勇者「世界崩壊待ったなし」 (701)


あらすじ



海に浮かぶ小さなこの大陸には
人間と魔族が共存しています

100年前には割と血みどろな人魔戦争があって
勇者と魔王が瞳孔開きながらぶっ殺しあったことがありました
(勇者「百年ずっと、待ってたよ」)
 勇者「百年ずっと、待ってたよ」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1386699534/)


戦争後かろうじて生き残った魔族の子孫たちも
討伐に来た勇者によって殺されそうになりますが

魔王と勇者が和解したことにより戦は起こらなくなります
その後勇者は国王に反旗を翻します
(幼女「待ちくたびれたぞ勇者」)
 幼女「待ちくたびれたぞ勇者」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1375457744/)


人と魔族の和平から数年 平和な暮らしもつかの間
世界崩壊カウントダウンがはじまって
バッドエンド不可避でやばいという話
(勇者「世界崩壊待ったなし」 これ)





SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1399715089




魔王「んん……」ムク

魔王「朝か……」

魔王「顔を洗いに行かねば」



バシャバシャ



魔王「……」

魔王(なんだか城が騒がしいな……あとで下に降りよう)

魔王「……寝癖を直してから」

魔王「……?」

魔王「…………!?」







ヒュン


勇者「おっしやっと来た!!うおおおおおおおあああああああ」


チリンチリンチリン


勇者「俺だ!!10秒以内に応答がなければ勝手に入るぞ!!10中略0おじゃましまーす!
    魔王いるかーーっ!!緊急事態だ大事な話がある逃げるなよ!!」

勇者「姫様。ついてきて頂いて大変恐縮なのですが、少しだけ二人で話させてもらってもいいですか」

姫「ええと……今の様子を見る限りとても不安ですが、分かったわ。行ってらっしゃい」



勇者「魔王ーーーっ どこだ!?」


ダッダッダッダッダ……


バターン


勇者「魔王!!!ここにいたのか!!!」

魔王「……!?」

勇者「大変だ。落ち着いてよく聞いてくれ」

勇者「もう間もなく世界が滅亡するかもしれないんだそうだ」






魔王「……」

勇者「……」

魔王「……」

勇者「なあ聞いてるか? なんでタオルで顔隠してるんだよ」

勇者「こっち向……」

魔王「……」パサ

勇者「なっ お前、それ……どうした!?」


魔王「どうやら、この世界に何らかの異変がまた現れたのは間違いないようだ」

魔王「……大変だ。落ち着いてよく聞いてくれ」

魔王「私は人間になってしまった」



勇者「……ええええええーーーーーーーーーっ!!」






時の神殿

  

??「もう何の役にも立たないゴミクズ……」


??「結局、ぜんぶ僕の手によって消え去ってしまうんだ」

??「この世界はもういらない」

  

バタン


??「やあ」

時の女神「…………? だれです……?」

??「はじめまして」

女神「……鍵守様……ではないですね。姿は似ていますけど」

女神「まさか……あなたが創世主様なのですか?」

??「そうさ。それで君が時の女神だね」

??「君の仕事といえば、時間を管理すること」

??「君がいなくなってしまえば、時空の歪みがそこここに生まれて大変なことになってしまうね」

女神「あ……はあ、そうですね……」

女神「あの……あなた様は一体……何故この神殿にいらっしゃったのですか?」

??「僕は一応創世主という肩書だから、生むのは得意だけど消すのはそうじゃないんだ」

??「だからこんな地道な作業を繰り返すしかないんだけどね」

女神「……」

女神「……なにを」

??「君には一番最初に消えてもらいたいなって」

女神「!?」



??「じゃあ」








――カラン……カランカラン


??「これが時の歯車か」

??「よし。これからはじまるぞ。じゃあ幕を閉めようか」


??「この世は舞台」

??「そして人生は歩く影法師。あわれな役者だ」

??「束の間の舞台の上で威張りくさって歩いてみるが、出場が終われば耳を傾ける者もなし」



??「男も女も老いも若きも勇者も魔王も皆全て、僕がつくりあげた役者に過ぎない」

??「カーテンコールはいらない」

??「おわりのはじまりだ」







――――ちょっと前


王都


魔術師長「ねえ~~魔王ちゃぁぁん~~お願いがひとつだけあるんだけどぉ」

魔王「断る」

魔術師長「まだなにも言ってないじゃない!!」

魔王「研究の手伝いならこの間やった」

魔術師長「この間以上に締めきりがやばいのよ~~ ねぇぇぇお願いお願いお願い」


    「くくくく……」

魔術師長「なにっ!?この声は!?」

召喚師長「僕だよぉ……」

魔術師長「あなたなんでここにいるのよ?」

召喚師長「残念だったね……魔王は既に僕の研究を手伝う予定があるんだ……」

魔王「ないが」

召喚師長「だから魔術師長の研究の手伝いなんてする暇はないんだ。おとなしく帰りたまえよ」

召喚師長「次締めきり過ぎたら減俸の僕を気遣って、やさしい魔王は僕の手伝いをしてくれるって言ったんだよぉ!」

魔王「言ってないが」

魔術師長「なんですって!? ていうか減俸って、あなたどんだけやらかしてんのよっ」



魔王「二人とも話を聞け。私は明日王都を離れて一度魔王城に帰るつもりだ」

魔王「そのために私は私でこちらのことを片づけるのに忙しいから、君たちのことは手伝えんぞ」

召喚師長「だってさ。だからほら言っただろ?帰りたまえ魔術師長!!」

魔王「いや、だから君もだ……」

魔術師長「ぞんな゛~~ えぐえぐ」






ざわざわ ざわざわ


魔術師長「あら? 城の外が騒がしいわねぇ。一体なにかしら」

召喚師長「窓から見えるよ。騎士団が遠征から帰ってきたみたいだ」

魔術師長「ああ……。最近変なことが続いてるから、騎士団も忙しいみたいねぇ」

召喚師長「顔色から見るにあまり成果は上がらなかったみたいだね。また原因不明か」

魔術師長「勇者もいるわ」

魔王「……」



騎士A「はあ……まーた今回も成果なしでしたね」

勇者「なんなんだろうな。あんな大穴、とても一晩で掘れるものじゃないし」

勇者「しかも底なしときた。でも一番謎なのは……」

騎士B「動機ですよね。穴なんて掘って一体なにがしたいんでしょう」

騎士B「まあ、人の手によるものでなく自然現象と考えるのが妥当だとは思いますが」

勇者「突然各地に巨大な穴が開く自然現象って、なんだよ?」

騎士A「さあ……。どちらにせよ不思議ですね」

騎士B「あ」

勇者「?」

騎士B「魔王様と魔術師長様と召喚師長様が、ほら、テラスから」

小隊長「魔術師長様と召喚師長様はこちらを指さして楽しそうだな……
    大方成果のあげられなかった我々を笑っていらっしゃるのだろうが」

小隊長「はあ……」

勇者「はは。相変わらず騎士団とあっちは仲が悪いな」

騎士A「あっ 魔王様が手振ってくれてる!俺にか」

騎士B「馬鹿言え……俺にだろ」

小隊長「お前らいい加減にしろ。浮かれすぎだぞ。団長に報告を終えるまでが任務だ」

小隊長「……そもそも俺だろ」

騎士A「それは絶対ありえません」

小隊長「なんで!?俺って嫌われてるの!?」










魔術師長「ふん……相変わらず馬鹿丸出しねぇ。騎士団の連中は」

召喚師長「勇者に声かけに行けば?魔王」

魔王「いや……あとにしよう」

魔術師長「何故? ……ああなるほどね。
     あの木の影で若い小娘たちが今か今かとあいつらに飛びかかろうとしているわね」

召喚師長「騎士団の今年の新入隊員は例年より女子の割合が多かったみたいだからね」

魔術師長「チィッ こちとら今年は希望者が少なかったって言うのに腹立つわねぇ」

魔術師長「魔王ちゃん。あの女狐たちの前で、勇者は自分のものだって見せつけてきていらっしゃい」

召喚師長「そうさ魔王。それで召喚師部に勧誘してきてくれ」

魔王「何故そうなる……」

魔術師長「何故って。あなた、勇者と付き合ってるんじゃなかった?」

魔王「どこをどう見たらそうなるんだ」

魔術師長(えっ。ちがうの)

召喚師長(えっ。そうだったんだ)






宮殿


国王「うん。確かに受け取った。おや、今月は随分小麦の収穫が多かったみたいだね」

竜人「そうなんですよ。新しい肥料を導入したせいですかね」

国王「なるほどね。 他国との交易もうまくいってるようだし、成長著しいな」

竜人「国王様こそご立派になられて。あのころとは見違えましたね」

戦士「それが根本は全く変わっとらんでな」

戦士「俺はいまこの方のお近くで仕事をしているが……」

国王「最近のマイブームである、会議中に誰にも気づかれずアヘ顔ダブルピースゲームやってたら」

国王「後で彼に怒られてしまったよ。ハハハ」

竜人「そりゃそうでしょう」

騎士「この王の奇行には全く頭が痛いですよ……」

国王「いやあ照れるね」

竜人「戦士さんと騎士さんもお元気そうでなによりです」








竜人「そういえば戦士さんの娘さんはこの間誕生日だったそうですね。
   おめでとうございます」

戦士「ありがとう。もう娘も15だ……。最近彼氏ができたみたいでな……。
   昔は……昔はパパと結婚するって言ってくれてたのに……寂しいものだ……」

竜人「ああ……その気持ちすごく分かります!
   魔王様も……昔は『私が大きくなったら魔女も竜人もいっしょに娶る』って仰ってたんですよぉ」

国王「一夫多妻か。さすが魔王だね」

騎士「それ以前に何かがおかしいような……」




姫「お兄様、今ちょっとよろし……あっ」

姫「竜人さん!いらしてたんですか……し、失礼しました」

竜人「いえ、もう帰るところですのでお気になさらず」








姫「帰ってしまわれるのですか……いえ別にいいのですけどもね……別に」

国王「どうかしたのかな。あ、もしかしてこの間の」

姫「!!」

国王「貴族との見合いの話――」

姫「ではないです!!!そうでは全くありません!!!」


竜人「姫様もそんなお年ですか。うまくいくといいですね、その方と」

姫(……お兄様)ギロ

国王「ハッハッハ、目つきが悪いぞ妹よ」



姫「……そのお見合いを今日は断りにきたんです。私にはまだ結婚は早いと思いますし」

姫「…………せっかく竜人さんがこの場にいらっしゃるから、ついでにお尋ねしますけれど
  竜人さんは……ご結婚とか考えてらっしゃる方がいらっしゃるのでしょうか?」

竜人「え?いえいえ私は全く」

竜人「恥ずかしながらその手の話には疎くてですね。ははは」ゴォッ

竜人「おっといけない。うっかり人の姿のままで火を吹いてしまいました。失敬」

騎士「……!?」ガクガク

戦士「お前、絶対うちの娘の前で照れ笑いをするなよ」



姫「……」

姫(竜人さんって照れると口から火を吐くんだ……)

姫(……)

騎士「……」


姫(素敵……)

騎士「姫様ー!お気を確かにー!ちょっと盲目すぎませんかー!?」






魔王「勇者くん。おかえり」

勇者「魔王。久しぶりだな。王都にいたのか」

魔王「いたのだ。 穴の原因は……」

勇者「いや、結局分からず仕舞いだ」

勇者「この国だけじゃなく雪の国や星の国でも同じようなことが起こってるみたいだが、
   どこの国も原因がまだ分かってないらしい」

魔王「共通しているのは、一晩で底なし巨大な穴がいきなり地面に開くことくらいか」

魔王「ところでこの底なし、というのはどうやって確かめたんだ?」

勇者「召喚師に鳥の幻獣を召喚してもらって、人がそれに乗って下まで降りたんだ。
   でも1時間くらい下降しても何も見えなくてな、それ以上は危険を感じてやめたって」

魔王「ふむ……一体なんなのだろうな」

勇者「そんな穴開ける理由も分からないし、第一どうやって掘ったんだか」

勇者「……あんなこと一晩でできるとしたら魔王くらいしかいないんだけど、
   本当にお前じゃないんだよな……」

魔王「なっ……ちがうぞ。私を疑っているのか」

勇者「いや、冗談冗談。そんな睨むなよ」

勇者「ま、穴については、落下する奴がいないように騎士たちが見張ってるし」

勇者「だれがやったのか、それとも災害かなんか知らないが、そのうちおさまるだろうな」

魔王「……」

勇者「おい、そんなに怒るなよ。さっきのは本当に冗談だって!」






魔王「勇者くんが私のことをそんな風に思っていたとは知らなかったな」

勇者「いやっ悪かったって!魔王がそんな意味分からないことするなんて思ってないよ」

魔王「大体私にそんな暇はない。
   今日王都での魔術研究をやっと終わらせて、明日魔王城に帰って自治区の諸々の事務処理などをしなければならないのだから」

魔王「ここ一カ月……王都と魔王城を往復する毎日で、休みがないのだぞ。
   休みがほしいっ……ケーキ食べたいっ。時間をかけてゆっくりケーキを食べたいっ」ダンダンッ

勇者「お、落ち着け。悪かったよ」

勇者「そうだ、南区の新しくできたあの店行きたいって言ってたよな。
   来週行こうぜ。奢ってやるよ」

魔王「え……?」

魔王「でも君は……騎士団の仕事が忙しいのでは」

勇者「来週は俺も遠征なしでこっちでの仕事ばっかりだから、予定合わせる」

魔王「ほんとうに……?」

勇者「ああ」

魔王「行くっ」

魔王「……来週までに過労死してでも私の仕事は終わらせよう」

勇者「過労死はしないでくれ」

魔王「約束だからな。その日を心の支えにして来週まで頑張るのだから、
   もし反故にされたら私の精神はどうなるか分からんぞ。覚えておけ勇者くん」スタスタ

勇者「またよくわからん捨て台詞を……」








* * *


どっかの町


生徒「先生さよーなら!」

元神官「はい、さようならー」


勇者「……」

「…………ちょっと勇者様?なにを笑っているんです」

勇者「いや、ちゃんと先生やってるなって思って」

元神官「やってますよ。当たり前じゃないですか」

勇者「神官やめて教師になるって言ったときには驚いたけど、なかなか様になってるな」

元神官「けっこう楽しいですよ。こうしてこの長閑な町で教師をやっていると」

元神官「勇者様たちと旅していたあの期間が、どれだけ激動に満ちていたかと思い知らされますよ……」

勇者「とか言いつつ一番はっちゃけてたのはお前だよな」

元神官「ちょっと何言ってるんですか!?そういう誤解を招くようなことやめてくださいよ!!」



元神官「今日はこの町の近くに出現した穴を調査するついでに?」

勇者「まあな。あれは3日前に現れたんだっけ?」

元神官「ええ、そうですよ。でも別に……とくになにもないですね」

元神官「穴からマグマが飛び出してきたりもしないし、温泉が湧いてくるわけでもなし……」

勇者「この国だけでも13か所か。全く、暇人もいるよな。
   一人じゃ絶対無理だし、団体でやったんだろ」

勇者「あーもうまったくよーー!!
   転移魔法が使えるからって、穴の報告がある度に確認に回される俺の身になってくれよーー!!」

勇者「今日も残業だーー!うわーーい!!」ダンッ

勇者「ま、今日は教師に久々に会えたし別にいいけどな」

元神官「ははあ……勇者様も大変ですねえ。
   魔王様との旅を終えてから、騎士団で仕事してるんでしたっけ」

勇者「ああ。勇者って別に職業じゃないしな」

元神官「確かにそうですね」

勇者「剣を使うのはまだいいが、事務処理が堪える……」

元神官「でしょうね。書類を前に苦悩する勇者様が一瞬で想像できますよ」









元神官「……ですがさっきの、穴が団体で誰かに掘られたっていうのは違うと思いますよ」

勇者「え?」

元神官「だって、穴を最初に発見した人が言ってました。
   穴の周りにはなにもなかったって」

勇者「はあ……それが?」

元神官「なにもですよ。普通穴を掘ったら、その体積分の土が周りにあるはずじゃないですか」

勇者「……ああ、そっか」

元神官「間違いなく人や魔族の仕業ではないと私は思いますよ」

元神官「魔王さんにも……ちょっと難しいんじゃないでしょうかね」

勇者「……」

元神官「私は少しだけ嫌な予感がします」


元神官「まるで何かの前兆のような……」







* * *


魔王城


魔王「……ふう。今日はこのへんでやめておくか」


コンコン


竜人「魔王様ご飯ですよ!」

魔王「いま行く」



魔女「ひゃっほーっ 新薬できたー!できたよ魔王様ーっ」

魔王「何の薬だ?」

魔女「身長が伸びる薬ー」

魔王「なに!?」ガタ

魔女「まだ実験してないから試験体になってくれます?」

魔王「分かった」

竜人「こらっ!!だめですよ魔王様!
   魔女の薬は成功してたら出来がいいですが失敗してたら最悪なんですから!!」

竜人「いくら身長伸ばしたいからって安易に実験体にならないでください!!」

魔女「ちっ……うるさいなぁ竜人は」

魔王「しかし、もし成功してたらどれくらい背を伸ばせるんだ?」

魔女「一滴飲むごとに1cm伸ばせるから、10cmくらいまでとりあえず今すぐOK」

魔王「飲み干そう」

魔女「いえーい」

竜人「私の話聴こえてました?だめです」ヒョイ

魔王「返せ」

魔王「く……もし私にあと10cmの身長があったら今も竜人から薬を取り返せたのに」

竜人「あと30cmくらいないと届きませんよ」

魔王「虎穴に入らずんば虎児を得ずというだろう。竜人、それをよこせ」

魔女「おうおう天才魔女ちゃんの薬を虎穴呼ばわりたぁ恐れ入るね」

竜人「虎穴どころか……」

魔女「なによぅ」

竜人「先週、変な触手もってる植物つくって失敗させて、下にある私の部屋まで滅茶苦茶にしたのは
   一体どこの誰かさんでしたっけね……」

魔女「知らないもーん」








魔王「私が王都に行ってる間にそんなものをつくっていたのか」

魔女「だって触手の植物ってけっこう需要あるんだよー」

魔女「もうそろそろ魔族地区の特産指定うけてもいいくらい売上絶好調なんだから!」

魔王「確かに交易でもなかなか買い手がつくな。魔女のおかげだ。
   しかしよく分からんな、香りがいいわけでも実をつけるわけでもないのに」

魔王「食べることもできないし、何かの役に立つとも思えない。
   鑑賞用……なのか?私には理解できないが風情があるのだろうか」

魔女「何かの役って、そりゃ決まってるよ。大人のおも――

竜人「ほら!!早く二人ともご飯食べないと冷めてしまいますよ!!
   さあ早く席について!ねっ、ほら!!」

竜人「今日はシチューですよ。魔王様お好きでしょう。ねっ」

魔王「シチューか。素晴らしいな!」

竜人「魔女。余計なことそれ以上魔王様の前で口にしてはいけませんよ」

魔女「過保護だなー もう」








竜人「そもそも……」

竜人「身長が伸びないのは魔王様が牛乳を飲まないからではありませんか?」

魔王「何故牛の乳など飲まねばならん」

竜人「好き嫌いはいけませんよ」

魔王「はあ……。成長したらもっと……こう、きりっと立派な魔王になれると思っていたのに」

魔王「背は高くて、顔は大人っぽくて、剣も得意で、向かうところ敵なしの完全無欠な存在に」

魔女「けっこう欲張ったね」

竜人「向き不向きというのがあります。とりあえず今日から牛乳飲みましょうか」コトッ

魔王「……。……」ゴク

魔王「……不味いぞ」

魔王「不味い!こんなものやはり飲めない」

竜人「ああ、それなら畑でとれた苺をつぶして混ぜてみましょうか」

魔女「えーーーなにそれおいしそう。あたしにもちょうだい」

竜人「いまつくりますから」


魔王「……」

魔王「……甘い」

魔王「おいしいなっ」

竜人「はあああああ魔王様かわいいいいい(おかわりありますよ)」

魔女「逆」





* * *


一週間後


魔女「あれー。魔王様どっかに出かけるの?」

魔王「ああ。王都に」

魔女「ふーん……。……だったら竜人のいないうちに行った方がいいよ」

魔王「?」

竜人「私がなんです?」スタスタ

魔女「ありゃ。来ちゃった」

竜人「おや魔王様、お出かけですか。どなたかお友達とですか?」

魔王「ああ」

竜人「そう………………」

竜人「ですか…………」

魔王「な……なんだ」

竜人「スカートが少々短くはないですか?」

魔王「ひざ下10cmだぞ。どこが短いんだ。それだったら魔女の方が何倍も短いだろう」

魔女「そうだよ、魔王様はもっと足だした方がいいよ」

竜人「……え? もしかして…………どなたか男性とお出かけになるのですか……?」

竜人「……デートですか……?」クラッ

竜人「……ていうか勇者様とですか?……あの野郎と二人っきりで……お出かけに?」

魔王「何故そこで勇者くんの名前が出る」

魔女「あ、ちがうの?」

魔王「違う」

竜人「今目ぇ逸らしましたね!?やっぱりあいつなんじゃないですか!!!
   ああっ!!手塩にかけて育てた魔王様が……」

竜人「ついに私たちに黙って男性と出かけるようになってしまわれたとは!!
   これが……戦士さんが仰ってた思春期!!ああっ悲しい!!」

魔王「ええい違うと言ったら違う!もう待ち合わせに遅れてしまうから私は行くぞ」

魔王「転移魔法」

竜人「こらっ待ちなさい!!まだ話は終わってませんよ!!」



ヒュン



竜人「あのクソ勇者め……!!!」

魔女「どうする?竜人。魔王様が明日の朝帰りだったら。
   今日の夜あんなことやこんなことまで勇者にされちゃうかもねー」

竜人「殺してきます」スッ

魔女「うそうそ、冗談……ってあんた今日仕事あるでしょ」

魔女「ちょっと!!私に押し付けないでよ!?ねえ!!」





王都


魔王「竜人のせいで待ち合わせに遅れてしまう。急がなければ」


スタスタ


魔王「……」

魔王「短い……だろうか?」

魔王「いやこのくらい普通だろう……変なことを二人が言うから」

魔王「全く」

魔王「ただ友と食事をするだけだ。なのに」




魔王「…………!」


ピタ


魔王「だれだ?」

魔王「後をつけているのは分かっている。隠れていないで出て来い」

??「……」

??「君が魔王かな?」

魔王「……そうだが」






勇者「……魔王遅いな」

勇者「寝坊か?」



――ヒュッ!!


勇者「!?」キィン

勇者「なんだ!? ……見たことない飛び道具だな」

??「くないって言います」



キャーー!
 なんだなんだ!?


――カッ!
――――カッ カッ!


勇者「うおっ なんだよ! 誰だ!?」

??「貴様が勇者様ですね!私は東国から参りました忍です!くのいちです」

忍「さっそくですが――お命頂戴っ!!」

勇者「お、おいっ」








ヒュンヒュン


勇者「こんな街中で……いきなり危ないだろ!
   その妙な飛び道具が人にあたったらどうする……、!」

勇者(火薬の匂い!?)

忍「どかーん!」


ドンッ……!


  「うわー!?一体なんなんだ!?」

  「逃げろー!」


忍「よっしゃあ!!
  勇者様とあれど、私の『全く忍んでいない爆破攻撃』にはひとたまりもなかったようだな!!ふははは!!」

勇者「俺はこっちだ」

忍「げっ 生きとるがな」

勇者「こっちに来い!」

忍「待てーー!」

勇者(とりあえず人気のないところに……)タッ







* * *


魔王「私は確かに魔王だが、君は一体何者だ」

妖使い「俺は妖使いっていうものさ。妖っていうのは……こっちでいう魔族みたいなものだ」

妖使い「俺のいた東国じゃあ君たちのことをそう呼ぶ」

魔王「見慣れぬ格好だと思ったら、大陸の外から来た者だったのか」

妖使い「君が魔族のトップなんだろう?」

妖使い「突然だけど、お手並み拝見させてもらえないかな?」

魔王「私は今急いでいるのだが」

妖使い「ボクコッチのコトバわかりまセーン」

魔王「うそをつけ」

妖使い「いっけー妖孤!君に決めたーっ!!」


ボフン


妖孤「ええと……主様の命令なので戦わせて頂きますね……すみません」

魔王「君の主は話を聴かないな」

妖孤「ええ、ほんとすみません……」ヒュッ

魔王「捕縛魔法」









スゥ……


魔王「なに? すり抜けた?」

妖使い「妖孤は何にでも変身できるからね。いまは霧に身を変えたのさ」

妖使い「そして背後から君に襲いかかるよ。どうするのかな」

魔王「……」

魔王「霧なら風で追い払えばいいだけだ」


ビュオッ


魔王(どこだ?)

魔王「!」

妖孤「……はあっ!」ブン



妖使い「ほう。あれがこっちの防御結界か。
    妖孤の爪も防ぐなんてなかなかの強度みたいだな」

妖使い「でも防ぐ一方じゃ妖孤には勝てないよー。
    といってもすぐ妖孤も霧になっちゃうから攻撃はあたらないんだけどね」

妖使い「…………」

妖使い「なんか空気が冷たくなってきたなぁ」








パキ……パキパキ……ッ


妖使い「……ああ!そうか。魔王が空気の温度を下げているのか」

妖使い「閉め切られた室内ならまだしも、屋外でそんな芸当ができるなんて。
    ……なかなかいいね」


妖孤「うえええ……体が動かしづらい」

妖孤「じゃあ火の玉に変化!」


ガシャン!!


妖孤「へ?」

妖孤「あれ?あれ?なにこれ?抜けだせないよぉ~~助けて主様~~」

妖使い「この檻は一体何でできてるんだい」

魔王「私の魔力だ。どんな物質に変化しても抜けだすことはできない」

魔王「……君も拘束させてもらうぞ」

妖使い「ありゃ」ガシャン

妖使い「……本当に抜けだせない。すごいな」

妖使い「…………さすが魔王。君……すごくいいね!ぜひ欲しい」

魔王「は?」



妖使い「俺と契約して下ぼ……くじゃなくて、使い魔になってよ!」

魔王「……。…………断る」



スタスタ


勇者「あれ。魔王じゃないか。なにしてんだ? だれだそいつら」


魔王「勇者くん……いや、君こそ肩に担ぎあげているのは誰だ?」






ケーキ屋 テラス席



妖使い「この忍は俺の護衛さ。別に俺一人でいいって言ったんだけどね、
    なかなか周りの連中が聞かなくて。俺けっこうお坊ちゃんなんだ」

忍「はい!私は若の護衛でこの度この大陸まで参りました。
  本当は我が家は代々スパイとか諜報とか、隠密の任務を負うものなんですけど」

忍「私にはあんまりそういうの向いてないみたいで!
  ということで若の護衛として派手にぶっ放す所存であります!」

勇者「なんで護衛任務についてる奴が単独で俺を襲撃してきたんだよ……おかしいだろ」

忍「勇者がこの国で一番強い人って聞いたから、その強い人と戦ってみたかったんです」

忍「結果ボロ負けしちゃいましたけどねー!!若すみません!私負けました!」

妖使い「俺も負けたから許す!!」

忍「やったー!」

忍「しっかしやっぱり強いですね勇者様。でも私諦めないっすよ。
  むしろ精神面で粘りを見せて、必ず貴様を屈服させてやりますよ。ふははは」

勇者「やめろ」

忍「でも若も負けたんですか?この女の子に?……」

魔王「……」モグモグ

妖使い「そうなんだ、負けちゃったよ。妖孤ですらだめだった。
    で、魔王。俺の使い魔になってよ。君が使い魔になってくれたら百人力だ」

妖使い「俺の使い魔は好待遇だよ?給料あげるし。週休二日制。有給もあるよ。
    頑張ったら頑張った分だけ上に上り詰めることができる成果主義」

妖使い「常に笑顔の絶えない職場だよ」

勇者「嫌な予感しかしない文句だな、おい」

魔王「……百歩譲って街中でいきなり襲われたのは許そう」

魔王「しかし何故私たちと君たちがテーブルを囲んで、共にケーキを食べているのだろうか?」

魔王「私は今日勇者くんと約束していたんだが」






妖使い「ああ、悪いね。勇者、御馳走様」

忍「ごちになりまーす!!」

勇者「待って。お前らは自分で払えよ!!お前らも奢るとはだれも言ってねーよ!!」

妖使い「えー、だって旅費で全部金飛んだし」

忍「もうケーキ全部食べちゃったし」

勇者「東国の奴らってみんなこうなの!?」


魔王「……」ガジガジ

忍「? フォークも味するんですか?」ガジ

魔王「……そもそも」

魔王「君たちはこの大陸に一体なにをしに来たんだ?私と勇者くんに戦いを挑むためか?」

妖使い「いや、それはついで。本当の目的はあれさ」

妖使い「地面に一夜で開く不思議な巨大穴。俺たちの国でも問題になっててね」

妖使い「いまはまだ被害が少ないけど、いずれ大問題になるだろうと考えて、
    こっちの大陸に存在するっていう強大な力を持つ人間と妖に協力を仰ぎにきたのさ」

魔王「大問題?」

忍「こっちの大陸と違って、私たちの国は領土が小さいので。
  穴が増え続けると困るんですよ」

勇者「まあ、困るのはこちらも同じだが……」

妖使い「俺たちの目的は、怪奇現象の原因を暴くことだ。
    そのために君たちにも協力してほしいのさ」

妖使い「異文化人同士で協力してみれば、何か新しい発見があるかもしれないだろう?」

忍「あ、ちなみにこの国の王様にはさっき話をつけてきました!
  魔王様と勇者様と協力するようにって言われましたよ」

忍「というわけでよろしく!!勇者様、貴様の命下さい!」

勇者「前後の文脈噛みあってねえぞ」

妖使い「よろしく」

魔王「…………よろしく」






* * *


国王「この大陸外の東国にまで被害があったとは知らなかったよ」

国王「どうやら思ったより事態は深刻みたいだ」

国王「というわけで勇者、魔王。最重要事項として、東国からの使者二人とともに
   問題解決に向けて尽力してほしいんだ」

国王「頼めるかな」



――――――――――――
―――――――――
―――――


勇者「って言われたけどさ……」

忍「勇者様決闘しましょうよ決闘!!その首ください!!私が最強になりますので!!」

勇者「いやだよ。息を吸うかのごとく刃ものを投げつけてくるのやめろ!!」

妖使い「なーに契約なんてすぐに済むよ、ちょっと指切ってこの契約書に血印押してくれればいいだけ」

妖使い「ね?かんたんでしょ?ほーら契約契約!さっさと契約!」

魔王「しないと言っているだろう。貴様の使い魔とやらになるつもりは毛頭ない」

妖使い「そんなこと言わずに。ちょっと血がほしいだけだから!大丈夫だから!!」

妖使い「俺の下僕……じゃねっ、奴隷……じゃない、使い魔になって」

勇者「お前らすごいなほんと色々……」

魔王「東国では……魔族と人の関係はそういうものなのか?」








妖使い「そうさ。妖は悪いことばっかりするからね、俺の一族は代々妖祓いを営んできてるんだ」

妖使い「悪い妖を退治して、使い魔として契約する。それでまたほかの妖を退治しに行くってわけさ」

妖使い「あの妖孤も俺の祖父から受け継いだものだけど、昔は結構悪戯し放題だったんだ」

妖使い「妖祓いの価値は使い魔の強さに直結するから、ぜひ君に使い魔になってほしいんだよ」

魔王「……貴様の国ではそうかもしれんが、この大陸の魔族は貴様の奴隷にも下僕にもならんぞ」

妖使い「奴隷や下僕だなんて思ってないよ!みんな俺のかわいい使い魔だって」

勇者「いやお前さっき言いまくってただろ」

魔王「そのような隷属的立場におくことを私が許さん」

魔王「いいか、ここの魔族は、人と同等に生きる権利がある。
   私はもちろん使い魔になどならないし」

魔王「ほかの魔族を使い魔にしようとしたら……ただじゃおかないぞ」

魔王「分かったか」

妖使い「大丈夫、今のところ魔王しか使い魔にする予定ないから!」

勇者「何にも分かってねえな」








勇者「で、ここが王都に一番近い穴。1週間前くらいに発見されたんだ」

忍「ふーん、東国のものと大きさも形も大体いっしょですね」

魔王「魔力の気配は感じないな」

忍「地底人がここから出てくるための穴だったりして。
  それでこの世界は侵略されちゃうんですよ、その真っ黒い地底人に!」

勇者「んなアホな」


勇者「こんな風に石を投げてみると……」ヒュ


ヒューーーーーーーー…………



妖使い「底にあたる音が全然しないね」

勇者「不気味だよな」

魔王「私が下りてみよう」バサ

忍「えっ! 空飛べるんですか!」

魔王「ああ。そこで待っててくれ」

妖使い「俺も行くよ。鳥の妖に乗せてもらうから」

魔王「えっ。…………いやいい」

忍「一人で穴に降りたら危ないですよ!若はこれでも結構頼りになりますから!」

妖使い「ははは、そんなことは全くあるんだけどねアッハッハ」

魔王「……勇者くんは……?」

妖使い「勇者は飛べないだろ。さあ行くぞ!!」

魔王「うぅ……」



勇者「大丈夫か、あの二人……」







妖使い「真っ暗だなあ。灯りはつけられるのか?」

魔王「……いまつける」

妖使い「壁がきれいに削られてる。やっぱり自然現象じゃないみたいだね」

鳥「……」

魔王「その鳥はいつもどこにいるんだ?さっき急に出てきたが」

妖使い「ああ、用のないときは札に封印してるんだ」

妖使い「もっとも君が使い魔になったときは、そう言う風にできないだろうね。
    魔王は……というかこの大陸の妖は全部半妖半人なんだろ?」

妖使い「普通の使い魔みたいにできないから、
    もしそのときはずっと俺のそばにいてもらうことになると思うよ。従者みたいにね」

魔王「『もしものそのとき』は永遠にこないから安心しろ」

妖使い「つれないなぁ!そうなると強硬手段にでるしかなくなるよ!
    寝てる間に契約させちまわねーとな!!」

魔王「いい加減本気で怒るぞ」






魔王「……もう上を見ても闇しか見えないな」

魔王「一体どこまで穴は続くのだろう」

妖使い「……!」

妖使い「止まれ!」

魔王「なんだ?」


ピチャ


魔王「? 今ブーツが何かに……」

妖使い「なんだ、これ。水面……?黒い水……かな?」

魔王「なら、ここが底なのだろうか」

妖使い「よし、妖孤。ちょっとでてこい」

妖孤「はい」

妖使い「お前この水に飛び込んでみろ」

妖孤「はい。…………ええーーーー!?」

妖使い「四の五の言わずに行ってこい。大丈夫だ、お前ならなんとかなる」

妖孤「いやっ……無理ですよ主様ーーーー」

魔王「無茶な命令をやめろ。かわいそうだろう」



ビュッ!


魔王「!?」







妖使い「うわっ!影が動いて……おいおい俺たちを狙ってきてるぞ!撤退しよう!」


ボオッ


魔王「火炎魔法も効かないか」

魔王「灯りを消すぞ」

妖使い「ええっ?」


妖使い「……あ、もう影の気配がなくなった」

魔王「灯りでできた影が動いていたんだ。灯りがなければ動きを止める」

妖孤「ひえ~~ なんなんですかあれぇ」

妖使い「なんだろうな……。妖?」

妖孤「いや妖の気配は感じませんでしたけれど……」

妖使い「よし。ちょっと今から底に落ちてみろ、妖孤」

妖孤「だからイヤですよ~~っ 意地悪言わないでくださいよ主様~~」

魔王「ええい妖孤をいじめるのをやめろっ。私が許さんぞ」


魔王「……とにかく、穴の底に何かがいるということは分かったな」

魔王「それだけでも一歩前進だ。急いで各地の穴を塞いで回ろう」






* * *


魔王「やっと全部の穴を塞ぎ終わった……」

国王「お疲れ。いやあ本当に助かるよ。で、穴の底にあったのは水……ってわけだね」

国王「なんだろうね。ただの水ならいいんだけど」

魔女「あたしも見てきたけど、灯りを持ってるとこっち狙ってくるから、あんまり詳しく調べられなかったよ」

魔王「しかし穴は全て頑丈に蓋をした。アレが新種の生物なのか知らないが、
   地上に出てくることはないだろう」

妖使い「新しい穴が開くまでは、だよね」

魔女「そうだねー。ていうか君が東国から来たって人? おもしろい格好してるね」

妖使い「そうだよ、よろしく」

魔女「よろしく」

魔王「よろしくしなくていい」

国王「あはは、東国は大事な交易相手国だからできるだけ仲良くしてくれると助かる」

国王「ただ、あまり私の国民にちょっかいを出すと……そうだね」

国王「私には昔馴染みの友が割とたくさんいるんだが、その中にはガチのアッチ系の者もいてだね。
   もしかしたら君の穴も何かによって塞がれるかもしれないね」

妖使い「?」

魔王「?」

魔女「王様おもしろーい。でも姫様に言うよ?」

国王「ジョークだよジョークアハハハ」






国王「おっといけない。私はこれから会議の時間だから失礼するよ。
   報告どうもありがとう。今後も何かあったら頼むよ」

魔王「ああ」



騎士「……あっ!魔王さんに妖使いさんに……まままま魔女さん」

騎士「お、お久しぶりです!」

魔女「だれだっけ?」

騎士「ひどいぃっ!!元姫様お付きの騎士ですよ!!
   あの色々あった時には共闘もしたじゃないですか!!」

魔女「ああ……そばかす君ね。やあやあ久しぶり!1年ぶりくらい?」

騎士「3カ月前には会ってますよ……ううっ泣いていいですか」

魔王「……魔女、私は先に行っているぞ。またあとで」

魔女「え?はーい」




スタスタ




魔王「……」

魔王「ふわぁ……眠い。魔力を使いすぎたな……もう休もうかな」

魔王「!」

魔王「あっ……中庭に勇者くんがいる。騎士団の仕事はもう終わったのか……」

魔王「勇者くっ――」タッ

妖使い「あぁ、本当だ。勇者だ」

魔王「!?」


ズサー


妖使い「うわっこけた。何にもないところでこけた」

魔王「何故貴様が横にいる」

魔王「ついてくるなっ」






魔王「私は誰の下にもくだるつもりはない!」

魔王「魔族や妖をモノのように考える貴様といるとイライラする。
   いいか。私は貴様と同等だ。それ以下でもそれ以上でもないっ!」

魔王「問題解決のために協力はするがそれ以外で慣れ合うつもりはない。失せろ」

妖使い「素直じゃないなぁ。名誉が欲しいの?金?地位?」

魔王「ぎーっ」


魔王「もういい!」

魔王「勇者くん……っ」パッ

忍「勇者様ああああああああああああああオラアアアアアアアアアア首よこせよおおおおおおおおおお」


ドカーーーーン

アーーー……



妖使い「あー、またあいつやってるな。素直に剣術教えてくれって言えばいいのに」

妖使い「つーか護衛任務完全に忘れてるよね。俺の身に何かあったらどうするのやら」

妖使い「あっははごめんね?なんかうちの護衛が勇者をとっちゃったみたいで」

魔王「……二人とも楽しそうだからいい」

妖使い「まあそうだよね。だって、勇者は人間であの忍も人間だけど」

妖使い「魔王はあの二人とは違うもんな」

妖使い「君は魔族だからこれまでも今も、こういう時に割って入っていくことができないんだろ?」

魔王「……」

妖使い「この国の制度じゃあ半妖といえど魔族と人では結婚できないんだったよね」

魔王「……は。結婚……」

魔王「馬鹿馬鹿しい。そのようなこと考えたこともない。私はただ……」






妖使い「人と妖では同じ時を歩めないよ」

魔王「……なんだ。いきなり」

妖使い「数年前この国でいろいろあったらしいね。俺は少し聞いただけだけど、
    なんか勇者が剣使って子どもの姿になってしまったとか?」

妖使い「君が今、彼と同世代の姿でいられるのもそのおかげだってね」

妖使い「でも今だけ」

妖使い「歩く速さがそもそも違うんだから、当たり前だよね」

妖使い「いつかまたずれてしまうよ」

妖使い「いつから?君が人と魔族の寿命の違いについて気にし出しだしたのって――むぐっ」


魔王「べらべらとやかましい」

魔王「貴様には関係ないだろう」スタスタ

妖使い「ちょっ むぐむぐ これほどいて……」




魔王「はあ……勝手なことを」

魔王「もう宿に戻って休もう……」








* * *


勇者「なんていうか……おもしろい戦い方するんだな」

勇者「武器も変だし」

忍「変ですかね。私からすれば貴様の刀の方が重くて振りづらそうですけど!」

勇者「忍者っていうのはみんなそんな戦い方なのか?」

忍「いえ、どちらかっていうと忍者は暗殺術とか使いますよ。
  闇に隠れて……音もなくグサリ!みたいな」

勇者「お前は闇に隠れもしないし、めちゃくちゃ騒がしいぞ」

勇者「あといきなり攻撃してくるのはやめろ。ほんとに。
   手合わせだったら、暇があれば付き合うから」

忍「わーい! やっぱり強い人と戦うのは楽しいぜ!」

忍「いつか絶対勝ってみせますからね!首頂戴するんで!」

勇者「勝つ=殺すなのかよ……やっぱ暗殺向いてるよお前」

勇者「……でももうそろそろ終わりにしようぜ。
   俺は宿に戻って休むぞ。じゃあな」

忍「あ、私もいっしょに行きます」



宿 廊下



勇者「あれ、魔王帰ってきてたのか。そろそろだとは思ってたけど」

忍「私と若といっしょに帰ってきてましたよ。ていうか勇者様は勇者なのに
  あまり魔法が得意じゃないんですね!」

忍「もし貴様も魔法が上手だったら、穴を塞ぐのを魔王様一人で頑張らなくてよかったのに!」

勇者「うっうるせえな!俺だってちょっとは使えるよ!」

勇者「あとお前なんか『貴様』の使い方おかしいぞ」


コンコン


勇者「魔王、いるのか?」



魔王「……」

魔王「……ん」パチ

魔王(いまの声……)






忍「もう寝ちゃってるんじゃないでしょうか。すごく疲れてましたし!
  ところで勇者様って魔王様のこと好きなんですか!?」

勇者「はっ!?!?」

忍「どうなんですか!?そこのところどうなんですか!?フォーリンラブなんですか!?」

勇者「なに急に言って……馬鹿言うな!」

忍「魔王様って、勇者様と初めて会ったとき小さな女の子の姿だったんですよね!」

勇者「あ、ああ……魔族は人より成長が遅いからな」

忍「私そういうの知ってます。勇者様はヒカルゲンジなんですよねっ」

勇者「なんだそれ」

忍「幼女のときから目をつけておいた子を、自分好みの女に育て上げて大人になったら結婚する男の人のことです」

勇者「おい!!誤解すんなよ!?俺はそんな男じゃないぞ!!」

忍「えーーちがうんスか。この変態野郎……間違えた。勇者様」

勇者「ちげーーーよっ!!俺は変態じゃない!!わざと間違えただろ今っ」


勇者「……魔王は……あれだな、妹みたいな感じだ」

忍「いもうと」

勇者「ああ、そうだ」

忍「へーー」

忍「じゃ、私のことお嫁にもらってくれますか……?」

勇者「はあ!?」



バタンッ!!


忍「あ」

勇者「……魔王」

魔王「………………」

忍「起きてたんですか」






魔王「……」ニコ

魔王「おめでとう」

魔王「ただひとつ言っておきたいのは、どちらかというと私の方が姉だと思う」

魔王「私の方がしっかりしているし」

勇者「お、おい」

勇者「ちがうぞ、今のは……」

忍「冗談じゃないですよ。
  私の一族は強さこそ第一ですから、女はより強い伴侶を見付けることを信念にしています」

忍「だから私より強い勇者様を伴侶にして、ゆくゆくは勇者様の強さを受け継ぐ子を生したいのです!」

勇者「お前まじでなに言ってんの!?」

忍「いいじゃないですか!好きな女の子もいまいないって言ってましたし!
  おらっ服脱げよ!生娘みたいに恥ずかしがってないで、さあ!!ほら!!」ビリー

勇者「ばっ なにしてんだ!!俺のシャツ!!!」

魔王「……よかったな勇者くん。式にはぜひ呼んでくれ」

魔王「転移魔法」


ヒュン


勇者「あっ おい!?待て……!」


ビリーッ


宿屋「キャー勇者様!?廊下でなに猥褻物を陳列しようとしているんですか!?」

勇者「いやこれはっ!!ちがうんだ!!!」






人魔共同都市 月の町



魚人「んでー、その男、俺が厨房で自分の手捌こうとしたら泡食って倒れちまってな!」

魚人「ちょっとしたフィッシュジョークだったんだけど、人間はからかいやすいよなぁ!!」

グリフォン「チョーウケル」

キマイラ「あんまりからかっては客が減ってしまいますよ」

グリフォン「僕も、ここに初めて来たっていう人間が唐揚げ食べている前で
      元の姿に戻ったらすごく気まずそうな顔されたな」

グリフォン「別に気にしないのに。鳥とグリフォン族全然違うし。
      なんか変なこと気にするよねぇ、人間って」

キマイラ「でもなかなか人と生活するのはおもしろいですね。
     この都ができてから何年も経ちますが、まだまだ新しい発見がたくさんあります」

魚人「俺の店もおかげで売上右肩上がり、繁盛繁盛。
   そうだ、これから一杯飲みにいくか?」

グリフォン「ああ、いいね…… あれ?あそこから歩いてくるの魔王様じゃないかい」

キマイラ「おや」


魔王「キマイラ」

キマイラ「なんでしょう魔王様」

魔王「元の姿に戻ってくれ」

キマイラ「はい……?分かりました」

魔王「……」モフ

魔王「はぁ……」モフモフ

キマイラ「あのお……魔王様……?」

グリフォン「何かあったのかい」

魚人「ま…………まさかっ!?!?し、し、失恋!?」

魔王「……」

魔王「ちがう……」モフ

キマイラ「……こ、このあと魚人の店にみんなで行く予定でしたが、
     魔王様もいらっしゃいますか?」

魔王「今日は疲れたから……いい。もう寝る……」



スタスタ……






キマイラ「……」ジロ

グリフォン「……」ジロ

魚人「いや……あの。ごめんね!?」

魚人「まさか……ねえ!?本当にそうだとは思わないじゃん!?」

魚人「だってあいつ、魔王様のこと好きなのかって俺思ってて」

キマイラ「まあ彼は人間ですし、いろいろあるのでしょう……」

グリフォン「まあ君はまず明日の朝一に魔王様に謝りにいくべきだねーーーーー」

魚人「いやだからごめんね!!反省してますハイ!!もうマジで空気読めなくてごめんなさい!!」








姫「ひいっ 魔女さんの部屋なんっ……これなんなんですの!?」

魔女「あ、これ?いま品種改良中の植物」

姫「植物ってうねうね動くものでしたっけ? 正直なんだか壮絶に気持ち悪い……」

姫「これさえなければ女の子らしいピンク色の家具で溢れる部屋なのに……何故……」

魔女「あたしだってそりゃやだよ。
   でも実はこないだ魔法薬の調合に失敗してこの家半壊させちゃって」

魔女「研究室もボロボロなんだよ、だから置いとくところないの。
   魔王様が来たら直してもらわなくちゃ」

魔女「というわけでせっかく姫様が来てくれたんだけど、あたしの部屋しか泊めるとこないわけ。
   ごめんねーほんと。しかもあいつもどっか出かけちゃってたし」

姫「あ……あいつ?なんのこと? 私は今日人魔共生都市の定期視察に王族として参っただけで……!!」

姫「決して竜人さんにちょっと会えたらいいな、とかそういう邪な考えは神に誓って持ってないわ!」

魔女「うん。姫様って最上級に分かりやすいよね」


ガチャ


魔女「……ん?」

魔女「あれれ。魔王様じゃん。おかえり!姫様来てるよ~」

姫「魔王さん……どうもお邪魔しています」

魔王「ああ。姫」

魔王「十分なもてなしができず申し訳ないのだが……私はもう休む。ゆっくりしていってくれ」

魔王「魔女。また家を壊したのか……?」

魔女「ごめんね」

魔王「明日直す……おやすみ」

姫「おやすみなさい……」







ゆめのなか


勇者「どうした?」

勇者「早く来いよ。おいてくぞ」


魔王「あんなに遠い……」タッタッタ

魔王「走っても走っても、これじゃ追いつけない」

魔王「……」


勇者「なにやってんだ。疲れたのか?」スタスタ

魔王「あ……」

勇者「ほら。行こうぜ」

魔王「う……うん」

魔王「ありがとう」

魔王「これでやっといっしょに歩けるな」

魔王「……嬉しい」



スタスタ

魔王「……」タッ

魔王「……む」タッタッタ


勇者「……」スタスタ

魔王「わっ」ズテッ

勇者「……」スタスタ







魔王「……もう少し……ゆっくり歩いてくれないか」

勇者「悪い。俺に決められることじゃないんだ」

勇者「俺たち、いっしょには歩けないな」

勇者「先に行ってる。じゃあな」

魔王「……」

魔王「…………」



人間「私といっしょに行きましょうよ」

勇者「ああ。行こう」スタスタ



魔王「……」

魔王「……」

魔王「…………いいな……」







翌朝


ズドーー……ン


魔女「うわっ なにいまの音?」



魔王「……おかしいな」

魔女「魔王様ーっ! いまの音って一体何……、……おお」

姫「……ず、ずいぶんアヴァンギャルドな外観の家になりましたね」

魔女「かっこいいじゃん!ロックでイケてるよ!」

魔王「私は元の外観に戻そうとしたのだが、どうもうまくいかぬ。何故だろう」

姫「……まさか」ピト

姫「わっ魔王さん、あなた熱があるわ。すぐベッドにお戻りになって」

魔女「えーーーー熱!?魔王様大丈夫っ!?苦しくない?どっか痛い?」

魔王「いや、ない。私は熱などないっ!!自分の体調管理くらいできている!!」

姫「明らかに普段より様子が変じゃないの……」

魔女「わああ、マジだ。こりゃあ魔女ちゃん特製の風邪薬の出番だね……。
   史上最強最悪に味の保障ができない代わりに超効き目あるから。いまとってくる」

魔王「魔女!いらん。飲まないぞ私はっ!!あれだけは絶対……」

魔女「姫様、魔王様捕獲しといてね」

姫「はい」

魔王「私は飲まないぞ!!」バタバタ








姫「ええっ……ちょっとこれ本当に大丈夫なんですの?
  薬を飲ませたら魔王さん死んだように……これ生きてます?大丈夫?」

魔女「オールオッケーだよ。魔王様は薬の味で気絶しただけだから」

姫「それのどこらへんがオッケーなのかお聞かせ願いたいんですけれど」

魔女「よし、魔王様のためにお粥作らなくっちゃ!!」



魔女「わーいできた!」


モワワン……


姫「……なに入れたの?」

魔女「薬草19種、イモリ、スッポン、青汁と、魔王様は甘いもの好きだからフルーツ各種」

姫「かわいそう!かわいそうすぎますわ!病人になんて仕打ち!!」

魔女「なんで!?栄養バランス完璧だよ?」

姫「魔女さんは少しでも味付けという言葉を覚えて!」









* * *


竜人「えっ!!」

竜人「私がいない間に魔王様が熱を!? ままままま、まっまさか……魔女一人で看病を?」

竜人「魔王様はご存命ですかっ!?」

魔女「あんたはあたしのこと猛獣か何かだと思ってる?」

魔女「それに一人じゃないよ。姫様が遊びに来てたから手伝ってもらったー」

姫「あ、遊びに来たわけじゃ。 いま魔王さんは食事を終えて眠ってますわ」

竜人「姫様、いらっしゃってたんですか」

竜人「ああよかった……(魔女一人で看病をしてなくて)。ありがとうございます。
   姫様がいてくれて助かりました」

姫「えっ!?」

竜人「え?」

姫「えっ……えっ」

竜人「え?」






魔王の部屋



魔王「……」

妖使い「スヤスヤ寝てますねー」

妖孤「熱なんてかわいそうですね……主様が意地悪なこと言ったからじゃないんですか……?」

妖孤「というか主様の存在のせいで魔王様はストレスフルな生活を強いられているのでは……」

妖使い「かわいそうだね」

妖孤「どの口でって感じなんですけど……」

妖使い「だけどチャンスだぞ、妖孤。魔王が風邪でダウンしているときに、
    ちょっと指を切って契約書に押しちまえば、契約いっちょあがりってわけよ」

妖孤「げ、外道!」

妖使い「善は急げだ!ちゃっちゃとやるぞ!」ピッ

妖孤「いや善でもなんでもないです!」

妖使い「よしあとは魔王の指を契約書に押し付ければ……」

魔王「…………。……?」パチ

妖使い「あ」

妖孤「あ」

魔王「!?」

魔王「わあああああっ! なにやってるんだ離せーーーーーーっ」

妖使い「チッ!! 妖孤、魔王の口を押さえろ!」

妖孤「外道通り越して悪魔ですよ主様~~~~」


竜人「魔王様!? なにがあったんですか!?」

妖使い「やばい。俺は窓から逃げるから後よろしくな」

妖孤「へっ……え?え?」


バタンッ


魔王「ぜえぜえ……げほっげほ」

妖孤「いや、あの、ちがいますよこれは主様がですね」

竜人「…………」

魔女「…………」

竜人「なにやってんだてめぇぇ……!!!!!!!!」

妖孤「ちがいますもん~~~ちがう~~~~!!わーーーん!!」


ギャーーー……





* * *


妖使い「やあやあ!」

魔女「あ、妖使い。ねえこの間君の妖孤が魔王様の部屋に侵入してたけど」

魔女「君の仕業じゃないの」

妖使い「え?さあ。知らないな」

魔女「ふーーーん? なんか怪しいなー。魔王様になにかしたらあたしは怒るよ」

妖使い「ところで今日は東国の酒を持って来たのさ。はい君にプレゼント」

魔女「わー!珍しいお酒だね。やっぱり君いい人だったわゴメンね!誤解だったー!」

魔女「さっそく今から飲もうよ!私つまむもの作ってくるからグラスに注いどいてねー」

魔女「グラスはそこの食器棚に入ってるからよろしく」

妖使い「はいはい」

妖使い「ははは!将を射んと欲すれば先ず馬を射よ。ちょろいもんだぜ」

妖使い「酒持ってきといてよかった」




……カタン


魔王「……? おかしいな。下で人の声が聴こえた気がしたのだが」

魔王「気のせいだったか……」

魔王(喉かわいたな。……あ、水)

魔王「……」ゴクゴク



妖使い「あ、魔王だ。チッ……なんだ、もう歩けるくらいにまで回復したのか」

妖使い「……って……あれ?なに飲んでんの?」

妖使い「あーーーっ!!それは……俺が持ってきた酒っ!!」

妖使い「そんな一気飲みするもんじゃないよーー!!貴重な酒なんだよっ ああもう!!
    一本しか持ってこなかったのにーーーーー!!」

魔王「酒……?」







魔女「えっなに。間違えてお酒飲んじゃったの?」

魔女「でも魔王様お酒強いよね。大丈夫大丈夫……」

魔王「ああ、平気だ」バターン

魔女「全然大丈夫じゃなかった!!」

妖使い「病み上がりだしね……」

魔女「ままま待っててすぐ水持ってくるからしっかり魔王様!」







王都


勇者「え?魔王が熱出したって?」

勇者「またか」

竜人「そうなんですよ。もう治りかけですけどね」

竜人「今日は用事があって私は魔王様のおそばにいられないのですが、
   もう心配で心配で心配で心配で……気が狂いそうです」

竜人「気が狂いそうですよ」

勇者「なんで二回言ったんだよ。お前の心配度合いは十分分かったから」


勇者「あいつよくこの時期風邪ひくよなあ」

勇者「魔王のステータスって、魔力完ストでほかは全部0か1って感じするな」

竜人「まあいずれほかも完ストするでしょうけれどもね」

勇者「お前は色眼鏡で見すぎだと思うぞ」



勇者「今日この後行ってみるか……」

勇者「……ちょっと気まずいけど」

竜人「エ?魔王様トナニカ アッタンデスカ?」

勇者「いやなんでもない」

勇者「何でもないから剣しまえ」






月の町 魔王宅


勇者「入るぞー」

妖使い「勇者。やあこんばんは」

勇者「よう」

勇者「ところで何してんだ?」

勇者「何故魔王が倒れてて、お前は右手で魔王の人差し指を持って、左手でナイフを持ってるんだ?」

妖使い「別に危害を加えようとしたわけじゃないよ。ただちょっと血グフッ」ゴキャ

妖使い「問答無用でヘッドロックはやめてほしいなって!折れる折れる!くそいてーよ」


勇者「魔王しっかりしろ!!全然治りかけてないじゃねーかよ」

魔王「ん……」

勇者「大丈夫か!?」

魔王「…………」



魔王「あーー……ゆうしゃくんら~~~……」

魔王「くすくす……」

勇者「ああ。まったく大丈夫じゃないな」





妖使い「ええっなんでまた俺ヘッドロックかけられてんの!?痛い痛い!!死ぬーーー!!」

勇者「経緯を説明しろ」

妖使い「魔王が水と間違って酒飲んじゃっただけだよ!混乱ついでに俺に八つ当たりするのやめて!」

勇者「酒~~?あいつ酒強いぞ。間違って飲んだ量であんな風にならねーよ」

妖使い「飲んだのが、東国名産アルコール度数99%の『地獄酒』だから……
    一口飲んだだけでもあっという間に地獄行き確定だよ~~」

勇者「お前の国一体どうなってんの!?」



魔女「勇者!来てたの? 魔王様が今急性アルコール中毒でえらいことになってるんだけど!」

勇者「中毒じゃないが、別の意味でえらいことになってるぞ!いろいろ崩壊してるぞ!早く水を飲ませないと」

魔王「ゆうしゃくんこっちきてよ~~~ねえっこっち~~~」

魔女「うわっ!!魔王様が酔っ払ってるとこ初めて見た!!確かにえらいことだね。よく見とこっと」

勇者「そうじゃねーだろ!!」

妖使い「はー。もういいよみんなで飲もうぜ。へいかんぱーい!!!」

魔王「こっちきてよ~~~……ねえってばあ~~~」

勇者「なんだこの状況!俺一人で収拾つけられる気がしねーよ!」



今日はこのへんで

細かいこと気にしなければ前の2作読まなくても
これだけでいけると思います

おつー

つづきktkr乙

おつ

シリアスパートは魔王がストレスマッハになるNE!





勇者「お前病み上がりなんだろ?こんなことしてないで早く寝ろよ。ほら水」

魔王「やみあらりってなに?」

勇者「熱下がったばっかりだってことだよ……おい!ちゃんと座ってろ!水零れるって!」

魔王「やみあらりっれらに~~~~?」

勇者「お前酔うと面倒くさいな!! さっき言っただろ!」


魔女「ていうか、てっきりあの忍っていう子も来るかと思ったのに
   今日は妖使いにも勇者にもついてこなかったんだね」

妖使い「あいつ俺の護衛なのに全く護衛してないよ。
    おかげで俺はヘッドロック2連発でまだ首が痛いよ」

勇者「ああ、王都にいたぞ。妖使いを探してた」

勇者「今日も日中、毎時2回のペースで襲撃された。いい加減なんとかしてくれ」

妖使い「メンゴ」

魔王「……」

勇者「でもこっちに妖使いがいたなら、撒かないで一緒に連れてきてやればよかったな」

妖使い「撒いたんかい」

勇者「……あ、ああ。なんとなくな」

勇者「いや別に忍個人がどうのこうのってわけじゃな

魔王「……」ズボ

勇者「ぐえっ!?」

魔女「わあ、なにしてるの魔王様」

魔女「勇者のベロなんて手で引っ張ったらバッチイよー」

勇者(どういう意味だ)


勇者「は、離せよ!いきなり度肝抜くようなことをするな。なんだよ」

魔王「…………」

魔王「あのこのはなしはしないで」

勇者「え?」

魔王「しないでーーーーーーーーーっ」

勇者「わ、分かったから?落ち着けよ」







魔王「ぎゅーしていい?ぎゅー」

勇者「牛? なんのこっちゃ」

魔王「ぎゅー」



魔女「あー これが巣立ちか……さびしいものですな」

妖使い「分かる分かる」

魔女「魔王様は勇者のことが好きなの?」

魔王「うん すきー」

魔女「そっかー……あたしのことは?」

魔王「すきー!」

魔女「よかったー。じゃあ妖使いのことは?」

魔王「大っ嫌い」

妖使い「ねえ俺にも心はあるんだよ?」


魔王「はっ……なぜきさまがここにいる?」

魔王「ここは私の家だぞ。出て行け今すぐにだ。魔女の近くに寄るな!
   魔女は私の部下だから貴様の使い魔にはやらんぞ」

妖使い「う、うわあ急に流暢にしゃべりやがって……傷つくなあ」

妖使い「そうだなあ、魔王が全然使い魔になってくれないから
    君が言う通り代わりに魔女を使い魔にもらおうかなあ」

魔女「やーん助けて魔王様ー」

魔王「だめらろいったらろ!!!そんらことしらら、たららおからいろ!!!」

勇者「おいあんまりからかうなよ。激昂しすぎて魔王の呂律がやばいぞ」







妖使い「じゃあ……あのドラゴンでももらおうかな?
    竜なんてこっちじゃまだ生き残ってるか分からないくらい希少だし」

魔王「りゅうじんもだめ!!!」

妖使い「じゃあ誰ならいいって言うんだよ!?」

魔王「ぜんぶだめっ!!!!ぜんぶだめえーーーーーーーーーーーーっ!!!!」


勇者「魔王の血管がぶち切れそうだからそろそろやめてくれ」

妖使い「ギブギブ。ギブお願いしまーす。そろそろ首の骨が疲労骨折しそーう」

魔女「ぎゃあああ魔王様、いまその状態で魔法使おうとするのはやめてーっ」

魔女「家壊れちゃうよー!路頭に迷うよー!」

魔女「はいお水飲んでクールダウンね。ひっひっふー」

魔王「……」クラクラ

魔女「ていうかもう寝ようか?」

勇者「なにを手にもってるんだ?」

魔女「魔王様が子どものとき寝かしつけるのに使ってたおもちゃ。
   振ると音がするんだー」ガラガラ

勇者「いやいや、そんなもので眠るわけないだろ……こいついくつになったと思ってんだ」

魔王「………………」

勇者「寝たよ」



勇者「つーかそれあったんなら最初から使えよ!!」

魔女「あー あたしも眠くなってきちゃった。もう寝ようっと。
   片付けは……明日竜人に9割方手伝ってもらおう」

妖使い「容赦ないねー」

魔女「じゃおやすみ。いい夢みなよ」

勇者「魔王はどうするんだよ?」

魔女「か弱い非力なあたしが魔王様を運べるわけないでしょ?
   勇者が部屋まで送ってあげてよう」

魔女「ああ……なに?これほしいの?金貨一兆枚で売ってあげるよん」

勇者「なんだよそれ」

魔女「びやk

勇者「さっさと寝ろ」







バタン


勇者「なんかどっと疲れた…………」

勇者「ついたぞ魔王。って寝てるか」

勇者(まあ……元気そうでよかったな)

魔王「……ゆうしゃくん」

勇者「おやすみ、また明日な」

魔王「……」

魔王「くび……くるしい」

勇者「そんなかっちりした服着てればそりゃな」

勇者「今部屋出るから、そしたら着替ろよ」

魔王「りぼん ほろけらい~~……」

勇者「俺が部屋の外に行ってからにしろって言ってんだろ!!」

魔王「とれない。くるしい~~っ」モタモタ

魔王「とって……とってーーーっ」

勇者「リ……リボンくらい自分でとれるだろ」

魔王「くるし……お……おぼれちゃうぅ……うっぅ……」

勇者「ここは陸だ!!」

勇者「あーーもう分かったからそんなことで泣くなよ」



勇者「……」

勇者「……ほら」シュル

魔王「ありがとう」

魔王「……ん?……あれ……」

魔王「ぼたんもとれらいーーーとって~~~」

勇者「頼むから勘弁してくれ」







勇者「そ、そうだ魔女を呼んでくるから、あいつにとってもらえ。じゃあな」

魔王「……あ、らいふ……」

勇者「うわあああっナイフはやめろ!大惨事になる予感しかしない!」

魔王「かえしてかえしてかえして~~~そろらいふはわたしろらろ!」

勇者「ええいなに言ってるか分からん!」

魔王「なんれいじわるするの? 
   …………ゆうしゃくんもわたしのこときらいなんら……」

魔王「……」

勇者「そんなこと一言も言ってないだろ!?深刻な顔をするなっ」

勇者「やめろ青ざめるな、良心が痛い。……泣くな!」

勇者「分かったよ分かったから……!もういっそ俺が泣きてえよーーー!!」










勇者(……でも考えてみれば違うわけだ)

勇者(こいつと出会ったときのことを思い出してみろ……子どもだ。
   そして俺は別に特殊な嗜好をもっているわけじゃあない……)

勇者(俺はロリコンではない。変態ロリコン野郎じゃない)

勇者(俺はヒカルゲンジとやらではない……)

勇者(だったら別にこんなの子どもの着替えを手伝っているようなもの……)

勇者「……」プチプチ

勇者(でも今の魔王は子どもじゃなくないか?)

勇者(普通に……だったら俺はロリコンではない?いたって正常な感性を持つ男だ)

勇者(…………いやそのことは後で考えよう。今真面目に考えるといろいろ状況的に問題が……)

勇者(魔王は酩酊してるんだから……酔っ払ってるだけだからな)プチ

魔王「ゆうしゃくんのて、つめたくてきもちいーな」

勇者「ひいいいい……俺ほんとなにやってんの……なにやってんの……無心無心無心」プチ

勇者「……う」

勇者「…………」

魔王「もういいー」

勇者「……」

魔王「? ゆうしゃくん……」

勇者「……ハッ……そ……そうか。分かった」







魔王「もうねる……」

勇者「ああ、じゃあおやすみ!!!またな!!!」

魔王「えっ……どこいくの?」

勇者「えっ……宿だけど」

魔王「……? なんで?………………あっ」

魔王「やだーーーやだやだやだやだここにいてーーーーっ!!」

魔王「あのこのところにいっちゃやだ~~~~~~~~」

勇者「おい馬鹿っ離せ!!あの子って誰だよ!!誰かのところに行くつもりねーよ!」

魔王「やだ~~~いっしょにねようよ~~~っ」

勇者「それだけは絶対に無理だからな!!もう俺もお前も子どもじゃないんだから無理!!」


ガチャ


魔王「やだ……なんれもするからいかないでーーやだやだ」

勇者「俺も何でもするからほんとそれだけは勘弁してくれ。
   俺に心の平穏と睡眠時間をくれ」

魔王「いかないで……」

勇者「……」

魔王「ゆうしゃくんいっちゃやだ……」


ギイ……


魔王「あう……」

魔王「……お……おかねはらうから~~~~……うえっ……うう……」

勇者「いらねえよ!!」







勇者「なんで金……微妙に傷つくじゃねえか!」

魔王「やだやだおねがい……おねがい! ……ねっ」

魔王「ねっ!!」

勇者「ゴリ押しやめろ!いやだっつってんだろ!」

勇者「お前どうなっても知らんぞほんと!!手ぇ離せ」

魔王「きょうらけらからぁ~~……」

魔王「もうあしたからわがままいわないから……ううっ……」

魔王「いっちゃやだぁ~~~~!!」

勇者「……ぐ…………うぐ……」

勇者「……」







勇者「……」

勇者「……はあ……結局。くそ」

魔王「ごめんね」

魔王「おこってる……?」

勇者「……怒ってない」

勇者「怒ってないけど、なんでそんな……」

魔王「らって」

魔王「…………ゆうしゃくんしんじゃうから……」

勇者「ええええええええええええええええええええええええ」

勇者「どういうこと!?」

魔王「……まってっていったのに……さきにいっちゃうから!
   あるくのはやいから~~~……!」

魔王「さびしいよ……」

勇者「待て待て、一体何の話だよ。先に行ったっていつの話だ?」

魔王「あさまでここにいる?」

勇者「つーかもしかして俺が死ぬって、お前の例の未来予知で見たんじゃ……ないよな?」

魔王「あさまでここにいる?」

勇者「なあ答えてくれよ!予知じゃないですよね!?」

魔王「あさまでここにいてくれる……?」

勇者「いるよっ!!いるから!!」

魔王「おやすm……」

勇者「あっおい、あんまりひっつくなって……魔王!聞いてんのか」

魔王「んん……」

勇者「……おいっ……!」








* * *


冥府


??「死に別れって悲しいよなぁ」

??「だからみんないっしょに消してあげよう」


鍵守「……時の女神をけしたでしょう」

鍵守「……やめようよ……こんなこと」

鍵守「時空のゆがみがたくさん……」


鍵守「怒るよ」

??「でももうこの世界の存在理由はなくなってしまった」

??「もういらねーんだよ。だったら消すしかねーだろ」

??「こんなもの……全部下らないね。逃避のためだけの箱庭だ」

??「お前が死んだからさ」

鍵守「……ボクは所詮偽物だけど……それでもわかる。
   君がしようとしてることはまちがいだよ……」

鍵守「君に会うのたのしみにしていたのに……
   こんなかたちで会うことになっちゃって、かなしいよ」

??「いずれここも消すよ。最後にな」

??「だからその悲しいのもそれまでだ」



鍵守「……させないよ……」






* * *



魔王「……。……朝か。いま何時……」ムク

魔王「うっ……?」

魔王「頭が痛いし気持ちが悪い……一体これは……」


勇者「起きたか」

魔王「……」

魔王「ここは私の部屋だが……」

勇者「知ってる」

魔王「何故勇者くんが私の部屋で寝ているのだ」

勇者「……………………覚えてないのか」

魔王「? とりあえずおはよう」

勇者「いいか魔王。お前はもう二度と深酒はするな」

勇者「絶対にだ」

魔王「深酒? そういえば昨日の夜間違ってあれを飲んでしまってから記憶がないな」

魔王「まさか私は……酔っ払って正体をなくしてしまったのか?」

魔王「うう……信じられないくらい頭が痛いぞ……気持ち悪い」

勇者「大丈夫か?魔女に二日酔いの薬作ってもらうか」

魔王「余計に具合悪くなるだろうからそれはいい……」







魔王「……」フラ

魔王(……ん!?)

魔王(な……?何故こんなにシャツがはだけて……!?)

魔王(寝てる間に無意識に脱いでしまっていたのか? あわわ……どうしよう。よりによって……)

魔王「……」チラ

勇者「……気にするな、見ていない」

勇者「真ん中にリボンがついた白地に薄桃の水玉模様の下着なんて」

勇者「全然みてないから安心しろ」

魔王「そ、そうか」

魔王(よかった……)ホッ


勇者「じゃあ俺は出かけてくる」

魔王「どこへ?」

勇者「滝に」

魔王「た、滝?何故? それより今すぐ出かけなくとも、ここで朝食くらい……」

勇者「いいや今すぐにだ!!俺は今すぐ滝に行かなければいけないんだ!!」

勇者「一に滝、二に滝、三から億まで全部滝だ!!!今すぐ煩悩を滅さなければ俺は死ぬ」

魔王「滝にかけるその情熱は一体どこから来たのだ。勇者くん」

勇者「10割お前のせいだよ!ちくしょう!!」


バタン


竜人「あ」








勇者「」

魔王「竜人。おはよう」

竜人「……おはようございます。魔王様」

竜人「…………………………」

勇者「おい誤解するなよ。お、俺は何もやましいことはしていないぞっ!!」

竜人「何故この朝に勇者様が魔王様のお部屋にいたかについては、
   後ほどじっくり拷……尋問させて頂くことにして」

勇者「待て!!!いやなワードが聴こえたんだけど!!俺は本当になにもしてないって!!」

竜人「それより先に報告があります。
   勇者様、至急今から告げる町に行って頂けますか?」

魔王「何があったんだ?」

竜人「またあの謎の大穴ですよ。ただ今度の穴は……」

竜人「今までのより5倍ほど大きいそうです」







* * *



勇者「確かに大きいな」

魔王「でも人が巻き込まれなくてよかった」

男「へえ、そうなんですがねえ。
  町の外れにあった牧場や畑は、この穴に飲み込まれて突如消えてしまいました」

男「まったく、これはなんなんですかねえ。こちとらたまったもんじゃないですよ」

勇者「牧場や畑は……また作ればいいじゃないか。とにかく人の被害がなくてよかったよ」

魔王「では穴を塞ぐぞ」ス

勇者「大丈夫か?」

魔王「ああ」



バサーッ


妖使い「うおお、今度の穴はでっけえな!遅れてごめんごめん!俺だぜ」

忍「おまけに私です!」

勇者「やかましい登場だな」








忍「勇者様昨日なんで私のこと撒いたんですかーっ ひどいじゃないですかぶん殴りますよマジで」

勇者「いや……撒いた?え?なんのことだ?」

忍「しらばっくれないでください。また手合わせしてくれるって約束したじゃないですか」

忍「今度逃げたら承知しませんよ!ヤンデレ発動しますからね」

勇者「ヤンデレって何だ?」

忍「あれ?わあ魔王様、今から魔法を使うんですか?」

忍「ていうか顔色悪いですけど……大丈夫ですか?」

妖使い「あーもしかして二日酔い?昨日すごかったもんね」

魔王「……」

魔王「少し調子が悪くて……特別集中する必要があるから、一人であっちで魔法は使う。
   ここで待っててくれ」








忍「あ……行っちゃいましたね。私魔王様が魔法使うところ見たかったのに」

勇者「あいつ大丈夫かな。やっぱりちょっと……」

忍「でも無事魔法は使えたみたいですね。ほら、穴がみるみる魔法で覆われていきますよ」

忍「さすがですね……彼女」

忍「……」

忍「勇者様。この大穴は一体何故いきなりこの世界に現れたんだと思いますか?」

勇者「その理由を今探してる最中だろ。俺にはさっぱり分からん」

忍「私……ちょっと分かるかもしれません」

勇者「え?」

忍「ちょっと耳貸してください!!鼓膜は破らないので安心してください!!!!!」

勇者「あ、安心できねえ!」



忍「もしかして……神様が怒ってるんじゃないかなって思うんです」

勇者「神様……?」

忍「この世界を作った神様が……自分の作品を嫌いになっちゃったんじゃないでしょうか」

勇者「……なんで嫌いになったんだよ」

忍「さあ。それは知りませんけど、例えば勇者様が粘土で何か作品を作ったとしますよね」

忍「でもできあがったものは、理想とは程遠いゲロと糞尿の合成物みたいな作品だったとします」

勇者「おい。失礼な奴だな!!俺は一体どんなものをつくってんだよ!!」

忍「もうそばにおいておくのも見るのも嫌だ……ってなったとき、それをブッ壊しません?」

忍「そういうことじゃないかって、私、最近思うんです」

勇者「……」

忍「このままいけば、世界は神様によって壊されちゃいますよ」








勇者「……たとえそうだったとして、じゃあどうすればいいんだ?」

勇者「神になんて……俺たちが対抗できるものなのか」

忍「絶対無理でしょうね!!」

勇者「うるせっ! 鼓膜破れる!」

忍「まあ常套手段としては生贄を神様に捧げたり? そういうのが有効なんじゃないですかね」

勇者「生贄って……」

忍「東国では普通ですよ?一人死ぬのと、大勢の人が死ぬのとでは、どちらが種にとって善か一目瞭然じゃないですか」

忍「生贄に選ばれたその一人も、皆を守って死ねるのだから、誇らしいことです」

勇者「……」

忍「犠牲の上に成り立つ平和なんて嫌だ!なんて思ってるわけじゃないですよね?」

忍「犠牲の上に成り立ってない平和なんて、存在しませんよ。
  勇者様、いまあなたがこの平和な世界で暮らせているのも……」

忍「あなたが知らない犠牲があったからにほかならないと思います」

勇者「……随分物知りだな。その犠牲ってじゃあ、何だよ。
   誰が犠牲になったって言うんだ?」

忍「さあ。私が知ってるわけないじゃないですかーやだー」

忍「……でも、次はあなたたちの番じゃないですか?」

勇者「……は?」

忍「勇者様と魔王様、その時が来たら、どちらが生贄になるのですか?」







魔王「……」


妖使い「やー見事見事」パチパチ

魔王「……来るなと言ったはずだが」

妖使い「だってさ、向こう岸見てごらんよ。
    勇者とあの護衛、二人で内緒話なんかはじめちゃってさ」

妖使い「居づらくってしょうがなかったわけよ。はっはは、参ったね」

魔王「……」

妖使い「あの二人がこっちで結婚したら、そばにいるのは君にとって辛いんじゃないかな?
    だから一緒に東国においでよ。東国いいところだよー雅だよー」

魔王「馬鹿を言うな。私は魔王だぞ。この地の魔族を守らねばならん」

妖使い「そっか。じゃあ実力行使だ」

妖使い「はっはー!陣を踏んだな魔王!!これで君は一定時間、身動き一つとれまいて!
    我が一族秘伝の拘束術だ!」

魔王「……!」

妖使い「油断したな魔王。くくくく……」

妖使い「恋と戦争は手段を選ばず!」

妖孤「恋でも戦争でもないじゃないですか~~正気ですか主様~~」


妖使い「僕と契約して下僕……じゃない、使い魔になってよ。魔王」

妖孤「下衆ここに極まれりですよ主様~~~いい加減にしてくださいよ~~」

妖使い「うるせえ!お前は勝手に出てくるな!!」

魔王「…………」







魔王「このような術ごときで私を拘束できると思ったのか?心外だ」

妖使い「……あれれ……」

魔王「拘束術というのはこういうものだ」

妖使い「ちょっとタンマ!!!待って待って!!」ギュー

妖孤「あ、あるじさっ…………わーーーっ!!」ギュ

妖使い「おい即効掴まってんじゃねーよこのボンクラ狐!」

妖孤「助けようとしたのにこの言われよう……しくしく」


魔王「で?身動き一つとれない状況に貴様は今置かれているわけだが」

妖使い「あのー見逃して?ごめんね?謝るから」

魔王「貴様の謝罪には塵ほどの価値もない」クイ

妖使い「ひいいい」

魔王「僕と契約して奴隷……じゃない、しもべになってよ」

妖使い「言いかえる必要あったかな!?」

魔王「違うか。しもべになったな、おめでとう」

妖使い「過去形!?勘弁して!!」









魔王「……全く」パッ

妖使い「あ、動ける」

魔王「誰かにされて嫌なことは他人にするな」

妖孤「これでもかというほどの正論ですよ主様~~」

妖使い「……はっ。俺はこの世で『正論』と『責任』という言葉が最も嫌いだね!!」

妖孤「ふざけんなカス~~」


妖使い「じゃあ分かったよ魔王。何事も等価交換が原則だよね」

妖使い「俺の望みをかなえてもらう代わりに、君の望みをかなえよう」

魔王「……?」


妖使い「君を人間にしてあげるよ」

魔王「…………」

魔王「……は……?」






妖使い「そうだなあ。俺の下で使い魔として5年。
    5年働いてくれたら、その後は君を人間にしてあげよう」

妖使い「どうする?もちろん今この場で契約してくれないとだめだから」

妖孤「主様……むぐっ」

妖使い「今決断するんだ。使い魔になるかならないか」


魔王「……そんなこと貴様にできるわけないだろう。騙されると思ったか?」

魔王「というかどれだけ私を使い魔にしたいのだ……さすがに少し気持ち悪い」

妖使い「言葉に気をつけろ。俺はとても傷つきやすい」

魔王「すまん」

妖使い「嘘じゃないよ。準備に時間はかかるかもしれないけど。
    東国の秘法にあるのさ。人を妖に、妖を人にする術が」

妖使い「人になれたらって……ずっとそう思ってたんじゃないのかい」

妖使い「そうしたら彼とも一緒に生きることができるよ。
    彼と一緒に成長して、結婚して、老いて、共に死ぬことができる」

妖使い「同じ速度で、ずっと二人で歩いていける」

妖使い「たった5年使い魔になってくれるだけでいいのさ。
    それだけで君は全ての望みを叶えられるんだ。悪い話じゃないだろ?」

魔王「…………」

魔王「……まさか…………無理に決まってる……」

妖使い「無理じゃない。人になったら、」

妖使い「あの子に勇者を取られないで済むよ」


魔王「…………」

魔王「……本当に……?」

妖使い「……もちろん」







妖孤「ぐむっ……ぷは! 主様!はなしてください」

妖孤「嘘はだめですよ~~~!!」

妖孤「その秘法は、まだ誰もやり方が分かってないじゃないですか……。
   成功するかどうかも疑わしいですし~~」

妖使い「……チッ」

妖使い「いや、嘘は言ってないよ。秘法は存在するっていうことだけはれっきとした事実だし、
    5年もあれば絶対やり方も分かるってマジで」

妖孤「詐欺みたいな手法やめろクズ~~魔王様かわいそうじゃないですかぁ」


魔王「……」

妖孤「ごめんね。信じちゃったかな……?」

魔王「……!」カァ

魔王「そんな術があったとしても……私は人間にはならないっ!」

魔王「私は魔王だ!魔族として生まれたことに誇りを持っている」

魔王「今までどんなに虐げられようとも、魔族であることに負い目を感じたことはなかった!」

魔王「それに私には魔王として……この国の魔族を守る責任があるのだ。
   皆を捨ててまで人間になんて……な……なりたくないっ!」

魔王「私を愚弄するな!」






妖使い「愚弄なんてしてるつもりはないよ……
    むしろ最大限の敬意を持って君に接してるつもりだったけど」

妖孤「ごめんね魔王様。主様、コレ本気で言ってるんです。色々頭おかしい人なんです」

魔王「もういい……後で戻るからちょっと一人にしてくれ」ヨロッ

妖使い「おっと危ない。こけるよ」パシ

魔王「離せ」

妖使い「どうかした……の……か……って、……え」

妖使い「えええええええええええええーーーー……!?!?」

妖使い「いやいやいや……な、なんで泣いて…………ええええっ」

魔王「泣いてない」

妖使い「いまの泣くところじゃないじゃん……!?!?」

魔王「だから泣いてない。離せ」

妖使い「いやでも……」ヒタ

妖使い「ん? 何か首に今、ひやっと……」


勇者「なにやってんだ?」

妖使い「わあ、最悪のタイミング」

勇者「なにやってんだ?」

妖使い「いやほんと何もやってないよ?だから俺の首に剣押し当てるのやめてくださいよ。
    大事な血管切れちゃいますよ。君いつからアサシンに転職したんだ」








勇者「俺の目には、お前が魔王を泣かしたように見えるが気のせいか?」

魔王「泣いてない」

忍「私の目にも、残念ながら若が魔王様に無理やり何かをしようとして
  魔王様が泣いちゃったように見えますねー」

魔王「泣いてない!」

妖使い「おい忍!俺の護衛ならこの状況助けろ下さいお願いします。
    俺は何もやってないよ!なんで魔王が泣いてるのかも分かんないって!」

魔王「だから泣いてないっ!!」



魔王「……ううーっ、頭が痛い……もう穴は塞いだから私は宿で少し休んでいていいだろうか」

魔王「原因についての調査にはまた改めて加わる」

勇者「魔王。何があったんだ?」

勇者「さっきもそうだし……昨日の夜おかしなことも言ってたな。
   最近変だぞ。何かあったんじゃないのか」

魔王「何もないが」

勇者「何もなくて泣くのかよ」

魔王「だからっ泣いてないと言っているっ。皆私の話を聴け!」




今日はここまでです
魔王のストレスがそろそろ天元突破

突き抜けたなら私の勝ち!
ストレスマッハな魔王を抱きしめたいただただ抱きしめたい

魔王の夫としては妖使いは見てて気分が良いものではないけれどとにかく④

魔王なら俺の横で寝てるよ

竜人がアップはじめたみたいです


では投下






* * *



勇者「あんまり魔王が嫌がることするなよ」

妖使い「してないですし~~」

勇者「その話し方やめろ、いらっとくる」

勇者「使い魔使い魔って……いちいちちょっかいかける割には、
   お前があんまり本気で使い魔にしようとしていないように思えたから」

妖使い「……」

勇者「そんなに気にしてなかったけど。度が過ぎるようなら俺も怒るぞ」

勇者「つーか俺より先に、あいつの部下にミンチにされて海に沈められるぞ」

妖使い「……」

妖使い「魔王は君のものじゃないだろ?そんなこと君に言われる筋合いないんだけど」

妖使い「それとも何かな、君にとって彼女は何にカテゴライズされてるんだ」

勇者「はあ……!?」

勇者「……お前には関係ないだろ!」

妖使い「君はあと50年とか60年で死ぬ」

妖使い「魔王は妖の血が入ってるから、何年かは分からないけどそれ以上確実に生きるだろうね」

妖使い「100年……200年?もっとかな」

勇者「何が言いたいんだよ」

妖使い「俺が言いたいのは、人と妖は深い関係を結ぶべきじゃないってことさ。
    確かにこの国は妖と人が共存していて興味深いけれど」

妖使い「隣人や友人程度なら……問題ないかもしれないね。人と妖でも。
    でもそれ以上はお互い不幸にしかならないだろうってこと」

勇者「…………」







妖使い「君が気にいったんなら、忍はここに残すよ。
    彼女と幸せになってくれ」

勇者「……東国の連中ってのはみんなそうなのか?煙にまく言い方ばっかりするな」

勇者「お前も忍も、本当に穴の調査のためにこの国に訪れたのか?
   その割には本気で調査してる風にも思えないし、自国を案じてる様子にも見えないな」

勇者「本当は何が目的なんだ?」

妖使い「いやだな……ちゃんと本気で穴の原因究明にあたってるし、自国も心配してるよ」

妖使い「そんなに怪しがらないでくれ」

勇者「どうだか」


勇者「……? おい、今何か聞こえなかったか?」

妖使い「へ?」


キャーー
 ウワーーー


勇者「町の人の悲鳴だ! 外でなにか起きてるんだ、行くぞ!!」

妖使い「合点でい! 妖孤、魔王を起こしてきてくれ」

妖孤「あ……はいっ」






  「きゃーー!なにあれ!?」

  「北に逃げろ!物は置いてけ!!早く逃げるんだ!」


勇者「一体何の騒ぎだ!?なにがあった?」

忍「おっせーですよ勇者様に若!!村の入り口に変な生き物が押し寄せてるんです!」

町長「勇者様!どうか村のみんなをお助けください!
   あの穴の方向から……あいつらが……影みたいな奴らが村に向かってきてるんです」

妖使い「あいつら……?」

勇者「なんだあれ!?」


影「……」ノソノソ

影「……」ノソ


忍「……いやほんと、なんですかねアレ?」

妖使い「影としか言いようがないな……顔も何もない……けど動いてる」

妖使い「きんもー」

勇者「町長!俺たちがあいつらを止めてる間に、住民の避難を!」

町長「合点です!勇者様よろしくお願いします……!!」

勇者「よし、何が何だか分からんが、とにかくあいつらを止めるぞ。
   この町に入れさせるな!」







ビュッ

ズバッ……!!


影「……」

勇者「……!? 真っ二つにしたんだがな」

勇者(斬ってもすぐ断面から再生するか……)
   
勇者(斬ったときの感触もあるようなないような変な感覚だし。生物じゃないな)

勇者「本当なんなんだよお前ら!!」ヒュッ



ドカーン


忍「爆破しても無駄ですね!忌々しい」

オヤジ「うわあああっ誰かーーたすけてくれええ」

勇者「! 町の外に人が!」

勇者「待ってろ今助けるっ」ダッ



影「……」ガシ

オヤジ「うわああああああああああっオヤジ死ぬーーー」

勇者「そのオヤジを離せっ!!」ズバッ

勇者「おい、大丈夫かあんた…… あ?」

勇者「……!? どこ行ったんだ……?」

妖使い「勇者!気をつけろ、後ろに来てるよ」

勇者「うわっ!!」


ドッ!!








勇者「あのオヤジはどこに行った!?避難させないと……」

忍「……勇者様。私はさっき、お二人を見ていたのですが……」

忍「あのオヤジは……消えました。……自分でも信じられないですけど」

勇者「消えた!?」

忍「あの影に腕を掴まれて、影に飲み込まれたように見えました。
  そのまま、アイスみたいに影に溶けて……」

妖使い「もしかしたらだけど、この影は……あの穴にあったモノから生まれたもので」

妖使い「触れたものを全て消す力があるのかもしれないな」

忍「こわっ」

勇者「でも、あいつらが歩いてる地面も、身体を斬った俺の剣も無事だな。
   ……ていうことは、触れた人だけ消しちまうのか……」

勇者「これじゃ本当に神業だな……」

勇者「……」

勇者(まさかこの影を生み出したのは……本当に神なのか?)





妖使い「よーしみんな出てこい」

妖狸「あいさ」ボフン

一つ目小僧「主様お呼びで?」

なめこ「なんですかこいつら!」

妖使い「直接あの影に触れるなよ。遠くから攻撃するんだ」


忍「爆破しても飛び道具投げても、いまいち効き目ないっすね。くそう。 ん?」

忍「ヒッ」


ピシャーン!!


忍「ひいいいっ!?」ビク

勇者「チッ……魔法でも若干動きを止めるだけか」

忍「貴様!びっくりするので雷はやめてください!雷嫌いなんです私!!」

勇者「しょうがねーだろ!」


勇者「くそ、どうするか!」ビッ

勇者「確かにこのままやってりゃ時間は稼げるが……
   何の攻撃も効かないとなると、解決にはならないぞ」

勇者「……そう言えば妖使い。魔王と穴にもぐったときに、
   穴の底にあったモノは灯りを消したら動きを止めたって言ってたよな」

妖使い「うん、そうさ。だからあるいは夜になればこの影も消えるかもしれないけど」

忍「いま午後2時……日没まで粘れますかね?」

勇者「……やるしかないな」






妖孤「主様~~! 魔王様連れてきましたよ~~!」

魔王「遅れて悪かった……ええとこれは?」

勇者「魔王! これはかくかくしかじかまるまるうしうしだ」

魔王「ふむ、なるほど。分かった、つまり光をなくせばいいのだな」

忍「そんなことできるんですか!?」

魔王「太陽は消せないが、太陽の光をさえぎることはできる。
   ただ大がかりな術なので少し時間がかかるが……」

魔王「その間まかせてもいいか」

勇者「ああ、まかせとけ!頼むぞ魔王」




忍「太陽の光をさえぎるって……?
  そんなこと……まさか」

忍「ってうわーお!真面目ぶってたらいつの間にか目の前に影一体迫ってきているー!
  なれないことはするもんじゃねえですな!」

勇者「大丈夫か!」ズバ

勇者「慣れないことはするな!」

忍「自分でもそう思ってたところです!!」

勇者「やると言ったら絶対やる奴だ、あいつは」

勇者「……魔王は。だから心配するなよ」








ズズズ……ズズ……


勇者「きたか!」

妖使い「黒い雲が空を覆っていく……」

忍「ほんとに夜みたいに、なっちゃいましたね」


忍「あ!あの影たちは……?」

勇者「暗くてはっきり見えないが、どうやら消えてくれたみたいだな」

妖使い「一時はどうなるかと思ったけど、なんとかなったね」


魔王「……ふう……」

勇者「魔王!やったな!」

魔王「なんとかできてよかった……。水魔法」

勇者「まだ何かするのか?」

魔王「いや喉が渇いてしまって。ごくごく」

勇者「自分で飲むんかい。水魔法って飲料用としてもOKなんだな」

魔王「勇者くんも飲むか?コップがないから手のひらを使うことになるが」

勇者「俺はいい。いやっそんなことより!!お前、いつの間にあんな大魔法使えるようになってたんだよ!」

勇者「すごいじゃないか!昼を夜に変えるなんて、魔王くらいにしかできないだろうな。
   あのまま……魔王がこの魔法を使わなかったら、俺たちもどうなってたか分からない」

勇者「あの影、随分厄介な敵だったんだ。この町を守れたのも魔王のおかげだよ。ありがとな」

魔王「うむ、当然だ。もっと言うがよい」

勇者「ああ、魔王がいてくれて助かった」







魔王「……」

魔王「……あ、ありがとう」

魔王「私も……自分が魔法を使える存在でよかった」

勇者「ん?」

魔王「ところでどうしても私を褒めたいのであれば、もっと盛大に褒めてくれても構わんぞ。
   これでもかというほど褒めちぎってくれても何ら私は構わない」

魔王「そうしたいのであれば頭を撫でてくれてもいいのだぞ」

妖使い「いやーーすごいじゃないか魔王も勇者も!君たちの活躍には帽子を脱いでも脱ぎきれないな!
    つまり脱帽の極みということだけどね!!あっぱれあっぱれ!」

魔王「貴様には言っていない。私は勇者くんに褒めていいと言ったのだ」

妖使い「どうせなら二人まとめて俺の使い魔になってみる?ハッハッハ」

勇者「はああ?アホ言ってんな」

妖使い「いいじゃないか、どうせ勇者も半分魔族みたいなもんなんだろ?」

勇者「わけ分かんないこと言ってないで、さっさと今後について話し合おうぜ。
   町の被害について確認しないとだし、この夜化の説明もしないと混乱を招くな」

忍「そうでしたね!じゃあちゃっちゃと行動しましょうか、若」ゲシ

妖使い「いたっ」







魔王「…………」

魔王「……はっ…………」

勇者「? どうした魔王」

魔王「…………」

魔王「……妖使い……忍……」

妖使い「え?なに?」

忍「へ?」

魔王「す……すまない。その……この魔法は今の私では、大陸の3国までしか行き渡らせることができなくて」

魔王「東国までは……届かなかった。……ごめん」

忍「ああ……」

妖使い「まあ、仕方ないよ。大丈夫大丈夫!
    俺の故郷には俺より強い奴らがわんさかいるから、なんとかなってるはずだって」

忍「そうですよ!私の一族もなかなか強いのです。あんな影なんかに負けたりしませんよ!」

魔王「……」

勇者「二人とも、もうこうなったら東国に帰国した方がいいんじゃないか?家族とか心配だろ」

勇者「俺たちに遠慮してるんなら気にすんなよ」

妖使い「いや……こっちに残るよ。いまあっちに戻ってもできることはないだろうし」

妖使い「俺たちは俺たちの使命を果たすだけさ」

忍「そーっすよ。そっちこそ気にしないでバンバン若のことこき使ってあげてくださいネ!」

妖使い「俺だけかよ」










王都 宮殿 国王執務室


騎士「陛下!大変ですよ陛下!! 失礼します!」バタン

騎士「……!? 陛下……!? い、いない!?」

戦士「まさか、陛下の身にも何かが!?急いで探っ……」


スタッ


国王「やあ、二人とも」

騎士「っぎゃあああああ!!」

国王「そろそろ来るだろうと思って天井に張り付いて、待ち伏せをしていたんだ」

戦士「真剣に意味が分かりませんぞ、陛下」

騎士「無駄に驚かさないでください!!」

国王「ああ、燭台を持ってきてくれたか。助かるよ。
   いきなり窓の外が暗くなってしまって、もう国王と言えど何が何だか大混乱だ」

国王「私が若年性アルツハイマーでもタイムリーパーでもないとして、
   この部屋の時計も壊れていないとして……こんな時間に夜になるのはおかしいな、全く」

騎士「はい。まだ原因は特定できていません。どうやら王都以外でも同じような状況みたいです」

戦士「またあの巨大穴に関係することでございましょうか?」

国王「ふうむ……この突然の夜の原因としては、あの穴をこしらえた者、あるいは事象……が有力だけど」

国王「もしかしたらそれに対抗して取られた措置の結果かもしれない。
   こんなことできるのは魔王の彼女か、勇者の彼くらいだろうな」







国王「もし原因が後者だったとして、何故それをしなければいけなかったのかと考えると
   こちらも軽率に動くのは危険だなあ」

国王「じゃあ戦士に騎士。
   私のことは放っておいていいから、突然の暗闇に大混乱中であろう王都の民のところへ行ってくれい」

国王「宮殿の倉庫の中からろうそくや松明をあるだけ持っていって配るんだ」

騎士「しかし……魔術師たちが魔法で街に灯りをともしたほうが早いし、強力では?」

国王「あんまり強い灯りをともしていい状況かも分からないからね。
   とりあえず勇者か魔王の連絡を少し待つよ。それまで私が今言ったことしくよろ」

国王「私は星の国の王と雪の女王に手紙出してくるから。ヘイ鳥、こっちへカモン」



バタバタ……


騎士「いやあ……こんなときでも陛下のブレなさ ヤバイですね。いっそ末恐ろしいです」

戦士「あそこまでいつも通りだと、動揺していたこちらが逆におかしいのかと錯覚してしまうな!」

騎士「一度あの人の頭の中覗いてみたいですね」







* * *


妖使い「んじゃ王都に報告に行ってくる」

忍「さらばです、勇者様に魔王様!」

魔王「気をつけて行くのだぞ」

勇者「なあ、やっぱり俺が行こうか?テレポートして行った方がすぐだし」

妖使い「いーや、ほかの村の様子も空から見ておいて、王都の王様に報告した方がいいと思わないか?」

妖使い「俺の使い魔に乗ってけば、君ほどじゃないけど普通の鳥より速く飛んでけるからさ」

妖使い「妖は夜目もきくし。心配ご無用。じゃあね」

忍「拙者たちはこれにてどろんでござる!」

妖使い「急にキャラ押しだしてきたな」


バサッ……




妖使い「……」

忍「こんな夜久しぶりですね。月も星も何もない……」

妖使い「それでも慣れ親しんだ夜空とはまた別モノだけどね。
    あそこはこんなに真っ暗じゃあなかった」

妖使い「灰色さ」

忍「地上はどんな様子です?私は見えません」

妖使い「妖孤、見えるか?」

妖孤「はい主様……なんかアホみたいに穴が開いてます。 
   例えて言うとレンコンの断面図みたいな感じになってます」

妖使い「なるほど。そいつあ確かにアホみたいだ」

忍「次はどうなっちゃうんでしょうかね」

妖使い「どうなるんだろうな。止められるだろうか」

妖使い「彼らに」








* * *


魔王「王都や魔王城の方は無事だろうか」

魔王「もしさっきの影がこの町の穴だけでなく、ほかの穴からも出現したとすれば
   あまり明るい灯りをつけるのは危険なのだが」

勇者「王都の国王は、普段はアホだけど……ほんとアホな真似しかしないけど……」

勇者「いざというときには察しがいいし頼りになる。姫様もそばについているはずだしな」

勇者「魔王城の方も大丈夫だろう。魔女や竜人やほかの魔族たちが、
   きっと意図を察してくれていると思う」

魔王「……うん」


魔王「しかしいつまでも夜のままにしておくわけにはいかないな」

魔王「これは単なる一時しのぎにしかならんのだ。もっと根本的な解決をしないと」

勇者「本格的にやばくなってきたな……まさかあんなものが穴から出てくるなんて」

勇者「召喚師が召喚する幻獣みたいな魔法生物か?斬っても意味なかったんだ、あいつら」

魔王「いや。魔法の気配は感じなかった。しかし魔法も物理攻撃も効かないとすると、恐らく生物でもない」

勇者「魔力で動くものでもなく、生物でもないとしたら……一体なんなんだ」

魔王「分からない」

魔王「いま分かっているのは、あれらがこの世のいかなるものとも違う物体だということだ」




勇者「一体なにが起こってるんだ……」

勇者「……そうだ。過去にも同じようなことが起こった可能性があるんじゃないか?」

勇者「やっぱり俺たちも王都に行ってみよう。
   あそこの図書館に行けば、何かしらの記録が残ってるかも」

魔王「残念だが、それはない。
   正体不明の影が出現していきなり人々を襲うなんてことはどこにも書かれていなかった」

魔王「歴史書にも神話にも、おとぎ話にも、哲学書から経済書にいたっても、どこにもなかったんだ」

勇者「言いきるのはまだ早いだろ?お前だってあそこの本全部読んだってわけじゃないだろうし」

魔王「読んだ」

勇者「……読んだのか?」

魔王「読んだ」

勇者「読んだんだ……」




勇者「あーーじゃあどうするか……。こんな風にどう対処していいか分からないのははじめてだ」

魔王「うむ……」






賢者「でも、魔王様が本を全部読んだって言っても、
   図書館にもうすでにない書は別なわけじゃろう?」

魔王「ああ、そうだ」

賢者「あそこの図書館は確かにこの国の全ての書を保管しておるが、2つ例外がある」

賢者「ひとつ、人魔戦争の竜族王都襲撃の際に燃えてしまった書」

賢者「ふたつ、以前の王家が『置くべきでない』と判断した書」

賢者「ちゅーこっちゃ。じゃからまだ希望はあるんじゃ」

勇者「なるほど。そうか……いまある本は百年前の戦争後に揃えられたものだもんな。
   それより古い本は確かにお目にかかれない」

魔王「しかし燃えてしまったのならどちらにせよ読むことはできないのでは」

魔王「王家が置くべきでないと判断した書も、ならばどこに保管されているのだろう」

賢者「なあに、案ずるでない。まだ道は残されている」

勇者「……!手がかりがあるのか?」


勇者「……」

勇者「ところであんた誰だ?」

魔王「いつの間に私たちのテーブルについていた?」

賢者「そうドン引きをするな。私は賢者。賢い者と書いて賢者。
   自分で言うのも恥ずかしいがな……」

賢者「ここより西の丘に住んでいる賢いジジイじゃ」

賢者「すげえ賢いよ」

勇者「自称を恥ずかしがってる割に滅茶苦茶アピールしてくるな、あんた」







魔王「賢者か。頼りになりそうな肩がきだな」

勇者「肩がきはな……肩がきは」

魔王「してその王立図書館にない書を閲覧する方法とは?」

魔王「私たちは一刻も早くあの影たちが何なのか、正体を突き止めないといかんのだ」

勇者「そうだ、教えてくれ賢者のじいさん!」

賢者「分かった。まず東の森の奥にある砦に行け」

賢者「そして最奥の赤い秘石をとってくるのじゃ。そうしたら次は南の天空神殿へ。
   しかし天空に行くためには気球が必要になってくるだろうから」

賢者「気球職人を探しだしてからにしろ。職人は王都にいるはずだ。
   天空神殿では白い秘石をとってくるように」

勇者「やたら手間と時間がかかるな……」

賢者「さらに西のマグマ火山では緑の秘石を、北の要塞廃墟では黒い秘石をとってこい。
   4つの石を集められたら、それが賢者の家に入るための鍵となる」

魔王「仕方ない。やろう勇者くん。では賢者、東の森に案内してくれるか」

勇者「あれ、待てよ。賢者の家に入るための鍵って……」

賢者「そう、私がここにいるから今言ったことはショートカットできるよーん」

勇者「じゃあさっきの説明いらねーだろ!!?」

賢者「私がここにいてよかったね、と思わせるための1分間じゃ」

勇者「あんた、じつは賢者っていうの嘘だろ!?」

魔王「君がここにいてよかった」

勇者「お前も乗らなくていいよ」

賢者「魔王様は素直じゃ。それでよいよい。では行こうではないか、わしの家へ!」

賢者「長旅になるからしっかり準備を整えて行くように。薬草は持ったか?」

魔王「そんなに遠いのか?では準備をしてくる。少し待っていてくれ」

賢者「ああ遠い。徒歩5分じゃ」

魔王「と……遠くないっ!」

勇者「いい加減にしろ爺さん!魔王が慣れないツッコミをするレベルに達したぞ!」







賢者の家



賢者「なにしろ暗いからいつもより時間がかかってしまったな」

勇者「と言っても徒歩10分くらいだったけどな」

魔王「家のどの部屋を見ても……本だらけだ」

魔王「見たことのない書ばかり……すごい」

勇者「古い本ばっかりだな」

賢者「あまり乱暴にさわるでないぞ。
   紙も古いものじゃから、触っただけでばらばらになってしまうのもある」

勇者「まじかよ。でもなんで昔戦争で燃えてしまった本を持っているんだ?」

賢者「本物の書がここにあるわけではないのじゃ。本物は確かに昔燃えて消えた。
   ここにあるのは私の曾爺さんが複製したものじゃ」

魔王「確かに全部手がきだ」

賢者「曾爺さんは戦争の時に、もしかしたら王都も危ないかもしれないと思ったんじゃろうな。
   貴重な本は全てこっそり複写しておいたらしい」

勇者「へえ……すごいな」

賢者「この部屋にあるのは曾爺さんが複製したものが棚にしまってある。
   地下室にあるのは、私が若いころから蒐集した変な書じゃ」

勇者「変な書って」

賢者「自由に見て回るがよい」







魔王「ん……?」

魔王「この書は? 古代語……に似た文字だが、少し違うな」

賢者「それは曾爺さんにも解読できんかったようじゃな。
   その棚の書は全部似たようなもんじゃ。なんの本だかさっぱり」

賢者「私も解読しようと研究中でなー。何通りかの文字のパターンはとりあえずこの図にまとめておいたが」

魔王「これは魔族の古代語と人間の古代語があわさったような文字だな」

魔王「こんな文字は初めて見た……」

勇者「読めそうか?」

魔王「少し時間がかかりそうだがやってみよう」

魔王「賢者、手伝ってくれるか」

賢者「いいよ」






地下室


勇者「あっちに俺の出る幕はなさそうだな」

勇者「地下室にある本は賢者の爺さんが集めた本なんだっけ。
   こっちの本なら俺でも読めそうだし……手当たりしだい見てみるかな」

勇者「っつっても……『変な本』だろ?エロ本とかじゃねーだろーな爺さん……」


勇者「……『薬草大辞典』……『鉱石図鑑』……『秘湯100選』……」

勇者「……『50歳からの結婚』……『よい老後』……『未確認生命体レッシーを追え!』

勇者「ほとんど趣味の本かよ。……ん?」

勇者「本を抜いたのにまだ奥に背表紙が。なんの本だ?ええと」

勇者「…………」

勇者「こっちの書庫は魔王に見せない方がいいようだな」



勇者(手がかりになりそうな本はないかもな)

勇者「ん……なんじゃこりゃ。『時の女神の日記』」

勇者「はははは!だれがこんなもの書いたんだろ。見てみるか」





○月×日
今日は何事もなし。
いつも通り完璧に仕事を終えた。
仕事終わりに飲む麦酒は格別だ。


○月×日
時の剣を置いたのをすっかり忘れていた。
勇者がやってきた。
休憩時間に来る勇者が悪い。
すっかり気を抜いているところを見られてしまった。
ジャージ姿でぐーたらしているところを見られてしまった。なんたること。
急いで取り繕ったが……このままでは私のイメージが……。


○月×日
眠い。
時の歯車を見ているとだんだん眠くなってくる。


○月×日
今日は何事もなし。


○月×日
今日はうっかり仕事中にうたた寝をしてしまって、
地上にひとつだけ時空の歪みを発生させてしまった。
急いで歯車を回して消す。
直径50cmくらいの小さな穴だったので誰にも気づかれなかった。あぶないあぶない。


○月×日
と思ったが鍵守様にばれていた。
優しい口調で叱られた。かわいい。こわい。






勇者「……………………」

勇者(これ本物だ……)

勇者(この感じ、本物の時の女神だ……)

勇者「日記とか下界の俺たちに知られて大丈夫なのかよ!なにしてんだあの女神!」

勇者「つーか……ここ!」

勇者(地上にひとつだけ時空の歪みを発生させてしまった。急いで歯車を回して消す。
   直径50cmくらいの小さな穴だったので誰にも気づかれなかった……って)

勇者(穴……時空の歪み?それって今俺たちがまさに困っていることだよな)

勇者(まさかの黒幕女神説…………)

勇者「いやいやいや。まさか。女神は確かに第一印象は変だったけど、俺たちを助けてくれたし」

勇者「……だが確かめる必要があるな。あとで時の神殿に行ってみよう」

勇者(入れるかどうか分からないが)




勇者「一応ほかの本も見てみるか。てか爺さんは一体どこで女神の日記を入手したんだよ」

勇者「すげーな爺さん」







―――――――――――――
―――――――――
―――――



勇者「ふー……疲れた。字読むのは剣振るのより何倍も疲れる……」

勇者「あらかた目を通したか。めぼしいものはなかったけど」

勇者「魔王と爺さんの方はどうだろう。そろそろ様子を見に行ってみるか」ガタ


スタスタ


勇者「……」

勇者「ん?」

勇者(……『はじめてでもよくわかる!初心者のための異端審問(やさしい図解付き)』)

勇者「…………異端審問……」

勇者(今はもう歴史書の中でしか見かけないが、昔はこういう本が至るところにあったんだろうな)

勇者(現在では絶版になってるだろうが、恐らくこの本も実用書としてつくられた本なんだろう)


勇者(戦争で燃えてないけど国が図書館に置くのをやめたってこういう本のことか?)

勇者(確かに人と魔族が共に生きる今の社会では、こういう実用書は置く必要はない)

勇者(配慮っちゃ配慮か……。隠ぺいとまで疑うのは……俺の考えすぎか)


勇者(……あっちもまだ時間かかるよな)


パラ……





イタンシンモン
異端審問

20年前に戦争が終わってやっと平和な世界を取り戻せましたね。
でも安心しすぎてはいけません。

実は山奥や谷の底で、異形のものを見たという証言が相次いでいます。
角が生えていたり大きな鳥の姿をしていたり、半馬半人の化け物たち……そう魔族です。

悪魔たちはひっそりと私たち人間に復讐をする機会を待っています。
決して一人で挑まず、姿を見かけたら周囲の人々に知らせましょう。

王都の騎士団に知らせるのもいいですが、彼らが駈けつけてくれるのには時間がかかります。
(田舎の村なら特に)
なので見つけ次第迅速に対処するのが重要です!


まず化け物を見かけたら、太陽の日に3日置いた木に灯した聖火で森ごと焼き打ちします。
悪魔たちはとても強い力を持っていますので、こちらが大勢いたとしても危険です。
悪魔の住処を囲うように四方から火を放ちましょう。


これが一般的な悪魔狩りの方法ですが、種族によっては別の方法が有効な場合もあります。
詳しくは34ページ参照されたし。






しかし、悪魔の中には人に化けるのが得意なものもいます。
あなたの隣人が実は魔族だった、ということも大いにあり得るのです。

化け物の正体に気づかずそのままボケッとして過ごしていると
はっとした時にはそいつの腹の中、ということもあるかもしれません!

様子や言葉がおかしかったり、姿かたちが人と違うところがあったり、
人の体を見てよだれを垂らしていたりしたら、間違いなくそれは魔族です!

疑わしい者がいたら火あぶりにしましょう。(図1 火刑のときの木の組み方)
もしその者が魔族だったら、聖火によって化けの皮がはがれ、本当の姿を現わすはずです。


ですが火刑はとても手間がかかりますね。
あまり大人数で準備をしていると、そのことを化け物に悟られてしまうかもしれません。
それはこちらの命が危うくなるので、気を付けた方がいいです。


じゃあどうすればいいの?とお思いの方。ご心配なく。
火あぶりは正統派ですが、もっと手軽な異端審問の方法もあります。






それは水審判とよばれるものです!


勇者(……)


あなたの村に泉はありませんか?
清らかな水があればなんでもいいです。


水があったら、悪魔と疑わしき者の足に石をくくりつけて泉に落としましょう。
反抗が怖いと言うのならば、酒か何かを飲ませて眠らせ、その間に準備を済ませましょう。


もし悪魔だったら、悪魔は邪悪な魔法を操りますので、石がくくりつけてあろうがなかろうが関係なく浮かび上がってきます。
浮かび上がりそうだったら、すぐに火刑の準備に取り掛かりましょう。

大丈夫、悪魔は清らかな水が苦手ですから、かなり衰弱しているはず。
その間にぱっぱと準備を済ませておきましょう。


もし人間だったら、水底に沈みます。まあ仕方ないことですね。



ね、簡単でしょ?

さて次のページでは…………



―――――パタン。



勇者「……!?」



魔王「……」

勇者「……魔王」

魔王「古代語の解読がすんだぞ。上にあがってきてくれ」

勇者「……あ……ああ。分かった」

魔王「この本は私が棚に戻しておく」


スッ ゴト



今日はここまでです

おつ
待ちくたびれた人だー

というか100年ずっともそうだったのか

乙ー

>>118
そうですよー
これでやっと完結です





賢者「いやー私が50年かけても読めなかったこの本を……
   2,3時間で読まれるとなんとも言えない気持ちじゃの」

魔王「この言葉の解読には魔族の言語の知識が必要なのだ。
   たまたま私が魔族だったというだけのことだ」

勇者「……で、なんか見つけたか?」

魔王「ああ。これだ。タイトルは『創世記』」

勇者「創世記?そんなもん、古代語じゃなくったってどこにでもあるぜ」

勇者「あれだろ?二人の創世主がいて、ひとりがこの世界をつくって、もうひとりが冥界をつくった」

賢者「1日目に空と海を、2日目に太陽と星と雪をつくって」

賢者「3日目に月と命と死をつくったという神話じゃな」

魔王「ああ、それは私も知っている。でもこの古書にはもっと詳しく書かれているのだ」

魔王「古書の創世記によると、大地も空も海も、太陽も星も雪も……」

魔王「月と命と死も、全て黒い水からつくられたという」

勇者「黒い水?なんか嫌な感じだな。普通の水ならともかく」

勇者「それか赤い水なら血の比喩だって分かるけど。黒い水って……沼の水かよ?」

賢者「私らは沼の水からできとるんかいのう」

勇者「すげえいやだな」






魔王「創世主はまず0日目に白い大地と黒い水を用意して、
   それから3日間でこの世界を創造したらしい」

勇者「へえ」

魔王「私と妖使いが地面に開いた穴に入ったときのことを覚えているか?」

勇者「ああ、覚えてるよ」

魔王「あのとき底にたまっていたのは水だったのだ。黒い水」

賢者「関連がありそうじゃのう」

勇者「とすると影は黒い水でできてて、つまり俺たちと同じようなものってことか?」

魔王「同じというか私たちの原始的姿なのではないか。
   命も死も与えられていないから、勇者くんの攻撃も私の魔法も通用しなかったのだろう」

勇者「……。俺もおもしろい本を地下室で見つけたんだ。これ」

勇者「時の女神の日記……なあ、爺さんこれどこで見つけたんだ?」

賢者「時の神殿の近くの道で落ちていた。
   どうせ偽もんじゃろうが、話のタネになるかと思っての」

勇者「へ……へえ。でも、本物みたいだぞ」

勇者「これによると、女神が時の歯車を回していないと、時空の歪みが発生して大地に穴が開くらしい」

魔王「では時の女神がいま、なんらかの理由で歯車を回せていない状況なのか」

勇者「そうらしいんだ」







魔王「……」

魔王「そしてこれがもうひとつ解読した書のなかで興味深いものだ」

勇者「また随分難しそうだな。これは?」

魔王「『終末記』。創世記と対でつくられたものらしいな」

勇者「不吉すぎる」

魔王「この世界が存在理由を失ったと創世主が判断したとき、黒い影が全てを呑みこむだろうと書かれている」

勇者「……」

勇者「大当たりだな」

魔王「大当たりだ」

賢者「影に呑まれたあとは無だけ……なにも残らんのじゃろう」

勇者「俺は人が影に呑みこまれたのを見た。そのオヤジはいなくなってしまった。消えたんだ」

勇者「……『世界が存在理由を失ったと創世主が判断したとき』ってことは、
   その創世主って奴がこの事態を引き起こしてるんだよな」

勇者(忍が言ってた通りだったのか。まさかとは思ったが……)


勇者「止める方法はないのか?」







魔王「『扉を開けて彼に会いに行け』」

魔王「『扉の鍵は 雄竹の里 神の宮 永遠の泉 離島の浜辺』」

勇者「ヒントになってねえ!!」

勇者「扉の場所も鍵の在り処も、昔の人はなんでそうやって迂遠なやり方しかできないんだ!?」

勇者「はぐらかさないと死んじゃう病気か何か?『扉はここで、鍵はここにある』って書けよ!!」


勇者「はあはあ……悪い、取りみだした」

勇者「勇者やってると結構その手の暗号?に振り回されてな」

賢者「どうどう」

魔王「はっきり書けない事情でもあったのではないか。
   明確に書くと誰かに消されてしまったり……」

勇者「ダイイングメッセージじゃないんだからさ」

勇者「まあ文句を言っても仕方ないか!扉がどこにあるかは分からないが」

勇者「とにかく鍵を集めよう。雄竹に神の宮と……ええと?」

勇者「ほかのみんなにも協力してもらって、分かれて探せば早いだろう」

魔王「そうだな」







勇者「俺はその前に時の神殿に行ってみる。
   魔王は魔族たちにこのことを知らせて、竜人と魔女といっしょに王都で待っててくれ」

勇者「ちょっと確かめたら俺もすぐ王都に戻る。そしたら鍵を探しに行こう」

魔王「分かった」

勇者「……」

勇者「……太陽の日を遮る魔法はけっこう魔力を消費すると思うんだが、どれくらい持ちそうなんだ?」

魔王「1日1回なら大したことではない。魔力は寝れば回復するから」

勇者「本当に?」

魔王「ああ」

勇者「ならよかった。でも無茶すんなよ」

魔王「君こそ」

勇者「……いっつも無茶してんのはお前だろ!」

魔王「勇者くんだって無茶してるではないか。ここは譲らんぞ。
   無茶ナンバー1は君だ勇者くん。異論はないな」

勇者「異議あり!お前忘れたとは言わせねーぞ、昔王都で自分の心臓ブッ刺したじゃねーか!
   あれ今でもたまに夢に見るぞ!もう絶対ああいうことすんなよ!」

魔王「勇者くんだってその後……その後……目が覚めたらいなくなってて……
   代わりにお墓があって……勇者くんが……」

魔王「…………だから全部勇者くんが悪いっ。もうあんなことをしたら許さない!」

賢者「まあまあお二人とも。落ち着け」

勇者「爺さん……」

賢者「さっさと目的地に行くんじゃ」

賢者「うるさいし邪魔」

賢者「世界の命運が二人にかかっているんじゃぞ。急ぐんじゃ。
   君たちなら必ずこの世界を救えると信じておる。頑張るのじゃぞ」

勇者「おい、真ん中に本音が挟まってるぞ。ごめんて」

勇者「邪魔したな爺さん。あんたがあの町にいてくれたおかげで助かったよ。じゃあな」

魔王「ありがとう賢者。またどこかで」

賢者「よいよい。頑張れ若人たちよ。創世主だかなんだか知らんが……」

賢者「私は君たちを応援しておるぞ。またな」








* * *


王都 宮殿


戦士「騎士!ここにいたか」

騎士「あれ?戦士さん今は休憩中じゃ?」

戦士「王都に魔王たちが到着したらしい。いま謁見の間にいるそうだ。俺たちも行くぞ」

騎士「は、はい!」


コツコツコツ……


騎士「魔王さんたちが……」

戦士「お前あんまり浮かれるんじゃないぞ」

騎士「浮かれてなんかいませんよ!国の緊急事態なんですから、僕だって弁えてます」

戦士「分かった分かった。魔女が来ているといいな。まあ来てるだろうが」

騎士「だだだだから誰も魔女さんのことなんて話していないじゃないですか」

騎士「……そ、そうだ。僕は最初魔王さんのこと、
   何考えてるかよく分かんない人だなーって思ってたんですよ」

戦士「露骨な話題逸らしだな」

騎士「戦士さん!真面目に聞いてください!
   ほら、魔王さんってあんまり表情が顔に出ないじゃないですか」

戦士「魔女と違ってな」

騎士「それでですね!!ある日魔王さんがまた難しそうな顔で何やら虚空を見つめていて、
   僕は『きっとすごい難しいことを考えているんだろうなあ』と思ったわけです」

騎士「そしたら横にいた勇者さんは

勇者『いや、あれは難しそうなことを考えていそうで実はなにも考えていない顔だ』

   って言って……」

騎士「いやいやまさか、と思うじゃないですか。あの魔王さんが。
   そしたらその後、勇者さんが魔王さんに話しかけに行って……


勇者『なあ魔王。いま何考えてんだ?』って聞いたら、

魔王『ん……?』

魔王『何も考えてない』


騎士「…………って!どう思いますか戦士さん」

戦士「いや……どうも……?」

戦士「なんだ、どう反応すればいいんだソレ?」







戦士「確かに年頃の娘と比べると表情が乏しいが、全くないというわけでもないだろう」

戦士「なにか甘いものを差しいれると嬉しそうにするぞ」

騎士「まじすか。今度贈ってみようかな……そう言えば魔女さんに以前ケーキを贈ったら……」

騎士「なんかうねうね動く不気味な植物をお返しでもらったんですけど……どう思いますか戦士さん」

戦士「いや……分からんけど……喜べば?」

騎士「喜んでいいんですかね……」



バタン



国王「ああ、来たか」

戦士「お待たせいたしました」

国王「やはりこの夜化は魔王の魔法だったって」

騎士「そうでしたか……陛下の仰る通り、王都に光を灯さなくて正解でしたね」

国王「ところで戦士、騎士。君たちを近衛騎士の任から解くよ」

騎士「そうですか…………って、ええええ!?ななな何故ですか!?クビですか!?」

戦士「ツマトムスメガ……ツマトムスメガ……」ガクッ

騎士「戦士さーーーーん!戦士さんがショックで死んだーーー!」

国王「いや違う違うクビじゃない。おりゃっ蘇生ビンタ!」パーン

戦士「ハァッ!」

国王「君たちには魔王たちに協力して、扉の鍵を探してもらいたい。
   いいかな、3人とも」

魔王「それは有り難いが、いいのか?」

国王「もちろん。鍵の在り処の『雄竹の里 神の宮 永遠の泉 離島の浜辺』という場所だけど」

国王「いま王都中の民に訊きまわってそれに当てはまりそうな場所をリストアップさせている。
   ここはいろんな国や都の商人が訪れるところだから、情報はすぐ集まるだろう」

国王「けれどたぶんそんなに絞り込めないと思うんだ。特定できるキーワードもあまりないしね」

竜人「虱潰しに行くしかありませんね」

魔女「ぶちぶちっとねー」

国王「だからできるだけ頭数いた方がいいだろう?だから頼むよ、戦士と騎士」

戦士「そ、そういうことでしたら。またよろしくな、3人とも」

騎士「宜しくお願いします」


バターン


姫「話は聞かせてもらいました」

姫「私も行きます」







国王「…………………………」

姫「…………」

国王「じゃ私も行く」

戦士「陛下、そこは姫様を止めるところでしょう。なに言ってんだあんた」

騎士「そうですよ、ドサクサにまぎれないでくださいよ」


騎士「姫様、だめですよ。頭数が必要なのは必要ですが、それはあくまで戦える者が必要ということです」

魔王「敵は創世主かもしれぬのだ。なにがあるか分からない。
   国の大事な姫を巻き込むわけにはいかない」

姫「私こう見えて弓なら得意です。それにある程度の護身術なら心得ておりますわ。古代語も読めます」

姫「私もこの国の王族として何かしたいの。必ず役に立って見せます」

姫「……私も一緒に行きます」

国王「…………」

国王「では私も一緒に行く」

戦士「便乗しないでください陛下。いい加減にしてください」

国王「はあ……いいよ。分かった。ただし怪我はしないこと。それだけは守ってくれるね」

姫「お兄様……!ありがとう!私頑張るわ!」


騎士「姫様……全くお転婆なところは変わっていませんね」

姫「うるさいわ」








竜人「ところで影の被害は一体どの程度なのですか?」

国王「ああ……すぐに国中の村々に安否を窺う鳥文を出したんだが、
   返事が帰ってこないところがいくつかあった」

国王「兵士を派遣して調べてもらったんだけど、その村々にはだれもいなかった」

国王「だれもだ。家や畑はあるのに、その土地に住む人間の姿だけ消えていたよ」

魔王「……」

国王「恐らく、魔王と勇者があの影に出会ったとき、同時に別の場所でも影が穴から出現していたんだろう。
   君が魔法を使わなかったらもっと被害は広がっていたはずだ。ありがとう」

国王「魔族たちの町はどうだった?大丈夫だったかい」

魔女「あたしたちの町と魔王城の近くには穴がなかったから、全然被害はないよ」



国王「そうか、よかったよ」

国王「敵は創世主か……なんだかあんまり実感がわかないな。
   創世主が我々の国を消そうとしているなんて」

姫「ねえ、この世界の存在理由がなくなったと創世主が判断したとき……って仰ってましたよね。
  それってどういうことなのかしら?」

姫「世界はただ在るだけではないの?存在する理由とはなにかしら」

戦士「それは直接創世主に訊くしかないのではないだろうか」

国王「私も創世主に会いたいなあ」

魔女「創世主も王様みたいなのの生みの親だって知ったら失神しちゃうんじゃないのー アハハ」

国王「言えてるー 度肝抜かれるだろうねアハハ」

魔王「魔女……失礼だぞ。いくら昔がアレとは言え、いまは国王なのだから」

竜人「魔王様も若干フォローし切れていませんよ」









国王「まあとにかく、勇者が来るまで鍵の在り処はこちらで調査しよう!」

国王「それから彼が来たら鍵捜索は君たちに頼む!私は扉のことを調べよう」

魔王「ああ。頼む」

魔王「勇者くんが来るまで私も城下で鍵について調べようと思う」

姫「あー……それはやめておいた方がいいかもしれませんわ」

魔女「なんで?」

国王「夜が続いてることについて不満を抱いてる農民が王都に押し掛けてきているんだ」

姫「危険を避けるためだと説明しているのだけど納得しないのよ。
  彼らの言い分も分かるのだけど……」

国王「どうしても城下に行くというのなら、姿を隠して行った方がいい。気をつけてね」

竜人「私はどうしても武器屋に行っておきたいので、失礼しますね」

魔女「あたしは魔王様についてこーっと」







姫「……じゃあ私、武器屋の場所を案内したします。
  いまは夜だから私も外套を羽織れば何も問題ないはずだわ」

竜人「武器屋の場所は分かっているので私一人で大丈夫ですよ。お気遣いどうも有難うございます」

姫「でも何かあったら危ないわ。それに私も武器を買わなきゃいけませんもの。
  だから別に深い意味はなくってただのついでです。ついで」

戦士「……姫様、私も同行させて頂きますが構いませんな」

姫「ええ全然構いません。ただのついでの買い物ですもの」

姫「ただの!」




国王「じゃあ魔王と魔女には騎士がついてってあげてくれ」

騎士「は、はいっ」

国王「ほんとに結構危なげだからみんな気をつけてね」

国王「あー なんなら私も行こうか?」ガタッ

魔王「結構だ」

姫「お兄様はダメに決まってるでしょ」

魔女「だめー」

戦士「なに仰ってるんですか?」

騎士「普通にNGです」

竜人「仕事してください」



バタン


国王「はあー……あれが満場一致というものかー……」

国王「仕事するか……」






* * *


わいわい がやがや


「答えろよ!この夜はいつまで続くんだよ!」
「農作物に影響が出るだろうが!こちとら生活がかかってんだよ!」
「これじゃいままで大切に育ててきた畑全部枯れちまう!わかってんのか!」

「ですから、それについては今早急に問題解決にあたって……」
「はぐらかすなよ!ちゃんと質問に答えろ!」

やいのやいの がやがや



騎士「表通りは危険なので裏通りから行きましょう。
   ……ていうかどこに向かうつもりなんですか?」


騎士「……ああ!あそこですか。それならこちらから行けば近いです」

魔王「よかった。かなり……農民たちは怒っているようだな」

魔女「こわいね。王都の人たちじゃない?」

騎士「はい。近くの村から直訴しにきた方々です。
   太陽がないと農作物は育ちませんから、みなさん危機感を募らせているようで」

魔王「彼らのためにも早く扉と鍵を見つけねばならないな」

騎士「……まあ、農民以外でも……続く夜にいろいろ思いを抱いてる者はいるようです」

魔女「でもさー仕方ないじゃん。こうしないとみんな影に消されちゃうんだよ?」

騎士「その影に対する恐怖を、この夜と闇は助長させているみたいで……」

騎士「人は本能的に暗闇を怖がる生き物ですから。あなたたちはどうですか?」

魔女「あたしは暗い方が好きだけど。わくわくしない?」

魔王「……暗闇か……私は」

魔王「どちらかというと…………わっ」


ドン


騎士「! 大丈夫ですか?」

男「悪い!こう暗くっちゃ視界が悪くってよ…… ん?」

男「あ……あんた、魔王か!?」

魔王「え?」

魔女「魔王様フードがずれちゃってるよ!」

魔王「あっ。 違う。私は魔王ではない。人違いだ」

魔王「……魔王じゃなっ……いですよ。ほんとですよ」

魔女「あたしも魔女じゃないわ。うそじゃないわ、ほんとわ」

騎士「お、俺も騎士じゃねーぜ!これはコスプレだぜ!趣味だぜ!」

男「いや、どっからどう見ても魔王と魔女と騎士だ」

騎士(即効ばれた)







男「なあっあんたが夜になるように魔法をかけたんだろ!?この国はどうなっちゃうんだ?
  まさかずっとこのままなんてこたあないよな?」

男「人を消しちまう影ってなんなんだよ?ほんとに消えちまった奴がいるんだよな?なあ!」

魔王「いま我々が問題解決のために尽力している、だから……」

男「お、俺は怖いんだよ……ずっと真っ暗なままの家の中にいて、物音とかすると……
  その影がどっかから俺のところに近づいて来てる気がしてよ」ガシ

男「ここは大丈夫なんだよな?わけわかんねー化けもんはここまで来ないんだよな?」

男「いつかなんとかなって、また朝が来るんだよな!?」

魔王「なんとかするから、手を……いたた」

魔女「ちょっとあんた離してよ!肝っ玉ちっちゃい男だなー。魔王様にあたんないでよね」

騎士「こらっ手を離せ!それ以上無礼を働くな」

男「待て、まだ俺は魔王に訊きたいことがっ!!」

騎士「馬鹿大声を出すなっ!これじゃ人が集まってきてしまう」


女「あっなにして――あれ?もしかして」

老婆「騒がしいね、一体なんだい」


騎士「最悪だな……これじゃ表通りにまで騒ぎを嗅ぎつけられてしまう」

騎士「………………最悪だな」







そのころ


武器屋


竜人「外はひどい騒ぎになっていましたね」

戦士「なに、あれくらいの騒ぎは数カ月に一度二度あるものだ」

姫「まあこのような事態、めったにないことですから、国民たちが動揺するのも無理はありません。
  そういうときこそ上に立つ者が毅然としなくては」


戦士「竜人は新しく剣を買うに?」

竜人「ええ。ずっと使っていた剣の切っ先が折れてしまって」

竜人「ドワーフにいつも剣はつくってもらっているんですけど、
   いまはごたごたしていて頼む暇がなかったんです」

竜人「姫様は?武器を買うと仰ってましたが、弓ですか?」

姫「そ、そうですね……でもちょっと剣も見てみようかしら」


戦士「剣も弓もたくさんお持ちでしょうに」

姫「シッ……新しいのがほしいと思っていたの!」









武器屋「いらっしゃい。ええと……?」

姫「私よ。久しぶりね」

武器屋「おおこれはこれは姫様でしたか!お久しぶりでございます。
    武器を御所望でよろしいですかな?」

姫「ええ。剣と弓を見たいのだけど」

竜人(王族の姫でも武器屋に来たりするのか……)

武器屋「いいモノを仕入れましたよ。これはどうですか?スティレットです」
    軽くて振りやすいし、短剣はおすすめですよ」

姫「そうね……。次は?」

武器屋「でしたらこちらはいかがです?エストック。
    慣れればかなりの攻撃力になりますよ」

姫「うーん。次見てピンとこなかったら弓にするわ」

武器屋「じゃあこれはどうだ!どんなに斬るものが固くても一太刀でバッサリです!
    一昨日仕入れたばっかりのレア中のレア……」

武器屋「ドラゴンスレイヤーです!!!」

竜人「オエーッ」

姫「竜人さん!?!?!?」







武器屋「へっ!?ああ竜人様ーー!?すみません外套で見えなかったもので!」

戦士「竜人しっかりしろー!大丈夫か!」

姫「竜人さんっ!ああっどうしよう!神官を呼んできます!!!」

戦士「姫様外套なしで外に出てはだめです!というかここにいてください!」

武器屋「あのですね、これは違うんですよ、ドラゴンってついてればなんかハクがつきそうだねっていう
    そういう魂胆なので、本物の竜屠りの剣ではないのですガチで」

竜人「いやずみまぜん大丈夫でず」

戦士「全然大丈夫そうではないぞ!」

竜人「姫様……できれば……できればあの剣だけはやめてください……できれば……」

竜人「たぶん見る度吐きますので……」

姫「私弓にします!!弓にしますからっ!!弓がいいです!!!」



今日はここまで こんなに汚い終わり方することももうないでしょう

竜人に癒されたわw

前々作から読んでやっと追いついた、乙です!

前作も前々作も大好きだ!
続編読めて嬉しい





* * *



女「誰かと思ったら……魔王とその側近じゃないの!ちょっと、いつになったら夜は明けるわけ?」

老婆「影が来て困るってのもわかんだけどねえ、こっちも畑がなくなっちまったら生きていけないんだ」

爺「王様と騎士様には……分かんないかもしれないけどね」


騎士「……魔王さんも魔女さんも今日はもう転移魔法を使えないんでしたっけ。
   ここは僕が止めますので、宮殿まで引き返してください」

魔女「うーん無理みたい。反対からも来ちゃった」

騎士「え!?」

魔女「もー、なんで悪いことしてないのに、むしろ助けようとしてるのに 
   こんな風に責められなくちゃいけないわけ?」

魔女「こっちだっていろいろ頑張ってんだけど?昼を夜にするのがどれだけ大変か知ってんの?
   つーかあんたらできんの?」

魔女「ずっと夜にすることもなくあのワケ分かんない影を消すことができる人が
   この中にいるなら前に出てきて。その人の文句だけ聞いてあげる」

魔女「それ以外はこんな風に寄ってたかって文句を言う資格なし」

魔女「帰れば?」

  「な……なんだと」

  「黙って聞いてれば」

魔王「魔女……あまり挑発するような真似はよせ」

魔女「だって超むかつく!きーっ」

魔王(しかたない、角が立つかもしれんがここは魔法を使うしか……)





ゴンっ!


女主人「あんたら、なにみっともない真似してんだい!?やめな!」

男「いてっ!」

女「お、女主人……」








騎士「女主人さん!」

女主人「全く騒ぎを聞きつけてやってくれば、なんてザマだ。
 こんなことしても何にもならないでしょうが」

女主人「ほら、散った散った!こんな暇あるならもっと違うことに使いなよ」


ざわざわ……


女主人「それとも何?みんな私のフライパンで頭叩かれたいってのか?」

女「……ま、確かにカッとなっちゃったのは謝るよ。じゃ私は帰る」

老婆「そうだねえ……しょがないことかもしれないねえ……」


カエルカー シラケタナー  ザワザワ


男「……俺はまだ」ダッ

女主人「あっ こら」



魔王「!」

魔女「魔王様どいてて!あいつにあたしが一発くれてやるから!」シュッシュッ

騎士「ま、魔女さんもどいててください危ないです!僕がっ」


ドスッ!!


男「ぐあっ……!?」ズサ

騎士「へ……?」

魔女「あれ、あたし念動力に目覚めちゃったかな?」



  「んなわけあるかよ」

  「皆さんお久しぶりです」

魔王「ああ……二人とも、王都に来ていたのか」

魔女「神官!じゃなくて……元神官!
   それにもう仮面はつけてないけど仮面くん!」

仮面「ややこしいな」

元神官「ややこしいですね」

女主人「なんだ……あんたらも来てたのかい」










騎士「二人ともどうしてここに?」

元神官「私たちも勇者さまたちのお力になるために王都まで来ました。
    世界の穴と、それからそこから出てきたよくわかんない影」

元神官「手がかりはつかめてるんでしょう?協力しますよ。
    私はもう神殿の魔法は使えないのですけどね……」

魔女「わーい。ていうか仮面くんまで来てくれたのは意外だったなー」

仮面「このままだと商売あがったりだからな。お前らが万が一失敗したら困るんだよ。
   なんだかんだでいつもお前らはツメが甘いからな」

魔王「ん……すまん」

元神官「魔王さん、仮面さんは素直じゃないだけなので言葉は額面通りにうけとらなくていいんですよ」

魔女「翻訳すると『俺もお前たちの力になりたくて遠路はるばる来たッス!』ってことだから」

仮面「好き勝手言うんじゃねえ!ちげえよ!」ダン


女主人「で、私の店に何の用だい?危険を冒してまで来ちゃってさ」

騎士「はあ……ほんとに危ないところでしたね。みな殺気立っちゃって……」

女主人「ああいう過激なのは王都でも一部だからね、勘違いしないでよ。
    ほかの奴らはちゃんとあんたらのこと応援してるからね!」

女主人「ちゃんとしっかりこの騒動を止めとくれよ!頼んだからね」

魔王「今日はそのことで。女主人は情報通だから、鍵のことについて聞きに来たんだ」

女主人「ふふ、ちゃんと渡す情報があるよ。これ、城に帰ったらゆっくり読みな。
    まああんまりドンピシャなのはないけどね」

魔王「有り難い」


女主人「忙しいだろうけど一杯くらいちょっと飲んでく?」

魔女「飲む!!」

騎士「魔女さん、そろそろ宮殿に戻りませんと」

魔女「え~~ちょっとくらいいいじゃん。ねー魔王様いいよね?ね?」

魔王「うん……」ウトウト

仮面「なんだぁ?まだ6時なのにもうおねむなのか、魔王サマは?」

元神官「疲れちゃったんじゃないですか」






* * *


バタンッ


戦士「勇者!戻ったか」

元神官「勇者様」

勇者「おう。って元神官?なんでここに?」

元神官「協力しますよ。昨日王都に来たんです。
    勇者様は時の神殿に行ってきたんですよね?どうでした?」

勇者「……それがな……なくなってた」

戦士「なくなってた?」

勇者「神殿の入り口はあったんだけど、中に入ると途中ですっぱり何もなくなってた」

勇者「女神に会えたらと思ってたんだが……だめだったよ」

元神官「そうですか」

戦士「なにかあったと考えるのが自然だな」

勇者「創世主に消されたのか、女神の意志なのか……うーん」

勇者「てか創世主って……今更だけど本当に?」

元神官「世界を創って以来創世主が何かしたということは伝わってません。
    謎が多い……ていうかほとんど謎なんですよね」

戦士「まあ、頭だけ悩ませても仕方あるまい。行動あるのみだ」

勇者「ああ、そうだな!さっそく鍵の在り処を探しに行こう。
   国王が怪しそうな場所をリストアップしてくれたんだ」

勇者「またお前らと戦えるんだな。懐かしいぜ」

元神官「ふふ、そうですね!で、どこに行けばいいんです?そのリスト見せてください」

元神官「えーーっと?まず雄竹の里と思わしき場所50か所……」

元神官「神の宮……48か所……永遠の泉……67か所……離島の浜辺81か所……」

元神官「計246か所………………」







元神官「一応聞いときますが……ふざけてます?勇者様」

勇者「なんで俺だよ。ふざけてないよ」

元神官「こんなのひとつひとつ回って行ったらどれだけ時間かかると思ってるんですかーっ!」

戦士「ま、まあ待て!騎士団の奴らも何人か協力させて……
   勇者に俺に神官、魔王に竜人に魔女、姫様に騎士に仮面、妖使いと忍には
   それぞれ二人一か所行ってもらうとして」

勇者「うまくすれば一週間で終わる!」

元神官「ええええーー!?うまくすればって完全に希望的観測じゃないですか!
    大体移動と探索の時間も結構かかるし、もっと時間がかかっちゃいますよ!」

勇者「でも仕方ないだろ!神様に言ってくれよ!お前神官だろ!?」

元神官「元ですよ!」

元神官「あんまり時間がかかってしまうと魔王さんが大変なんじゃないですか……?」

勇者「……だから急いで探そう!みんなで探せば必ず見つかるはずだ!」

戦士「やるしかないな!」

元神官「……こうなったら最速で鍵を見つけ出してやりましょう。
    創世主の鼻を明かしてギャフンと言わせて土下座させてやりましょう!!」

勇者「ああその意気だ!ついでにぶん殴ろう!」

戦士「熱しやすいところ全く変わってないなお前ら!ほんとしょうもないな!」






* * *


星の国


姫「ここもだめ……でしたね。
   もう20か所以上まわったのに、いまだにそれらしいものひとつ見当たりませんわ」

魔女「あたしたちの担当はあと25か所かー。多いなあ」

魔女「まっ さっさと終わらせちゃお。その25このうちどっかにあるでしょ」

魔女「ほら早く箒に乗っちゃってー」

姫「あ……ええ。……うう……まだちょっと空を飛ぶのは慣れないわ」

魔女「そのうち慣れるよ」


ビュン


姫「~~~~~~~~~……!!」

魔女「ひゃっほー!」



* * *



バッサバッサバッサ



騎士「あ゛ーーーーーーーーーーーーーーーっっ」

騎士「ちょっど竜人ざんごれ速過ぎじゃないでずがーーーーーーーっ」

竜「いやでも、急ぎませんと。まだ鍵を見つけられていないのですから」

騎士「死ぬーーーーーっ」

竜「次はあそこの離島ではありませんか?下降しますよ」ビュン

騎士「あ゛ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ」







* * *


太陽の国


魔王「……だめだな。ない」

仮面「ここの泉もだめか。くそ」

魔王「あと15か所……か」

仮面「つーか……鍵って、そのまま鍵の形状なのかよ?」

魔王「どういう意味だ?」

仮面「一見鍵っぽくないような形してるってこともあるんじゃねーのかってことだ」

魔王「……」

魔王「そうだな……うむ。一理ある。鋭いぞ仮面。もう仮面つけてないけど仮面」

魔王「そういえばもう仮面はつけないのか。あれはあれでかなり目立っていたが」

仮面「へっ お前にゃ関係ねーよ。俺の勝手だろ」

魔王「素顔のままの方が話しやすいな。もう隠さない方が私もよいと思うぞ」

仮面「だから関係ねーっつってんだろ!俺の面のこたあどうでもいいんだよ。
   さっさと次に行くぞ」

仮面「大体なんで俺が魔王サマといっしょなんだよ……あいつと行きゃあいいだろーが。
   我ながらこの組合せはないと思うぜ」

魔王「あいつ?」

仮面「勇者だよ」

魔王「この組み合わせは個々の戦力のみを考慮したものだが……
   なんだ、君は勇者くんと行きたかったのか?ならそう言ってくれればよかったものを」

仮面「ちっげーよふざけんな」



仮面「おい、なにしてんだ行くぞ」

魔王「……ああ」

魔王「……しかしきれいな泉だな。この村の名前は……なんだったっけ」

仮面「あー?確か……泉の村だ。そのまんまだな」

魔王「……泉の村…………か」

魔王「きれいだな」








* * *


元神官「はっ!!戦士さんこれは!?この柱の紋様、ちょっと鍵っぽく見えませんか!?」

戦士「む……確かに。しかしこれはどうやって持ちだせばいいのだ?」

元神官「戦士さん……その大剣で柱ごとバキッとやっちゃってくれません?」

戦士「無茶言うな!」




* * *


雪の国



ビュオオオオオオ……



妖使い「なにこれさっむ!さっむ!信じられない本当にこの世か!?
    鍵探しどころじゃねーよこれ!」

忍「若……私はもうここで凍え死にまする……」

妖使い「そっか。じゃあまたいつか」

忍「ちょっとーっ若あんまりですよーっ!!見捨てないでくださいー!」




* * *



勇者「……寒い……」

勇者「……」

勇者「なんで俺だけ一人……」

勇者「くそっ別にいいけどね!いいけどね別にっ!こういう扱い慣れてるし俺!!」

勇者「全然寒くねーし!身も心も寒くねーし!」

勇者「えー次はここから西に行ったとこにある廃墟だな!それ終わったらあと8か所!
   もうちょっとだ、頑張れ俺!絶対鍵を見つけてやるぜちくしょー!」








* * *


食事処


仮面「今日もだめだったな……チッ」

仮面「無駄足か」

魔王「明日こそ見つかるはずだ。それに、私たち以外の誰かが見つけているのかもしれないし」

仮面「古文書を解読したのはお前だろ?お前が読み間違ったってことはねーのか?」

魔王「それはない。失礼だな」モグモグ

仮面「……よく夕飯にパンケーキなんて食えるな……」

魔王「竜人には言っちゃだめだぞ。うるさいから」

仮面「はいはい」

魔王「……みんなどうしてるだろうか……そういえば君の子分の……双子の彼らはどうしてるんだ?」

魔王「……ふわ……」

仮面「あいつらはまあいつも通り元気だ。いまは店をまかしてる。
   それよりお前、もう眠いのか?まだ5時だぜ。いつもこんな早くに寝てんのか」

魔王「……いや眠くはない」

魔王「……」

仮面「うそつけよ。まだまだガキだな」

仮面「あ、おーい。これもう一杯くれ、同じやつな」

店員「はーい」


仮面「あー、で何の話だっけ。……うおおおおっ!?」

魔王「ぐー……」

仮面「なにやってんだてめえ!食事中に寝る馬鹿がいるか!!
   あーあー顔が蜂蜜で大変なことになってんぞ」

仮面「おいっ!起きろガキ!! だれかタオル持ってきてくれー!」







――――――――――――――――
―――――――――――
―――――――



ジリリリリリリリリン

ジリリリリリリリリン

ジリリリリリリリリン

ジリリリ……


魔王「……」パチ

魔王(夜明け……)

魔王(空が白みはじめてる。危なかった……。早く魔法をかけないと)

魔王(あれだけ寝たのに魔力の回復が追いついていない……)

魔王「…………」

魔王「……呪文……えっと」ブツブツ



ズズズズズ……


魔王「……ふう……」

魔王「うー……だめだ……もう起きていられ…………」

魔王(そうだ、仮面に……手紙を書いて……おいておけば……)

魔王(……)

魔王(……)

魔王(……)スヤ







―――――――――――――
―――――――――――――



少年「□□□□……」

少年「……?」

少年「寝てるのか……?」




少女「……お兄ちゃん」

少年「起こした?」

少女「ううん……□□□□」

少年「……朝出てくときにお前寝てたから言えなかったんだけど」

少年「誕生日おめでとう。8歳だな」

少年「……ケーキは無理だったけどオレンジもらえたよ。好きだろ?いま食えそうか?」

少女「お兄ちゃんがたべて」

少女「ありがと……」

少女「ごほっ……ごほっ」

少年「……おい……大丈夫か?もしかして」

少年「……!」

少年「ま、待ってろ。すぐ薬をもってくるから……!」








少年「すぐ楽になるからな」

少女「いかないで」

少女「……もういいよ……お兄ちゃん。だからそばにいて……」

少年「なに言ってんだよ!こんなのすぐ治るから、弱気になるな」

少年「すぐ治るから……」

少年「もっといっぱい働いて、そしたら高い薬も買えるようになる。
   お前も1日ですぐ元気になるよ」

少年「外で遊ぶんだろ?学校も行くんだろ? ……」

少女「うん……」

少女「ありがとうね。おにいちゃん」

少年「……っ」

少年「……死なないでくれ」

少女「あのね……ありがと……」

少女「……ごめんね……」





* * *



勇者「担当箇所を捜索し終え、王都にいま集まっているわけだが」

勇者「……では鍵らしきものを発見した者は手を挙げるように」


シーン……


勇者「……ぐああっ!全然だめだった!」

姫「あっでも、まだ魔王さんと仮面さんが帰ってきていません!
  もしかしたら彼女たちが何か手掛かりをつかんだのかも!」

魔女「さすが魔王様!」

元神官「それにしても遅いですね……もしかして何かあったのでしょうか?」

戦士「転移魔法を魔王が使えるはずだから、すぐ帰ってこれるはずなのだが」

竜人「ま……まさか魔王様に何かあったのでは!?ちょっと探しに行ってきます!!!」ダッ

勇者「待て、竜人」

戦士「そうだぞ、竜人。勇者の言う通りだ、落ち着け」

勇者「俺も行く!!」ダッ

戦士「おい」


バサ


魔女「あ。二人ともストップ。鳥がこっち向かって来てるよ」ガッ

竜人「ぐえっ」

勇者「おえっ」

魔女「魔王様と仮面くんからの鳥文かも。どれどれ」


魔女「……えっ?」






* * *


勇者「起きないって……どういうことだよ!?」

仮面「おい怒鳴るな、ツバ飛ぶだろきったねーな」

仮面「そのままの意味だ。3日前から声かけても揺すってもビンタしても起きねえ」

竜人「あ?」

仮面「……いやビンタは言葉の綾だ。してねーよ!!口が滑っただけだ!!」



魔女「魔王様ぁぁ……ぐすん……大丈夫かな?」

元神官「見た感じ普通に眠ってるだけなんですけどね……
    とりあえず病気やけがではないようです」

魔王「……ぐー……」

姫「ねえ、でもこれうつ伏せでずっと寝ていたら呼吸できないのではありませんか!?」

魔女「魔王様はいつも寝る時このスタイルだからそれは大丈夫」

姫「信じられない……」



仮面「で、こいつのベッドサイドに置いてあったのがこの紙切れだが……
   字が汚すぎて何が書いてあるのか分かんねーんだ」

忍「うわあ、若より汚い!」

妖使い「黙れ」

勇者「確かに汚すぎてもはや字とは判別できないほどだが、これは……!」

勇者「魔王が睡魔MAXのときの字だ!!夜9時以降にはこんな風な字をよく書く。竜人読めるか?」

竜人「いや流石にここまでになると判別不能ですね」

仮面「夜明け前になると起きるんだが、魔法をかけてまたすぐ寝ちまうんだよ」


妖使い「そんなの、魔王の手紙を読まなくても分かることじゃないか」

妖使い「魔力の回復が消費に追いついてないから、睡眠を取らざるを得ないんだろ」







妖使い「いくら魔王といえど、大陸全土を覆うような大魔法を毎日使い続けるのは無理だったってことさ」

魔女「……確かにあたしたちは魔力を使いすぎたら1週間くらいずっと寝込んで回復させるよ」

勇者「でも回復が追いついてないんだろ?」

勇者「魔力を使いすぎて……0になったら死ぬんだろ?
   何か方法はないのか?」

妖使い「方法はひとつだけだよ」

妖使い「魔王が死ぬ前に、君が鍵を見つけ出すしかない」

妖使い「で、創世主を倒せばそれで済む話さ」


勇者「……」

勇者「……ああ、分かってるよ。鍵を見つければそれで終わる」

勇者「早く見つけないと……!」


勇者(でも……一体どこに?)




魔王「……」グー




――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――――――



少年「……□□□□」

少女「□□□□っ お兄ちゃん」


少年「熱、下がってよかったな……。心配したんだぞ」

少女「うん、ごめんね」

少年「はいこれ、今日の分のパン。それ食ったら薬飲めよ。
   昼の分はちゃんと飲んだか?」

少女「うん……のんだよ」

少女「……ごほ」

少年(……)

少年(熱が下がったのに……咳が止まってないな。顔色も悪いし…………)

少年(もっと強い薬が必要なんだ)

少年(でも僕の給料じゃ……普通の薬と毎日のパンを買うので精いっぱいで、貯金なんてできやしない)

少年(……)

少女「ね、お兄ちゃん。パンたべないの」

少年「え?……ああ……」

少年「今日は昼食べすぎたからいらないんだ」






少女「じゃあ、はんぶんこしよ……」

少年「だからいらないって。ちゃんと食べて体力つけないとだめだろ」

少女「おなかいっぱいなんだもん。のこしたらもったいないから……」

少年「……」

少年「どうしたんだよ、前は……パンひとつ全部食えてたのに……最近……」

少年「……今日だけだぞ、明日からは全部ちゃんと食えよ」

少女「うん。ありがと……」



少年「……じゃ、もう寝るぞ」

少女「ね、またあのお話してくれる?」

少年「ああ、いいよ。どこまで話したっけ」







―――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――



ガチャガチャ……


少年「はあ……はあ……。くっ」

××「おいっ!お前!それはこっちに運ぶんだろうがっ!なにしてんだ!!」

少年「えっ……? でもあっちに運べって言われました……けど」

××「どうせお前が聞き間違えたんだろうが!口答えをするんじゃねえクソガキ!」

少年「……すいません」

××「まったく、お前みたいなガキを雇うのは本当は法律で禁止されてるんだぞ」

××「だがお前がどうしても働きたいっていうからこうしてこっそり雇ってやってるんだ」

××「その恩を忘れるんじゃねえ!!いつでもお前なんてクビにできるんだからな、ええ!?」

少年「……すいません」


ジリリリリリリ……


××「……フン。時間だな」

××「全員休憩に入れ!!1時間後に持ち場に戻らなかった奴はクビだからな、クビ!!」



○○「よう。まーたあのジジイにこっぴどくやられてたな。気にすんなよ」

○○「で、今日はここで食べてくだろ?なににする?」

少年「……あー……えっと……朝食べすぎちゃったんだ……だから今日もいらない」

○○「またかよ?それうそじゃねえだろうな?……ほんとは金がないんじゃねーの?」

○○「なあ水臭いぜ。言ってくれりゃちょっとしたもんくらい出せる」

少年「たまにパンをくれるだけで十分だよ。それ以上なにかして、あいつにばれたら○○がクビにされちゃうって」

少年「○○は一家の大黒柱なんだからそれは不味いだろ」

○○「しっかしなあ」

少年「僕は屋上に行ってくるよ。じゃあね」






少年「……」

少年「……今日も曇りか」

少年「明日も明後日もその後もずっと曇り……」


少年「くそっ 何が『雇ってやってる』だ。あのジジイめ」

少年「大人の給料3分の1しか寄越さないでこき使うくせに。足元見やがって!」

少年(早く大人になりたい。そうしたらもっとお金がはいる。そうしたら……あいつにも)


少年(屋上からは橋の向こう側が見える。
   こっちとはまるで違う、どこもかしこもキラキラしてる別世界……)

少年(あ……僕と同じくらいの年の人が歩いてる。横にいるのは友だちか)

少年(笑い声がここまで聞こえてきそうだ。……あれが制服ってやつなんだろうな。
   靴もバッグも服も、なにもかも高そうだ)

少年(……あいつらの着てるあの服を売れば……どれだけの薬を買えるだろう。
   高いほうの薬だってたくさん買えるんだろうな……)


少年(あそこの高級レストランで食べてる奴らの一回分の食事代だけで
   妹の病の進行をどれだけ遅らせることができるんだろ)

少年(このままだとあいつは……もう長く……は)



少年(僕が……橋を越えて、ちょっとだけ奴らの金を盗んでしまえば)





少年「だって命がなにより尊いはずだろ?」


少年「……僕が盗んだって、あいつらはそんなに困らないはずだ」

少年「あいつらの食事一回分。持ち物ひとつ分。たったそれだけで妹の病気を治せるかもしれないんだ」

少年「そしたらこんなところすぐ出ていってやる。
   それでお母さんとお父さんを探しに……この街壁の外へ……妹といっしょに」

少年「あいつといっしょに……」


少年「……」

少年「……」

少年(……わかってる。盗んだ金で病気が治っても、あいつは喜ばないだろう)

少年(いきなり大金をもってったらすぐ気付くだろうな)

少年「……!やべっ もう休憩時間終わる!またあのジジイにネチネチ言われる。戻らなきゃ!」



―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――





ダン!


勇者「くそっ 鍵はどこにあるんだよ」

元神官「雄竹の里 神の宮 永遠の泉 離島の浜辺……
    この『終末記』にあったっていう文言ですが」

元神官「もしかしたらこの4か所にそれぞれ鍵があるんじゃなくて、
    この4つがひとつの場所を指しているのかもしれませんね」

戦士「えー……と、すると、竹林と泉と神宮がある離島ってことか?」

戦士「さっきから地図とにらめっこしているが、そんなところないぞ。
   俺たちも広く世界を旅してきたがそんな離島聞いたことない」

元神官「まあ、竹と泉と島はともかく、神宮なんて限られてますからね……
    神殿に登録されてるところは全て探したし」

元神官「とすると、もっとひねった解釈が必要なんですかね。
    竹……イネ科タケ亜科多年生常緑木本、タケ群とササ群に大別、竹八月に木六月、筍……」

勇者「俺を頭痛で殺す気か? 難しい単語の羅列を今すぐやめろ」

勇者「だーーもう、なにが『終末記』だっ 古代人のアホが!!
   そんな意味わからんヒントだすんじゃねーよ!なぞなぞ解いてるほど暇じゃねーんだよ!」


姫「落ち着きなさい勇者。魔王さんがあんなことになって焦るのも分かりますが、
  冷静にならないと分かるものも分かりませんわ」

勇者「ひ、姫様。すみません、お見苦しいところを」

姫「いえ構いません。ところで……行き詰っているのならほかのことに目を向けてみませんか?
  鍵のことも何かひらめくかもしれないわ」

元神官「と仰いますと……?」

姫「鍵ではなく扉……と思わしき場所をお兄様が発見なさったの。私が案内します」

勇者「扉を……!?」






王立図書館


勇者「……図書館!?」

姫「ここの地下よ。ついてきて」


コツ……コツ……コツ……コツ


元神官「あれ?この先って……?図書館は地下2階までですよね?」

姫「ええ。地下3階以下は王家の者と図書館長のみ閲覧可能となってるわ」

姫「向かうのは地下4階、最下階。暗いから足元に気をつけて……きゃっ」ズルッ

戦士「大丈夫ですかな」ガシ

姫「……ごほん。私みたいにならないように皆さんくれぐれも気をつけて」



姫「……ここよ。ここが地下4階」

勇者「ここに扉が?」

姫「ええ。下を見てちょうだい。床の紋様、扉に見えませんか?
  それにちょうどドアノブのところが窪んでいるでしょう」

姫「もしかしたら、そこに嵌めるべきものが『鍵』なのかも……」

勇者「確かに扉に見えますね。これが……。この先に、『彼』がいるのか」









元神官「? 戦士さんどうかしました?獅子の像を見つめて……
    なにかあります?」

戦士「ああ、この像だが、一度壊れたものを修復したものなのだろうか」

姫「その通りですよ。人魔戦争のときの王都襲撃で、
  確か図書館は地下2階までしか被害がなかったはずなんですけれど」

姫「ここでその獅子像だけが壊されていたみたい」

戦士「これは……剣による傷だな。それも相当の強さで壊されたものだ。ふうむ」

勇者「……」ジッ

勇者「なあ、こいつの左目」ガコッ

戦士「うおおお!?お前何やっとるか!?」

元神官「勇者様!?弁償ですよ弁償!!払えるんですか!?」

勇者「す、すみません姫様!でも四の五の言ってらんないっていうか!弁償はするんで!」

姫「いえ、いいですけど……その水晶が何か?」

勇者「この床の扉のくぼみにぴったり嵌りそうだと思いまして。
   ちょっとやってみますね」


ガコ


勇者「ぴったり嵌りましたね」

姫「……」

元神官「……」

戦士「……」








元神官「……ふう……竹も宮も泉も離島も全く関係ありませんでしたね~~!ふう~~!」

勇者「俺いつかあの終末記書いた古代人に会ったら、絶対邂逅一番ぶん殴るわ」

戦士「やってやれ」

姫「と、ところでこの先に……創世主がいるのですよね?」

勇者「姫様は宮殿に戻って皆に知らせて来ていただけますか?
   俺たちはこのままあいつに会ってきます!殴ってきます!」

戦士「よし、行くか!!」

元神官「ええ!!」

姫「でもその扉、どうやって開くの?」

勇者「……え!?…………ああ、えっと……」

勇者「…………どうする!?戦士!!元神官!!!」

戦士「いや、わからっ……」


ガパッ


元神官「ああっ!? 床が……っ!!」

姫「ちょっ私まで! きゃーーっ」

戦士「ぐぬわあああああ!」

勇者「うわああああっ」








スタッ スタッ グキッ!


勇者「おい誰だ最後のグキッて」

戦士「俺の腰だ……!!」

勇者「大丈夫か!?無理すんな!戦士は最年長なんだから!おっさんなんだから!」

戦士「だ、黙れ!俺はまだ現役だ。姫様、お怪我はありませんか!?」

姫「ええ、あなたが抱えてくれたおかげで。ありがとう」


元神官「あーいいな姫様はお姫様だっこされて優しく受け止めてもらえてー……」

勇者「ん?なんだよ、俺だってお前のことちゃんと同じように受け止めてんじゃないか」

元神官「逆です。勇者様、私がいまどんな体勢か見えます?海老反りですよ!!!
   お姫様だっこは私が仰向けの状態になっていないと成り立ちません!!」

勇者「あー わっり!暗くて見えなかったわ。すまんすまん」

元神官「誠意がこもってないんですよぉ誠意が……! 
    はーっ もう、全然女の子の扱い方が分かってませんね……っ」

元神官「そんなんじゃいつまでたっても彼女できませんよ勇者様」プイ

勇者「なぁ……っ!?それとこれとは関係ないだろ!
   つーかお前こそそろそろ男捕まえて結婚しないと婚期……」

元神官「勇者様、これから創世主に会うかもしれないっていうのに、そんな無駄話してる暇ありませんよ」

元神官「さあ、創世主はどこなんですか!?気を引き締めていかないと……!!」シュッシュッ

勇者「おいっお前から言いだしたんだろーが!」







姫「この空間はなんでしょう。地下4階よりも下なんてないはずなのだけど」

戦士「大分広い空間ですな。む、あそこになにか置いてあります」

戦士「……これは?台座か?」

勇者「こっちは大きさと形状からして剣の台座かな」

元神官「もうひとつは何でしょうね。何でもおけそう。窪みの大きさからして、書かなにかでしょうか」


勇者「……ここには創世主はいないようだな」

勇者「……あれが扉じゃなかったのか?」

勇者「……」


勇者「いやでも、姫様でさえ知らなかった王立図書館の地下とか
   なんかそれっぽくないか。もうちょっと調べてみようぜ」

姫「なんか穿った見当のつけ方するわよね、勇者って……」

戦士「いつもあんなんですよ」



コツコツ

コツンコツン


勇者「ん!! なんだかここの壁だけ、叩いた時の音が違うぞ。
   隠し通路があると見た」

勇者「姫様……ここの壁ブッ壊していいですか?」

元神官「勇者様、もうちょっと言い方考えましょうよ」

姫「非常事態ですもの。責任は私がとるわ。やっちゃってください」



ガラガラガラ……


姫「あらっ 本当に隠し通路……というか隠し階段が向こうに!
  こんなのいつつくられたのかしら?」

戦士「まだ下があるのか」






勇者「いま、地下何階あたりだ……?」

勇者「ずいぶん長く階段を下ってきたが」

元神官「螺旋階段なのでなんとも言えませんね。
    でも小一時間は降りてますよ。まだ続くんですかね……」

戦士「目回ってきた」

姫「ふう……これは一体どういうことなのかしら」

姫「あっ 見て!下に光が漏れてるわ。きっとあそこで階段は終わりよ」


ギイッ


元神官「うっ 眩しい。ここは……」

姫「! 扉があるわ!」

勇者「あの扉が光ってんのか」

戦士「これは当たりなのではないか?誰も知らない地下の光る扉とはかなりそれっぽいぞ」

元神官「確かにこの上なくそれっぽいです」

姫「あなたたちの会話、ふわっふわ過ぎません!?」


勇者「これは何でできてるんだろう。不思議な……感じがするな」

勇者「そうだ、時の神殿と同じような感じだ。この向こうに創世主がほんとに……」

元神官「……」ゴクリ

勇者「…………」

姫「……」







勇者「おい出て来い創世主!!あの影出すのやめろ!!ふざけんな!!説明しろ!!!」ガンガン


姫「さすが勇者。数秒前の神妙な空気を一瞬で壊しましたね」

元神官「ごくりとかやっちゃった自分が恥ずかしいです」

戦士「……勇者、気持ちは分かるが鍵がないことには無駄だろう」

勇者「チッ」



勇者「しかし、間違いないな。これが俺たちの探していた扉だ」

戦士「根拠があるのか?」

勇者「ああ。触った瞬間びびっときた。なんというか……」

勇者「ぞわっとした。具体的に言うとそうだな……」

勇者「………………ぞわぁってしたんだ」

元神官「頑張れ勇者様の語彙!」

勇者「とにかく間違いない!あとは鍵を見つけるだけなんだ!」

勇者「あとは、鍵を……!!」



きょうはここらへんで
1作目から読んでくれてる方ありがとうございます
こんな続いちゃってすみません 完全に自己満ですはい


勇者の語彙力ェ…


やべ見逃してた
ずっと見てるぞ!おつ

やっと追いつきました!
乙です応援してます

やっと追いつきました!
乙です応援してます

ぞわぁ



――――――――――――――――――
――――――――――――――――――


少女「お兄ちゃん、きょうはおやすみなの……?」

少年「そっ!休み。今日は家にいる」

少年「ちょっと外出てみるか?」

少女「いいの……?」

少年「今日は顔色もいいし、咳もでてないからな。でもちょっとだけだぞ」

少女「そといく!いきたい」

少女「いきたいいきたいいきたいっ」

少年「だからちょっとだけだぞ!じっとしてろ、マスクつけて……」

少年「マフラーも。上着も!咳でたらすぐ帰るからな」

少女「うん……!」



少女「わー 人がいっぱいいるよ、お兄ちゃん」

少年「そりゃいるよ。街だからな。どこ行きたい?」

少女「シスターさんにあいたいな……」

少年「じゃ教会だな。どうせ暇してんだろうから相手してくれるよ」






スタスタ


少年「……ん?」

少女「…………」

少女「けほ……」

少女「けほっ……ごほごほ」

少年「……あー……やっぱだめだな。帰ろう。また今度シスターには会えるよ」

少女「ごほ…… うん……」

少年「おんぶしてやるから」

少女「うん……ごめんね……」

少年「なんでお前が謝るんだよ……」










少女「ごほごほ……げほっ……けほ」

少年「薬飲んでもおさまらないな……くそ、なんでだ?」

少年「前はこれでおさまったのにっ……」

少年(……もう効かないのか?)

少年(……どうしよう……)

少年(…………だめだ、僕が兄貴なんだからしっかりしないと)


少年「ごめんな、やっぱり今日外に連れてかなければよかったな」

少年「……ごめん……大丈夫か?」

少女「きょうたのしかったよ……」

少女「またいっしょにつれてってね」

少年「うん……行こうな」





* * *



少年「くそ、あのジジイ」

少年「僕が9歳の誕生日を迎えたら給料上げるって前に言ってたくせに……
   しれっと忘れたフリしやがって」

少年「どうせ最初から嘘だったんだ……ハゲジジイめ」

少年(まあいい、今日は給料もらったし、あいつにもいいもの食べさせてやりたいな)


○○「よう。持ち帰りでなんか買ってくかい」

少年「うん、ライ麦パンふたつとあと卵……それからオレンジのジャムも」

○○「ははは、ここは食堂であって食材店じゃないんだがな。まあいいさ」

○○「白パンふたつにオムレツにジャムに、えーとほうれん草とソーセージの炒め物?」

少年「は!?ぜんぜん違うって!なに言ってんだよ? そんな金ない」

○○「気にすんな、今日だけ赤字覚悟の全品50%オフセールだ。いつも通りの値段でいいよ」

少年「そんなことしたらあいつにばれるって……!」

○○「あのジジイはもう帰ったよ。ほら早くしねーと俺の気が変わっちまうぞ、いいのか?」

少年「……ほんとにいいの?」

○○「いらねーなら別にいいけど?」

少年「いる!いります!ありがとう!!」

○○「また明日な」








少年「げっ 外もうこんなに暗い。今日は仕事が長引いたからだな」

少年「早く帰らないとあいつも心配してるだろうな」タッ


タッタッタッタ……


少年(ここの通り……暗くなるといつもより倍治安悪いんだよなぁ。気をつけないと)

少年(にしてもよかった。今日の晩御飯は豪華だ。あいつもうまいもん食えば元気になるだろ)

少年(野菜と肉なんて食べるのいつ振りだろ?高いんだよな)

少年「!」

少年(花か……つんでこうかな。女の子だしこういうの好きだろうな)

少年「本物ならもっといいんだけど。滅多にお目にかかれないし」

少年(こんなんでも喜ぶかな……)

少年(さ、帰るか。もうすぐだ)



スタスタスタ……

   スタスタスタ……



少年「……」

少年(足音……?)






少年(……後ろに誰かいる……? 気のせいか?)

少年「………」ダッ


グイッ


少年「うぐっ」


ズルズル


少年「おいっ 離せよ!なんなんだよっ」



ドサッ



  「いやー……ね?随分いいもん持ってるなーって。お兄ちゃんたちにもそれ分けてくんねーかな」

  「一人じゃ食べ切れね―だろ?」

  「痛い目合いたくなかったらーー……分かるよなぁ、ガキ」

少年「……!」

少年「……こ……これは一人で食べるんじゃなくて……」

少年「家で待ってる妹と…………」


バキッ


少年「!!」







  「うんうん、だからね?その妹と同じくらい俺たちもハラ減ってるわけ」

少年「……う……ぐ…… ふ、ふざけんな。これは……だめだってば」

  「おっ、頑張るね少年。そういうの大事だよ」

  「いつまで持つかな? 俺1分と見た」

  「じゃあ俺2分。ひゃははは」











少年「……………………ゲホッ……」

  「うっわ こいつこんなに金も持ってるぜ。ラッキー」

  「じゃあな坊主。悪いな。俺たちを恨まずに国を恨めよ」






少年「……かえせよ!!それだけは……頼む、返してくれよっ!」

少年「薬も買わないといけないんだよ……っ!食べ物……だって!それがないと……」

  「あー?知るかよ。おいさわんじゃねー」ゲシ

少年「うわっ!!」



  「あははははは……」



少年「……」

少年「待てよ……待ってくれよ……なあ」

少年「待って……」

少年「…………」







少年「…………ハァ」

少年「……いってぇ……くそ、鼻血とまんねえ」

少年(あ……)

少年(花もあいつらに踏みつぶされてぐちゃぐちゃになってる……
   これじゃあいつに持ってけないな)

少年(……)

少年「あー……明日からどうしよう」

少年「………………」


ピラッ


少年「はあ……はぁ…… わぶっ! なんだよこれ。チラシ……」

少年(街の外の学問施設……奨学生募集……年齢問わず……生活金全補助……)

少年「街の外…………か」








少年(もしも僕一人だけだったなら)

少年(こんなクソみたいな街を抜けだして、このまますぐに街壁の外へ行ったのに)

少年(もしも僕一人だけだったなら高価な薬を買う必要もなく。
   食事代は一人分ですみ、毎日怒鳴られながら一生懸命仕事を続ける必要もない)

少年(もしも僕が一人だけだったなら
   妹の止まらない咳を聞く度に感じる胸が押しつぶされそうなほどの不安もない)

少年(もしも……)




少年(…………逃げたい。
   全てを捨ててこの街から逃げ出したい……)

少年(街の外は本物がたくさんあるに違いない。
   少なくともここよりはマシなところだろう)

少年(僕一人なら逃げられる。着の身着のままであの門を通り抜けてしまえばいいだけなのだから)

少年(食べ物も水もなんとかなるだろう。
   最悪一日なにも口にしなくても耐えられる。そんなことは慣れている)

少年(穴が開いているこの靴で、どこまでもどこまでも走っていって……
   荷物なんか持たずに……)

少年(軽いままならどこまでも走っていけるんだ)


少年(そうしてるうちにきっと世界のどこかにいる僕のお母さんとお父さんにも会えるだろう)


少年(見つかるだろうか。僕がずっと欲しかったものが)



少年(僕は僕を守ってくれる存在がほしい)

少年(庇護してくれ、困ったときに助けてくれる存在が、喉から手がでるほどほしい。
   大丈夫だと言って安心させてくれる存在がほしい)

少年(ずっとほしかった)


少年(この街の外なら見つかるかな……)






少年「……」

少年「……」

少年「………………」

少年(だめだ……それじゃだめなんだ)

少年(街の外がどんなに素晴らしい世界だったとしても……
   お母さんとお父さんに会えたとしても……)

少年(仕事をしなくてよくても、毎日おいしいご飯が食べられたとしても)

少年(横にあいつがいなきゃ、僕は本当に笑えないよ……)


少年「うっ……ぐす……うぐっ…… いてっ」

少年「こんなこと考えるなんて最低だ……」

少年「……早く、帰ってやらないとな。随分遅くなっちまった」


少年(とりあえず家の家具とか僕の服とか売って……仕事も増やしてもらって
   それで今月はなんとか乗り切ろう)

少年(食費も僕の分を削ればぎりぎりいけるかもしれない)

少年(……お母さんの……ペンダントも、必要なら売ろう。
   そうしないと薬は買えないかもしれない)







少年「あっ 今日の分の夕飯」

少年「くっそー……あいつら絶対いつかぶっ殺してやる……」

少年「仕方ない、こんなボロボロの上着でも売ればちょっとくらい金もらえるかな」

少年「うっ さむ……」








コツ……コツ……コツ……コツ……




少年(……パンいっこしか買えなかった……くっそ)

少年(あー、もう10時……あいつ寝てるかな)



ギイィ……


少年「……」

少年「□□□□……」







少年(寝てるかな……?)


ドタドタドタッ


少年「!?」

少女「うわあああああああんっ!」ギュッ

少年「えっ!? な、なんだ!?」

少女「お兄ちゃん、お兄ちゃん……っ」

少女「うえええええん……ひぐ……うわああああああああんっ!!」

少年「どうした? なにかあったのかっ?」

少女「おにいちゃぁん……うっう……えぐっ」

少年「……帰るの遅くなっちゃってごめんな。仕事……長引いてさ」

少年「□□□□」

少女「……□□□□、お兄ちゃん」

少女「お兄ちゃん……ごめんね。ごめんね……」

少年「なんでお前が謝るんだ?」

少女「ううん……」







少年「仕事長引いたうえに帰り道でこけちゃって、こんな有様だ」

少女「いたい……?」

少年「いや、そんなに」

少女「ひやすのもってくる」

少年「ありがと」




少年「お腹すいてんだろ? 遅くなって悪いな。ほら」

少女「……」

少女「お兄ちゃんは?」

少年「実は、今日どうしても帰り道に腹がへって、歩きながら僕の分は食べちゃったんだ」

少女「えーっ」

少年「悪い悪い。我慢できなかった」

少年「うまいか?」

少女「うん。おいしい。……でもおなかいっぱいになりそうだから、はんぶんこしよ」

少年「全部食え。食わないとチビのまんまだぞ」

少女「お兄ちゃんだってちっちゃいじゃん! はい」

少年「ちょ…… むぐっ」

少女「もうお兄ちゃんの口にはいったから、それお兄ちゃんのだよ」

少年「……お前だんだんズル賢くなってくな」







少女「……ね、お兄ちゃん」

少女「……ずっとだまっててごめんね」

少女「ずっとだましてて……ごめんね」


少女「……もういいんだよ」


少女「いいことおしえてあげる……」

少女「カギをね……あけてあげる」


少女「ばいばい。お兄ちゃん」



―――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――





魔王城



魔王「…………ぐー……」

勇者「ハァ……まだずっと寝たまんまか」

勇者「……アホ面だなぁ」

竜人「あ?」

勇者「ハッ……お前がいたの忘れてた……すいませんなんでもないです」


竜人「一刻も早く鍵を見つけたいのですが、なかなかうまくいきませんね」

魔女「でも王都の扉には鍵穴がなかったよねー。てことはやっぱ普通の鍵じゃないんじゃない?」

勇者「普通の鍵じゃない……じゃあ何なんだ」

勇者「鍵って何なんだよ……」


勇者「魔王、すぐ全部終わらすからな。もうちょっと待ってろよ」

魔王「…………」

魔王「…………」パチ

勇者「魔王!?」

魔女「魔王様?」

竜人「目が覚めたのですか!?」






魔王「……」

勇者「俺が分かるか?」

魔女「ちょ、どいて勇者!あたしが魔王様と話すのっ!!」

勇者「いってえ!やめろ魔女、毛が抜けるっ」

魔王「ゆ……ゆうしゃくん……」

魔王「勇者くん…………きけ」ガッ

魔王「……か……かぎは……かぎ……は」

勇者「鍵!? 鍵がどうした?」

魔王「鍵は…… も……ものではない……」

魔王「……ことば……」

魔王「……『お…………」

勇者「『お』……!?」

魔王「ぐぅ……」

勇者「寝た」








竜人「鍵は言葉……?『おぐう』ってなんでしょう!?」

勇者「『ぐう』は魔王の寝言だ」

勇者「一体『お』って……?」

勇者「ん……まさか」

魔女「分かったの?」

勇者「……ちょっと試してみたい。王都に行ってくる!」

竜人「私たちも行きます」







* * *


王都 図書館地下


元神官「勇者様、鍵を見つけたかもって?」

姫「……本当に?」


忍「勇者様ほんとに鍵見つけたんですかー!?」

妖使い「どんな鍵だったんだ?もったいぶらずに見せてくれよ」

忍「あーっ私も見たいです。見せてください」

妖使い「なあ勇者聞いてる?気になるなあ、見せろって」

勇者「ええい左右からやかましい!見せることはできないよ」

勇者「鍵はものじゃなかったんだ」

妖使い「ん……?」

勇者「いま試す」







勇者「……」

勇者「『おかえり』」



……カチャ……


勇者「!」


ギイィィィ……


勇者「うぉわっ ほんとに開いた」バタン

魔女「いやいや、なんで今閉めたの。早く突撃しよーよ」

竜人「さっさと創世主ぶっ殺しに行きましょう。もう一回開けてください」ブンッブンッ

戦士「殺る気満々か お前ら。殺しに行くわけではないのだぞ」

騎士「そそそそそうですよ、早く世界の異変をととと止めませんととと」

姫「あなた、本当について行く気?大丈夫?」



元神官「皆さん無茶はしないでくださいね」

姫「必ず帰ってくると約束して」

勇者「もちろんです」

姫「……」






ブオンッ ブォンッ


竜人「気合い入れていきましょう。いかに不意をつけるかが勝負ですよ」

戦士「だから奇襲をかけるわけではないと言っておるだろうが!!」

戦士「それにお前、ちょっと空気読め。剣振るの一旦やめい」ガキン

竜人「はい?」

姫「…………あ、あの……竜人さん……も、お気をつけて。くれぐれもお怪我をなさらぬよう」カァ

姫「私もいっしょについていけたらよかったのですけど……」

竜人「大丈夫ですよ、私たちにまかせてください」

竜人「四肢がもげても必ず奴の首をとってきます。血祭りです」

姫「で、ですからお怪我はなさらぬよう!!四肢はもげてはいけません!!」



忍「あの人こわっ!絶対後ろめたい過去あるって若、まじで」

妖使い「……勇者、どうして鍵があれだって分かったんだい」

勇者「ああ、あれか?鍵は言葉だって魔王に聞いて……それで思いついたんだけど」

勇者「『雄竹の里 神の宮 永遠の泉 離島の浜辺』のそれぞれの頭文字つなげただけだ。
   それで、『おかえり』……それで開くとは俺も思ってなかったが」

勇者「単純な暗号だったな。つーかそのまんまだ。もっと早く気付けばよかったぜ」

妖使い「へー。おかえりだって、鍵にしては変な言葉だね」

妖使い「じゃあ創世主はただいまって迎えてくれるのかな。ハッハッハ」

勇者「どっちかっつーと逆だよなぁ」




勇者「よーし準備はいいな行くぞお前ら!覚悟はいいか!!」

魔女「いつでも!わーい焼き打ちだーーーっ!」

勇者「よっしゃ行くぞーー!!」


ギイィイィ……










戦士「……む、ここは……!?屋外ではないか?」

妖使い「王都の地下に空があるなんて、君たちの国すっごいなー!これどうやってんの?」

勇者「いや、別空間に転移させられたんだろうな。
   あの城の中に創世主がいるのか?」

竜人「見てください、城の天辺に誰かいますよ」

騎士「よ、よく見えますね。いますか……?」

魔女「じゃあみんなで四方に散らばって。あたし背後から仕掛けるから。
   合図したら一斉にGO!だよ!一撃必殺!」

騎士「だから奇襲じゃありませんって魔女さん。
   何故あなたも竜人さんもそんなアグレッシブなんですか!?」


??「『おかえり』……かぁ」

??「懐かしいな」

??「でも、それを言ってほしいのは君たちじゃないんだ」






忍「なんかあの上にいる人しゃべってません?」

魔女「んー 全然聞こえないけど」

勇者「なんかボソボソ言ってんな」


勇者「おい降りて来い!!お前が創世主なんだろ!?」

勇者「世界を滅ぼしてるらしいが、やめろ!!ふざけんな!!勝手に消すんじゃねーよ!!」

??「あがくのはやめろよ。君たちのいる意味はなくなったんだ」

??「もういいんだ……ここは捨てられた世界なんだから」


ザアアァァァァァ……


竜人「城が崩れて……。あれが黒い水ですか?」

妖使い「そうだよ、俺たちが見たのといっしょだ」

??「君たちが気づいていなかっただけで、この世のものは全てこんなにも脆いんだよ」

??「夢から覚めればすぐ溶ける」

??「みんなが言う通り、こんなの全部くっだらねー、何の役にも立たない代物ってわけだ!!」


ザザザ ザザ


勇者「なんだ!?」

??「じゃ、今からアドリブは控えるように。劇の開幕だ」

??「全員配置について。台本通りに話せよ」








ザッ……


妖使い「周りの風景が一気におどろおどろしくなったな」

妖孤「ひええ……もう帰りましょうよ主様~~」

妖使い「お前仮にも伝説の妖孤なんだからしゃきっとしろ!!情けないぞ!!」

妖孤「怒られた~~」


魔女「さっきからあいつなに言ってんの?誰か分かる人手あげてー。翻訳して」

勇者「おい、わけ分かんないこと言うな!これは劇じゃない、台本なんてねーよ!」

??「劇だよ。最初からそうだった」

??「陳腐で馬鹿みたいで、どっかで見た展開をつぎはぎ合わせで繋いだゴミみたいな三文芝居だ」

??「ご都合主義の展開任せ、整合性なんてないに等しい、子供だましでありきたり」

??「道端に落ちていても誰も気にとめないような……」

??「吹いたら飛んで行ってしまいそうなくらい内容がないに等しい時間泥棒。それがこれ」


??「主役、勇者・魔王。それから魔女に竜に戦士に神官に」

??「姫に王子に騎士……そして道化」

??「だってロールプレイングだろ。君たちはずっと演じ続けてきた」

??「自分に与えられた役をこなせばそれでよかった。今この瞬間まではね」


??「世界を救いたいんだっけ? 僕を倒せたらいいよ」









勇者「あー!?ロールケーキか何だか知らないが、戦いで決着がつくなら有り難い!」

魔女「レアチーズケーキだかアップルパイだか知らないけど、さっさと姿現しなよ」

竜人「ロールプレイングですよ。二人とも話ちゃんと聞いてました?」

戦士(ロールプレイングって何だ……とは聞けない雰囲気)

騎士(家帰ったら辞書引こうっと……)


ザッ!!

スタッ……


忍「何か来ますよ!」チャキ


――キィンッ!!


戦士「むっ!! ぐ……くっ!なんて力だ!こいつは……!?」

魔女「え……!?これって」

勇者『……』ググ

魔女「勇者!?」

勇者『ははは……勝てるかな?』チャキ

騎士「魔女さんあぶなーい!!」ズサッ











妖使い「きっさまぁ!!寝返ったのかこの裏切り者!!死に晒せ!!」

勇者「ま、待て!俺はここにいるぞ!あれは偽物だ!!」

竜人「これは……困りましたね。どっちの勇者様の首を折ってしまうか分かりません……」

勇者「怖いこと言うなよ!!ちゃんと本物じゃないか確認しろよ!?」

忍「これは好都合!死ねえぇぇぇぇぇオラァァァァァッ」

勇者「ちょっとは戸惑って!」


ドカーン


勇者「無傷か。じゃあ俺が相手だ!自分くらい倒せるに決まってんだろ!」キン

勇者『……』ガッ


キィンッ ザザッ キンッ ザシュ


騎士「うわ……す、すごい」

戦士「俺たちも援護するぞ!」

騎士「はい!正直自分場違いな気がしなくもないですが、はい!!」





今日はここまで
次バトル回です


勇者が出てきたからてっきり過去作の勇者が出てきてラスボスバトルロワイヤルになるかと思った
血の気が多いメンバーで大変そう

乙です




勇者「ぐっ、強い……さすが俺。なかなか強いぜ。はあはあ」

勇者『……』スッ


バキャアァァッ!!!



妖使い「なにぃっ!うわあ!! 妖孤をとっさに盾にしたおかげで俺は無事だが、みんな大丈夫かあー」

妖孤「主様に温かい人の血は通っていますか~~? 死ねボケ主」

魔女「わあなんて破壊力。ていうかこれ魔法じゃないの」

竜人「斬撃に魔力を纏わせたのですね」

勇者「なにっ? そんなことできんのかよ?」

竜人「魔法が上手な勇者様となると……これは……」

忍「本物の勇者様より手ごわいですね!」

勇者「くっそ~~俺が気にしていることを~~!俺のコンプレックスを抉り抜いてきやがってぇ」

勇者「つーかそれなりには魔法だって使えるし!魔王の隣にいるから下手に見えるだけだし!」

勇者「うおおおお!こうなったら何が何でもお前を倒す!!」



妖狸「きゅう……」

なめこ「旦那……あっしはもうだめでさ……さよなら……」

妖使い「妖狸!それになめこ!!大丈夫か!?」

妖使い「な……なめこ!!なめこーーーーーーーーーーーーっ!!!」

妖使い「なめこ死んだわ。ギャグ枠次なにいれよ」

忍「若!ふざけてねーで戦ってください!」

妖使い「合点でい!」






ガキィン!


勇者『勝てるわけないじゃん。創造物が創造主に勝てっこないって』

勇者『あはは。今の悪役っぽい台詞だろ。そしたら君はたぶんこう返すんだ』

勇者『そんなのやってみなけりゃ分からないだろー とかなんとか』

勇者「……!」

勇者『あはは』


ザシュッ!!


勇者「うおっ!?」ヒョイ

勇者「……!!」

勇者『まあ、楽しかったよ』ヒュッ


トン


魔女「麻痺魔法っ」

勇者『おっと……危なかった』ブン


騎士「魔女さん!!下がっててください!」パッ

騎士「ぼ……僕があなたをお守りいたしますので!」

魔女「誰だっけ?」

騎士「ひどいっ!!騎士ですよぉ!!」







戦士「ぐぅっ……ぐああああ!!」ズダンッ

勇者「戦士!大丈夫か!」

戦士「勇者の姿にやられると尚更腹立たしい……!ぐはあ」

勇者「すまん!」


妖使い「どらああああ!なめこの仇じゃボケーーー!!去ねぇ!!」ダッ

勇者「馬鹿、こっちは本物の俺だ!!あっち向かえあっち!!」

妖使い「臨兵闘者皆陣列在前!封!」バシッ

妖使い「よーしこれで敵の力を封じたぞ勇者!いまだ、畳みかけろー!」

勇者「ふっざけんなテメーーーーーーーーーーっ!!!なにしてくれてんだよ!!?」

勇者『あはは。コント?おもしろいな』ズバッ

勇者「ぎゃーーっ」



勇者(……!)

勇者『……』ビッ

勇者「くっ……うっ このやろっ!」

勇者『その剣もらい』ヒュ


ヒュンヒュンヒュン……カッ







勇者「うおらあ!」ガシッ

勇者「ふんっ」グル

勇者『あれ?』

勇者「せえええええいっ!!」


忍「おお、見事な一本背負い!」



ビュン


勇者『……投げてどうなるんだ?』クルッ


ゴオッ……


竜「空中でお前を捕まえられる」ガパ

勇者『……あー 確かに』


ガブッ!!


ズダン……ッ!!



勇者「う……自分が竜に噛まれてる姿はあまり見て楽しいもんでもないな」







ギチギチギチ……メキメキ


勇者『……』

竜(骨を砕いているのに、こいつ痛みがないのか?)

竜「ぐっ……しぶとい奴め」ギギ

勇者『いまのはおもしろかったよ』ガッ

忍「よーし今のうちにこいつの口に火薬つめとこっと」

魔女「よーし今のうちにこいつに毒麻痺睡眠スタン下痢混乱魔法かけとこっと」

魔女「ついでに触手も」

騎士「な、何故!?」


竜「馬鹿力め…… 勇者様!私がおさえているうちに……!」

勇者「待ってろ、いま行く!!」

戦士「……むっ 皆気をつけろ!!上方から何か来る!!」

勇者「えっ」


ズズン……!


勇者「なに……っ!?」ガク

妖使い「うわっ」ビタン

騎士「ぐぐぐ……なんだこれ!?体が重い!」

勇者「これは……!重力魔法だ!」

勇者「俺が知ってる中でこれを使えるのはあいつしかいないんだが……まさか」







スタッ


竜「……え!?」

魔女「! 魔王様!?」

魔王『……うん』

勇者「いや、偽物だ。魔王があんな高いところから竜の背に飛び降りれるわけないだろ!」

勇者「あんな運動神経ある奴は魔王じゃない!!」

魔女「確かに」

戦士「確かに」

勇者「竜人逃げろ!」


トン


魔王『――……』

竜「!! ガフッ……」







魔女「うわっ 竜人がやられた!!」

勇者『……』

魔女「ってあたしもピンチ! えい、睡眠魔法!」

勇者『……』バチッ

魔女「ええ……斬られた……そんなんアリ?」

魔女「うわぁっ……!」


ドサッ……


魔女「えっ?」

騎士「魔女さん……お怪我はないですか……ゴフ」

魔女「えっ!……えっと……えっと……」

騎士「騎士です……」

魔女「騎士!!大丈夫!?なんであたしを庇ったの」

騎士「ひ……ひとつ……お願いがあります……」

魔女「なに?」

騎士「僕は影が薄くて……モブ同然ですが……」

騎士「できたら僕の名前を……覚えて……くださ……」ガクッ

魔女「騎士ーーーーーーーー!」



忍「ああっ なんだかこれはさすがに不利なんじゃ」

妖使い「あ」

忍「え?」


バチバチバチバチ……


魔王『逃がさないよ』

忍「あー……」

妖使い「あの俺、絶縁体じゃないから……」


――カッ!!


アーーーー…


勇者「忍ーー!妖使いーー!」








魔女「く。騎士の死は無駄にはしないよ。仇は討つからね!」

勇者「あいつ死んだの!?」

戦士「勝手に殺すな!まだ息はある。ほかの者もな」

勇者「しかしあっという間に数減ったな……あと残ってんの3人だけか」

勇者「あいつ一人だけでも手こずるのに、それに魔王が加わるのは……
   さすがにちょっとまずいな……」


勇者『2対3くらいが妥当だよね。一人を大人数で叩くなんてかっこ悪いよ』

魔王『そうだそうだ。いっけないんだー』ピョンピョン


勇者「……っ……く……。その喋り方かわいいな……」ガク

戦士「おい……このメンツでお前までふざけだすと、俺はどうしていいか分からん」

魔女「でもほんとに困った!勇者はともかく魔王様の姿だとやりづらいよ」

勇者「確かに。俺はともかく魔王はちょっと戦いづらい……!」

戦士「勇者なら別に全力で斬りかかれるんだがな……!」

勇者「お前らほんとに俺に遠慮がないな」


魔王『重力魔法』

戦士「来るぞ!避けろ!」

魔女「あたしは箒乗って空から呪文かけるね」ヒョイ

魔女「魔王様に沈黙呪文きくかわかんないけどやってみる!」







勇者「俺はまずこいつの動きを止める……!!
   戦士は魔女の援護を!」

戦士「分かった!」

勇者「かかってこい偽物……!」

勇者『……ははっ』


ジャリッ ガッ!!



――――――――――――――
――――――――――
――――――



ズガッ ガガガガッ!!


勇者「はあ……はあ…… ぐっ またそれか!」

勇者「おりゃあ!」ザシュ

勇者『そろそろ死ぬ気になった?』

勇者「なんねーよ!」キィン

勇者「お前この世界を大昔につくったんだろ?
   なのになんで今更壊そうとするんだよ」

勇者「この世界の存在理由ってなんだよ」

勇者「なんで俺たちを消したいんだ」

勇者『ああ?てめーらには関係ねーよ』

勇者『とっとと消えろ!!』

勇者『見るだけで……思い出すだけで苦しいんだ。
   この世は呪いそのものになってしまった』

勇者『どうせ遅かれ早かれこうなることは分かってた』

勇者『消えろ――……』スッ


勇者(ん!? 上段、突き、フェイントからの振りおろし……俺がよく使う攻撃だ)

勇者(そうか、こいつは俺の分身だから、それを逆手にとれば……!)

勇者(次はどうくる?)







勇者「……」サッ

勇者(水平斬りか!俺だったらその後、相手が避けたら体勢を崩すために下段を狙う。
   相手が防御したらそのまま押し切る)

勇者(やっぱり足元狙ってきたな……じゃあ次は突きの連続が来る)ガッ

勇者(そしたら……振り下ろし、袈裟切り……次は)

勇者(袈裟切りからの左切り上げか、フェイントか……どっちだ!?)

勇者(……フェイント!!)


ギインッ!!


勇者「と見せかけての切り上げだーー!!」ズバ

勇者『……!』




勇者『……あーあ。やられちゃったな』ドサッ


ハラハラ……


勇者「はあ……はあ……黒い水……こいつもか」

勇者「自分が馬鹿で助かった……すごい攻撃読みやすい」

勇者「俺のフェイントあんなに分かりやすいのか。まだまだだな……気をつけよ」








魔王『氷の槍と大地の波』



バキバキパキ……パキッ

ベキベキベキ


戦士「うおおっ……」


ズズズズズッ


戦士「うおおおおおお!!?」ダダダダッ

戦士「ぐっ これでは全然近づけんではないか!
   しかしこれで俺に注意を引きつけて、魔女が空中から沈黙呪文をかけられれば!」


ズガンズガンズガン


戦士「がーーーっ こんなもの叩き切ってやるわい!
   大剣使いの戦士とは俺のこと…… おっ?」バキッ

戦士「……氷を斬った剣が……凍りついて……」

戦士「これじゃ使いものにならん!! くそっ!!」

戦士「魔女!!早くしてくれーー!俺が死ぬ前に!!」








魔女「うう、でも空中からでも全然近づけないんだよー」

魔女「氷の槍がこっちにもびゅんびゅん飛んでくるしっ!」

魔女「……!なっ……」

魔女「攻撃の片手間に、土魔法でつくったオーブンと火炎魔法で……クッキーを焼いているだとぉっ」


魔女「もっと注意ひきつけて戦士!暇をもてあました魔王様がクッキー焼きはじめてるよー!」

戦士「ク、クッキー!?もっと注意をって……
   無茶言うでない!地上は地形がどんどん変わって逃げ回るのも一苦労なんだぞ!」

戦士「ハッ……!?」

戦士「しまった、挟み撃ち!」

魔女「戦士ーー!」

戦士「くうっ!」

魔女「戦士の犠牲は無駄にしないよ」

戦士「見切りが早すぎるぞお前……!」



バキッ!!



戦士「なっ!お前ら大丈夫なのか!?」

騎士「まだまだいけます……!」

竜人「少し意識が飛んでしまっただけです」



魔王『増えたー』モグモグ







竜人「魔王様の姿を借りるなど不届き千万……極刑です」

竜人「あいつの元までなんとか切り開きましょう!3人いればいけます」

騎士「い……けますかね?100人いても無理そうなんですが」

戦士「弱気になるな騎士!それでも国王直属の騎士か?」

魔女「がんばってー騎士!あたしの礎になってー!」

騎士「な……!?魔女さん……僕の名前とうとう覚えてくれたんですか!?」

騎士「……僕やります。僕が先陣を切ります!!」

竜人「礎とか言われてますけどいいんですか」

戦士「しっ。本人が幸せそうなんだからほっとけ……」


騎士「うおりゃあああああああああ」バキッバキッ


ズバッ!









魔王『……』ブツブツ

竜人「ん!?」

魔王『火鳥 雷虎 氷獅子 岩土竜 風狼』

騎士「うぎゃーーーーーーーーーーーーーーーー」

戦士「なんだあれは!?」

竜人「囲まれたらアウトですね」

騎士「なんですかこのオンパレードはーーー
   魔王さんも勇者さんも恐すぎなんですけど!!」

騎士「どんだけポテンシャル秘めてんですかーーーっ」


ズガンッ!!ビュンビュン バリバリバリ……ピシャーン! ゴォォォォ……


魔王『あはははは……』

騎士(僕死ぬなコレ)



魔女「しめた!地上がもはや地獄絵図だけど、これで魔王様もどきがあっちに気を取られた!」

魔女「一気に接近して……!」ビュ







魔女「沈黙呪文っ」

魔王『……』チラ


バチッ!!


魔女「うそ、防がれた……」

魔女「だけじゃない!?はねかえされっ……!?」

魔女(うっそ!あたしが沈黙になっちゃった!)

火鳥「ピィィィ」バサバサ

魔女(いやーーーー助けて本物の魔王様ーー)ビュン

竜「魔女!こっちに!」



竜「なにやってんですか」

魔女(失敗しちった)

竜「ん? 勇者様の方は片付いたようですね」

竜「……魔女、まだ箒は使えますよね」

魔女(使えるけど)

竜「じゃああちらを頼みますよ。私はこっちを」

魔女(オッケ)







騎士「くっ……この!」ブン

騎士「うわっ 熱……!!」

戦士「気をつけろ!近づきすぎると一瞬で丸こげになるぞ!」

戦士「……普通に斬って倒すのは難しいな。なんとか……あいつら同士をぶつけられれば」

竜人「それがいいと思います」

竜人「あれは魔王様の姿をしていますが、とても及びませんね。
   魔王様だったらこんなでたらめな魔法の使い方はしません」

竜人「あの火の鳥と氷の獅子を誘導して、衝突させればうまくどちらも消せるはずです」

戦士「なるほどな。同じように岩と雷も誘導してと……」

騎士「あっ また重力魔法きますよ、気をつけて!」


ズシャッ


戦士「騎士!!おまっ……自分で注意喚起しといて自分だけ逃げ遅れてどうする!?」

騎士「うぐっ 僕のことは構わず先にあっちを! ぎぎぎぎぎ……」

竜人「今日どんだけ死亡フラグたてるんですか!」


ズズズズ……


騎士「うわーーーああ」

戦士「騎士ぃぃーーーーっ 馬鹿者!」









魔王『はははは……!』

魔女「よおし、いまだ!」ビュン

魔王『分かってるよ?』


シュルシュル


魔女「! ……行ってきて、勇者!」

勇者「ああ!」バッ

魔王『ん?』


勇者「このやろうっ!!覚悟しろっ!!」チャキ

魔王『また君か。いい加減飽きたよ』ズズッ


――キィン!


勇者「空中から剣を!?」

魔王『折れない魔法の剣だよ』ヒュッ

勇者(はやっ……)

魔王『どうしたの?さっきより遅いよ。斬らないの?』

勇者「斬るに決まってんだろ!お前は……本物の魔王じゃない!」

魔王『本物なんてこの世界に何一つなかったよ。最初から』

魔王『全部にせもの』


グイッ


勇者「……!」

魔王『雷魔法っ』


カッ……!


魔女「勇者!!」






―――……


魔女「うっ……目が……チカチカして」

魔女「勇者は……!?」


戦士「いまのは!?」

竜人「く……雷魔法? どっちのだ?あいつか……勇者様か……」

戦士「あんなのを食らったら、どっちも消し炭だぞ……」


魔王『あれっ……まだ生きてる。なーんだ、足らなかった?』

戦士「! まさか、勇者……!」

魔王『勇者?死んじゃったけど。じゃ、そっちも終わらせてやるよ』

竜人「また重力操作やるつもりですよ。離れてください戦士さん!」

戦士「分かってる!」ダッ

魔王『次は逃げ場なんてない』


魔女「勇者!生きてるんでしょ? どこ?」


ゴゴゴゴゴ……


魔女「……? なにこれ…… どわっ!!」

魔女「箒から落ちっ……わあああああああっ!!」

戦士「ぐおおお……! 何故だ、ここまで離れたにも関わらず……体が……ぐうう!」ガク

竜人「こんな広域を範囲設定できるなんて……」

魔女「体が重いよ~~」







スタスタ


魔王『潰れろ』

魔女「あう」ビタン

竜人「ぐっ…… 貴様ぁ……!!」ググ



魔王『潰れちゃえ』


ミシッ ミシミシ……!



騎士「うう……」

戦士(息が……!)



魔王『消えろ。死んじまえ』

魔王『死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね』

魔王『あっははははははははは!!』


ザッ


魔王『……!』

魔王『あれ?』


ガッ!!








ギギギ……


魔王『死んだんじゃなかった?』

勇者「……俺の唯一得意な魔法は雷魔法だ。
   お前が俺をつくったんだろ?忘れたのか?」

魔王『はは! んなのもう覚えてねーよ』


魔王『そっか。僕が雷を放つと同時に、自分の体に雷を纏わせて電流を地面に受け流したってことね』



タンッ


魔王『でもやっぱり僕には勝てないよ』

勇者「そんなの――『やってみなけりゃ分かんない』だろ」

魔王『あはは……』

勇者「いくぞっ!」







魔王『防御結界』


パキッ……!


魔王『これは、君には』

魔王『絶対に破れない』



ガキン


勇者「破ってやるよ」

勇者「それでお前を倒す!!」

勇者「偽物じゃない……本物のあいつがあっちで待ってんだよ!」

勇者「あいつの目を覚まさせてやんないといけないんだ!!」

勇者「ほんっと毎度毎度無茶しやがって!!起きたら絶対文句を言ってやらないと気が済まない」

勇者「……こんなものが何だって言うんだ!!!」グググ

勇者「ぶった斬ってやる!!どりゃああああああああああああっ」


ピキピキ……


勇者「っく……うおーーーーーっ!!」


バキッ!!


魔王『………………!』







――――ドッ……


魔王『そっか』

魔王『じゃ、君の勝ちだ。おめでとう』

魔王『けっこうおもしろかったよ……』

魔王『さよなら』


ハラハラハラ……



勇者「こいつも……黒い水に……」

勇者「……終わったのか……」








勇者「おいお前ら大丈夫か!?」

魔女「大丈夫じゃないよ、骨何本かイッてるよ」

魔女「おまけにお気に入りのブーツがこんなに泥だらけだよ……ショック」

竜人「生きてるだけで僥倖ですよ。みな無事です」

戦士「妖使いも忍も騎士も、気絶しているが生きている」

勇者「そっか……よかった。すぐ帰ろう。みんなも待ってると思うし」


勇者「これでもう影は出ない……」

勇者「世界が終わることもない」

勇者「やっと夜が終わって朝日が拝めるな」







―――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――


ガチャ


少年「ふー……ただいま。起きてるか?」

少女「おきてるよ」

少女「おかえり。お兄ちゃん」








少年「今日休みなんだけど、シスターのところ行ってみる?」

少女「いいの? いきたいっ」

少年「今日は風がそんなに冷たくないし、少しなら平気だろ」

少年「お前もずっとこの部屋にいたらつまんないよな?」

少女「そんなことないよ。でも外にでかけるのすき……」

少女「ちゃんとマスクしたよ。いこ……お兄ちゃん」

少年「マフラー忘れてる。……これでよし。行こうか」


少女「あ……草はえてる。草……なんていうしょくぶつ?」

少年「さあ。名前なんてないんじゃないか。偽物だよ」

少女「にせものでもきれいだね……あっ 石がある」

少女「石、もってかえってもいい?」

少年「石なんて持って帰ってどうすんだよ」

少女「かざる……」

少年「ええ? 飾ってもしょうがないだろ。ただの石っころだぞ」

少女「今日のきねん」

少年「なんだそれ……外なんて、病気治せばいつでもこれるよ。
   そしたらもっときらきら光る石がある場所に連れてってやる」

少女「でも……この石はこの石できれいだよ」

少年「……ま、お前がいいならいいけどさ」

少女「うん」





――――――――――――――――
―――――――――――
――――――



少年「シスター、また変なことやってたな」

少女「えくそしすとってなに?」

少年「悪いお化けをやっつける仕事……でも空想上の職業だよ」

少年「また頭のネジが一本抜けおちたな、ありゃ」

少女「でもシスター……やさしいよ」

少年「優しいけど変人だ」



少年「今日は咳でなかったな。よかった」

少年「毎日薬ちゃんと飲んでるからだ。苦いのにえらいぞ」

少女「にがくないよ」

少年「この調子なら、きっともうすぐ完治するな!」

少年「元気になったらまず何がしたい?どっか遊びに行こうか?」

少女「………………げんきになったら……お兄ちゃんといっしょにはたらきたいな」

少年「…………」

少年「……馬鹿、お前はそういうこと気にしなくていいんだ」

少女「でも」

少年「いいんだっ!!」

少年「……いいんだよ」

少年「さっ……帰ろう。もう暗くなるよ」



―――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――







* * *


魔王城


ちゅんちゅん……


魔王「…………」

魔王「……」パチ

魔王「…………」ムク


魔王「……」


ガシ


魔王「……?」

勇者「もういいよ」

魔王「……」

勇者「もう魔法はかけなくていい。朝のままでいいよ」

魔王「…………?」

勇者「全部終わったからさ。ゆっくり休めよ」

魔王「……」

魔王「いいの……」

勇者「いいよ」

魔王「…………うん……」

魔王「……」

魔王「ゆ……」

勇者「……ああ。ここにいるから」

勇者「おやすみ」






ではなくもうちょい続きます



>>204
それすごくやりたかったんですけどね すっごく
断腸の思いでやめました…

二代目は出たら戦闘では勝てないね……
おっつ!

IFの幽閉勇者と我侭魔王だったりしたらなんかいいなーって思った
乙!

躊躇なく攻撃魔法を繰り出して来る魔王はむちゃくちゃ強かったな


やっと・・・やっと追い付いたぞ・・・もう終わりかけだけど





パァ……


子ども「朝だ。朝だー!」

母親「ああ……ほんとね」



女主人「夜明け…… この目が痛い感じも久しぶりだわ」

女主人「……やれやれ」

仮面「なんとかやってくれたなぁ あいつら」

仮面「じゃっ俺は帰るかね」ギイ

仮面「うお、眩しいなこりゃ。やっぱ夜の方がいろいろと都合がいいや」

女主人「あんたまだ盗賊業やってんじゃないだろうね」

仮面「やってねーよ!!」






一週間後


元神官「じゃあ、私は元いた村に戻って教師を続けます」

勇者「いろいろありがとな。また会おうぜ」

戦士「気をつけて帰れよ」

元神官「いろんなことがありましたが、3人で旅をしていたときのことを思い出して
    ちょっとだけ楽しかったですよ」

元神官「……でも創世主って結局何者だったのでしょうね。
    あんなことをした理由もいまだ謎のままですし……姿も見せませんでしたし」

戦士「さあな。地下のあの扉ももう消えてしまったし、確かめる術はないだろう」

勇者「ちょっと引っかかるけど、まあ終わりよければよしとしよう」

勇者「穴は開いたまんまだけど影はあれから出てこないし」

勇者「もう脅威は去っただろう」

元神官「そうですね。世の中の事象全部が全部明かされるわけではないですよね」





* * *


騎士「陛下。各地の穴の埋め立て作業も、見たてによれば半年ほどで終了するようです」

国王「予算捻出だけが問題だよ。また今日も会議だ」

国王「まあ誰か落ちたら危ないしね」

国王「……君たちには本当に感謝してるよ。よくぞ世界を守ってくれた」

国王「褒美と感謝の品を今度渡そうと思うんだけど
   とりあえず今は私からの男女平等キッスでいいかなぁ」

戦士「死んでも要りません」

騎士「右に同じ」

姫「お兄様?」

国王「冗談です」


国王「……消えた国民は……戻ってこなかったね。
   そうであればいいと……心の底では思っていたんだが」

国王「彼らのためにも早く再建しなくては」






* * *



魔王「……」

魔王「まかせきりになってしまってすまなかった」

魔王「そうか……終わったか」

魔女「あーんやっぱ本物の魔王様が一番」スリスリ

魔王「暑い」


勇者「お前も無事目が覚めてよかったよ」

勇者「……心配したんだからな!!」

魔王「すまなかった。十分寝たから、あと3日は徹夜で起きてられそうだ」

勇者「寝ろ」

魔王「それで結局、鍵はどこにあったのだ」

魔女「え?魔王様が教えてくれたじゃん?」

魔王「え?」

勇者「覚えてないのか? 一瞬だけ起きて、お前が教えてくれたんだぞ」

魔王「え……何だそれは。こわい……」

魔女「魔王城の七不思議だねー」






魔女「鍵は『おかえり』だったんだよ」

魔王「ふーん……『おかえり』」

魔王「……」

勇者「どうかしたか」

魔王「眠っている間、長い夢を見ていた気がしたんだが……
   なんの夢だったか忘れてしまった」

魔王「もやもやする」

勇者「あーそういうのあるある」


魔王「自分でやっていたとは言え、やはり夜より太陽の光の方が心地よいな」

魔王「いい天気だ」

忍「ですね!」スタッ

妖使い「いやあ一件落着で清々しい昼下がりですね」ガタン

勇者「うわっ お前らどっから現れた!」

妖使い「創世主無事倒せてよかったね。全く一時はどうなることかと思ったさ、あっはっは」

妖使い「で?契約する?」

魔王「もう問題は解決したのだから、ここにいる必要もないだろう。
   君はいつ帰国するのだ。明日か?今日か?1時間後か?」

妖使い「どんだけ帰ってほしいんだよ、傷つくよ」

妖使い「ま、せっかく遠路はるばるこっちまで来たことだし、
    留学生としてしばらく滞在しようかな!君たちの魔法もまだまだ興味あるしね」

魔王「えーっ……帰った方がいいと思うが……」

魔王「……本当は帰りたいのだろう? ん?」

妖使い「ちょっ 催眠魔法かけようとするのやめてえ」

忍「それはいいですね若。私もまだ勇者様に剣で勝ってませんし」チャキ

勇者「ほんとにもう帰れよお前ら!」






魔女「まあまあまあ、妖使いもなかなかいいところあるんだから
   あとちょーっとだけ置いてあげれば?ちょっとだけー」

勇者「なあ魔女……その手にあるのは何だ?」

妖使い「俺の差し入れ。一升瓶」

勇者「お前っ、あっさり買収されてんじゃねえよ」

魔女「今日は魔王様の快気祝いにぱーっと飲み会しようか!!
   島の桜も咲いたし!!ね!!」

妖使い「へー こっちにも桜あるんだ。
    いいね!いとをかし!花見酒としゃれこむかあ!」

魔女「わーい!ねっいいでしょ魔王様ーーー魔王様も行こうよーーー!!」

魔王「分かったから、魔女、もう少し声を低く……」








竜人「魔女?中庭にいるんですか? 暇なら洗濯手伝ってくださいよ、もう」

竜人「あとそろそろ部屋片付けてください。虫でますよ……」

竜人「…………魔王様!?!?」

魔王「いや違う。幻覚だ。残像だ。まやかしだ」

竜人「なにを仰っているんですか!?何故外に出ているんです。
   まだ横になっていないとだめじゃないですか!!」

竜人「また寝室を勝手に抜けだしてっ!!
   それにそんな薄着で外に出て、また具合悪くなったらどうするんですかっ!!」

魔王「でも……もう平気だ。寝室にいてもつまらん。外にいたい」

竜人「だめです。ほら戻りますよ!!今度こそ許しませんからね」

魔女「あー。見つかっちゃったね魔王様。どんまい」

勇者「あはは、竜人に見つかったらもうだめだな。大人しく寝てろ。また今度な」

魔王「でもっ本当にもう平気だって……外に出ていいよって……言ってた……たぶん」

竜人「そんなの一体どこの誰が言ってたんです!!」

魔王「……それは……えっと…………勇者くんが」

勇者「えーー……?」

竜人「おどれか」

勇者「えーー……!?」


勇者「…………」

勇者「……」ダッ

竜人「待て」ダッ







* * *


勇者(しばらくたって……何事もなかったように俺たちは日常に戻った)

勇者(あの穴は時の女神がいなくなったせいで発生した時空の歪みっつーことだったけど
   あれから新しい穴は発見されてない)

勇者(時の神殿はなくなったままだけど……何とかなったのだろうか)



勇者「……考えても仕方ないか……神様の事情なんて分かんないし」

勇者「ん? あそこにいるのは妖使い」



エルフ「違うよやっぱあそこはキマイラ先生が言う通り……」スタスタ

ヴァンパイア「だからそっちが間違いなんだって僕は……」スタスタ


ドン!


妖使い「うお」

エルフ「ぶえっ!いてて……あ!すみません!」

ヴァンパイア「すみません!」

妖使い「ああいいよ別に。それよりこれ落としたよ」

エルフ「やべっ 大事な本なのに。ありがとうございます」

妖使い「魔術書読みながら歩くのもいいけど気をつけて」

ヴァンパイア「はい!」


エルフ「あの人だれだ?見かけない顔だな」

ヴァンパイア「東国から来たって人じゃなかったっけ?」




勇者(……)

勇者(あいつ、俺たちといないときは大分まともなんだな)

勇者(使い魔うんぬん言わないし……)






サキュバス「ふんふんふーん」スタスタ

サキュバス「……ああっ」グキ

サキュバス「いたぁっ!! うー……やっぱりこの靴だめだったわ……」

妖使い「平気?」

サキュバス「え……」

妖使い「立てるかい」

サキュバス「…………だ…………」

妖使い「へ?」

サキュバス「だれかーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」

サキュバス「助けて襲われるケダモノーーーーーーーーーっ!!!」

妖使い「ええっ!?いや別にそんなつもりは毛頭」

サキュバス「ひいっ こっちこないでええっ」

妖使い「いやちょっと待って……あれ!?なにこれ」


シュルシュルシュル


妖使い「ちょっ離して」

魔王「貴様ぁ…………また性懲りもなく。魔族に手を出すなと言ったろうが」スタスタ

妖使い「誤解だって…………いってぇぇ!!!」ビタン

妖使い「ストップストップ話しっゴハ 合えばっイタッ わかるはずっ ブホエ」バチン

妖使い「あのさ一旦しゃべらせて?」

サキュバス「魔王ちゃん……!!」

サキュバス「……魔王ちゃあああん!この男の人がぁ……男の人がっ……
      うえーん怖かったよーー」ギュッ

魔王「この下衆……」

妖使い「だから違うんだって、その子が勝手にさーー」









サキュバス「私の豊満わがままボディに魅惑されてしまったのよ、その男の人は……」

サキュバス「もうサイテー!男なんてみんないやらしくってサイテーだわ……ふええ」

サキュバス「魔王ちゃん……私の繊細なハートは虐げられてボロボロよぉ」

魔王「もう大丈夫だ。奴は私が始末するから」

魔王「で、この地を去るか墓場に埋まるかどちらか好きな方を選べ。妖使い」

妖使い「俺は変質者じゃない濡れ衣だー!裁判を要求する!証人が必ずいるはずだ!」

魔王「黙れ」

妖使い「横暴!」

魔王「ここでは私が法だ」

妖使い「ひどい独裁政治を見たぜ」

サキュバス「そうよやっちゃって。その調子で男を撲滅するのよ。魔王ちゃんのお耳はみはみ」

サキュバス「はあはあ……魔王ちゃん今日のパンツ何色? はあはあ……」

魔王「サキュバスがこんなに動揺するほど追いつめて……貴様に人の心はあるのか?」

妖使い「うわぁ」

妖使い「待て待て、俺を磔にするより君にはまずやることがある」

妖使い「俺より背後の奴の方が危ないよ!身の危険を感じるよ!」

サキュバス「あらっウエストがこの間より3cm細くなったんじゃないの?
      だめよダイエットなんてしたら……はあはあ……」

サキュバス「よかったらこの後私の家でお茶しましょ。苺のケーキがあるわよ。
      ね?くるでしょ?くるわよね?」

魔王「ケーキ……? じゅる」

妖使い「代わりに大事なもの失っても知らないよ」








サキュバス「え……!? そんなぁ……私は何も邪な気持ちなんて一切抱いていないのに……」

サキュバス「ひどい……私がグラマラスなナイスバディに見合う万年発情脳内ドピンク淫乱娘だなんて……
      なんてひどいこと言うのよぉぉ うわあああん!」

妖使い「この女こわすぎ」

サキュバス「っあうぅ……!!」バターン

魔王「サキュバス!? 一体どうした?大丈夫か!?」

サキュバス「もう私はだめ……あの男の人から受けた精神的ダメージが許容量を超えたわ。
      死ぬわ…………」

魔王「妖使い!今すぐサキュバスに謝れ。貴様のせいだぞっ」

妖使い「濡れ衣この上なしだよ」

サキュバス「謝罪じゃ無理だわ……でもひとつだけ私の命を救えるとしたら……うう……」

魔王「なんだ?言ってみろ」

サキュバス「もしかしたら魔王ちゃんがチューしてくれたら大丈夫かも…………」

魔王「分かった」

サキュバス「か……快諾!?予想外……!!」

サキュバス「しかも迅速!うひゃーーー」

サキュバス「…………」

魔王「治ったか!?」

サキュバス(チッ……頬か)







サキュバス「まだだめ……やっぱり口じゃないとだめみたい」

魔王「え…… でも、そ、それはまだしたことないのだが」

魔王「それは恋人同士でないと、し……してはいけないのだろう」

サキュバス「なるほど魔王ちゃんはまだチュー未体験と。それは朗報……じゃなくて」

サキュバス「魔王ちゃん。もし目の前で川で溺れて呼吸が止まった人がいたらどうするの?
      人工呼吸するでしょ?それと同じよ!!!」

妖使い「君普通にしゃべってんじゃねーかよ」

サキュバス「だからノーカンよ、心配しないで?
      それとも魔王ちゃんは目の前で死にそうな人がいても見捨てるの……!?」

サキュバス「そんなこと……しないわよね……っ! はあはあ……どきどき!」

魔王「……! ……悪かった。そうだな、人命救助が第一だ。
   自分のことを考えていた私が恥ずかしい。許してくれ」

妖使い「おいおいアホばっかりだよ」

魔王「いくぞ」

サキュバス「どきどき! うっかりベロはいっちゃうかもしれないけど事故よね事故
      事故だったら仕方ないわよね、ええ全く致し方の無いことだわ」



勇者「うおおお、待て!ちょっと待っ……」

魔女「なーにしてんの?」ズガッ

サキュバス「はぎゅっ」








魔女「魔王様。こいつの言うことに耳を傾けなくていいって前も言ったじゃん?」

サキュバス「いたた……ああ魔女ちゃん。魔女ちゃんも一緒に私の家に来る?大歓迎」

魔女「行かないよ。いい加減にしろ、この化乳女」

魔女「魔王様に悪戯しないでよね。大体あんたあたしとキャラ被るのよ。どっか行って」

サキュバス「え……?被る……? 私と魔女ちゃんが?」

魔女「胸見比べながら言ってんじゃないわよ!! きーーっ むっかつく!!」


サキュバス「それに悪戯なんてしてないわよう……よよよ、私悲しいわ」

魔王「サキュバスには今すぐ人工呼吸が必要なのだ」

サキュバス「あ、魔女ちゃんでもいいわよ」

魔女「魔王様騙されてる!それ騙されてるよ!」

サキュバス「あーだめだわもうだめ、あと5秒以内にキスしないと私死ぬ!!
      5、4、3、2…………」

魔王「さ……サキュバス!!死ぬなっ」グイ


勇者「待て魔王!!それなら俺がする」

魔王「勇者くん……!?」

サキュバス「は? 結構です。ノーセンキュー」

勇者「……」スタスタ

サキュバス「きゃーーーこっちこないでイヤーーーっ」ダッ


勇者「滅茶苦茶元気じゃないかよ」

魔女「全く……」

妖使い「あのさ……俺帰っていいかな」

魔王「貴様はまだ制裁を受けてないではないか」

妖使い「だからそれ濡れ衣っ」








勇者「ああ……そいつ本当に濡れ衣だぞ。俺向こうで見たんだ。
   こいつは足をくじいたサキュバスに手を差し伸べただけ」

妖使い「勇者見てたのか。ならもっと早く助けてほしかったんだけど」

魔王「手を差し伸べただと? それは幻覚ではないのか勇者くん」

魔王「この外道がそんなことをするとは思えないのだが」

妖使い「うーん信用ゼロ!」

勇者「いや本当だって。その前にエルフとヴァンパイアにぶつかった時は
   普通に落ちた本拾ってやってたし」

魔王「うそだ。この男は隙あらば魔族を契約させて使い魔にしようとしているのだぞ。
   5分に1回は契約を迫ってくるのだから私はそろそろ血管が切れそうだ」

魔王「エルフもヴァンパイアもサキュバスも毒牙にかけようとしていたのだろう」

魔王「今日こそ何らかの制裁措置を取らねば……」

妖使い「俺の命の灯が今まさに消えようとしている!」

勇者「だ、だからちょっとやめろって」スパ

妖使い「おお感謝するよ勇者。じゃあトンズラするかね!
    今度来た時には絶対君を使い魔にしてみせる!さらば!」

勇者「お前もいちいちそういうこと言うから誤解されるんだよ!」


魔王「……何をする。逃げられてしまったではないか」

勇者「あいつも素直じゃないだけでそんな悪い奴じゃないんじゃないか?」

勇者「今日の様子を見る限り……さ」

勇者「ま、イライラするのは分かるけど……そうカッカする必要はないんじゃないか」

魔王「…………そうやって油断して、本当にこの国の魔族の誰かがあいつのものになってしまったら取り返しがつかない」

魔王「私は魔族を守らないといけないのだから」

勇者「……気持ちは分かるけど、ちょっと気にし過ぎじゃないのか?」

魔王「……」

魔王「……」

魔王「妖使いの肩を持つのか」

魔王「私は……ただ」

勇者「肩を持つとか、そういうんじゃない。でも、」

魔王「……君は人間だから、そんなことが言えるんだ」

魔王「気持ちは分かるなんて嘘だ……っ」

魔王「人間として育った勇者くんには分かるわけない」

勇者「な……なんだよそれ。なんでそんなこと言うんだよ」

魔王「……」

魔王「ごめん。人の気持ちや考えなど、本当のところ自分以外の誰かに分かるはずないのに。
    そんなの当たり前のことだな。私だって君の気持ちを全て理解することなどできない」

魔王「全て分かってくれというのは高望みだな。子どもみたいなことを言ってしまった」

魔王「忘れてくれ」

勇者「違う、俺が言ってんのはそういうことじゃない!俺は……!」






魔女「まあまあ二人とも落ち着きなよ。そんなカッカしないでさ」

魔女「勇者、今日は魔王城に泊まってくんでしょ?」

忍「あれ?皆さんこんなところでなにしてんです」シュッ

忍「ていうか若、知りません?このへんから声したんですけど」

魔女「さっきまでいたけどどっか行ったよ」

忍「はえ~? また入れ違いっすか、めんどうくさい」


忍「……もしや喧嘩中?」

勇者「ちげーよ」

忍「勇者様」

勇者「なんだよ」

忍「ズボンのお尻の方に穴開いてますよ」

勇者「ああん!?」

忍「ほらここー」


魔女「魔王様、どこ行くの?」

魔王「……今日は王都に泊まるから」







勇者「魔王!話はまだ終わってない!ちょっと待て」

魔王「君も忍も、城に泊まっていってくれて構わん。好きな部屋を使ってくれ」

忍「ありがとうございます魔王様!
  勇者様、いっしょの部屋に泊まりますか?なんちゃって。あはは」

魔王「もちろんそれでも構わない。好きに使ってくれ。では」ヒュン

勇者「あっ……おい!忍も余計な冗談言わんでよろしい!
   くそー何がなんでも今日話をつけてやる!転移魔法!」

魔女「勇者今日こっち来るとき転移魔法使っちゃってたっしょ」

勇者「ああっそうだった!!」

忍「なんか私邪魔しちゃいました?すいません。私空気読まないので」

忍「どちらかと言うと読むよりブチ壊しちゃうので」

魔女「ほんとにね」


勇者「なんなんだよあいつ……話すらさせてくれないのかよ」

魔女「んー……まあ……」チラ

忍「はい?」

魔女「いろいろあるんだよ。乙女心は複雑なんだよ。うんうん」

勇者「俺男だからわかんねーよ……」

魔女「……それ以外にももちろんあると思うけどね。あたしと竜人が悪いのかも。
   むかし魔王様に魔王の指輪をはめればって言ったのはあたしたちだからさ」

魔女「魔王様が魔王でなかったら、もっと素直になれてたのかもしれないね」





翌日 



勇者「ちょっと王都に行ってくる!!!」

魔女「いってらっしゃーい」

忍「あっ待って下さい!私も王都に戻ります!」ダダッ

勇者「えー!?お前はいっしょに来るとややこしくなりそうだから別途で来い!!」

忍「そんな、私は若や勇者様たちみたいに移動手段ないんですから、
  王都に行くまでに何日もかかっちゃいますよ」ダダダッ

勇者「またすぐこっち来てやるからそれまで待ってろ!!じゃあな、転移魔法っ!!」

忍「連れてけっつってんだろ問答無用必殺ラリアット!! っらあああああ!!」

忍「御首頂戴いいいいいいいっっ!!」



シュンッ……



ケットシー「やかましいにゃー」

魔女「ねー」










王都


魔術学院 資料室



魔王「……」ガサガサ

魔王「ないな。去年の資料はどこの棚で見かけたのだったか」


国王「ああそれなら右端」

魔王「そうだった。ありがとう」

魔王「……」

魔王「……」

魔王「何をしているのだ。護衛もつけずにこんなところで、国王陛下が」

国王「城下の視察行ってきたから、ついでにここも抜き打ち視察チェック入れようかと思ってね」

魔王「国王の仕事ではないと思うが……」

国王「ふむ……窓ガラスの掃除が甘いな。資料室と言えど手を抜いてはいけない。5点減点だ」

魔王「姑か?」


国王「ついでに君の研究室に行ってもいいかい」

魔王「構わないが……そんな暇、君にあるのか?」

国王「あるある」





姫「お兄様! どこ行ったのお兄様は!また消えたの!?」

騎士「すみません!一目離したすきに姿が忽然と消えていて……!」

戦士「すぐ手分けして探します!!」








コツ……コツ……


国王「ところで、この間の恩賞がまだだったよね。君の魔法のおかげで影の被害も少なかったんだ。
   いま何か欲しいものとかないのかい」

魔王「特にないな……恩賞など気にしなくていい。私は私のするべきことをしただけだ」

国王「と言われてもなぁ……そうなると必然的に私からの男女平等キッスになるけどいいかい」

魔王「チョコレートが欲しい」

国王「チョコレート?それだけじゃ君の働きに釣り合わない。
   その場合埋め合わせるために、私からの男女平等キッスもセットでついてくるけどいいかい」

魔王「チョコレート1年分が欲しい」

国王「分かった。すぐに城に届けよう」



国王「……」

国王「今日はなんだか元気がないように見えるね」

魔王「……そうか?」

国王「喧嘩でもした?」

魔王「……」

魔王「喧嘩というか……私が一方的にカッとなって
   ひどいことを言ってしまったかもしれない……」

魔王「謝らなくてはいけないと分かっているのだが……顔を合わせにくくてな」

国王「本音を話すのはいいことだよ。
   言い争うことすらせず、表面だけで仲良くして、いずれ破綻してしまうより全然ましさ」

国王「私と父のようにね」

国王「それが自分の本当の気持ちだったら、謝罪すらする必要はないよ。
   納得がいくまで喧嘩をするが良いさ」

国王「喧嘩するほど仲がいいと言うだろう。大丈夫、そうした方が結果的にいい方向に向かうんだ」

魔王「…………本当にそうだろうか」

国王「君はもっと自分をさらけ出してもいいと思うよ。
   親しい者の前ですら王である必要はないんだ」

魔王「幻滅されてしまう……」

国王「いいじゃないか。それが本当の君なら。大体、みんなそんなものさ」








魔術師長「はあ、ねえ召喚師長?10年前の○○氏の実験レポート資料ってどこにあったかしら?」

召喚師長「それなら僕の研究室にある!そんなことよりこっちに召喚獣来なかったか!?
     うっかり逃がしちゃって!!ていうか探すの手伝ってくんない!?」

魔術師長「いいえ見てないし探すつもりもないわ。私もあと1分で戻らなくっちゃいけないの」

召喚師長「じゃあその1分捜索に協力してくれ! あ、陛下こんにちは」

魔術師長「いやよ、何故よ。 あ、陛下こんにちは」

国王「やあ」

召喚師長「って陛下…………!?!? 何故魔術学院の廊下に……!?!?」

魔術師長「何か御用事でいらっしゃいますか……!?仰って下されば宮殿まで参りましたものを」

国王「いや、そうじゃない。しかし随分忙しそうだね、二人とも」

国王「先週末までにと頼んでいた例のあの件はもう片付いたのかな」

召喚師長「ええーっと……い、今それには取りかかっているところです」

国王「今日必ず報告書をあげると、先週末の君は言ったよね。
   魔術師長も、来年の実験予算案はまだかい。明日までだけど」

魔術師長「は……はい必ず明日までには」

国王「もし万が一、提出期限を守らなかったらどうなるか分かっているね。
   男女平等キッスの餌食になってもらうよ」

召喚師長「ひいっ」

魔王「それは褒美なのか罰なのかどっちなんだ」







魔術師長「くっ……ドロー!私のターン! 召喚師長を生贄に 私の逃走経路を召喚」ダッ

召喚師長「てってめええええ」


国王「話の邪魔が入ったけど、とにかく次会ったらその喧嘩の相手と
   もっと本音で話し合ってみればいいと思うよ。頑張って」

魔王「……ん……そうだな。頑張ってみよう」

魔王「……あと、背後から姫がやって来ているが平気か」

国王「ん? やあ妹よ。さっきぶりだね」

姫「お兄様!!また勝手にふらっといなくなって!!!」


バターン!! ドタバタ……


魔王「? なんだ、私の研究室の方から騒音が…… まさか賊か?」

魔王「国王と姫はここから動かないでくれ」








勇者「ごほっ ごほごほ!お前なにすんだ!!
   邪魔するから変なところに転移しちまったじゃねーかよ!」

勇者「ここどこだ? いてて……」

忍「あっ 勇者様どこさわってるんですか!勇者様のドスケベ変態痴漢野郎!!」

勇者「あ!? わ、悪い……ってお前が上に乗ってるからだろーが、どけいっ!!」


ガチャッ


魔王「……!」

勇者「なあ……っ!?」

忍「必殺逆片エビ固め!」

魔王「………………………………………………」

魔王「仲がいいのは結構なことだが、わざわざ王都くんだりまで来て見せつけてくれなくともいい」

勇者「ちがうっ! 俺はお前と話しに……」

忍「わ、部屋がどんどん凍っていきます。きれいですねぇ」


パキパキペキパキ……


国王「なに、君たちはそういう関係だったのかい」

姫「ひゃっ なんて破廉恥な……!しかも魔王さんの部屋でなんて」

魔王「…………」


パキパキペキペキ……バキッ


魔王「私は話すことなんてない。出て行け」

魔王「……出てってよぉ…………っ」

勇者「これは転移魔法に失敗したんだ、そういう関係でもなんでもない!!」

忍「ええっ……違うんですか?」

勇者「お前はもう黙ってろ!」







魔王「わざわざ私の部屋でせずとも、ほかの場所で好きなだけちちくりあえばいいではないかっ」

勇者「ちちく……お前どこでそんな言葉覚えた!?」

魔王「女の子と男の子一人ずつ儲けて、東国のどこかで家族4人で幸せに暮らせばいいではないかっ!」

魔王「君が出て行かないのなら私が出て行く! 転移魔法っ」

勇者「待て!! くそ、魔王城だろっ行き先は分かってんだ。行ってやる!転移魔法!」

忍「あはは、勇者様いま使ったばっかりじゃないですか」

勇者「んああああああああああああっ」


勇者「絶対誤解されとるなコレ……なんでいつもタイミング悪く目撃されるんだ」

勇者「おい半分はお前のせいだぞ忍、今日だって……あれっあいつどこ行った!!」

勇者「逃げ足だけは奇跡的に速い奴め……!」

姫「勇者……あなたが誰を好こうと私は一向に構いませんが、
  わざわざ魔王さんの部屋であのような破廉恥な真似をするのは些か酷ではないかしら?」

勇者「ひ、姫様本当に違うんです。破廉恥は破廉恥でも自発的破廉恥ではなく偶発的破廉恥」

姫「破廉恥破廉恥やかましいです。そんなモラルの低下、国の姫として私見過ごせませんし
  魔王さんの友としても個人的に許せませんの」

姫「侍女。口紅とチークを持ってきて」

勇者「……姫様?一体何を……」

姫「メイクアップ……お兄様、旅人モード解禁よ」

国王「オーケーシスター」

勇者「操の危機!!!!」


バリーン!!!


勇者「逃げ切ってみせる!!!勇者の名にかけて!!!」

姫「余談だけど私の兄は100m3秒で走るわ」

国王「逃亡生活で鍛えました」ヒュン

勇者「化けもんかアンタッ!?」



今日はここまでです

>>237
大丈夫!多分また400レス以上にはなると思うんです!(謝罪)

乙!
まだまだ長く楽しめる事にカカンカカンシャ!

全然終わらねえのかよwwwwwwwwww
楽しみよ乙

めんどくせぇ連中だ
一回勇者はなすがままにされてみろ

>>262
カカンシャカンシャだ!間違えすぎ

男女平等キッスの汎用性高すぎ

男女平等キッス怖えwwwwww



魔王城


魔女「はあー……どっかに一生遊んで暮らせるくらいの大金落ちてないかな」

竜人「藪から棒になんです」

魔女「できるだけ楽してお金がほしいよう……」

竜人「堅実が一番ですよ」

竜人「おやもうこんな時間ですか。夕飯の支度しないと。
   魔王様は今日も王都に滞在なさるのでしょうかね」

魔女「たぶんそうじゃないかなー」

魔女「…………? なんか……急に寒くない?」

竜人「そう言われてみると…… あっ、天井見てください」


パキパキパキペキパキパキ……


魔女「つらら? 窓にも霜が……いまって冬だっけ」

竜人「冬だとしても室内につららはおかしいでしょう。もしかして……
   ああ、やっぱり。廊下はもう既に氷で覆われてます」

竜人「……久しぶりですね……」

魔女「あたしが勝手に魔王様のケーキを食べちゃった時以来だねー」

魔女「行ってくるよ」

竜人「いえ、少し一人にしてあげましょう」

竜人「……季節外れですが、今日は鍋にしますか」







* * *




魔王「うえええええええええええええええん」

魔王「嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌いっ」

魔王「きらいきらいきらいきらいきらいきらいきらいきらいーーーっ」

魔王「だいっっっっっっっっきらい!!!!!」

魔王「ぎーーーーーーーーーーーーーっ」


魔王「はあはあ……はあ……」ムク


ガサガサ……


魔王「……」パラパラ



『こうして世界に平和が訪れました。
 魔族と人間は手を取り合って、ずっとこの平和な世界を保っていこうと誓い合いました。
 勇者と魔王はと言うと、その年の終わりに式をあげ、二人で末永く幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし』
 







魔王「ばかぁーーーーーーーーーーーーーっ!!!」

魔王「こんなものっ!!こんなものぉ……うえええええええん」

魔王「大体魔族と人間じゃ結婚できない!!!グリフォンの馬鹿ああああああああっっ」ブンッ

魔王「ばかばかばかばかばかばかばかばか!!」

魔王「わあーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ」



魔王「…………」

魔王「こんなのずっと大事にとっておいて……」

魔王「最後のページだけ何度も読み返したりして……」

魔王「……はは」

魔王「……馬鹿みたい……」


魔王「……………………ずっと……」





――――――――――――――――――
――――――――――――――
――――――――


ザァァァァァ……


  「ああっ はあ、はあ……はあ、はあ……」


ザザッザッ ガササッ


狼「ガウッ」

  「ひ……」


??「……!? おいっだれかいるのか?」

  「!!」

??「まて!」






  「ううっ……う……はあ……はあ、はあ」

  「あうっ……!」


ベチャッ


狼「ガルルルルルル……」

狼「グルルル……」


  「あっ…… やめて…… やだっこないで……」

  「くるな……!!」









狼「ガウゥッ!!」

  「……!」

??「あぶないっ!」


ガブッ


  「…………?」
 
  「えっ……」

??「いってえ!!……このやろっ!」グイ

狼「グエッ」

??「はなせ!!」ブン

??「んでもってどっか行け!!!」

狼「ガルルルル……」

??「……」

狼「…………」


タタッ……



??「大丈夫か」

  「う……うでっ 血…………! うでがっ……」

??「ああ、いたいけどオレは平気だ。師匠にやられた方がずっといたいし」

  「あっ……」

??「おまえはケガ…… お、おいっ しっかりしろ!!」









  「……うぅん……うう……」

  「……ハッ」

??「ああ、起きたか」

  「……!!」ダッ

??「えっ なんでにげようとするんだ。外は大雨だぞ、やめとけ」ガシ

  「……」バタバタ

??「視界もわるいし、いま外にでても迷うだけだ。
   雨があがったら村までおくってやるよ。しんぱいすんな」

??「このちかくの村の子どもだろ?森でまよったのか?」

  「…………」

  「ここ……」

??「おまえが気をうしなった後、たまたまみつけたほら穴だ。
   ここならケモノも来ないだろうし、雨宿りもできる」

??「まってろ、いま火をつける」








??「火炎魔法」


シーン


??「火炎魔法!」

??「か、え、ん、ま、ほ、う」

??「くそっ!つかんかい!火炎魔法~~~っ」


ボッ


  「えっ それ……」

??「はあはあ……やっとついた」

??「もっとこっち来いよ、かぜひくぞ」

  「……魔族……?」

??「え?オレ?ちがうちがう。むしろぎゃくだよ」

??「オレはいつか魔王をたおすために旅立つんだ。いまはその修業中」

??「でも師匠とはぐれちゃってさ。剣も川にながされちまった。
   剣があればこんなケガ負わなかったんだけどな」

  「…………けが…… かして」

??「……? あれ……おまえ回復魔法がつかえるのか?」

  「……」

??「そんな小さいのにすごい奴だな。オレなんて魔法は全然だ。神官?」

  「……うん」








  「……魔王って言った」

??「え?」

  「さっき……」

??「ああ。魔王はわるいやつなんだよ。あいつのせいでみんな苦しんでるんだ。
   魔族の王さまだ」

  「どこにいるの……?」

??「さあ……オレはまだしらない。大人にきけば分かるかも。
   でも、どっかにいることはたしかだぞ」

  「……」

??「ま、心配すんなよ。オレがいつか絶対たおしてやる」

  「……」

??「……無口な奴だな」


??「なあ、ずっと気になってたんだけど、なんで目に布まいてんの?
   目が見えないってわけじゃないんだろ」

  「……」

??「ぬれてて気持ちわるいだろ? とって、火でかわかせば」

  「……いい」

??「……。そんなのしてたら、歩きづらくねーの?」

  「……」





??「まあ……いいけどさ」


??「雨、止まないな」

  「……」

  「……たすけてくれて……」

  「……、……」

??「ああ……いいよべつに。ケガなくてよかったよ。
   でも、そのまえに声かけたのになんで逃げたんだよ?」

  「……」

??「……ま、いっか。 おまえ、名前は?」

??「オレは勇者」


  「ゆうしゃ……」

  「…………勇者」



ザアァァァァァ……


―――――――――
――――――――――――
――――――――――――――――





魔王「…………」

魔王「ぐすっ……うぐ……ひぐ……」

魔王「でもこんな日がくるだろうということはちゃんと分かってたんだ……」

魔王「そうだ」

魔王「もう姿を隠して逃げ回る生活をしなくてもいい。
   堂々と自分らしく生きることができる世界」

魔王「魔族と人が種族を理由に戦うことなく、ともに手をとりあって生きていける……
   夢見ていた理想郷が実現したんだ。これ以上なにを望む」

魔王「争いのない世界……魔族の人権が認められている世界……」

魔王「それ以上を望むのは傲慢だ」

魔王(そもそもこんな個人的なことに現をぬかしている場合ではない)

魔王(宮殿の中に魔族の台頭に眉をひそめる者がいないとは言えない。
   その者たちが声を大にしないようあの国王が抑え込んでくれているのは知っている)

魔王(事前に潰せたのはよかったが、人身売買を生業とする犯罪組織が魔族を狙おうとしていたこともあった……)

魔王(それに……創世主の一件は、あれで本当に終わったのか……?)

魔王(……)

魔王「……そうだ、私にはまだまだやらねばならないことがある。
   ふう、だんだん頭も冷えてきた…… ぐすっ……」

魔王「あーっ、勇者くんに好きな人ができてよかったっ!」

魔王「そういうのに疎いから心配していたんだ。これで一安心だな」

魔王「人の……一生は……私たちと違って……短いしなっ」

魔王「……どうせいつか二度と会えなくなる日が来るなら、
   今日こうして現実を見ることができてよかったのかもしれない」

魔王「その方が悲しみは少なくてすむ」

魔王「…………うん、そうだ」








コンコン


魔女「魔王様~。魔女ちゃんオンザ箒がお迎えにあがりましたよーご飯です」

魔女「廊下もつるっつるだからさ、歩くとこけるよ。さ、後ろにのって」

魔王「…………今日は……いらない……」

魔王「……ん? 廊下がつるつる……?なんだこれは。あ……またやってしまったのか」

魔王「すぐに全部融解させないと……」

魔女「はいはいそんなの明日でもいいですから、いまはご飯だよ。ほらのったのった」

魔女「今日は鍋だよー」









魔王「うう……城がひどい有様だな。すまなかった。後で元に戻す」

竜人「最近暑かったのでちょうどいいですよ」

魔女「ていうかかき氷つくれんじゃん。シロップあったっけ」

竜人「イチゴなら」

魔女「じゃあデザートよろしくね竜人」

竜人「そのくらい自分でやりなさい!」



竜人「熱いので火傷気をつけてくださいね」

竜人「魔王様、無理しなくてもいいですけど、少しは召し上がらないとだめですよ」

魔女「あたしがフーフーしたげよっか?」

魔王「……美味しい」

魔王「……」






竜人「魔王様、食べながら聞いてほしいのですが」

魔王「……ん?」

竜人「妖使いさんに聞きました。東国には人を魔族に、魔族を人に変える秘法があると」

竜人「まだ方法は詳しく分かっていないようですが、魔王様なら解明できるのではないでしょうかね」

魔女「できるできる。あたしたちも協力するし」

竜人「……もし魔王様が心の底からそれを願っていて、後悔しないと誓うのなら、私たちは止めませんよ」

竜人「人間になっても構いません」

魔王「え……」

魔王「……なにを言っている?」

竜人「そうしたら魔王は私か魔女が継ぎますので、後のことは御心配なさらず」

魔女「ジャンケンで決めるからいいよー」

竜人「ちゃんといろいろ考慮して決めます!」


魔女「人間になったら、いっしょに生きて、いっしょに老いていけるよ」

魔女「結婚もできるしね」

竜人「先代の魔王城の廃墟に行ったあの日から……」

竜人「魔王として、本当によく頑張ってくれたと思います」

竜人「でも、もうそろそろご自分の幸せをお考えください」

竜人「魔王様」

魔王「……しかし……私は、人間……になんて」

竜人「分かってます。今日は我々の気持ちを伝えたかっただけですので。
   魔王様もごゆっくりお考えください」

竜人「ところでおかわり召し上がりますか?作りすぎてしまったんですよね……」





魔王「……」

魔王「……うん」

竜人「もし私の力が必要なら、いつでも仰ってくださいね」

魔王「うん……」

竜人「なんなら今から恋敵を暗殺して参りましょうか?」

魔王「それはやめろ」








* * *



ダバーーン


男「うっ ヒィィィィイ」

勇者「おらあああ!てめーかここらへんで麻薬ばらまいてるっつー組織の頭はよーー!!
    とっとと白状しやがれってんだケツから剣ぶっさして奥歯ガタガタ言わされてーんか アァン!?」

男「何故ここがバレてくそぉ用心棒やっちまってくれえ!」

兵士「勇者様お気を付け下さいその用心棒に我々の仲間が何人もやられ」

勇者「どけゴラァ!!!俺はそっちの奴に用があんだよ」

用心棒「げへぇッ」

勇者「でやってねーのかやったのかやったのかやったのか、どっちなんだ?
    3秒以内に答えなければ人として大事な器官を諸々潰す。 3、」

男「やりました」

勇者「よし」


勇者「隊長!ボスを捕まえたぜ。もう暇をもらっていいか!?」

隊長「感謝する勇者!しかしすまん、今度は南の方で連続放火事件が」

隊長「それがすんだら北で貴族の娘が誘拐され」


ドカッ!!

勇者「おい放火魔くそ野郎てめーなにしくさっとんじゃコラ現行犯逮捕牢屋にブチ込むついてこい暴れんな」

男「うわなにするやめ」

バギャーン!!

勇者「ここが誘拐犯が隠れ住んでる家だなオイ無事か貴族の娘ー!!」

娘「無事です犯人はこいつです」

勇者「てめーかくそったれ大人しくお縄につきやがれ余計な手間かけさすんじゃねえよクズが」

男「くく来るなコイツがどうなってもいいのかー!」

勇者「人質のハンデくらいで俺に勝てると思ってんのか片腹痛いわオラァァ!」







勇者「隊長おおおっ!!全部捕まえたぜ暇をもらってもいいか!?!?」

隊長「は、はやいな。オーケー全部片付いた、もう……」

勇者「おっしゃ!!!」

兵士「隊長!ちょっと……ひそひそ」

隊長「む?なに?」

勇者「あああっもうオーケーもらっちゃったしその後に何があっても俺はもう転移魔法使っちゃうわけだから関係ないね!」

勇者「じゃっお先失礼しまーす!!」

隊長「待て勇者!」ガシ

勇者「ああああああ勘弁してえええ」

隊長「国王陛下がお呼びだそうだ。すぐに宮殿に向かえ」

勇者「いやだ」

隊長「……」



隊長「いやだじゃない!!さっさと行け!!!」

勇者「うわああああああ!!!ちきしょおおおーーーーーっ!!!」









王都


勇者「勇者参りました陛下!!何か御用でございましょうかっ!!」

国王「ああ、来てくれたか。忙しいところすまないね」

勇者「全くです!!」

戦士「これっ 勇者」

騎士「勇者さん目が血走ってますけど大丈夫ですか?」


国王「今日来てもらったのは……ちょっと気になることがあってね」

国王「妖使いがさっき私の元を訪ねてきて……というか本人もいまこの場にいるのだけど」

妖使い「どうも。俺の使い魔の妖孤が未来予知をしたんだよ」

勇者「は?予知?妖孤もできるのか?」

妖孤「ええと……たまにです。たまに」

国王「妖孤の予知を信じるとだね……」


国王「もうまもなく世界が滅亡するらしいよ」

国王「具体的に言うと、あと8日ほどで」

勇者「…………は……?」







勇者「滅亡って……でも創世主はあの時確かに倒したぜ」

妖孤「でも見たんです……世界がどんどん闇に呑まれてゆく様を」

妖孤「信じたくはないですけど……」

勇者「……」

勇者「またあの影が出るってのか?」


戦士「今のところ王都周辺では異常はない。ほかの地域でも現在情報収集中だ」

騎士「図書館地下の扉も消えたままです」

妖使い「やっぱさ、創世主は倒せてなかったんじゃないの?
     あれはただの暇つぶしのお遊びで、彼が言ってた通りひとつの劇だったりして」

妖使い「もしくは創世主を倒したことによる世界の崩壊とか」

勇者「……後者だったら俺のせいだな」

勇者「しかし、影が出るなら……またあいつに魔法を使ってもらわなきゃいけないのか」

勇者「それで原因を突き止めて……でもあと8日だって?いくらなんでも時間がなさすぎる」






国王「宮廷の預言者たちはこのことについて何も視てはいないんだけど
   ……確か魔王も未来予知の力があったよね」

国王「勇者。魔王にこのことを知らせに行ってくれるかい。もしかしたら彼女も何か感じているかもしれない」

妖使い「うーん……それはどうだろうな」

国王「どういうことだ?」

妖使い「今の魔王に未来予知の力があるかは疑問だよ」

妖孤「たぶん……魔王さんはいま、未来を視ることはないと思います。
   未来を怖がっている方に予知の力は宿りませんから」

勇者「…………」



姫「いいえ」

騎士「姫様!?どちらから……」

姫「彼女は未来を怖がってなんかいませんわ。
  勇者、私もいっしょに連れて行きなさい。あなた一人ではまたこじれそうよ」

勇者「……分かりました!」

勇者「とにかく魔王にこのことを知らせてくる。その後また戻ります!」





* * *

月の町 魔王の家



魔王「んん……」ムク

魔王「朝か……」

魔王「顔を洗いに行かねば」



バシャバシャ



魔王「……」

魔王(なんだか城が騒がしいな……あとで下に降りよう)

魔王「……寝癖を直してから」

魔王「……?」

魔王「…………!?」







ヒュン


勇者「おっしやっと来た!!うおおおおおおおあああああああ」


チリンチリンチリン


勇者「俺だ!!10秒以内に応答がなければ勝手に入るぞ!!10中略0おじゃましまーす!
    魔王いるかーーっ!!緊急事態だ大事な話がある逃げるなよ!!」

勇者「姫様。ついてきて頂いて大変恐縮なのですが、少しだけ二人で話させてもらってもいいですか」

姫「ええと……今の様子を見る限りとても不安ですが、分かったわ。行ってらっしゃい」



勇者「魔王ーーーっ どこだ!?」


ダッダッダッダッダ……


バターン


勇者「魔王!!!ここにいたのか!!!」

魔王「……!?」

勇者「大変だ。落ち着いてよく聞いてくれ」

勇者「もう間もなく世界が滅亡するかもしれないんだそうだ」







魔王「……」

勇者「……」

魔王「……」

勇者「なあ聞いてるか? なんでタオルで顔隠してるんだよ」

勇者「こっち向……」

魔王「……」パサ

勇者「なっ お前、それ……どうした!?」


魔王「どうやら、この世界に何らかの異変がまた現れたのは間違いないようだ」

魔王「……大変だ。落ち着いてよく聞いてくれ」

魔王「私は人間になってしまった」



勇者「……ええええええーーーーーーーーーっ!!」








魔王「うう……どうしよう」ガクッ

勇者「どうしようってお前……どうする」

魔王「私は……私は本当に人になりたいなんて……おも……おも……」

魔王「そうだ妖使いはどこだ? あやつの仕業では?」

勇者「妖使いなら王都にいたが、あの様子だと関係ないと思うぞ」

魔王「聞いてみなければわからん!とにかく王都に行ってくるっ」

魔王「転移魔法……ああっ 人間になってしまったから魔法が使えないっ」

魔王「わあああああああっどうしようどうしよう!魔法が使えない魔王などただの豚ではないかっ」

勇者「お、落ち着け!しかし一体なんだってこんなことに…… ん?待てよ」

勇者「……火炎魔法」


シーン


勇者「……」

勇者「うわああああああああ俺も魔法が使えなくなってる!!!さっき転移はできたのに何故だ!?」

勇者「魔法が使えない勇者なんてただの豚じゃねえか!!!」

魔王「……そういえば先ほど8日で世界滅亡と言ったがそれは本当なのか」

勇者「妖孤が未来予知で視たんだ」

魔王「あと8日で世界滅亡なのか」

勇者「らしいんだ」


魔王(世界滅亡の危機に、魔法が使えなくなった魔王……)

勇者(世界滅亡の危機に、魔法が使えなくなった勇者……)


魔王「まずいのでは?」

勇者「まずいな」







魔王「ほかの魔族の様子を見てくるっ」

勇者「俺も行く」

姫「えっちょっと何事……あら?魔王さん……その目と耳は……?」

勇者「姫様もいっしょに来てください!割と一大事です!!」


勇者「竜人と魔女は!?」

魔王「分からない。島の中にはいるはずだが」

勇者「俺は上を見てくる!魔王と姫様は一階と城の外を頼む!」




魔王「はあ……はあ……」

魔王「…………?……」


魚「……」ビチビチ


魔王「…………」

魔王「……まさか……魚人…………?」

魔王「……今日城に来ると行っていたがまさか……」

魔王「よく見ると顔が似ている……ような」

魔王「そんな……」



>>289
島の中→町の中






魔王「まさかそんなことあるはずない」

魔王「……そうだ!竜人ならこの時間いつもキッチンにいるはずだ」

魔王「キッチンに行ってみよう」



魔王「竜人!!」

魔王「りゅ…………」

魔王「……ええ……っ」


トカゲ「……」チョロチョロ


魔王「……まさか竜人なのか……?」

魔王「魚人は魚に、竜人はトカゲになってしまったのか……?」

魔王「わああああああああああっ」






姫「魔王さん!?一体なにが!」

勇者「どうした!いまの悲鳴はなんだ!」

魔王「竜人が……竜人がぁ……」



――――――――――――――
―――――――――
――――



勇者「なにい! しかし魚人が魚になるのはまあ分かるとして、
   竜人がトカゲはおかしくないか!あいつドラゴンだろ!」

勇者「トカゲだったら竜人じゃなくてリザードマンだろ!」

魔王「でもでもっ……竜はトカゲに似ていなくもないと言える」

魔王「それにキッチンにトカゲが入り込むなんてこと滅多にない。
   竜人がいつもこの時間には朝食を用意してくれて……」

トカゲ「……」チョロチョロ

魔王「ああっこんな姿になってしまって……!今の私には元に戻すだけの力がない」

魔王「竜人!口うるさくてたまに剣呑な光を瞳に宿すけれど、
   いつも私のためを思って行動してくれていたのにっ」

勇者「過去に絶対人を何人か殺してるだろお前ってくらいの殺気を出すけど、
    料理だけはやたらうまい竜人!なんてこった!どうにかできないのか!?」

姫「ま、まさか本当にこのトカゲが竜人さんなんですの……?」

姫「竜人さん!私が分かりますか……!?」

トカゲ「……」チョロチョロ

勇者「あ、逃げる」

魔王「うう……どうしよう……元には戻せないのか……」ペタン

姫「……………………あの……」

姫「一つだけ……思い当る方法があります」

魔王「それはなんだっ?」







姫「こういうおとぎ話知りませんか?」

姫「ある日どこぞの国の王子が魔法でロバ変えられてしまうの。
  王子を元の姿に戻すことができるのは……たったひとつだけ」

姫「……そのぉ……王子を好いている者からの……愛情あるキスだとか何とか」

魔王「本当に!?そうなのか 姫?」

姫「でも本当はどうかは全然分からないのですけど!!ロバだし!!トカゲではないし!!」

魔王「いや試す価値は大いにある……」

魔王「あっでもだめだ!竜人に恋人はいないのだっ……
   キスで、その上愛情あると銘打つからには友情ではだめなのだろう」

魔王「……っ」

魔王「こんなことに……なってしまうなんて……わ、私がしっかりしていなかったからぁ……うっぅ……」

勇者「魔王しっかりしろ!あいつならトカゲでもたくましく生きていくさ 心配いらない」

魔王「そんなのだめだあっ」

魔王「ああ、どこかに竜人のことが好きな者がいないだろうか……
    ちょっと私は探してくっ ぶにゃっ」ドテッ

勇者「落ち着け!!大丈夫か! 
   それなら中身を知っているここの魔族より、外見だけしか知らない奴を探した方がいい!」

勇者「外面だけはいいから!!!!中身はただの元ヤンだから!!!」

姫「……魔王さんも勇者もちょっとお待ちなさい!!」








姫「…………わた……私が……条件を満たしていると言える可能性がなきにしもあらず」

魔王「……えっ……そうなのか?」

魔王「でも、友情ではだめなのだぞっ。愛情ではないといけないのだ……っ」

姫「は……はい」

魔王「では姫は竜人を性的な目で見ていると考えていいのか!?」

姫「はえっ……え……まあ言い方を変えれば……そうかもしれません」

魔王「姫は竜人に性的魅力を感じていると考えても!?
   彼と接吻やそれ以上も行えると考えていいのか?」

姫「あ……あわわぁ……!?」

勇者「ちょ、ちょっと魔王さん落ち着こう……」

魔王「どうなのだ姫。はっきり答えろ。君の全てを彼に捧げることができると言うのか」

魔王「さらに竜人の身も心も長所も短所も受け入れて生涯添い遂げることができると言うのか!?」

姫「ひええええええ……っ」

勇者「もうそろそろやめて差し上げろ!!」



姫「…………っっ 破廉恥なことはまだ考えたことはないですがっ
  この気持ちは偽りなどではありません!本物です!」

姫「私が彼を元に戻せるというのなら、キキキキスでもなんでもするわ!」

勇者「姫様……じゃっお願いします。はいこれどうぞ」

魔王「ありがとう。では頼んでもよいか!」

姫「は、はい……で、で、ではいきますよ……っ」

姫「……ふ……っ」







――バタンッ!!


魚人「てーーへんでい、てーへんでい!!オレっちなんと魚成分まるっと抜けて人間になっちまったよ魔王様!!」

竜人「魔王様!こちらにいらっしゃいましたか……探しましたよ!」

竜人「非常事態です、私含め全ての魔族が人間になって魔法が使えなくなりました」

魔女「空飛べないよーーーっ どうしよう魔王様ーーっ 箒がただの清掃グッズになり果てちゃったよー」

魚人「あれっ勇者に姫様も来てたんかい!!キッチンに座りこんでなにしてんだあ?」

魔女「あ、やっぱ魔王様も人間になっちゃってるっぽいね」

竜人「これは一体なにがどうしてこうなってしまったのでしょう」

竜人「……? どうしました? というか本当になにをしていたんですか」



魔王「……」

勇者「……」


バリーーーーンッ!!!


勇者「姫様あああああああああああああぁぁぁっ!!!一国の姫がガラスぶち破っちゃだめです!!」


ダッ!!


勇者「姫様どちらに行かれるのですかーーーーーーーーーーっ!!!」

魔王「姫! すまなかった、戻ってきてくれっ!」

勇者「今しがたのことは俺も魔王も記憶から消しますからっ!! 
   くっ さすがあの国王の妹、足が尋常じゃなく速いっ!!追ってくる!!」


魔女「うわ、トカゲ入ってきてるし。だれよ窓開けっぱなしにしたの」

竜人「あなたしかいないでしょう」




今日はここまでです

おつ

おつおつ

このスピード感好きよ
乙!

乙!
しかし最後ワラタwwwwww

初書き込み。
全シリーズ読んできました。
続きが楽しみでワクワクしてます。
応援くらいしかできませんが、頑張ってください!

姫は事を起こした後かな?
おつ

最後のガラスをぶち破る姫さま




* * *


勇者「全ての魔族を人間に変わった……で俺も魔法が使えなくなったと」

勇者「で、この町に滞在していた神官や魔術師も例外なく魔術が使えなくなっていた」

勇者「つまりこの世界で魔法を使える者はだれ一人としていなくなってしまったわけだ」

姫「そんなことができるのはやはり神しかいないのでしょうね」

魔女「じゃああいつ倒せてなかったの? だっる」

竜人「となると妖孤さんが視た、間もなく世界滅亡というのも信憑性がありますね」

勇者「……すぐ王都に知らせに行きたいが、転移魔法も使えなくなってるんだよな。
   ここからじゃ馬を走らせても最低3日はかかる」

魔王「なんとかしてまた創世主に会えないのだろうか。
   王都の地下深くに扉はあったのだろう?」

魔王「……時間はかかるかもしれないが、王都に行くべきだと思う。
   扉が王都の図書室地下にあったのは、偶然ではないと思うのだ」

魔王「可能性があるとしたらそこだろう」

魔女「そだねー。こっちのことはグリフォンとか魚人が色々やってくれるみたいだし
   あたしたちは王都に行こっか」

勇者「ああ。行こう!」

竜人「では馬を用意してきます」



竜人「あの、姫様?」

姫「はいっ!?」

竜人「私は何かあなたに無礼なことをしてしまったのでしょうか?」

姫「いえ!!そんなことはありませんわ!!私はいたっていつも通りです!!」

姫「さあ早く王都に参りましょう!!!」

勇者「気にするな竜人。俺たちが悪いんだ……」

魔王「……すまんな」







パカラッ パカラッ パカラッ……


魔女「ひー 馬なんて乗るのいつぶりだろ。箒の方がいい~」

勇者「人間になったって言うが、あんまり外見的には変化はないな。
   どんな感じなんだ?何か不都合はないのか?」

竜人「不都合ありまくりですよ!耳も全然聞こえが悪いし、視力もこんなに衰えるなんて」

竜人「おまけに素手でテーブル握りつぶすこともできなくなってしまいましたし」

姫「できてたの!?」

勇者「背筋がいま凍ったぜ」

魔女「なんかもどかしい感じだよ。今まで普通にできてたことができないってさ」

魔女「でもこれが人間なんだねー 君たちっていつもこんな感じなんだ」

魔女「人間って超不便だね!君たちいままでよくこんなんで生きてこれたね!すごい!」

姫「そこはかとなく貶されてる気分よ」


魔王「…………」

勇者「魔王の目の色が赤じゃなくなると、なんか変な感じだな」

魔王「……ああ」







勇者「……あのさ、こんなときに何なんだけど、この間の王都でのことは……」

魔女「おわーっ!? なにあれ!?」

魔王「……! あれは……王都の方向ではないのか?」

姫「ええ、そうよっ 上空に黒い雲がどんどん広がっていくわ……!」

姫「王都に何かあったんじゃ……!」

勇者「まじでやばい香りがするな!!」

竜人「急ぎましょう」



魔女「おわーっ!? なにあれ!?」

勇者「今度は何だ!?」

魔女「見てよ向こうの森がどんどん黒くなって溶けてくよ」

魔女「空もさあ……だんだん全部灰色になってくし……」

魔女「やーんこわーい!」

竜人「誰相手にぶりっこしてんですか?意味ないですよ」

魔女「うざ」

勇者「……。……なあ、なんか聞こえないか?」

姫「え?いえ何も」


ゴゴゴ……ゴゴ……ゴゴゴゴ……


勇者「いややっぱり何か聞こえますって!!それに地震がっ!!」

馬「ヒヒーン」

姫「きゃっ しかもかなり大きいわ!皆さん気をつけて!」

魔王「それどころが地面が割れていっている」


ビキビキビキッ!


魔王「い、急げ。裂け目がどんどん大きくなっていっている。
   このままでは馬でも先に進めなくなるぞ」

勇者「なんだこの世紀末な風景は!駆け抜けるぞ!!」

魔女「いえっさー! しゃーー行くぞーーーー!!」






ズゴゴゴゴッ……!! バキッ!!


魔王「……!?」

馬「ヒヒーン!」

魔王「くっ!」


勇者「魔王が地裂に馬ごと呑まれたーーーーーーーーっ!!」

魔王「いや案ずるな、馬はこの際救出困難だが、私は飛べる」

魔王「服が破けるが仕方ない……!」

竜人「魔王様いまあなた人間でしょう!飛べませんよ!!」

魔王「え? ああそうだったな」

魔王「……落ちるーーーーーーーーっ」

勇者「魔王!!」ガシッ


魔王「ぜえはあ……」

魔女「二人とも大丈夫?」

勇者「ああ無事だ。しかし困った」

勇者「さっき地面に走った亀裂が大きすぎて、これじゃ俺も魔王もそっちにすすめない」

竜人「二分されてしまいましたね。別の道を探されては?」

魔王「! 竜人後ろ!何か来るぞ!」

魔女「げっ! 山の上から黒い何かがうじゃうじゃ来てるけど、なにあれきもい」

魔女「あれが……影?」






姫「なんて数……。あの山の向こうには王都があるのに……
  あちらからやってきたということは、王都はもう……!?」

姫「お兄様……」

勇者「くそっ やっぱり出やがったか!気をつけろ、あいつらに触れると消されるぞ」

勇者「おまけに斬っても斬ってもすぐくっつく。さらにあの数……
   俺たちが以前戦ったときより何倍も多い……」

魔女「不利すぎて笑える」

勇者(前は魔王があの魔法を使ったおかげで難を逃れたが……いまは……)

勇者(もしかして皆が魔法を使えなくなったのはそのためか……?)

竜人「……王都に行くためには、どのみちこの方面を進まなければなりません」

魔王「しかし、あんなのを相手取るのは無茶だ!逃げ…… あっ」

魔女「あたしたちは後退できないんだよねー」

魔王「でも……」


竜人「こうなっては仕方ありませんね。
   勇者様。魔王様を連れて引き返してください」

勇者「えっ!?」

魔女「あの島の魔王城に行ってみたらいいんじゃない?
   昔切り離した魔力があるでしょ。試してみればー?」

魔王「何を言っている。私も戦うぞっ」

魔王「弓を持ってきたのだ。これならこちらからでも援護射撃ができる」

魔女「じゃ、試しにそこの木に向けて放ってみて」

魔王「他愛無い」バシュッ

竜人「はい。全然違う方向にいる私の額に飛んできましたね」パシ

勇者「だめじゃねーか!!」









竜人「魔王様……こんなことを申し上げるのは大変心苦しいのですが」

竜人「今のあなたは戦力外です。むしろマイナス要因です。足手まといです」

魔王「な……な……っ」

魔女「援護射撃って言うけど、それじゃ敵にとっての援護になっちゃってるよ。
    普通の人間の戦闘力を10としたら、魔力なしの魔王様は-5000だよ」

魔王「ふ、二人して……そんな風に思っていたのかっ」

竜人「ですから、ここは私たちにまかせてください。さあ早く勇者様、魔王様を連れてってください」

魔女「おとなしく勇者に守られててくださいねー」

魔王「いやだ。私も戦う!」

魔女「でもいまキングオブ無力じゃん」

魔王「ち、ちがうもん。 というかさっきから魔女は私に対して失礼すぎるぞっ」

魔女「てへ」


勇者「だが竜人と……まあ、魔女はともかく、姫様は!?」

魔女「あれ?あれあれ?あたしはいいんだ?」

姫「私は何としてでも王都に戻ります! 大丈夫、心配しないで。
  魔王さん、その弓を私にしばらく貸していただけます?」

魔王「……う……分かった。勇者くん、これを向こうに投げてくれないか」






姫「ありがとう。大切に使うわ」

姫「さあ早く行って!影はもうすぐそこまで来ています。
  そんな顔をなさらないで。私も竜人さんも魔女さんも、こんなところで消えたりなんかしませんわ」

竜人「必ずまた会いましょう」チャキ

魔女「またね、魔王様、勇者」

勇者「……絶対その言葉忘れるなよ!信じてるからな!!」

魔王「竜人っ……魔女……姫……」

勇者「……のれ、魔王。行くぞ!」



パカラッ パカラッ パカラッ……



姫「行きましたね」

影「……」

影「……」

竜人「……これが創世主のつくりだした影ですか」

魔女「はー、斧持ってきといてよかったー」ドカッ

姫「斧て」

竜人「昔から、もしいるのなら神とやらを一度思いっきりぶった斬ってみたかったんです」

魔女「ちょうどいいじゃん、こんなにいるし。ダイエットになりそう」

魔女「最近体重がちょっと増えて困ってたんだよ ねっ!!」


ゴシャッ!!






――――――――――――――――
――――――――――――
―――――――


姫「はあ……はあ……はあ……」

姫「聞いていたとおり、全然攻撃が通用しないのね。いやになるわ」

竜人「全くですね」

魔女「はーっ……絶対これ3キロ痩せた」

魔女「……けど……意味ないね……」

魔女「追い詰められちゃった……」

竜人「……」

姫「ですね……」


魔女「王都に行くのは……ちょっと無理そうかな」

姫「……お兄様に会えないのは残念ですが、
  きっと勇者と魔王さんがこの世界を救ってくれると……私、信じています」

竜人「そうですね……」

竜人「残った彼らがいつか幸せになってくれれば、私たちも報われるというものです」

魔女「あたし……魔王様にも竜人にも姫様にも勇者にも……みんなに会えて楽しかったよ……っ」

魔女「ずっとふざけてばっかだったけどさ……いままでありがとね」

姫「……魔女さんっ 後ろ!!」

竜人「魔女……!!」

魔女「もう……悔いないよ」

魔女「……先いってる」





ポツ……ポツポツ


ザァァァァァ……








  ザアァァァァ……


勇者「チッ 雨か。ついてない……」

勇者「魔王城に行けばって魔女が言っていたが、あれは?」

魔王「……魔王城には、昔私から切り離した魔力が保管してある。
   勇者くんが王都で処刑されそうになった時に、島の結界を維持するために切り離したあれだ」

勇者「ああ……そういえばあったな」

魔王「魔法が使えなくなったことについて……移動中色々と考えてみたのだが」

魔王「私が人間になったことで、魔力を魔法に変換させて放出することが
   不可能になったのかと思ったが、どうも違うようだ」

魔王「魔力そのものが私の体からなくなっている」

勇者「えーと……? つまり!?」

魔王「つまり蛇口がなくなったのではなく、水そのものがなくなった」

勇者「なるほど!」



魔王「本来、量や強さは異なれど、魔族だけでなく人間も魔力は保有しているのだ。
   だから人間の中でも神官や魔術師のように魔法を使う者は存在する……」

魔王「魔族も人も、体内の魔力が枯渇すれば死んでしまうはずだから……
   私も魔力がないことに気づいたときは驚いたが」

魔王「世界の仕組みそのものも、彼は変えてしまったらしいな」

魔王「……」

勇者「もし魔王城に切り離した魔力が残っていたら、魔法がまた使えるようになるってことか」

勇者「じゃあとにかく魔王城に向かおう。そしたら…… ん? どうした?」

魔王「……」

魔王「もしかしたら最初からなかったのかもしれないな」

魔王「魔法も何もかも……」






迷いの森


魔王「森が……」

勇者「ボロボロだな。まるで木が蝋みたいになってる」

魔王「あんなにきれいな森だったのに」

勇者「食人植物や毒キノコが蔓延ってなけりゃな」

魔王「それは昔、人の侵入を阻むために魔女の趣味で植えたものだ。
    和平を迎えてからは駆除しただろう」

勇者「やっぱり魔女かよ!この森でそれらにどれだけ苦しめられたことか!」

勇者「まあいい!!もうすぐ森を抜ける、そしたら海だ!魔王城はもうすぐだぞ!!」

勇者「……雨も上がったし、これで船をこぐのも楽になるな」



勇者「ほらもう海が見えて……」

勇者「……ん?」

勇者「あぁ……!? なんじゃこりゃ……」


ガサ……サ……ガサ……


勇者「ここは……海のはずだったよな。ここからは城がある孤島が見えていたはずだ」

勇者「昔、確かにここに立ってその風景を見たはずなんだ」


魔王「砂漠……?」

魔王「白い砂漠……」






勇者「……いや砂じゃないぞ。なんだこれは……?」

勇者「紙片……? 紙片が積もってるのか……?」


勇者「……こっちに立て札があるぞ」


《ワールドエンド 侵入禁止》


魔王「…………」

魔王「エンドって……この先には魔族がいる島があるのに」

魔王「みんなが暮らしてる島があるのに……っ」

魔王「誰が……私の許可なくこんなものをここに置いたんだ!」

勇者「……」


魔王「まもれなかった……」

魔王「私が絶対まもらなくてはいけなかったのに……」

魔王「みんな……みんなごめん……」







勇者「……」


ズズズ……


勇者「!! まさか……また影か!もうこんなところまで」

勇者「魔王!馬に乗れ、ここを離れるぞ!!」

魔王「……」

勇者「行くぞ!」グイ

魔王「……でも、もう行くところなんてない……」

魔王「もう逃げられないんだ……」

魔王「消えるしか……な……い……」

勇者「しっかりしろっ!お前らしくないぞ。立て、ほら!」

魔王「……」



勇者「……っじゃあお前を抱えてでも逃げるからな!」ヒョイ

勇者「竜人や魔女や姫様はいまもあそこで戦ってるはずだ!
    俺たちがあきらめちゃだめだろ!」

勇者「絶対……何とかなるはずだ。何かあるはず」

勇者「お前魔法が使えなくなっても魔王だろ。
    俺も魔法が使えなくなったが勇者だ」

魔王「……うん」

勇者「数年前、もう絶対だめだって思ったことが何度もあったが俺もお前もこうして生きてる。
   今回だって何とかなるはずだ。魔王もそう思うだろ?」

魔王「……ん……」

勇者「じゃあ行くぞ!馬!出発だ!!」








勇者「大体島にいた魔族みたいな、あんな一癖も二癖もある奴らがそう簡単に消されたりしない!」

勇者「竜人も魔女も姫様も強い!だからきっとまたいつか会える!」

勇者「それに王都もな、あそこにはあの戦士と騎士がいる!絶対みんなを守ってくれてるはずだ」

勇者「しかもあの国王だぞ。あいつだぞ!?あんな色々超越してる王がいる国がそんな簡単に滅ぶか!!」

勇者「だから泣くな!」

魔王「…………泣いてないっ」

勇者「俺のマントで涙をふけ!!」

魔王「だから泣いてない!!……私を誰だと思っているっ」

魔王「私は魔王だ! 魔王がそんな簡単に泣くかっ。泣いてるように見えると言うのなら……」

魔王「君の目が節穴なんだっ!!」

勇者「……ああそうだな!俺の目が節穴だ」


勇者「……まだ追ってくるな、あいつら。この剣を持っておけ。俺の二本目の剣だ」

魔王「剣? なるほどこれで快刀乱麻の面目躍如を見せて汚名返上しろと言うのだな。了解だ」

勇者「いや……まあ、お前に持たせても自滅の予感が薄らするが……一応な」







ゴゴゴゴゴ……!


勇者「まだ地震か!」


ガッ


勇者「馬!!」

勇者「うおっ……ちょっ待て……持ちこたえろ馬!!」

勇者「どわあっ!!!」

魔王「うわっ!」



ドサッ


魔王「うっ…… いたた…… 勇者くんっ」 

魔王「大変だ、勇者くんが馬から投げ出されて崖から落ちてしまった」

魔王「勇者くん!!待ってろ、いま助けに行くぞ!」

魔王「馬…… あ……」


影「……」

影「……」


魔王「……来たか」

魔王「……馬も消したのか」








魔王「魔法が使えればお前らなんてすぐ……」

魔王「……いや、魔法が使えなくても負けはしない」


魔王「かかってこい……っ」チャキ

魔王「イメージトレーニングだけならこの国の誰よりもしてきた自負がある!」

魔王「好き勝手やってくれているじゃないか。落とし前、つけてくれるのだろうな……!」

魔王「来ないのなら、こちらから行くぞっ!」ダンッ


ビシミシミシミシ……ビシッ!


魔王「……ん?」

魔王「なんだ……地面が」


ズボッ


魔王「ふわっ」

魔王「わーーーーーーーーーっ!?」








バキボキバキッ ドサッ


勇者「ぐえっ!!」

勇者「ぐあぁぁ いってええ……痛みを通り越して痒いっ!」

勇者「ここは? ……魔王?魔王ーーーーーーっ!」

勇者「いないっ!!どこ行った!? あと馬は!?」

勇者「はぐれた……」



勇者「! お前らどこにでも湧いてくるな……」

影「……」ノソッ

勇者「おっと。次から次へと全く……!消されてたまるか!」

勇者「魔王ーーーーーーっ!どこにいるんだ!?返事しろーーーーーー!」

勇者「お前ら邪魔だ、どけ!どかんかいコンチクショウ!!」ズバッ

勇者(……?)

勇者(この匂い……どっかで)


ブン


勇者「うわっ 人が考えてる時にやめろ」


  ワーーーーー……

勇者(!! 魔王の声だ)

勇者「あっちか!!」







ザッ


勇者「確かこの辺から…… 魔王!どこ行った!?」

勇者「……ここにも影が。……まさか……!?」

勇者「おーーい魔王!! 返事しろーーーーっ」ザシュ


   「こっちだ、勇者くん……下だ!!」

勇者「下!? 下って…… なんだあの穴」

勇者「そこにいるのか!?分かったいま行くオラァてめーらどきやがれ!!!」


ドサッ


勇者「いてっ……。……こりゃ暗くてよく見えないが階段か?」

魔王「早く奥に来るんだ!彼らは光のあるところでしか動けないみたいだから」

勇者「あ、そっか。そうだったな!」








勇者「全然目が見えない……どこにいる?」

魔王「ここだ!もっとあそこから離れた方がいい、こっちへ」

勇者「無事だったか。怪我ないか?」

魔王「ああない」

勇者「なあ。そう言う割に、いま腕掴んだ時に濡れてる感触あったんだけどこれなに?」

魔王「血だ。全てかすり傷だから平気だ。自分の剣でつけてしまったものだから大事ない」

勇者「やっぱ剣貸すのやめときゃよかった」

魔王「君こそ崖から落ちたが平気なのか」

勇者「ああ平気だ」

魔王「さすがだな勇者くん……タフさが人外じみている」


勇者「あの穴と階段は何だったんだ?」

魔王「あまり詳しく調べられなかったが、どうやら隠し階段のようだ」

勇者「隠し通路……この地下の空間と地上をつなぐものか。
    ここは随分広いみたいだが一体……地割れでできたものじゃないよな」

魔王「暗くてよく見えないのだ。以前なら夜目もきいたし聴覚で大体の広さも分かったのだが」

魔王「でももしかしたら、地下遺跡かもしれない。
    この国の地下には村ひとつ軽々入るくらいの遺跡がいくつか存在するらしいのだ」

魔王「戦争で消えてしまったのもあるらしいが」

勇者「これが遺跡ねぇ。確かにうっすら建物の輪郭が見えるな」

勇者「遺跡って古代の?」

魔王「そう伝えられているが……もっと昔のものかもしれないな」








魔王「しかし不思議なのは地上からの隠し階段があったことだ。
   もしかしたらこの遺跡は以前誰かに使われていたのかもしれない」

魔王「隠し階段のあったところに植物が普通に生えていたことから、
    それは多分とても昔のことだと思うが」

勇者「遺跡なんて何に使うんだ?」

魔王「さあ……ツアーとか」

勇者「ツアーだったら隠し通路使わずに堂々と入るだろ。
   そもそも遺跡を発見したら普通に発掘すればいいのにな」

魔王「誰かが隠れ住んでいたのかもな」

勇者「地下なんて住みづらそうだ」




勇者「ずいぶん進んだな……なんて広い遺跡だよ」

勇者「ここにならみんなを安全に避難させることができるんだけどな。
   知らせる術がないな……地上には影がうようよしてるし」

魔王「……あ、あそこに何かあるぞ」

魔王「これは……」ペタペタ

魔王「階段だ。ここからも地上に上がれる」

勇者「ずっとここにいるわけにもいかないしな、行くか」

魔王「問題はどこにつながっているかだが」

勇者「行ってみりゃ分かるさ」


ガコッ






勇者「ぐ、まぶし…… ここはどこだ?」

魔王「……あ、ここは」

勇者「分かるか?」

魔王「……ここは恐らくこの国の最端……向こうを横切る大河が見えるだろう」

魔王「あの大河を渡ると、魔王城がある……」

勇者「魔王城?でも、城は……」

魔王「私たちの城ではない。先代の魔王が住んでいた城だ」

魔王「竜人と魔女と、一度だけ行ったことがある。もう廃墟同然になっていたが」

勇者「……」

勇者「何かあるかもしれない。行ってみるか」


勇者「……どのみち、進むしかないみたいだ。ほら、後ろ見てみろよ」

影「……」

影「……」

魔王「そうだな」

魔王「行こう」







ダッダッダッダ……


影「……」ヒュン

勇者「……な、なんかあいつら、さっきの奴らと違って足はやくねーか!?」

魔王「はあ、はあ……!」

勇者「もう少し速く走れないか魔王!?追いつかれる!」

魔王「分かった」

勇者「悪いが全然速度あがってないぞ!ええい、もう担ぐ!!じっとしてろ!!」

魔王「えっ?」

魔王「うわあぁっ!」





大河


勇者「よしついた!飛び込むぞ!」


バチャーン


魔王「えっ!? ……え?泳いで行くつもりなのか?」

勇者「当たり前だろ。早くお前も来い!」

魔王「橋か船を探した方がいい。きっとそのへんにあるはずだ」

勇者「そんな時間ないって!もうすぐそこまで影が迫ってきてるんだぞ!
    また追いつかれる!早くしろっ」

魔王「……でも……私は無理だ!」

魔王「そうだ、ではこうしよう。勇者くんは先に行っていてくれ。
    私は船か橋を探してから行く。必ず追いつくから心配しないでくれ」

勇者「そんなことできるわけないだろ!?船も橋も見る限り近くにない!!
    絶対おぼれさせないから早くしろ!!」グイ

魔王「ひっ引っ張るな! わ……私は、お、およ、泳げないっ!」

魔王「頼むから……やめてくれっ」

勇者「大丈夫だって!必ず向こう岸に渡すから!!ほらお水は友だち!!」

魔王「いやだぁっ」

影「……」ダッ

勇者「!? ま、魔王!!」グイッ

魔王「いっ……!!?」








魔王(……)

魔王(……)

魔王(……)

魔王(あ)

魔王(死んだ)



バッチャーン……


ブクブクブクブク……

ゴボゴボ……

ゴボ……


魔王(くらい……)

魔王(みずうみのそこ……)






――――――――――――――――――
―――――――――――――――
――――――――――


魔王「…………」

魔王「…………」

魔王「……うん……」

魔王「ここは……?」

魔王「私は……?何故ここにいるのだっけ」

魔王「夜の花畑……一体ここは……」


タッタッタ……


   「冥府です」

魔王「冥府……?」

魔王「君は」

鍵守「鍵守といいます。ここ冥府の番人です……」

魔王「冥府って……ということは私は死んだのか?」

鍵守「はい……がっつりしんでます……」

魔王「がっつり死んでしまったのか……」


鍵守「あなたが――ちゃん……魔王だね」

魔王「なぜ……?」

鍵守「ずっと前からボクはあなたのこと、しってたんだよ」

鍵守「はなしたいことがあります」



今日はここまでです
応援のレスありがとうございます

乙!
がっつり死んだ後はがっつり生き返って欲しい
生き返りますよね……?
あと勇者本当に頑丈過ぎる二代目の攻撃もいけるんじゃねーかしら

乙!!

二代目はシリアスな強さだけど三代目は両津的強さな気がするの
おつ


懐かしの鍵守!!魔王ちゃんかわ

この二人の会話はそこはかとなく和むな
この後どうなるか気になって仕方がない

wktk




鍵守「創世主の彼によって、このままではセカイはめつぼーの いっとをたどります」

鍵守「たすけてほしいんだ」

鍵守「このセカイと……彼を」

魔王「世界の崩壊を阻止する方法が何かあるのなら、教えてくれ」

魔王「……と言っても私はすでに死んでいるのだが、それでも力になれるのなら」

鍵守「うん……トビラの先にいってほしいんです」

鍵守「カギはボクがもっているから……」

魔王「扉なら勇者くんたちがもう開けたぞ」

鍵守「そのトビラじゃないよ」

鍵守「あのトビラは彼が用意したダミー……」

鍵守「ほんものは、ここ冥府にあります。だから彼もそうたくさん干渉できません」

鍵守「ここだけはボクのセカイだから」


鍵守「……トビラをあけてほしい。でもいまのあなたではできません。
   いまはいちじてきに、こころだけここにきて、ボクと話しているだけだから」

鍵守「だから、ちゃんと全部ここに来てほしいんです」

魔王「……どういうことだ?」

鍵守「じつは、あなたが死んでいるというのは、うそです」

魔王「えー……?」








鍵守「自分が死んだとこころが勘違いしてしまったせいで、あなたはここに来たんです……」

鍵守「でも、そのおかげでボクはあなたに話すことができた」

魔王「体が透けていく……が」

鍵守「あなたが気づいたおかげで、もうまもなくあちらにもどれるとおもいます」

鍵守「でもどうかわすれないで。ボクが言ったこと、おぼえててください……」

鍵守「かならずまたここにくるって……やくそくしてくれますか?」


鍵守「……ちなみにおすすめの方法は どく」

鍵守「からだはちゃんとのこしておいた方が、いちおう……いいですよ」







* * *


ビチャッ


勇者「ぜはあっ……はあはぁ……魔王!!!おいしっかりしろどうした!!」

勇者「そんな……入水しただけで気絶するほどカナヅチなのかお前!!」

勇者「生きてるか!?……息はしてるな……ふう」

魔王「……」


勇者(……)チラ

勇者(影……追ってこないな)

勇者(対岸でうろうろしてる。水には入れないのか?なんにせよ、助かった……)

勇者「とりあえず……進むか」





勇者(先代魔王の領地……そういや俺も昔、魔王城探しの旅で、神官と戦士と来たことがあったな)

勇者(あいつら……いまどうしてるかな。……生きてるよな)


勇者(いま改めて見るとなんだか寂しい土地だ。生き物の気配が全然なくて、植物だけ鬱蒼と生えてて)

勇者(でも、やっぱり昔はもっと賑やかだったんだろう)

勇者(……ここにあった魔族の村は、全部先代の勇者が討ち滅ぼしたんだったよなぁ)

勇者(ずいぶん強かったんだろうな……魔法が得意だったそうだが、羨ましい限りだ)

勇者(……だけど)

魔王「……」

勇者(もし戦争に勝ったのが勇者じゃなくて魔王だったなら、こいつも、魔女や竜人も、ほかの魔族も)

勇者(辛い目に合わずに生きてこれたんだろうな)

勇者(いや……こんな勝手な同情、失礼か。こいつらにも、先代たちにも)






勇者「ぐううう、まだか先代の魔王城は? えらい遠いな……」

勇者「あ」


ポッ ポッポツ……

  ザアァァァァァァ……



勇者「げっ……まじか。また雨」


ザアアアァァァァァ!!!


勇者「……じゃなくて嵐? いたたっ ……さらに雹!?」

勇者「……魔王も目を覚まさないし、どっかで雨宿りしないと……」







――――――――――――――――――
―――――――――――――――
――――――――――

ザアァァァァァァァァ……


魔王「…………」

魔王「…………」

魔王「……とびら……」

魔王「……」パチ


魔王「ここは……?」

勇者「はあ、はあ、 ……魔王!起きたか!!」

勇者「今な……火を起こそうとしてるんだが、どうもうまくいかなくて」

勇者「確か石を二つこう……なんか打ち合わせて、息を吹きかけるみたいな感じだったと思うんだが」

魔王「……私はいま生きてるか?」

勇者「ええっ怖いこと言うなよ。生きてるよ」

魔王「……冥府にいってきたんだが、そこで鍵守と名乗る子どもと話をしたんだ。
    もう一度来てほしいと言われた……」

魔王「毒がおすすめだって……」

勇者「……熱ある?」

魔王「ない……」






魔王「夢だったのか……?」

勇者「……よしんば本当だったとして末恐ろしい子どもだな。
    要するにそれ、死ねってことだろ」

勇者「まあ冥府にいる奴なんだから、死神みたいなもんだと思うが」

魔王「うーん……」

勇者「おい、やめろよ?死ぬなんてやめてくれよな。
   そんなの夢に決まってるだろ。早まるな」

魔王「……そうだな」

魔王「ところで、ここは……?洞窟?」

勇者「ああ、無事大河を渡れたよ。ここは元魔族領だ。
    だが魔王城に辿りつく前にひどい雨が降ってきて」

勇者「偶然見つけた洞窟に急きょ避難したってわけだ」

魔王「……」

魔王「勇者くん腕は?腕を見せてくれないか」

勇者「? なんでだよ。別になんともない」

魔王「何ともないなら見せられるだろう。
   ……あっ 怪我をしているじゃないかっ」

魔王「大丈夫か!? 痛くないか……? いや怪我だし痛いか……。
   やっぱり崖から落ちたときに怪我をしていたんじゃないか!なんで黙っていたんだ」

勇者「いや、ただちょっと捻挫かなんかで痣になってるだけだ、こんなん。すぐ治るよ」

魔王「いま治癒魔法……。……は使えないのだった。はあ……」

魔王「薬草をとってくる。すり潰せば捻挫に効く植物を知っているのだ。
   あと木の実とか果物キノコなど何か食べれるものもついでに獲ってくる」

勇者「待て待て!この大雨の中行く気か?俺は本当に平気だから」

勇者「お前こそ休んどけよ。さっきまで気絶してたんだぞ。
    食べ物は雨が止んだら一緒に獲りに行こう」

魔王「でも……これじゃ私は……」

勇者「あーーー、火つかねえ!なんだこれアホか!!石でほんとに火つくのかよ!」






勇者「……悪かったな、無理やり引っ張って」

勇者「泳げなかったのか」

魔王「……そうだ。笑ってもいいぞ。この年で泳げないなんて。
   でも私は水の中でなく陸上で生きる生物なのだから別に水泳なんてできなくとも構わんのだ」

魔王「私は陸上で生きる生物だからな別にいいのだ水泳能力などなくても生きていける」

勇者「言いたくないなら言わなくていいけど、」

勇者「……もしかして……それって、昔なにかあったのか」

魔王「……ん?」

魔王「ん……どうだろう…… わからん」

勇者「……」

勇者「ごたごたしててちゃんと謝ってなかったな。ごめん」

魔王「え」

勇者「魔族みんないい奴で明るいから、つい忘れそうになっちゃうけど
   魔王があの島で村をつくるまで、みんないろいろあったんだよな」

勇者「……お前も」

勇者「そういうの全然考えないで、あのときは軽率なことを言って悪かった」

勇者「確かに俺みたいなやつに、お前の気持ちが全部分かるなんて言われたら腹立つだろうな」








魔王「えっ……」

魔王「あ……ああ、あれか。いや、謝るのは私の方だ……」

魔王「私も意地を張って悪かった。
   ……人間と魔族の共存を願って、その隔てをなくしたいと思っておいて」

魔王「そのくせ一番種族の違いを気にしているのは私だったのかもしれない」

魔王「勇者くんは正しいことを忠告してくれたのに、あんなことを言ってごめんなさい……」


魔王「……それに、魔力をなくして人間になってはじめて分かったのだが、
   魔法が使えないというのはとても怖いな」

魔王「敵がいても太刀打ちできない、どうにもならない。
    魔法が使えないと、人とは、こんなにも無力なのだな」

魔王「そんな人間のそばに……魔法を使える者がいたら……
    外見も、みんなと違う異形の者がいたら」

魔王「怖がって自分たちから遠ざけるのも、分かる」

魔王「もし私が生まれたときから人間で……それで近くに魔王の私が住んでいたら
   やっぱり怖がっただろうな」

魔王「……分かるよ」







勇者「……そんなの全員が全員怖がるわけじゃないだろ」

勇者「お前がむやみやたらにわざと魔法を使いまくって被害を出す奴だったら、
   まあ……怖いかもしれないが、魔王はそういう奴じゃないだろ」

勇者「むしろいつも誰かのことを考えて魔法を使ってるじゃないか。
   つーか攻撃呪文自体それほど好きじゃないみたいだし……」

勇者「なんかわけ分からん魔法の研究してたし」

勇者「……まあ俺も!初対面でいきなり剣突きつけた俺が言えたことじゃないかもしれないけど!」

勇者「でもやっぱり、お前は何も悪くないと思うぞ……うん」

魔王「……」

勇者「もっと早く会いたかったよ。そしたら、友だちになってさ
   お前がもし困ってたら助けてやるし、誰かにひどいことされてたら俺がそいつ殴ってやったのに」

勇者「……魔王が言うように俺はお前の気持ち全部理解することはできないかもしれないけど」

勇者「やっぱ理解したいよ。知りたいって思ってるんだ」


魔王「…………」

魔王「……私も……」

魔王「私にとって、君は一番大事な友人だ」

勇者「へっ!? ……あうんそうだな。俺もお前のこと大事な、友人だって思ってるよ」







魔王「君ももう察しがついていると思うが、私が泳げないのは昔、水審判にかけられたから」

魔王「まだ魔力もうまく操れなかった頃のことで、色々迷惑をかけながら生きていた。
   誰も教えてくれなかったから、呪文も分からなくって……」

魔王「感情が高ぶると魔力が勝手に魔法に変わってしまって
   畑を凍らせてしまったり、空き家を燃やしてしまったこともある」

魔王「……というかそれは今でも極稀にある」

勇者「あんのかよ……」

魔王「だから……ひと所にずっといるところはあまりなかったな」

魔王「だがこんな私でも、姿を隠して人のフリをしていれば、
   行き倒れているところを助けてくれた親切な人はいたのだ」

魔王「あるときそんな風にして老夫婦に拾われた。二人ともすごく優しくて
   そこでしばらく畑の手伝いをしたり家事を手伝ったりして過ごした」

魔王「でもやっぱり少し様子が変だったのだろうな」

魔王「ある日目が覚めたら、ベッドで寝ていたはずなのに外にいて、
   足に枷がついてて、その先には大きな石がくくりつけられてて」

魔王「村のはずれにあったきれいな青い湖が目の前に広がっていた」










魔王「君が賢者の家で読んでいた本にあったように、
   水審判とは悪魔かどうか疑わしい者を水に沈めて審問するものだ」

魔王「石をつけて浮きあがってきたら悪魔、沈んだら人間」

勇者「ひどいな……」

魔王「神官の姿は見当たらなかったから村人が独断で行ったのだろう。
   私を湖に突き落としたのは、私を拾ってくれた老夫婦の妻の方だった」

勇者「……それでどうしたんだ」

魔王「湖の中で何とか枷を外そうとしたのだがうまくいかなくて
   それでもがんばっていたら最後に石の方が壊れた……」

魔王「……死に物狂いだったので許してほしいのだが、石どころか湖ごと大破したようだ……」

魔王「……これは申し訳なく思っている」

魔王「その騒ぎを聞きつけて、近くにいた竜人と魔女が私を助けてくれた。
   私は石にヒビが入るのを見た時に既に意識を失っていたから覚えてないのだが」

魔王「それから二人と行動するようになったのだ」


魔王「今でも水に入ると、突き落とされたときの肩の感触とか
   光も音もない水底で、一人で、どんどん息苦しくなっていったこととか思い出して」

魔王「だから泳ぐのはどうしてもできない」

勇者「……そうか」

勇者「…………ほんっと無理やり引っ張って悪かったな……」

勇者「…………俺を殴ってくれ!」

魔王「い、いい。別にそういうつもりで話したのではない」






魔王「それに……あのときあのまま橋や船を探していたら、影に追いつかれていただろう」

魔王「腕を怪我しているのに、気を失った私をここまで運んでくれてありがとう……」

魔王「……たすけてくれて……」

魔王「……ありがとう……。勇者くん」

魔王「やっと言えた」

勇者「……? 別にいいよ。気にすんな」

勇者「話してくれてありがとな」

魔王「この話を誰かにしたのは初めてなのだ。
   竜人や魔女にも、誰にも話したことはなかった」

勇者「……そんなひどい目にあって……よく人間に対して友好的になれるな。
   俺だったら、どうなるか分からん」

魔王「たすけてくれた人がいたからな」

魔王「だから……人のことも好きになれた」

魔王「人のことが好きになった」

魔王「いつもたすけてくれる人のこと……」








魔王「君は私の一番大切な友人だ」

魔王「だから、幸せになってほしいな……」

勇者「なんだよ……急に」

魔王「ずっと君の幸せを願っている」

魔王「勇者くんがずっと笑っていられるよう祈ってる」

魔王「祈ることは魔力がなくてもできるから」


魔王「雨があがったな」

魔王「進もう。城へ」

魔王「私が案内する」






魔王城 廃墟


勇者「ここか……」

魔王「君も来たことがあるのではないか?」

勇者「魔王の居場所を探す旅の途中でな。誰もいなかったけど」

勇者「あのときよりもすごい有様になってるな。木が生い茂って、ツタが壁を這って……
    まあ、魔王城っぽいと言えば魔王城っぽい」


ガタ……コツ……コツ……


勇者「中もひどいな。荒れ果ててなきゃそれなりに立派な城だったんだろーが。蜘蛛の巣だらけだ」

魔王「うん゛……早く進もう」

勇者「……」

魔王「何だその目は。魔王が虫など怖がるわけあるか。だんご虫なら平気だ」

勇者「そっかぁ……」


ガコッ


魔王「この階段の下に隠し通路があるのだ」

勇者「おお……けっこうでかいな」

魔王「行ってみよう」


勇者「一度、竜人と魔女とここに来たことがあるって言ってたよな。何しに来たんだ?」

魔王「魔王を探しに」

勇者「は? ああ、自分探しの旅とかそういう意味か?」

魔王「違う。文字通り魔王を探しに来た。ここが一番可能性が高かったから」

魔王「ある者から、魔王が存在することを聞いて……彼を探しに来たのだ」






* * *


「ほんとか?」

「ほんとにそう言ってたのー?」

「いってた……」

「魔王がいるって……でもどこに?」

「わかんない……」

「戦争で殺された魔王が復活したってことか……?」

「じゃ、探しにいこーよ!魔王がいるならあたしたちを守ってくれるっしょ。
 これで暮らしもちょっとは楽になるし」

「強い魔王がいたら人間たちもギャフンと言わせてやれるって!」

「探しに行くか。でも、その魔王がいるっていうのは、だれから聞いたんだ?人間か?」

「……人間」



「まあ、定石どおりにいくならまず魔王城に行ってみるか」

「人間どもが邪魔してくるかもしれないからしっかり準備しとかないとな」








「チッ……やっぱ手間取ったな。くそ邪魔しやがって人間全員死ね今すぐ死ね殺すぶっ殺す」

「うーわ、ここが魔王城かー。ボロッ」


「ひゃーん蜘蛛の巣いっぱいあってこわいよぉ」

「だれに対してやってんだそれ?見苦しいからやめろ」

「死ね」

「あ。 ――、腕になんかのぼってるよ」

「……!? とってとってとってとってとってぇ」

「イモリだ。薬の材料に使えるからビンに入れて持ってかえろーっと」ワシッ

「なにが蜘蛛の巣こわいだ、イモリ鷲掴みじゃねーかよ」

「両生類と昆虫はちがうんですぅー なによイモリの同類のくせして」

「竜とイモリをいっしょにするんじゃねえ」

「ねえもうかえろうよぉ……ここ、こわいよ……」

「魔王を見つけたらな……」

「手つないであげる。ほらおいで」






「なんかこの階段の下、怪しくないか。よく調べると魔法の痕跡がある」

「向こうにお宝があったり?」

「なんとかここ壊せないだろうか」チャキ


ギイン!


「……だめだな。どうやら普通に壊そうとしてもできないらしい。魔法がかけられてるんだろう」

「あんたの馬鹿力でもだめかー」

「火炎魔法…… だめだ。氷魔法、風魔法…… チッ」

「この魔法、この城に住んでた魔族が昔かけたものなんだろーけど、ずいぶん魔法が上手だったみたいね」


「……そうだ、――。この間教えた魔法ちょっとやってみるか?」

「――ならあたしたちより魔力強いみたいだしいけるかも」

「ていうか強すぎることが心配だけどね。この城崩れたらどうしよ」

「落ち着いて、集中するんだ。いいか? 別に魔法は怖いものじゃないから」


ガコッ……


「えっ……詠唱なし!? ひええ、すっごいじゃん!才能あるよ!」

「まだなにもやってない……」

「手を触れただけで魔法が解除された?俺たちがあんなにやってもびくともしなかったのに」

「……うーん……もしかして」

「……まあとにかく先に進むか。この先に魔王がいるかもしれない」

「魔王ってかっこいいかな?イケメンかな?」

「100年前に死んだ魔王が復活したってことなら、年くってんじゃねーのか」

「オジサマも素敵」

「言ってろ」





* * *



勇者「この部屋は?」

魔王「さあ……実は私にもよく分からんのだ」

勇者「なんだ、あの時計。変わってる……」

勇者「……ん、凝った装飾の台があるな。でも何ものってない」

魔王「ここに、今私がはめている指輪があったのだ」

勇者「へえ?そうだったんだ」

魔王「妙な隠し部屋だから、何か創世主を倒す道具でもないかなと思ったが、全然ないな」

魔王「残念」





* * *



カチ……コチ……カチ……コチ……


「部屋か?しかも随分広い」

「ほこりくさっ。 げっほけほ」

「この時計……動いてるのか。まさか、100年前からずっと?」

「……変だな。針が3本ある」

「一番外側の数字が0~100まで、真ん中が0~12、内側が0~365か」

「時間じゃなくて日をカウントしているんだな」

「逆……」

「逆?ああ、本当だな。針が反時計回りにまわってるのか」

「これじゃカウントダウンだな……なあ、見ろ。もうすぐどの針も0に……」

「ねえそんな時計よりこっちの指輪見てよ!ちょうきれいだよ!すっごい高そう!!」

「聞けよ」


「指輪ぁ?宝じゃなくて魔王を探しに来たんだろうが」

「でも、ほら。きらきら光ってる。なんか尋常じゃないって感じ。絶対重要アイテムだってこれ」

「内側に文字も彫ってあるよ。よく読めないけど」

「文字……。……王」

「oh?」

「魔族の言葉で『王』って彫ってある」







「……それって魔王の指輪ってことじゃん!?」

「ということはこの気持ち悪い時計は、魔王が復活するまでのカウントダウンか?」

「え?なにこの時計、なんか変じゃない?数字多い」

「だから、それさっき俺がやったくだりだ。聞いてろよ」

「3つの針全てが0になるのは、……明日だ」

「明日魔王が、この指輪を指にはめにここに来るはずだ」

「うひゃーまじで?やった、タイムリーじゃん。今日ここに来てよかったねー」

「やったな。もし魔王が復活すれば、人間どもに奪われた土地も国も全て取り返せる」

「俺たちの国が甦るんだ。誰も俺たちのことを疎まない、魔族の国に住める」

「明日かあ……楽しみだなー!!おばあちゃん、あたしやったよ~ 見てるかな、いえーい」

「今日はここに泊まろう。寝どこあるかな……」

「えーっ……クモの巣いっぱいあるからちょっとやだ……ねえもうかえろうよ」

「ねむいよぉ……だっこ……」グス

「ぐずるなって。疲れたのか?」ヒョイ

「ここ、こわい。かえろうよ……」

「魔王に会いたくないのか? ――を湖に沈めた奴らにも、いじめてきた奴らにも、仕返しできるんだぞ」

「そうだよー」

「…………んん……」






* * *


カチ……コチ……カチ……


「……」

「……」

「来ないな」

「もう、日付け変わっちゃいそうだけど」

「……いや、必ず来るはずだ。待とう」



「それにしても……この指輪の宝石さ……これなんだろね。
 ルビー?ガーネットかな? きれいな赤色」

「売ったらいくらになるかな」

「売るなよ。王の指輪だ」

「……。しかし……これ、 ――の目の色そっくりだな」

「あー 赤だもんね」

「……もしかして……」

「……ええ?……いやー……まさか先祖? まさかぁ」

「……」








カチ……コチ……カチ……


「あと……10分」

「あと5分」

「あと3分」



「あーーーーーーーもう早く来てよ魔王様なにやってんの!?寝坊!?寝てんの!?」

「遅いな……」

「ああっ! ちょっと指輪見て!!透け始めてる!!!」

「なに?」

「……時計のカウントが0になると同時に指輪が消滅する仕組みなのか」



「……あと1分」


「……どうする?」

「でもさ……絶対来るはずだよ!来なきゃおかしいじゃん。
 やっとあたしたち……やっと……取り戻せるって思ったのに」

「期待させておいて来ないなんて、ひどいよ…… 訴訟レベル」



「あと30秒……」

「29……」

「28……」

「27……」







「……だめだ。たぶん魔王は復活しないんだ」

「じゃあどうすんの?」

「……きっと100年前の魔王が復活するんじゃなくて、新しい魔王が誕生するまでのカウントダウンだったんだ」

「いまここにいる俺たち3人の中の誰かが……魔王になるんだ」




「えーっ!?急展開!」

「誰が……なるか?」

「魔王いないの……?」

「ああ、いないんだ。俺か、魔女か、――がなるしかない」



「あと24秒」

「どうするジャンケンする!?」

「……隠し通路の魔法解除……それから指輪の宝石……」

「…………俺は……、――があの指輪をはめるべきだと思うんだが」








「私……? なんで……?」

「魔女はどう思う」

「……あー、そうだね。……この中で一番あの指輪の宝石が似合うのは、やっぱ――かな」

「魔力も一番強いし」

「……でもっ竜人と魔女の方が強いし、大きいし、お兄ちゃんとお姉ちゃんだし……」

「お……お兄ちゃん!?今のもう一回…………いや時間があと15秒!ふざけてる場合じゃなかった」

「ほんとにな。――、大丈夫。あたしたちがちゃんとずっとそばにいてサポートするからね。二天王になってあげるから」

「……嫌なら今言うんだ。俺か魔女がなる。どうする?」


「……」

「……」


カチ……コチ……カチ……コチ…… 


カチ


「わかった」

「私がこの指輪をはめる」


魔王「私が王になる」

魔王「みんなを私がまもる」


カチ、コチ……カチッ。









* * *


魔王「別のところに行こうか。ここには何もないようだ」

魔王「私は地下の書庫に行ってみようかと思う。魔族の言葉の本しかないから、
    勇者くんは別のところを探してみてくれ」

勇者「書庫?そんなものあるのか?でも、ここって戦争終結後……」

魔王「全て人に持ってかれたが、書庫は魔族でないと入れない封印がされていた。
    ほかにもそのような封印がされている部屋がいくつかあったんだ」

魔王「いまは、もう、封印自体なくなったかもしれん。世界から魔法が消えてしまったから」

勇者「じゃあ俺でも入……れッ!?」ズボッ


ゴシャッ バキバキ


勇者「うおおっ あぶねえ!床が抜けた!!」

魔王「気をつけるんだ、かなり老朽化が進んでいる」

勇者「ああ、全くどこもかしこもボロボロだ。先代の魔王城なのに、やっぱ時の流れには勝てないんだな」

魔王「……そうだな」

魔王「……そういえば私の先祖は、先代魔王の妹らしいのだ」

勇者「ふーん……  …………えっ!?」

魔王「頑固なところがよく似ているらしい……あと先代魔王も赤目だった」

勇者「……誰に聞いたんだ?」

魔王「先代魔王の亡霊」

勇者「先代魔王としゃべったんだ?」







魔王「あまり亡霊の部分には驚かないのだな」

勇者「まあ俺も……幽霊には会ったことあるからな。話すことはできなかったけど。
    言葉の代わりにアイアンクローかけられたけど……」

魔王「そちらの方が驚きだな」

勇者「そういやあの幽霊、成仏したかな。いつの間にか消えてたが」



勇者「ん?待てよ、先代魔王の妹が先祖ってことは……お前も王族だったのか!」

勇者「じゃあこの城は……」

魔王「うん……実家?」

魔王「もうこんなに荒れ果ててしまって……何も残ってない」

勇者「……魔王」


魔王「でも、ここは私の家ではない。私の帰るところはちゃんとあるんだ」

魔王「だから早く創世主を止めなければ」

勇者「ああ、そうだ!お前の家はあの島の城だ!早く取り返そう!」

魔王「うむ、そうだなっ。私はさっそく書庫に行ってくる、後で合流し……」ズボ

魔王「ふぎゃーーーーーーー」

勇者「まっ、魔王ぉーーーーーーーー!!」





今日はここまでです
おやすみなさい

おやすみおつ

口が悪い竜人も素敵ですわね!

おつ

>>361
姫様こんなとこにいないでガラス直してってください

乙 アイアンクローwwww剣士かwwwwww



* * *


ガサガサッ


勇者(……なかなかないな……そんな簡単に行くわけないとは思っていたが)

勇者「もうすっかり日も沈んじまったから目も見えづらいし。
   せめて火がないと何をするにも不便だ」

勇者(夜になったから……影はもう地上から消えているだろう。
   また明日の朝には出てくるんだろうが……王都やみんなはどうしてるだろうか)

勇者「そういや、この城の付近には影がまだ出てないな」



スタスタ


勇者「……ああ、魔王。なんだその書の山は」

魔王「書庫だと暗くて読めぬから、窓のそばまで運んでいたのだ……。
   あと2往復くらいしてくる」

勇者「俺も行くよ。重いだろ」

勇者「…………………………ん!?」ピク

魔王「それは助かる。なかなか重くて……。勇者くん?」

勇者(この匂い……どこかで……)

勇者(どこかで……。もう少しで思いだせそうなんだが……)

勇者(多分……けっこう大事なこと……思い出さなければいけないことだ)








勇者(うう……なんだっけ……なんだっけ!?)

勇者「はあ……はあ……!」


ジリ……ジリ……


魔王「ど、どうしたのだ……具合が悪くなったのか?」

勇者「お前……その匂い……どこに行ってたんだ……?」

魔王「だから、書庫だと……さっき……」

勇者「頼む。もう少しで……大事なことが……お……思い出せそうなんだ」


ジリ……ジリ……


魔王「勇者くん、急にどうした」

勇者「頼むから匂いをかがせてくれ……!」

魔王「本当にどうしたんだっ!?」

魔王「匂いって……書庫行ったから埃臭い……」

勇者「かまわん……!!」

魔王「私がかまう」








ジリッ ジリッ


勇者「おい……逃げるな!!!」

魔王「勇者くんがこっち来るから……!」

勇者「暴れるな……じっとしとけ!!」

魔王「分かった、分かったから一旦落ち着いてくれ。
    月明かりに照らされて軽くホラーだぞ勇者くん」

勇者「大人しくしてりゃすぐ済む……逃げるな……!!」

魔王「そんな犯罪者みたいなことを勇者が言っていいと思っているのか……っ」


ガシッ!!


魔王「ひっ ひぃっ」

勇者「はーっ……はぁー……うう」

魔王「こわすぎるっ」

魔王「ややややめろなにをする」

勇者「じゃかあしい……!!じっとしとけぇ……!!!」

魔王「こわい!! 離せ 頼むから離してくれっ」






魔王「ひわーーーーーーーーーーーーーーー」

勇者「ふがふが」

勇者(あっそうだこの匂いだ。詰め所の机とか書類の山積みとか思い出す)

勇者(どこで嗅いだんだっけ、最近なんだよな……どこだっけ?確か外……
   なんでこんなところでっていう場面だったような)

勇者「うーーーーん……」

魔王「ひえーーーーーーーーーーーーーーー」

魔王「馬鹿者、こういうことしてあの子に失礼だと思わんのかっ」

魔王「こういうことは友人にやっちゃいけないのだぞっ!」

魔王「勇者くんってば!聞いてるのか」

魔王「……やだっ……」


勇者「ハッ! ご……ごめん」

勇者「でも思いだしたぞ!!そうだ、あのときだ!」

魔王「……何が?」



  「あーーーーーーーーっ いたーーーーーーっ!!!」







魔王「えっ? この声……! まさか」

魔女「魔王様あーーーーーーーっ!!勇者も!!」

魔女「よかったぁ、無事だったんだね!久しぶりーーーーーーー!」

魔女「大丈夫?怪我してない?元気?あたしは超元気ーーーーーーーー!!!」

勇者「見て分かるぜ……!魔女、無事だったのか!」

魔王「ま……魔女っ よ、よかった……」

竜人「魔王様!勇者様! ご無事で何よりです」

魔王「竜人……! 二人とも大丈夫だったか?怪我は……」

魔女「全然どこも怪我なーい!」

魔王「よかった」ギュッ


竜人「勇者様……」

竜人「魔力がなく、致命的に運動能力が低い、ほぼ荷物と言っていい今の魔王様をお守り頂いて、どうもありがとうございました」グッ

勇者「お前けっこうズケズケ言うなぁ……。いや、そんな礼を言われるようなことじゃないって」

竜人「いえ……本当に感謝しているのです。さすがは勇者様、この国の英雄ですね」

勇者「だから別にいいって、二人も無事でよかった」

勇者「……で、何故押す?ちょっとあの……竜人」


コツ……コツ……コツ……コツ



魔女「ここの魔王城なつかしいね。相変わらずボロボロだ」

魔王「魔女、ここかすり傷があるじゃないか。大丈夫か?」

魔女「うん、全然平気だよー。 あれ、竜人と勇者どこ行くんだろ」









勇者「手を離して頂きたいなって……その……ね」

竜人「そんな。まだまだ勇者様にお礼が言い足りません」ググッ


コツコツコツコツ

カッカッカッカッ……!


勇者「もう礼はいい!!いいよ!!お前の気持ちは十分伝わった安心しろ!!離せ!!」

竜人「いいえ、御謙遜はよしてください。ここで私どもが魔王様と再会できたのも、ひとえに勇者様のおかげなのです」

竜人「でもそれとこれとは話が別ですので」


カッカッカッカッ――ダンッ!!!


勇者「ひいいい落ち着け竜人!!瞳孔が開いてるぞ!!」

竜人「こんな暗闇に包まれる城の廃墟の廊下で、一体勇者様は何をなさっていらっしゃったのですかねぇ……KILL YOU」

勇者「待て……待つんだ、話せばわかる……」

竜人「分かりました。そうですよね……まさか勇者様が、あんなこと……私の目の錯覚に決まっていますよね」

竜人「私や魔女がいない間に、こんな暗がりで、嫌がる魔王様の動きを封じて
    息を荒げて無理やり迫るなどと言った男の風上にも置けないような所業……」

竜人「まさか勇者様がなさるわけないですよね! 弁解があると言うのなら今どうぞ」

勇者「……あれはっ、…………………いや………」

勇者「……」

勇者「……た……」

竜人「あ゛ぁ!?聞こえねぇんだよ!!!!」

勇者「しました……!!!」

竜人「右と左どっちがいい?」

勇者「右でお願いします……」







魔女「おーい、こっちこっち。いたよーー」

姫「魔王さん!よかった、無事で」

騎士「お久しぶりです! 魔王さんも魔女さんもお元気そうでよかった。あれ、勇者さんは?」

忍「竜人さんが奥に連れてっちゃいましたが」

妖使い「やあ、俺もいるよ。なにやらえらいこっちゃだね」


勇者「おー、みんな生きててほんとに安心した」

姫「勇者……あなた右頬どうなさったの」

竜人「転んだそうです。この城は床が抜けやすくなっていますので、皆さまもお気を付け下さい」


魔王「よくここに私たちがいるのが分かったな。
    それに妖使いや忍、騎士がいるということは王都に行けたのか?」

姫「行けたことには行けたのだけど、あまり長くはいられなかったわ」

姫「あのあとのこと、順を追って説明します。
  魔王さんと勇者が去ったあと、私たちも健闘しましたが、影に囲まれてしまって」

姫「もう終わりだと思ったのですけど、急に周りの影が全て消えたの」

魔女「雨がね、降り出したんだよ。そしたら溶けるみたいに影が全部ざーって」

勇者「雨で……消えた?」

竜人「ええ。その間に私たちは王都に辿りつきました。ひどい様子でした……」

妖使い「じゃ、王都の様子は俺から説明しよう!」

妖使い「勇者と姫が魔王の元へ行ったあと、すぐに異変が起こった。
     なんと俺は妖術が使えなくなり、妖孤をはじめとする使い魔たちを呼びだすことができなくなった」

妖使い「俺だけじゃなく魔術師たちや神官たちも魔法が使えなくなったーつって大騒ぎしてたね」

騎士「それから国王様は大臣たちを集めて緊急会議をなさっていました。
    しばらくして、王都の上空に黒い雲が現れて、住民を避難させようとした矢先に……」

妖使い「城壁の向こうから影たちがわんさかやってきて、次々に王都の住民を消していたよ」

妖使い「まあ、勝ち目なんてなかったね。触れられた人から一瞬で消されちゃうんだから」










妖使い「でもそこで雨が降って、姫が言う通り影が消えたのさ」

魔王「地下の扉は……?変化はあったか?」

騎士「いえ、一応見てみましたがやはり扉は消えたままでした」

魔王「……そうか」


姫「王都に辿りついて、お兄様に会いました」

騎士「あの人、止めたのに、剣持って前線に立とうとするんですよ。
    ほんっと……もう……しかも強いし……」

姫「私、王都に留まるつもりだったのですけど、もうここは危険だからってお兄様が……」

騎士「それで僕が護衛について、魔王さんと勇者さんに合流するために魔王城へ向かったわけです」

魔女「でも、迷いの森、消えてたね。白い砂漠になっちゃってた。
   せっかくあたしが素敵な森に仕立て上げたのに……」

勇者「素敵か? いやっそれより、森が消えていたのか?  
   俺たちが行った時には森はまだあったのに」

竜人「どうやらこれが創世主の本気みたいですね。私たちは今まで遊ばれていたに過ぎないと」

忍「お腹すきましたね。ご飯ないんですか?」








竜人「魔王城があった城が消えてしまって……それでまた影がでて、
    追われるようにして大河を渡りました」

妖使い「ちょうど船があって助かった。俺カナヅチでさ!」

魔女「でここに辿りついたってわけ」


勇者「あの影……雨が降ると消えたり、大河を渡ってこれなかったり……」

勇者「水が弱点なんだな」

勇者「あと暗いところ……地下では、または夜には行動できない」

魔王「勇者くん。さっき何を思い出したというのだ?」

勇者「ああ。あの書とインクの匂い、どっか別の場所で嗅いだ記憶があって」

勇者「どこだったんだっけなってずっと考えてたんだが」

勇者「……影を斬った時だ」

騎士「そんな匂い、しました?」

勇者「俺は特別あの書とインクの匂いに敏感なんだ。
   机に積み重なった書類の山を思い出して、頭を抱えたくなるね!!」

忍「あぁ。勇者様って見るからにバカっぽそうですもんね!」

勇者「まあな!」


勇者「……でさ、創世主が劇だ脚本だなんだと言ってただろう」

勇者「……ちょっと思ったことが、あるんだけどさ。笑わないで聞いてくれるか」

魔王「何だ?」






勇者「影は……黒インクなんじゃないかって」

勇者「だから雨で消えるし、川は渡れないんじゃないか」

勇者「……で、影に食われると俺たちは消える……」

勇者「あと、あいつが『主役』とか『悪役』とかとか言ってた」

勇者「ってことはだ」


パラパラ……


勇者「ここに、魔王が書庫から持ってきた本が山積みになってるわけだが」

勇者「俺たちはこれといっしょなんじゃないか……?」

姫「どういうことです?」

勇者「……この世界は、一冊の本なんじゃないか」

勇者「創世主は、その作者……」







勇者「……っていうのを、ちょっと思ったんだけどさ」

勇者「はは……さすがにあり得ないよな」


魔女「…………きゃはははははは!なにそれおもしろーい!
    勇者って想像力あるんだねー、それ結構うけるよー」

竜人「すみません……強く殴りすぎてしまいましたかね、脳震盪か何かでしょうか……大丈夫ですか?」

騎士(やっぱ竜人さんがやったのかアレ)ゾッ

勇者「そうだよな、流石に妄想じみてるよな!ははは、忘れてくれ!」




魔王「いや……それほど荒唐無稽でもないかもしれない」

魔王「『創世記』によると空や海、太陽も星も雪も月も……命も死も、全て黒い水からつくられたらしい」

魔王「0日目に白い大地と黒い水を用意して、それから3日間で世界を創造したのだ」

魔王「白い大地というのが本のページだとして、黒い水がインクだとしたら、
   万物黒い水から生み出されたというのも納得がいく」

魔王「それから、ワールドエンドとふざけた立て札があったあの白い砂漠……
   あれは砂ではなく白い紙片で構成されていたのだ」

魔王「消された世界は白紙に戻される……インクで書かれる前の白紙に」






魔王「間違えてしまった箇所は、インクで塗りつぶす」

魔王「そうしたら本に何が書いてあったとしても、
    それがたとえ『山』という文字でも『人』という文字でも」

魔王「何が書いてあったかはもう読めなくなる……存在が消されてしまうのでは?」

魔王「だから本当に影がインクだとしたら、影に呑まれると消えるという不可解な現象も分かる気がする」


魔女「なるほどね。確かに、分かる気がするなー。説得力があるよ」

竜人「ええ、信憑性がありますね。さすが魔王様、私はその説を信じますよ」

勇者「お前らほんっとブレないね」



騎士「……確かにそう言われるとこれまでの謎に説明がつくような気がしますが。
   しかし自分たちが本の中の存在というのは、実感がないというか」

姫「いきなり言われてもそう簡単に理解はできないけれど……」

姫「でもそう仮定して対策を考えた方がよさそうね。でないと先に進めないわ」







忍「おなかすいたなぁ……」

妖使い「あははは!いやあ、おもしろいこと考えるな!」


妖使い「いいね、むしろそういうストーリーの本書いて売ればいいんじゃないのかい?あんまり売れなさそうだけど」

妖使い「俺もそういう馬鹿みたいな話好きだよ。信じることにする」

妖使い「……でもさ」パラパラ

妖使い「そうだとして、どうやって創世主を倒すんだい?」

妖使い「この本の登場人物も、そっちの本の登場人物も、普通本から出てきて作者を倒しに来たりしないだろ」

妖使い「そんなことになったら大混乱だ」



姫「……その手段を見つけなければいけないのね。
  あまり時間は残されていないわ。急がないと」

姫「……ふう」

騎士「急がなければいけないのは承知ですが、少し休憩しませんか?
   僕たちはずっと昨日から動きっぱなしで……」

魔女「そうだよ~ もう疲れちゃった。雨も降ったからまだ服濡れてるし。かわかしたいな」

竜人「一旦休憩した方が効率よさそうですね」

勇者「じゃ休憩ということで」







忍「私もお腹すきました……あっ!?こんなところにおいしそうなハムがぁ」ガブ

勇者「いてえーっ!! 馬鹿そりゃ俺の腕だ!!離せ!」

忍「うへえ、このハム固い……若ー、何か切るもの持ってきてください」

妖使い「あいよ。刀」

勇者「おめーも渡してんじゃねえよ!護衛どうにかしろ!!」


魔王「妖使い。ちょっと話がある。こちらに来い」

妖使い「ん?いいけど」



魔王「……魔族が人間になってしまったのは、本当に君のせいではないのだろうな」

妖使い「あぁ、妖が人になってしまったら俺の商売あがったりだよ」

妖使い「君もあんなに強い魔力を持っていたのに、人になってしまって残念だ。チッ」

妖使い「俺じゃないよ。自分の首を絞めるような真似、するわけないじゃん」

魔王「そうか。妖を人にする秘術がどうのこうのと言っていたから、君が何かやったのかと思った。
   疑って悪かったな」

妖使い「やろうと思ってもできないって」

妖使い「大陸の魔族が何人いると思ってる?それを全部人に変えるなんて、俺には絶対無理だよ」

妖使い「俺はむしろ魔王がやったのかと思ったけどね」

魔王「なに?」

妖使い「だって、人間になりたいと少なからず思ってたのは君じゃ?」

魔王「わ……私がそんなことするわけないだろう。大体方法も知らん」







妖使い「無意識で魔法を使ったことは?」

妖使い「気づいたら周りが自分の魔法で大変なことになっていたことは?」

魔王「それは…………滅多にないが」

妖使い「じゃあ稀にあるってことだろう」

妖使い「君の心の底に隠していた願いが、無意識に魔法となって暴走したんじゃないのかなぁ」

妖使い「君だけじゃなくほかの魔族や人間も巻き込んで」

妖使い「魔王ほどの魔力があれば不可能でもないんじゃないの」

魔王「まさか……そんなはずは」

妖使い「ないって言いきれるか?」


妖使い「もし魔法がこの世界から消えなかったら、もっと被害は少なかっただろうね」

妖使い「……」

妖使い「君がやったんじゃないのか? 魔王」

魔王「……」

魔王「……わ……私が?」







忍「若ーーーっ どこ行ったんですか?ご飯ですよ!!」

妖使い「あ、呼ばれてる。じゃ、俺は先に戻るから」

魔王「……」





魔王(私が?)

魔王(……人になりたいと……少しは思ったけど、本当に一瞬だけで、そんな……)

魔王(……)チラ


魔王(鏡……)

魔王(耳が人と同じ形。八重歯も尖ってない。翼も生えない)

魔王(目の色が赤ではない。よくある普通の色……人と同じ色)

魔王(人間……。同じ……)







魔王「……」


勇者「あれ、魔王は?魔王どこに行った?」

忍「さっき若といっしょにいましたよね?探しに行きましょうか?」


魔王(……そうだな、私は人になりたいと確かに思ったことがある)

魔王(でももう彼と彼女の幸せを見まもると決めた)

魔王「…………こんなことになってしまったのが私のせいなら
   私がリスクを冒してでも解決しなければ」



魔王(冥府に行かないと)

魔王(扉を開けに)








ガサガサ……



魔王(魔女の荷物……確かここにさっき置いていた)

魔王(あった……)



魔王「…………」

魔王「魔女は薬でさえ不味くつくるのだから、毒は相当な不味さなのだろうな」

魔王「……背に腹は代えられん……いくか……」

魔王「………………っ」グイッ


ゴクッ ゴクッ ゴク


魔王「くっ……ぐ……この世のものとは思えないほどの不味さ……!」

魔王「う……うでをあげたな、まじょ……」







* * *


魔女「ね、魔王様ほんとどこ行っちゃったの?ご飯だから呼んできて」

勇者「探しに行ってくるよ」

妖使い「さっきあっちの部屋で俺と話してたから、その部屋にいるんじゃない?」



勇者「魔王?」

勇者「あれおっかしいな。いない……あいつどこ行った?」

勇者「魔王!」



ガタッ



勇者「? 今の音……あっちか?」

勇者「……」ギィ

勇者「……!? おい!!どうした!?」

魔王「う……」







勇者「しっかりしろ!大丈夫か……!?何が……」


カラン


勇者「! この瓶……魔女の?へったクソなドクロマークついてるから間違いない」

勇者「ま……まさか、あの洞窟で言ってた冥府がどうのこうのってやつを?」

勇者「馬鹿なにやってんだよ!!あんなの信じる奴があるかっ!!」

勇者「薬……!」

魔王「勇者くん……案ずるな。私は必ずもどってくる……」

魔王「必ず私が……なんとかしてみせる……!!」

魔王「だから……君はここで……っ ここで……」

魔王「……まってて………… ぅ……ぐ」

魔王「……」

勇者「魔王!!おい……うそだろ。目開けろよ」

勇者「脈が…………止まった」

勇者「………………………………っ」








勇者「分かった」

勇者「もう冥府でもどこでも行ってやるよっ!!」

勇者「勝手に一人で決めやがって!!」

勇者「毒薬……!くそ、全部飲み干されてるか」



勇者「……っ」

勇者「許せっ」








* * *


魔女「……勇者も遅いなあ」

忍「ミイラ取りがミイラ?」

騎士「何かあったのでしょうか。僕も探しに行ってきます」

姫「もうこの際皆で行きません? なんだか……一人ずつ姿を消すみたいで怖いわ」

魔女「そして誰もいなくなった」

姫「やめて?」




魔女「やーっと服乾いた。これだから雨ってきらい」

竜人「でもそのおかげで私たちは間一髪で助かったんですよ」

姫「……そのことなのですが、私はちょっと不思議です」

姫「創世主は言わば最上位の神でしょう」

姫「なら、雨なんて降らさなければいいのに。それくらい簡単にできそうなものです。そう思いません?」

竜人「確かに不自然なところは多々ありますね。
   そもそも、影などまどろっこしい手段とらずに、一瞬で世界など消せそうなものですが」

忍「……神様にもできないことはあるんじゃないですか?」

妖使い「ま、そのおかげで今俺たち助かってるわけだけど。神が万能じゃなくて助かったね」

妖使い「そんなんだったらすぐ終わってしまうよ」







騎士「そうですよね。本当九死に一生を得たって感じ……」ギィ

騎士「でぇーーーーーーーー!? 勇者さん!!魔王さん!!どうしたんですかーーー!?」

竜人「なっ!? これは……!? 魔王様!勇者様!しっかりしてください!!」

忍「し、死んでます。心臓が動いてませんよ」

姫「どうして……?影が来たというの? ……ん?これは?」

魔女「…………!?」

魔女「あ……あ……あたしのつくった極悪ゲロニガ毒薬…………」

魔女「ひとつだけまだ荷物の中に残ってて……ちゃんとしまったはずなのに、なんで魔王様の手にあるの?」

騎士「毒薬……空ですね」

魔女「……まさか、二人は……毒を飲んで?」

竜人「魔王様も勇者様も、外傷は見られません。十中八九そうでしょうね……」







姫「一体何があったというの?これは……まさか二人が自ら命を断つなど」

妖使い「……」

妖使い「そんなメンタル弱い二人には見えなかったけど、いろいろ参っちゃったのかな」

妖使い「自殺か……悲しいな」

忍「まじっすか……若、どうしましょう」



妖使い「どうするもこうするもないよ。どうしようもない」








* * *


冥府



魔王「……うーーー……。 ハッ」

魔王「ここはこの間来た……そうだ、冥府だ」

魔王「ゲホゲホ……まだ口の中に毒のあの味が残ってて、不愉快極まりない」

魔王「……よし、まずはあの鍵守という子どもを探して、扉を開けないと」

魔王「頑張ろう」



ザカザカザカ


魔王「! 向こうから人影が」

魔王「鍵守かな」タッ

魔王「……」

魔王「……?背が高いな。あの子どもではないのか……?」


魔王「!?」

魔王「勇者くん……!?」

勇者「てめぇぇぇ……」ザカザカ

魔王(しかもすごく怒っている)ギク

魔王(こ、こわい)ダッ

勇者「逃げるな」ダッ







勇者「お前ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」

勇者「なにしてんだよっ!!!!!なに毒飲んで自殺計ってんだよ!!!!」

勇者「なんでお前が死ぬところ二度も見にゃならんのだ!!!!」

魔王「何故勇者くんまでここに……」

勇者「冥府に来るって決めたなら俺に一言断ってからにしろよ!!!!俺も行くわ!!!」

勇者「どこでもいっしょに行ってやるよ!!!!!勝手に一人で行くんじゃねえよ!!!!」

魔王「……」

魔王「……一人でできる!ちゃんと覚悟はしてきた。私一人で解決して見せる」

魔王「……何故ここに来たのだ!この大馬鹿者!全くもう!」

魔王「…………もし創世主を何とかして、世界滅亡を止められたとしても」

魔王「冥府に一度来てしまった以上、もうあちらの世界には戻れないかもしれない……」

魔王「……ばかか……君は。 どうするんだ……」








勇者「お前こそ馬鹿か!!!ほんっと馬鹿!!!」

勇者「もう一度あんな真似してみろ、次は絶対許さないからな!!!!」

勇者「ふざけんな!!!!!ここに来たら戻れないかもしれないのはお前も一緒だろ!!!」

勇者「大体、今の魔王に何ができるんだよ。戦闘力-5000だろ!!!!
   なのになんでそんな自信満々なんだよ馬鹿かよ一人で何ができんだよ!!!」

魔王「できるもん!! 私に全部まかせてくれれば大丈夫なのにっ!ばかっ」

勇者「まかせられるかっ!!!だからっ意地張らないで頼れって言ってんだよ!!!!」

勇者「このやろーーーーーーーーーっ!!!!心臓止まるかと思ったわ!!!今もう止まってるけど」

勇者「俺の気持ちも ちったぁ考えろ この底なしアホ魔王ーーーーーーーーーっ!!!!!」

魔王「ぃ痛いっ 頬のびるっ」

魔王「……うう……。 ……ん? ……勇者くん……泣いてるのか」

勇者「は????????? 泣いてちゃ悪いか?????」

勇者「泣いちゃ悪いってのかよ!!!!!誰のせいだと思ってんだよ」

勇者「お前だよ!!!!!!!!」

勇者「何か言うことは?」

魔王「…………すまなかった」

勇者「何か言うことはっ!?」

魔王「えっ。 ご……ごめんなさい」

勇者「ちげーーだろ!!!もうしませんだろ!!!」

魔王「もうしませんっ」








勇者「勘弁しろよ……ハァ」

魔王「……しかし、どうやって冥府に?」

勇者「どうやってって…… け、剣だよ」

勇者「剣でこう腹をぐさっとな。ハラキリだ。ハラキリ……痛かったぜ」


スタスタ


鍵守「えっ……剣でしんじゃったの?」

鍵守「どくの方が、いろいろよかったんだけどな……」

勇者「だれだ?」

鍵守「冥府の番人だよ……。あなたが勇者」

鍵守「もし世界崩壊を止めることができたら、ボクがせきにんもってふたりを元のところにかえします」

鍵守「そのとき、毒の方がつごうよかったんだけど……」

魔王「それは困ったな。どうしよう……勇者くんが剣で死亡してしまったのだが」

勇者「えっと、いや……剣という名の毒死かもしれない」

魔王「剣で死んだ場合、どうなる……?生き返ることは無理なのか?どうしよう……」

勇者「あのさ、もしかして剣じゃなくて毒だったかも……」

魔王「でも毒は私が飲みほしたのだ。それはあり得ないではないか」

鍵守「剣などの外傷でしんだばあい、いきかえったさいに
   のたうちまわるほどの痛みをともないます」







鍵守「いきじごくといっていい痛みを経験することになります……
    もういっそころしてくれと言いたくなるような いたみが」

魔王「…………」

勇者「そ、そんな青ざめなくても、俺は大丈夫だ。
    いや、剣でやればよかったなと今思うが、あのときは咄嗟に……」

勇者「まあそんなことは創世主をどうにかしてから考えようぜ!!
    で鍵守、俺たちは何をすればいい?早く話してくれ!!」



鍵守「月へ」

鍵守「月にのぼって」

魔王「月?」

鍵守「あそこにみえるでしょう」

鍵守「ここには、いつも月がありません……それは月がセカイをつなぐトビラだから」

鍵守「いつかくるかもしれなかった日のための……今日のためのトビラ」

鍵守「ほんものの、トビラです……」

鍵守「彼に会いにいってね」







鍵守「カギは、これ」

鍵守「このセカイでボクだけがもっている、あちらのセカイのもの」

勇者「……これ、おもちゃの鍵じゃないのか?」

鍵守「そうでしゅ……かんだ。そうですよ」


鍵守「……このセカイをすくってください……さあトビラをあけて」

鍵守「勇者。魔王」



カチャ……。


バタン。








お兄ちゃんなんかだいきらい。








『創世記』



今日は雨が降っていた。
空がどんよりと曇っているのはいつもだけど、雨が降るのは久しぶりだ。

家に帰ると汚れた窓に妹が張り付いて、外の雨を見ていた。
体が冷えるから窓から離れろと言ったのに聞かない。
結露して曇ったガラスに指で書いた自分の名前を得意げに見せてきたが
綴りが2か所も間違っている。


固いパンを二人で食べた後は、いつも通り妹に読み書きを教える。
僕も学校に行ったことはないからそんなにうまい方ではない。
街の外れにあるボロい教会のイカレシスターに教えてもらったんだ。

だけど病気で滅多に外に出れない妹は、歩いてほんの少しの教会にだって気軽に行くことはできない。
だから僕が教えてやる。






もうすぐ妹の誕生日だ。
かと言ってケーキやおもちゃを買ってやれるわけではない。
そんな風に余分に使える金などないに等しい。

でもできれば妹の欲しいものをあげたい。
家から出られず、ポンコツの体をもって生まれてしまった妹の願いを叶えてやりたい。

訊くと本がほしいと言った。教会にあるような本。
僕が仕事に行っている間に、それで読み書きの練習をしたいってさ。

本なら教会にたくさんあった。
みんなが「不必要なもの」と考える本だ。
みんなは経済の本とか、数字の本とか、そういうのが「必要な本」で、
それ以外の「不必要なもの」や「ゴミ」をあのシスターは教会に集めている。

でも教会にあるのは、ページが抜けおちていたり、汚いシミがあるようなのばっかりだったから
できればきれいな新品の本をあげたい。

明日仕事帰りに本屋に行ってみよう。






― ― ― ― ―


本はどれも高価だった。
一番値段が安いのでも、買ったら今月の薬に使う金がなくなってしまう。

仕方なくノートとインクを買った。
白いノートと黒いインク。二つあわせても本の半分の半分の値段。

帰り道、ゴミ置き場に、誰かが捨てたオモチャの箱があった。
まだそんなに汚れてもいないし、壊れてもいない。
小さな鍵も中に入っていた。
僕はそれも持ち帰ることにした。


妹の、7歳の誕生日。


オモチャの箱も鍵も、一生懸命掃除をするとなかなかきれいになった。
でもこんなものしかあげられなくて悲しくなる。

そんなことをしている間に妹が目を覚ました。
おめでとうと言うと、ありがとうと笑った。




本が高くて買えなかったと言うと、謝られた。
「べつにいいよ。ごめんね」
代わりにいっしょに物語をつくって、それを僕が本にすると言うと
そっちの方がおもしろそうだと言ってくれた。







― ― ― ― ― 


どんな世界がいいだろうか。
きれいな空があるといい。

この街は僕たちが生まれるずっと前から灰色の雲に覆われている。
でも本当は、雲の向こうには青い空があるそうだ。
雲がなければ、夜には宇宙の色がそのまま見えるそうだ。

空気がもっときれいなら、雲も消えるだろうし、妹ももっと楽に息をできるはずなんだけどな。


それから海。
この惑星の半分以上を覆っていた塩水。
写真でしか、見たことない。


「いつか行ってみたいな。きっと街の外の砂漠を抜ければ、海があるのかもしれない」

「いきたいね……」

「そこにおかあさんとおとうさんもいるかもね」


青い空の下、青い海の中、家族4人でいる様子を思い浮かべた。
幸せな光景だった。






― ― ― ― ― 


それから太陽と星と雪をつくったよ。
全部見たことないから想像。

太陽がでてれば今よりずっと暖かくなるそうだ。
そしたら上着もマフラーも必要ないな。
妹も風邪をたくさんひかなくなるかも。

星は宇宙にある別の惑星らしい。
あんまり遠く離れてるから小さく見えるんだって。
昔の人は星座なんてものもつくってたって聞く。
夜空に穴を開けたみたいにきれいなんだろう。

雪もいつか見てみたい。
たまに降る濁ったネズミ色のべちゃっとした霙じゃなくて
真っ白な雪が積もるところを見てみたい。
妹ははしゃぐだろうな。


太陽の国と、星の国と、雪の国を今日は考えた。
僕たちの理想の国。海に浮かぶ小さな大陸。

街にある偽物の植物なんかじゃなくて、本物の花や木や草があるところ。
車も走ってないから排気ガスもない。灰色の雲に覆われてない世界。
たぶんいまは、惑星のどこを探したって存在しない、夢の大陸。







― ― ― ― ― 


それから月もその世界にはあることにしたよ。
暗い夜が怖いって妹が言うから。

さて本だから主人公がいなくちゃいけない。
やっぱり正義の味方が悪い奴をやっつけるのがいいと思った。

主人公、勇者。
悪役、魔王。

勇者が悪い魔王を倒しに行く本にしよう。
立ちふさがる悪の手下たちをバッタバッタをなぎ倒し、勇者は進む――。


「3日間にわたるたたかいの末、勇者はついに悪い魔女を倒したよ。
 魔女はつくった毒薬で村の人々を苦しめていたんだ」

「魔女の次は竜の谷へ勇者は向かった。
 そこに住んでるドラゴンに、王国の姫がさらわれてしまったんだ」

「勇者は聖なる山のてっぺんにあるドラゴンスレイヤーを引き抜いて、
 それを引っ提げて竜の谷へ……」







「ねえ、お兄ちゃん。シスターさんのところにある本って」

「どうしていつも魔女と竜はわるものなの?」

「どうしていつも魔王は勇者のてきなの?」

「どうしてって……悪い奴がいないと盛り上がらないだろ」

「でも、やだな。みんななかよしがいいな……」

「お兄ちゃん。せっかくきれいな空と海があるセカイなんだから、みんななかよくしようよ」

「……それも、そうか」


妹の誕生日プレゼントだし、妹がすきそうな話にしたかった。
勇者は剣を持ってるけどあんまり使わない。ちょっと抜けてて、でも明るい。よくしゃべる。
魔王は角が生えてて青色の肌をした怖いおじさんじゃなくて、妹と同じ年くらいの女の子にした。

めったに外にでれないから、妹には同じ年の友だちがいない。
僕くらいしか喋る相手がいない。
だからせめてあっちのセカイに妹の友だちをつくってやりたかったんだ。






それから夜寝る前に僕は思いつくまま妹に勇者と魔王の話をして
空いた時間にそれをノートに書いてった。

どこかで聞いた物語のストーリーや展開のつぎはぎ。
ご都合主義だらけの変な話。

それでもそれを話すと、妹が楽しそうだったから
まあ、いっかって。


こんなの読むよりもっと役に立つ実用書を読むべきだってみんな言ってる。
現実にはハッピーエンドなんて存在しないから。
夢を見てる暇があるなら、金を稼いだり、そのための勉強をするべきだって。

僕もそう思う。
金がないと何もできない。金はあればあるだけいい。
金があれば、妹の病気も治せるし、毎日お腹いっぱい食べれる。
金があったらお母さんとお父さんも出て行かなかっただろう。


でも妹が嬉しそうに僕が書いたノートをめくっているときだけ……
ちょっとだけ、本当にそうなのかなって思うよ。





― ― ― ― ― 


最近、少しだけ妹の咳が多くなっている気がする。
夜ずっと咳が止まらず明け方まで続くこともある。


やっぱりこの薬だけではだめなんだろうか。
もっと効き目のある薬も売ってるけど……高い。

入院させたいけど、保険に入ってないし、そもそもそんな金もない。


でも明日には……明後日には、遅くても来週までには
きっと妹も以前のような体調に戻るはずだ。今、ちょっと調子が悪いだけ。
きっとそうだ。





― ― ― ― ― 


妹が熱をだした。38度を超える高熱だった。
ずっとそばにいてやりたかったけど、仕事は休めなかった。

仕事を終えて、工場長の怒鳴り声を無視して走って帰った。
妹は眠ってただけだったけど、一瞬死んじゃってるように見えて
足に力が入らなくなって膝をついてしまった。


「ゆめみてたよ……。森があって……きれいな空で」

「太陽がきらきらしててあったかかった……お兄ちゃんが丘にいて」

「勇者と魔王もそこにいて、お父さんとお母さんもいて、みんなであそんだよ」


熱は数日後下がった。けれど咳をする頻度は減らなかった。
重たい咳が増えた。夜通し咳をするようになった。
苦しそうだった。
何もできなかった。








― ― ― ― ― 


シスターみたいに神様を信じたことはなかったけれど
いつも気づけば手を握りしめて神様に祈っていた。
どうか妹が死んでしまわないようにって。


せっかくノートに書いたのに、夜寝る前に決まって
妹は僕に話をしてくれと頼んできた。

一応、僕がいない間にノートは見てるみたいで
ちょっとは読み書きも上手になっていた。
たまに字の書き間違いがあるけれど。

いつかちゃんと学校に行かせてやりたいな。
僕の分もいっぱい勉強して、いろんなことを知ってほしい。


でも、そんな日は本当に来るのかな。
枕をしきりに隠すので見てみると赤黒いシミがあった。
咳をしていて血を吐いたらしい。

次の日、仕事中にうっかり泣くと工場長に怒鳴られた。
妹じゃなくてこいつが死ねばいいのに。

なんで僕の妹なんだ?






― ― ― ― ―


仕事から帰ると妹が、あの誕生日にあげたオモチャの鍵をもてあそんでいた。
箱に何かをいれて、鍵をかけたらしい。

何をしまったのかと聞くと、秘密だと言って教えてくれなかった。
気になったけど追及はしなかった。



最近、ふと気付くと妹が遠くを見つめていることが多い気がする。
その瞳がぞっとするほど澄んでいて
僕は妹がどこか遠いところに行ってしまうんじゃないかと怖かった。

声をかけるといつもみたいにちょっと笑った。
食欲が落ちて、腕が枯れ木みたいに細くなってしまった僕の妹。
まだ手も足も小さくて、これから大きくなるはずなのに。





― ― ― ― ―


神様に祈ることより、別のものに祈ることが多くなった。


今日は僕の誕生日だった。
食堂の○○がこっそり高いパンや食べ物をくれた。嬉しかった。

でも帰り道、奪われてしまった。
殴られた頬がぱんぱんに腫れて、蹴られた腹はドス黒い痣になった。
口の中は鉄の味でいっぱいになった。鼻血を出したのなんて久しぶりだった。


――もし勇者がここにいたらやり返してくれただろう。
奪われたパンも取り返してくれただろう。



妹はどんどん顔色が悪くなった。
咳も止まらなくなった。
もういつも買っていた薬はあんまり効き目がないみたいだった。

パンひとつすら全部食べられなくなった。
元から小さい体が、どんどん小さくなっていく。

――もし魔王がいたら、魔法で妹の病気なんてすぐ治るに違いないのに。
魔法があったら、こんな苦しい思いさせずに済むだろう。


魔法があったら
妹は死なないのに。






― ― ― ― ―


僕はずっと頑張っていた。
たくさん金を稼ぎたかったから仕事を頑張った。
いつか戦争で使うための武器をつくる工場で
怒鳴られながら、踏みつけられながら、ずっと頑張っていた。


妹を死なせないように必死に頑張っていた。
貧困区の隅の小さなアパート。
隙間風の通る灰色の部屋で、妹といっしょに夢を見ることだけが幸せだった。

「ただいま」と言って扉を開けると
「おかえり」と言って迎えてくれることだけが嬉しかった。




僕はいつか報われるはずだってずっと思っていた。






― ― ― ― ―


妹がしんた゛


8さいのたんし゛ょうひ゛







『終末記』



頑張ったって報われることなどない。
魔法なんてものはない。奇跡もない。

「勇者」も、「魔王」も、僕たちを救ってくれるものは何もないんだった。
そんなことは分かっていたはずなのに。

ノートの最後のページの「ハッピーエンド」をインクで塗りつぶした。
全部ぐちゃぐちゃにした。
こんなもの、なんにもならなかった。

もういらない。見たくもない。

あいつが大事にしていたオモチャの箱にそれを入れて鍵をかける。
鍵は、墓にいっしょにいれた。
ずっと大切そうに首からぶらさげていたから、そのまま。


生きる意味はなくなった。
それからずっと、亡霊みたいに暮らしてる。
多分これから一生。



今日はここまでです
こういうストーリーにしちゃうとなんかアレなんですが
一応言っとくと>>1≠僕 です。これは完全にフィクションです


そこと繋がるのか

SSの続きもゲームも楽しみだ
乙!



シスター「アブラカタブラ、アバダケダブラ、チチンプイプイ」

シスター「さあ悪魔よ、我が呼び声に応え今こそ来られたし!!」



シスター「チッ……こねーな」

シスター「やっぱ本物の血じゃないとだめなのか?さすがにさわりたくねーなぁ」

シスター「とりあえずこの魔法陣は消すか……」

シスター「雑巾雑巾……」


ドサッ


   「ぐぁっ」

シスター「あぁん?」クル

勇者「いてて……ここは? あんた誰だ?」

シスター「…………」

シスター「……た……」

勇者「え?」

シスター「……ほんとにきた……」

シスター「……悪魔はいたのか……」

勇者「は?」








―――――――――――――――――
―――――――――――
―――――――


勇者「だから!何度も言うが俺は悪魔じゃなくて人間だ」

シスター「いやいや、じゃどっからお前現れたわけ?さっきまでこの部屋には私しかいなかったのに
     振り向いたら悪魔召喚の魔法陣の上にお前が立ってたんだぜ」

シスター「悪魔しかいねーだろ」

勇者「えっあれ魔法陣だったのか?ぐちゃぐちゃだったからただの落書きかと」

シスター「失礼な悪魔だな」

勇者「だから違うっつの。俺の姿かたちを見ろよ。どこに悪魔要素がある」

シスター「でも変な格好してる。とても一般人には見えんな。
      そんな馬鹿でかい剣なんて腰にぶらさげてんのは、役者か悪魔くらいのもんだろ」

勇者「変な格好……?普通だろ。俺は役者でも悪魔でもないよ。
   悪魔と似たような知り合いはいるが、俺は勇者だ」

シスター「で悪魔に頼みがあるんだけど」

勇者「人の話きけよ」

シスター「命と引き換えに何でも願い叶えてくれんだろ?」

シスター「ある会社を潰してほしいんだよね」

勇者「カイシャ? なんだそれ……?」

シスター「んー……。お金を稼ぐために存在してる組織。営利団体。かな?
     まあ見せた方が早いか。外いこーぜ」





ブロロロロロ ……
  パッパー ゴトンゴトン……


勇者「……………………………………」

勇者「な……なんだここ……?」

勇者「……変な馬が走ってる……すげえ速い……」

シスター「あれ車っていうんだよ。悪魔にはカルチャーショックでかいんかな」

勇者「なんでみんな変な格好してんだ」

シスター「私的にはお前の方が変な格好だけど」

勇者「ごちゃごちゃしててうるさいな……それに、空気が……なんか臭い。ゲホッ」

シスター「もう慣れちまったから何も感じないよ。
     気になる奴はマスクしてるけどあんなもんじゃどうにもならねーな」

勇者「あとなんであんなにたくさん立て札が?見てて目が痛くなる」

シスター「ありゃ広告と看板だよ。そろそろ質問責めやめてくれる?自分で考えな」



勇者「うう……なんだここ。俺は確か魔王と扉を抜けて」

勇者「確か鍵守は彼に会えって言ってたな」

勇者「ここは俺たちの世界とはまた別の世界……なんだろうな。
   創世主が住んでる世界、なのか」

勇者「……ここにいるのか、あいつが」

勇者「……つーか魔王は?どこいった」


勇者「なあ、俺といっしょに女の子がいたはずなんだが知らないか?」

シスター「ふうん?しらね―けど。 魔法陣の上に立ってたのはお前一人だけだった」








シスター「お、ここ止まって。これ見ろ悪魔。この会社を潰せ」

勇者「箱……? なんだこれ!?中にどんだけ小さい人間が入ってんだよ!?」

勇者「魔法か?」

シスター「魔法じゃあない。詳しい仕組みは私にも分からん。テレビっつーんだよ」

シスター「いま映ってる大企業潰してくれ。てっぺんに飾ってある緑色のえらそうな旗を焼いてくれ」

シスター「むかつくんだよ、ここのボス。きたね―商売しやがって」

勇者「これが魔法じゃないだと? じゃあ何だって言うんだよ……すげえ動いてるけど……」

勇者「頭痛くなってきた……もうわけわからん」

シスター「おい聞いてるか?この会社だぞ、間違えんなよ」



シスター「この会社はな、この街の外、砂漠を越えた先の都市にある」

勇者「はあ……そっすか。じゃあここはどこなんだ?」

シスター「ここは街の一番隅っこにある貧困区。ゴミ捨て場みたいなもんだ」

シスター「あっちにある大きな橋の向こうが一般区。豊かな連中が住んでるよ」

シスター「一般区が中央区をぐるっと囲んでるから、一般区を超えると中央区。
     私が想像もつかないくらい豪華な暮らしをしてる連中がいる」

シスター「都市に行くには中央区の駅へ行って列車に乗るしかないんだけど、
     この切符代が馬鹿だかい。貧困区の連中にゃとても買えない」

シスター「だからお前に頼んでる。あの会社を潰してこい」







* * *


工場長「またヘマしたのか!!なんでお前はそう覚えが悪いんだ!?」

少年「すみません」

工場長「謝りゃいいと思ってんじゃねえだろうな!クビにするぞ!」

少年「すみません」

工場長「1時間で全部仕上げろと俺が言ったら何があろうと仕上げるんだよ!!」

少年「すみません」

工場長「てめーのせいで工場全体が不利益を被るんだ、わかってんだろうな」

少年「すみません」

工場長「今月の給料は減らす。文句はねーだろうなクソガキ」

少年「すみません」







○○「……よっ。今日はなに食べる」

   「おう坊主。こっち来いよ」

   「俺も今日あのジジイに怒られちまったぜ、やんなるよな」

少年「……ああ」

少年「うん。別に」

少年「どうでもいいよ」

○○「……」

○○「妹さん亡くなって、もう1年……か?」

少年「そんな経ったっけ」

○○「まあ、なんだ、その……元気だせよ。 な?」

少年「元気だよ」

○○「……そうか? ならいいんだけどよ」




  「なあおい聞いたか今のラジオ?」

  「あの連続殺人犯が南に護送中に逃げたってよぉ。せっかく捕まったのにな」

  「それ結構前の話じゃねーか? こええなぁ。物騒な世の中だぜ」

  「ま、殺人犯がいてもいなくっても、クソみたいな街ってことは変わんないけどな」

○○「殺人犯ねぇ……。こええな」

少年「……ごちそうさま」

○○「もう行くのか? ああ、じゃあな……」








スタスタ


少年「……」

少年「……」



キキーッ!!



警官「ちっ! おいあぶねーぞ坊主!!ふらふら歩いてっと引かれちまう!!」

後輩「や、先輩の運転も荒すぎますから」

警官「バッキャロー荒くもなるっつーの!!ちくしょう!なんで俺がこんな貧困区のパトロールなんかせにゃならんのだ!!」

後輩「先輩が、ずっと追っていてやっと捕まえた護送中の連続殺人犯を南で取り逃がしたからです」

後輩「そのヘマのせいで殺人課の刑事やめさせられて、ここの交番に配属されたからです」

後輩「中央区勤務でエリートだったのにも関わらず貧困区に配属になって、奥さんや子供に逃げられたのもそのせいです」

警官「うるせーっ!!いちいち冷静に返すんじゃねーよ!!!」

後輩「先輩が訊いたんじゃないですか」

警官「うるせーっ!!この童貞!!殴るぞテメーッ!!」

後輩「童貞じゃありません。警官がそんな言葉づかいやめてください。だから奥さんと子どもに逃げられるんですよ」

警官「そのことはもう言うな馬鹿野郎!!絶対復縁してやるクソが!!」







警官「あいつは俺が絶対捕まえてやる。あいつは俺にしか捕まえられねーんだ」

後輩「一度都落ちした先輩にそんなことできるんですかね」

警官「できるに決まってんだろドチキショウ!!」


警官「おらおらどけガキども!!!車道に飛び出すんじゃねー邪魔だオラァ!あぶねーぞ!!」






少年「……」

少年「……」

  
   「はい、これ」

少年「……?」

花屋の女「あげるよ。間違って切っちゃったんです」

少年「……別にいらないよ」

女「偽物の花でも、誰かにプレゼントされると嬉しいって、人間は思うものでしょ?」

女「そう思うはず」

女「なんだか君が暗い顔をしていたし、私も間違って切っちゃったことばれたら怒られるから、ちょうどいいじゃない」

女「受け取って」

少年「……じゃあ」

少年「……どうも」

女「いえいえ」







アパート


少年「こんなのもらっても……な」

少年「飾ってもしょうがないし」

少年「捨てるか」


ドンドンドン!!


男「おい。いるのは分かってる。出て来い」

少年「……!」


少年「……帰れ!何度言われても僕はどこにも行かない」

男「立ち退いてもらわないと困るんですよ。こっちも遊びでやってるんじゃないんでね」

少年「急に現れて家から出て行けなんて勝手なことを言っておいて……」

少年「ここは僕の家だ。……僕たちの家だ」

男「もうここら一帯のほとんどの連中が立ち退いたんだぜ。あとはお前さんと少しだけだ。もう諦めろよ」

男「工事ももうすぐはじまる予定だ。そろそろ本格的に立ち退いてくれねーと困るよ」

男「はぁ。ここらへんで言うこと聞かないと、俺より怖い奴らが来るぜ。俺はまだ優しい方だ。
  うちのボスはそりゃあ金のためなら何でもやるからな。ガキでも容赦しねえぜ」

男「……また次は誰かが来る。そんときまでにどっか行っとけ」




少年「……」

少年「ここを出たっていくところなんかない……」

少年「この家だけは……」







* * *




魔王「…………」

魔王「…………」

魔王「……ふう……いったん落ち着こう」

魔王(見慣れぬものばかりだ。どう考えても別世界……ここに創世主がいるのか)

魔王(人が多いな。どうやら魔族はこの世界に存在しないようだ。もしくはここが人だけの街なのか……)


がやがや がやがや


魔王(言葉は分かる。意志疎通は問題なさそうだ)

魔王(だが服装……かなり私はここで浮いているな。仕方ない)


ジロジロ……


魔王(視線をものすごく感じる。立ち止まっているより歩き続けていた方がよさそうだ)スタスタ

魔王(勇者くん……どこにいるのだろう)

魔王「わっ……?」


ビュン


魔王「なんだ、あの箱は? 馬車ではない。人が中にいた」

魔王「それに、こ、この中から人の声がする小さな箱は……?」

   「ちょっと!うちの店のラジオに勝手に触んないでおいとくれ!」

魔王「らじお?」

魔王(魔族はいないのに魔法はあるのか……。しかし一体どんな呪文の魔法なのだろう)

魔王(見たところこの街には魔法が溢れかえっているようだが、どれも全然仕組みが分からないものばかり。
    この世界はかなり魔法が発展しているようだ)

魔王(すごい……。落ち着いたら色々ここで魔法を学びたいな。こんな街があったなんて……)







魔王(……でも)

魔王(魔法が発展している割には……街の様子がどうも変だな。
   皆貧しい身なりをしているし、道のいたるところにゴミが落ちているし)


男「……へへ」

女「ひそひそ……」


魔王(なんだか嫌な感じだ)

魔王(治安はよくないようだな。これほど魔法が発展しているのならもっと治安が良くてもよさそうなものだが)




ドゴッ


「おい……持ってんだろ?出せよ、金」

「持ってない……」



魔王「……ん?」







男A「ウソつくのはやめろよ。今持ってる金全部わたしゃいいんだよ。
  お前、あっちの工場で働いてるんだろ」

少年「……金が欲しけりゃ自分で働けよ。盗みばっかしてないで」

男B「お前だってここらにいるって時点で、俺らと同じようなもんだろ!はは!」

少年「僕はお前らとは違う……」

男A「あんだと?生意気言うじゃねーか。スラム街の小僧が」

少年「それに本当に今は金がない。殴りたきゃ殴れよ」

男B「……ふん。じゃあお望み通り」


魔王「待て。何をしているのだ」スタスタ

魔王「大の男が子どもに寄ってたかって、恥を知れ」

男A「あぁ?誰だてめえ。邪魔すんじゃねぇよ」

少年「……?」

魔王「……君……どこかで私を会ったことがないか?」

少年「はあ……? ねえよ」

少年「誰だよアンタ。どっか行けよ」

男B「お前、そのガキの知り合いか?だったらそのガキの代わりに金出せよ」

少年「いや、知り合いじゃない。誰だよほんと」

魔王「……これを持って行け」ジャリッ

少年「おい!?」







少年「なに余計なことしてんだよ!」

男A「ん?なんじゃこりゃ。おいこれどこの国の金だよ?こんなんじゃ使えねーな」

魔王「……あ、そうか。では私も金などない」

魔王「貴様らと同じ一文なしだ。この少年も金を持っていないと言っている。
    私たちからは金を巻き上げることはできんぞ。大人しくどこぞへ行け」

魔王「こんな真似をしていないできちんとした方法で金を稼ぐことだ」

男A「金がないくせにやたらと偉そうだぞ、この女……」

男B「俺らと同類のくせして……」


少年「おい、変なこと言ってないでどっか行けよ」

少年「こいつらは殴ってれば気がすむんだよ。余計なこと言うな」

魔王「彼らは気がすむかもしれないが、君は気がすまないだろう。殴られれば痛いはずだ。何故許容する」

少年「別に……死にはしない。ずっと我慢してればこいつらも飽きてどっか行くんだ。
   だから早くどっか行けよ。余計な世話だ」

少年「僕を助けたつもりなのかもしれないけど、僕はどうだっていいんだ こんなの」

少年「どうでもいい」








魔王「どうでもよくない」

魔王「どうでもいいことなんて何一つないだろう」

少年「……アンタに何ができるんだよ。早く行かないとアンタが」

男A「ん?そういえばお前、高そうな服着てるな……中央区のお嬢様か?
   なんでそんな奴がここにいるのか知らないが、金持ってないってのはうそだろ」

魔王「先ほど渡したもので全てだ。一文なしだ。路頭に迷う予定だ」

魔王「悪いか?」

男A「だからなんでそんな自信満々に……!?」

男B「おい、こいつの服を売ればそれなりに儲けそうじゃあないか」

男A「確かにな」

少年「ほら、だから言っただろ。さっさとどっか行けよ、頭いってんのかアンタ」


魔王「ふざけたことを。後悔するのはそちらの方だぞ」

魔王「そこから一歩でも動いてみろ。泣いて許しを乞いたくなっても知らんぞ」

男A「なに……!?」

少年「え……?」

少年(まさか……銃とか?それとも武術?)

少年(全然強そうに見えなかったけど、何か奥の手があるのか……?こいつ何者だ?)

男B「ふん……ハッタリだろ!」

魔王「早合点はよくないぞ。後で自分の首を絞めることになる」

男A「こいつのこの様子……何かあるみたいだぜ……慎重にいかねえとな」










魔王(……あ、杖を持っていなかったな)

魔王(まあいい。多少手加減ができなくなるだけだ。彼らに少々灸を据えねばな)

魔王(…………あれ?)

魔王(……あ。いま魔法が使えないのだった)


少年(何がはじまるんだ……?)

魔王「少年」

少年「えっ……?」

魔王「逃げるぞ」

少年「………………………………は?」



男A「おい逃げたぞあいつら!!!」

男B「やっぱりハッタリだったんじゃねえか!!コケにしやがって!!」

男A「捕まえたらタダじゃおかねえ!!ガキの方もぶっ殺してやる!!」






ダッダッダッダ……


少年「……なんなの?お前馬鹿なの?」

少年「……結局煽るだけ煽っただけかよ?何もできないなら余計なことほんとにすんなよ。
   殴られるだけならまだしも、あいつらに捕まったら僕ぶっ殺されるそうなんだけど?」

少年「完全に状況が悪化してるんだけど?」

魔王「すまない。でも本当は何かできるはずだったのだ。
    今は魔力がなくて魔法が使えないだけで」

少年「……はぁ?魔法?」

少年(まずい…… 本当の本当に頭がいかれてる奴だった……妙な奴に絡まれた……)

魔王「それに、君が捕まることはないから安心してくれ」

魔王「君はそこを右に曲がれ。私は左に行く」

少年(よかった、これでこいつと離れられる)

少年「分かった」



少年「はあ、はあ……!」

少年「ってこっちに来たらどうするんだよ……!」


ドガシャーン!


男A「左だ!!追うぞ!!」

男B「分かってる!!」


少年「……!?」

少年「……あいつ……わざとやったのか?」




少年「……別に僕には関係ないことだ」

少年「……僕はあのとき、どっか行けって言ったのに、あいつが首つっこんできたから」

少年(自業自得だろ)

少年(変なこと言う奴だし、あんまり関わり合いたくない)

少年(……明日も仕事だ。早く帰ろう)







* * *


魔王「……」

男A「っへへ追い詰めたぜ。行き止まりだ。おいあのガキはどこ行った?」

魔王「さあな」

男B「まあいい。お前の服もらうぜ。そうすりゃ一月は不自由しないで暮らせそうだ」

魔王「いまここで裸になれと言うのか?この私に、痴女になれと?」

魔王「私に、こんな屋外で猥褻物を陳列しろと? ふざけるのも大概にしろ」

魔王「私の服を売る前に、自分の服を売ればよいではないか?それとも自分が服を着ていることに気付いていないのか?
   下を見てみろ、シャツをズボンとブーツがある。それを売れ」

男A「こ、こいつ馬鹿にしやがって……中央区の連中はこれだから腹立つぜ」

男B「俺たちのこといつもそうやって見下しやがる。思い知らせてやるよ、世間知らずのお嬢さんによぉ!!」

魔王「いいだろう、かかってこいっ! こちらとて今まで伊達に生き伸びてきていない。
    みくびったこと必ず後悔させてやる!」


ザバァァァァン!!


男A「ぶっ!?」

男B「なんだっ!?」

魔王「? 水? 空から……」

少年「逃げろ!」

魔王「さっきの少年。何故……」

少年「早くしろよっ! 横の建物に入れ」









男A「あっくそ!女が逃げたぞ!」

男B「ビルの屋上から水ぶっかけやがったのはさっきのガキか……!あいつらもうただじゃおかねえ!
   俺はガキをとっちめてくる、お前は女を追え」

男A「ああ!」



魔王(横の建物、横の建物……これか!変な建造物だな……レンガでも石でもない)ガチャ

男A「どこ行った、うおおおおおお!」

魔王「通り過ぎたか。馬鹿で助かった。後もう一人……」


少年「一人こっち来たか……」

男B「へっ 馬鹿め。屋上なんてこの階段しか逃げ場がねえんだ。もう逃がさないぜ」カンカン

男B「大人しくまってやがれ……!」カンカン

少年「そろそろか」


シュルッ シュルルルル


男B「なっ パイプを伝って下りるだと!?てめえ、そんなアクション映画みたいなことしてんじゃねえよ!」

少年「ひぃぃっ 怖っ……!! くそもう二度とこんなことしないっ」スタッ


タッタッタ……


魔王「そのまま直進しろ。そこ1.5mほどジャンプして」

少年「なっ!!お前なにまだここにいるんだよ馬鹿かよ」

魔王「いいから」サッ






男B「待てクソガキ!!!」ダダダ

魔王「……」クイ


ピン


男B「のわっ!? なっ、な、……」

男B「な!?」


 バキッ ドンガラガッシャーン

 ギャァァァァ……


少年「はあっ はあ…… え? あの男は? なにこの穴」

魔王「さあ。開いていたのだ。そこの建物にあった薄い板を上にかぶせて落とし穴にした」

少年「ああ、確かここ工事中だったな」

魔王「助かった。ありがとう」

少年「……いや……まあ……」

少年「……今回は無事に済んだけど、もうああいうのやめた方がいいと思うよ。じゃ、ここで」

魔王「待ってくれ」

魔王「君に妹はいないか?」

少年「…………!」

少年「なんで……」

魔王「私も何故だか分からないのだが、君のことをどこかで見た気がするのだ」

少年「……いないよ」

少年「いない。人違いだろ」








魔王「……そうか」

少年「じゃあ、さよなら」

魔王「あっ 待ってくれないか。ここに来たのは初めてで、連れともはぐれてしまって……
   できればここのことを教えてほしいのだが」

少年「え……いやだよ」

少年「どうせアンタ中央区からきたいいとこのお嬢様なんだろ……こんなとこにいないでさっさと家に帰れば」

魔王「中央区?いや違う。その……記憶喪失で。どこから来たのか分からない」

少年「記憶喪失なのに連れがいたことは覚えてるのか?」

魔王「部分的記憶喪失なのだ」

少年(怪しい……)

魔王「頼む。この街である人物を探さないと、私の……街が危ないような気がする。だからこの街の知識がほしい」

少年(…………)

少年「まあ、少しの間だけ……なら」

少年「……名前は? アンタの名前」

魔王「私は魔王だ」

少年「は?」

魔王「魔王だ」

少年(……………うわ………………………)



少年「やっぱさっきのなしということで……じゃあ、ここで解散」

魔王「待ってくれっ、嘘ではない。本当のことなのだ」

少年「ついてくんな……」






* * *


少年「ついてくんなって言ってんだろ!!」

魔王「ここが君の住んでいるところなのか?建物はたくさんあるが、人気が全くないな……。まるでゴーストタウンだ」

少年「聞けよ! 家までついてくるつもりかよ。絶対家には上げないからな」

魔王「家族がいるのか?」

少年「……いねーよ。わりーかよ。どうせお前には待ってる家族がいるんだろ、早く帰れよ。どっか行け」

魔王「いや、こちらでやらねばならんことがある。それに私も血の繋がっている家族はもういない」

少年「え?」

魔王「ところで、この街は夜でもとても明るい。火ではないな、何故あんなにも明るいのだ」

少年「あれは……電気だけど。火なんて街灯に使うのは何百年も前のことだよ」

魔王「でんき……」

少年(電気もしらねーのかよ……まじでこいつなんなんだ……早く縁を切りたい……)


魔王「でも、君の住んでるこの地区は全然灯りがないな」

少年「……もうほとんど誰も住んでないから」

少年「……!! 家の前に……あいつ……」







黒服「やっとお帰りですか」

少年「……また来たのかよ。帰れよ!僕は立ち退かないぞ!!」

黒服「そんなに強情を張られると、こちらも強硬手段にでるしかなくなりますが」

少年「何をされようとこの家を渡すつもりはない。ほかのみんなが立ち退いたって僕は……」

少年「っ……!早く帰れ!!」ガチャ

黒服「社長のご命令ですので。早くこの書類にサインを頂きたいのです。
    家に上がらせてもらいますよ」ガッ

少年「なっ やめろ!勝手に入るな、この野郎!出て行け!!」

黒服「汚い家ですね。 で、お父様とお母様は?会わせて頂くまでここに居座り続けますよ」

少年「お父さんもお母さんもいねーよ!この家には僕一人だけだ……
    だから、この家だけが家族の思い出なんだよっ!壊されてたまるか!」

黒服「じゃお前がこれにサインすれば全部終わるわけだ。どうする、死ぬかサインするか?」チャッ

少年「……け……拳銃?」ゴク

黒服「……」

魔王「けんじゅう、とはなんだ?」

少年「……んなっ…… なんでお前まで入ってきてんだよ!!!っも帰れよ、お前ら帰れ!!」

黒服「ん……?家族はいないってさっき言わなかったか?誰だ」

少年「僕が訊きてえよ。誰だよこいつ」

黒服「部外者ならとっとと出てくんだな。拳銃っていうのは、引き金引いただけで人を殺せる便利な道具だよ」

魔王「では何故その危険な道具を少年に向ける?やめろ」

黒服「フン。……ん?よく見ればなかなかかわいい面してるお嬢さんじゃないか。こりゃいい拾いもん……」

魔王「さわるな。薄汚い豚め」

黒服「ぶ……豚!?」ゾクッ






黒服「この鍛え上げた体脂肪4%の肉体を持つ俺に……言うに事欠いて豚だと?」

魔王「貴様の内面が贅肉だらけの気色悪い豚だと言ったのだ。武器を子どもに向けるな」

魔王「こちらへ来い。4足歩行でな。首輪も必要か?しつけのなってない駄犬だ」

黒服「く、首輪!? だ……駄犬!?!?」ゾクゾク

黒服「な……なんたる屈辱……この俺に」スタスタ

魔王「犬は2足歩行しないだろう。私の話を聞いていたのか。とっとと屈め」

黒服「な、なんだとぉ……!?」ペタン

魔王「そうだ、いい子だ。さあそのまま外の手すりまで来い。……遅い。駆け足」

黒服「く、くそう……こんな娘に……」ゾクゾク

魔王「手すりから身を乗り出せ。もっとだ。もっと」

黒服「落ちてしまうじゃないか!」

魔王「犬ってどうやってなくんだっけ」

黒服「ワン!ワン! ワ……」

魔王「よくできたな」ドン


アーーーーーーーーー…


少年「馬鹿で助かった……」

魔王「馬鹿で助かったな」



今日はここまでです

ただのドMじゃないですかやったー
魔王もなかなか肝が座ってるな

ザワザワ馬鹿だったの
おつ

これは馬鹿 乙




魔王「彼は?知り合いではなさそうだな」

少年「当たり前だろ。……あいつは……どっかの会社から派遣されてきた奴だよ。この間は違う奴がきてた」

少年「……このあたりは貧困区でも一番貧しいところなんだ。
   さっき僕たちがいたところは、その中で最も治安が悪いところ」

少年「お偉いさんたちは、掃きためを壊してここら一帯に楽しい楽しいテーマパークをつくるんだってさ」

少年「治安が悪くて、貧乏人ばっかり住んでる汚らしいところを壊して有効活用しようってわけだ」

魔王「てえまぱあく……?」

少年「……遊園地」

魔王「ゆうえんち……?」

少年「疲れる……とにかく、客がいっぱい来て金儲けできるところだよっ」

少年「もうこのあたりに人が住んでないの見たろ。あいつらが脅してここの住人を追いやったんだ」

少年「……」

魔王「そうか……。それはひどいな。家を奪うなんて。 では取引をしないか?」

魔王「またあのような者が来たら私が追い払う。そのかわり、私にこの世界のことを教えてくれ」

少年「……ハァ?次来る奴もさっきみたいな変態ドマゾ野郎とは限らないだろ」

魔王「大丈夫だ。自信がある」

少年「……なんの?」







魔王「だから明日も来ていいだろうか?頼む。君しか今頼れる人がいない」

少年「……いやだ。首つっこんでくんな。それに僕は明日仕事だから」

魔王「仕事をしているのか?君はいまいくつだ」

少年「……11。……」

魔王「……そうなのか。えらいな君は。よしよし」

少年「なんだよっ!やめろ。……お前みたいな金持ちにこんなことされたくない」

魔王「金持ちではないのだが、気に障ったのならすまん。でも明日また会いにきてもいいだろうか」

少年「……………………じゃ明日だけ……」

魔王「ありがとう。恩に着る。ではまた明日」ガチャ




少年「……どっか泊まるアテあるんだろうな」

魔王「ないが、別に外で寝ることには慣れている。昔はよくそうしたものだ」

少年「ないって……ここらへん特に夜は治安悪いって言っただろ。……どうするんだよ」

魔王「何とかなるはずだ。君は明日の仕事のため早く寝た方がいい」スタスタ

少年「……~~身ぐるみ剥がされるぞ!………………分かったよ、あがれよ!」

少年「黒服追っ払ってくれた礼だ。ただし今日だけだぞ。今日だけだからな」

魔王「いいのか?ありがとう。悪いな」

少年「ただこのベッドには触るな。戸棚も開けるな。クローゼットも開けるな」

魔王「分かった」








* * *


教会


勇者「そのカイシャ?っていうのを潰せって言われたって、どうすりゃいいんだよ」

シスター「文字通り悪魔のすごい力で物理的にぶっ潰してくれ」

勇者「いや、でも俺にはほかにやることがあって……そんな暇はない。都市って遠いんだろ?」

シスター「列車で数百キロ走るからまあ遠い。さらにこっから中央区の駅まで行かないといけないからもっとかかる」

勇者「れっしゃ?えき? はあ……」

勇者「とにかく無理だ。俺は今日街を歩いてくる。魔王と創世主探さないといけないんだ」


スタスタ


シスター「魔王……?創世主? そっちの方が強そうだな……」







勇者「妙な世界に来ちまった……」

勇者「どうするか。ま、適当に歩くか。しっかし治安の悪いところだなぁ。魔王大丈夫かな……」


キキーーーーッ!!


勇者「!?」

警官「おう兄ちゃん。なんだお前、変な格好してんな。旅行者か?こんな貧乏地区に」

警官「その腰にぶら下げてるもん見しちゃくれねえか?」

勇者「剣か?いいよ。はい」

警官「ほほう。本物か……かなりよく斬れそうだねい」

勇者「まあな、けっこう名のある剣なんだ」

警官「そうかそうか。で、両手を上げてくれるか?そう。揃えてな」

勇者「?」

警官「はい逮捕」ガチャ

勇者「あーーーーーーーーーーーーっ!?」

勇者「て、手枷!?おいなにするんだよ!!俺が罪人だって言うのか!?」

警官「バリバリ罪人だろうが!!こんな大型刃物、ぶらぶらぶら下げて歩きやがって!!銃刀法違反だバカヤロー!!
    おらパトカーに乗れ!!署に来い!!てめーみたいな不良犯罪者を捕まえて俺は地道に点数稼ぎしてんだよ!!」

後輩「こすいですね先輩」

勇者「剣持ってて何が悪い!?普通だろ!」

警官「あー?開き直んのか?さっさと乗れドアホ!!」

勇者「どわっ」ヒョイ

勇者「剣返せ!!」サッ

警官「あっ オイ待て犯罪者!!! くそ逃げやがった。追え後輩。車を出せ!!」

後輩「へいへい」


ギャリリリリリリリリ


勇者「うわーっ 何だアレはえーっ!!国王より速い!!」







警官「チッ! 逃げ足の速い野郎だ。次見たらタダじゃおかねえ」

後輩「そういえば先輩。聞きました?このあたりでまた行方不明者が出たって」

警官「あ?どうせ家出かなんか喧嘩に自分から首突っ込んだんだろ。ここじゃそんなんしょっちゅうだ」

後輩「さあ……どうですかね。でも最近いつもより数が多いんですよ」

警官「じゃ元から悪かった治安がもっと悪くなったってこった」

後輩「先輩鈍いですね。もしかしたら連続殺人犯、先輩がずっと追って、さらに捕まえたと思ったら逃がしたあいつが
   このあたりに潜伏してるかもしれないってことですよ。チャンスじゃないですか」

警官「へっ。んなわけあっかよ。そんな出来すぎた話そうそうないだろ」





教会


シスター「なんだ。もう帰ってきたんだ?」

勇者「はあはあ……なあ、これ外してくれ」

シスター「は?手錠なんて外せるわけねーだろ。なめてんのか」

勇者「くそっ! 邪魔だ!!」ガチャンガチャン



シスター「ああ、そりゃ剣とか銃は大っぴらに見せて歩いちゃだめだ。法律違反。ま、隠し持ってる奴も多いけど」

勇者「……剣持ってることが違反!?どうなってんだこの国は……」

勇者「……この国のこと、もっと教えてくれないか」

シスター「ここは国が持ってるいくつかある街のひとつ。ぐるっと囲んでる街壁の外には砂漠が広がってて、
     滅多なことじゃ外に行く奴も外から来る奴もいないよ」

シスター「金持ちと金なしがいる街。中央区はこの世の天国みたいに整っててきれいだが、ここら一帯は掃きためみたいなもん」

シスター「人が暦を数えだしてから1927年。
      惑星全域を巻き込んで勃発した第5次世界大戦後、いまは休戦中」

シスター「でもいつかはじまるWW6のためにどこの国も兵器を大量生産中だ」

シスター「なんか質問ある?」








勇者「世界大戦?戦争、だよな……」

勇者「この世界に魔族はいるのか?」

シスター「魔族はいない。私がお前を召喚したようにやらない限りね。
      まさかいるとは私も思ってなかったけど、世の中なにがあるかわかんねーな」

勇者「魔族がいない……人間だけの世界なのに、どうして戦争なんか?理由は?」

シスター「いや、普通に資源の取り合い合戦」

シスター「みんなが豊かな暮らしをするためにゃ高エネルギー物質が必要不可欠。
      まあそれも戦争でほぼ使っちゃって、この惑星からはそういうのどんどん干からびてってる」

シスター「資源を得るための戦争で資源を失っちゃうんだ、馬鹿だろ」

シスター「あと環境問題も深刻だね」

シスター「この間、お前森はないのかって聞いたけど、森なんてもう惑星どこ探してもないんじゃない。
     植物はかろうじて残ってるかもしれないけど中央区くらいかな、あるの」

シスター「めちゃくちゃ高いらしいよ。私は本物の花とか木見たことないね。大昔にもう全部枯れちゃったんだ」
 
勇者「え。でもそこらへんにあるじゃないか」

シスター「ありゃ偽物。外観用」

シスター「最初にこっち来たとき、空気がくさいって言ったな。大気汚染も進んでるよ。
      中央区や一般区は大気洗浄機できれいな酸素つくってるけど」

シスター「あっちもいつまで続くかね……いつかまかなえなくなっちまうだろーよ。植物も森もないんだから」


シスター「この街はいつも灰色だよ。ずっと何十年も前からあの灰色の雲が空を覆ってて、
      私は青い空や黒い夜を見たことがない。ずっと曇りの灰色だ」

シスター「太陽もね」



シスター「ここは少しずつ死んでいってる世界なんだ。近いうちに多分全部終わっちまうよ。もうほとんどなにも残ってない」

シスター「でも、みんなそのことに気付いてない。あんまり気にしてないみたいね」

シスター「私が大切じゃないのかなって思うものと、みんなが思うものはちがうみたい」







勇者「……正直難しくてよく分かんないんだが」

シスター「おいおい頑張って説明した私の身にもなれよ」

シスター「あとお前が魔法だって思ってるのは全部科学技術だから。魔法とか使える奴いねーから」

勇者「カガク……だと?また分からん単語が……意味分からん……」

勇者「じゃああといっこ聞いてきいか。あんたはシスターで、ここって教会なんだよな」

シスター「そだけど」

勇者「……ここに来てる人間、俺しかいなくねえか。本当に教会なのか……。シスターこんなだし」

シスター「教会だっつの。人が来ないのは仕方ない。もう今の時代、誰も神や信仰になんて時間をかけないんだよ」

シスター「近代化して、真っ先に切り捨てられたのが信仰だよ。今はみんな目に見えるものしか信じない。
     全員 物質主義者になっちまったのさ」

シスター「見返りのあるものにだけ時間をかける。まあ、合理的だ。無駄のない賢い生き方だよ」

勇者「……。もっと5歳児くらいにでも理解できるように話してくれないか」

シスター「お前それ自分で言ってて悲しくなんないの」


勇者「誰もこないのに、みんな信じてないのに、じゃあなんであんたはシスターになったんだ」

シスター「私はあまのじゃくだからさ。みんなが信じてないものを信じてみたくなったのさ」

勇者「……つーか今思うとシスターが悪魔召喚とかしていいのか?俺悪魔じゃないけど」

シスター「神様なんていないって言うから、じゃあ悪魔ならいるのかなって思って」

シスター「結果、神様はいないけど悪魔はいるらしいね」

シスター「いい世の中だ」







* * *


パラパラ……


勇者「なあ、なんで教会に本棚がある。礼拝堂におくか普通」

シスター「別にいいだろ誰もこねーんだから。読んでもいいけど」

シスター「読み終わったらそろそろ中央区の会社ぶっ潰しに行けよ。ちんたらしてんなよ」

勇者「だから俺は……大体あんなへたくそな魔法陣で召喚に成功するわけないだろ……」

シスター「あん?私が一生懸命書いた陣を馬鹿にするんだ?」ゴリ

勇者「お前ほんとシスターの鑑だよ。いてーよ」



勇者「えーなになに。英雄譚、冒険記、年代記……ふーん、神話なんてのもあるんだ」

シスター「この教会の宗教とは別のも混じってるよ」

勇者「それ、いいのか?異教って言うんじゃ」

シスター「別にいいんだ。どうせどの神様も信じられてない。だからここに置いといてやるの」

勇者「……」パラパラ

勇者「ふうん。全然俺たちの世界と違うな、やっぱ」

勇者「…………ん?」







シスター「いまは誰もほんとに来ないけどさ、前はちょくちょく来てた子どもがいたんだ」

シスター「兄と、たまに妹。妹の方は体が弱くて、あんまり来れなかったんだけどね」

シスター「兄の方は、今お前がいる席でよくそのボロッちい本たちを読んでたよ。
      暗記して家で妹に聞かせてやってたんだってよ」

シスター「貸してやるって言ったんだけど、全部持ち帰ると重いからって、ほとんど暗記してた。
      学校に行ってたら結構成績よかったんだろーな」

勇者「……俺と、この世界にいっしょに来た連れの名前がある」

シスター「ん? それは遠い昔の異国の神話だよ。どれ?」

勇者「これと、これ」

シスター「お前の名は太陽の神様、連れの名は月の女神様だね」

シスター「なにお前、悪魔じゃねーの。詐欺かオイ」

勇者「それは最初から言ってる。だけど人間だからな」

勇者「よく来てたっていうその子どもに会いたいんだけど、会えるかな」

シスター「1年前くらいからパッタリ来なくなったよ……
      まあ、家は知ってるから、案内してやることはできる」

勇者「案内してくれ」

勇者「多分そいつが俺の探してた奴だ」






* * *


騎士「ま、魔女さん。泣きやんでください」

魔女「無理だよぉ…… うううぅぅっ なんで黙って自殺なんかするの!なんなのも~~~……
   死んじゃったらもう二度と会えないんだよ……ひぐ」

姫「……」

竜人「……」

騎士「…………泣きやんでください魔女さん!」

騎士「僕はあの二人が、こんな時に何の理由もなく毒を飲んで死んだりしないと思います!!」

騎士「絶対何か理由があったんだって思います。そうしなければならなかった理由が!」

騎士「毒薬はまだつくれますか!?」

魔女「えっ…… うん……材料を集めれば……二晩もあればできるけど」

騎士「じゃあお願いします!僕が毒を飲んで、二人を連れ戻してきます!」

魔女「へっ……!? な、なに言ってんの!?」

魔女「死ぬっていうの……?」

騎士「……はい。でも、何とかなりそうな気がするんです。勇者さんと魔王さんがなんで毒を飲んだのか分からないけど
   ……でももし二人が死の先にある何かを探しに行ったなら、僕も手伝ってきます」

騎士「あの二人に比べたら非力な僕かもしれませんが、必ず二人を連れ戻してきます。
   だから、泣かないでください!大丈夫です!!」

魔女「……、……」

騎士「僕の名前は騎士です!」

魔女「騎士……本気?」







竜人「……私も毒を飲みます。そうですね、騎士さんの仰る通りです。
   これには何か理由があるはず。お二人を手助けせねば」

姫「私も……飲みますわ」

騎士「え゛っ……姫様は、さすがに……。やめた方が……」

姫「いいえ。私も勇者と魔王さんを信じます」

魔女「……だったらあたしだって信じるよ。ずっと信じてきたもん。 あたしも飲む」

忍「集団自殺か何かですか?」

妖使い「おもしろそうだね。俺らも飲むよ。できれば美味しい毒薬がいいんだけど」

忍「えっ、ちょっと勝手に」

竜人「魔女の薬である限り、その望みは捨てた方がよいでしょう」

魔女「うるさいな。美味しい毒なんてつくれるわけないじゃん!
   ま、いいや。今日からつくるから、みんな材料とるの手伝ってくれる?」





姫「……ふー……」

騎士「うわあ、すごい色……。あっいえとっても美味しそうですね魔女さん!」

魔女「でしょ? じゃあみんな……かんぱい」

竜人「……では一気に」


ゴク


妖使い「おえーっ まずっ!!!うわあこれはひどい」バタッ

魔女「でも効果は抜群でしょ?ほら、妖使いすぐ死んだ」バタッ

竜人「死ぬ間際までふざけてあなたたちは全く! うぐっ」バタッ

姫「そんな皆さんコントみたいに死ななくても…… ああ」バタッ

騎士「吐きそう……」バタッ

忍「ちょっと皆さん早いですよ、待ってくださいよーっ!!」






冥府


鍵守「……あれ」

鍵守「また」


竜人「ハッ!ここは!? 魔王様は!?」

魔女「……うう~ここはどこあたしはだれ」

姫「あんなコロッと死ぬなんて……風情も何もなかったわね」

鍵守「ええと……おおいな。ちょっとみなさんここにあつまって……」




鍵守「というわけで、勇者と魔王は月にあるトビラを開けて、あっちのセカイにいきました」

騎士「よかった!やっぱりあの二人がああしたことには意味があったんだ」

鍵守「あと4人なら、ボクもトビラの向こうにおくれます……さあ、いそいで。カギはあいています」

鍵守「彼に……会いに」

魔女「え?4人じゃないよー。あと二人いるんだよ。妖使いと忍はどこいったんだろ?」

姫「そう言えば……」

鍵守「えっ?あと2人……?」



    「……なるほど!」


妖使い「トビラは冥府の月にあったのか。どうりで見つからないはずだ!」

忍「前、彼が来たときには月が出てませんでしたもんね」

妖使い「そうか、君が隠し持ってたのか。ぬかったなぁ、ハッハッハ」

忍「ぬかりましたねー若。ははは」






騎士「……?なに言ってるんですか?」


鍵守「え…… え?あなたたちは……  ふわっ!」

忍「あなたはちょっと邪魔なので、とりあえずおとなしくしててくださいね!」

忍「こんなことなら、冥府から先に取りかかればよかったですね」

妖使い「全くだ。勇者と魔王が一緒に行動するのはできるだけ避けたかったんだけどな」

妖使い「そのために色々してきたってのに……つまらないな」

妖使い「おまけに扉を開けられてしまった」

妖使い「どうせ、無駄だと思うけどね。万が一ということもある……」


妖使い「ま、とにかく、過ぎてしまったことを嘆くより今できることをしよう。
     君たちは扉の向こうに渡さないよ」

忍「いずれこの冥府ももう少しで消えます。ここでその崩壊を待ってもらいますから!」

竜人「どういうことか、説明して頂けるんでしょうね」

魔女「君たち何者?」










妖使い「俺たちは道化役だ」

忍「もしくは観客?」

妖使い「邪魔者で」

忍「傍観者」

妖使い「トリックスター」

忍「悪役かも」

妖使い「あるいは、創世主の記憶を受け継ぐ写し身」

忍「彼がこの世界に覚醒したと同時につくられた、役割を持たない無干渉者です」



姫「創世主!?あなたたちは人間ではないの?」

騎士「東国からやってきたっていうのは、嘘だったんですか!?
   ずっと、僕たちを騙していたんですか」

妖使い「東国なんてこの世界には存在しない……
     いや、君たちにとっては在るものなのかな?」

妖使い「在ってもなくても、この世界の東国なんて俺は知らないね」

魔女「……敵なんだね。邪魔するつもりなら、押し通るよ」

竜人「そこをどいてください。私たちは扉の先に行きます」

忍「だから無理ですって。行かせないって言ってるじゃないですか?」

騎士「……どかねば斬ります」

妖使い「どうぞ」

騎士「……っ! はああああっ!」


ズバッ


騎士「!? なに!?」

妖使い「俺たち自身に君たちを消す力はない。消すのは影の専売特許だ」

妖使い「でも君たちの攻撃が俺たちを傷つけることは絶対あり得ない。そういう設定だからさ、ごめんよ」

妖使い「よいしょっと!」パッ

騎士「ぐ……っ!?」


ズダンッ!!


姫「騎士!」

騎士「ぐは……!」






魔女「騎士が死んだ!仇をとるからね!妖使いめ、この野郎!」

騎士「じんでないでず魔女ざん……!!」

竜人「魔女と姫様は下がっててください! このっ……!」


ザシュッ ザク


竜人「くっ 何故だ……あたってはいるのにすり抜ける」

忍「だから、無駄ですって。勝てません。
  大人しくここで待っててくれれば、冥府に来てまで痛い思いしなくて済むんですよ」ゴキッ

竜人「っが……!  くそっ!」

忍「消す力はありませんが、再起不能にまで痛めつけるくらいの力はありますテヘヘ」ググッ

竜人「!! ぐあぁぁ…………っ」

姫「やめなさい!! 待って……訊きたいことがあるわ」

姫「……どうして東国からの使者だなんて嘘をついてまで、私たちと共にいたの?
  そんなに強い力を持っていながら、何故」

妖使い「勇者と魔王が結託して彼に歯向かうようなことは……少し避けたかった。
     崩壊は止められないとは思うけど、彼には僅かに不安があった」

妖使い「俺たちはあの二人の絆を壊すためにつくられた」

忍「二人は人と魔族であることをちょっと教えてあげれば、すぐ崩れてましたね」

姫「でも、そんなにあの二人を危惧していたなら、どうしてまず最初にあの二人を物理的にどうにかしなかったの?」

姫「心理的に二人を引き離すのは確実な方法とは言えないわ」

忍「……確かに。なんででしょうね? 若」

妖使い「その方法があったか。しくじったな!」

姫「……え。気づいてなかっただけですか」

魔女「とぼけないでよ。君たち二人ともさ、ほんとは……もしかして」

魔女「!! ぅ……」ドサ

騎士「き、貴様!」



妖使い「君たちは誤解してるよ」






妖使い「彼が大昔を起点に世界をつくったと思ってるかもしれないけど違う。
     世界の起点は今から数年前」

妖使い「あの和平の日がまずあって、そこから過去がつくられた」

妖使い「あの日まで、過去から未来がつくられたんじゃない、未来から過去がつくられていたんだよ」


妖使い「はぁ……それにしても、君たちに彼の気持ちが分かるかな」

妖使い「あの子のためにつくった戦いのない美しい世界だったのに
     蓋を開けてみれば……何だ?あの凄惨な百年前の戦争は?」

妖使い「彼はあんなことまでつくってなかった。あんなの望んじゃいなかったよ」

妖使い「たった一言「戦争が100年前にあった」ってことを書いただけで、あんな風になっちゃうなんて思いもしなかったさ」

妖使い「世界はとっくに創世主の手を離れてたんだ」


鍵守「でも……ボクは……」

妖使い「君は黙っててくれよ」

妖使い「そこの子どもがあの子の死をきっかけにこっちの世界で目が覚めたように」

妖使い「彼もあることをきっかけにこっちの世界で目が覚めたんだ」

竜人「さっきから彼と言いますが……彼って誰ですか。創世主?」

忍「ほんとの創世主は扉の向こうにいますよ」

忍「彼は、創世主の『この世界を拒絶する感情』」

妖使い「だから、ほんとのほんとにこの世界はもう捨てられたんだ。君たちの役目はもう終わった。
     劇はもう閉幕だ。役者はもう帰ってくれ。さっさと消えてくれよ」

姫「創世主が拒絶したって関係ないわ!私たちは私たちのために生きてるんだもの、そんな……」

忍「はいはい。もういいです」トン

姫「うっ……!」






忍「もう喋るの疲れちゃいましたよ」

魔女「うう 魔法が使えたら……」

忍「魔法なんて最初からなかった。みんな夢を見ていただけです」

妖使い「ドラゴンなんていない。魔女なんていない。姫なんていない。騎士なんていない」

妖使い「空なんてない。海なんてない。太陽なんてない。星なんてない。雪なんてない。森なんてない。月なんてない」

妖使い「勇者なんていない。魔王なんていない」

妖使い「剣なんてない。魔法なんてない」

妖使い「ハッピーエンドなんてない」

妖使い「全部、さいしょからなかった。こんなもの、なんにもならなかったよ」


鍵守「そんなことない……!!」


バリッ……


忍「……? あれ」

妖使い「体が……。へえ、何したんだ? 偽物のくせに……」

鍵守「ボクは確かに偽物だけど……でも、こんなのあの子がのぞんでないってことだけはわかる」

鍵守「みんなたって!はやく……月のトビラへ……」

鍵守「ボクも……ながくはこのふたりを、とめてられない……」

騎士「……! は、はい。魔女さん、姫様!しっかりしてください!」

竜人「鍵守さん……あなたは一体?」

鍵守「……はやくいって……」






ギィィ…… バタン


鍵守「はあ……はあ……」

忍「うげげ、どうしよう若。みんな行っちゃいましたけど」

妖使い「行っちゃったね……やべーよ」

妖使い「でも驚いたな。君がわずかな時間だけでも俺たちの動きを止められたなんて」

鍵守「トビラのカギはもうかけたよ。もう、彼らのじゃまはさせない」

鍵守「もうやめようよ……こんなのだれものぞんでないよ……」

鍵守「かなしいよ……」

妖使い「でもそれが俺たちの存在意義だから」


忍「鍵ですか。ふーん。時間をかければ解錠できそうですね」

妖使い「すぐ取りかかろう」

妖使い「全く厄介なことしてくれるなぁ。妖孤、ちょっと出て来い」

妖孤「はい?」

妖使い「お前、ちょっと鍵穴に突っ込まれろ」

妖孤「久々にかける言葉がそれですか!?無理言わないでくださいよ~~~」







* * *


少年「暇なら、その服どうにかしなよ。それ着てるだけでここらへんじゃ目立つ」

少年「それ売って、適当に服屋で買えば。じゃ僕は仕事に行くから……」




魔王(と言われて来てみたが……困った……)

魔王「頼む、私の服を返してくれ」

服屋「もうこの服は買い取ったんだ、返せないわ。
   銀のボタンがついた服なんて初めて見た。こりゃいい品だ」

服屋「金は渡したし、あなたが選んだ服はもう着てるじゃない。似合ってるけど?」

魔王「選んでない。君が勝手に押しつけて着せたんじゃないか……」

魔王「上はいいとして、なんだこれは。こんなものを着て外を歩けるか。これは服ではない。下着というものだ」

服屋「下着じゃないよ。ショートパンツっていうものだよ」

魔王「パンツじゃないか!」

服屋「ああもう面倒くさい。帰ってくれ。あざーした」


ペイッ





少年「ふう……やっと仕事が終わった……」スタスタ

少年「あれ?偶然だな。 ……ああ、服。そっちの方がやっぱ目立たなくていいよ」

魔王「よくない……」

少年「?」

少年「……で、あとこの街の何が聞きたいわけ。もうほとんど昨晩話したと思うけど」

魔王「そうだな…… む、このチラシは?」








魔王「そういえばここらへんでたくさん見かける」

少年「ああ、これは最近噂になってる連続殺人犯の指名手配書。
    中央区で何人も残虐な方法で殺した殺人犯だ」

少年「警察に一度捕まったのに、護送中に逃げたんだって」

魔王「ここでは、警察というものが秩序維持組織なのだったな」

少年「そ。 にしても警察知らないって…… まあいいや」

少年「いろいろ教えるのも今日までだからな。終わったらどっか行けよ」

魔王「分かった」

少年「とりあえず、家に……」


ガシ


少年「……え?」

魔王「!」

男A「よォ~~~~お二人さん。この間はどうも」

男B「やぁっと見つけたぜ……」

少年「……おっ……お前ら」

男A「お前たちのおかげでえらい目にあったぜ……今日はその借り、返そうと思ってさ」

男B「ちょっと来いよ」グイ

魔王「離せ」

少年「やめろよ、離せよ」






男A「なめた真似しやがって。今日はそうはいかねえぞ」

魔王「痛いぞ。離せ」

男A「そう言われて離す奴がいるかよ」

少年「……ん?」

少年「……お、おい。なんか、車が」

男B「ハッ、もうハッタリには騙されないぜ。パトカーが来たって注意を引くつもりなんだろ?
   ばーか、んな子ども騙しにひっかかハギュッ」


―――ドンッ!!!


男A「」

男B「」

少年「……!? だ、だれだ……?」

女「こんにちは」

少年「……ほんとにだれだ!?」

女「ああ、あなたはこの間店の前を通った子じゃない。私はあっちで花屋の売り子やってる者よ」

女「なんか……今轢いた? まあいいや。乗る?」

男A「ぐ、ぐぐ……て、てめえ……なにしやがる!」


女「どっちでもいいけど。大変そうなら乗せてあげてもいいよ」







* * *


女「ここが私の家」

少年「随分店から離れてるんだな……」

女「うん、まあね。ここらへん、隣の家とも数キロ離れてるから寂しいよ。じゃ入れば」


魔王「広いな」

女「お茶いれるよ。ええっと、カップあるかな」

女「……見つからないや。グラスしかないみたい。水でいい?」

魔王「……?」

少年「別に、いいです。……その、すぐ帰ります」

女「さっきも言ったけど、またあの男二人組はあなたたちのこと狙うと思うよ。
  この家、広いし。しばらくここにいた方が賢明じゃない」

少年「でも僕は明日も仕事だし、帰らないと……」

女「命と仕事なら、命の方が大事なんじゃないのかな。分からないけど」

女「とにかくしばらく泊まっていけば? 私は構わないから」






翌日


女「じゃ、私は出かけるから」

少年「ちょっと待ってってば……花屋に行くんだろ?僕も連れてってくれ。
   仕事に行かないと……クビになったらまずい……」

女「だめだよ。危ないでしょ。じゃあね」


ブロロロロ……


少年「なんて強引な人なんだ……」

魔王「でも、一日くらいなら仕事は休んでも平気なのではないか?」

少年「平気なわけないだろ……あのハゲジジイがなんて言うか……。
   僕みたいな子どもが働ける場所なんてそうそうないのに」

少年「クビになったらどうしよう……」

魔王「……この街では、君のような子どもが多いのか?」

少年「そりゃいるだろうさ。こんな街なんだから」

少年「あーもう……それに、家のことも心配だ。僕がいない間にまたあいつらが来たら」

魔王「確かにそうだな。私もずっとここにいるわけにもいかない。
    彼女が帰ってきたらもう一度頼みこんでみよう」






バシャバシャ


少年「はーっ……もう、なんなんだよ」

少年「このごろ変な奴ばっかり会うな……」

少年「あの男二人組にも目つけられたし……最悪だ……」

少年「ん?」

少年(これ……シェービングクリーム?あの女の人だけで住んでるんじゃなかったのか)



魔王「少年、これは一体なんだろう。鳴き声がするし、ぶるぶる震えているが、生き物なのか?」

少年「ハァ? そりゃ冷蔵庫だよ。生き物なわけないだろ……機械だ」

魔王「れいぞうこ? 象の仲間か?それにしては小さいが」

少年「だから生き物じゃないって。電気で中の物を冷やしてるんだ」

魔王「電気……雷で冷気をつくりだしているのか?それは一体どういう仕組みなのだ。
   こういったものは全て魔法ではなくカガクギジュツだと君は言ったが」

魔王「魔法なしでどうやってそんなことを実現させている?よく調べたいな……」

少年「だめだよ、あの人が冷蔵庫は開けるなって言ってただろ。
    それに人の家の冷蔵庫勝手に開けるのは失礼だ」

少年「あの人がテーブルの上に食べ物置いてってくれたから、食事はそれで済むし」

魔王「……でも開けたいな……」

少年「でもじゃねえよ。だめだってば」








少年(……こんな具の入ったスープなんて初めて飲むな)

少年(うまい……じゃなくて)

少年「なあ、明日こそあっちに車で送ってってくれよ。帰りたいんだ」

女「うん。いいですよ」

女「あなたたちは姉弟? あんまり似てないのね」

魔王「君はここに一人で住んでいるのか?」

女「そうだよ」

少年(……?あれ? じゃあ昼見たあれは別れた恋人のとかかな)

魔王「昼に庭を見させてもらったのだが、かなり凝っているのだな。
    花屋で働いていると聞いたし、植物が好きなのか?」

女「別に好きじゃないよ。たまたまね」

女「スープおかわりする?まだあるよ。少年くん、いる?」

少年「あ……はい、じゃあ」

女「よそってくるね」





キッチン


女「……?何、どうしたの?」

魔王「その……頼みがあるのだが」スタスタ

魔王「れいぞうこを見させてもらってもよいだろうか」

女「冷蔵庫?そんなもの見てどうするの?」

魔王「仕組みが気になる。中を見てみたいのだ」

女「仕組み……? うーん、よくわかんないけれど、中ごちゃごちゃしてるから
  見られるの恥ずかしいと思うの。だからだめ」

魔王「だ、だめか……どうしても?」

女「どうしてもよ」

魔王「………………どうしても?」

女「こんなに冷蔵庫に興味示す子初めてだな」

女「でも、だぁめ。絶対だよ。分かった?」

魔王「……ああ」シュン





―――――――――――――
――――――――――
――――――




少年「……」スースー

魔王(……)パチ




魔王「ふ、ふわぁ……お手洗いはどこだっただろうか」

魔王「慣れない家だから迷ってしまった。うっかりキッチンに来てしまった」


ブゥゥゥゥン……


魔王「あっ……れいぞうこがまた鳴いてる。触ると暖かいし、本当にこれは生き物ではないのか?」

魔王「寝ぼけてて、自分が何をしているのか、わ、わからないな」

魔王「しまった。寝ぼけてれいぞうこを開けてしまった。でも寝ぼけてるから仕方ない……」

魔王(本当に冷たいだと……?どうなっている。食材が色々入っているな。……どこから冷気が?
    雷を冷気に変換しているのは一体どこなのだ?どんな方法で?魔法なしでどうやって?)

魔王(もっと奥を見たら何か分かるかな?)ゴソ

魔王(………………………………ん?)

魔王(え? これ……え?)

魔王(……ひとの…………うで……?)








女「なにをしているの?」

魔王「!!」ビク






女「そんなに冷蔵庫が気になるの?変わった子ね」

魔王「す、すまない。寝ぼけて……どうやらトイレの扉と冷蔵庫の扉を間違えてしまったようだ」

女「どんな寝ぼけ方なの」

魔王「悪かった。もう寝ることにする、おやすみ」

女「ねえ」

女「なにか見た?」

魔王「寝ぼけていたので何も見えなかった。私は寝ぼけると一切何も見えなくなることで巷で有名なのだ」

女「そう。すごいね」





スタスタ

……バタン



女「………………」



今日はここまでです
ショートパンツっていい名前ですよね

女の子のパンツいいよね!





魔王「少年少年少年少年少年っ 起きろ、起きろ起きろ」

少年「ん~~…… なんだよぉ……」

魔王「起きろ、今すぐここから逃げるぞ!」

少年「はぁ~~? 意味わかんねえよ……まだ夜だろ……」

魔王「いいから早くしろ!」


タッタッタッタ……


魔王「彼女は人殺しだ」

少年「お前、まぁた変なこと言って…… うぅっ寒い。夜は冷える……
    なあ戻ろうよ。こっから僕の住んでる家までどれだけあると思ってるんだよ」

少年「徒歩じゃ数時間かかるって……」

魔王「だめだ。とにかく、人のいるところまで行かないと」

少年「だから、それも遠いって。来る時見ただろ?ここらへんは店も家も何もない」

魔王「建物はあるではないか」

少年「でも人はいないよ。テーマパークの建設予定地だからさ……
   もうみんなどっか行った後。もうすぐ取り壊される予定の空き家だけしかない……」

少年「……寝ぼけて夢でも見たんだろ……どうせ」

魔王「夢ではない、確かに見た。れいぞうこの中に人の腕があったっ!
   男性の腕だった。多分、ほかの部位も奥に入っていたと思う。見れなかったが……」

少年「男性……? そういえば、あの人、一人で住んでるって言ってたけど、
   洗面台に髭剃り用のクリームが置いてあったんだ」

少年「何か事情があるのかなって思ったんだけど、もしかして……その男性があの家に元々住んでた?
   で、あの女の人が彼を殺して、成り変わったのか?」

少年「……でもなんで……そんなことを?」

魔王「少年、ひとつ聞きたい」






魔王「花屋であの女性が働き出したのは、いつなんだ」

少年「……え……いつって、はっきりわかんないけど……」

少年「……さ、最近だよ、たぶん。その前は……男の人が店員だった。
    すごい毛深くて、背が高い人……」

魔王「…………」

魔王「私が冷蔵庫で見た腕も、とても毛深かったな」

魔王「……彼女が逃亡したという連続殺人犯だろう。あそこに隠れ住んでいたのだ。
   しかし、手配書と顔が違うが、それは一体……?」

少年「……整形……とか?」

魔王「んん? それはつまり変身術みたいなものか?」


タッタッタッタ……


魔王「とにかく、警察に行こう。警察に……ハァ……ハア」

魔王「あとどれくらいだ……? 随分……走ったが」

少年「まだ半分くらいだ。でも、多分朝まで僕たちがいないことには気づかないんじゃないか」

少年「夜明けまで時間はまだまだある。余裕で警察署に……」


ブロロロロロ……


少年「けいさつ、しょに……いけるかなっておもったんだけど」

少年「車の音が後ろから聞こえるのは気のせいかな……気のせいだといいんだけど」

魔王「……残念ながら空耳ではない」


キキッ バタン


女「別れのあいさつもなく、ひどいじゃない」

女「そういうの、悲しいと思うよ。わかんないけど」


ゴトン


少年「な、なんだよそれ?」








女「……これ? チェーンソーって言う機械よ」

女「昔、木を切るのに使われてたの。でも、それ以外にも用途はあるのよ」

少年「……だ、誰にも言わないから……頼む」

女「死ぬのが怖いの? 生きてるのが楽しいの?」

女「いいね、感情があるって。私、分からないの。そういうの」

魔王「……人殺しなんて……何故そんなことをする?君が連続殺人犯か?」

女「そうでしょうね」

魔王「こんなことをして楽しいか」

女「楽しいわけないでしょ」

女「でも人を殺すときだけ私は人として何か感じられるんだ。
  ずっと静かだった水面に、その時だけ波紋が広がるの」

女「なんだろうね。罪悪感かな」

女「人をひどい方法で殺せば殺すほど、感じられるのも大きくなる」

女「だから、まず人の腕一本これで切るわ。そうすればほとんどの人は抵抗をやめるの。
  それからもう一本の腕は薄く輪切りにスライスしていきます」

女「足は桂剥きよ。皮膚はこっちのナイフで薄く切り取っていくの。筋肉は筋が切りづらいから専用のはさみで。
  そうやって肉全部切り落としたら骨はトンカチで砕くわ」

女「胴体は腹を開けて中をぐちゃぐちゃに混ぜてしまうわね。頭は……」

魔王「やめろ!! そういうことを言うのは本当にやめろ」ペタン

少年「な、なに座りこんでるんだよ……!逃げないと……っ」

魔王「体に力が入らないだと? 状態異常の魔法か?」

少年「お前の腰が抜けただけだろ!!」


カチッ ギャリリリリリリリ


女「チェーンソーって、四肢を切断できるのもいいけど、この大きさと喧しさがいいと思うわ。
  見た人全員、いまのあなたたちのような顔をするんだから」

魔王「…………上等だ。貴様ごときに私が殺せると思っているのか?めでたい頭だな。
   返り討ちにしてくれる。かかってこい!!」

少年「だからなんでお前はそういうこと言っちゃうの馬鹿なの?勝算ゼロだよ、絶望的だよ」

魔王「……こういうのは……どんなに勝ち目がなくても心意気で負けてはいかんのだ!」

魔王「少年。逃げろ。走れ。ここで私があいつを引きとめる」

少年「はあ!?無理に決まってんだろ、うすうす気づいてたけどお前全然運動能力ないし……」

魔王「う、うるさい!逃げろと言っているのが聞こえないのか、さっさとしろ」

少年「でも……」

魔王「早くしろ!!私にまかせろと言っている!!イエスかはいで返事しろ!!」

少年「うっ……は……はい……っ」タッ







女「逃げたわ。まあ、どっちでもいいのよ」

女「じゃあ殺されてね。これが私の生きがいだから仕方ないの」

女「できるだけ悪く思って。憎んで悲しんで。それが大きければ大きいほど……私も辛いわ」

女「辛い、苦しいっていう感情をその時だけ持てるの。自分が無機物じゃない、人だって実感できるんだ」


スタスタ


魔王「……狂ってる」

魔王「貴様の感情のために差しだせる命など、一つたりとも持ち合わせていない!」






* * *




シスター「……ん?おかしいな。この時間、少年は仕事を終えて帰宅しているはずなんだがな」

勇者「ここがその少年の家? でかいな」

シスター「全部が全部そうじゃない。この扉がその少年の家。アパートっつーんだ」

シスター「どこかに出かけてるのかもしれねー。また明日来よう」

勇者「仕方ないか」


シスター「ここらへんには、近いうちに遊園地ができるそうだ」

シスター「お前に潰すよう頼んだ会社の社長がそれを企画した」

勇者「家を壊して遊園地? ……俺にはあんまりこの街の考え方は理解できないな」

シスター「あの少年の家もそのうち壊されてしまう」

シスター「……一度ね……たまたま会ったときに、教会に来ればって彼に言ったんだけど断られたんだ」

シスター「……彼には妹がいた。病気だった。
     その女の子のために彼は必死に働いて薬を買ってたんだけど」

シスター「その子は……薬で治る病気じゃなかったよ」

シスター「私は昔からそういうの分かるんだ」









シスター「兄の方にも妹の方にも言えなかった……」

シスター「言えなかったよ」

シスター「全くさぁ……。ところでお前は少年の知り合いか?探してる人物が少年だって言ってたけど」

勇者「まぁ、知り合いというかそうじゃないと言うか……」

勇者「とにかく会いたいんだ」

シスター「ふうん。まあいいけど」

勇者「それにしてもこっちの服は動きづらいな。なんかギシギシする」

シスター「与えてやったんだから四の五の言わない。つーか動きづらいのは手錠のせいじゃねーのか」

勇者「一理ある。くそっ!いつまでこれつけてりゃいいんだよ!!」


ファンファンファンファン


勇者「はっ……!?」

警官「見つけたぞ!!この間の銃刀法違反野郎!!今日は逃がさねえからな!!!」

シスター「まずいな。私はサツに見つかると色々いやだ。逃げさせてもらう」

シスター「囮になれ」ドン

勇者「おいっ!!!」







強盗団A「おい……見たか今の?あのボロアパートから去ってった男」

強盗団B「見た見た。すっごい宝石埋め込まれた剣持ってた」

A「ありゃ相当な値打ちものだ。服装は金持ちにゃ見えないが、
  何らかの事情があって身を隠してるんだろうさ」

B「あそこがあの男の家なのかな?行ってみようよ。いいのが見つかるかも」

A「鍵かかってるが、開けられそうか?」

B「こんなの、ちょろいちょろい」ガチャ


A「んん……?中もボロいな。ベッドとテーブルと……必要最低限のもんしかない」

B「お宝は隠されてるものだよ。戸棚とかクローゼットとか開けよう」


A「……うーん。しばらく探してみたが、僅かばかりの金しかないぞ」

B「大金は自分で持ち歩いてるのかもね。 あれ?この箱なんだろ。オモチャの箱」

A「なんじゃこりゃ、俺のピッキングスキルをもってしても開かねえぞ」

B「も、もしかして、オモチャの箱に入れることでカモフラージュしてるのかな。
  中に入ってる宝石とか宝石とか宝石とかを……!?」

A「おう、その可能性は大いにあるな!この箱だけ持ってこうぜ、アジトの専門の器具使えば開けられるだろ。
  こんなはした金は置いてっちまおう。とったって仕方ねーや」

B「FOOOOO 宝石宝石!お頭もびっくらどんだ!驚くぞー!」







強盗団アジト


A「あ? なんだこの女?アジトの前に倒れてるが何者だ?」

B「気絶してるみたい……とにかくお頭に伝えてこよう」





―――――――――――――――――
―――――――――――――
――――――――



姫「うぅ~~ん…… ん?どこかしら、ここ?」

姫「確か妖使いさんと忍さんが創世主側で……でもなんとか扉を抜けたのよね」


がやがや がやがや がはははは


姫(……お店?私が横になっていたのはソファだわ。知り合いは……誰もいないわね)

頭領「ああ、目が覚めたか?」

姫「あ、あなた誰ですか?」

頭領「それはこっちが聞きたいね。でも先に聞かれたからにゃ答えよう。
   俺はこの強盗団のリーダーだ」

姫「ご……ご、強盗団!?」

頭領「ここは俺たちがアジトにしてる地下の店だ。あんたは店の入り口に倒れてた。
   随分いい身なりをしているようだが何者だ?」

頭領「答えようによっちゃあ、ここからあんたをお家に帰してやることもできなくなってしまうわけだが」

姫「わ、私は何も知らないわ。店の入り口で倒れていたというのも偶然よ」

頭領「ふーん……。お家は中央区か?」

姫「?? どこ?それ。知らないわ」

頭領「しらばっくれるか。そんな高そうなドレス着れる奴が中央区以外にいるかよ」

頭領「まあいいさ。あんたにはこの強盗団の一員になってもらうぜ。
   アジトの場所も、俺たちの正体も知られちまったからな」

姫「な……なんですって!?嫌よ!!私に犯罪の片棒をかつげというの!?ふざけないでちょうだい。
  アジトの場所も、正体も、あなたがベラベラ勝手にしゃべったんじゃないの!!」

頭領「あんたが聞いたんだろ?」

姫「聞かれたからって正直に答える犯罪者がどこにいるの!ごまかしなさいよ!
  とにかく私は絶対に強盗だなんて卑劣な真似はしないわ!!出て行きます」

頭領「待て待て」チャ

姫「何です?それは。 随分堅そうなチョコレートね」

頭領「銃をチョコだなんて言うなんて、肝の据わったお嬢ちゃんだ。
   気の強い女は嫌いじゃない」



おいついた。原作版ループみたいだな




頭領「一歩でも動けば頭に風穴が開いちまうかもしれないな」

姫「……!? 武器?」

頭領「銃も見たことないのか。こりゃ筋金箱入り娘だ。とにかく俺たちの仲間になれ」

頭領「むさい男が多くてな、前々から俺はもっと女を仲間に入れたかった。歓迎するぜ。
   とくにあんたみたいないい体してる女をな」

姫「じろじろ見ないで。気色悪いわ」

頭領「やっぱり女は出るとこ出てないと魅力半減だな。あんたはその点目の保養になる。
   この間、あんたみたいに仲間になった女がいるが、俺からするとあんなまな板……」

ガシ

頭領「ん?」

ドゴッ!!!!!!

魔女「まな板?あの調理道具がどうしたの?何の話?」

魔女「ところで話は変わるけどさー、女の子の魅力を胸とかで判断する男ってさー、
   じゃあてめえの股についてるもんはどんだけ立派なのか見せてみろって感じだよね」

魔女「ていうか最低だし、万死に値するし、私刑に処せられても文句言える立場じゃないよねー」

姫「あ、ええ!? 魔女さん!?どうしてここに!?」

魔女「姫様久しぶり!強盗団のリーダーの魔女ちゃんだよ!」

頭領「お前、躊躇なく俺の頭をテーブルに叩きつけた上に、ちゃっかりリーダーの座を奪うんじゃないよ」

魔女「お頭の頭をテーブルに……ってちょっと洒落みたいでおもしろいね」

頭領「この俺の血まみれの頭部を見ても、おもしろいって思えんのか? 悪魔か お前は」








A「ひえ~ お頭大丈夫か?魔女ちゃん相変わらず過激だな」

B「お頭の頭部なんてどうでもいいから、早くこの箱の鍵開けましょ。よそ見しないで」

頭領「オイ。てめーらも聞かない奴だな」ゴッ

A「いたーっ!!」

頭領「そりゃ貧困区のボロアパートから盗んできたって言ったよな。ふざけんな。返してこい。
   俺たちが盗るのは金持ちからだけだ。忘れたのか?死ぬか? ええ?」

B「違うんだってお頭!絶対あそこに住んでるあの男、金持ちだもん!訳ありであそこにいるだけ!」

B「しっかし、あれからずっと頑張ってるのに全然開かないわね、これ。
  オモチャだから簡単な仕組みのはずなのに変だなぁ」


姫「魔女さん、あなたどうして強盗団のメンバーになってしまったの!?」

魔女「だって姫様と同じようにメンバーになるよう脅されたんだもん。
    それになんか……楽しそうじゃん!」

姫「た、楽しそうって……ああ私あなたみたいに一度生きてみたいわ」

魔女「大丈夫、強盗って言ってもこの人たちそんなに悪い奴らじゃないよ。
   この街はどうやら私たちのいた世界と全然違うみたいなんだ」

魔女「下手に動くよりこっちの方が都合よくない?寄らば大樹の陰ってね」

魔女「強盗にいいも悪いもないです!犯罪よ!」

魔女「お金持ちからだけ盗むと言ったわね…… 義賊のつもりなのかしら?」

頭領「違うね。俺たちは貧乏人のためにやってるのでも、金のためにやってるのでもない」

頭領「ロマンのためだ」

姫「……」



魔女「ね?ほら、楽しそうでしょ?馬鹿みたいで」

姫「ええ、そうね……馬鹿みたいだわ」

強盗団「お頭ー、馬鹿みたいって言われてますよ ハハハ」

頭領「言われてるな。ハハハ」カチ


――ダァン!!






姫「……? ええっ? か、壁に穴が……!!一体なんなのそのジュウシマツとか言うのは?」

頭領「ジュウシマツはかわいいよな。俺も飼いたいとは思ってる。
   でもやっぱまずはオカメインコからかなって……」

強盗団「お頭、話ずれてます。ジュウシマツじゃなくて、銃だぜ。お嬢ちゃん」

頭領「そう、これが銃。あんたにも扱いを覚えてもらうよ」

頭領「馬鹿みたいって言うが、馬鹿でいいんだ。俺たちは馬鹿やりたいだけなんだ」

頭領「この世界には夢がない。ロマンがない。
   なあ知ってるか、昔はどこぞの大陸に黄金が埋まってるとか、だれだれが残した財宝があるとか」

頭領「そんな情報ひとつで大勢の人間が身一つで動いたんだ。
   今はない海を渡って遠く離れた地へ、全てを捨てて、あるかどうかも分からん宝を求めてな」

頭領「昔は科学技術なんてなくて、医療も全然発達してなくて、それに比べりゃ今の世の中は天国なのかもしれない。
   でも、昔はそのかわり夢があった」

頭領「ないかもしれない宝を追い求められる、馬鹿やれるパワーがあった」

頭領「俺たちはそれをやりたいだけだ。
    目死んだまま手近にある金のために働いて生きるなら、夢追ってどこかでぽっくり死にたいね」

姫「……」

頭領「で、どうだいお嬢ちゃん。あんたはどうする。今だけ出口の扉を開いてやろう」

頭領「出て行きたいなら今しかない。俺たちに加わるってんなら、名乗りな」

姫「…………」

姫「……私は犯罪を肯定するわけではないわ」

姫「姫よ」

頭領「歓迎しよう」





―――――――――――――――――
――――――――――――
――――――


姫「でも、早く勇者と魔王さんを探さなければね。魔女さん、手がかりは見つけた?」

魔女「ううん。外でて探してみてるけど、全然」

姫「困ったわね」

魔女「でも、私と同じところに姫様が現れたってことは、きっとみんな近くにいるんじゃないかなー」


強盗団「魔女はその子のことヒメ様って呼ぶけど、変わった名前だな」

強盗団「馬鹿、ヒメっていうのは昔いた偉い人だよ。オウサマの娘さんだろ」

姫「昔、いた……? どういうことですの。今はもういないのですか?」

魔女「今はいないんだってさ。びっくりだよね」

姫「いない!? じゃ、じゃあ……王族が国を治めないで、どなたが政治を行うの!?」

魔女「国民から人気投票で選ばれた人が、だいとーりょーになって政治やるんだってさー」

頭領「王政なんて何百年も昔に終わった。今じゃどこの国も共和制だが」

姫「きょうわ制って何!?だいとーりょーって何!!どういうこと!?」

頭領「落ち着け。こわい」




頭領「……というわけだ。政治の主役は国民。国民主権だ。
   大統領とは別に、国民から選ばれた代表者もいて、そいつらが議会つくって会議で法律やら何やら整備してる」

姫「……」フラッ

魔女「姫様はねー、本当の姫様だから、ちょっとショッキングだろうね」

頭領「本当の姫様って……んなわけないだろ。そういうごっこ遊びか?」

姫「し、信じられないわ。つまり、誰でも政治を行うことができると?
  王家に生まれた者ではなく、というかもう王家そのものが存在しない?」

姫「王制の次に来る共和制……議会……国民主権……いずれ私たちの世界もそうなるのかしら」

姫「私が王族ではなく、普通の人間……に」











姫「……」

魔女「姫様ー、灯り消すよ? もう寝ようよ、ねむーい」

姫「……あ、はい」


パチ


魔女「どうしたの?昼から何か考えてるけど。やっぱ王家なくなるのショック?
   別にさ、あたしたちの世界までそうなるとは限らないじゃん。気にすることないよ」

姫「……あ、ええ……そうですね。……でも、私が考えていたのは……少し違うの」

姫「……も、もし……もしですよ?もし私が王族でなかったら……その~、
  魔族の男性の方とも、お、お付き合いできるのかな~って……」

魔女「別に今のまま、姫のままでも遊びならいいんじゃない?付き合うのは無理かもしれないけど。姫様かわいいし」

姫「あ、遊びって何です。そんなのできません。ややややっぱり正式にお付き合いしませんとそういうものはっ」

魔女「えーー、ごめん、そんな本気だったんだ。じゃあやめた方がいいよ。
   あいつの性格からして王家の女の子とは絶対付き合わないよ。駆け落ちなんて絶対しない」

魔女「ていうかマジ!? あんなののどこがいいの? 姫様……あいつ5枚くらい猫かぶってるんだよ?
    けっこう昔は荒んでたよ!?元ヤンだよ、あれ!!騙されちゃだめだよ!!」

姫「それは見ててうすうす分かりますね」

姫「で、でもでもお優しいですし……仕事熱心ですし、色々できてすごいなって思うし」

魔女「……姫様はさ~、せっかく王族っていうすごい一族に生まれたんだから、
   今持ってるものを大事にした方がいいよー。ずっと不自由なく暮らしてきたんでしょ?」

魔女「魔族の男なんかと噂が流れたら色々とマズイんじゃないの?
   ちゃんと人間の貴族を好きになって結婚した方がいいって。それでずっと幸せだから」

姫「な……確かに私は衣食住に困ることなく暮らしてきましたが……!
  でも、私にとって幸せが何なのかは私が決めることです」

姫「そんな風に王家の者全て、何も悩むことなく幸せだなんて決めつけられるのは、少々心外ですわ」

魔女「むかっ。あたしは姫様のためを思って言ったんだけど!」








姫「ずっとずっと、父の期待や国民の期待通りに生きてきたのよ。
  枠から外れることなく、きちんとした一国の姫として」

姫「……い、一度くらい、私だって……私の思い通りにしてみたいって考えるのはいけないことなの?」

魔女「ていうか国王はなんて言ってるわけ?」

姫「お兄様は……好きにしたらいいと仰ってたわ。
  自分が昔やりたい放題やったから、とやかく言える立場ではないと」

魔女「だからって一時の、たかが恋ひとつで全部捨てるつもり?……はあーあ、ばっかじゃないの?」

姫「な!なんですって!」

魔女「姫様って誰にも嫌われたことないでしょ。国の王女として誰からも好かれて、
   いつもあったかい部屋で寝られて、おいしいご飯が食べられて……」

魔女「家族がいて、かわいい洋服着れて、何でも欲しいもの手に入れられて」

魔女「あたしが持ってないもの全部姫様は持ってたのに、それを捨てるなんてあり得ない」

魔女「ずっと羨ましかったなー。苦労しないで、何もしなくても好かれてさ。
    みんなの期待通りに生きてきたって言うけど、生きられるだけマシじゃん!」

姫「な、なによ!それなら私だって魔女さんのことが羨ましかったわ!
  いつも好きなことやって、誰にも縛られずに楽しそうで!何にも気にしないで……!」

魔女「なにそれ!姫様にあたしの何が分かるの!?」

姫「魔女さんに私の何が分かると言うの!?」

魔女「はああ? もう怒った!怒っちゃったもんね!じゃあ言っちゃうもんね!」






魔女「どうせ姫様一目ぼれなんでしょ?」

魔女「優しいって言ってたけど、それって本当だったのかな?」

魔女「君は姫なんだよ。魔族にとってその立場が大事だったの」

姫「……!」

魔女「敵だった国王の娘で、探さなくちゃいけない王子の妹で、王族で、重要人物だったんだから」

姫「……」

魔女「……私もからかったりして悪かったよ。
   でも姫様が王族の立場まで悩みだすほど本気だなんて思ってなかったから」

魔女「まあ、人間にいい男いっぱいいるじゃん!お金持ちで優しくてイケメンよりどりみどりだよ」

魔女「ね、だから元気だしなよ」








姫「…………~~もう寝ます!おやすみなさい!!」プイ

魔女「ちょっと、話はまだ」

姫「寝ます!」

魔女「……なによっ!あたしは君のために言ったのに!ばか!
   姫様のばーかばーか!ばーか!もう知らないもんねーだ!」

姫「私だって魔女さんのことなんかもう知りません!魔女さんのばかっ!」




翌日



姫「……」プイ

魔女「……」プイ

B「……?」

A「なになに?喧嘩?」

頭領「おいおい、昨日まであんなに仲良かったのにどうした?」

姫「仲良くなんてありません」

魔女「お頭の目って昨日まで節穴だったんじゃないの?」

頭領「まじかよ……眼科行かなくちゃな」

頭領「とまあ冗談はここらへんにして。喧嘩はいいが計画に支障は来たすなよ。
   チームの連携が大事なんだからな」

姫「……一体何をするつもりですの?」

頭領「次はかなりの大仕事だぜ」


頭領「……列車強盗だ」







* * *


騎士「はぁ~……」

騎士「どこだ、ここ……」

騎士「ずっと歩いてるけど、勇者さんと魔王さんどころか、
   一緒に扉を抜けたはずの3人も見つからない」

騎士「おまけに……」


ヒソヒソ……ヒソヒソ


騎士(めちゃくちゃ見られてる……あああ……)

騎士(さすがに目立ちすぎたから、甲冑は脱いでどっかのベンチに置いてきたんだけど……
    それでも色々やっぱりほかの人たちと違うな)

騎士(剣も捨てられないし、ていうか捨てたら騎士として何かが終わりそうな気がするし)

騎士(困ったな……)


騎士(……ん?あれって…… もしかして竜人さん!?)







ドン


竜人「あ、すみません」

チンピラ1「おうおういてーな兄ちゃん。骨折れちまったよ」

チンピラ2「新聞なんて読んで歩いてっからだよ、あぶねーだろーが!!
       どうすんだオイ、親分の腕が折れちまっただろーが、治療費払えよ!」

チンピラ1「治療費3000万払えよ」

竜人「え……!?この街の人は少しぶつかっただけで骨折してしまうのですか!?
    骨密度大丈夫ですか? ちょっと失礼」グイ

竜人「……?骨折したにしては腫れもないし……というか掴んでも痛がりませんね。本当に骨折ですか?」

チンピラ3「ごちゃごちゃうるっせぇんだよ!お前、この方を誰と心得る?
       ここら一帯を仕切るマッフィーアのそれなりの地位にいる方だぜ?」

チンピラ4「この方怒らせると怖いぜぇ。痛い目見たくなけりゃ治療費払いやがれ」

竜人「生憎金は持ち合わせていないのですが。そもそも骨折してませんよね……」

チンピラ5「げははは、中央区と一般区どっちから来たのか知らねえが、ここらへんのルールを教えてやるよ」

チンピラ1「俺が骨折したと言えばしてるんだ。どうやら、お前さんは頭の回転が悪いようだな。
       おい、お前ら。そこの路地に兄ちゃんを案内してやれ。サツに見つかると面倒だからな」

チンピラ1「最近こっちに来たあの警官、やたらと仕事熱心で困るぜ」

チンピラ2「おらっ こっち来い!!」

竜人「ちょっ……なんですか、金なら無いと…… やめっ……」


ドカッ! バキッ! ドスッ! ゴキッ!! ボグッ ボキギッ!! ドゴッ!






路地裏



竜人「火」

チンピラ3「はいっ!!!」シュボ

竜人「…………」スパー


チンピラ1「あ、あのう……」

竜人「服」

チンピラ1「へっ……ふ、服…………?」

竜人「お前の服よこせ」

チンピラ1「はい!!今脱ぎます!! ではここに置いておきますので!」

チンピラ5「……俺たちは、じゃあ、ここで……し、失礼しても……」

竜人「有り金全部置いてけ」

チンピラ3「では、さ、財布をここに…………」



竜人「……」

竜人「ふざけてんのか?」ガッ

チンピラ4「ヒィィ!」

竜人「誰がこんな紙切れよこせと言った」

チンピラ4「えっ で、でもっ それが持ってる金全部だ!本当だ!嘘じゃない!!」

チンピラ1「もう許してくれ!悪かった!!金なら全部渡した……!」

竜人「本当だろうな」

チンピラ1「本当だ、信じてくれぇ」

竜人「……チッ……行け」

チンピラ1「ありがとうございますっ!!」ダッ



竜人(こんな紙が金……?)

竜人「……変わった世界だな」

竜人「…………」スパー





騎士「…………」ガクガク

竜人「ふぉあッ!?!?」






竜人「き、き、騎士さん!? あ、あれっ偶然ですね!よかった、探していたんですよ」

竜人「いやですね、いたのなら声をかけてくれればよかったのに!
   いつからいらっしゃったんですか?」

騎士「す、すみません……助太刀に参ろうとすぐ駈けつけたのですが……」ガクガク

騎士「……お、お煙草……吸われるんですね……」

竜人「ああいえ、違います!昔ちょっとやってたので、懐かしいなぁと思っただけで!
   すみません今消すので。ハハハハ」ザリザリ

竜人「あ……!騎士さんの分の服も頂けばよかったですね。
   私たちの格好だと、こちらでは目立ちますから」

騎士「だ、大丈夫です。お気づかいなく……」ブルブル



竜人「……しかし、騎士さんに会えたのは幸運でしたが、
   一体ほかの方はどちらにいらっしゃるのでしょうかね」

竜人「魔王様はともかく、あの勇者様なら、どこかで大騒ぎを起こしているだろうと思って
    新聞を見ていたのですが記事になっていないようです。とても意外です」

騎士「確かに……勇者さん調子悪いんですかね。あんないつもトラブルの中心にいるような人が」

竜人「まあ、地道に探すしかないようですね。
   もう夜になりますし、どこかに宿をとりましょう。金ならさきほど頂きました」

騎士「そ、そうですね。しごく穏便に、平和的手段で頂いていましたね。では行きましょう」

騎士(ヤベーーーーーーーこっえーーーーーーーーーー)

騎士(早く誰かと合流してえーーーーーーーー誰でもいいから合流してえーーーーーー)







* * *



勇者「ハァ……はあ……やっと撒いたか……」

勇者「くっそー なんで今日は剣持ってないのに追いかけまわされなきゃなんないんだ。
   完全に顔覚えられた、厄介だ」

勇者「まあいいや、また見つからないうちにかえろ」

勇者「……」

勇者「どこだ、ここ!!」


勇者「あ、あれっ!? そういえば全然人がいない。なんだここ……」

勇者「まずい帰り道が分からん!!教会どこだっけ!うおおおおお!」




少年「はあ……はあ……はあっ  だ、誰か……!」

勇者「あ、おーい!そこの子ども!道に迷っちゃってさ、ここどこか教えてくれないか」

勇者「教会に帰りたいんだけど」

少年「……助けて……!」ガシ

勇者「お、おい?どうした?」

少年「向こうに!あっちに殺人鬼が……!いっしょにいた変な奴が逃げろって!
   でもあいつも逃げなくちゃいけないからっ!た、頼む助けて……」

少年「……たすけてやってくれよ……!!」







* * *

空き家


ズガッ!!


魔王「っ……!」

女「あれ。もう終わり?もういいの?諦めついた?」

魔王「貴様は、本当に何人も殺してきたのか」

女「そうだよ」

女「じゃあ、腕抑えるよ。右からもらう」

魔王「……何故?何故こんなことをするんだ」

魔王「君は人間で……私も人間なのに」

魔王「魔族ではないのに……」

女「……?そりゃそうでしょ。人間でしょうね」

女「別に何だっていいの。生きてればなんでも」

女「人間だろうが悪魔だろうが神だろうが、なんだっていいのよ」

魔王「……あ……はは」

女「? こんな状況で笑ったの、あなたが初めて。
  どうして?普通、こういうときには怖いって思うものじゃないの」

女「殺されるのが嬉しいの?死にたかったの?」

魔王「そんなわけ、あるかっ」タッ

女「逃げないで。教えて」グイ


ダンッ!!


魔王「っう……!」

女「腕切ってからじっくり聞こうかな。そうした方が素直に教えてくれますよね」スッ


勇者「!」

勇者「いたっ! おいお前っやめろ!!」

女「ん?」

勇者「おりゃああああ!」


バキッ


女「あ……あのチェーンソー高いのに。吹っ飛ばしてくれちゃって」







勇者「……!? 魔王!? な……なにしてんだ!」

魔王「勇者くん……。見てのとおり殺されかけていた」

勇者「そりゃ見れば分かる!なんでお前が殺されかけてるんだ!」

女「ねえ、どいてくれる?私はその子に聞きたいことがあるの」

勇者「それはできない。お前は何者だ?」

女「何者か?私が聞きたい。私は何なの?人間なの?」

女「どきなさい」チャキ

勇者「できないっつったろ」

女「なめないことね」


ヒュッ…… ガキン!


女「手錠で戦うつもり?」

勇者「今お前が断ち切ってくれたらよかったんだけど、なっ!」ブン

女「そうだね、これならそれもできるかもよ」ビッ


ギュイィィィィン


勇者「あっ また…… つーか何だそれ!うるせえ」

女「いいでしょ」


―――バキバキバキバキッ!!


勇者「あぁっ!? 女なのになんて破壊力だ」

勇者「だが隙が多いっ!なめんなオラァァ」ガッ

女「!」グルッ


ガッシャーン!!






魔王「やったか……?」

勇者「身柄を拘束してくる。下がっとけ」

魔王「勇者くん、彼女は何人も殺してきた殺人鬼だ。男性も殺している。油断はしない方がいい」

勇者「分かってる」



女「……」ムク

女「……ん」フラッ

女「……」

勇者「大人しくしてろ。今…… ん?」

勇者「……この音……もしや、クルマとかいう」


―――ドォン!! バキャァッ!


魔王「わっ!」

勇者「何だ何だ!? クルマが壁突き破ってきやがった……ってこれは!!」

警官「……後輩よ。俺はあの銃刀法違反野郎を追えと言ったが、壁をぶち破れとは言ってない。
   エアバック作動しちまったじゃねえかよ」

後輩「うっかり」

警官「まあいい!!そこのお前、手を上げろ!!両手を上げたまま跪け!!抵抗すれば撃ーつ!!!」

勇者「やっぱりお前らかよ!俺捕えるよりそこの連続殺人犯を捕えろ!!その女――あっ逃げやがったアイツ」

警官「ん!?彼女が連続殺人犯なわけねえだろ、顔が違う!怪我をしていたじゃないか、傷害罪も追加だああ!!
   後輩、彼女を追え!保護しろ!!」

後輩「いえっさ」

勇者「ちがーう!いや……たしかにあいつ手配書と顔が違うけど!でもこいつが殺されかけたんだ!」

警官「詳しい話は署で聞く!!パトカーに乗れーい!!」








* * *


プルルルル ガチャ


社長「なに?ガキが不在だと?探せ。もう工事の着工は目前だぞ」

社長「まあ不在なら不在で、家の権利を捨ててどっかに行ったのかもしれん。
   それならそれで構わない」

社長「もし工事が始まってから、ガキが現れたら……不慮の事故ってことで」

社長「どうせ貧困区のスラム街に住むガキ一人、もみ消すのは容易い。ああ、やれ」



* * *

警察署


後輩「というわけで家からは切断された遺体と凶器が見つかりました。
   さらにあの俺が半壊させた空き家に残っていた血液と、連続殺人犯の血液が検査の結果一致しました」

後輩「ここいらに潜伏していると見て間違いないということで、すぐ捜査本部が設置されるそうです」

勇者「じゃお前らも早く捜査に加われよ、俺なんかに関わってないで。
   俺はいつまでここにいればいいんだ?もう3日になるぞ!」

後輩「それはですね、先輩が捜査員に入れてもらえなかったからです。
    だから君の取り調べしかすることないんです」

警官「そうなんだ、俺が前にヘマしたから捜査に加えてもらえず、妻と子にも逃げられたんだ……ってやかましいわボケ!!
    つーかテメエ何だ?あの怪しげなイカレシスターの元にいたらしいじゃねえか?」

警官「大体身分証明書がないってどういうこった!!」

警官「絶対余罪あるだろ!!あんな大きい剣持ってたくらいだからなぁ、何やらかそうとしてたんだ!?ええ!?」

勇者「あーあーうるせー!余罪なんかねえよ!魔王と少年はどうした?どこにいる?」

警官「マオウ?ああ あのお嬢ちゃんか?変わった名前だな。少年もお嬢ちゃんも家に帰したが」

勇者「じゃあ俺も帰せよ!!!??」

警官「お前は犯罪者だろうが。身分証明もできてねーし帰せねえよ」



ガチャン


勇者「くっそがあ! ハッ、俺が何もせずここで捕えられてるとでも思ったか。
   こちとら牢屋に入れられるのも二度目だ 馬鹿め!!慣れてんだよ!!」

勇者「絶対プリズンブレイクしてやるからな見とけ!妻子に逃げられた不甲斐ないオッサンめ!!」ガチャガチャ

警官「聞こえてんだよ、死ぬかテメー」




今日はここまでです お久しぶりでした

>>486
「ループ」ていう作品があるってことですか?読んでみたい

乙です



* * *


少年「……」ボー


魔王「はい」

少年「……?」

魔王「そこで買ってきた。疲れた顔をしているぞ、飲むといい」

少年「あんた、金……」

魔王「服を売ったと言っただろう。価値が分からなかったが、結構いい値段で売れたみたいだな。
   紙幣とやらをたくさん頂いた」

魔王「……これを全部君に受け取ってほしいんだ」

少年「え……? うわっ、こんな…… なんでだよ?」

魔王「世話になったからな。これで……君の生活はどうにかならないのか?
    君のような子どもが一人きりで働きながら暮らすというのは……その……」

魔王「この国のことは知らないが、あまりいいことではないと思う」

少年「僕みたいなのはたくさんいるよ。僕だけが特別悲惨な状況にいるわけじゃない」

少年「……。この金、いらないよ。あんた、誰か探してるって言ってただろ。そのために使えよ」

少年「食っていけるだけの金は……ある。仕事クビになりさえしなければ……」

少年「そんなに豪華じゃないけど毎食食べれるし。
   一人分なら、十分稼げるんだ……」


少年「……あの男あんたの知り合いだったの?」

魔王「ああ、そうだ。君があのとき彼を呼んでくれたんだな。ありがとう」

少年「別に……僕はなんもしてない」

少年「でもまさか、あの女の人が本当に殺人犯だったなんてな。
   やっぱり無償の優しさは警戒するべきだ」

少年「あんたも何か企んでたりしないだろうな」

魔王「……私は何も」

少年「……あの人、感情が分からないって言ってたけど、それ本当なのかな」

魔王「……」







少年「感情がないってどんな気分なんだろう。悲しいのも苦しいのも分からなくなるなら……」

少年「ちょっとだけ、羨ましいって思うよ……」

魔王「でも、嬉しいのも楽しいのも分からなくなってしまうのだぞ。
   現に彼女も、それが原因で殺人行為を繰り返して……」

少年「これ、ごちそうさま。そろそろ僕行くよ。じゃ」

魔王「どこに?」

少年「工場」

魔王「警察から帰してもらったばかりだぞ。それにまだ君は顔色が悪い。今日は休んだらどうだ」

少年「休めるわけないだろ……」

魔王「……」

魔王「少年。ここを離れて、孤児院かどこかに保護してもらうことはできないのか?」

魔王「この国に王はなく、大統領という者や国会議員という者らが政治を行っていると聞いたが。
   教育制度や社会福祉は一体どうなっている?」

魔王「何故君のような子どもがそんな生活を続けることを強いられなくてはならないのだ。
   この国も街も、経済的に困窮しているわけではないのだろう」

少年「教育制度も福祉も、貧困区にはない言葉だよ。そういうのは対価を払った連中に振る舞われる」

魔王「それでは社会福祉にならない。上の者が弱き者を助けることを拒んでいるのか?そんなのは……」

少年「ほかの街はどうだか知らないけどさ……少なくともこの街は、平等なんだよ」

魔王「平等……? 馬鹿な。正反対だろう」

少年「身分や地位、年齢、人種に関わらず、金を払えば払うだけ恩恵が得られる。人はみな金の下に平等なんだ」

魔王「……」

少年「自由とは金で、金は労働の対価だ。だから貧乏は怠慢の代償なんだってよ」

少年「貧乏な奴は憐れな救済すべき人種じゃない。蔑まれるだけの罪人なんだ」

少年「ちゃんと働いてない奴が悪いんだからな……」











少年「でもさ……そんなの言われたって、スタートラインが違っていたらどうにもならないよ」

少年「なんていうのもいいわけになっちゃうんだろうけどさ」

魔王「……私はこの世界に来たばかりだ。そのような制度や考えが形成されるまでの過程も歴史も知らないし
   もしかしたらそれは、なるべくしてなった結果なのかもしれない」

魔王「でもそんなのが平等だと言うのなら、私はその言葉を否定する」

魔王「君は怠慢などではない。十分頑張っている。
   それは言い訳ではなく、声を張って主張すべきことだ」

少年「……はは。僕みたいな子どもが何言ったって、結局なんも変わんないって」

少年「それに、今、金がほしいわけじゃないんだ。別にもう金なんてどうでもいいんだよ」

少年「今もらってもしょうがないんだ……」

少年「……じゃあ、本当にそろそろ行かなくちゃ」



* * *




少年(……やっぱクビかな……)

少年「……それならそれで、いっか。惰性で続けてただけなんだ」



工場長「! お前……!!」

工場長「どういうつもりだ?3日も無断欠勤しやがって」

少年「すみませんでした……」

少年「でも、事件に巻き込まれてて……警察が……」

工場長「つまんねー嘘つくんじゃねえ!!クソガキめ!!」

工場長「テメーはクビだ、クビ!!役立たずの上、雇ってやった恩を忘れるような奴はいらん!」

少年「……」

少年「……」

工場長「まあテメーが土下座して、どうしてもクビが嫌だって言うなら、
     また雇ってやってもいい。ただ給料は半分になるがな」

少年「……」

少年「じゃあ、クビで」スタスタ

工場長「……ああ!? ふざけんな、てめーみたいなガキ雇うところなんてここしかねえんだぞ!!」

少年「いいです」

工場長「おいっ 本気か!? じゃあ給料はマイナス25%にしてやる!これでいいだろうが!!」

少年「もういいです」






スタスタ


魔王「少年……大丈夫か?」

少年「……」

少年「……もういいんだ」

少年「ま、こうなるだろうと思ってたし」

少年「これで食いぶちもなくなった。この間、助けてくれてありがとな」

少年「……なんで僕みたいなの助けたのか分かんないけど……」

少年「……じゃ。もう構わないで」

魔王「……」



―――――――――――――――――――
――――――――――――――――
――――――――――


ゴゴゴ……ゴトンゴトン バキャベキ
  ガガガガガ……ガガガガ



少年「……は」

少年「……あ」

少年「ああ……」

少年「工事が……はじまってる……」タッ


少年「……………………」

少年「……家が消える……」

少年「……僕たちの家が……」

少年「…………ちょうど、よかったのかもしれないな」

少年「これで僕も、いっしょにいける」







黒服1「あー?子どもが家の前に?」

黒服2「ほら、最後まで立ち退かなかったあそこです」

黒服1「ああ。どっか行ったって聞いてたんだけどな」

黒服2「どうします?今日あそこの先まで進めないと予定が狂います」

黒服1「いい、いい。社長から言われてる。ガキが来たら、事故にしとけってさ」


黒服3「まじっすか。うわあ……俺がやるんすか」

黒服2「お前がショベルカー担当だろうが。頼むわ」

黒服3「グロイの苦手なんすけど。分かりました」


ガガガガガ……


黒服3「はあ……悪く思うなよ……命令だ」









少年(家が残ってれば、妹もお母さんもお父さんも……いつか帰ってくるんじゃないかって思ってたんだ……)

少年(馬鹿だなあ……)

少年(ずっと、この家で妹と過ごしたな)

少年(……お前が死んだあの日……僕も……いなくなってればよかった)

少年「死ぬ勇気が……なかっただけ……」

少年「惰性で続けていた仕事もなくなった。生きる術を失った」

少年「生きる意味は……1年前にとっくになくしてた……」

少年「もう、いいよな……」


魔王「――少年!なにしてる、ここは危ないぞ。逃げないと」

少年「あんたまだいたのかよ……ほっとけっつったろ……。もう、いいんだ」

少年「僕はこの家と一緒に死ぬ。やっと決心がついた」

魔王「何を言って……。……止まれっ!ここに子どもがいる!それ以上動くな!」


ガガガガガガ……


魔王「……死んではだめだ!少年、頼む。ここから離れよう」

少年「この世界でもう生きる意味がない。僕はずっと……妹のために頑張ってきたんだ……。
   全部あいつのためだった……」

少年「でも、もういない」

少年「この先、一人きりで生きて、何になる?僕みたいなのが生きてたって、いいことなんかひとつもない」

少年「金もない。家族もいない。目的もない。何にも僕にはない」

少年「あいつはもう死んだんだ。僕も……あいつのところにいきたいんだ。
    もう…………つかれた…………」

少年「らくになりたい……」

魔王「……っ……でも……死んじゃだめなんだっ……!!」

魔王「大切な人が……死んで……生きる、のが、どんなに辛くても……」

魔王「……それでも、死んではいけない……」

魔王「い……生きていれば……必ず……きっと……いい、こと、が」




ガガガガガガ


少年「……本当にそう思ってる?」

魔王「……!」

少年「自分が大切な人を亡くしたとき、本当にそう言える?」

魔王「……、……」

少年「ここにいればあんたまで巻き添えくらう……どっか行って」

少年「……さよなら」

魔王「…………っ」ギュッ

少年「……何だよ……」










魔王「魔法を使ってアレを止めることもできない」

魔王「言葉で君を説得することも、救ってやることもできない」


ガガガガガガ……メシャッ


魔王「私はなんて無力なんだろう……」

魔王「……ごめん……」

魔王「君はずっと頑張ってきたのだな」

魔王「私は君のこと、やっぱり知っていた。君が妹のためにずっと頑張ってきたことを知っている」

魔王「疲れてしまったのだな……うん……。うん。そうだな」

魔王「でも、君が私たちをつくってくれたんだ……」

少年「……? はぁ……?」

魔王「君は一人じゃない。ずっと私たちは君たちのそばにいたんだ」





魔王「私も、彼も――君に会いに、世界を越えてきたんだ」


ミシッ バキバキ ベキンッ








黒服3「うわぁ~ 女と子どもごと家を潰すところなんて見たくねえよ。どんなグロ映像よ」

黒服3「社長もえげつないこと考えるぜ」


バリンッ!!


黒服3「……あ?」

黒服3「…………手?」

黒服3「……なにこれ……うおっ!?!?」グンッ


ガガガ……ガ……ガ


少年「……え……止まった?」

魔王「……」



黒服3「……おわぁぁ!? な、何だ!?一体……」 ズルッ

黒服3「て、てめえ!何しやがる!!離せ!」

勇者「……」バキッ

黒服3「ブッ!?」

勇者「見えてたよな?」バキッ

勇者「子どもと女があそこにいるの分かってたよな?」ガッ

黒服3「ちょ……やめ……」

勇者「なんで止めなかった?」ドスッ

黒服3「……ちが……俺は……めいれいされて……」

勇者「責任者どいつだ」






勇者「お前か」

黒服1「オイオイ、工事の邪魔されると困るんだが。あんまなめた真似すると」バキボキ

黒服1「こうなるぜ……っと」バキッ

勇者「……」

勇者「どうなるって?」

黒服1「……」スッ

勇者「ケンジュウとやら出そうとしても無駄だ。今から両腕折る」

黒服1「は」


アギャーーー


黒服2「! 何事ですか? そこの男動くな!」チャ

黒服4「てめえ、俺たちに盾つくとどうなるか分かってんだろうな?
    お前みたいな貧乏人なんていつでも消せる。社会的にも、文字通りにもな」

勇者「撃ってみろ。こいつに当たってもいいんならな」

勇者「なるほどつまりお前らはあれか。
   ここに遊園地とかいうものを建てるためなら人を殺してもいいと」

勇者「貧乏人なら殺してもいいと」

勇者「貧乏人の家なら許可なく壊してしまってもいいって思ってんだな」バキッ

黒服1「ぐっ!! や、やめろ……社長がそう言ったんだ……俺たちが決めたわけじゃねえ」

勇者「あ?お前の服についてるその緑のマーク……そうか。
    あのシスターが俺に潰すよう頼んだ会社ってのはお前らのとこか」

勇者「オイ全員、この男がこれ以上痛い目に合わされたくなかったら武器を捨てて両手を後ろに組め」

勇者「で、歯ァ食いしばれ」




勇者「もう一度ここに来て同じことをしてみろ。次はどうなるか分からないぞ」

黒服2「わがっだ……」

勇者「あとお前。こっち来い。さっきのアレ操縦して、ここにあるキカイ全部壊せ」

黒服3「エ゛ッ!!ででででもこれ全部でいくらすると……」

勇者「しらねーーーよ。もう使わないんだから関係ないだろ。さっさとしろ」







勇者「無事か? ……!?子どもは!?どうした、怪我したのか?」

魔王「……いや、気を失っているだけみたいだ」

勇者「なんだ……。とりあえず寝かせるか」



勇者「少年の家勝手に上がらせてもらったけど、仕方ないよな……」

魔王「彼の家が壊れずに済んで本当によかった」

魔王「彼にとってここはとても大事なものなのだ。どうもありがとう。勇者くん」ペコ

勇者「えっ、そ、そんな改まらなくていいって。プリズンブレイクが間に合ってよかった」

魔王「でも私は何もできなかった。……勇者くん。この子が創世主だ」

勇者「ああ。みたいだな。なんだ、魔王も知っていたのか」

魔王「さっき思い出した。私たちは、彼に会いにきたのだ」

勇者「……そっか。そうだな」







翌日


少年「…………朝……。ハッ!!もうこんな時間だ、工場に行かないと!遅刻する……!」ガバ

少年「……じゃ、なかった。もうクビになったんだっけ」

勇者「よう、起きたか。邪魔してるぜ。おはよう」

魔王「おはよう少年」

少年「ファッ」

少年「な、なんだよお前ら……人ん家に勝手に! あんた誰だよ」

勇者「俺は勇者だ。よろしくな」

少年「ゆ、勇者? ……変なの増えた……最悪……」

少年「あ、あの殺人犯のときいた……あと、昨日ショベルカーを止めた奴……」

魔王「勇者くんが昨日助けてくれたのだぞ。
    パンとスープは食べられるか?私の服を売った金で買ったから遠慮せず」

少年「助けてくれたって……。…………余計なこと、しなくてよかったのに」

少年「もう、さ……どうしようもないんだって。どうせあいつらはまたここに来るよ……。
   ちょっと予定が狂っただけで、工事が中止されるなんてことはあり得ない」

少年「僕には仕事もない、金もない。家族もいない。行くところもない」

少年「生きたいとも……思わない……。もういいんだ」

魔王「……」

勇者「あのな」

勇者「俺たちは実はここの住人じゃない。だから、ずっとここにいることはできない。
    少年に仕事を紹介してやることもできないし、お前が大人になるまで代わりに稼いでやることもできない」

勇者「家族になってずっと守ってやることもできない。家を提供してやることもできない」

勇者「だけど一つだけできることがある」

少年「……?」

勇者「あの会社をぶっ潰して工事を止めてやる。お前と妹のこの家を、そのまま残す」

勇者「明後日、列車に乗って砂漠を越えよう。都市に行くぞ」





* * *


姫「列車強盗ですって?」

頭領「そうだ。中央区から都市に行く列車は一カ月に一度だけ」

頭領「乗るのは中央区の連中だけだ。切符が馬鹿高いからな。
    遠慮はいらねえ、なんかいいモンあったら奪い取れ」


わーーわーーー わーーーオカシラーーー


頭領「ただ、危害を加えるのはNGだ。警察は別だがな。あいつらは撃ってくるし別にいい」

姫「危害を加えないからと言って、国民から金品を奪うなんて……」

頭領「勘違いすんな、連中から奪うのはあくまでついでだ。本来の狙いはこれ」

魔女「なにこれ?……草?と花?水? 骨?」

頭領「都市から中央区の博物館に貸し出されてたものだ」

頭領「本物の生きてる植物に、海水一瓶と、恐竜の化石だ……。
   どれも値段のつけられないくらい希少なもんだ」

頭領「貧乏人にゃ見ることすら叶わない幻の宝だぜ。全部数日後には俺たちのもんだ。
    ま、植物だけはじっくり見たら返すがな。枯らしたら事だ」

強盗団「うっわ、本物の植物とか海水が見られるなんて、今からわくわくする!やべー!」

強盗団「恐竜の化石ってどんなのなんだろうな!」

魔女「植物に海水~~?そんなのどこにでもあるじゃん。本当に宝なの?」

頭領「ないから宝なんだよ。お前、異世界からやってきたのか?」

魔女「まあそうだけど」

頭領「とにかく列車が出る日まで各々準備しとけ。銃の点検を怠るなよ」

姫「えっ……本当にやるんですの?」
魔女「ええっ……本当にそれ盗むの?」

「「……」」

姫「……」プイ

魔女「……」プイ

頭領「お前ら仲直りしろよ……」








* * *


少年「……は、はあああ!?なに言ってんだよ?」

少年「会社潰すとか……無理に決まってるだろ!都市にだって行けるわけない!」

勇者「いや行くぞ。まあ、これは俺が別の奴から請け負った依頼でもあるし」

少年「……だから、余計なことするなよ。大体なんで初対面のあんたらがそこまでする?
   僕なんか……助けてくれなくていいよ」

勇者「悔しくないのか?あんな連中に大切な家を壊されて、命まで奪われそうになって」

少年「みんなにとって、僕の命には塵ほどの価値もないよ」

少年「……大体、会社を潰せたとしても、その先はどうなる?僕のゴミみたいな人生が続くのか?
   僕はもう諦めがついてちゃったんだ」

少年「こんなゴミみたいな世界で、ゴミみたいに思われてまで、必死に生きる気力がもう僕にはない」

少年「どうせ、ここから消えてなくなったって、誰も気には止めないよ……」

魔王「君をゴミみたいに思っているのは誰だ?
   塵ほどの価値もないと決めた『みんな』とは誰?」

少年「……みんなだよ」

魔王「少年。自分の価値は自分で決めろ。自分と、君の大事な人にのみ判断を委ねろ」

魔王「それ以外の有象無象が君に何を言っても、気にするな。所詮戯言だ!」

魔王「妹は君のことゴミだなんて思ってなかった。
   君の大事な人であるかは分からないが、私たちだってそんなことを思ってない」

魔王「君の人生は、本当にこれまでゴミのようだったのか……?」

魔王「……本当に? 本当に自分は消えてもいいと、思っているのか……?」

勇者「俺も魔王も、お前には消えてほしくない。だから、助けるよ」


少年「……あんたら本当に何なんだ?」

少年「会ったばかりなのになんでそこまでしてくれる?何が目当てなんだ? 金なら……分かってると思うが、ないよ」

勇者「金なんていらねーよ」

勇者「お前が俺たちの創世主だからだ。お前が俺たちをつくったんだろう」

少年「…………ふざけてんのか?」

魔王「ふざけてない。ノートに物語を書いたろう。私たちはその世界からやってきた」

少年「は……!?ノートって」

勇者「俺の名前は――。魔王の名前は、――。教会で見た異国の神話から名前をつけたんだろ?」

勇者「俺たちはお前が妹のためにつくった話の勇者と魔王だ」








少年「……その名前………………うそだろ……」

魔王「本当だ」

少年「……戸棚……開けるなって言ったのに……開けたんだな」

少年「僕が寝てる間に開けたんだな!!勝手に!!」

少年「……箱を壊して……ノートを見たんだなっ!!」

勇者「へっ? いや、違うけど。箱?」

少年「ここの戸棚に入ってる箱だよっ!!見たんだろ!!」

少年「……あれ!? な、ない。おいお前ら!箱をどこにやった!」

魔王「戸棚は開けていない。箱には触ってもいない」

少年「うそつけよ、じゃあ箱が勝手にどっか行くってのかよ!!」

少年「………………もう出て行けよ!!! 早く出て行け!!」グイグイ

少年「こんなガキ騙そうとして何になるってんだよ!!ふざけやがって!」

魔王「少年、違う、開けてなっ」


バタンッ!!!


勇者「……締め出されたな」

魔王「……ああ」



勇者「まあ急にあんなこと言われても普通信じられないだろうな。
   証明できるもの持ってないし、この世界にないっていう魔法は今使えないし」

魔王「大丈夫だ、きっといつか信じてくれるはずだ。彼は聡い子どもだから」

魔王「ここでしばらく待とう」ストン

勇者「……」

魔王「……? 何だ」

勇者「いや……そういえば、その格好どうした」

魔王「格好……ハッ」

魔王「違うぞ勇者くん。これは違うのだ、落ち着け。冷静になるのだ」

魔王「私は痴女ではないっ、痴女じゃないぞ、落ち着くんだ落ち着け」

勇者「落ち着くのはお前だ」

魔王「仕方のなかったことなんだ。だから暫しの間、お目汚し勘弁願い奉る」

勇者「落ち着け、深呼吸だ魔王。口調が変だ」








魔王「……ここの建物の端の方は抉れてしまったな。魔法が使えたら、あんなものすぐ防げたものを」

魔王「早く魔力を取り戻したい。魔族に戻りたい」

魔王「私はやはり人間ではだめだ。魔法がなければ何もできない。あんな子ども一人助けてやれない」

勇者「……何もできなくなんてないだろ」

勇者「あの殺人犯から少年を守ったのはお前だ。
   それに、さっきの言葉だって、あいつの心に届いてたよ。俺じゃああいうことは言えなかった」

魔王「でも、やっぱりいつも君に助けてもらってる」

魔王「殺人犯に殺されかけたときも、この家が潰されそうになったときも……
   本当は、少しだけ、勇者くんが助けに来てくれるのではないかと思ってた」

魔王「……情けないな。これではだめだ。だめなんだ」

勇者「なっ、なんでだめなんだよ。助けてやるよ。言っただろ、一人でなんとかしようとしないで頼れって」

勇者「俺にできないことが魔王にできて、魔王にできないことが俺にできる、それでいいじゃないか」

勇者「むしろ魔法が使えると、魔王にしかできないことが多すぎて、俺はちょっと心配だ。
   いつかまた大勢の人たちのために魔法を使い続けて……あんなことになるんじゃないかって」
    
勇者「だから……人のままで……いればいいんじゃないか」

勇者「お前が人間のまま……魔法が使えないままだったとしても…………」

魔王「ん?」

勇者「そうしたら、俺がお前のこと……ま、守るよ」

魔王「……」

魔王「有り難いが、そういう言葉は私にかけるべきものではないだろう」

魔王「心配をかけてすまないな。私は大丈夫だ。
   だから、そういうのはあの子に言ってあげてくれ」

勇者「……? あの子って誰だよ」

魔王「君の大事な人だ。照れずともよい。忍のことが好きなのだろう」

勇者「……え……っ?」

勇者「ああっ!そうか、ごたごたしてて何も言えてなかった!違うぞ魔王!
   俺とあいつはそういうんじゃないんだ、ほんとに!!」

勇者「王都でお前の研究室のときは、あれはあいつが邪魔したから転移魔法少し失敗して
   たまたまあんな風になっただけで……」

勇者「俺は忍のことが好きなんじゃない。あいつも、そうだ。じゃれてきてるだけっていうか。
   ……大体、あいつが俺に絡んでくるのも、魔王の前でだけだったし」







魔王「君たちは恋人同士では……?婚約も済ませていたろう」

勇者「済ませてねーよ!!恋人じゃあない!!好きでもない!」

魔王「ええっ そうだったのか? 勝手な勘違いをしてしまった」

魔王「……でも、いつか現れる。君にも大事な人ができる。人間の女の子が。 
   そのときまでその言葉は取っておくのだ」

勇者「……」

勇者「……いやっ今使うのであってる!!」

勇者「魔王聞いてくれ。俺はロリコンだったのかもしれない!変態クズ野郎なのかもしれない!」

魔王「突然のカミングアウトに驚きを隠せないわけだが」

勇者「一緒にいるうちに……お前も俺も成長して子どもじゃなくなって……」

勇者「お……俺は魔王のこと前と同じように見れなくなってた」

勇者「お前が人間でも、魔族でも、俺は……!」

魔王「……?」






勇者「だから、その……つまり」

勇者「魔王の……こ、ことが……だな」

勇者「お前のことが……っ」

魔王「……」



魔王「っくしゅ」



勇者「…………」

魔王「ん……、っくしゅ! ごめん……何だ?続けてくれ」

魔王「ゲホッ ゴホゴホッ う、変な風に息が……ケホッ」

勇者「…………だ、大丈


バターーーン!!


少年「……人んちの前でぎゃあぎゃあうるっせーんだよ」

少年「あといま咳したのどっちだよっっ!!!!!!!!!!!!!」

勇者「まっ魔王です」

少年「早く中入れよ!!!!夜に体冷やしたら風邪ひいちゃうかもしれないだろ!!!!
   マスクしろマスク!!早く寝て!!熱は?水飲む?」

魔王「いや、ちょっとむせただけだ、気にするな」

少年「馬鹿、咳なめんな!!!早く寝ろってば!!」


勇者「ちょっと!俺も入れろ!!おい!!」ガチャガチャ





少年「……本当にあんたらが箱どっかにやったんじゃないんだな」

魔王「違うぞ。なくなってしまったのか?一応外も探してこようか?」

少年「や……いいよ。別に……もういらなかったから。捨てられなかっただけ」

勇者「何が入ってたんだ?大事なものだったんじゃないのか」

少年「大事だったものだけど、もういい。なくなったんならそれでいい……」

少年「じゃ、なんであんたら……あの名前知ってたんだよ。
   あれは……妹が、神話から選んだ名前だったんだぞ」

少年「勇者とか魔王とかで呼び合ってるけど……何?」

勇者「でも俺ほんとに勇者だし」

魔王「私も魔王だ」

勇者「お前が俺たちをつくったんだろ」

少年「あーーーもーーー話が通じない奴らだな!
   ふざけてんだろ?そうじゃなきゃマジで頭沸いてんだろ」

少年「くそ、めでたい頭してていいよな。……分かった。もういいや」

少年「どうせ僕なんて仕事クビになったし、多分そのうち死ぬ。
   だから……死ぬ前にあんたらの遊びにちょっとだけ付き合ってやるよ……」

少年「……都市へ」

少年「どうせ死ぬなら、あいつらにひと泡ふかせてやるっ」

勇者「ああ、行こうぜ!」






* * *


ブォォォォォン



シスター「やっと都市に行ってくれる気になったか。そら、お前の剣だ、悪魔」

勇者「おっ、サンキュー!やっぱ剣ないと落ち着かないわ」

勇者「……で、あんたが中央区まで送ってくれるって言うのは有り難いが
   このクルマはなんでほかと違って屋根がない?」

シスター「さあ……知り合いから借りたもんだから。ドンパチやって吹っ飛んだんじゃね」

勇者「お前の知り合いどんなだよ。ほんとにシスターなんだろうな」

少年「この人は前からそうだよ、この通りイカレシスターだ」

魔王「しかし、このクルマというものは一体どのようにして動いているのだ?
   どこが心臓なのだ?何目何科何属?エサは何を食べる?」

シスター「心臓はここ。車目車科車属。エサは人肉」

勇者「えぇっ!!?」

魔王「降りたい……」

少年「動物じゃないってば!シスターも適当なこと教えんな、こいつら馬鹿だから!」

シスター「おっと。あいつらも着いてきたみてーだな。後ろ見てみろ」

少年「え…… あ、あの黒い車!黒服の奴らがのってる!」

勇者「あいつら!また来たのか!しかも一台だけじゃない。大丈夫か、シスター?」

シスター「なめんな。後ろに積んであるもの取って。お前らも好きに使っていいよ、色々入ってる」

少年「なっ!!シスター、お前これっ!!怪しい奴だとは思ってたけどさ!」

魔王「なんだそれは?」

シスター「マシンガン目マシンガン科マシンガン属、マシンガン」

シスター「伏せてろ」



ダガガガガガガガガガガッ
  キキーッ ドンッ!!  ワーワー

何だあの車! 銃声!?








勇者「お、おい。いいのか」

シスター「私は運転があるからあんま手伝ってやれないよ。そっちも応戦して」


ダンッ バンバン! チュイン


少年「あ、あいつら撃ってきてるっ! いや先に撃ったのこっちだけど……」

魔王「このケンジュウというのは恐ろしく速い飛び道具だな。目に見えない」

勇者「くっそーーやったるわい!魔王と少年は危ないから頭下げてろ!!」

シスター「安全装置下ろせよ。タイヤを狙え」

勇者「ああ!」

勇者「おらあっ!!ついてくんなてめーら!」


ダンッ ダンダンダンッ! バン!


少年「……なあ全然当たってないんだけど」

魔王「勇者くん、一発も当たってない」

シスター「弾無駄にすんなよ。無限じゃねーんだ」

勇者「おっ俺は飛び道具なんて扱ったことねえんだよ!!」







* * *


騎士「あれから全然ほかの方と会いませんね。勇者さんと魔王さん……合流してるといいんですけど」

騎士「あと姫様……と、ま、魔女さんは無事でしょうか」

騎士「ところで魔女さんが全然僕の名前覚えてくれないんですけど、そういうのどうしたらいいですかね」

騎士「いや、本当僕は影の薄さが悪いとは分かってます。分かってますけど!!うわああああ!」

竜人「騎士さん全然影薄くないですよ!大丈夫です!」

竜人「でも何かインパクトがあるといいのかもしれませんね。ギャップというか。
   魔女は単純なので何か分かりやすい特徴があればすぐ覚えると思いますよ」

騎士「インパクト……全裸とかですか?」

竜人「そんなハードモードいきなり選ばなくても……。例えば眼鏡とかモヒカンとかほら……」


キキーッ


警官「てめえ、ここらへんで麻薬売りさばいてる奴だな。来い、逮捕だ。神妙にお縄につけ」

竜人「え?麻薬?そんなもの売りさばいてません」

警官「しらばっくれんな!!てめえのそのジャケットにベルト、手配書にある通りだ!」

騎士「あっ、そうか!竜人さんが極めて穏便に服を頂いたあの人、確か危ない人じゃなかったですか?」

竜人「ああ……そういえばそうでしたね。逃げましょう」ダッ

警官「待ちやがれ!!!麻薬密売人め!!!」





ダッダッダッダッ


竜人「こんなことならあの方から服を頂戴しなければよかったですね……チッ」

竜人「……ん……?」

騎士「竜人さん!あれって!!」


ブオンッ!!


竜人「魔王様っ!!!」

騎士「と勇者さん!!」

魔王「竜人……!?騎士! 何故こっちにいる?」

騎士「どこに行くんですかー!?」

勇者「中央区の駅に来い!!俺たちは都市に行く!!」

魔王「えっと何だっけ、レッサーパンダに乗るのだ!」

少年「列車ね」

魔王「待ってる! 二人も来るのだぞ!」

竜人「魔王様……っ!! よくぞご無事で……!
   勇者様もご無事でよかった……!!」



勇者「あんま身乗り出すと落ちるぞ!!」ギュッ

魔王「ぁわっ……だ、大丈夫だ」

勇者「お前らも早く来いよ!列車は正午発だ、遅れるな!!」


ブォォォォ……


竜人「…………」ブチッ

竜人「はい。すぐ行きます」

騎士「竜人さん、こめかみから血が噴き出てますけど!?」







警官「ん?もう逃げるのはやめたのか?賢明だ」


スタスタスタ  バタン


竜人「あの屋根ない車追ってください」

警官「は??何言ってんだ、今から署に向かうんだ」

竜人「誘拐犯が乗ってます。あの男です。横にいるあの娘がかどわかされました」

警官「あっ!!あいつ、この間プリズンブレイクしやがった男じゃねえか!!誘拐だとっ!?」

警官「やっぱ余罪あったんじゃねえか……!!後輩、追え!!」

後輩「いえっさ」ガチャコン


ギャリリリリリッ ブォーーーン!


竜人「誘拐罪、銃刀法違反、下着泥棒、恐喝、資金横領、猥褻物陳列罪など余罪多数です」

騎士「りゅ、竜人さーーん」

竜人「さらに許されざるべき変態です!!早く追ってください!!!私が仕留めます!!!」

騎士「竜人さーーーーーーーーーーん!!」




少年「だれ、あの人たち?あんたらの知り合い?」

魔王「竜人に騎士だ。君も知っているだろう」

少年「しらねーよ、あんなギラギラした目の奴……こわ」

勇者「ゲッ!! またあのケーサツの奴ら!おいおい面倒だなぁ」






* * *


女「……」

女「見つけた」チャキ


女「ねえ」

男「ん……? 何、 グギャッ」ビチャ

女「車もらうよ」


女「…………列車ね」



* * *


頭領「いくぜお前ら。列車はここを必ず通る。そしたら車から飛び乗るんだ」

頭領「銃は持ってるな?」

P「持ってまーす」

O「久しぶりの大仕事だ!わくわくするね」

魔女「いえーい! それにしても、本当に街の外は砂漠しかないんだねー」

魔女「なんかさびしいや」

姫「そうですわね……空は昼も夜もずっと曇天ですし、何だか慣れませんわ」

魔女「ねー。そろそろ青い空が見たいな」

「「……ハッ」」

姫「……」プイ

魔女「……」プイ

強盗団「まぁだやってんのか?」



頭領「もうすぐ来るぜ……俺たちの夢の列車がな」



今日はここまでです


竜人さんの設定はどう決めたのかしら


魔王様いいところでくしゃみwwwwww

まってる

舞ってる

間ってる

魔ってる

㋮ってる

続きを待ってます。
一作目から読み返したけど、本にして持っておきたいな

のんびり待ってます






シスター「私はここまでだ。頼むよ、お前ら」

勇者「ああ、まかせとけ」

シスター「……少年。お前の家はこいつらが守ってくれるよ。
      この男は私が召喚した悪魔なんだ」

少年「はあ……シスター、また妄想にとり憑かれてる」

少年「悪魔なんて、いないって」

シスター「いるさ」

シスター「信じれば何だって存在するんだよ。神様も天使も悪魔も」

少年「……目に見えないのならいないのと同じだ」



ダダダダダッ



勇者「黒服のあいつらまだ追ってきやがる」

勇者「このまま列車とやらに乗るぞ!どこで乗れるんだ?」

少年「えっと、た、多分あそこ」

魔王「よし行こう」


駅員「ちょっと! 困りますよ、あんたら切符買わないで何通り抜けようとしてるんですか?」

魔王「きっぷ?買わないといけないのか。いくらだ」

駅員「これ料金表です。都まで?だったら、ここご覧ください」

魔王「ん……。高いな。手持ちの金では払えんぞ」

少年「ど、どうするんだよ?僕も金なんて持ってない」

勇者「言わずもがな俺もだ!!」


黒服「いたぞっ!捕えろ!」ダダッ

黒服「列車に乗って都まで行くつもりか!?そうはさせん!」


魔王「まずいぞ。何か…… そうだ。この指輪をきっぷ代にはできないか?」

駅員「指輪?ふーむ、なかなか高価そうな赤い宝石ですね、それなら……」

魔王「…………では、これを」

勇者「待て!それ、先代から受け継いだ大事なもんなんだろ。とっとけよ。
   代わりに俺の剣をきっぷ代にしてくれ!!宝石もついてるし多分それなりに値打ちもんだ!多分!」

駅員「ええっ、剣はちょっと……!?」

勇者「じゃあそういうことでよろしくな!よし行くぞ!」ダッ

駅員「えっあのっちょっと!?」

黒服「くそ!追えっ!!」





黒服「えーっと1,2,3……大人25枚まとめて買えますか……あ、領収書下さい」






魔王「これが……れっしゃ?」

魔王「横長い家の間違いでは?これが本当に動くのか?」

少年「僕でも列車くらい知ってるぞ。どんだけ世間知らずなんだよ」

勇者「小部屋がいっぱいあるな。なんなんだこれは」

少年「都まで大体丸一日かかるらしいから、寝具もついてる。食堂とか娯楽室とかもあるって聞いたけど」

魔王「つまり大きな建物が人を乗せたまま動くと……。魔法も使わず本当にそんなことができるのか?」


ビーーー…… ゴトッ


勇者「うわっ!!本当に動いた!! すげー」

魔王「……竜人と騎士は間に合わなかったようだな。しかし何故彼らまでこちらに……あっ」

魔王「黒服の面々が追ってきたぞ」

少年「あいつらしつこいな……でももう列車は動きだしてる。これでもう追えないさ」


黒服「うおおおおおおおおおーーっ!!」ガシッ


少年「な……なに!?根性で列車の側面にしがみついた!」

勇者「しつこい奴らだ。お前らは先に進め、ここは俺が――」



ガシャーーン!!


人「うわあ!?何事だ!?」

人「窓から人が……」


黒服「皆さまご安心ください。我々は怪しい者ではありません。
    そこにいる犯罪者3人組を捕えるために荒々しい手法をとらざるを得なかったことをお詫び申し上げます」

勇者「犯罪者はお前らだろうが!」

黒服「ショッキングな映像をご覧になりたくない方はコンパートメントの扉を固くお閉めください。
   また野次馬になった方は巻き添えをくらうことになるかもしれませんがあしからず」


バタンッ  バタンバタン  バタンバタンバタンッガチャ


黒服「ご協力ありがとうございます」チャキ







「ぐぁっ」

黒服「!?」

勇者「全員動くな。指一本でも動かしたら、お前らの仲間がどうなっても知らないぜ。
    こんな至近距離からなら、俺でも弾もあてられる」

少年(……こいつ自分のこと勇者とか言うわりには、躊躇なく人質とかとるなぁ……)

黒服「…………お前らの目的は何だ?この列車は都行きだ。都市に行ってどうするつもりだ」

魔王「お前たちの会社の社長とやらに会いにいくんだ」

黒服「ふん、直談判でもするのか?あの土地は既に我々のものだ。なかなか出て行かなかったその小僧が悪い」

黒服「法も社会も全て我々の味方だ。むしろ業務妨害でこちらが訴えたいくらいだね。
   この間お前が怪我させた人材と、破壊させた機械で損害がいくらになるか電卓で打ってやろうか?」

魔王「正当防衛だ。子どもを事故死に見せかけて殺そうとしたことの方が重罪だろう。
   そのことが周りにばれてはまずいから、こうして追いかけてきたのではないのか」

勇者「とにかく俺たちは都市に行く。法も社会も関係ねえ、お前らに邪魔はさせない」

黒服「都市には行かせない。お前らは今後どんな損害を生むか分かったもんじゃないからな。
    悪いがブラックリスト入りだ……ここで消えてもらう」チャキ

勇者「おい、動くなと言っただろ」

黒服「さっき俺たちが特殊な訓練を積んだ者だと言ったが……あれは嘘じゃない。
    お前が工事現場で相手した奴らと一緒だと思うなよ」

黒服「俺たちはお前らみたいな厄介者を相手するためにいるんだ。荒事専門」

黒服「あっさりそいつを人質にできたのはすごいが……
    こういう状況になったときにどうするか、俺たちはすでに決めてあるんだ」

黒服「恨みっこなしだってな」

勇者「!?」


バンッ! ドガガガガガ……


勇者「……信じらんねえ!あいつら仲間もろとも撃ってきやがった!二人とも大丈夫か?」

少年「う、うん」

魔王「こちらにも銃はあるが、まともに撃てる者がいない……逃げよう」

勇者「よし」


ダッ







ドガンッ ダンダンッ! ドガガガガ


少年「うわぁぁ……!なんだよこれ……っ」

勇者「障害物のあるフィールドじゃないと不利すぎるな。食堂とか娯楽室ってのはどこらへんにあるんだ!?」

少年「しらねーよ!僕だって初めて乗るんだから!」

勇者「それに武器もほしい……剣とかないのか?」

少年「あるわけねーだろ!!博物館にでも行けよ!!」





黒服「チッ 追うぞ!! 他の街へ応援要請はだしたか?」

黒服「はい。間もなく到着するようです」

黒服「いざとなれば列車止めてでもなんとかするぞ」





* * *


騎士「もっと速く動かないんですか!?勇者さんたちもう行っちゃいますよ!」

後輩「だめでしたね。正午1分過ぎ、もう列車は行きました。あれって都市行きですよね」

後輩「都市の警察に連絡しておきます」

警官「チッ……逃がしたか。まあしょうがない」

竜人「ええっ?困りますよ、追ってください!!」

警官「列車は一度走り出したら都市までずっと止まらないんだ。車じゃ追いつけん」

警官「お前らは一旦署に………… …………あ?」

後輩「?」

警官「あ……あれ……あの女!!!連続殺人犯だ!!」

後輩「うわ、本当ですね。列車に乗ってましたよ。都市に逃げる気ですね」

警官「……!! 後輩……車を出せ」

後輩「どっちにですか?」

警官「街の外に決まってんだろ!!!あの列車を追うんだ!!なんとしてでもあの女を俺の手で捕まえる!!!」

後輩「はーい」ガチャコン



ガガガガガガガ……



後輩「うーん、砂漠はやっぱり走りづらいですね」

竜人「連続殺人犯って……あの新聞に書かれていた?あれに殺人犯が乗ってるんですか!?
   魔王様と勇者様もあれに乗ってるんですよ!どうするんですか!追いつかないと!」

警官「ぎゃーぎゃー騒ぐな!!だから今追ってんだろーが!!
   列車とはいえ初速なら追いつける可能性がある。今フルスピードで走ってんだ」

竜人「竜の姿になれればすぐ追いつけるのに……歯がゆいですね」

警官「ハァァ?どういう意味だ?」

後輩「でも、先輩。追いついたとしてもどうやって列車に乗るんです?あの列車止まりませんよ」

警官「飛び移る」

後輩「ええっ?下手すりゃ死にますよ」

警官「んなこと気にしてられっか!あいつは俺が絶対捕まえる!!捕まえなくっちゃいけねーんだ」

騎士「何か因縁があるんですか?」

警官「俺は何年もあいつのこと追ってたんだ。やっと捕まえたと思ったら護送中に逃げられた……」

警官「……あいつが逃げた理由、俺には分かる気がするんだ」

後輩「逃げた理由なんて……一つしかないでしょう。牢獄に入ったら人殺せませんから」






警官「一見そうとしか見えねえが、あいつはただの快楽殺人犯じゃあない。
   あいつのしてきたことは絶対許せねえが……」

警官「何年も追っかけてるうちに情が湧いちまったのかもしれん。
   せめて最後に俺はあいつの願いを叶えてやりてーんだ」


竜人「……?」

騎士「なんか深い事情がありそうですね。
   でも、列車に追いついたときに僕たちもどさくさに紛れて飛び移れば……」

竜人「そうですね。彼らにはなんとしても追いついてもらわないと」

竜人「しかし……街の外は随分荒廃してるんですね。砂丘しか見えません」

騎士「太陽ないから砂漠でも暑くないですね。あ、でもあそこに池みたいなのありますよ」

竜人「池にしては……変な色ですね……」

後輩「君たちは街の外に出るのは初めてなのか?あれは酸性泉だよ。
   入ると全身どろどろに溶けるから近づかないようにね」

警官「あれくらいのでかさならまだいい方だが、街から離れるともっとでけえのがある。
   車いっこがっぽり入っちまうでかさとか、それ以上のとかな」

警官「ま、お前らはすぐ牢屋に入れさせてもらうから街の外にでる暇もねーだろ」







* * *


頭領「よし今だ!飛び移れ」

姫「とととと飛び移れ!?なに言ってるの!?
  列車も車も、馬車の何倍もの速さで動いてるのよ?無理です!」

頭領「できると思えば何でもできる」




姫「はーっ……はーっ……はーっ……まさかこんなアクションを要求される日が来ようとは……死んだかと思った……」

頭領「よし全員乗り移ったな」

強盗団「いえー」

魔女「これからどうするの?」

頭領「お前らは乗客が騒がないよう見張れ。魔女と姫は7号車担当だからこっから進行方向の逆に進むんだ」

頭領「ほかの奴らも決めた通りに動け。俺は目当ての宝がどこに保管されてるか探す」

魔女「え~~!あたし見張りなんて地味なのヤダ。あたしもお宝探しに行きたい」

頭領「決定事項だ。逆らうな」

魔女「ちぇ」




7号車


姫「えっとここが7号車ね」

強盗団「おう。んじゃちょっとぶっ放すか」

姫「え?」


ダーーーン!


乗客「!?」

乗客「なんだ……!?」

強盗団「いいかお前らよく聞け!!この都市行きの列車は俺たち強盗団が乗っ取った!!」

強盗団「頭に風穴開けられたくなかったら騒ぐなよ!!全員ほかの車両への出入りを禁じる!!大人しくしとけよ!!」

姫「な……なな……何を……」


ざわざわ ざわざわ


強盗団「これからお前らの荷物をチェックさせてもらうからな!武器と通信器具は没収する!
     金目のもんもちょっと頂くかもしれねーがな。そんくらいならお前らにとっちゃ痛くもかゆくもねーだろ」

強盗団「ほら姫も銃構えてろ。牽制しなくっちゃ」

姫「ええっ……そ、そんな……」

魔女「あ」スタスタ

姫「?」


魔女「おじさんも銃持ってるんだ。でも抵抗は止めた方がいいよ」チャキ

乗客「!!!」

姫「魔女さん!?」

魔女「その銃寄越して。じゃないとおじさんの体どうなるのかな~」

乗客「わ、わかった!分かったから銃を下ろしてくれ……!」

魔女「はいよ」



姫(あ、あんな躊躇なく……やっぱり魔女さんと私は違うのだわ)

姫(王女がこんなことしてるところなんて、国民には絶対話せないわね……)

姫(そもそも自衛以外で武器を人に向けるなんて……!ましてやこの銃を撃つなんて絶対無理よ。あぁ……これからどうなっちゃうのかしら)

姫(というか魔王さんと勇者探しはいつ始められるの……)







* * *



17号車



バタン!


勇者「あっ!このパイプもぎとれば武器になりそうだな!」ボキッ

黒服「待て!」ドタバタ

勇者「待てと言われて待つ奴がいるかっ!」


ガチャ


強盗団「……!?なんだてめーら……動くな!!この列車は俺たちが乗っ取った!!」

少年「えっ! れ、列車強盗だ……!」

魔王「前から強盗、後ろから黒服の連中か。万事休すな」

勇者「こうなったら……上だ!屋根に上るぞ!」

少年「無理に決まってんだろっ」

勇者「この階段から行ける!少年から先に上れ、俺が最後に行くから」

少年「正気かよぉ」



黒服「強盗団だと……!?面倒な時に乗り合わせたな」

強盗団「おい、そこの黒い団体さんも動くなよ。武器と通信器具と金目のもん寄越せ」

黒服「お断りだね。邪魔するならてめーらもあいつらと同じ目にあうぜ!」

強盗団「上等じゃコラァ!何者か知らないがこの列車は俺たちの支配下にあるんだ、大人しくしやがれ!!」


ドンパチドンパチ






ビュオオオォォォォォ


少年「うわぁぁぁっこわいっ」

魔王「大丈夫だ、後ろに私がいる。落ちたら受け止めるから」

少年「お前も涙目じゃんっ!頼りになんないよ!」

魔王「砂が目に入ったのだ」


勇者「お前らついてくんじゃねー!蜂の巣にすんぞオラァ!」ドドド

黒服「全然あたってねーぞ」

黒服「あいつノーコンだ」

勇者「うるっせえ!! 二人とも上ったか?」

魔王「上ったが、風圧がすごくてこれでは歩けんぞ」

少年「こんなん無理だって!」

勇者「じゃあ二人とも俺が抱える!ちゃんと掴まってろよ!」

少年「どわっ」

魔王「私は子どもではないぞっ」

勇者「似たようなもんだろ」


ダッダッダ……


少年「うわぁぁっ……よくこんなところ走れるな。あんた何者だ……?」

少年「実は軍人だったりするの?」

勇者「グンジン?また分かんない単語でてきたな。知らないが、俺は勇者だ」

少年「ああ……ソウデスカ……」







* * *


頭領「ふうん……これが……」

強盗団「うわーっ すげえ。これが本物の植物かぁ」

強盗団「恐竜の化石、けっこうでかいんだな」

男「ば、馬鹿っ!!乱暴に扱うな、それらにどれだけの価値があるのか分かってるのか!」

男「金銭の問題だけじゃない、我が国の歴史的財産なんだぞ」

頭領「そんな価値あるものを金持ちにだけしか見せてくれねーのはひどくないかね」

頭領「よし、8号車に開いてる客室があったな。そこにこれは保管しとくぞ」

男「くっ……くそう、お前ら強盗なんかに奪われるなんて」

頭領「ま、運が悪かったと思ってくれや」


頭領「じゃ、このあと適当に金持ちの連中からとれるだけとって、都市に近くなったらずらかるぞ」

頭領「都市にいるほかの仲間が車で迎えに来るから、荷物は乗り移るときに邪魔にならないくらいにしとけよ」

「はーい」

強盗団「けっこうあっさり目的は達成できましたね。騒ぐ乗客もいないみたいだし」

頭領「ああ。少し退屈ではあるがな」


プルルル


頭領「ん?着信だ。 どうした?なんかあったか?」

   『お頭ー!大変だー!』

   『いま黒い服着て銃装備の男どもと、17号車で交戦中だ!何人か仕留めたが、こっちもやられた!』

頭領「黒い服着た男ども?何者だ?」

   『車掌でも乗客でもないみたいだ!誰か追ってるみたいで、逃げてる奴らとそれ追った黒服は屋根からそっちに向かった!』



強盗団「一体何が起こってるんだ……?」

頭領「お前らはその宝をなんとしてでも守れ。俺はあいつらのところに行ってくる」

頭領「いい退屈しのぎができたじゃないか」







* * *


パン! パンッ チュイン チュィン



少年「っ!」

魔王「大丈夫か!?」

少年「う、うん……ちょっとかすっただけだ」

勇者「……!次の車両は扉が開きっぱなしだ。人がいない!
   魔王と少年はこっから降りて先に進め。で、どっか隠れてろ」

勇者「俺があいつらをここでやる……!」

少年「さすがに無茶だよ!そんな丸腰で……あいつら銃で殺しにきてるんだぞ!?」

少年「あんたも逃げなきゃ……!!」

勇者「丸腰じゃない、これがある」

少年「それただの鉄パイプじゃんか!チンピラ相手の喧嘩じゃねーんだぞ!」

魔王「勇者くん……」

勇者「少年を頼むぞ。よし、行け。こっちはまかせろ!」

魔王「……ああ。……分かった!」





スタッ


魔王「行くぞ。この車両には誰もいないようだ」

少年「本当にいいのかよ?あいつ死んじゃうぞ」

魔王「私たちがいても足手まといだ」

魔王「……っでも、魔力さえ戻れば……」

魔王「少年。君が信じてくれればまた魔法を使えるような気がするのだ」

少年「おいっ、いま電波ってる場合じゃないって!」

魔王「嘘を言っているわけではない。私は本当に魔法が使えるんだ。
   昔 妹のために、君はノートに勇者と魔王の話を書いただろう」

魔王「君が……また、信じてくれれば、私は魔法を使えるようになる……」

少年「は、はぁぁ?……妹のこと……なんで知ってるんだよ」

魔王「知ってる。夢で見たんだ。君たちは本当によく似ている」

少年「…………やめてくれよ」

魔王「え?」

少年「あいつはもう死んじゃったんだ。……思い出すと苦しい。だから、思い出さないようにしてる」

少年「考えなければ辛くないんだ、だから……忘れ……たい」

魔王「……」

少年「あんたもさっ、いい歳なんだからもう魔法だとかそういうの卒業した方がいいと思うよ。
    そういう便利な装置は、この世には存在しないんだ。今時赤ん坊だって信じてないよ」

少年「この世にはどうにもならないことしかないんだ。
   受け入れるか、忘れるか、僕たちにできるのはそれだけなんだ」

魔王「だから君は忘れるのか?」

少年「……そうだ」



魔王(……どうしたら少年に信じてもらえるだろうか。何か証拠を示せればいいのだが)

魔王(困ったな)







* * *


警官「そうだ!!よし、このままもっと近づけろ!!おーし、いいぞぉ!」

後輩「俺のハンドルさばき、なめないでほしいっすね」ギャリッ

警官「ん?」グラ

警官「ギェェエっ!!? お前っ殺す気か!!俺が窓から身を乗り出してるときに蛇行運転すんなボケ!」

後輩「先輩なら大丈夫だろうっていう信頼の表れです」

警官「物はいいようだなぁ?帰ったら覚えとけよ」

警官「じゃあ、俺は列車に乗り移る。こいつらは後輩、お前が責任もって署に送りとどけろよ。
   こっちのことは心配すんな、なんとかする」

後輩「了解」

騎士「えっ!?ちょっと僕たちも連れてってくださいよ!」

警官「ばかやろー!できるわけねーだろ!おとなしくしとけよ」ガチャ

騎士「んなっ!この手枷外してください!勇者さんと魔王さんが大変なんですって!」

警官「よいしょっと……!!」ヒョイ



警官「……ふう。なんとか、乗り移れたな」

警官「待ってろよ……何年もずっと追いかけまわした。でも、今日でそれも終わりだ」

警官「今日で全部、終わらせる……!」








後輩「よし、先輩も無事列車に乗れたことだし、街に戻るから」

騎士「いや、ですから僕たちもあれに乗らなきゃいけないんですって!!お願いします!」

後輩「知り合いがあれに乗ってるんだっけ?殺人犯は先輩が捕まえてくれるから大丈夫だ。
   かなりうだつのあがらない昔気質のがんこじじい、ステレオタイプの元刑事だけど、」

後輩「ああ見えてベテランなんだ。大丈夫大丈夫。
    というわけで君たちは署に送るよ。こっちも仕事だから勘弁してくれ」

騎士「こちとら世界の命運かかってんですよ!?あなたの仕事より大事です!」

騎士「ちょっと、竜人さんも何とか言ってください、このままじゃ……」

竜人「あまり手荒な方法はとりたくなかったんですけどね。仕方ありませんね」

騎士「へ?手荒?」


スッ


後輩「……!? ちょっなにして」

竜人「よっと……」ゴキッ

後輩「かひゅっ」

竜人「騎士さん、この方を後ろに!私がこのクルマとやらを操りますので」

騎士「なにしてんすか!?!?」

竜人「大丈夫です。死んではいません。ちょっと首に刺激を与えただけです」

騎士「ちょっとってアンタ……刺激ってアンタ……この人泡吹いてますけど……」

竜人「世界の命運がかかってるんです!やむを得ません!あとで謝ります!
   えーっと確かさっきここをこう引いてたような……で、この操縦桿で方向指定ですね」


ブォォォォォォン


竜人「列車に近づいて、二人同時に飛び移りましょう」

騎士「いや、僕もあなたも手枷で座席に繋がれてしまっているので無理ですって!
   ……あれ?竜人さん、手枷は?いつの間に?」

竜人「騎士さんは手首の関節とか外せないんですか?」

騎士「そんなできて当たり前みたいな顔して言わないでください……!できませんよ!?」

騎士「あ、でもこの人、確か武器みたいなの持ってましたね。それで破壊してみます」








竜人「…………」

騎士「よしっ、外れた」ガチャン

騎士「……竜人さん、会ってすぐ勇者さんに斬りかかったりしないでくださいね。
    敵味方関係なしの大乱闘はじまっちゃいますんで」

竜人「そんなことしませんよ」

騎士(どうかなぁ……)

竜人「あのときはカッとなってしまっただけです。どうも私は気性が荒くてすぐ頭に血が上ってしまいますね。
   竜族由縁のものかと思ってましたが、違ったみたいです」

騎士「竜族みんな、そんなだったら畏怖の念を隠せません」

竜人「それに本当はちゃんと分かってるつもりなんですけどね。
   魔王様と勇者様のことは私が口を出すべき事柄ではないと……」

竜人「ですが騎士さんは娘か妹いらっしゃいます?私の気持ち分かりますかね?
   魔王様が本当に小さい頃から私はずっとお守りさせて頂いてたのですよ」

竜人「さいしょは全然喋らない子でしてね、目も合わせずきょときょとしてて、
   でも夜中に起きてトイレに立ったりすると魔王様もいつの間にか起きててついてくるんですよ」

騎士「は、はあ」

竜人「果物のケーキを作ったときはじめて笑ってくれてそれから料理勉強して、匂いが嫌いって言われたんで断腸の思いでタバコもやめました。大物の賞金首をしとめた時にその金でぬいぐるみ買い与えたらずっとそれ抱えて歩きまわってすごいかわいかったんですよ寝る時もずっとそれ抱いててご飯も食べさせようとしてて。ぬいぐるみだからっ!!!ごはん食べないのに!!!!子どもってなんでそういうことするんですかね?天使かよ?」

竜人「うわああああぁぁあーーーーーーーーーーーーーーーーーっくっそやっぱ許せねえッ!!!」

竜人「蝶よ花よと育ててきた大事な娘をあんな若造にぃぃぃぃぃッ!!誰の許しを得て腰に手ェ回してんだあの野郎ッッ!!!!」

騎士「竜人さん!数秒前の自分の台詞ちょっと見直してみよう!」

竜人「そもそも……魔王様にはまだそういうの早いと思うんですけどどうなんですか……っ……ううっ……」

竜人「どうなんですか騎士さん!!!!!!」

騎士「いや知りませんよ」






* * *


15号車 屋根上


バンバン ガンッ



勇者「うっ!」

黒服「ふん……ここまで躱す奴なかなかいないぜ」

勇者(まるで攻撃が目に見えない……空気に斬られてるみたいだ。弓の何倍の速さだよ)

勇者(いや!集中すれば絶対見えるはずだ。目も慣れてきたはずだし)

勇者(しかしやっぱ障害物がない場での飛び道具多数相手はきついな)


黒服「抵抗は仕舞いか?なら、天国に送ってやる」バンッ

勇者「く……」


パッ


勇者「!?」

勇者「なに!? 避けたはず……」

黒服「これは散弾銃っていうんだ。弾が散らばるんだよ。
   お前みたいにすばしっこく動き回る標的をやるのに有効だ」

勇者「うう」グラッ

勇者「……っ」



黒服'「落ちたか?」

黒服「…………だな」

黒服「……いや違う、まだだ!」


バリーン


黒服「窓から列車内部に入った。しぶとい奴だな……追うぞ。今度こそ仕留める」








* * *


15号車(食堂車)



勇者「……ここはなんだ……?レストラン?」

勇者「ほかのところと違うな」

勇者「しめた。十分な広さがある上テーブルや椅子とか障害物が利用し放題だ」

勇者「ここであいつらを一人一人仕留める。ばらけさせりゃこっちの勝ちだ」


ポタポタ


勇者「……幸い内臓はそんなに傷ついてないみたいだが……あんまり時間はかけられないな」

勇者「はあ……情けないなぁ。ばしっと無傷であいつらの元に行きたかったんだが」

勇者「これ以上かっこ悪い姿見せるわけにはいかないな」ガシッ


バターン!


黒服「往生際が悪いぜ。さっさと…… ん?ここは食堂車か」

黒服「ふっ、テーブルにでも隠れるつもりか?そんなことをしても無駄だ。
   お前は一人、こっちは十数人。四方から囲めば……」

勇者「うおらああああああああ!」ブンッ

黒服「意味がな…………あ!?」


ズガンッ


勇者(まず1人やれたな……さらに2人巻き添えだ)サッ

勇者(もう不意打ちは通用しないかもしれないがここはゴリ押しでいくしかない……)




黒服(テーブル投げやがった……野生のゴリラかアイツは)ゴクリ

黒服'(俺たちはいつからゴリラ討伐隊になったんだ……)

黒服「…………ええい怯むな!あれは限りなくゴリラに近いが、かろうじて人間だ!やるぞ!!」

黒服'「……っああ!!ゴリラだろうがなんだろうがやってやる!!」

勇者「誰がゴリラだ!?」






* * *


8号車 扉前


少年「次が8号車か……でも、いまんとこ強盗団と遭遇してないけど
   ここから先に行ったら絶対かち合うと思うよ。どうする?」


ガラッ


少年「だってこの先多分客室だしさ……。……かと行って後ろにも下がれないし、一体どうしたら」

少年「あの黒服の奴らと強盗団だったらどっちを避けるべきだろう」

魔王「……」

少年「?」

魔王「……少年。後ろだ」

魔王「どうやらその二択を迫られずに済みそうだ」

少年「うしろ……」

少年「あ」

強盗団「まだ全員乗客を捕えてなかったのか……今までどこにいたんだ?」

強盗団「まあいい。来い」

少年「……選択肢なんてなかったみたいだね……」



魔王「……!」

魔王「あ、あれは?」

少年「剣?本物?」

強盗団「へっへ、すげーだろ?都市の博物館に送られるはずだった代物だ」

強盗団「ごってごての装飾だが、本物なんだぜ?ちゃんと斬れるんだ」

魔王「……」

魔王「ああ……ぜひ欲しい」

強盗団「おい?」


チャキッ






少年「なっ……えっ……? な、なにしてんだよ?」

魔王「この剣は私が頂く」

強盗団「……お前さん何者だ?本当に乗客か?ただならぬ気迫を感じるぜ」

魔王「私も実は強盗なのだ。この子どもは本当に乗客だがな。今まで人質として連れまわしていただけだ」

少年「???」

強盗団「まさか同じ列車に別の強盗が乗り合わせるとはね。おもしろい。
     だがそうやすやすとお宝を渡すと思ってんのか?」チャキ

魔王「思っていない。元より力づくで奪うつもりだった」

魔王「ゆくぞ」タッ


ガッ!!


魔王「あっ? 切っ先が床に引っかかっ……」



ビッターン!!



魔王「……」

少年「……」

強盗団「……」

魔王「……」

強盗団「……おい……?」

魔王「……」


少年「……気絶してる……」

強盗団「俺なんにもしてないんだけど……」








強盗団「おいおいなんだってんだ、大丈夫か?
     とりあえずここに倒れたまんまじゃ邪魔だ、どっかに運ばねえと……」

魔王「……ハッ……私は一体?」パッ


ゴツン!


強盗団「ガッ」

魔王「うっ」

強盗団「ぐへ……」バタン

魔王「痛いっ!なんだ!?」



少年「かくかくしかじか」

強盗団「……」

魔王「なるほど……人は無意識化のうちにこそ潜在能力を発揮できると聞いたことがあるが、
   まさに今それを私が体現してみせたということだな」

少年「いや、ただの運」

魔王「何でもよい。とにかく剣を手に入れた。私はこれを勇者くんのところに届けるぞ」

少年「じゃあ、僕も行くよ」

魔王「いいや、君はこの先の車両に進んで、乗客として強盗団に捕えられた方が安全だ」

少年「はっ!?」

魔王「先の対応を見ただろう。強盗団はこちらが大人しくしていれば危害を加えない。
   あの黒服の連中をなんとかしたら必ず迎えに行くから、先に行っていてくれ」

魔王「では私は引き返す」

少年「えっおい、ちょっと……」

少年「……」

少年「……行っちゃった」







10号車 娯楽室


魔王(早くこの剣を勇者くんに……)

魔王(早く……)ピタ

魔王(? 誰かいる?)



ビシャッ!!


魔王「……!?」

  「ガッ……あ」

女「邪魔しないで」

  「……ぁ……」ドチャッ

女「……」スタスタ


魔王(な……なんでここに……)

魔王(こっちにくる)

魔王(……で、でもまだ気付かれていない。ここに隠れていれば……)

魔王(……っ)


女「……」スタスタ


魔王(………………行った……)

魔王(…………っはぁ……)

女「……」スタスタ





女「……」







女「見つけた」

魔王「!?」










車掌室


B「はぁ~ まだ開かないやぁ」

強盗団「まだやってるわけ?」

A「だってよぉ、解錠のプロと名高い俺たちが
  そうやすやすとこんなおもちゃの箱ごときに敗北を認めると思うか?」

A「絶対意地でも開けてやんよ」

A「それに、車掌室って眺めはいいけど暇なんだよなぁ。
  車掌数人見張ってればいいだけだし」

車掌(く……!強盗団に列車を占拠されるなんて……
    せめてこの列車の緊急事態を都市に伝えねば……)

車掌(そうだ、あの緊急連絡ボタンを、こいつらを騙して押させれば……!!)

B「確かに暇だよね。ねえ車掌さん、何かおもしろいこと起きるボタンないの?」

車掌「そ、そこの赤いボタンを押してみろ。すごくおもしろいことが起きる」

B「まじで?やった押すね」

車掌(こ、こいつら思った以上のアホ!!すんなり押してくれた!! ってあれ?)

車掌「ち、ちちちちがーう!!そっちの赤いボタンじゃない!!こっちだ!!」

B「へ?」

車掌「そのボタンは……!!」







* * *


強盗団『ていうわけであのバカが、車両と車両を切り離す制御スイッチを押しました』

強盗団『あとは各車両にあるレバーを引けば、どこからでも車両を分断できます』

頭領「おう分かった。いま後ろの車両を担当してた奴ら運んでるから、
   それが済んだら黒服の奴らとさよならするために使う」

頭領「じゃあな」ピッ


頭領「……しっかし……なんなんだあいつら」

頭領「まあ奴らが食堂車で大乱闘を繰り広げてるおかげで、俺はどちらにも気づかれずに仲間を運べてるわけだが」

頭領「どっちも厄介だな。さっさといなくなってほしいぜ」








* * *



警官「ふう!なんとか列車に乗り移れたが、一体全体どうなってやがんだこりゃあ」

警官「マフィア同士の抗争か?一応都市に連絡はいれたが……」

警官「とにかくこっちは後回しだ、早く連続殺人犯を追わねえと!!」

警官(何体か、銃ではなくナイフで斬り殺された遺体があった……)

警官(マフィアどもは全員銃で戦ってる。恐らくこれはあの女の仕業だ)

警官(待ってろよな……!!)





15号車




勇者「はぁ……はあ……」

黒服「がはっ…… くくく……」

黒服「俺で最後だとでも思ったか……?」

勇者「ああん!?」

黒服「こんなこともあろうかと……あらかじめ第二軍を手配しておいたのさ……」

黒服「今頃列車に乗り込んでいることだろう……」

勇者「しちめんどくせーことを……」


ガタッ!


勇者「! もう来たのか、早いな……ってあれ!? あんたは確か」

警官「お前!!誘拐罪、銃刀法違反、下着泥棒、恐喝、資金横領、猥褻物陳列罪など余罪多数もろもろのクソガキ!!」

勇者「なんか俺の罪状とんでもないことになってる!」

警官「大人しくお縄についてもらうぜ……と言いたいところだが、俺が今負ってるのはお前じゃねえ」

警官「……腹怪我してんのか。おら、この応急手当セットを使え」

勇者「えっ!? なんだ、おっさんけっこういい人だな。ありがとう」

警官「警察は、犯罪者を殺すためにいるんじゃない」

警官「……普通はな」









勇者「ん……?」

勇者「まあいいや、とにかく傷の手当てができるのは助かった。黒服第二軍を片したら俺もあいつら……」


ガチャ


勇者「え……?」

警官「勘違いすんな、見逃すわけじゃねえ。お前はここにいろ。また逃げんなよ」

勇者「おいっ!? ふ、ふざけんな!!!この手枷外せ!!」

警官「ま、逃げようと思っても流石に俺特製超合金手錠は壊せまい。
    ゾウが踏んでも壊れない丈夫な手錠だ」

警官「なーに入口の柱と右手をつないだだけだ、暴れんな」

警官「じゃあな、あばよ!!また会おうぜ下着泥棒!!」

勇者「なんで数多ある罪状からソレ選んだんだよ、盗んでねーよ!」

勇者「待て……待て行くなこれ外せ!!!第二軍がこれから来るんだぞ!!」

勇者「おーーーーーーーーーーい!!!」








* * *


7号車


ガタンガタン……ゴトン



「いやだわ、列車強盗だなんて……どうしましょう」

「騒げば金品だけじゃなく命も盗られるぞ……」

「全くついてない……」


少年「……」


少年(あれから……あいつの言う通り乗客のフリをして強盗団のところに来たけど)

少年(……金持ちばっかで落ち着かない)


少年(あいつら……大丈夫かな……)

少年(ていうか本当にこのまま、都市についたら大企業に乗り込んで直談判?)

少年(なんか、現実感がないや。いま僕がこうして列車に乗ってることも)

少年(これが……街の外)

少年(砂漠しかないけど、すごく広い。あれが地平線ってやつなんだ)

少年(静かで、恐ろしいけど、その先に何があるのか気になる)

少年(……こんな広い世界があるってこと、あいつにも見せてやりたかった)



  「お兄ちゃん、街の外ってなんにもないんだね」

  「でもすごいね……これから、いろんなところいきたいね」

  「ね、お兄ち


少年(……)

少年(考えるのやめよう)

少年(全部忘れよう。もう戻ってこない)

少年(忘れちゃえばいいんだ……こんなに苦しいんだから……!)

少年(最初から持ってなかったと思えれば、どんなに楽だろう……)








* * *


女「私は全部忘れちゃったんだ。もう戻ってこないの」


ズダンッ!!


魔王「うっ、うぐ……は、離せ」

女「私、どうすればいいと思う?」

魔王「そんなこと私が知るかっ」

女「あなたはほかの人とちがった反応してたから……もしかしたら教えてくれるかもって思って」

女「なくなっちゃった感情を取り戻すためには何をしたらいいの」

魔王「……知らん!どけ!私は急いでいるんだ、お前に付き合っている暇はない」

女「…………だめ」

女「教えてよ」

女「教えてくれなきゃ殺しちゃうよ」


女「もう覚えてないんだけど、悲しいことがあったんだ」

女「体と同じように心も病気になるじゃない?
   冷蔵庫も知らなかったあなたはもしかしたら知らないかな」

女「でも心の病気も薬を飲めばすぐ治っちゃう時代になりつつあるんだよ。
  薬一錠飲むだけで、どんなに悲しくても怒ってても、一瞬で笑えるようになるんだ」

女「まだ市販はされてないんだけどね……私の実家、裕福だったから、特別に売ってもらえたわけ」

魔王「……」

女「確かにすごかったよ。死にたいくらい悲しかったのに、次の瞬間びっくりするくらい幸福感に包まれた。
  ドラッグかと思っちゃうくらいのね。それで私は悲しいのをなかったことにした……」

女「だけど薬があわなかったのかな。
  だんだん悲しみだけじゃなくてほかの感情もなくなっていったの」

女「いまではもうほとんど何も感じない。どうすればいいのか教えてほしい」

魔王「だから私は……」

女「ねえ。あなた人間じゃないでしょう」





魔王「……!?」

女「あなたを殺そうとしたあのとき、変なこと言ってたじゃない。魔族じゃないとかどうのって」

女「常識がなさすぎるし……いくらなんでも、変」

魔王「…………そうだ。私は人間ではない」

女「じゃあ、なんなの。もしあなたが魔法が使えるのなら、私を元に戻してほしい」

魔王「……今は魔法が使えない。それに、使えたとしても、魔法でできることは限られている。
   感情をなくしたり、取り戻したりするような繊細な魔法は……私には分からない」

女「…………」

女「……」チャキ

女「じゃ、あともうひとつ。あのとき、殺されそうになっていたのに、どうして笑ったの」

魔王「ああ……。あれは」

魔王「人間だろうが悪魔だろうが神だろうが、生きていればなんだっていいと……言っただろう」

魔王「その言葉に思わず笑ってしまっただけだ」

魔王「そうだな……案外そういうことなのかもしれん。生きてればなんだっていいのかもしれないな」

魔王「……」

魔王「そう考えたら、ずっと今まで小さいことにこだわってた気がして……
    小さいからといって有耶無耶にするわけにはいかないけど、でも、胸が空いた気分だった」

女「…………そっか。よかったね」

女「私の期待してた答えと違った……けど」

女「……人間じゃないあなたを殺せば、また何か新しい感情が見つかるかな」

女「そっちに賭ける……よ」スッ

魔王「!! このっ……離せ!!」バッ


ドサッ




魔王「はぁ、はあ……やめろ。私を殺してもお前に感情が宿ることはない!」

女「そんなのやってみなければ分からないじゃない」

魔王「…………っ」チャキ

魔王「ふざけやがって!!!」

魔王「お前にそうやすやすとやれるほど私の命は安くないっ!!!」

女「銃なんて……使えるの?」

女「どうせ無駄な抵抗なんだから、最初からしなければいいのに」

魔王「例え勝ち目のない相手だとしても、立ち向かわなければならない時がある」

魔王「……今がそのときだ」


ダァン!!


女「全然、あたってない」

魔王「次はあてる……!」

魔王(弾の数は、あと5発……あと5回で仕留めないと)

魔王(どこか一発でも体のどこかに掠ってくれれば)

女「……」



今日はここまでです
間が空いちゃってすみませんでした
6月に書いた書き溜めはあったんですけども・・

いっそ書き溜め全部投下したいんですが眠いので寝ます
レスありがとうございました 完結は必ずさせます

おつ

警官もいいキャラしてるね。
お疲れ様です!

乙!
勇者やべえ

乙!

乙!
次の投稿も
㋮ってるよ!!
頑張ってください!




バァン!

ダンッ


女「……」ヒュッ

魔王「くっ!」


グッ


女「じゃ、はじめようか」ヒュ

魔王「は――離せっ」

魔王「うわあ!」サッ


ハラ……


魔王(……か、髪……)

魔王(……でもこの至近距離ならっ)チャキ

女「邪魔」

魔王「!」


バンッ



女「外しちゃったね」バシッ

魔王「……っあ」

魔王(銃……!)

女「あなたを殺せば、絶対何か分かる……。
  絶対取り戻せる……!」

女「死んで」


ヒュッ!


魔王「……っ」

魔王(剣…………勇者くんに……っ)

魔王(渡さないといけないのに…………)







* * *


15号車



ガチャガチャガチャガチャ


勇者「くっそ!! こんなもん……!!」

勇者「早くこれなんとかしねーと……!!あいつらが来る前に」



バタンッ


黒服「! 確かアイツだ。オイいたぞ、こっちだ!!」

黒服「なんで手錠で繋がれてんだ」

勇者「ぎええええええええええええええ」

勇者「うおおおおおおおおおお」ガチャガチャ




頭領「……ふう、お前で最後だな」

強盗団「へい。すまねえリーダー」

頭領「気にすんな。……ん?また黒服の連中増えてやがる」



勇者「……! おい、そこのあんた!頼む……銃でこれ壊しちゃくれねーか!」

頭領「あぁん?」

頭領「……」


ヒョイッ


勇者「待っ……」

頭領「今のこの列車はよぉ……各車両についてるこのボタンひとつで車両を切り離せるんだわ。
   俺の部下が馬鹿やったせいでな」

頭領「で、あの黒服の奴らが狙ってるのは明らかにてめぇだ。
   俺が次にどうするか、お前にも分かるよな?」

勇者「……おいおい……うそだろちょっと待て」

頭領「お前らのごたごたに巻き込まれて、こっちの計画が狂うのはごめんだね」

頭領「あばよ」



ポチッ








* * *



7号車


夫人「……」チラチラ

男「……ふぅむ」

少年「……」

少年(気まずい)

夫人「……あなた、親御さんは? 見たところ、貧困区の子よね。どうして列車に乗っているのかしら?」

少年「……。貧困区の連中が列車乗ってたら悪いのかよ?」

少年「(正規の手段で乗ったとは言い難いけど)ちゃんと金も払った。あんたにとやかく言われる筋合いない」

夫人「な……私は心配をして……」

男「放っておきなさい。貧困区の子どもに礼儀がそなわってるわけないだろう。
  全く親は何やっているのやら……」

少年「……ッ」ブルブル

男「むしろ……あいつら、強盗団の仲間なんじゃないのか?強盗の手引き以外に、この列車に乗る理由もないだろう」

少年「勝手に…………決めつけんなよ!!」ガッ

男「な、なにをする」

少年「金持ちってのがそんなに偉いのかよ?金ないのが……そんなに見下されることなのかよ」

少年「僕は……僕はずっとそんな風に……これから一人で生きてかなきゃいけないのかよっ」

男「はあ?」

少年「……列車に乗る理由、あるよ。都市にいるクソムカつく会社の社長に会いに行くんだよ!!悪いか!?
   強盗団なんかといっしょにするんじゃねー!!」

男「くっ……うるさい、離せ」ブン








強盗団「……なーんかあっち騒がしくねーか」

魔女「んー」

強盗団「俺こっち見てるから、魔女と姫で様子見に行っちゃくれねーか」

魔女「オッケー」スタスタ

姫「えっ……私も……ですか?」

魔女「……」

魔女「こわいの?」クス

姫「!」

魔女「あんだけかっこつけて入団したくせに、こわいんだー」

姫「なっ……怖くないわ!!私が一体何を恐がるというの!!私も行きます!」スタスタ

強盗団「やれやれ……」



スタスタ


姫「…………っ魔女さんって!」

魔女「何よ」

姫「……魔女さんも本当は竜人さんのことが好きなんじゃないんですか!?」

魔女「はぁぁぁ? ゲロゲロ、やめてよ。冗談じゃないんですけど」

姫「だって魔女さんはずっと昔から竜人さんといっしょにいたわけですし……っ
  仲も……いいしっ!」

姫「だから、私に意地悪なことばっかり言うんじゃありませんの!?」

魔女「……!」チャキ

姫「なっ……!? ななな何を…… ハッ、私に銃を向けたということは図星?」

姫「や、やっぱり魔女さんも彼のことが……!?? う……うそ!どどどどうしましょう……」

魔女「……」

姫「~~~な、何よ、撃てるものなら撃ってみなさいよっ……脅しなんて私に通用すっ」



バンッ!!


姫「!!」


―――グラッ…… 


魔女「……あのさ」








夫人「きゃっ!! 銃声!?」

少年「まさか……あいつらっ!?」バタン

黒服「!! いたぞ、あのガキだ!」


黒服「おい。大丈夫か?」

黒服「くそぉ、手やられた……! あのアマァ……!!」


姫「え……?」クルッ

魔女「マジで気分悪くなるから、そういうこと言うのやめてくんない?姫様」

魔女「あたし、あんたみたいに趣味悪くないもーん」

姫「趣味悪い……!?」カチン

姫「訂正して頂きたいですわね。私のどこが趣味悪いと言うの」

魔女「ほんとのこと言っただけじゃん。男なんて山ほどいるのにわざわざあいつ選ぶなんて正気の沙汰じゃないね」

姫「ですから……何故そういう言い方をするの!?棘があるのよ、あなたの発言には!!」

魔女「そう聞こえるように言ってるんだから当たり前でしょ?」

姫「なんですってぇ……!?」

魔女「なによ……!?」

黒服「てめえら覚悟しろよ、今すぐ蜂の巣にしてやるっ!」チャキ

魔女・姫「邪魔しないでよ!!!」ダンッ!!

黒服「!?」


コノヤロー! ヤリヤガッタ! イクゾ ヤロードモ!


姫「…………一時休戦」チャキ

魔女「賛成」ジャキッ









少年「う、わあ!? は、離せ!離せよ!!」

黒服「チョロチョロと逃げ回ってくれたもんだ。お前が例のガキだな」

黒服「悪く思うな、仕事だ。あばよ」

少年「っ……!」ギュッ

姫「あばよ、はこちらの台詞です」バン

黒服「グハッ!?」

少年「えっ!? あ、あんた強盗団の……」

姫「見たところあなたはこの方たちに狙われているようですね。
  ここは私たちにまかせて、あなたはこの先に車両にお進みなさい。ここにいては危険ですわ」

少年「い、いいの?」

姫「かまいませんわ。さあ早く」

少年「う……うん」タッ




少年「あの黒服たち、ここまで来たってことは、あいつら……」

少年「……どうなってんだよ……この列車」








バァン!

 ギャー


魔女「ヒュー♪魔女ちゃん百発百中かっくいー!」

魔女「銃っていいなー。リロードが面倒くさいけど」カチャ

黒服「フッ」ジャキ

魔女「げ」


ダンッ


姫「……注意力散漫ですわよ」

魔女「ドーモ。御忠告痛み入ります」

姫「…………」


ワーーーワーーー
  バンバン チュインッ ドガシャーン



姫「……私、本当は分かってますわ」

魔女「?」

姫「私が私である以前に、私の立場が姫ってことが魔族の方たちにとって大事だったってこと」

姫「最初から分かってました!そういうの慣れてますもの。
  宮中って、魔女さんが思うよりずっと色々ありますのよ」

姫「……でも、全部が全部うそだったとは思いません」

姫「本当のあの人と接していた時が必ずあったはずだって……そう思ってます」

魔女「ふーん……それでいいんだ」







姫「……それでいいかって? ちっとも……よくありません!!」

姫「大体……魔女さんの方が竜人さんのこと、私の何倍もずっといっしょにいて、何倍もよく知ってるし!
  魔女さんといる時の方が……楽しそうだし……!!」

魔女「ないない」

姫「ていうかあの人は魔王さん第一じゃないですか!
  いつもいつも口を開けば魔王様って言ってるし……目はいつも魔王さんのこと見てるし!」

姫「私なんかが魔女さんや魔王さんに勝てないってことくらい重々承知してるんですよ゛ーーーーっ」

姫「それに私は人間ですし!!どんなに頑張っても竜にはなれませんもの!!!」

姫「うわあああああああああああああんっ」


ダガガガガガガッ
    ワーーーー  ギャーーー

魔女(豪快……)

姫「でも諦めきれないの」

姫「あなたに『諦めろ』と言われたけど、できることならとっくにやってます!!」

姫「できないから、こうしてずっと苦しいのよ!!!」

魔女「……」

姫「……それにっ……私、誰かとこんな風に本音で言い合って、口げんかするのなんて初めてで……!」

姫「……仲直りしたくてもどうすればいいのか分かりませんの!」

姫「きっと後に私が傷つかないようにと思って、言ってくれたのだと思うのですけど、私が意地張って……認めたくなくて」

姫「…………こういう……とき、どうすればいいんですの」

魔女「……」

魔女「あははっ。そんなの、かんたんだよ」







10号車



女「あなたを殺せば、絶対何か分かる……。
  絶対取り戻せる……!」

女「死んで」


ヒュッ!


魔王「……っ」

魔王(剣…………勇者くんに……っ)


――――バンッ


女「!」


カランッ……


女「……」

魔王「はっ……はぁ……」





警官「そこまでだ」

警官「ついに見つけたぞ。連続殺人犯。今日こそ……」

警官「今日こそ、決着をつけてやる」

女「しつこいなあ」シュッ


バンッ! 


魔王「……は……はあ……ええと」

警官「お嬢ちゃんはすぐここを離れな」

女「勝手に……。そんなことさせると思う」ヒュンッ

警官「へっ!投げナイフなんて全部撃ち落としてやらぁ!!」

警官「ほら、とっとと行け!ここにいたら巻き添えくらっちまうぜぇ!!」

魔王「あっ、あぁ。恩に着る」


タッ





女「待って」

魔王「……」ピタ

警官「? はよ行け」

女「……いかないで……」

魔王「君の境遇には同情する。でも、私は力になれない」

魔王「君に殺されてやるわけにはいかない。私、勇者くんを助けに行かなければいけないんだ」

魔王「……さようなら」タッ

女「まって……」

女「……まってよ……」




警官「お前、あのお嬢ちゃんに自分のこと話したのか」

女「あの子は人間じゃないの。ほかの人と違う。だから……だからあの子なら分かると思った」

女「私が人間に戻る方法……」

警官「そりゃ、無理な話だ。少なくとも今の技術じゃ、失った感情を取り戻すことはできやしねぇ」

警官「お前は一生そのまんまだ。人を殺した罪悪感だけが拠り所の凶悪殺人犯のまんまだよ」

警官「生きようとする限り罪を重ねるしかねえ。サイコ野郎になりきれねえ最低最悪のシリアルキラーだ」

女「無理かどうかなんて、やってみなくちゃ分からないじゃない」ヒュ

警官「うお、お!」

警官(チッ 接近戦は不利だな……距離をとって)バン


ビチャッ


女「……」スタスタ

警官「! お前、痛みも……」

女「本格的な化け物でしょ」グッ


ズバッ!


警官「ぐっ!? があああ……!いってぇなあ!」

女「そう。それが普通だよね。血が出たら痛いって思う……」










女「これ、罰なんですかね」グサ

女「忘れたいって……悲しみごと全部なくなっちゃえばって思ったから
  だから私は『普通』をなくしちゃったんですかね」グサ

警官「……罰なんて随分前時代的なことを言うな」

警官「罰っていうのは神様が人に与えるもんだろ? 
   神なんて、今の時代いるとも思えねえな」

警官「だが、姿の見えねえ神様の代わりに、お前の望む罰を俺が与えてやることはできる……」

女「私が望む……? あなたに私の何が分かるの」グサ

警官「フン。ずっと追っかけてたんだ、それくれえ刑事の勘でちょちょいのちょいだ」



警官「お前、死にたいんだろう」

警官「俺が殺してやるよ」








女「死にたい?私が?」

警官「この国は死刑制度が随分昔に廃止されてるからなぁ……だからお前逃げたんだろ。移送中に」

警官「警察が防衛以外で銃を使うなんて御法度だからよぅ。お前を殺したら、俺は警官やめるつもりだ」

警官「ま……この傷じゃこの列車から生きて降りられるかどうかも怪しいんだが」






女「死……」

女「死んだら……どうなるの」

警官「俺は死んだことねぇから分かんねぇよ。だが……まぁ、今よりは楽になれんだろ」

警官「殺人はお前にとって苦しいことなんだろ。その苦しいってのが、お前が持てる唯一の感情だからやってたんだろ」

警官「そろそろ苦しむのやめて、楽になったらどうだ」

女「…………………………」

女「…………………………」

女「………………お願い」

警官「……おう」






―――パァン……









女(……何かを大切に思うのって、楽しいことや嬉しいことばかりじゃないんだ)

女(大切に思えば思うほど、失ったときに悲しいのね)

女(あなたはどうするのかな……)

女(私と同じ、人間じゃない女の子)

女(忘れるの?受け入れる?それとも……失う前に、大切に思うのをやめるの?)





15号車




頭領「今のこの列車はよぉ……各車両についてるこのボタンひとつで車両を切り離せるんだわ。
   俺の部下が馬鹿やったせいでな」

頭領「で、あの黒服の奴らが狙ってるのは明らかにてめぇだ。
   俺が次にどうするか、お前にも分かるよな?」

勇者「……おいおい……うそだろちょっと待て」

頭領「お前らのごたごたに巻き込まれて、こっちの計画が狂うのはごめんだね」

頭領「あばよ」



ポチッ




勇者「ばっかやろおおおおおおおおおおおお」

黒服「あまり標的には近づくな……奴はゴリラ並のパワーを持ってるそうだ。
    遠くから対戦車用ライフルで吹っ飛ばすぞ……」ガチャガチャ

勇者「ばっ!やめろ!!オイこっちは身動きとれないんだぞ!!ざっけんな卑怯だぞコラ!!」

黒服「ゲハハハむしろ好都合だ」

勇者(く……前の車両とどんどん距離が離れていく……早く乗り移らないと!)

勇者(枷を早く壊さないと何も始まらん!
   ちょっとやそっとじゃ壊れなさそうだが、この中央の鎖部にピンポイントで衝撃を与えられれば……)ガンガン








ガチャコン



黒服「うっし……やるぜ」

勇者「待て。あと1時間……いや30分くれ!!!」

黒服「なげーーよ!!その30分俺たちゃ仲良くお茶会でもしてろってのか!?お断りだ」

勇者「じゃ、じゃああと5分!」

黒服「逆に短すぎて5分じゃ何もできねえ。お断りだ」

勇者「どうすりゃいいんだよ!?」

黒服「どうもこうもない。待ったなしだ、覚悟を決めろ」


ジャコンッ


黒服「ヒーーーーーーーーハーーーーーーーー!!」

黒服「イエァ!!!ヒョーーー!!!」



――――バタンッ!!!



魔王「………………」ジャキッ

勇者「!? 魔王……!!」

黒服「ンアァ?」







魔王「動くな……手をあげろ。勇者くん」






勇者「なっ、なに言って――、……!」

黒服「アアッハッハッハ!仲間割れかい!?」

勇者「……」グイ

魔王「絶対に……動くなよ」ググ



魔王(弾は残り一発……!)

魔王(失敗は許されない)

魔王(絶対あてる)

魔王「絶対……!!」



ヒュォォォォオオオ……



黒服「こりゃいいね!見物だぜハッハー!」

勇者「…………っ」

魔王「……」グッ



――バキンッ!



魔王「……!」

勇者「!! 枷が外れたっ」

黒服「ん!?」

勇者「魔王!!」

魔王「早くこっちに……!」







ダッダッダ……


勇者「うおおおおおおおおおおおおおおっ……!?」ダンッ

黒服「逃がすな、撃て!!」

勇者「やめんか! 届けーーーーっ」

魔王「勇者くんっ」

勇者「……魔王!」


どさっ


勇者「助かった……でもなんで戻ってきたんだ?」

魔王「君にこれを渡しに来た」

勇者「剣?こんなのどこから……」

魔王「借りものなので壊さないように気をつけてくれ」

勇者「誰から借りたんだよ。……あっお前……これどうした!?誰かに切られたのか!?」

魔王「ああ、髪か。気にするな。君を助けるためならば髪などどうでもよい」


魔王「さあ、少年と合流するために急がなくては。まだ黒服の連中は列車内に残っている」

魔王「行くぞ勇者くん」








8号車


頭領「なにぃ?剣が奪われた?」

強盗団「なんか女が……」

頭領「チッ……。まあいい、剣くれえなら。俺たちの本当の狙いは、こっちだったからな」

頭領「化石と、植物と海水が無事ならそれでいいさ」


頭領「で、7号車で黒服と交戦中だったな、確か。行ってくる」

強盗団「や、それはもう終わったッス」

頭領「ほう……? 早いな」







9号車


タッタッタ……


勇者「大丈夫か?」

魔王「うん」


ガラッ


黒服「見つけたぜオラァー!」バンバン

勇者「ん! ……」キン

黒服「……!?」

勇者「邪魔じゃどけー!」ビッ


勇者「大分弾丸の速度にも目が慣れてきた。剣があれば大体防げる」

魔王「君の動体視力はおかしい」

勇者「お前のおかげだ、ありがとな」

魔王「かまわん。……」チラ

勇者「何だ?」

魔王「……いやっ、何でもない」

魔王「早く先に進もう!少年を早く見つけねばっなっ」

勇者「あっ先に行くな!まだあいつらいるんだから俺の後ろに……」


ドンッ


魔王「わっ!?」

勇者「……!? お、お前……!?」

魔王「いたた…… あれ?貴様は……何故ここにいる?」



妖使い「やあ」








勇者「妖使い!お前も扉くぐってこっちに来たのか?」

妖使い「ちょっと時間開いちゃったんだけどね。君たちが扉を見つけたって聞いてすっ飛んできたわけさ」

魔王「なんだその格好は……」

妖使い「変装だよ、変装。こっちの世界の警察の格好だ」

勇者「何にせよ有り難い。今この列車内はえらいことになってるんだ。手を貸してくれ」

勇者「創世主は見つけたんだ。これくらいの身長の子どもで……先の車両にいるから一緒に探してくれないか」

妖使い「いやだね」

勇者「…………は?」

勇者「おい、冗談言ってる場合じゃ……」

妖使い「冗談じゃない。俺たちは君たちを連れ戻しに来たんだ」

妖使い「総勢6名……まずは君たちからだ」

魔王「どういうことだ?」



キィン!



勇者「とりあえずお前は、敵だったってことか」

妖使い「そうだよ」

勇者「……魔王、先に行け」

魔王「わ……分かった。少年を探してくる」タッ







勇者「何者なんだ、お前は」

妖使い「創世主側の者だったってだけの話だ」

勇者「……俺たちは戻らないぞ。こっちでまだやることがある」

妖使い「知ってる。だから力づくで戻すよ」

勇者「やってみろ……!!」ダンッ

勇者「……っ!?」ハッ


ヒュッ ヒュンヒュン


忍「わー、よく避けましたね。さっすが勇者様(笑)」

勇者「忍! お前もかよ。ってオイ。かっこ笑いつけんな」

妖使い「遅かったじゃないか」

忍「迷いました。あっははすみません。というわけで勇者様のお相手は私がします」

妖使い「じゃあ後はよろしく」

勇者「待て!!!」ダッ

忍「だ・か・らぁ、私が相手だって言ったじゃないっすか。やだなあもう、無視しないでくださいよ」サッ

勇者「くそ……っ」








* * *


ドタンバタンバタン ダン


強盗団「……なんか、上騒がしいッスね」

頭領「……またドンパチやってんのかね」







ダンッ!!


勇者「……っはッ……ごほっ」

勇者「……なんなんだ、お前……人間じゃなかったのか?」

勇者「それともお前たちだけ今でも魔法が使えるのか?攻撃全部効かないなんて」

忍「まあ、人間ではないですね」ゴォッ


ズダーーン!


勇者「しかもっ……割と強いじゃねえかよ!!お前、今までずっと俺との手合わせで手加減してやがったな!!」

忍「だってー本気出したら私が勇者様より強いことばれちゃうじゃないですかー」

勇者「なめた真似しやがって!!お前が本気出したって俺は負けねえぞ!!」

忍「や、それは無理ですよ。あのですね、勇者様がとっても強いのは」

忍「勇者様がいっぱい剣の稽古をしたからでも、才能が溢れてるわけでもなくて」

忍「そういう設定だったからなんですよ。設定設定。勇者は世界で一番強いっていう役割だったからなんですよ~」

勇者「はあ!?」

忍「で、私と若は、そんな勇者様より強いっていう設定でつくられたので」

忍「勇者様が私に勝てるわけないんです。可能性0なんですよ。残念」

勇者「……んなもん知るかよ!!関係ない!!」ガッ

忍「あっはっは」

忍「そういう大口は結果出してから言ってもらえますか?」グイッ

勇者「!? しまっ……!」








頭領「ったく、ドコドコとやかましいな。上を見てくる、ここを見張っとけ」

強盗団「はい」

頭領「なんなんだ、一体……、…………!? 伏せろ!!」


バキバキバキ ゴシャーン!!



強盗団「んなぁっ!? 天井から何か……!?」

頭領「!? おいおい嘘だろ、ダイナマイトでも吹っ飛ばしたのか?」

忍「あちゃー、穴あけちゃいましたね」


ガラッ


勇者「ゴホッ!!ゲホゴホ! いってぇ……」

頭領「あ? お前なんでここに……切り離した車両にいるはずだろが」

勇者「あってめえあの時はよくも……」

忍「よっこいせーっと!!」ブンッ

勇者「!」


バキャッ!!


頭領「結局あいつら何なんだ。オイ、お前ら!ドンパチやるのはいいが別のとこでやっ……」

強盗団「お……お……お頭……、これ……」ブルブル

頭領「てくれ……。……あ?」

強盗団「さっきあの男が上から降ってきたときに……化石……恐竜の……下敷きになったみたいで……」

強盗団「わ……割れちまってる……」

頭領「………………………………」

強盗団「………………………………」

頭領「……フー……」

頭領「俺のサブマシンガン……持ってこい……」








ドガガガガガガガガッガガガガガガガガガ



勇者「!?」ヒョイ

忍「うわっ危ない」ヒョイ

頭領「避けんなよ……当たんねえだろ」ガンッ

頭領「てめえら……化石ブッ壊しやがって……」

頭領「恐竜の化石だぞ……くっそレアなんだぜ……俺たちのものになるはずだったのによぉ」

頭領「なにしてくれてんだオラァ!!!2人まとめてぶっ殺す!!!!!!」ジャキ

勇者「話ややこしくなるからあんたは出てこないでくれよ……」

忍「邪魔するなら私も二人まとめて殺りますよ」スッ

勇者「……くそっ!なら俺だって邪魔する奴は全員退かす!!」チャキ


ジリッ……


勇者(……面倒なことになった。どうする)

忍「…………と、言いたいところですが、やっぱ撤回します!」

忍「そこのお頭さん。私と一時的に組みましょう。私を殺すのはちょっと後にして、
  先に勇者様を一緒に屠ろうではありませんか!」

勇者「なっ!?」

頭領「俺ぁ別にどっちから蜂の巣にしても構わねえぜ」

勇者「ま、待て」


勇者(そうか、これはただの三つ巴じゃない! 
   3人のうち結託した2人が勝ち、残る一人が負けを見る!)

勇者(つまりいかにこの頭領とかいう男を仲間に引き入れるかが勝負になる!)

勇者(忍には何故かこっちの攻撃がきかない。そのうえこの男とまで戦いたくない。
   どうにかして男を俺に協力させなくては!)

勇者(これは肉弾戦じゃない、相手の考えをいかに読めるかが雌雄を決する高度な心理戦だぁ……!多分)

勇者(ん……? とすると何故さっき忍は頭領を仲間に誘った?)

勇者(あいつは攻撃が効かないんじゃなかったか?
   そういえばさっき銃で撃たれたとき、「うわっ危ない」とか言いつつ避けてたな)

勇者(なるほど。俺の攻撃は聞かなくてもこいつの攻撃は通用するわけだ。これは勝機を得たり)


勇者「忍とじゃなくて俺と組め」

頭領「別にどっちでもいいっつったろ。先に誘われた方につく」

忍「じゃ、いきましょっか」タッ

頭領「おうよ」ズダダダダダダ

勇者「待て待て待て待て!!!待って!!ストップ!!」









勇者「えーと……ええと!! そ……そうだ!!」

勇者「壊れたの、キョウリュウの化石なんだよな!!」

頭領「そうだよくそったれ!!あれにどれくれーの価値があると思ってんだよバカヤロー!!」

勇者「……俺の仲間に竜がいるぞ!!」

頭領「あぁ!?竜!?」

勇者「頼めば骨でもなんでもくれる!!!(んじゃないかな多分!)」

勇者「だからひとまず俺と組め」

頭領「……」


忍「勇者様、なに寝ぼけたこと言ってるんですか?そんなこと、こっちの人たちが信じるわけ……」

頭領「ブッ! ぶぁはははは!!そんなくそまじめに竜とか言う奴初めて見たぜ」

頭領「気に入った。まずお前に手を貸そう」

勇者「ああ!頼む」

忍「げげ……まじですか」

勇者「忍。俺の攻撃は効かないみたいだが、こいつの攻撃は効くみたいだな」

忍「エー?ソンナコトナイデスヨー?ワレゾンジアゲヌー」



ジャキッ!!


勇者「いくぞ」

頭領「覚悟しろよ」

忍「……はぁー……」







6号車


タッタッタ……


魔王「少年は一体どこに……」

妖使い「待て待てー」ヌッ

魔王「いっ……!?」ビク


妖使い「君をこれ以上先に進ませるわけにはいかない」

魔王「お……驚かせるな!いつの間に後ろに……。勇者くんは?」

妖使い「忍が今戦ってるさ」


妖使い「あちらの世界に今すぐ帰ってもらうよ」ガシ

魔王「……離せ!」

妖使い「強制送還させる唯一の方法は、こちらでの君たちの生命を断つことだ」グググ

魔王「くっ……う…… はな……」

妖使い「……」ギリギリ

魔王「……っ」ギロ

魔王「……最初……から、ずっと……騙していたのか……貴様」

魔王「なん……の……ため……に」

妖使い「……なんでだろう」グッ

魔王「かはっ」

魔王「や……めろっ……」

妖使い「……君たちが勝手な真似をするから」

妖使い「俺たちがこんなことをしなければならない……!」

妖使い「……早く死んでくれ」

魔王「っ…………、……」

魔王「……」


ダラン……




少年「…………やっ、やめろぉ!」ドン

妖使い「!」ピタ







魔王「っゴホ!ゲホ……っ はぁ……少年?」

少年「あれっ? 黒服じゃない……警察!?」

妖使い「ああ」

妖使い「そうですよ。私は警察の者です。
    ここにる国際指名手配の詐欺師を追ってきたんだ」

少年「さ、詐欺師?」

妖使い「君も何かおかしなことを言われたんじゃないのかな?」

妖使い「全て出まかせだ。君のこと騙すためだけに言った嘘なのさ」

少年「……」

魔王「勝手なことを……!出まかせを言っているのは貴様だろう」

少年「……別に、最初から分かってたよ。
   でも嘘でもいいって思ったんだ」

少年「どうせ僕だってもう長くは生きられないんだ。だから別にどうだっていいよ……」

少年「そもそも、魔王とか勇者とか魔法とか……
   いくら僕が子どもだからといって、さすがに信じたりしないって」

少年「でも僕なんか騙してどうするつもりだったんだ?金なんて持ってないけど」

魔王「私たちは嘘なんかついてない!」

魔王「少年、どうして信じてくれないんだ。何度も言ってるじゃないか……」

少年「騙してないって……何も裏がないって言うんなら、
   なんで見ず知らずの僕のためにいろいろしてくれるんだ」

妖使い「そうそう、この世に無償の愛なんてないよ。
     みんな見返りと報酬が目当てなんだ」

妖使い「軽い甘言に惑わされてはいけないよ。大事なのは信じることじゃなく疑うことだ」

妖使い「彼らは優しい夢をくれるけど、そんなもの何の役にも立たなかったって君は知ってるだろ?」

妖使い「奇跡は起きない。君は現実を見なければいけない。下らない本なんて捨てるんだ」

少年「……」

妖使い「どうしてそんな顔をしているんだ?何か悲しいことがあったのかい」

少年「……悲しいことなんて……たくさんあるよ」

妖使い「だったら、全部忘れてしまえばいい。君が望むならこれを渡そう」

少年「これは……?」









妖使い「悲しみの原因になってる記憶を根こそぎ忘却させる薬さ。高価なものだけど特別に君にあげるよ」

少年「……えっ?」

妖使い「不信がらなくていいさ、これは普通に市販され始めているものだよ。
     そんなに驚くことか?機械でも人体でも、悪くなった部分は除去して修理するだろう。心だってそれと一緒だ」

少年「記憶を?」

妖使い「薬を飲まない理由があるかな?極めて合理的な処置だと思うよ」

妖使い「さあ!全部忘れよう。そうすれば苦しいのも悲しいのも全部なくなる。
     失ったという事実も記憶も何もかも消えるんだ」

少年「……」

魔王「貴様、いい加減に……むぐっ」


妖使い「ほらほらどうした少年、それ一気だ一気!勢いでがっと飲んじまえ!」

魔王「ん゛ーーっ」バタバタ

少年「………………っ」


少年(最初から……僕だけだったなら)

少年(はじめからひとりぼっちだったなら……!)グッ











勇者「飲むのか?」

少年「……っ」ビク





魔王「勇者くん!」

妖使い「君がここにいるということは、忍め……しくじったな」

少年「お前……」


勇者「少年は向こうに行ってろ」

勇者「妖使い、俺と戦え」スッ

妖使い「戦えるのか?こっちには人質がいる。別に俺はどっちから先に始末しても構わない」

魔王「貴様いい加減にしろ、最初から胡散臭い奴だとは思っていたがここまでとは思ってなかったぞ」

妖使い「そんなに胡散臭かったかな……傷つくなあ」グッ

魔王「うぐ……っく」

少年「! や……やめ…… あ、あんた警察っての……うそだろ!」

妖使い「信じるより疑う方が大事だってさっき言っただろ~?」

少年「何なんだよ……っ」


勇者「俺と戦えっつってんだよ!!魔王を離せ!!」

妖使い「こっちの方が手っ取り早い。こんな首、赤子の手を捻るより簡単に折れるからさ」

妖使い「目の前で魔王が縊殺されるなんてショッキングな映像見たくなかったら、10秒以内に自刃しろ。
     自分でやった方が痛みも少ないだろうしな」

勇者「お前……っ」

妖使い「10……9……」

勇者「てめえ、やめろ!!」

妖使い「動くな」ギリギリ

魔王「うっ」

妖使い「心配しなくても大丈夫さ。どうせすぐあっちでまた会える」




少年「……っなんだよ、これ……!何が起きてるんだよっ……」

少年「誰か……」


ポン


少年「!?」

   「呼んだ?」






――パァン!


魔女「おにーさん、あなた背中ガラ空きですわよん」

勇者「!? えっ……魔女!?と……姫様!? どうしてここに……!!」

魔女「うん、偶然ね」

姫「ちょっと魔女さん……それもしかして私の真似ですか」

魔女「もしかしなくてもそうだよ」

妖使い「やあ二人とも久しぶりじゃん」

魔女「久しぶりじゃん、じゃねーよタコ助。体風穴だらけにされたくなきゃ魔王様からその手どけろ!!」

姫「これで挟み撃ちですわ。観念することね。……っ今すぐ魔王さんを解放なさい!」

妖使い「すっかりこっちに馴染んでるな。銃なんて構えちゃってさ。
     いいよ、撃ってみればいい。俺には当たらない。でも魔王には当たってしまうよ」クルッ

妖使い「銃殺より縊殺の方がまだよくない?っていう俺の親切心なんだけど」

姫「いいわけないでしょう……!!」ハッ

姫(彼がこっち向いている間に勇者が……)


ダッ


勇者「……っ」ヒュッ

妖使い「残念」ドン

魔王「わっ!」

勇者「んなっ……!? 魔王っ」ボス

魔王「うぶっ」


勇者「大丈夫か!?」

魔王「~~~~……うぐむ……」

魔王「ハッ 妖使いは!? あやつめ、どこ行った。許さん」






  「上に来なよ、勇者。お望み通り一騎打ちしようじゃないか」

勇者「!」

勇者「……分かった」


魔女「あたしたちも行くよ」

魔女「こっちの世界来る前、あいつと戦ったんだ。むかつくけど結構強いよ」

姫「攻撃が効かないのでは、勇者といえども勝てるかどうか……加勢いたします」

勇者「いや。だったら尚更俺一人で行く。二人は魔王と少年と一緒にいてくれ」

魔女「はぁぁん?なにかっこつけてんの。行くってば」

魔王「魔女」

魔女「むー」

魔王「勇者くん。必ず」

勇者「ああ!」



姫「……分かりました……あなたにまかせます」

魔女「ん! 足音だ」

勇者「早く進め!」

魔王「行こう。少年も」

少年「……」ポカン




今日はここまでです

乙!

おつ!




ダッダッダッダ……



魔女「で、この子なんなの?」

魔王「私たちが探していた『彼』だ」

姫「ええっ!見つけましたの? なら、もう私たちの世界は……」

魔王「いや、そうとも言い難い。まだだ」

少年(……??)

魔王「二人はどうしてここに? 随分……」


魔女「退け退けー!」バンバン


魔王「……随分こちらの器具を使いこなしているな。一体何があったんだ?」

魔女「あたしたち今強盗団の一員なんだー」

姫「…………恥ずかしながら、そうです」

魔王「それは……驚いた」


魔女「はじめまして少年!あたし魔女!こっち姫様!」

少年「あ……はぁ」

姫「さっきも会いましたね。宜しくお願いいたします」

少年「……」


少年(魔女に……姫?)

少年(まさかな……だって誰にも見せてない……)

少年(あれは、ずっと鍵をかけたまんまで……)








* * *



妖使い「……いや、すごいよ」





妖使い「これだけやっても、まだ死なないなんて。驚嘆に値する」

妖使い「でも抵抗する必要ないって。こっちからあっちに戻るってだけなんだからさ」

勇者「あっちに戻ったって…………世界が終わるんじゃ、どのみち生きられないだろうが……っ」

妖使い「いいじゃないか、別に」

妖使い「きっと魔王だってそう思ってるよ」

勇者「はぁ……!?」

妖使い「いつか別々に死んで孤独になるくらいなら」

勇者「……」

妖使い「いっしょに消えた方がよくないか?」



勇者「あいつの気持ちを勝手にお前が決めるなよ」

妖使い「……フッ」

妖使い「君って本当に勇者らしくないよね」

妖使い「まだ前の彼女や彼の方がらしかったよ」









妖使い「あのときなんで止めなかったんだ?」

勇者「……?」ヨロッ

妖使い「少年に薬を渡したとき。てっきり止めるかと思った」

勇者「……ああ……」ポタポタ

勇者「……別に……忘れてもいいんじゃないか?」ゴシ

妖使い「へえ」


勇者「どうしても抱えているのが辛いんなら、別に忘れてもいいと思うよ」

勇者「忘れたからって……なかったことになるわけじゃない」

勇者「俺は……」

勇者「もし、俺だったら……そう思うね。忘れられても構わないって」

妖使い「……はっ。はははは!」

勇者「でも」チャキ


ビュッ!


勇者「どうするかは少年が決めることだ!
   お前がとやかく言うことでもないし、決めつけていいことでもないだろ」

妖使い「……だったら」グイッ

妖使い「力づくでやめさせてみろよ」ガッ

勇者「がはっ」

妖使い「よくこんなまがいものの剣で立ち向かおうと思ったなぁ」


バキッ!!


妖使い「簡単に折れる」

勇者「く……そっ! なんで当たんねえんだよっ」スカッ

妖使い「アッハッハ。俺からは当たるんだけどね」ガシ


グルンッ

ズダーン!



勇者「チッ」

妖使い「やっぱ今は銃の時代だなぁ」チャキ

勇者「!」

妖使い「避けさせはしない」

勇者「やめろっ!!」ブン

妖使い「あ」



パァン!








勇者「ぐっ……う……掠ったか……」

勇者「でも、今……?」

勇者「……」


妖使い「次は当てるぜ。心臓一直線だ」

勇者「お前な、仮にも妖使いってんなら、銃よりカタナ使えよ」

妖使い「カタナより銃の方が何倍も強いじゃないか!」


妖使い「そろそろ諦めてくれないか?勝ち目なんてないって分かっただろ。
     俺は勇者の上位互換だから、抵抗しても意味ないよ」

妖使い「時間の無駄で非生産的だね。君はすでに前時代の遺産で過去の亡霊だ。大人しく消えるがいいさ」

勇者「確かに……」

勇者「……無駄かもな」



………… ……


勇者「……? あれは……?」

妖使い「あぁ、あれ。戦闘機じゃないかな」

妖使い「勇者たちを追ってた彼らの増援だろうね。君たち相当目をつけられてるよ。一体何したんだ?アッハハハ!」

勇者「笑いごとじゃねえよ……」



**「あいつだ、あいつ。いま下にいるやつな。かまわん撃て」

**「列車に当たる可能性もありますが」



**「砂漠を走る長距離列車だ、多少なら当たっても大丈夫だろう」

**「とりあえず……奴を都市に入れるな。危険人物だ。ここで始末しろ」

**「もろもろ明るみに出ても困りますしね……」ガチャ









ドガガ……ガガガ……


姫「きゃっ!」グラ





少年「うわああっ な、なんだ?この音」

魔王「そとで一体何が……」



バタバタドタ



黒服「んん……?女子どもしかいないじゃないか、男はどこ行った」

黒服「油断するな」

魔女「わー 来た」

魔女「そうそう。油断しちゃだめだよ。きれいな薔薇には棘があるって言うでしょ!!」

少年(自分で言うのか……)

姫「「自分で言いますのね」

魔女「魔王様と少年くんは、はいこっち!!」ガラッ

魔女「ここに入ってて!こいつらはあたしらがとっちめる!!」

姫「そ、そそそそうですわ、早く私たちにおまかせになって!」

魔王「で……でも あんな大勢……」


ドンッ


少年「ぶえっ」

魔王「うぐっ」








車掌室


車掌「ああーーー!!一体何がどうなってるんだあああ!!」

O「ありゃあ……戦闘機かい!?警察のでもなさそうだが、なんで攻撃されてんだ」

車掌「あんたらのせいでしょうがーーーっ!!もうどうしてくれるんだああああ!!」

P「いや、あんなの知らないけどね! なんだろ!?」

O「なんだろうなぁ……うおおぉっ!?」


ドガガガガガッ


P「キャーッ! マグニチュード7.0相応の揺れが私を襲うぅっ!!」ドンガラガッシャーン

O「うおおぉーー!こりゃたまらん!!」ドンガラガッシャーン

車掌「おわっ!! ちょっと……」ドンッ


車掌「………………あ」




O「ん?」

P「え?」




あ間違えた
OとPはAとBです




魔王「うう……いたた。 ? 彼らは……?」

少年「あ、ここ先頭だ。列車を運転するところだよ」

少年「でもなんだか様子が……?」


車掌「アヒャヒャヒャヒャヒャヒャーーーーーッ!!!もうこの列車は終わりだァーーーーーーヒャハーーー!!!!」

A「急にはっちゃけてどうしたの?おじさん」

車掌「列車が第二自動操縦に切り替わった!おめーらが押すからよぉー!!」

B「戻しゃいいじゃん?」

車掌「戻せないんだよっ!レバーごととれちゃったから!とれちゃったから!!」


魔王「横から失礼するが、第二自動操縦とやらに切り替わると何が不都合なのだ?」

車掌「ふひひ……第一自動操縦は街から都市への一方通行、いままでこれで列車は走ってた」

車掌「第二自動操縦は街から別の街への一方通行、大昔に使われてた路線なんだ……」

車掌「いまはもう、使われてない…………何故だか分かるかい……」

A「なんで?」

B「ていうか緊急事態なら問いかけとか時間の無駄やってないで、さっさと教えてよ」

車掌「お前らのせいだろうがぁ!!」


ガタンゴトン……ガタンゴトン……








車掌「使われなくなった理由は、その路線の途中に大きな酸性泉が出現したからなんだ」

車掌「列車丸ごと沈んでしまうような、どでかいやつ……」

車掌「このまま進んだら、おしまいだぁ!!」

車掌「全員強酸に溶かされてグロ死体だぁぁ!」




少年「さんせいせん……?それって異常気象の影響で砂漠に現れるっていう、あれ?」

A「サ行多くて言いづらいな」

B「えーなに、それってかなりやばいってことじゃない!?列車止めなきゃ!!」

A「よし車掌、列車止めろ!!」

車掌「だから止めらんねえっつってんだろーが!!」

少年「というか止めても黒服が乗り込んできてまずいんじゃ……!?」

B「戦闘機で狙い撃ちだね」

A「よし車掌、列車止めるな!このまま走り続けろ!」

車掌「くそがぁぁぁ!!アホどもめがぁぁぁ!!」

魔王「……」


魔王「うむ……とにかくこのままでは都市に行けないばかりか、全員まとめて死ぬ羽目になるか」

少年「…………はあ」ガクッ







ワーワーワー
   ギャーギャー

A「うおおおお!どうするどうする!俺まだ死にたくねえぞ!!」

B「私だって死にたくなーい!!やだー!!」

車掌「俺だってまだ親孝行してねえよー!!かーちゃーん!!」



少年「……」

少年「やっぱり無理だったのかな……」

少年「……」

少年「……なにしてんの?」

魔王「集中してる」

少年「……集中? ……ああ……また『魔法』?」

少年「魔法でもあったら、こんな状況もどうにかなるのかな……」

少年「……いいよなぁ……そういうの、あれば……なんでもできる魔法があれば……」

少年「……いいよな」


魔王「なんでもできるわけじゃない」

魔王「魔法はそういうものじゃない。だけど、今使うことができれば、いろんなものが救える」

少年「……」

魔王「少年、これが多分最後だ。何回も言ってきたことだけど」

魔王「もう一度思い出してくれないか……」

少年「あんたって、変なやつだな。これから死ぬってときに」

魔王「それとも本当に忘れてしまったのか」

魔王「全部」








A「アーーーーーーーーーーッ!! なんじゃあの気色悪い色の土!?」

B「も、もしかしてあれが……海っ!?」

車掌「うわああああああああっ!! もうだめだああああああ!!」

車掌「海じゃないっ!! あれが酸性泉だっ!!」

車掌「全く俺の人生ちっぽけなもんだったなぁ……ふーっ……」

A「なに悟りの境地に立ってんだ、しっかりしろ車掌!!お前だけが頼りなんだよ!!」

車掌「親不孝な息子でごめんな、母ちゃん……先立つ不孝を許してくれ……」




少年「…………………………っ」

少年「分かったよ……分かった信じる!!あんたが言う通り全部信じるよっ!!」

少年「あんたが、僕の書いた話にでてくる魔王だって信じる!!」

魔王「もっと信じてくれ、まだ魔力が戻ってこない」

少年「うおーーーーーーーーっ!信じる!!!!すごい信じてるっ!!!」

魔王「まだだ。もっと!もっとちゃんと信じて!」

少年「全身全霊で信じてるっつーの!!はよ魔法使ってくれよ!!!」

魔王「……だめだな……君は心のどこかでまだ疑ってるのかもしれん」

少年「そんなこと言われても……!」



ガガガガガガガッ!!  ガタン!!



A「う、うわっ」

B「きゃーーー!」

魔王「!」

少年「わ……!!」


ゴトン


少年「…………あ……あれ……??」

少年「これ……??」




* * *



バラバラバラバラバラ……

   ガガガガガガガガッ!!

「よーしガンガン行け。撃て撃てー」




勇者「……っ」

妖使い「はは!君たち持ってるね。言っておくけど進路変更に関して、俺はなにもやってないよ」

妖使い「俺たちが出張るまでもなかったかな……」

妖使い「これで君たちはおしまいだ。あっちの世界で会おう」

妖使い「彼にとっては虚構の、でも俺たちにとっては現実のあの世界で……いっしょに終わりを迎えようじゃないか」

妖使い「短くて長かった君たちの物語に、エンドロールを付け加えよう」


勇者「いいや……まだだ」

勇者「エンドロールもエピローグも全部まだだ!!何もかもまだ終わってない!こんな中途半端なままで終われるか!!!」

妖使い「閉幕後まで舞台に居座るなんて無粋な役者だ。このままここにいるとして、君に何ができる?」






勇者「役者は役者でもただの役者じゃない」

勇者「俺たちはどうやらあいつが書いた物語の主役らしいからな」

勇者「お前になくて俺たちにあるものがなんだか分かるか!!」

妖使い「愚直さ……?」

勇者「てめえ、喧嘩売ってんのか!!! ちがう!!」

勇者「主役っつったらご都合展開だろうが!!」

勇者「使い古されたクリシェでも、黴が生えてる王道ストーリーでも……」

妖使い「なんでもいいって?」

勇者「そうだ、なんでもいい。創世主がそれを望むなら」

勇者「あいつの夢を俺たちが叶えてやろう。そしてもう一度思い出させてやるんだ」


勇者「俺は…… いや。俺が勇者だ!!」





* * *



少年「……なんで、ここに……この箱が?」

B「あっ それ、貧困区の家から盗んだやつ……
  そんなおもちゃの箱ひとつ開けられずにこのまま死ぬなんて、盗賊団として死に切れないよぉ~」

A「お頭に怒られるぜっ!」

少年「貧困区から盗んだ……? じゃあ、この箱がなくなってたのってこいつらのせい……?」

魔王「それが、君が言っていた例の箱か?」

少年「……そう。そう……だよ」

少年「……妹が……大切にしてたものなんだ……僕が誕生日にあげたプレゼントのひとつ」

少年「……あいつにあげたもうひとつのプレゼントが、このなかにはいってる」

少年「どんな話だったっけな…………もう……あんまり覚えてないんだ」

魔王「ならば、開けて見てみればいいじゃないか」

少年「……無理なんだ。この箱はもう開けられない。鍵がかかってる」

少年「たったひとつの鍵は、あいつが持ってる」


魔王「鍵……?」

魔王「もしかして」

魔王「これ……その箱の鍵では?」

少年「……!? えっ……!?」

少年「なんで、その鍵……? あんたが持ってるんだ!!」








少年「ど、どこで? どこで拾ったんだ……?」

少年「ここにあるはずないのに」

魔王「……」

少年「妹の墓の中に……あるはずの鍵なのに……」

魔王「開けようか、少年」

魔王「忘れたのなら、思い出せばいい」

魔王「この鍵は、ある子からもらったものだ。私たちの世界の神様から」

少年「…………あ……ええ? あ、あんた一体……」

魔王「何度も言ってる」


魔王「私は……いや。私が、魔王だ」

少年「……え……え……!?」

少年「……」

少年「……魔王……」

魔王「なんだ」

少年「……僕は、箱を……開けるよ」

魔王「ああ」







カチャ





お兄ちゃんなんかだいきらい。






ひとりきりの部屋はとてもしずかです
外からは人がどなる声やわらう声、車がはしる音がきこえてきます
ずっと耳をすませて、時間がたつのをまちます
お兄ちゃんがかえってくるのをまちます


でもせきがとまらなくなると、そういう音はぜんぶきこえなくなります。
息をすうまえに、せきがでてしまうので、くるしくなって
いつもこのまま しんじゃうのかなって おもいます


でも きっとその方がいいんだとおもいます


くすりは高いので お兄ちゃんはたくさんはたらきます
二人分のパンを買うために くすりを買うために
お兄ちゃんは毎日がんばってしごとにいきます
夜かえってくるときには つかれた顔をしてます






そんなお兄ちゃんをみると こんなできそこないの体をもってうまれた妹なんて
みすてて どっかいってしまえばいいのにって

くすりをどれだけのんでも ぜんぜんよくならない妹なんて
みすてて どっかいってしまえばいいのにって

たくさん、おもいます


お兄ちゃんなんかだいきらい

お兄ちゃんといると どんどん自分がきらいになります
なにもできない自分がきらいになります
自分がいなければいいのにって おもいます



ほんとは気づいてたよ
夜ねむったあと、窓のそとを、じーっとみてるときがあるってこと
街の外をみていたんでしょう
自由になりたいっておもってるんでしょう
自分一人だけで どこかへいきたいって


いっていいよ お兄ちゃん
いままでがんばってくれてありがとう

もう枯れてしまった木に水をあげることはしなくていいのです







ある日 ひきだしのおくから 紙を二枚みつけました
むずかしい字がいっぱい書いてあったけど なんとかよみました

たぶん お母さんとお父さんがおいてったものだとおもいます

たんじょうびにもらったオモチャの箱に それをしまって
カギをかけました


ぜったい みられないように カギをかけました






― ― ― ― ―


時計の音が ちくたくずっと鳴ってます
お兄ちゃんがいつもかえってくる時間をとっくに過ぎていました

こんなにおそくなるまで かえってこないことは ありませんでした

だから、やっと決めたんだなって、おもいました
街をでて、どこかとおくに、お兄ちゃん一人でいくことに決めたんだなっておもいました

よかった
これでもう自分のことをきらいにならずにすみます
生かしてもらうだけのお荷物の自分とはおわかれです


これで兄も妹も幸せになれます


ほんとうによかった


よかった……



―――――ギィィ……


「……!」

どうして?
どうしてかえってきちゃったの?

なんで?


「ただいま……」



……なんで?





少年「!?」

少女「うわあああああああんっ!」

少年「えっ!? な、なんだ!?」

少女「お兄ちゃん、お兄ちゃん……っ」

少女「うえええええん……ひぐ……うわああああああああんっ!!」

少年「どうした? なにかあったのかっ?」

少女「おにいちゃぁん……うっう……えぐっ」

少年「……帰るの遅くなっちゃってごめんな。仕事……長引いてさ」

少年「ただいま」

少女「……おかえり、お兄ちゃん」

少女「お兄ちゃん……ごめんね。ごめんね……」

少年「なんでお前が謝るんだ?」

少女「ううん……」




お兄ちゃんはケガしてました
階段でころんだっていってたけど ほんとうかな
きずだらけの顔でわらってました




少年「お腹すいてんだろ? 遅くなって悪いな。ほら」

少女「……」

少女「お兄ちゃんは?」

少年「実は、今日どうしても帰り道に腹がへって、歩きながら僕の分は食べちゃったんだ」

少女「えーっ」

少年「悪い悪い。我慢できなかった」

少年「うまいか?」

少女「うん。おいしい。……でもおなかいっぱいになりそうだから、はんぶんこしよ」

少年「全部食え。食わないとチビのまんまだぞ」

少女「お兄ちゃんだってちっちゃいじゃん! はい」

少年「ちょ…… むぐっ」

少女「もうお兄ちゃんの口にはいったから、それお兄ちゃんのだよ」

少年「……お前だんだんズル賢くなってくな」






どうしてかえってきちゃったのかな お兄ちゃん

ずっとがんばってくれた、お兄ちゃん
だいきらいなんてうそだよ
だいきらいなのは自分だよ

ほんとうはだいすき

だから 今日 お兄ちゃんを解放してあげることにしました






少女「……ね、お兄ちゃん」

少女「……ずっとだまっててごめんね」

少女「ずっとだましてて……ごめんね」


少女「……もういいんだよ」


少女「いいことおしえてあげる……」

少女「カギをね……あけてあげる」


少女「ばいばい。お兄ちゃん」


カチャ




少年「それ……オモチャの箱」

少女「これ、みて。この紙」

少年「……診断書? お前……病院になんて行ったこと、ないだろ」

少女「あんまり覚えてないけど、昔お母さんがつれてってくれたこと、あるような気がする」

少女「たぶん、そのときのじゃないかな」

少年「…………、……これって」

少女「ね、ここの字、『不治』っていうのは、くすりじゃ治らないって意味だよね?」

少女「……ごめんねお兄ちゃん。ずっとだまっててごめんね」

少女「あのね……だからね」

少年「…………」

少年「ばか。こんなのうそに決まってるだろ。どうせヤブ医者が適当に書いたんだ」

少女「でも……」

少年「お前はまだ小さいから診断書全部、読めなかっただろ。別のところにちゃんと薬でも治るって書いてあったよ」

少年「お前の病気は治るよ。大丈夫!弱気になったら治るものも治らないだろ!心配するなよ」

少年「……な!!大丈夫だから。……大丈夫なんだよっ……」

少年「……うっ……ぅ……ちゃんと僕が治してやるから心配すんな」

少年「僕はお前の兄貴なんだから。絶対治してやるから」

少女「……」

少女「……」

少女「ちがうの」




カサ……


少年「……?」

少女「……」

少女「これ、みてね」

少女「…………血がつながってないの」

少女「……お兄ちゃんは本当のお兄ちゃんじゃないの」

少女「本当の……兄妹じゃないの……」

少女「いままでだまってて、ごめんなさい……」



少女「…………だから……だから、ね」

少女「もういいよ……」

少女「妹じゃないの。他人なんだ。だから、がんばってくれなくていいよ……」

少女「自由になっていいよ。どこでも好きなところに行って、いいんだよ」

少女「いままで……ありがと……だましててごめんね……」

少年「……」

少年「…………知ってたよ」

少女「えっ?」

少年「……なんだ。見つけちゃったのか」

少年「僕も知ってたよ。僕たち血がつながってないってさ」

少女「じゃ……じゃあ……なんで」

少年「お前は僕の妹だよ。血がつながってなくたって、僕はお前のお兄ちゃんだ」

少年「……こんなもの箱に入れてたのか?ばかだな。もっといいもんしまっとけよ」

少女「……うっ……ひぐ…………うっ……」

少年「どこにもいかないよ。ちゃんと帰ってくるからな」

少女「ほんとに……いいの……」

少年「そんなこと気にすんな」

少女「……うん……うんっ……」

少女「これからも……お兄ちゃんってよんでいい……?」

少年「当たり前だろ」





少年「こんな紙切れ、捨てちゃおう。いいよな?」

少女「うん……」

少女「じゃあ、今日からあのノートいれていい?」

少年「いいけど……あんなのでいいの」

少女「うん。夜、お兄ちゃんに読んでもらうときに、カギをあけるからね」



―――――――――――――――――――――
―――――――――――――――
―――――――


少年「こうして勇者と魔王は、二人なかよくいつまでも幸せに暮らしました」

少年「めでたしめでたし。おわり」

少女「めでたし、めでたし」

少女「あはは……」

少年「よく飽きないな。そうだ、教会に新しい本入ったらしいから今度そっち読んでやるよ」

少女「でもそのあと、またこれも読んでね……ボクお兄ちゃんのこの話だいすき」

少女「あっ……そうだ。なにか足りないとおもったら、あれがないよ、お兄ちゃん」

少女「ペン、かして……ボクがかく」

少年「?」

少女「エイチ……エー、ピーがふたつ……。ワイ……イー、ディー。ピリオド」

少女「ハッピーエンドでおわらないとだめでしょ?」

少年「あはは!お前、これピーじゃなくてキューだよ。逆!ディーもそれじゃビーだ」

少年「読むのはできるようになってきたが、書くのがまだまだだな」

少女「そうだっけ……? でも、ボク、このあいだ じしょつかえたんだよ。えらい?」

少年「えらい、けど。そのボクっていうのも、ちょっと変だぞ。お前女の子なんだから」

少女「? でもお兄ちゃん、ボクっていってる」

少年「そりゃ僕は男だから……。まあ、そうか。女の子の友だちいないもんな」

少年「……まいっか。別に、お前はお前だし。じゃ、そろそろ寝るぞ。灯り消す」

少女「うん……おやすみ、お兄ちゃん」

少年「おやすみ」





少女「くらいね……ちょっとこわい」

少年「目、つぶってごらん」

少女「もっとくらくなるよ」

少年「ならないよ。ほら、夜空に星が見えるだろう。
   真ん丸の月が真上にあって、ねむるまで僕たちのこと見守ってくれるよ」

少年「こわくないだろ?」

少女「うん……こわくない」

少年「明日になれば、東から太陽が昇る。青い空に白い太陽が輝くよ。
   朝が来るのもあっという間だ」

少女「うん……きれいだね……」

少年「また、明日な」

少女「またあした……お兄ちゃん」


少女「またあした」


――――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――
――――――――――




「お兄ちゃん」

「……」

「今度は、いっしょに書こうよ」

「……」

「ボクもいっしょに書いてあげる」

「……」

「…………」






少年「うっ……うぅ……うっ、ぐ…………」ガリ


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少年「こんな兄ちゃんでごめんな……うっ……ぅ」カリ


ha


少年「僕がお前を引きとめてた。一人きりになるのが怖かった」カリ


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少年「息をするのも辛かったのに……ボロボロの体だったのに……」ガリ


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少年「8年も……がんばって生きてくれて……ありがとう……っ」ガリ


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少年「下らなくてありきたりな物語だったけど……お前のためだけじゃない。これはお前と僕のための物語だったんだ……」カリ


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少年「僕も……それなりに好きだったよっ……!お前が好きになってくれたこの話が好きだった……」ガリ


haqqy en


少年「今でも、好きだ」ガリッ


haqqy enb


少年「忘れないよ」カリ


haqqy enb.


少年「絶対に、忘れない」





少年「……なあ」



少年「死は別れか? じゃなきゃ忘却か?」



少女「ううん。ちがうよ。死は友だち」



少女「こわがらないであげて。かなしいかもしれないけど、うけいれてあげて」

少女「いっぱい泣いても大丈夫だよ……ちょっとずつおもいだしてね」

少女「そうしたら、いつかぜったいにまた心からわらえる日がくるからね」

少年「僕はまだちょっと時間がかかりそうなんだ」

少年「まだここに、いてくれるか……?」

少女「ずっといるよ」

少女「みえなくなっちゃっただけ」

少女「呼びかけてくれたら返事するよ。お兄ちゃんが泣いちゃったら、涙ふいてあげるよ」

少女「わらってくれたら わらいかえすよ」

少年「……ありがと」

少年「心配かけないようにするよ」

少年「ちゃんといつか、絶対前を向く。でもそれはお前を忘れることじゃあない」

少年「ずっと忘れない」

少年「お前と生きたこと」

少年「僕の大事な妹のこと」


少年「いままでずっと、ありがとな」






―――――――――――――――――――――
――――――――――――――――
――――――――



車掌「うわーーーーーーーっ もうだめだ酸性泉に突っ込むぞーーー!!」

A「ドロドロに溶けちまうなんて俺はごめんだぞチクショー!!」

B「私だって死ぬならきれいなまま死にたいーーーーっ!!!」

車掌「かあちゃーーーーーーーーーん!!」




ガクンッ!!



車掌「うっ!?」

B「ぎゃー! また揺れた……いたた」

A「…………!? ……???」

A「なんだ……これ!? おいおい車掌さん、最近の列車ってなあ、空飛ぶ機能もついてるのか?」

車掌「はあ!?そんなもんついてたら酸性泉に突っ込むだの騒ぐ前に対処しとるわい!!」

A「じゃあこれは一体なんだってんだ?」



少年「列車が……空飛んでる……」

少年「……あんたが?」

魔王「ふう、間一髪だったな。このまま都市まで行ってしまおう」

魔王「また私に力をくれてありがとう、創世主くん」

少年「……! 目の色が……」

魔王「あ……ああ、そうか。姿も元に戻ったのか。怖がらせてしまってすまんな」

少年「…………。……いや」

少年「すっげーかっこいいよ。魔王って感じで」

少年「きっとあいつもそう言うだろうな」

魔王「……」

魔王「実は自分でもけっこう気に入ってるんだ」ニコ







* * *


妖使い「…………!!」

妖使い「おいおい……参ったね。このタイミングか」

妖使い「あっはっはっはっは!馬鹿な選択をしたものだ!」

勇者「……」スッ

妖使い「おまけに剣までいつの間にか持ってるし……ってあれ?」

妖使い「その剣……まさか」



戦闘機黒服「列車が……浮いた!?一体なにが起こってる!?」

戦闘機黒服「わ、分かりません!とにかくボスに報告して指示を仰……」


パキッ


戦闘機黒服「……ん!?」








――――――――――――
――――――――



妖使い「…………あぁ……」

妖使い「全く」

妖使い「痛いな」


勇者「かっこ悪い姿ばっか見せるわけにもいかないからな……」

勇者「あっちの世界で待っててくれよ」

妖使い「どうして俺のことを斬れた?」

勇者「お前が攻撃を無効化するためにはそう意識する必要があったみたいだったからな」

勇者「だから、それより速く斬りつければいいと思ったんだ」

妖使い「なるほど……100点満点だね」

妖使い「そんな戯言みたいなアイディアをさらっと実現しちゃうあたり、君ってほんとに……」

妖使い「……」

勇者「なんだよ?」

妖使い「言おうか迷ったけど言おう」

妖使い「勇者って本当にいけ好かないしムカつくな。君のそういうところ俺は心の底から大っ嫌いだったんだ」

妖使い「せいぜいフラれて泣きを見やがれ」


スウ……


勇者「……嫌な遺言残していきやがって」

勇者「もうフラれてるようなもんなんだけどな」

勇者「……さて、行くか」






* * *


姫「あらかた敵は(おおむね魔女さんが)排除したけれど、なんだか列車の進路がおかしくないかしら……」

姫「窓から様子を見…………」


グラッ!!


姫「きゃあああっ!?」ガシッ

姫「な……なにっ!?お、落ちるぅ……!!」

姫「列車が浮いてる……!!まさか……これって!」


魔女「姫様ー!!大丈夫!?」ガッ

姫「ま、魔女さん! その姿……!」

魔女「うん! ……戻ったよ!魔力!」

魔女「これでもう、黒服の人間なんて敵じゃ……」


ガクンッ



魔女「わっ……?」フワ

姫「あっ、ちょっと。魔女さん、窓から投げ出されてしまいましたよ」

魔女「姫様もだね」

姫「私たち、宙に浮いてますよ」

魔女「ていうか落ちてるね! 死ぬね!」

姫「イヤーー!」





ゴオオオオオ……


姫「あっあっ、でもっ魔女さん魔力が戻ったのなら、魔法で飛べるのではありませんこと!?」

魔女「うん、そうなんだけどね、箒がないと無理なんだよねー、ごめんねー」

姫「打つ手なし! あぁぁぁぁぁぁーーーっ!!」




ボスッ



姫「っう……うう……え?」

竜「よかった。姫様も魔女も無事でしたか」

姫「…………ドラゴン……? ……竜人さん……ですよね」

姫「……」

竜「すみませんね。こうするしかなかったもので。見て楽しいものでもないでしょうが、しばし御辛抱を」

姫「……い……いえ」









魔女「いてー」

騎士「ままま魔女さん大丈夫ですかっ!!」

魔女「うーん……?」

騎士「……」ドキドキ

魔女「誰だっけ」

騎士「その反応分かってた!僕は騎士です!!」



竜「魔力が戻りましたね。列車を動かしているのも魔王様でしょう」

魔女「勇者と魔王様のところに行こう!」

騎士「はい!」

姫「……やっと皆揃いますね」






* * *


頭領「あー……くそ、戦闘機はいきなり真っ二つになるし列車は浮くし、もう何が何やら……」

頭領「おまけに恐竜の化石は粉々になっちまったしなぁ……ついてねえ」

頭領「思えばこの件、最初からなんか変だったよな」

頭領「そろそろズラかるかね。おい、逃走経路の確保だ」

強盗団「はい!」

頭領「はあ……」チラ




竜「ところで魔女と姫様、その格好は一体?」バッサバサ

魔女「あーこれ? あたしたち実は強盗団n……」

姫「なんでもありません!!!」パ

騎士(強盗……?)



バサーーー……


頭領「………………」

頭領「ほんもの……?」ポカーン

頭領「恐竜……!?!?」


強盗団「お頭! 逃走経路についてですが……」

頭領「ばかやろう……やっとこれから面白くなるところじゃねーか!!」

強盗団「へっ!?」

頭領「行くぞ!野郎ども!!」






* * *


車掌室


バターン


勇者「魔王!!少年!!」

魔王「勇者くんっ」

魔王「魔力が戻った!私はまた魔法が使えるようになったぞっ」

魔王「ほら、君の怪我だって一瞬で治せる!久しぶりに使うから加減が難しいが、もうこれで私もっ」

勇者「お、おう」

魔王「……」

魔王「……ゴホン……とにかくこれで私も戦力となったわけだ。安心してくれ。もう転ぶだけの置物魔王とは言わせないぞ」

少年「魔法が使えるようになって相当嬉しかったんだな」

勇者「らしいな」

魔王「別に……そういうわけでは……もごもご」


バターン


姫「勇者!魔王さん!」

騎士「よかった……合流できて」

魔女「魔力復活おめでとー!かんぱーい!」

竜人「……!? 魔王様……なんて格好をなさってるんですか!」

勇者「お前ら!来たか」

魔王「こ、この服は私が選んだものではないぞ誤解するな」




わっちゃわちゃ


魔女「おー!少年やっとあたしたちのこと思い出してくれたんだー!」バシバシ

騎士「彼が創世主……ですか?」

魔王「だだだだからこれはパンツとあるが似て非なるものであって私たちの世界との文化的差異を鑑みれば決して破廉恥な履き物ではないのだ」

竜人「魔王様いけませんよ、そんなはしたない格好なさっては!ほらこの上着を羽織っていてください」

魔王「とても助かる」

竜人「なに残念そうな顔してるんですか勇者様……列車から落としますよ」

勇者「してねーよ!! つーかお前だろ!あの警官に俺のこと下着泥棒だとか何とか吹き込んだの!!なにしてくれてんだよ!」

姫「ちょっと皆さん、一旦落ち着きましょう?やっと全員そろったのですから」



―――――――――――――
―――――――――
―――――

落ち着いた



少年「じゃあ、みんな本当に本の中から来たんだ……」

少年「……」

騎士「なんか微妙な反応ですね……」

魔女「普通さー、君くらいの年の子ならさー、もっと興奮して嬉しそうなリアクションとるんじゃないの?」

少年「いや、十分驚いてるんだけど、なんかな……想像と違ってたっていうか」

少年「もっと真面目な連中の設定だったんだけど」

勇者「俺たちのどこらへんが不真面目だっていうんだ!?」

姫「全部じゃないかしら」

魔王「でも仕方あるまい。君の創造物であると同時に私たちは確固たる自我を持っているのだから」

魔王「全部が全部君の想像通りではないのも道理だ」

少年「うん、そうかもな。そっか。あんたらは別の世界で生きてたんだ」

少年「……僕に会いにこっちへ?」

竜人「はい。あなたに会いに」

勇者「よーしそろそろ都市につくな。全員そろえば警察だろうが戦闘機だろうが敵じゃない」

勇者「ガンガンいくぞ」

魔王「では速度を上げよう」スイ






都市


「ママー電車飛んでるー」

「はいはい、馬鹿なこと言ってないで行くわよ」

「うそじゃないもんー」



ズガーーーーーーーーーーー



魔王「ついたぞ」

勇者「よっしゃ行くぞ!!!」

魔女「おー!!……ってなにするんだっけ?」

騎士「確かに、僕たち何をするんですか?」

勇者「今更?」

勇者「カイシャに行くんだよ、カイシャ。直談判しにな。だろ、少年」

少年「……うん。そうだ。抗議しに行くんだ」

少年「みんないっしょに来てくれよ」

姫「もちろんですわ」

竜人「ええ、行きましょう」


魔王「それにしても変わった街だな。やけに縦長の鏡面じみた建物をところせましと乱立させるのがこの世界の伝統なのだろうか」

竜人「こんなに空がせまいと私も飛べませんねえ……」

勇者「移動手段どうするか……、 ……ん!?なんだあれ」

少年「うわ、駅の周り……パトカーだらけだ!警察だよ。
   多分列車強盗を逮捕するためにいるんだと思うけど」

魔王「私たちもこのまま出ていったら確実に拘束させるだろうな」

姫「時間ロスしている場合ではないのでしょう?どうしますか」

魔女「そんなの考えなくても分かることじゃん!!」



魔女「押し通ろうよ」







ギャリリリリリリイイイイイイイイッ


パトカー「!? そこの車、止まれ!!ここはいま封鎖中だ!!」

パトカー「……。……おい止まりなさい!!警告を無視するなら発砲するぞ!!」



魔女「八宝菜だかなんだか分かんないけど……どかないならぺちゃんこにしちゃうよ!」

魔女「アクセル全開!!!!」グイ


ゴシャアアアアアアアアアアアアアッ

   ウワーーー
       ギャーーー


魔女「口ほどにもないねー」

勇者「魔女……うぷっ、ちょっと待て、操縦変われ……俺がやる」

少年「おええええ」

魔女「は、何言ってんの。勇者は追手撃退して。私の魔法は障害物があると効かないからさ、車の中からやっても意味ないしー」

魔女「ほら、パトカーやら黒服やら色々追っかけてきてるから。
   私も運転頑張るけどさ、もし追いつかれそうになったらよろしく!」ギュイイイン

勇者「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ」

少年「死ぬーーーーーーーーーーー」



―――――――――――


ブイーーン


騎士「ひ、ひ、姫様、ほんとに運転大丈夫なんですか!?」

姫「大丈夫よ。強盗団にいたときやり方は一通り習ったわ」

竜人「強盗団?」

姫「ハッ!! い、いや、違いますわ。聴き間違えていらっしゃいます竜人さん」

姫「ご……ご……ゴートゥーヘルです」

竜人「……?」

魔王「どういうことだ?」





ブロロロロロ


騎士「そ、それにしても先に行ってる魔女さんたちの車が、だいたいほかの車を蹴散らしてくれてるので、進むのが楽ですね」

姫「ええ。……ですが、すごい運転ね……中にいる人間が遠心分離されそうだわ」

竜人(あちらに乗らなくてよかった……)

魔王「ん? 道の先に何か見えないか。大きな岩?」

騎士「本当ですね。なんでしょう」



魔女「ん?おやおや? ねー勇者。なんか向こうに変なの見えるんだけどなんだと思う、あれ」

勇者「なんじゃありゃ?でかいが……車の一種か?」

少年「あ……あ、あれ……もしかして」

魔女「知ってんの?」

少年「えっと……もしかしてだけど……戦車っていうやつかも」

「「せんしゃ??」」

勇者「ただでかいだけの車だろ?魔女、そのまま突っ込め!お前の超絶操縦テクで振り切るんだ!俺たちの三半規管は気にするな!!」

少年「待てって!!ただのでかい車じゃない!なんかほら……筒みたいなのが前方に突き出てんだろ!!」

少年「あそこから、鉄の塊が多分飛んでくる。ここは一本道だから、砲丸が直撃しなくても車に衝撃が来て、きっと運転が難しくなるよ」

少年「なんで戦車なんて……!あんなの出動するのは本当に緊急事態だけで、例えばテロを制圧するためとか……」

少年「……」

少年(テロみたいなこと今してるんだった)


ガガガガ……ガコン


魔女「げっ!!なんか飛んできたけど!!」

勇者「分かった俺が斬る!おい窓開けてくれ!!」

魔女「えっ窓? え~~っとどこ押せば窓だっけ??これかな?」ウィーン

魔女「ぎゃーー!なにこれなんか動いた!!前見えない!邪魔!!」

少年「なにやってんの!?」

魔女「きゃーーそんなことやってる間にあたしたちぺちゃんこになっちゃうーーー!!」

勇者「だから早く窓開けろって!!!」


ヒュゥゥゥゥゥゥ…………


少年「うわああああああ……っ」


……パッ


少年「あああぁぁ……え?」

少年「消えた……?」








ブロロロロロロ……


魔王「ふふ。他愛ない」

騎士「い、いまの魔王さんが?」

魔王「造作もなきことだ。今の私には魔力があるのだからな」

魔王「ところで……」

魔王「どこの誰が戦力外で、むしろマイナス要因で、足手まといだったか?竜人」

竜人「……あ、結構根に持ってます?魔王様」

魔王「ほら!ほらぁっ!私のどこが役立たずだと言うのだっ、いまの活躍を見ろ!」ズガーン

竜人「いや、ですからあれは魔力0の魔王様のことを言ったのであってですね……」

姫「魔王さん!またあれが来ますわ!魔法で…… きゃっ!」



ボガーーーン


騎士「なに!?道がいきなり爆発した!?」

竜人「どうやらトラップのようですね。近くを通ると爆発するんでしょう。爆発物は複数仕掛けられてると見てまず間違いないでしょうね」

姫「なんですって!そ、そんな道を運転するなんて私には無理です……!」

騎士「姫様頑張ってください!!」

姫「だってどこに爆弾があるか分からないのよ、そんなの……!!」

魔王「それなら私がまたこの車を浮かしてしまえば……」






ボガンッ!!


騎士「あっ!また……!! 危ない!!」

姫「……!!!」ギラ

姫「あら危ないわ」ギャリリッッ

騎士「ほぁっ!?!?」

竜人「いっ!?!?」

魔王「ん?」グラ


ゴチーーン


魔王「ぎゅっ!!」

魔王「」

竜人「魔王様----------!!」

騎士「いてて……姫様いきなり乱暴な運転やめてくださいよ……
   あっ!!またあの砲丸が飛んできます、魔王さんお願いしま……あれ?魔王さん!?」

竜人「魔王様しっかりーーーー!!!ああ、こうなったら私がなんとかしてみせます。騎士さん援護を宜しくお願いします」ジャキ

姫「まあ小賢しい爆弾ですこと」ギャリリリリ

竜人「さあ、行きます…………よっ!?!?」グラ


ゴチーーーーン


竜人「」

騎士「いやーーーーー主戦力2名逝ったーーーーーーーーーーーーーーっっ」

騎士「魔王さーーーん!!竜人さーーーん!!!起きてくださいよーー!!」

姫「なにを騒いでいるの騎士?一体何が……」チラ

姫「本当に何があったの!?竜人さんと魔王さんに一体なにが!?……まさか敵の攻撃を受けて……!?」

騎士「いや……えっと……敵というか……まあ……」






―――――――――――――――


魔女「おーー!砲丸消えたー!多分魔王様が魔法でやってくれたんだよ。さっすが魔王様」

勇者「よし、このまま先へ一気に進むぞ!」

少年「これなら……!」


少年「……あれ?」

勇者「次の砲丸なかなか消えないな」

魔女「なんか……おかしくない?」

少年「うんおかしい」

勇者「……まずいな」

魔女「うーん。まずいねー あははは」

少年「笑ってる場合じゃねーよっ!!」

少年「わーーーーーーーーーーーーーっ!!」





戦車の猛攻を何とか凌ぎつつ、コンクリートの地雷原を駆け抜ける二つの車
目的地である「会社」までの道のりは、それはそれは長いものだった
失った尊いふたつの戦力源――彼らの犠牲は無駄にしない!
胃袋の中身をぶちまけそうになりつつも勇者たちは都市の中心部にやっと辿りついたのだった!


少年「つ、ついた……こ……ここが会社、だ」

勇者「よ……よし。社長はどこにいるか、探すぞ……!」

魔女「オッケーー!!このまま車でいっちゃおー!!」

少年「ちょっ……」


悪夢は終わらない――

天空を仰ぎ見るかのように聳え立つ魔天楼
そのガラス張りの正面入り口は車が突っ込むと同時に粉々に砕け散った
プリズムの中、ガラスの破片が突然の闖入者に驚き逃げ去っていく様を、勇者と少年は眺めていた
重く前方からのしかかるGに耐える二人の目は暗かった
魔女だけが楽しそうだった


鳴り響く固定電話
駆ける背広服
発光する赤い「エマージェンシー」のランプ


オフィスの机から舞い上がった書類がひらひらと宙をたゆたった後、やがて床に着地する頃には、
暴走車は階段を強引に上がってその2階上のフロアに到着していた
そして今まさに、死屍累々を新たに積み重ねようとしているところであった


今日はここまでです

おつ

きてたあー!おつおつ!!!

どの登場人物もたのしそうでなによりだな

乙!

車すげーなwwww




さてもう一方の車はというと、何とか会社の中に侵入できたはいいが、敵に囲まれて大ピンチ中だった
なんとガソリンがなくなってしまったのである

徐々に車がスピードを落とすのを見るや否や、武装部隊がじりじりと距離を詰めてくる。
車体で強行突破も不可能になったので、ではもう外に飛び出て交戦するしかあるまいよ、と半ばやけくその状況の姫と騎士だった


姫「でもあなた一応我が国の騎士団所属よね?国の最後の砦たる精鋭部隊の一員よね?」

姫「騎士団の中じゃ結構優秀な期待の星って噂よね?」

騎士「や、やめてください!褒められるのは嬉しいですけど勇者さんや竜人さんと同じ次元だと思わないでください!!
   僕はあんな化け物じみたことできませんからね!」

姫「銃から放たれた弾丸を剣で二分するなんて芸当、余裕よね」

騎士「だから無理です!!」

騎士「……無理ですが、これでも騎士団のはしくれです。なんとしてでも姫様のお命は守ります!!」

姫「騎士!」



意を決して車の外に出る騎士

その瞬間彼はぶっ倒れた

何故か?それはこのフロア全体に不可視の睡眠ガスが充満させられていたからである
謎のテロ集団を制圧するための手段として尤も確実なものだろう
見るといつの間にか武装部隊はガスマスクも武装済みであった


車内で姫はハンドルにもたれかかった
後部座席では魔王と竜人が気絶している
車のすぐ横では騎士が熟睡している
今この場で戦えるのは自分のみ……!







姫「……私がやるしかないわ」


いままで誰かに守られてばかりで、こうして誰かを守る立場になったことなんてなかった
彼女は追憶した。これまでの王女としての人生を。
いっとき目を閉じた。そしてすぐに開くj。
守る立場に立つことに少しの恐怖と、そして恐怖よりほんのわずかに多く高揚を感じていた


銃を握り締めた。まだ弾は残っている。


姫(……息を吸わなきゃいいのよ。呼吸を止めたまま戦えば……!)

姫(かかってきなさいっ!)


とはいえ……土台無理な話だった
かたや対人制圧に慣れた武装集団、一方銃を握って数日かそこらの娘っこ一人では勝負は見えていた

10秒とたたずに彼女は地に伏せさせられていたことだろう
この場に新たな侵入者たちが突っ込んでこなければ。







バリーーーン


頭領「おう、がんがんかませ」

強盗団「おっしゃーーー!!」



そう、こいつら強盗団も車でそのまま会社の中に入って来ていた
監視カメラを通して侵入者たちの様子を見ていた社員たちは思った。
こいつらは会社を一体何だと考えているのだろう?サーキットだとでも?

強盗団たちは流石に現代の戦い方に慣れていた
まず全員ガスマスクを装着すると、閃光弾や催涙弾、ロケットランチャーにマシンガン、アサルトライフルもろもろ取り出し始める。
姫が呆然としている間にあれよあれよと形勢逆転、お見事と言いたいくらいの手並みとチームワークだった

……だから知らず知らずのうちに呼吸を再開しそうになってしまった
ひとつだけ息を吸い込んで、姫は気づく


姫(あ)

姫(息吸っちゃった!!)


そういう問題ではないと知りつつ、息を吐きだしてみたが、やっぱり解決しない。
当たり前である

そして次の瞬間にはもう強烈な睡魔に襲われて、瞼が緞帳みたいになっていた
さらに次の瞬間には、立ってることすら困難になった







仰向けに倒れそうになった姫を誰かの腕が支える
夜霧のような視界の中、その誰かの背中に生えてる大きな翼が一度だけ羽ばたくのを……
そして彼が少し申し訳なさそうに眉尻を下げたのを見た

姫は言いたかった
そんな顔をする必要はないと



姫「わたし……竜人さんのことが好きなのですけど……」

姫「……だめでしょうか……」



―――――――――――――――――――
――――――――――――――――
――――――――――



強盗団「うおおおおおっ!!すっげえ風だ!!」

頭領「一体何だ……?ここは屋内だろ」

A「でもこれで睡眠ガスが霧散したぜ。やっとガスマスク外せる」

B「こっちの制圧は終わったよ」


竜人「えーと、あなたたちは?」

頭領「俺たちは強盗団。かくかくしかじかで勇者と名乗る男を追ってる」

頭領「あいつに恐竜の化石を壊されたんでな、代わりに竜の骨をもらう約束をしてるんだ」

竜人「……」

竜人「なるほど。手に入るといいですね!」

竜人「実は私たちも彼を追ってるのですよ。できればそちらの車に乗せてくれませんか?こちらの車はどうやらもう動かないようで」

頭領「かまわんぜ」







――――――――――――――――――
――――――――――――――
――――――――――


屋上



ドガッシャーーーン



魔女「ここが最上階ーーっ!」

少年「」

勇者「おえぇ……。……ん?待て最上階?というかここもう屋上じゃないか。社長はどこだ?」

少年「あ……。あれ、見て」



少年が遙か彼方の砂色の空を指差す
勇者と魔女の目には、それは最初羽ばたかずに飛ぶ、気味の悪い鳥の姿に映った


勇者「いや……違うか。あれ、列車に乗ってたときに見たな。ひこうきってやつか」

少年「あいつ、逃げたんだ。飛行機に乗って、どっか行くつもりなんだ」

魔女「じゃあ追いかけよ……」

勇者「地の果てまでな……」

少年「お前ほんとに勇者かよ。こええよ」

勇者「移動手段が問題だな」



ガシャーーーーーーーー



竜人「それなら問題ありませんよ。私がいます」

魔女「あー竜人、それにお頭!お頭たちも来たんだ?」

頭領「よう」

竜人「おや顔見知りでしたか。でも、せっかくなんですが、魔女。睡眠魔法を」ヒソヒソ

勇者「え?なんでだ?」

竜人「あれ?勇者様が竜の骨を彼らに渡すと、勝手に約束したのではありませんでしたっけ?私の了承も得ず?
    いま私が彼らの前で竜の姿に戻ったら、またひと悶着になりますよね?」

勇者「わ、悪かったよ!勝手に言ったことは謝るからそんな怒るな!」







空の上



魔王「…………」

魔王「……いたた……」

少年「あ。起きた」

魔女「姫様と騎士はまだ起きないなー」

勇者「で、結局なんでそっちの車、ほぼ全滅状態だったんだよ?」

竜「いやー……それがですねー……うーん……」バッサバッサ


魔王「こうして上空から見てみると、つくづく私たちの国とは違うのだな」

少年「……ごちゃごちゃしてて汚い眺めだな。でも、僕こんなに空の近くに来たの、はじめてだ」

少年「ちょっと楽しいよ」

魔女「空飛ぶって楽しいよねー。分かる分かる」


少年「なあ、あんたらって僕の考えた世界に住んでたんだよな?じゃあさ、空って青かった?」

魔王「昼は青かった。朝は白くて、夕方は赤くて、夜は黒かった」

少年「そっかー。いいなー。僕も見てみたかった」

勇者「じゃあ見るか」

少年「え?」

勇者「雲に覆われてるだけで、ちゃんとその向こうにはまだあるんだろ?」

少年「え。あ。うん……そう……らしい……けど」

少年「……え、ほんとに?」



ヒュッ



――――パッ……








少年「……わ……っ!!ほ……ほんとに青いっ」

少年「これが……本当の空の色……」

魔女「わーなんか久々に見た気がするや」

少年「きれいだなぁ」

少年「僕、生きててよかった」

少年「妹にも見せたかった。……見たかな?」

魔王「ああ。見てた」

勇者「今も見てるだろうな」



竜「さ、そろそろ追いつきますよ。皆さん準備を」








* * *


社長「全く……なにがどうなっている」

秘書「さあ……」

社長「あーあー。この映像を見てみろ、会社が滅茶苦茶だ。一体何が目的なのやら」

秘書「今頃捕えて目的を吐かせているころかと思いますが」

秘書「それより社長、3時間後にA社とB社との共同会議です。いま一度資料のご確認を」

社長「はいはいっと」

社長「……? おい、なんか変な音が聞こえるな。空調を確認してきてくれないか」

秘書「……は」

秘書「い……?」


ギコギコ……


ギコギコ…………



社長「ん……? なんだ? 上から」


ガパッ


勇者「おっ、やっと切れた」

騎士「剣ってそういう風に使うもんじゃないと思うんですが……!」

魔女「さむーい!!早く中入ろうよー!」



秘書「…………は……?」







社長「な、お前らは……!!まさか……いや、どうやってここに……!!」


ダンッ


勇者「やーーーっと見つけたぜおっさん!!おうこらもう逃げ場はないぞ観念しろ!!話を聞け!!」

社長「話だと……!?お前ら、ここまで損害を出しておいて……!」

魔王「元はと言えば、そちらが手を出してきたのだろう」

魔女「そーだそーーーだ!なんならこの場で縛り上げて、その肥えた腹ピンヒールで踏みつけてブヒブヒ鳴かせたげてもいいんだよ!?」

姫「おやめなさい……はしたないわ」

竜人「騎士さんも赤面しないでください」

騎士「んなっ!?ししししてませんよ!!」

少年「……」スッ


少年「あの家は……あんたが金のために壊そうとしたあの家は、僕の大切な場所なんだ」

少年「今日はそれだけ言いにここまで来たんだ」


社長「貧困区のガキ……」

社長「……お前みたいな汚いガキが俺に話しかけてるって思うだけで反吐が出るな」

社長「お伴連れて今すぐ消えろ」

少年「……」

魔女「ちょっとー言わせておけば言いたい放題じゃん!」

少年「いや、僕は平気だよ」

少年「なんだか、本当に全然大丈夫になったんだ。
   ……魔王が言ったんだよな」

少年「自分の価値は自分で決めろってさ……」ズイ

社長「……」

少年「僕、お前のことが大っ嫌いだ。お前なんかに何を言われたって全然気にしないし、どうだっていい」

少年「お前の存在なんて僕にとっては取るに足らないものなんだ」

社長「……この…… 犬の糞ほどの価値もないガキが……一代で会社を世界トップクラスにまでのしあげた私に向かって……!!」

社長「身の程を知れ」ツカツカ






勇者「……」スッ

少年「どいて勇者」

勇者「ん?」

少年「これはやっぱり僕の問題だから、最後は僕がちゃんと決着をつけたいんだ」

少年「殴られてもいい。でも絶対倍返しにして殴り返してやる!!」

少年「僕はもう逃げない、ごまかさない。ちゃんと戦うんだ!」

勇者「お前……」



少年「こい……っ!!」

社長「クソガキ……!!」ブンッ

少年「……ッ」


ガチッ!!


社長「マ゛ッ!?!? 固っ!?!?」

社長「てめえ、本当に人間か……!?!?」

少年(あれ……?痛くない?)

少年(そうか……これが火事場の馬鹿力ということか!脳内麻薬で痛覚が麻痺しているんだ!しめた!)

少年「…………この野郎!!覚悟しろ!!」ギロッ

社長「ちょっと待……」

少年「歯ぁ食いしばれーーーーーーーーー!!」







勇者「……」

勇者「なんかした?」

魔王「特に何も」

魔王「ただ、やっぱり大人と子どもでは体格差が違いすぎるだろう」

魔王「なので少年の方に少しだけ防御力と攻撃力増加の魔法をかけただけだ」

姫「それって……増加率はどれくらいなんですの?」

魔王「ほんの少しだ」

竜人「魔王様。具体的に」

魔王「だから、微量だと言っている」

勇者「おい……嫌な予感がするぞ」

魔王「ちょっとだけだ。心ばかりのエールのつもりで……500倍ほど」

騎士「え」



 「ちょっと待……」

     「歯ぁ食いしばれーーーーーーーーーっ」


ドカーーーーーーーン



竜人「…………」

騎士「……飛んでいきましたね……」

魔女「きたねー花火だぜ」







* * *


こうして少年の長きに渡る一瞬の大冒険は幕を閉じたのだった


さて、再び照明が灯された劇場をあらためて見渡してみると
帰り支度をはじめる者、欠伸をする者、顔見知り同士で何やら囁き合ってる者……
均等に並べられたシートにまばらに点在する人の影が、冬眠明けの熊みたいに動き出した頃だった

あるいはその中の一人か二人くらいは、不思議に思いつつ閉じた緞帳を見つめた者がいたかもしれない
少年が、勇者たちが、警官が、強盗団が、社長が、この後どうしたのか?

だけどもやっぱり、エンディングを迎えた物語にあれやこれやと付け加えるのも無粋だろうから
彼らのその後については、事実のみ簡潔に述べるくらいがちょうどよかろう




テロ組織とも暴走団ともつかないとある集団が、雲の下立ち並ぶビル群のひとつに突っ込んで屋上を目指す頃には
喜々面々、興味津津、戦々恐々、カメラマンと記者たちがハイエナのように群がって、騒動の様子は全世界中に放映されていた

そんな折、社長が空から降ってきた
観客諸君ご存じのとおり魔法で超強化された少年に殴り飛ばされたためである

社長の鼻血がつくことも気にとめずに押し寄せるマイクの波、その中心でただただ彼は混乱していた。
あるいはただ脳震盪を起こしていただけかもしれないが……






何とか理性を取り戻した彼が、この一連の騒動について、会社の正当性を主張しつつ弁解をはじめようと口を開いたときだった
記者の一人がわあ、と叫んだ
何か空から降ってきた、と。

そう、空から降り立ったのは社長だけではなかった
一体どこからばらまかれたのか、人為的なものなのか偶然だったのか、原因は全く不明だったが
とにかく空から書類が、まるで初雪のように舞い散って、やがて記者やカメラマン、それから野次馬たちの手に捕まった
雪と違うところは手に触れても溶けない点である。社長にとっては都合が悪いことに。

その書類の数々は、社長が今まで会社を大きくするためにしてきた諸々の不正の証拠だった

今後彼の会社が倒産するか、はたまたすんでのところで命綱をつなぐかは今のところ不明である
彼と社員たちの努力しだいだろう



「ああ……やっちまったぜ……」
「こればっかりは結果オーライだ。たまには勧善懲悪ものの役者になってみるのも悪かねえ」
「いや、俺たちもどっちかっつーと悪側なんスよね」


大騒ぎを通り越して一世一代の祭りみたいになってる下界を見下ろして
強盗団一味は高みの見物といったところだった
暇なので会社の上から下まで適当に調べていたとき、AとBがまたやらかし、その結果がこの有様である

「そろそろ帰るか」
「おう」
そしてそろそろ帰るところであり、またどこかに流れていく






事件から数日がたった後も、新聞の紙面や町角に据えられたテレビの画面から社長の鼻血まみれの顔と、
そしてボロボロになった会社のビルが消える兆しはなかった……


「やー、すごい騒ぎですね、先輩」


ここにもひとり、テレビの中のコメンテーターの顰め面を見ながら煙草をくわえる若者がいた
今日目が覚めてから同じ画面を5度は見た。いい加減興味も薄れてテレビのスイッチを切る

「あれ、先輩どこに行くんですか」
「ちょっとな」
「なに手に持ってんですか」
「なんでもねえよ」


彼は、だらしなく腰かけていた椅子から、弾かれたように立ち上がると上司に詰め寄った
そしてその手に握られていた辞表をびりびりと裂いてしまう


「俺、先輩のこと実は尊敬してるんですけど」


上司はしたり顔で頷く。「お前はいい警官になる」

「またいつか会おうぜ。お前が立派な一人前になったらな」


煙草の煙が去って行く彼を引きとめようと無駄な努力をしている。
後輩はぐっと言葉を飲んだ
そして沈黙のまま、米粒ほどの大きさになった上司の背中にようやく敬礼をした







* * *


ニュースの話題になったのは有名会社の不正だけではない
街と都市をつなぐ列車が空を飛んだとか、遙か古代に絶滅したはずの恐竜らしきものが飛んでいくのを見たとか
または、灰いろの重たい雲に覆われていたはずの空が一時だけ本来の青を見せたとか

そんな都市伝説みたいな噂が流れ、実際その空飛ぶ列車やドラゴンをカメラに収めた者もいたが
不思議なことに記録には残っていなかった。データからその部分だけすっぽり抜けているのである

やがて脳みその片隅、海馬に焼きつけられた記憶も、目まぐるしく変化する社会の中で次第に風化していった
この世界の人々は忘却する能力に長けている


――少年以外。




「きれいだったけど、すぐにまた戻っちゃったなぁ」


またいつも通り鈍色の曇天を、彼は仰ぎ見た
夕暮れ時の路地に人はまばらである
彼が立ち止まって上空を見上げていても、誰も文句は言わない


「でも、いつかまた、もう一度」






少年の家


魔女「えー? せっかくこの家、壊されなくてすむようになったのに、結局出て行っちゃうんだ?」

姫「ですが、どちらへ? もしかしてお母様とお父様が……?」

少年「ううん。ちがうんだ」

少年「せっかく僕のために頑張ってくれたのに、ごめんよ」

少年「でもちゃんと分かったから。僕がどこにいたって、妹のことを覚えてる限り、思い出はそのまんまなんだ」



少年「あと、いますぐ出て行くわけじゃない。いつかの話だよ」

勇者「どうするつもりなんだ?」

少年「この街の隣の隣……砂漠を渡った先に学問都市がある。そこでいつかちゃんと勉強したいんだ」

少年「それで学者になる。あんたが見せてくれたあの青空と太陽を、この世界にもう一度取り戻して見せるよ」

竜人「……そうですか」

少年「ま、学校に入学するだけの金も学力も今はまだ全然ないから、当分また働いて金をためるさ」

魔王「金なら、」


ガチャ


頭領「話は聞いたぜ……ロマンだな。俺はお前の夢を応援する」

魔女「あー、お頭じゃん。久しぶりー。元気だった?」

姫「お頭さん!なんでここに……」

頭領「お前らこんな小さい部屋によく7人もいられるな。せますぎるだろ」

頭領「まあ……んなこたぁどうでもいいんだよ。ガキよ。この金を使って学校に入学するといい」ポイ

少年「うわっ! おもっ……」

頭領「俺は女とガキには優しいからな……遠慮なく使えよ」

勇者「自分で言うなよ」

少年「いや、いらない。盗んだ金で勉強なんてしたくないんだ。
   ちゃんと自分で稼いだ金で行くよ」

頭領「あぁ……?」カチン

頭領「せっかくの俺の好意を無下にするたぁいい度胸だな、子ども」

少年「うわあああっ!?な、なにするんだよっ!離せよ!」

勇者「おい!子どもに優しい設定どこいった!やめろ!」






頭領は帰った


魔王「……だが、また働くと言っても、君は……」

少年「うん。クビになった。でも、今日もう一回頭下げてくる」

少年「子どもの僕を雇ってくれるの、あそこくらいしかないからね」

姫「そ、それなら私たちも手伝いますわ。私も働きます」

魔女「ていうか、あたしたちなら大通りで魔法見せてあげればお金ガッポガッポ稼げるんじゃない?」

少年「大丈夫。僕はもうやりたいこと見つけたから、どんなことも耐えられるよ」

少年「土下座だってなんだってやってやるね!!朝飯前だ!!」

竜人「なんか変な方向に開き直ってませんかね」

少年「それにさ……」

魔王「ん?」

少年「なんとなく、勘だけど。あんたたち、今日の夜に自分の世界に帰る気がするんだ」

勇者「え?そうなのか?」

少年「多分な。……じゃ、僕は工場に行ってくるよ。またな」


ガチャ


騎士「……そういえば僕たち、どうやって帰るんでしょうね」

勇者「……そこだよな」








工場



少年「……なんかすごい久々に来た気がする」

少年「……よし、いくk……」

○○「よう」ポン

少年「うおあっ!!」

少年「あ……あんたか。食堂から出てくるなんて……珍しいな」

○○「俺のことよりお前さ。みんな心配してたんだ。……生きててよかった」

○○「今日はどうしたんだ?」

少年「あ、うん。また、ここで働かせてもらおうと思って。
   お金貯めて学校に行きたいんだ」

○○「そうか。じゃこれ使えよ」

少年「あ、うん。……うん? え? なにこれ」

少年「なにこれ……!?」

○○「俺一人だけじゃない、みんなからだ。大した額じゃないが、とりあえずこの街を出るのには十分だろ」

○○「学費は、ほらよ。これを自分で勝ち取れよ」ペラ

少年「このチラシ……奨学金? こ、こんなの無理だって」

○○「ばか、自信持てよ。工場で武器つくる時間を勉強にまわせば、お前なら余裕だって。 なあ、みんな」


コツコツ


「頑張れよな。応援してるぜ」

「たまにはこっちにも顔出せよな!」

「期待してるぞ」

「いろいろ勉強してこいよ~」


少年「みんな……」

○○「……頑張ってこいよ。お前はまだまだ若いんだから、なんだってできるさ」

○○「今日発てよ。出発は早い方がいい」

少年「……」

少年「ありがとう……」








* * *


―――夜―――

街 正面ゲート



少年「そろそろか……」

魔王「出発するにしては荷物が少ないのだな」

少年「元々あんまり物も服も持ってないし。これで十分なんだ」


少年「そういえばさ。あんたら、どうやって帰るの?」

魔王「……」

勇者「……」

「「「…………」」」

少年「え…… まさか……まじ?」

勇者「いやまあ大丈夫だろう。なんとかなるって」

少年「適当だなぁ……相変わらず」

魔王「私たちのことは気にしなくていい。君は自分のこれからのことだけ考えていればよいのだ」

魔女「頑張ってねー」

姫「あなたなら、今後何があっても乗り越えられますよ。なんて言っても私たちの創世主様なのですからね」

少年「……うん」


少年「ありがとう。僕を……僕たちを助けに来てくれて」

少年「もうみんなのこと忘れたりしないよ。ずっと、ちゃんと覚えてるから」

竜人「どうぞ達者で……」

騎士「創世主がこんな子どもだったとは、……驚きましたけど、会えて光栄でした」

少年「僕が大人になって、夢を叶えたら……またいつか会おう」






少年「魔王っ」

魔王「ん……?」

少年「あんたの名前は妹が決めたんだ。昔の月の神様の名前だよ」

魔王「……そうなのか。じゃあ後で礼を言わなければ」

少年「……」

少年「僕とあんたはけっこう似てる」

魔王「そうだろうか」

少年「顔じゃないよ。中身。未来を心配しすぎるところとか、怖がりなところとか、たくさんね」

少年「怖がらなくても大丈夫だよ。大丈夫にできてるんだ、みんな。
   僕たちは自分で思ってるよりずっと強いんだ」

少年「死は怖くない。友だちなんだって……妹が」

魔王「……」

魔王「ありがとう」

少年「こっちこそ、ありがと。あんたに会えてよかったよ。
   最初は頭おかしー奴かと思って悪かった」







スタスタ……


シスター「おー……まだ出発してなかったか。間に合った間に合った」

少年「シスター」

勇者「ああ、あんたか。久しぶりだな。こっちでは世話になった」

シスター「やあ悪魔。願い叶えてくれたんだな。ありがとよ」

勇者「だから、俺は悪魔じゃ……」

シスター「代償に命でも何でも持っていけ。なんだ、遠慮をするな。血でも何でもいいぜ、ほら首筋がぶっとな」

勇者「ばか、いらねえよ!脱ぐな!!悪魔じゃないって言ってんだろ!!」

シスター「くっくっく……なに照れてんの?つくづくからかい甲斐のある奴だなぁ」


グイッ


勇者「えっ……?」

魔王「……あっ」

シスター「ん……?」


魔王「……こ、ここ。勇者くんの服に埃がついてたから、とっただけだ」

シスター「おやおやおやおや……まあまあまあまあ」

少年「はあ……シスター、そのへんにしてよ。あんたも見送りに来てるんだろ?」

シスター「くっくっく……」

シスター「まあ、悪魔でも何でもいいよ。とにかく色々礼を言いにね。
     あと少年も元気でな。たまには帰って顔を見せに来いよ」

少年「もちろん」








騎士「あ。そろそろ本当に時間ですよ」

少年「うん、もう行かなくちゃ」


少年「……勇者。あんたの名前も妹がつけた。あんたのは、昔の太陽の神様の名前だ」

シスター「そうそう……」

少年「僕もいつかあんたみたいに強くなれたらいいな」

勇者「はっはっは。よせ、照れるぜ」



少年「ひょっとしたら」

少年「10年後……いや、1年後、もしかしたら明日にでも」

少年「また戦争が始まって、この土地はもっとボロボロになって、全員死んじゃうのかもしれない」

少年「戦争になったら、僕も徴兵されるだろうし……学校どころじゃないね」

勇者「……」

少年「でも、たとえどんな未来が待ってようとも、僕は僕の夢から逃げないことにしたよ」

少年「勇者も応援してくれるだろ?」

勇者「……もちろん」

勇者「頑張れよ、少年!」

少年「……うん!」









少年「じゃあ、さようなら。みんな!」

少年「あいつによろしく」

シスター「元気でな」

騎士「気をつけて行くんだよ」

姫「さようなら……!」

魔女「ばいばーい!まったねー!」

竜人「ご飯ちゃんと食べるんですよ!」


魔王「さようなら、少年」

勇者「じゃあな!」




―――――――――――――
――――――――――
――――――


シスター「………………行ったか……」

シスター「……」

シスター「なあ、そういえば勇者。お前の剣、それって聖女の……」

シスター「葡萄十字…… あれっ?」

シスター「いない……?」








* * *

冥府


勇者「…………」

勇者「う……お?あれ、ここは冥府か」

鍵守「そうです」ニョキ

勇者「わっ お、お前いたのか」

鍵守「いました」ニコ

鍵守「彼にあってきてくれてありがとう。これでもうこのセカイはだいじょうぶ……」

勇者「そっか……よかった。戻ってこれたのか」


ザ……


魔王「勇者くん……と鍵守」

鍵守「魔王もありがとう……もうだいじょうぶ」

鍵守「いま、セカイを全部再編中だから……冥府の外にいくのはちょっとじかんがかかるけど……」

勇者「じゃあ、全部元通りになるのか?影に食われて消えた人間も魔族も、全員?」

鍵守「そのはずです……」

魔王「……」

魔王「私たちは彼に会ってきたが、君は会わなくてよかったのか?」

鍵守「……え……?」

魔王「彼は君の兄なのだろう」

鍵守「……」

勇者「え? ……?? ん?」

勇者「なに言ってんだ?あいつに弟はいないだろ。いるのは妹……」

魔王「勇者くん、気づいてなかったのか? 鍵守が彼の妹だ」

勇者「……へ……!? お……お前女の子だったのか!?」

鍵守「ボクはたしかにおんなのこですが……」

勇者「ええええええっ」




ここまでです
次くらいで終わらせられそうです!!!
ここまで読んでくれた方々どうもありがとうございます

がんばれ

おつ!

な!鍵守が妹だったなんて??
全く想像つかなかった。乙。

大作やなぁ
期待してるおつ!

おつ

おつ!
とうとう終わってしまうのか…寂しいな

おつ

待ってる。

まってる

魔ってる

待っとるよ

2か月経っちゃったな

それでもまってるぜ!

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年05月14日 (水) 17:49:52   ID: WakfPfD0

続きを楽しみにしてます。

2 :  SS好きの774さん   2015年03月17日 (火) 19:26:18   ID: _YKB1Tm2

面白すぎて、ほぼ寝ずに1作目から読み進めてしまいました。
ところで最後の投下から半年ほどが経過していますが、続きはもう書かれないのでしょうか?
それとも現在執筆中ということなのでしょうか
続きを切に願っております。

3 :  SS好きの774さん   2015年04月12日 (日) 01:20:31   ID: 2QmmlmL1

読んでいてなんとなくネバーエンディングストーリーを思い出す作品。
続きは作者のページで公開されているそうな。

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