アルミン「まあ僕のお陰かな?」(29)
俺の名はジャン・キルシュタイン
俺たちは今、二人一組での行軍訓練の開始を待っていた。
背嚢を含めた完全装備の重量物を背負い、
深い山の中を三日かけて歩ききる。
立体機動装置の使用は失格、
そして必ず二人で到着すること、それがこの過酷な訓練の約束事だ。
先輩方の話では怪我人が多数出ること
そして仲が悪いものや、関わり合いが少ないものを
一組にするらしいということだった。
てっきり、死に急ぎ野郎と組まされるものと思っていた俺は
この組み合わせに心底驚かされた。
相方はミカサ・アッカーマン
死に急ぎ野郎ことエレン・イェーガーの幼馴染、そして俺が惚れた女だ。
ミカサ「よろしく・・・ジャン」
ジャン「あ・・・あぁよろしく」
言葉が続かなかった。
最初こそ、この組み合わせに感謝したが
他人から見れば・・・
いや俺から見ても嫌われていると判断されているということだ。
ミカサ「・・・どうしたの?」
ジャン「いやなんでもない、それよりも準備に取り掛かろうぜ」
準備の時間はたったの一時間だ。
普段関わらない相方、事故が起こりやすい環境、
あらゆることに対応できる兵士を作るためとはいえ、ひどい訓練だ・・・。
俺たちはなんとかお互いの装備を確認し終え、
いくつかある入山口の一つから出発した。
しばらくは比較的緩やかな坂道を無言のまま進んだ。
振り返り相方の所在を確認すると美しい黒髪が風に靡くのが見えた。
ジャン(これだけでも価値があったかな・・・)
ふと気づくと怪訝な目がこちらを見ていた。
慌てて視線を逸らすと吐息のような笑い声が聞こえたような気がした。
ジャン(なんか今日のミカサは明るく見える)
ジャン(それに当てられたのか幻聴まで聞こえたのか?)
ミカサ「ジャン・・・大丈夫?」
俺の心を見透かすようにミカサが声をかけてくる。
ジャン「ああ、大丈夫だ。」
冷静に返事したが、その言葉を後悔した。
二人の目の前には険しい壁が広がっていたのだ。
ミカサ「ジャンどうする?」
ジャン「とても登れるようには見えないな・・・迂回しよう。」
等高線だけ見れば何もないように見えたのだが山は難しい。
これで今日の目標到達地点まで俺たちの休憩はなくなった。
しかし山道を歩き続けることはとても厳しい。
流石のミカサにも疲れが見えてきた・・・
そして残念ながら自分はさらに疲れている。
それを察して珍しくミカサから話しかけてきた。
ミカサ「・・・最近ジャンはエレンに突っかからなくなってきてる。」
ミカサ「理由を・・・聞きたい。」
俺は先日エレンのもう一人の幼馴染から聞いたミカサの過去の話を思い出した。
ミカサの両親が殺されたこと
エレンが救ってくれたこと
さらにエレンの母が死に父が不明なこと
エレンが唯一の家族であること
そしてもう一つ・・・
ジャン「俺が・・・少しだけ大人になったんだよ・・・」
ミカサ「・・・そう、アルミンに聞いたの?」
この勘のよさも首席候補の理由なのか・・・
ジャン「そっちこそアルミンに聞いたのか?」
後ろを向くと夕焼けを背に
少しいたずらっぽく笑っているミカサが見えた。
顔が赤くなるのを感じ慌てて正面を見据え答える。
ジャン「死に急ぎ野郎って評価は変わらねえ。」
ジャン「・・・そうなる理由が合ったことはわかったさ。」
しばらくの沈黙の後、俺は歩を緩めた。
ミカサも歩調をあわせ、そして静かに話し始めた。
ミカサ「・・・少し聞いて欲しい。」
ミカサ「私とエレンは双子のような関係なんだと思う。」
ミカサ「あの事件のせいで普通では感じることのない共感を持っている。」
ミカサ「エレンと私はお互いを守るためにそれぞれの半身になっていた。」
いつもと違う澄んだ空気の中、ミカサは話し続ける。
ミカサ「今まではずっとそうだった・・・。」
ジャン「・・・アニか・・・」
俺はミカサのことを考えずに口に出したことを後悔した。
後ろを見ずとも小さく震えているのが伝わってきた。
謝罪の言葉を口にしようかと考え、空を見上げると
茜色の空に少しずつ夜の帳が降りてきていた。
ジャン「少し早いがここで夜を明かそう・・・。」
聞いてはいたが、ミカサはエレンに依存をしている。
しかもここに来て依存相手が自分から離れようとしている。
今日感じた違和感・・・精神的に参ってきているのかしれない。
空が闇に包まれ俺たちは小さな焚き火を起こした。
ジャン「なあミカサ・・・。」
ジャン「エレンがアニと付き合ったのは知っている。」
ジャン「あいつはそれでミカサを守るのをやめる奴じゃない。」
ジャン「より頑張って二人とも守る奴だ。」
ジャン「そしてミカサがエレンを守り続けるということも変わらない。」
ジャン「・・・だろ?」
ミカサ「少し寂しいけど・・・わかっている。」
焚き火が柔和な火の音を立てる
ジャン「何故・・・俺に話した?」
ミカサ「ジャンはエレンとアルミンと同じくらい」
ミカサ「私を気にかけてくれてたからかな・・・?」
焚き火のせいかミカサの顔が夕焼けのときよりも赤く見える。
そして照れ隠しなのか急いで言葉を繋いだ。
ミカサ「そういえばアルミンに聞いた。」
ミカサ「ジャンがエレンに勝つために努力を続けていると。」
ジャン「少し違くなった・・・。」
ジャン「俺が努力をするのはミカサの背中を守るためだ。」
普段表情が変わらないミカサが目を丸くする。
俺はさっきの予想が半分外れていることに気がついた。
そして、この想いを伝えることを決めた。
ジャン「エレンが危ういのはわかる。」
ジャン「だから命を懸けてそれを守ろうとすることを認める。」
ジャン「そのうえで俺はミカサの半身になり、お前を守りたい。」
少し弱くなった火の向こうでミカサがゆっくりと口元を手で隠すのが見える。
ジャン「今はまだ実力が不足しているのはわかっている。」
ジャン「だから・・・こんなこと頼める立場じゃねーが・・・」
ジャン「卒業まで待ってくれ!必ずエレンを超えて・・・」
ジャン「そして改めて告白をさせてくれ!!」
焚き火はほとんど消えていた。
しばらくミカサのすすり泣く声だけが夜の静寂に響いていた。
そして小さいがはっきりとした声が返ってきた。
ミカサ「ジャン・・・待ってるね。」
・・・・捧げて巨人という脅威に立ち向かってゆくのだ!
『心臓を捧げよ』 ハッ!!!
本日、諸君らは訓練兵を卒業する・・・
その中でも最も訓練成績が良かった上位十名を発表する
呼ばれた者は前へ!
首席 ミカサ・アッカーマン!
二番 ジャン・キルシュタイン!
おわり
ジャンミカ……だと…!
雰囲気作りが上手い
乙でした
乙!
これは素晴らしいジャン
乙
かっこいいじゃん
短いジャン
乙
啓蒙家アルミン先生、ジャンの進化を大きく前倒し
短いながらも面白かった
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