郎「はは。そんだけ喜んでもらえると俺も嬉しいよ」
湧「あちきの方が絶対に嬉しもん!」
京太郎「いや、そこで張り合うのかよ」
湧「えへ、だって、さっきアダ名つけてもらえた時、胸の奥がパァァってぬっきくなったから!」テレテレ
湧「キョンキョンに受け入れて貰えた時よっかずっとずっとぬっかかったよ」ニコー
京太郎「……そっか」
わっきゅんはとっても人懐っこい子ではあるけれど、その方言の所為で、今まで友達らしい友達は明星ちゃんくらいしかいなかったからなぁ。
明星ちゃんとはこうしてアダ名で呼んだりしていないし、多分、友達をアダ名で呼ぶって事が彼女にとって初めての経験なんだろう。
まぁ、何にせよ、胸が暖かくなるくらいわっきゅんが喜んでくれるって言うのは俺も嬉しい。
アダ名で呼ばれるのはともかく、アダ名で呼ぶのは慣れなくて若干、気恥ずかしいけれど…これからは出来るだけそれを口に出していこう。
湧「あ、背中洗うの忘れちょった…」
京太郎「はは。ようやく気づいたか」
湧「ぅー…ごめんね?」
京太郎「良いよ。別に怒ってる訳じゃないから」
京太郎「寧ろ、それだけ集中して俺のアダ名考えてくれたんだから嬉しいくらいだって」
湧「えへ…キョンキョンは優しかね」ゴシゴシ
京太郎「その分、サービスしてくれないかなって下心があるけどな」
湧「えー…ちょっと感動しちょったのに台無し…」
京太郎「はは。あ、もうそろそろ良いぞ」
湧「ええの?」
京太郎「あぁ。もう大体、洗ってくれただろうし」
いくら俺の背中が広いって言っても、それはあくまでわっきゅんを始め、このお屋敷の女性陣と比べたらの話だ。
絶対的な面積としては決して広いとは言えず、こうして雑談しながらでも粗方、洗い終わっている。
勿論、まだ洗ってもらっていない部分はあるが、そこは俺の手が十分、届く範囲だからな。
わざわざわっきゅんに洗ってもらう必要はないだろう。
京太郎「俺はもう良いから、わっきゅんも自分の分を洗ってくれ」
湧「はーい。じゃあ、これ」スッ
京太郎「ん。ありがとうな」
わっきゅんに手渡してもらったボディタオルを受け取って俺は自分の体を洗い始めた。
肩や首元から下へと下がるように白い泡を塗りたくっていけば、自然と視線も下半身の方へと向けられる。
その瞬間、ため息を吐きたくなるのは、未だ硬くなったムスコがトランクスを持ち上げているからだろう。
理性の決壊から既に数分が経過しても、興奮を冷ます気配のない自分の分身に呆れにも似たものを感じた。
京太郎「(でも、流石にそろそろマシになって来たかな)」
未だトランクスを持ち上げるほどの硬さはあるものの、最初に比べれば幾らか勢いも弱まりつつある。
少なくとも、トランクスを今にも突き破りそうな激しさはなくなっていた。
この分ならばもう少しすれば、平常の状態に戻る事が出来るだろう。
その為にも今は出来るだけムスコを刺激しないようにしないとな。
ここで触ったりしてしまったら、余計に勃起が長続きするだろうし。
湧「あ、キョンキョン」
京太郎「ん。どうした?」
湧「あちきの背中も洗ってくれん?」
京太郎「ん。良いぞ」
わっきゅんは俺の背中を洗ってくれてた訳だし、丁度、今の俺は洗い終わったばかりだからな。
後はシャワーで自分の身体についた泡と垢を洗い流すくらいだし、それくらい全然、構わない。
寧ろ、ボディタオル越しでも女の子の身体に触れるのはどうかなって思ってお返しを躊躇ってたから、わっきゅんの方から言ってくれて助かった。
小蒔「では私は先に浴槽の方に入っていますね」
春「私も…」
京太郎「あぁ。また後でな」
小蒔「はい。また後で」
春「…待ってるから」
待ってるって…俺、また何かされるんだろうか?
い、いや、流石にもうこれ以上、何かないよな?
春だって俺が勃起しているの知っている訳だし、これ以上、何か仕掛けては来ないだろう。
さっきのは別に他意があるものではなくって、ただ単に俺を待っているってだけなのだ。
湧「キョンキョン?」
京太郎「あ、あぁ。んじゃ洗っていくぞ」
湧「ん!きつめにお願いね」
京太郎「はいはい。分かりましたよ、お嬢様」ゴシゴシ
まぁ、洗うと言っても、それほど大変な作業じゃない。
なにせ、わっきゅんの背中は俺よりも一回りどころか三回りくらい小さいのだから。
その上、ワンピースの水着を着てるわっきゅんの背中は普段よりも表面積が少なくなっている訳で。
ぶっちゃけ一分も掛からない間にその小さな背中を洗い終わってしまう。
京太郎「はい。終わりな」
湧「えーもう…?」
京太郎「仕方ないだろ、ワンピースの下を洗う訳にはいかないし」
湧「ないごて?」
京太郎「いや、どうしてって…そりゃ湧ちゃんは女の子だし」
そもそも女の子の水着の中に手を突っ込むとかどんなマニアックプレイだよ。
まったく惹かれない…とは言わないけど、ちょっとレベルが高すぎるだろ。
幾ら妹のように思っているわっきゅん相手だって、そこまでは出来ない。
湧「あちきは構わんのにー…」
京太郎「俺がダメなの。つか、そんな使い方したら水着が痛むぞ」
湧「う…そいはちょっと困るかも…」
京太郎「だろ?だからおとなしくしときなさい」
湧「はーい…」
ふぅ…何とかわっきゅんを思いとどまってくれたか。
にしても、水着の中に手を入れられても良いとか…ちょっと男の事を甘く見過ぎじゃないだろうか。
俺はわっきゅんの事を妹のように思い始めているが、彼女を女の子として見ていない訳ではないのだ。
そんな俺の前で水着の中まで洗ってくれなんて、ちょっと無防備が過ぎる。
京太郎「後な、女の子が男相手にそういう事言うもんじゃないぞ」
湧「別に誰彼構わず言うちょる訳じゃないもん。こんな事言うのはキョンキョンだけ」
京太郎「それは嬉しいけどさ。でも、俺も男なんだぜ?」
湧「でも、キョンキョンはおっぱいの大きい女の子が好きだから、あちきの事そういう風に見ちょらんよね?」
京太郎「う…それは…」
いや、まぁ、確かに俺の好みはおっぱいの大きい人ですけどね?
霞さんと付き合えたらそりゃもう天国じゃないかとは俺も思いますよ?
でも、男がそれ以外の女性にまったく興味が無いかといえば否だ。
性癖と好きになる女の子って言うのは必ずしも一致する訳じゃない。
周りに可愛い女の子がいれば、そっちにころっと行ってしまうのが男の悲しい性なのだ。
巴さんもそうだったけれど…それは女の子には中々、分からない感覚なのかもしれない
湧「だから、安心してこういう事も言えるの!」ニコー
京太郎「いや…だけどな…」
小蒔「京太郎君ー終わりましたかー?」
春「京太郎…早く…」
それを何とかわっきゅんに伝えようと首をひねる俺の耳に小蒔さんと春の声が届く。
それに惹かれるようにして視線を向ければ浴槽の縁から乗り出すようにしてこちらの様子を伺う二人の姿が見える。
決して行儀が良いとは言えないその姿を、俺は本来であれば注意しなければいけないのだろう。
だが、俺の口からは言葉は飛び出さず、視線は二人に引き寄せられたまま。
いや、より正確に言えば、二人の人並みからはかけ離れた素晴らしいおっぱいが、浴槽の縁で並ぶ光景に魅入られていたのだ。
小蒔「今度は春ちゃんと私で両側からぎゅーしてあげますね」
春「…早く来て…?」
京太郎「はーい!」パァ
その上、そんな風に誘うような言葉を言われて健全な男子高校生が自分を抑えられるだろうかいや出来るはずがない(即答)
そもそも健全な男子高校生と言うのはこの世で一番、愚かで短絡的かつ衝動的な生き物なのだ。
普段はそれを理性の鎖で戒めているとは言え、今の俺にはそれがない。
勃起を抑える為に摩耗しきった理性では、目の前に広がる楽園のような光景へダイブしたいという欲求を抑える事は出来ないのだ。
春「…あ」カァァ
京太郎「……ん?」
その欲求のままに浴槽へと突き進もうとした瞬間、目の前で春がその頬を紅潮させる。
浴槽の縁におっぱいを載せて俺に手を伸ばす姿はとても色っぽくはあったが、頬は染まっていなかった。
そもそも基本的に物事を淡々とこなす春が目に見えて赤くなるなんて珍しい。
一体、何があったのかと足を止めた俺の前で小蒔さんが可愛らしく小首を傾げた。
小蒔「あれ?京太郎君のそれ…なんですか?」
京太郎「え?」
小蒔「お股のところです。なんか大きいのがありますけど…」
京太郎「…お股…ってあ」
小蒔さんに言われて視線を移動させた瞬間、俺は春が頬を赤く染めた理由を理解した。
色々あって水に濡れた俺のトランクスは股間にべったりと張り付いてしまっているのである。
おかげでムスコのシルエットが浮かび上がり、その存在をアッピルしていた。
さっきとは比べ物にならないくらい露骨なそれにきっと春も反応してしまったのだろう。
小蒔「ま、まさか…は、腫れるってそこがだったんですか…!?」
小蒔「ど、どうしましょう…え、えっと、腫れた時は冷やすのが良いって聞きますけど…!」
小蒔「ですけど、確か腫れると辛いんですよね!?ま、まずはお薬もらってきた方が良いでしょうか!?」アワワ
京太郎「い、いや、大丈夫ですよ」
小蒔「で、でもでも…そんなに腫れちゃってますよ!?」
京太郎「いや、その…これが普通のサイズなんです」
小蒔「…え?」
…俺は一体、何をやっているんだろうか。
自分のムスコのサイズを女の子に説明するだなんて一回で十分過ぎると思うんだけど。
でも、小蒔さんはあくまでも俺を心配してくれている訳だし、説明しない訳にはいかない。
あぁ、くそ…さっき春が顔を洗った時に張り付いてたのは分かってたんだから、ちゃんとその辺、対策してから立ち上がるべきだった…!
小蒔「そうなんですか?」
京太郎「えぇ。ですから、心配しないでください」
小蒔「良かった…安心しました」ニコー
こっちも安心しました…。
流石にこれ以上突っ込まれると恥ずかしいってレベルじゃないしなぁ。
その上、浮かんだシルエットを隠す為には、どうしても股間へと手を置かなきゃいけないし。
若干、前かがみになったその姿勢だけでも情けなさすぎて死にたくなってくる。
小蒔「でも、私には京太郎君みたいな大きいのないんですよね」
京太郎「……え?」
小蒔「それに霞ちゃん達にもなかったですし…京太郎君だけ特別なんでしょうか?」クビカシゲ
いやいやいやいやいやいや…!純粋ってレベルじゃねぇぞ!!
って言うか、この感じだと小蒔さん性器も知らないよな…。
霞さん達を始め、周りの人達は小蒔さんに一体、どんな教育をしてきたんだ…!
特に永水女子!!一応、学校なんだから指導要綱に載ってる程度の性教育はちゃんとやってくれよ!!
小蒔「京太郎君?」
京太郎「あ、いや…その…これも胸と同じく、男女の性差って奴ですよ」
京太郎「男は大抵、股間にこれと同じようなものを持ってるんです」
小蒔「なるほど…殿方との違いっておっぱいだけじゃないんですね…奥が深いです」ウンウン
京太郎「そ、そうですねー」
小蒔「あ、ちなみにそれって触ったりとかって出来ますか?」
京太郎「い、いや、まずいですよ、それは!!」
あーもう!変なところで好奇心旺盛な人なんだから!!
そうやって色んな事に興味を持つのは良い事だと思うけど、流石にその好奇心を満たしてあげる事は出来ない。
この状態で触られたりなんかしたら確実に俺の理性が吹っ飛んで、即座に小蒔さんの事を押し倒してしまうだろうしな。
そうなった後に起こる諸々の問題やら悲劇やらを思えば、到底、許可出来ない。
小蒔「まずいんですか?」
京太郎「は、はい」
小蒔「私のおっぱい触っても良いから触らせてくださいって言うのも…」
京太郎「……ダメです」
一瞬、おっぱいスキーとしての血が騒いで迷ったけど、余計やばくなってるしなぁ。
つか、そこまで言ったら最早、好奇心云々を通り越してペッティングになってるし。
何も知らない小蒔さんの弱みに漬け込んでそんな事をするなんて、男として以前に人として最低だ。
おっぱいと引き換えって言うその条件に心惹かれるのは事実だけど、受け入れる訳にはいかない。
春「…今なら私のおっぱいをつけると言っても…」
京太郎「余計、ダメに決まってんだろうが」
春「…むぅ」
小蒔「むむむ…春ちゃんと一緒でもダメとなると…どうすれば良いんでしょう」
京太郎「どうもしないでください、いや、マジで」
小蒔「むー…そんなにダメなんですか?」
京太郎「一応、男にとっては大事な部分なので…そういうのは結婚する相手にしか触らせちゃいけないんですよ」
小蒔「そうなんですか…」
…こ、今度こそ大丈夫だよな?
幾ら小蒔さんでもここで「なら、結婚してください」なんて言わないよな?
い、今までが今までだけに正直、安心できないけど…安心して良いんだよな?
この話題はもう終わったってそう思っても良いんだよな…?
京太郎「そ、それよりお風呂に入りたいんでちょっとスペース空けてもらって良いですか?」
小蒔「あ、はい。どうぞ」スッ
春「ん…おいで」スッ
京太郎「…やっぱり真ん中なのか?」
小蒔「勿論ですよ。今日は京太郎君が主役ですし」
春「それに京太郎も元々そのつもりだった…」
京太郎「い、いや、流石にそういう訳じゃないんだけど…」
春「…さっきエッチな目してたくせに」ポソッ
京太郎「うぐ…」
仕方ないじゃないか。
おっぱい美少女二人が浴槽に浸かりながら、こっちを誘って来る時点で男は皆、ケダモノになってもおかしくはないのだ。
その上、サンドイッチ宣言までされているのに我慢など出来るだろうか、いや、出来るはずがない(即答)
俺だってさっき股間の事を指摘されなかったら笑顔で二人の間に飛び込んでいただろう。
春「今更、格好つけたって無駄…だから…ほら…」
京太郎「……分かったよ」
このまま押し問答してもきっと小蒔さんも春も納得なんてしてくれないだろうしなぁ。
最初に浴槽へと浸かった時に俺が真ん中になっていた以上、今回は出来ませんなんて容易く通るはずがない。
勿論、ちゃんと納得させられるだけの理由があれば話は別だろうけど、そんなものは俺にはない訳で。
こうやって二の足を踏んでいるのも、勢い任せで飛び込むのが気恥ずかしくなったからだしな。
京太郎「…ふぅ」
小蒔「えへへ、京太郎君っ」ダキッ
春「京太郎…」ギュゥ
京太郎「お、おうふ…」
だが、実際にこうして足を踏み入れると恥ずかしさなんてあっという間に吹っ飛んでしまう。
ゆっくりとお湯へと浸かった俺を待っていたのか、二人は腰が底へと着いた瞬間、抱きついてきたのだから。
両側から伝わってくる素敵な感触に思わず変な声が漏れでてしまう。
京太郎「(そうか…ここが天国だったのか…)」
右側から抱きつく小蒔さんのおっぱいはとても張りのあるものだった。
こうして抱きついてきても尚、俺の腕を弾こうとする力をはっきりと感じる。
さりとて、決して柔らかくはない訳じゃなく、枕になってくれていた時と同じように俺を受け入れてくれていた。
ぷにぷにとしたその柔らかさはこうして押し付けられるのではなく、両手で掴んだとしても、最高の揉み応えを俺に提供してくれるだろう。
京太郎「(逆に春のおっぱいはとても柔らかい)」
まるで俺の身体を受け止めるのではなく、飲み込もうとするような柔らかさ。
何処かいやらしさすら感じるその感触に筋肉が蕩けていくようにも感じた。
抵抗する事さえ許されず、ただただ堕ちていくようなその感覚に俺の身体は溶けていく。
触れているだけで何時迄もこの感覚に溺れていたいとそう思わせる魔性の柔らかさは、春らしいものだった。
春「…京太郎、どう?」
京太郎「最高です!!」キリリッ
小蒔「やった!さっき春ちゃんと相談した甲斐がありましたね!」
京太郎「相談?」
小蒔「はい。折角の仕上げですから、一杯、サービスしてあげたくって」
春「どうやったら京太郎を気持ち良くしてあげられるかなって二人で相談してた」
京太郎「二人とも…」
そうか…。
二人なりに俺の事を考えてくれた結果なんだな。
それはとっても嬉しいし、正直ありがたい。
両側から美少女達におっぱいを押し付けられている今の状況はまさに天国と言っても良いくらいだ。
温泉の効能もあって、こうしているだけで合宿疲れが吹き飛んでいくように感じる。
京太郎「…それは嬉しいけどさ。嬉しいんだけど…」
小蒔「え?何かダメでしたか?」シュン
京太郎「い、いや、ダメなんて事はないですよ。ダメって事はないんですが…」
ただ、天国だからこそ危険なんだよなぁ…。
既に一回勃起してしまった俺に二回目を抑える術はない。
それを抑えていた理性は重傷で、戦線復帰にはまだまだ時間が掛かるのだ。
色々と開き直ったお陰で何とか平然こそ装えてはいるが、今も下半身には少しずつ疼きが走っている。
このままでは遠からず、俺はまた勃起してしまう事だろう。
春「気持ちよすぎ?」
京太郎「う…ま、まぁ、端的に言えば…」
小蒔「気持ち良いのがダメ…って事ですか?」キョトン
京太郎「男はあんまり気持ち良くなりすぎると逆に辛いんです」
小蒔「気持ち良いのに辛いんですか?」
京太郎「はい。男って言うのはそういう生き物なんですよ」
これが相手が恋人とかだったら別に辛くともなんともないんだけどなぁ。
しかし、俺に抱きついているのはそういう意味をまったく理解していないであろう小蒔さんと、俺を弄ぶのが大好きな春なのだ。
そんな二人に挟まれている状態は天国ではあるが、決して手出し出来ない生殺しの状態なのである。
興奮のボルテージが上がりきった後、その気持ちよさは間違いなくこっちに対して牙を向いてくるはずだ。
小蒔「うーん…じゃあ、辛くならない方法って何かあるんですか?」
京太郎「え?つ、辛くならない方法…ですか?」
小蒔「はい。だって、気持ち良いのに辛いとか可哀想じゃないですか」
小蒔「少なくとも私は京太郎君に辛くなって欲しくないです」
小蒔「だから、それをなくす方法があれば教えてください。私、なんだってしますから」
京太郎「え、えっとそれは…」
小蒔さんがそう言ってくれるのは間違いなく優しさからだろう。
心優しい彼女は俺が辛くないように気遣ってくれているんだ。
だが、そんな彼女とは裏腹に、俺の胸の中でムクムクと欲望が大きくなっていく。
理性が半ば失われた俺にとってその言葉の衝撃は抗えないほど大きいものだったのだ。
ダメだと分かってはいても、それを抑える術を持たない俺の中で自分勝手な声が漏れ出す。
京太郎「(ここで小蒔さんにエロい事教え込めば、この行き場のないムラムラをどうにか出来るかもしれない)」
京太郎「(いや、間違いなく出来るはずだ。小蒔さんは俺の事をとても信頼してくれているんだから)」
京太郎「(何より小蒔さんだって、それを教えて欲しいと言ってくれているんだし、迷う事はない)」
京太郎「(何も悪い事をする訳じゃないんだ。少し実践込みで小蒔さんの求めている事を教えてあげるだけだし…)」
小蒔「…京太郎君?」キョトン
京太郎「…………」
小蒔「どうかしたんですか?…あ、も、もしかしてもう何処か辛くなって来ちゃったんですか!?」アワワ
小蒔「え、えとえと…どうしましょう!?と、とりあえずもっとぎゅーすれば良いですか…!?」
京太郎「う」
春「う?」
京太郎「うぉおおおおおお!!」
小蒔「ひゃぅ」ビックゥゥ
危なかったあああああああ!!!
俺は…俺は、一体、何を考えていたんだよ!!!
どう考えたってそれは一番、やっちゃいけない行為だろうが!!
いや、考えるだけでも一発でアウト判定貰って当然の事だった…!!
幾ら留め具が緩みまくっていると言っても決して擁護なんて出来ないレベル…!
俺って奴は…俺って奴はあああああ!!
京太郎「俺は…俺はああああ!!」ガンガンガン
小蒔「ちょ、き、京太郎君!ダメですよ!!そんなお風呂の縁に頭をぶつけたら死んじゃいます!!」ガシッ
春「き、京太郎落ち着いて…!!」ガシッ
京太郎「う…うぅ…」
ぬおおお…!!
この程度の痛みでは俺への罰にまったく足りないのに…!
両側から俺を捕まえる二人の事を振りほどく事が出来ない…!!
おっぱいが…おっぱいが俺から力を奪って…身体が蕩けて…!
小蒔「ど、どうしたんですか?いきなりあんな事して…」
京太郎「…いえ、ちょっと自分の頭の限界にチャレンジしたくなって」
小蒔「…え、えっと、良く分かりませんけど、そういうのしちゃダメですよ?」
小蒔「頭はとっても大事な場所なんですから。そんな風に粗末に扱っちゃいけません」メッ
京太郎「はい。お騒がせしてすみませんでした」
京太郎「それと…俺はそろそろあがりますねね」
さっきので自分が思いの外、やばい状態にあるのは分かった。
俺は開き直っているだけであって、やっぱり全然、冷静ではなかったのである。
そんな俺の身体を両側からおっぱいでサンドイッチ状態にされていたら、俺は間違いなくおかしくなってしまう。
正直、先に破滅が待っていると分かっていても、欲望を抑えきれる自信はない。
小蒔「え?もうですか?」
京太郎「はい。大体、身体も温まりましたし」
特にムスコの方は血液が集まりすぎて半分ほどスタンダップしかかっている。
今の間にこの浴槽から逃げ出さなければ遠からず、ガチ勃起を始めるだろう。
そうなると俺は完全にこの場から立ち上がる事が出来なくなり、春や小蒔さんに挟まれ続ける事になる。
その間も二人からずっとおっぱいを押し付けられ続けると思えば、動ける間に離脱するのが一番だ。
春「……ダメ」ギュゥ
京太郎「うぇぇ…ちょ…は、春…?」
春「お風呂は100数えるまで入るもの…」
小蒔「そうですよ。ちゃんと100数えなきゃ身体も温まりませんし」ギュー
京太郎「うぐ…」
そんな俺の思いを知ってか知らずか、立ち上がろうとする俺を遮るように春の手が絡みついた。
いや、手だけじゃない。
まるで俺を逃がすまいとするようにおっぱいもまた俺へと押し付けられるのだ。
俺の力を奪うようなそのおっぱいと滑らかな腕の感覚に怯んだ瞬間、小蒔さんの腕もまた同じように俺へと絡みついてくる。
春に負けないくらい強く密着するその張りのある柔らかさに、一度は浮かびかけた俺の腰が再び底へ引きずり込まれた。
小蒔「ふふ、それじゃあ皆で一緒に100まで数えましょうね」
京太郎「そ、そうですね」
春「それじゃ…いーち…」
小蒔「にーい」
京太郎「さ、さーん」
そうやって数字を数えている間も、正直、気が気でなかった。
既に限界を超えた俺の理性はまったく役立たずと化しているのである。
流石に小蒔さんや春に襲いかかったりするだけの分別は残しているが、勃起を抑えるだけの力はない。
こうして二人と一緒に100まで数えるその間にも、ムスコの切っ先がゆっくりと持ち上がっていくのを感じる。
京太郎「(あと少しの辛抱なんだ…踏みとどまってくれ…!!)」
この後でならば、幾ら勃起しても構わない。
誰にも見られないところでムスコが大きくなる分には俺がムラムラするだけで済むのだから。
だが、今、この瞬間だけは…二分にも満たない時間の間だけは勃起する訳にはいかない…!
俺の面子を保つ為にも…小蒔さん達との関係を守る為にも…!
この数十秒間だけは絶対に護り通さなきゃいけないものなんだ。
春「きゅうじゅうなーな」
小蒔「きゅうじゅうはーち」
京太郎「き、きゅうじゅうきゅう…!」
よ、よし…!
そうこうしている間に残り一秒…!
ここまで来る間に背中がチリチリと焼けるような焦燥感と戦い続けていたが…それも無駄じゃなかった…!
後はこのまま立ち上がって脱衣所に逃げ込めば、天王山を仕留めたも同然。
最低限、身体から水気を切って、そのまま自室に戻るだけでミッションコンプリートだ。
勝利条件は既に満たされた…!
この戦い我々の勝利だ…!!
京太郎「ひゃーk 湧「あちきも入るー!」ドボーン
京太郎「ぬあ!」
小蒔「ひゃんっ」
春「きゃっ…!」
ってちょっと待てえええええええ!!
残り一秒!残り一秒だったのに!!
このタイミングでわっきゅんが乱入してくるとかそんなん考慮しとらんよ!!
と言うか、なんでよりにもよって、俺の上に乗っかってくるんだ!?
お陰で風呂から出ようにも出られなくなったじゃないか!!
湧「えへへ。キョンキョン、お待たせっ」ニコー
京太郎「あ、あはは」
湧「あれ?どうかした?」
小蒔「び、びっくりしました…」
春「湧ちゃん…飛び込むのはマナー違反」
湧「えへへ。こらいやったらもし」
湧「でも、あちきもキョンキョンといっどきお風呂に入りたくて」
小蒔「だからって飛び込むのはダメですよ。湧ちゃんだけじゃなくて京太郎君も危険なんですから」
湧「はーい…次からは気をつけます…」
京太郎「え、えぇっと、それは良いんだけどさ」
湧「ん?」
なんでわっきゅんったらそうやって話している間に俺の足をがっしり挟み込んでいるんですかね!!
いや、俺を逃したくないからって言うのは分かるよ、分かるけどね!!
今、このタイミングでそれをやられると俺が色々とやばいって言うか…!
ギリギリ間に合うはずだったのにわっきゅんの乱入で計算が来るって下半身に血液ががががが!!!!
京太郎「そ、その…俺はもうあがるからどいてくれないか?」
湧「えー…あちきまだ入ったばっかりだよ」
京太郎「そ、それは分かってるけど…」
湧「ん…そげな意地悪ゆーキョンキョンはこうだ!」ギュー
京太郎「ふおぉぉ!!」
ちょ、待ってええええええ!!
そこで抱きついてくるのはやばいから!!
しかも、さっきの春みたいにただ俺の身体を抱くんじゃなくて、腰までこっちに密着させてきてるし!
もう殆ど対面座位みたいなもんじゃねぇか!!!
湧「ふふ、キョンキョン、顔真っ赤ぁ♪」
京太郎「ちょ、わっきゅん、これはマジやばいって…!」
湧「ん?どうして?」
京太郎「ど、どうしてって…!!」
男に足を絡ませている時点でワンアウトだ。
その上、腰を密着させているからツーアウト。
最後に俺が今にも勃起しそうな事を考えればスリーアウトである。
何をどう考えても今のこの状況は問題しかない。
湧「ん?あれ…なんか硬いのが…これなんだろ…?」モゾモゾ
京太郎「わ、わわわわわっきゅんん!?」
って、なんでそこでさらにモゾモゾ動くんだよおおおおお!!
待って!!ホント待って!!!
わっきゅんは自分の今の体勢を少しで良いから顧みてくれよ!!
男の股間にある硬いものつったら一つしかないじゃん!!!
小蒔さんみたく何も知らないって訳じゃないんだから、気づいてくれ!!!!
湧「なんか不思議な感じ…熱くって…ドキドキする」スリスリ
―― ブツン
あ、これは無理っすわ(二回目)
おっぱいないとは言え、可愛い女の子がこれ絶対入ってるよね状態で腰すり寄せてくる時点でムリゲです。
その上、なんだか艶っぽい声漏らされるんだから、耐えられるはずがない。
半勃起と呼べるラインを踏み越えて、どんどんとムスコが硬くなっていくのを感じる。
湧「あ…れ?なんか、どんどん大きくなっちょる…?」チラッ
京太郎の京ちゃん「ここで終わっても良い。だからありったけを」
湧「…え…?」
はい。終わったああああああああああ!!
これ絶対に気づかれたよね!?
今の反応的に絶対、俺が勃起してるの分かったよね!!
スリーアウトとかじゃなくて、これ完全にゲームセットだよ!!
湧「き、ききききききキョンキョン!?」カァァ
京太郎「あー…え、えっと…その…」
小蒔「あれ?どうかしました?」
京太郎「い、いやぁ!な、なんでもないですよ!!」
それでも小蒔さんの前では平然を装っておかなければいけない。
春はまだしも、小蒔さんはまだ男が勃起する意味って言うのを知らないんだから。
下手に性的な知識を与えると、余計に大変な事になりかねないしな。
何より、俺自身、これ以上、誰かに幻滅されるのは避けたい。
つーか、避けさせてください、ホントお願いします。
春「…京太郎、もしかして…」
恐らく、春はわっきゅんや俺の様子で大まかな事情を察したのだろう。
トランクスのゴムが浮くくらいに大きくなったムスコは最早、隠せるようなものじゃない。
横にいる春からでもすぐさま分かるくらいのサイズに育ってしまっているんだ。
小蒔さんならまだしも、ちゃんと性教育を受けてきた春の目を誤魔化せるはずがない。
京太郎「後生だ、何も言わないでくれ」
春「…ん。分かった」
そんな彼女に向ける俺の声は微かに震えたものになっていた。
いっそ悲痛と言っても良いその声の響きに春も哀れに思ったのか素直に頷いてくれる。
それでも俺を抱きしめる腕を解いたりはしないが、ここで沈黙を守ってくれるのは正直、有り難い。
下手に何か言われたら、俺はもう二度と立ち直れなくなりそうだからな…。
湧「こ、これ…あ、あの…こ、ここここここれ…!!」
京太郎「…あっと…その…多分、湧ちゃんが考えているとおりじゃないかと…」
湧「~~~~~っ!」ボンッ
瞬間、ただでさえ赤かったわっきゅんの顔が爆発する。
熟れたリンゴのような真っ赤な色が一気に広がり、耳まで赤く染め上げた。
健康的なわっきゅんの肌を支配したそれはきっと羞恥の色なのだろう。
そんなわっきゅんを見ていると申し訳なくなるが、さりとて、ここで嘘を吐く事は出来ない。
こうして密着し、ムスコの先端が彼女に触れている以上、それを誤魔化すのはあまりにも不誠実なのだから。
湧「あわ…あわわ…あわわわわ」プルプル
京太郎「わ、わっきゅん!その、あんまり動かれると…やばい…!」
湧「あうあう…こらいやったらもし…!で、でも…あちき…っ」
まぁ、そりゃそうだよな…。
今のわっきゅんは兄のように思っていた相手から性器を押し付けられているんだ。
俺の方からしたら不可抗力も良いところだと言いたいが、彼女の方がもっと困惑しているだろう。
だからこそ、ここは俺が誰よりも冷静になって、わっきゅんを宥めなければ。
そうしなければ、折角、アダ名で呼び合うようになった彼女とのこれからの関係がとてもぎくしゃくしたものになってしまう。
湧「こ、これあちきの…あ、あちきで…」
京太郎「わっきゅん、まずは落ち着いて俺の話を聞いてくれ」
湧「お、落ち着く…落ち着く…ひっひっふー」
思ったよりベタな反応だった。
いや、まぁ、深呼吸でもラマーズ呼吸法でも問題はない。
とりあえず重要なのはわっきゅんが俺の話を聞こうとしてくれる態度を持ってくれている事だ。
普通ならばそのまま逃げられてもおかしくないシチュエーションだし、こうして待ってくれているだけでも御の字だろう。
京太郎「こ、これはその不可抗力みたいなもんで…」
湧「ふかこうりょく…」
京太郎「その、偶然と偶然が重なって、こんな事になってしまったと言うか」
湧「か、重なる…」カァァ
京太郎「違う。そうじゃない…!!」
今も確かに俺とわっきゅんが重なっているような状況だけれど、反応して欲しいのはそこじゃない!
あぁ…もう…御の字とは言ったものの、わっきゅんも冷静じゃないし、俺もまだ混乱から立ち直れていないし…!!
い、いや、諦めるんじゃない…!
ここで諦めたら、今まで築き上げてきたわっきゅんとの関係が全部、なくなってしまうんだから!!
もどかしいし、出来るかどうかは分からないけど、頑張れ俺…!!
小蒔「二人共、大丈夫ですか?顔、真っ赤ですよ?」
京太郎「い、いや、俺は大丈夫ですよ」
小蒔「そんな事ないですよ。風邪の時みたいに真っ赤なんですから」
小蒔「…と言うか熱があるんじゃないでしょうか…ちょっと失礼しますね」スッ
京太郎「…え?」
瞬間、小蒔さんの顔が俺へと一気に近づいてくる。
まるで今にもキスするんだとそう宣告するような近づき方。
それが額を当てて熱を測ろうとしているんだと理解しても、ドキドキは止まらない。
お湯で身体が温まった所為か汗を浮かべる小蒔さんは妙に色っぽいんだから。
微かに紅潮した顔がこちらに近づいてくる様子なんて、本当にキスされるとしか思えない。
それに、何より… ――
京太郎の京ちゃん「this way」ビクビク
そうやって近づくって事は小蒔さんのおっぱいが俺へと押し付けられるって事なんですよねええええええ!!!
ギュッギュってもうね!もうね!!
肩の部分がおっぱいで埋まりそうになってるんですよ!ですよ!!
いや、勿論、水着があるから実際はそこまでにはならないんだけどさ!!
でも、強調された谷間が俺の腕を両側から挟み込んで…うへへへ…うへへへへ。
湧「わわ、わわわわわわわっ」
京太郎「ハッ…!い、いや、違うんだ、わっきゅん。こ、ここここれは…!」
ってトリップしてる場合じゃなかったあああああ!!
幾ら小蒔さんのおっぱいがさらに密着してきたとは言え、ビックンビックン震えたら、いまだ密着したままのわっきゅんに伝わる訳で!!
お陰で俺の目の前でわっきゅんは視線をあっちこっちへと移動させ、身体も落ち着きなく揺らし始めている。
今までにないその狼狽っぷりに何とか言い訳しようとするけれど、モゾモゾと動くわっきゅんとこすれ合ったムスコがなんとも気持ち良くって…!!
つか、これ下着越しではあるけど、ほぼ素股みたいなもんじゃねぇ!?
湧「ああああああああちき、やっぱりもう出るね!!」
京太郎「わっきゅん!!」
ただでさえ混乱が収まりきっていない状態からの快感。
それが俺の言葉を詰まらせている間に、わっきゅんの方が限界に達したのだろう。
飛び込んできた時とそう変わらない勢いで立ち上がり、浴槽から出て行く。
そんな彼女を呼び止めようと声をあげて立ち上がろうとするが、トランクスに引っかかったムスコがそれを遮った。
京太郎「あ…」
そしてわっきゅんは俺の声に振り向く事はなく、そのまま浴室から出て行く。
後に残された俺は立ち上がりかけた姿勢のまま固まり、彼女が消えた曇りガラスを見つめるまま。
追いかけなければいけない、でも、追いかける事が出来ない。
そんな雁字搦めの胸の中で何もかもが終わったと言う諦観と虚脱感が広がっていく。
小蒔「あの…大丈夫ですか?」
京太郎「…大丈夫です」
本当は全然、大丈夫でもなんでもない。
この一件は間違いなく、俺とわっきゅんとの関係に大きなしこりとなるだろう。
下手をすればこれから先、ずっと目を合わせて貰えないかもしれない。
少なくともそうされても文句が言えないような事を俺はしでかしてしまったのだ。
京太郎「(…でも、それは…)」
小蒔さんとは無関係な事だ。
少なくとも彼女は全て好意で言い、そして好意で行ってくれているのだから。
さっき俺の熱を測ろうとしたのだって、俺の体調を気遣っての事である。
そんな彼女に「おっぱいで挟まれていた所為で勃起してしまい、わっきゅんに嫌われてしまった」なんて説明出来るはずがない。
春「…京太郎」
京太郎「ん…まぁ、何とかなるって」
それは勿論、ある程度の事情を察している春相手も同じだ。
春はたまに超えちゃいけないラインを平気な顔して踏み越えてくるが、その本心はとても優しい子なのだから。
ここで俺が強がりの一つも口にしなければ、彼女も自分を責めるだろう。
それは決して俺の本意ではなかった。
京太郎「それより二人はまだあがらなくても良いのか?」
春「…ん。私もそろそろあがろうかな。姫様も一緒にあがりませんか?」
小蒔「え…でも…」
そこでチラリと小蒔さんが俺を見るのはきっと心配してくれているからなのだろう。
さっきは強がりこそしたが、やっぱり全部が全部を誤魔化せた訳ではないのだ。
それに申し訳無さを感じるけれども、今はどうしても一人になりたい。
わっきゅんに逃げられた上、いまだ勃起したままのムスコを小蒔さんに知られるとなると、それこそ本当に死にたくなってしまう。
京太郎「俺は大丈夫ですよ」
小蒔「…分かりました。では…」
春「…じゃあ、京太郎、後で」
京太郎「……おう。また後でな」
そう言って背を向ける春に内心、感謝を捧げながら、俺は二人が曇りガラスの向こうへと消えるのを見送った。
瞬間、俺の口からため息が一つ漏れだし、一人だけになった浴室の空気を震わせる。
だが、そうやって万感の思いを込めた吐息を吐き出しても、憂鬱な気分は何も変わらなかった。
京太郎「…ホント、どうしよう…」
わっきゅんの事がなくても俺の周りには問題が山積みである。
エルダーの事もそうだし、鶴田さんの事だってそうだ。
その上、わっきゅんとの間に問題まで起こった今、一体、どうすれば良いのか。
一人残された浴室の中でどれだけ考えても答えは出ないままで… ――
―― 結局、俺はそれを考えている間に、見事に湯あたりしてしまったのだった。
これで終わりです
長らくおまたせして本当に申し訳ありませんでした
次回からはまたGW合宿編に戻ります
尚、小蒔っぱいを枕にしたり、美少女三人から裸体にキスされたり、ロリっ娘にTNK押し付けたりしますがこのスレは健全です、いいね?
おつー
唐突なマサルさんネタに思わず笑った
乙したー
うん、どこからどう見たってKENZENですね(賢者)
兄のように慕ってた状態から異性として意識するようになったであろう湧ちゃん……いや、わっきゅんの反応が楽しみです。
乙です
乙
よく考えれば年頃の互いに仲良い男女がいたらハートが乱舞する展開になるのが健全ではないだろうか(断言)
アッハイ
…と言うとでも?イッチーが書いたSSは実際エロい
次回は湧ちゃんと和解編か
今回の洗髪でも思ったけど、知り合いがいるとはいえ旅館の人事事情だったりとか精液の味とか取材力高すぎませんかね……
和解(意味深)
正直、たかが混浴シーンでここまで入念に描写する必要あったのだろうかと思う。似た展開の繰り返しになっていたし、長さの割りには内容が薄く感じた。本筋がエロならこういうお預けも悪くないけど違うんでしょ。
エロとか生殺しを書きたいならそういうスレを立てるか思い切って方向転換した方がいいと思うよ。エロを書きたいけどそういうスレじゃないしな~っといったような>>1の葛藤があるかのような中途半端さ。振り切っていた分まだおもち少女の頃の方が読ませる力があったと感じた
きもちわるい…!
何これ、縦読み?
>>190
念の為、全部縦読みしてみたがどこも意味不明だったぞ!
>>188を意訳するとなんではるるとのラブラブエッチがないんですか!(憤慨)
となる私も同意見です
シャンプーやトリートメントしてる辺りは何度小蒔っぱいを枕にするんだって感じだし、
最後に持ってくるべき勃起って失敗を既に裸体キスの時点でやらかしてるし(これだけされて勃起しないはねぇよって思ったからなんだけど)
湧ちゃんに至ってはわっきゅんってなんだよ寒いよって言われてもおかしくはない。
始終女の子とイチャイチャ混浴してるだけの描写でこれは薄いと言われても仕方ないなーと思います。
一応、待たせまくったお詫びに頑張ったつもりだったんですが、裏目ってるのは私も分かっています、申し訳ない。
何より混浴はここに持ってくるべきじゃなかったよなぁ。
エルダーやら姫子やらの問題が解決してない状態で湧ちゃんとの問題を作るべきじゃなかった。
GW前にエルダー解決して姫子の話を合宿中に解決して、その後、予選直前にいれる方が自然だった…。
最近、スランプひどくて本当に書けなくなってきてるんでGW合宿編が終わったらまた一ヶ月くらいお休みいただくかもです…それまでは出来るだけお待たせしないように頑張ります。
とりあえず今週は日曜日に投下予定なのでそれまでお待ちくださいませ。
お疲れー
多分だけど>>1は文量があまりにも多すぎるんだと思う
心情とか細かい動作まで細部に渡って説明しようとし過ぎるんじゃないかな?
エロではそれが素晴らしいけど、普通になると余計になってる事も有ると思う
了解
文の構成は良いし描写力も素晴らしい。ただ今回は進展がなさ過ぎた。
188で乱暴な書き方になってしまったのは反省する。読者を待たせてしまったとか考えず、気張らない姿勢で書いていってほしいです。
1のペースでやるのがいいのさー
もっと勃起すべき
全然大丈夫だよー
わっきゅんも別にアリだし(普通にわきちゃんって読んでたなんて言えない)
読んでて思った。なぜ不自然なまでにNoと言えないんだ京ちゃん
いや小蒔っぱい枕もわっきゅんもいいと思いますよ!
神代家に買われた奴隷みたいなもんだから多少はね?
ごめん。文章が全然出てこない。
完全にドツボに嵌ってます。
今日の投下はほぼ無理な感じです…ごめんなさい。
また出来そうになったらアナウンスします。
酉外れてました…ホント、ごめんなさい
合宿編終わるまでは休止せずにちゃんと頑張ります
把握
そういう日も割とよくあるらしいので気長に待つよ
あんまり自分を追い込みなさるな。こちらは読ませて貰ってる立場なのだから
了解
マイペースで無理しすぎないのが一番
追いついた
主の過去作読んできます
(女装してアイドルになった男も別のアイドル事務所にはいるから京子ちゃんも行けると思います)
主……ねぇ
女装して書けば京ちゃんの気持ちが解るかもしれない
1スレ目から読み直しててふと思ったけど、京ちゃんが鹿児島きたのっていつになるんだっけ?
クリスマスに咲さんに(転校を)告白→皆に転校を伝えた翌日26日の時点で「引っ越しまで数日に迫った」だから28日夕方~夜位?
乙
書けない時は一旦考えるのをやめて
他スレを楽しく読むのが一番
息抜きに前作であった次回作候補を始めてみたり
新しい構成を考えたら?
数あるSSでも一番楽しみにしてるから期待してるよ
ただ無理してエタるくらいならまったりしてほしいから別作なり一度離れるなり好きにすればいいとおもう
おもち少女を見返してみたらあっちのはるるとの出会い方とこっちの設定同じなんだな
んほぉってなった
皆さんありがとうございます
おかげ様で一週間お休みを貰って積みゲ崩している間に少しずつ書けるようになったみたいです
展開的に一からほぼ書き直しになるのでお時間かかりましたが恐らく明後日には投下出来ると思います
ご期待に添える出来かは分かりませんがもうしばらくお待ちください
あ、後、私のエロシーンで抜ける人は「プリンセスとパンドラの箱」というRPGがオススメです(ステマ)
>>211
大体、作中の時間はそれくらいを考えています
>>213
ここで次回作候補なんて手を広げたら絶対にエタる未来しか見えない…!
ですが、ちょっと息抜きと言うか即興の勘を取り戻したいので一段落すればまた王様ゲームスレ始めるかもしれません
短い投下でもさらっと終われる王様ゲームスレならこっちがエタる事はないだろう(慢心)
把握
了解
はいよ
はっちゃんのテーマソング
ほんわかふんわか ほんわかほい
ほんわかふんわか ほんわかほい
こんがり焼ーけた 褐色のー
ロリ巫女はっちゃん いかがです?(意味深)
>>221
え?これ九州限定なん?
>>222
さっき書き込む前に一応確認したけどどうも八ちゃん堂のCMは九州・山口だけみたいねー
そもそも福岡県山川の会社だし
>>223
そーなのかー
たこ焼き八っちゃんもはっちゃんも美味しく頂こう
つまり福岡県にいけばはっちゃんが食べられるのか(ゴクリ)
それはさておき、ちょっとトラブルがあってPCが起動出来ず見直しがまったく進んではいません…
既に一度書きなおしたものではありますが念のため投下前に確認したいのでもう一日だけお待ちください
把握
把握、ゆっくりどーぞ
他の阿賀野型を育て終わったので最近、酒匂を育て始めたのですが可愛いなこの子!
でも、母校画面の度に「連れてってよ」って言うのはやめてください
史実知ってるとその何でもないセリフだけでも涙腺に来るんです
それはさておき、見直し終了しました。
ちょっとお昼ごはんとか食べたいので一時から投下していく予定です。
本当に延期続きでおまたせして申し訳ありませんでした。
>>1と酒匂は同校出身だったのか裏山
あんな可愛い子が後輩とかどう考えても甘やかすしかないな(確信)
では、はじめます
―― イベント尽くしの合宿初日が明けても、俺はわっきゅんと仲直り出来ていないままだった。
一夜明ければ少しは事態も進展するかと思ったが、そんな事はなかったらしい。
俺が朝食に向かった時には彼女はもう明星ちゃんとお屋敷から出た後だった。
幾らなんでも早すぎだとは思うが、それだけ俺と顔を合わせたくはないって事なのだろう。
実際、昨日だって風呂から上がった後も部屋にこもりっきりで俺と会ってはくれなかったし。
今日も俺が近づくだけで全速力でその場から逃げ出すんだから。
―― 分かってたとは言え…正直、凹むよなぁ。
昼食や夕食も時も同じだ。
わっきゅんは明星ちゃんと一緒に俺たちから離れて食事を摂っている。
食事の時は大抵、近くにあったその姿が遠くへ離れる光景はなんとも寂しい。
その上、明星ちゃんからは敵意とは言わずとも、呆れにも似た視線を向けられるのだから尚更だ。
―― かんっぺき幻滅されたよなぁ…。
間違いなく、わっきゅんだけじゃなく、明星ちゃんにも嫌われてしまった。
予想してたとは言え、その事実が俺の肩にズッシリとのしかかる。
正直なところその精神的なダメージでも寝込みたいくらいに大きい。
でも、俺にはそれが出来ない理由があった。
姫子「…ごめん。待ったと?」
京子「いいえ。今、来たところですよ」
まるでデート前の恋人同士のようなやりとり。
でも、今、俺のいる場所は決してデートの待ち合わせに相応しい場所じゃなかった。
年季の入った電灯が照らすその場所は俺達がつい一時間前まで缶詰になって麻雀をしていた練習場なのだから。
小蒔「鶴田さん、今日はよろしくお願いします」ペコリ
春「お願いします」ペコッ
姫子「え、えっと…こちらこそ…」
しかも、俺の周りには小蒔さんや春がいるのだからムードの欠片もない。
まぁ、これから鶴田さんと一緒に麻雀をするのにムードなんてあった方が困る訳だけれども。
そもそも、楽しむ麻雀をしましょう、なんて言い出したのはこちらの方だし。
美少女との待ち合わせに一喜一憂したり、わっきゅんとの事で寝込んでいる訳にはいかない。
特に鶴田さんの場合、合宿の終了というタイムリミットがあるのだから一日たりとも無駄には出来ないのだから。
京子「じゃあ、早速始めましょうか」
小蒔「はい。時間が勿体無いですもんね」
春「ん…鶴田さんこっちにどうぞ」
姫子「はい」
まだちょっとお互いに硬い感じだけど、まだ合宿初めて二日目だからなぁ。
小蒔さんは人見知りとか殆どない子ではあるけれど、春は結構、人見知りする方だし。
鶴田さんの方は分からないけれど、流石に殆ど知らない人達に囲まれて緊張しない訳じゃないんだろう。
まぁ、麻雀が始まったらきっとその辺の硬さもなくなっていくはずだ。
それよりも今は席について…っと。
小蒔「じゃあ、サイコロ回しまーす」コロコロ
小蒔「あ、起親は春ちゃんですね」
春「…ん…頑張る」
京子「…そう言えば半荘か東風戦か決めてなかったわね」
小蒔「あ、本当ですね」
春「なんというグダグダ…」
京子「ま、まぁ、こういうのも仲間同士の麻雀って感じがするし」
小蒔「ふふ、それもそうですね」
春「それより…どっちにする?」
京子「そうね…鶴田さんはどっちが良いですか?」
姫子「え、えっと…それじゃ半荘で」
京子「分かりました。それじゃ半荘で行きましょうか」
春「はい。それじゃシェフの気まぐれ風半荘入ります…」
小蒔「はいりまーす」
京子「もう。お店じゃないのよ?」
とは言っても、二人のその愛嬌は正直、有り難い。
鶴田さんが落ち込んでいる分、場の空気が暗くなりがちだからなぁ。
小蒔さんは素だろうけど、春はきっとその分を明るくしようとしてくれるだろう。
そんな二人に内心、感謝を捧げながら、俺は山から牌を取っていった。
京子「そもそもシェフの気まぐれ風って何なの?」
小蒔「…そう言えば…。気まぐれじゃないんですよね?」
春「つまり気まぐれに見せかけるほど計算高いシェフの技…」
小蒔「な、なんだか良く分かりませんけど凄そうです…!」
京子「それならわざわざ気まぐれ風なんてつけなくても良いでしょうに」
京子「それに、これ料理じゃなくて麻雀よ?シェフって誰になるの?」
春「多分、全自動麻雀卓…」
京子「…なんかちょっと分かってしまう自分が嫌だわ…」
春「ドヤァ」ドヤァ
確かに全自動麻雀卓は自動的に洗牌して俺達の前に出してくれる訳で。
牌を材料、山を料理と考えれば、シェフと言う言い方はあながち的外れではないのかもしれない。
まぁ、きっと春はそこまで考えて言っている訳じゃないだろうけれどさ。
こうやってドヤ顔するって事は適当に言っていた事が、何とか辻褄が合った感じなのだろう。
小蒔「なるほど…!じゃあ、これからは全自動麻雀卓じゃなくてシェフって呼ばないといけませんね」
京子「いえ、別に呼ばなくても良いと思うけど…」
小蒔「え?でも、全自動麻雀卓ってシェフなんですよね?」キョトン
京子「それは物の喩えだから」
小蒔「そうなんですか?」
京子「そうなんです」
小蒔「じゃあ、なんて呼べば良いんでしょう…?」ウーン
京子「普通に全自動麻雀卓で良いんじゃないかしら?」
春「それじゃ可愛げがない…」
京子「全自動麻雀卓に可愛げって必要とは思えないけど…」
小蒔「はい!思いつきました!」
春「では、姫様どうぞ」
小蒔「全自動麻雀卓!略してまーくんでどうでしょう!!」
春「…良いですね。じゃあ、次から全自動麻雀卓はまーくんで…」
小蒔「わー」パチパチ
春「素敵なお名前を頂けた姫様には後で素敵なプレゼントがあります」
小蒔「え?本当ですか?」
春「…京子から」
京子「私から!?」
俺、そんなの初めて聞いたんですけど!?
小蒔「京子ちゃん、私楽しみにしてますね!」
京子「…じゃあ、終わったらお菓子でも買いに行きましょうか」
小蒔「京子ちゃんっ」パァ
まぁ、かと言ってここで何もなしってのも楽しみにしてる小蒔さんが可哀想だし。
春に載せられるのは何となく悔しいけど、お菓子くらいなら大した出費じゃないしな。
小蒔さんの為ともなれば、きっと霞さん達も許してくれるだろう。
姫子「…ふふ」
小蒔「あ」
姫子「…あ、ご、ごめんなさい…」
小蒔「え?どうして謝るんですか?」キョトン
姫子「どうしてって…」
小蒔「私、鶴田さんの笑っているところ初めて見れて嬉しかったですよ!」
姫子「そ、そげな風に嬉しがられるような事じゃ…」カァ
小蒔「でも、鶴田さんは可愛い方ですし、笑っていた方がやっぱり素敵に見えますよ」
姫子「…ぅ」カァ
京子「ふふ…鶴田さん、諦めた方が良いですよ」
京子「こうなった小蒔さんは中々、手強いですから」
姫子「…どうやらそいみたいね」
小蒔「え?」キョトン
京子「そうやって素敵な事を素敵だって言える小蒔さんが誰より一番、素敵だって事よ」ナデ
小蒔「そ、そんな…照れちゃいます…」カァ
春「…京子も素敵だって言ってる」
小蒔「あ、本当です。つまり京子ちゃんも素敵な人なんですね!」
春「……自画自賛?」
京子「ち、違います。そういうつもりで言ったんじゃありませんっ」
姫子「ふふ」
そんな俺達のやりとりに鶴田さんは再び笑みを浮かべた。
最初の頃よりも若干柔らかく、またさっきよりも自然な笑み。
目の前で何時も通りのやりとりをしているだけだけれど、どうやら俺達の馬鹿騒ぎは鶴田さんの気晴らしにはなれているらしい。
京子「もう。そんな風にからかってくるのなら手加減はしないわよ。…鶴田さんが」
姫子「わ、私…!?」ビックリ
京子「えぇ。だって、私じゃ小蒔さんや春には勝てませんし」
京子「私の代わりに二人をぎゃふんと言わせてあげてください」
姫子「え、えぇっと…」
春「…姫様、これはこっちも協力するべきだと思います」
小蒔「つまりタッグマッチって事ですね!」
京子「いえ、違うと思うけど…でも、それも面白そうね」
この中で素の実力が一番高いのは鶴田さんで、その次に春、小蒔さんと並ぶ感じなんだ。
最下位の俺が頭一つならぬ腰一つ分くらい下だろうけれどもその分、鶴田さんが抜けている。
タッグマッチを組むなんて突然の話であったけれども、意外とバランスは取れているのかもしれない。
京子「鶴田さんもどうですか?」
姫子「ん…私も構わんたい」
京子「じゃあ、タッグマッチでやりましょうか」
小蒔「ルールはどうします?」
京子「とりあえず合計点が上回った方が勝ちってだけで良いんじゃないかしら」
春「つまり差し込みはあり?」
京子「そうね。あんまりその辺、規制すると別物になっちゃうし…あんまり酷くない限り戦略としてありにしましょう」
そう言った差し込みは春の独壇場だから出来れば規制したいってのが本音なんだけどなぁ。
とは言え、その辺ガチガチに規制するのはあんまり面白くない。
そもそもこれはお遊びなのだから、必要な時に必要な規制をするだけで良いだろう。
小蒔「では、勝負ですね!」
春「ん…負けない」
京子「それはこっちのセリフよ」
京子「私一人なら勝てないだろうけど、こっちには鶴田さんがいるんだからね」
姫子「あ、あんまりアテにされると困るばい…」
京子「大丈夫ですよ。こっちでも最大限サポートしますから」
春「…サポートならこちらも負けない。…姫様」
小蒔「はい。全力でお相手します!」トン
…と、まぁ、始まったものの…だ。
一人なら頭ひとつ抜けている鶴田さんとは言え、俺のような足手まといを抱えたままだと正直、辛い。
勿論、小蒔さんはオカルトを使ってないっぽいし、春も決して本気でやってるって訳じゃないけども。
だが、タッグとなると相手の手を読む事に長けている春の打ち方は攻守ともに手堅いものになるのだ。
こっちも出来るだけ鶴田さんの援護をしたつもりではあるが、やっぱり常日頃から打っているかどうかの差は如実に出る。
小蒔「ふぅ、やっぱり鶴田さんは強いですね」
姫子「ありがとう。神代さん達もやっぱり強か」
春「…でも、結局、追いつけなかった…」
姫子「そいけん、最後の方は結構やばかったよ」
それでも俺たちが…いや、鶴田さんが勝てたのは新道寺のNo1は伊達ではなかったから、としか言い様がない。
タッグマッチと言う変則的な場を支配していたのは、春ではなく鶴田さんだった。
俺の援護があったとは言え、攻守共に隙がない彼女は二人からガンガン和了ってリードを作ってくれていたのである。
お陰で俺が和了れないという状況でも数千点差を維持したまま終局まで逃げ切る事が出来た。
勿論、小蒔さんも春も本気じゃなかったとは言え…これでスランプって本気の鶴田さんはどれだけ凄いんだろうか。
京子「…ごめんなさい、鶴田さん。私がもっと和了れていれば…」
姫子「ん…気にせんで良かよ。それに京子の援護は有り難かったから」
京子「…そう言って貰えると有り難いです」
鶴田さんはそう言ってくれているけれど、俺が春以上に何かが出来たとは到底思えないんだよなぁ。
勿論、必要な時に差し込んだり、出来るだけ鶴田さんが欲しがってそうな牌を打ったりしたけれども。
だが、それくらいなら春だってやっていたし、何より彼女は必要な時には自分で和了っていたんだ。
目に見えづらいサポートの部分でも目に見える点数の部分でも活躍していた春に比べると見劣りするのは否定出来ない。
春「……でも、こうして打つと京子が地味に怖かった」
京子「…え?そう?」
小蒔「そうですね。京子ちゃんがサポートに徹すると鶴田さんの手がどんどん大きくなっていくのが分かりましたし」
姫子「実際、私も打ちやすかったばい。須賀さんの助けがなかったら逆転どころか最初からあっちにリードされとったよ」
春「考えても見れば京子が自分の不要牌を引き込みやすいって事は誰かにとっての有効牌である可能性が高いんだから…」
小蒔「タッグマッチと言う形式では京子ちゃんの能力が上手く働くのかもしれませんね」
京子「私の力…」
…言われてみれば春の言う通りかもな。
自分で和了る事は出来なくても、誰かにとっての有効牌を俺は引き込む事が出来る。
それがタッグマッチと言う形式では+の方に働いたのだろう。
実際、俺が春や小蒔さんの和了牌を握り潰したまま、鶴田さんの援護をしていた場面も多かったし。
パートナーや相手の手をある程度、読む事が出来るならば、有効な場面も多いのかもしれない。
姫子「…須賀さんの力?」
京子「あ…そう言えば鶴田さんには説明していなかったですね」
姫子「ん…でも、それ聞いて良か話と?」
京子「構いませんよ。合宿中の牌譜を見ればすぐに分かる話ですから」
京子「…私、見ての通り、自分で和了る事が殆ど出来ないんです」
姫子「和了る事が…?」
京子「はい。さっきみたいに手替えをしても、最初から手を堅持しても、不要牌を引き入れてしまうんです」
京子「どれだけデジタルを突き詰めても、確率的にどれだけ有利でも変わりません」
京子「まるで不要牌を引き入れるのが私の能力のように必ずと言って良いほど裏目に出てしまうんです」
姫子「そぎゃん事あるはずなか…とは言い切れんね」
京子「えぇ。悲しい事に」
実際、見ていれば俺の牌の偏り方がおかしいって言うのはすぐに気づくだろうしな。
俺だって一年も麻雀やっている訳だし、未だに右も左も分からないような初心者じゃない。
上級者ってほどじゃないが、そこそこのデジタル打ちは出来てると思う。
だが、それでも俺の和了率は5%にも満たない。
和了率が三割あれば上等だと言われるゲームではあるが、だからと言ってその数字はあまりにも低すぎるだろう。
姫子「でも…」
京子「え?」
姫子「それが本当なら須賀さんは引いてくる牌ばコントロール出来るって事やなか?」
京子「でも、幾らコントロール出来たところで不要牌を引いていては和了れませんよ」
京子「今回みたいにパートナーの援護をメインに動く事なら出来ますが…通常のルールでは意味がありません」
姫子「そぎゃん事なかよ。和了れんでも勝てる方法はあるたい」
京子「…和了れなくても勝てる方法…まさか…」
…確かに鶴田さんの言う通り、麻雀のルールの中には和了れなくても点数を得られる方法はある。
一つは流局した際にテンパイ出来なかった参加者はテンパイしていた参加者に幾らかの点棒を渡さなければいけないというノーテン罰符。
そしてもう一つは… ――
姫子「流し満貫なら不要牌を引き込んでも関係なかよ」
京子「…確かにそうかもしれませんが…」
流し満貫。
流局時、ヤオチュウ牌でのみ河を染め上げた際に適用される特殊な役だ。
自分の牌を一つでも他家に鳴かれると成立せず、また流局しなければいけない事から役満よりも出にくいと言われている。
そもそもヤオチュウ牌で河を染め上げるくらいなら、まだ国士無双を狙った方が幾らか期待値も高い。
狙おうとしても狙えるものではなく、気づいた時に成立している事の方が多いだろう。
姫子「まぁ、現実的ではなかね」
京子「……そうですね。ただ…」
京子「…現実的ではないのは今の状況も同じと言えば同じですし」
京子「それに…多少、弱音を吐かせて貰えれば…今は藁にも縋りたい気持ちですから」
春「…京子」
京子「…一度、流し満貫狙いで打たせてもらって良いですか?」
小蒔「私は構いませんよ」
姫子「私も言い出しっぺだけんね」
春「…異論はない」
京子「ありがとう。それじゃあ…」ポチッ
小蒔「でも、手加減はしませんよ!」
春「…こっちも流し満貫を警戒して打つから」
京子「当然よ。そうじゃないと練習にならないもの」
より実戦に近い形じゃなきゃこれがどれだけ通用するかなんて分からないからなぁ。
流し満貫狙いなんて特徴的な打ち方をしていたら、インターハイどころか地方予選の時点で警戒されるだろうし。
警戒されて尚、どれだけ戦えるかを知らなきゃ手札として頼る事なんて到底、無理だ。
そもそも俺の能力が不要牌を引っ張ってくるもんだって確定した訳じゃないし、流し満貫を狙えるかどうかすら不明なのだから。
京子「(…実際、配牌の時点で手は滅茶苦茶だからなぁ)」
テンパイまで最速で見ても四向聴。
勿論、その中にはヤオチュウ牌も幾らか含まれているからいきなり狙いが頓挫するって事はないんだけれど。
こんだけバラバラならヤオチュウ牌メインで引っ張ってくる事は難しいんじゃないだろうか。
数順は良くても流局までの間、弾が続くとは到底、思えない。
それに… ――
姫子「ロン」
京子「う…」
姫子「…防御が疎かになっとるけん、狙い撃ち出来るたい」
京子「ですよね…」
下手に流し満貫を狙おうとするとそこで大口開けて他の参加者が待っている。
局が進めば進むほど、相手だってテンパイに近づいていくんだから。
インターハイクラスの雀士ともなれば、ヤオチュウ牌に絞って狙い撃ちする事くらい余裕だ。
流し満貫そのものに固執していたら、幾ら和了れても稼ぎ負けてしまう。
京子「(…今の打ち方じゃダメだ)」
京子「(安牌は出来るだけ後半に持っていかなきゃ食いつかれる)」
京子「(序盤から終盤に向けてどうするかを考えていかないと…)」
京子「(土壇場で何を切るかなんて迷ってたら間に合わない)」
京子「(理想は配牌時点で相手の手が分かってる事なんだけど…)」
京子「(…まぁ、まず無理だよなぁ)」
格上とばっかり打っているお陰である程度、読みに関しては成長する事が出来てはいる。
だが、咲みたく感性だけで場の全てを把握するような化け物ならばまだしも、俺の読みはあくまでもデジタルに由来してるものなのだ。
まったくなんの情報もないような段階で相手の手を読みきれるようならこれだけ苦労はしていない。
ましてや今の俺は流し満貫を狙うという一種の縛りプレイをしているんだから尚更だ。
京子「(…ダメだ、考える事が多すぎる)」
京子「(相手の現在の手、予想される最終形、自分の手の調整、現在切らなきゃいけない牌、後半に切らなきゃいけない牌…)」
京子「(考えれば考える程、頭がパンクしそうだ…)」
京子「(……でも)」
春「…京子、大丈夫?」
姫子「ちょっと休憩すると?」
小蒔「私、お茶淹れてきましょうか?」
京子「…いいえ、大丈夫よ」
京子「それより局を進めましょう」
京子「…なんだか少しずつ見えてきそうな気がするの」
正直な話、今まで以上に考えなきゃいけない事が増えてて辛い。
一回一回に頭を酷使している所為か、微かに頭痛もする。
それでも尚、流し満貫が成立する気配すらないのだから、メゲそうだ。
だけど…相手の待ちを回避しながら手を進めるなんて愚直な打ち方しか出来なかった頃に比べれば随分とやりやすい。
新しい何かが見えてきそう…って言うのは流石に言い過ぎだろうけど、手応えのようなものを俺は微かに感じ始めていた。
京子「(勿論、流し満貫を狙うって宣言してる以上、皆も警戒してるし、窮屈ではあるけどさ)」
京子「(だけど…それを差し引いても尚、新しく増えた選択肢って言うのは本当に大きい)」
京子「(それは俺だけじゃなくきっと他の皆にとっても同じなんだろう)」
春「…」スッ
小蒔「あ、それロンです。1300」
春「はい…」
京子「(目に見えて皆の点数が下がってる)」
京子「(流し満貫を警戒するあまりスピードを優先してるんだろう)」
京子「(勿論、時折デカイのが飛び出す事がないって訳じゃないけれども)」
京子「(だけど…そうやって一人の和了が小さくなっていく状況は俺にとって有利だ)」
流し満貫はツモとして計算されるが故に全員から点数を奪う事が出来るのだ。
最低でも10000、最大ならば16000もの点差を縮める事が出来る。
持ち点が大きい団体戦ならばともかく、25000スタートの個人戦でその数字は大きい。
通常、格上ばかりの中で一発逆転は難しいが、細かく刻まれる状況の中ならばその目も見えてくる。
京子「(何より…付け入る隙がない訳じゃない)」
京子「(最初は協力して俺の事を止めようとしていても後半に入るにつれてそうもいかなくなってくる)」
京子「(点数が細かく刻まれる分、全員に逆転のチャンスが出てくるんだからな)」
京子「(俺を止めるよりも和了りたい。そんな欲が出てくるのも当然の事だろう)」
京子「(…そして…その欲が出てくる後半こそ俺に勝機がある)」
小蒔「…ぅ」
春「……むぅ」
姫子「……参ったなぁ」
鶴田さんがそう呟くのは流局までの残り数順に迫っているからだろう。
俺の河はヤオチュウ牌に染まり、流し満貫成立を今か今かと待っている状況だ。
勿論、他家もテンパイ気配が濃厚で、決して油断は出来ない。
だが、それほどまでに手が固まっているという事は下手に鳴きで俺の流し満貫を止める事が出来ない事を意味するのだ。
京子「(…白)」トン
京子「(中…)」トン
京子「(一索……頼む…通ってくれ…!)」トン
春「……」
小蒔「……」
姫子「……」
京子「……」
春「…テンパイ」
小蒔「テンパイです」
姫子「ノーテン…そいで…須賀さんは…」
京子「…えぇ。流し満貫…で良いんですよね、これ」
春「…ん。大丈夫」
小蒔「はい。ちゃんと流し満貫になっていますよ」
京子「…そう」
…正直なところ現実味がまったくない。
でも、河に綺麗に並んだヤオチュウ牌が何よりの証拠だ。
決して一つも鳴かれず、俺の河の中に残っているそれらは決して夢でも幻でもない。
俺は本当にインターハイ出場経験のある三人の前で流し満貫というトンデモ役を完成させる事が出来たのだ。
春「…京子」
京子「え?」
春「点棒…やりとりしないと」
京子「あ…そ、そうね。ごめんなさい」
小蒔「はい。京子ちゃん」スッ
姫子「ん…私の分も」
京子「あ、ありがとうございます」
小蒔「ふふ、お礼を言うのは変ですよ」
春「ん…これは和了った京子への正当な取り分だから」
京子「…和了った…私が…?」
そう呟きながら皆に手渡された点棒を見る。
合計で8000にもなるそれは俺の少しずつ現実味と言うものを与えてくれた。
俺でもインターハイクラスの雀士三人相手に出来たのだと言うそれにジワリジワリと頬が緩んでいくのが分かる。
小蒔「えぇ。京子ちゃんが頑張ったからですよ」
姫子「…おめでとう、須賀さん」
京子「皆…本当にありがとうございます…!」
京子「私…私、こんなに大きいの和了ったの初めてで…」
春「…ん。京子、頑張った…」ナデナデ
京子「も、もう。子供扱いしないでよ」
春「…そう言いながらも嬉しそう」クスッ
京子「し、仕方ないでしょ。本当に…私は今、心から嬉しいんだから」
その気持ちは多少、子供扱いされた程度では揺るがない。
俺にとってそれは歴史的快挙と言っても良いような代物なのだから。
勿論、それまでが酷かった分、ようやく俺の点数はイーブン…初期状態の25000をちょっと超えた程度だ。
だが、それすらも長らくなかった俺にとって胸の底から沸き上がる歓喜の声を止める事は出来ない。
京子「…ぅ」ズキ
春「…大丈夫?」
京子「ん…ちょっと気を抜いたらどっと疲れが来ただけ」
春「京子…凄い集中してたから…」
京子「そりゃそうしないとこの面子の中で流し満貫なんて出来ないし…」
京子「まぁ、それでもさっきのはまぐれみたいなもんだと思うけれど」
小蒔「そんな事ないですよ、京子ちゃんの実力です」
春「実際、途中からどんどんプレッシャーが大きくなってた…」
春「最後の方は勝ってるはずなのに追い詰められてて…怖かったくらい」
京子「本当?」
春「…こんな情けない嘘は吐かない」
京子「…そっか。そうなんだ…」
勿論、それは流し満貫という高い役が齎すプレッシャーなのだろう。
決して俺自身が強いから春をそんな風に追い詰められた訳じゃない。
だが、今までの俺はプレッシャーもろくに与えられない置物のような状態だったのだ。
それから比べれば、大きな前進だとそう言っても良いだろう。
姫子「…ばってん、ホントに流し満貫出すなんて」
京子「予想外でした?」
姫子「正直、思いつきで話しとったし…出来るにしてもこんなに早くで出すとは思ってなかったばい」
京子「ふふ、それは先生が良かったからですね」
姫子「先生?」
京子「えぇ。鶴田さんを始め、皆から問題点の指摘があったからこそ、私はこれだけ早く辿りつけたんです」
京子「…まぁ、辿りつけただけでまだまだ実用には程遠いんですけどね」
京子「改善点は数えきれないほど残っていますから」
運の悪い事が唯一の特徴であるような俺が言うのもおかしいがさっきのは運が良かっただけだ。
三人が俺を止めるのではなく、他の相手への牽制と、自身の和了を優先したからこそ生まれた空白。
その隙間を上手いことすり抜けられただけで、決して俺の実力とは言い切れない。
京子「当面の課題は確実にヤオチュウ牌を引っ張ってこれるようにする事ですね」
姫子「さっきは出来んかったと?」
京子「えぇ。何度か途切れそうになりましたし…」
京子「今の不確実なままでは流局になだれ込める時に流し満貫が成立しない…なんて事になりかねません」
京子「序盤からのリソースの使い方にもまだまだ改善の余地はありますし…やる事が山積みです」
京子「続けてやっていると頭が痛くなってきますし…大変ですね」クスッ
春「…そう言ってるけど…大変って顔じゃない」
京子「だって、私は今、ようやく光が見えたんだもの」
姫子「…光?」
京子「はい。自分自身の力である程度、戦う事が出来る方法です」
流し満貫を狙うのには山ほど課題がある上に、それらを解決出来たところで実用レベルになるかは分からない。
でも、俺は今、ようやく自分自身の力で戦う事が出来るやり方って言うのを見つける事ができたんだ。
勿論、神様の力を借りる為に精神集中の修行なんかを止める訳にはいかないけどな。
だけど、行き詰まりを感じていた中にようやく光が差し込んできた…なんて表現は今の俺にとって決して大げさなものじゃなかった。
京子「でも…良かったんですか?」
姫子「何と?」
京子「鶴田さんからすれば私は一応、敵になると思うんですけど…」
姫子「…それこそ今更じゃなかと?」
京子「う…それはそうなんですけど…」
京子「その…お恥ずかしい話、浮かれすぎて鶴田さんの立場を忘れてて」
京子「熱も冷めてきて冷静になると本当に良かったのかなって…」
姫子「良くなかったらあんなアドバイスせんよ」
姫子「それに……今の私は新道寺の鶴田姫子じゃなくて…一人の鶴田姫子ばい」
姫子「新道寺とか永水とかそぎゃん事関係なかけん、気にする方が野暮ってもんたい」
京子「…ふふ。そうですか。…そうでしたね」
京子「どうやら一本取られてしまったみたいです」クスッ
姫子「納得したと?」
京子「えぇ。十分に」
勿論、完全に新道寺と切り離した一個人として麻雀する…なんて簡単に出来るはずがない。
そうやって簡単に切り離せるくらいならば鶴田さんはスランプにはなっていなかっただろう。
そもそも、俺達はつい昨日出会ったばかりで、それだけの信頼を彼女から勝ち取るにはまだまだ時間が足りていない。
だが、それでも彼女は新道寺から無関係であろうとしてくれている。
それが嬉しくて頷く俺の顔に笑みが浮かんでしまう。
京子「…では、改めて…鶴田さん、ありがとうございます」
京子「これで私、少しは皆のお役に立てそうです」
姫子「ん。私も須賀さんの役に立てたようで嬉しか」
姫子「…それよりまだ終わった訳じゃなかたい」
京子「え?」
姫子「まだオーラス残っとるよ」
京子「あ…」カァ
春「…忘れてた?」
京子「…実は…」
小蒔「ふふ、それだけ嬉しかったって事ですよね」ニコ
京子「うぅ…」
幾ら流し満貫完成したのが嬉しかったからと言っても、オーラスの存在を忘れるなんて浮かれすぎだろ、俺…。
うわー…マジ恥ずかしい…ってか、これ顔赤いよなぁ絶対…。
あー…もう…折角、狙い通りに和了れたってのにどうにも締まらないなぁ…。
小蒔「赤くなる京子ちゃん可愛いです!」
小蒔「何時もキリッとしてて綺麗ですから余計にそう思えますね」
京子「も、もう…止めて頂戴…」モジ
春「…でも、普段、京子はそういうところ見せないから新鮮なのは確か」
姫子「そいなん?」
小蒔「はい!京子ちゃんは永水女子のエルダー候補に選ばれるくらいの人ですから!」
姫子「…エルダー?」
春「…凄い大雑把に言えば…学校で一番人望のあるお姉様です」
姫子「お姉様…やっぱり須賀さんは女の子に興味が…」
京子「わ、私はノーマルです!!」カァ
京子「そ、そもそもエルダーはそういうんじゃなくって、もっと象徴的なものですよ」
京子「他の生徒達の模範として一年に一人選ばれたその人をお姉様と呼ぶだけで深い意味はありません」
小蒔「深い意味?」キョトン
京子「あ、え、えっと…それはですね…」ワタワタ
京子「し、姉妹のように仲の良い二人の場合、年下の女の子が相手をお姉様と呼ぶ事があるんですよ」
小蒔「なるほど…勉強になります」ウンウン
京子「…ふぅ」
な、なんとか誤魔化せたか。
小蒔さんと一緒にいると和むんだけど、余計な事言えなくなるからなぁ。
まるで子猫みたいに好奇心旺盛な彼女に突っ込まれると説明が大変だし。
まぁ、そもそも余計な事を言わなきゃ良いだけの話ではあるんだけれども。
姫子「ふふ」
京子「鶴田さぁん…」
姫子「ごめん。でも、須賀さんは神代さんの事、本当に大事にしとるたいね」
京子「そりゃもう。皆の大事なお姫様ですから」
京子「ですから、あんまり小蒔さんの前ではいじめないでくださいね」
京子「小蒔さんの教育にも悪いですし」
姫子「ん…そいはちょっと無理かも」
姫子「私はいじめるのもいじめられるのも好きな方やけん」ニコ
小蒔「…え?」キョトン
京子「…私、今、この場をセッティングした事を心から後悔しました」
この人、小蒔さんに近づけちゃいけないタイプの人だった!
物憂げな表情からてっきり真面目と言うかしっかりした人だと思ったんだけど!!
いや、勿論、しっかりしてはいるけれど、それと同じくらい場を引っ掻き回すのが好きなタイプと言うか…!
俺の人生の中で出会ってきた人を例にあげるなら、竹井先輩に近い性格をしてやがる!!
小蒔「それってどういう事なんですか?」クビカシゲ
姫子「きっと須賀さんなら分かるたい」チラッ
小蒔「そうですね。京子ちゃんは何でも知ってますから」
京子「な、何でもは知らないわよ。流石に」
小蒔「じゃあ、鶴田さんに聞いたほうが…」
京子「それは止めて頂戴」
小蒔「え?でも…」
京子「お願いだから止めて」
ここで鶴田さんに聞いたら、親切丁寧に本当の事を教えてくれるだろう。
だけど、それは小蒔さんが知らなくても良い世界…と言うか知らない方が幸せな世界なのだ。
ぶっちゃけた話、彼女には刺激が強すぎると言うか、出来れば無縁でいて欲しい領域である。
出来れば小蒔さんに穢れてほしくない俺にとって、それは決して見過ごせるものじゃない。
姫子「失礼たいね。まるで私が神代さんに変な事吹き込むみたいやなか」
京子「さっきの発言を思い返してから言ってください」
姫子「そんなに不適切な発言だったと?」
姫子「私も分からんから神代さんと一緒に説明して貰わんといけんね」クスッ
京子「ぬぐぐ」
姫子「ふふ…まぁ、世の中色んな人がおるたい。中にはそういう人もおるって事よ」
小蒔「へー…そうなんですか」
小蒔「でも、いじめるのはいけない事ですし…」
小蒔「鶴田さんがして欲しがっているとしてもなんだか気が引けるんですが…鶴田さんがして欲しいなら私も頑張るべきなんでしょうか…?」ウーン
姫子「大丈夫たい。私がいじめて欲しいのは一人やけん」
小蒔「なるほど…?良く分かりませんけれど、鶴田さんはその人の事が大事なんですね」
姫子「ん。がばい大事と」ニコ
小蒔「そうですか。それは素敵な事ですね!」ニコー
…ふぅ、どうやら何とか収まるようには収まったらしい。
まさかあの話題でいい話風に終わるとは思ってなかったんだけど…これも鶴田さんの口が上手いお陰か。
まぁ、そもそも話題を振って来たのが彼女であるだけにマッチポンプも良いところなんだが。
京子「それじゃそろそろオーラスはじめましょうか」
小蒔「はーい」
春「ん…頑張ってまくる…」
姫子「そう簡単に1位の座は譲らんたい」
京子「こっちだって射程圏内です。簡単に逃げ切らせはしません」
姫子「ふふ、怖かね。流し満貫の事教えんかった方が良かったばい」
京子「今更、後悔しても遅いですよ」
京子「さっきの借りもありますし…絶対に逆転してみせますから!」
春「…じゃあ、罰ゲームでも設定する?」
小蒔「罰ゲームですか?」
春「はい。終局時3位と4位が終わった後の片付けをする…とかどうでしょう?」
小蒔「そうですね。それくらいなら良いと思います」
姫子「罰ゲームならオススメの脱」 京子「鶴田さんもそれで良いそうですよ」
言わせねぇよ。
いや、勿論、この面子で脱衣麻雀とか興味が無いとは言わないけどさ!
でも、その言葉だけでも小蒔さんの教育には悪すぎる。
姫子「…須賀さんってば強引…」
京子「強引なのも嫌いじゃないでしょう?」
姫子「まぁ、確かに否定はせんばってん」
小蒔「強引?」
京子「鶴田さんはフレンドリーなお付き合いを望んでるって事ですよ」
小蒔「なるほど!それなら苗字じゃなくて下の名前で呼んだ方が良いんでしょうか…?」ウーン
姫子「構わんたい。私も皆の事、下の名前で呼びたか」
小蒔「えへへ、嬉しいです」
小蒔「それじゃあ…えっと…姫子ちゃん」テレ
姫子「ん。なあに、小蒔ちゃん」
小蒔「ふふ、良いですね、こういうの」ニコ
姫子「ん。そうたいね」ニコー
姫子「滝見さんも良ければ下の名前で呼んで欲しかよ」
姫子「私、鶴田さんなんて呼ばれるような柄じゃなかけん」
春「…分かりました。これからはそうします」
京子「…あの、私は…?」
姫子「須賀さんはまだ下の名前で呼んで貰うほど仲良くなかかなって…」
京子「凹みますよ、割りと真面目に」
春「…よしよし」ナデナデ
京子「…春ちゃん…」
春「…大丈夫。京子」
春「例え京子が発案者なのに姫子さんに一人だけ名前呼びを許されないような子でも私は応援してる」
京子「…春ちゃん…それって一般的にはトドメって言うのよ…?」
春「…知ってる」
くそぅ…春の奴、嬉々としてこっちを追い込みに来やがって…!
俺の頭を撫でながら頬を緩ませてやがる…!
笑うってほどじゃないけど、明らかに俺にトドメを差すのを楽しんでるよな。
鶴田さんと言い、初美さんと言い…なんで俺の周りにはこう愉快な性格をしてる女の子が多いんだろう…。
京子「良いですよー。それならこっちにだって考えがあります」
京子「このオーラスで勝って嫌でも私の事、京子と呼ばせてあげますから」
姫子「無理やり人に呼称の変更迫るとかちょっと…」
京子「もう…どうしろって言うんですか」
姫子「ふふ。でも、それはそれで面白そうたい」
姫子「その挑戦受けると」
京子「よし…。じゃあ、私もこれからは本気でいきますからね」
京子「その言葉、必ず後悔させてあげます」
…と、まぁ、意気込んだものの、だ。
流石に二回連続で流し満貫を成功なんてさせて貰える訳がないよなぁ。
勿論、俺への警戒は比較的薄いけど、それはあくまで1位の鶴田さんに比べればの話。
そもそもインターハイクラスの雀士が三人集まって、流局までなだれ込める事の方が珍しいだろう。
さっきみたいにお互いがお互いの牽制をしてくれればワンチャンあるかもしれないけど…全員が逆転の可能性あるからなぁ。
下手に警戒するよりも自身の和了を優先しなきゃいけない場面で流局まで粘るのは難しい。
勿論、負けるつもりはないが、俺以外の皆の手はドンドン進んでいって… ――
姫子「ロン。3900」
小蒔「はぅ…っ」
京子「ふぅ…これで終了ね」
春「ん…お疲れ様」
小蒔「お疲れ様でしたー」
姫子「お疲れ様たい」
春「…そして京子と姫子さんはおめでとう」
京子「ありがとう。…まぁ、鶴田さんが最後に小蒔ちゃんを落としてくれたお陰なんだけれど」
小蒔「うぅ…最後の最後で三位になっちゃいました…」シュン
鶴田さんが1位、俺が2位で、春が3位で小蒔さんが4位。
オーラスまで二位だった小蒔さんが3900食らって4位に転落した辺りからもどれだけの接戦だったか分かるだろう。
遊びとしてある程度手を抜いている事を差し引いても、中々に良い勝負だったのではないだろうか。
姫子「ごめんね」
小蒔「いえ、勝負の世界ですし、仕方ないです」
小蒔「次は最後まで2位を維持してみせます!」グッ
京子「いや、そこは嘘でも1位になるって言っておくべきじゃないかしら…」
小蒔「え、えっと、じゃあ、次は1位になります!」
姫子「ふふ、楽しみにしとるよ」
姫子「…後、須賀さんが私ば名前呼びする事も」クスッ
京子「うぅ…思い出させないでください…」
春「アレだけ啖呵切ったのに…」
京子「い、一回いけたしいけると思ったのよ、あの時は…」
京子「そ、それよりほら、そろそろ片付けをしなきゃいけない時間よ」
話題を逸らす為に壁にかかっている時計を見れば、そろそろ片付けを始めなきゃいけない時間を指している。
罰ゲームで片付けするのが二人って決まった訳だし、今日はここで終わりにしておくべきだろう。
ようやく少し見えてきたものがあるだけに名残惜しいが牌譜検討会に遅れる訳にはいかないからなぁ。
姫子「…そっか」
京子「名残惜しいですか?」
姫子「ちょっと。…ようやく楽しくなってきたところやけん」
京子「ふふ、楽しんでもらえたようで何よりです」
姫子「そいに須賀さんのからかい方も分かってきたところなのに…」
京子「ほんっと良い性格してますよね、鶴田さん…」
まぁ、そうやって素の部分を出してくれるくらいリラックスしてくれたって事なんだろう。
一時はどうなる事かと思ったけど、今回の麻雀は彼女にとって+に働いてくれたようだ。
色々と思うところがない訳じゃないが、発案者としてそれを喜ぶべきだろう。
姫子「ん。褒め言葉として受け取っておくたい」ニコ
京子「まったく…もう…」
小蒔「ふふ、そう言いながら京子ちゃん嬉しそうですよ」
春「…京子はツンデレだから」
京子「ちーがーいーまーすー」
姫子「という事はさっきのも実は…」
京子「違いますからね?本当に違いますから!」
姫子「これが鹿児島流のフリ…勉強になるたい」ウンウン
京子「うー…何を言っても聞くつもりないでしょう…?」
姫子「勿論。その方が面白か」クスッ
京子「…元気になってくれたのは嬉しいですけど、元気になりすぎじゃないですか?」
姫子「春さん、翻訳お願いするたい」
春「ツンデレの京子は姫子さんに構って貰えるのが嬉しくて堪らないみたいです…」
姫子「なるほど…須賀さんとの付き合いが長い春さんが言うならきっと間違いじゃなか」
姫子「本当に須賀さんは素直じゃなかねー」ニヤ
春「…本当に」クスッ
…仲良くなってくれるのは嬉しいけど、こんなところで無意味なコンビネーションを発揮しなくても良いんじゃないかなぁ…。
京子「と言うか、春ちゃんは鶴田さんとじゃなくって小蒔さんと協力して片付けするべきじゃないかしら…」
春「…嫉妬?」
姫子「女の嫉妬は怖かねー…」
春「大丈夫。私は京子一筋だから…」
小蒔「わわ、熱々ですね」
FuFu…話を聞いてくれません。
小蒔「でも、お片づけは先に済ませておかないとダメですよ」
小蒔「もし遅れたら皆に迷惑がかかっちゃいますから」
小蒔「私も頑張りますから一緒にやりましょう?」
春「はい…」
京子「小蒔さん…っ」ジィン
小蒔「あれ…?どうしました?」
京子「貴女が天使だったのね」
小蒔「天…え?」キョトン
姫子「おっと…須賀さんがここで小蒔ちゃんを口説き始めるとは…」
春「京子…浮気はダメ…」
なんとでも言え愉悦勢共。
二人に弄ばれた十代のガラスハートを癒してくれたのは小蒔さんだけなんだ。
そんな彼女を天使と言って何が悪い。
そもそも二人に思いっきり遊ばれてなかったらこんな事言ったりしないっての。
小蒔「え、えっと、良く分かりませんけど、悪い気はしないですね」テレテレ
小蒔「でも、私は西洋の神様に仕える身ではありませんよ」
小蒔「あ、でも、神様の使いって意味では一概に違うって訳でもないんでしょうか…」ウーン
京子「ふふ、違うわよ、小蒔ちゃん」
小蒔「え…?」
京子「天使とはね、心のありようなのよ」
小蒔「そうなんですか?」
京子「えぇ。心優しくて清らかな人を表現する際に天使という事があるの」
小蒔「そ、そんな私なんて…」カァ
京子「いいえ、小蒔ちゃんはとても心優しい子よ。私にはちゃんと分かってるわ」
春「…おかしい。それならば私達も天使と呼ばれなきゃいけないはず…」
姫子「うんうん。須賀さん、贔屓はいけんたい」
黙ってろ愉悦勢共。
小蒔「ほ、褒めすぎですよ、京子ちゃん」モジ
小蒔「ちょっと恥ずかしいです…」
京子「ふふ、ごめんなさい」
小蒔「でも…そうまで言われて頑張らない訳にはいきませんね」
小蒔「手始め後片付けから…頑張ります!」パァ
姫子「え?」
春「姫様…気合入れすぎ」
小蒔「あわわっ!」
姫子「…今、なんか小蒔ちゃん、光っとらんかったと?」
京子「気のせいでしょう」
姫子「ばってん…」
京子「気のせいです。良いですね?」
姫子「アッハイ」
鶴田さんには悪いけど、オカルトを全部受け入れられる人ばっかりじゃない。
ましてや小蒔さんのそれは神様を降ろすって言う他と比べても規格外なものなんだ。
例え、オカルトに慣れ親しんでいたとしても受け入れられるかどうかは五分五分だろう。
折角、下の名前で呼び合うような仲になった鶴田さんに距離を取られるのも可哀想だし、ここは多少強引でも気のせいと言う事にしておいた方がお互いの為にも良いだろう。
春「…じゃあ、私と姫様で後片付けはするから二人は先に戻ってて」
京子「良いの?」
春「私達が後片付けしてる間、手持ち無沙汰になるだろうし…」
春「それほど時間は掛からないだろうけど待たせるのも心苦しいから」
京子「それじゃそうさせて貰おうかしら。ありがとうね、春ちゃん」
春「…天使って呼んでも良いよ?」
京子「感謝はしてるけど、今までの行いが行いだけにそうは呼べないかしら」
春「…理不尽」
どっちがだ。
京子「それじゃ鶴田さん、行きましょうか」
姫子「ん。それじゃ二人ともまた後で」
小蒔「はい。また後で、です」
春「…また」
ガチャ
湧「あ…」
京子「え?」
…わっきゅん?
ちょ、ちょっと待って…なんでここに?
俺、心の準備とかまったく何にも出来てないんだけど…!
京子「(でも…な、何か言わないと…!)」
これまで俺の事を避け続けてきたわっきゅんがこうして俺の前に現れたんだ。
昨日の一件で生まれた溝を少しでも埋める為にも何か言わなきゃいけない。
しかし、そう思いながらも突然の邂逅に思考が追いつかず、頭の中で無意味な文字だけが滑っていく。
それはわっきゅんも同じなのだろう。
扉の前の壁に預けていたわっきゅんはこっちに視線を送りながらも、唇をもごもごと動かすだけで言葉らしい言葉が出てこない。
京子「わ、わっきゅん…」
湧「あ…あ…え、えっと…その…あの…」カァ
そんな彼女に数秒掛けて俺が掛けたのは彼女の名前だった。
だが、それがいけなかったのだろう。
まるでその呼び方で改めて目の前にいるのが俺だと認識したようにわっきゅんの頬が真っ赤に染まっていく。
カァと熟れた林檎のように朱を示すその顔はぎこちなくあっちこっちへと視線を彷徨わせて… ――
湧「こ、こここここここらいやったらもし!!」ダッ
京子「あ…」
そのままこらえ切れなくなったようにわっきゅんが俺の前から去っていく。
ズダダダと廊下を踏みにくような激しい勢いは彼女が本気で俺の前から逃げたがっている事を知らせる。
そんなわっきゅんを追いかける事なんて…俺に出来る訳もない。
俺に出来る事と言えば自分のやってしまった事の大きさに押しつぶされる事くらいだ。
京子「…はぁ」
姫子「…須賀さん」
京子「すみません。お見苦しいところをお見せして」
姫子「そぎゃん事気にする事じゃなか。それよりも須賀さんが気にせんといけんのはあの子の事ばい」
京子「…はい。それは分かっているんですけど…」
姫子「じゃあ、なんで一も二もなく追いかけんかったと?」
京子「…私が追いかけても良かったのでしょうか…」
姫子「もう…私ば誘った時の自信家っぷりは何処にいったと?」
京子「あの時は…自分の中でそれが正しいってそういう風に思っていたからで…」
京子「でも、さっきの彼女…わっきゅんは本気で私から逃げようとしていました」
京子「…きっと私の事なんて嫌いになってしまったんでしょう」
京子「それなのに追いかける事なんて出来ません」
姫子「…私はそうは思わんたい」
京子「…え?」
姫子「だって、あの子は須賀さんに会いに来とったよ」
わっきゅんが俺に会いに来ていた…だって?
でも、彼女は俺を見てすぐに逃げ出したし…そもそも俺は朝からずっと避けられっぱなしだ。
今ではもう目線すらマトモに合わせてくれないわっきゅんがわざわざ俺に会いに来るだろうか。
姫子「さっきの子は背中ば壁に預けてたばい」
姫子「つまりあそこで長時間待つつもりだったって事じゃなかと?」
京子「それは…」
姫子「そいでこの周りには練習場以外には何もなか」
姫子「そぎゃんところで待つ理由なんて須賀さんくらいなものばい」
京子「…で、でも、私じゃなくて他の誰かに用があったかもしれないじゃないですか」
姫子「ばってん、今日はここで練習しとるのはあの子も知ってる事やなかと?」
京子「それは…そうですけど…」
姫子「そいぎ、本当に須賀さんに会いたくなかって思ってるんならここに来る必要はなか」
姫子「須賀さんがいるのが分かっているけん、他の人に用事があるなら別の時で良かろー」
京子「う…」
鶴田さんの言葉に俺は何一つとして言葉を返す事が出来なかった。
証拠らしい証拠はないが、状況を一つ一つ見ていけばそうやって考えられなくはないだろう
勿論、かなり俺に対して好意的…と言うか甘い状況判断であり、それが真実と思っている訳じゃない。
だが、それを否定するだけの明確な証拠と言うのは思いつかなかった。
姫子「…そもそも須賀さんは、どうしてそいまで頑なにあの子が待っていた事を否定すると?」
京子「…私がそれだけ彼女にしてしまった事が大きいんです」
姫子「ばってん、そう思っとるのは須賀さんだけかもしれんよ」
京子「そんな事…」
姫子「なかって言い切れるほど須賀さんはあの子と話したと?」
京子「…ありません」
京子「でも、話す事すら出来ないくらい避けられているのにそんな…」
姫子「そいけん、さっきあの子は須賀さんと話したいとそう思ったんじゃなかと?」
京子「……そんな事…あるんでしょうか」
姫子「私には分からんよ。私は須賀さん以上にあの子の事ば知らんけん」
姫子「でも、頭ごなしに否定しなきゃいけんほど荒唐無稽な事とは思ってはおらんばい」
京子「…………」
姫子「やけん…次は追いかけてあげて」
姫子「須賀さんの方が先輩だけん、歩み寄ってあげんと格好悪かよ?」クスッ
京子「……格好悪いのは嫌ですね」
京子「ただでさえ、鶴田さんには醜態を晒してしまいましたし…これ以上いじられるのは勘弁です」
姫子「なら、次は格好良く決めんとね」
京子「…そうですね」
勿論、まだわっきゅんが俺の事を待っていてくれたと本気で思っている訳じゃない。
不可抗力に近い状態だったとは言え、俺がやった事は到底許されるような事じゃないんだから。
でも、鶴田さんの言う通り、このままじゃあんまりにも格好悪いのは事実だ。
嫌われているならば嫌われているでハッキリとさせておいた方が良い。
京子「ありがとうございます」
京子「鶴田さんのお陰で少しだけ吹っ切れました」ペコッ
姫子「ん。元気になったようで良かった」ニコ
姫子「元気になって貰わんと私も須賀さんの事弄れんけんね」ニヤリ
京子「そこで弄らないって選択肢はないんですか…」
姫子「須賀さんみたいな面白い子ば弄らなかなんてもったいないオバケが出るたい」
京子「そんなオカルトあり得ません」
姫子「ふむ…須賀さんはお化けとか怖いタイプたい?」
京子「違います。…まぁ、平気ってほどじゃないですけど」
姫子「ふむ…そいぎオススメの都市伝説が…」
京子「聞きませんよ」
姫子「昔昔、あるところに森妃姫子という女の子が」
京子「聞きませんってば!」
別にそういうの怖くもなんともないけど、率先して聞いて喜ぶタイプじゃないんだって!
そもそも俺は寺生まれでもなんでもないんだから、もし本物が出てきたらどうするんだよ!!
最近、世の中には神様って奴がいるのを知った俺にとって、お化けだの幽霊だのは結構、身近な恐怖なんですよ!!
京子「ほ、ほら、そんな無駄話せずに早く戻りましょう?」スタスタ
姫子「ふふ、須賀さんは存外、怖がりたいね」ケラケラ
京子「べ、別に怖がってなんてないですよ」
姫子「そういう事にしておいてあげる」クスッ
京子「むぅ…なんだか凄い引っかかりますけど…」
姫子「……やっぱりさっきの話聞きたか?」
京子「そ、それは遠慮します」
姫子「ふふ…じゃあ…代わりに…」
姫子「…須賀さん、今日は本当にありがとう」
京子「…え?」
姫子「…私がお礼言うのがそぎゃんに意外と?」
京子「まぁ、正直なところを言えば」
姫子「酷かねー…須賀さんは私の事なんだと思っとるたい」
京子「少なくとも最初の頃よりはずっと愉快な性格をしてる人だと思ってますよ」
あんまりにも愉快すぎて鶴田さんだけじゃなくて俺の対応にも遠慮がなくなってきてるからな。
最初の方は俺なりに色々と気を遣ってたけど、今はそんな気持ちがあんまりない。
勿論、咲相手のように本当に無遠慮って訳でもないが、俺の中で春や初美さんの同類としてインプットされ始めているくらいだし。
こう仲良くはなれているんだけれど、当初考えてたものとは大分違うというかなんというか。
姫子「…ばってん、そんな愉快な性格をしとる私はさっきとっても楽しかったばい」
姫子「麻雀するのが楽しいなんて…こんな気持ち…本当に久しぶり」
姫子「そいけん、須賀さんには本当に感謝しとるけん」
姫子「誘ってくれて…本当にありがとう」
京子「…お礼を言うのはこちらの方ですよ」
京子「今日だけで私、鶴田さんには沢山助けられましたから」
京子「麻雀の事だってそうですし、わっきゅんの事だってそうです」
姫子「…まぁ、若干、お節介感も自分の中で否めんかったりするばってん…」
京子「私はとても有り難かったですよ。少なくとも鶴田さんが言ってくれなかったら私はずっとウジウジしてたでしょうし」
京子「それにそうやって踏み込んできてくれるって事は私の事を少なからず大事だとそう思ってくれ始めているって事なんでしょう?」
姫子「…うん」
京子「その優しさが私にはとても嬉しくて…そして素晴らしいものだと思います」
京子「少なくとも昨日会ったばかりの相手をそうまで思える人と言うのは少ないでしょう」
本当にどうでも良いような相手であれば、あんな風に踏み込んでは来ないだろう。
人を諭すと言うのはとても大変でエネルギーのいる事なんだから。
出会ったばかりでまだ距離感も測りづらい相手ともなれば、なあなあで済ませておくのが一番、楽だ。
俺自身、そうやって数ヶ月間、永水の皆となあなあの関係であり続けたのだから尚の事そう思う。
京子「そんな風に鶴田さんに思われているだけで私はとても光栄です」ニコ
姫子「…ぅ」カァ
京子「…あれ?どうしました?」クスッ
京子「もしかして素直に褒められるのに慣れていないんですか?」
姫子「ち、違うたい。す、須賀さんがあんまりにも恥ずかしか事言うから…」メソラシ
京子「ふふ…私、今、初めて鶴田さんの事、可愛いと思ったかもしれません」
姫子「うぐ…不覚…」
京子「別に良いじゃないですか。女の子なんですから可愛いと言われても」
京子「それに一応、私、褒めているつもりなんですよ?」
姫子「こ、こがんタイミングで可愛かとか言われても素直に喜べんたい」
姫子「…何より後輩に可愛いって言われるとむず痒か」
京子「でも、身長は私の方が高いですし」
姫子「須賀さんが高過ぎたい…!」
京子「あら酷い。結構、身長の事気にしてるんですよ?」
姫子「自分から言い出しといて気にしてるとか信じられる訳なか」ムー
京子「ふふ。まぁ、鶴田さんの事を褒めているのは本当の事ですよ」
京子「さっきの鶴田さんが素晴らしい人って言ったのも決して冗談や嘘ではありませんから」
京子「まぁ、普段も今みたいにしおらしくなってくれれば尚の事、素晴らしく思えるんですけど」
姫子「全力でお断りするたい」
京子「それは残念」
まぁ、ここで鶴田さんがおしとやかになってくれるって俺も本気で思ってる訳じゃない。
そもそも少しずつ春や初美さんと同じカテゴリーに入りつつある彼女がそんな風になっても気味が悪いと言うか。
実際、目の前にするときっと収まりが悪いようにしか思えないだろうなぁ。
姫子「そんな風にしおらしい私ば見られるのはこの世でただ一人だけたい」
京子「ふふ、その人が羨ましいですね」
姫子「…まぁ、最近はお互い忙しくて中々、会えん」
京子「…寂しいんですか?」
姫子「正直なところを言えば…そんな気持ちがなかとは言い切れん」
姫子「ばってん…そいに救われている部分もあるたい」
京子「え?」
姫子「今の私を部長がみたらきっと幻滅するかろーし…」
京子「鶴田さん…」
その言葉に含まれている自嘲の響きは思っていたよりも遥かに大きいものだった。
さっきまでの明るさがまるで空元気のように思えるその重さは、彼女がその人をそれだけ大事に思っているからなのだろう。
鶴田さんは本来の自分を少しずつ露わにしてくれているだけで、まだ彼女の中の問題は何一つとして解決してはいない。
改めてそれを感じさせる言葉に俺の唇は……勝手に動いてしまっていた。
京子「…どんな方なんですか?」
姫子「え?」
京子「聞かせてください。私、鶴田さんの事、知りたいんです」
姫子「…もしかして私、口説かれてると?」
京子「んー…ないとは言い切れませんね」
姫子「私、そぎゃん尻軽な女じゃなかよ?」
京子「えぇ。知ってます。知ってる上で…鶴田さんの事が知りたいんです」
京子「私、もっともっと鶴田さんと仲良くなりたいですから」
姫子「…ふふ」
京子「え?」
姫子「須賀さんがエルダー候補って奴に選ばれた理由がちょっと分かったばい」
姫子「なるほど…こうやって他の女の子誑かして来たと?」
京子「ち、違います。誑かしてなんていませんよ」
京子「そもそも私達同性同士じゃないですか」
姫子「ばってん、女子校にはそういう趣味の人も多かって聞くし…」
京子「そういうガチな人は極一部だけですよ」
姫子「え…?」
京子「…なんですかその顔は」
…そう言えばさっき鶴田さん部長って言ってたよな。
新道寺は永水と同じく女子校だから、普通にそのまま考えれば部長って…。
い、いや、よそう。俺の勝手な予想で皆を混乱させたくはない。
京子「と、とにかく良ければ馴れ初め話とか聞きたいかなって」
姫子「んー…ちょっと長くなるけど、大丈夫と?」
京子「構いませんよ。まだここから合宿場まで少しありますから」
姫子「そいぎ話すばってん…私が部長と会ったのは中学の事たい」
姫子「その時まで私は麻雀に興味なかったばってん、ある日、友達に麻雀部に誘われて」
姫子「一回だけって約束でついていった先で…部長…えっと哩先輩にボッコボコにされたばい」
京子「ぼ、ボコボコにされたんですか?」
姫子「ん。相手は初心者だったのにホント酷かよ」
姫子「…ばってん、そん時の私はがばいドキドキしてた」
京子「…え?」
姫子「あ、今回はそういう意味じゃなかよ」
…今回は、なのか。
いや、もう鶴田さんがそういう人なのは大体分かってるから突っ込まないけどさ!!
姫子「思えば一目惚れに近いものがあったんかもしれんね」
姫子「強しゅーして、格好良しゅーして、綺麗で、立派で…打ってるだけでも引き込まれるような人だったばい」
姫子「私は哩先輩みたくなりたくて、気づいたらまったく知らなかった麻雀部への入部届ば書いとった」クスッ
姫子「それから私はずっとそん人ば追いかけてきた」
姫子「新入生の実力図るのに殆ど手を抜かないくらい厳しか人だし、辛かって思った事は何度もあるたい」
姫子「ばってん、少しずつ認めてもらえて…褒めて貰えるようになって…笑ってもらえるようになって」
姫子「気づいたらぞっこんになっとった」
何処か自嘲気味な言葉とは裏腹に、とても嬉しそうな鶴田さんの笑み。
見ているこちらもついつい笑顔になってしまいそうなそれは彼女がその人 ―― いや、白水哩さんに未だ心奪われている事を俺に教えた。
まぁ、聞いている限り相手は同性だという問題があるのだけれど…。
でも、何処か自慢気に笑う彼女にとってそれは問題でもなんでもなく、寧ろ、誇らしいものなのだろう。
京子「ふふ、そんなに好きな人がいるなんて羨ましいですね」
姫子「須賀さんの方はそういう相手おらんと?」
京子「…そうですね」
京子「いた…と言う方が正確でしょうか」
姫子「…ごめん」
京子「いえ、謝られるような事じゃないですよ」
京子「未だに吹っ切れていない私が悪いんですから」
姫子「そぎゃん好きだったと?」
京子「さぁ…どうでしょうね」
京子「好きだと自覚したのは別れる間際になっての事ですし」
京子「結局、告白も出来ないまま別れてしまいましたから」
姫子「…その子とはもう連絡つかんと?」
京子「いえ、メールのやりとりはしていますよ」
京子「ただ、もう告白なんて出来るような状態ではなくなってしまったので」
これが俺の戸籍が残っており、須賀京太郎として俺が生きていく余地があれば話は別だっただろう。
だが、書類上ではもう須賀京太郎は存在せず、須賀京子がいるだけ。
そんな状態で咲の奴に告白なんて出来るはずがない。
ましてや…咲だって普段から女装をしてる奴を恋人になんてしたくないだろう。
姫子「須賀さん…」
京子「ふふ、だからどうにも思いを断ち切る事が出来なくて」
京子「情けない…本当に情けない限りです」
姫子「…そぎゃん事なか」
姫子「だって、そいは須賀さんがどれだけその人の事ば好きだって事たい」
姫子「誰かば好きになった事のある人なら情けなかなんて言えるはずなかよ」
姫子「そいに…情けなかのは私の方たい」
京子「…え?」
姫子「大好きな人が後ば託してくれた場所…私は全然、護れとらん」
姫子「そいどころか…今の私はお荷物になっとるばい」
京子「そんな事ありませんよ。鶴田さんは今でも十分強いじゃないですか」
京子「さっきだって私達の中で1位になっていましたし…」
姫子「…ばってん、小蒔ちゃんは全然、本気じゃなかったと」
京子「それは…」
鶴田さんはひとつ勘違いをしている。
あの場で小蒔さんは間違いなく本気だったんだ。
勿論、遊びとして幾らか気も緩んでいただろうが、彼女は手加減するような子じゃない。
何時だって真剣で全力でぶつかっていく女の子なんだから。
京子「(…ただ、その全力よりもさらに上があるってだけなんだ)」
神様と言うオカルトの塊を降ろす小蒔さんの『全力以上』。
俺がその状態になった小蒔さんを映像や記録でしか知らない。
だけど、それでも彼女が当時無名だった永水女子を一躍シード校にまで押し上げるほど凄い雀士である事が伝わってくるんだ。
俺よりもずっと前から麻雀に慣れ親しみ、実力だって全国でも指折りと言っても良い鶴田さんがそれを理解していないはずがない。
姫子「勿論、侮辱されたと思っとる訳やなか」
姫子「遊びは遊びとしてとても楽しか時間だったと」
姫子「…ばってん、永水女子の神代小蒔はあんなもんやなか」
姫子「もし、あれがお互いにチームば背負った団体戦なら…1位になってたのはきっと小蒔ちゃんばい」
姫子「去年ならまだ良い勝負も出来てたかもしれん」
姫子「ばってん…今年の私じゃ小蒔ちゃんには勝てんばい」
京子「…それは去年よりも弱くなっているからですか?」
姫子「…うん」
そう言って頷く鶴田さんの表情は弱々しいものだった。
白水選手の事を語っていた時とは打って変わった暗い表情。
やはり彼女の心に影を落としているのは自身が弱くなったという認識なのだろう。
ならば、その認識を変える事が出来れば、鶴田さんの気持ちも晴れるはず。
だが、その理由にまで踏み込む事を許してもらえない俺にはそれを変える方法は思いつかなかった。
姫子「…ごめん。変な話ばして」
京子「いえ、構いませんよ」
京子「寧ろ、私の方こそ何かを言ってあげられなくてごめんなさい…」
姫子「気にしないで。元々、愚痴みたいなもんやけん」
京子「でも…」
姫子「良かけん。…それより今度は須賀さんの話聞かせて欲しか」
京子「私の話…ですか?」
姫子「そう。何も仲良くしたいと思っとるのは須賀さんだけやなかよ?」
姫子「私だっておんなじ気持ちたい」クスッ
そう微かに笑う鶴田さんの顔には強がりの色が混じっていた。
さっきあんなにも弱々しい顔を見せていた彼女がそう簡単に吹っ切れる訳がない。
本当はそんな彼女に何か言いたいけれど…まだ俺は詳しい事情も知らないままだ。
悔しいと言うか、少しもの寂しい気もするが…ここは鶴田さんの話に乗るのが一番だろう。
京子「…その割にはまだ名前呼びを許してもらえていないんですけど」
姫子「そう簡単に名前呼びを許すほど軽い女やなか」
京子「小蒔ちゃん達には許してるじゃないですか…」
姫子「だって、小蒔ちゃんや春さんは可愛か子やし」
京子「まぁ、確かに二人とも可愛いですけど…」
姫子「ふふ、須賀さんはどっちかって言うとキレイ系やけんね」
京子「正直なところ、それも結構、違和感があるんですけど」
姫子「そいなん?」
京子「えぇ。綺麗なんて言われた事滅多にないですから」
姫子「ばってん、須賀さんは身長高いし、女の子にモテモテで綺麗って言われとるんじゃなか?」
京子「いえ、全然、そんな事ないですよ。生まれてこの方そういうのとは無縁の人生ですし」
姫子「そぎゃん事言いながら、ホントはラブレターとか貰とーと?」
京子「それもありませんね…」
男時代はどっちかって言うと、悪友とかそういうポジションにある事が多かったからなぁ。
好きになった女の子に告白しても「須賀君はお友達にしか見れない」ってお断りされ続けた訳で。
ハンドボールやってた時だって、周りはモテてたのに、俺の近くには咲しかいなかった。
やべ。なんかそれを思い出すと涙が出そうに…。
チクショウ…俺がポンコツ幼馴染の世話に四苦八苦してる最中にどんどん彼女作っていきやがって…!
姫子「勿体無か。私が須賀さんの後輩なら絶対、放っとかんのに」
京子「ふふ、浮気はダメですよ、浮気は」
姫子「あくまでもIFの話やけん、浮気には入らんたい」
姫子「そいに部長と私はそういうんじゃなかよ」
京子「…そうなんですか?」
姫子「ん。私と哩先輩はもっと深い部分で繋がってとるけん」
姫子「親友よりも恋人よりも家族よりも…もっともっと親密で深い関係たい」
京子「…凄い自信ですね。少し羨ましいです」
姫子「そいだけのもんが私と哩先輩の間にはあったけん」
姫子「お互いに想い合って切磋琢磨して…積み重ねてきたが故の絆が」
姫子「だから、恋人同士がやるようなそういう事ばせんでも満足出来とったよ」
姫子「まぁ、私は哩先輩とそういう関係になってもバッチコイだったばってん、哩先輩がそういうの苦手な人で…」
姫子「実は今までに何度か迫っとるけん、中々、上手い事いかなくて…」
京子「折角、良い話だったのに最後で台無しになりましたね」
姫子「何か良い案あるたい?」
京子「私に聞かれても困ります」
姫子「須賀さんは後輩ばバッタバッタ堕として言ってエルダー候補とやらになったやり手だったんじゃ」
京子「人聞きの悪い事言わないでください」
俺は後輩を堕としたつもりなんてない。
何故か噂に尾ひれがついていって俺が凄い奴って言う認識が広がっていっただけだ。
そもそも転校してきて一ヶ月の間に人となりが完全に伝わる訳がないのだから。
ただでさえ秘密を多く抱えている身の上なだけに俺の事を完全に理解している子なんてお屋敷の皆くらいなもんだろう。
京子「…まぁ、事情が事情ですし、ゆっくりやっていくしかないんじゃないでしょうか」
姫子「やっぱりそいなんかなぁ…」
京子「そういう相手に強く迫ろうとすると逆効果になりますよ」
姫子「ばってん、お酒飲んで酔っ払ったところを介抱するフリをして…」
京子「それ終わった後に絶対嫌われますよ」
姫子「むむむ」
京子「何がむむむですか…」
と言うか何が悲しくて俺は華の女子高生から同性とイチャイチャ(性的な意味で)する算段を相談されているんだろう。
そもそも俺にはそういう経験がまったくないし、ろくにアドバイスなんて出来ないんだけどなぁ。
寧ろ、俺の方がアドバイスして欲しいくらいです。
京子「それでも何かアクションを起こしたいって言うんだったらまずは白水選手に相談してみてはどうですか?」
姫子「ばってん、そいで幻滅されたら恥ずかしいし…」
京子「さっき酔わせて襲うとか言ってた人のセリフとは思えないんですが」
姫子「お、襲うなんて言うとらんたい!」カァ
姫子「た、ただ、ちょっと哩先輩の唇が欲しいかなって…」モジモジ
姫子「それで、哩先輩が嫌がらなかったらそのままお互いに服ば脱いでしっぽりぬふふといきたいとか思っとるだけで!」カッ
京子「それはだけとは言わないと思いますよ?」
京子「それに酒に酔ってる間に襲われるのと話し合うのとでは後者の方がどう見てもマシですよ」
京子「幻滅されるのが怖いなら黙っておくか、話し合うのが一番だと思います」
姫子「むぅ」
京子「…世の中には話し合う事も出来ないまま別れた人達もいるんですから」
京子「そうやってお互いの気持ちを伝えられる時に伝えておいた方が良いですよ」
姫子「…ん」
まぁ、鶴田さんだって本気で白水選手を襲おうとしてる訳じゃないんだろう。
今のやりとりにはどちらかと言えば戯けた印象の方が強いものだし、さっきみたいに本気で落ち込んでいる訳じゃない。
ただ、そういった繋がりが欲しくなるくらいには寂しく思ってるんだろうなぁ。
さっきちらっと漏らしていたように白水選手はもう新道寺にはいなくて、中々会えない訳だし。
俺が彼女と同じ立場なら、どれだけ深く繋がっている自覚があったとしてもやっぱり不安に思うはずだ。
姫子「…好きってのも難儀なもんたいね」
京子「えぇ。それには同意しますよ」クスッ
京子「どれだけ好きでも中々、応えてくれない場合も多いですしね」
姫子「須賀さんもそうだったと?」
京子「えぇ。と言っても、私の場合は麻雀ですが」
姫子「あー…」
京子「でも、後悔している訳じゃないんですよ?」
京子「麻雀に出会えたお陰で私はかけがえのないものを沢山手に入れる事が出来ました」
京子「仲間、友人、思い出…」
京子「勿論、良いものばかりじゃないでけれど…」
京子「でも、私は麻雀に出会えてよかった…とそう思います」
麻雀と出会わなかったら、俺はきっと今、ここにはいないだろう。
いや、いたとしてもそれは今の俺とはかけ離れた【須賀京太郎】であったはずだ。
そう思うくらい麻雀と言うものは俺に強い影響を与えている。
そんなものをそう簡単に嫌える訳がないだろう。
姫子「…須賀さんは強かね」
京子「いいえ。全然、強くなんかありませんよ」
京子「正直なところ、負け続けの私だって負ける度に悔しく思っているんですよ」
京子「せめてもう少しツモ運が良ければ勝てたのに…と思ったことは一度や二度じゃありません」
京子「さっきだって…出来れば棚ぼたじゃなくて実力で2位になりたかったです」
京子「いえ…もっと言えば…鶴田さんをまくって1位になりたいってそう思っていましたから」
京子「それが叶わなくて悔しかったですよ」
京子「でも…私はそれ以上に麻雀が楽しいんです」
姫子「…麻雀が楽しい?」
京子「はい。負けっぱなしでも、総合成績最下位でも、ツモ運がどれだけ悪くても」
京子「私にとっての麻雀はとても楽しい遊びです」
京子「最悪と言っても良いツモ運でも少しずつ和了へ近づいて」
京子「出来るだけ卓上をコントロールしようとして、相手の手を読もうとして」
京子「それが実になる事の方が少ないですけど…でも」
京子「それだけでも私にとっては十分、面白いものなんです」
京子「ですから、楽しい事を楽しいようにやっている私が強い…なんて事はありませんよ」
京子「寧ろ、そういう意味ではきっと鶴田さん達の方が遥かに強いんだと思います」
姫子「え?」
京子「だって、私がそう言えるのはきっと…勝つ楽しさというものを知らないからです」
俺が麻雀を初めて一年が経つが俺が1位になれた事は今まで一度もなかった。
さっきみたいに他の誰かが転落して2位になるのが精一杯で1位なんて夢のまた夢だったのだから。
俺がこうやって負けても楽しいと言えるのは負けるのが当然の環境で育ち、麻雀で勝つ楽しさ、なんて味わった事もないからだろう。
京子「でも、鶴田さんは違います」
京子「エースとして、名門チームを背負わなければいけません」
京子「エースとして勝たなければいけません」
京子「少なくとも…チームの人達にはそれを期待されているでしょう」
姫子「……」
京子「その期待がどれだけ重いかは私も少しは分かるつもりですよ」
チームからエースに寄せられる期待と信頼って言うのは言葉で表すよりも遥かに重く、そして大きなものだ。
勝っている時は…その期待に応えられていると自分で思っている内はその期待と信頼は自身の力になってくれる。
だが、一旦、調子が崩れ始めると、その重さはそのまま選手を押しつぶそうと襲い掛かってくるのだ。
不利になればなるほどチームメイトの視線が気になり、打開できない状況に焦りだけが募っていき…思い通りに身体が動かなくなる。
中学最後の年、県予選決勝でそれを味わった俺には、彼女が今、背負っているものの大きさを察する事が出来た。
京子「勝たなければいけない麻雀と負けるのが当然の麻雀」
京子「どちらが楽かと言えば間違いなく後者でしょう」
京子「そして私は後者の麻雀しかしてきませんでした」
京子「…だからこそ、悔しいと言いながらも楽しいと思えるんです」
京子「そんな私からすれば、勝たなければいけない麻雀をずっと続けている鶴田さんが凄いと思います」
鶴田「そぎゃん事なか。そぎゃん環境でも続けられてる須賀さんだって十分メンタル強かよ」
京子「ふふ、ありがとうございます」
京子「…でも…正直なところ、私は怖いんです」
姫子「…怖かと?」
京子「…えぇ。もし、今のまま、皆の足を引っ張って…地区予選で負けてしまった時…」
京子「私は変わらず麻雀の事が好きだって…楽しいってそう言えるのか…分かりません」
俺がそうやって麻雀を楽しんでこれたのはその背に何も背負って来なかったからだ。
…だが、地区大会からは違う。
俺の一打には俺だけではなく、永水女子皆の期待と点棒が乗っかっている。
でも、今の俺にはその期待と点棒を支えられるだけ力なんてない。
きっと俺は多くを取り落としてしまうだろう。
その時、俺は以前と変わらず麻雀の事を好きだと…そう言えるだろうか。
ハンドボールの時と同じく逃げてしまうんじゃないかと…そんな不安が俺の胸の中にはあった。
京子「こんな事、永水女子の皆には絶対言えませんけどね」
京子「弱音と言うにはあんまりにも情けなさすぎますから」
姫子「……ばってん、それくらい誰にでもあるばい」
京子「…そうでしょうか?」
姫子「少なくとも、負けても楽しい、なんて心から言える人よりかは共感出来るたい」
姫子「私はさっきより須賀さんの事好きになっとーよ」
京子「…ありがとうございます」
霞さんはおろか春の前でも決して言えなかった自分の中の弱音。
それを鶴田さんに受け入れてもらえた所為かな。
少しだけ胸の内が軽くなったように感じる。
まぁ、幾ら胸の内がマシになったところで俺が弱いという問題は何一つとして解決していない訳だけれども。
京子「そんな弱音を吐く前に少しでも強くなれという話ですね」
姫子「私で良ければ何時でも聞くたい」
姫子「そいに特訓したいって言うなら付き合うと」
京子「ありがとうございます。それじゃあ…」
姫子「まずは滝から流れてくる丸太を割る事から始めんとね!」
京子「殺す気ですか」
姫子「え?特訓といったらまず滝じゃなか?」
姫子「あるいは採掘所で大岩を受け止めるとか…」
京子「とりあえず鶴田さんの知識が偏っている事は分かりました」
京子「と言うかバトル漫画じゃないんですから、そんな事で強くなれる訳ないでしょうに」
京子「私が強くなりたいのは麻雀ですよ?」
姫子「分からんたい。もしかしたら山を登ってたり死にかけるだけで麻雀が強くなるかも…」
京子「そんなオカルトあり得ません」
と言うかそれで強くなれるのなら、俺達が今までやってる練習って果たしてなんだろうかって話になるんだが。
いや、巫女さんが神様降ろして麻雀やってたり、俺が勝つ為に精神修行やってたりしてる時点で今更かもしれないけどさ!!
でも、流石にバトル漫画じゃないんだから、そんな事で強くなったりはしないだろう。
京子「まぁ、鶴田さんから付き合ってもらえるって言う言質はとれたのでのんびりやって行こうと思います」
姫子「うわ…酷か人。同情さそって言質引き出すとか…」
京子「ふふ、女の子は何時迄も純真なままではいられないんですよ」
京子「それにちょっぴり卑怯なくらいじゃなきゃ恋には勝てませんし」
姫子「そいも須賀さんの持論たい?」
京子「いえ、どちらかと言うとこれは経験則です」
ただ優しいだけの奴なんて、どれだけ頑張っても良いお友達レベルでしかないってのはこれまでで良く分かっているからなぁ。
色恋沙汰なんて多少、卑怯なくらいじゃなきゃ女の子には振り向いてもらえない。
流石に少女漫画に出てくるような悪役レベルはちょっとどうかと思うけどさ。
女の子にドキドキして貰えなきゃ、そういう対象にはなれない以上、多少卑怯な方が丁度良いのだ。
姫子「え?」
京子「いえ、なんでもないですよ。それより鶴田さんに一つお願いがあるんですけど…」
姫子「い、言っとくけどエッチなのはダメたい」
姫子「私の操は哩部長に捧げとるけんね!」
京子「要りません」
姫子「…そぎゃん断言されると流石に傷つくたい」
京子「…わぁ、鶴田さんの操を貰えないなんて残念だなー」ボウヨミ
姫子「須賀さんがそういう人だなんて思わんかったばい」
姫子「これはやっぱり距離を取らんと…」
京子「どうしろって言うんですか」
姫子「どうしたって須賀さんをからかうだけやけん、問題なか」
京子「こっちは問題大アリなんですけどね…」
ホント、この人はちょっと元気になると人を弄ぶんだから。
…まぁ、下手に落ち込まれるよりも今の鶴田さんの方が遥かに良いけどさ。
俺の中で愉快な性格をしてる人って認識が固まりつつあるだけに落ち込まれると本当に胸が痛い。
それを俺がどうにか出来る立場にいないのだから尚更だ。
京子「私からのお願いは一つですよ」
京子「明日もまたこうやって私達と打ってくれますか?」
姫子「明日も?」
京子「はい。なにせ、私は全然、鶴田さんにリベンジ出来ていませんし」
京子「明後日の昼には新道寺の皆さんは次の合宿先にいきます」
京子「でも、その前に一回くらい勝っておきたいですから…都合が良ければ明日もどうですか?」
姫子「…言っとくけど、そう簡単に負けんよ?」
京子「えぇ。それくらいじゃないとこっちとしても挑む甲斐がありません」
とは言え、俺自身、鶴田さんに勝てるとは思っていない。
スランプ気味とは言え、彼女は名門でNo1と呼ばれるに足る実力があるのだから。
さっきも殆ど鶴田さんには太刀打ち出来なかった訳だし、俺ではまだまだ彼女に勝つ事は出来ない。
ただでさえ運の要素が強い麻雀でさらに流し満貫を狙っていくという縛りをやっているのだから尚更だ。
姫子「ふふ、そいぎ明日も返り討ちにしてあげるけん」
京子「良いんですか?」
姫子「ん。と言うか…行き場所がなかったけん、そうやって誘ってもらえたのが本当は嬉しか」
京子「鶴田さん……もしかしてぼっちって奴なんですか?」
姫子「ち、違うたい!と、友達はちゃんとおるもん!!」
京子「…本当ですか?実はいじめられたりとか…」
姫子「寧ろ、今、現在は須賀さんにいじめられてる気分たい」
京子「あら、奇遇ですね」
京子「私もついさっき同じ気持ちでしたよ」ニコッ
…と、まぁ、冗談はさておき。
行き場所がないって事はやっぱり部活の皆と一緒にいるのが気まずいんだろう。
自分が弱くなってるって事実がそこまで鶴田さんを追い込んでいるんだな…。
京子「でも、行き場所がないなんて事はないですよ」
京子「皆、鶴田さんの事を心配してます」
姫子「…分かっとる」
姫子「…ばってん、分かっとるから私は…」グッ
京子「…鶴田さん…」
姫子「…変な事言ってごめん」
京子「いえ、謝らないでください。お互い様な訳ですし」
ここで俺が何を言っても鶴田さんには届かないだろう。
俺はまだまだ本当の意味で彼女に心を許してもらえている訳じゃないんだ。
まだ鶴田さんの不調の理由を彼女自身の口から聞いていない俺の言葉にはなんの重みもない。
…でも、それは今の俺が鶴田さんに対して何も出来ないと言う事に繋がったりはしないのだ。
京子「…それよりほら、そろそろ合宿場に着きますよ」
姫子「あ…本当たい」
京子「思ったよりもすぐについてしまいましたね」
姫子「ホントたい。まぁ、そいだけ楽しかったって事やけん、一概に悪かとは言えんばってん」
京子「えぇ。私もとても楽しかったですよ」
京子「普段は言えない事も聞いてもらえましたし…愚痴吐いたりしちゃいましたけど」
姫子「そいはこっちも同じたい」
姫子「…ありがとう、須賀さん。少し楽になったと」
京子「あら、思ったより素直ですね」
姫子「私は基本、素直よ?」クスッ
京子「そうですね。素直過ぎてたまにこっちがタジタジになってしまいますし」
姫子「そん分、そっちだって仕返ししとるけんね」
京子「そりゃからかわれっぱなしなんて趣味じゃないですし、反撃の一つや二つくらいしますよ」
姫子「ふふ、そいぎ、明日までにまた須賀さんをからかうネタ考えとかんとね」
京子「一応、今は麻雀の合宿中なんですけど…」
姫子「ばってん、朝から晩までずっと麻雀漬けなんて集中力が持たんと」
姫子「やっぱり息抜きになるような事ばせんと最後まで合宿なんてやりきれんたい」
京子「…で、なんで息抜きが私をからかう事なんですか」
姫子「須賀さんの反応可愛かのが悪かばい」
京子「横暴も良いところだと思うんです」
まぁ、今の俺に出来る事と言えばそれくらいと言っても良いくらいだしな。
それにからかうと言っても別に不快と言う訳じゃなく、じゃれあいの範疇に収まっている。
普段、春や初美さんにからかわれている俺にとっては別に気にするほどのもんじゃない。
姫子「……」
京子「…鶴田さん」
姫子「ん…分かっとるたい」
それよりも俺が気になるのは合宿場の扉の目の前で鶴田さんが立ち止まった事だ。
手を伸ばせば届きそうな扉からは既にエントランスに集まっている新道寺の人たちの声が聴こえる。
楽しそうなその声は、しかし、鶴田さんにとっては心惹かれるものではないのだろう。
寧ろ、微かに強張ったその顔から彼女が扉を開く事を嫌がっている事が伝わってきた。
京子「…いっその事」
姫子「え?」
京子「二人で逃避行でもしますか?」
姫子「ふふ…そいも良かかもしれんね」
京子「じゃあ…」
姫子「…ばってん、私は大丈夫たい」
姫子「ちゃんと…新道寺の鶴田姫子に戻れるけん」
京子「…そうですか」
京子「差し出がましい事を言ってしまいましたね、申し訳ありません」
姫子「ううん。そぎゃん風に言ってくれるだけでも私は嬉しいたい」
姫子「そいに須賀さんとの愛の逃避行に惹かれん訳でもなかったし」
姫子「ただ…どれだけ楽しくても私は必ず新道寺の鶴田姫子に戻らなきゃいけん」
姫子「皆の為にも…哩先輩の為にも…自分の為にも」
京子「……」
その言葉はまるで自分に言い聞かせるようなものだった。
彼女自身、心の底からそう思えている訳じゃないのだろう。
周囲から寄せられるものの重さに逃げ出したいとそう思っている鶴田さんは確かにいる。
だからこそ、彼女は今も取っ手に手を延ばす事なく、扉の前で立ち尽くしているんだ。
―― …そんな彼女の姿を見て、俺はひとつ…彼女にしてあげられる事を思いついた。
京子「…良ければ私が開けましょうか?」
姫子「もう…流石にそれは過保護過ぎやなか?」
京子「それだけ今の鶴田さんが落ち込んでいるように見えて、庇護欲を擽るんですよ」
姫子「…そいは須賀さんの勘違いばい」
姫子「さっきも言った通り、私は大丈夫だけん、心配しすぎって奴たい」
京子「…本当ですか?」
姫子「本当たい。こんな事で嘘なんかつかんと」
京子「それなら…私の事、安心させてくれますか?」
姫子「安心?」
京子「はい。明日、春ちゃんや小蒔ちゃんを含めた麻雀で一度でも私がトップに立つ事が出来たら…」
京子「鶴田さんの悩みを…全て私に教えてくれませんか?」
姫子「…そいがどうして須賀さんの安心に繋がると?」
京子「お互い本気でやって一度も私が上回る事が出来なかったら、鶴田さんの言う通り私の心配しすぎと言う事なのでしょう」
京子「或いはスランプの状態でさえ一勝も出来ない私には鶴田さんを心配する資格はない…と言い換えても良いかもしれませんね」
京子「…ですが、もし…鶴田さんが私に1位を奪われるような事があれば…それこそ鶴田さんの悩みが深刻である証左でしょう」
京子「本来の私の実力ではどう逆立ちしても鶴田さんには及ばない訳ですから」
京子「ならば、私に嘘を吐いた罰として洗いざらい全部、話していただきます」ニコッ
姫子「む…」
俺の言っている事は詭弁も良いところだが、さりとて、こうまで言われては鶴田さんも話にのらざるを得ないだろう。
そもそも事の発端は彼女が頑なに大丈夫だとそう繰り返していた事なのだから。
勿論、彼女は俺に対して安心させる義務も義理もないが、『嘘じゃない』とまで言った前言を撤回するような真似は中々、出来ない。
姫子「…意外とえげつない話の持っていき方するたいね…」
京子「言ったでしょう?女の子は何時迄も純真なままではいられないんです」
京子「それに決して鶴田さんに損ばかりというお話ではありませんよ」
京子「鶴田さんが勝った場合は…そうですね…お好きなハーゲンダッツをプレゼント…なんてどうでしょう?」
姫子「…一個だけ?」
京子「う…それじゃあ二個でどうでしょう?」
姫子「二個じゃあちょっと足りんたい」
京子「それじゃ三個…」
姫子「四個」
京子「……分かりました。賞品はハーゲンダッツ四個にしましょう」
姫子「ふふ、言ってみるもんたい」
京子「うぅ…私のお小遣いが…」
流石にダッツ四個となると野口さんが良い笑顔で飛んでいくからなぁ。
出来れば三個で抑えたかったが…まぁ、仕方ないか。
それよりも鶴田さんがこの場で頷いてくれた事の方が大きい。
姫子「でも、須賀さんも酔狂な人たいね」
姫子「そぎゃん賭けまでして須賀さんに何かメリットでもあると?」
京子「ん…正直なところありませんね」
姫子「そいぎ、どうして?」
京子「私だけ名前呼びが許されてないのが凄い悔しいので恩を売っておこうと」
姫子「今、意地でも呼ばせんようにしようって心に決めたばい」
京子「酷い!?」
まぁ、本当のところはそこまで名前呼びに拘ってる訳じゃない。
同卓した中で一人だけ上の名前で呼んでいるのは寂しいが、それでも凹むってほどじゃないんだから。
こうやって口にするのも本当の理由を隠す為。
…流石に好きになった女の子に落ち込み方が似てるから気になってます、なんて恥ずかしくて言えねぇって。
姫子「…そいけん、余計に明日は負けられんたい」
京子「私も財布の中にいる野口さんを守る為に本気でいきます…!」
姫子「…須賀さんって仮にもお嬢様校に通ってるお嬢様やなか?」
京子「色々と事情がありまして…懐事情は常に厳しいんです…」
京子「そもそも私の場合、月額支給制じゃなくて必要になったら必要になった分だけ渡すって感じですし…」
姫子「そいだったと…」
京子「あ、だからと言って、賞品をなくしてくれ、なんて言いませんよ」
京子「鶴田さんがその条件で乗ってくれた以上、その辺りは誤魔化しません」
京子「あ、でも、可哀想だと思うなら手を抜いてくれても良いんですが…」チラッ
姫子「ふふ、そぎゃん事すると思う?」ニコッ
京子「ですよね…」
期待してた訳じゃなかったが、まさか良い笑顔で返されるとは思ってなかった。
くそぅ…どうやら鶴田さんも明日は本気で来るんだろうな…。
ただでさえ少ない勝算がさらにもりっと減った感じだけど…明日は絶対に勝たないと。
俺が鶴田さんに何かをしてあげられるのなんて…明日が最後なんだから。
姫子「…ありがとう。…お陰で少しふんぎりがついたばい」スッ
京子「…鶴田さん」
そう言って扉に手を伸ばす彼女の顔はさっきよりも幾分、晴れやかなものになっていた。
どうやら俺の言葉は鶴田さんの背中を押す事が出来たらしい。
若干、情けない感じになってしまったが、賭けにも乗ってもらえたし、結果オーライだと思うようにしよう。
姫子「…こぎゃん事になったけど…改めて、明日、楽しみにしとるばい」
京子「えぇ。良い勝負をしましょうね」
姫子「うん。…そいぎ…」ガチャ
その言葉と同時に鶴田さんの手が扉を開いていく。
瞬間、扉の間から差し込む光の向こうから、エントランスに集まっていた新道寺の人達が現れた。
まだ牌譜検討会には十分な余裕があるのにも関わらず、こうして集合場所に集まっている事に意識の高さを感じる。
温泉だお嬢様校だとはしゃいでいる印象も強いが、こういうところを見るとやはり新道寺は名門校なのだ、と思う。
ただ… ――
京子「(…少しぎこちない…かな)」
鶴田さんが扉を開いた瞬間、一斉にこちらへと向けられた視線。
来訪者を確認しようとするそれらの目は鶴田さんが帰ってきたのを把握したはずだ。
だが、誰一人として鶴田さんに「おかえり」とは言わない。
寧ろ、すっと俺達から視線をそらし、すぐさま友人との歓談へ戻る。
だが、その様子が何処かぎこちなく思えるのは俺の気のせいではあるまい。
何人かの女の子はそうやって雑談しながらも、たまにこちらへと視線を送ってくるのだから。
それでも声を掛けないのは意図的に俺たちの事を意識すまいとしているからなのだろう。
姫子「…」
煌「姫子、おかえりなさい」
姫子「あ…えっと…ただいま」
そんな彼女たちの中から花田さんだけがこちらへと歩み寄ってくる。
二人分の牌譜を持ち、トテトテと歩くその姿は可愛らしい。
元々、小柄で顔立ちにも愛嬌がある所為か、或いはぎこちない空間の中で一人だけ自然に鶴田さんに近づいてきてくれる所為か。
どちらかは分からないが、彼女が微笑ましく思える事に違いはない。
ただ… ――
煌「これ、今日の分の牌譜。一応、全部持ってきたつもりですけど、念のため確認しておいてください」スッ
姫子「うん」
煌「…そして須賀さん、今日は姫子と遊んでくださって本当にありがとうございます」ペコッ
京子「いえいえ、こちらこそ鶴田さんにはお世話になりましたから」ペコリ
姫子「も、もう…!花田は私のお母さんと!?」カァ
煌「お母さん…それもすばらですね!」
姫子「いや、全然、すばらくなかよ!?」
京子「ふふ、でも、花田さんがお母さんだと甘やかせて貰えそうですね」
姫子「…そいでもなかよ?こん見えて結構、花田は厳しかところもあるたい」
姫子「この前だって私が宿題忘れた時にそいはもうクドクドと…」
煌「当然です。そうやって注意するのも姫子の事が大事な友人だからこそですよ」
煌「と言うか、そもそも姫子が宿題をちゃんとやってくれたらお説教なんてしません」
姫子「うぐ…」
京子「ふふ」
…なんだ。
花田さんは自分と一緒にいない方が鶴田さんにとって良い…みたいな事言っていたけれど、ちゃんと仲が良いじゃないか。
花田さんがこっちに来た時はちょっと心配したけれども、今のこの様子を見ると取り越し苦労って奴だったのだろう。
勿論、お互いに思うところがない訳じゃないだろうけど、俺が思っていたよりも深刻なものではなさそうだ。
煌「それで…姫子は須賀さんに迷惑掛けていませんでしたか?」
煌「姫子って仲良くなるとすぐ調子に乗る子ですから…」
京子「…あーそれは…」チラッ
姫子「…」シーノポーズ
京子「…えぇ。とても楽しい性格をされているって言う事は良く分かりました」
煌「…やっぱりそうなんですね」ジトー
姫子「す、須賀さん…裏切ったと…!?」
京子「貴女は良い友人でしたが、普段の行いがいけないのです」ニッコリ
姫子「弄られたから弄って…弄ったから弄られて…そいで本当に最後は平和になると!?」
京子「それは人をからかうのを止めてから言ってください」
煌「…それより姫子」ニコッ
姫子「う…」
煌「牌譜検討会まで少し時間があります。…お話しても良いですよね?」
姫子「え、えぇっと…」
煌「良 い で す よ ね ?」ゴゴ
姫子「す、須賀さん、これよろしく!」スッ
京子「え?」
姫子「…わ、私、ちょっと化粧直しに…」ササッ
煌「あっもう…」
そう言って鶴田さんはまるで子どものように逃げ出した。
そもそも鶴田さんと花田さんは同室なんだから、今逃げてもなんの意味もないんだけどなぁ。
牌譜検討会が終わった後にでも捕まってしまうのは目に見えてると思うんだが…やっぱりそれだけ花田さんの事が怖いのか。
実際、さっき凄んでいた時の迫力はかなりのもんだったし…やっぱり鶴田さんが言う通り、優しいだけのお母さんじゃないって事なんだろう。
煌「……須賀さん、ありがとうございます」
京子「え?」
煌「あんな姫子、私、久しぶりに見ました」
煌「きっと須賀さんがすばらな事をしてくれたお陰だと思います」
京子「そんな…私なんて何も出来ていませんよ」
煌「…でも、ここ最近の姫子なら、きっとこちらが聞くまで何も言わなかったでしょう」
煌「少なくとも自分から話題に入り込もうとはしなかったはずです」
煌「…ですが、さっきの姫子は私が会った頃のように明るくて楽しくて…すばらな鶴田姫子に戻っていました」
煌「それは私には出来なかった事」
煌「だから…私は本当に…心から須賀さんに感謝してるんです」
京子「…花田さん…」
…そっか。
俺が見ていたのはあくまでも『気晴らしが出来た鶴田さん』だったんだな。
思い返せば合宿場に来た時の彼女はあんな風に明るくはなかったし、何より鶴田さんは一度、花田さんのところから逃げ出しているんだ。
多分、大丈夫だと言った俺の手前、強がりもあったんだろうけど…ちゃんと気晴らしにはなれたらしい。
京子「…でも、それは私の力だけじゃありませんよ」
京子「さっきのやりとりだって鶴田さんが花田さんに気を許しているからこそのものでしょう」
京子「正直なところ、端から見ていて羨ましいくらいでしたよ。私はからかわれてばっかりですし」クスッ
煌「すみません…姫子が…」ペコリ
京子「いえ、大丈夫ですよ」
京子「決して不愉快な訳ではありませんし…それにさっきも言った通り私も鶴田さんにはお世話になりましたから」
京子「迷惑なんて事はありません。寧ろ、こちらもとても楽しい時間を過ごさせていただきました」
京子「と…話が少し脱線してしまいましたね」
京子「ともかく…私が言いたいのは花田さんの存在が鶴田さんにとって間違いなく助けになっているという事ですよ」
煌「…そう…でしょうか」
京子「えぇ。だって、鶴田さんは花田さんがこっちに来てくれた時、目に見えて表情が変わりましたから」
誰もおかえりと言わない空間の中、ポツンと一人立つ鶴田さん。
まるで行き場所をなくしたような子どものようなその姿は痛ましささえ感じさせるものだった。
けれど、それも花田さんの声によって掻き消え、さっきの明るい鶴田姫子に戻ったのである。
それだけでも彼女にとって花田さんがとても大きな存在である事に疑う余地はないだろう。
京子「それにそうじゃなかったら昨日だってわざわざ食事を摂る時間を遅らせたりしないでしょう?」
京子「…大丈夫ですよ。鶴田さんは花田さんの事をとても大切に思っています」
京子「きっと…花田さんに負けないくらいに」
煌「…はい」
頷く花田さんの声は微かに震えていた。
多分、彼女も不安だったのだろう。
俺よりも鶴田さんの事を知っているが故に、そして彼女の悩みに関してある程度の推測がついているが故に。
それがどうにも出来ない自分を歯がゆく思い、そして自分が鶴田さんにとって重荷ではないかと…そう悩んでいたんだ。
京子「それで…実はそんな花田さんに一つお願いがあるんですけど…」
煌「お願い…ですか?」
京子「はい。鶴田さんの事で」
…俺の予想が正しければ、そんな彼女の不安も鶴田さんの悩みも解決出来る方法がある。
勿論、前提条件からして勝算が低い故に確実に出来るとは言い切れない。
そもそも俺の予想が外れている可能性がない訳じゃないし、余計なお節介と受け取られる可能性だって決して少なくはないだろう。
だけど、俺が鶴田さんの件に関われるのは明日が最後なんだ。
大きなお世話上等、嫌われるのも覚悟の上で…俺は… ――
京子「…花田さんの力が必要なんです」
京子「協力してくれますか?」
そんなところで今日の投下は終了です
次回は出来るだけ早めに投下するようにします
乙です
密度濃いいなあ
乙したー
姫煌も良いもんだな
乙
すばらでした
乙でした
京子ちゃん弄られ系だなぁ
乙です
乙乙
すばら先輩経由で和やタコスに須賀京子の存在が伝わったりしそうな
霞たんイェイ~。初美たんイェイ~の時みたいに霞さんの短編話こないかなぁ……。
霞たんイェイ~。
今日はちょっと余裕ある感じなので9時くらいから短編やっていくかもです。
ただ、出来と速度にはあんまり期待しないでください…。
期待
へむ
大丈夫、最終的に揉んだり吸ったり顔が埋まったりすれば大体の体裁は取れる。
―― 俺の朝は義姉の声から始まる。
霞「…京ちゃん、起きて」ユサユサ
京太郎「う…ん…」
霞「ほら、早く起きないと朝練に遅刻しちゃうわよ?」
京太郎「…後五分…」
霞「だーめ。もう起きる時間なのよ?」
霞「お父さんもお母さんももう待ってるんだから」
京太郎「うん…分かった…分かったから…」
霞「まったく…全然、分かってないじゃない」
霞「…仕方ない…わよね」スッ
京太郎「…ん…ぁ…」
霞「…京ちゃん…♪」チュッ
レロォチュルル
京太郎「…んんん!?」ビックゥ
>>301
まるで霞さんがエロ担当キャラのような事を言うのはやめてくれないか!!(憤慨)
エロ担当スレで何を言う
京太郎「(義姉さん!もう起きた!起きたから!!)」ジタ
霞「んふ…♪はむぅ…?」
京太郎「(あ…っ、だ、ダメだって…そんな歯茎の裏側まで…)」
霞「ちゅぷ…くちゅくちゅ…」
京太郎「(ふぁ…あ…!ま、まずいよ…!)」
京太郎「(上のほう敏感だから…そこクチュクチュされたら…)」
霞「…ん…?」ギュゥ
京太郎「(力抜け…ダメ…だ…)」
京太郎「(義姉さんを跳ね除けられ…な…い)」
京太郎「(気持ち…良すぎる…)」
京太郎「(朝からこんな…粘っこい…キス…されて…)」
霞「れろぉ…♪」
京太郎「(義姉さんの唾液…美味しい…)」
京太郎「(甘くて…義姉さんの匂いがして…)」
京太郎「(もっと…もっと欲しい)」
京太郎「(義姉さんの…唾液…もっと…れろれろって…一杯…気持ち良いの…)」
パンツ脱いだ
♥が文字化けしたんで投稿しなおし!
京太郎「(義姉さん!もう起きた!起きたから!!)」ジタ
霞「んふ…♪はむぅ…♥」
京太郎「(あ…っ、だ、ダメだって…そんな歯茎の裏側まで…)」
霞「ちゅぷ…くちゅくちゅ…」
京太郎「(ふぁ…あ…!ま、まずいよ…!)」
京太郎「(上のほう敏感だから…そこクチュクチュされたら…)」
霞「…ん…♥」ギュゥ
京太郎「(力抜け…ダメ…だ…)」
京太郎「(義姉さんを跳ね除けられ…な…い)」
京太郎「(気持ち…良すぎる…)」
京太郎「(朝からこんな…粘っこい…キス…されて…)」
霞「れろぉ…♪」
京太郎「(義姉さんの唾液…美味しい…)」
京太郎「(甘くて…義姉さんの匂いがして…)」
京太郎「(もっと…もっと欲しい)」
京太郎「(義姉さんの…唾液…もっと…れろれろって…一杯…気持ち良いの…)」
霞「…ふふ」スッ
京太郎「あっ…」
霞「京ちゃん、起きた?」
京太郎「え…あ…」ポー
霞「ふふ…まだ少し飛んじゃってる…?」ナデナデ
京太郎「あ…義姉さ…ん…」
霞「京ちゃん、おはよう」ニコ
京太郎「お、おはよう、義姉さん」
京太郎「で、でもさ、その…」
霞「ん?」
京太郎「何もキスで起こす事はなかったんじゃないかな?」
霞「だって、京ちゃん、こうでもしないと起きないんだもの」
京太郎「いや、俺だって叩かれたりしたら起きるよ」
霞「そんな酷い事出来ません」
霞「それに毎日、これでばっちり目が覚めるんだから変える必要はないでしょ?」
京太郎「いや…そうかもしれないけど…」
霞「それよりお着替えしないとね」
霞「制服は準備してあるからたったして?」
京太郎「いや…その…」
霞「どうかした?」
京太郎「え、えぇっと…ほら、俺ももう高校生だしさ」
京太郎「義姉さんに着替えさせてもらわなくても大丈夫だよ」
霞「あら、そんな事は一人でちゃんと起きられるようになってから言わないとね」クスッ
霞「私に起こしてもらっている間はまだまだ子どもよ。ほら、恥ずかしがらないで」
京太郎「い、いやいやいや!今は危ないから!!」
霞「もう。毎朝の事なのに何を今更、遠慮してるの?」
霞「…それならお姉ちゃんだって考えがありますからね!」ドサッ
京太郎「ぬぉあ!?」
霞「ふふ、馬乗りになっちゃった♪」
霞「でも、これで逃げられないわよね?」
京太郎「ね、ねねねねねね義姉さん!?」
霞「じゃあ、お着替えしましょうね♪」
霞「~♪」ヌガセヌガセ
京太郎「うぅ…」マッカ
霞「どうしたの?京ちゃん」
京太郎「いや、だってこんな…」
霞「こんな…何?」
京太郎「ね、義姉さんだって分かってるだろ…?その…俺が…」
霞「…おっきしちゃってる事?」
京太郎「う…」カァァ
霞「ふふ、それこそ今更なんだから気にしなくても良いのに」
京太郎「い、いや…でもさ」
霞「それとも…京ちゃんは早くオナニーしたいの?」
京太郎「う…そ、それは…」
霞「ふふ、仕方ないわよね、京ちゃんもお年ごろだもの」スッ
霞「…いいわよ」シュル
京太郎「っ!」
京太郎「(ぎ、義姉さんが巫女服の前を肌蹴させて…ひ、人並みからかけ離れたおっぱいがポロンって…!)」
京太郎「(の、ノーブラ…ピンク乳首…ピンと勃って…柔らかそうなおっぱい…おっぱい…)」ゴクッ
霞「…ほら…何時も通り…お姉ちゃんのおっぱいをオナニーに使って…♥」
霞「京ちゃんのおちんちんさんおっぱいでズリズリして…すっきりしましょう♪」
京太郎「ね、義姉さん…」ハァハァ
霞「ふふっ…もう…ケダモノみたいな息してる…♪」
霞「でも、それだけ溜まってたって事よね…?」
霞「もう…遠慮しなくても良いって何時も言ってるでしょ?」
霞「お姉ちゃんはね、弟の性欲処理をするのが仕事なんだから」
霞「いつでもしたい時に…お姉ちゃんの身体を使ってオナニーしても良いのよ…?」
京太郎「…っ!」ガバッ
霞「きゃんっ♪」
霞「強引な京ちゃん…♥」
霞「こんなの…お姉ちゃん以外にしたら嫌われちゃうわよ?」
霞「でも…お姉ちゃんだったら大丈夫だから…オッケーだから…♥」
霞「…今日も一杯、オナニーしちゃいましょうね…♪」
―― 俺には一人姉がいる。
姉と言っても血が繋がっている訳じゃない。
ガキの頃、両親が事故で死んだ俺を引き取ってくれた家の一人娘。
関係としては義姉ではあるが、俺は彼女の事を本当の姉のように思っている。
いや…思っていた…と言う方が正確だろう。
最近の俺は少しずつ義姉さんの事を女として意識し始めていた。
―― …だって…なぁ。
朝はキスして起こされ、その後、勃起したムスコをパイズリで満足させてくれる。
義姉さんはアレはオナニーだと言っているけれど、アレの何処がオナニーだと言うのか。
…まぁ、友人にエロ本を借りるまでは、俺はそれがオナニーだと思い込んでいた訳だけど。
しかたないじゃん…そういうの教えてくれるのなんて俺には義姉しかいなかったんだし。
―― それがオナニーじゃないと知った今も中々、拒む事が出来ない。
何も知らなかった昔ならばいざ知らずいまの俺にはある程度の性知識もある。
俺と義姉さんがやっている事が世間様一般に誇れるようなものではないのだと理解もしていた。
だが、それでも拒む事が出来ないのは義姉の身体があんまりにも気持ち良すぎるからだろう。
ムスコを谷間に突き入れた瞬間のなんとも言えない圧迫感と安心感に俺はもう骨抜きにされていた。
贅沢な[田島「チ○コ破裂するっ!」]だな、おい
姉しよバリの常識観
―― 義姉さんだって…そんな事分かってると思うんだけどなぁ。
義姉は決して頭の悪い人じゃない。
いや、寧ろ、学校の成績は名門校の永水女子で常に一桁だし、運動だって人並み以上に出来る。
永水女子で最も優秀な生徒に送られるというエルダーの称号を三年連続で取得するほど優れている義姉がそれがオナニーではないと知らないはずがあるまい。
流石に本番行為こそないものの、それでも間違いなく毎朝、弟のオナニーに付き合うなんて異常だ。
―― 義姉さんは…俺の事、どう思ってるんだろう。
綺麗で誇らしい俺の義姉。
性格もおっとりした優しい人で、何時だって人の輪の中心にいる。
スタイルだって抜群で、母性の象徴である胸はメロンに負けないくらい大きい。
今までの俺はそんな義姉の事は何でも分かるつもりだった。
誰よりも一番、義姉の事を尊敬し、憧れていたのは俺だという自負があったから。
……でも、ここ最近の俺は少しずつ義姉さんの事が分からなくなりつつあった。
霞「はい。京ちゃん、あーんして?」
京太郎「あ、あーん」
霞「はい」スッ
京太郎「ん…」
霞「美味しい?」
京太郎「うん…美味しいよ」
それでも日常は進んでいく。
俺の違和感や疑念を置き去りにして何時も通りに。
それに安心感を抱いていいのか、或いは何時も通りと言う歪みを気にするべきなのか。
…それさえも俺に判別がつかなくなってきた。
霞「はい。これ学校のカバンね」スッ
京太郎「ありがとう、義姉さん」
霞「ちゃんとハンカチは持った?救急セットは?」
京太郎「大丈夫だって。何時も通り胸ポケットに入ってるよ」
霞「それならいいんだけど…」
霞「あ、帰りもそうだけど…変な人についてっちゃダメよ?」
霞「最近、不審者が多いご時世なんだから」
霞「それといじめられたらすぐに言いなさい」
霞「私が全部何とかしてあげるから」
京太郎「大丈夫。もう…義姉さんは心配性なんだから」
霞「当然よ。私の大事な…本当に大事な弟なんですもの」
京太郎「……弟…か」ポソッ
霞「え?」
京太郎「なんでもないよ。でも、大丈夫だって」
京太郎「俺も高校生なんだから、心配しすぎ」
霞「本当は私も一緒に行ってあげられれば良いんだけど…」
京太郎「いや、無理でしょ。義姉さんの学校、女子校じゃん」
霞「そうなのよね…」フゥ
霞「…今日から突然、永水女子が共学になったりしないかしら」
京太郎「例え共学になったって俺は入れないってば」
京太郎「もう別の高校に入ってる訳だし」
霞「……誰か京太郎の戸籍を女の子にして無理矢理、永水女子に入学させてくれないかしら…」
京太郎「怖い事言わないでくれよ…」
霞「だって…それくらい心配なんだもの」
京太郎「そもそも俺が女子校に入るとかぜってー無理だって」
霞「あら、そんな事ないわよ?京ちゃん可愛い顔立ちしてるから化粧でなんとでもなるから」
霞「身長だって運動部にはそれくらいの子もいるし、目立ちはするけど不思議がられたりはしないと思うわ」
京太郎「…いや、そこまで本気で考えなくても」
「京太郎ー!」
京太郎「っと、やべ。もう呼ばれてるから行ってくる」
霞「…うん」ギュッ
京太郎「義姉さんも麻雀頑張ってな。俺、応援してるから」
霞「うん」ギュゥゥ
京太郎「…義姉さん」
霞「…まだ」
霞「…まだ行ってらっしゃいのチューしてない」
京太郎「…いや、でも…」
「京太郎―!早くしないとおいていきますよー!」
霞「…ちゅー」
京太郎「…分かったよ」チュッ
霞「…えへへ」
京太郎「う…じゃ、じゃあ、今度こそ…その…行ってくるから」カァ
霞「うん。いってらっしゃいっ!」ニコー
明星「はー…ようやく来ましたか」
京太郎「悪ぃ。ちょっと寝坊しちゃってさ」
明星「……嘘つき。また霞お姉様といちゃついてたんでしょう」
京太郎「う…い、いや、違うって」
京太郎「そもそも義姉さんが俺の事になんか相手にする訳ないだろ?」
明星「……」
京太郎「明星?」
明星「…知らぬは本人ばかりなり…と言うべきか鈍感すぎて呆れるべきか」
明星「別に私は良いですけどね。良いですけど…」
京太郎「…どうかしたのか?」
明星「…いえ、やっぱり腹が立つから一発殴らせてください」
京太郎「横暴過ぎじゃねぇか!?」
明星「それで私の気が済むんですから安いものじゃないですか!」ブンブン
京太郎「知るかそんなんもん!」
―― 昼休み
京太郎「はー…腹減った」
A「はよ食べようぜー」
B「おう。こっちも腹ペコペコだしなぁ」
京太郎「だな。部活もある訳だし、いまの間にエネルギー貯めとかないと」
C「あぁ、姉エネルギーか」
B「羨ましいなぁ。あんな美人なお姉さんがいてよ」
A「もげろよ」
京太郎「そんなんじゃねぇっての」
B「じゃあ、お前のその重箱レベルのお弁当少しで良いから分けろよ」
京太郎「やなこった。誰が義姉さんの弁当をてめぇらに渡すかよ」
C「かつサンドと交換なら」
京太郎「ダメだ」
A「学食一週間おごるから」
京太郎「学食よりも義姉さんの弁当の方が美味いし」
B「チクショウ…毎回、目の前でその美味い弁当広げられてるこっちの身にもなれよ…」
京太郎「なんと言われようと断る!!」
C「ほんっと須賀のシスコンは筋金入りだよな…」
京太郎「ちげぇっての」
B「無理すんな。つか、あんだけ美人なお姉さんがいりゃ当然だろ」
A「いいよなぁ…霞さん。嫁にしたい」
京太郎「は?」ゴゴゴ
B「どうどう落ち着け。Aも謝れ。こいつの前でその類の冗談は禁句だ」
A「…なんだか腑に落ちないがすまん」
京太郎「…俺もちょっと過剰反応しすぎた。悪い」
C「……でもさー、須賀はそろそろマジで姉離れするべきじゃね?」
京太郎「うぐ…」
B「おい、C…」
京太郎「…いや、俺も分かってるんだ」
京太郎「本当はそろそろ義姉さんに甘えるのを止めなきゃいけないんだって」
B「…無理すんなよ。お前のシスコンっぷりがやばいのは別にいまに始まった事じゃないんだし」
京太郎「…でも…俺の所為で…義姉さんがさ」
A「石戸さんがどうかしたのか?」
京太郎「いや…自分の時間が殆どないんだよ」
京太郎「学校ある時間以外はずっと俺の世話ばっかり」
京太郎「…勿論、俺は嬉しいよ。嬉しいけどさ」
京太郎「でも、アレじゃあ…恋人の一つも作れないよなぁって」
B「須賀…」
京太郎「だから…俺も姉離れしなきゃいけないって思ってはいるんだよ」
A「…そうか」
A「じゃあ、石戸さん…いや、霞さんの事は任せろ、我が義弟よ!」キラッ
京太郎「ぶち殺すぞ」
C「落ち着けって。でも、何か目処はあるのか?」
京太郎「…ない」
B「とりあえず須賀が本気なら彼女でも作ってみれば良いんじゃねぇの?」
京太郎「彼女かぁ…俺と付き合ってくれる子なんているかなぁ…」
C「あの子はどうなんだ。何時も練習見に来てる中等部の子」
京太郎「あぁ、明星ちゃんか。あの子はそういうんじゃねぇよ」
京太郎「寧ろ、どっちかって言うと俺は嫌われてると思うぞ?」
B「そうなのか?にしちゃ熱心にお前の事見てるけど…」
京太郎「本人曰く監視らしい。なんで俺の事なんか監視してるのかは知らないけど」
A「なるほどな…ツンデレって奴か」
京太郎「ちげぇって。今日だってカバン振り回して殴られるところだったんだから」
A「ばっか。おめぇ。その筋の人間にはご褒美だろぉ!」
京太郎「飯時にそういう話すんな。普通に引くわ」
C「まぁ、とりあえずあの子とはそういう訳じゃないんだな?」
京太郎「あぁ」
C「じゃあ、問題ないな」
京太郎「何がだ?」
C「須賀、ちょっと合コンしようぜ」
京太郎「…は?」
C「実はさー日向女学園のお姉様方から合コンのお誘いがありましてね?」
A「ま、マジかよ!日向女学園と言えば…!」
B「永水女子ともためを張るお嬢様校じゃないか!!」
A「お、俺は!!勿論、俺はメンバーに入ってるよな!?大親友の俺は!!」
C「いや、BはともかくAはちょっとなぁって…」
A「なんで!?」
C「たまーにテンション高くてついてけねぇんだよお前」
A「お、抑え気味にする!合コンの時は抑えるから!!」
C「しっかたねぇなぁ…。ただ、お前の所為で合コンぶち壊しになったら縁切るからな?」
A「いよっしゃあああああああ!!」
B「落ち着けって。いや、俺も嬉しいけど」
B「それより須賀の方はどうするんだ?」
京太郎「え?」
B「Cの奴じゃないけどさ。お前が本当に姉離れしたいならいい機会だと思うぜ」
B「一回行くだけでも行ってみないか?」
京太郎「……そうだな。少し考えさせてくれないか?」
C「いいぜ。ただ…こっちもメンバー集める都合があるからな」
C「数日中には確定させといてくれよ」
京太郎「…分かってる」
…これ最早、短編じゃなくて中編じゃね?(今更)
つか、霞さんの出番少なすぎじゃねぇ?
久しぶりに筆が乗って嬉しいけど霞さんファンの方には物足りない事になるかもしれない
ごめんなさい
京太郎「(合コンかぁ…)」
京太郎「(多分…行くべきなんだろうなぁ)」
京太郎「(義姉さんの為にも俺の為にも)」
京太郎「(それは…分かってるんだけど…)」
京太郎「(中々、ふんぎりがつかない)」
京太郎「(さっきから義姉さんの顔が頭の仲に浮かんでは消えて…)」
京太郎「(あぁ…くそ…!こういうのがあるからシスコンだなんて言われるってのに…!)」
明星「…京太郎」
京太郎「…」
明星「…きょ・う・た・ろ・う!」グイッ
京太郎「うぉあ!?」ビクッ
明星「まったく…何をぼさっとしてるんですか?」
京太郎「わ、悪い」
明星「…別に私は京太郎がよそ見してて怪我しても別に構いませんけどね」
明星「…でも、そんな風に気もそぞろな風に横で歩かれると心配になります」
明星「ハンドボールの練習も何時もより気が入ってなくて、何時もなら防げるシュートを素通りさせていましたし」
明星「…なにかあったんですか?」
京太郎「…はは。明星は俺の事、ホント良く見てるんだな」
明星「ち、違います!変な風に誤解しないでください!」
明星「私がしてるのは監視です!京太郎の事なんて全然、気にしてないんですから!」
明星「私が愛しているのはこの世でただ一人、霞お姉様だけですよ!」
京太郎「はいはい。それは分かってるって」
京太郎「…でも、ありがとうな。少し気持ちが楽になった」ニコ
明星「ぅ…」カァ
京太郎「明星?」
明星「う、うるさいですよ!そ、それより何を悩んでるんですか!?」
京太郎「あー…そうだな。明星なら良いか」
京太郎「…明星から見て…俺は義姉さんのお荷物だと思うか?」
明星「…………は?何を分かりきった事を言ってるんですか?」
京太郎「っ…!だよなぁ…そう…だよなぁ…」
京太郎「…そんなもん分かりきってたはずなんだよ。なのに…俺は…」
明星「京太郎?」
京太郎「……っと、ここまでだな」
明星「あ…」
京太郎「ちゃんと宿題しろよ。じゃないと愛しの霞お姉様に怒られるぜ?」
明星「え…ちょ、京太郎…?」
京太郎「じゃあな。また明日!」ダッ
京太郎「(…あぁ…くそ)」
京太郎「(明星なら…期待したのか…?)」
京太郎「(義姉さんにとって俺の事、重荷じゃないって…)」
京太郎「(そう否定してくれると…思ってたのかよ…!)」
京太郎「(そんな訳…ないだろ)」
京太郎「(誰よりも俺たちの側にいて…)」
京太郎「(俺と同じくらい義姉さんを慕ってる明星だからこそ…!)」
京太郎「(義姉さんにとって重荷でしかない俺が…嫌いで嫌いでしかたがないんだって)」
京太郎「(そう…分かってた・・はずなのに…)」
―― 夜
京太郎「…ふぅ」
京太郎「(…なんだかやる気がまったく起こらない)」
京太郎「(明星にあんな事言っといて…俺が宿題しない訳にはいかないんだけど…な)」
京太郎「(でも…身体の中から気力がごっそり抜けていったみたいに力が入らなくて…)」
京太郎「(俺…何をやってるんだろうな…そんなの…最初から分かってたはずなのに)」
京太郎「(自分から突っ込んで自爆して…やる気なくすなんて…馬鹿みてぇ…)」
霞「…京ちゃん?」
京太郎「あ…」
霞「入っても…良いかしら?」
京太郎「あ…うん…」
スゥゥ
霞「…京ちゃん」
京太郎「ね、義姉さん、どうかした?」
霞「…京ちゃん、何かあった?」
京太郎「っ!」
京太郎「な、何にもないよ」スッ
霞「…嘘」
霞「知ってる?京ちゃんが嘘を吐く時は右手に目が行くのよ?」
京太郎「あ…」
霞「…お姉ちゃんは京ちゃんの事ならなんでもお見通しなんだから隠しても無駄よ」
霞「…だから、教えてくれないかしら?一体、何を悩んでるの?」
京太郎「それ…は…」
霞「どんな事でも良いわ。私は…私だけは京ちゃんの味方だから」
霞「どんな悩みだって笑わない。絶対に解決してあげる」
京太郎「……」
京太郎「(…良い…のか?)」
京太郎「(ここで…言ってしまって良いのか?)」
京太郎「(もう義姉さんの助けなんて必要ないって…)」
京太郎「(俺は一人で行きていけるんだって)」
京太郎「(そう言って…良いのか…?)」
霞「…京ちゃん?」
京太郎「…じ、実は…」
京太郎「お、俺…俺…さ」
京太郎「…合コン…行く事になった」
霞「え?」
京太郎「俺…今まで義姉さんに甘えっぱなしで姉離れ出来てなかったから」
京太郎「その…これを期に姉離れしようと思って…」
京太郎「だ、だからさ。その…もう義姉さんは俺に縛られたりしなくても良いんだぜ?」
京太郎「俺の弁当作ったりオナニーの手伝いとかしなくてもさ」
京太郎「初めての合コンだから彼女とか出来ないかもしれないけど…」
京太郎「でも、俺はこれから義姉さんの代わりにそういう事をしてくれる人見つけるからさ」
京太郎「だから義姉さんも俺に縛られずに恋人を…」
霞「……誰?」
京太郎「…え?
―― …その瞬間の義姉の顔を俺はきっと一生、忘れる事がないだろう。
霞「…誰が京ちゃんにそれを吹き込んだの?」
―― まるで雨の日のペンキのようにサァっと表情が落ちた義姉さんの顔。
霞「京ちゃんはそんな悪い事を言うような子じゃないでしょう?」
―― 元から白いその肌は今、真っ青と言っても良いくらいに血の気が失せていた。
霞「きっと誰かから吹き込まれたのよね…?」
―― だが、その奥にはグツグツと煮えたぎるような感情が蠢いているのを感じる。
霞「大丈夫。心配しないで」
―― 瞬間、義姉は俺に対して優しく微笑んだ。
霞「お姉ちゃんが…京ちゃんの事を守ってあげるからね」
―― 何時もの姉と変わらぬ優しい笑み。
霞「京ちゃんは何も心配しなくて良いの」
―― だが、その奥から沸き上がるような激情は一切、収まる事がない。
霞「何時も通り、私に全てを任せれば…それで良いから」
―― まるであまりの怒りに心と身体は完全に分離したように。
霞「だから…それを京ちゃんに吹き込んだ人を教えて頂戴?」
―― 俺の知る中で最も美しいその人は…静かに…そして激しく…怒り狂っていた。
京太郎「あ…」
霞「…ねぇ、京ちゃん?」スッ
霞「私の可愛い…京ちゃん」
霞「何時だって…私は京ちゃんの為だけを考えてきたわ」ナデナデ
霞「ううん…これからだって、私の中で京ちゃんが一番よ?」
霞「でも…その人は私と京ちゃんを引き離そうとしてるの」
霞「悪い人よ。…とっても…とっても悪い人だわ」
霞「京ちゃんは私の側にいるのが一番、幸せなのに…」
霞「私から京ちゃんを引き剥がそうとするんだもの」
霞「その人はきっと京ちゃんに嫉妬していたのよ」
霞「幸せな京ちゃんに…醜い感情を抱いていたの」
霞「そんな人をかばう必要はないわ」
霞「大丈夫。ちょっとお話をするだけだから」
霞「京ちゃんには決して危害を加えさせたりはしないわ」
霞「だから…京ちゃん、お願いよ」
―― その言葉はとても優しいものだった。
何時も通り、俺に優しく言い聞かせるような声。
頭の奥がとろけるようなそれに、しかし、俺は今、安堵の一つも抱く事が出来なかった。
寧ろ、その声音が優しければ優しいほど、甘ければ甘いほど。
行き場をなくした義姉の激情が、より強くなっていくのを感じて、俺の背筋がゾクリと冷たい汗を浮かべる。
霞「…京ちゃん」
京太郎「ち…違う!」
京太郎「これは…これは…俺が考えた事なんだ…!」
霞「京ちゃん、目が右手に…」
京太郎「それでも違う!」
そんな義姉の前で誰かの名前を出せる訳がない。
直感だが…今の義姉で不用意に誰かの名前を出せば、きっと彼女はその誰かに牙を剥く。
それは直接的なものなのか間接的なものなのかは分からないが…。
それでも…今の義姉が決して冷静でも平静でもないのはひと目で分かる…!
京太郎「…義姉さん…出てって」
霞「…京ちゃん」
京太郎「今は…一人にして欲しいんだ。頼む」
霞「…………」
霞「…分かったわ。京ちゃんがそう言うなら…」
霞「…私、寂しいけど…我慢する」
京太郎「義姉さん…」
―― 瞬間、義姉から煮えたぎるような激情が消えていく。
霞「…そうよね。京ちゃんだって高校生なんだもの」
霞「あんまり干渉されると鬱陶しいわよね」
京太郎「そ、そんな事…」
霞「良いのよ。…本当はね、私も色々言われていたの」
京太郎「え?」
霞「京ちゃんに干渉しすぎだって…今のままじゃ自立心が養われないんだって」
霞「私はそれでもいいと思っていたわ」
霞「でも…京ちゃんはそれじゃ嫌なんでしょう?」
京太郎「…う…ん」
霞「…だったら、私もお姉ちゃんなんだもの」
霞「弟の気持ちを…尊重してあげなくちゃ…ね」グスッ
京太郎「義姉さん…」
霞「でも…一つだけ…聞かせて…?」
霞「私の事…嫌いになっちゃったの…?」
京太郎「っ!そんな事ない!」
京太郎「…俺は何時だって…義姉さんの事が大好きだ!」
押せるだけ押して押し返されたら引いて後で少し押す、巧みな手綱捌き
―― 俺はこの時に気づくべきだったのかもしれない。
霞「…そう」
―― あれほどの激情をたぎらせていた義姉があっさり納得した理由を。
霞「…嬉しいわ。本当に…本当に嬉しい」
―― きっと義姉はあの時に切れてしまったんだ。
霞「私も…大好きよ。京ちゃんの事…大好き」
―― 理性の糸が…ぷっつりと。
霞「だから…私はもう起こしには来れないけれど…」
―― 義姉がギリギリのところで踏みとどまっていた最後の砦を…俺が壊してしまった。
霞「お弁当も作ってあげられないけれど…」
―― だけど、この時の俺はそれをまったく知らず…ただ愛する義姉が元に戻った事を喜ぶばかりで
霞「私達は最高の姉弟よね…?」
京太郎「…勿論だ」
―― 俺がそれを思い知った時には全てが手遅れになってしまっていた
頭のなかにある話はもう後半に入ってるけどちょっと明日の為にお風呂とか入っとかなきゃまずいんで中断させてください
日付変わった頃くらいから再開する予定です
一旦乙でーす
一旦乙
なんか暗くなってきたけどハッピーエンドであってくれよ…
一旦乙
一旦乙
おもちっちのネタがバッドエンドで終わりなんて無い無い
起こしに来ないしお弁当も作らない(襲わないとは言ってない)
一旦乙
霞さん最高や!
―― 今までごくごく当然のものとして身近にあったものがないと人間、結構、困るらしい。
そんな当たり前の事を俺が思い知ったのは義姉さんからの独り立ちを宣言した次の日。
その日は義姉さんに起こして貰えないまま朝練に遅刻し、財布を忘れた所為で昼飯だってろくに食えなかった。
友人に頭を下げて何とか金を借りたものの、腹いっぱいには程遠い。
そもそも今まで食べてきた義姉の手料理からは比べ物にならないくらい味気なく、食べた気がしなかった。
今まで手伝ってもらっていた宿題だって一人でやる事になってからは以前の数倍の時間が掛かる。
―― 何より一番やばいのは…性欲処理だよなぁ。
今まで義姉さんに完全に任せっきりだった所為か、俺は自分の手ではまったくイく事が出来なくなっていた。
どれだけ自分で扱いたとしても気持ち良いのはほんの少しだけで、時間が経つ内に萎えてしまう。
義姉の谷間なら数分で絞られてしまう早漏っぷりからは想像も出来ないくらいだ。
お陰でここ一週間ほどまったく性欲を処理出来ず、ムラムラとしっぱなしである。
京太郎「(でも…これで良いんだよな)」
アレから義姉は俺に干渉する事はなくなった。
いや、それどころか、俺と顔を合わせる事さえ稀になっている。
彼女の方もそろそろ麻雀の大会が近いから色々と大変なのだろう。
正直、寂しさは否定出来ないけれど…今までが近すぎたんだ。
きっと…きっとこれが本来あるべき俺達の姿なんだろう。
京太郎「(それよりも今は…)」
「こんばんは」
C「こんばんはっす!」
B「はじめまして。今日はよろしくおねがいします!」
京太郎「よ、よろしくおねがいします…」
京太郎「(…目の前の合コンに集中しないとな)」
京太郎「(折角、Cが日向女子の人たちとセッティングしてくれたんだ)」
京太郎「(ここで下手打つ事はCの面子を潰す事にもなる)」
京太郎「(とりあえず最初から彼女を作るのは諦めて…場の雰囲気に慣れないと)」
京太郎「(何も焦ってこの場で彼女を作らなくても別に良いんだからな)」
「…あれ?そっちの子は?」
A「……」
C「…おい、A、挨拶くらいしろって」
A「お、俺に話しかけるな…!」
B「…え?」
A「やめろ…!我が邪王真眼の力に飲まれたいのか…!」
C「……」
B「……」
「やだ、これって中二病ってやつ?」ケラケラ
C「あ、そ、そうなんですよ。いやーこいつまだ子どもで」
「でも、可愛いじゃん。そういうのも」
「私も子どもの頃やったよー」
B「はは。お姉さんまだまだ若いじゃないですかー」
こいつまさか
ああ、間違いない
9年ゥー
C「…おい、A、お前何やってるんだよ…!」ヒソヒソ
A「え?だ、だって、抑えろって言うから…」ヒソヒソ
A「抑えたキャラで言った方が良いかなって」ヒソヒソ
B「そういう意味じゃねぇよ…!」ヒソヒソ
A「マジかよ…結構、真剣に考えてたんだけど…」ヒソヒソ
京太郎「…ま、まぁ受けてるみたいだし、良くね?」ヒソヒソ
「ちょっと男子ー!」
「ほら、四人で内緒話してないでこっちで話そうよ」
「そうそう。あ、私、A君が良いな」
「ずっるーい」
「早いもの勝ちよ、早いもの勝ち」
「じゃあ、私、B君ね」
B「おお邪魔します!」カチカチ
「じゃあ、須賀君は私の方に来てくれる?」
京太郎「よ、喜んで…!!」ガチガチ
「もう緊張しなくても大丈夫だって」
「別にとって食べやしないんだからさ」
「いやー…その子はやるよ?結構、肉食系だから」
「ちょ、止めてよ、須賀くんが誤解するじゃん」
「違うからね?私、これでも結構、一途なんだから」
京太郎「は、はぁ…」
こんな感じでもゲットするんだよな…
京太郎「(…まぁ、そんな感じで合コンは始終、お姉様方のペースで進んだ)」
京太郎「(セッティングしたCはともかく、それ以外は合コン初心者だからなぁ)」
京太郎「(主導権を握られるのもある種、仕方ないって事だろう)」
京太郎「(それにまぁ、日向女子のお姉様達は結構、ノリが良い人で)」
京太郎「(ガチガチになってる俺たちに気を遣って色々とあっちから話題を振ってくれた)」
京太郎「(お陰で俺たちも緊張が解け、途中からは本当に楽しいコンパになったと思う)」
京太郎「(そのまま楽しさにまかせて二次会三次会へとなだれ込んだけれど)」
京太郎「(流石に長い間、お姉さん方を拘束する訳にはいかない)」
京太郎「(日付が変わる前に帰す為に三次会のカラオケで別れて…)」
「ふぅ…今日は楽しかったぁ」
「須賀くんはどうだった?」
京太郎「楽しかったですよ」
「本当?」
京太郎「こんな事で嘘いいませんって」
京太郎「合コンなんて初めて参加しましたけど…お相手が皆さんで良かったと思います」
「えー…皆さん?」
京太郎「あー…お姉さんで」
「まったくもう他人行儀なんだから」
京太郎「すみません…」
「ふふ、そんなところも可愛いけどねっ」
「でも、色々と前の彼氏の愚痴聞いてもらってごめんね」
「別れてから時間経ってない所為で色々と溜まっててさ」
京太郎「いや、良いですよ。色々と勉強になりましたし」
「お?エッチな意味?」
京太郎「ち、違いますって」
「ふふ、まぁ、そっちでなら実地で教えてあげても良いけどね?」
京太郎「う…い、いや、それは遠慮します」
「ヘタレだなぁ…」
京太郎「そういうのは恋人同士でするもんだって思ってるんで」
「…私は良いよ?」
京太郎「え?」
「私は須賀くんなら…ううん、京太郎君なら恋人になりたい…かな」
「…前の彼氏にこっぴどい振られ方して傷ついてるところに甘えさせてもらえたからってのもあるけど…」
「…京太郎君、私と同じ目をしてるから」
京太郎「……」
なんかこわい
「…本当は忘れたい人いるんでしょ?」
京太郎「え?」
「目を見れば一発だよ。好きな人がいますーってね」クスッ
「私だってただ遊んでた訳じゃなく京太郎君の事見てたんだから」
京太郎「…すみません」
「どうして謝るの?」
京太郎「だって、俺…そんな不誠実な…」
「もうやめてよね。そんな事言い出したら前の彼氏忘れたくて参加した私だって悪い女になるじゃん」
京太郎「あ…ごめんなさい。俺、そんなつもりじゃ…」
「ふふ、大丈夫。分かってるって」
「それにさ。京太郎君は難しく考え過ぎ」
京太郎「…え?」
「恋の始め方なんてさ、傷の舐め合いでも良いんだよ」
「そうやって舐めあってる内に愛着だって湧いてくるんだから」
「それに…私だって誰彼構わずこんな事言ったりしないよ?」
「京太郎君が良い子だから…前の彼氏に傷つけられた傷を埋めてくれる人だと思ったから」
「だから…こうやって言ってるの」
「…ね、京太郎君はどうかな?」
「私って…ダメ?やっぱり前の彼氏引きずってる女じゃ魅力ないかな?」
京太郎「そ、そんな事ないです!」
「…じゃあ、私と一緒に傷の舐め合い…出来る?」
京太郎「……良い…んですかね?」
京太郎「俺…そんなの…」
「良いんだよ」ニコッ
「他の誰がダメって言っても私だけはそう言うよ」
「舐め合いの何が悪いんだ。これもひとつの愛の形だってね」ニコッ
京太郎「はは。…そうですね」
京太郎「……じゃあ、これからよろしくおねがいします」
「んー。硬いぞー少年!」
「折角、彼氏になったんだもん。もっとフレンドリーにいこうよ」
京太郎「…あぁ。よろしくな」
「うん!こっちこそよろしくね!」
「あ、私の家、ここだから」
京太郎「へぇ…結構デカイですね」
「えへん。実はこれでもお嬢様なのです!」
「まぁ、あんまり大した事ない会社だけど…お父さんが社長だからね」
「だから、京太郎君、実は逆玉って奴なんだよ?」
京太郎「い、いや、俺はそんなつもりじゃ…」
「ふふ。大丈夫。分かってるから」
「それより京太郎君」ジィ
京太郎「え?」
「折角、家の前まで連れてきた彼女に何かご褒美はないんですか?」ジィ
京太郎「あー…えっと…」
「じぃぃぃ」
京太郎「…お、おやすみ?」
「もう。…こういう時はね」グイッ
「こうするのっ!」チュッ
京太郎「っ!」ビックゥ
「えへへ。京太郎君のキスいただきっ♪」
「ファーストキス?ファーストキス?」ニヤニヤ
京太郎「…え、えっと…」
「…なんだ。違うんだ。ちょっと残念」
京太郎「ご…ごめん」
「良いの良いの。別に謝る事じゃないし」
「それにこれから京太郎君の初めては沢山、私のものになるんだから!」
「キスの一つや二つじゃメゲません!お姉さんは強い子!」
京太郎「はは。…なんか今からでも振り回される未来が見えます」
「うん!おもいっきり振り回すよ!」
「その分、いぃぃっぱい愛してあげるけどね!」
京太郎「う」カァ
「ふふ、ほんっと初心なんだから」
「そんな可愛い京太郎くんともっと遊んでたいけど…そろそろ門限なんだよね」
「だから…またね京太郎君!」
「後でメールするからちゃんと返してね!」
京太郎「勿論ですよ」
ハッピーエンドじゃないか(安堵)
この子かわいい、このまま童貞卒業してハッピーエンドでいいね
京太郎「(良い人…だよなぁ)」
京太郎「(ちょっと独特の勢いがある人ではあるけどさ)」
京太郎「(でも、その勢いを決して嫌なものにはしないって言うか)」
京太郎「(多分、俺との波長が結構合ってる気がする)」
京太郎「(あの人となら…俺も義姉さんの事を忘れられるはずだ)」
京太郎「(傷の舐め合いだけど…でも、俺の事を一生懸命好きになってくれようとしてるあの人なら)」
京太郎「(時間は掛かるかもしれない)」
京太郎「(障害は多いかもしれない)」
京太郎「(でも…俺もあの人の事を好きになりたいって…そう思いつつある)」
京太郎「(…それに)」スッ
京太郎「(…唇…柔らかかった)」
京太郎「(ぷにぷにしてて…いい匂いがして…)」
京太郎「(義姉さん以外の人の唇…)」
京太郎「(また…キスしたいかも…なんて)」
「…………」ギリィ
京太郎「……え?」クルッ
京太郎「(…なんだろう、今の音…)」
京太郎「(まるで歯ぎしりみたいな…)」
京太郎「…………気のせい…か?」
…明星ちゃん、例の件、どうなったかしら?
……そう。
よく調べてきてくれたわね、礼を言うわ。
何を言うの、貴女も私にとって大事な妹よ。
…えぇ。そう、良く分かってるわね。
分相応と言うものが分かっている子は好きよ。
…ふふ、そんな暗い顔をしないで。
大丈夫。私は貴女の気持ちも分かっているわ。
全部、上手くいく…明星ちゃんさえ協力してくれれば…ね。
あら?そんなに怒らなくても良いじゃない。
それじゃあ…あの子の事調べてどう思った?
…………。
それが証拠よ、少しは素直になりなさいな。
え?…もう。私はそこまで狭量な女じゃないわよ。
明星ちゃんも京ちゃんも…私はちゃんと愛しているんだから。
……えぇ。嫌かしら?
…ふふ、その顔が何よりの証拠よね。
それでも素直になれない?…まったく…もう。ホント意地っ張りなんだから。
まぁ、良いわ。明星ちゃんを素直にするのはまた今度。
それより今はしなきゃいけない事があるものね。
…えぇ。そう。
私も明星ちゃんも…気持ちは一緒よ。
あんなあばずれに京ちゃんは渡せないわ。
京ちゃんは昔からずっと彼の事を思ってきた人と幸せになるべきなの。
あんな穢れた女と触れ合ったら京ちゃんまで穢れてしまう。
私はそれでも愛する事が出来るけど…でも、京ちゃんがそれで思い悩むところは見たくない。
…早めに別れさせてあげるのが京ちゃんの為なのよ。
こんにちは。
あぁ、警戒しないでください。
私、須賀京太郎の姉です。
えぇ…えぇ、そう。貴女とお付き合いしている。
ふふ、お上手なんですから。
いえ、それほどでもありませんよ。
あら…京ちゃんがそんな事を?
えへへ…。
…コホン、失礼いたしました。
それで…えぇ、そうです。
見極めに来たと言うよりは…そうですね。
…最後通告しに来た…と言うべきでしょうか。
何を驚いてらっしゃるのですか?
えぇ…貴女は京ちゃんに…弟に相応しくありません。
理由?ご自分が何よりご存知なのではないですか?
他の男性に愛を囁いた唇で
他の男性と絡めた指先で
他の男性と抱き合った身体で
京ちゃんに相応しいとでも?
…古臭い?
いえ、そうではありませんよ
これがあるべき男女の姿なのです
…貴女のようなふしだらな女性には分からないでしょうけれど
えぇ、会って一日で恋人になるだなんてふしだら以外の何者だと言うのですか?
常識を疑います。
あら、その顔…もしかして怒っていられるのですか?
そう…ご自分でもふしだらだと言う自覚があったのですね。
正直、見くびっていました、申し訳ありません。
それで…別れて頂けるのでしょうか?
…何故ですか?
貴女にとって京ちゃんは別に愛しあった男性ではないでしょう。
ただ貴女を捨てた男性の代替品に過ぎないはずです。
…えぇ。身内にとっては腸が煮えくり返りそうな事ではありますが…事実でしょう?
別に貴女を慰めるのは京ちゃんである必要はないのですから。
あの時、あの場で貴女の愚痴を聞いていれば、誰でも良い。
貴女はその程度の女性ではないですか。
……へぇ。
愛してると…そう言うのですか。
…なんとも軽い愛ですね。
…正直、虫唾が走ります。
ですが…致し方ありません。
私は貴女と違い…理性ある人間ですから。
貴女のような女性にも…誠意ある対応をいたしましょう。
…山田さん。
…えぇ。そう。
ここに500万あります。
貴女のような愛の軽い女性には過ぎた金額でしょう。
これで別れていただけますか?
…………。
……なるほど。
あくまでも…私の弟と別れるつもりはないという事ですね。
それとも弟を介して強請るつもりですか?
あら…その顔を見る限り違うようですね。
これは失礼しました。
…ですが、それでは困りましたね。
これでは本当に最後の手段を使わなければいけなくなってしまいました。
気になりますか?
いえ、大した事はありませんよ。
ただ、貴女のお父様の会社…最近、少し業績が悪いみたいですね。
えぇ。このご時世ですから致し方ありません。
ですが、幾つかの会社に渡って、色々と負債を抱えておられますね。
…嘘かどうかはお父様にお聞きしてはどうですか?
ただ…私が言えるのは…その中には私達とも関係の深いお店からもあると言う事です。
…ふふ、意外ですか?
ですが…昔から私どもの家はこの地域に根付いていますから。
この地域に住む色んな方々とも取引させて頂いております。
…あら、それは流石に考え過ぎですよ。
幾ら私でもそんな事は致しません。
…ですが、人生なんて分からないものですから。
貴女の懸念が現実にならないだなんて私には到底、言えません。
ふふ、何を青ざめていらっしゃるのですか?
別に私は何ら恐ろしい事を言ったつもりはありませんよ。
私に出来る最終手段は…ただ、貴女にお願いするだけです。
…えぇ。
変な意地など張らずに弟と別れて欲しい、と。
……はい。構いませんよ。
突然のお話ですものね、混乱されるのも分かります。
…ですが、私も身内の事ですからあまり長い目で見てあげる事は出来ません。
出来るだけ早めに色好い返事が頂きたいです。
…えぇ。それでは。
お元気で。
…もう二度と会う事はないでしょうけれど。
…どうしたの、京ちゃん。
……そう。
振られて…しまったのね。
大丈夫、そんなに落ち込まないで。
きっとその子には京ちゃんの魅力が分かっていなかったのよ。
いえ…最初から京ちゃんの事を弄ぶつもりだったんだわ。
そうじゃなかったら…こんなにすぐに別れるなんて言わないはずよ。
…いいえ、京ちゃんは分かってないわ。
その人がどれだけ良い風に見えても…それはあくまでも一面だけ。
裏では京ちゃんの事をなんて言ってるのかなんて分からないものよ。
実際…京ちゃんはこんなに酷い振られ方をしたんでしょう?
…あぁ、可哀想な京ちゃん…。
大丈夫よ…私が側にいるから。
…えぇ。今日だけは…私がずっと側にいてあげる。
ふふ…そんな事気にしないで。
今日一杯泣いて…落ち込んで…それで明日から元気になってくれればそれで良いの。
寧ろ、私はそうやって甘えてくれる京ちゃんがまた見れて嬉しいわ。
はい、あーんして?
ふふ…何を恥ずかしがってるの。
ついこの間までやっていたでしょう?
それに今日はお父様もお母様も居ないのよ?
久しぶりの姉弟水要らずじゃない。
ゆっくり甘えて良いのよ。
……ふふ、どう?
久しぶりの私の手料理は。
……良かった。
実はちょっと不安だったのよ。
作ってあげられなかった間に私の料理に飽きちゃってたらどうしようって。
…え?…もう、それは持ち上げ過ぎよ。
でも、ありがとうね、京ちゃん。
京ちゃんにそう言ってもらえると頑張った甲斐があったわ。
…京ちゃん?
どうかした?さっきから…なんだか目が怖いけど…。
え…?
だ、ダメよ、そんな事。
私達、姉弟なのよ?
義理で血が繋がってはいないけど…そ、それはダメ。
他の事ならやってあげるから…ね?
え…あ…っや、止めて…!
京ちゃん…怖い…!
ら、乱暴に…しないで…。
ひ…ぎぐぅぅ…っ。
ひど…酷いわ…京ちゃん…。
こんなの…こんなのって…。
……京ちゃん。
…良かった、気がついた?
えぇ。…………夢じゃないわ。
だ、大丈夫!大丈夫よ!
だから、そんな風に自分を追い込まないで!!
そ、そりゃ…最初はちょっと痛かったけれど…。
あ、相手が京ちゃんだったから…嫌じゃなかったわ。
……でも、もう私達、姉弟じゃ居られないわね。
だって…こんなに深く繋がってしまったんだもの。
え?…さぁ、どうかしら?
危ない日…だったかもしれないわね。
…どうしたの青ざめて。
大丈夫よ。私、ちゃんと産むから。
京ちゃんとの赤ちゃんを殺したりなんかしないわよ。
ガタガタガタ(((( ;゚Д゚)))
ご飯には元気になるオクスリが入ってたよ!
それより今は京ちゃんの事よ。
私を襲ってしまうくらい京ちゃんは無理してたんでしょう?
…えぇ。そうなのよ。
そうじゃなかったら京ちゃんがあんな酷い事するはずないわ。
言ったでしょう?京ちゃんの事は私が一番、良く知ってるって。
私がそうだと言えば、そうなのよ。
…ふふ、良い子良い子。
それで…そんな良い子な京ちゃんに提案があるんだけど…。
やっぱり私達、元の関係の方がいいと思うのよ。
私も寂しかったし…何より、京ちゃんがこんな風になっちゃったでしょう?
今回は私で良かったけれど…他の人とこんな事になっちゃうと大変だから。
…嫌?……嫌じゃないわよね?
だって、京ちゃんは私にあんな酷い事したんだもの。
嫌って言えるはず…ないでしょう……?
…そう。
えぇ。やっぱりそれが一番よ。
私も京ちゃんも…普通の姉弟じゃなくって…。
最高の姉弟が一番、自然な関係なのよ。
…あ、でも、今はただの姉弟じゃないんだったわね。
…ってもう…言った途端におちんちんピクピクさせちゃって…。
昨日、あんなに私の中で出したのに…まだ出し足りないの?
……ふふ、そんなに照れなくても良いのよ。
だって、私はとっても嬉しいんだから。
…だから…ね、ほら…。
お姉ちゃんのこのいやらしい穴で…何時もみたいに一杯、オナニーして頂戴…♥
わぁ、もう二時だぁ(白目)
そんな訳で大幅にずれ込みましたが、霞たんイェイ記念の短編はここで終わりです。
相変わらずヒロインにとってはハッピーで、京ちゃんに取ってはハッピーとは言えないエンディングですが、霞たんイェイ記念なのでご容赦をば。
今回はこういうエンディングだったけど、何時か出会い編とかから書きたいなー。
では、明日がやばいのでそろそろ寝ます。
おやすみなさいませ
乙ー
はっぴー
ダメよ、私達姉弟なのよ⁉︎(歓喜)
ですか、まぁ順当な結末。しかし霞を雷に変えても違和感ないね。
素晴らしい健全っぷりだった
どこからどう見ても健全ですな
霞さんこわいい!
……あ、明星ちゃんも一緒に幸せになれるような展開かと思ったら違った
子供の頃の両親の事故も裏で手を引いてそうな気がする...
乙です
霞さんがオナホールになる過程をもっと詳しく書くべきだと思うんですけど
どう考えても明星ちゃんが切り捨てられて、京太郎への愛情を自覚してから
ボロボロになる未来しか見えない
―― オマケ
んふふ…♪
…えぇ、私、今、とっても幸せよ。
だって、ようやく京ちゃんのオナニーをほんとうの意味で手伝えるようになったんだもの。
…え?違うわよ、アレはオナニー。
京ちゃんの性欲処理してる時のお姉ちゃんはね、人権なんかないの。
身も心も京ちゃんの為に出来た世界でただひとつのオナホールになるのよ。
…嫌?嫌じゃないわよね?
ふふ…またオチンチン大きくしちゃって…可愛いんだから…♥
でも、今はちょっと休憩ね。
私…さっきので京ちゃんにイかされまくって、腰がガクガクだから。
…そうよ。私は京ちゃんのオチンチンでいぃっぱいアクメさせられちゃったの。
メスの悦びを沢山、刻み込まれて…完全に京ちゃんの女になったのよ?
もう…だから、オチンチン、スリスリしないで…♥
そんなに可愛い顔されると…私もしたくなっちゃうでしょ?
…ん…でも、それだけ大きくしてるオチンチン放っておくのも可哀想だし…。
……今日、七回目のオナニー…しちゃいましょうか…♥
…あ。
……明星ちゃん、ちょっとタイミングが悪いんじゃないかしら…。
いや、別に私は構わないけどね、全然、気にしていないけど。
…きーにーしーてーまーせーんー。
…それより明星ちゃん、ちゃんと撮ってくれた?
バッチリ?…そう良かった。
え?そうよ。最初っから全部、録画してたわ。
ちょっぴり恥ずかしいけど…でも、これも京ちゃんの為だもの。
そう。京ちゃんがもう二度と変な気を起こさないように…ね♪
大丈夫よ。京ちゃんが『いつもの京ちゃん』でいてくれればこんなもの使う必要はないから。
それより…明星ちゃん。
あら…どうして後ずさるの?
良いからこっちにいらっしゃい。
良いから。
……ね?
…………。
…ふふ、良い子良い子。
それで…私と京ちゃんのオナニー見ててどう思った?
…あら、素直じゃないんだから。
ダメよ、そういう嘘つきな子は…お仕置きしちゃうんだから。
まぁ…凄い反応。
もしかして一人でイジってたのかしら?
ふふ…図星?
そうよね、明星ちゃんだって女だもの。
好きな人のオナニーを見てたら、我慢できなくなるのが当然よね?
…あら、何を意外そうな顔をしてるの?
明星ちゃんが好きなのは、京ちゃんよ?
違うって…もう完全にバレてるのに何を言っているのかしら…。
毎日、京ちゃんがどれだけ格好良かったか報告してる明星ちゃんを見ればだれでも分かるわよ?
…もう。二人からしてホント、鈍感なんだから。
だからこそ、私もお節介したくなっちゃうんだけど。
ほら、京ちゃん見てあげて?
明星ちゃんのオマンコ…もうトロットロよ?
奥までひくひくして…京ちゃんのオチンチン欲しいって鳴いてるみたい…♪
きっとこの中にオチンチン入れたら…凄い気持ち良いんでしょうね…♥
ふふ…興味ある?
大丈夫よ、そんなに取り繕おうとしなくても。
男の子なんだもの、エッチな事に興味津々なのは当然よ。
それを私や明星ちゃんで発散してくれている間は怒ったりしないわ。
…え?何を言っているのよ。
だって…私じゃ京ちゃんと結婚出来ないもの。
石戸本家の私と須賀本家の京ちゃんが結婚しちゃったら須賀の血統がなくなっちゃうわ。
だからこそ、お父様も京ちゃんを養子として迎えてもその苗字は変えなかったんだから。
何時か誰かが京ちゃんに嫁いで須賀家を再興させなければいけないのよ。
明星ちゃんが京ちゃんの婚約者になったのだってその為でしょう?
あら…京ちゃんは初耳?
そうよ、石戸分家の明星ちゃんが京ちゃんの婚約者さん。
何時か京ちゃんの子どもを産んでくれるお嫁さんなのよ。
え?私も勿論、産むけれど…それは石戸家の子になってしまうから。
純粋に京ちゃんの子どもを産めるのは世界でただ一人、明星ちゃんだけ。
ちょっと羨ましいけれど…仕方ないわよね。
それに明星ちゃんなら、私も京ちゃんの事を任せられるわ。
何より…私、三人ならとっても幸せな家庭を築けると思うの。
そうよ、三人で。
私と京ちゃんと明星ちゃんで…幸せな家族になるの。
ふふ…とても楽しみ…♥
…あら、明星ちゃんは楽しみじゃないの?
…へぇ、そう。
私がどれだけ欲しくても手に入らないものを持っていて…そんなことを言うのね?
…なら、私も明星ちゃんには容赦しないわ。
…京ちゃん、明星ちゃんを犯して。
大丈夫よ、明星ちゃんは京ちゃんの事が本当は大好きだから。
今だって本当は逃げようと思えば逃げられるのよ?
だって、私、明星ちゃんの太ももなんてもう捕まえてないわ。
明星ちゃんは自分の意思で、京ちゃんに恥ずかしいところを見せてるんだから。
あら、今更、閉じようとしても無駄よ。
もう京ちゃんには分かっちゃったものね?
明星ちゃんが自分で足を広げて、オマンコ見せつけちゃう淫乱女だって事…♥
…だから、遠慮なんて要らないのよ。
壊すつもりで思いっきり犯してあげれば良いの。
明星ちゃんだって本当はそれを望んでいるんだから。
京ちゃんのオナニー見ながら…アソコをクチュクチュして…。
私と同じように京ちゃんの性欲処理に使われる事を想像してたのよ。
さぁ…京ちゃんはその気になったみたいだけど…明星ちゃんはどうする?
あら…分からないの?
このままじゃ…明星ちゃんの未来の夫である京ちゃんが強姦魔になってしまうって事よ。
そうなると大変ね。
京ちゃんはもう学校にいけなくなるわ。
それどころかマトモにお外だって歩けなくなってしまう。
引きこもって…延々と私に甘えてくれる可愛い生き物になってしまうわ。
きっと婚約の話だってなしになってしまうでしょうね。
…あら?それは通用しないわよ。
だって、私自身、それを望んでいるもの。
京ちゃんが私以外の皆に嫌われて…私だけに甘えてくれるようになるなんて最高だわ。
明星ちゃんが黙ってても、私が喜んで口を滑らしてしまうでしょうね。
ふふ…そんなの嫌?
…あら、良いところにカメラがあるわね。
じゃあ、これに向かって…告白して貰いましょうか。
勿論、京ちゃんが好きな事と…これから京ちゃんと望んでセックスする事。
この証拠があれば私が何を喧伝しても無意味でしょうしね。
…さぁ、どうするのかしら、明星ちゃん。
…………もう逃げは許さないわよ?
…えぇ。良いわよ。
ふふ…最高の絵が撮れちゃったわ。
…え?何をモジモジしてるの?
ふふ、ちょっと野暮だったかしら。
良いわよ、私に遠慮なんかしなくても。
思いっきり京ちゃんに気持ち良くして貰って…ってあらあら。
あらあら…京ちゃんのオチンチン突っ込まれた瞬間、イっちゃったのね。
きっと一人でオナニーしてた時もイけなくて焦らされてたんだわ。
足ピーンってさせて…全身でアクメしてるのが分かっちゃう…♥
私でもそこまでなるのに時間が掛かったのに挿入れた途端にアクメしちゃうとか…明星ちゃんは筋金入りの淫乱さんね♪
喘ぎ声も最初から全開で…ふふ、もう恥ずかしいって気持ちそのものが飛んじゃってるのがまるわかりよ。
腕も京ちゃんを抱きしめて…あらあら、早くも涙まで流し始めてるじゃない。
…きっと連続してイきまくってるのね…♥
京ちゃんのオチンチンってばホント凶悪だから…一度、イかされると中々降りてこられないし…♪
このまま延々とイかされ続けて…京ちゃんのメスになるまで撮っていてあげるわ…♥
だから、安心して私と同じところまで堕ちてね…私の大事な明星ちゃん…♥
明星ちゃんも幸せ(意味深)にしたかったけど、時間が足りなかったので加筆。
この後はきっと大好きな霞お姉様と愛する京ちゃんのサンドイッチになって骨抜きになるまで犯されたであろう明星ちゃんにとってはハッピーエンドなはず…!
あ、後、皆さん分かっている事だとは思いますが、このスレは健全なスレです(重要)
なので、>>386の要望には応えたいのですが、時間がないもといここは健全なスレなので難しいですね(棒読み)
それはさておき、ある程度、本編の目処がつきました。
このままなら明後日には投下出来ると思います。
ただ、若干、展開的に気になる…と言うか受け入れられるか不安な部分があるので伸びる可能性もあります。
その場合、またこちらでアナウンスさせて頂きます。
乙乙
仲良いなら問題ないよね!
ふぅ・・・おつ
いやーけんぜんなスレだなー(棒)
乙
ソウココハケンゼンナスレデスネ
明星ちゃん視点も見てみたい
ゾクゾクする
健全なはずのスレで健全な文章読んだだけなのに卑猥な想像した俺は心が汚れているんか…
霞さんエロい
>>1が発散出来て何より。乙です
乙
中学生の婚約者とその姉を使ってのオ○ニーか…実にすばらですね
乙です
乙でーす
乙!これは健全ですね(白目)
ウッ・・・ふぅ・・・・・・
どう見てもKENZENだな(恍惚)
急にKENZENな文章が来たがすばらすぎた
結局こうなるのな
ありがとう・・・それしか言う言葉がみつからない
乙
健全だから、前しっぽがちょっと硬くなっても仕方ないね
やっぱイッチの書く文は健全な方がイキイキしてるね(前かがみになりながら)
[田島「チ○コ破裂するっ!」]だから至って健全ですね(白目)
上司「来ちゃった////」
な状況になってしまいました。
もしかしたら泊まると言い出すかもしれません
その場合、今日の投下は無理になってしまいそうです
申し訳ありません…
これほど嬉しくない「来ちゃった」があろうか
なんて上司だ……
待つ待つ
吐き気を催す邪悪
上司(女性)
上司とのギシアン展開希望
仕方ないね…
糞かよ…
上司「いやー疲れたわ」
「(いや、それなら帰れよ)」
上司「3日寝てないからマジ疲れたわー」
「それなら泊まっていきます?」
上司「いや、帰ってやらなきゃいけない仕事あるしいいや」
上司「でも、疲れたわーマジ疲れたわー」
「(ビキビキ)」
そんな数時間でした。
色々と私を心配してくれてるのは分かるんですが疲れてるんならもう帰ってくれと何度言いたくなった事か…。
とりあえず上司は帰ったので今から見直し再開します。
一時くらいには投下したいです(願望)
お疲れ様でした…
投下楽しみに待ってます!
上司はこの作品の読者で書いているのが>>1だと特定するためにわざわざ押しかけた可能性が微粒子レベルで存在している……?
なんか心配されてるのが気になる
あまり無理しないでくれよ
>>425
あぁ、申し訳ない
心配と言っても私の体調が悪いとかそんなんじゃなくって、私が長期出張そのものが初めてで。
そもそも、この出張そのものが私ではなく先輩が予定されてたのですが、先輩が病で倒れて急遽、私に白羽の矢が立ったのです。
そんな訳なので、別件でこっちの方に出張来る事になった上司がちゃんとやれているか心配して顔を出してくれただけです。
変に心配させて申し訳ない
>>424
ちょっと前までなら開き直れたけど、ちょっと健全な文章書いちゃった今、このスレの存在が上司にバレてたら即首を吊るレベル…!!
あ、そろそろ始めます
―― それからは色々と大変だった。
なにせ、鶴田さんとの決戦までに色んな場所への根回しや説得、その他諸々を終わらせなければいけないんだから。
しかも、鶴田さんに気づかれてはいけないという条件まであるとなれば、時間が足りるかどうかは賭けになる。
小蒔さんや春に手伝ってもらえたお陰で何とか時間は足りたが、かなりギリギリだった。
お陰で逃げるように帰ったわっきゅんを追いかけたりは出来なかったけど…仕方ない。
既に多くの人を巻き込んでしまっている以上、自分の都合でやっぱりなしで、なんて出来ないしな。
姫子「…須賀さん」
京子「鶴田さん…こんばんは」
小蒔「こんばんは、姫子ちゃん」
春「…こんばんはです」
姫子「ん。こんばんは」
姫子「…と言ってもさっきまで一緒に合宿やっとった訳ばってん」
京子「気分的な問題ですよ」
京子「これから真剣勝負をすると言うのにさっきぶり、と言うのも何となく締まらない話でしょう?」クスッ
しかし、それが俺にとって緊張の源となっている。
今だって、俺はちゃんと鶴田さんに笑えているか定かじゃない。
一応、【須賀京子】は維持出来ていると思うんだが、はたしてそれが平静に見えているかどうか。
今の俺には彼女に気取られない為にも、そうである事を祈るしかない。
姫子「確かに…そいかもしれんね」
姫子「ばってん、小蒔ちゃんや春さんには…」
京子「既に伝えてありますよ」
春「…大丈夫です。私達も本気でやりますから」
小蒔「は、はい。大丈夫ですよ!」
姫子「…?」
京子「あぁ、小蒔ちゃんはちょっと緊張してるんですよ」
京子「昨日みたいに遊びじゃなく本気で勝ちに来る鶴田さんとの真剣勝負だなんてインターハイとそう変わらないものですから」
姫子「…そいなん?」
小蒔「は、はい。そうです」カチコチ
京子「それよりほら、時間が勿体無いですし…早く打ちましょう?」
京子「私ももうウズウズしてるんですから」
姫子「…分かったばい」
…事前準備が整った…とは言っても、鶴田さんは紛れも無く強敵だ。
正直な話、どれだけ俺に有利な条件でも五分に持ち込むのが限界だろう。
勝てれば大金星と言っても良いような相手…だけど、今の俺はどうあっても負ける訳にはいかない。
この勝敗によって左右されるのは決して俺の財布の中身だけじゃないんだから。
京子「(まさか地方予選前にこんな強敵相手に『勝たなきゃいけない麻雀』をする羽目になるなんてなぁ)」
京子「(こうして改めてそれを認識すると腹の奥にずっしりと重いものを感じる)」
京子「(やっぱり…一人で何も背負わずに麻雀するのとは全然違うな)」
京子「(こうして椅子に座っているだけでも息苦しさを感じるくらいだ)」
京子「…………ふぅ」
春「…大丈夫?」
京子「えぇ。大丈夫よ。ごめんなさいね」
姫子「須賀さんも緊張しとると?」
京子「勿論ですよ。だって、野口さんが掛かっている訳ですし」
小蒔「野口さん?」キョトン
京子「1000円札の事よ。私が負けたらハーゲンダッツを4個買わなきゃいけないから」
小蒔「あ、なるほど…そういう事なんですね」
姫子「私が勝ったら小蒔ちゃんや春さんにも分けてあげるばい」
小蒔「えっ、良いんですか!?」パァ
春「…やった」
京子「ちょ…ば、買収とかやめてくださいよ」
姫子「買収とか人聞きが悪か。そもそも賞品のハーゲンダッツ独り占めする方が意地悪か話やなかと?」
姫子「そもそもハーゲンダッツはちびちび食べるもんたい。明日の昼に発つ私が4個も貰っても食いきれんばい」
なるほど…そもそも最初から皆に配るつもりだったのか。
一人で4個は流石に多いんじゃないかな、と俺も思ってたけど、それなら納得だな。
…まぁ、問題はその出資者が鶴田さんじゃなく、俺である、という点なんだけれども。
京子「じゃあ、私の分とかは…」
姫子「あると思ってると?」ニッコリ
京子「ですよね…」
小蒔「だ、大丈夫ですよ、京子ちゃん!」
小蒔「私の分を半分こしてあげますから!」
京子「小蒔ちゃん…嬉しいけど、それ私が負けるのが前提なのは分かってくれているかしら?」
小蒔「はぅ!?」
姫子「ふふ、つまり小蒔ちゃんもこっちの陣営って事たいね」
小蒔「え、えとえと、それは…」
京子「結局、買収じゃないですか…!」
姫子「失礼な。高度な情報戦と言って欲しいたい」
春「現代における戦いで最も重要なのは空戦でも海戦でも陸戦でもなく情報戦。…それに負ける方が悪い」
姫子「うんうん。春さんが今、良い事言うたと」
京子「だからって開始前に買収しようとするなんて酷くないですか?」
姫子「だけん、買収じゃなかよ。そいにこれも立派な戦術って奴たい」
京子「…ぬぐぐ」
春「…それじゃ悔しがる京子の顔を見ながらサイコロを…」カチッ
コロコロ
春「…私が起親」
京子「と言う事は私が最後の親ですか…」
小蒔「え、えっと、京子ちゃん頑張って下さいね」
京子「えぇ。大丈夫よ。あんな卑怯な真似をする鶴田さんには決して負けはしないわ…!」キリッ
…とまぁ格好つけたものの…だ。
正直なところ俺が鶴田さんに勝てる要素と言うのはゼロに近い。
そもそも彼女は全国でもトップクラスの実力を持つ女子高生雀士なんだ。
初めて一年 ―― それも不要牌を引くなんてデメリットしかない能力を持ってる俺が及ぶような相手じゃない。
どう逆立ちしたって、鶴田さんから一勝をもぎ取るのは不可能と言っても良いだろう。
―― …だけど、それは逆に言えば逆立ち以上の事をすれば一勝くらい可能性はあるって事だ。
春「…リーチ」スッ
姫子「っ…」
京子「(…鶴田さんは大分、春を警戒してるな)」
京子「(当然か。春は親な上に、数巡目からリーチ宣言だもんな)」
京子「(点数はそれほど高くはないだろうけど、親からの直撃は痛い)」
京子「(半荘もあるから挽回は効くとは言え、立ち上がりで躓くのは避けたいってところだろうな)」
京子「(攻撃寄りの雀士ならそれでもガンガン行くだろうけど…やっぱり鶴田さんは防御寄りの雀士なのか)」
京子「(公式戦の牌譜とか見るとデカイ手をどんどん和了っているから攻撃寄りと思ったけれど…)」
京子「(こうして一緒に打ってる限り、彼女はとても手堅い雀士だ)」
京子「(攻めるべきところは攻めるけど、可能な限り失点を避けようとする傾向が強い)」
京子「(それでアレだけ大きな手を和了るのは彼女自身が持って生まれた天運か、或いはオカルトか)」
京子「(俺には分からないけど…どっちでも羨ましいな)」
京子「(…俺にそんな力があればまた違ったんだろうに)」
まるで天から祝福されたような豪運が欲しい訳じゃない。
だけど、もし、人並みの運か、或いはそれを補助するようなオカルトがあれば俺の戦い方はまた変わっていただろう。
こんな回りくどい事をしなくても…鶴田さんと真正面からぶつかる事が出来たはずだ。
去年のインターハイでもトップクラスに強い人と真剣勝負が出来る事を俺は心から喜ぶ事が出来ただろう。
京子「(…だけど、今は…あぁ、今だけは)」
京子「(このふざけた力が俺にある事を感謝したい)」
京子「(これがあったから俺は苦しんだ。涙を飲んだ。歯噛みした)」
京子「(だけど、この力がなかったら俺は鶴田さんに一片の勝機も見いだせなかっただろう)」
京子「(逆立ちしたって、天地がひっくり返ったって…世界が味方になったって)」
京子「(今の俺が鶴田さんに勝てる未来なんて何処にもなかったはずだ)」
京子「(…だけど…今は…『今ならば』…その勝機はある)」
姫子「…っ」
鶴田さんの表情が緊張を浮かべるのは、そろそろ流局間近だからだろう。
結局、春は和了る事はなく卓上は流局へと流れ込もうとしている。
勿論、俺の河はヤオチュウ牌で染め上げられ、数巡後には流し満貫も完成するはずだ。
流石に一局目から満貫をツモられるのは鶴田さんにとっても痛いだろうが…しかし、彼女に俺を止める術はない。
俺の河からヤオチュウ牌を引っ張っていく弾もなければ、テンパイすら出来ていないのは分かっているんだから。
京子「(本来なら鶴田さんほどの雀士がそんなミスを犯すはずがない)」
京子「(だが、春のリーチが…彼女の意識を切り替えさせた)」
京子「(下手に攻めるよりもまだ数巡目で待ちも殆ど分からない春の直撃を回避した方が良い)」
京子「(ましてや最序盤にリーチを掛けるのだから、和了の目処があるはずだ)」
京子「(春の実力をおおよそ把握している鶴田さんは恐らくそう考えたはずだ)」
京子「(そんな彼女にとって流局間近にまで雪崩れ込むのは予想外)」
京子「(だが、ここまで和了らなかった春の待ちは相変わらず分からず、下手に攻めっ気を出す訳にはいかない)」
京子「(前門の春、後門の俺…とまではいかないけれども)」
京子「(だが、今の彼女にとって、この状況がとても苦しいのは確かだ)」
不可解な春の待ち。
迫る流局と流し満貫の危機。
俺と賭けをしているというプレッシャー。
それら一つ一つは決して大きいものではないだろう。
だが、3つも重なれば百戦錬磨の鶴田さんに緊張の表情一つを浮かべさせる事が出来る。
勿論、俺の目的は1位になる事であり、彼女を緊張させる事ではない。
終局するその時まで油断も慢心も出来ない強敵だ。
しかし、ここまで好条件が揃って、一局目を落とすほど俺も愚かな男ではない。
小蒔「ノーテンです」
姫子「…ノーテン」
京子「ノーテン…ですけど流し満貫成立ですね」
姫子「…ちょっと待って」
京子「どうしたんです?」
姫子「春さんの手、まだ見せて貰っとらんたい」
姫子「テンパイなのは分かっとるばってん…見せて貰っても良かと?」
春「…大丈夫です」スッ
姫子「…っ!」
そこで鶴田さんの表情が変わるのは春の手が予想外…いや、ある意味では予想通りのものだったからだろう。
彼女の手はオーソドックスなタンピン系、それに赤ドラを絡めたものだった。
待ちも広く、狙いを絞りづらいこんな手を最序盤に張られたら、大抵の人が振り込んでしまうだろう。
実際、小蒔さんの河を見れば、春の和了牌を打ち出している事が分かる。
それでも春が和了る事はなかったのは… ――
姫子「…………須賀さん?」
京子「あら、どうかしました?」
姫子「…やってくれるたい」
京子「ふふ、なんの事かまったく分かりませんね」
京子「ただ…まったくなんの事かは分かりませんけれど…」
京子「…こういう時は高度な情報戦の結果だとそう言えば、宜しいのですよね?」ニッコリ
…そう。
既に春と小蒔さんには話がついている。
今、この時だけ俺の援護をして欲しいと、俺を1位にならせて欲しいと…そんな情けない俺の頼みを二人は聞き入れてくれたんだ。
勿論、麻雀に対して真摯な小蒔さんは難色を示していたし、春も決して乗り気とは言えなかったけれど…。
これも鶴田さんの為だと説得する俺の言葉に負けて頷いてくれたんだ。
姫子「ひ、卑怯者…」
京子「あら、卑怯だなんて…嬉しい事を言ってくれますね」
京子「良い勝負をするって何だったと…?」
京子「誰にとっての良い勝負とまでは言っていませんでしたし…」
京子「それに私は他の人の手を借りない、だなんて言いましたっけ?」ニッコリ
姫子「完全に悪役のセリフやなかと!?」
京子「ふふ、これも戦術って奴なんじゃありませんでしたっけ?」
まぁ、ぶっちゃけて言えば、こうでもしない限り俺に勝機はない。
俺が鶴田さんに勝てるとすれば、流局時に成立する流し満貫を複数回決める事だけなのだから。
だが、元々、成立しにくい役である流し満貫を何度も決めるのはそれに向いたオカルトを持っていても至難の業だ。
鶴田さん以外の二人が協力してくれてようやく可能性が見えてくるようなレベルだろう。
京子「ただ、二人の事は恨まないでくださいね」
京子「私が二人に無理に、と頼み込んだんです」
京子「悪いのは私だけで二人は巻き込まれただけですから」
小蒔「ち、違います。京子ちゃんは姫子ちゃんの事を思って…」
京子「小蒔ちゃん」
小蒔「…でも」
京子「良いのよ。どんな理由があっても私が真剣勝負を汚した事に違いはないわ」
京子「最後の最後でこんな騙し討をするなんて…最低な行いよ」
…俺だって本当はこんな事をしたくはなかった。
鶴田さんとの麻雀は楽しいし…何より彼女には返しきれない恩義があるんだから。
そうじゃなくてもこんなイカサマのような真似をして真剣勝負を汚した時点で俺は雀士として失格だ。
これからどれだけ言い訳し、鶴田さんの為に動いたとしても、その罪は決して消えないだろう。
……だけど、それでも俺にはどうしてもこの勝負に勝たなければいけない理由があった。
京子「……色々、言いたい事はあると思います」
京子「ですが、これが終わるまで待ってはくれませんか?」
京子「その後でならば、私の事をどれだけ詰ってくださっても構いません」
京子「その全てを甘んじてお受けします」
京子「ですから…」
姫子「…まったく」
姫子「そぎゃん事言われたら責める気もなくなるたい」フゥ
京子「鶴田さん…」
姫子「まぁ、そもそも突然、あんな形で勝負ば申し込まれた時点でおかしかと思っとったばい」
姫子「自分で勝算がなか…と言う割りにはハーゲンダッツ4個って言う賞品ば受け入れたし」
姫子「何か勝算がある…とは思っとったよ。流石に二人ば味方につけるとは予想外だったばってん」
京子「ごめんなさい…」
姫子「構わんたい。須賀さんは悪意からこぎゃん事したとは思っとらんし」
姫子「…そいにまだ私は負けたつもりなかとよ?」ゴゴ
京子「…っ!」ゴクッ
その言葉は決して強い語気が篭っているものではなかった。
まるでなんでもない雑談をしているようなその言葉に、しかし、俺の背筋は冷たいものを感じる。
それは彼女のその言葉が決して強がりでもブラフでもない事が伝わってくるからだろう。
確かな実力に裏打ちされたが故の迫力に俺の喉が生唾を飲み込んだ。
姫子「謝るのは須賀さんの企みが成功して私に勝った後でも良か」
姫子「そいまでは敵同士たい。そぎゃん言葉は要らんと」
姫子「そいよりも手加減なしの全力でぶつかって来てくれた方が嬉しか」
京子「…良いのですか? 一応、三対一なんですよ?」
姫子「ばってん、須賀さんの勝利条件は須賀さんが1位になる事たい」
姫子「つまり須賀さんさえ抑えれば私は勝つ事が出来ると」
姫子「何より…須賀さんは自身の能力で和了が制限されとるけん」
姫子「他家からの振込も出来んって事は、実質一対一と殆ど変わらんたい」
京子「…流石ですね」
どうやらこっちの苦しい事情は鶴田さんにはお見通しであったらしい。
彼女の言うとおり、これは三対一…と言うよりは変則的な一対一と言った方が正しいだろう。
小蒔さんや春は俺に味方してくれているので圧倒的に俺の方が有利になってはいるが、それでようやく互角になれているかどうか。
素の雀力に大きな開きがありすぎる所為で、これでようやく勝機が見えてきたってところだ。
姫子「油断したけん、最初は和了られたと。ばってん…次からはそうはいかんたい」
姫子「須賀さんの対策はもう頭の中に入っとるし、足さえ止めればこっちのもんと」
姫子「1万点差くらいすぐにひっくり返して逆転するばい!」
春「無駄な抵抗…この完璧な布陣が破られるはずがない」
春「この戦い…私達の勝利だ…」
変なフラグを立てるのは止めてください。
小蒔「え、えっと…良く分かりませんけど…鶴田さんには負けませんよ」
小蒔「京子ちゃんの為にも今日は絶対に勝たせてもらいますから!」グッ
春「…姫様、勝っちゃダメです」
小蒔「あわわ…!え、えっとそれじゃあ…」
小蒔「き、京子ちゃんに勝ってもらいますから!」
姫子「ふふ、須賀さんは責任重大たいね」
京子「…えぇ。本当に」
京子「本来ならば…楽しいはずの時間を私が台無しにしているようなものですから」
京子「…故に私は負けられません」
京子「絶対に…負ける事が出来ないんです」
姫子「…ばってん、言葉だけじゃなんとでも言えるたい」
姫子「そい以上、語るのはこっちで良かと」カチッ
京子「…そうですね」
俺が宣戦布告した以上、俺と鶴田さんは今、敵同士なんだ。
これ以上、相手に掛ける言葉は必要ないだろう。
今はそれよりも一打一打に気持ちを込めて勝利へと進む方が何より大事だ。
言葉を尽くすのは全てが終わった後でも構わないんだから。
京子「(でも…)」
姫子「…ポン!」
京子「(俺の白が…!!)」
京子「(くそ…やっぱり新道寺のエースってだけの事はある…!)」
京子「(これだけ俺にとって有利な条件なのに…ホント強ぇ…)」
京子「(さっきからこっちを牽制しながらドンドン和了っていってる)」
京子「(春や小蒔さんが殆ど和了らないから流局までゆっくりと手を組めるとは言え…)」
京子「(ここまで和了は殆ど鶴田さんばっかりだ)」
京子「(まだ点数が低いだけに逆転はしていないけど…)」
京子「(グイグイ点差が詰められてきてる…!)」
京子「(正直なところ…かなり怖い)」
京子「(ジワリジワリとまるで追い詰めるように鶴田さんが迫ってきて…)」
姫子「…ロン。2900」
春「…はい」
京子「っ…!」
京子「(また点差が縮まった…)」
京子「(幾ら点数が低いとは言え…これはやばい)」
京子「(今度、俺に同じのが直撃したら…逆転される…!)」
京子「(そうなったら…終わりだ)」
京子「(鶴田さんが逃げ切る態勢に入ったら…俺じゃ追い切れない…)」
京子「(…何とか…何とかこの局は取らなきゃ…)」グッ
京子「(流し満貫成立させて…またリードを広げないと…)」
京子「(…………でも…)」
姫子「…」ゴゴ
京子「(俺に出来るのか?)」
京子「(これだけ好条件が揃っていても…俺は一局目以外、流し満貫なんてまったく作れてないんだ)」
京子「(さっきから鶴田さんに完全に押さえ込まれてしまってる…!)」
京子「(…鶴田さんが強いのなんて…分かってた。分かってた…けど…)」
京子「(真剣勝負を汚された所為か、或いはハーゲンダッツの所為か)」
京子「(今の彼女は…俺の想像以上に…強い…!)」ゴクリ
胸の奥から沸き上がる焦燥感は今、最高潮に達していた。
圧倒的に俺に対して有利な状況、だが、それがどうしたとばかりに鶴田さんは点差を詰めてくる。
それをただただ眺めるしかない俺が冷静でいられるはずがない。
和了らなきゃいいけない、そう考える一方で…『鶴田さんには勝てない』という声が俺の中で大きくなっていく。
京子「(くそ…!今更、何考えてるんだよ…!)」
京子「(鶴田さんが強いなんて最初っから分かりきってた事だろ…!)」
京子「(そもそも負けるのなんて別に今に始まった事じゃないじゃないか…!)」
京子「(今まで数え切れないほど俺は負けて…悔しがってきただろ…!!)」
京子「(なのに……なのに…なんで…)」
京子「(こういう時に限って…!負けられない時に限って…!…目に見える敗北が…怖いんだよ…!!)」
その無力感は恐怖へと繋がっていく。
多くの人の想いを背負い、敗北を許されないそれは…まるで鉛で出来た枷のように俺の手足を縛っていた。
山から牌を拾ってくるだけでも億劫なその重さは今の俺が敗北と言う目に見えた未来に怯えているからなのだろう。
京子「(今までどれだけ大敗しても悔しいだけで楽しかった…)」
京子「(でも…今は楽しいなんて…そんな事一瞬だって思う余裕がない…)」
京子「(怖い、恐ろしい、勝てない…)」
京子「(頭の中がそればっかりで埋め尽くされていく…)」
京子「(これだけ多くの人を巻き込んで…お膳立てまでしてもらってるのに…!)」
京子「(俺はさっきから…負ける事しか考えてねぇ…!)」グッ
京子「(それが…悔しい…!)」
京子「(自分が弱い事が…麻雀が弱い事が…)」
京子「(悔しくて悔しくて堪らないのに…俺は…!!)」スッ
姫子「……ポン」
京子「あ…」
京子「(鳴…かれた…)」
京子「(俺…今、何を考えてた?)」
京子「(いや…何も考えてなかった…)」
京子「(今のは…決して回避出来ない鳴きじゃなかったのに…俺、馬鹿みたいに素直に打ち出して…)」
京子「(くそ…勝てないなら勝てないで頭動かさなきゃダメだろ…!)」
京子「(俺は凡人以下の実力しかないんだ…!皆に協力して貰ってようやく鶴田さんに追いすがれてる状態なのに…!)」
京子「(勝てないとか…怖いとか思う暇があったら1手2手先を読むべきだっただろ…!)」
京子「(…なのに…俺はさっきから何をやってるんだよ…!!)」
春「…………」
小蒔「……京子ちゃん、怖いですか?」
京子「…っ!」ビクッ
瞬間、聞こえてきた声に俺の肩が微かに跳ねた。
それはきっとどうにもならない現状に怯えている自分を絶対に知られたくない相手に気取られてしまったからだろう。
別に自分が常日頃から格好良いつもりはないけれど…まるで子犬のように【須賀京子】の事を慕い、凄いと言ってくれる彼女にはこんな姿は見せたくなかった。
小蒔「…やっぱりそうなんですね」
京子「ち…違うの。これは…」
小蒔「いえ、良いんですよ」
小蒔「誰だって負けるのは怖いんですから」
小蒔「私だって…毎回、怖いです」
小蒔「…霞ちゃん達を麻雀に巻き込んだのは私ですから」
小蒔「公式戦の度にマイナスで終わったらどうしようって…何時もそう考えてます」
京子「小蒔ちゃん…」
…小蒔さんがそんな事を考えているだなんて俺はまったく知らなかった。
だって、彼女は何時だってのびのびと楽しんで麻雀をしているイメージがあったから。
先鋒と言う各校のエースが集まる場所でも楽しそうに打つ彼女からはその言葉は想像出来ない。
小蒔「ふふ…意外ですか? でも、本当の事ですよ」
小蒔「私だって朴念仁じゃないんですから色々、考えます」
小蒔「去年は…特にそうだったですね」
小蒔「団体戦は強い人が一杯で…私がもっと先鋒で頑張っていたら霞ちゃん達も楽だったのにって…」
小蒔「後から…沢山、後悔しました」
…だけど、ポツリポツリと1つずつ漏らすようなその声が嘘とは到底、思えない。
清澄と当たった準々決勝…そこで敗退した小蒔さんにとってそれは苦い思い出だったのだろう。
何処か悲しげに呟く彼女の表情から察するに…きっと思い返すだけでも辛い思い出なのだ。
だが、それを小蒔さんは俺の為に思い出し…そして語ってくれている。
小蒔「…ですが、私は麻雀を楽しんで打つ事が出来ています」
小蒔「怖いですけど…恐ろしいですけど…でも、私は麻雀が楽しいですよ」
小蒔「…それがどうしてか分かりますか?」
京子「…小蒔ちゃんが強いかしら?」
小蒔「いいえ。私は強くなんかありません」
小蒔「私は…ただ霞ちゃん達を信頼してるだけなんです」
京子「…信頼?」
小蒔「はい。私がダメでもきっと霞ちゃん達が何とかしてくれるって」
小蒔「きっと全力を出し切って、勝ってくれるって」
小蒔「そう信じていたからこそ…私は先鋒で戦い抜く事が出来たんです」
小蒔「それはきっと…霞ちゃん達も同じだったはずです」
小蒔「私なら先鋒でも勝てるって…いえ…勝てなくても全力を尽くしてくれるってそう信じてくれていたんだと思います」
小蒔「…だから、その為に私は全力を…いえ、全力以上を尽くすんです」
小蒔「私は弱いです。本当は…きっとあんな大舞台にいけません」
小蒔「でも、そんな私を支えてくれた皆の為に」
小蒔「私を信じてくれている多くの人の為に」
小蒔「私はどんな時だって…全力を尽くします」
姫子「……」
小蒔さんは強くないと言ったけれど…十分過ぎるくらい強い人だ。
誰だってそんな風に考える事が出来るとは限らない。
その信頼が重さにしか思えなくて…潰れてしまう奴って言うのも世の中にはいるのだ。
実際、俺がそうであっただけに…今の彼女がとても眩しく思える。
京子「……小蒔ちゃんは本当に強いのね」
小蒔「いいえ。私だって…霞ちゃん達が…信頼出来る人達が側にいなかったら、そんな風には考えられません」
小蒔「ですから…京子ちゃんにも私達の事を信頼して欲しいんです」
京子「…小蒔ちゃん達を…信頼?」
小蒔「はい。確かに今は苦しいかもしれません。辛いかもしれません」
小蒔「…ですが、京子ちゃんの側には私達がいます」
小蒔「その重さを分かち合える人達がいます」
小蒔「ですから…私達の事をもっと頼ってください」
小蒔「京子ちゃんが全力を出し切れるように」
小蒔「どんな結果になっても…終わった後で笑えるように」
小蒔「私達の事を信じて欲しいんです」
京子「…………」
……信じる…か。
そうだな…俺にはそれが足りなかったのかもしれない。
上手く出来過ぎて…何もかも自分で出来るって勘違いした挙句、潰れた中学時代。
俺の都合に巻き込んだ負い目から、責められているとしか感じなかった今。
どちらの俺も側にいてくれている人たちの事を信頼してる…なんて口が避けても言えないだろう。
京子「(…勿論、信用とは違って信頼なんてすぐさま出来るもんじゃない)」
京子「(長い年月を掛けて、少しずつ…心の中で形成されていくのが信頼って奴だ)」
京子「(…でも…小蒔さん達と出会って…もう半年だ)」
京子「(その間…色んな事があって…でも…俺は皆の手を借りて乗り越えてきて…)」
京子「(……少しは信頼しても良いのかもしれない)」
京子「(二人なら例え、ここで負けても…俺は全力を尽くしたのだと分かってくれるって)」
京子「(逆転されても諦めずに俺の事を最大限サポートしてくれるって…)」
京子「(情けないところを見せても全力でやれば、幻滅しないんだって…)」
京子「(そう信じても…良いのかもしれない)」
そう思った瞬間、胸の奥が少しは軽くなった。
焦燥感もスゥと引いていき、頭の中に冷静さが戻ってくる。
勿論、今が俺がトップを維持出来るか否かの瀬戸際である事に疑う余地はない。
鶴田さんに鳴かれてしまった以上、この局で俺が和了るのは不可能になった。
だが、その状況認識は最早、俺を焦らせるものではなくなっている。
京子「(口ではなんとでも言える…本当に鶴田さんの言う通りだったな)」
京子「(俺はきっと何も分かってなかったんだ)」
京子「(何かを背負うと言う意味、誰かに託される重さ)」
京子「(勿論、今だって…それら全てが分かっているとは言いがたいけどさ)」
京子「(でも…今の俺には少しだけ分かる)」
京子「(負けられないって言うのは…その重さを…信頼を…力に出来て初めて言える事だったんだ)」
京子「(ただ重荷なだけじゃ…それは自分を追い詰めているだけ)」
京子「(…それじゃあ本当に信頼を受け止められているなんて言えないよな)」
勿論、俺だって決して何も考えずにそれを口にしていた訳じゃない。
あの瞬間の俺は本当に心から鶴田さんには負けられないと、この戦いは絶対に勝たなければいけないとそう思っていた。
だが、自分を追い込み、雁字搦めにするだけの言葉に、一体、何の意味があるだろうか。
それはただヘタレな男が精一杯、強がって強い言葉を使っていただけ。
春「…………京子」
京子「春ちゃん」
春「…もう良いの?」
京子「えぇ…待たせたわね」
京子「…私はもう大丈夫よ」
春「…そう。良かった」
春「……それなら遠慮しないで良さそう」
京子「…え?」
春「……姫様」スッ
小蒔「はい。それロンです」
小蒔「5200ですね」
春「…はい」
京子「…あ」
春から小蒔さんへの振込。
それに俺が情けない声をあげたのはまったく予想だにしない動きだったからだ。
そもそも俺が春や小蒔さんに頼んでいたのは俺に対する和了放棄だけだったのだから。
幾ら俺が図々しかったとしても、ここまでの事は頼めない。
春「…京子への振込が出来なくても姫様への振込は出来る」
春「逆に姫様から私への振込も」
春「そうやって局を進めれば、京子が1位のままに麻雀を終わらせられる」
姫子「そ、そいはちょっと卑怯やなかと?」
春「……私も流石にこれは卑怯過ぎると思います」
春「ですから…最初はこんな事するつもりはありませんでした」
春「でも、京子と通じている時点で今更です」
春「昨日、京子の提案に頷いた以上、私達が考えるのは体面を取り繕う事じゃなく…京子をどうあっても勝たせる事」
春「…それに気づくのに少し時間が掛かりましたけど…これ以上、京子を苦しめさせない為にも…これからは全力でサポートします」
春「…良いよね?」
京子「…うん。お願いするわ」
京子「鶴田さんはそうやって手段を選んでいられるような相手じゃないから」
姫子「か、過大評価やなかと?」
京子「ふふ、そんな事ありませんよ」
京子「今だって本当に怖いんですから」
春が完全にこっち側についてくれたと言っても…相手は新道寺のNo1。
文字通りの意味で本物のエースが相手なのだから、これでも油断は出来ない。
鶴田さんの実力はこの中でも頭ひとつ飛び抜けているんだから尚更だ。
京子「何より…春ちゃんの言う通りです」
京子「和了放棄なんてふざけた事をお願いしている以上、卑怯云々を気にするべきではありませんでした」
京子「既に私はこれ以上なく悪い女なのですから…全力でその道を歩んでいくべきだったのです」
姫子「そ、そぎゃん開き直りは色々と危なかよ?」
姫子「そいに…まだ戻ってこれると。私は気にしとらんし…」
京子「…ありがとうございます。鶴田さんは優しいんですね」
京子「その優しさに甘えて…謝るのは勝った後にさせていただきます」ニッコリ
姫子「う…」
まぁ、ぶっちゃけそれは開き直りだ。
正直なところ、まだここまでやって良いのかって気持ちはなくなっちゃいない。
鶴田さんの為って大義名分があるとは言え、やってる事は下衆の極みだしな。
少年漫画で言えば、悪役も良いところだろう。
京子「(…でも、そんな事に春や小蒔さんを巻き込んだ時点で俺がそれを気にする資格はない)」
京子「(どんな手段を使っても、このまま1位を堅守する)」
京子「(後悔したり、謝ったりするのはその後だ)」
京子「(今の俺に出来る事は…自分の体裁を取り繕う事じゃなく、春や小蒔さん達の気持ちに応えて勝つ事なんだから)」
京子「(…なーんて開き直った所為かな)」
京子「(…さっきから手が大分、軽い)」
京子「(ヤオチュウ牌がさっきからポンポンと入ってきてくれてる)」
姫子「く…」
京子「(…逆に鶴田さんは辛そうだ)」
京子「(当然か。幾ら彼女だって俺をずっと抑え続けるなんて出来るはずがない)」
京子「(俺から鳴くには、その為の牌を準備して抱えておかなきゃいけないし、手が大分、窮屈になる)」
京子「(どれだけ鶴田さんが上手くたって一人で延々と俺の流し満貫を止められる訳がないんだ)」
京子「(まぁ、さっきまでの俺はそんな簡単な事にさえ気づけてなかったけど)」
京子「(でも…今はそれに気づく余裕がある)」
京子「(それもこれも…春や小蒔さんが側にいてくれているからだ)」
二人が俺に齎すのはこんな俺の事を肯定してくれた、と言う安心感だけじゃない。
小蒔さんや春が相互に和了ると言う事は鶴田さんに多大なプレッシャーを与えるんだ。
今までのように流局までにゆっくりと手を作る…と言う風にはいかない。
二人が和了る分、スピードも重視しなければいけないんだから。
京子「(結果、鶴田さんが俺から鳴くのは難しくなる)」
京子「(今までのように俺から出るヤオチュウ牌をじっくり待つって訳にはいかない)」
京子「(それよりも早和了を目指さなければ二人に追いつくのは無理だ)」
京子「(…だが、幾ら鶴田さんが実力ある雀士でもずっと自分だけが和了続けるのは難しい)」
京子「(相手は二人掛かりだし…何より春はその手のエキスパートなのだから)」
春「…ロン、1300」
小蒔「はい」
姫子「…っ…」
京子「(差し込みや差し込ませる事に関しては春は間違いなくインターハイの中でも屈指のプレイヤーだ)」
京子「(そんな彼女と小蒔さんが協力してるんだから…一人では中々、追いつけない)」
京子「(そして…それが鶴田さんのプレッシャーになっていく)」
さっきの俺と同じく、鶴田さんは一局毎に少しずつ敗北へと近づいていっているのを感じているのだろう。
春の和了に歯噛みするような彼女の表情は今までにないものだった。
二人のお陰で後半戦に入った卓を前にして鶴田さんも焦りを感じてきている。
そんな彼女を見ると心苦しいが、さりとてここで手心を加える訳にはいかない。
二人の協力があってようやく勝機が見えてきたとは言え、俺のすぐ後ろに鶴田さんがいる事に疑う余地はないのだから。
何より… ――
京子「(…去年のインターハイを見る限り、鶴田さんは大きな手を唐突にドカンと和了る雀士だ)」
京子「(今回の合宿ではあまりそういう姿が見ないけれど、警戒しすぎるに越した事はない)」
京子「(そもそも5000ぽっちの点差じゃ、あってないようなもんだからなぁ)」
京子「(直撃一つで消し飛ぶ事を思えば、油断や慢心はご法度だろう)」
京子「(……だけど…)」
姫子「…………」トン
京子「(…鶴田さんの打ち方は少しずつ変わってきた)」
京子「(細かく刻むんじゃなくて、大きい手を狙い始めてる)」
京子「(でも…それは大きな賭けだ)」
京子「(春や小蒔さんの配牌がよっぽど悪くなければ、大物手は中々、完成しない)」
京子「(ダブルリーチ出来るほどの速攻ならばまだしも大物手はそれだけ重くなるし、狙いもわかりやすくなる)」
京子「(正直なところダマでタンピン系を張られた方がよっぽど怖いだろう)」
京子「(ただ…一つだけ確かなのは…)」
京子「(鶴田さんが…未だ諦めてはいないと言う事だ)」
京子「(終盤も終盤に来て…もう局なんて殆ど残っていないのに)」
京子「(それでも…鶴田さんはまだまだ負けるつもりはないらしい)」
それはエースとしての意地か、或いは手酷い裏切りを見せた俺への対抗心なのか。
どっちかは俺には分からない。
だが、鶴田さんが焦りながらも、決して勝利を諦めていない事はこうして見ているだけで伝わってくる。
俺と同じく追い詰められながらも、しかし、決して押し潰されては居ないその姿は間違いなく格好良い。
敵同士でさえなければ、心から賞賛したくなるくらいだ。
けれど…格好良いからと言って、それが確実に成果を出せるかと言えば…決してそうではないのである。
春「…ロン。2600です」
小蒔「はい」
春「…これで終局」
小蒔「ですね。お疲れ様でした」
姫子「…うぅ…負けたばい…」ドサッ
京子「…正直なところ、勝った気はしませんけどね」フゥ
そう言いながら肩を落とす俺の胸の中に達成感らしきものはなかった。
それどころか勝った実感すら浮かんでこないのは俺が後半、ひたすらに逃げ続けていたからだろう。
一応、1位にはなったとは言え、それは決して実力でもぎ取ったものではない。
もう少し時間も経てばまた変わるのかもしれないが、少なくとも今は疲労感を強く感じる。
姫子「こっちも結構、疲れたと」グテー
京子「……それじゃあ、ちょっと休憩にしますか?」
姫子「ん…そうして欲しいばい」
春「…それじゃ私と姫様がお茶淹れてくる」
小蒔「そうですね。私達はそれほど疲れている訳じゃありませんし」スッ
京子「…ありがとう。二人共お願いね」
本当は二人に協力してもらった俺が動くべきなんだろうけどなぁ。
ただ、今、俺は鶴田さんの前から離れる訳にはいかない。
これ以上無く卑怯な真似をして俺の勝ち、と言う形で決着がついた以上、俺は鶴田さんから恨み事の一つも聞かなければいけないのだから。
それは決して春や小蒔さんには譲れない…俺が責任持ってしなければいけない仕事だ。
春が小蒔さんを巻き込むようにしてこの場から離れたのも、きっとそれが分かっているからこそなのだろう。
京子「…その…鶴田さん…」
姫子「……」
京子「…ごめんなさい」ペコリ
姫子「……」
京子「何を言われても仕方のないような…そんな最低な行いだったと思います」
京子「…最後の勝負を汚すような真似をして申し訳ありませんでした」ペコッ
姫子「……」
…まぁ、そう簡単に許しては貰えないよなぁ。
どれだけ言い訳しようとも、俺が三人がかりで鶴田さんをはめた事実は変わらない。
終わるギリギリまで本気で勝ちを狙いに行っていた彼女からすれば、それは侮辱にも等しい行為だ。
春や小蒔さんがいなくなった今、口も利きたくない…と思うのもごく当然の事だろう。
京子「…今、この場で私に出来る事は…ただただ謝罪する事だけです」
京子「ですが…鶴田さんの気が済むのであれば…私を如何様にしてくださっても構いません」
京子「許しを頂けるのであれば、出来る限りの事をさせていただきます」
姫子「…………しろくま」
京子「え?」
姫子「しろくまって奴が食べたか」
姫子「…後で買ってきてくれたら許す」
彼女の言葉は拗ねるような色が若干、強いものだった。
きっと俺のやった事を完全に許してくれた訳じゃないんだろう。
だけど…それでも彼女はきっと俺の事を許そうとしてくれてはいる
京子「…そんなので良いのですか?」
姫子「こい以上、求めたら私が業突く張りみたかなるたい」
姫子「そいにあくまでもルールに則った上で勝負に負けたのに延々と拗ねるのも子どもっぽい話やけん」
姫子「何より…私は元々、ハーゲンダッツの代金って事で話すつもりだったけん」
京子「え…?」
姫子「流石にあんだけ私に有利な条件でハーゲンダッツだけ奢って貰うつもりはなかよ」
姫子「正直、恥ずかしか話やけん…須賀さんだけに言うつもりだったばい」
姫子「そぎゃん訳で私は拗ねてはいても怒ってはおらんと」
京子「…ご、ごめんなさい…」
姫子「もう。私がええって言うとるけん、こい以上、謝るのはなし!」
姫子「良かね?」
京子「……はい」
春「…お待たせ。お菓子も持ってきた」
小蒔「ふふ、春ちゃんの黒糖ですけどね。でも、美味しいですから皆で食べましょう」
京子「……えぇ。そうしましょうか」
本当はまで謝り足りないけれど…でも、鶴田さんがそれで良いって言ってくれているんだ。
これ以上、謝ったところで彼女の気持ちを無駄にするだけだろう。
それよりも折角、春や小蒔さんが黒糖を持ってきてくれたんだから、それを食べて楽しく談笑するべきだ。
きっと春も小蒔さんも、そして誰よりも鶴田さんが、それを望んでいるんだから。
姫子「…ばってん、よくよく考えるとさっきご飯食べたやけんね…」ポリ
春「…それは禁句」
小蒔「え?どうしてですか?」
姫子「こん時間に完食とかどう見てもカロリーが…」
小蒔「???」
京子「…鶴田さん、小蒔ちゃんは食べても太らない子なんですよ」
姫子「なん…だと…?」
胸回りは人並み以上…と言うかインターハイでもトップクラスの豊満さだけどなぁ。
だけど、日頃、質素な食事やお稽古事、神事をやってる所為かそれ以外のところはしっかり引き締まっている。
女の子からすれば ―― ある意味では男にとっても ―― 反則だと言っても良いようなスタイルだろう。
小蒔「太らないなんて事はないですよ。私よりも初美ちゃんの方がスマートですもん」
京子「それは初美さんが細いと言うか小さすぎると言うか…」
姫子「初美さんって…去年三年だった薄墨さんの事?」
京子「えぇ」
姫子「…うん。私もそいは比較対象がちょぉっと間違っとると思うばい」
小蒔「えー…そうですかね?」
春「…初美さんから比べるとここにいる全員が肥満体型になる」
小蒔「つまりは皆、お揃いって事ですね!」パァ
京子「そ、そういう意味でお揃いなのは流石に嬉しくはないかしら」
姫子「…わ、私、やっぱり黒糖ば遠慮しとくと」
京子「だ、大丈夫ですよ、鶴田さんは十分スマートですし」
春「…じゃあ、私がその分食べる…」
京子「…春ちゃんはもう少し遠慮しましょうね?」
春「私の目の前に黒糖を置く方が悪い」ポリポリ
京子「取りに行ったのは自分でしょうに…」クスッ
まぁ、そうは言っても春だって決して太ってる訳じゃないんだよなぁ。
普段、小蒔さん達と同じく質素な食事を心がけ、朝から神事に携わっているってのもあるんだろう。
小蒔さんに比べるとむっちりしてるのは否定出来ないけれど、それは男好きするレベルに収まっていると言うか。
こう凄い抱き心地が良さそうな体つきをしている。
京子「でも、春ちゃん印の黒糖は本当に美味しいわよね」
春「ん…厳選に厳選を重ねて選んだ逸品だから」
姫子「へぇ…これ春さんが選んだと?」
春「はい。新道寺の皆さんに少しでも鹿児島を知ってもらう為に…」
姫子「なるほど…確かに鹿児島と言えば黒糖やけんね」
姫子「実際、がばいうまか。地元で食べる黒糖とか全然、違うと」
春「…県外のスーパーとかで売られてるのは黒糖とは名ばかりの商品も多いので」
春「そもそも県外で売られてる黒糖は添加物が大分増えて本来の甘みや風味が殆ど消えています」
春「黒糖のべたつく甘さが嫌いと言う人は偽物の黒糖を食べていると言っても過言ではありません」
春「本来の黒糖はこのようにすっきりとした甘さで風味も優しくいくらでも食べられるようなお菓子で…」
姫子「え、えぇっと…」
京子「はい。春ちゃん、そろそろストップね」
春「ハッ…」
春「……あ、熱くなってしまって申し訳ありませんでした」カァ
姫子「ううん。問題なかよ」
姫子「ちょっと驚いたばってん…そいだけ春さんが黒糖の事がすいとーのが伝わってきたばい」
姫子「そいに春さんの言うとおりたい」
姫子「私、今まで黒糖には甘ったるいイメージが強かったばってん…こいを初めて食べた時は色々と衝撃的だったと」
姫子「こいなら地元でも食べたいくらいばい」
春「…布教成功?」
姫子「ん。大成功ばい」
春「…良かった」ニコ
そう綻ぶように笑う春の表情はとても魅力的なものだった。
ソウルフードと言っても過言じゃないくらい春は黒糖の事を愛してるんだ。
そんな食べ物を褒められただけじゃなく、布教にまで成功したのだから、嬉しくない訳がないだろう。
京子「とは言え、幾ら美味しくても箱買いしても余ると思ったんだけどね」
小蒔「でも、もう黒糖はこれが最後ですよ」
京子「え?もうそんなに減っていたの?」
小蒔「はい。皆さんにとても好評でした!」
姫子「ん。恥ずかしながら私もバカスカ食っとったばい」
春「これが黒糖の本当の力」ドヤァ
京子「…そうね。流石に侮ってたと言わなきゃいけないかしら…」
新道寺さん側の人数がかなりのもんだったってのもあるんだろうけど…まさか3日も経たない内に箱買いした分がなくなるとは。
確かに美味しいとは思ってたけど…それ以外にもお菓子はあったし、なくなる事はないと思ってたのに。
まさかGWの半分も過ぎていないのに消費し切るなんてそんなん考慮しとらんよ…。
京子「でも、そうなると追加の分はどうしましょう…?」
京子「明日の夜にはまた別の学校が来るのよね?」
春「…だから、私のストックをこっちに持ってくる」
京子「良いの?」
春「これも黒糖の美味しさをより多くの人に知ってもらう為だから」
春「ちょっとお屋敷に置いてある分が減っても問題はない」プルプル
京子「……到底、そうは見えないんだけど」
春「問題ない」プルプル
…大丈夫なんだろうか?
でも、春がこうやって言っている以上、中々、意見を翻すとは思えないしなぁ。
若干、心配ではあるけれど、黒糖の布教をやりたいと本人が言っているんだからあまり口出しするのも野暮だろう。
姫子「ばってん、ストックってそんなにあると?」
京子「えぇ。春ちゃんの場合、個人用でも箱買いしていますから」
姫子「え?」
春「…纏め買いすると安くなるので…この前も部活用のと合わせて自分の分も箱買いしました」
小蒔「春ちゃんはやりくり上手さんなんですよ。それに春ちゃんって凄いんです!」
小蒔「こーんな大きな箱だって一週間で手品みたいに消えちゃうんですから!」コーンナ
春「…照れる」テレテレ
京子「いえ、そこは女の子として恥ずかしがるべきだと思うけれど」
春「…黒糖はそれだけ美味しいから」
京子「だからって毎回、箱買いするから際限なく食べちゃうんじゃないかしら…」
京子「そもそも毎月、お小遣いが危なくなるのも箱買いしているからでしょう?」
春「……」ツイー
京子「こら、目を逸らさないでこっちを見なさい」
春「…姫様、ここは戦略的撤退をするべきかと」
小蒔「え?そうなんですか?」
春「はい。このままだと京子に叱られてしまいます」
小蒔「し、叱られるのは嫌ですね…!」
小蒔「じゃあ、撤退です!」
春「撤退…撤退ー…」
京子「あ、ちょ…!」
そんな事を言いながら春と小蒔さんがいそいそと部屋から出て行く。
足並み揃えてわたわたと可愛らしく逃げ出そうとしているその背中を追いかける訳にはいかない。
内心、こっそりと黒糖の袋を持って逃げた春を捕まえてもう2,3ほど小言を言いたかったけど、ここで鶴田さんを置いてけぼりには出来ないからなぁ。
それに何より… ――
姫子「ふふ…須賀さんは皆のお母さんみたかね」
京子「…さっき小蒔さんに励まして貰ってようやく開き直った程度のお母さんですけどね」クスッ
京子「それに多分、アレは春ちゃんなりに気を遣ってくれたんですよ」
姫子「気を?」
京子「はい。普段の春ちゃんなら間違いなく鶴田さんを盾にして誤魔化そうとしますから」
京子「それをせずに逃げ出したって事は、きっと気を遣って私と鶴田さんを二人っきりにしようとしてくれたんですよ」
姫子「ふふ、須賀さんは春さんの事ば良く知っとるけんね」
京子「えぇ。だって、私にとって春ちゃんは親友ですから」ニコッ
京子「辛い時も苦しい時も大変な時も…一緒に居てくれて…支えてくれた大事なお友達です」
…ただ、そんな春相手でも、俺は何もかもを知ってるって訳じゃない。
表面的な事は大体、理解出来ているし、表情の変化が乏しい彼女の気持ちを察する事は出来る。
でも、俺はまだまだ春の深い部分には足を踏み入れられちゃいないままだ。
きっと俺が知らない滝見春と言う女の子はまだまだ存在するだろう。
―― そしてそれはきっと鶴田さんにとっても同じ事なんだ。
京子「…恥ずかしいからあんまり口にはしないですけど…私、本当に感謝してるんですよ」
京子「私が今、こうして笑ってられるのは二人のお陰です」
京子「こっちに引っ越してきた当初は…本当に酷かったですから」
姫子「…須賀さん」
思い返すのは引っ越してきた当初の自分。
戸籍が消えたとか親に売られたとか訳の分からない事ばっかりで…ただ状況に流されるしかなかった自分。
だけど、そんな俺を少しずつ前向きにし、こうして誰かに踏み込む勇気をくれたのはお屋敷の皆だ。
彼女達がいなければ…いや、彼女達でなければ、俺はここまで立ち直る事は出来なかっただろう。
京子「何時でも春ちゃんは私の心の支えになってくれています」
京子「小蒔さんの明るさや芯の強さに励まされたのも一度や二度ではありません」
京子「……鶴田さんにはそういう相手はいないですか?」
姫子「わ、私?」
京子「えぇ。なんだか私、一人だけ語っちゃって恥ずかしいじゃないですか」
京子「鶴田さんも恥ずかしい思いの一つや二つするべきです」
姫子「横暴たい」
京子「言っときますけど、鶴田さんほどじゃないですからね?」
姫子「ば、ばってん…恥ずかしか」
京子「良いじゃないですか。どうせここには私と鶴田さんしかいないんですから」
京子「それに一応、勝負に勝ったのは私なんですし聞く権利はあると思います」
姫子「…小蒔ちゃんと春さんに手伝ってもらってようやくだった癖に」
京子「それでも勝ちは勝ちですよ?」
京子「ほら、どうせ悩み事までぶちまけちゃうんですし、毒を食らわば皿までって奴ですよ」
姫子「そい、どう考えても使い方ば間違っとるばい!」
京子「じゃあ、旅の恥は掻き捨てって奴です」
姫子「そいは本人が言うものであって他人が言うものではなかと思うと…!」
京子「まったく…鶴田さんは我儘ですね。仕方ありません。それじゃあ、何なら良いんです?」
姫子「いや、何なら良かって問題でもなかと思うけん…」
まぁ、慣用句一つでその気になるほど軽いもんじゃあないよなぁ。
こうしてからかってる俺だって彼女がその気になってくれると本気で思ってる訳じゃない。
ぶっちゃけ、これは日頃の仕返しであり、鶴田さんをリラックスさせる為の前振りに過ぎないんだから。
姫子「まったく…二人っきりになった途端に強引過ぎやなかと?」
姫子「まるで童貞みたかよ」
京子「ど、どどどどどどどど童貞ちゃうわ」
姫子「え?」
京子「あ、いえ…なんでもありませんよ」
京子「と言うか、仮にも女の子なんですからそういう言葉は控えた方が良いと思いますよ」
京子「女の子にとっては恥じらいってとても大事な部分ですから」
姫子「須賀さんはそういうところホント固かねー」
京子「いえ、私よりも鶴田さんが緩すぎるんだと思いますが」
姫子「つまり私と須賀さんを足して2で割れば丁度良かって事たいね」
姫子「…須賀さん、ちょっと私と合体せんと?」
京子「しません」
姫子「貴女と合体したい…」ポッ
京子「言い直してもしませんってば」
と言うか合体ってなんだよ。
世の中にはオカルトがあるとは言え、合体はオカルトを超えて明らかにファンタジーの領域な訳だろうに。
…いや、まぁ、現実にも出来る合体と言うのはない訳じゃないけれど…流石に鶴田さんもそんな意味で言っているんじゃないだろうし。
正直、顔を赤らめながら言われると健全な男子高校生としては、真っ先にそんな意味を連想するけどな!!
姫子「むぅ…恥じらいを込めて言ってみたのに…」
京子「恥じらいの方向が明らかに間違ってます」
姫子「そいぎ須賀さんが合体したくなるような恥じらいを…」
京子「見せません」
姫子「お手本…」
京子「やりませんから」
姫子「えー…自分でアレだけ言っておいてそれは酷くなか」
京子「私は恥じらいは大事だと言いましたが、恥じらいを見せれば合体したくなるなんて一言も言ったつもりはないですよ?」
姫子「そいぎ、須賀さんがお手本見せてくれたら私もさっきの質問に答えるばい」
京子「えぇ…?」
まさかここでそんな話が鶴田さんから来るなんて。
でも、これは千載一遇の好機って奴じゃないか…?
これからの事を考えると鶴田さんから引き出しておいたほうが良い話であるのは確かだ。
正直なところ死ぬほど恥ずかしいが…それだけのメリットはあるんだよなぁ…。
京子「むむむ」
姫子「何がむむむと」
京子「……笑いませんか?」
姫子「そいは須賀さんの出来次第ばい」ニッコリ
京子「(あ、これ絶対、笑うつもりだな、空気で分かる)」
京子「(…とは言え、恥を掻いた分だけの見返りは恐らくあるだろうし…)」
京子「(でも、流石にお手本とか…【須賀京太郎】でも【須賀京子】でもキャラじゃねぇって…!)」
姫子「ふふ…どうすると?」クスッ
京子「(…受けるはずがない)」
京子「(恐らく鶴田さんはそう思ってるんだろうなぁ)」
京子「(じゃなきゃ、こんな挑発するような顔をするはずがない)」
京子「(……でもさ、鶴田さん…男の前でそんな顔しちゃいけねぇって)」
京子「(そんな小悪魔みたいに男を試す顔されたら後に引ける訳がない)」
京子「(…見てろよ、ぜってぇ笑わせたりしねぇ)」
京子「(かんっぺきなお手本を見せてやる…!)」
姫子「須賀さ…」
京子「…」ガタッ
姫子「…え?」
京子「…鶴田さん、お綺麗ですよね」スッ
姫子「え?え?」
京子「まつげも長くて、目もパッチリしてて…肌もきめ細やかで本当に綺麗…」ナデ
姫子「ふぇ…」カァ
京子「ふふ…でも、そうやって照れるところは可愛らしいです」
京子「本当…食べちゃいたいくらい」
姫子「た、食べ…!?」
京子「ほら、もっと見せてください」
京子「鶴田さんの可愛らしい顔…私の瞳に映り込むくらいに」ツゥ
姫子「ち、ちちち近くなか…!?」
京子「あら、これくらい女の子なんですから普通ですよ」
京子「にしても…意外と鶴田さんってば初心なんですね」クスッ
姫子「そ、そそそそぎゃん事…!」
京子「その割にはお顔がもう真っ赤ですよ?」
京子「まるで林檎みたい…可愛らしい鶴田さん…」
姫子「あうあうあう…っ!」
京子「でも…お話する時は人の顔を見るものですよ?」
京子「ほら…逃げないで…こっちをちゃんと見てください」
姫子「す、須賀さ…」
京子「…お互いの瞳に…他の何も映らないくらいに」
京子「世界が…私達だけで出来てるみたいに…」
京子「ずっとずっと…近くで…鶴田さん」ツゥ
姫子「あ…あぁ…」ビクッ
京子「…貴女と合体したい」
姫子「……え?」キョトン
…あれ?これ分かってない?
てっきり鶴田さんも分かってて乗ってくれてるもんだと思ってたんだけど。
…まぁ、いっか、そうやって呆然とする鶴田さんも可愛いし。
さっきまで真っ赤だった顔を素に変えて、キョトンとこっちを見る姿はまるで子どもみたいだ。
姫子「ふぇ…」カァ
京子「ふふ…でも、そうやって照れるところは可愛らしいです」
京子「本当…食べちゃいたいくらい」
姫子「た、食べ…!?」
京子「ほら、もっと見せてください」
京子「鶴田さんの可愛らしい顔…私の瞳に映り込むくらいに」ツゥ
姫子「ち、ちちち近くなか…!?」
京子「あら、これくらい女の子なんですから普通ですよ」
京子「にしても…意外と鶴田さんってば初心なんですね」クスッ
姫子「そ、そそそそぎゃん事…!」
京子「その割にはお顔がもう真っ赤ですよ?」
京子「まるで林檎みたい…可愛らしい鶴田さん…」
姫子「あうあうあう…っ!」
京子「でも…お話する時は人の顔を見るものですよ?」
京子「ほら…逃げないで…こっちをちゃんと見てください」
姫子「す、須賀さ…」
京子「…お互いの瞳に…他の何も映らないくらいに」
京子「世界が…私達だけで出来てるみたいに…」
京子「ずっとずっと…近くで…鶴田さん」ツゥ
姫子「あ…あぁ…」ビクッ
京子「…貴女と合体したい」
姫子「……え?」キョトン
…あれ?これ分かってない?
てっきり鶴田さんも分かってて乗ってくれてるもんだと思ってたんだけど。
…まぁ、いっか、そうやって呆然とする鶴田さんも可愛いし。
さっきまで真っ赤だった顔を素に変えて、キョトンとこっちを見る姿はまるで子どもみたいだ。
京子「ふふ、お手本ですよ。お手本」
京子「どうでしたか?ドキドキしました?」クスッ
姫子「う…あ…っ」カァァァァ
姫子「あうあうあうあうあううああ」プルプル
種明かしする俺の前で鶴田さんの顔が真っ赤に染まり、身悶えを始めた。
可愛らしい声をあげながら両頬に手を当て、ふるふると首を振る彼女を見てると達成感が胸の内から沸き上がってくる。
完全に『お姉様』になりきってた所為で心理的ダメージはかなりデカイし、何より、間近で見る鶴田さんの顔が可愛すぎてついつい鼻息が荒くなりそうなのをコントロールするのは辛かったけどな!!
それだけの価値はあったと今はそう思える。
京子「どうせですから、これくらいやりませんとね?」
姫子「ひ、ひひひひひ卑怯たい!!」
京子「あら、何がですか?」
姫子「だ、だって、こぎゃん…こぎゃん事されたら…」
京子「されたら?」
姫子「う…う…うぅぅぅっ」バタバタ
京子「あら、椅子の上でジタバタするなんてあまり行儀がいいとは言えませんよ?」
姫子「だ、誰のせいだと…!」
京子「少なくとも私でない事だけは確かですね」ニッコリ
京子「私は鶴田さんのご要望にお応えしてお手本を見せただけですから」
姫子「ぐぬぬ…」
京子「でも、さっきの鶴田さん本当に可愛かったです」ニコー
姫子「も、もう…!思い出させんで欲しいばい…!」
京子「それは失礼しました」クスッ
姫子「うー…ばってん、須賀さん、思った以上に手慣れとったばい…」
姫子「やっぱり女の子達を同じ手腕でこましてたと?」
京子「あら、こんな事したのは鶴田さんが初めてですよ?」
姫子「全然、そうは思えんたい…」
京子「ふふ、じゃあ、さっきの私のそれが演技じゃなかったのかもしれませんね」
姫子「え?」
京子「もしかしたら本気で鶴田さんの事…」ニジリ
姫子「っ!」ガタッ
京子「…そこまでガチで逃げなくても良いんじゃないですか?」
姫子「さ、流石に今のは身の危険を感じるばい」ササッ
京子「失礼な。幾らなんでも本気じゃないですよ」
京子「半分は冗談です」
姫子「つまり半分は本気って事じゃなかと!?」ビクッ
京子「ふふ…こういう時は私、なんて言えば良いのか知っていますよ」
姫子「え?」
京子「鶴田さんが可愛いのがいけないんです」ニッコリ
姫子「う…」
それは昨日、まったく逆の立場で鶴田さんから俺に対して放った一言だ。
俺はそれに対して横暴だと返したけれど、彼女からは何一つ返す事が出来ないだろう。
仮にもそれを免罪符にして人の事を思いっきり弄ってきた鶴田さんにとって、何を言ってもブーメランにしかならないんだから。
人を呪わば穴二つって訳じゃないが、彼女は既に思いっきり墓穴を掘った後だったのである。
姫子「…須賀さんは私ば良か性格しとるって言うけど…須賀さんも大概だと思うばい」
京子「そんな…私なんて鶴田さんほどじゃありませんよ」
京子「さっきのだって鶴田さんが墓穴を掘ったようなものじゃないですか」
京子「大人しくしていればこんな反撃を食らう事はなかったんです。少しは反省してください」
姫子「えー…」
京子「…つまりまたさっきみたいに迫られるのがお好みですか?」ジリ
姫子「え、えっと…それより…ほら…交換条件たい!」
京子「…あら、有耶無耶にするつもりじゃなかったんですね」
姫子「ほ、本当はしたかったばい…。ばってん、今の話題が続くと幾らなんでも恥ずかしか…」カァ
京子「ふふ…それなら仕方ありませんね」
京子「…でも、あまり無理はしなくて結構ですよ?」
京子「私は可愛い鶴田さんが見れるだけで十分、楽しいですから」ニッコリ
姫子「無理どころか今は話させて欲しかよ…」
京子「あら残念」クスッ
と言うものの、俺としてもこの話題をあまり引き伸ばすのは良策とは言えない。
まだ幾らか時間の余裕があるとは言え、あまりダラダラし過ぎると牌譜検討会の時間が来るし。
何より、あまりしつこく言い過ぎると鶴田さんの機嫌を損ねる可能性もある。
後で弄るならばともかく、話題の中心にするのは、ここらが潮時だろう。
姫子「まぁ、その…哩先輩は友達とかそういう領域を超えとるけん」
姫子「…私の場合…友達となると花田が真っ先に出てくるたい」
京子「あぁ、やっぱり仲が良いんですね」
姫子「うん。一年の時から同じクラスんなって…そいからずっと一緒やけん」
姫子「そいに…花田は良い子たい。私みたいな面倒な女にも根気よう付き合ってくれて」
姫子「小言ば言われると逃げる事もあるたい。ばってん…本当は心から感謝しとると」
姫子「花田がおらんかったら、きっと私はもっと…麻雀の事が楽しくなくなっとったと思う」
姫子「ううん。…もしかしたら…部活だって辞めとったかもしれん」
京子「…それは…周りから寄せられる期待が重いから…ですか?」
姫子「…そいだけじゃなかよ。…本当は…」
そこで言葉を区切って鶴田さんは俺の方を見た。
真正面から向けられるその視線は俺の事を見極めようとしているように思える。
一体、これから彼女が何を言うつもりなのかは分からないが、それはきっと核心に至るような重要な情報なのだろう。
そう思うと俺の肩にも力が入り、身体が微かに緊張を覚えた。
姫子「…まぁ、須賀さんだったら良かね」
京子「宜しいのですか?」
姫子「ん…そいに本当はそこまでひた隠しにするようなもんでもなかたい」
姫子「…既に私からはその力が失われとるけんね」
京子「失われている…ですか?」
姫子「…私も去年までは須賀さんみたいな能力があったと」
姫子「リザベーション…哩先輩との絆の力」
姫子「ばってん…その力は強力故に誰とでもポンポン使えるような便利なもんやなか」
姫子「誰よりも側にいて、誰よりも信頼して…そして誰よりも想い合っている仲じゃなかったら使えん」
姫子「…でも、その片翼を担ってくれとった哩先輩は卒業して…もう新道寺にはおらん」
姫子「だから…私は去年よりも…ずっとずっと弱くなっとるけん」
京子「……鶴田さん」
俺には彼女の言うリザベーションがどれだけ凄い力なのかは分からない。
だけど…それが彼女の中で大きな心の拠り所になっていたのは確かなのだろう。
何処か自嘲気味に言葉を漏らす彼女の姿は…とても弱々しいものだった。
名門校新道寺のエースと言う言葉からは程遠いその姿は、まるで迷子の子どものようにも思える
姫子「…中学の時はそんでも良かった」
姫子「例え、哩先輩がおらんでも…私一人だけで太刀打ち出来たと」
姫子「哩先輩に託された後…恥ずかしくない成績ば残す事が出来た」
姫子「ばってん…高校ではそうもいかん」
姫子「オカルトば使ってくる選手は県予選の段階でも普通におる」
姫子「インターハイクラスともなれば、オカルトなしでも強敵揃いたい」
姫子「…そぎゃん中で…哩先輩のおらん私が…太刀打ち出来る気がせんと」
姫子「実際…先輩らが卒業してからすぐの秋季大会…そしてその後の春季大会」
姫子「そのどちらも…新道寺はろくな成績を残せんかった」
姫子「白糸台と阿知賀にリベンジがしたくても…私はそこまで新道寺を引っ張っていけんかった…!」グッ
…俺はそれらの大会に参加しては居ないけれど、雑用の一貫として牌譜は揃えていたから知っている。
確かに新道寺は去年よりも幾分、成績を落としていた。
相変わらず名門と呼ばれるに足る手堅い実力を維持してはいるが、それは決して去年に及ぶものじゃない。
だが、それは決して新道寺に限る話ではなく、多くの高校が似たような状態である。
1.2年が主軸を担い、戦力ダウンが起こっていない学校の方が寧ろ少数派だろう。
京子「(…それに新道寺は絶対的エース、白水選手の卒業があったからなぁ)」
京子「(精神的主柱でもあっただろう彼女の不在にまだ慣れていないんだろうとそう思っていたけれども…)」
京子「(どうやら話はそう簡単なものじゃなかったらしい)」
姫子「…ばってん、皆の期待は私に掛かっとる」
姫子「皆は…私なら何とかしてくれるって…哩先輩の後ば引き継いでくれるって信じてくれとる…」
姫子「…ばってん……私にはそんな実力がなか…!」
姫子「…私には…それが悔しゅーして…!」
姫子「皆の期待に応えられん…不甲斐ない自分が…嫌で嫌で仕方がなかよ…!」ポロ
だけど…成績が振るわなかったのは新道寺だけじゃない…なんて言うのはきっと鶴田さんにとって慰めにはならないのだろう。
普段のふざけた態度から誤解しそうになるけれど、彼女はとても責任感の強い人なんだ。
敬愛する先輩から託された想い、そして周囲から向けられる期待。
その二つに応えようとして…だけど、上手くいっていない。
名門故の…エース故の…そして一人の少女としての想いが…鶴田さんを苦しめているんだ。
姫子「…本当は…私にだって分かっとる…」
姫子「本当は…なりふり構わずリザベーションばまた使えるようにならんといけん…」
姫子「皆だって…そいば私に期待してくれとるって…!」
姫子「ばってん…上手いこと…いかんの…」グスッ
姫子「哩先輩の事…忘れられんで…!」
姫子「誰とおっても…哩先輩の事を想って…!」
姫子「他の誰かとなんて…嫌って…そぎゃん風に…私…我儘ばっかりで…」
姫子「皆も…きっとそぎゃん私に…愛想ばつかしとる…」
姫子「期待に応えられん…不甲斐ない私の事ば…嫌いになっとるたい」グジュ
…俺は知っている。
鶴田さんの言っているそれが決して事実とは違うという事を。
花田さんを見れば、鶴田さんを悪く思っていない事がすぐに分かるんだから。
だけど、自分が白水選手の後を継ぐエースであらなければいけないと言う重荷を背負った彼女にはそれが見えていない。
京子「(…本当はそれを言ってあげたい)」
京子「(こんなになるまで一人で頑張った鶴田さんに…)」
京子「(そんな事はないんだって…言ってあげたい)」
京子「(……でも、それは俺の役目じゃないんだ)」
京子「……鶴田さん」スッ
姫子「ぐす…っ…ご、ごめん…。急に泣きだして…」
京子「…良いんですよ。それだけ辛かったんでしょうし」
京子「…それよりほら…これで顔を拭いてください」スッ
京子「そんな風に泣いていたら可愛い顔が台無しですよ?」
姫子「もう…こんな時まで口説くつもりと…?」グスッ
京子「本心なんですけどね。…まぁ、それはともかく」
京子「…辛い事を話させてしまって申し訳ありませんでした」ペコリ
姫子「ん…気にせんで良かよ。私も…今まで誰にも言えんかったから」
姫子「部活の皆は元より…花田にも、哩先輩にも…」
京子「…そうでしょうね。鶴田さんは優しいですから」
京子「…でも、きっとそれが行き違いになってしまったのでしょう」
姫子「…え?」
京子「…後の事はそちらの皆さんに聞くのが一番だと思います」
京子「入ってきてください」
ガチャ
煌「……」
「……」
「……」
姫子「え…?み、皆…」オド
俺の声に合わせて練習場へと入ってきたのは鶴田さんにとっては仲間である新道寺の人たちだった。
だが、俺よりも彼女達と親しいであろう鶴田さんの表情は強張り、一歩後ろへと後ずさる。
まるで決して見られたくない姿を見られてしまったようなその反応に、俺の胸は微かに痛みを感じた。
だけど…そうやって鶴田さんが苦しむのが分かっていて、この状況を作ったのは他でもない俺である。
幾ら彼女の姿が痛々しくても、良心の呵責を感じたり、胸を痛めたりする資格はない。
それをして良いのは、俺ではなくて… ――
煌「……ぐす」
姫子「え?」
「ごめんねえええ」ビエエ
煌「姫子おおおお」ダキッ
姫子「えぇ!?」ビックリ
「私ら…姫子がそぎゃんなるまで自分ば追い込んどるなんて全然、知らんで…!」
「違うの!私らはそぎゃん事思ってたんじゃなくって…!」
「姫子が誰よりも頑張っとるの分かってたけん!重荷にならんようにしようって!!」
「悩みがあるとって聞いても言ってくれんし!でも、私らといると辛か顔しゅーから…!離れてた方が良かかなって…!!」
煌「そう…そう皆で話し合っていたんです…!」ポロポロ
姫子「み、皆…」
京子「…ふふ、鶴田さんは本当に人気者ですね」
姫子「こ、こいは…」
京子「…えぇ。私が声を掛けて集まっていただきました」ニッコリ
…俺が鶴田さんに出来る事なんて殆どない。
俺はまだ彼女に大きな影響を与えるほど信頼も何もされちゃいないんだから。
でも、俺が直接、鶴田さんに出来る事がなくても、出来る人を集める事くらいは出来る。
京子「相変わらず騙し打ちになったのは謝罪いたします」
京子「ですが、これくらいじゃないと鶴田さんは皆さんに対して本心を吐露してくれないと思いまして」
京子「…実際、皆さんの反応を見る限り、そうだったのでしょう?」
姫子「う…」
まぁ、最初はここまでやろうと思ってた訳じゃない。
思いついた時はただ単純に鶴田さんの悩みを花田さんに伝えようとそう思っていただけなんだから。
遠慮やぎこちなさが見え隠れする二人の仲を改善すれば、俺が何かをしなくても部員達と鶴田さんの間を取り持ってくれるだろう。
そんな人任せな考えがより大規模のものへと発展したのは、昨日、鶴田さんと一緒にエントランスに入った時の部員達の反応が原因だった。
京子「(…本当に鶴田さんの事が嫌いなら…あんな風に意識せず、完全に無視するはずだろう)」
京子「(アレは無視していると言うよりも『声を掛けたいのを必死で我慢している』姿だ)」
京子「(だけど、鶴田さんはそんな部員達を見て、ポツンと所在なさげに立ち尽くしていた)」
京子「(…だから、その時に思ったんだ)」
京子「(もしかしたら、部員達と鶴田さんの中で行き違いがあるのかもしれないって)」
京子「(エースと言うものに人一倍強い思い入れを持つ鶴田さんが部に対する悩み事を関係者に吐露するはずもないし)」
京子「(そもそも…明るくて、色んな意味で楽しい性格をしてる鶴田さんの側に花田さん以外の人がいないというのも不自然だ)」
京子「(でも、お互いに意識しているのが端から見ててもはっきり分かるんだから、誤解しあっているとしか思えない)」
京子「(…まぁ、花田さんに色々と話を聞いても、上手くいくかドキドキだったけれど)」
京子「(…でも、思った以上に鶴田さんが想われていて…本当に良かった)」
勿論、これだけ大規模な事をやらかしているんだから勝算はあった。
今、ここに集まっているのは部内でも特に鶴田さんと仲が良かった女の子達である。
彼女達ならば、きっと話をうまい方向に持って行ってくれるとそう信じていたけれども。
それでもまだ知らない女の子達に命運を託すと言うのは、精神的に決してよろしくない。
その子たちを紹介してくれた花田さんは信用していたけれども、それでも種明かしの瞬間は心臓に悪いものだった。
京子「(後は……俺が悪役になるだけだ)」
京子「全てセッティングしたのは私です」
京子「皆さんに声を掛け、鶴田さんを騙す計画を建てたのも」
京子「ですから…恨むならば私を恨んでください」
京子「私はそれを甘んじてお受けします」
京子「ですが…今は皆さんに向き合ってあげてください」
京子「皆さん…ずっと鶴田さんの事を心配していたんですから」
姫子「…心配?」
「当たり前たい!だって…私ら友達とよ!?」ガバッ
「そりゃ姫子の事は頼りにしとったばい!ばってん、そいは姫子に全部、背負わせる為やなかよ…!」
煌「皆…日に日に暗くなってく姫子にどうして良いか分からなかっただけなんです…!」
「姫子が辛かって思うんなら私らも頑張る!姫子が弱くなった分は私らが強うなるけん!!」
「だけん…全部、一人で背負い込んで、苦しまないで欲しかよぉ…」
姫子「……あぁ」
姫子「…そっか…そうだったと」ポロ
京子「…鶴田さんは一人で頑張りすぎたんですよ」
京子「鶴田さんが気づいていないだけで…貴女の側には苦楽を分かち合ってくれる人が沢山いたんです」
京子「鶴田さんはエースである前に一人の女の子なんですから。…もっとその人達に甘えても良いと思いますよ」
姫子「…う…ん…」ポロポロ
姫子「ごめんね…皆、ごめんね…」ギュゥ
京子「……」
…良かった。
もう俺が下手に横槍を入れる必要はないみたいだな。
これ以上、俺がここにいてもお邪魔になってしまうだけだろう。
泣きながら抱き合う女の子達をもうちょっと見ていたいけど、須賀京子はクールに去るぜ…。
バタン
京子「…ふぅ」
春「…京子、お疲れ」
小蒔「お疲れ様でした!」
京子「…ありがとう。二人もお疲れ様」
春「…ううん。京子に比べれば大した事はしていない」
小蒔「はい。一番の大手柄は京子ちゃんですよ」
京子「ありがとう。…まぁ、もしかしたら大きなお世話になっただけなのかもしれないけれど…」
小蒔「…きっと大丈夫ですよ」
小蒔「私と春ちゃんはここでずっと見ていました。皆さんが鶴田さんに今すぐ駆け寄って声を掛けたがっているところを」
小蒔「…あんな風に沢山の人に思われているんです。きっと姫子ちゃんも立ち直りますよ」
京子「…そうね。きっと…大丈夫よね」
…鶴田さんは中学の時の俺とは違うんだ。
ああやって駆け寄ってくれる仲間もいれば、立ち直るに足るだけの理由もある。
一人で何もかもしょいこんで勝手に潰れて…ハンドから逃げ出した俺と同じ結末にはならないだろう。
京子「(…勿論、根本的な解決は何も出来ちゃいない)」
京子「(そもそも鶴田さんが思い悩んでいたのはエースとしての実力不足なんだから)」
京子「(そればっかりは俺にはどうしようもない)」
京子「(俺と鶴田さんは敵同士だし…そもそもそれをどうにかしてあげられるほど俺は強い雀士じゃないんだから)」
京子「(…だけど…あんな風に自分の為に泣いてくれる人達とならば…)」
京子「(きっと…鶴田さんは白水選手に負けないくらい強い絆を結ぶ事が出来るはずだ)」
京子「(そして…きっとその絆は鶴田さんの大きな力になる)」
春「…京子」
京子「ん…どうかしたかしら?」
春「…羨ましい?」
京子「…そうね。羨ましくない…とは言えないかしら」
春「…そう」
春「…じゃあ…えいっ」ギュッ
京子「…え?」
春「…京子も私達に甘えて良い」ナデナデ
京子「も、もう…。そこまで子どもじゃないわよ」
春「遠慮しなくても良い」クスッ
小蒔「そうですよ。だって、私達は仲間なんですから!」
京子「…そうね。そうよね…」
…かつて俺にも仲間と呼べる人たちがいた。
でも、俺の側にはもう彼らは、そして彼女らはいない。
俺が弱かった所為で、或いはどうしようもない事情の所為で…別れてしまった。
だけど、今の俺は決して一人と言う訳じゃない。
こうして俺を受け入れてくれる新しい仲間がいる。
小蒔「えへへ…京子ちゃん」
京子「…何かしら?」
小蒔「大好きです!」ギュッ
小蒔「格好良い京子ちゃんも、誰かの為に頑張ってる京子ちゃんも、みーんなみんな大好きです!」ニコ
京子「…ありがとう。小蒔ちゃん」
京子「私も小蒔ちゃんの事…大好きよ」ナデナデ
小蒔「んふー♪」
春「…私は?」
京子「勿論、春ちゃんの事も大好きに決まっているわ」
京子「…だから、次は勝ちましょうね、皆で」
小蒔「はい!」
春「…ん…♪」
結局、俺は鶴田さんに真っ向からは勝てないままだった。
…そしてそんな彼女がインターハイではさらに強くなって俺達の前に立ちふさがるだろう。
その時、俺が彼女に対して太刀打ち出来るとは思えない。
…だけど、俺は決して一人じゃないんだ。
俺一人じゃどうにも出来ない強敵だって…全力を尽くせばどうにかなるかもしれない。
少なくとも…どうにかしようとしてくれる仲間が俺の側にはいてくれているんだ。
それが嬉しくて…俺は… ――
小蒔「…京子ちゃん?」
京子「…ふふ。なんでもないわ」
小蒔「でも、今の京子ちゃん、とっても嬉しそうな顔をしてました」
京子「そうね…私の側に春ちゃんと小蒔ちゃんがいてくれるからかしら?」
小蒔「それならずーっとずっといます!」
小蒔「私も春ちゃんも…京子ちゃんの側に一生いますから!」
春「…うん」
春「私も…京子とずっとずっと一緒にいたい」
京子「私達、両思いって奴なのかしらね?」クスッ
小蒔「はい。きっとそうです!」ニコニコ
春「…嬉しい」
京子「ふふ、それじゃあ両思い記念に一緒にコンビニにでも行きましょうか?」
春「…コンビニ?」
京子「えぇ。ここに長い間いると新道寺さんの邪魔になってしまうかもしれないし」
小蒔「それに鶴田さんにしろくまさんを買わないといけないですね!」
京子「えぇ。後は二人にもご褒美あげないと」
小蒔「ご褒美…ですか?」
京子「私の事手伝ってくれたお礼よ」
小蒔「良いんですか!?」
京子「えぇ。勿論」ニコ
春「…じゃあ、黒糖が良い」
京子「…その手に黒糖の袋を持っていてまだ食べるつもりなの?」
春「黒糖はいくつあっても足りないから」
京子「仕方ないわね…でも、あんまり買い過ぎると私が霞さんに怒られるから…ちょっとだけよ?」
春「分かってる…」
小蒔「えへへ…何買いましょう…楽しみですねっ」
そう言葉を交わしながら、俺達の手は自然と結びついた。
何も言わずとも繋がれていくその指先からは二人の信頼が伝わってくる。
それが何となくこそばゆいけれども、決して嫌な気持ちにはならない。
寧ろ、胸の奥はジンと暖かくなり、力が湧いてくるような気がする。
京子「(…きっと俺はまだまだ麻雀の腕では鶴田さんには及ばないんだろう)」
京子「(だけど…仲間との絆だけは決して劣っちゃいない)」
京子「(勿論、俺には鶴田さんのようにその絆を力にするようなオカルトはないけれど…)」
京子「(…でも、俺にだって辛い時に手を貸して…諦めた時には叱咤して…)」
京子「(何より…こんなにも俺の事を思ってくれる仲間がいるんだ)」
京子「(それを知った今…俺はもう諦めたりはしない)」
京子「(例え、どんな苦境でも…俺は戦える)」
京子「(負けた時には皆と心から悔しがる事出来るように)」
京子「(勝った時には皆と手を取り合って喜べるように)」
京子「(…どんな時でも…全力を尽くす)」
京子「(勝つ為じゃない。負けない為でもない)」
京子「(終わった後に…嬉しい気持ちも悔しい気持ちも分かち合える仲間のところへと戻れるように)」
京子「(…そうやって思う事が出来たのは…鶴田さんと…そして新道寺の皆さんのお陰です)」
京子「(…ありがとうございます、鶴田さん)」
京子「(…ですが…次は決して負けませんよ)」
京子「(今度こそ必ず…リベンジ果たして見せますから)」
―― オマケ
小蒔「ただいま戻りました!」
京子「ただいまです」
春「ただいま…
霞「おかえりなさい。皆」
京子「…あの…わっきゅんは…」
霞「えぇ。ちゃんと明星ちゃんと帰ってきてるわ」
京子「そうですか…良かった…」
霞「…大丈夫よ。湧ちゃんだって分かっているはずだから」
霞「きっとすぐに仲直り出来るはずよ」
京子「…はい」
霞「それよりお風呂湧いてるから早く入ってらっしゃいな」ニコ
霞「…あ、勿論、京子ちゃん…いえ、京太郎君は別よ?」
京子「わ、分かってますって」
春「えー」
小蒔「えー」
霞「えーじゃないの。まったく…私が知っていたら全力で止めたのに…」
小蒔「でも、私達、ずっと一緒にいるって約束したんです!」
春「寝る時も一緒…」
京子「そ、それってそういう約束だったかしら?」
小蒔「え?違うんですか?」
京子「少なくとも私にそのつもりはなかったんだけど…」
小蒔「…しょんぼりです」ションボリ
春「残念…」ショゲ
京子「…あー…それじゃあ代わりに霞さんが小蒔ちゃん達とお風呂に入ってくれるとか…」
霞「…ん。でも、もう入っちゃったのよね」
小蒔「そうですか…」シュン
霞「……まぁ、一日に二回お風呂に入っちゃいけない訳でもないし…」
霞「霞ちゃんっ」パァ
春「…本当、霞さんは姫様に甘い」
霞「う…ち、違うわよ。今日はたまたまそういう気分だっただけ」
霞「別に甘やかしている訳じゃないわ」
京子「ふふ、そういう事にしておきますね」
霞「そ、それよりほら、小蒔ちゃん」
小蒔「はい。霞ちゃんとお風呂ーお風呂ー♪」パタパタ
霞「もう。そんなに嬉しそうにしなくても良いのに」ニコニコ
春「…その割には顔にやけてます」
霞「あ、あらやだ…本当…?」カァ
小蒔「…あ、そうだ!」クルッ
霞「え…?ど、どうかしたかしら、小蒔ちゃん」キリッ
小蒔「私、霞ちゃんの事大好きです!」
霞「ありがとう。私も小蒔ちゃんの事大好きよ?」
小蒔「えへへ…♪ あ、だから、一つお願いがあるんですけど…」
霞「何かしら?小蒔ちゃんのお願いなら何でも聞いてあげるわ」ニコニコ
春「…やっぱり甘い…」
霞「う…」
小蒔「嬉しいです!そ、それじゃあ…その…」モジモジ
小蒔「今更…なんですけど…霞ちゃんの事…霞お姉様って呼んでも良いですか?」
霞「…え?」
京子「ん?」
春「…」ポリポリ
霞「…お、お姉様?」
小蒔「はい!この前、京子ちゃんが言っていました!」
小蒔「本当に仲の良い女の子同士はそう呼ぶんですって!」
小蒔「私、今までそんな事、全然知らなくて…」
小蒔「でも、思い返せば霞ちゃんは皆にお姉様って呼ばれてましたし…」
小蒔「明星ちゃんにも確かにそう呼ばれていましたから…ちょっと寂しくなって…」
小蒔「だから、今からでも…霞お姉様って呼びたいんですけど…や、やっぱりダメですか?」ウワメヅカイ
霞「…………」
小蒔「…あれ?霞ちゃん?」キョトン
霞「ハッ…ごめんなさい。あまりの衝撃と可愛さにちょっと意識が…」
霞「…それで…小蒔ちゃんはその話を京子ちゃんに聞いたのよね?」
小蒔「はい!」
霞「…じゃあ、ちょっとお返事は待ってくれるかしら?」
京子「……」ソロリソロリ
霞「その前にちょおおおおおっと私、京子ちゃんとお話しなきゃいけないから」ガシッ
京子「ひぃっ!」ビックゥ
霞「…勿論、付き合ってくれるわよね…?」ゴゴゴ
京子「は、はひ…」
―― この後、三十分くらい掛けてようやく誤解は解けました。
という訳で今日は終わりです
今回は賛否両論、と言うか否の方が多くてもおかしくはない展開だと思います
もし、書きなおした方が良いと言う声が多ければちょっと書き直してきます
なんか久しぶりに予告通りの投下が出来た気がしたのでちょっと満足
次回の更新もまた早めにするつもりです
では、おやすみなさいませ
乙
後はすばら先輩がなんとかしてくれるはず
京ちゃんに流れる血の覚醒の鼓動は未だ遠い……
おつ。おもしろかった
これは全国決勝で姫子とぶつかるフラグか
京太郎が成長して姫子とガチで再戦したりするのかな
展開的には妥当と言う気もする(姫子に今の実力じゃ勝てないし)
今後も期待。長文失礼しました
乙でしたー
個人的にはこれで良いと思うけどな、なんにせよ京子覚醒が楽しみっす
乙
いや、とてもすばらでしたよー
湧ちゃんとはいつ仲直りできるのやら
乙でしたー
特に問題ないんじゃないかな?
京太郎は聞こえた声に関して誰かに相談するって発想が出ればいいんだけど
脳内補完でなんとでもなるからいいんだが人物名のところの誤字が少し目立つな
霞「霞ちゃん」
霞さんをオチ担当っぽく使うのはあんまり好きじゃないかも
>>485>>486
やっぱり見直し薄かったですね(白目)なんもかんも上司が悪い
と責任転嫁はここまでにして次回からはなくすようにします
毎回、誤字脱字消えきらなくてごめんなさい…
>>487
オチと言うか最近、出演出来てないし
フラグの回収ついでに出したつもりだったのです、不愉快にさせて申し訳ありません
おおまかに受け入れられているようで安心です
皆様、感想ありがとうございます
引き続き、合宿編ラスト頑張っていきます
乙です
京太郎の心理描写を観るたびに、聖人の生まれ変わりでストックホルム症候群で若年性アルツハイマーか何かのようにしか見れない
金曜日か土曜日には投下したい(願望)
半裸で待ってる
待ってる…
きっと来る…きっと来る…
京太郎の本当は怖い家庭の巫女さん
そろそろ来るかな(圧迫)
土曜日投下予定だったけど急に人と会う約束が入る
↓
とりあえず途中まで出来てるから帰ってきてからやれば良いや
↓
帰ってきたのが日付変わってから
↓
明日休みなのでオリョクルしながら見なおししてたら上司から電話
↓
「お前、月曜日から国外出張な。月曜日の早朝に本社から出発するからそれまでに帰って来い」 ← 今ココ
となったので状況的に数日顔を出せなくなるかもしれません
国外に行っちゃうと投下も出来なくなるんで、今から寝ずに見直しして投下します(半ギレ)
おまたせして申し訳ありませんでした
!?
国外出張頑張ってくださいな
体壊さない程度にがんばれ
頑張ってこい
待ってる
待ってる…
出来上がったから投下してくぞオラァ!
―― 三日間の合宿ってのは長いように見えて、結構、短い。
少なくとも俺にとって新道寺さんとの合宿はあっという間と言っても良いもんだった。
イベント尽くしでやけに濃い三日間だったってのもあるが、やっぱり一番はお互いが仲良くなれた時期に引き離されるからだろう。
出来ればもうちょっと新道寺さん達と一緒に打ちたかったんだけど…こればっかりはお互いの日程の都合があるから仕方ない。
それにまぁ、地方予選を目前に控えている今の時期に一つの学校とだけ打っていても、あまり意味はないからなぁ。
今は少しでも実力を延ばす為にも実践形式が必須…ともなれば、両校ともに馴れ合いめいた長期滞在は避けたいところだろう。
姫子「…はひぃ」
京子「ふふ、お疲れ様です」
姫子「誰の所為でこうなっとると思うとるばい…」
京子「あら?鶴田さんの自業自得じゃないですか?」クスッ
姫子「う…」
京子「もっと前から皆さんに甘えておけばこんな事にはならなかったんですよ?」
…どうやら鶴田さんは思った以上に新道寺で愛されていたらしい。
昨日の告白から影の落ちた鶴田さんは新道寺さんの中でもみくちゃにされていた。
まるでペットか小動物みたいな扱いは、それだけ皆が鶴田さんの事を心配していた証だろう。
まぁ、髪の毛が微かに逆立つくらいの愛されっぷりにはちょっと同情しなくもないけれどさ。
ただ、それも鶴田さんが俺のようなポッ出の奴じゃなくちゃんと皆に甘えて入れば防げた事だろうし、俺は悪くない。
姫子「…こぎゃん事になるなら、やっぱりしろくまばもう一個くらい請求しとくべきだったと…」
京子「流石に追加請求は受け付けていませんよ?」
姫子「須賀さんのケチ…」
京子「なんとでも言ってください。そもそも負けたのは鶴田さんの方ですし」
姫子「あ、あぎゃん卑怯な真似されんかったら負けんかったと!」
京子「あらあら、何処からか素敵な負け惜しみが聞こえますね」
姫子「ぬぐぐ」
京子「ふふ。それに…まぁ…今からコンビニ行こうとすると間に合いませんから」
俺達が今、いるのは合宿初日に新道寺さんを迎えた駐車場だ。
そこには今、彼女達が乗ってきたのと同じバスが停車している。
後数分もすれば、鶴田さん達はそれに乗り込み、次の合宿先に行かなければいけない。
そんな状況でのんびりしろくまを買いに行っていたら、鶴田さん達を見送る事は出来なくなってしまう。
京子「…寂しくなりますね」
姫子「まったく…気ば許し過ぎじゃなかと?」
姫子「私らはこれでも敵同士ばい。寂しかなんて言えるような関係じゃなかよ」
京子「…じゃあ、鶴田さんは寂しくないですか?」
姫子「…………」
姫子「…寂しくなかなんて…そぎゃん事言える訳なか」カァ
京子「…ふふ」
姫子「だー!全部、須賀さんが悪かよ!!」
京子「あら、どうしてです?」
姫子「色々、私にお節介するけん!私だって須賀さんの事、敵同士なんて思えんようになったばい!!」
京子「と言う事は最初は敵だとそう思ってたのですか?」
姫子「……まぁ、正直、なんか馴れ馴れしくて信用出来ん人やとは思うとったばい」
京子「そ、それはそれで傷つきますね…」
まぁ、ろくに話した事もないような初日から、悩み事聞き出そうとしてた訳だからなぁ。
そんな風に警戒されるのも至極、当然の話だろう。
ましてや、新道寺も永水もインターハイ出場を確実視されるほどの強豪校である。
幾ら合宿中とは言え、相手校のエースに下手に近づけば、変な風に思われても仕方ない。
姫子「…ばってん、二日目には何となく須賀さんの人となりも分かってきたと」
姫子「あぁ、この人はなにか企みがあって私に近づいたんじゃなくって…ただ単に度が過ぎるくらいお人好しなんだって」
京子「そ、そこまで言われるレベルですか…」
姫子「じゃなきゃ、誰が仮にも敵校でエースやっとる奴の悩み事なんて解決しようとするばい」クスッ
姫子「しかも、最後にはあんな事までやって…」ジトー
京子「…や、やっぱり怒ってます?」
姫子「アレで怒らん奴が何処におると?」
姫子「まったく…完全に須賀さんには騙されたばい」
姫子「お人好しですよーってな顔してあぎゃんえげつない手段まで取ってくるなんて」ジィィ
京子「…ごめんなさい」ペコ
姫子「…ま、お陰で皆と元の関係に戻れたし…気持ちも大分、軽ぅなったと」
姫子「怒っとらん訳やなか。ばってん…そい以上に感謝もしとるばい」
姫子「…ありがとう、須賀さん」
姫子「私…須賀さんに会えて本当に良かったと」ニコ
京子「…ぅ」ドキッ
そう俺に向かって笑う鶴田さんの顔は微かに赤く染まっていた。
多分、色々言ってしまった手前、そうやってお礼を伝えるのが恥ずかしいんだろう。
…だけど、そこには照れはあっても、暗いものは何一つとしてない。
ずっと彼女に付き纏っていた影のようなものが払拭された鶴田さん本来の笑みは思わず胸が跳ねてしまうくらいに魅力的なものだった。
京子「…こちらこそ…鶴田さんにはとても多くのものを学ばせていただきました」
京子「麻雀の事…チームの事…エースの事…」
京子「…私にとってこの合宿はとても有意義なものでした。…ありがとうございます」
姫子「…ん。そいなら良かった」ニコ
姫子「ばってん…」
京子「え?」
姫子「…なんで須賀さんはそぎゃん私の事ば気にかけとったと?」
姫子「勿論、お人好しなのは私も知っとるし、納得しとる」
姫子「ばってん…そいだけならあそこまでする必要はなかと思うばい」
姫子「ただ、私とダラダラ麻雀打っとるだけで須賀さんにとっては十分だったんじゃなかと?」
京子「…そうですね」
まぁ、確かに鶴田さんの言う通りだろう。
俺がそこまで彼女にする義理はまったくないと言っても良いくらいなんだから。
ただ単にお人好しと言う傾向だけで説明するには、俺のやった事は明らかに度が過ぎている。
全てが上手くいった今、別に警戒されている訳じゃないだろうが…それでも当事者である鶴田さんにとってはどうしても気になる事なんだろう。
京子「まぁ、少し恥ずかしい話なんであんまりしたくはなかったんですけれど…」
姫子「散々、人に大恥をかかせて自分だけ取り繕おうなんてそうはいかんたい!」
京子「ふふ、そうですね」
京子「…でも、あんまり面白い話がある訳じゃないんですよ?」
京子「ただ単に…鶴田さんが私の好きだった人に似ていただけですから」
姫子「え…?」
京子「あぁ、似てると言っても別に容姿や性格が似てる訳じゃないですよ」
京子「ただ…落ち込み方や自分の追い込み方が…凄く似ていて」
京子「どうしても放っておけないって…そんな風に思ったんです」
まぁ、咲の奴も結構、遠慮しない奴ではあるけれど、あっちは人見知りもする方だし。
そもそも鶴田さんみたく人の輪の中心に入ると言うよりも、その隅で本を読んでいる方が似合うタイプだ。
その上、引っ込み思案でコミュ障気味だし、どこでも迷子になるのが最大の特徴みたいなポンコツ女である。
そんな咲と鶴田さんが似ている…なんて言うのは少し失礼なのかもしれないけれど… ――
京子「まぁ、早い話が私の自己満足なんです」
京子「私は…その子が一番、苦しい時に何もしてあげられませんでしたから」
京子「ですから…これは私にとってある種のリベンジでもあった訳です」
京子「…お人好しでも何でもありません。ただ、自分のエゴに鶴田さんの事を巻き込んだだけ」
姫子「……」
京子「…ただ」
姫子「え?」
京子「それは…ただのキッカケでした」
京子「そうやって仲良くなっていく内に私は鶴田さん自身に惹かれていったんです」
京子「最初はただ好きな人を重ねあわせていただけでした」
京子「…でも、今は違います」
京子「鶴田さんの…お友達のお役に立ちたい。何とかしてあげたい」
京子「それが今の私の気持ちです」
…やっべ。コレ自分で言ってて、すっげー恥ずかしい。
男だったらこの辺なあなあで済むんだけど…流石にそういう訳にはいかないよなぁ。
こうして彼女の方から俺へと踏み込んできてくれているし…何よりも鶴田さんは俺が騒動に巻き込んでしまった相手なんだから。
彼女の為であったとは言え、大恥をかかせてしまった側の人間としては、どれだけ恥ずかしくてもここではぐらかす事は出来ない。
京子「…既に私にとって鶴田さんは敵校のエースなどではありません」
京子「春ちゃんや小蒔ちゃんに負けないくらい大事な大事なお友達です」
京子「そんな人の為に自分に出来る事をしようとそう思うのはそれほど変な話ではないと思います」
京子「まぁ、少し強引な話になりましたけど、私が鶴田さんの事に関われるのは実質、昨日が最後でしたし」
京子「どうせですし、嫌われるのも覚悟で思いっきりやってみようかなって」
姫子「…怖くなかったと?」
京子「え?」
姫子「須賀さんのその話が確かなら…須賀さんは私の事を友達とそぎゃん風に思ってくれとると」
姫子「ばってん…もしかしたら私に嫌われる可能性だったあった訳たい」
姫子「そいは…怖くなかったと?」
京子「…勿論、怖かったですよ」
京子「自分のやっている事がお節介なんじゃないかって何度も思いました」
京子「鶴田さんどころか春ちゃんや小蒔ちゃんにまで愛想を尽かされるんじゃないかって内心、怯えていましたよ」
姫子「…じゃあ、どうして?」
京子「…簡単です。それだけ私にとって鶴田さんが大事だったんですよ」
姫子「…ふぇ」カァ
京子「ふふ、つまるところ、鶴田さんが魅力的なのが全部の原因なんです」
勿論、魅力的だと言っても、それは決して彼女の外見だけに起因するものじゃない。
鶴田さんは誰もが認めるような美少女ではあるが、その内面だって魅力に溢れているんだ。
敵校の人間にアドバイスする優しさ、時に叱咤出来る面倒見の良さ、エースとしての自負とそこから生まれる責任感。
小悪魔めいたその性格もそうだし、白水選手の事を未だ一途に想い、慕っているのも可愛らしい。
たった数日一緒に過ごしただけでも、それだけ出てくるくらい鶴田さんは人間的魅力に優れている人だ。
京子「そうじゃなかったら私も関わろうとはしなかったでしょうし、関わってもここまでしようとはしなかったでしょう」
京子「さっき鶴田さんが言っていたように、なあなあにしておけば全部が楽ですから」
京子「ですが、それは出来なかったのは…私がそれだけ鶴田さんの事を好きになっていたからなんでしょうね」
京子「つまり…鶴田さんの魔性の女っぷりが悪い、と」クスッ
姫子「せ、責任転嫁も甚だしかよ…!」
京子「ふふ、でも、私にとってはこれは本心なんですよ」
京子「…幻滅しましたか?」
姫子「…まぁ、ちょっとイメージが崩れたのは否定出来んと」
京子「やはりそうですか…」
姫子「…ばってん、少し安心したばい」
京子「え?」
姫子「…少なくとも、ただ優しかだけでここまでやった相手よりは全然、理解出来るたい」
姫子「まぁ、そん理由に関しては色々と納得のしづらいものもあるけど…」
京子「あら…私はこんなに鶴田さんの事を想っているのに…受け入れてはくれないんですか?」クスッ
姫子「じ、自分が魅力的だからとか言われて、はいそうですか、と言える訳なかよ…っ!」カァ
まぁ、そりゃそうだな。
俺だって逆の立場に立てば、驚きでそれどころじゃなくなるだろう。
こうやってちゃんと関係性を築けていなければ、美人局か何かを疑うレベルだ。
姫子「大体…須賀さんの方がよっぽど良え子やなかと…」ポソッ
京子「え?」
姫子「な、なんでもなかよ!」カァ
京子「…ごめんなさい。ちゃんと聞き取れなかったんでもう一度、お願いできますか?」ニヤニヤ
姫子「そん顔、絶対、聞き取れとるやなか!!」マッカ
京子「いえ、全然、聞けなかったですよ。全然、まったく、これっぽっちも」ニッコリ
姫子「こ、この…須賀さんの癖に…!」ウー
京子「そんな風に人を侮っているから痛い目を見るんですよ」クスッ
姫子「……じゃあ…そんな余裕ぶってる須賀さんにも痛い目、見せてあげるけん…!」
京子「え?」
姫子「須賀さんは!困ってる人を放っておけない良い子たい!!」
京子「ちょ!?」
いきなり何やろうとしてるの鶴田さん!?
そんな大声で声を張り上げたら駐車場にいる他の皆から視線がこっちに!!
何事かと訝しがるのはまだしも、ニヤニヤと笑ってるようなもんまであるんだけど!!
まるで痴話喧嘩か何かを見てるみたいな…あぁ、もう…そんなんじゃねぇってのに…!
と、とにかく、暴走してる鶴田さんを止めないと!!
姫子「誰かのために一生懸命になれて!!麻雀だってずっと頑張ってて!!何時だって誰かが…」
京子「わわわわわっ!」
姫子「んぐっ!」
…あ、鶴田さんの唇柔らけぇ。
ってか、他の部分もぷにぷにしてすっげぇ女の子らしいって言うか。
見た目は結構華奢なのにちゃんと女の子してるんだなぁ…ってそうじゃねぇ。
京子「な、何をやってるんですか…!?」
姫子「だ、だって…こんまま負けっぱなしは悔しか…!」
京子「だからってこんなの自爆テロも良いところじゃないですか!?」
姫子「負けっぱなしよりも自爆でノーゲームの方が幾らかマシたい…!」
京子「それかなり末期な考えですよ!?」
姫子「た、例えそうでも名門新道寺に敗北は許されんたい…!」
京子「いや、名門はまったく関係ないと思いますが…」
京子「…ま、まぁ…何にせよ、鶴田さんの気持ちは分かりました」
京子「…正直、持ち上げ過ぎだとは思いますけど…それでも嬉しかったですよ」
姫子「…そこで謙遜する必要もなかかろーに」
京子「私だって羞恥心の一つや二つくらい持ってるんです」
京子「大体、あんなに大声で叫ばれて、はいそうですね、なんて言えませんってば…」カァ
姫子「…ふふ」
京子「まったくもう…」
…どうやら新道寺のエース様は俺の赤くなる顔を見て多少は調子を持ち直したらしい。
綻ぶような笑顔を浮かべながら、袖の余った制服で口元を隠した。
何処か小悪魔めいたその仕草はあんまりにも可愛くて…笑われている事があんまり気にならない。
…こういうところでつくづく、可愛いは正義だと思う。
姫子「…あ、ばってん、誤解されんように言っとくと」
京子「何をですか?」
姫子「私は須賀さんの事は好きとよ。ばってん、私の心は哩先輩のものたい」
姫子「私の事ば想うのは否定せんばってん…須賀さんとは付き合えんと…!」
京子「わー残念ですねー」ボウヨミ
姫子「…もうちょっと本気っぽく見せるくらいの甲斐性ば見せて欲しかったばい」
京子「それならそれで鶴田さんが困るだけでしょうに」
姫子「ん…そいでもなかよ?」
京子「え?」
姫子「私…須賀さんやったら…」スッ
姫子「…哩先輩と三人で付き合っても良かと思っとるけん」ジィ
つ、鶴田さんの小さい身体が!身体がピッタリくっついて来てる!
やだ鶴田さんってば良い匂い…しかも、心なしか目が潤んでる気がするんですが…!!
その上、微かに震える手で逃げられないように制服掴むとか反則じゃないですか!?
昨日の俺だって決してそこまではやってないんですけど!!
姫子「…ふふ、ドキドキした?」サッ
京子「アレでしないのは無理な話だと思います」メソラシ
姫子「素直に負けましたって言えば良かのに」クスッ
京子「……それはそれで悔しいですから」
京子「…例え、昨日の仕返しだって分かっていても」
姫子「えへへ、良く分かっとるたい」
京子「そりゃもう。鶴田さんの白水選手への気持ちはここ数日聞かされていますし」
京子「こんな人の目も沢山あるような場所で迫られたら、そりゃそうとしか思えませんよ」
姫子「…ばってん、そいでもドキドキしたって事とよ?」クスッ
京子「…えぇ。そうです。ドキドキしました」
京子「分かっててもドキドキさせられましたよ…もう」
つーか、あんな事されてドキドキしない男子高校生なんていませんってば。
ただでさえ自意識過剰に傾きがちな年頃なのに美少女に身を寄せられるとか一発で恋に堕ちてもおかしくはないレベル。
俺だって幼なじみのポンコツ女で免疫つけてなかったらコロリといってたかもしれない。
まぁ、咲の場合はさっきの鶴田さんみたく何処か色気にも思えるような魅力は出せなかったけどなぁ。
あいつの場合、身を寄せると言うよりはスススと自然に入り込んでくるような感じだったし。
姫子「こいで一勝一敗やけんね!」
京子「…すっごい不毛な勝負にしか思えませんが」
姫子「じゃあ、やらんと?」
京子「やられたからやり返すなんて連鎖は何処かで断ち切らなきゃいけないですから」
姫子「先に仕掛けた側がそぎゃん事言うてもまったく説得力がなかよ」
京子「そもそも昨日のそれは鶴田さんの方からやれって無茶ぶりされたからだと思うんですが」
姫子「う」
京子「そうじゃなかったら私だってやりませんよ、あんな事」
とは言うものの、俺自身、あの時の鶴田さんを見るのは良い気分だった。
ぶっちゃけた話、もう一回、あんな風に鶴田さんをドキドキさせたくはないと言ったら嘘になってしまうだろう。
だが、一応、鶴田さんは異性なんだから、そうホイホイと同じ事をする訳にもいかない。
鶴田さんにとって俺は同性にしか見えていないだろうけれど、俺にとって彼女は魅力的な異性なんだから。
そんな勝負、下手に受けてしまったらドンドンとのめり込んでいってしまう。
「はーい。そろそろ時間だから皆バスに戻ってね」
姫子「……」
京子「…時間、ですね」
姫子「…うん」
そんな彼女との別れの時間がやってきた。
こうやってじゃれるような時間は終わり、俺と鶴田さんは当分、会えなくなってしまう。
まぁ、別に俺たちは恋人同士じゃないんだし、涙を浮かべて別れたりはしないけれども。
こうして仲良くなれた事を思うとやっぱり物寂しさは感じるし…何より… ――
姫子「…次は二ヶ月後やけんね」
京子「え?」
姫子「インターハイで…必ずリベンジを果たすと」
姫子「麻雀でも他のものでも…今度は須賀さんを完璧にギャフンと言わせてやるたい!」
京子「鶴田さん…」
姫子「…やけん、そぎゃん顔せんで良か」
姫子「きっとすぐに会えるたい」
次に鶴田さんと会えるかどうかは分からない。
そんな情けない俺の不安は鶴田さんに見抜かれていたみたいだ。
いや…それだけじゃなくって、鶴田さんの言葉がスルリと俺の中に入って来て…本当にまた会えそうな気がしてくる。
勿論、俺はまだまだ弱くて、強くなる目処すらちゃんと立っていないんだけれど。
だけど、鶴田さんにそう言って貰えるだけで…俺の脳裏にそのイメージが沸き上がってきた。
京子「(…きっと楽しいだろうな)」
京子「(今よりもずっとずっと強くなっているであろう鶴田さんと)」
京子「(誰よりも…何処よりも輝いている舞台で)」
京子「(全力を出しあって…鎬を削るようにぶつかる事が出来たら)」
京子「(例え、負けたとしても…最高の勝負が出来たって…そう言えるだろう)」
京子「……えぇ。そうですね」
姫子「あ、そん時はもう卑怯な手は使ったらいけんよ?」
京子「使いませんよ。と言うか、使えませんってば」
京子「大体、どうやって他の対戦者をこっち側につけるんですか」
姫子「そりゃもう須賀さんが身体で籠絡して…」
京子「そんなオカルトあり得ません」
そもそも男のロマンやファンタジーがこれでもかってほどつめ込まれてるエロ漫画でも滅多にないだろ、そんな展開。
大体、そうやって女の子を籠絡出来るようなイケメンなら俺の人生はもっとバラ色だったはずだ。
実際はバラ色どころか彼女いない歴=年齢を突っ走ってるのだから、例え世界戦を飛び越えてもそんな未来はない。
…あ、やべ、なんか自分で言ってて悲しくなってきた。
姫子「ふふ…でも、私は楽しみにしとるけんね」
姫子「絶対に負けたらあかんばい」
京子「…当然です」
京子「こっちだって結局、ちゃんと勝てていないままなんですから」
京子「必ず…インターハイで会いましょう」
姫子「うん。そいぎ…また」
京子「えぇ。また」
そう言葉を交わして鶴田さんが俺に背を向けた。
そのまま彼女はエンジン音と共に排気ガスを吐くバスへと歩みを進める。
ふと周りを見れば、鶴田さんと同じようにバスに乗り込もうとしている少女たちの姿が見えた。
その中に俺に対して軽く手を振ってくれる子がいるのは…きっと鶴田さんの事で感謝してくれているからなんだろう。
姫子「……『京子』ー!!」
京子「…え?」
姫子「私も友達や思っとるけん!手加減はせんとよ!!」
姫子「全力で立ち向かってくるたい!!」
京子「……あ」
…なんだよ…もう。
ただでさえ、気持ちが沈みそうだったところに友達だとか…名前呼びとかさ…。
完全に不意打ち過ぎて…ちょっと涙腺に来るじゃないか。
京子「……それはこっちのセリフですよ! 『姫子』さん!」
京子「私の方が格下だからって油断なんかしたら足元掬っちゃいますよ!」
京子「お互い全力で…! 今度こそ本当の勝負をしましょう!」
姫子「うんっ!!」
そう言って鶴田さん…いや、姫子さんはバスの中へと乗り込んでいく。
そのまま姿が見えなくなる彼女に…けれど、もう寂しさなんて感じなかった。
この別離は一時の事でしかないし…何より、そんなものを感じている時間は俺にはない。
なにせ、あの新道寺のエースが全力で来るとそう宣言しているんだから。
それを受け止めるに足る実力をつけなければいけない、と胸の奥が熱くなっていた。
「では、そろそろ時間なので…」
京子「はい。この度は本当にありがとうございました」
「いえ、こちらこそ。永水女子の皆様にはとても多くのことを学ばせていただきました」
「特に鶴田の事に関してとても感謝しています」
「レギュラーに…と考えている子達にも強く自覚が現れてきましたし、お陰でこれから新道寺はまだまだ強くなる事が出来ます」
「鶴田を軸に…きっと去年に負けないようなチームを作っていけるでしょう」
「ですが…全国では敵同士。感謝はしても手心は加えさせません」
京子「えぇ。当然です」
京子「こちらも鶴田さんには色々な事を教えてもらい、そして気づかせてもらいましたが…手加減するつもりはありませんから」
京子「今回の恩はインターハイの会場にて必ず返させていただきます」
「…えぇ。では、また全国で」
京子「はい。また」
そして最後に新道寺の監督が乗り込んでいく。
来る時には不敵な人だと思ったけれど、最後までそのままのイメージの人だったなぁ。
でも、決してそれが嫌じゃない…って風に思うのは彼女が部員の事を大事に思い、麻雀の事が大好きなのが伝わってくるからだろう。
合宿中でも敵校であるこちらの指導にも手を抜かなかったし、その指摘は全て正確なものだった。
元々がお嬢様校で経験者が殆どいなかったとは言え、名ばかりの顧問しかいない永水女子からすれば本当に羨ましい。
ってまぁ…それはさておき。
京子「…小蒔ちゃん」
小蒔「はい。皆さん!整列してください!」
春「…はい」
明星「分かりました」
湧「…」
小蒔「新道寺の皆さんに礼!」
「「「「「ありがとうございました!!」」」」」
「こっちこそありがとう!!」
「全国で会おうね!絶対だよ!!」
「神代さん!次は本気出させたるけんね!!」
「何度も飛ばされたけど十曽さんとの麻雀楽しかったよ!
「い、石戸さん…いえ、明星お姉様と呼ばせてください!!」
京子「(おい、何だ最後の)」
そのツッコミを言葉にする暇もなく、新道寺の皆が乗り込んだバスが流れるように動き始めた。
そのままゆっくりと加速していくそのバスは駐車場から消えていく。
数十秒もすればバスのエンジン音すら聞こえなくなり、駐車場の中に鳥の鳴き声が戻ってくる。
春の陽気に誘われるようにして様々な囀りが重なるその音が、新道寺の皆がもうこの場にいないという事を俺たちに教えた。
小蒔「…行ってしまいましたね」
京子「そうね…」
春「私達も頑張らないと」
京子「…えぇ。きっと新道寺の皆は今よりもずっとずっと強くなって…インターハイに行くでしょうから」
京子「こちらも全力ではなかったとは言え、総合成績では負けっぱなし」
京子「今のままじゃ大きく水を開けられる結果になるでしょうね」
小蒔「…でも、大丈夫ですよ!」
小蒔「だって、私達は新道寺さんに負けないくらい仲良しなんですから!」
小蒔「新道寺さんが強くなるのならば、こっちはそれ以上に強くなれば良いだけです」ムンッ
京子「ふふ、そうね」
京子「(その為にも…俺は今、やらなきゃいけない事がある)」
新道寺の皆との合宿を締めくくったのは彼女達との団体戦形式の模擬戦だった。
お互いどれだけこの三日間で強くなったかを確認しようとするその戦いは…永水女子の惨敗という結果に終わったのである。
勿論、それは小蒔さんが『全力以上』を出せなかったり、俺と言うお荷物がいるという事も無関係ではないのだろう。
だが、春や明星ちゃんは大きくとは言わずとも勝ち越して、それなりの点数を持ち帰ってきてくれた。
それでも結果が目も当てられないくらいに酷い有様だったのは… ――
京子「…わっきゅん」
湧「っ!」ビクッ
京子「少し…話をして良いかしら?」
永水女子において小蒔さんに並ぶ重要なスコアラーであったわっきゅんが恐ろしいまでに不調だったからだ。
その理由は…まぁ、考えなくても分かるだろう。
そもそもわっきゅんは合宿初日の総合成績で上位に食い込むくらいの実力を持っている。
いや、それどころか一日目の和了点数だけで見れば、姫子さんや友清さんを差し置いて、間違いなくトップに立っていただろう。
そんなわっきゅんが二日目から調子を落とした理由なんて一つしかない。
湧「あ…ぅ…」
京子「…お願い…なんて言えるような立場じゃないのは分かってるわ。でも…」
湧「…~~っ!」ダッ
京子「待って…っ!」
その瞬間、わっきゅんは俺に背を向けて大地を蹴った。
小柄な身体からは想像も出来ないくらい鍛えあげられた足が生み出す推進力は一気に彼女を加速させる。
ほんの一秒にも満たない時間で手が届かない距離にまで離れるその加速力は本当に女の子とは思えない。
恐らく運動部の男でも先行するわっきゅんに追いつくのは難しいだろう。
京子「(…だけど…そんなのこっちも織り込み済みなんだよ…!!)」ダッ
そもそも俺は何度もわっきゅんに逃げられているんだ。
話しかけた瞬間、俺から逃げ出す事くらい予想済みである。
俺の身体もまたそんな彼女を追いかける為に力を込め、大きく大地を蹴った。
瞬間、わっきゅんの背中がぐっと俺に対して近づくが、まだまだ手が届くような距離じゃない。
俺から本気で逃げようとしているのだろうその速度に胸が微かな痛みを走らせた。
京子「(…でも、ここで諦める訳にはいかないだろ…!)」
京子「(今を逃したら…次、何時、声を掛けられるか分からないんだ…!)」
お風呂での一件以来、わっきゅんはずっと俺の事を避けてきているんだから。
こうやって新道寺の皆を見送らなきゃいけないような状況でなければ、俺の側になんて来ないだろう。
つまり…今が俺にとって、わっきゅんの気持ちを確かめる最大のチャンスなんだ。
京子「(…何より…姫子さんが言うとおり…俺は先輩なんだから…!)」
京子「(これからどうなるにせよ…決着をつけるのは俺の方からじゃないと…!)」
京子「(このままなあなあで済ませておけば…間違いなくチーム全体に迷惑がかかる…!)」
京子「(ひいては…俺達との再戦を楽しみにしている姫子さんにも…!)」
京子「(…だから…今日…ここで…)」
京子「(何もかも…はっきりさせるんだ…!)」
京子「わっきゅん、待って!お願い…話を…話を聞いて…!」
湧「っっ!」ダダダダッ
京子「(ってさらに加速するのか…!?)」
京子「(そんなに俺と話をするのが嫌って事なんだな…)」
京子「(いや…そういえば…さっきもわっきゅんって呼ばれた瞬間、飛び出したし…)」
京子「(二日目の時だって…キッカケは彼女を呼んだ時だった…)」
京子「(って事は…もしかして俺にアダ名で呼ばれるのが嫌って事なのか…?)」
京子「(…初日は喜んでくれたのに…そんなに俺の事を嫌うようになったんだな…)」ズーン
京子「(い、いや…傷ついてる場合じゃない…!)」
京子「(このチャンスを逃したら…もうわっきゅんは完全に俺へ近づこうとしなくなるかもしれないんだ…!)」
京子「(思いついたら即実行!数撃ちゃ当たるの精神で…!)」
京子「…湧ちゃん!」
湧「…っ」ビクッ
よし…反応した…!!
…って事はやっぱりさっきの推測は合っていたって事だよなぁ。
やっべ…こうして実際にそれが証明されると結構、凹む…。
方言を漏らすようになってからはお屋敷の中でもかなり俺に対して懐いてくれていた子だから尚更クるって言うか…。
でも…凹んだだけあって突破口は見えたんだ…!
後はそれをこじ開ければ良い…!!
京子「湧ちゃん…ううん…十曽ちゃん!」
京子「お願い…止まって…!話を…話をさせて…!」
京子「十曽ちゃん…!!」
湧「…」ピタ
京子「(…ふぅ、何とか止まってくれたか…)」
京子「(でも…あんまり近づくと怖がられるよな)」
京子「(とりあえず…数歩の距離まで近づいて…)」
京子「…ありがとう、十曽ちゃん」
京子「そして…変に怖がらせてしまってごめんなさい」
京子「私はただ…十曽ちゃんと話をしたかった…」 「…グスッ」
京子「……え?」
湧「こらいやったもしいいいい!」ビエエエエエ
京子「え!?えぇぇ!?」
アイエエエエエエエエ!?涙!?涙、ナンデ!?
いや、ちょ…ホント、なんで十曽ちゃんが泣いてるの!?
え、そ、そんなに俺と話をするのが嫌だった!?
話しかけるだけでごめんなさいされるレベルで嫌われてたの俺!?
京子「う…え、えっと…その…」
湧「うぇぇ…ぐじゅ…っうええええ…」ナミダダバ-
京子「……と、とりあえず…ハンカチ使う?」スッ
湧「…う…うわああああああんっ」ビエエエエエエン
京子「(更に泣きだしたあああああああ!?)」
京子「(え、ちょ…これ、マジでどうすれば良いの!?)」
京子「(流石にこれは予想外…と言うか、凹む云々のレベルじゃないんですけど!!)」
京子「(でも…と、とりあえずこのまんまにはしておけない…よな)」
京子「(…俺が何をやっても今の十曽ちゃんには逆効果だってのはわかったんだ)」
京子「(…話は出来なかったけど…それだけ俺が嫌われてる事も理解した)」
京子「(なら…俺がここでするべきは…)」
京子「…と、とりあえず…私は明星ちゃんを呼んでくるから…」
湧「…っ!」ガシッ
京子「…え?」
…なんで俺、腕掴まれてるの?
いや、もうホント、さっきから訳が分かんないレベルなんだけど!!
誰か翻訳!!翻訳プリーズ!!
明星ちゃんでも春でも誰でも良いから誰か説明をください!!
湧「い…行たらやぁ…」グスッ
京子「え…でも…」
湧「やだ…」グッ
京子「…私が側に居て良いの?」
湧「……」コクン
京子「…そう」
京子「…それじゃああっちのベンチに行かないかしら?」
京子「このままここで立ったままって言うのは十曽ちゃんも落ち着かないだろうし…」
湧「…うっ…」ポロポロ
京子「(あ、あれえええええええ!?)」
京子「(ちょっと落ち着いたと思ったらなんでまた泣きだしてるの!?)」
京子「(やっぱり名前!?名前がダメなのか!?)」
京子「(俺みたいなセクハラ強姦未遂野郎なんて名前ですら呼ばれたくないって事なのか!?)」
湧「…や…だ」
京子「え?」
湧「せ…せっか…アダ名を考げたのに…そ、そげな…呼ばれ方すっとは…い、嫌…」プルプル
…………え?
つまり、十曽ちゃんが…いや、わっきゅんが泣いてるのは俺に元の呼び方された所為って事か?
…って事はさっきまでのそれは全部、俺の勘違いで…逆に彼女を傷つけてただけ…?
京子「…ごめんなさい、じ…」
湧「…っ」ビクッ
京子「…いえ、わっきゅんね」
湧「…ぁ…」
京子「…私、どうやら誤解してたみたい」
京子「わっきゅんはもう私にそう呼ばれたくないんだって…そう思って」
京子「…実際、名前で呼ぶ度に逃げられていたから」
湧「…こ、こらいやったもし…」
京子「ううん、わっきゅんは何も悪くないわ」
京子「悪いのは盛大に自爆した私の方だから」
…そもそも姫子さんは、わっきゅんが俺の事を待っててくれてるってそう言ってくれてたもんなぁ。
それをちゃんと信じておけば、こんなややこしい事にはならなかっただろう。
結局のところ、俺が変な勘ぐりをしたのが全ての元凶な訳で。
そう思うと風呂での件と合わせてわっきゅんにDOGEZAしなきゃいけないレベルじゃないだろうか…。
京子「…でも、少し落ち着いたかしら?」
湧「…う…ん」コクン
京子「じゃあ…」ストン
湧「え…?」
京子「…ちゃんと顔を拭かないとね。…そのままじゃ可愛い顔が台無しだから」フキフキ
湧「ん…」
まぁ…だからと言って、ここで俺が謝罪に謝罪を重ねても話は進まない。
何より、心優しいわっきゅんがそれを望んでいるとも思えなかった。
ならば、ここで俺がするべきは謝罪を重ねる事ではなく、彼女の顔を拭ってあげる事。
そして、目に見えてさっきの事を気に病んでいるわっきゅんと視線を合わせ、慰めてあげる事だろう。
湧「キョンキョン…おっかあはんみたい…」
京子「ふふ、わっきゅんみたいな子どもがいると毎日が楽しそうね」
京子「でも、私はわっきゅんみたいな大きな子どもがいるくらい老けているつもりはないわよ?」クスッ
湧「こ、こらいやったもし…」シュン
京子「謝らなくても良いのよ。それに…私はとても嬉しいから」
湧「え?」
京子「私はもうわっきゅんに嫌われていると思ったの」
京子「もう前みたいに話なんて出来ないんだって…そう思ってたわ」
京子「だから…そうでなかったのが嬉しい」
京子「…本当に…嬉しいの」ポロ
湧「…キョンキョン…」
京子「…ふふ、ダメね。こんな事で泣いちゃ」
京子「わっきゅんのお母さん失格ね」
湧「そ…そげな事ないよ」スッ
湧「…キョンキョンは何時だって立派じゃっで」
湧「そいに…悪りのはあちきの方…」シュン
そこでわっきゅんは俺の前で身体を縮こまらせた。
まるで親に叱られた小さな子どものように反省と後悔を示すその姿は見ていて若干、痛々しい。
下手に何かを言えば慰めるどころか、きっとさらにわっきゅんを傷つけてしまうだろう。
湧「あちきがお風呂であんな事したからキョンキョンにうはっをかかせてしもた…」
京子「…そんな事ないわよ」
湧「でも…恥ずかしかったじゃんそ?」
京子「…まぁ、恥ずかしくなかったとは言わないけど」
京子「でも、私は別にアレで大恥をかかされたなんて思ってないわよ」
湧「え…?」
京子「そもそもアレはタイミングが悪かっただけだしね」
京子「普段なら…まぁ、もうちょっと何とかなったはずよ」
幾ら禁欲が続いていたとは言っても、わっきゅんがムスコの上に乗っただけで勃起はしないだろう。
流石に腰を前後に揺らされる素股プレイまで行くと勃起不可避だろうが、それだけならば俺でも何とか抑えられたはずだ。
だが、現実はただ素股プレイってだけじゃなく、両隣には小蒔さんと春が居たし、何より俺の理性は一度、崩壊していたのである。
ぶっちゃけた話、あの状況で勃起を抑えられるのなんてEDかホモくらいなもんだろう。
京子「それに…どちらかと言えばわっきゅんよりも春ちゃんの方が色々と危険な事をしてるし…」
湧「…そなの?」キョトン
京子「えぇ。そうなの」
京子「でも、私は別に春ちゃんの事を怒ってもいないわ。勿論、わっきゅんの事もね」
京子「寧ろ、私はあんな事になってわっきゅんを傷つけていないか心配だったくらいなんだけど…」
湧「あ、あちきはだいじょっ」
京子「…無理しなくても良いのよ?」
湧「も、勿論、ちっと恥ずかしかったけど…」
湧「でも…キョンキョンのじゃったし…嫌じゃなかったよ」カァ
京子「……ぅ」カァ
お、落ち着け俺!!
わっきゅんの言っているのはあくまでも信頼度の問題だ!!
別に俺の事が好きだからとかそういうんじゃまったくない!!
俺の事をそれだけ信頼してくれているってだけで他意はまったくないんだ!!!
湧「…あれ?キョンキョン、どげんかした?」
京子「いえ、ちょっとこう現状確認を自分の中でね」
湧「…げんじょーかくにん?」クビカシゲ
京子「えぇ。まぁ、もう終わったから問題はないのよ」
京子「でも…それなら一つ聞いて良いかしら?」
湧「ん。だいじょっ」
京子「…それならどうして私から逃げていたの?」
京子「もし、何もなかったのならそんな風に逃げる必要はないと思うんだけれど…」
湧「え、えっと…そいは…」
京子「…別に私に遠慮しなくても良いのよ」
京子「私はそれだけの事をわっきゅんにしてしまったんだもの」
京子「嫌いなら嫌いとそうはっきりさせてくれた方が私も有り難いわ」
湧「ち、違うの。そげな訳じゃなくって…その…」モジモジ
湧「…ど…ドキドキ…するの」
京子「…え?」
DOKI☆DOKI!?
湧「い、今まであちき、キョンキョンの事…その…あんちゃんみたいに思うちょった」
湧「格好良かし、しおらしし、頼いになるし…こげなあんちゃんが欲しって…」
湧「だけど…最近…変なの」
京子「へ…変って…具体的に…どんな感じなのかしら?」
湧「…キョンキョンを見ちょると動悸が早よなって…」
湧「近こにいるって思ただけでちわいちわいして…顔を見らるいと身体がいとなって…」
俺を見てると胸がドキドキする…近くにいるだけでそわそわして…顔を見られると身体が熱くなる…。
そ、それってまさか…!?
湧「こうしちょっ今もお風呂での事を思い出して…あぁ…もう…げんねぇ…」モジモジ
京子「ですよねー」
湧「え?」
京子「い、いえ、なんでもないわ」
まぁ、ここで好きだの惚れただのが出てくるなら俺の人生はもっと彩り鮮やかなもんだっただろう。
彼女居ない歴=年齢は決して伊達でも何でもないのだ。
…出来れば伊達であって欲しかったって思う俺がいない訳じゃないけれど。
でも…まぁ、そういうんじゃなくって安心したって気持ちが今は強いかな。
湧「…あちき、淫乱なたろかい?」
京子「え?」
湧「だ、だって…顔を見っかし、ごろの事思い出すなんち…」
湧「あ、あちき…自分がこんなげんね女なんて…思っちょらんかった…」シュン
京子「…大丈夫よ、わっきゅん」
京子「そうやって思い出してしまうのは決して変な事ではないから」
湧「…そなの?」
京子「えぇ。だって…アレはそれだけ衝撃的な出来事だったから」
京子「わっきゅんの頭の中にちょっと強く焼き付いてしまっただけよ」
京子「時間が経てばきっと気にならなくなるし、思い出さなくなるわ」
寧ろ、わっきゅんのような女の子がごろ ―― 男性器を押し付けられてまったく気にしない方がおかしい。
確かに彼女は活動的であまり性差を意識しないタイプだけれど、それでも立派な女の子なんだから。
小蒔さんのように男が勃起する意味すら知らないならまだしも、風呂場での反応を見るにそういう訳でもないんだし。
あの風呂場での一件からまだ2日しか経っていない現状で、思い出さないようにするのは無理だろう。
湧「…げんにゃあ?」
京子「えぇ。げんにゃあげんにゃあ」
京子「だから、あんまり気にしすぎなくても良いのよ」
京子「それが嫌なら私も距離をおくようにするから」
湧「そ、そいは…嫌…っ」ギュッ
京子「無理はしなくても良いのよ?別に私だって今すぐわっきゅんと仲直り出来るなんて思ってた訳じゃないんだし…」
京子「さっき追いかけてたのだって…わっきゅんが私の事をどんな風に思っているのか確かめようと思っていただけだから」
京子「嫌われていないと言うだけで私は安心したし、わっきゅんが落ち着くまで距離を置くというのも一つの手段よ」
湧「そいでも…寂しかった」
京子「え?」
湧「こ、こん二日間…キョンキョンと話も出来なくて…一緒に御飯食べるのも出来なくて…」
湧「わっぜか…わっぜか寂しかったよ…」
京子「…わっきゅん」
…そうだな。
元々、わっきゅんはとても人懐っこくて賑やかなのが好きな子なんだ。
俺を避ける為に皆とも一緒にいれなかった彼女が寂しさを覚えてもなんら不思議ではない。
湧「明星ちゃは一緒にいてくれたけど…やっぱりあちき…皆と仲良くしたい」
湧「キョンキョンとだって…今ずい通い…仲良くしたいから…」
湧「…じゃっで、キョンキョンが嫌じゃなかったら…あちきと一緒にいて欲しい」
湧「あ、あちき…またげんねぇこつになるかもしれないけど…きばっから!」
湧「ご、ごろを思い出してもだいじょっなように!」
湧「げんねくても逃げ出さんようにすっで…じゃっで…」
京子「……もう。わっきゅんは気にしすぎよ」
湧「でも…」
京子「…別に恥ずかしくても良いのよ。逃げても良いの」
京子「ただ、私と仲良くしたいってその気持ちがあれば…私は十分だから」
京子「寧ろ、本当は辛いのに私の側に無理しているわっきゅんを見てるとこっちも辛くなってきちゃうわ」
京子「…だから、無理だけはしない。辛い時にはちゃんと私から離れる事」
京子「それが約束出来るなら…また一緒にご飯食べましょうか」ニコ
湧「あ…」
距離を置く…なんて事は言ったけれど、俺だって本当はそうしたい訳じゃない。
俺だってわっきゅんから避けられていたこの二日間で多大な精神的ダメージを受けたのだから。
それでもあんな提案をしたのはわっきゅんの事を慮っての事だ。
だからこそ、本人がそれが要らないお世話だと言うのであれば、俺に彼女を拒む理由はない。
寧ろ、俺の方からそれをお願いしたいくらいだ。
湧「キョンキョン…っ」ダキッ
京子「はいはい。もう…わっきゅんは甘えん坊ね」ナデナデ
湧「じゃ、じゃっで…そいだけ寂しかった…」ギュー
京子「もう。そんな事言うと…今日一日、甘やかしちゃうわよ?」
湧「えへへ…そいなら大歓迎!」ニコー
そう言って俺の胸の中で笑うわっきゅんの顔に陰りはなかった。
まだ完全に立ち直った訳じゃないが、仲直りが出来て気持ちも晴れたのだろう。
さっき泣いていた痕跡は最早なく、ただただ嬉しそうな笑みだけがそこにはあった。
本当に彼女が俺の事を歓迎してくれているのが伝わってくるその笑みに俺もまた笑顔になる。
勿論、何もかも丸く収まった訳じゃないが、これにて一件落着… ――
明星「…どうやら無事に仲直り出来たみたいですね」
湧「あ…明星ちゃっ」
明星「湧ちゃん、おめでとう。まぁ、少し仲良くなりすぎたみたいだけど」クスッ
湧「……あ」プシュゥ
湧「あわ…あわわわわっ」ワタワタ
京子「わ、わっきゅんっ!?」ビックリ
明星「大丈夫ですよ。自分がどういう状況なのか今更、理解しただけでしょうし」
明星「そもそも近づくだけであの事を思い出すような状況で京子さんに抱きついてる湧ちゃんが悪いです」
湧「はぅあー…」モジモジ
明星「…それより京子さん、ちょっとお話があるんですけど…宜しいですよね?」ニッコリ
京子「え、えぇ。大丈夫よ」
な訳ないよな!?
ある意味では湧ちゃんよりも強敵なラスボスさんが残ってましたよ!!
そのにこやかな笑みだけ見ても、明星ちゃんが俺に対して色々と思ってるのが伝わってきそうなくらいだ…!!
正直なところ、まったく宜しくはないと返したいけれど、そんな風に返したら余計に明星ちゃんが怒るだけだし…。
ここは真っ赤になった湧ちゃんを離して、素直に頷いておくしかない。
明星「…もう。何を怯えているんですか」
京子「え?」
明星「…別に私は京子さんに文句を言いに来た訳じゃないですよ」
明星「そもそも今回の件は完全に私が部外者な訳ですし、京子さんに何か言うのは筋違いです」
明星「…それにまぁお風呂の話になった時に京子さんの事を見捨てた負い目がありますし」
京子「別にそれは負い目ってほどじゃないと思うのだけれど…」
明星「ですが、少なくとも私が反対していれば…或いは一緒に入っていればこんな事にはならなかったでしょう」
明星「そういう意味で私にも間違いなく責任の一端はあります。…ですから、ごめんなさい、京子さん」ペコリ
京子「そんな…謝られるような事なんて…」
明星「…ですが」ムクッ
京子「…え?」
明星「…それを差し引いても、色々と京子さんには言いたい事があります」ジトー
やっぱ怒ってるんじゃないですかーやだー!!!
明星「大体、京子さんは流されすぎなんです」
明星「優しいのと自己主張しない事、何より甘やかす事は違いますよ?」
明星「どうせ今回の事だって春さんや姫様に甘い顔をした結果なのでしょう?」
京子「うぐ…」
明星「その結果、こういう事になってしまっているんですから次からはもうちょっと考えてもらわなきゃ困ります」
明星「大体、京子さんは自分一人我慢すればって方向に思考が行き過ぎです」
明星「少しは私達の事頼ってくれるようにはなりましたけど、それでも…って聞いていますか!?」
京子「は、はい…」シュン
湧「あ、あの…明星ちゃ…そいくらいで許して…」
明星「許しません。それと…私は湧ちゃんにも色々と言いたい事があるんだからね?」
湧「え?」
明星「さっきまでは落ち込んでたから言えなかったけど…そもそも私はあんまり京子さんにベタベタするのはいけないって何度も言ってたでしょう?」
明星「私達と同じつもりでスキンシップした結果が今回の原因なのは分かってるわよね?」
湧「は…はい…」
明星「そういうのが何時だって絶対的に悪いとは言わないけれど、もうちょっと時と場合を考えなきゃいけないわよ」
明星「さっき京子さんに抱きついてるのもきっと考えなしだったんだろうし…」
湧「う…うぅ…」
よ、容赦ねぇ…!
いや、言葉の端々から俺たちの事を大事に思ってくれているのは伝わってきているんだけどさ。
だが、それ以上に振りかかるような正論の嵐が俺たちに一切の反論を許さない。
怒涛と言っても良いその言葉に自然と身体が萎縮していくのを感じるくらいだ。
湧「…キョンキョン」チラッ
京子「…そうね」
そんな明星ちゃんにお説教をされている者同士だからだろうか。
チラリとこっちに目配せするわっきゅんの視線からは同じ気持ちが伝わってくる。
すなわち… ――
明星「それで二人には…」
湧「…明星ちゃ、こらいやったもし!」ダッ
京子「ごめんね!」ダッ
明星「あっ…ちょ!待ちなさい、二人とも!!」
逃げる!!
明星「もぉ!次に会った時は余計にお説教ですからね!!」
京子「らしいわよ」タッタッ
湧「怖いっ!」シュタタッ
京子「そうね。私も怖いわ」クスッ
でも、どうしてだろうな。
怖いと言っても身震いするようなそれではない。
どことなく肝試しを彷彿とさせる楽しみ混じりの恐ろしさを感じる。
…それはきっと明星ちゃんが俺たちの事を思ってお説教をしてくれるってだけじゃないんだろう。
湧「キョンキョンっ」
京子「何かしら?」
湧「あちき、今、わっぜか楽しいっ」ニコー
京子「私もわっきゅんと同じ気持ちよ」ニコッ
それよりも大きいのはきっとわっきゅんと繋いだ手から彼女の気持ちが伝わってくるからだ。
明星ちゃんから逃げる際、自然と結ばれたその手に怯えの色は一切ない。
寧ろ、今にも踊りだしてしまいそうなワクワクとしたものを感じる。
多分、わっきゅんも…そして俺も、手を取り合って明星ちゃんから逃げるって言う今の状況を楽しんでいるからだろう。
京子「ふぅ…もうそろそろ良いんじゃないかしら」
湧「だいじょっ…?」
京子「えぇ。きっと大丈夫よ」
京子「(そもそも明星ちゃんの足じゃ私達に追いつくのは難しいってのは彼女も良く分かってるだろうからな)」
京子「(帰ったらって言っていたって事は最初から俺たちを追いかけるつもりなんてなかったって事なんだろう)」
京子「(…まぁ、その分、次に会った時のお説教が怖いけどな。でも、それよりも今は…)」
京子「…わっきゅん、手、大丈夫なの?」
湧「ふぇ?…あ、わわわっ」パッ
あ、やっぱりダメなのか。
まぁ、俺の側にいるだけで例の件を思い出してしまうくらいだからなぁ。
さっきだって抱きついているのを指摘された時に身体が硬直していたし…恐らく意識してしまうとダメなんだろう。
逆に言えばまったく意識しなかったら大丈夫って事なんだろうけど…それはそれで難しいだろうし。
本当の意味での仲直りって言うのはまだまだ遠そうだ。
湧「こ、こらいやったもし…」カァァ
京子「良いのよ。意識してるとダメだって気持ちは分かるし…それに私もわっきゅんには無理して欲しくないから」
京子「それよりこれからどうしましょうか?」
湧「ん…きっと明星ちゃは皆のところに戻っちょるだろうし…皆との合流は難しそう」
京子「それなら少しデートでもしてみましょうか?」
湧「デート?」
京子「えぇ。次の合宿相手が到着するまでは自由時間って話だったし…あんまり遠くには行けないけどね」
京子「でも、適当に食べ歩きなんかしたりして遊べば時間も良い感じに潰れるでしょう」
湧「食べ歩き…っ!?」パァ
京子「(…まぁ、財布の出費はデカいだろうけど…昨日のしろくまやらハーゲンダッツやらの出費は思ったほどじゃなかったし)」
京子「(霞さんから比較的余裕を持って貰えていたから、食べ歩きでも問題ないはず…!)」
京子「(…それに…何より…)」
わっきゅんのワクワクに俺もあてられた所為かな。
なんだかこのまま学校の中にいるって言うのが勿体無い気がする。
折角、わっきゅんと仲直りが出来たんだから、もっと彼女と一緒にいたいって。
彼女とこの時間をもうちょっと楽しみたいって…そんな風に思ったんだ。
湧「行こっ!すぐ行こっ!」グイグイ
京子「もう。わっきゅんったら焦りすぎよ」
湧「だって…あちき、キョンキョンの事ばっかい気にしちょったから…あんまりご飯食べられてなくって…」
京子「わっきゅん…」
湧「だから、安心したらわっぜかお腹減った!」
京子「ふふ…まぁ、その方がわっきゅんらしいわよね」
京子「それに私だって同じ気持ちだし」
湧「キョンキョンも?」
京子「えぇ。まぁ、さっきお昼ご飯があんまり喉を通らなかったっていうのも大きいんだけどね」
京子「わっきゅんを追いかけるのにあんまり食べる訳にもいかないし…何より、色々と緊張していたから」
京子「だから、私もお腹ペコペコなの」
湧「そいじゃその分一杯食べんといかんね!」
京子「晩御飯もあるから、あんまり食べ過ぎる訳にはいかないけれどね」クスッ
湧「だいじょっ。晩御飯も一杯食べるから!」
京子「調子に乗りすぎてお腹が苦しくなっても知らないわよ?」
そう言葉を交わしながら俺たちは昼の日差しが差し込む並木道を歩いて行く。
繋いだ手は離しながらも、俺たちの口から楽しい言葉が途切れる事はない。
この二日間の間に溜まった寂しさを解消しようとするように言葉が後から後から飛び出していくんだ。
勿論、この半年間の間に構築された関係と今の距離は少し違う。
そうやって楽しく言葉を交わしながらも、以前よりも若干、離れるわっきゅんの姿に一抹の寂しさを感じるのは否定出来ない。
京子「(でも…そもそも変わらない関係なんてないしな)」
京子「(人と付き合っていく以上、ずっと心地良いままじゃいられない)」
京子「(それにわっきゅんは俺の事を未だ変わらず慕ってくれているし…)」
京子「(何より俺達の事を心配してお説教してくれる子がいるんだ)」
京子「(困っている時は支えてくれる人がいて、辛い時は手を差し伸べてくれる人もいる)」
京子「(…新道寺も良いチームだったけれど…俺達だって負けちゃいない)」
京子「(きっとこの距離も何時かはまた埋まるだろう)」
京子「(その時…俺とわっきゅんがどんな関係になっているのか分からないけど…でも…)」
京子「(皆がいるから、きっと悪いようにはならない)」
京子「(そんな漠然とした安心感があった)」
今日の本編投下はここまでです
以下は本編とはまったく関係のないオマケになります
…………
………
……
…
―― 宮永咲の朝は早い。
咲「…ん…ぅ」
朝六時。
女子高生達の中でもまだ眠っている子の多い時間にアラーム音が鳴り響く。
ピピピと耳障りなそれに咲の身体がモゾモゾと蠢いた。
自分を心地良い睡眠から引きずり出そうとするアラーム音に不快感を示すような動き。
だが、その布団から音の源を止めようとする手が伸びる事はなかった。
咲「…うー…」
一分後、アラームが止まってから咲の身体がムクリと起き上がる。
寝相で微かに乱れた髪のまま彼女は拗ねるような声を漏らした。
須賀京太郎の知る宮永咲ならば、そのまま二度寝に入ろうとしていただろう。
だが、彼女は何度か同じように声を漏らしてからいそいそとベッドから降りた。
咲「…んぅ~…」
そのままグイと背筋を伸ばして数秒。
体の芯にまとわりつくような眠気を追い出してから咲はそっとカーテンを開いた。
瞬間、目を差すような強い日差しが彼女の部屋に飛び込み、薄暗い部屋を明るく染める。
春の暖かで優しい日差しを身体一杯で浴びる感覚は心地の良いものだった。
だが、それを浴びる咲の表情に心地よさが浮かぶ事はない。
咲「…おはよう、京ちゃん」
彼女の目の前に広がるのは大きな空き地だ。
かつてそこに誰かが暮らしていた痕跡などまったく感じさせないポッカリとした空白。
その光景を見る度に咲の胸はズキリと引き裂かれるような痛みを感じる。
もう自分の幼馴染はいないんだと、アレは夢でもなんでもないのだと、そう現実を突きつけられて。
こうして朝、起きる度に未だ少女のままの心と身体が涙を浮かべそうになる。
咲「…っ!」
それを意識して堪えながら、咲は制服へと着替えた。
そのまま下へと降りた彼女は自分の分と父の分の弁当を作り始める。
昨日の残り物を味付けしなおし、軽く1、2品を追加するその手際は手馴れていた。
きっと親友たちがその姿を見れば、何時でも嫁にいけるとそう囃し立てただろう。
須賀京太郎が彼女の側にいた頃であれば、だが。
咲「……」ジュー
朝に弱い咲はあまり弁当を作ったりしてこなかった。
中学までは給食制度があったお陰でその必要が薄かったし、高校では学食や購買部があったのだから。
気まぐれにレディースランチを頼んでくれとせがむ幼馴染もいたし、弁当よりも購買のパンで済ませておいた方が色々と楽だ。
それよりも朝の心地良い微睡みを一分一秒でも長く味わっていたい。
―― それが変わったのは須賀京太郎がいなくなってからだ。
レディースランチをせがむ幼馴染がいなくなった今、学食に行く必要はない。
購買のパン一個か二個で十分な文学少女にとっては学食の量は多すぎるのだから。
だが、子どもの頃から自分の事を引っ張り、時にはいじめっ子から護り、一番辛い時期に側にいてくれた幼馴染は彼女にとってあまりにも大きな存在だった。
少なくとも、購買のパンを買う度に彼の不在を思い出し、胸が痛くなってしまう程度には。
咲「…ふぅ」
それから逃げるように咲は弁当作りを始めた。
そもそも朝が弱いと言うだけで咲自身は決して料理を不得手としている訳じゃない。
母がいなくなった後の宮永家の台所を一身に背負ってきただけあって同年代とくらべてもそれなりに出来る方だ。
何より、無節操な読書家である咲にとって自分の知識を思う存分試せる料理と言うのは苦ではない。
そうでなければ逃避であったとしても、これだけ長くは続かないだろう。
咲「……」
だが、咲はそれを進歩と受け止める気にはなれなかった。
勿論、弁当を作る事によって日々の食事が華やかなものになっているのは事実である。
こうして朝が起きられるようになったのも弁当を作らなければいけない、と言う自覚があるからだろう。
しかし、こうして弁当を作る度に、どうしても宮永咲は幼馴染の事を思い出してしまうのだ。
咲「…京ちゃん」
朝に弱い咲を起こすのは京太郎の仕事だった。
中学時代はハンドボールの都合もあり、起きるまで付き合うのは難しかったが、それでも母がいなくなった後の咲を引っ張ってきたのは京太郎である。
だが、今の彼女の側にはもう須賀京太郎の姿はない。
朝が起きれるようになって、美味しい弁当を作る事が出来るようになっても、それを真っ先に自慢したい彼が側にはいないのだ。
咲「…やめよう」
それが決して意味のある思考ではない事を咲はもう理解していた。
どれだけ幼馴染の事を思っても彼は決して帰って来ないのだと。
思い出しても自分が苦しむだけで、何の解決にもならないのだと。
咲「……」
そう分かっているのに咲の視線は目の前のガラス戸に吸い寄せられる。
かつて塀越しに須賀家が見えていたそのガラス戸から彼女は動く事が出来ない。
まるで見つめていれば何時かその現実が変わるのではないかとそう思っているように立ち尽くす。
既に弁当の準備は整い、学校へ行く準備も出来ているのに、咲の身体は中々、その場を動こうとしはしなかった。
………
……
…
―― 学校。
二年生にあがって咲は親友である原村和や片岡優希と一緒のクラスになる事が出来た。
それだけでも彼女は言葉に出来ないほど救われていた事だろう。
元々、引っ込み思案で人との付き合いがあまり上手くはない彼女にとって友達作りと言うのは常に人生と共にある命題である。
それを乗り越えられただけでも、彼女にとっては幸いだっただろう。
咲「…ねぇ」
「は、はい…」
咲「…どうしてそこで二筒なんて切ったの?」
「そ、それは…その…」
咲「河をみれば南家なのは分かるでしょ?」
咲「危険を承知で進むにしたって、博打過ぎ」
咲「大体、そんな博打をしなきゃいけないほど大きな点差が開いてる訳じゃない」
咲「ここはまず五筒切ってもう少し相手の出方を見るのが最善手」
咲「五筒なら待ちの数は減るけれど、和了った時の点数は変わらない」
咲「満貫見えて気持ちも浮かれたのかもしれないけど、それくらいの判断は出来て当然でしょ」
咲「…もう何年も麻雀やってきてそんな事すら出来ないの?」
「っ!」
和「咲さん…!」
咲「…何、和ちゃん」
和「……言い過ぎです」
だが、その幸運が彼女の平穏に寄与しているかと言えば、決してそうではなかった。
勿論、一年の時から自分の側にいてくれている親友達に咲もまた感謝している。
彼女たちがいなければ幼馴染がいなくなった学校生活は退屈なものだろうとも理解していた。
しかし…彼女の中の焦りがその全てを狂わせている。
咲「…でも、こんなんじゃ龍門渕さんには勝てない」
和「咲さん…」
咲「今年の龍門渕さんは強いよ」
咲「去年とは比較にならないくらい」
咲「特に今の衣ちゃん…さんは私でも勝てるかどうか分からないのに」
咲の脳裏に浮かぶのは数カ月前の春季大会でぶつかった龍門渕の大将、天江衣の姿。
去年の咲との攻防で人間的に一つ成長した彼女の実力は咲の予想を超えていた。
月齢は半月で、夜にもなっていないにも関わらず、全力の咲とほぼ互角に渡り合っていたのだから。
辛くもその攻防には勝利したものの、地方予選で再びぶつかった時に同じ結果を出せるか今の咲には自信がない。
咲「…お荷物なんて抱えていられるほど今の清澄は楽な状況じゃない」
咲「去年の優勝校にひっついて、何も考えず、ただただ、インターハイに連れて行って貰うつもりなら辞めてくれる?」
「っ!」
和「咲さん…!」
咲「…弱い部員なんか要らない。私はどうしてもインターハイに行かなきゃいけないんだから」
咲「そう…絶対に…インターハイには行かなきゃいけない…」グッ
何より、咲を焦らせているのは幼馴染にちゃんと別れの言葉を掛けられなかったという事実だ。
誰よりも真っ先に自分に伝えてくれた彼の気持ちに咲は応えられなかった、とそう思い込んでいる。
故に、咲は最後に彼が叫んだ「インターハイで会おう」と言う約束を頑なに護ろうとしていた。
その所為で部内に軋轢が生まれようとも、親友に辛そうな目を向けられても、彼女の歩みは止まらない。
和「(…でも、そんな風に後輩を締め上げてインターハイに行って一体何になるんですか…)」
和「(そもそも須賀くんはそんな事は望んでいなかったでしょう)」
和「(彼は自分よりも誰かの為に頑張る事が出来た人です)」
和「(私達の為に、初心者として一番楽しい時期を雑用に捧げてくれた人です)」
和「(そんな人が後輩を蔑ろにするような指導を見て心を傷めないはずがありません)」
和「(何より…咲さん自身がそんな自分で…本当に胸を張って須賀くんに会えるんですか…?)」
和「(自分は頑張ったんだって…本当にそう言えるんですか…?)」
和「(須賀くんと同じく中々、勝てない部員を追い出して…残っている部員もボロボロになるまで鍛えあげて…)」
和「(…それで須賀くんに…好きな人に心からの笑顔を見せられるんですか…?)」
そんな咲を見ながら和はそっと胸を抑える。
京太郎が旅立った今、誰よりも咲に近い彼女には咲の気持ちが良く分かった。
今の咲は京太郎に再び会う事だけしか考えてはいない。
まるで悪い恋の病に掛かってしまったように、それだけに腐心し、部の状態もろくに顧みてはいないのだ。
和「(今年の新入生ももう半分以上が辞めてしまいました)」
和「(全て咲さんの指導についていけないという理由です)」
和「(今いる子達だって…このままずっとついてきてくれる保証はありません)」
和「(いえ…きっといなくなってしまうでしょう)」
和「(…だって、ボロボロにされても部に残っている彼女達が憧れているのは貴女の強さなんですから)」
和「(去年のインターハイを制した『魔王』宮永咲の強さしか…彼女達は知らない)」
和「(もし…首尾よく須賀くんと再会し…そして咲さんが今の頑なさを失ってしまえば…)」
和「(彼女達はきっと幻滅してしまうでしょう)」
強さ故のカリスマ。
清澄麻雀部がまだ部としての体裁を保っていられるのは咲がそれを持っているからだ。
後輩たちは咲がほんの一年前まで幼馴染にポンコツ扱いされるごくごく普通の文学少女であっただなんて想像もしてはいない。
彼女らが信じているのは自分たちを鍛え上げ、インターハイへと引きずり上げてくれるであろう咲の強さだけ。
そんな状態の部が健全だとは和も優希も、何より部長のまこも思ってはいない。
和「(…でも…今、それを咲さんに伝えてもただ頑さを増すだけでしょう)」
和「(今の彼女は半ば自棄にも近い状態です)」
和「(インターハイに出る為ならば…再び須賀くんに会う為ならば…)」
和「(自分の何を犠牲にしても良いと…誰に嫌われても良いと…そんな風に思っているんですから)」
和「(それらを口にしてしまったら、余計に咲さんは自分を追い込むでしょう)」
和「(それは私達にとっても本意ではありません)」
和「(…だから、結局、私達に出来るのは…咲さんのフォローをする事だけなんです)」
和「(自分を傷つけるように頑張る彼女が、少しでも自分を嫌いにならなくて済むように)」
和「(それが…支える事も、守る事も出来ない私達が出来る…唯一の事)」
和「(無力…ですね。私は…)」
和「(彼がいなくなって…もう半年が経つと言うのに…)」
和「(親友の心ひとつ救ってあげられず…痛々しい姿を見ている事しか出来ないなんて…)」グッ
本来ならば和もそんな親友の姿は見ていたくはない。
だが、今まで幾ら言葉を掛けても、咲はその姿勢を改める事はなかったのだ。
寧ろ、そうやって注意されればされるほど、未だ足りないとばかりに麻雀にのめり込んでいく。
何処か鬼気迫るような咲のその姿に、もう和は言葉を尽くす事すら出来ない。
もう咲がそんなもので止まれるような状態ではない事に、彼女は気づいてしまったのだ。
和「(…こんな時、須賀くんならば…一体、どうするんでしょう…)」
和「(咲さんの事を叱咤するのか…或いは背中を押すのか…)」
和「(…きっとどちらでも咲さんはそれを受け入れるんでしょうね)」
和「(貴女にとって…須賀くんは…そんなになるまで…想っていた人ですから)」
咲が幼馴染に対して抱いていた気持ちを和も知っている。
本人は決して認めないが、京太郎が和の胸を見る度に不機嫌になるし、無意識的にか常に彼の隣をキープしていた。
その人気とは裏腹に麻雀にストイックな和でも、人並みには色恋と言うものに興味はあるし、敏感である。
咲が京太郎に対して抱いていた感情が、決して友情ではない事くらいは分かっていた。
そしてまた京太郎がそんな咲の事を憎からず想っていた事も。
和「(せめて須賀くんが咲さんに告白していてくれれば…)」
和「(…いえ、それは流石に彼の気持ちを蔑ろにしていますね…)」
和「(彼だって一ヶ月前に引っ越しを聞かされたんですから)」
和「(引っ越しの準備や気持ちの整理だけでも一ヶ月という期間は長いとは言えません)」
和「(ましてや…須賀くんは誰よりも咲さんの事を想っていたのですから…余計に言えなかったのでしょう)」
和「(引っ越しギリギリのクリスマスの日に咲さんに伝えたのが何よりの証拠)」
和「(そもそも須賀くんの性格からして、引っ越しが決まった後での告白なんて出来るはずがありません)」
和「(咲さんが受け入れても受け入れなかったとしても…それは彼女にとって少なからず負担になってしまうのですから)」
和「(何時だって目で咲さんの事を探して、迷子になった時は一番に見つけて、人付き合いが得意ではない彼女のことを導いて…)」
和「(そうやって信頼を勝ち取ってきた彼が咲さんに遠距離恋愛を突きつけられるはずがないって…私にも分かっています)」
和「(…でも…それでも…)」
咲「カンッ!カンッ!!もういっこカンッ!!」ゴッ
「ひっ」ビクッ
和「(…私はこんな咲さんは見たくなかったです)」
和「(笑顔を見せる事もなく…ただただ相手を叩き潰すだけの麻雀をしている咲さんなんて)」
和「(麻雀を楽しいと欠片も思っていないような咲さんなんて…見たくないんです)」
和「(…だから、お願いします、須賀くん)」
和「(お願いですから…インターハイに出てきてください)」
和「(そうじゃなかったら…咲さんは…もう…)」
咲「…ツモ。責任払いで18000」
「は…はい…」カタカタ
和「(…もう元には戻れないかもしれません)」
………
……
…
咲「…ふぅ」フキフキ
宮永咲は元々、あまり長風呂をする方ではない。
根っからの読書家である彼女にとって、風呂で時間を消費しすぎるのはあまり好ましい事とは思えなかったのだ。
それよりも早くあがって、ホカホカと気持ち良い身体で一冊でも多くの本を読みたい。
湿気で本が傷つくのを看過出来ない彼女がそう思うのも当然の事だろう。
咲「…まだかな?」
だが、ここ最近の咲は以前よりもさらに早く風呂からあがるようになった。
それはこの時間、決まって幼馴染からのメールが来るからである。
京太郎がいなくなってから、自分を追い込むように麻雀へ打ち込んでいる彼女にとって、それは日々の潤いだ。
その為だけに携帯を買ってもらい、必死で操作方法を覚えてよかったと思うくらいに。
咲「…」ソワソワ
この時ばかりは咲も普通の女の子に戻る。
後輩やライバル校達に恐れられる『魔王』ではなく、歳相応の恋する女の子だ。
無慈悲に他者を蹂躙し、指摘で鋭く心を抉る咲しか知らない後輩にとって、それが恐ろしくも頼もしい先輩だとは到底思えないだろう。
今の咲はまるで大好きなご主人様に待てを命じられた子犬のような愛らしい姿をしているのだから。
ヴヴヴ
咲「き、来た…!」サッ
そんな咲にとってメールの着信を知らせる携帯のバイブレーションはご主人様の「よし」も同然だ。
顔全体に喜色を浮かべ、髪を拭くタオルを落ちそうな勢いでベッドの上の携帯に手を伸ばす。
そのまま携帯を弄る彼女の顔がニンマリと崩れるのは勿論、メールの発信者が愛しい幼馴染だったからだ。
咲「えへへ…そっか…うんうん…分かるよ」
メールの内容に一々、相槌を打ちながら咲は携帯を操作する。
こうして携帯を買ってもらって既に半年が経過するが、その手際は決して慣れたものとは言えない。
しかし、それでも携帯の通話方法も知らなかった頃に比べれば、大きな進歩だ。
最初の頃は幼馴染のメールに返信するまでに一時間掛かったくらいなのだから。
咲「…ん…やっぱりこれやめにしよ」
とは言え、今でもその返信速度は決して早い訳じゃない。
一字一句を確かめるように打つ彼女が返信メールを完成させるのに十分は掛かる。
その上、完成させた後で何度も読み直し、誤解がありそうな部分は訂正していくのだから尚更だ。
日頃から文字とも親しむ文学少女であるが故に、そういう部分がどうしても気になってしまうのである。
咲「よし…送信…!」
結果、京太郎から貰ったメールに返信した頃には二十分が経過していた。
それでも咲は満足そうに頬を緩ませ、ベッドの上に身体を投げる。
瞬間、スプリングが軋み、微かに跳ねた身体からタオルがこぼれ落ちるが気にしない。
それよりも幼馴染からの返信が来るまでの時間をより有意義に過ごす為、彼と交わしたメールをチェックする方が咲にとって大事なのだ。
咲「(…でも…)」ポチポチ
咲「(京ちゃんもあっちで頑張ってるんだ)」
咲「(相手は教えてもらえなかったけど、GWも一杯合宿してるみたいだし)」
京太郎からのメールは自身の近況を伝えるものだった。
疲れたと言いながらも合宿を頑張っている様子が文字からも伝わってくる。
きっと口ではヒィヒィ言いながらも、麻雀を楽しそうに打っているのだろう。
見慣れた ―― けれど、もう見る事の出来ない幼馴染のその姿を思い浮かべ、咲はクスリと笑みを浮かべた。
咲「(京ちゃんだってインターハイに来れるように頑張っているんだ)」
咲「(私だって…もっともっと頑張らないと)」
咲「(団体戦でも個人戦でも良い成績を残して…京ちゃんに胸を張って会いに行くんだ)」
咲「(それで…それで…)」
咲「(こ、告白…なんかもしちゃったりして…)」モジモジ
咲「(インターハイで再会してそのまま告白…なんてちょっとロマンチックなシチュエーションだし…)」
咲「(勿論、女の子から告白させるのは減点だけどさ、うん)」
咲「(…でも、今のままじゃ…私、また京ちゃんに置いてかれちゃう)」
咲「(あの時みたいに…素直になれないまま京ちゃんと離れ離れになるのは嫌だから)」
咲「(だから…私、次はちゃんと勇気を出すよ)」
咲「(怖いけど…不安だけど…でも…もう意地なんて張りたくないから)」
咲「(だから…出来れば京ちゃんも…)」カァァ
ヴヴヴヴ
咲「ひゃうっ!?」ビックゥ
瞬間、妄想に浸りそうになった咲の意識が携帯のバイブレーションによって現実へと引き戻される。
だが、不意打ちと言っても良いタイミングでの意識の回帰はあまり上手くはいっていなかったらしい。
仰向けになっていた咲の手から携帯がこぼれ落ち、そのまま胸骨にゴツンと当たる。
それに微かな痛みを感じたものの痛いと言わなかったのは女の子としての意地だ。
自分だって胸がない訳じゃない、ちょっと当たりどころが悪かっただけ。
誰も聞くもののいないそんな言い訳を心の中でしながら咲は届いたメールを開いた。
咲「…ん」
そこに書いてあったのは咲のメールに対する返信ともう寝ると言う報告だった。
最初のメールが到着して既に一時間近くが経過している今、電波が唯一届くと言う場所にもいられなくなってきたのだろう。
元々、結構な無理をしてメールをしてくれているのは咲も知っているし、文句はない。
咲「…ただ…やっぱり寂しいな」
ポツリと呟いたその言葉は決してメールには載せられないものだった。
彼がそれを聞けば、きっと胸を痛めるだろう。
全部の責任を自分で背負い、咲に対して後ろめたさを感じるはずだ。
それは咲にとって決して望むところではない。
もっと幼馴染とメールがしたいのは事実だが、それは彼に無理をさせるほどの事ではないのだから。
咲「(…昔はもっと簡単にお話出来たのに)」
咲「(そこの窓を開いて…ちょっと声をあげれば、京ちゃんは何時だって反応してくれた)」
咲「(私の他愛無い話に付き合って、時にはじゃれあって…)」
咲「(でも、今は…そんな事は出来ない)」
咲「(京ちゃんは長野にはいないんだから)」スッ
そう自分に言い聞かせながらも咲の足はベッドから降り、青色のカーテンの前に進む。
そのままカーテンに手を掛けながらも、咲の手は中々、それを開く事はなかった。
まるでその先にある光景を見るのに覚悟がいると言わんばかりに力強くカーテンを握りしめている。
咲「(…分かってる)」
咲「(何回、このカーテンを開けても…京ちゃんはそこにはいない)」
咲「(クリスマスから今日までの事が全部ドッキリで…京ちゃんはずっとそこにいた、なんて事はない)」
咲「(鹿児島に行ってしまった京ちゃんが実はGWに内緒で帰ってきていました、なんて展開もない)」
咲「(どれだけ期待しても…そんな事はありえないって分かっているのに…)」
咲「……」シャー
咲「……あぁ」
それでもカーテンを開いてしまった彼女の目に映るのは朝とまったく代わり映えのしない空き地だった。
春に入り、敷地内に雑草が生え始めているその光景に咲の胸はぽっかりとした空白を感じる。
まるで自分の大事な何かを失ってしまったようなその空白感はずっと埋まらない。
朝が起きてるようになっても、弁当を作れるようになっても、一人でネット麻雀が出来るようになっても。
どれだけ麻雀が強くなっても。後輩に恐れられても、親友との関係に距離を感じても。
彼と毎日メールを交わしても、そのメールを読み返しても、その空白が埋まる事はない。
咲「……会いたい…」
咲「会いたいよ…京ちゃん…」
宮永咲は分かっている。
その空白を産める事が出来るのは世界でただ一人須賀京太郎だけだ。
どれだけ人に称賛され、認められたとしても彼女の中の大きな空洞は欠落したまま。
咲「…強く…ならなきゃ」
咲「強くならなきゃ…京ちゃんには会えない…」
そしてその空白感を誤魔化せるのは麻雀だけだ。
あの日あの時、下らない意地を張って幼馴染から逃げて大事な事を何一つ伝えられなかった自分にはそれしかない。
強くなって、幼馴染と再会して、胸を張れるような『宮永咲』になるまで、会いたいと口にする資格はないのだ。
その思考が親友達との関係をギクシャクさせる原因である事に咲も気づいている。
しかし、日々大きくなっていく胸の痛みと空白感は分かっていたとしてもどうにかなるものじゃない。
その空白感の大きさから幼馴染の大きさを思い知り、そしてそれ故に想いが強くなっていくのだから。
悪循環が完成した彼女はそれが泥沼だと知りながらも、足を止める事が出来ず… ――
―― そして少女は再び『魔王』に戻る。
なんだか新道寺がインターハイに出てくるけれどぶつかる前にダークホース(原作の清澄みたいな)に倒され
「あの新道寺が!?」みたいなポジションにいきそうな気がしなくもないですが今日の投下は終わりです。
長々とおまたせして申し訳ありませんでした。
次回は出張や取材とかでちょっとお時間を頂く事になると思います。
なので、息抜きついでにまた王様ゲームスレを建てようと思っているのですが、どの学校が良いでしょうか?
↓5までで一番、多かった高校(※前回やった清澄は除く)にするので良ければ書いていってください
乙でしたー
姫子可愛い
学校は千里山で
咲さん……
この咲ちゃん京子ちゃんに会ったらどうなってしまうんだ……ww
誠子ちゃんみたいので白糸台でー
乙
阿知賀
白糸台
咲ちゃんが色々なものを捨てて独り突っ切っていく姿が見てて痛々しくて辛いわ
白糸台でオナシャス
間に合ってないけどワイも白糸台がええな
とにかく一旦乙です、急な出張とか大変だろうからのーんびり更新待っとるよ
白糸台しゃっす!
千里山・・・
遅かったか
乙です
乙
姉の時と違って失くしたのではなく奪われたと知ったら第二形態も有り得るような…
京ちゃんはバハラグの虜囚時代のヨヨ、咲さんはLALのオルステッドみたいだなと思いながら読んでます
ここの咲さんがセントアリシアならぬセント京ちゃんを使い出すようなことにならないといいなと思っています
乙ー。湧ちゃんかわいい&メール楽しみに待つ咲ちゃんかわいい
その2の>>953で湧ちゃんが「ご」って言いかけたのは「ごろ」のことだったのね
無自覚な恋って感じだけど今後どうなるか楽しみ
ここは健全なスレなのでちんぽ押し付けられて堕ちる女の子なんている訳がない(断言)
まぁようやく異性として意識され始めたってだけで恋とかそういう色っぽいものはないです多分
それはさておき白糸台了解しました
スレ立ては一週間後くらいになるかもしれませんが、立てたらこちらでも告知をさせていただきます
尚、安価で王様ゲームをやる形式上、キャラ崩壊の危険性が何時も以上に高いです
原作で1コマしか出てきてない女の子に色んなキャラづけしてるスレなので皆様にも耐性があるかとは思いますが
念のため、キャラ崩壊バッチコイの精神で閲覧をお願いします
了解やで~
把握
申し訳ない…ちょっと結石でのたうち回っておりました
今は落ち着いてるのですがまだ石は出ておらずどうなるか分からない状態です
痛み止めを飲むと頭が回らなくて安価処理とか出来そうにもないのでスレ立てはもうちょっとお待ちください…
把握
結石とはまた痛い…
お大事に
了解 お大事にー
尿路結石?それクッソ痛い奴じゃん
安静にな
了解、自分の体が一番やで
しばらく更新こなくてもしゃーなしだから、今は治療とかに専念してな、ただでさえ結石はキツイからな…
結石は痛そうだわ
海外から帰ってきたと思ったらコレで1も大変だな
ゆっくり治療してきてなー
お水たくさん飲んで下さい
あれ?これ予防だったか。
出来た後でも早く出すのに水を沢山飲むのは正攻法だから間違ってないです
尿路結石は我慢するしかないってのが辛いよね…
痛み止めとかである程度楽になるけれど、それがないとガチで唸るレベル
あ、それはさておき白糸台で王様ゲームスレ立てました
【咲】菫「不本意だが王様ゲームの練習をしなければいけないらしい…」【安価】
【咲】菫「不本意だが王様ゲームの練習をするしかないようだ…」【安価】 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1407156079/)
こちらになります、よろしければ参加をお願いします
新スレ乙です
結石の痛みを書くことで紛らわせるのか…
KENZENなスレを立て過ぎたため尿路に病を抱えるのは残当。
スレタイに京太郎って書いといた方が良かったと思うけどなぁ
>>581
付いてた方が人来るしね
>>582
百合豚もくるけどな
何時もより量は少ないけどとりあえずキリの良いところまで出来たから明日には投下したい(願望)
了解
把握
もう出てる情報だけで夏イベントが怖くて怖くて仕方がない俺ガイル
連合艦隊とかそんなん考慮しとらんよ…
つか、EXで第三方面とか来ると正規空母も駆逐も足りないんですけど!
もう怖くて怖くて仕方がないからオリョクルしながら投下していきます
………
……
…
―― 流石にGW中ほぼぶっ通しで合宿と言うのは疲れる。
移動疲れがないとは言え、こっちはホスト側だ。
料理の提供や買い出し、掃除などは優先的にこっちがする事になっている。
勿論、俺だって雑用をするのは苦手って訳じゃないから、別に嫌じゃないんだけど。
だからって朝から晩までぶっ通しで麻雀した挙句、さらに雑用までとなると疲労が溜まってくる。
京太郎「(まぁ、その分、強くなれた…ような気がしなくもない)」
京太郎「(新道寺さんも強かったけど、その後も強豪校続きだったもんなぁ)」
京太郎「(特に錆白兵って人は強かった…ホント冗談抜きでやばかった…)」
京太郎「(オカルト抜きの技術ってだけでこれだけ強くなれるのかって背筋が冷えたレベルだったからな…)」
京太郎「(他にも魚妻さん…マンソンさん…そして月島さん…強敵と沢山ぶつかる事が出来た)」
京太郎「(特に月島さんにはお世話になったよな)」
京太郎「(いや、俺がこうして無事でここにいられるのは月島さんのお陰だと言っても良いかもしれない)」
京太郎「(…でも、俺はそんな月島さんや他の人達と戦わなきゃいけないんだよな)」
初美「はい。ドーン!!」シュターン!
京太郎「うぉあ!?」ビックゥ
初美「あ、入るですよー」スタスタ
京太郎「それ襖を開ける前に言ってくださいよ…」
いや、別に自分の部屋にいるからって何かやましい事をしている訳じゃないけどな?
今だって風呂上がりでのんびり考え事してただけだし、入ってこられても問題はないんだけど。
でも、別に毎回そうやって問題ないとは限らない訳で。
禁欲生活長く続いている所為で唐突にムラムラする事ってのはやっぱりあるんですよ!!
初美「面倒くさいから嫌です」キッパリ
京太郎「…んじゃ俺も予告なしに初美さんの部屋開けて良いんですか?」
初美「その時は霞ちゃんに全部報告させてもらうですよー」ニッコリ
京太郎「チクショウ…理不尽だ…」
初美「ふふ、世の中は既に女性優位に出来ているのですよー」
初美「社会の現実を知れて良かったですねー」
京太郎「こんなところで知りたくはなかったですけどね…」
京太郎「つか、俺がもし何かやってたらどうするんですか」
初美「安心するですよー。一撃で仕留めてあげますから」シュッシュッ
京太郎「何をですか!?」
何唐突にシャドーボクシングし始めてるんですかね、この合法ロリ!!
つか、意外と拳の速度がはえぇ!!
思わず股の間がキュッてしちゃいそうなレベルなんですが!!
初美「まぁ、それに監視カメラで京太郎君が変な事していないのはチェック済みでしたし」
京太郎「え゛っ!?」キョロキョロ
初美「ふふ、冗談なのですよー」
京太郎「や、止めてくださいよ…割りと本気で有り得そうだって思ったじゃないですか」
初美「幾ら私達でもそこまでしないですよー」
初美「ちょっと盗聴…げふげふがあるだけですから」
京太郎「…それも冗談ですよね?」ジィ
初美「……」プイッ
おい、なんで答えないんだよ合法ロリ…!
せめて嘘だって言えよ…言ってくれよ…!!
京太郎「俺、この部屋に帰りたくなくなってきました…」
初美「あ、それならはるるの部屋に泊まってあげると喜ぶのですよー」
京太郎「いや、それはまずいでしょ、流石に」
初美「なんでですかー?」
京太郎「なんでって…そりゃ春は女の子で俺は男な訳ですし…」
初美「ふんふむ…つまり一応、はるるを女の子だって意識してはいるって事ですかー」
京太郎「そりゃまぁ…初美さんと違って色んなところが女の子らしいですし」
初美「ギルティですよー」ペチペチ
京太郎「いてててっ!」
いや、だって、仕方ないじゃん…。
春そのものは自己主張をあんまりしない子ではあるけれど、その胸はもう自己主張しまくりなんだから。
腕を組んだり抱きつかれる度にどうしても女の子として春の事を意識してしまう。
【須賀京子】になりきる上でそういうのは排除しなきゃいけないと思ってるけど、こればっかりは性癖なんだから仕方ない。
初美「まぁ、それなら安心したですよー」
初美「ぶっちゃけ、あんだけ慕われてるのに手を出してない時点で鈍感過ぎて意識してないのかホモかのどっちかと思ってましたし」
京太郎「それナチュラルに酷くないっすか…?」
初美「下着よりもエッチな水着着て混浴してたのに何もなかったヘタレ男にはこれくらいで当然ですよー」キッパリ
京太郎「いや、寧ろ何かあったらまずいでしょうに」
京太郎「そもそも小蒔さんやわっきゅんだっていたのに…」
初美「あらー?京太郎くんは姫様や湧ちゃんがいると出来ないような事をするつもりだったんですかー?」
京太郎「うぐっ」
初美「ふふ、ヘタレな癖にそういう事はすぐに思いつくんですねー」ニヤニヤ
京太郎「すみません。もう勘弁して下さい…」ペコリ
ダメだ。この話題じゃどうしても初美さんには勝てない。
こっちの弱みを知られている上に、この件で彼女に切り返せる札が俺にはないんだから。
初美さんに頭を下げるのは悔しいが、さりとてこの話題が続けば一方的に殴られ続ける訳で。
どちらも嫌だが、より避けたいのは後者の方だ。
初美「仕方ないですねー。京太郎君がそんなに情けなく許しを乞うのであれば心優しい私は許してあげなくもないですよー」
京太郎「…何時か覚えてろよ」ポソッ
初美「何か言ったですかー?」
京太郎「いいえ。何でもないです、心優しい薄墨初美様」
初美「よろしい」
京太郎「で…何の用なんですか?」
初美「あ、そうでした」ポン
初美「実は今、居間の方で皆集まって明日の予定を話し合ってるところなのですよー」
京太郎「予定ですか?」
初美「はい。明日はGW最終日ですけど…京太郎君達はもう合宿とかないですし」
初美「私達も明日は少し休めそうなので皆で何処かに行こうかなって」
京太郎「大丈夫なんですか?それならゆっくり休んだ方が良いんじゃ…」
本来ならGW中、神事などで予定がみっちり詰まっている小蒔さんの代わりにそれらを担っていたのが元永水三年生組だ。
それだけでも結構、大変なのに食事や風呂の準備を始め、家事までやってくれている。
俺達だって決して疲れていない訳じゃないが、きっと初美さん達はもっと疲れているだろう。
三人で分担しているとは言え、日頃休みがある訳じゃないんだから、明日は休養にあてた方が良いんじゃないだろうか?
初美「そう言って京太郎君は姫様たちを独り占めにするつもりなんですね…」ジトー
京太郎「ち、違いますって。そもそも独り占めってなんなんですか」
初美「だって、京太郎君、最近、両手に華も良いところじゃないですかー」
京太郎「ま、まぁ…それは否定しないですけど」
初美「…やらしい」ジィ
京太郎「いや、で、でも、俺から進んでそうなっていってる訳じゃないですよ!?」
初美「都合が悪くなったら、そうやって女の人に責任転嫁するんですかー…」
初美「大人の男ってホント、汚いのですよー」
京太郎「……初美さん、俺より年上でしょうに」
つーか、そのセリフ似合いすぎて、年上なのは理解してても若干、胸に刺さるレベルなんですが。
まぁ、初美さん自身もそれを分かっていて演技してるんだろうけどさぁ。
汚いな、流石合法ロリ汚い。
京太郎「それに両手に華つっても別にそういう意味で好かれている訳じゃない事くらい分かりますしね」
京太郎「皆、男と接した機会が少なくって距離感が分かっていないだけでしょうし」
京太郎「何より日頃、女装してるってのが余計に距離感を狂わせているんだと思いますよ」
初美「まぁ、勿論、それも無関係じゃないでしょうけどねー。ただ…」ジッ
京太郎「…え?」
初美「…いや、まぁ、コレ以上はお節介になってしまいますね」
京太郎「お節介…ですか?」
初美「そうですよー」
それが誰に対してのお節介だとか聞いてはいけない事なんだろうな。
正直、気にはなるけれど、でも、それに応えてくれるならここで言葉を区切ったりはしない。
きっと突っ込んでも初美さんの口からその先を聞く事は出来ないはずだ。
初美「ま、心配って言うのもあったのですよー」
初美「京太郎君も男の子な訳ですし、姫様達にちやほやされて調子に乗ってるんじゃないかと思ってたのですー」
京太郎「…ちなみにもし調子に乗っていたらどうするつもりだったんですか?」
初美「え?」シュッシュ
京太郎「ですよねー」
修正って奴ですね、分かります!!
初美「大丈夫ですよー。馬鹿は死んだら治るらしいですから」
京太郎「それはあくまでも最終手段であって、その前に色々と手を尽くすべきだと俺は思うんですがっ」
初美「嫌ですよー。だって、面倒じゃないですかー」
京太郎「仮にも人の命に関わるレベルの事を面倒で済まさないでください」
初美「だって、所詮、京太郎くんですし…」
京太郎「俺の価値って初美さんの中でその程度なんですか…?」
初美「ですよー」キッパリ
京太郎「チクショウ…」
まぁ、ここで初美さんが俺の事が大事って言うようなタイプじゃない事くらいは把握しているけどさ。
しかし、流石にそこまで即答されるとは思っていなかった。
実際、俺に何かあった時に真っ先に動いてくれるであろう人だとは思っているが、こうまで袖にされると若干傷つく。
初美「はいはい。その図体で落ち込まれても鬱陶しいだけですよー」
京太郎「落ち込ませたのは誰ですか…」
初美「それよりさっきも言った通り皆が待ってますから早く居間の方へ行くですよー」
京太郎「スルーですか…いや、まぁ、良いですけどね」
初美さんの言うとおり、俺は皆の事を待たせている訳だしなぁ。
ここで初美さんとじゃれあっているのは楽しいが、それにばかり興じていると迷惑が掛かってしまう。
あっさりと明日の予定が決まるとは限らないんだから、早めに皆のところへと行かないと。
初美「ほら、キリキリ歩くですよー」トテテテ
京太郎「はいはい。あんまり走ると転びますよ」
初美「子どもじゃないんですから大丈夫ですー」クルン
京太郎「見た目は完全、子どもですけどね」
初美「その子どもの胸で泣いた京太郎くんが言うと説得力があるのですよー」
京太郎「うぐっ」
初美「ロリコン」クスッ
京太郎「ち、違いますって。俺は別にそんなんじゃないです」
京太郎「つか、俺の好みは初美さんとは真逆のところにあるってのは分かってるでしょうに」
初美「いやー…世の中にはロリに母性を求めたりする倒錯した人もいると聞きますし」
初美「京太郎くんもそういうタイプなのかなーと思ったのですよー」
京太郎「違いますから」
まぁ、初美さんの包容力に甘えさせてもらう事は確かに多いけれどさ。
でも、それは決して俺が彼女に母性を求めているからって訳じゃない。
つか、求めたりしなくても初美さんの方からそれを差し出してくれるというかなんというか。
こうしてからかわれるのも嫌じゃないし…きっと姉さん女房とかってこんな感じなんだろうなぁ。
京太郎「つか、それで俺がロリコンだったりしたらどうするんですか」
初美「え?そりゃ勿論、即座に通報するですよー?」
京太郎「仮にも半年一緒に暮らしてる相手に容赦ないですね!?」
初美「だって、襲われたりしたら大変じゃないですかー」
京太郎「襲いませんってば」
初美「口ではなんとでも言えるのですよー」
京太郎「まぁ、そりゃそうですが…俺に対しての信頼とかないんですか?」
初美「だって、最初の頃とか私の肌ガン見していましたし…」
京太郎「そりゃまだ初美さんの格好に慣れてなかった頃でしょうに」
言っとくが今は全然そんな事ねぇぞ。
こうして目の前をトテトテと可愛らしい音を立てながら歩く初美さんの生足やらうなじやらが丸見えだけれども。
ほんのすこし巫女服がズレたらそのままストンと下まで落ちてしまいそうな格好だけれども。
この半年間で見慣れた俺にとって、それは決して心揺るがされるものではない。
初美「今は全然そんな事ないんですかー?」
京太郎「まぁ、もう慣れましたしね。多少、露出度高い程度じゃ狼狽えませんよ」
初美「じゃあ、私のこの巫女服の下が見たいとか思ったり…」ピラッ
京太郎「しません」ソクトウ
初美「むぅ…面白くないのですよー」
京太郎「つか、その下ってどうせ前張貼ってあるだけでしょうに」
初美「まぁ、その通りですけど…どうして分かったんですか…?」
京太郎「そりゃ…」
初美「ハッ実は私が寝ている間にあんな事やこんな事をして確かめたんじゃ…!」
京太郎「いや、ふっつーに初美さんが動くと見れるだけですからね?」
こうして歩いてるだけならばともかく激しく動くと巫女服も揺れるからなぁ。
着ていると言うよりは肩に掛かっている状態なのだから角度によっては中身も見えてしまう。
何より、まだお屋敷に来た当初には要らないと言っているのにその中身を見せてもらった事もあるのだ。
そんな俺が今更、巫女服の下を見せるってだけで狼狽えるはずがない。
初美「つまりそれだけ私の身体をガン見してるって事ですかーこのロリコン…!」
京太郎「初美さんはどうしても俺をロリコンにしたいんですか…」
初美「まぁ、そっちの方が面白そうですし」
京太郎「そこは決して面白がるようなところじゃないと思いますが」
京太郎「つか、そんな風に男をからかって面白がってたら何時か痛い目にあいますよ」
男だって決して理性的な奴ばっかりって訳じゃないんだ。
特に俺と同じ年頃の奴らなんて半分が性欲で出来てるような連中ばっかりだからなぁ。
そんな奴らの前で今みたいにからかって遊んでいたら、マジで襲われかねないんじゃないだろうか。
オカルトパワーでワープしたり出来る初美さんならよっぽどの事がない限り大丈夫だとは思うが、やっぱり心配ではある。
初美「それくらい私にだって分かってるのですよー」
初美「だから、こういうことするのは京太郎くんだけなのですー」
京太郎「…それはそれで嬉しいようで悲しい微妙な気分になるんですが…」
初美「こんな美少女とキャッキャウフフ出来るんですから心の底から喜ぶべきなのですよー」
京太郎「ロリコン扱いされるのは俺の中じゃキャッキャウフフとは言わないんですよ」
初美「じゃあ、もっと恋っぽい事するですかー?」ジッ
京太郎「え?」
瞬間、俺を見上げる初美さんの瞳がその色を変えた。
俺をからかう事を楽しんでいた子猫のようなそれではなく、何処か艶っぽい色気混じりの瞳に。
まるで年上のお姉さんが初心な少年をからかうようなその変化に俺は馬鹿のように足を止め、聞き返してしまう。
初美「こう腕を組んだり…」スッ
初美「京太郎君に抱きついたり…」ギュッ
初美「足を絡ませたりして…」シュル
京太郎「う…」ピクッ
その間に俺の身体に絡んでくる初美さんの身体はとても温かいものだった。
まるで風呂あがりのようにポカポカしているその熱は正直、心地良いものである。
春や小蒔さんのような柔らかさはないが、露出し過ぎなほど露出している肌から伝わってくる感覚はとても滑らかだ。
まるで痴女のように俺へと絡みついてくるその姿勢がエロいのもあって、口から間抜けな声が漏れてしまう。
初美「ふふ、京太郎君はまだまだ初心ですねー」
京太郎「し、仕方ないじゃないっすか。誰だって女の子にこんな風にされたらドギマギもしますって」
初美「って事はやっぱり京太郎君は私の事をそういう目で見てるって事ですかー?」
京太郎「ち、違いますよ!し、シチュエーションが…そ、そう。シチュエーションが悪いんです!」
日頃、【須賀京子】として他の皆と腕を組んだり抱きつかれたりはしている。
けれど、そんな慣れが一気に吹っ飛んでしまうくらいに初美さんの表情と仕草はエロかった。
肌蹴ている巫女服と相まって俺を淫靡な世界へと引きずり込もうとするようにも感じるくらいに。
初美「ふふ、まぁ、そういう事にしておいてあげるのですよー」スッ
京太郎「ったく…もお…」ハァ
初美「どうかしたですかー?」クスッ
京太郎「何でもないですよ、何でも」ムスー
初美「そう言いながら私には拗ねてるように見えるですよー?」ニコ
京太郎「そりゃこんだけ良いように玩具にされたら俺でも多少は拗ねますってば」
せめて毎日性欲処理が出来ていたらこんなに玩具にはされなかった。
…なんて言葉が自分でも負け惜しみに聞こえるくらいに完全に玩具にされてしまったのである。
正直、この半年でそれなりに耐性が出来た、と思っていた俺の自信とかプライドを粉々にされた気分だ。
初美「まぁ、私達と接点のある異性と言えば京太郎君か山田さんくらいなものですからね」
初美「諦めて私の玩具になって欲しいのですよー」ニコ
京太郎「…いや、そこで玩具にしないって選択肢はないんですか」
初美「ないですよー」キッパリ
初美「だって、普段、京子ちゃんとしてすました顔してる京太郎君が慌てる顔ってすっごい可愛いですし」クスクス
京太郎「こ、この…悪女め…!」
初美「ふふーん。そもそも私みたいなロリキャラにドキドキする方が悪いのですよー」
京太郎「うぐ…」
そりゃそうなんだけどさぁ。
初美さんってばただのロリじゃなくて、年上ロリだから、時々、凄い色気を感じるんだよなぁ。
さっきの艶っぽさだって春や小蒔さん ―― 一応、実年齢は年上なんだけど精神的にはどう見ても年下だし ―― には決して出せない年上であるが故のものだったし…。
それでいて自分の外見がロリだって事を自覚してるんだから、本当に質が悪い。
初美「ま、京太郎君にはちょっと悪い気もしますが、こうして遊べるのも今だけだから大目に見て欲しいのですよー」
京太郎「…今だけ…ですか?」
初美「えぇ。六女仙は皆、将来が決められている身の上ですから」
初美「姫様の卒業と同時にこのお屋敷を離れて、それぞれの婚約者と結婚させられる事になってるんですー」
―― あっけらかんとしたその言葉とは裏腹に、初美さんの表情は複雑そうなものだった。
いずれ今の生活が終わってしまう事を寂しく思っているのか、刻一刻と迫ってきている結婚という言葉に憂鬱になっているのか。
或いはそれ以外に何か心残りがあるのか…未だ彼女の心に深く触れる事が出来ていない俺には分からない。
俺に分かる事と言えば…今の自分が思った以上に狼狽えているという事だけ。
京太郎「(予想は…俺だってしていた)」
京太郎「(なにせ俺を…須賀京太郎の戸籍を変えてまで無理矢理、手元に引き戻したような連中なんだから)」
京太郎「(あまり実感がないけれども、それなりに名家の生まれらしい皆に決められた婚約者がいてもおかしくはない)」
京太郎「(なのに…なんでなんだろうな)」
京太郎「(実際にその事実を突きつけられると頭の中がガーンって叩かれたみたいで…)」
京太郎「(胸の中にムカムカって…嫌な気持ちが湧き上がる)」
京太郎「(…それはきっと…彼女達の事が異性として好きだから…とかじゃなくて)」
京太郎「(初美さんの表情が決して望んだ婚約ではない事を俺に伝えてきている所為なんだろう)」
初美「まぁ、会った事もない年上…と言うかオッサンですけどねー」
初美「神代の直系ではなくても、それなりに血が近い独身男性ですし」
初美「…それにまぁ、私はこんななりですから、あまり引く手数多とは言えません」
初美「ロリコンって噂のあるその人に嫁ぐのが薄墨としては良い選択だとそう判断したんでしょう」
怒り、寂しさ…その他諸々の感情を未だ整理出来ない俺に初美さんの平坦な言葉が届く。
結婚という自身の大きなイベントを前にして何処か他人事にも聞こえるそれは、俺の予想を裏打ちするものだった。
瞬間、ボッと俺の胸の内で熱いものがこみ上げ、指先にぐっと力が入る。
俺はまだまだ胸の内を整理出来ていないし、冷静でもないが…今、こうして沸き上がってきたものの正体だけは分かる。
それは怒りだ。
初美さんにそんな相手との結婚を強いている大人達に対しての。
そして初美さんに「こんななり」と自分を卑下するように言わせた周りに対しての。
そんな彼女に対して何も出来ないと分かっていながらも…止める事も出来ないそれにいつの間にか出来ていた握り拳が震えた。
京太郎「…それで良いんですか?」
初美「こればっかりは仕方ないですよー」
初美「薄墨を含め…神代の分家はずっとそうやって代を重ねてきましたから」
初美「私一人が嫌だとそう言ってどうにかなる問題ではないのですよー」
京太郎「でも…!」
初美「それに…決して選択肢がない訳じゃないのですー」
京太郎「…え?」
初美「…私、これでも結構、ロリコンの京太郎君に期待してるのですよ-?」クスッ
そう言いながら小さく笑う初美さんの表情にはもうさっきのような複雑そうなものはなかった。
彼女の顔に浮かんでいるのはまるで先に希望を抱いているような明るい笑みなのだから。
一体、どうしてなのかは分からないが、俺は初美さんから期待を寄せられている事だけが伝わってくる。
京太郎「…期待って…何を…?」
初美「それを言うにはちょっと好感度が足りないのですよー」
京太郎「いや、好感度って」
初美「まぁ、本当のところは公平の為、言うのは禁止されているのですー」
初美「でも…私は京太郎君なら…きっと悔いのない選択をさせてくれるってそう信じているのですよー」
京太郎「悔いのない選択…?」
初美「…まぁ、私から言える事は京太郎君は京太郎君らしく過ごせば良いって事なのですよー」
初美「結果はおのずと後からついてきますし…それで選ぶのは皆ですから」
京太郎「あまり話が見えてきませんけど…分かりました」
彼女の言う悔いのない選択がどういうものなのかは分からない。
だが、コレ以上突っ込んだところで、初美さんが困るだけだろう。
俺の為に霞さんとの話し合いを反故にしてくれた初美さんが、「言うのは禁止されている」とはっきり告げたのだから。
きっと彼女に禁じているのは霞さんよりももっと上の ―― それこそ大人達の領域なのだろう。
色々気になる事は多いが彼女を困らせるのは俺にとっても本意ではないし、ここは素直に頷いておくべきだ。
京太郎「でも…他に出来る事があれば遠慮なく言ってくださいね」
京太郎「俺、ずっと初美さんの世話になってますから…いつでも力になります」
初美「…あ、それじゃ早速、一つ頼みたい事があるんですが…」
京太郎「何でしょう?何でも言ってください」
初美「疲れたのでちょっとおんぶして居間まで運んで…」
京太郎「馬鹿な事言ってないでとっとと行きますよ」スタスタ
初美「ちょ、何でも言ってくださいって言ったじゃないですかー!」
京太郎「何でも言ってくださいとは言いましたが、何でも聞くとは言ってません」キッパリ
初美「き、汚い大人の論理なのですよー…!」
京太郎「だから、初美さんの方が年上ですってば」
まぁ、年上だからこそ、さっきの雰囲気を払拭する為にこんな事を言い出したんだろうな。
初美さんはその見かけこそロリだし、人をからかう事も多いけれど、その実、他人を気遣う事が出来る優しい人なんだから。
きっと俺が気負い過ぎないように、こうやってじゃれあいを再開出来るキッカケを作ってくれたんだろう。
京太郎「そもそも普段、屋敷中駆けまわってる初美さんがこの程度で疲れる訳ないじゃないですか」
初美「今日は歩幅が腹立つほど大きい人が一緒にいるから何時も以上に足を早く動かさないといけないのですー」ムスー
京太郎「あ、すみません…ペース落としてたつもりなんですが…」
初美「うっそぴょーん」ニコー
京太郎「……」
初美「……」
京太郎「…19にもなってうっそぴょーんはちょっと…」メソラシ
初美「な、なんでそこだけ素に戻るですかー!!」カァァ
京太郎「いや、だって…ねぇ?」
初美「べ、別に良いじゃないですかー!可愛いんですからー!」
京太郎「可愛いで全部許されると思うなよ、薄墨」
初美「薄墨呼ばわり!?」
霞「あら」
京太郎「あ」
初美「う」
そんな馬鹿なやりとりをしていた俺達が角を曲がった瞬間、居間から出てきた霞さんとばったり出会った。
その足がこっちに向いている事から察するに、もしかしたら到着が遅い俺たちの様子を見に来ようとしていたのかもしれない。
打てば響くようなやりとりが楽しくて、部屋でも結構、じゃれあってたからなぁ。
初美さんとのやりとりは楽しいけれど、もうちょっと早く部屋を出るべきだったか。
霞「良かった。思ったより遅いから丁度、今、呼びに行こうと思ってたところなのよ」
初美「あう…ごめんなさい…」
霞「ふふ、いいのよ。それだけ京太郎君と話すのが楽しかったって事なんでしょう?」
初美「ま、まあ、悪くないってところですけどねー?」
霞「あら、素直じゃないんだから」クスッ
霞「誰かが呼びにいかなきゃいけないって時に真っ先に立候補したの初美ちゃんだったのに」
初美「わーわーっ!」
京太郎「へぇ…」ニヤリ
初美「な、なんですかーその顔はぁ…!」カァ
京太郎「…いや、別に何でもないですよ?」ニヤニヤ
初美「な、なんでもないって顔じゃないじゃないですかー!!」
そうは言うがな、大佐。
実際、頼れるお姉さん兼悪友みたいなポジションの初美さんが真っ先に立候補してくれたと聞けばこんな顔にもなるって。
そこまで俺の事を想ってくれてる、とまで自意識過剰になるつもりはないが、最近はお互い忙しくてあんまり二人っきりの時間ってものがなかったし。
俺自身、初美さんとこうやって話す事があんまり出来なかった事に寂しさを覚えていたのもあって、彼女が同じ気持ちだと思うとどうしても顔が緩んでしまう。
京太郎「何だかんだ言って寂しかったんですねー初美さん…いや、初美ちゃん」
初美「うー…!こ、この…調子に乗ってぇ…!」フルフル
霞「まぁまぁ。でも、楽しかったんでしょう?」
初美「…まぁ、京太郎君の手前、楽しくなかった、とは言いませんけれど…」
霞「素直じゃないんだから」クスッ
京太郎「まったくっすね」ニヤニヤ
初美「もー!もぉぉ!!」カァァ
霞「牛になってる初美ちゃんはさておいて…そろそろ入りましょう?」
霞「もう皆待っているから」
初美「…牛はそっちじゃないですかー」
霞「何か言ったかしらー?」ガシッ
初美「い、いたたたた!痛いのですよー!!!」ジタバタ
俺に対しては無敵に近い初美さんも霞さんの前ではこのザマだ。
まぁ、このお屋敷で霞さんに勝てる人なんてほぼいないんだけれども。
小蒔さんには甘いと言っても、締めるべきところはしっかり締める人だしな。
まるでお母さんのような立ち位置の彼女が今の初美さんのようにタジタジになるところなんて想像出来ない。
京太郎「じゃあ、俺、先に入ってますね」
霞「えぇ。私もすぐに戻るから」ニッコリ
初美「こ、この薄情者ぉっ!」
京太郎「いやぁ…だって、どう考えても初美さんが悪いですし」
京太郎「それに下手に巻き込まれるのも怖いんで」メソラシ
霞「あら、別に怖い事なんてないわよ?」グリグリ
初美「いひゃいいっ」ビクン
京太郎「って訳でお先、失礼しまーす」
初美「あ、後で覚えてろなのですよおおお」
そんな初美さんの声を背に受けながら俺は居間の襖を開けば、五対の視線が俺を捉えた。
それぞれに微笑ましそうなものを浮かべている目には、待たせた俺たちへの怒りは浮かんでいない。
それに一つ安心したけれども、俺達がじゃれあって全員集まっている場所に遅れたのは事実だ。
皆が許してくれているのは分かっているけれども謝罪はしっかりするべきだろう。
京太郎「遅れてすみません」ペコッ
巴「事情は全部聞こえてたから気にしないで」クスッ
小蒔「そうですよ。仲良しなのは良い事です!」
湧「そいにあちきたちも今、来たばっかりだから」
明星「集合掛けられたのがそもそもさっきですしね」
京太郎「あ、そうなのか」
京太郎「(てっきり俺が風呂に入ってる間に皆が話をしてて、俺を呼ぶ流れになったと思ってたんだけど違ったんだな)」
京太郎「(霞さんが呼びに来ようとしていた以上、今来たばっかりと言うのをまるっきり信じる訳にはいかないけれど)」
京太郎「(でも、思ったよりも待たせていた訳じゃなさそうだ)」
京太郎「(まぁ、そうじゃなかったら流石に初美さんも、あんだけじゃれあおうとしないか)」
春「京太郎、こっちに座って…」
春「後、これ」スッ
京太郎「あぁ、ありがとうな」スッ
自分の隣を開けながら、俺に対してお茶と黒糖を渡してくれる春。
俺の事を弄んで遊ぶ事も多いけれど、こういうところは本当に良く気がつく…と言うか甲斐甲斐しい子だよなぁ。
結婚するならこういう子が良い…なんて、ちょっと思うくらいに。
でも、春も何時かこのお屋敷から出て行って、俺の知らない人と結婚するんだな…。
春「…どうかした?」キョトン
京太郎「あ、いや…なんでもねぇよ」
京太郎「(…あー…くそ。やっぱりそう簡単に割り切れないよな…)」
京太郎「(今の生活が居心地が良い分、さっきの初美さんの言葉をどうしても意識してしまう)」
京太郎「(春だけじゃなくて他の皆にも婚約者がいるんだって事)」
京太郎「(ほんの一年先にはもうこの生活がなくなってしまうんだって事を…)」ギュッ
考えても仕方のない事だって俺にも分かってる。
だけど、さっき俺に告げられた事実は決して簡単に忘れられるようなものじゃなかったんだ。
今の場所が居心地が良ければ良いほど、それが失われる瞬間の時をどうしても意識してしまう。
初美さんは俺らしくあれば良いと言ってくれたが、やっぱりそれだけで満足するにはまだ時間が掛かるらしい。
初美「あーぅー…」フラフラ
霞「皆、お待たせ」ニッコリ
明星「いいえ!霞お姉様の為ならば幾らでも待てますから!」パァ
霞「ありがとうね、明星ちゃん」
明星「いいえ!あ、私の隣どうですか!?」モジモジ
霞「そうね。お邪魔させてもらおうかしら」スッ
初美「それじゃ私はー…」
小蒔「初美ちゃんは私の隣どうですか?」ポンポン
初美「あ、それじゃ姫様のところへゴーなのですよー」トテテテ
京太郎「…はは」
…でも、こうして何でもない日常って奴がどれだけ大事か分かっている所為かな。
皆が皆らしくある光景を見るとささくれだった胸の内がマシになっていく。
今はまだ…皆が皆らしくある今はまだ大丈夫。
そう自分に言い聞かせる俺の前で霞さんがゆっくりと腰を下ろしながら全員の顔を見渡した。
霞「さて、それじゃ全員揃った訳だけど…」
霞「改めて明日…GW最終日をどうするか決めましょうか」
小蒔「はい!私、皆とお出かけが良いです!」
霞「そうね。折角のお休みをお屋敷の中でゴロゴロして過ごすのもなんだか勿体無いし」
初美「問題は何処に行くか、なのですよー」
まぁ、そうだよな。
こうやって皆で集まっている以上、出かける事そのものには異論はないんだろうし。
初美さんの言う通り、合計八人というこの大所帯で何処に出かけるかと言うのが議論の中心となるはずだ。
とは言え、急に出かける事になった以上、あんまり遠くへはいけないし、山ほど候補が出て来たりはしないはず… ――
明星「そろそろ春物を着るのが辛い時期になってきましたし、ショッピングも良いですね」
湧「じ、実はあちき見たい映画があって…」モジモジ
春「…遊園地も良い」
初美「明日は暑いらしいですから水族館って手もあるですよー」
霞「…実は明日、アロマ教室があるのよね」
巴「え、えっと…時間があればスーパー銭湯で岩盤浴とかもしたいかなって…」
そう思っていた時期が俺にもありました。
普段、外出出来ていない所為か、結構ポンポン出てくるよなぁ。
やっぱり皆、それだけ色々、我慢してたって事か。
出来ればその全部の希望が沿うようにしたいけれど、これだけ沢山ともなると難しいだろう。
小蒔「え、えぇっと…」ソワソワ
京太郎「あー…動物園とかどうですかね?」
霞「動物園?」
京太郎「えぇ。まぁ、明日は暑いらしいですけど…ちょっとシュバシコウとコウノトリを見に」
小蒔「京太郎君っ!」パァ
それに俺自身、決して希望がない訳じゃないしな。
もうずっと前になるけれど、俺は小蒔さんとシュバシコウやコウノトリを見に行くって約束したんだ。
今まで【須賀京子】に慣れるので一杯で中々、その約束を叶えてあげられなかったけれど、決してそれを忘れていた訳じゃない。
こうして皆で出かけるなんて機会、滅多にないだろうし、忘れずに希望を出しておかないとな。
霞「あら、小蒔ちゃんも動物園が良かったの?」
小蒔「はい。実は前々から京太郎君とお約束してて」ニコー
京太郎「俺が忙しかった所為でもう数ヶ月待たせちゃってましたけどね」
小蒔「いいえ。私、お約束を覚えててくれただけで嬉しいですっ」ニコニコ
霞「となると動物園に2票…っと」
霞「これは動物園に決まりかしら」
京太郎「その事でもちょっと提案があるんですけど…」
霞「あら、何かしら?」
京太郎「いっその事二手に別れません?」
小蒔「え…別れちゃうんですか…?」シュン
寂しそうにする小蒔さんの気持ちも分かるが、流石に2票ってだけで動物園に決定って言うのはちょっとなぁ。
皆それぞれ行きたいところがあるって言うのは分かっているのに、全員でぞろぞろと動物園に行くのは可哀想だ。
流石に全員が別々に動くって事になるとこうして集まった意味がなくなるだろうけれど、二手に別れれば多少は効率的に動けるし。
ここはグループ分けして行動するのがベストじゃないだろうか。
京太郎「都心の方へと向かうグループと、郊外の方へと向かうグループ」
京太郎「二つに分ければ大体、希望通りに回れると思います」
霞「そうね。となると小蒔ちゃんと京太郎君は希望が一緒なので確定として…」
小蒔「えへへ。よろしくおねがいしますね!」ニコー
京太郎「えぇ。こちらこそ」
巴「後は霞さん、はっちゃん辺りは一緒に行動出来そうですね」
初美「ついでだから巴ちゃんもこっちのグループに来るのですよー」
巴「ふふ、そうね。お邪魔しちゃおうかしら」
湧「…となると残りはこっちのグループ?」
明星「そんな…霞お姉様とは別グループなんて…」フルフル
明星「霞お姉様に服を選んでもらったり、選んで差し上げたり、あまつさえあんな事やこんな事をする私の計画が…!」
春「……遊園地デート出来ると思ったのに…」シュン
京太郎「あー…なんかごめんな」
なんだか邪な目的があったらしい明星ちゃんはさておき、どうやら俺の提案は春の計画を潰してしまったらしい。
そう思うとなんだか申し訳ないが、さりとて、俺にだって前々から小蒔さんとの約束があるし。
流石に今からそっちに合流する…とは言えないよなぁ。
明星「…まぁ、これだけ色んな意見が出ている以上、二手に分かれるのはベストな選択でしょうしね」
明星「今回は情報戦での遅れも否めませんし…私の負けだと素直に認める事にします」
明星ちゃんは一体、何と戦っているんだ…。
明星「そ の 代 わ り !霞お姉様に不埒な真似をしたら絶対に許しませんから!」
京太郎「いや、不埒な真似も何も他に小蒔さん達がいるんだけどな?」
明星「そ、それでも何かするかもしれないじゃないですか!京太郎さんですし!」
一体、明星ちゃんの中で俺ってどんな評価をされているんだろうか。
俺の知らない間になんだか凄い過大評価されてる気しかしないんだが。
少なくとも俺は他に女の子がいるところで霞さんを口説けるようなプレイボーイじゃねぇぞ。
それどころか、生まれてこの方、咲以外にそういうデートらしい事をしたことがないくらいだからな!!
初美「愛されてますねぇ」ニヤニヤ
霞「そうね。でも、もうちょっと姉離れしてくれると私としては安心なんだけど…」
明星「いーやーでーす!霞お姉様離れなんて断固拒否します!!」ギュッ
霞「すぐにこうなっちゃうから」クスッ
湧「当分、難かしと思」
小蒔「ふふ、でも、仲良しなのは良い事ですよ?」
巴「明星ちゃんの場合、仲良し過ぎなのが問題ではあるんですけれどね…」
小蒔「え?」キョトン
京太郎「まぁ、それ以外は完璧と言っても良い子ですし」
少なくとも霞さんが絡む時以外は非の打ち所がないくらい立派な子なんだけれどなぁ。
エルダー絡みの騒動で俺が一番頼りにしてるのは明星ちゃんなくらいだ。
だけど、視界内に霞さんが入るとすぐにダメになってしまうというかなんというか。
ただ好きってだけじゃなく依存のようなものすら感じる明星ちゃんの様子を見ると昔に何かあったのかって思うくらいだ。
霞「まぁ、ともあれ明日の予定は決まった訳だしね」
霞「各々、どういうルートで明日回るか話し合って頂戴」
霞「明星ちゃんも何時迄も私にくっついていたらお話し合いが出来ないわよ?」
明星「はい…」シュン
明星「でも、忘れないでください、霞お姉様…」
明星「明星は…何時だって霞お姉様の事をお慕い申し上げています…っ」
霞「ありがとう。私も明星ちゃんの事大好きよ」ニコッ
明星「霞お姉様っ」キャー
春「…はい。明星ちゃんはこっち」ガシッ
明星「ああんっ!霞お姉様ぁっ!」ズルズル
そう言って春に引きずられていく明星ちゃんの姿には悲哀を感じる。
とは言え、ここで明星ちゃんがいても何ら役に立たないどころか、あっちの話し合いの邪魔になってしまう訳だし。
ズルズルと引きずられていく姿はちょっと可哀想だが、明星ちゃんの対処は春に任せるのが一番だろう。
霞「…さて、それじゃこっちのルートだけれど…」
巴「とりあえず最初は動物園で良いですね」
初美「確かあそこの動物園は熱帯魚とかもいたはずですし、私の水族館はなしで良いですよー」
小蒔「じゃあ、次は霞ちゃんのアロマ教室でしょうか?」
霞「そうね。私のは夕方くらいだから、それが有り難いかしら」
京太郎「で、アロマ教室の後に夕食を摂って…」
小蒔「最後に皆でお風呂ですね!楽しみです!」グッ
巴「えぇ。私もとっても楽しみです」クスッ
明日のルートもあっさり決まって期待も高まってきたのだろう。
抑えきれないワクワクを表現するように握りこぶしを作る小蒔さんに全員が笑みを浮かべた。
それは皆のお姫様が微笑ましいくらいに明日を楽しみにしてるから、という理由だけではないのだろう。
俺を含む全員に少なからず期待の色が混じっている事から察するに、皆もきっと小蒔さんと同じくらいワクワクしているんだ。
霞「それで夕食は外で摂るとして…お昼はどうしましょう?」
初美「適当に皆で早起きしてお弁当詰めていけば良いんじゃないですか?」
京太郎「あ、それじゃ俺、またタコス作りますよ」
小蒔「タコスですかっ」パァ
京太郎「えぇ。タコスは手で掴んで食べられますからお弁当として持っていくには最適ですし」
京太郎「それに最近、料理当番は霞さん達に任せっきりですし、ほっといたら腕も錆びついちゃいそうですから」
京太郎「まぁ、まだ材料を揃えられてないので前みたいななんちゃってタコスにしかならないですけど…」
初美「それでも十分美味しいのですよー」
霞「えぇ。とっても楽しみ。ありがとうね、京太郎君」
京太郎「いえいえ」
巴「あ、でも…あんまり作りすぎないでね?」
京太郎「いやぁ、でも、意外と健啖家な巴さんがいますし、数が少ないと不機嫌になるかも…」
巴「そ、そこまで食い意地張ってる訳じゃありませんっ」カァ
そうは言っても、以前、タコスを作った時に一番食べたのは間違いなく巴さんだったからなぁ。
まぁ、皆が帰ってくる前に出したから、と言うのもあるんだろうけれど、それでも少しびっくりしたくらいだし。
普段はそれほど多くの量を食べるって訳じゃない人だったから余計に印象に残っている。
そんな巴さんの為にも明日は美味しいタコスを沢山作ってあげないとな。
京太郎「じゃ、俺は明日の為に仕込みとかやってきますね」
小蒔「あ、お手伝いとかいりますか?」
京太郎「いえ、一人で出来るものですから大丈夫ですよ」
霞「じゃあ、お願いね」
初美「美味しいタコス楽しみにしてるですよー」
巴「…や、やっぱりちょっと量多めでお願い…します」カァ
京太郎「はいはい。デザートの準備もしておきますね」
小蒔「デザート!?」パァ
巴「あぁ…またカロリーが…」
素直に歓喜を顔に浮かべる小蒔さんと悲喜入り交じる巴さん。
ある種、対照的な二人に笑みを浮かべながら俺はそっと居間から抜けだした。
そのまま厨房へ向かって歩き出しながら、慣れ親しんだタコスのレシピを引き出す。
京太郎「(…よし。大丈夫。ちゃんと覚えてるな)」
京太郎「(アレだけ大見得を切って、出来ませんでした、なんて恥ずかしすぎるし)」
京太郎「(こっちに来てすぐに作ったっきりだったからちょっと不安だったんだよなぁ)」
京太郎「(…あぁ、でも…そうか。俺…もう数ヶ月タコス作ってねぇんだな)」
京太郎「(清澄にいた頃には…殆ど毎日って言っていいほど作ってたのに)」
瞬間、ズキンと走る鈍痛に俺はひとつため息を漏らした。
こうして皆と出かける事が決まって、俺もそれを楽しみにしているはずなのに。
清澄の事を思い出しただけでその楽しさが痛みへと塗り替えられる。
いっそ不愉快と言っても良いその感覚を振り払おうと頭を振ったが、一度、蓋が開いた思いは中々、止められなかった。
京太郎「(きっと優希は今も和に怒られて…和は何だかんだ言いながら優希や咲の世話を焼いてるんだろうな)」
京太郎「(染谷先輩辺りは実家を手伝いながらも部長としての責務を果たそうと頑張っているんだろう)」
京太郎「(んで…咲は…咲は…)」
その思考が幼馴染の少女へと至った瞬間、胸の痛みは最高潮に達する。
相変わらず咲の奴がポンコツでも、或いはメールに書いてある通りポンコツじゃなくなっても。
俺にはもうあいつと関わる事は出来ないのだ。
いっそ何もかも断ち切って忘れた方が良い。
……そんな事は俺にだって分かっている。
京太郎「(でも…)」
京太郎「(どうしても…あいつとのメールを止められない)」
京太郎「(わかってるんだ。どれだけメールのやりとりしても…もう須賀京太郎としては会えないんだって)」
京太郎「(こうしてメールのやりとりをしてても…あいつに吐く嘘が増えていくだけなんだって)」
今の俺はもう須賀京太郎ではなく、須賀京子としての生活が殆どなのだ。
自然、近況報告一つにしたって咲に言えない事や嘘をつかなきゃいけない事も増えてくる。
その度に胸が痛む事を考えれば、あいつとのメールはもう止めるべきなのだろう。
明日が終わればGWも明けるし、部活に集中するからと言えば、自然消滅に持っていく事も難しくはない。
少なくとも…そっちの方が咲の痛みは小さくて済むはずだ。
京太郎「(だけど…俺は…)」
そう分かっているにも関わらず、俺の手は懐から携帯を取り出してしまう。
電波の一本も立っていないそのディスプレイにはそろそろ咲からのメールが来る時間が表示されていた。
きっとまたポンコツなりに頑張って考えた文章を送ってくるのだろう。
…そう思った瞬間、俺の足がその場に縫い付けられたように止まって… ――
―― 数秒後、ようやく動き出した俺の足は厨房とは別の方向へと進み始めたのだった。
というわけで今日は終わりです
次回からは動物園で永水元三年生組+姫様とキャッキャウフフする予定です
とりあえず今から白糸台王様ゲーム終わらせてイベント海域突貫しまする
怖すぎて早めにイベント海域突破した方がいい気がしたので…(震え声)
乙
人間て慣れる生き物だよね
乙です
結局、あっちでもKENZENだったじゃないか!どういう事だ!!
てるてるとたかみーの反応が欲しかった(小並感)
最後の最後でこうなったか・・・(諦め)
旅行から帰ってきたら終わってた
乙だったのよー
え?ヤってよかったのか
レベル80↑の艦隊で出撃しまくってるのに未だにE1ゲージ半分しか削れなくてワロタ
バケツももう50個なくなったよ…流石にこれは萎える…(´・ω・`)
今回はそんなにきついのか
E1の難易度だけで見れば過去最高じゃないかなぁ…
流石に最適解じゃないにせよ、それに近い構成で進んでると思うんだが大破撤退しまくってる
つか、今回夜戦マスよりも下ルート3戦目の方が怖い
夜戦装備充実したせいか夜戦マスは中破で抜けられる事が多いんだけどねー…
3マス目で中破した子が大破に押し込まれたり、元々無傷だった子が大破したりで(白目)
実際20回近く出撃してるけど3マス目での撤退数が11あります…
って言ってる間に3マス目でまた撤退したぜハハッ
AL/MI作戦だから難易度高いとは予想してたが、初戦の初戦でこれとか色々、流石にきついわぁ…
前スレもだが佐々木スレじゃないの意味が分からず考えてたら30分経ってた
あれ?ハルヒネタなわけないしな・・・とか思って脱線しまくってやっと意味が分かった
>>623
名目(インハイ特別ルール対策)ってことを考えると本番でやったら放送事故ってレベルじゃない物ばっかりだったんですがそれは……
ルール的にどれだけ相手に無茶振り(不可能な命令)して減点させるかって戦法が主流になりそうだな
>>630
E1は
航戦 重 重 重 軽空 軽空 で問題なくクリアできたよ
三軍当てたから平均70くらいだし
俺は航戦(51)、戦艦(43)、正規空母(42)、正規空母(45)、重巡(13)、駆逐(30)
で行けたよ
それより3年組のデェトが楽しみすぎて食事しか喉を通らないし夜しか眠れない
>>632>>633
逆に考えるんだ
実は咲世界では少しずつ麻雀が下火になってきて、それだけじゃTVも視聴率がか下げないから
美少女達がキャッキャウフフする放送事故レベルのバラエティを加えて視聴率をあげようとしていると
まぁギャグだから深く考えるのも馬鹿らしいけど公共良俗に反するレベルの命令は逆に命令したがわにペナルティがあるんじゃないかな
流石に本番ではあのレベルの命令は出ないだろう(慢心)
まぁ、そもそも本番(インハイ編)なんて書くつもりはないんだけど
>>634>>635
二人ともありがとう
私は
扶桑姉様(80) 46、46、晴嵐、33号
愛宕(80)20,3(二号)、20.3、観測機、33号
高雄(80)20.3(二号)、20.3、観測機、33号
熊野(81)20.3(三号)、20,3(三号)、晴嵐、瑞雲
ビス子2(96)46、46、偵察機、33号
千歳(110)烈風、烈風、流星改、彩雲
でいってたけどはまりまくってました(白目)
突破した今となってはE1が一番難しかったなぁって印象が…
今はとりあえずE1E2E3は抜けて、E4挑戦する週末に向けてまた資材貯めこんでるところです
連合艦隊楽だけどボーキ消費がやばい…(消えた10000のボーキを見ながら)
あ、上の色々間違ってるな
愛宕に積んでたのは観測機じゃなくて夜偵で
旗艦の熊野は探照灯保ってたし、ビスコは照明弾持っていってたはず
それと三年生組のデェトはお盆入って里帰りやら色々あって何時も以上に伸びると思います、申し訳ない
後、たかみーテルーの反応は何時かこのスレでちょこっと書きます(私も書きたいし)
待ってる…
おつおつ
千歳使ってしまったのか、E6大丈夫かな?
>>639
なぁにまだ結婚済みヒャッハーとカンスト祥鳳が控えてるから余裕余裕
って思っていた時期が私にもありました(白目)
北上様(99)
大和(137)
武蔵(124)
むっちゃん(120)
ヒャッハー(110)
祥鳳(99)
この艦隊で毎回キラ漬けして資源三万消えるまでアタックし続けた(支援艦隊込で)のに
ゲージミリすら削れないE6はちょっとおかしいと思う
まだ資源は燃料弾薬9万鋼材23万ボーキ6万残ってるけどちょっと心が折れました
扶桑提督だって自覚はあるからイベント前に燃料弾薬18万集めて、レベル80↑の艦娘がレベルソートで7ページ目末まで来るようにしたんだがなぁ…
正直、E1からE5まで含めて今回のイベント全然おもしろくなんかなかったよ…
まったく関係ないネタで愚痴って申し訳ない
明日の夜には帰れるので明後日からまたこっちの執筆に戻ります
待たせすぎてちょっと申し訳ないので日曜日にはキリのいいところまで投下出来ればいいな、と思っております
軽空母にダメコン積めば何とかなる可能性が高くなるで
なお最終形態はどうしようもならんもよう
ダメコン積んでこれなんだよ…ちなみに3回発動した
実家だからちゃんとメモを残せしてる訳じゃないが大抵、ボス前で逸れるのが多い
33電探と観測機、彩雲揃えてるのにどうして逸れるのか…レベルだって足りてると思うんだけどなぁ…
ボス到達は三回でその三回は全部ダメコンが発動しました
で、夜戦に行ってもボスに攻撃が刺さらずゲージ削れないが三回続いた
支援艦隊駆逐以外三重キラ漬けして電探二個積んでるのにボスにかすり傷すら負わせてくれない
扶桑提督だって自覚はあるけどこれはちょっと酷いと思う…(´;ω;`)
そりゃひどいな・・・
某サイトによれば索敵値足りてるなら逸れる確率は2割弱らしいしそこまで逸れないと思うんだが・・・
ちなみに索敵値は2-5式計算で100~105あれば足りるらしいよ
計算してきました。余裕で105超えてました…(´・ω・`)
初戦でも軽空母ズがフラ軽空にガンガン大破させられる事が多いし一体、どれだけ確率の底にいるのかと
メモ取ってないから確実じゃないが、4、5回連続ボス前で逸れた事もあったんですが…
ようやくボス行っても昼戦で大破量産→夜戦してもボススルーを繰り返すしマジで泣きそうだったわ…
でも、ここでちょっと愚痴って気力が回復したからまた一週間資源貯めて来週末にアタックしてみます
自スレとは言え、グダグダとして申し訳ありませんでした
ちとちよ推奨されてるけど、RJに烈風改積むと彩雲2個積みでも制空的に余裕ができるから戦艦に徹甲弾つけたりできるで
少し下くらいの練度でさっきE-6突破できたし、最終的にはリアルラックがものを言うから日を改めればすんなり行くかもね
長々と書いたけどそろそろスレチだから黙るわ
本編も楽しみにしています
RJちゃんのレベルまだ55くらいなんだよな…
よし、ちょっと週末までにRJちゃんパワーレベリングしてくるわ
情報ありがとう、ちょっと光明が出てきてやる気さらに出てきた
>>645もE6お疲れ様です
ずっと出撃しまくってた所為かまさかのE6決戦支援出し忘れ→同航戦引いたけど終わったか…→からの北上様のカットインでE6クリア
今まで一度もボス相手にカットインで300とか出した事なかったのにあの瞬間だけ叩き出すとか
北上様は本当にエンターテイメントが好きなお方
ってな訳でE6クリアしてきました…
消費資源は各6~7万、ダメコンは21個使いました(白目)
残り2個だったからもうダメコン外して偵察機乗せて戦艦には夜戦装備載せようと思ってた矢先にこれだよ!!
とりあえずこれからE6クリアしようと思う人は索敵値は2-5式計算で110あれば大分削りやすいと思う
羅針盤それまくるからどこかのサイトで見た110まであげたら逸れないってオカルト信じて偵察機乗せたら本当に逸れなかった
ただ110まで索敵値あげようとすると徹甲弾乗せられないから最終形態ボスを倒しにくいかもしれない
最後は105前後目安にするか、或いは軽空母にダメコン外して偵察機増やす→夜戦装備載せるのもひとつの手だと思いました
んじゃとりあえずこれから見直し頑張ってきます
短いけれどご勘弁を…!
おつおめー
艦これはわかんないけどおめー(?)
おめでとうございます
>>649
スレと関係ないネタばっかりでごめんね…!
そろそろ投下していきます
―― その日は前日の予報に違わず、真夏日と言ってもいいような有り様だった。
京太郎「(あっちぃ…)」
こうしてバス停から目的地までの僅かな間を歩くだけで口から熱いと声が漏れそうになってしまう。
幸い、日差しが強いだけで風は冷たいから真夏のように不快感を感じる暑さではない。
とは言え、まだ梅雨入りもしていないような時期からの真夏日はちょっと不意打ちが過ぎる。
衣服もまるごと取り上げられ、初美さんに買ってもらった春物しかない俺にとってこの日差しの強さは若干、辛い。
流石に朝の10時からこんなに日差しが強いとかそんなん考慮しとらんよ…。
初美「ほーら、動物園はすぐそこですよー!」
そんな俺とは対照的に初美さんはその暑さを楽しんでいるようにはしゃいでいる。
その度に薄い緑と白が折り重なるように出来たキャミソールの裾がふわりと浮かんだ。
元々、裾がギリギリな所為か、そうやってはしゃぐ度にへそまで見えそうになっているけど、初美さんにまったく気にしている様子はない。
まぁ、初美さん…いや、この露出狂にそれを言えば「恥ずかしくておしゃれが出来ますかー!」って帰ってくるんだろうけど。
とは言え、下に履いているのは太もものギリギリまで切れ込みが入った白いホットパンツだし…流石に露出度が高すぎではないかと思う。
肌面積だけで言えばいつもの肌蹴巫女服よりもやばい気がするぞ、この格好…。
小蒔「コウノトリさん、シュバシコウさん…待っててください…!」キラキラ
そう言って握りこぶしを作る小蒔さんはワンピース姿だ。
膝下まですっぽり覆う白地のそれにはアクセントとして胸元や裾にベージュのフリルがついている。
白と象牙色が入り交じる清楚なそのワンピースは子どものように目を輝かせる小蒔さんに良く似合っていた。
漫画で出てくるような大きな麦わら帽子と相まって、今の小蒔さんは避暑地にやってきた深窓のお嬢様オーラが出まくっている。
まぁ、避暑地どころか鹿児島は普通のところよりも暑い地域な上、彼女はこの鹿児島に住んでいる人なのだけれど。
霞「ふふ、動物園なんて来るの何年ぶりかしらね」
そんな小蒔さんに微笑みながら歩く霞さんはチュニックを着ている。
小蒔さんと合わせたのかアイポリー色に染まったウェストの部分できゅっと締められていた。
首元には薄いレースが並び、微かに鎖骨や肌を露出させるそれはただ上品なだけではなく、大人の色気を感じる。
わざと薄い布地を使っているのか、袖や裾などの端の部分だけが透けているのも、その演出に大きく寄与していた。
ボトムスも肌に密着するようなスラリとしたパンツで霞さんのスタイルの良さをこれでもかと表現している。
全体的に大人のお姉さんって感じで纏められているそのコーディネートは実年齢以上に大人っぽく、また小蒔さんと並ぶと姉にしか思えない霞さんに良く似合っていた。
巴「私は小学校低学年の時以来ですから…もう十年近く前になりますか」
その横を歩く巴さんの格好は霞さんよりもさらに輪をかけて年上に見えるものだった。
ネイビーに染まったブラウスに白いボタンを前面に並べた大人っぽいデザイン。
袖と襟だけが細かい白黒のチェック柄になっているそれは20代、下手をすれば30代の女性が好むようなものじゃないだろうか。
膝下まで伸びるストレッチの効いた白いタイトスカートやそれを抑える細い革ベルトのデザインもうら若き10代の女の子のファッションとは思えない。
けれど、霞さんとはまた別の意味で苦労してるイメージが強い所為か、決して背伸びしているようには見えないんだよなぁ。
寧ろ、霞さんとはまた違った大人っぽさが巴さんの落ち着いた魅力をより引き出しているようだ。
初美「つきましたよー!」
小蒔「動物園ですっ。早く入りましょう!」パァ
霞「もう。あんまりはしゃいじゃ危ないわよ?」
巴「それにまだ入園だってしていませんしね」
巴「今からはしゃぎ過ぎると後で体力持ちませんよ?」
小蒔「う…それは困ります…」
初美「ふふーん。私はそんな柔な鍛え方してないのですよー!」
京太郎「まぁ、初美さんははしゃいでも消費カロリー低いですしね」
初美「そうですねー。って誰がロリ体型のちんちくりんですかー!」ウガー
京太郎「そこまで言ってないですよ!?」
霞「こら、テンションあがるのは分かるけど、あんまりここで騒ぐと他の人の迷惑になるわよ」
霞「それより早くチケット買って中に入ってしまいましょう」
小蒔「はいはい!私もそれに賛成です!」バッ
まぁ、確かにGW最終日って事もあって、入り口の周りには結構、人も多い。
この中のどれくらいが中に入るのかは分からないが、まったく無関係って事はないだろう。
そんな中で何時も通りのじゃれあいを初美さんとやっていたら周りの人の迷惑になるだけだ。
尤も、待ちきれないように手を挙げる小蒔さんはそんな事を考えていた訳じゃなく早く動物園に入りたいだけなんだろうけれど。
そういう子どもっぽい小蒔さんが可愛らしくてついつい笑みが溢れてしまう。
京太郎「…にしても、思った以上に入り口も立派ですよね」
巴「そうね。遠目でもあそこが動物園だって分かったくらいだもの」
俺達の前に立っているのは木で組まれた大きなアーチだ。
しっとりとした温かみのあるそれにデフォルメされた動物がずらりと並んでいる。
その周りにも木で作られた小屋のようなものが並び、コンクリートの中を歩いてきた俺達に非日常を感じさせた。
動物園なんて子どもが行くものだなんて思っていたけれど、入り口だけでもちょっとワクワクしてしまう。
初美「最近は少子化とかで何処の動物園も経営が苦しいらしいですからねー」
初美「こうやってアピールしないとただでさえ少ないお客さんがもっと少なくなるのかもしれないのですー」
霞「…そうね。実際、私達も動物園なんて来るの久しぶりな訳だし」
京太郎「俺もこういう機会じゃなかったら来る事はなかったと思います」
巴「そういう意味では姫様に感謝しなければいけませんね」
小蒔「えへへ。なんだか良く分からないですけど、嬉しいです」テレテレ
霞「じゃあ、小蒔ちゃんに感謝しながらチケットを買いましょうか」クスッ
初美「あ、霞ちゃん霞ちゃん」
霞「何かしら?」
初美「中学生までは無料らしいですよー?」
霞「…だからどうしたの?」
初美「あいあむしょうがくせい!」グッ
霞「ダメに決まってるでしょ、そんなズル」ペチン
初美「痛っ」
初美さんは小学生で通るような外見をしているとは言え、本当は高校を卒業している訳だし。
年齢詐称は立派な犯罪で、実刑もありうる重罪だ。
何より小蒔さんの前でそういうズルをするのはあまり教育に良くない。
陸軍、もとい俺としても初美さんの提案には反対である。
霞「ってあら…大人一人でも600円なのね」
初美「…思った以上に安いですねー」
巴「薄利多売…でやっていけるような業種じゃないでしょうし…」
京太郎「恐らく行政からの補助金が結構出てるんでしょうね」
初美「でも、最近は行政そのものが傾いているって話ですしー」
霞「こういったところへの補助金が削られていっているのかもしれないわね…」
京太郎「そりゃ動物園の経営も閉鎖も相次ぎますよね…」
小蒔「え…動物園なくなっちゃうんですか…?」シュン
京太郎「あ、い、いや、大丈夫ですよ!」
初美「そうですよー!ほら、ここはこんなに人が来てる訳ですし!」
小蒔「そ、そうですよね。動物園がなくなっちゃうなんてそんな事ないですよね」ホッ
…ふぅ、何とか小蒔さんを悲しませずに済んだか。
でも、小蒔さんじゃないけど動物園がなくなるってのは何となくもの寂しい感じがするよな。
まるで小学生の頃、良く行った駄菓子屋がなくなった時のようななんとも言えない欠落感を感じる。
まぁ、もう数年は動物園に足を運んでいない俺が言えるようなセリフじゃないかもしれないけれども。
霞「とりあえず大人六枚っと」ポチポチ
霞「はい。それじゃ皆、チケットを配るわね」スッ
小蒔「わーい!」
巴「あ、これも一枚一枚、絵が違うんですね。私、ペンギンでした」
初美「私はフラミンゴだったのですよー」
京太郎「俺はヤギですね」
小蒔「私はゾウさんでした!」
霞「私は…あら、豹ね」
初美「つまり京太郎君は霞ちゃんに食べられるって事なのですねー」
霞「た、食べません!!」カァ
性的な意味であれば霞さんに食べられるなんてご褒美以外の何者でもないんだけどなぁ。
でも、流石に小蒔さんがいる前でそんなことは言えるはずがないし…大人しくしておこう。
小蒔「大丈夫ですよ!私が京太郎君を護りますから!」ススッ
初美「むむむ。流石の豹もゾウさんガードの前では中々、手を出しづらいのですよー…」
霞「そもそも食べるつもりなんてありません」キッパリ
霞「それよりほら、あんまり馬鹿な事言ってないで早くゲートを通りましょう?」
小蒔「はーい」
初美「それじゃ私が一番乗りなのですよー!」ダッ
霞「あ、ちょっ!他に人もいるんだから走っちゃダメよ!」
そう行って駆け出しながらゲートへと向かう初美さん。
その手に持ったチケットを係員の人に差し出しながら華麗に通りすぎようとして… ――
「あ、お嬢ちゃん。中学生以上は無料だから大丈夫だよ」
「ちょっとこっちで払い戻しするからちょっと待っててね」スッ
初美「えっと…」
霞「ようやく追いついた…ってどうしたの?」
「あ、お母さんですか。こちら中学生以下は無料となっていますのでチケットは必要ありませんよ」
霞「え?」
「払い戻し処理に少しお時間掛かりますのでお手数ですが、もうちょっとお待ちいただけますか?」
初美「あの…これを見て欲しいのですよー」スッ
「…え?保険証?……え?え?」チラッ
初美「…私、これでも高校卒業してるのですー」
「し、失礼しましたあああ!!」バッ
…まぁ、そうなるな。
一体、誰が初見で初美さんの年齢を見破れると言うのか。
正直なところ、俺だって事前情報抜きでは初美さんの年齢が分かるとは思えない。
申し訳なさそうに係員が何度も頭を下げるけれども、彼に非があるとは誰も言えないだろう。
霞「……」ズーン
とは言え、そういった対応に慣れている初美さんはともかく、母親扱いされた霞さんがすぐさま立ち直るのはやっぱり難しいのだろう。
初美さんを追いかけてゲートの中に入った、というシチュエーションが悪かったとは言え、同い年の女の子の母親扱いされたのだから。
初美さんが実年齢の半分程度にしか見えない人だと言う事を加味しても、自分が実年齢以上に見られていたのは確実なのだ。
申し訳無さそうに幾度も謝る係員さんにチケットを渡して入園を果たしても尚、彼女が暗く落ち込んでいるのも致し方ない事だろう。
小蒔「あ、あの…霞ちゃん…?」
霞「…ねぇ、小蒔ちゃん…私ってそんなに老けて見えるかしら…?」
小蒔「そんな事はないですよ!霞ちゃんはとっても綺麗です!」
霞「…本当?」
小蒔「はい!それに頼り甲斐があって、優しくて、たまにちょっぴり怖くて…」
小蒔「まるで皆のお母さんみたいです!」
霞「かふっ」
小蒔「か、霞ちゃああああん!?」
そんな霞さんの心を無垢な小蒔さんの言葉が見事に抉った。
いや、勿論、小蒔さんに悪気はないと言うのは分かってるんだけど、これはあんまりにも可哀想過ぎる。
せめてお姉さん扱いだったらまだ傷は浅かったものを…。
霞「…私、明日からアンチエイジング頑張るわ…」フルフル
京太郎「だ、大丈夫ですって。別に霞さんが老けているって訳じゃないですから」
巴「そ、そうですよ。さっきはちょっとタイミングが悪かっただけですよ」
霞「そう…かしら?」
京太郎「はい。初美さんが子ども過ぎた反動で余計に大人っぽく見えただけですって」
巴「えぇ。順番が逆だったらきっとあんな事は言われなかったと思いますよ」
霞「そ…そうよね。うん…私はまだ20にだってなってないんだもの」
霞「さっきのがきっと何かの間違いだったのよね…うん…」グッ
初美「むむ…なんだか納得がいかない気もしますが…」
ごめん、初美さん。
でも、ここで霞さんを立ち直らせて、皆で楽しく動物園を楽しむにはこうするしかないんだ。
流石に霞さんが落ち込んだままじゃ小蒔さんだけじゃなくて俺も愉しめないしさ。
当て馬のように使って申し訳ないけど、ここは我慢して欲しい。
京太郎「そ、それより、ほら、あっちに売店がありますよ」
小蒔「売店…動物さんグッズとかありますよね、きっと」ウズウズ
霞「そうね…荷物になると大変だから買うのは後になるけれど…見に行くだけ見に行ってみましょうか」クスッ
小蒔「えへへっ!やりました!」グッ
初美「にしても、動物園の売店とか何が置いてあるのかあんまり予想がつかないのですよー」
巴「まぁ、普通に考えればぬいぐるみとかだと思うけど」
小蒔「コウノトリさんのぬいぐるみとかありますかね?」ワクワク
霞「ふふ、あったら後で買いましょうね」
小蒔「はいっ」ニコー
どうやら小蒔さんのお陰で霞さんも立ち直ってくれたらしい。
彼女はただ皆に大事にされてるってだけじゃなくムードメーカーでもあるからなぁ。
こうして横で嬉しそうにされるとちょっと落ち込んだ気持ちくらいはあっという間に吹き飛ばされてしまう。
ましてや、霞さんは人並み以上に小蒔さんの事を大事にしている人なのだから尚更だ。
小蒔「うーん、色々ぬいぐるみがありますね」
巴「と言うか外のワゴンに結構な数が置いてあるけど…良いのかしら?」
霞「まぁ、ここは入り口ゲートから近いから、係員の人が万引き防止も兼ねているんでしょう」
京太郎「それに控えめに言って売店も大きいとは言えませんしね」
初美「この中にこれだけのぬいぐるみを並べるとすぐにパンパンになっちゃうのですよー」
京太郎「ですね」
入り口のガラス部分から見える売店の大きさは目の前の売店には小さいプレハブ小屋程度だ。
そんな空間の中にそこそこ大きいワゴン4つに山盛り積んであるぬいぐるみを入れるのは中々に難しい。
こうして見る限り、中にはぬいぐるみ以外の商品で一杯だし、場所をとるぬいぐるみを入れる余裕はないのだろう。
巴「でも…こんな野ざらしの状態で日焼けとか大丈夫なのかしら?」
霞「ある程度はゲートが作る影が守ってくれるとは思うけれど…完璧じゃないでしょうしね」
初美「個人的には日焼けよりも雨の時どうするのかって事が気になるのですよー」
京太郎「…言われてみれば…確かにそうですよね…」
霞「うーん…ビニールシートを被せるとかかしら?」
巴「流石にずっと野ざらしって訳じゃないでしょうし、倉庫のようなところに入れておくのかもしれませんね」
初美「いっそ力技でこの売店の中に全部、押し込むのかもしれないですよー」
小蒔「じゃあ、もしかしたら雨の日はこの中にぬいぐるみが一杯詰まっているかもしれないんですね。素敵です」キラキラ
霞「えぇ。そうね」クスッ
その光景を想像して楽しそうに瞳を輝かせる小蒔さんに霞さんが同意の声を返す。
男からすれば狭くて大変と思えるそれも女の子にとってはぬいぐるみが詰まった素敵な光景に見えるらしい。
にしても…ここで同意するって事は霞さんって意外とそういうのに興味がある人なんだろうか?
意外と自室に可愛いものが並んでいたりとか…うん、霞さんならありそうな気がする。
京太郎「そう言えば小蒔さん、コウノトリの人形は見つかりました?」
小蒔「いえ…ライオンさんとかトラさんは見つかるのですけれど…」
初美「こっちはゴリラ、キリン、ゾウなのですよー」
巴「タヌキ、キツネ、シカは見つけましたけど…コウノトリはないみたいですね」
京太郎「一応、こっちにはペンギンのぬいぐるみがありましたけど…コウノトリはないんですよね」
初美「そもそも私、ペンギン以外で鳥類のぬいぐるみとか見た事がないのですよー」
京太郎「あぁ…言われてみれば俺もあんまり記憶に無いですね」
霞「やっぱりぬいぐるみで翼の再現って難しいのかしら…?」
小蒔「しょんぼりです…」シュン
霞「あ…え、えっとまだ落ち込むには早いわよ、小蒔ちゃん」
霞「ほら、まだ売店の中は見ていないでしょう?」
霞「もしかしたら中にコウノトリのぬいぐるみがあるかもしれないわ」
小蒔「な、なるほど…!確かにそうかもしれません…!」グッ
初美「よし!そうと決まれば早速突撃なのですよ―!」ダダッ
小蒔「突撃ーです!」トテテテ
京太郎「…今回は追いかけなくて良いんですか?」
霞「姫様の為だもの。ちょっとくらいは目を瞑ります」プイッ
巴「ふふ、そうですね」
そういうところが小蒔さんに対して甘いと霞さんが言われる所以なんだけどなぁ。
でも、ちょっと赤くなって目を逸らす辺り、きっと本人にも自覚はあるんだろう。
なら、ここであんまりイジってあげるのも可哀想か。
それにまぁ、俺も何だかんだ言って売店の中身が気になるし。
初美「お、おぉ…これは…」
京太郎「どうかしました?」
初美「…マジで狭いのですよー」
京太郎「え?でも、もうちょっと奥があるんじゃないですか?」
小蒔「あっちの方は食べ物を注文したり食べたりする場所みたいです」
京太郎「え…マジですか…」
巴「どれどれ…。あら、本当…。と言うかもうかき氷とかあるのね…」
京太郎「今日は真夏日って話でしたし、早めに引っ張り出してきたのかもしれませんね」
京太郎「実際、俺もちょっとここでかき氷食べながら休憩ってプランには心惹かれます」
初美「ふふーん。京太郎君は本当に軟弱者なのですよー」
初美「私は全然、暑くないですし、まだまだ元気なのですよー」ドヤァ
京太郎「…幼稚園児くらいの子どもって基本的に体力なくなるギリギリまで元気一杯ですよね」
初美「誰が幼稚園児ですかー!」ゲシゲシ
京太郎「いてててっ」
まぁ、流石に幼稚園児は言い過ぎかもしれないが、初美さんの元気さはそれに通じるところがある。
基本的には朝から晩まで元気でテンションも高いが、夜寝る前になると一気に勢いが弱くなるし。
小蒔さんと一緒に昼寝をしているところを見たのも一度や二度ではない。
…まぁ、そんな二人の隣で同じように昼寝してしまった回数も一度や二度ではない訳だけれども。
仕方ないじゃないか、あれだけ幸せそうな顔で寝ている寝ているのを見るとこっちもご随伴にあずかりたくなってしまうんだから。
初美「にしても…この売店、私達だけで結構ギリギリなのですよー…」
初美「勿論、一部が必要以上に面積を必要としているって事もありますけど…」チラッ
霞「…それってどういう意味かしら?」ゴゴゴ
小蒔「???」キョトン
初美「まったく…無駄に大きく育ってお姉ちゃんは寂しいのですよー」
霞「誰がお姉ちゃんよ」
初美「ふふーん。霞ちゃんよりも私のほうが先に誕生日が来るから私の方がお姉ちゃんに決まっているのですー」ドヤァ
霞「ほんの二ヶ月の差でしょうに…と言うか初美ちゃんの誕生日だってまだ先でしょ?」
初美「まったく…おっぱいが大きい癖に細かい事を気にしすぎなのですよー」
霞「む、胸は関係ないでしょう…!?」カァ
京太郎「ま、まぁまぁ。でも、実際、五人入ったらかなり窮屈さを感じるってのは事実ですよ」
小蒔「でも、私こうやって皆と一緒にいるのは嫌じゃないですよ」ニコー
霞「……初美ちゃんと違って、小蒔ちゃんは本当に良い子ね」ナデナデ
小蒔「えへへ」
初美「むぅ…その言い方だとまるで私が悪い子みたいじゃないですかー」
京太郎「…え?自覚なかったんですか?」
初美「よーし。その喧嘩買ったのですよー」ゲシゲシ
京太郎「いててててっ」
まぁ、小蒔さんと比べれば大抵、誰もが悪い子になってしまうというか、初美さんと比べると大抵、誰もが良い子になってしまうというか。
どっちも『良い人』である事に間違いはないんだけれど、ある種、対極な二人である以上、比べるのはナンセンスな気がする。
巴「も、もう。あんまり暴れちゃダメよ、はっちゃん」
巴「私達以外に人がいないと言ってもお店の人の迷惑になるんだからね」
初美「はーい…チッ命拾いしやがったのですよー」
京太郎「霞さーん、初美さんがあんな事言ってますよ」
初美「ちょっ!か、霞ちゃんに言いつけるとか男らしくないのですよー!」
京太郎「男らしさ?そんなものが何になると言うんですか」
京太郎「そんな事はどうだって良いんです。重要な事じゃありません」
初美「なん…だと…」
霞「はいはい。二人が仲が良いのは分かったからじゃれあいはそこまでにして頂戴」
霞「それにそれだけの余裕があるスペースって訳じゃないんだからね」
京太郎「そうですね。元々、あんまり売店で稼ぐのを想定していないのかもしれませんけど…」
初美「とは言え、この大きさは流石にちょっと不便ですよ。正直、これだと食堂は別の建物にした方がよっぽどいいと思うのですー」
巴「そうすれば外のぬいぐるみが中に入れられて雨風や日焼けから護れるものね」
京太郎「まぁ、実際はそれが出来ない理由があるんでしょうね」
霞「金銭的か或いはスペースの問題か…」
初美「どちらにせよ世知辛いのは確実なのですよー…」
俺たち素人が出せる程度の意見なんて動物園側も把握しているだろうしなぁ。
それでもこうやって今の形態で収まっているって事はやっぱりそれを変えられない問題があるのだろう。
そもそも幾ら考えてもただのお客でしかない俺たちにはどうにも出来ない訳で。
それよりも今は売店の中の商品を見る方が建設的だ。
狭い事は狭いもののレイアウトを考えてあるのか商品は沢山あるし。
折角、動物園に来たのだから一つくらいは買って帰っても良いかもしれない。
小蒔「うーん…」
京太郎「小蒔さん、何か気に入ったのがあったんですか?」
小蒔「あ、はい。これなんですが…」スッ
京太郎「…ノート?」
小蒔「これ学校で使えないでしょうか?」
京太郎「…え?」
小蒔「表紙に動物さんの絵が書いてあってすっごい可愛いんです!」パァ
小蒔「だから、出来ればこれを買って帰って学校で使いたいんですけど…」
京太郎「えっと…ちょっと見せてもらっても良いですかね?」
小蒔「はい。どうぞ」スッ
京太郎「…」パラパラ
小蒔「どうですか…?」
京太郎「流石にちょっとそれは難しいんじゃないでしょうか…」
小蒔さんが持っているノートは俺達が普段使っているものとは違い、ひらがなで大きく「じゆうちょう」とか「こくごノート」とか書かれてるタイプだ。
念のため確認してみたが、やっぱり中身もマスや行の大きい、小学生向けのものだった。
流石にこのノートを高校生が授業で使うのは色々と弊害があるだろう。
それを小蒔さんに伝えるのは辛いが…さりとて、ここでヘタレる訳にはいかない。
小蒔「やっぱりそうですよね…」シュン
京太郎「小蒔さんは普段、使えるものが良いんですか?」
小蒔「はい。どうせですし、皆と動物園に来た記念をずっと手元に置いておけるようにと…」
京太郎「じゃあ、こっちのラバーキーホルダーはどうですか?」
小蒔「キーホルダー…ですか?」
京太郎「はい。結構、種類がありますし、皆でそれぞれ別々の種類を持つというのはどうでしょう?」
小蒔「皆で…お揃いって事ですか?」
京太郎「はい。お揃いです」
小蒔「」パァ
よし。どうやら小蒔さんの機嫌が治ったみたいだな。
やっぱり彼女は変に落ち込んでいるよりも笑顔でいる方が魅力的だ。
まぁ、問題は小蒔さんを笑顔にする為に俺が勝手に提案したそれを皆が了承してくれるか…だけど。
霞「あら、それ良いわね」
巴「えぇ。それなら私達も使えますし」
初美「京太郎君にしてはいいアイデアなのですよー」
…ま、小蒔さんラブな永水元三年生組がここでNOと言う訳がない。
寧ろ、俺の言葉に笑みを浮かべ、それぞれがラバーキーホルダーのところで商品を見始めている。
どうやら皆もそれなりに乗り気なようだ。
荷物になるから買うのは後で、と言っていた霞さんも真剣そうな眼差しでキーホルダーを見ている。
京太郎「初美さんは一言余計なんですよ」
京太郎「そんな初美さんにはこのふくろうのキーホルダーがお似合いだと思います」スッ
巴「え?どうしてふくろう?」
京太郎「雉も鳴かずば撃たれまいって諺があるので本当は雉にしようと思ったんですが…雉のキーホルダーがなかったので代理で」
初美「ふふ。ちなみにふくろうは知恵の象徴だと知ってますか?」
京太郎「え?」
初美「そうですかー。私にはふくろうのキーホルダーがお似合いなのですかー」ニヤニヤ
初美「まさか京太郎君が私の事をそんな風に思っていてくれたなんて思っても見なかったのですー」
初美「ちょっと恥ずかしいですが、でも、折角、京太郎君が選んでくれたものですしねー」
初美「私はこれにさせてもらうのですよー」
京太郎「ぬぐぐ」
まさかふくろうにそんな意味があったなんて…!
そうと知っていたら隣の孔雀を勧めたものを…。
……いや、孔雀でも初美さんは喜ぶ気がするな。
孔雀って鳥の中でもかなりおしゃれ…と言うか派手な種類だし。
露出狂に片足突っ込んでる初美さんの感性にピッタリ一致していてもおかしくはない。
巴「あ、じゃあ、私も選んでくれないかしら?」
京太郎「巴さんもですか?」
巴「えぇ。私も中々、決まらなくって」
巴「京太郎君が選んでくれたものなら何でも良いから」ニコッ
京太郎「う」カァ
初美「なーに顔を赤くしてるですかー?」ツンツン
京太郎「い、いや、だって仕方ないじゃないですか」
一言余計な初美さんの後に巴さんからこんな殊勝な言葉が飛び出したのである。
元々、妙に誤解されがちな人であるという認識はあるとは言え、やっぱり嬉しいし、恥ずかしい。
何より、まるで恋人みたいな事を言われるとやっぱり意識してしまうというかなんというか。
見た目は地味だと言っても、巴さんは霞さんにも負けない美人だからなぁ。
巴「???」キョトン
京太郎「い、いや、何でもないですよ」
京太郎「それより巴さんに似合うものですよね」
巴「えぇ。何かないかしら?」
京太郎「うーん…」
京太郎「(…と言っても俺は動物の事なんて良く分からないからなぁ)」
京太郎「(さっきのふくろうみたいに思っていたのとは別の意味があったりすると誤解の種になりかねない)」
京太郎「(初美さんの時は良い意味だったけど、次もそうなるとは限らない訳だし)」
京太郎「(…出来れば慎重に選ばないと…って…)」
京太郎「…あ」
巴「何かあった?」
京太郎「…えぇ。これなんかどうですかね?」スッ
巴「…馬?」
俺が巴さんに差し出したのは馬のラバーキーホルダーだ。
白い体躯を躍動感あふれる形でデフォルメされているサラブレットの姿。
可愛さよりも格好良さを感じさせるそれはどちらかと言えば、男の子向けのものなのかもしれない。
京太郎「えぇ。馬はとても頭が良くて観察力に優れている生き物です」
京太郎「同時にとても優しくて人に慣れた馬は乗り手の事を逆に気遣ってくれるくらいなんですよ」
京太郎「だから、何時も周りを見て、優しくしてくれる巴さんにはこれがぴったりかなって」
巴「な、なんだか照れるわね」カァ
巴「…でも、ありがとう。せっかく選んでくれたし…私、これにするね」ニコッ
京太郎「えぇ。どうぞ」
…ふぅ。どうやら巴さんも気に入ってくれたらしい。
動物の事なんて詳しくはないけれど、馬の事だけは多少知ってるんだよな。
まだ長野にいた頃、馬車を操るのも執事の基本だと言われてハギヨシさんに馬術を教わった経験が活きたな。
当時はまたハギヨシさんが訳の分からない事を言い出したと思っていたけど…こうしてその経験を活かせた今は教わっていて本当に良かったと思う。
初美「うんうん。京太郎君にしては上出来なのですよー」
初美「でも、女の子向けの奴じゃないのは若干、減点なのですー」
京太郎「う…やっぱそうですよね…」
巴「あ、ううん。大丈夫よ。私、そういうの気にしないから」
巴「それにさっきも言ったでしょ?」
巴「私は京太郎君が選んでくれたってだけでも十分嬉しいの」ニコッ
京太郎「と、巴さん…」ジィン
霞「そっちは決まった?」
初美「今、京太郎君が巴ちゃんに攻略されてるところなのですよー」
小蒔「攻略?」キョトン
巴「ち、違います!そういうんじゃありません!」カァ
巴「そ、それより、こっちは大体、決まりましたけど、お二人の方はどうですか?」
霞「こっちも大丈夫よ」
小蒔「えへへ。霞ちゃんがペンギンさんで、私はヤギさんにしましたっ」
初美「え?霞ちゃんは牛じゃないんですかー?」
霞さんは高校生で並ぶ者のいないと思った和っぱいすら凌駕しているおっぱいオバケだ。
豊胸手術なしの天然モノでここまで大きい人なんて全国…いや、世界を見渡してもそうはいないだろう。
そんな霞さんに一番似合うのが牛だと思うのは健全な男子高校生としてごくごく当たり前のものだ。
…まぁ、思ったところでそれを初美さんのように口にする勇気はない訳だけれど。
霞「そういう反応が来ると思ったからペンギンにしたのよ」ハァ
小蒔「え?でも霞ちゃん、そのペンギンさんを凄く可愛いって気に入ってたんじゃ…」
霞「こ、小蒔ちゃん…!」カァ
初美「はー、もう。この子はもういい年なのにホント、可愛いもの好きなのですよー」ヤレヤレ
霞「べ、別に私が可愛いもの好きでも良いでしょ…!そもそも私はまだそんな事言われるような年齢じゃありませんっ」ムゥ
霞「それよりほら、皆の分を精算してくるから貸して頂戴」
巴「お願いしますね」
小蒔「霞ちゃん、何時もありがとうございます」
初美「ありがとうですよー」
霞「いえいえ。あ、初美ちゃんの分は自腹でお願いね」
初美「むむ…。こんな形で嫌がらせをしてくるなんて胸は大きいのに…」
霞「そのネタはもうやったでしょ」
霞「それが嫌なら少しは大人しくしていなさい。…まぁ、今回は支払ってあげるけれど」スッ
初美「さっすがー霞ちゃんは話が分かるのですよー」
霞「…調子良いんだから、もう」クスッ
そう呆れるように言いながらも霞さんの表情は決して嫌そうなものじゃなかった。
初美さんに振り回される事も多いが、やっぱり霞さんにとって初美さんは親友と言っても良いような相手なのだろう。
いや、それは初美さんにとっても同じか。
こうして人をからかってくるのは初美さんなりにその人と仲良くしたいと思っている事を意味しているんだから。
案外、その辺りの事を分かっているからこそ、霞さんも初美さんに付き合ってあげているのかもしれない。
霞「それで京太郎君は?」
京太郎「あ、すみません。俺はまだなんです」
初美「京太郎君はこのニワトリが似合うと思うのですよー」スッ
京太郎「何処からそんなもん見つけてきたんですか…俺が見た時にはなかったのに」
初美「京太郎君に似合うと思ってわざわざ確保しておいたのですよー」ドヤァ
京太郎「こ、この人は…!」フルフル
巴「ま、まぁまぁ。流石に男の人にニワトリはちょっと可哀想だしね」
小蒔「じゃあ、このライオンさんとかどうですか?」スッ
京太郎「ライオンですか?」
小蒔「はい!この鬣が京太郎君の髪の毛そっくりです!」
霞「ふふ、確かにそうかもね」
初美「今度、ワックスか何かで逆立ててみるですかー?」
京太郎「髪が痛むんで勘弁してください」
日頃、カツラを被って生活している関係上、髪のケアには人一倍気をつけないとすぐにハゲそうだからなぁ。
一応、オヤジを見る限り、家系的には問題はなさそうではあるけれども。
とは言え、日頃、男だってバレるんじゃないかというストレスも抱えている訳だし、気にするに越した事はない。
髪の毛が全て死滅してから嘆いても遅いのだ…。
初美「京太郎君は男なのに細かい事を気にしすぎなのですよー」
京太郎「髪の事は男にとってまったく細かい事じゃないんですよ…!」
京太郎「それより…折角、小蒔さんが選んでくれた訳ですし、俺はこれにしますね」
霞「はい。じゃあ、精算してくるから皆、ちょっと待っててね」
巴「それじゃ姫様、ちょっとあそこの席に座りませんか?」
小蒔「良いんでしょうか…?」
初美「まぁ、他にお客さんがいるって訳じゃないですし、大丈夫だと思うですよー」
京太郎「それに霞さんが帰ってくるまでの短い間ですしね」
小蒔「…そうですね。それじゃあちょっと休憩しましょうか」スッ
そう言って椅子に腰を降ろす小蒔さんに初美さんや巴さんが従う。
諸々の決断や管理は霞さんがする事が多いが、やっぱり皆の中心は小蒔さんなんだろう。
こうした細かい仕草の一つだけでも皆が彼女のことを尊重しているのが伝わってくる。
小蒔「あ、ここってテレビがあったんですね」
京太郎「え?テレビですか?」
巴「ほら、あそこよ」スッ
京太郎「本当だ…。全然、気づきませんでした」
巴「仕方ないわよ。売店にいた時は棚の影になっていて見えない位置だもの」
初美「それにお世辞にも大きいとは言えない代物なのですよー」
小蒔「でも、映ってるうさぎさんとっても可愛いです…!」キラキラ
京太郎「細い管みたいなところから延々降りて行ってますね」
巴「ピョコピョコしててなんだか和むわね」クスッ
小蒔「あ、今度は食事シーンですよ!」
京太郎「食べてるのは大根の葉っぱですかね?旨そうに食べるなぁ」
巴「ふふ。それじゃあ今度、大根の葉っぱの煮物でもしましょうか」
京太郎「お、良いですね。楽しみにしてます」
しかし、こうして見てても特に音らしいものは聞こえてこないんだよな。
あれってもしかして何かのテレビ番組とかじゃなくってこの動物園で撮られた映像とかなんだろうか。
そうなるとこの可愛らしい生き物がこれから先、待っているって事に…。
…小蒔さんじゃないが、ちょっとワクワクしてきたかもしれない。
小蒔「あ、今度はペンギンさんですよ!皆でぱしゃぱしゃ泳いでて涼しそうです!」パァ
霞「お待たせ。さぁ、本格的に中へと入りましょうか?」
小蒔「…あ、もうですか」シュン
霞「え?」
初美「まったく…霞ちゃんは本当に相変わらず空気読まないのですよー」ヤレヤレ
霞「い、いきなりそんな事言われても…って言うかどういう事なの…?」
京太郎「ほら、アレですよアレ」スッ
霞「アレ…?ってペンギンさんっ!」パァ
京太郎「…え?」
霞「…あ…そ、その…」カァ
霞「こ、コホン……ペンギンじゃないの」キリッ
京太郎「……そうですね。ペンギンさんですね」ニヤニヤ
初美「ペンギンさんなのですよー」ニヨニヨ
霞「うぅぅっ…」マッカ
まさか霞さんまでペンギンにさんづけするとは思ってなかった。
小蒔さんから伝染ったのか、或いは霞さんから小蒔さんへと伝染ったのか。
どちらが先かは分からないけれど、普段キリっとしている彼女から漏れるその言葉は予想以上に可愛らしい。
少なくとも、初美さんと一緒ににやついた笑みを向けてしまうくらいには。
小蒔「やっぱりペンギンさん可愛いですよね…」ホワァ
巴「でも、姫様、霞さんも帰ってきましたし、そろそろ移動しなきゃいけませんよ」
小蒔「そうですよね…でも、なんだか名残惜しくて…」
霞「…じゃあ、ちょっとだけここで休憩する?」
小蒔「良いんですか!?」
霞「えぇ。さっき京太郎君も休憩したいって言ってたし」
京太郎「そうですね。外の暑さは結構なもんですし」
初美「やれやれ。ホント、京太郎君は見た目と違って貧弱ボーイなのですよー」
霞「じゃあ、初美ちゃんはかき氷要らないのね」
初美「か、かき氷!?」
霞「流石に何も食べ物を買わないで食堂の一角を占拠する訳にはいかないもの」
霞「この暑さだし、きっと美味しいかき氷が食べられると思うんだけど初美ちゃんが要らないならしょうがないわよね」
初美「いるいる!いるですよー!」
初美「私ももうクッタクタなのですー!汗だくでもうグロッキーなのですよー!」ピョンピョン
やっぱり出納係は強い(確信)
まぁ、初美さんだって決してかき氷一つ買えないくらい困窮してるって訳でもないんだろうけれど。
でも、他の皆が経費で落としているのに自分だけ自腹を切るってのも悲しいもんだしなぁ。
こういう場面では流石の初美さんもお屋敷の金勘定を一手に引き受ける霞さんには頭があがらないんだろう。
霞「はいはい。じゃあ、五人前ね」
京太郎「あ、俺が買ってきますから霞さんは座っててください」
霞「良いの?」
京太郎「はい。まぁ、ペンギンさんの出番はもう終わっちゃいましたけど、さっき霞さんにお会計をお願いした訳ですし」
霞「そ、それはもう忘れて頂戴」カァ
京太郎「はは。すみません」
霞「…まぁ、でも、私もちょっと気になるのは事実だし」チラッ
小蒔「はわー…。今度は豚さんですね」キラキラ
巴「小さい豚ってホント、可愛らしいですよね」ニコニコ
霞「…申し訳ないけれどお願いしようかしら」スッ
京太郎「はい。お任せください」
京太郎「ちなみに味はどうします?」
小蒔「私、いちごが良いです!練乳たっぷりの!」
霞「メロンかしらね」
巴「あったら宇治金時でお願い」
初美「なら、私は玄人らしくサルミアッキ味で…」
京太郎「ねぇよ」
つか、そんな味のかき氷とかあってたまるか。
サルミアッキと言えば、まずい事で有名なフィンランドの飴じゃねぇか。
俺でも知ってるレベルのグテモノを殆ど味がしないかき氷にぶっかけてどうするんだ。
京太郎「そもそも本当にあったとして初美さん、それ食べきれるんですか?」
初美「食べきれなかったら京太郎君に任せるのですよー」グッ
京太郎「んじゃ、初美さんはもうシロップで良いですね」サラッ
初美「せ、せめて希望は聞いてけなのですー!」
京太郎「はいはい…。んじゃ改めて初美さんは何が良いんですか?」
初美「シロップで」ドヤァ
京太郎「…霞さん、初美さんの分なしで良いですか?」
霞「私が許すわ」
初美「ごめんなさいですよー!」アワワ
京太郎「まったく…」
京太郎「んじゃ買ってきます。ちょっと待っててくださいね」
初美「全員五分以内に提供できなきゃ罰ゲームなのですよー」
京太郎「やっぱ初美さんの分はなしで…」
初美「わわわっ!」
まったく…本当に初美さんは学習しない…と言うかその場のノリで生きてるんだから。
まぁ、わざと自爆と言うか地雷を踏みに行く辺り、こういうやりとりを楽しんでいるんだろうけれども。
でも、今日は何時もよりはしゃいでる…と言うか何時も以上に勢いで突っ走ってると言うか。
京太郎「(…案外、初美さんも結構、動物園楽しみにしてたのかもな)」
京太郎「(霞さんの事を色々言ってはいるけれど、さっきの映像見ている時の初美さんも嬉しそうだったし)」
京太郎「(口には出さないけれど、小蒔さん達に気づかれないようにニンマリしてた)」
京太郎「(そういうところを見ると歳相応…と言うか姿相応に見えて可愛らしい、なんて言ったら怒られるだろうから言わなかったけど)」
京太郎「(…でも…皆、楽しんでくれているみたいでよかった)」
京太郎「(一応、提案者ではあるし…退屈だったらどうしようって不安だったんだけれど)」
巴「あ、今度はフェネックに変わりましたね」
小蒔「キツネさんですね!」
霞「いえ、フェネックよ」
小蒔「え?…どう違うんでしょう?」キョトン
初美「なんかこー偉い人にしか分からない違いがあるのですよー」
小蒔「な、なるほど…奥が深いんですね」ゴクリ
京太郎「はは」
実際はまだ園内に足を踏み入れてすぐの売店でもこんなにエンジョイしてくれている。
どうやら俺の心配はまさしく杞憂であったらしい。
きっと皆とであれば、きっと動物園そのものも心から楽しむ事が出来るだろう。
そんな予感を胸に抱きながら、俺はかき氷を手に皆のところへと戻ったのだった。
以上で今日の投下は終わりです
おまたせしてすみませんでした
またこの調子で地の文を書いていくと動物園デート終わるまで量がやばくなるので
次回からは地の文が消えます
予めご了承ください
大人六枚って誰か別に居るのん?
それと京子で出歩かなくて大丈夫なのかという疑問が浮かんだ
おっと乙でした
おつやでー
乙です
>>681
京太郎、姫様、はっちゃん、霞さん、巴さん、マンソン
ほら、ちゃんと六人いるだろいい加減にしろ!!!
…ごめんなさい完全に見落としてました…これは数が数えられないと言われてもおかしくはないレベル…!!
京太郎での外出についてはまぁ、鹿児島で京太郎が消息を断った事を知ってる人がまだいないから大丈夫かと
流石に咲さんが京太郎がいなくなったって事を知ったら危ないだろうけど
マンソンは静かな奴だから気づかなくてもしょうがない
巴さん=馬はなんとなくわかる。白い馬な感じがする。
>>658
中学生以上の年齢で中学生以下の見た目のはっちゃんだから、以上と以下が混じるのは仕方ないよね……
巴さんが白馬ってなんか恋姫の普通の人を思い出した
白馬将軍な感じで
明日か明後日には投下したい(´・ω・`)
ついでにエロも書きたい
他のネタにもちょっと浮気したい
ぬおおおおおお(´・ω・`)
了
ついに健全の呪いが解かれるのか
健全解除されるんですね!やったー!
このスレは健全なスレだって言ってるだろ!いい加減にしろ!!
>>689
う、うちの巴さんはただの普通じゃなくてダメ男量産機の属性つきだから(震え声)
し、失礼します
い、いえ…別に用があって来た訳じゃないんですけど…
……その…まぁ、なんて言うか…ですね
……な、何をニヤニヤしてるんですか…もぉ
と言うか、本当はお兄さん分かってますよね…?
…はぁ…もう…変態…
え?ば、馬鹿な事言わないでくださいよ!
私は変態なんかじゃありません!
う…そりゃ…まぁ、夜中に殿方のお部屋を尋ねるのは淑女としてあるまじき行為ですけど…。
お、お兄さん相手なら大丈夫なんです!!
だ、だってお兄さんは私達の性欲処理係ですから!!
我々人類に数千年の歴史を与えた崇高かつ健全な営みを忌避する風潮こそ間違いではないでしょうか(真顔)
そう…そうです
お兄さんのこのお屋敷での立場は男娼も同然!!
私はそれを利用するだけであって別に痴女でも変態でもありません!
え?…ば、馬鹿な事言わないでください
別に私が利用したくてお兄さんの事を利用する訳じゃないですよ
最近、皆に放って置かれてお兄さんの方が溜まってるんじゃないかって心配になったから顔を出してあげただけです
決して私自身がムラムラしてるってそんな事…
…え?昨日、霞お姉様にしてもらった?
…そ、そんな事まで?ちょ…そ、それはちょっと変態過ぎじゃないですか…?
私も知らない間に…か、霞お姉様…
う…うぅ…霞お姉様がまたお兄さんに穢されてしまいました…
これは私がしっかりとお兄さんに責任を取らせるしかありません…!
そう。これは正義の鉄槌なのです!!
大体、お兄さんは性欲処理係の癖に生意気なんですよ
ちょっと皆にちやほやされてるからってご自分の立場をお忘れじゃないですか?
お兄さんはお屋敷の皆が女ばかりの環境で過ごしているからこそ用意された備品です
それを霞お姉様や姫様にお情けを掛けてもらって、こうして人としての生活が出来ているだけなんですよ
それを良く心身に刻んで…ってひゃあ…!?
あ…う…あの…い、いきなりギュってするのは卑怯…だと思い…ます
ち、違います!ドキドキなんて…あ…ぅ…
生意気な事を言うからって…わ、私が言っているのは全部、事実じゃないですか
んぅ…ば、馬鹿…お尻そんな風にギュってしないでください…
た、確かにお兄さんがたまっているんじゃにかって心配はしてましたけど…
こ、こんなことして良いなんて一言も言ってま…んぅっ…♪
ちゅ…は…ぁ…♪
んぢゅる…く…ひゅぅん…っ♪
はぁ…も、もぉ…
いきなりキスするとか…変態過ぎですよぉ…
は…?べ、別に感じてなんかいませんよ…!
お兄さんの舌に応えてあげたのも一人相撲があんまりにも滑稽だったからです
そう、お兄さんは私に情けを掛けられただけ
それを良く覚えておいて…って、な、何をしてるんですか…!
ちょ…だから、お尻を揉まないでくださいって…何度言えば分かるんですか…!
こ、この変態…変態性欲処理係ィ!
む…またそんな…ん…減らず口を叩いて…っ
確かに変態性欲処理係として…は愛撫なのかもしれないです…けど…
私はお兄さんみたいに変態趣味は持ってないです…から、こんなことされても全然、気持ち良くなんか…
ふぇ…だ、だったら脱がせるって…ひゃあ!?
う、うるさい…!
別に期待なんてしてません!全然、してませんから!!
ノーブラだったのは単にお風呂上がりで蒸れて気持ち悪かったからです!
最初からお兄さんの為にノーブラで来たとかそんな勘違いはやめてぅっ♪
い、いきなりおっぱい揉むとか馬鹿ですか!馬鹿なんですか!!
ひ、開き直るなんて最低です…!
え…ば、馬鹿な事言わないでください…
私が最低で変態で馬鹿なお兄さんの手で感じる訳ないじゃないですか!
こんな変態でスケベな手で女の子を感じさせられると思ったら大きな間違ぁあんっ♪
……
き、聞かなかった事にしてください…
……あーもう!もぉぉ!!
お兄さんの馬鹿!あんなタイミングで乳首摘まれたら誰だってああなります!!
これは生理的な反応です!!そう!ただの!!生理的な!!はんのぉうんっ♪♪
だ、だから…人の話は最後まで聞いてくださ…くぅ…♪
はぁ…ホント…ばかみたいに…人のおっぱい玩具に…してぇ…♪
……一言くらい…感想ないんですか…?
……
へぇ…へぇぇ…?
ふふ…そうですか…ふふ
え?別に喜んでなんかいませんよ?
変態にちょっと褒められたくらいで喜ぶような安い女じゃありません
え?霞お姉様は喜んでた?
…そ、それは霞お姉様がお優しいからそういうフリをしてくれていただけです
決して霞お姉様が安い女と言った訳じゃ…
あぁ…!もう何を笑ってるんですか!!
良いからもう…真剣に愛撫してくださいよ…!!
…別に受け入れた訳じゃないですよ?
い、今のは言葉の綾…言葉の綾ですから
それに今日は私の番…い、いや…その…
い、いいじゃないですか!もう気にしないでエッチしてください!!
ほら、変態のお兄さんは大きくて触り心地も最高な私のおっぱいが好きなんでしょう!!
ん…っ♪こ、こら…だからって吸って良いなんて言った訳じゃ…。
そもそもそこ乳首でも何でもな…いん…っ♪
ペロペロしても…擽ったい…だけです…よ…ぉ♪
ちょ、だからってそんなに吸ったら…くぅ…っ♪
はぁ…もぉ…ホント…変態なんですから…
今ので思いっきりキスマーク出来ちゃったじゃないですか…
うぅ…これじゃ明日は霞お姉様と一緒にお風呂に入れません…
…え?ば、馬鹿な事言わないでください!
だ、誰がお兄さんなんかと…!!
…大体、私と一緒にお風呂に入って何をするつもりなんですか…?
どうせ今みたいに…エッチな事するつもり…なんでしょう?
ば、馬鹿な事言わないでください…!だ、誰がそんな…。
…でも、折角のお詫びを受け取らないというのも狭量ですしね。
これじゃ明日は霞お姉様と一緒にお風呂に入れませんし…お兄さんがどうしてもと言うんでしたら…。
…う、何を笑ってるんですか…?
わ、私は最初っから素直です!
えぇ、別に意地なんて全然、張っていませんし、私が言っているのは全て本心ですから!!
…え?それなら素直にさせるって…
え…ちょ…お、お兄さん…ま、待って…顔が怖…んきゅぅ…っ♪
はひ…ぃ…♪
お、お兄しゃんは…ば、化け物…れすか…ぁ…♪
私がさんけちゅになるまでキスしゅるなんて…え、エッチしゅぎます…ぅ…♪
お陰で私…お兄しゃんの息…一杯しゅいこんじゃいましたぁ…♥
変態でスケベなお兄さんの息で…生かされちゃっれたんれす…っ♪
その上…一杯、お兄さんのちゅば送り込まれへ…ぇ♪
わらひ…お兄しゃんに身体の中から汚されちゃいまひた…ぁ♥
霞お姉様…ごめんなしゃい…♪
明星は…明星…はぁ…ぁ♥
ん…きゅぅ…♪
も…ぉ…お兄しゃん…何回きしゅするつもり…なんですか…ぁ♪
足もガクガクで…今にも倒れそうらのに…♥
ぎゅってしながらしょんなにキスして…もぉへんたぁい…♥
こんな…恋人みたいなキスしても…ん…♪
許しゃない…れすよ…ぉ♥
お兄しゃんのやっている事は…レイプどぉじぇんれす…っ♪
絶対…に…はん…っ♪
後で…思い知らせて…やりましゅ…からぁ…♪
らから…今はもっと…もっとしてぇ…♪
恋人みたいな…甘いキス…ちゅっちゅってちょうらぁい…♥
おっぱいも…ごぉいんに…レイプしゅるみたいに揉んで欲しいの…ぉ♪
お兄しゃんなら…良い…からぁ♥
お兄しゃんだったら…私の身体…玩具にして…良いれすから…ぁ♥♥
ひゃぁ…ぁっ♪指…ィ♪指が…グニグニィっ♪♪
は…ぁ…♥おっぱいの形…変わっちゃうぅ♥
ホントに遠慮…してにゃい…♪お兄しゃんの指が…私のおっぱいレイプしてりゅんっ♥
は…ん…♪しょぉ…れすよぉ♥
きしゅも忘れたら…承知しにゃいれすからね…♥
はい…♪キスされながら…おっぱいレイプしゃれるの好きですぅ…♥
お兄さんの手…熱くて…ゴツゴツしてるからぁ…♪
自分でしゅるのと全然…違くて…えぇっ♪
は…ぁ…♪感じて…るぅ…♥
私…感じて…ますぅ…♪
お兄さんの指でおっぱい滅茶苦茶にされてるのに…っ♥
完全に…お兄しゃんの玩具になってるのにぃ…♪
おっぱいに…ビリビリ来る…のぉ…♥
気持ち良いのビリビリ来て…もっと…してほしく…なっへるんですぅ…♥
お兄しゃんも…したい…でしゅよねぇ…♪
私の身体で一杯…悪戯…したいれしゅ…よね…っ♥
良いれしゅよ…お兄さんのしたい事…じぇんぶしてくらしゃい…っ♥
霞お姉様みたいに…私の事も…お兄しゃんの玩具にしへぇ…♥♥
眠いんで寝ます(´・ω・`)オヤスミナサイ
ヒドい寸止めをみた(白目)
乙したー
生殺しかよぉ!(血涙)
あ、乙でした~ 次回投下楽しみにしとるで~
おつでしたー。
ここで切るとか鬼畜外道過ぎる。
乙
続きはよ
乙です
結局KENZENじゃないか・・・(困惑)
KENZENじゃないか!(歓喜)
乙
ココで止めればちゃんと健全かなって…
でも、こんなの書くよりも先にテルーとタカミーの反応をかかなきゃいけない事を思い出したので今日はそれを書いていきます
あ、その前に二本関係のないネタを投下します
京太郎「ほら、照さん、口元にチョコついてますよ」
照「…京ちゃん、拭いて」
京太郎「仕方ないですね…」フキフキ
菫「はぁ…もう、照の奴は…」
菫「須賀も一々、世話を焼いたりしなくても良いんだぞ」
淡「大丈夫だよ。キョータローは私達専属のマネージャーだから」
京太郎「俺は別にマネージャーになったつもりはないんだけどなぁ…」
淡「その割には今もテルーの世話焼いてるじゃん」
照「ん」マンゾクゲ
京太郎「う…それはそうなんだけど…放っておけなくてさ」
照「京ちゃん京ちゃん」
京太郎「ん?どうかしました?」
照「マシュマロ食べたい」
京太郎「マシュマロっすか。ん…ちょっとないみたいですね」
京太郎「仕方ない。ちょっと買ってきます」ダダッ
菫「あ、ちょ…っ!」
淡「…ホント、キョータローってテルーの事になると何でも聞く上にフットワーク軽いよねー」
菫「あいつ、自分でマネージャーになったつもりはないと言っておきながら」ハァ
淡「でも、あそこまでケンシンテキだとどこまでやるのかちょっと気にならない?」
菫「お前、またそんな失礼な事を…」
照「…私も気になる」
菫「照まで…」
淡「でしょー。さっすがーテルーは分かってるー!」ニコニコ
淡「じゃあさ、ちょっと試してみない?」
照「試す?」
淡「そ。キョータローのチューセーシンがどれだけ凄いかって言うのをね!」
第一段階
照「京ちゃんお菓子頂戴」
京太郎「はい。どうぞ」スッ
照「…違う。こっちじゃない」
京太郎「え?」
照「京ちゃんの分を頂戴」
京太郎「そもそも俺の分は最初っから照さんにあげてますけど…」
照「…」
京太郎「まだ足りないんだったら買ってきましょうか?」
照「…良い。それより…京ちゃんこっち来て」テマネキ
京太郎「は…はぁ」イソイソ
照「…」ナデナデ
京太郎「…なんで俺撫でられてるんですか?」
照「京ちゃんが優しい子だから」
京太郎「はぁ…」
照「…嫌?」
京太郎「…恥ずかしいですけど嫌じゃないです」
照「…ふふ、京ちゃんってば可愛い」
京太郎「も、もう…やめてくださいよ、そういう事言うの」カァ
第二段階
照「京ちゃん、ご飯頂戴」
京太郎「え?いきなりですか…」
照「そうじゃないと意味ないから」
京太郎「良く分からないですけど…分かりました」
京太郎「えーっと…でも…何かあったっけか…」ガチャ
京太郎「あー…すみません。ちょっと今の冷蔵庫の中身じゃ何も作れないですね」
照「じゃあ、一緒に買物行く?」
京太郎「そうしますか」
京太郎「何かリクエストとかはありますか?」
照「…京ちゃんが作ってくれた料理なら何でも良い」
京太郎「それも結構、困るんですけどねー」
照「そこは京ちゃんの腕の見せどころ。…それより…」
京太郎「ご飯の前は流石にお菓子はあげませんよ」
照「残念…」シュン
京太郎「…その代わり夕飯と一緒にプリンも作りますから後で食べましょう」
照「プリン…」パァ
第三段階
照「京ちゃん京ちゃん」
京太郎「はいはい。次は何ですか?」
照「京ちゃんの服が欲しい」
京太郎「服ですか…?そんなもの何に使うんです?」
照「……」ポッ
照「…京ちゃんのスケベ…」モジモジ
京太郎「すみません。今ので渡したくなくなったんですけど」
照「大丈夫。誓って悪い事には使わないから」
京太郎「…本当ですか?」
照「うん」
京太郎「……仕方ないですね。んじゃ、制服のシャツが一枚キツくなってきたんでそれを渡しますね」
照「…あ、待って」
京太郎「え?」
照「…渡す前にそのシャツを着て汗だくになるまでランニングして欲しい」
京太郎「え?」
照「後、出来れば下着も欲しい…」ポッ
京太郎「…照さん?」
照「大丈夫。『悪い事には』使わないから」
※流石に下着は勘弁して貰いました
第四段階
照「京ちゃん、そろそろ私達も次のステージに進んでいいと思う」
京太郎「次のステージってなんですか…」
照「そ、そんなの…私の口から言わせるなんて卑怯…」ポッ
京太郎「良く分かりませんけどとりあえず照さんが何か不埒な事を考えてるのは伝わってきました」フゥ
京太郎「それで、今度は一体、何が欲しいんです?」
照「…そ、それは…その…」モジモジ
照「……」チラッ
京太郎「???」キョトン
照「…き、京ちゃんの…初恋が欲しい」
京太郎「え?」
照「だ、だから…京ちゃんの…初めての彼女になりたい…」ギュッ
京太郎「照…さん…?」
照「…ダメ?」ウワメヅカイ
京太郎「…ここでダメなんて答えるなら今まで照さんの面倒なんて見てきてませんよ」
照「…京ちゃん」パァ
京太郎「…俺からもひとつ欲しいものがあるんですけど…良いですかね?」
照「うん。なんでも言って。京ちゃんの欲しいもの…全部あげるから」ニコ
京太郎「じゃあ…俺、照さんの好きが欲しいです」
照「…」カァ
照「……き、京ちゃん…その…す、好…き…」
京太郎「えぇ。俺も照さんの事、大好きです」クスッ
第五段階
照「京ちゃん私達はそろそろ次のステップに進むべきだと以下略」
京太郎「そこまで言ったのならもうちょっと先まで言いましょうよ…」
照「それよりも京ちゃんの膝の上でお菓子を食べる方を優先すべきだと判断した」キリッ
京太郎「ホント、この人は…まぁ、良いですけど」
照「…京ちゃん、お菓子」
京太郎「はいはい。あーん」
照「あーん」パクッ
京太郎「それで…何でしたっけ?」
照「…あ、そうだ。次のステップ」
京太郎「ステップって結局、何やるんですか?」
照「ナニ?」
京太郎「ぶっ…ちょ…い、いきなり何を言い出すんですか…!」
照「…だって、もう付き合って結構経つのにそういう事してくれないし…」
京太郎「そりゃ…まぁ、仕方ないじゃないですか。照さんは今、色々と大変な時期な訳ですし」
京太郎「それにそういう事はやっぱり結婚してから…」
照「…やだ」
京太郎「て、照さん…」
照「…そんなのんびりして京ちゃんを別の子に取られたりしたら私、絶対後悔するから」
照「だから…京ちゃんの童貞…私に頂戴」
京太郎「て、照さん…」
照「京ちゃん…目を閉じて…」
淡「あわああああああああああ!?」
照「…何、淡?」
淡「それはこっちが聞きたいよ、テルー!」
照「…この前、話してた件の報告」
淡「この前って学生時代の話じゃん!!」
照「京ちゃんと付き合ってから毎日が楽しくて時間の感覚が…」テレテレ
淡「仮にも独り身の後輩を前にしてナチュラルに惚気けるのはどうかと思うな、私」
照「ちなみにこの後、滅茶苦茶セックスした」ポッ
淡「聞いてないよ、そんなの!?」
照「私の為に我慢してくれてたから朝までぶっ通しコースだった」カァ
照「初めてだったのに沢山、気持ち良くさせられて…ホント凄かった…」モジモジ
淡「だから聞いてないってば!!」
照「勿論、今も凄くてこの前も腰砕けになるまでグチョグチョに…」テレテレ
淡「(FuFu…話を聞いてくれません…)」
淡「(恨むよ…学生時代の私…)」
照「それでね、京ちゃんってばバックが好きで…」エンドレス
EX
照「…ねぇ、京ちゃん」
京太郎「何ですか?」
照「私、今、二つ欲しいものがあるの」
京太郎「…へぇ。何でしょう?俺に用意出来るものなら良いんですけど」
照「…大丈夫。京ちゃんは何時も私の欲しいものをくれる人だから」
照「だから…この婚姻届にサインと実印を頂戴」スッ
京太郎「…随分と急な上にムードも何もないプロポーズですね」
照「でも、こういうのも私達らしいと思う」
京太郎「まぁ、確かにそうかもしれませんけど…プロポーズくらいはこっちからやらせて欲しかったなぁ…」
照「お姉ちゃんに勝つなんて百年早い」ドヤァ
京太郎「まったく…ホント、これから先も頭が上がりそうにないですよ…っと」サラサラ
照「あ…」
京太郎「これで良いですか?」スッ
照「…うん。…嬉しい。本当に…嬉しい」ダキッ
京太郎「俺も嬉しいですよ。照さん」ナデナデ
照「…じゃあ、もう一個…欲しいもの…オネダリして良い?」ジィ
京太郎「さっきので二個じゃなかったんですか。まぁ、良いですけど…」
照「…私ね。京ちゃんとの子どもが欲しい。野球チームが作れるくらい沢山」
京太郎「流石にそれは色々と難しいんじゃないでしょうか…」
照「じゃあ、二人」
京太郎「大分、現実的になりましたね…」
照「…嫌?」
京太郎「とんでもない。野球チームが作れるくらい頑張りましょう!」オシッ
照「やん…っ♥」タオサレ
カンッ
S(総合スレに)
O(面白いネタが)
A(あったので)
あ、次いきます
―― あの日、俺達は子どもだった。
咲「行くよ、お姉ちゃん…!」
照「…うん。おいで、咲…」
―― 前を向いて…何時だって世界は希望に溢れているものだと信じていた。
和「咲さん…頑張って」
優希「ここまで来たんだ…!精一杯、気持ちをぶつけるんだじぇ!」
―― 例え、この先にどんな障害があっても諦めなければ大丈夫だって。
久「咲…貴女ならきっと大丈夫」
まこ「どんな結果になっても良い。後悔だけはせんように…」
―― 仲間と一緒なら必ず乗り越えられるって思ってた。
京太郎「…咲…」
―― あの光を見るまでは。
虹色の光。
衝撃。
痛み。
炎。
瓦礫。
悲鳴。
呻き声。
そして…――
京太郎「み…んな…」
血に濡れて動かない仲間たち。
助けなきゃいけない。
でも、腕が変な方向に曲がって動かない。
立ち上がらなきゃいけない。
しかし、足が瓦礫に潰されて感覚がない。
京太郎「く…そ…」
なんの為にここにいるんだ。
俺は皆をサポートする為にインターハイに来たんじゃないのか。
こういう時こそ男として皆を助けなきゃ…護らなきゃいけないのに…。
京太郎「あ…あぁ…」
炎が燃え広がっていく。
まるで仲間を飲み込もうとしているように。
崩れた瓦礫ごと皆を燃やそうとしている。
京太郎「あ゛ぁ…あ゛ぁぁぁぁぁ…っ!」
頼む…俺はどうなっても良い。
皆には俺と違って才能があるんだ。
インターハイに来れるくらいの実力があるんだ。
だから…頼む、神様…。
なんでもするから…俺の何を捧げたって良いから。
皆だけは…皆だけは… ――
―― そこで目が覚める。
京太郎「ハッ…」
「あ、もう起きた?」
京太郎「…え?」
俺が目を覚ましたのはさっぱりとした部屋だった。
家具もなく木目がむき出しになった壁だけが並ぶそこは生活感があまりもない。
ただただ、ベッドだけが並べられているその部屋で俺はゆっくりと身体を起こそうとして…。
京太郎「っつぅ…!」
「あーもう、無理しない。アンタかなりの重傷だったんだから」
瞬間、身体の中を引き裂くように走る鮮烈な痛みに身体が竦むように強張った。
そんな俺の身体をゆっくりと押しながら、呆れるように言う女性。
年の頃は20くらいだろうか。
勝ち気そうな顔に若干、心配そうな色と浮かべている。
…まだ状況は飲み込めないが、どうやら俺はこの人に助けられたらしい。
京太郎「重傷…?」
「そうよ。まったく…あんなキャンピングカーでゲートを越えようとか無謀に程があるわよ」
京太郎「キャンピングカー…ゲート…」
そうだ…!
京太郎「咲…!咲は…!?」ガバッ
「咲?アンタと一緒の車に乗ってた女の子の事?」
京太郎「そうだ!咲は…咲は何処にいる!?」
「それだったら隣の部屋に…」
京太郎「く…!」
「ちょ、ちょっと!」ガシッ
京太郎「離してくれ…!咲の無事を確認しないと…!」
「そもそもアンタが今、歩けるような状態じゃないのよ!!」
京太郎「そんな事関係…くぅ…」
くそ…また痛みはじめやがった…。
このポンコツめ…せめて咲の無事を確認するまで持ってくれりゃ文句はねぇってのに…。
「はぁ…まったく…。後で連れてってあげるから今は休んでなさい」
京太郎「…本当だな?」
「疑り深いわね…。こんな事で嘘なんて言わないわよ」フゥ
「それより今はベッドに横になる。言っとくけど生きてるのが不思議なくらいの重傷だったんだからね」
京太郎「…咲の方は?」
「ズタボロのアンタとは違って傷ひとつなかったわよ。ただ…」
京太郎「…あぁ。目を覚まさないんだろう」
「え?」
京太郎「…分かってる。別に今に始まった事じゃない」
とりあえずそれだけ確認できたなら問題はない。
まだ心配ではあるが、彼女の表情には嘘は見えないんだから。
少し頭も冷えた事だし…ここは彼女の言うことに従っておこう。
「…なんだか訳アリみたいね」
京太郎「…悪いな。そんな奴匿わせちまって」
「いいのよ。大体、こんなところに来ようとしてた奴なんて訳ありだって分かってるし」
京太郎「…って事は…」
「そうよ。…ここは第9サテライト地区」
「…かつて阿知賀と呼ばれていた…無法地帯よ」
…四年前、世界を震撼させる大災厄があった。
ゼロ・リバース。
東京で突如として目覚めた謎のエネルギー体の暴走事故。
無秩序に、そして無慈悲に暴れまわるそのエネルギーは日本列島を粉々に砕いた。
未だその原因も突き止められていない人類史上でも類を見ない大災厄によって、多くのものが失われた。
いや…今も日本中のあちこちで数えきれないものが失われていると言っても良いのかもしれない。
夢。
想い。
モラル。
ゼロ・リバースによって政府機能が麻痺した世界にとって、それらは羽のように軽いものだった。
砕け散った大地の中に飲み込まれるようにして消えていく。
あの大災厄から四年が経ってもそれは変わらない。
少なくとも…サテライトと呼ばれる無秩序地帯にとっては。
「デュエルこそが正義!良い時代になったもんだなぁ!」
「ヒャッハー!お前のカードも略奪だー!」
「や、止めてよ…!それはパパの形見なんだ!」
「知るかそんなもん!俺が今、アンティルールだって決めたんだ!」
「このカードもボスのデッキで活かされるなら本望だろうぜ!」
まるで世紀末さながらの光景。
弱者が虐げられ、モラルや規律を持たないケダモノだけが跋扈する。
それはもうこの世界にとっては決して珍しい光景ではなくなってしまった。
きっとあの日…ゼロ・リバースが起こった日に全てが壊れてしまったのだろう。
秩序も人の心も…そして…本来あるべき未来も。
「なんだぁ、お前は」
「やんのかオラ」
京太郎「…本来なら別に見過ごしても良いんだけどな」
それを変える力なんて俺にはない。
俺はただ一人の女の子を守るだけで精一杯なんだ。
かつて日本中を興奮させた伝説のチーム、清澄。
その中で唯一、俺の元に残ってくれた幼馴染を何に代えても護らなきゃいけないんだから。
京太郎「だけど…今の時代、保険って効かなくてよ」
「何の話だ?」
「わけわかんねぇ事言ってるとスッゾオラァ」
京太郎「ま、早い話、馬鹿でかい治療費払えなくて借金漬けなんだよ」
京太郎「んで…それを肩代わりしてくれてるスポンサーがお前らの排除をお望みだ」スッ
「…へぇ。俺らを排除するってか?」
「面白ぇ。なら、返り討ちにしてテメェのカードも奪ってやるよ!」
京太郎「出来るもんならやってみろよ」
荒れきった世界。
行き詰まった未来。
消えた希望。
憧「…政府はサテライト地区の事を見捨ててるのよ。あいつらは…ここを復興させるつもりなんてない」
憧「自分たちの足元だけ綺麗になれば…それで良い。今、苦しんでいる私達の事よりも…自分たちの生活を豊かにする事しか考えてないの」
憧「外の連中は…もうゼロ・リバースの事なんて忘れてて…あぁ無事に復興出来た…なんて自分の周りだけを見てそう思ってる…!」
それでも人は生きていく。
穏乃「私はね。サテライトなんて呼ばれるようになっても阿知賀が好きだよ」
穏乃「ここには私の大好きなものが沢山あるから!」
穏乃「だから…出来れば京太郎も阿知賀の事好きになってくれると嬉しいな」
荒れた大地の中、身を寄せ合って。
宥「こんな時代だからこそ…優しさは忘れちゃダメだと思うの」
宥「だって…誰も彼もが優しくなくなっちゃったら、一人で生きてるよりもずっとずっと辛くて寒いよ」
宥「私はそんな世界なんて嫌だから…人に優しくするの」
励まし合って、希望を繋いで。
玄「何もかもなくなった訳じゃないよ」
玄「大事なものは…きっとまだ残ってる」
玄「私達の胸の中に…消しちゃいけないものが残ってる!」
未来を切り開いていく。
灼「…これで本当に良いのか分からない」
灼「でも、例え、恨まれる事になっても…仲間と敵になったとしても」
灼「私には…守りたいものがある…!」
絆を紡いでいく。
桜子「や゛っぱり京太郎兄ちゃん゛はチーム清澄のリーダーだったん゛だ!」
京太郎「ち、違う。俺は…」
「さぁ、どうした!お前のターンだ!」
「残りライフは800!フィールドにモンスターはないけどなぁ!」
「伏せカードもなく手札も一枚だ!泣きながら土下座するんならサレンダーを許してやってもいいぜ?」
「勿論、お前のカードは全部頂くけどなぁ!!
京太郎「悪いが、こんな程度のピンチひっくり返す奴らの事をずっと傍で見てきたんだ」
京太郎「この程度で諦めてたらあいつらに笑われちまうぜ…!」
「ハッ…だが、そんな満身創痍で一体、何が出来るって言うんだ!?」
京太郎「それを今から決めるんだよ…!俺のターンドロー!」チラッ
京太郎「よし…!俺は今引いた《武神集結》を発動!!」
《武神集結》
通常魔法
自分フィールド上にこのカード以外のカードが存在しない場合に発動できる。
自分の墓地の「武神」と名のついた獣戦士族モンスターを全てデッキに戻し、
自分の手札を全て墓地へ送る。
その後、デッキからカード名の異なる「武神」と名のついた獣戦士族モンスターを
3体まで手札に加える事ができる。
「武神集結」は1ターンに1枚しか発動できない。
京太郎「この効果により墓地の獣戦士族の武神モンスターをデッキに戻してから自分の手札を墓地へと捨てる」
京太郎「そしてデッキから武神ヤマト!武神ヒルメ!武神アラスダを手札に加える!」
「一気に三枚の手札を補充…!?だが、たった三枚のモンスターカードで何が出来る!」
京太郎「性根の腐った決闘者をぶっ飛ばす事くらいは出来るぜ!」
京太郎「俺は手札より武神ヤマトを通常召喚!」
武神ヤマト
効果モンスター
星4/光属性/獣戦士族/攻1800/守 200
1ターンに1度、自分のエンドフェイズ時に発動できる。
デッキから「武神」と名のついたモンスター1体を手札に加える。
その後、手札を1枚墓地へ送る。
「武神-ヤマト」は自分フィールド上に1体しか表側表示で存在できない。
「ハッ、たかが攻撃力1800の低級モンスターで俺の切り札、始祖神鳥シムルグを突破出来ると思ってるのか!!」
始祖神鳥シムルグ
効果モンスター
星8/風属性/鳥獣族/攻2900/守2000
このカードが手札にある場合通常モンスターとして扱う。
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
風属性モンスターの生け贄召喚に必要な生け贄は1体少なくなる。
風属性モンスターのみを生け贄にしてこのカードの生け贄召喚に成功した場合、
相手フィールド上のカードを2枚まで持ち主の手札に戻す。
京太郎「焦るなよ。ここからが本番だ。俺は墓地から武神器ムラクモの効果発動!!」
武神器ムラクモ
効果モンスター
星4/光属性/獣族/攻1600/守 900
自分のメインフェイズ時、自分フィールド上に
「武神」と名のついた獣戦士族モンスターが存在する場合、
墓地のこのカードをゲームから除外して発動できる。
相手フィールド上に表側表示で存在するカード1枚を選択して破壊する。
「武神器-ムラクモ」の効果は1ターンに1度しか使用できない。
「墓地からモンスター効果だとぉ!?」
「と言うか、さっき墓地のカードを全部デッキに戻したんじゃねぇのかよ!」
京太郎「さっき戻したのは獣戦士族!獣族のムラクモは墓地にいるままだ!」
「くそ…!」
京太郎「疑問は解けたか?んじゃ行くぜ!俺はお前のフィールド上にある始祖神鳥シムルグを破壊する!」
__,冖__ ,、 __冖__ / //
`,-. -、'ヽ' └ァ --'、 〔/ /
ヽ_'_ノ)_ノ `r=_ノ /
__,冖__ ,、 ,へ / ,ィ _ -―'''´  ̄'''―- _
`,-. -、'ヽ' く <´ 7_/// `ヽ
ヽ_'_ノ)_ノ \> / }∩{ }∩{
n 「 | / }∪{ }∪{
ll || .,ヘ / ,.. -―‐-.., !
ll ヽ二ノ__ { i ・ ・`ヽ
l| _| ゙っ  ̄フ l r'-,, ノ
|l (,・_,゙> / l /''"´ `、//
ll __,冖__ ,、 > | ! i {
l| `,-. -、'ヽ' \ l l l | | !
|l ヽ_'_ノ)_ノ トー-. ! |. | ,. -、,...、| :l
ll __,冖__ ,、 | l l i i | l
ll `,-. -、'ヽ' iヾ l l l | { j {
|l ヽ_'_ノ)_ノ { |. ゝ i `''''ー‐-' }
. n. n. n l | \ ヽ、_ ノ
|! |! |! l | `ー-`ニ''ブ
o o o ,へ l |
/ ヽ
「くそっ…俺のシムルグが…!」
「…なーんてな!!俺はトラップカード!リビングデッドの呼び声を発動!!」
《リビングデッドの呼声》
永続罠
自分の墓地のモンスター1体を対象としてこのカードを発動できる。
そのモンスターを攻撃表示で特殊召喚する。
このカードがフィールドから離れた時にそのモンスターは破壊される。
そのモンスターが破壊された時にこのカードは破壊される。
「この効果で俺はシムルグを再び墓地から召喚する!」
\ ¦ /
\ ¦ /
/ ̄ ̄ ヽ,
/ ', / _/\/\/\/|_
\ ノ//, {0} /¨`ヽ {0} ,ミヽ / \ /
\ / く l ヽ._.ノ ', ゝ \ < バーカ! >
/ /⌒ リ `ー'′ ' ⌒\ \ / \
(  ̄ ̄⌒ ⌒ ̄ _)  ̄|/\/\/\/ ̄
| |
--- ‐ ノ |
/ ノ ----
/ ∠_
-- | f\ ノ  ̄`丶.
| | ヽ__ノー─-- 、_ ) - _
. | | / /
| | ,' /
/ / ノ | ,' \
/ / | / \
/_ノ / ,ノ 〈 \
( 〈 ヽ.__ \ \
ヽ._> \__)
「ハッ、残念だったな!起死回生の1手を避けられてよ」
京太郎「…いいや。それくらいどうって事ないぜ」
「何…!?」
京太郎「俺の狙いは最初からこいつ召喚する事だからな」
アラスダ「…」ゴゴゴ
「な…何…!?てめぇのフィールドに新しいモンスターが…!?」
京太郎「武神器ムラクモの効果が発動した瞬間、俺は手札からこのカードを特殊召喚してたんだよ」
武神アラスダ
効果モンスター
星4/光属性/獣戦士族/攻1600/守1900
自分のフィールド上・墓地の「武神」と名のついたモンスターがゲームから除外された場合、
このカードを手札から表側守備表示で特殊召喚できる。
また、このカードがフィールド上に表側表示で存在し、
「武神」と名のついたカードがドロー以外の方法で自分のデッキから手札に加わった場合、
そのターンのエンドフェイズ時に1度だけ発動できる。
デッキからカードを1枚ドローし、その後手札を1枚選んで捨てる。
「武神-アラスダ」は自分フィールド上に1体しか表側表示で存在できない。
京太郎「さて…そろそろ真打ち登場と行くか」
「真打ち…レベル4モンスターが二体…まさか…!?」
京太郎「どうやら知ってるみたいだな。じゃあ、行くぜ!!」
京太郎「二体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築!!」
「ば、馬鹿な…!サテライトに流れ着くような奴が…エクシーズ召喚だって!?」
京太郎「封印されし荒ぶる武神よ。今こそその力を解き放ち、荒れた大地に秩序を取り戻せ!」
京太郎「エクシーズ召喚!武神帝…スサノヲ!!!」
_
_ //
/.| ____ /../
./ |/ / \ /l.' ./ ,、
/ / / , <___>' / / / / /
/_/ / ./// ∧-、/ . / / /
\. .ト/ ̄/\ / ,/.,イヽ、 〈 / .7ヽ/ , ―,、 //
..\〈 ̄\ \r '´ ./〈ヘ/ / ,イ ./ ./ 〉'´
\i´.ヘ. \/ヽ/`´∧〈__//レ'/ ./ ./
\- '´ヘ.__/ /_,r<´ ./ ∧ ./-/ / _
Y /\._,イ / | ./-i´ //--< \ / ./::::::
`i /./:::::::;<巛ヽ ./ ,|_,ノ,イ ./| \/./ ./:::::::::::
`ヽ/./::::::/ |`ー!`´ ./ /,イ./ .| .|/ ./::::::::::::,
.| |:::::::;| |_/::!_!/ゝ' Y /ヘ /____/:::::::::/
.|_|_/ 〉-'/, -、_/`ー、ノ-' __,ヘ__/\<> \/
/// ./,-/ , 、 / / _____.\ /
.//  ̄/  ̄ ̄ `ヽl / /:::::::::/ ̄∧/.\/
./ / | / ./ ̄ ̄ ./ .|
.|_/, -,-、 / ̄  ̄ / `ー,‐t‐
〈| |/:::/ ヽ、 ./ ,t――――‐/ /\
. ∨::::| ヽ ,イ |./ ヽ .| / / \
`ーl V .| .\ 、 `ー――‐>、___/ /
〉、 , ! >‐t―‐t―――'´ > ./
.|. 〉、___// , ./ .| | / , --' /
.| \ー‐.'t‐'../ ..| 、 ./ /___/ ./
\ | | / - |_/`ー-、_,,, -‐'´ ./ ./
./| ./ .| .| \ '/ |  ̄〈
武神帝スサノヲ
エクシーズ・効果モンスター
ランク4/光属性/獣戦士族/攻2400/守1600
「武神」と名のついたレベル4モンスター×2
このカードは相手フィールド上の全てのモンスターに1回ずつ攻撃できる。
1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除いて発動できる。
デッキから「武神」と名のついたモンスター1体を選び、手札に加えるか墓地へ送る。
「武神帝-スサノヲ」は自分フィールド上に1体しか表側表示で存在できない。
なんだこれ
「だ、だが所詮、攻撃力2400のモンスター!」
「攻撃力2900のシムルグの敵じゃねぇ!!」
京太郎「ならコイツの恐ろしさを教えてやるよ!俺は武神帝スサノヲの効果発動!」
京太郎「このカードは1ターンに一度、エクシーズ素材を取り除く事によってデッキから武神と名のついたモンスターを一体選び手札に加える事が出来る!」
京太郎「この効果で俺が加えるのはレベル4鳥獣族モンスターの武神器ハバキリ!」
京太郎「そしてバトルフェイズ突入!武神帝スサノヲで始祖神鳥シムルグへ攻撃!」
「血迷ったのか!?」
京太郎「まさか。ダメージステップに手札に加えたハバキリの効果発動!」
京太郎「このカードは武神と名のついた獣戦士族が相手モンスターと戦闘を行う時、ダメージ計算時にこのカードを手札から墓地に捨てる事で…!」
京太郎「そのダメージ計算時のみ元々の攻撃力を倍にする!!」
「倍…!?と言う事は…攻撃力5000!?」
京太郎「そうさ!さぁ行け!スサノヲ!!」
京太郎「シムルグをぶっ倒せ!!!」
./" ̄ ̄"''ヽ _,, -‐- ,,_
./ ̄"ヽ i | /
/ ̄'',!-、bi | ./¨ヽ {0} .| /
,!-、bヽニ .', i_,.ノ .| /¨`ヽ {0}
ヽニ, ,' /´ \ `‐- _,,,,..| i__,,.ノ
l´ >、_/ \__,>、,r'''" | `ー-
. l l / /〈 ー' ヽ |
l ノ l .l / / l,r‐';"´〉 ,r'",r''" シムルグ「あ、これ無理っすわ」
l,--、l / l ,l / / 〈 /'-'フ" <
_,r==' ノ`〉 l / / / l ヽl/"''''''''"
_,r‐'" / 〈 l''''''フ´ l / ノ l/ /
‐‐''''フ" ,r''l_,.ノ/ .( ./ / / /
‐<ニ--‐‐''" / / /`''ヽ、,_ ノ / /
_r=ニ>-==‐'フ / ,..ノ >' ,-ム、'
/;'/`>=`ヽ' ,r'" >-'" _,..r―-'´`ヽ / /
l、/lc'`‐'`l__,.r'",r'" ,rーl", 、 ヽ'ー''
「ば…馬鹿な…馬鹿なあああああああ!!!!!」ドヒョォゥ
モブ
LP2000 → LP0
「ぐああぁっ」ドサー
「ぼ、ボスが…ボスがやられた…!?」
「に、逃げろ…!」
京太郎「…まぁ、ちょっと待てよ」
「ひぃ…!」
京太郎「まさかとは思うが…人の縄張りで好き勝手に暴れて無事で済むとは思ってないよな?」
「い、いや…その…」メソラシ
「な、なんていうか…えっとですね…」フルフル
京太郎「」ニコ
「…え、えへへ」ニコ
「あ、あはは」ニコー
【咲】京太郎「おい、デュエルしろよ」【遊戯王】
Qどうしてこんなものを書いたんだ!言え!!
京ちゃんに武神デッキを使わせたかった
武神の設定と5Dsの設定がマッチしすぎて我慢出来なかった
ギバ子にチーム清澄のリーダーだって言わせたかった
まぁ、予告ですらない一発ネタなんだけどな!!
ヤマトをどれだけ維持出来るかで勝敗が変わる武神デッキで魅せるデュエルを作るのは難しいし何より一部のデッキへの勝ち筋ががが
誰か魅せデュエルを書けるだけの脳みそを私にください
後、TF7もください
ついでに武神にヤマト以外のキーになるようなカードください
シンクロもペンデュラムもください
乙
やはり総合スレのネタだったかw
乙です
京太郎「それに…こんな綺麗な人が側にいて好きにならないはずないじゃないですか」スッ>>
菫「あ…っ」ピクン>>
尭深「…」バキッ
照「…尭深、ティーカップにヒビが入ってる」
尭深「…あら、本当ですね」ソッ
尭深「恐らく経年劣化という奴なのでしょう」
尭深「宮永先輩と違って私は見苦しく嫉妬するタイプじゃないので」
照「…その割にはカップを持つ手が震えているけど?」
尭深「エアコンが効きすぎているんでしょう。後で設定温度変えますね」
京太郎「…じゃあ、これから好きになってください」>>
菫「ふぇ…?んんっっ♪」チュ>>
照「っ!」ポキポキッ
尭深「…宮永先輩、お菓子砕けてますよ」
照「……そう」
尭深「言っておきますけどアレは演技です」
尭深「命令をスムーズにこなす為にそういう役になりきってるだけです」
照「…そんな事は分かってる」
尭深「そうですか。それなら良いんですけど…」
尭深「…今、宮永先輩、弘世先輩を殺しそうな目で見てたので」
尭深「私達は京太郎君を連れてインターハイに出なければいけないんですから暴力沙汰は勘弁してくださいね」
照「…菫の為、じゃないんだ」
尭深「ふふ、面白い冗談ですね」
尭深「誰があんなメス猫の為になんか…」ギリッ
京太郎「」ガシッ>>
菫「んひゅぅっ♪」ピクン>>
尭深「わ…」カァ
照「…凄い…」ゴクッ
尭深「す、凄い…ですね。まさか弘世先輩があんな…メスみたいな顔をするなんて…」
照「それに…菫ってば今、崩れ落ちそうになってた…」
尭深「それを無理矢理、立たせてキスするなんて…す、須賀君ってば結構、意地悪なんですね」ドキドキ
照「きっと京ちゃんはベッドヤクザ…」ゴクリ
尭深「でも…弘世先輩があんなになるようなキスが出来るって事は…」
照「…きっと私の教育の成果」エッヘン
尭深「…寝込みを襲ってただけでしょうに」ポソッ
照「…睡眠学習って言葉もある」ムゥ
尭深「寝てる最中にキスされても寝苦しいだけですよ。つまり宮永先輩のやってた事は彼の邪魔でしかありません」
照「…へぇ」ゴゴ
尭深「…なんですか?」ニコッ
京太郎「」シュル>>
尭深「…一つ疑問なんですけど」
照「何?」
尭深「なんで須賀君ってあんなに人の服を脱がせるのに手馴れてるんですか?」
照「何時も私がやって貰ってるから」
尭深「やっぱりですか…まぁ、良いですけど」
照「…悔しい?」
尭深「悔しくなんてないですよ。寧ろ、哀れんでいるくらいです」
尭深「そうやって彼に世話をしてもらっている間に宮永先輩は須賀くんからだらしない人と認識されていくんですから」
尭深「何時もお菓子をボリボリ食べて取り柄を言ったら麻雀だけ。そんな人の事を須賀くんが好きになるはずありません」
照「…尭深は京ちゃん世話好きっぷりを甘く見てる」
照「京ちゃんは口では色々言いながらもダメな子を放っておけないタイプ」
照「それにそうやって京ちゃんと密接に結びついてる私を京ちゃんが見捨てられるはずがない」
照「…所詮、尭深が私達の間に入り込める余地なんてないから」
尭深「…どうやら宮永先輩は麻雀だけじゃなくて自己正当化も得意みたいですね」
照「そっちこそ…その減らず口の才能を少しは麻雀に回せれば違ったかもしれないね」
菫「はむ…しゅきぃ♥しゅがぁ…しゅきらぁ…♪」
京太郎「俺も好きですよ…」
照「…アレはどう思う?」
尭深「…目が完全にメスの目になってます。間違いなく本気ですね」
照「…菫…アレだけ警告してたのに」
尭深「親友と争う事になる事が悲しいんですか?」
尭深「その程度の覚悟なら須賀くんの側からいなくなってください」
尭深「私は彼の為ならば全てを捨てる覚悟を固めていますから」
尭深「そのような半端な覚悟で側にいられるのは不愉快です」
照「悲しいとは言ってない」
照「…ただ、ズルいと思う」
尭深「…え?」
照「…私だって、あんな事された事ないのに…」ギュル
照「京ちゃんからキスされた事も…あんなに色っぽい声で好きって言われた事もないのに…」ギュルル
照「どうして…ただ命令で当たっただけの菫が…あんな事を…」ギュルルルル
照「しかも…その程度で京ちゃんの事を好きになるなんて…」ギュルンッ
照「許…せない…!許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない」ゴゴゴゴゴ
菫「ふあわぁ…ぁ…♥♥♥」トローン>>
菫「もっろぉ…♥きょぉらろぉ…もっとぉ…♪」ギュゥ>>
尭深「」ブチッ
照「」ブチィ
尭深「…宮永先輩」
照「分かってる。ちょっと今の菫は調子に乗りすぎ…」
尭深「次の命令で…」
照「…さっきの淡とは比べ物にならないほどの地獄へ落とす…!」ギュルル
誠子「あ、今ので王様ゲーム終わりらしいですよ」
照「…え?」
尭深「…え?」
淡「あわぁ…ようやく終わったぁ…」
誠子「なんか大事なもの色々と失った気分だよなぁ…」
淡「亦野先輩はまだマシじゃないですか…私なんてファーストキスとか色々…」
誠子「…まぁ、確かにお前とか尭深…あそこで完全に目覚めた弘世先輩に比べりゃまだ傷も浅いか…」
菫「きょうたろぉ…♥きょぉたろぉ…♥♥ふゆぅん…っ♥♥♥」スリスリ
京太郎「ちょ、弘世先輩、どうしたんですか?弘世先輩?」
照「…え?」
尭深「…え?」
嫉妬ブースト掛かった白糸台は強い(確信)
あ、もう大体の人が分かっていると思いますが、今日は投下ありません
明日頑張ります
乙したー
王様ゲームにそんな裏が・・・
乙
ギスギスだなあ(白目)
ギシギシアンアン?(難聴)
おう、たかみー揉みしだいてとろけさせんだよ見せつけんだよあくしろよ>>安価
乙です
やはりこの人の適性は中編にあるのでは……
乙です
この白糸台で下手にギシアンすると間違いな口が流れる(確信)
そして、申し訳ないです、飲み会に付き合わされてました
頑張って見直ししてましたが帰ってくるのも遅かった所為で見直し終わる前に眠気が限界にやってきました…
投下すると言いながらこんな体たらくで申し訳ありません
起きたらすぐにまた見直しするので昼ごろには投下出来るはずです
申し訳ありませんがそれまでお待ちください…
はーい
京ちゃんは巨根絶倫ベッドヤクザが似合うなぁ
蒼龍リランカ任務終わらなさすぎてワロタ
この一週間ちょこちょこやっててもクリア出来ないとかもうね…(´・ω・`)S勝利の為に大和さんに出てもらってるから資材がやばい
あ、それはさておき適当に始めていきます
………
……
…
霞「ふぅ…意外と入り口で時間を喰ってしまったわね…」
初美「思いの外、映像長かった所為なのですよー」
巴「最後の最後まで見たいって言ってたのは誰なのかしら?」クスッ
初美「そ、それは…その」カァ
小蒔「でも、すっごい楽しかったです」ハフゥ
霞「そうね。あの映像だけで入場料の元はとれた気分よ」
京太郎「流石にそれは気が早すぎですよ」
京太郎「俺達はまだ動物園の中の一割も探索出来てない訳ですし」
小蒔「という事はこれから十倍楽しい事が待っているんですね!」キラキラ
霞「ふふ、確かにそうかもしれないわね」
霞「実際、私達はモニター越しでしか動物達の姿を知らない訳だし」
霞「きっとあのVTR以上に可愛らしい動物達の姿が見れるはずよ」
京太郎「じゃあ、その動物たちを見に出発しましょうか」
小蒔「はい!」
初美「私達の動物園見学はこれからだ!なのですよー!」
巴「…なんだかここで終わっちゃいそうな気がするけど気のせいよね…?」
京太郎「っとそう言えばこういうのって順路があるんですよね」
霞「らしいわね。えっと、入り口で貰ったパンフレットは…」
巴「あ、私が持ってますよ」スッ
初美「でも、わざわざ順路通りに進むのも窮屈なのですよー」
初美「人生とは自分の意思で切り開いていくもの!決められたルートなんて何処にもないのですー!」ドヤァ
小蒔「お、おぉ。なんだか格好良いです…!」
巴「とは言っても、順路通りに動かないと見逃す動物も出てくるかもしれないしね」
京太郎「流石に迷子にはならないと思いますが、見逃したりすると勿体無いですから順路通りがやっぱ一番だと思いますよ」
初美「くっ…こうやって社会って奴は窮屈なルールを私達に強いてくるのですかー…」
初美「生きるって事は本当にままならないのですよー…」ガクッ
霞「はいはい。ままならなくても良いから早く行きましょ」
INサル山
小蒔「これが噂のサル山と言う奴なのですね…!」パァ
巴「まぁ、山…と言うよりはちょっと立体的なアスレチックになっていますけどね」
初美「アスレチックと言うか…なんだか木枠だけを適当に積み上げた三角形のようにも見えるのですよー」
京太郎「高さも結構ありますよね。6mくらい?」
霞「そうね。ちょっと離れているからわかりづらいけれど…建物二階半くらいはあるかしら」
小蒔「でも、あんな山をお猿さんは登れるんですか?」
小蒔「落ちたら大怪我しちゃうんじゃ…」アワワ
京太郎「まぁ、その辺りはサルなんできっと大丈夫ですよ」
霞「そうよ。もともとあんなアスレチックよりも高いところで生活している生き物なんだもの」
霞「滅多に落ちたりしないし、落ちたら落ちたで飼育員の人が助けてくれるはずよ」
小蒔「そうですか…なんだか安心しました」ホッ
京太郎「…にしてもアレですね」
霞「…えぇ」
巴「アレね」
初美「暑いのか全然、動かないのですよー」
小蒔「お猿さん十匹はいるんですけど殆ど日陰に入っちゃってますね…」
霞「まぁ、今日はGWだけど真夏日だから」
京太郎「そうですね。GWですが真夏日ですから仕方ありません」
巴「まるで7月のような暑さだけどまだGWだものね」
初美「でも、日陰にずらーっと並んでいるのを見ると流石に心配になるのですー」
京太郎「水場は一応あるんですが暑いのか誰も入ろうとしませんしね…」
霞「完全に夏バテって感じね…まぁ、この暑さだし仕方ないのだけれど…」
初美「私は夏バテじゃなくて飲み屋街のサラリーマンにも見えるのですよー」
京太郎「初美さん見た事あるんですか?」
初美「いいえ、完全にイメージですー」キッパリ
小蒔「あ、でも、サル山の上の方にいるお猿さんはまだ元気みたいですね」
霞「本当ね。身体も大きいし…アレがここのボスなのかしら?」
京太郎「かもしれませんね。気のせいか、目つきも鋭いですし」
ボスサル「」ジロリ
初美「…と言うかガン付けられてる気がするのですよー」
京太郎「暑い中、見世物にされてあっちもストレスがたまっているのかもしれませんね」
小蒔「なんだかちょっと申し訳ない気がしてきました…」
京太郎「でも、あの暑そうなサル山の中で良く動けますね、アイツ」
巴「そうね。金属で出来てる鎖とかも怖がらずに触って動き回っているし…」
小蒔「熱くないんでしょうか…?」
初美「きっと霞ちゃんみたく年をとって手の皮が厚くなったから大丈夫なのですよー」
霞「私はそこまで年寄りじゃないわよ…!」ムゥ
京太郎「まぁ、やっぱり樹上で生活する生き物ですし、元から手の皮は厚いのかもしれませんね」
小蒔「なるほど…。そうじゃなきゃすぐに手を怪我しちゃいますよね」ウンウン
巴「…でも、そんなボスでも遊具は使ってないのよね」
京太郎「まぁ、金属の滑車とか滑り台とか日光素通りのチューブとかですし…」
初美「今日はああいうのを使うにはちょっと暑すぎると思うのですよー」
京太郎「俺らが下手に触ったら火傷しちゃいそうですもんね」
霞「でも、逆に言えばそれを分かっててああいう素材で作らなきゃいけないくらいサルの腕力って強いんでしょうね」
巴「野生ですもんね。そう考えるとなんだかちょっと怖いような気もします」
小蒔「大丈夫ですよ。お猿さんは桃太郎さんにだって協力してくれたんですから」
小蒔「怒らせたりしなければ襲われたりしませんよ、きっと」
霞「ふふ、そうね」
初美「あ、あそこのサルもちょっと動いたですよー」
小蒔「本当ですね。頭を下げてお尻をあげてます!」
小蒔「でも、アレってどういった意味があるんでしょう?」キョトン
初美「そりゃ勿論、誘って」
霞「はい。初美ちゃんは少し大人しくしていましょうね」スッ
初美「むぐぐぐっ」
小蒔「誘う???」
巴「ほ、ほら、人にお尻を向けて叩く事って挑発として受け止められるでしょう?」
巴「きっとはっちゃんは喧嘩を誘ってるって言おうとしたのよ」
小蒔「なるほど…少しやんちゃなお猿さんなのですね」ウンウン
京太郎「まぁ、実際は暑くて態勢を変えただけかもしれませんけどね」
霞「日陰とは言っても同じところにずっといると暑いでしょうし…私も京太郎君の意見に賛成かしら」
巴「それに流石に寝転がっているだけだと飽きてくるんでしょうね。ほら、他のサルも少しずつ動き始めましたよ」
初美「ぷぁ…!どれどれ…お、水場の方に二匹行ってるのですよー」
霞「水場…と言うよりは幼稚園児用の小さいプールみたいな感じだけどね」クスッ
小蒔「でも涼しそうで、なんだかちょっと羨ましいです」
巴「そうですね。でも、飛び入りする訳にはいきませんし…」
初美「京太郎君なら飛び入りしても大丈夫だと思うのですよー」
京太郎「まぁ、これくらいの高さなら無理なく着地する方法は教わってますけど…」
初美「いや、顔があのボスサルに良く似てるからなのですよー」
ボスサル「…??」
京太郎「……おーけー。その喧嘩、買わせて貰うぞ、薄墨」
初美「ふふーん。返り討ちにしてやるのですー!」シュッシュ
霞「サルですら喧嘩していないっていうのに何をやってるのよあなた達は…」ハァ
巴「(…と言うか、京太郎君、今、何気に凄い事言わなかったかしら…?)」
小蒔「でも、水場で水の掛け合いっことかじゃなくてプールに固定されてる鎖を引っ張ってますね」
巴「鎖を引っ張り合うならまだ分かるんだけど…楽しいのかしら?」
京太郎「他の場所にも鎖があるんで恐らく遊具の一種でしょうし…やっぱりサルにとっては楽しいんでしょうね」
初美「まぁ、群れの中で力を示す的な意味もありそうなのですよー」
京太郎「あぁ、それは確かにそうかもしれませんね」
霞「…でも、隣で水を叩いて遊んでるサルはまったく興味がなさそうね」
京太郎「ですね。…あ、ついに鎖を手放した」
巴「ふふ、そのまま二人で水を叩いて遊び始めましたね」
小蒔「とっても仲良しさんですね」ニコー
初美「仲良しさんと言えば、あっちも中々ですよー」
小蒔「あ、本当ですね。さっきお尻をあげてた子に毛づくろいしてるお猿さんがいます」パァ
京太郎「おぉ、なんだかああいうの見ると和みますね」
霞「そうね。横になっている方がとてもリラックスしているのが伝わってくるみたいで」クスッ
巴「…でも、毎回思うんだけど、あの毛づくろいしてる側が食べてるものって何かしら?」
初美「そりゃ勿論、毛づくろいなんですしノミとかじゃないですかー?」
霞「え…やっぱりそうなの…?」
小蒔「あ、いえ、違うみたいですよ」
小蒔「そもそもお猿さんにはノミはあんまりついてないそうです」
小蒔「ああやって口に含んでいるのは汗が凝固した塩分って説もあるみたいですね」
京太郎「へぇ…小蒔さんって物知り…」
小蒔「ってこっちの看板に書いてありました!」エヘン
京太郎「…って看板ですか」
小蒔「えへへ。恥ずかしながらお猿さんの事は良く分かっていなくて」テレテレ
初美「と言うか、これだけ色んな動物園で飼われていて未だ何を口にしてるのかはっきりしてないなんて猿の専門家でも良く分かってない気がするのですよー」
霞「身近なようでまだまだ謎が多い生き物なのね、サルって」
巴「ちなみに他には何が書いてあったんですか?」
小蒔「えっと…秋の健康診断の事みたいですね」
京太郎「あ、やっぱりサルも健康診断あるんですか」
霞「伝染病とかもあるし、やっぱり一年に一回はチェックしているのね」
小蒔「それと赤ちゃんの予防接種も兼ねてるらしいです」
巴「あ、そっか。発情期が決まってるから出産シーズンも大体、同じになるんですね」
初美「って事はやっぱり注射とかもあるですかー?」ブルッ
小蒔「そうみたいですね。後は薬とかも飲ませるらしいです」
初美「うへー…絶対、苦い薬なのですよー」
京太郎「そもそも苦くない薬のほうが少ない気がしますが…」
霞「子ども用のシロップくらいなものじゃないかしら?」
巴「最近は胃腸薬とかは水なしで飲めるように甘いのが出てるらしいですよ」
京太郎「科学の進歩ですね…」
霞「この調子で動物にも普通に飲んでもらえるような薬が開発されたら良いわね」クスッ
小蒔「……」ジッ
京太郎「あれ?小蒔さん?」
小蒔「え…あ…ど、どうしました?」
京太郎「いや、なんだかずっと同じところを見ていたので…何かあったのかな、と」
小蒔「あ…その…」チラッ
京太郎「…ん?」
京太郎「(…『薬を飲ませたサルの赤ちゃんはお母さんのところへ返します』)」
京太郎「(『この時、赤ん坊を連れて行かれたお母さんはすぐさま赤ちゃんの事を迎えに来ます』)」
京太郎「(『そしてそのまま、大事そうに抱きかかえていきます』…か)」
小蒔「…いえ、何でもありません」
京太郎「小蒔さん…」
小蒔「それよりほら、次はゾウさんみたいですよ!」ニコッ
小蒔「早く行きましょう…!」トテテテ
京太郎「(…なんでもない訳…ないだろうに)」
京太郎「(…あんなに寂しそうな小蒔さんの顔初めて見た)」
京太郎「(さっきコウノトリのぬいぐるみがなくて悲しそうにしていた時とは比べ物にならないくらいのそれは…)」
京太郎「(心から寂しそうで…そして何処か羨ましそうで…)」
小蒔「ほら、京太郎君!こっちですよ!!」ブンブン
京太郎「(…でも、今の小蒔さんは何でもなかったように振舞っている)」
京太郎「(勿論、こうやって俺に振り返って手を振る彼女が何時もと同じとは言えない)」
京太郎「(表情がぎこちないし、少し無理しているのが伝わってくる)」
京太郎「(…正直なところ、今の俺は彼女に踏み込みたい)」
京太郎「(そんな無理するような小蒔さんなんて…俺は見たくないんだ)」
京太郎「(折角、待望の動物園に来たのだから…心から楽しんで欲しい)」
京太郎「(でも…少なくとも…小蒔さんは何でもないように振る舞おうとしているんだ)」
京太郎「(…なら、俺がここで下手に踏み込むべきじゃないんじゃないだろうか)」
京太郎「(この問題に踏み込もうとするのは小蒔さんの気持ちを無駄にするだけで…)」
初美「……こーら」ペシッ
京太郎「いてっ」
初美「なーに、難しい事考えてるですかー?」
京太郎「…そんな顔してましたか」
初美「もうバッチリ。眉間の間に皺を寄せて『悩み事してますよー』って言ってるみたいでしたよ」
京太郎「う…」
初美「…まぁ、とりあえず今は動物園を楽しむのが一番なのですよー」グイグイ
京太郎「おっとっと…」
霞「あら、初美ちゃんに引っ張られて…完全に尻に敷かれているのね」クスッ
京太郎「…まぁ、一応、年上なので色々と立てておこうかと」
初美「ホント、京太郎君は口が減らない奴なのですよー」ハァ
京太郎「そりゃもう。どこかの先輩に色々と教育されたものですから」
初美「きっとその先輩は才色兼備で良妻賢母の美人なのですね」
京太郎「…まぁ、初美さんがそう思うのならばそうじゃないんですかね、初美さんの中では」
初美「このっこのっ」ゲシゲシ
京太郎「いててて」
巴「はいはい。はっちゃんもストップしましょ」
巴「それより…ゾウの檻はここでいいはずなんだけど…」キョロキョロ
小蒔「…見事に何もいませんね」
京太郎「一応、遊具らしきタイヤとかは水場はあるんですけどね」
初美「と言うか思った以上に広いのですよー」
京太郎「ちょっとした公園よりも遥かに大きいですよね」
霞「初美ちゃんで言えば何人分くらいかしら?」
巴「ふふ、200人は余裕じゃないでしょうか?」
初美「そこで私を単位に使う事に悪意を感じるのですよー…」
小蒔「京太郎君なら…えっと…100人くらいでしょうか?」
京太郎「まぁ、それくらいは余裕で入れそうですね」
初美「これで一頭分なのだからかなり豪勢なものなのですよー」
霞「それだけゾウが大きいって事なのね」ウンウン
巴「でも、その肝心のゾウがいないとなんだかこの広さに寂しいものを感じますね」
京太郎「ホント、何処に行ったんでしょうね…?まだ開園して間もない時間ですし、中に入ったって事もないと思うんですが…」
霞「もしかして病気とか…」
小蒔「え…!?そ、それは大変です…!」アワワワ
巴「あ、こっちに何か書いてありますよ」
巴「えっと…高齢の為、極端に暑い日などは中でお休みしています…だそうです」
京太郎「あー…確かに今日は暑いですしね」
初美「お年寄りならば致し方ないのですよー」
霞「でも、ちょっと残念ね…」
京太郎「ゾウって動物園の中でも華形の一種ですしね。俺も楽しみにしてたんですが…」
巴「あ、でも、御用の方は隣においでくださいって書いてありますし、見れない訳じゃないみたいですよ」
小蒔「本当ですか!?」パァ
巴「えぇ。それじゃ早速…」
初美「ちょっと待つですよー」
初美「その前に一つ…やる事があるのですー」
京太郎「…なんですか?もしかして記念写真とか…」
初美「いえ、そんなものじゃないのですよー」
霞「じゃあ、何なの?出来れば私も早くゾウに会いたいのだけれど…」
初美「ふふ…皆は目を背けているみたいですが、私は曇りなき眼で真実を見つめる女…!」
初美「まだ…ここで一つこなしていない重要なイベントがあるという事から決して目を背けてはいないのですよー!」
京太郎「…やっぱやるんですか」
霞「折角、皆、スルーしてたのに…」
巴「うぅ…やだなぁ…」
小蒔「え?え???」キョトン
初美「嫌でも何でも…これをしなきゃ動物園を完璧に楽しんだとは言えないのですー!」
初美「そう!!この眼の前においてある『ゾウの糞のレプリカ』という箱の蓋を開けるまでは!!!!」
京太郎「いや、止めましょうよ、マジで」
巴「もうちょっとしたらお昼なのよ?あんまり強烈なものは見たくないわ」
初美「はい。オープンですよー」パカッ
京太郎「って人の話聞いてねぇこの人!!」
初美「んー…なんでしょう、コレ」
霞「…なんだか思ったよりも黒くて角ばってるわね」
京太郎「んで、やっぱでかいですね。レンガ二個か三個分くらいある気が…」
小蒔「京太郎君の握り拳で計算すると4から5倍くらいは優にありそうですね」ウンウン
初美「やっぱりゾウさんは身体が大きいだけあって、こんなのがボトンと落ちてくるのですねー」
巴「やめて!想像させないで!!」フルフル
京太郎「にしても、これ飼育員の人が三ヶ月掛けて作ったらしいんですが…」
霞「一体、何をやっているのかしらね、飼育員…」
小蒔「でも、どうやって作ったんでしょう?」クビカシゲ
初美「そりゃ勿論、本物の糞を加工して…」
京太郎「それもうレプリカじゃなくて本物じゃないですか…」
初美「じゃあ、この糞って大きな豚の角煮に似てるから、それっぽく加工して作ったとか」
京太郎「くそ!内心、思ってても言わなかった事を!!」
霞「もう次から豚の角煮食べられなくなるでしょ!!」
京太郎「ま、まぁ、普通に粘土を練って色付けして作ったんでしょうけどね」
初美「ファイナルアンサー?」ジッ
京太郎「それ今の子分からないですって」
京太郎「でも、まぁ、そんなもんでしょう?この炎天下の中、箱の中に放置してる訳ですし」
京太郎「粘土とかの一種ですよ、きっと」
初美「じゃあ、触ってみるのですよー」
京太郎「え゛っ」
初美「これ触って良い奴みたいですし、京太郎君がぐいっとやってくれるはずなのですー」
京太郎「いや、やりませんよ?」
初美「えー…」
京太郎「えーじゃないですってば」
初美「でも、粘土だと思うんですよね?」
京太郎「そりゃまぁ…そうですけど…」
初美「じゃあ、大丈夫じゃないですかー」
京太郎「精神的には全然、大丈夫じゃないんですよ!?」
初美「仕方ない…じゃあ、姫様ー?」
小蒔「はい?」
初美「京太郎が言ってる事が本当なのか確かめる為にちょっとだけぷにっと」
小蒔「はい。分かりました!」グッ
京太郎「すたあああああああああっぷ!!!」
初美「ん?どうしたのですかー?」ニヤニヤ
京太郎「小蒔さんを巻き込むなんてアンタ、鬼ですか…!!」
初美「ふふーん。この薄墨初美、面白くする為ならば、姫様をも利用する覚悟…ハッ…殺気…!?」
霞「…今日の初美ちゃんの晩御飯、豚の角煮ね」ニッコリ
初美「ちょ、流石の私もそれは精神的にきついのですよー!?」
巴「…寧ろ、抜きで良いんじゃないでしょうか」ジトー
初美「巴ちゃんまで!?」
小蒔「私は別に触っても良いんですけど…」
霞「ダメよ。もしもの事があったらどうするの?」
小蒔「大丈夫ですよ。京太郎君が粘土だって言ってるんですから」
小蒔「きっとそうに決まってます!」キラキラ
京太郎「うっ…」
初美「ほらほら、姫様がそこまで信頼してくれているのですよー」
初美「ここは男を見せるべきところなのですー」
霞「今日の出費、全部、初美ちゃんのお小遣いから天引きしておくからね」
初美「そんなっ!」ガーン
京太郎「まぁ…目的はともかく言ってる事に同意が出来ない訳じゃないんですが…」
巴「無理しなくても良いのよ?と言うか、はっちゃんの言う事は話半分に聞き流しておくのが一番だから」
初美「…今、何気に一番、酷いこと言われている気がするのですよー」
京太郎「ん…でも、ここで小蒔さんに触らさせるのもアレですしね」
京太郎「すげぇ嫌ですけど、ここは俺が触る事にします」ツン
巴「…ど、どう?」
京太郎「いや、やっぱ硬いですね。感触的には硬くなった粘土みたいで」ツンツン
小蒔「なるほど…じゃあ、私も…」スッ
霞「やめなさい」
小蒔「え…でも…」
霞「…やめてあげて。京太郎君の犠牲を無駄にするものではないわ…」フルフル
京太郎「まるで俺が死んだみたいな言い方をしないでくれますか?」
初美「さすが京太郎君!」
初美「私たちにできない事を平然とやってのけるッ!そこにシビれる!あこがれるゥ!」
初美「あ、ちなみに近づかないでくださいね。汚いので」キッパリ
京太郎「……」
初美「……」
京太郎「…」スッ
初美「…!」ダッ
京太郎「おい待てこら薄墨いいいいい!!」
初美「えんがちょー!えんがちょですよー!」
京太郎「だからそれ今の子分かんねぇつってんだろうがあああ!!」
小蒔「ふふ、やっぱり初美ちゃんと京太郎君は仲良しさんですね」ニコニコ
霞「…一応、本気で追いかけてるみたいだけどね」
初美「ふぇぇぇ…京太郎君に穢されちゃったのですよー」シクシク
京太郎「人聞きの悪い事言わないでください。捕まえて服で手を拭いただけじゃないですか」
初美「もし、本物だったらどうするんですかー!!」
京太郎「人のこと煽ってた主犯が言っても何の説得力もありません」キッパリ
初美「にしても本気で追いかけてくるとか大人げなさすぎなのですよー…!」
京太郎「本気で逃げた初美さんには言われたくありません」
初美「ぬぐぐ…!」
巴「はいはい。二人共それまでにしておきましょう」
巴「それよりほら、ウェットティッシュ持ってきたから念のため拭いてね」スッ
京太郎「あぁ。ありがとうございます」フキフキ
初美「…出来れば京太郎君に捕まる前に出して欲しかったのですよー」
巴「はっちゃんが悪くなかったらそれも考えたけどね」
初美「まるで私が悪いような言い方じゃないですかー…」
巴「寧ろ、それ以外にないと思うんだけど…」
京太郎「まぁ、それよりゾウですよゾウ」
初美「そう言えばゾウを見に来たんでしたっけ…」
初美「糞の事に夢中ですっかり忘れてたのですよー」
京太郎「小学生ですか…」
初美「誰の背丈がちんちくりんで小学生なのですかー!」ゲシゲシ
京太郎「いてててっ」
巴「まぁまぁ。それよりほら、待望のゾウさんよ」
小蒔「わぁ…やっぱり大きいですね!」キラキラ
京太郎「2階建ての建物くらいあるってのは言い過ぎかもしれないですけど…俺が手を伸ばしても頭に届きそうにないです」
初美「それがのっしのっし歩いてる姿ってやっぱり迫力があるのですよー」
霞「本物はやっぱり違うわよね。少なくともテレビじゃこの迫力は出ないわ」
京太郎「それにテレビじゃ中々気づかない事も多いですね」
京太郎「俺、この場所に来て初めてゾウに毛がある事に気づきました」
小蒔「あ、本当です。足の方がなんだかもしゃもしゃしてますね」
初美「でも、背中の方には生えてるようには見えないですねー」
京太郎「元からないのか、或いは年齢によってその辺の毛が落ちていったのか…」
初美「うむむ…これは難題なのですよー」
巴「それにしてもアレだけ大きな生き物の世話をするのってやっぱり大変なんでしょうね…」
霞「間違いなく数トンはあるでしょうしね。踏まれたらおしまいだと思うわ…」
小蒔「大丈夫ですよ。ゾウさんは優しい生き物だって聞きます!」
小蒔「ちゃんと心を通じあわせればそんな事はしません!」
初美「それにそういった事故防止や健康管理の為にゾウとの訓練も色々しているそうなのですよー」
京太郎「訓練って例えば?」
初美「人が上に乗って移動に使ったりとか色々と芸をさせたりとかですね」
小蒔「え、ゾウさんの上に乗れるんですか?」
霞「生息してる地域では貴重な物資輸送手段らしいから乗れない訳じゃないでしょうけど…」
京太郎「このサイズだと馬のように慣れた人が先導して暴れないようにするって言うのも難しいでしょうしね」
霞「いざ暴れると手がつけられないでしょうし…やっぱり専用の技術や知識がないと無理だと思います」
巴「例え乗れたとしても、このゾウは結構な老齢みたいですし…」
小蒔「難しい…ですか」シュン
巴「えぇ。まぁ…」
初美「こればっかりは仕方のない事なのですよー」
京太郎「にしても事故防止は分かりますが健康管理ってどういう事なんです?」
初美「ほら、ゾウの肌って見るからに乾燥してるじゃないですか」
初美「だから、足がひび割れたりしないようにグリセリンを塗ったりとか」
小蒔「なるほど…霞ちゃんが寝る前に化粧水を塗ってるようなものですね」ウンウン
霞「そ、そこで例えには出さないで欲しいんだけれど…」
巴「まぁまぁ。他にはなにかあるの?」
初美「後は予防注射とか採血する時に暴れたりしないように…らしいです」
小蒔「お注射怖いですもんね…」フルフル
京太郎「それにゾウの皮膚を貫通するようなぶっとい針でしょうし…」
小蒔「あうぅ…想像しただけで怖くなってきました…」ハワワ
巴「でも、はっちゃんってゾウの事詳しかったのね」
初美「え?詳しくなんてないですよー?」
巴「え…でも、今…」
初美「ぜーんぶ、ここに書いてあるですよー」
京太郎「あ、ホントだ。ゾウのインパクト大きくて気づきませんでしたけど、なんか小さな机みたいなのがありますね」
霞「へぇ…やっぱりゾウともなると華形だから色々と知ってもらえるように工夫してあるのね」
初美「しかも、ゾウの日記帳とかあるのですよー」パラパラ
小蒔「あ、日記は勝手に見たらダメですよ。ぷらいばしぃの侵害です」メッ
巴「ふふ。まぁ、ちょっと気になるけれど姫様の言うとおりだし、日記はまた今度にしましょ」
初美「はーい、なのですよー」
霞「にしても、当の本人はさっきから同じルートを歩いてばっかりね」
小蒔「暑くて中に入ってるって話ですし、出来ればゆっくり休んでいて欲しいんですけれど…」
巴「あんまり大きいと内蔵に負担がかかって横になれないと言う風にも聞きますし…歩いている方が楽なのかもしれませんね」
小蒔「え?じゃあ、ゾウさんはどうやって寝てるんですか?」
霞「それは…まぁ、立ったままじゃないかしら」
小蒔「た、立ったまま寝れるんですか…!?」ビックリ
小蒔「これは負けてられません…私もゾウさんに負けず立ったまま寝られるようにしないと…!」グッ
霞「…突然倒れられるよりはマシかもしれないけど…流石に立ったままは色々と怖いかしら」
小蒔「え?」
初美「つまり今までどおりの姫様で良いって事なのですよー」
小蒔「そう…なんですか?」キョトン
京太郎「えぇ。そうですよ」クスッ
京太郎「それよりほら、なんか頻繁に鼻を動かしてますけどアレなんでしょうね?」
小蒔「うーん…前の方でお水吸ってますよね」
霞「そのまま自分の身体にかけている訳でもないし…やっぱりそのまま吸い込んでいるのかしら」
小蒔「は、鼻からですか…!?」ビックリ
初美「ゾウさんの鼻の器用さは世界一ィィィィィィなのですよー」
巴「あ、でも、飼育員が檻の中に入って行きましたね」
京太郎「何をするんでしょう?ってあ、何かをゾウに手渡してる?」
霞「あれは…林檎かしら?」
初美「おやつですかー?」
京太郎「かもしれませんね。…にしても、檻が広くて奥行きもある所為か…林檎が凄い小さく見えますね」
小蒔「ゾウさんが大きいですから若干、何時もと距離感が違って大変かもしれません…」
霞「ふふ、そんな事を言いながら小蒔ちゃんってばとっても楽しそうね」
小蒔「はい!ゾウさんはやっぱり凄いです!」
小蒔「のしのし歩く姿もお腹のタポタポしてるところもぷらぷらしてる鼻も全部全部素敵です!」パァ
巴「でも、何時迄もここにいる訳にはいきませんし…あの林檎をゾウが食べたら移動しましょうか」
小蒔「…そうですね。名残惜しいですけど…他にも沢山、動物さんはいる訳ですし…」
京太郎「しかし…中々、食べませんね」
霞「鼻で捕まえたまま揺らしてながらまた同じルートを歩き始めてるわね」
初美「でも、心なしかさっきよりも嬉しそうに見えるのですよー」
小蒔「きっとゾウさんにとっては林檎はごちそうなんですね」クスッ
巴「それを持って歩きまわってるって事は私達に自慢しているんかもね」フフッ
京太郎「かもしれませんって、お?」
初美「京太郎君が同意した瞬間、林檎を食べたのですよー」
霞「…でも、一口かじってまたそのままね」
巴「美味しいものはじっくり食べるタイプなのかしら?」
京太郎「初美さんとは真逆ですね」
霞「そうね。初美ちゃんは自分の分をさっさと食べて他の子の分もとっていくタイプだから」
初美「ふふーん。弱肉強食って奴なのですよー」ドヤァ
巴「いや、そこはドヤ顔するところじゃないからね?」
初美「でも、これだけゆっくり食べるって事はこの中が安全だって分かっているってのもあると思うのですよー」
京太郎「そうですね。きっと野生の中じゃ出来るだけ早く口に入れて動けるようにしなきゃいけないんでしょうし」
小蒔「こうやってのんびりしているのも飼育員さんとの信頼の証なのかもしれませんね…」ウンウン
霞「或いは私達の話を聞いてて、別れたくないと思っていてくれているとかかしら?」
小蒔「え?そ、それは困ります…」
小蒔「他の動物さんたちだって見たいのにそんな事言われたら…」
京太郎「はは。その辺は本人に聞いてみないと分からないですね」
京太郎「ただ、人を乗せる事が出来る動物って言うのは例外なく頭が良い生き物ですから」
京太郎「長年、動物園で過ごしている間に人の言葉が何となく分かってもおかしくはありません」
小蒔「なるほど…。じゃあ、やっぱりもうちょっとこの場に…ってあれ?」
霞「あら、林檎食べちゃったわね」
巴「もしかしたらこっちに気を遣ってくれたのかもしれませんね」
小蒔「ゾウさん…!」ジィン
京太郎「折角、気を遣ってくれたのにずっとここにいるのも悪いですし、そろそろ移動しましょうか」
小蒔「はい!ゾウさん、またですよー!」フリフリ
ゾウ「」フリフリ
IN鳥類エリア
京太郎「えーっと、この辺りは鳥ばっかですね」
霞「小さいのから大きいのまで色々いるわね。流石、動物園」
巴「でも、スペース削減の為か、中型は一つの大きなケージにある程度纏められてますね」
初美「鳥はサイズの割にスペースが必要な生き物ですからねー。喧嘩しない程度に纏めるのはスペース削減の為にも仕方ないと思うのですよー」
京太郎「飛べないとストレスになる種とかも多いでしょうしね」
霞「ただ…大きいケージの方はじっくり見ようとするとかなり大変ね…」
京太郎「ケージそのもののがかなり大きい上に。中に10種類以上いますからねー…」
初美「でも、このラインナップって渡り鳥がメインなのですかね?」
巴「ツバメ、カッコウ、ホトトギスなんかもいるしね。そうなのかも」
小蒔「だとしたらこれだけ大きいのも納得ですね」ウンウン
霞「そうね。ただ…これだけの数がぴょこぴょこ動くと…」
京太郎「仕方ないのは分かりますけど、じっくり見ようって気にはあんまりなれないですね…」
小蒔「あ、中にオシドリさんがいますよ!」
巴「あら、本当」
霞「オスの色が派手だからすぐに分かるわね」
京太郎「色が派手なのは繁殖期だかららしいですけどね。その他はメスと同じ色をしてるらしいです」
巴「へぇ…って事は今が丁度良い時期なのかしら?」
霞「そうね。メスと寄り添って仲良く泳いでる姿も見れた訳だし」
小蒔「えへへ。オシドリさんってやっぱり仲良しなんですね」
京太郎「えぇ。仲の良い夫婦をオシドリ夫婦なんて言いますから」
初美「…でも、本当のオシドリって実は毎年パートナーを変えるのですよー」
小蒔「え?」
初美「しかも、卵を温めるのも育児もメスばっかりでオスは殆ど協力しないのですー」
京太郎「え…?」
初美「つまり本当のオシドリ夫婦とは妻にばっかり負担を押し付け出来た子どもの面倒をまったく見ず」
初美「これ幸いとばかり外に遊びに行って浮気をしても責任を取ろうしない夫に振り回されながらも」
初美「子どもの成長だけを支えに何とか精神の安定を図っている…そんなサツバツとした関係…」
霞「すとおおおおおおおおおっぷ!!」
小蒔「ふぇぇ…オシドリさんが…オシドリさんが…」エグエグ
京太郎「ほ、ほら、小蒔さん!それよりも雛がいますよ!雛!」
小蒔「…雛?」
京太郎「はい!オシドリかどうかは分かんないですけど、なんか茶色くてふわふわしてますよ!!」
巴「なんだかペンギンさんみたいですね!可愛いですよ、ほら!」
小蒔「…」ジィ
雛「…」ピヨ?
小蒔「……」パァ
京太郎「…ふぅ」
巴「何とかなりましたか…」
霞「……とりあえず初美ちゃんは後で姫様にお詫びとして何かを買ってあげるように」
初美「甘んじて受けるのですよー…」シュン
霞「まったくもう…小蒔ちゃんの夢を壊してどうするんですか」
初美「動物園だからちゃんとした動物の知識をつけるのも必要だと思ったのですよー…」
初美「次からは自重するのですー…」
京太郎「あ…」
霞「どうかした?」
京太郎「いえ…あそこにいるのって…」
小蒔「あわわ…が、画家さんです…!」
巴「まぁ、画家かどうかは分からないですけど…年配の男性がキャンパスを広げてますね」
初美「凄い集中して何かを書いているのですよー」
霞「…ちょっと騒いでお邪魔しちゃったかしら…?」
京太郎「かもしれませんね…。ここは邪魔にならないように退散しましょうか」
小蒔「そうですね。じゃあ、音を立てないようにゆっくりと後ろを通り過ぎましょう」グッ
初美「…でも、何を書いているのか気にならないですかー?」
小蒔「う…そ、それは…」
霞「まぁ、気にならないと言ったら嘘になるけれど…」
巴「後ろからじっと見られると集中力も乱れるでしょうし…」
初美「だから、チラーっとだけですよ、チラーっと」チラー
小蒔「…大丈夫ですかね?」
初美「後ろを通り過ぎる時に一瞬だけならきっと問題ないのですよー」
霞「…じゃあ、そうしましょうか」
京太郎「そうですね。俺も気になりますし…」
小蒔「」コソコソ
霞「」ユックリ
巴「」ヌキアシ
初美「」サシアシ
京太郎「」シノビアシ
小蒔「……」チラッ
小蒔「…わぁ…」
霞「凄い丁寧ね…」ヒソヒソ
京太郎「一本一本丁寧に線を引いてるのが伝わってきますね」ヒソヒソ
巴「まだ色を塗っていない所為か、なんだか独特の雰囲気があるわ」ヒソヒソ
初美「鳥の一匹一匹が活き活きしてるように感じるのですよー」ヒソヒソ
京太郎「でも、これどうやって描いてるんですかね?」ヒソヒソ
霞「そうよね…描いてる鳥は今も動いてる訳だし…」ヒソヒソ
霞「そもそもこの絵、手前の方の金網がないって事は構図としてはこのケージの中に入ってる訳だものね」ヒソヒソ
小蒔「やっぱりその瞬間を記憶しているんでしょうか…」ヒソヒソ
巴「いえ…幾ら画家だと言ってもそれは難しいんじゃないでしょうか」ヒソヒソ
初美「そういう変化しちゃった部分や現実に則さない部分は想像で補っているとかじゃないですかー?」ヒソヒソ
画家「…」チラッ
初美「はわっ」ビックゥ
小蒔「ご、ごめんなさい…!」トテテテ
霞「あぁ…小蒔ちゃん!走ったら転んじゃう…!って言うか邪魔してすみません!!」
京太郎「すみませんでした!!」
小蒔「はふぅ…」
京太郎「結局、チラッとって訳にはいきませんでしたね」
霞「ま、まぁ、それだけあの人の絵が凄かったって事でしょう」
霞「それよりほら、次は孔雀みたいよ」
小蒔「わぁ…って…アレ?」
京太郎「孔雀…ですか?」
霞「…えぇ。インドクジャクって書いてあるから…そのはず…だけれど…」
巴「…なんだか全体的に灰色っぽいですね」
初美「孔雀もオシドリと同じく繁殖期で色が変わるのかもしれないですよー」
霞「という事は今は繁殖期ではないという事なのかしらね」
小蒔「しょんぼりです…」
京太郎「まぁ、こればっかりは時期の問題なので仕方ないですよ」
京太郎「孔雀の繁殖期は良く分かりませんけど、また次、それに合わせて来ましょう」
小蒔「はい」ニコー
京太郎「にしても…孔雀ってこうしてみると喉のところを常にヒクヒクさせてますね」
巴「鳴き声もククッとかコケェって感じだし…意外と孔雀ってニワトリの親戚なのかしら?」
初美「言われてみれば…灰色だけど一応、トサカもあるのですよー」
霞「そうね。確かに言われて見ればそれっぽいかも…」
小蒔「でも、ニワトリさんよりも大分、大きいですね」
巴「高さははっちゃんと同じくらいあるもんね」クスッ
初美「流石にそんなに小さくないですよー!」
京太郎「はは。まぁ、1mくらいはありそうですよね」
霞「うーん…どうかしら?後ろの羽の所為で大きく見えるってだけな気もするけれど…」
初美「でも、アレ、色の所為か羽と言うよりはなんだか蜂の巣にも見えるのですよー」
京太郎「あー…確かに…あんな感じでくっついている蜂の巣ってありますよね」
巴「羽の模様もそれらしく見えるから…もしかしたら擬態しているのかも?」
小蒔「ハチさんは怖いですからね…動物さんだってあまり近づきたくはないと思います…」フルフル
霞「或いはインドって言う環境にあわせた保護色なのしれないわね」
京太郎「でも、保護色だったらあんな派手な色の喉はしていない気がします」
霞「あぁ、確かに…首の付根から胸元まで綺麗な翡翠色してるものね」
小蒔「キラキラしててまるで宝石みたいで素敵ですよね」パァ
京太郎「神聖な生き物として扱われるのも納得出来ます」
霞「あ、一匹動き出したわ」
京太郎「左側の寝床っぽいところに行きましたね」
初美「…ただ、後ろの方の羽のが入りきってないのですよー」
霞「まるで隠れんぼしてる時の小蒔ちゃんみたいね」クスッ
小蒔「え?」
京太郎「あー…凄い分かります」
霞「でしょ?」
小蒔「え?え??どういう事ですか?」クビカシゲ
霞「可愛いから教えてあげません」クスッ
小蒔「えー…なんだかズルいです…」
巴「それより姫様、クジャクが何か食べてますよ?」
小蒔「あ、本当ですね。アレは…大根の葉っぱでしょうか?」
京太郎「大方、餌の残りかおやつですかね」
初美「おやつだとこうして残してるはずないでしょうし、餌の残りだと思うのですよー」
巴「ふふ、何はともあれ、ああやってついばむ姿を見るのは何となく微笑ましいわよね」
小蒔「はい。クジャクさん思ったよりも可愛いです!」ニコニコ
霞「…ってあら」
京太郎「どうかしたんですか?」
霞「ほら、見て。こっちのケージ」
小蒔「…あれ?こっちのクジャクさんは後ろの方の羽が大きいですね。それに色も違います」
京太郎「って事は…こっちがオス?」
霞「やっぱり春だから繁殖期だったのね。良かった」ホッ
巴「でも、どうしてメスとオスで分けられているんでしょう?」
霞「さぁ…?そこまでは分からないけれど…」
巴「オスが二匹いますからメスの取り合いになるとかじゃないですか?」
初美「男って言うのは何時も野蛮な生き物なのですよー…」ジィ
京太郎「…なんでこっちを見るんですか…」
初美「さぁ、どういう事でしょうね?さっき私を穢した件とはまったく無関係だと思いますが」
京太郎「俺だって初美さんが煽って来なきゃそんな事やりませんでしたよ…!」
霞「はいはい。クジャクが怖がるからそこまでね」
霞「にしても…オスのクジャクは身体よりも羽のほうが大きいのね」
京太郎「羽だけで1.5mくらいはありそうですもんねー」
初美「身体から見た大体の換算で言えば1.3から4倍くらいあるのですよー」
巴「でも、こんな羽で飛べるのかしら?」
京太郎「え?クジャクって飛ぶんですか?」
巴「え?飛ばないの?」
京太郎「いや…分かんないです。こんなデカイ羽で飛べないと思い込んでましたが…」
初美「ここは鳥博士の霞ちゃんに聞くのですよー」
小蒔「わくわく」
霞「別に私は鳥博士でも何でもないんだけど…クジャクは飛ぶわ」
京太郎「マジですか!?」
霞「えぇ。まぁ、飛ぶと言っても渡り鳥みたく高いところを飛ぶ訳じゃないんだけれどね」
霞「半ば滑空のように数メートル前後を宙に浮いてゆっくり降りていく感じらしいわ」
巴「へー…」
京太郎「勉強になります」
初美「流石、ペンギンさん博士なのですよー」ニヤニヤ
霞「そ、それは忘れてって言ったでしょ…!」カァ
クジャク「」ファサァ
京太郎「あ、羽広げましたよ」
小蒔「わぁ…!扇状にいっぱい羽が並んでて…すっごい綺麗…」
霞「そうね。ふふ…良い物が見れたかしら」
霞「でも、そろそろ次があるし行きましょうか」スッ
クジャク「」スッ
霞「ん?」ピタッ
クジャク「」ピタッ
霞「……」スタ
クジャク「」クイィッ
初美「…さっきから霞ちゃん、すっごいガン見されてるのですよー」
京太郎「……そう言えばクジャクって威嚇の時だけじゃなくって求愛の時にも羽を広げるんでしたっけ」
初美「まぁ、その辺はきっと霞ちゃんが一番良く知っているのですよー」ニヤニヤ
霞「い、いや、違うわよ。これはきっとそういうんじゃなくって…」
小蒔「わぁ…霞ちゃんってモテモテなんですね!」キラキラ
霞「う…」
巴「ま、まぁ、モテないよりはマシじゃないですか、ね?」
霞「…流石にクジャクに求愛されたのを喜ぶ気分にはなれないわ…」フルフル
京太郎「ほ、ほら、それよりもこっちにはフラミンゴがいますよ」
霞「…また求愛されるのかしら」トオイメ
巴「か、霞さん、戻ってきてください…!」ユサユサ
初美「でも、やっぱりクジャクとはまた違った意味で綺麗なのですよー」
京太郎「そうですね。派手なピンク色から白に朱色が混じった程度の奴まで色々いますし」
小蒔「それにとっても大家族です!」
初美「流石に全部同じ種類じゃないと思いますが、それでも二十は軽く超える数がいるのですよー」
京太郎「なんだか灰色でちっちゃいのもいますが…アレは雛ですかね」
巴「そうじゃないかしら。まだ羽もふわふわしてて生え変わっていないみたいだし、きっと最近、生まれたばかりの子なんでしょうね」
小蒔「わぁ…やっぱり今の時期に来てよかったですね」ニコニコ
京太郎「えぇ。本当に」クスッ
初美「でも、さっきからクェクとかキューとか鳴きまくりなのですよー」
京太郎「フラミンゴってこんなに鳴くものなんですか?」
小蒔「霞ちゃん先生、教えてください!」
霞「別に私だって先生って呼ばれるくらい鳥の事に詳しい訳じゃないのよ…?」
霞「…フラミンゴは確かにおしゃべりな種類だと聞くけれど、これだけ鳴いているのはきっとそれだけじゃないわ」
小蒔「それだけじゃないって…」
霞「見て、奥の方」スッ
京太郎「あ、なんだかあそこだけ土が盛り上がって塚みたいになってますね」
初美「と言うか、周りから掘り集めたっぽいのですよー。その周りが窪んでいますし」
霞「アレは巣よ。その上に座っているフラミンゴはきっと卵を温めている真っ最中だと思うわ」
京太郎「なるほど…じゃあ、その周りに囲んでいるフラミンゴ達は…」
霞「フラミンゴは雌雄共同で抱卵や育雛をするからあの中にもう片方の親がいるのは間違いないでしょうね」
霞「でも、アレだけ集まっていると言うのはそろそろ卵が孵りそうになっているからじゃないかしら」
小蒔「本当ですか!?」パァ
霞「まぁ、私だってフラミンゴに対して専門の知識がある訳じゃないし…かなり適当だけれどね」
京太郎「じゃあ、さっきからこうやって鳴いているのは…」
霞「抱卵中って動けなくて神経質になるらしいから、色々と警戒してるんじゃないかしら」
京太郎「なるほど…」
巴「でも、手前の水場にいるフラミンゴは結構、のんびりとしていますね」
霞「こっちのはまだ若くて繁殖期が来ていない子とかじゃないかしら」
小蒔「え?でも、結構大きいですよ?」
霞「フラミンゴが子どもを作れるようになる性的成熟期まで六年かかると言われているわ」
霞「だから、一見大きいように見えてもまだ大人じゃないって事も多いの」
京太郎「へー…つまり初美さんの逆なんですね」
初美「言うと思ったですよー!」ゲシゲシ
京太郎「いててててっ」
霞「或いは今現在、育児中でそれどころじゃない個体とかが思いつく範囲ね」
巴「でも、子育てに六年もかかってたら個体数の維持が大変じゃないですか?」
霞「そうでもないわよ?フラミンゴって自然界でも40年くらい生きるから」
京太郎「40年ですか!?」
霞「えぇ。鳥類の中では一番長生きな種類だって言われているわ」
霞「その代わり、一回に産む卵の数は一個だけ」
霞「その子を六年掛けて育て一人前にするんだから…ある意味、人間にも近い鳥類なのかもしれないわね」
小蒔「……」ジィ
京太郎「…小蒔さん?」
小蒔「あ…ごめんなさい。何でもないんです」
京太郎「……そうですか」
巴「……そう言えばさっきからああやって水場にくちばしを淹れて凄い勢いで震わせていますけど…」
初美「アレは退屈しのぎの遊びなのですかー?」
霞「いえ、アレはきっと餌を探しているんじゃないかしら?」
京太郎「餌?」
霞「えぇ。フラミンゴは基本、ああやって水辺にくちばしを淹れて底の泥ごと餌を口に入れるの」
霞「それでああやって口を震わせて舌や毛で餌だけを濾し取って食べちゃうのよ」
初美「なるほどー…でも、あそこに餌なんているですかー?」
巴「赤茶色に濁っているから分からないけど、入ってる足の部分からしてそれほど深くないような…」
京太郎「そもそも周りがコンクリですしね」
霞「まぁ、餌はなくても泥はあるんじゃないかしら?」
霞「こういった動物園では出来るだけ本来の生態に近い姿を見せようとするのが主流だから」
霞「本能的なものを忘れないように動物園側も考慮していると思うわ」
京太郎「しかし、こうやって見てると…足の関節の部分が気になりますね」
巴「あぁ、確かに…。フラミンゴの足って人間とは違う関節の向きをしてるから足を動かす度に、ん?ってなっちゃうのよね」
初美「知らず知らずの内に常識と言う名の既成概念に囚われてしまっているのですよー」
霞「あら?言っとくけど、アレは別に人間とは関節の向きが逆って訳じゃないのよ?」
初美「え?」
霞「フラミンゴのあの見えている関節部分は人間で言う足首の部分なのよ」
霞「膝の部分はもっと上にあるわ」
初美「関節の向きが一定だと言う既成概念を壊されたと思ったら、足の甲が短いと言う既成概念を壊されたのですよー」フルフル
京太郎「まさかの二段オチ…!」
霞「ちなみにフラミンゴが赤くなるのは赤い色素を含んだ食べ物を食べてそれが定着するからよ」
霞「そういった色素を含まない食べ物を食べなければフラミンゴはあの雛のように灰色の状態に戻って行くわ」
霞「だから、どれくらい身体が赤いかによって、若い個体か若くない個体かをある程度ではあるけど判別する事が出来るのよ」
霞「まぁ、一部の種類は渡りをするから決して確実って訳じゃないだろうけどね」
京太郎「なるほど…じゃあ、動物園のフラミンゴが赤いのは餌にそういう色素が入っているんですか」
霞「動物園としてもやっぱりある程度、赤くないとフラミンゴとは思ってもらえないでしょうし、きっとそうなんじゃないかしら」
初美「でも、あっちにいるのは赤いどころか黒いのですよー」
霞「同じケージに入れられてるけどアレはホオアカトキって別の種類ね」
京太郎「…トキなんですか?でっかいカラスにしか見えないんですが…」
巴「カラスと言うか…ハゲワシ?」
京太郎「身体の方は羽でもしゃもしゃしてるのに頭のほうはハゲてますもんねー…」
初美「それにくちばしだけじゃなくて顔全体も赤く見えるのですよー。頬どころじゃないのですー」
霞「ま、まぁ、その辺のネーミングセンスは昔の人が言い出したものだから」
巴「でも、トキって白いイメージが強かったんですが、黒いのもいたんですね」
初美「と言うか、日本の国鳥らしからぬ凶悪な顔つきなのですよー…!」
霞「そもそもトキは日本の国鳥じゃないわよ?」
初美「えっ」
霞「日本を象徴したり代表する鳥がトキだって言われているだけで別に国鳥じゃないわ」
霞「日本の国鳥はキジよ、キジ」
初美「…全然、知らなかったのですよー」
京太郎「俺も知りませんでした…」
巴「私も…」
京太郎「にしても…羽の方は黒がメインですけど微かに緑がかって綺麗なんですけどね」
初美「顔つきが凶悪…しかも、すぐ側に派手なフラミンゴがいる所為か…どうしてもこう不憫な印象が拭えないと言うか」
巴「慣れたら結構、可愛い顔つきをしてると思うんだけど…」
初美「えっ」
巴「えっ」
初美「…アレが可愛いですかー?」
巴「え…可愛くないかしら?ちょっとしょぼくれているというか、寂しそうで…」
初美「…まぁ、そういうのもアリだと思うのですよー」ウン
巴「ちょ、そ、そんな流し方しないでよ!」ワタワタ
京太郎「ま、まぁ、俺も決して悪い奴とは思えませんし」
巴「そ、そうよね。きっとあれだけ怖い顔してても実は臆病で心優しい子なんだわ」ウンウン
初美「(…これ完全にダメ男にハマる女の思考だと思うんですけど…指摘して良いんですかね…?)」
京太郎「それに初美さんの言う通り、フラミンゴと同じケージに入れられてるのはちょっと可哀想ですしね」
巴「スペース削減の為に仕方のない事だとは思うんだけど…いじめられたりしていないか心配かしら…」
霞「フラミンゴは別の鳥種ともコロニーを形成したりするからきっと大丈夫よ」
霞「それにその辺りは飼育員もしっかり監視しているでしょうしね」
巴「なるほど…それなら安心ですね」
霞「さて、それじゃそろそろ次に行きましょうか」
小蒔「……」ジィ
京太郎「…小蒔さん」
小蒔「え?」
京太郎「そろそろ次に行きませんか?」
小蒔「あ、はい。そうですね」
小蒔「ずっとここにいるとフラミンゴさん達が警戒するだけでしょうし…」チラッ
京太郎「……」
小蒔「……」
京太郎「…やっぱりもうちょっとここでフラミンゴ見ていますか?」
小蒔「え?」
京太郎「俺ももうちょっとフラミンゴの事が見たいですから」
京太郎「皆には先に行ってもらって…」
小蒔「いえ…大丈夫です」
京太郎「小蒔さん…」
小蒔「折角、動物園に来たんですからやっぱり皆と一緒に回るのが一番です!」
小蒔「さぁ、行きましょう。京太郎君!」ニコ…
京太郎「…はい。分かりました」
初美「次はタンチョウなのですよー」
巴「…タンチョウ?」
京太郎「と言うか、ツルにしか見えませんね」
霞「一応、ツル目ツル科ツル属の鳥だからツルではあるんだけれどね」
小蒔「でも、名前はツルじゃないんですね…」
霞「まぁ、その辺の詳しい事は私もあんまり知らなくて…」
初美「ふっ…鳥博士が聞いて呆れるのですよー」
霞「私は一度でも自分をそんなものだと自称した事はないんだけど…」
京太郎「でも、こうしてみるとタンチョウって結構デカイんですね」
巴「大体、私や姫様くらいの大きさはありますよね」
京太郎「1.2初美さんくらいはありそうです」
初美「だから、人を単位に使うなですよー!」ゲシゲシ
京太郎「いてててっ」
巴「それにしても…タンチョウってどうして頭の上が赤いんでしょう?」
霞「タンチョウの赤い皮膚があそこだけ露出してるのよ」
霞「後頭部の白い部分も顔の黒い部分も全部、羽毛なの」
初美「なるほど…つまりハゲなのですね」
京太郎「やめてさしあげろ」
初美「きっとアレは京太郎君の未来の姿なのですよー」
京太郎「やめろおおお!!」
タンチョウ「コーン」ビクン
初美「ほら、京太郎君が急に大声出すから怯えたじゃないですかー」
京太郎「誰の所為だと…!いや、まぁ、大声出したのは悪かったですけど」
小蒔「でも、タンチョウさんってコーンって鳴くんですね」
巴「キツネとはまた違った鳴き声だけど…なんだか聞き慣れなくて不思議です」
京太郎「さっきフラミンゴのケージにいたから尚更そう感じますよね」
タンチョウ2「カカッ」
小蒔「ん…?でも、こっちの子の鳴き声は違いますね」
初美「なんだか黄金の鉄の塊で出来たナイトが駆けつけそうな音なのですよー」
京太郎「さっきのは威嚇音で、こっちが普通の鳴き声なんですかね?」
霞「いえ、この子達はオスとメスだから鳴き声が違うのよ」
小蒔「性別が違ったら鳴き声も変わるんですか?」
霞「変わらない種類もいるけどタンチョウは変わるって事ね」
京太郎「なるほど。確かに鳴き声が違うと求愛する時とかも便利ですよね」
霞「きゅ、求愛」カァ
初美「…霞ちゃんのムッツリ」ニヤー
霞「ち、違います!へ、変な事言わないでよ!」
京太郎「そういやこいつらどっちがオスでどっちがメスなんですかね」
小蒔「んー…外見からはあんまり判別がつかないですね」
初美「一応、最初に鳴いた方が心なしか大きいかなって気はするんですけどね」
霞「自然界にはメスの方が大きい種類も珍しくはないし…それだけを判断材料にするには難しいわね」
巴「あ、でも、こっちに説明がありますよ」
巴「えっと…一回だけ長く鳴くのがオスで、その後に続けて短く複数回鳴くのがメスみたいですね」
小蒔「ふふ、まるでお話してるみたいですね」ニコ
初美「もしかしたらさっき大声をあげた京太郎君をどうやって始末するか相談してるのかもしれないですよー」
京太郎「動物園育ちなのに血に飢えてるんですか…」
巴「そもそもこのタンチョウは二匹とも臆病な性格らしいわよ?」
巴「オスは怖がりで滅多に近寄ってこないし、メスも餌の時くらいしか人に近づかないみたい」
初美「ご飯の時だけホイホイ近づいてくるとかまるで春みたいな子なのですよー」
京太郎「そうですかね…?俺はあんまり春に対してそういうイメージはないんですが…」
京太郎「結構、自分から近づいてきてくれていたような気がしますし」
初美「そりゃ相手が京太郎君ですしねー」
京太郎「???」
霞「…ホント、鈍感ね」フゥ
京太郎「え?え???」キョトン
初美「鈍感な京太郎君はさておいて、私はさっきからずっと気になっている事があるんですが…」
巴「どうかしたの?」
初美「…実はケージの中に雀がいるのですよー」
小蒔「え?何処ですか?」
初美「ほら、タンチョウの足元ですー」
小蒔「あ、本当ですね。チョコチョコ動いて可愛いです」
京太郎「つーか、何処から入ったんでしょうね?」
巴「入口とかは封鎖されてるし…屋根もあるから入る場所はないと思うんだけど…」
小蒔「じゃあ、このケージの隙間からでしょうか?」
京太郎「確かに隙間は開いてますけど…流石にそれは狭すぎて無理だと思いますよ」
雀「チチッ」バサ
小蒔「あ、雀さんが飛びました!」
京太郎「何処に行くんでしょう…ってあれ?」
雀「(ふっ、この程度じゃ俺は捕まえられねぇぜ、あーばよ、とっつぁん!)」ヒョイ
巴「…普通に隙間から出て行ったわね」
京太郎「ケージの隙間ってほんの数センチくらいしかなかったんですけど…」
霞「まぁ、基本的に鳥って羽毛で大きく見えるだけで実際は飛ぶ為に大分、細身だから」
初美「でも、あんまりにも意外過ぎてちょっとびっくりしたのですよー…」
小蒔「にしても、普通に雀さんが一緒のオリの中に入れるんですね」
京太郎「臆病だって書かれてるオスのタンチョウもまったく気にしていませんでしたしね」
巴「自分より大きい人が怖いだけで雀は大丈夫なのかしら…」
小蒔「きっと毎日、遊びに来てる顔なじみの雀さんだったんですよ」
霞「ふふ、それもあるかもしれないわね」クスッ
京太郎「でも、動物園のケージの中に入ったりしてあの雀は何が目的なんでしょうか?」
霞「基本的には食べ残した餌が目的じゃないかしら」
小蒔「…」ションボリ
霞「…でも、それはあくまで基本的にの話だから」
霞「もしかしたらそうやって足しげく通っている間に仲良くなったのかもしれないわね」
小蒔「」パァ
初美「」ニヤニヤ
京太郎「」ニヤニヤ
霞「な、何よ…もう。べ、別に私、間違った事言ってないわよ…?」
京太郎「そうですよね。あくまでも、かもしれないって話ですし」
初美「かもしれないなら仕方ないのですよー」
霞「も、もぉ…二人とも言いたい事があるならはっきり言いなさい…!」カァ
巴「はいはい。それより霞さん、私もひとつ質問良いですか?」
霞「…何かしら?」
巴「さっきから水場でタンチョウが何かを突いているんですけど…」
霞「あぁ。アレはフラミンゴと同じく餌を探しているのよ」
初美「フラミンゴと違って震わせたりしていないですけど…」
霞「タンチョウはフラミンゴと違って餌をとるのに泥ごと口に含んだりせずに獲物だけを捕まえるからそういう事をする必要がないの」
初美「なるほど…つまり狙った獲物を逃さないスナイパー…」
小蒔「なんだか格好良いですね」パァ
京太郎「でも、オスの方は地上でも突っついてますよ?」
初美「きっとマインスイーパーやってるのですよー」
巴「地雷が埋めてある動物園とか怖くて仕方がないんだけど…」
霞「タンチョウは植物の茎や種も食べるからそれを食べているんじゃないかしら」
初美「うーん…でも、ここからだとそれらしきものは見えないのですよー…」
霞「まぁ、私だってタンチョウの事が詳しい訳じゃないから確実にそうだとは言えないけれど…」
霞「さっきのフラミンゴと同じように飼育員がそういうのを意図的にばらまいていても不思議じゃないわ」
初美「次は皆のお待ちかね!みんなのアイドル、ペンギンなのですよー」
小蒔「ペンギンさんですねー」パァァ
霞「ペンギンさんよー」パァ
初美「くっ…霞ちゃんを弄る絶好の機会だと言うのに…思った以上に良い笑顔過ぎて弄るのが悪い気がしてきたのですよー…!」
京太郎「初美さんの中にも良心ってものがあったんですね」
初美「せいっ」ゲシゲシ
京太郎「いてててっ!」
巴「…ホント、二人とも色んな意味で学習しないんだから」クスッ
巴「でも、フンボルトペンギンがああやって泳いでるのを見るとなんだか和むわよね」
京太郎「顔だけ水面に出してちょこちょこ泳いでますしねー」
初美「ただ泳いでるだけじゃなくてちゃんと隊列を組んでるのですよー」
初美「これは所謂、複縦陣…!」
京太郎「知っているのか、ハツデン!」
初美「…なんだかその名前に意義を唱えたいところですが優しい私は応えてあげるのですよー」
初美「ぶっちゃけ知らない!!」ドヤァ
京太郎「そうだと思ったよ…!」
京太郎「まぁ、無意味にテンションあげるのはそろそろやめておきましょう」
初美「そうですね。既に使い物にならないのが二人いる訳ですし」
巴「つ、使いものにならないは言い過ぎじゃないかしら…?」
初美「じゃあ、巴ちゃんは今のあの二人がマトモに話し合いが出来る状態だと思うのですかー?」スッ
霞「ペンギンさんー」キラキラ
小蒔「ペンギンさんですー」キララッ
巴「……」
巴「…ごめんなさい、霞さん…姫様…」メソラシ
初美「まぁ、ああなる気持ちも分からないでもないですけどね」
京太郎「人に慣れてる所為か、半径三メートルほどのプールの中にいるのにこっちに近づいてきますしね」
巴「餌が欲しいのかしら?でも、特にこっちは何も持ってないんだけど…」
京太郎「バッグ持ってるからその中に餌が入っていると思い込んでいるのかも知れませんね」
初美「よし。巴ちゃん、それを中へとシューするのですよ」
巴「しません。お財布だって入ってるんだからね」
ペンギン「???」クビカシゲ
巴「……もう。本当に何もないんだからね」
ペンギン「…」ジィ
巴「ほら、ないないですよー」ナイナイ
京太郎「…」
初美「…」
巴「ハッ…い、いや…その…」カァ
京太郎「可愛い」
初美「可愛い」
巴「はぅ」ビクッ
京太郎「巴さん可愛い」ニヤニヤ
初美「巴ちゃん可愛いですよー」ニヤニヤ
巴「も、もうやめてよぉ…!」フルフル
京太郎「にしても、こいつら普通に露天で泳いでますけど大丈夫なんですかね?」
初美「実は温泉ペンギンで、このプールは温泉なのですよー」
京太郎「この暑さで温泉の中を泳いでるとかかなりのチャレンジャーですね…」
巴「そもそも温泉ペンギンなんて種類はいないわよ」
初美「まぁ、それは冗談にしてもペンギンって寒いところの生き物ですしちょっと心配なのですよー」
京太郎「今日は人間でも暑くて汗が出るレベルですからねー…」
巴「或いは比較的暑さに強い品種なのかもしれないけど…」
初美「それが分かる霞ちゃんはあの様なのですよー」チラッ
霞「はぁ…ペンギンさん可愛い…一匹くらい譲ってもらえないかしら…」ウットリ
初美「まったく…説明役なら説明役の責務を果たせなのですよー」
京太郎「まぁまぁ、それだけ霞さんもペンギンの事を楽しみにしてた訳ですし」
巴「それに今までみたいに説明している看板とかを探せば分かるはずよ」
初美「えーっと…」キョロキョロ
京太郎「あ、アレですかね」スッ
初美「お、なんかそれっぽいのですよー。なになに…」
初美「ナンナン。オス。四歳。落ち着くがなく一人でいる事も多い」
京太郎「カランテ。オス。三歳。なんでも気になる。良く泳いでる」
巴「…これ中のペンギンの説明よね」
初美「ご丁寧に写真までつけてくれているのですよー」
京太郎「…ただ…その、なんていうか…」
巴「…まったく分からないわよね」
初美「全部で九匹もいますからねー…正直、誰が誰なのかさっぱりなのですよー」
京太郎「まぁ、それでも一匹だけ確実な奴がいますけどね」
巴「あぁ、うん。アレは私も分かるわ」
初美「アレ以外ないですよねー…」
ペンギン「…」チョコチョコ
京太郎「…他の八匹は全部泳いでるのに一人だけ岩場で動いてる…」
初美「間違いなくアイツがナンナンなのですよー」
巴「クラスに一人はいる落ち着きが無い子って感じかしら…」
初美「それだけなら良いんですけど…あのゴーイングマイウェイっぷりは仲間にハブられているんじゃないかとか気になるのですよー」
京太郎「い、いや、大丈夫ですよ。ちょっと疲れて休憩してるだけですって」
巴「そ、そうよ。ペンギンって基本、群れで生活する生き物らしいから…」
初美「そういう生き物だからこそ群れの調和を乱す異物を排除したがると聞いた事もあるですよー」
京太郎「…」
初美「…」
巴「…」
巴「…深く考えないようにしましょう」
京太郎「それが一番ですね…」
初美「そうですね…なんだかちょっと悪かったのですよー…」
ナンナン「???」クビカシゲ
京太郎「にしても…このペンギンのコーナーってちょっと怖いですよね」
初美「完全露天状態でこっちとの敷居も薄いガラスなのですよー」
京太郎「しかも、大人がちょっと手を伸ばせば乗り越えられそうな低いものですしね」
初美「一応、立て札で禁止と書かれていますが…それでも触ってみたい誘惑が…!!」
ペンギン「」ジィ
初美「…京太郎君、ちょっと屈むのですよー」
京太郎「気持ちは分かりますけどダメですって」
初美「ちょっとだけ!ちょっとだけですから!」
京太郎「ダメですよ!それでペンギンが怪我とか病気になったらどうするんですか!!」
初美「男が細かい事気にするんじゃないのですよー!」
京太郎「全然、細かくないですってば!」
初美「ぐぬぬ…おのれ…すぐ目の前にこんなにも可愛いペンギンがいると言うのに触っちゃダメなんて…!」フルフル
京太郎「こうやって敷居が低いのも来園者を信頼しての事でしょうし…大人しくしてましょう」
初美「はーい…」シュン
初美「…にしてもこうやって見てると意外とペンギンの目って鋭いのですよー」
京太郎「まぁ、一応、こいつらも海に潜って魚を捕まえる狩猟生物ですし」
巴「ペンギンって可愛くて弱いイメージがあるけどこうやって見てるとそれだけじゃないのが分かるわよね」
初美「実は足にも結構鋭い爪がありますしね」
京太郎「ペンギンって確か地面を掘って巣を作ったりするんでその為じゃないですかね」
巴「って事はアレは氷を削って地面を掘れるくらいの鋭さがあるって事よね」
初美「人間が襲われたらひとたまりもないのですよー」
京太郎「まぁ、流石にペンギンに襲われるなんて事滅多にないとは思いますけどね」
巴「産卵期の色々とピリピリしてる時期くらいじゃないかしら?」
初美「分からないですよー。もしかしたら別の世界からやってきたペンギンが突如として世界征服を始めるかも…」
京太郎「別の世界にもペンギンがいるんですか」
巴「と言うかどれだけ好戦的なのよ、その別世界のペンギンは」
初美「まぁ、世の中には絶対なんてないって事なのですよー」
京太郎「…まぁ、それは色んな意味で身にしみて理解していますけどね」
巴「でも、このペンギン達と戦う事になるって言うのはあんまり考えたくないかしらね」
霞「ふぅ…」
京太郎「アレ?霞さん、もう良いんですか?」
霞「えぇ。流石に十分、堪能したとは言えないけれどね」
初美「若干、ペンギンが怯えるくらいガン見してまだ足りないのですかー…」
霞「仕方ないでしょ。ペンギンさん…ペンギンはそれだけ可愛いんだから」
霞「正直なところ、動物園に交渉して一匹お持ち帰りしたいくらいよ」
巴「さ、流石にそれは…飼育環境もありませんし…」
霞「フンボルトだったら暑さにも強いから大丈夫だと思うんだけどね…」
小蒔「って事はこのペンギンさんはこの暑さの中でも大丈夫なんですか?」
霞「勿論、周りにこれだけの水がある事前提だけどね」
霞「寧ろフンボルトは極端な寒さの方に弱いから冬の方が心配かしら?」
京太郎「あぁ。冬のお屋敷はとても寒いですもんね…」
小蒔「はい。私も寒くてついつい寝ちゃいます」
巴「…それは割りと何時もの事のような…」
初美「この前だって廊下でコテンしてたのですよー」
小蒔「わわ。それは秘密だって言ったじゃないですか…!」アワワ
霞「ふふ。まぁ、ペンギンはいつまで見てても飽きない生き物だけど、だからこそ、そろそろ次に行かないとね」
京太郎「俺は別にここで昼まで休憩しても良いんですけど…」
霞「その気持ちは嬉しいけれど、今日は団体行動だからね。あんまり私の一存で予定を遅らせる訳にはいかないわ」
霞「それに…そろそろ姫様が待ちかねてる感じだしね」クスッ
小蒔「」ワクワク
京太郎「あぁ。そう言えばまだコウノトリもシュバシコウも見れてませんっけ」
巴「もうそろそろ見れてもおかしくないですね」
初美「じゃあ、ゴーゴーなのですよー」ダッ
小蒔「あっ初美ちゃん待ってください…!」トテテテ
霞「まったく…子どもは元気ね」クスッ
京太郎「(…なんだかその発言だと霞さんが若くないように聞こえるんだけど…)」
巴「(空気を読んで黙っておきましょう)」
京太郎「(分かりました)」
初美「ってあれ?」
霞「どうかしたの?」
初美「…鳥類エリアはここで終わりみたいなのですよー」
京太郎「終わり?」
初美「ほら、この立て札にここから先は猛獣エリアだって書いてあるのですー」
巴「…猛獣?」
霞「…シュバシコウやコウノトリって猛獣だったかしら?」
京太郎「いや、そんな事はないと思うんですが…」
小蒔「…いないんですか?」シュン
京太郎「う」
小蒔「シュバシコウさんもコウノトリさんも…いないんですか?」シュゥゥン
霞「初美ちゃん!」
初美「了解です!今すぐ飼育員の人に聞いてくるですよー!」ダッ
巴「私はパンフレットをもう一回チェックしますね…!」
京太郎「え、えっと、俺は…」
霞「京太郎君は小蒔ちゃんの側にいてあげて頂戴」
京太郎「分かりました。でも、霞さんは…?」
霞「ちょぉっと動物園の上の方にお話をね?」ゴゴゴ
京太郎「お、落ち着いて!落ち着いてください、霞さん…!」
霞「大丈夫よ。京太郎君、私は落ち着いているわ」フフ
霞「ちょっと姫様が落ち込んだくらいでクレーム入れるような真似はしないわよ」
霞「ほんのちょっぴりお話し合いをするだけよ。えぇ。シュバシコウやコウノトリがいればね」メラメラ
京太郎「(あ、これアカン奴や)」
初美「聞いてきたですよー」
京太郎「は、初美さん…どうでしたか!?」
初美「…申し訳ありません、姫様」
初美「コウノトリは最初からいなくて、シュバシコウは最近、別の動物園に引き取られたらしいのですよー」
小蒔「そう…ですか…」シュン
小蒔「それ…それなら仕方ありませんね」
小蒔「シュバシコウさんもコウノトリさんも…会いたかったですけど…それは私の我儘ですし…」ジワッ
初美「…姫様…」
霞「放しなさい、京太郎君!」グググ
京太郎「ここで抗議なんかしてもどうにもなりませんって!冷静になりましょう!」ガッシ
霞「それでも…それでもやらなきゃいけない事があるの!!」
霞「小蒔ちゃんは今…泣いているのよ!」
京太郎「だからってクレーム入れるってモンペ以外の何者でもないでしょうに!!」ズルズル
京太郎「と言うか、巴さん!ヘルプ!!ヘルプ!!!」
巴「…ごめんなさい。私もちょっと今回は霞さんの気持ちも分かるかなって…」メソラシ
京太郎「巴さぁん!?」
巴「まぁ、仕方ないわよね…。姫様?」
小蒔「あ、はい」フキフキ
巴「パンフレットです。次、何処に行きたいですか?」スッ
小蒔「えっと…私は…」チラッ
霞「」メラメラ
小蒔「…もうちょっとペンギンさんが見ていたいです」
小蒔「コウノトリさんとシュバシコウさんが見れないのは残念ですけど…」
小蒔「でも、私は皆で楽しいのが一番ですから」
霞「…小蒔ちゃん…」
小蒔「だから、霞ちゃん。そんなに怒らないでください」
小蒔「きっと仕方のない事情があったんですよ」
小蒔「それに怒るよりも皆でペンギンさんを見ましょう?」
小蒔「可愛いものを見て…皆で笑顔になりましょう」
小蒔「私はそれが一番、大事な事だと思うんです」ニコ
霞「…そうね」
霞「ごめんなさい。私が悪かったわ…」シュン
小蒔「いいえ。霞ちゃんは悪くなんかありません」
小蒔「だって、私の為にあんなに怒ってくれたんですから」
小蒔「だから、ありがとうございます、霞ちゃん」ニコー
霞「小蒔ちゃん…」ジィン
京太郎「(イイハナシダナー)」
初美「(良いから黙っておくのですよ)」
京太郎「(こいつ…直接脳内に…)」
巴「(はいはい。ヒソヒソ声で遊んでないの)」
IN猛獣エリア
初美「という訳で今度こそ猛獣エリアなのですよー!」
京太郎「ここにいるのはトラとかライオンとかクマとかでしたっけ」
巴「流石にパンダはいないみたいだけどね」
小蒔「え?パンダさんって猛獣なんですか?」
京太郎「そりゃまぁ…アレでも一応、クマの仲間ですしね」
小蒔「さっき食堂で見た映像でも笹を食べながら凄いノンビリしてたからてっきり大人しい動物なのかと…」
京太郎「寧ろ、パンダは比較的気性の荒い種だったはずですよ。年に数回は観光客なんかが襲われてるって聞きますし」
初美「熊避けに鈴が有効なくらい中には臆病な種もいるんですけどね」
京太郎「…ちなみにお屋敷の周りには…」
巴「勿論、いるわよ」
京太郎「…やっぱりですか。なんか変な鳴き声が遠くから聞こえたりする事もあったんでもしやと思ってたんですが…」
巴「でも、大丈夫よ。あの辺りは神域だから」
小蒔「下手に動物さんを怒らせたりしない限りはこちらを襲ってきたりはしませんよ」
初美「寧ろ、足を挫いて動けなくなった六女仙を熊が背中に載せて運んできてくれた話もあるのですよー」
京太郎「…それって神話か何かですか?」
初美「いえ、私のお祖母ちゃんが経験した実話らしいですー」
京太郎「俺の知ってる熊と違う…」
霞「神域の周りで暮らすって事は常に霊的存在の側にいるって事だからね」
霞「本能で生きる動物だからこそ、色々とその影響を受けやすいのよ」
京太郎「なるほど…」
巴「分かったの?」
京太郎「いえ、分からない事が良く分かりました」キリッ
初美「格好つけて言う事じゃないのですよー」
霞「ふふ。それよりほら、件の熊の登場よ」
ツキノワグマ「」ノッシノッシ
京太郎「…でけー」
小蒔「わぁ…本当に首の周りだけ白いんですね」
巴「ツキノワグマの名前は伊達じゃないって事ね」
初美「まぁ、正直、こうして歩いている分には月の輪って言うよりもV字に見えるんですが」
京太郎「その辺は個体差ですよ、きっと」
小蒔「でも、どうしてあんな風に首元だけ白いんでしょう?」
霞「さぁ…どうしてかしら…?」
初美「流石の鳥博士も熊の問題に関してはお手上げですかー?」
霞「だから別に鳥博士とかじゃないって言ってるでしょうに」
霞「…ただ、熊は生態系の頂点に位置する種族だからね」
霞「カモフラージュとかじゃないのは明白だし、思いつく限りだと識別の為とかかしら?」
京太郎「識別ですか?」
霞「えぇ。熊じゃないけれど年齢に応じて体毛の色が変わっていく種族もあるから」
霞「あの白い部分の大きさである程度、年齢が分かるようになっているんじゃないかしら」
小蒔「なるほど…確かにそれはあり得そうですね」ウンウン
ツキノワグマ「」スクッ
初美「あ、立ったのですよー」
巴「立つところを見ると余計に大きく感じるわね…」
小蒔「でも、ちょっとだけ京太郎君の方が大きいですか?」
京太郎「壁に掛かってる説明見る限りツキノワグマの身長は160から180らしいですし、俺の方が若干、上ではありますね」
初美「まぁ、そんな京太郎君も熊に襲われたらワンパンKOなのですよー」
京太郎「寧ろ、熊の一撃貰ってKOされない奴の方が珍しいと思います」
霞「湧ちゃんのお父さんは熊に勝ったらしいけどね」
京太郎「え?」
巴「湧ちゃんのお父さんが全国を旅して修行している時に人を襲っている熊を見かけて…そのまま熊を倒しちゃったらしいわ」
初美「で、その時助けた相手が湧ちゃんのお母さんで、二人はそのまま恋に落ちたのですよー」
小蒔「ロマンチックですよね。憧れちゃいます」ニコニコ
京太郎「…何故でしょう、暴漢から助けたとかだとロマンチックさを感じる余地もあると思うんですが…相手が熊の時点で血なまぐささしか感じないような」
巴「ちなみに組み技とかもなしで、真っ向から殴りあって勝ったらしいわよ」
初美「血だらけになっても一歩も引かず拳を突き出す姿に惚れたって何度も惚気られたのですよー」
京太郎「その人、本当に人間なんですか…?」
霞「うーん…確かに人間離れしている強さはしているけれど…」
初美「ちょっと筋肉ムキムキマッチョメンで暑苦しいですけど、基本的にはナイスミドルなおじさまなのですよー」
霞「でも、熊って足の裏に肉球があるのね」
小蒔「あ、本当ですね。凄いぷにぷにしてそうです」
巴「…触りたいけど…流石に危ないわよね」
初美「下手に近づいたらそのまま爪でガッてされちゃいそうなのですよー」
小蒔「あわわ」フルフル
京太郎「まぁ、こうして檻の中にいるのを見てる以上は安心でしょうけどね」
初美「…そういうのってフラグって言うのですよー」
京太郎「漫画とかじゃ即座に回収されますけど現実じゃそういう事もないんで大丈夫です」
巴「でも、やっぱり檻の中には木とかが多いのね」
霞「爪痕とかもあるし…爪とぎの道具として使っているのかしら?」
京太郎「もし、そうならなんだか猫みたいですね」
巴「そう言えばパンダも熊猫と書くみたいだし…意外とこの二つって近い種族なのかしら?」
京太郎「うーん…どうでしょう?顔を見る限りはタヌキとかそういうのに近いような?」
小蒔「タヌキさんでも猫さんでも熊さんも可愛い事に違いはありませんね」クスッ
京太郎「…可愛いですか?」
小蒔「はい!おっきくて可愛いです!」ニコー
初美「あ、でも、姫様!こっちにもっと可愛いのがいますよ!」
小蒔「え?なんですか?」
初美「ほら、アムールトラです!」
小蒔「わぁ…!」
京太郎「すげー…三匹もいる」
巴「身体が大きいって事もあるんでしょうけど…顔つきが本当に猛獣って感じだから三匹いるだけでも迫力があるわよね」
初美「目つきが特にやばいのですよー。抜身のナイフのようにギラついているのですー」
京太郎「サバンナとかでばったり出会うと間違いなく動けなくなる自信があります」
霞「冬眠明けのクマも鉢合わせすると身体が竦むって聞くけれど…トラも結構なものよね」
巴「頑丈な檻が間にあるって分かってても、ちょっと怖いかしら…」
京太郎「あ、それじゃあ早めにここ離れますか」
巴「あ、いいのよ、気にしなくて」
巴「檻のお陰で大丈夫って分かっているし…それに姫様やはっちゃんもまだ満足出来ていないみたいだから」
小蒔「はー…トラさんすっごいです。格好良いです」キラキラ
初美「良いですよねートラ。ワイルドな感じが尚素敵なのですよー」ワクワク
京太郎「…しかし…」
巴「大丈夫よ。本当にダメだったら一人で離れるから」
巴「ありがとうね、京太郎君」フフッ
京太郎「いえ、どういたしまして」
京太郎「…にしても、なんだか落ち着きのない奴が一匹いますね」
初美「さっきからあっちこっち歩きまわってますしねー」
巴「まだまだ若い子なのかしら?」
京太郎「その割には身体がかなりデカイですけどね」
霞「初美ちゃんよりも二回り長い感じね。まぁ、身体の太さは比べ物にならない訳だけれど…」
初美「ふふーん。これでも日頃運動したりして鍛えてますからねー」
初美「スタイルの良さには自信があるのですよー」ドヤァ
京太郎「…スタイルの…良さ…?」クビカシゲ
初美「…言っときますけど女の言うスタイルの良さって別におっぱいの大きさだけを示すもんじゃないのですよー」
初美「おっぱい星人の京太郎君には分かんないでしょうけど体脂肪率とか腕や足、身体のバランスとか色々あるのですー」
京太郎「いや、それは分かってますけど…」ジィ
初美「なんですかー?」
京太郎「そもそも初美さんが小さすぎてバランスと言われてもあんまり差がないようにしか思えませんね」
初美「とぉぉおおおおお↑」ゲシッ
京太郎「いたぁあああっ↑」
トラ「」ピクッ
巴「う…」ビクッ
霞「あら、反応したわね」
小蒔「初美ちゃんと京太郎君が仲良しさんなんで一緒に遊びたいんでしょうか?」クビカシゲ
京太郎「いや、流石に200キロはありそうなあの巨体でじゃれつかれるのはやばいんですが」
初美「実は筋肉バカな京太郎君はともかく、私なんかのしかかれただけで潰れちゃいそうなのですよー」
霞「まぁ、暴れる二人にちょっと目がいっちゃっただけなんでしょうけどね」
初美「いや、分からないのですよー」
初美「実はこの私の美しさに惚れ込んで、私をいじめる京太郎君を成敗しようとしてくれているのかもしれないのですー」
京太郎「…それ自分で言ってて恥ずかしくありません?」
初美「…実はちょっと恥ずかしかったりします」カァ
小蒔「ふふ、初美ちゃんは本当に可愛いですから、私はあると思います」ニコー
初美「うぅぅ」カァァ
京太郎「初美ちゃん可愛いー」ボウヨミ
霞「初美ちゃん可愛い」クスッ
巴「はっちゃん可愛い」ニコニコ
初美「こ、この…!後で覚えてろなのですよー…!」
京太郎「しかし、こうして見てると三匹でも結構性格違いますよね」
霞「そうね。動きまわってる一匹と寝ているのが一匹、そしてさっき初美ちゃん達に反応したのが一匹」
京太郎「木で組んである足場の上にいるって事はアイツがこの檻のリーダーって奴なんでしょうか?」
初美「うーん…どうでしょう。トラって基本、一匹で狩りをする生き物ですし、リーダーとかじゃないと思うのですよー」
初美「寧ろ、まだ人に慣れきってない新顔って可能性もあると思うのですー」
巴「確かに他の二匹はまったく我関せず状態だったものね」
京太郎「地面で寝てる奴なんか寝返りまで打ってましたからね」
初美「きっと昨日、あんまり寝られなかったのですよー」
京太郎「あぁ、そういや熱帯夜って話でしたっけ」
小蒔「飼育舎の中って暑そうですし、確かに寝苦しいかもしれませんね」
京太郎「まぁ、俺らの場合、暑いどころか未だに若干、肌寒い訳ですけど」
初美「朝なんか朝霧の影響もあって寒いくらいですしねー」
霞「こういう時は普通よりも寒いところで暮らしてる事に感謝したくなるわね」
京太郎「その分、冬は地獄ですけどね…」
初美「…にしても、この手前の子、本当にのんびり屋なのですよー」
京太郎「これだけ人に近づいてるのにまったく意にも解してないって感じですしね」
小蒔「でも、こうやって見てると大きい猫さんって感じに見えてきます」
巴「あぁ、確かに…気だるそうにしてるとあんまり迫力めいたものは感じませんし」
霞「でも、この子、この檻の中で一番、身体が大きくないかしら…?」
初美「つまり…これは強者としての余裕…!」
京太郎「まぁ、俺らが束になってもどうしようもないって事くらい分かっているのかもしれませんね」
霞「じゃないとここまでのんびりしないでしょうしね。そう思うと風格めいたものを感じるわね」
巴「まぁ、実際は地面で寝転がってるだけなんですけどね」クスッ
小蒔「でも、そうやって自然体でいられるって事は素敵だと思います!」
トラ「…」ゴロン
京太郎「ぬぉ…!」
初美「わぁ…」
霞「こ、これは…」
巴「…」ゴクリ
小蒔「はわー…トラさんがお腹見せてるのですよー」
京太郎「まるで犬みたいに手を折りたたんで仰向けになってますね…」
初美「い、良いんですか…これ良いんですか…!?」ハワワ
巴「お、落ち着いて、初美ちゃん。間違いなく滅多に見れるものじゃないでしょうけど…」
霞「家猫でも滅多に見れるものじゃないしね」
初美「と言うか、これ触っちゃって良いんですか!?良いんですかね!?」
京太郎「ダメですって。つか、下手に手をいれようなんてしたら大変な事になりますよ」
初美「先っぽだけ!先っぽだけですから!!」
京太郎「なんのだ!?つーか、マジで落ち着いてください!!」
トラ「」フワァ…
初美「く…!!これだけリラックスしてるトラに触れないなんて…!!」
初美「この動物園は何たる焦らし上手さんなのですかー」フルフル
京太郎「そもそも普通の動物園は猛獣に触れたりしません」
初美「触れ合いパークとかあるじゃないですかー!」
京太郎「流石の触れ合いパークでも、トラと触れ合えたりはしないと思いますよ」
初美「うぅ…あんなにフワフワでモコモコなお腹が見えてるって言うのに…!」
巴「まぁ、初美ちゃんほど触りたいってなる訳じゃないけれど…私も気持ちは分かるかしら」
京太郎「あのお腹は本当に柔らかそうですしね」
小蒔「毛も綺麗でふわふわしてるからわたあめみたいですね」」
京太郎「じゃあ、そこに掛かるように入ってる黒い部分はチョコレートですか?」
小蒔「わぁ…それはとっても甘そうですね」パァ
巴「と言うか、わたあめにチョコレートって甘ったるいと言っても良いような…」
初美「少なくともカロリーがやばい事に間違いはないのですよー…」フルフル
霞「ふふ、まぁ、ともかく可愛らしい姿である事は確かよね」
巴「きっとそれだけ人間のことを信頼してるって事なんですね」
小蒔「飼育員さん達がいぃっぱい愛情込めて飼育している証です」ウンウン
京太郎「あ、今度はあの動きまわってる奴が上に登って行ってますよ」
小蒔「何をしてるんでしょう…?あ…」
初美「なんか入って行きましたよー」
小蒔「秘密の通路ですかね!?」ワクワク
霞「普通に足場の上に通路があるの見えるから隠されてるって訳じゃないんだろうけどね」
京太郎「でも、真正面から見てた所為か、あんまり意識がそっちに行ってなかったです」
巴「そもそもアレ、何の為の通路なのかしら?」
初美「よくよく見れば近くに飼育舎らしきものも無いですし、飼育舎との直通通路とかじゃないんですかー?」
霞「それだったら今までと同じように飼育舎と隣接させれば良いだけじゃないかしら?」
京太郎「まぁ、ともかく移動してみましょうか」
トラ「」ノッシノッシ
巴「あ、なるほど…。下も金網で出来てるからこうやって通路を歩くトラを下から見れるようになってるのね」
初美「大体、2mちょっとですかね?京太郎君とかなら手が届きそうなところに通路があるのですよー」
京太郎「こうやって近い距離で動いてるトラを見るとやっぱ迫力があるなぁ…」
霞「一応、さっきはこれよりも近くで見れてたんだけどね」
巴「ただ、さっきのあの子はトラと言うよりも大きくなった猫ってくらいリラックスしてましたから」クスッ
初美「まるで実家のような安心感だと言わんばかりでしたし、あんまりトラと思えないってのには同意するのですよー」
霞「通路の先には別の檻があるのね」
小蒔「タイヤがぶら下がっていたり、ボールが転がっていたり…きっと遊び場なんですね」
トラ「」ペシペシ
小蒔「あ、タイヤ叩いて遊んでますね」
京太郎「やっぱり動き回ってたのは退屈だったんでしょうか?」
霞「そうなのかもね。あ、水場に飛び込んだわ」
トラ「」ジャブジャブ
京太郎「…なんだか幸せそうに見えますね」
霞「今日はホント暑いものね…」
巴「周りを囲っているのは黒い金網ですから熱も吸収しやすいでしょうしね」
巴「中が私達以上に暑くてもおかしくはないと思います」
初美「…と言うか、さっきその四方八方が黒い金網で出来た通路を通ってきたんですよね…」
京太郎「水場に飛び込むのも当然の事なのかもしれませんね」
トラ「」ジャウジャブユラユラ
小蒔「でも、そうやって熱い思いをしてもこうやって遊びたかったんですね」
京太郎「…そういう意味では俺たちも一緒ですね」
霞「ふふ。そうね。私達もこうして熱い思いをしながら動物園に来ている訳だから」
初美「その分、楽しんでいるのもきっと同じなのですよー」
小蒔「はい!」ニコー
京太郎「ってそうやって話している間にもう一匹来ましたね」
初美「アレはどっちでしょう?さっき寝転がってた方でしょうか?」
霞「さぁ…どうかしら?あんまりトラの顔を判別出来たりはしないし…」
小蒔「下から見れば分かるかもしれません」ジィ
トラ「?」ノッシノッシ
小蒔「ほわぁー…」
京太郎「んー…どうでしょうね?」
霞「さっき寝転んでた子と同じ…と言われればそんな気もするし…」
巴「そうじゃないと言われればそんな気もしますね」
初美「…と言うか、こうやって上を見上げているとアレですね」
京太郎「ん?」
初美「駅の構内でスカートの中身を覗こうとする男ってこんな気分なのかと…」
京太郎「霞さーん」
霞「初美ちゃんは一週間ご飯抜きね」ニコッ
初美「じょ、冗談なのですよー!」ワタワタ
小蒔「???」
初美「そ、それよりほら!姫様!次はライオンですよー」
小蒔「わぁ…鬣、格好良いですね」
京太郎「ですね。百獣の王と言われるのも納得の風格です」
巴「でも、思っていたよりも鬣ってくすんだ黄色をしているのね」
霞「少なくとも良くイメージされるような金色って感じではないかしら…?」
京太郎「確かパンフレットによるともう結構な年齢なんで、ある程度、くすんできてるのかもしれませんね」
小蒔「もうおじいちゃんなんですね…」
初美「そう思うとああやって板の上に伏せてる姿もなんだか哀愁を感じさせるのですよー」
初美「定年退職して孫も中々来てくれないおじいさんと言うかなんというか…」
京太郎「やめてください、なんだかそうとしか思えなくなってきたじゃないですか…!」
霞「ふふ、でも、ここのライオンはなんだか仲が良いみたいよ、ほら」
メスライオン「」ペロペロ
オスライオン「…」サレルガママ
京太郎「アレってやっぱりいちゃついてるんでしょうか?」
巴「どうかしら?ただの毛づくろいなのかもしれないけど仲が良さそうなのは伝わってくるわね」
小蒔「きっと長年ずっと一緒にいてもラブラブなんですよ」ニコニコ
京太郎「ある意味、夫婦としては理想の形ですよね」
霞「えぇ。ちょっと憧れちゃうわよね」
初美「へぇ…霞ちゃんでもああいうのに憧れる事ってあるんですね」
霞「どういう意味なのかしら、それ…」
初美「いや、どっちかって言うと霞ちゃんは夫を尻に敷くタイプだと思うので」
京太郎「あぁ」ポン
巴「なるほど…」
霞「ち、違います。ちゃんと夫は立てますから!」カァ
霞「と言うか、そっちの二人も納得しないでよ、もぅ」ムゥ
京太郎「はは。それより、ほら、オスライオンの方も毛づくろいはじめましたよ」
オスライオン「」ペロペロ
小蒔「心なしかメスライオンの方も目を閉じて幸せそうに見えますね」
メスライオン「~♪」
巴「私達には分からないけど、きっと気持ち良いんでしょうね」
小蒔「気持ち良いんですか?じゃあ、ちょっと試してみましょう!」
霞「え?」
小蒔「京太郎君、私の事舐めてください!」
京太郎「こ、小蒔さん?」
小蒔「ライオンさんみたいにペロってすれば、きっとライオンさんの気持ちも分かると思うんです!」ムフー
初美「あぁ…姫様が自慢気に瞳を輝かせているのですよー…」
巴「きっと名案を思いついたつもりなのね…」
京太郎「い、いや…流石にそれは色々とまずいんじゃないですかね?」
京太郎「って言うか、初美さんや巴さんも止めてくださいよ…!」
初美「キスとかなら京太郎君を殴ってでも止めますが、舐めるだけならまぁ、良いんじゃないですかね?」
京太郎「いや そのりくつは おかしい」
巴「一応、これでも京太郎君なら変なところを舐めたりしないって信じてるから」メソラシ
京太郎「…そのセリフをこっちを見て言ってくれていたらまだ信じられる余地もあったかもしれないんですけどね」トオイメ
霞「ハッ…」
初美「あ、霞ちゃんが再起動したのですよー」
霞「だ、ダメよ。小蒔ちゃん、そんなはしたない事言ったら」
小蒔「え?はしたないんですか?」
霞「えぇ。女の子は簡単に殿方に対して触って欲しいとかそういうのを言うべきじゃないわ」
小蒔「でも、私が言ったのは舐めて欲しいなんですけど…」
霞「も、もっとダメなの…!」カァ
霞「そ、そんな事言って京太郎君があんなところやこんなところを舐めちゃったらどうするの…?」
小蒔「あんなところ?」
初美「こんなところですかー?」ニヤニヤ
霞「な、何よ…?」
初美「霞ちゃんのむっつりー」ニヤニヤ
霞「な…っ!ち、違います!私はごくごく当然の事しか言ってません!!」カァァ
霞「と、ともかく、私の目が黒い内はそういうはしたない真似はダメですからね!」
小蒔「はーい…」シュン
初美「大丈夫ですよ、姫様」
初美「後で霞ちゃんがいない間にこそっとやっちゃえば良いのですー」
霞「…聞こえてるわよ、初美ちゃん」ゴゴゴ
初美「ま、まぁ、冗談はさておき…ほら、そう言ってる間にライオンがじゃれはじめたですよー」
京太郎「厚いガラス越しですが、アレだけデカイ生き物がじゃれると迫力がありますね」
小蒔「でも、なんだか可愛らしいです」
巴「私もさっきのアムールトラよりは怖くないわね」
霞「目つきもライオンの方が優しい感じだしね」
小蒔「きっと優しい王様なんですよ!」ニコニコ
京太郎「んじゃ、トラは叩き上げであがってきた将軍とかですか」
初美「おぉ、なんだかそれっぽいのですよー」
霞「あの目つきの鋭さは本当に凄かったものね…って」
オスライオン「」キャッキャ
メスライオン「」…イラッ
小蒔「…アレ?なんだかじゃれあいが激しくなってますか?」
巴「喧嘩とはまた違う感じでしょうけど…」
京太郎「と言うか、少しずつオスとメスの間に温度差が出てるような?」
初美「オスの方だけエキサイトしてるんですかね?」
霞「え、エキサイト…」カァ
初美「…言っときますけどそういう意味じゃないですよー?」
霞「わ、分かってるわよ…!」
メスライオン「」ベシッ
小蒔「はわっ」
オスライオン「!?」ビックリ
初美「おぉっと、ついに伝家の宝刀、右ストレートがオスの頬に刺さったー!」
京太郎「これは精神的にも肉体的にも痛い!!」
初美「じゃれあってると思っていたところからのマジ拒否ですからね。これは中々、立ち直れないんじゃないでしょうかー?」
初美「その辺、解説の巴ちゃんはどう思うですかー?」
巴「え、わ、私!?」
巴「え、えっと…殴られた所為かオスの方が距離を取って…ちょっと可哀想かしら…」
初美「はい。毒にも薬にもならないコメントをありがとうなのですよー」
巴「こ、これで何か面白い事を言えって方が無茶でしょ…!?」
小蒔「でも、オスライオンさんちょっと可哀想です…」
京太郎「尻尾もぶらーんってして本気で凹んでいるみたいですしね」
霞「あの大きな身体や鬣が心なしか小さく見えるくらいだもの。よっぽど落ち込んでいるんじゃないかしら」
巴「…」ウズウズ
初美「あぁっ!巴ちゃんのダメ男センサーが反応してるですよー」
巴「し、してません!」カァ
霞「…しかし、さっきからオスの方は完全にメスから顔を背けてるわね」
京太郎「なんかこう…今のであの二匹の力関係が分かった気がします」
初美「私はさっき霞ちゃんが憧れると言っていた意味も分かったのですよー」
霞「ち、違うわよ。まさかあの二匹があんな関係だなんて私、全然、思ってなかったんだから」
初美「いいえ、そんな事はないのですよー」
初美「巴ちゃんが類まれなるダメ男センサーを装備しているように霞ちゃんも間違いなくあの二匹の関係をセンサーで察知してたに違いないのですよー」
霞「私にそんなセンサーなんてありません!」
巴「わ、私だってそんな装備なんてしてないんだから!」
京太郎「まぁ、どんな世界でも、男は中々、女には頭が上がらないって事ですね」
初美「思いっきり尻に敷かれそうな京太郎君が言うと説得力があるのですよー」
京太郎「う…そんなイメージがあるんですか、俺」
初美「少なくとも亭主関白でない事だけは確かですねー」
霞「寧ろ、優しすぎて強く言えなさそうよね」
巴「色々と気を遣った結果、喧嘩とか出来ない京太郎君の姿が容易く想像出来るわ」ウンウン
京太郎「くそぅ…こういう時だけ一致団結しやがって…!」フルフル
小蒔「あ、メスライオンさんがオスライオンさんに近づいていってますよ!」
霞「本当ね。何をするのかしら?」
初美「追撃じゃないですかー?」
巴「あぁ。お小遣い三割カットとか?」
京太郎「喧嘩しただけでお小遣いカットとか横暴過ぎじゃないですか…」
初美「ふふーん。乙女心が分からない男には当然の報いなのですよー」
メスライオン「」ソッ
霞「ってそうやって話している間にメスライオンが寄り添って来たわね」
京太郎「相変わらずオスは目線を逸らしてるままですけどね」
巴「よっぽど居心地が悪いのね、きっと…」
小蒔「でも、メスライオンさんも何処かぎこちない感じです」
霞「流石にちょっとやりすぎたと思ったのかしら?」
京太郎「でも、謝るにはキッカケが足りないって感じに見えますね」
小蒔「…頑張って、メスライオンさん」グッ
メスライオン「」チラッ
オスライオン「……」メソラシ
メスライオン「……」ペロペロ
京太郎「…きっともう大丈夫ですね」
霞「そうね。どういう意味かは分からないけれど仲直りしたいって気持ちは凄く伝わってくるわ」
巴「オスの方も嫌そうではありませんし、仲直りは成功したと思っていいと思います」ニコ
小蒔「…良いなぁ」
初美「今度はペロペロしたいんですかー?」
京太郎「え゛っ」
小蒔「うーん…それもありますけど」
霞「あるの…?」
小蒔「それより私もあんな風に喧嘩してもすぐに仲直り出来るような仲の良い夫婦になれるかなって…」チラッ
京太郎「ん?」
霞「…大丈夫よ、小蒔ちゃんなら」
小蒔「そう…でしょうか?」
霞「えぇ。小蒔ちゃんは悪いと思ったらすぐに謝れる子だから」
霞「小蒔ちゃんに謝られて、それでも意地を張るような人は滅多にいないわ」
霞「…そうよね、京太郎君?」
京太郎「え…?あぁ、そうですね」
京太郎「俺だったら小蒔さんに謝られるだけで何でも許しちゃいますよ」
京太郎「と言うか、それ以前に喧嘩した時点から申し訳なくってこっちから謝りに行くと思います」
初美「…やっぱり完全に尻に敷かれるじゃないですかー」ボソッ
京太郎「仕方ないじゃないですか…小蒔さんの泣き顔とか想像しただけでも胸が痛くなるレベルなんですから…」メソラシ
小蒔「…そうですか。えへへ…そうですか」ニコー
京太郎「はい。きっと小蒔さんなら素敵な夫婦になれますよ」
小蒔「はい。頑張りますっ」グッ
巴「ふふ…じゃあ、そろそろ次へと行きましょうか」
小蒔「そうですね。ライオンさんも仲直り出来たみたいで一安心ですし」
初美「…ちなみに京太郎君?」
京太郎「はい?」
初美「ライオンは少数のオスを中心に群れを作る生き物なのですよー」
初美「そして狩りはメスの仕事ではありますが、決してオスの仕事がないって訳じゃないのですー」
初美「オスはオスで他のオスと縄張り争いをしたり、メスを護る為に戦ったりするのですよー」
京太郎「へぇ…なるほど…」
初美「…だから、京太郎君にライオンを渡した姫様も実は期待してると思うのですー」
京太郎「え?何をですか?」
初美「ふふ、まだまだ秘密なのですよー」
初美「でも、今日の会話、ちゃんと覚えていてくださいね」
初美「姫様の為にも…そして京太郎君の為にも…」
京太郎「はぁ…」
INゴリラ
京太郎「なんですか、このデカイドーム状の建物は…」
初美「お、中には木が生えてたり、草が生えてたりするですよー」
霞「上の方にはロープなんかがぶら下がってるけど…下の方はザ・森って感じの環境ね」
巴「パンフレットによるとココはゴリラのエリアみたいね」
小蒔「ゴリラさんですか…!?」パァ
霞「なんだか重量級の生き物が続くわね」
京太郎「まぁ、もうちょっとしたら触れ合いパークみたいですし、小動物にはこれから先逢えますよ」
初美「ペンギンは流石にこれから先は出てこないでしょうけどねー」ニヤリ
霞「べ、別にペンギンさんに会いたいからこういう事言ってるんじゃないわよ…?」メソラシ
巴「ふふ。まぁ、この動物園は入り口がひとつだけ見たいですから帰りにまたペンギンを見に行きましょう」
霞「……ぅん」カァ
京太郎「にしても…このドーム、ホント大きいですよね。ゾウのところの2,3倍はありますよ」
霞「そうね。まぁ、飼育数から考えるとこれくらいのスペースは必要なんでしょう」
巴「中には十体近くいますからね」
小蒔「小さい子もいますよー」
京太郎「小さい…と言っても、大人のアカゲサルくらいはあるんですけどね」
霞「周りの大人が凄く大きいから相対的に小さく見えるけど、あの小さい子でも結構な大きさよね」
京太郎「0.8…いや、0.7初美さんくらいですか」
初美「だから、人を単位にするんじゃねぇですよー!」ゲシシ
京太郎「いてて」
小蒔「ふふ、でも、こっちのゴリラさん達は元気ですね」
京太郎「まぁ、ドーム状で覆われてますし、ある程度、冷房とか効いてるんじゃないでしょうか?」
初美「むむむ。ゴリラの癖に生意気なのですよー」
霞「何がむむむですか。と言うか人間の我儘で生息域からこっちに移してるんだからそれくらい当然でしょ」
巴「まぁ、これまで殆どの展示が野外に出てたからちょっと特別感は否めないけれどね」
京太郎「それだけ繊細な生き物なんですよ、きっと」
小蒔「そうですね。ゴリラさんは見かけは怖いけど、とても優しい生き物だって聞きますし!」
霞「小蒔ちゃん、多分、京太郎君が言っているのはそういう意味じゃないと思うわ」
小蒔「え?」
京太郎「はは。でも、優しいのは本当でしょうね」
京太郎「ほら、小さいゴリラが遊んで遊んでって大きな大人に飛びかかってますし」
小蒔「わぁ…甘えているのがすっごく分かります!」
ゴリラ「」キャッキャ
巴「心なしか顔も笑ってるように見える所為ですかね?」
京太郎「かもしれませんね。にしても…ゴリラって笑うんですね」
初美「笑うという行為は本来攻撃的なものであり 獣が牙をむく行為が原点であるって話は嘘っぱちだったのですね」
霞「まぁ、あくまでそういう説もあるってくらいじゃないかしら、良く分からないけど」
京太郎「でも、こうやって笑いながら楽しそうにプロレスごっこしてるのを見ると、やっぱり笑顔っていうのは特別だと思いますね」
霞「ぷ、プロレスごっこ…!?」カァ
初美「はいはい。そこで反応するのは流石にちょっとむっつりが過ぎると思うのですよー」
霞「はぅ…」プシュゥ
小蒔「???」
霞「そ、それよりほら、子どもが大人を追いかけ始めたわ」
小蒔「今度は鬼ごっこですかね?」ワクワク
京太郎「かもしれませんね。にしても器用に避けるなぁ」
巴「あの大きな身体で地面に転がってる倒木やらをひょいひょい避けていくものね」
初美「京太郎君より俊敏かもしれないですよー」
京太郎「時折、後ろも振り返って待ったりしてますし、アレが本気って訳じゃないでしょうしね」
京太郎「正直、森の中で出会ったら逃げ切る自信がないです」
小蒔「大丈夫ですよ!ゴリラさんは人を襲ったりしませんから!」ニコ
京太郎「はは。まぁ、こうやって子どもと遊んでる姿を見ると本当にそう思いますね」
霞「えぇ。大きくて見た目も怖そうに見えるけど、こうやって遊んでる姿を見ると休日のお父さんって感じね」クスッ
初美「大人のゴリラも楽しそうにしてるから、どちらかと言えば自分の趣味に子どもを巻き込んでる父親のようにも見えるのですー」
京太郎「あぁ、子供向けの遊びで子どもよりも必死になる大人とかいますもんね」
巴「ふふ、でも、そうやって子どもの心を忘れないのはとっても素敵だと思うわ」
初美「んー私はちょっとノーセンキューですね。子どもが出来たらちょっとは落ち着いて欲しいのですよー」
霞「子どもとコミュニケーションを取れないよりも健全だと思うから私は子どもが大きくなるまでは全然オッケーだと思うけど…」
京太郎「(…心なしか肩身がすげぇ狭い気がする…!)」
京太郎「ほ、ほら、寝てる奴もいますよ。あっちとか…」
初美「アレは寝てるって言うより横になっているだけな気がするのですよー」
京太郎「あ、本当だ。良く見ればなんか動いてますね」
巴「こっちにお尻を向けているから良く分からないけど、手に持ってるのは蔓かしら?」
霞「距離があるから確かではないけれど…蔓を地面に叩きつけて遊んでいるのかしら?」
初美「アレは間違いなくメスなのですよー」
小蒔「え、どうしてですか?」
初美「勿論、女王さm」 霞「それ以上言ったらご飯抜きの期間をさらに延ばすからね?」
初美「な、何でもないのですよー」フルフル
小蒔「???」
京太郎「それよりも小蒔さん、あそこ見て下さい」
チビゴリラ「」ヒョコッ
小蒔「え?…あ、さっきの寝転んでるゴリラさんのところから小さいゴリラさんが!」パァ
巴「きっとあのゴリラの子どもなんでしょう」
小蒔「さっき蔓を揺らしてたのもきっとあの小さい子をあやしてたんですね」ウンウン
霞「でも、ゴリラの赤ちゃんって体毛がはっきり黒って感じじゃないのね」
小蒔「確かに…他のゴリラと比べると茶色掛かっているような気がします」
京太郎「きっとまだ生まれたばっかりで毛が生え変わってないんでしょう」
巴「これから成長するに至って毛も黒くなっていくと思います」
初美「にしても、大人の小型犬くらいの大きさしかないんですねー」
京太郎「毛も薄いんでゴリラってよりはチンパンジーに近いような気がします」
小蒔「あんな小さい子が、これからいっぱいご飯を食べて大きくなっていくんですね…」
京太郎「そう思うとなんだかちょっと生命の神秘的なものを感じますね」
巴「正直、あの小さい赤ちゃんが他のゴリラみたいになるところが想像出来ないくらいだものね」
初美「私は京太郎君が赤ちゃんだった頃も中々、想像がつかないのですよー」
初美「正直、今のままの姿でポンと出てきたとしても驚かないのですー」
京太郎「いや、俺にだって赤ん坊だった時期くらいありますって」
巴「ふふ、子どもの頃の京太郎君ってヤンチャで可愛かったんでしょうね」クスッ
初美「それがこんなにでかくて可愛げのない男になるなんて…現実は非情なのですよー」
京太郎「まぁ、男なんて言うのはそんな生き物ですし」
京太郎「つか、逆にこの年で可愛げなんてもんがあったら逆にやばいでしょう」
初美「確かに自立心とかなさそうであんまり関わりあいになりたくないタイプかもしれないのですー」
巴「え…そうかしら…?そういう人に甘えられるのも良いと思うけど…」
初美「……これは年上としての忠告ですが巴ちゃんみたいな女の子に捕まっちゃダメですよー」
京太郎「肝に銘じておきます」
巴「な、なんでよ…!?」
京太郎「って、アレ?んな事話している間に一匹いなくなってないですか?」
霞「あら、本当…さっきの赤ちゃんゴリラ見てて気づかなかったわ」
小蒔「えっと…さっき鬼ごっこしてた子が見えませんね」
初美「まさか…誘拐!?」
小蒔「はわわ、大変です…!!」
巴「あぁ、それならさっき飼育員の人が奥に連れて行ってましたよ」
京太郎「飼育員の人が?」
小蒔「一体、何なんでしょう?」
京太郎「もうそろそろ夏で蚊も増えてきますし、予防接種とかじゃないですかね?」
巴「お昼も近いからちょっと早いお昼ご飯なのかも」
霞「それならあの子一匹だけじゃなくて他のゴリラにも一気にあげると思うわ」
初美「でも、こうやって話している間にお腹も空いてきたのですよー」
霞「それじゃあ、ちょっと早いけれど私達もお昼ご飯にしますか」
巴「そうですね。私もそれが良いと思います」ワクワク
初美「巴ちゃん…そんなに食べたかったですかー?」ニヤ
巴「ち、違うわよ。あんまり長い間、放っておくと折角、京太郎君が作ってくれたタコスが傷んじゃうから」ワタワタ
京太郎「はは。そうやって楽しみにしてもらえると作った側としては光栄ですよ」
巴「はぅ」カァ
京太郎「んじゃ、そろそろここ離れてベンチを探しましょうか」
小蒔「はい!ってアレ?」
京太郎「どうしました?」
小蒔「あそこ、自動ドアじゃないですか?」
霞「あら、本当。何かの展示かしら?」
初美「ゴリラのドームの裏側に入り口があるって事はきっとゴリラ関係の展示なのですよー」
京太郎「どうします?」
小蒔「折角ですし、私は見たいですけど…」チラッ
巴「私は大丈夫ですよ。まだまだお腹が空いてるって訳じゃないですから」
小蒔「巴ちゃん、ありがとうございます!」ニコー
巴「いえいえ」クスッ
霞「じゃあ、入ってみましょうか」
スイー
霞「あら、涼しい…」
京太郎「中には冷房掛かってるんですね」
初美「飼育舎の中も見れるみたいですし、早めにこっちに来ても良かったかもしれないのですよー」
霞「まぁ、流石に表側のドーム部分よりスペースも少ないし、中にいるのも一匹だけだけどね」
京太郎「でも、なんでこのゴリラだけ隔離されているんでしょう?」
巴「もしかしたら体調が悪いのかしら…?」
小蒔「病気なんですか?」
初美「でも、普通に地面に横になって寝転んでますし、あんまり病気っぽくは見えないのですよー」
京太郎「あ、横にもう一個、別の檻がありますよ」
巴「ん…でも、中には誰もいないわね…」
初美「一体、何のための場所なんでしょうね、ココ」
霞「隣の飼育舎よりもさらに狭いし…周りは格子で囲まれてるし…少なくとも飼育用のスペースじゃない事だけは確かかしら?」
初美「上にある格子状の通路は恐らく動物を移動させる為のものだと思うんですけどね」
京太郎「って事は格子の先にパソコンやら訳の分からない機械やらはその移動してきた動物に使うんですか?」
初美「実はお仕置きに使ったりとか…」
小蒔「そ、そんな…!!」ガーン
霞「そんなのはありません」キッパリ
巴「まぁ、例えあったとしてもそのシーンを観光客に見せたりはしないでしょう」
小蒔「良かった…」ホッ
小蒔「…でも、それはそれでこの部屋の謎がさらに深まったって事ですよね?」ウーン
霞「そういう事ね…一体、何のための部屋なのかしら…」ウーン
小蒔「あ、霞ちゃん、ほら!!」
霞「え?」
小蒔「上の通路からゴリラさんがやってきました!」パァ
巴「大人ってほどでもなく、赤ちゃんほど小さい訳でもない…さっき飼育員に連れて行かれた子かしら」
京太郎「実際、格子で出来た通路の外に後ろに飼育員らしき人がついてますね」
初美「やっぱりお仕置き部屋なのですよー…」
小蒔「あわわわ」フルフル
霞「…もしお仕置き部屋なら真っ先に初美ちゃんをあの部屋に連れ込まなきゃいけないわね」ポソッ
初美「じょ、冗談なのですよー!」フルフル
京太郎「はは。まぁ、ゴリラの方も別に怖がったりせず進んでますし、別にお仕置きとかじゃないと思いますよ」
小蒔「ほ、本当ですか?」
京太郎「えぇ。それよりほら、ゴリラの子が通路から降りてきますよ」
小蒔「わぁ…手と足の四本を器用に使って格子を掴んでますね」
霞「人が木を滑り降りるのとは違って、4つでしっかり身体を保持して降りていってるわ」
初美「まだ大人ってほど大きくなくても人間なんかとは比べ物にならないくらい力持ちなのですよー」
小蒔「京太郎君とどっちが力持ちなんでしょう?」ワクワク
京太郎「流石に一人の男として子どものゴリラには負けてるとは言いたくはないですね…」
初美「じゃあ、大人のゴリラには?」
京太郎「絶対無理です」キッパリ
初美「このヘタレめ、なのですよー」
京太郎「いや、マジで無理ですって。体つきからして全然、違いますもん」
霞「ふふ。まぁ、ゴリラは林檎を握りつぶす事も出来るくらい握力があるって言うものね」
小蒔「って事はゴリラさんとは握手出来ないんですか…!?」ガーン
巴「大丈夫ですよ。さっき子ども相手にやっていたようにゴリラも手加減してくれるでしょうし」
小蒔「それなら安心です!」ニコー
初美「まぁ、そもそもゴリラと握手出来るような距離に近づくのは難しいのですよー」
京太郎「こっちでもガラスに覆われて完全防御ですしね」
小蒔「ふれあい広場は…」
京太郎「うーん…流石に無理じゃないでしょうか…」
小蒔「しょんぼりです…」シュン
霞「その代わり、ここで沢山、堪能して帰りましょう」
小蒔「そうですね!…でも、ここで何をやるんでしょう?」
巴「こうして話している間にゴリラの子は床に降りているけれど…」
京太郎「飼育員の方はパソコンを弄ってますね。あ、なんか広げて格子に近づけてる」
霞「画面は消えてるけど…アレはタッチパネルかしら?」
小蒔「たっちぱねる?」キョトン
初美「まぁ、みてれば分かるのですよー」
巴「あ、タッチパネルがついたわ」
京太郎「って…なんだ?1から4までの数字が画面に出てるだけ?」
初美「お、それに向かってゴリラが近づいていったのですよー」
小蒔「何をするんでしょう?ってあ…」
ゴリラ「」…ジィ
ゴリラ「」ポチポチ
京太郎「お?」
初美「え?」
小蒔「わぁ…!」
ゴリラ「」ポチポチ
霞「…凄いわね」
巴「まさか1から4を数字順に押していくなんて…」
初美「ぶっちゃけゴリラにそんな事出来ると思ってなかったのですよー」
京太郎「同じくです。舐めてた…いや、無礼ってましたね」
霞「そうね。知能が高いのは知ってたけど…まさかここまで出来るとは思ってなかったから」
初美「普段、勉強しているのかもしれないけど見てからの判断も早かったですしねー」
巴「子どもであれなら大人なら足し算引き算くらいは余裕でできちゃいそうね」
初美「もしかしたら京太郎君よりも頭が良いかもしれないのですよー」
京太郎「初美さんよりも、の間違いじゃないですか?」
初美「ほぅ…京太郎君の癖に良い度胸なのですよー!」
京太郎「じゃあ、数Ⅱの練習問題で勝負しますか?」
初美「ぐ…!自分が現役で習っている分野に引き込むなんて卑怯なのですよー」
京太郎「じゃあ、小学生レベルの算数でも良いですけど」
初美「こ、今回ばかりは勝ちを譲ってあげるのですよー」メソラシ
巴「はっちゃん…」フゥ
霞「…これは帰ったら復習の為にお勉強会が必要かしら?」
初美「な、何が悲しくて学校卒業したのに勉強しなきゃいけないんですかー!!」
霞「だって、このままじゃはっちゃん、ゴリラに負けるわよ?」
初美「幾ら私でも足し算と引き算くらいは出来るのですよー…?」
小蒔「凄い凄い凄い凄いです!!」パァ
初美「ほら!それよりもあまりの凄さに沈黙してた姫様が再起動しましたよ!!」
京太郎「まぁ、話はちょっとズレましたけど、ゴリラは初美さんより凄いって事ですね」ウンウン
初美「後で覚えてろですよー…!」フルフル
霞「でも、今のでわかったわね。ここはお仕置き部屋なんかじゃなくて勉強部屋だったのよ」
巴「大人しく勉強するなんてやっぱりあのゴリラははっちゃんよりも賢いのね」クスッ
初美「と、巴ちゃんまで…」
小蒔「あ、でも、パソコンの側にあった謎の機械から何か降りてきてますよ」
京太郎「アレは…パン?」
霞「ん…透明なチューブを転がっていくって事は固形物だと思うけど…正体までは分からないわね…」
巴「でも、それがチューブを通って格子の中に入っていくって事は…」
ゴリラ「~♪」パクッ
京太郎「あ、食べた」
霞「なるほど…きっとアレ目当てで勉強してるのね」
初美「私だってご褒美があれば勉強出来るですよー。猿渡さん!」
霞「誰よ、猿渡って…。じゃあ、ちゃんと帰ってから勉強した初美ちゃんには…」
初美「私には?」ワクワク
霞「ご飯抜きを3日に縮めてあげるわね」ニコッ
初美「それマジで言ってたんですかー…」フルフル
小蒔「ほら!見てください!次の問題が始まってますよ!」
京太郎「おぉ…これもガンガン正解していきますね」
巴「さっきのはまぐれでも何でもなかったって事ね、凄いわ」ウンウン
京太郎「にしても…今はもうゴリラがタッチパネルを使う時代なんですね」
初美「未だにガラケー使ってる京太郎君よりもゴリラの方が進んでいるのですよー」
京太郎「ぐ…否定出来ない…!!」
霞「まぁ、それを言ったら私達なんて携帯そのものを持たせてもらってないけどね」
初美「持ってても殆ど使えませんしねー…」
巴「基本、電波の山の中で生活してますから。あんまり魅力も感じないですし…」
小蒔「そもそもタッチパネルってなんですか?」
京太郎「あぁ、ああやって画面に触れる事でボタンを介さずに操作出来るパネルの事ですよ」
小蒔「ほえー…良く分かりませんけどハイカラですね」
京太郎「ハイカラ?」
小蒔「あれ、違いますっけ…?」キョトン
巴「…姫様、それ多分、ハイテクの間違いじゃないですか?」
小蒔「!あ…は、ハイテクですね!」カァ
京太郎「ふふ、そうですね。ハイテクです」クスッ
初美「あ、画面の数字が1から5に増えたですよー!」
霞「きっとああやって少しずつ難しくしていってレベルアップさせていくのね」
ゴリラ「…」ウーン
巴「でも、そのちょっとずつっていうのはあくまで人間の感覚なんでしょうね」
巴「さっきは殆ど考えたりしていなかったのに今は指が止まっていますし」
初美「私達からすればまったく知らない国の言葉で数字を見せられているようなものでしょうしね」
初美「ああやって指が止まるのも当然だと思うのですよー」
京太郎「お、でも、動き出しましたね」
ゴリラ「」ポチポチ ビー
小蒔「あ…」
京太郎「間違っちゃったかぁ」
ゴリラ「(´・ω・`)」クルッ
巴「か…可愛い…!」
霞「わざわざこっちに振り向いて落ち込んだ顔を見せるとか…」
京太郎「中々、サービス精神旺盛なゴリラですね」
初美「不覚にもちょっとドキッとしたのですよー…」
霞「あ、また始まったわね」
小蒔「今回は正解出来るでしょうか…?」ドキドキ
京太郎「どうでしょう…1から4までが分かっているなら大丈夫だと思いますが…」
巴「頑張って…!」グッ
ゴリラ「」ポチポチ
小蒔「もうちょっとです!ゴリラさん…!」
ゴリラ「」ポチポチ
京太郎「お、今度は正解したみたいですね」
小蒔「良かったぁ…」ホッ
巴「なんだか自分のこと以上に緊張しちゃったかも…」フゥ
ゴリラ「」パァ
霞「ふふ、随分、嬉しそうに食べてるわね」
京太郎「さっき食べられなかった分、喜びも一入って事でしょう」
巴「ああやって嬉しそうに食べているのを見るとこっちも嬉しくなりますね」
小蒔「はい!幸せそうなゴリラさんが見れてよかったです!」
京太郎「でも、流石に1から5になると難しいんでしょうね」
霞「そうね。さっきから何回かチャレンジしてるけどミスも目立つようになってきたから」
巴「やっぱりまだ小さい子だからちゃんと数字の意味を判別出来ていないのかもしれませんね…」
初美「ふふーん。やっぱり私の方が賢いのですよー」ドヤァ
京太郎「ゴリラに勝ってドヤ顔する18歳って…」
初美「さっき京太郎君や巴ちゃんが思いっきり弄るのが悪いのですー!」ムゥ
霞「はいはい。喧嘩しないの」
ビー
ゴリラ「(´・ω・`)」クルッ
巴「ほら、初美ちゃんが騒ぐから集中力かき乱されて失敗しちゃったじゃないの」
初美「わ、私の所為ですかー…?」コゴエ
京太郎「って言うか、やっぱり失敗するとこっち振り向くんですね」
小蒔「見ちゃった?みたいな感じで可愛いですよね」クスッ
巴「もしかしたら今のはちょっと調子が悪かっただけって言い訳してるのかも」フフッ
霞「どちらにせよ、なんだか応援してあげたくなる子である事に間違いはないわね」
小蒔「そうですね!よし、皆で頑張って応援しましょう!」ググッ
巴「頑張ってー!」
小蒔「頑張ってーです!!」
京太郎「ってこれは…」
初美「ミスがまだ消えきっていないところでタッチパネルに1から6の数字が…!!」
京太郎「飼育員は間違いなくドSですね…」
霞「まぁ、失敗なくして成功はありえないって事なんでしょうけれど…」
巴「ご褒美アリのトレーニングでこれはちょっと可哀想かしら…?」
小蒔「ゴリラさん…」ギュッ
ゴリラ「」ムゥ
京太郎「あ、長考に入りましたね…」
初美「さっきのようにミスはしまいとするゴリラの本気を感じるのですよー」
巴「大丈夫…貴方ならきっと出来るはず…!」グッ
京太郎「お、動き出した…!」
ゴリラ「」ポチポチ ビー
小蒔「あぁ…」
巴「ダメだったのね…」
ゴリラ「(´・ω・`)」クルッ
京太郎「心なしかさっきよりも落ち込んでいるように見えますね…」
巴「そうやって落ち込むくらい頑張ったんだもの。貴方は悪く無いわ」フルフル
小蒔「大丈夫です!もっかいリベンジしましょう!」ググッ
― 数分後 ―
ゴリラ「」キョロキョロ コテン
京太郎「…あ」
霞「…さっきから失敗続きでついに飽きちゃったのかしら…」
初美「床に寝転がってふて寝してる感じですし…拗ねてるのかもしれないのですよー」
巴「そんなところも可愛い…けど、ちょっと可哀想かしら」
京太郎「頑張ってたのがこっちまで伝わってきてたくらいでしたしねー…」
ゴリラ「」ユラ
霞「…あれ?」
初美「どうしたですかー?」
霞「いえ、さっきあの子が通ってきた通路からもう一匹来てるわ」
小蒔「え?」
巴「アレは…」
デデンデンデデン
ゴリラ「」ノッシノッシ
京太郎「さっき一緒に遊んでたゴリラですかね?」
小蒔「どうなんでしょう…?あんまりじっと見てた訳じゃありませんし…」
初美「でも、なんだかさっきよりも迫力を感じる気がするのですよー」
霞「そもそも何をしに来たのかしら?」
巴「さっきの子と同じようにトレーニングでしょうか?」
初美「でも、まだ前の子がいるのにもう次のゴリラを入れるものですか?」
巴「うーん…言われてみればそうね…」
ゴリラ「…」ユッサユッサ
京太郎「おぉ、降りてきた」
霞「あの格子、数百キロはありそうな巨体のゴリラでも普通に支えられるのね…」
巴「暴れだしたりする可能性も考えれば、それくらい頑丈じゃないと飼育員が危険なのかもしれません」
京太郎「さっきののんびりとした様子を見る限り、よっぽどの事がない限り、ゴリラは暴れたりしないと思いますけど…」
初美「ゴリラの力が凄いのはこうして見てるだけではっきり分かるくらいですしね。飼育員の安全の為には仕方ないのですー」
初美「って、そう言ってる間に降りてきたですよー」
ゴリラ「」ペシ
小蒔「そして軽く寝転んでる方のゴリラさんを軽く叩いてますね」
京太郎「…目の前で光ってるタッチパネルがそのままな所為か、宿題をやれ、と急かされているような…」
初美「間違いなく急かされる側だったであろう京太郎君が言うと凄い説得力があるのですよー」
京太郎「いえいえ、初美さんには負けますよ」ハハハ
霞「はいはい。いちゃつくのはそこまでにして頂戴」
霞「それより小さい方のゴリラが起きたわよ」
小蒔「もしかして…またやる気になってくれたんでしょうか?」
巴「それなら良いんですけど…」
小ゴリラ「」クルッ
ゴリラ「」ジィ
京太郎「すっごい見てますね」
巴「無言の圧力って奴かしら…?」
初美「まるで霞ちゃんみたいなのですよー」
霞「どういう意味かしら…?」ゴゴ
霞「ってあら、小さい方のゴリラが…」
小ゴリラ「」ポチポチ
小蒔「わぁっ!」パァ
京太郎「またチャレンジし始めましたね」
巴「きっとさっきのは諦めるなって励ましてたのね」
初美「私にはやらなかったらご飯抜きと脅されているように見えたのですよー」チラッ
霞「…だから、どうしてそこで私を見るのかしら?」ドドド
京太郎「まぁまぁ。それより小さいゴリラを応援しましょうよ」
霞「…そうね。折角、またやる気になったんだもの」
霞「見てる私達も応援してあげなきゃね」
小蒔「頑張ってください、ゴリラさん…!」グッ
小ゴリラ「」ポチポチポチ コロコロ
小ゴリラ「~♪」パクッ
京太郎「…おぉ…!」
初美「ついに6まで出来るようになったのですよー!」
小蒔「良かったです…本当に良かったです」ウンウン
巴「ちょっと感動しちゃった…」
霞「ふふ、応援してた甲斐もあったって事ね」
京太郎「にしても、さっきは失敗続きだったのに、なんでいきなり出来るようになったんでしょう?」
初美「まぁ、1から5が出来るって事は6までいけても不思議じゃないですし、きっと元々、その実力があったのですよー」
小蒔「私はあの後ろのゴリラさんがいたからだと思います!」
巴「そうですね。私もあのゴリラが沢山、応援してくれていたんだと思います」
霞「今もジッと見ているけど、その目はとても優しいもんね」
京太郎「最初からせっつく為に来たんじゃなくて励ます為に来ていたのかもしれません」
小蒔「ゴリラさんはとっても優しい生き物ですからきっとそうですよ!」ニコー
小ゴリラ「」ポチポチ クルッ
小ゴリラ「(`・ω・´)」ドヤァ
霞「なんだか安定して成功するようになってきたけれど…どうして一々、振り返るのかしら」クスッ
巴「まるで後ろのゴリラに対して、自慢してるみたいですよね。とっても可愛い」フフッ
京太郎「こうやって見てると小学校の頃を思い出しますね」
小蒔「小学校の頃ですか?」
京太郎「えぇ。小学校の授業参観って気合入れて問題に答えた後、一々、親に振り返る奴とかいませんでした?」
京太郎「と言うか、俺がそのタイプで良く叱られてたんですけど」ハハッ
小蒔「授業…参観…」ウツムキ
京太郎「…あ」
京太郎「(また辛そうな顔…)」
京太郎「(俺はまた小蒔さんの地雷を踏んでしまったのか…)」
京太郎「(あぁ…くそ…何をやってるんだよ、俺は…!)」
京太郎「(今日は小蒔さんの為に動物園に来てるんだろ)」
京太郎「(そんな人を悲しませるなんて本末転倒も良いところじゃねぇか…!)」グッ
小蒔「私は…あの…」シュン
京太郎「(って自分の事を責めてる場合じゃねぇ…!今は小蒔さんの事をフォローしないと…!)」
京太郎「(でも…なんて言えば良い?)」
京太郎「(ここでゴメンナサイなんて謝ったりしたら小蒔さんの方が気に病むだろうし…)」
京太郎「(何より、俺はまだ小蒔さんがなんでこんな風に表情を曇らせるかも分かってないんだ)」
京太郎「(そんな状態で謝ったって小蒔さんに失礼なだけだろう)」
京太郎「(かと言って、俺から話題を振った以上、ここで急に話題を変えるのも不自然過ぎる)」
京太郎「(いや…不自然さなんて気にしてる場合じゃないか…)」
京太郎「(小蒔さんが落ち込んでいる事で周囲の雰囲気もちょっとぎこちなくなっている)」
京太郎「(こうなったのも俺の責任なんだ。多少、道化になってでもこれをどうにかしないと…!)」
初美「……」
初美「巴ちゃん、そろそろお腹空いてないですかー?」
巴「え?い、いや、まだ大丈夫よ、全然行けるんだから!」
初美「いやいや、お腹空いているはずですよー。だって、巴ちゃんですし」チラッ
巴「勝手に人を食いしん坊キャラにしないでくれるかしら…?」
巴「……まぁ、でも、お腹減っていないと言ったら嘘になるけれどね」
巴「霞さんもどうですか?」チラッ
霞「…えぇ。私もちょっとお腹が空いてきちゃった」
霞「だから、ゴリラの事も気になるけど、そろそろお昼にしないかしら?」
小蒔「…はい」
京太郎「そう…ですね」
巴「ふぅ…やっぱり外に出ると暑いわね…」
初美「冷房の効いた建物の中が早くも恋しくなってきたのですよー」
霞「入った時から比べてさらに日差しが強くなってきたものね…」
初美「おっ。おあつらえ向きに屋根のついたベンチと机があるのですよー」
霞「園内の飲食スペースって事かしら?それじゃ近くに自販機もあるはずよね」
巴「じゃあ、ちょっと飲み物でも買ってきますか」
京太郎「あ、じゃあ、俺が…」
初美「ダメですよー」
京太郎「えっ…」
初美「京太郎君はここで姫様と場所取りをしているのですー」
京太郎「いや…でも…」
初美「それとも何ですかー?京太郎君はか弱い姫様を一人にするって言うのですかー?」ジトー
京太郎「い、いや…違いますけど…」
初美「じゃあ、京太郎君はここで姫様の事を護っているのですよー。良いですね?」
京太郎「…はい」
京太郎「(あー…これ完璧、気を遣われてるよなぁ…)」
京太郎「(おどけたり調子に乗る事も多いけど、初美さんはそれ以上に人の心に機微に敏感な人だ)」
京太郎「(さっきだって俺に対して助け舟を出してくれたし、俺と小蒔さんがギクシャクしそうだってのもお見通しなんだろう)」
京太郎「(そんな初美さんがこうして俺と小蒔さんを二人っきりにしたって事は…今の間に仲直りしろって事なんだろうけど…)」チラッ
小蒔「……」シュン
京太郎「(…正直、どうやって切り出したものなのか、まったく分からない…!)」
京太郎「(いや、勿論、俺から何か言わなきゃいけないって事くらい分かるんだ)」
京太郎「(俺は男だし、何より事の発端は俺の方なんだから)」
京太郎「(それを解決するのも俺の方からじゃないといけない…って気持ちはあるんだけど…)」
京太郎「(はたしてどうやって切り出したものか…いや、そもそも本当にそれをほじくり返して良いのかも判断がつかない…)」
京太郎「(情けない事に…あぁ、本当に情けない事に…俺は小蒔さんがさっきから何に対して反応しているのかも今一、良く分かってないんだ)」
京太郎「(下手に俺から切り出して小蒔さんをまた傷つけてしまったら目も当てられないし…)」
小蒔「あの…」
京太郎「は、はい!」ビクッ
小蒔「京太郎君…一つ聞いて…良いですか?」
京太郎「え、えぇ。どうぞ!俺に応えられる事なら何でもお答えします!」
小蒔「ありがとうございます。それじゃあ…えっと…その」モジ
小蒔「お、お母さん…」
京太郎「…え?」
小蒔「お母さんやお父さんって…やっぱり…素敵なものなんでしょうか?」オソルオソル
小蒔「私…物心ついた頃からずっと乳母に育てられてきたものですから…」
小蒔「あんまりそういう事分からなくて…」シュン
小蒔「だから…京太郎君さえ良ければ…教えて欲しいんです」
小蒔「お母さんって…やっぱり暖かくて…優しいものなんでしょうか?」
小蒔「お父さんって…やっぱり厳しくて…でも、頼もしいものなんでしょうか?」
京太郎「小蒔さん…」
京太郎「(…あぁ、そうか。…そういう事だったのか)」
京太郎「(小蒔さんは母親の事とかまったく知らないんだ)」
京太郎「(思い出してみれば…母親とか父親って単語が出てきた時、小蒔さんは会話に殆ど参加してなかった)」
京太郎「(代わりに飼育されている動物をジッと見つめて…羨ましそうにしていた)」
京太郎「(それは動物に夢中になっていたからじゃなくって…知らないからこそ…そういった話に参加出来なかっただけなんだ)」
京太郎「(あぁ…くそ…胸が痛い)」
京太郎「(そんな簡単な事に気づけなかった自分の愚かさに対してもそうだけど…)」
京太郎「(何より、小蒔さんがとても純真で心の綺麗な人だからこそ…大事なものを教えてもらえなかった事が)」
京太郎「(そして、それを知らないと言う事をコンプレックスにしている事が…とても痛ましくて…)」
小蒔「やっぱり…迷惑な質問だったでしょうか?」シュン
京太郎「え?」
小蒔「すみません…さっきの質問、忘れてください…」
京太郎「小蒔さん…」
京太郎「(…そんな小蒔さんに俺が出来る事)」
京太郎「(それはきっと…俺が知る母親に対してのイメージを語る事なんだろう)」
京太郎「(勿論…それは俺にとって決して容易い事じゃない)」
京太郎「(母親の事を語るなんて男として気恥ずかしいし…何より母親は…俺の事を捨てたかもしれないんだから)」
京太郎「(正直、ずっと目を逸らしてきた思い出に目を向けるのは辛い)」
京太郎「…嫌です」
小蒔「え?」
京太郎「ようやく小蒔さんが俺に甘えてくれたのに見て見ぬフリをするなんて絶対に嫌です」
京太郎「(…でも、ここで何も言わないなんて出来るはずないだろ)」
京太郎「(確かに親の事を思い出すのは苦しい事かもしれない)」
京太郎「(でも…俺にとっては小蒔さんを悲しませる事の方がもっと辛い)」
京太郎「(彼女が何時ものようにニッコリと笑ってくれない方が、俺はもっと苦しい)」
京太郎「(さっきまでのように…何処か無理した笑顔なんてもう見たくないんだ)」
京太郎「(だから…俺は…)」スゥ
京太郎「……まぁ、あくまでうちの親は…という前置きが入りますけれども」
京太郎「基本的には優しい人でしたね」
京太郎「うちの母親は何時もニコニコしてて、怒ったところなんて滅多に想像出来ないような人でした」
京太郎「オヤジの事も大好きで、俺がいなくなった隙を狙って抱きついたりキスなんかもしてましたね」
小蒔「わわ」カァ
京太郎「専業主婦ってのもあると思いますが、炊事洗濯掃除も得意で、咲…えっと幼馴染も良く料理を習いに来てましたよ」
京太郎「『俺の家の味を盗むんだ!』みたいな事言って意気込む程度には美味かったと思います」
京太郎「ただ、怒った時はすげぇ怖いんですよね」
小蒔「え…?怖いんですか?」
京太郎「そりゃもう。俺はオヤジに怒られたところで屁でもなかったですけど母親に怒られるのは絶対に嫌でしたよ」
京太郎「笑顔はそのままに迫力だけ増して、淡々と正論だけを述べてくる感じですからね」
京太郎「しかも、それが底冷えするように冷たいのなんのって…もう聞いてるだけでも身体が固まってしまいそうなくらいです」
小蒔「そ、そんなに恐ろしい人なんですか…」フルフル
京太郎「説教される度に蛇に睨まれたカエルの気分が分かるくらいですしね」
京太郎「オヤジもその状態の母親には敵わなくて、タジタジになっていましたし」
京太郎「まぁ、俺もオヤジもそんな母親が怖いと言いながらも数えきれないくらい怒られてきたんですけどね」
小蒔「ふふ、でも…きっと京太郎君の家庭はきっと皆、仲が良いんですね」
小蒔「こうしてお話を聞いているだけで仲良しさんなのが伝わってくるようです」
京太郎「…」
小蒔「…京太郎君?」
京太郎「あ、いや…なんでもないです」フルフル
京太郎「(…ばか。下手な事考えるんじゃねぇよ)」
京太郎「(今は小蒔さんの事が最優先だろうが)」
京太郎「(仲良しだって言われて胸が痛い、なんて全部が終わってからようやく言える言葉だろ)」
京太郎「そうですね。反抗期めいたものは俺にもありましたけど、基本的に家族仲は良かったと思いますよ」
京太郎「高校に入っても、普通にオヤジと一緒に悪戯して二人並んで母親に怒られた事もありましたし」
小蒔「お父様と悪戯したんですか?」
京太郎「えぇ。うちのオヤジは落ち着きって言葉をどこかに置いてきたような奴だったんで」
京太郎「俺を誘って母親に悪戯を仕掛ける事なんてしょっちゅうでしたね」
小蒔「子どもの心を忘れない人だったんですね」クスッ
京太郎「いやー…アレは子どもって言うよりも、俺以上に悪ガキだったと思いますよ」
京太郎「しかも、好きな子に悪戯したいタイプの」
小蒔「ふふ、それじゃあ京太郎君のお父様もお母様の事が大好きだったんですね」ニコ
京太郎「まぁ、俺くらいデカイ子どもがいても月に一回はデート行くくらいですし…夫婦仲もかなり良いんでしょうね」
京太郎「年頃の息子としちゃ色々と複雑でしたけど」
小蒔「え?どういう事ですか?」
京太郎「あー…まぁ、親があんまり仲が良いとこう居心地が悪いって言うか…」
小蒔「???」キョトン
京太郎「こう…なんて言うんでしょうかね。三人組のグループの中で一人だけ取り残された感覚と言うか…」
京太郎「親の中に男とか女の部分が残っている事に凄い反発めいた気持ちを覚えると言うか…」
小蒔「うーん…良く分かりません…」
京太郎「ですよね…正直、俺も良く分かっていませんし」
京太郎「まぁ、でも…夫婦仲が悪いって言うよりは良かったと俺も思いますよ」
京太郎「実際…それで取り残されて嫌な思いをしてた奴の事を見てましたから」
小蒔「京太郎君…」
京太郎「って話が脱線しましたね」
京太郎「ともかく…俺にとっての両親ってのはそういうものでした」
京太郎「思うところがない訳じゃありませんでしたが…基本的に良い関係だったと思います」
京太郎「小蒔さんが言うように暖かいとか素敵だとかは分かりませんけれど…」
京太郎「でも…その関係は決して嫌なものじゃありませんでしたから」
小蒔「そうですか…」
小蒔「…ありがとうございます、京太郎君」
小蒔「色々と参考になりました」ニコッ
京太郎「いえ、どういたしまして」
京太郎「(…と言ったものの…だ)」
京太郎「(…正直、まだ何も解決しちゃいないよな)」
京太郎「(小蒔さんは親という言葉に対してコンプレックスにも似た羨望を抱いている)」
京太郎「(それが解消されない限り、彼女のぎこちない笑みはまだ続くだろう)」
京太郎「(親子でいる動物は間違いなくこれから先にもいるんだから)」
京太郎「(それらを見る度にきっと小蒔さんは一人コンプレックスに思い悩むんだろう)」
京太郎「(…それを俺なら何とか出来る…なんて思い上がった事を考えている訳じゃない)」
京太郎「(いや…きっと小蒔さんが落ち込んでいた理由を正確に把握出来なかった俺には何も出来ないんだろう)」
京太郎「(…だけどさ。だけど…)」
京太郎「(…ここで踏み込まなきゃ…一体、何時踏み込むんだよ)」
京太郎「(初美さんにだって言われただろ、踏み込んで行けって)」
京太郎「(今は…間違いなくその時だ)」
京太郎「(無神経かもしれないけど…今の俺はそう思うから…)」
京太郎「小蒔さんは…」
小蒔「え?」
京太郎「小蒔さんの両親はどうしているんですか?」
小蒔「…私の両親は…」
京太郎「あ、も、もし言いづらい事だったら言わなくても大丈夫ですよ。ちょっと気になっただけですから」
京太郎「(…お、俺のヘタレ…!)」
京太郎「(これじゃさっきの初美さんのセリフを否定出来ないな…)」
小蒔「…いえ、大丈夫です」フルフル
小蒔「お父様は神代家の頭首としての日々を忙しく過ごしていて…お母様もそんなお父様のお手伝いがありますから」
小蒔「正直…私も殆ど会った事がないんです」
小蒔「一年にほんの数回…神代の巫女でなければいけない神事の時に顔を合わせるくらいで…」
京太郎「それだけ…ですか?」
小蒔「……はい。それだけです」
小蒔「…だから、私、お父様の顔もお母様の顔も…正確に思い出す事が出来ません」
小蒔「きっとお二人もそうなんでしょう」
小蒔「…そんな私達が家族だ…なんて言ったら…京太郎君に失礼かもしれませんね」
京太郎「…っ!」
京太郎「…どうしてですか」
小蒔「…え?」
京太郎「どうしてそんな…酷い事になってるんですか」
京太郎「別に忙しくても娘に会う事くらい出来るはずです」
京太郎「どれだけ忙しくっても一緒に暮らせない訳じゃないでしょう…!?」
小蒔「…それは…私が神代の巫女ですから」
京太郎「神代の…巫女…?」
小蒔「…神代の巫女は生まれた時から強力な力を持っています」
小蒔「しかし、赤ちゃんにそんな力を制御出来るはずがありません」
小蒔「何より、生まれたばかりの神代の巫女は悪霊や悪神の類にとって喉から手が出るほど欲しいものです」
小蒔「ですから、赤ちゃんは徹底的に穢れを排除した神境へと移され、力が制御出来るようになるまでそこで育てられるのです」
京太郎「でも…小蒔さんはこうして外に出てきてるじゃないですか」
京太郎「つまり…もう力を制御出来るって事なんでしょう?」
小蒔「……七年です」
京太郎「…え?」
小蒔「…私は力が制御出来るようになった七歳まで神境から一歩も外に出た事がありません」
小蒔「いえ…それどころか…穢れてしまうからとお母様やお父様にも会わせて貰えませんでした」
小蒔「初めてお父様とお母様に会ったのは神代の巫女としての役目を継いだ七歳の時です」
京太郎「そんな…じゃあ…」
小蒔「はい。…だから、無理なんです」
小蒔「七年も離れていて…その間に大きくなった子どもを自分の娘と思うなんて…出来るはず…ないんです」グッ
京太郎「……」
京太郎「(違う…とそう言ってあげたかった)」
京太郎「(きっと二人も小蒔さんの事を大事に思っているはずだって…そう言いたかった)」
京太郎「(…だけど、その言葉に一体、どれだけの説得力があるだろうか?)」
京太郎「(俺は小蒔さんの両親の事を何も知らない)」
京太郎「(神代家の風習の事もまだ知らない事ばっかりだ)」
京太郎「(そんな俺が何を言っても…きっと小蒔さんの胸には響かない)」
京太郎「(俺の言葉に暗い過去を思い出し、俯いている彼女を元気づける事は出来ないだろう)」
京太郎「(だけど…)」
京太郎「でも…小蒔さんは違うんですよね」
小蒔「え…?」
京太郎「さっき小蒔さんは言いました」
京太郎「七年も離れて大きくなった子どもを自分の子どもと思うなんて出来るはずないって」
京太郎「でも…小蒔さんは自分の事には触れませんでした」
京太郎「それは…自分は違ったからじゃないですか?」
小蒔「っ…!」
京太郎「自分の両親と会える事を…自分を受け入れて貰える事を」
京太郎「本当の家族のように過ごせるようになる事を…小蒔さんは望んでいたんじゃないですか?」
小蒔「…はい。そう…です」
小蒔「私…楽しみに…していました」
小蒔「勿論、乳母の方は優しかったですし…大好きでしたけど…」
小蒔「でも、絵本の中では違ったんです」
小蒔「どんな絵本も赤ちゃんと一緒にいるのはお父さんとお母さん…」
小蒔「だけど…私のお父様もお母様も側にはいてくれなくて…だから…」
小蒔「ずっと…ずっと楽しみだったんです」ポロッ
小蒔「会ったらきっと…抱きしめて貰えるんだって…」
小蒔「絵本の中みたいに暖かくて…素敵な家族になれるんだって…」
小蒔「そう…思っていた…のに…」
小蒔「私…抱きしめても…手を握ってさえも貰えなくて…」
小蒔「ただ気まずそうに目を逸らされて…逃げ…られて…」グスッ
小蒔「捨てられ…ちゃったんです…私…」
小蒔「あのお猿さんの赤ちゃんとは違って…迎えに来て…貰えなかったんです…っ」ギュッ
京太郎「…小蒔さん…」
京太郎「(…そうか。小蒔さんのコンプレックスにも似た羨望を抱いた原因は…それなのか)」
京太郎「(ただ、親がいないんじゃなくて…親に捨てられてしまった子ども)」
京太郎「(放置され…迎えに来てもらえなかったと言う気持ちが…今の彼女の心を曇らせている)」
京太郎「(勿論…理屈では小蒔さんも分かっているんだろう)」
京太郎「(七年も離れていて今更、親子関係を修復なんか出来ないって)」
京太郎「(それを仕方ないと思いながらも…でも、彼女はその願いを…そしてそこから生まれる羨望を断ち切れちゃいない)」
京太郎「(…そんな彼女の心を晴らすだけの言葉が俺の中にはあるだろうか?)」
京太郎「(…いや、そんなものあるはずがないんだ)」
京太郎「(これまで平穏に暮らして…小蒔さんにも踏み込まなかった臆病者に…)」
京太郎「(彼女の心を救ってあげられる…魔法のような言葉が思いつくはずがない)」
京太郎「(だけど…それでも…今の俺が小蒔さんに対して何も言えないって訳じゃないんだ)」
小蒔「だから…私…私…」
京太郎「…でも、小蒔さんには絵本に負けないくらい素敵なお姉さん達がいるじゃないですか」
小蒔「…え?」
京太郎「俺は知ってますよ、霞さんがどれだけ小蒔さんの事を思っているか」
京太郎「巴さんがどれだけ小蒔さんの事を大事にしているのか」
京太郎「初美さんがどれだけ小蒔さんの事を気にかけているか」
京太郎「…小蒔さんには確かに親はいないかもしれません」
京太郎「ですが、小蒔さんは決して貴女が憧れているような暖かいものを知らない訳じゃありませんよ」
京太郎「いえ…寧ろ、普通の人よりも遥かにそれを知っているんだと俺はそう思います」
京太郎「小蒔さんとずっと一緒に暮らしてきた…血の繋がらない…でも、しっかりとした絆で結ばれた家族から伝えられているはずです」
小蒔「京太郎君…」
京太郎「…皆は小蒔さんのイメージする親とはまた違うのかもしれません」
京太郎「実際、しっかりしてるように見える霞さんだって結構、抜けてるところがありますしね」
小蒔「ふふ…そんな事言ってたら怒られちゃいますよ」
京太郎「今は飲み物を買いに行ってるから良いんです」
京太郎「ま…それよりも俺が言いたいのはですね」
京太郎「小蒔さんの側にあるものは貴女が憧れている家族に負けないくらい素敵なものだって事です」
京太郎「小蒔さんは…そうは思いませんか?」
小蒔「…いいえ」フルフル
小蒔「いいえ。そんな事はありません」
小蒔「私の側にいてくれる皆は…とってもとっても素敵で…暖かい人です…!」ニコ
京太郎「まぁ、だからと言っても親に甘えたくなる時って言うのはあると思います」
京太郎「小蒔さん自身が親に人並み以上の強い思いを抱いているのは今までで十分伝わってきていますから」
京太郎「でも、そういう時はそんな暖かい人たちにもっと甘えてしまえば良いんですよ」
小蒔「でも…ご迷惑じゃないでしょうか…?」
京太郎「俺の見る限り、小蒔さんに甘えてもらえて嫌がるような人はお屋敷にはいないと思いますよ」
京太郎「寧ろ、霞さん辺りなら喜んで甘やかしてしまいそうな気がします」
京太郎「それでも何となく気が引ける…と言うんでしたら俺に甘えてください」
小蒔「京太郎君に…ですか?」
京太郎「えぇ。俺はほら、幸か不幸か、両方ともイケる口なんで…」メソラシ
小蒔「あぁ、京子ちゃんモードがありますもんね」ポン
京太郎「う…まぁ、あんまりあるとは言いたくはないんですけど…そういう事です」
京太郎「(…まぁ、ぶっちゃけ俺に父性とか求められても困るけどな!!)」
京太郎「(実際、俺の仲の父親像って決める時は決めるってタイプじゃなく、ただの悪ガキだし)」
京太郎「(せめて葉巻と黒スーツが似合いそうなダンディなオヤジだったらまだ格好良い父親にもなれたかもしれないけど)」
京太郎「(…でも、こうやって踏み込んだ以上、他の人にまかせてはい、さよなら、なんて出来ないよな)」
京太郎「(父親っぽく振る舞うなんて恥ずかしいし…母親っぽく振る舞うのはさらにその上を行くけれど)」
京太郎「(でも、正直、京子になりきってる時点でその辺はもう慣れてしまった)」
京太郎「(小蒔さんのコンプレックスだってさっきので全部、解決した訳じゃないんだから…俺に出来る事はやっていかないと)」
小蒔「じゃあ…あの…一つ…良いですか?」オソルオソル
京太郎「えぇ。何でも言ってください」
小蒔「それじゃ…えっと…その…」モジモジ
小蒔「…頭…撫でて貰って良いですか?」
京太郎「……」
小蒔「…ダメ…ですか?」シュン
京太郎「あ、いや、ダメなんて事はないんですけど…」
京太郎「…正直、もっと凄い事を要求されると思ったんで」
小蒔「凄い事ですか?」
京太郎「高い高いとか肩車とか…」
小蒔「え、良いんですか!?」パァ
京太郎「ま、まぁ、その辺はまた今度…と言うか他に人がいない時にしましょう」
京太郎「(…霞さん辺りに見られたらまたお説教コースだろうしな…)」
小蒔「えへへ…楽しみです」ニコー
京太郎「その代わり、高い高いとか肩車とかする事は皆には内緒ですよ」
小蒔「はい。二人だけの秘密ですね…!」オクチチャック
京太郎「えぇ。二人だけの秘密です」クスッ
小蒔「それで…あの…」モジモジ
京太郎「(ってそうだ。小蒔さんのオーダーを忘れてた)」
京太郎「(えっと…でも、流石に何時もみたいに撫でるだけってのは…きっと小蒔さんも求めてないよな)」
京太郎「(ここは父親らしく…いや、葉巻スーツでシルクハット、胸元にはスカーフ巻いてそうなダンディなOYAJIのイメージで…)」
京太郎「…はは。大丈夫だよ、小蒔」ダンディボイス
京太郎「決して忘れた訳じゃないからね」ナデナデ
小蒔「っ!?」パァ
京太郎「(あ、意外と好評らしい)」
小蒔「お、お父様…私…私…」
京太郎「…どうかしたのか、小蒔。焦らなくても良いから言ってみなさい」
京太郎「大丈夫。私は何処にも逃げないからね」
小蒔「お父様ぁ…っ」ダキッ
京太郎「っ!」
京太郎「(ふぉおおおおお!お胸が!小蒔さんのお胸様が!!)」
京太郎「(今日は暑くて薄着だから余計に強調されてるお胸様が押し付けられて!!ふにょんって!フルフルって!!)」
京太郎「(その上、完全に腕でガッチリホールドされて…小蒔さんの柔らかさが身体全体にいいい!?)」
京太郎「(だ、だが…狼狽えない!!)」
京太郎「(そう…今の俺は健全な男子高校生でも、健全な女子高生でもない!)」
京太郎「(今の俺は理想のオヤジ!そして何より葉巻スーツでシルクハット、胸元にはスカーフ巻いてそうなダンディな英国紳士!!)」
京太郎「(英国紳士は狼狽えない!!少なくとも娘に抱きつかれた程度で変な声なんかあげたりしない!!)」
京太郎「(だ、だから、ここで俺がするべきは…!!)」
京太郎「はは。いきなり抱きついてくるなんて本当に小蒔は甘えん坊だね」ダンディボイス
小蒔「お父様…っ」パァ
京太郎「そんなに嫌な事でもあったのかい?」ナデナデ
小蒔「…いいえ、お父様。その逆ですよ」
小蒔「私…今日、良い事ばっかりです」ニコー
小蒔「霞ちゃん達と動物園に来て…沢山の動物さんを見て…」
小蒔「それだけでも幸せなのに…こうしてお父様が出来たんですから」ギュー
京太郎「はは。それは小蒔が今まで良い子にしてたからさ」
小蒔「いえ…私なんてそんな…」
京太郎「いいや、私は知っているよ。小蒔がどれだけ優しくて良い子なのかもね」
京太郎「だから、今は思いっきり甘えて良いんだよ」
京太郎「今まで甘えさせてあげられなかった分、これからは沢山、甘えさせてあげるからね」ナデナデ
小蒔「…~っ!…はいっ」ニコー
小蒔「私…今、とっても幸せです…お父様…っ」スリスリ
京太郎「ふふ。それなら良かったよ」
京太郎「娘の幸せは私の幸せでもあるからね」
京太郎「幸せそうな小蒔を見てると私も嬉しい」ダンディボイス
京太郎「(お、おおおおお落ち着け、落ち着くんだ、マイサン!!)」
京太郎「(幾ら小蒔さんがスリスリしてると言っても今は…今だけは反応するんじゃない!!)」
京太郎「(今の俺は完全無欠で絶対無敵な父親なんだ!!通りすがりのサラリーマンなんだ!!)」
京太郎「(そんな奴が娘に抱きつかれて勃起とか常識的に考える以前の問題だろ!!)」
京太郎「(ここは心を整えて、海のように広くて雄大な意識を…)」
京太郎「(…あぁ、でも、小蒔さん、マジ可愛いなぁ)」
京太郎「(よっぽど嬉しいのか目尻に涙ためてるし)」
京太郎「(俺が頭や背中を撫でる度に「はぁ…♪」とか「ふぅ…♪」とか幸せそうな声を出してくれる)」
京太郎「(その上、まるでマーキングするように頭をすり寄せて全身で俺の事を感じようとしてくれてるなんて…可愛過ぎだろ、もう)」デレデレ
小蒔「…お父様、どうかしたんですか?」
京太郎「あぁ、小蒔が可愛すぎてちょっとね」
小蒔「も、もう。お父様ったら」テレテレ
京太郎「(…でも、こんな可愛い子も何時かはお嫁に行くんだよな)」
京太郎「(つーか、初美さんに婚約者がいるって事は小蒔さんにも既に婚約者がいてもおかしくなくって…)」
京太郎「(…お、お父さんは許しませんよ!!!!!!!!)」
京太郎「(あぁ、いや、そうじゃなくって…うん。そうじゃないってば、俺!)」
小蒔「でも、皆、遅いですね」
京太郎「そうだなぁ…中々、自販機が見つからないのかもしれないね」
京太郎「(まぁ、この状況を見られるとまた説明が大変になりそうだから、小蒔さんが満足するまでは帰って来てもらうと困る訳だけど)」
小蒔「じゃあ…あの…今の間にもう一つ…良いですか?」
京太郎「ん?なんだい?」
小蒔「えっと…お父様、出来ればあっちを向いていて欲しいなって」モジ
京太郎「ん?あっち…?」クルッ
チュッ
京太郎「…え?」
小蒔「え、えへへ」テレテレ
京太郎「(…い、今の感触、それに…さっきの音…)」
京太郎「(触れた場所は頬だけど…い、今のって…)」
小蒔「お父様になってくれた京太郎君へのお礼です」カァ
小蒔「私のチューじゃ足りないかもしれないですけど…」
小蒔「そ、そんな事ないっす!全然ないっす!」
小蒔「そうですか…。良かった」ニコ
小蒔「私、昔からこうやってお父様に行ってらっしゃいのチューをするのが夢だったんです」
小蒔「だから…あの…京太郎君さえ嫌じゃなければ…これからもして良いですか?」ウワメヅカイ
京太郎「こ、光栄であります!」
京太郎「で、でも、小蒔さんは嫌じゃないんですか?」
小蒔「え?」
京太郎「いや、だって曲がりなりにも男にキスする訳ですし…」
小蒔「京太郎君は家族ですから、嫌なはずありませんよ」ニコー
京太郎「(…あぁ、うん。分かってた)」
京太郎「(いや、別に家族扱いが嫌って訳じゃないんだけどさ。ないんだけど…)」
京太郎「(完全にこれ男として意識されてないよな!!)」
京太郎「(勿論、父親として甘えて欲しいといった手前、それが残念とは言えないけど!けれども!!)」
京太郎「(…小蒔さんほどの美少女に完全に恋愛対象として度外視宣言されると若干クる物があるというか…)」フルフル
小蒔「それに京太郎君とこういう事するのも慣れておいた方が良いでしょうし」
京太郎「え?」
初美「そろそろギルティなのですよー!」ガサッ
霞「はーい。レッドカードよレッドカード」ガササッ
京太郎「ぬぉわ!?」ビックゥ
初美「ふぅ…まったく油断も隙も無いのですよー」
霞「本当ね…」ジトー
京太郎「い、いやぁ…何の事だかさっぱり…」メソラシ
巴「未だに姫様と抱き合ってる状態でとぼけても無意味だと思うわよ?」
京太郎「あ゛っ」ササッ
小蒔「あ…」シュン
初美「ほーんと、姫様と仲良しで羨ましいのですよー」ニヤニヤ
京太郎「う…い、いや、これは…その…なんというか成り行きで…」
霞「成り行きねぇ…?」
初美「自分から父親と思って欲しいみたいな事言っておいて成り行きとか酷い男なのですよー」ジトー
京太郎「う…い、何時から見てたんですか…?」
霞「さぁ?意外と抜けてるらしい私には何時から見てたとかさっぱりよ」ゴゴゴ
京太郎「い、いや、アレは場を和ませる為の小粋なジョークと言うかなんというか…」
霞「へぇ、なるほどねぇ。小粋なジョークだったの」ニコッ
京太郎「えぇ。そうなんです」ニ、ニコー
霞「じゃあ、私もちょぉぉぉっと京太郎君に小粋なジョークがあるから付き合ってくれるかしら?」ガッシィ
京太郎「ヒィ!!」
小蒔「あ、あの…霞ちゃん…」
霞「…大丈夫よ、小蒔ちゃん。別にお説教をする訳じゃないから」
小蒔「…本当ですか?」
霞「えぇ。だから、先に初美ちゃん達とお昼ご飯食べていて頂戴」
初美「ヒャッハー!タコスは戴きだー!なのですよー!!」
巴「こら、はっちゃん、お行儀が悪いわよ」ワクワク
初美「そう言いながら嬉しそうに包を開いてる巴ちゃんも大概だと思うのですよー」
巴「だ、だって、仕方ないじゃない…昨日からずっと楽しみだったんだから」カァ
霞「あ、私の分は置いておいてね」
初美「じゃあ、京太郎君の分は食べちゃっても良いですかー?」
霞「良いんじゃないかしら」ニコ
京太郎「良くないですよ!?」
巴「そうよ。そんなはしたない真似しちゃいけないわ」
巴「……でも、京太郎君の分がなくなれば一人一個ずつ増える計算なのね…」ゴクリ
京太郎「巴さん!?ちょ…と、巴さん!?」
初美「…これは仏心で言うのですが、早く言って帰ってきた方が良いと思うのですよー」
初美「じゃないと巴ちゃんが全部、食べかねないのですー」
巴「そ、そこまで食い意地張ってません!!」カァ
巴「…で、でも、出来るだけ早めに戻ってきてくれた方が…い、いやでも…」モジモジ
京太郎「全力でお話を終わらせて帰ってきます」
霞「はい。じゃあ、こっちに来てね」ズルズル
初美「どなどなどーなーどーなー」
京太郎「不吉な歌を歌うのはやめてくれませんか!?」
霞「まぁ、この辺りなら良いかしら」パッ
京太郎「ふぅ……で…霞さん…その…さっきのはですね」オズオズ
霞「…ふふ」
京太郎「え?」
霞「さっきも言ったでしょう。別に怒ってる訳じゃないって」
京太郎「アレは小蒔さんに変な心配をさせない為だと思ってました…」
霞「まぁ、それもないとは言わないけどね」
霞「それより私は感謝の気持ちの方が大きいから」
京太郎「え?」
霞「…私達もね、小蒔ちゃんが親に対してコンプレックスにも似たものを抱いているのは気づいていたの」
霞「でも、私達には何も出来なかった。…私達だって親元にいた時間はあんまり長くはないし…」
霞「何より、小蒔ちゃんは私達が親から引き離された理由を自分の所為だと思っている節があるから」
霞「だから…私達の前では遠慮してあんな事一度も漏らした事がなかったし…あまり踏み込めなかったの」
霞「だけど…それをさっき京太郎君が晴らしてくれた」
京太郎「いえ…俺はそんなに大した事は出来ちゃいませんよ」
京太郎「実際、小蒔さんのコンプレックスを解消出来た訳じゃないですし…俺が父親代わりになるってのもただの代替案でしかありません」
霞「それでも今までどうにもならなかったものを前に進めてくれたのは京太郎君よ」
霞「…ありがとう、本当に感謝してるわ。私だけじゃなく…他の二人も」
京太郎「…いえ、やっぱり俺は感謝されるほど立派な事をやっちゃいないですよ」
霞「もう…頑固なんだから」クスッ
京太郎「だって…そうやって小蒔さんが少し前へと進む事が出来たのは皆さんのお陰でもあるんですから」
霞「え?」
京太郎「小蒔さんが霞さん達にこんなにも愛されていなかったら、大事にされていなかったら」
京太郎「きっと小蒔さんはその事をずっと思い悩み、暗く沈んでいたでしょう」
京太郎「でも…俺の知る小蒔さんは決して暗い人なんかじゃありません」
京太郎「寧ろ、何時だって優しくて明るくて笑顔で…まるで太陽みたいな暖かい人です」
京太郎「そこには親の顔すら覚えていないなんて翳りは一切、ありません」
京太郎「今日、こうして動物園に来て…ようやく出てきたようなものです」
京太郎「それは小蒔さんが周りに気を使って明るく振舞っているって訳じゃなくて…それだけ皆から愛されているからでしょう」
京太郎「親なんていなくても心から幸せだって思えるこそ、小蒔さんは太陽のように暖かい『神代小蒔』でいられるんです」
京太郎「そんな小蒔さんじゃなかったら、俺だってあんな恥ずかしい事言えませんよ」
霞「ふふ。あんなに自然に小蒔って呼び捨てにしてたのにね?」クスッ
京太郎「ちょ、お、思い出させないでくださいよ…!」
霞「あら、結構、堂に入ってたわよ?京太郎君のお父さん」クスクス
京太郎「ぅー…そ、そういう風になるから小蒔さん以外の前でやるのは嫌だったんですよ…」カァ
霞「…でもね」
京太郎「え?」
霞「私はきっと小蒔ちゃんが小蒔ちゃんじゃなくても…貴方は同じように手を差し伸べていたと思うわ」
霞「何だかんだ言いながらも京太郎君は…いえ、須賀京太郎は困っている人を見捨てられない人だから」
霞「誰かが泣いている時、傷ついている時に、自分の恥なんて気にするような人じゃないもの」
京太郎「…買いかぶり過ぎですよ、俺だって格好良く見せたいって願望くらいありますし」
霞「その結果があの口調?」ニヤ
京太郎「も、もう…止めてくださいよ…!」
霞「嫌よ。だって、人のこと、抜けてる扱いしたんだもの」
霞「これくらい当然の権利です」スネー
京太郎「か、霞さぁん…」
霞「ふふ。まぁ、意地悪はここまでにしましょうか」
京太郎「ほっ。じゃあ、そろそろ昼飯に行きましょうか」
京太郎「このままじゃ初美さんと巴さんに全部、食べきられかねませんし」
霞「あら、まだやる事があるわよ?」ガシッ
京太郎「え゛っ!?」
霞「ねぇ、京太郎君。私は君の事をとても信用してるわ」
霞「最初は男の子って言う事もあったし警戒もしていたけれど…今は貴方が変な事をしないって信じてる」ニコッ
京太郎「こ、光栄です」
霞「だからこそ…聞かせて欲しいんだけど…」グッ
霞「…京太郎君、私達がいないところで肩車や高い高いをするってどういう事…?」ゴゴゴゴ
京太郎(完全に藪蛇だったーーーーーーー!?)」
京太郎「い、いや、それは…」
霞「ま、まさか姫様を肩車した後、バランスを崩したフリをして押し倒したりとかするつもりなんじゃ…!?」
京太郎「ち、違いますよ!」
霞「じゃあ、スカートの中に顔を突っ込んだりするつもり!?」
京太郎「どんなToLoveる展開ですか!?現実的に考えるまでもなくあり得ませんってば!!」
霞「じゃあ、小蒔ちゃんの胸の中に突っ込んだりとか…」
京太郎「……」
霞「…京太郎君?」ガシッ
京太郎「ちょ、違いますって!一瞬、ちょっと良いなって思っただけですから!!」
京太郎「別にやるつもりはまったくないです!ないですからベアクローは止めて!!止めてくださいたたたたたた!!!!!」
※この後、姫様が来るまで滅茶苦茶お説教された
Qまた霞さんオチかよ!!
A正直すまんかった
そんな訳で長々と書いていきましたが動物園デートは終わりです
本当はもっと色々書きたかったんですがコレ以上書くと長すぎると判断して断念
この年になって動物園に行くとは思ってなかったんですが、開園ちょっとしてから閉園間近までいるくらい楽しかったです
料金もびっくりするほど安いので暇つぶしにでも行ってみるのをオススメします(ステマ)
とりあえず今回の反省点としてはキャラと似た展開が多かった事
特に姫様のセリフは天然キャラを絡ませづらいってのもあったけど、似たもの多いです
申し訳ありません、次回からはちゃんとその辺、考えて書いていきます
と言うか次回のデート編は出来れば一人か二人に絞りたい…(切実)
おつー。
実際に動物園いったのか……ww
乙
ちゃんと動物園行ったのか…やけにリアルだと思ったら
乙です
>>881
小蒔が突然男口調になってるな
乙
動物園パートは正直ほとんど飛ばしてた
乙したー
こないだ家族+友人と動物園いったら下から覗ける檻で偶々トラの交尾を見ていたたまれない空気になっちゃったオレにはタイムリーなお話しでした
歳の離れた妹と動物園行って狐さんがヘコヘコしてて残念な気分になったな
平日に行って人気のない動物のところで愚痴るとすごくスッキリする
結構長い上に一つ一つの動物がきっちり書いてあってよかったです(小並感)
これまでモブに名前つけずに書き進めてきたけど流石にちょっと無理が出てきたので…
急募)生徒会長の名前
生徒会長っぽい名前か……
神宮さん
悠木 聖良
ゆうき せら
「○○院」みたいに三文字苗字だと名家感が出る予感。
ただし大豪院、テメーはダメだ。
花京院?
聖都 櫂だな
西郷 明佳
さいごう はるか
生徒会長子
家鷹 依子 けだか いこ
蒼海堂 舞(そうかいどう まい)
生徒会長か…
竹井
宮永咲
のアナグラムで永崎美也(ながさきみや)とか
平等院鳳子
>>902
体の大きさがコロコロ変わりそうな苗字ですね
鹿児島は祭事多いから
天田 祭
あまた まつり
>>910
咲「ジャンジャジャーン☆今明かされる衝撃の真実ゥ~」ってなりそうだからやめてください
にしてもお前らここぞとばかりに面白そうな名前を出しやがって…
そんなガチで考えられたら杜撰に扱えなくなるだろ!!
いや、ホントありがとうございます
まさかこんなに案を頂けるとは思ってなくてびっくりしました
今のところ>>900と>>901、>>902の案を混ぜた神宮院聖良か>>907の家鷹 依子が良いかなーと思っていますが、他の名前も凄い心惹かれるものがあります
なので前子、後子、右子のモブトリオにもこの中から名前を頂戴させてください
何時もこんなgdgdなスレについてきてくれているだけじゃなく名前まで考えて下さり本当にありがとうございます
次回はエルダー関係のラストにもなるので出来るだけ早く、また>>893の指摘されているようなミスがなくなるように頑張ります(´;ω;`)
期待…
了解ー
エルダーの元ネタから名前拝借組み合わせって形でも良かったかもね
乙です
遅レスなんですが、風牌を集めれるはっちゃんに流し満貫の手ほどき受けたらいいと思いました
明日には投下したい(願望
まってる
把握
待ってる…
きっと来る…
まだ見直し半分しか進んでないけれど眠気がマッハになってしまいました
明日には…明日には必ず投下しますのでもうしばしお待ちを…
了解
明日投下する(明日とは言ってない)
把握
投下します(血走った目で)
毎回、予定通りに投下出来なくてごめんなさい
出来上がった時に書き込んで次の日、見直ししてから投下って形にしてるのですが
最近、見直し中に展開を変える事が多くて…
出来るだけ予定通りに投下出来るよう頑張ります
―― どんな楽しい事だって、それを続けている事なんて出来ない。
その時間が終わった時、人はどうしても現実という大きな壁に立ち向かわなきゃいけないのだ。
そしてその壁は楽しかった時間が長ければ長いほど、楽しければ楽しいほどに徒労感としてのしかかってくる。
それはもう人が生きる上での宿命のようなものだ。
そんな事は俺にだって分かっている。
分かっている…けれども。
京子「…ふぅ」
春「大丈夫…?」
京子「…だいじょ…いえ…ちょっと憂鬱かしら…」
GWが明けてから、俺は本当に憂鬱で仕方がなかった。
勿論、GWそのものが色んなイベントに溢れていて楽しかったという事もある。
多くの人に出会って、支えられて、助けられて…少し前進する事が出来たって言う実感も大きいのだろう。
けれど、やっぱり一番は… ――
「ねぇ、見て…須賀京子さんよ」
「相変わらずお美しい方…」
「でも、今日はちょっと物憂げな感じかしら…」
「きっと今日がエルダーの発表日だから緊張なさっているのよ」
「なるほど…たった数ヶ月でここまで認められた須賀さんもやはり人の子だったという事なのですね」
「だからこそ、余計に親近感が湧いちゃいます」
…そう。
俺にとっては頭が痛い事に今日は永水女子で最も模範となるべき生徒 ―― エルダーシスターを決める投票兼結果発表の日なのだ。
半ば不可抗力のような形で巻き込まれた時に覚悟は決まっていたとは言え、それが目前に迫るとやっぱり精神的に辛い。
ましてや…エルダーの発表の為に、こうして体育館に向かっている最中ともなれば平然としているなんて不可能だった。
京子「(にしても…やっぱりエルダーの投票や発表って永水女子にとって大きなイベントなんだろうなぁ)」
GW明けから今日までに数日あったが、その間、校内の雰囲気は何処か浮ついたものだった。
まるでお祭を目前にしたような独特の雰囲気は、皆が今日と言う日を楽しみにしていたからだろう。
流石にお嬢様校だけあって授業中は皆静かだが、休み時間となると唐突にソワソワし始める。
今年のエルダーには誰がなるか、なんて話はこの数日で数えきれないほど聞いたくらいだ。
京子「(…つか、本来ならば俺もそうやって話をしてた側だと思うんだけどさ…)」
まかり間違って俺が開正出身だという噂が立たなければ、俺だって気楽に今日という日を迎える事が出来ただろう。
もしかしたら明星ちゃんをエルダーにする為に色々と手を尽くそうとしていたかもしれない。
だけど、ほんの少しズレてしまった歯車のお陰で俺の精神は今、憂鬱に沈んでいる。
既にやるべき事はやって、出た結果を聞くだけなのに、終わったと肯定的に捉える事すら出来ない。
春「…もうちょっとだけ頑張って」
京子「…えぇ。分かってるわ」
それでも何とか俺が堪えられているのは俺の隣に春がいてくれているからだろう。
励ますように俺の手を握ってくれる彼女の優しさが俺に意地を張るだけの気力を注いでくれている。
勿論、俺の憂鬱な気分全てを溶かすような強いものではないけれど、それでも十分だ
こうして俺を支えようとしてくれている女の子の前で情けないところは見せられない。
その気持ちだけで俺は【須賀京子】としてこの場に立つ事が出来る。
京子「ありがとうね。春ちゃん」
春「…構わない。それが私の仕事だから」
京子「あら…?春ちゃんが私の側にいてくれるのは仕事だからってだけなの?」
春「…そんな事ない。京子の事が大好きだから」ギュッ
京子「ふふ、私も春ちゃんの事大好きよ」
舞「はいはい。あんまりいちゃつかないでくださいまし」
祭「ホント、二人ともアツアツだよね」
明佳「いいなぁ…滝見さん」
その【須賀京子】の側にいるのは決して春だけじゃない。
入学してからの数ヶ月の間に出来た友人が俺の周りを護るように囲んでくれていた。
自称『須賀京子親衛隊』の彼女たちの存在にも俺はとても助けられている。
京子「(エルダーにならない為に色々と噂を流したからなぁ)」
明星ちゃんに頼んで流してもらった【須賀京子】としての醜聞の数々。
それを信じる人たちからの視線や囁きは俺も想定していたものだった。
けれど、幾ら想定していたとは言っても、自身に対する悪評にダメージを受けない訳じゃない。
流石に落ち込んだり登校拒否になったりするほどじゃないが、今まで以上に無遠慮な人々にストレスを感じていたのは事実だ。
京子「…我儘を言ってごめんなさいね」
だが、今はその視線や囁きをあまり強くは感じない。
それは俺の周りを護るように彼女達が並んでくれているからだろう。
明らかに集団として行動している俺達に向かって、軽蔑するような視線や下世話な話をするのは難しい。
何処か虎の威を借る狐のようで情けないけれど、彼女達がいなければ俺は今よりもずっと憂鬱だっただろう。
舞「あら、これくらい何でもありませんわ」
祭「そうそう。寧ろ、私達も京子と一緒に居たかったからね」
明佳「最近、一緒にいられなくて寂しかったです…」
そんな彼女たちの力を俺は今日まで借りる事が出来なかった。
勿論、彼女達は、噂の対象となった俺に対して今までに何度も手助けを申し出てくれている。
下手をすれば俺以上に無遠慮な噂に怒ってくれていた彼女達のその申し出を、しかし、俺は断るしかなかった。
それは依子さんの噂をかき消す為に仕方のなかったものではあるけれど、彼女達にとっては面白くない事だっただろう。
一応、こちらの目論見や事情 ―― 無論、当り障りのない程度にだが ―― は話してあるとは言っても、その我儘っぷりに軽蔑されてもおかしくはない。
舞「そうですわね。今までの分の埋め合わせはしてもらわなきゃいけません」
祭「あ、私、パフェが良いなぁ」
明佳「わ、私は京子さんと一緒にいられればそれで…」テレテレ
だけど、彼女達は軽蔑するどころか、用事があって俺と合流出来ない俺の事を代わりに護ってくれている。
お陰で周りの視線もそれほど気にならないし、賑やかす彼女たちのお陰で退屈もしない。
未だに俺と友人関係で繋がってくれている事もそうだが、こうして気遣ってくれる彼女達には言葉に尽くせないほど感謝している。
祭「いやいや、ここはデートって手もありですぞ?」
明佳「で、デートなんてそんな…」カァ
舞「あら、それも良いかもしれませんね」
祭「決まりね!よし!パフェやケーキ食べまくっちゃうぞー!」
京子「それってデートって言って良いのかしら…?」
明らかに俺そのものじゃなくて財布目的だよな!?
まぁ、それくらいで埋め合わせとしてくれるなら俺としちゃ有り難い話ではあるけれど。
今回の件には彼女たちにも色々と骨を折ってもらったり、迷惑や心配を掛けているんだから。
何かお礼をしなきゃいけないと思っていたところだし、提案そのものは渡りに船と言っても良い。
祭「細かい事言わないの。こぉんな可愛い女の子達侍らせて遊びに行くんだからデートだって、デート!」
京子「私、一応、女なんだけどね…?」
明佳「お、女の子同士でもデートになる時はなると思います!」ググッ
舞「ふふ、そうですわね。お互いに好き合っていればそれはきっとデートですわ」
祭「京子ちゃんは私達の事嫌いなのー?」
明佳「き、嫌いなんですか…?」シュン
舞「それはそれでショックですわね…?」チラッ
京子「あぁ、もう…大好きよ。皆の事も大好き」
京子「だから、私とデートしてください」
祭「えへへ。やった!」
明佳「京子さんとデート…えへへへ」ニコー
舞「そこまで言われては断るのも悪いですわね」クスッ
くそぅ…三人がかりとか卑怯じゃねぇか…。
まぁ、そうやって乗せられるのも決して嫌って訳じゃないけどさ。
こういう風にからかい混じりの話が出来るのもちゃんと友人関係が築けているからだろうし。
色々あってギクシャクしないか心配だったけど…どうやら大丈夫みたいで一安心ってところかな。
春「…私とはデートしてくれないの?」ギュッ
京子「え?」
春「この前は姫様たちとデートして…私は置いてけぼりだったのに…」
春「今回も私の事を置いていくの…?」ジィ
京子「う…」
祭「えー何それ初耳!」
明佳「姫様って…確か三年の神代さんですよね」
舞「そんな人とデートしてるなんて…やはり京子さんはTA☆RA☆SHIの才能が…」
京子「ありません」
春「…でも、姫様だけじゃなくって霞さんや巴さん…初美さんともデートしてた」ムゥ
祭「なん…」
舞「だと…ですわ…」
春「しかも、デートコースは動物園からアロマ教室…夕食食べてスーパー銭湯だったって…」
舞「あら、意外と庶民的なコースですわね」
祭「個人的には下手に堅苦しいところへ行くより高評価かなぁ」
明佳「京子さんらしいコースですね、良いなぁ…」
京子「一応、それは私が決めた訳じゃなくって全員の希望を出しあった結果なんだけどね」
まぁ、俺自身、この前のデートは楽しかったけどさ。
色んな動物を見るだけじゃなくてウサギやカメ、羊に触る事が出来た動物園。
アロマというまったく未知の分野に挑戦し、色んな事を知ったアロマ教室。
普段の身体の疲れを癒やし、ゲーセンや卓球で思いっきり遊んだスーパー銭湯。
もうGWが終わるっていう寂しさをまったく感じている余裕がないくらいあのデートは楽しかった。
舞「しかし、そういう事情ならば滝見さんも仲間ですわね」
祭「よーし。皆で京子ちゃんが悲鳴をあげるまでケーキ食べようね!」
春「…黒糖ケーキとかあるなら頑張る」
京子「そこは別に頑張らなくても良いのよ…?」
と言うか頑張らないでください、お願いします。
一応、霞さんに言えばその辺、嫌がらずにお金を出してくれるだろうけどさ。
あんまり額が大きくなりすぎると頼むのがちょっと心苦しくなるんだよ…!
霞さん達に言われて金銭的な面でも頼るようになったとは言え、諭吉さんクラスになると流石に辛い。
明佳「だ、大丈夫ですよ。皆さん、きっと分かっていると思いますし…」
祭「とりあえずケーキバイキングの類はなしにするとして…何処にしよう?」
舞「最近、市内の方に人気のケーキ店があるらしいですからそこにいたしませんか?」
春「そこってもしかして黒糖ケーキで話題になったところ…?」
舞「えぇ。お値段も一個1200円程度とお安めですから」
明佳「そうですね。それくらいなら、まぁ…」
京子「…それってホールケーキの値段ですか?」
明佳「え?」
舞「もう。京子さんったら冗談がお好きなんですのね」
祭「ホールケーキとか買おうと思ったら一万円は出さないと無理だよ」
京子「で、ですよね…」
そういやこの人たちお嬢様でしたっけ。
うん、俺と金銭感覚がかけ離れている事だけは良く分かった。
コレ下手したら諭吉さん一人…いや、二人でも足りないかもしれない…。
と言うか…ケーキ一個で1200円ってなんだよ…安いホールケーキ買えそうな額じゃねぇか…。
ファミレスで300円ちょっとのケーキしか食べた事のない俺にはちょっとついていけそうにないぞ…。
「京子さん」
京子「え?」
瞬間、俺の後ろから掛けられた声に振り向けば、見慣れた顔が目に入った。
この数週間の間、永水女子の中ではずっと側にあったと言っても過言ではないその顔は今、申し訳無さそうな色に染まっている。
それに思わず驚きの声をあげてしまった俺の前で生徒会長でもあり、エルダー候補でもあり、そして何より俺の友人でもある家鷹 依子さんはゆっくりと頭を下げた。
依子「ごめんなさいね。迎えに行けなくて」
京子「仕方ありませんよ。会場設営とか色々あるんですから」
エルダー選挙の開票や結果発表などは教員を中心とした選挙管理委員会が行っており、例え生徒会でもそこに入り込む余地はない。
とは言え、開票や司会進行以外の仕事は生徒会の雑務の範囲にあるらしく、昨日から彼女は随分と忙しそうにしていた。
そんな依子さんが俺を迎えに来られるはずがないって分かってたし、俺も特に気にしてはいなかったんだけどな。
けど、こうして目を伏せて謝罪する辺り、彼女自身が思いの外、気にしていたのだろう。
京子「それよりもこっちに来て大丈夫なのですか?」
依子「勿論ですわ。会場の設営は滞り無く終わり、最終チェックも済みましたから」
依子「それで今からでも京子さんのお迎えにあがろうかと思ったのですけれど…」
そこでチラリと俺の方を見るのは周りを取り囲む『須賀京子親衛隊』の皆や春に遠慮しているのかもしれない。
俺たちそのものは割りと仲が良い方ではあるが、俺達の関係者は必ずしもそういう訳ではないのだ。
俺は未だに依子さんの関係者からは蛇蝎のように嫌われているし、その逆もまた然り。
きっと彼女はそう思っているのだろう。
祭「折角、迎えに来てもらったんだし行ってきたらどう?」
舞「そうですわね。どの道、お二人は舞台袖の方へと行かなきゃいけない訳ですし」
明佳「私は…ちょっと寂しいですけど…でも、生徒会長であれば京子さんをお任せ出来ますから」
依子「皆さん…」
京子「ふふ。これも今まで依子さんが生徒会長として奉仕し、信頼を勝ち取ってきた証ですよ」クスッ
けれど、俺と彼女は前提条件からして違いすぎる。
まだ多くの人にとって得体のしれない転校生である俺とは違い、彼女はこの永水女子を支えてきた生徒会の長なのだ。
知名度は高いだけではなく、その仕事ぶりから多くの人に信頼を受けている。
今は不名誉な噂によってその信頼を揺らがせてはいるものの、全ての人が彼女の事を疑っている訳ではない。
少なくともここにいる三人にとって、依子さんは未だ信頼出来る生徒会長なのだ。
依子「…皆さん、ありがとうございます」ペコッ
祭「その代わり、ちゃんと京子ちゃんを返してくれないとダメですよー?」
舞「そうですわね。傷物にされたら責任をとってもらわないといけませんわ」クスッ
明佳「だ、大丈夫ですよ!私はどんな京子さんでも大丈夫ですから!」グッ
何が大丈夫なんだ、何が。
依子「えぇ。勿論ですわ」
依子「この家鷹 依子。必ず京子さんを無事に皆さんの元へとお返しするとお約束します」
京子「もう。大げさですよ」
依子「いいえ。全然、大げさなどではありませんわ」フルフル
依子「京子さんの肌に傷の一つでもついてしまったら、私は彼女たちに合わせる顔がありません」
依子「いいえ、京子さんに対して期待してる全校生徒に対して謝罪しなければいけませんわ」
京子「一体、どれだけのVIPなんですか、私は」
京子「そもそも私は一般人ですし、そんな大きな責任を背負わなくて大丈夫ですよ」
京子「それよりご自分の事を心配して下さい」
依子「あら?私の事は京子さんが護ってくださるのではなくて?」クスッ
京子「そりゃまぁ…護らせてもらえるのであれば、ぜひともナイト役を任せていただきたくはありますけど……」
キャー
依子「っと、あんまりここで話し込むのは宜しくないですわね」
京子「…ですね」
今は全校生徒が心待ちにしていたエルダーの発表の為、体育館へ人が集まっている真っ最中なのだ。
そんな道筋の途中でダラダラと話し込んでいれば、周囲の通行の邪魔になる。
何より、お互いにエルダー候補という事もあって、どうしても注目を浴びてしまう身の上だ。
こうして本番前にこうして黄色い声を浴びて、精神力が削れていくのは遠慮したい。
依子「まぁ、とりあえず移動しましょうか」
京子「えぇ。……春ちゃん」
春「……ん」
そう判断した俺は依子さんの提案に頷き、隣の春へと短く告げる。
この鹿児島で誰よりも俺と長く時間を過ごしている春はその意図に気づいているのだろう。
だが、依子さんが来てから一言も口にしなかった彼女は、中々、その手を離そうとしなかった。
春「…京子」
京子「大丈夫よ。依子さんが一緒なんだから」
春「…食べられたりしない?」ジッ
京子「しません」
春「……」
そう答えたものの春は中々、その手から力を抜かない。
冗談めかした言葉をくれるものの、内心、不安に思っているんだろう。
依子さんを助けたいと告げた時、真っ先に味方をしてくれたのは春だけど、その分、心配や苦労も掛けているしなぁ。
GWの時も一緒に遊べなかったのも事実だし…デート以外でも改めて埋め合わせはした方が良さそうだ。
依子「…滝見さん、大丈夫ですわ」
依子「別に私、滝見さんから京子さんの事を盗ろうとしている訳ではありませんから」
依子「ただ…ほんの少しだけ京子さんと一緒にいる名誉を頂きたいだけ」
依子「お二人の絆の間に割り込もうだなどと恐れ多い事は考えていませんわ」
春「…本当?」
依子「えぇ。本当です」
春「……じゃあ、今日だけ…任せます」スッ
依子「ありがとうございます、滝見さん」
そこでようやく手を離す春。
でも、一瞬、俺にチラリと向けた目は決して納得のいっているものではなかった。
こうして俺を手放す気にはなったものの、不満が消えた訳ではないらしい。
それを出来れば解消してあげたいけれど…今の俺達に時間的余裕がある訳じゃないんだ。
折角の舞台に主役の二人が遅れる訳にはいかないし…後でフォローするしかないか。
京子「じゃあ、行ってくるわね」
祭「はいはーい。ガツンと決めてきてね」
明佳「ガツンって何ですか…。でも、頑張ってくださいね」
舞「緊張した時は手のひらに人って書くと良いらしいですわよ」
春「京子…最後の仕上げ…頑張って」
京子「えぇ。任せて頂戴」
京子「皆の手を借りた分、決して無駄にはしないから」
依子「…仕上げ?」
京子「ふふ、何でもありませんよ。それより…エスコート、お願いしても良いですか?」スッ
依子「えぇ。勿論ですわ。我が姫」クスッ
冗談めかして差し出した俺の手を、これまた冗談めかして依子さんが受け取る。
この数週間で慣れきったそのやりとりに羨望の眼差しが周囲から注がれるのを感じた。
不名誉な噂に踊らされる事もあったが、依子さんは俺が来るまでエルダー候補として最も人気のある人だったのである。
その人気も回復しつつある今、エスコートされている俺に羨望混じりの視線が集まるのも当然の事だろう。
京子「(…まぁ、それに優越感を感じたりはしないけどさ)」
京子「(何てったって、依子さんは舞踏会とかにも出てるのかってくらいエスコート慣れしてるし…)」
京子「(GW前は毎日エスコートされてたってのもあって、俺の中での違和感がもう殆どない)」
京子「(そうされるのが当然、とまでは思わないけれど、あんまり恥ずかしいとかは思わなくなってきた)」
京子「(それを有り難いと思うのと同時に男としての劣等感がなぁ…)」
京子「(ぶっちゃけ、俺はこんなに上手に女の人をエスコート出来る自信がない)」
京子「(そんな練習する余裕も必要もなかったから仕方ないとは思うんだが…ここまで完璧にされるとちょっと凹むって言うか…)」
依子「にしても、京子さんはやっぱり人気者ですのね」
京子「え…?あぁ、そうですね。得難い友人と仲良くさせていただいていると思います」
依子「もう。そっちではありませんわ」
京子「え?」
依子「気づきませんの?こうして歩いていると貴女をエスコートしてる私を羨ましそうに見てる人がいるのを」
京子「どちらかと言えば、それは依子さんにエスコートして頂いている私に向けられているものだと思いますが…」
依子「勿論、それもないとは言いませんけれど…私は自身へと向けられるものを強く感じますわ」
まぁ、その辺りは水掛け論…と言うよりは主観の問題かな。
誰だって自分に向けられているものを強く感じるものだろうし。
どっちの方が羨望を集めているか、なんて議論をしても多分、結論は出ないだろう。
依子「京子さんはやっぱり多くの人にとって憧れの人なのでしょうね」
京子「ふふ。でも、私にとっての憧れの人は依子さんですよ」
依子「ありがとうございますわ。でも…私だって京子さんに向ける憧れでは負けていませんわよ?」クスッ
京子「では、今度、一つ勝負でも致しますか?」
依子「良いでしょう、その勝負、受けて立ちますわ」フフッ
京子「…ちなみに勝負方法などはどうします?」
依子「お互いに一つ一つ相手の良い部分をあげていってギブアップしなかった方が勝ちと言うのはどうですか?」
京子「…負けず嫌いの依子さんが相手だと凄い恥ずかしい思いをしそうです」
幾ら勝負とは言っても、流石にそんな事やるのは恥ずかしいっつーか、こそばゆいって言うか。
付き合いたての中学生だって今どきそんな勝負はやらないと思う。
やるとしたら天然記念物レベルのバカップルくらいじゃないだろうか。
依子「当然ですわ。幾ら京子さんが相手でも、勝負に対して手を抜くのは私の流儀に反しますもの」
京子「ただ…ものすごく不毛な戦いになりそうですね」
依子「私は京子さんとであればそういう戦いも良いと思いますわ」
依子「…少なくとも…」
ワァ キャー ヨリコサマー キョウコオネエサマー
体育館の扉を潜った瞬間、俺達に向けられたのは黄色い歓声と熱い眼差しだった。
普段の慎ましやかな永水女子とは打って変わったその様子はいっそ熱狂と言っても良いほどに高まっている。
エルダー候補二人が仲良く手を繋いで現れたにしても、これはちょっと騒ぎすぎではないだろうか。
普段は多くの人がお嬢様らしいお嬢様をやっているだけに若干、衝撃的なくらいだ。
依子「こういった場で争うよりはよっぽど建設的でしょう」
そんな黄色い歓声の中、ポツリと呟かれた依子さんの声。
それを聞く事が出来たのはきっと間近にいた俺だけだろう。
後悔の色が微かに混じったそれは彼女がこのエルダーを巡る選挙の中で少なからず傷ついてきた事を俺に感じさせる。
少なくとも…あの日、俺に語ったように理想のエルダーを目指し続けてきた彼女であれば、こんな弱音のような言葉は吐かなかっただろう。
依子「ほら、京子さん。手を振ってあげてください」
京子「え、えぇ…」
キャー ステキー ヨリコオネエサマ- コッチムイテー
けれど、俺がそれに反応するよりも先に依子さんは俺へとアドバイスをくれる。
さっきの後悔混じりの声とは違い、普段通りのその声音に俺は反射的に従ってしまう。
瞬間、歓声の勢いはさらに増し、叩きつけるようなものへと変わった。
流石に入り口に立つこちらへと迫ってくるような事はないが、このままファンサービスし続けていたら囲まれてしまいそうである。
依子「では、移動しましょうか。こちらへ」
京子「あ…はい」
そんな歓声に半ば気圧される俺を依子さんは導いてくれる。
行く先は歓声をあげる生徒達の中…ではなく、体育館の舞台袖だ。
エルダー候補は生徒達の中ではなく、エルダー発表時の混乱や騒乱を防ぐ為に舞台袖の方で出番を待つ事になっている。
最初はそこまでするなんて大げさだろうと思っていたけれど…今の騒ぎっぷりを見るに決して杞憂ではないのかもしれない。
依子「ふぅ…京子さん、お疲れ様」
京子「依子さんの方こそお疲れ様です」
その騒ぎも俺たちが舞台袖に消える事で少しはマシになる。
流石に未だざわつきは残っているが、それはさっきのように勢いのあるようなものじゃなかった。
…まぁ、それもエルダー発表時にはまた勢いを取り戻すんだろうけどさ。
それを思うと正直、今からでも頭が痛いけれど、こればっかりは諦めるしかないか…。
京子「にしても…毎年、これだけ騒がしいのですか?」
依子「そうですわね。去年、石戸霞さんが登場した時は今以上に凄かったですけれど…」
京子「…霞さんはアイドルか何かですか」
依子「ふふ。当時の永水女子を知る人にとっては似たようなものだと言うかもしれませんわね」
依子「三年連続エルダーに輝き続けるなんて、全校生徒から憧れを集められるような素晴らしい方でなければ不可能ですから」
京子「そうなのですか…」
正直なところ、その辺はあまり実感が沸かないんだよなぁ。
勿論、霞さんが凄い人で今も噂されるような伝説を打ち立てた人っていうのは分かってるけどさ。
ただ、俺の知る霞さんは凄い人ではあるけれど、ちょっと抜けたところもあって可愛らしい人でもあるのだ。
全校生徒から憧れを集めた…なんて言われると俺の良く知る霞さんと微妙にズレが生じるんだよなぁ。
依子「とは言え、普段ならばここまで熱狂的にはならなかったでしょうね」
依子「少なくとも去年の私が体育館に来た時はここまで熱狂的に迎えられはしませんでしたわ」
依子「これも京子さんのお陰かもしれませんわね」
京子「もう。それは一年間、依子さんが頑張ってきた成果でしょう」
京子「私はまったくの無関係ですよ」
依子「もう。京子さんは頑固ですわね」
京子「依子さんには負けますよ」
京子「…だからこそ、気になるのですけれど…」
依子「…なんでしょう?」
京子「こうしてこの場に立っている事…後悔しているんですか?」
依子さんの頑固っぷりは筋金入りだ。
子どもの頃に抱いた憧れを実現させようとこれまでずっと頑張ってきたような人なのだから。
その意思の硬さは周囲に流されがちな俺とは比べ物にならないほどだろう。
…しかし、だからこそ、俺はさっき依子さんが漏らした言葉の事をどうしても忘れられなかった。
歓声の中で流されこそしたものの、それは俺の知る彼女からは決して出るはずのない言葉だったのだから。
依子「まさか。エルダー選挙がなければ私は京子さんと友人にはなれなかったでしょう」
依子「色々と失ったものもありますが…それ以上に得難いものがあったとそう思っていますわ」
依子「…ただ、京子さんと仲良くなる度に…どうしても考えてしまうのです」
依子「こんなに素晴らしい人とエルダーを競わなきゃいけないなんて…どれだけ不毛なのだろうと」
依子「勿論…京子さんがエルダーになるのを望んでいない事を私も知っています」
依子「…ですが、私は京子さんを知れば知るほどに…貴女の方がエルダーに相応しいのではないかとそう思ってしまうのですわ」
京子「依子さん…」
そう言葉を漏らす依子さんの表情は舞台袖の暗がりの中でもはっきりと分かるくらいに弱気なものになっていた。
俺のナイト役になった時から少しずつその身体に自信を取り戻しているように見えていたけれど、未だ彼女は完全に吹っ切れた訳ではなかったのだろう。
俺の前ではナイト役として格好良く振る舞わなければいけなかっただけで、本当はずっと思い悩んでいたんだ。
京子「(…でも、エルダーが既に決定し、発表を待つ今、強がる必要はなくなった)」
京子「(いや…強がる事が出来なくなってしまったのかもな)」
京子「(俺は依子さんの友人であるとは言え、ついこの間まで彼女にとって庇護対象であったんだから)」
京子「(ずっと強がる姿を見せてきた俺にこうして漏らすという事は、彼女の中で甘えたいという気持ちが生まれつつあるっていう事なんだろう)」
京子「(…そして俺への信頼感もまた)」
京子「(きっと俺にだけはこうやって弱い自分を見せても大丈夫なのだと、彼女はそう思ってくれている)」
京子「(そうじゃなきゃ、これだけ強い人がこんなにも弱った姿を晒したりはしないはずだ)」
京子「(なら…俺は友人のそんな気持ちにそれに全力で応えたい)」
京子「(いや…少なからず彼女を追い込んでいる身として絶対に応えなきゃいけないんだ)」
京子「…大丈夫ですよ」スッ
依子「あ…」
京子「依子さんは、私の知る中で、一番、エルダーとなるに相応しい、淑女です」
依子「…京子さん」
依子さんの手を両手で包み込むようにしながら、一言一言言い聞かせるように言葉を区切る。
比較的トーンを落とした穏やかなその口調に彼女はほんの少しだけ表情を和らげてくれた。
しかし、それはあくまでも少しだけ。
彼女の中の翳りが消えたり、立ち直ったりした訳じゃない。
ならば…恥ずかしがったり、思いの外、スベスベとしてる手にドキドキなんかしている暇はないだろう。
京子「依子さんは私の事を助けてくれました」
京子「心ない噂で傷ついていた私を護ってくれました」
京子「誰の手も借りる事が出来なかった私の側に自分から来てくれました」
京子「…私にとって、依子さんを支持する理由なんて言うのはそれで十分です」
京子「他の人には出来なかった事…いえ、きっと私にも出来ないであろう事を依子さんは私にしてくれたのですから」
京子「私にとって永水女子で最も模範になるべき生徒とは依子さん以外にはあり得ません」
依子「ですが、私は…」
そこで微かに目を伏せる彼女の表情を俺は以前も見た事がある。
あの日、生徒会室で俺に対して謝罪した時と同じ、自分を強く責める表情。
…どうやら彼女は未だ友人が起こした事件に心囚われているらしい。
京子「…未だ依子さんの中に悔いる気持ちがあるのは分かります」
京子「ですが…もう許してあげても良いじゃないですか」
依子「…許す?」
京子「えぇ。依子さんは確かに失敗をしたかもしれません」
京子「でも…貴女はそれを償ってきました」
京子「私を護って…助ける事で、それ以上のものを私に与えてくれたんです」
京子「…ですから、もう自分の事を許してあげてください」
京子「過去を振り返って延々と後悔し続ける必要なんて何処にもないんです」
依子「……本当に…良いのでしょうか?」
京子「えぇ。良いんです」
京子「もし、ダメだなんて言う子がいれば私がぶっ飛ばしてやりますとも」
京子「私の大事な依子さんに一体、何を言っているんだーって」フフ
依子「…ふふ。もう、ぶっ飛ばすだなんてはしたないですわよ」クスッ
良かった。
少しは依子さんの中にも元気が出てきたみたいだ。
まぁ、まだ完全って訳じゃないだろうけど…自己嫌悪混じりの表情が消えただけでも上出来だろう。
依子「…不思議ですわね」
京子「え?」
依子「京子さんとこうしてお話をしているとついつい余計な事まで言ってしまって…」
依子「最初はとても恥ずかしいんですけど…でも、嫌じゃありませんの」
依子「京子さんがそれを真剣に受け止めて考えてくれるから…さっきもつい…」カァ
依子「私…こんなはしたない女ではなかったはずなのに…」
京子「あら、別にはしたなくなんてありませんよ」
京子「そうやって友人に甘えられるなんて素敵な事じゃないですか」
京子「寧ろ、ファンであり友人でもある依子さんにそうやって甘えてもらって私は嬉しいですよ」
依子「…京子さん…」
京子「ですから、私に一杯、甘えてください」
京子「私、もっと依子さんの事を知りたいです」
京子「もっともっと仲良くなって、貴女の支えになりたいんです」
まぁ、依子さんにはこうして発破かけてるって責任もあるからなぁ。
俺で支えになれるかは分からないが、出来るだけ彼女の弱音は受け止めてあげたい。
それに…下世話な話ではあるけれど、依子さんみたいな美人に頼られて男として悪い気はしないし。
依子「…本当にもう…京子さんは口説き上手ですわね」
京子「ふふ。口説かれちゃいましたか?」
依子「…正直、ちょっとドキッとしましたわ」
京子「道は踏み外さないでくださいね」
依子「踏み外しませんわよ。……多分」ポソッ
多分ってなんですか、多分って。
まさかさっきのちょっとドキッとしたって本音だったとか?
…いや、同性同士なのに仲良くなりたいって言われてドキッとはしないだろ。
きっと依子さんなりのジョークだろ、ジョーク。
依子「まぁ、これからも京子さんがこうやって私の事を口説いてくださるのであれば分かりませんけどね?」クスッ
京子「出来るだけ不用意な事は言わないようにします」メソラシ
依子「あら、残念ですわ。私は京子さんなら道を踏み外しても構わないのに」フフッ
京子「も、もう。あんまりからかわないでください。本気にしたらどうするんですか?」
依子「本気になってしまいますか?」
京子「依子さんほどの人にそんな事言われて本気にならない自信が私にはありません」
依子さんにとっては俺はあくまで同性だ…なんてのは分かりきってるけど、俺にとって彼女は異性だからなぁ。
ぶっちゃけた話、今だってこんな事言われてまったくドキドキしてないって訳じゃないし。
彼女いない歴=童貞の俺にとっちゃ、このシチュエーションは色々と刺激が強すぎるんです。
依子「ふふ、光栄ですわ。でも…それは私も同じ事ですのよ」
依子「少なくとも…私はこうして京子さんに手を握られている事にとてもドキドキしていますから」
京子「あ…ご、ごめんなさい…!」パッ
そ、そういや、手を握りっぱなしだった…!
途中から依子さんの事をどう励ますかで頭の中が一杯で忘れてたけれども!!
し、知らない間に手汗とかかいてないよな?だ、大丈夫だよな…?
依子「あら、別に離さなくても構いませんのに」クスッ
依子「私、京子さんなら決して嫌ではありませんでしたのよ?」
依子「そもそも今までだって何度も手を繋いでいるじゃないですか」
京子「そ、それはそうなんですけど…なんだか急に気恥ずかしくなってしまって」カァ
依子「ふふ。自分から私の両手を包み込んだ人のセリフとは思えませんわね」
京子「す、すみません…」
依子「あぁ、気にしないでくださいな。嫌でなかったどころか、寧ろ心地良いくらいでしたから」
依子「京子さんさえ嫌じゃなければまたやって欲しいくらいです」
京子「も、もう。冗談が過ぎますよ?」
依子「ふふ、ごめんなさい。さっき私だけドキドキさせられたのが悔しくて」
依子「でも、私が言っているのは全部ウソだなんて事はありませんわよ」
依子「京子さんに手を包まれていると…ドキドキして心地よかったのは本当の事ですわ」
京子「……人の事を口説き上手なんて言いますけど、依子さんだって負けてないと思います」カァ
依子「あら、私だって誰かれ構わずこんな事を言ったりするようなはしたない女ではありませんわ」
依子「でも…京子さんは私にとって特別な方ですから、こういう言葉も自然と漏れてしまうのです」ニコッ
京子「う…」
依子「…ドキッとしました?」
京子「……少し」メソラシ
依子「ふふ。やりましたわっ」ニコー
くそう…上目遣いではにかむように笑うとか色々と反則だろ。
普段のしっかり者とは違う可愛らしい顔なんて見せられたらギャップでどうしてもドキッとしちゃうって。
しかも、俺の前ではしゃぐ姿も可愛いし…美少女ってホント、存在からして反則だよな…。
依子「あれ?どうかしましたの?」
京子「…何時か依子さんが女性に刺されるのではないかと若干、心配で」
依子「もう。こんな事、京子さんにしか言わないと言っていますのに」
依子「どうしたら信じてくれますの?」
京子「そういう発言を控えてくれれば少しは信じられるかもしれませんね」
依子「それは嫌です」キッパリ
京子「即答ですか」
依子「だって、京子さんをからかうと面白いんですもの」クスクス
京子「そんな事を言っていて後で手痛いしっぺ返しを食らっても知りませんよ?」
依子「京子さんにしっぺ返しをくらうなら寧ろ歓迎したいところですわね」フフッ
……これ絶対出来ないって高を括られてるよなぁ。
別にそうやって弄ばれるのは嫌じゃないけど、俺もやられっぱなしは趣味じゃない。
正直なところ、その余裕をぶっ壊すような仕返しがしたくなってくる。
…まぁ、色々と依子さんの方から挑発はしてくれている訳だし……ちょっとした悪戯レベルだったら別に良いよな?
京子「…では、そこまで言うのなら責任を取ってくださいますか?」ズイッ
依子「…え?」
京子「…依子さん」
依子「あ、あの…京子さん、ちょっとこの距離は近くない…ですか?」
京子「そうですか?これくらい友人ならば当然でしょう?」
依子「で、でも…あの…こ、これは…」カァ
まぁ、お互いの吐息が掛かりそうな距離まで近づいてる訳だからなぁ。
幾ら友人同士とは言え、間違いなくこれはパーソナルスペースに踏み込んでいるだろう。
実際、こうして近づいている側の俺だって気恥ずかしさを感じているくらいだし。
近づかれている側の依子さんにとっては恥ずかしいどころか、圧迫感を感じるだろう。
京子「それに…依子さんだって逃げないじゃないですか」
依子「そ、それは…あの…」
京子「依子さんだって…こういう事されたいって期待してくれてたんですよね?」
依子「ち、違いますわ。そ、そんな私…はしたない女じゃ…」メソラシ
京子「でも、私の事好きだって沢山言ってくれていましたじゃないですか」
依子「それは…あくまで友人として…」
京子「…でも、私はそれじゃ満足出来ないんです」
依子「え…?」
京子「私は…依子さんの事が…」
依子「ま、待ってください。わ、私そんな…急に言われても…」スッ
京子「ダメですよ。今更、逃げようとしても」ズイッ
一歩後ろに下がった依子さんを追い詰めるように前へ。
お陰で彼女は壁と俺の身体に挟まれて身動き出来ないようになっている。
ついでに両腕を壁につけるようにすれば依子さんの逃げ場はない。
今にもキス出来そうな距離で嫌でも俺と向き合わなければいけなくなる。
京子「ほら、こうすれば逃げられませんよね?」ニコッ
依子「き、京子さん…」
京子「そんなに怯えないでください。何も取って食べようとしている訳じゃないんですから」
京子「ただ…私の気持ちに火をつけた責任を取って欲しいだけです」
依子「せ、責任って…」
京子「依子さんが悪いんですよ。私の事をあんなに誘惑するから」
京子「唇の一つでも頂かなければ割に合いません」
依子「く、くちび…だ、ダメです。わ、私、初めてで…!」
京子「嬉しい。依子さんの初めてを頂けるなんて…」スッ
依子「あ…あ…」ブルッ
京子「大丈夫です。優しくしますから」
京子「難しく考えなくて良いんです。こうして依子さんの頬に私の手が触れるのとそう違いはありません」
京子「だから…目を閉じてください」
依子「き…京子…さ…」
京子「目を…閉じて」
依子「あ…」スッ
京子「…良い子ですね、依子さん。じゃあ…」
ムニー
依子「…はふぇ?」
おぉ、依子さんの頬って思った以上に柔らかいんだな。
肉付きが薄くてあんまりのびないと思ったけど、思ったより摘み心地が良い。
肌もきめ細やかで触り心地も良いし、もうちょっと摘んでいたいくらいだ。
まぁ、今まで遊んでくれた分の仕返しだし…もうちょっとこのままでいよう。
依子「……」プルプル
依子「きょふこひゃん???」ゴゴゴ
京子「あら、何ですか?」
依子「さしゅがにちょっろこりぇは悪趣味らと思うのでふわ…」
京子「あら…ご要望通り、依子さんにしっぺ返しをしたのに一体、何がご不満なのでしょう?」パッ
依子「寧ろ、この結果に不満なんてないと言える人なんていないと思いますわ…!」
京子「では、依子さんは私に初めてのキスを奪われたかったのですか?」
依子「そっ、そういう訳ではありませんけど…」
京子「ふふ。ならば宜しいではありませんか」
京子「これくらいちょっとしたお茶目ですよ、お茶目」
依子さんはさっき俺の事を思いっきり弄んでくれた訳だからなぁ。
これくらいでようやく釣り合いがとれてるくらいだろ。
…まぁ、正直なとこ、本当に目を瞑るとは思ってなかったけどさ。
観念したのか或いは状況に流されたのか…どちらにせよ、意外と依子さんもチョロい人なのかもしれない。
依子「…私、何時か絶対、京子さんの事をギャフンと言わせると心に決めましたわ」
京子「どうしてでしょう?まったく見に覚えがありません」ウフフ
依子「はぁ…もう、まったく…」
依子「…いえ、良いですけどね。私も少々、調子に乗っていましたから」
依子「ですが、今回の件、私、絶対に忘れませんから」
依子「何時か必ず京子さんの事を後悔させてやりますわ」
京子「依子さん…そうやってやられたからやり返すなんて不毛だと思うんです」
京子「平和の為には今、この場で憎しみの心を忘れるのが必要なのではないでしょうか?」
依子「京子さんがやり返された後でそれを言うのであれば私も同意出来たかもしれませんわね」ムスー
なんてことだーこんな事で依子さんと俺の友情にヒビが入るなんてー。
まぁ、冗談はさておき、依子さんだって本気で怒っている訳じゃないんだろう。
何処か拗ねるように唇を尖らせる辺り、してやられたってのが一番、大きいのかな。
そんな顔も可愛い…なんて言ったらそれこそタラシみたいだし、黙っておくか。
ガチャ
明星「遅れてすみませんでした。湧ちゃんに付き合っていて…ってあれ?」
京子「あ」
依子「あら」
明星「……何をやってるんですか、京子さん」ゴゴゴ
京子「え、えぇっと、これは…その…」
…しまった、エルダー候補が舞台袖に集まるって事は明星ちゃんもここに来るんじゃないか…!
依子さんに仕返しする事で頭が一杯だったのもあって、すっかり彼女の存在を忘れてた…!
いや…過ぎた事はどうでも良い。
それより…この状況を果たしてどう説明すれば良いのか考えなければ…!
流石に顔は離れたし、頬にももう触っていないけど、依然、俺は依子さんを壁際に追い詰める壁ドンSTYLEな訳で。
下手をすれば俺が依子さんを襲っている風にも受け取られかねな… ――
依子「」チッチッチッチッチ
依子「」ピコーン
依子「…石戸さん、聞いてください」
依子「実は私…京子さんに襲われそうになっていまして」
京子「よ、依子さん…!?」
明星「へぇ…どういう事でしょう?」
依子「さっき京子さんにこうして壁際に追い込まれてしまいまして…」
依子「逃げようにも逃げられない状態でキスをさせられそうになったのですわ…」フルフル
明星「…なるほど。…京子さん?」ドドド
京子「ご、誤解よ!?いや、誤解じゃないけれども…!」
確かに俺は依子さんの言う通りの事をやったけれど、それには色々と重要な情報が抜け落ちていると言うか!
あくまでさっきのは冗談であって、本気でキスしようとしてた訳じゃないし!!
そもそもそれ以前にこっちの事を挑発しまくってたのは依子さんなんだ。
まったく俺は悪くないとは言わないが、明星ちゃんが思っているような事をしようとしてた訳じゃない。
明星「…結局、どっちなんですか…?会長の言葉は嘘なのか、嘘じゃないのか…」
京子「う…いや、確かに依子さんの言葉は嘘じゃないけれども…」
明星「…分かりました。では、私、急いで先生を呼んできますので」
京子「待って!ち、違うの!嘘じゃないけど、全部が本当って訳じゃなくって…!」
明星「では…詳しい事情をお聞かせ願えますか?」
明星「ですが…言葉はしっかりと選んでくださいね?」
明星「事と次第によっては私は今すぐ先生に洗いざらい全てをぶちまけなければいけません」
京子「そ、それは勘弁して頂戴…」
俺の秘密を知る明星ちゃんが本当に『洗いざらい全てをぶちまけたら』洒落にならないからな…。
事情があったとは言え、女装して女子校に紛れ込んでいましたなんて社会的抹殺へ一直線だ。
まぁ、戸籍が消滅してる時点で既に【須賀京太郎】としては死んでいるけれども流石に二回目の死は勘弁して欲しい。
明星「…なるほど。おおまかに把握出来ました」
京子「そ、そう…良かった」ホッ
明星「とりあえず京子さんが悪いという事は確実ですね」ジトー
京子「う…まぁ、私もちょっとやり過ぎたとは思っているけれど…」
明星「やり過ぎなんてものじゃありませんよ、下手したらトラウマものです」
依子「いや…流石にトラウマなんて事にはならないと思いますわよ」
明星「会長は京子さんに甘すぎですよ」
明星「こういうのは失敗した時にしっかり言っておかないと何度も同じ事をしでかすんです」
京子「私は犬か何かかしら…?」
明星「節操なしって言う意味ではそれに近いかもしれませんね」ジトー
うぅ…明星ちゃんの視線がキツい…。
俺が男である事を知っている明星ちゃんにとって、これも当然の反応なんだろうけれどさ。
ただ、節操なしって言うのは流石にちょっと否定したいって言うか。
俺だって別に誰でもこんな事をする訳じゃないし…何より俺はそういう特定の恋人とかもいない訳で… ――
明星「…」ジィ
あ、はい、ごめんなさい。何でもないです。
依子「まぁ、私も少し調子に乗っていましたから…お相子ですわね」
明星「…宜しいのですか?」
依子「えぇ。ちょっと驚きこそしましたけれど、別に嫌ではありませんでしたし」
依子「それよりも…あんなワイルドで強引な京子さんなんて初めて見ましたから…」
依子「ちょっと良いな…なんて風に思ってしまいましたわ」フフッ
明星「…え?」
京子「え?」
依子「…さっきはああ言いましたけど…またあんな風に意地悪してくださいね」ウィンク
…どうやら思った以上に依子さんは強かな人だったらしい。
良いようにされて落ち込んでいると思ったら実は内心喜んでいたとか。
いや、もしかしたらそれも明星ちゃんのお説教から俺を護ろうとしてくれているのかもしれないけど。
どちらにせよ…この人にはこれから先も勝てないような気がする。
明星「…京子さん?」ジトー
京子「い、いや、その…えっと…」
って、そんな事をしみじみ思ってる場合じゃねぇ!
このままこの話題を引っ張るとさらに明星ちゃんの俺に対する目が厳しくなってしまう…!
と言うか今だって、『人の忠告を台無しにして何をしてくれているんだ』って感じの目で見られてるしな!!
コレ以上、明星ちゃんの中で俺の評価が下がると本当に軽蔑されかねないし…何でも良いから別の話題を…ってそうだ…!
京子「そ、それより…湧ちゃんに付き合ってたって言ったけど…何かあったの?」
明星「そ、それはその…察してください」
京子「え?」
明星「お、お花を摘みに行ってたんです。これで分かりますよね!?」
京子「あっ…その…ご、ごめんなさい…」
明星「もう…ホント、デリカシーがないんですから…」ハァ
うっ…か、完全に呆れてる顔だ…!
つか、コレ以上、呆れられたりしない為に話題を変えようとしたのに、そこでも呆れられてどうするんだよ…!
人間、ドツボにハマった時は何をやっても上手くいかないもんだって聞いた事があるけど、本当にそうだな…。
明星「そんなにデリカシーの無い人じゃ会長にも嫌われてしまいますよ?」
依子「ふふ。まぁ、私はそれ以上に京子さんの魅力的なところを知っていますからその程度で嫌いになったりはしませんわ」
依子「それにその辺りの失敗は前へと進む事で償っていけば良いのです。そう京子さんが教えて下さいましたから」ニコッ
明星「…やっぱり口説いているんじゃないですか」ジトトー
京子「いえ、別に口説いてるつもりじゃ…」
依子「あら、私は口説いてくれているものだとばかり思っていたのですが…」
依子「私の純情…京子さんに弄ばれてしまいましたのね…」
明星「まったく…浮気もほどほどにしておかないと春さんに言いつけますよ」
京子「だから、そういうんじゃないってばぁ…」
くそぅ…ここぞとばかりに二人で責めて来やがって。
まぁ、責めてると言うか二人がかりでからかってきてるんだろうけどさ。
これまで殆ど話した事がないであろう二人なのに妙に息のあったコンビネーションを仕掛けて来やがる…!
実はこの二人って結構、相性が良いんだろうか…?
明星「まぁ…京子さんは色々と迂闊と言うか残念な人ですし…」
明星「その上、鈍感で、調子乗りで、空気も読めませんし、デリカシーも皆無ですから」
京子「そ、そこまで言わなくても良いんじゃないかしら…?」
酷い言われようである。
まぁ、さっきの醜態を見る限り、あんまり否定は出来ないけれども。
とは言え、しっかりしてなきゃエルダー候補になんて選ばれないだろうし…ここまで言われるほどではないと思うんだけれど…。
依子「ふふ、それだけ石戸さんも京子さんの事を心配しているという事ですわ」
京子「まったくそんなものを感じなかったのですが…」
依子「石戸さんはそういった事の表現が苦手な方なのですよ」
依子「少なくとも私は石戸さんの気持ちが分かります」
明星「…分かりますか?」
依子「えぇ。それはもう。京子さんは色々と隙が多い人ですから」
明星「そうなんですよね…。普段は凛々しい癖にからかわれると可愛い反応を見せますし…」
依子「それでいて肝心なところでは決めてくれるから不覚にもドキッとしてしまう事が多いですわ」
京子「…今度は褒められているのかしら?」
明星「貶めているんです」ムスー
貶められているらしい。
でも、逆に持ち上げられすぎて背中辺りがこそばゆくなってくるレベルですが。
…本当に貶められているんだろうか?
明星「何より、本人にタラしこんでいる自覚がないのがダメですね」
京子「う…別に同性なんだし良いじゃないの」
明星「同性なんてなんら障害になりませんよ、何を言ってるんですか」
いや そのりくつは おかしい。
と言うか、そこで即答するのかよ。
霞お姉様ラブな明星ちゃんからしたら、それが当然なのかもしれないけどさ。
でも…そこで即答出来る人って割りとガチな子だけであって普通の子は中々、そうは言い切れないと思うんだ。
依子「にしても、石戸さんはそれだけ京子さんの事が大好きなんですのね」クスッ
明星「…まぁ、嫌いとは言いませんよ」
明星「そうやって行き過ぎた行動をするのも誰かの事を思ってのものだと分かっていますから」
明星「ただ、人の忠告も聞かずに会長にあーんな事をしてたのには心底呆れていますけれど」ジトー
京子「う…それは悪かったと思ってるわ」
明星「思っているなら反省し、再発しないように心がけてください」
京子「…はい」
依子「ふふ、じゃあ、このお話はここまでにしたしましょう」
依子「色々と京子さんの新しい一面も見れた事ですしね」クスッ
京子「う…で、出来れば忘れてくださると嬉しいんですが…」
依子「嫌ですわ。さっき石戸さんに叱られている時の京子さん、とっても魅力的でしたもの」
依子「私もこれからは京子さんの事を叱るようにしましょうかしら?」フフッ
京子「明星ちゃんだけじゃなく依子さんにまでそんな風に接されると私、泣いちゃいますよ」
俺の事を叱ってくれるだけ想ってくれてる…って言うのは決して嫌じゃないけどさ。
ただ、依子さんの場合、動機が明らかに不純なのが目に見えていると言うか…!!
こう背筋にゾワゾワとしたものが走るレベルで身の危険を感じる…!!
依子「それはそれで素敵かもしれませんわね」
京子「どうしましょう…明星ちゃんの所為で依子さんが目覚めちゃいけないものに…」
明星「わ、私の所為ですか!?」
京子「責任とって明星ちゃんはその分、私に優しくするべきだと思うわ」
明星「…とりあえず反省の意図が見えないのでこれからはもっと厳しくする事にします」
京子「そんな…!?」
依子「石戸さん、私にもお手伝いさせてくださいませ」
明星「えぇ。こちらこそお願いします。共に頑張って京子さんを矯正しましょう」ニコッ
京子「き、矯正って何をされるのかしら…?」
依子「とりあえず淑女の何たるかを暗唱出来るようにひたすら紙に書いていくとかどうかしら?」
明星「ついでに寝ている間もひたすらテープでそれを聞いていて貰いましょうか」
京子「それって矯正と言うよりも洗脳じゃない…?」
依子さんの方はまだ反省文の範疇で済むけど、明星ちゃんのはガチで精神崩壊しそうで怖いんですが。
少なくとも矯正プログラムって言えるレベルを遥かに超越してる事に疑う余地はないと思う。
と言うか、俺ってそこまでされなきゃいけないレベルでダメなのか…?
明星「悪い方向に転べば洗脳かもしれませんが、良い方向に転べば矯正と呼べるはずです」
京子「呼べません」
依子「大丈夫ですわ、京子さん。終わった後には今までの自分なんてさっぱり忘れていますから」ニコ
京子「やっぱり完全に洗脳じゃないですか…!」
やだー!
明星「でも…なんだか意外ですね」
依子「え?」
明星「私、生徒会長ってもっと真面目でこういった冗談なんて言わない人だと思っていました」
依子「…そうですわね。昔…いえ、ほんの1ヶ月前の私であれば、こんな事は言わなかったでしょう」
依子「こうやって誰かをからかうだなんて淑女らしからぬ事だと自分を律していたはずですわ」
依子「…でも、私、京子さんと関わって色々と気付かされましたの」
依子「夢と言っても良いような目標をいつの間にか神格化していた事」
依子「自分は今まで知らない間に肩に力を入れていた事」
依子「何より…私はまだまだ人に頼らずに立てるほど立派な人間でもないという事」
依子「それらの事に気づいて、変わらずにいられるほど私は無機質な人間ではありません」
そこで俺に微笑み掛ける依子さんの表情は、ここ数日俺に見せていた強がり混じりのそれではなく、女性らしい柔和なものだった。
理想の淑女を追いかけ、肩に力が入っていた頃の彼女には出せないであろう柔らかな笑み。
それは依子さん自身がそんな自分の変化をより良いものだとそう受け止めてくれているからなのだろう。
彼女の変化に無関係ではない俺にとって、それは心から喜ばしいと言えるものだ。
…まぁ、こうやってからかわれると言うか弄ばれる事が多くなったのは若干、困りものだけれど。
それだって竹井先輩のお陰で慣れているし、何より依子さんなりに甘えているのが伝わってくるから嫌じゃない。
依子「いえ…変わった…というよりは変えられた、と言う方が適切かもしれませんわね?」
依子「ですから、京子さんには責任をとってもらわないといけません」クスッ
京子「つまりこれからも依子さんの玩具にされろって事ですか…?」
依子「あら、私は別にそんな事は一言も言っていませんし、言いませんわ」
依子「ただ、京子さんなりの誠意を見せて欲しいとそう思っているだけです」
京子「それはっきりと言葉にしていないだけで言ってる事は殆ど同じじゃないですか…」
依子「ふふ。京子さんがそう思うのならば、そうなのかもしれませんわね」
依子「まぁ、こうして面識を得た以上、こんな事を言わずとも、京子さんが私の事を見捨てるとは思っていませんけれど」フフッ
明星「えぇ。例え会長が嫌だと言っても、自分から関わろうとするはずです」
京子「ま、まぁ、依子さんは私の大事な友人ですから」
依子「例え友人でなかったとしても京子さんは放っておけないと思いますわ」
京子「いや、私だって誰かれ構わずに首を突っ込んでいる訳じゃ…」
明星「新道寺の鶴田さん」ポソッ
京子「う…」
確かに姫子さんは友人どころか相手はライバル校の一員だった訳ですけどね。
でも、あんな落ち込んでますよオーラ出されたら踏み込んでしまうのも致し方無いと言いますか…。
美少女が暗く沈み込んでいると男って奴はどうしても助けてやりたくなるもんなんですよ。
謂わば本能とか習性みたいなものだから見逃して欲しい。
明星「…誰かれ構わずに何でしたっけ?」ニッコリ
京子「ゴメンナサイ…」
とは言え、依子さんもいる前で流石にそんな事は口には出来ない。
ここで俺に出来るのは情けない言い訳を並べ立てる事ではなく、明星ちゃんに謝罪する事だけ。
…それにまぁ、さっきみたいな言い訳を口にしたらまた呆れられてしまいそうだし。
ここは大人しくしておくのがベストなはず…!
依子「あら…京子さんは他の学校の生徒もその毒牙にかけようとしていたのですか?」
明星「えぇ。しかも、相手はライバル校のエースでした」
依子「まぁ…京子さんったら見た目によらず、中々に悪どい手を使う方なのですわね」
京子「ち、違います。私はそういうつもりはまったくなかったですし…!」
京子「何より、相手にはもう心に決めた人がいて、そういう雰囲気にすらならなかったですよ」
依子「つまりフラれてしまった訳ですわね」ウンウン
京子「フラれた云々以前に告白も何もしてませんよ」
依子「ダメですわよ、京子さん」
依子「そうやって相手に遠慮していては何時までも吹っ切れませんわ」
依子「そういう時はしっかりと想いを伝えるのが一番です」
京子「せめて私の話を聞いてください…!」
パシャン
京子「…あれ?」
明星「舞台の方の照明が落ちましたね」
依子「という事はそろそろですわね」
依子さんのその声には微かに緊張の色が見て取れた。
さっきまで普通そうにはしていたけれど、やっぱりエルダー発表の事を意識していない訳ではなかったのだろう。
暗さを増した舞台袖の中、ぼんやりと浮かぶ彼女の顔は目に見えて分かるくらいに強張っている。
まだ付き合いの浅い俺が見たことのないそれはこれまでの人生の集大成とも言っても良い時間が近づいているからだろう。
京子「…大丈夫ですよ、依子さん」
依子「京子さん…」
京子「依子さんはこれまで頑張ってきたのです。その努力は必ず報いられるはずですよ」
京子「ここ数週間、依子さんの側にいた私が保証します。貴女が不安に思っているような事は決してないと」
勿論、俺の保証なんて何の後押しにもならない。
こうして友人同士になったとは言え、俺はまだまだ依子さんとの付き合いは浅いのだから。
彼女がエルダーに対してどれほどの思い入れを抱いて来たかという事すら俺は完全に理解出来ている訳じゃないだろう。
だけど、目に見えるくらい緊張してる依子さんに何も言わないなんて情けない真似は、一人の男として出来ない。
依子「…ふふ。もう…こういう時だけ格好良いんですから」
京子「さっき格好悪いところを見せた分、ポイントは稼いでおかなければいけませんしね」
依子「そうですわね…思わずキュンとしてしまいましたわ」クスッ
京子「と言う事はポイントは稼げたんでしょうか?」
依子「うーん…でも、折角、こうして励ましてくれているのに手の一つも繋いでくださらないのは減点かしら?」
京子「い、いや…流石に明星ちゃんが見ている前でそれは…」
明星「ジィィィィ」
…うん、さっきから俺の背中に刺すような視線を送ってくれているしな。
まるで「コレ以上何かやろうとしたら分かってますよね?」と言わんばかりのそれを前にして手を握るのはちょっと…。
俺もそれを考えない訳じゃなかったけど…ゴメンナサイ、明星ちゃんが怖いんです。
依子「もう。ヘタレなんですから」プクー
依子「それじゃあポイントは差し上げられませんわ」
京子「う…ごめんなさい…」
依子「…まぁ、初回ですし大目に見て差し上げます」クスッ
依子「それに…京子さんのお陰で気持ちも落ち着きましたから」
依子「特別に5ポイント進呈いたしましょう」
京子「ありがたく頂戴いたします」フフッ
依子「ちなみに今からでも手を繋いで下さればもう5ポイントあげても宜しいのですけれど…?」チラッ
京子「う…それは魅力的なお誘いではあるのですが…」
その5ポイントの為に犠牲にしなきゃいけないものがちょっと多すぎると言うかなんというか。
そもそもそのポイントを貯めて一体、何に使えるのかも分からない訳だし。
明星ちゃんの好感度を犠牲にするにはちょっとギャンブルが過ぎるような気がしま… ――
依子「」フルフル
京子「…そうですね。折角、二倍になる訳ですし…」
京子「発表があるまでお付き合いして貰って良いですか?」スッ
依子「……えぇ。勿論」ニコ
京子「(あーくそ…本当にもう)」
京子「(色々と反則だろ…あぁ、ホント…反則過ぎるだろ)」
京子「(顔だけは普通そうに笑いながら手を微かに震わせてるとかさ)」
京子「(そんなの気づいたら…ギャンブルしない訳にはいかないじゃん)」
京子「(そもそも…さっきの俺の一言で人生を左右するような大きな緊張がなくなるはずもないし)」
京子「(既に一歩踏み込んで…そして、それが効果をあまり発揮しなかったのだから躊躇ってなんかいられない)」
京子「(問題は明星ちゃんの方だけど…)」チラッ
明星「」ドドドドドド
京子「ひぃ…っ」ビクゥ
やっぱり怒ってますよねえええええ!?
そりゃ、ついさっきそれとなく注意したのにも関わらず、こうやって依子さんの手を握ってる訳だし、怒って当然だよな!!
分かってる、分かってるけど…やっぱ怖ぇええ!!!
照明が落ちてさらに暗くなった所為で、人の事が憎くて堪らない怨霊とばったり出くわしたような迫力を感じる…!
明星「…はぁ、まったく…何を怯えているんですか」
京子「え?」
明星「別にその程度で一々、目くじらを立てたりしませんよ」
京子「ほ、本当に?」
明星「えぇ。今回は京子さんからじゃなく、会長からの要望に応えた形ですし」
明星「それにまぁ…状況的にも致し方ないという私の独断と偏見で今回はセーフと致します」
京子「よ、良かった…」ホッ
明星「…まぁ、そういう事を控えて欲しいと思っているのは事実ですし」
明星「もし、こういう状況じゃなかったら即ギルティでしたけどね?」ゴゴゴ
京子「き、肝に命じておきます…」フルフル
ま、まぁ、完全にセーフって訳じゃなさそうだけど、とりあえず明星ちゃんに呆れられたりはしていないらしい。
それだけが懸念だっただけに本当に良かった。
これで心置きなく依子さんと手を繋いでいられる…って、なんだかそれはそれで変態っぽいな。
依子「ふふ、では…石戸さんからお許しも出た訳ですし、これで心置きなく京子さんと手を繋ぐ事が出来ますわね」
京子「……」
依子「…あれ?どうかいたしましたか?」
京子「いえ、美人って得だな、と思いまして」
依子「え???」キョトン
京子「いえ…何でもないです」
まさか俺の手を握ってはにかむように笑った依子さんが可愛すぎてときめいた…なんて言えるはずない。
つか、ただでさえ美少女なのにあんな健気な事を言うとかもうね。
俺が心の中に思い浮かべた言葉の響きとまったく違う、とか考える前に抱きしめそうになったぞ。
今ばっかりは明星ちゃんがこの場にいてくれた事に感謝だな…。
彼女がいなかったら俺、反射的に依子さんの事を抱きしめていたかもしれない。
京子「あ、ちなみにそのポイントを貯めると何か特典があったりするんですか?」
依子「んー…そうですわね」
依子「とりあえず20ポイントで膝枕して」
京子「え?」
依子「50ポイントで添い寝。80ポイントでお泊り会をして…」
依子「100ポイントになったら私から京子さんに告白など致しましょうか」クスッ
明星「カスミオネーサマニ ホウコク シナキャ ヒメサマ ニモ」ボソボソ
京子「あ、明星ちゃぁん!?」
いや、確かに俺も依子さんの口から出る特典は魅力的だと思いましたけどね!!
思いましたけど、何もわざわざそこで反応しなくても良いんじゃないかな!?
俺は依子さんから話を聞いただけで、報告されるような事は何もないと思うんですよ!!!
依子「今のところは京子さんが独占状態ですし…頑張ってポイントを貯めてくださいね」
京子「出来るだけポイントを貯めないようにしようと思います」
依子「あら…私では不満だと言うのですか?」
京子「い、いえ…そういう訳じゃ…」メソラシ
京子「そ、それよりほら、舞台の幕が動き始めましたよ」
依子「もう。強引なんですから」クスッ
なんとでも言ってください。
が、コレ以上、依子さんの術中に嵌ってしまうと本当にお屋敷一同揃っての会議へ一直線なんですって。
流石に依子さんにからかわれてる内容を晒されて、やり玉にあげられるのは遠慮したい。
女装しながら女子校に通ってる俺にも羞恥心とかプライドなんてものはまだ残ってるんです!!
「エルダーシスター。それは淑女の誇り」グッ
「エルダーシスター。それは私達の希望」パァ
「エルダーシスター。それは永水女子の象徴」シュバッ
「この数ヶ月、永水女子に所属していた方々は思われた事でしょう」
「どうして私達にはエルダーと…お姉様と呼べる方がいないのかと」
「新しく永水女子に入った方々も思ったはずです」
「先輩方が期待し、夢中になっているエルダーとはどんな素晴らしい方なのかと」
「…そんな疑問を抱き続ける辛い時間も終わりです」
「お待たせしました!只今よりエルダーシスター選挙の結果発表を行いたいと思います!」
ワァァァァ
京子「……」
依子「京子さん、どうかしましたか?」
京子「あ、いえ…なんだか派手と言うか…テンションが高いな、と」
明星「それだけ永水女子にとってエルダーというものは大きな意味を持ってるんですよ」
京子「えぇ…それは分かってるんだけど…」
その辺の話は明星ちゃんから既に聞いているし分かってる。
…ただ、スポットライトに照らされた舞台で身振り手振りを加えながら演説してるのは生徒じゃなくて先生なんだよなぁ。
生徒の方が熱狂するのは分かるが、先生までそんなにテンションあげられるとちょっと面食らうというか。
しかも、舞台上の教師が普段は大人しくて、巨乳で、メガネで、巨乳で、グレーのタイトスカートがちょっぴり色っぽい巨乳社会科教師だけに尚更、びっくりしてしまう。
依子「ふふ。まぁ、こうやって永水女子に勤められている先生と言うのは大抵、ここの卒業生ですから」
依子「エルダーが何たるかもきっと理解されているからこそ、アレほどまでに張り切っていられるんでしょう」
京子「なるほど…」
言われて見れば、こうして生徒たちの注目を浴びながら語る彼女の目はキラキラと輝いていた。
憧れの芸能人を前にした女の子のようなその瞳から今の彼女が楽しんでいる事がありありと伝わってくる。
普段は人前に出たがらない大人しいタイプの人にしか見えないけれど…どうやらそれは俺の思い込みであったらしい。
依子「イメージが崩れましたか?」
京子「少し。でも…嫌な気分ではありませんね」
依子「それはどうしてですの?」
京子「だって、それだけ永水女子にとってエルダーというものが大きな存在だと言う事が伝わってくるんですから」
教師になって三年目らしい巨乳社会科教師にとって、永水女子で過ごした時間というのはもう十年近く前だ。
だが、彼女は未だに人前で熱く語れるくらいに、エルダーシスターという象徴に対して強い思い入れを持っている。
それはきっと歴代のエルダー達がその座に相応しい振る舞いを心がけ、生徒たちの憧れを集めていたからだろう。
伝統と信頼、その二つの積み重ねがあるからこそ生まれる彼女の輝きに俺は改めて知る事が出来た。
エルダーという言葉の重さ、そして ――
京子「エルダーに憧れた依子さんの気持ちを少しは分かるようになって…嫌なはずがありませんよ」
依子「京子さんったらもう…」
依子「…こんな暗がりでそんなロマンチックな事を言われたら、またポイントが溜まってしまいますわよ」クスッ
京子「…やっぱり聞かなかった事にしてください」
依子「いいえ。今更、クーリング・オフなんて効きませんわ」
依子「5ポイント、しっかりつけておきますから覚悟してくださいまし」フフッ
明星「…京子さん?」ジィィ
京子「だ、大丈夫よ。まだ5ポイントあるから…」フルエゴエ
正直、20ポイントでして貰えるらしい膝枕に心惹かれる俺はいるが、ここであんまりポイントを稼ぎすぎるのはちょっとなぁ。
ただでさえ徐々に厳しくなってきている明星ちゃんの視線がさらに冷たくなっていきそうだし。
残り5ポイントと言う猶予があるんだから、出来るだけポイントを稼ぎ過ぎないように大人しくしておこう。
まぁ、それはさておき。
「今年も多くの生徒達から支持を受け、エルダーシスター候補として三人の女生徒達が選ばれました」
「私は教師としてこの三人の事を知っておりますが、どれも素晴らしい人格と能力の持ち主であると思います」
「実際、今年も例年に並ぶかそれ以上の激戦でありました」
「それは候補として選ばれた三人が三人とも、この場にあがるに相応しい人であるという証でしょう」
「教師の中から今年度はエルダーシスターが空席になるのではないかという言葉も出たくらいです」
「ですが、それらの予想を裏切り、今年度のエルダーシスターは無事決定しました!」
ワァァァ
…あぁ、良かった。
正直なところ、それだけが心配だったんだよな。
俺も色々と手回ししたけど、人の心だけは完全に制御出来る訳じゃない。
あの時、依子さんは頑張ると言っていたけれど、もしかしたら棄権したんじゃないかと今までずっと不安だった。
けれど、こうやってエルダーが決定したという事は彼女は約束を護ってくれたんだろう。
「では、前置きはここまでに致しましょう」
「今年度のエルダーシスターは…」
ダラララララララララララララララ
鳴り響くドラムロール。
舞台の上を踊るスポットライト。
手元の紙を見ながらマイクを握りしめる教師。
それをジッと見つめる生徒たち。
中には祈るようにその手を合わせている子もいる。
それが一体、何を意味しているのかは俺には分からない。
俺に分かるのは…次に呼ばれる生徒の名前だけ。
「……三年!家鷹 依子さんです!」
ワァァァァァァァァァァ!!!!!
―― 瞬間、体育館を震わすほどの声が響いた。
さっきまでとは比べ物にならないその声には歓喜の色が強く混じっている。
それは新しくお姉様と呼べる相手が生まれた事を喜んでいる…というだけではないのだろう。
新しく自分たちの象徴となる人が依子さんだからこそ、これまでの人生をその夢に向かって進み続けてきた彼女だからこそ。
これほどまでの歓声を、そして祝福を受ける事が出来ているんだ。
依子「あ…」
京子「…良かったですね、依子さん」
依子「き、京子さん…私…わた…くし…」ポロッ
京子「泣いている場合ではありませんよ?」スッ
京子「皆さん、今代のエルダー誕生を喜んでくれているのですから」フキフキ
依子「は…い」
そして、その祝福は依子さんにとって何よりの救いになる。
このエルダーシスターを巡る選挙の中で、彼女は大いに悩み、そして苦しんだのだから。
誰よりもエルダーに対して真摯であっただけに一時はその夢を諦めようとしていた依子さんにとって、この歓声の波は自分を許す事が出来る何よりの免罪符だ。
京子「ふふ、良い返事です」
京子「本当は色々とお祝いの言葉をかけてあげたいのですけれど…コレ以上、依子さんの事を独り占めしていたら怒られてしまいます」
京子「もう皆さん待ちかねているようですから早く顔を出して…一言掛けてあげてください」
俺が依子さんの涙をハンカチで拭いている間に体育館を揺るがすほどの歓声は勢いを弱めつつあった。
それは勿論、普段とは比べ物にならないほど浮かれ、歓声まであげている生徒たちの興奮が収まっているから…などではない。
皆、待っているんだ。
エルダーシスターとなった依子さんが舞台袖から現れる事を。
そして、その名誉ある称号を受け取り、彼女を選んだ自分たちに対して言葉を掛ける事を。
こうして体育館へと集った生徒たちは皆、期待混じりにそれを待ち望んで ――
「待ってください!!」
依子「っ…!」ビクッ
―― その瞬間、響いた声はさっきの歓声に負けないくらい強いものだった。
誰もが声を潜め、新しいエルダーシスターの登場を待ち望んでいた瞬間の『待った』。
それは声の感じからして一人の女生徒から放たれたものなのだろう。
だからこそ、それはさっきの歓声よりも小さく…けれど、それに負けないくらいに強い。
なにせ、それは群衆の中の一人から放たれるのだから。
エルダー候補でもないただ一人の一般生徒が依子さんを支持する8割に対して制止を唱えているその声が、その覚悟が、弱い訳がないのだ。
「こんなの…おかしいじゃないですか」
「だって…生徒会長は…家鷹さんは私達の事を騙していたんですよ!」
「友人を…いえ、部下を使って私達を脅して…!!」
「無理矢理、自分に投票させようとしてた人じゃないですか!!」
依子「…ぁ」
京子「依子さん…」
だからこそ…依子さんはその声を前にして怯んでいる。
それは勿論、謂れのない非難に過ぎない。
彼女はその件に関しては無関係どころか被害者と言っても良い立場なのだから。
だが、被害者であるからこそ、その強い言葉は依子さんの心を強く抉っている。
ようやく本当に立ち直りかけた彼女の心を再び突き落とそうとしているんだ。
「そんな方がエルダーだなんて…絶対におかしいです!!」
「私は…絶対に認めません!」
「他の方ならばともかく…家鷹さんがエルダーだなんて絶対に!!」
「そ…そうです!」
「私だって脅されました!嘘じゃありません!」
「私も見ました!脅されているところ!」
「そ、そんな風に人を脅すような人がエルダーシスターは嫌です!!」
ザワ…ザワ…
京子「(…まずいな)」
最初の一人に追従するようにあちこちであがる声。
エルダーの決定に否と唱えるそれらにざわめきが広がっていく。
勿論、そうやってざわめく人たち全てが、その声を信じているとは思わない。
だけど、幾人もの女生徒からあがる声にさっきまでの熱狂が冷めていくのがはっきりと分かる。
そして何より… ――
依子「…」フルフル
京子「(…依子さんの心が追い詰められている)」
京子「(冷めていく熱狂に怯えて…完全に足が竦んでいるんだ)」
京子「(…この声も依子さんが舞台に出れば収まるだろうけれど)」
京子「(今の彼女に抗議の声の前に出ろ、というのは酷だろう)」
京子「(しかし…このまま放置していけば、依子さんにとって状況が不利になる一方だ)」
京子「(だったら…)」スッ
依子「あ…き、京子さん…」
依子さんの手を出来るだけ優しく解いた俺に彼女が怯えるような声をあげる。
もしかしたら俺まで依子さんの事に幻滅したとか、そんな事を思っているのかもしれない。
強い人は一度折れると中々、立ち直れないって言うけれど…今の弱々しい彼女を見ていると本当にそう思う。
出来ればそんな彼女を励まして、事情を説明してあげたいけれど、今は時間との勝負なんだ。
可哀想であるが、そんな暇はない。
京子「依子さん、さっき私が言った事覚えてますか?」
依子「…え?」
京子「ちょっとぶっ飛ばしてきますね」ニコッ
依子「ぶ、ぶっ飛ばすって…き、京子さん…?」
京子「明星ちゃん、後はお願いね」
明星「はぁ…もう分かってましたけどね」
明星「…程々にしておいてくださいよ」
京子「善処はするわ」
多分、明星ちゃんは俺のやろうとしている事をちゃんと理解しているんだろう。
呆れ混じりに俺へと伝えられたその言葉が何よりの証拠だ。
そんな明星ちゃんの気持ちには応えたいけれど…まぁ、まず無理だろうな。
ここから先、どうやろうとしても、俺は目立ってしまう訳だし。
京子「(俺だって目立ちたくない。出来るだけ平穏な学校生活を送りたいってそう思ってる)」
京子「(正直なところ、依子さん達の前じゃ格好つけてただけで心臓はドッキドキだ)」
京子「(…でもさ。ここまで来て知らんぷりは出来ないだろ)」
京子「(今、この場で依子さんへのバッシングを止められるのは俺だけなんだ)」
京子「(…なら…俺が何とかしないとな)」
京子「(俺はここまで依子さんの背中を押し続けてきたんだ)」
京子「(その責任を果たすためにも…何より…震えている依子さんの為にも)」
京子「(…気合入れろよ、須賀京太郎…いや、須賀京子…!)」
京子「」スッ
「あ…アレは…」
「二年の須賀さん?」
「一体、どうして舞台に…?」
京子「(うぉお…すっげー見られてる…!)」
京子「(そりゃそうだよな…だって、本来ならここで出てくるべきは依子さんな訳だし)」
京子「(部外者どころか敗者である俺が出てくるにはこの場は決して相応しくない)」
京子「(訝しむようなものは少ないけれど…でも、場違いだって認識はしっかりと伝わってくる)」
京子「(だけど…ここで怯んだら終わりだ)」
京子「(背筋はシャンと伸ばせ、一挙一動を優雅にしろ、緊張を出さず、平然な顔を保って)」
京子「(【須賀京子】を完璧に演じ続けるんだ…!)」
それは決して簡単な事ではなかった。
幾らよその学校に比べれば人数が少ないとは言っても、永水女子には100人以上の生徒が在籍しているのだから。
そんな彼女達から視線が集まっているのを感じながらも、須賀京子であり続けるのは難しい。
…しかし、逆に言えば、難しいと言うだけで今の俺にとってそれが決して不可能ではないのだ。
永水女子でエルダー候補として過ごした日々が良くも悪くも俺の事を成長させてくれたのだろう。
…まぁ、そう思うとなんだか色々複雑ではあるけれど…今は有り難い。
京子「…マイクを貸して頂けますか?」
「え…でも…」
京子「お願いします。このままでは依子さんにとって不名誉な結果になりかねません」
京子「私はこの騒ぎを収めたいだけなのです。どうか…貸してくれないでしょうか?」
「……」
「…分かりました」
恐らく、そうやって須賀京子を完璧に演じられなければ、この教諭からマイクを預けられる事はなかっただろう。
一瞬、疑うような値踏みするような目になった彼女の前で少しでも挙動が不審だったならば、舞台袖に戻されたはずだ。
このざわめきの中、敗北したエルダー候補という俺の存在は劇薬にも等しいのだから。
この場で俺が生徒たちを煽動し、再びエルダー選挙をやり直すかもしれないのだから、そう簡単に渡す事は出来ない。
それでもこうやってマイクが俺の手の中にあるという事は彼女が俺の事を信用してくれたからだ。
この一ヶ月ちょっとの間、須賀京子が築き上げてきた実績や信頼は無駄ではなかったという事なのだろう。
京子「(…まぁ…無駄でない以上にプレッシャーを感じる訳だけどさ)」
京子「(でも…ここまで来ちまった以上、逃げられない)」スー
京子「(俺の背中にあるのは…ただ自分に対する信頼ってだけじゃないんだから)」ゥゥ
京子「(依子さんがこれから先、どうなるかは今からの俺に掛かっている)」ハー
京子「(だから…!)」ァァ
京子「…皆さん、聞いてください」
京子「彼女達が言う事は決して嘘ではありません」
京子「いえ、彼女達が嘘を言うはずがないのです」
京子「この場でエルダーの決定に否と唱えるには誰よりも強い勇気が必要なのですから」
京子「こうして舞台にあがっている私よりもきっと緊張された事でしょう」
京子「それでも尚、こうして声をあげたという事は彼女達が真に永水女子の事を」
京子「そしてエルダーシスターという象徴の事を強く思っているからこそ」
京子「私は永水女子に所属する生徒として、まず彼女達にお礼を言いたくあります」
京子「ありがとうございます。貴女達の気持ちは決して邪なものではありません」
京子「寧ろ、立派なものだと思います」
俺の言葉に体育館のざわめきは小さくなっていく。
それは俺の言葉に感銘を受けたから、ではなく、ここにいる皆がちゃんとした教育を受けた証だろう。
実際、既に敗北者になったのにも関わらず、突然、舞台にあがってきた俺に対して疑念を向ける生徒は決して少なくない。
いや、中にははっきりと軽蔑を感じられるほどの眼差しを見せる子だっていた。
そうやって俺を疑う人たちはきっと依子さんの無実を心から信じている人たちなのだろう。
そう思うとこの針の筵のような状況でも嬉しくなる。
京子「……ですが、決してそれは正しいとは私は思えません」
京子「冷静に考えてください。そんな事をする必要性が一体、何処にあると言うのですか?」
京子「そんな事をしなくても依子さんは今年度のエルダーを確実視されていた人でした」
京子「ただ、彼女は彼女であるだけで、最高の栄誉を得る事が出来たのです」
京子「それなのに友人を使って、他の生徒を脅しても得られるものと言えば悪評だけ」
京子「それでは依子さん自身に対するメリットなんてないも同然です」
京子「それはこうしてエルダー決定後に否と唱える彼女たちの存在からも分かるでしょう」
京子「彼女達だってそんな事に巻き込まれなどしなければ皆さんと同じように新しいエルダーの誕生を心から祝福していたはずです」
京子「故に…私はこの場で断言します」
京子「件の事件に依子さんは一切、関与していないという事を」
京子「いえ…それどころか彼女自身も被害者であるという事を」
勿論、実行犯であるあの先輩達だって良かれと思ってやったんだろう。
今年で卒業する友人の為に出来るだけの事をしようとしただけ。
けれど、それは思いの外、勢いづいた噂の所為で逆効果にしかならなかった。
そこまで考えてはいなかったのか、或いは何とかなると軽く考えていたのかは彼女たちと付き合いのない俺には分からない。
ただ、確かな事は依子さん本人とは関係のないところで噂が独り歩きし、彼女の評判を大きく損ねたという事だけだ。
京子「それでも…こうして声をあげた彼女達には信じられないでしょう」
京子「ですが、思い出してください」
京子「貴女達の知る依子さんはそのような事をする方でしょうか?」
京子「私の知る依子さんは誰よりも永水女子の事を思っている方です」
京子「…お恥ずかしいお話ですが、私は転校して初めての日、友人と廊下でじゃれあっていた時、彼女に注意されました」
京子「その時、依子さんが語ってくれた永水女子の理念の事を私は良く覚えています」
京子「私がこうしてこの場に立つ事が出来たのも、それを覚えていたからでしょう」
まぁ、これはちょっと持ち上げ過ぎかもしれないけどさ。
でも、こうして多くの人に語りかける以上、多少、オーバーな方が良い。
再びこの場で生まれつつある依子さんへの不信感を消し去るには、人の心情に訴えかけるのが一番なんだから。
勿論、口で言うほど簡単な作業ではないけど…しかし、既に多くの人が【家鷹依子】という人物に対して、エルダーに選ばれた人だという認識を抱いているんだ。
その漠然とした認識を広げれば、決して不可能って訳じゃない。
京子「私の友人である依子さんは正々堂々とした方です」
京子「エルダー候補となった私の事をお互いを高め合うライバルだと認め、正々堂々と勝負を挑んで来てくれました」
「でも…!でも、その結果、須賀さんだって怪我をさせられたじゃないですか…っ!!」
そこで声をあげたのは、かつて俺が助け、怪我した俺を見舞ってくれた下級生だった。
恐らくさっきエルダーの決定に否と唱えた中の一人であろう彼女はその目に涙を浮かべている。
…その涙が感情を昂らせているが故のものなのか、或いは味方だと思っていたはずの俺が依子さんを擁護しているからなのか。
飾り付けられた舞台の上から彼女を見下ろす俺には分からない。
分からないけど…今は彼女の涙に心を動かされているような感傷は必要ないんだ。
京子「えぇ。そうです」
京子「でも、それは決して依子さんの意思ではありません」
京子「いえ…そもそもそんな指示など出来る暇もなんてなかったのです」
京子「バスケットはかなり高速でボールが動くスポーツですし、あの試合はお互いに油断の出来ないハイレベルなものでした」
京子「何より、エルダー候補同士の試合と言う事もあって多くの注目も浴びていた中、私を怪我させるような指示など出す事は出来ないでしょう」
京子「例え、出せたとしても、そのような形で勝った依子さんが得られる名声などないも同然です」
京子「寧ろ、そうやって友人に指示をするほどにエルダーになる事に固執していたならば、私が悲劇のヒロインになるような展開は避けたいでしょう」
京子「以上の事から私はあの出来事は彼女の意思とは無関係なただの事故だと思っています」
「で、でも…!」
京子「…何よりです」
京子「皆さんはここ最近、私について囁かれている噂をご存知でしょうか?」
瞬間、舞台にいる俺から視線を逸らす生徒は決して少なくはなかった。
恐らくそうやって視線を逸らした生徒は噂を面白おかしく広めるタイプの子なのだろう。
まぁ、今回に限っては俺もそんな子たちを利用させてもらった訳だけどさ。
でも、これまで彼女達が噂を広めた所為で依子さんがあんなに傷ついたんだから良心の呵責は感じない。
京子「それは私が開正にいた頃の話を悪しように脚色したものです」
京子「その出処や広まった経緯について今、この場に糾弾しようなどとは思っていません」
京子「大事なのは…私がそれに何も返す事が出来なかったという事」
京子「転校してすぐにエルダー候補に選ばれ…名誉な事だと思っていたのに…」
京子「その直前で人の視線が急に変わって…私は…怖かったのです」
京子「いきなり私の周りの人々が変わってしまったような気がして…裏切られたような気がして」
京子「黙りこんで、強がるしか…私は自分を護る術を知りませんでした」
京子「ですが…そんな私を今日まで護ってくださる方がいました」
京子「それは勿論、依子さんです」
京子「ご自分だって、不名誉な噂を囁かれて辛いのに…彼女は私を助けに来てくれました」
京子「強がるしか無い私を護るナイトになってくれました」
京子「この永水女子でただ一人…噂に惑わされず、私に対して手を差し伸べてくれたのです」
京子「その時…私は思いました」
京子「この方こそ、本当のエルダーシスターだと」
京子「私達が模範にしなければいけない方なのだと」
勿論、俺が怖かっただの裏切られたのはまったくの大嘘だ。
寧ろ、そう見えるように今日の今日まで演技してきたと言っても良い。
…けれど、それでも…最後の言葉には一片の嘘はなかった。
確かに俺は依子さんの友人であるし、贔屓目が入っていないとは言い切れない。
しかし、それを差し引いても、あの時、俺に駆けつけてくれた彼女はやはり誰よりもエルダーに相応しいのだとそう思う。
京子「…本当は私も依子さんを信任し、エルダー選挙から棄権したかったです」
京子「ですが、彼女は言いました」
京子「こうやって候補として選ばれた以上、それは少なからず人の期待と想いを背負っているのだと」
京子「私は…それを聞いて、私を信じてくれている人たちの為に頑張ろうと思いました」
京子「こうして結果が出た今、その努力が実らなかった事を知りましたが…今、私は嬉しい気持ちで一杯です」
京子「依子さんがエルダーに相応しいと思った気持ちが私だけのものではなかった事が」
京子「この場にいる多くの人達が私と同じように依子さんの事をエルダーとして認めてくださった事が本当に嬉しいんです」
だが、その彼女はさっき表情を曇らせ、身体を竦ませていた。
今の依子さんがどうなっているかは、こうして舞台の上で全校生徒に語りかけている俺には見えない。
けれど、あんなに怯えていた彼女がこの程度で立ち直れるはずがないんだ。
だからこそ… ――
京子「そんな私から…皆さんに一つお願いがあります」
京子「今年度のエルダー選挙には確かに様々な事件がありました」
京子「傷ついた方もいると思います」
京子「ですが、こうして多くの方の支持を得て、新しいエルダーシスターが誕生したのです」
京子「それを祝う為に…拍手をしてくれないでしょうか?」
京子「私と同じ気持ちの方だけで良いのです」
京子「今、この場で深く傷ついているであろう依子さんの為に…」
京子「依子さんを支持した多くの人の気持ちが偽りではなかった証の為に」
京子「皆様の手をどうか今、この時だけお貸し下さい」
…パチパチ
パチパチパチパチパチパチパチパチ
―― 頭を下げた俺に合わせて、ゆっくりと拍手の波が沸き起こる。
最初、その拍手は決して大きいとは言えなかった。
けれど、一人また一人と拍手する人数が増える度にそれは波紋のように広がっていく。
勿論、こうやって拍手をしている全員が依子さんの事を支持していた訳ではないのだろう。
この場の雰囲気や同調意識だってかなり大きいはずだ。
だが…俺にとってはそれで良い。
いや…依子さんにとってはそれで十分なのだ。
依子「……」
そうやって拍手で迎えられて、出て来られないほど彼女は弱い人じゃない。
寧ろ、俺が知る女の子の中でははっきり強いと言っても良い部類の人だ。
さっき身体が竦んでいたのも、それだけエルダーに強い思い入れがあった所為。
そんな彼女は今、それを整理するだけの時間と前に出るだけの理由を与えられ、俺の前に来てくれている。
京子「後は貴女の仕事です」スッ
依子「……えぇ」
顔をあげた俺からマイクを受け取った彼女の手は震えてはいなかった。
瞳はさっきまで泣いていたのか微かに潤んでいるものの、強い意思の光を宿している。
その顔はしっかりと引き締められ、背筋もピンと伸びていた。
何処か威風堂々としたその佇まいは俺の良く知る依子さん…いや、永水女子生徒会長のものだ。
依子「京子さん、本当に…本当にありがとうございますわ」
京子「私は何もしていませんよ」
京子「この拍手は依子さんが今まで作ってきた信頼の証です」
京子「ですが…だからこそ、私はここから先はもう手助け出来ません」
京子「…一人で大丈夫ですか?」
依子「…えぇ。京子さんが作ってくれたこの場所を決して無駄にはしませんわ」
京子「ふふ。では、後はお任せします」
京子「ご武運を」
俺の言葉に軽く頷いてから、全校生徒の方へと向き直る依子さん。
その背中はもう俺の手助けを必要としていなかった。
シャンとしたその背中は俺よりも小さいはずなのに、ずっとずっと大きく見えるくらいなのだから。
きっと依子さんの言葉は皆の心に届き、エルダー就任を改めて祝福して貰えるだろう。
京子「(俺はもうここにいても邪魔者だな)」
京子「(一応、エルダー候補として敗北した事になってる訳だし、大人しく舞台袖に戻るとするか)」スタスタ
京子「…………ふぅ」
明星「…お疲れ様でした。大活躍だったですね?」クスッ
京子「もう…からかわないで頂戴」
京子「正直、こうやって舞台袖に引いた今だって心臓バックバクなんだから」
明星「その割にはノリノリだった気がしますけどね」
明星「京子さんは詐欺師としてもやっていけるんじゃないでしょうか?」ジトー
京子「詐欺師って…人聞きの悪い事言わないでよ」
明星「ですが、さっきのだってわざと誤解させるような言い回しばっかりじゃないですか」
明星「一見、棄権していないような事を言いながら実際は会長の事を信任していますし」
そう。
俺はとっくの昔にこのエルダー選挙を降りている。
いや、俺だけじゃなく明星ちゃんも同様だ。
二人共、依子さんを信任し、その得票全てを彼女へと渡している。
エルダー選挙では公平の為、投票結果の開示はされないが、もし開示された場合、依子さんの得票率は100%になっているはずだ。
京子「あら、私は一度も信任してないなんて言ってないわよ?」
京子「頑張ろうと思ったのも本当の事。ただし、努力は殆どしていなかったけれど」
明星「完全に詐欺師の論理ですよね」ジトー
京子「ただ必死だっただけよ。出来れば二度としたくないわ…」フゥ
京子「まぁ、こんな機会、もう二度と来ないでしょうけれど」
こうしてエルダー選挙に巻き込まれこそしたが、俺は永水女子に入学してからまだ一ヶ月ちょっとの新入生なのだ。
それがこうして依子さんの勝利という形で終わった今、俺は平穏な生活に戻れるだろう。
少なくともあんな風に人前で演説するような機会なんて二度と来ないはずだ。
決して人にバレてはいけない秘密を抱えている以上、俺に相応しいのは植物のように平穏な日々なのだから。
京子「それより…明星ちゃんにも棄権させちゃってごめんなさいね」
明星「もう…別に構わないって言ってるじゃないですか」
明星「そもそも私はそれほどエルダーに拘っている訳ではありませんし」
明星「何より後一年はエルダーになれるとは思ってませんから」
逆に言えばニ年後にはエルダーになってる自信があるって事か。
エルダーになるのに八割以上の得票が必要だということを考えれば凄い自信だよな。
でも、石戸霞の妹であり、一年生でありながらも、エルダー候補に選ばれた明星ちゃんなら決して不可能じゃないだろう。
実際、来年、彼女がエルダーになっても全然不思議じゃないくらいだしな。
京子「そうかしら?明星ちゃんなら来年は狙えると思うけれど…」
明星「来年こそ無理ですよ。来年のエルダーは京子さんに決まりでしょうし」
京子「…え?」
明星「…気づいてないんですか?あんなに皆の事を煽動して目立たない訳ないじゃないですか」
明星「今は皆、会長の方に意識がいってますけど、一週間もしたら京子さんの人気も上がってくるはずですよ」
京子「い、いや、それはないでしょう。だって、私はもうエルダーとは関係ない一般生徒なのよ?」
明星「普通の一般生徒は友人のために舞台にあがって、全校生徒に言葉を投げかけたり出来ません」
京子「う…そ、それは…」
まぁ、俺も冷静になったらやり過ぎだったかもしれないとは思ったけれどさ。
でも、あの場は他に方法も思いつかなかった訳し…何より依子さんに大丈夫だなんて言った以上、責任は取らなきゃいけない訳で。
これだけの条件が揃えば、俺のような貧弱一般生徒でも多少は派手な事をやらかしてもおかしくはない。
うん、そのはず。
明星「まぁ、さっきので京子さんが友人思いで謙虚な人だと言う事が知れ渡った訳ですし…」
明星「…明日から大変なのは会長の方じゃなくて京子さんの方なのかもしれませんね?」クスッ
京子「…なんとかならないかしら?」
明星「今更、どうにもなりませんよ。諦めて下さい」
京子「うぅ…」ガクッ
明星「まったく…そんなに凹むなら最初からやらなきゃ良いじゃないですか」
京子「…と言ってもここまでやった以上、見捨てられないでしょ」
実際、明星ちゃんから突きつけられた事実に凹みこそすれ、後悔はしていない。
もっとスマートなやり方があったかもしれないと思ってはいるものの、俺は決して間違った事はしていないんだから。
ベストではないかもしれないが、最低でもこの結果はベターではある。
少なくとも…舞台の上で全校生徒に語りかける依子さんの顔を見ていたらそう思えた。
明星「…まぁ、京子さんのそう言うところは美徳だと思いますけれどね。ただ…」
京子「ただ?」
明星「本当、程々にしておいてくださいよ。京子さんは秘密の多い身なんですから」
明星「…必要以上に親しくなってしまったら辛いのは他でもない京子さんですよ」
京子「…分かってるわ」
明星ちゃんの言う通り、本当の俺はあくまでも【須賀京太郎】の方なのだ。
【須賀京子】の方でどれだけ仲良くなったとしても親友にはなれない。
絶対にバレてはいけない秘密を抱えている以上、不自然じゃない程度に人とは距離を取らなきゃいけないのだから。
こうして色々と手を貸した依子さんとも、コレ以上仲良くなってはいけないだろう。
少なくとも…俺はコレ以上、彼女を親しくなって、自分の秘密を隠し通せる自信がない。
京子「(…まぁ、クラスで一人になっているって話を聞いてるし…ちょっと不安は残ってはいるけれどさ)」
京子「(でも、依子さんは念願のエルダーになれたんだ。きっと彼女の側に人も戻ってくるだろう)」
京子「(だから…俺が彼女の側にいる必要も、彼女が俺の側にいる必要もない)」
京子「(いや、依子さん側に行けば自ずと目立ってしまう事を思えば近づかない方が良いんだろう)」
京子「……」
明星「寂しいですか?」
京子「…えぇ。ちょっとね」
この一ヶ月間、エルダーという座を巡って本当に色々な事があった。
悩んだこと、苦しんだことは山ほどあるし、カルチャーショックもかなり受けている。
色んな事がありすぎたこの一年間でも、間違いなく激動と言ってもいいような時間だ。
…けれども、決して悪いことばっかりではなかったと思える。
京子「(…それは依子さんという友人が出来たからなんだろう)」
京子「(だけど…俺はそれをこれから手放さなきゃいけない)」
京子「(…それはやっぱどうしても寂しいよな)」
京子「(仕方のない事だって分かっているけれど…それが一番だって理解もしているけれど…)」
京子「(…こうして一つの山場を超えた今、ぽっかりと胸に穴が開いたような寂しさはどうしても消えない)」
明星「……」スッ
京子「…え?」
瞬間、俺の手に触れる感触はとても滑らかで、そして優しいものだった。
俺よりも少しだけ熱いそれはゆっくりと俺の手に絡みつき、そして握りしめる。
勿論、それは恋人同士がするような指を絡ませ合うようなものではない。
正直、これよりも激しいスキンシップは日常的にしているし、されている。
けれど、俺はこうやって明星ちゃんから手を握られた事なんて滅多になかったんだから。
思わず驚きの声を出してしまうのも当然の事だろう。
明星「…今日だけ特別です」
明星「特別に…私の手を貸してあげますから」
明星「だから…そんな顔しないでください」
京子「…そんなにダメな顔してた?」
明星「えぇ。まるで捨てられた子犬みたいな顔でしたよ」
明星「さっきあれほど目立ったのですから、これから先も京子さんは注目の的になるでしょう」
明星「それなのにさっきみたいな顔をしていたら、色々とあらぬ噂も立てられてしまいますよ」
京子「…それは…ダメね」
明星「えぇ。ダメです」
…確かに明星ちゃんの言う通りだな。
俺はさっき依子さんの友人兼ファンとして、あれだけのパフォーマンスをしたんだ。
俺自身もエルダー候補であったという立場もあるし、他の誰よりも彼女のエルダー就任を喜ばなければ。
…………だけど、依子さんと一緒に過ごした日々が悪くなかった所為かな。
やっぱりそう簡単に気持ちは切り替えられない。
明星「だから…そういうのはここで出しきってしまって下さい」
明星「…今だけは許してあげますから」
京子「…もう。厳しいんだか、優しいんだか分からないわね」
明星「私は巴さんとは違いますから」
明星「優しくはしますが、甘やかしたりはいたしません」
明星「…大体、こうやって手を握ってるのもまだ慣れてないんですよ、私」カァ
…でも、明星ちゃんがここまで勇気を出してくれているんだから出来ない…なんて言えないよな。
今まで俺に対して一歩引いてきたところがあった彼女がこうして踏み込んできてくれているんだから。
多少、不格好でも、強がりだったとしてもその気持ちには応えてあげたい。
京子「そうね。明星ちゃんは恥ずかしがり屋だから」クスッ
明星「ほ、他の皆さんのスキンシップが激しすぎるだけです。私は普通ですからね、普通」ムゥ
京子「えぇ。自分から手を握ってくれる程度には普通よね」
明星「う…し、仕方ないじゃないですか。目の前であんな顔されて放っておけないですし…」
明星「…それに私が余計な事言ったのが原因でしょうから」
京子「別にそんな事気にしなくてもいいのに」
京子「明星ちゃんが言ってた事は決して間違いって訳じゃないんだから」
明星「……そんなのは私の前で完全に取り繕ってから言って下さい」
京子「う…そ、それは…なんというか、ちょっと気が緩んじゃったと言うか…」
お屋敷の皆に対してはどうにも素と言うか本音が出やすいんだよなぁ。
やっぱり普段、【須賀京子】として嘘をつき続けている反動か、或いはこの半年間ずっと一緒に居て文字通り気のおけない仲になりつつあるのか。
…………多分、両方だな、コレ。
明星「…ふふ、冗談ですよ」
明星「大体ですね。私は京子さんみたいに何でもかんでも助けなきゃってタイプじゃありません」
明星「何とも思ってない人が目の前で落ち込んでても無視しますよ」
明星「少なくとも、こうして自分が恥ずかしいのを我慢して手を差し伸べようだなんて思いません」
明星「…だから、そんな風に私の前で気を緩めてくれるって言うのはそんなに悪い気分じゃないんですよ」ツイッ
京子「…明星ちゃん」
そう言いながら軽く目を逸らす彼女の頬はもう林檎に負けないくらい真っ赤になっていた。
俺の手を繋いだ時とは比べ物にならないそれは彼女なりの本心なのだろう。
正直、そんな風に思ってくれているとは思ってなかったから凄い嬉しい。
…ただ、ちょっと嬉しすぎて胸の奥がこそばゆくなってくるというか…なんというか。
こう普段が普段だけに素直に受け止めきれないガキな俺がいましてね…?
次スレー
【咲】京太郎「今日から俺が須賀京子ちゃん?」初美「その4なのですよー」【永水】 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1410530733/)
続きは次のスレでやっていきます
こっちは要望や1000ネタなどで埋めて下さい
出来るだけ対応させていただきます
立て乙ー
新スレ乙です
立て乙
新スレ乙ー
擬似百合ktkr!!!
哩め
乙やでー
>>1000ならなんやかんやあって8人で風呂に入る
>>1000なら各人の部屋の内装の描写がされる
>>1000なら京子ちゃんの京太郎がポロリ
>>1000なら誰かと2人きりでお風呂
うめ
このSSまとめへのコメント
このSSまとめにはまだコメントがありません