「貴音のグルメ」 (21)


貴音「お疲れ様でした」

撮影が終わり関係者に挨拶を済ませ、現場を後にします。
時刻は15時を少し回ったところです、丁度小腹が空いてくる時間ですね。
昼食が少し早かったので致し方ないのです。

貴音「事務所に戻る前に、何か軽く摂りましょう」

本日は、朝現場までプロデューサーに送っていただきましたがどうやら別の現場に向かわねばならないらしく帰りは電車での移動となります。
あのお方は本当に忙しない方です、お体を壊さなければ良いのですが……。


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現場から駅は近いので徒歩でも構わないでしょう。
変装をしっかりとしてから歩き出します。

貴音「駅までの間に何か良さそうなお店があるといいのですが」

などと思いながら歩いていましたがなかなか琴線に触れるお店には出会えませんでした。
遂には駅に到着してしまい、結局わたくしは今電車に揺られております。

最寄駅で降りてから探すと致しましょう。

こういう時に焦りは禁物です。
急いては事を仕損じると諺にもあるように、空腹感に負けて駆け込んだ時点で己に敗北しているのです。
良きお店が見つからないからといって闇雲に惰性で選んではいけないのです。


そんな事を考えているとすぐに最寄駅に到着しました。
改札を抜け、事務所のある方角の出口から駅を出ます。
見慣れた景色の中を歩き、食事のできる所を探し歩く。
すでに何度か脚を運んだ店もありますが、今日はそういう気分ではありませんでした。
もう間もなく事務所に着くといった所です。

貴音「はて、こんな所にこんな道があったのですね」

覚えのない小路を見つけ、奥の方に暖簾を掲げているお店があるように見えました。
なんとなく気になり、ふらりと脚を運ぶと確かにそこには飲食店が。
外に出してあるメニューを見るに、ここはどうやら中華料理のお店のようです。


貴音「暖簾やお店の外観を見るに、この地で永く愛されているような趣を感じます

   本日はこちらに入る事に致しましょう」

からからと音を立てる引き戸を開いて暖簾をくぐると、中華料理店独特の油の匂いと言いましょうか何とも食欲を刺激します。
店内には古いポスターやそれと同じくらいそこにあるといった手書きの短冊メニューが掲示してあり、長い年月を経たお店であると伝えてくれます。

店員「ぇらっしぇい!」

時間的に人の影は少なく、粋な店員の挨拶を受けて空いている席に腰を下ろします。


貴音「ふふっ。誠、良き雰囲気のお店です」

率直な感想を呟き備え付けられたお品書きを手に取り開く。
メニュー自体は普通の中華料理店と同じく、特に目新しい物はありませんでした。

貴音「やはりここはらぁめん……いえ、たまには他の物でも食べましょう」

折角出会ったお店なのですから普段食べているような物ではない物を選ぼうと思います。
お品書きと向き合い数分、その間にお水が運ばれてきましたがわたくしの目線はお品書きから外れません。

貴音「定食……いえしかし、らぁめん……いえ、餃子……ふむ、らぁめ……いえ……ここは……」


悩んだ末に、本日の一食を決めました。
近くにいる店員殿に声をかけます。

貴音「もし、注文よろしいでしょうか」

店員「はい、なんにしやしょう!」

心に決めた一品を告げる時は聞き返されぬようできるだけ物怖じせず、はっきりと伝えます。

貴音「炒飯を、大盛りで。それと餃子を」

店員「チャーハンと餃子ですね~、かしこまりゃーした!」


何とも活きの良い店員ですね。
自論ではありますが、活気のある店は良い店と思っております。
こちらのお店も、きっと良いお店なのでしょう。
そうでなければ長年構える事は出来ないでしょうから。

炒飯とはえてして注文から届くまで時間のかかる物ですが、急ぐ身でもないのでのんびり来るのを待ちましょう。
この待つ時間をも楽しむ、それが醍醐味のひとつでもあります。

店員「おまたしゃーした!チャーハンと餃子です!」


待つこと数分、威勢のいい声と共に運ばれてきた炒飯が目の前に置かれました。
食欲をそそる匂いが鼻腔を刺激します。
では、両手を合わせ早速。

貴音「いただきます」

蓮華で山盛りに盛られた炒飯の山を崩す。
閉じ込められた熱気と湯気が立ち上ります。

貴音「はむっ……むっ!……ほれは……!」


掬ったそれをそのまま口の中に放り込むと玉ねぎの芳醇な香りと食感、ふわふわの卵、お肉とぱらぱらに炒められたごはんが混じり合い、まるで口の中で踊っているようでした。

貴音「はぐっ……はむっ……んくっ……ふぅ……」

ここで一度付け合せのすぅぷに蓮華を移します。

貴音「んっ……ほぅ……」

炒飯には必ず付いてくるこのすぅぷで口内の油を流す、そしてまた炒飯に戻る。
そんなが流れが自ずと出来上がってきます。

醤油味のようなすぅぷの海に浮かぶ葱もしゃきりとした歯触りで嬉しいものですね。


貴音「あむっ……んぐっ……はむっ……ふふっ」

この少し濃いような塩気がたまりません。
ちゃぁはんの山を文字通り切り崩していきます。
しっかりと炒めてある玉ねぎは甘味を感じさせ、塩味の濃い中で一際個性を主張してきます。
更にこちらのお店ではお肉がひき肉を使用しているようで、焼豚とはまた違った味わいを醸し出していました。

半分ほど食べたところでまた蓮華を止めて割り箸を一膳、備え付けられた筒から取り出しました。

貴音「誠、美味しそうな餃子です」

小麦粉で作られた皮の表面は焼き色がしっかりと付いており、見ているだけで食欲を増進させます。


ぱきりと音を鳴らして割った割り箸で餃子を摘もうとしましたが隣の餃子とくっついていました。
無理に剥がせば薄い皮はすぐに割れてしまいます。
しかし、ここで焦ってはいけません。
調味料を置く一角にあるお酢の入った瓶を取り、それを餃子の上から垂らします。

理屈はわかりませんが、こうすることにより餃子が綺麗にはがれるのです。

貴音「では……あむっ……」

小皿に醤油と辣油を入れてそれを餃子に付ける。
半分ほど口に含み噛むと、ぱりっとした皮の食感の後に中から溢れ出る肉汁。

貴音「なんとも……優艶な……」


おや、よく考えるとひき肉も玉ねぎも餃子の中に入っているので炒飯とかぶってしまいましたね。
しかしそんな事が気にならない程今のわたくしは多幸感に包まれております。

こんがりとした部分とそうでない部分の食感の落差がなんとも楽しい。

貴音「はふ……あむっ……んぐっ……ほぅ……」

餃子とチャーハンの合間にすぅぷを挟む事により、口の中でそれぞれが喧嘩することなく美味しさを楽しめます。

蓮華と箸を交互に持ち替えて気がつけば残すは餃子一つ。

貴音「はむっ……あぐっ……んっく……」

時間の経過で軽く冷めましたが変わらぬ美味しさに舌鼓を打ち、無事完食致しました。


貴音「ごちそうさまでした」

お水を一杯頂きお会計をしようと席を見ると伝票がありません。

貴音「もし、お会計をお願いしたいのですが……」

店員「はい、どうぞレジの方へ!」

促されるまま着いていきます。

店員「チャーハンと餃子で961円になりゃーす」

何と、わたくしの注文を覚えているのですね……。
感服いたしました。

お値段も適正ですし、わたくしはとても満足しております。


貴音「誠、美味でした」

店員「ありゃーす!」

感謝を告げて引き戸を開きます。

本日は、誠良いお店に出会えました。
事務所の近くなのでまた脚を運ぶ事でしょう。
その時はらぁめんを。

さて、事務所に帰ると致しましょう。
日が傾き、空は茜色に染まりつつあります。
少しだけ冷たい風が吹き、食後で温まった体に心地よさを感じられました。


おわり

終わりです。

今日のお昼ご飯がチャーハンだったので書いてみました。
中華屋さんに行くと高確率でチャーハンを頼むくらいにはチャーハンが好きです。

少しでもお腹を空かせられたら幸いです。
それではお目汚し失礼しました。



…おなかすいた

うむ、へった……


町の小汚い中華料理屋のチャーハンは大量の味の素つかってるところ多いってきいてショックだった

だからうまいんだよ

なんか雰囲気や文章がすごく異世界食堂っぽい

「うおォン 私はまるで人間火力発電所といったところでしょうか」

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